(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】食品着色剤
(51)【国際特許分類】
A23L 5/46 20160101AFI20230516BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20230516BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20230516BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20230516BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20230516BHJP
A23J 3/18 20060101ALI20230516BHJP
A23J 3/20 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
A23L5/46
A23L13/00 D
A23L17/00
A23J3/00 507
A23J3/00 505
A23J3/00 502
A23J3/16
A23J3/18
A23J3/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560043
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(85)【翻訳文提出日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 AU2021050296
(87)【国際公開番号】W WO2021195708
(87)【国際公開日】2021-10-07
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522385485
【氏名又は名称】ブイ2フード・プロプライエタリー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】v2food Pty Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】レイネス,ジャレッド
(72)【発明者】
【氏名】ヘイゼル,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ペルニス,マチュー
【テーマコード(参考)】
4B018
4B042
【Fターム(参考)】
4B018LB05
4B018LB06
4B018LE01
4B018LE06
4B018MA08
4B018MC01
4B018MD20
4B018MD57
4B018MF01
4B018MF04
4B018MF07
4B042AC02
4B042AD20
4B042AD36
4B042AE02
4B042AE03
4B042AG02
4B042AG03
4B042AG07
4B042AH01
4B042AK06
4B042AK07
4B042AK10
4B042AK13
4B042AK16
4B042AK20
4B042AP02
4B042AP15
4B042AP21
4B042AP22
(57)【要約】
本開示は、食品着色剤に関する。特に、本開示は、擬似肉および代用肉食品などの食品に使用される着色剤および/または金属イオン担体として、並びにそのための成分として、フィコビリタンパク質、例えば、フィコエリスリンなどの直鎖状テトラピロール含有化合物を使用することに関する。本開示はまた、前記着色剤および/または金属担体を含む、擬似肉および代用肉食品などの食品、並びにそのための成分にも関する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上のフィコビリタンパク質を含む擬似肉食品であって、前記一つ以上のフィコビリタンパク質が前記食品にピンクまたは赤色を視覚的に与えるのに十分な量であり、前記食品が、約50~95℃の範囲の内部温度への前記食品の調理時に視覚的色変化をもたらす、食品。
【請求項2】
前記視覚的色変化が、約60~85℃の範囲の内部温度への、前記食品の調理時に生じる、請求項1に記載の擬似肉食品。
【請求項3】
前記一つ以上のフィコビリタンパク質が、w/wベースで、すべてのフィコビリタンパク質の、少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%もしくは少なくとも90%、または少なくとも99%の量で、フィコエリスリンを含む、請求項1または2に記載の擬似肉食品。
【請求項4】
前記一つ以上のフィコビリタンパク質が、藻類原料からの抽出物、精製されたか、または少なくとも部分的に精製された分離物の形態で存在する、請求項1から3のいずれか1項に記載の擬似肉食品。
【請求項5】
前記藻類原料が、紅藻綱(Rhodophyceae)、藍藻綱(Cyanophyceae)およびクリプト藻綱(Cryptophyceae)から選択される種である、請求項4に記載の擬似肉食品。
【請求項6】
前記フィコビリタンパク質が、鉄にキレートしている、好ましくは鉄にキレートしたフィコエリスリンである、請求項1から5のいずれか1項に記載の擬似肉食品。
【請求項7】
前記一つ以上のフィコビリタンパク質が、全藻または粉砕された藻類の形態で存在する、請求項1から3のいずれか1項に記載の擬似肉食品。
【請求項8】
前記藻類が、紅藻綱(Rhodophyceae)、藍藻綱(Cyanophyceae)およびクリプト藻綱(Cryptophyceae)から選択される種である、請求項7に記載の擬似肉食品。
【請求項9】
前記藻類原料または藻類が、チノリモ属の種(Porphyridium sp.)、ロドカエテ属の種(Rhodochaete sp.)、ベニマダラ属の種(Hildenbrandia sp.)、ホシノイト属の種(Erythrotrichia sp.)、ロデラ属の種(Rhodella sp.)、ロドソルス属の種(Rhodosorus sp.)、アルスロスピラ属の種(Arthrospira sp.)、フレミエラ属の種(Fremyella sp.)またはロドモナス属の種(Rhodomonas sp.)から選択される、請求項5から8のいずれか1項に記載の擬似肉食品。
【請求項10】
前記藻類原料または藻類が、ロドモナス・サリナ(Rhodomonas salina)、好ましくはロドモナス・サリナ CS-174(Rhodomonas salina, CS-174)である、請求項9に記載の擬似肉食品。
【請求項11】
前記フィコビリタンパク質が、約50~95℃の範囲でλ
maxの50%吸光度減少を示す、請求項1から10のいずれか1項に記載の擬似肉食品。
【請求項12】
前記フィコビリタンパク質が、約60~85℃の範囲でλ
maxの50%吸光度減少を示す、請求項11に記載の、生の擬似肉食品。
【請求項13】
λ
maxが、約540~570nmの範囲内である、請求項11または12に記載の擬似肉食品。
【請求項14】
前記フィコビリタンパク質が、フィコエリスリンであって、少なくとも1:1、好ましくは少なくとも3:1、または少なくとも7:1、あるいは少なくとも10:1の540~570nm対495~503nm UV/可視吸光度ピーク比を示し、好ましくは540~570nmの、より好ましくは550~565nmのシングルピークのみを示す、請求項1から13のいずれか1項に記載の擬似肉食品。
【請求項15】
前記藻類が、乾燥重量ベースで0.1から20% w/w、好ましくは0.1から10% w/w、より好ましくは約0.1から5% w/wの量で含まれる、請求項7から14のいずれか1項に記載の擬似肉食品。
【請求項16】
前記藻類が、約1~150mg/g乾燥重量、好ましくは5~50mg/gでフィコエリスリンを含有する、請求項7から15のいずれか1項に記載の擬似肉食品。
【請求項17】
前記藻類が、湿っていても乾燥していてもよい、全藻または粉砕された藻類として含まれる、請求項15または16に記載の擬似肉食品。
【請求項18】
前記藻類が、約0.1% w/wから約95% w/wの水または培地中濃度を有する湿潤バイオマスとして添加される、請求項17に記載の擬似肉食品。
【請求項19】
非動物性タンパク質源、一つ以上の炭水化物、一つ以上の油脂、一つ以上の香味成分および水を含む、請求項1から18のいずれか1項に記載の擬似肉食品。
【請求項20】
タンパク質源が、ダイズ、ソラマメ、エンドウ、コムギ、ヒヨコマメおよびリョクトウタンパク質から選択される植物性タンパク質であることを特徴とする、請求項1から20のいずれか1項に記載の擬似肉食品。
【請求項21】
鶏肉、牛肉、ラム、子牛肉、豚肉、ヤギ肉、カンガルー肉または魚肉/シーフード擬似食品である、請求項1から19のいずれか1項に記載の擬似肉食品。
【請求項22】
ひき肉もしくは刻み肉食品、または成型肉もしくは成形肉食品である、請求項1から21のいずれか1項に記載の擬似肉食品。
【請求項23】
約50~95℃、好ましくは60~85℃の範囲の内部温度に調理された、請求項1から22のいずれか1項に記載の擬似肉食品。
【請求項24】
請求項1から23のいずれか1項に記載の擬似肉食品の調製における、一つ以上のフィコビリタンパク質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、食品着色剤に関する。特に、本開示は、擬似肉および代用肉食品などの食品に使用される着色剤および/または金属イオン担体として、並びにそのための成分として、フィコビリタンパク質、例えば、フィコエリスリンなどの直鎖状テトラピロール含有化合物を使用することに関する。本開示はまた、前記着色剤を含む、擬似肉および代用肉食品などの食品、並びにそのための成分にも関する。
【背景技術】
【0002】
2050年までに97億人に到達すると推定される、増え続ける世界人口に食料を提供する必要に伴って、世界の食料源の動物由来成分のバランスを取り戻し、持続可能なフードシステムおよび食料の増加ならびに栄養安全保障を達成する必要がある。肉食品の植物由来代替品は、消費者の食習慣の変化により、市場の成長を見せる。ますます、消費者は、食料生産システムが環境、気候変動および動物倫理に及ぼす影響に関心を持ち、このことは、彼らが食料購入について行う選択に影響を与える。ヴィーガン、ベジタリアン、および動物性の肉を食べるが、その消費を減らしている人(リデュースタリアンまたはフレキシタリアン)は、完全にまたは実質的に非動物性食品で作られた代替肉の需要を掻き立てている。
【0003】
1960年代以来、押出技術を用いて大豆粉または大豆濃縮物から調製される組織化大豆タンパク質食品は、ミンチ肉またはひき肉に取って代わって普及してきた。さらに最近では、他の非動物性タンパク質源、例えばマイコプロテイン、きのこ、マメ科植物(例えばエンドウ、ルピナス、マメ)およびコムギなどもまた、代用肉または擬似肉食品に加工されている。
【0004】
しかしながら、動物性の肉は、タンパク質構造および線維の複雑なマトリックスを含み、その中に脂質、炭水化物、水および他の分子が閉じ込められ、それらは、生の状態および調理された状態のどちらにおいても、肉を含む食品の感覚的、触感的および構造的特徴(例えば外観、風味、噛み応え、ジューシーさ)に寄与する。消費者は、環境保護または倫理上の理由のために、肉の消費を進んで削減するか、または減らしているかもしれないが、多くの人は、「肉の体験」を再現する、すなわち外観、風味および食感などの感覚的観点においてだけでなく、保存、処理および調理などの物理的観点においても動物性の肉のように見せ、振る舞う代用肉食品をいまだに好む。調理および食事の準備の方法は、深く文化的に根付いており、急激な変化に対して非常に抵抗性がある。動物性の肉が持つ複雑な構造的および分子的組成を考えると、非動物由来の代用肉食品が生および調理された動物性の肉の特徴を模倣または再現できるように様々な特徴を再構築することは、困難なままである。
【0005】
再現することが望ましい特徴の1つは、生(未調理)および調理済みの状態の両方における、代用肉または擬似肉食品の外観、特に色に関連する。生の動物性の肉、例えば鶏肉、牛肉、ラムまたは豚肉などは、ヘモグロビンおよびミオグロビン(脊椎動物の血液中の酸素運搬を担う、鉄と酸素が結合する複合タンパク質)の存在により、一般にピンク色または赤色をしている。しかしながら、調理時、例えば、約60~80℃の温度で、これらのタンパク質は変性し、肉は色が変化し、生の状態のピンクまたは赤色を失って、一般に白色、褐色および/または灰色になる。これは、料理をする人にとっての視覚的な指標を提供し、調理済みの製品の望ましい風味および/または食感を達成するための加熱時間を導く助けとなり、状況によっては、熱処理に関連する食品の安全性の指標になる。
【0006】
ピンクまたは赤色を擬似肉または代用肉食品につけるために現在使用されている1つの選択肢は、ビートルートおよびラディッシュ抽出物などの植物由来の着色剤である。しかしながら、これにより、生の状態の擬似肉または代用肉食品については、動物性の肉に似たピンクまたは赤色を呈する食品が得られるが、調理したときに白色/褐色/灰色に変化する、代用肉または擬似肉食品の視覚的体験は達成されない。調理時に認識可能な色変化がないため、料理をする人が、望ましい調理済みの色を達成しようとして肉を焼き過ぎることがある。動物性の肉を調理したときに見られる色変化に似た視覚的な振る舞いをする、代用肉および擬似肉食品の着色剤が、依然として求められる。
【0007】
フィコビリタンパク質(PBPs)は、高い水溶性を持つ蛍光タンパク質で、シアノバクテリア(藍藻)、紅藻類(紅藻植物門)などの特定の真核微細藻類および大型藻類、いくつかのクリプト植物および渦鞭毛藻類に見られ、直鎖状テトラピロール発色団(ビリンとして知られる)に共有結合したタンパク質鎖を含む。それらはフィコビリソームと呼ばれる膜外超分子構造に会合し、光エネルギーの捕集および伝達のためのアンテナとして作用することで集光性色素としてはたらき、そうでなければクロロフィルに到達できない。
【0008】
フィコビリソームを構成するフィコビリタンパク質は、2つの構造的に異なるユニット:コアおよびロッドに配置され、それらはαβサブユニットの三量体(コア)または六量体(ロッド)のディスクが積み重なってできたシリンダーを含む。αβサブユニットは、それ自身が、吸光特性をもたらす直鎖状(非環状)テトラピロール発色団に共有結合しているαおよびβポリペプチド鎖(それぞれ、およそ160~180アミノ酸残基)から成るヘテロ二量体である。
【0009】
その吸収特性に基づき、フィコビリタンパク質は一般に、4つのサブクラス:青色のフィコシアニン(典型的なλmax=610~620nm)、深紅/ピンク色のフィコエリスリン(典型的なλmax=540~570nm)、青緑色のアロフィコシアニン(典型的なλmax=650~655nm)および頻繁には見られないがマゼンタ色のフィコエリスロシアニン(典型的なλmax=560~600nm)に分類される。フィコビリタンパク質は、その由来に応じて、接頭辞によりさらに分類されることがあり、例えば、Cはシアノバクテリア、Rは紅藻植物門、Bはウシケノリ目であるが、特定のフィコビリタンパク質の種類が、常に特定の分類群に限定されるとは限らない。
【0010】
いくつかの典型的な吸光度および発光値の例が、以下の表1に示される。
【表1】
【0011】
これらの性質をもたらす4種類の発色団は、フィコエリスロビリン(PEB)、フィコウロビリン(PUB)、フィコシアノビリン(PCB)およびフィコビリビオリン(PXB)である(以下のスキーム1を参照-ジスルフィド結合を介してペプチドに結合している状態で図示)。π電子共役の違いが、その吸収特性および色に関与する。
【化1】
【0012】
科学文献にはフィコビリタンパク質の特徴が充実しており、いくつかの共通点が、サブクラスの間で見られることがある。フィコエリスロシアニンは、三量体(αβ)3または六量体(αβ)6型で存在し、PXB発色団がαポリマー鎖に結合しており、2つのPCB発色団がβ鎖に結合している。アロフィコシアニンは三量体型であり、αおよびβサブユニットの両方が、それぞれ1つのPCB発色団を保持している。フィコシアニンは、三量体または六量体型で存在することがあり、αサブユニットが1つのPCB発色団を保持しており、種によって、βサブユニット上に2つのPCB発色団または1つのPCBおよび1つのPEB発色団がある。b-フィコエリスリンおよびC-フィコエリスリンは、αβサブユニットのオリゴマー型(n、3または6)で存在し、αサブユニットが2つのPEB発色団を保持しており、βサブユニットが3(b-)または4(C-)つのPEB発色団を有している。R-フィコエリスリンおよびB-フィコエリスリンは、紅藻類(紅色植物門)に見られる最も豊富な種類で、一般に六量体αβサブユニットおよびさらにγが結合したサブユニット:(αβ)6γを含む。R-およびB-型の両方のαサブユニットは2つのPEB発色団を保持する一方で、βサブユニットは2つのPEB発色団および1つのPUB発色団(R-フィコエリスリン)または3つのPEB発色団(B-フィコエリスリン)を有する。R-フィコエリスリンのγサブユニットは2つのPEB発色団および2つのPUB発色団を有する一方で、B-フィコエリスリンのγサブユニットは4つのPUB発色団を有する。(Dumay, J. et al, Phycoerythrins:Valuable Proteinic Pigments in Red Seaweeds、第11章、Advances in Botanical Research、第71巻、321~343ページ、2014年、エルゼビア社、およびその中で引用される参考文献;並びにJiang, T., et al, PROTEINS:Structure, Function, and Genetics 34:224~231(1999)およびその中で引用される参考文献)。
【0013】
上記にかかわらず、分光学的な違いは、フィコエリスリンなどの、同じ種類のフィコビリタンパク質の間でさえ観察される。例えば、フィコエリスリン同士の分光学的な違いは、PEBおよびPUB発色団の含有量および比率を反映し(例えば、Klotz A. V., and Glazer, A. N, The Journal of Biological Chemistry, 260, 4856-4863, 1985を参照)、その他、様々な紅色植物門の種から精製してきたフィコエリスリンは、異なるUV可視吸収スペクトル特性を示すことがあるということが示されている。(例えば、Rennis, D. S., and Ford, T. W., A survey of antigenic differences between phycoerythrins of various red algal (Rhodophyta) species, Phycologica, (1992), 31, 192-204);およびMa, J, et al, Nature, 2020, 579, 146-151を参照)。特に、いくつかのフィコエリスリンは、およそ495~503nmおよび540~570nmで吸光度ピークを示す一方、いくつかの種から抽出してきたフィコエリスリンは、UV可視スペクトル中で、およそ495~503nmにおけるピークの減少または消失を示すことが明らかになっている(Rennis and Ford, supra,197ページ、
図1;およびMa et al, supra, Extended Data
図1を参照)。フィコエリスリンなどのフィコビリタンパク質の、α、βおよびγサブユニットのそれぞれもまた、異なる吸光度特性を有することがあり(Tamara et al, Chem 5, 1302-1317, 2019を参照)、そのためフィコエリスリン同士の分光学的な違いに寄与することがある。その他、C-フィコエリスリン(Schizothrix calicola)は、可視領域中の565nm(PEB)で大きな吸収極大を示し、R-フィコエリスリン(Ceramium rubrum)は、可視領域中の567nm(PEB)>538nm(PEB)>498(PUB)で大きな吸収極大を示し、B-フィコエリスリン(Porphyridium cruentum)は、可視領域中の545nm(PEB)>563nm(PEB)>498(S)(PUB)で大きな吸収極大を示すことが報告されている(Glazer, A. N., and Hixson, C. S., The Journal of Biological Chemistry, 250, 5487-5495, 1975)。
【0014】
それゆえ、フィコビリタンパク質のタンパク質サブユニットおよび発色団の正確な数および性質(それゆえ、フィコビリタンパク質の吸光度スペクトル特性)、ならびに産生量は、種に依存的であり、生育条件(例えば光、温度、栄養素、pHなど)によりさらに影響されることがあり、したがって、単一のフィコビリタンパク質サブクラスの間でさえ、物理的および分光学的特性の違いが生じることがある。
【0015】
フィコビリタンパク質は強い蛍光特性を示し、蛍光ベースの技術およびイムノアッセイなど、バイオテクノロジーに多く応用される。それらは食品産業で食品着色剤としても使用され、スピルリナ(Arthrospira platensis)由来のフィコシアニンは、(例えばガム、ソルベ、アイスクリーム、キャンディ、ソフトドリンクおよび乳製品に)青色着色剤として使用され、P.cruentumから抽出されるB-およびb-フィコエリスリンは、ゼリーデザートおよび乳製品に赤色着色剤として使用されると
報告されている(Dumay, J. et al supra)。
【発明の概要】
【0016】
現在、驚くべきことに、特定のフィコビリタンパク質、(例えばフィコエリスリン)は、擬似肉または代用肉食品などの調理される食品中に存在する場合、動物性の肉の調理中に生じるのと似た色変化、例えば赤色またはピンク色(「生」の状態)から白色、褐色および/または灰色(「調理済み」)への色変化を視覚的にもたらし得ることが発見されている。フィコビリタンパク質、例えばフィコエリスリンなどの、擬似肉および代用肉食品における着色剤としての使用は、それゆえ、動物性の肉の調理を模倣した視覚的な色の調理体験を消費者に提供し得る。
【0017】
第一の態様において、一つ以上のフィコビリタンパク質を含む擬似肉食品であって、前記一つ以上のフィコビリタンパク質が前記食品にピンクまたは赤色を視覚的に与えるのに十分な量であり、前記食品が、約50~95℃、例えば約60~85℃などの範囲の内部温度への前記食品の調理時に視覚的色変化をもたらす、食品が提供される。
【0018】
もう一つの態様は、擬似肉食品の製造における一つ以上のフィコビリタンパク質の使用であって、前記一つ以上のフィコビリタンパク質が、前記食品に視覚的なピンクまたは赤色を与え、その後、約50~95℃、例えば約60~85℃などの範囲の内部温度への前記食品の調理時に視覚的色変化をもたらすのに十分な量で前記食品中に含まれる、使用を提供する。
【0019】
もう一つの態様は、調理済みの、本開示の擬似肉食品を提供する。
【0020】
上記のいくつかの実施形態において、前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、少なくともフィコエリスリン、例えばR-フィコエリスリンおよび/またはB-フィコエリスリンおよび/またはC-フィコエリスリンおよび/またはb-フィコエリスリンなどを含む。さらなる実施形態において、前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、フィコシアニン、アロフィコシアニン、およびフィコエリスロシアニンのうちの一つ以上をさらに含む。さらなる実施形態において、フィコエリスリンは、前記一つ以上のフィコビリタンパク質の少なくとも重量50%、例えば少なくとも80%、90%または95%を含む。さらなる実施形態において、前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、本質的にフィコエリスリンからなる。
【0021】
いくつかの実施形態において、λmaxの50%吸光度の減少がフィコビリタンパク質について認められる前記温度は、約50~95℃の範囲内であり、より好ましくは約60~85℃の範囲内である。さらなる実施形態において、前記λmaxは、約540~570nm、例えば約545~565nm、または550~560nmの範囲内である。他の実施形態において、前記λmaxは、約495~503nmの範囲内である。
【0022】
いくつかの実施形態において、フィコエリスリンは、一つ以上の適当な藻類種から得られることがあり、前記食品中に、抽出されたか、精製されたか(例えば少なくとも純度90%、95%または99%)、または少なくとも部分的に精製された形態(例えば純度50%以上、例えば純度60%、70%または80%以上)で含まれる。いくつかの実施形態において、前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、前記食品中に藻類形態として含まれ、全藻として含まれていても粉砕された藻類として含まれていてもよく、湿っていても(例えば水中、液体中または凍結状態の、ペースト、懸濁液またはスラリーとして)乾燥していても(例えば熱、蒸発または凍結乾燥により乾燥させた)よい。
【0023】
上に記載される任意の一つ以上の態様または実施形態において、前記擬似肉食品は、非動物性タンパク質源、一つ以上の炭水化物、一つ以上の油脂(好ましくは植物由来、すなわち非動物性)、一つ以上の香味成分および水を含む。他の成分、例えば増粘剤、結合剤および防腐剤などが添加されることがある。さらなるその実施形態において、前記擬似肉食品は、組織化大豆タンパク質などの大豆タンパク質またはソラマメ、エンドウ、コムギ、ヒヨコマメおよびリョクトウなどの他の植物性タンパク質を含む。
【0024】
上に記載される任意の一つ以上の態様または実施形態において、前記擬似肉食品は、鳥肉(例えば鶏肉)、牛肉、子牛肉、ラム、豚肉、ヤギ肉、カンガルー肉、または魚肉/シーフード擬似肉食品であることがある。いくつかのさらなる実施形態において、前記肉食品は、ひき肉の擬似肉食品である。
【0025】
特定のフィコビリタンパク質、例えばフィコエリスリンなどは、鉄(Fe)などの金属イオンとキレートし、フェリチン産生を上昇させる能力を有し、それゆえ食品における金属イオン送達、特に栄養的利点としての鉄送達の簡便な機構を提供することもあることが発見されている。それゆえ、上に記載される、一つ以上の態様または実施形態において、前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、鉄Fe2+またはFe3+などの金属イオンにキレートしているか、または配位していることがある。いくつかの実施形態において、前記金属イオンは、前記擬似肉食品混合物に添加する前に、前記金属イオン(例えば、溶液として)を前記フィコビリタンパク質と予混合することで、前記少なくとも一つのフィコビリタンパク質と予め配位されることがある。他の実施形態において、前記金属イオン(例えば、溶液として)および前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、前記擬似肉食品混合物に別々の成分として、同時にまたは連続的に添加されることがある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、100μLの精製したフィコエリスリンサンプルを25~95℃で加熱することで得た、DSF蛍光シグナルを示す。
【
図2】
図2は、95℃で6分間加熱する前後における、フィコエリスリン抽出物のUV/VIS吸光度スペクトルを示す。
【
図3】
図3は、チノリモ、カギケノリ、カギノリおよび野生の紅藻から得た、精製したフィコエリスリン抽出物のUV/VIS吸光度スペクトルを示す。
【
図4】
図4は、20~95℃、536nmにおける、チノリモ、カギケノリ、カギノリおよび野生の紅藻から得たフィコエリスリン抽出物の熱変性を示す。
【
図5】
図5は、培地中で培養したロドモナス・サリナ微細紅藻類バイオマスから調製したフィコエリスリン抽出物(20℃から95℃で加熱する前後)の室温におけるUV/VIS吸光度スペクトルを示す。
【
図6】
図6は、培地中で培養したロドモナス・サリナ微細紅藻類から得たフィコエリスリン抽出物の、20~95℃、550nmにおける温度走査を示す。
【
図7】
図7は、塩化鉄(II)濃度を増加させたフィコエリスリン抽出物の蛍光発光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書および添付の請求項を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という語、並びに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などのバリエーションは、示される整数またはステップまたは整数群の包含を意味するが、任意の他の整数またはステップまたは整数群または一群のステップの除外を意味しないと理解されるであろう。
【0028】
本明細書および添付の請求項を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「本質的に~からなる(consisting essentially of)」という言葉、および「本質的に~からなる(consists essentially of)」などのバリエーションは、列挙される要素が本質的である、すなわち本発明の必要な要素であることを示すと理解されるであろう。その言葉は、本発明の特徴に実質的に影響を及ぼさない、他の列挙されていない要素の存在を許容するが、定義される発明の基本的かつ新規の特徴に影響を及ぼすであろう追加の不特定要素を除外する。
【0029】
本明細書における、任意の先行出版物(もしくはそこから得られる情報)、または既知である任意の事柄への参照は、その先行出版物(もしくはそこから得られる情報)または既知の事柄が、本明細書が関連する試みの範囲における通常の一般的知識の一部を形成することの認容または承認またはいかなる形の示唆であると解釈されないし、されるべきでない。
【0030】
「一つの(a)」、「一つの(an)」および「その(the)」という単数形は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数形の態様を包含する。
【0031】
「発明」という用語は、本明細書に記載されるように、すべての態様、実施形態および実施例を包含する。
【0032】
本明細書で使用されるとき、「約」は、示される量、値またはパラメーターの25%、20%、15%、10%、5%または1~2%変化することがある量、値またはパラメーターについて言及し、少なくとも当技術分野の範囲内で受容される許容範囲を包含する。列挙される値の範囲または一覧を前置きする場合、それは、その範囲の上限および下限の両方ならびにその一覧の各要素に適用するよう意図されている。
【0033】
文脈上別段の指示がない限り、以下に記載される特徴は、本発明の任意の態様または実施形態に独立して適用することがある。
【0034】
本明細書で使用されるとき、擬似肉食品(ミートアナログ、代替肉または代用肉としても知られる)は、外観、味、食感、口当たり(湿り気、噛み応え、脂肪感など)、匂い、または構造、組織、保存、処理、および/もしくは調理などの他の物理的性質に関するものを含む、任意の一つ以上の物理的または感覚的因子において、動物由来の肉食品を模倣しているか、似ているか、または同じように振る舞う、非動物性タンパク質を含む食品を指す。いくつかの実施形態において、前記タンパク質は植物由来であっても真菌由来であってもよい。いくつかの実施形態において、前記擬似肉食品は植物由来の食品である。
【0035】
いくつかの実施形態において、前記擬似肉食品は、非動物性タンパク質源を含み、動物源に由来するか、またはから得られる任意の成分を含有もしくは包含しないか、または実質的に含有もしくは包含しない(すなわち、約5% w/w未満、例えば約4% w/w未満、または約3% w/w未満または約2% w/w未満または約1% w/w未満)。しかしながら、本開示はそのように限定されず、他の実施形態において、擬似肉食品またはそのための成分は、卵、カゼイン、乳清、筋肉、脂質、軟骨および結合組織、内臓または血液、あるいはその構成成分のうちのいずれか一つ以上を含む、一つ以上の動物由来成分をある割合で、例えば、食品成分または擬似肉食品の重量約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%または50%の量で含有することがあるということが理解されるべきである。これは、幹細胞培養から培養させた細胞ベース肉を含有する培養擬似肉食品を包含することがある。
【0036】
本明細書で使用されるとき、「ピンク」または「赤」色は、生または未調理の擬似肉食品に関して使用される場合、鶏肉、豚肉、子牛肉またはヤギ肉などに対応するピンク色;サケ肉などに対応するピンク/橙色または赤/橙色;ラム、マトン、牛肉またはカンガルー肉などに対応する赤色など、対応する動物性の肉の形態に視覚的に類似するピンクまたは赤色を指す。
【0037】
本明細書で使用されるとき、「色変化」は、擬似肉食品の調理に関連して使用される場合、食品のピンク/赤みの視覚的な減少、および一つ以上のフィコビリタンパク質の変性を反映する、対応する白色、褐色、または灰色の出現を指す。
【0038】
「調理」および「調理済みの」という用語は、例えば、揚げる、オーブンで焼く、ローストする、網焼きにする、直火で焼く、ソテーする、丸焼きにする、蒸す、煮る、茹でる、電子レンジにかけるなどによる加熱を指す。いくつかの有利な実施形態において、前記少なくとも一つのフィコビリタンパク質は、同様の色変化が動物性の肉で生じる温度または温度範囲におおよそ対応する温度で、ピンクまたは赤色から白色、褐色、または灰色への色変化が観察されるように、熱的に変性する。いくつかの実施形態において、前記食品(例えば擬似肉または代用肉)は、少なくとも約50~95℃、例えば約55~90℃または約60~85℃などの範囲の内部温度に調理される。いくつかのさらなる実施形態において、前記食品は、約60~65℃、または約65~70℃、または約70~75℃または約75~80℃の範囲の内部温度に調理される。さらなる実施形態において、前記食品は、約65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84または85℃の内部温度に調理されることがある。
【0039】
本開示において単独で、または一緒に使用される一つ以上のフィコビリタンパク質は、ピンクまたは赤の着色を生または未調理の擬似肉食品にもたらす。有利に、少なくとも一つ以上のフィコビリタンパク質は、視覚的にピンクまたは赤色である。それゆえ、上記のいくつかの実施形態において、前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、少なくとも、一般に約540~570nmの範囲で、例えば約540、545、550、555、560、565または570nmなどでλmaxを示し(PEB発色団に起因する)、約495~503nmの範囲で、例えば約495、496、497、498、499、500、501、502または503nmなどでピークまたはショルダーを適宜示す(PUB発色団に起因する)フィコエリスリンを含む(Klotz A. V., and Glazer, A. N., supra)。フィコエリスリンの例には、R-フィコエリスリンおよび/またはB-フィコエリスリンおよび/またはC-フィコエリスリンおよび/またはb-フィコエリスリンが挙げられる。
【0040】
さらなる実施形態において、前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、フィコエリスリンを包含し、フィコシアニン、アロフィコシアニン、およびフィコエリスロシアニンのうちの一つ以上をさらに含むことがある。それゆえ、いくつかの実施形態において、前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、フィコエリスリンおよび少なくともフィコシアニンを包含することがある。いくつかの実施形態において、前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、フィコエリスリンおよび少なくともアロフィコシアニンを包含することがある。いくつかの実施形態において、前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、フィコエリスリンおよび少なくともフィコエリスロシアニンを包含することがある。いくつかのさらなる実施例において、前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、フィコエリスリンおよび少なくとも2つの他のフィコビリタンパク質を包含することがある。そのいくつかの実施形態において、フィコエリスリンは、任意の他のフィコビリタンパク質、または全ての他のフィコビリタンパク質と比較して、(w/wベースで)支配的な量で存在し、例えば前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、少なくとも50%、または少なくとも55%、または少なくとも60%、または少なくとも65%、または少なくとも70%、または少なくとも75%、または少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%または100%のフィコエリスリンを含む。
【0041】
微細(単細胞)および大型(多細胞)藻類は、都合の良いフィコビリタンパク質の源を提供し得る。適当な源は、例えば:アルスロスピラ属(スピルリナ属)の種、およびアナベナ属の種(Anabaena sp)などのシアノバクテリア(藍藻綱);オゴノリ属の種(Gracilaria sp)およびチノリモ属の種などの紅藻(紅藻類-紅藻綱);並びにロドモナス属の種(例えばロドモナス・サリナ)などのクリプト植物(クリプト藻綱)であることがある。フィコビリタンパク質、例えばフィコエリスリンなどの源は、天然に存在する種または遺伝子組み換えの種を包含する。フィコビリタンパク質、例えばフィコエリスリンなどは、組み換え技術および当技術分野で既知の方法によって得られることもある。大量のフィコエリスリンを天然に産生しない藻類種は、それでもフィコエリスリンの適当な源を提供することがある。例えば、アルスロスピラ属の種などの種は、適切な生育条件とともに突然変異誘発および指向性進化によって、フィコエリスリンの産生量が上昇する。
【0042】
少なくとも一つ以上のフィコビリタンパク質は、単一の源、または源の組み合わせに由来することがある。一例として、赤色のフィコエリスリンは、一つ以上の紅藻および/またはシアノバクテリアおよび/またはクリプト植物の源から得られることがあり、異なる源から得た一つ以上の他の、同一のまたは異なるフィコビリタンパク質と適宜組み合わせられることがある。
【0043】
フィコビリタンパク質産生生物、例えば、クリプト植物、シアノバクテリアおよび/または紅藻により産生されるフィコビリタンパク質の量および種類は、培養条件、例えば、栄養素、炭素源、pH、温度および異なる光条件への曝露により操作され、例えば、産生されるフィコビリタンパク質の総量を増加させる、および/または一つ以上のフィコビリタンパク質/発色団の産生を他のものと比べて歪めることがある。例えば、フィコエリスリン産生は、緑色光下での藻類の培養により上昇し得る一方、いくつかの実施形態において、赤色光下での培養ではより多くのフィコシアニンが産生される。そのための方法は、例えば上記の参考文献のうちのいくつか、およびHsieh-Lo, M., et al, Algal Research, 42 (2019) 101600; Ferreira, R., et al, Food Sci. Technol, Campinas 35(2): 247~252, Abr.-Jun.2015; Oostlander, P.C., et al, Algal Research, 47 (2020), 10189;およびMinh Thi Thuy Vu, et al, Journal of Applied Phycology, 28, 1485~1500 (2016)、並びにその中で引用される参考文献で記載されるように、当技術分野で既知であり、それらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0044】
いくつかの実施形態において、前記藻類バイオマスは、望ましいフィコビリタンパク質、例えばフィコエリスリンなどが豊富であるか、または高い割合を示す。それゆえ、いくつかの実施形態において、前記藻類原料バイオマスは、乾燥重量1gあたり約5mgから約150mgのフィコエリスリン、例えば、乾燥重量1gあたり約5~50mgのフィコエリスリンを含有する。さらなる実施例において、前記藻類原料バイオマスは、乾燥重量1gあたり約10mg、または約15mgまたは約20mg、または約25mgまたは約30mg、または約35mgまたは約40mg、または約45mgまたは約50mg、または約55mgまたは約60mg、または約65mgまたは約70mg、または約75mgまたは約80mg、または約85mgまたは約90mg、または約95mgまたは約100mg、または約105mgまたは約110mg、または約115mgまたは約120mg、または約125mgまたは約130mg、または約135mg、または約140mg、または約145mgのフィコエリスリンを含有する。
【0045】
藻類のフィコエリスリン含有量は、当技術分野で既知の方法を用いて測定され得る(例えば、Gnatt E., and Lipschultz C.A., Biochemistry, 1974, 13, 2960-2966;Kursar T.A., & Alberte R.S., Plant Physiology, 1983, 72, 409-414;Sobiechowska-Sasim, M., et al, J Appl Phycol (2014) 26:2065-2074;およびSaluri M., et al, Journal of Applied Phycology, 32, 1421-1428, 2020を参照されたい)。いくつかの実施形態において、R-フィコエリスリン含有量は、J. Dumay et al, ”Extraction and Purification of R-phycoerythrin from Marine Red Algae” by Justine Dumay, Michele Morancais, Huu Phuo Trang Nguyen, and Joel Fleurence in ”Natural Products From Marine ALGAE: Methods and Protocols, Methods in Molecular Biology, vol. 1308”, by Dagmar B. Stengel and Soene Connan (eds.), Springer Science Business Media New York 2015の方法を用いても定量化され得る。
【0046】
一つ以上のフィコビリタンパク質は、対応する生の動物性の肉、例えば、牛肉、子牛肉、ラム、豚肉、ヤギ肉、カンガルー肉、魚肉(例えばサケ肉、マス肉、マグロ肉)および家禽肉(例えば鶏肉、アヒル肉、ガチョウ肉、七面鳥肉、および狩猟鳥肉)の色を模倣する望ましい色、好ましくは赤またはピンク色を提供する任意の量および組み合わせで、擬似肉食品に添加されるか、または存在する。
【0047】
一つ以上の実施形態において、前記一つ以上のフィコビリタンパク質は、藻類原料から得た抽出物または少なくとも部分的に精製された形態として、前記擬似肉食品に組み込まれる。
【0048】
フィコビリタンパク質含有抽出物、例えばフィコエリスリン含有抽出物などを得るいくつかの代表的な方法は、RU 2548111C1、CN101139587A、JP2017532060A、CN1796405A、CN101617784A、CN1618803A、CN101942014A、WO2003099039A1、並びに本明細書に引用される参考文献に記載され、それらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0049】
フィコビリタンパク質(例えばフィコエリスリン)の正確な色は、それが得られた種、タンパク質サブユニットの数および性質、並びに存在する発色団の数および性質によって決まる。さらなる化合物、例えば他のフィコビリタンパク質(例えばアロフィコシアニンおよび/またはフィコシアニン)などの有無もまた、全体的な視覚的な色に影響を与えることがある。
【0050】
本開示の着色剤を調製する一つの代表的な一般的方法は、フィコビリタンパク質含有バイオマス、例えば紅藻または藍藻(シアノバクテリア)、またはクリプト植物などを、水溶液(例えば水または緩衝液)中で均質化する段階を含む。適宜、抽出された一つ以上のフィコビリタンパク質を含む液体は、固形物から分離されることがある。適宜、均質化されたバイオマスまたは分離されたフィコビリタンパク質含有水性懸濁液もしくは水溶液は、濃縮および/または乾燥させられることがある。プロセスは、フィコビリタンパク質の水相への抽出を高めるためのさらなる任意の段階、例えば均質化されたバイオマスの超音波処理(ソニケーション)などを含むことがある。
【0051】
いくつかの好ましい実施形態において、前記フィコビリタンパク質は、少なくとも一つの抽出または分離段階によって、フィコビリタンパク質含有バイオマス、例えばクリプト植物、シアノバクテリア(藍藻)、または大型もしくは微細紅藻類(紅藻植物門)などから得た、抽出されたフィコビリタンパク質である。
【0052】
それゆえ、いくつかの実施形態において、前記少なくとも一つのフィコビリタンパク質は、粉砕されたバイオマスの形態で、例えば、フィコビリタンパク質が水または水溶液中に抽出できるような、シアノバクテリアおよび/または紅藻などの適切なバイオマスが、前記水または水溶液(例えば、約6.5から約7.5の範囲のpHの、例えば約6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3または7.4のpHの緩衝液(例えばリン酸ナトリウムもしくはカリウムまたは酢酸ナトリウムもしくはカリウム溶液))中で均質化された形態で、前記食品(例えば擬似肉食品)に添加されることがある。いくつかの実施形態において、得られた懸濁液またはスラリー(適宜、超音波でさらに処理されていてもよい)は、前記食品、例えばミンチ肉またはひき肉の擬似肉/代用肉混合物などの成分に直接添加され得る。さらなる実施形態において、前記均質化されたスラリーまたは懸濁液(適宜、超音波でさらに処理されていてもよい)は、前記食品への添加前に、さらに濃縮または乾燥させられることがある。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、バイオマス固形物の、前記食品への添加は、前記食品の栄養価を有利に高める、および/またはその後の前記擬似肉の調理時に、調理済みの肉の香味を生み出すのを助ける香味成分(例えばグルタミン酸の存在に起因するうま味)、もしくは香味前駆体(例えばグルタチオンまたは他のアミノ酸)を、最終的な香味特性に導入することがある。
【0053】
いくつかの実施形態において、前記均質化された原料(適宜、超音波でさらに処理されてもよい)は、任意の一つ以上の適当な分離技術、例えばふるい分け、遠心分離、沈殿、濾過、限外濾過、精密濾過、ナノ濾過、ダイアフィルトレーション、逆浸透、およびクロマトグラフィーなどを用いて、いくつかのまたはすべての固形物を分離および除去することにより、望ましい水準の純度にさらに精製され、一つ以上のフィコビリタンパク質の水性懸濁液または水溶液が得られる。得られた溶液は、前記食品に添加される前に、適宜、目的の濃度にさらに濃縮されることがある。
【0054】
いくつかの実施形態において、一つ以上のフィコビリタンパク質を含む抽出物溶液は、存在する任意の金属および/または他の不純物を除去するために、適切な分離段階、例えば透析または逆浸透処理などに、さらにさらされることがある。
【0055】
一つ以上の実施形態において、前記フィコビリタンパク質抽出物懸濁液または溶液は、例えば約-10℃以下、例えば約-15℃以下、または約-20℃以下、または-25℃以下などでの、一つ以上の凍結段階にさらされることがある。
【0056】
いくつかのさらなる実施形態において、一つ以上のフィコビリタンパク質を含む水溶液は、任意の適当な乾燥技術、例えば蒸発、凍結乾燥、噴霧乾燥または超臨界乾燥などにより、乾燥させられて、固形物を形成することがある。いくつかの実施形態において、前記少なくとも一つのフィコビリタンパク質は、食品、例えば擬似肉または代用肉などに、乾燥した形態で、すなわち約0.5mg/gから約25mg/g、例えば約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、または24mg/gなどの乾燥重量で、添加されることがある。
【0057】
液体フィコエリスリン抽出物は、液体を、タンパク質が変性し、色が変化するより低い温度、例えば約80℃未満、または約77℃未満、または約75℃未満または約70℃未満に加熱することにより、適宜低温殺菌されることがある。
【0058】
いくつかの実施形態において、一つ以上のフィコビリタンパク質は、前記食品中に藻類形態(例えば紅藻植物門、シアノバクテリアまたはクリプト植物の種)として含まれ、全藻バイオマスとして、適宜(例えば一つ以上の凍結融解サイクルにより、および/またはホモジナイザーで)粉砕されて添加されることがある。いくつかの実施形態において、前記藻類は微細藻類である。前記藻類は、水切りおよび/または濾過され、湿った状態で(例えば水/培地中のペースト、懸濁液またはスラリーとして)、例えば約0.1% w/wバイオマス、または約0.5% w/wバイオマス、または約1% w/wバイオマス、約5% w/wバイオマス、または約10% w/wバイオマスまたは約20% w/wバイオマス、または約30% w/wバイオマス、または約40% w/wバイオマスまたは約50% w/wバイオマス、または約60% w/wバイオマス、または約70% w/wバイオマス、または約80% w/wバイオマスまたは約85% w/wバイオマス、または約90% w/wバイオマス、または約95% w/wバイオマス、またはそれ以上で使用されることがある。前記藻類バイオマスは、直接使用してもよく、さらなる使用前に適宜、冷やす、凍らせる、および/または低温殺菌してもよい。他の実施形態において、前記藻類バイオマスは、乾燥していてもよい(例えば熱、蒸発または凍結乾燥により乾燥させられる)。
【0059】
前記藻類バイオマスは、前記擬似肉食品に、望ましいピンクまたは赤色を与えるのに適する量で添加されることがある。添加されるべき前記藻類バイオマスの量は、前記藻類のフィコエリスリン含有量によって決まることがある。いくつかの実施形態において、前記藻類バイオマスは、擬似肉食品の重量あたり約20% 乾燥重量以下の量で添加される。いくつかの実施形態において、前記藻類集団は、前記擬似肉食品に、食品の重量あたり約0.1%から約20% 乾燥重量の範囲内で、例えば前記食品の重量あたりの乾燥重量ベースで、約0.1~5%、例えば約0.1%、0.25%、0.5%、0.75%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、または14%または15%、または16%、または17%または18%または19%などで添加されることがある。
【0060】
有利に、いくつかの実施形態において、藻類バイオマスは、前記望ましい赤またはピンクの着色を擬似肉食品に提供するのに十分であるが、好ましくない磯臭さを前記擬似肉食品に与えない(大抵は硫化ジメチルの存在に起因する)量で使用することができるようなフィコエリスリン含有量を有する。これは、フィコビリタンパク質成分を含むおよび含まない擬似肉サンプルの味を比較する味覚試験者により実施され得る官能評価により割り出され得る。そのための適当なフィコエリスリン含有量は、上に記載されるように、乾燥重量1gあたり5mgから約150mgのフィコエリスリンの範囲内、例えば約10~50mgなどであることがある。いくつかのさらなる実施形態において、前記藻類バイオマスは、(単細胞)微細藻類である。適当な例には、チノリモ属の種(Porphyridium sp.)(例えばチノリモ(P. purpureum)およびポルフィリディウム・ソルディダム(P. sordidum))、ロドカエテ属の種(Rhodochaete sp.)(例えばロドカエテ・パルブラ(R. parvula))、ベニマダラ属の種(Hildenbrandia sp.)(例えばタンスイベニマダラ(H. rivularis))、ホシノイト属の種(Erythrotrichia sp.)(例えばホシノイト(E. carnea))、ロデラ属の種(Rhodella sp.)(例えばロデラ・ヴィオラセア(R. violacea))、ロドソルス属の種(Rhodosorus sp.)(例えばロドソルス・マリヌス(R. marinus))、アルスロスピラ属の種(Arthrospira sp.)(例えばアルスロスピラ・プラテンシス(A. platensis))、フレミエラ属の種(Fremyella sp.)(例えばフレミエラ・ディプロシフォン(F. diplosiphon))またはロドモナス属の種(Rhodomonas sp.)(例えばロドモナス・サリナ(R. salina))が挙げられることがある。一つの好ましい藻類原料は、ロドモナス・サリナである。さらなる実施形態において、前記藻類は、ロドモナス・サリナCS-174株である。
【0061】
藻類種および株は、商業的供給源およびカルチャーコレクション(例えばCSIRO Australian National ALGAE Culture Collection、UTEX Culture Collection、ドイツのCCAC、ノルウェーのNIVA)から得られることがある。藻類、例えば上記の藻類種などの培養方法は、当技術分野で既知である。いくつかの方法は、Oostlander, P. P., et al, Algal Research, 47, 101889, 2020; Minh Thi Thuy Vu, et al, Journal of Applied Phycology, 28, 1485~1500(2016);Guevara, M., J. Appl. Phycol., 28(5), 2651~2660, 2016およびそれらで引用される参考文献に記載され、それらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0062】
いくつかの実施形態において、本開示で使用される前記少なくとも一つのフィコビリタンパク質(例えばフィコエリスリン)の適合性は、抽出または精製されたフィコビリタンパク質のUV/VIS吸光度スペクトルを評価すること、および/または前記フィコエリスリンが変性する温度を測定すること、例えばλmaxの吸光度の50%減少が観察される温度を測定することにより判断され得、望ましい温度は50~95℃の範囲である。
【0063】
例えば、フィコビリタンパク質抽出物は、本明細書に記載されるプロセスのうちのいずれか一つ、または当技術分野で既知の他の方法に従って得られ、そのUV/VIS吸光度スペクトルが得られ、特性ピークの存在、例えばフィコエリスリンについては、540~570nmにおけるλmax、および適宜、495~503nmにおけるさらなるピークまたはショルダーについて評価される。
【0064】
それゆえ、望ましい赤またはピンク色を提供する藻類種の適合性は、少なくとも部分的に単離または精製されたフィコエリスリンの原料のいずれかとして使用するために、あるいは丸ごとまたは粉砕された形態で使用するために、抽出されたか、単離されたか、または少なくとも部分的に精製された、前記藻類種から得られるフィコエリスリンのサンプルについてのUV/VIS吸光度スペクトルによって判断されることがある。
【0065】
抽出されたか、単離されたか、または少なくとも部分的に精製されたフィコエリスリンの形態は、少なくとも1:1、例えば少なくとも1.5:1、または少なくとも2.0:1、または少なくとも2.5:1、または少なくとも3:1、または少なくとも4:1、または少なくとも5:1、または少なくとも6:1、または少なくとも7:1、または少なくとも8:1、または少なくとも9:1、または少なくとも10:1などの、540~570nm対495~503nm UV/可視吸光度ピーク比を有利に示すことがある。いくつかの実施形態において、前記UV/VIS吸光度スペクトルは、約540~570nm(PEBに対応)、例えば約550~565nmなどにおける、および約280~290nm(タンパク質に対応)における最大ピーク/ショルダーのみを本質的に示し、それゆえフィコエリスリンサンプル中で高いPEB濃度を示す。
【0066】
本開示で使用される(抽出物または少なくとも部分的に精製された形態のいずれかとして、あるいは全藻または粉砕された藻類の形態で擬似肉食品に添加される)少なくとも一つのフィコビリタンパク質(例えばフィコエリスリン)の適合性は、加熱時のλmaxの減少度を評価することにより判断されることがある。それゆえ、λmax波長における吸光度の少なくとも約50%の減少が観察される温度は、擬似肉食品の調理時に、対応する視覚的色変化が観察される可能性があるおよその温度を示すことがある。いくつかの好ましい実施形態において、λmax(例えば540~570nmにおける)の吸光度の50%の減少が観察される前記温度は、約50~95℃の範囲であり、より好ましくは約60~85℃の範囲である。さらなる実施形態において、前記λmaxは、約545~565nm、例えば約550~560nmなどの範囲である。
【0067】
フィコビリタンパク質は、Fe2+などの金属イオンとキレートするか、または配位することが示されている(本明細書の実施例4、およびSonani, R. R., et al, Process Biochemistry 49 (2014) 1757~1766を参照されたい)。フィコビリタンパク質、例えばフィコエリスリンなどの存在は、制御された方法で、体内で鉄を貯蔵し、それを全身に放出し、それにより、鉄欠乏および鉄過剰に対するバッファーとして作用するタンパク質であるフェリチンの産生を促進することにより、鉄などの金属イオンのバイオアベイラビリティを向上させ得ることが、現在示されている。擬似肉食品に使用される場合、これは、有用な鉄源を体に提供することがある食品をもたらし得る。
【0068】
したがって、いくつかの実施形態において、本開示に従って使用される一つ以上のフィコビリタンパク質は、Fe2+またはFe3+などの金属イオン送達のための担体タンパク質として作用することもある。一つ以上の実施形態において、金属キレート(例えばFe2+またはFe3+)フィコビリタンパク質であって、前記金属キレートフィコビリタンパク質を含む擬似肉食品、並びに生または調理済みの擬似肉食品の調製に使用される、フィコビリタンパク質が提供される。
【0069】
いくつかの実施形態において、前記鉄は、その2+酸化状態(例えば塩化第一鉄(FeCl2)または硫酸鉄(例えばFeSO4、およびその水和物、例えばFeSO4.7H2Oなど)として)で提供される。いくつかの実施形態において、前記鉄は、塩化第二鉄(FeCl3)など、その3+酸化状態で提供される。
【0070】
鉄化合物は、一つ以上のフィコビリタンパク質とともに、約1:10から約3:1、例えば、約1:5、1:2、1:1.5、1:1、1.5:1または2:1のFe:フィコビリタンパク質のモル比で使用されることがある。さらなる実施形態において、前記Fe:PEのモル比は、約1:10から約3:1、例えば、約1:5、1:2、1:1.5、1:1、1.5:1または2:1である。
【0071】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも一つのフィコビリタンパク質着色剤は、前記食品に別々に添加するか、または前記一つ以上のフィコビリタンパク質と組み合わせて着色剤の混合物を形成し、その後前記食品に添加するかのいずれかで、一つ以上の追加の着色剤と併用されることもある。いくつかの実施形態において、前記一つ以上の追加の着色剤は、環状テトラピロール(およびピロール様)部分、例えばポルフィリン、クロリン、バクテリオクロリン、コロールおよびコリンなど、並びにその金属錯体、例えばプロトポルフィリンIXおよびヘム、ならびにそれらのタンパク質複合体を含む薬剤を除外する。いくつかの実施形態において、生および/または調理済みの形態にある前記擬似肉食品は、かかる別々に添加される環状テトラピロール含有化合物を除外する。藻類形態で添加されるフィコビリタンパク質は、天然または内因性環状クロロフィルを含むものであり、上記の特定の実施形態は、フィコエリスリンが由来する藻類種に内因的であり、もともと存在する環状テトラピロールおよびピロール様部分の存在を除外するものとして解釈されるべきではないということが理解されよう。
【0072】
いくつかの実施形態において、前記擬似肉食品の前記着色剤は、一つ以上のフィコビリタンパク質からなるか、または本質的にからなる。いくつかの実施形態において、前記着色剤は、フィコエリスリンからなるか、または本質的にからなる。
【0073】
いくつかの実施形態において、前記一つ以上の追加の着色剤は、非動物および非コール/タール由来であり、それゆえベジタリアンまたはヴィーガンの消費者に適している。適切な色には、赤、マゼンタ、紫/青紫、橙、黄、褐色、青および緑のうちの一つ以上が挙げられることがある。いくつかの代表的な植物由来の着色剤には、アントシアニン、ベタレイン、カロテノイド、フラボノイド、およびポリフェノールが挙げられる。いくつかの実施形態において、かかる着色剤は、植物、例えば液果、ブドウ、ビートルート、ラディッシュ、ターメリックおよびニンジンなどに由来するジュース、濃縮物、抽出物または乾燥粉末形態として添加されることがある。他の追加の着色剤には、褐色、例えばカラメル/焦がし砂糖などが挙げられることがある。
【0074】
擬似肉食品には、非動物性タンパク質源、例えば大豆タンパク質(例えば組織化大豆タンパク質、大豆タンパク質分離物)、エンドウタンパク質、ソラマメタンパク質、ルピナスタンパク質、緑豆タンパク質、マメ科植物(例えばエンドウ、マメ(例えば黒豆、インゲンマメ、カネリーニ豆、ピント豆、緑豆など)、ルピナス、ヒヨコマメ、レンズマメ)、堅果、種子、きのこ、および他の真菌原料(例えばフザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum))、並びに藻類および微生物原料などのうちの一つ以上;単糖および二糖(例えばグルコース、フルクトース、アラビノース、リボース、マルトース、スクロース、デキストロース、マルトデキストリン、キシロース、ラクトース、アラビノース)、オリゴ糖、多糖、デンプン、ガム、カラギナン、ペクチン、および食物繊維を含む、糖類などの一つ以上の炭水化物源;油脂(例えば植物由来の油、例えば菜種、ヒマワリ、オリーブ、ココナツ、植物、ヤシ、落花生、亜麻仁、綿実、トウモロコシ、ベニバナ、ぬか油など)、乳化剤(例えばレシチン、ポリソルベート(20、40、60 80))のうちの一つ以上;結合剤および増粘剤(例えば、ガム(例えばアルギン酸、グアーガム、ローカストビーンガム、およびキサンタンガムなど)、ペクチン、セルロース(メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなど)、デンプン、ポテトフレーク、ジャガイモ粉、製粉または粉砕された穀類およびマメ科植物で作られている粉(小麦、米、ライ麦、オート麦、大麦、ソバ、トウモロコシ、ルピナス、ヒヨコマメ、レンズマメ、マメなど)、抗酸化剤、界面活性剤、塩、および栄養剤、例えばアミノ酸、例えば必須アミノ酸(例えばヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、プロリン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、およびバリン)など、ジおよびトリペプチド、ビタミン(例えばA、B(1、2、3、5、6、7、9、および12)、C、D、E、K)、ミネラル(カルシウム、リン、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、亜鉛、ヨウ素、鉄、銅)、およびファイトニュートリエント、例えばカロテノイド(例えばα-およびβ-カロテン、β-クリプトキサンチン、リコピン、ルテイン)、フラボノイド(例えばフラバノール、フラボノール、フラボン、フラボノン(flavonones)、イソフラボン)、ポリフェノール(例えばアントシアニン、ケルセチン、エラグ酸)など);香味剤、例えばハーブ、スパイス(例えばパセリ、ローズマリー、タイム、バジル、セージ、ミント)、野菜風味(例えばセロリ、タマネギ、ニンニク)、イースト抽出物、麦芽抽出物、天然および人工甘味剤、燻製風味、アミノ酸(例えばグルタミン酸ナトリウム)、ヌクレオシド、ヌクレオチドならびに水などが含まれることがある。一つ以上の成分は、一つ以上の機能を果たすことがある。
【0075】
鉄(Fe)は、一つ以上の香味前駆体分子が、望ましい風味および/または香り、例えば肉っぽい、香ばしいまたはうま味(例えば牛肉、鶏肉、豚肉、ベーコン、ハム、ラム)などを与えることがある香味剤を生成する化学反応を触媒することがある。したがって、Fe(Fe2+またはFe3+)にキレートしているか、または配位している一つ以上のフィコビリタンパク質、例えばフィコエリスリン、フィコシアニン、アロフィコシアニンおよびフィコエリスロシアニンなどが擬似肉食品中に存在すると、調理過程の間の変性時に、これもまた擬似肉食品中に存在する一つ以上の香味前駆体分子の、望ましい香りおよび風味を生み出す反応が有利に触媒されることがある。
【0076】
香味前駆体分子のいくつかの例には、(上記追加成分のいずれかに加えて):糖類、糖アルコール、糖酸および誘導体(例えばグルコース、フルクトース、リボース、スクロース、アラビノース、イノシトール、マルトース、マルトデキストリン、ガラクトース、ラクトース、グルクロン酸、およびキシロース);油、例えばナタネ、ヒマワリ、オリーブ、ココナツ、植物、ヤシ、落花生、亜麻仁、綿実、トウモロコシ、ベニバナ、ぬか油など;脂肪酸、例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸など;アミノ酸、例えばシステイン、シスチン、ロイシン、イソロイシン、バリン、リシン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、グルタミン酸塩、アスパラギン、グリシン、プロリン、セリンおよびチロシンなど、並びにジおよびトリペプチド、例えばグルタチオンなど;ヌクレオシドおよびヌクレオチド、ならびにビタミンが挙げられることがある。
【0077】
いくつかの実施形態において、前記フィコビリタンパク質着色剤は、擬似肉食品、例えばひき肉または刻み肉食品、例えば、ハンバーガーのパティ、ケバブ、ミートボール、リッソール、ミートローフ、ソーセージ、ミートソースおよびフィリング(例えばチリ、ボロネーゼ、タコスフィリング、パイフィリング)、並びに他の成型肉または成形肉食品(適宜パン粉がまぶされる)など、例えばナゲット、ステーキ、カツレツ、シュニッツェル、フィンガーおよびストリップなどの調製に使用されることがある。いくつかのさらなる実施形態において、前記食品着色剤は、ハンバーガーのパティの調製に使用されることがある。いくつかの実施形態において、前記擬似肉食品は、アレルギー反応または不耐性反応を引き起こす一つ以上の物質、例えばMSG、グルテンまたは堅果などを含まないか、または実質的に含まない。
【0078】
本開示はすぐに以下の実施例を参照することによりさらに説明されるが、実施例は説明のみを目的とし、上に説明される一般論を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0079】
予備的評価-ヘモグロビンおよびミオグロビンの、ハンバーガーの味および外観に及ぼす効果
ヘモグロビンおよびミオグロビンをSigma Aldrichから購入した。ハンバーガー製剤は、約20%の組織化大豆タンパク質、約15%の植物性脂肪(製剤総重量の5%はココナツ脂肪である)、約2.5%の食物繊維、約5%の香味料(アミノ酸など)および約57.5%の水を含んでいた。
【0080】
200mg/100g ハンバーガー製剤の濃度で、ヘモグロビンおよびミオグロビンをハンバーガー製剤に、香味剤とともに個別に添加し、ヘモグロビンまたはミオグロビンを添加していないハンバーガーと比較した。ヘモグロビンまたはミオグロビンを添加していない生のハンバーガーは、薄茶色/ベージュ色であった一方、もう2つのハンバーガーは、生の状態で赤/褐色の外観であった。
【0081】
調理後、社内の記述的官能分析およびガスクロマトグラフィーによるフレーバー分析は、ハンバーガーが、評価されたほぼすべての側面において(例えば焦がしたときの外観、グリルした牛肉の匂い、燻製にして焦がしたときの後味、表面および内部の食感、脂肪質の口当たり、牛肉の後味、豆/植物の味、塩味、うま味、金属/血の味および全体的な牛肉っぽさ、並びに硫黄揮発性物質、アルデヒドおよびピラジンの存在)本質的に同じであることを示した。ハンバーガーの間で認められた大きな違いは、グリルした牛肉の外観および内部の赤い/血のような外観の側面に関するものであり、ヘモグロビンまたはミオグロビンを添加していないハンバーガーは、これらの側面において、もう2つのハンバーガーと比較して有意に低い点数を記録し、それによって、ヘモグロビンおよびミオグロビンは、ハンバーガーのピンク/赤い(すなわち「血のような」)外観に関与するが、フレーバー分析/官能分析に有意に寄与しないことを示した。
【0082】
実施例1
野生の紅藻からのフィコエリスリンの調達および抽出
6つの大型紅藻をビクトリア州ベラリン半島から、南緯38度16分19.8秒、東経144度38分27.3秒で、2019年11月3日に採集した。
【0083】
フィコエリスリンの抽出には、藻類をバッファー中で混合する、および遠心分離で大きな粒子を除去する段階が含まれた。
【0084】
抽出バッファー:20mM リン酸ナトリウム、pH7、0.02% アジ化ナトリウム
1)10gの紅藻を100mL 抽出バッファー中に量り分ける。
2)Ultra-turrexを用いてサンプルをホモジナイズし、ふるいに流し込む。
3)15,000RPMで、F21x50Y固定角ローター付きBeckman Coulter Sorvall RC-5で、15分間4度で精製する。
4)PES 20mL 10kDaカットオフを用いて濃縮する。
5)蒸留水に対して透析し、金属/夾雑物を除去する。
6)凍結乾燥させる。
【0085】
最初の紅藻のホモジナイズにより赤/橙色の液体を得た。遠心分離による精製時に、溶液は著しくより蛍光性の強いピンク色になり、これは濃縮時にさらにいっそう顕著であった。凍結乾燥により、より暗いピンク色の物質を得た。
【0086】
R-フィコエリスリンの熱特性評価
熱特性評価を行い、フィコエリスリンが加熱時に色変化を起こすかどうか確認した。最初に、ホモジナイズされた粗製フィコエリスリンを精製前に95℃で5分間加熱し、色変化を可視化した。粗製サンプルは、赤から褐色に変化した。
【0087】
60℃および70℃で1時間加熱した後、サンプルは両方とも安定で色変化を示さなかった。したがって、フィコエリスリンの熱変性温度の正確な測定を行うために、示差走査蛍光光度法(DSF)を、100uLの精製したフィコエリスリンを0.5℃/10秒で温度を上昇させて、25℃~95℃で加熱することにより行った。
【0088】
図1に示すように、フィコエリスリンがその蛍光性を失い、それによって色変化を引き起こす熱変性温度は、77℃である。
【0089】
超音波を用いる抽出試験
フィコエリスリン抽出物の収率を上げるために、超音波抽出を検討した。超音波は一般に、細菌細胞および酵母細胞からのタンパク質の回収率を高めるために適用される。藻類細胞の丈夫な性質のため、フィコエリスリン回収率を高めるために超音波を適用した。以下のプロトコルに従い抽出した。
1)25gの紅藻(サンプル1)を150mL 抽出バッファー中に量り分ける。
2)2分間8000(min-1)でホモジナイズする(Ultra-turrex)。
3)160W、3.3秒オン9.9秒オフ、合計処理時間=5分で超音波処理する。
4)15,000RPMで、F21x50Y固定角ローター付きBeckman Coulter Sorvall RC-5で、15分間4℃で精製する。
5)PES 20mL 10kDaカットオフを用いて濃縮する。
6)10L 蒸留水に対して、4時間透析する。
7)-80℃で凍結させる。
8)3日間凍結乾燥させる。
【0090】
得られたサンプルは、以前の抽出で見られた蛍光性のピンクよりもむしろ精製および濃縮後のより一層濃い赤色であった。
【0091】
超音波処理抽出溶液の色が濃い赤であり、蛍光性のピンクではない理由を調べるために、吸光度スペクトル分析を行い、違いを検討した。およそ495、545、565nmでの特徴的なフィコエリスリンピークに加えて、超音波処理段階を用いて得られた抽出物は、それぞれ、アロフィコシアニン(帯青/緑色)およびR-フィコシアニン(青色)を示す675nmでのさらなる突出したピークおよび625nmでの微小ピークの出現を示した。鮮やかなピンク/赤のフィコビリタンパク質(例えばフィコエリスリン)を一つ以上の緑/青のフィコビリタンパク質(例えばアロフィコシアニン、フィコシアニン)と混合すると濃い赤色の抽出物が得られることがある。
【0092】
実施例2
食品成分としての使用に適するフィコエリスリン抽出物の製造
大型紅藻からフィコエリスリンを得るための、簡便で拡張可能な食品等級の抽出方法をシミュレートするために、実施例1で構築したラボスケールの方法を用いる改良法を適用した。
1-水道水中、食品等級の200mM NaCl抽出バッファーを作成する。
2-25gの海藻を150mL 抽出水中に量り分ける。
3-2分間、キッチン用ハンドブレンダーで混合する。
4-160W、3.3秒オン9.9秒オフ、合計処理時間=5分で超音波処理する。
5-5000gで、4.2rスイングローターで遠心分離して精製する。
6-ふるいに流し込み、あらゆる大きな海藻粒子を除去する。
7--20℃で凍結させる。
8-3日間および/または水が完全に除去されるまで凍結乾燥させる。
【0093】
液体抽出物の色の強度にばらつきが認められたが、すべて赤/ピンク色であった。海藻抽出物を遠心分離および濾過により精製したらすぐに、凍結乾燥させて粉末にした。
【0094】
モデルのひき肉食品におけるフィコエリスリン抽出物の使用
上記の予備的評価で用いたものと同じ製剤を使用してミニハンバーガーを作成し、各ハンバーガーは総重量15gであった。着色剤(ビートルート、フィコエリスリン、ヘモグロビンまたはフェリチン)および凍結させてミンチにしたココナツ脂肪(5% w/w)を残りの成分に添加し、混合した。
【0095】
【0096】
表2-1のハンバーガー製剤をホットプレート(Silex Electrogeraete GmbH Germany)で、各面、180℃で4分間、72℃の内部温度に調理した。もう一つの実験では、ハンバーガーを各面6分、80~85℃の内部温度に調理した。デジタルQM1601温度計を用いて内部温度を測定した。
【0097】
コントロールハンバーガーは、生の状態では白-黄色の外観をしており、調理時に外側が褐色になったが(メイラード反応およびカラメル化に起因する)、調理してもハンバーガーの内部の色は変化せず、生の食品と同じ白-黄色のままであった。ビートルート抽出物は、生および調理済みのハンバーガーの両方に赤い外観をもたらしたが、調理してもハンバーガーの内部の色は変化しなかった。フィコエリスリン抽出物は、生の食品の「血の」色(ピンク/赤)の外観、およびその後の調理時における内部の褐色への色変化をもたらした。調理中、赤い液体がハンバーガーの表面上にたまる様子は、牛肉などの動物性の肉を調理するときに典型的に見られる「出血」を再現した。Vitafitヘモグロビンは、生の状態では暗褐色の外観を、調理済みの状態ではほとんど黒色の外観をハンバーガーにもたらした。CRフェリチン含有ハンバーガーは、コントロールハンバーガー(生および調理済み)と同じ外観であった。
【0098】
実施例3
フィコエリスリン抽出のスケールアップおよび特性評価
野生の大型紅藻(このプロジェクトのステージ1で予め採集される)からフィコエリスリンを得るための、簡便で拡張可能な食品等級の抽出方法をシミュレートするために、ステージ1で構築したラボスケールの方法を用いる改良法を適用した。
1-水道水中、食品等級の20mM リン酸ナトリウム、pH7.0抽出バッファーを作成する。
2-1000gの海藻を5000mL 抽出バッファー中に量り分ける。
3-10分間8000(min-1)で、Ultra-turrexで処理する(ホモジナイズ)。
4-10,000RPMで、F21x500Y固定角ローター付きBeckman Coulter Sorvall RC-5で、15分間4℃で精製する。
5-ふるいに流し込み、あらゆる大きな海藻粒子を除去する。
6-SM-PES 20,000Da MWCO Synder限外濾過膜を用いて3.3X濃縮した後、MilliQ水 7Xでダイアフィルトレーションし、残存する海藻の臭いを除去する。
7--20℃で凍結させる。
8-3日間および/または水が完全に除去されるまで凍結乾燥させる。
【0099】
このプロセスのための野生の紅藻をオーストラリア、ビクトリア州ドロマーナ・ビーチで、2019年12月31日に採集した。限外濾過前および後のサンプルの吸光度スペクトルを分析すると、フィコエリスリンに特徴的なピークが見られ、濾過のプロセスは、280nmにおけるタンパク質ピークと比較してフィコエリスリンを濃縮することがわかる。これらのサンプルをSDS-PAGEゲル上に流してもまた、タンパク質バンドが1つだけ見られ、サンプルがフィコエリスリンタンパク質で純粋であることがわかる。
【0100】
スケールアップしたフィコエリスリン抽出物を95℃で6分間加熱すると、鮮やかなピンクから褐色への色変化が認められた。2つのサンプルについての吸光度スペクトルは、加熱時にフィコエリスリンに特徴的なピークが大きく減少すること、およびピークが広幅化することを示し、色変化がフィコエリスリンのタンパク質構造における変化に起因することを指し示す(
図2を参照)。
【0101】
実施例4
様々なフィコエリスリン抽出物の特性評価および比較
上の実施例1に記載される方法を用いて、R-フィコエリスリンを以下の藻類種から抽出した。
-(a)チノリモ(CS-25株、シドニー工科大学)
-(b)カギケノリ(CH4Global)
-(c)カギノリ(CH4Global)
-(d)ビーチから採集した野生の海藻サンプル
【0102】
UV吸光度スペクトルをそれぞれのフィコエリスリンサンプルについて記録した。結果を
図3に示す。約495~500nmにおけるピークは、サンプル(b)-(d)のそれぞれについて観察され、フィコエリスリンに結合しているフィコウロビリン発色団と一致するが、このピークは、サンプル(a)については本質的に欠けていることが認められる。観察された違いは、自然界で見られるサブタイプを反映し、フィコエリスリンタンパク質を構成するタンパク質サブユニットの数、配列および種類に依存する。
【0103】
熱変性
それぞれのフィコエリスリンサンプル(a)-(d)について熱変性を行った。結果を
図4に示す。
【0104】
視覚的に、すべてのフィコエリスリンサンプルが95℃への加熱時に色の消失を示した。しかしながら、チノリモから抽出したフィコエリスリンは、他と比較してその色をより保持した。これは、チノリモに見られるフィコエリスリンの特定のサブタイプに起因する可能性が最も高い。
【0105】
実施例5
食品成分としての使用に適する、培地中で培養した微細藻類からのフィコエリスリン抽出物の製造
培地中で培養した微細紅藻類のバイオマス(CS-174 ロドモナス・サリナ(シドニー工科大学))からフィコエリスリンを得るための、簡便で拡張可能な食品等級の抽出方法をシミュレートするために、実施例2で構築したラボスケールの方法に基づく改良法を適用した。
1.冷凍バイオマス(藻類の乾燥重量*含有率=50mg/湿潤バイオマス1g)を解凍する。
2.バイオマス1g(湿重量)あたり2.75mLの水の比率で水を培養バイオマスに添加する。
3.1分間、10,000rpm(Ultra-turrax、モデルT8、IKA/Janke & Kunel GmbH Germany)で混合する。
4.遠心分離:5分、4000g(Beckman J6-MI遠心分離機、JS 4.2ローター)により精製した。
5.透明な上清を粗製液体抽出物としてデカントする。
6.遠心分離:15分 10,000RPM、4℃により、粗製抽出物を精製する(Sorvall RC-5遠心分離機 F21x500Yローター)。
7.透明な上清を水溶性の、食品等級のフィコエリスリン抽出物としてデカントする。
*乾燥重量ベースとは、すべての水を除去した藻類を指す。
【0106】
実施例6
UV/分光法による、培地中で培養した微細藻類からのフィコエリスリン抽出物の特性評価
特定の抽出物が熱感受性食品着色剤としての使用に適切であるかどうか、および抽出物の相対的な純度を確認するために、典型的な実験装置を用いて、抽出物のUV/可視スペクトルを得ることがある。興味のある化合物の熱感受性は、重要な波長における、抽出物の熱に対する応答を測定することにより得られることがある。色特性の変化を確認するために、抽出物を加熱した後、さらなるUV/可視スペクトルを得ることがある。
【0107】
抽出物のUV/可視スペクトルの同定
1.装置の動作範囲内で測定値を得るために、液体抽出物を水で希釈することにより試験溶液を調製した。この場合、1/10希釈で十分であった。
2.UV分光計(UV-1700 Shimadzu Australia)を準備し、以下の測定特性で波長走査を測定する。
a.波長範囲(nm):270.00から700.00
b.走査速度:中
c.抽出間隔:1.0秒
d.自動サンプリング間隔:無効
e.スキャンモード:単一波長範囲
3.スキャンを実行し、データを収集する。
4.UV分光計(UV-1700 Shimadzu Australia)を準備し、ステップ3で同定された興味のある波長において、以下の測定特性で波長走査を測定する。
a.開始温度 20℃
b.初期待ち時間 10秒
c.傾斜率 2.0℃/分
d.測定待ち時間 5秒
e.間隔 1℃
f.終了温度(C) 95
5.スキャンを実行し、データを収集する。
6.ステップ2で使用した設定で波長走査を再実行する。
7.スキャンを実行し、データを収集する。
【0108】
実施例6に記載される抽出物について得られたデータを
図7(UV/VIS吸光度スペクトル)および
図8(温度走査)に示す。抽出物は、フィコエリスリンに特徴的である、およそ550nmにおけるメジャーピークを示す。λ
maxピークにおける吸光度対280nmにおける吸光度(タンパク質の吸光度に対応する)の比率は、2.7:1であり、フィコエリスリンとしての抽出タンパク質の割合が高いことを意味している。
【0109】
550nmにおける温度走査は、およそ63℃で吸光度の50%減少を示し、全体的な色落ちは、最初の約20%であった。加熱後の抽出物において波長走査を再実行したところ、小さな残存ピークが存在した。
【0110】
実施例7
培地中で培養した微細藻類からの「食品等級の」フィコエリスリン抽出物の擬似肉食品における適用:鶏肉などの白身肉食品および牛肉などの赤身肉食品を模倣したハンバーガーのパティ
実施例6からの水溶性フィコエリスリン抽出物を使用し、赤身および白身肉食品の性質を模倣したハンバーガーのパティを製剤化した。以下の表8-1に示す製剤を使用した。
【表3】
【0111】
白身擬似肉は、生の食品としての白身肉にとって適切な色を示した。生から調理済みの食品への移行に特有の色変化は、68から70℃の温度範囲において観察された。悪い風味の影響は官能評価において指摘されず、製剤は使用に適すると判断された。
【0112】
赤身擬似肉ハンバーガーに関して、適当な生の牛肉の色は、焦がし砂糖をさらに混入し、水溶性フィコエリスリン抽出物の割合を調製することで達成された。生から調理済みの食品への移行に特有の色変化は、68から70℃の温度範囲において観察された。悪い風味の影響は官能評価において指摘されず、製剤は使用に適すると判断された。
【0113】
実施例8
培地中で培養した微細藻類からの全バイオマスの擬似肉食品における適用:鶏肉などの白身肉食品および牛肉などの赤身肉食品を模倣したハンバーガーのパティ
全(解凍した冷凍の)微細藻類(CS-174ロドモナス・サリナ、(シドニー工科大学))を使用し、以下の表8-1に示す製剤を用いて、赤身肉食品の性質を模倣したハンバーガーのパティを製剤化した。
【表4】
【0114】
赤身擬似肉は、生の食品として適切な色を示した。
【0115】
ハンバーガーのパティを市販のホットプレートで調理した。プローブ温度計を用いて内部温度をモニターし、色変化を視覚的に観察した。
【0116】
生から調理済みの食品への移行に特有の色変化は、68から70℃の温度範囲において観察された。官能評価は、うま味がわずかに増強されたことを示したが、好ましくない磯臭さによる汚染を示さなかった。
【0117】
実施例9
精製フィコエリスリン紅藻抽出物による鉄結合
実施例1(超音波処理を含む抽出)からのフィコエリスリン抽出物を2mg/mLの濃度で、0.02% アジ化ナトリウムを含むpH7の20mM リン酸ナトリウム緩衝液中に溶解した。塩化鉄(II)を同じ緩衝液中に100mMの初期濃度で溶解した。溶解したフィコエリスリン抽出物を1:1で一連の濃度の塩化鉄とともに混合し、1mg/mLの最終タンパク質濃度、並びに0、0.25、0.5、1、2、4、8、16および32mMの最終塩化鉄濃度を得た。
【0118】
Thermofisher Varioskan Flash(Instrument version 4.00.52)を用いて、498nmの励起波長を用いる515~700nmの蛍光発光走査をすべてのサンプルについて次に行った。R-フィコエリスリンは575nmの発光極大を有し、したがって、鉄結合がタンパク質の直鎖状テトラピロール部分で起こる場合、蛍光の変化が観察されるであろう。
図7は蛍光鉄結合の結果を示す。図に示すように、鉄濃度の上昇につれてフィコエリスリン蛍光が減少し、これは鉄がタンパク質の直鎖状テトラピロールに結合すること、およびフィコエリスリンが鉄と配位し、それゆえ鉄担体タンパク質であり得ることを示す。
【0119】
実施例10
フィコエリスリンに結合した鉄のバイオアベイラビリティの評価
樹立ヒト腸管モデル-Caco-2/HT29-MTX-E12トランスウェルモデルを用いて、フィコエリスリン結合鉄のバイオアベイラビリティを評価した。フィコエリスリンがある場合およびない場合における鉄の腸管吸収をヒトフェリチンの形成によって測定した。
試験溶液
塩化鉄(II)(塩化第一鉄、FeCl2)、
塩化鉄(III)(塩化第二鉄、FeCl3)および
硫酸鉄(II)(硫酸第一鉄、FeSO4.7H2O)
フィコエリスリン
【0120】
方法
半透膜上で培養したHuman Caco-2(腸細胞)およびHT29-MTX-E12(杯)細胞は、腸管バリアモデルを含む。インビボ腸管バリアはいくつかの異なる細胞型を含むので、単一細胞株の代わりに共培養を行った。腸管バリアモデルにおける任意の処理効果が細胞毒性に関連しないことを確かにするため、キーウィフルーツ消化物に対してCaco-2/HT29-MTX-E12細胞生存率を測定した。
【0121】
全サンプルに対してCaco-2/HT29-MTX-E12細胞生存率を測定し、腸管バリアモデルの処理濃度を決定した。非細胞毒性サンプル濃度を用いて、腸細胞アッセイにおける任意の処理効果が細胞毒性に関連しないことを確かにする。CyQUANT Cell Proliferation Assayを用いて細胞生存率を測定し、下記の通りに細胞生存率を推定した。
・9x104 Caco-2細胞および1x104 HT29-MTX-E12細胞を96ウェル黒色プレートに播種し、7日間、37℃で、5%CO2でインキュベートした。
・7日後、培地(DMEM、10% ウシ胎児血清)を除去し、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)緩衝液を用い、細胞を(ロボットによって)洗浄した。
・プロジェクトサンプルをHBSS中で調製し、マルチチャンネルピペットを用いて細胞に添加した。細胞を終夜37℃で、5%CO2でインキュベートした。
・16~18時間後に処理液を除去し、HBSSで洗浄した後、HBSS緩衝液中に希釈したCyQUANT試薬を(ロボットを用いて)細胞に適用した。
・1時間後、蛍光を励起波長485nmおよび発光波長530nmで測定した。
【0122】
半透膜上で培養したHuman Caco-2(腸細胞)およびHT29-MTX-E12(杯)細胞は、腸管バリアモデルを含む。下記の通り、トランスウェル上で共培養を行った。
・Caco-2細胞およびHT29-MTX-E12細胞フラスコは、~90%コンフルエントになった時点で継代した。
・血球計算盤(またはコールター・カウンター)を用いて細胞を計数し、細胞数/mLを割り出した。
・0.6mL 培地(細胞なし)をトランスウェルの基底外側チャンバーに添加した。
・0.2mL Caco-2/HT29-MTX-E12細胞溶液を注意深く頂端側チャンバー中に添加し、3.6x10
4 Caco-2および4x10
3 HT29-MTX細胞とした。
・2~3日ごとに培地を交換しながら21日間トランスウェル上で共培養を行った。
・21日目に、Millicell電圧抵抗計を用いて、頂端側から基底外側チャンバーまでの経上皮電気抵抗(またはTEER)を測定した(
図1)。これらの測定は、細胞層の健全性を示し、細胞が分極していること、および無傷のバリアが実験可能な状態であることを保証する。すべてのTEER測定値は280Ω.cm
2を上回り、分化細胞および無傷のバリアを示した。無傷の腸細胞バリアの調製後、塩化第一鉄、塩化第二鉄、および硫酸第一鉄の効果を腸管バリア機能について、記載する通りに観察した。
・すべての経上皮電気抵抗(TEER)測定値は21日目に測定され、サンプル処理液の適用前に記録された。
・鉄サンプルおよびフィコエリスリンをHBSS中に非細胞毒性濃度で調製した。
・培地を細胞から取り除き、HBSSに2時間置換し、ウシ胎児血清の細胞(培地中に存在する)を枯渇させた。
・HBSSを除去し、サンプル処理液に2時間置換した。処理液を除去し、HBSSに置換し、終夜インキュベートした。
・16~18時間後に(頂端側の)細胞をPBSで洗浄した後、トリプシンを適用し、細胞をトランスウェル膜から取り除いた。
・5分間遠心することにより細胞を回収した。
・Abcamフェリチンアッセイを製造業者の説明書に従って行った。
【0123】
対応のないt検定を用いて、フェリチンアッセイからの結果を有意差について分析した。差は、P<0.05の場合に有意であると見なされた。全ての統計解析は、GraphPad Prism 5ソフトウェアを用いて行われた。
【0124】
結果
細胞生存率は、8mg/mL フィコエリスリンを含むおよび含まない鉄溶液に対して測定された。8mg/mL フィコエリスリンを含む100、50、および25mm鉄溶液は、80%より大きい細胞生存率を示し、腸管モデルでテストされた。
【0125】
全てのサンプル処理は、80μM アスコルビン酸の存在下で行われた。腸細胞モデルにおけるフェリチン形成に関する先行研究は、アスコルビン酸を使用し、鉄の腸管吸収を向上させたり(Mahler et al. Characterization of Caco-2 and HT29-MTX cocultures in an in vitro digestion/cell culture model used to predict iron bioavailability, Journal of Nutritional Biochemistry;20:494-502, 2009.)、通常ヒトに存在するアスコルビン酸塩の生物学的濃度(50および100μM)を模倣したりする(Badu-Boateng, C. and Naftalin, R.J. Ascorbate and ferritin interactions:Consequences for iron release in vitro and in vivo and implications for inflammation, Free Radic Biol Med., 133:75-87, 2019)。
【0126】
有意差は、100μM 鉄溶液およびアスコルビン酸で処理した細胞と鉄溶液、アスコルビン酸、およびフィコエリスリンで処理した細胞との比較では認められなかったが、鉄がない場合、フィコエリスリン プラス アスコルビン酸は、他の全ての鉄溶液と比較して、同様のフェリチン産生量を示した。鉄(100μM)およびフィコエリスリン(8mg/mL)の初期処理濃度が、2つの成分の相乗効果を観察するには高すぎであった可能性がある。
【0127】
25μMまたは50μM 鉄溶液、および4または8mg/mL フィコエリスリンで細胞を処理した。結果を表10-1に示す。
【表5】
【0128】
4mg/mL フィコエリスリンおよび50μM 塩化第二鉄または硫酸第一鉄による細胞の共処理は、塩化第二鉄または硫酸第一鉄のみで処理した細胞と比較して、フェリチン産生を有意に向上させた。8mg/mL フィコエリスリンによる共処理は、硫酸第二鉄の存在下でフェリチン産生を有意に向上させた。
【0129】
4または8mg/mL フィコエリスリンおよび25μM 塩化第一鉄、塩化第二鉄、または硫酸第一鉄による細胞の共処理は、種々の鉄溶液のみで処理した細胞と比較して、フェリチン産生を有意に向上させた。4mg/mL フィコエリスリンのみ(すなわち鉄が添加されていない)による処理もまた、鉄溶液による処理と比較してフェリチン産生を有意に増加させた。同様に、8mg/mL フィコエリスリンのみ(すなわち鉄が添加されていない)による処理は、塩化第二鉄による処理と比較した場合のみであるが、フェリチンを有意に増加させた。
【0130】
フィコエリスリンは、インビトロにおいて、鉄のバイオアベイラビリティを向上させ、フェリチンの産生を促進し得る。食品中にフィコエリスリンを含めることは、特に、より低濃度の鉄と組み合わせた場合に、鉄の腸管吸収およびフェリチン産生を向上させることがある。
【0131】
実施例11
バイオマスのR-PE含有量の代表的な定量方法
方法は、書籍の章:”Extraction and Purification of R-phycoerythrin from Marine Red Algae” by Justine Dumay, Michele Morancais, Huu Phuo Trang Nguyen, and Joel Fleurence in ”Natural Products From Marine Algae:Methods and Protocols, Methods in Molecular Biology, vol. 1308”, by Dagmar B. Stengel and Solene Connan (eds.), Springer Science Business Media New York 2015, DOI 10.1007/978-1-4939-2684-8_5を参考にした。
【0132】
以下の方法は、495および565nmにおける吸収ピークに基づく算出の実例を示すが、対応する算出が、495~503nm(例えば、495、496、497、498、499、500、501、502または503nm)および540~570nm(例えば、約540、545、550 555、560、565、570nm)の範囲で対応するピークを示すPEサンプルについて行われ得るということを理解されたい。
1.およそ1gのバイオマスを10mL 目盛り付き遠心チューブ中に正確に量り分ける。
2.脱イオン水をおよそ5mL添加する。
3.チューブを冷却(氷浴)したまま、30秒間、高せん断ミキサー(UltraTurrax T8 スピード6)でホモジナイズする。
4.10mLの目印まで脱イオン水で満たす。
5.30分間、4度で混合する。
6.20分、4000g、4度で遠心する。
7.上清を25mL メスフラスコ中にデカントする。
8.脱イオン水をペレットにおよそ5mL添加する。
9.チューブを冷却(氷浴)したまま、30秒間、高せん断ミキサー(UltraTurrax T8 スピード6)でホモジナイズする。
10.10mLの目印まで脱イオン水で満たす。
11.30分間、4度で混合する。
12.20分、4000g、4度で遠心する。
13.上清を25mL メスフラスコ中で最初の抽出物と合わせる。
14.25mLの目印まで脱イオン水で満たす。
15.350から750nmまでの間で吸光度値を測定する。
【0133】
フィコエリスリン含有量(mg/mL)は、以下のBeer and Eshel等式により推定可能である(Beer S., and Eshel A., (1985) Determining phycoerythrin and phycocyanin concentrations in aqueous crude extracts of red algae. Aust J Mar Freshw Res 36:785-793)。
PE=[(A565-A592)-(A495-A592) x 0.2)] x 0.12
【国際調査報告】