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特表2023-521383KRASの阻害のためのRNA干渉およびアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用する方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-24
(54)【発明の名称】KRASの阻害のためのRNA干渉およびアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用する方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20230517BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20230517BHJP
   A61K 31/7125 20060101ALI20230517BHJP
   A61K 31/712 20060101ALI20230517BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230517BHJP
   C12N 9/14 20060101ALN20230517BHJP
【FI】
C12N15/113 110Z
A61K31/713
A61K31/7125
A61K31/712
A61K48/00
C12N9/14 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561542
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(85)【翻訳文提出日】2022-12-06
(86)【国際出願番号】 US2021026147
(87)【国際公開番号】W WO2021207339
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】16/842,404
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500093834
【氏名又は名称】ザ・ユニヴァーシティ・オヴ・ノース・キャロライナ・アト・チャペル・ヒル
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】ペコット,チャド
(72)【発明者】
【氏名】アザム,サルマ・エイチ.
【テーマコード(参考)】
4B050
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B050DD11
4B050LL01
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086NA14
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、RNA干渉、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよび化学修飾オリゴヌクレオチドを使用する突然変異体KRAS配列の発現の阻害に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミスセンス突然変異G12C、G12DおよびG13Dをコードする合成のヒトKRAS-mRNAへ標的化されたアンチセンスオリゴヌクレオチドであって、長さが16~25ヌクレオチドであり、配列TCTTGCCTACGTCATA(配列番号114)を含むアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
長さが20ヌクレオチドである、請求項1に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
配列CACTCTTGCCTACGTCATAA(配列番号115)からなる、請求項1または2に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
配列GCACTCTTGCCTACGTCATA(配列番号116)からなる、請求項1または2に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項5】
少なくとも1つのホスホロチオエート結合を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項6】
ホスホロチオエート結合のみを含む、請求項5に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項7】
5’末端および/または3’末端において、またはその付近に、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項8】
5’末端および3’末端の各々において、少なくとも3つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項7に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項9】
前記修飾ヌクレオチドが、2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)修飾ヌクレオチドである、請求項7または8に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項10】
5’末端および/または3’末端の各々において、少なくとも3つの2’-MOE修飾ヌクレオチドを含む、請求項9に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項11】
【化1】
(配列中、*は、ホスホロチオエート結合を示し、太字は、2’-MOE修飾ヌクレオチドを示す)
から選択される配列からなる、請求項10に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項12】
少なくとも1つの修飾ヌクレオチドが、ロックド核酸である、請求項7~9のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項13】
G12C、G12D、G12VおよびG13Dから選択される突然変異をコードする天然のヒトKRAS-mRNAへ標的化されたアンチセンスオリゴヌクレオチドであって、長さが16~25ヌクレオチドであり、
a)G12C突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたTCTTGCCTACGCCACA(配列番号117)、
b)G12D突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたTCTTGCCTACGCCATC(配列番号118)、
c)G12V突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたTCTTGCCTACGCCAAC(配列番号119)、
d)G13D突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたTCTTGCCTACGTCACC(配列番号120)、または
e)a)~d)のうちのいずれか1つと少なくとも90%同一の配列
から選択される配列を含み、少なくとも1つの非天然化学修飾を含む、アンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項14】
長さが20ヌクレオチドである、請求項13に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項15】
a)G12C突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたGCACTCTTGCCTACGCCACA(配列番号117)、
b)G12D突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたGCACTCTTGCCTACGCCATC(配列番号118)、
c)G12V突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたGCACTCTTGCCTACGCCAAC(配列番号119)、または
d)G13D突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたGCACTCTTGCCTACGTCACC(配列番号120)
から選択される配列からなる、請求項13または14に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項16】
少なくとも1つのホスホロチオエート結合を含む、請求項13~15のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項17】
ホスホロチオエート結合のみを含む、請求項16に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項18】
5’末端および/または3’末端において、またはその付近に、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項13~17のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項19】
5’末端および3’末端の各々において、少なくとも3つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項18に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項20】
前記修飾ヌクレオチドが、2’-MOE修飾ヌクレオチドである、請求項18または19に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項21】
5’末端および/または3’末端の各々において、少なくとも3つの2’-MOE修飾ヌクレオチドを含む、請求項20に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項22】
【化2】
(配列中、*は、ホスホロチオエート結合を示し、太字は、2’-MOE修飾ヌクレオチドを示す)
から選択される配列からなる、請求項21に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項23】
少なくとも1つの修飾ヌクレオチドが、ロックド核酸である、請求項18~20のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項24】
【化3】

(配列中、*は、ホスホロチオエート結合を示し、太字は、2’-メトキシメチル修飾ヌクレオチドを示し、+は、その後続のヌクレオチドがロックド核酸であることを示す)
から選択される配列からなる、請求項23に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項25】
請求項1~4または13~15のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む核酸構築物。
【請求項26】
請求項1~4または13~15のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする核酸分子。
【請求項27】
請求項26に記載の核酸分子を含む核酸構築物。
【請求項28】
G12C、G12D、G12VまたはG13Dから選択される突然変異をコードする天然のヒトKRAS-mRNAへ標的化されたsiRNA分子であって、少なくとも1つの化学修飾を含み、
配列番号128のセンス鎖および配列番号129のアンチセンス鎖、
配列番号130のセンス鎖および配列番号131のアンチセンス鎖、
配列番号132のセンス鎖および配列番号133のアンチセンス鎖、
配列番号134のセンス鎖および配列番号135のアンチセンス鎖、
配列番号136のセンス鎖および配列番号137のアンチセンス鎖、
配列番号138のセンス鎖および配列番号139のアンチセンス鎖、
配列番号140のセンス鎖および配列番号141のアンチセンス鎖、
配列番号142のセンス鎖および配列番号143のアンチセンス鎖、
配列番号144のセンス鎖および配列番号145のアンチセンス鎖、
配列番号146のセンス鎖および配列番号147のアンチセンス鎖、
配列番号148のセンス鎖および配列番号149のアンチセンス鎖、
配列番号150のセンス鎖および配列番号151のアンチセンス鎖、
配列番号152のセンス鎖および配列番号153のアンチセンス鎖、
配列番号154のセンス鎖および配列番号155のアンチセンス鎖、
配列番号156のセンス鎖および配列番号157のアンチセンス鎖、もしくは
配列番号158のセンス鎖および配列番号159のアンチセンス鎖
の配列対のうちの1つ、またはこれらと少なくとも90%同一の配列を含むsiRNA分子。
【請求項29】
完全に化学修飾されている、請求項28に記載のsiRNA分子。
【請求項30】
前記siRNA分子における各ヌクレオチドが、2’-O-メチル基または2’-フルオロ基により修飾されている、請求項29に記載のsiRNA分子。
【請求項31】
少なくとも1つのホスホロチオエート結合を含む、請求項28~30のいずれか1項に記載のsiRNA分子。
【請求項32】
センス鎖およびアンチセンス鎖を含み、
配列番号78のセンス鎖および配列番号79のアンチセンス鎖、
配列番号80のセンス鎖および配列番号81のアンチセンス鎖、
配列番号82のセンス鎖および配列番号83のアンチセンス鎖、
配列番号84のセンス鎖および配列番号85のアンチセンス鎖、
配列番号86のセンス鎖および配列番号87のアンチセンス鎖、
配列番号88のセンス鎖および配列番号89のアンチセンス鎖、
配列番号90のセンス鎖および配列番号91のアンチセンス鎖、
配列番号92のセンス鎖および配列番号93のアンチセンス鎖、
配列番号94のセンス鎖および配列番号95のアンチセンス鎖、
配列番号96のセンス鎖および配列番号97のアンチセンス鎖、
配列番号98のセンス鎖および配列番号99のアンチセンス鎖、
配列番号100のセンス鎖および配列番号101のアンチセンス鎖、
配列番号102のセンス鎖および配列番号103のアンチセンス鎖、
配列番号104のセンス鎖および配列番号105のアンチセンス鎖、
配列番号106のセンス鎖および配列番号107のアンチセンス鎖、
配列番号108のセンス鎖および配列番号109のアンチセンス鎖、
配列番号162のセンス鎖および配列番号163のアンチセンス鎖、
配列番号164のセンス鎖および配列番号165のアンチセンス鎖、
配列番号166のセンス鎖および配列番号167のアンチセンス鎖、
配列番号168のセンス鎖および配列番号169のアンチセンス鎖、
配列番号170のセンス鎖および配列番号171のアンチセンス鎖、
配列番号172のセンス鎖および配列番号173のアンチセンス鎖、
配列番号174のセンス鎖および配列番号175のアンチセンス鎖、
配列番号176のセンス鎖および配列番号177のアンチセンス鎖、
配列番号178のセンス鎖および配列番号179のアンチセンス鎖、
配列番号180のセンス鎖および配列番号181のアンチセンス鎖、
配列番号182のセンス鎖および配列番号183のアンチセンス鎖、または
配列番号184のセンス鎖および配列番号185のアンチセンス鎖
の配列対のうちの1つを含む、請求項28から31のいずれか1項に記載のsiRNA分子。
【請求項33】
ヒトKRAS-mRNAへ標的化されたsiRNA分子であって、siRNAのセンス鎖が、配列番号50または配列番号51の配列を含み、前記siRNAが、少なくとも1つの非天然化学修飾を含む、siRNA分子。
【請求項34】
前記siRNAが、化学修飾されている、請求項33に記載のsiRNA分子。
【請求項35】
前記siRNAが、完全に化学修飾されている、請求項34に記載のsiRNA分子。
【請求項36】
前記siRNA分子における各ヌクレオチドが、2’-O-メチル基または2’-フルオロ基により修飾されている、請求項35に記載のsiRNA分子。
【請求項37】
少なくとも1つのホスホロチオエート結合を含む、請求項33~36のいずれか1項に記載のsiRNA分子。
【請求項38】
センス鎖およびアンチセンス鎖を含み、
配列番号110のセンス鎖および配列番号111のアンチセンス鎖、または
配列番号112のセンス鎖および配列番号113のアンチセンス鎖
の配列対の1つを含む、請求項33~37のいずれか1項に記載のsiRNA分子。
【請求項39】
請求項1~24のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは請求項28~38のいずれか1項に記載のsiRNAを含む組成物。
【請求項40】
請求項1~24のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは請求項28~38のいずれか1項に記載のsiRNAのうちの2つまたはそれ以上を任意の組合せで含む組成物であって、2つまたはそれ以上の前記アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNA各々が異なる配列を含む、組成物。
【請求項41】
ナノ粒子をさらに含む、請求項39または40に記載の組成物。
【請求項42】
前記ナノ粒子が、ナノリポソームである、請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
請求項1~24のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド、請求項25もしくは27に記載の核酸構築物、請求項28~38のいずれか1項に記載のsiRNA、および/または請求項39~42のいずれか1項に記載の組成物と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項44】
細胞においてミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子の発現を阻害する方法であって、請求項1~24のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド、請求項25もしくは27に記載の核酸構築物、請求項28~38のいずれか1項に記載のsiRNA、請求項39~42のいずれか1項に記載の組成物、および/または請求項43に記載の医薬組成物と前記細胞を接触させるステップを含み、これによって、前記細胞において前記変異ヒトKRAS遺伝子の発現を阻害する、方法。
【請求項45】
がんの処置を必要とする対象においてがんを処置する方法であって、前記がんが、ミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子を含み、前記方法が、請求項1から24のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド、請求項25もしくは27に記載の核酸構築物、請求項28から38のいずれか1項に記載のsiRNA、請求項39から42のいずれか1項に記載の組成物、および/または請求項43に記載の医薬組成物を前記対象へ送達するステップを含み、これによって、前記対象においてがんを処置する、方法。
【請求項46】
前記送達が、全身性送達である、請求項45に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[優先権についての記載]
本出願は、2020年4月7日出願の米国出願第16/842,404号の利益を主張し、当該出願の全内容は、その全体を参照することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0002】
本発明は、RNA干渉、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよび化学修飾オリゴヌクレオチドを使用する突然変異体KRAS配列の発現の阻害に関する。
【背景技術】
【0003】
1982年の発見以来、RASファミリーの遺伝子は、重要なクラスのがん原遺伝子として特徴付けられている(Cox et al.,Nat.Rev.Drug Discov.13:828(2014))。30年間の広範な研究を通して、ある特定のRAS遺伝子(KRAS、NRASおよびHRAS)の突然変異性活性化は、すべてのがんのほぼ3分の1において関係があるとされている(Pecot et al.,Mol.Cancer Ther.13:2876(2014))。特に、KRAS突然変異は、最も頻繁に、排他的にも、他のRASアイソフォームと関係しても、観察されている(Cox et al.,Nat.Rev.Drug Discov.13:828(2014))。さらに、この非常に優勢な突然変異についての阻害剤を開発しようとする努力にもかかわらず、強力な治療薬候補は出現しておらず、したがって、KRAS遺伝子は、とらえどころのない「新薬開発不可能な」標的と評されている。
【0004】
RAS遺伝子は、下流のエフェクタータンパク質に対して作用して細胞生存、成長および増殖を促進させる、低分子量GTPアーゼファミリーをコードする(Khosravi-Far et al.,Cancer Metastasis Rev.13:67(1994))。RASタンパク質の適切な機能は、グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)を介したその活性GTP結合型への活性化、およびRAS-GTP複合体の膜会合に依存しており、それらの両方ともKRAS阻害の標的として提案されている。しかしながら、KRASの直接的阻害において以前に提案された治療剤の低い有効性および標的特異性のために、KRAS経路を標的とする現在の手段は、下流のエフェクタータンパク質の阻害に主に集中している(Cox et al.,Nat.Rev.Drug Discov.13:828(2014))。それにもかかわらず、遺伝子活性を直接的にダウンレギュレートする低分子を開発することが困難であっても、KRASは、ヒトがんにおける駆動性突然変異としての普遍性により、依然として治療関連標的である。
【0005】
RNA干渉(RNAi)における進歩は、KRAS発現をノックダウンする有効な手段としてのその可能性を示唆する。RNAi療法は、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれる、外因性低分子干渉RNA(siRNA)と内因性酵素機構との相互作用を使用して、mRNAレベルにおいて特定の遺伝子を選択的にサイレンシングする(Pecot et al.,Nat.Rev.Cancer 11:59(2011))。最近の研究により、ヒトがん患者において転移の退縮を誘導するための忍容性の高い治療としてのRNAiの有効性が明らかになっている(Tabernero et al.,Cancer Discov.3:406(2013))。加えて、私たちは、ナノリポソームを使用して、インビトロおよびインビボの両方で、様々な肺および結腸がんモデルにおいてヒトKRASのノックダウンのためのsiRNA送達の有効性を最近確証した(Pecot et al.,Mol.Cancer Ther.13:2876(2014))。
【0006】
しかしながら、野生型(WT)対立遺伝子に優る、突然変異体KRASについての標的特異性を欠いたままである。突然変異体対立遺伝子の発がん特性にもかかわらず、WTのKRASは、非がん細胞において生存率を促進する、細胞外入力への適切な応答に必要である(Khosravi-Far et al.,Cancer Metastasis Rev.13:67(1994))。そのため、WT-KRAS(野生型KRAS)を温存し(spare)ながら突然変異体KRASを標的とする阻害剤が必要とされている。
【0007】
したがって、本発明は、突然変異体KRAS配列の特異的阻害のためにRNA干渉を使用する組成物および方法を提供することによって当該技術分野における欠陥を克服する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、WT-KRASの発現を温存しながら突然変異体KRAS配列の発現を阻害するRNA分子の特定に基づく。したがって、本発明の一態様は、アンチセンス鎖およびセンス鎖を含む二本鎖RNA分子であって、アンチセンス鎖のヌクレオチド配列が、約18~約25個の連続ヌクレオチドから本質的になる領域である、ミスセンス突然変異G12C、G12DおよびG13D、またはミスセンス突然変異G12C、G12VおよびG13Dを含有する合成ヒトKRAS遺伝子のヌクレオチド配列の領域に相補的であり、二本鎖RNA分子が、ミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子の発現を阻害し、野生型ヒトKRASの発現を最小限に阻害する、二本鎖RNA分子に関する。
【0009】
本発明の別の態様は、本発明のRNA分子のうちの1つまたは複数を含む組成物、例えば医薬組成物に関する。
【0010】
本発明のさらなる態様は、細胞においてミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子の発現を阻害する方法であって、細胞を本発明のRNA分子と接触させ、これによって、細胞において変異ヒトKRAS遺伝子の発現を阻害することを含む方法に関する。
【0011】
本発明の追加の態様は、がんの処置を必要とする対象においてがんを処置する方法であって、がんが、ミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子を含み、方法が、対象へ本発明のRNA分子を送達し、これによって、対象においてがんを処置することを含む、方法に関する。
【0012】
本発明の別の態様は、細胞においてミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子の発現を阻害するための、ならびにがんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための本発明のRNA分子の使用であって、がんが、ミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子を含む、使用に関する。
【0013】
本発明のさらなる態様は、ミスセンス突然変異G12C、G12DおよびG13Dをコードする合成のヒトKRAS-mRNAへ標的化されたアンチセンスオリゴヌクレオチドであって、長さが16~25ヌクレオチドであり、配列TCTTGCCTACGTCATA(配列番号114)を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドに関する。
【0014】
本発明の追加の態様は、G12C、G12D、G12VおよびG13Dから選択される突然変異をコードする天然のヒトKRAS-mRNAへ標的化されたアンチセンスオリゴヌクレオチドであって、長さが16~25ヌクレオチドであり、
a)G12C突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたTCTTGCCTACGCCACA(配列番号117)、
b)G12D突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたTCTTGCCTACGCCATC(配列番号118)、
c)G12V突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたTCTTGCCTACGCCAAC(配列番号119)、
d)G13D突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたTCTTGCCTACGTCACC(配列番号120)、または
e)a)~d)のいずれか1つと少なくとも90%同一の配列
から選択される配列を含み、少なくとも1つの非天然化学修飾を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドに関する。
【0015】
本発明の別の態様は、G12C、G12D、G12VおよびG13Dから選択される突然変異をコードする天然のヒトKRAS-mRNAへ標的化されたsiRNA分子であって、少なくとも1つの化学修飾を含み、
配列番号128のセンス鎖および配列番号129のアンチセンス鎖、
配列番号130のセンス鎖および配列番号131のアンチセンス鎖、
配列番号132のセンス鎖および配列番号133のアンチセンス鎖、
配列番号134のセンス鎖および配列番号135のアンチセンス鎖、
配列番号136のセンス鎖および配列番号137のアンチセンス鎖、
配列番号138のセンス鎖および配列番号139のアンチセンス鎖、
配列番号140のセンス鎖および配列番号141のアンチセンス鎖、
配列番号142のセンス鎖および配列番号143のアンチセンス鎖、
配列番号144のセンス鎖および配列番号145のアンチセンス鎖、
配列番号146のセンス鎖および配列番号147のアンチセンス鎖、
配列番号148のセンス鎖および配列番号149のアンチセンス鎖、
配列番号150のセンス鎖および配列番号151のアンチセンス鎖、
配列番号152のセンス鎖および配列番号153のアンチセンス鎖、
配列番号154のセンス鎖および配列番号155のアンチセンス鎖、
配列番号156のセンス鎖および配列番号157のアンチセンス鎖もしくは
配列番号158のセンス鎖および配列番号159のアンチセンス鎖
の配列対の1つ、またはこれらと少なくとも90%同一の配列を含むsiRNA分子に関する。
【0016】
本発明の追加の態様は、ヒトKRAS-mRNAへ標的化されたsiRNA分子であって、siRNAのセンス鎖が、配列番号50または配列番号51の配列を含み、siRNAが、少なくとも1つの非天然化学修飾を含む、siRNA分子に関する。
【0017】
本発明の別の態様は、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNA分子のうちの1つまたは複数を含む組成物、例えば医薬組成物に関する。
【0018】
本発明のさらなる態様は、細胞においてミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子の発現を阻害する方法であって、細胞を本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNA分子と接触させ、これによって、細胞において変異ヒトKRAS遺伝子の発現を阻害することを含む方法に関する。
【0019】
本発明の追加の態様は、がんの処置を必要とする対象においてがんを処置する方法であって、がんが、ミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子を含み、方法が、対象へ本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNA分子を送達し、これによって、対象においてがんを処置することを含む、方法に関する。
【0020】
本発明の別の態様は、細胞においてミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子の発現を阻害するための、ならびにがんの処置を必要とする対象においてがんを処置するための本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNA分子の使用であって、がんが、ミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子を含む、使用に関する。
【0021】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下の本発明の説明においてより詳細に示される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】KRAS-siRNA配列(配列番号40~51)を示す。TMS-siRNA配列を、コドン12および13においてヒトKRAS遺伝子のGドメインに結合し、3点突然変異(各々アステリスクにより示される)を標的とするように設計した。下線は、siRNA(センス)によって標的化される残りの塩基対を示す。G12CおよびG12D siRNAについての配列は、Fleming et al.,Mol.Cancer Res.3:413(2005)から得た。陽性対照siRNA(Seq2およびSeq3)は、Pecot et al.,Mol.Cancer Ther.13:2876(2014)から得、KRAS-mRNAの下流コード領域を標的とした。
図2A】突然変異体特異的(MS)siRNAのKRAS発現レベルを示す。ヒトWT、G12C、G12D、G12VまたはG13DのKRASを感染させたNIH3T3細胞に、MS-siRNA配列(12CD13D_1、12CD13D_2、12CD13D_3、12CD13D_4、12CV13D_1および12CV13D_2)または非特異的配列を逆トランスフェクトした。
図2B】対照siRNAのKRAS発現レベルを示す。ヒトWT、G12C、G12D、G12VまたはG13DのKRASを感染させたNIH3T3細胞に、対照突然変異体特異的siRNAまたは非特異的配列を逆トランスフェクトした。
図3】KRAS-G12D突然変異体肺がん細胞株におけるカスタムKRAS-siRNA配列12CD13D_1および12CD13D_4の試験を示す。
図4】カスタムsiRNA配列間のすべての可能なsiRNA配列の並べ替えを試験するために使用したsiRNA配列のライブラリー(配列番号45~51)を示す。
図5】3T3細胞における野生型および突然変異体KRAS-mRNAの相対的発現を示す。
図6】合成KRAS遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドスクリーニングの概略図を示す(配列番号52および53)。
図7】16個のアンチセンスオリゴヌクレオチドの、A431細胞において突然変異体KRAS発現を阻害する能力を示す。A431細胞は、KRAS野生型対立遺伝子を除去するように遺伝子操作されており、個々のA431クローンは、KRAS-G12C、KRAS-G12D、KRAS-G12VまたはKRAS-G13D(示される通り)のいずれかのヒトKRAS突然変異体対立遺伝子を発現し、したがって、ジムノシス(gymnosis)送達機構、オリゴヌクレオチド輸送およびRNアーゼHサイレンシング活性について制御するように作出された。
図8】異なる濃度の6つのアンチセンスオリゴヌクレオチドの、遺伝子操作されたA431細胞において突然変異体KRAS発現を阻害する能力を示す。
図9】化学修飾ASO16アンチセンスオリゴヌクレオチドの、遺伝子操作されたA431細胞において突然変異体KRAS発現を阻害する能力を示す。
図10】KRAS-G12C特異的ASOの用量応答を示す。
図11】G12C特異的ASOによる野生型KRAS温存における改善を示す。
図12】KRAS-G12Cを発現する遺伝子操作されたA431細胞における、KRAS-G12C突然変異へ標的とした完全修飾siRNAの活性を示す。
図13】KRAS-G12Cを発現する遺伝子操作されたA431細胞における、KRAS-G12C突然変異へ標的とした完全修飾siRNAの活性を示す。
図14】KRAS-G12Dを発現する遺伝子操作されたA431細胞における、KRAS-G12D突然変異へ標的とした完全修飾siRNAの活性を示す。
図15】KRAS-G12Dを発現する遺伝子操作されたA431細胞における、KRAS-G12D突然変異へ標的とした完全修飾siRNAの活性を示す。
図16】KRAS-G12Vを発現する遺伝子操作されたA431細胞における、KRAS-G12V突然変異へ標的とした完全修飾siRNAの活性を示す。
図17】KRAS-G12Vを発現する遺伝子操作されたA431細胞における、KRAS-G12V突然変異へ標的とした完全修飾siRNAの活性を示す。
図18】KRAS-G13Dを発現する遺伝子操作されたA431細胞における、KRAS-G13D突然変異へ標的とした完全修飾siRNAの活性を示す。
図19】KRAS-G13Dを発現する遺伝子操作されたA431細胞における、KRAS-G13D突然変異へ標的とした完全修飾siRNAの活性を示す。
図20】G12D標的化siRNAによる細胞生存率実験の結果を示す。
図21】G12D標的化siRNAによる細胞生存率実験の結果を示す。
図22】G13D標的化siRNAによる細胞生存率実験の結果を示す。
図23】G13D標的化siRNAによる細胞生存率実験の結果を示す。
図24】HCT116腫瘍におけるKRASサイレンシングについてのインビボでの証拠を示す。
図25】G12V標的化siRNAによる細胞生存率実験の結果を示す。
図26】G12V標的化siRNAによる細胞生存率実験の結果を示す。
図27】EFTX-D1 siRNAによる突然変異体KRAS発現の阻害および野生型温存を示す。
図28】HCT116(KRAS-G13D突然変異体)細胞およびLU65(KRAS-G12C突然変異体)細胞における、KRASへ標的とした完全修飾siRNAの活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、ここで、本発明の好ましい実施形態が示される附属の図面を参照して、より詳細に説明される。しかしながら、本発明は、様々な形態で具体化することができ、本明細書で示される実施形態に限定されるとは解釈すべきでない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的および完全であるように、かつ本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように提供される。
【0024】
別に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で本発明の説明において使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のためのみであり、本発明の限定であるとは意図されない。本明細書で引用されるすべての出版物、特許出願、特許、特許公開公報および他の参考文献は、参考文献が示される文および/または節に関する教示についてそれらを全体として参照により組み込まれる。
【0025】
ヌクレオチド配列は、別に特に示されない限り、本明細書では一本鎖のみにより、左から右へ5’から3’方向に示される。ヌクレオチドおよびアミノ酸は、本明細書では、IUPAC-IUB生化学命名法委員会により推奨される様式で、または(アミノ酸について)37 C.F.R.§1.822および確立された使用法に従う一文字表記または三文字表記のいずれかにより表される。
【0026】
別に示される場合を除いて、当業者に公知の標準法は、遺伝子をクローニングするため、核酸を増幅および検出するためなどに使用することができる。そのような技法は、当業者に公知である。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd Ed.(Cold Spring Harbor,NY,1989);Ausubel et al.Current Protocols in Molecular Biology(Green Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.,New York)を参照されたい。
【0027】
文脈が別に示さない限り、本明細書で説明される本発明の様々な特色は、任意の組合せにおいて使用することができることが明確に意図される。
【0028】
さらに、また、本発明は、本発明の一部の実施形態において、本明細書で示される任意の特色または特色の組合せを除外または省略することができることを企図する。
【0029】
例示するために、明細書により、複合体が構成成分A、BおよびCを含むと言及される場合、A、BもしくはCのうちのいずれかまたはこれらの組合せは、単独でまたは任意の組合せにおいて省略および放棄され得ることが特に意図される。
【0030】
[定義]
本発明の説明および附属の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに別に示さない限り、複数形も含むと意図される。
【0031】
また、本明細書で使用される場合、「および/または」とは、関連する列挙される項目のうちの1つまたは複数の任意のおよびすべての可能な組合せ、ならびに択一で(「または」)解釈される場合組合せの欠如を指し、包含する。
【0032】
「約」という用語は、本明細書で使用される場合、ポリペプチドの量、用量、時間、温度、酵素活性または他の生物学的活性などの測定可能な値について言及するとき、特定の量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%またはさらには±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0033】
本明細書で使用される場合、「から本質的になること(consisting essentially of)」という移行句(および文法的変形)は、列挙される材料またはステップ、および特許請求の範囲の発明の基本的かつ新規特徴に実質的に影響を及ぼさない材料またはステップを包含すると解釈されるべきである。したがって、本明細書で使用される場合「から本質的になること」という用語は、「を含むこと(comprising)」と同等であると解釈されるべきでない。
【0034】
「から本質的になる」という用語(および文法的変形)は、本発明のポリヌクレオチド配列に適用される場合、列挙される配列(例えば配列番号)、ならびにポリヌクレオチドの機能が実質的に変更されないような列挙される配列の5’および/または3’末端の全部で10個またはそれ未満(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10個)の追加のヌクレオチドの両方からなるポリヌクレオチドを意味する。全部で10個またはそれ未満の追加のヌクレオチドは、両方の末端の追加のヌクレオチドを一緒に合わせた総数を含む。「実質的に変更される」という用語は、本発明のポリヌクレオチドに適用される場合、列挙される配列からなるポリヌクレオチドの発現レベルと比較して少なくとも約50%またはそれ以上の、標的mRNAの発現を阻害する能力における増大または減少を指す。
【0035】
「向上させる」または「増大させる」という用語は、少なくとも約1.25倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、8倍、10倍、12倍またはさらには15倍の特定のパラメーターにおける増大を指す。
【0036】
「阻害する」もしくは「低減させる」という用語またはそれらの文法的変形は、本明細書で使用される場合、少なくとも約15%、25%、35%、40%、50%、60%、75%、80%、90%、95%またはそれ以上の、特定のレベルまたは活性における減少または減弱を指す。特定の実施形態において、阻害または低減は、ほとんどまたは本質的にまったく検出可能な活性をもたらさない(多くてもわずかな量、例えば約10%またはさらには5%未満)。
【0037】
「治療有効」量とは、本明細書で使用される場合、対象にいくらかの改善または利点を提供する量である。言い換えると、「治療有効」量とは、対象において少なくとも1つの臨床症状のいくらかの軽減、緩和または減少を提供する量である(例えばがんの場合、腫瘍量の低減、さらなる腫瘍増殖の防止、転移の防止、または生存時間の増加)。当業者は、いくらかの利点が対象へと提供される限り、治療効果は、完全または治癒的である必要はないことを理解するだろう。
【0038】
「処置(治療)する」、「処置(治療)すること」または「の処置(治療)」という用語によって、対象の状態の重症度が低減または少なくとも部分的に改善もしくは改変されること、および少なくとも1つの臨床症状のいくらかの軽減、緩和または減少が達成されることが意図される。
【0039】
「防止(予防)する」または「防止(予防)すること」または「防止(予防)」とは、本発明の方法の非存在下において進行し得る重症度と比較した、対象における障害の開始の防止もしくは遅延、および/または障害の重症度の減少を指す。防止は、完全な防止、例えば対象におけるがんの完全な非存在であり得る。また、防止は、対象におけるがんの発生または重症度が、本発明なしで起こり得るよりも少ないような、部分的な防止であってもよい。
【0040】
本明細書で使用される場合、「核酸」、「ヌクレオチド配列」および「ポリヌクレオチド」は互換的に使用され、cDNA、ゲノムDNA、mRNA、合成(例えば化学合成)DNAまたはRNA、ならびにRNAおよびDNAのキメラを含む、RNAおよびDNAの両方を包含する。ポリヌクレオチド、ヌクレオチド配列または核酸という用語は、鎖の長さにかかわらず、ヌクレオチドの鎖を指す。核酸は、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖である場合、核酸は、センス鎖であっても、アンチセンス鎖であってもよい。核酸は、オリゴヌクレオチドアナログまたは誘導体(例えば、イノシンまたはホスホロチオエートヌクレオチド)を使用して合成することができる。そのようなオリゴヌクレオチドは、例えば、塩基対形成能力が変更された、またはヌクレアーゼに対する抵抗性が増大した核酸を調製するために使用することができる。本発明は、本発明の核酸、ヌクレオチド配列またはポリヌクレオチドの相補体である核酸(完全な相補体または部分的な相補体のいずれかであり得る)をさらに提供する。dsRNAが合成産生される場合、イノシン、5-メチルシトシン、6-メチルアデニン、ヒポキサンチンおよびその他などのあまり一般的でない塩基もまた、アンチセンス、dsRNAおよびリボザイム対形成のために使用してもよい。例えば、ウリジンおよびシチジンのC-5プロピンアナログを含有するポリヌクレオチドは、RNAに高親和性で結合すること、および遺伝子発現の強力なアンチセンス阻害剤であることが示されている。ホスホジエステル骨格、またはRNAのリボース糖基の2’-ヒドロキシへの修飾などの他の修飾もまた、行ってもよい。
【0041】
「単離されたポリヌクレオチド」とは、それが由来する生物の天然ゲノムにおいてそれが直接隣接する(1箇所は5’末端、および1箇所は3’末端)ヌクレオチド配列と直接隣接していないヌクレオチド配列(例えばDNAまたはRNA)である。したがって、一実施形態において、単離された核酸は、コード配列と直接隣接する5’非コード(例えばプロモーター)配列の一部またはすべてを含む。それゆえ、この用語は、他の配列とは独立して、例えば、ベクターへ、自律複製プラスミドもしくはウイルスへ、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAへと組み込まれた、または別の分子として存在する組換えDNA(例えば、PCRまたは制限エンドヌクレアーゼ処理によって産生されるcDNAまたはゲノムDNA断片)を含む。また、それは、追加のポリペプチドまたはペプチド配列をコードするハイブリッド核酸の部分である組換えDNAを含む。遺伝子を含む単離されたポリヌクレオチドは、そのような遺伝子を含む染色体の断片ではなく、むしろ、遺伝子と関連付けられるコード領域および調節領域を含むが、染色体において天然に見出される追加の遺伝子を含まない。
【0042】
「単離された」という用語は、細胞物質、ウイルス物質および/または培養培地(組換えDNA技法によって産生された場合)または化学前駆体もしくは他の化学物質(化学合成された場合)を実質的に含まない核酸、ヌクレオチド配列またはポリペプチドを意味し得る。さらに、「単離された断片」とは、断片として天然に存在せず、天然状態で見出されない核酸、ヌクレオチド配列またはポリペプチドの断片である。「単離された」とは、調製物が技術的に純粋(均一)であることを意味しないが、調製物は、それが意図された目的に使用され得る形態においてポリペプチドまたは核酸を提供するのに十分に純粋である。
【0043】
「単離された細胞」とは、それがその天然状態において通常関連する他の構成成分から分離された細胞を指す。例えば、単離された細胞とは、培養培地中の細胞および/または本発明の薬学的に許容される担体中の細胞であり得る。したがって、単離された細胞は、対象に送達および/または導入され得る。一部の実施形態において、単離された細胞は、対象から除去され、エクスビボで本明細書で説明されるように操作され、その後対象へ戻される細胞であり得る。
【0044】
「断片」という用語は、ポリヌクレオチドに適用される場合、参照核酸またはヌクレオチド配列と比較して長さが減縮しており、参照核酸またはヌクレオチド配列と同一のまたはほとんど同一の(例えば、90%、92%、95%、98%、99%同一の)連続ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む、から本質的になる、および/またはからなるヌクレオチド配列を意味すると理解されるだろう。本発明によるそのような核酸断片は、適切な場合、それが構成要素であるより大きなポリヌクレオチドに含まれ得る。一部の実施形態において、そのような断片は、少なくとも約8、10、12、15、20、25、30、35、40、45、50、75、100、150、200個またはそれ以上の連続ヌクレオチドの長さの本発明による核酸またはヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドを含み、から本質的になり、および/またはからなり得る。
【0045】
「断片」という用語は、ポリペプチドに適用される場合、参照ポリペプチドまたはアミノ酸配列と比較して長さが減縮しており、参照ポリペプチドまたはアミノ酸配列と同一のまたはほとんど同一の(例えば、90%、92%、95%、98%、99%同一の)連続アミノ酸のアミノ酸配列を含む、から本質的になる、および/またはからなるアミノ酸配列を意味すると理解されるだろう。本発明によるそのようなポリペプチド断片は、適切な場合、それが構成要素であるより大きなポリペプチドに含まれ得る。一部の実施形態において、そのような断片は、少なくとも約4、6、8、10、12、15、20、25、30、35、40、45、50、75、100、150、200個またはそれ以上の連続アミノ酸の長さの本発明によるポリペプチドまたはアミノ酸配列を有するペプチドを含み、から本質的になり、および/またはからなり得る。
【0046】
「ベクター」とは、核酸のクローニングおよび/または核酸の細胞への移行のための任意の核酸分子である。ベクターは、別のヌクレオチド配列が結合されて、結合したヌクレオチド配列の複製を可能にし得るレプリコンであり得る。「レプリコン」とは、インビボで核酸複製の自律的単位として機能する、すなわち、それ自体の制御下で複製することができる任意の遺伝子エレメント(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルスゲノム)であり得る。「ベクター」という用語は、インビトロ、エクスビボおよび/またはインビボで核酸を細胞へ導入するためのウイルスおよび非ウイルス(例えばプラスミド)核酸分子の両方を含む。当該技術分野において公知の多数のベクターを使用して、核酸を操作したり、応答エレメントおよびプロモーターを遺伝子へ組み込みこんだりすることなどができる。例えば、応答エレメントおよびプロモーターに対応する核酸断片の、好適なベクターへの挿入は、適切な核酸断片を、相補的付着端を有する選択されたベクターへライゲートすることによって達成することができる。あるいは、核酸分子の末端を酵素改変してもよく、またはヌクレオチド配列(リンカー)を核酸末端へライゲートすることによって任意の部位を産生してもよい。そのようなベクターは、ベクターを含有し、および/またはベクターの核酸を細胞ゲノムへ組み込んだ細胞の選択を提供する選択可能なマーカーをコードする配列を含有するように操作してもよい。そのようなマーカーは、マーカーによってコードされるタンパク質を組み込み、発現する宿主細胞の特定および/または選択を可能にする。「組換え」ベクターとは、1つまたは複数の異種のヌクレオチド配列(すなわち、導入遺伝子)、例えば、2、3、4、5つまたはそれ以上の異種のヌクレオチド配列を含むウイルスまたは非ウイルスベクターを指す。
【0047】
ウイルスベクターは、細胞および生存している動物対象における多様な遺伝子送達アプリケーションにおいて使用されている。使用され得るウイルスベクターには、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス、アルファウイルス、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、エプスタイン・バーウイルスおよび/またはアデノウイルスベクターが含まれるが、これらに限定されない。非ウイルスベクターには、プラスミド、リポソーム、帯電脂質(サイトフェクチン(cytofectin))、核酸-タンパク質複合体およびバイオポリマーが含まれるが、これらに限定されない。目的の核酸に加えて、また、ベクターは、1つまたは複数の調節領域、ならびに/または選択、測定および核酸移行結果(特定の組織への送達、発現の持続期間など)のモニタリングに有用な選択可能なマーカーを含み得る。
【0048】
ベクターは、当該技術分野において公知の方法、例えば、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、形質導入、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション(リソソーム融合)、遺伝子銃の使用または核酸ベクタートランスポーターによって所望の細胞へ導入され得る(例えば、Wu et al.,J.Biol.Chem.267:963(1992);Wu et al.,J.Biol.Chem.263:14621(1988);およびHartmutら、1990年3月15日出願のカナダ特許出願第2,012,311号を参照されたい)。
【0049】
一部の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、リポフェクションによってインビボで細胞へ送達され得る。リポソーム媒介トランスフェクションで遭遇される困難および危険を制限するように設計された合成カチオン性脂質を使用して、本発明のヌクレオチド配列のインビボトランスフェクションのためのリポソームを調製することができる(Felgner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413(1987);Mackey,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:8027(1988);およびUlmer et al.,Science 259:1745(1993))。カチオン性脂質の使用は、負帯電核酸の被包を促進し、また、負帯電細胞膜との融合を促進し得る(Felgner et al.,Science 337:387(1989))。核酸の移行に特に有用な脂質化合物および組成物は、国際特許公開公報WO第95/18863号およびWO第96/17823号において、ならびに米国特許第5,459,127号において説明されている。外因性ヌクレオチド配列をインビボで特定の器官へ導入するためのリポフェクションの使用は、ある特定の実用的な利点を有する。リポソームの特定の細胞への分子ターゲティングは、ある範囲の利点を示す。トランスフェクションを特定の細胞種へ方向付けることは、膵臓、肝臓、腎臓および脳などの細胞異種性を有する組織において特に好ましい場合があることは明らかである。脂質は、ターゲティングの目的のために他の分子に化学的にカップリングされ得る(Mackey,et al.,1988、上記)。標的化されたペプチド、例えばホルモンもしくは神経伝達物質、および抗体などのタンパク質、または非ペプチド分子は、リポソームに化学的にカップリングされ得る。
【0050】
様々な実施形態において、カチオン性オリゴペプチド(例えばWO95/21931)、核酸結合タンパク質に由来するペプチド(例えばWO96/25508)および/またはカチオン性ポリマー(例えばWO95/21931)などの他の分子は、インビボでの核酸の送達を促進するために使用することができる。
【0051】
また、インビボでネイキッド核酸としてベクターを導入することが可能である(米国特許第5,693,622号、同第5,589,466号および同第5,580,859号を参照されたい)。また、受容体媒介核酸送達手法を使用してもよい(Curiel et al.,Hum.Gene Ther.3:147(1992);Wu et al.,J.Biol.Chem.262:4429(1987))。
【0052】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は、別に示されない限り、互換的に使用され、ペプチドおよびタンパク質の両方を包含する。
【0053】
「融合タンパク質」とは、天然において共に融合されていることが見出されない2つの(またはそれ以上の)異なるポリペプチドをコードする2つの異種のヌクレオチド配列またはその断片が、正しい翻訳リーディングフレームにおいて共に融合されている場合に産生されるポリペプチドである。例示的な融合ポリペプチドは、本発明のポリペプチド(またはその断片)の、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、またはレポータータンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、β-グルクロニダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなど)、ヘマグルチニン、c-myc、FLAGエピトープなどのすべてまたは部分への融合を含む。
【0054】
ポリヌクレオチドコード配列「を発現する」またはポリヌクレオチドコード配列の「発現」という用語によって、配列が転写され、場合により翻訳されることを意味する。典型的に、本発明により、本発明のコード配列の発現は、本発明のポリペプチドの産生をもたらす。また、発現されるポリペプチド全体または断片は、精製なしでインタクトな細胞において機能することができる。
【0055】
本明細書で使用される場合、「遺伝子」という用語は、mRNA、アンチセンスRNA、miRNAなどを産生するために使用することができる核酸分子を指す。遺伝子は、機能タンパク質を産生するために使用することが可能であっても、そうでなくてもよい。遺伝子は、コード領域ならびに非コード領域(例えば、イントロン、調節エレメント、プロモーター、エンハンサー、停止配列ならびに5’および3’非翻訳領域)の両方を含み得る。遺伝子は、「単離され」ていてもよく、これによって、その天然状態において核酸と関連して通常見出される構成成分を実質的にまたは本質的に含有しない核酸を意味する。そのような構成成分は、他の細胞物質、組換え産生からの培養培地、および/または核酸の化学合成において使用された様々な化学物質を含む。
【0056】
本明細書で使用される場合、「相補的」ポリヌクレオチドは、標準のワトソン・クリック相補規則に従って塩基対形成することができるポリヌクレオチドである。特に、プリンはピリミジンと塩基対形成して、シトシンと対形成したグアニン(G:C)と、DNAの場合チミンと対形成したアデニン(A:T)、またはRNAの場合ウラシルと対形成したアデニン(A:U)との組合せを形成する。例えば、配列「A-G-T」は、相補配列「T-C-A」に結合する。2つのポリヌクレオチドが互いに完全に相補的でない場合でさえも、各々が他方に実質的に相補的な少なくとも1つの領域を有する限り、それらは互いにハイブリダイズし得ることが理解される。
【0057】
「相補的」または「相補性」という用語は、本明細書で使用される場合、塩基対形成による、許容される塩および温度条件下でのポリヌクレオチドの天然結合を指す。2つの一本鎖分子間の相補性は、ヌクレオチドの一部のみが結合する「部分的」であってもよく、または完全な相補性が一本鎖分子間に存在する場合、相補性は完全であり得る。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率および強度に顕著な効果を有する。
【0058】
本明細書で使用される場合、「実質的に相補的な」または「部分的に相補的な」という用語は、2つの核酸配列が、それらのヌクレオチドの少なくとも約50%、60%、70%、80%または90%相補的であることを意味する。一部の実施形態において、2つの核酸配列は、それらのヌクレオチドの少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上相補的であり得る。また、「実質的に相補的な」および「部分的に相補的な」という用語は、2つの核酸配列が、高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズすることができることを意味する場合があり、そのような条件は当該技術分野において周知である。
【0059】
本明細書で使用される場合、「異種の」とは、別の種が起源であるか、または同じ種もしくは生物が起源であるが、その元の形態もしくは細胞において主に発現される形態から改変されている核酸配列を指す。したがって、ヌクレオチド配列が導入される細胞の生物または種とは異なる生物または種に由来するヌクレオチド配列は、その細胞および細胞の子孫について異種である。加えて、異種のヌクレオチド配列は、同じ天然の元の細胞種に由来し、それに挿入されるが、非天然状態、例えば天然に見出されるコピー数とは異なるコピー数において、および/または天然に見出される調節配列とは異なる調節配列の制御下で存在するヌクレオチド配列を含む。
【0060】
本明細書で使用される場合、「接触させる」、「導入する」および「投与する」という用語は、互換的に使用され、標的遺伝子の発現を阻害または変更もしくは改変するために本発明のdsRNAまたは本発明のdsRNAをコードする核酸分子が細胞に送達されるプロセスを指す。dsRNAは、非限定的に、細胞への(すなわち、細胞内への)直接導入および/または生物の腔、間質腔への、もしくは循環中への細胞外導入を含むいくつかの方法において投与することができる。
【0061】
細胞または生物の文脈における「導入する」とは、核酸分子が細胞の内部へアクセスすることができるような様式で核酸分子を生物および/または細胞へ提示することを意味する。2つ以上の核酸分子が導入される予定である場合、これらの核酸分子は、単一のポリヌクレオチドまたは核酸構築物の部分としてアセンブルしても、別々のポリヌクレオチドまたは核酸構築物としてアセンブルしてもよく、同じ核酸構築物に位置しても、異なる核酸構築物に位置してもよい。したがって、これらのポリヌクレオチドは、単一の形質転換事象において細胞に導入しても、別々の形質転換事象において細胞に導入してもよい。したがって、「形質転換」という用語は、本明細書で使用される場合、異種の核酸の、細胞への導入を指す。細胞の形質転換は、安定性または一過性であり得る。
【0062】
ポリヌクレオチドの文脈における「一過性形質転換」とは、ポリヌクレオチドが細胞に導入され、細胞のゲノムへ組み込まれないことを意味する。
【0063】
細胞へ導入されるポリヌクレオチドの文脈における「安定に導入する」または「安定に導入された」によって、導入されたポリヌクレオチドが細胞のゲノムへ安定に組み込まれ、したがって、細胞がポリヌクレオチドにより安定に形質転換されることを意図する。
【0064】
「安定な形質転換」または「安定に形質転換された」とは、本明細書で使用される場合、核酸分子が、細胞へ導入され、細胞のゲノムへ組み込まれることを意味する。そのため、組み込まれた核酸分子は、その後代によって、より特に、多数の逐次的世代の後代によって受け継がれることが可能である。「ゲノム」とは、本明細書で使用される場合、核およびミトコンドリアゲノムを含み、それゆえ、核酸の、例えばミトコンドリアゲノムへの、組込みを含む。また、安定な形質転換は、本明細書で使用される場合、染色体外で、例えばミニ染色体として維持される導入遺伝子を指し得る。
【0065】
一過性形質転換は、例えば、生物へ導入された1つまたは複数の導入遺伝子によってコードされるペプチドまたはポリペプチドの存在を検出し得る酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)またはウェスタンブロットによって検出され得る。細胞の好適な形質転換は、例えば、生物へ導入された導入遺伝子のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズする核酸配列による、細胞のゲノムDNAのサザンブロットハイブリダイゼーションアッセイによって検出することができる。細胞の安定な形質転換は、例えば、生物へ導入された導入遺伝子のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズする核酸配列による、細胞のRNAのノザンブロットハイブリダイゼーションアッセイによって検出することができる。また、細胞の安定な形質転換は、例えば、導入遺伝子の標的配列(単数または複数)とハイブリダイズする特異的プライマー配列を用いて導入遺伝子配列の増幅をもたらし、それが標準法に従って検出され得る、当該技術分野において周知であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または他の増幅反応によって検出することができる。また、形質転換は、当該技術分野において周知の直接的シークエンシングおよび/またはハイブリダイゼーションプロトコールによって検出することができる。
【0066】
本発明の実施形態は、本発明の核酸を発現するように設計された発現カセットを対象とする。本明細書で使用される場合、「発現カセット」とは、目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結された少なくとも1つの制御配列を有する核酸分子を意味する。この様式において、例えば、本発明のsiRNAについてのヌクレオチド配列と作動可能に相互作用するプロモーターは、生物または細胞における発現のための発現カセットにおいて提供される。
【0067】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」という用語は、コード配列の効率的な発現に必要なシグナルを組み込んでいるヌクレオチド配列の領域を指す。これは、RNAポリメラーゼが結合する配列を含み得るが、そのような配列に限定されず、他の調節タンパク質が結合する領域、およびタンパク質翻訳の制御に関与する領域を含む場合があり、また、コード配列を含み得る。
【0068】
さらに、本発明の「プロモーター」は、生物の細胞において転写を開始することができるプロモーターである。そのようなプロモーターは、ヌクレオチド配列の発現を構成的に駆動するプロモーター、誘導されたとき発現を駆動するプロモーター、および組織特異的または発達特異的様式で発現を駆動するプロモーターを含み、これらの様々な種類のプロモーターは、当該技術分野において公知である。
【0069】
本発明の目的のために、調節領域(すなわち、プロモーター、転写調節領域および翻訳停止領域)は、生物もしくは細胞にとってネイティブ/アナログである場合があり、かつ/または調節領域は、他の調節領域にとってネイティブ/アナログである場合がある。あるいは、調節領域は、生物もしくは細胞にとって、および/または互いに(すなわち、調節領域にとって)異種であってもよい。したがって、例えば、プロモーターが、ポリヌクレオチドが由来する種とは異なる種からのポリヌクレオチドに作動可能に連結されている場合、プロモーターは異種であり得る。あるいは、また、プロモーターが、ポリヌクレオチドが由来する種と同じ/類似する種からのプロモーターであるが、1つもしくは両方(すなわち、プロモーターおよびポリヌクレオチド)がそれらの元の形態および/もしくはゲノム遺伝子座から実質的に改変されているか、またはプロモーターが、作動可能に連結されたポリヌクレオチドについてネイティブプロモーターではない場合、プロモーターは、選択されたヌクレオチド配列にとって異種であり得る。
【0070】
使用するプロモーターの選択は、非限定的に、細胞特異的または組織特異的発現、所望の発現レベル、効率、誘導可能性および選択可能性を含むいくつかの因子に依存する。例えば、特異的組織または器官における発現が所望される場合、組織特異的プロモーターを使用することができる。対照的に、刺激に応答した発現が所望される場合、誘導性プロモーターを使用することができる。生物の細胞全体を通した連続的発現が所望される場合、構成的プロモーターを使用することができる。ヌクレオチド配列に対してプロモーターおよび他の調節領域を適切に選択および位置付けることによって、ヌクレオチド配列の発現をモジュレートすることは当業者にとってルーチン事項である。
【0071】
上記に説明されるプロモーターに加えて、また、発現カセットが、他の調節配列を含む場合がある。本明細書で使用される場合、「調節配列」とは、コード配列の上流(5’非コード配列)、中または下流(3’非コード配列)に位置し、転写、RNAプロセッシングもしくは安定性、または関連するコード配列の翻訳に影響を及ぼすヌクレオチド配列を意味する。調節配列には、エンハンサー、イントロン、翻訳リーダー配列およびポリアデニル化シグナル配列が含まれるが、これらに限定されない。
【0072】
また、発現カセットは、生物において機能的である転写および/または翻訳停止領域(すなわち、停止領域)を場合により含み得る。様々な転写ターミネーターは、発現カセットにおける使用に使用可能であり、導入遺伝子を過ぎたところでの転写停止、および正確なmRNAポリアデニル化の要因である。停止領域は、転写開始領域にとってネイティブであってもよく、作動可能に連結された目的のヌクレオチド配列にとってネイティブであってもよく、宿主にとってネイティブであってもよく、別の供給源に由来してもよい(すなわち、プロモーター、目的のヌクレオチド配列、宿主またはそれらの任意の組合せにとって外来性または異種)。
【0073】
シグナル配列は、ヌクレオチド配列を細胞区画へと方向付けるために、本発明の核酸に作動可能に連結され得る。この様式において、発現カセットは、シグナル配列についての核酸配列に作動可能に連結された、siRNAをコードするヌクレオチド配列を含む。シグナル配列は、siRNAのNまたはC末端において作動可能に連結され得る。
【0074】
使用される調節配列(単数または複数)の種類にかかわらず、それらは、siRNAのヌクレオチド配列に作動可能に連結され得る。本明細書で使用される場合、「作動可能に連結される」とは、発現カセットなどの核酸構築物のエレメントがそれらの通常の機能を行うように構成されることを意味する。したがって、目的のヌクレオチド配列に作動可能に連結された調節または制御配列(例えばプロモーター)は、目的のヌクレオチド配列の発現に影響を及ぼすことができる。制御配列が目的のヌクレオチド配列の発現を方向付けるように機能する限り、制御配列は目的のヌクレオチド配列と隣接している必要はない。したがって、例えば、介在性の、翻訳されないが転写される配列が、プロモーターとコード配列との間に存在する場合があり、それでもプロモーター配列は、コード配列に「作動可能に連結されている」と考えることができる。本発明のヌクレオチド配列(すなわち、siRNA)は、調節配列に作動可能に連結され、これによって、細胞および/または対象においてその発現を可能にし得る。
【0075】
また、発現カセットは、形質転換された生物または細胞を選択するために使用することができる選択可能なマーカーについてのヌクレオチド配列を含み得る。本明細書で使用される場合、「選択可能なマーカー」とは、発現された場合、マーカーを発現する生物または細胞に明確な表現型を与え、したがって、そのような形質転換された生物または細胞がマーカーを有しない生物または細胞から区別されることを可能する核酸を意味する。そのような核酸は、マーカーが、化学的手段によって、例えば選択剤(例えば抗生物質その他)を使用することによって選択され得る特質を与えるかどうかによって、またはマーカーが単純に観察もしくはスクリーニングによる試験などの試験を通して特定することができる特質であるかどうかによって、選択可能なマーカーまたはスクリーニング可能なマーカーのいずれかをコードしてもよい(もちろん、好適な選択可能なマーカーの多くの例は、当該技術分野において公知であり、本明細書で説明される発現カセットにおいて使用することができる)。
【0076】
本発明の一部の実施形態において、発現カセットは、dsRNAの一方または両方の鎖の鋳型であるヌクレオチド配列に作動可能に連結された発現制御配列を含み得る。さらなる実施形態において、プロモーターは、鋳型ヌクレオチド配列のいずれかの末端に隣接してもよく、ここで、プロモーターは、各個々のDNA鎖の発現を駆動し、これによって、ハイブリダイズしてdsRNAを形成する2つの相補的(または実質的に相補的な)RNAを生成する。代替の実施形態において、ヌクレオチド配列は、1つの転写ユニットにおいてdsRNAの両方の鎖へ転写され、ここで、センス鎖は転写ユニットの5’末端から転写され、アンチセンス鎖は3’末端から転写され、2つの鎖は約3~約500塩基対離れており、転写後にRNA転写産物はそれ自体で折り畳んで低分子ヘアピン型RNA(shRNA)分子を形成する。
【0077】
本明細書で使用される場合、「配列同一性」とは、2つの最適に整列したポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列が、構成成分、例えばヌクレオチドまたはアミノ酸の整列ウィンドウ全体を通して不変である、程度を指す。「同一性」は、非限定的に、Computational Molecular Biology(Lesk,A.M.,ed.) Oxford University Press,New York(1988);Biocomputing:Informatics and Genome Projects(Smith,D.W.,ed.) Academic Press,New York(1993);Computer Analysis of Sequence Data,Part I(Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.) Humana Press,New Jersey(1994);Sequence Analysis in Molecular Biology(von Heinje,G.,ed.) Academic Press(1987);およびSequence Analysis Primer(Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.) Stockton Press,New York(1991)において説明される方法を含む公知の方法によって容易に計算することができる。
【0078】
本明細書で使用される場合、「実質的に同一の」または「に対応する」という用語は、2つの核酸配列が少なくとも60%、70%、80%または90%の配列同一性を有することを意味する。一部の実施形態において、2つの核酸配列は、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有し得る。
【0079】
試験配列および参照配列の整列したセグメントについての「同一性分率」は、2つの整列した配列によって共有される同一の構成成分の数を、参照配列セグメント、すなわち、参照配列全体または参照配列のより小さい規定された部分における構成成分の総数で割った数である。
【0080】
本明細書で使用される場合、「配列同一性パーセント」または「同一性パーセント」という用語は、2つの配列が最適に整列された場合(合計が比較ウィンドウにわたり参照配列の20%未満である適切なヌクレオチド挿入、欠失またはギャップを伴って)、試験(「サブジェクト」)ポリヌクレオチド分子(またはその相補鎖)と比較した、参照(「クエリー」)ポリヌクレオチド分子(またはその相補鎖)の直鎖状ポリヌクレオチド配列における同一のヌクレオチドの割合を指す。一部の実施形態において、「同一性パーセント」とは、アミノ酸配列における同一のアミノ酸の割合を指す場合がある。
【0081】
比較ウィンドウを整列させるための配列の最適整列は、当業者に周知であり、SmithおよびWatermanのローカルホモロジーアルゴリズム、NeedlemanおよびWunschのホモロジー整列アルゴリズム、PearsonおよびLipmanの類似性検索法などのツールによって、ならびに場合によりGCG(登録商標)Wisconsin Package(登録商標)(Accelrys Inc.、Burlington、Mass.)の部分として使用可能なGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTAなどのこれらのアルゴリズムの電算実行によって行うことができる。配列同一性パーセントは、同一性分率に100を掛けたものとして表される。1つまたは複数のポリヌクレオチド配列の比較は、全長ポリヌクレオチド配列もしくはその部分に対して、またはより長いポリヌクレオチド配列に対しての比較であり得る。また、本発明の目的のために、「同一性パーセント」は、翻訳されたヌクレオチド配列についてBLASTX 2.0版、およびポリヌクレオチド配列についてBLASTN 2.0版を使用して決定することができる。
【0082】
配列同一性のパーセントは、Sequence Analysis Software Package(商標)(10版;Genetics Computer Group,Inc.、Madison、Wis.)の「Best Fit」または「Gap」プログラムを使用して決定することができる。「Gap」は、NeedlemanおよびWunschのアルゴリズム(Needleman and Wunsch,J Mol.Biol.48:443-453,1970)を利用して、マッチ数を最大限にし、ギャップ数を最小限にする2つの配列の整列を見出す。「Best Fit」は、SmithおよびWatermanのローカルホモロジーアルゴリズム(Smith and Waterman,Adv.Appl.Math.,2:482-489,1981、Smith et al.,Nucleic Acids Res.11:2205-2220,1983)を使用して、2つの配列間の最も類似性の高いセグメントの最適整列を行い、マッチ数を最大限にするようにギャップを挿入する。
【0083】
また、配列同一性を決定するための有用な方法は、Guide to Huge Computers(Martin J.Bishop,ed.,Academic Press, San Diego(1994))およびCarillo,H.,and Lipton,D.,(Applied Math 48:1073(1988))において開示されている。より特には、配列同一性を決定するために好ましいコンピュータープログラムには、米国国立衛生研究所(Bethesda、Md.20894)の国立医学図書館の国立生物工学情報センター(NCBI)から公に利用可能なBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)プログラムが含まれるが、これらに限定されず;BLAST Manual,Altschul et al.,NCBI,NLM,NIH;(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990))を参照されたく;BLASTプログラムの2.0版またはそれ以降の版は、整列へのギャップ(欠失または挿入)の導入を可能にし;ペプチド配列については、BLASTXを使用して、配列同一性を決定することができ;ポリヌクレオチド配列については、BLASTNを使用して、配列同一性を決定することができる。
【0084】
本明細書で使用される場合、「RNAi」または「RNA干渉」とは、二本鎖RNA(dsRNA)によって媒介される、配列特異的転写後遺伝子サイレンシングのプロセスを指す。本明細書で使用される場合、「dsRNA」とは、部分的にまたは完全に二本鎖であるRNAを指す。また、二本鎖RNAは、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子干渉核酸(siNA)、マイクロRNA(miRNA)などと称される。RNAiプロセスにおいて、標的遺伝子の一部に相補的な第1の(アンチセンス)鎖、および第1のアンチセンス鎖に完全にまたは部分的に相補的な第2の(センス)鎖を含むdsRNAが、生物に導入される。生物への導入後、標的遺伝子特異的dsRNAは、比較的小さい断片にプロセスされ(siRNA)、次に生物全体を通して分布するようになり、1世代の期間にわたり、標的遺伝子の完全なまたは部分的な欠失から生ずる表現型と酷似するようになり得る表現型を有する機能欠損突然変異をもたらし得る。
【0085】
マイクロRNA(miRNA)は、一般的に長さが約18~約25ヌクレオチドの、非タンパク質コードRNAである。これらのmiRNAは、標的転写産物のtransにおいて切断を指示し、様々な調節および発達経路に関与する遺伝子の発現を負に調節する(Bartel,Cell,116:281-297(2004);Zhang et al.Dev.Biol.289:3-16(2006))。そのため、miRNAは、成長および発達の様々な態様、ならびにシグナル伝達およびタンパク質分解に関与することが示されている。最初のmiRNAが植物において発見されて以来(Reinhart et al.Genes Dev.16:1616-1626(2002)、Park et al.Curr.Biol.12:1484-1495(2002))、何百も特定されている。多くのマイクロRNA遺伝子(MIR遺伝子)が特定されており、データベースにおいて公に使用可能になっている(miRBase;microrna.sanger.ac.uk/sequences)。また、miRNAは、米国特許公開公報第2005/0120415号および同第2005/144669A1号において説明されており、当該公開公報の全内容が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0086】
miRNAをコードする遺伝子は、不完全なステム-ループ構造を形成し得る長さが70~300bpのプライマリーmiRNA(「pri-miRNA」と称される)を産生する。単一のpri-miRNAは、1つ~いくつかのmiRNA前駆体を含有し得る。動物において、pri-miRNAは、核内でRNアーゼIII酵素ドローシャおよびそのコファクターDGCR8/Pashaによって約65ntのより短いヘアピン型RNA(pre-miRNA)にプロセスされる。その後、pre-miRNAは細胞質へエクスポートされ、そこで、それは別のRNアーゼIII酵素Dicerによってさらにプロセスされ、サイズが約22ntのmiRNA/miRNA*二本鎖を放出する。マイクロRNA生物発生および機能についての多くの概要は入手可能であり、例えば、Bartel Cell 116:281-297(2004)、Murchison et al.Curr.Opin.Cell Biol.16:223-229(2004)、Dugas et al.Curr.Opin.Plant Biol.7:512-520(2004)およびKim Nature Rev.Mol.Cell Biol.6:376-385(2005)を参照されたい。
【0087】
<RNA分子>
本発明は、WT-KRASの発現を温存しながら突然変異体KRAS配列の発現を阻害するRNA分子の特定に基づく。したがって、本発明の一態様は、アンチセンス鎖およびセンス鎖を含む二本鎖RNA分子であって、アンチセンス鎖のヌクレオチド配列が、約18~約25個の連続ヌクレオチドから本質的になる領域である、ミスセンス突然変異G12C、G12DおよびG13D、またはミスセンス突然変異G12C、G12VおよびG13Dを含有する合成ヒトKRAS遺伝子のヌクレオチド配列の領域に相補的であり、二本鎖RNA分子が、ミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子の発現を阻害し、野生型ヒトKRASの発現を最小限に阻害する、二本鎖RNA分子に関する。RNA分子によって標的化されるKRAS遺伝子の領域は、残基12および13をコードするヌクレオチドを含む。RNA分子は、細胞の野生型種(例えば、対照細胞または非形質転換細胞)と比較して、細胞において突然変異体KRASの発現の減少を提供する。一部の実施形態において、突然変異体KRASの発現は、少なくとも約50%、例えば少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれ以上阻害される。
【0088】
ミスセンス突然変異G12C、G12DおよびG13D、またはミスセンス突然変異G12C、G12VおよびG13Dを含有するヒトKRAS遺伝子は、天然に存在しない。そのような人工的な遺伝子配列の領域の例には、配列番号37および38が含まれ、対応するWT-KRAS配列(配列番号39)と比較した突然変異を下線で示す。
配列番号37
ACTGAATATAAACTTGTGGTAGTTGGAGCTTATGACGTAGGCAAGAGTGCCTTGACGATACAG
配列番号38
ACTGAATATAAACTTGTGGTAGTTGGAGCTTTTGACGTAGGCAAGAGTGCCTTGACGATACAG
配列番号39
ACTGAATATAAACTTGTGGTAGTTGGAGCTGGTGGCGTAGGCAAGAGTGCCTTGACGATACAG
【0089】
二本鎖RNA分子は、約18~約25個のヌクレオチド(例えば、18、19、20、21、22、23、24もしくは25個またはその中の任意の範囲)を含むか、から本質的になるか、またはからなり得る。追加のヌクレオチドを、3’末端、5’末端、または3’および5’末端の両方に付加して、RNA分子の操作を促進することができるが、それは、RNA干渉(RNAi)における二本鎖RNA分子の基本的特徴または機能に実質的に影響を及ぼさない。加えて、1つまたは2つのヌクレオチドを、本明細書で開示される配列のうちのいずれかの1つの末端または両方の末端から欠失してもよく、それは、RNAiにおける二本鎖RNA分子の基本的特徴または機能に実質的に影響を及ぼさない。「実質的に影響を及ぼす」という用語は、本明細書で使用される場合、mRNAによってコードされるタンパク質(例えばWT-KRAS)の発現を、約50%以下、例えば約50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%以下またはそれ未満だけ阻害する能力における変化を指す。そのような追加のヌクレオチドは、当業者に公知であり得る通り、標的配列に沿ってアンチセンス鎖の相補性を延長するヌクレオチドであってもよく、かつ/またはそのようなヌクレオチドは、RNA分子もしくはRNA分子をコードする核酸分子の操作を促進するヌクレオチドであってもよい。例えば、3’末端のTTオーバーハングが存在してもよく、これは、siRNA二本鎖を安定化させるために使用され、siRNAの特異性に影響を及ぼさない。
【0090】
本発明のdsRNAは、いずれかの末端または両方の末端において一本鎖オーバーハングを場合により含み得る。二本鎖構造は、単一の自己相補性RNA鎖(すなわち、ヘアピンループを形成する)によって形成してもよく、2つの相補性RNA鎖によって形成してもよい。RNA二本鎖形成は、細胞の内側または外側のいずれかで開始され得る。本発明のdsRNAがヘアピンループを形成する場合、それは、細胞においてヘアピン配列を安定化させるための、相補性RNA鎖間のヌクレオチドの範囲であるイントロンおよび/またはヌクレオチドスペーサーを場合により含み得る。RNAは、1細胞当たり少なくとも1つのコピーの送達を可能にする量で導入され得る。より高用量の二本鎖材料は、より有効な阻害を産生し得る。
【0091】
特定の実施形態において、本発明は、阻害のための標的遺伝子の領域に完全に相補的なヌクレオチド配列を含有する二本鎖RNAを提供する。しかしながら、二本鎖RNA分子のアンチセンス鎖と標的配列との間の100%の相補性は、本発明を実施するために必要とされないことを理解すべきである。したがって、遺伝子突然変異、株多型性または進化分岐のために予測され得る配列変動は、許容され得る。標的配列と比較して挿入、欠失および単一の点突然変異を有するRNA配列もまた、阻害に有効であり得る。
【0092】
ある特定の実施形態において、RNA分子がWT-KRASを標的とせず、WT-KRASの発現を最小限にしか阻害しないように、アンチセンス鎖のヌクレオチド配列は、野生型ヒトKRASのヌクレオチド配列との少なくとも3つのミスマッチを含有する。本明細書で使用される場合、「発現を最小限に阻害する」とは、mRNAによってコードされるタンパク質(例えばWT-KRAS)の発現が、約50%以下、例えば約50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%以下またはそれ未満だけ阻害されることを意味する。
【0093】
ある特定の実施形態において、アンチセンス鎖のヌクレオチド配列は、ミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子のヌクレオチド配列との2つ以下のミスマッチを含有する。一部の実施形態において、アンチセンス鎖のヌクレオチド配列は、野生型ヒトKRASのヌクレオチド配列との少なくとも3つのミスマッチを含有し、かつミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子のヌクレオチド配列との2つ以下のミスマッチを含有する。
【0094】
一部の実施形態において、センス鎖のヌクレオチド配列は、配列番号1~9のうちのいずれかのヌクレオチド配列と少なくとも約80%同一である、例えば配列番号1~9のうちのいずれかのヌクレオチド配列と少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であるヌクレオチド配列を含む。一部の実施形態において、センス鎖のヌクレオチド配列は、配列番号1~9のうちのいずれかのヌクレオチド配列を含むか、から本質的になるか、またはからなる。
配列番号1 GAGCUUAUGACGUAGGCAA
配列番号2 AGUUGGAGCUUAUGACGUA
配列番号3 GGUAGUUGGAGCUUAUGAC
配列番号4 GUAGUUGGAGCUUAUGACG
配列番号5 UAGUUGGAGCUUAUGACGU
配列番号6 GUUGGAGCUUAUGACGUAG
配列番号7 UUGGAGCUUAUGACGUAGG
配列番号8 UGGAGCUUAUGACGUAGGC
配列番号9 GGAGCUUAUGACGUAGGCA
【0095】
一部の実施形態において、アンチセンス鎖のヌクレオチド配列は、配列番号19~27のうちのいずれかのヌクレオチド配列と少なくとも約80%同一である、例えば配列番号19~27のうちのいずれかのヌクレオチド配列と少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であるヌクレオチド配列を含む。一部の実施形態において、アンチセンス鎖のヌクレオチド配列は、配列番号19~27のうちのいずれかのヌクレオチド配列を含むか、から本質的になるか、またはからなる。
配列番号19 UUGCCUACGUCAUAAGCUC
配列番号20 UACGUCAUAAGCUCCAACU
配列番号21 GUCAUAAGCUCCAACUACC
配列番号22 CGUCAUAAGCUCCAACUAC
配列番号23 ACGUCAUAAGCUCCAACUA
配列番号24 CUACGUCAUAAGCUCCAAC
配列番号25 CCUACGUCAUAAGCUCCAA
配列番号26 GCCUACGUCAUAAGCUCCA
配列番号27 UGCCUACGUCAUAAGCUCC
【0096】
一部の実施形態において、センス鎖およびアンチセンス鎖のうちの1つまたは両方は、3’末端においてTTオーバーハングを含む。したがって、一部の実施形態において、センス鎖は、配列番号10~18のうちのいずれかのヌクレオチド配列と少なくとも約80%同一である、例えば配列番号10~18のうちのいずれかのヌクレオチド配列と少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であるヌクレオチド配列を含む。一部の実施形態において、センス鎖のヌクレオチド配列は、配列番号10~18のうちのいずれかのヌクレオチド配列を含むか、から本質的になるか、またはからなる。
配列番号10 GAGCUUAUGACGUAGGCAAdTdT
配列番号11 AGUUGGAGCUUAUGACGUAdTdT
配列番号12 GGUAGUUGGAGCUUAUGACdTdT
配列番号13 GUAGUUGGAGCUUAUGACGdTdT
配列番号14 UAGUUGGAGCUUAUGACGUdTdT
配列番号15 GUUGGAGCUUAUGACGUAGdTdT
配列番号16 UUGGAGCUUAUGACGUAGGdTdT
配列番号17 UGGAGCUUAUGACGUAGGCdTdT
配列番号18 GGAGCUUAUGACGUAGGCAdTdT
【0097】
一部の実施形態において、アンチセンス鎖のヌクレオチド配列は、配列番号28~36のうちのいずれかのヌクレオチド配列と少なくとも約80%同一である、例えば配列番号28~36のうちのいずれかのヌクレオチド配列と少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であるヌクレオチド配列を含む。一部の実施形態において、アンチセンス鎖のヌクレオチド配列は、配列番号28~36のうちのいずれかのヌクレオチド配列を含むか、から本質的になるか、またはからなる。
配列番号28 UUGCCUACGUCAUAAGCUCdTdT
配列番号29 UACGUCAUAAGCUCCAACUdTdT
配列番号30 GUCAUAAGCUCCAACUACCdTdT
配列番号31 CGUCAUAAGCUCCAACUACdTdT
配列番号32 ACGUCAUAAGCUCCAACUAdTdT
配列番号33 CUACGUCAUAAGCUCCAACdTdT
配列番号34 CCUACGUCAUAAGCUCCAAdTdT
配列番号35 GCCUACGUCAUAAGCUCCAdTdT
配列番号36 UGCCUACGUCAUAAGCUCCdTdT
【0098】
本発明の一部の実施形態において、二本鎖RNA分子のセンス鎖は、アンチセンス鎖に完全に相補的であってもよく、またはセンス鎖は、アンチセンス鎖に実質的に相補的もしくは部分的に相補的であってもよい。実質的または部分的に相補的によって、センス鎖およびアンチセンス鎖が、約1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のヌクレオチド対形成においてミスマッチを有し得ることを意味する。そのようなミスマッチは、当業者に公知であり得る通り、センス鎖配列に、例えば3’末端付近に、導入して、Dicerによる二本鎖RNA分子のプロセッシングを向上させたり、本発明のキメラ核酸分子または人工マイクロRNA前駆体分子に挿入されたsiRNA分子においてミスマッチのパターンを複製したりすることができる。そのような改変は、二本鎖の1つの末端における塩基対形成を弱め、鎖不斉を生成し、それゆえ、センス鎖の代わりにアンチセンス鎖が、プロセスされ、意図する遺伝子をサイレンシングする機会を向上させる(Geng and Ding “Double-mismatched siRNAs enhance selective gene silencing of a mutant ALS-causing Allele1” Acta Pharmacol.Sin.29:211-216(2008);Schwarz et al. “Asymmetry in the assembly of the RNAi enzyme complex” Cell 115:199-208(2003))。
【0099】
本発明の二本鎖RNA分子は、当該技術分野において公知のいかなる種類のRNA干渉分子の形態であってもよい。一部の実施形態において、二本鎖RNA分子は、低分子干渉RNA(siRNA)分子である。他の実施形態において、二本鎖RNA分子は、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)分子である。他の実施形態において、二本鎖RNA分子は、マイクロRNA前駆体分子の部分である。
【0100】
<アンチセンスオリゴヌクレオチド>
本発明の一態様は、ミスセンス突然変異G12C、G12DおよびG13Dをコードする合成のヒトKRAS-mRNAへ標的としたアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)であって、長さが16~25ヌクレオチドであり、配列TCTTGCCTACGTCATA(配列番号114)を含むか、またはから本質的になる、ASOに関する。一部の実施形態において、ASOは、長さが16、17、18、19、20、21、22、23、24もしくは25ヌクレオチドまたはその中の任意の範囲である。一部の実施形態において、ASOは、長さが20、21または22ヌクレオチドである。一部の実施形態において、ASOは、長さが20ヌクレオチドである。ある特定の実施形態において、ASOにおける特定されていないヌクレオチドの少なくとも80%は、野生型ヒトKRAS遺伝子に、例えば少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%相補的である。ある特定の実施形態において、ASOにおける特定されていないヌクレオチドの少なくとも80%は、変異ヒトKRAS遺伝子に、例えば少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%相補的である。ある特定の実施形態において、ASOは、長さが17~25ヌクレオチドであり、配列CTCTTGCCTACGTCATA(配列番号121);長さが18~25ヌクレオチドであり、ACTCTTGCCTACGTCATA(配列番号122);または長さが19~25ヌクレオチドであり、CACTCTTGCCTACGTCATA(配列番号123)を含むか、またはから本質的になる。
【0101】
一部の実施形態において、ASOは、配列CACTCTTGCCTACGTCATAA(配列番号115)またはそれと少なくとも90%同一の、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%同一の配列を含むか、から本質的になるか、またはからなる。一部の実施形態において、ASOは、配列GCACTCTTGCCTACGTCATA(配列番号116)またはそれと少なくとも90%同一の、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%同一の配列を含むか、から本質的になるか、またはからなる。
【0102】
ASOは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチドまたはそれらの組合せからなり得る。
【0103】
一部の実施形態において、ASOは、少なくとも1つの非天然化学修飾を含む。ある特定の実施形態において、ヌクレオチド結合のうちの少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18または19個は、化学修飾されている。一部の実施形態において、ASOは、少なくとも1つのホスホロチオエート結合を含む。一部の実施形態において、ASOは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18または19個のホスホロチオエート結合を含む。一部の実施形態において、ASOは、ホスホロチオエート結合のみを含む(すべてホスホロチオエート結合である)。
【0104】
ある特定の実施形態において、ヌクレオチドのうちの少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18または19個は、化学修飾されている。一部の実施形態において、ASOは、5’末端および/または3’末端においてまたはその付近に、例えば5’末端および/または3’末端の5ヌクレオチド内に、少なくとも1つの修飾ヌクレオチド、例えば少なくとも1、2、3、4または5つの修飾ヌクレオチドを含む。一部の実施形態において、ASOは、5’末端および3’末端の各々において少なくとも3つの、例えば少なくとも4つまたは少なくとも5つの、修飾ヌクレオチドを含む。一部の実施形態において、修飾ヌクレオチドのうちの少なくとも1つは、2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)修飾ヌクレオチドである。一部の実施形態において、修飾ヌクレオチドのすべては、2’-MOE修飾ヌクレオチドである。一部の実施形態において、ASOは、5’末端および/または3’末端の各々において少なくとも3つの、例えば少なくとも4つまたは少なくとも5つの2’-MOE修飾ヌクレオチドを含む。
【0105】
一部の実施形態において、ASOは、
【化1】
から選択される配列を含むか、から本質的になるか、またはからなり、ここで、*は、ホスホロチオエート結合を示し、太字は、2’-MOE修飾ヌクレオチドを示す。一部の実施形態において、ASOは、配列番号68および配列番号69のうちの1つと少なくとも90%同一の、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、から本質的になるか、またはからなる。
【0106】
本発明の別の態様は、G12C、G12D、G12VおよびG13Dから選択される突然変異をコードする天然のヒトKRAS-mRNAへ標的化されたASOであって、長さが16~25ヌクレオチドであり、
a)G12C突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたTCTTGCCTACGCCACA(配列番号117)、
b)G12D突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたTCTTGCCTACGCCATC(配列番号118)、
c)G12V突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたTCTTGCCTACGCCAAC(配列番号119)、
d)G13D突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたTCTTGCCTACGTCACC(配列番号120)、または
e)a)~d)のいずれか1つと少なくとも90%同一の配列
から選択される配列を含むか、またはから本質的になり、アンチセンスオリゴヌクレオチドが、少なくとも1つの非天然化学修飾を含む、ASOに関する。
【0107】
一部の実施形態において、ASOは、配列番号117~120のうちの1つと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一である。
【0108】
一部の実施形態において、ASOは、長さが16、17、18、19、20、21、22、23、24もしくは25ヌクレオチドまたはその中の任意の範囲である。一部の実施形態において、ASOは、長さが20、21または22ヌクレオチドである。一部の実施形態において、ASOは、長さが20ヌクレオチドである。ある特定の実施形態において、ASOにおける特定されていないヌクレオチドのうちの少なくとも80%は、野生型ヒトKRAS遺伝子に、例えば少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%相補的である。ある特定の実施形態において、ASOにおける特定されていないヌクレオチドのうちの少なくとも80%は、変異ヒトKRAS遺伝子に、例えば少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%相補的である。ある特定の実施形態において、ASOは、長さが17~25ヌクレオチドであり、配列番号117~120のうちの1つの配列の5’末端において追加のヌクレオチドCを含む。ある特定の実施形態において、ASOは、長さが18~25ヌクレオチドであり、配列番号117~120のうちの1つの配列の5’末端において追加のヌクレオチドACを含む。ある特定の実施形態において、ASOは、長さが19~25ヌクレオチドであり、配列番号117~120のうちの1つの配列の5’末端において追加のヌクレオチドCACを含む。ある特定の実施形態において、ASOは、長さが20~25ヌクレオチドであり、配列番号117~120のうちの1つの配列の5’末端において追加のヌクレオチドGCACを含む。
【0109】
一部の実施形態において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、
a)G12C突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたGCACTCTTGCCTACGCCACA(配列番号124)、
b)G12D突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたGCACTCTTGCCTACGCCATC(配列番号125)、
c)G12V突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたGCACTCTTGCCTACGCCAAC(配列番号126)、または
d)G13D突然変異をコードするヒトKRAS-mRNAへ標的化されたGCACTCTTGCCTACGTCACC(配列番号127)
から選択される配列からなる。
【0110】
ASOは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチドまたはそれらの組合せからなり得る。
【0111】
一部の実施形態において、ASOは、少なくとも1つの非天然化学修飾を含む。ある特定の実施形態において、ヌクレオチド結合のうちの少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18または19個は、化学修飾されている。一部の実施形態において、ASOは、少なくとも1つのホスホロチオエート結合を含む。一部の実施形態において、ASOは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18または19個のホスホロチオエート結合を含む。一部の実施形態において、ASOは、ホスホロチオエート結合のみを含む。
【0112】
ある特定の実施形態において、ヌクレオチドのうちの少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18または19個は、化学修飾されている。一部の実施形態において、ASOは、5’末端および/または3’末端においてまたはその付近に、例えば5’末端および/または3’末端の5ヌクレオチド内に、少なくとも1つの修飾ヌクレオチド、例えば少なくとも1、2、3、4または5つの修飾ヌクレオチドを含む。一部の実施形態において、ASOは、5’末端および3’末端の各々において少なくとも5つの修飾ヌクレオチドを含む。一部の実施形態において、修飾ヌクレオチドのうちの少なくとも1つは、2’-MOE修飾ヌクレオチドである。一部の実施形態において、修飾ヌクレオチドのすべては、2’-MOE修飾ヌクレオチドである。一部の実施形態において、ASOは、5’末端および/または3’末端の各々において少なくとも3つの、例えば少なくとも4つまたは少なくとも5つの2’-MOE修飾ヌクレオチドを含む。
【0113】
ある特定の実施形態において、ASOは、
【化2】
から選択される配列からなり、ここで、*は、ホスホロチオエート結合を示し、太字は、2’-MOE修飾ヌクレオチドを示す。一部の実施形態において、ASOは、配列番号70~73のうちの1つと少なくとも90%同一の、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、から本質的になるか、またはからなる。
【0114】
一部の実施形態において、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドは、ロックド核酸ヌクレオチド、例えば少なくとも1、2、3、4または5つの修飾ヌクレオチドである。ロックド核酸は、非限定的に、リボースの2’酸素と4’炭素とを接続して、リボースを3’-エンド(North)コンフォメーションにロックするメチレン架橋であり得る。
【0115】
ある特定の実施形態において、ASOは、
【化3】
から選択される配列からなり、ここで、*は、ホスホロチオエート結合を示し、太字は、2’-メトキシメチル修飾ヌクレオチドを示し、+は、その後続のヌクレオチドがロックド核酸であることを示す。一部の実施形態において、ASOは、配列番号74~77、160または161のうちの1つと少なくとも90%同一の、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、から本質的になるか、またはからなる。
【0116】
<化学修飾siRNA>
本発明の一態様は、G12C、G12D、G12VおよびG13Dから選択される突然変異をコードする天然のヒトKRAS-mRNAへ標的化されたsiRNA分子であって、siRNAが、少なくとも1つの化学修飾を含む、siRNA分子に関する。一部の実施形態において、siRNA分子は、完全に化学修飾されている。「完全に化学修飾された」という用語は、siRNAにおけるどのヌクレオチドも、化学修飾を含有することを意味する。一部の実施形態において、siRNA分子における各ヌクレオチドは、2’-O-メチル基または2’-フルオロ基により修飾されている。
【0117】
ある特定の実施形態において、siRNAにおけるヌクレオチド結合のうちの少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18または19個は、化学修飾されている。一部の実施形態において、siRNAは、少なくとも1つのホスホロチオエート結合を含む。一部の実施形態において、siRNAは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18または19個のホスホロチオエート結合を含む。一部の実施形態において、siRNAは、ホスホロチオエート結合のみを含む。
【0118】
ある特定の実施形態において、少なくとも1つの化学修飾を含むsiRNA分子は、センス鎖およびアンチセンス鎖を含み、ここで、siRNA分子は、
配列番号128のセンス鎖および配列番号129のアンチセンス鎖、
配列番号130のセンス鎖および配列番号131のアンチセンス鎖、
配列番号132のセンス鎖および配列番号133のアンチセンス鎖、
配列番号134のセンス鎖および配列番号135のアンチセンス鎖、
配列番号136のセンス鎖および配列番号137のアンチセンス鎖、
配列番号138のセンス鎖および配列番号139のアンチセンス鎖、
配列番号140のセンス鎖および配列番号141のアンチセンス鎖、
配列番号142のセンス鎖および配列番号143のアンチセンス鎖、
配列番号144のセンス鎖および配列番号145のアンチセンス鎖、
配列番号146のセンス鎖および配列番号147のアンチセンス鎖、
配列番号148のセンス鎖および配列番号149のアンチセンス鎖、
配列番号150のセンス鎖および配列番号151のアンチセンス鎖、
配列番号152のセンス鎖および配列番号153のアンチセンス鎖、
配列番号154のセンス鎖および配列番号155のアンチセンス鎖、
配列番号156のセンス鎖および配列番号157のアンチセンス鎖、または
配列番号158のセンス鎖および配列番号159のアンチセンス鎖
の配列対の1つを含む。
【0119】
一部の実施形態において、siRNAは、配列番号128~159のうちの1つと少なくとも90%同一の、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、から本質的になるか、またはからなる。
【0120】
【表1】
S -センス鎖
AS -アンチセンス鎖
【0121】
ある特定の実施形態において、siRNA分子は、完全に化学修飾されており、センス鎖およびアンチセンス鎖を含み、ここで、siRNA分子は、
配列番号78のセンス鎖および配列番号79のアンチセンス鎖、
配列番号80のセンス鎖および配列番号81のアンチセンス鎖、
配列番号82のセンス鎖および配列番号83のアンチセンス鎖、
配列番号84のセンス鎖および配列番号85のアンチセンス鎖、
配列番号86のセンス鎖および配列番号87のアンチセンス鎖、
配列番号88のセンス鎖および配列番号89のアンチセンス鎖、
配列番号90のセンス鎖および配列番号91のアンチセンス鎖、
配列番号92のセンス鎖および配列番号93のアンチセンス鎖、
配列番号94のセンス鎖および配列番号95のアンチセンス鎖、
配列番号96のセンス鎖および配列番号97のアンチセンス鎖、
配列番号98のセンス鎖および配列番号99のアンチセンス鎖、
配列番号100のセンス鎖および配列番号101のアンチセンス鎖、
配列番号102のセンス鎖および配列番号103のアンチセンス鎖、
配列番号104のセンス鎖および配列番号105のアンチセンス鎖、
配列番号106のセンス鎖および配列番号107のアンチセンス鎖、
配列番号108のセンス鎖および配列番号109のアンチセンス鎖、
配列番号162のセンス鎖および配列番号163のアンチセンス鎖、
配列番号164のセンス鎖および配列番号165のアンチセンス鎖、
配列番号166のセンス鎖および配列番号167のアンチセンス鎖、
配列番号168のセンス鎖および配列番号169のアンチセンス鎖、
配列番号170のセンス鎖および配列番号171のアンチセンス鎖、
配列番号172のセンス鎖および配列番号173のアンチセンス鎖、
配列番号174のセンス鎖および配列番号175のアンチセンス鎖、
配列番号176のセンス鎖および配列番号177のアンチセンス鎖、
配列番号178のセンス鎖および配列番号179のアンチセンス鎖、
配列番号180のセンス鎖および配列番号181のアンチセンス鎖、
配列番号182のセンス鎖および配列番号183のアンチセンス鎖、または
配列番号184のセンス鎖および配列番号185のアンチセンス鎖
の配列対のうちの1つを含む。
【0122】
一部の実施形態において、siRNAは、配列番号78~109または162~185のうちの1つと少なくとも90%同一の、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、から本質的になるか、またはからなる。
【0123】
本発明の別の態様は、ヒトKRAS-mRNAへ標的化されたsiRNA分子であって、siRNAのセンス鎖が、配列番号50または配列番号51の配列を含むか、から本質的になるか、またはからなり、siRNAが、少なくとも1つの非天然化学修飾を含む、siRNA分子に関する。一部の実施形態において、siRNAにおけるヌクレオチドの少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個は、化学修飾されている。一部の実施形態において、siRNAは、完全に化学修飾されている。一部の実施形態において、siRNA分子における各ヌクレオチドは、2’-O-メチル基または2’-フルオロ基により修飾されている。
【0124】
ある特定の実施形態において、siRNAにおけるヌクレオチド結合のうちの少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18または19個は、化学修飾されている。一部の実施形態において、siRNAは、少なくとも1つのホスホロチオエート結合を含む。一部の実施形態において、siRNAは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18または19個のホスホロチオエート結合を含む。一部の実施形態において、siRNAは、ホスホロチオエート結合のみを含む。
【0125】
ある特定の実施形態において、完全化学修飾siRNA分子は、センス鎖およびアンチセンス鎖を含み、ここで、siRNA分子は、
配列番号110のセンス鎖および配列番号111のアンチセンス鎖、または
配列番号112のセンス鎖および配列番号113のアンチセンス鎖
の配列対のうちの1つを含む。
【0126】
一部の実施形態において、siRNAは、配列番号110~113のうちの1つと少なくとも90%同一の、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一の配列を含むか、から本質的になるか、またはからなる。
【0127】
二本鎖RNA分子、ASOまたは化学修飾siRNA分子は、当該技術分野において公知の手技による化学合成および酵素ライゲーション反応を使用して構築され得る。例えば、二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子は、天然ヌクレオチド、または分子の生物学的安定性を増大させるようにもしくは二本鎖RNA、ASOもしくは化学修飾siRNA分子と標的ヌクレオチド配列との間に形成された二重鎖の物理的安定性を増大させるように設計された様々な修飾ヌクレオチドを使用して化学合成してもよく、例えば、ホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドを使用することができる。二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子を生成するために使用され得る修飾ヌクレオチドの例には、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、ベータ-D-ガラクトシルキューオシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-アデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、ベータ-D-マンノシルキューオシン、5’-メトキシカルボキシメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン(wybutoxosine)、シュードウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、5-メチル-2-チオウラシル、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)wおよび2,6-ジアミノプリンが含まれるが、これらに限定されない。あるいは、二本鎖RNAまたはASOは、二本鎖RNAまたはASOをコードする核酸がクローニングされている発現ベクターを使用して産生することができる。
【0128】
二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子は、ヌクレオチド間架橋ホスフェート残基のうちの少なくとも1つまたはすべてが修飾ホスフェート、例えばメチルホスホネート、メチルホスホノチオエート、ホスホロモルホリデート、ホスホロピペラジデートおよびホスホルアミデートである、ヌクレオチド配列をさらに含み得る。例えば、ヌクレオチド間架橋ホスフェート残基のうちのいずれも、または1つおきのいずれも、説明される通りに修飾することができる。別の非限定的な例において、二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子は、ヌクレオチドのうちの少なくとも1つまたはすべてが、2’低級アルキル部分(例えば、C~C直鎖または分岐鎖、飽和または不飽和アルキル、例えば、メチル、エチル、エテニル、プロピル、1-プロペニル、2-プロペニルおよびイソプロピル)を含有する、ヌクレオチド配列である。別の例において、ヌクレオチドのうちの1つまたは複数は、2’-フルオロヌクレオチド、2-O-メチルヌクレオチドまたはロックド核酸ヌクレオチドであり得る。例えば、ヌクレオチドのうちのいずれも、または1つおきのいずれも、説明される通りに修飾することができる。また、Furdon et al.,Nucleic Acids Res.17:9193(1989);Agrawal et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1401(1990);Baker et al.,Nucleic Acids Res.18:3537(1990);Sproat et al.,Nucleic Acids Res.17:3373(1989);Walder and Walder,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5011(1988)を参照されたく、当該文献は、修飾ヌクレオチド塩基を含有するポリヌクレオチド分子を含むポリヌクレオチド分子の製造方法のそれらの教示について、それらを全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0129】
本発明は、本発明のRNA分子またはASOを含む核酸構築物にさらに関する。本発明は、本発明のRNA分子またはASOをコードする核酸構築物、およびRNA分子またはASOをコードする核酸分子を含む核酸構築物にさらに関する。これらの実施形態の各々において、核酸構築物は、ベクターまたはプラスミド、例えば発現ベクターであり得る。
【0130】
本発明の別の態様は、本発明のRNA分子、ASO、化学修飾siRNA分子または核酸構築物と、別の構成成分、例えば好適な担体とを含む組成物に関する。一部の実施形態において、組成物は、本発明のRNA分子、ASO、化学修飾siRNA分子または核酸構築物のうちの2つまたはそれ以上を含み、ここで、2つまたはそれ以上のRNA分子、ASOまたは化学修飾siRNA分子は各々、異なるアンチセンス鎖を含む。ある特定の実施形態において、2つまたはそれ以上のRNA分子は、同じ核酸構築物に、異なる核酸構築物に、またはそれらの任意の組合せに存在する。一部の実施形態において、組成物は、本発明のRNA分子、ASO、化学修飾siRNA分子または核酸構築物と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物である。
【0131】
本発明の組成物は、RNA分子、ASO、化学修飾siRNA分子および核酸構築物のうちのいずれかを、任意の組合せで、かつ互いに対して任意の比で、含むか、から本質的になるか、またはからなり得る。さらに、「2つまたはそれ以上」によって、2、3、4、5、6、7、8、9、10個などの最大で全数の、本発明のRNA分子、ASO、化学修飾siRNA分子および核酸構築物を意味する。一部の実施形態において、組成物は、配列番号1および配列番号3のRNA分子を含むか、から本質的になるか、またはからなる。
【0132】
本発明の一部の態様において、組成物または医薬組成物は、例えば本発明のRNA分子、ASO、化学修飾siRNA分子または核酸構築物の安定性を向上させることによって、RNA分子、ASO、化学修飾siRNA分子または核酸構築物の、対象への送達を向上させる追加の構成成分をさらに含む。一部の実施形態において、追加の構成成分は、粒子、例えば微粒子またはナノ粒子であり得る。一部の実施形態において、粒子は、脂質粒子、例えばリポソーム、例えばマイクロリポソームまたはナノリポソームである。リポソーム、マイクロリポソームまたはナノリポソームは、リポソームを調製するために好適であるように当該技術分野において公知の任意の構成成分を含有し得る。一部の実施形態において、リポソームは、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DOPC)を含む。リポソームは、当該技術分野において公知の方法によって、例えばその全体が参照により本明細書の一部をなすPecot et al.,Mol.Cancer Ther.13:2876(2014)において説明されるように、調製され得る。一部の実施形態において、RNA分子は、例えばArbutus Biopharma(Doylestown、PA)によって提供される粒子などの粒子を使用して、安定な核酸脂質粒子(SNALP)に形成される。ある特定の実施形態において、脂質粒子は、コレステロール、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、PEG-cDMAまたはPEG-cDSAおよび1,2-ジリノレイルオキシ-3-(N,N-ジメチル)アミノプロパン(DLinDMA)を含むか、から本質的になるか、またはからなる(Judge et al.,J.Clin.Invest.119:661(2009)を参照されたい)。一部の実施形態において、脂質粒子は、本発明のRNA分子、ASOまたは化学修飾siRNA分子のうちの2つまたはそれ以上、例えば配列番号1および配列番号3のRNA分子を含む。一部の実施形態において、追加の構成成分は、RNA分子、ASO、化学修飾siRNA分子または核酸構築物が共有結合的もしくは非共有結合的にコンジュゲートされている、標的化された送達部分、例えばリガンド、アプタマーまたはモノクローナル抗体である。
【0133】
本発明は、本発明のRNA分子および/または核酸構築物を含む細胞を包含する。したがって、一部の実施形態において、本発明は、本発明のRNA分子および/または核酸構築物および/または組成物を含む形質転換された細胞であって、対照細胞と比較して突然変異体KRASの発現が低減している、形質転換された細胞を提供する。
【0134】
<方法>
本発明の核酸分子、核酸構築物および/または組成物を用いる様々な方法が、本明細書で提供される。したがって、一態様において、本発明は、細胞においてミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子の発現を阻害する方法であって、細胞を本発明のRNA分子、ASO、化学修飾siRNA分子、核酸構築物、組成物および/または医薬組成物と接触させ、これによって、細胞において変異ヒトKRAS遺伝子の発現を阻害することを含む方法を提供する。
【0135】
また、がんの処置を必要とする対象においてがんを処置する方法であって、がんが、ミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子を含み、本発明のRNA分子、ASO、化学修飾siRNA分子、核酸構築物、組成物および/または医薬組成物を対象へ送達し、これによって、対象においてがんを処置することを含む、方法が本明細書で提供される。ミスセンス突然変異G12C、G12D、G12VおよびG13Dのうちの1つまたは複数を含む変異ヒトKRAS遺伝子を含むがんは、1つまたは複数の細胞が突然変異体KRAS遺伝子を発現するがん、例えば腫瘍である。
【0136】
これらの態様のうちの各々の一実施形態において、対象は、がんと診断された対象であり得る。別の実施形態において、対象は、がんを発症するリスクにある(例えば遺伝的因子、喫煙、ウイルス感染、化学物質への曝露などのためにかかりやすくなっている)対象であり得る。さらなる実施形態において、対象は、突然変異体KRAS遺伝子を有することが特定され、かつがんと診断されたまたは診断されていない対象であり得る。
【0137】
本発明の二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子は、当該技術分野において公知の任意の方法によって、例えばトランスフェクションまたはマイクロインジェクションによって、例えば脂質粒子を含む組成物の部分として、細胞へ直接的に送達され得る。他の実施形態において、二本鎖RNAまたはASOは、対象の細胞内で二本鎖RNAまたはASOの発現を産生する、RNAまたはASOをコードするポリヌクレオチドの形態で対象へ送達され得る。当業者は、本発明のRNAまたはASOをコードする単離されたポリヌクレオチドは、典型的に、適切な発現制御配列、例えば転写/翻訳制御シグナルおよびポリアデニル化シグナルを伴うことを理解するだろう。
【0138】
様々なプロモーター/エンハンサーエレメントが、所望のレベルおよび組織特異的発現によって使用され得ることがさらに理解されるだろう。プロモーターは、所望の発現パターンによって構成的または誘導性であり得る。プロモーターは、ネイティブであっても、外来性であってもよく、天然配列であっても、合成配列であってもよい。外来性によって、転写開始領域が導入される野生型宿主において、その転写開始領域が見出されないことを意図する。プロモーターは、それが目的の標的細胞(単数または複数)において機能するように選択される。
【0139】
例示すると、RNAまたはASOコード配列は、サイトメガロウイルス(CMV)主要最初期プロモーター、アルブミンプロモーター、伸長因子1-α(EF1-α)プロモーター、PγKプロモーター、MFGプロモーターまたはラウス肉腫ウイルスプロモーターを作動可能に伴い得る。
【0140】
誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、非限定的に、ジンク誘導性メタロチオネイン(MT)プロモーター、デキサメタゾン(Dex)誘導性マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモーター系(WO 98/10088を参照されたい);エクジソン昆虫プロモーター(No et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:3346(1996));テトラサイクリン抑制系(Gossen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:5547(1992));テトラサイクリン誘導系(Gossen et al.,Science 268:1766(1995);また、Harvey et al.,Curr.Opin.Chem.Biol.2:512(1998)を参照されたい);RU486誘導系(Wang et al.,Nat.Biotech.15:239(1997);Wang et al.,Gene Ther.,4:432(1997));およびラパマイシン誘導系(Magari et al.,J.Clin.Invest.100:2865(1997))を含む、ホルモン誘導性および金属誘導性エレメント、ならびに外因的に供給される化合物によって調節される他のプロモーターを含む。
【0141】
他の組織特異的プロモーターまたは調節プロモーターとしては、典型的にはニューロンにおいて組織特異性を与えるプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。これらは、シナプシン1、チューブリンα1、血小板由来増殖因子B鎖、チロシンヒドロキシラーゼ、ニューロン特異的エノラーゼおよびニューロフィラメントについてのプロモーターを含むが、これらに限定されない。骨格筋細胞プロモーターには、β-アクチン、Pitx3、クレアチンキナーゼおよびミオシン軽鎖についてのプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。心筋細胞プロモーターには、心臓アクチン、心臓トロポニンT、トロポニンC、ミオシン軽鎖-2およびα-ミオシン重鎖についてのプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。膵島(ベータ)細胞プロモーターには、グルコキナーゼ、ガストリン、インスリンおよび膵島アミロイドポリペプチドが含まれるが、これらに限定されない。
【0142】
さらに、特異的開始シグナルは、一般的に、挿入されたRNAまたはASOコード配列の効率的な翻訳に必要とされる。ATG開始コドンおよび隣接配列を含み得るこれらの翻訳制御配列は、天然および合成両方の、様々な起源の翻訳制御配列であってもよい。
【0143】
二本鎖RNAまたはASOをコードする単離された核酸は、発現ベクターへ組み込まれ得る。様々な宿主細胞と適合性の発現ベクターは、当該技術分野において周知であり、核酸の転写および翻訳のための好適なエレメントを含有する。典型的には、発現ベクターは、5’から3’方向へ、プロモーターと、プロモーターを作動可能に伴う二本鎖RNAをコードするコード配列と、場合によりRNAポリメラーゼのための停止シグナルおよびポリアデニラーゼのためのポリアデニル化シグナルを含む停止配列とを含む「発現カセット」を含有する。
【0144】
当該技術分野において公知の動物および哺乳動物プロモーターの非限定的な例には、SV40初期(SV40e)プロモーター領域、ラウス肉腫ウイルス(RSV)の3’末端反復配列(LTR)に含有されるプロモーター、アデノウイルス(Ad)のE1Aまたは主要後期プロモーター(MLP)遺伝子のプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)初期プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(TK)プロモーター、バキュロウイルスIE1プロモーター、伸長因子1アルファ(EF1)プロモーター、ホスホグリセレートキナーゼ(PGK)プロモーター、ユビキチン(Ubc)プロモーター、アルブミンプロモーター、マウスメタロチオネイン-Lプロモーターの調節配列および転写制御領域、遍在性プロモーター(HPRT、ビメンチン、α-アクチン、チューブリンなど)、中間径フィラメントのプロモーター(デスミン、ニューロフィラメント、ケラチン、GFAPなど)、治療用遺伝子のプロモーター(MDR、CFTRまたは第VIII因子タイプなどのプロモーター)、ならびに病因および/または疾患関連プロモーターが含まれるが、これらに限定されない。加えて、本発明のこれらの発現配列のうちのいずれかは、エンハンサーおよび/または調節配列などの付加によって改変され得る。
【0145】
本発明の実施形態において使用され得るエンハンサーには、SV40エンハンサー、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー、伸長因子I(EF1)エンハンサー、酵母エンハンサー、ウイルス遺伝子エンハンサーなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0146】
停止制御領域、すなわち、ターミネーターまたはポリアデニル化配列は、好ましい宿主にネイティブである様々な遺伝子に由来し得る。本発明の一部の実施形態において、停止制御領域は、合成配列、合成ポリアデニル化シグナル、SV40後期ポリアデニル化シグナル、SV40ポリアデニル化シグナル、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化シグナル、ウイルスターミネーター配列その他を含むか、またはこれらに由来し得る。
【0147】
細胞または対象へポリヌクレオチドを送達するために、任意の好適なベクターが使用され得ることが、当業者に明らかであろう。ベクターは、インビボで細胞へ送達され得る。他の実施形態において、ベクターは、エクスビボで細胞へ送達される場合があり、その後、ベクターを含有する細胞は、対象へ送達される。送達ベクターの選択は、標的宿主の年齢および種、インビトロ対インビボ送達、所望の発現のレベルおよび持続性、意図される目的(例えば治療用またはスクリーニング用)、標的細胞または器官、送達経路、単離されたポリヌクレオチドのサイズ、安全性考慮などを含む当該技術分野において公知のいくつかの因子に基づいて行われ得る。
【0148】
好適なベクターには、プラスミドベクター、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、アルファウイルス;ワクシニアウイルス;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスおよび他のパルボウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルスまたは単純ヘルペスウイルス)、脂質ベクター、ポリリジンベクター、合成ポリアミノポリマーベクターなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0149】
当該技術分野において公知の任意のウイルスベクターを、本発明において使用することができる。組換えウイルスベクターを産生するためのプロトコールおよび核酸送達にウイルスベクターを使用するためのプロトコールは、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(Green Publishing Associates,Inc.and John Wiley & Sons,Inc.,New York)および他の標準的な研究室マニュアル(例えば、Vectors for Gene Therapy.In:Current Protocols in Human Genetics.John Wiley and Sons,Inc.:1997)において見出すことができる。
【0150】
非ウイルス移行法を用いることもできる。多くの核酸移行の非ウイルス法は、高分子の取り込みおよび細胞内輸送のための哺乳動物細胞により使用される通常の機構に頼る。特定の実施形態において、非ウイルス核酸送達系は、標的化された細胞による核酸分子の取り込みのためのエンドサイトーシス経路に頼る。この種類の例示的な核酸送達系は、リポソーム由来系、ポリリジンコンジュゲートおよび人工ウイルスエンベロープを含む。
【0151】
特定の実施形態において、プラスミドベクターが本発明の実施において使用される。例えば、ネイキッドプラスミドは、組織への注射によって筋細胞へ導入され得る。陽性細胞数は典型的に低いが、発現は何ヶ月間にもわたり延長することができる(Wolff et al.,Science 247:247(1989))。カチオン性脂質は、培養物中の一部の細胞への核酸の導入において補助となることが実証されている(Felgner and Ringold,Nature 337:387(1989))。カチオン性脂質プラスミドDNA複合体の、マウスの循環への注射は、肺におけるDNAの発現をもたらすことが示されている(Brigham et al.,Am.J.Med.Sci.298:278(1989))。プラスミドDNAの1つの利点は、それが非複製細胞へ導入され得ることである。
【0152】
代表的な実施形態において、核酸分子(例えばプラスミド)は、表面上に正電荷を有する脂質粒子へ捕捉され、場合により、標的組織の細胞表面抗原に対する抗体によりタグ付けされ得る(Mizuno et al.,No Shinkei Geka 20:547(1992);PCT公開公報WO第91/06309号;日本特許出願第1047381号;および欧州特許公開公報第EP-A-43075号)。
【0153】
両親媒性カチオン性分子からなるリポソームは、インビトロおよびインビボでの核酸送達のための非ウイルスベクターとして有用である(Crystal,Science 270:404(1995);Blaese et al.,Cancer Gene Ther.2:291(1995);Behr et al.,Bioconjugate Chem.5:382(1994);Remy et al.,Bioconjugate Chem.5:647(1994);およびGao et al.,Gene Therapy 2:710(1995)において概略される)。正帯電リポソームは、静電相互作用を介して負帯電核酸と複合体を形成して、脂質:核酸複合体を形成すると考えられる。脂質:核酸複合体は、核酸移行ベクターとしていくつかの利点を有する。ウイルスベクターとは異なり、脂質:核酸複合体は、本質的にサイズに制限がない発現カセットを移行するために使用することができる。複合体はタンパク質を欠くので、それらは、免疫原性応答および炎症応答の誘起がより少ない場合がある。さらに、それらは、複製または組み換えて感染性病原体を形成することができず、低い組込み頻度を有する。いくつかの公開公報から、両親媒性カチオン性脂質がインビボおよびインビトロで核酸送達を媒介し得ることが実証されている(Felgner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413(1987);Loeffler et al.,Meth.Enzymol.217:599(1993);Felgner et al.,J.Biol.Chem.269:2550(1994))。
【0154】
いくつかのグループにより、動物およびヒトの両方におけるインビボトランスフェクションのための両親媒性カチオン性脂質:核酸複合体の使用が報告されている(Gao et al.,Gene Therapy 2:710(1995);Zhu et al.,Science 261:209(1993);およびThierry et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:9742(1995)において概略される)。米国特許第6,410,049号は、延長された貯蔵寿命を有するカチオン性脂質:核酸複合体を調製する方法を説明している。
【0155】
また、核局在化シグナルは、二本鎖RNAまたは発現ベクターの、核の近位へのターゲティング、および/または核へのその進入を向上させるために使用することができる。そのような核局在化シグナルは、タンパク質またはペプチド、例えばSV40ラージTag NLSまたはヌクレオプラスミンNLSであり得る。これらの核局在化シグナルは、NLS受容体(カリオフェリンアルファ)などの様々な核輸送因子と相互作用し、NLS受容体はその後カリオフェリンベータと相互作用する。
【0156】
発現ベクターは、原核細胞または真核細胞における鎖RNAまたはASOの発現のために設計され得る。例えば、鎖RNAまたはASOは、大腸菌(E. coli)などの細菌細胞、昆虫細胞(例えばバキュロウイルス発現系)、酵母細胞、植物細胞または哺乳動物細胞において発現され得る。一部の好適な宿主細胞は、Goeddel,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)においてさらに説明されている。細菌ベクターの例には、pQE70、pQE60、pQE-9(Qiagen)、pBS、pD10、ファージスクリプト(phagescript)、psiX174、pbluescript SK、pbsks、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A(Stratagene);ptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540およびpRIT5(Pharmacia)が含まれるが、これらに限定されない。酵母サッカロミセス・セレビシア(S.cerevisiae)における発現のためのベクターの例には、pYepSecl(Baldari et al.,EMBO J.6:229(1987))、pMFa(Kurjan and Herskowitz,Cell 30:933(1982))、pJRY88(Schultz et al.,Gene 54:113(1987))およびpYES2(Invitrogen Corporation、San Diego、Calif.)が含まれる。培養昆虫細胞(例えばSf 9細胞)においてタンパク質を産生するための核酸の発現に使用可能なバキュロウイルスベクターの非限定的な例には、pAcシリーズ(Smith et al.,Mol.Cell.Biol.3:2156(1983))およびpVLシリーズ(Lucklow and Summers Virology 170:31(1989))が含まれる。
【0157】
哺乳動物発現ベクターの例には、pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、pSG(Stratagene)、pSVK3、PBPV、pMSG、PSVL(Pharmacia)、pCDM8(Seed,Nature 329:840(1987))およびpMT2PC(Kaufman et al.,EMBO J.6:187(1987))が含まれる。哺乳動物細胞において使用される場合、発現ベクターの制御機能は、多くの場合、ウイルス調節エレメントによって提供される。例えば、一般に使用されるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスおよびサルウイルス40に由来する。
【0158】
ウイルスベクターは、細胞および生きている動物対象における広範な遺伝子送達適用において使用されている。使用され得るウイルスベクターには、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス、アルファウイルス、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、エプスタイン・バーウイルス、アデノウイルス、ジェミニウイルスおよびカリモウイルスベクターが含まれるが、これらに限定されない。非ウイルスベクターの非限定的な例には、プラスミド、リポソーム、帯電脂質(サイトフェクチン)、核酸-タンパク質複合体およびバイオポリマーが含まれる。目的の核酸に加えて、また、ベクターは、1つもしくは複数の調節領域、ならびに/または選択、測定および核酸移行結果(特定の組織への送達、発現持続期間など)のモニタリングに有用な選択可能なマーカーを含み得る。
【0159】
上記に説明される調節制御配列に加えて、組換え発現ベクターは、追加のヌクレオチド配列を含有し得る。例えば、組換え発現ベクターは、ベクターを組み込んだ宿主細胞を特定するための選択可能なマーカー遺伝子をコードし得る。
【0160】
ベクターDNAは、従来型形質転換またはトランスフェクション技法を介して原核細胞または真核細胞に導入することができる。本明細書で使用される場合、「形質転換」および「トランスフェクション」という用語は、外来性核酸(例えばDNAおよびRNA)を宿主細胞へ導入するための様々な当該技術分野において認識される技法を指し、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈殿、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、DNAをロードしたリポソーム、リポフェクタミン-DNA複合体、細胞超音波処理、高速微粒子銃を使用する遺伝子ボンバードメント、およびウイルス媒介トランスフェクションを含むが、これらに限定されない。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするために好適な方法は、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd Ed.(Cold Spring Harbor,NY,1989)および他の研究室マニュアルにおいて見出すことができる。
【0161】
安定な組込みが所望される場合、多くの場合、低分率の細胞のみ(特に哺乳動物細胞)が、外来性DNAをそれらのゲノムに組み込む。組込み体を特定および選択するために、選択可能なマーカー(例えば抗生物質への抵抗性)をコードする核酸を、目的の核酸と共に宿主細胞へ導入してもよい。好ましい選択可能なマーカーには、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキセートなどの薬物への抵抗性を与えるマーカーが含まれる。選択可能なマーカーをコードする核酸は、目的の核酸を含むベクターと同じベクターで宿主細胞へ導入してもよく、または別々のベクターで導入してもよい。導入された核酸により安定にトランスフェクトされた細胞は、薬物選択によって特定することができる(例えば、選択可能なマーカー遺伝子を組み込んだ細胞は生存し、一方で、他の細胞は死滅する)。
【0162】
一実施形態において、本発明の二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子は、対象へ直接的に投与される。一般的に、本発明の化合物は、薬学的に許容される担体(例えば生理食塩水)中に懸濁され、経口で、局所的にもしくは静脈内点滴により投与されるか、または皮下に、筋内に、頭蓋内に、くも膜下腔内に、腹腔内に、直腸内に、膣内に、鼻内に、胃内に、気管内にもしくは肺内に注射される。それらは、好ましくは、肺、腸または膵臓などの疾患または障害の部位へ直接的に送達される。必要とされる投与量は、投与経路の選択;製剤の性質;患者の病気の性質;患者の大きさ、体重、表面積、年齢および性別;投与される他の薬物;ならびに主治医の判断に依存する。好適な投与量は、0.01~100.0μg/kgの範囲内である。様々な投与経路の異なる効率の観点から、必要とされる投与量における広い変動を予測すべきである。例えば、経口投与は、i.v.注射による投与よりも高い投与量を必要とすることが予測され得る(例えば、2、3、4、6、8、10、20、50、100、150倍またはそれ以上)。これらの投与量レベルにおける変動は、当該技術分野において十分に理解される通り、最適化のための標準の経験的ルーチンを使用して調節することができる。投与は、1回であっても、多数回であってもよい。好適な送達媒体(例えばポリマー微粒子または埋め込み可能なデバイス)への阻害剤の被包は、送達、特に経口送達の効率を増大し得る。
【0163】
ある特定の実施形態に従って、二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子は、インビボで特定の細胞または組織へ標的化され得る。リポソームおよびウイルスベクター系を含むターゲティング送達媒体は、当該技術分野において公知である。例えば、リポソームは、リポソームに組み込まれた抗体、可溶性受容体またはリガンドなどのターゲティング剤を使用して、ターゲティング分子が結合し得る特定の細胞または組織を標的とすることにより、特定の標的細胞または組織へ方向付けることができる。ターゲティングリポソームは、例えば、Ho et al.,Biochemistry 25:5500(1986);Ho et al.,J.Biol.Chem.262:13979(1987);Ho et al.,J.Biol.Chem.262:13973(1987);およびHuangらの米国特許第4,957,735号において説明されており、これらの各々は、その全体が参照により本明細書の一部をなす。ウイルスが特定の細胞種に感染するようにエンベロープタンパク質を改変または置換することにより、エンベロープウイルスベクターを改変して、核酸分子を標的細胞へ送達することができる。アデノウイルスベクターにおいて、付着線維をコードする遺伝子を、細胞特異的受容体に結合するタンパク質ドメインをコードするように改変してもよい。ヘルペスウイルスベクターは、中枢および末梢神経系の細胞を天然に標的とする。あるいは、投与経路は、特定の細胞または組織を標的とするために使用することができる。例えば、アデノウイルスベクターの冠内投与は、遺伝子の心筋細胞への送達に有効であることが示されている(Maurice et al.,J.Clin.Invest.104:21(1999))。コレステロール含有カチオン性リポソームの静脈内送達は、肺組織を優先的に標的とし(Liu et al.,Nature Biotechnol.15:167(1997))、インビボで遺伝子の移行および発現を有効に媒介することが示されている。核酸分子の標的化されたインビボ送達の他の成功例は、当該技術分野において公知である。最後に、標的細胞において選択的に誘導され、非標的細胞においては実質的に不活性なままである転写制御配列および好ましくはプロモーターを選択することによって、組換え核酸分子は、標的細胞において選択的に(すなわち、優先的に、実質的排他的に)発現され得る。
【0164】
本発明の二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子は、場合により、他の治療剤と共に送達され得る。追加の治療剤は、本発明の二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子と同時発生的に送達され得る。本明細書で使用される場合、「同時発生的に(concurrently)」という語は、組み合わせた効果を産生するのに十分に時間が近いことを意味する(すなわち、同時発生的に(concurrently)は、同時に(simultaneously)であってもよく、またはそれは互いに前後の短期間内に起こる2つもしくはそれ以上の事象であってもよい)。一実施形態において、本発明の二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子は、がんを処置するために有用な剤、例えば、1)ビンカアルカロイド(例えばビンブラスチン、ビンクリスチン)、2)エピポドフィロトキシン(例えばエトポシドおよびテニポシド)、3)抗生物質(例えばダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン(ダウノマイシン、ルビドマイシン)、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)およびマイトマイシン(マイトマイシンC))、4)酵素(例えばL-アスパラギナーゼ)、5)生物学的応答改変剤(例えばインターフェロン-アルファ)、6)プラチナ配位複合体(例えばシスプラチンおよびカルボプラチン)、7)アントラセンジオン(例えばミトキサントロン)、8)置換された尿素(例えばヒドロキシウレア)、9)メチルヒドラジン誘導体(例えばプロカルバジン(N-メチルヒドラジン、MIH))、10)副腎皮質性抑制剤(例えばミトタン(o,p’-DDD)およびアミノグルテチミド)、11)副腎皮質ステロイド(例えばプレドニゾン)、12)プロゲスチン(例えばカプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロンおよび酢酸メゲストロール)、13)エストロゲン(例えばジエチルスチルベストロールおよびエチニルエストラジオール)、14)抗エストロゲン薬(例えばタモキシフェン)、15)アンドロゲン(例えばプロピオン酸テストステロンおよびフルオキシメステロン)、16)抗アンドロゲン薬(例えばフルタミド)ならびに17)ゴナドトロピン放出ホルモンアナログ(例えばリュープロリド)と共に投与される。別の実施形態において、本発明の化合物は、抗血管新生剤、例えば、VEGFに対する抗体(例えばベバシズマブ(AVASTIN)、ラニビズマブ(LUCENTIS))および血管新生の他のプロモーター(例えばbFGF、アンジオポエチン-1)に対する抗体、アルファ-v/ベータ-3血管インテグリンに対する抗体(例えばVITAXIN)、アンジオスタチン、エンドスタチン、ダルテパリン、ABT-510、CNGRCペプチドTNFアルファコンジュゲート、シクロホスファミド、コンブレタスタチンA4ホスフェート、ジメチルキサンテノン酢酸、ドセタキセル、レナリドミド、エンザスタウリン、パクリタキセル、パクリタキセルアルブミン安定化ナノ粒子製剤(Abraxane)、大豆イソフラボン、(Genistein)、クエン酸タモキシフェン、サリドマイド、ADH-1(EXHERIN)、AG-013736、AMG-706、AZD2171、トシル酸ソラフェニブ、BMS-582664、CHIR-265、パゾパニブ、PI-88、バタラニブ、エベロリムス、スラミン、リンゴ酸スニチニブ、XL184、ZD6474、ATN-161、シレンジタイドならびにセレコキシブ、またはそれらの任意の組合せと共に投与される。
【0165】
「がん」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞の任意の良性または悪性異常増殖を指す。例には、乳がん、前立腺がん、リンパ腫、皮膚がん、膵がん、結腸がん、黒色腫、悪性黒色腫、卵巣がん、脳がん、原発性脳癌腫、頭頸部がん、神経膠腫、神経膠芽腫、肝がん、膀胱がん、非小細胞肺がん、頭頸部癌腫、乳癌腫、卵巣癌腫、肺癌腫、小細胞肺癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌腫、精巣癌腫、膀胱癌腫、膵癌腫、胃癌腫、結腸癌腫、前立腺癌腫、泌尿生殖器癌腫、甲状腺癌腫、食道癌腫、骨髄腫、多発性骨髄腫、副腎癌腫、腎細胞癌腫、子宮内膜癌腫、副腎皮質癌腫、悪性膵性インスリノーマ、悪性カルチノイド癌腫、絨毛癌腫、菌状息肉腫、悪性高カルシウム血症、子宮頸部過形成、白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性顆粒球性白血病、急性顆粒球性白血病、有毛細胞白血病、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、カポジ肉腫、真性多血症、本態性血小板増加症、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、軟部組織肉腫、骨肉腫、原発性マクログロブリン血症および網膜芽細胞腫が含まれるが、これらに限定されない。一部の実施形態において、がんは、腫瘍形成がんの群から選択される。
【0166】
<医薬組成物>
さらなる態様として、本発明は、医薬製剤、および上記に説明される治療効果(例えばがんの処置)のいずれかを達成するためにそれを投与する方法を提供する。医薬製剤は、薬学的に許容される担体中に上記に説明される試薬のうちのいずれかを含み得る。
【0167】
「薬学的に許容される」によって、生物学的にまたは他の点で望ましくないものではない材料を意味する、すなわち、材料は、毒性などの任意の望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく対象へ投与され得る。
【0168】
本発明の製剤は、場合により、薬用剤、医薬剤、担体、補助剤、分散剤、希釈剤などを含み得る。
【0169】
本発明の二本鎖RNA、ASO、化学修飾siRNA分子または核酸構築物は、公知の技法に従って医薬担体中での投与のために製剤化され得る。例えば、Remington,The Science And Practice of Pharmacy (9th Ed.1995)を参照されたい。本発明による医薬製剤の製造において、二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子(それらの生理学的に許容される塩を含む)は、典型的に、特に、許容される担体と混合される。担体は、固体もしくは液体またはそれらの両方であってもよく、好ましくは0.01または0.5重量%~95重量%または99重量%の二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子を含有し得る単位用量製剤、例えば錠剤として、二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子と製剤化される。1つまたは複数の二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子を、本発明の製剤中に組み込んでもよく、それは、周知の製薬技法のいずれかによって調製することができる。
【0170】
本発明のさらなる態様は、インビボで対象を処置する方法であって、対象へ、薬学的に許容される担体中の本発明の二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子を含む医薬組成物を投与することを含み、医薬組成物が、治療有効量で投与される、方法である。投与を必要とするヒト対象または動物への本発明の二本鎖RNA、ASOまたは化学修飾siRNA分子の投与は、化合物を投与するための当該技術分野において公知の任意の手段によって行われ得る。
【0171】
本発明の製剤の非限定的な例には、経口、直腸、口腔(例えば舌下)、膣、非経口(例えば皮下;骨格筋、心筋、横隔膜筋および平滑筋を含む筋内;皮内;静脈内;腹腔内)、外用(すなわち、皮膚、および気道表面を含む粘膜表面両方)、鼻内、経皮、関節内、頭蓋内、くも膜下腔内および吸入投与、門脈内送達による肝臓への投与、ならびに直接的器官注射(例えば肝臓への、四肢への、中枢神経系への送達のために脳もしくは脊髄への、膵臓への、または腫瘍もしくは腫瘍の周囲組織への)に好適な製剤が含まれる。任意の所与の場合において最も好適な経路は、処置される状態の性質および重症度に、ならびに使用される特定の化合物の性質に依存する。一部の実施形態において、全身性投与に伴う任意の副作用を避けるために、製剤を局所的に送達することが望ましい場合がある。例えば、局所投与は、所望の処置部位における直接的注射によって、所望の処置部位付近の部位における(例えば処置部位に供給する血管への)静脈内導入によって達成され得る。一部の実施形態において、製剤は、虚血組織へ局所的に送達され得る。ある特定の実施形態において、製剤は、緩効性製剤、例えば緩効性デポー剤の形態であり得る。
【0172】
注射のために、担体は、典型的に、液体、例えば滅菌パイロジェンフリー水、パイロジェンフリーリン酸緩衝食塩水、静菌水またはCremophor EL[R](BASF、Parsippany、N.J.)である。他の投与方法のために、担体は、固体または液体のいずれかであり得る。
【0173】
経口投与のために、化合物は、カプセル、錠剤および粉末などの固体剤形で、またはエリキシル剤、シロップ剤および懸濁液などの液体剤形で投与され得る。化合物は、グルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロースまたはセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルカン、炭酸マグネシウムなどの不活性成分および粉末化担体と共にゼラチンカプセル内に被包され得る。望ましい色、味、安定性、緩衝能、分散または他の公知の望ましい特色を提供するために添加され得る追加の不活性成分の例は、赤色酸化鉄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、食用白色インクなどである。同様の希釈剤は、圧縮錠剤を製造するために使用され得る。錠剤およびカプセルの両方は、数時間の期間にわたり薬物の連続放出を提供する徐放性製品として製造してもよい。圧縮錠剤は、任意の不快な味を隠し、大気から錠剤を保護するために糖衣をかけるか、もしくはフィルムコーティングしてもよく、または消化管内の選択的崩壊のために腸溶性コーティングしてもよい。経口投与のための液体剤形は、患者許容性を増大させるために着色料および香味料を含有し得る。
【0174】
口腔(舌下)投与のために好適な製剤は、香味付けした基剤、通常スクロースおよびアカシアまたはトラガカント中の化合物を含むロゼンジ;ならびにゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシアなどの不活性基剤中の化合物を含むパステル剤を含む。
【0175】
非経口投与に好適な本発明の製剤は、化合物の滅菌水性および非水性注射溶液を含み、その調製物は、好ましくは意図されるレシピエントの血液と等張である。これらの調製物は、抗酸化物質、緩衝液、静菌薬、および製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質を含有し得る。水性および非水性滅菌懸濁液は、懸濁剤および増粘剤を含み得る。製剤は、単位/用量または多用量容器、例えば密閉アンプルおよびバイアルにおいて提示してもよく、使用直前の滅菌液体担体、例えば食塩水または注射用水の添加のみを必要とする冷凍乾燥(凍結乾燥)状態において保存してもよい。
【0176】
即時注射溶液および懸濁液は、以前に説明される種類の滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。例えば、本発明の一態様において、密閉容器中の単位剤形の本発明の化合物を含む注射用安定滅菌組成物が提供される。化合物または塩は、好適な薬学的に許容される担体と再構成されて、対象への注射に好適な液体組成物を形成することができる凍結乾燥物の形態において提供される。単位剤形は、典型的に、約10mg~約10グラムの化合物または塩を含む。化合物または塩が実質的に水不溶性である場合、十分な量の薬学的に許容される乳化剤を、十分な量で用いて、水性担体中において化合物または塩を乳化してもよい。1つのそのような有用な乳化剤は、ホスファチジルコリンである。
【0177】
直腸投与に好適な製剤は、好ましくは、単位用量坐剤として提示される。これらは、化合物を1つまたは複数の従来型固体担体、例えば、ココアバターと混合され、その後、生ずる混合物を成型することによって調製することができる。
【0178】
皮膚への外用適用に好適な製剤は、好ましくは、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エアロゾルまたはオイルの形態をとる。使用され得る担体には、黄色ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、アルコール、経皮エンハンサーおよびそれらの2つまたはそれ以上の組合せが含まれる。
【0179】
経皮投与に好適な製剤は、長期間レシピエントの表皮と密着したままであるように適合させた別個のパッチとして提示され得る。また、経皮投与に好適な製剤は、イオントフォレーシスによって送達することができ(例えば、Tyle,Pharm.Res.3:318(1986)を参照されたい)、典型的に、場合により緩衝された化合物の水溶液の形態をとる。好適な製剤は、クエン酸塩もしくはビス/トリス緩衝液(pH6)またはエタノール/水を含み、0.1~0.2Mの化合物を含有する。
【0180】
化合物は、あるいは、経鼻投与のために製剤化されるか、またはそうでなければ、任意の好適な手段によって対象の肺へ投与され、例えば化合物を含む呼吸用粒子の、対象が吸入するエアロゾル懸濁液によって投与され得る。呼吸用粒子は、液体または固体であり得る。「エアロゾル」という用語は、細気管支または鼻道へ吸入することができる、任意のガス中懸濁相を含む。特に、エアロゾルは、定量吸入器もしくは噴霧器中、またはミスト噴霧器中において産生され得るような、ガス中懸濁液の小滴を含む。また、エアロゾルは、空気または他の担体気体中に懸濁される乾燥粉末組成物を含み、これは、例えば吸入デバイスからの吹送によって送達され得る。Ganderton & Jones,Drug Delivery to the Respiratory Tract,Ellis Horwood(1987);Gonda(1990) Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 6:273-313;およびRaeburn et al.,J.Pharmacol.Toxicol.Meth.27:143(1992)を参照されたい。化合物を含む液体粒子のエアロゾルは、当業者に公知である通り、圧力駆動エアロゾル噴霧器または超音波噴霧器による手段などの、任意の好適な手段によって産生され得る。例えば、米国特許第4,501,729号を参照されたい。化合物を含む固体粒子のエアロゾルは、同様に、製薬分野において公知の技法によって、任意の固体微粒子医薬エアロゾル発生器により産生され得る。
【0181】
あるいは、化合物を、全身性様式ではなく局所様式において、例えば、デポー剤または徐放性製剤において投与してもよい。
【0182】
さらに、本発明は、本明細書で開示される化合物およびその塩のリポソーム製剤を提供する。リポソーム懸濁液を形成するための技術は、当該技術分野において周知である。化合物またはその塩が水溶性塩である場合、従来型リポソーム技術を使用して、化合物またはその塩は、脂質小胞に組み込むことができる。そのような場合、化合物または塩の水溶性のために、化合物または塩は、リポソームの親水性中心またはコア内に実質的に取り込まれる。用いられる脂質層は、任意の従来型組成物の層であってもよく、コレステロールを含有し得るか、またはコレステロール非含有であり得る。目的の化合物または塩が水不溶性である場合、ここでもまた従来型リポソーム形成技術を用いて、塩は、リポソームの構造を形成する疎水性脂質二重層内に実質的に取り込まれ得る。いずれの場合でも、産生されるリポソームは、標準超音波技法およびホモジナイゼーション技法の使用を通して、大きさを低減させることができる。
【0183】
本明細書で開示される化合物またはその塩を含有するリポソーム製剤を、凍結乾燥して凍結乾燥物を産生してもよく、これは、水などの薬学的に許容される担体により再構成されてリポソーム懸濁液を再生し得る。
【0184】
水不溶性化合物の場合、例えば、水性基剤エマルション中などの、水不溶性化合物を含有する医薬組成物が調製され得る。そのような場合、組成物は、所望の量の化合物を乳化するために十分な量の薬学的に許容される乳化剤を含有する。特に有用な乳化剤には、ホスファチジルコリンおよびレシチンが含まれる。
【0185】
特定の実施形態において、化合物は、治療有効量において対象に投与され、治療有効量の用語は、上記に定義される通りである。薬学的に活性な化合物の投与量は、当該技術分野において公知の方法によって決定することができ、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Maack Publishing Co.,Easton,Pa)を参照されたい。任意の特定の化合物の治療有効投与量は、化合物毎および患者毎にいくらか変動し、患者の状態および送達経路に依存する。一般的な提案として、約0.001~約50mg/kgの投与量は、治療有効性を有し、すべての重量は、塩が用いられる場合を含み、化合物の重量に基づいて計算される。より高レベルでの毒性の懸念のために、静脈内投与量は、最高で約10mg/kgなどのより低レベルに制限される場合があり、すべての重量は、塩が用いられる場合を含み、化合物の重量に基づいて計算される。約10mg/kg~約50mg/kgの投与量は、経口投与に用いられ得る。典型的に、約0.5mg/kg~5mg/kgの投与量は、筋内注射に用いることができる。特定の投与量は、静脈内または経口投与ために、それぞれ、約1μmol/kg~50μmol/kg、特に約22μmol/kg~33μmol/kgの化合物である。
【0186】
本発明の特定の実施形態において、治療効果を達成するために、2回以上の投与(例えば、2、3、4回またはそれ以上の投与)を、様々な時間間隔で(例えば、毎時、毎日、毎週、毎月など)用いてもよい。
【0187】
本発明は、獣医学的適用および医療適用において使用を見出す。好適な対象は、鳥類および哺乳動物の両方を含み、哺乳動物は好ましい。「鳥類」という用語は、本明細書で使用される場合、ニワトリ、カモ、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウおよびキジを含むが、これらに限定されない。「哺乳動物」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ類などを含むが、これらに限定されない。ヒト対象には、新生児、幼児、児童および成人が含まれる。他の実施形態において、対象は、がんの動物モデルである。ある特定の実施形態において、対象は、がんを有するか、またはがんについてのリスクを有する。
【0188】
以下の実施例は、本発明の特許請求の範囲を限定するとは意図されず、むしろ、ある特定の実施形態の例示であると意図される。当業者に想起される例示される方法における任意の変動は、本発明の範囲内に入ることが意図される。当業者によって理解される通り、請求される発明の各態様についていくつかの実施形態および要素が存在し、異なる要素のすべての組合せはこれにより予期され、そのため、本明細書で例示される特定の組合せは、請求される本発明の範囲における限定として解釈すべきでない。特定の要素が組合せで使用可能な要素の群から除去されるかまたはこれに付加される場合、要素の群は、そのような変化を組み込んだものとして解釈すべきである。
【実施例
【0189】
[実施例1]突然変異体KRAS特異的siRNA
<方法>
新規突然変異体特異的siRNA(MS-siRNA)を、19ヌクレオチドsiRNA有効性についての3ミスマッチ耐性閾値を示唆する以前の文献に基づいて設計した(Naito et al.,Nucleic Acids Res.32:W124(2004))。配列と標的遺伝子との間の2つまたはそれ以下のミスマッチにより、siRNAは、目的の遺伝子に結合でき、その発現をノックダウンすることに成功することができる。しかしながら、3ミスマッチ閾値およびそれ以上では、siRNAは、標的を認識することができず、したがって、コードされたタンパク質の発現を許容する。Sigma Aldrich、Life TechnologiesおよびDharmaconにより提供されるオープンソースソフトウェアを使用して、最も一般に存在するKRAS突然変異体(G12C、G12DまたはG12VおよびG13D)の各々に対応するちょうど3つの点突然変異を有する、天然に実際に発生することのないWT-KRAS遺伝子の人工的な超突然変異バージョンのアンチセンスになるように、カスタムMS-siRNAを生成した。30個の隣接ヌクレオチドを、人工超突然変異mRNA入力におけるこれらの部位の上流および下流に含めた(図1)。siRNA配列を、2つの異なる人工mRNA配列を標的とするように設計し、1つは、コドン12(G12CおよびG12D)および13(G13D)において特定のミスセンス突然変異を同時に含有し、もう1つは、コドン12(G12CおよびG12V)および13(G13D)において特定のミスセンス突然変異を同時に含有したことに留意すべきである(図1)。生成される配列は、したがって、WT-KRASについては3つのミスマッチエラーを有するが、3つの突然変異体KRAS対立遺伝子の各々については2つのミスマッチエラーのみを有する、アンチセンスである。その結果、この配列は突然変異体KRASについての3ミスマッチ閾値未満であり、かつWT-KRAS対立遺伝子について閾値超であるので、これらのMS-siRNAは、突然変異体KRASを標的とするタスクを最適化する一方で、WT-KRAS対立遺伝子を温存すると仮定された。加えて、カスタム配列設計において3つの異なる優勢なKRAS突然変異体の各々からの1つの突然変異を導入することによって、生ずるsiRNAは、1つではなく、いくつかのKRAS突然変異体を同時に標的とする付加された潜在的利点を有する。
【0190】
pBABE-puroレトロウイルス発現ベクターに挿入されたWT、G12C、G12D、G12VまたはG13D-KRAS遺伝子を含有する構築物を調製した。ベクター構築物を拡張するために、プラスミドを、高効率コンピテント大腸菌細胞に添加し、振盪機上のS.O.C.培地中で37℃にてインキュベートした。その後、細胞を、アンピシリンアガロースプレートに播種し、37℃で一晩インキュベートした。一晩培養プレートから細菌コロニーを採り、1μl/mlカルボサイクリン(carbocyclin)を含むLB培地に入れ、振盪機上で37℃にて一晩インキュベートすることにより、液体培養物を調製した。液体培養物は、3組で行った。生ずる濁った培養物からのプラスミドDNAを、QIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen)を使用して精製した。BamHIおよびHindIIIを使用する制限酵素消化ならびにゲル電気泳動により、プラスミド拡張の成功を確認した。Miniprepからの消化していないプラスミドを、0.1μl/mlのカルボサイクリンを含むLB培地中でさらに拡張し、その後、QIAprep Spin Maxiprep Kit(Qiagen)を使用して精製した。
【0191】
pBABE-puro-KRASプラスミドを含有するレトロウイルスを産生するために、HEK293T細胞9×10個を、293T培地(10%FBSおよび1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むDMEM)中において6cm細胞培養プレート上に播種し、37℃、5%COにおいてインキュベートした。24時間後、OptiMEM培地に0.01μg/μlのプラスミド構築物および0.01μg/μlのPCL10Aパックベクタープラスミドの混合物を作出することによって、各pBABE-puro-KRASプラスミドについてプラスミドDNA混合物を調製した。加えて、OptiMEM培地中の0.05μg/μlのリポフェクタミン2000(Thermo Fisher Scientific)を添加し、室温で5分間インキュベートすることによって、L2K混合物を調製した。その後、L2K混合物を、各プラスミドDNA混合物と1:1で混合し、室温で20分間インキュベートした。インキュベートした細胞から培地を除去し、その後、2mlの293T培地を、250μlのプラスミドDNA/L2K混合物と共に各ウェルに添加した。さらなる24時間後、プラスミドDNA/L2K培地を、293T培地で置換した。さらなる24時間後、生ずるウイルス培地を、ウェルから収集し、新鮮な293T培地で置換した。ウイルス培地を4℃の氷上で一晩保存した。さらなる24時間後、培地をウェルから再び収集し、以前に保存したウイルスに添加した。混合物を室温で遠心分離し、その後、上清を収集した。このプロセスを、プラスミド構築物の代わりにmCherryおよび293T培地を使用して反復して、mCherryおよび空のベクターウイルスをそれぞれ産生した。
【0192】
細胞にKRASプラスミドを感染させるために、NIH3T3細胞を回収し、完全培地(10%コロラドウシ血清および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM)中において6ウェルプレート中に1ウェル当たり100,000個で播種した。4~6時間後かつ細胞が付着したら、培地を吸引し、250μlのウイルス培地(WT、G12C、G12D、G12V、G13D、mCherryおよび空のベクター)または完全培地(陰性対照)と共に10μl/mlポリブレンを含む2mlの完全培地を、各ウェルに添加した。細胞を、1500gにおいて30℃にて60分間遠心分離し、その後、37℃において一晩インキュベートした。24時間後、ウェルを吸引し、完全培地を各ウェルに添加した。さらなる24時間後、ウェルを吸引し、2μg/mlのピューロマイシンを含む完全培地を添加した。陰性対照ウェルに生細胞がなくなるまで24時間毎に培地をピューロマイシン培地により置換した。感染の成功を、mCherry発現を使用してさらに確証した。
【0193】
24ウェルプレートにおいて1ウェル当たり500μlの完全培地当たり細胞60,000個の密度で播種したKRAS感染NIH3T3細胞において、RNAiノックダウンを誘導した。スクランブルした対照siRNAの配列、ならびに野生型および突然変異体KRASを強力にサイレンシングすることが以前に見出された陽性対照(Seq2番および3番、G12CおよびG12D siRNA)を、図1に示される通りに使用した(Fleming et al.,Mol.Cancer Res.3:413(2005);Pecot et al.,Mol.Cancer Ther.13:2876(2014))。細胞を、20nM siRNA(Sigma Aldrich)およびリポフェクタミン(R)RNAiMAXトランスフェクション試薬(Thermo Fisher Scientific、体積で2:1の比のトランスフェクション試薬対siRNA)と共に、完全培地および血清非含有培地の5:1混合物中で37℃において5%COにて5時間インキュベートした。培地を除去し、細胞を完全培地のみにおいてさらなる19時間インキュベートし、その後QIAprep Spin Miniprep Kitを使用して、RNAを収集および精製した。
【0194】
siRNA処理からの精製RNAを分光光度計を使用して定量し、その後、iScript(商標)cDNA Synthesis Kit(Bio-Rad)を使用してcDNAに逆転写した。KRASの相対的発現レベルを定量するために、StepOnePlus(商標)Real-Time PCR System(Thermo Fisher Scientific)においてSYBRグリーンの蛍光強度の実時間変化をモニタリングすることによって、RT-PCR反応を行った。各試料を3反復で行った。また、StepOnePlus(商標)を使用して、KRASの周期閾値(Ct値)を標的参照遺伝子18sのCt値と比較することによってΔCt値を計算し、その後、各siRNAについてのΔCt値をNC siRNAのΔCt値と比較するΔΔCT分析を使用して、RQ値を得た。エラーバーは、1標準偏差を表す。データは、WTおよびG12Dについての2組の生物学的反復の1回の試験、ならびにG12C、G12VおよびG13Dについての2組の生物学的反復の2回の試験の結果を表す。逆トランスフェクション実験を、各細胞株について各siRNAについて2組行った。
【0195】
<結果>
インビトロでの突然変異体特異的KRASサイレンシングの有効性を試験するために、1パネルの候補MS KRASのsiRNA配列を、WTおよび標的突然変異体KRAS発現細胞の両方においてKRAS発現をノックダウンするそれらの能力について試験した。12CD13D_1配列は、G12C(50%)、G12D(82%)およびG13D突然変異体KRAS(66%)をノックダウンする一方で、WT-KRAS発現の温存(陰性対照siRNAと比較して4%のみのノックダウン)を呈することが観察された(図2A)。また、この配列は、予想外に、G12V発現をノックダウンすること(58%)が記録された。加えて、また、12CD13D_2および12CD13D_4は、WT温存および突然変異体ノックダウンを呈することが分かった。しかしながら、前者は、12CD13D_1よりも低いWT温存を呈するように見え、後者は、すべての細胞株においてより少ないKRASノックダウンを呈するように見えた(図2A)。残りの配列は、突然変異体KRASに対して低い効力、WT-KRAS細胞株において高いKRASノックダウン、またはこれらの両方を呈した(図2A)。
【0196】
加えて、MS-siRNA配列の有効性を、標的特異性を呈することが以前に実証された配列と比較するために、G12C特異的およびG12D特異的siRNA配列(Fleming et al.,Mol.Cancer Res.3:413(2005))を試験した。しかしながら、これらの配列の突然変異体特異性は確認されず、これらの配列は、それぞれ、WTまたは他の突然変異体対立遺伝子に優る、G12CおよびG12D突然変異体KRASの期待される優先的ノックダウンを呈しなかった(図2B)。
【0197】
KRAS-siRNA配列12CD13D_1および12CD13D_4を、KRAS-G12D突然変異体肺がん細胞株において試験した。対照siRNA(Scr)および2つの以前に確証されたKRAS-siRNA(Seq2番および3番)を使用して、カスタマイズした突然変異体特異的KRAS-siRNA配列12CD13D_1および12CD13D_4は、KRASタンパク質発現のサイレンシングに非常に有効であることが実証された(図3)。
【0198】
私たちのカスタムsiRNA配列間のすべての可能なsiRNA配列の並べ替えを試験する。最も優れた可能なカスタムKRAS-siRNA配列(リード配列は12CD13D_1および12CD13D_4)を確証するために、12CD13D_1と12CD13D_4との間で徐々に下流へ移動する配列ライブラリー(12CD13D_A~12CD13D_F)を試験した(図4)。
【0199】
野生型(WT)または突然変異体G12C、G12D、G12VおよびG13DヒトKRAS配列のいずれかの3T3細胞への安定な形質導入後、細胞に、図5において列挙されるKRAS-siRNA配列をトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、細胞を溶解し、RNAを収集し、cDNAを作製した。18sをハウスキーピング遺伝子として使用してKRASについて定量的qPCRを行った。リード12CD13D_1および12CD13D_4カスタム配列が、やはり、突然変異体KRASのサイレンシングにおいて全体的に最も優れており、一方で、他の可能なKRAS-siRNA配列(「A」~「F」)は、様々なKRAS-mRNA配列のサイレンシングにおいて全体的にあまり強力でないことが見出された。この実験において、カスタムKRAS-siRNA 12CD13D_4配列が、WT配列の温存において最も優れていた。
【0200】
<考察>
突然変異体KRASを標的とするために多くの努力が払われてきたが、現在、臨床使用において直接的阻害剤は存在しない。さらに、最近の小分子がん療法は、低い標的特異性を呈し、非がん細胞において有害な毒性をもたらす(Pecot et al.,Nat.Rev.Cancer 11:59(2011))。KRASシグナル伝達経路において下流エフェクターを阻害することにおける現在の進歩にもかかわらず、KRASは、薬物開発にとってとらえどころのない標的のままである(Cox et al.,Nat.Rev.Drug Discov.13:828(2014))。そのため、本研究は、突然変異体KRASの発現を選択的に阻害する手段としての新規MS-siRNAの有効性を調査した。
【0201】
これらの予備的な発見に基づいて、12CD13D_1および12CD13D_2 siRNA配列を、それらの高い突然変異体特異性および効力のために、治療剤としてのさらなる調査のリード候補として選択した。より低い程度ではあるが、12CD13D_4もまた有望な候補である。しかしながら、突然変異体標的においてKRAS発現をノックダウンすることにおけるその低い効率から、それは臨床関連治療剤として有効でない場合があることが示唆される。対照的に、G12C特異的およびG12D特異的siRNAは、WT-KRAS対立遺伝子の温存をまったく呈しないように見える。
【0202】
加えて、G12D点突然変異よりもG12Vを標的とするように設計した両方の配列の低い特異性は、G12Vターゲティング配列におけるWT-KRASについてのより大きな耐性を示唆する。
【0203】
これらの予備的な発見は集合的に、発がん性KRASをサイレンシングするための突然変異体特異的媒体としての、新規MS-siRNAの実行可能性を示唆する。突然変異体KRAS特異性を有する有効なペイロードとしてのその可能性により、新規突然変異体特異的siRNAは、以前は「新薬開発不可能」であったものについて薬物開発を探求するための有望な手段である。
【0204】
[実施例2]合成突然変異体KRASへ標的としたアンチセンスオリゴヌクレオチド
野生型KRAS配列(配列番号52)に対して、突然変異G12C、G12DおよびG13Dを含む本発明の突然変異体KRAS(配列番号53)を標的とする一連のアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)配列を作出した(図6および表2)。図6において、黒色バーは、2’-メトキシ-エチル(MOE)修飾を有するヌクレオチドを表し、一方で、灰色の領域は、DNAからなる「ギャップマー」を表す。模式図は、正確な縮尺率ではなく、黒色バーは、各側の5つの隣接MOE修飾ヌクレオチドからなり、一方で、10個のヌクレオチドギャップマーが存在する。ASOは、すべてのヌクレオチド間のホスホロチオエート結合(PS、「*」により示される)、10ntのギャップマー(下線)および5つの隣接2’-MOE(メトキシ-エチル)修飾(太字)を組み込む。ASOを試験して、いくつかのKRAS突然変異をサイレンシングする能力を維持する一本鎖RNAおよび/またはDNA配列を特定した。
【0205】
【表2】
【0206】
4つの別々のA431細胞株を操作して、野生型KRASの発現を除去し、突然変異G12C、G12D、G13DまたはG12Vのいずれか1つを発現させた。各細胞株を、1.1μMの遊離ASOにより48時間処理し、qPCRを行った。結果を図7に示す。ASOのうちのいくつかが、突然変異のうちの1つまたは複数をサイレンシングすることが実証された一方で、ASO15およびASO16は最も一般的な4つのKRAS突然変異すべてをサイレンシングすることにおいて非常に強力であることが分かった。
【0207】
ヒットした上位のもののいくつかを再評価し、ここでもまたASO15およびASO16は、用量応答様式において4つのKRAS突然変異のすべてを強力にサイレンシングすることが分かった(図8)。細胞を、1.1μMおよび10μMの遊離ASOにより48時間処理し、その後、突然変異体KRASについてqPCRを行った。
【0208】
[実施例3]修飾ASO16配列
ASOを、天然に存在する突然変異、例えば単一突然変異(G12C、G12D、G12VまたはG13D)を標的とすることによって突然変異特異性を増大させたASOを特定するために、強力なASO16で開始して、修飾バージョンを調製した。修飾は、塩基置換およびロックド核酸の使用を含んだ。修飾した配列を、表3に示す。ASOは、すべてのヌクレオチド間のホスホロチオエート結合(PS、「*」により示される)、10ntのギャップマー(下線)および5つの隣接2’-MOE(メトキシ-エチル)修飾(太字)を組み込む。最後の4つの配列は、特定の部位における融解温度を増大させるために、MOEの代わりに単一のロックド核酸(LNA、塩基の前の「+」により示される)を使用する。LNAは、2’および4’炭素を接続するメチレン架橋からなる。
【0209】
【表3】
【0210】
ASOを、上記に説明される通りに、A431細胞株について試験した。結果を、図9に示す。各KRAS突然変異についての効力の改善は、1)ASO16-G12CおよびASO-G12C-LNAを使用してG12C、2)ASO16-G12DおよびASO16-G12D-LNAを使用してG12D、3)ASO16-G12VおよびASO16-G12V-LNAを使用してG12V、ならびに4)ASO16-G13DおよびASO16-G13D-LNAを使用してG13Dについて見出された。これらの結果から、これらのASO配列の突然変異特異性の増大は効力の増大をもたらしたことが示される。
【0211】
ASO16活性についてのLNAの効果を試験した。KRAS-G12C突然変異を発現するMIAPaCa-2膵がん細胞株を、遊離ASO取り込みにより試験した。細胞株を、1μMまたは5μMの、ミスマッチの部位の周囲に1、2または3個のLNAを有するASO16、ASO16 C12CまたはASO16 G12Cにより72時間処理し、qPCRを行った。結果を図10に示す。結果は、ミスマッチ部位におけるLNAの増大による、KRASサイレンシングにおける有意な改善を示す。
【0212】
野生型KRAS発現を温存する能力を、同じASOにより試験した。ASOについての競合を避けるために内因性KRAS野生型対立遺伝子が欠失されているA431細胞において、ルシフェラーゼレポーター系を使用した。その後、これらのA431-KRASヌル株を操作して、ホタルルシフェラーゼレポーターでタグ付けした野生型KRASまたはKRAS-G12Cのいずれかを発現させた。自由取り込みによる5μMのASOへの72時間の曝露に際して、ASOは、G12Cサイレンシングと比較して有意な野生型温存を示し、LNA修飾を有するASO16-G12C ASOにおいて最も著しかった(図11)。
【0213】
[実施例4]完全修飾siRNA配列
突然変異した配列の発現の低減を最大限にする一方で、野生型KRAS配列を温存する配列を特定しようとして、実施例3において説明される単一のKRAS突然変異へ標的としたASOのうちのいくつかをsiRNA分子に変換した。その後、これらのsiRNAを完全に修飾して(FM)、ヌクレアーゼ分解および免疫刺激を最小限にした。これらの種類の修飾は多くの場合、siRNAのサイレンシング活性を減弱させるが、本発明者らは、非修飾siRNAと比較して、siRNAのサイレンシング活性のすべてまたはほとんどすべてを保持するいくつかの完全修飾siRNA配列を開発した。
【0214】
表4は、調製した完全修飾siRNA配列を列挙する。
【0215】
siRNAの各々を、WTまたは標的化されるKRAS突然変異のいずれかを発現するように操作したA431細胞において試験した。突然変異体発現A431細胞については、WT対立遺伝子を、CRISPRを介して欠失させたので、示される発現は、突然変異体mRNAのみを反映する。細胞に、低用量(20nM)の陰性対照(NC)またはFM KRAS-siRNAをトランスフェクトし、24時間後に単離されたRNAについて、KRAS発現についてのqPCRを行った。
【0216】
【表4】

【0217】
G12C突然変異を標的とするsiRNAについて、D1-G12C-FMおよびD2-G12C-FMは両方とも、野生型発現を温存しながら突然変異体KRAS-G12Cを低減させることができることが見出された(図12)。注目すべきことに、すべてのsiRNAが、G12C KRASを抑制すること、または野生型KRASを温存することにおいて同等というわけではなかった。図13において示される通り、「親」D1(12CD13D_1)、D2(12CD13D_2)およびD4(12CD13D_4)配列の一部の(斜線のバー)突然変異体特異的(MS)反復は、より強力であることが見出された(パネル1)。MS配列のうちのいくつかは、pan-KRAS Seq2とは異なり、WT配列よりも突然変異体をより強力に低減させることが見出された(D1-G12C、D2-G12C、D4-G12Cを参照されたい)(パネル2)。最後に、これらのMS配列のFM反復は、WT-KRAS発現よりも、突然変異体KRASに対するサイレンシング活性の保持を示すことが見出された(例えばD2-G12C-FM-F)(パネル3)。
【0218】
G12D突然変異を標的とするsiRNAについて、D1-G12D-FM、D2-G12D-FMおよびD2-G12D-FM-Fはすべて、突然変異体KRAS-G12Dを低減させることができることが見出された(図14)。また、D1-G12D-FMおよびD2-G12D-FMは、WT発現を温存することができた(図14)。注目すべきことに、すべてのsiRNAが、G12D KRASを抑制すること、または野生型KRASを温存することにおいて同等というわけではなかった。図15において示される通り、「親」D1、D2およびD4配列の一部の(斜線のバー)突然変異体特異的(MS)反復は、より強力であることが見出された(パネル1)。MS配列のうちのいくつかは、pan-KRAS Seq2とは異なり、WT配列よりも突然変異体をより強力に低減させることが見出された(D1-G12Dを参照されたい)(パネル2)。最後に、これらのMS配列のFM反復は、WT-KRAS発現よりも、突然変異体KRASに対するサイレンシング活性の保持を示すことが見出された(例えばD1-G12D-FMおよびD2-G12D-FM)(パネル3)。
【0219】
G12V突然変異を標的とするsiRNAについて、V1-G12V-FMおよびV2-G12D-FMは、突然変異体KRAS-G12Vを低減させることができ、一方でまた、WT発現を温存することができることが見出された(図16)。注目すべきことに、すべてのsiRNAが、G12D KRASを抑制すること、または野生型KRASを温存することにおいて同等というわけではなかった。図17において示される通り、「親」D1、D2およびD4配列の一部の(斜線のバー)突然変異体特異的(MS)反復は、より強力であることが見出された(パネル1)。MS配列のうちのいくつかは、pan-KRAS Seq2とは異なり、WT配列よりも突然変異体をより強力に低減させることが見出された(D2-G12Vを参照されたい)(パネル2)。最後に、これらのMS配列のFM反復は、WT-KRAS発現よりも、突然変異体KRASに対するサイレンシング活性の保持を示すことが見出された(例えばD1-G12V-FMおよびD2-G12V-FM)(パネル3)。
【0220】
G13D突然変異を標的とするsiRNAについて、D2-G13D-FMおよびD2-G13D-FM-Fは、突然変異体KRAS-G12Dを低減させることができることが見出された(図18)。また、D2-G12D-FM-Fは、WT発現を温存することができた(図18)。注目すべきことに、すべてのsiRNAが、G12D KRASを抑制すること、または野生型KRASを温存することにおいて同等というわけではなかった。図19において示される通り、「親」D1、D2およびD4配列の一部の(斜線のバー)突然変異体特異的(MS)反復は、より強力であることが見出された(パネル1)。MS配列のうちのいくつかは、pan-KRAS Seq2とは異なり、WT配列よりも突然変異体をより強力に低減させることが見出された(D1-G13DおよびD4-G13Dを参照されたい)(パネル2)。最後に、これらのMS配列のFM反復は、WT-KRAS発現よりも、突然変異体KRASに対するサイレンシング活性の保持を示すことが見出された(例えばD2-G13D-FMおよびD2-G13D-FM-F)(パネル3)。
【0221】
G12D標的化siRNAを、A427(KRAS-G12D)肺がん細胞を使用して細胞生存率に対する効果について試験した。細胞にsiRNAをトランスフェクトし、5(D5)または8(D8)日後にCELLTITER_GLO(登録商標)発光リードアウトを使用して細胞生存率を測定した。図20において示される通り、結果から、D2-G12D Hi2FおよびD4-G12D Hi2F siRNAは、G12D株に対して非常に強力であることが明らかである。
【0222】
同様の実験を行って、siRNAについてのIC50(すなわち、GI50)値を決定した。結果を、表5および図21に示す。
【0223】
【表5】
【0224】
同様の細胞生存率研究を、HCT116(KRAS-G13D)結腸がん細胞においてG13D標的化siRNAにより行った。図22に示される通り、結果から、D2-G13D完全修飾siRNAのすべてが、がん細胞生存率を阻害するのに非常に強力であることが明らかである。
【0225】
同様の実験を行って、siRNAについてのIC50値を決定した。結果を、図23に示す。加えて、A431 WTおよびKRAS-G13DモデルにおいてqPCR実験を行って、最も強力なsiRNAであるEFTX-G13D-F2による最大で5倍の野生型KRASの温存を示した(図23)。
【0226】
インビボ有効性を研究するために、胸腺欠損ヌードマウスにおける異種移植片として、HCT116(KRAS-G13D)腫瘍を、それらが約125mmの大きさに達するまで確立し、その後、PBS、または示されるリンカーを伴うD2-G13D-Hi2F siRNAにコンジュゲートしたEGFRターゲティングリガンド(GE11)のいずれかにより処理した(図24)。マウスを、滅菌PBS中に懸濁したGE11-siRNA(5mg/kg)により皮下処理した。結果は、示される時点での腫瘍におけるKRASの最大で50~70%のサイレンシングを示した(図24)。示される各群および時点は、5つの独立した腫瘍を表す。
【0227】
G12V標的化siRNAを、SKC01(KRAS-G12V)結腸がん細胞を使用して細胞生存率に対する効果について試験した。細胞にsiRNAをトランスフェクトし、5(D5)または8(D8)日後にCELLTITER_GLO(登録商標)発光リードアウトを使用して細胞生存率を測定した。図25において示される通り、結果から、V1-G12VおよびV4-G12V完全修飾siRNAの両方による実質的な抗がん活性が明らかである。
【0228】
同様の実験を行って、siRNAについてのIC50値を決定した。結果を、図26に示す。加えて、A431 WTおよびKRAS-G12VモデルにおいてqPCR実験を行って、EFTX-3G12V1およびEFTX-3G12V4による野生型KRASの温存を示した(図26)。
【0229】
KRAS発現に対するEFTX-D1の効果を、NIH3T3細胞において試験した。図27Aは、HAタグ付きKRAS WTまたはG12Cを安定に発現するNIH3T3細胞の、20nMのNC siRNA、Seq2 siRNAまたはEFTX-D1 siRNAによる一過性トランスフェクションの36時間後のウェスタンブロットを示す。細胞溶解物を、HA(KRAS)およびβ-アクチン(ローディング対照)についてブロッティングした。濃度測定を右に示し、結果は、NC siRNAトランスフェクションおよびβ-アクチン発現について正規化される。図27Bは、HAタグ付きKRAS WT、G12CまたはG12Dを安定に発現するA431細胞の、20nMのNC siRNA、Seq2 siRNAまたはEFTX-D1 siRNAによる一過性トランスフェクションの48時間後のウェスタンブロットを示す。細胞溶解物を、HA(KRAS)およびビンキュリン(ローディング対照)についてブロッティングした。濃度測定を右に示し、結果は、NC siRNAトランスフェクションおよびビンキュリン発現について正規化し、結果から、EFTX-D1が突然変異体KRAS発現をより強力にサイレンシングし、野生型レベルを温存し得るタンパク質レベルが明らかである。
【0230】
[実施例5]追加の完全修飾siRNA配列
配列番号50または配列番号51の配列を含むsiRNAを、実施例1において説明される実験において陽性対照として使用した。これらのsiRNAの完全修飾バージョンを調製して、それらの特異性および効力を試験した。FM siRNAの配列を、表4に示す。HCT116(結腸がん、KRAS-G13D)およびLU65(肺がん、KRAS-G12C)細胞株に、20nMの非修飾Seq2もしくはSeq3、または完全化学修飾(FM)Seq2-FMもしくはSeq3-FM siRNA配列のいずれかをトランスフェクトした。Seq2-FMおよびSeq3-FMの両方は、驚くべきことに、とりわけ処置の48時間後に、KRAS活性の完全なサイレンシングを維持した(図28)。
【0231】
すべての出版物、特許および特許出願は、各個々の出版物、特許または特許出願が参照により組み込まれていることが特にかつ個々に示されているのと同様に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0232】
上記発明は、理解を明確にする目的のために例示および例の手段によっていくらか詳細に説明されたが、上記実施形態および附属の特許請求の範囲の列挙の範囲内においてある特定の変化および改変が実行され得ることが明らかであろう。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
【配列表】
2023521383000001.app
【国際調査報告】