(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】対象面へのドナー材料の制御蒸着方法およびそのためのプレート
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20230516BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20230516BHJP
H05K 1/03 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
C23C14/24 T
C23C14/14 D
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561617
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(85)【翻訳文提出日】2022-11-04
(86)【国際出願番号】 NL2021050211
(87)【国際公開番号】W WO2021206541
(87)【国際公開日】2021-10-14
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522394225
【氏名又は名称】ネザーランズ オーガニサイト フォー トゥーホパスト ナチュルヴェンテンスハッペリク オーダーズック ティエヌオー
【氏名又は名称原語表記】NEDERLANDSE ORGANISATIE VOOR TOEGEPAST-NATUURWETENSCHAPPELIJK ONDERZOEK TNO
【住所又は居所原語表記】Anna van Buerenplein 1, 2595 DA ’s-Gravenhage, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリックス、ロブ ヤコブ
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA03
4K029BA07
4K029BA08
4K029BA35
4K029CA01
4K029DA01
4K029DB02
4K029DB03
4K029DB20
(57)【要約】
【課題】対象面にドナー材料を蒸着する方法、プレートおよび蒸着装置の提供。
【解決手段】基板(10)の第1の主面(11)を伸縮性層(4)で被覆し、伸縮性層を第1の主面の囲み領域(13)の周囲に施したシーリング(43)によって取り付け、エンクロージャ(6)を画定する。伸縮性層(4)は、基板の反対側に面し、蒸着するドナー材料が充填される1つ又は複数の凹部(42a、…、42e)がパターン形成された外面(41)を有する。比較的高い圧力をエンクロージャ(6)の内部(61)に付与し、内部の容積(V
61)を増加させ、伸縮性層(4)のパターン面(41)を対象面(51)に押圧する。伸縮性層(4)をその状態にして、基板の第1の主面(11)とは反対側の第2の主面(12)に、1つ又は複数の凹部(42a、…、42e)から対象面(51)へのドナー材料(2)の転写を引き起こす強度および持続時間で光子放射線を照射する。
【選択図】
図2C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象面(51)にドナー材料(2)を蒸着する方法であって、
基板(10)の第1の主面(11)を、前記基板の反対側に面し、1つまたは複数の凹部(42a、…、42e)がパターン形成された外面であるパターン面(41)を有する伸縮性層(4)で被覆し、前記伸縮性層(4)を前記第1の主面の囲み領域(13)の周囲に施したシーリング(43)により前記第1の主面(11)に取り付け、エンクロージャ(6)を画定するステップ(S1)と、
前記1つまたは複数の凹部(42a、…、42e)に、蒸着するドナー材料(2)を充填するステップと、
前記基板(10)の開口部(14)を介して前記エンクロージャ(6)の内部(61)に気体を供給することにより、エンクロージャ外部の圧力に比べて比較的高い圧力を前記内部(61)に付与して、前記内部(61)の容積(V
61)を増加させ、前記伸縮性層(4)のパターン面(41)を前記対象面(51)に押圧するステップと、
前記基板の前記第1の主面(11)とは反対側の第2の主面(12)に、前記1つまたは複数の凹部(42a、…、42e)から前記対象面(51)へのドナー材料(2)の転写を引き起こす強度および持続時間を有する光子放射線を照射するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
ドクターブレード(20)を使用して、前記1つまたは複数の凹部(42a、…、42e)に前記ドナー材料(2)を充填することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つまたは複数の凹部(42a、…、42e)を充填するステップに先立って、前記エンクロージャ(6)の前記内部(61)を排気することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
気体を前記内部(61)に供給することにより、または前記外部の圧力を下げることにより、比較的高い圧力を前記内部(61)に付与することを特徴とする、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記光子放射線の強度および持続時間は、前記伸縮性層(4)の前記外面との界面において前記ドナー材料の一部が蒸発するように選択されることを特徴とする、請求項1 4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記光子放射線の強度および持続時間は、前記ドナー材料が少なくとも部分的に硬化するように選択されることを特徴とする、請求項1 5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記外部の圧力に比べて比較的低い圧力を前記内部に付与することにより、前記伸縮性層(4)を前記対象面(51)から離脱させるステップを含むことを特徴とする、請求項1 6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記転写の後に、前記パターン面(41)を洗浄するステップを含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
対象面(51)に蒸着するのに適したドナー材料(2)を収容するプレート(1)であって、
第1の主面(11)およびその反対側の第2の主面(12)を有する基板(10)と、
前記基板(10)を通って延びる開口部(14)と、を備え、
前記基板(10)の前記第1の主面(11)は前記対象面(51)に向けられるパターン面(41)を有するパターン層(4)で被覆され、前記パターン面(41)には前記ドナー材料が充填される1つまたは複数の凹部(42a、…、42e)がパターン形成されており、
前記第2の主面(12)は前記基板(10)を好適に透過する光子放射線(R3)の照射を受けるように構成され、前記光子放射線は前記1つまたは複数の凹部(42a、…、42e)から前記対象面(51)へのドナー材料(2)の転写を引き起こすのに適した強度および持続時間を有し、
前記パターン層(4)は伸縮性の材料からなり、前記第1の主面の囲み領域(13)の周囲に施したシーリング(43)により前記第1の主面(11)に取り付けられて、エンクロージャ(6)の内部(61)および外部を画定し、
前記内部(61)の容積(V
61)は、前記内部の圧力と前記外部の圧力との相対的な差(P
int-P
ext)に依存し、
前記開口部(14)は前記基板(10)を通って前記エンクロージャの内部(61)に向かって延在することを特徴とするプレート。
【請求項10】
前記伸縮性のパターン層(4)は、1つまたは複数の比較的剛性の部材(45a、45b、45c、45d)で補強されることを特徴とする、請求項9に記載のプレート。
【請求項11】
前記1つまたは複数の比較的剛性の部材は、柔軟性を保持しつつ局所的に伸張を防止し、前記基板の反対側に面する側に前記凹部内に少なくとも実質的に均一な熱流束を与える誘電体コーティングを備え、
前記誘電体コーティングは、凹部の底壁に入射する所定波長の単色光子放射線に対して、前記凹部の側壁に入射する前記単色放射線に対する反射率よりも高い反射率を有することを特徴とする、請求項9または10に記載のプレート。
【請求項12】
前記伸縮性のパターン層(4)は、さらに前記囲み領域内の箇所でも前記基板(10)の前記第1の主面(11)に取り付けられることを特徴とする、請求項9~11のいずれか1項に記載のプレート。
【請求項13】
複数のエンクロージャが前記基板(10)上に形成され、
前記複数のエンクロージャは、それぞれが個別の伸縮性層、または、個別の囲みシーリング(43_1、43_2、…、43_9)で前記基板に取り付けられた伸縮性層部分(4_1、4_2、…、4_9)を有することを特徴とする、請求項9~12のいずれか1項に記載のプレート。
【請求項14】
請求項9 13のいずれか1項に記載のプレート(1)と、
対象面(51)が前記プレートの第1の面(11)に対向した状態で、対象物(5)を保持する保持部(9)と、
光子放射線(R3)を前記プレートの第2の面(12)に向けて照射する光子放射源(3)と、
前記内部(61)と前記外部との相対的な圧力差を制御可能に発生させる圧力調整機構(7)と、
前記圧力調整機構(7)および前記光子放射源(3)を制御する制御部(8)と、を備え、
前記制御部は、前記圧力調整機構(7)を制御して前記内部の圧力を前記外部の圧力よりも低く保ち、前記光子放射源(3)を停止状態に維持する第1の動作モードと、前記圧力調整機構(7)を制御して前記内部の圧力を前記外部の圧力よりも高く保ち、前記パターン層(4)を前記対象面(51)に押圧する第2の動作モードを有し、
前記制御部は、前記光子放射源(3)に、1つまたは複数の凹部(42a、…、42e)から前記対象面(51)へのドナー材料(2)の転写を引き起こす強度および持続時間で光子放射線(R3)を照射させることを特徴とする蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象面へのドナー材料の制御蒸着方法に関する。本発明はまた、対象面に蒸着するドナー材料を収容するプレートに関する。本発明はさらに、そのようなプレートを備える蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象面にドナー材料を制御蒸着する方法は、特許文献1(米国特許出願公開第2017/268107号明細書)により公知である。特許文献1に開示された方法によれば、1つまたは複数のウェルを備える第1の面と、この第1の面の反対側の第2の面とを有する光学的に透明なプレートを用意し、光吸収材料で第1の面を薄く被膜した後、ウェルにドナー材料を充填する。次いで、プレートを第2の面からパルス光で照射してウェル内を熱し、ガスを発生させてドナー材料をウェルからプレートに隣接する受容基板上に転写する。この処理では、ウェル周囲の熱流束によりドナー材料がどのように放出されるかを決定する。
【0003】
この公知の方法は平坦な面にドナー材料を蒸着するのに非常に適しているが、凸凹な面での使用にも適した方法が必要である。例えば、複数の層から構成される対象物にドナー材料を蒸着し、ある生成物層とその下に延在する別の生成物層の一部との間に電気的接続を設ける場合等に、その必要性が生じ得る。別の例としては、コンポーネントキャリアと、コンポーネントキャリア上に配置されたコンポーネントの電気端子との間に電気的接続を形成する場合が挙げられる。
【0004】
また、次のような先行技術が知られている。
【0005】
非特許文献1(Hongyu Luo et al., "Laser-driven programmable non-contact transfer printing of objects onto arbitrary receivers via an active elastomeric microstructured stamp", National science review, 2019年8月6日 (2019-08-06), pp. 296~304, XP055728788, Doi: 10.1093/nsr/nwz109, インターネット<URL:https://academic.oup.com/nsr/article-pdf/7/2/296/32921935/nwz109.pdf> [2020年9月8日検索])は、接触面の下に位置する空気で満たされたキャビティ、その空気のキャビティを封入するマイクロパターン化された表面膜、およびレーザー吸収層として機能する内部キャビティ表面上の金属層を特徴とするアクティブエラストマー微細構造スタンプを使用したレーザー駆動のプログラム可能な非接触転写印刷技術を開示している。マイクロパターン化された表面膜を動的に膨張させて界面接着性を制御することができ、100℃未満の温度上昇でキャビティ内の空気を局所的にレーザー加熱することにより、界面接着性を「強」状態から「弱」状態に3桁以上切り替えることが可能となっている。
【0006】
特許文献2(国際公開第2010/081137号公報)は、半導体撮像素子のアレイを作製して、素子を伸縮可能に相互接続し、予ひずみ(pre-strained)エラストマースタンプを用いてアレイを非平面状の二次表面に転写印刷する工程を含む、撮像アレイ製造プロセス方法を開示している。
【0007】
特許文献3(米国特許出願公開第2017/306495号明細書)は、互いに反対側にある第1および第2の面を有する透明なドナー基板を備えた、アクセプタ面に材料を蒸着するための装置について記載している。透明ドナー基板は、第2の面の少なくとも一部がアクセプタ面に平行にならないように構成されており、第2の面上にドナー膜を有している。光学アセンブリは、ドナー基板の第1の面を通過して第2の面のアクセプタ面と平行ではない部分のドナー膜に当たるように放射線ビームを照射し、ドナー膜からアクセプタ面への溶融材料の液滴の放出を誘発する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/268107号明細書
【特許文献2】国際公開第2010/081137号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2017/306495号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hongyu Luo et al., "Laser-driven programmable non-contact transfer printing of objects onto arbitrary receivers via an active elastomeric microstructured stamp", National science review, 2019年8月6日 (2019-08-06), pp. 296~304, XP055728788, Doi: 10.1093/nsr/nwz109, インターネット<URL:https://academic.oup.com/nsr/article-pdf/7/2/296/32921935/nwz109.pdf> [2020年9月8日検索]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、平坦でない対象面へのドナー材料の蒸着に適した、改良された蒸着方法を提供することにある。したがって、請求項1に記載の方法が提供される。
【0011】
本発明の別の目的は、当該改良された方法で使用するための改良型プレートを提供することにある。したがって、請求項9に記載のプレートが提供される。
【0012】
発明のさらに別の目的は、平坦でない対象面へのドナー材料の蒸着に適した、改良型蒸着装置を提供することにある。したがって、改良型装置が請求項13に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の改良された方法は、以下の工程を含む。
基板の第1の主面を伸縮性層で被覆する。伸縮性層は、例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)またはPU(ポリウレタン)のような伸縮性ポリマーからなり、第1の主面の囲み領域周囲に施したシーリングにより第1の主面に取り付けられる。これにより、エンクロージャが画定される。
伸縮性層は、基板の反対側に面し、1つまたは複数の溝、トレンチ、ウェルなどの凹部がパターン形成された外面を有する。1つまたは複数の凹部には、対象面に蒸着されるドナー材料が充填される。
続いて、エンクロージャ外部の圧力に比べて比較的高い圧力をエンクロージャの内部に付与する。例えば、加圧ガスまたは加圧空気の内部への供給および/またはプレートが配置されている環境の真空排気を行う。また、内部の物質を蒸発させて蒸気圧を上昇させてもよい。比較的高い圧力を付与することで、内部の容積が増加し、伸縮性層のパターン面が対象面に押し付けられる。
伸縮性層のパターン面が対象面に押圧された状態で、基板の、第1の主面とは反対側の第2の主面に、光子放射線を照射する。光子放射線は、1つまたは複数の凹部から対象面へのドナー材料の転写を引き起こす強度および持続時間を有するものとする。光子放射線は基板と伸縮性層を透過して1つまたは複数の凹部内に到達し、伸縮性層に対するドナー材料の界面で蒸気圧を発生させるため、1つまたは複数の凹部から対象面に向かってドナー材料が放出される。エンクロージャ内の比較的高い圧力のため、伸縮性層は必然的に対象面の凹凸形状に適合する。その結果、ドナー材料を含む1つまたは複数の凹部を有するパターン面と対象面が密着し、良好な転写精度が得られる。
【0014】
ある実施形態では、ドナー材料の蒸発により蒸気圧を発生させる。他の実施形態では、ドナー材料よりも蒸発しやすい補助材料を界面に投入する。さらに/あるいは、使用する光子放射線に対して比較的高い吸収性を有する補助材料を界面に投入してもよい。
【0015】
また、ある実施形態によれば、ドナー材料は粘性物質であり、伸縮性層で起こる歪みに応じて容易に変形することができる。これらの実施形態において、光子放射線の強度および持続時間は、ドナー材料が少なくとも部分的に硬化するように選択される。少なくとも伸縮性層表面との界面におけるドナー材料が少なくとも部分的に硬化することで、伸縮性層表面にドナー材料の一部が残留することを回避できる。好ましい実施形態では、ドナー材料は対象面に向かって放出されている間に完全に硬化してもよい。
【0016】
ドナー材料が対象面に蒸着されると、伸縮性層を対象面から取り外すことができる。そのために、プレートを対象面から引き離してもよい。ある実施形態では、例えば、内部の排気および/または外部への加圧を行い、内部の圧力を外部の圧力に比べて比較的低くすることで、エンクロージャを収縮させる。伸縮性層を有するプレートは、対象面から取り外した後、伸縮性層の凹部を再充填することで、再利用可能な状態にすることができる。場合によっては、再充填の前に伸縮性層の表面を洗浄する工程を行ってもよい。
【0017】
請求項9に記載の改良型プレートは、互いに反対側にある第1および第2の主面を有する基板を備える。基板の第1の主面はパターン層で被覆されており、パターン層は対象面に向けられるパターン面を有する。パターン面には、対象面に蒸着するドナー材料が充填される、1つまたは複数の凹部がパターン形成されている。
【0018】
基板の第2の主面は光子放射線の照射を受ける面であり、照射された光子放射線は基板を透過してドナー材料が充填された凹部へと向かう。使用時において、光子放射線は、1つまたは複数の凹部から対象面へのドナー材料の転写を引き起こす強度および持続時間を有する。
【0019】
改良型プレートは、パターン層が伸縮性の材料からなり、基板の第1の主面の囲み領域周囲に施したシーリングにより第1の主面に取り付けられることを特徴とし、これにより、エンクロージャの内部と外部が画定される。内部の容積は内部の圧力と外部の圧力との相対的な差に依存する。
【0020】
ある実施形態によれば、エンクロージャ内部の圧力制御を容易にするために、プレートはエンクロージャの内部に向かって延びる開口部を有する。例えば、開口部は基板を通って延在してもよく、あるいは、シーリングもしくは伸縮性層を通って延在してもよい。
【0021】
改良型プレートのいくつかの実施形態では、伸縮性層は比較的剛性の部材で補強される。それにより、変形を制御してアライメント精度を向上させ、かつ、伸縮性層を対象面に適合させることができる。比較的剛性の部材は、例えば、凹部近傍における伸縮性層の変形を制限するものであってよい。また別の例として、比較的剛性の部材は一方向のみに比較的剛性があり、それに交差する方向においてはより柔軟であってもよい。
【0022】
これらの実施形態においては、例えば、1つまたは複数の比較的剛性の部材により、柔軟性を保持しつつ局所的に伸張が防止される。この1つまたは複数の比較的剛性の部材は、基板の反対側に面する側に、凹部内に少なくとも実質的に均一な熱流束を与える誘電体コーティングが施されていてもよい。この場合、誘電体コーティングは、凹部の底壁に入射する所定波長の単色光子放射線に対して、当該凹部の側壁に入射する単色放射線に対する反射率よりも高い反射率を有するものとする。本例では、比較的剛性の部材を使用することで、エンクロージャの外部に対して内部に圧力が加えられた際の誘電体コーティングの損傷を軽減している。このような誘電体コーティングの例示およびより詳細な説明は、本出願人によって出願された欧州特許出願第20167549.3号明細書に記載されている。
【0023】
プレートのある実施形態によれば、伸縮性層は、変形を制御するための代替的または追加的な手段として、さらに囲み領域内の箇所でも基板の第1の主面に取り付けられる。
【0024】
また、ある実施形態によれば、伸縮性層は、変形を局所的に制限するために、さらに囲み領域内の箇所でも基板の第1の主面に取り付けられる。
【0025】
改良型プレートのいくつかの実施形態では、複数のエンクロージャが基板上に形成される。複数のエンクロージャは、それぞれが個別の伸縮性層を有するか、もしくは、それぞれが伸縮性層の一部分を有し、各一部分は個別の囲みシーリングで基板に取り付けられる。これらの実施形態によれば、形成されたエンクロージャの膨張を独立して制御することができる。使用する伸縮性層が1つである場合、単一のシーリングで基板に取り付けられたときに比べ、その変形は厳密に制御される。これらの実施形態の変形例では、各エンクロージャの伸縮性層または伸縮性層の一部分は、さらに各々の囲み領域内の箇所でも基板の第1の主面に取り付けられる。
【0026】
本開示で提供される蒸着装置は、上記の実施形態による改良型プレート加えて、保持部、光子放射源、圧力調整機構、および制御部を備える。
【0027】
光子放射源は、光子放射線をプレートの第2の面に向けて照射するように設けられる。
【0028】
圧力調整機構は、エンクロージャの内部と外部との相対的な圧力差を制御可能に発生させるために備えられる。したがって、ある実施形態では、圧力調整機構は、エンクロージャ内部を排気することによって、および/または、エンクロージャ内部に気体もしくは気体の混合物(例えば空気)を供給することによって、エンクロージャ内部の圧力を制御するように構成されている。また、他の実施形態では、圧力調整機構は、エンクロージャ外部を排気することによって、および/または、エンクロージャ外部に気体もしくは気体の混合物(例えば空気)を供給することによって、エンクロージャ外部の圧力を制御するように構成されている。さらに、他の実施形態では、圧力調整機構は、内部および外部の圧力を調整するように構成されている。
【0029】
保持部は、対象面がプレートの第1の面に対向した状態で、対象物を保持するように設けられる。ある実施形態では、保持部は、プレートに対して一定の位置で対象物を保持するように構成されている。他の実施形態では、保持部は、対象物を移動させるように構成されている。蒸着装置は、蒸着工程の後、新しいプレートまたはプレートの新しい部分を放射源の前に配置し、対象面の後続部分を新しいプレートまたはプレートの新しい部分の第1の面の前に配置するように構成されていてもよい。
【0030】
制御部は、圧力調整機構および光子放射源を制御するために備えられる。制御部は、圧力調整機構を制御してエンクロージャ内部の圧力を外部の圧力よりも低く保ち、光子放射源を停止状態に維持する第1の動作モードを有する。また、制御部は、圧力調整機構を制御して内部の圧力を外部の圧力よりも高く保つ第2の動作モードを有する。これにより、制御部は、パターン層を対象面に向けて押し付け、パターン層が対象面に押圧された状態で、放射源に、1つまたは複数の凹部から対象面へのドナー材料の転写を引き起こす強度および持続時間で光子放射線を照射させる。熱照射の持続時間は、例えばマイクロ秒を単位とし概して短いが、さらに短くナノ秒単位となることが多い。実施する上では、数ナノ秒から数十ナノ秒ほどのパルス持続時間で、穏当な技術的要件により良好な結果が得られ得る。しかし、場合によっては、さらに短いパルス持続時間、例えば10~500psの範囲を適用してもよい。試験段階において、強度を比較的低い値(例えば、約0.1J/cm2の露光(フルエンス)に相当)から比較的高い値(例えば、約1J/cm2の露光(フルエンス)に相当)まで変化させて、ドナー材料の転写が蒸着精度の観点から最適である値または値の範囲を決定してもよい。上述のように、いくつかの実施形態では、光子放射線の強度および持続時間は、ドナー材料が放出される凹部の壁部との界面でドナー材料が少なくとも部分的に硬化するように選択される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1A】本発明の実施形態に係るプレートの模式図であり、プレートの平面図である。
【
図1B】本発明の実施形態に係るプレートの模式図であり、
図1AのIB-IB断面を示す断面図である。
【
図2A】本発明の実施形態に係る方法の工程を示す説明図である。
【
図2B】本発明の実施形態に係る方法の工程を示す説明図である。
【
図2C】本発明の実施形態に係る方法の工程を示す説明図である。
【
図2D】本発明の実施形態に係る方法の工程を示す説明図である。
【
図2E】本発明の実施形態に係る方法の工程の変形例を示す図である。
【
図3】本発明の別の実施形態に係るプレートを示す図である。
【
図4】本発明のさらに別の実施形態に係るプレートを示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る蒸着装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1A、
図1Bは、対象物5(
図2B参照)の対象面51(
図2B参照)上に蒸着されるドナー材料2を収容するプレート1を概略的に示しており、
図1Bは
図1AのIB IB断面を示す断面図である。プレート1は、第1の主面11およびその反対側の第2の主面を有する基板10を備える。基板10の第1の主面11は、対象面に向けられるパターン面41を有するパターン層4で被覆されている。パターン面41には、1つまたは複数の凹部がパターン形成されている。
図1A、
図1Bの例では、凹部は、ドナー材料2の適切な一部2a、2bでそれぞれ充填される第1および第2のトレンチ42a、42eを含む。この例では、1つまたは複数の凹部はさらに、ドナー材料2の適切な一部2c、2d、2eで充填されるウェル42c、42d、42eを含む。
【0033】
使用時、プレート1の第2の主面12は光子放射線の照射を受け、照射された光子放射線は基板10を透過してドナー材料へと向かう。ここで使用される光子放射線は、1つまたは複数の凹部42a、…、42eから対象物(「アクセプタ」とも称される)5の対象面51へのドナー材料2a、…、2eの転写を引き起こす強度および持続時間を有している。パターン層4は、伸縮性の材料からなり、第1の主面11の囲み領域13の周囲に施したシーリング43により第1の主面11に取り付けられる。これにより、基板10、シーリング43、および伸縮性材料の層4は、エンクロージャ6の内部61および外部62を画定する(
図5参照)。内部の容積V
61は、内部61の圧力P
intと外部62の圧力P
extとの差に依存する。
【0034】
図2A 図2Eを参照して、プレート1を用いた方法の一実施形態について説明する。
【0035】
図示されていない製造工程において、基板10の第1の主面11は伸縮性層4で被覆される。伸縮性層4は、第1の主面11の囲み領域13の周囲に施したシーリング43により第1の主面11に取り付けられる。ある実施形態では、シーリングはエポキシベースの接着剤からなる。また他の実施形態では、伸縮性層4自体の材料によりシーリングを形成する。これは、基板10の第1の主面11においてシーリングを形成する表面を局所的に粗面化し、局所的に粗面化された表面に伸縮性層を機械的に付着させることにより実施可能である。基板10、伸縮性層4、および、伸縮性層自体の材料もしくは別個の材料により形成されたシーリング43は、エンクロージャ6およびその内部61と外部62を形成する。伸縮性層4は基板10の反対側に面する外面41を有し、外面41には1つまたは複数の凹部がパターン形成されている。
図2Aは、一例として、凹部42a、42bを示している。
【0036】
次の工程では、1つまたは複数の凹部が蒸着するドナー材料2で充填される。図示の例においては、凹部42aには既にドナー材料の一部2aが充填されており、凹部42bに、ここではドクターブレード20を使用して、ドナー材料の別の一部2bを充填している。蒸着用のドナー材料の例としては、銅、アルミニウム、タングステン、クロム、ポリシリコンがあり、懸濁媒体中に粒子として供給される。懸濁媒体はさらに溶媒および結合剤を含んでいてもよい。また、金属以外の材料もドナー材料として好適に使用できる。例えば、ドナー材料として、導電性粒子を懸濁させたインクを用いてもよい。せん断増粘性、せん断減粘性、チキソトロピック性、レオペクティック性、ビンガム塑性挙動等を得るために、添加剤や溶剤によってドナー材料のレオロジー特性を変更してもよい。一例として、ドナー材料は高い金属負荷を有する粘性の銀ナノ粒子インクであってもよい。いくつかの実施形態では、ドナー材料は100~1000Pa・sの範囲の粘度を有する。
【0037】
凹部にドナー材料を充填する際、エンクロージャの内部61は、通常、比較的低い圧力Pint、すなわち、外部の主な圧力Pextよりも低い圧力に保持される。これは、内部61の排気および/または外部への加圧を行うことで実現できる。
【0038】
図2Bは、凹部にドナー材料2a、2bが充填されており、エンクロージャの内部61が比較的低い圧力に保持されたままのプレート1を示す図である。
図2Bはさらに対象物(アクセプタ)5を示しており、同図からわかるように、対象物5は平坦でない面51を有している。
【0039】
図2Cは次の工程を示しており、この工程では、エンクロージャ外部の圧力P
extよりも高い圧力P
intがエンクロージャ6の内部61に付与される。これにより、内部61の容積V
61が増加し、伸縮性層4のパターン面41が対象面51に押し付けられ、その形状が対象面の形状に適合する。
【0040】
また、
図2Cに示される工程においては、この状態で、基板10の第2の主面12に、凹部42a、42bから対象面51へのドナー材料2a、2bの転写を引き起こす強度および持続時間を有する光子放射線が照射される。それにより転写されたドナー材料2a、2bは、対象面に部材2aa、2bbを形成する。このとき伸縮性層4は対象面51に適合しているため、ドナー材料を対象面上に正確に蒸着することができる。
【0041】
図2Dは、エンクロージャ6の内部61に外部の圧力P
extよりも低い圧力P
intを付与することにより、伸縮性層4が対象面51から離脱する様子を示している。ここで、蒸着したドナー材料によって形成された部材2aa、2bbは対象面51に残留する。図示の例では、対象物5が複数の層55、56を含んでいることから、対象面は平坦ではない。部材2aa、2bbは、例えば、この層55、56の間の電気的接続部となる。
【0042】
図2Eは別の例を示しており、コンポーネント52がコンポーネントキャリア5上に装着されている。この例では、コンポーネントキャリア5とキャリア5より隆起したコンポーネントの表面53の接点との間に電気的接続部2aa、2bbを適用するために本方法が用いられている。
【0043】
図3は、改良型プレート1のその他の実施形態を示す図であり、基板10の第1の面11を示している。なお、同図において、前出の図と共通する構成要素には同一の符号を付してある。
図3に示す実施形態では、伸縮性層4は比較的剛性の部材45a、45b、45c、45dで補強され、凹部42a、…、43dは伸縮性層の補強部分に設けられる。これにより、伸縮性層4は対象面に適合するよう変形可能なまま、凹部の近傍における局所的な変形は軽減される。例示的な実施形態では、補強により局所的に伸張を防ぐ一方で、柔軟性は維持される。この場合の一実施形態において、凹部が設けられた補強部分は、比較たいこう的薄いガラス層、例えば5 10ミクロンの範囲の厚さを有するSiO
2層からなる。本出願人によって出願された欧州特許出願第20167549.3号においてより詳細に説明されているように、この局所的に柔軟でありつつも非伸縮性の補強部分は、基板の反対側に面する側に、凹部内に均一な熱流束を与える誘電体コーティングが施されていてもよい。代替的または追加的に、伸縮性層4は凹部外の領域において補強されてもよい。あるいは、もしくはさらに、伸縮性層4は、圧力差による変形を制御するために、囲み領域内の箇所でも基板10の第1の主面11に取り付けられてよい。
【0044】
図4に示すように、複数のエンクロージャが基板10上に形成され、各エンクロージャは、対応する囲みシーリング43_1、43_2、…、43_9で基板に取り付けられた伸縮性層4の伸縮性層部分4_1、4_2、…、4_9を有する。これらのエンクロージャの内部圧力は、それぞれのチャネル14_1、14_2、…、14_9を介して独立して制御することが可能である。図示の例においては、
図3に示したのと同様に伸縮性層部分が局所的に補強されているが、他の実施形態では補強はなくてもよい。なお、
図4の例では単一の伸縮性層4を用いているが、1つまたは複数のエンクロージャがそれぞれ個別の伸縮性層を有する実施形態も存在する。その場合、プレート1上の位置に応じて、エンクロージャ毎に異なる伸縮性材料を使用してもよい。
【0045】
図5は蒸着装置100を概略的に示す図であり、蒸着装置100は、例えば、前出の図の1つに示され同図を参照して説明された改良型プレート1を備える。
【0046】
また、蒸着装置100は、対象面51がプレート1の第1の面11に対向した状態で、対象物5を保持する保持部9を備える。蒸着装置100はさらに、
図2Cに示すように、光子放射線をプレート1の第2の面12に向けて照射する光子放射源3を備える。
【0047】
蒸着装置100はまた、エンクロージャ6の内部61と外部62との相対的な圧力差を制御可能に発生させる圧力調整機構7を備える。図示の実施形態において、圧力調整機構7は、第1の導管71およびプレート1の開口部14を介してエンクロージャ6の内部61に接続されている。蒸着装置100の構成要素は、エンクロージャ6の外部62を包囲する密閉ハウジング110内に配置される。また、圧力調整機構7は外部62に開口部を持つ第2の導管72を有する。これにより、圧力調整機構7は、内部の圧力と外部62の圧力の両方を制御することができる。他の実施形態では、圧力調整機構7は内部の圧力と外部の圧力の一方を制御する。例えば、装置100が密閉ハウジングを備えていない実施形態の場合、圧力調整機構7はエンクロージャ6の内部61の圧力のみを制御するために使用される。
【0048】
蒸着装置100はさらに、圧力調整機構7および光子放射源3を制御する制御部8を備える。
図5の例では、制御部8は、制御信号C3で光子放射源3を、制御信号C7で圧力調整機構7をそれぞれ制御している。
【0049】
制御部8は、圧力調整機構7を制御して内部61の圧力を外部62の圧力よりも低く保ち、光子放射源3を停止状態に維持する第1の動作モードを有する。制御部8はまた、圧力調整機構7を制御して内部61の圧力を外部62の圧力よりも高く保つ第2の動作モードを有する。これにより、伸縮性パターン層4は対象面51に向かって押し付けられる。
図2Cに示すように、伸縮性パターン層4が対象面51に押圧された状態で、制御部8は、放射源3に、1つまたは複数の凹部42a、…、42eから対象面51へのドナー材料2a、2bの転写を引き起こす適切な強度および持続時間で光子放射線R3を照射させる。照射の形態は各種あり、例えば、プレートの複数の凹部においてドナー材料の同時転写を引き起こす適切な強度と持続時間で、プレートの第2の面12の広い領域を照射してもよい。この場合、光子放射源3として、例えばエキシマレーザーを用いてもよい。あるいは、
図2Cに概略的に示すように、レーザービームを生成して転写するドナー材料を有する領域上を走査する走査型レーザーを用いてもよい。レーザーはパルスレーザーであってよいが、これに限定されない。この場合、領域が局所的に放射線照射を受ける持続時間は、代替的(または追加的)に、レーザービームを走査する速度で制御することができる。そのため、露光時間は走査速度に反比例する。
【0050】
制御部8は、伸縮性パターン層4が対象面51に適合した状態になるまでは、光子放射源3を停止状態に維持する過渡動作モードを有していてもよい。制御部8はまた、
図2 および
図2Eに示すように、内部61の主な相対圧力(外部圧力に対する相対圧力)を低下させることによって、伸縮性パターン層4を対象面51から離脱させる離脱動作モードを有していてもよい。
【0051】
さらなる実施形態において、蒸着装置は、ドナー材料を受け取ったら自動的にプレート1を新しいプレートと交換し、対象物5を新しい対象物と交換する輸送機構を備える。この場合、制御部8は輸送機構を制御することができる。
【国際調査報告】