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▶ ファーサイト メディカル テクノロジー (シャンハイ) カンパニー リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】臓器傷害の予防及び処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/13 20060101AFI20230516BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230516BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20230516BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230516BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20230516BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230516BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20230516BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230516BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230516BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
A61K38/13
A61K45/00
A61P33/00
A61P31/12
A61P31/16
A61P31/14
A61P31/20
A61P31/04
A61P13/12
A61P11/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561995
(86)(22)【出願日】2021-04-15
(85)【翻訳文提出日】2022-12-02
(86)【国際出願番号】 CN2021087501
(87)【国際公開番号】W WO2021209003
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/084820
(32)【優先日】2020-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/081574
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521313500
【氏名又は名称】ファーサイト メディカル テクノロジー (シャンハイ) カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】FARSIGHT MEDICAL TECHNOLOGY (SHANGHAI) CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】マック, チン‐ポン
(72)【発明者】
【氏名】マー, ファシュー
(72)【発明者】
【氏名】シャオ, ドング
(72)【発明者】
【氏名】ピール, マイケル
(72)【発明者】
【氏名】フリリ, ハンス
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA24
4C084DA11
4C084MA02
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA59
4C084ZA81
4C084ZB32
4C084ZB33
4C084ZB35
4C084ZB37
(57)【要約】
本発明は、感染症と診断されたか、又は感染症に罹患している対象における、臓器傷害、又は臓器傷害に関連する症状の予防及び/又は処置に使用するための、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染症と診断されたか、又は感染症に罹患している対象における、臓器傷害、又は臓器傷害に関連する症状の予防及び/又は処置のための医薬の製造における、化合物I
又はその薬学的に許容され得る塩の使用。
【請求項2】
前記臓器傷害又はそれに関連する症状が、前記感染症の結果である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記感染症が、ウイルス性、細菌性、真菌性又は寄生虫性である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記感染症が呼吸器感染症である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記感染症がウイルス性感染症である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記臓器が、肺、腎臓及び/又は心臓から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記臓器が肺である、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記肺傷害、又は前記肺傷害に関連する症状が、前記呼吸器組織、例えば、気管支、細気管支、肺胞若しくはそれらに関連する組織のいずれか1つ若しくは組み合わせに対する損傷;肺胞損傷;肺若しくは肺胞浸潤、呼吸困難;肺水腫;肺線維症;低酸素血症、肺炎、細気管支炎、又はそれらの組み合わせである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記肺傷害、又は前記肺傷害に関連する症状が、急性低酸素血症性呼吸障害若しくは呼吸不全、急性肺傷害(ALI)、又は急性呼吸促迫症候群(ARDS)である、請求項7又は8に記載の使用。
【請求項10】
前記医薬が、呼吸器感染症に罹患している対象における急性肺傷害(ALI)又は急性呼吸促迫症候群(ARDS)の発症又は進行を予防するために使用される、請求項7~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記感染症が呼吸器ウイルス性感染症であり、任意に、呼吸器ウイルス、例えばインフルエンザウイルス、ライノウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス(CoV)、デングウイルス、又はパラインフルエンザウイルスによって引き起こされる、請求項4~10に記載の使用。
【請求項12】
前記ウイルス性呼吸器感染症がコロナウイルスによって引き起こされ、任意に、前記コロナウイルスが、SARS-CoV、SARS-CoV2又はMERS-CoVである、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記呼吸器感染症がCOVID-19である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記感染症が呼吸器細菌性感染症であり、任意に、グラム陰性及び/又はグラム陽性細菌によって引き起こされ、更に任意に、前記細菌がシュードモナス菌(例えば、シュードモナス・エルギノーザ(pseudomonas aeruginosa))、クレブシエラ菌(例えば、クレブシエラ・ニューモニエ(klebsiella pneumoniae))、ヘモフィルス菌(例えば、ヘモフィルス・インフルエンザ(haemophilius influenzae))、ストレプトコッカス菌(例えばストレプトコッカス・ニューモニエ(streptococcus pneumoniae))、スタフィロコッカス菌(例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(staphylococcus aureus))、又はレジオネラ菌(例えば、レジオネラ・ニューモフィラ(legionella pneumophila))である、請求項4~10に記載の使用。
【請求項15】
前記医薬が、酸素支援又は人工呼吸による処置の前に、それと同時に、及び/又はその後に、それを必要とする対象に投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記対象が、第2の有効成分、例えば、デキサメタゾン等のコルチコステロイドを受けている、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記対象が、呼吸器感染症と診断されているか、又は呼吸器感染症に罹患しており、任意に、前記医薬が、急性肺傷害(ALI)又は急性呼吸促迫症候群(ARDS)の発症又は進行を予防するために使用される、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記医薬が、前記第2の有効成分を受けている対象への化合物Iの前記投与のための書面の説明書と共に包装され、前記説明書が、前記医薬及び前記第2の有効成分の連続投与又は同時投与を指示する、請求項16又は17に記載の使用。
【請求項19】
前記臓器が腎臓である、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記腎傷害、又は腎傷害に関連する症状が、急性腎傷害(AKI)である、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記医薬が、呼吸器感染症を有する対象における少なくとも2つのタイプの臓器傷害又は前記臓器傷害に関連する症状の予防及び/又は処置に使用するためのものであり、任意に、前記医薬が、肺及び腎傷害並びにそれらの関連症状の予防及び/又は処置に使用するためのものである、請求項1~20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
前記医薬が、ヒト対象に投与されるか、又はヒト対象への投与に適合されている、請求項1~21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
前記医薬が、注射若しくは点滴、吸入、又は経口投与によって投与される、請求項1~22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記医薬が、少なくとも1単位用量の化合物I又はその薬学的に許容され得る塩を含み、前記単位用量が約0.005~20mg/kgである、請求項1~23のいずれか一項に記載の使用。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ウイルス、細菌、真菌、及び寄生虫を含む病原体によって引き起こされる感染性疾患は、世界保健機関によって世界的に2番目に主要な死因としてランク付けされている。そのような病原体による感染症は、単球の刺激及び炎症促進性サイトカインの放出、並びに種々の免疫経路メドレーの活性化を特徴とする自然免疫応答を引き起こすことができる。Toll様受容体(TLR)は、この初期免疫活性化において重要な役割を果たす。TLRの活性化は、感染症を制御するための炎症応答を誘導する。しかしながら、感染症に対する宿主防御に有益な炎症の同じ成分の多くは有害であり得、細胞及び組織の損傷、したがって単一又は複数の臓器不全を引き起こし得る。したがって、感染症及び感染性疾患によって引き起こされる過剰に活性な免疫応答機構から生じる組織又は臓器の損傷を処置又は予防するための効果的な薬理学的治療又はアプローチも必要とされている。
【0002】
例えば、シクロスポリンA(CsA)は、予備研究において、マウスのリポ多糖(LPS)誘発性肺傷害に対して保護効果を有することが示唆されている(Hu,Jun-feng et al,Chinese Journal of Applied Physiology,2011(27)、要約を参照)。しかしながら、シクロスポリンはまた、免疫抑制活性を有し、したがって、全ての患者に適合性であるとは限らず、更には難水溶性であり、したがって製剤化するのが困難である。
【0003】
米国特許第6,583,265号は化合物Iを開示している。
【0004】
この化合物は、環の周囲の様々な位置に修飾を有する何百もの指定された化合物を含む米国特許第6,583,265号明細書の実施例27で注目されている。しかしながら、この化合物又は関連類縁体について生物学的試験データ又は特定の用途は記載されていない。
【0005】
化合物Iはまた、急性腎傷害、虚血再灌流傷害、又は慢性若しくは急性膵炎等の急性又は慢性炎症性障害の処置又は予防における使用について、国際公開第2019/0169572号に開示されている。国際公開第2019/0169572号は、マウスにおける急性腎傷害のモデル研究を記載しているが、感染症関連臓器傷害又はそれに関連する症状、例えば感染症によって引き起こされる肺の傷害の予防又は処置における化合物Iの使用を開示していない。
【0006】
本開示及び本発明の目的は、感染症と診断された又は感染症に罹患している対象における臓器傷害又はそれに関連する症状の有効な予防法及び/又は処置、特に感染症に関連し得る肺又は肺組織の傷害を予防又は処置する方法を提供することである。
【0007】
本発明の更なる目的は、本発明の以下の説明、実施例及び特許請求の範囲に基づいて明らかになるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,583,265号
【特許文献2】国際公開第2019/0169572号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】(Hu,Jun-feng et al,Chinese Journal of Applied Physiology,2011(27)、要約
【発明の概要】
【0010】
第1の態様では、本開示は、感染症と診断されたか、又は感染症に罹患している対象における、臓器傷害、又は臓器傷害に関連する症状の予防及び/又は処置に使用するための、化合物I
又はその薬学的に許容され得る塩に関する。関連する態様では、本開示は、感染症と診断された又は感染症に罹患している対象における臓器傷害又は臓器傷害に関連する症状の予防及び/又は処置に使用するための化合物I又はその薬学的に許容され得る塩に関し、該臓器は肺である。更に別の関連する態様では、本開示は、呼吸器感染症と診断された又はそれに罹患している対象における肺傷害又はそれに関連する症状の(例えば、その進行の)予防に使用するための化合物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1に記載されている研究の最後に得られた肺試験結果を示す。図1Aは1回換気量(mL)を示し、図1Bは呼吸数(呼吸/分)を示し、図1Cは最大吸気流量(mL/秒)を示し、図1Dは最大呼気流量(mL/秒)を示す。
【0012】
これらの図に示す試験群G1~G6は、以下に対応する:G1-シャム(LPS誘導なし)、G2-モデル(LPS誘導、薬物処置なし);G3-陽性対照(3mg/kgデキサメタゾン)、G4-1mg/kg化合物I、G5-5mg/kg化合物I、及びG6-10mg/kg化合物I)。図1A、1B、1C及び1Dに特徴的な表記は、以下のような分散分析結果(T検定)に対応する:#シャムに対してp<0.05;*モデルに対してp<0.05、**モデルに対してp<0.01。
【0013】
図2図2は、実施例1に記載されているモデル研究の組織病理学的結果及び肺傷害の分析を示す。図2Aは、全肺胞傷害に基づくスコアリングを示し、図2Bは、全気管支及び細動脈傷害スコアリングに基づくスコアリングを示し、図2Cは、全肺傷害に基づくスコアリングを示す。
【0014】
これらの図に示す試験群G1~G6は、以下に対応する:G1-シャム(LPS誘導なし)、G2-モデル(LPS誘導、薬物処置なし);G3-陽性対照(3mg/kgデキサメタゾン)、G4-1mg/kg化合物I、G5-5mg/kg化合物I、及びG6-10mg/kg化合物I。図2A図2B、及び図2Cに特徴的な表記(アスタリスク)は、以下のような分散分析結果(一元配置ANOVA)に対応する:*モデルに対してp<0.05、**モデルに対してp<0.01、***モデルに対してp<0.001。
【0015】
図3図3は、実施例2に記載されている研究の終了時に得られた体重及び肺重量の測定結果を示す。図3Aは、研究終了時の肺重量を示す(図中の表記は、以下のような分散分析結果(一元配置ANOVA)に対応する:*シャムに対してp<0.05、**シャムに対してp<0.01、***シャムに対してp<0.001、&&G3に対してp<0.05、%G6に対してp<0.05、@p<G7)。図3Bは、研究終了時の体重に対する肺重量の比を示す(図中の表記は、以下のような分散分析結果(一元配置ANOVA)に対応する:*シャムに対してp<0.05、**シャムに対してp<0.01、***シャムに対してp<0.001。
【0016】
図4図4は、実施例2に記載されている研究の最後に得られた肺試験結果を示す。図4Aは、呼吸数(呼吸/分;図中の表記は、以下のような分散分析結果(一元配置ANOVA)に対応する:**シャムに対してp<0.01、G5に対して$p<0.05)を示し、図4Bは、1回換気量(mL;図中の表記は、以下のような分散分析結果(一元配置ANOVA)に対応する:*シャムに対してp<0.05、**シャムに対してp<0.01)を示し、図4Cは、吸入時間(mL/秒;図中の表記は、以下のような分散分析結果(一元配置ANOVA)に対応する:**シャムに対してp<0.05、**シャムに対してp<0.01)を示し、図4Dは、呼気時間(mL/秒;表記は、分散分析結果(一元配置ANOVA)に対応する*シャムに対してp<0.05、***シャムに対してp<0.001)を示す。
【0017】
図5図5は、実施例2に記載されているモデル研究の組織病理学的結果及び肺傷害の分析を示す。図5Aは、全肺胞傷害に基づくスコアリングを示す(図中の表記は、以下の分散分析結果(一元配置ANOVA)に対応する:*シャムに対してp<0.05、**シャムに対してp<0.01、***シャムに対してp<0.001、#モデルに対してp<0.05)。図5Bは、合計気管支及び細動脈傷害スコアリングを示す(表記は、以下のような分散分析結果(一元配置ANOVA)に対応する:***シャムに対してp<0.001、#モデルに対してp<0.05、###モデルに対してp<0.001、&G3に対してp<0.05、&&&G3に対してp<0.001。)図5Cは、全肺傷害に基づくスコアリングを示す(図中の表記は、以下のような分散分析結果(一元配置ANOVA)に対応する:***シャムに対してp<0.001、#モデルに対してp<0.05、##モデルに対してp<0.01、###モデルに対して<0.001)。図5Dは、合計肺胞傷害スコアリング、合計気管支及び細動脈傷害スコアリング、並びに合計肺損傷スコアリングに関する試験群G2、G3及びG6の間の比較を示す(表記は分散分析結果(一元配置ANOVA)に対応する:*モデルに対してp<0.05、**モデルに対してp<0.01、***モデルに対してp<0.001)。
【0018】
図3図6に示す試験群G1~G8は、実施例2に記載の試験群に対応する。G1-シャム(LPS誘導なし)、G2-モデル(LPS誘導、薬物処置なし);G3-陽性対照(0.5mg/kgデキサメタゾン)、G4-1mg/kg化合物I、G5-3mg/kg化合物I、G6-1mg/kgの化合物I及び0.5mg/kgのデキサメタゾン、G7-3mg/kgの化合物I及び0.5mg/kgのデキサメタゾン;及びG8-3mg/kg CsA。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の態様では、本開示は、感染症と診断されたか、又は感染症に罹患している対象における、臓器傷害、又は臓器傷害に関連する症状の予防及び/又は処置することに使用するための、化合物I
又はその薬学的に許容され得る塩に関する。
【0020】
化合物Iは、N,N-ジメチルアミノエトキシ残基によって3位(サルコシン、そうでなければN-メチルグリシンとして知られている)で置換されたシクロスポリンAの誘導体であり、その合成及び調製は、例えば国際公開第2019/0169572号に記載されている。上記の化合物Iは、その化学名の1つに従って、[(R)-2’(2-ジメチルアミノエトキシ)-Sar]シクロスポリンAと呼ばれることがある。本開示及び本発明に関連して記載される化合物Iは、その任意の薬学的に許容され得る塩に加えて、そのエナンチオマー、ジアステレオマー又はラセミ体、並びにその多形、水和物又は錯体も指し得ることが本明細書で理解されるべきである。代替及び任意の実施形態では、化合物Iは、3-サルコシン位置での(R)及び(S)立体異性体の混合物として提供され得る。化合物Iの光学的に純粋な立体異性体の使用、並びにその立体異性体の組み合わせの使用も含まれる。「立体化学的に純粋」という用語と交換可能な「光学的に純粋」というフェーズは、立体化学及び立体化学純度を決定するための従来の方法に基づいて、当業者によって認識されるようなレベルの立体化学純度を有する化合物を指す。更なる任意の実施形態では、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩は、例えば、その原子の1つ以上が13C等の同位体又は重水素で置き換えられている同位体として提供され得る。
【0021】
本明細書に記載の化合物Iは、臓器傷害、又は臓器傷害に関連する症状の予防、処置、又は予防と処置の両方に使用することができる。臓器傷害という用語は、臓器又は当該臓器に関連する組織の1つ以上の機能の任意の損傷、機能障害、減少又は喪失を指し得る。傷害には、限定されるものではないが、損傷した又は正常から変化した形態の臓器組織又は構造の変化、例えば、組織壊死の領域の発生、又は細胞若しくは組織構造の完全性の破壊若しくは喪失、又は例えば細胞炎症プロセス若しくは細胞アポトーシスからの細胞物質若しくは破片の異常な凝集が含まれ得る。異なる臓器及び組織タイプは、異なる傷害の病態を呈し得ることが理解されよう。臓器傷害はまた、当該傷害に関連する症状又は疾患、すなわち臓器傷害に関連する症状の病因をもたらし得る。
【0022】
臓器傷害又はそれに関連する症状は、本開示による一実施形態では、感染症の結果である。一実施形態では、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩は、臓器傷害又は関連する症状を予防するために又は処置するために使用され得、傷害又は関連する症状は、当該臓器における病原性感染症の直接的なアウトカム若しくは結果であるか、又は直接的なアウトカム若しくは結果となろう。言い換えれば、化合物Iは、同じ臓器若しくは組織、又は解剖学的構造に直接影響しているか又は影響を及ぼす感染症から生じる臓器傷害又は症状を予防及び/又は処置するために提供され得る。しかしながら、感染症の結果である臓器傷害には、感染症によって間接的に引き起こされ得る傷害も含まれる。
【0023】
一実施形態では、化合物Iは、別の、すなわち対象の異なる臓器、組織又は物理的な解剖学的構造若しくは態様に影響を及ぼしているか、主に局在しているか、又はこれらに由来する感染症の間接的な結果であり得る、臓器傷害を予防又は処置するために対象に提供され得る。そのような状況では、1つの解剖学的構造の感染症から生じる症状又は病態が別の解剖学的構造に影響を及ぼし、別の解剖学的構造において傷害を引き起こす可能性がある。例えば、化合物Iは、気道の感染症に罹患している対象に、気道臓器又はそれに関連する組織関連傷害若しくは症状の予防若しくは処置のために投与され得るが、それに加えて当該対象における腎傷害の予防若しくは処置のために投与され得るか、又は特に当該対象における腎傷害の予防若しくは処置のために投与され得る。別の例及び任意の実施形態では、化合物Iは、肺及び/又は腎臓の組織に対する傷害の予防及び/又は処置に使用するために、血液感染症に罹患している対象に投与され得る。
【0024】
感染症は、1つ以上の病原性生物(微生物)の存在又は増殖によって引き起こされる任意の疾患又は関連症状を指し得る。感染症は、例えば、急性炎症反応を開始し得る、すなわち、炎症性メディエーターの放出及び/又は炎症細胞の動員若しくは浸潤を誘発し得、これは次に、細胞の正常な機能に対する破壊及び傷害性変化を巨視的レベルでもたらす可能性があり、関連する組織及び臓器の機能を破壊又は低下させ得る。感染症を誘発又は引き起こし得る病原性生物としては、ウイルス、細菌、真菌、原虫、又は寄生虫が挙げられる。本開示の一実施形態では、化合物I又は薬学的に許容され得る塩は、ウイルス性感染症に罹患しているか、又はウイルス性感染症と診断された対象における臓器傷害の予防及び/又は処置のために投与される。別の実施形態では、感染症は細菌性感染症である。
【0025】
一実施形態では、本開示による化合物Iは、感染症に罹患しているか、又は感染症と診断された対象における臓器傷害又は関連症状の処置に使用することができ、感染症は、呼吸器、腎臓、肝臓、心臓、血液若しくは全身の感染症、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0026】
具体的な一実施形態では、感染症は呼吸器感染症である。呼吸器感染症は、上気道、例えば鼻腔、喉頭、咽頭、副鼻腔、又は下気道、例えば気管、一方若しくはいずれか(左及び/又は右)の肺、気管支、細気管支又は肺胞等の肺又は気道のいずれか1つ又は組み合わせを含む呼吸器の感染症であり得る。別の具体的な実施形態では、感染症は腎感染症である。
【0027】
感染症に罹患している対象は、当該1種以上の病原性生物(微生物)による感染症に関連する1つ以上の臨床的に認識された症候又は症状を有するヒト対象等の対象と理解され得る。当該対象はまた、代替的又は追加的に、感染症と臨床的に診断されていてもよく、関連する診断試験は、例えば体液(例えば、血液、唾液、尿、糞便試料等)又は身体組織生検試料等からの提供された試料からの、病原性生物又は当該生物に関連するバイオマーカーの関連する又は意味のある存在を確認又は示すために行われている。
【0028】
一実施形態では、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩は、感染症と診断された対象を処置するために使用され得る。当該対象は、化合物Iによる処置又は予防法を受けている間、すなわち1種以上の臨床上認識された症候を有している間、当該感染症に罹患している可能性がある。別の実施形態では、対象は、臓器傷害の再発又は更なる進行を予防するために、1種以上の臨床上認識された症候の軽減又は処置の成功の後に化合物Iで処置され得るか、又は化合物Iが提供され得る。
【0029】
本明細書で使用される場合、「治療」という用語と互換的に使用され得る「処置すること」又は「処置」という用語は、疾患又は当該疾患若しくは状態に関連する症状若しくは症候の治癒、改善、回復、例えば進行の制御を達成することができる治療的介入に関する。
【0030】
本明細書で理解される場合、「予防法」という用語と互換的に使用され得る「予防」という用語は、疾患、症状若しくは症候の発生を予防するための、又は疾患、症状若しくは症候の発生の可能性を有意に低下させるための、並びに例えば、疾患、症状若しくは関連する症候の更なる再発のための予防化合物又は組成物の使用を指す。また、この用語の意味の範囲内には、最初の改善後又は疾患、症状若しくは症候の原因の最初の除去後の、疾患、症状又は関連する症候の進行の予防も含まれる。
【0031】
例えば、具体的な一実施形態では、化合物I又は化合物Iを含む医薬は、臓器傷害又は関連する症状の予防のために、すなわち、対象の臓器に対する傷害の発生、又は対象の臓器の傷害から生じる症状の予防のために使用され得る。別の具体的な実施形態では、化合物Iを使用して、臓器傷害又は当該傷害に関連する症状の進行を減少させることができ、例えば、患者は、臨床上観察可能な軽度又は中等度の形態の臓器傷害又は当該傷害に関連する症状を既に示している可能性があるが、対象は、より臨床上より重症又は急性の形態の臓器傷害又はそれに関連する症状を発症する、又は進行するリスクがあり得る。関連する実施形態では、当該臓器は肺であり得る。
【0032】
一実施形態では、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩は、任意の臓器傷害、又は臓器傷害に関連する症状の予防及び/又は処置に使用することができ、臓器は肺、腎臓及び/又は心臓から選択される。本明細書で理解されるように、臓器という用語は、臓器全体、又は任意の解剖学的構造若しくはその特定の組織を指し得る。同様に、腎臓という用語は、片方又は両方の腎臓を指すことができ、腎臓に関連する特定の組織も包含し得る。肺は、個々の、又は左右の両方の肺構造、又は細気管支若しくは肺胞等の組織、又はそれに関連する上皮/内皮組織のいずれかを指すことができ、気道又は呼吸器の他の関連する態様も含み得る。
【0033】
上記のように、病原性生物によって引き起こされる感染性疾患は、感染症に対する有益な宿主防御の形態としての様々な異なる免疫経路の活性化を特徴とする自然免疫応答を引き起こす可能性があるが、これらはまた有害となる場合があり、細胞及び組織の損傷又は傷害をもたらす可能性がある。呼吸器感染症では、特に肺及びそれらの関連組織が重度に冒され、損傷する可能性がある。したがって、感染中の組織損傷(肺等)又はその進行に対する予防手段又は治療を提供する必要がある。具体的な一実施形態では、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩は、肺傷害又は肺傷害に関連する症状の予防又は処置のために使用される。特に、化合物Iは、感染症、例えば気道感染症に罹患しているか、又は感染症と診断された患者の肺傷害を処置又は予防するために使用され得る。肺傷害、又は肺傷害に関連する症状若しくは症候は、例えば、気管支、細気管支、肺胞、又はそれらに関連する組織/細胞構造の呼吸器組織(例えば、上皮又は内皮)への損傷、肺胞損傷、肺又は肺胞浸潤、呼吸困難、肺水腫、肺線維症、低酸素血症、肺炎若しくは細気管支炎、又はそれらの組み合わせのいずれか1つ又は組み合わせを含み得る。
【0034】
化合物Iは、特に、急性肺傷害を含む肺傷害の処置及びその進行の予防に有用であり得る。実施例において下記で更に記載されるような急性肺傷害のモデル研究において、化合物Iが、公知の抗炎症性コルチコステロイドであるデキサメタゾンと同様に、一般に肺組織に対して、具体的には細気管支、細動脈及び肺胞において、悪化及び損傷の予防及び処置において予想外に有効であることが見出された。さらに、化合物Iは、デキサメタゾンと同時に投与した場合に有効であることが見出され、驚くべきことに、急性肺傷害に起因する肺組織、具体的には細気管支及び細動脈組織、並びに肺胞の損傷の処置又は損傷レベルの低下に対する有効性に関して相乗効果が観察された。
【0035】
急性及び進行性の呼吸促迫を引き起こし、例えば、肺胞損傷又は出血、肺浸潤、肺水腫、急性又は重度の低酸素血症(血液中の低酸素濃度)、血管損傷のいずれか1つ又は組み合わせを特徴とし得る急性肺傷害(ALIと略されることもある)。急性肺傷害の同義語であり、より重症形態の急性肺傷害を特徴付けるために時として使用され得るものは、急性呼吸促迫症候群(しばしばARDSと略される)である。ALI/ARDの診断基準の1つは、動脈酸素分圧(PaO)と吸入酸素濃度(FiO)との比によって定義される低酸素血症である。より軽度の形態のALI/ARDは、例えば、200~300mmHgのPaO/FiOの範囲の低酸素血症をほぼ特徴とし得るが、中程度の低酸素血症は100~200mgHgの範囲であり、重度の低酸素血症は100mmHg未満の範囲に入ると考えられ得る。高い死亡率は、これらの急性肺傷害及び症状に関連する。
【0036】
一実施形態では、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩は、肺傷害又は肺傷害に関連する症状の予防及び/又は処置のために使用され得、肺傷害は、感染症、例えば呼吸器感染症と診断されたか、又は感染症に罹患している対象における急性低酸素血症性呼吸障害若しくは呼吸不全、急性肺傷害(ALI)、又は急性呼吸促迫症候群(ARDS)である。関連する実施形態では、化合物Iは、感染症、例えば呼吸器感染症に罹患している対象において、肺傷害又はそれに関連する症状の発症、又はより重症形態の肺傷害、例えば急性肺傷害(ALI)若しくは急性呼吸促迫症候群(ARDS)、若しくはより重症形態の肺損傷への進行を予防するために使用され得る。
【0037】
別の実施形態では、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩は、上記のような肺傷害又はその関連症状の予防若しくは処置のために使用され、化合物Iは、それを必要とする対象に、酸素支援又は人工呼吸による処置の前に、それと同時に及び/又はその後に投与される。別の実施形態では、化合物Iは、臓器傷害、例えば肺傷害の予防及び/又は処置に使用するために、例えば感染症を処置する際に標的化される他の治療薬又は治療法と同時に又はそれに付随して投与され得る。
【0038】
一実施形態では、化合物Iは、第2の有効成分又は薬物と一緒に、感染症と診断された又は感染症に罹患している対象における、肺傷害又はそれに関連する症状等の臓器傷害の予防及び/又は処置に使用される。一実施形態では、化合物Iは、第2の有効成分を受けている対象に投与される。例えば、化合物I、又は化合物Iを含む医薬は、1つ以上の他の薬物ベースの処置と同じ処置期間又は処置フェーズ内で対象に投与され得る。いくつかの実施形態では、化合物Iは、2つ以上の他の有効成分を受けている対象に投与され得る。
【0039】
一実施形態では、化合物Iは、本明細書で定義される使用のいずれか1つ又は組み合わせに従って使用され、使用は、第2の有効成分の対象への別個又は連続投与を更に含む。連続投与では、化合物Iは、例えば、それを必要とする対象に投与され、それに続いて又はそれに先行して第2の有効成分の投与が行われ得る。他の実施形態では、第2の有効成分の投与は、化合物Iと同時に、すなわち本質的に同時に、又は処置期間に投与することができる。一実施形態では、化合物Iと第2の有効成分との組み合わせを含む組成物又は医薬を投与することができる。
【0040】
化合物Iは、ウイルス感染又は細菌感染等によって引き起こされる感染症、例えば呼吸器感染症によって引き起こされ又は誘発され得る、肺傷害若しくはそれに関連する症状を予防及び/若しくは処置するために、第2の有効成分と一緒に、例えば、同時処置として、又は第2の有効成分と組み合わせて投与することができる。肺傷害及び呼吸器感染症は、本明細書で更に説明される実施形態のいずれか1つ又は組み合わせによるものであり得る。
【0041】
特に、第2の有効成分は抗炎症剤であり得る。或いは、第2の有効成分は、抗菌剤又は抗ウイルス剤等の抗感染剤であってもよい。特定の実施形態では、第2の有効成分はコルチコステロイドである。更なる実施形態では、第2の有効成分はデキサメタゾンである。デキサメタゾンは抗炎症活性を有するため、肺傷害及び関連症状等の症状の処置に有用であり得る。しかしながら、デキサメタゾンはまた、免疫抑制活性を有し、特により高い用量又はより長期間の処置のためのその投与はまた、高血糖症又は高血圧等の望ましくない副作用に関連し得る。したがって、より長期間の処置又はより高用量のレジメンは、全ての患者にとって理想的であるとは限らない。化合物Iとデキサメタゾンとの同時投与は、急性肺傷害及びその関連症状の処置に関して、例えば、肺組織に対する物理的傷害又は損傷(例えば、細気管支及び細動脈、又は肺胞の傷害)のレベルを全体的に低下させることに関して、有益かつ相乗的な効果を提供するようであることが見出されている。本開示の一態様によれば、デキサメタゾンは、化合物Iと同じ処置期間に投与される場合、例えば肺傷害又は肺傷害に関連する症状の処置のためにデキサメタゾンのみが処置として投与される場合に投与されるであろう用量と比較して、より低い用量で対象に投与され得る。
【0042】
具体的な実施形態では、化合物Iを、デキサメタゾン等のコルチコステロイド処置も受けている対象に投与して、呼吸器感染症によって引き起こされるか又は誘発され得る肺傷害又は肺傷害に関連する症状を予防及び/又は処置する。化合物Iは、コルチコステロイドとの補助処置又は同時処置として投与され得る。一実施形態では、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩は、本明細書に記載されるような呼吸器感染症と診断されるか又はそれに罹患している対象(対象はまた、コルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン等)による処置を受けている)における、肺傷害(肺傷害は、急性低酸素血症性呼吸障害若しくは呼吸不全、急性肺傷害(ALI)、又は急性呼吸促迫症候群(ARDS)である)に関連する肺傷害又は症状の予防及び/又は処置のために使用される。
【0043】
本開示は更に、肺傷害等の臓器傷害の予防及び/又は処置に使用するための医薬又はキットの製造における化合物I又はその薬学的に許容され得る塩の使用にも関し、医薬又はキットは、コルチコステロイド、例えばデキサメタゾン等の第2の有効成分と共に化合物Iを投与することを記載する書面の説明書と共に包装される。上記のように、感染症を誘発又は引き起こし得る病原性生物には、ウイルス、細菌、真菌、原虫、又は寄生虫が含まれ得る。任意の一実施形態では、本開示に従って処置される対象は、1種以上のウイルス、細菌又は他の微生物によって引き起こされる感染症を有する。
【0044】
感染症を引き起こし得るウイルスの例としては、呼吸器系に影響を及ぼすウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。呼吸器ウイルス、すなわち呼吸器症状に感染する及び/又は呼吸器症状を引き起こすウイルスの例は、インフルエンザウイルス、ライノウイルス、アデノウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、コロナウイルス、パラインフルエンザウイルス、及びデングウイルスである。本明細書で使用される場合、本明細書に開示される任意のタイプのウイルスに関して「インフルエンザウイルス」若しくは「コロナウイルス」、又は類似の用語は、当該タイプ又は分類のウイルスに関連する任意のサブタイプ、株又は変異体を指すか、又はそれを含み得る。一実施形態では、当該ウイルスはヒトウイルス、すなわちヒト対象に影響を及ぼすウイルスである。別の実施形態では、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩は、上記の実施形態のいずれか1つに記載されるような、臓器傷害、例えば、肺傷害又はそれに関連する症状の処置又は予防において使用するために、コロナウイルス、例えば、SARS-CoV、SARS-CoV2又はMERS-CoVウイルスによって引き起こされるウイルス性呼吸器感染症に罹患しているか又はそれと診断された対象に投与され得、任意に、臓器傷害、例えば肺傷害は当該感染症によって引き起こされる。更に別の実施形態では、呼吸器感染症はCOVID-19であり、任意に、肺傷害は当該呼吸器感染症によって引き起こされる。
【0045】
感染症を引き起こし得る細菌の例としては、呼吸器系に影響を及ぼし得る細菌が挙げられる。一実施形態では、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩は、細菌性感染症と診断されたか、又は細菌性感染症に罹患している対象における臓器傷害又はそれに関連する症状の予防又は処置のために使用される。関連する実施形態では、臓器は肺である。更なる実施形態では、細菌性感染症を引き起こす細菌はグラム陰性細菌である。別の実施形態では、処置される対象において細菌性感染症を引き起こす細菌は、グラム陽性細菌である。なお更なる実施形態では、感染症は細菌性感染症であり、任意に、呼吸器細菌性感染症であり、化合物I又はその塩は、肺傷害又は肺傷害に関連する症状の予防及び/又は処置のために対象に投与され、感染症は、シュードモナス菌(例えば、シュードモナス・エルギノーザ(pseudomonas aeruginosa))、クレブシエラ菌(例えば、クレブシエラ・ニューモニエ(klebsiella pneumoniae))、ヘモフィルス菌(例えば、ヘモフィルス・インフルエンザ(haemophilius influenzae))、ストレプトコッカス菌(例えばストレプトコッカス・ニューモニエ(streptococcus pneumoniae))、スタフィロコッカス菌(例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(staphylococcus aureus))、又はレジオネラ菌(例えば、レジオネラ・ニューモフィラ(legionella pneumophila))によって引き起こされる。例えば、本明細書に開示される細菌種のいずれか1つに関して「シュードモナス菌」又は同様の用語は、当該タイプ又は分類の細菌に関連する任意のサブタイプ、株又は変異体を指すか、又はそれを含み得ることが理解されよう。
【0046】
他の実施形態では、本開示による対象は、真菌又は寄生虫によって引き起こされる感染症と診断されるか、又はそれに罹患している可能性がある。真菌感染症を引き起こす真菌の例としては、アスペルギルス又はカンジダが挙げられる。寄生虫には、例えば、マラリア感染症を引き起こす原虫、例えばマラリア原虫、又は蠕虫が含まれ得る。
【0047】
一実施形態では、化合物Iを使用して、臓器傷害、例えば肺若しくは腎臓のいずれか1つ若しくは組み合わせ、又は心臓傷害、又は該傷害に関連する症状を処置することができ、対象はウイルス性感染症と診断されているか、又はウイルス性感染症に罹患しており、任意に、当該傷害は感染症の直接的な結果であり、例えば、感染症は当該臓器の感染である。別の実施形態では、化合物I又はその許容され得る塩を使用して、臓器傷害、例えば肺若しくは腎臓のいずれか1つ若しくは組み合わせ、又は心臓傷害、又は該傷害に関連する症状を処置することができ、対象は細菌性感染症と診断されているか、又は細菌性感染症に罹患しており、任意に、当該傷害は感染症の直接的な結果であり、例えば、感染症は当該臓器の感染症である。
【0048】
更に別の実施形態では、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩は、感染症、例えば呼吸器感染症と診断されたか又はそれに罹患している対象における、少なくとも2つの異なる臓器傷害又は当該臓器傷害に関連する症状の予防及び/又は処置に使用され得る。例えば、化合物は、肺傷害又は関連症状を予防及び/又は処置するために、並びに腎臓(複数可)に対する傷害又はそれに関連する症状を予防/処置するために投与され得る。一実施形態では、化合物は、感染症、例えば呼吸器感染症に罹患しているか又は診断された対象における肺及び腎傷害の発生又は進行を予防又は保護するために投与され、更に任意に、対象は、特に、他の障害又は臨床症状のために、肺及び腎傷害、又はより重症の形態を発症するリスクがあり得る。腎傷害又はその関連症状の例は、急性腎傷害である。
【0049】
本明細書で理解されるように、「対象」という用語は、「患者」という用語と互換的に使用され得る。好ましい一実施形態では、対象はヒト対象である。任意の実施形態では、対象は、他の哺乳動物等の他の動物であってもよい。任意の実施形態では、本発明は、例えば、家畜又は他の獣医学的対象、特に、ネコ、イヌ、霊長類、ウマ、ウシ及びブタ等の哺乳動物にも適用され得る。
【0050】
化合物I又はその薬学的に許容され得る塩は、治療的(又は予防的)有効用量、すなわち標的とされる臓器傷害、疾患又は関連する症状若しくは症候の処置又は予防に関して薬理学的効果を有するのに十分な用量の化合物Iを含む組成物又は医薬に製剤化され得る。一実施形態における医薬又は組成物は、少なくとも1単位用量の化合物I又はその薬学的に許容され得る塩を含む。化合物Iの単位用量は、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩自体の単位用量を指し得るが、当該単位用量の化合物又はその塩を含む医薬、又は組成物若しくは剤形にも適用可能であり得る。
【0051】
単位用量は、対象の体重又は体重範囲又は対象に基づいて提供され得る体重当たりの量(例えば、mg/kg)として表すことができる。或いは、単位用量はまた、意図される投与経路に適切な医薬又は剤形として対象に提供され得る化合物Iの絶対量(例えば、mg等の重量量)に関して表され得る。一実施形態では、化合物Iの単位又は単回用量は、約0.005~20mg/kgの範囲であり得る。「用量」又は「投与量」という用語は、時間、時間間隔又は量の指示が前に記載されるか又は後に記載されない限り、化合物I若しくはその薬学的に許容され得る塩又は原薬の単回用量又は単位用量を指し得る。例えば、「1日用量」又は「1日当たりの投与量」は、1日(24時間)の過程で投与される化合物I又は原薬の総投薬量を指し得る。1日用量は、1日に1回のみ投与される場合、1回のみの用量を含んでもよいが、例えば、1日に2以上の時間間隔で2以上の単位用量が投与される場合、1日に投与される複数の単位用量の和に基づく合計であってもよい。
【0052】
本明細書で使用される場合、投薬量等の属性又は値に関連する「約」等の用語は、正確な属性又は正確な値、並びに典型的には技術分野に関連する通常の又は許容される変動性に含まれると考えられる任意の属性又は値、及び当該属性又は値を測定又は決定する方法を含む。この用語は、一般的な実施において、評価されている製品が、記載された強度又は用量の特許請求の範囲に記載の製品と哺乳動物において生物学的に同等であると見なされることを可能にし得る任意の変形を可能にする。
【0053】
本明細書の実施形態のいずれか1つに記載される化合物I若しくはその薬学的に許容され得る塩の使用、又は処置若しくは予防の方法も、当該使用、又は処置方法及び/又は予防法に適合され、処方された医薬又は薬剤の製造又は調製のため、本開示に関連して提供される。医薬、又は医薬として提供される化合物I若しくはその薬学的に許容され得る塩を含む組成物は、好ましくはヒト対象に投与されるか、又はヒト対象への投与に適合される。
【0054】
化合物Iの薬学的に許容され得る塩は、その生物学的特性を保持し、非毒性であり、薬学的使用に適合する塩である。本発明の塩は、化合物Iへの酸の付加から生じ得る。得られる酸付加塩としては、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、クエン酸、乳酸、マンデル酸、グリコール酸、アジピン酸、アルギン酸、アリールスルホン酸、(例えば、ベンゼンスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸)、アスコルビン酸(例えば、L-アスコルビン酸)、L-アスパラギン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、ブタン酸、(+)樟脳酸、カンファースルホン酸、(+)-(1S)-カンファー-10-スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、桂皮酸、クエン酸、シクラム酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチシン酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸(例えば、D-グルコン酸)、グルクロン酸(例えば、D-グルクロン酸)、グルタミン酸(例えば、L-グルタミン酸)、α-オキソグルタル酸、グリコール酸、馬尿酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、イセチオン酸、乳酸(例えば、(+)-L-乳酸及び(±)-DL-乳酸)、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸(例えば、(-)-L-リンゴ酸)、(±)-DL-マンデル酸、メタリン酸、メタンスルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロト酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、リン酸、プロピオン酸、L-ピログルタミン酸、サリチル酸、4-アミノ-サリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸(例えば(+)-L-酒石酸)、チオシアン酸、ウンデシレン酸、及び吉草酸で形成されたものが挙げられる。特に、酸付加塩には、塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸及び硫酸等の鉱酸から誘導されるもの;酒石酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸、アリールスルホン酸等の有機酸から誘導されるものが含まれる。
【0055】
化合物I又はその薬学的に許容され得る塩は、対象に経腸的又は非経口的に投与され得る。一実施形態では、化合物I、又は当該化合物Iを含む組成物若しくは医薬は、投与に適合されているか、又は非経口的に、例えば、静脈内注射若しくは皮下注射若しくは筋肉内注射によって、又は静脈内若しくは皮下の点滴によって投与される。代替の実施形態では、化合物I、又は化合物Iを含む組成物若しくは医薬は、投与に適合され得るか、又は対象に経腸的に、例えば経口的に投与され得る。別の実施形態では、化合物I、又は化合物Iを含む組成物若しくは医薬は、吸入投与用に製剤化又は適合され得る。
【0056】
本開示はまた、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩と、1種以上の薬学的に許容され得る賦形剤とを含む医薬組成物を含む医薬に関する場合がある。当該化合物Iを含む医薬又は医薬組成物は、注射若しくは点滴、吸入又は本明細書に記載の投与方法のいずれか1つに適した又は適合した剤形に製剤化され得る。経口投与のため、化合物Iを含む医薬又は医薬組成物は、経口投与に適した又は適合した剤形、例えば、限定されないが、錠剤、カプセル剤、ゲルキャップ又はフィルムで提供され得る。当該医薬又は医薬組成物は、本明細書に記載の処置若しくは予防の方法、又は使用のいずれかに従って使用され得る。
【0057】
本発明は、更なる態様では、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩を含む組成物を含むキット又は医薬にも関連し得、任意に、該キット又は医薬は、本明細書に記載される方法又は使用のいずれか1つに従って化合物I又はその塩を投与するための説明書と共に包装される。関連する実施形態では、キットは、化合物Iを対象に投与するための説明書を含み得、対象は、コルチコステロイド、例えばデキサメタゾン等の第2の有効成分を受けているか、又は受ける予定であり、該説明書は、本明細書に記載される方法/使用のいずれかに従って、化合物I及び第2の有効成分の連続投与又は同時投与を指示する。キットは、別の実施形態では、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩、及び第2の有効成分を含み得る。いくつかの実施形態における第2の有効成分は、コルチコステロイド、例えばデキサメタゾンである。一実施形態では、キットは、化合物Iを含む第1の組成物と、コルチコステロイド、例えばデキサメタゾンを含む第2の組成物とを含み得る。任意の実施形態では、キットは、化合物I及び第2の有効成分を含む組成物、例えば化合物I及びコルチコステロイド、例えばデキサメタゾンを含む組成物を含み得る。
【0058】
以下の番号が付された項目の一覧は、本開示に含まれる更なる実施形態である。
【0059】
1.感染症と診断されたか、又は感染症に罹患している対象における、臓器傷害、又は臓器傷害に関連する症状の予防及び/又は処置のための医薬の製造における、化合物I
又はその薬学的に許容され得る塩の使用。
【0060】
2.前記医薬、感染症と診断されたか、又は感染症に罹患している対象における臓器傷害又は臓器傷害に関連する症状を予防するためのものである、項1に記載の使用。
【0061】
3.前記臓器傷害又はそれに関連する症状が、前記感染症の結果である、項1に記載の使用。
【0062】
4.前記感染症が、ウイルス性、細菌性、真菌性、原虫性又は寄生虫性である、項1又は2に記載の使用。
【0063】
5.前記感染症がウイルス性感染症である、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0064】
6.前記感染症が細菌性感染症である、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0065】
7.前記感染症がウイルス真菌症である、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0066】
8.前記感染症が原虫又は寄生虫感染である、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0067】
9.前記感染症が、呼吸器、腎臓、肝臓、心臓、血液若しくは全身の感染症、又はそれらの任意の組み合わせである、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0068】
10.前記感染症が呼吸器感染症である、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0069】
11.前記臓器が、肺、腎臓及び/又は心臓から選択される、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0070】
12.前記臓器が肺である、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0071】
13.肺若しくは肺組織の傷害、又は肺若しくは肺組織の傷害に関連する症状を予防及び/又は処置するための医薬の製造における、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩の使用。
【0072】
14.前記肺傷害、又は前記肺傷害に関連する症状が、前記呼吸器組織若しくは上皮、例えば、気管支、細気管支、肺胞若しくはそれらに関連する組織のいずれか1つ若しくは組み合わせに対する損傷;肺胞損傷;肺若しくは肺胞浸潤、呼吸困難;肺水腫;肺線維症;低酸素血症、肺炎若しくは細気管支炎、又はそれらの組み合わせである、項12又は13に記載の使用。
【0073】
15.前記医薬が、前記呼吸器組織若しくは上皮、例えば、気管支、細気管支、肺胞若しくはそれらに関連する組織のいずれか1つ若しくは組み合わせに対する損傷;肺胞損傷;肺若しくは肺胞浸潤、呼吸困難;肺水腫;肺線維症;低酸素血症、肺炎、細気管支炎、又はそれらの組み合わせの発症又は進行を予防するために使用される、項12~14のいずれかに記載の使用。
【0074】
16.前記肺傷害、又は前記肺傷害に関連する症状が、急性低酸素血症性呼吸障害若しくは呼吸不全、急性肺傷害(ALI)、又は急性呼吸促迫症候群(ARDS)である、項12~15のいずれか一項に記載の使用。
【0075】
17.前記医薬が、呼吸器感染症に罹患している対象における急性肺傷害(ALI)又は急性呼吸促迫症候群(ARDS)の発症又は進行を予防するために使用される、項12~16のいずれか一項に記載の使用。
【0076】
18.前記感染症が呼吸器ウイルス性感染症であり、任意に、呼吸器ウイルス、例えばインフルエンザウイルス、ライノウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス(CoV)、デングウイルス、又はパラインフルエンザウイルスによって引き起こされる、項10~17のいずれか一項に記載の使用。
【0077】
19.前記ウイルス性呼吸器感染症がコロナウイルスによって引き起こされ、任意に、前記コロナウイルスが、SARS-CoV、SARS-CoV2又はMERS-CoVである、項18に記載の使用。
【0078】
20.前記呼吸器感染症がCOVID-19である、項19に記載の使用。
【0079】
21.前記感染症が呼吸器細菌性感染症であり、任意に、グラム陰性及び/又はグラム陽性細菌によって引き起こされ、更に任意に、前記細菌がシュードモナス菌(例えば、シュードモナス・エルギノーザ(pseudomonas aeruginosa))、クレブシエラ菌(例えば、クレブシエラ・ニューモニエ(klebsiella pneumoniae))、ヘモフィルス菌(例えば、ヘモフィルス・インフルエンザ(haemophilius influenzae))、ストレプトコッカス菌(例えばストレプトコッカス・ニューモニエ(streptococcus pneumoniae))、スタフィロコッカス菌(例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(staphylococcus aureus))、又はレジオネラ菌(例えば、レジオネラ・ニューモフィラ(legionella pneumophila))である、項10~17に記載の使用。
【0080】
22.前記呼吸器感染症が下気道感染症である、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0081】
23.前記呼吸器感染症が上気道感染症である、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0082】
24.前記医薬が、酸素支援又は人工呼吸による処置の前に、それと同時に、及び/又はその後に、それを必要とする対象に投与される、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0083】
25.前記感染症と診断されたか、又は感染症に罹患している対象が、第2の有効成分を受けている、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0084】
26.前記第2の有効成分がコルチコステロイド、例えばデキサメタゾンである、項25に記載の使用。
【0085】
27.前記対象が、呼吸器感染症、例えばウイルス性呼吸器感染症と診断されているか、又はそれに罹患している、項25又は26に記載の使用。
【0086】
28.前記医薬が、呼吸器感染症、例えばウイルス性呼吸器感染症に罹患している対象における急性肺傷害(ALI)又は急性呼吸促迫症候群(ARDS)の発症又は進行を予防するために使用される、項27に記載の使用。
【0087】
29.前記医薬が、前記第2の有効成分を受けている対象への化合物Iの前記投与のための書面の説明書と共に包装され、前記説明書が、前記医薬及び前記第2の有効成分の連続投与又は同時投与を指示する、項25~28に記載の使用。
【0088】
30.前記臓器が腎臓である、項1~11のいずれか一項に記載の使用。
【0089】
31.前記感染症が呼吸器感染症であり、任意に、前記感染症が、例えば項18~24に規定されるウイルス性又は細菌性呼吸器感染症であり、更に任意に、前記感染症が、項18~20に規定されるウイルス性呼吸器感染症である、先行する項30に記載の方法。
【0090】
32.前記腎傷害、又は腎傷害に関連する症状が、急性腎傷害(AKI)である、項30又は31に記載の使用。
【0091】
33.前記医薬が、呼吸器感染症に罹患している対象における急性腎傷害の発症又は進行を予防するために使用される、項30~32のいずれか一項に記載の使用。
【0092】
34.前記医薬が、呼吸器感染症を有する対象における、少なくとも2つの異なる臓器傷害又は前記臓器傷害に関連する症状の予防及び/又は処置に使用するためのものである、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0093】
35.前記医薬が、肺及び腎臓の傷害、並びにそれらの関連症状の予防及び/又は処置に使用するためのものである、項34に記載の使用。
【0094】
36.前記医薬が、肺及び腎臓の傷害、並びにそれらの関連症状の予防に使用するためのものである、項35に記載の使用。
【0095】
37.前記対象がヒト対象である、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0096】
38.前記医薬が、ヒト対象に投与されるか、又はヒト対象への投与に適合されている、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0097】
39.前記医薬が、注射若しくは点滴、吸入、又は経口投与によって投与される、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0098】
40.前記医薬が、少なくとも1単位用量の化合物I又はその薬学的に許容され得る塩を含み、前記単位用量が約0.005~20mg/kgである、先行する項目のいずれか一項に記載の使用。
【0099】
41.感染症と診断されたか、又は感染症に罹患している対象における、臓器傷害、又は臓器傷害に関連する症状の予防及び/又は処置に使用するための、化合物I
又はその薬学的に許容され得る塩。
【0100】
42.項1~40に記載の特徴又は実施形態のいずれか1つ又は組み合わせを含む、先行する項目に記載の使用のための化合物I又はその薬学的に許容され得る塩。
【0101】
43.感染症と診断されたか、又は感染症に罹患している対象の臓器傷害を予防及び/又は処置する方法であって、化合物I又はその薬学的に許容され得る塩を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【0102】
44.項1~40に記載の特徴又は実施形態のいずれか1つ又は組み合わせを含む、先行する項目に記載の方法。
【0103】
以下の実施例は、本発明を説明する役割を果たすが、これらは、本発明の範囲を限定するものとして理解されるべきではない。
【実施例
【0104】
実施例1-急性肺傷害モデル研究
化合物Iを急性肺傷害についてin vivoマウスモデルで試験した。
【0105】
LPS(リポ多糖)を投与して、C57BL/6マウスにおいて肺傷害を誘導した。LPSは、肺において急性炎症反応を誘発し、進行性の損傷、並びに気管支壁及び肺胞を含む肺組織の壊死をもたらす。
【0106】
試験群及び投薬計画
【0107】
LPS(0.3mg/kg)を試験群2~6の麻酔したマウスの気管に直接投与した。試験群1(G1)はシャム対照群(誘発された急性肺傷害なし)とし、群2(G2)はモデル群(急性肺傷害、処置なし)とした。各試験群は10匹のマウスからなった。水溶液として調製したデキサメタゾンを陽性対照として使用した。異なる濃度の化合物I、担体及び可溶化剤を含む溶液を試験のために調製した。
【0108】
デキサメタゾン及び化合物Iを、LPS投与の0.5時間後及び6時間後に試験群3~6(G3~G6)の腹腔内に投与した。
【0109】
呼吸頻度、1回換気量、最大吸気速度及び最大呼気速度を含む非侵襲的肺機能試験を、LPSを最初に投与してから24時間後の研究2日目及び研究の終了時に決定した。
【0110】
図1は、得られた肺試験結果を示す。図1Aは1回換気量(mL)を示し、図1Bは呼吸数(呼吸/分)を示し、図1Cは最大吸気流量(mL/秒)を示し、図1Dは最大呼気流量(mL/秒)を示す。これらの図に示す試験群G1~G6は、以下に対応する:G1-シャム(LPS誘導なし)、G2-モデル(LPS誘導、薬物処置なし);G3-陽性対照(3mg/kgデキサメタゾン)、G4-1mg/kg化合物I、G5-5mg/kg化合物I、及びG6-10mg/kg化合物I)。
【0111】
急性肺傷害の誘導後の化合物Iの投与、特に10mg/kgでの投与に基づいて、肺機能試験のいくつかに統計的に関連する改善があることが観察された。
【0112】
マウス対象の肺組織の病態に関して有意な影響が更に観察された。組織学的検査のために研究終了時に全肺組織試料も採取した。組織学的検査は、以下の基準に従って肺傷害についてブラインドスコア化された視野領域のランダム選択を含んでいた:1)肺胞鬱血、2)出血、3)炎症細胞の浸潤、及び4)0(最小損傷)、1、(軽度損傷)、2(中等度損傷)、3(重度損傷)、及び4(最大損傷)の尺度による肺胞壁の厚さ。
【0113】
肺傷害の更なるブラインドスコアリングを以下の基準に従って実施した:1)気管支壁傷害(上皮細胞変性、壁浮腫、壁内の炎症細胞、又は細胞壁内の微小壊死巣等)、2)気管支壁炎症細胞浸潤、3)細動脈壁傷害(例えば、内皮剥落、中膜平滑筋の消失、動脈壁浮腫)、及び4)細動脈壁炎症細胞浸潤。スコアリングは、0(損傷なし、炎症細胞浸潤なし)、1(軽度の損傷、限局性炎症細胞浸潤はほとんどない)、2(中等度の損傷、1/2円未満の炎症細胞浸潤)、3(重度損傷、1/2円超の炎症細胞浸潤)、及び4(最大損傷、複数層の円形炎症細胞浸潤)の5段階で行った。
【0114】
図2は、この検査に基づく肺傷害の組織学的結果及び分析を示す。図2Aは、全肺胞傷害に基づくスコアリングを示し、図2Bは、全気管支及び細動脈傷害スコアリングに基づくスコアリングを示し、図2Cは、全肺傷害に基づくスコアリングを示す。試験群G1~G6は上記の通りである。全ての用量(G4、G5、G6)の化合物Iが、陽性対照であるデキサメタゾン(G3)と一致して、また、モデル群(G2)の未処置マウスから得られ、分析された肺組織と比較して気管支組織、細動脈組織及び肺胞組織に対する傷害の重症度を低下させる点で有意なプラスの効果を有することが観察された。
【0115】
実施例2-急性肺傷害モデル研究II
急性傷害モデルにおけるデキサメタゾン及び化合物Iの併用投与の効果を評価するために研究を行った。LPS(リポ多糖)を投与して、SDラットに肺傷害を誘導した(SPFグレード郵政、体重180~200g)。
【0116】
試験群及び投薬計画
【0117】
試験群1(G1)はシャム対照群(誘発された急性肺傷害なし)とし、群2(G2)はモデル群(急性肺傷害、処置なし)とした。適量を生理食塩水に溶解して調製した水溶液として調製したデキサメタゾンを群3(G3)の陽性対照として使用し、化合物Iも受けた群6(G6)及び群7(G7)にも投与した。化合物Iの凍結乾燥粉末を、Tween 80、酢酸、酢酸ナトリウムを含む再構成水溶液に溶解し、適用前に生理食塩水で更に希釈した。市販のシクロスポリンA溶液(注射用溶液、Novartis)を適用前に生理食塩水で希釈した。
【0118】
動物の体重を測定した。次いで、麻酔及び手術後にラットの気管を介してLPS(5mg/kg)を注射して気管を露出させた(LPSを注射しなかったG1を除く全ての群)。麻酔から回復した後、動物をケージに戻した。上の表に詳述したレジメンに従って、LPS注射の1時間後、7時間後及び24時間後に各薬物(複数可)を尾静脈に3回投与(iv)した。
【0119】
非侵襲的肺機能試験を24時間及び48時間(試験終了時)で判定した。試験終了時に、再び動物を計量し、血液及び肺液試料を収集し、病理解析のため屠殺動物から肺試料を収集した。
【0120】
結果-動物の肺及び体重を試験終了時に測定した。この研究では、シャム群と比較して、急性肺傷害が誘発された群でより重い肺重量が一般に観察された。増加した又はより重い肺の重量は、この臓器の炎症過程及び損傷の程度を反映している。特に、他の処置群と比較して、シクロスポリンA(CsA)を受けた群8(G8)の対象における研究では、肺の重量及び肺重量対体重比の有意な増加が観察された(図3A及び図3Bを参照)。群8(G8)で観察された体重レベルに対する肺重量/肺重量対体重比は、モデル(G2)よりも更に高いようであり、CsAが何らかの方法で炎症過程を悪化させ得ることを示唆している。肺傷害誘発前にCsAを受けている対象もまた、急性肺傷害の誘発後に化合物I、又は化合物I及びデキサメタゾンを投与された群と比較して、実施された肺機能試験のいくつか(図4、例えば図4Dを参照)において同様に、一般に機能しなかったことも観察された。CsAは、肺傷害に対する保護効果を有すると以前のモデリングに基づいて示唆されているが、本研究で実証されているように、化合物I及び化合物I/デキサメタゾンを受けている群と比較して、肺傷害及びその関連症状の処置及び保護に全体的にあまり影響しないようである。
【0121】
組織学的検査のために研究終了時に全肺組織試料を採取した。組織学的検査は、肺傷害についてブラインドスコア化された視野領域のランダムな選択を含んでいた。肺組織病理スコアリングを以前の方法を参照して適合させた(An J,et al.Int.J.Mol.Sci.2017,18,1847;Meng PZ,et al.Med Sci Monit,2018;24:4869-4875を参照)。3つのスコアリング基準を使用して肺を評価した:1)肺胞傷害及び炎症細胞浸潤のスコアリング基準;2)気管支及び肺細動脈傷害のスコア;3)肺傷害、細気管支及び肺細動脈傷害の合計スコア。1)肺胞傷害及び炎症細胞浸潤のスコアリング基準は:0=肺胞傷害及び炎症細胞浸潤なし;1=肺胞浸出液又は軽度の出血及び炎症細胞浸潤を伴う又は伴わない軽度の肺胞壁肥厚;2=肺胞浸出液又は中等度の出血及び炎症細胞浸潤を伴う中等度の肺胞壁肥厚;3=滲出液又は重度の出血及び炎症細胞浸潤を伴う肺胞壁の重度の肥厚。2)気管支及び肺細動脈傷害のスコアリングは以下の通りであった:0=損傷及び炎症細胞の浸潤なし;1=外部モデルにおける炎症細胞の軽度の浸潤を伴う気管支上皮細胞の軽度の過形成及び肺細動脈内皮細胞の剥落;2=外部モデルにおける炎症細胞のびまん性浸潤を伴う気管支上皮細胞の中等度の過形成及び肺細動脈内皮細胞の剥落;並びに3=気管支上皮細胞の重度の過形成、肺細動脈における内皮細胞の剥落、気管支壁及び動脈壁における炎症細胞の浸潤、並びに外膜への炎症細胞のびまん性浸潤。全てのスコアの合計3)を肺組織の病態に関する合計スコアとみなした。
【0122】
以前の研究と一致して、化合物Iを受けた群は、一般に、肺組織の観察された病態に対してプラスの影響を有することがわかった。
【0123】
図5Aに示されるように、全ての用量(群4(G4)、群5(G5))の化合物Iが、陽性対照であるデキサメタゾン(G3)と一致して、また、モデル群(G2)の未処置マウスから得られ、分析された肺組織と比較して、肺胞組織に対する傷害の重症度を低下させる点で有意なプラスの効果を有することが観察された。気管支及び細動脈の傷害に関して、化合物I(G4、G5)もまた、モデル(G2)及び陽性群(G3)よりも有意に良好に機能した(図5Bを参照)。予想外にも、比較的低用量で投与された化合物I及びデキサメタゾンの両方を受ける群(G6、G7)は、モデル群(G2)並びに個々の薬物処置群の両方に対して統計学的に有意な改善を示した。肺胞壁の不均一な肥厚をもたらし得る、毛細血管の鬱血及び肺胞壁における炎症細胞の浸潤が少ないことに対応して、処置群G4及びG5で既に単独で、肺胞傷害並びに気管支及び細動脈傷害のより低いレベルが観察された。これらの結果は、化合物I単独の有効性を示すだけでなく、急性肺傷害の処置のために化合物Iをデキサメタゾンと一緒に投与する効果における相乗効果を有意に実証する(例えば、気管支及び細動脈、及び/又は肺胞の損傷、並びにそれらに関連する症状、例えば、細気管支上皮過形成、気管支壁外膜における好中球優位の炎症細胞浸潤、又は肺細動脈外膜の浮腫等)。デキサメタゾンは、呼吸器感染症に関連する炎症過程を制御するための処置として有用であり得るが、しばしば副作用も有する。したがって、本明細書に記載されるような肺傷害又は関連症状の処置のために、デキサメタゾンを受けているか又は処置された対象にも化合物Iを投与することが企図され得、場合により、デキサメタゾンによる減少した又はより低い投薬又は処置期間も可能にする。観察された効果を、群3(デキサメタゾン)及び群6(化合物I 1mg/kg及びデキサメタゾン0.5mg/kg)と比較した群2(モデル)の肺病態スコアリングを比較して、図5Dに更に表す。
【0124】
実施例3-薬物動態試験化合物I対シクロスポリンA(CsA)
化合物1及びCsAの組織分布を観察するための比較薬物動態試験を行った。SDラットに単回用量iv(3mg/kg)のCsA注射溶液又は化合物Iの溶液をそれぞれ注射した。試験した各薬物について、合計24匹のSDラットを使用した(試験の4つの時点、すなわち注射の0.5時間後、2時間後、6時間後及び24時間後のそれぞれについて雄性ラット3匹及び雌性ラット3匹)。それぞれの時点で、血液試料及びそれぞれの臓器/組織を収集し、標準的な手順に従って処理した。次いで、それぞれの組織中のそれぞれの薬物の濃度を、検証されたLC-Ms/Ms法を用いて測定した。
【0125】
【0126】
様々な組織又は器官への化合物1の分布は、化合物1がコア構造類似性を有するにもかかわらず、CsAの分布と比較して顕著な差を有することが観察された。CsAは脂肪組織に有意に分布することがわかったが、化合物1は腎臓及び肺等の臓器組織により多く分布することが観察された。CsAと比較して、脂質組織中に見出された化合物I(AUC)の量は約10倍未満であった。肺及び腎臓で観察された化合物Iの最大濃度(Cmax)も予想外にCsAより有意に高かった。

図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
【国際調査報告】