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特表2023-521061IL-33軸結合アンタゴニストによる急性呼吸窮迫症候群の治療
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】IL-33軸結合アンタゴニストによる急性呼吸窮迫症候群の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230516BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230516BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230516BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230516BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230516BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20230516BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P11/00 ZNA
A61P31/12
A61P31/14
A61K39/395 N
A61K39/395 D
C07K16/24
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560476
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(85)【翻訳文提出日】2022-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2021058749
(87)【国際公開番号】W WO2021204707
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】63/005,649
(32)【優先日】2020-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/015,915
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/140,502
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】508098350
【氏名又は名称】メドイミューン・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MedImmune Limited
【住所又は居所原語表記】1 Francis Crick Avenue, Cambridge Biomedical Campus, Cambridge CB2 0AA, UNITED KINGDOM
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】パンディア,ヒテシュ チャンパクラル
(72)【発明者】
【氏名】コーエン,エマ スザンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ケル,クリストファー マーティン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC411
4C084ZC412
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB17
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)及び/又はその症状の治療及び予防のためのIL33軸結合アンタゴニストの使用を対象とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を、そのリスクがある患者において治療又は予防する方法であって、前記患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記方法は、前記患者におけるARDSを予防するためのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者は、軽度、中等度、又は中等度から重度の低酸素血症を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
患者における低酸素血症を治療する方法であって、前記患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法。
【請求項5】
前記低酸素血症が、軽度、中等度、又は中等度から重度の低酸素血症である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記患者は高炭酸血症を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記患者は過度の肺炎症を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、肺の炎症を低減又は阻害する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
対象における過度の肺炎症を治療する方法であって、前記患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法。
【請求項10】
前記患者は、ARDSを有するか、又はこれを発症するリスクがある、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記過度の肺炎症は、肺炎(ウイルス性又は細菌性の)若しくは重度の流感、敗血症、重度の胸部損傷(例えば、大外傷及び/又は多発性骨折)、胃内容物吸引(例えば、誤って嘔吐物を吸入すること)、煙若しくは有毒化学物質の吸入、溺水、肺挫傷、脂肪塞栓、肺血管炎、非心原性ショック、又は輸血に対する有害反応によって引き起こされる、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記患者は肺炎を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記肺炎はウイルス性肺炎である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記患者はコロナウイルス2型(SARS-CoV-2)感染症を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ARDS、低酸素血症、又は過度の肺炎症は、SARS-CoV-2によって誘発される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記患者の酸素分圧は79mmHG未満である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記患者の酸素分圧は、60及び79mmHGを含む60~79mmHGである、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記患者の酸素分圧は60mmHG未満である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記患者は機械的人工換気法を受けていないか、又はまだ受けたことがない、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記IL-33軸結合アンタゴニストは、抗IL-33アンタゴニスト、抗ST2アンタゴニスト、又はIL1-RAcPアンタゴニストである、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記アンタゴニストは、抗体又はその抗原結合性フラグメントである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体は、抗IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記抗IL33抗体、又はその抗原結合性フラグメントは、配列番号37の配列を有するVHCDR1、配列番号38の配列を有するVHCDR2、配列番号39の配列を有するVHCDR3、配列番号40の配列を有するVLCDR1、配列番号41の配列を有するVLCDR2、及び配列番号42の配列を有するVLCDR3を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
患者におけるコロナウイルス疾患2019(COVID-19)を治療又は予防する方法であって、配列番号37の配列を有するVHCDR1、配列番号38の配列を有するVHCDR2、配列番号39の配列を有するVHCDR3、配列番号40の配列を有するVLCDR1、配列番号41の配列を有するVLCDR2、及び配列番号42の配列を有するVLCDR3を含む、抗IL33抗体、又はその抗原結合性フラグメントの有効量を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項25】
患者におけるコロナウイルス2型(SARS-CoV-2)感染症によって誘発される急性呼吸不全を予防又は治療する方法であって、請求項24に記載される抗IL33抗体、又はその抗原結合性フラグメントの有効量を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項26】
患者におけるコロナウイルス2型(SARS-CoV-2)感染症によって誘発される急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を予防又は治療する方法であって、請求項24に記載される抗IL33抗体、又はその抗原結合性フラグメントの有効量を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項27】
SARS-CoV-2に感染した患者、又はCOVID-19を患う患者における過度の肺炎症を治療又は予防する方法であって、請求項24に記載される抗IL33抗体、又はその抗原結合性フラグメントの有効量を前記患者に投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、肺が身体の重要臓器に十分な酸素を供給することができない、生命を失う危険のある疾患である。ARDSの特徴的な症状としては、激しい息切れ、急速表在呼吸、疲労感、傾眠又は錯乱、及び気が遠くなる感覚が挙げられる。多くの潜在的なARDSの原因が存在し、典型的に、これらは肺の重度の炎症をもたらす。こうした原因としては、肺炎(ウイルス性又は細菌性の)若しくは重度の流感、敗血症、重度の胸部損傷(例えば、大外傷及び/又は多発性骨折)、胃内容物吸引(例えば、誤って嘔吐物を吸入すること)、煙若しくは有毒化学物質の吸入、溺水、肺挫傷、脂肪塞栓、肺血管炎、非心原性ショック、又は輸血に対する有害反応が挙げられ得る。
【0002】
ARDSは深刻な健康状態によって引き起こされることが多いため、死亡率は比較的高いが、死亡は、ARDSそれ自体よりも根底の健康状態に関連することが多い。それでもなお、患者の転帰を改善するために、ARDSに効果的な治療法を提供することが必要とされている。ARDSに効果的な予防戦略を提供することで、患者が退院するまでの時間を減らし、プライマリケア施設に入院した患者への集中治療の必要性を低減することによって、健康医療制度に対する負担を軽減することもできる。ARDS患者は、呼吸を補助するために、機械的挿管、又はベンチレータの使用を必要とすることが多い。経鼻胃チューブを通して患者に流体及び栄養素を供給することも必要となる場合がある。時には、ARDS及び根底の健康状態の重症度に応じて、患者が病院に数週間、又は更には数カ月間滞在する場合がある。生存する者の場合、神経及び筋肉の損傷に関連する長期間の合併症が続く場合があり、それが疼痛及び衰弱をもたらす場合がある。
【0003】
そのため、ARDSを治療又は予防するための新規で効果的な療法が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を、そのリスクがある患者において治療又は予防する方法であって、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法が、本明細書で提供される。
【0005】
別の態様では、本開示は、患者における低酸素血症を治療する方法であって、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法を提供する。
【0006】
別の態様では、本開示は、対象における重度の肺炎症を治療する方法であって、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法を提供する。
【0007】
別の態様では、本開示は、患者におけるコロナウイルス疾患2019(COVID-19)を治療又は予防する方法であって、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法を提供する。
【0008】
本明細書では、患者における急性呼吸不全を予防又は治療する方法であって、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法も提供される。場合によっては、本方法は、コロナウイルス2型感染症によって誘発される急性呼吸不全(SARS-CoV-2)の治療又は予防を目的とする。
【0009】
別の態様では、本開示は、過度の肺炎症を治療及び/又は予防する方法であって、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法を提供する。
【0010】
場合によっては、IL-33軸結合アンタゴニストは、抗体又はその抗原結合性フラグメントである。
【0011】
場合によっては、抗体又はその抗原結合性フラグメントは、配列番号37の配列を有するVHCDR1、配列番号38の配列を有するVHCDR2、配列番号39の配列を有するVHCDR3、配列番号40の配列を有するVLCDR1、配列番号41の配列を有するVLCDR2、及び配列番号42の配列を有するVLCDR3を含む、抗IL33抗体又はその抗原結合性フラグメントである。
【0012】
場合によっては、抗IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントのVH及びVLは、それぞれ配列番号1及び配列番号19と少なくとも95%、90%、又は85%同一のアミノ酸配列を含む。
【0013】
場合によっては、抗IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、配列番号1の配列を有するVH、及び配列番号19の配列を有するVLを含む。
【0014】
場合によっては、抗IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、ヒト抗体、キメラ抗体、及びヒト化抗体から選択される。
【0015】
場合によっては、抗IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、自然発生抗体、scFvフラグメント、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、及び一本鎖抗体から選択される。
【0016】
場合によっては、抗体又はその抗原結合性フラグメントはモノクローナル抗体である。
【0017】
本開示は下記の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】HRV-Aに感染し、単体で又はILC2と共に7日間インキュベートされたALI中でのcxcl10mRNAの有意な増加を示す(ドナー n=5)。
図1B】HRV-Aに感染し、単体で又はILC2と共に7日間インキュベートされたALI中でのウイルス応答タンパク質IP-10の分泌の有意な増加を示す(ドナー n=5)。
図1C】HRV-Aに感染したALIが、ILC2を活性化し、IL-5の分泌を誘発したことを示す。
図1D】活性化したILC2によって放出されたサイトカインがALIの培養に作用して、ccl26の発現を有意に上方制御することを示す(ドナー n=5)。
図1E】HRV-Aに感染し、続いてILC2及び抗アラーミン剤又はアイソタイプ対照と共にインキュベートされたALIが、ILC2からIL-5の分泌を防いだことを示す。
図2A】COVID-19陽性ヒトから得た血清試料から測定した、IL-33(redIL-33/sST2複合体)及び遊離還元形態のIL-33(還元IL-33)のレベルを示す。
図2B】COVID-19陽性ヒト及び健康な対象の対照から得た、血清試料中のIL-33/sST2複合体のレベルを示す。
図3】IL-33が、肺損傷及び細胞死に応答して肺上皮及び内皮細胞から迅速に放出される上流アラーミンサイトカインとして作用することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
一般的な定義
「含む」という語と共に態様が本明細書中に記載されるときは常に、「からなる」及び/又は「から本質的になる」という用語で記載される、他の点では類似の態様も提供されることを理解されたい。
【0020】
特に明記されない限り、又は文脈から明らかでない限り、本明細書で使用する場合、用語「又は」は、包括的であると理解される。「及び/又は」という用語は、本明細書において「A及び/又はB」などの語句で使用される場合、「A及びB」、「A又はB」、「A」及び「B」の両方を含むことが意図されている。同様に、「及び/又は」という用語は、「A、B及び/又はC」などの語句で使用される場合、下記の態様の各々を包含することが意図されている:A、B及びC;A、B又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);並びにC(単独)。
【0021】
「約」及び「およそ」という用語は、数値又は数範囲を修飾するために用いられる場合、その値又は範囲から最大で10%上及び10%下の偏差が、引用された値又は範囲の意図された意味の内に留まることを示す。「約」又は「およそ」ある数値又は範囲、という語と共に態様が本明細書中に記載されるときは常に、当該特定の数値又は範囲(「約」を含まない)に言及する他の点では類似の態様も提供されることを理解されたい。
【0022】
「投与する」、「投与すること」、「投与」などは、本明細書に記載される薬剤、例えば、IL-33軸結合アンタゴニスト、例えばIL-33軸結合アンタゴニスト、又はその抗原結合性フラグメントの送達を可能にするために用いられ得る方法を指す。本明細書で説明されている薬剤及び方法と共に用いられ得る投与技術は、例えば、Goodman and Gilman,The Pharmacological Basis of Therapeutics,current edition,Pergamon;及びRemington’s,Pharmaceutical Sciences,current edition,Mack Publishing Co.,Easton,Paで見出すことができる。いくつかの態様では、IL-33軸結合アンタゴニストは、非経口的に、例えば静脈内又は皮下に投与される。
【0023】
「抗体」は、最も広範な意味で用いられ、それらが所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体フラグメントが挙げられるが、これらに限定されない様々な抗体構造を包含する。
【0024】
「抗原結合性フラグメント」及び「結合性フラグメント」は、それにインタクト抗体が結合する抗原に結合するインタクト抗体の部分を含む、インタクト抗体以外の分子を指す。抗体フラグメントの例としては、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fab’-SH、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、線状抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFv)、及び抗原結合性フラグメントから形成された多重特異性抗体が挙げられるが、それらに限定されない。
【0025】
「相補性決定領域」及び「CDR」は、抗原結合を司る抗体又は抗原結合性フラグメントのアミノ酸残基を指すために本明細書で使用される。
【0026】
「低酸素血症」は、血中酸素が正常濃度未満であることを指す。より具体的には、低酸素血症は動脈血の酸素欠乏である。低酸素血症は、通常は動脈血中の酸素分圧の低下(mmHg)に関して定義されるが、酸素含有量(1dlの血液あたりのml単位の酸素)又は酸素によるヘモグロビン(赤血球内の酸素結合タンパク質)の飽和度の低下に関しても定義される。急性の文脈においては、低酸素血症は、呼吸窮迫中におけるものなどの症状を生じさせ得る。これとしては、息切れ、急速表在呼吸、胸痛、錯乱、頭痛、及び頻拍、息切れが挙げられる。低酸素血症は、動脈から採取された血液試料中の酸素濃度(動脈血ガス)を測定することによって決定される。これはまた、パルスオキシメータを用いて血液の酸素飽和度を測定することによっても推定可能である。低酸素血症は、正常範囲からの逸脱に基づいて、軽度、中等度、又は重度に分類される。一般的には以下の定義が適用される:軽度の低酸素血症:PaO(患者の酸素分圧)=60~79mmHg;中等度の低酸素血症:PaO2=40~59mmHg、及び重度の低酸素血症:PaO2<40mmHg。60mmHg未満の値は、通常、酸素補給の必要性を示す。
【0027】
「高炭酸血症」(過炭酸血症としても知られる)は、血中二酸化炭素(CO)濃度が異常に上昇した状態である。過炭酸血症は、根底の健康状態との関係において起こる場合があり、症状は、この状態と、又は直接に過炭酸血症と関連し得る。初期過炭酸血症に起因する特有の症状は、息切れ、不安、頭痛、錯乱、及び昏睡である。臨床的兆候としては、肌の紅潮、充実脈、呼吸促迫、期外収縮、筋収縮、及び手のばたつき(羽ばたき振せん)が挙げられる。高炭酸血症は、典型的には橈骨動脈穿刺による血液ガス試験を実施することによって判定され得る。高炭酸血症は、一般には、45mmHg(6kPa)を上回る動脈血中二酸化炭素濃度として定義される。血中CO濃度の急上昇は、急性高炭酸血症を生じさせる場合があり、これは、多臓器合併症をもたらす場合があり、また、重度のCOPDの増悪、又は重度の肺炎の最中などの呼吸筋が消耗するその他の形態の呼吸器不全の最中に発症する場合がある。
【0028】
本明細書で使用するとき、「IL-33」タンパク質とは、インターロイキン-33、特に哺乳類インターロイキン33タンパク質、例えばUniProt番号095760で寄託されているヒトタンパク質を指す。この実体は単一種ではなく、様々な機能活性を有するいくつかの形態、例えば、完全長且つタンパク分解性処理形態、又は酸化且つ還元形態で存在する(Cohen et al,2015 Nat Comm 6:8327;Scott et al.,2018 Sci Rep 8:3363)。インビボ及びインビトロで還元形態が急速に酸化することを考慮すると、一般的に先行技術のIL-33に対する言及は、酸化形態の検出に最も関連したものであり得る。用語「IL-33」並びに「IL-33ポリペプチド」及び「IL-33タンパク質」は同義的に用いられる。
【0029】
「インターロイキン1受容体様1(IL1RL1)」及び「ST2」は互換的に用いられ、別段の指示がない限り、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えばマウス及びラット)などの哺乳類を含む任意の脊椎動物源由来の任意の天然ST2を指す。ST2は、当該技術分野ではDER4、T1、及びFIT-1とも称される。この用語は、「完全長の」未処理のST2、のみならず細胞中のプロセシングから得られる任意の形態のST2を包含する。ST2の少なくとも4つのイソ型(二重プロモーター系からの示差的mRNA発現から生じる可溶性(sST2、別名IL1RL1-a)及び膜貫通型(ST2L、別名IL1RL1-b)、並びに選択的スプライシングから生じるST2V及びST2LVを含む)が当該技術分野で既知である。ST2Lのドメイン構造は、3つの細胞外免疫グロブリン様C2ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞質Toll/インターロイキン-1受容体(TIR)ドメインを含む。sST2は、ST2L内に含まれる膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを欠いており、固有の9個のアミノ酸(a.a.)C末端配列を含む(例えば、Kakkar et al.Nat.Rev.Drug Disc.40 7:827-840,2008を参照されたい)。sST2は、可溶性IL-33を阻害するデコイ受容体として機能し得る。この用語はまた、ST2の天然の変異体、例えば、スプライス変異体(例えば、第3の免疫グロブリンモチーフを欠き、固有の疎水性尾部を有するST2V、及びST2Lの膜貫通ドメインを欠くST2LV)、又は対立遺伝子変異体(例えば、本明細書に記載されるように、喘息の危険性を防ぐ変異体又は喘息の危険性を与える変異体)を包含する。例示的なヒトST2のアミノ酸配列は、例えば、UniProtKB受託番号001638に見出され得る。ST2は、共受容体タンパク質IL-1 RAcPと共にIL-33受容体の一部である。IL-33がST2及び共受容体インターロイキン-1受容体補助タンパク質(IL-1 RAcP)に結合すると、下流シグナル伝達を促進する1:1:1の三成分シグナル伝達複合体が形成される(Lingel et al.Structure 17(10):1398-1410,2009、及びLiu et al.Proc.Nat.Acad.Sci.11 0(37):14918-14924,2013)。
【0030】
「IL-33軸結合アンタゴニスト」は、IL-33シグナル伝達分子の相互作用がその結合パートナーのうちの1つ以上に結合するのを阻害する分子を指す。本明細書で使用するとき、IL-33軸結合アンタゴニストとしては、IL-33アンタゴニスト、ST2アンタゴニスト(例えばST2Lアンタゴニスト)、及びIL1-RAcPアンタゴニストが挙げられる。
【0031】
本明細書で使用するとき、「治療すること(treating)」若しくは「治療(treatment)」若しくは「治療する(to treat)」又は「軽減すること(alleviating)」若しくは「軽減する(to alleviate)」などの用語は、診断された病態又は障害を治癒させる、減速させる、その症状を和らげる、及び/又はその進行を停止させる治療的手段を指す。従って、治療を必要とする者としては、既に障害を有すると診断されたか又は障害を有することが疑われる者が挙げられる。治療の治療を必要とする患者又は対象としては、コロナウイルス2019(COVID-19)と診断された者、及び重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)に感染した者が挙げられ得る。
【0032】
「治療有効量」又は「有効量」は、患者に、単一用量として、又は一連の用量の一部として投与した場合に、少なくとも1つの治療効果を生じさせるのに有効な、本開示の少なくとも1つの化合物、又は少なくとも1つのこうした化合物を含む医薬組成物の量を指す。最適な用量は、通常、実験モデル及び/又は臨床治験を用いて決定することができる。治療薬の最適な用量は、患者の体質量、体重、及び/又は血液量によって決まり得る。患者に投与される化合物の濃度は、患者由来の体液、例えば、血液、血液分画(例えば血清)、及び/若しくは尿、並びに/又は他の生体試料中の化合物(又は化合物の代謝産物)の濃度を判定することによって監視され得る。化合物又はその代謝産物を検出するために当該技術分野で実践される任意の方法を用いて、治療レジメンの過程で化合物の濃度を測定することができる。
【0033】
本明細書で使用するとき、用語「対象」及び「患者」は互換的に使用される。対象は動物であり得る。いくつかの態様では、対象は、哺乳動物、例えば非ヒト動物(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット、マウス、サル又は他の霊長類など)である。いくつかの態様では、対象はカニクイザルである。いくつかの態様では、対象はヒトである。
【0034】
治療方法
急性呼吸窮迫症候群
本開示は、ARDS、又はそれに付随する症状、例えば低酸素血症及び/若しくは過度の肺炎症の治療又は予防のための方法を提供する。本方法は、対象の患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む。
【0035】
場合によっては、対象は、ARDSを発症するリスクがある患者である。そのため、本方法は、ARDSのリスクがある患者におけるARDSの予防を目的とし得る。
【0036】
対象は、以下の疾患のうち1つ以上を有する場合、ARDSを発症するリスクがあり得る:肺炎(ウイルス性又は細菌性の)若しくは重度の流感、敗血症、重度の胸部損傷(例えば、大外傷及び/又は多発性骨折)、胃内容物吸引(例えば、誤って嘔吐物を吸入すること)、煙若しくは有毒化学物質の吸入、溺水、肺挫傷、脂肪塞栓、肺血管炎、非心原性ショック、又は輸血に対する有害反応。
【0037】
これらの疾患は、低酸素血症及び/又は過度の(又は「重度の」)肺炎症の発症をもたらし得る。したがって、上記の疾患のうち1つ以上を有する患者における低酸素血症又は過度の肺炎症の存在は、ARDSの発症を予防するためのIL-33軸結合アンタゴニストによる治療の候補であり得る。
【0038】
IL-33シグナル伝達軸をブロックすることで、肺が激しく炎症する以下の疾患又は事象のうちのいずれかの後で、肺炎症及び細胞損傷のサイクルの増幅を予防することができる:肺炎(ウイルス性又は細菌性の)若しくは重度の流感、敗血症、重度の胸部損傷(例えば、大外傷及び/又は多発性骨折)、胃内容物吸引(例えば、誤って嘔吐物を吸入すること)、煙若しくは有毒化学物質の吸入、溺水、肺挫傷、脂肪塞栓、肺血管炎、非心原性ショック、又は輸血に対する有害反応。これらの疾患又は事象によって引き起こされた重度の肺炎症は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こす場合がある。
【0039】
したがって、本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を、そのリスクがある患者において治療又は予防する方法であって、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法を提供する。場合によっては、本方法は、上記の患者におけるARDSを予防するためのものである。場合によっては、患者は、過度の肺炎症を有し得る。
【0040】
場合によっては、治療対象の患者は、軽度、中等度、又は中等度から重度の低酸素血症を有する。低酸素血症の存在は、患者が準最適なガス交換を経験しており、ARDSを発症するリスクがあることを示す。したがって、本方法は、低酸素血症を低減又は阻害することによりARDSの発症を予防するために、低酸素血症を有する患者に好適であり得る。
【0041】
その他の場合では、本開示は、患者における低酸素血症を治療する方法であって、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法を提供する。場合によっては、低酸素血症は、軽度、中等度、又は中等度から重度の低酸素血症である。
【0042】
場合によっては、上記の方法のいずれにおいても、患者は高炭酸血症を有し得る。
【0043】
場合によっては、本開示は、対象における過度の肺炎症を治療する方法であって、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法を提供する。場合によっては、患者は、ARDSを有するか、又はそれを発症するリスクがある。
【0044】
場合によっては、上記の方法のいずれにおいても、過度の肺炎症は、肺炎(ウイルス性又は細菌性の)若しくは重度の流感、敗血症、重度の胸部損傷(例えば、大外傷及び/又は多発性骨折)、胃内容物吸引(例えば、誤って嘔吐物を吸入すること)、煙若しくは有毒化学物質の吸入、溺水、肺挫傷、脂肪塞栓、肺血管炎、非心原性ショック、又は輸血に対する有害反応によって引き起こされ得る。
【0045】
場合によっては、本方法は、ILC2の活性化を低減又は阻害する。場合によっては、本方法は、肺中でILC2の活性化を低減又は阻害する。場合によっては、本方法は、ILC2からのIL-5放出を低減又は阻害する。
【0046】
場合によっては、本方法は、気道上皮中のccl26発現を低減又は阻害する。場合によっては、本方法は、肺中のccl26発現を低減又は阻害する。CCL26は、好酸球及び好塩基球に対して走化性である。したがって、場合によっては、本方法は、肺中への好酸球又は好塩基球の走化作用を低減する。気管支肺胞洗浄好酸球数は、早期ARDSでは低いが後期ARDSでは上昇し、一方で好酸球活性のマーカーの上昇はARDS重症度と相関することが判明した。したがって、肺中のccl26発現を低減又は阻害することで、肺への好酸球の走化作用を低減し、それによりARDSの進行を予防又は低減することができる。
【0047】
場合によっては、上記の方法のいずれにおいても、患者は肺炎を有する。場合によっては、肺炎はウイルス性肺炎である。
【0048】
場合によっては、患者はコロナウイルス2型(SARS-CoV-2)感染症を有する。場合によっては、上記の方法のいずれにおいても、ARDS、低酸素血症、又は過度の肺炎症は、SARS-CoV-2によって誘発される。
【0049】
場合によっては、患者の動脈血酸素は79mmHG未満である。場合によっては、患者の酸素分圧は、60及び79mmHGを含む60~79mmHGである。場合によっては、患者の酸素分圧は60mmHG未満である。場合によっては、酸素分圧は、40及び59mmHGを含む40~59mmHGである。場合によっては、且つ重度の低酸素血症においては、患者の酸素分圧は40mmHgである。場合によっては、患者は、機械的人工換気法を受けていないか、又はまだ受けたことがない。
【0050】
COVID-19
本明細書では、患者におけるコロナウイルス疾患2019(COVID-19)を治療又は予防する方法であって、患者に有効量の本明細書に記載されるものなどのIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法も開示される。
【0051】
重度のCOVID-19感染症は、サイトカイン放出をもたらす肺血管内皮、気道、及び肺胞上皮の損傷を特徴とする。この結果、肺胞水腫、低酸素血症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、及び死が生じる。
【0052】
IL-33は、損傷及び細胞死に応答して肺上皮及び内皮細胞から迅速に放出される上流アラーミンサイトカインとして作用する(図3)。これは、IL-33が急性肺損傷における病態生理的役割を有することを示唆する。実施例は、COVID-19感染症の診断に続いて入院した時点で患者の血清中でIL-33濃度が増加することを示す。
【0053】
IL-33は、ヒトライノウイルス、RSV、ウイルス性インフルエンザを含むウイルス駆動型の肺感染症中で、細胞損傷及び死に応答して放出されることも示されている。急性及び慢性の肺損傷の動物モデルは、IL-33の増加及びT1/2サイトカイン(例えばIL-6)の上方調節に同様に関連する(Kearley JA et al(2015)Immunology)。COVID-19が細胞変性であり、肺上皮及び内皮細胞から予め貯蔵されたIL-33の放出をもたらし、炎症及び細胞損傷のサイクルを駆動して増幅させ得ることも既知である。
【0054】
このため、IL33軸結合アンタゴニストは、COVID-19の結果として気道上皮及び/又は内皮から放出されたIL-33タンパク質のシグナル伝達を防ぐのに有用であり得る。IL-33シグナル伝達軸をブロックすることによって、COVID-19患者の気道で観察される炎症及び細胞損傷のサイクルの増幅を予防することができる。実際に、IL-33シグナル伝達軸をブロックすることで、肺が激しく炎症する以下の疾患又は事象のうちのいずれかの後で、肺炎症及び細胞損傷のサイクルの増幅を予防することができる:肺炎(ウイルス性又は細菌性の)若しくは重度の流感、敗血症、重度の胸部損傷(例えば、大外傷及び/又は多発性骨折)、胃内容物吸引(例えば、誤って嘔吐物を吸入すること)、煙若しくは有毒化学物質の吸入、溺水、肺挫傷、脂肪塞栓、肺血管炎、非心原性ショック、又は輸血に対する有害反応。これらの疾患又は事象によって引き起こされた重度の肺炎症は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こす場合がある。ARDSの特徴的な症状としては、激しい息切れ、急速表在呼吸、疲労感、傾眠又は錯乱、及び気が遠くなる感覚が挙げられる。好適には、したがって、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)又はその1つ以上の症状を、患者において治療する方法であって、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法が本明細書で提供される。
【0055】
別の態様では、患者におけるコロナウイルス疾患2019(COVID-19)を治療又は予防する方法であって、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法が本明細書で提供される。本開示は、有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含むCOVID-19を治療又は予防する方法で使用するためのIL-33軸結合アンタゴニストも提供する。本開示は、COVID-19を治療又は予防する方法における、有効量のIL-33軸結合アンタゴニストの使用も提供する。本開示は、COVID-19の予防の治療のための薬剤の製造におけるIL-33軸結合アンタゴニストの使用も提供する。
【0056】
別の態様では、患者におけるコロナウイルス疾患2019(COVID-19)を治療する方法であって、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、方法が本明細書で提供される。本開示は、有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含むCOVID-19を治療する方法で使用するためのIL-33軸結合アンタゴニストも提供する。本開示は、COVID-19を治療する方法における、有効量のIL-33軸結合アンタゴニストの使用も提供する。本開示は、COVID-19の予防の治療のための薬剤の製造におけるIL-33軸結合アンタゴニストの使用も提供する。
【0057】
好適には、本方法は、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、患者におけるコロナウイルス2型感染症によって誘発される急性呼吸不全(SARS-CoV-2)を予防又は治療することのためであり得る。本開示は、有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含むコロナウイルス2型によって誘発される急性呼吸不全(SARS-CoV-2)を治療又は予防する方法で使用するためのIL-33軸結合アンタゴニストも提供する。本開示は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)によって誘発される急性呼吸不全を治療又は予防する方法における有効量のIL-33軸結合アンタゴニストの使用も提供する。本開示は、コロナウイルス2型によって誘発される急性呼吸不全(SARS-CoV-2)の予防の治療のための薬剤の製造におけるIL-33軸結合アンタゴニストの使用も提供する。好適には、本方法、組成物、又は使用は、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、患者におけるコロナウイルス2型感染症によって誘発される急性呼吸不全(SARS-CoV-2)の悪化を予防又は治療することのためであり得る。
【0058】
好適には、本方法は、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、患者におけるコロナウイルス2型(SARS-CoV-2)感染症によって誘発される急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を予防又は治療することのためであり得る。本開示は、有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含むコロナウイルス2型(SARS-CoV-2)によって誘発されるARDSを治療又は予防する方法で使用するためのIL-33軸結合アンタゴニストも提供する。本開示は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)によって誘発されるARDSを治療又は予防する方法における有効量のIL-33軸結合アンタゴニストの使用も提供する。本開示は、コロナウイルス2型によって誘発された急性呼吸不全(SARS-CoV-2)の予防の治療のための薬剤の製造におけるIL-33軸結合アンタゴニストの使用も提供する。
【0059】
好適には、患者に有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、SARS-CoV-2に感染した患者又はCOVID-19を患う患者における過度の肺炎症を治療及び/又は予防する方法。本開示は、有効量のIL-33軸結合アンタゴニストを投与することを含む、SARS-CoV-2に感染した患者又はCOVID-19を患う患者における過度の肺炎症を治療又は予防する方法で使用するためのIL-33軸結合アンタゴニストも提供する。本開示は、SARS-CoV-2に感染した患者又はCOVID-19を患う患者において過度の肺炎症を治療又は予防する方法における有効量のIL-33軸結合アンタゴニストの使用も提供する。本開示は、SARS-CoV-2に感染した患者又はCOVID-19を患う患者におけるサイトカインストームの予防の治療のための薬剤の製造におけるIL-33軸結合アンタゴニストの使用も提供する。過度の肺炎症の例は、「サイトカインストーム症候群(CSS)又は「サイトカイン放出症候群」(CRS)である。CSSは、多数の白血球が活性化し、炎症性サイトカインを放出して、これが続いて更に多くの白血球を活性化するときに起こり得る、全身性炎症反応症候群の一形態である。図3に示すように、COVID-19によって誘発される肺上皮及び/又は肺胞内皮の損傷は、IL-33の放出をもたらし得る。IL33の放出は、炎症反応の連鎖を誘発し、続いて多数の白血球の動員及び活性化をもたらし得る(2型自然リンパ球細胞(ILC2)、好酸球、ナチュラルキラー細胞など)。多数の白血球の動員及び活性化は、炎症のサイクルを駆動及び増幅して、CSS又はCRSをもたらし得る。近年の、中国、武漢市における150件の確認済みCOVID-19事例の遡及的多施設研究に由来する致死率予測因子は、増加したフェリチン及びIL-6を含んでおり、これは、死亡率が、ウイルス駆動型過剰炎症に起因し得ることを示唆する(Ruan Q et al(2020)Intensive Care Med)。したがって、IL-33が肺上皮損傷に応答した炎症の主制御因子であることを考えると、IL-33の阻害は、患者、例えばSARS-CoV-2に感染した患者における過度の肺炎症の治療又は予防に効果的であり得る。
【0060】
本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用の場合によっては、患者は、確認されたか又は疑われる入院が必要なCOVID-19を有する。本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用の場合によっては、患者は、確認された入院が必要なCOVID-19を有する。本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用の場合によっては、患者は、実験室試験及び/又はポイントオブケア試験によって確認されたSARS-CoV-2感染症を有する。本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用の場合によっては、患者は成人(≧18歳)である。
【0061】
本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用の場合によっては、治療対象患者は、WHOの9ポイントのカテゴリ順序尺度でグレード3~5のスコアを有する。
【0062】
臨床改善に関するWHOの9ポイントカテゴリ順序尺度:
0.感染なし、感染の臨床的又は生物学的証拠なし
1.入院なし、活動の制限なし
2.入院なし、活動の制限あり
3.入院あり、酸素補給の必要なし
4.入院あり、酸素補給の必要あり
5.入院あり、非侵襲的換気又は高流量酸素装置の使用
6.入院あり、挿管及び機械的人工換気
7.入院あり、人工換気及び追加の臓器補助(ECMO)
8.死
【0063】
本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用の場合によっては、患者は低酸素血症を有する。
【0064】
本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用の場合によっては、患者は以下の疾患のうち1つ以上を有する:喘息、COPD、気腫、若しくは気管支炎などの肺疾患;心不全などの心臓病;慢性腎臓病;肝炎などの肝臓病;脳及び神経に影響する疾患、例えばパーキンソン病、運動ニューロン疾患、多発性硬化症(MS若しくは脳性麻痺;1型若しくは2型糖尿病などの糖尿病;鎌状赤血球病、或いは患者が脾臓を摘出している場合;並びに/又は患者がHIV若しくはAIDSを有する、或いは患者が化学療法を受けている場合などの免疫系不全。
【0065】
本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用の場合によっては、患者は臨床的肥満である。場合によっては、患者は40以上のBMIを有する。
【0066】
本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用の場合によっては、患者は肺炎を有する。肺炎は、胸部撮像法によって確認された肺炎であり得る。場合によっては、肺炎はウイルス性肺炎である。場合によっては、肺炎はSARS-CoV-2感染症によって誘発される。場合によっては、肺炎は、インフルエンザウイルスA、インフルエンザウイルスB、呼吸器合胞体ウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、メタ肺炎ウイルス、SARS-COV、中東呼吸器症候群ウイルス(MERS-CoV)、ハンタウイルス、単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、サイトメガロウイルス、天然痘ウイルス、又はデング熱ウイルスによって誘発される。場合によっては、肺炎は、インフルエンザウイルスA、インフルエンザウイルスB、呼吸器合胞体ウイルス、又はヒトパラインフルエンザウイルスによって誘発される。
【0067】
場合によっては、本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用は、患者が呼吸補助、例えば機械的人工換気又は体外膜型酸素供給(ECMO)などの侵襲的又は非侵襲的呼吸補助を受ける必要性を有意に低減させる。
【0068】
本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用のうちいくつかでは、患者はヒトである。場合によっては、患者は、少なくとも40歳、少なくとも50歳、少なくとも60歳、少なくとも70歳、少なくとも80歳、又は少なくとも90歳である。
【0069】
場合によっては、本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用は、死亡までの時間に及び、且つ/又は生存率を改善させる。
【0070】
場合によっては、本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用は、29日目以前までに、9ポイントカテゴリ順序尺度上で少なくとも2ポイントの臨床改善をもたらす(ここで、1日目は患者が本明細書で定義される療法の初回用量を投与された日と定義される)。
【0071】
場合によっては、本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用は、退院までの時間を短縮させる。
【0072】
場合によっては、本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用は、対象が退院に適していると見なされるまでの時間を短縮させる(9ポイントカテゴリ順序尺度上で0、1、又は2のスコア)。
【0073】
場合によっては、本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用は、2、8、15、22、及び29日目に、対象の悪化を順序尺度に基づいて1、2、又は3ポイント低減させる(1日目は、患者が本明細書で定義される療法の初回用量を投与された日と定義される)。
【0074】
COVID-19、又はこの疾患の関連する特徴を治療する方法の例示的実施形態としては、以下が挙げられる:
1.患者におけるコロナウイルス疾患2019(COVID-19)を治療又は予防する方法であって、配列番号37の配列を有するVHCDR1、配列番号38の配列を有するVHCDR2、配列番号39の配列を有するVHCDR3、配列番号40の配列を有するVLCDR1、配列番号41の配列を有するVLCDR2、及び配列番号42の配列を有するVLCDR3を含む、抗IL33抗体、又はその抗原結合性フラグメントの有効量を患者に投与することを含む、方法。
2.患者におけるコロナウイルス2型感染症によって誘発される急性呼吸不全(SARS-CoV-2)を予防又は治療する方法であって、実施形態1に記載される抗IL33抗体、又はその抗原結合性フラグメントの有効量を患者に投与することを含む、方法。
3.患者におけるコロナウイルス2型(SARS-CoV-2)感染症によって誘発される急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を予防又は治療する方法であって、実施形態1に記載される抗IL33抗体、又はその抗原結合性フラグメントの有効量を前記患者に投与することを含む、方法。
4.SARS-CoV-2に感染した患者、又はCOVID-19を患う患者における過度の肺炎症を治療又は予防する方法であって、実施形態1に記載される抗IL33抗体、又はその抗原結合性フラグメントの有効量を前記患者に投与することを含む、方法。
5.患者は、確認されたか又は疑われる入院が必要なCOVID-19を有する、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
6.患者は、呼吸窮迫及び/又は低酸素血症を有する、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
7.患者は、以下の疾患のうち1つ以上を有する、先行実施形態のいずれかに記載の方法:
a.喘息、COPD、気腫、又は気管支炎などの肺疾患;
b.心不全などの心臓病;
c.慢性腎臓病;
d.肝炎などの肝臓病;
e.脳及び神経に影響する疾患、例えばパーキンソン病、運動ニューロン疾患、多発性硬化症(MS若しくは脳性麻痺;
f.1型若しくは2型糖尿病などの糖尿病;
g.鎌状赤血球病、或いは患者が脾臓を摘出している場合、並びに/又は
h.患者がHIV若しくはAIDSを有する、或いは患者が化学療法を受けている場合などの免疫系不全。
8.患者は40以上のBMIを有する、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
9.患者は肺炎を有する、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
10.治療は、患者が呼吸補助を受ける必要性を有意に低減させる、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
11.呼吸補助は侵襲的又は非侵襲的である、実施形態10に記載の方法。
12.患者は、少なくとも40歳、少なくとも50歳、少なくとも60歳、少なくとも70歳、少なくとも80歳、又は少なくとも90歳である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
13.抗体、又はその抗原結合性フラグメントは、患者に非経口的に、例えば静脈内又は皮下投与されるものである、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
14.上記の抗体又はその抗原結合性フラグメントのVH及びVLは、それぞれ配列番号1及び配列番号19と少なくとも95%、90%、又は85%同一のアミノ酸配列を含む、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
15.抗体又はその抗原結合性フラグメントは、配列番号1の配列を有するVH、及び配列番号19の配列を有するVLを含む、実施形態14に記載の方法。
16.抗体又はその抗原結合性フラグメントは、ヒト抗体、キメラ抗体、及びヒト化抗体から選択される、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
17.抗体又はその抗原結合性フラグメントは、自然発生抗体、scFvフラグメント、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、及び一本鎖抗体から選択される、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
18.抗体又はその抗原結合性フラグメントがモノクローナル抗体である、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
19.抗体は、薬学的に許容される形態で患者に投与される、先行実施形態のいずれかに記載の方法。
【0075】
治療のためのバイオマーカーとしてのIL-33濃度
場合によっては、本方法は、ベースライン濃度と比較して総血清IL-33の濃度が増加している患者のためのものである。実施例は、COVID-19を患う対象においてはIL-33濃度が上昇することを示す。COVID-19を患う入院している対象は、ARDSの症状を発症するに至る場合がある。したがって、IL-33の濃度が上昇した対象及びARDSの発症に関連する症状(例えば、低酸素血症又は重度の肺炎症)を呈する対象を特定することで、増加したIL-33活性に関連するARDSの発症が増加した患者の早期特定を可能にすることができる。
【0076】
実施例は、ヒトライノウイルス感染症が、IL-33依存的な方法でILC2の活性化を駆動することも示す。ILC2の活性化過剰は、ARDSの発症に関連している。したがって、増加したIL-33活性は、ARDSの発症をもたらす肺炎(ウイルス性肺炎など)の間で共通する病理学的機構であり得ることは理にかなっている。
【0077】
したがって、本明細書で開示される方法は、高濃度のIL-33を有する患者のためのものであり得る。場合によっては、患者は高濃度の血清IL-33を有し得る。場合によっては、患者は高濃度の血清IL-33/sST2複合体を有し得る。
【0078】
IL-33の濃度は、単独又はsST2との複合体中のいずれであろうと、当該技術分野で利用可能な多くのアッセイのうち任意の1つによって決定することができる。
【0079】
例えば、IL-33(又はIL-33/sST2複合体)の濃度は、イムノアッセイによって決定することができる。
【0080】
イムノアッセイは、典型的には抗体などの捕捉試薬が関連する分析質を捕捉し、任意選択的に、プローブ試薬が関連する分析質を検出することを必要とする。安定したイムノアッセイ技法は以下の通りである:ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、S-plex、ウエスタンブロッティング、免疫細胞化学、免疫沈降、アフィニティークロマトグラフィー、バイオレイヤー干渉法、Octet、ForteBio)、並びに、解離促進ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA(登録商標)、Perkin Elmer)、フェルスター共鳴エネルギー転移(FRET)アッセイ(例えば、均一時間分解蛍光(HTRF(登録商標)、Cis Biointernational)、及び放射性免疫/放射性リガンド結合アッセイなどの生化学アッセイ。
【0081】
ウエスタンブロット分析は、一般的には、タンパク質試料を調製し、タンパク質試料をポリアクリルアミドゲル(例えば、抗原の分子量に応じて8~20SDS-PAGE)中で電気泳動し、タンパク質試料をポリアクリルアミドゲルからニトロセルロース、PVDF、又はナイロンなどの膜に移し、膜をブロッキング溶液(例えば、3%BSA又は脱脂乳を含むPBS)でブロッキングし、膜を洗浄緩衝液(例えば、PBS-Tween 20)中で洗浄し、膜をブロッキング緩衝液中に希釈された一次抗体(関心対象の抗体)でブロックし、膜を洗浄緩衝液中で洗浄し、膜をブロッキング緩衝液中に希釈された酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ)又は放射性分子(例えば、32P又は125I)にコンジュゲートされた二次抗体(一次抗体、例えば抗ヒト抗体を認識する)でブロックして、膜を洗浄緩衝液中で洗浄し、抗原の存在を検出することを含む。当業者であれば、検出シグナルを増大させて、バックグラウンドノイズを低下させるように修正され得るパラメータに関する知識を有するであろう。ウエスタンブロットプロトコルに関する更なる考察は、例えば、Ausubel et al.,eds,(1994)Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley&Sons,Inc.,NY)Vol.1 at 10.8.1を参照されたい。
【0082】
ELISAは、抗原を調製し、96ウェルマイクロタイタープレートのウェルを抗原で被覆し、酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ)などの検出可能化合物にコンジュゲートされた関心のある抗体をウェルに添加し、一定時間インキュベートし、抗原の存在を検出することを含む。ELISAでは、目的の抗体を検出可能な化合物にコンジュゲートする必要はなく、代わりに、検出可能な化合物にコンジュゲートした二次抗体(これは目的の抗体を認識する)をウェルに加えてもよい。更に、ウェルを抗原でコーティングする代わりに、抗体をウェルにコーティングしてもよい。この場合、コーティングされたウェルに目的の抗原を加えた後に、検出可能な化合物にコンジュゲートした第2の抗体が加えられ得る。当業者であれば、検出されるシグナル並びに当該技術分野において公知のELISAの他の変数が増加するように修正し得るパラメータに関して精通しているであろう。ELISAに関する更なる考察は、例えば、Ausubel et al.,eds,(1994)Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons,Inc.,NY)Vol.1 at 13.2.1を参照されたい。
【0083】
場合によっては、IL-33の濃度は、S-plexアッセイと称される修正ELISAを用いることによって決定され得る。S-plexアッセイは、適切な使用説明書と共にMeso Scale Diagnostics LLCから入手可能である。
【0084】
本明細書で使用するとき、「高濃度」とは、ベースライン値よりも高い濃度を意味する。IL-33のベースライン値は、健康な対照対象のコホートから決定されたIL-33又はIL-33/sST2の所定量である場合もあり、或いは、これは患者において過去に測定されたIL-33又はIL-33/sST2のベースライン濃度を意味する場合もある。例えば、こうした測定値は、以前の対象のケア中に決定済みである場合がある(例えば、ARDSのかかりやすさを増大させる前提条件を有する患者(例えば、患者が肺炎を有する場合に)が入院する前に得られた測定値)。
【0085】
したがって、場合によっては、本明細書で開示される方法は、対照値よりも高いIL-33濃度、対照値よりも高い血清IL-33濃度、又は対照値よりも高い血清IL-33/sST2複合体レベルを有する患者のためのものである。
【0086】
場合によっては、対照値は、健康な対象対照から得られた所定のIL-33の値を含む。場合によっては、対照値は、患者から得られた過去のIL-33濃度の値を含む。
【0087】
このバイオマーカー分析は、肺の損傷(例えば、ウイルス感染症、外傷など)を受けた、従ってARDSを発症するリスクがある患者の特定を可能にすることができる。こうしたシナリオは、ARDS又はこれに付随する症状が発現する前に早期介入することによりARDSの予防を可能にする。
【0088】
かくして、本明細書で開示される方法は、特に、例えば患者にARDSを発症するリスクがある場合、患者が肺に損傷を受けたことが分かっているため、ARDSの予防のためになり得る。
【0089】
場合によっては、本方法は、患者のIL-33濃度を測定する工程と、患者のIL-33濃度が対照のIL-33値を超える場合は、これらを本明細書で開示される方法によって治療するために選択する工程と、を含む。
【0090】
場合によっては、本方法は患者において使用するためのものであり、ここで患者は対照のIL-33値を超えるIL-33濃度を含むものと判定されている。
【0091】
IL-33軸結合アンタゴニスト
場合によっては、本明細書で提供される方法、使用のための化合物、及び使用は、臨床投与される酸素の使用を低減させる。IL-33軸結合アンタゴニスト。
【0092】
本明細書で開示される方法で使用するのに好適であり得るIL-33軸結合アンタゴニストとしては、33_640087-7B(国際公開第2016/156440号パンフレットに記載される)、ANB020、別名エトキマブ(国際公開第2015/106080号パンフレットに記載される)、9675P(米国特許出願公開第2014/0271658号明細書に記載される)、A25-3H04(米国特許出願公開第2017/0283494号明細書に記載される)、Ab43(国際公開第2018/081075号パンフレットに記載される)、IL33-158(米国特許出願公開第2018/0037644号明細書に記載される)、10C12.38.H6.87Y.581 lgG4(国際公開第2016/077381号パンフレットに記載される)、又はこれらの結合フラグメントを含む、抗IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントが挙げられる。その他の例示的な抗IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントとしては、全て参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2016/156440号パンフレット、同第2015/106080号パンフレット、米国特許出願公開第2014/0271658号明細書、同第2017/0283494号明細書、国際公開第2018/081075号パンフレット、米国特許出願公開第2018/0037644号明細書、又は国際公開第2016/077381号パンフレットに記載されるその他の抗IL-33抗体のうちのいずれかが挙げられる。
【0093】
その他の例示的なIL-33軸結合アンタゴニストとしては、IL-33及び/又はその受容体(ST-2)若しくは共受容体(IL1-RAcP)に結合し、リガンド-受容体相互作用をブロックするポリペプチドが挙げられる(例えば、それぞれ参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、国際公開第2013/173761号パンフレット、同第2013/165894号パンフレット、若しくは同第2014/152195号パンフレットに記載されるものなどのST2-Fcタンパク質、若しくは可溶性ST2、又はこれらの誘導体)。
【0094】
その他の例示的なIL-33軸結合アンタゴニストとしては、抗ST-2抗体又はその抗原結合性フラグメントも挙げられる(例えば、AMG-282(Amgen)若しくはSTLM15(Janssen)、又はそれぞれ参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2013/173761号パンフレット若しくは同第2013/165894号パンフレットに記載される抗ST-2抗体のうちのいずれか)。
【0095】
その他の例示的なIL-33軸結合アンタゴニストとしては、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2018/102597号パンフレットに記載されるものなどの、IL-33受容体ベースのリガンドトラップが挙げられる。
【0096】
ある場合では、IL-33軸結合アンタゴニストは結合分子である。好適には、結合分子は、抗体又はその抗原結合性フラグメントであり得る。
【0097】
好適には、結合分子はIL-33と特異的に結合する。こうした結合分子は、「IL-33結合分子」又は「抗IL-33結合分子」とも称される。好適には、結合分子は、IL-33と特異的に結合し、IL-33活性を阻害又は減衰する。
【0098】
好適には、IL-33結合分子は、還元IL-33、酸化IL-33、又は還元IL-33及び酸化IL-33の両方と特異的に結合する。
【0099】
好適には、結合分子は、還元又は酸化型のIL-33と結合することによりIL-33活性を減衰又は阻害し得る。好適には、結合分子が還元IL-33活性及び酸化IL-33活性を阻害又は減衰する場合、これは還元型のIL-33と結合することにより(すなわち、還元IL-33と結合することにより)達成される。
【0100】
好適には、結合分子はredIL-33及びoxIL-33の両方の活性を阻害又は減衰し、それによりST2シグナル伝達及びoxIL-33活性の両方を阻害又は減衰する。最近では、red-IL-33ではなくox-IL33が、終末糖化産物受容体(RAGE)と結合している。Ox-IL33依存性RAGEシグナル伝達は、上皮細胞の増殖及び遊走を阻害することが示されている。
【0101】
好適には、結合分子は、5×10-2M、10-2M、5×10-3M、10-3M、5×10-4M、10-4M、5×10-5M、10-5M、5×10-6M、10-6M、5×10-7M、10-7M、5×10-8M、10-8M、5×10-9M、10-9M、5×10-10M、10-10M、5×10-11M、10-11M、5×10-12M、10-12M、5×10-13M、10-13M、5×10-14M、10-14M、5×10-15M、又は10-15M未満の結合親和力(Kd)でredIL-33と特異的に結合することができる。好適には、redIL-33に対する結合親和力は、5×10-14M(すなわち、0.05pM)未満である。好適には、結合親和性は、Kinetic Exclusion Assays(KinExA)又はBIACORE(商標)を使用し、好適にはKinExAを使用して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2016/156440号パンフレットに記載されているものなどのプロトコル(例えば、実施例11を参照されたい)を使用して測定されるとおりである。この結合親和力でredIL-33と結合する結合分子は、生物学的に関連する時間スケール内で結合分子/redIL-33複合体の解離を防ぐのに十分なほどしっかりと結合していることが判明した。理論に束縛されることを望むものではないが、この結合強度が、インビボで結合分子/抗原複合体が分解する前に抗原が放出されるのを防いで、結合複合体からのIL-33の放出に付随するあらゆるIL-33依存的活性を最小化するものと考えられる。
【0102】
好適には、結合分子は、10-1-1、5×10-1-1、10-1-1、又は5×10-1-1以上のオンレート(k(on))で、redIL-33に特異的に結合し得る。例えば、本開示の結合分子は、10-1-1、5×10-1-1、10-1-1、又は5×10-1-1若しくは10-1-1以上のオンレート(k(on))で、redIL-33又はそのフラグメント若しくはバリアントに結合し得る。好適には、k(on)レートは、10-1-1以上である。好適には、結合分子は、5×10-1-1、10-1-1、5×10-2-1、10-2-1、5×10-3-1、又は10-3-1以下のオフレート(k(off))で、redIL-33に特異的に結合し得る。例えば、本開示の結合分子は、5×10-4-1、10-4-1、5×10-5-1、又は10-5-1、5×10-6-1、10-6-1、5×10-7-1若しくは10-7-1以下のオフレート(k(off))で、redIL-33、又はそのフラグメント若しくはバリアントに結合するということが言える。好適には、k(off)レートは10-3-1以下である。IL-33は、炎症性刺激に反応して急速且つ高濃度で放出されるアラーミンサイトカインである。redIL-33は、細胞外環境に放出されてからおよそ5~45分後に酸化された状態に変換される(Cohen et al Nat Commun 6,8327(2015))。理論に束縛されることを望むものではないが、これらのk(on)及び/又はk(off)レートでredIL-33に結合することで、還元型からoxIL-33に変換する前のredIL-33への曝露を最小化することができる。更に、k(off)レートは、インビボで複合体が分解する前に結合分子/抗原複合体からのIL-33の放出を防ぐことができる。これらの結合キネティクスはまた、redIL-33がoxIL-33に変換するのを防ぎ、ひいてはRAGEを介した酸化型IL-33の病理学的シグナル伝達を防ぐようにも作用し得る(参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2016/156440号パンフレットに記載される)。
【0103】
好適には、IL-33結合分子は、表1に引用される結合分子のいずれかに対するIL-33の結合を競合的に阻害し得る。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
これらの結合分子は、全てIL-33に結合してST-2シグナル伝達を阻害又は減衰すると報告されている。したがって、IL-33への結合に関して表1に記載される抗体のうちいずれかと競合する結合分子又はその結合性フラグメントは、ST-2シグナル伝達を阻害又は減衰し得る。
【0110】
結合分子又はそのフラグメントは、それが所与のエピトープに対する参照抗体の結合をある程度ブロックする限りにおいてそのエピトープと特異的に結合する場合、そのエピトープに対する参照抗体の結合を競合的に阻害すると言われる。競合的阻害は、当該技術分野において公知の任意の方法、例えば、競合ELISAアッセイなどの固相アッセイ、解離促進ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA(登録商標)、Perkin Elmer)、及び放射性リガンド結合アッセイによって決定され得る。例えば、当業者は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2016/156440号パンフレットのパラグラフ881~886に記載されているHTRFアッセイなどのインビトロの競合的結合アッセイを使用することにより、結合分子又はそのフラグメントがIL-33への結合に関して競合するかどうかを決定することができる。例えば、当業者であれば、表6の組み換え抗体をドナー蛍光体で標識し、複数の濃度(concentration)をアクセプター蛍光体で標識されたredIL-33の固定濃度試料と混合することができる。続いて、各試料内のドナー蛍光体とアクセプター蛍光体との間の蛍光共鳴エネルギー転移を測定して、結合特性を確認することができる。競合的な結合分子を明らかにするため、当業者であれば、最初に様々な濃度の試験結合分子を表6の固定濃度の標識化抗体と混合することができる。標識化抗体のみの陽性対照と比較した、混合物を標識化IL-33でインキュベートした場合のFRETシグナルの低減は、IL-33に対する競合的な結合を示す。結合分子又はそのフラグメントは、所与のエピトープに対する参照抗体の結合を、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、又は少なくとも50%、競合的に阻害すると言うことができる。
【0111】
好適には、IL-33結合分子は、表1から選択される可変重鎖ドメイン(VH)と可変軽鎖ドメイン(VL)との対の相補性決定領域(CDR)を含む、抗体又は抗原結合性フラグメントであり得る。この中で、対1は、国際公開第2016/156440号パンフレットに記載される33_640087-7BのVH及びVLドメイン配列に対応する。対2~7は、米国特許出願公開第2014/0271658号明細書に記載される抗体のVH及びVLドメイン配列に対応する。対8~12は、米国特許出願公開第2017/0283494号明細書に記載される抗体のVH及びVLドメイン配列に対応する。対13は、国際公開第2015/106080号パンフレットに記載されるANB020のVH及びVLドメイン配列に対応する。対14~16は、国際公開第2018/081075号パンフレットに記載される抗体のVH及びVLドメイン配列に対応する。対17は、米国特許出願公開第2018/0037644号明細書に記載されるIL33-158のVH及びVLドメイン配列に対応する。対18は、国際公開第2016/077381号パンフレットに記載される10C12.38.H6.87Y.581 lgG4のVH及びVLドメイン配列に対応する。
【0112】
好適には、IL-33結合分子は、結合分子33_640087-7B(国際公開第2016/156440号パンフレットに記載される)に対するIL-33の結合を競合的に阻害し得る。好適には、国際公開第2016/156440号パンフレットは、33_640087-7Bが、特に高い親和力でredIL-33と結合し、ST-2及びRAGE依存性の両方のIL-33シグナル伝達を減衰することを開示する。
【0113】
好適には、IL-33結合分子は、配列番号1の配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の相補性決定領域(CDR)、及び配列番号19の配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の相補性決定領域(CDR)を含む、抗IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントである。これらのCDRは、還元IL-33に結合し、その酸化IL-33への変換を阻害する、33_640087-7B(国際公開第2016/156440号パンフレットに記載される)から誘導されるものに対応する。33_640087-7Bは、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2016/156440号パンフレットで詳細に記載されている。したがって、この抗体は、ST-2及びRAGEシグナル伝達の両方を阻害又は減衰するために本明細書で説明される方法において特に有用であり得る。
【0114】
好適には、当業者は、当該技術分野における抗体又はその抗原結合性フラグメントの重可変領域及び軽可変領域内のCDRを特定するのに利用可能な方法を知っている。好適には、当業者は、例えば、配列に基づくアノテーションを行うことができる。CDR間の領域は、一般的に高度に保存されているため、論理規則を用いてCDRの位置を決定することができる。当業者は、従来の抗体に対して配列に基づく規則のセットを使用することができ(Pantazes and Maranas,Protein Engineering,Design and Selection,2010)、或いは、又は追加的に、当業者は複数の配列アラインメントに基づいて規則を洗練させることもできる。或いは、当業者は、最も近似するアノテーション付き配列を特定するためにBLAST+のBLASTP命令を用いて、抗体配列をKabat、Chothia、又はIMGT法上で稼働する公開データベースと比較することもできる。これらの方法はそれぞれ、それに従って超可変領域残基を番号付けし、続いて特定のキーポジションに基づいて6つのCDRのそれぞれの始端及び終端を決定する、固有の残基番号付けスキームを考案している。例えば、最も近似するアノテーション付き配列とアラインメントされると、CDRがアノテーション付き配列から非アノテーション付き配列へと外挿されて、それによりCDRを特定することができる。好適なツール/データベースは、例えば、Kabatデータベース、Kabatman、Scalinger、IMGT、Abnumである。
【0115】
好適には、結合分子は、表1から選択される可変重鎖ドメイン(VH)と可変軽鎖ドメイン(VL)とのペアを含む、IL-33抗体又は抗原結合性フラグメントである。
【0116】
好適には、IL-33抗体又は抗原結合性フラグメントは、従って、配列番号1の配列のVHドメイン及び配列番号19の配列のVLドメインを含む。
【0117】
好適には、IL-33抗体又は抗原結合性フラグメントは、従って、配列番号7の配列のVHドメイン及び配列番号25の配列のVLドメインを含む。
【0118】
好適には、IL-33抗体又は抗原結合性フラグメントは、従って、配列番号11の配列のVHドメイン及び配列番号29の配列のVLドメインを含む。
【0119】
好適には、IL-33抗体又は抗原結合性フラグメントは、従って、配列番号13の配列のVHドメイン及び配列番号31の配列のVLドメインを含む。
【0120】
好適には、IL-33抗体又は抗原結合性フラグメントは、従って、配列番号16の配列のVHドメイン及び配列番号34の配列のVLドメインを含む。
【0121】
好適には、IL-33抗体又は抗原結合性フラグメントは、従って、配列番号17の配列のVHドメイン及び配列番号35の配列のVLドメインを含む。
【0122】
好適には、IL-33抗体又は抗原結合性フラグメントは、従って、配列番号18の配列のVHドメイン及び配列番号36の配列のVLドメインを含む。
【0123】
好適には、IL-33抗体又は抗原結合性フラグメントは、配列番号1、7、11、13、16、17、及び18から独立して選択される重鎖可変領域から誘導される3つのCDRを含む可変重鎖を含む。
【0124】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、配列番号1の重鎖可変領域の3つのCDRを含む重鎖可変領域を含む。
【0125】
好適には、IL-33抗体又は抗原結合性フラグメントは、配列番号19、25、29、31、34、35、及び36から独立して選択される軽鎖可変領域中に3つのCDRを含む軽鎖可変領域を含む。
【0126】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、配列番号19の軽鎖可変領域中に3つのCDRを含む軽鎖可変領域を含む。
【0127】
したがって、好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、配列番号1、7、11、13、16、17、及び18から独立して選択される重鎖可変領域の3つのCDRを含む重鎖可変領域を含み、また配列番号19、25、29、31、34、35、及び36から独立して選択される軽鎖可変領域中に3つのCDRを含む軽鎖可変領域を含む。
【0128】
したがって、好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、配列番号1の重鎖可変領域の3つのCDRを含む重鎖可変領域を含み、また配列番号19の軽鎖可変領域中に3つのCDRを含む軽鎖可変領域を含む。
【0129】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、それぞれ配列番号37、38、及び39の配列を有するVH CDR1~3を有する可変重鎖ドメイン(VH)及び可変軽鎖ドメイン(VL)を含み、ここで1つ以上のVHCDRは、3つ以下の単一アミノ酸置換、挿入、及び/又は欠失を有する。
【0130】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、それぞれ配列番号37、配列番号38、及び配列番号39のVHCDR1~3を含むVHドメインを含む。
【0131】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、それぞれ配列番号37、配列番号38、及び配列番号39からなるVHCDR1~3を含むVHドメインを含む。
【0132】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、それぞれ配列番号40、41、及び42の配列を有するVL CDR1~3を有する可変重鎖ドメイン(VH)及び可変軽鎖ドメイン(VL)を含み、ここで1つ以上のVLCDRは、3つ以下の単一アミノ酸置換、挿入、及び/又は欠失を有する。
【0133】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、それぞれ配列番号40、配列番号41、及び配列番号42のVLCDR1~3を含むVLドメインを含む。
【0134】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、それぞれ配列番号40、配列番号41、及び配列番号42からなるVLCDR1~3を含むVLドメインを含む。
【0135】
したがって、好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、配列番号37の配列を有するVHCDR1、配列番号38の配列を有するVHCDR2、配列番号39の配列を有するVHCDR3、配列番号40の配列を有するVLCDR1、配列番号41の配列を有するVLCDR2、及び配列番号42の配列を有するVLCDR3を含む。
【0136】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、VH及びVLを含み、ここで、VHは、配列番号1、7、11、13、16、17、及び18のVHと少なくとも90%、例えば91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100%同一のアミノ酸配列を有する。
【0137】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、VH及びVLを含み、ここで、VHは、配列番号1のVHと少なくとも90%、例えば91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100%同一のアミノ酸配列を有する。
【0138】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、VH及びVLを含み、ここで、上記で開示されるVHは、フレームワーク中の1、2、3、又は4つのアミノ酸が欠失し、挿入され、且つ/又は独立して異なるアミノ酸に置換されている配列を有する。
【0139】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、VH及びVLを含み、ここで、VLは、配列番号19、25、29、31、34、35、及び36のVLと少なくとも90%、例えば91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100%同一のアミノ酸配列を有する。
【0140】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、VH及びVLを含み、ここで、VLは、配列番号19のVLと少なくとも90%、例えば91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100%同一のアミノ酸配列を有する。
【0141】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、VH及びVLを含み、ここで、上記で開示されるVLは、フレームワーク中の1、2、3、又は4つのアミノ酸が独立して欠失し、挿入され、且つ/又は異なるアミノ酸に置換されている配列を有する。
【0142】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、VH及びVLを含み、ここで、VHは、配列番号1、7、11、13、16、17、及び18のVHと少なくとも90%、例えば91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100%同一のアミノ酸配列を有し、VLは、配列番号19、25、29、31、34、35、及び36のVLと少なくとも90%、例えば91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100%同一のアミノ酸配列を有する。
【0143】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、VH及びVLを含み、ここで、VHは、配列番号1、7、11、13、16、17、及び18からなるアミノ酸配列を有し、VLは、配列番号19、25、29、31、34、35、及び36からなるアミノ酸配列を有する。
【0144】
好適には、IL-33抗体又はその抗原結合性フラグメントは、VH及びVLを含み、ここで、VHは配列番号1からなるアミノ酸配列を有し、VLは配列番号19からなるアミノ酸配列を有する。
【0145】
組成及び投与
本明細書に記載の医学的使用及び方法におけるIL-33アンタゴニストは、医薬組成物の形態で患者に投与することができる。
【0146】
好適には、本明細書における「IL-33アンタゴニスト」への言及は、IL-33アンタゴニストを含む医薬組成物も指し得る。好適には、医薬組成物は、1つ以上のIL-33アンタゴニストを含み得る。
【0147】
好適には、IL-33アンタゴニストは、コロナウイルス疾患2019(COVID-19)、SARS-CoV-2感染症、及び/又はこれらの症状のインビボ治療のための薬学的有効量で投与され得る。
【0148】
好適には、「薬学的有効量」又は「治療有効量」のIL-33アンタゴニストは、IL-33との有効な結合を達成し、且つ利益を達成する、例えば本明細書の医学的使用/方法で記載されるような疾患又は病態の症状を改善するのに十分な量を意味するように保持されなければならない。
【0149】
好適には、IL-33アンタゴニスト又はその医薬組成物は、治療効果を生じさせるのに十分な量で上述の治療方法/医学的使用に従いヒト又は他の動物に投与され得る。
【0150】
好適には、IL-33アンタゴニスト又はその医薬組成物は、公知の技法に従いIL-33アンタゴニストを従来の薬学的に許容される担体又は希釈剤と組み合わせることによって調製される従来の剤形で、このようなヒト又は他の動物に投与され得る。
【0151】
当業者によれば、薬学的に許容される担体又は希釈剤の形態及び性質が、それと共に組み合わせる活性成分の量、投与経路、及び他の周知の変動要因に左右されることが認識されるであろう。当業者は更に、IL-33アンタゴニストの1つ以上の種を含むカクテルが特に有効であると判明し得ると理解するであろう。
【0152】
単一の剤形を作製するために担体材料と組み合わせることのできるIL-33アンタゴニストの量は、治療対象及び詳細な投与方法に応じて変わる。好適には、医薬組成物は、単回用量、複数回用量として、又は輸液で確立された期間にわたって投与され得る。好適には、投与レジメンも、所望される最適応答(例えば、治療的応答又は予防的応答)を提供するように調整され得る。
【0153】
好適には、投与を容易にし、且つIL-33アンタゴニストの安定性を促進させるために、IL-33アンタゴニストを製剤化する。
【0154】
好適には、医薬組成物は、薬学的に許容される非毒性滅菌担体、例えば生理食塩水、非毒性緩衝液、防腐剤などを含むように製剤化される。
【0155】
好適には、医薬組成物は、薬学的に許容される担体、滅菌水溶液若しくは非水溶液、懸濁液、及び/又はエマルションを含み得る。
【0156】
好適には、注射用途用医薬組成物としては、滅菌水溶液(水溶性の場合)又は分散系、及び滅菌注射用溶液又は分散系の即時調製のための滅菌粉末を挙げてもよい。こうした場合、組成物は滅菌でなくてはならず、容易な注射針通過性が存在する程度に流動性であるべきである。本組成物は製造及び保管条件下で安定していなくてはならず、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用から保護される。
【0157】
本明細書に開示する治療方法における使用に好適な製剤については、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Co.)16th ed.(1980)に記載されている。
【0158】
好適には、微生物の作用の防止は、様々な抗菌及び抗真菌剤によって達成することができる。多くの場合で、医薬組成物中に等張剤を含むことが好適であることになる。吸収を遅延させる薬剤を組成物に含めると、注射用組成物の持続的吸収をもたらすことができる。
【0159】
好適には、滅菌注射液は、必要量のIL-33軸結合アンタゴニストを、適切な溶媒中に、必要に応じて、本明細書に列挙した成分の1つ又は組み合わせと共に組み込み、続いて濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、基本の分散媒体及び上で列挙した成分からの所望の他の成分を含有する滅菌ビヒクルに、活性化合物を組み入れることによって調製される。無菌注射溶液調製用の無菌粉末の場合、調製方法は、予め無菌濾過したその溶液から活性成分及び任意の追加的な所望の成分の粉末が得られる真空乾燥及び凍結乾燥であってもよい。
【0160】
IL-33アンタゴニスト又はその医薬組成物をそれを必要としている対象に投与する方法は、当業者によって容易に決定され得る。
【0161】
好適には、IL-33軸結合アンタゴニスト又はその医薬組成物の投与経路は、例えば、経口、非経口、吸入による、又は局所的であり得る。好適には、本明細書で使用するとき、用語「非経口」とは、例えば、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、直腸、又は腟内投与を含む。
【0162】
好適には、IL-33アンタゴニスト又はその医薬組成物は、例えば、カプセル剤、錠剤、水性懸濁剤、又は溶液剤をはじめとする許容される剤形で、経口投与されてもよい。
【0163】
好適には、非経口製剤は、単回ボーラス用量、輸液、又は負荷ボーラス用量、及びそれに続く維持用量であり得る。これらの組成物は、特定の一定若しくは変動間隔、例えば1日1回、又は「必要に応じて」投与することができる。
【0164】
好適には、本明細書に記載される医薬組成物を調製するための本明細書の上記で引用した構成要素は、キット形態でパッケージ化されて販売され得る。かかるキットは、関連する医薬組成物が、疾患又は障害に罹患しているか又はそれに罹り易い対象の治療に有用であることを示すラベル又は添付文書を有し得る。
【実施例
【0165】
実施例1
呼吸器ウイルス感染症は、喘息悪化エピソードの80%に関連している。これらの悪化は、多額の健康管理費用を有し、病的状態、及びいくつかの場合では死さえもたらす。したがって、ウイルスによる悪化、及びその結果もたらされる炎症を軽減するために新規な治療ツールが必要とされている。改善された治療に向けた第1の段階は、ウイルス性気道炎症の機序を理解することである。ウイルス感染中の上皮組織と2型自然リンパ球細胞(ILC2)との間のクロストークを理解するために新規な肺の気液界面(ALI)共培養システムが開発された。これらは、肺粘膜内に位置して、損傷した上皮組織によって放出されるアラーミンサイトカイン(IL-33、TSLP、及びIL-25)に迅速に応答する。ILC2は、炎症反応を駆動するのに極めて重要な役割を果たす、最前線の免疫細胞である。これらの活性は、ARDSの病態生理と関連付けられてきた。
【0166】
このモデル系においては、抗IL-33活性を有する薬剤候補分子は、感染した上皮によって駆動されるILC2の活性化を予防することができた。
【0167】
方法
一次気管支上皮細胞(Lonza)を、培地中に7日間沈没させたままにされ、続いてエアリフトされた24ウェルプレート中の0.4μm孔ポリエステル膜上に播種した。これにより、基底細胞を杯細胞と繊毛細胞とに分化することが促進された。ウイルス感染前に培養を21日間維持した。
【0168】
ILC2を、CD161発現細胞を陽性選択することによって末梢血単核細胞から単離し、CD127+、CRTH2+、及びc-KIT+/-細胞に関してフローサイトメトリーによってソートした。
【0169】
qPCR分析-ALIをTRI試薬(登録商標)中に溶解させ、スピンカラムを用いてmRNAを精製した。TaqManプローブを用いて、cxcl10及びccl26発現を分析し、gapdhはハウスキーパーとしての役割を果たした。
【0170】
サイトカイン分析-上清を、ALI培養物の側底領域から回収し、R&D systemsのDuoSet(登録商標)ELISAを使用して、IP10(1:20希釈)及びIL-5(1:4希釈)分泌に関して分析した。
【0171】
ALIを28日間にわたって分化させ、ウイルスが繊毛細胞を介して侵入する先端側を、2時間かけてヒトライノウイルス-A(HRV-A)に感染させた。続いて、ヒト白血球錐体(cone)から単離したILC2を、ALI培養物の側底領域に添加し、これらを4~7日間インキュベートする。
【0172】
結果
ALIを、+/- HRV-Aに感染させ、続いて単体で又はILC2と共に7日間インキュベートした。ウイルス応答遺伝子cxcl10の上方制御及びウイルス応答タンパク質IP-10の分泌を検査することによってウイルス感染を評価した。HRV-A感染の後で、cxcl10 mRNA及びIP-10の放出に有意な増加があった。ALIをILC2単体と共にインキュベートしても応答は変化しなかった(ドナー n=5)(図1A及び1B)。
【0173】
感染したALIはアラーミンサイトカインを分泌し、これはILC2を活性化し、そのIL-5の分泌を誘発した(図1C)。続いて、活性化されたILC2がサイトカインを放出し、これはALI培養物に対して、好酸球及び好塩基球に対して走化性であるccl26の発現を有意に上方制御するように作用した(図1D)。(ドナー n=5)
【0174】
感染したALIを、ILC2及びIL-33結合アンタゴニストともインキュベートした。IL-33軸結合アンタゴニストは、ILC2からHRV-Aに感染したALIによって誘発されたIL-5の分泌を阻害した(図1E)。これは、IL-33軸結合アンタゴニストは、ILC2の活性化の予防に有用であり得、したがって、肺の炎症、及びARDSなどのこれに関連する疾患の予防又は治療に有用であり得ることを示す。
【0175】
実施例2
血清中のIL-33の量を、以下の表題の研究に同意した100人のヒトドナー由来の100個のCOVID陽性血清試料中で測定した:“Evaluating the clinical impact of routine molecular point-of-care testing for COVID-19 in adults presenting to hospital:A prospective,interventional,non-randomized pre and post implementation study(CoV-19POC)”;REC reference:20/SC/0138;IRAS project ID:280621。
【0176】
IL-33の遊離還元形態(redIL-33)及びIL-33-sST2複合体(IL-33/sST2)を、特異的イムノアッセイで測定した。試料分析は、fg/ml範囲内の検出下限を実現する、AstraZenecaが社内開発したイソ型特異的IL-33モノクローナル抗体を用いるカスタムのS-PLEXアッセイ(MSD)を用いて実施した。試料は二重に分析した。
【0177】
図2Aに表示される結果は、COVID-19試料中のIL-33/sST2及びredIL-33の濃度を示す。図2Bは、IL-33/sST2複合体の濃度が、健康な血清対照と比較して、COVID-19陽性血清試料中で有意に増加することを示す。
【0178】
実施例3
第2相研究を、COVID-19の治療に対して最良の支持療法にMEDI3506を追加することの安全性及び有効性を評価するために実施する。MEDI3506(本明細書では33_640087-7Bとしても開示される)は、IL33を中和する完全ヒトモノクローナル抗体である。IL33は、ウイルス感染及び組織損傷に応答して放出される広域作用型の損傷応答サイトカインである。最良の支持療法は、治療担当医師及び国際的ガイドラインによって決定する。研究患者は、実験室試験及び/又はポイントオブケア試験によって確認されたSARS-CoV-2感染症を患い、9ポイントの順序尺度でグレード3~5のスコアを有する成人(≧18歳)である。
【0179】
WHOの9ポイントカテゴリ順序尺度:
0.未感染、感染の臨床的又は生物学的証拠なし
1.入院なし、活動の制限なし
2.入院なし、活動の制限あり
3.入院あり、酸素補給の必要なし
4.入院あり、酸素補給の必要あり
5.入院あり、非侵襲的換気又は高流量酸素装置あり
6.入院あり、挿管及び機械的人工換気
7.入院あり、人工換気及び追加の臓器補助(ECMO)
8.死
【0180】
患者は、以下の基準のうちいずれかを満たす場合は研究に参加しない。
・過去に9ポイントの順序尺度で6又は7のスコアを有したことのある患者。
・上級担当医によって判定して、その利益が研究の参加によっては最良に満たされない任意の患者。
・既知の活性なHIV又はB型若しくはC型肝炎の感染。
・ステージ4の重度の慢性腎臓病又は透析を必要とする(すなわち、推定糸球体ろ過速度が<30mL/分/1.73mである)。
・以下の心疾患の病歴:
○初回用量から3ヶ月前以内の心筋梗塞
○不安定狭心症
○臨床的に有意な律動不整の病歴(心電図[ECG]上で長QTの特徴、持続性徐脈[≦55bpm])、左脚ブロック、心臓ペースメーカー、又は心室性不整脈)、又は家族の長QTの病歴
・スクリーニング時の12誘導ECGで測定可能なフリデリシア補正QTc間隔(QTc interval according to Fridericia correction、QTcF)が>500msである。
・72時間以内に研究センターではない別の病院に移送されることが予期される。
・任意の研究投薬に対するアレルギー。
・COVID-19の治療としての医薬品の実験的な適応外の使用。
・治験中医薬品の別の臨床研究に参加している患者。
・現在結核の治療を必要とすると定義された活性の結核。
【0181】
研究手順
本研究は2段階で実施する。段階1は、標準治療(SoC)に対する付加物としてのMEDI3506の予備的安全性及び有効性を評価する。これは、最大60人の患者が予備的分析のために無作為化されることが予期される。患者は、SoC、又はSoCに対する付加物としてのMEDI3506のいずれかを受けるために無作為化される。患者は、1日目に無作為化される。MEDI3506治療群に無作為化された患者は、単回の300mgのIV用量としてMEDI3506を投与される。300mgのIV MEDI3506の第2用量は、15日目以前に患者が侵襲的換気を受けた場合に投与される。
【0182】
段階2は、疾患の転帰を完全に評価するための確証的データを提供するために実施される。段階2は、拡大段階におけるサーバ有害事象(sever adverse events)(AE)、全AE、疾患によって放出された同時感染合併症(例えば、肺炎及び敗血性ショック)、及び全死亡率も分析する。段階2に登録される患者の数は、段階1の結果によって決定される。
【0183】
結果
主要エンドポイントは、29日目までの最初に起きる、9ポイントカテゴリ順序尺度の(無作為化から)少なくとも2ポイントの臨床的改善、生存退院、又は退院に適すると見なされること(順序尺度の0、1、又は2のスコア)のいずれかに至るまでの時間として測定される。
【0184】
二次エンドポイントは以下の通りである:
・2、8、15、22、及び29日目に順序尺度に従って1、2、又は3ポイント悪化しなかった患者の割合。
・酸素使用及び酸素なしの日数の期間(日)。
・換気装置使用及び換気装置なしの日数の期間(日)。
・任意の形態の新規の換気装置使用の発生、及び新規の換気装置使用の期間(日)。
・2、8、15、及び29日目における治療群による奏効率(数及び%)。
・生存退院に至るまでの時間。
・15、29、及び60日目における死亡率。
・治療開始日から死亡までの時間。
・無作為化から15日目、退院、又は死亡まで毎日測定されたSpO/FiO
・身体検査。
・臨床検査室検査。
・バイタルサイン(血圧/心拍数/体温/呼吸速度)。
・有害事象。
・ICU及び入院の期間(日)。
・入院中に毎日、並びに15及び29日目に評価されたNEWS2。
【0185】
探索的エンドポイントは以下の通りである:
・入院中の1、3、5、8、11、15、及び(任意選択的に)29日目の口腔咽頭/鼻腔スワブにおける重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)の定性的及び定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の決定。
【0186】
追加の配列
配列番号37:SYAMS
配列番号38:GISAIDQSTYYADSVKG
配列番号39:QKFMQLWGGGLRYPFGY
配列番号40:SGEGMGDKYAA
配列番号41:RDTKRPS
配列番号42:GVIQDNTGV
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図3
【配列表】
2023521061000001.app
【国際調査報告】