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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】設計された腫瘍溶解性アデノウイルス
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/34 20060101AFI20230516BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230516BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230516BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20230516BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230516BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230516BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230516BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230516BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20230516BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20230516BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20230516BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20230516BHJP
   C12N 15/19 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
C12N15/34
C12N7/01 ZNA
C12N15/09 Z
C12N15/861 Z
C12N5/10
A61P35/00
A61K48/00
A61K45/00
A61K35/761
A61K38/19
A61K38/20
A61K38/21
C12N15/19
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560928
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(85)【翻訳文提出日】2022-12-02
(86)【国際出願番号】 IB2021052898
(87)【国際公開番号】W WO2021205364
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】63/006,115
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522012477
【氏名又は名称】シェンチェン ホァ ヤオ カン ミン バイオファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユエン ミン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065BA01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084AA19
4C084DA01
4C084DA12
4C084DA14
4C084DA21
4C084MA52
4C084MA55
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC412
4C084ZC751
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA52
4C087MA55
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
サイトカインを発現できる改変ウイルスAd5を提供し、当該改変ウイルスAd5は、A20を発現することができる。また、当該改変ウイルスAd5を含むベクター及び細胞も提供される。本願における改変型ウイルスは、癌治療に用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変ウイルスAd5は、サイトカインを発現することができ、改変ウイルスAd5は、A20を発現することができる。
【請求項2】
前記サイトカインがヒト由来である、請求項1に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項3】
前記サイトカインが、インターロイキン、腫瘍壊死因子、インターフェロン、ケモカイン、リンパカイン及び/又は成長因子からなる、請求項1~2のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項4】
前記サイトカインが、IL12、IL2、IL15及び/又はIL8からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項5】
前記サイトカインがIL-21を含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項6】
サイトカインをコードする遺伝子が、改変ウイルスAd5のゲノムに組み込まれる、請求項1~5のいずれか一項記載の改変ウイルスAd5。
【請求項7】
A20が口蹄疫ウイルス(FMDV)に由来する、請求項1~6のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項8】
A20をコードする遺伝子が、配列番号4に記載の核酸配列を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項9】
A20をコードする遺伝子が、改変ウイルスAd5のゲノムに組み込まれている、請求項1~8のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項10】
A20をコードする遺伝子が、改変ウイルスAd5のHI-ループに組み込まれている、請求項1~9のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項11】
前記組み込みが、遺伝子編集及び/又は遺伝子組換えの方法を用いる、請求項9~10のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項12】
改変ウイルスAd5が、繊維領域に少なくとも1つの改変を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項13】
繊維領域における改変が、アミノ酸置換Y477Aを含む、請求項12に記載の改変型ウイルスAd5。
【請求項14】
繊維領域における改変が、残基489~492におけるアミノ酸TAYTの欠失を含む、請求項12~13のいずれか一項に記載の改変型ウイルスAd5。
【請求項15】
野生ウイルスAd 5と比較して、E1ACR2遺伝子の発現及び/又は活性が、改変ウイルスAd 5において、ダウンレギュレートされる、請求項1~14のいずれか一項記載の改変ウイルスAd5。
【請求項16】
野生ウイルスAd5と比較して、E1B19K遺伝子の発現及び/又は活性が、改変ウイルスAd5において、ダウンレギュレートされる、請求項1~15のいずれか一項記載の改変ウイルスAd5。
【請求項17】
野生ウイルスAd5と比較して、E3gp19K遺伝子の発現及び/又は活性が、改変ウイルスAd5において、ダウンレギュレートされる、請求項1~16のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項18】
野生ウイルスAd5と比較して、E1ACR2遺伝子、E1B19K遺伝子及びE3gp19K遺伝子の発現及び/又は活性が、改変ウイルスAd5において、ダウンレギュレートされる、請求項1~17のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項19】
前記ダウンレギュレーションが、遺伝子編集及び/又は遺伝子組換えの方法を用いる、請求項15~18のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項20】
前記遺伝子編集が、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA及び/又はCRISPR/Cas系を用いる、請求項19記載の改変ウイルスAd5。
【請求項21】
E1ACR2遺伝子をコードする遺伝子の少なくとも一部、E1B19K遺伝子の少なくとも一部及び/又はE3gp19Kの少なくとも一部が欠失されている、請求項17~20のいずれか一項に記載の改変型ウイルスAd5。
【請求項22】
サイトカインをコードする遺伝子が、E1ACR2遺伝子、E1B19K遺伝子又はE3gp19K遺伝子の部位に組み込まれている、請求項17~21のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項23】
改変ウイルスAd5が、T細胞を標的とする遺伝子及び/又はリガンド、腫瘍細胞を標的とする遺伝子及び/又はリガンド、及び/又は治療用遺伝子を発現することができる、請求項1~22のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項24】
治療用遺伝子が、免疫共刺激経路活性化分子をコードする遺伝子、チェックポイント阻害剤をコードする遺伝子、細胞障害性、腫瘍抑制性遺伝子をコードする遺伝子、及び抗血管形成性遺伝子からなる群から選択される、請求項23に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項25】
免疫共刺激経路活性化分子が、CD40リガンド(CD40L)、ICOSリガンド、GITRリガンド、4-1BBリガンド、OX40リガンド、TL1A、CD30リガンド、CD27及びFlt3リガンド又はその変種からなる群から選択される、請求項24に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項26】
前記チェックポイント阻害剤が、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤及びCTLA-4阻害剤からなる群から選択される、請求項24~25のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項27】
前記腫瘍抑制遺伝子がHIC1遺伝子を含んでなる、請求項24~26のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5。
【請求項28】
請求項1~27のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5をコードする、単離核酸分子。
【請求項29】
請求項1~27のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5、及び/又は請求項28に記載の単離核酸分子を含む、ベクター。
【請求項30】
請求項1~27のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5、請求項28に記載の単離核酸分子、及び/又は請求項29に記載のベクターを含んでなる、細胞。
【請求項31】
請求項1~27のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5及び薬学的に許容されるアジュバントを含んでなる、薬学的組成物。
【請求項32】
請求項1~27のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5、請求項28に記載の単離核酸分子、請求項29に記載のベクター、請求項30に記載の細胞、及び/又は請求項31に記載の医薬組成物を、必要としている被験者に投与することを含む、疾患及び/又は障害を治療する方法。
【請求項33】
請求項1~27のいずれか一項に記載の改変ウイルスAd5を、少なくとも1つの薬剤と組み合わせて必要とする被験者に投与することを含み、薬剤が、抗癌剤、アゴニスト、アンタゴニスト、化学療法剤及び放射線剤からなる群から選択される、請求項32記載の方法。
【請求項34】
疾患が腫瘍を含んでなる、請求項32~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
疾患が、αvβ6インテグリンを発現する腫瘍を含んでなる、請求項32~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
疾患が、膵臓癌、頭頸部癌、及び/又は卵巣癌を含んでなる、請求項32~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
以下のうちの少なくとも1つを含む、配列:
配列番号:1に記載の配列;
配列番号:2に記載の配列;
配列番号:3に記載の配列;
配列番号:4に記載の配列;
E1ACR2の一部又は全部の欠失;
E1B19kの一部又は全部の欠失;
E3gp19kの一部又は全部の欠失;
IL-21;
変異型Ad5繊維タンパク質;
αvβ6インテグリンのリガンド;
治療用遺伝子又はその改変体;又は
T細胞を標的とするリガンド又は抗体。
【請求項38】
以下のうちの少なくとも1つを含む、ウイルス:
配列番号:1に記載の配列;
配列番号:2に記載の配列;
配列番号:3に記載の配列;
配列番号:4に記載の配列;
E1ACR2の一部又は全部の欠失;
E1B19kの一部又は全部の欠失;
E3gp19kの一部又は全部の欠失;
IL-21;
変異型Ad5繊維タンパク質;
αvβ6インテグリンのリガンド;
治療用遺伝子又はその改変体;又は
T細胞を標的とするリガンド又は抗体。
【請求項39】
以下のうちの少なくとも1つを含む、配列:
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部がIL-21によって置換される;
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が変異Ad5繊維タンパク質によって置換される;
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、αvβ6インテグリンのリガンドによって置換される;
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、配列番号:4に記載された配列によって置換される;
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、T細胞を標的とするリガンド又は抗体によって置換される;
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、腫瘍標的遺伝子によって置換される;又は
又はE1A CR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が治療遺伝子もしくはその改変によって置換される。
【請求項40】
以下のうちの少なくとも1つを含む、ウイルス:
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部がIL-21によって置換される;
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が変異Ad5繊維タンパク質によって置換される;
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、αvβ6インテグリンのリガンドによって置換される;
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、配列番号:4に記載された配列によって置換される;
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、T細胞を標的とするリガンド又は抗体によって置換される;
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、腫瘍標的遺伝子によって置換される;又は
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、治療用遺伝子又はその改変バージョンによって置換される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
サイトカインを発現できる改変ウイルスAd5を提供し、当該改変ウイルスAd5は、A20を発現することができる。また、当該改変ウイルスAd5を含むベクター及び細胞も提供される。本願における改変型ウイルスは、癌治療に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
アデノウイルスは、正常細胞への毒性を最小限に抑え、腫瘍を特異的に標的とする腫瘍溶解性ウイルスとして設計されている。アデノウイルスの様々な変異体を用いた臨床試験において、数万人の患者さんへの安全性が証明されている。しかし、過去に評価されたほとんどの臨床試験のアデノウイルス変異体は、ヒト腫瘍において頻繁に機能不全に陥るp53活性を標的とするように設計されたものあった。このタイプのアデノウイルスの最初の臨床応用はdl1520(Onyx-015;ΔE1B55K及びΔE3B)であった。同様のアデノウイルス変異体であるH101は、中国(上海サンウェイバイオテック社、中国)で抗癌剤治療として承認されている。これらの変異体は腫瘍選択性が示されたものの、その効果は化学療法との併用でしか示されなかった。その後、欠失したE1B55K遺伝子やE3B遺伝子の必須機能(それぞれウイルスRNAの後期輸送や宿主免疫防御など)が、これらのウイルスの効力の減弱に寄与していることが判明されている。
【0003】
宿主の免疫監視を回避するアデノウイルスの能力は、その持続性にとって重要である。ヒトAdsのE3領域にコードされる4つの免疫制御タンパク質は、以前に報告されている。その一つであるgp19K(E3/19Kとも)は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI抗原の重鎖と結合し、その細胞表面への輸送を阻害する。したがって、E3gp19Kは、宿主の免疫系である細胞傷害性Tリンパ球(CTL)による感染細胞の認識・排除を回避することに関与しているのである。
【0004】
ヒトのアデノウイルス(HAdV/Ad)、特に種Cタイプ5(HAdV-C5/Ad5)は、ウイルス治療の薬剤として開発されてきた。Ad5の細胞への取り込みとトロピズムのメカニズムは、in vitroで明確に理解されている。細胞内へのウイルスの取り込みは、Ad5繊維タンパク質とコクサッキー及びアデノウイルス受容体(CAR)の結合を介して行われる。しかし、CARは赤血球や様々な腫瘍細胞など、ヒトの組織全体に遍在しており、腫瘍におけるCAR発現の消失は多くの報告で立証されている。したがって、CARを利用したウイルス療法は、効率的な腫瘍標的化には適していない可能性があり、別の受容体トロピズムの評価が必要である。
【0005】
本願では、A20FMDV2ペプチドの組み込み、CAR結合のアブレーション、IL21を発現し、最適な複製選択性、癌標的、及び免疫刺激のための新規変異体、Ad5-3del-A20T-IL21の生成について報告するもの。Ad5-3del-A20T-IL21は、様々な癌細胞で増殖するために必要なすべてのウイルス機能を保持し、高い効果を示した。これらの知見は、癌患者の治療効果を向上させるために、全身投与用の腫瘍溶解性アデノウイルスのさらなる最適化を指示するものと期待される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願は、免疫制御遺伝子IL21を搭載した3つのウイルス遺伝子の組み合わせ、繊維領域の改変、欠失を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1の実施形態では、直鎖化したドナーカセットを用いて組換えアデノウイルスを生成することにより、ドナーカセットを担持するクローニングベクターの面倒な選定を回避することができる。
【0008】
本願の第2の実施形態では、抗生物質耐性遺伝子を除去した際に残るギャップを、ヌクレオチドのポリリンカー(この場合、制限酵素SwaIを使用)を用いて埋めることを含み、これによりマルチ遺伝子の改変を可能にするものである。
【0009】
本願の第3の実施形態では、第1及び第2の実施形態に記載の技術を用いて、3つの遺伝子、すなわちE1ACR2、E1B19k、E3gp19Kの欠失を有するバックボーンアデノウイルスを作製することを含む。
【0010】
本願の第4の実施形態では、E3gp19KにヒトIL-21遺伝子を挿入した組換えアデノウイルスを武装させたものを作製することを含む。
【0011】
本願の第5の実施形態では、第4実施形態により作製されたウイルスを基に、Y477Aの変異、TAYTの欠失、RGDペプチドA20FMDV2をアデノウイルス繊維に挿入した組換えアデノウイルスを作製することを含む。
【0012】
さらに、第5実施形態のA20FMDV2は、正確には20ペプチドである。
【0013】
本願の第6の実施形態では、第5の実施形態により作製されたウイルスにおいて、余分なペプチドが付着していない。
【0014】
本願の第7の実施形態では、本願の任意の実施形態によって作製されたウイルスは、αvβ6インテグリンを発現する癌の治療に使用され、これには、膵臓癌、頭頸部癌、及び卵巣癌が含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
本願の第8の実施形態では、本願のいずれかの実施形態によって作製されたウイルスは、静脈内注射による癌の治療に用いられる。
【0016】
さらに、本願発明の任意の実施形態では、ウイルスは、アデノウイルスである。
【0017】
本願の第9の実施形態では、改変ウイルスの抗腫瘍効力を向上させるために、請求項5で作製した改変ウイルスの静脈内注射にPI3Kδ阻害剤を併用することを提供する。
【0018】
本願の第9の実施形態では、改変ウイルスの抗腫瘍効力を向上させるために、本願のいずれかの実施形態により作製された改変ウイルスにチェックポイント阻害剤を併用することを提供する。
【0019】
本願の実施形態の特徴:
【0020】
1.本製品は、免疫制御遺伝子IL21を搭載した3つのウイルス遺伝子の組み合わせ、繊維領域の改変、欠失を実現するものである。
【0021】
2.E1ACR2遺伝子を欠失させた変異型ウイルスは、腫瘍細胞で選択的に複製され、正常細胞は免除される。
【0022】
E1ACR2領域は、pRbと結合して不活性化することにより、E2Fを遊離して細胞周期のS期誘導に関与している。しかし、増殖中の正常細胞や、細胞周期制御の乱れた腫瘍細胞(主にpRbやp16の変化)では、E1ACR2領域の機能は冗長である。
【0023】
3.E1B19k遺伝子の欠失。
【0024】
ΔE1B19K-変異体は、抗腫瘍力を維持したまま、in vivoでの治療指数が増加し、肝毒性が低下することが実証された。抗アポトーシス作用を持つE1B19Kタンパク質は、細胞内のBcl-2ホモログに類似したBax-Bakオリゴマー化及びミトコンドリア孔形成を阻害することにより、ウイルスの複製と拡散を促進する。主にp53依存性の経路を阻害するE1B55Kタンパク質とは対照的に、E1B19Kはp53依存性及びp53非依存性のメカニズムによって、デスレセプター及び内因性に誘導されるアポトーシスを阻害する。E1B19K遺伝子とE1ACR2領域の両方を欠失させ、E3領域をそのまま残したアデノウイルス変異体は、単剤及び標準化学療法剤との併用で有効性と選択性を向上させた。
【0025】
4.E3gp19kの欠失。
【0026】
アデノウイルスE3-gp19Kは、小胞体に局在する膜貫通型糖タンパク質で、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI抗原と複合体を形成して小胞体に保持し、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)による細胞溶解を阻害する。gp19KのER内腔ドメインは1~107残基でクラスI抗原との結合に十分であることが知られている。膜貫通ドメインと細胞質ER保持ドメインはそれぞれaa108~127と128~142残基に位置している。
【0027】
5.変異Y477Aと繊維領域におけるTAYTの欠失。
【0028】
Ad5変異体は、一連の線維変異(Y477AとTAYT欠失)を特徴とし、第IX因子(FIX)とC4b結合タンパク質(C4BP)への結合を阻害するものと思われる。この変異体は、肝移植と毒性、静脈内投与後の低レベルのサイトカイン誘導が有意に減少していることを示す。
【0029】
6. A20
【0030】
αvβ6 インテグリンは、多くの固形癌で高発現しているが、正常細胞では発現していない。口蹄疫ウイルス(FMDV)由来の20アミノ酸ペプチドA20FMDV2を発現するアデノウイルス変異体を作製し、Arg-Gly-Asp(RGD)ドメインを介してαvβ6に選択的に結合するようにした。
【0031】
7.ウイルスはインターロイキン21(IL-21)遺伝子を搭載
【0032】
インターロイキン12と同様に、インターロイキン21もNK細胞やキラーT細胞を活性化する。免疫活性化の過程では、IL-21はIL-12よりも遅れて役割を果たし、2つのインターロイキンは相乗的に免疫細胞を活性化する。治療用遺伝子は、E3gp19kに挿入される。
【0033】
一態様では、本願は、改変ウイルスAd5を提供し、ここで、改変ウイルスAd5は、サイトカインを発現することができ、改変ウイルスAd5は、A20を発現することができる。
【0034】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、ヒトに由来する。
【0035】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、インターロイキン、腫瘍壊死因子、インターフェロン、ケモカイン、リンパカイン及び/又は成長因子を含んでなる。
【0036】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、IL12、IL2、IL15及び/又はIL8を含んでなる。
【0037】
いくつかの実施形態では、サイトカインは、IL-21を含んでなる。
【0038】
いくつかの実施形態では、サイトカインをコードする遺伝子は、改変ウイルスAd5のゲノムに組み込まれる。
【0039】
いくつかの実施形態では、A20は、口蹄疫ウイルス(FMDV)に由来する。
【0040】
いくつかの実施形態では、A20をコードする遺伝子は、配列番号4に記載の核酸配列を有する。
【0041】
いくつかの実施形態では、A20をコードする遺伝子は、改変ウイルスAd5のゲノムに組み込まれる。
【0042】
いくつかの実施形態では、A20をコードする遺伝子は、改変ウイルスAd5のHI-ループに組み込まれる。
【0043】
いくつかの実施形態では、組み込みは、遺伝子編集及び/又は遺伝子組換えの方法を使用する。
【0044】
いくつかの実施形態では、改変ウイルスAd5は、繊維領域において少なくとも1つの改変を有する。
【0045】
いくつかの実施形態では、繊維領域における改変は、アミノ酸置換Y477Aを含んでなる。
【0046】
いくつかの実施形態では、繊維領域における改変は、残基489~492におけるアミノ酸TATYの欠失を含んでなる。
【0047】
いくつかの実施形態では、野生ウイルスAd5と比較して、E1ACR2遺伝子の発現及び/又は活性は、改変ウイルスAd5においてダウンレギュレートされる。
【0048】
いくつかの実施形態では、野生ウイルスAd5と比較して、E1B19K遺伝子の発現及び/又は活性は、改変ウイルスAd5においてダウンレギュレートされる。
【0049】
いくつかの実施形態では、野生ウイルスAd5と比較して、E3gp19K遺伝子の発現及び/又は活性は、改変ウイルスAd5においてダウンレギュレートされる。
【0050】
いくつかの実施形態では、野生ウイルスAd5と比較して、E1ACR2遺伝子、E1B19K遺伝子及びE3gp19K遺伝子の発現及び/又は活性は、改変ウイルスAd5においてダウンレギュレートされる。
【0051】
いくつかの実施形態では、ダウンレギュレーションは、遺伝子編集及び/又は遺伝子組換えの方法を使用する。
【0052】
いくつかの実施形態では、遺伝子編集は、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA及び/又はCRISPR/Cas系を使用する。
【0053】
いくつかの実施形態では、E1ACR2遺伝子をコードする遺伝子の少なくとも一部、E1B19K遺伝子の少なくとも一部、及びE3gp19Kの少なくとも一部が欠失されている。
【0054】
いくつかの実施形態では、サイトカインをコードする遺伝子は、E1ACR2遺伝子、E1B19K遺伝子、又はE3gp19K遺伝子の部位に組み込まれる。
【0055】
いくつかの実施形態では、改変ウイルスAd5は、T細胞を標的とする遺伝子及び/又はリガンド、腫瘍細胞を標的とする遺伝子及び/又はリガンド、並びに治療用遺伝子を発現することができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、治療用遺伝子は、免疫共刺激経路活性化分子をコードする遺伝子、チェックポイント阻害剤をコードする遺伝子、細胞障害性、腫瘍抑制遺伝子をコードする遺伝子、及び抗血管新生遺伝子からなる群から選択される。
【0057】
いくつかの実施形態では、免疫共刺激経路活性化分子は、CD40リガンド(CD40L)、ICOSリガンド、GITRリガンド、4-1BBリガンド、OX40リガンド、TL1A、CD30リガンド、CD27、及びFlt3リガンド又はその変異型からなる群から選択される。
【0058】
いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、及びCTLA-4阻害剤からなる群から選択される。
【0059】
いくつかの実施形態では、腫瘍抑制遺伝子は、HIC1遺伝子を含んでなる。
【0060】
別の態様では、本願は、本願の改変ウイルスAd5をコードする、単離核酸分子を提供する。
【0061】
別の態様では、本願は、本願の改変ウイルスAd5、及び/又は本願の単離核酸分子を含む、ベクターを提供する。
【0062】
別の態様では、本願は、本願の改変ウイルスAd5、本願の単離核酸分子、及び/又は本願のベクターを含む、細胞を提供する。
【0063】
別の態様では、本願は、本願の改変ウイルスAd 5及び薬学的に受容されたアジュバントを含む薬学的組成物を提供する。
【0064】
別の態様では、本願は、疾患及び/又は障害を治療する方法であって、本願の改変ウイルスAd5、本願の単離核酸分子、本願のベクター、本願の細胞、及び/又は本願の医薬組成物を、必要としている被験者に投与することを含む、方法を提供する。
【0065】
いくつかの実施形態では、方法は、本願の改変ウイルスAd5を、少なくとも1つの薬剤の組み合わせで必要としている対象に投与することを含み、薬剤は、抗癌剤、アゴニスト、アンタゴニスト、化学療法剤及び放射線剤からなる群より選択される。
【0066】
いくつかの実施形態では、疾患は、腫瘍を含んでなる。
【0067】
いくつかの実施形態では、疾患は、αvβ6インテグリンを発現している腫瘍を含んでなる。
【0068】
いくつかの実施形態では、疾患は、膵臓癌、頭頸部癌、及び/又は卵巣癌を含んでなる。
【発明の効果】
【0069】
本願のさらなる形態及び利点は、以下の詳細な説明から当業者に容易に明らかになるであろう。ここでは、本願の例示的な実施形態のみが示され、説明される。理解されるように、本願は、他の異なる実施形態が可能であり、そのいくつかの詳細は、全て開示から逸脱することなく、様々な明白な点で修正可能である。従って、図面及び説明は、本質的に例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
本発明の新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に特に記載されている。 本発明の特徴及び利点のより良い理解は、本発明の原理が採用される例示的な実施形態を記載する以下の詳細な説明、及び添付の図面(本明細書中の 「図」 及び 「図」 もまた)を参照することによって得られる。
【0071】
図1図1に、本製品の模式図を示す。
図2図2A~Cに、Ad5の改変用シャトルカセットを示す。A: E3gp19kを欠失させるためのシャトルカセット。左アームはE3gp19k遺伝子の左側、右アームはE3gp19kの右側を標的とする。クロラムフェニコールとそのプロモーターは、左アームと右アームの間に位置する。シャトルカセットは、pUC57ベクターのEcoRV部位にクローニングされる。B: E3gp19kを欠失させるためのシャトルカセット。 左アームはE3gp19k遺伝子の左側、右アームはE3gp19kの右側を標的とする。ヒトIL-21(hIL-21)はE3gp19kのプロモーターを使用し、クロラムフェニコールとそのプロモーターは左アームと右アームの間に位置する。シャトルカセットは、pUC57ベクターのEcoRV部位にクローニングされる。C: 変異Y477A、TAYT欠失、A20挿入のためのシャトルカセット。シャトルカセットは、pUC57ベクターのEcoRV部位にクローニングされる。
図3図3に、E3gp19kの欠失の図を示す。1) E3gp19kは相同組換えを介して、ベクター中のシャトルカセットとバックボーンウイルスゲノムの結合により欠失した。得られた組換え体を選択し、LBプレート上でクロラムフェニコール下で培養し、コロニーを採取し、増殖させ、プラスミドを抽出した後、配列決定を行い、E3gp19kの欠失を確認した。2) 確認されたE3gp19k欠失型組換えプラスミドからSwaIを用いてクロラムフェニコールを切り出し、3) 再ライゲーションして目的の組換えプラスミドを得、これを用いて改変アデノウイルスを作製した。
図4図4に、E3gp19kを置換したhIL-21の図を示す。1) E3gp19k遺伝子は相同組換えを介して、ベクター中のシャトルカセットとバックボーンウイルスゲノムの結合によりhIL‐21に置換された。得られた組換え体を選択し、LBプレート上でクロラムフェニコール下で培養し、コロニーを採取し、増殖させ、プラスミドを抽出した後、配列決定を行い、E3gp19kの欠失を確認した。2) E3gp19kの代わりにhIL-21を挿入した確認済み組換えプラスミドからSwaIを用いてクロラムフェニコールを切り出し、3) 再ライゲーションして目的の組換えプラスミドを得、これを用いて改変アデノウイルスを作製した。
図5図5に、Y477Aの突然変異の発生、TAYTの欠失、および3つの欠失遺伝子を有するアデノウイルスにおけるA20の挿入の図を示す。1) Y477Aの変異、TAYTの欠失、A20の挿入は、シャトルカセットとバックボーンウイルスゲノムをベクター内で相同組換えにより組み合わせることで達成された。得られた組換え体を選択し、LBプレート上でクロラムフェニコール下で増殖し、コロニーを採取し、増殖させ、プラスミドを抽出した後、配列決定を行い、Y477Aの突然変異、TAYTの欠失、およびA20の挿入を確認した。2) 確認された組換えプラスミドからSwaIを用いてクロラムフェニコールを切り出し、3) 再ライゲーションして目的の組換えプラスミドを得、これを用いて改変アデノウイルスを作製した。
図6図6に、hIL-21で武装化したアデノウイルスにおけるY477Aの突然変異の発生、TAYTの欠失及びA20の挿入の図を示す。1) Y477Aの変異、TAYTの欠失、A20の挿入は、シャトルカセットとバックボーンウイルスゲノムをベクター内で相同組換えにより組み合わせることで達成された。得られた組換え体を選択し、LBプレート上でクロラムフェニコール下で増殖し、コロニーを採取し、増殖させ、プラスミドを抽出した後、配列決定を行い、Y477Aの突然変異、TAYTの欠失、およびA20の挿入を確認した。 2) 確認された組換えプラスミドからSwaIを用いてクロラムフェニコールを切り出し、3) 再ライゲーションして目的の組換えプラスミドを得、これを用いて改変アデノウイルスを作製した。
図7図7に、E3gp19kを欠失させるためのカセットの配列を示す。
図8図8に、E3gp19kを置換してE3gp19k領域にヒトIL-21を挿入するためのカセットの配列を示す。
図9図9に、Y477Aの突然変異、TAYTの欠失、及び繊維領域へのRDGペプチドA20の挿入に関するカセットの配列を示す。
図10図10に、コントロールウイルス構築物pAd-cのE3gp19k欠失の配列決定結果を示す。E3gp19kは、上段のパネルのアラインメントに示すように、ATGA (28372) とTTTACT (29212) の間で欠失された。SwAI制限酵素を用いてクロロホルムを除去した後、配列CCCATCATTTGAAGCTTCAAATTACGGGをATGA (28372) とTTTACT (29212) の間に挿入し、次いでリンカー配列で充填した。
図11図11に、コントロールウイルス構築物pAd-cの改変を示す。配列決定結果は、Y477Aの変異とTAYTの欠失が示唆された。
図12図12に、RGD配列A20の挿入による繊維領域におけるコントロールウイルス構築物Ad-cの改変を示す。A20の配列:AACGCAGTACCTAACTTGA GGAGATCTACAGTGTTGCACAGTCGACGTACT
図13図13に、コントロールウイルス構築物Ad-cにおけるSwAI制限酵素を用いたクロロホルムの除去の配列決定結果を示す。
図14図14に、ヒトIL-21がウイルス構築物pAd-IL21のE3gp19K領域に挿入されたことを示す。ヒトIL-21は、アデノウイルスゲノムのATGAとATAATの間に挿入されている。
図15図15に、ウイルスAd-IL21におけるSwAI制限酵素を用いたクロロホルムの除去の配列決定結果を示す。ATAATは、ウイルスゲノムに残された余分な配列である。
図16図16に、ウイルス構築物pAd-IL 21の改変を示す。配列決定結果は、Y477Aの変異、TAYTの欠失が示唆された。
図17図17に、RGD配列A20の挿入による繊維領域におけるウイルス構築物pAd-IL 21の改変を示す。
図18図18に、ウイルス構築物pAd-IL21におけるSwAI制限酵素を用いたクロロホルムの除去の配列決定結果を示す。ATTTAAATは、ウイルスゲノムに残された余分な配列である。
図19図19に、改変アデノウイルスによるヒトIL-21の発現を示す。改変型アデノウイルスを感染させた293T細胞から細胞培養液を採取し、細胞培養液中のヒトIL21をELISA法により測定した。
図20図20に、本願の改変ウイルスAd5が、腫瘍細胞を特異的に標的化して死滅させることができることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0072】
本明細書では、本発明の様々な実施形態が示され、説明されてきたが、そのような実施形態が単なる例として提供されることは当業者には明らかであろう。本発明から逸脱することなく、当業者には多数の変形、変更、及び置換が生じ得る。本明細書に記載される本発明の実施形態に対する種々の代替物が使用され得ることを理解されたい。
【0073】
本明細書における「Ad 5」という用語は、一般に、ヒトアデノウイルス (HAdV/Ad) の一種を指し、ヒトアデノウイルス種Cタイプ5、またはHAdV-C 5として命名することもできる。HAdV-C5は、急性、軽度、無症状など様々な重症度の呼吸器症状を引き起こす可能性のある病原体である(Echavarria, 2009, Edwards et al., 1985, Fox et al., 1969, Garnett et al., 2009)Ad5は、幅広い種類の細胞に感染することができ、相同組換え技術によって組み込まれた大きな遺伝子をゲノムに保有することができるため、遺伝子導入実験によく利用されている。
【0074】
本明細書における「サイトカイン」という用語は、一般に、免疫系の細胞に影響を及ぼす可能性のある生物学的分子の一般的なクラスを指す。サイトカインは、局所的に作用する生物学的分子、又は血液中を循環して癌に対する個体の免疫応答を調節又は調整する可能性のある生物学的分子から構成される場合がある。例えば、サイトカインは、インターフェロン-α(IFN-α)、インターフェロン-β(IFN-β)、及びインターフェロン-γ(IFN-γ)、インターロイキン(例えば、IL-1からIL-29、特に、IL-2、IL-5、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15及びIL-18)、腫瘍壊死因子(例えば、, TNF-α及びTNF-β)、エリスロポエチン(EPO)、MIP3a、単球走化性タンパク質(MCP)-1、細胞内接着分子(ICAM)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)及び顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)等がある。
【0075】
本明細書における「IL-21」という用語は、一般に、広範なリンパ系細胞、骨髄系細胞及び上皮系細胞に作用する多面的なサイトカインを指す。IL-21は、B細胞のプラズマ細胞への分化、T濾胞ヘルパー細胞の発生に重要な役割を持ち、機能的胚中心及び免疫グロブリン産生を促進すると考えられている。例えば、IL-21は、CD8+T細胞の機能プログラムを誘導し、生存率、抗ウイルス活性、抗腫瘍活性の強化につながる可能性がある。IL-21は、自然免疫反応と適応免疫反応の両方を制御し、自己免疫疾患や炎症性疾患の発症だけでなく、抗腫瘍においても重要な役割を担っている可能性がある。ヒトIL-21のGene IDは、59067であってもよい。
【0076】
本明細書における「A20」という用語は、一般に、A20FMDV2ペプチドを指す。A20は、口蹄疫ウイルスに由来していてもよい。A20は、配列番号5(NAVPNLRGDLQVLAQKVART)に記載のアミノ酸配列を有していてもよい。A20は、腫瘍関連αvβ6インテグリンに対して高い選択性及び親和性を示すことができる。
【0077】
本明細書における「繊維領域」という用語は、一般に、アデノウイルス(Ad)の繊維構造を指す。Adは、ヘキソン、繊維、ペントンベースの3つの主要な露出した構造タンパク質からなるキャプシドを持つ可能性がある。繊維領域の主要な役割は、細胞受容体との相互作用を介したウイルスカプシドの細胞表面へのテザリングである可能性がある。繊維領域は、以下のものを有することができる。N-末端の尾部、反復配列からなる中欧軸、C-末端の球状ノブドメイン。繊維の最初の約45残基は、異なる血清型間で高度に保存されている可能性がある。繊維領域の変異については、表2「アデノウイルスの繊維構造と機能が遺伝子治療用ベクター開発に与える影響」を参照することができる。
【0078】
本明細書における「E1ACR2遺伝子」という用語は、一般に、Ad5の遺伝子を指す。E1ACR2を欠失させた各種変異体は、前臨床試験において高い有効性を示す場合がある(Cancer Res.2002 Oct 15; 62(20):5736-42.)。E1ACR2遺伝子にコードされるE1ACR2は、pRbの結合と不活性化に関与し、それによってE2FをS期誘導のために放出する可能性がある。また、E1ACR2は、in vivo 安全性を向上させる一方で、細胞毒性薬剤によるアポトーシスに応答して細胞死を促進する可能性がある。
【0079】
本明細書における「E1B19K遺伝子」という用語は、一般に、Ad5の遺伝子を指す。E1B19K遺伝子にコードされるE1B19Kは、細胞内のBcl-2ホモログに類似したBax-Bakオリゴマー化及びミトコンドリア孔形成を阻害することにより、ウイルスの複製と拡散を促進すると考えられている。そして、ΔE1B19K-mutantsは、in vivoiで治療指数が増加し、肝毒性が低くなる可能性がある(Clin Cancer Res.2010 Jan 15; 16(2): 541-553.).
【0080】
本明細書における「E3gp19K遺伝子」という用語は、一般に、Ad5の遺伝子を指す。E3gp19K遺伝子によってコードされるE3gp19Kは、膜貫通型糖タンパク質であり、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)による細胞溶解を防ぐことができると考えられる。E3gp19K遺伝子の欠失は、腫瘍抗原提示を促進し、感染癌細胞と非感染癌細胞の両方を標的とする免疫反応を刺激し、腫瘍を介した免疫チェックポイント阻害の利点として考えられる(Oncolytic Virother.2016; 5:45-57.)。
【0081】
本明細書における「遺伝子編集」という用語、一般に、生体のゲノムにDNAを挿入、削除、改変、置換する遺伝子工学の一種を指す。本願では、遺伝子編集は、酵素、例えば、特定のDNA配列を標的とするように操作されたヌクレアーゼを用いて行われてもよく、そこでは、DNA鎖に切り口を導入し、既存のDNAの除去及び置換DNAの挿入を可能にすることができる。遺伝子編集は、CRISPR/Cas系で行ってもよい。
【0082】
本明細書における「遺伝子組換え」という用語は、一般に、複数の染色体間及び/又は同じ染色体の異なる領域間で遺伝物質が交換されることを指す。遺伝子組換えは相同性を介して起こると考えられる;つまり、染色体の相同領域は交換に備えて整列しており、ある程度の配列の同一性が必要とされる。
【0083】
本明細書における「αvβ6インテグリン」という用語は、一般に、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質であるフィブロネクチン、ビトロネクチン、テナシン及びTGF-βの潜在性関連ペプチド(LAP)の受容体である上皮特異的インテグリンを指す。αvβ6 インテグリンは、実際に癌の進行を促進する可能性がある。αvβ6インテグリンは、特に乳房、肺、口腔及び皮膚の扁平上皮癌(SCC)、結腸、胃及び子宮内膜の癌腫において高度にアップレギュレートされる可能性がある。
【0084】
本願の実施形態は、以下のうちの少なくとも1つを含む、配列を提供する。
【0085】
配列番号:1に記載の配列;
【0086】
配列番号:2に記載の配列;
【0087】
配列番号:3に記載の配列;
【0088】
配列番号:4に記載の配列;
【0089】
E1ACR2の一部又は全部の欠失;
【0090】
E1B19kの一部又は全部の欠失;
【0091】
E3gp19kの一部又は全部の欠失;
【0092】
IL-21;
【0093】
変異型Ad5繊維タンパク質;
【0094】
αvβ6インテグリンのリガンド;
【0095】
治療用遺伝子又はその改変体;又は
【0096】
T細胞を標的とするリガンド又は抗体。
【0097】
本願の一実施形態では、以下のうちの少なくとも1つを含む、ウイルスを提供する。
【0098】
配列番号:1に記載の配列;
【0099】
配列番号:2に記載の配列;
【0100】
配列番号:3に記載の配列;
【0101】
配列番号:4に記載の配列;
【0102】
E1ACR2の一部又は全部の欠失;
【0103】
E1B19kの一部又は全部の欠失;
【0104】
E3gp19kの一部又は全部の欠失;
【0105】
IL-21;
【0106】
変異型Ad5繊維タンパク質;
【0107】
αvβ6インテグリンのリガンド;
【0108】
治療用遺伝子又はその改変体;又は
【0109】
T細胞を標的とするリガンド又は抗体。
【0110】
本願の実施形態は、以下のうちの少なくとも1つを含む、配列を提供する。
【0111】
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部がIL-21によって置換される;
【0112】
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が変異Ad5繊維タンパク質によって置換される;
【0113】
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、αvβ6インテグリンのリガンドによって置換される;
【0114】
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、配列番号:4に記載された配列によって置換される;
【0115】
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、T細胞を標的とするリガンド又は抗体によって置換される;
【0116】
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、腫瘍標的遺伝子によって置換される;又は
【0117】
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、治療用遺伝子又はその改変バージョンによって置換される。
【0118】
本願の一実施形態では、以下のうちの少なくとも1つを含む、ウイルスを提供する。
【0119】
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部がIL-21によって置換される;
【0120】
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が変異Ad5繊維タンパク質によって置換される;
【0121】
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、αvβ6インテグリンのリガンドによって置換される;
【0122】
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、配列番号:4に記載された配列によって置換される;
【0123】
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、T細胞を標的とするリガンド又は抗体によって置換される;
【0124】
E1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、腫瘍標的遺伝子によって置換される;
【0125】
又はE1ACR2、E1B19k、又はE3gp19kの一部又は全部が、治療用遺伝子又はその改変バージョンによって置換される。
【0126】
本願の上記実施形態では、Ad5繊維タンパク質は、Y477Aにおける変異及びTAYTの欠失を含み得る。αvβ6インテグリンのリガンドは、αvβ6にArg-Gly-Asp(RGD)-ドメインを介して選択的に結合するペプチドとすることができる。
【0127】
本願の上記実施形態では、ウイルスは、アデノウイルス、特にアデノウイルス5型とすることができる。
【0128】
本願の上記実施形態では、配列は、免疫調節因子、免疫共刺激経路活性化分子、チェックポイント阻害剤、細胞障害性遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、抗血管新生遺伝子等を含む治療用遺伝子をさらに含んでいてもよい。
【0129】
免疫調節因子遺伝子は、サイトカイン遺伝子、例えば:IL12、IL21、IL2、IL15、IL8又はこれらのいずれかの改良型を含んでもよい。
【0130】
免疫共刺激経路活性化分子は、CD40リガンド(CD40L)、ICOSリガンド、GITRリガンド、4-1BBリガンド、OX40リガンド、TL1A、CD30リガンド、CD27もしくはFlt3リガンド又はこれらのいずれかの改変体をコードする遺伝子を含んでもよい。
【0131】
チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、CTLA-4阻害剤、又はこれらのいずれかの改変体を含んでもよい。
【0132】
腫瘍抑制遺伝子は、HIC1等、またはこれらのいずれかの改変体を含んでもよい。
【0133】
本願で使用される遺伝子は、NCBI genebankから入手することができる。
【0134】
本願の一実施形態では、上記の任意の配列を含む発現ベクター又は宿主細胞を提供する。
【0135】
治療戦略
【0136】
本願発明の実施形態は、以下の少なくとも1つを含む、ヒト又は動物の身体を治療する方法に使用されるウイルスを提供する。
【0137】
単独療法として単独で使用される;又は
【0138】
1つ以上の医薬品と組み合わせて使用される。
【0139】
本願の実施形態の医薬は、公知の抗癌剤、阻害剤、アゴニスト、アンタゴニスト、化学療法剤、放射線剤、特にPI3Kδ阻害剤又は免疫チェックポイント阻害剤とすることができる。
【0140】
本願の一実施形態では、ヒト又は動物の身体を治療するための医薬の製造に使用されるウイルスを提供する。
【0141】
本願の一実施形態では、癌細胞の死を誘導すること、癌細胞の生物学的活性を調節すること、免疫反応を調節すること、T細胞の増殖及び/又は細胞毒性を増強することにおける使用のために使用されるウイルスを提供する。
【0142】
本願の一実施形態では、癌細胞の成長を抑制する、癌細胞の死を誘導する、及び/又は癌細胞の生物学的活性を調節するための医薬品の製造では使用するために使用されるウイルスを提供する。
【0143】
癌細胞の生物学的活性は、癌細胞の複製の阻害、癌細胞の分裂の阻害、癌細胞のDNA修復の阻害、癌細胞の移動の阻害、または癌死の促進を含む。
【0144】
本願の実施形態では、無菌バイアル、アンプル又は注射器中のウイルスを含む製造物を提供する。
【0145】
本願の一実施形態では、本願の実施形態に係るウイルスを含む医薬組成物を提供する。
【0146】
本願の一実施形態では、医薬組成物は、抗癌剤及び/又は抗体をさらに含む。
【0147】
本願の一実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤をさらに含む。
【0148】
本発明の医薬組成物は、当技術分野で周知のプロセス、例えば、従来の混合、溶解、造粒、ドラジェ化、賦形、乳化、カプセル化、封入、又は凍結乾燥プロセスにより製造することができる。
【0149】
したがって、本発明に従って使用するための医薬組成物は、賦形剤及び助剤を含む1つ以上の生理学的に許容される担体を用いて従来の方法で処方することができ、これにより活性成分を薬学的に使用できる製剤に加工することが容易になる。適切な製剤化は、選択された投与経路に依存する。
【0150】
適切な投与経路は、例えば、経口、直腸、経粘膜、特に経鼻、腸または非経口送達を含み、筋肉内、皮下及び髄内注射ならびに髄腔内、直接脳室内、心臓内、例えば右または左心室腔内、総冠動脈内、静脈内、腹膜内、鼻内または眼内注射を含むことができる。
【0151】
本願の一実施形態では、配列、発現ベクター、宿主細胞、ウイルス、医薬組成物、又は医薬の有効量を投与することを含む、疾患の治療方法を提供する。
【0152】
例示的な疾患には、癌、増殖性疾患、自己免疫疾患等が含まれる。
【0153】
一態様では、本願は、改変ウイルスAd5を提供し、ここで、改変ウイルスAd5は、サイトカインを発現することができ、改変ウイルスAd5は、A20を発現することができる。
【0154】
本願では、本願のサイトカインを発現できないウイルスAd5と比較して、本願の改変ウイルスAd5は、免疫細胞(例えば、T細胞、NK細胞)の免疫反応活性を調整する能力が向上し得ることが見出された。
【0155】
本願では、本願のA20を発現できないウイルスAd5と比較して、本願の改変ウイルスAd5は、腫瘍細胞を標的化する及び/又は腫瘍細胞の殺傷能力が向上し得ることが見出された。例えば、本願発明のA20以外のインテグリンを標的とするタンパク質を発現できるウイルスAd5と比較して、本願の改変ウイルスAd5は、腫瘍細胞の標的化及び/又は腫瘍細胞の殺傷能力が向上し得る。例えば、腫瘍微小環境において、他の標的を標的とするタンパク質を発現できるウイルスAd5と比較して、本願の改変ウイルスAd5は、腫瘍細胞を標的化及び/又は腫瘍細胞の殺傷脳力が向上し得る。本願では、腫瘍は、癌を構成するものであってもよい。
【0156】
例えば、サイトカインは、ヒトに由来するものであってもよい。
【0157】
例えば、サイトカインは、インターロイキン、腫瘍壊死因子、インターフェロン、ケモカイン、リンパカイン及び/又は成長因子から構成されてもよい。
【0158】
例えば、サイトカインは、IL12、IL2、IL15及び/又はIL8から構成されてもよい。
【0159】
例えば、サイトカインは、IL-21から構成されてもよい。
【0160】
本願では、IL-21以外のサイトカインを発現可能なウイルスAd5と比較して、IL-21を発現する本願発明の改変ウイルスAd5は、ウイルスAd5を投与された被験者に対する毒性が著しく低い可能性があることが判明している。例えば、毒性は、動物モデルにおいてin vivoで測定されてもよい。例えば、動物モデルにおいて投与された動物の体重を用いて毒性の程度を説明してもよい。
【0161】
例えば、改変ウイルスAd5のゲノムに、サイトカインをコードする遺伝子を組み込んでもよい。
【0162】
例えば、A20は、口蹄疫ウイルス(FMDV)に由来するものであってもよい。
【0163】
例えば、A20をコードする遺伝子は、配列番号4に記載の核酸配列を有していてもよい。例えば、A20は、配列番号5に記載のアミノ酸配列を有していてもよい。
【0164】
例えば、A20をコードする遺伝子は、改変ウイルスAd5のゲノムに組み込んでもよい。本願では、改変ウイルスAd5の内在性プロモーターを用いてA20を発現するために使用され得る限り、A20をコードする遺伝子を改変ウイルスAd5のゲノムのいずれかに組み込んでもよい。例えば、元の遺伝子(例えば、E1ACR2遺伝子、E1B19K遺伝子又はE3gp19K遺伝子)を削除する部位に、A20をコードする遺伝子を組み込んでもよい。
【0165】
例えば、改変ウイルスAd5のHI-ループに、A20をコードする遺伝子を組み込んでもよい。
【0166】
例えば、組み込みは、遺伝子編集及び/又は遺伝子組換えの方法を使用してもよい。
【0167】
例えば、改変ウイルスAd5は、繊維領域において少なくとも1つの改変を有していてもよい。
【0168】
例えば、繊維領域における改変は、アミノ酸置換Y477Aを含んでいてもよい。
【0169】
例えば、繊維領域における改変は、残基489~492におけるアミノ酸TATYの欠失からなるものであってもよい。
【0170】
本願では、繊維領域における改変は、アミノ酸置換Y477A及び残基489~492におけるアミノ酸TATYの欠失からなるものであってもよい。例えば、489~492番目のアミノ酸残基におけるTATYは、繊維領域のN末端から489~492番目のアミノ酸残基を意味する場合がある。
【0171】
例えば、野生ウイルスAd5と比較して、改変ウイルスAd5では、E1ACR2遺伝子の発現及び/又は活性がダウンレギュレートされていてもよい。
【0172】
例えば、野生ウイルスAd5と比較して、改変ウイルスAd5では、E1B19K遺伝子の発現及び/又は活性がダウンレギュレートされていてもよい。
【0173】
例えば、野生ウイルスAd5と比較して、改変ウイルスAd5では、E3gp19K遺伝子の発現及び/又は活性がダウンレギュレートされていてもよい。
【0174】
例えば、野生ウイルスAd5と比較して、E1ACR2遺伝子、E1B19K遺伝子及びE3gp19K遺伝子の発現及び/又は活性が、改変ウイルスAd5においてダウンレギュレートされていてもよい。例えば、E1ACR2遺伝子、E1B19K遺伝子及びE3gp19K遺伝子の発現量は、改変ウイルスAd5において、有意に又はほとんど検出されない程度にダウンレギュレートされていてもよい。例えば、E1ACR2、E1B19K及びE3gp19Kの発現量は、改変ウイルスAd5において、有意に又はほとんど検出されないようにダウンレギュレートされてもよい。例えば、E1ACR2、E1B19K及びE3gp19Kの活性及び/又は機能は、改変ウイルスAd5において、有意に又はほとんど検出されない程度にダウンレギュレートされていてもよい。
【0175】
例えば、ダウンレギュレーションは、遺伝子編集及び/又は遺伝子組換えの方法を用いてもよい。
【0176】
例えば、遺伝子編集には、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA及び/又はCRISPR/Cas系を用いてもよい。例えば、遺伝子編集は、CRISPR/Cas9系を用いてもよい。
【0177】
例えば、E1ACR2遺伝子をコードする遺伝子の少なくとも一部、E1B19K遺伝子の少なくとも一部、及びE3gp19Kの少なくとも一部を欠失させてもよい。
【0178】
例えば、E1ACR2遺伝子、E1B19K遺伝子又はE3gp19K遺伝子の部位に、サイトカインをコードする遺伝子を組み込んでもよい。
【0179】
例えば、改変ウイルスAd5において、E1ACR2遺伝子、E1B19K遺伝子及びE3gp19K遺伝子を欠失させ、サイトカインをコードする遺伝子及びA20をコードする遺伝子を組み込んでもよい。
【0180】
例えば、改変ウイルスAd5において、E1ACR2遺伝子、E1B19K遺伝子及びE3gp19K遺伝子を欠失させ、IL-21(例えば、ヒトIL-21)をコードする遺伝子及びA20をコードする遺伝子を組み込んでもよい。
【0181】
例えば、改変ウイルスAd5において、E1ACR2遺伝子、E1B19K遺伝子及びE3gp19K遺伝子を欠失させ、IL-21(例えば、ヒトIL-21)をコードする遺伝子及びA20をコードする遺伝子を組み込んでもよい。その繊維領域の改変は、アミノ酸置換Y477A及びアミノ酸TAYTの489~492残基の欠失からなっていてもよい。例えば、改変ウイルスAd5は、KMAd1と命名されてもよい。
【0182】
例えば、E3gp19K遺伝子の元の部位に、IL-21をコードする遺伝子を組み込んでもよい。
【0183】
本願では、改変ウイルスAd5は、外来遺伝子及び/又は外来タンパク質を発現できるものであってもよい。例えば、改変ウイルスAd5は、T細胞を標的とする遺伝子及び/又はリガンド、腫瘍細胞を標的とする遺伝子及び/又はリガンド、並びに治療用遺伝子を発現できるものであってもよい。
【0184】
例えば、治療用遺伝子は、免疫共刺激経路活性化分子をコードする遺伝子、チェックポイント阻害剤をコードする遺伝子、細胞障害性、腫瘍抑制遺伝子をコードする遺伝子、及び抗血管形成遺伝子からなる群から選択されてもよい。
【0185】
例えば、免疫共刺激経路活性化分子は、CD40リガンド(CD40L)、ICOSリガンド、GITRリガンド、4-1BBリガンド、OX40リガンド、TL1A、CD30リガンド、CD27、及びFlt3リガンド又はその変異型からなる群から選択されてもよい。
【0186】
例えば、チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、及びCTLA-4阻害剤からなる群から選択されてもよい。
【0187】
例えば、腫瘍抑制遺伝子は、HIC1遺伝子を含んでいてもよい。
【0188】
別の態様では、本願は、本願の改変ウイルスAd5をコードする、単離核酸分子を提供する。
【0189】
単離核酸又は単離核酸は、当技術分野で周知の組換え技術を使用して合成されてもよい。例えば、単離核酸は、自動DNA合成装置を用いて合成することができる。標準的な組換えDNA及び分子クローニング技術には、以下のものが含まれる。Sambrook, J., Fritsch, E.F.and Maniatis, T.Molecular Cloning:A Laboratory Manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press: Cold Spring Harbor, (1989) (Maniatis) and by T.J.Silhavy, M.L.Bennan, and L.W.Enquist, Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y.(1984) and by Ausubel, F.M.et al., Current Protocols in Molecular Biology, pub.by Greene Publishing Assoc.and Wiley-Interscience (1987).簡単に説明すると、対象の核酸は、ゲノムDNA断片、cDNA、及びRNAから調製することができ、これらはすべて、細胞から直接抽出され得るか、PCR及びRT-PCRを含むがこれに限定されない様々な増幅プロセスによって組換え的に産生されうる。
【0190】
別の態様では、本願は、本願の改変ウイルスAd5、及び/又は本願の単離核酸分子を含む、ベクターを提供する。
【0191】
発現ベクターは、特定の種類の宿主細胞での使用に適している場合もあれば、そうでない場合もある。例えば、発現ベクターを宿主生物に導入し、その宿主生物の生存率とベクターに含まれる任意の遺伝子/ポリヌクレオチドの発現をモニターすることができる。発現ベクターは、発現時に、発現ベクターを担持する宿主細胞の選択又はその他の識別に有用な1つ又は複数の表現型形質を付与する1つ又は複数の選択可能なマーカー遺伝子を含み得る。
【0192】
別の態様では、本願は、本願の改変ウイルスAd5、本願の単離核酸分子、及び/又は本願のベクターを含む、細胞を提供する。
【0193】
細胞は、真核細胞であってもよいし、原核細胞であってもよい。
【0194】
別の態様では、本願は医薬組成物を提供し、医薬組成物は、本願の改変ウイルスAd5と、薬学的に許容されるアジュバントとを含んでいてもよい。
【0195】
別の態様では、本願は、本願の改変ウイルスAd5を含むキットを提供する。
【0196】
医薬組成物は、例えば、投与に適した形態であってもよい。本願の医薬組成物は、本願の改変ウイルスAd5の治療上有効な量を含んでいてもよい。
【0197】
本願では、医薬受容アジュバントは、抑泡剤、消泡剤、緩衝剤、ポリマー、抗酸化剤、保存料、キレート剤、粘度調整剤、強壮剤、香味剤、着色剤、臭気剤、不透明剤、懸濁剤、結合剤、充填剤、可塑剤、潤滑剤、及び/又はこれらの混合物を含んでいてもよい。
【0198】
別の態様では、本願は、疾患及び/又は障害を治療する方法であって、本願の改変ウイルスAd5、本願の単離核酸分子、本願のベクター、本願の細胞、及び/又は本願の医薬組成物を、必要としている被験者に投与することを含む、方法を提供する。
【0199】
別の態様では、本願は、疾患及び/又は障害を治療する使用において、本願の改変ウイルスAd5、本願の単離核酸分子、本願のベクター、本願の細胞、及び/又は本願の医薬組成物を提供する。
【0200】
別の態様では、本願は、医薬品の調製において、本願の改変ウイルスAd5、本願の単離核酸分子、本願のベクター、本願の細胞、及び/又は本願の医薬組成物を提供し、医薬品は、疾患及び/又は障害を治療するためのものである。
【0201】
例えば、本方法は、本願の改変ウイルスAd5を、少なくとも1つの薬剤との組み合わせで必要としている対象に投与することを含んでよく、薬剤は、抗癌剤、アゴニスト、アンタゴニスト、化学療法剤及び放射線剤からなる群より選択されてもよい。
【0202】
例えば、本疾患は、腫瘍を含んでいてもよい。
【0203】
例えば、疾患は、αvβ6インテグリンを発現している腫瘍を含んでいてもよい。
【0204】
例えば、疾患は、膵臓癌、頭頸部癌、及び/又は卵巣癌を含んでいてもよい。
【0205】
本明細書では、本開示の好ましい実施形態が示され、説明されてきたが、そのような実施形態が例としてのみ提供されることは当業者には明らかであろう。本明細書から逸脱することなく、当業者には多数の変形、変更、及び置換が生じ得る。本明細書に記載される本開示の実施形態に対する様々な代替物が、本開示を実施する際に使用され得ることを理解されたい。以下の特許請求の範囲は、本開示の範囲を定義し、これらの特許請求の範囲内の方法及び構造ならびにそれらの均等物がそれによってカバーされることが意図される。
【0206】
実施例
以下の実施例は、当業者に本発明の製造方法及び使用方法の完全な開示及び説明を提供するために記載されており、発明者がその発明とみなすものの範囲を制限することを意図するものではなく、また、以下の実験が行われた全て又は唯一の実験であることを示すことを意図するものでもない。使用する数値(例えば、量、温度等。)の正確性を確保するための努力がなされてきたが、いくつかの実験誤差や偏差を考慮に入れるべきである。特に明記しない限り、部品は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏であり、圧力は大気圧又は大気圧に近い。標準的な略語が使用されてもよく、例えば、bp、塩基対;kb、キロベース;pl、ピコリットル;s又はsec、秒;min、分;h又はhr、時間;aa、アミノ酸;nt、ヌクレオチド;i.m、筋肉内;i.p、腹腔内;s.c、皮下などと記載される。
【0207】
製品の設計・構造
【0208】
1.pAd2Dをバックボーンとして、さらに改変Ad5ウイルスを作製する。
【0209】
pAd2Dプラスミドは2つの改変、すなわちE1ACR2欠失及びE1 B19k欠失を有する。
【0210】
2.pAd2DプラスミドにおけるE3Bgp19kの欠失
【0211】
カセットは以下のように設計されている(模式図は図3、4参照)
【0212】
左アーム-プロモーター-クロラムフェニコール-右アーム
【0213】
2.ヒトインターロイキン21(hIL-21)とクロラムフェニコールのE3Bgp19k領域への組み込み
【0214】
カセットは以下のように設計されている(模式図は図3、4参照)
【0215】
左アーム-hIL-21プロモーター-クロラムフェニコール-右アーム
【0216】
3.繊維領域におけるY477Aの変異とTAYTの欠失
【0217】
カセットは以下のように設計されている(模式図は図5参照)
【0218】
Y477A変異とTAYT欠失を有する繊維領域-プロモーター-クロラムフェニコール
【0219】
4.得られた最終生成物の構造を図1に示す:
【0220】
材料と方法:
【0221】
細胞株:使用したすべての腫瘍細胞株は、ATCC由来、又は共同研究者から提供されたものである。すべてのヒト癌細胞株は、STRアッセイにより遺伝子型を決定した。本研究で使用したマウス腫瘍細胞株は以下の通り:大腸癌細胞株MC38はC57B/6マウス由来であった。
【0222】
バックボーンウイルス遺伝子:E1ACR2とE1B19kを欠失させたプラスミドpAd2Dは共同研究者から提供されたものである。
【0223】
pS-E3gp19K シャトルベクターの構築:
【0224】
pS-E3gp19K シャトルベクターは、E3gp19K遺伝子の左側を標的とするE3gp19K左アームと、E3gp19K遺伝子の右側を標的とするE3gp19K右アームを含む。プロモーターを持つクロラムフェニコール遺伝子は、E3gp19Kの左アームと右アームの間に位置する。上記配列を全てスプライシングして当社で合成し、PUC57ベクターのECoRV部位にクローニングした(図2A参照)。
【0225】
pS-E3IL21 シャトルベクターの構築:
【0226】
pS-E3IL21 シャトルベクターは、E3gp19K遺伝子の左側を標的とするE3gp19K左アームと、E3gp19K遺伝子の右側を標的とするE3gp19K右アームを含む。ヒトIL-21遺伝子とそのプロモーターを持つクロラムフェニコール遺伝子は、E3gp19Kの左アームと右アームの間に位置する。ヒトIL-21遺伝子は、E3gp19Kのプロモーター下に位置する。上記配列を全てスプライシングして当社で合成し、PUC57ベクターのECoRV部位にクローニングした(図2B参照)。
【0227】
pS-A20 シャトルベクターの構築:
【0228】
pS-A20 シャトルベクターは、Y477Aに変異を有する遺伝子、TAYTの欠失及びA20の挿入を含む。上記の全配列をスプライシングして当社で合成し、PUC57ベクターのECoRV部位にクローニングした(図2C参照)。
【0229】
相同組換え:
【0230】
相同組換えには、エレクトロコンピテント大腸菌BJ5183細胞を使用した。組換えシャトルカセット断片は、それぞれのPUC57に基づく構築物からECoRV制限酵素によって実現され、アガロースゲルから精製された。pAd2Dと直鎖化シャトルカセット断片をエレクトロコンピテントBJ5183細胞20μLにエレクトロポレーションにより導入し、Bio-Rad Gene Pulser electroporatorで2.0mmキュベット、2,500V、200Ω、25μLでエレクトロポレーションを実施した。細胞は直ちに500μlのLB-Brothに入れ、37℃で20分間培養した。次に、細胞懸濁液の125μlを、L-寒天に25μg/mlのクロラムフェニコールを加えた10cmシャーレ4枚にそれぞれ接種した。37℃で16-20時間培養した後、一般にディッシュあたり10-25個のコロニーが得られた。小さいコロニー(通常、組換え体を示す)を摘出し、25μg/mlのクロラムフェニコールを含む2mlのl-Brothで増殖させた。プラスミドはミニプレップキットを用いて抽出した。
【0231】
リコンビナントプラスミドの増殖
【0232】
BJ5183細胞から抽出した10μgのプラスミドを、25μg/mlのクロラムフェニコールを含むTop10ケミカルコンピテントセルに形質転換し、18時間培養した後に菌体からプラスミドを抽出した。
【0233】
クロラムフェニコール無添加の組換えプラスミドの取得
【0234】
SwaI制限酵素を用いて組換えプラスミドからクロラムフェニコールを遊離させた後、組換え体の大きな断片を精製し、再ライゲーション してからトップ10コンピテントセルに形質転換し、LB-brothで18時間培養 してからプラスミド抽出を行った。
【0235】
遺伝子組み換えの確認
【0236】
組換えプラスミドにおける遺伝子修飾は、それぞれのプライマーを用いたDNA配列決定によって確認された。E3配列決定プライマー:5'-GGGTTGGGTTATTCTCT-3'(配列番号6)、繊維領域配列決定プライマー:5'-GACAGCACAGGTGCCATTACA3'(配列番号7)。
【0237】
アデノウイルスのパッケージング
【0238】
PacI制限酵素を用いてプラスミドからアデノウイルスゲノムを切り出し、アガロースゲルから精製した。2μgの直鎖化アデノウイルスゲノムを、Effectene transfection reagentを使用して、6ウェルプレートの293T細胞ウェルにメーカー指定の方法で形質転換させた。形質転換した293T細胞はアデノウイルスが出現するまで、10日間細胞培養インキュベーターに入れた。
【0239】
ウイルスの増幅:
【0240】
目的の組換えウイルスであることが確認できたら、ウイルス溶解液50μlを293T細胞の入ったT175フラスコに加え、約30mlの細胞培養液で80~90%コンフルエンスまで増殖させた。48時間後、細胞及び培地を掻き取り、「一次ウイルス増幅物」を保存した。
【0241】
大規模なウイルス生産:
【0242】
上記からの一次ウイルス増幅物を急速凍結し、一度解凍して、293T細胞を含む36本のT175フラスコ(80~90%コンフルエンス)に感染させるために必要な細胞培養に必要な容量に希釈した。48時間後、感染した293T細胞を掻き取り、2,000rpm(4℃)で数回遠心分離を繰り返すことにより回収した。沈殿物をPBSで洗浄し、12 mlの10 mM Tris-HCl (pH 9) 緩衝液に再懸濁し、後の精製のために-80 ℃で保存した。
【0243】
アデノウイルスの精製:
【0244】
前述同様37℃で解凍した濃縮ウイルスを、液体窒素と37℃の水槽の間で2回凍結・解凍する。ウイルス懸濁液を6000rpm/室温で10 分間遠心分離させる。遠心チューブから上清を50mlチューブに移し、すぐに上清をCsCl上において分染する。バランス調整後、25,000rpm、15℃で2時間遠心分離する。ウイルスは、CsClのステップの間にバンドを形成するはず。通常、3つのバンドが見える。一番高いバンドは細胞の破片、真ん中のバンドは空のアデノウイルス粒子、一番低いバンドはカプセル化された感染性粒子に成功したものである。超遠心チューブをクランプ(ウイルスのバンドが見えやすいように青色のクランプが望ましい)に入れ、ビクロンを入れたビーカーの上に置く。次に、10ml注射器に取り付けた19G注射針を用いて、最下部のバンドのすぐ下(約1cm下)に、その片側だけに穴を開けるように注意しながらチューブを刺す。その後、最小限のCsClで慎重にウイルスバンドを除去し、ラベル付き15mlチューブに移し替える。すべてのバンドをプールしたら、1/2×2インチの遠心チューブ(ベックマンの小型チューブ)に入れた1.35g/mlのCsCl溶液2.5mlの上に重ねる。プールされた総量に応じて、これを2本又は3本の超遠心管に等分することができる。これらのチューブは、Optima LE-80K 超遠心機と Beckman SW55tiスイングアウトローターを組み合わせ、40,000rpm、15℃、15時間(一晩)遠心分離させる前に、前と同様にバランス調整を行う。ウイルスバンド(チューブ中央に位置するはず)を前処理と同様に回収し、ラベル付き15mlチューブに移し替える。その後、TSGで12mlまで希釈する(おおよそ2~3 倍希釈)。少量のウイルスしかない場合は、9mlまで希釈する。回転させたチューブごとに、新しい注射針と注射器を使用。ウイルスとTSGの混合液は、付属の18G針(先端が緑色の針)と20ml注射器を用いてSlide-A-Lyzer(ピンク色の透析カセット)に注入される。12mlチューブから小型ビーカーにウイルスを移す(注射器が大きすぎるため)。また、ウイルスを注入する際にSlide-A-Lyzer内の余分な空気を抜く必要があるため、残りの3つの注入口のうち1つに注射器をセットして行う。各注入口は一度しか使用できないため、使用済みマークをつける必要がある。採取したウイルスをすべて慎重に注入したら、シリンジをに取り出し、オートクレーブ可能な屑容器に廃棄する。ウイルスを取り囲んでいる透明な膜は半透過性であるため、透析緩衝液は膜の内外を行き来できるのに対し、ウイルスはできない。この手順は、適切な保存緩衝液にウイルスを入れるためのものである。次に、Slide-A-Lyzerを適切なサイズのフロートに入れ、透析液21の入った51ビーカーに移す(下図参照)。ビーカーをマグネチックスターラーに載せて冷暗所に置き、ウイルスを24時間透析させる。Slide-A-Lyzerを逆さにし、フロートを上にして緩衝液に入れ、時々緩衝液が撹拌されていることを確認する。透析後、Slide-A-Lyzerを組織培養用フードに移し、注射器でウイルスを除去し、ラベル付き15mlチューブ(オレンジ色のキャップ)に移し替える。ウイルス全体を1mlずつ分注し、チューブには、ウイルス名、日付(バッチ番号として使用)、容量、イニシャルをラベルする。アリコートは-80℃の冷凍庫に保管される。小分けしたものをウイルスバリデーション(特性評価)に使用し、粒子数を測定する(TCID50用)。
【0245】
アデノウイルスの滴定
【0246】
96ウェルプレートに293T細胞を1ウェルあたり1x104個播種した。精製したウイルスを因子10で10-12倍まで連続希釈した。滴定を開始するには、10-6倍希釈したウイルスを96ウェルプレートの各ウェルに20μLずつ加え、12ウェル列の全ウェルを滴定した。10-12倍希釈は滴定に使用する最低希釈倍率である。
【0247】
酵素結合免疫吸着測定法(Enzyme-linked immunosorbent assay)
【0248】
hIL-21の発現は、試薬メーカーの説明書に従って、酵素結合免疫吸着測定法ELISAで検出した。
【0249】
ウイルス複製の決定:
【0250】
増殖速度に応じて、細胞培養液を含む6ウェルプレートの3ウェルに2~4×105個/ウェルで播種し、翌日1PFU/セルのウイルスで感染させた。感染後24時間、48時間、72時間にそれぞれ感染細胞及びその培養液を回収した。その後、ウイルス濃度を測定した。
【0251】
in vitroにおけるウイルスの細胞毒性評価:
【0252】
96ウェルプレートに細胞を増殖速度に応じて1×103個及び1×104個/ウェルで播種し、16~18時間後にウイルスを感染させた。ウイルス感染後6日目の細胞生存率をMTSアッセイで測定し、EC50値を既述のように算出した(ウイルス投与により腫瘍細胞の50%が死滅)。すべてのアッセイは少なくとも3回実施した。
【0253】
異なるアデノウイルス.を比較するためのin vivo有効性実験:
【0254】
1~5×106個の癌細胞を皮下注射することにより、1治療群あたり10匹のマウスに背部の皮下腫瘍を形成し、直径0.4~0.5cmとした後、腫瘍の大きさで再グループ化し、1、2、3、4、5日目に1×108PFU(免疫不全マウス)又はPBSを投与した。腫瘍面積が1.69cm2に達した時点でマウスを犠牲にするまで、腫瘍体積(体積=(長さ×幅2×π)/6)を週2回測定した。使用したマウスは、4-5週齢の雄マウスBALB/c及びC57BL/6系である。
【0255】
統計解析
【0256】
比較統計解析は、特に断りのない限り、Graphpad Prism 5を用いて行った。二重条件比較は、独立t-検定を用いて行った。2つ以上の条件の追加変数については、1又は2ANOVAを別々に実行する。生存データは、群間の差が統計的に有意な差を有するかどうかをプロットするために、ログランク分析を用いたKaplan-Meierプロットとして表される。
【0257】
3つの領域を欠失させたAd5変異体の構築
【0258】
E1ACR2, E1B19kを欠失させたAd5のゲノムを持つベクターpAd2Dをバックボーンとして、E3B gp19k遺伝子を欠失させた変異体を構築した。E1B19k遺伝子の左側、クロラムフェニコール、E3B gp19k遺伝子の右側を標的とする左アームからなるカセットを制限酵素EcoRVを用いてPUC57のクローニングベクターから遊離させ、アガロースゲルから精製を行った。pAd2Dと直鎖化したシャトル断片をエレクトロコンピテント大腸菌BJ5183細胞20μlにエレクトロポレーションにより導入し、Bio-Rad Gene Pulser electroporatorで2.0mmキュベット、2,500V、200Ω、25μLでエレクトロポレーションを実施した。細胞は直ちに500μlのLB-Brothに入れ、37℃で20分間培養した。次に、細胞懸濁液の125μlを、L-寒天に25μg/mlのクロラムフェニコールを加えた10cmシャーレ4枚にそれぞれ接種した。37℃で16-20時間培養した後、一般にディッシュあたり10-25個のコロニーが得られた。小さいコロニー(通常、組換え体を示す)を摘出し、25μg/mlのクロラムフェニコールを含む2mlのl-Brothで増殖させた。ミニプレップキットで抽出した10μgのプラスミドを、25μg/mlのクロラムフェニコールを含むTop10ケミカルコンピテントセルに形質転換し、18時間培養した後に菌体からプラスミドを抽出した。SwaI制限酵素を用いてクロラムフェニコールをコンストラクトから遊離させた後、組換え体の大きな断片を精製し、再ライゲーション してからトップ10コンピテントセルに形質転換し、LB-brothで18時間培養 してからプラスミド抽出を行った。組換え体のE3Bgp19k遺伝子の欠失は、DNA 配列決定により確認した。
【0259】
3つの領域を欠失し、ヒトIL-21で武装化された構築Ad5突然変異体
【0260】
E1ACR2とE1B19kを欠失させたAd5のゲノムを有するベクターpAd2Dをバックボーンとして、E3B gp19k遺伝子をヒトIL-21に置換した。E1B19k遺伝子の左側、クロラムフェニコール、E3B gp19k遺伝子の右側を標的とする左アームからなるカセットを制限酵素EcoRVを用いてPUC57のクローニングベクターから遊離させ、アガロースゲルから精製を行った。pAd2Dと直鎖化したシャトル断片をエレクトロコンピテント大腸菌BJ5183細胞20μlにエレクトロポレーションにより導入し、Bio-Rad Gene Pulser electroporatorで2.0mmキュベット、2,500V、200Ω、25μLでエレクトロポレーションを実施した。細胞は直ちに500μlのLB-Brothに入れ、37℃で20分間培養した。次に、細胞懸濁液の125μlを、L-寒天に25μg/mlのクロラムフェニコールを加えた10cmシャーレ4枚にそれぞれ接種した。37℃で16-20時間培養した後、一般にディッシュあたり10-25個のコロニーが得られた。小さいコロニー(通常、組換え体を示す)を摘出し、25μg/mlのクロラムフェニコールを含む2mlのl-Brothで増殖させた。ミニプレップキットで抽出した10μgのプラスミドを、25μg/mlのクロラムフェニコールを含むTop10ケミカルコンピテントセルに形質転換し、18時間培養した後に菌体からプラスミドを抽出した。SwaI制限酵素を用いてクロラムフェニコールをコンストラクトから遊離させた後、組換え体の大きな断片を精製し、再ライゲーション してからトップ10コンピテントセルに形質転換し、LB-brothで18時間培養 してからプラスミド抽出を行った。組換え体におけるE3Bgp19k遺伝子のヒトIL‐21置換をDNA配列決定により確認した。
【0261】
3つの領域を欠失し、ヒトIL-21、Y477A、del TAYT、Ad 5-3 del-A20Tで武装化された構築Ad5突然変異体は、KMAd 1としても命名することができる。
【0262】
KMAd1は、2020年3月25日にCCTCCに保存され、CCTCC NO.V202024と名づけられている。KMAd1は、αvβ6インテグリンを発現する宿主細胞(例えば、ヒト膵臓癌細胞Suit-2)に保持されている。そして、ヒト膵臓癌細胞Suit-2は、10%ウシ胎児血清からなるDMEM細胞培養液で培養された。
【0263】
Ad5のゲノムにE1ACR2とE1B19k E3B gp19kをヒトIL-21に置換したベクターpAd2Dをバックボーンとして、Y477A, delTAYTA20を持つ組み換え体を構築した。繊維遺伝子の左側、Y477A変異、TAYT欠失及びA20ペプチド、クロラムフェニコールおよびE3Bgp19k遺伝子の右側を標的とする左アームからなるカセットを制限酵素EcoRVを用いてPUC57のクローニングベクターから遊離させ、アガロースゲルから精製を行った。pAd2Dと直鎖化したシャトル断片をエレクトロコンピテント大腸菌BJ5183細胞20μlにエレクトロポレーションにより導入し、Bio-Rad Gene Pulser electroporatorで2.0mmキュベット、2,500V、200Ω、25μLでエレクトロポレーションを実施した。細胞は直ちに500μlのLB-Brothに入れ、37℃で20分間培養した。次に、細胞懸濁液の125μlを、L-寒天に25μg/mlのクロラムフェニコールを加えた10cmシャーレ4枚にそれぞれ接種した。37℃で16-20時間培養した後、一般にディッシュあたり10-25個のコロニーが得られた。小さいコロニー(通常、組換え体を示す)を摘出し、25μg/mlのクロラムフェニコールを含む2mlのl-Brothで増殖させた。ミニプレップキットで抽出した10μgのプラスミドを、25μg/mlのクロラムフェニコールを含むTop10ケミカルコンピテントセルに形質転換し、18時間培養した後に菌体からプラスミドを抽出した。SwaI制限酵素を用いてクロラムフェニコールをコンストラクトから遊離させた後、組換え体の大きな断片を精製し、再ライゲーション してからトップ10コンピテントセルに形質転換し、LB-brothで18時間培養 してからプラスミド抽出を行った。組換え体におけるE3Bgp19k遺伝子のヒトIL‐21置換をDNA配列決定により確認した。
【0264】
実施例
実施例1.コントロールウイルス構築物pAd-cにおけるDNA配列決定によるE3gp19kの欠失の確認
【0265】
図10に、コントロールウイルス構築物pAd-cにおけるE3gp19kの欠失を示し、これはDNA配列決定によって確認された。
【0266】
実施例2.コントロールウイルス構築物pAd-cの改変
【0267】
図11に、コントロールウイルス構築物pAd-cにおけるY477A突然変異、TAYT欠失を示す配列決定結果を示す。図13に、コントロールウイルス構築物Ad-cにおけるSwAI制限酵素を用いたクロロホルムの除去の配列決定結果を示す。
【0268】
実施例3.ヒトIL-21遺伝子をアデノウイルスゲノムのE3gp19k領域に挿入したウイルス構築物pAd3d-hIL21を作製した。
【0269】
図14に、アデノウイルスゲノムのE3gp19 k領域を置換するヒトIL-21遺伝子を示す。クロロホルムを除去したウイルス構築物pAd-IL21には、余分な配列ATTTAAATが残った(図18)。
【0270】
実施例4.ウイルス構築物pAd3d-hIL21の改変。
【0271】
配列決定の結果、Y477A変異、TYAT欠失、A20挿入が確認された(図16、17)。
【0272】
クロロホルムを除去したウイルス構築物pAd-IL21には、余分な配列ATAATが残った(図15)。
【0273】
実施例5.改変アデノウイルスにおけるhIL-21の発現。
【0274】
Ad-hIL-21、Ad-hIL-21-A20ウイルスからの細胞培養液におけるhIL-21の発現をELISA法で測定した(図19)。
【0275】
実施例6.コントロールウイルス及びA20ウイルスによるαvβ6インテグリン陰性又は陽性の腫瘍細胞の感染。
【0276】
実施例7 本願の改変ウイルスAd5は、腫瘍細胞を特異的に標的として死滅させることができる
【0277】
本願の改変ウイルスAd5 KMAd1を数種類の腫瘍細胞に形質転換し、ウイルスを投与していない腫瘍細胞をコントロールとした。
【0278】
3日間培養した後、細胞をクリスタルバイオレットで染色し、その結果を図20に示す。その結果、本願の改変ウイルスAd5は、αvβ6インテグリン陽性の腫瘍細胞と特異的結合及び/又は死滅させることができることが示された。
【0279】
本明細書では、本発明の好ましい実施形態が示され、説明されてきたが、そのような実施形態が例としてのみ提供されることは当業者には明らかであろう。本発明は、明細書中で提供される具体例によって限定されることは意図されない。上述の明細書を参照して本発明を説明したが、本明細書の実施形態の説明及び図示は、限定的な意味で解釈されることを意図していない。本発明から逸脱することなく、当業者には多数の変形、変更、及び置換が生じ得る。さらに、本発明のすべての態様は、種々の条件及び変数に依存する本明細書に記載された特定の描写、構成又は相対的比率に限定されないことが理解されるものとする。本明細書に記載される本発明の実施形態に対する種々の代替物が、本発明の実施において使用され得ることを理解されたい。したがって、本発明は、そのような代替物、修正物、変形物又は同等物も対象とすることが企図される。以下の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義し、これらの特許請求の範囲内の方法及び構造ならびにそれらの均等物がそれによってカバーされることが意図される。
図1
図2
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【配列表】
2023521076000001.app
【国際調査報告】