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特表2023-521189新規なポリペプチドおよびこれを利用したL-ロイシンの生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-23
(54)【発明の名称】新規なポリペプチドおよびこれを利用したL-ロイシンの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20230516BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20230516BHJP
   C12P 13/06 20060101ALI20230516BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230516BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230516BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230516BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230516BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230516BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C12N15/54
C12N9/10 ZNA
C12P13/06 B
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/31
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562152
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(85)【翻訳文提出日】2022-10-11
(86)【国際出願番号】 KR2021006033
(87)【国際公開番号】W WO2021235775
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】10-2020-0060578
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507406611
【氏名又は名称】シージェイ チェルジェダン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】イ,ハユン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジュ・ユン
(72)【発明者】
【氏名】シム,ジヒュン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジ・ヒェ
(72)【発明者】
【氏名】イ,スン・グン
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050CC07
4B050DD02
4B050EE01
4B050LL05
4B064AE06
4B064BJ11
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA01X
4B065AA24Y
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA86X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA17
4B065CA29
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
本出願は、イソプロピルマレートシンターゼ活性を有する新規な変異型ポリペプチドおよびこれを利用したL-ロイシンの生産方法に関し、一例による変異型ポリペプチドを使用するとL-ロイシンを高収率で生産することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列で247番目プロリン(proline)アミノ酸残基がプロリン以外の他のアミノ酸残基に置換された、イソプロピルマレートシンターゼ(isopropylmalate synthase)活性を有する変異型ポリペプチド。
【請求項2】
前記247番目プロリンがシステイン(cysteine)に置換された、請求項1に記載の変異型ポリペプチド。
【請求項3】
配列番号3のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の変異型ポリペプチド。
【請求項4】
前記変異型ポリペプチドは、
配列番号1のアミノ酸配列で558番目アルギニン(arginine)アミノ酸残基がヒスチジン(histidine)アミノ酸残基に置換、
配列番号1のアミノ酸配列で561番目グリシン(glycine)アミノ酸残基がアスパラギン酸(aspartic acid)アミノ酸残基に置換、または、
これら全てによりさらに変異されたものである、請求項1に記載の変異型ポリペプチド。
【請求項5】
前記変異型ポリペプチドは、配列番号5のアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の変異型ポリペプチド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の変異型ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび前記ポリヌクレオチドを含むベクターからなる群より選択された1種以上を含む、微生物。
【請求項9】
前記微生物は、L-ロイシン生産能を有するものである、請求項8に記載の微生物。
【請求項10】
前記微生物は、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)である、請求項8に記載の微生物。
【請求項11】
前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項10に記載の微生物。
【請求項12】
請求項8に記載の微生物を培地で培養する工程を含む、L-ロイシンの生産方法。
【請求項13】
前記方法は、培養された培地または微生物からL-ロイシンを回収する工程を追加的に含む、請求項12に記載のL-ロイシンの生産方法。
【請求項14】
請求項1~5のいずれか一項に記載の変異型ポリペプチド;前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;前記ポリヌクレオチドを含むベクター;および前記ポリペプチド、前記ポリヌクレオチド、または前記ベクターを含む微生物からなる群より選択された1種以上を含む、L-ロイシン生産用組成物。
【請求項15】
請求項1~5のいずれか一項に記載の変異型ポリペプチド;前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;前記ポリヌクレオチドを含むベクター;および前記ポリペプチド、前記ポリヌクレオチド、または前記ベクターを含む微生物からなる群より選択された1種以上の、L-ロイシンの生産のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互引用
本出願は、2020年5月20日付大韓民国特許出願第10-2020-0060578号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として組み含まれる。
【0002】
本出願は、イソプロピルマレートシンターゼ(isopropylmalate synthase)活性を有する新規な変異型ポリペプチド;これをコードするポリヌクレオチド;前記ポリヌクレオチドを含むベクター;前記変異型ポリペプチド、前記ポリヌクレオチド、前記ベクター、またはその組み合わせを含む微生物;および前記微生物を培養してL-ロイシンを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
L-アミノ酸は、L-アミノ酸生産能を有するコリネ型(coryneform)細菌または腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属するアミノ酸生産菌を用いて発酵法により工業生産されている。これらアミノ酸生産菌としては、生産性を向上させるために自然界から分離された菌株または当該菌株の人工変異株、または遺伝子組換えによりL-アミノ酸生合成酵素が増強された組換え体などが使用されている。
【0004】
L-アミノ酸のうちL-ロイシンは、必須アミノ酸の一種で医薬、食品、飼料添加物および工業薬品などに広範囲に使用される高価のアミノ酸であり、主に微生物を利用して生産される。L-ロイシンの発酵生産は、主にエシェリキア属微生物またはコリネバクテリウム属微生物を通じて行われ、ピルビン酸から多段階を経て2-ケトイソカプロン酸(2-ketoisocaproate)を前駆体として生合成されると知られている。しかし、L-ロイシンの生合成に関与する酵素は、最終産物であるL-ロイシンまたはその誘導体によるフィードバック阻害が発生して工業的にL-ロイシンを大量製造するには困難がある。
【0005】
そこで、本出願の発明者らは、イソプロピルマレートシンターゼの特定位置を変異させて得られた変異株が酵素活性を最適化して高収率のL-ロイシン生産に利用され得ることを確認して本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US2018-0251772A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願は、配列番号1のアミノ酸配列で247番目プロリン(proline)アミノ酸残基がプロリン以外の他のアミノ酸残基に置換された、イソプロピルマレートシンターゼ(isopropylmalate synthase)活性を有する変異型ポリペプチドを提供する。
【0008】
本出願は、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0009】
本出願は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0010】
本出願は、前記変異型ポリペプチド、前記ポリヌクレオチドおよび前記ポリヌクレオチドを含むベクターからなる群より選択された1種以上を含む、微生物を提供する。
【0011】
本出願は、前記微生物を培地で培養する工程を含むL-ロイシンの生産方法を提供する。
【0012】
本出願は、前記変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、および前記微生物(例えば、本出願の変異型ポリペプチド、本出願のポリヌクレオチド、および/または本出願のベクターを含む微生物(組換え細胞))からなる群より選択された1種以上を含む、L-ロイシン生産用組成物を提供する。
【0013】
本出願は、前記変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、および前記微生物(例えば、本出願の変異型ポリペプチド、本出願のポリヌクレオチド、および/または本出願のベクターを含む微生物(組換え細胞))からなる群より選択された1種以上のL-ロイシンの生産に使用するための用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本出願の一態様は、配列番号1のイソプロピルマレートシンターゼ蛋白質のアミノ酸配列でN-末端から247番目またはこれに相応する位置のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換された、イソプロピルマレートシンターゼ活性を有する変異型ポリペプチド(または変異体)を提供することができる。
【0015】
本明細書において、「イソプロピルマレートシンターゼ(isopropylmalate synthase、2-isopropylmalate synthase、α-isopropylmalate synthase)」は、2-ケトイソ吉草酸(2-ketoisovalerate、3-メチル-2-オキソブタノエート、2-エキソイソ吉草酸)とアセチル-CoAのアセチル基との縮合を触媒してL-ロイシンの前駆体のうちの一つであるイソプロピルマレート(2-isopropylmalate、3-カルボキシ-3-ヒドロキシ-4-メチルペンタノエート)に転換する酵素を意味し、前記イソプロピルマレートシンターゼは、前記転換活性を有する酵素であれば微生物由来に関係なく含まれ得、例えば、コリネバクテリウム属微生物由来の酵素であり得る。
【0016】
前記イソプロピルマレートシンターゼは、配列番号1のアミノ酸配列を含むか、配列番号1のアミノ酸配列からなるものであり得る。また微生物の由来に関係なく配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上、98%以上、または99%以上、99.5%以上または99.8%以上の相同性を有するポリペプチドであって、イソプロピルマレートシンターゼと同一または相応する転換活性を有する酵素であれば配列番号1のアミノ酸配列で一部の配列が欠失、改変、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドも前記イソプロピルマレートシンターゼとして本出願の範囲内に含まれ得る。
【0017】
つまり、本出願で「特定の配列番号で記載されたアミノ酸配列を含むポリペプチド(または蛋白質)」、「特定の配列番号で記載されたアミノ酸配列からなるポリペプチド(または蛋白質)」と記載されているとしても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチド(または蛋白質)と同一あるいは相応する活性を有する場合であれば、一部の配列が欠失、改変、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチド(または蛋白質)も本出願の変異対象になる蛋白質またはポリペプチドとして使用することができる。例えば、「配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド」と同一あるいは相応する活性を有するポリペプチドは、「配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド」に属することができる。
【0018】
前記イソプロピルマレートシンターゼのアミノ酸配列およびイソプロピルマレートシンターゼをコードする遺伝子の塩基配列は、米国国立生物工学情報センター(NCBI)および日本DNAデータバンク(DDBJ)のような当業界における公知のデータベースから容易に得ることができる。
【0019】
本明細書において、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが「特定の核酸配列(塩基配列)またはアミノ酸配列を含む」とは、前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが前記特定の核酸配列(塩基配列)またはアミノ酸配列からなるか、これを必須で含むことを意味し得、前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの本来の機能および/または目的とする機能を維持する範囲で前記特定の核酸配列(塩基配列)またはアミノ酸配列に変異(欠失、置換、改変、および/または付加)が加えられた配列を含むもの(または前記変異を排除しないもの)と解釈され得る。一例において、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが「特定の核酸配列(塩基配列)またはアミノ酸配列を含む」とは、前記ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが(i)前記特定の核酸配列(塩基配列)またはアミノ酸配列からなるかこれを必須で含む、または(ii)前記特定の核酸配列(塩基配列)またはアミノ酸配列と60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98%以上、99.5%以上、または99.9%以上の相同性を有する核酸配列またはアミノ酸配列からなるかこれを必須で含み、本来の機能および/または目的とする機能を維持することを意味し得る。
【0020】
本明細書において、野生型コリネバクテリウム・グルタミクム(例えば、ATCC13032)に由来するイソプロピルマレートシンターゼのアミノ酸配列は、配列番号1に表示し、野生型菌株に由来するイソプロピルマレートシンターゼをコードするleuA遺伝子の塩基配列は、配列番号2に表示した。イソプロピルマレートシンターゼは、配列番号1では616個のアミノ酸からなるものと表示したが、文献によっては翻訳開始コドンを35個後に表記して581個のアミノ酸からなるものと公知されている場合もあり、581個のアミノ酸からなるイソプロピルマレートシンターゼのアミノ酸配列は、配列番号16に表示した。581個のアミノ酸からなるイソプロピルマレートシンターゼは、前記イソプロピルマレートシンターゼとして本出願の範囲内に含まれ得、このような場合、前記247番目位置は212番目位置と解釈されて本出願の範囲に含まれ得る。
【0021】
一例による変異型ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列で558番目(またはこれに相応する位置)アルギニン(arginine)アミノ酸残基がアルギニン以外の他のアミノ酸残基に置換、
【0022】
配列番号1のアミノ酸配列で561番目(またはこれに相応する位置)グリシン(glycine)アミノ酸残基がグリシン以外の他のアミノ酸残基に置換、またはこれら全てによりさらに変異されたものであり得る。
【0023】
一例において、配列番号16の581個のアミノ酸からなるイソプロピルマレートシンターゼの場合、前記558番目位置は523番目位置に解釈され、前記561番目位置は526番目位置に解釈されて本出願の範囲に含まれ得る。
【0024】
本明細書において、「相同性」は、二つのポリヌクレオチドまたはポリペプチドモイエティ間の同一性のパーセントを意味する。一つのモイエティから他の一つのモイエティまでの配列間の相同性は知られた当該技術により決定され得る。例えば、相同性は、配列情報をアラインメントし、容易に入手可能なコンピュータプログラムを利用して二つのポリヌクレオチド分子または二つのポリペプチド分子間の配列情報、例としてはスコア(score)、同一性(identity)および類似度(similarity)などの媒介変数(parameter)を直接アラインメントして決定され得る。前記コンピュータプログラムは、BLAST(NCBI)、CLC Main Workbench(CLC bio)、MegAlignTM(DNASTAR Inc)などであり得る。また、ポリヌクレオチド間の相同性は、相同領域間の安定した二本鎖を形成する条件下でポリヌクレオチドをハイブリダイズした後、一本鎖特異的ヌクレアーゼで分解させて分解された断片の大きさを確認することによって決定することができる。
【0025】
一態様は、配列番号1のアミノ酸配列で247番目(またはこれに相応する位置)プロリン(proline)アミノ酸残基がプロリン以外の他のアミノ酸残基に置換された、イソプロピルマレートシンターゼ(isopropylmalate synthase)活性を有する変異型ポリペプチドを提供することができる。
【0026】
他の態様は、配列番号16のアミノ酸配列で212番目プロリンアミノ酸残基がプロリン以外の他のアミノ酸残基に置換された、イソプロピルシンターゼ活性を有する変異型ポリペプチドを提供することができる。
【0027】
本明細書において、「配列番号~のアミノ酸配列で~番目」は、「配列番号~のアミノ酸配列から構成される(またはなる)ポリペプチドのN-末端から~番目」と同一な意味で使用され得る。
【0028】
前記プロリン以外の他のアミノ酸は、アルギニン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、リジン、ヒスチジン、アスパラギン酸およびグルタミン酸を含むことができる。
【0029】
一具体例によれば、前記変異型ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列で247番目(またはこれに相応する位置)プロリンがシステイン(cysteine)に置換されたものであり得る。
【0030】
一具体例によれば、前記変異型ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列を含むか、配列番号3のアミノ酸配列からなるものであり得る。
【0031】
一例による変異型ポリペプチドは、配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列と60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上、98%以上、または99%以上、99.5%以上、または99.8%以上の相同性を有するポリペプチドのアミノ酸配列で前記247番目位置(配列番号16の場合は212番目位置)に相応する位置のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたものであり得る。
【0032】
一具体例による変異型ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列で247番目プロリン(または配列番号16のアミノ酸配列で212番目プロリン)またはこれに相応する位置のアミノ酸配列が他のアミノ酸に置換されて、配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列を含むポリペプチドよりL-ロイシン生産活性が増加したものであり得る。
【0033】
一具体例によれば、配列番号1のアミノ酸配列または配列番号1のアミノ酸配列と70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上、98%以上、または99%以上の相同性を有するポリペプチドのアミノ酸配列で、247番目プロリン(proline)アミノ酸残基またはこれに相応する位置のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換された、変異型ポリペプチドは、イソプロピルマレートシンターゼ活性を有することができる。前記他のアミノ酸残基は、置換される前に前記位置(配列番号1のアミノ酸配列で247番目またはこれに相応する位置)に存在していたアミノ酸(例えば、プロリン)以外の他の種類のアミノ酸残基を意味し得る。
【0034】
一具体例による変異型ポリペプチドは、配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列で247番目(または212番目)プロリンまたはこれに相応する位置のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されて、野生型菌株に由来するイソプロピルマレートシンターゼ(例えば、配列番号1または配列番号16のアミノ酸配列を含む(またはなる)イソプロピルマレートシンターゼ)よりL-ロイシン生産活性が増加したものであり得る。
【0035】
一具体例による変異型ポリペプチドは、配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列で247番目(または212番目)プロリンまたはこれに相応する位置のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されて、野生型菌株に由来するイソプロピルマレートシンターゼ(例えば、配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列からなるイソプロピルマレートシンターゼ)よりイソプロピルマレートシンターゼの酵素活性が増加したものであり得る。
【0036】
本明細書において、「イソプロピルマレートシンターゼの活性が増加」されたことは、イソプロピルマレートへの転換活性増加を意味するため、一具体例による変異型ポリペプチドは、配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列を含むイソプロピルマレートシンターゼの活性を有するポリペプチドに比べてより高い水準のイソプロピルマレートへの転換活性を有することができる。
【0037】
本明細書において、「活性増加」は、「活性強化」と併用して使用することができる。なお、イソプロピルマレートは、L-ロイシンの前駆体のうちの一つであるため、一具体例による変異型ポリペプチドを利用する場合、配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列を含むイソプロピルマレートシンターゼの活性を有するポリペプチドに比べて結果的により高い水準でL-ロイシンを生産することができる。
【0038】
前記イソプロピルマレートへの転換活性は、生成されるイソプロピルマレートの水準を測定して直接確認したり、または生成されるCoAの水準を測定して間接的に確認することができる。イソプロピルマレートシンターゼの酵素活性は、公知の方法で測定することができ、例えば、文献[Kohlhaw et al.(Methods in Enzymology 166:423-9(1988))]に記載された方法により測定することができ、生成されるCoAを利用した還元によりDTNB(5,5’-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)、エルマン(Ellman)試薬)から形成されたチオニトロベンゾエート(TNB)による412nmでの吸光変化を測定してイソプロピルマレートシンターゼ酵素の活性を測定することができる。
【0039】
一具体例による変異型ポリペプチドは、配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列で247番目(または212番目)プロリンまたはこれに相応する位置のアミノ酸配列が他のアミノ酸に置換されて、野生型菌株に由来するイソプロピルマレートシンターゼ(例えば、配列番号1のアミノ酸配列からなるイソプロピルマレートシンターゼ)よりL-ロイシンおよび/またはその誘導体によるフィードバック抑制を減少させることができる。
【0040】
本明細書において、「フィードバック抑制(feedback inhibition、フィードバック阻害)」は、酵素系の終産物がその酵素系の初期段階にある反応を阻害することを意味する。例えば、前記フィードバック阻害は、L-ロイシンおよび/またはその誘導体がその生合成経路の第1段階を媒介するイソプロピルマレートシンターゼの活性を抑制することであり得る。したがって、イソプロピルマレートシンターゼのフィードバック抑制を減少(または解除)する場合、そうではない場合に比べてL-ロイシンの生産性を高めることができる。
【0041】
本明細書において、「誘導体」は、本発明の最終産物であるL-ロイシンの生合成に関連してフィードバック阻害を誘発して微生物からL-ロイシンの生産能を阻害させることができると公知となっている化合物を意味し得、例えば、イソロイシン(isoleucine)、テルロイシン(terleucine)、ノルロイシン(norleucine)、および/またはシクロロイシン(cycloleucine)などを含むことができる。
【0042】
一具体例によれば、前記変異型ポリペプチドは、配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列で247番目(または212番目)以外の他の位置が追加的に変異されて(1)L-ロイシン生産活性の増加;(2)イソプロピルマレートシンターゼの酵素活性の増加;および(3)L-ロイシンおよび/またはその誘導体によるフィードバック抑制の減少からなる群より選択される1種以上の効果が相乗的に増加したものであり得る。
【0043】
一具体例によれば、前記変異型ポリペプチドは、(1)L-ロイシン生産活性の増加;(2)イソプロピルマレートシンターゼの酵素活性の増加;および(3)L-ロイシンおよび/またはその誘導体によるフィードバック抑制の減少からなる群より選択される1種以上の効果を有することができる変異を追加的に含むものであり得る。
【0044】
前記変異型ポリペプチドは、
配列番号1のアミノ酸配列で558番目(またはこれに相応する位置)アルギニン(arginine)アミノ酸残基がアルギニン以外の他のアミノ酸残基に置換、
配列番号1のアミノ酸配列で561番目(またはこれに相応する位置)グリシン(glycine)アミノ酸残基がグリシン以外の他のアミノ酸残基に置換、またはこれら全てによりさらに変異されたものであり得る。
【0045】
前記変異型ポリペプチドは、
配列番号16のアミノ酸配列で523番目(またはこれに相応する位置)アルギニン(arginine)アミノ酸残基がアルギニン以外の他のアミノ酸残基に置換、
配列番号16のアミノ酸配列で526番目(またはこれに相応する位置)グリシン(glycine)アミノ酸残基がグリシン以外の他のアミノ酸残基に置換、またはこれら全てによりさらに変異されたものであり得る。
【0046】
前記アルギニン以外の他のアミノ酸は、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、リジン、ヒスチジン、アスパラギン酸およびグルタミン酸を含むものであり得、前記グリシン以外の他のアミノ酸は、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、アルギニン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、リジン、ヒスチジン、アスパラギン酸およびグルタミン酸を含むものであり得、これに制限されるのではない。
【0047】
一具体例によれば、前記アルギニン以外の他のアミノ酸は、ヒスチジン(histidine)であり得る。
【0048】
一具体例によれば、グリシン以外の他のアミノ酸は、アスパラギン酸(aspartic acid)であり得る。
【0049】
一具体例によれば、前記変異型ポリペプチドは、
配列番号1のアミノ酸配列で558番目アルギニン(arginine)アミノ酸残基がヒスチジン(histidine)アミノ酸残基に置換、
配列番号1のアミノ酸配列で561番目グリシン(glycine)アミノ酸残基がアスパラギン酸(aspartic acid)アミノ酸残基に置換、または、
これら全てによりさらに変異されたものであり得る。
【0050】
一具体例によれば、前記変異型ポリペプチドは、配列番号5のアミノ酸配列を含むか、配列番号5のアミノ酸配列からなるものであり得る。
【0051】
一具体例により、配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列で247番目(または212番目)アミノ酸残基がプロリン以外の他のアミノ酸残基に置換された変異型ポリペプチドにおいて、
【0052】
配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列で558番目(または523番目)アルギニン(arginine)アミノ酸残基がアルギニン以外の他のアミノ酸残基に置換、561番目(または526番目)グリシン(glycine)アミノ酸残基がグリシン以外の他のアミノ酸残基に置換、またはこれら全てによりさらに変異された変異型ポリペプチドは、
(i)野生型菌株に由来するイソプロピルマレートシンターゼ(例えば、配列番号1または配列番号16のアミノ酸配列を含むイソプロピルマレートシンターゼ)または(ii)配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列で247番目(または212番目)プロリンアミノ酸残基がプロリン以外の他のアミノ酸残基に置換された変異型ポリペプチドより、
下記(1)~(3)からなる群より選択された1種以上の効果が増加したものであり得る:
(1)L-ロイシン生産活性の増加;
(2)イソプロピルマレートシンターゼの酵素活性の増加;および
(3)L-ロイシンおよび/またはその誘導体によるフィードバック抑制の減少。
【0053】
一具体例によれば、配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列で247番目、558番目、および/または561番目(または212番目、523番目、および/または526番目)位置のアミノ酸が他の種類のアミノ酸に置換される変異の組み合わせにより、一例による変異型ポリペプチドは、下記(1)~(3)からなる群より選択された1種以上の効果が相乗的に増加したものであり得る:
(1)L-ロイシン生産活性の増加;
(2)イソプロピルマレートシンターゼの酵素活性の増加;および
(3)L-ロイシンおよび/またはその誘導体によるフィードバック抑制の減少。
【0054】
前記(1)~(3)の効果については前述したとおりである。
【0055】
他の態様は、前記変異型ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドを提供することができる。本明細書において、「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド単位体(monomer)が共有結合により長く鎖模様でつながっているヌクレオチドの重合体(polymer)で、一定長さ以上のDNAまたはRNA鎖として、より具体的には前記変異体をコードするポリヌクレオチド断片を意味し得る。
【0056】
前記変異型ポリペプチドについては前述したとおりである。
【0057】
前記ポリヌクレオチドには、本出願の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は制限なしに含まれ得る。
【0058】
一例によれば、配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列で247番目(または212番目)プロリンアミノ酸残基がプロリン以外の他のアミノ酸残基に置換されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり得、または配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列と60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上、98%以上、または99%以上、99.5%以上、または99.8%以上の相同性を有して前記配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列で247番目(または212番目)位置に相応する位置のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたポリペプチドやその一部の配列が欠失、改変、置換または付加されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり得る。
【0059】
一具体例によれば、前記ポリヌクレオチドは、公知の遺伝子配列から製造され得るプローブ、例えば、前記ポリヌクレオチド配列の全体または一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができ、配列番号1(または配列番号16)のアミノ酸配列の247番目(または212番目)またはこれに相応する位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された蛋白質変異体をコードする配列に相応する配列を含むプローブであれば制限なしに含むことができる。前記「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的ハイブリダイゼーションが形成され、非特異的ハイブリダイゼーションが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高い遺伝子同士で、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上、98%以上、または99%以上、99.5%以上、または99.8%以上の相同性を有する遺伝子同士でハイブリダイズし、それより相同性が低い遺伝子同士でハイブリダイズしない条件、または通常のサザンハイブリッド化の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件を列挙することができる(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (2001) )。
【0060】
前記ハイブリダイゼーションに使用されたプローブは、塩基配列の相補配列の一部であり得る。このようなプローブは、公知の配列に基づいて作られたオリゴヌクレオチドをプライマーとし、このような塩基配列を含む遺伝子断片を鋳型とするPCRにより作製され得る。例えば、プローブとしては、300bp程度の長さの遺伝子断片を使用することができる。より具体的には、約300bp程度の長さのプローブを使用する場合に、ハイブリダイゼーションの洗浄条件としては、50℃、2×SSCおよび0.1%SDSが提示され得る。
【0061】
一具体例によれば、前記ポリヌクレオチドは、配列番号4または配列番号6の塩基配列を含むか、配列番号4または配列番号6の塩基配列からなるものであり得、コドン縮重(codon degeneracy)により一具体例による変異型ポリペプチドと翻訳され得るポリヌクレオチドも本出願の範囲に含まれ得る。
【0062】
他の態様は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供することができる。
【0063】
本明細書において、「ベクター」は、宿主細胞に塩基のクローニングおよび/またはトランスファーのための任意の媒介物をいう。ベクターは、他のDNA断片が結合して結合された断片の複製をもたらすことができる複製単位(replicon)であり得る。「複製単位」とは、生体内でDNA複製の自己ユニットとして機能する、つまり、自己調節により複製可能な、任意の遺伝的単位(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルス)を言う。
【0064】
一例において、ベクターは、適した宿主内で目的蛋白質を発現させることができるように適した調節配列に作動可能に連結された前記目的蛋白質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA製造物であり得る。前記調節配列は、転写を開始できるプロモーター、そのような転写を調節するための任意のオペレーター配列、適したmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、および転写および解読の終結を調節する配列を含むことができる。ベクターは、適当な宿主細胞内に形質転換された後、宿主ゲノムと関係なく複製されたり機能することができ、ゲノムそれ自体に統合され得る。
【0065】
本明細書において、「作動可能に連結」されたとは、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写を開始および媒介するようにするプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されていることを意味する。
【0066】
前記ベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されず、当業界に知られた任意のベクターを利用することができる。例えば、前記ベクターは、天然状態であるか、組換えられた状態のプラスミド、コスミド、ウイルスおよびバクテリオファージであり得、ファージベクターまたはコスミドベクターとしてMBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、pWE15、M13、λEMBL3、λEMBL4、λFIXII、λDASHII、λZAPII、λgt10、λgt11、Charon4A、および/またはCharon21Aなどを使用することができ、プラスミドベクターとしてpDC系、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pDZ系、および/またはpET系などを使用することができる。例えば、pDC、pDCM2、pCR2.1、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118および/またはpCC1BACベクターなどを使用することができる。
【0067】
他の態様は、前記変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび前記ポリヌクレオチドを含むベクターからなる群より選択された1種以上を含む、微生物(または組換え細胞)を提供することができる。
【0068】
前記変異型ポリペプチド、ポリヌクレオチドおよびベクターについては前述したとおりである。
【0069】
前記微生物(または組換え細胞)は、追加的にL-ロイシンの生産が増加するようにする変異を含むことができ、前記変異の位置および/または変異対象になる遺伝子の種類はL-ロイシンの生産が増加するようにするものであれば制限なしに含まれ得る。
【0070】
前記微生物(または組換え細胞)は、追加的にL-ロイシンの生合成に関与する酵素の活性が強化されるようにする変異を含むことができる。酵素の活性が強化されるということは前述したとおりである。
【0071】
前記微生物(組換え細胞)は、形質転換が可能な細胞であれば制限なしに使用可能である。
【0072】
前記微生物(または組換え細胞)は、L-ロイシン生産能を有するものであり得る。前記微生物(または組換え細胞)は、組換え前の細胞、親菌株、および/または野生型菌株が有していないL-ロイシン生産能を有するようになるか、またはL-ロイシン生産能がより向上したものであり得る。
【0073】
前記微生物(または組換え細胞)は、イソプロピルマレートシンターゼに相応するアミノ酸配列が変異されてその活性が組換え前の細胞、親菌株、および/または野生型菌株と比較して増加したり、L-ロイシンおよびその誘導体に対するフィードバック阻害が解除されたり、酵素の活性増加およびフィードバック阻害の解除が全てなされたものであり得る。
【0074】
前記微生物(または組換え細胞)は、一具体例によるポリヌクレオチドが染色体内に統合されたものであり得、例えば、一具体例によるポリヌクレオチドは、染色体内の遺伝子部位で天然(native)leuA遺伝子(イソプロピルマレートシンターゼをコードする遺伝子)に対して交換されたり、追加の遺伝子部位に統合されたものであり得る。
【0075】
本明細書において、「L-ロイシン生産能を有する」とは、自然にロイシン生産能を有する細胞および/または微生物、またはロイシン生産能がない細胞および/または微生物にロイシン生産能が付与された微生物を意味する。例えば、L-ロイシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物とは、天然型微生物自体またはロイシン生産機構と関連した外部遺伝子が挿入されたり内在的遺伝子の活性を強化させたり不活性させて向上したL-ロイシン生産能を有するようになったコリネバクテリウム属微生物を意味する。
【0076】
前記微生物は、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物であり得る。
【0077】
前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)、コリネバクテリウム・アセトグルタミクム(Corynebacterium acetoglutamicum)、コリネバクテリウム・アルカノリティクム(Corynebacterium alkanolyticum)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)、コリネバクテリウム・メラセコーラ(Corynebacterium melassecola)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、および/または、コリネバクテリウム・ハーキュリス(Corynebacterium herculis)などであり得る。
【0078】
前記微生物(または組換え細胞)は、形質転換を通じて人工的に製造されたり、または自然に発生するものを全て含むことができる。例えば、前記微生物(または組換え細胞)は、一具体例による変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたはこれを含むベクターに形質転換されたものであり得る。
【0079】
本明細書において、「形質転換」は、遺伝子またはポリヌクレオチドを宿主細胞内に導入して宿主細胞内で発現させることができるようにすることであり、形質転換された遺伝子またはポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現されることができれば宿主細胞の染色体内挿入または染色体外に位置しているものを制限なしに含まれ得る。
【0080】
本明細書において、形質転換させる方法は、遺伝子を細胞内に導入する方法であれば制限なしに含まれ、宿主細胞により当該分野で公知となったとおり適した標準技術を選択して行うことができる。例えば、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO)沈澱、塩化カルシウム(CaCl)沈澱、マイクロインジェクション法(microinjection)、レトロウイルス感染(retroviral infection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、陽イオンリポゾーム法、および/または酢酸リチウム-DMSO法などを使用することができるが、これに限定されない。
【0081】
前記微生物(または組換え細胞)は、一具体例によるポリヌクレオチド配列が染色体内に統合されたものであり得る。相同組換えは、一例によるベクターの使用と共に、ベクターにより細胞内に伝達される一例によるポリヌクレオチドに対する染色体上のDNA断片の交換を許容する。ベクターの環状DNA分子および染色体上の標的DNAの間の効率的な組換えのために、一例によるポリヌクレオチドを含有する交換されるDNA領域には、末端に標的部位に相同性であるヌクレオチド配列が提供され;これらはベクターの統合およびDNAの交換部位を決定する。例えば、一具体例によるポリヌクレオチドは、染色体内で天然遺伝子部位で天然leuA遺伝子に対して交換されるか、追加の遺伝子部位に統合され得る。
【0082】
他の態様は、前記微生物(または組換え細胞)を培地で培養する段階を含む、L-ロイシンの生産方法を提供することができる。
【0083】
一例において、前記方法は、培養された培地または微生物(または組換え細胞)でL-ロイシンを回収する工程を追加的に含むことができる。
【0084】
前記培養は、当業界に知られた適切な培地と培養条件により行われ得、適切な方式で特定菌株の要件を充足しなければならず、通常の技術者により適切に改変され得る。
【0085】
前記培養方法は、例えば、回分式培養(batch culture)、連続式培養(continuous culture)、流加式培養(fed-batch culture)、またはこれらの組み合わせの培養を含むことができるが、これに限定されるのではない。
【0086】
微生物(または組換え細胞)を培養するための培地は、公知の文献(Manual of Methods for General Bacteriology. American Society for Bacteriology. Washington D.C., USA, 1981)を参照することができるが、これに限定されるのではない。
【0087】
一具体例によれば、培地に多様な炭素源、窒素源および微量元素成分を含むことができ、前記組換え細胞を適当な炭素源、窒素源、アミノ酸、ビタミンなどを含有する通常の培地内で温度および/またはpHなどを調節しながら培養することができる。使用され得る炭素源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、および/またはセルロースのような糖および炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ひまし油、および/またはココナッツ油などのような油類および脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、および/またはリノレン酸のような脂肪酸、グリセロール、および/またはエタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸が含まれる。これら物質は、個別的にまたは混合物として使用することができるが、これに限定されるのではない。使用することができる窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、とうもろこし浸漬液、大豆粉および尿素または無機化合物、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムが含まれ得る。窒素源も個別的にまたは混合物として使用することができるが、これに限定されるのではない。使用され得るリンの供給源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは相応するナトリウム-含有塩が含まれ得、これに限定されるのではない。また、培地は、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含有することができ、これに限定されるのではない。その他に、アミノ酸およびビタミンのような必須成長物質が含まれ得る。また培地に適切な前駆体を使用することができる。前記培地または個別成分は、培養過程で培養液に適切な方式により回分式でまたは連続式で添加され得るが、これに限定されるのではない。
【0088】
一具体例によれば、培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸および硫酸のような化合物を微生物培養液に適切な方式で添加して培養液のpHを調整することができる。また、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。追加的に、培養液の好気状態を維持するために、培養液内に酸素または酸素-含有気体(例、空気)を注入することができる。培養液の温度は20℃~45℃、25℃~40℃、または30℃~37℃であり得る。培養期間は有用物質(例えば、L-ロイシン)が望む生産量で得られる時まで続けることができ、例えば、10~160時間であり得る。
【0089】
前記培養された微生物(または組換え細胞)および/または培養培地でL-ロイシンを分離または回収する工程は、培養方法により当該分野における公知の適した方法を利用して行うことができる。例えば、遠心分離、ろ過、抽出、噴霧、乾燥、蒸発、沈澱、結晶化、電気泳動、分別溶解(例えばアンモニウムスルフェート沈澱)、および/またはクロマトグラフィー(例えばイオン交換、親和性、疎水性およびサイズ排除)などの方法を使用することができるが、これに制限されない。前記培養培地は、微生物(または組換え細胞)を培養した培地を意味する。
【0090】
一具体例によれば、L-ロイシンを分離または回収する工程は、培養物を低速遠心分離してバイオマスを除去して得られた上澄液をイオン交換クロマトグラフィーを通じて分離することができる。
【0091】
前記L-ロイシンの生産方法は、L-ロイシンを精製する工程を追加的に含むことができる。
【0092】
他の態様は、本出願の変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、および本出願の微生物(例えば、本出願の変異型ポリペプチド、本出願のポリヌクレオチド、および/または本出願のベクターを含む微生物(組換え細胞))からなる群より選択された1種以上を含む、L-ロイシン生産用組成物を提供することができる。
【0093】
本出願の組成物は、アミノ酸生産用組成物に通常使用される任意の適した賦形剤を追加的に含むことができ、このような賦形剤は、例えば保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤または等張化剤などであり得るが、これに限定されるのではない。
【0094】
本出願の組成物において、変異型ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、微生物、および培地などは前記他の態様で記載したとおりである。
【0095】
また他の態様は、本出願の変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、および/または本出願の微生物(例えば、本出願の変異型ポリペプチド、本出願のポリヌクレオチド、および/または本出願のベクターを含む微生物(組換え細胞))のL-ロイシンの生産に使用するための用途を提供することができる。
【0096】
本出願の用途において、変異型ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、微生物、および培地などは前記他の態様で記載したとおりである。
【発明の効果】
【0097】
一具体例による変異型ポリペプチドを使用するとL-ロイシンを高収率で生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0098】
本発明は、下記の実施例を挙げてより詳細に説明するが、下記の実施例の権利範囲が限定される意図ではない。
【0099】
実施例1.変異されたイソプロピルマレートシンターゼをコードするDNAライブラリーの作製
【0100】
実施例1-1.leuAを含むベクターの作製
イソプロピルマレートシンターゼ活性を有する変異体をコードするleuA変異ライブラリーを作製するために、まずleuAを含む組換えベクターを作製した。
【0101】
野生型コリネバクテリウム・グルタミクム由来のLeuA(2-isopropylmalate synthase)蛋白質(配列番号1、Uniprot accession code:P42455)をコードするleuA遺伝子(配列番号2)を増幅するために、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032野生株の染色体を鋳型として配列番号7および8のプライマーを利用して94℃で1分間変性、58℃で30秒間結合、72℃で1分間Pfu DNA重合酵素で重合する条件を25回繰り返すPCR方法を行った。使用したプライマーの具体的な配列は表1に記載した。
【0102】
増幅されたPCR産物をTOPO Cloning Kit(Invitrogen)を利用して、製造会社のマニュアルにより、大腸菌ベクターpCR2.1にクローニングして「pCR-leuA」を得た。
【0103】
【表1】
【0104】
実施例1-2.leuA変異ライブラリーの作製
前記実施例1-1で作製されたベクターを基盤としてerror-prone PCR kit(clontech Diversify(登録商標)PCR Random Mutagenesis Kit)を利用してleuA変異ライブラリーを作製した。1000bp当たり0~3個の変異が発生し得る条件で、pCR-leuAベクターを鋳型として配列番号7および配列番号8のプライマーを用いてPCR反応を行った。具体的に、1000bp当たり0~3個の変異が発生する条件として、94℃で30秒間プレヒーティング(pre-heating)後、94℃で30秒、68℃で1分30秒の過程を25回(cycle)繰り返してPCR反応を行った。得られたPCR産物をメガプライマー(megaprimer)(50~125ng)として95℃で50秒、60℃で50秒、68℃で12分の過程を25回繰り返してPCR反応を行った後、DpnI処理し、DpnIが処理されたPCR産物を大腸菌DH5αにヒートショック法を通じて形質転換してカナマイシン(25mg/L)が含まれているLB固体培地に塗抹した。形質転換されたコロニー20種を選別した後、プラスミドを獲得して塩基配列を分析した結果、2mutations/kb頻度に互いに異なる位置に変異が導入されたことを確認した。約20,000個の形質転換された大腸菌コロニーを取ってプラスミドを抽出し、これを「pTOPO-leuA-ライブラリー」と命名した。
【0105】
実施例2.作製したライブラリーの評価および変異体の選別
【0106】
実施例2-1.L-ロイシン生産量が増加された変異菌株の選別
前記実施例1-2で作製されたpTOPO-leuA-ライブラリーを野生型コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032に電気穿孔法で形質転換し、形質転換された菌株をカナマイシン25mg/Lを含有する栄養培地(表2)に塗抹して変異遺伝子が挿入された菌株10,000個のコロニーを選別した。選別された各コロニーをATCC13032/pTOPO_leuA(mt)1~ATCC13032/pTOPO_leuA(mt)10,000と命名した。確保された10,000個のコロニー中のL-ロイシン生産量が増加されたコロニーを確認するためにそれぞれのコロニーに対して下記のような方法で発酵力価評価を行った。
【0107】
【表2】
【0108】
加圧殺菌した生産培地(表2)25mlに25μg/mlのカナマイシンを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに各コロニーを白金耳を利用して接種した後、30℃で60時間200rpmで振とう培養した。培養終了後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、SHIMAZDU LC20A)を利用した方法によりL-ロイシン生産量を測定した。確保された10,000個のコロニー中の野生型コリネバクテリウム・グルタミクム菌株(ATCC13032)に比べてL-ロイシン生産能が最も向上した菌株(ATCC13032/pTOPO_leuA(mt)5306)1種を選別した。選別された菌株(ATCC13032/pTOPO_leuA(mt)5306)で生産されたL-ロイシンの濃度は下表3のとおりである。
【0109】
【表3】
【0110】
前記表3に示されているように、leuA遺伝子に変異があるコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032/pTOPO_leuA(mt)5306菌株は、親菌株であるコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032に比べてL-ロイシン生産能が約1.5倍向上した。
【0111】
実施例2-2.L-ロイシン生産量が増加された変異菌株の変異確認
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032/pTOPO_leuA(mt)5306菌株のleuA遺伝子変異を確認するために、表4に記載された配列番号9と配列番号10のプライマーを利用してATCC13032/pTOPO_leuA(mt)5306菌株のDNAを鋳型として94℃で5分間変性後、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分30秒を30回繰り返した後、72℃で5分の条件でPCRを行ってDNAシーケンシングを行った。
【0112】
【表4】
【0113】
シーケンシング結果、ATCC13032/pTOPO_leuA(mt)5306菌株は、leuA遺伝子の739番目、740番目ヌクレオチドであるCCがTGに置換されていることを確認した。これはLeuA蛋白質の247番目(翻訳開始コドンを35個後に表記してLeuA蛋白質が581個のアミノ酸からなるもの(配列番号16)で公知の文献に基づく場合は212番目;以下、247番目でだけ表記)アミノ酸であるプロリンがシステインに置換された変異体(以下、P247C)をコードできることを意味する。前記LeuA変異体(P247C)のアミノ酸配列およびこれをコードするleuA変異体の塩基配列は、それぞれ配列番号3および配列番号4のとおりである。
以下、実施例では、前記変異(P247C)がコリネバクテリウム属微生物のL-ロイシン生産量に影響を与えるか否かを確認しようとした。
【0114】
実施例3.選別された変異菌株のL-ロイシン生産能の確認
【0115】
実施例3-1.leuA変異を含む挿入ベクターの作製
本実施例では部位指定突然変異生成(Site directed mutagenesis)方法を用いて選別された変異(P247C)を菌株内に導入するために、挿入用ベクターを作製しようとした。コリネバクテリウム・グルタミクム野生型(ATCC13032)の染色体を鋳型として配列番号11および12のプライマーと配列番号13および14のプライマー対を利用してPCRを行った。具体的に、94℃で5分間変性後、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分30秒を30回繰り返した後、72℃で5分の条件でPCRを行った。使用したプライマーの具体的な配列は表5に記載した。
【0116】
【表5】
【0117】
その結果で得られたPCR産物をSmaI制限酵素で切断させた線状のpDZベクターとIn-Fusion酵素を利用してDNA断片間の末端15baseの相同配列をfusionさせてクローニングしてLeuAの247番目アミノ酸であるプロリン(Pro)をシステイン(Cys)に置換するベクター「pDZ-leuA(P247C)」を作製した。
【0118】
実施例3-2.ATCC13032菌株内leuA遺伝子に変異導入
前記実施例3-1で作製したpDZ-leuA(P247C)ベクターをATCC13032に電気穿孔法で形質転換し、カナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有する培地で相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株を選別した。選別された1次菌株は再び2次交差(cross-over)を経て、leuA遺伝子に変異が導入された菌株を選定した。最終的に形質転換された菌株のleuA遺伝子変異導入の有無は配列番号9と配列番号15のプライマーを利用してPCR(94℃で5分後、94℃で30秒/55℃で30秒/72℃で90秒の30回反復、72℃で5分)行った後、塩基配列分析を通じて確認した。塩基配列分析の結果、菌株染色体内leuA遺伝子の739番目、740番目ヌクレオチドであるCCがTGに置換されて、247番目アミノ酸であるプロリン(Pro)がシステイン(Cys)に置換されたLeuAをコードするleuA変異が菌株内に導入されたことを確認した。作製された菌株は「ATCC13032_leuA_P247C」と命名した。使用したプライマーの具体的な配列は表4および表6に記載した。
【0119】
【表6】
【0120】
実施例3-3.変異菌株のL-ロイシン生産能の評価
前記実施例3-2で作製されたATCC13032_leuA_P247C菌株のL-ロイシン生産能を評価するために、前記実施例2の方法と類似に、フラスコ発酵力価評価を行った。生産培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに親菌株であるコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032およびATCC13032_leuA_P247Cをそれぞれ1白金耳ずつ接種した後、30℃で60時間200rpmで振とう培養してL-ロイシンを生産した。培養終了後、HPLCでL-ロイシンの生産量を測定して、各菌株に対する培養液中のL-ロイシン濃度は下記表7に記載した。
【0121】
【表7】
【0122】
前記表7に示されているように、ATCC13032_leuA_P247Cは、親菌株であるコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032に比べてL-ロイシンの収率が約1.55倍向上した。
【0123】
実施例4.ロイシン生産変異菌株でロイシン生産能の評価
コリネバクテリウム属野生型の菌株は、L-ロイシンを微量生産するため、ATCC13032由来のロイシン生産菌株を作製し、前記実施例2で選別した変異(P247C)を導入してL-ロイシン生産能を確認した。具体的な実験は次のとおりである。
【0124】
実施例4-1.L-ロイシン生産菌株(CJL-8100菌注)の製造
高濃度のL-ロイシン生産のための菌株として(1)leuA遺伝子の1673番目ヌクレオチドであるGがAに置換されてLeuA蛋白質の558番目アミノ酸であるアルギニンがヒスチジンに置換される変異(R558H)と(2)leuA遺伝子の1682番目、1683番目ヌクレオチドであるGCがATに置換されて561番目アミノ酸であるグリシンがアスパラギン酸に置換される変異(G561D)を含むATCC13032由来の菌株を製造した。
具体的に前記のleuA遺伝子変異を含むpDZ-leuA(R558H、G561D)ベクター(大韓民国公開特許第10-2018-0077008号)をコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032に電気穿孔法で形質転換し、カナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有する培地で相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株を選別した。選別された1次菌株は再び2次交差(cross-over)を経て、leuA遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的に形質転換された菌株の変異導入の有無は配列番号7と配列番号13のプライマーを利用してPCR(94℃で5分後、94℃で30秒/55℃で30秒/72℃で90秒の30回反復、72℃で5分)を行い、塩基配列を分析してR558H、G561D変異が導入されたことを確認した。使用したプライマーの具体的な配列は表1および表5に記載した。pDZ-leuA(R558H、G561D)ベクターに形質転換されたATCC13032_leuA_(R558H、G561D)菌株を「CJL-8100」と命名した。
【0125】
実施例4-2.leuA変異を含む挿入ベクターの作製
本実施例ではLeuAに2個の変異(R558H、G561D)が導入されたL-ロイシン生産菌株であるCJL-8100に前記実施例2で選別された変異(P247C)を導入するために挿入用ベクターを作製しようとした。
CJL-8100菌株の染色体を鋳型として配列番号9および10のプライマー、配列番号11および12のプライマー対を利用してPCRを行った。PCRは、94℃で5分間変性後、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分30秒を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。その結果で得られたPCR産物をSmaI制限酵素で切断させた線状のpDZベクターとIn-Fusion酵素を利用してDNA断片間の末端15baseの相同配列をfusionさせてクローニングして、野生型菌株のLeuAアミノ酸配列で558番目アミノ酸であるアルギニンがヒスチジンに置換され、561番目アミノ酸であるグリシンがアスパラギン酸に置換されたLeuA変異体をコードするleuA変異を含み、LeuAの247番目アミノ酸であるプロリン(Pro)をシステイン(Cys)に置換するベクターpDZ-leuA(P247C、R558H、G561D)を作製した。
【0126】
実施例4-3.CLJ-8100菌株内LeuA変異体(P247C)の導入および評価
L-ロイシン生産菌株であるCJL-8100を前記実施例4-2で作製したpDZ-leuA(P247C、R558H、G561D)ベクターに形質転換し、相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有する培地で選別した。選別された1次菌株は再び2次交差(cross-over)を経て、目標遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的に形質転換された菌株のleuA遺伝子変異導入の有無は配列番号9と配列番号15のプライマーを利用してPCR(94℃で5分後、94℃で30秒/55℃で30秒/72℃で90秒の30回反復、72℃で5分)を行った後、塩基配列を分析した。塩基配列分析の結果、菌株染色体内leuA遺伝子の1673番目ヌクレオチドであるGがAに置換され、1682番目、1683番目ヌクレオチドであるGCがATに置換され、739番目、740番目ヌクレオチドであるCCがTGに置換されてLeuA蛋白質の558番目アミノ酸であるアルギニンがヒスチジンに置換され、561番目アミノ酸であるグリシンがアスパラギン酸に置換され、247番目アミノ酸であるプロリン(Pro)がシステイン(Cys)に置換されたLeuA変異体(P247C、R558H、G561D)をコードするleuA変異が菌株内に導入されたことを確認した。作製されたCJL8100_leuA_P247Cを「CA13-8105」と命名し、ブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganisms、KCCM)に2020年4月29日付で寄託して寄託番号KCCM12709Pが付与された。前記総3種の変異を含むLeuA変異体(P247C、R558H、G561D)のアミノ酸配列およびこれをコードするleuA変異体の塩基配列は、それぞれ配列番号5および配列番号6のとおりである。
【0127】
ATCC13032、作製されたCJL-8100、およびCA13-8105菌株のL-ロイシンの生産能を評価した。具体的に、実施例2-2のような方式でフラスコ培養を進行し、培養終了後、HPLCを利用して、親菌株および変異菌株のL-ロイシン生産量を測定してその結果を表8に記載した。
【0128】
【表8】
【0129】
前記表8に示されているように、L-ロイシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミクムCJL8100は、親菌株であるATCC13032に比べてL-ロイシン生産能が約130%向上した。CJL8100菌株内leuA_P247C変異を追加的に導入したCA13-8105菌株は、親菌株であるCJL8100に比べてL-ロイシン生産能が約150%向上した。前記結果を通じて、LeuA蛋白質のアミノ酸配列のうち、前記247番目位置のアミノ酸がL-ロイシン生産活性に重要な位置であることを確認できる。
【0130】
実施例4-4.LeuA変異体が導入された菌株でのイソプロピルマレートシンターゼの活性測定
前記実施例4-3で作製したL-ロイシン生産菌株であるCJL-8100およびCA13-8105でイソプロピルマレートシンターゼの活性を測定するために、下記のような方法で実験を行った。
【0131】
それぞれの種培地(表2の生産培地)25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに前記菌株(CJL-8100、CA13-8105)および野生型ATCC13032をそれぞれ1白金耳接種した後、30℃で16時間200rpmで振とう培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して上澄液は捨て、ペレットを溶菌緩衝溶液で洗浄および混濁してビーズ式破砕機で細胞を破砕した。溶菌液の蛋白質定量はブラッドフォード法に従い、100μg/mlの蛋白質が含まれている溶菌液を利用した。この時、生成されるCoAを利用した還元によりDTNB(5,5’-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸))、エルマン(Ellman)試薬から形成されたチオニトロベンゾエート(TNB)による412nmでの吸光変化を測定してイソプロピルマレートシンターゼ酵素の活性を測定した。
【0132】
各菌株でのイソプロピルマレートシンターゼの活性測定結果は下記表9のとおりである。
【0133】
【表9】
【0134】
次に、前記酵素のロイシンに対するフィードバック阻害に対する解除程度を確認するために、ロイシンが2g/l添加された条件で100μg/mlの蛋白質が含まれている溶菌液を利用した時に生成されるCoAを測定することによってイソプロピルマレートシンターゼの活性を測定した。各菌株でのイソプロピルマレートシンターゼの活性測定結果は下記表10のとおりである。
【0135】
【表10】
【0136】
前記表9および10に示されているように、LeuA変異体発現ベクターが形質転換されたL-ロイシン生産菌株CJL-8100およびCA13-8105は、対照群であるコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032に比べてイソプロピルマレートシンターゼの活性がそれぞれ1.13倍、1.21倍向上することを確認した。また、前記L-ロイシン生産菌株は、ロイシンが2g/l添加された条件でもイソプロピルマレートシンターゼの酵素活性をそれぞれ78%、88%に維持することを確認してロイシンによるフィードバック阻害が解除されたことを確認した。
【0137】
以上の説明から、本出願が属する技術分野の当業者は、本出願がその技術的な思想や必須的特徴を変更することなく、他の具体的な形態に実施可能であることを理解できるはずである。これと関連して、以上で記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。本出願の範囲は、前記詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲の意味および範囲、そしてその等価概念から導き出される全ての変更または改変された形態が本出願の範囲に含まれると解釈されなければならない。
【0138】
[受託番号]
寄託機関名:韓国微生物保存センター
受託番号:KCCM12709P
受託日付:20200429
【0139】
【配列表】
2023521189000001.app
【国際調査報告】