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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-24
(54)【発明の名称】ニッケル・クロム・鉄合金の使用
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20230517BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
B23K35/30 340L
C22C30/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561011
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(85)【翻訳文提出日】2022-10-05
(86)【国際出願番号】 DE2021100280
(87)【国際公開番号】W WO2021204326
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】102020109510.4
(32)【優先日】2020-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021106624.7
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516236078
【氏名又は名称】ファオデーエム メタルズ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】VDM Metals International GmbH
【住所又は居所原語表記】Plettenberger Strasse 2, D-58791 Werdohl, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ヴォルフ
(72)【発明者】
【氏名】エレナ アルベス
(72)【発明者】
【氏名】ライナー ベーレンス
(57)【要約】
Ni 33.5~35.0%、Cr 26.0~28.0%、Mo 6.0~7.0%、Fe <33.5%、Mn 1.0~4.0%、Si ≦0.1%、Cu 0.5~1.5%、Al 0.01%~0.3%、C ≦0.01%、P ≦0.015%、S ≦0.01%、N 0.1~0.25%、B 0.001~0.004%、希土類 >0~1.0%、必要に応じてW ≦0.2%、Co ≦0.5%、Nb ≦0.2%、Ti ≦0.1%、並びに溶融に起因する不純物の組成(質量%)の合金の、熱利用設備、殊に廃棄物、バイオマス、下水汚泥および代替燃料設備の分野における溶接クラッド材料としての使用であって、前記溶接クラッド材料は、肉盛溶接後に、稼働の負荷がかかった状態で完全オーステナイトの組織マトリックス中でシグマ相および他の硬質粒子を溶接金属組織中に意図的に形成する、前記使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni 33.5~35.0%
Cr 26.0~28.0%
Mo 6.0~7.0%
Fe <33.5%
Mn 1.0~4.0%
Si ≦0.1%
Cu 0.5~1.5%
Al 0.01%~0.3%
C ≦0.01%
P ≦0.015%
S ≦0.01%
N 0.1~0.25%
B 0.001~0.004%
希土類 >0~1.0%
必要に応じて
W ≦0.2%
Co ≦0.5%
Nb ≦0.2%
Ti ≦0.1%、
並びに溶融に起因する不純物
の組成(質量%)の合金の、熱利用設備、殊に廃棄物、バイオマス、下水汚泥および代替燃料設備の分野における溶接クラッド材料としての使用であって、前記溶接クラッド材料は肉盛溶接後に、稼働の負荷がかかった状態で完全オーステナイトの組織マトリックス中でシグマ相および他の硬質粒子を溶接金属組織中に意図的に形成する、前記使用。
【請求項2】
以下の組成(質量%):
Ni 33.5~35.0%
Cr 26.0~28.0%
Mo 6.0~7.0%
Fe <33.5%
Mn 1.8~3.0%
Si ≦0.1%
Cu 1.0~1.5%
Al 0.05%~0.3%
C ≦0.01%
P ≦0.015%
S ≦0.01%
N 0.2~0.25%
B 0.001~0.004%
希土類 0.020~0.060%
必要に応じて、
W ≦0.2%
Co ≦0.5%
Nb ≦0.1%
Ti ≦0.5%
並びに溶融に起因する不純物
を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記溶接クラッド材料が、廃棄物焼却設備の熱交換器の管の分野において使用される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
合金中の最低26%であるクロム含有率は、排煙雰囲気からの塩素または塩素化合物が保護層のわずかな腐食しかもたらさないほど高いことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記溶接クラッド材料が、溶接に起因する鉄による希釈に際しても、溶接金属中で最低33.5%のニッケル含有率に基づき、完全オーステナイトのままであり、且つ腐食障害になるほどのデルタフェライトは形成しないことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記溶接クラッド材料が補修のために使用される、請求項1から5までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記溶接クラッド材料がワイヤの形態で存在することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記溶接クラッド材料がサブマージアーク溶接もしくはエレクトロスラグ溶接用の溶接ストリップの形態で存在することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記溶接クラッド材料が粉末の形態で存在することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱利用の分野における新たな用途のための、窒素合金化ニッケル・クロム・鉄合金の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
欧州特許出願公開第2632628号明細書(EP2632628 A1)は、酸化条件下でも還元条件下でも攻撃的な液体媒体に対する高い耐食性を有し、且つ酸性の、塩化物含有媒体中での局部腐食に対する優れた耐性を有する可鍛性の均質なオーステナイトニッケル合金を開示する。前記合金は、(質量%で)クロム 26.0~28.0%、モリブデン 6.0~7.0%、鉄 最大33.5%、マンガン 1.0~4.0%、ケイ素 最大0.1%、ホウ素 0.001~0.004%、銅 0.5~1.5%、アルミニウム 0.01~0.3%、マグネシウム 0.001~0.15%、炭素 最大0.01%、窒素 0.1~0.25%、ニッケル 33.5~35%、希土類 >0~1.0%、および溶融に起因するさらなる不純物からなる。前記合金は、化学的な攻撃に対して耐性がなければならない構造部材のための材料として適している。
【0003】
例えば廃棄物焼却設備、代替物燃焼設備またはバイオマス設備における熱利用のための用途における肉盛溶接または溶射のためのクラッド材料として、現在、主にニッケル合金、例えばFM 625(UNS N06625)、FM 622(UNS N06022)並びにFM 686(UNS N06686)が使用されている。
【0004】
構造部材における、および熱利用設備において排煙と接する面の腐食の負荷は多様且つ複雑である。様々な拡散律速の高温腐食の種類、例えば塩素およびさらには臭素を有するハロゲンによる、硫化による、浸炭による、溶融塩による腐食、または低融点液体金属による腐食が生じる。さらに、使用される材料は、露点に達しない、または洗浄作業の際の停止時間および整備時間において、さらに湿食のメカニズムによって強く負荷がかかることがある。材料のさらなる負荷は、設備の起動および停止の際の熱的な負荷変動によって、または燃焼室内での局所的且つ一時的な「炎の筋」によって生じる。
【0005】
これらの公知の材料を用いたクラッドによる、熱交換器の管、加熱面並びに排煙と接する面および他の構造部材の腐食保護にもかかわらず、使用される材料および稼働条件に応じて、過熱器の管および他の熱的に負荷がかかる構造部材のところで消耗が生じ、そのことにより作業者は停止および費用のかかる整備作業および最終的には必須の新たな建設を余儀なくされる。
【0006】
欧州特許出願公開第2632628号明細書内に記載された材料はこれまで、電解質と関連する電気化学的反応が腐食攻撃を引き起こす湿食領域においてのみ使用されている。公知の用途分野は、リン酸、硫酸、海水および汽水用途、または硝酸・フッ酸を用いる酸洗い設備を用いる化学プロセスである。
【0007】
独国特許出願公開第102007062810号明細書(DE102007062810 A1)によって、バイオマスからのエネルギーの生成設備が公知になった。この設備の部品は、耐熱性且つ耐食性の材料から、好ましくは特殊鋼からなり得る。クロムおよびモリブデン含有率の高い特殊鋼が示されている。しかしながら、そこで示される材料は肉盛溶接のためには適しておらず、なぜなら、この比較的低く合金化された材料は、殊に肉盛溶接の際に生じる溶接金属中の鉄希釈に関連して、組織内での残留のデルタ・フェライトの形成が強まり、そのことにより、湿食条件下および高温腐食条件下での使用が一般に強く制限されるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2632628号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102007062810号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、従来技術によれば最高450℃までの低温のためにしか許容されない合金を、新規の用途分野に供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、
Ni 33.5~35.0%
Cr 26.0~28.0%
Mo 6.0~7.0%
Fe <33.5%
Mn 1.0~4.0%
Si ≦0.1%
Cu 0.5~1.5%
Al 0.01%~0.3%
C ≦0.01%
P ≦0.015%
S ≦0.01%
N 0.1~0.25%
B 0.001~0.004%
希土類 >0~1.0%
必要に応じて
W ≦0.2%
Co ≦0.5%
Nb ≦0.2%
Ti ≦0.1%、
並びに溶融に起因する不純物
の組成(質量%)の合金の、熱利用設備、殊に廃棄物、バイオマス、下水汚泥および代替燃料設備の分野における溶接クラッド材料としての使用であって、前記溶接クラッド材料は肉盛溶接後に、稼働の負荷がかかった状態で完全オーステナイトの組織マトリックス中でシグマ相および他の硬質粒子を溶接金属組織中に意図的に形成する、前記使用によって解決される。
【0011】
シグマ相の形成は、溶接金属組織中での硬質粒子の分散を引き起こし、そのことは溶接金属組織の硬さの増加をみちびき、それによって保護上層のエロージョンに起因する浸食に対する予想外の高い抵抗が達成される。従って、シグマ相の形成により、熱利用設備において、稼働の負荷がかかった状態でそのような肉盛溶接の抵抗力の不均衡な上昇が達成される。エロージョンもしくはエロージョンが助長する腐食に対するさらなる寄与は、使用温度での炭化クロムの形成によると考えられる。従って、溶接金属は、稼働の負荷がかかった状態で初めて、金属間相、例えばシグマ相の析出によって、機械的な摩擦の負荷に対する、ひいては粉塵および粒子のエロージョンに対する極めて高い耐性を得る。
【0012】
10,000時間を上回る非常に長期の使用時間の場合、そこで純粋に拡散律速/電気化学的な腐食のみではなく、殊に例えば浮遊粒子および煙の粒子による機械的な負荷(エロージョンもしくはエロージョン腐食)に対する材料の耐性との組み合わせも関与する熱利用設備の入れ替わる条件下で、この材料が新たな種類の特性プロファイルを有することも期待される。
【0013】
さらに、鉄含有材料の場合に実際に起きる塩化鉄(II)または塩化鉄(II)の形成は殊に低い酸素分圧で、付随する材料の溶解と共に非常に抑制される。
【0014】
様々なラボ試験および製造条件下での溶接において、この材料が溶接クラッドの方法に関して優れた溶接性(高いクラック耐性および良好な濡れ性)を、タングステン不活性ガス溶接(TIG)についても金属シールドガス溶接法(MSG)についても有することが立証された。溶接クラッド層の施与は、肉盛溶接による以外に、例えば火炎溶射またはプラズマ溶射によって粉末またはワイヤを用いて行うこともできる。有利には、前記合金は、溶接、火炎もしくはプラズマ溶射法を用いてクラッド材料として、例えば廃棄物、バイオマス、下水汚泥、代替材料燃焼設備の熱利用のための設備の分野において使用される。
【0015】
湿食試験ASTM G 48Cにおいて、出荷状態での母材についての臨界孔食温度は典型的には85℃以上である。孔食に対する耐性はシグマ相の形成によって低下するのだが、前記合金はオーステナイトマトリックス中に存在するクロム含有率が不動態をもたらすように高く合金化されている。
【0016】
本発明の対象の有利なさらなる態様は、従属請求項から得られる。
【0017】
前記合金は殊に、液相を介した鋼の被覆、例えば溶接または火炎溶射のために使用可能であり、それは熱利用の際に生じ得る攻撃的な媒体に対する高い耐食性を有する。
【0018】
好ましい化学組成(質量%)を以下に挙げる:
Ni 33.5~35.0%
Cr 26.0~28.0%
Mo 6.0~7.0%
Fe <33.5%
Mn 1.8~3.0%
Si ≦0.1%
Cu 1.0~1.5%
Al 0.05%~0.3%
C ≦0.01%
P ≦0.015%
S ≦0.01%
N 0.2~0.25%
B 0.001~0.004%
希土類 0.020~0.060%
必要に応じて、
W ≦0.2%
Co ≦0.5%
Nb ≦0.1%
Ti ≦0.5%
並びに溶融に起因する不純物。
【0019】
16Mo3管上への肉盛溶接の形態での上記の材料の調査に際し、意外且つ予想外にも、これが熱利用の温度範囲および具体的な条件下でも有利に使用されることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】廃棄物焼却設備において蒸気発生管として使用され得る現実の熱交換器を示す断面図である。
図2】C鋼からFM 31 plus溶接金属への移行部を示す図である。
図3】FM 31 plusによる純粋な微細デンドライト凝固の完全オーステナイト溶接金属を示す図である。
図4】FM 625およびFM 31 plusを用いて溶接された熱交換器の管の曝露試験後の比較を示す図である。
図5】CalphadソフトウェアJ-MatProを用いた計算を示す図である。
図6】CalphadソフトウェアJ-MatProを用いた計算を示す図である。
【実施例
【0021】
本発明を以下で例を用いてより詳細に説明する:
図1は、典型的には廃棄物焼却設備において蒸気発生管として使用され得る現実の熱交換器を断面図で示す。内側の管は16Mo3 C鋼からなり、且つ材料厚5mmおよび直径38mmを有する。金属活性ガスアーク溶接法(MSG)を用いて、前記C鋼管を回転させ且つ溶接トーチの横方向の動きを適合させながら、肉盛溶接材料FM 31 plusを層厚2.0~2.4mmで一層施与し、それによって肉盛溶接金属の外部層およびC鋼管と溶接金属との間の金属結合が生じた。肉盛溶接を製造するために、以下の溶接パラメータが使用された: 溶接電流(パルス) <l>=108A、溶接電圧U=26V、重なり=50%。保護ガスとして、アルゴン、ヘリウム、水素および二酸化炭素の4成分ガスを使用した。バッチ118903からのFM 31 plusのワイヤ直径は1.0mmであった。
【0022】
図2および図3は、この肉盛溶接の金属組織学的断面を示し、ここで図2はC鋼からFM 31 plus溶接金属への移行部を示し、且つ図3はFM 31 plusによる純粋な微細デンドライト凝固の完全オーステナイト溶接金属を示す。
【0023】
図4は、FM 625およびFM 31 plusを用いて溶接された、溶接クラッドされた熱交換器の管の、廃棄物焼却設備の現実のボイラー室条件下で1000時間の曝露試験であって、全曝露時間にわたって管の内壁で360℃~540℃の規定の温度勾配の蒸気温度を維持した前記曝露試験後に測定された消耗の比較を示す。管の外側でのクラッドに関する温度負荷は、顕著により高く、本質的に450℃を上回る。実施された試験において、予想外にも、本来なら塩素条件下で特に有害である鉄含有率がFM 31 plusの場合はFM 625の場合よりも少なくとも28.5質量%高いにもかかわらず、FM 31 plusによる肉盛溶接は、確認された消耗に関してFM 625による肉盛溶接と基本的に同等であり、広い温度範囲にわたって顕著に優れていることが判明した。
【0024】
図1に、一方では本発明による肉盛溶接材料、並びにこれまで使用されてきた代替の材料の組成を挙げる。
【0025】
【表1】
【0026】
熱利用設備における構造部材用の溶接クラッド材料としての材料FM 31 plusは、比較用材料に対して、稼働温度の範囲において特性を改善する組織の相が自然発生的に生じることによって特徴付けられる。CalphadソフトウェアJ-MatProを用いた図5および6における計算は、この効果がとりわけ、金属間相、例えばシグマ相の形成によって引き起こされることを説明している。これは、金属組織学的試験によっても裏付けられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】