(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-24
(54)【発明の名称】医療デバイス用の膜
(51)【国際特許分類】
A61K 9/00 20060101AFI20230517BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230517BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230517BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20230517BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230517BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230517BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20230517BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20230517BHJP
A61K 38/28 20060101ALI20230517BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20230517BHJP
A61K 31/664 20060101ALI20230517BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20230517BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20230517BHJP
A61K 31/475 20060101ALI20230517BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20230517BHJP
A61K 31/4188 20060101ALI20230517BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20230517BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230517BHJP
A61K 31/175 20060101ALI20230517BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20230517BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20230517BHJP
A61K 31/4545 20060101ALI20230517BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
A61K9/00
A61P35/00
A61P3/10
A61K47/30
A61K47/32
A61K47/34
A61K38/36
A61P7/04
A61K38/28
A61K31/337
A61K31/664
A61K31/513
A61K33/243
A61K31/475
A61K31/573
A61K31/4188
A61K31/282
A61K39/395 N
A61K31/175
A61K31/4184
A61K31/517
A61K31/4545
A61M37/00 560
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562016
(86)(22)【出願日】2021-04-08
(85)【翻訳文提出日】2022-11-16
(86)【国際出願番号】 EP2021059156
(87)【国際公開番号】W WO2021204935
(87)【国際公開日】2021-10-14
(32)【優先日】2020-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516171791
【氏名又は名称】デファイメッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ブルセズ シャルル-ティボー
(72)【発明者】
【氏名】ブ アウン リシャール
(72)【発明者】
【氏名】シグリスト セベリーヌ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4C206
4C267
【Fターム(参考)】
4C076AA94
4C076AA99
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4C076CC21
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4C086CB14
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4C267GG06
4C267GG08
4C267GG16
4C267GG42
4C267GG46
4C267HH08
(57)【要約】
本発明は、透過性膜で作られた閉鎖シェルを含む植込み型チャンバーであって、該膜は少なくとも1層の多孔質生体適合性ポリマーを含み、調節されかつ該膜全体に均質に分布している細孔を有する、植込み型チャンバーに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を区切っている膜で作られた閉鎖シェルを含む、生体適合性の植込み型チャンバーであって、該膜がその表面の少なくとも一部の上に細孔を含み、該細孔が該膜の該少なくとも一部の上に均質に分布し、かつ該細孔の直径が200 nm~100 μmで構成される、植込み型チャンバー。
【請求項2】
膜が、1つより多い層の生体適合性多孔質ポリマーを含む、請求項1記載の植込み型チャンバー。
【請求項3】
膜が、1層の多孔質生体適合性ポリマーに存する、請求項1記載の植込み型チャンバー。
【請求項4】
均質に分布した細孔を含む膜が、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンイミン、ポリオレフィン(特にポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE))、ポリエステル(特にポリ(エチレンテレフタレート)(PET))、フルオロポリマー(特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはポリフッ化ビニリデン(PVDF))、およびポリアミドからなる群より選択されるポリマーから作られる、請求項1~3のいずれか一項記載の植込み型チャンバー。
【請求項5】
多孔質生体適合性ポリマーが、表面の物理的または化学的修飾によって親水性にされ、かつ少なくとも1種類の親水性ポリマーで被覆されている、請求項1~4のいずれか一項記載の植込み型チャンバー。
【請求項6】
多孔質生体適合性ポリマーの層が、細孔10
3個/cm
2~細孔10
9個/cm
2、好ましくは細孔10
4個/cm
2~細孔10
7個/cm
2、より好ましくは細孔10
4個/cm
2~細孔10
6個/cm
2の細孔密度を有する、請求項1~1のいずれか一項記載の植込み型チャンバー。
【請求項7】
膜の総厚が、5 μm~250 μm、好ましくは5 μm~200 μm、好ましくは10 μm~150 μmである、請求項1~6のいずれか一項記載の植込み型チャンバー。
【請求項8】
多孔質生体適合性膜が、少なくとも1種類の生物活性分子、特に該膜の表面上の層に共有結合している少なくとも1種類の生物活性分子を含有する親水性ポリマーで被覆されている、請求項1~7のいずれか一項記載の植込み型チャンバー。
【請求項9】
細孔が、5 μm~100 μm、好ましくは5 μm~50 μmの直径を有する、請求項1~8のいずれか一項記載の植込み型チャンバー。
【請求項10】
膜に取り付けられたボディを含む少なくとも1つのコネクターと、パウチ内部と液圧連通するように該コネクターに接続されたコンジットとを含み、それによりシェルの外部と内部との間に連通を確立することが可能になる、請求項1~12のいずれか一項記載の植込み型チャンバー。
【請求項11】
a. 膜に取り付けられたボディを含む少なくとも1つのコネクターと、パウチ内部と液圧連通するように該コネクターに接続されたコンジットとを含む、請求項1~10のいずれか一項記載の植込み型チャンバー;
b. 一方の端部で該コネクターに接続でき、かつ他方の端部で関心対象の化合物の送達源に接続できる、カテーテル
を含むキット。
【請求項12】
カテーテルが、送達源に接続できる端部において、注入ポート、特に皮下に植込み可能な注入ポートを提供する、請求項11記載のキット。
【請求項13】
ポンプ、針、シリンジ、またはペンをさらに含み、それによりカテーテル内部で関心対象の化合物を送達源からチャンバーまで送ることが可能になる、請求項11または12記載のキット。
【請求項14】
血液中の所与のバイオマーカーの濃度を測定するため、および任意で関心対象の化合物の外部供給源に信号を送るために、センサーおよび/またはキャプター(captor)をさらに含む、請求項11~13のいずれか一項記載のキット。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか一項記載のチャンバーに連結されたカテーテルを通って患者の身体に投与され、かつ該チャンバーの膜の細孔によって拡散する、糖尿病を治療するための使用のためのインスリン。
【請求項16】
チャンバーが腹膜腔外に植込まれる、請求項15記載の使用のためのインスリン。
【請求項17】
請求項1~10のいずれか一項記載のチャンバーに連結されたカテーテルを通って患者の身体に投与され、かつ該チャンバーの膜の細孔によって拡散する、血友病を治療するための使用のための凝固因子、特に第VII因子、第VIII因子、または第IX因子。
【請求項18】
チャンバーが腹膜腔内または腹膜腔外に植込まれる、請求項17記載の使用のための凝固因子。
【請求項19】
請求項1~10のいずれか一項記載のチャンバーに連結されたカテーテルを通って患者の身体に投与され、かつ該チャンバーの膜の細孔によって拡散する、癌を治療するための使用のための(パクリタキセル、タキソール、シスプラチン、シクロフォスファミド、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、またはプレスニゾロン(presnisolone)などの)化学療法薬。
【請求項20】
チャンバーが腹膜腔内または腹膜腔外に植込まれる、請求項19記載の使用のための化学療法薬。
【請求項21】
請求項1~10のいずれか一項記載のチャンバーに連結されたカテーテルを通って患者の身体に投与され、かつ該チャンバーの膜の細孔によって拡散する、癌の治療における使用のための抗癌薬。
【請求項22】
テモゾロミド、ベバシズマブ、カルボプラチン、カルムスチン、ミベフラジル、アファチニブ、タンズチニブ、およびエンザスタウリンからなる群において選択される、請求項21記載の抗癌薬。
【請求項23】
癌が脳癌である、請求項21または22記載の抗癌薬。
【請求項24】
癌が神経膠芽細胞腫である、請求項23記載の抗癌薬。
【請求項25】
チャンバーが実質内に植込まれる、請求項23または24記載の抗癌薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬用物質を投与するための医療デバイスであって植込み可能な医療デバイスの分野に関し、特に、パウチ、閉鎖シェル、またはチャンバーの形態であり、かつ関心対象の物質を対象者の体内に拡散させるために使用できる、医療デバイスの分野に関する。そうしたチャンバーおよびデバイスの製造を可能にする膜もまた本発明の対象である。
【背景技術】
【0002】
治療的関心対象の物質を身体に持続的に供給することを必要とする病理コンディションを治療するうえで、患者体内に植込むことができ、かつこれら物質を効率的に、そして時として長期間にわたって放出できる、デバイスの開発が必要とされてきた。
【0003】
関心対象の物質を、それを必要とする対象者にインサイチューで投与するための、植込み型チャンバー(またはパウチ)がこれまでに記述されている。特に、デバイスの例(バイオ人工臓器、半透膜、カプセル化チャンバー)が先行技術において公知である。
【0004】
ゆえに、極性部位の生成によって表面修飾されかつ少なくとも1種類の親水性ポリマーの層によって被覆されている多孔質ポリカーボネート生体適合性ポリマーからなる膜と、バイオ人工臓器を製造するためのその使用とを記述した、WO 02/060409への言及がなされうる。
【0005】
WO 2012/017337(特許文献1)、US 2013/131828(特許文献2)、およびFR 2960783(特許文献3)は、表面エネルギーを増大させるように前処理された多孔質生体適合性支持体で組成され、かつ、各層が親水性ポリマーと少なくとも1種類の生物活性分子とを含む少なくとも2つの層を含む、機能付与された半透膜を記述しており、特にバイオ人工臓器およびカプセル化チャンバーを製造するためのその使用についてもまた記述している。この出願に開示されている生物活性分子はVEGFおよびヘパリンであり、特にHPMC層またはEC層に存在する。
【0006】
WO 2012/010767(特許文献4)は、半透膜で作られた閉鎖シェルを含む植込み型人工臓器を形成するためのデバイスを記述している。
【0007】
WO 2000/060051(特許文献5)は、異なる材料およびポリマーでその半透膜を作ることができるカプセル化チャンバーを記述している(本文書の21ページ15行目から22ページ23行目を参照)。
【0008】
WO 2015/086550(特許文献6)は、少なくとも1種類の治療的関心対象の物質を産生する分泌細胞をカプセル化するためのチャンバーであって、少なくとも1種類の治療的関心対象の物質を産生する前記分泌細胞を含有できる空間を区切っている半透膜で作られた閉鎖シェルを含むチャンバーを記述している:ここで前記膜は、少なくとも1層の多孔質生体適合性ポリマーと、1層の不織生体適合性ポリマーとを含む。
【0009】
WO 2006/080009(特許文献7)は、分泌細胞をカプセル化するための植込み型デバイスチャンバーであって、不織エレクトロスピニング繊維で作られた膜によってカプセル化され、さらにヘパリン含浸されたチャンバーを開示している。
【0010】
WO 2018/087102(特許文献8)(EP3318294(特許文献9)も参照)は、a)半透膜で作られた閉鎖シェルを含むチャンバー(パウチ)であって、シートに取り付けられたボディを含む少なくとも1つのコネクターと、パウチ内部と液圧連通するようにコネクターに接続されたコンジットを含むチャンバー;および、一方の端部で前記コネクターに接続でき、他方の端部で関心対象の化合物の送達源に接続できるカテーテル;を含むキットを開示している。このパウチは、半透膜の細孔を通る拡散によって関心対象の化合物をインサイチュー送達するために対象者の体内に植込まれ、化合物はカテーテルを通ってパウチ内部に到達する。チャンバーの膜はトラックエッチングによって多孔質に作られ、ゆえに膜の表面は細孔のランダムな分布を呈する。
【0011】
US 20070016171(特許文献10)は、液体、特に薬剤をヒトまたは動物に投与するための、移送チャンバーを含む植込み型デバイスを記述している;ここで移送とは、移送チャンバーと供給元との間で液体を移送して液体の送達を可能にすることを意味し、供給元は、液体を受け取るためのインレットと、液体を患者に送達するための少なくとも1つのアウトレットとを含む。
【0012】
WO2019068059(特許文献11)は植込み型パウチを開示している。このデバイスは、複数のチャネルを含む第一表面と、第一表面に対向する複数の第二表面とを有する、第一膜と;第一膜の前記複数の第二表面に対向しかつこれに取り付けられた第二膜と;を含む。
図7~14に見られるように、これら2つの膜は、細胞を受けるように意図された閉鎖チャネルを形成する(例えば
図4を参照)。膜は多孔質膜であってもよい。段落[9]に説明されているように、チャネル内に入った細胞の血管新生が増大するように、第一膜と第二膜との融合部分を除去して、脈管が貫通できる開口部を形成するために(例えば
図5および
図30、ならびに段落[220]を参照)、レーザーが用いられてもよい。段落[5]に示されているように、チャネルは約400 μm~約3,000 μmの平均直径を有する。WO2019068059(特許文献11)に開示されるチャネルは、液体および小分子の通過を可能にするだけでなく、細胞がその中に定着でき血管新生のための脈管にも対応できるだけの充分な大きさであるよう、その直径が非常に重要であるので、細孔ではないといえる。WO2019068059(特許文献11)のデバイスは互いに取り付けられた2つの膜で作られていることもまた留意されるべきである。
【0013】
WO1996032076(特許文献12)は細胞を含有できる植込み型多孔質チャンバーに関する。
【0014】
上述のデバイスはすべて、デバイスが対象者の体内に植込まれる時に存在する引き裂きの強さに抵抗する必要がある。したがって、これら文書に記述される膜は、破断時の引張抵抗力が良好であるが延伸力および伸長力が非常に低いという機械特性を有する。
【0015】
ゆえに、これらの膜を折り畳むことはできず、それは植込みに低侵襲手術を用いる可能性を妨げる。事実、膜を損傷することなく、トロカールに通過させるためにデバイス(チャンバー)を巻くことは不可能である。事実、(関心対象の物質が拡散できるために必要な)細孔が膜に存在することは、膜が曲げられた時、または細孔間にひびや裂け目が生じた時に、膜を弱める可能性がある要素である。
【0016】
しかし低侵襲手術は、疼痛を低減させ、瘢痕がより少なく、創合併症を低減させ、患者の回復時間を短縮させ、患者の入院期間を短縮させ、患者満足度を高めるので、(開放手術よりも)そうした低侵襲手術を行えることが関心対象となっている。低侵襲手術はまた、開放手術で可能な部位以外の埋植部位にデバイスを埋植することも可能にする。
【0017】
ゆえに、破断時の引張抵抗力が維持され(すなわち植込み時に破損せず)かつ伸長特性が向上した、新しいチャンバーを提供することが必要とされている。特に、これらのチャンバーは、(特にトロカールを伴う低侵襲手術で用いるために)曲げまたは折り畳むことができ、かつトロカールからの解放時および植込み後は元の形態に戻ることができるべきである。驚くべきことに、本出願人は、細孔が膜の表面に均等に(または均質もしくは均一に)分布している時は、先行技術の膜で観察される問題が解決されうることを示した。事実、先行技術の細孔はトラックエッチングで作られ、それは細孔がランダムに分布しかつその設定が制御されないことにつながる。これらチャンバーは、関心対象の物質を対象者の体内に拡散させるために用いられ、「拡散チャンバー(diffusion chamber)」と呼ぶこともできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO 2012/017337
【特許文献2】US 2013/131828
【特許文献3】FR 2960783
【特許文献4】WO 2012/010767
【特許文献5】WO 2000/060051
【特許文献6】WO 2015/086550
【特許文献7】WO 2006/080009
【特許文献8】WO 2018/087102
【特許文献9】EP3318294
【特許文献10】US 20070016171
【特許文献11】WO2019068059
【特許文献12】WO1996032076
【発明の概要】
【0019】
したがって本発明は、内部空間を区切る膜で作られた閉鎖シェルを含む生体適合性の植込み型チャンバーに関する;ここで、膜はその表面の少なくとも一部の上に存在する細孔を含み、細孔は膜の前記少なくとも一部の上に均質に分布する。膜の表面に存在するすべての細孔が、好ましくは同じ均一な分布で(後述を参照)、均質に(または均一に)分布することが好ましい。
【0020】
思い起こされることとして、「生体適合性の(biocompatible)」という用語は、生体による耐容性が良好であり、それ自体は生体の拒否反応、毒性反応、病変、または生物学的機能に対する有害な影響を引き起こさない材料について言われる。材料を生物体内に挿入したことによる炎症性反応の可能性は除外できない。
【0021】
「均質に分布する(homogeneously distributed)」は、(細孔が存在する場合に)膜の表面上の細孔密度が本質的に一定しており平均密度+/- 10%に等しいことを示すことが意図されている。(平均細孔密度とは対照的に)そうした「局所(local)」細孔密度は、概して約1 cm2、より好ましくは約0.5 cm2、より好ましくは約0.1 cm2、好ましくは約0.05 cm2または0.01 cm2である、膜の全表面の一部分の上で測定される。この場合、膜の複数の「局所」部上で細孔密度を測定すると興味深い。細孔が膜表面の一部分の上にのみ位置していてもよいこともまた留意されるべきである。この場合、均質な分布(局所密度および平均密度)は、細孔が存在する表面上で評価されるべきである。いくつかの態様において、細孔は膜表面の20%未満上に位置する(すなわち膜表面の80%超上には細孔が存在しない)。いくつかの態様において、細孔は膜表面の20%~30%上に位置する(すなわち膜表面の70%~80%上には細孔が存在しない)。いくつかの態様において、細孔は膜表面の30%~40%上に位置する。いくつかの態様において、細孔は膜表面の40%~50%上に位置する。いくつかの態様において、細孔は膜表面の50%~60%上に位置する。いくつかの態様において、細孔は膜表面の60%~70%上に位置する。いくつかの態様において、細孔は膜表面の70%~80%上に位置する。いくつかの態様において、細孔は膜表面の80%~85%上に位置する。いくつかの態様において、細孔は膜表面の85%超上に位置する。いくつかの態様において、細孔は膜表面の少なくとも20%上に位置する。いくつかの態様において、細孔は膜表面の少なくとも30%上に位置する。いくつかの態様において、細孔は膜表面の少なくとも40%上に位置する。いくつかの態様において、細孔は膜表面の少なくとも50%上に位置する。いくつかの態様において、細孔は膜表面の少なくとも60%上に位置する。いくつかの態様において、細孔は膜表面の少なくとも70%上に位置する。いくつかの態様において、細孔は膜表面の少なくとも80%上に位置する。
【0022】
好ましい態様において、膜は、1つより多い層の生体適合性多孔質ポリマーを含む。そうした多層膜は当技術分野において記述されており公知である。特に、膜は、2層の多孔質ポリマーの間に不織の層を含有してもよい。そうした設計はWO 2015/086550に記述されている。この態様において、2層の多孔質ポリマーの各々の表面に細孔が均質に分布していることが好ましい。
【0023】
しかし、膜が、1層の多孔質生体適合性ポリマーに存し、その膜上に細孔が均質に分布していることが好ましい。
【0024】
注意喚起される点として、細孔は、「カットオフ(cut-off)」サイズ(例えば細孔が円形である時はその直径など、細孔のサイズにリンクしたサイズ)を呈する、膜における開口部であり、それにより、カットオフを下回る分子は細孔を通過でき、より大きい分子は通過できないようになっている。本出願において、膜は多孔質であり、関心対象の物質を分泌する細胞がその中に導入されるチャンバーを形成するか、または、後述するようにキットを介して関心対象の物質を投与するために用いられる。ゆえに、細孔は、関心対象の物質を拡散させるだけ充分に大きいが、細孔内に組織が移入または増殖すると細孔を詰まらせるのでそれを防ぐだけ充分に小さいことが意図される。細孔と膜とを通過できる関心対象の分子は、後述するようにインスリン、グルコース、成長因子、酵素、およびそれ以外であってもよく、組織または脈管は細孔内への移入または増殖が本質的に防がれる。このことは、特に細孔のサイズ(開口部、直径)によって実現される。
【0025】
チャンバーを形成する膜の説明
多孔質生体適合性ポリマー
多孔質生体適合性ポリマーが当技術分野において公知である。それは、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンイミン、ポリオレフィン(特にポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE))、ポリエステル(特にポリ(エチレンテレフタレート)(PET))、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、フルオロポリマー(特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはポリフッ化ビニリデン(PVDF))、およびポリアミドから選ばれてもよい。そうしたポリマーは当技術分野において公知である任意の方法によって得られてもよい。
【0026】
1つの特定の態様において、少なくとも1層の膜ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)で作られる。
【0027】
多孔質バイオポリマーをチャンバーの膜において用いると、チャンバーが透過性になる。本発明において、生体適合性ポリマーが多孔質になるように、かつ細孔が均質に分布するような方式で、生体適合性ポリマーのフィルム内に細孔が形成される。膜は、低侵襲手術によって植込みできるように、折り畳む/巻くことができるだけ充分に可撓性であることもまた、留意されるべきである。
【0028】
ゆえに、細孔の局在性と分布とを調節するために、そして分布が均質かつ均一になるように、調節された方法を用いて生体適合性ポリマーの層を穿孔することが重要である。さらに、標準化された細孔(すなわち、本質的に同じ直径を有しかつ本質的にすべて同一である細孔)を有することもまた興味深い。
【0029】
先行技術における細孔形成は、電子衝撃法または重イオン衝撃法によって行われるものとして記述されている(この第二の技法は特に特許US 4 956 219に記述されている)。重イオン衝撃の場合、生体適合性支持体の表面に衝撃される重イオンの密度が細孔密度を決定し、一方で、化学腐食処理時間が細孔サイズを決定する。先行技術の多孔質膜はこのように、先行技術において公知であり特に特許US 4 956 219、DE19536033、またはCH701975に記述されている「トラックエッチング」加工を用いて準備される。先行技術の膜に用いられるこの技術では、高エネルギーの重イオンによってポリマーフィルムを照射し、その結果として、このポリマーの局所的劣化を特徴とする線形の潜在的痕跡(linear latent trace)が形成される;次いで、これらの痕跡は、選択的な化学的浸食によって細孔という形態で現わされる。膜は重イオンでビーム照射される。重イオンはポリマーフィルムの厚さ全体を通過する。重イオンはポリマーを通過する際にポリマー鎖を破壊または切断し、ゆえに、材料を通るクリーンかつまっすぐな開口部を形成する。細孔の最終的なアライメントは、照射プロセス中のポリマーフィルムに対するビームの角度によって決定される。ゆえにビームはポリマーフィルムに垂直であってもよく、または他の任意の角度であってもよい。次の段階において、フィルムは硝酸などの強酸浴に通され、そして、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのアルカリ性溶液との接触後に開口部が細孔になる。フィルムの残りの部分とは逆に、イオンによって作られたこれら開口部はアルカリ性溶液を通過させる;そのアルカリ性溶液が開口部を満たし、これら開口部の周りの材料(ポリマー)を除去することによって細孔のエッチングを可能にする。細孔サイズは、アルカリ性溶液の濃度と、接触時間と、溶液の温度とによって調節される。
【0030】
この技術は、特に平らな表面と狭いカットオフ閾値とを特徴とする多孔質ポリマー膜の生産を可能にするものの、電子ビームまたはイオンビームを調節できないので、調節制御されていない。したがって、細孔の分布は均質かつ均一ではない(膜表面のいくつかの部分は他の部分より高い細孔密度を含有する)。さらに、細孔のサイズ(直径)が良好に調節されない。事実、2つのイオンが膜上で互いの近くに着地して、「二重(double)」細孔(両方のイオンによって作られた細孔)につながる可能性がある。さらに、この方法は細孔の形状にいくらかのばらつきをもたらす;細孔の形状はイオンがポリマー表面に触れる角度に依存し、そうした角度はビーン(bean)内で変動する可能性がある。
【0031】
したがって、本明細書に開示する膜を準備するために、細孔の数と、密度と、直径と、形状との調節を可能にする方法が用いられる。
【0032】
Caiazzo et al (Journal of Materials Processing Technology 159 (2005) 279-285) またはBadoniya (International Research Journal of Engineering and Technology (IRJET), Volume: 05 Issue: 06 | June-2018, CO2 Laser Cutting of Different Materials) に記述されているレーザー技術を用いることが好ましい。
【0033】
レーザー切断加工では、レーザービームを精密に集束させて切断対象の材料に通す。
【0034】
大きなビームを単一のピンポイントに小さく集束させることにより、そのスポットにおける熱密度が極度に高くなる。レーザービームの集束は特殊なレンズまたは湾曲ミラーによって行うことができ、これはレーザー切断ヘッド内で生じる。高いパワー密度は、材料の急速な加熱と、融解と、部分的または完全な蒸発という結果をもたらす。
【0035】
材料に応じたビームの強度、長さ、および熱出力と、レーザービームをさらに集束させるためのミラーまたは特殊レンズの使用とにより、レーザー切断は非常に良好に調節された加工となる。さらに、レーザー切断を用いると複雑な形状も実現できる。
【0036】
用いられる技術(持続波ビームまたはパルスビーム)に応じて、材料を穿孔するメカニズムはさまざまである。
【0037】
思い起こされることとして、持続波ビームはエネルギー源をレーザー媒質に一定に印加することによって得られ、一方、パルスビームは、不連続なポンプ源を用いて、短く、強く、かつ不連続なレーザービームパルスをもたらすことによって得られる。
【0038】
レーザー切断技法は、正確かつ滑らかな仕上げを伴う、調節された細孔生成を得ることを可能にする。
【0039】
CO2切断は、(エネルギーがより低い)10.6マイクロメートルの波長を有するので、非金属材料に用いられることが最も多い。したがって、CO2レーザーは薄いプラスチックフィルムを切断するうえで好まれ、一方、1.064マイクロメートル付近の波長を有するNd:YAGレーザー(ネオジム添加YAG(イットリウム アルミニウム ガーネット)レーザー)は金属および非金属材料の両方に用いられうる。
【0040】
細孔は優先的には円柱状であるが、本技術は円錐形など他の形状の細孔を得ることも可能にしうる。
【0041】
優先的には、細孔はアライメントされる。
【0042】
本技術は、上述した材料など、さまざまな材料に適用可能である。
【0043】
厚さ5 μm~200 μmの膜を用いるために、200 nm~100 μmの調節されたサイズと、細孔103個/cm2~細孔109個/cm2の細孔密度とを備えた細孔を得ることが可能である。
【0044】
留意されるべき点として、生体適合性ポリマー上に細孔を形成する処理をしなければ、生体適合性ポリマーのそうした層は、いかなる物質に対しても不浸透性のままとなり、生体適合性臓器の内部から外部への関心対象の物質の拡散を可能にしない。細孔は、カットオフを下回る(すなわち細孔直径より小さい)物質の拡散のみを可能にする。この特異的な使用において、最も重要なことはチャンバー内の血小板凝集を回避することであり、ゆえにカットオフはチャンバー内への血小板の進入を禁じるように選ばれる。
【0045】
ゆえに明らかなこととして、膜が不織層を含有する時、そうした不織層と、多孔質生体適合性ポリマーのそうした層とは、異なる材料で作られかつ異なる特性(特に、各層を通る物質の通過と拡散とに関する特性)を呈する、異なる層である。
【0046】
不織ポリマー
膜は不織ポリマー(不織布)の層を含んでいてもよい。そうしたポリマーは、その繊維がランダムに維持されたものである。ゆえにそれは、摩擦ならびに/または粘着および/もしくは接着によって結合された、特定の方向にまたはランダムに配向された繊維からなるシートである。ゆえに繊維は統計学的に配置され、すなわちランダムに配される。したがって、かつ繊維のランダムな配置のゆえに、不織ポリマーは物質に対して透過性であり、かつ、不織ポリマー内で拡散できる物質のサイズについて調節が存在しない。不織膜は多孔質膜としての構造をしておらず、後述するように細孔のサイズに応じてカットオフを呈する多孔質膜とは対照的に、膜の不織部内における物質の拡散について調節が存在しない。
【0047】
不織ポリマーは任意のタイプのポリマー繊維を用いて生産されうる。ゆえに、ポリエステル類:PET(ポリ(エチレンテレフタレート))、PBT(ポリ(ブチレンテレフタレート))、PVC(ポリ(塩化ビニル))、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、またはこれらポリマーのブレンドへの言及がなされうる。ポリアミドまたはポリカーボネートもまた不織ポリマーの生産に用いられうる。好ましくは、不織ポリマーは、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル、ポリエチレンイミン、ポリプロピレン(PP)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリアミド、およびポリエチレン(PE)から選ばれる。これらポリマーのブレンドもまた不織ポリマーを生産するために用いられうる。ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)は特に好ましい。
【0048】
概して、この不織ポリマーはメルトブローン法によって得られる。その組成は、「メルトブローされた(melt blown)」微細繊維の絡み合いである。繊維は当技術分野において公知である任意の方法によって得られており、特に、本明細書において用いるポリマーは、当技術分野において公知である任意の方法によって得ることができ、特にエレクトロスピニングでは溶媒の使用が回避され、デバイスおよびキットの臨床適用に有利である。この生産方法は、溶融紡糸できるポリマー、特にポリプロピレン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリアミド、またはポリエチレンに特に好適である。この方法は、機械的強度がより大きい不織布を生成する。使用可能な材料は、特にWO2015086550、PCT/EP2016/061051、EP1357896、またはWO2012010767に開示されている。
【0049】
膜が複数のポリマー層を含む場合、それらの組み合わせは、優先的には、熱積層など当技術分野において公知の方法を用いて積層によって行われ、それは接着剤の存在を伴うかまたは伴わず、好ましくは接着剤を伴わない。
【0050】
生体適合性の膜の物理的特徴
細孔密度:
細孔密度が細孔103個/cm2超、好ましくは細孔104個/cm2超であることが好ましい。この細孔密度は概して細孔109個/cm2未満、好ましくは細孔107個/cm2未満である。
【0051】
したがって、優先的には細孔103個/cm2超、より好ましくは細孔104個/cm2超である細孔密度を有しうる膜が用いられる。この密度は、優先的には細孔109個/cm2未満、またはさらには細孔107個/cm2未満、もしくは細孔106個/cm2未満である。したがってこの密度は、細孔103個/cm2~細孔107個/cm2、好ましくは細孔104個/cm2~細孔106個/cm2である。細孔104個/cm2超かつ細孔105個/cm2未満の密度が完全に好適である。
【0052】
したがって、植込み型チャンバー上の細孔の密度は、細孔103個/cm2~細孔109個/cm2、好ましくは細孔104個/cm2~細孔107個/cm2、より好ましくは細孔104個/cm2~細孔106個/cm2である。
【0053】
細孔直径
上記に見られるように、多孔質生体適合性ポリマーの細孔は、関心対象の物質が膜の細孔を通って拡散できるよう、膜の透過性を可能にするように内径を有する。
【0054】
ゆえに、膜の細孔の直径は概して、200 nm~100 μm、もしくは200 nm~50 μm、または1 μm~100 μm、もしくは1 μm~50 μm、より好ましくは 5 μm~50 μm、または5 μm~100 μmで構成される。
【0055】
膜の厚さ
膜は、5 μm~250 μm、好ましくは5 μm~150 μm、好ましくは10 μm~150 μmの厚さを有する。ゆえに、厚さは5 μm超である。厚さは概して250 μm未満、特に200 μm未満であり、好ましくは150 μm未満である。約35 μm~約125 μmの厚さが完全に好適である。
【0056】
チャンバーの記述
本発明は、(治療的)関心対象となる少なくとも1種類の化合物または物質のインサイチュー拡散を可能にするためのチャンバーを用いる。このチャンバーは、関心対象の化合物がカテーテルからかつインサイチュー拡散前にその中に移行する容積を区切る、本明細書に説明されるような膜で作られた閉鎖シェルを含む。
【0057】
このチャンバーは「パウチ」または「拡散チャンバー」とも呼ばれうる。1つの態様において、チャンバーの外部(外の部分)および内部(中の部分)は、ヘパリンなど、生物学的活性を有する分子で機能付与される。
【0058】
そうしたチャンバーは特許出願WO 2012/010767に記述されている。1つの好ましい態様において、シェルは、一緒に熱溶着される、本明細書に開示するような2つの膜から形成される。WO 2012/010767に記述されている方法、または、当技術分野において公知である、超音波を用いた熱溶着の方法が用いられてもよい。膜はまた、チャンバーを形成するために、当技術分野において公知である任意の熱シーリング方法を用いてその周囲上でシールされてもよい。
【0059】
チャンバーの形状
1つの好ましい態様において、チャンバーは円形である。そうした形状はいくつかの利点を有する:
-植込み中に細胞凝集体または炎症性の凝集体を作り出す可能性がある「コーナー」または突出部がない。
-チャンバーの製造が容易である。1つの特定の態様において、チャンバーの直径は1 cm超である。その直径は概して20 cm未満であり、優先的には15 cm未満、または12 cm未満である。2~12 cmの直径は完全に許容可能である。
-チャンバーが丸みを帯びていない場合、その最大寸法は概して2 cm超である。その最大寸法は概して20 cm未満であり、優先的には15 cm未満、または12 cm未満である。2~12 cmの最大寸法は完全に許容可能である。
【0060】
チャンバーの容積
上記に見られるように、チャンバーは、関心対象の化合物を含有する溶液が、チャンバーのエンベロープを形成する膜の細孔を通ってチャンバー外部において拡散する前に、その中に移行するための容積を区切る。チャンバーの容積は概して500 μl~20 mlで構成され、拡散チャンバーの寸法に依存する。
【0061】
チャンバーに剛性部が追加されることもまた好ましい。そうした剛性部は、膜内または膜間の溶着部内のいずれかに位置する、以下に開示するようなコネクターであってもよい。そうした剛性部は、デバイスの植込みにマイクロサージェリー(腹腔鏡手術)が用いられる場合にチャンバーをプライヤーで把持できるようにするために有用である。剛性部はまた、そうした手術のためにトロカールの周りでチャンバーを回転させるためにも有用である可能性がある。
【0062】
その他のポリマー
膜の表面に、特に多孔質ポリマーの表面上に、ポリマー(任意の親水性ポリマーなど)のさまざまな層を追加することが可能である。これらポリマー層はレイヤーバイレイヤー堆積法を用いて追加されてもよい。WO 2012/017337に例が提供されている。
【0063】
親水性ポリマーは、多孔質生体適合性ポリマーのフィルム上に適用した後、WO 02/060409の実施例2に記述されている「液滴」試験に基づく測定後に、40°未満、好ましくは30°未満の角度値を有する、ポリマー、またはポリマーのブレンドである。
【0064】
留意されるべき点として、「液滴」試験に基づく角度値は、ポリマーの処理に応じて変動する可能性がある。ゆえに、生体適合性バイオポリマーについて、2回のプラズマ処理が行われると20°未満(約16~17°)の接触角が観察される可能性があり、この角度は、2回のプラズマ処理の後に親水性ポリマー(特にHPMC)が堆積されると増大する(概して30°未満)。生物学的活性を備えた分子もまた含有する親水性ポリマーのブレンド(特に、HPMC、エチルセルロース + ヘパリンの混合)が用いられる場合、角度は30°超になる可能性があるが、40°未満に保たれる。
【0065】
優先的には、親水性ポリマーは水溶性である。なぜなら、バイオ人工臓器はホスト生体の体内に植込まれるゆえに、有機溶剤は完全な排出が困難であるので除外され、かつ、その存在はたとえ少量であってもヒトまたは動物における治療的または外科的使用に適合しないからである。
【0066】
好ましくは、親水性ポリマー材料は以下の親水性ポリマーから選ばれる:
-エチルセルロース(EC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、またはカルボキシメチルセルロース(CMC)など、セルロースおよびその誘導体;
-ポリアクリルアミドおよびそのコポリマー;
-ポリビニルピロリドン(PVP)およびそのコポリマー;
-ポリビニルアルコール;
-ポリ(酢酸ビニル)/ポリ(ビニルアルコール)コポリマーなど、酢酸ビニルコポリマー;
-ポリエチレングリコール;
-プロピレングリコール;
-親水性ポリ(メト)アクリレート;
-多糖;
-キトサン。
【0067】
親水性ポリマーとして、上記に定義されるような親水性ポリマーのうち1つからなるポリマー材料と、上述の親水性ポリマーのうちいくつかのブレンド、概して上述の親水性ポリマーのうち2種類または3種類のブレンドとの、両方が用いられる。
【0068】
好ましくは、親水性ポリマーは、セルロース系化合物、特にHPMC、EC、TEC、もしくはCMC;ポリビニルピロリドン;ポリ(ビニルアルコール);または、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)(HEA)もしくはアクリル酸コポリマーなどのポリアクリレート;から選ばれる。
【0069】
親水性ポリマーはまた、上述した2つまたはそれ以上の親水性ポリマーのブレンド、特にHPMCとCMCとのブレンド、またはHPMCとECとのブレンドで組成されてもよい。
【0070】
セルロースおよびセルロース誘導体、特にヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)が好ましい。
【0071】
膜の表面上における活性分子の添加
膜は、ヘパリンまたは以下に開示するような別の分子など、活性分子で機能付与されてもよい。
【0072】
留意すべき点として、チャンバーを形成する前に膜に機能付与(ヘパリン架橋など)することが可能である。この場合は、他所に示すように、ヘパリンは少なくともチャンバーの外面上にあるべきである。
【0073】
代替的に、チャンバーを形成して次にそれに機能付与することも可能であり、それは例えば、プライミング溶液と、機能付与する分子を含有する溶液とを含有する、さまざまな液槽内に浸漬するなどによって行われる。
【0074】
多孔質生体適合性ポリマーの層上に堆積される親水性ポリマーが任意で活性分子を含有することも可能である。
【0075】
この「活性分子」は親水性ポリマーと混合される。活性分子は、半透膜を取り囲む媒質中に放出されることが意図されており、その目的は特に、バイオ人工臓器の植込みによる炎症を低減させること、および/または、バイオ人工臓器の移植を受ける患者の組織によるポジティブな応答(特に血管新生の増大)を誘導することである。
【0076】
ゆえに、活性分子は、抗炎症剤、抗感染症剤、麻酔剤、成長因子、脈管形成を刺激および/もしくは血管新生を誘導する作用物質、治癒を誘導する作用物質、免疫抑制剤、抗凝集剤および抗凝固剤を含む抗血栓剤、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、または、インスリン分泌を刺激する任意の分子(IGF、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)もしくはその誘導体、インクレチン模倣薬)から選ばれる。
【0077】
抗炎症剤の中でも言及されうるものは、アセトアミノフェン、アミノサリチル酸、アスピリン、セレコキシブ、トリサリチル酸コリンマグネシウム、デクロフェナク(declofenac)、ジフルニサル、エトドラク、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、インターロイキンIL-10、IL-6ムテイン、抗IL-6、NOシンターゼ阻害剤(例えばL-NAMEまたはL-NMDA)、インターフェロン、ケトプロフェン、ケトロラク、レフルノミド、メフェナム酸、ミコフェノール酸、ミゾリビン、ナブメトン、ナプロキセン、オキサプロジン、パイロキシカム(pyroxicam)、ロフェコキシブ、サルサラート、スリンダク、およびトルメチンなどの非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs);ならびに、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ブデソニド、リン酸デキサメタゾンナトリウム、フルニソリド、プロピオン酸フルチカゾン、パクリタキセル、タクロリムス、トラニラスト、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、デソニド、デスオキシメタゾン、フルオシノロン、トリアムシノロン、プロピオン酸クロベタゾール、およびデキサメタゾンなどのコルチコイド;である。イブプロフェンが特に好適であり好ましい。
【0078】
好ましくは、抗凝集剤(アセチルサリチル酸、クロピドグレル、チクロピジン、ジピリダモール、アブシキシマブ、エプチフィバチド、およびチロフィバン)、抗凝固剤(ヘパリン、ビバリルジン、ダビガトラン、レピルジン、フォンダパリヌクス、リバーロキサバン、エポプロステロール、ワルファリン、フェンプロクモン、プロテインC、ドロトレコギンアルファ、アンチトロンビン、ペントサン)、ならびに血栓溶解剤(アルテプラーゼ、ウロキナーゼ、テネクテプラーゼ、およびレテプラーゼ)などの抗血栓剤が用いられる。
【0079】
ヘパリンの使用は特に好ましい。
【0080】
別の態様においてイブプロフェンが用いられる。
【0081】
加えて、バイオ人工臓器を取り囲む組織の血管新生を誘導することを可能にする分子、特にPDGF(血小板由来成長因子)、BMP(骨形成タンパク質)、VEGF(血管内皮成長因子)、VPF(血管透過性因子)、EGF(上皮成長因子)、TGF(形質転換成長因子)、およびFGF(線維芽細胞成長因子)を用いることも可能である。
【0082】
IGF-1、IGF-2、神経栄養因子(NGF)を用いることもまた可能である。
【0083】
1つの特定の態様において、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、血小板由来内皮細胞成長因子(PDGF AもしくはB)、骨形成タンパク質(BMP 2もしくは4)、または肝細胞成長因子(HGF)など、脈管形成を誘導することによって血管新生を促進する細胞成長因子が選ばれる。
【0084】
抗菌性の分子または任意の有用な分子、例えばポリペプチド(特に抗菌性のペプチド);イオン化した銀、銅、亜鉛;水素、塩素、ヨウ素、もしくは酸素などの非金属元素;セレンなども、また使用できる。
【0085】
親水性ポリマーと生物活性分子との層を準備するため、親水性ポリマー、または親水性ポリマーのブレンドは水に溶解される。
【0086】
活性分子を含有していてもよい親水性ポリマーの、多孔質生体適合性ポリマーの層への添加は、WO 02/060409およびWO 2012/017337に記述されている方法に基づいて行われる。
【0087】
別の態様において、WO 2012/017337に記述されているように、それぞれが親水性ポリマーおよび少なくとも1種類の生物活性分子を含む2つの層を、多孔質生体適合性ポリマーの表面に添加することが可能である。
【0088】
さらに、EP86186、EP1112097、EP1112098、EP658112、およびWO2012017337が参照される。
【0089】
膜の表面に活性分子を結合させる他の方式も存在し、以下にヘパリンについて例証する。
【0090】
直鎖有機ポリマーへのヘパリンの結合
具体的態様において、前記ヘパリン層は、ポリマー主鎖に沿って分布したいくつかの官能基を有する実質的に直鎖の有機ポリマーに存する;その官能基を介して少なくとも20個のヘパリン分子が共有結合を通じてアンカーされ;ヘパリンは、ヘパリンに関連するアミノ基またはアミノ酸を介してポリマー主鎖に結合され;前記ヘパリン層は前記多孔質生体適合性ポリマー層の表面にアフィニティ結合される。
【0091】
この方法は実際にEP 658112に開示されている。
【0092】
簡潔には、少なくとも実質的に水溶性であり生物活性がある抱合体(高分子)が用いられる;その抱合体は、好ましくは実質的に純粋な形態にあり;ポリマー主鎖に沿って分布したいくつかの官能基を有する実質的に直鎖の有機ホモポリマーまたは有機ヘテロポリマーを含み;その官能基を介して少なくとも約20個のヘパリン分子が共有結合を通じてアンカーされ、;ヘパリンは、ヘパリンに関連するアミノ基またはアミノ酸を介してポリマー主鎖に結合される。留意されうる点として、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸、そして目的の機能をするこれら物質の断片および誘導体もまた、ヘパリンと同等に使用できかつその代用となりうる。EP 658112に示されているように、ポリマー主鎖1つあたりのヘパリン残基の数は、上述したように少なくとも20であるが、好ましくはそれより多く、通常は少なくとも30である。用いられるポリマー主鎖によっては、ポリマー主鎖1つあたり少なくとも60、さらには100超のヘパリン残基を有することが好ましい可能性がある。上限は状況に依存し、とりわけ、選択される担体ポリマーの溶解特性、および許容されうる粘稠度の高さなどによって設定される。
【0093】
実質的に線状のポリマー
実質的に線状のポリマー鎖は、ヘパリンのカップリング後に、好ましくは実質的に生物学的に不活性であり、すなわち干渉的な生物学的活性がない。
【0094】
そのポリマー鎖は、ポリマー鎖に沿って分布したいくつかの官能基、例えばアミノ基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基などを提供するべきであり、かつ、任意的な修飾後に、直接的にまたはカップリングシーケンスを介してのいずれかによって、ヘパリンにカップリングできるべきである。
【0095】
担体ポリマーは、好ましくは良好な水溶性を有するべきである。少なくとも、抱合体についてすでに述べられていることに基づき、ヘパリンのカップリング後に少なくとも実質的に水溶性であるべきである。
【0096】
特異的かつ好ましいポリマー鎖は、ポリリジン、ポリオルニチン、キトサン、ポリイミン、およびポリアリルアミンなど、天然または合成のポリペプチド、多糖、または脂肪族ポリマーである。
【0097】
膜表面への抱合体ポリマー/ヘパリンの結合
望ましい生物学的活性を備えた表面が提供されるように、この抱合体は膜表面に結合される;膜表面は、抱合体に対するアフィニティ(通常はヘパリン残基に対するアフィニティであるが必ずしもそうでなくてもよい)を有するように準備されてもよい。
【0098】
機能付与された膜は、抱合体(それを介してヘパリンが共有結合によってアンカーされるいくつかの官能基を有する有機ポリマーを含む抱合体)を、抱合体に対するアフィニティを呈するように準備された膜表面に、好適な条件下で単純に接触させることによって得られる。
【0099】
抱合体と基質表面との間のアフィニティの好ましい形態は静電的な性質のものであり、より好ましくは、ヘパリン残基と膜表面との間の静電相互作用によって結合が生じる。事実、逆に帯電した膜表面への実質的に不可逆的な結合を可能にするのに充分な、抱合体の静電実効電荷が用いられる。抱合体は負に帯電しているので、膜表面は陽イオン性であるかまたは陽イオン性にされるべきである。
【0100】
膜表面を陽イオン性にするためのさまざまな方法が周知である。ポリイミンによる処理は好適な方法であるが、ポリリジン、キトサン、またはポリアリルアミンなど、他のポリアミンもまた用いられてもよい。これらのポリマーはEP 658112の実施例において用いられている。
【0101】
ポリマーへのヘパリンのカップリング
実質的に直鎖の有機ポリマーにヘパリンをカップリングするための異なる方式が存在する。
【0102】
しかし、各ヘパリン分子が、末端に、かつ担体ポリマーへの一重結合のみによって、結合していることが好ましい。好適には、ヘパリン分子はアミノ酸を介して、そして次に好ましくは末端アミノ酸を介して、結合されるが、ヘパリンユニットの遊離アミノ基もまた用いられてもよい。後者は遊離基として存在していてもよく、または脱硫酸化または脱アセチル化を通じて遊離されてもよい。
【0103】
特に、US 4,613,665に記述されている方法に基づいて準備された、末端に位置するアルデヒド基を有する亜硝酸分解ヘパリンを利用して、ヘパリンをアミノ官能性ポリマー鎖に直接結合させてもよい。
【0104】
好ましくは、ヘパリンは、カップリング試薬、好ましくはN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP)などのヘテロ二官能性試薬によって、ポリマー鎖に結合される。
【0105】
例証として、ポリリジン(400,000を上回る分子量を有する)へのヘパリンのカップリングについて記述する;これは、担体分子1つあたり最大500までのヘパリン鎖を有する抱合体を準備できることにつながる。
【0106】
N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP)がポリリジン上のアミノ基にカップリングされ、次に、SPDP置換ポリリジンがクロマトグラフ的に精製される。別個のカップリング段階において、末端のアミノ酸残基において存在するかまたは遊離グルコサミンとして存在する(後者の含有量はN-脱硫酸化またはN-脱アセチル化を介して調節されうる)、ヘパリン上のアミノ基にも、SPDPがカップリングされる。SPDP基は還元されてチオール官能基になり、その際にSH置換ヘパリンがクロマトグラフ的に精製される。ポリリジン中のSPDP基およびヘパリン中のSH基の含有量がそれぞれ分光光度的に決定され、SPDPおよびSHに関して等分子の量でヘパリンがポリリジンと混合される;ヘパリンはジスルフィド交換を介してポリリジンに共有結合し、その反応速度が分光光度的に追跡されてもよい。ポリリジンにSPDP基が提供されている場合は、たとえポリリジンのアミノ基の一定部分のみが置換されているのであっても、ポリリジンとヘパリンとの間の沈降反応は生じない。実際的実験が示すところによれば、ジスルフィド交換は、高い塩分濃度(好適には3 M NaCl)においてのみ、より迅速であり、完了まで進む。反応が完了した時は、抱合体がクロマトグラフ的に精製されて、遊離ヘパリンおよび低分子反応産物が除去されている。
【0107】
エンドポイントアタッチメント(end-point attachment)による層へのヘパリンの結合
別の態様において、前記ヘパリン層は、前記多孔質生体適合性ポリマー層の表面上に適用されたポリマー層に共有結合しているヘパリン分子に存する。
【0108】
そうした態様を行うための方法はEP 86186、EP 1112097、およびEP 1112098に詳しく開示されている。
【0109】
レイヤーバイレイヤー技法を用いてポリマー性ベースマトリックスを適用することによって、膜表面がプライミングされる。例証として、好ましい方法は、材料表面に吸着されるように陽イオン性のアミノポリマーを用い、続いて陰イオン性ポリマーおよびポリマー性アミンを用いることである。最適な機能的特徴と、下にある材料の被覆とを実現するために、陰イオン性ポリマーおよび陽イオン性ポリマーの追加的な層もまた適用されてもよい。
【0110】
本技術はヘパリンの化学修飾(ジアゾ化であり、通常は、例えば亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩を含有する酸性溶液または亜硝酸ブチルなど、好適なジアゾ化剤を伴う水溶液中で行われる)に基づいており、その結果として線状分子の1つの端部に反応性アルデヒド基が形成される。次にこれらの基を、プライミング手順によって材料表面上に組み込んだ第一級アミノ基と反応させると、シッフ塩基の形成につながり、次にそれらは、好ましくはナトリウム、カリウム、またはリチウムなどであるアルカリ金属のシアノ水素化ホウ素化合物など、好適な還元剤で還元されて、安定した共有結合をもたらす。
【0111】
バイオ人工臓器
1つの具体的態様において、物質はチャンバー内に存在する細胞によって分泌される(ゆえにチャンバーはバイオ人工臓器と呼ばれうる)。いくつかの態様において、細孔のサイズは、免疫系の細胞および/または分子が細孔を通過すること、そして潜在的に、チャンバー内に存在する細胞と相互作用することを可能にしてもよい。したがって、そうした態様において、チャンバー内に存在するそうした細胞は、そうした細胞が免疫原性でない限り(自家細胞など)、当技術分野において公知の方法によってカプセル化されることが好ましい。例証として、マイクロカプセル化、例えばCalafiore (J Diabetes Investig. 2018 Mar;9(2):231-233)、Espona-Noguera et al (Pharmaceutics 2019, 11, 597) に記述されているシステムなどが引用されうる。
【0112】
この場合、チャンバーは、細胞のフラッシングおよび入れ替えを可能にするためにカテーテル(後述を参照)に連結されたコネクターを含有してもよい。
【0113】
キット
本発明はまた、以下を含むキットにも関する:
a. 上記に開示したような植込み型チャンバーであって、膜に取り付けられたボディを含む少なくとも1つのコネクターと、パウチ内部と液圧連通するようにコネクターに接続されたコンジットとを含む、植込み型チャンバー;
b. 一方の端部で前記コネクターに接続でき、かつ他方の端部で関心対象の化合物の送達源に接続できる、カテーテル。
【0114】
1つの具体的態様において、カテーテルは、送達源に接続できる端部において、注入ポート、特に皮下に植込み可能な注入ポートを提供する。
【0115】
好ましい態様において、キットは、前記関心対象の化合物を含有するように適合されているかまたはこれを含有しているベッセルをさらに含む。
【0116】
さらなる態様において、キットは、移送要素、特にポンプ、針、シリンジ、またはペンをさらに含み、それによりカテーテル内部で関心対象の化合物をベッセルからチャンバーまで送ることが可能になる。
【0117】
さらなる態様において、キットは、血液中の所与のバイオマーカーの濃度を測定するため、および任意で関心対象の化合物の外部供給源に信号を送るために、センサーおよび/またはキャプター(captor)をさらに含む。バイオマーカーは、その濃度が患者にとっての関心対象の化合物のニーズに相関するという意味において、関心対象の化合物とリンクしている。バイオマーカー濃度が事前設定レベルを上回るかまたは下回った場合は、本明細書に開示するデバイスを通じて適量の関心対象の化合物が送達されるように、センサーおよび/またはキャプターが外部供給源に信号を送る。特定の態様において、バイオマーカーはグルコースであり、関心対象の化合物はインスリンである。送達源は概して、植込み型ベッセルまたは体外ベッセルであり、任意で、ポンプ、針、シリンジ、もしくはペンなど何らかの移送手段、または人工臓器もまた含んでいてもよい。それはキットの一部であってもよい。
【0118】
コネクター
1つの態様において、植込み型チャンバーは、膜に取り付けられたボディを含む少なくとも1つのコネクターと、パウチ内部と液圧連通するようにコネクターに接続されたコンジットとを含み、それによりシェルの外部と内部との間に連通を確立することが可能になる。このことは、関心対象の物質を提供するカテーテルをクリップすることを可能にする。
【0119】
US 2013216746は、キット中に存在するチャンバーとともに使用できるコネクターについて記述している。本特許出願については、本発明のキットにおいて使用可能なコネクターは、キャップと、ボディと、ベースとを含んでいてもよい。キャップは、スリーブに接続される中央キャビティを含む;スリーブはカテーテルを受け、カテーテルは例えばスリーブ内部に結合される。ボディは輪状の形状を有してもよく、キャップに向かって突出している3つのボディ乳頭部(body teat)を含む。ボディ乳頭部を穴の中にフィットさせることによってボディとキャップとの間にアセンブリをもたらすために、キャップは、ボディ乳頭部と対向する3つの穴を含んでいてもよい。上部膜と呼ばれる、チャンバーを形成する膜のうち1つを、キャップとボディとの間でクランプおよび保持するために、ボディは、キャップ内に設けられた相補的形状の凹部に対応する輪状の隆起部もまた含んでいてもよい。
【0120】
WO2019011943は、少なくとも1つの関心対象の物質を拡散させるための、2つの半透膜によって規定された内部空間を有する植込み型チャンバーであって、2つの半透膜の1つの側面上と別の側面上とに対向して置かれるように構成された上部ワッシャーと下部ワッシャーとを含む、植込み型チャンバーを開示している;上部および下部ワッシャー(120、110)は一緒にきつくクリップされる。そうしたワッシャーは、本明細書に開示するチャンバー用のコネクターとして使用できる。
【0121】
別の態様において、チャンバーはコネクターを含まず、カテーテル(後述を参照)は、チャンバーを形成している2つの膜の間、特に2つの膜を一緒に接合している溶着部内に、ロック(統合)される。
【0122】
カテーテル/カテーテルの設定
本キットにおいて用いられるカテーテルは、当技術分野において公知である任意のカテーテルであり、生体適合性材料で作られる。そのカテーテルは、カテーテルの管腔がチャンバーの内部体積と関連するように、一方の端部にてチャンバーの表面上のコネクターに接続できる、可撓性のカテーテルである。カテーテルの他方の端部は、注入ポート、ポンプ、または関心対象の化合物を含有しているベッセルに接続されてもよい。
【0123】
内径は概して1 mm程度である(すなわち、概して0.5 mm~1.5 mm、より好ましくは0.8 mm~1.2 mm、または0.9 mm~1.1 mmである)。しかし、より大きい直径のカテーテルもまた用いられてもよい。
【0124】
カテーテルは、シリコーンまたは他の任意の生体適合性エラストマーなど、任意の生体適合性材料で作られる。
【0125】
注入ポート
注入ポートは当技術分野において公知である。本出願の文脈において、注入ポートは、患者の皮膚の表面近くに置かれるようになっている(好ましい態様において皮下に植込まれる)ポートである。
【0126】
本発明の文脈において、注入ポートは、リザーバを被覆するためにハウジングの開口部を横切って配された隔壁を伴う、小さなチャンバー(ポータル;リザーバを規定するハウジング)を提供してもよい;この隔壁の少なくとも一部は針によって貫通可能である。隔壁は概してゴム製の隔壁であり、またはシリコーンで作られてもよい。
【0127】
関心対象の化合物を含有している溶液を、ゴム製の隔壁を通じて注入ポート内に注入するために、針が用いられてもよい。溶液は、注入されると、ハウジングを一時的に通過して、植込まれたチャンバーまでカテーテルによって流れ、そこで膜の細孔を通ってインサイチューで拡散する。
【0128】
そうした注入ポートを植込むと、患者または医師にとって関心対象の化合物を容易に注入することが可能になり、一方で、関心対象の物質に複数回の注入が必要な場合に、感染のリスクが低減し、かつ注入に伴う疼痛が排除される。
【0129】
Districath(登録商標)シリーズの注入ポート(Districlass Medical SA, Saint-Etienne, France)、B-Braun(Melsungen, Germany)によって開発された注入ポート、またはUS 20110184353に記載のものなど、複数の注入ポートが存在し、当技術分野において記述されている。
【0130】
化学療法において使用される注入ポートなど、他の任意の注入ポートも使用可能である。
【0131】
ポートは、皮下に植込まれることが望ましいので、専用の針を使用するか、またはカテーテルを通じてポンプに接続することによって、アクセスされてもよい。皮膚を消毒薬で清浄し、皮膚とゴム製の隔壁とを通して針を挿入する。ポートが皮下に植込まれるのは、腹部など任意の適切な位置でよいが、臀部、大腿、または腕など他のエリアであってもよい。
【0132】
ポートは概して、ボディ(ハウジング)用のチタン(またはポリスルホンなど任意の熱可塑性物質)と、シリコーン(隔壁)とで作られる。
【0133】
既存の皮下注射ポートが、経時的に複数回の注入を行うことを可能にする。特に、適切な注入システムを使用すると、関心対象の化合物の約1000回の注入を行うことが可能になり得る。これは、1日約5回の注入を行う糖尿病患者の場合、約200日間(8か月間)にわたってポートが所定の位置に留まり得ることを意味する。このことは良好な治癒をもたらし、現在は体外インスリンポンプで3日ごとにシステムを交換する必要がある患者の生活において改善になると考えられる。
【0134】
好ましくは長さ4~35 mm、より好ましくは5~25 mm、最も好ましくは8~13 mmである、針などの適切な注入システムを使用できる。代替的に、針は20~32 mmであってもよい。針の直径は好ましくは18~32ゲージ、最も好ましくは22~32ゲージである。
【0135】
別の態様において、送達デバイス(チャンバー)は、適時にインスリンを送達する人工膵臓への外部ポンプ(外部ポンプ + グルコースリーダー/センサー)に連結される。この態様において、デバイスの使用期間が最大4~5年まで延長されてもよい。
【0136】
センサー
本明細書に記述するキットは、宿主の血中グルコース濃度をモニターするため、およびそのグルコース濃度に関連する測定データを提供するための、1つまたは複数のセンサーもまた含有しうる。患者に提供するインスリン量を決定し、かつ、インスリンを宿主に送達するよう構成されたインスリン送達デバイスに命令を送信する、電子モジュールもまたキットの一部であってもよい。
【0137】
そうしたセンサーは当技術分野において公知であり、US 9,463,277、US 9,457,146、US 9,452,260、US 9,452,259、US 9,452,258、または9,283,323などさまざまな刊行物に記述されている。このセンサーは概して、定期的な間隔(2~5分間の範囲)でグルコース濃度を決定する連続血糖測定(CGM)である。
【0138】
チャンバーの植込み
本明細書に説明する可撓性の膜で作られた、本キットのチャンバーは、生理学的関心部位で関心対象の化合物の送達を生じるための最も適切な部位に植込まれる。
【0139】
例証として、関心対象の化合物が、糖尿病、特に1型糖尿病または2型糖尿病を治療するためのインスリンである場合、チャンバーは筋肉(腹筋または腹直筋)と腹膜との間に植込まれる。
【0140】
チャンバーは、送達される関心対象の化合物と期待される体内分布とに応じて、任意の関心対象の部位に低侵襲的にまたはそうでない方式で植込まれてもよい。特に、皮下、腹膜腔外、腹腔内、大網内、粘膜下、または腹膜腔内、より好ましくは腹膜腔外または粘膜下に、植込まれてもよい。実施例では腹膜腔外に植込むための特異的手技を説明する。
【0141】
1つの態様において、デバイス(チャンバー)は、手術器具を導入するための小切開を作製して内部臓器の視認を可能にすること、および、意図される使用に好適である任意の腹腔位置にデバイスを置くことによって、植込まれてもよい。
【0142】
別の態様において、使用される技法は経腹的腹膜前(TAPP)手技である。本手技でも、手術器具を腹腔内に導入するために小切開を行う。腹膜を開いて腹膜前腔に到達する。本発明のデバイスの留置後に、縫合糸を使用して腹膜を閉じる。
【0143】
別の態様において、小切開を行い、そして、腹膜を開くことまたは腹腔を通過することを伴わずに、手術器具および腹腔鏡を腹膜前腔内に直接置く。例えばガスまたは液体を満たしたバルーンなどを使用して層を分離する。この技法は全腹膜外(TEP)手技としてもまた公知である。
【0144】
別の態様において、開腹が選択されてもよい。この技法は、臍の近くで小切開を行い、それを腹膜が露出するまで皮膚、前腹直筋鞘、腹直筋、後腹直筋鞘を通って深くすることを目指す。壁側腹膜層の上方に腔を作成し、そこに本発明のデバイスを置くことができる。
【0145】
関心対象の化合物
関心対象の化合物/物質は、患者を治療するために患者に投与される任意の化合物/物質である。その化合物/物質は、本開示のようなキットを通じて、または本デバイス内にカプセル化された細胞を介して、投与されてもよい。
【0146】
以下のものが引用されうる:
1型糖尿病を治療するためのインスリン;
低身長症を治療するための成長ホルモン;
血友病を治療するための凝固因子(第VII因子、第VIII因子、または第IX因子など);
関節炎、強直性脊髄炎、多発性硬化症、セリアック病、グレーブス病、炎症性腸疾患、乾癬、関節リウマチ、および全身性エリテマトーデスなど、自己免疫疾患を治療するための、サイトカインもしくはサイトカイン類(腫瘍壊死因子、インターフェロン…)、または抗炎症分子(非ステロイド系もしくはステロイド系);
血液凝固の治療に有用なヘパリンまたはヘパリン類似物質;
癌を治療するために免疫療法において使用される化合物(チェックポイント阻害剤など、特にPD-1もしくはPDL-1阻害剤);
癌を治療するために化学療法において使用される薬剤(パクリタキセル、タキソール、シスプラチン、シクロフォスファミド、ビンクリスチン、5-フルオロウラシル、またはプレスニゾロン(presnisolone)など);
血友病を治療するための抗凝固因子(第VII因子、第VIII因子、もしくは第IX因子、または他の因子など);
リソソーム病に対して使用するためのリソソーム酵素(グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、ベータ-ヘキソサミニダーゼAなど);
下垂体疾患に対して使用するための下垂体ホルモン(成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、バソプレシン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、性腺刺激ホルモンなど);
癌、自己免疫疾患, 炎症性疾患、または移植片対宿主拒絶を治療するための免疫抑制薬(免疫抑制剤)(副腎皮質ステロイドなど(特にプレドニゾン、ブデソニド、プレドニゾロン))、ヤヌスキナーゼ阻害剤(特にトファシチニブ)、カルシニューリン阻害剤(特にシクロスポリンまたはタクロリムス)、mTOR阻害剤(特にシロリムスまたはエベロリムス)、IMDH阻害剤(特にアザチオプリン、レフルノミド、ミコフェノール酸)、生物学的産物(特にアバタセプト、アダリムマブ、アナキンラ、セルトリズマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ,イキセキズマブ、ナタリズマブ、リツキシマブ、セクキヌマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ベドリズマブ、バシリキシマブ、ダクリズマブ);
抗ウイルス薬、特に以下のウイルスを伴う患者の健康管理および/または治療に適合したもの:HIV、ヘルペスウイルス、B型もしくはC型肝炎ウイルス(特にレジパスビル/ソホスブビル、もしくはソホスブビル/ベルパタスビル)、A型もしくはB型インフルエンザウイルス;
一部の自己免疫疾患を治療するためのヒ素;
C型肝炎に対して有用なTNF;
パーキンソン病治療のためのドーパミン;
エプチフィバチド(急性心虚血イベントのリスク低減、および心不全の治療のため);
ベータ遮断薬;
バクロフェンまたはブピバカインなどの疼痛管理薬。
【0147】
本明細書に開示するキットの1つの利点は、関心対象の化合物の拡散と;バイオディスポニビリティ(biodisponibility)の向上と;関心対象の化合物の持続的投与または離散的投与(ただし反復可能)のいずれかを容易に確実化できることと;を可能にすることである。
【0148】
キットの使用
本明細書に説明するキットは、ヒトに使用できることはもとより、イヌおよびネコに対するインスリン投与など、獣医学的使用において動物にも使用できる。
【0149】
本発明はまた、関心対象の化合物を外部供給源からカテーテルを通りチャンバー内部まで送達するために、本明細書に開示するキットを使用する段階を含む、関心対象の化合物を患者に送達するための方法にも関する。本発明はまた、治療を必要としている対象者を治療するための方法であって、患者の治療に有用な関心対象の化合物を、患者に、外部供給源から、本明細書に開示するようなキットのカテーテルを通り、本明細書に開示するようなチャンバーの内部まで、投与する段階を含む方法にも関する。
【0150】
ゆえにこれらの方法において、化合物は関心対象の部位(チャンバーの植込み部位)で拡散する。好ましい態様において、関心対象の部位は上述したような部位である。
【0151】
具体的態様において、チャンバーは、腹腔鏡手技またはNOTES(自然開口部越経管腔的内視鏡手術)手技を介してあらかじめ対象者の体内に植込まれた。
【0152】
本発明はまた、本明細書に開示するキットを使用する方法であって、特に上述したような部位において、特に腹腔鏡手技またはNOTES(自然開口部越経管腔的内視鏡手術)手技によって、対象者の体内にチャンバーを外科的に植込む段階を含む方法にも関する。
【0153】
本発明はまた、糖尿病を治療するための使用のためのインスリンにも関する;ここで、インスリンは本明細書に開示するチャンバーに連結されたカテーテルを通って患者の身体に投与され、かつインスリンはチャンバーの膜の細孔によって拡散する。
【0154】
本発明はまた、凝固の問題を治療するための使用のためのヘパリンまたはヘパリン類似物質にも関する;ここで、そうした化合物は本明細書に開示するチャンバーに連結されたカテーテルを通って患者の身体に投与され、かつ化合物はチャンバーの膜の細孔によって拡散する。
【0155】
本発明はまた、血友病を治療するための使用のための凝固因子(第VIII因子または第IX因子など)にも関する;ここで、そうした凝固因子は本明細書に開示するチャンバーに連結されたカテーテルを通って患者の身体に投与され、かつ凝固因子はチャンバーの膜の細孔によって拡散する。
【0156】
本発明はまた、癌を治療するための使用のために免疫療法において使用される化合物(チェックポイント阻害剤など、特にPD-1またはPDL-1阻害剤)にも関する;ここで、そうした化合物は本明細書に開示するチャンバーに連結されたカテーテルを通って患者の身体に投与され、かつ化合物はチャンバーの膜の細孔によって拡散する。
【0157】
本発明はまた、癌を治療するための使用のための化学療法薬(パクリタキセル、タキソール、シスプラチン、シクロフォスファミド、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、またはプレスニゾロンなど)にも関する;ここで、そうした薬剤は本明細書に開示するチャンバーに連結されたカテーテルを通って患者の身体に投与され、かつ薬剤はチャンバーの膜の細孔によって拡散する。
【0158】
本発明はまた、癌、自己免疫疾患、炎症性疾患、または移植片対宿主拒絶を治療するための使用のための、免疫抑制薬などの化合物(副腎皮質ステロイドなど(特にプレドニゾン、ブデソニド、プレドニゾロン))、ヤヌスキナーゼ阻害剤(特にトファシチニブ)、カルシニューリン阻害剤(特にシクロスポリンもしくはタクロリムス)、mTOR阻害剤(特にシロリムスもしくはエベロリムス)、IMDH阻害剤(特にアザチオプリン、レフルノミド、ミコフェノール酸)、または生物学的産物(特にアバタセプト、アダリムマブ、アナキンラ、セルトリズマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ,イキセキズマブ、ナタリズマブ、リツキシマブ、セクキヌマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ベドリズマブ、バシリキシマブ、ダクリズマブなどの抗体)にも関する;ここで、化合物は本明細書に開示するチャンバーに連結されたカテーテルを通って患者の身体に投与され、かつ化合物はチャンバーの膜の細孔によって化合物が拡散する。
【0159】
本発明はまた、リソソーム蓄積病(LSD)、例えばニーマン・ピック病C型、ゴーシェ病、ファブリ病、ハンター症候群(MPS II)などを治療するための使用のための、リソソーム酵素(グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、ベータ-ヘキソサミニダーゼAなど)にも関する;ここで、そうしたリソソーム酵素は本明細書に開示するチャンバーに連結されたカテーテルを通って患者の身体に投与され、かつリソソーム酵素はチャンバーの膜の細孔によって拡散する。
【0160】
本発明はまた、下垂体疾患、例えば先端巨大症、成長ホルモン欠乏症、シーハン症候群、下垂体機能低下症などの治療における使用のための、下垂体ホルモン(成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、バソプレシン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、性腺刺激ホルモンなど)にも関する;ここで、そうした下垂体ホルモンは本明細書に開示するチャンバーに連結されたカテーテルを通って患者の身体に投与され、かつリソソーム酵素はチャンバーの膜の細孔によって拡散する。
【0161】
本発明はまた、癌、特に脳癌、とりわけ神経膠芽細胞腫の治療における使用のための、抗癌薬(特に、テモゾロミド、ベバシズマブ、カルボプラチン、カルムスチン、ミベフラジル、アファチニブ、タンズチニブ、およびエンザスタウリンからなる群において選択される抗癌薬)にも関する。この態様において、抗癌薬は、本明細書に開示するチャンバーに連結されたカテーテルを通って患者の身体に投与され、かつチャンバーの膜の細孔によって拡散する。本明細書に列挙する薬剤は神経膠芽細胞腫の治療について特に関心対象となる。癌が脳癌、特に神経膠芽細胞腫である場合は、チャンバーが実質内に植込まれることが好ましい。
【0162】
本発明はまた、上述した疾患の治療の方法であって、治療量の、上述したような適切な化合物が、それを必要とする患者に、本明細書に開示するチャンバーに連結されたカテーテルを通って投与され、かつチャンバーの膜の細孔によって化合物が拡散する、方法にも関する。本明細書において用いる「治療量(therapeutic amount)」または「有効量(effective amount)」という用語は、臨床的結果などの有益または望ましい結果をもたらすのに充分な量であり、「有効量」は適用される文脈によって異なる。有効量は、副作用または有害作用を最少にしながら治療的向上を提供する量である。治療的向上は、疾患の後退、症状の低減、対象者の生活の質の向上、組み合わせた治療の有効性の向上でありうる。
【0163】
化合物がインスリンである場合は、チャンバーが腹膜腔外に植込まれることが好ましい。そうした位置は、この化合物の初回肝通過を可能にし、したがって糖尿病を生理学的に治療することを可能にするので、インスリンについて特に興味深い。
【0164】
化合物が第VII因子または第VIII因子である場合は、血友病を治療するためにチャンバーが腹膜腔内または腹膜腔外に植込まれることが好ましい。
【0165】
化合物が化学療法薬(パクリタキセル、タキソール、シスプラチン、シクロフォスファミド、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、プレスニゾロンなど)である場合は、腹膜転移を治療するためにチャンバーが腹膜腔内または腹膜腔外に植込まれることが好ましい。
【0166】
本キットのいくつかの利点
-腹膜腔外または腹膜腔内の経路を介して投与されたほとんどの化合物は、皮下投与の場合より迅速に、門脈を介して速やかに肝臓に到達する。チャンバーによる化合物のインビボの拡散は、直接的な腹膜腔内注射に類似する。
【0167】
-本キットの使用は患者にとって生活の質の向上につながる。
【0168】
-化合物がびまん性に配分され、それにより、投与時の局所的な化合物の濃度過剰にリンクした限局的な有害作用(炎症など)が低減または回避される。
【0169】
-本システムおよび植込み手技は安全であるので、(糖尿病治療に使用される、RocheによるDiaport(登録商標)システムと比較して)感染リスクがない。
【0170】
-組織に癒着する可能性がある、腹膜腔内に植込まれる他のデバイス(Diaport(登録商標)など)と比較して、腹膜腔外の植込みならば癒着がない。このことは、チャンバーの表面が抗炎症性および/または抗接着性の分子でコーティングされているならば特に当てはまる。
【0171】
-カテーテルがチャンバーの内部に接続されるので、(RocheによるDiaport(登録商標)システムと比較して)周囲組織によるカテーテル閉塞のリスクがない。
【0172】
-現在のインスリンポンプについてはカテーテルを3日ごとに交換する必要があるが、皮下注入ポートが使用される場合に長期の植込みができる。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【
図1】先行技術(A)と、本発明に基づく膜(B, C)との間の、細孔の配分および均質性の比較。トラックエッチングした膜の走査電子顕微鏡観察像(SEM)(A)(細孔は黒色、膜は淡色)、45 μmの細孔を伴うレーザーカット膜の光学顕微鏡像、倍率x10(B)、および、45 μmの細孔を伴うレーザーカット膜の光学顕微鏡像、倍率x20(C)。BおよびCについて、細孔は淡色、膜は黒色である。
【
図2】細孔サイズ(φ, μm)および厚さ(E, μm)が異なるポリエステル膜サンプルの、インスリンに対する透過性。37℃で24時間の拡散時間;各ポイントは1つのサンプルの結果を示す;水平バーは平均値を示し、SEMをエラーバーとしている。**および***はそれぞれp<0,01および0,001;Tukey事後検定を伴う一元配置ANOVA。
【
図3】対称性の膜の、Humulin-R(登録商標)およびInsuman Infusat(登録商標)に対する24時間後の透過性。各ポイントは反復を示す;水平バーは平均値を表し、エラーバーはSDに対応する。
【
図4】糖尿病ラットの腹膜腔外に植込んでから4週間後の、3~5 KDa FITC-デキストランに対する膜サンプルの透過性を、植込まなかったサンプルと比較。平均±SEM。***は植込まなかった対照に対してp<0,001;T検定。
【
図5】Masson三色染色により、試験した膜候補と直接接触している脈管の存在が明らかになった。点線の正方形は右側パネル上で拡大されているエリアを示す。矢印は膜と直接接触している脈管を示す。M:膜。
【
図6】ラットの腹膜腔外に4週間にわたって植込んだ3種類の膜候補の周囲組織における、脈管の数およびそれらの平均表面積。平均±SEM。Masson三色染色した組織の、重複しない3つの10倍拡大視野について、腹膜側と筋肉側とで別々に定量を行った。*はp<0,05;腹膜側および筋肉側についてデータを別々に解析したため、Tukey事後検定を伴う一元配置ANOVA。
【
図7】腹膜腔外に植込まれた、レーザーカット膜ExOlin(登録商標)で作られ可撓性膜とともにアセンブリされたデバイス内にヒトインスリン2IUを注入した後、または直接IP注入後もしくはSC注入後の、血糖フォローアップ(A)および対応する曲線下面積(B)。Tukey事後検定を伴う反復観測ANOVA。*はp<0,05、**はp<0,01。
【
図8】糖尿病ラットの腹膜腔外に植込まれた、膜とともにアセンブリされたデバイス内にヒトインスリン2IUを注入してから5分後および30分後の、末梢血および門脈におけるインスリン濃度。
【
図9】糖尿病ラットにおいて腹膜側(A)および筋肉側(B)で試験した後(総植え込み時間:7週間)の回収時における、本発明のレーザーカット膜で作られた新世代ExOlin(登録商標)デバイスの顕微鏡像。n=5の代表的写真。
【
図10】糖尿病ラットにおいて試験した後(総植え込み時間:7週間)のデバイス回収時における、レーザーカット膜の周囲組織のMasson三色染色。筋肉側の写真を上側パネル、腹膜側の写真を下側パネルに呈示する。黒い矢印は膜に近い脈管を示す;M:デバイスの膜の位置。n=5の代表的写真。
【実施例】
【0174】
実施例1. 先行技術との比較における膜表面の特徴付け
走査電子顕微鏡観察(SEM)解析は、(WO2015086550、WO2016184872、またはWO2018087102で使用されるような)トラックエッチング加工を用いた場合に細孔の不均質な分布が生じることを示している。それに比較して、レーザー技法を用いて得られる細孔は再現性が非常に高く、かつオーバーラップしないゆえに、局所的拘束(local constraint)の配分が高まって、より良好な機械特性につながる(
図1)。
【0175】
これもまた注目された点として、用いた条件において、トラックエッチング技法を用いて得られた細孔はレーザー切断技法で得られる細孔より小さく、ゆえに、レーザーで得られる細孔が光学顕微鏡を用いて観察されるのに対して、SEM解析を用いて観察された。
【0176】
実施例2. 本発明に基づく膜の機械的特徴付け
試験した4つの膜の厚さは40 μm~125 μmとさまざまであり(40 μm、50 μm、85 μm、および125 μmを検討した)、それぞれ細孔直径が45 μm、37 μm、55 μm、および37 μmであった。
【0177】
試験は、膜の厚さに適合させたニューマチッククランピングシステムおよび500Nのロードセルを装備した引張試験機(MTS 1/M マシン)を用いて行った。(クロスヘッド変位を考慮に入れて)このタイプの検体に利用可能な伸び計はない。ひずみ速度は0,005s-1になるように設定した。
【0178】
試験した全サンプルが、15~20 mmで構成される破断時伸びを示したのに対し、(トラックエッチングによって得られた)先行技術の膜では5 mmにすぎなかった。このことから、試験した材料の高い弾性が(したがって可撓性も)明らかになった。
【0179】
注目された点として、最大の力の進展は膜の厚さの関数として比較的線形であるが、厚さ85 μmの膜については、この膜の構造が他の膜と異なる(細孔がより大きい)ことにより、例外となった。厚さ85 μmおよび125 μmの(ただし細孔サイズが異なる)膜を比較した時に、力または伸長(応力またはひずみ)のいずれかを考慮すると結果が非常に類似することが注目された。
【0180】
膜は、厚さ85 μmからは、トラックエッチングによってPETで作られたものより強くなる。事実、膜は先行技術によるものより4倍強い。さらに、膜は、より変形可能でありながら(約4倍)、スチフネスはより低い(ヤング率がより低い)。厚さがより小さい(40 μmおよび50 μm)膜は、PETで作られた厚さ100 μmのものより耐えられる力は小さかったが、より変形可能であった。
【0181】
これらの結果に鑑み、低侵襲手術に好適なデバイスの開発に向けて、膜の2つの厚さ(85および125 μm)をさらに調べることが決定された。
【0182】
これもまた注目された点として、均質な分布を伴う1層レーザーカット膜の破断時の機械的抵抗は、先行技術による3層トラックエッチング膜と少なくとも同程度に良好である。
【0183】
実施例3. 膜を通る関心対象の分子の拡散試験
そうした試験を行うために開発された拡散チャンバーの内寸にフィットするように、膜のディスクを22 mmの直径で切り出した。拡散チャンバーは、チャンバーがアセンブリされたら確実にタイトになるように、PTFE Oリングを用いて一緒にねじ留めできる2つのコンパートメントで組成される。インスリン拡散を試験する場合は、下部コンパートメントを9 g/Lにて生理食塩水で満たす。下部コンパートメントが満たされたら、膜の22 mmディスクを所定の位置に入れ、PTFE Oリングを上に置くことによって維持する。次に上部コンパートメントをねじ留めし、試験対象のインスリン溶液で満たす。蓋を置いて過剰な蒸発を回避する。
【0184】
24時間の間、拡散チャンバーを37℃に置く。その後、上部コンパートメント内の媒質のサンプルを取り、残りを廃棄する。次に上部コンパートメントのねじを外し、膜のディスクを除去する。下部コンパートメント内でもサンプルを収集し、上部コンパートメントからのサンプルとともにBCAアッセイを用いて評価する。
【0185】
次に、上部および下部の両コンパートメント内のインスリンの総量に対する、下部コンパートメント内に見られたインスリンの比として、透過性を計算する。試験は静的条件において行うので、膜がその分子に対して透過性ならば、上部および下部コンパートメントの濃度は平衡する傾向にある。したがって、到達されうる最大の透過性が50%であることに留意することが重要である。
【0186】
厚さ125 μm、細孔直径37 μmを呈する膜による第一の試験として、インスリンに対する高い透過性が示された。他の3種類の膜も試験した。それらは異なる細孔直径(φ, μm)および厚さ(E, μm)を呈していた(
図2)。
【0187】
インスリンによる24時間拡散試験後に得られた結果は、すべての候補について非常に高い透過性を示した。最も高い透過性が得られたのはφ45/E40の膜で(51.13%)、それは他の3種類の候補より有意に高かった。このことは、より厚いサンプルでインスリン透過性が低減することを明確に示している。この傾向は、φ37/T50の膜の透過性が、細孔サイズは同じであるが厚さがより厚く125 μmであるサンプルと比較して有意に高い(49.06±0.34% vs. 47.00±0.62%)ことによって確認された(
図3)。試験した4つのサンプル間に有意差はあるものの、透過性の値はすべて、先行技術による膜で得られる値より40%以上高い。
【0188】
対称性の膜の、注射用インスリンInsuman Infusat(登録商標)(Sanofi)に対する透過性は、膜の受領時に行われる品質管理のためにルーチンで用いられる濃縮インスリンHumulin-R(登録商標)(Eli Lilly)で得られる透過性と同等であることが、結果から示された。24時間後の透過性は、Humulin-R(登録商標)およびInsuman Infusat(登録商標)についてそれぞれ34.4±2.0%および35.3±2.1%であった(p=0.3923;対応のないt検定)。
【0189】
実施例4: ラットにおける膜のバイオインテグレーションの試験
植込み対象の各ラットについて、専用のカッターを用いて、同じ膜(φ45/E40、φ55/E85、またはφ37/E125)の2つのディスクを22 mmの直径で切り出した。それらを密封パウチ内に入れ、エチレンオキシドで滅菌した。
【0190】
次に、健康な雄Wistarラット(膜ごとにn=6)の腹膜腔外の部位に2つのディスクを植込んだ。回収後に試験を行うための充分な材料が得られるように、1つのディスクを腹部の左側に(24時間の3~5 kDa FITC デキストラン拡散試験用)、1つを右側に(組織学的解析およびSEM解析用)置いた。植込み時間は1カ月間とした。
【0191】
以下の段階に従って膜ディスクの植込みを行った:
-腹部正中線上でメスを用いて2 cmの垂直切開を行う。
-精密はさみを用いて皮膚を筋肉から分離する。
-白線の側で、腹膜が露出するまでメスで筋肉をそっと垂直に切開する。22 mmの直径を有する膜ディスクにフィットするよう、切開が充分に大きいことを確認する。
-湾曲した精密はさみおよび/または鉗子を用いて、腹膜腔外パウチを切開作製する。切開作製中は腹膜における創傷を回避するよう注意を払う。
-パウチが充分に大きくなったら、パウチ内に無菌生理食塩水を注入し、膜ディスクを挿入する。植込み部位上でディスクが折りたたまれていないことを確認する。
-吸収性4-0縫合糸(Vicryl Rapide - Ethicon)を用いて、正弦運動(sinusoid movement)によって筋肉を縫合する。
-吸収性4-0縫合糸を用い、Donatiパターンを用いて皮膚を縫合する。
【0192】
膜ディスクを植込んだ動物を4週間飼育してから、ペントバルビタール(Euthasol(登録商標)VET, 182 mg/mL)の腹膜腔内注射によって安楽死させ、膜および周囲組織を回収した。
【0193】
3~5 KDa FITC デキストラン(インスリンと同程度のサイズ)による拡散試験を行うため、および植込み期間がサンプルの透過性に悪影響を及ぼしたかを決定するため、2つの膜ディスクのうち一方 を周囲組織から分離し、次に生理食塩水中ですすいだ。他方のディスクについては、SEM解析用に小さな膜サンプルを切り出し、残りを組織学的解析用に周囲組織とともに取得した。膜を伴った組織を生理食塩水中ですすぎ、次に緩衝ホルマリン中で72時間固定した。
【0194】
選択した3種類の膜候補のバイオインテグレーションと、植込み後の透過性とを調べるため、それらの膜候補を非糖尿病ラットのEP内に4週間植込んだ。
【0195】
膜は安楽死の時点で腹膜を通して肉眼的に観察可能であり、強い線維性反応はないことが明らかになった。膜は折り畳まれてはいなかったが、周囲組織からの分離が困難で、鉗子で強く引くことを要した。組織から分離した際に、有機性沈着物が膜上に留まっており、細孔を通過しているように見えた。
【0196】
これらの肉眼的所見は、有機性沈着物による膜の均質な被覆を示したSEM解析によって確認された。被覆は試験した3種類のサンプルについて同じであり、膜の特異的な表面パターンはほとんど視認できなかった。
【0197】
表面観察に加えて、ラットEP内の4週間の植込み後の膜の透過性を3~5 KDa FITC-デキストランで評価した。インスリンでなくこの分子を選んだことは、インスリンの滴定についてバリデーションされたBCAアッセイに干渉する、強い有機性沈着物の存在によって説明される。
【0198】
肉眼観察およびSEM解析によると、結果(
図4)は3種類の膜候補について同じ傾向に従っている。植込まなかった材料と比較して、4週間の植込み後に、3~5 KDa FITC-デキストランに対する透過性の有意な低減(全候補についてp>0,001)が観察された。全体として、植込んだ膜上の透過値は、植込まなかった対照で得られた値の半分(φ45/E40;φ37/E50;φ55/E85およびφ37/E125について、それぞれ1.72倍;2.00倍;2.13倍の低減)であった。
【0199】
ラットEP内に4週間植込んだ2つのディスクのうち1つは、その周囲組織から分離させず、サンプル全体を組織学的解析用にパラフィン包埋した。
【0200】
ヘマトキシリン-エオシン染色によって示されたように、植込んだ膜候補にかかわらず、筋肉側および腹膜側のいずれにおいても膜は組織の全体的な構成に悪影響を及ぼさない。線維形成が非常に少ないこととともに、細胞浸潤が少ないことも観察され、腹膜腔外における膜の良好な受容が示された。言及に値する点として、特にφ45/E40およびφ55/E85の候補についてMasson三色染色で観察されたように(右側パネル、上部および中央の写真)、膜ディスクの縁部上で線維性組織の増大が観察された。回収時に組織から分離した膜上で見られた有機性沈着物により、本発明者らは膜が組織中にすっかり封入されたことを観察した。組織はまた細孔を通過しており、それは膜と組織との分離の際に生じた困難を説明している。
【0201】
膜の周りの血管新生は重大な点である。したがってこのパラメータを深く解析した。
【0202】
図5に、膜を植込んだエリアにおける血管新生の写真を示す。左側パネルによる拡大写真において、黒い矢印で示すように、膜材料に非常に近い小さい脈管(スライドから離れているように見える円形で灰色の構造)を観察できる。φ55/E85およびφ37/E125の候補について、小さい脈管は、膜繊維上に直接付着した状態で、さらには一部の細孔内に存在する状態で観察される。φ45/E40の膜については、脈管は膜からより距離があるように見え、そして、膜材料に近い線維組織(青色に染色)中に主として位置しているように見える。これらのデータは、最も小さい厚さでは膜と脈管との間の距離がより重要になるので、膜の厚さが治癒プロセスに影響する可能性がありうることを意味する可能性がある。
【0203】
4週間のEP植込み後の膜候補周囲の血管新生組織について、より正確な考えを得るため、Masson三色染色したスライド上で脈管の数と面積の定量化を行った。
【0204】
脈管の密度は、膜候補φ55/E85およびφ37/E125について、腹膜側および筋肉側のいずれも同程度であった。φ45/E40の膜については、腹膜側で他の候補と比較して密度が高い傾向があった(14.00±1.41に対し、φ55/E85およびφ37/E125についてそれぞれ10.07±2.98および11.17±1.36)。この傾向は筋肉側でより強く、脈管数はφ37/E125候補と比較してφ45/E40で統計的に多かった(p=0.0247, 9.11±2.32と比較して20.44±4.75)(
図6)。
【0205】
脈管の密度と同様に、平均脈管面積も、φ55/E85とφ37/E125との間で膜の両側について同定であった。これら平均値はまた、筋肉側についてφ45/E40で得られたものと同程度であった。しかし、この候補について、脈管面積はφ55/E85およびφ37/E125の場合より明らかに低い傾向があった(φ45/E40の220.2±24.7に対し、φ55/E85では403.8±84.57; p=0.0565、φ37/E125では369.1±31.7; p=0.1312)。このことから、他の2種類の候補と比較して、φ45/E40候補については腹膜側の脈管がより小さいことが明らかになった。
【0206】
以上を併せると、血管新生についてのこれらデータは、φ45/E40膜の周囲の組織中において脈管の数がより多く、サイズがより小さいことを示している。このことは、この候補では他の候補と比較して血管新生の成熟度がより低いことを指し示している。
【0207】
実施例5: 膜から作られたデバイスの糖尿病ラットにおける有効性試験
ラットにおける最初の植込み後に行った拡散特性は組織沈着による影響を受けた。したがって、組織沈着にかかわらず生じるインスリンの効果を評価するために、(ストレプトゾトシンによって誘導した)糖尿病ラットについて、同じ膜でアセンブリしたデバイス全体でさらなる植込みを実現した。インスリン療法下の糖尿病ラットにおいて、細孔が均質に分布したレーザーカット膜(細孔37 μm、厚さ125 μm)で作られたデバイスをEP(腹膜腔外)に植込んだ。6週間のデバイス事前植込み期間の後に、インスリン療法を停止し、2IUのインスリン(Insuman Infusat(登録商標)、2IU)の注入を行った。各ラットについて、順次、注入ごとに48時間のウォッシュアウト期間を設けて、レーザーカット膜で作られEP内に植込んだデバイス内、SC、およびIPにおいてインスリンを注入した。注入後に、0、30、60、および120分後の血液サンプルによる2時間の血糖フォローアップを行って、ヒト血漿インスリン濃度を測定した。これら3回の注入に続いて、ラットEP内のデバイス内にヒトインスリン2IUの最後の注入を行い、注入から5分後および30分後に門脈および尾静脈の両方において血液サンプルを得た。
【0208】
最後に、レーザーカット膜で作られたデバイスを植込んだ動物を安楽死させて、そのバイオインテグレーションおよび完全性を肉眼的に観察するとともに、デバイス周囲の組織について組織学的解析を行った。
【0209】
図7Aは、膜でアセンブリしたデバイス内へのインスリン注入後は、SCまたはIPにおける同量のインスリンの直接注入と比較して、血糖低下がより速いことを示している。この結果として、EP内のデバイスを通した注入後は、他の2つの条件と比較してAUCが有意に小さくなった(SC注入に対してp=0.0009;IP注入に対してp=0.0204)。
【0210】
図8の結果が明らかに示している点として、レーザーカット膜で作られたデバイスを糖尿病ラットモデルのEPにおいて使用すると、門脈までのインスリンの迅速な通過という結果をもたらし、試験した時間のいずれにおいても末梢血と比較して有意に高い濃度であった(5分後にp=0.0193、30分後にp<0.0001)。注入されたインスリンのこの分布パターンは、生理学的な状況を模しており、先行技術による膜で作られたデバイスで観察されたパターンと類似している。
【0211】
合計で7週間の植込み時間に対応する、試験の終了時に、デバイスは折り畳みを示しておらず、埋植部位において完全性を保っていた。デバイスは清潔であり、膜単独の場合と比較して回収が顕著に容易であった。腹膜の肥厚は観察されず、膜の近くで脈管が視認可能であった(
図9A)。組織の筋肉側の面も正常であり、視認可能な線維性反応はなかった(
図9B)。
【0212】
組織学的解析で肉眼所見が確認され、筋肉側および腹膜側のいずれでもデバイスの膜と接触している線維形成は非常に少なかった(
図10、左側パネル)。加えて、膜の非常に近くに、さらには膜材料と直接接触した状態で、脈管が観察された(
図10、右側パネル)。
【0213】
これらをすべて併せた結果は、レーザーカット膜で作られたデバイスが、先のバージョンのデバイスと同程度に効率的であることを示している。加えて、使用した膜の材料とトポグラフィーとの両方が、糖尿病ラットの腹膜腔外の部位において非常に良好な統合を提供する。
【0214】
実施例6: 腹腔鏡手技の試験
37 μmの細孔を伴う125 μmのレーザーカット膜で設計したデバイスを、腹腔鏡ツールを用いてブタで試験した。外径12 mmのトロカールを用いて動物の腹膜腔内に拡散チャンバーを挿入した。次に、望ましい埋植部位(すなわち、粘膜下、腹腔内)に拡散チャンバーを留置した。腹膜をそっと切開し、拡散チャンバーの留置後にこれを縫合することによって、腹膜前腔内にも拡散チャンバーを留置した(経腹的腹膜前(TAPP)手技)。
【0215】
先行技術の拡散チャンバーと比較して、レーザーカット膜で作られたチャンバーは、その可撓性とスチフネスとがそれぞれ、直径12 mmのトロカールを通過することと、腹膜腔内に入った時に追加的ツールの必要なく展開することとを可能にするので、低侵襲手術のための真の利点をもたらす;これに対して、先行して記述された膜は、膜の損傷を伴うことなく、トロカールを通過させるために丸めることが不可能であった。
【0216】
さらに、先行技術のチャンバーの接続システムは維持されており、把持ツール用の簡易グリップを提供している。レーザーカット膜の可撓性と組み合わせると、拡散チャンバーを丸め、挿入し、開くための追加的な装置、装備、またはツールを開発する必要がない。
【国際調査報告】