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特表2023-521294アルベリン、4-ヒドロキシアルベリン、それらの誘導体、又はそれらの薬学的に許容される塩を含む、筋力低下関連疾患を予防又は治療するための医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-24
(54)【発明の名称】アルベリン、4-ヒドロキシアルベリン、それらの誘導体、又はそれらの薬学的に許容される塩を含む、筋力低下関連疾患を予防又は治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 211/27 20060101AFI20230517BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230517BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20230517BHJP
   A61K 31/136 20060101ALI20230517BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20230517BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230517BHJP
   C07C 215/54 20060101ALI20230517BHJP
   C07C 217/62 20060101ALI20230517BHJP
   C07C 233/43 20060101ALI20230517BHJP
   C07C 275/40 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C07C211/27 CSP
A61P21/00
A61P21/04
A61K31/136
A61K31/137
A23L33/10
C07C215/54
C07C217/62
C07C233/43
C07C275/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555638
(86)(22)【出願日】2021-04-09
(85)【翻訳文提出日】2022-11-11
(86)【国際出願番号】 KR2021004523
(87)【国際公開番号】W WO2021206513
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】10-2020-0043481
(32)【優先日】2020-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0160258
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
3.JAVA
(71)【出願人】
【識別番号】522363911
【氏名又は名称】アヴェンティ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AVENTI INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】クウォン, キ‐ソン
(72)【発明者】
【氏名】リー, ヨンラン
(72)【発明者】
【氏名】ユン, ジョン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】リー, スン‐ミン
(72)【発明者】
【氏名】チョン, チャン フン
(72)【発明者】
【氏名】ハ, タイ ファン
(72)【発明者】
【氏名】チョン, ド ユン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4B018MD18
4B018ME14
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206FA08
4C206FA09
4C206FA11
4C206FA31
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA94
4H006AA01
4H006AB21
4H006BJ50
4H006BM30
4H006BM71
4H006BM73
4H006BN30
4H006BP30
4H006BU36
4H006BV36
(57)【要約】
本発明は、アルベリン、4-ヒドロキシアルベリン、それらの誘導体、又はそれらの薬学的に許容される塩を含む、筋力低下関連疾患を予防又は治療するための医薬組成物に関する。筋芽細胞を本発明のアルベリン、4-ヒドロキシアルベリン、それらの誘導体、又はそれらの薬学的に許容される塩で処理すると、筋管への分化が促進される。したがって、本発明によるアルベリン、4-ヒドロキシアルベリン、それらの誘導体、又はそれらの薬学的に許容される塩は、筋芽細胞の分化の促進及び筋力低下関連疾患の予防又は治療に有効に使用することができる。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩。
[式1]
【化1】

(式1中、
、R、R及びRは、それぞれ独立的に、水素、ハロゲン、-CF、ヒドロキシ、シアノ、C1~10アルキル、C1~10アルコキシ、C1~4ハロアルキル、C1~10ハロアルコキシ、C2~4アルケニル、C2~4アルキニル、-NHR、-NHC(=O)R、-NHC(=O)NHR、アミノ-C1~10アルコキシ、C1~10アルケニルオキシ、又はC6~10アリール-C1~10アルコキシであり、
は、C1~10アルキル、C2~12アルケニル、C1~4ハロアルキル、C2~4アルケニル、又はC2-4アルキニルであり、
~Rは、それぞれ独立的に、水素、C1~6アルキル、C1~6アルコキシ、C1~4ハロアルキル、C2~4アルケニル、C2~4アルキニル、又はC6~10アリールであり;
n及びmは、それぞれ独立的に、1~10の整数である。)
【請求項2】
式1中、
、R、R及びRが、それぞれ独立的に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、C1~10アルキル、C1~10アルコキシ、C1~10ハロアルコキシ、-NHR、-NHC(=O)R、-NHC(=O)NHR、アミノ-C1~10アルコキシ、C1~10アルケニルオキシ、又はC6~10アリール-C1~10アルコキシであり、
が、C1~10アルキル又はC2~12アルケニルであり、
~Rが、それぞれ独立的に、水素、C1~6アルキル、C1~6アルコキシ、又はC6~10アリールであり;
n及びmが、それぞれ独立的に、1~7の整数である、
請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
式1中、
及びRが、それぞれ独立的に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、C1~10アルキル、C1~10アルコキシ、C1~10ハロアルコキシ、-NHR、アミノ-C1~10アルコキシ、C1~10アルケニルオキシ、又はC6~10アリール-C1~10アルコキシであり、
が、C1~10アルキルであり、
及びRが、それぞれ独立的に、水素、ヒドロキシ、C1~10アルコキシ、-NHR、-NHC(=O)R、又は-NHC(=O)NHRであり、
~Rが、それぞれ独立的に、水素、C1~4アルキル、C1~6アルコキシ、又はC6~10アリールであり;
n及びmが、それぞれ独立的に、1~5の整数である、
請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
式1中、
及びRが、それぞれ独立的に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、C1~6アルキル、C1~6アルコキシ、C1~6ハロアルコキシ、-NHR、アミノ-C1~10アルコキシ、C1~10アルケニルオキシ、又はC6~10アリール-C1~6アルコキシであり、
がC1~6アルキルであり、
が、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、C1~6アルコキシ、-NHR、-NHC(=O)R、又は-NHC(=O)NHRであり、
が水素であり、
が、水素又はC1~6アルコキシであり、
が、水素又はC1~6アルキルであり、
が、水素又はC6~10アリールであり;
n及びmが、それぞれ独立的に、1~3の整数である、
請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
式1中、n及びmがそれぞれ2であり、Rがエチルであり、R、R及びRが全て水素である場合、Rが水素又はヒドロキシである、請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
前記式1で表される化合物が、
1)4-(3-エチル(3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)アニリン;
2)N-エチル-3-(4-メトキシフェニル)-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン;
3)N-エチル-3-フェニル-N-(3-(p-トリル)プロピル)プロパン-1-アミン;
4)3-(3-(エチル(3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)フェノール;
5)N-メチル-3-フェニル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン;
6)4,4’-((エチルアザンジイル))ビス(プロパン-3,1-ジイル))ジフェノール;
7)4-(3-(メチル(3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)フェノール;
8)4-(3-((3-(4-(ベンジルオキシ)フェニル)プロピル)(エチル)アミノ)プロピル)アニリン;
9)N-(4-(3-((3-)4-(ベンジルオキシ)フェニル)プロピル)(エチル)アミノ)プロピル)フェニル)アセトアミド;
10)4-(3-(エチル(フェネチル)アミノ)プロピル)フェノール;
11)4-(3-(エチル(3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)-2-フルオロフェノール;
12)2-ブロモ-4-(3-(エチル(3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)フェノール;
13)1-(4-(3-((3-(4-(ベンジルオキシ)フェニル)プロピル)(エチル)アミノ)プロピル)フェニル)-3-フェニル尿素;
14)エチル(4-フェニルブチル)(3-フェニルプロピル)アミン;
15)エチルビス(4-フェニルブチル)アミン;
16)(4-フェニルブチル)(3-フェニルプロピル)プロピルアミン;
17)3-(4-ブトキシフェニル)-N-エチル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン;
18)3-(4-(ブト-3-エン-1-イルオキシ)フェニル)-N-エチル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン;
19)3-(4-(4-ブロモブトキシ)フェニル)-N-エチル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン;
20)4-(4-(3-(エチル(3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)フェノキシ)ブタン-1-アミン;
21)4-(3-(エチル(3-(4-メトキシフェニル)プロピル)アミノ)プロピル)-2-フルオロフェノール;
22)4-(3-((3-(4-(ベンジルオキシ)-3-フルオロフェニル)プロピル)(エチル)アミノ)プロピル)アニリン;
23)N-(4-(3-((3-(4-(ベンジルオキシ)-3-フルオロフェニル)プロピル)(エチル)アミノ)プロピル)フェニル)アセトアミド;
24)3-(4-(ベンジルオキシ)-3-フルオロフェニル)-N-メチル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン;
25)4-(3-(エチル(3-(p-トリル)プロピル)アミノ)プロピル)-2-フルオロフェノール;
26)N-エチル-3-フェニル-N-(3-(4-(3-フェニルプロピル)フェニル)プロピル)プロパン-1-アミン;
27)N-エチル-3-フェニル-N-(3-(4-((5-フェニルペンチル)オキシ)フェニル)プロピル)プロパン-1-アミン;
28)N-エチル-3-フェニル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン;及び
29)4-[3-[エチル(3-フェニルプロピル)アミノ]プロピル]フェノール
からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、筋力低下関連状態を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項8】
前記薬学的に許容される塩がクエン酸塩である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記筋力低下関連状態が、サルコペニア、筋萎縮症、筋ジストロフィー、又は悪液質である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、筋芽細胞の分化を促進するための組成物。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩で筋芽細胞をエクスビボで処理することを含む、筋芽細胞の分化を促進する方法。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩で筋芽細胞をエクスビボで処理して、筋芽細胞を分化させることを含む、筋管を産生する方法。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物又はその食品学的に許容される塩を含む、筋力低下関連状態を予防又は緩和するための食品組成物。
【請求項14】
前記筋力低下関連状態が、サルコペニア、筋萎縮症、筋ジストロフィー、又は悪液質である、請求項13に記載の食品組成物。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、筋力増強のための組成物。
【請求項16】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、筋力低下関連状態を予防又は治療する方法。
【請求項17】
筋力低下関連状態を予防又は治療するための、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項18】
筋力低下関連状態を予防又は治療するための医薬の調製のための、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、アルベリン、4-ヒドロキシアルベリン、それらの誘導体、又はそれらの薬学的に許容される塩を含む、筋力低下関連状態の予防又は治療用医薬組成物に関する。
【0002】
[背景技術]
筋力の低下を伴う疾患としては、加齢とともに進行するサルコペニア、及び遺伝子変異による筋繊維の壊死を伴う変性ミオパシーである筋ジストロフィーが挙げられる。
【0003】
サルコペニアは、加齢に伴う筋肉量の減少により、徐々に筋力が低下していく。サルコペニアは、筋肉量の減少だけでなく、筋繊維の種類の変化も伴って起こる。サルコペニアは、高齢期において見られる様々な老化現象及び機能障害の原因となる。筋ジストロフィーは、筋肉関連遺伝子の欠失又は変異により、筋繊維の壊死や変性を起こし、障害や死亡に至るものである。悪液質は、筋力の低下を特徴とする状態であり、がん患者に認められることが多い。がん患者では、代謝の亢進による骨格筋の過剰な異化により、筋肉量の減少及び筋力の低下が観察されることが多い。このような代謝異常は、最終的には食物摂取によっても回復しない段階に至るため、薬物治療等、より積極的な治療が必要となる。
【0004】
現在開発中のサルコペニア治療薬は、臨床試験において非常に限られた効果しか示さないことが報告されているため、現時点ではサルコペニアに対する決定的な薬剤候補はないと考えられている(Ju Yeon Kwak,Ki-Sun Kwon,Ann Geriatr Med Res.98-104,2019)。したがって、現時点では、身体運動及び栄養摂取による補助的な治療法のみが、安全且つ決定的な好結果をもたらす唯一の方法である。身体運動は、mTORC1活性化、酸化ストレス軽減、炎症軽減、ミトコンドリア産生の増加等、様々なメカニズムを通じて骨格筋に有益な影響を与えると考えられている(Jiayu Yinら,Theranostics,4019-4029,2019)。身体運動及び栄養摂取は、筋力、筋機能、筋肉量等の改善をもたらすが、その効果は限定的であり、身体障害のため運動できない、又は栄養吸収率の低い高齢者では利益を得るのが困難である。
【0005】
しかし、サルコペニアは様々な原因を持つ多因子性疾患であり、人種、年齢、性別等による筋肉量の差が大きいため、サルコペニアには一貫した診断基準がない。2019年、EWGSOPは、筋肉量、筋力、身体能力に基づいて、サルコペニアを、サルコペニア疑い、サルコペニア確定、重症サルコペニアにさらに分類した(AJ Cruz-Jentoftら,Age Ageing,601,2019)。サルコペニアの根底にある分子生物学的メカニズムは明確に理解されていないが、ミトコンドリアの融合・分裂不全、酸化ストレス、炎症、及び幹細胞の枯渇等がサルコペニアの原因と考えられている(Jessica Hiu-tung Loら,J Orthop Translat,38-52,2020)。
【0006】
サテライト細胞は、成人の筋肉に認められる幹細胞であり、損傷した骨格筋の再生に必要とされる。マウスでは、加齢に伴い、筋肉中のサテライト細胞の数が減少することがわかっている。ヒトでは、II型筋でサテライト細胞が減少することが観察されている。このようなサテライト細胞の数の減少は、サルコペニアの発症に寄与し、高齢動物において筋再生を失敗することと関係していると考えられる(Carlsonら,J Gerontol,B224-233,2001)。
【0007】
これまで、骨格筋の肥大及び再生能力に関する研究では、MyoD、Mef2、及びミオゲニン等の筋原性制御因子(MRF)による筋芽細胞の分化の制御が注目されてきた(Sabourin LA及びRudnicki MA.,Clin Genet.2000 Jan;57(1):16-25.)。薬物療法により筋芽細胞の分化能及び再生能を向上させると筋肥大が起こり、又は筋機能が向上するため、このようなアプローチを利用して加齢による筋機能の低下を解消する試みが多くなされている(Francesca Riuzziら、J Cachexia Sarcopenia Muscle,1255-1268,2018;Mary F.O’Leary,Sci Rep.12997,2017;Jin-A Kim 及び Seong Min Kim,BMC Complement Altern Med,287,2019)。すなわち、サテライト細胞の機能を向上させ、サテライト細胞のプールを増やすことは、サルコペニアの発症を抑制し、筋再生能力を向上させる戦略であり得る。したがって、筋芽細胞の分化を促進することができる物質の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ju Yeon Kwak,Ki-Sun Kwon, Ann Geriatr Med Res. 98-104, 2019
【非特許文献2】Jiayu Yin,Xiang Lu,Zhiyuan Qian,Weiting Xu及びXiang Zhou,Theranostics,4019-4029,2019
【非特許文献3】AJ Cruz-Jentoftら,Age Ageing,601,2019
【非特許文献4】Jessica Hiu-tung Lo,Kin PongU,TszlamYiu,J Orthop Translat,38-52,2020
【非特許文献5】Carlsonら,J Gerontol,B224-233,2001
【非特許文献6】Sabourin LA,Rudnicki MA.,Clin Genet.2000 Jan;57(1):16-25
【非特許文献7】Francesca Riuzzi,Guglielmo Sorci,Cataldo Arcuri,J Cachexia Sarcopenia Muscle,1255-1268,2018
【非特許文献8】Mary F.O’Leary,Sci Rep.12997,2017
【非特許文献9】Jin-A Kim,Seong Min Kim,BMC Complement Altern Med,287,2019
【0009】
[発明の開示]
[技術的課題]
本発明者らは、筋芽細胞の分化を促進することにより、筋肉量を増加させ、筋機能を効果的に回復させることができる物質を開発する努力をしてきた。その結果、本発明者らは、アルベリン、4-ヒドロキシアルベリン、それらの誘導体、及びそれらの薬学的に許容される塩が、筋芽細胞の分化を促進し、筋力を回復させることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
[課題の解決策]
前記課題を解決するために、本発明の一態様は、式1で表される化合物及びその薬学的に許容される塩を提供する。
【0011】
本発明の別の態様は、当該化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、筋力低下関連状態を予防又は治療するための医薬組成物を提供する。
【0012】
本発明の別の態様は、当該化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、エクスビボで筋芽細胞の分化を促進するための組成物を提供する。
【0013】
本発明の別の態様は、当該化合物又はその薬学的に許容される塩で筋芽細胞をエクスビボで処理することを含む、筋芽細胞の分化を促進する方法を提供する。
【0014】
本発明の別の態様は、当該化合物又はその薬学的に許容される塩で筋芽細胞をエクスビボで処理し、それによって筋芽細胞を分化させることを含む、筋管を調製する方法を提供する。
【0015】
本発明の別の態様は、式1で表される化合物又はその食品学的に許容される塩を含む、筋力低下関連状態を予防又は緩和するための食品組成物を提供する。
【0016】
本発明の別の態様は、当該化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、筋力増強のための組成物を提供する。
【0017】
本発明の別の態様は、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、筋力低下関連状態を予防又は治療する方法を提供する。
【0018】
本発明の別の態様は、筋力低下関連状態を予防又は治療するための、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0019】
本発明の別の態様は、筋力低下関連状態を予防又は治療するための医薬の調製のための、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0020】
[発明の有利な効果]
本発明のアルベリン、4-ヒドロキシアルベリン、それらの誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩は、筋芽細胞に投与された場合、筋芽細胞の筋管への分化を促進する。したがって、本発明のアルベリン、4-ヒドロキシアルベリン、それらの誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩は、筋芽細胞の分化を促進し、又は筋力低下関連状態を予防若しくは治療するのに有利に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、筋芽細胞をDMSO、インスリン、又はクエン酸アルベリンで処理することにより分化させた筋管の蛍光画像を示す。
図2図2は、筋芽細胞をDMSO、インスリン、又はクエン酸アルベリンで処理することにより分化した筋管のeMyHC蛍光染色部位を示す。
図3図3は、クエン酸アルベリンの筋力増強効果を確認するための動物を使用した実験スケジュールを示す。
図4図4は、投与したクエン酸アルベリンの濃度に応じたマウスの握力の測定値を示すグラフである。
図5図5は、通常群及び実験群におけるマウスの走行時間を示す。
図6図6は、通常群及び実験群のマウスが回転棒にしがみついた時間を示すグラフである。
図7図7は、通常群マウス及び実験群マウスから得られた腓腹筋(GA)及び前脛骨筋(TA)の筋肉量を示すグラフである。
図8図8は、クエン酸アルベリンの筋力増強効果を確認するための、サルコペニア誘発動物を使用した実験スケジュールを示す。
図9図9は、通常群、対照群、及び実験群のマウスの走行時間を示す。
図10図10は、通常群、対照群及び実験群のマウスから得られた腓腹筋(GA)及び前脛骨筋(TA)の筋肉量を示すグラフを示す。
図11図11は、筋芽細胞をDMSO、インスリン、クエン酸アルベリン、又は4-ヒドロキシアルベリン(4HA)で処理することにより分化させた筋管の蛍光染色画像を示す。
図12図12は、筋芽細胞をDMSO、インスリン、クエン酸アルベリン、又は4-ヒドロキシアルベリン(4HA)で処理することにより分化した筋管のeMyHC蛍光染色部位を示すグラフを示す。
図13図13は、クエン酸アルベリン(AC)又は4-ヒドロキシアルベリン(4HA)のがん細胞調整培地(CM)により萎縮が誘導された筋管の蛍光染色像を示す。
図14図14は、クエン酸アルベリン(AC)又は4-ヒドロキシアルベリン(4HA)のがん細胞調整培地(CM)により萎縮が誘導された筋管の直径を示すグラフである。
図15図15は、筋芽細胞をDMSO、アルベリン、及び27種類のアルベリン誘導体でそれぞれ処理することにより分化させた筋管の蛍光染色画像を示す。
図16図16は、筋芽細胞をDMSO、アルベリン、及び27種類のアルベリン誘導体でそれぞれ処理することにより分化させた筋管の面積を示すグラフを示す。
【0022】
[発明を実施するための最良の形態]
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の一態様は、下記式1で表される化合物及びその薬学的に許容される塩
[式1]
【化1】

(式1中、
、R、R及びRは、それぞれ独立的に、水素、ハロゲン、-CF、ヒドロキシ、シアノ、C1~10アルキル、C1~10アルコキシ、C1~4ハロアルキル、C1~10ハロアルコキシ、C2~4アルケニル、C2~4アルキニル、-NHR、-NHC(=O)R、-NHC(=O)NHR、アミノ-C1~10アルコキシ、C1~10アルケニルオキシ、又はC6~10アリール-C1~10アルコキシであり、
は、C1~10アルキル、C2~12アルケニル、C1~4ハロアルキル、C2~4アルケニル、又はC2-4アルキニルであり、
~Rは、それぞれ独立的に、水素、C1~6アルキル、C1~6アルコキシ、C1~4ハロアルキル、C2~4アルケニル、C2~4アルキニル、又はC6~10アリールであり;
n及びmは、それぞれ独立的に、1~10の整数である)
を提供する。
【0023】
本明細書で使用される場合、「ハロ」又は「ハロゲン」という用語は、特に示さない限り、F、Cl、Br、又はIを意味する
【0024】
「アルキル」という用語は、特に示さない限り、直鎖又は分岐鎖の飽和炭化水素残基を意味する。例えば、「C1~10アルキル」は、その骨格構造中に1~10個の炭素原子を有するアルキル基を意味する。特に、C1~10アルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、i-ペンチル、t-ペンチル、sec-ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル及びデシル等の基を挙げることができる。「アルコキシ」という用語は、特に示さない限り、上記で定義されたアルキル基が酸素原子を介して親化合物に結合した-O-アルキル構造を有する基を意味する。アルコキシ基のアルキル部分は、1~20個の炭素原子(すなわち、C~C20アルコキシ)、1~12個の炭素原子(すなわち、C~C12アルコキシ)、又は1~6個の炭素原子(すなわち、C~Cアルコキシ)を含有してもよい。適切なアルコキシ基の例としては、メトキシ(-O-CH又はOMe)、エトキシ(-OCHCH又はOEt)、t-ブトキシ(-O-C(CH又はO-tBu)等が挙げられる。
【0025】
「ハロアルキル」という用語は、1つ以上のハロゲン原子によって置換されたアルキル基を意味する。より具体的には、ハロアルキルは、2個以上の同じハロゲンで置換されたアルキル基であってもよく、2個以上の異なるハロゲンで置換されたアルキル基であってもよい。
【0026】
「ハロアルコキシ」という用語は、1つ以上のハロゲン原子で置換されたアルコキシ基を意味する。
【0027】
「アミノアルコキシ」という用語は、1つ以上のアミノ基で置換されたアルコキシ基を意味する。
【0028】
「アミノ」という用語は、「R」がそれぞれ独立的に、H、アルキル、アリール等の中から選択される-NRを意味し、典型的なアミノ基としては、-NH、-N(CH、-NH(CH)、-N(CHCH、-NH(CHCH)、-NH(置換又は非置換ベンジル)、-NH(置換又は非置換フェニル)等が挙げられるが、これらに限られない。
【0029】
「アルケニル」という用語は、1つ以上の不飽和部分、すなわち炭素-炭素、sp結合を有する、一級、二級、三級、又は環状炭素原子を有する炭化水素を意味する。例えば、アルケニル基は、2~20個の炭素原子(すなわち、C~C20アルケニル)、2~12個の炭素原子(すなわち、C~C12アルケニル)、又は2~6個の炭素原子(すなわち、C~Cアルケニル)を含有し得る。適切なアルケニル基の例としては、エチレン又はビニル(-CH=CH)、アリル(-CHCH=CH)、シクロペンテニル(-C)、及び5-ヘキセニル(-CHCHCHCHCH=CH)等が挙げられるが、これらに限定されない
【0030】
特に示されない限り、「アルケニルオキシ」という用語は、上記で定義したアルケニル基が酸素原子を介して親化合物に結合している-O-アルケニル構造を有する基を意味する。
【0031】
「アルキニル」という用語は、1つ以上の不飽和部分、すなわち炭素-炭素、三重結合を有する、一級、二級、三級、又は環状炭素原子を有する炭化水素を意味する。例えば、アルキニル基は、2~20個の炭素原子(すなわち、C~C20アルキニル)、2~12個の炭素原子(すなわち、C~C12アルキニル)、又は2~6個の炭素原子(すなわち、C~Cアルキニル)を含有し得る。適切なアルキニル基としては、例えば、アセチレン性(-C≡H)、プロパルギル(-CHC≡H)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
本明細書で使用される場合、「アリール」という用語は、親芳香族環系の6個の炭素原子から1個の水素原子を除去することによって得られる芳香族炭化水素基を意味する。例えば、アリール基は、6~20個の炭素原子、6~14個の炭素原子、又は6~12個の炭素原子を有していてもよい。
【0033】
本明細書で使用される場合、「置換」という用語は、分子構造中の水素原子を置換基で置換することにより、所定の原子の原子価を超えることなく、その置換から化学的に安定な化合物となることを意味する。例えば、「基Aが置換基Bで置換されている」とは、基Aの骨格を構成する原子すなわち炭素に結合している水素原子が置換基Bで置換されることにより、基Aと置換基Bとの間に共有結合が形成されていることを意味し得る。
【0034】
一例によれば、式1において、R、R、R及びRは、それぞれ独立的に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、C1~10アルキル、C1~10アルコキシ、C1~10ハロアルコキシ、-NHR、-NHC(=O)R、-NHC(=O)NHR、アミノC1~10アルコキシ、C1~10アルケニルオキシ又はC6~10アリール-C1~10アルコキシであってもよく、RはC1~10アルキル又はC2~12アルケニルであってもよく、R~Rは、それぞれ独立的に、水素、C1~6アルキル、C1~6アルコキシ、又はC6~10アリールであってもよく;n及びmは、それぞれ独立的に、1~7の整数であってもよい。
【0035】
一例によれば、式1において、R及びRは、それぞれ独立的に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、C1~10アルキル、C1~10アルコキシ、C1~10ハロアルコキシ、-NHR、アミノC1~10アルコキシ、C1~10アルケニルオキシ又はC6~10アリール-C1~10アルコキシであってもよく、RはC1~10アルキルであってもよく、R及びRは、それぞれ独立的に、水素、ヒドロキシ、-NHR、-NHC(=O)NHR、又は-NHC(=O)NHRであってもよく、R~Rは、それぞれ独立的に、水素、C1~4アルキル、C1~6アルコキシ、又はC6~10アリールであってもよく;n及びmは、それぞれ独立的に、1~5の整数であってもよい。
【0036】
別の例によれば、式1において、R及びRは、それぞれ独立的に、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、C1~6アルキル、C1~6アルコキシ、C1~6ハロアルコキシ、-NHR、アミノC1~10アルコキシ、C1~10アルケニルオキシ又はC6~10アリール-C1~6アルコキシであってもよく、RはC1~6アルキルであってもよく、Rは、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、-NHR、-NHC(=O)NHR、又は-NHC(=O)NHRであってもよく、Rは、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、-NHR、-NHC(=O)NHR、又は-NHC(=O)NHRであってもよく、Rは水素であってもよく、Rは、水素又はC1~6アルコキシであってもよく、Rは、水素又はC1~6アルキルであってもよく、Rは、水素又はC6~10アリールであってもよく、n及びmは、それぞれ独立的に、1~3の整数であってもよい。
【0037】
別の例によれば、式1において、n及びmがそれぞれ2である場合、Rはエチルであり、R、R、及びRはそれぞれ水素であり、Rは水素又はヒドロキシである。この場合、この例は、アルベリン又は4-ヒドロキシアルベリンであり得る。
【0038】
特に、アルベリンは下記式2で表される構造を有する。
[式2]
【化2】

ここで、アルベリンは、n及びmがそれぞれ2であり、Rがエチルであり、R、R、R及びRがいずれも水素である場合の式1の化合物に相当する。
【0039】
本明細書で使用される場合、「アルベリン」という用語は、N-エチル-3-フェニル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミンのIUPAC名を有し、C2027Nの化学式を有し、分子量が281.44g/molである化合物を意味する。アルベリンは一般に胃腸障害に用いられる薬剤として知られているが、筋芽細胞の分化との関係についてはほとんど知られていない。
【0040】
また、4-ヒドロキシアルベリンは、アルベリンの代謝物であり、4-ヒドロキシアルベリンは、下記式3の構造を有する。
[式3]
【化3】

ここで、4-ヒドロキシアルベリンは、n及びmがそれぞれ2であり、Rがエチルであり、R、R、R及びRのうち、3つが水素であり、1つがヒドロキシである場合の式1の化合物に相当する。特に、特に、R、R、R及びRのうち、3つが水素であり、1つがヒドロキシである場合としては、以下の場合を挙げることができる:1)R、R及びRがそれぞれ水素であり、Rがヒドロキシである場合;2)R、R及びRがそれぞれ水素であり、Rがヒドロキシである場合;iii)R、R及びRがそれぞれ水素であり、Rがヒドロキシである場合、並びにiv)R、R及びRがそれぞれ水素であり、Rがヒドロキシの場合である
特定の例によれば、式1で表される化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる:
1)4-(3-エチル(3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)アニリン;
2)N-エチル-3-(4-メトキシフェニル)-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン;
3)N-エチル-3-フェニル-N-(3-(p-トリル)プロピル)プロパン-1-アミン;
4)3-(3-(エチル(3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)フェノール;
5)N-メチル-3-フェニル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン;
6)4,4’-((エチルアザンジイル))ビス(プロパン-3,1-ジイル))ジフェノール;
7)4-(3-(メチル(3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)フェノール;
8)4-(3-((3-(4-(ベンジルオキシ)フェニル)プロピル)(エチル)アミノ)プロピル)アニリン;
9)N-(4-(3-((3-)4-(ベンジルオキシ)フェニル)プロピル)(エチル)アミノ)プロピル)フェニル)アセトアミド;
10)4-(3-(エチル(フェネチル)アミノ)プロピル)フェノール;
11)4-(3-(エチル(3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)-2-フルオロフェノール;
12)2-ブロモ-4-(3-(エチル(3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)フェノール;
13)1-(4-(3-((3-(4-(ベンジルオキシ)フェニル)プロピル)(エチル)アミノ)プロピル)フェニル)-3-フェニル尿素;
14)エチル(4-フェニルブチル)(3-フェニルプロピル)アミン;
15)エチルビス(4-フェニルブチル)アミン;
16)(4-フェニルブチル)(3-フェニルプロピル)プロピルアミン;
17)3-(4-ブトキシフェニル)-N-エチル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン;
18)3-(4-(ブト-3-エン-1-イルオキシ)フェニル)-N-エチル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン;
19)3-(4-(4-ブロモブトキシ)フェニル)-N-エチル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン;
20)4-(4-(3-(エチル(3-フェニルプロピル)アミノ)プロピル)フェノキシ)ブタン-1-アミン;
21)4-(3-(エチル(3-(4-メトキシフェニル)プロピル)アミノ)プロピル)-2-フルオロフェノール;
22)4-(3-((3-(4-(ベンジルオキシ)-3-フルオロフェニル)プロピル)(エチル)アミノ)プロピル)アニリン;
23)N-(4-(3-((3-(4-(ベンジルオキシ)-3-フルオロフェニル)プロピル)(エチル)アミノ)プロピル)フェニル)アセトアミド;
24)3-(4-(ベンジルオキシ)-3-フルオロフェニル)-N-メチル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン;
25)4-(3-(エチル(3-(p-トリル)プロピル)アミノ)プロピル)-2-フルオロフェノール;
26)N-エチル-3-フェニル-N-(3-(4-(3-フェニルプロピル)フェニル)プロピル)プロパン-1-アミン;
27)N-エチル-3-フェニル-N-(3-(4-((5-フェニルペンチル)オキシ)フェニル)プロピル)プロパン-1-アミン;
28)N-エチル-3-フェニル-N-(3-フェニルプロピル)プロパン-1-アミン(すなわち、アルベリン);及び
29)4-[3-[エチル(3-フェニルプロピル)アミノ]プロピル]フェノール(すなわち、4-ヒドロキシアルベリン)。
【0041】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される塩」という用語は、当該技術分野で公知の一般的な方法に従って調製される塩を意味し、そのような調製方法は当業者に公知である。特に、薬学的に許容される塩としては、以下の無機酸、有機酸及び塩基から誘導される薬学的又は生理学的に許容される塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好適なそのような酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン-p-スルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸等を挙げることができる。適切な塩基から誘導される塩としては、ナトリウム又はカリウム等のアルカリ金属、及びマグネシウム等のアルカリ土類金属を挙げることができる。特に、薬学的に許容される塩は、クエン酸塩であってもよい。本発明の一例では、薬学的に許容される塩として、クエン酸塩を使用した。
【0042】
本発明の別の態様は、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、筋力低下関連状態を予防又は治療するための医薬組成物を提供する。ここで、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩は、前述したものと同様である。
【0043】
筋力低下関連状態とは、筋力低下に起因するあらゆる状態を意味し、特に、体内の筋細胞の減少又はサテライト細胞の活性低下により筋芽細胞の力価が低下又は弱体化し、筋芽細胞の分化が促進されることにより予防、緩和又は治療が期待される状態を意味する。特に、筋力低下関連状態は、サルコペニア、筋萎縮症、筋ジストロフィー、又は悪液質等であってもよい。
【0044】
本明細書で使用される場合、「サルコペニア」という用語は、加齢により筋肉量が徐々に減少し、その結果、筋力が低下することを特徴とする症状を意味する。サルコペニアにおける筋肉量の減少の原因として、サテライト細胞の活性低下が大きな要因として考えられている。サテライト細胞は、運動や外傷等の刺激によって活性化され、筋芽細胞に増殖し、分化が進むと他の細胞と融合して多核の筋繊維を形成する細胞である。
【0045】
本明細書で使用される場合、「筋萎縮症」という用語は、四肢の筋肉がほぼ対称的に徐々に萎縮することを特徴とする症状を意味する。筋萎縮症は、脊髄の運動神経線維や細胞の変性が進行し、筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び脊髄性進行性筋萎縮症(SPMA)の原因となる可能性がある。
【0046】
本明細書で使用される場合、「筋ジストロフィー」という用語は、中枢神経系及び末梢神経系に関係なく、筋繊維の壊死を特徴とする変性筋疾患を意味する。筋ジストロフィーと筋萎縮症には若干の臨床的な違いがある。筋ジストロフィーは小児期に発症することが多く、筋萎縮症は10歳代で発症することが多いようである。また、筋ジストロフィーは近位筋に、筋萎縮症は遠位筋で発生する。筋ジストロフィーでは筋肉の硬直が認められるが、筋萎縮症では認められず、筋ジストロフィーは明らかに遺伝性の疾患であるが、筋萎縮症はほとんど遺伝しない。
【0047】
本明細書で使用される場合「悪液質」とは、がん、結核、血友病等の末期に認められる重度の全身衰弱を意味する。また、悪液質は、体内の様々な臓器機能障害を原因とする中毒状態と考えられている。悪液質の症状としては、筋力低下、急激な体重減少、貧血、眠気、皮膚の黄変等が挙げられる。悪液質の原因となる基礎疾患としては、悪性腫瘍、バセドウ病、下垂体機能低下症等を挙げることができる。マクロファージが産生する腫瘍壊死因子(TNF)等の生理活性物質も悪液質を悪化させる要因であることがわかった。
【0048】
医薬組成物において、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の濃度は、10μg/ml~180μg/mlであってもよい。より詳細には、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の濃度は、20μg/ml~160μg/ml、40μg/ml~140μg/ml、又は60μg/ml~120μg/mlであってもよい。
【0049】
さらに、医薬組成物の投与量は、投与される有効成分である式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の量に基づいて決定することができる。特に、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の投与量は、1日60mg~240mgであってもよく、高用量の場合は、1日かけて1~3回に分けて投与することができる。好ましくは、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の投与量は、60mg~120mgであり、1日1回又は2回投与することができる。
【0050】
医薬組成物は、場合により薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。担体は、医薬品の製造において一般的に使用されるものであり、乳糖、デキストロース、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギン酸、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱油等を挙げることができる。
【0051】
医薬組成物は、滑沢剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される薬学的に許容される添加剤をさらに含んでもよい。
【0052】
医薬組成物は、当該技術分野において一般的に使用される方法、投与経路、及び投与量に従って、対象に適切に投与することができる。特に、医薬組成物の適切な投与量及び適切な投与回数は、当該技術分野において公知の方法に従って選択することができ、実際の医薬組成物の投与量及び投与回数は、予防又は治療すべき症状の種類、投与経路、性別、身体状態、食事、対象の年齢及び体重、疾患の重症度等の様々な要因によって決定することができる。
【0053】
本発明の別の態様は、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む、エクスビボで筋芽細胞の分化を促進するための組成物を提供する。ここで、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩は、前述した通りである。
【0054】
本明細書で使用される場合、「エクスビボ」という用語は、細胞又は組織等の生体の一部を「生体の外」で抽出及び分離した状態を意味する。特に、エクスビボは、生体の一部を人工的な条件下で実験を行う「インビトロ」を意味する場合もある。
【0055】
筋芽細胞は、未分化状態の筋肉細胞を意味する。筋芽細胞の分化では、単核の筋芽細胞が融合して多核の筋管になる。筋芽細胞の最終分化では、ミオシン重鎖(MyHC)の発現が増加する。
【0056】
分化を促進するための組成物は、血清を含有するDMEM分化培地であってもよいが、筋芽細胞の分化を促進できる培地又は組成物であれば、特に制限されることなく挙げることができる。加えて、組成物は、細胞の増殖又は分化に必要な物質をさらに含んでもよい。
【0057】
医薬組成物において、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の濃度は、0.01μM~100μMであってもよい。特に、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の濃度は、0.1μM~50μM、0.1μM~25μM、0.5μM~25μM、0.1μM~10μM、0.5μM~10μM、1μM~10μM、0.1μM~5μM、0.5μM~5μM、1μM~5μM、0.1μM~2μM、0.5μM~2μM、又は1μM~2μMである。本発明の一例では、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を、1μMの濃度でマウス由来筋芽細胞C2C12細胞に投与した。
【0058】
本発明の別の態様は、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩で筋芽細胞をエクスビボで処理することを含む、筋芽細胞の分化を促進する方法を提供する。筋芽細胞の分化を促進する方法は、インビトロで実施してもよく、エクスビボで実施してもよい。
【0059】
本発明の別の態様は、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩で筋芽細胞をエクスビボで処理し、それによって筋芽細胞を分化させることを含む、筋管を調製する方法を提供する。筋管を調製する方法は、インビトロで実施してもよく、エクスビボで実施してもよい。
【0060】
本発明の別の態様は、式1で表される化合物又はその食品学的に許容される塩を含む、筋力低下関連状態を予防又は緩和するための食品組成物を提供する。食品組成物は、食品添加物として使用する場合、そのまま添加してもよいし、他の食品成分と組み合わせて使用してもよく、一般的な方法に従って適切に使用することができる。
【0061】
筋力低下関連状態を予防又は緩和するために、食品組成物は、筋力低下関連状態の発症前又は発症後に、疾患治療に使用される医薬と同時に、又は別々に使用することができる。特に、食品組成物は、筋芽細胞の分化を促進することを特徴とする。筋力低下関連状態とは、医薬組成物に関して説明したものと同様である。
【0062】
本発明の別の態様は、式1で表される化合物、その薬学的に許容される塩、又はその食品学的に許容される塩を有効成分として含む、筋力増強のための組成物を提供する。筋力増強のための組成物は、医薬組成物又は食品組成物として使用することができる。
【0063】
筋力増強とは、筋肉重量の増加、筋肉回復力の増強、及び筋肉疲労の軽減を意味する。筋力増強のための組成物は、筋芽細胞を筋肉細胞に分化させる能力により、筋肉量、ひいては筋肉全体の量を増加させ、結果として、筋肉疲労を低減させることができる。また、筋肉細胞が速やかに置き換わることにより、筋肉損傷からの早期回復が可能になる。本発明の筋力増強のための組成物は、飼料又は飼料添加物として使用することができる。
【0064】
本発明の別の態様は、式1で表される化合物、又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、筋力低下関連状態を予防又は治療する方法を提供する。ここで、化合物、筋力低下関疾患、及び対象は、前述したものと同様である。
【0065】
本発明の別の態様は、筋力低下関連状態を予防又は治療するための、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。ここで、化合物及び筋力低下関連状態は、前述したものと同様である。
【0066】
本発明の別の態様は、筋力低下関連状態を予防又は治療するための医薬を調製するための、式1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。ここで、化合物及び筋力低下関連状態は、前述したものと同様である。
【0067】
[発明の形態]
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明をさらに説明するためのものであり、その範囲を限定するものではない。
【0068】
実験例1
筋芽細胞の分化の促進に対するクエン酸アルベリンの効果の確認
実験例1.1.筋芽細胞株C2Cl2の培養
C2Cl2(アメリカンタイプカルチャーコレクション、CRL-1772(商標))細胞は、C3Hマウスから得られた筋芽細胞株であり、筋芽細胞の分化の研究に使用されている。C2Cl2細胞は、増殖培地を用いて培養した後、分化誘導のための分化培地を用いて培養した。ここでは、増殖培地(GM)として10%ウシ胎児血清添加DMEMを使用し、分化培地(DM)として5%ウマ血清(HS)添加DMEMを使用した。
【0069】
実験例1.2.筋芽細胞の分化の促進
筋芽細胞の分化の促進に対するクエン酸アルベリンの効果を確認するため、実験例1.1のGMにC2C12細胞を分注して24時間培養した後、C2C12細胞を、DMSO、インスリン、又はクエン酸アルベリンで処理し、3日間にわたって分化誘導を行った。その後、ミオシンH鎖に対する抗体(以下、MyHCという)を使用した蛍光染色により、筋管への分化、筋管の厚み及び直径の変化について細胞を観察した。ここで、実験に使用したDMSO、インスリン、及びクエン酸アルベリンは、いずれもSigma-Aldrich社から購入した。インスリンで処理した群を陽性対照群として使用した。
【0070】
特に、実験例1.1のGMで処理した6ウェルプレートにC2C12細胞を1プレートあたり5×10個細胞の濃度で分注し、24時間後に5%HS添加DMEM培地に交換して分化誘導を行った。その後、DMSO、インスリン(1.72μM)又はクエン酸アルベリン(0.01μM、0.1μM、1μM又は10μM)で細胞を処理した。3日後、培地を除去した後、細胞をリン酸緩衝液(1x PBS)で洗浄し、パラホルムアルデヒド(4%)で処理し、室温で15分間固定した。次いで、リン酸緩衝液(1x PBS)で3回洗浄した後、0.3% triton X-100を含有するPBSで透過化緩衝液処理を行い、室温で10分間反応させた。
【0071】
リン酸緩衝液(1x PBS)で3回洗浄した後、2%ウシ血清アルブミンを含有するPBST(ブロッキング緩衝液、0.5%Tween20を含有するPBS)を投与し、30分間反応させ、抗体の非特異的結合を抑えた。リン酸緩衝液(1X PBS)で3回洗浄した後、1:500に希釈したMYH3に対する一次抗体(SC-20641、Santa Cruz Biotechnology社)100μLを加え、室温で1時間反応させた。その後、リン酸緩衝液(1X PBS)で3回洗浄した後、1:5,000に希釈した二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG-HRP)100μLを加え、室温で1時間反応させた。1時間後、核染色のために、リン酸緩衝液(1X PBS)で3回洗浄した後、ブロッキング緩衝液で希釈したDAPI色素で処理し、室温で10分間反応させた。その後、リン酸緩衝液(1X PBS)で3回洗浄した後、洗浄したカバーガラスを波長450nmで吸光度を測定し、蛍光顕微鏡により蛍光画像を撮影した。imageJ(Javaベースの画像処理プログラム)を使用して、抗MyHC抗体染色領域を解析した。
【0072】
その結果、インスリン又はクエン酸アルベリンで処理した筋芽細胞は、DMSOのみで処理した筋芽細胞よりも、筋管への分化が進行したことがわかった。特に、クエン酸アルベリンの処理濃度が高くなるほど、筋管の直径が大きくなった(図1及び図2)。
【0073】
実験例2
正常マウスを使用した、筋力増強におけるクエン酸アルベリンの効果の確認
クエン酸アルベリンの筋力増強効果を確認するために、マウスにクエン酸アルベリンを投与した後、握力、走行、バランス調整等の運動機能についてマウスの試験を行った。運動機能の試験後、筋肉重量を測定した。特に、10週齢のC57BL/6雄マウスに、クエン酸アルベリンを1日用量17mg/kg/日(AC-L)、50mg/kg/日(AC-M)、又は150mg/kg/日(AC-H)で、それぞれ200μLを4週間にわたって経口投与した。このマウス群を実験群として設定した(図3)。10週齢のC57BL/6雄マウスは、Daehan BioLink社から購入した。
【0074】
実験例2.1.握力の測定
握力は、マウス用握力計(Bioseb社製、米国)を用いて測定した。特に、握力をモニターできる計器盤に接続した金属グリッド上にマウスを置き、マウスを尾で引き戻しながら、マウスが金属グリッドを掴む握力を測定した。ここでは、連続した5回の繰り返し測定を行い、5回の平均値を算出した。
【0075】
その結果、実験群のマウスの握力は、通常群のマウスの握力より高かった。以上により、クエン酸アルベリンが筋力増強効果を有することが確認された(図4)。
【0076】
実験例2.2.走行能力試験
走行能力は、この実験のために特別に設計されたトレッドミルを用いて測定した。まず、スタート地点で電気刺激を流すことにより、嫌悪刺激を与えた。測定前にマウスを8m/分で10分間慣らした。各群のマウスを別々のレーンに走らせ、疲労困憊まで走った時間を記録した。疲労困憊は、マウスが走らずにレーンの外に10秒以上とどまったときと定義し、マウスが疲労困憊したと判断し、その時間を記録した。同じマウスで、この実験を繰り返し行うことはできない。マウスをトレッドミルに乗せ、8rpmで試験を開始し、10分毎に2rpmずつ加速し、最高速度20rpmで試験を行った。レーンの傾斜は0度から開始し、開始から30分後に5度の傾斜に上昇させた。
【0077】
結果は、実験群マウスの走行時間は通常群マウスに比べて増加したことを示し、特にクエン酸アルベリン150mg/kg/日で処理した実験群では、走行時間の有意な増加が確認された(図5)。
【0078】
実験例2.3.バランス調整試験
バランス調整は、ロータロッド試験を用いて測定した。ロータロッド試験装置は、それぞれ軸径が3cm、レーン幅が9cmの4つの試験ゾーンと、直径が60cmの回転可能な円形の仕切り板5枚と、丸棒とから構成されている。試験は、10rpmの回転速度から開始し、5分かけて最大40rpmまで加速し、マウスがロータロッド装置内で丸棒にしがみついて落下せずにいる時間を記録した。各試験後、マウスを15分間休ませ、合計3回の試験を行った。3回の測定値の平均値を算出した。
【0079】
その結果、実験群のマウスが丸棒にしがみつく時間が通常群のマウスに比べて長くなり、クエン酸アルベリンの投与量が増加すると、実験群のマウスが丸棒にしがみつく時間は比例して長くなることが示された(図6)。
【0080】
実験例2.4.筋肉重量の測定
筋肉重量測定については、各群のマウスの後肢の腓腹筋(GA)前脛骨筋(TA)を摘出し、重量を測定した。その結果、実験群マウスのGA及びTAの筋肉重量は、通常群マウスと比較して増加し、特にクエン酸アルベリンの投与量が増加すると、実験群マウスのGA及びTAの筋肉重量も増加することがわかった(図7)。
【0081】
実験例3
サルコペニア誘発マウスを用いたクエン酸アルベリンの筋力増強効果の確認
クエン酸アルベリンの筋力増強効果を確認するために、サルコペニア誘発マウスにクエン酸アルベリンを投与し、走行試験を行った。トレッドミル走行試験後、筋肉重量を測定した。特に、10週齢のC57BL/6雄マウスの後肢を外科用ステープラー(Autosuture Royal 35W stapler)を用いて固定した。5日後にステープルを外し、マウスを3日間再可動化した。その後、走行能力を測定した。マウスにクエン酸アルベリンを17mg/kg/日(AC-L)、50mg/kg/日(AC-M)、150mg/kg/日(AC-H)の用量で1匹あたり200μL経口投与し、これらのマウスを実験群として設定した。無処置のサルコペニア誘発マウスを対照群として設定した(図8)。10週齢のC57BL/6雄マウスは、Daehan BioLink社から購入した。
【0082】
実験例3.1.走行能力試験
実験例2.2と同様の方法で走行能力を測定した。その結果、対照群マウスの走行時間は、通常群マウスに比べ、約10分程度短くなったことがわかった。一方、実験群マウスの走行時間は、クエン酸アルベリンの投与濃度に比例して長くなり、特に、アルベリンを150mg/kg/日(AC-H)経口投与した実験群の走行時間は、通常群マウスと比較して長くなった。
【0083】
実験例3.2.筋肉重量測定
筋肉重量の測定のために、各群のマウスの後肢のGA筋及びTA筋を摘出し、重量を測定した。その結果、対照群では、通常群に比べ、GA筋及びTA筋の重量が有意に減少していることがわかった。しかし、実験群の場合、クエン酸アルベリンの投与濃度が高くなるほど、実験群マウスのGA筋及びTA筋の重量も増加した(図10)。
【0084】
実験例4.筋芽細胞の分化の促進に対する4-ヒドロキシアルベリンの効果の確認
筋芽細胞の分化の促進に対する4-ヒドロキシアルベリンの効果を確認するため、実験例1と同様の方法に従い、DMSO、インスリン(1.72μM)、クエン酸アルベリン(0.01μM、0.1μM、1μM又は10μM)、4-ヒドロキシアルベリン(0.01μM、0.1μM、1μM又は10μM)をそれぞれ投与し、筋管への分化、筋管の厚み及び径の変化を観察した。ここで、アルベリン及び4-ヒドロキシアルベリンは表1に示す通りである。
【表1】
【0085】
その結果、クエン酸アルベリン又は4-ヒドロキシアルベリンで処理した筋芽細胞は、DMSO又はインスリンで処理した筋芽細胞よりも、いっそう筋管に分化することがわかった(図11及び図12)。同濃度で比較した場合、4-ヒドロキシアルベリンはアルベリンよりも優れた分化促進効果を有していた。
【0086】
実験例5.クエン酸アルベリン及び4-ヒドロキシアルベリンによる、悪液質治療効果の確認
クエン酸アルベリン及び4-ヒドロキシアルベリンの悪液質治療効果を確認するために、エクスビボアプローチとして、がん細胞調整培地(CM)の処理による腫瘍増殖環境を模倣した実験を行った。まず、C26がん細胞株を用いて、がん細胞CMを調製した。ここで、キャンセル細胞増殖培地(GM)としては、10%ウシ胎児血清を添加したRPMI1640培地を使用した。C26がん細胞株は、100mm細胞培養プレート及びがん細胞GMを使用して培養した。ここで、細胞の培養密度が90%に達した時点で培地を除去した。次いで、リン酸緩衝液(1Xバッファー)で洗浄した後、調製した分化培地を実験例1と同様の方法に従って処理した。24時間後、C26がん細胞株CMを得、ボトルトップフィルター(Thermo社製、PES、1L)を用いて濾過してから使用した。
【0087】
実験例1.1のGMで処理した6ウェルプレートに、C2C12細胞をプレートあたり5×10個細胞の濃度で分注し、24時間後に5%HS添加MEM培地に交換し、分化誘導を行った。4日後、分化した筋管を、33%CM添加分化培地で処理し、3日間筋管萎縮を誘導した。ここで、実験群を1μMクエン酸アルベリン(AC)及び4-ヒドロキシアルベリン(4HA)で処理することにより、筋管萎縮の抑制効果を評価した。陰性対照群としてDMSOを使用し、陽性対照群としてウルソル酸(UA)を使用した。実験例1.2と同様の方法に従い、MyHCに対する抗体を使用して蛍光染色を行い、MyHCの発現量を測定した。
【0088】
その結果、陰性対照群の筋管は、CMによって萎縮することがわかった。一方、クエン酸アルベリン又は4-ヒドロキシアルベリンで処理すると、筋管の萎縮が抑制されることがわかった(図13及び図14)。
【0089】
実施例1.筋芽細胞の分化の促進に対するアルベリン誘導体の効果の確認
実施例1.1.筋芽細胞株C2Cl2の増殖
C2Cl2(アメリカンタイプカルチャーコレクション、CRL-1772(商標))細胞は、C3Hマウスから得られた筋芽細胞株であり、筋芽細胞の分化の研究に使用されている細胞である。C2Cl2細胞は、増殖培地を用いて培養した後、分化誘導のための分化培地を用いて培養した。ここでは、増殖培地(GM)として10%ウシ胎児血清添加DMEMを使用し、分化培地(DM)として5%ウマ血清添加DMEMを使用した。
【0090】
実施例1.2.筋芽細胞株の分化の促進
筋芽細胞の分化の促進に対するアルベリン誘導体の効果を確認するため、実施例1.1のGMにC2C12細胞を分注して24時間培養した。その後、それぞれ1μMの濃度のDMSO(Sigma-Aldrich社製)、インスリン、アルベリン(Sigma-Aldrich社製)、又は27種類のアルベリン誘導体でC2C12細胞を処理し、4日間にわたって分化誘導を行った。その後、MyHCに対する抗体を用いた蛍光染色により、筋管への分化、筋管の厚み及び直径の変化をモニターした。ここで、27種類のアルベリン誘導体は、要請により、韓国生命工学研究所及びJD Bioscience社で設計及び合成したものであり、実験に使用したアルベリン及び27種類のアルベリン誘導体1~27を以下の表2に示す。
【表2】

【0091】
詳細には、実施例1.1のGMで処理した6ウェルプレートにC2C12細胞を1プレートあたり5×10個細胞の濃度で分注し、24時間後に5%HS添加DMEM培地に交換し分化誘導を行った。その後、1μMの濃度のDMSO、アルベリン、又は27種類のアルベリン誘導体で細胞を処理した。4日後、培地を除去した後、リン酸緩衝液(1x PBS)で洗浄し、パラホルムアルデヒド(4%)で処理し、室温で15分間固定した。次いで、リン酸緩衝液(1x PBS)で3回洗浄した後、0.3% triton X-100を含有するPBSで透過化バッファーを処理し、室温で10分間反応させた。
【0092】
リン酸緩衝液(1x PBS)で3回洗浄した後、2%ウシ血清アルブミンを含有するPBST(ブロッキング緩衝液、0.5%Tween 20を含有するPBS)を投与し、30分間反応させ、抗体の非特異的結合を抑えた。リン酸緩衝液(1X PBS)で3回洗浄した後、1:500に希釈したMYH3に対する一次抗体(SC-20641、Santa Cruz Biotechnology社)100μLを加え、室温で1時間反応させた。その後、リン酸緩衝液(1X PBS)で3回洗浄した後、1:5,000に希釈した二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG-HRP)100μLを加え、室温で1時間反応させた。1時間後、核染色のために、リン酸緩衝液(1X PBS)で3回洗浄した後、ブロッキング緩衝液を希釈したDAPI色素で処理し、室温で10分間反応させた。その後、リン酸緩衝液(1X PBS)で3回洗浄した後、洗浄したカバーガラスを波長450nmで吸光度を測定し、蛍光顕微鏡により蛍光画像を撮影した。
【0093】
その結果、DMSOのみで処理した筋芽細胞と比較して、27種類のアルベリン誘導体のそれぞれで処理した筋芽細胞も、アルベリンで処理した筋芽細胞と同様に、全て筋管への分化を促進することが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【国際調査報告】