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特表2023-520993アルコール飲料製造業からの副生成物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】アルコール飲料製造業からの副生成物の使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20230516BHJP
   C12P 7/6432 20220101ALI20230516BHJP
   C12P 7/6434 20220101ALI20230516BHJP
   C12P 7/6409 20220101ALI20230516BHJP
   C12P 7/64 20220101ALI20230516BHJP
【FI】
C12N1/12 B
C12P7/6432
C12P7/6434
C12P7/6409
C12P7/64
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558225
(86)(22)【出願日】2021-03-23
(85)【翻訳文提出日】2022-11-07
(86)【国際出願番号】 GB2021050706
(87)【国際公開番号】W WO2021191596
(87)【国際公開日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】2004205.7
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522376726
【氏名又は名称】マイアルギー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MIALGAE LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マーティン,ダグラス
(72)【発明者】
【氏名】ラマナンタン,シュリーカンス
(72)【発明者】
【氏名】ピエトシク,ユリアン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD87
4B064AD90
4B064CA08
4B064CC03
4B064DA10
4B064DA16
4B065AA83X
4B065AC20
4B065BB03
4B065BB12
4B065BB40
4B065BC01
4B065BC50
4B065CA13
4B065CA55
(57)【要約】
アルコール飲料製造プロセスからの副生成物を使用して、スラウストキトリッドが培養され得る。副生成物は、モルトウイスキー製造に使用される蒸留ステップからの残渣、例えばポットエールを含み得る。培養を使用して、増強された量の脂質、油又はオメガ3脂肪酸を含む脂肪酸を有する生成物が提供され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラウストキトリッドを培養するための組成物の使用であって、前記組成物がアルコール飲料製造プロセスからの副生成物を含む、使用。
【請求項2】
前記組成物が、蒸留プロセスからの残渣を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組成物が、モルトウイスキー製造に使用した蒸留ステップからの残渣を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記組成物が、ポットエールを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記組成物が、20%~50%v/vに希釈されたポットエールを含有する、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記組成物が、醸造廃液を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
標準化試験方法ASTM D1252-06(2012)e1(試験方法B)に従って測定した場合に、前記組成物が5~30g/Lの化学的酸素要求量を有する、先行する請求項のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記組成物が、1~5g/lの酵母含有量、20~50g/lの範囲の炭素源、及び8.75~42.5g/lの範囲の塩(例えば人工海塩)を有する、先行する請求項のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
アルコール飲料製造プロセスからの副生成物を含む組成物を含有する容器においてスラウストキトリッドを培養するための方法であって、前記組成物が、先行する請求項のいずれか1項に記載されている、方法。
【請求項10】
前記スラウストキトリッド及び前記組成物を前記容器に投入する前に前記容器を滅菌するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記滅菌が、アルカリで洗浄し、続いて水ですすぎ、続いて抗菌剤を適用して前記容器の内面をコーティングすることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記容器に前記組成物又は前記副生成物を充填する前に前記組成物又は前記副生成物を低温殺菌するステップを含む、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記培養が、脂質、油又は脂肪酸の1つ以上を含む生成物を生じる、請求項9~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記生成物が、オメガ3脂肪酸を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記培養が、スラウストキトリッドの接種材料から前記スラウストキトリッドが増殖される第1の段階;及び前記スラウストキトリッドのストレス応答が1つ以上のオメガ3油又は他の有用な生成物の蓄積を増強するために、栄養供給が前記第1の段階のものとは異なる、第2の段階を含む、請求項9~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記培養が、胞子形成を促進する培地中のスラウストキトリッドの接種材料から前記スラウストキトリッドを増殖させる第1の段階;アルコール性副生成物が細胞増殖のための炭素源として利用されるために、栄養供給が前記第1の段階のものとは異なる第2の段階;及び発酵パラメータが最初の2つの段階とは異なり、1つ以上のオメガ3油又は他の有用な生成物の蓄積を増強するために前記スラウストキトリッドのストレス応答を引き起こす、第3の段階を含む、請求項9~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
請求項9~16のいずれか1項に記載の方法によって得られた、又はそれによって得ることができる、1つ以上の脂質、油、脂肪酸、オメガ3脂肪酸、エイコサペンタエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸を含む、生成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料製造業の副生成物を使用する微生物の培養に、並びにこの培養を通じた、例えば油及び脂肪酸を含む有用な化合物の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料の製造は副生成物を生じる。単に廃棄物として処理されることが多いこれらの副生成物は、環境に配慮した費用効率的な方法で処分する必要があり、又はそれらの使途を見つける必要がある。
【0003】
一例を挙げると、モルトウイスキーの製造によって、複数のそのような副生成物が生成される。主要なウイスキー副生成物の1つはポットエールであり、これはポットスチル内で行われる第1の蒸留後に残った残渣である。
【0004】
蒸留所で生成されるポットエールの量は、ポットスチルの投入量の約2/3に達する。典型的には、製造されたウイスキー1リットルにつき8リットルのポットエールが生成される。従って、この栄養豊富な副生成物液が著しく大量に生じ、処分する必要がある。
【0005】
ウイスキーの製造は2回の蒸留を伴い、第1の蒸留の生成物は第2の蒸留に進む。ウイスキー製造プロセスにおける第2の蒸留の後に残った残渣は、スペントリースと呼ばれる。スペントリースの量は、典型的には、第2の蒸留の初期投入体積の3分の1である。生成されたスペントリースの体積は、ポットエールの体積よりもかなり少ないが、それは依然として、対処する必要があるウイスキー製造プロセスの重要な副生成物である。
【0006】
栄養豊富な副生成物の別の例は、ビールの製造プロセスにある。ビールの醸造では、しばしばトラーブと呼ばれる湿潤コロイド状破片が生産される。醸造プロセスに関して、トラーブは麦汁を煮沸し、醸造のために移送した後に残った材料である。トラーブは、発酵後に発酵槽の底に残った沈殿物も表す。これは、ビール製造プロセスにおける洗浄水及び他の工業用水と同様に、一般に費用をかけずに都市下水系に単に排出することができない、栄養豊富な廃液を与える。
【0007】
アルコール飲料製造の副生成物は、それ自体経済的価値が低いことが多い。それらは現在、いくつかの方法で処分又は使用されている。例えばポットエールは、反芻家畜用飼料のベースとして使用することができる。ポットエールは、醸造廃液と同様に、フィールドスプレッドとして使用することもできる。これらの廃棄方法には各々費用がかかる。家畜飼料の生産には大量のエネルギーが必要である。例えば、ポットエールは含水量を著しく低減させる必要があり、これにはエネルギーを要する。典型的には、ポットエールの含水量の90%超が家畜飼料の生産にて除去される。副生成物を処理又は処分場所に運搬することに伴う不可避の費用も多額となる可能性がある。ウイスキー蒸留所は遠隔地にあることが多く、これは運搬費用又は輸送費用の要因である。
【0008】
アルコール飲料の製造からの著しい量の副生成物のために、及びこれらの副生成物中に存在する著しい量の有機材料のために、経済的及び環境的費用を低減する代替処分経路が求められている。
【0009】
ポットエールの最近の使途の1つは、ブタノール及び/又はアセトンを生産する発酵プロセス用の栄養源としてである(国際公開第2012/001416号)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、アルコール飲料の製造の副生成物のための代替的で有用な廃棄経路を見出すという問題に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様では、アルコール飲料製造プロセスからの副生成物を含む、スラウストキトリッドを培養するための組成物の使用が提供される。
【0012】
本発明者らは、他の微生物と比較して、スラウストキトリッドがアルコール飲料副生成物の処理において特に効果的かつ効率的であることを見出した。
【0013】
スラウストキトリッドは、従属栄養性の微生物であり、従属栄養性とは、その存在を維持するために複合有機化合物に含有されるエネルギーの外部供給を必要とすることを意味する。スラウストキトリッドは、有機材料の捕捉剤及び分解剤として作用することができ、そこから生存に必要な複合有機化合物を得る。スラウストキトリッドは、その自然生息地では一般に海洋(生理食塩水)環境に生息する。
【0014】
アルコール飲料副生成物で生育することにより、スラウストキトリッドは脂質、油、脂肪酸、例えばエイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)を含むオメガ3脂肪酸並びに酸化防止剤を含む、著しい量の有用な物質を蓄積する。これらは、ヒト、動物又は魚のための食品、サプリメント又は栄養補助食品である、又はそれらに組み入れることができる。
【0015】
本発明が特に有用な分野の1つは、水産養殖の分野である。魚養殖業は、大量のオメガ3食品を使用する。本発明は、遠海魚又は他の持続不可能源から魚粉及び魚油を調達するいくつかの従来の方法とは対照的に、安全で持続可能な食品を提供する。
【0016】
ヒトによる消費のための、本発明によって提供されるオメガ3生成物及び他の有益な栄養素の需要も増加している。
【0017】
本発明は、蒸留所及び醸造所の廃棄副生成物を有用な材料に変換するだけでなく、該廃棄副生成物を浄化して、安全に放出して環境へ戻すことができるようにする。
【0018】
本発明で生産された材料は、スラウストキトリッド培養物から抽出又は精製され得て、又は代替的にスラウストキトリッド自体を含む組成物並びに生産された材料は、いくつかの用途に直接使用され得る。スラウストキトリッド及び使用済み培地は、副生成物の残渣と共に遠心分離及び(例えばオーブン内で乾燥又は噴霧乾燥)脱水することができる。
【0019】
スラウストキトリッドの培養に使用される組成物は、“Standard Methods for the Examination of Water and Wastewater”の標準化試験方法5210 Bに従って測定した場合(Clesceriら、2005,Washington DC:American Public Health Association,American Water Works Association,and the Water Environment Association;www.standardmethods.org)、1~50g/L、任意に1~40g/L、任意に5~30g/L、任意10~20g/Lの範囲内のBOD値を有し得る。
【0020】
上記の試験方法によるBOD値は、スラウストキトリッドの培養に使用される材料の生物化学的酸素要求量を定量する1つの方法である。BOD値は、存在する生分解性有機物の量の指標を与える。BOD値は、ある温度にて特定の期間にわたって所与の水性サンプル中に存在する有機材料を分解するために好気性生物が必要とする溶存酸素の量である。汚染されていない河川は、典型的に1mg/L未満のBODを有する。中程度に汚染された河川は、2~8mg/Lの間で変動する。未処理の下水の平均値は200~600mg/Lであるが、効率的に処理された都市下水では20mg/L以下である。
【0021】
従って、本発明は驚くべきことに、非常に高い生物化学的酸素要求量を有し、さもなければ一般に何らかの他の処理又は処分が必要であろう廃棄副生成物に対処できることがわかる。
【0022】
スラウストキトリッドの培養に使用される組成物を定義する別の方法は、その化学的酸素要求量(COD)に関する。CODは、存在する材料の酸化に強力な酸化剤が使用される場合に消費される酸素の量の尺度である。所与のサンプルがBOD値よりも高いCOD値を有し得るのは、前者が総有機含有量に依存するのに対して、後者はある生物学的条件下で消費できる有機含有量に依存するためである。CODを求めるための標準試験方法は、ASTM D1252-06(2012)e1,Test Method B,Standard Test Methods for Chemical Oxygen Demand(Dichromate Oxygen Demand)of Water,ASTM International,West Conshohocken,PA,2012,www.astm.org)である。本発明に従ってスラウストキトリッドの培養に使用される組成物は、1~100g/L、任意に1~50g/L、任意に1~40g/L、任意に5~30g/L、任意に10~20g/L、任意に2~100g/L、任意に2~80g/L、任意に10~60g/L、任意に20~40g/Lの範囲内にある、この試験方法によるCODを有し得る。
【0023】
本発明は驚くべきことに、非常に高い化学的酸素要求量を有し、さもなければ一般に何らかの他の処理又は処分が必要であろう廃棄副生成物に対処できる。
【0024】
本発明で使用されるスラウストキトリッドを培養するための組成物は、蒸留副生成物であり得るか、又は蒸留副生成物を含み得る。蒸留副生成物は、ドラフ、ポットエール、ポットエールシロップ、スペントリース、大麦ダークグレイン、スペントウォッシュ、スペントウォッシュシロップ、廃水又は小麦若しくはメイズダークグレインの1つ以上から任意に選択され得る。
【0025】
蒸留副生成物は、麦芽蒸留プロセス又はグレイン蒸留プロセスからであり得る。
蒸留副生成物は、ウイスキー副生成物、例えばモルトウイスキー副生成物、例えばスコッチウイスキー副生成物であり得る。ウイスキー副生成物はポットエールであり得る。
【0026】
本発明は、ウイスキー生産中に生成されたポットエールだけでなく、他の供給源、即ちアルコール生産プロセスからのポットエールも利用し得る。
【0027】
ポットエールは、任意に銅蒸留容器内でウォッシュを蒸留して、ローワイン蒸留物(アルコール飲料を生産するために、さらなる蒸留及び他のステップによってさらに処理される材料である)及び該ポットエールを製造することを含むプロセスによって提供され得る。アルコール及び水並びに他の材料を含む該ウォッシュは、酵母を使用する麦汁の発酵を含む、先の発酵ステップによって提供され得る。該麦汁は、1つ以上の炭水化物、例えばグルコース及び/又は他の糖類を含む。麦汁は、既知のプロセスによって、例えば麦芽生成分野で周知のモルティング及びマッシングによって得ることができる。
【0028】
スラウストキトリッドを培養するために本発明で使用される組成物は、醸造副生成物であり得るか、又は醸造副生成物を含み得る。醸造副生成物は、醸造廃液であり得る。醸造副生成物はトラーブであり得る。トラーブは、麦汁中の非発酵性生成物から形成される沈殿物である。醸造副生成物は、醸造廃水であり得る。
【0029】
蒸留中、アルコールを生産するために既に発酵プロセスを経た液体が加熱され、従って水などの希釈成分からエタノールを分離する。他の揮発性成分、一般に有機物も蒸留中に発酵液から抽出される。アルコール飲料の製造の一部であるいずれの蒸留によっても残留液体及び/又は固体副生成物が残る。この残留副生成物は、発酵からの酵母又は酵母残渣を含み得る有機物を含有し、スラウストキトリッドの栄養源として作用し得る。
【0030】
スラウストキトリッドの培養に使用される組成物の固形分含有量は、任意に最大30% w/w、任意に最大20%w/w、任意に最大15%、任意に最大10%w/w、任意に最大5%w/w、任意に最大3%w/w、任意に最大1%w/wであり得る。スラウストキトリッドの培養に使用される組成物の固形分含有量は、任意に少なくとも0.1%w/w、任意に少なくとも0.5%w/w、任意に少なくとも1%w/w、任意に少なくとも3%w/wであり得る。例えば、範囲は1~15%であり得る。本発明の1つの利点は、ポットエール又は多少の固形分含有量を有し得る、他のアルコール産業副生成物を処理するスラウストキトリッドの能力から生じる。それにもかかわらず、本発明は、固形分が存在することを必要とせず、固形分含有量のない又は最小限の固形分含有量を有する廃棄副生成物には、例えば濾過又は固形分を除去するための他のプロセスなどのプロセスステップを経たものも含まれ、スラウストキトリッドによって効果的に処理される。
【0031】
スラウストキトリッドの培養に使用される組成物は、酵母又は酵母残渣を含み得る。任意に、存在する酵母又は酵母残渣の量は、0.1重量%~20重量%、例えば1重量%~15重量%である。
【0032】
スラウストキトリッドの培養に使用される組成物は、炭水化物を含み得る。任意に、炭水化物含有量は5~100g/リットル、例えば10~70g/リットル、例えば20~50g/リットル、例えば5~40g/リットル、例えば50~100g/リットルである。
【0033】
スラウストキトリッドの培養に使用される組成物は、硝酸塩を含み得る。任意に、硝酸塩含有量は500~1,500mg/l、又は750~1,000mg/l、又は500~750mg/l、又は1,000~1,500mg/lの範囲内である。
【0034】
スラウストキトリッドの培養に使用される組成物は、リン酸塩を含み得る。任意に、リン酸塩含有量は100~250mg/l、又は150~200mg/l、又は100~150mg/l、又は200~250mg/lの範囲内である。
【0035】
スラウストキトリッドの培養に使用される組成物は、タンパク質を含み得る。任意に、タンパク質含有量は1~100g/l、又は5~75g/l、又は8~50g/lである。
【0036】
組成物は、塩、例えば塩化ナトリウムを0.1M~0.8Mの範囲で含み得る。
組成物は、塩、例えば人工海塩を0.13M~0.6Mの範囲で含み得る。人工海塩は、主成分として塩化ナトリウム、例えば60mol%超、又は60~90mol%、又は65~70mol%、又は約66mol%の量の塩化ナトリウムを含有し得る。人工海塩は、以下の組成を有する。
【0037】
NaCl 66.1%
MgSO.7HO 16.3%
MgCl 12.7%
CaCl 3.3%
KCl 1.6%
組成物は、例えば5~50g/l、又は10~40g/l、又は15~30g/l、又は5~20g/l、又は25~50g/l、又は8.5~43g/l、又は8.75~42.5g/lの範囲の塩を含み得る。
【0038】
スラウストキトリッドの培養に使用される組成物は5~9、任意に6~8、任意に6.5~7.8、任意に6.8~7.5のpHを有し得る。
【0039】
副生成物(例えばポットエール)を、例えば水、例えば水道水で希釈して、それによりスラウストキトリッドの培養に使用される組成物が提供され得る。この希釈によって、本明細書に概説される特性、例えばBOD値、COD値、固形分含有量又は他の特性を達成する組成物が生じ得る。ポットエールは、任意に2~5倍に希釈され得る。任意に、ポットエールは、スラウストキトリッドの培養に使用される組成物の体積の15%~60%、任意に20%~50%、任意に25%~37.5%、任意に25%~35%を占めるように希釈され得る。
【0040】
本発明者らは、ポットエールを著しく大きい範囲まで希釈する必要があると予想した。有意なCOD値及びBOD値を有する比較的高濃度の組成物を処理する本発明の方法の能力は、驚くべきである。
【0041】
本発明者らは、ポットエールが固形分及び潜在的な微生物阻害剤を除去するために遠心分離又は濾過などの何らかの形態の精製を必要とすることも予想した。驚くべきことに、本発明のプロセスは、副生成物全体を扱うのに十分に堅牢である。従って、本発明は、アルコール飲料製造プロセスからの副生成物を精製せずに含む、スラウストキトリッドを培養するための組成物の使用を提供する。
【0042】
ポットエールは、蒸留所からの洗浄水又は他の水を使用しても好適に希釈され得る。これにより、組成物のpHに影響を及ぼし、それにより他の成分を使用する必要性を低減するという、さらなる利点がもたらされる。蒸留所からの洗浄水はアルカリ性であり得て、アルカリ性洗浄水はポットエールの酸性の性質を補正するのに有用であり得る。スペントリースの使用によっても、ポットエールに必要な希釈が提供され得る。スペントリースは、ウイスキーの生産における第2の蒸留からの残渣であり、ポットエールと比較して栄養素が少ない。本発明による増殖後にスラウストキトリッドから分離された水も、ポットエールの希釈に使用され得る。
【0043】
本発明で使用される副生成物、例えばポットエールは、著しい量の銅を含有し得る。このことは銅製の容器、例えばポットスチルに又は銅装置の存在に起因する可能性がある。銅含有量は、食餌中の銅の過剰摂取に敏感なヒツジにはポットエールをベースとする飼料が使用できないほどである。本発明に関連して、ポットエール中の銅含有量が、微生物増殖の効率を阻害すると予想されたかもしれない。しかし本発明者らは、スラウストキトリッドが驚くべきことに本発明の濃度レベルではこれに影響されないことを見出した。
【0044】
他の材料を副生成物に添加して、スラウストキトリッドの培養に使用される組成物を得てもよい。
【0045】
副生成物、例えばポットエールが栄養豊富であっても、従属栄養性スラウストキトリッドの最適な増殖に十分な炭水化物含有量を欠くことがある。従って増殖培地は、追加量の炭水化物を含み得る。
【0046】
追加的な添加に好適な炭水化物としては、グルコース、フルクトース若しくはガラクトースなどの単糖類、又はこれらのオリゴ糖類が挙げられ得る。他の好適な炭水化物としては、ラクトース、マルトース又はスクロースなどの二糖類が挙げられ得る。グリセロールなどの他の複合炭素又は炭水化物源も、増殖培地への包含に好適であり得る。他の考えられる成分は、バイオディーゼル生産からの化合物(例えば粗グリセロール)、酢酸ナトリウム、フルクトース及びジャガイモデンプンである。他の考えられる成分は、セルロース系バイオマス、カルボン酸及びそれらの塩、脂肪酸、アミノ酸、アルコール、エステル及び他の誘導体である。これらの化学物質は、スラウストキトリッド増殖に必要な炭素源を提供し得る。
【0047】
スラウストキトリッドを培養するプロセスは:
(i)該スラウストキトリッドが、スラウストキトリッドの少量又は接種材料から繁殖される第1の段階;及び
(ii)該スラウストキトリッドのストレス応答が1つ以上のオメガ3油又は他の有用な生成物の蓄積を増強するために、栄養供給が第1の期のものとは異なる、第2の段階
を含み得る。
【0048】
本発明は、そのような2段階プロセスを必要とせずに、オメガ3油及び他の有用な材料の蓄積を可能にするが、そのような2段階プロセスの使用により、さらなる利点をもたらすことができ、有用な生成物の量及び生成物を生成できる効率を向上できることを見出した。
【0049】
任意に、第1の段階自体は、2つの期:胞子形成期及び繁殖期を含むと考えられ得る。胞子形成期では、条件、例えば栄養供給は、胞子の生成を増強、促進又は最適化するように選択され得る。繁殖期において、条件、例えば栄養供給は、スラウストキトリッドの繁殖を増強、促進又は最適化するように選択され得る。
【0050】
第1の段階では、アルコール飲料プロセス副生成物(例えばポットエールを含む組成物)と、任意に他の材料、例えば追加の炭水化物(例えばグルコース)並びに溶存酸素及び塩を含む組成物が使用され得る。
【0051】
第1の段階内の胞子形成期は、胞子形成を促進するために炭水化物源(例えばグルコース)、塩及び無機硝酸塩源を包含する規定培地を含む組成物を使用し得る。
【0052】
第1の段階内の繁殖期は、アルコール飲料プロセス副生成物(例えばポットエールを含む組成物)と、任意に他の材料、例えば追加の炭水化物(例えばグルコース)及び溶存酸素並びに細胞増殖に有利な塩を含む組成物を使用し得る。
【0053】
第2の段階は、アルコール飲料プロセス副生成物(例えばポットエールを含む組成物)からの栄養素の少なくとも一部が枯渇し、任意に、さらなる量の炭水化物(例えばグルコース)が第2の段階の開始時に添加されるという点で、第1の段階と区別され得る。炭水化物のさらなる量は、枯渇栄養条件下でスラウストキトリッドによって利用されて、脂肪酸、例えばオメガ3油が生成され得る。
【0054】
第1の段階における炭水化物(例えばグルコース)の添加量は、任意に5~60g/L、任意に5~50g/L、任意に10~40g/L、任意に10~30g/L、任意に15~25g/Lであり得る。第2の段階における添加炭水化物(例えばグルコース)の量は、任意に同じであり得る。これらの量は、一連のアルコール性副生成物、例えばポットエール(例えば20~55%体積、例えば30~45%体積、例えば35~40%体積に希釈されたポットエール)が使用される場合に適用可能である。
【0055】
本発明によれば、スラウストキトリッド微生物には、増殖を最適化するように選択された温度(例えば室温又は周囲温度又はそれよりわずかに高い温度、例えば20~40℃、例えば25~35℃、例えば約30℃)にて、典型的には数日間(例えば1~5日間、例えば2~4日間、例えば3~4日間、例えば78時間~90時間)にわたって増殖する時間が最初に与えられ得る。添加無機硝酸塩の量は、任意に1~10g/Lであり得る。これにより胞子の生成が最大化されて、発酵中により高い細胞密度が見込まれ得る。
【0056】
この初期増殖期間の後、細胞は、増殖のためにアルコール飲料プロセス副生成物(例えばポットエールを含む組成物)からなる培地に移され得る。数日後(任意に3~7日であり得る)、さらなる量の追加の炭水化物が添加され得る。これにより、微生物がポットエール又は他の副生成物によって供給される栄養素を最大限に消費することが補助され得る。この段階で添加される炭素源の量は、形成されたスラウストキトリッドの量又は密度に依存する。初期増殖期間後のこの時点で、操作温度を例えば約5~20℃、例えば10~15℃に下げることも可能である。
【0057】
培養開始の数日後(任意に3~4日であり得る)に導入された増殖条件の変更は、スラウストキトリッドによる脂肪酸の生成増加をもたらす、微生物におけるストレス反応を誘導することを意図している。栄養素の枯渇は、このストレス反応の発生を補助し得る。温度の低下も、ストレス反応の促進を補助し得る。
【0058】
増殖条件は、温度、増殖培地の塩分濃度、増殖培地のpH、増殖培地中に存在する追加の炭水化物の量を含み得る。スラウストキトリッドが培養されている間に、増殖条件に対して以下の1つ以上の調整が行われ得る。
【0059】
・温度は上昇又は下降され得る。
・増殖培地の塩分濃度が調整され得る(例えば上昇)。
【0060】
・増殖培地のpHが調整され得る。
・増殖培地に追加の炭水化物が添加され得る。
【0061】
典型的には滅菌の空気が増殖中に培養容器に供給され得る。空気はスパージャを介して供給され得る。空気は濾過され得る。
【0062】
任意に、アルコール飲料製造プロセスからの副生成物は、酵素的前処理ステップに供され得る。理論に束縛されることを望むものではないが、蒸留副生成物の有機物の一部は、生物学的利用性がより低く、高密度(即ち添加炭素源)培養中に十分に利用され得ない。この部分は、無傷の酵母細胞及び穀物タンパク質、並びに酵母発酵性形態に加水分解できなかった炭水化物を含み得る。副生成物の酵素前処理は、そのような化合物をより単純でより容易に同化される材料に変換し得る。使用され得る酵素としては、以下の市販の酵素:アミログルコシダーゼ、プロリルエンドペプチダーゼ、セルラーゼ、パパイン、サブチリシン及びリチカーゼが挙げられる。
【0063】
本出願に開示されるスラウストキトリッドを増殖する方法は、場合により、ポットエール又は他の副生成物の初期BOD値又はCOD値の約50~95%の低下、例えば約75~95%の低下、例えば約90%の低下を生じることがわかっている。
【0064】
培養完了後、培養したスラウストキトリッド微生物は増殖培地溶液から分離され得る。この分離は、例えば遠心分離、沈降、化学凝集、生物凝集、浮選又は膜濾過によって達成され得る。増殖プロセスの生成物の脱水は、その体積を5%~20%、例えば8%~10%減少させ、オメガ3富化藻類ペーストを生成し得る。最終生成物は、スラウストキトリッド及び分離ポットエール固形分を含有し得る。生成物は藻類ペーストの形態をとり得る。
【0065】
この分離ステップから生じた水溶液は、新鮮な量のポットエール又は他の副生成物を希釈して新鮮な増殖培地を生成するために再使用され得る。後続のスラウストキトリッド培養におけるこのような分離水の使用は、増殖速度の促進を補助し得る。
【0066】
藻類ペーストのさらなる処理を行って油又は粉末が生成され得る。油又は粉末はオメガ3にも富み、水産養殖用飼料として利用することができる。
【0067】
本発明のさらなる態様では、本明細書に記載するように培養されたスラウストキトリッドによって生成された脂質を蓄積する方法が提供される。
【0068】
本発明のさらなる態様では、本明細書に記載するように培養されたスラウストキトリッドから脂肪酸、例えばオメガ3油を蓄積する方法が提供される。
【0069】
本発明のさらなる態様では、本明細書に記載するように培養されたスラウストキトリッドから水産養殖用飼料を生成する方法が提供される。
【0070】
本発明のさらなる態様では、第1の態様に関して上で定義したように、アルコール飲料製造プロセスからの副生成物を含む組成物を含有する容器内でスラウストキトリッドを培養するための方法が提供される。
【0071】
本発明の利点は、魚、動物及び魚による消費に好適な食材を生成するために本方法を使用できるとしても、容器が圧力定格である必要がなく、医薬品グレードの容器である必要がないことである。標準醸造容器(例えばステンレス鋼醸造容器)が使用され得る。これにより、かなりの費用節約となる。便利でもある。該プロセスは、アルコール性プロセス副生成物が生成され、醸造容器へのアクセス及び供給が既に容易となる、蒸留所又は醸造所又はその付近で任意に実施され得る。容器は、改変された醸造発酵槽であり得る。使用中に容器は通気され得る。
【0072】
この方法は、容器を滅菌する先行ステップを含み得る。さらに、容器に連結されたポート及びライン、特に容器への成分の投入又は容器からの成分の放出に使用されるポート及びラインが滅菌され得る。滅菌は、清浄水ですすぐ1つ以上のステップを含み得る。滅菌は、任意に高温にて(例えば40℃超、例えば50℃超、例えば約50~70℃、例えば約60℃にて)アルカリ(例えば水酸化ナトリウム溶液)で洗浄する1つ以上のステップを含み得る。滅菌は、抗菌剤、例えば過酸化物、例えば過酢酸を適用し、抗菌剤を乾燥させて内面をコーティングする1つ以上のステップを含み得る。滅菌は、これらのステップの2つ以上又は全てを含み得る。例えば滅菌は、アルカリによる洗浄、水によるすすぎ及び抗菌剤の適用を含み得る。任意に、アルカリで洗浄するステップの前に、すすぐ又は洗浄するステップ(例えば清浄水ですすぐこと)があり得る。容器は、例えば容器の底部のスパージャを介して、容器内に例えば不活性ガス、例えば滅菌空気を注入することにより、滅菌中に陽圧下で維持され得る。
【0073】
このような滅菌手順は、培養装置を組み立てた状態で行われ得る。この定置洗浄(clean-in-place(CIP))法は、高い衛生基準を確保し、本発明者らは、スラウストキトリッドを培養する際にこれが有利であることを見出している。滅菌は、アルコール飲料プロセス副生成物、例えばポットエールを使用してスラウストキトリッドが培養され得る環境を確保するようであり得る。
【0074】
本発明の滅菌手順のさらなる利点は、より高価な圧力関連容器を必要とし得る蒸気滅菌を行う必要がなくなることである。
【0075】
種微生物は、スラウストキトリッドの単一培養物から採取され得る。プレートからの継代培養及びこの段階での液体培養増殖が各々可能であり得る。各々その利点がある。プレートからの継代培養は汚染リスクを最小限に抑え、液体培養増殖は一般により高速である。いずれの事象でも、使用前に接種材料の純度が試験され得る。
【0076】
本発明によれば、容器にスラウストキトリッドと、アルコール飲料製造プロセスからの副生成物を含み、スラウストキトリッドの培養を行うために使用される組成物が投入される。該組成物は、容器に入れる前に低温殺菌され得る。驚くべきことに、副生成物が既にかなりの熱処理に供されたかもしれない(例えばポットエールは、ウイスキー調製プロセスの一部として約3時間沸騰されたかもしれない。)という事実にもかかわらず、本発明者らは、低温殺菌がさらなる利点をもたらし、有効性及び信頼性を高められることを見出した。理論に束縛されることを望むものではないが、このことは、例えば胞子形成生物がポート又はラインに存在する場合、ポットエール又は他の副生成物が蒸留又は醸造装置から除去されるときに(例えばそのような胞子形成性生物からの)汚染物質が混入され得るためであり得る。
【0077】
低温殺菌は、病原体及び酵母以外の他の生物を排除するのに十分な温度及び期間で組成物を加熱することを含み得る。
【0078】
低温殺菌は、組成物を例えば70~125℃以上、例えば70~110℃、任意に80~100℃、任意に80~90℃、任意に90~100℃、任意に85~95℃の温度に加熱することを含み得る。組成物は、任意に10秒~120秒以上、任意に10秒~90秒、任意に20秒~60秒、任意に20秒~40秒、任意に25秒~35秒であり得る期間にわたって、その温度まで加熱され得る。熱処理は任意に、組成物が先行ステップ及び/又は後続ステップにおいて、より低い温度で加熱される段階的熱処理であり得る。
【0079】
低温殺菌は、インライン低温殺菌であり得る。低温殺菌は、熱が熱プレート又は熱交換器を介して温水又は高温油回路によって組成物に伝達される、熱交換法によって実施され得る。
【0080】
以下の実施例は、実施されたいくつかの実験及び本発明のいくつかの実施形態の特徴を要約するものであり、本発明の範囲はこれらの詳細事項に限定されないことが理解されよう。図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0081】
図1図1は、様々な炭素源を使用したスラウストキトリッド株の増殖を示す。
図2】非スラウストキトリッド株の増殖を示す。
図3】非スラウストキトリッド株の増殖を示す。
図4】非スラウストキトリッド株の増殖を示す。
図5図5は、スラウストキトリッドオーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium sp.)のサンプルを接種した12.5%(体積)のポットエールを含む増殖培地における、経時的な溶存酸素含有量及びpHの変化を示す。
図6図6は、スラウストキトリッドオーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium sp.)のサンプルを接種した25%(体積)のポットエールを含む増殖培地における、経時的な溶存酸素含有量及びpHの変化を示す。
図7図7は、スラウストキトリッドオーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium sp.)のサンプルを接種した37.5%(体積)のポットエールを含む増殖培地における、経時的な溶存酸素含有量及びpHの変化を示す。
図8図8は、スラウストキトリッドオーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium sp.)のサンプルを接種した50%(体積)のポットエールを含む増殖培地における、経時的な溶存酸素含有量及びpHの変化を示す。
図9図9は、追加のグルコースが添加されている、スラウストキトリッドオーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium sp.)のサンプルを接種した25%(体積)のポットエールを含む増殖培地における、経時的な溶存酸素含有量及びpHの変化を示す。
図10図10は、追加のグルコースが添加されている、スラウストキトリッドオーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium sp.)のサンプルを接種した25%(体積)のポットエールを含む増殖培地における、経時的な溶存酸素含有量及びpHの変化を示す。
図11】さらにグルコースを接種後に添加した、図11は、ポットエール及びグルコースを含む培地におけるスラウストキトリッドオーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)の培養中の細胞数及び乾燥細胞重量の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0082】
実施例1-スラウストキトリッドの優れた性能を示す、供給原料を利用する様々な微生物の増殖を調査するために行った実験
塩、硝酸塩、酵母抽出物及び炭素源(グルコース、グリセロール、ペプトン又はアセテート)を含有する基礎培地(基礎淡水又は淡水基礎培地とも呼ばれる)中で、様々な微生物を培養した。高スループット実験から得た増殖データを図1図4のグラフに要約する。グルコース、グリセロール、ペプトン又はアセテートに関連するパーセント値は、40g/lの標準溶液に対する濃度を指す。従って、例えば200%グルコースは、80gグルコース/リットルを示す。図1~4の縦軸は、光学測定によって評価され、NADH生成によって概算された増殖速度を示す。図1は、スラウストキトリッド株(オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium))を使用した結果を示す図である。株は、日本の生物資源センター(Biological Resource Centre、NBRC)(www.nite.go.jp/en/nbrc/index.html)から入手した。株は、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)(NBRC番号102614)及びシゾキトリウム(Schizochytrium)(NBRC番号102617)を含む。比較図2~4は、以下の非スラウストキトリッド藻類株:クラミドモナス属(Chlamydomonas sp.)のN.コッコイデス(coccoides)及びC.プロトテコイデス(protethecoides)をそれぞれ用いた結果を示す。
【0083】
スラウストキトリッド株は、他の株(図2~4)に必要な60~80時間と比較して、接種時から約24時間以内に最大増殖速度に達することによって区別された(図1)。大規模な流加発酵プロセスでは、これはバッチの全体的な実行時間を2日間効果的に短縮することができた。スラウストキトリッドは、一連の廃棄有機物材料並びにフルクトース及びジャガイモデンプンを含む他の材料での増殖にも有効であった。スラウストキトリッド株は、他の株と比較した場合、優れた増殖速度を有し、広範囲の炭素源及び廃棄物流を利用することができた。
【0084】
さらなる実験は、食品及び飲料産業の副生成物を使用した微生物の培養に焦点を合わせ、スラウストキトリッドが発酵からの生成物及びポットエールを含む関連プロセスを使用して特に良好に機能することが見出された。
【0085】
実施例2-ポットエールを使用する、スラウストキトリッドオーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium sp.)の増殖
微生物の増殖は、容器内の溶存酸素(DO)含有量の変化を観察することによって監視した。図5は、スラウストキトリッドオーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium sp.)のサンプルを接種した12.5%(体積)のポットエールを含む増殖培地中の溶存酸素含有量(100%は飽和を示す)の進行を示す。スラウストキトリッドは、ポットエールによって供給される栄養素を摂取するにつれて増殖し、酸素を消費する。これは溶存酸素の低下に反映されている。全ての栄養素が消費されると、スラウストキトリッドはもはや酸素を消費することができない。媒体中に溶解した酸素が大気酸素と平衡するにつれて、DO値は上昇する。
【0086】
pHの変化は、発酵中に発生する異なる代謝反応に起因すると考えられる。pHの初期低下は、有機酸の生成に起因すると考えられる。発酵が進行するにつれて、ポットエール内の複合窒素源の利用によってアンモニアの濃度が上昇され得て、次いでpHが安定化又は上昇され得る。
【0087】
図6~8は、体積で25体積%、37.5体積%及び50体積%のポットエールの初期濃度の使用に関するという点で、図5とは異なる。
【0088】
全ての場合において、ポットエールは、スラウストキトリッドにとって有効な有機物原料として作用することがわかる。それにもかかわらず、20~55体積%の範囲は、これが持続的な増殖をもたらすため、特に有効である。
【0089】
さらなる栄養素、例えばグルコースの添加は、さらなる増強を引き起こす。図9は、10g/Lグルコースが最初に存在する25%ポットエール増殖培地を使用した、オーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium sp.)の増殖を示す。スラウストキトリッドは、溶存酸素読み取り値の低下によって示されるように、接種の最初の24時間以内に炭素源を利用することがわかる。比較として、図10は、最初に20g/Lグルコースが存在し、3日後にさらに20g/Lグルコースを添加した25%ポットエール増殖培地を使用した、オーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium sp.)の増殖を示す。炭素源がより大量であるため、増殖が最大レベルで最大144時間持続することがわかる。
【0090】
さらなる実験により、接種後にさらにグルコースを添加する効果を調べた。オーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium sp.)を使用して、規定培地及び25%濃度のポットエール培地で2つの実験を行った。第1の実験ではグルコース濃度を20g/Lに設定し、第2の実験では、最初に株を20g/Lグルコースを含有する培地に接種し、接種3日後にさらに20g/Lグルコースを注入した。前者の場合の100ml当たりの質量変化は2.52gであり、後者の場合は4.48gであった。従って、接種後にさらにグルコースを20g/l添加した場合、生産性は44.8g/lであった。これを以下の表及び図11にさらに示す。
【0091】
【表1】
【0092】
細胞数測定は、標準プロトコルに従って血球計数器を使用して行った:
1.適切に希釈した発酵培地の10μLサンプルをカバースリップと計数チャンバの間に添加した。
【0093】
2.標準計数パターンに従って、細胞を計数した。
3.使用した血球計数器の種類に応じて、標準式を使用して細胞密度を計算した(これは平均細胞、希釈係数及び血球計数器の種類に依存するチャンバの容積を考慮する。)。
【0094】
細胞密度=平均細胞×希釈係数/体積の2乗
乾燥細胞重量は、発酵の生産性の指標を与えた。これは発酵の過程にわたって測定され、細胞の定量に使用される追加の方法であった。以下の方法を使用して乾燥重量を測定した:
1.入れ物を秤量し、その質量を記録した。
【0095】
2.規定量のサンプルを入れ物に入れ、秤量して、その質量を記録した。
3.乾燥/秤量を繰り返した後、その質量に変化がなくなるまでサンプルを乾燥させた。
【0096】
4.入れ物を乾燥したサンプルと共に秤量し、その質量を記録した。
計算は以下のように行った:
1.サンプル10mlと入れ物から入れ物の重量を差し引く=湿潤質量
2.乾燥したサンプルと入れ物から入れ物の重量を差し引く=乾燥質量
3.乾燥質量/湿潤質量×100=乾燥重量(%)
乾燥重量の計算は全て2通り又は3通りのいずれかで行い、値を平均して誤差を考慮した。
【0097】
細胞数と乾燥重量は線形関係にない。乾燥重量は、ポットエール固形分の質量も含み、細胞数はサンプル中に存在する細胞のみを表す。発酵が進行するにつれて、ポットエール固形分が枯渇し、同時に細胞数が増加するが、ポットエール固形分と比較すると異なって全体の乾燥重量になお寄与している。従って、一方の値は他方の値よりも遅延する。
【0098】
試験した他の染色剤と比較して、スラウストキトリッドが驚くほど高い増殖速度を示すことが確認され、増殖条件を最適化するためにスラウストキトリッドをさらに試験した。特に、スラウストキトリッドの塩分要求性を調べた。スラウストキトリッドは海洋性株であり、塩水環境に自然に生息する。しかし、高い塩濃度は金属部品、例えば容器の腐食を促進するので、不利であり得る。一連の実験において、スラウストキトリッドは、増殖速度を有意に低下させることなく、通常の海水濃度の25%~50%で増殖することができると判断された。それにもかかわらず、所望であれば、より高い塩濃度が使用され得る。スラウストキトリッドの増殖を、溶存酸素センサを使用して監視した。
【0099】
実施例3-例示的な実施形態の詳細な説明
スラウストキトリッドを培養するための容器として、蒸留所からのステンレス鋼醸造容器を使用した。醸造容器を最初に、容器の上部に配置されたスプレーボール又は同様の入口器具を通して清浄水ですすいだ。次いで、容器を2%水酸化ナトリウムで60℃の温度にて10分間洗浄した後、清浄水で再度すすいだ。次いで、容器の内部を0.1%過酢酸でコーティングし、これを表面で乾燥させた。この洗浄及び滅菌プロセスを通して、無菌空気を容器の底部のスパージャを通して容器に注入し、容器を陽圧下に維持した。洗浄及び滅菌処理は、容器に取り付けられた全てのポート及びラインに対して行った。これには増殖培地と接触したインライン低温殺菌装置が含まれていた。
【0100】
スラウストキトリッド用の増殖培地を調製するために、スコッチウイスキー蒸留所からのポットエールを、25%~37.5%のポットエールを含有するように希釈した。化学的酸素要求量は13.75g/L~20.63g/Lであった。水酸化ナトリウムを添加することによってpHを6.8~7.5に調整した。次いで、pH調整した希釈ポットエール溶液に以下を添加した:
グルコース20g/L;
人工海塩10.4g/L(例えば66%塩化ナトリウム、16%硫酸マグネシウム、13%塩化マグネシウム並びにより少量の塩化カルシウム及び塩化カリウムを含む。
【0101】
さらにグルコース20g/L~40g/Lを密度に応じて3日目又は4日目に添加した。
【0102】
上記のように調製した増殖培地を、プレート熱交換器の形態のフラッシュ低温殺菌装置を通して容器に供給した。プレート熱交換器を使用して、増殖培地を70℃~125℃の温度まで加熱した。増殖培地をこの高温にて10秒~120秒維持した。次いで、培地を30℃まで冷却した。これを2段階で行った。第1の段階では、培地からの熱をさらなる熱交換器で回収し、低温殺菌装置に入る流入培地に伝達し、この流入培地を予熱した。次いで、さらなる熱交換器で、低温殺菌された培地の温度を30℃の初期増殖温度までさらに低下させた。次いで、低温殺菌された増殖培地を培養容器中へ通過させた。
【0103】
顕微鏡で確認した微生物の単一培養物をプレート培養で4又は5日間増殖させることによって、スラウストキトリッドの接種材料を調製した。正確なタイミングは増殖条件に依存し、当業者はこれを適切に判断することに困難はないであろう。次に、この最初の接種材料を、3方ホースキャップを備えた好適な滅菌ホウケイ酸ガラス容器に移した。ガラス容器は、接種材料を培養容器に滅菌移送するために取り付けられた蠕動ホース部の部分を含んでいた。ガラス容器に取り付けられた逆止弁にガラスシリンジを取り付け、培養容器に入る前に接種材料を滅菌サンプリングできるようにした。
【0104】
培養容器内に存在するスラウストキトリッド接種材料と低温殺菌増殖培地(37.5%のポットエール、人工海塩のグルコース20g/L及び10.4g/L並びに高レベルの溶存酸素からなる高栄養培地)の混合物を増殖温度約30℃にて3~4日間維持し、スラウストキトリッドはその間に急速に増殖した。これにより、最大細胞数が達成され、栄養素が枯渇した。次の期では、細胞は増殖の蓄積期に入った:この段階で、さらにグルコース20g/Lを容器に供給し、容器の温度を10~15℃に低下させた。条件のこの変化は、スラウストキトリッドにストレス反応を誘発し、それによってオメガ3油の生成を促進すると考えられる。次いで、スラウストキトリッドをさらに2日間培養した。
【0105】
品質管理を適切な段階で実施して、スタータ培養物の純度、インライン低温殺菌の有効性、エアフィルタの機能及び容器滅菌の品質を判断した。
【0106】
増殖プロセスの終了時に、得られたスラウストキトリッドを従来の脱水技術を用いて脱水した。脱水は、元の体積の約10%まで行った。これにより、オメガ3富化藻類ペーストが生成された。このペーストをさらに処理して、油又は粉末を生成することができる。
【0107】
実施例4-蒸留副生成物の酵素前処理
蒸留副生成物の酵素前処理は、いくつかの実験でグルコース濃度の480%の上昇が可能であることがわかった。酵素前処理を用いて実施した数回の発酵の過程の間に、平均して、スラウストキトリッドのグルコース利用を最大20%、生産性を少なくとも25%上昇させることがわかった。
【0108】
酵素の最大変換効率を可能にするために、酵素添加の前に、ポットエール培地のpHをpH6~7に調整し、酵素添加を0.01~0.05%v/vの濃度範囲とした。
【0109】
藻類(スラウストキトリッド)を、層流キャビネット内で2%v/vの既存のストック液培養物から無菌接種した。藻類フラスコ培養物を、酵素処理実験の前に最低2日間、振盪(95rpm)しながら30℃にてインキュベートした。
【0110】
酵素前処理を、使用する酵素に応じてpH6~7にpH調整した25mLの新鮮なポットエールを含有する50mLコニカルフラスコ中で行った。全ての実験は、3個組のフラスコで、3個組の対照フラスコと共に行った。酵素を添加する前に、標準滅菌温度及び時間を用いてポットエールフラスコをオートクレーブ滅菌した。
【0111】
酵素ストック溶液を0.02%v/vで滅菌ポットエールフラスコに無菌添加し、滅菌水を濾過して対照フラスコに添加した。酵素添加後、フラスコを再密封し、振盪(95rpm)しながら30℃にて20時間インキュベートした。
【0112】
【表2】
【0113】
表:各酵素の最適pH及び作用範囲について報告された最良適合に基づいて選択した、各フラスコで使用した調整pH。
【0114】
可溶性グルコースレベルに対する酵素前処理の妥当性を、酵素処理ステップの前及び後に測定した。インキュベーションステップに先立って、各滅菌フラスコから3個組のサンプルを無菌採取し、インキュベーション期間の終了時に最終後処理3個組サンプルを無菌採取した。グルコース測定を実施するために、サンプルを13,000rpmで10分間遠心分離し、SD Codeフリー・グルコース・モニタ及び対応するグルコースストリップを使用してグルコースを測定した。
【0115】
藻類増殖の定量化のために、5日間のインキュベーション期間の後、藻類培養フラスコをグルコース測定のための発酵の開始時及び終了時に3個組でサンプリングした。藻類生産性を計算するために、1mLサンプルを各フラスコから無菌採取し、先に詳述した細胞数測定に使用した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】