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特表2023-521360最小屈折面を備える多浸漬顕微鏡対物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-24
(54)【発明の名称】最小屈折面を備える多浸漬顕微鏡対物
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/00 20060101AFI20230517BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20230517BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B21/36
G01N21/64 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561422
(86)(22)【出願日】2021-04-12
(85)【翻訳文提出日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2021059448
(87)【国際公開番号】W WO2021205038
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】20169190.4
(32)【優先日】2020-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515098691
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート チューリッヒ
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】フォークト,ファビアン フリードリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムチェン,フリチョフ
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043AA03
2G043EA01
2G043FA01
2G043FA02
2H052AA01
2H052AA08
2H052AA09
2H052AB02
2H052AB06
2H052AC15
2H052AC20
2H052AC33
2H052AC34
2H052AF14
(57)【要約】
本発明は、浸漬媒質(M)中の試料(S)を検査するための浸漬顕微鏡対物(10)に関し、前記浸漬顕微鏡対物(10)は:少なくとも1つの凹面ミラー(3)と、前記少なくとも1つの凹面ミラー(3)に面する非球面表面(2)を備える少なくとも1つの光学素子(1)と、前記少なくとも1つの凹面ミラー(3)と前記非球面表面(2)との間に配置される内部空間(4)とを備え、前記内部空間(4)は、前記浸漬媒質(M)が前記少なくとも1つの凹面ミラー(3)及び前記非球面表面(2)と接触するように、浸漬媒質(M)で満たされるように構成されている。本発明によれば、前記非球界面(2)は、前記浸漬媒質(M)の屈折率nが少なくとも0.025増加又は減少した際に、前記浸漬顕微鏡対物(10)の作動距離(7)が1%未満変化するように成形されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸漬媒質(M)において試料(S)を検査するための浸漬顕微鏡対物(10)であって:
- 少なくとも1つの凹面ミラー(3)と、
- 前記少なくとも1つの凹面ミラー(3)に面する非球面表面(2)を備える少なくとも1つの光学素子(1)と、
- 前記少なくとも1つの凹面ミラー(3)と前記非球面表面(2)との間に配置された内部空間(4)であって、前記浸漬媒質(M)が前記少なくとも1つの凹面ミラー(3)と前記非球面表面(2)とに接触するように、前記浸漬媒質(M)で満たされるように構成される、前記内部空間(4)と、
を備え、
前記浸漬顕微鏡対物(10)は、前記浸漬顕微鏡対物(10)の焦点(F)と前記凹面ミラー(3)の頂点(3a)との間の距離である作動距離(7)を備え、前記非球面表面(2)は、非平面であり、かつ前記内部空間(4)に配置される第1の浸漬媒質(M)の代わりに、前記第1の浸漬媒質(M)の屈折率nに対して少なくとも0.025増加又は減少した屈折率nを備える第2の浸漬媒質(M)が内部空間(4)に存在する場合に、前記浸漬顕微鏡対物(10)の作動距離(7)が1%未満変化するように成形されている、
前記浸漬顕微鏡対物(10)。
【請求項2】
前記第1の浸漬媒質の屈折率nは、1.0~1.6の範囲であり、特に1.3~1.6の範囲であり、及び/又は前記第2の浸漬媒質の屈折率nは、1.0~1.6の範囲であり、特に1.3~1.6の範囲である、請求項1に記載の浸漬顕微鏡対物(10)。
【請求項3】
前記内部空間(4)に存在する浸漬媒質(M)が空気である場合、前記浸漬顕微鏡対物(10)の開口数NAは、0.3~1.0の範囲である、請求項1又は2に記載の浸漬顕微鏡対物(10)。
【請求項4】
前記浸漬媒質(M)は、流体、気体、液体、ゲル、ヒドロゲルのうちの1つである、請求項1~3のいずれか一項に記載の浸漬顕微鏡対物(10)。
【請求項5】
前記少なくとも1つのミラー(3)及び前記少なくとも1つの光学素子(1)は、光軸(A)に関して回転対称である、請求項1~4のいずれか一項に記載の浸漬顕微鏡対物(10)。
【請求項6】
前記少なくとも1つのミラー(3)は、球形状を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の浸漬顕微鏡対物(10)。
【請求項7】
前記少なくとも1つのミラー(3)は、前記浸漬顕微鏡対物(10)によって備えられる複数のミラーのうちの1つのミラーであり、前記浸漬媒質(M)が前記内部空間(4)に存在する場合に、前記複数のミラーの各ミラーは前記浸漬媒質(M)に接触するように構成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の浸漬顕微鏡対物(10)。
【請求項8】
前記浸漬顕微鏡対物(10)は、前記少なくとも1つのミラー(3)によって生じる球面収差を補償するように成形されたさらなる非球面表面(5)を備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の浸漬顕微鏡対物(10)。
【請求項9】
前記さらなる非球面表面(5)は、前記少なくとも1つの光学素子(1)によって形成され、かつ前記少なくとも1つのミラー(3)に面する前記非球面表面(2)と反対に面している、請求項8に記載の浸漬顕微鏡対物(10)。
【請求項10】
前記さらなる非球面表面は、前記浸漬顕微鏡対物(10)のさらなる光学素子によって形成されている、請求項8に記載の浸漬顕微鏡対物(10)。
【請求項11】
前記浸漬顕微鏡対物(10)は、複数のレンズを備えるレンズ群を備え、前記第1の光学素子(1)は、前記レンズ群のうちの一レンズを形成し、及び/又は前記さらなる光学素子は、前記レンズ群のうちの一レンズを形成する、請求項9又は10に記載の浸漬顕微鏡対物(10)。
【請求項12】
前記浸漬顕微鏡対物(10)は、前記少なくとも1つのミラー(3)と前記少なくとも1つのミラー(3)に面する前記非球面表面(2)との間の前記内部空間(4)に前記試料(S)が位置するように、前記試料(S)を保持するように構成された試料ホルダー(6)を備える、請求項1~11のいずれか一項に記載の浸漬顕微鏡対物(10)。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の浸漬顕微鏡対物(10)を備える顕微鏡(100)。
【請求項14】
前記顕微鏡(100)は:
- 広視野顕微鏡、特に単一素子又は多素子のチューブレンズを備えるもの、
- 光シート顕微鏡、特に、単一素子又は多素子のチューブレンズを備えるもの、
- 2光子蛍光顕微鏡、
- 3光子蛍光顕微鏡、
- 4光子蛍光顕微鏡、
- 第2高調波発生顕微鏡、
- 第3高調波発生顕微鏡、
- 蛍光共焦点顕微鏡、
- 反射型共焦点顕微鏡、
- 偏光顕微鏡、
- コヒーレント・アンチストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡、
- 誘導ラマン散乱(SRS)顕微鏡、
のうちの1つである、請求項13に記載の顕微鏡(100)。
【請求項15】
前記非球面表面(2)は、多項式:
【数1】
で定義され、前記非球面表面(2)を表し、かつ前記さらなる非球面表面(5)は、多項式:
【数2】
で定義され、前記さらなる非球面表面(5)を表し、かつ前記多項式a(y)とb(y)とは:
【数3】
の関係式に従い、式中、nは、前記浸漬顕微鏡対物の動作波長における前記光学素子(1)の屈折率である、請求項8又は9に記載の浸漬顕微鏡対物(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬媒質中の試料を検査するための浸漬顕微鏡対物(immersion microscope objective)、並びにそのような対物を備えた顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザー走査型顕微鏡などの顕微鏡では、試料は、試料応答の光信号を光検出器とデータ取得システムとで取得しながら、試料の様々な部分に連続して導かれる光ビームで調査される[1]。試料によって生じる信号は、反射、散乱、偏光、単一光子又は多光子励起蛍光、並びに高調波発生及びラマン散乱などの他の物理的プロセスに依存し得る。試料全体の画像を作成するために、光ビーム又は試料は、試料を並進移動させるか(ステージスキャン)、又は光学スキャンシステムによって光線を並進移動させることによって、関心領域全体にラスタースキャンされる。そのようなスキャンシステムは、ガルバノメトリック走査ミラー、音響光学偏向器、ポリゴンスキャナー、及び他の光学素子を利用することができる。スキャンシステムによってもたらされるビーム偏向は、データ取得システムに連結された制御システムによって操作される。多くの場合、中間光学システム(例えば、スキャンレンズ及びチューブレンズ)を使用して、スキャンした光ビームを、試料上に該ビームを集光する顕微鏡対物に伝達する(図1参照)。
【0003】
ラスタースキャンとは別に、他のスキャンパターンを採用して試料を調査することができ(例えば、ラインスキャン、スパイラルスキャン、及びランダムアクセススキャンなど)、これにより1回のスキャンサイクル間に対象となる点の数が減るため、試料内部の生物学的、化学的、物理的事象をより速く取得することができ、次いでスキャンパターンの繰り返し頻度をより高めることができる。多くのレーザー走査型顕微鏡は、レーザー顕微手術、光トラッピング、オプトジェネティクス、アンケージング、フォトブリーチング、又はフォトブリーチング後の蛍光回復(fluorescence recovery after photobleaching)(FRAP)[1]などによって、試料又はそのサブ領域を光学的に刺激又は変化させるために光ビームを利用する可能性ももたらす[1]。多くのレーザー走査型顕微鏡は、光学切片画像を生成する技術を利用している。つまり、同じモダリティで画像化された機械的に切断された試料と同等な外観のデータセットを生成することができる。光学切片化(Optical sectioning)は、顕微鏡対物の焦点領域から離れた試料の部分由来のバックグラウンド信号を低減することによって実現される。この低減は、光学的手段、例えば共焦点顕微鏡の共焦点ピンホールを用いて焦点外領域からの光を除去するか[1]、又は例えば光シート顕微鏡の側面照射を用いて、顕微鏡対物の焦点領域外の信号をほとんどあるいは全く発生させないように試料を照明することで実現することが可能である。また、デコンボリューションなどの手法により、取得したデータを計算処理することで、光学切片化を実現することも可能である。さらに、例えば2光子、3光子、4光子の顕微鏡、第2高調波及び第3高調波発生、コヒーレント・アンチストークスラマン散乱(CARS)、及び誘導ラマン散乱(SRS)などの多光子顕微鏡法などの非線形光-物質相互作用を利用することによって光学切片画像を生成することが可能である。これらの方法では、複数の光子が試料内の分子と相互作用する必要があるため、生成された信号は照明強度に非線形的に依存し、1よりも大きい累乗を有する。例えば、2光子信号は照明強度の2乗に従う。照明ビームの焦点領域の外側では照明強度が大幅に低下するため、多光子プロセスの有効な励起体積は、光学切片化作用を生成するこの焦点領域の周囲の3次元で空間的に制限される。スペクトルの近赤外領域(700~2500nm)で動作するパルスピコ秒又はフェムト秒レーザーを使用することにより、非線形励起プロセスを使用して、可視領域で動作する光検出器(例えば、カメラ、光電子増倍管、又はフォトダイオード)で検出可能な蛍光を生成することができる。多くの多光子顕微鏡法(たとえば、2光子及び3光子顕微鏡法)では、試料内部で生成された光を、試料からできるだけ多くの光を回収する光検出器によって、非線形プロセスを使用して検出すればよい(非デスキャニング検出(non-descanned detection))。
【0004】
最新のレーザー走査型顕微鏡の設計における重要な課題は、顕微鏡の光学系を補正する必要がある様々な浸漬媒質の存在である。これは、生物組織を化学的に透明にし、可視光が利用できるようにする方法である組織透明化技術(tissue clearing technique)[2]で処理された試料をイメージングする際に、特に重要なものである。透明化技術は、散乱物として作用する脂質などの組織成分を除去することにより、散乱を減らし、試料全体の屈折率を均一化する。現在、Scale[3]、3DISCO[4]、iDISCO[5]、vDISCO[6]、uDISCO[6]、CLARITY[7]、[8]、及びCUBIC[9]などの様々な透明化技術がある(図2も参照)。それぞれの透明化手順の最終工程のとおり、拡散により屈折率を平衡化する液体媒質中に試料が配置される。
【0005】
使用する媒質によって屈折率が有意に変化可能である。例えば、3DISCO、vDISCO、及びuDISCOの手順はBABB媒質(ベンジルアルコール及びベンジルベンゾエートの50/50vol/%混合物)を使用し、これは最終屈折率がn=1.559[10]となり、これに対してiDISCOはジベンジルエーテルを使用し、屈折率がn=1.562[10]となる。ここでいうnとは、587.562nmのナトリウムのd線で測定した屈折率のことである。一方、CLARITYでは、屈折率1.45の屈折率一致溶液(refractive index matching solution)などのより低屈折率の浸漬液を使用している[8][11]。さらに、膨張顕微鏡法(expansion microscopy)[12]と呼ばれる別の種類の組織処理技術があり、これは化学的拡大プロセスとして組織の膨張を使用し、最終浸漬媒質として水を利用するものである。また、水(n=1.333)は、生細胞及び発生中の胚などの生物全体のin vivo顕微鏡法の包埋媒質としても一般的に使用される。生体試料については、シリコンオイルなどの他の浸漬媒質、及び2,2’-チオジエタノールなどの密度勾配媒質が提案されてきた[13]。2,2’-チオジエタノールは、OptiPrepという商品名で市販されている60%原液として屈折率が1.429である。水との混合比に応じて、該屈折率はn=1.333~n=RI 1.429の間で調整できる。屈折率nと分散(アッベ数Vd,により定量化)とが大きく異なるため、これらすべての媒質に適合する顕微鏡対物の設計は非常に困難である。さらに生体又は透明な試料を高解像度で深部撮影するためには、光学素子(屈折式対物のフロントレンズなど)と試料自体との間に十分な機械的距離を確保するために、高い開口数(NA:numerical aperture)と長い作動距離が必要である。この両方の要件は、このような用途の顕微鏡対物の光学設計をさらに複雑なものにしている。
【0006】
例えば、米国特許第9,195,040号には、NA 0.9~0.95の開口数と最大8mmの作動距離とを有する少なくとも一部が1.33~1.52の範囲の可変の屈折率を持つ浸漬媒質と組み合わせて作動するように設計される一連の屈折式顕微鏡対物が開示される。
【0007】
さらに、米国特許第9,477,073号には、1.4~1.52の範囲の可変の屈折率のためのNA 1.0と作動距離が最大10mmとを有する浸漬顕微鏡対物が開示されている。
【0008】
さらに、米国特許第10,330,908号は、n=1.45~1.51の可変の屈折率を有する媒質におけるNA 0.6、及び作動距離20mmの一連の顕微鏡対物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第9,195,040号
【特許文献2】米国特許第9,477,073号
【特許文献3】米国特許第10,330,908号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、これらの設計は、収差を十分に補正するために多数のレンズ群を必要とし、製造及び組立時の公差が厳しいため、これらの対物が非常に高価なものとなっている。
【0011】
浸漬顕微鏡対物を改善する1つのアプローチは、様々な設計形態、例えば、純粋な反射設計、又は屈折素子と反射素子の両方を使用するカタディオプトリックの対物などを使用することである。このアプローチには、光学の分野の長い伝統を有する:ニュートンは、その時点における入手可能なガラスの選択では材料の分散によって引き起こされる色収差を修正できないと考え、色収差の影響を受けない反射望遠鏡を設計するようになった。彼はまた、顕微鏡にミラーを使うことを提案した[14]。今日、純粋な反射型顕微鏡対物は、NIR分光法及びUV半導体検査顕微鏡では一般的であるが、生物顕微鏡ではほとんど使用されていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記に基づいて、本発明によって解決されるべき課題は、液体浸漬媒質の広範囲の屈折率及び分散特性に適合する費用対効果の高い顕微鏡対物を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、従来技術で知られているレーザー走査型顕微鏡の一般的なレイアウトを示した図である。
図2図2は、一般的な透明化方法及び浸漬媒質の概要を記した表である。
図3図3は、任意に成形された波面Wが、波面W’が第2の媒質中を偏りなく伝搬し続けるように、波面自体が十分に類似した2つの異なる媒質間の界面と出会う様子を示しており、該波面に沿った各位置について界面の法線ベクトルは波面に垂直であるため、屈折は発生せず、その表面は最小屈折率になる(左)。さらに、図3は凹面ミラーを用いた本発明による浸漬顕微鏡対物の一般概念を示した図である(右)。
図4図4は、最小屈折面を有する本発明による多浸漬顕微鏡対物の実施形態を示す図である。
図5図5は、多光子顕微鏡と組み合わせた本発明による多浸漬顕微鏡対物の一実施形態を示す図である。
図6図6は、広視野顕微鏡と組み合わせた多浸漬顕微鏡対物の一実施形態を示す図である。
図7図7は、光シート顕微鏡と組み合わせた多浸漬顕微鏡対物の一実施形態を示す図である。
図8図8は、共焦点顕微鏡と組み合わせた多浸漬顕微鏡対物の一実施形態を示す図である。
図9図9は、多浸漬顕微鏡対物の一実施形態の断面図である。
図10AB図10A図10Dは、図9に示す実施形態について、異なる浸漬媒質及び波長のRMS波面の図を示す。
図10CD図10A図10Dは、図9に示す実施形態について、異なる浸漬媒質及び波長のRMS波面の図を示す。
図11図11は、多浸漬顕微鏡対物のさらなる一実施形態の断面図を示す。
図12AB図12A図12Dは、図11に示す実施形態について、異なる浸漬媒質及び波長のRMS波面の図を示す。
図12CD図12A図12Dは、図11に示す実施形態について、異なる浸漬媒質及び波長のRMS波面の図を示す。
図13図13は、多浸漬顕微鏡対物のさらなる一実施形態の断面図を示す。
図14AB図14A図14Dは、図13に示す実施形態について、異なる浸漬媒質及び波長のRMS波面の図を示す。
図14CD図14A図14Dは、図13に示す実施形態について、異なる浸漬媒質及び波長のRMS波面の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この課題は、浸漬媒質内の試料を検査するための浸漬顕微鏡対物によって解決され、前記浸漬顕微鏡対物は:
- 少なくとも1つの凹面ミラーと、
- 前記少なくとも1つの凹面ミラーに面する非球面表面を備える少なくとも1つの光学素子と、
- 前記少なくとも1つの凹面ミラーと前記非球面表面との間に配置された内部空間であって、浸漬媒質が前記少なくとも1つの凹面ミラーと前記非球面表面とに接触するように浸漬媒質で満たされるように構成される、前記内部空間と、
を備える。
【0015】
本発明によれば、前記非平面の非球面表面は、前記内部空間に配置される第1の浸漬媒質の代わりに、前記第1の浸漬媒質の屈折率に対して少なくとも0.025増加又は減少した屈折率nを備える第2の浸漬媒質が前記内部空間に存在する場合に、前記浸漬顕微鏡対物の作動距離が1%未満変化するように成形される。
【0016】
すなわち、本発明によれば、前記非平面の非球面界面は、前記浸漬媒質の屈折率nを少なくとも0.025増加又は減少させた場合に(すなわちn±0.025)、前記浸漬顕微鏡対物の作動距離が1%未満変化するように成形される。特に、屈折率は、内部空間の浸漬媒質を別の浸漬媒質と交換することによって、又は内部空間に存在する浸漬媒質を変化させることによって(例えば、その組成を変化させることによって、及び/又は浸漬媒質の温度を変化させることによって)変化させることが可能である。
【0017】
本発明のさらなる別の態様によれば、前記非球面界面は、前記非球面表面を通過する光の少なくとも1波長についてストレール比が0.8より大きい回折限界の画質を、前記波長における前記浸漬媒質の屈折率nが少なくとも0.025増加又は減少した際に前記浸漬顕微鏡対物が保持するように成形される。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記第1及び/又は第2の浸漬媒質の屈折率nは、1.0~1.6の範囲であり、特に1.3~1.6の範囲である。
【0019】
さらに、本浸漬顕微鏡対物の実施形態によれば、浸漬顕微鏡対物の開口数NAは、空気中で0.3~1.0の範囲である。
【0020】
本浸漬顕微鏡対物のさらに別の実施形態によれば、浸漬顕微鏡対物の内部空間は、流体、気体、液体、ゲル(すなわち、流体によって全体積にわたり拡大される非流体コロイドネットワーク又はポリマーネットワーク)、ヒドロゲル(すなわち、膨潤剤が水であるゲル)のうちの1つである浸漬媒質で満たされるように構成される。さらに、一実施形態によれば、浸漬媒質は、浸漬顕微鏡対物によって備えられ、流体、気体、液体、ゲル、ヒドロゲルのうちの1つである。
【0021】
さらに、一実施形態によれば、少なくとも1つのミラー及び少なくとも1つの光学素子は、光軸に関して回転対称である。特に、ミラーの頂点は、少なくとも1つのミラーの反射面と光軸の交点に相当する。
【0022】
本浸漬顕微鏡対物の好ましい一実施形態によれば、少なくとも1つのミラーは、球形を備える。
【0023】
さらに、一実施形態において、前記少なくとも1つのミラーは、浸漬顕微鏡対物によって備えられる複数のミラーのうちの1つのミラーであり、前記複数のミラーの各ミラーは、浸漬媒質が前記内部空間に存在する場合に浸漬媒質に接触するように構成される。
【0024】
さらに別の実施形態によれば、本浸漬顕微鏡対物は、少なくとも1つのミラーによって生じる球面収差を補償するように成形されたさらなる非球面表面を備える。
【0025】
この点に関して、一実施形態では、前記さらなる非球面表面が、前記少なくとも1つの光学素子によって形成され、かつ前記少なくとも1つのミラーに面する前記非球面表面と反対に面している。
【0026】
このような一実施形態の基礎となる光学システムは、シュミット望遠鏡又はシュミット対物として知られている[15]。この場合、前記さらなる非球面表面は10次又はそれ以上の多項式で記述されるのが一般的である:
【数1】
【0027】
文献[16]によれば、3次までの球面収差を補正するために、前記さらなる非球面表面を次のように規定することができる:

【数2】
【0028】
式中、yは補正表面の最大半径であり、nは補正素子の屈折率であり、Rは前記少なくとも1つのミラーの半径である。高次(5次、7次、9次など)の球面収差の補正が必要な場合は、上記の多項式を高次に拡張する必要があり、その係数は光学設計ソフトを使用して数値的に求めることが可能である。このような最適化プロセスの間に、軸外画質は一般に軸上性能に対しバランスが取られ、その結果、非球面表面の係数aは、前記規定から逸脱する傾向がある。
【0029】
標準的なシュミット対物は空気中で動作するため、前記少なくとも1つのミラー及び前記少なくとも1つの光学素子は、エアギャップによって分離されている。固体シュミット対物では[16]、このギャップは屈折率nの固体媒質で満たされる。3次までの球面収差を補正した固体シュミットの前記さらなる非球面表面に対する表面形状は、以下と記述することができる[16]:
【数3】
【0030】
この表面形状は、少なくとも1つのミラーが半径Rの球状である場合、入射する平行波面を、球面収差を打ち消す形状に歪める。この場合、本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの凹面ミラーに面する上述の非球面表面は、前記内部空間に配置される第1の浸漬媒質の代わりに、前記第1の浸漬媒質の屈折率に対して少なくとも0.025増加又は減少した屈折率を備える第2の浸漬媒質が内部空間に存在する場合に、前記浸漬顕微鏡対物の作動距離が1%未満変化する前述の条件を満たすように、以下として成形されることが好ましい:

【数4】
近軸近似において、前記さらなる非球面表面についての多項式z(y)の形態の式が求められた場合、少なくとも1つの凹面ミラーに面する前記非球面表面の形状w(y)は、本発明の一実施形態に従い、好ましくは以下として与えられる:
【数5】
式中、nは補正素子の屈折率である。その結果、前記少なくとも1つの凹面ミラーに面する非球面表面の形状は、前記さらなる非球面表面の形状を拡大/縮小したもの(scaled version)である。それ自体では、前記少なくとも1つの凹面ミラーに面する非球面表面は、前記少なくとも1つの凹面ミラーの球面収差を補正するのに十分ではないため、[15]及び[16]による古典的なシュミット補正器の形状を表していない。しかしながら、前記少なくとも1つのミラーに面する光学素子内部の波面の正確な形状を表している。2つの媒質の間の界面を形成する光学表面が入射波面と同じように成形される場合、そのような界面を通過するいずれの光線は、垂直入射で通過する際に屈折による角度のずれを生じない。この界面では屈折が起こらないため、対物に屈折力を与えず、さらなる収差(焦点をぼかすことを含む)を発生させない。その結果、前記内部空間に配置される第1の浸漬媒質の代わりに、第1の浸漬媒質の屈折率に対して少なくとも0.025増加又は減少した屈折率を備える第2の浸漬媒質が内部空間に存在する場合、浸漬顕微鏡対物の作動距離は1%未満変化する。
【0031】
別の一実施形態によれば、前記さらなる非球面表面は、浸漬顕微鏡対物のさらなる光学素子によって形成される。
【0032】
特に、一実施形態において、本浸漬顕微鏡対物は、複数のレンズを備えるレンズ群を備え、前記第1の光学素子は、前記レンズ群のうちの一レンズを形成し、及び/又は、前記さらなる光学素子は、前記レンズ群のうちの一レンズを形成する。
【0033】
さらなる好ましい実施形態によれば、本浸漬顕微鏡対物は、前記少なくとも1つのミラーと前記少なくとも1つのミラーに面する前記非球面表面との間の前記内部空間に試料が位置するように、試料を保持するように構成された試料ホルダーを備える。
【0034】
本発明のさらなる態様は、本発明による浸漬顕微鏡対物を備える顕微鏡に関するものである。
【0035】
本顕微鏡の好ましい一実施形態によれば、顕微鏡は、以下のうちの1つである:
- 広視野顕微鏡、特に単一素子又は多素子のチューブレンズを備えるもの、
- 光シート顕微鏡、特に、単一素子又は多素子のチューブレンズを備えるもの、
- 2光子蛍光顕微鏡、
- 3光子蛍光顕微鏡、
- 4光子蛍光顕微鏡、
- 第2高調波発生顕微鏡、
- 第3高調波発生顕微鏡、
- 蛍光共焦点顕微鏡、
- 反射型共焦点顕微鏡、
- 偏光顕微鏡、
- コヒーレント・アンチストークスラマン散乱(CARS:Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)顕微鏡、
- 誘導ラマン散乱(SRS:stimulated Raman Scattering)顕微鏡。
【0036】
以下では、本発明の実施形態並びにさらなる特徴及び利点について、図を参照しながら説明する。
【0037】
本発明は、種々の異なる浸漬媒質Mと共に使用可能な浸漬顕微鏡対物10に関するものである。特に、図3の右側及び図4に示すとおり、本発明による対物10の一般的な実施形態を示し、このような対物10は、顕微鏡対物10の焦点Fと凹面ミラー3の頂点3aとの間の距離である作動距離7を有する少なくとも一つの凹面ミラー3と、前記少なくとも一つの凹面ミラー3に面する非球面表面2を備える少なくとも一つの光学素子1と、前記少なくとも一つの凹面ミラー3と前記非球面表面2との間に配置された内部空間4とを備え、前記内部空間4は、浸漬媒質Mが前記少なくとも1つの凹面ミラー3及び前記非球面表面2に接触するように浸漬媒質Mで満たされるように構成され、前記非球界面は、前記浸漬媒質の屈折率nが(例えば、浸漬媒質Mを別のものと交換することに起因して)少なくとも0.025増加又は減少したときに浸漬顕微鏡対物10の作動距離が1%未満変化するように成形されている。
【0038】
好ましくは、高次非球面表面2は、透明な補正プレート1によって形成することができる。さらに、このような補正プレート1は、優れた画質を実現するために、前記少なくとも1つのミラー3の球面収差を打ち消すように適合されたさらなる非球面表面5を有することができる。
【0039】
上記のように、多項式z(y)の形式による規定が、(例えば、光学設計プログラムにおける数値最適化によって)近軸の場合について求められた場合、高次非球面表面2の形状z(y)は、nが補正プレート1の材料の屈折率であるとすると、好ましくは以下に従って選択される:
【数6】
したがって、高次非球面表面2の形状は、さらなる非球面表面5の形状の拡大/縮小版である。それ自体では、少なくとも1つの凹面ミラーに面する非球面表面2は、少なくとも1つの凹面ミラーの球面収差を補正するのに十分ではないため、[15]及び[16]による古典的なシュミット補正器の形状を表していない。
【0040】
補正プレート1とミラー3との間の媒質Mを屈折率nの固体に置き換えると、開口数(NA=n sinα)はn倍になり顕微鏡の解像力が向上する。また、画像の輝度はnの大きさになる。補正プレート1とミラー3との間の空間を固体物質ではなく、液体の浸漬媒質Mで満たす場合、該システムは浸漬対物10として機能する。
【0041】
有利には、このような設計では、ミラー3は、浸漬媒質M(例えば液体)を屈折率及び分散が異なるものに交換したときに、変動収差(特に色収差)をもたらさない。なぜなら、界面での反射の法則(θ=θ)には、2つの媒質の間の界面での屈折に関するスネルの法則nsinθ=nsinθのとおり、媒質の波長依存の屈折率(λ)へのいずれの依存性が含まれないからである。この設計概念は、任意のミラーベースの望遠鏡又は顕微鏡設計(シュワルツシルド型の2ミラー対物など)を浸漬対物10に変えるために使用することができる。しかし、励起光学部品(レーザー走査と組み合わせて使用する場合)又は検出経路(接眼レンズ又はカメラと組み合わせて使用する場合)の部分は、通常、空気中に置かれるので、顕微鏡の浸漬部と光路の他の部分とを分離する窓を設ける必要がある。回転対称な光学システムの軸から外れた位置から出発した光線又はそこに向かう光線がこの表面に当たると、横方向の色収差が発生し、このような浸漬ミラーシステムでは支配的な色収差になる。
【0042】
一般に、非球面の補正プレート1は、主のミラーの球面収差を打ち消すように対物の外側で平行波面を変形させる。前述のとおり、ミラーから離れる波面の反射は、波面が伝搬する媒質に依存しない。これは、対物10内の任意の可能な浸漬媒質Mに対して、非球面補正プレート1の単一の形状は、波面が補正プレート1(ガラス又はプラスチックなどの透明な固体材料でできていることが好ましい)と(例えば、液体の)浸漬媒質Mとの間の界面(たとえば、非球面表面2)を横切る場合に、さらなる屈折(さらなる波面の歪みに相当)が発生しない限り、ミラー3の球面収差を補正するのに十分であることを意味する。これは、補正素子1と液体媒質Mとを分離する表面2が、通過する波面と同様の形状である場合に達成することができる。この場合、さらなる光線の屈折はなく(局所的に、波面は波面に垂直な表面法線との界面を横切るため)、さらなる収差は生じず、表面は最小屈折となる。波面が軸外の位置から発生している、又は軸外の位置に向けられている場合、局所的な法線入射からのわずかな偏差があり、したがって、さらなる軸外収差が生成される可能性がある。しかし、十分に小さな角度差(<11.4°又は0.2ラジアン)では、生じる収差は小さい。したがって、結像に寄与する任意の光線と表面との交点での入射角θと屈折角θの差の絶対値(つまりnsinθ=nsinθによるスネルの法則が適用される)が0.2ラジアン未満である場合に表面が最小反射であると定義する:

【数7】
【0043】
このように最小屈折表面(ここでは非球面表面2)を用いることで、収差を発生させずに媒質間で波面(図3の波面W、W’)を伝達することができ、これは広範な媒質の浸漬対物を設計する上で非常に有用な一般的な光学設計原理といえる。これは光学設計でよく知られているアプラナートな同心円面(aplanatic-concentric surface)の一般化と見ることができる:所望の波面が球面であることが必要な場合、必要な最小屈折面は焦点の周りに同心円状になる。これは、高NAコリメータ、顕微鏡対物、及び光学計測用の干渉計対物によく使われる設計アプローチである。本明細書で使用される回転対称な非球面表面だけでなく、最小屈折率の自由形状面も、本明細書で提示される光学システムの軸外変形型において有効であると考えられる。
【0044】
既に上記で紹介したとおり、図4は、本発明による多浸漬顕微鏡対物10の基本的な実施形態/設計概念を示すものである。その一般的な形態において、開示された顕微鏡対物10は、浸漬媒質Mに接触する凹面ミラー3と、表面が前記非球面表面2を形成する素子を有する1つ又は複数の光学素子1の群であり、前記素子は対物10及び前記群の浸漬媒質M/内部空間4を分離する、前記群とを備える。一実施例によれば、前記光学素子の群は、先に説明した補正プレート1によって形成することができ、又は(他の光学素子のうち)そのような補正プレートを備えることができる。
【0045】
例えば図3及び図4に示すとおり、前面の群(例えば光学素子)1は、例えば凹面ミラー3によってもたらされる収差を補償するために、対物10に入射又は出射する波面を再形成する。群1の固体媒質又は光学素子と液体浸漬媒質Mとの境界を形成する非球面表面2は、好ましくは最小屈折面(上記参照)として成形される。ミラー3は、例えばアクセス性のためにビーム経路を折り返すために、浸漬媒質Mに接触するすべてのミラーの組み合わせ(そのうちの少なくとも1つは凹面である必要がある)に置き換えることができる。
【0046】
本発明による設計原理の実証として、本発明を多光子顕微鏡対物の設計に適用した。共焦点レーザー走査型蛍光顕微鏡では、必要なスペクトルの励起領域及び発光領域をカバーする波長帯域で横収差及び色収差を十分に補正することが十分な視野(FOV:field of view)を得るために有益であるが、2光子顕微鏡などの多光子顕微鏡では、色補正の必要性は低くなる。例えば、励起波長850nmで動作し、100fsのレーザーパルスを用いた2光子顕微鏡では、励起スペクトルの半値幅(full-width-at-half-maximum(FWHM))は10nm未満である。2光子顕微鏡は、デスキャン検出(descanned detection)と組み合わせて、バルク散乱と非散乱との発光光を光検出器で回収することにより作動できるため、発光した蛍光光の色補正は必要ない。このため、複数の励起波長を同時に使用しない限り、スペクトルの可視・近赤外領域での横方向の色収差の補正は必要ない。また、収集した3次元画像データは、計算によってデカルト座標系に変形し直すことができるため、拡大した(あるいはさらに透明化した)試料における画像の湾曲は問題がなくなる。
【0047】
図5は、本発明による多浸漬顕微鏡対物10を備える多光子顕微鏡の形態の本発明による顕微鏡100の一実施形態を示す。このセットアップでは、光源101(例えば、700~2000nm領域の波長で動作するピコ秒又はフェムト秒レーザー源又は複数のそのような光源の組み合わせ)からの光は、ビーム拡大、ビーム強度制御、ビーム安定化などの機能を備えることが可能なビーム成形デバイス102に導かれ、その後、スキャンシステム103に導かれる。このシステム103は、ビームをビームレットに分割するデバイスを内蔵可能であり、制御可能なビーム操作を可能にする。次いでスキャンビームは、浸漬媒質Mで満たされた本発明による前述の顕微鏡対物10に導かれる。試料Sは、試料ホルダー6によって媒質M内(対物10の内部空間4内)に浸漬され、試料位置調整デバイスを用いて並進移動させ、必要ならば回転させることが可能である。試料Sからの発光光は、顕微鏡対物10により回収され、発光ダイクロイック(dichroic)104を用いて励起光と分離される。そして、発光光を光検出器106に集光する集光光学部品105に導かれる。試料の位置決め、ビーム走査、及び光検出は電子的に制御することが好ましい。
【0048】
図6は、本発明による顕微鏡100のさらなる実施形態を示し、ここでは広視野顕微鏡の形態であり、最小屈折面を有する本発明による多浸漬顕微鏡対物10を備える。レーザー、発光ダイオード、又は蛍光ランプなどの光源101からの光は、強度制御、ビーム拡大、ビーム成形、又はビーム走査に使用できるビーム成形照明光学部品107に導かれ、例えばダイクロイックミラーなどのビームスプリッタ108に向けて励起光を再配向させる。次いで、励起光は、励起光を試料Sに向ける顕微鏡対物10に向けて再配向される。試料Sは、試料ホルダー6によって浸漬媒質Mに浸漬され、並進移動させ、必要に応じて、試料位置決めデバイスを使用して回転させることができる。試料Sからの放出光は、浸漬顕微鏡対物10によって回収され、検出光のスペクトルを変更する光学フィルタを含むことができるチューブ光学モジュール109に導かれ、カメラモジュール110に光を集束させる。
【0049】
本発明による顕微鏡100のさらに別の実施形態によれば、図7は、本発明による浸漬顕微鏡対物10を備える光シート型顕微鏡100を示す。ここでは、レーザーなどの光源101からの光は、強度制御、ビーム拡大、ビーム成形、又はビーム走査に用いることができるビーム成形光学部品111に導かれ、励起光学部品112に向けて該励起光を再配向させる。励起光学モジュール112を励起した後、ビームを時間内に走査するか、又はビームプロファイルを光シートに再成形するかのいずれかにより、ビームを光シートに似せた形状にする。また励起光学部品112は、浸漬媒質Mと外部構成部品との間の界面を形成し、浸漬媒質Mを周囲の媒質に対して封止するデバイスを含むことができる。試料Sは、試料ホルダー6によって内部空間4の媒質M内に浸漬され、試料位置決めデバイスを用いて並進移動し、必要に応じて回転させることができる。試料Sからの放出光は、顕微鏡対物10によって回収され、検出光のスペクトルを変更する光学フィルタを含むことができるチューブ光学モジュール109に導かれ、カメラモジュール110に光を集束させる。複数の光シートを生成するために、ビーム成形光学部品111は、励起光を複数の励起光学モジュールに導く1つ又は複数のビーム分割デバイスを含むことができる。これは、例えば、試料特性を屈折又は吸収することによって引き起こされるシャドウイングアーチファクト(shadowing artifact)を低減するように、試料Sの多方向の照明を可能にするために使用することができる。
【0050】
さらに、図8は、本発明による浸漬顕微鏡対物10を備える共焦点顕微鏡の形態の本発明による顕微鏡100の一実施形態を示す。特に、図8に示す構成では、光源101(例えば、スペクトルの可視領域の波長で動作する連続波レーザー源、又は複数のそのような光源の組み合わせ)からの光は、ビーム拡大、ビーム強度制御、ビーム安定化などの機能を含むことができるビーム成形デバイス111へ導かれ、次にビーム分割デバイス113、例えばダイクロイックビームスプリッターへ導かれる。そして、励起光は、スキャンシステム114に供給される。このシステム114には、例えばスピニングディスク共焦点顕微鏡のようにビームをビームレットに分割する装置を含むことができ、制御可能なビーム操作を可能にする。そして、スキャンビームは、中間光学モジュール115を介して、前述の顕微鏡対物10へ導かれる。中間光学モジュール115はまた、多浸漬顕微鏡対物により発生する色収差を低減するように設計することも可能である。該対物10は浸漬媒質Mで満たされており、試料は試料ホルダー6によって媒質M中に浸漬され、試料位置決めデバイスによって並進移動させ、必要に応じて回転させることが可能である。試料Sからの出射光は、顕微鏡対物10により回収され、光路を通って再配向される。ビーム分割デバイス113は、試料Sによって反射、散乱、又は放射された光の少なくとも一部を透過させるように設計されており、ダイクロイックビームスプリッターを利用することができる。その後、集光光学モジュール116が、サイズ調整可能な共焦点ピンホール117に光を集束させる。そして、光検出器106は、ピンホール117を通過した光を検出する。試料の位置決め、ビーム走査、及び光検出は電子的に制御することが好ましい。この顕微鏡の概念の変形型、特に回転ディスク共焦点顕微鏡では、スキャンシステム114はまた共焦点ピンホールのアレイも含む。
【0051】
特に、ストレール比(光学系の点広がり関数のピーク強度と理想的な点広がり関数を用いた最大強度との比)が0.8より大きい場合、本発明の枠組みにおける光学システムは回折限界であるとみなすことができる。これは、二乗平均平方根(RMS)の波面誤差が約1/14λ=0.0714λより小さいことに相当する。
【0052】
さらに、本発明の好ましい実施形態によれば、凹面ミラーに面し、かつ対物の浸漬媒質に接触し、及び/又は特に試料を含む対物の内部空間を区画する非球面表面は、半径rの球表面からの偏差zを半径座標yで多項式展開することによって記述される回転対称の多項式非球面表面である:

【数8】
【0053】
最小屈折表面を用いた光学設計の有用性を示すために、浸漬顕微鏡対物のさらに2つの実施形態について、図9図12Dを参照しながら以下により詳細に説明する。これらの対物は、中~高の開口数(NA)の多浸漬顕微鏡対物であり、特に大気中で回折限界性能が最大2.8mmの視野(FOV)と0.5及び0.85のNAとを超えるように設計されている。これらの対物が屈折率nの液体の浸漬媒質で満たされると、焦点位置と作動距離とは変化せず(媒質を囲む表面によってさらなる屈折が生じないため)、開口数はn倍になる。n=1.55の液体媒質では、NAはそれぞれ0.8及び1.33に達する。瞳孔径が一定の場合、これらの設計は浸漬媒質を変えてもエタンデュが一定(又はラグランジュ不変量が一定)である。つまり、屈折率nの媒質で対物を満たすことにより開口数NAを増加させると、FOVサイズが1/nに縮小されることになる。対物空間を満たす媒質が均一でない場合、局所的な波面歪みの誘発が光学性能を劣化させる。
【0054】
特に、図9及び図10A図10Dは、本発明による多浸漬顕微鏡対物の一実施形態を示す。
【0055】
空気などのn=1の物質では、この実施形態は0.52の開口数(NA)を有し、水などのn=1.333の物質では、この設計は0.69のNAを有する。より高屈折率の媒質、例えばn=1.5579の場合、本システムのNAは0.80となる。
【0056】
これは、励起波長が800~1000nmの範囲の2光子顕微鏡対物として動作し、20nm幅の波長帯で動作するように十分な色補正が可能である。浸漬媒質は、表面2とミラー3との間の空間を満たす。n及びVが変化する空気、液体、及び固体など様々な浸漬媒質との組み合わせにおいて画像の位置が安定する。
【0057】
図9及び図10による実施形態で使用される例示的なパラメータを以下の2つの表に記載する:
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
本発明による浸漬顕微鏡対物のさらなる実施形態を図11及び図12A図12Dに示す。
【0061】
空気などのn=1の物質では、この実施形態は0.85のNAを有し、水などのn=1.333の物質では、この設計は1.14のNAを有する。より高屈折率の媒質、例えばn=1.5579の場合、本システムのNAは1.33となる。
【0062】
これは、励起波長が780~940nmの範囲の2光子顕微鏡対物として動作し、20nm幅の波長帯で動作するよう十分な色補正が可能である。浸漬媒質は、表面2とミラー3との間の空間を満たす。可変のn及びVを有する空気、液体、及び固体など様々な浸漬媒質との組み合わせにおいて画像の位置が安定する。
【0063】
図11及び図12A~12Dによる実施形態で使用される例示的なパラメータを以下の2つの表に記載する:
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
本発明による浸漬顕微鏡対物のさらなる実施形態を図13及び図14A図14Dに示す。
【0067】
空気などのn=1の物質では、この実施形態は0.53のNAを有し、(水などの)n=1.333の物質では、この設計は0.71のNAを有する。より高屈折率の媒質、例えばn=1.5579の場合、本システムのNAは0.82となる。
【0068】
これは、励起波長が780~940nmの範囲の2光子顕微鏡対物として動作し、20nm幅の波長帯で動作するよう十分な色補正が可能である。浸漬媒質は、表面2とミラー3との間の空間を満たす。可変のn及びVを有する空気、液体、及び固体など様々な浸漬媒質との組み合わせにおいて画像の位置が安定する。
【0069】
これまでの実施形態と比較して、この実施形態では、表面5及び表面2を平坦(半径無限大)に規定している。その結果、表面5と表面2とを記述する多項式の比が(n-1)/nである必要があるという条件を明示的に検証することができる。ここで、nは、励起スペクトルの中心波長における補正プレート1の屈折率である。これまでの実施形態では、このような比較は、記載された非ゼロ表面半径が表面5及び表面2の表面多項式に含まれる場合にのみ可能である。
【0070】
図13及び図14A~14Dによる実施形態で使用される例示的なパラメータを以下の2つの表に記載する:
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
この実施形態の補正プレート1の屈折率をn=1.4525と仮定すると、表面5と表面2との間の非球面係数の比は、近軸の場合、(n-1)/n=0.312とする必要がある。この実施形態ではこの条件が満たされていることを下表に示す:
【表7】
【0074】
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10AB
図10CD
図11
図12AB
図12CD
図13
図14AB
図14CD
【国際調査報告】