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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】ピペットチップ
(51)【国際特許分類】
   B01L 3/02 20060101AFI20230516BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
B01L3/02 D
G01N1/00 101K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022557723
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(85)【翻訳文提出日】2022-09-30
(86)【国際出願番号】 EP2021057967
(87)【国際公開番号】W WO2021198086
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】20167992.5
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522373666
【氏名又は名称】エッペンドルフ エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142572
【弁理士】
【氏名又は名称】水内 龍介
(72)【発明者】
【氏名】ハンナ レートヴィッシュ
(72)【発明者】
【氏名】マーレン レオンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ローラ クック
【テーマコード(参考)】
2G052
4G057
【Fターム(参考)】
2G052AD26
2G052CA18
2G052CA22
2G052JA04
2G052JA08
4G057AB18
(57)【要約】
【解決手段】下端(3)に液体の通過のための下部開口部(4)と、上端(5)にピペッティング装置のアタッチメント(21)にクランプするための上部開口部(6)と、を備えた細長い管状体(2)を有し、アタッチメント(21)用の着座領域(20)が管状体(2)の内周の上部開口部(6)の隣に存在するプラスチック製のピペットチップであって、軸方向に延びる少なくとも1つの平坦化領域(12)は、管状体(2)の外周(11)上の上部開口部(6)の隣に存在し、管状体(2)の肉厚は、管状体(2)を通る断面において、平坦化領域(12)に隣接する管状体(2)の2つの隣接領域(13)のうちの1つから、平坦化領域(12)の中央領域(27)に向かって、平坦化領域(12)において徐々に減少し、かつ、平坦化領域(12)は、管状体(2)を通る断面において、(i)直線状輪郭、又は(ii)隣接領域(13)よりも強く湾曲していない輪郭(15)を有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端(3)に液体の通過のための下部開口部(4)と、上端(5)にピペッティング装置のアタッチメント(21)にクランプするための上部開口部(6)と、を備えた細長い管状体(2)を有し、前記アタッチメント(21)用の着座領域(20)が前記管状体(2)の内周の前記上部開口部(6)の隣に存在するプラスチック製のピペットチップであって、
軸方向に延びる少なくとも1つの平坦化領域(12)は、前記管状体(2)の外周(11)上の前記上部開口部(6)の隣に存在し、
前記管状体(2)の肉厚は、前記管状体(2)を通る断面において、前記平坦化領域(12)に隣接する前記管状体(2)の2つの隣接領域(13)のうちの1つから、前記平坦化領域(12)の中央領域(27)に向かって、前記平坦化領域(12)において徐々に減少し、かつ、
前記平坦化領域(12)は、前記管状体(2)を通る断面において、(i)直線状輪郭、又は(ii)前記隣接領域(13)よりも強く湾曲していない輪郭(15)を有していることを特徴とするピペットチップ。
【請求項2】
前記管状体(2)が、前記平坦化領域(12)に隣接する前記隣接領域(13)における前記外周(11)上の断面において、円形の曲線状輪郭(14)を有し、前記平坦化領域において前記直線状輪郭(15)または前記平坦化領域(12)に前記隣接領域(13)よりも曲率半径の大きな円形輪郭を有している請求項1に記載のピペットチップ。
【請求項3】
前記管状体(2)が、前記少なくとも1つの平坦化領域(12)を通るすべての断面において、前記平坦化領域(12)に直線状及び/又は曲線状の輪郭(15)を有する、請求項1または2に記載のピペットチップ。
【請求項4】
前記少なくとも1つの平坦化領域(12)が、前記着座領域(20)の少なくとも一部にわたって軸方向に延びる、請求項1から3のいずれか一項に記載のピペットチップ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの平坦化領域(12)が、前記管状体(2)の前記上端(5)からある距離まで上向きに延びる、請求項1から4のいずれか一項に記載のピペットチップ。
【請求項6】
前記少なくとも1つの平坦化領域(12)が、前記管状体(2)の前記上端(5)まで延びる、請求項1から5のいずれか一項に記載のピペットチップ。
【請求項7】
前記少なくとも1つの平坦化領域(12)が、前記管状体(2)の前記外周(11)上の肩部(10)まで、または前記肩部(10)を越えて下向きに延びる、請求項1から6のいずれか一項に記載のピペットチップ。
【請求項8】
前記管状体(2)が円周上に複数の、好ましくは3つの前記平坦化領域(12)を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載のピペットチップ。
【請求項9】
前記平坦化領域(12)が、前記管状体(2)の前記外周(11)にわたって均一に分布している、請求項1から8のいずれか一項に記載のピペットチップ。
【請求項10】
前記平坦化領域(12)は、前記管状体(2)の前記外周(11)において、周方向に隣接する前記管状体(2)の前記隣接領域(13)よりも全体として大きな部分を占めている請求項8または9に記載のピペットチップ。
【請求項11】
前記直線状輪郭を有する複数の前記平坦化領域が、前記管状体(2)を通る断面において、多角形、好ましくは正多角形の形状で前記管状体(2)の前記外周(11)を画定する、請求項1から9のいずれか一項に記載のピペットチップ。
【請求項12】
前記管状体(2)が、前記着座領域(20)の前記内周(17)上に、内側に突出して周方向に走行する少なくとも1つのシール構造(22)及び/又は内側に突出して周方向に走行するか、互いに離間した複数の部分を有する少なくとも1つのガイド構造(24)及び/又は内側に突出して周方向に走行するか、互いに離間した複数の部分を有する少なくとも1つのブレーキ構造(26)を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載のピペットチップ。
【請求項13】
前記管状体(2)が、前記管状体(2)を通る縦断面において、波状の輪郭を有する複数の前記シール構造(22)及び/又は前記ガイド構造(24)及び/又は前記ブレーキ構造(30)を前記内周(17)に有する、請求項12に記載のピペットチップ。
【請求項14】
前記管状体(2)が、前記上部開口部(6)に拡径部(18)及び/又は挿入傾斜部(19)を有する請求項1から13のいずれか一項に記載のピペットチップ。
【請求項15】
少なくとも1つの熱可塑性プラスチック、好ましくは少なくとも1つのポリオレフィン、好ましくは少なくとも1つのポリプロピレン及び/又はエチレンから製造される、請求項1から14の1項に記載のピペットチップ。
【請求項16】
以下の特徴、すなわち
・少なくとも1つの前記平坦化領域の隣の周方向における前記管状体の肉厚が、0.3~1mmの範囲にある、
・前記着座領域は、内側で円錐形であり、底部に向かって直径が減少し、前記着座領域の円錐角は、1°~6°の範囲から選択され、好ましくは1.5°~2.5°である、
・前記着座領域は、前記アタッチメントに取り付けられるように設計されており、円錐形アタッチメントまたはアタッチメントの円錐形部分の円錐角は、1.0°~10°の範囲から選択され、好ましくは1.3°~7°、さらに好ましくは1.5°~3°の範囲から選択される、
・前記シール構造及び/又は前記ガイド構造及び/又は前記ブレーキ構造が、前記管状体の長手方向において前記着座領域上に分布している、
・前記管状体の壁厚は、前記平坦化領域の最も薄い位置(前記シール構造及び/又は前記ガイド構造及び/又は前記ブレーキ構造の外側)で、最大0.3mmである、
・前記管状体の肉厚は、前記平坦化領域(前記シール構造及び/又は前記ガイド構造及び/又は前記ブレーキ構造の外側)において最も薄い位置で、少なくとも0.1mmである、
・前記平坦化領域が、前記管状体の長手方向に少なくとも4mmの長さに渡って延びている、
・前記平坦化領域は、前記管状体の長手方向において、少なくとも2つの前記シール構造及び/又は前記ガイド構造及び/又は前記ブレーキ構造にまたがって延びている、
のうちの1つ以上の特徴を有する、請求項1から15のいずれか一項に記載のピペットチップ。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の複数のピペットチップ(1)を含むピペットチップシステムであって、
異なるピペットチップタイプの前記ピペットチップが、異なるデザインがされた前記平坦化領域(12)及び/又は前記平坦化領域(12)上に異なるマーキングを有することを特徴とする、ピペットチップシステム。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載の少なくとも1つのピペットチップと、前記ピペットチップ(1)を取り付けるための単一のアタッチメント(21)を有する単一チャンネルピペッティング装置及び/又は複数の前記ピペットチップ(1)を同時に取り付けるための複数の前記アタッチメント(21)を有する複数チャンネルピペッティング装置を備える、ピペッティングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペットチップに関する。
【背景技術】
【0002】
ピペットチップは、特に医学、生物学、生化学、化学の研究室において、液体を計量するためにピペットなどの計量器とともに使用される。以下、ピペットおよびその他の計量器を総称して「ピペッティング装置」と呼ぶ。ピペットチップは細長い管状体を有し、この管状体は下端に液体を通すための下部開口部を有し、上端にはピペッティングデバイスのアタッチメントにクランプするための上部開口部を有する。ピペットチップは通常、円錐形の形状をしており、その断面は下部開口部から上部開口部に向かって大きくなっている。標準化された円錐形または円錐台のアタッチメント(ワーキングコーン)は、多くの製造業者によって一様に使用され、各ピペットチップサイズに対して特定の平均直径および円錐形アタッチメントの特定の円錐角によって特徴付けられる標準的な形状を持つものが知られている。
【0003】
複数チャンネル分注装置は、1つまたは複数の容器から同時に液体を取り込んだり、1つまたは複数の容器にそれぞれ液体を排出したりするための装置である。それらは、マトリックス状に配置された複数の容器を有するマイクロタイタープレートを処理するためにしばしば使用される。この目的のために、複数チャンネル分注装置は、ピペットチップをクランプできる1列または複数の平行な列で隣り合わせに配置された複数の円錐形アタッチメントを備えている。ANSI規格に基づく96(8×12)または384(16×24)個の容器(ウェル)を持つマイクロタイタープレートのよく使われる形式に適応して、一列に8、12、16、または24個のアタッチメントを持つ複数チャンネルピペットが知られている。また、96個または384個のアタッチメントを持つ計量ヘッドを持つ複数チャンネル計量器も知られている。96本または384本の容器を有するマイクロタイタープレートの隣接する容器の距離に対応し、隣接するアタッチメントは互いに9mmまたは4.5mmの距離を有する。
【0004】
エアクッションピペッティング装置として具現化される場合、ピペッティング装置は、少なくとも1つのアタッチメントの貫通孔に連通するように接続される少なくとも1つの空気用置換装置を有する。置換装置を用いて、エアクッションを変位させて、アタッチメントにクランプされたピペットチップに液体を吸引し、そこから排出することができる。変位装置は、通常、プランジャが可動なシリンダとして具現化される。しかしながら、変位室と少なくとも1つの変形可能な壁とを有する変位装置も知られており、壁の変形がエアクッションを変位させる。
【0005】
直動式分注装置としての実施形態では、小型プランジャがピペットチップ内に配置され、ピペットチップがアタッチメントに装着されたときに分注装置のプランジャ駆動部の結合要素と結合され、この結合要素はアタッチメントの貫通孔内で変位することが可能である。
【0006】
液体は、好ましくは、1回のステップでピペットチップに取り込まれ、または複数の小さなステップで取り込まれる。液体は、1回のステップでピペッティングするとき、および複数の小さなステップで分注するときに、排出される。
【0007】
ピペッティング装置には、通常、ピペットチップの上縁に作用し、アタッチメントから押し出すエジェクタがある。複数チャンネル分注装置では、複数のピペットチップの上縁に同時にエジェクタを押し付けることが可能である。これにより、液体が付着したピペットチップに手を触れることなく、アタッチメントから分離させることができる。
【0008】
ピペッティング装置は、ユーザーが片手だけで保持および作動できる手動ピペットであり得る。また、計量ステーション(「ピペッティングステーション」)または計量マシン(「ピペッティングマシン」)の場合もあり、1つまたは複数のアタッチメントを備えた計量ヘッドをロボットアームまたは別の伝送システムの作業面の上に移動させることができる。ピペッティング装置は、計量に加えて、液体の他の処理(例えば、混合、温度調整、分析)を実行できる実験装置(「ワークステーション」)のコンポーネントにすることもできる。
【0009】
誤った計量を避けるために、ピペットチップをアタッチメントにしっかりと固定するか、十分に密閉する必要がある。さらに、アタッチメントからピペットチップを取り付けたり、取り出したりする力が強すぎてはいけない。従来のピペットチップは肉厚で、円錐形のアタッチメントとの接触部分が硬くなっている。装着時、ピペットチップはアタッチメントによって弾性的に周囲を広げらる。バネ特性が急峻であるため、高い装着力が必要とされる。装着後、ピペットチップとアタッチメントの間には高い静止摩擦が発生し、取り外し時にはその摩擦に打ち勝たなければならない。ユーザーは、ピペットチップの装着と取り出しに大きな力がかかるため、負担がかかる。これは、「累積外傷障害(CTD)」という言葉でまとめられる病気を引き起こすことがある。取り付けと取り外しがモーター駆動で行われる場合、モーター駆動は相応に強力でなければならず、消費電力も高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6197259号明細書
【特許文献2】米国特許第6568288号明細書
【特許文献3】米国特許第6967004号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第2138234号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第2606977号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第3115110号明細書
【特許文献7】国際公開第2011/091308号
【特許文献8】米国特許第7335337号明細書
【特許文献9】国際公開第2018/213196号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1には、6ポンド(26.7N)という比較的低い軸方向の取り付け力を加えることでピペットの付属品にしっかりと取り付けられ、3ポンド(13.3N)という比較的低い取外し力を加えることでそこから取り外されることができるピペットチップが記載されている。ピペットチップは、円錐形の上端を有し、上端の内径は、ピペットチップが取り付けられるピペットのアタッチメントの直径より大きい。さらに、ピペットチップは、中空の中間部分と、上端と中間部分との間の接続部にある環状のシール領域とを有する。シール領域とその隣で、中間部分は、0.2~0.5mmの間の壁厚を有する側壁を有する。環状シール領域は、値xよりも小さい内径を有し、アタッチメントが挿入されたときに半径方向に広がるように、アタッチメントのシール領域の下端と係合するように設計されている。これにより、アタッチメントの封止部とピペットチップの封止部との間に液密なシールが形成される。さらに、ピペットチップは、シール領域の隣の内側に、アタッチメントの外面に係合してピペットチップをアタッチメント上に安定させる横方向安定化手段を備えている。横方向安定化手段は、ピペットチップの内面から内向きに延びる、円周方向に互いに離間した少なくとも3つの接点を有する。接点の直径距離は、それらがアタッチメントの下端と容易に係合し、接点が配置されているピペットチップの側壁を広げることなく下端がスライドして通過することを可能にするような寸法である。アタッチメントのシール領域の下端がピペットチップのシール領域と係合すると、ピペットチップはシール領域とそのすぐ隣で引き伸ばされる。接点がピペットチップをアタッチメントに導く際、ピペットチップの側壁は接点の間で内側に変形して広がらないため、アタッチメントを押し込む力が低く抑えられる。そのため、アタッチメントを押し込む力が小さく、アタッチメントを押し込む力を大きくすればするほど、ピペットチップの奥まで押し込むことができる。そのため、アタッチメントからピペットチップを取り外すためには、高い取外し力が必要である。接点が内側に出ているため、比較的大きなピペットチップにのみ適した設計である。
【0012】
特許文献2には、軸方向に間隔をあけた環状シール領域と実質的に円筒形の側方支持領域とを有するピペットチップが記載されており、シール領域は、軸方向に間隔をあけた側方ガイド領域を有するピペットが導入されたときにシール領域のシール面との間に干渉嵌合および気密シールを形成するように十分に薄い。シール領域における壁厚は、好ましくは0.2~0.5mmである。シール面は、アタッチメントの下端に隣接する環状で半径方向外側に突出する突起の外面である。ピペットチップは、アタッチメントへの取り付けを制限するために、内周に環状で、上向きで内側に向いた肩部を有する。取り付け時の力は2ポンド(8.9N)、取り出し時の力は1ポンド(4.45N)程度が望ましいとされている。複数チャンネル分注装置でトレイやラックから複数のピペットチップを同時に取り上げる場合、深さ制限のため、不完全な浸漬になることがある。トレイやラックが側縁の間で少し曲がっている場合、外側の2つのアタッチメントを外側の2つのピペットチップの肩に置くと、他のアタッチメントがその間に配置されたピペットチップに十分に浸らないことがある。
【0013】
特許文献3は、側壁に内側シール面を有する環状シール領域を有するピペットチップであって、シール領域において、わずかに膨張するように十分に薄く、シール面とピペットチップに挿入されるアタッチメントのシール領域との間に干渉フィットと気密シールとを形成するものを記載している。ピペットチップは、内側に上向きに向けられ、アタッチメントの貫通を制限する環状の肩部を有している。アタッチメントは、直径の異なる2つの円筒形部分を有している。その環状シール領域は、円筒状部分の下端とアタッチメントの半径方向に延びる移行部の最外縁との接続部にあるシール縁部を含んでいる。好ましくは、ピペットチップを取り付けおよび取り外すための力は、2ポンド(8.9N)未満である。複数チャンネル分注装置によって複数のピペットチップを同時に取り込む場合、深さ方向の停止は、アタッチメントの不十分な浸漬につながる可能性がある。
【0014】
特許文献4には、細長い管状部分の上端に、断面が波状で着座領域の伸縮性を高める輪郭に着脱可能に接続するための柔軟な管状接続部分を有するピペットチップが記載されている。アタッチメントに装着されたとき、着座領域は20%以上可逆的に伸縮することができる。シールシートの場合、アタッチメント上で波状の輪郭を平らにする必要があるため、さらなる伸縮性は小さいものにとどまる。そのため、ピペットチップは精密な製造が要求されている。さらに、シーティング領域とチューブ状領域との間に、半径方向内側に突出する肩部が存在し、これは、複数チャンネル分注装置によってピペットチップを取り込む際に、アタッチメントの浸漬が不十分となる深さ止めを生じさせるものである。
【0015】
特許文献5には、下端に液体を通すための下部開口部と上端に上部開口部を有する細長い管の形状を有するピペットチップが記載されており、内周上の上部開口部の隣には、ピペッティング装置の標準的な円錐形のアタッチメントに取り付けるために役立つ着座領域が存在する。着座領域は、半径方向内側に突出し、軸方向に延びるリブを有する保持領域と、保持領域の下方に、円周に沿って走る内側に突出したシール突起を有するシール領域とを有する。着座領域は、ピペットチップをアタッチメントに確実に保持・封止する装着力でアタッチメントに装着されたとき、リブが部分的に塑性変形し、リブの外側の着座領域で弾性変形が起こるように設計されている。着座領域の下には、上部開口部に向かって円錐状に広がるブレーキ領域があり、装着を制限している。これにより、ピペッティングデバイスのアタッチメントの確実なシールが保証され、取り外しのために加えるべき取外し力が実質的に低減される。この設計は、公称容量が2.5、5.0、および10mlの比較的大きなピペットチップに特に適している。より小さなピペットチップの場合、繊細なリブの製造が困難なため、あまり適していない。
【0016】
特許文献6は、管状体と、ピペッティング装置の円錐形アタッチメントに取り付けるための着座領域とを有するピペットチップを記載しており、この着座領域は、上部開口部から離れた内周に、周方向に内側に突出したシーリング突起と、シーリング突起の下に、アタッチメントよりも強く下向きに先細りになる周方向のブレーキ領域と、シーリング突起の上に周方向に内側に突出した支持突起とを備えている。シール突起は、弾性変形を伴うシール方法でアタッチメントにクランプすることができ、ブレーキ領域は、プリテンションなしに、より下方のアタッチメントに対して残り、支持突起は、より上方のアタッチメントに対して残り、又は周方向のギャップによってアタッチメントから離間される。このピペットチップは、ピペッティング装置のアタッチメントに密閉された状態で確実にクランプすることができ、力の加え方を減らして取り外すことができ、また、ピペットチップのサイズを小さくすることにもよく適している。デメリットは、アタッチメントにクランプするときとアタッチメントから掻き落とすときに、依然として大きな力がかかることである。
【0017】
特許文献7は、近位部分の近位端に環状フランジを有し、近位部分に周方向に互いに間隔を空けて配置された軸方向リブを有するピペットチップを記載している。フランジは、ピペットチップの剛性を高め、ピペットチップ上でのディスペンサーの位置合わせを容易にすることを意図している。リブは、近位領域で軸方向に広がるピペットチップの能力を制限することを意図している。200μlと1000μlの充填量のピペットチップを5種類のピペットに装着したときの力は、1000g(10N)以上、2000g(20N)にも達した。
【0018】
人間工学的に最適化されたピペットチップは特許文献8から知られており、このチップはピペットにしっかりと固定することができ、その際、取り付け力および取外し力が低減される。このピペットチップは、弾性膨張要素を有し、この弾性膨張要素を介して軸方向の取り付け力および取外し力が低減される。弾性伸縮部材は、ピペットチップの上部に、内周を走るシールリングの上部に配置されている。ピペットチップの円筒形または円錐形のセグメント間の肉厚が減少した外側に湾曲した領域で形成されている。ピペットのアタッチメントをピペットチップの上部開口部に挿入すると、拡張エレメントは平らになり、分割された壁部は広がる。壁部の内側にあるリブによって、ピペットチップはアタッチメント上でガイドされ、位置が調整される。しかし、ピペットチップは円周シールリングの領域で大きな壁厚を持ち、わずかにしか曲がらないため、取り付け力は依然として高く、拡張エレメントが平らになったときに強く増加する。
【0019】
特許文献9は、ピペットチップが適切に設計された分注装置に取り付けられて密封係合するときに壁の拡開および圧縮を容易にするように設計された、交互に長手方向に配置された溝およびパネルを有する近位部分を有するピペットチップを記載している。これにより、ピペットチップを分注装置に固定したり、分注装置からピペットチップを取り外したりする際の軸力を低減することができる。溝は、段付き、V字型、U字型である。近位部の円周上に、複数の溝とパネルが交互に配置されている。溝を形成するためには、成形金型の狭窄部や溝とパネルの間のほぼ直角の角部を射出成形時に可塑化されたプラスチック塊で充填する必要がある。そのため、用途が限定され、ピペットチップの寸法精度や強度が損なわれる。また、アタッチメントにクランプされ、アタッチメントに密閉して座っていないときに、ピペットチップが溝の基部で破裂する危険性がある。また、ピペットチップの近位部の顕著な構造化は、ピペットチップのマーキングを困難にする。
【0020】
このことからスタートして、本発明の目的は、取付け力および取外し力を減少させてピペッティング装置のアタッチメントに十分に強固に密閉してクランプでき、寸法精度および強度を向上させてより好ましい生産性を有し、かつ、各種ピペットチップのマーキングにもより適しているピペットチップを提供することである。
【0021】
本発明の目的は、請求項1の特徴を有するピペットチップによって達成される。ピペットチップの有利な実施形態は従属請求項に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に係るプラスチック製のピペットチップは、液体の通過のために管状体の下端に下部開口部を有する細長い管状体と、ピペッティング装置のアタッチメントにクランプするための管状体の上端に上部開口部とを備え、アタッチメントのための着座領域が管状体の内周の上部開口部の隣に存在するピペッティング装置であって、軸方向に延在する少なくとも1つの平坦な領域が管状体の外周の上部開口部の隣に存在し、管状体の壁厚は、管状体を通る断面において、平坦化領域に隣接する管状体の2つの領域のうちの1つから始まり、平坦化領域の中央領域に向かって平坦化領域で徐々に減少し、平坦化領域は、管状体を通る断面において、(i)直線状輪郭、または(ii)隣接領域よりも強く湾曲していない輪郭を有することを特徴とするピペッティング装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によるピペットチップは、平坦化領域の領域において、平坦化領域の2つの側縁および場合によっては平坦化領域に隣接する管状体の領域よりも低い壁厚である。これにより、ピペッティング装置のアタッチメントにクランプする際のピペットチップの変形性が向上し、比較的低い取り付け力でもアタッチメント上でのピペットチップの確実なシールを実現できる。ピペットチップは、ピペッティング装置の所定のアタッチメントに特定の力で固定された場合にのみ弾性的に変形するように設計できる。しかし、ピペッティング装置の定義されたアタッチメントに特定の力でクランプされたときに塑性変形するように設計することもできる。弾性変形の場合、取付け力は変形に比例して増加する。ピペットチップをアタッチメントから取り外した後、弾性変形を完全に元に戻すことができる。降伏点を超えると塑性変形する。塑性変形とは、ピペットチップをアタッチメントから外しても元に戻らない不可逆的な変形である。塑性変形では、取り付け力はもはや増加しないか、変形によってわずかに増加する。弾性変形または塑性変形は、平坦化領域の領域でピペットチップが上部開口部に隣接して最も薄い壁厚を有するので、平坦化領域の領域で起こることが好ましい。その結果、ピペットチップをアタッチメントに密封クランプするための力の適用を低く保つことができる。塑性変形の場合、取り付け力を所定の限界値に制限することができる。
【0024】
射出成形による生産の場合、平坦化領域での圧力損失が低いため、従来のピペットチップの溝の領域よりも、平坦化領域の領域でプラスチック塊が成形金型内のキャビティをよりよく満たすことができることが有利である。その結果、溶接継ぎ目を低減することもでき、より寸法精度の高い、強度の高いピペットチップを実現することができる。また、強度が向上したことにより、ピペットチップの取り付け力による肉厚の薄い箇所での破裂を防止することができる。
【0025】
別の利点は、平坦化領域がピペットチップをマークするために使用され得ることである。特に、ピペットチップに関する情報及び/又はその生産に関する情報、例えば、ピペットチップサイズ、ピペットチップの材料又は純度度、製造者、ブランド、及び/又はその生産に使用される生産ツールに関する情報を、射出成形中に平坦化領域に付けることが可能である。ピペットチップサイズとは、そのピペットチップで計量できる最大の容積のことである。前述の基準の少なくとも1つにおいて互いに異なるピペットチップは、本願では、「異なるピペットチップタイプのピペットチップ」とも称される。マーキングは、射出成形中に生成することができ、または隆起またはくぼんだ文字、数字、文字、または記号の形態で、後で印刷することができる。さらに、ユーザーによるマーキングは、例えば、印刷、筆記具によるラベル付け、ラベルへの貼り付けなどが考えられる。さらに、平坦化領域自体を、異なるピペットチップの種類を互いに区別するための識別特性として使用することもできる。
【0026】
また、平坦な部分は、作業面などに置かれたピペットチップが転がり落ちるのを防ぐロールプロテクターとしても機能する。
【0027】
管状体を通る断面において、平坦化領域は、直線状の、及び/又は外側に(凸)、及び/又は内側に(凹)湾曲した輪郭を有し得る。好ましい実施形態によれば、平坦化領域の輪郭は、大部分がまたは専ら直線状であるか、大部分がまたは専ら外側に湾曲しているか、または大部分がまたは専ら内側に湾曲している。別の実施形態によれば、曲率半径は、それぞれの輪郭またはその一部に沿って変化する。別の実施形態によれば、平坦化領域の輪郭は、部分的に直線であり、部分的に同一または異なって湾曲している。例えば、平坦化領域の輪郭は、2つの縁において外側に湾曲しているか又は直線であり、それらの間は、全体としてほぼV字型となるように、外側に湾曲しているか又は内側に湾曲している。別の実施形態によれば、平坦化領域の輪郭は、部分的に異なる曲率で湾曲している。異なる湾曲は、異なる曲率半径を有する湾曲、又は同じ若しくは異なる曲率半径を有する外向き若しくは内向きの湾曲とすることができる。
【0028】
平坦化領域の輪郭が曲線である場合、その曲率は、管状体の隣接領域の曲率よりも小さい。曲率は、それぞれの輪郭の曲率半径の逆数を意味する。外側に湾曲した輪郭では、平坦化領域は、その曲率が管状体の隣接する領域の曲率よりも小さいことに起因する。内側に湾曲した輪郭において、平坦化領域はまた、その曲率が管状体の隣接領域の曲率よりも小さいことに起因する。管状体の隣接領域の曲率よりも小さい曲率の結果、平坦化領域は、ピペットチップのマーキングに特に適している。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、管状体は、少なくとも平坦化領域に隣接する領域における外周上の断面において、円形の輪郭を有し、平坦化領域は、平坦化領域に隣接する領域よりも大きな曲率半径を有する直線または円の輪郭を有している。好ましい実施形態によれば、平坦化領域に隣接する領域は、全体として円形である。しかしながら、本発明は、平坦化領域に隣接する領域の輪郭が円形から逸脱し、例えば、楕円形またはその他の曲線形状を有する実施形態にも関連する。さらに、平坦化領域の輪郭は、直線状又は円弧状の形状から逸脱し、例えば、楕円状又は他の方法で湾曲した形状を有することができる。
【0030】
別の実施形態によれば、管状体は、平坦化領域を通る全ての断面において、平坦化領域において、直線状輪郭及び/又は曲線状輪郭を有する。好ましい実施形態によれば、管状体は、平坦化領域を通る全ての断面において、平坦化領域において専ら直線状輪郭を有し、及び/又は平坦化領域を通る全ての断面において、平坦化領域において専ら曲線状輪郭を有している。別の実施形態によれば、管状体は、平坦化領域を通る全ての断面において、専ら平坦化領域において同じ曲率半径で湾曲した輪郭、または様々な断面において異なる曲率半径で湾曲した輪郭を有し、ここで輪郭の曲率は断面から断面まで徐々に変化することが好ましい。別の実施形態によれば、平坦化領域は、様々な断面において、外側に湾曲した輪郭と内側に湾曲した輪郭とを有し、輪郭の曲率は、好ましくは、断面から断面へ徐々に変化する。
【0031】
別の実施形態によれば、平坦化領域は、内向きに湾曲した輪郭を有する。それによって、例えば、同じ曲率または異なる曲率を有する全体的に内側に湾曲した輪郭、または中央領域で内側に湾曲した輪郭、および2つの側縁で直線的な輪郭であり、この輪郭はほぼV字形である。好ましくは、内側に湾曲した平坦化領域は、周方向で10°以上、好ましくは30°以上の範囲にある。好ましくは、内側に湾曲した輪郭を有する少なくとも3つの平坦化領域が円周上に均一に分布し、内側に湾曲した輪郭を有する平坦化領域は、内側に湾曲した輪郭を有する平坦化領域間の領域と同じ幅または広い幅である。
【0032】
別の実施形態によれば、少なくとも1つの平坦化領域は、管状体の上端からある距離まで上向きに延びる。その結果、ピペットチップの上端において、均一な壁厚を有する円周方向の上縁とすることができ、この縁は、ピペッティング装置の取外し装置によってアタッチメントからピペットチップを取り外すために有利である。別の実施形態によれば、ピペットチップの上縁は、円周方向のフランジである。このフランジは、ピペットチップ用ホルダ(ラック)の孔にピペットチップを保持するために使用することができる。
【0033】
別の実施形態によれば、平坦化領域は、管状体の上縁まで延びている。上端までの平坦化領域の範囲は、力の適用が低減され、ピペットチップを変形させるのに有利である。
【0034】
別の実施形態によれば、管状体は、外周に肩部を有する。肩部により、ピペットチップは、ピペットチップ用ホルダの孔に支持されることができる。別の実施形態によれば、平坦化領域は、少なくとも肩部まで又はそれを超えて下方に延びている。
【0035】
別の実施形態によれば、管状体は、外周に複数、好ましくは3つの平坦化領域を有する。複数の平坦化領域に起因して、ピペットチップの変形のための力の適用をさらに低減することができる。さらに、平坦化領域の数及び/又は位置及び/又は寸法が異なるピペットチップを介して、異なるピペットチップの種類を異なるようにマーキングすることができる。
【0036】
別の実施形態によれば、平坦化領域は、管状体の外周に均一に分布している。その結果、ピペットチップの均一な拡径を達成することができる。しかしながら、平坦化領域は、特に異なるピペットチップのタイプを異なるようにマークするために、管状体の外周にわたって不均一に分布させることもできる。
【0037】
本発明に係るピペットチップは、特に以下の実施形態を含む。
【0038】
特徴(i)によれば、ピペットチップが、管状体を通る断面において直線状輪郭を有する少なくとも1つの平坦化領域を有する場合、ピペットチップは、単一の平坦化領域と、平坦化領域の一方の側縁から平坦化領域の他方の側縁に延びる単一の曲線状の隣接領域とを有することが可能である。さらに、ピペットチップは、管状体を通る断面が直線である輪郭を有する複数の平坦化領域を有することができ、これらの平坦化領域は管状体の円周上に分布し、曲線状の領域は平坦化領域の側縁に隣接して隣接する平坦化領域の側縁まで延在している。さらに、ピペットチップは、管状体を通る断面において直線である輪郭を有する複数の平坦化領域を有し、管状体を通る断面において直線状の側面を有する多角形を全体として定義するように、平坦化領域は側縁において互いに隣接する構成とされる。
【0039】
特徴(ii)によれば、ピペットチップが、管状体を通る断面において平坦化領域の隣接領域よりも強く湾曲していない輪郭を有する少なくとも一つの平坦化領域を有する場合、ピペットチップは、単一の平坦化領域と、平坦化領域の一方の側縁から他方の側縁に延びる単一の湾曲した隣接する領域と、を有することができる。さらに、ピペットチップは、管状体を通る断面において湾曲した輪郭を有する複数の平坦化領域を有することができ、これらの平坦化領域は管状体の円周上に分布し、湾曲した領域は平坦化領域の側縁に隣接する平坦化領域の側縁まで延在している。複数の平坦化領域は、全て同じように湾曲させることができ、又は異なるように湾曲させることができる。特に、それらは全て、同じ又は異なる曲率で、外側に又は内側に、又は外側及び内側に湾曲させることができる。
【0040】
別の実施形態によれば、少なくとも1つの平坦化領域は、管状体の中心軸に平行に、または管状体の中心軸の周りに螺旋状に延びている。螺旋状の場合、各平坦化領域は、例えば、管状体の円周のほんの一部にわたってのみ、または管状体の円周を1回または2回以上にわたって延在する。
【0041】
別の実施形態によれば、平坦化領域は、管状体の外周のうち、周方向においてそれらに隣接する管状体の領域よりも全体として大きな部分を占めている。その結果、ピペットチップを拡径させるための力の加え方をより低減させることができる。
【0042】
別の実施形態によれば、着座領域は、円錐形及び/又は円筒形である。
【0043】
別の実施形態によれば、管状体は、着座領域の内周に、内側に突出して周方向に走る少なくとも1つのシール構造及び/又は、内側に突出して周方向に走る又は互いに離間した複数の部分を有する少なくとも1つのガイド構造、及び/又は内側に突出して周方向に走る又は互いに離間した複数の部分を有する少なくとも1つのブレーキ構造を有している。別の実施形態によれば、シール構造はシールビードであり、及び/又はガイド構造はガイドビード及び/又はガイドリブ及び/又はナブ状又はニップル状のガイド突起であり、及び/又はブレーキ構造はブレーキビード、及び/又は円錐状ブレーキ領域である。
【0044】
シール構造は、ピペットチップをアタッチメントに装着する際に、ピペッティング装置のアタッチメントとピペットチップとの間にリング状の支持体を形成し、それにより、低い摩擦力で良好なシールを形成することができる。内側に突出したシール構造の代わりに、着座領域は、例えば、円錐形又は円筒形又は部分的に円錐形及び部分的に円筒形の表面によって形成される表面シールを有することができる。
【0045】
ガイド構造は、ピペッティング装置のアタッチメントとピペットチップとの間に、周方向に互いに間隔をあけたリング状の支持体または複数の円形の支持体及び/又は周方向に互いに間隔をあけた複数のほぼ点状の支持体を形成し、ピペットチップをアタッチメントに取り付ける際に低い摩擦力で良好なガイドを実現する。また、壁面吐出(容器壁面への液体吐出)時にピペットチップの下端に側面から力が加わっても、ガイド構造によりピペットチップがアタッチメントに安定的に保持される。
【0046】
ブレーキ構造は、アタッチメントとピペットチップの間にリング状の支持体または円形の支持体またはランプ状の支持体を形成し、ピペットチップへのアタッチメントの挿入動作にブレーキをかける。ブレーキ効果は、ブレーキ構造とアタッチメントの形状、およびピペットチップとアタッチメントの材料特性(特に弾性と粗さ)によって決定される。
【0047】
別の実施形態によれば、ガイド構造は、シール構造の上方に配置され、及び/又はブレーキ構造は、シール構造の下方に配置される。別の実施形態によれば、ガイド構造は、シール構造と一致し、及び/又は、シール構造は、ブレーキ構造と一致する。この目的のために、ガイドビードは、同時にシールビードとして設計することができ、及び/又はシールビードは、同時に摩擦ビードとして設計することができる。
【0048】
別の実施形態によれば、管状体は、管状体を通る縦断面において波状の輪郭を有する複数のシール構造及び/又はガイド構造及び/又は摩擦構造を内周に有している。
【0049】
別の実施形態によれば、管状体は、上部開口部に拡径部及び/又は内周部に挿入傾斜部を有する。拡径部及び/又は挿入傾斜部により、ピペットチップへのピペッティング装置のアタッチメントの挿入が容易になる。
【0050】
別の実施形態によれば、ピペットチップは、専ら管状体で構成されている。別の実施形態によれば、ピペットチップは、エアークッションピペットチップであり、すなわち、エアークッションピペッティング装置と共に使用されるように設計されている。別の実施形態によれば、エアークッションピペットチップは、専ら管状体で構成されている。
【0051】
別の実施形態によれば、ピペットチップは、管状体と、追加部品とから構成される。追加の構成要素は、例えば、管状体内に配置され、その中で変位可能な小型プランジャである。これにより、直接置換式ピペットチップ、すなわち、直接置換式ピペッティング装置と共に使用することができるピペットチップとなる。
【0052】
別の実施形態によれば、ピペットチップは、少なくとも1つの熱可塑性プラスチックから、好ましくは少なくとも1つのポリオレフィンから、好ましくは少なくとも1つのポリプロピレン及び/又はポリエチレンから製造されている。
【0053】
別の実施形態によれば、ピペットチップは、以下の特徴のうちの1つまたは複数を有する。
【0054】
・少なくとも1つの平坦化領域の隣の円周方向における管状体の壁厚は、0.3~1mmの範囲である。
・着座領域は、内側が円錐形で、底部に向かって直径が減少し、座面領域の円錐角は、1°~6°の範囲から選択され、好ましくは1.5°~2.5°である。
・着座領域は、アタッチメントに取り付けられるように設計されており、円錐形アタッチメントまたはアタッチメントの円錐形部分の円錐角度は、1.0°~10°の範囲から選択され、好ましくは1.3°~7°の範囲から選択され、さらに好ましくは、1.5°~3°の範囲から選択される。
・シール構造及び/又はガイド構造及び/又はブレーキ構造は、管状体の長手方向において着座領域上に分布している。
・管状体の壁厚は、平坦化領域の最も薄い位置(シール構造及び/又はガイド構造及び/又はブレーキ構造の外側)で、最大0.3mmである。
・管状体の肉厚は、平坦化領域の領域(シール構造及び/又はガイド構造及び/又はブレーキ構造の外側)において最も薄い位置で、少なくとも0.1mmである。
・平坦化領域が、管状体の長手方向に少なくとも4mmの長さに亘って延びている。
・平坦化領域は、管状体の長手方向において、少なくとも2つのシール構造及び/又はガイド構造及び/又はブレーキ構造にまたがって延在している。
【0055】
さらに、本発明は、請求項1~16のいずれか1項または前記実施形態に記載のピペットチップを複数個備えるピペットチップシステムであって、異なるピペットチップの種類のピペットチップは、異なるデザインがされた平坦化領域及び/又は平坦化領域上に異なるマーキングが設けられているピペットチップシステムに関するものである。
【0056】
さらに、本発明は、請求項1~16のいずれか一項または先の実施形態に記載の少なくとも1つのピペットチップと、ピペットチップを取り付けるための単一のアタッチメントを備えた単一チャンネル分注装置及び/又は複数のピペットチップを同時に取り付けるための複数のアタッチメントを備えた複数チャンネル分注装置を備えたピペットシステムに関するものである。
【0057】
本願において、「垂直」及び「水平」、「上」及び「下」並びにこれらから派生する「上方」及び「下方」などの用語は、管状体の中心軸を垂直方向に一致させたピペットチップの配置を指し、上部開口部が上に位置し、下部開口部が下に位置していることをいう。
【0058】
本願において、管状体を通る各断面は、管状体の中心軸に対して垂直に並ぶ平面である。管状体を通る各縦断面は、管状体の中心軸が延びる平面である。
【0059】
さらに、平坦化領域の中央領域とは、平坦化領域の2つの側縁の間を通る線または帯状の領域を指し、線または帯は、平坦化領域の2つの側縁から同じ距離を有することができ、または平坦化領域の2つの側縁から異なる距離を有することも可能である。
【0060】
以下、本発明を例示的な実施形態の添付図面に基づき、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】ピペットチップを横から見た斜視図を示している。
図2】同上のピペットチップを縮小した側面図を示している。
図3】同上のピペットチップの着座領域を通る断面図を示している。
図4】同上のピペットチップの着座領域を拡大した部分断面図を示している。
図5】同上のピペットチップを縮小して、ピペッティングデバイスのアタッチメントを挿入した着座領域の部分断面を示している。
図6】別のピペットチップを横から見た斜視図を示している。
図7】同上のピペットチップを拡大した側面図を示している。
図8】同上のピペットチップの着座領域を通る断面図を示している。
図9】同上のピペットチップの着座領域を拡大した部分断面図を示している。
図10】ピペッティング装置のアタッチメントが挿入された状態の同上のピペットチップの着座領域を拡大した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下の様々な例示的な実施形態の説明において、同じ呼称で参照される構造および構成要素には、同じ符号が付されている。
【0063】
図1図4に示すように、ピペットチップ1は、下端3に下部開口部4を有し、上端5に上部開口部6を有する細長い管状体2を備えている。下部開口部4は、上部開口部6よりも小さい。
【0064】
一般に、管状体2の内径および外径は、下部開口部4から上部開口部6に向かって大きくなっている。管状体2は、底部に円錐形の始端部7を有し、その上部に始端部7よりも円錐角度の小さい中間部8を有し、その上部に中間部8よりも寸法の大きい円筒形の頭部9を有している。中間部分8に隣接して、下方に向いた外側肩部10が、管状体2の外周上の頭部9の下側を走っている。
【0065】
頭部の外周部11には、軸方向に延びる平坦化領域12が存在する。実施例では、3つの平坦化領域12が存在する。平坦化領域12は、管状体2の上端5から少し離れたところから始まり、頭部9を越えて、肩部10をほぼ越えて中間部8の上方領域に至るまで下方に延びている。平坦化領域12は、管状体2の中心軸に平行に配置されている。平坦化領域12は、管状体の外周部11の周囲に均一に分布して配置されている。実施例では、平坦化領域12は、それぞれ隣接領域13とほぼ同じ幅である。
【0066】
管状体2は、外周部11の平坦化領域12を通る各断面において、平坦化領域12に隣接する領域13に円形の曲線状輪郭14を有し、平坦化領域12に直線状輪郭15を有している。曲線状輪郭14は、隣接する2つの平坦化領域12間の距離範囲全体に渡って延びており、すなわち、曲線状輪郭14は平坦化領域12間のどこでも円形である。このことは、特に図3に示されている。
【0067】
平坦化領域12の上方には、管状体2が均一な肉厚を有する周縁部16を有している。
【0068】
上端において、管状体2は、内周17に、挿入傾斜部19を有する拡径部18を有している。これは、特に図4に示されている。
【0069】
上部開口部6の隣で、管状体2は、内周17上に、ピペッティング装置の円錐形または円筒形のアタッチメント21のための実質的に円錐形または円筒形の着座領域20を有している。着座領域20は、頭部9の中に延び、例えば2°~6°の円錐角度を有する円錐形である。
【0070】
管状体2は、着座領域20の内周17に、軸方向に互いに間隔を空けて配置された周方向に閉じた態様で走行する内向きに突出したシールビード23の形態の複数のシール構造22を有している。さらに、管状体2は、上部開口部6から少し離れたところに、互いに間隔を空けて配置されたガイドビーズ25の形で周方向に閉じた態様で走行する内向きに突出したガイド構造24を有している。全体として、管状体2は、着座領域20に、縦断面が波状であるシーリングおよびガイド構造22、24を有する。
【0071】
シール構造22の下方には、頭部9の内周に円錐状ブレーキ領域26が存在する。
【0072】
頭部9の下端では、管状体2の内側輪郭は、下方に先細りの中間部8へと滑らかに移行し、さらに下方の始端部7へと移行している。
【0073】
図3によれば、管状体2は、断面において、平坦化領域12間の隣接領域13において、全体として一定の肉厚を有している。さらに、管状体2の肉厚は、平坦化領域12において、いずれの場合も、隣接領域13から始まり、平坦化領域12の中央領域27に向かって減少している。
【0074】
図1及び図2によれば、平坦化領域12には、マーキング28が設けられている。これらは、それによって、ピペットチップ1の射出成形中に生成される、隆起またはくぼみのある数字および文字の形態のラベル29である。ラベル29は、ピペットチップサイズと、ピペットチップ1が射出成形される射出成形金型の首部を示している。
【0075】
ピペッティング装置のアタッチメント21にクランプするために、1つまたは複数のピペットチップ1をピペットチップ用ホルダの孔に準備しておくことができ、孔の縁に肩部10で支持される。図5によれば、ピペッティング装置のアタッチメント21は、上部開口部6にある挿入傾斜部19のある拡径部18からピペットチップ1内に容易に挿入することができる。アタッチメント21は、ガイド構造24とシール構造22により、低摩擦でその中に導かれる。アタッチメント21にクランプするとき、ピペットチップ1は、平坦化領域12の領域で弾性的及び/又は塑性的に変形することができ、その結果、取付け力が低下し、比較的低い取付け力でシール構造22上のアタッチメント21の確実なシールが達成される。
【0076】
液体をピペッティング後、取り外しのために加えるべき取外し力も低減されるので、ピペットチップ1をアタッチメント21から容易に取り出すことができる。取り外しの際には、アタッチメント21にガイドされたピペッティング装置の取外しスリーブをピペットチップ1の上端5側の周縁部16に押し当てて、ピペットチップをアタッチメント21から剥離させる。
【0077】
図6から図10までのピペットチップ1は、図1から図5までのピペットチップ1よりも小さい充填量をピペッティングするために好ましく設計されている。ピペットチップ1は、細長い管状体2が、円錐形の始端部7の上に、複数の円錐形の中間部8.1、8.2、8.3、その上に円錐形の移行部30、その上に上端5上に円周方向、半径方向外側に突出するフランジ31を有する円錐形の頭部9を有する点で、特に上記のものとは異なっている。先に指定した部分7、8.1、8.2、8.3、30およびフランジ31は、互いに直接接続する。管状体2の外径は、下端3から頭部9の上端にかけて徐々に拡大する。また、管状体2の内径も、原則として、管状体2の下端3から上端5に向かって徐々に拡大する。
【0078】
このピペットチップ1には、中間部と頭部との間に肩部がない。
【0079】
フランジ31は、下面に、頭部9を起点として半径方向外側に延びる下向きに突出したリブ32を有する。
【0080】
平坦化領域12は、管状体2の軸方向におけるフランジ31の下側から始まって、移行部30の上縁領域まで延びている。このピペットチップ1も、3つの平面状の平坦化領域12を有する。頭部9の隣接領域13はそれぞれ、断面において、2つの隣接する平坦化領域12の間の領域全体にわたって延在する円形状の輪郭を有する。
【0081】
図6図10によるピペットチップ1は、ピペットチップ用ホルダに1個または複数個設けることができる。この場合、ホルダの孔に挿入され、孔の縁にあるフランジ31の下面にあるリブ32で支持される。図10によれば、アタッチメント21は、ピペットチップ1の最上部のガイドビーズ25までしか押し込まれていない。さらに下方のピペットチップ1には別のガイドビーズ25があり、その下にはシールビード23がある。アタッチメントをシールビード23まで前進させることにより、ピペットチップ1はアタッチメント21上に密封状態で整列し、クランプされる。ガイドビーズ25は、ピペットチップ1をアタッチメント21上に密封することにも寄与している。
【0082】
シールビード23は、同時に、ピペットチップ1へのアタッチメントの挿入をブレーキするブレーキビーズでもある。ブレーキ効果は、シールビード23の上縁の傾斜と頂部の丸みによって決定される。
【符号の説明】
【0083】
1 ピペットチップ
2 管状体
3 下端
4 下部開口部
5 上端
6 上部開口部
7 始端部
8 中間部
9 頭部
10 肩部
11 外周
12 平坦化領域
13 隣接領域
14 曲線状輪郭
15 直線状輪郭
16 周縁部
17 内周
18 拡径部
19 挿入傾斜部
20 着座領域
21 アタッチメント
22 シール構造
23 シールビード
24 ガイド構造
25 ガイドビーズ
26 円錐状ブレーキ領域
27 中央領域
28 マーキング
29 ラベル
30 移行部
31 フランジ
32 リブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】