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特表2023-521362CD73免疫チェックポイントを抑制するためのモノクローナル抗体及びその抗原結合断片並びにその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-24
(54)【発明の名称】CD73免疫チェックポイントを抑制するためのモノクローナル抗体及びその抗原結合断片並びにその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230517BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230517BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230517BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230517BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230517BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230517BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230517BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230517BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230517BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230517BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P35/00
A61K39/395 D
A61K39/395 P
C12P21/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561430
(86)(22)【出願日】2021-04-09
(85)【翻訳文提出日】2022-12-05
(86)【国際出願番号】 IB2021052934
(87)【国際公開番号】W WO2021205383
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】10-2020-0043607
(32)【優先日】2020-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0144595
(32)【優先日】2020-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522293607
【氏名又は名称】エイプリルバイオ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】チャ、 サン フン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB22
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
CD73免疫チェックポイントを抑制するためのモノクローナル抗体及びその抗原結合断片、並びにその用途に係り、当該抗体またはその抗原結合断片は、CD73に結合し、CD73蛋白質の酵素活性を低減させ、かつ癌の転移または癌の成長を阻害することができるので、それを癌の治療剤として活用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のものを含む、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片:
配列番号1,4,7,10,14または17のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定ドメイン1(CDRH1)、配列番号2,5,8,11,15または18のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号3,6,9,12,13,16または19のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域、並びに
配列番号20,23,26または29のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定ドメイン1(CDRL1)、配列番号21,24,27または30のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号22,25,28または31のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域。
【請求項2】
以下のものを含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片:
配列番号1のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号2のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号3のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号20のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号21のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号22のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;
配列番号4のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号5のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号6のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号23のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号24のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号25のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;
配列番号7のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号8のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号9のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号26のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号27のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号28のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;
配列番号10のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号12または13のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号20のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号21のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号22のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;
配列番号14のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号15のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号16のアミノ酸配列を含むCDRH3の重鎖可変領域;並びに配列番号20のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号21のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号22のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;または
配列番号17のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号18のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号19のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号29のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号30のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号31のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域。
【請求項3】
以下のものを含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片:
配列番号32,33,34,35,36,37または38のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸を含む重鎖可変領域、及び配列番号39、40、41または42のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸を含む軽鎖可変領域。
【請求項4】
以下のものを含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片:
配列番号32,33,34,35,36,37または38のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号39、40、41または42のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域。
【請求項5】
以下のものを含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片:
配列番号1のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号2のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号3のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに
配列番号20のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号21のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号22のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域。
【請求項6】
以下のものを含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片:
配列番号4のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号5のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号6のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに
配列番号23のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号24のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号25のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域。
【請求項7】
以下のものを含む、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片:
配列番号66,69,72,75または78のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定ドメイン1(CDRH1)、配列番号67,70,73,76または79のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号68,71,74,77または80のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに
配列番号81,84,87,90または93のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定ドメイン(CDRL1)、配列番号82,85,88,91または94のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号83,86,89,90または95のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域。
【請求項8】
以下のものを含む、請求項7に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片:
配列番号66のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号67のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号68のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号81のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号82のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号83のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;
配列番号69のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号70のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号71のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号84のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号85のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号86のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;
配列番号72のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号73のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号74のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号87のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号88のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号89のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;
配列番号75のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号76のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号77のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号90のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号91のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号92のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;または
配列番号78のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号79のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号80のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号93のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号94のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号95のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗体は、モノクローナル抗体であり、完全ヒト抗体またはキメラ抗体である、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片をコードする、核酸。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の発現ベクターで形質転換された、細胞。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、癌の予防用または治療用の組成物。
【請求項14】
免疫チェックポイント遮断剤または化学療法剤を追加して含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片を被験者に投与することを含む、それを必要とする被験者の癌を治療する方法。
【請求項16】
前記癌は、CD73を過発現する癌である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記癌は、乳癌、三重陰性乳癌(TBNC)、膵臓大腸癌、卵巣癌、胃癌(gastric cancer)、膀胱癌、白血病、前立腺癌、悪性黒色腫、癌、食道癌、胃癌(stomach cancer)、頭頸部癌、肺癌または腎臓癌である、請求項15または16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願に係わる相互参照]
本出願は、2020年4月9日付けで提出された韓国出願第10-2020-0043607号、及び2020年11月2日付けで提出された韓国出願第10-2020-0144595号を、35 U.S.C.§119によって優先権として主張し、その開示内容は、その全体が参照としてここに含まれる。
【0002】
[電子的に提出された配列表に係わる参照]
本出願と共に提出されたASCIIテキストファイル(名称:2662-0003WO01-SequenceListing_ST25.txt;大きさ:48KB;及び生成日:4月7日、2021)の電子的に提出された配列表の内容は、その全体が参照としてここに含まれる。
【0003】
本発明は、CD73免疫チェックポイントを抑制するためのモノクローナル抗体及びその抗原結合断片、並びにその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
伝統的な癌治療方法は、放射線治療、化学的療法そして抗癌剤治療があり、そのような方法は、直接癌の成長を阻害することにより、癌を治療することができる。しかしながら、癌細胞は、抗癌剤に抵抗性を示し、抗癌剤使用は、癌細胞ではない他の細胞も攻撃し、副作用問題が生じてしまう。そのような問題を克服するために、新たな癌治療方法として、免疫治療が開発された。該免疫治療は、癌細胞ではなく免疫細胞を標的にし、該免疫細胞が癌細胞を攻撃するように誘導する。
【0005】
免疫治療のうち、免疫チェックポイント遮断剤(immune checkpoint blockade)が最近注目されている。免疫チェックポイント(immune checkpoint)は、免疫反応を促進させたり抑制させたりする受容体である。該免疫チェックポイントは、免疫反応を調節するのに必須であり、癌においても該免疫チェックポイントが作動するので、癌は、該免疫チェックポイントを介して免疫回避を示す。最近では、該免疫チェックポイントを利用して癌を治療しようとする多くの研究が報告されている。まず、CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4)及びPD-1(programmed cell death protein 1)の免疫チェックポイントに対する抗体が開発され、黒色腫癌患者において、生存率上昇を示している。CTLA-4とPD-1の免疫チェックポイント遮断は、多様な癌で使用され、多くの癌において効能も示している。しかしながら、一部患者では、CTLA-4とPD-1の免疫チェックポイント遮断による治療において、効果が示されていない。従って、新たな免疫チェックポイントに対する多くの研究が進められ、癌の免疫回避メカニズムのうち一つは、免疫抑制アデノシンの高濃度によるものであると知られている。
【0006】
なお、「CD73(Cluster of Differentiation 73)」とは、5’ヌクレオチドの脱リン酸化を触媒する外部ヌクレオチダーゼ(ecto-nucleotidase)で、主に、AMP(adenosine monophosphate)をアデノシンに変換させる役割を行う。該CD73は、GPIアンカー(anchor)を介して、細胞膜上にホモダイマー(homodimer)形態で存在し、モノマー(monomer)は、65kDaであり、N末端とC末端とのドメインが、柔軟性あるヘリックス性リンカーを介して連結されている構造である。すなわち、該CD73は、アデノシンの生成に関与し、癌細胞で過発現され、免疫抑制作用を誘導する。従って、免疫抑制アデノシンの濃度に焦点を当てた新たな免疫チェックポイント遮断剤の開発が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書は、配列番号1,4,7,10,14または17のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定ドメイン1(CDRH1)、配列番号2,5,8,11,15または18のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号3,6,9,12,13,16または19のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号20,23,26または29のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定ドメイン1(CDRL1)、配列番号21,24,27または30のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号22,25,28または31のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域を含む、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片を開示する。
【0008】
一実施形態において、前記モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号2のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号3のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号20のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号21のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号22のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号4のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号5のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号6のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号23のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号24のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号25のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号7のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号8のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号9のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号26のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号27のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号28のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号10のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号12または13のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号20のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号21のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号22のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号14のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号15のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号16のアミノ酸配列を含むCDRH3の重鎖可変領域;並びに配列番号20のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号21のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号22のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;あるいは、配列番号17のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号18のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号19のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号29のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号30のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号31のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域を含むものでありえる。
【0009】
一実施形態において、前記抗体またはその抗原結合断片は、配列番号32,33,34,35,36,37または38に対して少なくとも80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸を含む重鎖可変領域;及び配列番号39,40,41または42に対して80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸を含む軽鎖可変領域を含むものでありえる。一実施形態において、前記抗体またはその抗原結合断片は、配列番号32,33,34,35,36,37または38のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域;及び配列番号39,40,41または42の配列番号を含む軽鎖可変領域を含むものでありえる。
【0010】
また、配列番号66,69,72,75または78のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号67,70,73,76または79のアミノ酸配列を含むCDRH2、配列番号68,71,74,77または80のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;及び配列番号81,84,87,90または93のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号82,85,88,91または94のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号83,86,89,90または95のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域を含むモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0011】
一実施形態において、前記抗体またはその抗原結合断片は、配列番号66のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号67のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号68のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号81のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号82のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号83のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号69のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号70のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号71のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号84のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号85のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号86のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号72のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号73のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号74のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号87のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号88のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号89のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号75のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号76のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号77のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号90のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号91のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号92のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;あるいは、配列番号78のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号79のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号80のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号93のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号94のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号95のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域を含む、抗体またはその抗原結合断片を含むものでありえる。
【0012】
他の態様は、前記抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸、前記核酸を含む発現ベクター、及び前記発現ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0013】
本明細書は、配列番号32,33,34,35,36,37または38に対して少なくとも80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸を含む重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号39,40,41または42に対して80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸を含む軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。また、本明細書は、配列番号32,33,34,35,36,37または38のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号39,40,41または42の配列番号を含む軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。
【0014】
本明細書は、配列番号32の重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号39の軽鎖可変領域をコードする核酸、または配列番号33の重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号40の軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。例えば、配列番号32の重鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号43で表されることができ、配列番号39の軽鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号44で表されうる。一実施形態において、配列番号32または配列番号33の重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号39または配列番号40の軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。また、配列番号33の重鎖可変領域は、配列番号45で表され、配列番号40の軽鎖可変領域は、配列番号46で表されうる。
【0015】
また、配列番号96,98,100,102または104に対して少なくとも80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸を含む重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号97,99,101,103または105に対して少なくとも80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸を含む軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。また、配列番号96,98,100,102または104の重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号97,99,101,103,または105の軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。
【0016】
配列番号96の重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号97の軽鎖可変領域をコードする核酸;配列番号98の重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号99の軽鎖可変領域をコードする核酸;配列番号100の重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号101の軽鎖可変領域をコードする核酸;配列番号102の重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号103の軽鎖可変領域をコードする核酸;あるいは配列番号104の重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号105の軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。例えば、配列番号96の重鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号106で表され、配列番号97の軽鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号107で表されうる。配列番号98の重鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号108で表され、配列番号99の軽鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号109で表されうる。配列番号100の重鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号110で表され、配列番号101の軽鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号111で表されうる。配列番号102の重鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号112で表され、配列番号103の軽鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号113で表されうる。配列番号104の重鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号114で表され、配列番号105の軽鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号115で表されうる。
【0017】
また、配列番号106,108,110,112または114に対して少なくとも80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸を含む重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号107,109,111,113,または115に対して80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸を含む軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。
【0018】
また、本明細書は、癌を予防または治療するための組成物であって、前記抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を開示する。一実施形態において、前記組成物は、免疫チェックポイント遮断剤または化学療法剤をさらに含むものでありえる。
【0019】
また、本願に開示された前記モノクローナル抗体またはその抗原結合断片を被験者に投与することを含む、それを必要とする被験者の癌治療方法を開示する。一実施形態において、前記癌は、CD74を過発現する癌である。一実施形態において、前記癌は、乳癌、三重陰性乳癌(TBNC:triple-negative breast cancer)、膵臓大腸癌、卵巣癌、胃癌(gastric cancer)、膀胱癌、白血病、前立腺癌、悪性黒色腫、癌、食道癌、胃癌(stomach cancer)、頭頸部癌、肺癌または腎臓癌である。
【0020】
また、それを必要とする被験者における癌治療のための、本願に開示された前記モノクローナル抗体及びその抗原結合断片の使用を開示する。また、それを必要とする被験者の癌治療における使用のための、本願に開示されたモノクローナル抗体及びその抗原結合断片を開示する。また、それを必要とする個体における癌治療用医薬の製造のための、本願に開示されたモノクローナル抗体及びその抗原結合断片の使用を開示する。
【0021】
本開示の特定実施形態の上記及びその他の側面、特徴並びに利点は、添付図面と共に、以下の説明からさらに明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】バイオパニングを介して選別された抗CD73抗体のCD73に対する結合能力を示すグラフである。ファージ抗体のCD73結合は、450nm波長における吸光度を測定して確認し、データの標準偏差は、誤差バーで表した。
【0023】
図2A】抗CD73ファージ抗体のV遺伝子配列とV遺伝子配列とを、C遺伝子配列とC遺伝子配列とを含むpdCMV-dhfrベクターにクローニングして製造したヒトIgG1発現ベクターを示す。
【0024】
図2B】ヒトIgG1抗体のSDS-PAGE分析結果を示したものであり、レーン1~12から順番に、L2-3、L2-47、L4-1、L4-4、L4-5、L4-46、L4-66、L6-1、L6-7、L6-30、L6-37、L8-24である。
【0025】
図3A】精製された12種ヒトIgG1アイソタイプ抗体のCD73に対する結合を分析するために、ELISAを遂行した結果を示す。
【0026】
図3B】精製された12種ヒトIgG1アイソタイプ抗体をCD73酵素活性の阻害によって比較するために、MDA-MB-231細胞においてインビトロアッセイを行った結果を示す。CD73酵素活性は、マラカイトグリーンアッセイ(malachite green assay)を用いて、CD73により分解されるホスフェートを測定することにより確認した。
【0027】
図3C】ヒト、猿、ラットそしてマウスのCD73に対する交差結合能力を、ELISAで分析した結果を示したものであり、CD73に対する抗体の結合は、450nm波長における吸光度を測定して確認した。
【0028】
図4図4A~Dは、APBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体の水溶性CD73結合能力の比較を示したグラフであり、それぞれ、ヒト、サル、ラット、及びマウスCD73のELISA結果を示す。
【0029】
図5A】ヒトCD73を発現するMDA-MB-231細胞において、APBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体の膜CD73結合能力の比較を示すフローサイトメトリーのグラフである。
【0030】
図5B】マウスCD73を発現する4T1細胞において、APBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体の膜CD73結合能力の比較を示すフローサイトメトリーのグラフである。
【0031】
図6A】APBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体によるCPI-006のエピトープに対する競合的結合を分析するためのバイオレイヤ干渉法(biolayer interferometry)の結果を示したグラフである。
【0032】
図6B】APBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体によるMEDI-9447のエピトープに対する競合的結合を分析するためのバイオレイヤ干渉法の結果を示したグラフである。
【0033】
図7】APBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体による水溶性CD73酵素活性の阻害を比較するための、マラカイトグリーンアッセイの結果を示したグラフである。
【0034】
図8A】MDA-MB-231細胞において、APBA2-01抗体、APBA2-02抗体による膜CD73酵素活性の阻害を比較するための、マラカイトグリーンアッセイの結果を示したグラフである。
【0035】
図8B】4T1細胞において、APBA2-01抗体、APBA2-02抗体による膜CD73酵素活性の阻害を比較するための、CellTiter-Glo(登録商標)assayの結果を示したグラフである。
【0036】
図8C】MDA-MB-231細胞において、APBA2-01抗体、APBA2-02抗体による膜CD73酵素活性の阻害を比較するための、マラカイトグリーンアッセイの結果を示したグラフである。標準偏差は誤差バーで表し、縦軸は、相対的光ユニット(RLU: relative light units)を示す。
【0037】
図8D】4T1細胞において、APBA2-01抗体、APBA2-02抗体による膜CD73酵素活性の阻害を比較するための、CellTiter-Glo(登録商標)assayで比較した結果を示したグラフである。標準偏差は誤差バーで表し、縦軸はRLUを示す。
【0038】
図9】膜CD73細胞内へのAPBA2-01抗体、APBA2-02抗体の移入を、走査顕微鏡で確認した結果である。FITCシグナルに対応するCD73が、白色で示されるように発現されており、スケールバーを共に表示した。
【0039】
図10A】転移性乳癌マウスモデルにおいて平均肺重量を測定することにより、APBA2-01抗体、APBA2-02抗体の抗癌効能を評価した結果を示したグラフである;*:P<0.05(一元配置分散分析(one-way ANOVA))。
【0040】
図10B】転移性乳癌マウスモデルにおいて肺転移コロニー数を測定することにより、APBA2-01抗体、APBA2-02抗体の抗癌効能を評価した結果を示したグラフである;*:P<0.05(一元配置分散分析(one-way ANOVA))。
【0041】
図11A】乳癌マウスモデルにおいて腫瘍体積を測定することにより、APBA2-01抗体、APBA2-02mIgG抗体の腫瘍成長阻害効能を評価した結果を示したグラフである;*:P<0.05;**:P<0.01、ns(not significant:P>0.05(二元配置分散分析(two-way ANOVA))。
【0042】
図11B】乳癌マウスモデルにおいて、抗体試料間の腫瘍成長抑制力を比較することにより、APBA2-01抗体、APBA2-02mIgG抗体の腫瘍成長阻害効能を評価した結果を示したグラフである。
【0043】
図11C】乳癌マウスモデルにおいてマウス重量を測定することにより、APBA2-01抗体、APBA2-02mIgG抗体の腫瘍成長阻害効能を評価した結果を示したグラフである;*:P<0.05;**:P<0.01、ns(not significant:P>0.05(二元配置分散分析(two-way ANOVA))。
【0044】
図12A】MDA-MB-231細胞において、抗CD73抗体による膜CD73の酵素活性の阻害能を比較するための、マラカイトグリーンアッセイの結果を示したグラフである。
【0045】
図12B】MDA-MB-231細胞において、抗CD73抗体によるCD73酵素活性の阻害を比較するための、CellTiter-Glo(登録商標)assayの結果を示したグラフである。
【0046】
図13A】4T1細胞における、Myxengo 3,4,6,7及び15抗体の膜CD73蛋白質に対する結合能力を確認したグラフである。
【0047】
図13B】4T1.2細胞において、Myxengo 3,4,6,7及び15抗体の膜CD73蛋白質に対する結合能力を確認したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本明細書は、CD73(cluster of differentiation 73)に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を開示する。
【0049】
また、前記モノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸、前記核酸を含む発現ベクター、及び前記発現ベクターで形質転換された細胞を開示する。
【0050】
また、癌を予防または治療するための組成物であって、前記モノクローナル抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を開示する。
【0051】
さらなる態様は、以下の説明で部分的に説明され、部分的には、該説明から明白となり、または本開示内容で提示された実施形態の実行によって学習され得る。
【0052】
配列番号1,4,7,10,14または17のアミノ酸配列によって構成された群のうちから選択されるCDRH1、配列番号2,5,8,11,15または18のアミノ酸配列によって構成された群のうちから選択されるCDRH2、及び配列番号3,6,9,12,13,16または19のアミノ酸配列によって構成された群のうちから選択されるCDRH3を含む重鎖可変領域;及び配列番号20,23,26または29のアミノ酸配列によって構成された群のうちから選択されるCDRL1、配列番号21,24,27または30のアミノ酸配列によって構成された群のうちから選択されるCDRL2、及び配列番号22,25,28または31で表されるアミノ酸配列によって構成された群のうちから選択されるCDRL3を含む軽鎖可変領域を含む、抗体またはその抗原結合断片を開示する。
【0053】
一実施形態において、前記モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号2のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号3のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号20のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号21のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号22のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号4のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号5のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号6のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号23のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号24のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号25のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号7のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号8のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号9のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号26のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号27のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号28のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号10のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号12または13のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号20のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号21のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号22のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号14のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号15のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号16のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号20のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号21のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号22のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;あるいは、配列番号17のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号18のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号19のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号29のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号30のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号31のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域でありえる。
【0054】
一実施形態において、前記抗体またはその抗原結合断片は、配列番号32,33,34,35,36,37または38に対して少なくとも80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸を含む重鎖可変領域、及び配列番号39,40,41または42に対して80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸を含む軽鎖可変領域を含むものでありえる。一実施形態において、前記抗体またはその抗原結合断片は、配列番号32,33,34,35,36,37または38のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び配列番号39,40,41または42の配列番号を含む軽鎖可変領域を含むものでありえる。
【0055】
また、配列番号66,69,72,75または78のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号67,70,73,76または79のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号68,71,74,77または80のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域、及び配列番号81,84,87,90または93のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号82,85,88,91または94のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号83,86,89,90または95のアミノ酸配列を含むCDRL3を含むモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0056】
一実施形態において、前記抗体またはその抗原結合断片は、配列番号66のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号67のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号68のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号81のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号82のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号83のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号69のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号70のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号71のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号84のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号85のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号86のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号72のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号73のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号74のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号87のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号88のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号89のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;配列番号75のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号76のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号77のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号90のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号91のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号92のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域;あるいは配列番号78のアミノ酸配列を含むCDRH1、配列番号79のアミノ酸配列を含むCDRH2、及び配列番号80のアミノ酸配列を含むCDRH3を含む重鎖可変領域;並びに配列番号93のアミノ酸配列を含むCDRL1、配列番号94のアミノ酸配列を含むCDRL2、及び配列番号95のアミノ酸配列を含むCDRL3を含む軽鎖可変領域でありえる。
【0057】
また、前記抗体の重鎖定常領域及び軽鎖定常領域は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgD、またはそれらの組み合わせの抗体定常領域でありえる。前記定常領域は、例えば、IgG1の抗体定常領域に由来しうる。
【0058】
一実施形態において、前記抗体またはその抗原結合断片は、個体において種間交差反応性(species cross-reactivity)を有するものでありえる。前記個体または対象は、脊椎動物でもあり得、哺乳類、両生類、爬虫類、鳥類でもあり得、種(species)は、例えば、ヒト(Homo sapiens)、猿、ラット、マウスなどでありえる。例えば、前記抗CD73抗体は、CD73が活性構造に変換されることを阻害するか、あるいはCD73に結合する阻害因子と競合的に結合することにより、CD73の酵素活性を阻害することができる。また、抗CD73抗体は、陽性対照であるMEDI9447またはCPI-006のものと同様のエピトープに結合することにより、エンドサイトーシス活性を示しうる。従って、前記抗体またはその抗原結合断片は、CD73に特異的に結合しながら、種間交差反応性を有しうる。
【0059】
本明細書内における用語「エピトープ」とは、抗体が特異的に結合することができる蛋白質決定部位(determinant)を意味する。該エピトープは、通常は、化学的に活性である表面分子群、例えば、アミノ酸または糖側鎖によって構成され、一般的に、特定の三次元の構造的特徴ならびに特定の電荷特性を有する。立体的エピトープ及び非立体的エピトープは、前者に対する結合は変性溶媒の存在下において消失するが後者は消失しないという点で、区別される。前記エピトープは、例えば、ポリペプチドの連続したアミノ酸(線形または連続的エピトープ)であり得、あるいは、例えば、ポリペプチド(複数可)の2以上の非連続領域から共にもたらされるものでありえる(立体構造的、非線形、不連続または非連続のエピトープ)。特定実施形態において、抗体の結合するエピトープは、例えば、NMR分光学、X線回折結晶学研究、ELISA分析、質量分析(例えば、液体クロマトグラフィエレクトロスプレー質量分析)、アレイに基づくオリゴ-ペプチドスキャニング分析、及び/または突然変異マッピング(例えば、部位特異的突然変異誘発マッピング)によって決定され得る。X線結晶学の場合、当業界で公知の方法のうちいずれか一つを使用して結晶化がなされ得る(例えば、Giege R et al., (1994) Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 50 (Pt 4): 339-350; McPherson A (1990) Eur J Biochem 189: 1-23; Chayen NE (1997) Structure 5: 1269-1274; McPherson A (1976) J Biol Chem 251: 6300-6303)。抗体:抗原結晶は、周知のX線回折技術を使用して研究され得、X-PLOR(Yale University, 1992, distributed by Molecular Simulations, Inc.;例えば、以下を参照、Meth Enzymol (1985) volumes 114 & 115, eds Wyckoff HW et al.,; U.S. 2004/0014194)及びBUSTER(Bricogne G (1993) Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 49(Pt 1): 37-60; Bricogne G (1997) Meth Enzymol 276A: 361-423, ed Carter CW; Roversi P et al., (2000) Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 56 (Pt 10): 1316-1323)のようなコンピュータソフトウェアを使用して精密化され得る。突然変異誘発マッピング研究は、当業者に知られた任意の方法を使用して達成され得る。アラニンスキャニング突然変異技術を含む突然変異誘発技術の詳細な内容は、例えば、Champe M et al., (1995) J Biol Chem 270: 1388-1394 and Cunningham BC、及びWells JA (1989) Science 244: 1081-1085を参照する。一実施例において、前記抗体のエピトープは、アラニンスキャニング突然変異誘発研究を使用して決定される。
【0060】
本明細書内における用語「抗体(antibody)」とは、ウイルス、細菌等のような抗原を不活性化させ、身体に侵入した微生物に対抗する細胞外部刺激を誘導する糖蛋白質を指し、特に、免疫グロブリンを指す。本明細書に開示された前記抗体は、モノクローナル抗体、多特異的抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖Fvs(scFv)、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、ジスルフィド結合Fvs(sdFv)及び抗イディオタイプ(抗Id)抗体、または前記抗体のエピトープ結合断片などを含むものでありえる。具体的には、前記抗体は、モノクローナル抗体でありながら、完全ヒト抗体またはヒト・マウスキメラ抗体でありえる。モノクローナル抗体は、実質的に均質な抗体集団(すなわち、集団を占めている個々の抗体が、微量に存在しうる可能な天然発生的突然変異を除いては、同一であるのもの)から得られた抗体を表す。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原エピトープに対して誘導される。本開示は、抗CD73抗体に係わるものであるので、特別に他の指称がない場合、修飾なしに使用された「抗体」という用語は、CD73のエピトープに結合する抗CD73抗体を意味しうる。本開示の範囲には、CD73に特異的に結合する完全な抗体形態だけではなく、前記抗体分子の抗原結合断片も含まれる。完全な抗体は、2個の全長の軽鎖、及び2個の全長の重鎖を有する構造において、それぞれの軽鎖は、重鎖とジスルフィド結合で連結されている。重鎖定常領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)及びイプシロン(ε)のタイプを有し、サブクラスとして、ガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)及びアルファ2(α2)を有する。軽鎖の定常領域は、カッパ(κ)及びラムダ(λ)のタイプを有する。
【0061】
「結合親和度(binding affinity)」とは、一般的に、分子(例えば、抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との非共有相互作用総計の強度を意味する。異なって明示されない限り、本明細書で使用される「結合親和度」とは、結合対の構成員(例えば、抗体及び抗原)間の1:1相互作用を反映させる固有の結合親和力を意味する。分子XのパートナーYに対する親和力は、一般的に、解離定数(K(dissociation constant))で示すことができる。親和度は、平衡解離定数(K)及び平衡結合定数(K(association constant))を含み、当業界に知られたさまざまな方法で、測定及び/または表現がなされうる。前記Kは、koff/konの商によって計算され、前記KAは、kon/koffの商によって計算される。konは、例えば、抗原に対する抗体の結合速度定数を意味し、koffは、例えば、抗原に対する抗体の解離を意味する。前述のkonとkoffは、BIAcore(登録商標)またはKinExAのように、当業者に知られた技術によって決定され得る。
【0062】
本明細書内における用語「免疫特異的に結合する(immunospecifically binds)」、「免疫特異的に認識する(immunospecifically recognizes)」、「特異的に結合する(specifically binds)」及び「特異的に認識する(specifically recognizes)」とは、抗体の文脈において類似した用語であり、当業者が理解しているように、抗原に結合する分子(例えば、エピトープ、免疫複合体、または抗原結合部位の結合パートナー)を表す。例えば、抗原に特異的に結合する分子は、例えば免疫アッセイ、BIAcore(登録商標)、KinExA 3000機器(Sapidyne Instruments, Boise, ID)、または本技術分野で知られる他のアッセイによって決定されるところの概してより低い親和力で、他のペプチドまたはポリペプチドと結合し得る。一実施形態において、抗原に特異的に結合する分子は、該分子が他の抗原に結合するときのKより、少なくとも2ログ(log)、2.5ログ、3ログ、4ログ、またはそれより大きいKで抗原に結合する。
【0063】
他の実施形態において、抗原に免疫特異的に結合する分子は、類似した結合条件下において、他の蛋白質と交差反応するものではない。一実施形態において、抗原に免疫特異的に結合する分子は、他の蛋白質と交差反応するものではない。一実施形態において、本願は、他の関係ない抗原に対してよりも高い親和度で、CD73のような特定抗原に結合する、モノクローナル抗体及びその抗原結合断片を提供する。特定実施形態において、本願は、例えば、放射線免疫測定、表面プラズモン共鳴または結合平衡除外法(Kinetic Exclusion Assay)によって測定されるところにより、係わりのない他の抗原に対する親和度より、20%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、またはそれより高い親和力で、CD73のような特定抗体に結合する、モノクローナル抗体及びその抗原結合断片を提供する。一実施形態において、本明細書に記載されたモノクローナル抗体及びその抗原結合断片の、無関係の蛋白質に対する結合の程度は、例えば、放射線免疫測定法によって測定されるところの、特定抗原に対する該抗体の結合の10%未満、15%未満または20%未満である。
【0064】
一実施形態において、本願は、抗原の他の種に対してよりも高い親和度で、ヒトCD73に結合する、モノクローナル抗体及びその抗原結合断片を提供する。特定実施形態において、本願は、例えば、放射線免疫測定、表面プラズモン共鳴または結合平衡除外法によって測定されるところの、他の種に対する親和度より、20%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、またはそれより高い親和力で、ヒトCD73に結合するモノクローナル抗体及びその抗原結合断片を提供する。
【0065】
一実施形態において、前記抗体は、Fv形態(例えば、scFv)、又は完全な抗体形態(IgG)である。また、重鎖定常領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)またはイプシロン(ε)のうちいずれか1つのイソタイプから選択され得る。例えば、定常領域は、ガンマ1(IgG1)、ガンマ3(IgG3)またはガンマ4(IgG4)である。軽鎖定常領域は、カッパまたはラムダ型でありえる。
【0066】
本明細書内における用語「重鎖(HCまたはCH(heavy chain))」とは、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域(VR(variable region))配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVH、及び3個の定常領域ドメインCH1,CH2及びCH3を含む全長重鎖及びその断片をいずれも意味する。また、「軽鎖(LCまたはCL(light chain))」とは、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVL及び定常領域ドメインCLを含む全体長軽鎖及びその断片を意味する。
【0067】
「ヒト化」形態の非ヒト(例:マウス)抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの部分について、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの残基を、所望の特異性、親和性及び能力を保有しているマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域域からの残基で代替させたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。
【0068】
「ヒト抗体」とは、ヒト免疫グロブリンに由来する分子であり、相補性決定領域、構造領域を含む抗体を構成する全てのアミノ酸配列全体が、ヒト免疫グロブリンで構成されているものを意味する。一実施形態において、本発明は、意図されていない免疫反応を最小化させることができる完全ヒト抗体に係わるものである。
【0069】
「キメラ抗体」とは、重鎖及び/または軽鎖の一部が特定の種に由来するかまたは特定の抗体のクラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応配列と同一であるかまたは相同的である一方、残り鎖(複数可)は、他の種に由来するかまたは別の抗体のクラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応配列と同一または相同的である、所望の生物学的活性を示す「キメラ」抗体(免疫グロブリン)ならびにそのような抗体の断片を含む。
【0070】
「抗体可変領域」とは、相補性決定領域(CDR(complementary determining region)、CDRHまたはCDRL、すなわち、CDRH1、CDRH2及びCDRH3)、及びフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を含む抗体分子の軽鎖部分及び重鎖部分を称する。VHは、重鎖の可変領域(variable region of heavy chain)を称する。VLは、軽鎖の可変領域(variable region of light chain)を称する。
【0071】
「相補性決定領域(CDR(complementarity determining region)、CDRHまたはCDRL、すなわち、CDRL1、CDRL2及びCDRL3)」とは、抗原結合のために必要な存在である、抗体可変領域のアミノ酸残基を称しうる。各可変領域は、典型的には、CDR1、CDR2及びCDR3と同定される3個のCDR領域を有する。
【0072】
本明細書内における用語「フレームワーク領域(FR(frameworkregion))」とは、CDR残基以外の可変領域残基を意味する。各可変領域は、典型的には、FR1、FR2、FR3及びFR4として同定される4個のFRを有する。
【0073】
本発明において「抗原結合断片」とは、Fab、F(ab’)、F(ab’)2、Fvなどを含む、抗原結合能を有する抗体の断片を意味する。「Fv」断片は、完全な抗体の認識部位及び結合部位を含む抗体断片である。そのような領域は、1個の重鎖可変領域と、1個の軽鎖可変領域とが、堅く共有結合された二量体(例えばscFv)によってなる。「Fab」断片は、軽鎖の可変領域及び定常領域と、重鎖の可変領域及び第1定常領域(CH1)を含む。F(ab’)2抗体断片は、一般的に、それら間において、ヒンジシステインにより、それらのカルボキシ末端近辺で共有結合された1対のFab断片を含む。「単鎖Fv」、すなわち、「scFv」の抗体断片は、抗体のVHドメイン及びVLドメインを含むが、それらドメインは、単一ポリペプチド鎖内に存在する。Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これがscFvに抗原結合のための望ましい構造を形成させる。
【0074】
Fvは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のみを有している最小の抗体セグメントであり、Fv断片を生成する組み換え技術は、WO88/10649、WO88/106630、WO88/07085、WO88/07086及びWO88/09344に開示されている。二本鎖Fv(two-chain Fv)では、非共有結合で、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とが連結されており、単鎖Fv(scFv:single-chain Fv)では、一般的に、ペプチドリンカーを介した共有結合によって、重鎖の可変領域と、軽鎖の可変領域とが連結されるか、あるいはC末端に直接連結されており、二本鎖Fvのように、ダイマーのような構造をなしうる。そのような抗体断片は、蛋白質加水分解酵素を利用しても得られ(例えば、全長抗体をパパインで消化すれば、Fabを得ることができ、抗体をペプシンで消化すれば、F(ab’)2断片を得ることができる)、遺伝子組み換え技術を介して作製することもできる。
【0075】
本明細書内における用語「ファージディスプレイ」とは、変異体ポリペプチドを、ファージ、例えば、線維状ファージ粒子の表面上に、外被蛋白質の少なくとも一部との融合蛋白質としてディスプレイする技術を意味する。該ファージディスプレイの有用性は、ランダム蛋白質変異体の大きいライブラリーを対象にして、標的抗原と高親和度で結合する配列を迅速かつ効率的に分類することができるという事実にある。ペプチド及び蛋白質のライブラリーをファージ上にディスプレイすることは、特異的結合特性を有したポリペプチドを同定するために数百万個のポリペプチドをスクリーニングするのに使用された。
【0076】
ファージディスプレイ技術は、特異的リガンド(例:抗原)と結合する新規蛋白質を生成及び選別するための強力なツールを提供した。該ファージディスプレイ技術を使用し、蛋白質変異体の大きなライブラリーを生成させ、標的抗原と高親和性で結合する配列を迅速に分類することができる。変異体ポリペプチドをコードする核酸を、ウイルス外被蛋白質、例えば、遺伝子III蛋白質または遺伝子VIII蛋白質をコードする核酸配列と融合させる。蛋白質またはポリペプチドをコードする核酸配列を、遺伝子III蛋白質の一部をコードする核酸配列と融合させた一価ファージディスプレイシステムが開発された。該一価ファージディスプレイシステムにおいては、遺伝子融合物が低レベルに発現され、野生型遺伝子III蛋白質も発現され、それによって粒子の感染性が維持される。
【0077】
線維状ファージ表面上におけるペプチドの発現と、E.coliの辺縁細胞質(peripheral cytoplasm)における機能性抗体断片の発現とを立証することが、抗体ファージディスプレイライブラリーを開発するにおいて重要である。抗体または抗原結合性ポリペプチドのライブラリーは、数多くの方式、例えば、無作為DNA配列を挿入することによって単一遺伝子を改変すること、または関連遺伝子系列をクローニングすることによって調製されてきた。ライブラリーは、目的とする特徴を伴う抗体または抗原結合性蛋白質の発現についてスクリーニングすることができる。
【0078】
ファージディスプレイ技術は、目的とする特徴を有した抗体を製造するための一般的なハイブリードマ及び組み換え方法に比べ、いくつかの利点を有している。そのような技術は、動物を使用せずとも、短時間に多様な配列を有した大きい抗体ライブラリーを生成させることができるようにする。ハイブリードマの製造や、ヒト化抗体の製造は、数ヵ月の製造期間を必要としうる。また、ファージ抗体ライブラリーは、免疫が全く要求されないために、毒性であったり抗原性が低い抗原に対しても抗体を生成させることができる。該ファージ抗体ライブラリーは新規の治療的抗体を生成及び同定することにも使用できる。
【0079】
ファージディスプレイライブラリーを用いてヒト生殖細胞系配列または免疫化もしくは非免疫の未感作B細胞Igレパートリーからヒト抗体を生成させる技術を使用することができる。各種リンパ系組織を使用して、未感作または非免疫の抗原結合性ライブラリーを調製することができる。
【0080】
ファージディスプレイライブラリーから、高親和性抗体を同定及び分離するための技術は、新規治療用抗体を分離するために重要である。ライブラリーから高親和性抗体を分離することは、ライブラリーの大きさ、細菌細胞における生産効率、及びライブラリーの多様性にも左右される。ライブラリーの大きさは、抗体または抗原結合性蛋白質の不適切なフォールディング及び停止コドンの存在による非効率的生産によって低減される。抗体または抗原結合性ドメインが適切にフォールディングされない場合には、細菌細胞における発現が抑制されうる。発現は、可変/定常界面の表面上の残基や、選別されたCDR残基における残基を代替的に突然変異させることによって改善させることができる。フレームワーク領域の配列は、細菌細胞において抗体ファージライブラリーを生成させる場合、適切なフォールディングを提供するための1つの要素である。
【0081】
高親和性抗体分離において、抗体または抗原結合性蛋白質の多様なライブラリーを生成させることが重要である。CDR3領域は、抗原結合にしばしば参与することが見出されてきた。重鎖上のCDR3領域は、サイズ、配列、及び構造的立体形態の側面において、かなり多様であるので、CDR3領域を利用して多様なライブラリーを調製することができる。
【0082】
また、各位置において20個のアミノ酸の全てを使用して、可変重鎖及び可変軽鎖のCDR領域を無作為化させることにより、多様性を生じさせることができる。20個の全てのアミノ酸を使用すれば、多様性が高い変異体抗体配列が生成され、新規の抗体を同定する機会が増大しうる。
【0083】
本開示の抗体または抗体断片は、CD73を特異的に認識することができる範囲内において、本明細書に記載された抗CD73抗体の配列だけではなく、その生物学的均等物も含み得る。例えば、抗体の結合親和度、及び/またはその他生物学的特性を一層改善させるために、抗体のアミノ酸配列にさらなる改変を与えることができる。そのような改変は、例えば、抗体のアミノ酸配列残基の欠失、挿入及び/または置換を含む。そのようなアミノ酸変異は、アミノ酸側鎖置換体の相対的類似性、例えば、疎水性、親水性、電荷、大きさなどに基づいてなされる。該アミノ酸側鎖置換体の大きさ、形態及び種類に対する分析により、アルギニン、リシン及びヒスチジンは、いずれも正電荷を帯びた残基であり、アラニン、グリシン及びセリンは、類似した大きさを有し、フェニルアラニン、トリプトファンとチロシンは、類似した形態を有するということが分かる。従って、そのような考慮事項に基づき、アルギニン、リシン及びヒスチジン;アラニン、グリシン及びセリン;並びにフェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンは、それぞれ、生物学的に機能均等物であることが見出される。
【0084】
変異を導入するにおいて、アミノ酸の疎水性インデックス(hydropathic index)が考慮されうる。それぞれのアミノ酸には、疎水性と電荷とにより、疎水性インデックスが付与されている:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/システイン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(-0.4);トレオニン(-0.7);セリン(-0.8);トリプトファン(-0.9);チロシン(-1.3);プロリン(-1.6);ヒスチジン(-3.2);グルタメート(-3.5);グルタミン(-3.5);アスパルテート(-3.5);アスパラギン(-3.5);リシン(-3.9);及びアルギニン(-4.5)。蛋白質の相互作用的な生物学的機能(interactive biological function)を付与するにおいて、疎水性アミノ酸インデックスは、非常に重要である。類似した疎水性インデックスを有するアミノ酸での置換は、類似した生物学的活性を保持しうるということは、よく知られている。疎水性インデックスを参照して変異を導入させる場合、望ましくは、±2以内、さらに望ましくは、±1以内、一層望ましくは、±0.5以内の疎水性インデックス差を示すアミノ酸間において置換を行う。
【0085】
なお、類似した親水性値(hydrophilicity value)を有するアミノ酸間の置換が、均等な生物学的活性を有する蛋白質をもたらすということもよく知られている。米国特許第4,554,101号に開示されているように、以下の親水性値が、それぞれのアミノ酸残基に付与されている:アルギニン(+3.0);リシン(+3.0);アスパルテート(+3.0±1);グルタメート(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);トレオニン(-0.4);プロリン(-0.5±1);アラニン(-0.5);ヒスチジン(-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5);トリプトファン(-3.4)。分子の活性を全体的に変更させない蛋白質におけるアミノ酸交換は、当該分野で公知である(H. Neurath, R. L. Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979)。最も一般的に起こる置換は、アミノ酸残基Ala/Ser,Val/Ile,Asp/Glu,Thr/Ser,Ala/Gly,Ala/Thr,Ser/Asn,Ala/Val,Ser/Gly,Thr/Phe,Ala/Pro,Lys/Arg,Asp/Asn,Leu/Ile,Leu/Val,Ala/Glu及びAsp/Gly間の置換である。
【0086】
一実施形態において、本願に記載された抗体のVH(例えば、CDR1、CDR2またはCDR3)領域及び/またはVL(例えば、CDR1、CDR2またはCDR3)領域に沿う1以上のCDRの位置は、抗原に対する免疫特異的結合が維持(例えば、実質的に維持される、例えば、少なくとも50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上95%以上)される限り、2個、3個、4個、5個または6個のアミノ酸位置だけ異なり得る。例えば、本願に記載された抗体のCDRを定義する位置は、抗原(複数可)に対する免疫特異的結合が維持(例えば、実質的に維持される、例えば、少なくとも50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上95%以上)される限り、本願で説明されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片のCDR位置に対し、CDRのN-末端境界及び/またはC-末端境界を、1個、2個、3個、4個、5個または6個のアミノ酸だけ移動させることにより、変動し得る。他の実施形態において、本明細書に記載された抗体のVH(例えば、CDR1、CDR2、またはCDR3)領域及び/またはVL(例えば、CDR1、CDR2、またはCDR3)領域に沿う1またはそれ以上のCDRの長さは、抗原(複数可)に対する免疫特異的結合が維持(例えば、実質的に維持される、例えば、少なくとも50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上95%以上)される限り、1個、2個、3個、4個、5個、またはそれ以上のアミノ酸だけ異なり得る(例えばより短く、またはより長くあり得る)。
【0087】
一実施形態において、本願に記載されたCDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、CDRH2及び/またはCDRH3は、抗原(複数可)に対する免疫特異的結合が維持(例えば、実質的に維持される、例えば、少なくとも50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上95%以上)される限り、本願に記載されたCDRのうちの1以上より1個、2個、3個、4個、5個、またはそれ以上のアミノ酸だけ短かくありえる。他の実施形態において、本願に記載されたCDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、CDRH2及び/またはCDRH3は、抗原(複数可)に対する免疫特異的結合が維持(例えば、実質的に維持される、例えば、少なくとも50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上95%以上)される限り、本願に記載されたCDRのうちの1以上より1個、2個、3個、4個、5個、またはそれ以上のアミノ酸だけ長くあり得る。さらに他の実施形態において、本願に記載されたCDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、CDRH2及び/またはCDRH3のアミノ末端は、抗原(複数可)に対する免疫特異的結合が維持(例えば、実質的に維持される、例えば、少なくとも50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上95%以上)される限り、本願に記載されたCDRのうちの1以上と比較し、1個、2個、3個、4個、5個、またはそれ以上のアミノ酸だけ延長され得る。さらに他の実施形態において、本願に記載されたCDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、CDRH2及び/またはCDRH3のカルボキシ末端は、抗原(複数可)に対する免疫特異的結合が維持(例えば、実質的に維持される、例えば、少なくとも50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上95%以上)される限り、本願に記載されたCDRのうちの1以上と比較し、1個、2個、3個、4個、5個、またはそれ以上のアミノ酸だけ延長され得る。さらに他の実施形態において、本願に記載されたCDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、CDRH2及び/またはCDRH3のアミノ末端は、抗原(複数可)に対する免疫特異的結合が維持(例えば、実質的に維持される、例えば、少なくとも50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上95%以上)される限り、本願に記載されたCDRのうちの1以上と比較し、1個、2個、3個、4個、5個、またはそれ以上のアミノ酸だけ短縮され得る。さらに他の実施形態において、本願に記載されたCDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、CDRH2及び/またはCDRH3のカルボキシ末端は、抗原(複数可)に対する免疫特異的結合が維持(例えば、実質的に維持される、例えば、少なくとも50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上95%以上)される限り、本願に記載されたCDRのうちの1以上と比較し、1個、2個、3個、4個、5個、またはそれ以上のアミノ酸だけ短縮され得る。当業界で知られる任意の方法が、抗原(複数可)に対する免疫特異的結合が維持されるか否かということを確認するために使用され得、例えば、本明細書の「実施例」欄に説明された結合の分析及び条件が使用され得る。
【0088】
2つの塩基配列(例えば、アミノ酸塩基配列または核酸塩基配列)間のパーセント同一性の決定も、数学的アルゴリズムを使用して達成され得る。2つの配列の比較に使用される数学的アルゴリズムの具体的かつ非限定的な例は、Karlin S & Altschul SF (1993) PNAS 90: 5873-5877でのように、修正されたKarlin S & Altschul SF (1990) PNAS 87: 2264-2268のアルゴリズムである。前記アルゴリズムは、Altschul SF et al., (1990) J Mol Biol 215: 403のNBLASTプログラム及びXBLASTプログラムに統合されている。BLASTヌクレオチド検索が、本願に記載された核酸分子と相同的なヌクレオチド配列を得るために、NBLASTヌクレオチドプログラムパラメータセット、例えば、スコア=100、ワード長=12について遂行され得る。BLASTタンパク質検索は、本願に記載されたタンパク質分子と相同的なアミノ酸配列を得るために、XBLASTヌクレオチドプログラムパラメータセット、例えば、スコア=50、ワード長=3について遂行され得る。比較の目的のためのギャップ付アラインメントを得るために、Altschul SF et al., (1997) Nuc Acids Res 25: 3389 3402に説明されているようなGapped BLASTを使用することができる。または、PSI BLASTを使用して、分子間の遠い関係を探知する反復検索を行うことができる(Id)。BLAST、Gapped BLAST、及びPSI Blastプログラムを使用するとき、各プログラム(例えばXBLAST及びNBLAST)のデフォールトパラメータを使用することができる(例えばNational Center for Biotechnology Information (NCBI) on the worldwide web, ncbi.nlm.nih.gov参照)。配列の比較のために使用される数学的アルゴリズムの他の具体的かつ非限定的な例は、Myers and Miller, 1988, CABIOS 4: 11 17のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)に統合されている。アミノ酸塩基配列比較のためにALIGNプログラムを活用する場合、PAM120荷重残基表、キャップ長ペナルティ12及びギャップペナルティ4を使用することができる。
【0089】
2つの配列間のパーセント同一性は、前述のところで説明されたところと同様の技術を使用し、ギャップを許容するか、あるいは許容せずに決定され得る。パーセント同一性を計算するとき、一般的には、正確なマッチだけがカウントされる。
【0090】
他の態様は、前記抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸、前記核酸を含む発現ベクター、及び前記発現ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0091】
配列番号32,33,34,35,36,37または38に対して少なくとも80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸を含む重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号39,40,41または42に対して80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸を含む軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。また、配列番号32,33,34,35,36,37または38のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号39,40,41または42の配列番号を含む軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。
【0092】
一実施形態において、配列番号32の重鎖可変領域、及び配列番号39の軽鎖可変領域をコードする核酸、または配列番号33の重鎖可変領域、及び配列番号40の軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。例えば、前記配列番号32の重鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号43で表されるものでもあり、前記配列番号39の軽鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号44で表されるものでありえる。一実施形態において、配列番号32または配列番号33の重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号39または配列番号40の軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。また、前記配列番号33の重鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号45で表されるものでもあり、前記配列番号40の軽鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号46で表されるものでありえる。
【0093】
また、配列番号96,98,100,102または104に対して少なくとも80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号97,99,101,103または105に対して85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有する軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。また、配列番号96,98,100,102または104の重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号97,99,101,103または105の軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。
【0094】
一実施形態において、配列番号96の重鎖可変領域、及び配列番号97の軽鎖可変領域をコードする核酸;配列番号98の重鎖可変領域、及び配列番号99の軽鎖可変領域をコードする核酸;配列番号100の重鎖可変領域、及び配列番号101の軽鎖可変領域をコードする核酸;配列番号102の重鎖可変領域、及び配列番号103の軽鎖可変領域をコードする核酸;または配列番号104の重鎖可変領域、及び配列番号105の軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。例えば、配列番号96の重鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号106で表されるものでもあり、前記配列番号97の軽鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号107で表されるものでありえる。配列番号98の重鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号108で表されるものでもあり、前記配列番号99の軽鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号109で表されるものでありえる。配列番号100の重鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号110で表されるものでもあり、前記配列番号101の軽鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号111で表されるものでありえる。配列番号102の重鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号112で表されるものでもあり、前記配列番号103の軽鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号113で表されるものでありえる。配列番号104の重鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号114で表されるものでもあり、前記配列番号105の軽鎖可変領域をコードする核酸は、配列番号115で表されるものでありえる。
【0095】
また、配列番号106,108,110,112または114に対して少なくとも80%以上、85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域をコードする核酸、及び配列番号107,109,111,113または115に対して85%以上、90%以上、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%の同一性を有する軽鎖可変領域をコードする核酸を提供する。
【0096】
本発明の抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸を単離し、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片を組み換え的に生産することができる。核酸を単離し、さらにクローニング(DNAの増幅)または発現させるためにそれを複製可能なベクター内に挿入する。一実施形態において、本明細書に開示された核酸のうちの1以上は、1つのベクターに挿入されるか、あるいは本明細書に開示されたそれぞれの核酸が、別途のベクターに挿入されうる。このことに基づいて、本開示は、他の側面において、本明細書に開示される核酸を含むベクターに関する。
【0097】
本明細書内における用語「核酸」とは、DNA(gDNA及びcDNA)分子、並びにRNA分子を包括的に含む意味を有し、核酸における基本構成単位であるヌクレオチドは、天然のヌクレオチドだけではなく、糖部分または塩基部分が修飾された類似体(analogue)も含む。本発明の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をコードする核酸の配列は、改変されうる。前記変形改変は、ヌクレオチドの追加、欠失、あるいは非保存的置換もしくは保存的置換を含む。
【0098】
前記抗体をコードするDNAは、一般的な手順を使用して(例えば、抗体の重鎖と軽鎖をコードするDNAと特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用して)、容易に分離または合成することができる。多くのベクターが入手可能である。ベクター成分には、一般的には、以下のうち1以上が含まれるが、それらに限定されるものではない:シグナル配列、複製基点、1以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プローモーター、及び転写終結配列。
【0099】
本明細書内における用語「ベクター」とは、宿主細胞において、目的遺伝子を発現させるための手段を言い、プラスミドベクター;コスミドベクター;バクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター及びアデノ関連ウイルスベクターのようなウイルスベクターなどを含む。前記ベクターにおいて、抗体をコードする核酸は、プローモーターと作動的に連結される。
【0100】
「作動的に連結」とは、核酸発現調節配列(例:プローモーター、シグナル配列、または一連の転写調節因子結合位置)と別の核酸配列との間の機能的な連結を意味し、該核酸配列の転写及び/または翻訳により調節される。
【0101】
原核細胞を宿主にする場合には、ベクターは、転写を進めさせることができる強力なプローモーター(例えば、tacプローモーター、lacプローモーター、lacUV5プローモーター、lppプローモーター、pLλプローモーター、pRλプローモーター、rac5プローモーター、ampプローモーター、recAプローモーター、SP6プローモーター、trpプローモーター及びT7プローモーターなど)、翻訳開始のためのリボソーム結合サイト、及び転写/翻訳終結配列を含むことが一般的である。また、例えば、真核細胞を宿主にする場合には、哺乳動物細胞のゲノムに由来するプローモーター(例:メタロチオニンプローモーター、β-アクチンプローモーター、ヒトヘモグロビンプローモーター及びヒト筋肉クレアチンプローモーター)、または哺乳動物ウイルスに由来するプローモーター(例:アデノウイルス後期プローモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプローモーター、SV40プローモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プローモーター、HSV tkプローモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プローモーター、HIV LTRプローモーター、モロニーウイルス・プローモーター、エブスタインバールウイルス(EBV)・プローモーター及びラウス肉腫ウイルス(RSV)のプローモーター)が利用され、転写終結配列として、ポリアデニル化配列を一般的に有する。場合により、ベクターは、そこから発現される抗体の精製を容易にするために、他の配列と融合され得る。融合される配列としては、例えば、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(Pharmacia、米国)、マルトース結合蛋白質(NEB、米国)、FLAG(IBI、米国)及び6xHis(hexahistidine)(Quiagen、米国)などがある。前記ベクターは、選択マーカーとして、当業界で一般的に利用される抗生物質耐性遺伝子を含み、その例としては、アンピシリン、ゲンタマイシン、カルベニシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、カナマイシン、ジェネティシン、ネオマイシン及びテトラサイクリンに対する耐性遺伝子がある。
【0102】
本発明は、他の観点において、前述のベクターで形質転換された細胞を提供する。本願で開示された抗体またはその抗原結合断片を生成させるために使用される細胞は、原核生物細胞、酵母細胞または高等真核生物細胞であり得るが、それらに限定されない。大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)及びBacillus thuringiensisのようなバシラス属菌株、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)(例えば、Pseudomonas putida)、Proteus mirabilis及びブドウ球菌(Staphylococcus)(例えば、Staphylococcus carnosus)のような原核宿主細胞を利用することができる。ただし、動物細胞に対する関心が最も高く、有用な宿主細胞株の例は、COS-7、BHK、CHO、CHOK1、DXB-11、DG-44、CHO/-DHFR、CV1、COS-7、HEK293、BHK、TM4、VERO、HELA、MDCK、BRL3A、W138、HepG2、SK-Hep、MMT、TRI、MRC5、FS4、3T3、RIN、A549、PC12、K562、PER.C6、SP2/0、NS-0、U20SまたはHT1080を含むが、それらに限定されない。
【0103】
本発明は、(a)前記発現ベクターを含む前記細胞を培養する段階、及び(b)前記培養された細胞において、抗体またはその抗原結合断片を回収する段階を含む、前記抗体またはその抗原結合断片の製造方法を提供する。前記細胞は、各種培地で培養することができる。任意の市販用培地が制限なく培養培地として使用され得る。当業者に知られるその他全ての必須補充物が適切な濃度で含まれ得る。培養条件、例えば、温度、pHなどが、発現のために選ばれた宿主細胞と共にすでに使用されてきており、それらは当業者に明白であろう。前記抗体またはその抗原結合断片の回収は、例えば、遠心分離または限外濾過によって不純物を除去すること、及びその結果物を、例えば、親和クロマトグラフィなどを利用して精製することによって行うことができる。追加のその他精製技術、例えば、陰イオンイオン交換クロマトグラフィまたは陽イオン交換クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィなどが使用されうる。
【0104】
他の態様は、前記抗体またはその抗原結合断片を含む癌予防用、改善用または治療用の組成物を提供する。前記組成物は、医薬組成物または健康機能食品でありえる。一実施形態において、前記組成物は、免疫チェックポイント遮断剤または化学療法剤を追加して含むものでありえる。例えば、前記免疫チェックポイント遮断剤は、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体などであり得、前記化学療法剤は、例えば、化学療法薬(chemotherapy drug)、チロシンキナーゼ抑制剤(tyrosine kinase inhibitor)などでありえる。他の実施形態において、前記組成物は、放射線治療剤と併用投与されるものでありえる。従って、一態様による組成物は、CD73を発現する多様な癌種において増大した抗癌活性を有し、従って癌の治療剤として使用され得る。
【0105】
例えば、該組成物は、(a)前記CD73に対する抗体またはその抗原結合断片の薬学的有効量、及び(b)薬学的に許容される担体を含む、癌の予防用または治療用の医薬組成物でありえる。また、本発明は、それを必要とする対象において、癌を予防するか、あるいは治療する方法を提供し、前記方法は、対象に、本開示によるCD73に対する抗体またはその抗原結合断片の有効量を投与することを含む。
【0106】
前記組成物は、本願に開示されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を有効成分として利用するため、その二者間に共通する内容は、記載を省略する。
【0107】
下記の実施例で立証されているように、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、CD73に高い親和度で結合し、CD73を過発現する癌細胞の移動を抑制することができるので、癌の予防及び治療に使用可能である。「予防」とは、前記組成物の投与により、癌を抑制させるか、あるいは進行を遅延させる全ての行為を意味する。「治療」とは、癌の発生抑制、癌の軽減または癌の除去を意味する。
【0108】
「CD73を過発現する癌」とは、同一組織類型の非癌性細胞と比較して、有意的により高いレベルでCD73を癌細胞表面に有している癌を意味する。Hay, C. M. et al., OncoImmunol. 5: e1208875, 10 pages (2016)、及びGao, Z-w. et al., BioMed Res. Intl. 2014: 460654, 9 pages (2014)を参照する。前記組成物に適用される疾患である癌は、CD73を過発現する癌であり、例えば、乳癌、大腸癌、膠芽細胞腫、脳脊髄腫瘍、頭頸部癌、肺癌、胸腺種、食道癌、肝臓癌、膵臓癌、胆道癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、睾丸癌、生殖細胞腫、卵巣癌、子宮頸部癌、子宮内膜癌、リンパ腫、急性白血病、慢性白血病、多発性骨髄腫、肉腫、悪性黒色腫または皮膚癌などでありえる。一実施形態において、前記癌は、乳癌、三重陰性乳癌(TBNC:triple-negative breast cancer)、膵臓大腸癌、卵巣癌、胃癌(gastric cancer)、膀胱癌、白血病、前立腺癌、悪性黒色腫、癌、食道癌、胃癌(stomach cancer)、頭頸部癌、肺癌または腎臓癌である。
【0109】
他の態様は、前記CD73に対する抗体またはその抗原結合断片を含む、癌細胞の転移または浸潤を抑制するための組成物でありえる。また、本発明は、それを必要とする対象において、癌細胞の転移または浸潤を抑制する方法を提供し、前記方法は、前記CD73に対するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を対象に投与することを含む。
【0110】
本発明の組成物に含まれる薬学的に許容される担体は、以下のところに限定されるものではないが、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルなどを含むが、それらに限定されるものではない。本発明の組成物は、前記成分以外に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などを追加して含むものでありえる。
【0111】
本発明の医薬組成物は、経口または非経口で投与することができる。非経口投与の場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、内皮投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与及び直腸内投与などによって投与することができる。一実施形態において、静脈注射形態で投与されるものでありえる。経口投与時、蛋白質またはペプチドは消化されるため、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングするか、あるいは胃における分解から保護するように剤形化されるべきである。また、該医薬組成物は、活性物質を標的細胞に輸送することができる任意の装置によって投与され得る。
【0112】
本開示による組成物の適する投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢・体重・性別・病的状態・飲食物、投与時間、投与経路、排泄速度、及び反応感応性のような要因によって多様であり、一般的に熟練医師は、所望する治療、または予防に効果的な投与量を容易に決定及び処方することができる。例えば、本発明の医薬組成物の1日投与量は、対象の体重のkg当たり0.0001ないし100mg、0.001mgないし50mg、0.01mgないし25mg、0.1mgないし10mg、1mgないし5mg、またはそれら内の範囲でありえる。本明細書において用語「薬学的有効量」とは、癌を予防または治療するのに十分な量を意味する。
【0113】
本発明の医薬組成物は、本開示が属する技術分野で当業者が容易に実施することができる方法により、薬学的に許容される担体及び/または賦形剤を利用して製剤化させることにより、単位用量形態に製造されるか、あるいは多用量容器内に内入させて製造され得る。このとき、該剤形は、油性または水性媒質内の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるか、あるいはエキス剤、散剤、坐剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であり得、分散剤または安定化剤を追加して含むものでありえる。
【0114】
本発明の組成物は、個別の治療剤として投与されるか、あるいは他の治療剤と併用して投与され、既存の治療剤と順次または同時に投与されうる。
【0115】
本開示による癌の予防用または改善用の健康機能食品において、前記抗体またはその抗原結合断片を、健康機能食品の添加物として使用する場合、それらをそのまま添加するか、あるいは他の食品または食品添加物と共に添加することができ、一般的な方法により、適切に使用することができる。有効成分の混合量は、予防、健康または治療などの各使用目的に応じて適切に決定されうる。
【0116】
健康機能食品の剤形は、散剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、カプセル剤の形態だけではなく、一般の食品または飲料の形態のいずれも可能である。
【0117】
前記食品の種類には、特別に制限はなく、前記物質を添加することができる食品の例としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンデー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料、茶、ドリンク剤、アルコール飲料及びビタミン複合剤などがあり、一般的な意味における食品をいずれも含むものでありえる。
【0118】
一般的には、食品または飲料の製造時、前述の抗体またはその抗原結合断片は、原料100重量部につき、15重量部以下、具体的には、10重量部以下の量で添加することができる。しかしながら、健康及び衛生を目的とするか、あるいは健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、前記量は、前述の範囲以下でもあり得、また本発明は、天然物からの分画物を利用する点において、安全性面において問題がないので、前述の範囲以上の量でも使用することができる。
【0119】
本発明による健康機能食品における飲料は、通常の飲料のように、さまざまな香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含むものでありえる。前述の天然炭水化物は、ブドウ糖、果糖のようなモノサッカリド;マルトース、スクロースのようなジサッカリド;デキストリン、シクロデキストリンのようなポリサッカリド;またはキシリトール、ソルビトール、エリトリトールのような糖アルコールでありえる。甘味剤としては、ソーマチン、ステビア抽出物のような天然甘味剤や、サッカリン、アスパルテームのような合成甘味剤などを使用することができる。前記天然炭水化物の比率は、本発明による飲料100mL当たり、約0.01~0.04g、具体的には、約0.02~0.03gでありえる。
【0120】
前述の成分以外に、本発明による癌の予防用または改善用の健康機能食品は、さまざまな栄養物質、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤を含むものでありえる。それ以外に、本開示の癌改善用組成物は、天然果物ジュース、果物ジュース飲料及び野菜飲料の製造のための果肉を含むものでありえる。そのような成分は、独立して、あるいは混合して使用されうる。そのような添加剤の比率は、制限されるものではないが、本発明の健康機能食品100重量部対比で、0.01~0.1重量部の範囲において選択されることが一般的である。
【0121】
他の態様は、前述の抗体またはその抗原結合断片を含む癌診断用組成物、及びそれを含む癌診断用キットを提供する。本開示は、また、本開示によるCD73に対する抗体またはその抗原結合断片で処置することにより、癌を診断する方法に係わるものである。
【0122】
本開示によるCD73に対する抗体を介して、サンプルにおけるCD73発現レベルを測定することにより、癌を診断することができる。該発現レベルは、一般的な免疫分析方法によって測定することができ、前記CD73に対する抗体を利用した放射能免疫分析、放射能免疫沈澱、免疫沈澱、免疫組織化学染色、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、キャプチャELISA、阻害または競合アッセイ、サンドイッチアッセイ、フローサイトメトリー、免疫蛍光染色、及び免疫親和性精製を介して測定することができるが、それらに限定されるものではない。前記免疫アッセイ過程によりもたらされる最終的なシグナルの強度を分析することにより、癌を診断することができる。すなわち、生物学的試料において、本開示のマーカーの蛋白質が高発現され、シグナルが正常生物学的試料(例えば、正常の胃組織、血液、血漿または血清)より強く示される場合には、癌と診断される。
【0123】
他の態様は、前記癌診断用組成物を含む癌診断用キットを提供する。前記キットは、本開示によるCD73に対する抗体を含み、該試料と抗体が反応することによって示されるシグナルを分析して、癌を診断することができる。このとき、前記シグナルは、抗体に結合された酵素、例えば、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼまたはシトクロムP450を含むものでもあるが、それに制限されるものではなく、このとき、酵素としてアルカリホスファターゼが利用される場合には、基質として、ブロモクロロインドリルホスフェート(BCIP)、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)、ナフトール-AS-B1-ホスフェート(naphthol-AS-B1-phosphate)及びECF(enhanced chemifluorescence)のような発色反応基質が利用され、ホースラディッシュペルオキシダーゼが利用される場合には、クロロナフトール、アミノエチルカルバゾール、ジアミノベンジジン、D-ルシフェリン、ルシゲニン(ビス-N-メチルアクリジニウムニトレート)、レソルフィンベンジルエーテル、ルミナル、アンプレックスレッド試薬(10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン)、HYR(p-phenylenediamine-HCl and pyrocatechol)、TMB(tetramethylbenzidine)、ABTS(2,2’-azine-di[3-ethylbenzthiazoline sulfonate])、o-フェニレンジアミン(OPD)及びナフトール/ピロニン、グルコースオキシダーゼ、t-ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)及びm-PMS(phenzaine methosulfate)のような基質が利用されうるが、それらに制限されるものではない。
【0124】
また、前記キットは、検出可能なシグナルを生じさせる標識を含み得、前記標識は、化学物質(例えば、ビオチン)、酵素(アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ及びシトクロムP450)、放射能物質(例えば、C14、I125、P32及びS35)、蛍光物質(例えば、フルオレセイン)、発光物質、化学発光物質(chemiluminescent)及びFRET(fluorescence resonance energy transfer)を含み得るが、それらに限定されるものではない。癌診断のために使用される酵素の活性測定またはシグナル測定は、当業界で知られる多様な方法によって実施され得る。該測定を介して、CD73発現を定性的または定量的に分析することができる。
【0125】
以下、添付された図面に例示された実施形態を詳細に参照するが、全体を通じて、類似の参照符号は類似した要素を示す。それと係わり、本実施形態は、異なる形態を有し得、本明細書に記載された説明に限定されると解釈されるものではない。従って、以下、図面を参照して、本開示の様態について説明するだけのために、実施形態について簡単に説明する。本明細書で使用される用語「及び/または」とは、1以上の関連リスト項目の、任意及び全ての組み合わせを含む。構成要素リストの前にある「少なくとも1以上」のような表現は、構成要素リスト全体を修飾し、リストの個々の要素を修飾するものではない。
【実施例
【0126】
以下、本開示の理解の一助とするために、典型的な実施形態を提示する。しかしながら、下記の典型的な実施形態は、本開示をより容易に理解するために提供されるだけであり、下記典型的な実施形態により本開示の内容が限定されるものではない。
【0127】
[調製例1.バイオパニングによる抗CD73抗体の選別]
【0128】
1-1.CD73に特異的に結合するファージ抗体の選別
【0129】
ヒトとマウスとのCD73蛋白質に特異的に結合する抗体クローンを選別するために、HuDVFab-8Lファージ抗体ライブラリーを利用したバイオパニングを行った。まず、組み換えヒトCD73蛋白質(Sino Biological、中国)及び組み換えマウスCD73蛋白質(Sino Biological)を、それぞれDynabeads M-280 Tosylactivatedビーズで、4℃で48時間反応させた。それぞれのCD73蛋白質が結合されたビーズを、HuDVFab-8L(HuDVFab-L1~L6,L8,L12)組み換え抗体(ファージ外被蛋白質pIIIにディスプレイされるFab)ライブラリーが含まれているブロッキングバッファ[blocking buffer:3%スキムミルク、0.1% tween-20が含まれているリン酸塩緩衝食塩水(PBS:phosphate-buffered saline)]で処理し、4℃で16時間反応させた。その後、CD73蛋白質に非特異的に結合している組み換えファージを、KingFisher mL装置を利用して除去した。CD73蛋白質に特異的に結合するファージを、0.2Mグリシン(glycine、pH2.2)バッファで処理して溶出させた後、1M tris-HCl(pH9.0)バッファで処理することにより中和させた。抗体ライブラリーの軽鎖遺伝子が導入されたTG1細胞(Amersham Pharmacia Biotech、スウェーデン)を、中和されたファージで処理し、37℃で1時間感染させた。ファージ感染されたTG1細胞をLB/ACT固体培地(50μg/mlアンピシリン(ampicillin)、10μg/mlカルベニシリン(carbenicillin)、及び10μg/mlテトラサイクリン(tetracycline)が含まれたLB培地)上に塗抹し、27℃で16時間インキュベートし、非感染TG1細胞を除去した。培養されたコロニーが含まれたプレートに10mlの液体培地を添加した後、4.8×10細胞/mlの濃度に懸濁及び希釈した。Ex-phageを添加し、37℃で1時間TG1細胞を感染させた。その後遠心分離機を使用して、感染されたTG1細胞を沈殿させ、上澄み液を除去した。5mlの2×YT/ACTKA培地(50μg/mlアンピシリン(ampicillin)、10μg/mlカルベニシリン(carbenicillin)、10μg/mlテトラサイクリン(tetracycline)、50μg/mlカナマイシン(kanamycin)、0.001%アラビノース(arabinose)が含まれた2×YT培地)でTG1細胞を再懸濁し、27℃で6時間インキュベートした。その後、遠心分離器を利用して、ファージが含まれた上澄み液を確保し、CD73蛋白質が結合されたDynabeads M-280 Tosylactivatedビーズと、4℃で約20時間反応させた。その後、前記バイオパニング過程を3回反復遂行し、CD73に特異的に結合しているファージ抗体を選別した。その結果、HuDVFab-8Lファージ抗体ライブラリーから、L2,L4,L6,L8軽鎖を含みCD73に結合するポリクローナル抗体が選別された。
【0130】
1-2.CD73に特異的に結合するモノクローナルファージ抗体の選別
【0131】
前述の1-2で選別されたポリクローナル抗体のうち、CD73に特異的に結合しながら、重鎖のCDR(HCDR)配列が互いに異なるモノクローナル抗体を、ファージELISA(phage enzyme-linked immunosorbent assay)を遂行することにより選別した。組み換えヒトCD73蛋白質と組み換えマウスCD73蛋白質とをコーティングバッファ(coating buffer)(0.1M NaHCO、pH9.6)に2μg/ml濃度に希釈した後、96ウェルMaxisorp ELISAプレート(Nunc、デンマーク)に、ウェル当たり50μLずつ分注し、4℃で16時間反応させて、CD73蛋白質をプレートにコーティングした。コーティングされていない蛋白質とバッファは完全に除去し、ブロッキングバッファを、ウェル当たり200μLずつ分注し、37℃で1時間反応させた。1時間後、バッファを完全に除去し、0.1% tween-20が含まれたPBS(PBS-T)バッファを、全てのウェルに200μLずつ分注し、そのような洗浄過程を3回反復させた。ファージが含まれた上澄み液をブロッキングバッファで1/10に希釈し、各ウェルにその50μLずつを分注し、37℃で1時間反応させた。その後、前述のところと同じ方法で洗浄を行い、ヤギ抗M13HRP(horseradish peroxidase)抗体(GE Healthcare、シカゴ、イリノイ)で処理し、37℃で1時間反応させた。前述のところと同じ方法で洗浄した後、プレートの全てのウェルに、TMB(3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine)(BD Biosciences、Franklin Lakes、ニュージャージー)基質を50μLずつ分注した。その後、Model 680 Microplate Reader(Bio-Rad Laboratories、Hercules、カルフォルニア)装置で、450nm波長における吸光度を測定して、CD73に特異的なモノクローナルファージ抗体14種を選別した。
【0132】
図1は、バイオパニングを介して選別された抗CD73抗体のCD73結合能力を示すグラフである。
図1に示されているように、L2-20を除く全てのファージ抗体が、ヒトCD73に結合した。また、L2-47,L4-66,L6-1,L6-30,L6-37ファージ抗体は、ヒトCD73に対する結合能力の50%以上に該当する結合能力で、マウスCD73に結合した。L8-34ファージ抗体は、CD73ではなくCD32B蛋白質に非特異的に結合した。異なるHCDR配列を有する14種の抗体のうち、ヒトCD73に対して結合が弱いL2-20及び非特異的結合を示したL8-34を除いた12種の抗CD73ファージ抗体が、その後の実験に使用された。
【0133】
[調製例2.ヒト抗CD73 IgG1抗体の生産及び選別]
【0134】
2-1.抗CD73ヒトIgG1アイソタイプ発現ベクターの調製
【0135】
前述の調製例1で選別された12種の抗CD73ファージ抗体をクローニングして、ヒトIgG1抗体を調製した。具体的には、前述の調製例1において選別されたファージ抗体のV(軽鎖可変領域)遺伝子配列とV(重鎖可変領域)遺伝子配列とを、ヒトIgG1(immunoglobulin G1)アイソタイプのC(軽鎖定常領域)遺伝子配列とCH1-CH2-CH3(重鎖定常領域(constant heavy chain)、軽鎖定常領域)遺伝子配列とを含むpdCMV-dhfr発現ベクター(江原大学のHyo Jeong Hong教授提供)にクローニングし、それによって完全なIgG1形態を調製した(図2A)。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:polymerase chain reaction)は、Pyrobest DNAポリメラーゼ(Takara、日本)及びT100サーマルサイクラー(thermal cycler)を使用して行った。前述の調製例1で選別されたファージ抗体の各軽鎖配列をクローニングするために、下記表1の配列番号47、配列番号48を利用し、94℃ 30秒、58℃ 30秒、72℃20秒の条件でPCR反応を行い、軽鎖リーダー配列(leader sequence)を増幅させた。前述の調製例1で選別されたファージ抗体のV遺伝子から、配列番号49、配列番号50を利用してPCR反応を行うことにより、V配列の各遺伝子を増幅させた。増幅された2つのPCR生成物を、94℃ 30秒、58℃30秒、72℃ 60秒の条件で、アセンブリーポリメラーゼ連鎖反応(assembly PCR)で融合した。その後、前記PCR生成物とpdCMV-dhfrベクターとを、37℃と55℃とにおいて、HindIII及びBsiWI(Takara)制限酵素でそれぞれ処理して、互いに反応させた。2つの制限酵素で処理されたリーダー配列V遺伝子断片とpdCMV-dhfrベクターとを、T4DNA Ligaseを利用してライゲーションし、ヒートショックによりCaCl処理コンピテント細胞(competent cell)に形質転換した。次に、前述の調製例1で選別されたファージ抗体の重鎖配列をクローニングするために、配列番号51、配列番号52を利用して、EcoRI配列が含まれた重鎖リーダー配列をPCR反応で増幅させた。配列番号53、配列番号54を利用して、ApaI配列が含まれたV配列の各遺伝子をPCR反応で増幅させた。増幅された2つのPCR生成物を、アセンブリーPCR反応を介して融合し(リーダー-配列V)、EcoRI制限酵素とApaI制限酵素とで処理した。前述のところと同じ方法によって、制限酵素で処理されたリーダー配列-V遺伝子断片をpdCMV-dhfrベクターにクローニングし、そこに軽鎖(V-C)遺伝子とCH1-CH2-CH3遺伝子とを挿入して、ヒトIgG1発現ベクターを調製した。
【0136】
なお、陽性対照群として使用されたCPI-006(Corvus Pharmaceuticals、Burlingame、CA)とMEDI9447(MedImmune、Gaithersburg、MD)の重鎖遺伝子、軽鎖遺伝子(WO2018/013611、WO2016/075099)は、Cosmogenetech co, Ltdで合成し、軽鎖制限酵素としてHindIII(Takara)及びXbaI(Takara)、並びに重鎖制限酵素としてEcoRI(Takara)とNotI(Takara)とを使用して、前述のところと同じ方法で、pdCMV-dhfrベクターにクローニングした。
【表1】
【0137】
2-2.抗CD73ヒトIgG1アイソタイプ抗体の生産及び精製
【0138】
選別された12種の抗CD73ヒトIgG1抗体を生産するために、前記2-1でクローニングされたpdCMV-dhfrベクターを、ExpiCHO-S(商標)(Gibco)細胞にトラスフェクトした。具体的には、ExpiCHO-S(商標)細胞は、ExpiCHO-S(商標)発現培地(Gibco、ThermoFisher Scientific)を使用して、37℃、140rpm、湿度80%、CO 5%条件の振盪培養器(shaking incubator)においてインキュベートした。少なくとも3回継代培養されたExpiCHO-S(商標)細胞に、選別された12種の抗体遺伝子が挿入されたベクターを、ExpiFectamine CHO TransfectionキットとOptiPRO(商標)SFM(1x)(Gibco)とを利用してトラスフェクトした。その後、前述のところと同一条件の振盪培養器で20時間インキュベートした。インキュベートされた細胞を、ExpiFectamine(商標)CHOフィード(feed)とエンハンサ(enhancer)とで処理し、7日間、前述のところと同一条件でインキュベートした。培養液を回収し、4,000rpm、15分、4℃で遠心分離し、蛋白質試料が含まれている上澄み液を確保した。該上澄み液を0.2μm濾過紙で濾過して不純物を除去した。その後、CHO細胞から生産された抗体試料を、親和性クロマトグラフィで精製した。具体的には、CaptureSelect IgG-CH1 Affinity Matrixレジンを、不純物が除去された培養液と4℃で16時間反応させて、培養液中の抗体試料をレジンに結合させた。反応させたレジンを、10カラム体積(CV:column volume)のTBSバッファ(pH7.4)で洗浄し、100mMクエン酸バッファ(pH3.0)を流して抗体試料を溶出し、1MのTris-HClバッファ(pH9.0)を添加することにより弱酸性(pH6.0~6.5)に中和させた。中和されたバッファを、0.2μm濾過紙で濾過して不純物を除去した後、蛋白質をUV280nm波長において定量分析した。
【0139】
2-3.抗CD73ヒトIgG1アイソタイプ抗体蛋白質のサイズ分析
【0140】
前述の2-2で生産及び精製された抗体蛋白質のサイズを、SDS-PAGEで分析した。まず、抗体蛋白質を、2-メルカプトエタノールが含まれたPierce(商標)LDSサンプルバッファと非還元バッファ(4x;ThermoFisher Scientific)で希釈した後、5分間試料を加熱した。その後、蛋白質試料を、4~15% Mini-PROTEAN(登録商標)TGX(商標)Precast Protein Gel gradient(Bio-Rad)で、ウェル当たり1μgずつローディングした後、PowerPac(商標)Basic Power Supplyを利用し、140Vで40分間電気泳動した。電気泳動が完了したゲルを、Brilliant Blue R 250蛋白質染色溶液(ELPISBIO、大韓民国)で60分間反応させた後、脱染色バッファ[30%メタノール、10%酢酸]で処理し、蛋白質バンドを観察した。
【0141】
図2Bは、ヒトIgG1抗体のSDS-PAGE分析結果を示す。
図2Bに示されているように、12種の精製された抗体の重鎖と軽鎖は、それぞれ50kDa及び25kDaの大きさを示し、前記蛋白質バンドは、いずれも理論的サイズに相当する位置で観察された。
【0142】
2-3.抗CD73ヒトIgG1アイソタイプ抗体のCD73結合能力の確認
【0143】
前述の2-2で生産及び精製された12種のヒト抗CD73 IgG1抗体のCD73結合能力を比較するために、ELISA実験を行った。組み換えヒトCD73蛋白質を、カボネートコーティングバッファで1μg/mlの濃度に希釈した後、96ウェルMaxisorp ELISAプレートに、ウェル当たり100μLずつ分注し、4℃で16時間コーティングした。コーティングされていない蛋白質とバッファを完全に除去し、3% BSAと0.1%tween-20とが含まれたPBSバッファ(pH7.4)を、ウェル当たり300μLずつ分注した後、常温で2時間反応させ、ブロッキングを行った。2時間後、残っているバッファを除去し、PBS-Tバッファを、全てのウェルに300μLずつ分注した後、除去する過程を3回反復して洗浄を行った。抗CD73 IgG1抗体をPBSバッファで100nMの濃度に順次に希釈し、添加して37℃で1時間反応させた。洗浄後、ロバ抗ヒトIgGFcHRP抗体(Jackson ImmunoResearch, West Grove, Baltimore Pike)を添加し、37℃で1時間反応させた。前述の方法と同一の洗浄過程を遂行した後、TMB基質を、全てのウェルに100μLずつ分注し、7分間反応させた。Model 680 Microplate Readerで、450nm波長における吸光度を測定した。陰性対照(リツキシマブ)試料及び陽性対照(CPI-006、MEDI9447)試料についても、前述のところと同じ方法で吸光度を測定した。
【0144】
図3Aは、精製された12種のヒト抗CDIgG1抗体のヒトCD73結合能力を示すグラフである。
図3Aに示されているように、精製された12種の抗体のうち9種と、2つの陽性対照群は、BSAに比べて、ヒトCD73に顕著に強く結合し、残り3種の抗体(L4-46、L6-7及びL6-37)は、相対的に弱く結合した。また、陰性対照(リツキシマブIgG1)抗体は、ヒトCD73に結合しなかった。
【0145】
2-4.膜CD73蛋白質の酵素活性の確認
【0146】
前述の2-2で生産及び精製された12種のヒト抗CD73 IgG1抗体の膜CD73酵素活性の阻害能を比較するために、細胞表面に膜CD73を発現するMDA-MB-231細胞(韓国細胞株バンク)でマラカイトグリーンアッセイを行った。MDA-MB-231細胞を、2.0×10細胞/ウェルの濃度になるように96ウェルフラットプレートに分注し、37℃、5% CO条件のインキュベータで20時間インキュベートした。インキュベーション後アッセイバッファで2回ずつ洗浄を行い、12種のヒト抗CD73 IgG1抗体試料を500nM濃度でアッセイバッファに希釈した後に各ウェルに添加し、37℃で1時間反応させた。その後、250μMのAMPを各ウェルに添加し、37℃で20分間反応させた。細胞を除いた40μLの上澄み液を、新たな96ウェルプレートに分注した。CD73の酵素活性を測定するために、Malachite Green Phosphate Detection Kitを使用して、上澄み液に含まれたホスフェートを検出し、Epoch Microplate Spectrophotometer装備で、620nmの波長における吸光度を測定した。陰性対照(リツキシマブ)試料及び陽性対照(CPI-006、MEDI9447)試料についても、前述のところと同じ方法で吸光度を測定した。
【0147】
図3Bは、精製された12種のヒト抗CD73 IgG1アイソタイプ抗体が、CD73酵素活性を阻害するか否かということを調べた結果である。
図3Bに示されているように、12種の抗CD73ヒトIgG1抗体のうち5種の抗体(L2-3、L4-4、L4-5、L4-66及びL6-1)は、陰性対照と比較して50%以上のCD73酵素活性阻害能を示し、そのうちL6-1抗体は、90%以上のCD73酵素活性の阻害を示し、CPI-006(91%)と類似した高い阻害能を示した。残り4種の抗体(L2-3、L4-4、L4-5、L4-66)は、順に63%、61%、58%、50%のCD73酵素活性阻害を示し、MEDI9447(34%)と同様またはそれ以上の阻害能を示した。
【0148】
2-5.抗CD73ヒトIgG1アイソタイプ抗体のCD73交差結合能力の確認
【0149】
前述の2-3において、陽性対照群と同様またはそれ以上に高いCD73酵素活性阻害能を示した5種のヒト抗CD73 IgG1抗体(L2-3、L4-4、L4-5、L4-66、L6-1)の、ヒト、猿、ラット及びマウスのCD73蛋白質(Sino Biological)に対する交差結合能力を比較するために、前述の2-3と同じ方法でELISA実験を行った。
【0150】
図3Cは、ヒト、猿、ラット及びマウスのCD73に対する交差結合能力を分析した結果を示す。
図3Cは、L4-66,L6-1抗体とMEDI9447抗体は、ヒト、猿、ラット及びマウスのCD73にいずれとも反応したが、L2-3,L4-5抗体とCPI-006抗体は、ヒトCD73と猿CD73にだけ反応し、L4-4抗体は、ヒトCD73、猿CD73及びラットCD73にだけ反応した。従って互いに異なる結合パターンを示した。以上の結果を基に、MEDI9447抗体と同様にヒトCD73とマウスCD73に交差結合する2種の抗体(L4-66、L6-1)を選別し、それぞれAPBA2-01及びとAPBA2-02と命名した。
【0151】
[調製例3.APBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体の調製]
【0152】
3-1.APBA2-01モノクローナル抗体及びAPBA2-02モノクローナル抗体の調製
【0153】
前述の調製例2-5で選別されたAPBA2-01モノクローナルIgG抗体及びAPBA2-02モノクローナルIgG抗体を発現する安定した細胞プール(cell pool)を生産した。まず、APBA2-01モノクローナル抗体及びAPBA2-02モノクローナル抗体の軽鎖遺伝子と重鎖遺伝子とを、それぞれ、pD2539とpD2535nt(Horizon Discovery、イギリス)のベクターにクローニングした。APBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体のV,V遺伝子と、ヒトIgGアイソタイプのC,C遺伝子を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO:Chinese hamster ovary)細胞のために最適化されたコドン配列で合成した。合成されたAPBA2-01抗体の軽鎖遺伝子を、Bbs1(ThermoFisher Scientific)制限酵素とBsrG1(ThermoFisher Scientific)制限酵素とで処理し、同一制限酵素で処理されたpD2539ベクターにライゲーションした。合成されたAPBA2-01抗体のV遺伝子は、表1の配列番号51、及び表2の配列番号55を利用したPCRで増幅し、ヒトIgGのC遺伝子は、下記表2の配列番号56、配列番号57を利用したPCRで増幅した。増幅された2つのPCR生成物を、アセンブリーPCRを介して融合した。融合された重鎖遺伝子とpD2535ntベクターとをBbs1制限酵素で処理して反応させた。合成されたAPBA2-02抗体のV遺伝子は、表1の配列番号47及び表2の配列番号58を利用したPCRで増幅し、ヒトIgGのCL遺伝子は、下記表2の配列番号59、配列番号60を利用したPCRで増幅した。APBA2-02抗体のVは、表1の配列番号51及び表2の配列番号61を利用したPCRで増幅し、ヒトIgGのCH遺伝子は、下記表2の配列番号57、配列番号62を利用したPCRで増幅した。それぞれの増幅された2つのPCR生成物を、アセンブリーPCR反応を介して融合した。その後、前述のところと同じ方法でクローニングを。
【表2】
【0154】
3-2.APBA2-01キメラ抗体及びAPBA2-02キメラ抗体の調製
【0155】
APBA2-01抗体とAPBA2-02抗体とを、ヒトV遺伝子配列及びヒトV遺伝子配列、並びにマウス抗体配列のC配列及びC配列を有したヒト・マウスIgG1キメラ抗体配列及びIgG2Aキメラ抗体配列として調製した。合成されたAPBA2-01とAPBA2-02のヒトV・マウスCキメラ抗体遺伝子断片を、pD2539ベクターに、前記3-1と同じ方法で挿入してクローニングした。合成されたマウスIgG1とマウスIgG2AとのCH遺伝子は、それぞれ配列番号63、配列番号64、配列番号64及び配列番号65を利用したPCRで増幅した。その後、前記3-1と同じ方法で、APBA2-01抗体のVH遺伝子とアセンブリーPCR反応により融合させた。融合されたAPBA2-01抗体遺伝子と合成されたAPBA2-02抗体のV マウスIgG1遺伝子切片及びマウスIgG2A遺伝子断片を、pD2535ntベクターに、前述のところと同じ方法でクローニングした。
【0156】
3-3.APBA2-01及びAPBA2-02抗体蛋白質の安定したプールの調製
【0157】
前述の調製例3-1及び3-2の抗体蛋白質を生産する安定したプールを調製した。まず、GS nullCHO K1(Horizon Discovery)細胞を、CDfortiCHO(ThermoFisher Scientific)に4mMのL-グルタミン(L-glutamine)(Gibco)が添加された培地に分注し、37℃、125rpm、湿度80%、CO 5%条件の振盪培養器でインキュベートした。APBA2-01、APBA2-02それぞれの軽鎖遺伝子と重鎖遺伝子とが挿入されたベクターを、Freestyle(商標)MAX Reagent(Invitrogen)を使用して、1:3[pD2539(軽鎖):pD2535nt(重鎖)]の比率で、培養された細胞に同時トランスフェクションし、総37.6μgのプラスミドベクターを使用し、前述のところと同一の条件で48時間培養した。その後、培養された細胞を、50mlコニカルチューブ(conical tube)(Nunc)に移した後で遠心分離し、L-グルタミンが添加されていないCDfortiCHO培地に細胞ペレットを再懸濁し、50μMメチオニンスルホキシミン(methionine sulfoximine)(MSX、Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ)で処理して48時間一次選別した。その後、10μg/mlのピューロマイシン(puromycin)(Gibco)で処理して、48時間二次選別した。その後、沈澱された細胞を、濃度が0.5×10細胞/mlになるように、L-グルタミンが添加されていない培地に懸濁させた後、MSXとピュロマイシンとによる同時処理によって3週間さらなる選別過程を進めた。このとき、細胞の濃度が2.0×10細胞/ml以下に維持されるように、培地を定期的に交替し、細胞の生存率(viability)が90%以上に達するまで培養して、安定したプール細胞ストック(cell stock)を作製した。細胞濃度と生存率は、COUNTESSII自動セルカウンタを利用して測定した。
【0158】
3-4.APBA2-01及びAPBA2-02キメラ抗体蛋白質の生産及び精製
【0159】
前記3-3で調製された安定したプールから、APBA2-01及びAPBA2-02のヒト・マウスキメラ抗体蛋白質を生産した。まず、細胞の濃度が0.2×10細胞/mlになるように、CDfortiCHO培地に細胞を懸濁させた後、37℃、125rpm、湿度80%、CO 5%条件の振盪培養器でインキュベートした。インキュベーション後、細胞の濃度が2.0×10細胞/mlに逹したとき、32℃、125rpm、湿度80%、CO 5%が維持される条件の振盪培養器に移し、7日間抗体試料を生産した。その後、遠心分離して、抗体試料が含まれている上澄み液を確保し、0.2μm濾過紙で濾過して不純物を除去した。その後、CHO細胞から生産された抗体試料を、3段階のクロマトグラフィ(親和性クロマトグラフィ、陽イオン交換精製、陰イオン交換精製)過程を経て精製した。まず、MabSelect SuReLXレジンを使用して親和性クロマトグラフィを遂行した。10CVのトリス緩衝食塩水(TBS:tris-buffered saline)バッファでレジンを洗浄した後、抗体試料を含む上澄み液を、20ml/分の流速でレジンに通過させた。5CVのTBSバッファと、5CVの3% D-マンニトールが含まれたTBSバッファとを25ml/分の流速で流して、レジンに非特異的に結合された物質を除去した。50mMクエン酸(pH3.5)と3% D-マンニトールとのバッファを20ml/分の流速で流して、レジンに特異的に結合された抗体試料をレジンから溶出させた。その後、溶出された蛋白質試料を含有するバッファを、1M tris-HCl(pH8.0)バッファで処理して中和し、0.2μm濾過紙で濾過して不純物を除去した。次に、50mM trisと200mMクエン酸とのバッファ(pH7.0)で平衡化させたCapto adhere ImpRes multimodal chromatographyレジンを使用して陽イオン交換精製を行った。親和性クロマトグラフィから確保された抗体試料を、滅菌蒸溜水で1/4に希釈した。その後、5ml/分の流速で、抗体試料をレジンに結合させた後、50mM tris,200mMクエン酸,1M NaCl(pH7.0)バッファ5CVで洗浄した。その後、50mM tris,200mMクエン酸(pH7.0)バッファ5CVで、25ml/分の流速で洗浄して、レジンに非特異的に結合された物質を除去した。その後、50mM tris,200mMクエン酸(pH3.0)バッファを20%,30%,40%,50%,70%,100%段階別に順次流し、レジンに特異的に結合された抗体試料を溶出した。各段階の溶出液を収集し、0.2μm濾過紙で濾過して不純物を除去した。最後に、POROS(商標)50 HQ Strong Anion Exchangeレジンを使用して陰イオン交換精製を行った。まず、2M NaClバッファを、3ml/分の流速で流してレジンを洗浄し、20mMリン酸ナトリウム(pH6.5)バッファ5CVを流して平衡化させた。陽イオン交換精製によって確保された抗体試料をレジンに結合させるために、試料を20mMリン酸ナトリウム(pH6.0)バッファで透析して、pHと塩濃度とを調整した。透析された試料を、レジンに5ml/分の流速で流して、収集された蛋白質を含むバッファを、0.2μm濾過紙で濾過して不純物を除去した。蛋白質を定量及び分析した。
【0160】
[実施例1.CD73蛋白質に対する結合能力の比較]
【0161】
1-1.水溶性CD73蛋白質に対する結合能力
【0162】
前述の調製例3で生産及び精製されたAPBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体の水溶性CD73蛋白質に対する結合能力を、ELISA実験を介して確認した。抗体を、1,500ng/mlないし0.019ng/mlの濃度に段階希釈して添加したという点を除いては、前述の2-3と同じ方法で実験を遂行した。陽性対照(MEDI9447、CPI-006)及び陰性対照(リツキシマブ)についても、同じ手順を行った。
【0163】
図4A~4Dは,それぞれヒト、猿、ラット及びマウスのCD73に対するAPBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体の結合能力を確認したグラフである。
図4に示されているように、ヒトCD73蛋白質(A)につき、MEDI9447>APBA2-01>APBA2-02>CPI-006の順に結合能力が高く、猿CD73蛋白質(B)については、MEDI9447=APBA2-01>CPI-006>APBA2-02の順に結合能力が高かった。また、ラットCD73蛋白質(C)においては、MEDI9447>APBA2-02>APBA2-01の順に結合能力が高く、マウスCD73蛋白質(D)においては、MEDI9447>APBA2-01>APBA2-02の順に結合能力を示している。すなわち、APBA2-01は、MEDI9447の次いで二番目に高いCD73蛋白質(ヒト、猿及びマウス)結合能力を示し、APBA2-02は、MEDI9447及びAPBA2-01と比較して相対的に低いCD73結合能力を示したが、CPI-006とは類似した結合能力を示した。
【0164】
1-2.膜CD73蛋白質に対する結合能力
【0165】
前述の調製例3で生産及び精製されたAPBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体が、膜CD73蛋白質に対して結合能を有するか否かということを、フローサイトメトリーで確認した。まず、ヒトCD73を過発現する乳癌細胞株であるMDA-MB-231(韓国細胞株バンク)と、マウスCD73を過発現する乳癌細胞株である4T1(ATCC)とを、10%牛胎児血清(FBS:fetal bovine serum)(Gibco)と1%ペニシリン・ストレプトマイシン(Gibco)とが添加されたRPMI-1640培地(ThermoFisher Scientific)にそれぞれ分注し、37℃、5% CO条件の加湿インキュベータ(humidified incubator)においてインキュベートした。細胞の数と生存率は、Vi-cell automated cell analyzerを使用して測定した。MDA-MB-231細胞と4T1細胞とを、それぞれ滅菌マイクロチューブに2.0×10細胞の密度で分注し、MACSバッファ(0.5% BSA、2mMEDTAが含まれているPBS)で2回ずつ洗浄した。その後、APBA2-01抗体、APBA2-02抗体を、MACSバッファ中に40nM濃度に希釈し、それでもって、DA-MB-231細胞及び4T1細胞をそれぞれ処理して、4℃で1時間反応させた。1時間後、細胞をMACSバッファで3回ずつ洗浄し、ヤギ抗ヒトIgG Fc FITC抗体(Invitrogen)を添加し、4℃で30分間反応させた。前述のところと同じ方法でMDA-MB-231細胞及び4T1細胞を洗浄し、1%ホルムアルデヒドで処理して前記細胞を固定させた後、BD FACSVERSE装備を使用してフローサイトメトリーを行った。陽性対照(CPI-006、MEDI9447)及び陰性対照(リツキシマブ)も、同じ方法で分析した。
【0166】
図5Aは、MDA-MB-231細胞において、APBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体の膜CD73蛋白質に対する結合能力を比較したグラフであり、図5Bは、4T1細胞における結合能力を比較したグラフである。
図5A及び図5Bに示されているように、MDA-MB-231細胞と4T1細胞とにつき、MEDI9447>APBA2-01>APBA2-02>CPI-006の順に高い抗原結合能力を示した。また、MEDI9447抗体、APBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体は、陰性対照群(リツキシマブ)に比べ、強い結合能力を示した。しかしながら、陽性対照であるCPI-006抗体は、MEDI9447抗体、APBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体と比較して弱い結合能力を示した。
【0167】
[実施例2.エピトープの比較分析]
【0168】
前述の調製例3で生産及び精製されたAPBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体と、陽性対照(CPI-006、MEDI9447)の、CD73エピトープを、BLI(bio-layer interferometry)で比較分析した。まず、抗ヒトIgGFc Capture(AHC)チップを、滅菌蒸溜水中で15分間水和(hydration)させ、0.1% BSAが添加されたPBS(pH7.4)(0.1% PBA)バッファと10mMグリシン(glycine)(pH1.7)バッファとに、それぞれ20秒間3回ずつ反復反応させることにより、コンディショニング(conditioning)を行った。次に、陽性対照であるCPI-006抗体及びMEDI9447抗体を、0.1% PBAバッファで200nMの濃度に希釈し、それぞれAHCチップに600秒間ローディングした。そこに、0.1% PBAバッファで20nMの濃度に希釈された組み換えヒトCD73蛋白質試料を900秒間反応させてて結合させた。最後に、APBA2-01試料、APBA2-02試料を、0.1% PBAバッファで20nMの濃度に希釈し、組み換えヒトCD73蛋白質が結合されているCPI-006に900秒間反応させた。全ての実験過程は、30℃、1,000rpm振盪(shaking)条件で遂行され、実験結果は、ForteBio Data analysis 8ソフトウェアで分析した。
【0169】
図6Aは、APBA2-01抗体、APBA2-02抗体が、CPI-006のエピトープに競合的に結合するか否かということ分析した結果を示し、図6Bは、MEDI9447のエピトープに競合的に結合するか否かということを分析した結果を示す。
図6Aに示されているように、CPI-006とエピトープを共有する抗体は観察されなかった。なお、図6Bに示されているように、陽性対照(MEDI9447、CPI-006)及びAPBA2-01抗体は、ヒトCD73蛋白質に結合しなかったが、APBA2-02抗体は結合した。
【0170】
結果として、MEDI9447抗体が結合されたヒトCD73蛋白質にAPBA2-01抗体は結合することができなかったため、APBA2-01抗体は、MEDI9447抗体のものと類似したエピトープに競合的に結合することができる可能性が示唆された。一方、CPI-006抗体は、図6Aの結果と異なり、MEDI9447抗体が結合されているヒトCD73蛋白質に結合することができなかった。すなわち、CPI-006は、AMPがCD73に結合するところのC末端でエピトープに結合し、従ってAMPと競合してCD73酵素活性を阻害する。一方、MEDI9447は、ホモダイマーであるCD73のN末端側ドメインに結合して、CD73が活性構造に移行することを防いでCD73酵素活性を阻害する。従って、MEDI9447と類似した活性阻害パターンを示すAPBA2-01抗体は、CD73が活性構造に移行することを阻害すると予測され、CPI-006と類似している活性阻害パターンを示すAPBA2-02抗体は、AMPがCD73に結合することを競合的に阻害すると予測される。
【0171】
[実施例3.インビトロCD73酵素活性阻害能の評価]
【0172】
3-1.水溶性CD73に対する活性阻害能の評価
【0173】
前述の調製例3で生産及び精製されたAPBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体が、水溶性CD73蛋白質の酵素活性を阻害するか否かということを確認するために、ホスフェートを定量化することができるマラカイトグリーンアッセイを行った。まず、組み換えヒトCD73蛋白質を、アッセイバッファ(25mM tris、5mM MgCl、pH7.5)で2nM濃度に希釈し、APBA2-01抗体試料、APBA2-02抗体試料をそれぞれ、前記アッセイバッファにで50nMから0.7813nMまでの濃度に段階希釈した。希釈されたCD73蛋白質と、それぞれの抗体試料とを、37℃で1時間反応させた。その後、AMPを最終濃度400μMで添加し、37℃で20分間反応させた。その後、Malachite Green Phosphate Detection Kitを使用して20分間反応させた後、Epoch Microplate Spectrophotometerで、620nm波長における吸光度を測定した。陽性対照(CPI-006、MEDI9447)及び陰性対照(ヒトIgG1アイソタイプ)(BIO X Cell、West Lebanon、New Hampshire)も、前述のところと同じ方法で吸光度を測定した。
【0174】
図7は、APBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体による水溶性CD73の酵素活性阻害を評価するための、マラカイトグリーンアッセイ方法の結果を示す。
図7に示されているように、水溶性CD73に対する抗CD73抗体の酵素活性阻害能は、CPI-006>APBA2-01>APBA2-02>MEDI9447の順で高かった。
【0175】
3-2.膜CD73に対する活性阻害能の評価
【0176】
前述の調製例3で生産されたAPBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体が、膜CD73蛋白質の酵素活性を阻害するか否かということを確認するために、ホスフェート定量(マラカイトグリーンアッセイ)及びルシフェリン酸化測定(CellTiter-Glo(登録商標)assay)をそれぞれ行った。
【0177】
マラカイトグリーンアッセイによりCD73の酵素活性を分析した。まず、CD73の酵素活性を測定するために、MDA-MB-231細胞と4T1細胞とをそれぞれ2×10細胞/ウェルと1.0×10細胞/ウェルの濃度で分注しAPBA2-01及びAPBA2-02抗体を400nM濃度ないし0.0244nM濃度に段階希釈して使用したという点を除いては、前述の調製例2-4と同じ方法でアッセイを遂行した。陰性対照(リツキシマブ)及び陽性対照(CPI-006、MEDI9447)の試料についても、前述のところと同じ方法で吸光度を測定した。
【0178】
次に、CellTiter-Glo(登録商標)assayによりCD73の酵素活性を分析した。まず、MDA-MB-231細胞と4T1細胞とを、それぞれ2.0×10細胞/ウェル、1.0×10細胞/ウェルの濃度で96ウェルフラットプレート(SPL)に分注し、37℃、5% CO条件のインキュベータで20時間インキュベートした。インキュベーション後、上澄み液を除去し、FBSが含まれていないRPMI-1640培地で細胞を洗浄した。その後、APBA2-01抗体試料、APBA2-02抗体試料を、培地で500nMないし0.0305nM濃度に段階希釈し、各ウェルをそれで処理して、37℃で30分間反応させた。反応後、AMPを400μMの濃度で添加し、37℃で3時間反応させた。その後、上澄み液を、新たな96ウェルホワイトプレート中で200μM濃度のATPと反応させ、CellTiter-Glo(登録商標)で処理し、製造社で提供された標準方法によりSynergy M1 reader装備を用いてルミネセンス(luminescence)を測定した。陰性対照(リツキシマブ)試料及び陽性対照(CPI-006、MEDI9447)試料についても、前述のところと同じ方法でルミネセンスを測定した。
【0179】
図8Aは、MDA-MB-231細胞において、膜CD73に対する抗CD73抗体の酵素活性阻害を分析するためのマラカイトグリーンアッセイ方法の結果を示し、図8Cは、そのCellTiter-Glo(登録商標)assay方法の結果を示す。
図8Aに示されているように、膜CD73に対する活性阻害能は、MDA-MB-231細胞において、APBA2-02>CPI-006>MEDI9447>APBA2-01の順で高く、図8Cに示されているように、MEDI9447=APBA2-01>CPI-006>APBA2-02の順に測定された。
【0180】
図8Bは、4T1細胞において、膜CD73に対する抗CD73抗体の酵素活性阻害能を分析するためのマラカイトグリーンアッセイの結果を示し、図8Dは、そのCellTiter-Glo(登録商標)assayの結果を示す。
図8Bに示されているように、4T1細胞において、阻害能力はAPBA2-02>MEDI9447>APBA2-01の順に測定され、図8Dに示されているように、MEDI9447>APBA2-01>APBA2-02の順に測定された。測定法によって阻害能の違いを示した。
【0181】
すなわち、マラカイトグリーンアッセイの結果において、APBA2-02抗体は、相対的に最も高い数値の活性阻害を示したが(図8A図8B)、CellTiter-Glo(登録商標)assayの結果においては、最も低い数値の活性阻害を示した(図8C図8D)。また、APBA2-01抗体とMEDI9447は、MDA-MB-231細胞において、CD73活性の約50%の阻害しか示さなかったが(図8A)、4T1細胞においては、90%以上の阻害を示した(図8B)。一方、CPI-006抗体は、マウスCD73に交差結合せず、従ってマウス4T1細胞においては反応を示さなかった(図8B図8D)。
【0182】
[実施例4.抗CD73抗体の膜CD73細胞内への移入]
【0183】
前述の調製例3で生産及び精製されたAPBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体が、細胞表面の膜CD73に結合することにより細胞内に移入(internalization)される否かということを、免疫蛍光法顕微鏡(immunofluorescence microscopy)で確認した。まず、12ウェルプレート(SPL)に、滅菌されたカバーグラス(Paul Marienfeld、ドイツ)を入れ、MDA-MB-231細胞(1.0×10)を各ウェルに分注し、37℃、5% CO培養基で24時間インキュベートした。その後、培養液を除去し、培地中に10μg/mlの濃度のAPBA2-01抗体、APBA2-02抗体で各ウェルを処理し、37℃で、20分間、40分間、60分間及び120分間それぞれ反応させた。陽性対照(CPI-006、MEDI9447)も同じ方法で反応させた。その後、反応が完了した培養液をそれぞれ除去した。付着された細胞を、PBSバッファで3回ずつ洗浄した後、4%ホルムアルデヒドを1mlずつ分注することにより37℃で15分間細胞を固定させた。前述のところと同じ方法で洗浄を行った後、0.05% トリトンX100を、ウェル当たり1mlずつ分注し、常温で15分間反応させて、細胞に孔が生ずるように誘導した。その後、前記細胞を洗浄し、2% PBAバッファを添加することにより常温で50分間ブロッキングした。洗浄後、FITCがコンジュゲーションされた抗ヒトFc抗体を添加し、常温で50分間反応させた。前述のところと同じ方法で洗浄を行った後、細胞が固定されているカバースリップ(cover slip)を、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を含むVECTASHIELD HardSet Antifadeマウンティング培地(mounting medium)と共に、スライドガラス上に配置した。その後、固定された細胞を、超高感度高解像力共焦点レーザ走査顕微鏡で分析した。
【0184】
図9は、高解像力共焦点レーザ走査顕微鏡(SR-CLSM)で調べられた、膜CD73細胞内へのAPBA2-01抗体、APBA2-02抗体の移入を示すイメージである。
図9に示されているように、APBA2-01抗体もしくはAPBA2-02抗体、またはMEDI9447でMDA-MB-231細胞を処理した20分後、MDA-MB-231細胞の膜周囲において、CD73シグナルが観察され、処理の40分後には、CD73細胞内への移入が観察された。しかしながら、CPI-006の細胞内移入は観察されなかった。
【0185】
[実施例5.インビボモデルでの効能の評価]
【0186】
5-1.転移性乳癌マウスモデルにおける抗癌効果の確認
【0187】
前述の調製例3で生産及び精製されたAPBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体の抗癌効能を、転移性乳癌マウスモデルにおいて確認した。乳癌細胞株4T1(5.0×10)を、6週齢のメスBALB/cマウスの尾静脈に投与して、肺癌を誘導した。3日後、APBA2-01抗体、APBA2-02抗体の20mg/kgをそれぞれ腹腔投与(3日間隔で4回)した。陽性対照群(MEDI9447 hIgG1)及び陰性対照群(アイソタイプ対照IgG)も、同一の用量及び方法で投与した。マウスの体重を毎回薬物投与時に測定した。実験が終わった後、マウスの肺と脾臓とを摘出し、その重さを測定した。摘出された肺を、Bouin’s solutionで染色し、コロニー数を調べた。GraphPad Prism Version5.0プログラムを使用して統計分析した。体重及び腫瘍サイズは、一元配置分散分析(one-way ANOVA)で分析し、p<0.05である場合、有意であると判定した。
【0188】
図10Aは、転移性乳癌マウスモデルにおいて、平均肺重量を測定したグラフである。
図10Aに示されているように、陽性対照及びAPBA2-01抗体の場合、陰性対照群と比較してマウス肺の重さに変化がなく、APBA2-02の場合、マウス肺の重量が10.85%低減したことを認めた。
【0189】
図10Bは、転移性乳癌マウスモデルにおいて、肺転移コロニー数を測定したグラフである。
図10Bに示されているように、陽性対照群、APBA2-01投与群及びAPBA2-02投与群の場合、陰性対照群と比較して、肺転移されたコロニー数がそれぞれ0.04%、13%及び16%が減少したが、統計学的有意性はなかった。
【0190】
一方、マウスの体重及び脾臓重量に関しては、APBA2-01抗体、APBA2-01抗体、及び陽性対照投与群とにおいて、陰性対照群と比較して有意な変化は観察されていなかった。
【0191】
5-2.乳癌マウスモデルにおける癌成長阻害の確認
【0192】
前述の調製例3で生産及び精製されたAPBA2-01抗体及びAPBA2-02抗体の癌成長阻害効能を、乳癌マウスモデルにおいて確認した。乳癌細胞株4T1(5.0×10)を乳房脂肪体(mammary fat pad)に注射して乳癌を誘導した。3日後、APBA2-01抗体、APBA2-02抗体をそれぞれTBS(pH7.4)バッファと混合し、総20mg/kg用量で、マウスに腹腔投与(2日間隔で6回)した。陽性対照群(MEDI9447マウスIgG1,IgG2A)及び陰性対照群(アイソタイプ対照群マウスIgG1,IgG2A)(Bio X Cell)も、同一の用量及び方法で投与した。乳癌サイズは、ノギス(calipers)を利用して、2日間隔で測定した。最後の抗体投与が終わった6日後にマウスの肺を摘出し、癌細胞の転移有無を観察した。
【0193】
図11Aは、乳癌マウスモデルにおける腫瘍体積を測定することによりAPBA2-01のmIgG1抗体、mIgG2A抗体、及びAPBA2-01のmIgG1抗体、mIgG2A抗体の癌成長阻害効能を確認したグラフであり、図11Bは、腫瘍成長抑制力を比較し、癌成長阻害効能を確認したグラフである。
【0194】
図11A及び図11Bに示されているように、APBA2-01抗体は、抗体のFc機能に関係なく、陰性対照群に比べ、約17%の乳癌成長阻害を示し、APBA2-02抗体は、Fc機能があるmIgG2Aが33%、Fc機能がないmIgG1が18%の乳癌成長阻害効果を示した。なお、陽性対照群は、Fc機能があるmIgG2Aが23%の成長阻害を示し、Fc機能がないmIgG1は、35%の活性阻害を示した。
【0195】
図11Cは、乳癌マウスモデルの体重を測定したグラフである。
図11Cに示されているように、実験が進められる間、マウスの体重は、変化が観察されていない。また、癌細胞の肺転移も生じていない。
【0196】
[実施例6.インビトロ細胞モデルにおける効能評価]
【0197】
6-1.モノクローナル抗体の調製
【0198】
Myxengo社(米国)に、CD73蛋白質に特異的に結合する抗体選別を依頼した。Myxengo社は、保有しているナイーブヒトscFvライブラリーを利用してバイオパニングを行い、候補抗体クローンを選別した。選別されたクローンはIgG4抗体として発現され、対応する培養液がMyxengo社から配送された。配送されたそれぞれの培養液を、CaptureSelect IgG-CH1 Affinity Matrixレジンを使用した親和性クロマトグラフィに付して、それぞれのIgG4抗体蛋白質を分離及び精製し、調製例2-2と同じ方法で実験を遂行した。
【0199】
6-2.膜CD73蛋白質の酵素活性の確認
【0200】
前記実施例6-1で調製した7種のヒト抗CD73 IgG1抗体の、膜CD73酵素活性に対する阻害能を、前記実施例3-2と同じ方法で確認した。このとき、陽性対照群として、CPI-006、MEDI9947を使用した。
【0201】
図12Aは、MDA-MB-231細胞において、膜CD73に対する抗CD73抗体の酵素活性阻害能を、マラカイトグリーンアッセイ方法で評価した結果であり、図12Bは、CellTiter-Glo(登録商標)assay方法で評価した結果である。
図12A及び図12Bに示されているように、7種抗体のうち5種抗体(No.3,4,6,7,15)は、陰性対照群と比較し、CD73酵素活性阻害能が有意的に高いということを認めた。
【0202】
[実施例7.膜CD73蛋白質に対する結合能力の確認]
【0203】
前記実施例6で選別された抗CD73抗体(Myxengo抗体3,4,6,7,15)の種間交差反応性を確認するために、マウス細胞膜CD73発現細胞株(4T1(ATCC、CRL-2539)及び4T1.2(ATCC、CRL-3406))を利用し、抗体結合確認実験を行った。まず、4T1細胞は、RPMI-1640(Gibco、Cat No.A10491-01)培地に牛胎児血清(FBS)(Gibco、Cat No.16000-044)を10%添加したもので培養し、4T1.2細胞は、Alpha MEM(Minimum Essential Medium)(Corning Fisher Sci、10-022-CV)培地に牛胎児血清を10%添加したもので培養した。その後、培養皿に付着した細胞を、トリプシン-EDTA(Gibco、Cat No.25200-056)を利用して分離した後、1.5mlチューブに、2.0x10細胞ずつ分注した。その後、遠心分離機で細胞を沈めた後、上澄み液を除去した。MACSバッファ[0.5%牛血清アルブミン(Sigma)、2mMEDTA(Intronbio)を添加したDPBSバッファ(Gibco)]中に100nM濃度に希釈された抗体試料100μlに細胞を懸濁した後、4℃条件で1時間反応させた。その後、800μlのMACSバッファを加えて遠心分離し、上澄み液を除去した。MACSバッファ中に1:500比率に希釈された二次抗体ヤギ抗ヒトIgG Fc FITC(Novex、A18830)50μlを追加し、細胞を懸濁した。4℃条件で1時間反応させた後、500μlのMACSバッファを加えて遠心分離し、上澄み液を除去した。その後、0.4%パラホルムアルデヒド(T&I、PBSで希釈)200μlで細胞を懸濁して固定させた後、準備された試料をフローサイトメーター(BD、FACSVerse)を利用して分析した。
【0204】
図13Aは、4T1細胞における、Myxengo 3,4,6,7及び15抗体の膜CD73蛋白質に対する結合能力を確認したグラフである。
図13Bは、4T1.2細胞において、Myxengo 3,4,6,7及び15抗体の膜CD73蛋白質に対する結合能力を確認したグラフである。
【0205】
図13A及び図13Bに示されているように、5種抗体(No.3,4,6,7,15)のうち1種抗体(No.15)は、陰性対照群と比較し、マウス膜CD73に強く結合し、APBA2-02抗体と類似したレベルの抗原結合能力を示した。しかしながら、4種抗体(No.3,4,6,7)は、マウス膜CD73に結合しなかった。すなわち、Myxengo 15抗体は、APBA2-02抗体と類似したレベルの抗原結合能力を示すため、APBA2-02と類似した特性を有すると予測される。従って、Myxengo 15抗体は、CD73に特異的に結合しながら、種間交差反応性を有しうる。
【0206】
要約すれば、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、CD73に結合し、CD73蛋白質の酵素活性を低減させることができ、かつ癌の転移、または癌の成長を阻害することができ、それを癌の治療剤として活用することができる。また、前記抗体またはその抗原結合断片は、種間交差反応性を示し、前臨床段階である動物実験に使用されうるので、免疫治療剤の副作用、毒性及び/または安定性を試験するのにかかる時間、コストなどを節約することができる。
【0207】
前述の本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の当業者であるならば、本発明の技術的思想や必須な特徴を変更せずとも、他の具体的な形態に容易に変形が可能であるということを理解することができるであろう。従って、以上で記述された実施例は、全ての面において、例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。
【0208】
本発明の幅(breadth)及び範囲は、前述の例示的な実施例のうち、いずれによっても制限されるものではなく、特許請求の範囲、及びその均等物によってのみ定義されるものである。
【0209】
本明細書で説明された多様な様態、実施例及び選択肢は、いずれも任意の変形にも結合され得る。
【0210】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許及び特許出願は、それぞれの個別の刊行物、特許または特許出願が参照によって組み入れられることが具体的及び個別的に表されたところと同一の範囲で、参照によって本明細書に組み入れられる。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図13A
図13B
【配列表】
2023521362000001.app
【国際調査報告】