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特表2023-521104生体適合性で高アスペクト比の多孔質膜
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】生体適合性で高アスペクト比の多孔質膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/00 20060101AFI20230516BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20230516BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20230516BHJP
   B01D 71/28 20060101ALI20230516BHJP
   B01D 71/30 20060101ALI20230516BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20230516BHJP
   B01D 71/40 20060101ALI20230516BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20230516BHJP
   B01D 71/50 20060101ALI20230516BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20230516BHJP
   B01D 71/54 20060101ALI20230516BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20230516BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20230516BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20230516BHJP
   G03F 7/26 20060101ALI20230516BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
B01D69/00
B01D69/06
B01D71/26
B01D71/28
B01D71/30
B01D71/36
B01D71/40
B01D71/44
B01D71/50
B01D71/56
B01D71/54
B01D71/64
B01D39/16 C
B01D69/12
G03F7/26 511
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561184
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(85)【翻訳文提出日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2021058777
(87)【国際公開番号】W WO2021204715
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】16/842,448
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598041463
【氏名又は名称】グローバル・ライフ・サイエンシズ・ソリューションズ・ユーエスエー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス・アルバグリ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・エー・ヘネシー
【テーマコード(参考)】
2H196
4B029
4D006
4D019
【Fターム(参考)】
2H196AA30
2H196HA11
2H196KA07
4B029BB01
4B029CC02
4B029HA06
4D006GA06
4D006GA07
4D006MA03
4D006MA22
4D006MA26
4D006MA27
4D006MA31
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC27
4D006MC30
4D006MC47
4D006MC49
4D006MC53
4D006MC54
4D006MC58X
4D006MC59
4D006NA33
4D006NA46
4D006PA01
4D006PB20
4D006PB24
4D006PB52
4D019AA03
4D019BA13
4D019BB08
4D019BD01
(57)【要約】
本発明は、所望の熱膨張係数と大表面積(例えば、略4000mm以上)を有する多孔質膜102を提供する。フォトレジスト104をリソグラフィパターニングし、次いで、フォトレジスト104を現像してエッチングする例示的なプロセスに従って、多孔質膜102が製造され得る。一態様では、エッチングバリア層は、膜層102と反応しない又は膜層102に金属や他の汚染物質をもたらさない材料から選択される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー層を備える多孔質膜(102)であって、前記ポリマー層が、4000mm以上の連続的表面積と、5~25μmの厚さと、ハードマスク(104)を用いて前記ポリマー層の厚さにわたってエッチングされた開口のパターンを有し、前記開口の平均アスペクト比が0.5:1~20:1の範囲内であり、該多孔質膜(102)が、前記ポリマー層の表面上又は内部に生物学的に影響の無い量の残留ハードマスク材料を含む、多孔質膜(102)。
【請求項2】
前記多孔質膜(102)の表面が0.2以下の逸脱率を有する、請求項1に記載の多孔質膜(102)。
【請求項3】
前記多孔質膜(102)の細孔径標準偏差が0.3μm以下である、請求項1又は2に記載の多孔質膜(102)。
【請求項4】
前記多孔質膜(102)の細孔径標準偏差が0.15~0.40μmの範囲内にある、請求項1から3のいずれか一項に記載の多孔質膜(102)。
【請求項5】
前記多孔質膜(102)の細孔径標準偏差が0.15~0.30μmの範囲内にある、請求項1から4のいずれか一項に記載の多孔質膜(102)。
【請求項6】
前記ポリマー層が、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、合成ポリマー、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ナイロン、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリエチレン、アクリレートポリマー、アクリレートモノマー、又はアクリレートエラストマーから選択されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の多孔質膜(102)。
【請求項7】
前記ポリマー層がポリイミドである、請求項1から6のいずれか一項に記載の多孔質膜(102)。
【請求項8】
前記多孔質膜(102)が検出不能なレベル又は生物学的に影響の無い量の金属汚染物質を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の多孔質膜(102)。
【請求項9】
前記多孔質膜(102)の細孔が0.5:1~20:1のアスペクト比を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の多孔質膜(102)。
【請求項10】
多孔質膜(102)を製造するための方法であって、
(a)支持層とポリマー層とハードマスク層とを備える基材の上面にフォトレジスト層を堆積させるステップであって、前記ポリマー層が5~25μmの厚さを有し、前記基材の表面積が4000mm以上であり、前記ハードマスク層と前記ポリマー層が界面に反応層を形成しない、ステップと、
(b)前記フォトレジスト層を光パターンに露出するステップと、
(c)前記フォトレジスト層を現像して、前記ハードマスク層の部分を露出する第一開口パターンを前記フォトレジスト層に設けるステップと、
(d)前記ハードマスク層の露出部分をエッチングして、下方のポリマー層の部分を露出する第二開口パターンを前記ハードマスク層に設けるステップと、
(e)前記フォトレジスト層を除去するステップと、
(f)前記ハードマスク層の開口を介してポリマー層をエッチングすることによって、第三開口パターンを前記ポリマー層に設けるステップであって、前記第三開口パターンの平均アスペクト比が0.5:1~20:1の範囲内である、ステップと、
(g)前記ハードマスク層を除去するステップであって、前記ハードマスク層の除去後のポリマー層が検出可能な量のハードマスク材料又はハードマスク層とポリマー層の反応生成物を有さず、又は生物学的に影響の無い量のハードマスク材料又はハードマスク層とポリマー層の反応生成物を有する、ステップと、
(h)前記支持層から前記ポリマー層を取り外すことによって、多孔質膜を与えるステップと、を備え、
前記多孔質膜(102)の細孔径が前記光パターンによって定められ、前記多孔質膜が4000mm以上の表面積を有する、方法。
【請求項11】
前記支持層と前記ポリマー層が互いに±15%以内で整合した熱膨張係数を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記支持層と前記ポリマー層が互いに±10%以内で整合した熱膨張係数を有する、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記多孔質膜(102)が4000mm以上の表面積を有する、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記多孔質膜(102)が0.1m以上の表面積を有する、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記多孔質膜(102)が、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、合成ポリマー、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ナイロン、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリエチレン、アクリレートポリマー、アクリレートモノマー、又はアクリレートエラストマーから選択される、請求項10から14のいずれか一項に方法。
【請求項16】
前記多孔質膜(102)がポリイミドを含む、請求項10から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記多孔質膜(102)が検出不能なレベル又は生物学的に影響の無い量の金属汚染物質を有する、請求項10から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記多孔質膜(102)の細孔が0.5:1~20:1のアスペクト比を有する、請求項10から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
4000mm以上の連続的表面積と、5~25μmの厚さと、開口パターンとを有するポリイミドを備える多孔質膜(102)であって、前記開口パターンの開口の平均アスペクト比が0.5:1~20:1の範囲内であり、前記ポリイミドが、検出可能な量のハードマスク材料又はハードマスク層とポリマーとの反応生成物を有さず、又は、生物学的に影響の無い量のハードマスク材料又はハードマスク層とポリマーとの反応生成物を有する、多孔質膜(102)。
【請求項20】
前記多孔質膜(102)の細孔径標準偏差が0.3μm以下である、請求項19に記載の多孔質膜(102)。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
多孔質膜は、多様な生物学的濾過プロセスで用いられている。膜は、孔が設けられたポリマー材料の薄層製である。このような材料の一種は、図1に示されるトラックエッチ(Track‐Etch)と呼ばれるプロセスによって作製される。トラックエッチ材料は電子銃を用いて作製される。電子が真空条件下で膜に向けられる。電子が膜に孔を設けて、膜を多孔質にする。そのプロセスのランダム性のため、結果としての孔は膜表面にランダムに分布する。孔が重なることで意図していたよりも大きな孔がそのプロセスでもたらされる可能性がある。
【0002】
フォトリソグラフィが膜材料を作製するのに用いられてきた。発明者がJacobsenで特許権者がBaxter International社の米国特許第7784619号明細書(特許文献1)には、膜を作製するためのフォトリソグラフィ法が記載されている。そうしたプロセスでは、従来の半導体製造方法を用いて、所望の列の孔を有する膜を作製している。
【0003】
本発明者は、半導体製造用の標準的な方法では、望ましい性質を有する大表面積の膜を提供することができなくなることに気が付いた。表面が平坦になる大表面積の膜を作製することは難しい。一つの問題は、支持体から取り外した後に膜材料が丸く巻くことである。他の問題は、高アスペクト比の孔を膜に設けるのに必要なハードマスク層からの膜の汚染である。一部応用では、金属汚染物質が存在しない膜を製造することが望まれ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7784619号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、細孔膜とその製造方法を改善することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、本発明は液体濾過用多孔質膜を含み、その多孔質膜はポリマー膜層を備え、そのポリマー膜層は1~100μmの範囲内の平均細孔径と、0.7μm以下の細孔径標準偏差と、0.2以下の逸脱率とを有する。膜は、4000mm以上等の大表面積を有することが望ましい。本発明の一態様に係る細孔径分布は0.3μm以下となるように制御され得る。他の態様では、細孔径分布は、0.15~0.7μm、より好ましくは0.15~0.40μm、又は0.15~0.30μmの範囲内の標準偏差を有する。
【0007】
ポリマー膜は多様なポリマー製となり得て、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、合成ポリマー、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ナイロン、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリエチレン、アクリレートポリマー、アクリレートモノマー、アクリレートエラストマー等が挙げられる。好ましい態様では、ポリマー材料はポリイミドである。
【0008】
他の態様では、本発明は、液体濾過用多孔質膜の製造方法に関し、その方法は、(a)基材の上面にフォトレジスト層を堆積させること(基材は支持層とポリマー層とハードマスク層を備え、ポリマー層は5~25μmの厚さを有し、支持層とポリマー層は互いに±25%以内で整合した熱膨張係数を有する)と、(b)フォトレジストを光パターンに露出することと、(c)フォトレジスト層を現像して、ハードマスク層の部分を露出する第一開口パターンをフォトレジスト層に与えることと、(d)ハードマスク層の露出部分をエッチングして、下方のポリマー層の部分を露出する第一開口パターンをハードマスク層に与えることと、(e)フォトレジストを除去することと、(f)ハードマスク層の開口を介してポリマー層をエッチングすることによって、第三開口パターンをポリマー層に与えることと、(g)ハードマスク層を除去することと、(h)ポリマー層を支持層から取り外すことによって、多孔質膜を与えることとを備え、多孔質膜の細孔径は、光パターンによって定められ、膜は4000mm以上の表面積を有する。
【0009】
他の態様では、本発明は多孔質膜に係り、その多孔質膜は、4000m以上の連続表面積と、5~25μmの厚さと、開口パターンを有し、開口の平均アスペクト比は0.5:1~20:1の範囲内にあり、ポリマーは、検出可能な量のハードマスク材料又はハードマスク層とポリマーの反応生成物を有さないか、又はその存在量は、生物学的に影響の無い僅かな程度に少量であり、これは細胞等にとって有毒ではないことを意味する。一態様では、多孔質膜は0.2以下の逸脱率で平坦になる性能を有する。
【0010】
他の態様では、本発明は、多孔質膜の製造方法に含み、その方法は、(a)基材の上面にフォトレジスト層を体積させること(基材は支持層とポリマー層とハードマスク層を備え、ポリマー層は5~25μmの厚さを有し、基材の表面積は4000mm以上であり、ハードマスクとポリマーがそれらの界面に反応層を形成しない)と、(b)フォトレジストを光パターンに露出することと、(c)フォトレジスト層を現像して、ハードマスク層の部分を露出する第一開口パターンをフォトレジスト層に与えることと、(d)ハードマスク層の露出部分をエッチングして、下方のポリマー層の部分を露出する第二開口パターンをハードマスク層に与えることと、(e)フォトレジストを除去することと、(f)ハードマスク層の開口を介してポリマー層をエッチングすることによって、第三開口パターンをポリマー層に与えること(第三開口パターンの平均アスペクト比は0.5:1~20:1の範囲内にある)と、(g)ハードマスク層を除去すること(ハードマスク層を除去した後のポリマー層は、検出可能な量のハードマスク材料又はハードマスク層とポリマーの反応生成物を有さない、又はその存在量が生物学的に影響の無い僅かな程度に少量である)と、(h)ポリマー層を支持層から取り外すことによって、多孔質膜を与えることとを備え、多孔質膜の細孔径は、光パターンによって定められ、膜は4000mm以上の表面積を有する。ポリマー層の熱膨張係数(CTE)と支持層の熱膨張係数(CTE)は互いに±15%以内となるように制御され得る。より好ましくは、CTEは互いに±10%以内となるように制御される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】トラックエッチプロセスによって作製された多孔質膜の表面を示す。
図2】本発明の一実施形態に係る膜の製造ステップを示す。
図3】本発明の一実施形態に係る膜の写真を示す。
図4】本発明の一実施形態に係る膜の走査型電子顕微鏡像を示す。
図5】支持層とポリマー層のCTEを制御せずに作製したポリイミドフィルムを示す。
図6】本発明の一態様に従って支持層のCTEとポリマー層のCTEが互いに25%以内になるように制御して作製したポリイミドフィルムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、フォトリソグラフィ法を用いたポリマー膜の製造に関し、その膜材料は、丸まったり他の変形が生じたりせずに平坦であることができる4000mm以上の連続表面積を有するように設けられ得る。
【0013】
本発明の膜は、連続的な大表面積を維持しながら、所望の細孔径と細孔分布を有するように設けられ得る。
【0014】
本発明のプロセスは、生体適合性膜を製造すること、及び、加工後のポリマー材料に残留成分を残さない材料と方法を用いることができるものである。例えば、エッチングマスクは、炭素等のポリマーの成分と反応しない材料から選択される。こうした表面反応を防止することは、濾過対象の物質を汚染させてはならない生体膜にとって重要である。ハードマスク材料とエッチング条件は、膜中に認められる残留ハードマスク材料のレベルを最小にするように選択され得る。残留物質は、ハードマスク材料からの不純物元素、例えば、アルミニウム元素やシリコン元素等を含む。一実施形態では、膜は、生物学的に影響の無い僅かな量の残留ハードマスク材料を備える。一実施形態では、ポリマーの表面上のハードマスク材料の量は、好ましくは0.15μg/cm以下、より好ましくは0.10μg/cm以下、最も好ましくは0.01μg/cm以下である。
【0015】
図2に示されるように、本発明の膜を製造するための例示的な一プロセスは、まず、支持基盤層100を提供することを含む。その支持層100上に膜(ポリマー)層102を形成する。ポリマー層102上にハードマスク層103を形成する。そして、ハードマスク層103上にフォトマスク層104を設ける。
【0016】
支持基盤100は例えばガラス製となり得る。他の適切な材料としてはシリコンや金属が挙げられる。膜層102はポリマー層である。本発明の好ましい一態様では、膜層102と支持体100は同様の熱膨張係数を有する。本発明者は、ポリマー層102の熱膨張特性と支持層100の熱膨張係数が整合していると、結果物の膜が変形に耐えることを確認した。これは、平坦なままである膜はエンドユーザによって取り扱い易いので、望ましい特性である。ガラスと同様のCTEを有する望ましい材料の一つはポリイミドである。一態様では、ポリイミドを基盤上に適用して硬化させるが、その硬化したポリイミド材のCTEはガラスのCTEと整合しているものである。本発明者は、ガラスとポリマー膜層(例えば、ポリイミド)との間の相違が大きくなるほど、ポリマーをガラスから取り外す際にポリマーが平坦にならない傾向が強くなることを確認した。
【0017】
一実施形態では、ポリイミドは、厚さ20μmにおいて50℃~200℃では3ppm/℃のCTEを有し、ガラスは、50℃~200℃では3.2ppm/℃のCTEを有する。上述のように、ポリマーのCTEと支持層のCTEは互いに±25%の範囲内にあることが望ましく、より好ましくは互いに±15%の範囲内にあり、最も好ましくは互いに±10%の範囲内にある。例えば、上述のガラスのCTEは、ポリイミド層のCTEよりも略7%高い。
【0018】
膜層102用の適切な材料として、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、合成ポリマー、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ナイロン、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリエチレン、アクリレートポリマー、アクリレートモノマー、アクリレートエラストマーが挙げられる。支持体100への膜層102のコーティングは、スピンコーティング、スプレーコーティング、メニスカスコーティング、スロットダイコーティング、ディップコーティング、押し出しコーティング、ラミネーション(基盤に接着剤を取り付ける)を用いて行われ得る。膜層102の硬化は、熱硬化、UV(紫外線)硬化、又はこれら両方の組み合わせを用いて行われ得る。
【0019】
ハードマスク層103は、典型的には、膜層やフォトマスク層等のポリマー材料に対して選択的にエッチング可能な無機材料である。無機層は、膜層102と何らかの反応を生じさせない材料製であることが望ましい。例えば、アルミニウムは周知のエッチングマスク層であるが、Alは膜層のポリイミドと反応してAl‐Cを形成し得る。このことは、あらゆる金属汚染物質が膜をバイオプロセス応用に適合しないものとする傾向があるために、望ましくない。好ましくは、ハードマスク層は、下方の膜層102のポリマーとほとんど又は全く反応しないアルミニウム合金製である。ハードマスク層103の堆積は、物理気相堆積、蒸着、化学気相堆積、及び/又はスプレーコーティングを用いて行われ得る。
【0020】
適切なハードマスク材料として、無機材料、有機材料、多層の無機材料と有機材料が挙げられる。より具体的には、ハードマスク材料としては、金属、絶縁体、半導体、フォトレジスト、無機材料、有機材料、多層フィルム、又はこれらの組み合わせが挙げられる。特定の実施形態では、ハードマスクは、水素化アモルファスSiN(SiN:H)や水素化アモルファスSiO(SiO:H)を含み得る。ハードマスクの堆積は、物理気相堆積、蒸着、化学気相堆積、スプレーコーティング、メッキ、ラミネーション、スピンコーティング、メニスカスコーティング、スロットダイコーティング、ディップコーティング、又は押し出しコーティングを用いて行われ得る。
【0021】
フォトレジスト層104は、半導体やフラットパネルディスプレイの製造用に一般的に用いられているリソグラフィ法を用いて露光及びパターニング可能なフォトレジスト材料であることが望ましい。フォトレジスト材料はポジ型又はネガ型のフォトレジストのいずれでもあり得る。フォトレジスト材料は典型的にはスピン法を用いて所望の厚さに堆積されて、その後硬化される。次いで、フォトレジストを、そのフォトレジストの現像の際にフォトレジスト材料のパターンを決める光パターンに露出する。ポジ型フォトレジストは、光に露出されなかった領域に物質を残し、光に露出された領域が現像の際に除去される。ネガ型フォトレジストはこの逆である。具体的には、ネガ型フォトレジストは光に露出された領域が残り、光に露出されなかった領域が現像の際に除去される。
【0022】
図2(a)に示される構造は、支持体100、膜層102、ハードマスク層103、フォトレジスト層104の断面図を示す。その材料は、パターニングの際に設けられるもの、又は、事前に設けられていて後でパターニングされるもののいずれかとなり得る。全体的な形状は特に重要ではなく、ディスク状、正方形、又は長方形となり得る。図3は、支持構造体上のディスク状膜を示す。本発明を用いて、4000mm以上の表面積を有するもの等の大面積多孔質膜を提供することができる。
【0023】
図2(a)の構造から膜を作製する第一ステップは、フォトレジストの表面を光パターンに露出して、フォトレジストを現像して、図2(b)に示されるフォトレジストパターンを残すことによって、パターン化フォトレジスト層104を提供することである。光露出の箇所は、ポジ型とネジ型のどちらのフォトレジストを用いるのかに依存する。図2(b)のフォトレジスト104は、フォトレジスト層中に開口101を含む。フォトレジスト層104の開口101は、フォトレジスト層104を光パターンに露出した後の現像の際に形成される。
【0024】
開口101の形成後に、ハードマスク103を開口101の箇所においてエッチングして、図2(c)に示されるハードマスク開口106を形成する。ハードマスク103のエッチングは、湿式化学エッチング法、プラズマエッチング法、非反応性スパッタリング法、又はこれら手法の組み合わせのうちの一つ以上を用いて行われ得る。一態様では、酢酸とリン酸と硝酸と水の組み合わせを用いてハードマスク層をエッチングする。一態様では、フッ化アンモニウム(NHF)とフッ化水素酸(HF)でハードマスク層をエッチングする。他の態様では、レーザーアブレーションを用いてハードマスク層を除去し得る。エッチングは高温で行われることが多い。上述のように、ハードマスク層の材料は、ハードマスク層103のエッチング等の加工中の温度において下方の膜層102のポリマーと反応しないように選択されることが望ましい。
【0025】
ハードマスク層は、後で膜層102に開口をエッチングするためのマスクを与えるのに重要なものであることを理解されたい。複数種のハードマスク材料が知られているが、既存の多くのハードマスク材料は、下方の膜層102の炭素と反応する。例えば、本発明者は、ポリイミドフィルム上のハードマスクとしてアルミニウムを用いた場合にAl‐Cが膜層に形成されることを確認した。こうした反応は、一部には製造中に基材が晒される高温に起因して生じる。こうした理由から、金属汚染物質の可能性が無いハードマスク材料、上述のSiNやSiH等を用いることが望ましい。
【0026】
ハードマスク層103をパターニングして開口106を形成した後に、NMP(Nメチルピロリドン)系溶媒等を用いてフォトレジストを除去し得て、次いで、膜層102をパターニングして開口107を形成し得る。ハードマスク開口106を介した膜層102のパターニングが図2(e)に示されている。これは、ハードマスク開口106内のポリマー膜層を選択的に除去するように設計されたエッチングプロセスである。そのエッチング法としては、湿式化学エッチング法、プラズマエッチング法、非反応性スパッタリング法、又はこれら手法の組み合わせが挙げられる。特に、膜層開口107を介して下方の支持層100を露出するのに十分なように材料をエッチングしなければならない。
【0027】
膜層102をパターニングして膜層開口107を形成した後に、図2(f)に示されるようにハードマスク層103を除去するのが望ましい。ハードマスク層103の除去は、膜層102に対して選択的になるようにして行われるのが望ましい。
【0028】
ハードマスク層103の除去の後に、図2(g)に示されるパターン化膜層102を支持層100から分離する。膜層102の分離は、機械的分離法、レーザー分離法、溶液を用いた分離法、熱分離法、又はこれら手法の組み合わせを用いて行われ得る。
【0029】
支持層と膜層は、パターニング後の層の分離を可能にしながらも、加工に耐える十分な接着性を有するように選択される。一実施形態では、支持体100はガラス製であり、膜層102はポリイミドである。好ましい一実施形態では、支持体100と膜102は同様の熱膨張係数を有するように選択される。本発明者は、支持体100のCTEと膜層102のCTEの整合が、支持体からの剥離の際に平坦な膜を与えるのに重要であることを見出した。CTEが整合していない場合には、膜は剥離の際に丸くなる傾向にあり、望ましくない。
【0030】
機械的プロセス、又は化学的プロセスと機械的プロセスの組み合わせを用いて、膜102が支持体100から分離され得る。例えば、レーザーリフトオフ(LLO)法を用いて膜が剥がされ得る。代替的に又は追加的に、膜は、膜102と支持層100との間に剥離層(DBL,de‐bonding layer)を含み得る。好ましい一態様では、膜層102と支持層100は、LLOやDBLを用いずに簡単に分離可能となるように選択される。
【0031】
図4は、本発明の一実施形態に係る膜の走査型電子顕微鏡像を示す。本願記載のリソグラフィ法を用いることで細孔を規則的なパターンで設けることができる。所望のパターンが可能である。一方で、リソグラフィ法を用いることの利点の一つは、ランダムなプロセスに起因する細孔の重なりに関する問題を回避できる点である。更に、一実施形態では、x‐y方向に対して対称な細孔形状を、z方向に沿ってフィルムの厚さにわたって均等に再現することができる。例えば、x‐y方向に対して対称な細孔形状を、抜き勾配(draft angle)を有する又は有さないようにしてz方向に沿って押し出すことができる。このことを用いて、適切なハードマスクが使用不能である場合に自然と生じ得るz方向における複雑な細孔形状や三重対称性(つまり、ジャイロイド形状)を回避することができる。
【0032】
一実施形態では、細孔は、1~100μmの範囲内、好ましくは1~10μmの範囲内、より好ましくは3~7μm、最も好ましくは略5μmの直径を有するように設計される。膜の厚さと細孔の直径が最高のアスペクト比を決める。膜の厚さは5~25μmの範囲内であることが多い。アスペクト比は、0.5:1~20:1の範囲内、好ましくは1:1~10:1の範囲内、より好ましくは2:1~5:1の範囲内、最も好ましくは略3:1となり得る。一態様では、本発明は、所望のサイズの細孔径の分布を低変動で有する膜を製造することができる。一態様では、その変動は、細孔径標準偏差として特性評価され得る。細孔径の標準偏差は、望ましくは0.70μm以下、より望ましくは0.50μm以下、更に望ましくは0.30μm以下である。他の態様では、細孔径の標準偏差は、0.1~0.5μmの範囲内、好ましくは0.15~0.4μmの範囲内、より好ましくは0.15~0.3μmの範囲内となり得る。表1は、本発明に係る膜の細孔径と標準偏差を示す。
【0033】
【表1】
【0034】
これらの結果はそれぞれ100mm×150mmのシートに対する15点の測定点に基づくものである。孔がより小さな領域がいくつか観測されたが、これは、デブリが細孔を塞いでいることを示唆しているものであり得る。より大きな細孔の存在はマスクの欠陥に起因するものであるように見受けられる。製造時においては、マスクの欠陥は、マスクの交換で対処し得る。
【0035】
本発明の膜は、サイズに基づいて物質を確実に分離することができる細孔径分布を有する。膜の保持率は、既知のサイズと濃度の均一粒子(ポリスチレンマイクロスフィア)の懸濁液で膜を試験して、膜を通過することができた粒子(膜の下流の粒子)を定量化することによって決定された。この試験で用いられたポリスチレンビーズは官能化されておらず、染色もされていなかった。公称サイズが6μm、10μm、12μmの三つのビーズサイズ分布を試験した。比較用の膜は、公称細孔サイズが10μmのGEヘルスケア社のTEM Nucleoporeであった。この試験で用いた本発明の膜は、10.3μm±0.2μmの厳密なサイズを有していた(SEM顕微鏡像に基づく統計的評価)。表2に示されるように、本発明の膜は、市販のトラックエッチ膜と比較して平均保持率の極めて低い標準偏差を示し、これは、細孔径の再現性に関する本発明の膜の信頼性を示している。
【0036】
【表2】
【0037】
本発明の多孔質膜は、支持体からの剥離後に丸まらないという望ましい特性を有する。この特徴は、製造される膜の表面積が大きくなるに連れて重要になる。例えば、膜の表面積が4000mm以上である場合、本発明者は、支持体からの剥離後に膜が丸まる傾向にあることを確認した。フォトリソグラフィ/エッチングを用いて多孔質膜を開発する従来の試みは、熱膨張係数が定まっていないポリマー層を用いており、特に大表面積が求められる場合には剥離時に丸まらないように製造することが困難であった。こうした制限が、膜の表面積のサイズを酷く制限していた。
【0038】
所望の平坦逸脱レベル、つまり、膜が自己支持である場合の平面からの最大逸脱値を平面にわたるその膜の長さで割った比として計算される逸脱率は0.2以下である。図5は、10mmの丸まりを47mmの直径最大値で割った値として計算される逸脱値が0.22である膜を示す。このレベルの逸脱率は、基盤とポリマー層のCTEの無制御に起因するものであり、ポリマー層の分離時に丸まったフィルムになる。図6は、本発明の一実施形態に係る膜を示し、逸脱率が0.04であり、つまり、直径25mmに対して1mm以下の逸脱である。
【0039】
ウシ胎仔血清と複合抗生物質(ストレプトマイシンとペニシリン)を加えたRPMI培地でJurkat細胞(ヒトリンパ腫)を培養し、実験で用いる前に二回継代した。全部で7日間にわたって細胞をそのままで培養し(対照用)、また、GEヘルスケア社のTEM Nucleoporeと本発明の膜の存在下でも培養し、定期的に監視して、指数増殖期を保った(細胞数の制御で直接制御した)。全てのグループ(対照、トラックエッチ、本発明の膜)の細胞生存率を、表3に示すように、1日目と7日目においてNucleocounter200(Chemometec社)と各々用のVia1Cassetteを用いて定量的に導出した。
【0040】
【表3】
【0041】
結果は、膜の存在下で培養したものと対照とでJurkat細胞の生存率に違いが見られず、つまり、細胞毒性が無いというものであった。
【0042】
本発明の他の実施形態と使用は、本開示の明細書と発明の実践方法を考慮することで当業者には明らかとなるものである。米国や他国の特許文献を含む全ての文献への言及は参照してその全体が具体的に本願に組み込まれるものである。明細書と例は例示的なものに過ぎず、本発明の真の範囲と要旨は添付の特許請求の範囲に示されるものである。
図1
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図2(d)】
図2(e)】
図2(f)】
図2(g)】
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】