(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】オレフィンをヒドロホルミル化するための方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/50 20060101AFI20230516BHJP
C07C 47/02 20060101ALI20230516BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
C07C45/50
C07C47/02
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560127
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(85)【翻訳文提出日】2022-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2021057526
(87)【国際公開番号】W WO2021197953
(87)【国際公開日】2021-10-07
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521037411
【氏名又は名称】ベーアーエスエフ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【氏名又は名称】黒田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】ライナー・パップ
(72)【発明者】
【氏名】フランク・ヒュッテン
(72)【発明者】
【氏名】ディルク・ユングマン
(72)【発明者】
【氏名】エドワード・リッチモンド
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC45
4H006BA20
4H006BA32
4H006BC10
4H006BC11
4H006BD84
4H006BE20
4H006BE40
4H039CA62
4H039CF10
(57)【要約】
コバルト触媒の存在下、水性相の存在下で、反応器内で十分に混合しながら、6~20個の炭素原子を有するオレフィンをヒドロホルミル化するための方法であって、ヒドロホルミル化生成物を含む第1の流れが、反応器の頂部で取り出され、水性相を含む第2の流れが、反応器の底部から外へ通じる少なくとも1つのラインを通って反応器の底部から取り出され、当該方法が、第2の流れの密度に応じて、第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターを制御する工程を含む、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト触媒の存在下、水性相の存在下で、反応器内で十分に混合しながら、6~20個の炭素原子を有するオレフィンをヒドロホルミル化するための方法であって、ヒドロホルミル化生成物を含む第1の流れが、反応器の頂部で取り出され、水性相を含む第2の流れが、反応器の底部から外へ通じる少なくとも1つのラインを通って反応器の底部から取り出され、前記方法が、第2の流れの密度に応じて、第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターを制御する工程を含む、方法。
【請求項2】
第2の流れの密度が、反応器の底部から外へ通じるラインで測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つ又は複数の質量流量パラメーターが、質量流量、質量流速、又は質量流量及び/又は質量流速に基づいて決定されるその他の任意のパラメーターである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第2の流れの密度を測定して、測定された密度に基づいて1つ又は複数の制御変数を決定する工程、1つ又は複数の制御変数を1つ又は複数の基準値と比較して、1つ又は複数の制御量を決定する工程、及び1つ又は複数の制御量を使用して、1つ又は複数の作動信号を決定して、第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターを制御する工程を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
密度が、1つ又は複数のコリオリ質量流量計で測定される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値と比較され、測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値を超える場合、第2の流れの質量流量及び/又は質量流速が、増やされる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値と比較され、測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値未満である場合、第2の流れの質量流量及び/又は質量流速が、減らされる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第2の流れの密度が、反応器の底部から外へ通じるラインの少なくとも1点で測定される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
第1の流れ及び第2の流れが、後の反応器へと送られる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ヒドロホルミル化生成物を含む第1の流れが、後の反応器の頂部で取り出され、水性相を含む第2の流れが、後の反応器の底部から取り出される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
後の反応器の底部から外へ通じる少なくとも1つのラインを通って後の反応器の底部から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターが、第2の流れの密度に応じて制御される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
反応器から取り出された、又は後の反応器が設置されている場合には後の反応器から取り出された第1の流れ及び第2の流れが、コバルト(II)塩水溶液の存在下で酸素処理され、その酸素処理で、コバルト触媒が分解してコバルト(II)塩を形成し、コバルト(II)塩が水性相に抽出され、その後、2相が分離される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
反応器内の水分含量、後の反応器が使用される場合には後の反応器内の水分含量、及び相分離の水分含量が、動的デカップリングを用いて制御される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
反応器内の温度が、100~250℃であり、後の反応器が使用される場合には、後の反応器内の温度が、100~250℃である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
反応器内の支配的な圧力が、100~400bar absであり、後の反応器が使用される場合には、後の反応器内の支配的な圧力が、100~400bar absである、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6~20個の炭素原子を有するオレフィンをヒドロホルミル化するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキソ法としても公知であるヒドロホルミル化は、オレフィン、一酸化炭素、及び水素からアルデヒドを製造するための重要な大規模工業プロセスである。このようなアルデヒドは、任意選択で、同じ操作で又はヒドロホルミル化後の別の水素化工程で、水素で水素化されて、対応するアルコールを生成することができる。ヒドロホルミル化は、反応媒体に均一に溶解している触媒の存在下で行われる。使用される触媒は、一般に、第VIII族遷移金属、特にCo、Rh、Ir、Pd、Pt、又はRuのカルボニル錯体であり、これらは修飾されていなくてもよく、又は、例えば、アミン含有配位子又はホスフィン含有配位子で修飾されていてもよい。工業で大規模に行われているプロセスを要約した説明は、J. Falbe、「New Syntheses with Carbon Monoxide」、Springer Verlag 1980、162頁以降に見られる。
【0003】
現在、5個までの炭素原子を有する短鎖オレフィンは、配位子で修飾されたロジウムカルボニルを触媒として用いて主にヒドロホルミル化される一方で、長鎖オレフィンについては、コバルトが、依然として支配的な触媒活性を有する中心原子である。この理由は、第一に、コバルトカルボニル触媒が、反応対象のオレフィンのオレフィン二重結合の位置、分岐構造、及び純度にかかわらず、高い触媒活性を有するからである。第二に、コバルト触媒は、ヒドロホルミル化生成物から分離され、ヒドロホルミル化反応に比較的容易にリサイクルされうるからである。更に、コバルトがより安価であるため、後処理中の触媒の損失がより容易に許容されうるからである。
【0004】
コバルト触媒を分離してリサイクルするための1つの慣用的な方法では、反応器の流出液の有機相は、弱酸性の水の存在下、酸素又は空気で処理することによってコバルトカルボニル錯体から分離される(DE-AS 24 04 855参照)。その処理において、コバルト触媒は、酸化によって失活し、その中心原子が、形式上、酸化状態-1から+2に変換され、その後、水溶液での抽出によって取り除かれうる(脱コバルト)。ヒドロホルミル化に必要な触媒錯体は、一酸化炭素と水素の反応によってコバルト(II)塩溶液から再形成されうる(カルボニル形成)。その後、再形成されたコバルト触媒は、有機相を使用して、好ましくはヒドロホルミル化対象のオレフィンを使用して、水性相から抽出される(触媒抽出)。オレフィン以外にも、ヒドロホルミル化の反応生成物及び副生成物も触媒の抽出に使用されうる。その後、オレフィンは、コバルト触媒の作用を受けて、高温高圧の反応器でヒドロホルミル化される(オレフィンのヒドロホルミル化)。
【0005】
反応生成物は、特に垂直管型反応器が使用される場合、通例、反応器の頂部で取り出される。特に、8個以上の炭素原子を有する高級オレフィンの場合、反応領域に供給され、反応領域において十分な触媒濃度に達するために必要な水性相は、溶解又は懸濁している形態で、頂部から取り除かれる反応混合物とともに完全には流し出されない。したがって、反応生成物は、頂部でだけでなく、底部空間からも取り除かれることが好ましい。
【0006】
底部空間からの水性相の取出しが、制御されない場合又は制御が不十分である場合、運転に支障をきたすことになる。水性相が過剰になると、変換率の低下を招く可能性がある。水性相が不足すると、局所的に温度の急上昇を招き、それにより、コバルト触媒の分解を引き起こす可能性がある。
【0007】
先行技術では、底部空間から取り出される反応生成物の量は、反応器内の底部の水性相の液面高さに応じて決定される。
【0008】
EP 1 204 624 B1には、6~20個の炭素原子を有するオレフィンをヒドロホルミル化するための連続式方法であって、コバルト触媒を含む水性相が、少なくとも一つの反応領域で(例えば、垂直管型反応器で)、オレフィン、水素、及び一酸化炭素と密に接触される方法が開示されている。反応生成物は、反応器の頂部でだけでなく、反応器の底部空間からも取り出されうる。反応器の底部空間からの反応生成物の取出しは、相制御されることが好ましい。
【0009】
EP 1 279 658 B1には、修飾されていないコバルト触媒の存在下、単一工程のプロセスで、5~24個の炭素原子を有するオレフィンをヒドロホルミル化して、6~25個の炭素原子を有する、対応するアルデヒド及び/又はアルコールを製造するための方法であって、底部の水性相が反応器内で有機相と十分に混合され、底部の水性相中のコバルト化合物の濃度が、0.4~1.7質量%の範囲にあり、底部の水性相の液面高さが、定常状態で一定に保たれる、方法が開示されている。
【0010】
EP 3 071 524 B1には、コバルト触媒の存在下、水性相の存在下で、反応器内で十分に混合しながら、6~20個の炭素原子を有するオレフィンをヒドロホルミル化して、対応するヒドロホルミル化生成物を製造するための方法であって、水性相を含む流れが、反応器の底部から取り出され、この水性相を含む流れの流速が、反応器の底部のある点で又は反応器の底部から外へ通じるラインで測定される温度に応じて制御される、方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、底部の水性相の液面高さは、反応器で支配的な条件下では正確に測定できないことが多い。
【0012】
このことが特に観察されたのは、EP 3 071 524 B1に開示されているように、より大型の反応器において、反応器の底部のある点で又は反応器の底部から外へ通じるラインで測定された温度に応じて、水性相の取出しが制御された場合である。
【0013】
底部の水性相の液面高さの放射測定は、不正確である。γ放射線は、厚さ30cmの鋼の壁を通過することで減衰する。また、反応器内の底部の水性相の液面高さは、通例、較正時においても正確には分からないため、放射測定の較正は困難である。
【0014】
更に、底部の水性相の液面高さを決定するための装置が、反応器内部に設置され、そのため、多大な費用をかけて不便さを伴いながら、プロセスを中断することによってしかアクセスできない場合は、そのような装置のメンテナンスは、非常に費用がかかり、不便である。
【0015】
底部の水性相の液面高さの測定が不正確であるため、底部空間からの水性相の取出しが十分に正確に制御できず、それによって、運転上の混乱が生じ、最終的に粗ヒドロホルミル化生成物の収量も低下させることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】DE-AS 24 04 855
【特許文献2】EP 1 204 624 B1
【特許文献3】EP 1 279 658 B1
【特許文献4】EP 3 071 524 B1
【特許文献5】DE-OS 21 39 630
【特許文献6】DE-AS 12 05 514
【特許文献7】DE-AS 19 38 102
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】J. Falbe、「New Syntheses with Carbon Monoxide」、Springer Verlag 1980、162頁以降
【非特許文献2】Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry、Liquid-Liquid Extraction、DOI: 10.1002/14356007.b03_06.pub2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、安定して持続的な運転の結果として、粗ヒドロホルミル化生成物の収量の増加をもたらす、6~20個の炭素原子を有するオレフィンをヒドロホルミル化するための改良された方法を提供することであった。
【0019】
反応器の容積が大きくなるにつれて、反応器表面からの比熱損失(specific heat loss)が減少することが分かった。そのため、反応器内の混合が激しい領域で測定される温度と、反応器の底部で又は反応器の底部から外へ通じるラインで測定される温度との温度差が僅かとなり、温度差を手段として正確に制御することがもはや不可能となる。
【0020】
したがって、改良された方法によって、反応器内の混合が激しい領域での温度と、反応器の底部で又は反応器の底部から外へ通じるラインで測定される温度との温度差とは無関係に、水性相を含む流れの取出しを正確に制御することが可能となるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の目的は、コバルト触媒の存在下、水性相の存在下で、反応器内で十分に混合しながら、6~20個の炭素原子を有するオレフィンをヒドロホルミル化するための方法であって、ヒドロホルミル化生成物を含む第1の流れが、反応器の頂部で取り出され、水性相を含む第2の流れが、反応器の底部から外へ通じる少なくとも1つのラインを通って反応器の底部から取り出され、当該方法が、反応器の底部から外へ通じるラインで測定されることが好ましい第2の流れの密度に応じて、第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターを制御する工程を含む、方法によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の方法を実施するためのプラントの概略図を示す。
【
図2】
図2は、Table 1(表2)を基に、測定した密度及び密度の整定値を示す。
【
図3】
図3は、Table 1(表2)を基に、排出された混合物中の有機相の構成比を示す。
【
図4】
図4は、Table 1(表2)を基に、排出された混合物の温度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の方法は、連続式、半連続式、又はバッチ式であってよい。連続式又は半連続式の方法が好ましい。
【0024】
質量流量パラメーターとは、質量流量、質量流速、又は質量流量及び/又は質量流速に基づいて決定されるその他の任意のパラメーターである。好ましくは、少なくとも1つの質量流量パラメーターは、質量流量又は質量流速である。
【0025】
水性相は、有機相から分離して反応器の底部空間で分かれるため、ヒドロホルミル化の対象であるオレフィンとは、もはや混合されなくなる。反応器の底部空間の反応速度は低下し、分けられた水性相はゆっくりと冷える。上述したように、反応器容積の表面積に対する比及び任意の断熱材によって反応器内で発生する熱の放散が減少し、そのため反応器内の温度差が減少する場合、この冷却は極めて限定的になることがある。したがって、反応器底部と反応領域との温度差に基づいて、大型反応器からの底部流れの取出しを制御することは、制御ループに対する入力として使用するのに十分に意味がある大きさの反応領域に対する温度差を発生させるのに十分に冷却するのに十分な大きさの底部において反応しない水性相の量を必要とする。しかしながら、反応器内に反応しない大量の水性相が存在すると、反応器の容積利用及び生産性が低下するため、スケールメリットが損なわれてしまう。
【0026】
水性相を含む流れが、密度の制御下で反応器の底部空間から取り出されうることが見出された。
【0027】
この知見の根拠は、反応器の底部から取り出される流れが、現時点での水の沈降量よりも多い場合、有機相も反応器の底部から取り出され、その結果、反応器の底部から取り出される水性の流れは、分散している有機相の量も含んでしまうということである。この流れの密度は、2相の比に依存する。正確な依存関係は、線形よりも複雑な場合があるが、容易に測定でき、取出しを制御するために望ましい整定値は、反応器及びプラントの具体的な条件に応じて決定されうる。反応器内の温度差に基づいて取出しを制御するのとは対照的に、本発明の方法は、反応器から水を任意の所望の程度まで取り除くことを可能とする。ごく基本的な言い方をすれば、取り出された液体が純粋な水性相の密度を有する場合、もっと多くの液体を取り出して反応器の生産性を上げることが可能であり、取り出された液体が純粋な有機相の密度を有する場合、液体が多く取り出され過ぎている。このような撹拌槽型反応器の実際の運転では、底部から取り出された流れの密度は、純粋な水性相又は純粋な有機相の両極端の間となり、その流れの中の水性相及び有機相の相対量に応じて変化する。本発明の有利な点の1つは、有機相を多く取り除き過ぎることを回避しながら、所望の量の水性相が取り除かれうることである。反応器の底部で取り出される有機相の量は、反応器の出口すべてを含めた有機相と比較して、微々たるものである。好ましい実施形態では、連続的な水性相はいずれも反応器から取り除かれ、分散している水性相のみが留まる。
【0028】
本発明の方法は、所望の量の水性相を正確に取り出すことを可能とする。このことは、水性相の液面が高くなり過ぎるまで上昇するのを防止する。その結果として、ヒドロホルミル化反応の意図しない停止が回避されうることとなり、連続運転が達成されうる。換言すれば、反応が安定化されうる。更に、水相が、反応器内に連続して存在しないため、本発明の方法は、反応器内の水の量も最小限に抑える。これにより、利用可能な反応容積が最大化されるため、反応器での変換率が最大化されることになる。
【0029】
有利なことに、第2の流れ(第2の流れは、水性相を含む流れの同義語として使用される)の密度は、反応器内の任意の点と点の間の任意の温度差とは無関係に、正確に測定されうる。したがって、第2の流れの密度に応じて、第2の流れの少なくとも1つの質量流量パラメーターを制御することによって、反応器の容積とは無関係に、反応器内の水性相を効率的に取り除くことが可能となる。更に、このアプローチによって反応器内の水性相の割合を最小限に抑えることが可能となり、したがって、有機相の滞留時間をより長くすることが実現されるため、反応器内の変換率が増加しうる。
【0030】
好ましくは、第2の流れの密度に応じて、第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターを制御する工程は、第2の流れの密度を測定して、測定された密度に基づいて1つ又は複数の制御変数を決定する工程、1つ又は複数の制御変数を1つ又は複数の基準値と比較して、1つ又は複数の制御量を決定する工程、及び1つ又は複数の制御量を使用し、1つ又は複数の作動信号を決定して、第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターを制御する工程を含む。第2の流れの密度に応じて、第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターを制御する工程が、上記の制御工程を含む閉ループ制御システムを用いて行われることが更に好ましい。
【0031】
第2の流れの密度は、密度の測定に適した任意の手段によって、及び任意の点で測定されうる。第2の流れの密度は、反応器の底部から外へ通じるラインで測定されることが好ましい。
【0032】
第2の流れの密度が反応器の底部から外へ通じるラインで測定される場合、密度は、1つ又は複数のコリオリ質量流量計で測定されることが好ましい。
【0033】
コリオリ質量流量計は市販されており、その運転形態は当業者に公知である。反応器の底部から外へ通じるラインで1つ又は複数のコリオリ質量流量計を用いて第2の流れの密度を測定する場合、反応器の底部から外へ通じるラインに関連して、コリオリ質量流量計を何個使用するかについて及びコリオリ質量流量計をどのように設置するかについて、当業者であれば、一般常識で判断するだろう。
【0034】
もちろん、個々の相の密度、したがって2相の流れの密度も温度に依存する。個々の相の密度の温度依存性の決定は、様々な温度で密度を決定することによって容易に行われうる。様々な温度での混合物の密度は、2相の密度の質量平均として容易に計算されうる。これにより、反応器出口における密度センサーを反応器出口で測定された温度に較正することができる。また、温度に依存する値に基づいてバルブ等を制御する他の場合と同様に、温度補正された値を制御の基準として使用することが好ましい場合がある。したがって、反応器から取り出された流れ中の2相の比を一定に保つために、その流れの総量を制御するための基準として、流れの実測温度での密度の代わりに、温度補正された密度を使用することが好ましい場合がある。温度補償の基準点は任意に選択されてよいが、反応器の運転温度に近い温度を選択することが好ましい。温度補正された密度センサー、特に温度補正されたコリオリ密度センサーは、市販されている。或いは、2相混合物の密度の温度依存性が、プロセス制御システムに保存されていてもよい。換言すれば、反応器出口で測定された密度が、「x℃での密度」(ここで、xは、選択された基準温度(℃)である)として運転員に示されてよく、制御ロジックは、その値、ひいては2相の比を一定に保つことになる。
【0035】
測定された第2の流れの密度に基づいて、1つ又は複数の制御変数は、測定された密度を数学的変換することによって決定されうる。この変換に適用されるべき数理モデル及び/又はアルゴリズムは、当業者に公知である。最も単純な場合、1つの制御変数は、測定された第2の流れの密度である。
【0036】
1つ又は複数の基準値は、静的な値及び/又は動的な値であってよい。静的な値の場合、1つ又は複数の基準値は、時々変更される可能性のある所定の値である。動的な値の場合、1つ又は複数の基準値は、反応温度、粗ヒドロホルミル化生成物の収量、供給組成及び/又は触媒担持量等、それぞれの反応プラント及び/又はそれぞれの反応プラントと関連する他の反応プラントから決定される1つ又は複数の変数に応じて、粗ヒドロホルミル化生成物の収量を増やすように制御される及び/又は最適化される。1つ又は複数の基準値の制御及び/又は最適化は、制御装置で行われる。好ましくは、制御装置、例えば、中央演算装置/分散制御システムに実装される制御装置又はクラウドコンピューティングを手段として備える制御装置は、機械学習アルゴリズムの結果に基づいて解析アルゴリズムを実行するように構成される。機械学習アルゴリズムは、好ましくは、決定木、単純ベイズ分類、最近傍、ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク、敵対的生成ネットワーク、サポートベクターマシン、線形回帰、ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、及び/又は勾配ブースティングアルゴリズムを含む。好ましくは、機械学習アルゴリズムは、高次元の入力を、はるかに低次元の出力に処理するように組織化される。そのような機械学習アルゴリズムは、「訓練を受ける」ことが可能であるため、「インテリジェント」と称される。アルゴリズムは、訓練データのレコードを用いて訓練を受けることができる。訓練データのレコードは、入力用訓練データ及びそれに対応する出力用訓練データを含む。訓練データのレコードの出力用訓練データは、訓練データの同じレコードの入力用訓練データが入力として与えられた場合に、機械学習アルゴリズムによって生成されることが期待される結果である。この期待される結果とアルゴリズムによって実際に生成された結果との偏差が観察され、「損失関数」を用いて評価される。この損失関数は、機械学習アルゴリズムの内部処理チェーンのパラメーターを調整するためのフィードバックとして使用される。例えば、すべての入力用訓練データを機械学習アルゴリズムに与え、その結果を対応する出力用訓練データと比較した場合の結果となる損失関数の値を最小にするという最適化目標で、パラメーターは調整されてよい。この訓練の結果は、比較的少ない数の訓練データのレコードを「正解データ(ground truth)」として与えると、機械学習アルゴリズムは、何桁も多い数の入力データのレコードに対して、うまく仕事を行うことが可能になるということである。機械学習アルゴリズムは、入力データに基づいて訓練を受けることが好ましい。
【0037】
最も単純な場合では、1つの基準値は、第2の流れの密度についての所定の基準値である。
【0038】
好ましくは、1つ又は複数の基準値及び1つ又は複数の制御変数は、1つ又は複数の制御装置への入力パラメーターであり、1つ又は複数の制御量は、入力パラメーターに基づいて、数理モデル及び/又はアルゴリズムを適用することによって決定される。1つ又は複数の制御量を決定するために1つ又は複数の制御装置に適用されるべき数理モデル及び/又はアルゴリズムは、当業者に公知であるか、又は簡単なテスト及び一般常識に基づいて導き出されうる。適切な制御装置は、例えば、PID制御装置、モデル予測制御装置、適応制御装置、非線形制御装置、ファジー制御装置、又は状態空間制御装置等である。
【0039】
1つ又は複数の制御量に基づいて、第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターを制御するための1つ又は複数の作動信号が決定される。1つ又は複数の制御量は、1つ又は複数の作動器への入力パラメーターである。作動器は、例えば、作動器を備えるバルブである。作動器は、空気圧式、油圧式、電子式、電磁気式、手動式、又は前記の任意の混合形態で操作されうる。作動器が、作動器を備えるバルブである場合、作動信号は、バルブが開いている状態である。
【0040】
単純な場合、測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値を超える場合、第2の流れの質量流量及び/又は質量流速は、増やされる。測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値未満である場合、第2の流れの質量流量及び/又は質量流量は、減らされる。
【0041】
本発明による方法を実施するための適切な耐圧反応器は、当業者に公知である。耐圧反応器としては、例えば、管型反応器、撹拌槽、ガス循環反応器、気泡塔、ループ反応器等、気液反応のために一般に慣用されている反応器等が挙げられ、任意選択で、内部構造物によって更に細分化されてもよい。適切な反応器の例は、ループ型反応器、同軸管状の内部構造物を任意選択で備える垂直高圧気泡塔反応器、又は垂直管型反応器である。好ましくは、反応器は、垂直気泡塔反応器又は垂直管型反応器である。
【0042】
反応器内の温度は、通常、100~250℃、特に145~200℃である。反応器内の支配的な圧力は、好ましくは100~400bar abs、特に200~300bar absである。
【0043】
反応器内に含まれる反応混合物の一部は、十分な混合を変化させるために、反応器の上部領域で排出され、反応器の下部領域に戻されてもよい。例として、排出された反応混合物は、ポンプを通り抜け、その後、出発材料と混ぜ合わされ、排出された反応混合物と混ぜ合わされた出発材料は、反応器に供給されうる。
【0044】
本明細書において、用語「オレフィン」は、1種のオレフィンだけでなく、様々なオレフィン、例えば異性体のオレフィンの混合物をも意味する。6~20個の炭素原子を有するオレフィンは、本発明による方法によってヒドロホルミル化されうる。本発明による方法は、例えばプロペン及びブテン等の低級オレフィンのオリゴマー化によって製造される異性体オレフィン混合物のヒドロホルミル化に特に適している。本発明の方法のためのオレフィンとして有用である典型的なオリゴマーとしては、とりわけ、ジプロペン、トリプロペン、及びテトラプロペン、ジブテン、トリブテン、及びテトラブテン、並びにプロペン及びブテンのコオリゴマー等が挙げられる。ブテンのオリゴマーは、公知のオリゴマー化方法、例えばHuls社のOctol法及びIFPのDimersol法によって、大きな工業規模で得ることが可能である。直鎖状ブテン、n-ブタン、及びイソブタンを本質的に含み、イソブテンを5質量%以下、好ましくは3質量%以下含む流れである、いわゆる、ラフィネート2に基づくオリゴマーを使用することが好ましい。例えば、SHOP法又はZiegler法によって得ることが可能な直鎖状長鎖末端オレフィン、又は直鎖状長鎖内部オレフィンも、本発明による方法に従ってヒドロホルミル化されうる。
【0045】
ヒドロホルミル化は、水素及び一酸化炭素の存在下で行われる。その2つのガスは、慣用的には、混合物、いわゆる合成ガスの形態で使用される。本発明による方法で使用される合成ガスの組成は、幅広い限界の間で変わりうる。一酸化炭素の水素に対するモル比は、通例、約10:1~1:10であり、特に2.5:1~1:2.5である。好ましい比は、約40:60(CO:H2)である。
【0046】
本発明による方法では、触媒の抽出及びオレフィンのヒドロホルミル化は、反応器内で1工程にて行われる。カルボニル形成は、同時に又は任意選択で上流の触媒形成工程で行われうる(プレカルボニル化)。
【0047】
任意選択の触媒形成工程(プレカルボニル化)では、コバルト(II)塩水溶液を、一酸化炭素及び水素と密に接触させて、コバルト触媒を形成する。この触媒形成工程は、ヒドロホルミル化の対象であるオレフィンの存在下又は非存在下で、好ましくは50~200℃の温度、特に60~140℃の温度で、100~400bar absの圧力下、特に200~300bar absの圧力下で行われる。触媒形成は、例えば、スパージングスターラー(sparging stirrer)を備える撹拌槽、気泡塔、又はトリクルベッド塔等の気液反応に慣用されている装置で行われることが好ましい。有利には、DE-OS 21 39 630に記載されているように、コバルトカルボニルが担持されている、活性炭、ゼオライト、又は塩基性イオン交換体が、触媒形成工程で使用される。触媒形成工程で得られたコバルト(II)塩含有水溶液及びコバルト触媒含有水溶液は、その後、ヒドロホルミル化の対象であるオレフィン、及び任意選択で使用される任意の有機溶媒、並びに水素及び一酸化炭素も一緒に、反応器に供給される。
【0048】
直鎖状の比較的長い鎖の末端オレフィンがヒドロホルミル化されて、主に直鎖状のアルデヒド/アルコールを形成する場合、カルボニル形成は、上流の触媒形成工程で特に有利に行われる。その後、望ましくない分岐状のヒドロホルミル化生成物の形成を最小限に抑えるために、通例、反応器内では、より低い反応温度が採用される。しかしながら、反応器内で採用される条件下では、活性なコバルト触媒は、十分な速度で形成されない。
【0049】
多くの場合、技術的要件がより少ないことから、カルボニル形成、触媒抽出、及びオレフィンのヒドロホルミル化が同じ反応器で互いに連携して行われることが好ましい。本発明の方法の好ましい実施形態では、コバルト触媒の形成、コバルト触媒の有機相への抽出、及びオレフィンのヒドロホルミル化は、ヒドロホルミル化の条件下の反応領域でコバルト(II)塩水溶液、オレフィン、及び任意選択で有機溶媒を互いに密に接触させることによって、同じ反応器内で互いに連携して行われる。
【0050】
カルボニル形成が上流の触媒形成工程で行われるか否かにかかわらず、2相の良好な混合が生じ、2相間の交換面積ができるだけ大きくなるように、出発材料が反応器に導入されることが好ましい。このため、例えば、充填物が充填されている乱流管又は多相系用混合ノズル等、当業者に公知である計量(metering)装置が使用されうる。反応器内の乱流を維持するために、混合ノズルを用いて十分な混合が行われることが、特に好ましい。このように、適切な実施形態では、DE-AS 12 05 514及びDE-AS 19 38 102に記載されているように、混合ノズルを用いて、コバルト(II)塩水溶液、オレフィン、一酸化炭素、及び水素が同時に循環系の反応器に導入されることによって、十分な混合が行われる。任意選択で使用される有機溶媒は、反応器内に存在するか、又はその他の出発材料と同時に、特に混合ノズルを用いて反応器内に導入される。
【0051】
任意選択で使用可能な有機溶媒は、例えばパラフィン留分等の不活性炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、又はキシレン等の芳香族炭化水素、又はアルデヒド、及び/又はアルコールであるが、特には、使用されるオレフィンのヒドロホルミル化生成物である。高沸点のヒドロホルミル化副生成物は、更に溶媒として使用されうる。溶媒の使用は、長鎖オレフィンをヒドロホルミル化して長鎖アルデヒドを形成する際に、例えば粘度を下げるために、有利でありうる。
【0052】
第1の流れは、反応器の頂部で取り出され、ヒドロホルミル化生成物に加えて、未反応のオレフィン及び相当な量の水性相を含む。第2の流れは、反応器の底部から取り出され、水性相に加えて、相当な量の部分的に反応した有機相を含みうる。好ましくは、反応器の底部から取り出される第2の流れは、水性相10~80体積%を含む。
【0053】
記載されている反応器は、いわゆる撹拌槽の特徴を有する;これは、極めて十分に混合される反応器である。そのような反応器では、反応器容積が限られており、部分的な変換しかできない。したがって、好ましくは、生成物の所望の収量をできるだけ多く得る目的のために、後の反応器(post-reactor)でヒドロホルミル化を継続して行い、理想的にはヒドロホルミル化を完了させる。好ましい実施形態では、第1の流れ及び第2の流れは、後の反応器へ供給される。
【0054】
後の反応器内の温度は、通常、100~250℃、特に145~200℃である。後の反応器内の支配的な圧力は、好ましくは100~400bar abs、特に200~300bar absの範囲である。反応器から後の反応器への材料の均一な輸送は、反応器と後の反応器の間で数barの一定の差圧を維持し、後の反応器はより低い圧力とすることによって行われるのが好ましい。差圧は、2~5barであることが好ましい。差圧により、第1の反応器からの排出を簡便に制御することが可能となる。差圧は、調整可能なバルブ又はダイヤフラムを用いて維持されうる。
【0055】
好ましくは、後の反応器においても、ヒドロホルミル化生成物を含む第1の流れが、頂部で取り出され、水性相を含む第2の流れが、底部から取り出される。好ましくは、後の反応器の底部から取り出される第2の流れも、密度の制御下で取り出される。したがって、好ましい一実施形態では、後の反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターは、後の反応器の底部から外へ通じるラインで測定されることが好ましい第2の流れの密度に応じて制御される。
【0056】
後の反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターは、第1の反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターと同じ手段によって対応して制御されることが好ましい。反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターの制御の好ましい実施形態は、後の反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターの制御の好ましい実施形態でもある。
【0057】
有利には、後の反応器と1つ又は複数の排出ラインとの間の差圧が、排出が良好に制御されうるように設定される。このことは、調整可能なバルブ又はダイヤフラム等の圧力調整装置を用いて行われうる。この差圧も、2~5barであることが好ましい。
【0058】
後処理のために、反応器から取り出された流れ、及び後の反応器が採用されている場合には後の反応器から取り出された流れは、10~80bar abs、好ましくは10~50bar absの中間圧力に減圧される。好ましくは、流れは、減圧前、減圧中、減圧後のいずれかで、混ぜ合わされる。
【0059】
減圧された流れは、コバルト(II)水溶液の存在下で酸素処理される。その酸素処理で、コバルト触媒が分解してコバルト(II)塩を形成し、その後、コバルト(II)塩が水性相に抽出され、その後、2相が分離される(脱コバルト工程)。
【0060】
好ましくは、酸素は、空気を供給することによって提供される。その処理は、90~130℃の温度で行われることが好ましい。
【0061】
コバルト(II)水溶液は、pHが3~5、好ましくは3.5~4.5の弱酸性であることが好ましい。コバルト(II)水溶液は、コバルト(II)の損失を補充するための新鮮なコバルト(II)水溶液であってもよく、及び/又は、分離前のコバルト(II)水溶液の一部がリサイクルされてもよい。
【0062】
その処理は、2相の間の交換面積ができるだけ大きくなる(例えば、ラシヒリングで)充填されている圧力容器内で行われるか、又は空の圧力容器内で減圧することにより行われうる。
【0063】
有機相からの水性相の分離は、相分離容器で行われることが好ましい。相分離に適した容器又は装置は、例えば、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry、Liquid-Liquid Extraction、DOI: 10.1002/14356007.b03_06.pub2に開示されている。相分離容器としては、ミキサーセトラー装置が好ましい。
【0064】
その後、水性相を分離した後に残る有機相は、例えば蒸留及び/又は水素化等の後処理が適切に行われうる。
【0065】
水性相(コバルト(II)塩溶液)は、反応器、又は触媒形成工程、又は脱コバルト工程に供給される。
【0066】
反応器内の水分含量、後の反応器が使用される場合には後の反応器内の水分含量、及び有機相と水性相との分離における水分含量は、運転状態が変動するのを回避するために、動的デカップリングを用いて制御されることが好ましい。動的デカップリングの原理、例えば動的状態のフィードバックによる完全な動的デカップリングによる原理は、当業者にとって、特に自動化技術の分野の当業者にとっては周知である。
【0067】
好ましくは、反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーター、及び相分離から取り出された水性相の1つ又は複数の質量流量パラメーターを制御するために、並びに後の反応器が使用される場合には、後の反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターを制御するために、PID制御装置を備える分散制御システムが使用される。そのような場合、運転状態が変動するのを回避するために、動的デカップリングを用いて、1組の制御装置が、その他の制御装置と比較して遅く作動するように調整される。このことは、当該制御装置の整定値を通常より一段と変更した後、定常状態になるまでの時間が長いことに相当する。1組の制御装置とは、a)反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーター、b)後の反応器が使用される場合には、後の反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーター、又はc)相分離から取り出された水性相の1つ又は複数の質量流量パラメーター、例えば、相分離容器から取り出された水性相の質量流量及び/又は質量流速のいずれかを制御するのに使用される制御装置を指す。
【0068】
運転状態が変動するのを回避することは、例えば、制御動作によって指令されるバルブ軸の累積移動量が減少する(バルブ移動指数がより低下する)ため、バルブの寿命が延びる、新鮮な水の添加量が減少する、及び/又は触媒の損失が減少するという有利な点を有する。
【0069】
添付の図面によって、本発明による方法をより詳細に説明する。
【0070】
図1は、本発明の方法を実施するためのプラントの概略図を示す。プラントは、反応器1及び後の反応器13を含み、それらの反応器において、反応器の底部から取り出された流れの流速及び後の反応器の底部から取り出された流れの流速の両方が、本発明に従って制御される。
【0071】
図1に示すように、オキソガス4、オレフィン5、及びコバルト(II)塩水溶液6は、ポンプ2を用いてノズル3を通って反応器1内に導入される。反応器の底部から外へ通じるライン12を通って取り出された流れの密度は、コリオリ質量流量計を用いて測定され、制御7に使用される。密度制御装置の制御装置出力は、整定値として質量流量制御装置8に供給される。測定された密度は、密度についての所定の基準値と比較される。測定された密度が、所定の基準値を超えるとすぐに、質量流量を増やす信号が制御装置8に送られ、流量制御装置がバルブ9を開く。同様に、測定された密度が、密度についての所定の基準値未満になるとすぐに、バルブ9を閉じる信号が、制御装置8から発せられる。
【0072】
ヒドロホルミル化生成物を含む第1の流れは、反応器1の頂部でライン10を用いて取り出され、差圧調整装置11を通り抜ける。バルブ9がある程度開いていることを条件として、水性相を含む第2の流れは、反応器の底部から取り出され、ライン12を用いて送られ、ライン10と合流する。
【0073】
反応器の頂部で取り出され及び反応器の底部から取り出され、混ぜ合わされた流れは、後の反応器13に導入される。後の反応器の底部から外へ通じるライン19を通って取り出された流れの密度は、コリオリ質量流量計を用いて測定され、制御装置14で使用される。密度制御装置の制御装置出力は、密度についての所定の基準値と測定された密度とを比較することによって導き出される。密度制御装置の制御装置出力は、質量流量制御装置15の整定値として使用される。測定された密度が、所定の基準値を超えるとすぐに、質量流量を増やす信号が制御装置15に送られ、流量制御装置がバルブ16を開く。同様に、測定された密度が、密度についての所定の基準値未満になるとすぐに、バルブ16を閉じる信号が、制御装置15から発せられる。ヒドロホルミル化生成物を含む第1の流れは、後の反応器13の頂部でライン17を用いて取り出され、制御バルブ18を通り抜ける。バルブ16がある程度開いていることを条件として、水性相を含む第2の流れは、後の反応器の底部から取り出され、ライン17からの流れと混ぜ合わされる。
【0074】
ライン17によって後の反応器の頂部で取り出され及びライン19によって後の反応器の底部から取り出され、混ぜ合わされた流れは、支配的な圧力が反応器又は後の反応器よりも低い高温減圧容器20に導入され、当該容器において、ライン21及びポンプ22を用いて供給されるコバルト(II)塩溶液の存在下でライン23及びコンプレッサー24を用いて供給される空気で処理される。
【0075】
高温減圧容器20で得られた混合物は、ライン25を用いて相分離器26へと送られ、水性相は、相分離器からライン27を用いて排出される。粗ヒドロホルミル化生成物は、相分離器からライン28を用いて排出される。オフガスは、ライン29を用いて相分離器から排出される。相分離器26内の液-液界面の高さは、液面調節器31によって測定され、制御される。制御装置出力は、水の質量流量制御装置33の整定値を操作するために使用される。水の質量流量は、水のライン30にあるバルブ32の軸位置を変更することによって操作される。相分離器26内の気液界面の高さは、液面調節器36によって測定され、制御される。制御装置出力は、有機物の質量流量制御装置35の整定値を操作するために使用される。有機物の質量流量は、生成物のライン28にあるバルブ34の軸位置を変更することによって操作される。オフガスの質量流量は、オフガスのライン29にあるバルブ37の軸位置を操作することによって、流量制御装置38によって測定され、制御される。
【0076】
本発明の好ましい実施形態は、以下の通りである。これらの実施形態は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0077】
1.コバルト触媒の存在下、水性相の存在下で、反応器内で十分に混合しながら、6~20個の炭素原子を有するオレフィンをヒドロホルミル化するための方法であって、ヒドロホルミル化生成物を含む第1の流れが、反応器の頂部で取り出され、水性相を含む第2の流れが、反応器の底部から外へ通じる少なくとも1つのラインを通って反応器の底部から取り出され、当該方法が、反応器の底部から外へ通じるラインで測定されることが好ましい第2の流れの密度に応じて、第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターを制御する工程を含む、方法。
【0078】
2.方法が、連続式又は半連続式である、実施形態1に記載の方法。
【0079】
3.1つ又は複数の質量流量パラメーターが、質量流量、質量流速、又は質量流量及び/又は質量流速に基づいて決定されるその他の任意のパラメーターである、実施形態1又は2に記載の方法。
【0080】
4.第2の流れの密度を測定して、測定された密度に基づいて1つ又は複数の制御変数を決定する工程、1つ又は複数の制御変数を1つ又は複数の基準値と比較して、1つ又は複数の制御量を決定する工程、及び1つ又は複数の制御量を使用して、1つ又は複数の作動信号を決定して、第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターを、好ましくは閉ループ制御システムを用いて、制御する工程を含む、実施形態1~3のいずれか一つに記載の方法。
【0081】
5.密度が、1つ又は複数のコリオリ質量流量計で測定される、実施形態1~4のいずれか一つに記載の方法。
【0082】
6.測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値と比較され、測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値を超える場合、第2の流れの質量流量及び/又は質量流速が、増やされる、実施形態1~5のいずれか一つに記載の方法。
【0083】
7.測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値と比較され、測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値未満である場合、第2の流れの質量流量及び/又は質量流速が、減らされる、実施形態1~6のいずれか一つに記載の方法。
【0084】
8.第2の流れの密度が、反応器の底部から外へ通じるラインの少なくとも1点で測定される、実施形態1~7のいずれか1つの実施形態に記載の方法。
【0085】
9.十分な混合が、混合ノズルを用いて行われる、実施形態1~8のいずれか一つに記載の方法。
【0086】
10.第1の流れ及び第2の流れが、後の反応器へと送られる、実施形態1~9のいずれか一つに記載の方法。
【0087】
11.ヒドロホルミル化生成物を含む第1の流れが、後の反応器の頂部で取り出され、水性相を含む第2の流れが、後の反応器の底部から取り出される、実施形態10に記載の方法。
【0088】
12.後の反応器の底部から外へ通じる少なくとも1つのラインを通って後の反応器の底部から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターが、後の反応器の底部から外へ通じるラインで測定されることが好ましい第2の流れの密度に応じて制御される、実施形態11に記載の方法。
【0089】
13.1つ又は複数の質量流量パラメーターが、質量流量、質量流速、又は質量流量及び/又は質量流速に基づいて決定されるその他の任意のパラメーターである、実施形態12に記載の方法。
【0090】
14.第2の流れの密度を測定して、測定された密度に基づいて1つ又は複数の制御変数を決定する工程、1つ又は複数の制御変数を1つ又は複数の基準値と比較して、1つ又は複数の制御量を決定する工程、及び1つ又は複数の制御量を使用して、1つ又は複数の作動信号を決定して、第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターを、好ましくは閉ループ制御システムを用いて、制御する工程を含む、実施形態12又は13に記載の方法。
【0091】
15.密度が、1つ又は複数のコリオリ質量流量計で測定される、実施形態12~14のいずれか一つに記載の方法。
【0092】
16.測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値と比較され、測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値を超える場合、第2の流れの質量流量及び/又は質量流速が、増やされる、実施形態12~15のいずれか一つに記載の方法。
【0093】
17.測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値と比較され、測定された第2の流れの密度が、第2の流れの密度についての所定の基準値未満である場合、第2の流れの質量流量及び/又は質量流速が、減らされる、実施形態12~16のいずれか一つに記載の方法。
【0094】
18.第2の流れの密度が、反応器の底部から外へ通じるラインの少なくとも1点で測定される、実施形態12~17のいずれか一つに記載の方法。
【0095】
19.コバルト(II)塩水溶液が一酸化炭素及び水素と密に接触されて、コバルト触媒を形成する触媒形成工程を含む、実施形態1~18のいずれか一つに記載の方法。
【0096】
20.コバルト触媒の形成、コバルト触媒の有機相への抽出、及びオレフィンのヒドロホルミル化が、ヒドロホルミル化の条件下の反応器内でコバルト(II)塩水溶液、一酸化炭素、水素、及びオレフィン、並びに任意選択で有機溶媒を互いに密に接触させることによって、同じ反応器内で互いに連携して行われる、実施形態1~19のいずれか一つに記載の方法。
【0097】
21.反応器から取り出された、又は後の反応器が設置されている場合には後の反応器から取り出された第1の流れ及び第2の流れが、コバルト(II)塩水溶液の存在下で酸素処理される方法であって、その酸素処理で、コバルト触媒が分解してコバルト(II)塩を形成し、コバルト(II)塩が水性相に抽出され、その後、2相が分離される、実施形態1~20のいずれか一つに記載の方法。
【0098】
22.水性相の一部が、反応器又は触媒形成工程にリサイクルされる、実施形態1~21のいずれか一つに記載の方法。
【0099】
23.相分離から取り出された水性相の質量流量及び/又は質量流速が、反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターに応じて、及び後の反応器が使用される場合には後の反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターにも応じて、制御される、実施形態21又は22に記載の方法。
【0100】
24.相分離から取り出された水性相の質量流量及び/又は質量流速が、反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターに応じて、及び後の反応器が使用される場合には後の反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターにも応じて、制御されることが、反応器及び相分離の異なる水分含量の動的デカップリングによって達成される、実施形態23に記載の方法。
【0101】
25.分散制御システム、好ましくは、PID制御装置を備える分散制御システムが、反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターを制御するのに使用され、及び後の反応器が使用される場合には後の反応器から取り出された第2の流れの1つ又は複数の質量流量パラメーターも制御するのに使用される、実施形態1~24のいずれか一つに記載の方法。
【0102】
26.分散制御システム、好ましくは、PID制御装置を備える分散制御システムが、相分離から取り出された水性相の質量流量及び/又は質量流速を制御するのにも使用される、実施形態25に記載の方法。
【0103】
27.1組の制御装置が、その他の制御装置と比較して遅く作動するように調整される、実施形態26に記載の方法。
【0104】
28.反応器内の水分含量、後の反応器が使用される場合には後の反応器内の水分含量、及び相分離の水分含量が、動的デカップリングを用いて制御される、実施形態21又は22に記載の方法。
【0105】
29.反応器内の温度が、100~250℃、特に145~200℃である、実施形態1~28のいずれか一つに記載の方法。
【0106】
30.後の反応器内の温度が、100~250℃、特に145~200℃である、実施形態1~29のいずれか一つに記載の方法。
【0107】
31.反応器内の支配的な圧力が、100~400bar abs、特に200~300bar absである、実施形態1~29のいずれか一つに記載の方法。
【0108】
32.後の反応器内の支配的な圧力が、100~400bar abs、特に200~300bar absである、実施形態10~30のいずれか一つに記載の方法。
【実施例】
【0109】
実施例は、本発明を限定するものではない。
【0110】
(実施例1)
図1によるプラントで実施される連続式の方法において、以下のパラメーターを設定した。
【0111】
【0112】
粗ヒドロホルミル化生成物(28)の収量は、12 400kg/hであった。
【0113】
(実施例2)
オクテンの連続的なヒドロホルミル化反応を行うため、実験室のミニプラントシステムを使用した。高圧ポンプを用いて、オレフィンを第1の撹拌反応器に供給した。高圧パイプラインから合成ガスを取り出した。反応器を約300barの圧力で運転した。
【0114】
触媒前駆体として、ギ酸コバルト1.8質量%を含む水溶液を、高圧ポンプを用いて反応器に供給した。(そのような条件下では、反応器内に存在する一酸化炭素は、触媒の配位子の役割を果たし、触媒は、反応器内のその場で生じ、水相から有機相へと移動する)。
【0115】
反応器の排出物を、より低い圧力の容器に供給し、空気を加えて触媒を酸化及び不活性化して、その触媒を有機相から水相へと取り除く。その酸化容器の排出物を、相分離器に供給する。相分離器への供給流量は、431~451g/hであった。そのうち約50g/hは、触媒溶液と一緒に反応器に供給された水であった。相分離器は加熱も断熱もされていなかったため、その内容物は均一な温度であった。相分離器では、水相は、底部に沈降して排出された。このミニプラントでは、水相を廃棄し、反応器にリサイクルしなかった。
【0116】
排出される流れの質量流量、温度、及び密度を測定し、報告するコリオリ質量流量計を相分離器から水を排出するために使用される管に設置した。密度制御装置に入力するプロセス変数として密度の測定値を使用して、水相を排出するために使用される管に設置したバルブを操作した。制御装置の密度の整定値を、所定の温度40~50℃での排出流の密度が2相領域になるように選択した。これにより、効果的にすべての水相を相分離器から確実に排出されるようになり、液面高さの測定は必要なかった。
【0117】
解析結果を毎日記録した。有機相及び水性相の量の決定は、相分離器の底部で排出された流れを収集し、よく分離した透明な2相を得るのに十分な時間、沈降させた後、それぞれの相の体積を測定することによって行った。Table 1(表2)は、この実験の結果を示す。
図2、
図3、及び
図4は、Table 1(表2)を基に、測定した密度及び密度の整定値、排出された混合物中の有機相の構成比、並びに排出された混合物の温度をそれぞれ示す。
【0118】
この実施例が示すのは、比較的高温の反応領域と比較的低温の水性相沈降領域間の温度差を決定できない場合でも、密度を制御して水性相を排出することにより、2相の所望の比の混合物を取り出し、それによって、望ましくないほどに多量の有機相を取り除くことなく、水性相を完全に取り除くことが可能であるということである。コバルト塩溶液の密度は、1kg/dm3を超えるため、密度の整定値をより大きくするのに十分な余地があり、また、商業プラントでは、解析が連続的に行われうるため、制御のフィードバックをより速く行うことが可能であり、商業反応器から取り出される有機相の量は、ミニプラントと比較して更に少なくできる。
【0119】
【符号の説明】
【0120】
1 反応器
2 ポンプ
3 ノズル
4 オキソガス
5 オレフィン
6 コバルト(II)塩水溶液
7 制御
8 質量流量制御装置
9 バルブ
10 ライン
11 差圧調整器
12 ライン
13 後の反応器
14 制御装置
15 質量流量制御装置
16 バルブ
17 ライン
18 制御バルブ
19 ライン
20 高温減圧容器
21 ライン
22 ポンプ
23 ライン
24 コンプレッサー
25 ライン
26 相分離器
27 ライン
28 生成物のライン
29 オフガスのライン
30 水のライン
31 液面調節器
32 バルブ
33 水の質量流量制御装置
34 バルブ
35 有機物の質量流量制御装置
36 液面調節器
37 バルブ
38 流量制御装置
【国際調査報告】