IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニバーシティー ヘルス ネットワークの特許一覧

特表2023-521345SAGA(SPT-ADA-GCN5-アセチルトランスフェラーゼ)複合体の破壊による、CD8+ T細胞の活性化及び細胞溶解活性を向上させるための組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-24
(54)【発明の名称】SAGA(SPT-ADA-GCN5-アセチルトランスフェラーゼ)複合体の破壊による、CD8+ T細胞の活性化及び細胞溶解活性を向上させるための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230517BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230517BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230517BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230517BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230517BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230517BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N5/0783
A61K35/17
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K39/395 T
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561057
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(85)【翻訳文提出日】2022-12-02
(86)【国際出願番号】 CA2021050464
(87)【国際公開番号】W WO2021203200
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】63/006,455
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507148294
【氏名又は名称】ユニバーシティー ヘルス ネットワーク
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100218268
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ジニス ジ カルヴァーリョ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ホァ,ホウシェン
(72)【発明者】
【氏名】エッタイェビ,イリアス
(72)【発明者】
【氏名】ソアレス,フレイザー
(72)【発明者】
【氏名】ルー ヤウ,ヘレン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA19
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085EE03
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
T細胞集団のSAGA(Spt-Ada-Gcn5-アセチルトランスフェラーゼ)遺伝子制御複合体の1つ以上の遺伝サブユニットを阻害することを伴う、T細胞集団における、T細胞エフェクター機能を増加させる方法を提供する。がん患者の治療における、そのようなT細胞集団の使用方法もまた提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞集団における、T細胞エフェクター機能を増加させる方法であって、前記方法が、前記T細胞集団のT細胞内で、SAGA(Spt-Ada-Gcn5-アセチルトランスフェラーゼ)遺伝子制御複合体の発現または機能を阻害することを含む、前記方法。
【請求項2】
T細胞集団における、T細胞エフェクター機能を増加させる方法であって、前記方法が、前記T細胞集団のT細胞内で、SAGA(Spt-Ada-Gcn5-アセチルトランスフェラーゼ)遺伝子制御複合体の1つ以上の遺伝サブユニットを阻害することを含む、前記方法。
【請求項3】
前記1つ以上の遺伝サブユニットが、ADA2B、CCDC101、TADA1、TAF5L、TAF6L、TAF10、SUPT7L、及びTRRAPから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
対象における、T細胞エフェクター機能を増加させる方法であって、前記方法が、T細胞集団を、エクスビボで、前記SAGA遺伝子制御複合体の阻害剤を含む組成物と接触させることと、治療に有効な量の前記T細胞集団を前記対象に投与することと、を含む、前記方法。
【請求項5】
前記対象が、がんと診断された患者である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、前記対象にがん療法を投与することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記がん療法が免疫療法である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記対象に免疫チェックポイント阻害剤を投与することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記T細胞が活性化CD8 T細胞である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、前記T細胞内での前記SAGA遺伝子制御複合体の活性を、前記SAGA遺伝子制御複合体が阻害されていないT細胞集団と比較して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%低下させる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記T細胞が、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記阻害剤が低分子である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記阻害剤が、前記SAGA遺伝子制御複合体の遺伝サブユニットをコードする核酸とハイブリダイズして、前記サブユニットの発現を阻害することができる核酸を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記阻害剤が、Cas9タンパク質、または、前記Cas9タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び、CRISPR-casシステムガイドRNAポリヌクレオチドを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
キメラ抗原受容体(CAR)を発現し、SAGA(Spt-Ada-Gcn5-アセチルトランスフェラーゼ)遺伝子制御複合体のサブユニットのうちの1つ異常の発現または機能が阻害される、修飾T細胞。
【請求項16】
複数の、請求項15に記載の修飾T細胞を含む、細胞集団。
【請求項17】
T細胞集団を含むがん治療方法で使用するための細胞集団であって、SAGA(Spt-Ada-Gcn5-アセチルトランスフェラーゼ)遺伝子制御複合体の1つ以上の遺伝サブユニットが、前記T細胞集団内で阻害される、前記細胞集団。
【請求項18】
前記T細胞が活性化CD8 T細胞である、請求項16または17のいずれか1項に記載の細胞集団。
【請求項19】
前記1つ以上の遺伝サブユニットが、ADA2B、CCDC101、TADA1、TAF5L、TAF6L、TAF10、SUPT7L、及びTRRAPから選択される、請求項16~18のいずれか1項に記載の細胞集団。
【請求項20】
前記T細胞内での前記SAGA遺伝子制御複合体の活性が、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%阻害される、請求項16~19のいずれか1項に記載の細胞集団。
【請求項21】
前記阻害剤が、前記SAGA遺伝子制御複合体の遺伝サブユニットをコードする核酸とハイブリダイズして、前記サブユニット、または、Cas9タンパク質、または、前記Cas9タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び、CRISPR-cas9システムガイドRNAポリヌクレオチドの発現を阻害することができる核酸を含む、請求項16~20のいずれか1項に記載の集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2020年4月7日に出願された、米国仮特許出願63/006,455号の優先権を主張する。
【0002】
本出願は、CD8 T細胞の活性化、増殖、または細胞溶解活性を増加させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
SAGA複合体
SAGA(Spt-Ada-Gcn5-アセチルトランスフェラーゼ)複合体は、19個のサブユニットを含む、進化の過程で保存された、多機能同時活性因子である[1]。SAGAは、異なる活性を有する個別のモジュール内に組織化され、構造コア、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)、ヒストン脱ユビキチン化酵素(DUB)、及び、活性化結合分子を含有する[2]。大部分は、2つのクロマチン修飾酵素分子を介する転写の刺激により、及び、タンパク質コード遺伝子の発現における中心的な事象である、TATAボックス結合タンパク質(TBP)を送達して、DNA上に開始前複合体を核形成することにより、SAGA、及びその関連する複合体は、いくつかの異なるシグナル伝達経路に関与する[1]。
【0004】
タンパク質コード遺伝子の転写は、RNAポリメラーゼIIと、複数の一般的な転写因子とを含む開始前複合体(PIC)の形成により開始する。SAGAに加えて、別の多タンパク質複合体である転写因子IID(TFIID)は、TBPを遺伝子プロモーターに送達することができ、酵母菌における全体的な遺伝子発現に必要である。最近の研究では、TFIIDに対してではなく、SAGAに対するより特定の役割が示されている。例えば、SAGA優先プロモーターは、コンセンサスTATAボックスを有する傾向にあり、よりストレス制御された/誘発可能な遺伝子であり、より厳しく制御される傾向にある[3]。TBPが相互作用するSAGAのサブユニットであるSPT3の欠失時に、Huisinga et al.は、全mRNAのレベルは、酵母菌遺伝子のおよそ90%が低下した、TFIIDのサブユニットであるTBP関連因子1(Taf1)により制御されるものと比較して、酵母菌遺伝子の約10%のみが減少した[4]ことを示した。これにより、2つの異なる遺伝子クラス:(1)Spt3により正に制御されるが、Taf1とは本質的に独立している、SAGA優先遺伝子、及び、(2)Spt3よりもTaf1においてより依存的な、TFIID優先遺伝子の大きなクラス(90%)における区別がもたらされた[4]。したがって、一般的なモデルとして、TBPの動員は主に、([2]で確認されるように)TATA含有プロモーターにおいてはSAGAに依存するが、TATA様(または、TATAが少ない)プロモーターにおいてはTFIIDにより支配されることが提案された。それにもかかわらず、中心モジュールは、構造的にTFIIDに関連していることが示されており、ことことは、両複合体におけるTBP結合が、いくつかの共通の特徴を分かち合っていることを示唆している。
【0005】
Baptista et al.による最近の研究では、SAGA枯渇時に、大部分のmRNAの半減期の代償的増加が観察され、異なるSAGA変異体株における、定常状態でのmRNAレベルの変化が限定的であることを説明している[5]。したがって、SAGA枯渇後の、Pol II転写における減少は、Pol II及びメディエーターにおける変異、または、TFIIHにおけるキナーゼ活性の阻害に関して以前に報告されたように、mRNA半減期を増加させることにより補償された。これらの研究は、転写の開始におけるSAGAの重要性、及び、SAGA複合体の構成要素がいつ喪失されるかという、代償メカニズムのポイントを示している[5]。
【0006】
CD8+ T細胞の活性化
CD8+ T細胞は、適応免疫系の細胞である。適応免疫系の鍵となる特徴は、特異的抗原(または、外来病原体)に対して免疫応答を発揮し、抗原の記憶を保持する能力である。CD8+ T細胞は、腫瘍監視のための免疫防御に非常に重要であるだけでなく、細胞毒性剤を送達して、感染細胞、及び腫瘍細胞を殺傷可能でもある[6]。
【0007】
活性化されて、そのエフェクター機能を発揮するためには、ナイーブな抗原特異的CD8+ T細胞には、最適な活性化のための2つのシグナルが必要である:
【0008】
シグナル1-抗原認識
このシグナルは、T細胞受容体(TCR)と共に、ペプチド:MHCクラスI複合体抗原保持細胞による抗原提示により送達され、免疫応答の特異性を確保する。TCRは特異性をもたらすものの、細胞内シグナル伝達のための能力は有しない。しかし、シグナル形質導入は、TCRと関連するCD3分子を介して送達される。CD3分子は、シグナルを形質導入するために、その細胞質テール内に、免疫受容体のチロシンベース活性化モチーフ(ITAM)を含有する。コグネートMHCクラスIによるTCRのライゲーションにより、SrcファミリーのキナーゼであるLcK及びFynによるITAMのリン酸化がもたらされる。リン酸化ITAMは、Lck及びFyn、ならびに、ζ関連プロテインキナーゼ70(ZAP-70)と呼ばれるSkyファミリーキナーゼで構成される、近位シグナル伝達複合体を形成するためのドッキング部位としての役割を果たす。これらの通路を介しての下流シグナル伝達は、カルシウムイオンの細胞内上昇を引き起こし、最終的に、ホスファターゼカルシニューリンの活性化をもたらす。活性化されたカルシニューリンは、転写因子の活性化T細胞(NFAT)ファミリーの核因子のメンバーの脱リン酸化を促進する。最終的に、TCRの関与が、下流でのシグナル伝達カスケードをトリガーし、最終的に、転写因子であるNFkB、NFAT、AP1の核内への活性化に収束する。合わせると、これらは、特定の遺伝子転写プログラムを誘発し、細胞増殖及び分化をもたらす[7]。
【0009】
シグナル2-同時刺激
TCRシグナル伝達を支持するための、第2の同時刺激シグナルが、T細胞の生残及び拡大を促進する役割を果たす。T細胞で発見された典型的な同時刺激性受容体はCD28であり、大部分のナイーブT細胞で構造的に発現している。CD28のリガンドは、抗原提示細胞(APC)の表面で発現するCD80及びCD86である。CD28は、免疫学的シナプスの中央領域内でTCRと同時局在化して発見されてるために、TCRのライゲーション後の、近位でのシグナル伝達複合体における事象を向上させる。したがって、TCRシグナル伝達と共に、CD28は、サイトカイン産生、細胞サイクリング、生残、及び分化を促進することができる[7、8]。
【0010】
CD8+ T細胞は、同時刺激性シグナル伝達のために、CD28以外の多種多様な受容体もまた表示する。プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)及び細胞毒性T-リンパ球抗原4(CTLA-4)などの他の受容体分子は代わりに、阻害シグナルを提供することができ、これは、活性化以外のT細胞阻害を促進することができる[9]。T細胞受容体(TCR)のシグナル伝達の機能的アウトカムを測定し、また、ホメオスタシスを維持するのに重要でもあることから、同時刺激性及び同時阻害性受容体の両方が、T細胞の生物学において本質的な役割を有している[10]。
【発明の概要】
【0011】
一態様では、T細胞集団における、T細胞エフェクター機能を増加させる方法であって、上記方法が、T細胞集団のT細胞内で、SAGA(Spt-Ada-Gcn5-アセチルトランスフェラーゼ)遺伝子制御複合体の発現または機能を阻害することを含む、上記方法を提供する。
【0012】
一態様では、T細胞集団における、T細胞エフェクター機能を増加させる方法であって、上記方法が、T細胞集団のT細胞内で、SAGA遺伝子制御複合体の1つ以上の遺伝サブユニットを阻害することを含む、上記方法を提供する。1つ以上の遺伝サブユニットは、ADA2B、CCDC101、TADA1、TAF5L、TAF6L、TAF10、SUPT7L、及びTRRAPから選択することができる。
【0013】
一態様では、対象における、T細胞エフェクター機能を増加させる方法であって、上記方法が、T細胞集団を、エクスビボで、SAGA遺伝子制御複合体の阻害剤を含む組成物と接触させることと、治療に有効な量の上記T細胞集団を上記対象に投与することと、を含む、上記方法を提供する。一実施形態では、対象は、がんと診断された患者である。いくつかの実施形態では、がんは、血液学的である。いくつかの実施形態では、がんは白血病、リンパ腫、または骨髄腫である。いくつかの実施形態では、方法は、免疫療法であることができるがん療法を対象に投与することをさらに含む。一実施形態では、方法は、対象に免疫チェックポイント阻害剤を投与することを含む。
【0014】
上記方法の全てにおいて、T細胞は、活性化CD8 T細胞であり得る。
【0015】
様々な実施形態では、方法は、T細胞内でのSAGA遺伝子制御複合体の活性を、SAGA遺伝子制御複合体が阻害されていないT細胞集団と比較して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%低下させる。
【0016】
上記方法のいくつかの実施形態では、T細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する。
【0017】
様々な実施形態では、阻害剤は、低分子;SAGA遺伝子制御複合体の遺伝サブユニットをコードする核酸とハイブリダイズして、サブユニットの発現を阻害することができる核酸;ならびに、Cas9タンパク質、または、Cas9タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び、CRISPR-casシステムガイドRNAポリヌクレオチドから選択することができる。
【0018】
別の態様では、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する修飾T細胞を提供し、SAGA遺伝子制御複合体のサブユニットのうちの1つ以上の発現または機能が阻害される。複数の、これらの修飾T細胞を含む細胞集団もまた提供する。別の態様では、T細胞集団を含むがん治療方法で使用するための細胞集団を提供し、SAGA遺伝子制御複合体の1つ以上の遺伝サブユニットは、T細胞集団内で阻害される。これらの細胞集団のT細胞は、適切に活性化されたCD8 T細胞である。1つ以上の遺伝サブユニットは、ADA2B、CCDC101、TADA1、TAF5L、TAF6L、TAF10、SUPT7L、及びTRRAPから選択することができる。様々な実施形態では、これらのT細胞集団内での、SAGA遺伝子制御複合体の活性は、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%阻害される。いくつかの実施形態では、阻害剤は、SAGA遺伝子制御複合体の遺伝サブユニットをコードする核酸とハイブリダイズして、サブユニットの発現を阻害することができる核酸、または、Cas9タンパク質、もしくは、Cas9タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び、CRISPR-casシステムガイドRNAポリヌクレオチドを含む。
【0019】
開示した実施形態は、以下を含む:
【0020】
1.T細胞集団を含む療法で使用するための組成物であって、SAGA(Spt-Ada-Gcn5-アセチルトランスフェラーゼ)遺伝子制御複合体の発現または機能が、上記T細胞集団内で阻害されている、上記組成物。
【0021】
2.T細胞集団を含む療法で使用するための組成物であって、上記SAGA遺伝子制御複合体の1つ以上の遺伝サブユニットが、上記T細胞集団内で阻害され、好ましくは、上記1つ以上の遺伝サブユニットが、ADA2B、CCDC101、TADA1、TAF5L、TAF6L、TAF10、SUPT7L、及びTRRAPから選択される、上記組成物。
【0022】
3.上記SAGA遺伝子制御複合体の上記1つ以上の遺伝サブユニットのうちの少なくとも1つが、上記SAGA遺伝子制御複合体の上記遺伝サブユニットをコードする核酸とハイブリダイズして、上記サブユニットの発現を阻害することができる核酸により阻害される、実施形態2に記載の組成物。
【0023】
4.上記SAGA遺伝子制御複合体の上記1つ以上の遺伝サブユニットのうちの少なくとも1つが、遺伝子編集分子、場合により、Cas9タンパク質、または、Cas9タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び、CRISPR-casシステムガイドRNAポリヌクレオチドにより阻害される、実施形態2に記載の組成物。
【0024】
5.上記療法が同種異系細胞療法である、実施形態1~4のいずれか1つに記載の組成物。
【0025】
6.上記T細胞が活性化CD8 T細胞である、実施形態1~5のいずれか1つに記載の組成物。
【0026】
7.上記SAGA遺伝子制御複合体が阻害されていないT細胞集団と比較して、上記T細胞内での上記SAGA遺伝子制御複合体の活性が、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%低下する、実施形態1~6のいずれか1つに記載の組成物。
【0027】
8.上記T細胞が、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する、実施形態1~7のいずれか1つに記載の組成物。
【0028】
9.上記SAGA遺伝子制御複合体の1つ以上のサブユニットの阻害剤をさらに含む、実施形態1~8のいずれか1つに記載の組成物。
【0029】
10.上記阻害剤が低分子である、実施形態9に記載の組成物。
【0030】
11.がん(例えば、白血病、リンパ腫、または骨髄腫)の治療方法で使用するための、実施形態1~10のいずれか1つに記載の組成物。
【0031】
12.上記療法が、上記対象にがん療法を投与することをさらに含む、実施形態1~11のいずれか1つに記載の組成物。
【0032】
13.上記がん療法が、上記対象に免疫チェックポイント阻害剤を投与することを好ましくは含む、免疫療法である、実施形態12に記載の組成物。
【0033】
14.T細胞集団(好ましくは、活性化CD8 T細胞)における、T細胞エフェクター機能を増加させる方法であって、上記方法が、上記T細胞集団のT細胞内における、SAGA(Spt-Ada-Gcn5-アセチルトランスフェラーゼ)遺伝子制御複合体の機能及び/または発現を阻害することを含む、上記方法。
【0034】
15.T細胞集団(好ましくは、活性化CD8+ T細胞)における、T細胞エフェクター機能を増加させる方法であって、上記SAGA遺伝子制御複合体の1つ以上の遺伝サブユニットの発現を阻害することを含み、好ましくは、上記1つ以上の遺伝サブユニットが、ADA2B、CCDC101、TADA1、TAF5L、TAF6L、TAF10、SUPT7L、及びTRRAPから選択され、場合により、
上記SAGA遺伝子制御複合体の上記1つ以上の遺伝サブユニットのうちの少なくとも1つの発現が、上記SAGA遺伝子制御複合体の上記遺伝サブユニットをコードする核酸とハイブリダイズして、上記サブユニットの発現を阻害することができる核酸により阻害され、及び/または
上記SAGA遺伝子制御複合体の上記1つ以上の遺伝サブユニットのうちの少なくとも1つの発現が、遺伝子編集分子、場合により、Cas9タンパク質、または、Cas9タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び、CRISPR-cas9システムガイドRNAポリヌクレオチドにより阻害され、場合により、
上記T細胞集団の上記T細胞の少なくともいくつかが、CARポリペプチドを含むか、または、上記方法が、上記T細胞を組み換えて、CARポリペプチドを発現させることを含む、上記方法。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1A】実施例1に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞増殖の負の制御因子を同定する。CRISPRスクリーンタイムラインの概略図。
図1B】実施例1に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞増殖の負の制御因子を同定する。受容体(TCR)刺激後の、高カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)(低増殖)及び低CFSE(高増殖)細胞のソート方法。
図1C】実施例1に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞増殖の負の制御因子を同定する。高CFSE(低増殖)集団において濃縮されたsgRNA標的を示す、ボルケーノプロット。
図1D】実施例1に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞増殖の負の制御因子を同定する。高CFSE(低増殖)集団において濃縮されたsgRNA標的のGSEA。濃縮された遺伝子は、CD247、CD3D、CD3G、及びLCKである。
図1E】実施例1に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞増殖の負の制御因子を同定する。トップヒット(IRF4)の認証。IRF4遺伝子に対する、2つのsgRNAによるIRF4の完全なノックアウトを示すウエスタンブロット。
図1F】実施例1に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞増殖の負の制御因子を同定する。トップヒット(IRF4)の認証。IRF4遺伝子に対する、2つのsgRNAによるIRF4のノックアウトを示すフローサイトメトリー。
図1G】実施例1に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞増殖の負の制御因子を同定する。トップヒット(IRF4)の認証。TCR刺激後の、野生型及びIRF4ノックアウトT細胞のCFSE染色。
図2A】実施例2に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞活性化の正及び負の制御因子を同定する。A)CRISPRスクリーンタイムラインの概略図。
図2B】実施例2に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞活性化の正及び負の制御因子を同定する。ライブラリー内のガイドに関して、低CD25細胞に対する、高CD25のlog2倍数変化(LFC)値の分布。下:分布全体を表す灰色の勾配に重ねた、高CD25細胞(濃い)及び枯渇遺伝子(薄い)において濃縮された遺伝子を標的にする、4つ全てのsgRNAに対するLFC。
図2C】実施例2に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞活性化の正及び負の制御因子を同定する。高CD25(高活性化)集団において濃縮されたsgRNA標的を示すボルケーノプロット。
図2D】実施例2に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞活性化の正及び負の制御因子を同定する。低CD25(低活性化)集団において濃縮されたsgRNA標的を示すボルケーノプロット。
図2E】実施例2に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞活性化の正及び負の制御因子を同定する。高CD25(高活性化)集団において濃縮されたsgRNA標的の、遺伝子オントロジー(GO)濃縮分析。
図2F】実施例2に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞活性化の正及び負の制御因子を同定する。低CD25(低活性化)集団において濃縮されたsgRNA標的の、遺伝子オントロジー(GO)濃縮分析。
図2G】実施例2に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞活性化の正及び負の制御因子を同定する。トップヒットのSTRING DPネットワーク分析。
図2H】実施例2に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞活性化の正及び負の制御因子を同定する。CD25のトップヒットとCFSEスクリーンのトップヒットの間の相関関係。
図3A】実施例3に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞脱顆粒の正及び負の制御因子を同定する。A)CRISPRスクリーンタイムラインの概略図。
図3B】実施例3に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞脱顆粒の正及び負の制御因子を同定する。ライブラリー内のガイドに関して、低CD107A細胞に対する、高CD107Aのlog2倍数変化(LFC)値の分布。下:分布全体を表す灰色の勾配に重ねた、高CD107A細胞(濃い)及び枯渇遺伝子(薄い)において濃縮された遺伝子を標的にする、4つ全てのsgRNAに対するLFC。
図3C】実施例3に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞脱顆粒の正及び負の制御因子を同定する。高CD107A(高活性化)集団において濃縮されたsgRNA標的を示すボルケーノプロット。
図3D】実施例3に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞脱顆粒の正及び負の制御因子を同定する。低CD107A(低活性化)集団において濃縮されたsgRNA標的を示すボルケーノプロット。
図3E】実施例3に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞脱顆粒の正び負の制御因子を同定する。高CD107A(高活性化)集団において濃縮されたsgRNA標的の、GO濃縮分析。
図3F】実施例3に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞脱顆粒の正び負の制御因子を同定する。低CD107A(低活性化)集団において濃縮されたsgRNA標的の、GO濃縮分析。
図3G】実施例3に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞脱顆粒の正び負の制御因子を同定する。トップヒットのSTRING DPネットワーク分析。
図3H】実施例3に関する、プールしたCRISPRスクリーンは、CD8+ T細胞脱顆粒の正び負の制御因子を同定する。CD107AのトップヒットとCFSEスクリーンのトップヒットの間の相関関係。
図4】CRISPRスクリーンのために使用したレンチウイルス-RNPエレクトロポレーションの確認。初代ヒトCD8+ T細胞における、候補遺伝子標的であるCD45のノックアウトにおいて効果的である。Cas9を有しないCD45対照は、ノックアウトは、形質導入の48時間後にCas9と複合体化した、CD45標的化ガイドを形質導入した細胞に対して特異的であることを示した。
図5A】SAGA CRISPRスクリーン結果の一覧。CRISPRスクリーンで発見されたSAGA複合体の構成要素。
図5B】SAGA CRISPRスクリーン結果の一覧。全CRIPSRスクリーン間で重なり合う標的。
図5C】SAGA CRISPRスクリーン結果の一覧。全分布を表す灰色の勾配に重ねた、CFSE CRISPRスクリーンにおける、SAGA複合体(有色の線は、SAGA複合体のモジュールに対応する)の構成要素を標的にする全sgRNAに対するLFC。トップランクの標的は、TADA2B、TAF6L、TADA1である。
図5D】SAGA CRISPRスクリーン結果の一覧。全分布を表す灰色の勾配に重ねた、CD25 CRISPRスクリーンにおける、SAGA複合体(有色の線は、SAGA複合体のモジュールに対応する)の構成要素を標的にする全sgRNAに対するLFC。トップランクの標的は、TADA2B、SUPT7L、TAF10、TAF6L、TADA1である。
図5E】SAGA CRISPRスクリーン結果の一覧。全分布を表す灰色の勾配に重ねた、CD107A CRISPRスクリーンにおける、SAGA複合体(有色の線は、SAGA複合体のモジュールに対応する)の構成要素を標的にする全sgRNAに対するLFC。トップランクの標的は、SGF29(またはCCDC101)、TADA3、TADA2B、SUPT7L、TAF10、TAF6L、TADA1、TAD5L、TRRAP、USP22である。
図6A】CD25 CRISPRスクリーンIの認証。TCR刺激後の、高CD25(低活性化)及び低CD25(高活性化)のソート方法。
図6B】CD25 CRISPRスクリーンIの認証。低CD25集団におけるトップヒットとしてCD25(IL2RA)を示す、ボルケーノプロット。
図6C】CD25 CRISPRスクリーンIの認証。TCR刺激後にCD25発現を低下させるIRF4ノックアウトCD8 T細胞の認証。
図6D】CD25 CRISPRスクリーンIの認証。SAGA標的ノックアウトの7日後に測定した、TCR刺激後にCD25発現(及びMFI)を増加させるSAGA複合体の構成要素の、最初の認証。
図6E】CD25 CRISPRスクリーンIの認証。CD8 T細胞上でCD25、CD69、及びHLA-DRを測定するための、SAGA標的認証に最適化したタイムラインの概略図。
図6F】CD25 CRISPRスクリーンIの認証。対照(N=2、2つの異なる生体サンプル、平均±SEM)と比較して、SAGA標的ノックアウトを有するCD8 T細胞における、CD25、CD69、及びHLA-DRの倍率変化発現。静止状態、及び、24時間の再刺激。
図7A】CD107A CRISPRスクリーンの認証。TCR刺激後の、高CD107A(低活性化)及び低CD107A(高活性化)のソート方法。
図7B】CD107A CRISPRスクリーンの認証。標的ノックの5日後に測定した、TCR刺激後の、CD107A発現を増加させるSAGA複合体の構成要素の初期認証のためのゲート方法。
図7C】CD107A CRISPRスクリーンの認証。CD8 T細胞上でCD107a、グランザイムB(GZMB)、及びパーフォリン(PRF1)を測定するための、SAGA標的認証のために最適化されたタイムラインの概略図。
図7D】CD107A CRISPRスクリーンの認証。対照(N=2、2つの異なる生体サンプル、平均±SEM)と比較して、SAGA標的ノックアウトを有するCD8 T細胞における、CD107a、グランザイムB(GZMB)、及びパーフォリン(PRF1)の倍率変化発現。
図8A】SAGA標的ノックアウトにより多重化された抗原特異的CD8+ T細胞による、標的殺傷能の認証。USP22遺伝子ノックアウト(SAGA標的)及びCBLB遺伝子ノックアウト(陽性対照)を有するCD8+ T細胞による、標的細胞殺傷のルシフェラーゼルミネセンス測定(N=3、単一生体サンプル、平均±SEM)。
図8B】SAGA標的ノックアウトにより多重化された抗原特異的CD8+ T細胞による、標的殺傷能の認証。CD8+ T細胞におけるUSP22遺伝子ノックアウトの際に増加したH2BK120-ubのレベルを表すウエスタンブロットによる、機能的認証(N=2、2つの異なる生体サンプル)。
【発明を実施するための形態】
【0036】
がんでは、抗原特異的CD8+細胞は、腫瘍抗原により活性化され、増殖し、エフェクター機能を得て、がん細胞にて抗腫瘍形成効果を発揮する。細胞毒性表現型を有する腫瘍浸潤リンパ球(TIL)は、投与された療法の種類にかかわらず、患者由来の様々ながん組織で発見され、良好な生残と相関している[11]。エフェクターサイトカインは、これらの抗腫瘍効果を媒介し、イムノサーベイランス及び腫瘍除去に重要である。
【0037】
免疫細胞内でのSAGA複合体の役割は、十分に研究されていない。最近、SAGA複合体の特定のモジュールを特性決定するいくつかの研究が存在する。例えば、Zhang et al.は、SAGA複合体のヒストン脱ユビキチン化酵素(DUB)モジュールの構成要素の1つである、ユビキチン特異的ペプチダーゼ22(USP22)は、それらの初期成長段階1の間に、iNKT細胞で非常に発現し、USP22欠損が、細胞固有の様式で、iNKT細胞成長の間に、段階1~2からの移行をブロックしたことを発見した[12]。機械論的には、USP22は、iNKT細胞の成長に関与する転写同時活性化因子である、メディエーター複合体サブユニット1(MED1)と相互作用し、ヒストンH2Aモノユビキチン化の脱ユビキチン化により、IL-2Rβ及びT-bet遺伝子発現のMED1機能を向上させる。より最近では、マウス制御性T細胞機能における、SAGA複合体の役割について、報告は行われなれていない。
【0038】
ゲノムワイドプールCRISPRスクリーンを使用して、San Loo et al.は、HATモジュール内でのCcdc101、Tada2b、及びTada3、DUBモジュールでのUsp22、ならびに、正のFoxp3制御因子としてのコア構造モジュールからの、Tada1、Taf6l、Supt5、及びSupt20を含む、SAGA複合体の様々な構成要素を同定した[13]。同様に、Cortez et al.は、Usp22、Atxn7l3を含む、Foxp3の類似のSAGA制御因子を発見した[14]。これらの結果は、制御性免疫細胞及びそれらの機能の調節における、SAGA複合体の重要な役割を指摘しているが、他のT細胞集団におけるSAGAの役割、及び、本メカニズムがどのように生じているのかは、確立されていない。
【0039】
ヒトSAGA複合体の遺伝サブユニット、及びそれらの配列は、当該技術分野において既知であり(例えば、HUGO Gene Nomenclature Committeeの関連するエントリーを参照されたい)、アタキシン7(ATAXn7);アタキシン7様3(ATXN7L3);ENY2転写及びレポート複合体2サブユニット(ENY2);リジンアセチルトランスフェラーゼ2A(KAT2A);リジンアセチルトランスフェラーゼ2B(KAT2B);SAGA複合体関連因子29(SGF29);Spt3ホモログのSAGA及びSTAGA複合体構成要素(SUPT3H);SPT7様のSTAGA複合体サブユニットγ(SUPT7L);SPT20ホモログのSAGA複合体構成要素(SUPT20H);転写アダプター1(TADA1);転写アダプター2B(TADA2B);転写アダプター3(TADA3);TATA-ボックス結合タンパク質関連因子5様(TAF5L);TATA-ボックス結合タンパク質関連因子6様(TAF6L);TATA-ボックス結合タンパク質関連因子10(TAF10);TATA-ボックス結合タンパク質関連因子12(TAF12);形質転換/転写ドメイン関連タンパク質(TRRAP);ユビキチン特異的ペプチダーゼ22(USP22)を含む。アミノ酸、及びコードするヌクレオチド配列は、NCBIウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov)から入手可能な、国立生物工学情報センター(NCBI)CCDSデータベースを通して、当業者には利用可能となっている。
【0040】
いくつかの実施形態では、方法は、遺伝サブユニットのTADA2B(ADA2B)、SGF29(CCDC101)、TADA1、TAF5L、TAF6L、TAF10、SUPT7L、及びTRRAPのうちの1つ以上を阻害することを伴う。
【0041】
以下の実施例は、SAGA複合体が、ヒトCD8+ T細胞増殖、活性化、及び、TCR刺激後の細胞溶解能を調節するという、重要な役割を果たすという証拠を提供する。構造コア、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)、ヒストン脱ユビキチン化酵素(DUB)、及び活性化結合モジュールを含む、SAGA複合体の様々な構成要素のノックアウトは、CD8+ T細胞増殖の増加、活性化、及び活発な脱顆粒をもたらした。
【0042】
本明細書で使用する場合、「T細胞エフェクター機能の増加」とは、T細胞集団が、標的細胞を認識して、及び/または、標的細胞に対する細胞毒性効果を増加させる能力を向上させることを意味し、これは、T細胞集団の増殖、発現の増加、及び/または、T細胞集団による、細胞毒性分子(例えば、パーフォリン、グランザイム、グラニュリシン、Fasリガンド)、またはサイトカイン(例えば、TNF-α及びIFN-γ)の排出を含むことができる。
【0043】
本明細書で使用する場合、用語「対象」とは、哺乳類を含む、動物界の全ての構成要素を含み、特に、ヒトを含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、対象は、がんと診断されている。
【0045】
本明細書で使用する場合、用語「がん」とは、分化の喪失、増殖速度の増加、周囲組織の侵入とによる特徴的な退形成を受けており、転移可能な、悪性腫瘍を意味し得る。転移性がんとは、その転移性がんが由来する元の(原発性)がんの起源部位以外の、体内の1つ以上の部位におけるがんである。
【0046】
本明細書で使用する場合、用語「腫瘍」とは、予め存在する組織の細胞から生じる、腫瘍、または、炎症性ではない異常質量の組織を意味する。腫瘍は、良性(非がん性)または悪性(がん性)のいずれかであることができる。腫瘍は、充実性または血液学的であることができる。
【0047】
血液腫瘍の例としては、白血病、リンパ腫、骨髄腫が挙げられるが、これらに限定されない。充実性腫瘍の例としては、肉腫及びがん腫が挙げられる。
【0048】
本明細書で提供するT細胞エフェクター機能の増加方法は、様々な形態のがんと診断されたがん患者に、幅広く適用することができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、対象は、膀胱癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、食道癌、頭頸癌、腎臓癌、白血病、肝癌、肺癌、リンパ腫、黒色腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、膵癌、または前立腺癌と診断されている。
【0050】
本明細書で使用する場合、「治療に有効な量」とは、投与時、及び、必要な特定の期間における、所望の治療結果を実現するのに効果的な量を意味する。治療に有効な量の薬理学的剤は、個体の病状、年齢、性別、及び体重、ならびに、薬理学的剤が、個体において所望の応答を誘発する能力に従い変化し得る。治療的有効量とは、治療の有益な効果が、薬理学的剤の任意の毒性または有害作用にまさる量でもある。
【0051】
本明細書で使用され、また、当該技術分野において十分に理解される用語「治療すること」または「治療」は、臨床的結果を含む、有益な、または所望の結果を得るためのアプローチを意味する。有益な、または所望の臨床的結果としては、検出可能であるか検出不可能であるかにかかわらず、1つ以上の症状または病状の軽減または寛解、疾患の程度の減少、疾患の状態の安定化(即ち、悪化しないこと)(例えば、患者の寛解の維持)、疾患の予防または疾患の拡大の予防、疾患の伝播の遅延または低速化、病状の寛解または緩和、疾患の再発の減少、及び、(部分的または完全)寛解を挙げることができるが、これらに限定されない。「治療すること」及び「治療」はまた、治療を受けない場合の予測生存期間と比較して生存期間を延長することも意味し得る。
【0052】
一実施形態では、T細胞集団における、T細胞エフェクター機能を増加させる方法であって、上記方法が、T細胞集団のT細胞内で、SAGA遺伝子制御複合体の1つ以上の遺伝サブユニットを阻害することを含む、上記方法を提供する。
【0053】
本明細書で使用する場合、用語「免疫療法」とは、免疫系により、がん細胞の標的化または破壊を誘発する、または向上させる方法及び組成物を意味する。免疫療法としては、免疫チェックポイント阻害剤、モノクローナル抗体、T細胞療法(例えば、CAR-T)、腫瘍崩壊ウイルス療法、及びがんワクチンが挙げられる。
【0054】
既知の免疫チェックポイント阻害剤としては、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、及びデュルバルマブが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
免疫チェックポイント遮断薬(ICB)は、いくつかの種類のがんにおいて、改善された臨床的アウトカムをもたらされた。しかし、ICBで治療された患者の大部分は応答せず、全体の奏効率は20%~40%となった。抑制性細胞と細胞傷害性T細胞の相対量が、併用免疫療法の有効性を決定することを、前臨床試験は示した。さらに、T細胞炎症性腫瘍は、T細胞非炎症性腫瘍よりもICBに対する感受性が高いため、腫瘍浸潤T細胞の量は、免疫療法に対する応答を予想する主たる因子である。したがって、免疫腫瘍微小環境(TME)の制御方法は、利用して、免疫療法に対する奏効率を改善することができる、有望な治療機会である。
【0056】
本明細書で提供する方法の臨床用途としては、養子細胞療法の分野(例えば、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法、組み換えT細胞受容体(TCR)療法、及びキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法)が挙げられ、ここでは、これらは、エクスビボでヒト初代CD8+ T細胞にて阻害可能であり、CD8+ T細胞は、がんを有する患者の全体の奏効率を改善する手段として、患者に再導入される。細胞療法は、自己または同種異系であることができる。
【0057】
本明細書で使用する場合、用語「キメラ抗原受容体(CAR)」とは、免疫細胞に人工特異性をグラフトするために組み換えられたT細胞受容体を意味する。例えば、養子細胞移入で使用するために、CARを使用して、T細胞にモノクローナル抗体の特異性を付与することができる。特定の実施形態では、CARは、腫瘍関連抗原に細胞の特異性を向ける。いくつかの実施形態では、CARは、細胞内活性化ドメインと、膜貫通ドメインと、腫瘍関連抗原結合領域を含む細胞外ドメインと、を含む。
【0058】
これらの標的の阻害方法は、低分子によるもの、CRISPRノックアウトまたはRNA干渉ノックダウンなどの遺伝組み換えが挙げられる。
【0059】
本明細書で提供する方法で使用するための低分子阻害剤としては、GSK4027、及びL-Mose阻害剤(KAT2Aの阻害剤)が挙げられるが、これらに限定されない。広域スペクトルのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるトリコスタチンA、及び抗悪性腫瘍薬であるピラルビシンは、がん細胞(PMID:31007754、PMID:25323692)内で、USP22発現に影響を及ぼすことが報告されている。低分子阻害剤の活性の確認方法は、当業者に既知であり、本明細書でさらに記載される。具体的には、図6及び7に示し、実施例にて詳述する方法論に従ってよい。
【0060】
RNA干渉を使用して、デュプレックス構造に存在するリボ核酸低分子を使用することにより、標的遺伝子の発現を調節することができる。siRNAオリゴヌクレオチドのサイトゾル送達、またはshRNAのウイルス一体化により、それぞれ、遺伝子発現の一過的な、及び安定した下方制御がもたらされる。RNAiのメカニズムは、標的配列に同一な二本鎖RNA(dsRNA)の細胞質送達による、宿主mRNAの配列特異的分解に基づく[15]。標的遺伝子発現の分解は、内部RNA誘発サイレンシング複合体(RISC)が関与する酵素経路により実現される。siRNAデュプレックス(ガイド鎖)のうちの1本の鎖は、アルゴノート(AGO)タンパク質、及び、二本鎖RNA結合タンパク質の補助により、RISC内にロードされる。RISCは次に、ガイド鎖を相補性mRNA分子に局在化させ、これが続いて、ハイブリッドの中心付近で、AGOにより切断される[16]。あるいは、プログラム可能なRNA標的化酵素であるCas13dを用いて、CRISPR RNA(cRNA)を利用することにより、標的遺伝子の発現を操作することができる[17]。Cas13dは、宿主mRNAで発見される相補性スペーサー配列(ガイド)を含有するcRNAによりRNAにガイドされる。宿主mRNAの分解は、Cas13dが媒介する、RNA-RNAハイブリダイゼーションの切断により生じる。
【0061】
いくつかの実施形態では、任意の好適な遺伝子編集技術を使用して、T細胞/T細胞集団内での、SAGA複合体の発現を阻害することができる。いくつかの実施形態では、CRISPR-Casシステムを使用して、T細胞集団内における、SAGA複合体の1つ以上のサブユニットの発現を阻害することができる。一実施形態では、これらのT細胞は患者から入手される。当業者には既知となろうが、CRISPRシステムは、細胞内で、標的ヌクレオチド配列に対して相補性を有するように設計されたガイド配列を伴う。標的配列とガイド配列とのハイブリダイゼーションは、標的配列にハイブリダイゼーションし、1つ以上のCasタンパク質と複合体化したガイド配列のCRISPR複合体の形成を容易にし、これは転じて、標的配列内、または標的配列付近での、ポリヌクレオチドの鎖の片方または両方の切断を引き起こす。CRISPR-Casゲノム編集に必要な機能的構成要素を発現させるためのベクターシステムは、当業者に既知であり、民間の供給元から購入することができる。さらに、真核細胞での適用を含む、CRISPR-Casシステムの説明は、WO2014/204727に見出すことができる。マウス及びヒトT細胞内を含む、CRISPR-Casシステムの使用に関するさらなる説明は、例えば、参照により本明細書に組み込まれている、Choi et al.,Henriksson et al.,Shifrut et al.,及びSu et al.,[18,19,20,21]に見出すことができる。
【0062】
RNPを使用して、初代T細胞において遺伝子をノックアウトする。前述したように、2成分sgRNAをCas9に複合体化することで、RNPを作製する。簡潔に述べると、crRNA及びtracrRNAが化学的に合成され、組み換えCas9-NLS、D10A-NLSが組み換えによって作製され、精製される。RNPは、抗CD3/CD28抗体による最初のT細胞の活性化の2日後にエレクトロポレーションされ、培養培地で維持される[22]。
【0063】
好適なベクターは当業者に既知であり、ベクターは民間の供給元から入手可能であり、プラスミド及びウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター)が挙げられる。
【0064】
核酸用の送達ビヒクルは当業者に既知であり、リポソーム、リポプレックス、または脂質ナノ粒子が挙げられる。
【0065】
T細胞集団内でのSAGA遺伝子制御複合体の活性の低下を評価し定量化する方法は、当業者に既知であろう。
【0066】
好適には、健常なドナーから単離されたT細胞は、個別のCas9リボ核タンパク質(RNP)によるエレクトロポレーションに供され、T細胞内での単一標的遺伝子ノックアウトが達成される。単一標的遺伝子ノックアウトは、遺伝サブユニットのTADA2B(ADA2B)、SGF29(CCDC101)、TADA1、TAF5L、TAF6L、TAF10、SUPT7L、及びTRRAPのうちの1つを含む。野生型対照と比較しての、これら標的のタンパク質レベルを測定するために、ノックアウトの効率及びレベルは、ウエスタンブロット及びフローサイトメトリー(可能な場合)により評価することができる。SAGA活性は、ウエスタンブロットにより全体的なH2Bユビキチン化及びH3アセチル化レベルを測定することにより評価される。いくつかの実施形態では、SAGA遺伝子制御複合体の活性は、本明細書に記載する方法に従って治療されるT細胞集団内で、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%低下することができる。これらの標的の単一標的遺伝子ノックアウトは、CD25及びCD107a発現の発現、ならびに、T細胞全体の細胞溶解能を正に制御する。様々な細胞外T細胞活性化マーカーの発現、加えて、編集したT細胞由来の細胞溶解タンパク質及びサイトカインの、細胞内発現及び分泌を測定することができる。
【0067】
いくつかの実施形態では、T細胞は、単一標的遺伝子ノックアウトによるエレクトロポレーションの前に、抗CD3/CD28抗体により活性化される。T細胞は、IL-2、IL-7、及びIL-15サイトカインを含有する培養培地で増殖して維持される。これは、患者に注入し戻す前に、組み換え抗原特異的T細胞が製造される[23]プロセスと同じである。
【0068】
Stadtmauer et al.,による最近の研究では、CRISPR-Cas9を使用する多重ヒトゲノム組み換えが安全であり実行可能であることが示された[23]。本研究では、自己T細胞は、遺伝子配列のTRAC、TRBC、及びPDCD1を標的にするCas9リボ核タンパク質(RNP)によるCRISPRノックアウトであった。T細胞は、IL-7及びIL-15を補充した培地で培養された。培養の2日後、これらのT細胞を、抗CD3/CD28抗体コンジュゲート常磁性マイクロビーズ(Life Technologies)を使用して活性化し、増殖させる。翌日、HLA-A*0201-制限NY-ESO-1(SLLMWITQC)-特異的TCRを発現するレンチウイルスベクターをT細胞に形質導入する。本方法により、α及びβTCRドメイン遺伝子(それぞれ、TRAC及びTRBCを欠失することにより)、ならびに、PD1タンパク質(PDCD1を欠失することにより)の内部発現がなされない、NY-ESO-1 TCR発現組み換えT細胞の製造が可能となった。
【0069】
実施例は、遺伝編集(CRISPRなど)により、または、薬理学的(低分子阻害剤もしくは分解因子)によりSAGA複合体を破壊することにより、T細胞エフェクター機能(T細胞集団の増殖を増加させること、細胞毒性分子またはサイトカインの発現及び/または排出を増加させることを含むことができる。)を増加させることを証明し、本発明は、利用可能な他の細胞療法アプローチ:TIL、組み換えT細胞受容体(TCR)療法、CAR-T細胞などと組み合わせて使用することができる。これらの療法アプローチは、T細胞(増殖)の数の増加に焦点を当てており、がん標的またはがん抗原に対する特異性を誘発するが、これらの細胞が標的がん細胞を殺傷する能力(殺傷能)を向上させることには焦点を当てていない。SAGA複合体を破壊することにより、これらの免疫細胞療法の殺傷能を向上させる新規の方法を本明細書において提供する。
【0070】
がん細胞療法を投与する方法及びプロトコルは、当業者に既知である。
【0071】
いくつかの実施形態では、がん患者には、がん療法がさらに投与される。がん療法は当該技術分野において既知であり、手術、化学療法、放射線療法、骨髄移植、免疫療法、及びホルモン療法が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、がん患者には免疫療法治療が投与される。
【0072】
本明細書で参照される文書は全て参照により組み込まれているが、本明細書で参照により組み込まれている、任意の特許、公報、または他の開示資料は、全体が、または部分的に、当該組み込まれている資料が、本開示で説明される定義、記述、または他の開示資料と矛盾しない程度にのみに組み込まれることが理解されなければならない。したがって、また必要な範囲まで、本明細書に明確に記載されている開示は、参照により本明細書に組み込まれたいかなる矛盾する資料に対して優先される。
【0073】
本発明の利点は、以下の実施例によってさらに例示される。本明細書で説明される実施例、及びそれらの具体的な詳細は説明のためだけに提示され、本発明の特許請求の範囲を限定するものと解釈されてはならない。
【実施例
【0074】
実施例1
プールしたCRISPRスクリーンは、ヒトCD8+ T細胞増殖の負の制御因子を明らかにする
プールしたCRISPRスクリーンを使用して、本発明者らは、ヒトCD8+ T細胞の正及び負の制御因子、ならびに、これらの機能活性を同定しようとした。第1の工程として、スクリーンを行い、T細胞受容体(TCR)刺激に応答してT細胞増殖を制御する遺伝子標的を同定した。本発明者らは、FDAが認可した薬剤(既知の薬理活性を有する)、334個のエピジェネティック制御因子(多くは標的可能である。)、及び、TCRシグナル伝達経路のいくつかの標準メンバーにより、657個の遺伝子を標的にするsgRNAプラスミドのカスタムEpi-CRISPRライブラリーを考案した。図1Aを参照すると、健常なヒトドナーから単離されたCD8+ T細胞に、このsgRNAライブラリーをコードするレンチウイルスを形質導入し、Cas9をエレクトロポレーションして、エレクトロポレーションの後10日間培養し、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識して細胞分裂を追跡した後、TCR刺激をした。図1Bを参照すると、細胞をFACSにより、2つの集団:未増殖細胞(高CFSE)、及び高増殖細胞(低CFSE)にソートした。図1C~1Gに示す結果を参照すると、予想通り、CD3G、LCK、及びCD247などのTCRシグナル伝達の必須成分を標的にするsgRNAは、細胞増殖を阻害した。高CFSE集団で同定された遺伝子を、TCR刺激と関連するアノテーション経路で濃縮した。遺伝子設定濃縮分析(GSEA)は、TCRシグナル伝達経路内で、増殖細胞から枯渇した遺伝子標的の、著しい過剰提示を明らかにした。加えて、IRF4などの、TCRシグナル伝達の非必須成分を標的にするが、T細胞増殖で重要であることが以前に示されているsgRNAが発見された。トップランクの負の制御因子は、Cas9リボ核タンパク質(RNP)による個別のCRISPRノックアウトにより認証された。まとめると、これらの結果は、標的化してプールしたCRISPRスクリーンが、以前の増殖に基づくCRISPRスクリーンと強力に一致することを示し、これを使用して、初代ヒトT細胞の活性化及び機能の、正及び負の制御因子を発見することができる。
【0075】
実施例2
プールしたCRISPRスクリーンは、ヒトCD8+ T細胞活性化の正及び負の制御因子を明らかにする
T細胞の活性化の制御因子を調査するために、ヒトCD8+ T細胞を刺激して、T細胞活性化マーカーCD25(IL2RA)のCRISPRスクリーンソートを行った(CRISPRスクリーンの概略図を図2Aに示す)。細胞を、FACSにより2つの集団;非常に活性化された細胞(高CD25)、及びわずかに活性化された細胞(低CD25)にソートした。図2B~2Hに示す結果を参照すると、予想通り、sgRNA標的化が確立した、CD25(IL2RA)自身、CD3D、LCK、CD247、及び(IRF4)を含むT細胞の活性化の制御因子が同定された。Cas9リボ核タンパク質(RNP)による個別のCRISPRノックアウトによりIRF4を確認し、CD25発現における強力な低下が、IRF4ノックアウト後に観察された。非常に活性化されたT細胞(高CD25)にて濃縮されたsgRNAを、次に調査した。興味深いことに、CD8+ T細胞の活性化の負の制御因子の中の、TADA2B(HAT分子)及びTADA1、TAF6L、TAF10(コア構造分子)を含む、SAGA(Spt-Ada-Gcn5-アセチルトランスフェラーゼ)複合体の様々な構成要素が同定された。さらに、遺伝子オントロジー分析は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼにおける遺伝子標的の著しい過剰提示、及び、高CD25発現を有するT細胞中のSAGA複合体を明らかにした。まとめると、これらのデータは、CD8+ T細胞の活性化の正の制御因子に関する以前の文献と一致し、SAGA複合体がCD8+ T細胞の活性化の調節において果たす、真価を認められていない役割を示す。
【0076】
実験例3
プールしたCRISPRスクリーンは、ヒトCD8+ T細胞細胞溶解活性の正及び負の制御因子を明らかにする
T細胞の活性化に加えて、本発明者らは、CD8+ T細胞細胞溶解活性の正及び負の制御因子を同定しようとした(図3)。CD8+ T細胞により、その標的細胞を殺傷するために使用される、鍵となる経路は、グランザイムが媒介する致死的送達に基づく。CD8+ T細胞は、T細胞と標的細胞との間の免疫学的シナプスにて、グランザイムB及びパーフォリン(孔形成糖タンパク質)を含有する顆粒を送達し、カスパーゼ及び下流プロアポトーシス経路を活性化することで、DNAの断片化、及び、膜一体性の急速な喪失をもたらす[24]。T細胞細胞溶解活性におけるその重要性により、TCR刺激後に、高グランザイムB及び低グランザイムB集団をソートするFACSを、まず試験した。しかし、細胞内染色中の固定プロセスにより、ソートした集団からの良質なゲノムDNA収率及び純度は、維持することができなかった。細胞溶解活性のサロゲートとして、本発明者らは、活性脱顆粒の間に発現した細胞表面マーカーであるCD107aにより、TCR刺激細胞を染色した[25]。本CRISPRスクリーンタイムラインの概略図を図3Aに示す。細胞をFACSにより、2つの集団;活性脱顆粒細胞(高CD107a)、及び、非脱顆粒細胞(低CD107a)にソートした。CFSE CRISPRスクリーンにより観察されるように、CD3D、LCK、CD247、及びCD3Gを含む、sgRNA標的化により確立されたT細胞シグナル伝達の制御因子を同定した。興味深いことに、ある発現はIRF4であり、CD8+ T細胞増殖及び活性化において重要な役割を果たしたが、脱顆粒を制限した。本発明者らは、Cas9リボ核タンパク質(RNP)によるIRF4の個別のCRISPRノックアウトを検証し、IRF4ノックアウト後にグランザイムB発現の増加を観察した。活発に脱顆粒するT細胞(高CD107a)にて濃縮したsgRNAを、次に調査した。驚くべきことに、CD8+ T細胞脱顆粒の負の制御因子の中でも、TADA2B及びCCDC101(HATモジュール)、TADA1、TAF5L、TAF6L、TAF10、及びSUPT7L(コア構造モジュール)、ならびにTRRAP(TF結合モジュール)を含む、SAGA(Spt-Ada-Gcn5-アセチルトランスフェラーゼ)合体の要素が再び同定された。Cas9リボ核タンパク質(RNP)とのSAGA複合体の構成要素を個別にノックアウトすることでスクリーンを検証し、およそ2倍の、CD107a発現の増加が観察された。さらに、遺伝子オントロジー分析は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼにおける遺伝子標的の著しい過剰提示、及び、高CD107a発現を有するT細胞中のSAGA複合体を明らかにした。まとめると、これらのデータは、CD8+ T細胞細胞溶解活性の制御における、SAGA複合体の、真価を認められていない役割を示す。
【0077】
実施例4
A)USP22遺伝子ノックアウト(SAGA標的)、及び、CBLB遺伝子ノックアウト(陽性対照)を有する、NY-ESO-1特異的初代CD8+ T細胞による、標的細胞の殺傷。生物学的重要性を示すために、ルシフェラーゼ発現標的細胞(NY-ESO-1+黒色腫細胞株A375)を、対照の野生型CD8+ T細胞、または、CBLB遺伝子ノックアウト(陽性対照)もしくはUSP22遺伝子ノックアウト(SAGA標的)を有するNY-ESO-1特異的CD8+ T細胞の比率を増加させながらインキュベートした。ルミネセンスを測定して、A375標的細胞を殺傷するレベルを測定した(N=3、単一生体サンプル、平均±SEM)。USP22のノックアウトは、陽性対照と同様に、標的細胞の殺傷において効果的であった。
【0078】
B)初代CD8+ T細胞におけるUSP22遺伝子ノックアウトの機能検証。図8Bを参照すると、ウエスタンブロットを実施して、USP22の遺伝子ノックアウトを検証した(N=22、2つの異なる生体サンプル)。USP22の遺伝子ノックアウトは、リジン残基120において、ヒストンH2Bのユビキチン化の増加をもたらした。
【0079】
参考文献
1 Papai,G.et al.(2020) Structure of SAGA and mechanism of TBP deposition on gene promoters.Nature 2011 471:7337 577,711-716
2 Helmlinger,D.and Tora,L.(2017) Sharing the SAGA.Trends Biochem.Sci.42,850-861
3 Basehoar,A.D.et al.(2004) Identification and distinct regulation of yeast TATA box-containing genes.Cell 116,699-709
4 Huisinga,K.L.and Pugh,B.F.(2004) A genome-wide housekeeping role for TFIID and a highly regulated stress-related role for SAGA in Saccharomyces cerevisiae.Mol.Cell 13,573-585
5 Baptista,T.et al.(2018) SAGA Is a General Cofactor for RNA Polymerase II Transcription.Mol.Cell 70,1163-1164
6 Uzhachenko,R.V.and Shanker,A.(2019) CD8+ T Lymphocyte and NK Cell Network: Circuitry in the Cytotoxic Domain of Immunity.Front Immunol 10,1906
7 Cantrell,D.A.(2003) Regulation and function of serine kinase networks in lymphocytes.Current Opinion in Immunology 15,294-298
8 Acuto,O.and Michel,F.(2003) CD28-mediated co-stimulation: a quantitative support for TCR signalling.Nature Reviews Immunology 3,939-951
9 Seidel,J.A.et al.(2018) Anti-PD-1 and Anti-CTLA-4 Therapies in Cancer: Mechanisms of Action,Efficacy,and Limitations.Front.Oncol.8,86
10 Chen,L.and Flies,D.B.(2013) Molecular mechanisms of T cell co-stimulation and co-inhibition.Nature Reviews Immunology 13,227-242
11 Galon,J.et al.(2014) Towards the introduction of the "Immunoscore" in the classification of malignant tumours.J.Pathol.232,199-209
12 Zhang,Y.et al.(2020) USP22 controls iNKT immunity through MED1 suppression of histone H2A monoubiquitination.J.Exp.Med.217,924
13 Loo,C.-S.et al.(2020) A genome-wide CRISPR screen reveals a role for the BRD9-containing non-canonical BAF complex in regulatory T cells.bioRxiv 9,2095
14 Cortez,J.T.et al.(2020) CRISPR Screen in Regulatory T Cells Reveals Ubiquitination Modulators of Foxp3.bioRxiv 11,555
15 Fire,A.et al(1998) Potent and specific genetic interference by double-stranded RNA in Caenorhabditis elegans.Nature,19:391(6669),806-11
16 Elbashir S.M.et al.(2001) RNA interference is mediated by 21- and 22- nucleotides RNAs.Genes Dev.15;15(2): 188-200
17 Konermann S.et al.(2018) Transcriptome Engineering with RNA-Targeting Type VI-D CRISPR Effectors.Cell 173,665-676
18 Choi B.D.et al.(2019) CRISPR-Cas9 disruption of PD-1 enhances activity of universal EGFRvIII CAR T cell in a preclinical model of human glioblastoma.J Immunother Cancer.14;7(1):304
19 Henriksson J.et al.(2019) Genome-wide CRISPR Screens in T Helper Cells Reveal Pervasive Crosstalk between Activation and Differentiation.Cell 176(4),882-896
20 Shrifrut E.et al.(2018) Genome-wide CRISPR Screens in Primary Human T Cells Reveal Key Regulators of Immune Function.Cell 175(7),1958-1971
21 Su S.et al.(2015),CRISPR-Cas9 mediated efficient PD-1 disruption of human primary T cells for adoptive therapy.J Immunother Cancer.3(Suppl 2): P53
22 Roth T.L.et al.(2018) Reprogramming human T cell function and specificity with non-viral genome targeting.Nature 559,405-409
23 Stadtmauer E.A.et al.(2020) CRISPR-engineered T Cell in patients with refractory cancer.Science 367(6481)
24 Salti,S.M.et al.(2011) Granzyme B regulates antiviral CD8+ T cell responses.J.Immunol.187,6301-6309
25 Alter,G.et al.(2004) CD107a as a functional marker for the identification of natural killer cell activity.J.Immunol.Methods 294,15-22
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F-1】
図6F-2】
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
【国際調査報告】