(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-24
(54)【発明の名称】ポリ硫酸化多糖による急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/726 20060101AFI20230517BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230517BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
A61K31/726
A61K45/00
A61P11/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022561581
(86)(22)【出願日】2021-04-09
(85)【翻訳文提出日】2022-11-30
(86)【国際出願番号】 AU2021050327
(87)【国際公開番号】W WO2021203174
(87)【国際公開日】2021-10-14
(32)【優先日】2020-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520040119
【氏名又は名称】パラダイム バイオファーマシューティカルズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】レニー,ポール
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナン,ラヴィ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZA59
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA26
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA55
4C086MA60
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA59
(57)【要約】
ポリ硫酸ペントサン(PPS)の投与を含む、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、特にインフルエンザおよびSARS-CoV-2のようなウイルス感染によって引き起こされるARDSの治療のための方法が提供される。いくつかの提供される方法は、ポリ硫酸ペントサンナトリウムの投与を含む。また、ARDSの原因であるウイルスを不活化するためにポリ硫酸ペントサンナトリウムを(例えば、鼻腔内に)投与することを含む予防方法も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための方法であって、そのような治療を必要とする対象にポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩を投与するステップを含む、方法。
【請求項2】
ARDSがコロナウイルスによって引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
動物対象が哺乳動物である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳動物がヒトである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記コロナウイルスがベータ-コロナウイルスである、請求項3または請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記コロナウイルスが、HKU1、OC43、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV);重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)およびそれらの株からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コロナウイルスが重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)またはその株である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩、および許容される賦形剤を含む組成物。
【請求項9】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療に使用するための、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩、および許容される賦形剤を含む組成物。
【請求項10】
ARDSがコロナウイルスによって引き起こされる、請求項8または請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
動物対象が哺乳動物である、請求項8から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記哺乳動物がヒトである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記コロナウイルスがベータ-コロナウイルスである、請求項11または請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記コロナウイルスが、HKU1、OC43、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV);重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)およびそれらの株からなる群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記コロナウイルスが重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)またはその株である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療における、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩の使用。
【請求項17】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための医薬の製造における、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩の使用。
【請求項18】
ARDSがコロナウイルスによって引き起こされる、請求項16または請求項17に記載の使用。
【請求項19】
動物対象が哺乳動物である、請求項16から18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記哺乳動物がヒトである、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記コロナウイルスがベータ-コロナウイルスである、請求項19または請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記コロナウイルスが、HKU1、OC43、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV);重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)およびそれらの株からなる群から選択される、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記PPSが、ポリ硫酸ペントサンのナトリウム塩(NaPPS)、ポリ硫酸ペントサンのマグネシウム塩(MgPPS)、ポリ硫酸ペントサンのカルシウム塩(CaPPS)、およびポリ硫酸ペントサンの亜鉛塩(ZnPPS)からなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法、請求項8から15のいずれか一項に記載の組成物、または請求項16から22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記PPSがNaPPSである、請求項23に記載の方法、組成物または使用。
【請求項25】
治療が、筋肉内(IM)、皮下(SC)、静脈内(IV)、関節内(IA)、関節周囲、局所、座薬によりまたは経口投与することによる、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【請求項26】
治療が、鼻腔内経路;気管内経路、気管中経路および肺経路からなる群から選択される呼吸器経路を介して投与することによる、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【請求項27】
前記治療が、IM注射またはSC注射を施すことによる、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【請求項28】
前記治療が、SC注射を施すことによる、請求項27に記載の方法、組成物または使用。
【請求項29】
前記SC注射が、緩徐皮下注射である、請求項28に記載の方法、組成物または使用。
【請求項30】
治療が、前記PPSまたはその許容される塩を、1用量につき対象1kgあたり約1から約2mgの有効量で、または固定用量として約1mgから4000mgの有効量で前記対象に投与することによる、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【請求項31】
前記治療が、ポリ硫酸化多糖またはその許容される塩を、1用量につき対象1kgあたり約2mgの有効量、または固定用量として約150mgの有効量で前記対象に投与することによる、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【請求項32】
ヒトへの投与が、1日1回、週2回または週3回の治療レジメンで投薬することによる、請求項25から31のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【請求項33】
ヒトへの投与が、週2回の治療レジメンで投薬することによる、請求項32に記載の方法、組成物または使用。
【請求項34】
ヒトへの投与が、投薬の間が最低で3日、最高で4日である、週2回の治療レジメンで投薬することによる、請求項33に記載の方法、組成物または使用。
【請求項35】
ヒトへの投与が、週2回で6週間の治療レジメンで投薬することによる、請求項34に記載の方法、組成物または使用。
【請求項36】
前記ヒト治療レジメンで投与されるポリ硫酸化多糖の総用量が、約200から約4000mgである、請求項35に記載の方法、組成物または使用。
【請求項37】
前記PPSが、ARDSのための追加の治療選択肢と同時投与される、請求項1から36のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年4月9日に出願された豪州仮特許出願第2020901139号からの優先権を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、呼吸器疾患の治療のためのポリ硫酸化多糖およびその組成物の医学的使用に関する。特に、本開示は、急性呼吸器疾患症候群(ARDS)の治療におけるポリ硫酸ペントサンの使用に関する。より詳細には、本開示はSARS-CoV-2などのコロナウイルスによって誘導されるARDSの治療におけるポリ硫酸ペントサンの使用に関する。
【0003】
本開示を通して、様々な刊行物が番号により参照される。これらの刊行物の完全な引用は、本出願中に現れる順に、特許請求の範囲の直前の参考文献セクションに示されている。これらの参照刊行物の開示は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
最近の歴史において、呼吸器疾患の流行は、世界中のヒト集団に影響を及ぼした。重症急性呼吸器症候群(SARS)は2002年に中国で発生し、10%の死亡率で8000の症例を引き起こした。中東呼吸器症候群(MERS)は2012年に発生し、40%近い死亡率で1700の症例を引き起こした。コロナウイルスは、SARSおよびMERSの流行の原因となる感染因子として同定された。これらのウイルスは遺伝的に多様であり、ヒトおよび新たな人獣共通感染症の宿主に出入りする能力を有しており、対策が課題となっている[1]。
【0005】
2019年12月、中国湖北省武漢市で急性呼吸器疾患のアウトブレイクが起こり、説明のつかない肺炎を患う患者が発生した。2020年1月7日までに、この新たな急性呼吸器疾患は、新型コロナウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされることが確認された[2]。新たな疾患の症例であるCOVID-19は、海外旅行にも助長されて、瞬く間に中国全土、そして世界中に広がった[3]。世界保健機関(WHO)は、2020年3月11日にこの疾患をパンデミックとして宣言し、4月4日の時点で1,051,635の症例があり、死亡率は5.7%であった[4]。
【0006】
SARS-CoV-2に感染した患者は、無症候性でありうる。しかしながら、症状のある患者は、上気道の感染による発熱、乾いた咳、および息切れを経験しうる。また、患者はインフルエンザのような症状を示すこともある。感染がより重度で、肺に深くまで広がっている場合、より重篤な病気および呼吸困難が発症しうる。また、二次感染および/または非肺疾患(心臓、腎臓の合併症)も発症しうる。重篤な病気は一般的に、COVID-19による主要な死亡原因の1つであるARDSにつながる肺炎を特徴とする[2、5]。
【0007】
SARS-CoV-2によって引き起こされるARDSに対する確立された治療選択肢はない。その代わりに、サポートケアおよび非特異的な治療プロトコルが、患者の症状を改善するために使用されてきた[6]。この点に関しては、有効な薬物療法がない中、肺人工呼吸器を単独で、あるいは例えば、スペクトルの広い抗ウイルス剤もしくは抗菌剤、または回復期血漿などの投与との組み合わせで使用するストラテジーが、依然として利用可能な選択肢の主力となっている。しかしながら、SARS-CoV-2により引き起こされるARDSによって重症化した患者の急増に対応するために利用可能な人工呼吸システムは不足している[7]。
【0008】
さらに、ARDSの薬物療法の候補は、必要とされる安全性と活性を欠いている可能性がある。例えば、一部のステロイドは、免疫反応を低下させることが知られており、また、ウイルスの排出を増加させる可能性があるため、一般的に使用すべきではない。以前のSARSまたはMERSの流行における患者をステロイドで治療する試みは、承認された抗ウイルス剤(リバビリン、ロピナビル・リトナビル)および免疫調整剤による試みと同じく、有効ではなかった[8]。上記の薬剤では副作用が見られうる。例えば、リバビリンの場合は貧血である[6]。
【0009】
よって、SARS-Cov-2によって引き起こされるARDSの治療において使用されうる医薬品に対しては、明確な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0010】
ポリ硫酸ペントサンは、ヘパリン、ポリ硫酸キトサン、フカンを含む化合物のポリ硫酸化多糖クラスのメンバーであり、抗凝固剤として長年にわたり使用され[9~14]、安全性を有する化合物である。ポリ硫酸ペントサン(PPS)は、ヘパリンよりも弱い抗凝固剤であり[9、12、13]、それ自体が血栓溶解剤として術後および予防的に使用されており[14]、PPSは現在、間質性膀胱炎に処方されている薬物、エルミロン(登録商標)の活性剤でもある。骨に関連する病態および関連する症状の治療におけるPPSの使用については記述がある[15、16]。喘息、アレルギー性鼻炎、および/または慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの炎症性疾患の治療におけるPPSの使用も検討されている[17]。
【0011】
本開示に至る研究において、PPSは、ARDSの効果的な治療のために協調して作用しうる多くの生物学的効果を発揮しうることが観察された。この点に関して、PPSはARDSの病態に一貫して顕著に見られる側面を、1つだけでなく複数、標的化することができる。
【0012】
SARS-CoV-2により引き起こされるARDSの病態には、一連の事象と複数の要因が関与する。SARS-CoV-2は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体と結合するスパイクタンパク質を介して肺細胞に侵入する。感染による内皮および上皮肺細胞の損傷は、肺水腫の蓄積をもたらす。肺水腫、内皮および上皮の損傷は、間質および気管支肺胞空間への好中球の流入を伴う。ARDSの進行においては、好中球の活性化と動員が重要な役割を果たすと考えられている。この点に関して、好中球は炎症部位に最初に動員される細胞である。上皮細胞のバリア機能の低下は、肺胞空間へのタンパク質に富んだ液体および他の高分子の流入を促進する。また、ARDSの病態は、肺水腫液と炎症細胞を肺から除去するメカニズムの障害によっても特徴付けられる。
【0013】
ARDSにおける一貫した顕著な所見は、フィブリンの沈着、補体媒介性肺損傷、サイトカイン反応、炎症および好中球の浸潤である。
【0014】
ポリ硫酸ペントサンは、これらの側面を標的化する可能性を有している。
【0015】
フィブリンの沈着。Moore et al. 2020は、SARS-CoV-2によって引き起こされるARDSの治療に線溶薬を使用する理由を提示している[7]。PPSは、線溶系に影響を与える[18]。
【0016】
補体媒介性肺損傷。PPSは補体を介した組織損傷を防ぐ[19]。
【0017】
サイトカイン反応。アルファウイルス感染動物モデル(アルファウイルスによる関節痛)において、PPSは、感染動物におけるPPS処置後3から10日以内にIL-1a;IL-2、IL-6、MIP1a、およびCCL2の減少を示した[20]。
【0018】
炎症。PPSは、NF-カッパBの阻害を介した抗炎症作用に加えて、COPDに関連する炎症に関与することが知られている3つの主要なケモカイン、IL-8、MCP-1およびMIP-laによって引き起こされる細胞運動を抑制する[21]。
【0019】
好中球の浸潤。PPSは、P-セレクチンに影響を与えることが観察されている[22]。ARDSにおけるP-セレクチンのアップレギュレーションは、肺への好中球の浸潤を引き起こす。
【0020】
さらに、ARDSの病態に関して、PPSはヒト白血球エラスターゼ(ヒト好中球エラスターゼとも呼ばれる)のアンタゴニストであり、そのため好中球によって媒介される肺組織損傷を抑制することができる[22A]。さらに、好中球エラスターゼのレベルは、ARDSにおいて増加することが示されている[22B]。喘息のアレルゲン誘導性GPモデルにおいて、気管内PPSは、a)気管支肺胞液中の浸潤白血球および好中球の総数を有意に減少させ;b)気管支肺胞液中の総タンパク質量を有意に減少させ;c)気道過剰反応を抑制し;d)肺コンプライアンスを増加させた。また、PPSは、肺のメタロプロテイナーゼ[21]およびADAMTS5(ベルシカナーゼ)[22C]を阻害することも示されている。
【0021】
急性呼吸器疾患の治療において多目的で効果的な選択肢として作用する能力を特徴付けるものは、PPSが潜在的に有する多面的な活性である。例えば、フィブリン沈着物がARDSの顕著な所見であることは疑いの余地がないが、提案されているtPA、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼのような薬物による線維素溶解の活性化[7]は、特異的なものであると考えられている。それはARDSにつながる一連の出来事の中の1つの側面にしか対処しない。多面的な活性がなければ、ARDSによって示される多様な病状に候補薬剤が対抗する能力は比較的低いものとなることから、ARDSの治療においてPPSよりも比較的制限されると提案される。また、PPSは安全である。
【0022】
したがって、本開示はARDS、特にSARS-CoV-2などのコロナウイルスによって引き起こされるARDSを含む、呼吸器疾患の治療におけるPPSの使用を企図している。この点に関して、本開示はARDS、特にSARS-CoV-2などのコロナウイルスによって引き起こされるARDSのための単剤療法または補助治療選択肢としてのPPSの使用を提案する。
【0023】
ARDSの患者の多くが生き残るが、その後、彼らのサポートに必要とされた極めて機械的な人工呼吸によって引き起こされる肺線維症に苦しむことが観察されている。肺線維症は、患者の罹患率と死亡率に有意に寄与しうる[22D]。よって、本開示はまた、肺線維症などのARDSの即時発症の結果として生じる状態における治療的介入のためのPPSの使用も提案する。
【0024】
一態様によれば、対象における急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための方法であって、そのような治療を必要とする対象にポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩を投与するステップを含む方法が提供される。
【0025】
別の態様によれば、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩、および許容される賦形剤を含む組成物が提供される。
【0026】
別の態様によれば、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療に使用するための、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩、および許容される賦形剤を含む組成物が提供される。
【0027】
別の態様によれば、急性呼吸器疾患症候群(ARDS)の治療における、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩の使用が提供される。
【0028】
別の態様によれば、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための医薬の製造における、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩の使用が提供される。
【0029】
定義
本明細書中で他に定義されない限り、本願に関連して使用される科学的および技術的用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。さらに、文脈によって別段要求されない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。よって、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「1つ(a)」、「1つ(an)」および「その(the)」は、文脈が明らかに他に示す場合を除き、複数の参照語を含んでいる。例えば、「1つの細胞」への言及は、複数の細胞の集団を含む。
【0030】
本明細書で提供される定義に関して、他の記載がない限り、または文脈から暗示されない限り、定義された用語および語句は、提供された意味を含む。明示的に別段の記載がない限り、または文脈から明らかでない限り、以下の用語および語句は、当該用語または語句が関連技術の当業者によって獲得された意味を排除するものではない。定義は、特定の実施形態を説明するのを助けるために提供されており、発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されるため、特許請求の範囲に記載の発明を限定することを意図するものではない。
【0031】
本明細書全体を通して、本発明の様々な態様および構成要素は、範囲形式で提示されうる。範囲形式は便宜上含まれているものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではない。したがって、範囲の説明は、具体的に指し示されない限り、その範囲内の個々の数値だけでなく、全ての可能な下位範囲を具体的に開示しているとみなされるべきである。例えば、1から5などの範囲の記述は、1から2、1から3、1から4、2から3、2から4、2から5、3から4などの下位範囲、および記載の範囲内の個々の数および部分的な数、例えば、1、2、3、4、および5を具体的に開示しているとみなされるべきである。これは、開示範囲の広さに関係なく適用される。特定の値が必要とされる場合、これらは明細書中に指し示される。
【0032】
本明細書で使用される用語「約」は、特定された値の±10%の範囲、または特定された値の測定において当業者に知られている実験誤差に関連する範囲のいずれか大きい方を指す。
【0033】
「許容される賦形剤」という用語は、溶媒、希釈剤、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などの賦形剤または薬剤であって、生理学的に適合性があり、本明細書中に記載されている化合物またはその使用にとって有害とならないものを含む。薬学的に活性な物質の組成物を調製するための、そのような担体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である[23]。
【0034】
「許容可能な塩」という用語は、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩;ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩;メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩などのスルホン酸塩;アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩などのアミノ酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩などの金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;およびトリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩などの有機アミン塩を含むが、これらに限定はされない。
【0035】
塩基塩は、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アンモニウム、アルキルアンモニウムなどの薬学的に許容されるカチオンとともに形成されるもの、例えば、エタノールアミンとともに形成されるものなどのトリエチルアミン、アルコキシアンモニウムから形成される塩など、ならびにエチレンジアミン、コリンまたはアルギニン、リジンもしくはヒスチジンなどのアミノ酸から形成される塩などを含むが、これらに限定はされない。許容される塩のタイプおよびそれらの形成に関する一般的な情報は、当業者に知られており、一般的なテキスト[24]に記載されているとおりである。
【0036】
化合物の「投与」およびまたは化合物を「投与する」という用語は、治療を必要とする個体に本発明の化合物を提供することを意味すると理解されるべきである。
【0037】
本明細書で使用される「組成物」という用語は、特定の成分を特定の量で含む生成物、ならびに特定の成分を特定の量で組み合わせることから直接的または間接的に生じる任意の生成物を包含することを意図している。
【0038】
本明細書を通じて、「含む(comprise)」との語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、記述された要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を含むことを意味すると理解されるが、他の要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を除外するものではない。
【0039】
本開示は、動物対象の治療に向けられたものである。「動物対象」の治療はまた、「患者」または「個体」の治療と呼ばれることもある。動物対象は、治療の必要性を示唆する特定の症状または複数の症状の臨床病態を示しているか、ある状態に対して治療を受けているか、または治療すべき状態と診断されているか、または治療すべき状態を有している疑いがある。
【0040】
このように、本開示は、コロナウイルスに感染した動物対象の治療を広く企図している。コロナウイルスは、2つの亜科から構成されるコロナウイルス科(Coronaviridae)に属する。コロナウイルス亜科(Coronavirinae)は、かなりの数の哺乳類および鳥類の病原体を含んでいる。トロウイルス亜科(Torovirinae)は、陸生動物と魚などの水生動物の両方の病原体を含んでいる。このように、本開示は、様々な動物対象を企図している[25]。
【0041】
一例では、動物対象は哺乳動物である。本開示は、ヒトおよび非ヒト哺乳動物に適用可能であると理解されるべきである。したがって、一例では、哺乳動物はヒトである。ヒトは、男性または女性でありうる。アルファおよびベータ-コロナウイルスは哺乳動物にのみ感染し、通常はヒトに呼吸器症状を引き起こし、他の動物では胃腸炎を引き起こす。ガンマ-コロナウイルスとデルタ-コロナウイルスは、典型的には鳥に感染するが、一部は哺乳動物に感染しうる。
【0042】
非ヒト哺乳動物は、霊長類、家畜および農場動物(例えば、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ)、ネコおよびイヌのような家畜ペット、パフォーマンス動物(例えば、競走馬、グレイハウンド)、実験用試験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット)、ならびに、通常は野生状態に存在するが、動物園、野生動物公園などにいるために治療対象となりうる、それらの哺乳動物を含むが、それらに限定はされない。本開示はまた、コロナウイルスの人畜共通宿主として同定された非ヒト哺乳動物対象も企図している。そのような宿主は、コウモリ、ラクダ、ジャコウネコを含むが、これらに限定はされない。例えば、MERS-CoVは、コウモリからラクダ、さらにはヒトに感染することが判明している。
【0043】
本明細書で使用される「動物対象」という用語は、哺乳動物ではない動物も指しうる。例としては、水生動物および鳥が挙げられる。本明細書で使用される「水生動物」という用語は、魚類および甲殻類を含むが、それらに限定されない魚を含む。甲殻類は、甲殻綱の節足動物(例えば、カニ、ザリガニ、ロブスター、エビ、および小エビ)と軟体動物(例えば、アサリ、ムールガイ、カキ、ホタテ、およびタマキビガイ)を含むが、それらに限定はされない。鳥は、例えば、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、ウズラ、ホロホロチョウ、ハト(ヒヨドリを含む)などの家禽類、ならびに猛禽類(タカ、ワシ、トビ、ハヤブサ、ハゲタカ、チョウヒ、ミサゴ、およびフクロウを含む)を含む。ニワトリは、例えば、ブロイラー(若鶏)、ひよこ、雄鶏および産卵鶏(採卵鶏)を含む。ガンマおよびデルタ-コロナウイルスは、典型的には鳥に感染する。
【0044】
本明細書で使用される「治療する(treating)」、「治療する(treat)」または「治療(treatment)」という用語、およびその変形は、臨床病理学の経過中に対象の自然な経過を変えるように設計された臨床介入を指す。治療の望ましい効果は、疾患の進行速度の低下、疾患状態の改善もしくは緩和、ならびに寛解もしくは予後の改善を含む。例えば、上記の治療転帰の1つ以上が達成された場合、対象は首尾よく「治療」されている。本明細書で使用される「治療する(treating)」、「治療する(treat)」または「治療(treatment)」という用語、およびその変形は、「予防する(preventing)」、「予防する(prevent)」または「予防(prevention)」を包含し、それらは、臨床病理学の経過の進行を回避するように設計された臨床介入を指すと理解されるであろう。
【0045】
「有効量」は、特定の疾患(例えば、骨髄浮腫)の測定可能な改善をもたらすために必要とされる少なくとも最小の濃度または量を指す「治療上有効」な量を包含する。本明細書における有効量は、患者の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびに個体において所望の反応を引き出すPPSの能力などの要因に従って変動しうる。有効量はまた、PPSの毒性または有害な効果が、治療上の有益な効果によって凌駕される量でもある。「有効量」はまた、所望の予防的な結果をもたらすために必要な薬物の量または薬物投与速度を指す「予防的に有効」な量も包含する。
【0046】
本開示は、ポリ硫酸化多糖に言及する。ポリ硫酸化多糖は、例えば、高分子量ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヘパラン硫酸、ポリ硫酸ペントサン、ポリ硫酸コンドロイチン、ポリ硫酸キトサン、デルマタンポリ硫酸スロデキシド、デキストラン硫酸、ポリ硫酸化イヌリン、硫酸化ラクトビオン酸アミド、硫酸化ビスアルドン酸アミド、八硫酸スクロース、フコイダン-1、フコイダン-2、硫酸化ベータ-シクロデキストリン、硫酸化ガンマ-シクロデキストリン、および小さな硫酸化化合物からなる群から選択される。小さな硫酸化化合物の非限定的な例は、イノシトールヘキサスルフェート(inositol hexasulfate)である。一例では、ポリ硫酸化多糖は、高分子量ヘパリン、低分子量ヘパリン、ポリ硫酸ペントサン(PPS)、ポリ硫酸コンドロイチンおよびポリ硫酸キトサンからなる群から選択される。好ましい例では、ポリ硫酸化多糖はポリ硫酸ペントサンである。特に、ポリ硫酸ペントサンナトリウム。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】
図1は、試験1、実験Aの設計の概略図である。
【
図2】
図2は、試験1、実験Bの設計の概略図である。
【
図3】
図3は、試験1におけるPR8 H1N1インフルエンザ株に感染したC57/BL6マウスの体重減少に対するPPS処置の効果を示すグラフである。
【
図4】
図4Aは、試験1におけるPR8 H1N1インフルエンザ株に感染したC57BL/6Jマウスの肺浸潤に対するPPS処置の効果を示すグラフ(A&B)である。
図4Bは、試験1におけるPR8 H1N1インフルエンザ株に感染したC57BL/6Jマウスの肺浸潤に対するPPS処置の効果を示す、8日目の動物からの肺の低倍率および高倍率の代表的な切片を示している。
【
図5】
図5は、酸素飽和度によって決定される肺機能に対するPPSの効果を示すグラフ(A&B)である。
【
図6】
図6は、ARDSを有するインフルエンザ感染動物における肺線維症に対するPPS処置の効果を示す肺の代表的な切片(A&B)を示している。
【
図7】
図7は、感染前の細胞とPPSとのインキュベーションで達成された結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、感染前のウイルスとPPSとのインキュベーションで達成された結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、感染前のウイルスおよび細胞とPPSとのインキュベーションで達成された結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本開示は、対象における急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための方法であって、そのような治療を必要とする対象に有効量のポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩を投与するステップを含む、方法に関する。
【0049】
上記方法の一例では、ARDSはコロナウイルスによって引き起こされる。
【0050】
一例では、動物対象は哺乳動物である。一例では、哺乳動物はヒトである。動物対象が哺乳動物であるそれらの例では、コロナウイルスは、アルファ-コロナウイルス、ベータ-コロナウイルス、ガンマ-コロナウイルス、またはデルタ-コロナウイルスでありうる。一例では、コロナウイルスは、アルファ-コロナウイルスまたはベータ-コロナウイルスである。一例では、コロナウイルスは、ベータ-コロナウイルスである。
【0051】
一例では、コロナウイルスは、HKU1、OC43、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV);重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)およびそれらの株からなる群から選択される。一例では、コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)またはその株である。
【0052】
本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩、および許容される賦形剤を含む組成物に関する。
【0053】
本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための医薬品の調製における、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩、および許容される賦形剤を含む組成物の使用に関する。
【0054】
本開示はまた、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療に使用される場合、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩、および許容される賦形剤を含む組成物にも関する。
【0055】
本開示はまた、ARDSを引き起こすコロナウイルス感染の予防またはリスクの最小化のための、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩、および許容される賦形剤を含む組成物にも関する。
【0056】
本開示はまた、ポリ硫酸ペントサン(PPS)または許容されるその塩および許容される賦形剤を含む有効量の組成物を対象に投与することを含む、ARDSを引き起こすコロナウイルス感染の予防のため、またはそのリスクを最小化するための予防的治療にも関する。
【0057】
上記組成物の一例では、ARDSは、コロナウイルスによって引き起こされる。
【0058】
一例では、動物対象は哺乳動物である。一例では、哺乳動物はヒトである。動物対象が哺乳動物であるそれらの例では、コロナウイルスは、アルファ-コロナウイルス、ベータ-コロナウイルス、ガンマ-コロナウイルス、またはデルタ-コロナウイルスでありうる。一例では、コロナウイルスは、アルファ-コロナウイルスまたはベータ-コロナウイルスである。一例では、コロナウイルスは、ベータ-コロナウイルスである。
【0059】
一例では、コロナウイルスは、HKU1、OC43、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV);重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)およびそれらの株からなる群から選択される。一例では、コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)またはその株である。
【0060】
本開示はまた、急性呼吸器疾患症候群(ARDS)の治療における、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩の使用にも関する。
【0061】
本開示はまた、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための医薬品の製造における、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩の使用にも関する。
【0062】
上記組成物の一例では、ARDSは、コロナウイルスによって引き起こされる。
【0063】
一例では、動物対象は哺乳動物である。一例では、哺乳動物はヒトである。動物対象が哺乳動物であるそれらの例では、コロナウイルスは、アルファ-コロナウイルス、ベータ-コロナウイルス、ガンマ-コロナウイルス、またはデルタ-コロナウイルスでありうる。一例では、コロナウイルスは、アルファ-コロナウイルスまたはベータ-コロナウイルスである。一例では、コロナウイルスは、ベータ-コロナウイルスである。
【0064】
一例では、コロナウイルスは、HKU1、OC43、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV);重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)およびそれらの株からなる群から選択される。一例では、コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)またはその株である。
【0065】
上記の方法、組成物または使用のいずれか1つに関して、PPSは、ポリ硫酸ペントサンのナトリウム塩(NaPPS)、ポリ硫酸ペントサンのマグネシウム塩(MgPPS)、ポリ硫酸ペントサンのカルシウム塩(CaPPS)、およびポリ硫酸ペントサンの亜鉛塩(ZnPPS)からなる群から選択される。一例では、PPSはNaPPSである。
【0066】
ポリ硫酸ペントサン(PPS)は、例えば、ポリ硫酸ペントサンのナトリウム塩(NaPPS)、ポリ硫酸ペントサンのマグネシウム塩(MgPPS)、ポリ硫酸ペントサンのカルシウム塩(CaPPS)、およびポリ硫酸ペントサンの亜鉛塩(ZnPPS)からなる群から選択される。一例では、ポリ硫酸ペントサン(PPS)は、ポリ硫酸ペントサンナトリウム(NaPPS)である。1つの好ましい例において、NaPPSは、Bene-PharmaChem GmbH & Co KG、ゲレツリード、ドイツによって米国FDAおよび欧州共同体EMEAに提出された仕様に従って製造される。
【0067】
様々な経路による投与に適したPPSおよびPPS組成物が、この分野の標準的な教科書を参照することによって調合されうることが当業者により認識されるであろう[23]。これらの組成物は、注射、経口(胃腸薬物吸収延長剤および増強剤を含む錠剤およびカプセルを含む)、静脈内、呼吸器などによるものを含む。
【0068】
治療が経口投与される場合、PPSは、相互参照としてその内容が含まれるPCT/AU2019/050119に開示されているようにコキシブと同時投与されることが好ましい。
【0069】
治療は、筋肉内(M)または皮下(SC)経路を介して、静脈内(IV)、関節内(IA)、関節周囲、局所、座薬によりまたは経口投与することによるものでありうる。治療はまた、呼吸器経路を介して投与することによるものでもありうる。呼吸器経路は、鼻腔内経路;気管内または気管中経路であってもよい。呼吸器経路は、肺経路であってもよい。肺経路による投与は、ネブライザー、定量噴霧式吸入器、またはドライパワー式吸入器を使用して行われうる。
【0070】
一例では、治療は注射を施すことによる。注射は、例えば、筋肉内(IM)注射である。一例では、注射は皮下(SC)注射である。SC注射は、例えば、緩徐SC注射である。
【0071】
したがって、本開示は、治療がIM注射またはSC注射を施すことによる、上記の方法、組成物または使用を企図している。一例では、治療はSC注射を施すことによる。一例では、SC注射は、緩徐皮下注射である。
【0072】
一例では、治療は、呼吸器経路により投与することによる。一例では、呼吸器経路は鼻腔内経路である。一例では、呼吸器経路は気管内経路である。一例では、呼吸器経路は気管中経路である。一例では、呼吸器経路は肺経路である。
【0073】
肺線維症は、肺組織が損傷を受けて瘢痕化したときに起こる肺疾患である。この厚く硬くなった組織は、肺が完全に機能することをより困難にする。
【0074】
肺線維症は、ARDSに罹患している対象において発症しうる。
【0075】
PPSまたはその許容される塩を、例えば、呼吸器経路によって投与することは、肺線維症の発症または進行を防ぐように機能する。
【0076】
したがって、本開示は、治療が鼻内経路;気管中経路および肺経路からなる群から選択される呼吸器経路を介して投与することによる、上記の方法、組成物または使用を企図している。
【0077】
1つの予防的治療は、鼻腔内に提供されうる。この例では、PPSまたはその許容される塩は、PPSまたはその許容される塩が鼻粘膜に付着するように、組成物中に調合されうる。鼻腔内に侵入したウイルスは、付着した組成物によって捕捉され、不活化される。
【0078】
一例において、治療は、PPSまたはその許容される塩を、1用量につき対象1kgあたり約1から約2mgの有効量で対象に投与することによる。治療は、例えば、PPSまたはその許容される塩を、1用量につき対象1kgあたり約2mgの有効量で哺乳動物に投与することによる。一例において、有効量は1用量につき対象1kgあたり約1.0から約2.0mgである。特定の例では、有効量は1用量につき対象1kgあたり約1.0から約1.5mg;約1.5から約2.0mgである。特定の例では、有効量は1用量につき対象1kgあたり約0.5mg;約1.0mg;約1.5mg;または約2.0mgである。
【0079】
一例において、治療は、PPSまたはその許容される塩を、1用量につき対象1kgあたり約1から約2mgの有効量で、または固定用量として約1mgから4000mgの有効量で対象に投与することによる。
【0080】
一例において、治療は、PPSまたはその許容される塩を、固定用量として約1mgから約25mgの範囲の有効量で対象に投与することによる。特定の例では、有効量は、約2mgから約24mg;約3mgから約23mg;約4mgから約22mg;約5mgから約21mg;約6mgから約20mg;約7mgから約19mg;約8mgから約18mg;約9mgから約17mg;約10mgから約16mg;約11mgから約15mg;約12mgから約14mgの範囲の固定用量である。特定の例では、有効量は、約1mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、約21mg、約22mg、約23mg、約24mg、または約25mgの固定用量である。
【0081】
一例において、有効量は、約25mgから約4000mgの間の固定用量である。特定の例では、有効量は、約25mg、約50mg、約75mg、約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mg、約225mg、約250mg、約275mg、または約300mgの固定用量である。特定の例では、有効量は、約350mg、約400mg、約450mg、約500mg、約550mg、約600mg、約650mg、約700mg、約750mg、約800mg、約850mg、約900mg、約950mg、約1000mg、約2000mg、約3000mg、または約4000mgの固定用量である。
【0082】
一例において、有効量は、約25mgから約300mgの間の固定用量である。特定の例では、有効量は、約25mg、50mg、75mg、100mg、125mg、150mg、175mg、200mg、225mg、250mg、275mg、または300mgの固定用量である。
【0083】
一例において、治療は、ポリ硫酸化多糖またはその許容される塩を、1用量につき対象1kgあたり約2mgの有効量で、または固定用量として約150mgの有効量で対象に投与することによる。
【0084】
一例において、ヒトへの投与は、1日1回、週2回、または週3回の治療レジメンで投薬することによる。ヒトへの投与は、例えば、週2回の治療レジメンで投薬することによる。一例において、ヒトへの投与は、投薬の間が最低で3日、最高で4日である、週2回の治療レジメンで投薬することによる。ヒトへの投与は、例えば、週2回、6週間の治療レジメンで投薬することによる。一例では、ヒト治療レジメンで投与されるポリ硫酸化多糖の総用量は、約200から約4000mgである。非ヒト動物対象には、本明細書においてヒトでの使用のために指定された用量の動物等価用量が投与されうることが理解されるであろう。
【0085】
投与量は、体重の重い個体または軽い個体に応じて調整されることが認識されるであろう。治療レジメンは、対象が経験する感染の重症度に応じて適合されうる。患者が重度の感染を経験しているいくつかの例では、PPSの治療負荷をできるだけ早く達成することが望ましい。これには、例えば、感染症が治るまで、毎日約1.0mg/kg以上のPPSを投与することが必要となりうる。
【0086】
投与が、例えば、注射または呼吸器経路または監視を必要とする経路による場合、これは通常、看護師/医師によって臨床的な状況において実施される。当業者は、治療を成功させるための鍵が、対象に十分なPPSを投与して、組織病変の近くで最適な治療用量を達成することであると理解するであろう。PPSは結合組織に蓄積することが知られているため、負荷は時間をかけて、例えば、4~5日間、1mg PPS/kgの毎日投与により行われうる。
【0087】
安全性の観点からは、より長期間にわたり、投与頻度を減らして、より低い用量範囲(1~2mg PPS/kgまたは約25~50mgの固定用量)で投与することが好ましい。これは、PPSが既知の抗凝固剤であり、高用量(>3mg PPS/kgまたは約150~200mgの固定用量)では基礎APTが上昇して、開放創からの出血を促進する可能性があるためである。
【0088】
本開示は、フォローアップ(維持投与)の使用を企図している。例えば、PPSのIMまたはSC注射は初期治療を構成しうるが、PPSの経口または局所製剤が、初期のIMまたはSCによるPPS治療のフォローアップ(維持用量)として使用されうる。呼吸器投与もまた、初期またはフォローアップ治療として使用されうる。呼吸器経路は、鼻腔内経路、気管内経路、気管中経路、肺経路であってもよい。別の例として、このフォローアップ(維持投与)は、初期の経口投与にも適用可能であろう。IV注射による投与の場合、毎日0.5~4mg PPS/kgの用量が使用されうる。呼吸器による投与のための用量は、文献のガイダンスを参照して当業者により決定されうる(例えば、Dong et al. 2020[26]は、ARDSの治療におけるIFN-アルファの蒸気吸入の投与量を提供している)。
【0089】
本開示はまた、ポリ硫酸化多糖、例えばPPSと、ARDSのための追加の治療選択肢との同時投与も企図している。一例では、治療選択肢は、支援治療を含む。支援治療は、酸素単独による人工呼吸、または広域スペクトルの抗ウイルス薬、抗生物質、コルチコステロイド、回復期血漿などの他の薬剤を補充した人工呼吸でありうる[6]。追加の治療選択肢は、ARDSの治療に適した薬剤の投与を含む。抗ウイルス薬など、ARDSの治療に適した薬剤は、Yang et al. 2020[6]、Dong et al. 2020[26]、およびヒドロキシクロロキンについて論じているLiu et al. 2020[27]においてレビューされている。Dong et al. 2020において言及されているように(参考文献2および3)、中華人民共和国の国家衛生健康委員会は、新型コロナウイルスが誘発する肺炎の予防、診断、および治療に関するガイドライン発表している。
【0090】
したがって、本開示は、PPSがARDSのための追加の治療選択肢と同時投与される、上記の方法、組成物または使用のいずれか1つに関する。
【0091】
他の治療剤が本発明の化合物との組み合わせで使用される場合、それらは、例えば、医師用添付文書集(PDR)またはその他に記載された量で使用されうる。例えば、Dong et al. 2020は、推奨される抗ウイルス薬:IFN-アルファ、ロピナビル/リトナビル、リバビリン、リン酸クロロキン、アルビドールの投与量、投与の様式、および治療期間を提供している[26]。
【0092】
特定の患者に対する具体的な投与量レベルおよび投与頻度は変動しうるものであり、採用した具体的な化合物の活性、その化合物の代謝安定性および作用時間、年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与の様式および時間、排泄率、薬物の組み合わせ、特定の状態の重症度、ならびに治療を受けている宿主などの種々の要因に依存することが理解されるであろう。SARS-CoV-2感染などのコロナウイルス感染に対する宿主の感受性は様々であることが認識されるであろう。一部の患者は無症候性であるか、または軽度の症状を示すが、高血圧、慢性心疾患および慢性肺疾患などの基礎疾患もしくはその素因のいずれかを持つ群、または高齢者もしくは糖尿病などの免疫疾患を持つ患者など、免疫系が損なわれている群では重症化することが観察されている。大型動物はより多くの用量を必要とすることが理解されるであろう。例として、ウマのような大きな動物は、約4000mgの固定用量を必要としうる。
【0093】
本開示の治療の適合性の決定、または言い換えればARDSの診断は、SARS-CoV-2によって引き起こされるARDSなどのARDSを患っている患者の評価に使用されてきた多くのパラメーターおよびプロトコルの使用によって確立されうる[5、7]。
【実施例】
【0094】
実験
SARS-CoV-2に起因するARDSの治療に使用するためのPPSの評価は、公表されているプロトコルに従って実施することができる。SARS-CoV-2の細胞毒性、ウイルス収量、および感染率に対する潜在的な医薬品候補の効果を測定するための標準的なアッセイが存在する[1]。コロナウイルスのパネルに対する化合物の効力を調査するための実験が記載されている[1、28]。動物モデルの研究を行うことができる。この点に関して、ヒトの上皮肺細胞の感染に関するマウスモデルでの実験が報告されている[1、28]。PPSで治療された患者の安全性、忍容性、および結果は、コンパッショネートユース(compassionate use)のもとで評価されうる。例えば、レムデシビル(resdemvir)は、肺炎およびARDSにつながるSARS-CoV-2感染症の患者に投与されている[5]。この点に関して、臨床現場においてPPSを使用するための承認は、過去に豪州政府薬品・医薬品行政局の特別アクセススキーム(SAS)の下で取得されている。
【0095】
PPSの望ましい治療効果(例えば、抗炎症作用および線維素溶解作用)は、2mg/kgを週2回皮下投与する程度の低い用量で達成されうる。この投薬スキームは、現在、変形性膝関節症および骨髄浮腫におけるPPSの第1相および第2相試験で使用されており、血液凝固に対する持続的な影響はない。PPSの多面的な作用の証拠に基づき、PPSはSARS-CoV-2に起因するARDSのための単独療法、または補助的な治療選択肢としての可能性が提案される。
【0096】
試験1では、インフルエンザウイルス誘発性の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対するPPS(NaPPS)の効果が評価された。以下に、試験の詳細と達成された結果を示す。
【0097】
実験的に動物に誘発されるARDSの主な特徴は、(1)肺細胞集団および組織に対する損傷の組織学的証拠、(2)肺胞毛細管バリアの完全性の変化、(3)浸潤白血球によって指し示される炎症反応の存在、および(4)肺機能不全と一致する生理学的変化を含む(Matute-Bello et al. 2011)。A型インフルエンザウイルス(IAV)感染のC57BL/6Jマウスモデルは、ウイルス性肺病変形成のモデルとして広く受け入れられており、抗ウイルス試験、免疫療法、およびワクチン試験を含む重度の呼吸器疾患に至った肺の免疫反応メカニズムを解読するために広く使用されてきた(Infusini et al., 2015;Pizzolla et al., 2017, 2018;Wakim et al., 2013, 2015)。ARDSにおけるPPSの効果を決定するために、A型インフルエンザウイルスのC57BL/6Jマウスモデルを探索的モデルとして使用した。
【0098】
試験される具体的な仮説は、以下のとおりであった:
PPSは、皮下投与経路により、ウイルス誘発性肺感染の開始時に肺炎症の軽減を示す;ならびに
PPSの効果は、転写因子NF-κBおよびフィブリンの沈着を伴う他の炎症過程、補体媒介性の肺損傷;サイトカイン応答;炎症および好中球浸潤の阻害を介した抗炎症作用に起因している。
【0099】
これらの実験の目的は、マウスにおけるインフルエンザ感染後の炎症性疾患の軽減におけるPPSの役割を評価することであった。
【0100】
試験の目的:対照群と比較した治療動物の臨床像-体重の維持、臨床的および解剖学的な病理評価によって測定されるPPSの安全性を評価すること;ならびに
PPSによる治療に対する、インフルエンザウイルスに感染したマウスの生物学的反応を評価すること。
【0101】
この一連の実験(A&B)では、動物を以下の群(および関連するサンプルサイズ)に分けた:
【0102】
実験A:0日目に投与されたPPS。
実験Aは、8日目の1つのエンドポイントから成り、この日にマウスを安楽死させ、組織学的処理と分析のために組織を収集した。
【0103】
治療群:
1.非感染PBSビヒクル対照(n=5)
2.非感染薬物治療(n=6/薬物経路)
3.感染ビヒクル治療(n=10/薬物経路)
4.感染薬物治療(n=10/薬物経路)
薬物投与経路:
1.腹腔内(i.p.)
2.皮下(s.c.)
組織採取時点:
1.感染後8日目
【0104】
実験B:感染後0日目または2日目に投与されたPPS。
実験Bは、ウイルス力価、体重減少、肺の病理組織学および酸素飽和度を決定するための組織の収集のための1つの時点(8日目)と、21日目の肺線維症を決定するための1つの時点から構成されていた。
【0105】
治療群&各群のマウスの数:
非感染PBSビヒクル対照(n=4)
非感染薬物治療 -(n=7)
感染ビヒクル治療 -(n=7)
感染薬物治療 -(n=7)
薬物投与経路:
皮下のみ
組織採取時点:
感染後8日目 - 急性疾患の分析のためのマウス7匹/群
感染後21日目 - 線維症の分析のためのマウス7匹/群
【0106】
材料および方法
動物種
全ての実験で、8~10週齢の雌のC57BL/6Jマウスに対して、0日目にH1N1PR-8インフルエンザ株の最適な病原性亜致死量(150~300プラーク形成単位(PFU))を鼻腔内接種した。
【0107】
薬物の調製および投与。
「使用のために供給」されていない全ての試験品、参照品、およびビヒクル品は、注射の日に使用する前に新たに調製した。PPSは無菌条件下で、エンドトキシンを含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に毎日新たに調製した。体積200μlのPBS中の3mg/kg(0日目の初期体重に基づく固定用量)を、8日間毎日、腹腔内(i.p.)または皮下(s.c.)投与経路のいずれかによりマウスに投与した。ビヒクル対照動物には、200μlのPBSを毎日i.p.またはs.c.で投与した。
【0108】
臨床疾患モニタリング
全ての実験において、電子秤を使用してマウスの体重を毎日測定し、疾患の進行を判定した。実験Bでは、感染後6日目と8日目に軽い麻酔下でパルスオキシメトリーを行い、酸素飽和度(SpO2)を測定した。
【0109】
組織学的分析
終了時に、肺組織を採取し、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィンワックスに包埋した。マウスごとに4ミクロン厚の組織切片を連続して3枚切り出し、ヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)で染色した。QuPathソフトウェアを使用して、画像化された各組織切片中1mm2あたりの核数を算出した。分類アルゴリズムを適用して各組織切片の輪郭を検出し、スクリプトを実行して、条件を後続の全てのスライドに適用した。コラーゲン線維症を検出するために使用されるマッソントリクローム染色を肺組織切片に対して行った。
【0110】
結果:
PPSは、インフルエンザ媒介性ARDS動物の体重減少を抑制する。
【0111】
0日目にPR8インフルエンザ株を鼻腔から動物に感染させ、その後、ipまたはsc経路(n=10/群)のいずれかを介して治療を施した。実験Aでは、3mg/kgの用量のPPS(n=6/群/投与経路)、またはリン酸緩衝生理食塩水からなるビヒクル(n=5/群)を、ウイルスの鼻腔内導入から4時間以内に投与した(感染後0日目)。治療は0日目から7日目まで毎日行った。
【0112】
感染後の実験B(n=7/群)では、感染後0日目または2日目に治療を施した。試験の過程を通して毎日、動物の体重を測定した。ビヒクルで処置した感染動物は、感染後4日目から8日目まで体重の減少を示した。3mg/kgの用量のPPSでipまたはscにより治療した動物は、ビヒクルで処置した感染動物と比較して抑制された体重減少を示した。
【0113】
モック感染させた(非感染)動物(n=5)は、8日間の試験期間中に体重減少を示さなかった。
【0114】
PPSは、インフルエンザ媒介性ARDS動物の肺における炎症細胞浸潤の数を減少させる。
【0115】
0日目にH1N1のPR8株を鼻腔から動物に感染させ、その後、ipまたはsc経路のいずれかを介して治療を施した。ウイルスの鼻腔内導入から4時間以内に3mg/kgの用量のPPSまたはビヒクルを投与し(感染後0日目)、治療を7日目まで毎日続けた。8日目の実験終了時に、動物の肺を切除し、ホルマリンで固定し、切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。核の計数(1mm2あたり)にはQPathソフトウェアを使用した。分類アルゴリズムを適用して各組織切片の輪郭を検出し、スクリプトを実行して、条件を後続の全てのスライドに適用した。
【0116】
パネルA:データは、1mm2あたりの核数を示す箱型図として表されている。データは、PPSで治療した動物では、ビヒクル処置動物と比較して、ip投与(**)およびsc投与(***)の両経路において1mm2あたりの核数が統計的に有意に減少していることを示している。PPSで治療した感染動物における核/mm2レベルは、非感染動物(ビヒクルまたはPPS治療)と同等であり、これは、PPSが感染動物の肺への細胞浸潤レベルを正常化したことを示唆している。動物の肺組織あたり3つの非連続切片を使用した。
【0117】
パネルB:8日目の動物の肺の代表的な切片を低倍率および高倍率で示している。ipまたはsc経路のいずれかによって投与された3mg/kgの用量でのPPS治療は、ビヒクル処置動物と比較して減少した細胞浸潤を示した。
【0118】
PPSは、インフルエンザ媒介性ARDS動物において、酸素飽和度によって決定される肺機能を改善する。
【0119】
0日目にH1N1のPR-8株を鼻腔から動物に感染させ、その後、sc経路で治療を施した。0日目のウイルスの鼻腔内導入から4時間以内または感染後2日目に、3mg/kgの用量のPPSまたはビヒクルを投与した。酸素飽和度は、MouseOx Plus Oximeter(STARR Life Sciences)を使用して測定した。動物を軽く麻酔し、感染後6日目および8日目に酸素飽和度を非侵襲的に測定した。パネルAおよびBは、酸素飽和度を表す箱型図である。データは、PPS治療が、ビヒクルで処置された感染動物と比較して、酸素飽和度を改善したことを指し示している。
【0120】
PPS治療は、インフルエンザ媒介性ARDS動物における肺線維症の進行を抑制する。
【0121】
0日目にH1N1のPR-8株を鼻腔から動物に感染させ、その後、sc経路で治療を施した。
【0122】
パネルAでは、ウイルスの鼻腔内導入から4時間以内(感染後0日目)に3mg/kgの用量のPPSまたはビヒクルを投与した。感染後のパネルBでは、感染後2日目に治療を開始した。21日目の実験終了時に、動物の肺を切除し、ホルマリンで固定し、切片をマッソントリクローム染色で染色した(各治療群の代表的な切片3枚が示されている)。線維化反応の主要成分であるコラーゲンは、上のパネルに示されているように青色に染色された。データは、PPSが感染後0日目または2日目のいずれに投与されたかにかかわらず、ビヒクル処置群と比較して、線維化反応が減少することを示した。
【0123】
インフルエンザ媒介性ARDSのマウスモデルにおいて、病態生理学的な変化は、体重減少および酸素飽和度の低下による肺機能障害によって示された。肺の病理組織学的所見は、細胞浸潤の増加および進行性の肺線維症と関連していた。これらの病原性メカニズムは、ウイルス感染の開始後に起こるサイトカインストームによって駆動される。
【0124】
1日3mg/kg(ヒトの等価用量0.24mg/kg)のPPSの動物投与は、臨床症状の改善と肺浸潤および線維化の病理組織学的所見の抑制を示した。したがって、この試験は、この動物モデルにおけるARDSの減少におけるPPSによって媒介される効果が、その抗炎症効果によって促進されることの証拠を提供しており、これは、転写因子NF-κBおよびフィブリンの沈着を伴う他の炎症過程;補体媒介性の肺損傷;サイトカイン応答;炎症および免疫細胞の浸潤の阻害を介している可能性がある。
【0125】
この試験は、インフルエンザ媒介性ARDSモデルにおけるPPSの効果が、以下の実証を伴うことを示している:
体重減少の抑制と肺機能の改善。
肺における炎症性細胞の浸潤の抑制。
肺線維化の進行の抑制。
【0126】
試験1の参考文献:
【0127】
【0128】
試験2では、PPS(NaPPS)の潜在的なインビトロ抗ウイルス活性を評価した。
【0129】
材料:PPS;細胞培養液、ウシ胎児血清(FBS)、および使い捨てプラスチック製品;メチルセルロース、クリスタルバイオレット、メタノール;およびアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)-発現細胞株-Vero(アフリカミドリザル腎臓上皮)。ウイルス-SARS-CoV-2(GISAIDアクセッションID:EPI_ISL_413489)。
【0130】
方法
感染前における細胞とPPSのインキュベーション。
10%ウシ胎児血清添加EMEM(完全培地)中のVero細胞を2.5×105細胞/ウェルで24ウェルプレートにプレーティングした。24時間後、50プラーク形成単位(PFU)のSARS-CoV-2株を含むウイルス溶液で感染させる30分前に、段階希釈したPPSとともに300μlの完全培地中で細胞をインキュベートした。37℃で1時間インキュベートした後、上清を捨て、1%ウシ胎児血清を含む培地に溶解した500μlの1%メチルセルロースオーバーレイを各ウェルに添加した。3日後、6%(v/v)ホルムアルデヒド:リン酸緩衝生理食塩水を使用して、上記のように細胞を固定して染色し、70%(v/v)メタノール(Sigma-Aldrich、イタリア)中の1%(w/v)クリスタルバイオレット(Sigma-Aldrich、イタリア)で染色した。プラークは、実体顕微鏡(SMZ-1500、Nikon)の下で計数される。
【0131】
ウイルスを含む上清とPPSのインキュベーション
細胞を上記のようにプレーティングした。50プラーク形成単位(PFU)のSARS-CoV-2を、化合物の段階希釈液とともに37℃で30分間インキュベートした後、Vero細胞に添加した。37℃で1時間インキュベートした後、上清を捨て、1%ウシ胎児血清を含む培地に溶解した500μlの1%メチルセルロースオーバーレイを各ウェルに添加する。3日後、上記のようにして、細胞を固定し、染色する。
【0132】
データ解析。
各条件につき2回の三重の実験と1回の二重の実験という、3回の独立した実験を実施した。実験結果は、GraphPad PRISMバージョン8.2.1により、適切な統計手法によって分析した。
【0133】
結果
感染前における細胞とPPSのインキュベーション。
12.5μg/mlから200μg/mlまでのPPSの用量反応を試験した。50PFU/ウェルで感染させる前に、PPSの段階希釈液をVero細胞に30分間添加した。PPSによる統計的に有意な最大のプラーク形成阻害は、200μg/mlの最高用量で60%に達した(表1および
図7)。
図7において、バーは平均±SEMを表している。統計分析は、ボンフェローニ補正をかけた一元配置分散分析検定により行った。
【0134】
【0135】
感染前におけるウイルスとPPSのインキュベーション。
12.5μg/mlから200μg/mlまでのPPSの用量反応を、Vero細胞に加える前に、50プラークを含むSARS-CoV-2の接種材料とともに30分間インキュベートした。PPSによる統計的に有意な最大のプラーク形成阻害は、200μg/mlの最高用量で56%に達した(表2および
図8)。
図8において、バーは平均±SEMを表している。統計分析は、ボンフェローニ補正をかけた一元配置分散分析検定により行った。
【0136】
【0137】
感染前におけるウイルスおよび細胞とPPSとのインキュベーション。
12.5μg/mlから200μg/mlまでのPPSの用量反応を、感染前に30分間同じ用量反応とともにさらにインキュベートされたVero細胞に加える前に、50プラークを含むSARS-CoV-2の接種材料とともに30分間インキュベートした。PPSによる統計的に有意な最大のプラーク形成阻害は、200μg/mlの最高用量で77%に達した(表3および
図9)。
図9において、バーは平均±SEMを表している。統計分析は、ボンフェローニ補正をかけた一元配置分散分析検定により行った。
【0138】
【0139】
これらの結果は、PPSがVero細胞のSARS-CoV-2感染を用量依存的に阻害することを示している。感染前に細胞またはウイルスのいずれかを30分間処置すると、それぞれ60%および56%のウイルス感染阻害が生じる。しかしながら、接種材料と細胞の処置の組み合わせは相加的な効果をもたらし、感染の阻害率は77%に達した。
【0140】
試験2の参考文献:
【0141】
【0142】
当業者には、本開示の広い一般的な範囲から逸脱することなく、上述の実施形態に対する数多くの変形および/または修正がなされうることが理解されるであろう。したがって、本実施形態は、全ての点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【0143】
参考文献
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【手続補正書】
【提出日】2022-12-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための方法であって、そのような治療を必要とする対象にポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩を投与するステップを含む、方法。
【請求項2】
ARDSがコロナウイルスによって引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
動物対象が哺乳動物である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳動物がヒトである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記コロナウイルスがベータ-コロナウイルスである、請求項3または請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記コロナウイルスが、HKU1、OC43、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV);重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)およびそれらの株からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コロナウイルスが重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)またはその株である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩、および許容される賦形剤を含む組成物。
【請求項9】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療に使用するための、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩、および許容される賦形剤を含む組成物。
【請求項10】
ARDSがコロナウイルスによって引き起こされる、請求項8または請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
動物対象が哺乳動物である、請求項8から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記哺乳動物がヒトである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記コロナウイルスがベータ-コロナウイルスである、請求項11または請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記コロナウイルスが、HKU1、OC43、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV);重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)およびそれらの株からなる群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記コロナウイルスが重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)またはその株である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療における、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩の使用。
【請求項17】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための医薬の製造における、ポリ硫酸ペントサン(PPS)またはその許容される塩の使用。
【請求項18】
ARDSがコロナウイルスによって引き起こされる、請求項16または請求項17に記載の使用。
【請求項19】
動物対象が哺乳動物である、請求項16から18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記哺乳動物がヒトである、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記コロナウイルスがベータ-コロナウイルスである、請求項19または請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記コロナウイルスが、HKU1、OC43、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV);重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)およびそれらの株からなる群から選択される、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記PPSが、ポリ硫酸ペントサンのナトリウム塩(NaPPS)、ポリ硫酸ペントサンのマグネシウム塩(MgPPS)、ポリ硫酸ペントサンのカルシウム塩(CaPPS)、およびポリ硫酸ペントサンの亜鉛塩(ZnPPS)からなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法、請求項8から15のいずれか一項に記載の組成物、または請求項16から22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記PPSがNaPPSである、請求項23に記載の方法、組成物または使用。
【請求項25】
治療が、筋肉内(IM)、皮下(SC)、静脈内(IV)、関節内(IA)、関節周囲、局所、座薬によりまたは経口投与することによる、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【請求項26】
治療が、鼻腔内経路;気管内経路、気管中経路および肺経路からなる群から選択される呼吸器経路を介して投与することによる、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【請求項27】
前記治療が、IM注射またはSC注射を施すことによる、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【請求項28】
前記治療が、SC注射を施すことによる、請求項27に記載の方法、組成物または使用。
【請求項29】
前記SC注射が、緩徐皮下注射である、請求項28に記載の方法、組成物または使用。
【請求項30】
治療が、前記PPSまたはその許容される塩を、1用量につき対象1kgあたり約1から約2mgの有効量で、または固定用量として約1mgから4000mgの有効量で前記対象に投与することによる、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【請求項31】
前記治療が、
PPSまたはその許容される塩を、1用量につき対象1kgあたり約2mgの有効量、または固定用量として約150mgの有効量で前記対象に投与することによる、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【請求項32】
ヒトへの投与が、1日1回、週2回または週3回の治療レジメンで投薬することによる、請求項25から31のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【請求項33】
ヒトへの投与が、週2回の治療レジメンで投薬することによる、請求項32に記載の方法、組成物または使用。
【請求項34】
ヒトへの投与が、投薬の間が最低で3日、最高で4日である、週2回の治療レジメンで投薬することによる、請求項33に記載の方法、組成物または使用。
【請求項35】
ヒトへの投与が、週2回で6週間の治療レジメンで投薬することによる、請求項34に記載の方法、組成物または使用。
【請求項36】
前記ヒト治療レジメンで投与される
PPSの総用量が、約200から約4000mgである、請求項35に記載の方法、組成物または使用。
【請求項37】
前記PPSが、ARDSのための追加の治療選択肢と同時投与される、請求項1から36のいずれか一項に記載の方法、組成物または使用。
【国際調査報告】