(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-24
(54)【発明の名称】肺疾患を治療及び予防するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20190101AFI20230517BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20230517BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20230517BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230517BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230517BHJP
C07K 7/04 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
A61K38/08
A61K38/10
A61K38/16
A61P11/00
A61P11/06
C07K7/04 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562083
(86)(22)【出願日】2021-04-08
(85)【翻訳文提出日】2022-10-11
(86)【国際出願番号】 US2021026411
(87)【国際公開番号】W WO2021207514
(87)【国際公開日】2021-10-14
(32)【優先日】2020-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518073309
【氏名又は名称】アリゾナ ボード オブ リージェンツ オン ビハーフ オブ ザ ユニバーシティー オブ アリゾナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】レッドフォード,ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】クラフト,モニカ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーグネル,ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】ボイタノ,スコット
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA18
4C084BA23
4C084MA13
4C084MA56
4C084NA14
4C084ZA59
4C084ZA62
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA50
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA33
(57)【要約】
本明細書において、肺疾患を治療及び予防するための組成物及び方法を提供する。特に、本明細書において、サーファクタントタンパク質A(SP-A)ペプチド類似体(例えば、SP-Aペプチド模倣物)及び肺疾患(例えば、喘息またはCOPD)の治療及び予防におけるその使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ac-KEQCVEMYTD-NH
2(配列番号2)、Ac-WGKEQCVEMYTD-NH
2(配列番号3)、(Ac-KEQCVEMYTD-NH
2)
2(配列番号4)、Ac-KEQCVEMYTD-酸(配列番号5)、H-KEQCVEMYTD-酸(配列番号6)、Ac-KEQCVE-Nle-YTD-NH
2(配列番号7)、Ac-KEQSVEMYTD-NH
2(配列番号8)、Ac-KEQAVEMYTD-NH
2(配列番号9)、Ac-SDGTPVNYTNWYRGEPAGRGKEQ-NH
2(配列番号10)、Ac-GDFRYSDGTPVNYTNWYRGE-NH
2(配列番号11)、Ac-WGKEQAVE-Nle-YTD-NH
2(配列番号12)、Ac-WGKEQCVE-Nle-YTD-NH
2(配列番号13)、Ac-RGKEQCVE-Nle-YTD-NH
2(配列番号14)、
【化1】
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むサーファクタントタンパク質A(SP-A)ペプチド類似体、及び前記ペプチドに対して少なくとも90%の同一性を有するペプチドを含む組成物。
【請求項2】
前記ペプチドが、前記ペプチドと少なくとも95%同一である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ペプチドが、前記ペプチドと100%同一である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
Ac-KEQCVEMYTD-NH
2(配列番号2)、Ac-WGKEQCVEMYTD-NH
2(配列番号3)、(Ac-KEQCVEMYTD-NH
2)
2(配列番号4)、Ac-KEQCVEMYTD-酸(配列番号5)、H-KEQCVEMYTD-酸(配列番号6)、Ac-KEQCVE-Nle-YTD-NH
2(配列番号7)、Ac-KEQSVEMYTD-NH
2(配列番号8)、Ac-KEQAVEMYTD-NH
2(配列番号9)、Ac-SDGTPVNYTNWYRGEPAGRGKEQ-NH
2(配列番号10)、Ac-GDFRYSDGTPVNYTNWYRGE-NH
2(配列番号11)、Ac-WGKEQAVE-Nle-YTD-NH
2(配列番号12)、Ac-WGKEQCVE-Nle-YTD-NH
2(配列番号13)、Ac-RGKEQCVE-Nle-YTD-NH
2(配列番号14)、
【化2】
からなる群から選択されるペプチドから本質的になる組成物。
【請求項5】
前記組成物が、医薬組成物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、薬学的に許容される担体を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物を、肺送達用に製剤化する、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
a)請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物;及び
b)前記組成物の肺送達のための装置を含むシステム。
【請求項9】
前記装置が、定量噴霧式吸入器である、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物を前記細胞に送達することを含む、細胞内のSP-A活性の促進方法。
【請求項11】
前記細胞が肺細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞がin vivoである、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が、前記細胞内のムチン産生を減少させ、及び/または好酸球増加症を減少させる、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が、喘息またはCOPDと診断された対象に存在する、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記投与が、前記対象における喘息またはCOPDの症状またはマーカーを減少させるか、または予防する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記対象が肥満である、請求項10~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ペプチドが、FC(CD16/32)、Sirp-α、TLR-2及びEGFRからなる群から選択される受容体に結合する、請求項10~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
対象における喘息またはCOPDの治療方法または予防方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記治療方法または予防方法。
【請求項19】
前記組成物が、前記対象の肺内のムチン産生を減少させ、及び/または好酸球増加症を減少させる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記対象が肥満である、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記ペプチドが、FC(CD16/32)、Sirp-α、TLR-2及びEGFRからなる群から選択される受容体に結合する、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
細胞内のSP-A活性を促進するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項23】
前記細胞が肺細胞である、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記細胞がin vivoである、請求項22または23に記載の使用。
【請求項25】
前記組成物が、前記細胞内のムチン産生を減少させ、及び/または好酸球増加症を減少させる、請求項22~24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
前記細胞が、喘息またはCOPDと診断された対象に存在する、請求項22~25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記投与が、前記対象における喘息またはCOPDの症状またはマーカーを減少させるか、または予防する、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記対象が肥満である、請求項22~27のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
前記ペプチドが、FC(CD16/32)、Sirp-α、TLR-2及びEGFRからなる群から選択される受容体に結合する、請求項22~28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
対象における喘息またはCOPDを治療するか、または予防するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項31】
前記組成物が、前記対象の肺内のムチン産生を減少させ、及び/または好酸球増加症を減少させる、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
前記対象が肥満である、請求項30または31に記載の使用。
【請求項33】
前記ペプチドが、FC(CD16/32)、Sirp-α、TLR-2及びEGFRからなる群から選択される受容体に結合する、請求項30~32のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
関連出願の相互参照
本出願は、2020年4月8日に提出された米国仮出願63/006,831の利益を主張し、その全内容は参照により本明細書に援用される。
【0002】
本明細書において、肺疾患を治療及び予防するための組成物及び方法を提供する。特に、本明細書において、サーファクタントタンパク質A(SP-A)ペプチド類似体(例えば、SP-Aペプチド模倣物)及び肺疾患(例えば、喘息またはCOPD)の治療及び予防におけるその使用を提供する。
[背景技術]
喘息は、子供と大人の両方において最も一般的な呼吸器疾患であり、非特異的な気道過敏症、炎症、及び人口の10%に影響を与える断続的な呼吸器症状の症候群を呈する(Bousquet et al. Bull World Health Organ.2005;83(7):548-54. PubMed PMID:16175830;Mannino et al. Surveillance for asthma--United States,1980-1999. MMWR Surveill Summ.2002;51(1):1-13. PubMed PMID:12420904)。それは、感染症、環境アレルゲン、または他の刺激によって引き起こされる(Bousquet et al. Bull World Health Organ.2005;83(7):548-54. PubMed PMID:16175830;Mannino et al. Surveillance for asthma--United States,1980-1999. MMWR Surveill Summ.2002;51(1):1-13. PubMed PMID:12420904)。
【0003】
喘息は、疾患の不均一性のために、多くの場合、依然として理解が不十分であり、管理が困難である。喘息の罹患率と死亡率の重要な原因は急性増悪であり、気道の損傷、リモデリング、肺機能の低下、及び死亡をもたらし得る。(Halwani R,et al. Curr Opin Pharmacol.2010;10(3):236-45. PubMed PMID:20591736;Firszt R,Kraft M. Pharmacotherapy of severe asthma. Curr Opin Pharmacol.2010;10(3):266-71. PubMed PMID:20462794)。ほとんどの増悪は、ライノウイルスまたはMycoplasma pneumoniaeなどの呼吸器感染によって引き起こされる。感染に対する反応は複雑で、自然免疫系と適応免疫系の両方が関与している(Kim HY et al. The many paths to asthma:phenotype Shaped by innate and adaptive immunity. Nat Immunol.2010;11(7):577-84. PubMed PMID:20562844)。急性増悪による入院は、米国において喘息関連のヘルスケアに年間費やされる147億ドルの3分の1を占めるため、より重症の喘息患者の増悪は特に懸念される。さらに、この集団の増悪は、肺機能の低下の加速と関連している(Peat JK,Woolcock AJ,Cullen K. Rate of decline of lung function in subjects with asthma. Eur J Respir Dis.1987;70(3):171-9. PubMed PMID:3569449;Peat JK,Woolcock AJ,Cullen K. Rate of decline of lung function in subjects with asthma. Eur J Respir Dis.1987;70(3):171-9. PubMed PMID:3569449)。肺機能の低下は重度の増悪のリスク因子であるため(Osborne ML,Pedula KL,O’Hollaren M,Ettinger KM,Stibolt T,Buist AS et al. Assessing future need for acute care in adult asthmatics:the Profile of Asthma Risk Study:a prospective health maintenance organization-based study. Chest.2007;132(4):1151-61. PubMed PMID:17573515;Dougherty RH,Fahy JV. Acute exacerbations of asthma:epidemiology,biology and the exacerbation-prone phenotype. Clin Exp Allergy.2009;39(2):193-202. PubMed PMID:19187331)、この悪循環は喘息の増悪しやすい表現型を促進し得る。このように、喘息増悪を引き起こすメカニズムの理解が、喘息の病態生物学を理解する上での重要な障壁となっている。
【0004】
インタクトな免疫系と宿主防御機能は、喘息の悪化を予防するために重要である。界面活性剤は、肺の気液界面での表面張力を低下させ、宿主防御に関与するリポタンパク質複合体である(Han S,Mallampalli RK. The role of surfactant in lung disease and host defense against pulmonary infections. Annals of the American Thoracic Society.2015;12(5):765-74. Epub 2015/03/06.doi:10.1513/AnnalsATS.201411-507FR. PubMed PMID:25742123)。肺のサーファクタント系は、細胞外脂質とタンパク質の複合体であり、空気/組織界面に存在し、肺胞コンパートメントの生物物理学的特性と器官の自然免疫系の両方を調節する。サーファクタントタンパク質A(SP-A)は、喘息の病理生物学において重要な細胞である好酸球のアポトーシスの促進、アレルギー性喘息の表現型に不可欠なサイトカインであるインターロイキン(IL)-13曝露の設定における気道上皮細胞によるムチン産生の減少など、疾患の重症度と増悪を緩和する重要な細胞機能を促進し、2型またはアレルギー性炎症に重要な別のサイトカインであるIL-6産生を減少させることが示されている。
【0005】
気道の炎症は、喘息の顕著な特徴である。好酸球は、2型炎症性喘息表現型を有する個体で顕著であり、循環、喀痰、及び気道粘膜に多数発生する(例えば、Wenzel,S.E.,Nature Medicine,2012.18(5):p.716-25を参照のこと)。気道における好酸球の蓄積及び生存能力の延長は、喘息の重症度の増大と強く相関しており(例えば、Green,RH,et al.,Lancet,2002.360(9347):p.1715-21;Duncan,CJ,et al.,The European respiratory journal,2003.22(3):p.484-90;Gibson,P.G.,et al.,Thorax,2003.58(2):p.116-21;Leitch,A.E.,et al.,Mucosal immunology,2008.1(5):p.350-63を参照のこと)、それらの存在は、2型サイトカインであるインターロイキン(IL)-4、5及び13によって引き起こされる。最近の研究では、重度の喘息患者の群内で、約50%の肺組織に好酸球が存在することが示されている(例えば、Wenzel,S.E,et al.,American Journal of respiratory and Critical Care Medicine,1999.160(3):p.1001-8;Wenzel,S.E.,Asthma phenotypes: the evolution from clinical to molecular approaches. Nature medicine,2012.18(5):p.716-25を参照のこと)。さらに、好酸球の減少を目標とする治療戦略は、喘息の入院率及び増悪を減少させることが示されている(例えば、Green,R.H.,et al.,Lancet,2002.360(9347):p.1715-21;Jayaram,L.,et al.,The European respiratory journal,2006.27(3):p.483-94を参照のこと)。アポトーシス細胞のクリアランスと迅速な除去は、炎症の解消と喘息症状の軽減につながる重要なプロセスである。非効率なアポトーシス細胞クリアランスは、二次的な壊死または細胞溶解、組織に損傷を与え得る細胞内容物の放出、及び炎症と喘息症状の持続期間の延長をもたらす。さらに、喘息の重症度は、好酸球生存率の延長と強く相関している(例えば、Duncan,CJ,et al.,The European respiratory Journal,2003.22(3):p.484-90;Fitzpatrick,AM,et al.,The Journal of allergy and Clinical immunology,2008.121(6):p.1372-8,1378 e1-3;Leitch,AE,et al.,Relevance of granulocyte apoptosis to resolution of inflammation at the respiratory mucosa. Mucosal immunology,2008.1(5):p.350-63を参照のこと)。興味深いことに、β2アゴニストの吸入は、世界中の喘息治療の主力であり、好酸球の生存を延長することが示されており((例えば、Nielson,C.P. and N.E.Hadjokas,American journal of respiratory and critical care medicine,1998.157(1):p.184-91を参照のこと)、実際に喘息を悪化させるか、またはβ2アゴニストで認められる様々な反応に少なくとも寄与し得る(例えば、Choudhry,S.,et al.,Pharmacogenetics and Genomics,2010.20(6):p.351-8を参照のこと)。
【0006】
喘息に対するさらなる治療が必要である。
【0007】
本発明は、この必要性に対処する。
[発明の概要]
サーファクタントタンパク質A(SP-A)は、リポタンパク質複合体、肺サーファクタントのうち、最も豊富なタンパク質成分である。ヒトでは、全長オリゴマーSP-Aは、SP-A1及びSP-A2遺伝子の産物である。末梢気道内の肺胞II型細胞がSP-Aの主な産生細胞であるが、、club細胞と粘膜下腺によって、誘導気道内の肺サーファクタントとは独立して合成される(Auten,R.L.,et al.,1990 Am J Respir Cell Mol Biol 3:491-496;Goss,K.L.,1998 Am J Respir Cell Mol Biol 19:613-621を参照のこと)。鼻粘膜では、SP-Aは、繊毛上皮細胞、漿液性腺房及び粘膜下腺の細胞質内で検出され得る(Kim,J.K,et al.,2007 Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 292:L879-884;Wootten,C.T.,et al.,2006 Arch Otolaryngol Head Neck Surg 132:1001-1007;Woodworth,B.A.,et al.,2006 Am J Rhinol 20:461-465を参照のこと)。
【0008】
SP-Aは、2型関連アレルゲン誘発性炎症の調節に重要な役割を果たす。SP-A欠損マウスは、オボアルブミン(OVA)でチャレンジすると、野生型マウスと比較して、2型関連サイトカインレベル、IgEレベル、特に好酸球レベルが有意に増加した(Pastva,A.M.,et al.,2011 J Immunol 186:2842-2849を参照のこと)。SP-Aのレベルが低下した肥満の喘息患者は、より重度の組織好酸球増加症を有し、喘息のマウスモデルにおいて、外来性SP-Aによる治療は、組織好酸球増加症を有意に減少させることが示されている(Lugogo,N.,et al.,2017 J Allergy Clin Immunol.;Desai,D.,et al.,2013 Am J Respir Crit Care Med 188:657-663;van der Wiel,E.,et al.,2014 Am J Respir Crit Care Med 189:1281-1284を参照のこと)。さらに、喘息患者から分離されたSP-Aは、非喘息患者から分離されたSP-Aと比較して、喘息増悪と高度に関連する細菌であるMycoplasma pneumoniae(Mp)の感染症に関して、気道上皮IL-8及びMuc5acの産生を弱めることができなかった(Wang,Y.,et al.,2011 Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 301:L598-606を参照のこと)。
【0009】
SP-A2内の223位のグルタミン(Q)をリジン(K)に置換する一塩基多型により、アレルギー性気道炎症における好酸球調節の変化がもたらされることが示されている(Dy,ABC,et al.,2019 J Immunol 203:1122-1130を参照)のこと)(Gln223Lys)(配列番号1で示されるSP-A野生型アミノ酸配列内の223Q/K)。より具体的には、このQからKへのアミノ酸置換を有するSP-A2は、223位にQを含むSP-A2と比較して、好酸球のアポトーシスを促進することができない。さらに、この位置にQが存在する場合、呼吸障害に対して保護的であることが示されている(Lofgren,J.,et al.,2002 J Infect Dis 185:283-289;Marttila,R.,et al.,2003 Ann Med 35:344-352を参照のこと)。そのような発見は、正常な気道機能を達成するためのSP-A内のこの活性領域の関連性を強調する。
【0010】
【0011】
好酸球は、周知の末期エフェクター細胞であり、2型高値喘息で経験する症状の主な原因である。好酸球の生存を促進する好酸球特異的なケモカイン(Stellato,C.,et al.,1999 J Immunol 163:5624-5632を参照のこと)及びサイトカイン(Schleimer,R.P.,and B.S.Bochner.1994. J Allergy Clin Immunol 94:1202-1213)の産生を阻害することによって好酸球の生存率を低下させることを支援する吸入コルチコステロイド療法は、喘息の症状及び増悪に対する非常に効果的な治療戦略である。したがって、好酸球のアポトーシスとそれに続くそれらのクリアランスは、2型関連気道炎症を解決する上での重要なステップであると推論できる。
【0012】
好酸球の生存を阻害することにより、コルチコステロイドは好酸球の正常化治療戦略と見なされ得る。この戦略は、メポリズマブ、レスリズマブ(抗IL5抗体)、ベンラリズマブ(抗IL5Rα抗体)などの生物製剤を使用した好酸球枯渇治療戦略とは対照的であり、その目標は、循環の好酸球を劇的に減少させ、骨髄内でのそれらの成熟も減少させることである(Roufosse,F. 2018. Front Med(Lausanne)5:49を参照のこと)。吸入コルチコステロイド療法は喘息治療の主力であるにもかかわらず、このタイプの長期療法に伴う既知の副作用に加え、ステロイド抵抗性が依然として課題となっている。現在臨床試験中及び市販されている生物製剤はステロイドを控えめにしているが、好酸球枯渇の長期的な影響はまだ不明である。
【0013】
予備データからは、223位にまたがる活性部位由来の長さ10及び20アミノ酸(10mer及び20mer)のSP-A天然ペプチドが、喘息の前臨床マウスモデルにおいて、気道過敏症、気道粘液産生及び好酸球増加症を軽減することができることが示唆される(
図1)。
【0014】
本発明の実施形態を開発する過程で実施した実験により、好酸球の正常化を標的とする治療薬として、SP-A活性部位に由来し、安定性及びバイオアベイラビリティを向上させた小分子が開発された。実際、そのような実験では、好酸球に対する直接的なアポトーシス促進機能について、10mer及び20merのSP-Aペプチドを、全長SP-Aに由来する一連のペプチド模倣物とともにスクリーニングした。in vitroでの好酸球に対するSP-Aの細胞傷害効果に関して、全長SP-Aに非常に類似するいくつかの潜在的なペプチド模倣物を同定した。そのような結果は、SP-Aの活性部位に由来する小分子が好酸球に対する活性を有し、アレルギー性気道炎症の新規クラスの治療薬の開発への道を開くという概念証明を表している。
【0015】
したがって、本明細書において、肺疾患を治療及び予防するための組成物及び方法を提供する。特に、本明細書において、SP-Aペプチド類似体(例えば、SP-Aペプチド模倣物)及び肺疾患(例えば、喘息またはCOPD)の治療及び予防におけるその使用を提供する。
【0016】
例えば、いくつかの実施形態では、例えば、Ac-KEQCVEMYTD-NH2(配列番号2)、Ac-WGKEQCVEMYTD-NH2(配列番号3)、(Ac-KEQCVEMYTD-NH2)2(配列番号4)、Ac-KEQCVEMYTD-酸(配列番号5)、H-KEQCVEMYTD-酸(配列番号6)、Ac-KEQCVE-Nle-YTD-NH2(配列番号7)、Ac-KEQSVEMYTD-NH2(配列番号8)、Ac-KEQAVEMYTD-NH2(配列番号9)、Ac-SDGTPVNYTNWYRGEPAGRGKEQ-NH2(配列番号10)、Ac-GDFRYSDGTPVNYTNWYRGE-NH2(配列番号11)、Ac-WGKEQAVE-Nle-YTD-NH2(配列番号12)、Ac-WGKEQCVE-Nle-YTD-NH2(配列番号13)、Ac-RGKEQCVE-Nle-YTD-NH2(配列番号14)、
【0017】
【0018】
から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド類似体、またはこれらのペプチドに対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するペプチド類似体を含む組成物を提供する。さらなる実施形態は、例えば、Ac-KEQCVEMYTD-NH2(配列番号2)、Ac-WGKEQCVEMYTD-NH2(配列番号3)、(Ac-KEQCVEMYTD-NH2)2(配列番号4)、Ac-KEQCVEMYTD-酸(配列番号5)、H-KEQCVEMYTD-酸(配列番号6)、Ac-KEQCVE-Nle-YTD-NH2(配列番号7)、Ac-KEQSVEMYTD-NH2(配列番号8)、Ac-KEQAVEMYTD-NH2(配列番号9)、Ac-SDGTPVNYTNWYRGEPAGRGKEQ-NH2(配列番号10)、Ac-GDFRYSDGTPVNYTNWYRGE-NH2(配列番号11)、Ac-WGKEQAVE-Nle-YTD-NH2(配列番号12)、Ac-WGKEQCVE-Nle-YTD-NH2(配列番号13)、Ac-RGKEQCVE-Nle-YTD-NH2(配列番号14)、
【0019】
【0020】
から選択されるペプチド類似体から本質的になる組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本組成物は、医薬組成物である。いくつかの実施形態では、本組成物は、薬学的に許容される担体を含む。いくつかの実施形態では、組成物を、肺送達用に製剤化する。
【0021】
さらなる実施形態は:a)本明細書に記載の組成物のいずれか1つ;及びb)組成物を肺送達するための装置を含むシステムを提供する。いくつかの実施形態では、装置は定量噴霧式吸入器である。
【0022】
さらなる実施形態は:本明細書に記載の組成物のいずれか1つを細胞に送達することを含む、細胞内のSP-A活性の増強方法を提供する。いくつかの実施形態では、細胞は肺細胞である。いくつかの実施形態では、細胞はin vivoである。いくつかの実施形態では、組成物は、ムチン産生を減少させ、及び/または肺における好酸球増加症を軽減する。いくつかの実施形態では、細胞は、喘息と診断された対象内にある。いくつかの実施形態では、投与は、対象における喘息の症状またはマーカーを減少させるか、または予防する。いくつかの実施形態では、対象は、肥満であるか、または肥満ではない。いくつかの実施形態では、ペプチドは、例えばFC(CD16/32)、Sirp-α、TLR-2、またはEGFRから選択される受容体に結合する。
【0023】
さらに他の実施形態は:本明細書に記載の組成物のいずれか1つを対象に投与することを含む、対象における肺疾患(例えば、喘息またはCOPD)の治療方法または予防方法を提供する。
【0024】
さらに他の実施形態は、細胞内のSP-A活性を増強するための、本明細書に記載の組成物のいずれか1つの使用を提供する。他の実施形態は、対象における肺疾患(例えば、喘息またはCOPD)を治療または予防するための、本明細書に記載の組成物のいずれか1つの使用を提供する。
【0025】
さらなる実施形態を、本明細書に記載する。
[図面の簡単な説明]
[
図1]喘息のin vivoマウスモデルにおけるSP-A由来10mer天然ペプチドの評価。A)HDMアレルゲンチャレンジ実験の概略図。B)最終的なHDMチャレンジの6日後の野生型マウスのメタコリンチャレンジ中のニュートン抵抗(Rn)。C)PASスコアリングによるBAL(左パネル)及びムチン産生(右パネル)の総好酸球数。独立t検定、
*p<0.05、
**p<0.01。
【0026】
[
図2]好酸球に対する全長SP-A及び天然ペプチドの細胞傷害効果のRTCAによる評価。各用量について正規化した細胞指数及び算出した曲線下面積を、SP-A(A~B)、20merペプチド(C~D)、及び10merペプチド(E~F)について示す。
【0027】
[
図3A]好酸球に対する候補ペプチド模倣物の細胞傷害効果の、質量濃度を用いたRTCAによる評価。各用量について正規化した細胞指数を、856、867、868、870、871、882、883、及び884について示す。
【0028】
[
図3B]好酸球に対する候補ペプチド模倣物の細胞傷害効果の、質量濃度を用いたRTCAによる評価。各用量について算出した曲線下面積を、856、867、868、870、871、882、883、及び884について示す。
【0029】
[
図4A]好酸球に対する候補ペプチド模倣物の細胞傷害効果の、モル濃度を用いたRTCAによる評価。各用量について正規化した細胞指数を、888、889、891、892、893、及び894について示す。
【0030】
[
図4B]好酸球に対する候補ペプチド模倣物の細胞傷害効果の、モル濃度を用いたRTCAによる評価。各用量について算出した曲線下面積を、888、889、891、892、893、及び894について示す。
【0031】
定義
用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、同じ意味で用いられ、天然または非天然のアミノ酸残基を含むアミノ酸残基のポリマーを指し、最小長に限定されない。したがって、ペプチド、オリゴペプチド、二量体、多量体などが定義内に含まれる。全長タンパク質及びその断片の両方が定義に包含される。この用語には、例えば、グリコシル化、シアリル化、アセチル化、及びリン酸化を含む、ポリペプチドの翻訳後修飾も含まれる。さらに、本明細書における「ポリペプチド」はまた、タンパク質が所望の活性を維持する限り、単一または複数のアミノ酸残基の欠失、付加及び置換など、天然配列に対して改変されたタンパク質も指す。例えば、セリン残基を置換して単一の反応性システインを除去するか、またはジスルフィド結合を除去してもよく、あるいは保存的アミノ酸置換を行って切断部位を除去してもよい。これらの改変は、部位特異的変異誘発などによる意図的なものであってもよく、または宿主の変異などによる偶発的なものであってもよく、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅により、タンパク質またはエラーが生成される。
【0032】
本明細書中で使用される用語「ペプチド」とは、ペプチド結合によって結合したアミノ酸の短いポリマーを指す。他のアミノ酸ポリマー(例えば、タンパク質、ポリペプチドなど)とは対照的に、ペプチドは長さが約50アミノ酸以下である。ペプチドには、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、アミノ酸類似体、及び/または改変アミノ酸が含まれ得る。ペプチドは、天然のタンパク質の部分配列または非天然(合成)配列であってもよい。
【0033】
「野生型」とは、遺伝子、対立遺伝子、遺伝子型、ポリペプチド、もしくは表現型、またはこれらのいずれかの断片の非変異型を指す。それは自然界に存在するものであってもよく、または組換えによって生成してもよい。
【0034】
「バリアント」とは、単一または複数のアミノ酸置換、欠失、及び/または付加によって、参照対象の核酸分子またはポリペプチドとは異なっており、参照対象の核酸分子またはポリペプチドの少なくとも1つの生物学的活性を実質的に保持している核酸分子またはポリペプチドである。
【0035】
用語「疑似ペプチド」または「ペプチド模倣物」とは、タンパク質またはペプチドに由来する配列をエミュレートするペプチド様分子を指す。疑似ペプチドまたはペプチド模倣物は、アミノ酸成分及び/または非アミノ酸成分を含み得る。ペプチド模倣物の例として、化学修飾ペプチド、ペプトイド(側鎖がα炭素ではなくペプチド主鎖の窒素原子に付加されている)、βペプチド(α炭素ではなくβ炭素に結合したアミノ基)などが挙げられる。
【0036】
本明細書中で使用する場合、「保存的」アミノ酸置換とは、ペプチドまたはポリペプチド中のアミノ酸を、サイズまたは電荷などの類似の化学的性質を有する別のアミノ酸に置換することを指す。本開示の目的のために、以下の8つのグループのそれぞれは、互いに保存的置換であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)及びグリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)及びグルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)及びグルタミン(Q);
4)アルギニン(R)及びリジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、及びバリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、及びトリプトファン(W);
7)セリン(S)及びスレオニン(T);ならびに
8)システイン(C)及びメチオニン(M)。
【0037】
天然の残基は、共通の側鎖特性に基づいてクラス分類してもよく、例えば:極性陽性(ヒスチジン(H)、リジン(K)、及びアルギニン(R));極性陰性(アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E));極性中性(セリン(S)、スレオニン(T)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q));非極性脂肪族(アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、メチオニン(M));非極性芳香族(フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W));プロリン及びグリシン;ならびにシステインである。本明細書中で使用する場合、「半保存的」アミノ酸置換とは、ペプチドまたはポリペプチド中のアミノ酸を同じクラス内の別のアミノ酸に置換することを指す。
【0038】
いくつかの実施形態では、別段の指定がない限り、保存的または半保存的アミノ酸置換は、天然残基と同様の化学的性質を有する天然に存在しないアミノ酸残基も包含し得る。これらの非天然残基は、通常、生体系での合成ではなく、化学ペプチド合成によって組み込まれる。これらには、ペプチド模倣物及びアミノ酸部分の他の逆転または反転形態が含まれるが、これらに限定されない。本明細書中の実施形態は、いくつかの実施形態では、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、及び/またはアミノ酸類似体に限定される。
【0039】
非保存的置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスと交換することを含み得る。
【0040】
本明細書中で使用する場合、用語「配列同一性」とは、2つのポリマー配列(例えば、ペプチド、ポリペプチド、核酸など)がモノマーサブユニットの同じ連続組成を有する程度を指す。用語「配列類似性」とは、2つのポリマー配列(例えば、ペプチド、ポリペプチド、核酸など)が保存的及び/または半保存的アミノ酸置換のみで異なっている程度を指す。「配列同一性の割合」(または「配列類似性の割合」)は:(1)比較ウィンドウ(例えば、長い方の配列の長さ、短い方の配列の長さ、指定された配列の長さ)にわたって2つの最適にアラインされた配列を比較し、(2)同一の(または類似の)モノマーを含む位置の数(例えば、同じアミノ酸が両方の配列に存在する、類似のアミノ酸が両方の配列に存在する)を決定して、一致する位置の数を取得し、(3)一致した位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数(例えば、長い方の配列の長さ、短い方の配列の長さ、指定されたウィンドウ)で割り、(4)結果に100を掛けて、配列同一性の割合または配列類似性の割合を取得することによって計算される。例えば、ペプチドAとBがどちらも長さが20アミノ酸であり、1つの位置を除いてすべて同一のアミノ酸を有する場合、ペプチドAとペプチドBは、95%の配列同一性を有する。同一でない位置のアミノ酸が同じ生物物理学的特徴を共有する場合(例えば、両方とも酸性であった)、ペプチドAとペプチドBは100%の配列類似性を有する。別の例として、ペプチドCが20アミノ酸長であり、ペプチドDが15アミノ酸長であり、ペプチドDの15アミノ酸のうちの14がペプチドCの一部のアミノ酸と同一である場合、ペプチドCとDは70%の配列同一性を有するが、ペプチドDはペプチドCの最適な比較ウィンドウに対して93.3%の配列同一性を有する。本明細書において「配列同一性の割合」(または「配列類似性の割合」)を計算する目的において、アラインされた配列中のギャップは、その位置でのミスマッチとして扱われる。
【0041】
「対象」、「個体」、「宿主」、「動物」、及び「患者」は、同じ意味で用いられ、げっ歯類、サル、ヒト、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、哺乳類の実験動物、哺乳類の家畜、哺乳類のスポーツ動物、及び哺乳類のペットを含むがこれらに限定されない哺乳類を指す。
【0042】
本明細書中で使用する場合、用語「投与」及び「投与すること」とは、薬剤、プロドラッグ、もしくは他の作用物質、または治療的処置(例えば、SP-Aペプチド)を、対象またはin vivo、in vitro、もしくはex vivo細胞、組織、及び器官に与える行為を指す。人体への例示的な投与経路は、脳または脊髄のくも膜下領域(髄腔内)、眼(眼内)、口腔(経口)、皮膚(局所または経皮)、鼻(経鼻)、肺(吸入)、口腔粘膜(頬側)、耳、直腸、膣を経由するもの、注射(例えば、静脈内、皮下、腫瘍内、腹腔内など)によるものなどであり得る。
【0043】
本明細書中で使用する場合、用語「共投与」及び「共投与する」とは、少なくとも2つの薬剤(複数可)(例えば、複数のSP-Aペプチドもしくは1つのSP-Aペプチド及び別の治療剤)または療法を対象に投与することを指す。いくつかの実施形態では、2つ以上の薬剤または療法の共投与は、同時である。他の実施形態では、第1の薬剤/療法を、第2の薬剤/療法の前に投与する。当業者であれば、使用する様々な薬剤または療法の製剤化及び/または投与経路は、様々に異なり得ることを理解している。共投与のための適切な用量は、当業者によって容易に決定され得る。いくつかの実施形態では、薬剤または療法を共投与する場合、それぞれの薬剤または療法を、それらの単独投与に適切な量よりも少ない用量で投与する。したがって、薬剤もしくは療法の共投与が、潜在的に危険な(例えば、毒性の)薬剤(複数可)の必要用量を低下させ、及び/または、2つ以上の薬剤の共投与が、一方の薬剤の共投与によって、薬剤のうちの他方の有益な効果に対する対象の感作をもたらす実施形態において、共投与は特に望ましい。
【0044】
本明細書中で使用する場合、「治療」は、ヒトを含む哺乳動物における疾患に対する治療薬の任意の投与または塗布を含み、疾患の阻害、その発症の阻止、もしくは疾患の緩和、例えば、退行の誘発、または喪失、欠損したか、もしくは不全な機能の回復もしくは修復;または非効率的なプロセスの刺激を含む。
【0045】
「薬学的に許容される担体」とは、対象に投与するための治療剤とともに使用するための、当技術分野で慣用の非毒性の固体、半固体、または液体の充填剤、希釈剤、封入材、製剤補助剤、または担体を指す。薬学的に許容される担体は、使用する用量及び濃度においてレシピエントに対して非毒性であり、製剤の他の成分と適合性がある。薬学的に許容される担体は、使用する製剤に適している。例えば、治療剤を経口投与する場合、担体はゲルカプセルであってもよい。治療剤を皮下投与する場合、担体は理想的には皮膚に対して刺激性がなく、注射部位反応を引き起こさない。
[発明を実施するための形態]
記載したように、本発明の実施形態を開発する過程で実施した実験により、好酸球の正常化を標的とする治療薬として、SP-A活性部位に由来し、安定性及びバイオアベイラビリティを向上させた小分子が開発された。実際、そのような実験では、好酸球に対する直接的なアポトーシス促進機能について、10mer及び20merのSP-Aペプチドを、全長SP-Aに由来する一連のペプチド模倣物とともにスクリーニングした。in vitroでの好酸球に対するSP-Aの細胞傷害効果に関して、全長SP-Aに非常に類似するいくつかの潜在的なペプチド模倣物を同定した。そのような結果は、SP-Aの活性部位に由来する小分子が好酸球に対する活性を有し、アレルギー性気道炎症の新規クラスの治療薬の開発への道を開くという概念証明を表している。
【0046】
したがって、本明細書において、肺疾患を治療及び予防するための組成物及び方法を提供する。特に、本明細書において、SP-Aペプチド及び肺疾患(例えば、喘息)の治療及び予防におけるその使用を提供する。
【0047】
特定の実施形態では、本発明は、配列が、SP-A2ペプチドの223位に主要なQ対立遺伝子を含む内在性ヒトSP-Aの活性領域に由来するか、またはそれに適合したペプチド類似体を使用する、喘息の治療を提供する。例えば、いくつかの実施形態では、例えば、Ac-KEQCVEMYTD-NH2(配列番号2)、Ac-WGKEQCVEMYTD-NH2(配列番号3)、(Ac-KEQCVEMYTD-NH2)2(配列番号4)、Ac-KEQCVEMYTD-酸(配列番号5)、H-KEQCVEMYTD-酸(配列番号6)、Ac-KEQCVE-Nle-YTD-NH2(配列番号7)、Ac-KEQSVEMYTD-NH2(配列番号8)、Ac-KEQAVEMYTD-NH2(配列番号9)、Ac-SDGTPVNYTNWYRGEPAGRGKEQ-NH2(配列番号10)、Ac-GDFRYSDGTPVNYTNWYRGE-NH2(配列番号11)、Ac-WGKEQAVE-Nle-YTD-NH2(配列番号12)、Ac-WGKEQCVE-Nle-YTD-NH2(配列番号13)、Ac-RGKEQCVE-Nle-YTD-NH2(配列番号14)、
【0048】
【0049】
から選択されるアミノ酸配列を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなるペプチド、またはこれらのペプチドに対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するペプチド類似体を含む組成物を提供する。さらなる実施形態は、例えば、Ac-KEQCVEMYTD-NH2(配列番号2)、Ac-WGKEQCVEMYTD-NH2(配列番号3)、(Ac-KEQCVEMYTD-NH2)2(配列番号4)、Ac-KEQCVEMYTD-酸(配列番号5)、H-KEQCVEMYTD-酸(配列番号6)、Ac-KEQCVE-Nle-YTD-NH2(配列番号7)、Ac-KEQSVEMYTD-NH2(配列番号8)、Ac-KEQAVEMYTD-NH2(配列番号9)、Ac-SDGTPVNYTNWYRGEPAGRGKEQ-NH2(配列番号10)、Ac-GDFRYSDGTPVNYTNWYRGE-NH2(配列番号11)、Ac-WGKEQAVE-Nle-YTD-NH2(配列番号12)、Ac-WGKEQCVE-Nle-YTD-NH2(配列番号13)、Ac-RGKEQCVE-Nle-YTD-NH2(配列番号14)、
【0050】
【0051】
から選択されるペプチド類似体から本質的になる組成物を提供する。いくつかの実施形態では、ペプチドは、例えばFC(CD16/32)、Sirp-α、TLR-2、またはEGFRから選択される受容体に結合する。
【0052】
本発明はさらに、本明細書に記載のSP-Aペプチドのバリアント及び模倣物を提供する。いくつかの実施形態では、SP-Aペプチドは、本明細書に記載のペプチドに対して、保存的、半保存的、及び/または非保存的な置換を含む(例えば、SP-Aシグナル伝達に関与する位置またはSP-Aシグナル伝達に関与しない位置で)。
【0053】
実施形態は、特定の置換に限定されない。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のペプチドをさらに修飾する(例えば、標準アミノ酸の置換、欠失、または付加;化学修飾など)。この分野で理解されている修飾には、N末端修飾、C末端修飾(この修飾は、タンパク質分解からペプチドを保護する)、アミド基のアルキル化、炭化水素の「ステープル」(例えば、α-ヘリックス構造を安定化するための)が含まれる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のペプチドを、例えば荷電残基の保存的残基置換(KからR、RからK、DからE、及びEからD)によって修飾してもよい。いくつかの実施形態では、そのような保存的置換は、特異性及び/または生体活動を向上させる目標ととともに、例えば、受容体結合部位に微妙な変化をもたらす。末端カルボキシ基の修飾として、アミド、低級アルキルアミド、拘束アルキル(例えば、分枝、環状、縮合、アダマンチル)アルキル、ジアルキルアミド、及び低級アルキルエステルの修飾が挙げられるが、これらに限定されない。低級アルキルとはC1-C4アルキルである。さらに、1つ以上の側鎖または末端基を、当業者のペプチド化学者には公知の保護基によって保護してもよい。アミノ酸のα-炭素は、モノまたはジメチル化されていてもよい。
【0054】
いくつかの実施形態では、1つ以上のペプチド内ジスルフィド結合(例えば、ペプチド内の2つのシステイン間の)を導入する。いくつかの実施形態では、ペプチド内ジスルフィド結合の存在がペプチドを安定化する。
【0055】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の任意の実施形態は、当技術分野で理解されている様々な修飾を伴う本明細書に記載のペプチドに対応するペプチド模倣物を含み得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のペプチド配列中の残基を、類似の特徴(例えば、疎水性から疎水性、中性から中性など)を有するか、または他の所望の特徴(例えば、より酸性、より疎水性、より嵩高でない、より嵩高である、など)を有するアミノ酸で置換してもよい。いくつかの実施形態では、所望の特性を達成するために、非天然アミノ酸(または標準の20アミノ酸以外の天然アミノ酸)が置換される。
【0056】
いくつかの実施形態では、生理学的条件下で正に帯電した側鎖を有する残基、または正に帯電した側鎖が望まれる残基を、リジン、ホモリジン、δ-ヒドロキシリジン、ホモアルギニン、2,4-ジアミノ酪酸、3-ホモアルギニン、D-アルギニン、アルギニン(アルギニン中のCOOHを-CHOに置き換える)、2-アミノ-3-グアニジノプロピオン酸、ニトロアルギニン(N(G)-ニトロアルギニン)、ニトロソアルギニン(N(G)-ニトロソアルギニン)、メチルアルギニン(N-メチルアルギニン)、ε-N-メチルリジン、アロ-ヒドロキシリジン、2,3-ジアミノプロピオン酸、2,2’-ジアミノピメリン酸、オルニチン、sym-ジメチルアルギニン、asym-ジメチルアルギニン、2,6-ジアミノヘキシン酸、p-アミノ安息香酸及び3-アミノチロシンならびに、ヒスチジン、1-メチルヒスチジン、及び3-メチルヒスチジンを含むがこれらに限定されない残基に置換する。中性残基とは、生理学的条件下で荷電していない側鎖を有する残基である。極性残基は、側鎖に少なくとも1つの極性基を有することが好ましい。いくつかの実施形態では、極性基は、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アミン、アミド及びエステル基、または水素架橋の形成を可能にする他の基から選択される。
【0057】
いくつかの実施形態では、生理学的条件下で中性/極性である側鎖を有する残基、または中性側鎖が所望される残基を、アスパラギン、システイン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、シトルリン、N-メチルセリン、ホモセリン、アロ-スレオニン及び3,5-ジニトロ-チロシン、及びβ-ホモセリンを含むがこれらに限定されない残基に置換する。
【0058】
非極性の疎水性側鎖を有する残基は、生理学的条件下で、好ましくは0を上回る、特に3を上回るハイドロパシー指数を有する非荷電の残基である。いくつかの実施形態では、非極性の疎水性側鎖は、1~10個、好ましくは2~6個の炭素原子を有するアルキル、アルキレン、アルコキシ、アルケノキシ、アルキルスルファニル及びアルケニルスルファニル残基、または5~12個の炭素原子を有するアリール残基から選択される。いくつかの実施形態では、非極性の疎水性側鎖を有する残基、または非極性の疎水性側鎖が所望される残基を、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニン、N-メチルロイシン、tert-ブチルグリシン、オクチルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β-アラニン、1-アミノシクロヘキシルカルボン酸、N-メチルイソロイシン、ノルロイシン、ノルバリン、及びN-メチルバリンを含むがこれらに限定されない残基に置換する。
【0059】
いくつかの実施形態では、ペプチド及びポリペプチドを、単離し及び/または精製する(または実質的に単離し、及び/または実質的に精製する)。したがって、そのような実施形態では、ペプチド及び/またはポリペプチドを、実質的に単離された形態で提供する。いくつかの実施形態では、ペプチド及び/またはポリペプチドを、例えば、固相ペプチド合成の結果として、他のペプチド及び/またはポリペプチドから単離する。あるいは、ペプチド及び/またはポリペプチドを、組換え産生からの細胞溶解後に、他のタンパク質から実質的に単離することができる。タンパク質精製の標準的な方法(例えば、HPLC)を使用して、ペプチド及び/またはポリペプチドを実質的に精製することができる。いくつかの実施形態では、本発明は、目的の用途に応じて、多くの製剤中でペプチド及び/またはポリペプチドの調製物を提供する。例えば、ポリペプチドが実質的に単離されている(または他のタンパク質からほぼ完全に単離されている)場合、保存に好適な培地溶液(例えば、冷蔵条件下または冷凍条件下)中に製剤化することができる。そのような調製物には、緩衝剤、防腐剤、凍結防止剤(例えば、トレハロースなどの糖)などの保護剤を含有させることができる。そのような調製物の形態は、溶液、ゲルなどであり得る。いくつかの実施形態では、ペプチド及び/またはポリペプチドを凍結乾燥形態で調製する。さらに、そのような調製物は、小分子もしくは他のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質などの他の所望の薬剤を含み得る。実際、本明細書に記載のペプチド及び/またはポリペプチドの異なる実施形態の混合物を含むそのような調製物を提供してもよい。
【0060】
いくつかの実施形態では、本明細書において、本明細書に記載のペプチド配列のペプチド模倣バージョンまたはそのバリアントを提供する。いくつかの実施形態では、ペプチド模倣物は、そのペプチド等価体の極性(または非極性、疎水性など)、三次元サイズ、及び機能性(生物活性)を保持する実体によって特徴付けられるが、ただし、ペプチド結合のすべてまたは一部が置き換えられている(例えば、より安定した結合に)。いくつかの実施形態では、「安定」とは、加水分解酵素による化学分解または酵素分解に対してより耐性であることを指す。いくつかの実施形態では、アミド結合を置き換える結合(例えば、アミド結合代用物)は、アミド結合のいくつかの特性(例えば、立体配座、立体容積、静電特性、水素結合の容量など)を保持している。“Drug Design and Development”,Krogsgaard,Larsen,Liljefors and Madsen(Eds)1996,Horwood Acad.Publishersの第14章には、ペプチド模倣物の設計及び合成のための技術の一般的な考察が提供されており、その全体が参照により本明細書に援用される。好適なアミド結合代用物として:N-アルキル化(Schmidt,R.et al.,Int. J.Peptide Protein Res.,1995,46,47;その全体が参照により本明細書に援用される)、逆-反転アミド(Chorev,M.及びGoodman,M.,Acc.Chem.Res,1993,26,266;その全体が参照により本明細書に援用される)、チオアミド(Sherman D.B. and Spatola,A.F. J.Am.Chem.Soc.,1990,112,433;その全体が参照により本明細書に援用される)、チオエステル、ホスホネート、ケトメチレン(Hoffman,R.V. and Kim,H.O. J.Org.Chem.,1995,60,5107;その全体が参照により本明細書に援用される)、ヒドロキシメチレン、フルオロビニル(Allmendinger,T.et al.,Tetrahydron Lett.,1990,31,7297;その全体が参照により本明細書に援用される)、ビニル、メチルエネアミノ(Sasaki,Y and Abe,J.Chem.Pharm.Bull.1997 45,13;その全体が参照により本明細書に援用される)、メチルエネチオ(Spatola,A.F.,Methods Neurosci,1993,13,19;その全体が参照により本明細書に援用される)、アルカン(Lavielle,S.et.al.,Int.J.Peptide Protein Res.,1993,42,270;その全体が参照により本明細書に援用される)及びスルホンアミド(Luisi,G.et al. Tetrahedron Lett.1993,34,2391;その全体が参照により本明細書に援用される)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
アミド結合の置換と同様に、ペプチド模倣物は、ジペプチドまたはトリペプチド模倣構造による、より大きな構造部分の置換を含んでもよく、この場合、ペプチド結合を含む模倣部分、例えば、アゾール由来模倣物をジペプチド置換として使用してもよい。好適なペプチド模倣物として、還元剤(例えば、ボランまたは水素化物試薬、例えば、水素化アルミニウムリチウム)で処理することによってアミド結合がメチレンアミンに還元された還元ペプチドが挙げられ;このような還元には、分子の全体的なカチオン性が増加するという追加の利点がある。
【0062】
他のペプチド模倣物として、例えば、アミド官能化ポリグリシンの段階的合成によって形成されるペプトイドが挙げられる。一部のペプチド模倣物主鎖は、多メチル化ペプチドなど、そのペプチド前駆体から容易に入手することができ、好適な方法は、Ostresh,J.M.et al. in Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1994)91,11138-11142に記載されており;その全体が参照により本明細書に援用される。
【0063】
活性なペプチドまたはポリペプチドを(例えば、担体内のペプチドまたはポリペプチドを破壊することなく)供給することができる任意の担体が好適な担体であり、そのような担体は当技術分野で周知である。いくつかの実施形態では、経口(例えば、錠剤、カプセル、顆粒または粉末の形態など)、舌下、頬側、非経口(皮下、静脈内、筋肉内、皮内、または胸骨内注射または注入(例えば、無菌の注射可能な水性または非水性の溶液または懸濁液などとして)、経鼻(吸入スプレーなどによる鼻膜への投与を含む)、局所(クリームや軟膏の形態で)、経皮(経皮パッチなどによる)、直腸(座薬の形態で)などを含むがこれらに限定されない任意の好適な経路によって投与するために、組成物を製剤化する。
【0064】
医薬組成物を、適正な薬学的慣行に従って、薬学的に許容される担体及び任意の賦形剤、アジュバントなどと共に製剤化された形態で投与してもよい。ペプチドベースの医薬組成物は、粉末、溶液、エリキシル、シロップ、懸濁液、クリーム、ドロップ、ペースト及びスプレーなどの固体、半固体または液体の剤形の形態であってもよい。当業者が認識するように、選択された投与経路(例えば、丸薬、注射など)に応じて、組成物の形態を決定する。一般に、活性医薬ペプチドまたはポリペプチドの容易かつ正確な投与を達成するために、単位剤形を使用することが好ましい。一般に、治療上有効な医薬化合物を、そのような剤形中に、全組成物の約0.5重量%~約99重量%の範囲の濃度レベルで、例えば、所望の単位用量を提供するのに十分な量で存在させる。いくつかの実施形態では、医薬組成物を、単回用量または複数回用量で投与してもよい。特定の投与経路及び投与計画は、治療しようとする個体の状態及び治療に対する前記個体の応答を考慮して、当業者によって決定される。いくつかの実施形態では、ペプチドまたはポリペプチド及び1つ以上の非毒性の薬学的に許容される担体、アジュバントまたはビヒクルを含むペプチドベースの医薬組成物を、対象への投与のための単位剤形で提供する。単一剤形を生成するためにそのような材料と組み合わせ得る活性成分の量は、上記のように、様々な要因に応じて変化する。薬学分野で入手可能なように、本発明の組成物中の担体、アジュバント及びビヒクルとして様々な材料を使用することができる。油性溶液、懸濁液またはエマルジョンなどの注射用製剤は、必要に応じて、当技術分野で公知のように、好適な分散剤または湿潤剤及び懸濁剤を使用して製剤化することができる。無菌の注射用製剤には、無菌の非発熱性水または1,3-ブタンジオールなどの非毒性で非経口的に許容される希釈剤または溶媒を使用してもよい。使用してもよい他の許容可能なビヒクル及び溶媒は、5%デキストロース注射、リンゲル注射、及び等張塩化ナトリウム注射である(USP/NFに記載されているように)。さらに、無菌の固定油を、溶媒または懸濁培地として従来法で用いてもよい。この目的のために、合成モノ、ジまたはトリグリセリドを含む、任意の無菌性固定油を使用してもよい。オレイン酸などの脂肪酸もまた、注射用組成物の調製において使用することができる。本明細書に開示されている実質的にαヘリックスのペプチド領域を含むペプチド及びポリペプチドを、アミド化、グリコシル化、アシル化、硫酸化、リン酸化、アセチル化、及び環化などの化学変化によってさらに誘導体化してもよい。そのような化学変化は、化学的または生化学的方法論、ならびにin vivoプロセス、またはそれらの任意の組み合わせによって付与することができる。
【0065】
本明細書に記載のペプチド及びポリペプチドを、様々な無機及び有機の酸及び塩基との塩として調製してもよい。そのような塩として、有機酸及び無機酸、例えば、HCl、HBr、H2SO4、H3PO4、トリフルオロ酢酸、酢酸、ギ酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、マレイン酸、フマル酸及びカンファースルホン酸で調製する塩が挙げられる。塩基で調製される塩として、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、例えばナトリウム塩及びカリウム塩、アルカリ土類塩、例えばカルシウム塩及びマグネシウム塩、ならびに亜鉛塩が挙げられる。塩は、生成物の遊離の酸または塩基形態を、塩が不溶性である溶媒または媒体中、または水などの溶媒中で(これはその後に真空中もしくは凍結乾燥によって、または好適なイオン交換樹脂上で既存の塩のイオンを別のイオンと交換することによって除去される)、1当量以上の適切な塩基または酸と反応させるなどの従来の手段によって形成してもよい。
【0066】
本明細書に記載のペプチド及びポリペプチドは、薬学的に許容される塩及び/またはその錯体として製剤化することができる。薬学的に許容される塩として、硫酸塩、塩酸塩、リン酸塩、スルファミン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩及びキナ酸塩を含む酸付加塩が挙げられる。薬学的に許容される塩は、塩酸、硫酸、リン酸、スルファミン酸、酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、マロン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、及びキナ酸などの酸から得ることができる。そのような塩は、例えば、生成物の遊離の酸または塩基形態を、塩が不溶性である溶媒または媒体中、または水などの溶媒中で(これはその後に真空中もしくは凍結乾燥によって、または好適なイオン交換樹脂上で既存の塩のイオンを別のイオンと交換することによって除去される)、1当量以上の適切な塩基または酸と反応させることによって調製してもよい。
【0067】
本明細書に記載のペプチド及びポリペプチドを、本開示の方法と併せて使用するための医薬組成物として製剤化してもよい。本明細書に開示する組成物を、皮下、筋肉内及び静脈内投与、鼻内投与、肺内投与を含む非経口投与、または経口投与に好適な製剤の形態で便利に提供してもよい。そのような投与経路ごとのペプチド及びポリペプチドの好適な製剤は、標準的な製剤に関する論文、例えば、E.W.MartinによるRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。Wang,Y.J.and Hanson,M.A.“Parenteral Formulations of Proteins and Peptides:Stability and Stabilizers,” Journal of Parenteral Science and Technology,Technical Report No.10,Supp.42:2S(1988)も参照のこと。
【0068】
本明細書に記載の特定のペプチド及びポリペプチドは、水に実質的に不溶であり、ほとんどの薬学的に許容されるプロトン性溶媒及び植物油にやや難溶であり得る。特定の実施形態では、シクロデキストリンを水溶性増強剤として添加してもよい。シクロデキストリンには、α-、β-、及びγ-シクロデキストリンのメチル、ジメチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシエチル、グルコシル、マルトシル及びマルトトリオシル誘導体が含まれる。例示的なシクロデキストリン溶解度向上剤は、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD)であり、これを上記組成物のいずれかに添加して、ペプチドまたはポリペプチドの水溶性特性をさらに向上させてもよい。一実施形態では、組成物は、0.1%~20%のHPBCD、1%~15%のHPBCD、または2.5%~10%のHPBCDを含む。使用する溶解度向上剤の量は、組成物中の本開示のペプチドまたはポリペプチドの量に依存する。特定の実施形態では、DMSO、ジメチルホルムアミド(DMF)またはN-メチルピロリドン(NMP)などの非水性極性非プロトン性溶媒中で、ペプチドを製剤化してもよい。
【0069】
いくつかの場合では、ペプチドまたはポリペプチド及び別の活性薬剤を、一緒に投与するために単一の組成物または溶液で提供することが好都合である。他の場合では、追加の薬剤を前記ポリペプチドとは別個に投与することがより有効であり得る。使用のために、本明細書に記載のペプチド及びポリペプチドの医薬組成物を、単回投与に有効な量のペプチドまたはポリペプチドを含有する単位剤形で提供してもよい。皮下投与に有用な単位剤形として、充填済みシリンジ及び注射器が挙げられる。
【0070】
特定の実施形態では、投与頻度に関係なく1日あたりの等価用量として表される、1日あたり50マイクログラム(「mcg」)、1日あたり60mcg、1日あたり70mcg、1日あたり75mcg、1日あたり100mcg、1日あたり150mcg、1日あたり200mcg、または1日あたり250mcgの量でポリペプチドを投与する。いくつかの実施形態では、1日あたり500mcg、1日あたり750mcg、または1日あたり1ミリグラム(「mg」)の量でポリペプチドを投与する。さらなる実施形態では、投与頻度に関係なく1日あたりの等価用量として表される、1日あたり1~10mg、1日あたり1mg、1日あたり1.5mg、1日あたり1.75mg、1日あたり2mg、1日あたり2.5mg、1日あたり3mg、1日あたり3.5mg、1日あたり4mg、1日あたり4.5mg、1日あたり5mg、1日あたり5.5mg、1日あたり6mg、1日あたり6.5mg、1日あたり7mg、1日あたり7.5mg、1日あたり8mg、1日あたり8.5mg、1日あたり9mg、1日あたり9.5mg、または1日あたり10mgの量でポリペプチドを投与する。
【0071】
様々な実施形態において、ポリペプチドを毎月の投与スケジュールで投与する。他の実施形態では、ポリペプチドを隔週で投与する。さらに他の実施形態では、ポリペプチドを毎週投与する。特定の実施形態では、ポリペプチドを毎日(「QD」)投与する。選択された実施形態では、ポリペプチドを、1日2回(「BID」)投与する。
【0072】
一般的な実施形態では、ポリペプチドを、少なくとも3か月間、少なくとも6か月間、少なくとも12か月間、またはそれ以上投与する。いくつかの実施形態では、ポリペプチドを、少なくとも18か月間、2年間、3年間、またはそれ以上投与する。
【0073】
一実施形態では、本発明の医薬組成物は、吸入投与に好適である。吸入投与に好適な医薬組成物は、一般的にはエアロゾルまたは粉末の形態である。そのような組成物は、一般に、ネブライザー吸入器、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)または類似の送達装置などの周知の送達装置を使用して投与する。
【0074】
本発明の特定の実施形態では、活性薬剤を含む医薬組成物を、ネブライザー吸入器を使用した吸入によって投与する。そのようなネブライザー装置は、一般的には、活性薬剤を含む医薬組成物を患者の気道に運ばれるミストとして噴霧させる高速空気流を生成する。したがって、ネブライザー吸入器で使用するために製剤化する場合、通常、好適な担体に活性薬剤を溶解して溶液を形成する。あるいは、活性薬剤を微粉化し、好適な担体と組み合わせて、呼吸用のサイズの微粉化粒子の懸濁液を形成することができ、その場合、微粉化は、一般的には、約90%またはそれ以上の粒子が約10μm未満の直径を有すると定義される。好適なネブライザー装置は、例えば、PARI GmbH(Starnberg,ドイツ)によって市販されている。他のネブライザー装置として、Respimat(Boehringer Ingelheim)ならびに例えば、Lloyd et al.に付与された米国特許第6,123,068号及びWO97/12687(Eicher et al.)に開示されている装置が挙げられる。
【0075】
ネブライザー吸入器で使用するための代表的な医薬組成物は、SP-Aペプチドまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物もしくは立体異性体を含む等張水溶液を含む。
【0076】
本発明の別の特定の実施形態では、活性薬剤を含む医薬組成物を、ドライパウダー吸入器を使用した吸入によって投与する。そのようなドライパウダー吸入器は、通常、吸気中に患者の気流中に分散される易流動性粉末として活性薬剤を投与する。易流動性粉末を獲得するために、活性薬剤を、通常、ラクトースまたはデンプンなどの好適な賦形剤と共に製剤化する。
【0077】
ドライパウダー吸入器で使用するための代表的な医薬組成物は、約1μm~約100μmの粒子サイズを有する乾燥ラクトース、及びSP-Aペプチドの微粉化粒子、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物もしくは立体異性体を含む。
【0078】
そのようなドライパウダー製剤は、例えば、ラクトースを活性薬剤と組み合わせ、次いで成分を乾式混合することによって作製することができる。あるいは、所望により、賦形剤なしで活性薬剤を製剤化することができる。次いで、医薬組成物を、通常、ドライパウダーディスペンサー、またはドライパウダー送達装置で使用するための吸入カートリッジまたはカプセルに充填する。
【0079】
ドライパウダー吸入送達装置の例として、Diskhaler(GlaxoSmithKline,Research Triangle Park,N.C.)(例えば、Newellらに付与された米国特許第5,035,237号を参照のこと);D.Diskus(GlaxoSmithKline)(例えば、Daviesらに付与された米国特許第6,378,519号を参照のこと);Turbuhaler(AstraZeneca,Wilmington,Del.)(例えば、Wetterlinに付与された米国特許第4,524,769号を参照のこと);Rotahaler(GlaxoSmithKline)(例えば、Hallworthらに付与された米国特許第4,353,365号を参照のこと)及びHandihaler(Boehringer Ingelheim)が挙げられる。好適なDPI装置のさらなる例は、Casperらに付与された米国特許第5,415,162号、Evansに付与された米国特許第5,239,993号、及びArmstrongらに付与された米国特許第5,715,810号、ならびにそれらの中で引用された参考文献に記載されている。
【0080】
本発明のさらに別の特定の実施形態では、活性薬剤を含む医薬組成物を、定量噴霧式吸入器を使用した吸入によって投与する。そのような定量噴霧式吸入器は、通常、圧縮噴射剤ガスを使用して、測定された量の活性薬剤またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物もしくは立体異性体を放出する。したがって、定量噴霧式吸入器を使用して投与する医薬組成物は、通常、液化噴射剤中に活性薬剤の溶液または懸濁液を含む。CCl.sub.3Fなどのクロロフルオロカーボン、ならびに1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFA134a)及び1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロ-n-プロパン(HFA227)などのハイドロフルオロアルカン(HFA)を含む、任意の好適な液化噴射剤を使用してもよい。クロロフルオロカーボンはオゾン層に影響を与えることが懸念されるため、HFAを含有する製剤が一般的に好まれる。HFA製剤の追加の任意選択の成分として、エタノールまたはペンタンなどの共溶媒、ならびにトリオレイン酸ソルビタン、オレイン酸、レシチン、及びグリセリンなどの界面活性剤が挙げられる。例えば、Purewalらに付与された米国特許第5,225,183号、EP0717987A2(Minnesota Mining and Manufacturing Company)、及びWO92/22286(Minnesota Mining and Manufacturing Company)を参照のこと。
【0081】
定量噴霧吸入器で使用するための代表的な医薬組成物は、約0.01重量%~約5重量%のSP-Aペプチドの化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物もしくは立体異性体;約0重量%~約20重量%のエタノール;及び約0重量%~約5重量%の界面活性剤を含み;残部はHFA噴射剤である。
【0082】
そのような組成物は、通常、活性薬剤、エタノール(存在する場合)及び界面活性剤(存在する場合)を含有する好適な容器に冷却または加圧ヒドロフルオロアルカンを添加することによって調製される。懸濁液を調製するには、活性薬剤を微粉化し、次いで噴射剤と混合する。次いで、製剤を、定量噴霧式吸入装置の一部を形成するエアロゾルキャニスター内に充填する。HFA噴射剤と共に使用するために特別に開発された定量噴霧式吸入器の例は、Mareckiに付与された米国特許第6,006,745号及びAshurstらに付与された米国特許第6,143,277号に提供されている。あるいは、活性薬剤の微粉化粒子上の界面活性剤のコーティングを噴霧乾燥することによって、懸濁製剤を調製することができる。例えば、WO99/53901(Glaxo Group Ltd.)及びWO00/61108(Glaxo Group Ltd.)を参照のこと。
【0083】
呼吸用の粒子を調製するプロセスの追加の例、ならびに吸入投与に好適な製剤及び装置については、Gaoらに付与された米国特許第6,268,533号、Trofastに付与された米国特許第5,983,956号、Briggnerらに付与された米国特許第5,874,063号、及びJakupovicらに付与された米国特許第6,221,398号;ならびにWO99/55319(Glaxo Group Ltd.)及びWO00/30614(AstraZeneca AB)を参照のこと。
【0084】
いくつかの実施形態では、ペプチド/ポリペプチドを、医薬組成物中で提供し、及び/または1つ以上の追加の治療剤と(同時にまたは連続して)共投与する。そのような追加の薬剤は、肺の炎症(例えば、喘息)の治療または予防のためのものであってもよい。追加の薬剤として:短時間作用型β2アドレナリンアゴニスト(SABA)、例えば、サルブタモール(アルブテロール USAN);抗コリン作用薬、例えば、臭化イプラトロピウム、吸入エピネフリン、吸入または全身コルチコステロイド;ロイコトリエン受容体アンタゴニスト(例えば、モンテルカスト及びザフィルルカスト);及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
いくつかの実施形態では、本明細書において、肺疾患(例えば、喘息)に罹患しており(またはそのリスクがあり)、及び/または治療(または予防療法)を必要としている患者を治療するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、対象は、肥満であるか、または肥満ではない。いくつかの実施形態では、対象は、喘息または重度の喘息のリスク増加に関連するSP-A遺伝子型(例えば、本明細書に記載の遺伝子型)を有すると特定される。
【0086】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の少なくとも1つのSP-Aペプチドまたはポリペプチドを含む医薬組成物を、その病態を治療するのに十分な量及び場所でそのような患者に送達する。いくつかの実施形態では、ペプチド及び/またはポリペプチド(またはそれを含む医薬組成物)を、全身的または局所的に患者に送達することができ、治療のための最も適切な送達経路、時間経過、及び用量を確認することは、そのような患者を治療する医療専門家の通常の技術の範囲内である。患者を治療する適用方法は、最も好ましくは、そのような症状を実質的に緩和するか、さらには排除することが理解され;しかしながら、多くの医学的治療と同様に、本発明の方法の適用は、本発明の方法の適用中、適用後、またはその結果として、患者における疾患または障害の症状が確認可能な程度まで治まる場合に成功したと見なされる。
【0087】
本開示は、喘息の治療に限定されない。当技術分野で公知であるか、または本明細書で企図されている炎症状態は、現在開示され請求されている発明概念(複数可)に従って治療してもよい。関連する炎症を有する疾患状態の非限定的な例として、肺における感染関連性または非感染性炎症状態(例えば、喘息、敗血症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺感染症、呼吸窮迫症候群、気管支肺異形成症など);他の臓器における感染関連性または非感染性炎症状態(例えば、大腸炎、炎症性腸疾患、糖尿病性腎症、出血性ショック);炎症誘発性がん(すなわち、大腸炎または炎症性腸疾患の患者におけるがんの進行)などが挙げられる。
[実施例]
実施例I.
本実施例は、実施例IIで利用した材料及び方法を説明する。
【0088】
好酸球の分離
IL-5トランスジェニックマウスを安楽死させ、左心室から心臓穿刺によって血液を採取した。赤血球(RBC)を、赤血球溶解溶液(Miltenyi Biotec,Auburn CA)を使用して溶解した。前述のように、ビオチン結合抗体(CD45R、Thy1.2、F4/80)及び磁気ビーズを使用したネガティブ選択によって好酸球を分離した(Dy,A.B.C.,et al.,2019 J Immunol 203:1122-1130;Ledford,J.G,et al.,2012 PLoS One 7:e32436を参照のこと)。Easy III(商標)rapid differential stainingキット(Azer Scientific,Morgantown PA)で染色した細胞遠心分離スライドの標準的な形態計測分析を使用して、各調製物の純度が95%を上回ることを確認した。
【0089】
全長SP-A由来の10及び20アミノ酸ペプチドの生成
10mer及び20merのアミノ酸ペプチドをカスタム合成し(Genscript Biotech Corporation,Piscataway NJ)、それぞれ98.8%及び98.0%の純度であることを確認した。凍結乾燥した10merペプチドの各バイアルを、滅菌濾過したPBS(Gibco,Gaithersburg MD)を使用して初期濃度2mg/mlに再構成し、一方、凍結乾燥した20merペプチドの各バイアルを、分子生物学グレードのH2O(Corning,Tewksbury MA)を使用して初期濃度2mg/mlに再構成した。溶媒の選択は、Genscriptから提供された溶解度レポートに基づいた。
【0090】
ペプチド模倣物の生成
Ligand Discovery Laboratory(The University of Arizona,Tucson AZ)において、ペプチド模倣物を固相法によって合成した。ペプチド模倣物は、安定性とバイオアベイラビリティが向上した成熟SP-A活性部位(KEQCVEMYTD)を模倣する低分子誘導体になるように設計した。生成物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって精製し、その構造を核磁気共鳴(NMR)分光法及び液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)によって分析した。凍結乾燥ペプチド模倣物の各バイアルを、分子生物学グレードのH2O(Corning,Tewksbury MA)及び最大最終濃度10mM DMSO(Sigma,St.Louis MO)を使用して再構成し、初期濃度1mg/mlとした。
【0091】
リアルタイムインピーダンストレースによる好酸球細胞傷害性の評価
前述のように、xCELLigence Real-Time Cell Analyzer(ACEA Biosciences,San Diego CA)を使用して電気インピーダンスを測定することによって、好酸球細胞死のハイスループット リアルタイム モニタリングを評価した(Dy,A.B.C.,et al.,2019 J Immunol 203:1122-1130;Flynn,A.N.,et al.,FASEB J 27:1498-1510;Zeng,C.,et al.,Environ Res 164:452-458を参照のこと)。37℃、5%CO2でインキュベートした96ウェル金電極コーティングプレート(Eプレート,ACEA Biosciences)を使用して、最初のバックグラウンドの読み取り値を、培地のみを用いて取得した。総量100μlに、好酸球を1×106細胞/ウェルを播種し、約5時間静置した。被験化合物を様々な濃度(1、3、10、及び30μg/ml)で加え、電気インピーダンスの変化を経時的に測定した。インピーダンス測定値を計算し、正規化された細胞指数として提示し(Flynn,A.N.,et al.,FASEB J 27:1498-1510;Zeng,C.,et al.,Environ Res 164:452-458を参照のこと)、その場合、細胞指数の減少は、好酸球内の細胞傷害性の増加に対応する。経時的なインピーダンス追跡は、3~4回の技術的再現の平均から取得した。細胞傷害性を定量化して比較するために、細胞指数値を使用して曲線下面積(AUC)を計算した。各ペプチド模倣物について、モル当量濃度とそれに対応する用量反応曲線を使用して、半数効果濃度(EC50)値を生成した。
【0092】
統計解析
GraphPad Prismソフトウェアを用いて、すべての統計解析を行った。一元配置分散分析を使用して、サンプル間の全体的な差異を評価した後、多重比較するために、ボンフェローニ補正を使用した多重t検定を実施した。
【0093】
実施例II.
SP-A由来ペプチドの細胞傷害効果は、全長SP-Aと比較して低かった
最初に、これらの10及び20アミノ酸ペプチド(10mer及び20mer)が好酸球の生存率に及ぼす直接的な影響をRTCAによって評価した。以前の結果(Dy,A.B.C,et al.,2019 J Immunol 203:1122-1130を参照のこと)と同様に、全長SP-Aは用量依存的に好酸球細胞死を誘導し、その場合、30μg/mlのSP-Aの添加により、-13.89の平均AUCに対応する細胞指数の減少がもたらされた(
図2A、2B)。好酸球への10及び20merのSP-A由来ペプチドの添加もまた、負のAUC値によって示されるように、細胞死の増加をもたらした。30μg/mlのペプチド濃度に対応する最も高いAUCの大きさの平均は、それぞれ、-2.62及び-3.50であった(
図2D、2F)。正規化された細胞指数トレーシングは、10merと20merの両方について、増加傾向によって示されるペプチド活性の低下を、24時間後に示した(
図2C、2E)。
【0094】
2つの候補ペプチド模倣物は、3μg/mlでSP-Aの細胞傷害効果を模倣した。
【0095】
SP-A由来ペプチドの安定性を向上させるために、試験用にペプチド模倣物を合成した。最初にスクリーニングされた14のペプチド模倣物があった。ペプチド模倣物856、867、868、870、及び871は、元の10merの天然ペプチド残基から、C末端へのアミンまたは酸基の付加、及びN末端へのアセチル化またはヒスチジンの付加により修飾された(表1)。ペプチド模倣物882、883、884、891、892、893、及び894は、元の10merの天然ペプチド残基からの単一のアミノ酸置換によって修飾された(表1)。ペプチド模倣物888は、SP-A2の位置181~203に対応する23アミノ酸配列であり、一方、ペプチド模倣物889は、SP-A2の位置175~195に対応する20アミノ酸配列である(表1)。ペプチド模倣物の配列及び対応する分子量を表1にまとめる。
【0096】
【0097】
図1と同じアプローチを使用して、正規化された細胞指数と計算したAUCの平均を示す(
図3、4)。
図3のペプチド模倣物に使用される質量濃度範囲は、全長SP-Aと10mer及び20merペプチドの両方が活性であることが判明した範囲である(
図2を参照のこと)。しかしながら、全長SP-Aと様々なペプチド配列の長さのサイズの違いを説明するために、全長SP-Aが活性であることが判明したモル当量濃度範囲をその後のスクリーニング分析で使用した(
図4)。ペプチド模倣物867及び868は、AUCで測定されるように、3μg/mlにおいて好酸球に対して最もロバストな細胞傷害効果を示した(
図3A、2B)。
【0098】
リードペプチド模倣物の計算された半数効果濃度(EC50)は、天然の10mer及び20merペプチドよりも低かった
全長SP-Aは、ペプチド及びペプチド模倣物の両方と比較して、はるかに大きな分子である。試験した化合物のサイズの不一致により、用量反応曲線を適切に比較できるようにするために、すべての化合物のモル濃度をそれぞれの分子量に基づいて計算した(表1)。全長SP-AのEC50は、0.158μMであった(表2)。驚くべきことに、試験したすべてのペプチド模倣物のEC50値は、10mer及び20merペプチドの両方より低く、892及び894は、それぞれ0.008及び0.012μMで2つの最低値を示した(表2)。
【0099】
【0100】
考察
近年、SP-Aには好酸球のアポトーシスを促進する能力があり、このメカニズムがアレルギーチャレンジ実験後の肺腔内の好酸球のクリアランスに寄与していることが示された(Dy,A.B.C.,et al.,2019 J Immunol 203:1122-1130を参照のこと)。SP-Aのこの活性は、SP-A2の223位のグルタミンがリジンに置換される遺伝的変異によって変化したことも示された。このことは、好酸球のアポトーシスを促進するSP-A内の活性部位がこの領域内にあることを示唆しており、さらなる調査の動機付けとなった。第一に、生物活性を維持しながら安定性を向上させることを目的として、このSP-A領域のペプチド(10mer及び20mer)ならびにペプチド模倣物を合成した。第二に、全長SP-Aと同様に好酸球細胞死を促進する能力について、これらの合成した小分子を試験した。
【0101】
本明細書中で実施した実験は、合成した小分子の多くが好酸球細胞死を誘導することができたことを示している。全長SP-Aは陽性対照として機能し、RTCAで測定した好酸球生存率の予想される用量依存的な減少が観察された。さらに、正規化された細胞指数のトレースは、全体的な減少傾向を示しており、48時間にわたって一貫して継続的な細胞死を誘発する効果が示唆される。SP-A由来の10mer及び20merペプチドは、同様に好酸球細胞死を誘導することができた。しかしながら、全長SP-Aと各濃度のこれらのペプチドを比較すると、計算されたAUCの大きさによって示される、ペプチドによって誘導される細胞死の程度は、全長SP-Aよりも少なかった。30μg/mlでのペプチドのAUC値は、3μg/mlの全長SP-Aを加えた場合のAUCと同等であった。さらに、10mer及び20merの正規化された細胞指数のトレースは、全長SP-Aと比較してロバスト性の低いペプチド活性を示唆しており、これは、in vivo条件での機能が限定的であることの指標であり得る。
【0102】
これらの結果を考慮して、次に、この潜在的な問題に対処するためにペプチド模倣物を合成することを選択する実験を実施した。これまでにスクリーニングされた14のペプチド模倣物のうち、いくつかのペプチド模倣物は、さらに評価される有望な結果をもたらした。各用量でのAUCの大きさに基づくと、867と868は全長SP-Aに対して最も同等の反応を示し、3μg/mlでのそのAUCは、全長SP-Aの30μg/mlでのAUCと同等である(表3を参照のこと)。全長SP-Aと合成分子の間の分子サイズの大きな違いにより、効力の重要な指標である半数効果濃度(EC50)の計算は、モル当量濃度に基づいた。ペプチド模倣物892及び894は、それぞれ0.008μM及び0.012μMで、14の候補分子の2つの最も低いEC50を有していた(表3を参照のこと)。しかしながら、EC50が低いにもかかわらず、これらのペプチド模倣物の計算されたAUCの大きさは、全長SP-A、10mer及び20merペプチド、ならびにいくつかのペプチド模倣物と比較してはるかに小さい(表3を参照のこと)。これは、ペプチド模倣物892及び894が好酸球に対してある程度の細胞傷害性を発揮するのに低濃度しか必要とされないが、その効果はそれほどロバストではないことを示唆している。
【0103】
まとめると、好酸球に対する全長SP-Aの細胞傷害活性を再現する候補ペプチド模倣物を同定することが目標であったため、効力の尺度としてEC50値を導出することが重要であっただけでなく、有効性の指標として細胞指数の変化の大きさを比較することも同様に不可欠であった。したがって、4つのリードペプチド模倣物(表3の867、868、892及び894)を同定した。
【0104】
要約すると、本明細書中で実施した実験は、アポトーシス促進活性に関与するSP-Aの活性領域に由来する小分子が、好酸球に対して同様の効果を誘発することができるというエビデンスを提供する。今後の前臨床研究には、候補ペプチド模倣物のさらなる最適化、フローサイトメトリーによるヒト好酸球を使用したin vitro実験での検証、及び喘息の動物モデルを使用したin vivoレスキュー実験が含まれる。
【0105】
【0106】
参照による援用
本明細書で言及される特許文書及び科学論文のそれぞれの開示全体が、あらゆる目的のために参照により援用される。
【0107】
等価物
本発明は、趣旨またはその本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で実施され得る。したがって、前述の実施形態は、本明細書に記載の本発明を限定するのではなく、あらゆる点で例示と見なされるべきである。したがって、本発明の範囲は、前述の説明ではなく添付の特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲の等価の意味及び範囲内にあるすべての変更が、そこに包含されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【
図1】喘息のin vivoマウスモデルにおけるSP-A由来10mer天然ペプチドの評価。A)HDMアレルゲンチャレンジ実験の概略図。B)最終的なHDMチャレンジの6日後の野生型マウスのメタコリンチャレンジ中のニュートン抵抗(Rn)。C)PASスコアリングによるBAL(左パネル)及びムチン産生(右パネル)の総好酸球数。独立t検定、
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図2-1】好酸球に対する全長SP-A及び天然ペプチドの細胞傷害効果のRTCAによる評価。各用量について正規化した細胞指数及び算出した曲線下面積を、SP-A(A~B)、20merペプチド(C~D)、及び10merペプチド(E~F)について示す。
【
図3A-1】好酸球に対する候補ペプチド模倣物の細胞傷害効果の、質量濃度を用いたRTCAによる評価。各用量について正規化した細胞指数を、856、867、868、870、871、882、883、及び884について示す。
【
図3B】好酸球に対する候補ペプチド模倣物の細胞傷害効果の、質量濃度を用いたRTCAによる評価。各用量について算出した曲線下面積を、856、867、868、870、871、882、883、及び884について示す。
【
図4A-1】好酸球に対する候補ペプチド模倣物の細胞傷害効果の、モル濃度を用いたRTCAによる評価。各用量について正規化した細胞指数を、888、889、891、892、893、及び894について示す。
【
図4B】好酸球に対する候補ペプチド模倣物の細胞傷害効果の、モル濃度を用いたRTCAによる評価。各用量について算出した曲線下面積を、888、889、891、892、893、及び894について示す。
【配列表】
【国際調査報告】