(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】疼痛調節因子を含む幹細胞由来エクソソーム及びその用途
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20230516BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230516BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P29/00
A61K38/19
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560482
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(85)【翻訳文提出日】2022-10-04
(86)【国際出願番号】 KR2021004384
(87)【国際公開番号】W WO2021206459
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】10-2020-0042397
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517146460
【氏名又は名称】株式会社エキソステムテック
【氏名又は名称原語表記】EXOSTEMTECH CO.,LTD.
(71)【出願人】
【識別番号】512293921
【氏名又は名称】インダストリー-ユニバーシティー コーペレイション ファンデーション ハンヤン ユニバーシティー エリカ キャンパス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ヨン ウ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジ スク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウ ソン
(72)【発明者】
【氏名】ウ,チャン ヒ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA44
4C084DA01
4C084DA12
4C084DA16
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZA081
4C084ZA082
4C084ZA211
4C084ZA212
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA08
4C087ZA21
(57)【要約】
本発明は、エクソソームに基づく疼痛緩和及び治療用の医薬組成物に関する。本発明によるエクソソームは、細胞増殖及び細胞挙動の過程で分泌される神経細胞の再生及び疼痛緩和に関連する様々なサイトカイン、遺伝子、生体活性因子及びタンパク質などを含有しているため、痛みを引き起こす根本的な原因を治療することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪由来幹細胞(adipose derived stem cells)由来のエクソソームを有効成分として含む、疼痛緩和及び治療用の医薬組成物。
【請求項2】
前記脂肪由来幹細胞がヒト脂肪由来幹細胞である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記エクソソームが抗炎症性サイトカインを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗炎症性サイトカインが、TIMP-1、TIMP-2、IL-1ra、IL-4及びIL-10から選ばれる少なくとも1つである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記疼痛が炎症性疼痛及び神経障害性疼痛を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記神経障害性疼痛が、抗がん治療に伴う疼痛、炎症性疼痛、筋肉性疼痛及び末梢神経損傷による疼痛からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記脂肪由来幹細胞が、前記組成物が投与される患者の自己脂肪組織に由来する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の医薬組成物を含む注射剤。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本出願は、2020年04月07日付け出願の韓国特許出願第10-2020-0042397号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、炎症性疼痛などの様々な神経障害性疼痛についての緩和または治療用の医薬組成物に関する。
【0003】
〔背景技術〕
神経障害性疼痛(neuropathic pain)は、中枢や末梢の神経組織が、様々な要因(疾患による要因:脳出血/脳梗塞、糖尿病、帯状疱疹、関節炎等/薬物治療による要因:様々な抗がん治療)により損傷(痛みの伝達に関与する主要神経細胞体の炎症反応による持続的興奮、介在ニューロンやグリア細胞などのそれらの細胞間のシナプスの構造的変化、神経細胞の損傷もしくは死滅など)されて発生する難治性疼痛であって、損傷が続くと慢性的な痛みに発展することもある。痛みには、外部からの刺激がなくても痛みを感じる自発痛、痛みの閾値が低下し、通常痛みを引き起こす刺激に対して正常より強く感じる痛覚過敏、通常痛みを引き起こさない刺激によっても痛みを感じるアロディニア(異痛症)など、様々な種類がある。
【0004】
痛みを和らげたり治したりするために開発された治療法は、その重症度に応じて非薬物療法と薬物療法とに大別される。痛みの程度が弱い軽症の場合は、主に非薬物療法により痛み緩和を図るが、交感神経のブロック又は切除による痛みの広がりを防ぐ方法や、電気信号で患部を一時的に刺激して痛みの信号の伝達を制御する方法などを利用して痛みを和らげる。一方、痛みの程度が強い場合は、薬物療法により痛み緩和を図るが、主に抗炎症薬(アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン,非ステロイド系など)、抗けいれん剤(カルバマゼピン、ガバペンチンなど)、抗うつ剤(ベンゾジアゼピンなど)などを使用して、各部位の痛みの信号伝達を制御して症状を緩和する。結局、痛みの程度に違いはあるものの、基本な原理はすべて単純な信号伝達を遮断することであり、根本的な治療法はまだ確立されていないことがわかる。
【0005】
最近、根本的なアプローチとして幹細胞を用いた疼痛治療の研究が報告されているが、これらの幹細胞は体内での安全性(がん細胞への変異の可能性)及び体内へ生着率が低いなどの限界があり、目に見える治療効果を確認することが困難である。また、エクソソームを用いた唯一の組成物として、血液から採取したエクソソーム及びコルチコステロイドを使用して関節炎の痛みを扱った研究が報告されているが、ここで、エクソソームは、コルチコステロイドの治療効果を高めるための併用剤として使用されたものに過ぎず、エクソソーム単独での疼痛治療効果は確認されておらず、また、血液から採取したエクソソームは自己エクソソームであり、患者自身から回収できるサンプル量には限界がある(国際特許出願PCT/EP2010/069426)。
【0006】
本明細書全体にわたって多数の文献が参照され、その引用が示されている。引用された文献の開示内容はその全体が参照として本明細書に組み込まれ、本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【0007】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明は、疼痛治療に関連して既に開発された様々な治療法の欠点を補うために研究努力した結果、幹細胞由来のエクソソームを用いて疼痛緩和及び治療効果を確認することにより、本発明を完成することに至った。
【0008】
したがって、本発明の目的は、既存の疼痛を緩和、改善または治療する目的で市販されている医薬組成物を代替することができる、疼痛調節因子を含有する幹細胞エクソソームに基づく医薬組成物を提供し、これを用いた炎症性疼痛などの様々な神経障害性疼痛を緩和、改善または治療する用途を提供することである。
【0009】
具体的には、本発明の目的は、以下の具現例を提供するところにある。
【0010】
具現例1.脂肪由来幹細胞由来のエクソソームを有効成分として含む、疼痛緩和及び治療用の医薬組成物;疼痛緩和及び治療用の医薬品の製造のための、脂肪由来幹細胞由来のエクソソームを有効成分として含む組成物の応用;または脂肪由来幹細胞由来のエクソソームを有効成分として含む組成物を、それを必要とする対象体に投与することを含む、疼痛緩和及び治療方法。
【0011】
具現例2.具現例1において、前記脂肪由来幹細胞がヒト脂肪由来幹細胞である、医薬組成物;応用;または方法。
【0012】
具現例3.上述した具現例のいずれか一具現例において、前記エクソソームが抗炎症性サイトカインを含む、医薬組成物;応用;または方法。
【0013】
具現例4.上述した具現例のいずれか一具現例において、前記抗炎症性サイトカインが、TIMP-1、TIMP-2、IL-1ra、IL-4及びIL-10から選ばれる少なくとも1つである、医薬組成物;応用;または方法。
【0014】
具現例5.上述した具現例のいずれか一具現例において、前記疼痛が炎症性疼痛及び神経障害性疼痛を含む、医薬組成物;応用;または方法。
【0015】
具現例6.上述した具現例のいずれか一具現例において、前記神経障害性疼痛が、抗がん治療に伴う疼痛、炎症性疼痛、筋肉性疼痛及び末梢神経損傷による疼痛からなる群から選ばれる少なくとも1つである、医薬組成物;応用;または方法。
【0016】
具現例7.上述した具現例のいずれか一具現例において、前記脂肪由来幹細胞が、前記組成物が投与される患者の自己脂肪組織に由来する、医薬組成物;応用;または方法。
【0017】
具現例8.上述した具現例のいずれか一具現例において、前記組成物が注射剤である、医薬組成物;応用;または方法。
【0018】
具現例9.上述した具現例のいずれか一具現例に記載の医薬組成物を含む注射剤。
【0019】
本発明の他の目的及び利点は、以下の発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面によってより明確になる。
【0020】
〔課題を解決するための手段〕
本発明の一つの態様は、脂肪由来幹細胞由来のエクソソームを有効成分として含む、疼痛緩和及び治療用の医薬組成物を提供することである。
【0021】
本発明において、用語「幹細胞(stem cell)」とは、自己複製能力のみならず、細胞が位置する環境の影響を受けて必要に応じて適切な信号が与えられる場合、多分化能(multi potency)の特性により様々な細胞に分化できる特性を有する細胞である。
【0022】
本発明の幹細胞は、自己由来または同種由来の幹細胞であり得、ヒト及び非ヒト哺乳動物を含む任意の種類の動物由来であり得る。好ましくは、前記幹細胞は、患者の自己脂肪組織に由来するものであり得る。
【0023】
本発明において、用語「脂肪由来幹細胞(adipose-derived stem cell)」とは、脂肪組織に由来する幹細胞であって、脂肪組織は、多量の組織採取が容易であることから、幹細胞の収穫に良い条件を有し、脂肪由来幹細胞は、培養において安定した成長と増殖を示し、分化を誘導したときに様々な細胞への分化が可能である。
【0024】
本発明において、用語「エクソソーム(exosome)」とは、多種類の細胞から分泌される膜構造の小胞体であって、免疫学的に重要なタンパク質である主要組織適合性タンパク質と熱ショックタンパク質とを含む強力な抗腫瘍免疫応答を誘導し、他の細胞及び組織に結合して膜の構成要素、タンパク質、RNAを送達するなど様々な役割を果たすことが知られている。したがって、疼痛緩和に関連する様々な遺伝情報、タンパク質、成長因子を含むエクソソームを用いて疼痛治療剤の組成物として活用することができる。
【0025】
本発明の脂肪由来幹細胞由来のエクソソームは疼痛調節因子を含んでいるので、疼痛緩和及び治療において重要な役割を果たすことができ、具体的には、疼痛及び炎症緩和に関して分泌される代表的なサイトカインとして、TIMP-1(メタロプロテイナーゼ-1の組織阻害剤)、TIMP-2、IL-1ra(インターロイキン-1受容体拮抗薬)、IL-4(インターリューキン-4)、IL-10(インターロイキン-10)、TGF-β(トランスフォーミング増殖因子-β)などを含み、これらのサイトカインは、炎症反応の阻害を誘導し、炎症性サイトカインの阻害を誘導する役割を有している。
【0026】
前記エクソソームは、当技術分野で知られているエクソソーム抽出方法を用いて得ることができ、これに限定されず、以下のステップを含む抽出方法によって得ることができる:
1)ヒト脂肪幹細胞を増殖用培地で培養した後、無血清及び無抗生剤の培地で1日間培養するステップ;
2)細胞培養上清を回収するステップ;
3)回収した細胞培養上清を遠心分離するステップ;及び
4)エクソソームを単離及び精製するステップ。
【0027】
上記のように調製したエクソソームは、ヒト脂肪幹細胞の培養過程中に得られた培養液を用いるという点では従来技術と同様であるが、培養液をそのまま使用せずに培養液中に存在するナノベジクル形態のエクソソームを抽出及び精製して疼痛治療剤として使用するという点で差別性がある。この場合、エクソソームに担持された再生関連タンパク質及び様々な成長因子のみを有効に使用することができるため、抗生剤及び血清を含む培地成分によって引き起こされる問題を解決することができる。
【0028】
上記のように調製したエクソソームは、幹細胞の遺伝情報、タンパク質、成長因子が担持されただけでなく、エクソソーム自体がキャリアの役割まで果たすことができる。約50~200nmのサイズの脂質からなるエクソソームは、細胞由来の物質であるため生体適合し、細胞への吸収率も非常に良い。
【0029】
本発明において、用語「疼痛」は、実際的または潜在的な組織損傷を伴う不快な感覚及び経験を意味し、神経障害性疼痛、急性疼痛、慢性疼痛、体性疼痛、関連痛、内臓痛及び心因性疼痛などを含む。
【0030】
神経障害性疼痛(neuropathic pain)は、神経系の損傷や機能異常に起因する痛みで難治性であり、慢性的に長く持続する特性により患者の生活の質が著しく低下し、痛み自体だけでなく睡眠障害、うつ病などの情緒障害、社会適応力の低下による生産性低下などの社会的問題まで引き起こす疼痛症候群である。神経障害性疼痛には、抗がん治療に伴う疼痛、炎症性疼痛、筋肉性疼痛及び末梢神経損傷による疼痛などが含まれる。
【0031】
急性疼痛は、疾病や外傷による組織損傷により発生する侵害性刺激によって引き起こされる痛みで、出産痛み、手術後の痛み、組織損傷後の痛みなどがあり、通常3~6ヶ月で消失する。慢性疼痛は、いくつかの原因不明による神経損傷とそれに伴う神経系の変化によっても引き起こされ、原因となった疾患や損傷の治療期間より長く持続する。例えば、片頭痛、リウマチ性疼痛、糖尿病性疼痛、及びがん性疼痛があり、これらの疼痛は患者の生活の質を急激に低下させ、うつ病などを伴うこともある。
【0032】
体性疼痛には、表在性疼痛(例えば、皮膚の熱傷、挫傷などによる痛覚過敏、アロディニア(異痛症)など)及び関節、靭帯、筋肉または筋膜に存在する侵害受容体の刺激によって引き起こされる深在性疼痛が含まれる。
【0033】
関連痛とは病巣部位から遠く離れた体性組織に現れる痛みを意味し、内臓痛とは内臓に分布した痛覚繊維によって感じられる痛みを意味し、心因性疼痛とは身体的に痛みの原因を十分に見つからず、解剖学的に説明できない痛みを意味する。
【0034】
本発明による疼痛緩和及び治療用の医薬組成物は、疼みの信号伝達を遮断する鎮痛剤ではなく、疼痛調節因子を含むエクソソームを投与することにより痛みを根本的に治療するという点で従来技術と差別化できる。
【0035】
本発明による医薬組成物は、脂肪由来幹細胞由来のエクソソームの薬学的に有効な量と共に、1つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤を含み得る。
【0036】
上記において薬学的に有効な量とは、疼痛を改善及び治療するのに十分な量を意味する。本発明による脂肪由来幹細胞由来のエクソソームは、前記医薬組成物中で1×107粒子/mL~1×1010粒子/kgの濃度、好ましくは5×107粒子/mL~1×109粒子/kgの濃度を有することができる。しかしながら、前記エクソソームの濃度は、疼痛の程度、患者の年齢、体重、健康状態、性別、投与経路及び治療期間などにより適宜変更することができる。
【0037】
また、前記「薬学的に許容される」というのは、生理学的に許容され、ヒトに投与されるとき、通常、胃腸障害、めまいなどのアレルギー反応またはこれに類似の反応を引き起こさない組成物を意味する。前記担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱物油が挙げられる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤及び防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0038】
また、本発明の組成物は、医薬分野における通常の方法に基づき、患者の体内への投与に適した単位投与型の製剤に剤形化して投与することができ、前記製剤は、1回または数回投与により疼痛を緩和または治療できる有効な投与量を含む。この目的に適した製剤としては、非経口投与製剤として、注射用アンプルなどの注射剤、注入バッグなどの注入剤などが好ましい。前記注射用アンプルは、使用直前に注射液と混合して調製することができ、注射液としては、生理食塩水、ブドウ糖、マンニトール、リンゲル液等を用いることができる。
【0039】
前記医薬製剤には、前記有効成分に加え、1つまたはそれ以上の薬学的に許容可能な通常の不活性担体、例えば、注射剤の場合は、保存剤、無痛化剤、可溶化剤または安定化剤などを、局所投与用製剤の場合は、基剤(base)、賦形剤、潤滑剤または保存剤などをさらに含むことができる。
【0040】
このように調製された本発明の組成物または医薬製剤は、ラット、マウス、家畜、ヒトなどの哺乳動物に、非経口、経口などの様々な経路で投与でき、投与方法は。当技術分野で通常使用する全ての方式が採用できる。これに限定されないが、経口、直腸または静脈、筋肉、皮下、子宮内硬膜または脳室内(intracerebroventricular)注射などによって投与され得る。
【0041】
具体的には、投与方法はこれに限定されないが、脂肪由来幹細胞から抽出されたエクソソームを静脈内に投与(静脈注射)したり、疼痛部位に投与(局所投与)したりすることができる。
【0042】
他の態様として、本発明は、上述の脂肪由来幹細胞由来のエクソソームを有効成分として含む疼痛緩和及び治療用の医薬組成物を含む疼痛緩和または治療用の注射剤を提供する。
【0043】
前記注射剤は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)をさらに含み得る。すなわち、前記注射剤は、リン酸緩衝生理食塩水に脂肪由来幹細胞から抽出されたエクソソームを担持して使用することができる。
【0044】
前記注射剤は、リン酸緩衝生理食塩水の代わりにハイドロゲルを含み得る。前記ハイドロゲルは、ヒアルロン酸、ゼラチン、アルギネート、キトサン、フィブリン、エラスチン、コラーゲン及びメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくともいずれか1種であってよく、具体的にはヒアルロン酸ハイドロゲルであってもよいが、これに限定されない。
【0045】
〔発明の効果〕
本発明による幹細胞由来エクソソームは、細胞増殖及び細胞挙動の過程で分泌される神経細胞の再生及び疼痛緩和に関連する様々なサイトカイン、遺伝子、生体活性因子及びタンパク質等を含有しているため、疼痛を誘発する根本的な原因を治療することができる。また、細胞由来の脂質伝達体であるため、損傷または機能不全である神経細胞への浸透性及び有効因子送達効率が非常に優れており、これにより疼痛治療に優れている。したがって、本発明で提示されるエクソソーム組成物は、今後、疼痛緩和及び治療だけでなく、神経細胞再生に関連する無細胞治療剤としての適用など、様々な神経再生分野への適用も可能であると期待される。
【0046】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、ヒト脂肪由来幹細胞から産生されたエクソソームの基本特性を評価した結果である。(a)はエクソソームの粒子数を測定した結果、(b)はエクソソームの形状を確認するためにTEMで測定した顕微鏡写真、(c)は(b)をさらに拡大した写真、(d)~(f)は、エクソソーム表面に発現された表面マーカー(CD9/CD63/CD81)である。
【0047】
図2は、ヒト脂肪とヒト臍帯由来幹細胞から産生されたエクソソームの疼痛調節因子(TIMP-1、TIMP-2、IL-1ra、IL-4、IL-10)を分析した結果である。
【0048】
図3は、細胞モデルにおけるエクソソームの疼痛緩和効能を評価した結果である。IL-1βを処理により炎症が誘導されたヒト軟骨細胞において、TRPA1、COX-2、MMP1、MMP3などの疼痛関連遺伝子が過剰発現されることを確認し、エクソソーム処理により遺伝子発現の程度が低下することを確認した結果である。
【0049】
図4は、MIAラットモデルを用いた動物実験の概要を示したものである。
【0050】
図5は、ダイナミックプランターエステシオメーター(Dynamic Plantar Aesthesiometer)を用いたPWT分析の結果を示したものである。
【0051】
〔発明を実施するための形態〕
以下、実施例を挙げて本発明をより詳しく説明する。これらの実施例は、ひたすら本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないということは、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者にとって自明であるであろう。
【0052】
〔実施例〕
<実施例1>マルチフィルターシステムを用いたヒト脂肪由来幹細胞からのエクソソームの産生
ヒト脂肪由来幹細胞(ASC)を継代5まで増殖させる過程でエクソソームを産生した。すなわち、増殖するヒト脂肪由来幹細胞からエクソソームを産生した。具体的には、ヒト脂肪由来幹細胞(passage5)を一般培養培地(ウシ胎児血清10%、ペニシリン/ストレプトマイシン1%を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM))で培養した。次いで、無血清、無抗生剤培地でありながらフェノールレッドを含まないDMEM培地に交換し、24時間維持した。24時間後、細胞培養上清を回収した。回収した細胞培養上清において、ボトルトップ(フィルター規格:0.22μm)フィルターシステムを経て細胞デブリスなどの一次不純物を除去した。濾過された培養液において、300kDaサイズのフィルターを有するタンジェンシャルフローろ過(tangential flow filtration:TFF)により二次不純物除去及びエクソソーム濃縮ステップを同時に行った。最終不純物除去のためにTFFを数回繰り返して濾過し、次いで最終濾液(10mL内外)を回収した。
【0053】
<実施例2>産生されたエクソソームの基本特性の評価
実施例1で産生されたエクソソームは、ナノ粒子トラッキング解析法(Nanoparticle tracking analysis)と透過電子顕微鏡(transmission electron microscope)を用いて粒子数、サイズ、形状を確認し、フローサイトメトリー(flow cytometry)を用いてエクソソームの表面に発現した主要なタンパク質マーカー(CD9、CD63、CD81)を確認した(
図1)。
【0054】
<実施例3>エクソソームの疼痛調節因子の評価
エクソソームに含まれる疼痛調節因子を確認するためにサイトカイン分析を行った(
図2)。このとき、比較対照群として、ヒト臍帯由来幹細胞から産生されたエクソソーム(UC-MSC-Exo)を用いた。
【0055】
実験の結果、増殖した脂肪由来幹細胞で(ASC-Exo)から産生されたエクソソーム内部には、痛みや炎症の発生中に過剰発現するMTM(マトリックスメタロプロテイナーゼ)を阻害することが知られているTIMP-1及びTIMP-2の含有量が非常に高いと分析され、疼痛調節サイトカインとして知られているIL-1ra、IL-4、IL-10及びTGF-β1も多く含まれていることが確認された(
図2の(a))。また、臍帯由来幹細胞エクソソーム(UC-MSC-Exo)に比べて、脂肪由来幹細胞エクソソームの内部におけるTIMP-1、IL-1ra、IL-4、IL-10の含有量が有意に高いことが確認された(
図2b)(*P<0.1、**P<0.01)。
【0056】
<実施例4>細胞モデルを用いたエクソソームによる疼痛緩和効能の評価
疼痛が誘発された細胞モデルを通じてエクソソームの疼痛遺伝子発現抑制効能を評価した。細胞モデルとしては、ヒト軟骨細胞(Human chondrocytes)に炎症性サイトカインとして知られるIL-1βを10ng/mLの濃度で6ウェルプレートに添加して疼痛誘発モデルを用意した。エクソソームを2つの濃度(1×10
8粒子/mL、5×10
8粒子/mL)で処理して2日間細胞培養した後、疼痛に関連する特定の遺伝子(TRPA1、COX-2、MMP-1、MMP-3)の発現量を、qRT-PCRによって評価した(
図3)。対照群である正常ヒト軟骨細胞では、疼痛関連遺伝子の発現が低く、IL-1βによる疼痛誘発モデルでは、すべての遺伝子が高く発現していることがわかった。2つの濃度のエクソソーム処理後、すべての遺伝子の発現量が大幅に減少することが確認でき、TRPA1の場合には正常値に達することが確認できた。
【0057】
<実施例5>動物モデルを用いたエクソソームによる疼痛緩和効能の評価
1.関節痛モデルを用いた実験デザイン
モノヨード酢酸ナトリウム(Monosodium Iodoacetate:MIA)注入1週間後から1週間間隔で合計4回エクソソームを関節腔内注射し、6週目ラットを犠牲にした。正常モデル(Normal model)の場合、MIAの代わりに0.9%生理食塩水(normal saline)溶液を注射し、週2回足引っ込め試験(Paw withdrawal test)を行った(
図4)。
【0058】
2.MIAを用いた関節炎誘発及び試験物質の投与
(1)イソフルラン吸入麻酔による麻酔後、左膝周りの除毛を行った。
【0059】
(2)投与部位をアルコール消毒し、変形性関節症(骨関節炎)の誘発物質であるMIAを、100μLのハミルトンシリンジで30ゲージ針(gauge needle)を用いて左膝の関節腔内に50μL(10mg/mL)ずつ注射した。
【0060】
(3)正常モデルでは、左膝の関節腔内に0.9%の生理食塩水を50μLずつ注射した。
【0061】
(4)関節炎誘発から一週間後、エクソソームを5×107粒子/50μL、1×108粒子/50μL、5×108粒子/50μLの濃度で1週間間隔にて4週間、合計4回注射し、脂肪由来幹細胞(ASC)の場合、1×106細胞/50μLで1回注射した。
【0062】
3.分析方法(足引っ込め閾値(PWT)分析)
(1)PWTを測定するために動物を試験分析装置に移し、環境変化によるストレスを軽減するために10分間適応させた。
【0063】
(2)「タッチスティミュレーター(Touch stimulator)」の針をラットの足裏中央に位置させた後、スタートキーを押すことでラットの足裏に機械的刺激を加えた。
【0064】
(3)機械的刺激に対する回避反応を引き起こす最低強度である回避反応閾値を観察した。
【0065】
4.統計分析
試験により収集されたデータは、グループ間の平均及び標準偏差として表され、分析は、グラフパッドプリズム(GraphPad prism)を使用して統計的に行われた。一元配置分散分析(One-way analysis of variance:One-way ANOVA)を用いて統計分析を行い、グループ間の違いを確認するためには、ダネットの多重比較検定(Dunnett’s multiple comparisons test)を用いて有意性分析を行った。p値:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001
5.試験結果
痛みのない正常動物では、機械的刺激に対する回避反応の閾値の数値が最も高く測定され、関節炎誘発後にPBSを投与した対照群は、最も低い数値を示した。ASCを投与した群は、対照群と有意な差がなかった。試験開始から41日目には、エクソソームを投与した全ての群において、対照群に比べて回避反応閾値が有意に高くなったことが確認され、最後の55日目には、エクソソーム1×10
8粒子投与群において、対照群に比べて疼痛数値が有意に高くなったことが確認された(
図5)。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】ヒト脂肪由来幹細胞から産生されたエクソソームの基本特性を評価した結果である。(a)はエクソソームの粒子数を測定した結果、(b)はエクソソームの形状を確認するためにTEMで測定した顕微鏡写真、(c)は(b)をさらに拡大した写真、(d)~(f)は、エクソソーム表面に発現された表面マーカー(CD9/CD63/CD81)である。
【
図2】ヒト脂肪とヒト臍帯由来幹細胞から産生されたエクソソームの疼痛調節因子(TIMP-1、TIMP-2、IL-1ra、IL-4、IL-10)を分析した結果である。
【
図3】細胞モデルにおけるエクソソームの疼痛緩和効能を評価した結果である。IL-1βを処理により炎症が誘導されたヒト軟骨細胞において、TRPA1、COX-2、MMP1、MMP3などの疼痛関連遺伝子が過剰発現されることを確認し、エクソソーム処理により遺伝子発現の程度が低下することを確認した結果である。
【
図4】MIAラットモデルを用いた動物実験の概要を示したものである。
【
図5】ダイナミックプランターエステシオメーター(Dynamic Plantar Aesthesiometer)を用いたPWT分析の結果を示したものである。
【国際調査報告】