(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】ウイルスの形質導入効率の向上
(51)【国際特許分類】
C12N 15/87 20060101AFI20230516BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230516BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20230516BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20230516BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230516BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20230516BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
C12N5/10
C12N15/86 Z
A61K35/12
A61K48/00
A61K35/15
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560401
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(85)【翻訳文提出日】2022-10-03
(86)【国際出願番号】 US2021025550
(87)【国際公開番号】W WO2021202980
(87)【国際公開日】2021-10-07
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500287639
【氏名又は名称】ミレニアム ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MILLENNIUM PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】ムーア、ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】ファチン、ファビオ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065BD15
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA20
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA20
(57)【要約】
本開示は、とりわけ、遺伝子改変細胞を操作する方法が提供され、収集チャンバに細胞を維持すること、細胞をウイルス粒子または非ウイルス粒子を含む組成物の流体の流れと接触させること、それによって遺伝子改変細胞を操作することを含む。本開示はまた、とりわけ、遺伝子改変細胞を操作する方法が提供され、細胞を遠心力に供すること、細胞をウイルス粒子または非ウイルス粒子を含む組成物の流体の流れと接触させること、それによって遺伝子改変細胞を操作することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子改変細胞を操作する方法であって、
収集チャンバの前記細胞を維持すること、
ウイルス粒子または非ウイルス粒子を含む組成物の流体の流れと前記細胞を接触させ、それによって遺伝子改変細胞を操作すること、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記収集チャンバ内に前記細胞を維持することは、前記細胞を遠心力に供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
遺伝子改変細胞を操作する方法であって、
前記細胞を遠心力に供すること、
ウイルス粒子または非ウイルス粒子を含む組成物の流体の流れと前記細胞を接触させ、それによって遺伝子改変細胞を操作すること、を含む、前記方法。
【請求項4】
前記遠心力が、前記細胞を細胞床に維持するのに十分である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記流体の流れの方向が前記遠心力の方向と逆である、請求項1または3に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物の前記流体の流れが、前記細胞を前記細胞床から移動させることなく前記ウイルス粒子または非ウイルス粒子を循環させるのに十分である、請求項1または3に記載の方法。
【請求項7】
前記ウイルス粒子または非ウイルス粒子を含む前記組成物を再循環させることを含む、請求項1または3に記載の方法。
【請求項8】
遺伝子改変細胞を操作する方法であって、
前記細胞を遠心力に供すること、
ウイルス粒子または非ウイルス粒子の流体の流れの方向が前記遠心力の方向と反対になるように、前記細胞を前記流体の流れと接触させることであって、前記流体の流れは、前記細胞を細胞床に維持するのに十分である、前記接触させること、及び
前記ウイルス粒子または非ウイルス粒子を前記収集チャンバに循環させ、それによって遺伝子改変細胞を操作すること、を含む、前記方法。
【請求項9】
前記収集チャンバが、開口部と、前記開口部の反対側の出口オリフィスとを含み、前記流体組成物の向流及び再循環を促進する、請求項1、3または8に記載の方法。
【請求項10】
前記遠心力が約20×g~3000×gである、請求項2、3または8に記載の方法。
【請求項11】
前記流体の流れが一定の流量である、請求項1、3または8に記載の方法。
【請求項12】
前記一定の流量が1ml/分~100ml/分である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記流体の流れがパルス状の流量である、請求項1、3または8に記載の方法。
【請求項14】
形質導入またはトランスフェクション段階及びウイルスまたは非ウイルス粒子交換段階の反復サイクルを含む、請求項1、3または8に記載の方法。
【請求項15】
前記形質導入段階が、0~50×gの遠心力、及び0~10ml/分の向流の流量を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ウイルス交換段階が、1500~3500×gの遠心力及び20~100ml/分の向流の流量を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ウイルス粒子または非ウイルス粒子が、外来核酸を哺乳動物細胞に導入することができる粒子を含む、請求項1、3または8に記載の方法。
【請求項18】
前記ウイルス粒子または非ウイルス粒子がウイルスベクター粒子である、請求項1、3または8に記載の方法。
【請求項19】
前記ウイルスベクターが、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、またはハイブリッドウイルスに由来する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ウイルス粒子または非ウイルス粒子が非ウイルス粒子である、請求項1、3または8に記載の方法。
【請求項21】
前記非ウイルス粒子が、リポソーム、脂質粒子、炭素、非反応性金属、ゼラチン、及び/またはポリアミンナノスフェアを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞がB細胞、T細胞、NK細胞、単球、または前駆細胞である、請求項1、3または8に記載の方法。
【請求項23】
自動閉鎖系で実施される、請求項1、3または8に記載の方法。
【請求項24】
向流遠心分離システムで実施される、請求項1、3または8に記載の方法。
【請求項25】
請求項1、3または8のいずれか1項に記載の方法によって産生された細胞の集団。
【請求項26】
請求項1、3または8のいずれか1項に記載の方法によって産生された細胞を含む医薬組成物。
【請求項27】
請求項1、3または8のいずれか1項に記載の方法により遺伝子改変細胞を操作することを含む、細胞の集団を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年4月3日に出願された米国特許仮出願第63/004,979号に基づく優先権を主張するものであり、その仮出願の開示は、参照により、本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
細胞療法は、患者の細胞に治療用遺伝子を導入するための送達媒体(ベクター)として、安全性と機能性のために改変されたウイルス粒子を使用して、自然の形質導入プロセスを利用する。ウイルスベクター形質導入は、現在、治療用遺伝子材料を導入するための細胞療法の製造で、最も頻繁に使用される方法である。
【0003】
現在の製造用の形質導入プロセスは、ウイルスベクターの使用において労働集約的で非効率的であり、細胞療法の製造コストが高くなり、これらの療法の産出に必要な時間が長くなる原因となっている。したがって、現在の最先端の製造用形質導入プロセスには重大な制限がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明者らは、驚くべきことに、現在の最先端の方法の制限を回避する、細胞のベクターベースの形質導入のためのアプローチについて着想し、考案した。本開示は、例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、及び他のウイルス及び非ウイルス粒子の両方に適用できる自動化された高効率の細胞形質導入を可能にする向流遠心分離法などのフロースルー、向流システムを提供する。
【0005】
一態様では、遺伝子改変細胞を操作する方法が提供され、収集チャンバに細胞を維持し、ウイルス粒子または非ウイルス粒子を含む組成物の流体の流れと細胞を接触させ、それによって遺伝子改変細胞を操作することを含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、細胞を収集チャンバに維持することは、細胞を遠心力に供することを含む。
【0007】
一態様では、遺伝子改変細胞を操作する方法が提供され、細胞を遠心力に供し、細胞をウイルス粒子または非ウイルス粒子を含む組成物の流体の流れと接触させ、それによって遺伝子改変細胞を操作することを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、遠心力は、細胞を細胞床に維持するのに十分である。
【0009】
いくつかの実施形態では、流体の流れの方向は、遠心力の方向と反対である。
【0010】
いくつかの実施形態では、組成物の流体の流れは、細胞を細胞床から移動させることなく、ウイルス粒子または非ウイルス粒子を循環させるのに十分である。
【0011】
いくつかの実施形態では、ウイルス粒子または非ウイルス粒子を含む組成物を再循環させる。
【0012】
一態様では、遺伝子改変細胞を操作する方法が提供され、この方法は、細胞を遠心力に供し、細胞をウイルス粒子または非ウイルス粒子の流体の流れと接触させて、流体の流れの方向が遠心力の方向と反対になるようにし、流体の流れは、細胞を細胞床に維持するのに十分であり、ウイルス粒子または非ウイルス粒子を収集チャンバを通して循環させ、それによって遺伝子改変細胞を操作することを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、収集チャンバは、流体組成物の向流及び再循環を促進するために、開口部及び開口部の反対側の出口オリフィスを含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、遠心力は約20×g~3000×gである。例えば、いくつかの実施形態では、遠心力は約20×g、50×g、100×g、200×g、300×g、400×g、500×g、600×g、700×g、800×g、900×g、1000×g、1250×g、1500×g、1750×g、2000×g、2250×g、2500×g、2750×g、3000×gである。
【0015】
いくつかの実施形態では、流体の流れは一定の流量である。
【0016】
いくつかの実施形態では、一定の流量は1ml/分~150ml/分である。いくつかの実施形態では、一定の流量は1ml/分~100ml/分である。例えば、いくつかの実施形態では、一定の流量は約1ml/分、5ml/分、10ml/分、15ml/分、20ml/分、25ml/分、30ml/分、35ml/分、40ml/分、45ml/分、50ml/分、55ml/分、60ml/分、65ml/分、70ml/分、75ml/分、80ml/分、85ml/分、90ml/分、95ml/分、100ml/分、105ml/分、110ml/分、115ml/分、120ml/分、125ml/分、130ml/分、135ml/分、140ml/分、145ml/分または150ml/分である。
【0017】
いくつかの実施形態では、流体の流れはパルス状の流量である。
【0018】
いくつかの実施形態では、方法は、形質導入またはトランスフェクション段階及びウイルスまたは非ウイルス粒子交換段階の反復サイクルを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、形質導入段階は、0~50×gの遠心力及び0~10ml/分の向流の流量を含む。例えば、いくつかの実施形態では、遠心力は、約0×g、2.5×g、5.0×g、10×g、15×g、20×g、25×g、30×g、35×g、40×g、45×g、または50×gである。いくつかの実施形態では、向流流量は約0mL/分、1mL/分、2mL/分、3mL/分、4mL/分、5mL/分、6mL/分、7mL/分、8mL/分、9mL/分、または10ml/分である。
【0020】
いくつかの実施形態では、ウイルス交換段階は、1500~3500×gの遠心力及び20~150ml/分の向流の流量を含む。いくつかの実施形態では、ウイルス交換段階は、1500~3500×gの遠心力及び20~100ml/分の向流の流量を含む。例えば、いくつかの実施形態では、ウイルス交換段階は、約1500×g、1750×g、2000×g、2250×g、2500×g、2750×g、3000×g、3250×g、または3500×gの遠心力を含む。いくつかの実施形態では、向流の流量は約20mL/分、25mL/分、30mL/分、35mL/分、40mL/分、45mL/分、50mL/分、55mL/分、60mL/分、65mL/分、70mL/分、75mL/分、80mL/分、85mL/分、90mL/分、95mL/分、100ml/ml、105mL/分、110mL/分、115mL/分、120mL/分、125mL/分、130mL/分、135mL/分、140mL/分、145ml/分または150ml/分である。
【0021】
いくつかの実施形態では、ウイルス粒子または非ウイルス粒子は、外来核酸を哺乳動物細胞に導入することができる粒子を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、ウイルス粒子または非ウイルス粒子はウイルスベクター粒子である。
【0023】
いくつかの実施形態において、ウイルスベクターは、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、またはハイブリッドウイルスに由来する。
【0024】
いくつかの実施形態では、ウイルス粒子または非ウイルス粒子は非ウイルス粒子である。
【0025】
いくつかの実施形態では、非ウイルス粒子が、リポソーム、脂質粒子、炭素、非反応性金属、ゼラチン、及び/またはポリアミンナノスフェアを含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、細胞は、B細胞、T細胞、NK細胞、単球または前駆細胞である。
【0027】
いくつかの実施形態では、この方法は、自動閉鎖系で実施される。
【0028】
いくつかの実施形態では、この方法は向流遠心分離システムで実施される。
【0029】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法によって産生される細胞集団が提供される。
【0030】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法によって産生された細胞を含む薬学的組成物が提供される。
【0031】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法によって遺伝子改変細胞を操作することを含む、細胞の集団を製造する方法が提供される。
【0032】
本発明の様々な態様は、以下のセクションにおいて詳細に記載される。セクションの使用は、本発明を限定するものではない。各セクションは、本発明の任意の態様に適用できる。本出願において、「または」の使用は、別途記載のない限り、「及び/または」を意味する。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が別段であると明確に指示しない限り、単数及び複数の指示対象を両方とも含む。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】標準的な静的条件でのウイルス形質導入を示す。
【
図3】ウイルスベクター数の増加に伴う形質導入率の改善戦略を示す。
【
図4】標的細胞数の増加に伴って形質導入率を改善する戦略を示している。
【
図5】K、B
R、及びE
Rの1つまたは複数の増加によって形質導入率を改善する戦略を示す。
【
図6】形質導入チャンバの体積を減少させることによって形質導入速度を改善する戦略を示す。
【
図8】Aは、ウイルス形質導入のための静的システムを示す。Bは、ウイルス形質導入における化学エンハンサーの適用を示す。Cは、ウイルス形質導入におけるスピノキュレーションの適用を示す。
【
図9】Aは、輸送主導型ウイルス形質導入アプローチを示す。Bは、物理的閉じ込めウイルス形質導入アプローチを示す。Cは、ウイルスの形質導入における輸送主導型アプローチと物理的閉じ込めアプローチを併用したアプローチを示している。
【
図11】向流遠心分離システムにおける形質導入プロセスを示す。
【
図12】Aは、ウイルスの形質導入における一定のベクターの流れのアプローチを示す。Bは、ウイルスの形質導入におけるパルス状のベクターの流れのアプローチを示す。
【
図14】a)一晩の静的対照条件、b)90分間の静的対照条件、及びc)90分間の向流遠心分離条件という3つの異なる条件下で達成された形質導入率を試験及び比較するための実験計画を示す。
【
図15】a)一晩の静的対照条件、b)90分間の静的対照条件、及びc)0日目(形質導入前、形質導入後)、1日目、及び5日目の90分間の向流遠心分離条件という3つの異なる条件下での細胞生存率を示す。
【
図16】a)一晩の静的対照条件、b)90分間の静的対照条件、及びc)90分間の向流遠心分離条件という3つの異なる条件下で達成された形質導入率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
定義
養子細胞療法:本明細書で使用される場合、「養子細胞療法」、「養子細胞移植」または「ACT」という用語は、細胞の移植を必要とする患者への細胞の移植を指す。細胞は、それを必要としている患者から得て増殖させることができ、または患者以外のドナーから得られた可能性もある。いくつかの実施形態では、細胞は、リンパ球などの免疫細胞である。例えば、T細胞、CD8+細胞、CD4+細胞、NK細胞、デルタガンマT細胞、制御性T細胞及び末梢血単核細胞などの様々な細胞型をACTに使用することができる。いくつかの実施形態において、細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)を導入するために遺伝子改変される。
【0035】
動物:本明細書で使用される場合、「動物」という用語は、動物界の任意のメンバーを指す。いくつかの実施形態では、「動物」は、発達の任意の段階にあるヒトを指す。いくつかの実施形態では、「動物」は、発達の任意の段階における非ヒト動物を指す。ある特定の実施形態では、非ヒト動物は哺乳動物(例えば、齧歯類、マウス、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、霊長類、及び/またはブタ)である。いくつかの実施形態では、動物は、哺乳動物、鳥類、爬虫類、両生類、魚、昆虫、及び/またはワームを含むがそれらに限定されない。いくつかの実施形態では、動物は、トランスジェニック動物、操作された動物、及び/またはクローンであることがある。
【0036】
およそまたは約:本明細書で使用する場合、1つ以上の目的の値に適用される通り、用語「およそ」または「約」は、述べられた基準値と類似する値を指す。ある特定の実施形態において、「およそ」または「約」という用語は、別途記載のない限り、あるいは別様に前後関係から明白な場合を除いて、表示された参照値のいずれかの方向の(参照値を上回るかまたは下回る)25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、もしくはそれ未満の範囲内に含まれる値域を指す(この数が可能な値の100%を超える場合を除く)。
【0037】
宿主細胞または標的細胞:本明細書で使用される場合、「宿主細胞」または「標的細胞」という用語は、トランスフェクトも感染も形質導入もされていない細胞を含む。いくつかの実施形態では、「宿主細胞」または「標的細胞」という用語は、本発明の組換えベクターまたはポリヌクレオチドでトランスフェクト、感染、または形質導入されたものを含む。宿主細胞には、パッケージング細胞、プロデューサー細胞、及びウイルスベクターに感染した細胞が含まれる場合がある。特定の実施形態では、本発明のウイルスベクターに感染した宿主細胞は、治療を必要とする対象に投与するのに適している。いくつかの実施形態では、標的細胞は幹細胞または前駆細胞である。ある特定の実施形態では、標的細胞は体細胞、例えば、成体幹細胞、前駆細胞、または分化細胞である。好ましい実施形態では、標的細胞は造血細胞、例えば造血幹細胞または前駆細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞には、B細胞、T細胞、NK細胞、単球または前駆細胞が含まれる。好ましい実施形態では、標的細胞はT細胞である。いくつかの実施形態では、標的細胞は、哺乳動物の細胞、昆虫の細胞、細菌の細胞、または真菌の細胞である。
【0038】
機能的等価物または派生物:本明細書で使用される場合、「機能的等価物」または「機能的派生物」という用語は、アミノ酸配列の機能的派生物の文脈において、元の配列のものに実質的に類似する生物学的活性(機能または構造のいずれか)を保持する分子を意味する。機能的派生物または等価物は、天然の派生物であってもよいし、合成的に調製されたものであってもよい。例示的な機能的派生物には、タンパク質の生物学的活性が保存されているという条件で、1つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失、または付加を有するアミノ酸配列が含まれる。置換アミノ酸は、置換アミノ酸と同様の化学物理特性を有することが望ましい。望ましい類似の化学物理特性には、電荷、かさ高さ、疎水性、親水性などの類似性が含まれる。
【0039】
インビトロ:本明細書で使用する場合、「インビトロ」という用語は、多細胞生物の内部ではなく人工的な環境、例えば、試験管内または反応容器内、細胞培養内などで生じる事象を指す。
【0040】
インビボ:本明細書で使用される場合、「インビボ」という用語は、ヒト及びヒト以外の動物などの多細胞生物内で起こる事象を指す。細胞ベースのシステムの文脈では、この用語は、生細胞内で発生する事象を指すために使用される場合がある(例えば、インビトロのシステムとは対照的に)。
【0041】
非ウイルス粒子:本明細書で使用するとき、「非ウイルス粒子」という用語は、核酸を細胞に導入するために使用される非ウイルス担体、例えば、リポソーム、脂質粒子、炭素、非反応性金属、ゼラチン及び/またはポリアミンナノスフェアを含む。
【0042】
初代細胞:「初代細胞」という用語は、対象から直接単離され、その後増殖される細胞を指す。
【0043】
ポリペプチド:本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸の連続鎖を指す。この用語は、任意の長さのアミノ酸鎖を指すために使用されるが、当業者は、この用語が、長い鎖に限定されないこと、及びペプチド結合を介して連結された2つのアミノ酸を含む最小鎖を指すこともあることを理解するであろう。当業者に既知のように、ポリペプチドは加工されていても及び/または修飾されていてもよい。
【0044】
タンパク質:本明細書で使用される場合、「タンパク質」という用語は、別個の単位として機能する1つまたは複数のポリペプチドを指す。単一のポリペプチドが別個の機能単位であり、別個の機能単位を形成するために他のポリペプチドとの永続的または一時的な物理的結合を必要としない場合、「ポリペプチド」と「タンパク質」という用語は交換可能に使用され得る。別個の機能単位が、互いに物理的に会合する複数のポリペプチドから構成される場合、「タンパク質」という用語は、物理的に結合され、別個の単位として一緒に機能する複数のポリペプチドを指す。
【0045】
対象:本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、ヒトまたは任意の非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、または霊長類)を指す。ヒトは、出生前及び出生後の形態を含む。多くの実施形態では、対象はヒトである。対象は、患者であり得、患者は、疾患の診断または治療のために医療提供者を訪れるヒトを指す。「対象」という用語は、本明細書において、「個体」または「患者」と互換的に使用される。対象は、疾患もしくは障害に苦しんでいる可能性があるかまたはそれらにかかりやすいが、疾患または障害の症状を表してもまたは表さなくてもよい。
【0046】
実質的に:本明細書で使用される場合、「実質的に」という用語は、対象とする特徴もしくは性質のすべてまたはほぼすべての範囲もしくは程度を表す定性的状態を指す。生物学分野における当業者には、生物学的及び化学的な現象が、あるとしてもめったに完全にまで至らないか及び/または完全性まで進まないかあるいは確かな結果に達しないまたはそれを回避しないものと理解されよう。「実質的に」という用語は、したがって、多くの生物学的及び化学的な現象に内在する潜在的な完全性の欠如を表現するために使用される。
【0047】
罹患している:疾患、障害、及び/または状態に「罹患している」個体は、疾患、障害、及び/または状態の1つ以上の症状があると診断されているか、またはそれらを示す。
【0048】
治療的有効量:本明細書で使用される場合、治療剤の「治療的有効量」という用語は、疾患、障害及び/または状態に罹患しているかまたはそれらにかかりやすい対象へ投与するときに、疾患、障害及び/または状態の症状の発現を治療、診断、予防及び/または遅延させるために十分な量を意味する。治療的有効量は典型的に、少なくとも1回用量を含む投与計画によって投与されるものであることが当業者にはわかるであろう。
【0049】
治療すること:本明細書で使用する場合、「治療する」、「治療」または「治療すること」という用語は、特定の疾患、傷害及び/または状態の1つ以上の症状もしくは特徴を部分的にまたは完全に軽減、改善、緩和、阻害もしくは予防するために、それらの開始を遅らせるために、その重症度を軽減するために、及び/またはそれらの発生率を低下させるために用いられる任意の方法を指す。治療は、疾患に関連する病状の発症リスクを低下させる目的で、疾患の兆候を示さない及び/または疾患の初期兆候のみを示す対象へも施されてよい。
【0050】
ベクター:本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、任意の担体と任意の外来遺伝子(複数可)の組み合わせを意味する。ベクターには、とりわけ、非ウイルスベクター、ウイルスベクター、及びそれらの任意の組み合わせが含まれ得る。例えば、非ウイルスベクターには、とりわけ、リポソーム、スフェロプラスト、赤血球ゴースト、コロイド金属、リン酸カルシウム、DEAEデキストランプラスミド、またはそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。ウイルスベクターには、とりわけ、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、シュードタイプベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ハイブリッドウイルス、及びそれらの任意の組み合わせが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0051】
形質導入:本明細書で使用される場合、「形質導入」という用語は、外来のDNAがウイルスベクターを介して別の細胞に導入されるプロセスを意味する。様々なウイルスベクターが当技術分野で知られており、例えば、とりわけ、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、シュードタイプベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、及びそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0052】
トランスフェクション:本明細書で使用される場合、「トランスフェクション」という用語は、非ウイルス法によって核酸を細胞に導入するプロセスを意味する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、目的の細胞のトランスフェクションに適している。
【0053】
本明細書におけるエンドポイントによる数値範囲の列挙は、その範囲内に含まれるすべての数及び分数を含む(例えば、1~5には、1、1.5、2、2.75、3、3.9、4及び5が含まれる)。すべての数字及びその分数は、「約」という用語によって修飾されると推定されることも理解されるべきである。
【0054】
本発明の様々な態様は、以下のセクションにおいて詳細に記載される。セクションの使用は、本発明を限定するものではない。各セクションは、本発明の任意の態様に適用できる。本出願において、「または」の使用は、別途記載のない限り、「及び/または」を意味する。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が別段であると明確に指示しない限り、単数及び複数の指示対象を両方とも含む。
【0055】
詳細な説明
本発明者らは、驚くべきことに、例えば、レンチウイルス、レトロウイルスの両方、及び他のウイルス及び非ウイルス粒子に適用できる自動化された高効率の細胞形質導入を可能にする向流遠心分離法などのフロースルー、向流システムを使用して細胞を形質導入する非常に効率的な方法を発見した。本明細書に記載の方法は、現在の最先端の方法の制限を回避するベクターベースの形質導入へのアプローチを提供する。
【0056】
細胞療法におけるウイルス形質導入
現在の最先端技術
形質導入は、ウイルスが宿主生物の細胞に感染するプロセスである。ウイルスは自然に形質導入プロセスを経て、遺伝物質を標的細胞に非常に効率的に導入するように進化してきた。形質導入が発生するには、ウイルス粒子が標的細胞と物理的に接触して、最初に標的細胞に結合し、侵入し、最終的に遺伝物質を標的細胞に統合せねばならない。結合は、ウイルスと標的細胞の両方に必要な正しいタンパク質との特定のタンパク質間相互作用によって発生する。
【0057】
細胞療法は、患者の細胞に治療用遺伝子を導入するための送達媒体(ベクター)として、安全性と機能性のために改変されたウイルス粒子を使用して、自然の形質導入プロセスを利用する。ウイルスベクター形質導入は、現在、治療用遺伝子材料を導入するための細胞療法の製造で最も頻繁に使用される方法である。
【0058】
ウイルスの形質導入に対する現在の業界のアプローチには、静的形質導入システム、化学エンハンサーの使用、及びスピノキュレーションが含まれる。これらの現在の業界のアプローチのそれぞれについて、以下でさらに説明する。
【0059】
静的条件下でのウイルス形質導入は、ウイルス形質導入が現在行われている中で最も一般的な方法である。標準的な静的形質導入法では、ほとんどの形質導入は静的培養条件下で、標準的な培養フラスコまたはバッグで行われる。このようにすると、ウイルスベクターは、単一細胞の直径よりも約100~1000倍深くあり得る培地に懸濁される。標準的な静的方法を使用した形質導入は、細胞の非効率的な形質導入をもたらす様々な問題に直面する。例えば、静的方法を使用することは、懸濁液に残り、標的細胞に到達できない小さなベクター粒子が存在することに至る。これは、少なくとも、大きな細胞が培養容器の床にすぐに沈降するためである。形質導入に静置培養法を使用した最終的な結果は、ベクター粒子のごく一部のみが拡散だけで細胞に到達できるということである。その結果、形質導入の効率が悪く、かなりの細胞の形質導入を達成するには、ベクターの量を多数にする必要がある。これは、標的細胞へのウイルスベクターの結合が、受容体/リガンドの発現と身体的接触によって決定されるためである。したがって、形質導入の比率は、特定の細胞のウイルスの局所的な濃度に比例する。
【0060】
細胞の形質導入の別の標準的な方法は、細胞へのベクターの結合率を順次増加させる化学エンハンサーの使用を伴う。しかし、化学エンハンサーに依存する方法の使用は高額であり、化学エンハンサーの除去は製造プロセスにおける追加の障壁を作り出す。
【0061】
細胞の形質導入のための別の標準的な方法は、スピノキュレーションの使用である。スピノキュレーションとは、遠心力利用の細胞の接種を指す。スピノキュレーションは、細胞が占める体積を減らす。この手法には、例えば細胞への損傷、スケールアップの難しさなどの様々な否定的な側面があることが示されており、一般に、小さなベクターにはあまり効果がない。
【0062】
フロースルー、向流システムを使用した細胞形質導入
本開示は、ベクターと標的細胞との間の接触を増加させることによって細胞の形質導入効率を著しく増加させる方法を提供する。このようにして、大量の細胞が、細胞の効率的な形質導入を可能にする十分な濃度のベクターにさらされる。これにより、ベクターの無駄を同時に最小限に抑えながらも、細胞に形質導入する時間を短縮するに至る。したがって、本開示は、細胞の高い形質導入を達成するために使用されるベクターの総量を減らす方法を提供する。したがって、一態様では、本明細書に記載の方法は、従来の形質導入システムと比較して、低コストで効率的な細胞の形質導入を達成する。本明細書に開示される方法のさらなる利点には、形質導入細胞の量の増加、形質導入プロセスの間に消費されるウイルスの減少、処理時間の短縮、及び製造コストの削減が含まれる。これは、少なくともこの方法により処理時間が短縮されてより有効な治療法が作成されることから、患者に順次利益をもたらす。
【0063】
本明細書に記載の方法は、流体の流れを使用して効率的な細胞の形質導入を達成する。流体の流れを使用すると、拡散の長さが短縮され、拡散が防止される。これらはそれぞれ、ウイルスの形質導入効率の向上に寄与する。
【0064】
いくつかの態様で、遺伝子改変細胞を操作する方法が提供され、収集チャンバ内に細胞を維持し、細胞をウイルス粒子または非ウイルス粒子を含む組成物の流体の流れと接触させ、それによって遺伝子改変細胞を操作することを含む。いくつかの実施形態では、収集チャンバは、流体組成物の向流及び再循環を促進するために、開口部及び開口部の反対側の出口オリフィスを含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、本明細書の方法は向流遠心分離システムを使用する。向流遠心分離システムは、一般に、遠心分離と流体の流れとのバランスをとって細胞を捕捉及び封じ込めることにより、哺乳動物細胞を濃縮及び洗浄するように設計されている。向流遠心分離システムは、細胞をペレット化するのではなく、収集チャンバ内で連続的に移動できるようにする。細胞の形質導入に使用される例示的な向流遠心分離システムが
図11に示されている。いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムは、単一バッチで約5×10
9個の細胞を可能にする。したがって、いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムは、約1×10
9個の細胞、2×10
9個の細胞、3×10
9個の細胞、4×10
9個の細胞、5×10
9個の細胞、6×10
9個の細胞、または7×10
9個の細胞を可能にする。
【0066】
いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムは、単一のバッチで5×109個を超える細胞を可能にする。いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムは、単一バッチに5×109個未満の細胞を含む。
【0067】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、自動化されて複数の実行を達成する。いくつかの実施形態では、複数の実行が5×109個を超える細胞に対応する。
【0068】
いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムは、ラウンド当たり約5~10mLの収穫量を有する。したがって、いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムは、1回の実行あたり、約3mL、4mL、5mL、6mL、7mL、8mL、9mL、10mL、11mL、または12mLの収穫量を有する。
【0069】
いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムは、約80から100mL/分の間の速度で実行される。したがって、いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムは、約70mL/分、75mL/分mL/分、80mL/分、85mL/分、90mL/分、95mL/分、100mL/分、105mL/分、または110mL/分の速度で実行される。
【0070】
いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムは、約4から6L/時の間で流れる。したがって、いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムは、約3L/時、3.5L/時、4.0L/時、4.5L/時、5.0L/時、6.0L/時、6.5L/時、または7.0L/時で流れる。
【0071】
理論に束縛されることを望むものではないが、本明細書に記載の方法の向流遠心分離システムは、向流遠心分離を使用して標的細胞を高密度の細胞床に濃縮する。ベクター粒子は小さすぎて遠心力の影響を受けず、流体の流れの中で細胞床を通って駆動され、そこで結合して標的細胞に入る。システムを介したベクター粒子の再循環により、ベクター粒子が標的細胞に遭遇して結合する複数の機会が可能になる。いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムは、閉鎖系で自動化されて形質導入を行う。閉鎖系は、ベクターの連続循環を可能にし、それによってベクターと細胞との接触を増加させる。細胞の形質導入における向流遠心分離システムの使用を図解する例示的な模式図を
図11に示す。
【0072】
いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムにおける遠心力は、約20×g~3000×gである。例えば、いくつかの実施形態では、遠心力は約20×g、50×g、100×g、200×g、300×g、400×g、500×g、600×g、700×g、800×g、900×g、1000×g、1250×g、1500×g、1750×g、2000×g、2250×g、2500×g、2750×g、3000×gである。
【0073】
いくつかの実施形態では、流体の流れは一定の流量である。
【0074】
いくつかの実施形態では、一定の流量は、1ml/分~150ml/分の間である。いくつかの実施形態では、一定の流量は、1ml/分~100ml/分である。いくつかの実施形態では、一定の流量は、1ml/分~10ml/分である。例えば、いくつかの実施形態では、一定の流量は、約1ml/分、5ml/分、10ml/分、15ml/分、20ml/分、25ml/分、30ml/分、35ml/分、40ml/分、45ml/分、50ml/分、55ml/分、60ml/分、65ml/分、70ml/分、75ml/分、80ml/分、85ml/分、90ml/分、95ml/分、100ml/分、105ml/分、110ml/分、115ml/分、120ml/分、125ml/分、130ml/分、135ml/分、140ml/分、145ml/分、または150ml/分である。
【0075】
いくつかの実施形態では、流体の流れはパルス状の流量である。いくつかの実施形態では、方法は、形質導入またはトランスフェクション段階及びウイルスまたは非ウイルス粒子交換段階の反復サイクルを含む。
【0076】
いくつかの実施形態では、形質導入段階は、0~50×gの遠心力及び0~10ml/分の向流の流量を含む。いくつかの実施形態では、向流の流量は約0~5ml/分である。例えば、いくつかの実施形態では、遠心力は、約0×g、2.5×g、5.0×g、10×g、15×g、20×g、25×g、30×g、35×g、40×g、45×g、または50×gである。いくつかの実施形態では、向流流量は約0mL/分、1mL/分、2mL/分、3mL/分、4mL/分、5mL/分、6mL/分、7mL/分、8mL/分、9mL/分、または10ml/分である。
【0077】
いくつかの実施形態では、ウイルス交換段階は、1500~3500×gの遠心力及び20~150ml/分の向流の流量を含む。いくつかの実施形態では、ウイルス交換段階は、1500~3500×gの遠心力及び20~100ml/分の向流の流量を含む。いくつかの実施形態では、向流流量は約30~100ml/分である。例えば、いくつかの実施形態では、ウイルス交換段階は、約1500×g、1750×g、2000×g、2250×g、2500×g、2750×g、3000×g、3250×g、または3500×gの遠心力を含む。いくつかの実施形態では、向流の流量は約20mL/分、25mL/分、30mL/分、35mL/分、40mL/分、45mL/分、50mL/分、55mL/分、60mL/分、65mL/分、70mL/分、75mL/分、80mL/分、85mL/分、90mL/分、95mL/分、100ml/ml、105mL/分、110mL/分、115mL/分、120mL/分、125mL/分、130mL/分、135mL/分、140mL/分、145ml/分または150ml/分である。
【0078】
いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムと共に一定のベクターの流れのアプローチが使用される。一定のベクターの流れのアプローチを使用することには、形質導入期間を通じて低流量ベクターの一定の循環が伴う。流れは、ベクター粒子が細胞に結合できるように十分に遅いものである。ベクターを循環させて、ベクターが細胞に結合する機会を複数回可能にする。
【0079】
いくつかの実施形態では、向流遠心分離システムと共にパルス状のベクターの流れのアプローチが使用される。パルス状のベクターの流れアプローチを使用すると、流れが低い長期間/流れのない長期間が数サイクル伴い、それに、高い流量の短いバーストが続き、収集チャンバ内のベクターを置き換える。さらに、流れが低い/流れのないことは、ベクターが効率的に結合して標的細胞に入るのに十分な長さである。高流量期間は、結合していないベクターでチャンバを補充する。ベクターはまた、損失を回避し、ベクターと細胞が結合する複数の機会を得るべく循環される。
【0080】
いくつかの実施形態では、標的細胞を収集チャンバ内に維持し、標的細胞をウイルス粒子または非ウイルス粒子を含む組成物の流体の流れと接触させ、それによって遺伝子改変細胞を操作する。それに応じて、いくつかの実施形態では、標的細胞をウイルス粒子と接触させる。いくつかの実施形態では、標的細胞を非ウイルス粒子と接触させる。
【0081】
様々な種類のウイルス粒子が当技術分野で知られており、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、シュードタイプベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ハイブリッドウイルスなど、及びそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0082】
様々な種類の非ウイルス粒子が当技術分野で知られている。いくつかの実施形態では、遺伝子改変細胞を操作するために非ウイルス粒子が使用される。非ウイルス粒子の例には、例えば、リポソーム、脂質粒子、炭素、非反応性金属、ゼラチン、及び/またはポリアミンナノスフェアが含まれる。非ウイルス粒子の追加の例には、例えば、スフェロプラスト、赤血球ゴースト、コロイド金属、リン酸カルシウム、DEAEデキストランプラスミドなど、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0083】
いくつかの実施形態では、細胞を遺伝子操作する方法は、形質導入を介して実施される。
【0084】
いくつかの実施形態では、細胞を遺伝子操作する方法は、非ウイルス粒子を用いたトランスフェクションを介して実施される。
【0085】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、静的形質導入法またはスピノキュレーション法などの標準的な形質導入方法論と比較して、標的細胞の形質導入を達成するための時間を短縮することを可能にする。
【0086】
形質導入細胞の使用
本明細書に記載の方法を使用して形質導入された細胞は、形質導入された細胞が有することができる任意の目的のために、形質導入された細胞を使用することを可能にする。形質導入された細胞は、高い生存率を維持し(例えば、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%を超える)、また、養子細胞療法での適用などの細胞療法目的などの様々な適用で使用することができる。
【0087】
養子細胞療法
本明細書に記載の方法は、とりわけ、例えば、養子細胞療法の適用での使用を含む、様々な治療方法で使用する細胞を遺伝子操作するために使用することができる。
【0088】
養子細胞療法(「ACT」)は、疾患を治療するため自己細胞または同種異系細胞を患者へ注入することを指す。B細胞、T細胞、NK細胞、単球、前駆細胞など、様々な細胞タイプをACTベースの治療に使用できる。前駆細胞は、患者または患者以外のドナーから直接単離することができる。前駆細胞には、例えば、患者または患者以外のドナーに由来するiPSCなどの成体幹細胞及び多能性細胞が含まれる。いくつかの実施形態では、ACTは、遺伝子改変された造血幹細胞(「HSC」)の移植を使用する。
【0089】
ACT法の1つのカテゴリーである造血幹細胞(「HSC」)の移植は、自己幹細胞または同種異系幹細胞の注入を含み、骨髄または免疫系が損傷または欠損している患者の造血機能を回復させる。また、先天性遺伝病の治療など、遺伝子組換えHSCの導入も可能になる。例示的なHSCの移植では、HSCは骨髄、末梢血、または臍帯血から得られる。
【0090】
いくつかの実施形態では、末梢血から得られた細胞は、ACT法で使用するために遺伝子操作される。末梢血は、骨髄または臍帯血と比較して幹細胞及び前駆細胞の含量が高いため、自家移植に使用される。さらに、末梢血から得られたHSCは、移植後の生着がより速いことを示している。末梢血中のHSCは低濃度で存在するため、ドナーは通常、骨髄環境へのHSCの接着に影響を与えてそれらを末梢血に放出させる、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)や顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)などの動員用の因子で治療される。
【0091】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、T細胞免疫療法に基づくACT法のためにT細胞を遺伝子改変するべく使用される。T細胞免疫療法は、ACT法の別のカテゴリーであり、選択され及び/またはエクスビボで操作されて、特定の抗原、例えば腫瘍関連抗原などを標的とするように、自家または同種異系Tリンパ球の注入を伴う。Tリンパ球は、典型的には白血球除去法によってドナーの末梢血から得られる。一部のT細胞免疫療法では、腫瘍浸潤リンパ球(「TIL」)などのドナーから得たTリンパ球を培養で増殖させ、それらの本来の特異性を変えることなく抗原特異性について選択する。他のT細胞免疫療法の方法では、ドナーから得られたTリンパ球は、通常はウイルス発現ベクターによる形質導入によってエクスビボで操作され、所定の特異性のキメラ抗原受容体(「CAR」)を発現する。CARは、典型的には、所望の抗原に対する特異性を付与する、scFv由来の結合ドメインなどの細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及びCD3ζまたはFcRγからの細胞内ドメインなどのT細胞エフェクター機能を誘発する1つまたは複数の細胞内ドメイン、及び任意に、例えばCD28及び/または4-1BBから引き出される1つまたは複数の共刺激ドメインを含む。さらに他のT細胞免疫療法では、ドナーから得られるTリンパ球は、典型的にはウイルス発現ベクターによる形質導入によってエクスビボで操作され、特定のHLA対立遺伝子のいる状況で提示される抗原に対する所望の特異性を付与するT細胞受容体(「TCR」)を発現する。
【0092】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、造血幹細胞(HSC)を遺伝的に改変するために使用される。いくつかの実施形態では、HSCは、レシピエント対象への移植の前に、HSCの集団を拡大するための追加の処理を受けるか、または本明細書に記載の組換え方法によって操作されて、異種遺伝子または追加の機能を、同種異系HSCに導入する。ある特定の実施形態において、追加の治療はHSCの成熟をもたらす。
【0093】
自家または同種異系のいずれかのドナーから得られたHSCは、レシピエント対象への移植前に追加の処理を受けることができる。いくつかの実施形態では、HSCは、例えば、適切な培地で1つまたは複数のHSCを培養することによって、HSCの集団を拡大するために処理される。
【0094】
いくつかの実施形態では、自家または同種異系いずれかのHSCは、組換え法によって操作され、本明細書に開示される方法によって異種遺伝子を導入する。このような遺伝子操作は、遺伝的な欠陥を修正するために使用できる、及び/または移植前にHSCに追加の機能を導入できる。いくつかの実施形態では、機能する野生型遺伝子をHSCに導入して、遺伝的欠陥、例えば、先天性造血障害(例えば、βサラセミア、ファンコニ貧血、血友病、鎌状赤血球貧血など)、原発性免疫不全症(例えば、アデノシンデアミナーゼ欠乏症、X連鎖重度複合免疫不全症、慢性肉芽腫症、Wiskott-Aldrich症候群、ヤヌスキナーゼ3欠乏症、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)欠乏症、白血球接着不全タイプ1など)、及び先天性代謝疾患(例えば、ムコ多糖症(MPS)I型、II型、III型、VII型、ゴーシェ病、X連鎖副腎白質ジストロフィーなど)を修正する。ある特定の実施形態では、HSCは、リコンビナーゼ系、例えば、CRISPR/Cas9系またはCre/Loxリコンビナーゼを用いたゲノム編集による遺伝子操作にさらされる。例えば、リコンビナーゼ系を使用して、遺伝子を除去したり、遺伝子欠損を修正したりすることができる。様々な実施形態において、HSCの機能を変更する他の方法は、とりわけ、アンチセンス核酸、リボザイム、及びRNAiの導入を含む。
【実施例】
【0095】
本発明の他の特徴、目的、及び利点は、以下の実施例において明らかである。しかし、本発明の実施形態を示しながら、実施例が、限定ではなく、例示としてのみ、与えられることを理解するべきである。実施例から、本発明の範囲内での様々な変更及び修正が、当業者に明らかになるであろう。
【0096】
形質導入率
ウイルスベクターなどのベクターの形質導入率は、ベクターが標的細胞に結合する能力によって左右される。標的細胞へのベクターの結合は、a)リガンド/受容体の標的細胞上での発現、及びb)ベクターと標的細胞との間の物理的接触によって決定される。
【0097】
リガンド/受容体の標的細胞上での発現
ベクターが結合する標的細胞上の受容体のタイプはウイルスのシュードタイプに依存し、受容体の発現は標的細胞のタイプと細胞の状態に依存する。例えば、T細胞の場合、VSVG受容体を発現するにはその活性化が必要である。一般に、標的細胞とウイルスベクターの間の90%超の結合は、それらが相互にさらされてから3~5分以内に発生する。したがって、形質導入率は、標的細胞周辺のウイルスの局所濃度に比例する。ベクターが標的細胞に結合すると、その侵入速度は細胞の種類によって異なる。一部の細胞は寛容で、ウイルスベクターが細胞に非常に迅速に侵入することを許可する。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は数分以内にT細胞に入る。対照的に、許容度の低い細胞では、ベクターが細胞に入るのに数分から数時間かかる。例えば、造血幹細胞へのHIVベクターの侵入には、はるかに長い時間がかかる。
【0098】
ベクターと細胞の物理的接触
形質導入が行われるためには、ベクター粒子が標的細胞に接触または近接する必要がある。最も一般的な形質導入方法では、形質導入は、標準的な静置培養条件下で標準的な培養フラスコまたはバッグで行われる。静置培養条件では、ウイルスベクターは、単一細胞の直径よりも100~1000倍深い培地に懸濁したままになる。ほとんどの細胞はすぐに培養フラスコの床に沈降するため、ベクターの一部のみが拡散プロセスを経て標的細胞に到達する。したがって、
図1に示すように、ベクターの一部のみが細胞と接触する。
【0099】
現在の産業的アプローチに適用可能な形質導入率の方程式
現在の産業的アプローチに適用可能な形質導入率の方程式を以下に示す。
【0100】
【0101】
図2は、体積Vの形質導入チャンバを示す。MOIは、感染の多重度、すなわち、形質導入プロセス中に各細胞に感染するウイルス粒子の平均数を表す。
【0102】
形質導入率を向上させるための種々の戦略/方法
ウイルスベクターの数を増やすことで
単一細胞の形質導入率は、細胞当たりのウイルスベクターの数を増やすことによって改善することができ、その結果、ウイルスベクターが接触して各細胞に形質導入する可能性が、
図3に示すように、高くなる。ただし、この方法はベクター/ウイルスの非効率的な使用を伴い、したがって、これは高額な方法である。さらに、この方法は低希釈のウイルスでは実行できない場合がある。
【0103】
標的細胞数を増やすことで
単一細胞の形質導入率は、ウイルスベクター当たりの細胞数を増加させることによって改善することができ、その結果、
図4に示すように、より多くの細胞がウイルスによる形質導入に利用できるようになる。しかし、この方法はより多くの細胞を必要とするため、感染多重度(MOI)の低下につながる。したがって、形質導入された細胞の全体的な率は低くなる。
【0104】
K、B
R、及びE
Rの1つまたは複数を増やすことで
拡散係数Kは、ウイルス粒子のサイズと流体/培地の組成に依存するので、これを変化させることは非常に困難である。同様に、B
RとE
Rは、それぞれ細胞の種類とベクターの種類に依存するため、これらを変更することも非常に困難である。
図5は、この戦略を示している。ウイルスのサイズや標的細胞のサイズを調整するのは難しいため、K、B
R、E
Rの1つまたは複数を変更することは困難である。
【0105】
形質導入チャンバの体積を減らすことで
ただし、形質導入チャンバの体積を減らすことは可能である。
図6に示すように、形質導入チャンバの容量が小さいほど、ウイルスと標的細胞との相互作用の機会が大きくなる。したがって、形質導入チャンバのサイズを縮小すると、細胞とウイルスベクターとの間の距離が短くなり、ウイルスベクターが標的細胞に接触し、結果としてベクターが侵入する可能性が高くなる。この戦略では、ウイルス粒子の数を増やす必要はない。むしろ、ウイルス粒子は、その半減期(つまり、4~6時間)の間、標的細胞に感染する可能性が高くなる。
図7は、ウイルスの半減期を示している(Tayiら、2009年提供)。
【0106】
ウイルス形質導入に対する現在の業界のアプローチ
現在、ウイルス形質導入には、静的システム、化学エンハンサー、及びスピノキュレーションの3つの業界アプローチがある。
【0107】
図8Aは、静的システムにおけるウイルス形質導入を示す。静的システムでは、標的細胞は容器、例えば培養フラスコの底に沈み、ベクターは典型的には標的細胞から離れて拡散し、懸濁液のままである。その結果、静的システムでの形質導入率は低くなる。
【0108】
図8Bは、化学エンハンサーの存在下でのウイルス形質導入を示す。化学エンハンサーは一般に、ウイルスの形質導入プロセスを強化し、標的遺伝子の発現を増加させるために使用される小分子である。化学エンハンサーは、感染に耐性のあるヒト細胞を含む標的細胞表面上の特定の受容体の密度を一時的に増加させる。このように、化学エンハンサーは、形質導入率の方程式における結合速度B
Rを増加させる。化学エンハンサーの使用は、形質導入チャンバの体積Vの減少と組み合わせることもできる。しかし、化学エンハンサーを使用すると、形質導入プロセスが高額になる。さらに、化学エンハンサーの除去は、製造プロセスに別の問題を追加する。
【0109】
図8Cは、スピノキュレーションプロセスを使用したウイルスの形質導入を示す。スピノキュレーション(遠心接種またはシェルバイアル法)は、ウイルス形質導入率を大幅に向上させる。スピノキュレーションプロセスは還元チャンバの体積Vを減少させるが、ウイルス形質導入の増強の完全な根底にあるメカニズムはこれまでのところ不明である。スピノキュレーションプロセスは細胞に損傷を与えるため、小さなベクターにはあまり効果がない。スピノキュレーションは、製造工程でのスケールアップも困難である。
【0110】
ウイルスの形質導入への流体の流れのアプローチの応用
流体の流れは、ベクターの拡散を防ぎ、拡散の長さを短くすることで、形質導入率を向上させる。次の流体の流れのアプローチを適用して、ウイルス形質導入率を向上させることができる、つまりトランスポート駆動型アプローチ、物理的閉じ込め、輸送と物理的閉じ込めアプローチの併用、及び向流遠心分離である。
【0111】
図9Aは、輸送主導型ウイルス形質導入アプローチを示す。輸送主導型アプローチでは、対流輸送を使用してウイルスを標的細胞に送達する。このアプローチは、各細胞の形質導入チャンバの体積Vを減少させ、拡散係数(一定時間内のベクターの拡散速度)Kを補強し、それによって形質導入率を向上させる。ただし、このアプローチには大量のベクターが必要である。
【0112】
図9Bは、流体の流れを適用する物理的閉じ込めアプローチを示す。このアプローチは、マイクロ流体チャネル内の細胞とウイルスを閉じ込め、各細胞の形質導入チャンバの体積Vを減らす。その結果、このアプローチは、形質導入率を向上させる。ただし、このアプローチには、細胞とベクターの事前の濃縮が必要である。
【0113】
図9Cは、輸送主導型アプローチと物理的閉じ込めアプローチを組み合わせたアプローチを示している。このアプローチは、マイクロ流体チャンバ内での共濃縮と対流輸送の2つの概念を組み合わせたものである。このアプローチは、各細胞の形質導入チャンバの体積Vを減らし、形質導入方程式の拡散係数Kを操作することで、形質導入率を大幅に向上させる。
【0114】
図10は向流遠心分離アプローチを示す。向流遠心分離アプローチは、通常、遠心分離と流体の流れとのバランスをとって細胞を捕捉及び封じ込めることにより、哺乳動物細胞などの細胞を濃縮及び洗浄するために適用される。向流遠心分離アプローチは、細胞のペレット化をもたらさず、むしろ、収集/形質導入チャンバでの細胞の連続的な移動を促進する。典型的な向流遠心分離システムでは、最大50億個のT細胞を1回のバッチで実行できる。50億個を超える細胞の場合、向流遠心分離システムを自動化して複数回の実行を行うことができる。最適な実行速度は、通常、約80~100mL/分または4~6L/時で、実行するごとに5~10mLの細胞濃縮液が得られる。ThermofisherのRoteaは向流遠心分離システムの例である。
【0115】
図11は、向流遠心分離システムにおける形質導入プロセスを示す。見てわかるように、向流遠心分離システムは、標的細胞を高密度の細胞床に濃縮する。ただし、ベクター粒子/ウイルスは、適用される遠心力の影響を受けるには小さすぎるため、流体の流れの中で細胞床を通過し、標的細胞と相互作用して感染させる。向流遠心分離システムにより、結合していないベクターを細胞床に再循環させることができるため、ベクターが標的細胞に遭遇して結合する機会が複数得られる。前述のように、向流遠心分離システムは自動化できる。これは閉鎖系であり、再循環が可能である。
【0116】
向流遠心分離アプローチに適用可能な形質導入率の方程式
向流構成アプローチに適用可能な形質導入率の方程式を以下に示す。
【0117】
【0118】
向流遠心分離アプローチは、現在の産業での形質導入アプローチに適用できる形質導入率の方程式を変更する。向流構成アプローチに適用可能な形質導入率の方程式は、標的細胞に向かってベクターを駆動するために拡散がもはや必要ないため、拡散(K)への依存を排除する。しかし、向流構成アプローチに適用可能な形質導入率の方程式は、ベクターがシステムを通過する回数に基づく新しい変数PNを導入する。向流遠心分離アプローチでは、各細胞に必要な形質導入チャンバの体積Vも減少する。
【0119】
ベクターの流れのアプローチ
形質導入プロセスでは、2つのアプローチのいずれかによってベクターを形質導入チャンバに導入できる。一定のベクターの流れとパルス状のベクターの流れのアプローチである。
【0120】
一定のベクターの流れ
図12Aは、一定のベクターの流れのアプローチを示す。一定のベクターの流れのアプローチには、形質導入期間を通じて低流量ベクターの一定の循環が伴う。流れは、ウイルス粒子が標的細胞に結合できるように十分に遅いものである。ベクターは、ベクターが細胞に結合する複数の機会を提供するために循環される。
【0121】
パルス状のベクターの流れ
図12Bは、パルス状のベクターの流れのアプローチを示す。パルス状のベクターの流れのアプローチは、流れが低い長期間/流れのない長期間が数サイクル伴い、それに、高い流量の短いバーストが続き、収集チャンバ内のベクターを置き換える。流れが低い/流れのない期間は、ベクターが効率的に結合して標的細胞に入るのに十分な長さである。高い流れの期間は、結合していないベクターのチャンバを補充する。ベクターは、ベクターが細胞に結合する複数の機会を与えるように循環される。
【0122】
実施例1.最初のレンチウイルス滴定
この実施例は、T細胞における最初のレンチウイルス滴定を示している。この実施例では、ZsGreenを含む市販のレンチウイルスを使用した。最適な感染範囲を判定するために、ウイルスの2倍連続希釈液を調製した。標準的な12ウェルプレートに播種された事前活性化T細胞を、静的条件下でウイルス粒子で18時間(一晩)インキュベートした。形質導入後、細胞を24ウェルプレートで5日間増殖させ、次いで増殖させた細胞を凍結した。フローサイトメトリーが、細胞生存率とZsGreen発現のために解凍した細胞で実行された。ベクターMOI滴定曲線をプロットし、
図13に示す。
【0123】
MOIは、形質導入に使用される細胞あたりのベクター粒子の数を示す。この例では、1のMOIはT細胞の約22%を形質導入している。
【0124】
実施例2.形質導入実験の設計
本実施例は、a)一晩の静的対照条件、b)90分間の静的対照条件、及びc)90分間の向流遠心分離条件という3つの異なる条件下で達成された形質導入率を試験及び比較するための実験計画を示す。これら3つの異なる条件はすべて
図14に示されている。
【0125】
静的対照条件では、PL07バッグにおいて、100万細胞/mLの濃度の700万個のT細胞を事前活性化した。次いで、これらの事前活性化細胞を一晩または90分間、1.75IUのウイルス(0.25のMOIで)で形質導入した。
【0126】
向流遠心分離条件において、1億個の事前活性化T細胞を収集チャンバ、例えばRotea収集チャンバに配置した。標準プロトコルを使用して細胞床を確立した。ウイルスバッグ、例えばRoteaウイルスバッグには、2500万の感染性ウイルス国際単位(0.25の有効なMOI)を備える30mLの培地が含まれていた。ウイルスは、次の条件を使用してパルス下で細胞床を循環した。形質導入ステップ:3分、1mL/分の流量、及び40×g;及びウイルス交換ステップ:10秒、30mL/分の流量、3000×g;及び循環:22サイクル、約90分。
【0127】
異なる条件間での形質導入直後または増殖後の細胞生存率に差は認められなかった。NC-200細胞カウンタ(Chemometec)を用いて細胞生存率を判定し、結果を
図15に示す。同様に、異なる条件間で細胞の増殖に有意差はなかった。向流遠心分離条件(Roteaを使用して実行)では、対照の条件と比較して、投入量に関して100%の回収が可能であった。
図16に示されるように、90分間の向流遠心分離条件(Roteaを使用)の形質導入効率は、一晩の静止状態での形質導入の効率と同等またはそれ以上である。
【0128】
等価物及び範囲
当業者は、ほんの日常的な実験を使用して、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、または確認することができるであろう。本発明の範囲は、上記説明に限定されることを意図するものではなく、むしろ以下の特許請求の範囲に記載される通りである。
【国際調査報告】