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特表2023-521327イオン交換膜およびイオン交換膜の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-24
(54)【発明の名称】イオン交換膜およびイオン交換膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/12 20060101AFI20230517BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20230517BHJP
   H01M 8/1018 20160101ALI20230517BHJP
   H01M 8/1072 20160101ALI20230517BHJP
   H01M 8/1088 20160101ALI20230517BHJP
   H01M 8/1046 20160101ALI20230517BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20230517BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230517BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20230517BHJP
   B01J 47/12 20170101ALI20230517BHJP
   B01J 41/12 20170101ALI20230517BHJP
   C08F 297/04 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C08J7/12 Z CER
C08J7/12 CEZ
H01M8/10 101
H01M8/1018
H01M8/1072
H01M8/1088
H01M8/1046
C25B13/08 301
C25B9/00 A
C08J5/22 105
B01J47/12
B01J41/12
C08F297/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561013
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(85)【翻訳文提出日】2022-11-18
(86)【国際出願番号】 EP2021059087
(87)【国際公開番号】W WO2021204890
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】2005155.3
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】321003751
【氏名又は名称】エナプター エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】フィルピ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】アゴニージ ガブリエーレ
(72)【発明者】
【氏名】トリヴァレッリ フェデリカ
(72)【発明者】
【氏名】カタノルチ ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】シュミット ヤンユストゥス
【テーマコード(参考)】
4F071
4F073
4J026
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4F071AA75C
4F071AA75X
4F071AA78C
4F071AA78X
4F071AG01
4F071BB02
4F071BC01
4F071FA08
4F071FA09
4F071FA10
4F071FB02
4F071FB06
4F071FC01
4F073AA11
4F073BA04
4F073BB01
4F073EA01
4F073EA24
4J026HA06
4J026HB15
4J026HB45
4J026HC06
4J026HC45
4J026HC49
4J026HE02
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG12
5H126GG17
5H126GG18
5H126HH01
5H126HH02
5H126HH10
5H126JJ05
5H126JJ08
5H126JJ10
(57)【要約】
【解決手段】 本発明は、陰イオン交換膜と陰イオン交換膜の製造方法とに関する。膜は、電気分解装置または他のAEM電気化学機器において使用されることを意図するものである。膜は、スチレンを含む熱可塑性エラストマ(TPE)を含み、TPEはポリマ骨格であり、熱可塑性エラストマのスチレン含有率は、30重量%と70重量%との間であり、第1ポリマ骨格の1つ以上の他のポリマ骨格との架橋、および1つ以上の陽イオン基、および官能化度は1%と50%との間である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン交換膜の製造方法であって、
芳香環を含む熱可塑性エラストマ(TPE)を精製する工程と、
精製された前記TPEをハロメチル化する工程と、
前記陰イオン交換膜をキャストする工程と、
精製およびハロメチル化された前記TPEを、少なくとも第1アミンと第2アミンとを用いてアミノ化する工程と、
使用または保管のために得られた前記陰イオン交換膜を調製する工程と、
を有してなり、
前記アミンは、
モノアミンと、
ジアミンと、
ポリアミンと、
のうちのいずれか2つ以上である、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記TPEは、ポリマ骨格であり、
前記製造方法は、
前記ポリマ骨格が1つ以上の他のポリマ骨格および/または前記ポリマ骨格の側鎖と架橋する工程、
を含む、
請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記架橋は、前記キャストする工程中、または前記キャストする工程直後に起こる、
請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記架橋は、前記アミノ化する工程中に起こる、
請求項2または3記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1アミンは、TMHDAであり、
前記第2アミンは、TMAである、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1アミンと前記第2アミンとは、
N-メチルイミダゾールと、
N-メチルピペリジンと、
N-メチルピロリジンと、
トリエタノールアミンと、
DABCOと、
TMEDAと、
TMHDAと、
TMAと、
のうちのいずれか2つである、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ハロメチル化する工程は、
精製された前記TPEを溶解する工程と、
溶解された前記TPEを、トリオキサンと、塩化トリメチルシリルと、SnClと、のいずれかと混合する工程と、
反応物を還流冷却器内に入れる工程と、
3時間と6日間との間の長期間、0℃から50℃まで加熱する工程と、
を含む、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記陰イオン交換膜は、溶媒の蒸発速度を制御するように適合された手段を用いてキャストされる、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記陰イオン交換膜は、精製されたクロロメチル化ポリマを加熱および押出すことにより、またはロールツーロールによりキャストされる、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
選択された前記アミンの1つ以上は、3つ以上の炭素鎖を有する、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記第2アミンに対する前記第1アミンの比は、架橋を決定するために予め決定される、
請求項2記載の製造方法。
【請求項12】
Alと、SnOと、Cuフタロシアニンと、バルカンと、モンモリロナイトと、の充填剤のうちのいずれか1つ、またはこれらの組合せが存在する、
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
1つの前記工程、または2つ以上の前記工程の各々は、
光と、
清潔さと、
湿度と、
不活性雰囲気と、
のいずれかが制御された環境において行われる、
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
陰イオン交換膜であって、
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の製造方法により製造される、
ことを特徴とする陰イオン交換膜。
【請求項15】
前記陰イオン交換膜は、
1つ以上の陽イオン基、
を含み、
官能化度は、1%と50%との間である、
請求項14記載の陰イオン交換膜
【請求項16】
芳香環を含む熱可塑性エラストマ(TPE)を含む陰イオン交換膜であって、
前記TPEは、ポリマ骨格であり、
前記TPEのスチレン含有率は、30重量%と70重量%との間であり、
第1ポリマ骨格は、1つ以上のポリマ骨格および/または前記ポリマ骨格の側鎖に架橋され、
前記陰イオン交換膜は、
1つ以上の陽イオン基、
をさらに含み、
官能化度は、1%と50%との間である、
ことを特徴とする陰イオン膜。
【請求項17】
前記官能化度は、3%から35%までの範囲にある、
請求項15または16記載の陰イオン交換膜。
【請求項18】
前記1つ以上の陽イオン基は、
窒素、リン、硫黄、および/または金属イオン、
を含む、
請求項15乃至17のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜。
【請求項19】
請求項2または11記載の製造方法により製造される陰イオン交換膜であって、
第1ポリマ骨格は、陽イオン基を含む側鎖に架橋される、
ことを特徴とする陰イオン交換膜。
【請求項20】
前記TPEの前記スチレン含有率は、35重量%から55重量%までの範囲にある、
請求項14乃至19のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜。
【請求項21】
前記陰イオン交換膜は、10μmと100μmとの間の厚さを有する、
請求項14乃至20のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜。
【請求項22】
前記陰イオン交換膜は、
電気分解装置と、
燃料電池と、
電気化学圧縮機と、
電気浸透機器と、
のいずれか1つにおける膜電極接合体において利用される、
請求項14乃至21のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜。
【請求項23】
膜電極接合体であって、
前記膜電極接合体は、
請求項14乃至21のいずれか一項に記載の陰イオン交換膜、
を備える、
ことを特徴とする膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換膜(AEM:an-ion exchange membrane)と陰イオン交換膜の製造方法とに関する。陰イオン交換膜は、必ずしもこれに限定されないが、電気分解装置などの電気化学機器において使用されることを意図するものである。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解は、周知であり、1800年代から行われてきた。液体アルカリ電気分解装置とPEM電気分解装置とは、より確立されており、本質的により低い腐食環境にも存在する、最新のより持続可能なアプローチであるAEM電気分解装置がある。しかしながら、AEM電気分解が発達の初期段階であることを考慮すると、必要な特性を満たす膜は、ほとんどない。
【0003】
電気化学機器としては、これらに限定されないが、電気分解装置と、燃料電池と、電気化学圧縮機とが挙げられる。AEMは、これらの機器のいずれかと共に使用され得る。あるいは、電気化学機器は、異なる反応経路を利用する比較的より確立されたプロトン交換膜(PEM:proton exchange membranes)、PEMシステムを使用し得る。
【0004】
イオン交換膜であるAEMまたはPEMのいずれも、特定のイオンのみが一方から他方へ横断することを可能とする半透過性である。電気化学機器では、特定のイオンのみの一方から他方への横断は、膜のカソード側からアノード側、またはその逆の傾向がある。AEMは、OH-イオンの移動を可能とするが、PEMは、H+イオンの移動を可能とする。したがって、これらの構造中に、PEMは陰イオンを含み、AEMは陽イオンを含む。さらなる違いは、PEMシステムは、極めて腐食性である酸性環境を必要とすることである。AEM電気分解装置の利点は、比較的極めて腐食性でない弱アルカリ性環境を使用する能力である。
【0005】
電気分解装置などの機器で使用されるAEMに望ましい特性は、機械的安定性と、低水素クロスオーバーと、低水取込と、良好な伝導度と、である。
【0006】
AEMシステムが、触媒として白金族金属(PGM:platinum group metals)に依存せず、より低い腐食性であることを考慮すると、AEMシステムは、PEM電気分解装置または液体アルカリ性電気分解装置よりも本質的により持続可能であり、他の構成要素に対して安価、および/またはより持続可能な材料の使用を可能とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、必ずしもこれに限定されないが、電気化学機器と共に使用される改良されたAEMと前記AEMの製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、陰イオン交換膜の製造方法であって、芳香環を含む熱可塑性エラストマ(TPE:thermoplastic elastomer)を精製することと、精製されたTPEをハロメチル化することと、膜をキャストすることと、精製およびハロメチル化されたTPEを、少なくとも第1アミンと第2アミンとを用いてアミノ化することと、使用または保管のために得られた膜を調製することと、を含み、アミンは、モノアミンと、ジアミンと、ポリアミンと、のうちのいずれか2つ以上である、製造方法が提供される。
【0009】
本明細書で使用されるとき、SEBSについての言及は、TPEを含む他のスチレンを排除しない。TPE間の別の共通点は、ランダムまたは別の共重合体となるような少なくとも1つの反復第2モノマの存在である。
【0010】
本明細書で使用されるとき、スチレンまたはスチレン様は、いずれかの芳香族含有単位を意味することを意図するものである。なお、「スチレン」の使用は、スチレン、またはスチレン様代替物の両方を含むことを意図するものである。好ましくは、スチレンまたはスチレン様化合物は、フリーデル・クラフツ様反応に適している。
【0011】
本明細書で使用されるとき、ハロメチル化は、ハロメチル化TPEをもたらす可能性があるいずれもの方法を説明するために使用される。
【0012】
有利に、TPEは、ポリマ骨格でもよく、方法は、ポリマ骨格が1つ以上の他のポリマ骨格および/または前記ポリマ骨格の側鎖と架橋することを含んでもよい。かかる架橋は、前記キャスティング工程中、前記キャスティング直後に起こり得る。有利に、前記架橋は、アミノ化工程中に起こり得る。
【0013】
第1アミンと第2アミンとは、好ましくは、それぞれ、TMHDAとTMAとである。事実、様々な好例の実施形態では、第1アミンと第2アミンとは、N-メチルイミダゾールと、N-メチルピペリジンと、N-メチルピロリジンと、トリエタノールアミンと、DABCOと、TMEDAと、TMHDAと、TMAと、から選択されるいずれか2つのアミン基でもよい。
【0014】
好ましい実施形態では、ハロメチル化は、精製されたTPEを溶解することと、溶解されたTPEを、トリオキサンと、塩化トリメチルシリルと、SnClと、のいずれかと混合することと、反応物を還流冷却器内に入れることと、3時間と6日間との間の長期間、0℃から50℃まで加熱することと、を含んでもよい。
【0015】
あるいは、ハロメチル化は、クロロエーテルと、必ずしもこれに限定されないが、SnClなどのルイス酸と、の使用を含んでもよい。ビズ(クロロメチル)エーテルなどのクロロエーテルは、使用されてきたが、クロロエーテルの発がん性特性を考慮すると、必ずしも望ましくない。本明細書に記載されるものは、必ずしもこれに限定されないが、トリオキサンと塩化トリメチルシリルとを用いた、現場で前記クロロエーテルを製造する手段である。代替物としては、塩化トリメチルシリルの代わりに、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドが挙げられる。クロロスルホン酸は、塩化物供給源として使用されてもよい。
【0016】
膜は、溶媒の蒸発速度を制御するように適合された手段を用いてキャストされてもよい。
【0017】
必要に応じて、膜は、精製されたクロロメチル化ポリマを加熱および押出すことにより、またはロールツーロールによりキャストされてもよい。
【0018】
様々な好例の実施形態では、選択されたアミンの1つ以上は、3つ以上の炭素鎖を有してもよい。
【0019】
実施形態では、前記第2アミンに対する前記第1アミンの比は、予め決定されてもよい。好ましくは、前記第2アミンに対する前記第1アミンの比は、架橋を決定するために予め決定されてもよい。
【0020】
好例の方法では、充填剤のうちAlと、SnOと、Cuフタロシアニンと、バルカン(Vulcan)と、モンモリロナイトなどのアルミノケイ酸塩とのうちいずれか1つ、またはこれらの組合せが存在してもよい。
【0021】
必要に応じて、1つの工程、または2つ以上の工程の各々は、光と、清潔さと、湿度と、不活性雰囲気と、のいずれかが制御された環境において行われる。
【0022】
本発明の別の態様によれば、実質的に前述のとおりの方法により製造された陰イオン交換膜を提供する。
【0023】
かかる陰イオン交換膜は、1つ以上の陽イオン基を含んでもよく、官能化度は、1%と50%との間である。
【0024】
かかる陰イオン交換膜は、必要に応じて、芳香環を含む熱可塑性エラストマ(TPE:thermoplastic elastomer)を含んでもよく、前記TPEは、ポリマ骨格であり、TPEのスチレン含有率は、30重量%と70重量%との間であり、第1ポリマ骨格は、1つ以上のポリマ骨格および/またはポリマ骨格の側鎖に架橋され、陰イオン交換膜は、1つ以上の陽イオン基をさらに含み、官能化度は、1%と50%との間である。
【0025】
スチレン含有率は、核磁気共鳴法(NMR:nuclear magnetic resonance)、好ましくは1H-NMRなどの標準的技術を用いて決定されてもよい。あまり好ましくはないが、TPEのFT-IRが使用されてもよい。1H-NMR決定のため、ポリマ約20mgは、これに限定されないが、CDClまたはDMSO-dなどの適切な重水素化溶媒に溶解される。次いで、高分子溶液がNMRチューブに移され、1H-NMRスペクトルが記録される。次いで、積分されたプロトンシグナルは、スチレン含有率、または実際に測定される他の成分に関連され得る。
【0026】
官能化度は、NMR、好ましくは1H-NMRなどの標準的技術を用いて決定されてもよい。あまり好ましくはないが、官能基化TPEのFT-IRが使用されてもよい。1H-NMR決定のため、官能基化ポリマ約20mgは、これに限定されないが、CDClまたはDMSO-dなどの適切な重水素化溶媒に溶解される。次いで、高分子溶液がNMRチューブに移され、1H-NMRスペクトルが記録される。積分されたプロトンシグナルは、最終的に、官能化度に関連され得る。
【0027】
好ましい実施形態では、官能化度は、3%から35%までの範囲でもよい。
【0028】
必要に応じて、1つ以上の陽イオン基は、窒素、リン、硫黄、および/または金属イオンを含んでもよい。
【0029】
好例の実施形態による陰イオン交換膜では、第1ポリマ骨格は、陽イオン基を含む側鎖に架橋されてもよい。
【0030】
有利に、TPEのスチレン含有率、またはTPEの芳香環含有率は、35重量%から55重量%までの範囲でもよい。
【0031】
有利に、膜は、10μmと100μmとの間の厚さを有してもよい。
【0032】
本発明の別の態様によれば、実質的に前述のとおりの陰イオン交換膜が提供され、電気分解装置と、燃料電池と、電気化学圧縮機と、電気浸透機器と、のいずれか1つにおける膜電極接合体において利用される。
【0033】
本発明のさらに別の態様によれば、実質的に前述のとおりの陰イオン交換膜を備える膜電極接合体が提供される。
【0034】
したがって、芳香環を含む多様なTPEが使用されてもよい一方で、好ましい実施形態では、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS:styrene-ethylene-butylene-styrene)が使用される。あるいは、芳香環は、スチレンまたはスチレン様でもよい。スチレン様代替物は、ポリフェニレンオキシド(PPO:polyphenylene oxide)またはポリマ中に芳香環を含むいずれかのメチルなど、必ずしもスチレンから誘導される必要はない。
【0035】
SEBSなどの熱可塑性エラストマのスチレン含有率は、30重量%から70重量%までの範囲であると想定される。より好ましくは、スチレン含有率の範囲は、35重量%と55重量%との間である。さらにより好ましくは、スチレンは、40重量%から50重量%までの範囲である。好ましい実施形態では、スチレン含有率は、実質的に42重量%である。
【0036】
本明細書で使用されるとき、官能化度は、全モノマに対する電荷を有するモノマの比を示す。測定の代替としては、電荷を有するように変換され得るこれらのモノマに対する電荷を有するモノマの比が挙げられる。
【0037】
SEBS、またはスチレンを含む代替の熱可塑性エラストマの形態は、スチレン含有率に依存する。例えば、膜中の親水性マイクロチャネルは、上記の好ましい範囲の両側において観察される。好ましい範囲内では、構造は、スチレンブロックと脂肪族ブロックとが交互になった層状であるという点で異なることが分かった。事実、ブロックAとブロックBとを含むいずれかのブロック共重合体は、同様の特性を示し、これはSEBSのみに限定されないことを意図するものである。
【0038】
薄過ぎる場合、AEMの機械的強度は低過ぎる傾向があり、圧力下で動作する場合、水素クロスオーバーは、より高頻度に見られる。厚過ぎる場合、機械的強度は向上するものの、例えば、伝導度、水輸送などの他の特性は、欠点となる可能性があるだろう。したがって、膜は、10マイクロメートルと100マイクロメートルとの間、より好ましくは、30マイクロメートルと80マイクロメートルとの間であると想定される。
【0039】
ポリマ骨格の架橋は、AEMの機械的強度と耐用寿命とを向上させる助けとなる。しかしながら、架橋は、伝導度などの他の所望の特性に悪影響を与える可能性がある。架橋は、複数の方法で達成されてもよい。1つの実施形態では、架橋は、TMHDA:TMAなどの正電荷基をもたらすポリマ上に存在する部分と反応し得る。ジアミンとモノアミンとの混合物を用いて達成されてもよい。次いで、この混合溶液は、AEMの骨格となるポリマ薄膜を含む溶媒と混合され、溶液中に入れられて、一定時間官能化される。最も一般に用いられるジアミンの1つは、DABCO(1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)であるが、これは相対的反応速度を制御できず、架橋度が低下する。好ましくは、TMHDA(N,N,N′,N′-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン)などの3以上の炭素鎖を有するジアミンまたはポリアミンは、架橋度を予め決定するために、TMA(トリメチルアミン)または他のモノアミンと共に調整された比で使用され得る。
【0040】
上記の与えられた比は、20:80である。事実、TMHDA:TMAなど、第2アミンに対する第1アミンの比は、5:95から60:40までの範囲でもよいと想定される。例としては、これらに限定されないが、10:90と、20:80と、30:70と、40:60と、50:50と、が挙げられる。必要とされる最終特性に応じて、トレードオフは、考慮されるべきである。第2アミンに対する第1アミンの比は、引用される例のアミンの相対的反応性のために混合物に適用する。相対的反応性が異なる場合、所望の架橋度を達成するために、他の比が使用されてもよい。例えば、1:10のTMAに対する相対的反応性を有するアミンが使用される場合、10:90と同じ架橋を達成するために、1:99の比が使用されるべきである。相対的反応性は、既知の手段と、それに合うように修正された上記の比と、により決定されてもよい。
【0041】
モノアミンおよびジアミン、またはモノアミンおよびトリアミンの組合せを使用することが可能であると想定され、または実際には、モノアミンおよびポリアミン、または架橋に対して異なる反応速度を有する2つのポリアミンが使用されてもよく、アミンは直鎖でもよく、環式でもよい。架橋量は、起こるだろう架橋量を制御するために、所定比で化学量論量の第1アミンと第2アミンとを導入することにより予め決定され、制御され得る。TMAの代替物としては、これらに限定されないが、他の脂肪族モノアミン(直鎖または環式)、芳香族アミン、またはイミダゾール誘導体が挙げられる。
【0042】
上記のため、溶媒は、必要とされる。好ましい実施形態では、溶媒は、メタノール(MeOH)であり、必ずしもこれらに限定されないが、水、エチレングリコールまたはエタノールなどの他の溶媒が使用されてもよい。あるいは、必ずしもこれらに限定されないが、酢酸エチルまたはアセトニトリルなどの極性が低い溶媒が使用されてもよく、または必ずしもこれらに限定されないが、炭化水素またはトルエンなどの無極性溶媒さえも使用されてもよく、ただし、これらの溶媒はポリマ薄膜を溶解しない。
【0043】
官能化度は、1%と50%との間のどこでもあり得ると想定される一方で、好ましくは、官能化度は、3%から35%までの範囲である。より好ましくは、さらに官能化度は、7%から15%までの範囲である。
【0044】
好ましい実施形態では、陽イオンは、第4級アンモニウム基である。あるいは、これに限定されないが、OHなどの陰イオンの移動を促進するだろういずれもの陽イオンが使用されてもよい。かかる化合物としては、窒素、リン、硫黄、または金属系陽イオンが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。現在の陽イオンのいずれかの組合せは、使用されてもよいと想定される。
【0045】
架橋は、ポリマ骨格において起こると想定される一方で、前述の陽イオン基を含む架橋も存在し得る。
【0046】
水素クロスオーバーも考慮されなければならず、これは、様々な方法で制御され得る。1つの実施形態では、充填剤が使用されてもよく、好ましくは、充填剤は、Al、あるいはCuフタロシアニンであり、またはバルカンが使用されてもよい。充填剤は、単独で使用されてもよく、組み合わせて使用されてもよい。充填剤(単数)または充填剤(複数)は、有機、無機またはこれらの組合せでもよい。水素クロスオーバーを制御する別の手段は、架橋のためのルイス酸を使用することによる。かかる酸としては、必ずしもこれらに限定されないが、AlClとSnClとが挙げられる。SnClは、他の酸より好ましい。これらのルイス酸は、キャスティング手順中架橋を増強することができ、および/または空気中の水でルイス酸は、AlまたはSnOなどの充填剤に転換される可能性がある。ルイス酸を用いる場合、いくつかの官能化は、架橋のために犠牲にされる。
【0047】
架橋は、機械的特性および/または水素クロスオーバーを制御する有用な手段である。架橋を促進する他の方法は、TPE中の官能基、例えば、SBS中のブタジエンにおける二重結合を利用することによる。
【0048】
なお、架橋は、UV光、加硫、ルイス酸、ジビニルベンゼンなどのモノマの使用、または本明細書で説明されるとおり制御され得る様々な他の理由により起こり得る。
【0049】
さらに、ナノクレイ、または、必ずしもこれに限定されないが、モンモリロナイトなどの同様な化合物の添加が、水素クロスオーバーに対処するために導入されてもよい。モンモリロナイトは、膜一面に層状構造を形成して、水素クロスオーバーを低減するため、有益である。通常、モンモリロナイトまたは均等物は、適切な陽イオン基を用いた剥離などにより処理されるだろうと想定される。
【0050】
35重量%から65重量%までのスチレンの範囲のSEBSは、層状特性を示す。この配向は、変わり得るが、好ましい実施形態では、SEBSは、実質的に1つの平面内で層状である。層状構造は、実質的に平行でもよく、または膜の平面に対して垂直でもよい。
【0051】
膜がキャストされる条件は、前記膜の特性に影響を与える。好ましい実施形態では、膜は、実質的に無水および清潔な環境でキャストされる。加えて、汚染のリスクまたは望ましくない反応の発生を軽減するために、各段階は、不活性雰囲気下で行われてもよい。さらになお、暗所、または少なくとも光が制限された環境においてキャスティングを行うことが、好ましい。
【0052】
溶媒は、必ずしも必要とされない。薄膜の無溶媒キャスティングは、押出により達成され得ると想定される。そのような場合、ポリマは、押出を可能とするように前記ポリマの特性のために適切な温度まで加熱されなければならないだろう。
【0053】
本発明により作製されたAEMは、これらに限定されないが、電気分解装置と、燃料電池と、電気化学圧縮機と、電気浸透機器とが挙げられ、様々な応用で使用されてもよい。膜は、膜電極接合体(MEA:membrane electrode assembly)の部分を構成するだろう。好ましくは、かかるMEAは、アノードまたはカソードにおいて、少なくとも本発明によるAEMと、1つ以上の触媒と、を備える。さらにより好ましくは、使用される触媒は、白金族金属(PGM)を含まない。
【0054】
本明細書で使用されるとき、用語「ハロメチル化」は、これらに限定されないが、クロロメチル化、ブロモメチル化、ヨードメチル化などの変化形を含むことを意図するものである。ハロメチル化の一例についての言及は、他の実施形態を排除することを意図するものではない。例えば、好ましい実施形態は、クロロメチル化を使用するが、これについての言及は、必ずしもハロメチル化の他の形態を排除しない。
【0055】
TPEは、芳香環を含むいずれかのTPEでもよいと想定される一方で、好ましい実施形態では、前記TPEは、スチレンを含むと想定される。スチレンは、30重量%から70重量%までの範囲である。さらになお、スチレンを含むTPEは、SEBSであると想定される。
【0056】
SEBSの精製のため、スチレン、またはいずれかの適切なTPEの所望の比で、ポリマは、これに限定されないが、クロロホルムなどの溶媒にポリマ溶解される。クロロホルム中のSEBSの溶液は、必要に応じてろ過され、次いで、必ずしもこれに限定されないが、メタノールなどのアルコールにゆっくりと注がれる。必ずしもこれに限定されないが、トルエンを含む炭化水素または酢酸エチルなどの他のものなどの他の無極性溶媒が、使用されてもよい。次いで、得られた混合物は、好ましくは、真空下または遠心分離などの他の手段でろ過される。ラジカル阻害剤、または他の添加剤や、遊離ポリマを得るためにこの工程は、反復されてもよい。
【0057】
精製は、さらなる制限なしに行われ得る一方で、反応は、不活性栓を有するフラスコなどの密封容器中、光と過剰な水、または酸素の非存在下で行われることが好ましい。不透明材料で反応容器を被覆することは、この点について有益であり、好ましい。
【0058】
次いで、精製SEBSは、ハロメチル化されなければならない。好ましい実施形態では、これは、精製SEBSをクロロホルムに溶解することを必要とする。次いで、トリオキサン、塩化トリメチルシリル、およびSnCl、またはトリオキサン、塩化トリメチルシリル、およびSnClの代替物が添加され、冷却器が反応容器に装着される。溶液は、いずれかの手段により加熱されてもよいが、油浴が使用されることが好ましい。それから、混合物は、長時間、例えば、24時間にわたって、好ましくは72時間から120時間まで、0℃から50℃まで加熱される。好ましい実施形態では、反応は、96時間実行するために放置される。事実、反応は、3時間と6日間との間実行することが想定されて、これは、使用されるTPEに依存する。
【0059】
反応は、通常50:50の体積比の、水とメタノールとの混合物、または未反応試薬を加水分解する他の任意の混合物の添加により、停止されてもよい。あるいは、炭酸カリウムが使用されてもよく、または未反応試薬を加水分解し得る他の化合物もしくは混合物が使用されてもよい。
【0060】
分液漏斗などの反応容器からクロロホルム相を分離する手段は、クロロホルム相を他の相から分離するために使用される。次いで、クロロホルム相は、好ましくは、ゆっくりとメタノールに注がれることができ、この時点で沈殿物は、生成し、この混合物は、再度ろ過される。
【0061】
沈殿ろ過ポリマは、さらに再度クロロホルム中に溶解することにより精製されてもよく、得られた溶液は、メタノールに注がれる。次いで、ポリマは、様々な手段によりろ過されてもよいが、真空ろ過が好ましい。かかるろ過は、前の工程で使用されてもよい。
【0062】
次いで、膜のキャスティングである。前工程から得られた乾燥精製クロロメチル化SEBSは、クロロホルム、または他の溶媒に溶解され、次いで、必要に応じてろ過される。次いで、ベルジャ、または他のカバーなど溶媒の蒸発を制御するように備えられた手段を用いて、好ましくは、清潔な環境において膜は、キャストされる。一旦乾燥すれば、キャスト膜は、さらなる処理のために取り出され得る。キャスティングの代替方法としては、ポリマの押出を可能とするために高温を利用することによる無溶媒キャスティングが挙げられる。
【0063】
精製およびハロメチル化されたSEBSは、ここでキャストされ、次いで、アミノ化されなければならない。モノアミン、ジアミン、またはポリアミンから選択される2つ以上のアミンの比の使用により、アミノ化が行われてもよい一方で、好ましい実施形態は、TMHDA:TMAの代替物の組合せである。あるいは、N-メチルイミダゾール、N-メチルピペリジン、N-メチルピロリジン、またはDABCOが、使用されてもよい。アミンの直鎖状変異体と環状変異体との両方が、使用されてもよいと想定される。これは、16時間から72時間まで室温より高い温度で精製クロロメチル化SEBSの浸漬により、行われてもよい一方で、好ましい代替法がある。
【0064】
前述のとおり、最も好ましいのは、実質的に20:80の比のTMHDA:TMAの混合物の使用である。代替の選択肢は、上記に概説されており、本明細書に記載される方法で使用されてもよい。次いで、この混合溶液は、これに限定されないが、メタノール、エタノール、グリセリン、またはエチレングリコールなどの溶媒と混合される。精製クロロメチル化SEBSは、TMHDA:TMA混合物、または均等物に入れられ、好ましくは40℃と80℃との間、より好ましくは50℃と70℃との間、最も好ましくは実質的に60℃の室温より高い温度まで加熱される。膜は、保管前にすすぎ/洗浄および乾燥のいずれかが行われ、保管後、使える状態にされるべきである。保管は、低温、暗所、低湿度または無湿度の環境で行われるべきである。
【0065】
上記与えられた好ましい比は、20:80である。事実、これに限定されないが、TMHDA:TMAなど、第2アミンに対する第1アミンの比は、5:95から60:40までの範囲でもよいと想定される。例としては、これらに限定されないが、10:90と、20:80と、30:70と、40:60と、50:50とが挙げられる。比は、膜にとって望ましい特性を満たすために修正されてもよい。
【0066】
前述のとおり、TMA、または他のモノアミンを用いた比の調整により3以上の炭素鎖を有するジアミンまたはポリアミンの選択することにより、官能化度を予め決定する。事実、アミノ化方法のための2つ(以上)のアミンの比の使用により、本発明者らは、膜を同時に架橋および官能化することが可能であり、これは明白に極めて有利であることを発見した。
【0067】
有効性は、粒子よりむしろ膜を用いるとより高いことが分かったので、他の段階中とは対照的にキャスト膜をアミノ化することが好ましい。
【0068】
前述のとおり、水素クロスオーバー、伝導度、および機械的強度などの膜の特定の特性を変える様々な必要に応じて選択される工程がある。これらの工程は、下記に概説される。
【0069】
水素クロスオーバーは、特に高圧下で運転される場合の電気化学機器において使用される膜について、問題である。架橋は、TMHDA:TMAアミノ化中に起こる一方で、追加の方法が、最終膜の水素クロスオーバーを低減するために使用されてもよい。1つのかかる例としては、充填剤の利用が挙げられる。好ましくは、充填剤は、Alであり、あるいはCuフタロシアニンまたはバルカンが使用されてもよい。充填剤は、単独で使用されてもよく、組み合わせて使用されてもよい。充填剤(単数)または充填剤(複数)は、有機、無機、またはこれらの組合せでもよい。アミンの比を用いた架橋は、上記にさらに詳細に述べられている。
【0070】
水素クロスオーバーを低減する別の手段は、これらに限定されないが、AlClおよびSnClなどのルイス酸を用いた追加の架橋による手段であり、SnClを用いれば他の酸より良い結果となる。
【0071】
膜が直接合成される条件は、最終特性に影響を与えることが分かった。工程は、制御された環境、好ましくは、暗所、乾燥(すなわち、実質的に無湿度または非常に低湿度)および清潔、すなわち、埃および潜在的な汚染物質を含まない環境で行われることが好ましい。
【0072】
スチレン含有率は、形態のみでなく、水取込、水素クロスオーバー、および機械的特性などの膜の特性にも影響を与えることが分かった。所望の範囲では、材料は、エラストマのゴム様特性と、プラスチックと同様の方法で処理される能力と、の両方を兼ね備えるプラストマ特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下は、本発明にかかるAEMを合成する具体例の測定を含む工程である。
【0074】
SEBSの精製
1.SEBS10g、30重量%から70重量%までのスチレンを、室温においてクロロホルム200mlに溶解する。
2.工程1の溶解されたSEBSを、メタノール300mlにゆっくりと注ぐ。
3.ろ過して沈殿物を得る。-工程1から工程3までを反復してラジカル阻害剤を含まない精製SEBSを得る。
4.溶媒の除去を保証するのに充分な時間室温より高い温度で沈殿物を乾燥する。
5.直ぐに使用しない場合、乾燥精製SEBSを適切に保管すべきである。
【0075】
クロロメチル化
6.精製SEBSの約10gを、室温で、フラスコ内のクロロホルム500mlに溶解する。
7.トリオキサン4gと、塩化トリメチルシリル30mlと、SnCl3mlとの混合物を添加し、水冷還流冷却器を装着し、48時間50℃まで加熱するために油浴にフラスコを置く。
8.冷却器の上部から50:50(体積)の水とメタノール300mlとを添加することにより反応を停止する。
9.多相溶液を、分液漏斗を用いて分離できる-クロロホルム相をメタノール500mlにゆっくりと添加して、クロロメチル化SEBSを沈殿させる。沈殿物をろ過して、これを乾燥する。
10.沈殿されたクロロメチル化SEBSを、室温において必要な最小量のクロロホルムにこれを溶解することにより精製し、メタノールにゆっくりと添加して沈殿させる。
11.ろ過して精製クロロメチル化SEBSを得る。
12.溶媒の除去を保証するために充分な時間、室温より高い温度で精製クロロメチル化SEBS沈殿物を乾燥する。
13.直ぐに使用しない場合、乾燥精製クロロメチル化SEBSを適切に保管すべきである。
【0076】
キャスティング
14.乾燥精製クロロメチル化SEBSを、クロロホルム、または他の有機溶媒に溶解し、ろ過して粒子を除去する。
【0077】
15.小さい開口部を有するクラスベルジャなど、溶媒をゆっくり蒸発させることを保証する手段を用いて、清潔な環境においてペトリ皿中に膜をキャスティングする。
16.溶媒を蒸発後、汚染のリスクを最小限に抑えて注意深く、ペトリ皿からキャスト膜を剥がす。
【0078】
アミノ化
17.キャスト膜を、還流冷却器を用いて60℃において48時間から72時間まで、TMHDA:TMA(10:90の比)の溶液に浸漬する。アミノ化反応は、不均一相で起こる。
18.アミノ化浴から膜を抽出し、すすぐ。
19.保管または使用のために膜を調製する。
【0079】
段階6を含む特定の段階は、好ましくは、窒素雰囲気生成装置を用いるなど不活性雰囲気下で行われてもよい。加えて、反応は、光を遮断するように適合された容器で行われてもよい。段階13では、必要に応じて充填剤は、添加されることができ、または追加の架橋のためのジアミンは、添加され得る。通常、一方のみが行われ、両方は行われない。
【0080】
全段階において溶媒は、必ずしも必要でない。薄膜の無溶媒キャスティングは、押出により達成され得ると想定される。そのような場合、ポリマは、押出を可能とするように前記ポリマの特性のために適切な温度まで加熱されなければならないだろう。溶媒の有無に関わらず、膜をキャストする他の手段としては、より均一な平滑膜を得るために2つの平滑面間に高圧を利用することが挙げられる。代替手段としては、テフロンなどの非粘着面にキャストすることが挙げられる。
【0081】
所定の厚さを有する膜をキャストするために、方法は、次のとおりである。過剰の溶媒に溶解しようとするポリマの所定量の重量を量り、溶媒が蒸発する場合に、キャスト膜が所望の厚さとなるように所定面積でキャストする。あるいは、湿潤厚さは、所望の乾燥厚さを計算する際に面積の代わりに使用されてもよく、この実施形態では、使用される溶媒の量は、過剰にならないように予め決定される。この第2実施形態では、これに限定されないが、ブレードコーティング、スロットダイ、噴霧、およびその他などの公知のロールツーロール技術の使用により方法を連続式にすることが可能である。
【0082】
膜の架橋は、膜のキャスティング中、および/または前記膜のアミノ化中に起こり得ると想定される。
【0083】
なお、膜は、通常、MEAの部分として使用され得る。そのため、膜は、所望の形状に調製、またはサイズに断裁され得る。
【図面の簡単な説明】
【0084】
本発明の理解を助けるために、本発明の特定の実施形態を例示し、添付の図面を参照して説明する。
図1図1は、スチレン/ブタジエンブロック共重合体の相体積比と、スチレン/ブタジエンブロック共重合体と、の形態を示す。
図2a図2aは、本発明によりキャストされた膜のSEM顕微鏡写真を示す。
図2b図2bは、本発明によりキャストされた膜のSEM顕微鏡写真を示す。
図2c図2cは、本発明によりキャストされた膜のSEM顕微鏡写真を示す。
図3図3は、ルイス酸の利用から得られた架橋を示す。
図4a図4aは、本発明により製造された膜の特性を実証するグラフを示す。
図4b図4bは、本発明により製造された膜の特性を実証するグラフを示す。
図4c図4cは、本発明により製造された膜の特性を実証するグラフを示す。
図4d図4dは、本発明により製造された膜の特性を実証するグラフを示す。
【実施例
【0085】
図1を参照すると、複数の画像があり、顕微鏡検査と図との両方は、市販のスチレンブタジエン製品の構造を示す。図中1Aから1Gまで、スチレンの重量%の増加およびブタジエン量の減少がある。スチレンは、黒色で図示され、ブタジエンは、白色で図示される。
【0086】
1Aで見られる形態は、2Aで別の形式で図示され、スチレンが存在しないことを示す。1Bと2Bとでは、スチレンは、15重量%未満で、ブタジエン中にマイクロチャネルを示す。スチレン含有率の15重量%と35重量%との間では、1Cと2Cとでは、チャネル数は、双連続と見做されるように増加する。
【0087】
予想外に、35重量%から65重量%までの範囲のスチレン、1Dと2Dとでは、構造は、スチレンマイクロチャネル3から、スチレン4とブタジエン5との交互に重なった層を有する層状構造に変化する。層状構造は、機械的強度、伝導度、水素クロスオーバー低減、その他などの改良された特性を可能とする。
【0088】
一旦、スチレン量が65重量%から85重量%までに増加すると、1Eと2Eとの形態は、スチレン中に存在するブタジエンのチャネルを有する1Cおよび2Cを実質的に反映している。85重量%より大きい1Fと2Fとの場合、形態は、大半のスチレン構造中に存在するブタジエンチャネルを有する1Bおよび2Bを実質的に反映している。
【0089】
図1に図示される化合物の特性は、組成物に依存して変わる。スチレンを含まない1Aの場合、特性は、ゴムである。スチレン35重量%まで増加する場合、化合物は、熱可塑性エラストマ特性を示す。好ましい範囲において、1Dでは、化合物は、プラストマであり、エラストマ特性とプラスチック特性との両方を示す。65%より大きい場合、化合物は、より脆性になる。
【0090】
本発明の特定および好例の実施形態による陰イオン交換膜の製造方法の主要段階をここで概説する。特定の化合物を命名する一方で、上記概説されている代替物を使用してもよい。工程は、次のとおりで、追加された見出しをさらに付け加えて、各セクションを示す。
【0091】
SEBSの精製
a)SEBS10g、30重量%から70重量%までのスチレンを、室温においてクロロホルム200mlに溶解する。
b)工程1の溶解されたSEBSを、メタノール300mlにゆっくりと注ぐ。
c)ろ過して沈殿物を得る。-工程aから工程cまでを反復してラジカル阻害剤を含まない精製SEBSを得る。
d)溶媒の除去を保証するために充分な時間室温より高い温度で沈殿物を乾燥する。
e)直ぐに使用しない場合、乾燥精製SEBSを適切に保管すべきである。
【0092】
クロロメチル化
f)精製SEBSの約10gを、室温で、フラスコ内のクロロホルム500mlに溶解する。
g)トリオキサン4gと、塩化トリメチルシリル30mlと、SnCl 3mlとの混合物を添加し、水冷還流冷却器を装着し、48時間50℃まで加熱するために油浴にフラスコを置く。
h)冷却器の上部から50:50(体積)の水とメタノール300mlとを添加することにより反応を停止する。
i)多相溶液を、分液漏斗を用いて分離できる-クロロホルム相をメタノール500mlにゆっくりと添加して、クロロメチル化SEBSを沈殿させる。沈殿物をろ過して、これを乾燥する。
j)沈殿されたクロロメチル化SEBSを、室温において必要な最小量のクロロホルムにこれを溶解することにより精製し、メタノールにゆっくりと添加して沈殿させる。
k)ろ過して精製クロロメチル化SEBSを得る。
l)溶媒の除去を保証するために充分な時間、室温より高い温度で精製クロロメチル化SEBS沈殿物を乾燥する。
m)直ぐに使用しない場合、乾燥精製クロロメチル化SEBSを適切に保管すべきである。
【0093】
キャスティング
n)乾燥精製クロロメチル化SEBSを、クロロホルム、または他の有機溶媒に溶解し、ろ過して粒子を除去する。
o)小さい開口部を有するクラスベルジャなど、溶媒をゆっくり蒸発させることを保証する手段を用いて、清潔な環境においてペトリ皿中に膜をキャスティングする。
p)溶媒を蒸発後、汚染のリスクを最小限に抑えて注意深く、ペトリ皿からキャスト膜を剥がす。
【0094】
アミノ化
q)キャスト膜を、還流冷却器を用いて60℃において48時間から72時間まで、TMHDA:TMA(10:90の比)の溶液に浸漬する。アミノ化反応は、不均一相で起こる。
r)アミノ化浴から膜を抽出し、すすぐ。
s)保管、または使用のために膜を調製する。
【0095】
図2aは、本発明によりキャストされた膜のSEM顕微鏡写真を示す。膜30aは、大きい欠陥がなく実質的に平滑であることが分かる。この膜サンプルは、膜を非研磨面にキャストした図2bと図2cとに示されるサンプルと異なる。
【0096】
図2bは、第2膜30bを図示し、図2cは、膜30bの断面の近接写真である。隆線状部31が見られ、膜をキャストした表面が如何に平滑であるかに起因する。図2cでは、膜30bの断面は、より容易に見られる。膜は、層状平面32を有し、平面は、膜の配向に対して持続的に垂直であることがわかる。
【0097】
図3は、ルイス酸架橋中に起こる反応を示す。AlCl、SnCl、または他のルイス酸のいずれかが使用されてもよい。架橋過程は、ポリマのスチレンブロック上で起こり、ハロメチル基は、触媒としてルイス酸を用いてアルキル化反応(フリーデルクラフツ)中に反応し、ポリマの2つの芳香環の間にメチレン架橋する。
【0098】
図4aと図4bとは、モノアミンとジアミンとの比を用いて30%スチレンを有するSEBSを含む本発明により作製された膜の特性を実証するグラフを示す。
【0099】
図4aでは、ジアミンモル%の比が増加するときの伝導度と水取込とが示される。伝導度は、0%と10%との間のジアミンでは、9mS/cmから6.5mS/cmまで有意に低下する。ジアミン比が70%まで増加するとき、約1.7mS/cmまで持続的に低下する。70%と90%との間のジアミンでは、伝導度は、実質的に1.5mS/cmに低下したままである。
【0100】
水取込は、30%SEBSサンプルと逆の同様のパターンが見える。0%アミンにおける約68%取込み(重量)で開始して、ジアミンの比が10%まで増加する場合、ほとんど差はない。10%と70%との間のアミンでは、水取込は、40%まで低下する。グラフの最終的傾きは、最も重要であり、90%ジアミンを使用する場合、約30%の水取込である。
【0101】
図4bは、同じ膜のイオン交換容量(IEC:ion exchange capacity)を示す。興味深いことに、IECは、ジアミンの比とは関係なく1.1ミリ当量(mEq)/gと1.2ミリ当量(mEq)/gとの間で実質的に一定のままである。
【0102】
図4cと図4dとは、それぞれ、図4aと図4bと同じグラフを示すが、67%のスチレン含有率を有するSEBSを用いた本発明により作製された膜に関するグラフである。図4cでは、伝導度は、ジアミンが0%から5%まで増加すると共に、11mS/cmから10.5mS/cmまで低下することが示されている。傾斜は、40%ジアミンにおいて約10mS/cmまで緩やかに低下するままである。これは水取込と異なり、水取込は、よりはるかに高く、この実施形態では、ジアミン%が0%から5%まで増加すると共に157%から約148%まで低下する。水取込は、ジアミン%が40%まで減少すると共に劇的に急低下し、60%の水取込まで低下する。
【0103】
図4dは、67%SEBSを含む膜のIECを示す。ジアミン%が0%から40%まで増加すると共に、IECは、1.5ミリ当量(mEq)/g辺りで実質的に同じままである。
【0104】
IECは、30%SEBSの実施形態より僅かに高いことが注目される。しかしながら、IECは、使用される比と関係なく、両実施形態について実質的に一定のままである。
【0105】
伝導度と水取込とを比較する場合、差は、より明白である。伝導度の急低下は、30%SEBSサンプルにおいてより大きく、同等の40%ジアミンにおける4mS/cm未満まで低下するが、67%SEBSサンプルは、10mS/cmより高いままである。逆に、水取込は、総じて、SEBS中より多いスチレンのサンプルにおいてはるかにより高い。
【0106】
膜の異なる応用は、最適化される異なる特性を必要とし、これら特性としては、とりわけ、伝導度と、クロスオーバーと、機械的強度とが挙げられる。水取込は、機械的強度と関連し、このパラメータは最も大きく異なる。
【0107】
本発明は、前述の実施形態の詳細に限定されることを意図するものではなく、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲から逸脱することなく記載される実施形態に対して修正および変更を行うことができることは、前述の説明から当業者に明白であろう。例えば、異なるパラメータは、伝導度、クロスオーバー、および機械的強度などの異なる特性を改良するために変更されてもよい。
【0108】
前述の本発明は、電気化学機器の特定の種類に限定されることを意図するものではない。事実、本発明は、AEMを必要とし得るいずれかの機器または方法を用いて使用されてもよい。
【0109】
本発明は、モノアミンと、ジアミンと、トリアミンと、に限定されることを意図するものではなく、同様の結果は、他のポリアミンの使用により達成されてもよい。
【0110】
芳香環上のハロメチル基を得るためのハロメチル化は、これに限定されないが、ポリフェニレンオキシドなどの代替の手段により達成されてもよい。かかる経路は、本発明により排除されることを意図するものではない。
【0111】
アミノ化は、陽イオン基を導入する段階を表すために使用される。用語「アミノ化」は、他の適切な化合物を排除することを意図するものではない。
【0112】
本明細書においてポリマは、広く使用されている一方で、その使用は、オリゴマを含むことを意図するものである。
【0113】
様々な段階は、加熱を必要とし、本発明は、いずれもの適切な加熱手段が使用されてもよいので、油浴の使用に限定されることを意図するものではない。
【0114】
本明細書で使用されるとき、AEMは、陰イオン交換膜を指すことを意図したものであり、AEM電気分解装置は、AEMを利用する電気分解装置である。逆に、PEMは、プロトン交換膜を指し、PEM電気分解装置は、PEMを備える電気分解装置である。

図1
図2a
図2b
図2c
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
【国際調査報告】