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特表2023-521421ミネラルウール用バインダーおよび硬化性樹脂
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-24
(54)【発明の名称】ミネラルウール用バインダーおよび硬化性樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08L 3/02 20060101AFI20230517BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20230517BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20230517BHJP
   C08K 5/541 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C08L3/02
C08K5/092
C08K5/053
C08K5/541
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562148
(86)(22)【出願日】2021-04-13
(85)【翻訳文提出日】2022-12-06
(86)【国際出願番号】 EP2021059553
(87)【国際公開番号】W WO2021209446
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】20169924.6
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518267665
【氏名又は名称】ウルサ インスレティオン ソシエダッド アノニマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】カサド ドミンゲス アルトゥーロ ルイス
(72)【発明者】
【氏名】オルティス アルバレス アルバ マリア
(72)【発明者】
【氏名】アスナール エシーハ アナ
(72)【発明者】
【氏名】モリネロ アレナス アレハンドロ
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB041
4J002EC047
4J002EC057
4J002EF066
4J002EF076
4J002EF126
4J002EX068
4J002FD146
4J002FD147
4J002FD148
4J002GH01
4J002GH02
4J002HA06
(57)【要約】
硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂の実施形態、および硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂の製造方法が本明細書で提供される。硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂は、水性分散液の形態で提供される。硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂は、成分(a)還元糖、成分(b)ポリカルボン酸、成分(c)1000g/mol未満の分子量を有する1種以上のポリオール、および成分(d)エポキシシランを含む。硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂中の成分(c)の総量は、成分(a)および(b)の合計に対して0.5~10重量%である。成分(d)の量は、成分(a)および(b)の合計に対して0.1重量%~2重量%である。さらに、本開示の実施形態の1つによる硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂の製造方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性分散液の形態で下記成分を含む硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂:
成分(a)還元糖、
成分(b)ポリカルボン酸、
成分(c)1000g/mol未満の分子量を有する1種以上のポリオール、および
成分(d)エポキシシラン、
ここで、硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂中の成分(c)の総量は、成分(a)および(b)の合計に対して0.5~10重量%であり、成分(d)の量は、成分(a)および(b)の合計に対して0.1重量%~2重量%である。
【請求項2】
成分(a)が、単糖類、オリゴ糖類、多糖類およびそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。
【請求項3】
成分(a)がデキストリン、好ましくは11~21のDEを有するマルトデキストリンである、請求項1または2に記載の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。
【請求項4】
成分(b)がクエン酸、コハク酸、酒石酸、アジピン酸、それらの無水物および塩、ならびにそれらの組み合わせから選択され、好ましくは、ポリカルボン酸がクエン酸である、請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。
【請求項5】
成分(a)が17~19のDEを有するマルトデキストリンであり、成分(b)がクエン酸である、請求項1~4のいずれか1項に記載の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。
【請求項6】
50~80重量%のマルトデキストリンおよび20~50重量%のクエン酸、好ましくは60~70重量%のマルトデキストリンおよび25~40重量%のクエン酸を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。
【請求項7】
成分(c)が、エチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメチロールプロパン、プロピレングリコール、ポリ(エチレン)グリコールおよびそれらの組み合わせから選択され、好ましくはポリオールがエチレングリコールである、請求項1~6のいずれか1項に記載の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。
【請求項8】
硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂中の成分(c)の総量が、成分(a)および(b)の合計に対して1~6重量%であり、好ましくは2~5重量%であり、より好ましくは3~4重量%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。
【請求項9】
硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂中の成分(c)の総量が、成分(a)および(b)の合計に対して1~2重量%である、請求項1~8のいずれか1項に記載の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。
【請求項10】
成分(d)の量が、成分(a)および(b)の合計に対して0.1重量%以上2重量%未満、好ましくは0.2重量%~1.5重量%、または0.4重量%~1重量%、より好ましくは0.5重量%~0.8重量%である、請求項1~9のいずれか1項に記載の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。
【請求項11】
成分(d)の量が、成分(a)および(b)の合計に対して0.2~0.5重量%である、請求項1~10のいずれか1項に記載の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。
【請求項12】
前記樹脂が下記成分を含む、請求項1に記載の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂:
成分(a)17~19のDEを有する60~70重量%のマルトデキストリン、
成分(b)25~40重量%のクエン酸、
成分(c)エチレングリコール、および
成分(d)エポキシシラン、
ここで、エチレングリコールの量は、マルトデキストリンおよびクエン酸の合計に対して0.5~2重量%であり、エポキシシランの量は、マルトデキストリンおよびクエン酸の合計に対して0.5重量%以上2重量%未満である。
【請求項13】
成分(c)および成分(d)を予備混合する工程を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂の製造方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂を含むミネラルウール用バインダー。
【請求項15】
ミネラル繊維と硬化バインダーとを含むミネラルウール製品であって、硬化バインダーが、100℃より高い温度で請求項14に記載のバインダーを硬化させて得たものである、ミネラルウール製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに記載する実施形態は、水性分散液の形態の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂、および硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミネラルウール製品は、建物、輸送手段、その他の機器のさまざまな部分の断熱や防音だけでなく、防火にも広く使用されている。ミネラルウール材料は主に、様々な長さのミネラル繊維のランダムに絡み合った塊であり、通常、樹脂ベースのバインダーによって結合される。ガラス、石またはスラグの3つのタイプのミネラル材料が最も一般的に使用される。ミネラルウールは、例えば硬化バインダーを使用するなど、様々な手段によって交差点で結合され得る繊維の複雑なネットワークによって形成される。ミネラルウール製品の製造方法は当該技術分野において周知であり、通常、ミネラル材料を適切な温度に溶融する工程、溶融混合物を細かい繊維に繊維化する工程、バインダー組成物を個々の繊維に適用(例えば、噴霧)する工程、繊維を収集し、有孔コンベア上に一次フリースを形成する工程、フリースを高密度化する工程、および高温でバインダーを硬化する工程を含む。次いで、硬化したマットは、輸送のために包装される前に、横断トリマーおよび縁部トリマーを用いて所望のサイズに切断され、任意選択的に巻き上げられる。
【0003】
ミネラルウール中の繊維を結合するために使用されるバインダーの種類および量は、製造されるミネラルウールの最終特性において重要な役割を果たす。メラミン尿素ホルムアルデヒド樹脂、フラン系樹脂などに基づくバインダーを含む様々なバインダーシステムが当技術分野で記載されているが、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂系バインダーはそれらの良好な性能および魅力的な低コストのため、非常に長い間好まれている。
【0004】
しかしながら、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂系バインダーを用いて製造された製品から放出されるホルムアルデヒドに関する環境的および毒物学的懸念により、ミネラルウール産業において、そのような樹脂の使用を低減または完全に排除する、またはそれらが含有する超過ホルムアルデヒドの量を低減する動きがある。
【0005】
これに関して、ホルムアルデヒド放出をゼロに低減すると主張されている、様々なホルムアルデヒドフリー樹脂が当技術分野において記載されている。これらの代替樹脂のいくつかの例示的な例は、(a)カルボキシル化ポリマー(例えば、アクリルコポリマー)と低分子量多官能性アルコールとの間のエステル化反応に基づく樹脂、(B)架橋剤としての低分子量ポリ酸と反応した再生可能炭水化物材料を使用した樹脂、および(c)還元糖と酸前駆体と窒素源との間のメイラード反応に基づく樹脂であり、(d)デンプンとその誘導体も、低コストで入手可能であるため、ホルムアルデヒドフリー樹脂系バインダー組成物の再生可能成分として探求されている。
【0006】
例えば、バインダーは、国際公開第2015/132518号A1、国際公開第2015/144843号A1、欧州特許出願公開第3148951号A1明細書、国際公開第2009/080938号A2、および国際公開第2013/021112号A1から公知である。
【0007】
当技術分野で以前に記載されたホルムアルデヒドフリー樹脂は、様々な欠点を有する。多くのホルムアルデヒドフリー樹脂は、特に湿潤条件下で、機械的性質が不十分である(すなわち、劣化に対する耐性が低い)。ホルムアルデヒドフリー樹脂を断熱製品中に使用する目的では、耐候性および良好な経時変化性が非常に重要な要素となる。いくつかの従来のホルムアルデヒドフリー樹脂のさらなる欠点には、冷水中での低い溶解度、その分散液の不安定性、可溶化後(例えば、ゼラチン化、加水分解などの後)に得られる溶液の望ましくない高い粘度、および高い製造コストなどが挙げられる。
【発明の概要】
【0008】
発明の詳細な説明および好ましい実施形態
簡潔に述べると、硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂、および硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂の製造方法は、従来技術のホルムアルデヒドフリー樹脂の上述した制限の少なくともいくつかを克服するために提供される。この目的は、請求項1に記載の樹脂および請求項13に記載の樹脂の製法によって達成される。
【0009】
一実施形態によれば、水性分散液の形態の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂が提供される。硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂は、成分(a)還元糖、成分(b)ポリカルボン酸、成分(c)1000g/mol未満の分子量を有する1種以上のポリオール、および成分(d)エポキシシランを含む。硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂中の成分(c)の総量は、成分(a)および(b)の合計に対して0.5~10重量%である。成分(d)の量は、成分(a)および(b)の合計に対して0.1重量%~2重量%である。
【0010】
本開示による樹脂は「硬化性」であり、従って、高温の加熱温度に供されると硬化する。例えば、本発明の樹脂は、硬化オーブン内で100℃を超える温度で硬化させることができる。硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂がミネラルウールのためのバインダーとして機能するために、硬化工程が意図される。理論に縛られる意図はないが、成分(a)の還元糖と成分(b)のポリカルボン酸とのエステル化反応は硬化中に起こると考えられる。さらに、本発明の樹脂はまた、ポリカルボン酸の複数のカルボキシル基(成分(b))と、還元糖(成分(a))中および/または1種以上のポリオール(成分(c))中の複数のヒドロキシル基との間の架橋反応によって硬化し得るとも考えられる。加えておよび/または代替として、他の硬化機構が、成分間の化学的または物理的相互作用に基づいて生じてもよい。
【0011】
本開示による「ホルムアルデヒドフリー」とは、樹脂がホルムアルデヒドを含まないまたは本質的に含まない、および、樹脂からまたは樹脂を硬化させることによってバインダーもしくは樹脂を含むミネラルウール製品から、ホルムアルデヒドが放出されないまたは本質的に放出されない、というように理解されるものである。「ホルムアルデヒドを本質的に含まない」とは、ホルムアルデヒドフリー樹脂中のホルムアルデヒド濃度が、(a)、(b)、(c)および(d)の樹脂成分の重量の合計に対して0.1重量%未満、より好ましくは0.01重量%未満、さらにはホルムアルデヒドの検出可能な限界未満、さらにより好ましくはゼロであることを意味する。
【0012】
本開示による硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂の成分(a)、(b)、(c)および(d)は、樹脂中のこの種の成分を全て含有し、すなわち、樹脂中に含有される全ての還元糖が成分(a)に含有され、樹脂中に含有される全てのポリカルボン酸が成分(b)に含有され、樹脂中に含有される全てのポリオールが成分(c)に含有され、樹脂中に含有される全てのエポキシシランが成分(d)に含有される。
【0013】
成分(a)は、単糖類、オリゴ糖類、多糖類およびそれらの混合物から選択され得る。典型的には、成分(a)は、様々な糖類の混合物、特に単糖類、オリゴ糖類および多糖類の混合物である。一実施形態によれば、成分(a)は、デキストリン、好ましくはマルトデキストリンである。成分(a)のデキストロース当量(DE)は、11~21、好ましくは12~20、より好ましくは14~19、さらにより好ましくは15~17であってよい。好ましい実施形態では、デキストロース当量は17~21である。別の好ましい実施形態では、デキストロース当量は11~15である。より好ましい実施形態では、デキストロース当量は約12または19である。
【0014】
デキストロース当量を決定するための適切な方法は、当技術分野において周知である。特に、本開示において言及されるデキストロース当量値は、全て、ISO規格5377-1994に従って測定された。この規格は、デンプン加水分解生成物中の還元力およびデキストロース当量を決定するためのレイン・エイノン滴定法を規定する。
【0015】
特定の実施形態では、成分(a)は、11~21のDE、好ましくは11~15または17~19のDEを有するマルトデキストリンである。
【0016】
典型的には、硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂は、成分(a)、特にマルトデキストリンを50~80重量%の範囲で含む。一実施形態によれば、硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂は、成分(a)、特にマルトデキストリンを60重量%~70重量%の範囲で含む。
【0017】
本明細書に開示された重量パーセントは、別段の言及がない限り、重量%での相対比として示される。いくつかの実施形態では、すべての成分の合計は100%を上回ってもよい。多くの例において、相対重量パーセントは、比較を容易にするために、成分(a)および(b)の合計が100%に対応するように特定される。本明細書および特許請求の範囲を通して、成分(a)~(d)および他の任意の成分について与えられる重量パーセントは、例えばそれらの市販の形態で含有し得る任意の不純物、水または溶媒を除いて、それらの純粋な形態の化合物について示される。
【0018】
典型的には、成分(b)は、飽和脂肪族ポリカルボン酸またはその無水物もしくは塩である。例示的に、成分(b)は、モノマーポリカルボン酸であってもよい。モノマーポリカルボン酸は、ジカルボン酸またはトリカルボン酸であってもよい。特定の実施形態では、ポリカルボン酸は、少なくとも1個の炭素原子によって分離された少なくとも2個のカルボキシル基を含むC3~C10ポリカルボン酸である。適切な酸としては、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、酒石酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、クエン酸、それらの無水物および塩、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。特定の実施形態では、成分(b)は、クエン酸、コハク酸、酒石酸、アジピン酸、それらの無水物および塩から選択され得る。成分(b)はまた、クエン酸、コハク酸、酒石酸、アジピン酸、それらの無水物および塩のいずれかの組み合わせであってもよい。一実施形態によれば、ポリカルボン酸はクエン酸である。
【0019】
特定の一実施形態では、硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂は、成分(a)がマルトデキストリンであり、成分(b)がクエン酸であることを特徴とする。好ましくは、硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂は、成分(a)が17~19のDEを有するか、または11~15のDEを有するマルトデキストリンであり、成分(b)がクエン酸であることを特徴とする。
【0020】
一実施形態によれば、硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂は、成分(b)、特にクエン酸を、20重量%~50重量%の範囲で、場合により25重量%~40重量%の範囲で含む。
【0021】
特定の実施形態では、硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂は、50~80重量%のマルトデキストリンおよび20~50重量%のクエン酸、好ましくは60~70重量%のマルトデキストリンおよび25~40重量%のクエン酸を含む。
【0022】
本明細書に記載のポリオールは、少なくとも2つのヒドロキシル基を含有する有機化合物である。糖、特に還元糖は、当業者にとって一般的な知識であるように、(複数のヒドロキシル基を含むが)本開示におけるポリオールではない。一方、糖、例えばソルビトールから一般に誘導される糖アルコール(または水素化糖)は、本開示におけるポリオールとみなされ得る。本出願のホルムアルデヒドフリー樹脂中のポリオールは、架橋度を向上させるための作用物質として作用すると考えられる。
【0023】
好ましい実施形態において、ポリオールは、数個のヒドロキシル基および限られた炭素鎖長を有する。1種以上のポリオールのそれぞれは、1000g/mol未満、好ましくは500g/mol未満、さらにより好ましくは300g/mol未満の分子量を有する。一実施形態では、1種以上のポリオールは、5個以下のヒドロキシル基、好ましくは4個以下のヒドロキシル基、より好ましくは3個のヒドロキシル基を含有する。別の実施形態において、1種以上のポリオールは、丁度2つのヒドロキシル基を含有する。
【0024】
特定の実施形態では本発明のホルムアルデヒドフリー樹脂中のポリオール、すなわち成分(c)は、アルキレングリコールである。本発明の文脈において、アルキレングリコールは、2つの異なる炭素原子に2つのヒドロキシル基を有する有機ジオールとして理解される。好ましくは、ヒドロキシル基を有する炭素原子は隣接している。それらは、エチレングリコールから誘導されたアルコールとして記載することもできる。アルキレングリコールという用語は、本明細書で使用される場合、エチレングリコールの縮合によって得られるジオールも含み、そこでは、ヒドロキシル基は、隣接していない炭素原子に位置する。好ましいアルキレングリコールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール(1,3-プロパンジオール)、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールおよびポリエチレングリコールである。より好ましくは、アルキレングリコールは、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびそれらの混合物から選択される。さらにより好ましくは、アルキレングリコールは、エチレングリコールである。
【0025】
好ましい実施形態では本発明のホルムアルデヒドフリー樹脂中のポリオール、すなわち成分(c)は、エチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメチロールプロパン、プロピレングリコール、ポリ(エチレン)グリコールおよびそれらの組み合わせから選択される。本発明による適切なポリ(エチレングリコール)は、1000g/mol未満の分子量を有するもの、例えばPEG-200、PEG-300、PEG-400、PEG-600などである。より好ましくは、ポリオールは、エチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセロール、トリグリセロール、トリエタノールアミン、トリメチロールプロパン、プロピレングリコール、ポリ(エチレン)グリコールおよびそれらの組み合わせから選択される。一実施形態では、1種以上のポリオールはエチレングリコールである。
【0026】
硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂中の成分(c)の総量は、成分(a)および(b)の合計に対して0.5~10重量%である。驚くべきことに、本発明者らは、ポリオールの総量が成分(a)および(b)の合計に対して10重量%を超えると、硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂の機械的性質、例えば最大荷重値、すなわち歪み-応力曲線の最大機械的結合強度または最大勾配値が劇的に低下することを見出した。したがって、硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂中のポリオールの総量は、成分(a)および(b)の合計に対して10重量%以下であるべきである。
【0027】
一実施形態では、硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂中の成分(c)の総量は、成分(a)および(b)の合計に対して1~6重量%、好ましくは2~5重量%、より好ましくは3~4重量%である。あるいは、硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂中の成分(c)の総量は、成分(a)および(b)の合計に対して1~2重量%である。1~2%の範囲は、特に高い耐候性および良好な経時変化性を示す。
【0028】
好ましい実施形態において、エポキシシランは、アルコキシ-エポキシ-シラン、特に、トリ-メトキシ-エポキシ-シラン、トリ-エトキシ-エポキシ-シラン、イソプロポキシ-エポキシ-シラン、tert-ブトキシ-エポキシ-シラン、ジ-メトキシ-エポキシ-シランまたはジ-エトキシ-エポキシ-シランから選択されるアルコキシ-エポキシ-シランである。例示的には、成分(d)は、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシメチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシメチルトリエトキシシラン、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0029】
成分(d)の量は、成分(a)および(b)の合計に対して0.1重量%~2重量%である。好ましくは、成分(d)の量は、成分(a)および(b)の合計に対して0.1重量%以上2重量%未満である。より好ましい実施形態において、成分(d)の量は、成分(a)および(b)の合計に対して0.2重量%~1.9重量%、または0.3重量%~1.8重量%である。他の好ましい実施形態において、成分(d)の量は、成分(a)および(b)の合計に対して0.2重量%~1.5重量%、または0.4重量%~1重量%、より好ましくは0.5重量%~0.8重量%である。典型的には、成分(d)の量は、成分(a)および(b)の合計に対して、0.4重量%~1.7重量%、または0.6~1.3重量%、より好ましくは0.7~1.1重量%、または0.8~1重量%である。あるいは、成分(d)の量は、成分(a)および(b)の合計に対して0.2重量%~0.5重量%であってもよい。0.2重量%~0.5重量%の範囲は、乾燥条件下で硬化性樹脂の特に高い機械的強度を必要とする用途に有利であり得る。
【0030】
エポキシシラン(成分(d))のエポキシ基は水性環境中で開き、結果として、樹脂中で架橋剤として作用することができるヒドロキシル基を含むシランが得られる。さらに、成分(d)がアルコキシ-エポキシ-シランである場合、アルコキシ-エポキシ-シランのアルコキシ基は、水性媒体と接触して、ミネラルウールの官能基、例えばガラス繊維のシラノール基と反応することができるヒドロキシル基に加水分解される。
【0031】
エポキシシランは、硬化工程における有機樹脂と無機ミネラルウールとの間の接着を改善し、すなわち「カップリング剤」として作用する。そのようなカップリング剤を提供することは当技術分野において公知であるが、先行技術の樹脂は主にアミノシランをベースとする。アミノシランはかなり安価な成分であり、良好な化学安定性を示し、硬化性樹脂中にカップリング剤が全く存在しない場合と比較して、硬化樹脂の接着性を改善することが示されている。本発明者らは、エポキシシランを含む樹脂が、アミノシランを含む樹脂と比較して非常に優れた機械的性質を示すことを発見した。しかしながら、エポキシシランはかなり高価な成分である。エポキシシランを2.5重量%、3重量%またはより高い量で含む樹脂は、機械的性質を改善するが、商業的関心の低い製品をもたらし、これにより本発明者らは他の選択肢を検討することにした。
【0032】
本発明は、エポキシシランの量が成分(a)および(b)の合計に対して2重量%未満に制限される場合、エポキシシランおよびポリオールを含む硬化性樹脂を提供することによって、機械的性質が、特に「カップリング剤」または「接着促進剤」としてエポキシシランのみを含有する硬化性樹脂のものを上回ることができるという、驚くべき発見に基づく。理論に縛られる意図はないが、ポリオールはエポキシシランに加えて、無機ミネラルウールと樹脂の有機成分との間のカップリング剤としても機能すると考えられる。低濃度のエポキシシランは繊維と樹脂との間の接着促進剤として作用するが、ポリオールは樹脂内で架橋剤として作用すると考えられる。組成物中で考慮されるポリオールの小さいサイズ(1000g/mol未満の分子量を有すること)は、ポリオールが樹脂の成分間の架橋として作用することを可能にし得る。一方、本開示による量のポリオールの存在は、樹脂の機械的性質の改善をもたらす。より多量のポリオールは非常に高い架橋をもたらし得るが、高い架橋は取り扱いが困難である硬い樹脂をもたらし得る。上述のように、本発明の別の驚くべき発見は、ポリオールが高量で提供される場合、一定の時点で、機械的性質が特に湿潤(ウェット)条件下で劇的に劣化することである。これらの知見は、大量のエポキシシランおよび大量のポリオール(水素化糖)の使用を教示する国際公開第2015/144843号A1の開示とは全く対照的である。さらに、本開示による量のポリオールおよびエポキシシランの存在は、硬化性樹脂の加工を容易にする。エポキシシランの低い溶解度は、重量パーセントの増加に伴って加工を妨げ、水中で予備反応させることさえ必要とする。加えて、エポキシシランの反応性は、制御が困難な望ましくない反応をもたらし得る。したがって、中程度の量のエポキシシランを有する本開示による硬化性樹脂は、エポキシシランの使用に関連する前述の欠点を最小限にする。
【0033】
上記の有利な機械的性質は、製造後の状況にも、環境湿潤条件下での経年劣化後の状況にも関係し、すなわち、本発明の樹脂は、風化の影響に対して増強された耐性を示す。樹脂の機械的性質は硬化工程後の樹脂の性質であるが、これは硬化性樹脂自体の組成物の直接的な結果である。硬化工程は、当業者に知られている従来の方法で行うことができる。
【0034】
本発明のさらに別の利点は、天然起源である成分および/または再生可能な資源から誘導された成分を使用する点にあり、したがって樹脂のリサイクル性を高める。例えば、成分(a)(還元糖)および多くの好ましいポリカルボン酸(成分(b))、例えばクエン酸は天然起源である一方、多くの好ましいポリオール、例えばエチレングリコール、グリセロール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオールなどは再生可能な資源から誘導することができる。
【0035】
硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂は、さらに触媒を含有していてもよい。触媒は、後続の硬化工程を促進および/または加速することができる。有用な触媒の典型的な例は、アルカリ金属次亜リン酸塩、アルカリ金属亜リン酸塩、アルカリ金属ポリリン酸塩などのリン含有エステル化触媒である。好ましい触媒は次亜リン酸ナトリウムである。本発明のホルムアルデヒドフリー樹脂中の触媒の濃度は、好ましくは樹脂の成分(a)および(b)の重量の合計に対して、0.1重量%超および/または5重量%未満であり、より好ましくは、触媒の濃度は約3重量%である。特定の実施形態において、本発明の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂は、樹脂の成分(a)および(b)の重量の合計に対して0.1重量%超かつ5重量%未満の量で、好ましくは約3重量%の量で、次亜リン酸ナトリウムを含有する。
【0036】
硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂は、任意の添加剤をさらに含有してもよい。このような添加剤の非限定的な例は、とりわけ、シリコーンおよびフルオロカーボンポリマーなどの疎水化剤、パラフィンおよび鉱油などの除塵剤、繊維柔軟剤、防腐剤、染料および/または腐食防止剤である。硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂中のこれらの任意の添加剤の量は、硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂の全非水性含有量の20重量%を超えず、好ましくは10重量%を超えない。
【0037】
硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂は水性分散液の形態であり、固形分は、10~60重量%の範囲、好ましくは15重量%~35重量%の範囲であってよい。
【0038】
以下では、本発明のいくつかの好ましい実施形態を要約する:
(1) 成分(a)60~70重量%の範囲のマルトデキストリン、成分(b)25~40重量%の範囲のクエン酸、成分(c)エチレングリコール、および成分(d)エポキシシランを含む、本明細書に開示された任意の実施形態による硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。エチレングリコールの量、すなわちポリオールの総量は、マルトデキストリンとクエン酸の合計に対して0.5~2重量%であり、エポキシシランの量は、マルトデキストリンとクエン酸の合計に対して0.5重量%以上2重量%未満である。好ましくは、マルトデキストリンは17~19のDEを有する。
(2) 成分(a)60~70重量%の範囲のマルトデキストリン、成分(b)25~40重量%の範囲のクエン酸、成分(c)1000g/mol未満の分子量を有し、かつ丁度2つのヒドロキシル基を有する1種以上のポリオール、および成分(d)エポキシシランを含む、本明細書に開示された任意の実施形態による硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。1種以上のポリオールの総量は、マルトデキストリンとクエン酸の合計に対して0.5~2重量%であり、エポキシシランの量は、マルトデキストリンとクエン酸の合計に対して0.5重量%以上2重量%未満である。好ましくは、マルトデキストリンは17~19のDEを有する。
(3) 成分(a)60~70重量%の範囲のマルトデキストリン、成分(b)25~40重量%の範囲のクエン酸、成分(c)エチレングリコール、および成分(d)エポキシシランを含む、本明細書に開示された任意の実施形態による硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。エチレングリコールの量、すなわちポリオールの総量は、マルトデキストリンとクエン酸の合計に対して0.5~2重量%であり、エポキシシランの量は、マルトデキストリンとクエン酸の合計に対して0.1重量%~0.5重量%である。好ましくは、マルトデキストリンは17~19のDEを有する。
(4) 成分(a)60~70重量%の範囲のマルトデキストリン、成分(b)25~40重量%の範囲のクエン酸、成分(c)1000g/mol未満の分子量を有し、かつ丁度2つのヒドロキシル基を有する1種以上のポリオール、および成分(d)エポキシシランを含む、本明細書に開示された任意の実施形態による硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂。1種以上のポリオールの総量は、マルトデキストリンとクエン酸の合計に対して0.5~2重量%であり、エポキシシランの量は、マルトデキストリンとクエン酸の合計に対して0.1重量%~0.5重量%である。好ましくは、マルトデキストリンは17~19のDEを有する。
【0039】
一態様では、本開示による硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂を含むミネラルウール用のバインダーが提供される。バインダーは、本開示の実施形態のいずれかによる硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂を含む。したがって、本発明の硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂を含むバインダーは、100℃を超える温度で硬化させることができる。本発明のバインダーは、ホルムアルデヒドフリー水性バインダーであってもよい。典型的には、バインダーは樹脂を希釈形態で含有する、すなわち、樹脂および追加の水を含有する。
【0040】
好ましい実施形態では、樹脂に加えて、当技術分野で記載されている他の添加剤を、本発明のバインダーの調製のために組み込むことができる。これらの添加剤は、ミネラルウール製品の製造を補助するか、または製造された製品の性質を改善することを意図している。このような添加剤の非限定的な例は、とりわけ、シリコーンおよびフルオロカーボンポリマーなどの疎水化剤、パラフィンおよび鉱油などの除塵剤、繊維柔軟剤、防腐剤、染料および/または腐食防止剤である。本発明のバインダー中のこれらの任意の添加剤の量は、バインダーの全非水性含有量の20重量%を超えず、好ましくは10重量%を超えない。好適な実施形態において、本発明のバインダー組成物は、少なくとも1種の充填剤または樹脂増量剤、例えば尿素、糖類、糖蜜、リグノスルホン酸塩またはタンニンを含んでもよい。樹脂増量剤は、樹脂を「増量」するために樹脂組成物に添加される化合物であり、それによって、樹脂使用量を低減し、総樹脂コストを低減し、一定の濃度までは、最終樹脂特性を許容できないほど悪化させない。本発明のバインダー中の任意の充填剤および/または樹脂増量剤の量は、バインダーの全非水性含有量の20重量%を超えず、好ましくは10重量%を超えない。バインダー添加剤が樹脂と接触してから、バインダーがミネラル繊維に適用されるまでの時間は、通常、1~5分の範囲である。一実施形態によれば、これらの添加剤は、安定性を損なわない限り、バインダーが調製される前に硬化性樹脂中にすでに組み込まれていてもよい。また、本発明のバインダー中の充填剤または樹脂増量剤を加えた任意の添加剤の総量は、バインダーの全非水性含有量の30重量%以下、さらにより好ましくは20重量%以下であることが好ましい。
【0041】
本開示の硬化性樹脂に基づいて、ミネラルウール製品における使用に適した性質を有するバインダーが得られる。特に、上述のバインダーの粘度は十分に低下し、ミネラルウールへの適用に適したものとなる。
【0042】
本発明の別の態様は、ミネラル繊維と硬化バインダーとを含むミネラルウール製品に関する。硬化バインダーは、本開示の実施形態のいずれかによるバインダーを100℃より高い温度で硬化させることによって得られる。
【0043】
本発明のミネラルウール製品は例えば、建物、輸送手段もしくは機器の断熱および防音において、または防火のために、ならびに他の非断熱用途のために使用することができる。
【0044】
本発明の一態様は、本開示の実施形態の1つによる硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂の製造方法に関する。この方法は、成分(c)および成分(d)が予備混合される工程を含む。好ましい実施形態において、ポリカルボン酸(成分(b))は、機械的撹拌下で水に添加される。次いで、予備混合された成分(c)および(d)を、連続撹拌しながら水性混合物に添加する。続いて、還元糖(成分(a))を水性混合物に添加してもよく、成分が溶解するまで撹拌を続ける。
【0045】
本発明による硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂の製造方法は、好ましくは室温、すなわち20~25℃、好ましくは25℃で実施される。
【0046】
本開示は、ミネラルウール製品の製造のための、本開示の実施形態のいずれかによる硬化性ホルムアルデヒドフリー樹脂の使用に関する。
【0047】
ミネラルウール製品は、繊維化後、繊維が依然としていくらかの残留熱を保持する間に、本発明のバインダーを個々のミネラル繊維に適用することによって製造することができる。好ましくは、バインダーは、噴霧によってミネラル繊維に適用される。次に、含浸された繊維は、形成チャンバ内の有孔コンベヤ上に収集され、ここで、一次未硬化マットが形成される。バインダーに含まれる水の大部分は、この段階で蒸発する。本発明の樹脂の特定の組成に起因して、本発明の樹脂およびバインダーの粘度は特に低い。これにより、第1に、バインダーを繊維上により均一に分布させることができ、第2に、バインダーを硬化させる前に、マット内の繊維の交差部に、より効率的に流動させることができる。これにより、より良好な性質を有するミネラルウール製品が製造される。
【0048】
バインダーは、乾燥および硬化後の最終製品に、好ましくはミネラルウール製品の重量に対して3~12重量%の固形バインダー含有量を生成する量で適用される。硬化バインダーのこの量は、ISO29771:2008に従ってLOI(強熱減量)として測定される。
【0049】
繊維が含浸され、一次マットが形成された後、本発明のバインダーは、100℃を超える温度、好ましくは140~180℃の温度で硬化される。硬化時間は、好ましくは3~5分の範囲である。硬化したミネラルウールマットは、その後、トリミングされ、その最終寸法に成形され、任意に巻かれ、包装される。紙、アルミニウム、ガラスベールまたはそれらの混合物のような追加の外装層も、その意図される用途に応じてミネラルウールに適用され得る。
【0050】
本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用することができ、構造的または論理的な変更を行うことができることを理解されたい。したがって、明細書は限定的な意味で解釈されるべきではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。説明されている実施形態は、添付の特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない特定の言葉を使用する。
【実施例
【0051】
樹脂の異なる本発明の実施例および比較例は、このセクションに記載され、表1~12に含まれる。これらの例は、本発明の説明を助けるために含まれるが、限定することを意図するものではない。
【0052】
本明細書に開示された機械的性質は、硬化後の樹脂について測定される。しかしながら、本明細書に示された硬化樹脂の有利な性質は、硬化性樹脂自体の組成物の直接的な結果である。硬化工程は、当業者に知られている従来の方法で行われる。
【0053】
表1、4、7および10において、量は、重量%での相対比として与えられる。比較を容易にするために、相対重量は、成分(a)と成分(b)の合計が100になるように与えられる。
【0054】
実施例で使用した原料は下記のとおり:
- 成分(a):ロケット(Roquette)社によって供給され、19のDEを有するマルトデキストリン;
- 成分(b):シトリック・ベルゲ(Citrique Belge)社によって供給されたクエン酸;
- 成分(c):シグマ・アルドリッチ社によって供給されたエチレングリコール(2つの一級OH基)、テトラエチレングリコール(2つの一級OH基)、1,4-ブタンジオール(2つの一級OH基)、グリセロール(2つの一級OH基および1つの二級OH基)、トリグリセロール(2つの一級OH基および3つの二級OH基)、トリエタノールアミン(3つの一級OH基)、トリメチルプロパン(3つの一級OH基)、ポリ(エチレン)グリコールPEG-200(2つの一級OH基)。
- 成分(d):使用した「エポキシシラン」は、オニケム・ヨーロッパ社によって供給された(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(CAS番号:2530-83-8)であった。
- 添加成分:SMCグローバル社から供給された次亜リン酸ナトリウム。
【0055】
アミノシランである成分(d)についても実験を行った。アミノシラン系繊維を材料に適用し、その後硬化させることによって得られた機械的性質は、エポキシシランを含有する樹脂と比較して非常に劣っていた。
【0056】
この一般的な手順に従って、室温で異なる硬化性樹脂を調製する。クエン酸を機械的撹拌下で水に添加する。この工程の後、予備混合されたエポキシシランおよびポリオールを、連続撹拌下で水性混合物に添加する。続いて、還元糖を水性混合物に組み込み、成分が溶解するまで撹拌を続ける。この方法によって得られる硬化性樹脂は、透明で低粘度の水分散液の形態である。
【0057】
硬化性樹脂は、ほぼ以下の固形分で得られる。
- 例1~8(表1)、例18~21(表7)、例22~23(表10):固形分25%;
- 例9~17(表4):固形分20%。
【0058】
次いで、硬化性樹脂を材料に塗布し、続いて硬化させる。材料、材料へのバインダーの適用の詳細、および硬化パラメータは、表1、4、7および10の実施例に専用の別のセクションに示されている。
【0059】
以下の機械的性質を実験で測定する:最大荷重(Nの単位で与えられる)、ヤング率(N/mm2の単位で与えられる)、および最大傾斜(N/mmの単位で与えられる)。機械的性質を評価するための実験手順の詳細を、表1、4、7および10の実施例に専用の別のセクションに示す。本明細書に提示されたすべての例について、機械的性質は2つの異なる実験条件、すなわち、「乾燥条件」では、試料の調製直後に測定され、「湿潤条件」では、試料は、温度50℃かつ相対湿度95%の気候チャンバ内に1週間さらされた。「湿潤条件」下での測定は、耐候性の影響に耐える製品能力の評価、すなわち、環境湿潤条件における経年劣化中の機械的性質の劣化の評価を可能にする。
【0060】
例1~9
例1~8の硬化性樹脂をガラス微小球に塗布した。この種の実験は、ガラス微小球が一体化されず、凝集性が低い場合に機械的性質が劇的に低下するので、硬化性樹脂の機械的性質についての特に困難な試験である。
【0061】
アブラシボス・マキナリア社(Abrasivos y Maquinaria SA)によって供給された100~200μmの平均直径を有する300gのガラス微小球を、60gの硬化性樹脂(約25%の固形分を有する)と混合する。
【0062】
続いて、混合物をステンレス鋼鋳型に注ぎ、81mm×22mm×7mmの寸法を有する試験片を製造する。この試験片を、換気オーブン(マティス社製オーブン:Lab-dryer/coater type LTE/H-(TSM))中、200℃で25分間硬化させる。この試験片の半分は、「乾燥条件」下での機械的性質を調べるために使用され、残りの半分は「湿潤条件」のために使用される。
【0063】
試料の機械的性質は、5mm/分の一定の引張り速度でそれぞれの試料に引張り力を徐々に印加することによって、張力計Instron3367によって調べられる。延伸に供された各試料の結果として生じる変形および加えられた引張り力は、両方とも記録される。歪み-応力曲線は、記録された変形および加えられた力から得られる。例1~8は、歪み-応力曲線の最大荷重値(最大機械的結合強度)および応力-歪み曲線の最大勾配を決定することによって特徴付けられる。
【0064】
例1および2は、本発明の実施形態に係る必須成分の1つを欠いた比較例または実施形態の範囲外の重量比を有する比較例である。例3~8は、本開示の実施形態による硬化性樹脂である。例2~8は、成分(c)としてエチレングリコールを使用して調製した。
【0065】
例1~8について、成分およびそれぞれの相対重量比を表1に示す。表2は、「乾燥条件」および「湿潤条件」の両方の下で例1~8について得られた最大荷重値をまとめたものである。表3は、「乾燥条件」および「湿潤条件」の両方の下で例1~8について得られた最大傾斜値をまとめたものである。
表1:
【表1】
【0066】
以下では、表2に示された最大荷重値を参照する。例3~8は全て、乾燥条件下で高い最大荷重値をもたらす。比較例1は、例3~8と比較して乾燥条件下でわずかに劣る最大荷重値をもたらし、一方、比較例2は、乾燥条件下で例3~8のいくつかに匹敵する最大荷重値をもたらす。乾燥条件下での最良の結果は、例3および4について得られ、両方とも成分(a)および(b)の合計に対して0.5重量%以下のエポキシシランの量を含む。
【0067】
例3~8と比較例との違いは、湿潤条件下で顕著である。エポキシシランを全く含有しない比較例1は、非常に低い最大荷重値を示し、すなわち、機械的性質はエポキシシランの非存在下で著しく悪化し、したがって、ガラス微小球の凝集が生じない。エポキシシランは、加速された湿度および温度のエージング条件下で接着性を維持する際に明確な肯定的効果を有する。比較例2はまた、「湿潤条件」下で著しく劣った最大荷重値を示す。例3~8の全ての最大荷重値は、比較例2の最大荷重値を50%超上回っている。「湿潤条件」下での最良の結果は、例7および8について得られ、両方とも成分(a)および(b)の合計に対して2重量%以下の成分(c)の量を含む。
表2:
【表2】
【0068】
以下では、表3に示す最大傾斜値を参照する。例3~8はすべて、乾燥条件下で高い最大傾斜値をもたらす。比較例1は、例3~8と比較して乾燥条件下でわずかに劣る最大荷重値をもたらし、一方、比較例2は、乾燥条件下で例3~8のいくつかに匹敵する最大荷重値をもたらす。
【0069】
湿潤条件下では、例3~8と比較例との間の相違が再び顕著である。エポキシシランを含有しない比較例1は非常に低い最大傾斜値を示し、すなわち、機械的性質はエポキシシランの非存在下で劇的に悪化し、したがって、ガラス微小球の接着が生じない。比較例2はまた、「湿潤条件」下で著しく劣った最大傾斜値を示す。
表3:
【表3】
【0070】
例9~17
例9~17の硬化性樹脂を、実験室規模でガラス紙に塗布した。
【0071】
ホウケイ酸塩GF/A濾紙21×14.85cmのピース(20.3×25.4cm、カタログ番号1820 866、ワットマン・インターナショナル社、メードストン、英国)を100gの硬化性樹脂(約20%の固形分を有する)に1分間浸漬する。含浸されたガラス紙は、その後、カレンダーローラー(ローラー間の圧力2.5バールとローラー速度2.5m/分)に通される。その後、カレンダーローラーから出た試料を乾燥させ、換気オーブン中、170℃で3分間硬化させる。次に、試料を25mm×75mmの12片に分割する。これらのピースのうち6つは「乾燥条件」下で機械的性質を調べるために使用され、他の6つは「湿潤条件」下で試験するために使用される。
【0072】
試料の機械的性質は、10mm/分の一定の引張り速度でそれぞれの試料に引張り力を徐々に印加することによって、張力計Instron3367によって調べられる。延伸に供された各試料の結果として生じる変形および加えられた引張り力は、両方とも記録される。各個々の試料の歪み-応力曲線は、記録された変形および加えられた力から得られる。例10~16は、歪み-応力曲線の最大荷重値(最大機械的結合強度)および応力-歪み曲線のヤング率を決定することによって特徴付けられる。
【0073】
例9は、成分(c)および(d)を欠く比較例である。例10は、成分(c)を欠く比較例である。例11~17は全て、硬化性樹脂の本発明の実施形態に対応する。相対重量比は例11~17の全てにおいて同一であるが、例11~17のそれぞれは異なる成分(c)を含有する。
【0074】
例9~17について、成分およびそれぞれの相対重量比を表4に示す。表5は、「乾燥条件」および「湿潤条件」の両方の下で例9~17について得られた最大荷重値をまとめたものである。表6は、「乾燥条件」および「湿潤条件」の両方の下で例9~17について得られたヤング率値をまとめたものである。

表4:
【表4】
【0075】
以下では、表5に示された最大荷重値を参照する。最大荷重値は、「乾燥条件」および「湿潤条件」の両方の下で、比較例9と比較して、本発明の例11~17について著しく改善される。さらに、本発明の実施例は、匹敵する例10に関して、乾燥条件下での最大荷重の増加、すなわち、ポリオールおよび多量のエポキシシランを含まない硬化性樹脂を超える改善を示す。最高の最大荷重値は、例11~13について得られる。例11~13では2個のOH基を含有するポリオールが使用され、一方、例14~17は2個を超えるOH基を有するポリオールを含む。

表5:
【表5】
【0076】
以下では、表6に示すヤング率値を参照する。本発明の実施例はまた、本発明の実施例でない例10と比較して増加したヤング率、すなわち、ポリオールおよび多量のエポキシシランを含まない硬化性樹脂を超える改善を示す。
表6:
【表6】
【0077】
例18~21
例18~21の硬化性樹脂をガラス微小球に塗布した。実験の詳細、すなわち、微小球の調製、試験片の製造、硬化、機械的性質の試験は、例1~8に関連する上記と同じ方法で実施される。
【0078】
例18は、成分(c)および(d)を欠く比較例である。例19~21は全て、硬化性樹脂の本発明の実施形態に対応する。相対重量比は例19~21の全てにおいて同一であるが、例19~21のそれぞれは異なる成分(c)を含有する。
【0079】
例18~21について、成分およびそれぞれの相対重量比を表7に示す。表8は、「乾燥条件」および「湿潤条件」の両方の下で例18~21について得られた最大荷重値をまとめたものである。表9は、「乾燥条件」および「湿潤条件」の両方の下で例18~21について得られた最大傾斜値をまとめたものである。
表7:
【表7】
【0080】
以下では、表8に示された最大荷重値を参照する。例19~21は全て、「乾燥条件」および「湿潤条件」下で高い最大荷重値をもたらす。比較例18は本発明の実施例と比較して、乾燥条件下での最大荷重値が劣り、これは、「湿潤条件」下でさらに顕著である。
表8:
【表8】
【0081】
以下では、表9に示す最大傾斜値を参照する。本発明の例19~21は全て、乾燥条件下で高い最大傾斜値をもたらす。比較例18は、乾燥条件下で例19~21のいくつかに匹敵する最大傾斜値をもたらす。本発明の実施例と比較例との間の相違は、湿潤条件下で顕著である。エポキシシランを全く含有しない比較例18は、湿潤条件下で非常に低い最大傾斜値を示し、すなわち、機械的性質はエポキシシランの非存在下で著しく悪化し、したがって、ガラス微小球の接着が生じない。エポキシシランは、加速された湿度および温度のエージング条件下で接着性を維持する際に明確な肯定的効果を有する。「湿潤条件」下での最良の結果は、成分(c)がエチレングリコールである場合に得られる(例19)。
表9:
【表9】
【0082】
例22~23
例22~23の硬化性樹脂をガラス微小球に塗布した。この種の実験は、ガラス微小球が一体化されず、凝集性が低い場合に機械的性質が劇的に低下するので、硬化性樹脂の機械的性質についての特に困難な試験である。
【0083】
アブラシボス・マキナリア社(Abrasivos y Maquinaria SA)によって供給された100~200μmの平均直径を有する300gのガラス微小球を、60gの硬化性樹脂(約25%の固形分を有する)と混合する。
【0084】
続いて、混合物をステンレス鋼鋳型に注ぎ、81mm×22mm×7mmの寸法を有する試験片を製造する。この試験片を、換気オーブン(マティス社製オーブン:Lab-dryer/coater type LTE/H-(TSM))中、200℃で25分間硬化させる。この試験片の半分は、「乾燥条件」下での機械的性質を調べるために使用され、残りの半分は「湿潤条件」のために使用される。
【0085】
試料の機械的性質は、5mm/分の一定の引張り速度でそれぞれの試料に引張り力を徐々に印加することによって、張力計Instron3367によって調べられる。延伸に供された各試料の結果として生じる変形および加えられた引張り力は、両方とも記録される。歪み-応力曲線は、記録された変形および加えられた力から得られる。例22および23は、歪み-応力曲線の最大荷重値(最大機械的結合強度)および応力-歪み曲線の最大勾配を決定することによって特徴付けられる。
【0086】
例22は、成分(c)(ポリオール)を欠き、本開示の実施形態の範囲を超える重量比を有するエポキシシランを含む比較例である。例23は、本開示の実施形態による硬化性樹脂である。例23は、ポリ(エチレン)グリコール(PEG-200)の成分(c)を用いて調製した。
【0087】
例22および23について、成分およびそれぞれの相対重量比を表10に示す。表11は、「乾燥条件」および「湿潤条件」の両方の下で例22および23について得られた最大荷重値をまとめたものである。表12は、「乾燥条件」および「湿潤条件」の両方の下で例22および23について得られた最大傾斜値をまとめたものである。
表10:
【表10】
【0088】
表11に示す最大荷重値を参照する。比較例22*は、例23と比較して、「湿潤条件」下での低い最大荷重値を示す。
表11:
【表11】
【0089】
表12に示す最大傾斜値を参照する。比較例22*は、例23と比較して「湿潤条件」下での低い最大傾斜値を示し、すなわち、比較例22*の機械的性質は湿潤条件下で悪化し、したがって、ガラス微小球の接着性が劣る。
表12:
【表12】
【国際調査報告】