(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】ウイルス性肺炎を治療する方法及び薬剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/48 20060101AFI20230518BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230518BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230518BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230518BHJP
A61K 38/22 20060101ALI20230518BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230518BHJP
A61K 31/56 20060101ALI20230518BHJP
A61K 38/49 20060101ALI20230518BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230518BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230518BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230518BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230518BHJP
C12N 15/58 20060101ALN20230518BHJP
【FI】
A61K38/48 100
A61P11/00 ZNA
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K38/22
A61K39/00 H
A61K31/56
A61K38/49
A61P9/12
A61P9/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 P
C12N15/12
C12N15/58
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548089
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(85)【翻訳文提出日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 CN2021076035
(87)【国際公開番号】W WO2021160092
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】202010086980.7
(32)【優先日】2020-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518217305
【氏名又は名称】タレンゲン インターナショナル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】TALENGEN INTERNATIONAL LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】李季男
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA17
4C084AA19
4C084BA44
4C084CA18
4C084CA59
4C084DC06
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4C084MA02
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4C084MA57
4C084MA58
4C084MA59
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4C084MA66
4C084NA05
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4C084ZC032
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4C084ZC751
4C085AA03
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB22
4C085EE03
4C086AA01
4C086DA08
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA36
4C086ZA42
4C086ZA59
4C086ZA60
4C086ZC75
(57)【要約】
被験者に治療有効量のプラスミノーゲン活性化経路の成分を投与することを含む、ウイルス性肺炎を治療する方法に関する。また、ウイルス性肺炎を治療するための、プラスミノーゲン活性化経路の成分を含む薬剤、薬剤組成物、製品、及びキットに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスミノーゲン活性化経路の成分、プラスミノーゲンを直接活性化し得るか、またはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによって間接的にプラスミノーゲンを活性化し得る化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミンの活性を模倣する化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミノーゲン活性化剤の発現をアップレギュレートすることができる化合物、プラスミノーゲン類縁体、プラスミン類縁体、tPAまたはuPA類縁体及び線維素溶解阻害剤の拮抗剤から選択される1つ以上の治療有効量の化合物を被験者に投与することを含む、肺炎を予防及び治療する方法。
【請求項2】
前記プラスミノーゲン活性化経路の成分が、プラスミノーゲン、組換えヒトプラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、Glu-プラスミノーゲン、プラスミン、プラスミノーゲンとプラスミンの1つ以上のkringleドメイン及びプロテアーゼドメインを含むプラスミノーゲン及びプラスミン変異体並びに類縁体、ミニプラスミノーゲン(mini-plasminogen)、ミニプラスミン(mini-plasmin)、マイクロプラスミノーゲン(micro-plasminogen)、マイクロプラスミン(micro-plasmin)、delta-プラスミノーゲン、delta-プラスミン(delta-plasmin)、プラスミノーゲン活性化剤、tPA、及びuPAから選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記線維素溶解阻害剤の拮抗剤が、PAI-1、補体C1阻害剤、α2抗プラスミンまたはα2マクログロブリンの拮抗剤、例えば、抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記肺炎が、細菌感染肺炎、ウイルス感染肺炎、マイコプラズマ感染肺炎、クラミジア感染肺炎、真菌感染肺炎、またはリケッチア感染肺炎である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記肺炎が非感染性因子による肺炎である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記肺炎がコロナウイルス感染性肺炎である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記肺炎が2019-nCoV感染性肺炎であり、前記プラスミノーゲンが、肺組織の損傷の軽減、肺の炎症反応の軽減、肺のフィブリン沈着の低減、肺機能の改善、血中酸素飽和度の向上、2019-nCoV感染性肺炎の被験者の血圧の低下、2019-nCoV感染性肺炎の被験者の心機能の改善、2019-nCoV感染性肺炎の被験者の一般的な身体状態の改善から選択される1つ以上を実現する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物が、肺組織の炎症の減少、肺組織の炎症性浸出の減少、肺組織のフィブリン沈着の減少、肺組織の線維化の減少、肺組織のアポトーシスの減少、換気機能の改善、及び血中酸素飽和度の増加からなる群から選択される1つ以上の効果を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記プラスミノーゲンが、配列2と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記プラスミノーゲンが、配列14に示されるプラスミノーゲン活性フラグメントと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つプラスミノーゲンのタンパク質加水分解活性またはリジン結合活性を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記プラスミノーゲンが、配列2に示される前記プラスミノーゲンの保存的置換変異体である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記プラスミノーゲンが、天然または合成のヒトプラスミノーゲンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記化合物が、1つもしくは複数の他の治療方法または薬剤と組み合わせて使用する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記他の薬剤が、抗ウイルス薬、抗生物質、免疫調節薬、ホルモン薬(例えば、ステロイドホルモン)、ワクチン、及び疾患関連中和抗体から選択される1つ以上である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記化合物が、鼻吸入、エアロゾル吸入、点鼻薬、点耳薬、点眼薬、静脈内、腹腔内、皮下、頭蓋内、髄腔内、筋肉内、及び直腸内からなる群から選択される1つ以上の経路または方法によって投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺の炎症を改善し、血中酸素飽和度を高め、肺炎を治療し、肺の繊維化やその他の関連する合併症を予防するように、被験者に有効量のプラスミノーゲン活性化経路の成分またはその関連化合物、例えば、プラスミノーゲン、を投与することを含む、ウイルス性肺炎、例えば、コロナウイルス感染肺炎及びその合併症を予防または治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルス(Coronaviruses、CoVs)は、エンベロープのある一本鎖のプラス鎖RNAウイルスであり、コロナウイルス科(Coronaviridae)に属し、遺伝子型によって、アルファコロナウイルス(Alpha Coronavirus、α-CoV)、ベータコロナウイルス(Beta Coronavirus、β-CoV)、ガンマコロナウイルス(Gamma Coronavirus、γ-CoV)、及びデルタコロナウイルス(Delta Coronavirus、δ-CoV)の4つの属に分けることができ、そのうち、α-CoV及びβ-CoVコロナウイルスは哺乳類に対してより感受性が高い(CUI J,Li F,SHI Z L.Origin and evolution of pathogenic coronaviruses [J].Naturereviews.Micorbiology,2019,17(3):181-192)。
【0003】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(severe acute respiratory syndromes coronavirus,SARS-CoV)、すなわちβ-CoVは、非定型肺炎を主な特徴とする重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndromes、SARS)を引き起こす可能性がある。中東及び韓国で現れたSARS-CoVに似た新しいヒトコロナウイルス(hCoVEMC/2012)は、ヒトに中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome、MERS)を引き起こす可能性がある。2013年、世界保健機関はその病原体を中東呼吸器症候群コロナウイルス(Middle East respiratory syndrome coronavirus、MERS-CoV)と名付けた。この疾患はSARSに似ているが、肝不全や腎不全などの他の合併症を引き起こす可能性が高いため、患者の死亡率は高くなる。
【0004】
SARSウイルスは広範な組織指向性を持ち、さまざまな組織や器官に侵入し、さまざまな組織や器官に障害を引き起こす。患者の肺うっ血、出血、浮腫及び重度のびまん性肺胞損傷、ヒアリン膜形成、肺胞上皮過形成、肺間質単核細胞の炎症性浸潤、肺胞間肺胞細胞の脱落、及び肺間質線維症が現れる。
【0005】
2019新型コロナウイルスは、β属コロナウイルスに属し、2020年1月12日にWHOによって正式に2019-nCoV(本出願ではCOVID-19ともいう)と命名され、その遺伝的特徴は、SARS-CoV及びMERS-CoVとは大きく異なり、コウモリのSARS様コロナウイルスであるbat-SL-CoV ZC45及びbat-SL-CoV ZXC21により類似している(CHEN Y,LIU Q,GUO D.Emerging coronaviruses:genome structure, replication,and pathogenesis [J].Journal of medical virology,2020)。
【0006】
2019-nCoVは感染力が高く、ヒトが一般的に感染しやすく、主に空咳、発熱、呼吸困難などの下気道感染症の症状として現れ、重症の場合、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome,ARDS)や敗血症を引き起こすことさえある(Clinical management of severe acute respiratory infection when novel coronavirus (2019-nCoV) infection issuspected: interim guidance. 28 January 2020. WHO/nCoV/Clinical/2020.2)。
【0007】
新型コロナウイルス肺炎は病期によって、早期、進行期、重症期の3段階に分けられる。疾患の早期では、病変は限定的であり、単一または複数のスリガラス陰影(GGO)の結節、斑点またはシート状の陰影として現れる;進行期では病変が進行し、病変が増加して範囲が拡大し、GGOは硬化陰影またはストリーク陰影と共存し、一部の硬化陰影または構造的歪曲陰影内の気管支柱状肥厚がある;重症期では、両肺にびまん性病変、肺実質の広範な浸出及び硬化があり、主に硬化陰影であり、肺構造の歪み、気管支拡張症、サブ分節性無気肺もあり、重症の場合は「白い肺」である(史河水、韓小雨、樊艶青、梁波、楊帆、韓萍、鄭伝勝、新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症による肺炎の臨床的特徴及びイメージング表現。臨床放射学雑誌。https://doi.org/10.13437/j.cnki.jcr.20200206.002)。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、プラスミノーゲンが肺炎(2019-nCoVウイルス性肺炎などのウイルス感染性肺炎を含む)、肺線維症患者の肺換気機能を有意に改善し、血中酸素飽和度を高め、呼吸困難の症状を改善し、それによって肺炎及び肺線維症に関連する疾患を治療できることを発見した。
【0009】
具体的には、本発明は下記のことに係る。
1、一態様では、本願は、プラスミノーゲン活性化経路の成分、プラスミノーゲンを直接活性化し得るか、またはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによって間接的にプラスミノーゲンを活性化し得る化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミンの活性を模倣する化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミノーゲン活性化剤の発現をアップレギュレートすることができる化合物、プラスミノーゲン類縁体、プラスミン類縁体、tPAまたはuPA類縁体及び線維素溶解阻害剤の拮抗剤から選択される1つ以上の治療有効量の化合物を被験者に投与することを含む、肺炎を予防及び治療する方法に関する。
【0010】
一態様では、本願は、プラスミノーゲン活性化経路の成分、プラスミノーゲンを直接活性化し得るか、またはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによって間接的にプラスミノーゲンを活性化し得る化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミンの活性を模倣する化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミノーゲン活性化剤の発現をアップレギュレートすることができる化合物、プラスミノーゲン類縁体、プラスミン類縁体、tPAまたはuPA類縁体及び線維素溶解阻害剤の拮抗剤から選択される1つ以上の化合物の、肺炎を予防及び治療する薬剤の調製における使用に関する。
【0011】
一態様では、本願は、プラスミノーゲン活性化経路の成分、プラスミノーゲンを直接活性化し得るか、またはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによって間接的にプラスミノーゲンを活性化し得る化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミンの活性を模倣する化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミノーゲン活性化剤の発現をアップレギュレートすることができる化合物、プラスミノーゲン類縁体、プラスミン類縁体、tPAまたはuPA類縁体及び線維素溶解阻害剤の拮抗剤から選択される1つ以上の化合物の、肺炎を予防及び治療する使用に関する。
【0012】
一態様では、本願は、プラスミノーゲン活性化経路の成分、プラスミノーゲンを直接活性化し得るか、またはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによって間接的にプラスミノーゲンを活性化し得る化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミンの活性を模倣する化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミノーゲン活性化剤の発現をアップレギュレートすることができる化合物、プラスミノーゲン類縁体、プラスミン類縁体、tPAまたはuPA類縁体及び線維素溶解阻害剤の拮抗剤から選択される1つ以上の化合物を含む、肺炎を予防及び治療する薬剤に関する。
【0013】
2、前記プラスミノーゲン活性化経路の成分が、プラスミノーゲン、組換えヒトプラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、Glu-プラスミノーゲン、プラスミン、プラスミノーゲンとプラスミンの1つ以上のkringleドメイン及びプロテアーゼドメインを含むプラスミノーゲン及びプラスミン変異体並びに類縁体、ミニプラスミノーゲン(mini-plasminogen)、ミニプラスミン(mini-plasmin)、マイクロプラスミノーゲン(micro-plasminogen)、マイクロプラスミン(micro-plasmin)、delta-プラスミノーゲン、delta-プラスミン(delta-plasmin)、プラスミノーゲン活性化剤、tPA、及びuPAから選択されるものである、項1に記載の方法、使用、または薬剤。
【0014】
3、前記線維素溶解阻害剤の拮抗剤が、PAI-1、補体C1阻害剤、α2抗プラスミンまたはα2マクログロブリンの阻害剤、例えば、抗体である、項1に記載の方法、使用、または薬剤。
【0015】
4、前記肺炎が、細菌感染肺炎、ウイルス感染肺炎、マイコプラズマ感染肺炎、クラミジア感染肺炎、真菌感染肺炎、またはリケッチア感染肺炎である、項1~3のいずれか一項に記載の方法、使用、または薬剤。
【0016】
5、前記肺炎が非感染性因子による肺炎である、項1~3のいずれか一項に記載の方法、使用、または薬剤。いくつかの実施形態では、前記肺炎は放射線によって引き起こされる。いくつかの実施形態では、前記肺炎は、有毒ガスの吸入によって引き起こされる、例えば、ヘイズなどの粉塵堆積物によって引き起こされる。いくつかの実施形態では、前記肺炎は自己免疫疾患(例えば、全身性硬化症)によって引き起こされる。いくつかの実施形態では、前記肺炎は、喘息などのアレルギーによって引き起こされる。いくつかの実施形態では、前記肺炎は毒性化合物(例えば、モノクロタリンまたはパラコート)によって引き起こされる。
【0017】
6、前記肺炎がコロナウイルス感染性肺炎である、項4に記載の方法、使用、または薬剤。
【0018】
7、前記肺炎が2019-nCoV感染性肺炎である、項6に記載の方法、使用、または薬剤。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記肺炎が2019-nCoV感染性肺炎であり、前記プラスミノーゲンが、肺組織の損傷の軽減、肺の炎症反応の軽減、肺のフィブリン沈着の低減、肺機能の改善、血中酸素飽和度の向上、2019-nCoV感染性肺炎の被験者の血圧の低下、2019-nCoV感染性肺炎の被験者の心機能の改善、2019-nCoV感染性肺炎の被験者の一般的な身体状態の改善から選択される1つ以上を実現する。
【0020】
8、前記化合物が、肺組織の炎症の減少、肺組織の炎症性浸出の減少、肺組織のフィブリン沈着の減少、肺組織の線維化の減少、肺組織のアポトーシスの減少、換気機能の改善、及び血中酸素飽和度の増加からなる群から選択される1つ以上の効果を有する、項1~7のいずれか一項に記載の方法、使用、または薬剤。
【0021】
9、前記プラスミノーゲンが、配列2と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性、例えば、タンパク質加水分解活性、リジン結合活性、またはタンパク質加水分解活性及びリジン結合活性を有する、項1~8のいずれか一項に記載の方法、使用、または薬剤。
【0022】
10、前記プラスミノーゲンが、配列14に示されるプラスミノーゲン活性フラグメントと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つプラスミノーゲンのタンパク質加水分解活性またはリジン結合活性を有する、項1~8のいずれか一項に記載の方法、使用、または薬剤。いくつかの実施形態では、前記プラスミノーゲンは、配列14に示されるプラスミノーゲン活性フラグメントを含み、且つプラスミノーゲンのタンパク質加水分解活性を有する。
【0023】
11、前記プラスミノーゲンが、配列2に示される前記プラスミノーゲンの保存的置換変異体である、項1~8のいずれか一項に記載の方法、使用、または薬剤。いくつかの実施形態では、前記プラスミノーゲンは、Glu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、delta-プラスミノーゲンまたはそれらの、プラスミノーゲン活性を保持した変異体から選択されるものである。いくつかの実施形態では、前記プラスミノーゲンは、配列2、4、6、8、10、12または14に示されるアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる。
【0024】
12、前記プラスミノーゲンが、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、または依然としてプラスミノーゲン活性を保持した変異体もしくはフラグメントである、項1~8のいずれか1項に記載の方法、使用、または薬剤。
【0025】
13、前記化合物が、1つもしくは複数の他の治療方法または薬剤と組み合わせて使用する、項1~12のいずれか一項に記載の方法、使用、または薬剤。いくつかの実施形態では、前記他の治療方法は、人工呼吸器補助呼吸法などの体外補助呼吸法である。
【0026】
14、前記他の薬剤が、抗ウイルス薬、抗生物質、免疫調節薬、ホルモン薬(例えば、ステロイドホルモン)、ワクチン、及び疾患関連中和抗体から選択される1つ以上である、項13に記載の方法、使用、または薬剤。
【0027】
15、前記化合物が、鼻吸入、エアロゾル吸入、点鼻薬、点耳薬、点眼薬、静脈内、腹腔内、皮下、頭蓋内、髄腔内、筋肉内、及び直腸内からなる群から選択される1つ以上の経路または方法によって投与される、項1~14のいずれか一項に記載の方法、使用、または薬剤。
【0028】
本願の上記いずれか1つの実施形態において、前記プラスミノーゲンが配列2、6、8、10または12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性、例えば、タンパク質加水分解活性、リジン結合活性、またはタンパク質加水分解活性及びリジン結合活性を有し得る。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、配列2、6、8、10または12に基づいて、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個のアミノ酸を追加、削除、及び/または置換され、かつ依然としてプラスミノーゲン活性を有するタンパク質である。
【0029】
一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンはプラスミノーゲン活性フラグメントを含み、且つ依然としてプラスミノーゲン活性を有するタンパク質である。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、Glu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、δ-プラスミノーゲンまたはそれらのプラスミノーゲン活性を保持した変異体である。上記実施形態において、プラスミノーゲンは、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、または依然としてプラスミノーゲン活性を保持した変異体若しくはフラグメントである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、霊長類動物またはげっ歯類動物に由来するヒトプラスミノーゲンのオルソログ、または依然としてプラスミノーゲン活性を保持した変異体若しくはフラグメントである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンのアミノ酸は配列2、6、8、10または12に示される。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンはヒト天然プラスミノーゲンである。
【0030】
一部の実施形態において、前記被験者はヒトである。一部の実施形態において、前記被験者はプラスミノーゲンが不足、または欠乏している。一部の実施形態において、前記不足または欠乏は、先天的、継発的及び/または局所的である。
【0031】
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物は、薬学的に許容される担体と、前述の方法で使用するプラスミノーゲンとを含む。いくつかの実施形態では、前記キットは、(i)前述の方法で使用するプラスミノーゲン、及び(ii)前記プラスミノーゲンを前記被験者に送達するための部材(means)を含む、予防または治療キットであり得る。いくつかの実施形態では、前記部材は注射器またはバイアルである。いくつかの実施形態では、前記キットは、前述の方法のいずれかを実施するために前記プラスミノーゲンを前記被験者に投与することを指示するためのラベルまたはプロトコルをさらに含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、前記製品は、ラベルを含む容器と、(i)前述の方法で使用するためのプラスミノーゲンまたはプラスミノーゲンを含む医薬組成物とを含み、前記ラベルは、前述の方法のいずれかを実施するために前記プラスミノーゲンまたは組成物を前記被験者に投与することを指示する。
【0033】
いくつかの実施形態では、前記キットまたは製品は、他の薬剤を含む1つまたは複数の追加の部材または容器をさらに含む。
【0034】
前記方法の一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは全身または局所にて投与され、好ましくは、鼻吸入、エアロゾル吸入、点鼻薬、点耳薬、点眼薬、静脈内、腹腔内、皮下、頭蓋内、髄腔内、筋肉内、及び直腸内から選択される1つ以上の経路または方法よって投与する。前記方法のいくつかの実施形態では、前記プラスミノーゲンは、適切なポリペプチド担体または安定剤と組み合わせて投与される。前記方法の一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは毎日0.0001~2000mg/kg、0.001~800mg/kg、0.01~600mg/kg、0.1~400mg/kg、1~200mg/kg、1~100mg/kg、10~100mg/kg(体重1キロあたりで計算)または0.0001~2000mg/cm2、0.001~800mg/cm2、0.01~600mg/cm2、0.1~400mg/cm2、1~200mg/cm2、1~100mg/cm2、10~100mg/cm2(体表面積平方センチメートルあたりで計算)の用量で投与し、好ましくは一回以上繰り返し、好ましくは少なくとも毎日投与する。
【0035】
本発明は、本発明の実施形態に属する技術的特徴のすべての組み合わせを明確にカバーし、これらの組み合わせ後の技術構成は、上記の技術構成が別個に明確に開示されたのと同様に、本出願において明確に開示された。さらに、本発明はまた、各実施形態とそれらの要素との間の組み合わせを明確にカバーし、組み合わせ後の技術構成は、本明細書に明確に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1A~Cは、モノクロタリンによって誘発された肺動脈性肺高血圧症モデルマウスにプラスミノーゲンを28日間投与した後の肺のシリウスレッド染色の代表的な写真を示す図である。Aはブランク対照群、Bは溶媒PBS投与対照群(本願において溶媒群と略称する)、Cはプラスミノーゲン投与群(本願において投与群と略称する)である。その結果、ブランク対照群のマウスの肺には基本的にコラーゲン沈着はなく、プラスミノーゲン群のマウスの肺組織のコラーゲン沈着(矢印でマーク)は、溶媒PBS投与対照群よりも有意に少なかった。これは、プラスミノーゲンがモノクロタリンによって誘発された肺動脈性肺高血圧症モデルマウスの肺の線維化を有意に減少させることができることを示している。
【
図2】
図2A~Cは、ブレオマイシンによって誘発された全身性硬化症モデルマウスにプラスミノーゲンを21日間投与した後の肺シリウスレッド染色の代表的な写真を示す図である。Aは溶媒PBS投与対照群、Bはプラスミノーゲン投与群、Cは定量分析結果である。その結果、ブレオマイシン誘発全身性硬化症マウスモデルでは、溶媒PBS投与群マウスの肺線維症(矢印でマーク)の程度はプラスミノーゲン投与群よりも高く、プラスミノーゲン投与群マウスの肺胞壁の形態は正常に近く、炎症細胞のレベルは有意に減少し、線維化の程度は溶媒PBS投与群よりも有意に低く、しかもその差は統計的に有意であった(*はP<0.05を表す)。
【
図3】
図3A~Bは、パラコート誘発中毒マウスにプラスミノーゲンを14日間投与した後の肺のシリウスレッド染色の観察結果を示す図である。Aは溶媒PBS投与対照群、Bはプラスミノーゲン投与群である。その結果、プラスミノーゲン投与群マウスにおけるコラーゲン線維の沈着は、溶媒PBS投与対照群よりも有意に少なかった。これは、プラスミノーゲンがパラコート中毒によって引き起こされる肺線維化を減少させることができることを示している。
【
図4】
図4A~Dは、プラスミノーゲンを14日間投与した後の、LPS誘発肺炎モデルマウスにおける肺のシリウスレッド染色の結果を示す図である。Aはブランク対照群、Bは溶媒PBS投与対照群、Cはプラスミノーゲン投与群、Dは定量分析結果である。その結果、ブランク対照群の肺組織に一定量のコラーゲン沈着があり(矢印でマーク)、溶媒群のマウスの肺組織にコラーゲン沈着が有意に増加し、投与群のマウスの肺組織におけるコラーゲン沈着は溶媒群のマウスよりも有意に少なく、しかもその差は統計的に有意であった(*はP<0.05を表す)。これは、プラスミノーゲンが肺炎モデルマウスの肺におけるコラーゲンの沈着を減少させ、肺炎によって引き起こされる肺線維症を改善できることを示している。
【
図5】
図5A~Cは、プラスミノーゲンを予め3日間投与した後の、LPS誘発肺炎モデルマウスにおける肺のシリウスレッド染色の結果を示す図である。Aはブランク対照群、Bは溶媒PBS投与対照群、Cは投与群である。その結果、ブランク対照群の肺組織に一定量のコラーゲン沈着があり(矢印でマーク)、溶媒群のマウスの肺組織にコラーゲン沈着が有意に増加し、投与群のマウスの肺組織におけるコラーゲン沈着は溶媒群のマウスよりも有意に少なかった。これは、プラスミノーゲンを予め投与することで、肺炎モデルマウスの肺におけるコラーゲンの沈着が減少し、肺炎によって引き起こされる肺線維症が改善できることを示している。
【
図6】
図6は、プラスミノーゲンを7日間投与した後の、LPS誘発肺炎モデルマウスの肺洗浄液中の総タンパク質の検出結果を示す図である。その結果、ブランク対照群の肺洗浄液に一定量の総タンパク質があり、溶媒群の肺洗浄液中の総タンパク質レベルは、ブランク対照群よりも有意に高く(***はP<0.001を表す)、投与群の肺洗浄液中の総タンパク質レベルは、溶媒群よりも有意に低く、しかもその統計的差は有意に近かった(P=0.052)。これは、プラスミノーゲンが肺炎モデルマウスの肺洗浄液中の総タンパク質レベルを低下させることができることを示している。
【
図7】
図7は、プラスミノーゲンを3日間投与した後の、LPS誘発肺炎モデルマウスの肺フィブリンの免疫組織化学染色結果を示す図である。Aは溶媒投与対照群、Bは投与群である。その結果、溶媒群マウスの肺組織におけるフィブリン沈着のレベルは、投与群よりも有意に高かった。これは、プラスミノーゲンが肺炎モデルマウスの肺フィブリン沈着を減少させることができることを示している。
【
図8】
図8は、一般的なCOVID-19患者の高解像度CT画像を示す図である。左側に患者のIDが表示されている。A列は、プラスミノーゲン吸入前の胸部CT画像である。B列は、該当患者のプラスミノーゲン吸入後の胸部CT画像である。C列は、5人の患者の、B超音波検査の5日後に再検の胸部CTである。黒い矢印と枠は異常を示す。ヒトプラスミノーゲンを2~3回投与した後、5人の患者の肺病変の数、範囲、及び密度が減少し、さらに部分的に消失し、斑状または点状の「スリガラス」影は、大幅に減少または吸収された。これは、ヒトプラスミノーゲンのエアロゾル吸入が、COVID-19感染による肺損傷を急速に改善できることを示している。
【
図9】
図9は、普通型、重症型、重篤型のCOVID-19患者のプラスミノーゲン吸入前後の心拍数モニタリング結果を示す図である。統計分析の結果、プラスミノーゲン投与後、普通型、重症型、重篤型の患者の平均心拍数はいずれも減少傾向を示し、一般的な患者では、投与前後の比較に統計的な差があった(P<0.05)。
【発明の詳細な説明】
【0037】
線維素溶解系(Fibrinolytic system)は、線溶系とも呼ばれ、線維素溶解(線溶)の過程に関与する一連の化学物質からなる系であり、主にプラスミノーゲン(PLG)、プラスミン、プラスミノーゲン活性化因子、及び線維素溶解阻害剤を含む。プラスミノーゲン活性化因子には、組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)、及びウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u-PA)が含まれる。t-PAはセリンプロテアーゼであり、血管内皮細胞によって合成される。t-PAはプラスミノーゲンを活性化し、このプロセスは主にフィブリンで行われる。ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u-PA)は、尿細管上皮細胞と血管内皮細胞によって産生され、補因子としてフィブリンを必要とすることなくプラスミノーゲンを直接活性化することができる。プラスミノーゲン(PLG)は肝臓で合成される。血液が凝固すると、PLGはフィブリンネットに大量に吸着され、t-PAまたはu-PAの作用によりプラスミンに活性化されて線維素溶解を促進する。プラスミナーゼ(PL)はセリンプロテアーゼであり、フィブリンとフィブリノーゲンを分解し、様々な凝固因子V、VIII、X、VII、XI、IIなどを加水分解し、プラスミノーゲンをプラスミンに変換し、補体を加水分解するなどの作用がある。線維素溶解阻害剤には、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤(PAI)、及びα2-抗チプラスミン(α2-AP)が含まれる。PAIには主にPAI-1とPAI-2の2つの形態があり、t-PAに1:1の比率で特異的に結合し、それによってそれを不活性化すると同時にPLGを活性化することができる。α2-APは肝臓で合成され、PLと1:1の比率で結合して複合体を形成し、それによってPL活性を阻害する。FXIIIはα2-APをフィブリンと共有結合させ、それによってPLに対するフィブリンの感受性を弱める。インビボでの線維素溶解系の活性を阻害する物質としては、PAI-1、補体C1阻害剤、α2抗プラスミン、及びα2-マクログロブリンが挙げられる。
【0038】
本明細書で使用される「プラスミノーゲン活性化経路の成分」という用語は、
1、プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、Glu-プラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン(micro-plasminogen)、delta-プラスミノーゲン、それらの変異体または類縁体;
2、プラスミン及びそれらの変異体または類縁体;及び
3、プラスミノーゲン活性化剤、例えば、tPA及びuPA、ならびにtPAまたはuPAの1つ以上のドメイン(1つ以上のkringleドメイン及びタンパク質加水分解ドメインなど)を含むtPAまたはuPA変異体及び類縁体をカバーする。
【0039】
上記プラスミノーゲン、プラスミン、tPA及びuPAの「変異体」は、すべての天然に存在するヒトの遺伝的変異体及びこれらのタンパク質の他の哺乳動物型、並びに、例えば、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個のアミノ酸を追加、削除、及び/または置換されてかつ依然としてプラスミノーゲン活性、プラスミン活性、tPAまたはuPA活性を有するタンパク質を含む。例えば、プラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAの「変異体」は、例えば、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個の保存的アミノ酸によって置換されて得られるこれらのタンパク質の突然変異体を含む。
【0040】
本発明の「プラスミノーゲン変異体」は、配列2、6、8、10または12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性を有するタンパク質をカバーする。例えば、本発明の「プラスミノーゲン変異体」は、配列2、6、8、10または12に基づいて、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個のアミノ酸を追加、削除、及び/または置換し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性を有するタンパク質であり得る。具体的には、本発明のプラスミノーゲン変異体は、すべての天然に存在するヒトの遺伝的変異体及びこれらのタンパク質の他の哺乳動物型、並びに、例えば、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個のアミノ酸の保存的置換によって得られるこれらのタンパク質の突然変異体を含む。
【0041】
本発明のプラスミノーゲンは、霊長類動物またはげっ歯類動物に由来するヒトプラスミノーゲンのオルソログ、または依然としてプラスミノーゲン活性を保持した変異体、例えば、配列2、6、8、10または12に示されるプラスミノーゲン、例えば、配列2に示されるヒト天然プラスミノーゲンであり得る。
【0042】
上記プラスミノーゲン、プラスミン、tPA及びuPAの「類縁体」はそれぞれ、プラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAと実質的に同様の効果を与える化合物を含む。
【0043】
上記プラスミノーゲン、プラスミン、tPA及びuPAの「変異体」及び「類縁体」は、1つ以上のドメイン(例えば、1つ以上のkringleドメイン及びタンパク質加水分解ドメイン)を含むプラスミノーゲン、プラスミン、tPA及びuPAの「変異体」及び「類縁体」をカバーする。例えば、プラスミノーゲンの「変異体」及び「類縁体」は、1つ以上のプラスミノーゲンドメイン(例えば、1つ以上のkringleドメイン及びタンパク質加水分解ドメイン)を含むプラスミノーゲン変異体及び類縁体、例えば、ミニプラスミノーゲン(mini-plasminogen)をカバーする。プラスミンの「変異体」及び「類縁体」は、1つ以上のプラスミンドメイン(例えば、1つまたは複数のkringleドメイン及びタンパク質加水分解ドメイン)を含むミニプラスミン(mini-plasmin)やδ-プラスミン(delta-plasmin)などのプラスミンの「変異体」及び「類縁体」をカバーする。
【0044】
上記プラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAの「変異体」または「類縁体」がそれぞれプラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAの活性を有するかどうか、またはそれらがプラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAと実質的に同様の効果をそれぞれ与えるかどうかは、当技術分野で知られている方法、例えば、ザイモグラフィー(enzymography)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)及びFACS(蛍光活性化細胞ソーティング法)を使用して、活性化されたプラスミン活性のレベルによって測定できる。例えば、次の文献に記載されている方法を参照して測定することができる。Ny,A.,Leonardsson,G.,Hagglund,A.C,Hagglof,P.,Ploplis,V.A.,Carmeliet,P. and Ny,T. (1999). Ovulation inplasminogen-deficient mice. Endocrinology 140,5030-5035;Silverstein RL, Leung LL, Harpel PC, Nachman RL (November 1984). ”Complex formation of platelet thrombospondin with plasminogen. Modulation of activation by tissue activator”. J. Clin. Invest. 74 (5): 1625-33;Gravanis I, Tsirka SE (February 2008). ”Tissue-type plasminogen activator as a therapeutic target in stroke”. Expert Opinion on Therapeutic Targets. 12 (2): 159-70;Geiger M, Huber K, Wojta J, Stingl L, Espana F, Griffin JH, Binder BR (Aug 1989). ”Complex formation between urokinase and plasma protein C inhibitor in vitro and in vivo”. Blood. 74 (2): 722-8。
【0045】
本発明の一部の実施形態において、本発明の「プラスミノーゲン活性化経路の成分」はGlu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、δ-プラスミノーゲンから選ばれるプラスミノーゲンであり、またはそれらのプラスミノーゲン活性を保持した変異体である。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、または依然としてプラスミノーゲン活性を保持した保存的突然変異体若しくはそのフラグメントである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、霊長類動物またはげっ歯類動物に由来するヒトプラスミノーゲンのオルソログ、または依然としてプラスミノーゲン活性を保持した保存的突然変異体若しくはそのフラグメントである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンのアミノ酸は配列2、6、8、10または12に示される。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンはヒト天然プラスミノーゲンである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは配列2に示されるヒト天然プラスミノーゲンである。
【0046】
「プラスミノーゲンを直接活性化できる、若しくはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによってプラスミノーゲンを間接に活性化できる化合物」とは、プラスミノーゲンを直接活性化できる、若しくはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによってプラスミノーゲンを間接に活性化できる任意の化合物を指し、例えば、tPA、uPA、ストレプトキナーゼ、サルプラーゼ、アルテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼ、アニストレプラーゼ、モンテプラーゼ、ラノテプラーゼ、パミテプラーゼ、及びスタフィロキナーゼが挙げられる。
【0047】
本発明の「線維素溶解阻害剤の拮抗薬」は、線維素溶解阻害剤の作用に拮抗し、その作用を弱め、遮断し、阻止する化合物である。前記線維素溶解阻害剤は、例えば、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミン、及びα2-マクログロブリンである。前記拮抗剤は、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンもしくはα2-マクログロブリンの抗体、または、例えばPAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンもしくはα2-マクログロブリンの発現を遮断またはダウンレギュレートするアンチセンスRNAもしくはミニRNA、または、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンまたはα2-マクログロブリンの結合部位を占めるが、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンまたはα2-マクログロブリンの機能を持たない化合物、または、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンもしくはα2-マクログロブリンの結合ドメイン及び/または活性ドメインをブロックする化合物である。
【0048】
プラスミンはプラスミノーゲン活性化系(PA系)の重要な成分である。それは広スペクトルのプロテアーゼであり、細胞外マトリックス(ECM)の幾つかの成分を加水分解することができ、これらの成分はフィブリン、ゼラチン、フィブロネクチン、ラミニン及びプロテオグリカンを含む。また、プラスミンは一部のプロマトリックスメタロプロテアーゼ(pro-MMPs)を活性化させて活性のあるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)にすることができる。そのためプラスミンは細胞外タンパク加水分解作用の一つの重要な上流調節因子である。プラスミンはプラスミノーゲンが組織型プラスミノーゲン活性化剤(tPA)またはウロキナーゼプラスミノーゲン活性化剤(uPA)という二種類の生理性のPAsタンパク質を加水分解することで形成されるものである。プラスミノーゲンは血漿及び他の体液中において、相対的レベルが比較的高く、従来的にはPA系の調節は主にPAsの合成及び活性レベルよって実現されると考えられている。PA系成分の合成は異なる要素によって厳格な調節を受け、例えばホルモン、成長因子及びサイトカインである。また、この他に、プラスミンとPAsの特定の生理的阻害剤が存在する。プラスミンの主な阻害剤はα2-抗プラスミン(α2-antiplasmin)である。PAsの活性は、uPAとtPAのプラスミノーゲン活性化剤阻害剤-1(PAI-1)に同時に阻害され、uPAを主に阻害するプラスミノーゲン活性化剤阻害剤-2(PAI-2)によって調節される。一部の細胞表面には直接加水分解する活性のあるuPA特異性細胞表面受容体(uPAR)がある。
【0049】
プラスミノーゲンは単一鎖の糖タンパクであり、791個のアミノ酸からなり、分子量は約92kDaである。プラスミノーゲンは主に肝臓で合成され、大量に細胞外液に存在している。血漿中に含まれるプラスミノーゲンの含有量は約2μMである。そのためプラスミノーゲンは組織及び体液中のタンパク質加水分解活性の大きな潜在的な由来である。プラスミノーゲンには二種類の分子の形が存在する:グルタミン酸-プラスミノーゲン(Glu-plasminogen)及びリジン-プラスミノーゲン(Lys-plasminogen)である。天然的に分泌され及び分解していない形のプラスミノーゲンは一つのアミノ基末端(N-末端)グルタミン酸を有し、そのためグルタミン酸-プラスミノーゲンと称される。しかし、プラスミンが存在する場合、グルタミン酸-プラスミノーゲンはLys76-Lys77においてリジン-プラスミノーゲンに加水分解される。グルタミン酸-プラスミノーゲンと比較して、リジン-プラスミノーゲンはフィブリンとより高い親和力を有し、さらにより高い速度でPAsによって活性化されることができる。この二種類の形のプラスミノーゲンのArg560-Val561ペプチド結合はuPAまたはtPAによって切断され、これによりジスルフィド結合によって連結された二重鎖プロテアーゼプラスミンの形成をもたらす。プラスミノーゲンのアミノ基末端部分は五つの相同三環を含み、即ちいわゆるkringlesであり、カルボキシル基末端部分はプロテアーゼドメインを含む。一部のKringlesはプラスミノーゲンとフィブリン及びその阻害剤α2-APの特異的相互作用を介在するリジン結合部位を含む。最も新しく発見されたのは38kDaのフィブリンプラスミノーゲンフラグメントであり、kringlel-4を含み、血管生成の有効的な阻害剤である。このフラグメントはアンギオスタチン(Angiostatin)と命名され、幾つかのプロテアーゼ加水分解プラスミノーゲンから生成される。
【0050】
プラスミンの主な基質はフィブリンであり、フィブリンの溶解は病理性血栓の形成を予防するキーポイントである[。プラスミンはさらにECMの幾つかの成分に対する基質特異性を有し、これらの成分はラミニン、フィブロネクチン、プロテオグリカン及びゼラチンを含み、これはプラスミンがECM再建において重要な作用を有することを示している。間接的に、プラスミンはさらにMMP-1、MMP-2、MMP-3及びMMP-9を含むいくつかのプロテアーゼ前駆体を活性プロテアーゼに変換することによりECMのその他の成分を分解する。そのため、プラスミンは細胞外タンパク加水分解の重要な上流調節因子であることを提出ことがある。また、プラスミンはいくつかの潜在的な形の成長因子を活性化させる能力を有する。インビトロで、プラスミンはさらに補体系の成分を加水分解させて走化性の補体フラグメントを放出することができる。
【0051】
「プラスミン」は血液中に存在する非常に重要な酵素であり、フィブリン凝塊をフィブリン分解生成物及びD-二量体に加水分解する。
【0052】
「プラスミノーゲン」はプラスミンの酵素前駆体の形であり、swiss prot中の配列に基づいて、シグナルペプチドを含む天然ヒト由来プラスミノーゲンのアミノ酸配列(配列4)として計算すれば810個のアミノ酸からなり、分子量は約90kDであり、主に肝臓において合成され且つ血液中で循環できる糖タンパク質であり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列3に示される通りである。フルサイズのプラスミノーゲンは七つのドメインを含む:C末端に位置するセリンプロテアーゼドメイン、N末端に位置するPan Apple(PAp)ドメイン及び5つのKringleドメイン(Kringle1-5)を含む。swiss prot中の配列を参照すれば、そのシグナルペプチドは残基Met1-Gly19を含み、Papは残基Glu20-Val98を含み、Kringle1は残基Cys103-Cys181を含み、Kringle2は残基Glu184-Cys262を含み、Kringle3は残基Cys275-Cys352を含み、Kringle4は残基Cys377-Cys454を含み、Kringle5は残基Cys481-Cys560を含む。NCBIデータによれば、セリンプロテアーゼドメインは残基Val581-Arg804を含む。
【0053】
Glu-プラスミノーゲンはヒトの天然のフルサイズのプラスミノーゲンであり、791個のアミノ酸からなる(19個のアミノ酸からなるシグナルペプチドを含まない)。該配列をコードするcDNA配列は配列1に示される通りであり、そのアミノ酸配列は配列2に示される通りである。生体内において、さらにGlu-プラスミノーゲンの76-77番目のアミノ酸の位置で加水分解することにより形成されたLys-プラスミノーゲンが存在し、例えば配列6に示されるものであり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列5が示す通りである。Delta-プラスミノーゲン(δ-plasminogen)はフルサイズのプラスミノーゲンにKringle2-Kringle5構造の欠損が生じているフラグメントであり、Kringle1及びセリンプロテアーゼドメインしか含有せず(プロテアーゼドメイン(protease domain、PD)とも呼ばれる)、δ-プラスミノーゲンのアミノ酸配列(配列8)を報告している文献があり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は例えば配列7に示される。ミニプラスミノーゲン(Mini-plasminogen)はKringle5及びセリンプロテアーゼドメインからなり、残基Val443-Asn791(シグナルペプチドを含まないGlu-プラスミノーゲン配列のGlu残基を開始アミノ酸とする)について文献が報告しており、そのアミノ酸配列は配列10に示される通りであり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列9が示す通りである。しかしマイクロプラスミノーゲン(Micro-plasminogen)はセリンプロテアーゼドメインのみ含有し、そのアミノ酸配列は残基Ala543-Asn791(シグナルペプチドを含まないGlu-プラスミノーゲン配列のGlu残基は開始アミノ酸である)と文献が報告し、特許文献CN102154253Aはそれが残基Lys531-Asn791を含むと開示し(シグナルペプチドを含まないGlu-プラスミノーゲン配列のGlu残基を開始アミノ酸とする)、本特許出願において、マイクロプラスミノーゲンの配列は特許文献CN102154253Aを参照でき、そのアミノ酸配列は配列12に示される通りであり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列11に示される通りである。
【0054】
全長プラスミノーゲンの構造は、Aisinaらの論文にも記載されている(Aisina R B,Mukhametova L I.Structure and function of plasminogen/plasmin system[J].Russian Journal of Bioorganic Chemistry,2014,40(6):590-605)。Aisinaらの前記文章によれば、プラスミノーゲンにはKringle 1、2、3、4、5ドメインとセリンプロテアーゼドメイン(プロテアーゼドメイン(protease domain、PD)とも呼ばれる)が含まれ、Kringlesは、プラスミノーゲンが低分子量及び高分子量のリガンドに結合する役割(すなわち、リジン結合活性)を担っており、その結果、プラスミノーゲンがよりオープンな構成に変換され、より活性化しやすくなり、プロテアーゼドメイン(PD)は、残基Val562-Asn791であり、tPAとUPAはプラスミノーゲンのArg561-Val562位活性化結合を特異的に切断し、それによってプラスミノーゲンがプラスミンを形成できる。したがって、プロテアーゼドメイン(PD)は、プラスミノーゲンのタンパク質加水分解活性を付与する領域である。
【0055】
本発明の「プラスミン」と「フィブリンプラスミン」、「繊維タンパクプラスミン」は互いに置き換えて使用でき、その意味は同じである。「プラスミノーゲン」と「フィブリンプラスミノーゲン」、「繊維タンパクプラスミノーゲン」は互いに置き換えて使用でき、その意味は同じである。
【0056】
本願において、前記プラスミノーゲンの「不足」とは、被験者体内のプラスミノーゲンの含有量または活性が正常な人より低く、前記被験者の正常な生理学的機能に影響を及ぼすのに十分に低いことをいう。前記プラスミノーゲンの「欠乏」の意味は、被験者体内のプラスミノーゲンの含有量または活性が正常な人より明らかに低く、ひいては活性または発現が極微量であり、外部供給によってのみ正常な生理学的機能を維持できることである。
【0057】
当業者は以下のように理解できる。本発明のプラスミノーゲンのすべての技術構成はプラスミンに適用でき、そのため、本発明に記載の技術構成はプラスミノーゲン及びプラスミンをカバーするものである。循環プロセスにおいて、プラスミノーゲンは閉鎖した非活性コンフォメーションであるが、血栓または細胞表面に結合した際、プラスミノーゲン活性化剤(plasminogen activator,PA)の介在下において、開放性のコンフォメーションを有する活性プラスミンとなる。活性を有するプラスミンはさらにフィブリン凝塊をフィブリン分解生成物及びD-二量体に加水分解させ、これにより血栓を溶解させる。そのうちプラスミノーゲンのPApドメインはプラスミノーゲンを非活性閉鎖コンフォメーションに維持する重要なエピトープを含み、しかしKRドメインは受容体及び基質上のリジン残基と結合できるものである。プラスミノーゲン活性化剤としての酵素は、既に複数種類知られ、組織プラスミノーゲン活性化剤(tPA)、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化剤(uPA)、カリクレイン及び凝結因子XII(ハーゲマン因子)などを含む。
【0058】
「プラスミノーゲン活性フラグメント」とは、基質のターゲット配列中のリジンに結合する活性(リジン結合活性)フラグメント、またはタンパク質加水分解機能を発揮する活性(タンパク質加水分解活性)フラグメント、またはタンパク質加水分解活性とリジン結合活性との両方を有するフラグメントを指す。本発明のプラスミノーゲンに関する技術構成は、プラスミノーゲンをプラスミノーゲン活性フラグメントに置き換えた技術構成を包含する。いくつかの実施形態では、本発明のプラスミノーゲン活性フラグメントは、プラスミノーゲンのセリンプロテアーゼドメインを含むか、またはプラスミノーゲンのセリンプロテアーゼドメインからなり、好ましくは、本発明のプラスミノーゲン活性フラグメントは、配列14を含むか、または配列14と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または配列14と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するアミノ酸配列からなる。一部の実施形態において、本発明のプラスミノーゲン活性フラグメントは、Kringle 1、Kringle 2、Kringle 3、Kringle 4、及びKringle 5から選択される1つ以上のドメインを含むか、またはKringle 1、Kringle 2、Kringle 3、Kringle 4、及びKringle 5から選択される1つ以上のドメインからなる。いくつかの実施形態では、本発明のプラスミノーゲンは、上記のプラスミノーゲン活性フラグメントを含むタンパク質を含む。
【0059】
現在、血液中のプラスミノーゲン及びその活性測定方法は組織プラスミノーゲン活性化剤の活性に対する測定(t-PAA)、血漿組織プラスミノーゲン活性化剤抗原に対する測定(t-PAAg)、血漿組織プラスミノーゲン活性に対する測定(plgA)、血漿組織プラスミノーゲン抗原に対する測定(plgAg)、血漿組織プラスミノーゲン活性化剤の阻害物活性に対する測定、血漿組織プラスミノーゲン活性化剤の阻害物抗原に対する測定、血漿プラスミン-抗プラスミン複合物に対する測定(PAP)を含む。最もよく見られる測定方法は発色基質法である:測定対象(被験者)の血漿中にストレプトキナーゼ(SK)と発光基質を添加し、測定対象の血漿中のPLGはSKの作用下においてPLMとなり、後者は発光基質に作用し、それから分光光度計で測定し、吸光度の増加はプラスミノーゲンの活性と正比例の関係となる。この他にも免疫化学法、ゲル電気泳動法、免疫比濁法、放射免疫拡散法などを用いて血液中のプラスミノーゲン活性に対して測定を行うことができる。
【0060】
「オーソログまたはオルソログ(ortholog)」とは異なる種どうしのホモログであり、タンパク質の相同物もDNAの相同物も含み、直系遺伝子ともいう。それは具体的に異なる種どうしの同じ祖先の遺伝子から進化して得られるタンパク質または遺伝子を言う。本発明のプラスミノーゲンはヒト天然プラスミノーゲンを含み、さらには異なる種に由来する、プラスミノーゲン活性を有するプラスミノーゲンのオーソログまたはオルソログを含む。
【0061】
「保存的置換バリアント」とはそのうちの一つの指定されたアミノ酸残基が改変されたがタンパク質または酵素の全体のコンフォメーション及び機能を変えないものであり、これは類似の特性(例えば酸性、アルカリ性、疎水性など)のアミノ酸で親タンパク質中のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換するものを含むがこれらに限られない。類似の性質を有するアミノ酸は知られている通りである。例えば、アルギニン、ヒスチジン及びリジンは親水性のアルカリ性アミノ酸であり且つ互いに置き換えることができる。同じように、イソロイシンは疎水アミノ酸であり、ロイシン、メチオニンまたはバリンによって置換されることができる。そのため、機能の類似する二つのタンパク質またはアミノ酸配列の類似性は異なる可能性もある。例えば、MEGALIGNアルゴリズムに基づいて70%~99%の類似性(同一性)を有する。「保存的置換バリアント」はさらにBLASTまたはFASTAアルゴリズムに基づいて60%以上のアミノ酸同一性を有するポリペプチドまたは酵素を含み、75%以上に達すればさらによく、最も好ましくは85%以上に達し、さらには90%以上に達するのが最も好ましく、さらに天然または親タンパク質または酵素と比較して同じまたは基本的に類似する性質または機能を有する。
【0062】
「分離された」プラスミノーゲンとは天然環境から分離及び/または回収されたプラスミノーゲンタンパク質である。いくつかの実施形態において、前記プラスミノーゲンは(1)90%を超える、95%を超える、または98%を超える純度(重量で計算した場合)になるまで精製し、例えばLowry法によって決まるもので、例えば99%(重量で計算した場合)を超えるまで精製する、(2)少なくともスピニングカップ配列分析装置によりN末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基が得られる程度になるまで精製する、または(3)同質性になるまで精製する。該同質性はクマシーブリリアントブルーまたは銀染色により還元性または非還元性条件下のドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミノゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって決まるものである。分離されたプラスミノーゲンはバイオエンジニアリング技術により組み換え細胞から製造され、さらに少なくとも一つの精製ステップで分離されたプラスミノーゲンを含む。
【0063】
用語の「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は本明細書において互いに置き換えて使用でき、いかなる長さのアミノ酸の重合体を指し、遺伝的にコードされた及び非遺伝的にコードされたアミノ酸、化学的または生化学的に修飾されまたは派生したアミノ酸、及び修飾されたペプチド主鎖を有するポリペプチドを含む。該用語は融合タンパク質を含み、異種性アミノ酸配列を有する融合タンパク質を含むがこれに限られず、異種性と同種性由来のリーダー配列(N端メチオニン残基を有するあるいは有しない)を含む融合物;等々である。
【0064】
参照ペプチド配列の「アミノ酸配列同一性パーセンテージ(%)」の定義は、必要に応じてギャップを導入することで最大のパーセンテージ配列の同一性を実現した後、如何なる保存的な置換も配列同一性の一部として見なさない場合、候補配列中における参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同じアミノ酸残基のパーセンテージである。パーセンテージのアミノ酸配列の同一性を測定することを目的としたアライメントは本分野の技術範囲における複数種類の方式によって実現でき、例えば公衆が入手できるコンピュータソフトウエア、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウエアによって実現できる。当業者は配列をアライメントするための適切なパラメーターを決めることができ、該パラメーターが比較対象の配列のフルサイズに対して最大比較の要求を実現するための如何なるアルゴリズムも含む。しかし、本発明の目的のために、アミノ酸配列の同一性パーセンテージは配列比較コンピュータソフトウエアALIGN-2により得られるものである。
【0065】
ALIGN-2を用いることによりアミノ酸配列を比較する場合、所定のアミノ酸配列Aの所定のアミノ酸配列Bに対するアミノ酸配列同一性%(または所定のアミノ酸配列Bに対して、と、またはについてのある%のアミノ酸配列同一性を有する又は含む所定のアミノ酸配列Aともいう)は以下のように計算される:
分数X/Y×100
【0066】
ここで、Xは配列アライメントプログラムALIGN-2において該プログラムのA及びBのアライメントにおいて同一でマッチングすると評価したアミノ酸残基の数であり、且つYはBにおけるアミノ酸残基の総数である。以下のように理解するべきである:アミノ酸配列Aの長さとアミノ酸配列Bの長さが等しくない場合、AのBに対するアミノ酸配列の同一性%は、BのAに対するアミノ酸配列同一性%とは異なる。特に断りのない限り、本文中において使用するすべてのアミノ酸配列同一性値%は前記の段落に記載の通りであり、ALIGN-2コンピュータプログラムによって得られるものである。
【0067】
本文において使用されているように、用語の「治療」は期待される薬理及び/または生理的効果が得られることを言う。前記効果は疾患またはその症状の発生、発症を完全または一部予防すること、あるいは疾患及び/またはその症状を一部または完全軽減すること、及び/または疾患及び/またはその症状を一部または完全に治癒するものとすることができる。さらに以下を含む:(a)疾患が被験者の体内で発生することを予防し、前記被験者は疾患の要因を持っているが、該疾患を有すると診断されていない状況であること;(b)疾患を抑制し、その形成を阻害すること;及び(c)疾患及び/またはその症状を減軽し、即ち疾患及び/またはその症状の減退または消失を引き起こすこと。
【0068】
用語の「個体」、「被験者」及び「患者」は本明細書中において互いに置き換えて使用でき、哺乳動物を指し、ネズミ(ラット、マウス)、ヒト以外の霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、有蹄動物(例えばウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ)などを含むがこれらに限られない。
【0069】
「治療上有効量」または「有効量」とは、哺乳動物またはその他の被験者に投与して疾患の治療に用いられる際に疾患の前記予防及び/または治療を実現できるプラスミノーゲン活性化経路の成分またはその関連化合物(例えば、プラスミノーゲン)の量である。「治療上有効量」は使用するプラスミノーゲン活性化経路の成分またはその関連化合物(例えば、プラスミノーゲン)、治療しようとする被験者の疾患及び/または症状の重症度及び年齢、体重などに従って変化するものである。
【0070】
本発明のプラスミノーゲンの調製
プラスミノーゲンは治療の用途に用いられるために、自然界から分離及び精製されるものでもよく、標準的な化学ペプチド合成技術によって合成することでもよい。化学的手法によりポリペプチドを合成する際、液相または固相で合成を行うことができる。固相ポリペプチド合成(SPPS)(配列のC末端アミノ酸を不溶性支持体に附着させ、順番に配列中の残りのアミノ酸を添加する)はプラスミノーゲンの化学的合成に適したものである。各種形式のSPPS、例えばFmoc及びBocは、プラスミノーゲンの合成に用いることができる。固相合成に用いられる技術は以下に記載されている:Barany及びSolid-Phase Peptide Synthesis;3-284ページ、The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology.第二巻:Special Methods in Peptide Synthesis,Part A.,Merrifield,tら J.Am.Chem.Soc.,85:2149-2156(1963);Stewartら,Solid Phase Peptide Synthesis,2nd ed.Pierce Chem.Co.,Rockford,Ill.(1984);及びGanesan A.2006Mini Rev.Med Chem.6:3-10及びCamarero JAら 2005Protein Pept Lett.12:723-8。簡単に言えば、その上にペプチド鎖が構築されている機能性ユニットにより小さい不溶性の多孔ビーズを処理する。カップリング/脱保護の繰り返し循環後に、附着した固相の遊離N末端アミンとN保護を受けている単一のアミノ酸ユニットをカップリングさせる。それから、該ユニットを脱保護し、他のアミノ酸と連結する新しいN末端アミンを露出させる。ペプチドを固相上に固定したままにし、その後それを切除する。
【0071】
標準的な組み換え方法により本発明のプラスミノーゲンを生産する。例えば、プラスミノーゲンをコードする核酸を発現ベクター中に挿入し、それと発現ベクター中の制御配列を操作可能に接続させる。発現制御配列はプロモーター(例えば天然に関連されているプロモーター、または異種由来のプロモーター)、シグナル配列、エンハンサーエレメント及び転写終了配列を含むが、これらに限られない。発現の制御はベクター中の真核プロモーターシステムとすることができ、前記ベクターは真核宿主細胞(例えばCOSまたはCHO細胞)を形質転換またはトランスフェクションさせる。一旦ベクターを適切な宿主に導入すれば、ヌクレオチド配列の高レベル発現及びプラスミノーゲンの収集及び精製に適した条件下において宿主を維持する。
【0072】
適切な発現ベクターは通常宿主体内において遊離体または宿主染色体DNAのみ込む部分として複製される。通常、発現ベクターは選択マーカー(例えばアンピシリン耐性、ハイグロマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、カナマイシン耐性またはネオマイシン耐性)を含み、インビトロで所望のDNA配列によって形質転換されたそれらの細胞に対して測定を行うことに有用である。
【0073】
大腸菌(Escherichia coli)は目的化合物をコードするポリヌクレオチドをクローンするための原核宿主細胞の例である。その他の使用に適した微生物宿主は桿菌を含み、例えばバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)及びその他の腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、例えばサルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、及び各種シュードモナス属(Pseudomonas)種である。これらの原核宿主において、発現ベクターを生成でき、通常は宿主細胞と相容する発現制御配列(例えば複製開始点)を含むものである。また、多くの公知のプロモーターが存在し、例えば乳糖プロモーターシステム、トリプトファン(trp)プロモーターシステム、β-ラクタマーゼプロモーターシステム、またはファージλ由来のプロモーターシステムである。プロモーターは一般的に発現を制御し、必要に応じて遺伝子配列を制御する場合に、転写及び翻訳を起動するために、さらにリボソームの結合位置配列などを有してもよい。
【0074】
その他の微生物、例えば酵母も発現に用いることができる。酵母(例えばサッカロミセス(S.cerevisiae))及びピキア(Pichia)が適した酵母宿主細胞の例であり、そのうちの適切な担体は必要に応じて発現制御配列(例えばプロモーター)、複製開始点、終止配列など含む。典型的なプロモーターは3-ホスホグリセリン酸キナーゼ及びその他の糖分解酵素を含む。誘導型酵母プロモーターには特にアルコール脱水素酵素、イソチトクロムC、及びマルトースとガラクトースの利用のための酵素由来のプロモーターを含む。
【0075】
微生物以外に、哺乳動物細胞(例えばインビトロ細胞培養物中において培養された哺乳動物細胞)も本発明の抗-Tau抗体(例えばかかる抗-Tau抗体をコードするポリヌクレオチド)の発現及び生成に用いることができる。例えばWinnacker,From Genes to Clones,VCH Publishers,N.Y.,N.Y.(1987)参照。適した哺乳動物宿主細胞はCHO細胞系、各種Cos細胞系、HeLa細胞、骨髄腫細胞系、及び形質転換されたB細胞またはハイブリドーマを含む。これらの細胞に用いられる発現ベクターは発現制御配列、例えば複製開始点、プロモーター、及びエンハンサー(Queenら,Immunol.Rev.89:49(1986))、及び必要とされる加工情報サイト、例えばリボソームの結合サイト、RNAの切断サイト、ポリアデノシン酸化サイト、及び転写ターミネーター配列を含むことができる。適切な発現制御配列の例はウサギ免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシ乳頭腫ウィルス、サイトメガロウイルスなど由来のプロモーターである。Coら、J.Immunol.148:1149(1992)を参照されたい。
【0076】
一旦(化学または組み換え的に)合成されれば、本分野の標準的な手順、例えば硫酸アンモニウム沈殿、アフィニテイカラム、カラムクロマトグラフィー、高速液相クロマトグラフィー(HPLC)、ゲル電気泳動などにより本発明に記載のプラスミノーゲンを精製することができる。該プラスミノーゲンは基本的に純粋なものであり、例えば少なくとも約80%から85%の純度で、少なくとも約85%~90%の純度で、少なくとも約90%~95%の純度で、または98%~99%の純度またはさらに純度が高いものであり、例えば汚染物を含まず、前記汚染物は例えば細胞砕片、目的生成物以外の大分子などである。
【0077】
薬物配合剤
所望の純度のプラスミノーゲン活性化経路の成分またはその関連化合物(例えば、プラスミノーゲン)と必要に応じた薬用担体、賦形剤、または安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences,第16版,Osol,A.ed.(1980))を混合して凍結乾燥製剤または水溶液を形成して治療用の配合剤を得る。許容可能な担体、賦形剤、安定化剤は所要の用量及び濃度下において被験者に対して毒性がなく、さらに例えばリン酸塩、クエン酸塩及びその他の有機酸などの緩衝剤を含む。抗酸化剤はアスコルビン酸和メチオニンを含む;防腐剤(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメチレンジアミン;塩化ベンザルコニウム(benzalkonium chloride)、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブタノールまたはベンジルアルコール;アルキルパラヒドロキシ安息香酸エステル、例えばメチルまたはプロピルパラヒドロキシ安息香酸エステル;ピロカテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;m-クレゾール);低分子量ポリペプチド(約10個より少ない残基を有するもの);タンパク質例えば血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性重合体、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン酸、ヒスチジン、アルギニンまたはリシンである;単糖、二糖及びその他の炭水化物はグルコース、マンノース、またはデキストリンを含む;キレート剤は例えばEDTAである;糖類は例えばショ糖、マンニトール、フコースまたはソルビトールである;塩形成対イオン、例えばナトリウム;金属複合体(例えば亜鉛-タンパク複合体);及び/または非イオン界面活性剤、例えばTWEENTM、PLURONICSTMまたはポリエチレングリコール(PEG)である。好ましい凍結乾燥された抗VEGF抗体製剤は、WO97/04801に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。
【0078】
本発明の配合剤は治療を必要とする具体的な症状の必要とする一種類以上の活性化合物を含有してもよく、好ましくは活性が相補的で互いに副作用を有しないものである。
【0079】
本発明のプラスミノーゲンは例えば凝集技術または界面重合によって作られるマイクロカプセル中に内包ことができ、例えば、膠質薬物輸送系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン剤、ナノ粒子及びナノカプセル)中に入れまたは粗エマルジョン状液中のヒドロキシメチルセルロースまたはゲルーマイクロカプセル及びポリ―(メタアクリル酸メチル)マイクロカプセル中に入れることができる。これらの技術はRemington′s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に開示されている。
【0080】
体内に投与することに用いられる本発明のプラスミノーゲン活性化経路の成分またはその関連化合物(例えば、プラスミノーゲン)は必ず無菌である必要がある。これは凍結乾燥及び再度配合する前または後に除菌濾過膜で濾過することで容易に実現できる。
【0081】
本発明のプラスミノーゲン活性化経路の成分またはその関連化合物(例えば、プラスミノーゲン)は徐放製剤を調製できる。徐放製剤の適切な実例は一定の形状を有し且つ糖タンパクを含む固体の疎水性重合体の半透過マトリックスを含み、例えば膜またはマイクロカプセルである。徐放性マトリックスの実例はポリエステル、水性ゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタアクリル酸エステル)(Langerら,J.Biomed.Mater.Res.,15:167-277(1981);Langer,Chem.Tech.,12:98-105(1982))またはポリ(ビニールアルコール)、ポリラクチド(米国特許3773919,EP 58,481)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタミン酸の共重合体(Sidman,ら,Biopolymers 22:547(1983)),分解できないエチレン-ビニルアセテート(ethylene-vinyl acetate)(Langer,ら,出所は前記と同じ)、または分解可能な乳酸-ヒドロキシ酢酸共重合体、例えばLupron DepotTM(乳酸-ヒドロキシ酢酸共重合体及びリュープロレリン(leuprolide)酢酸エステルからなる注射可能なミクロスフェア体)、及びポリD-(-)-3-ヒドロキシ酪酸を含む。重合体、例えばエチレン-酢酸エチル及び乳酸-ヒドロキシ酢酸は、持続的に分子を100日間以上放出することができ、しかしいくつかの水性ゲルがタンパク質を放出する時間は比較的短い。関連のメカニズムに応じてタンパク質を安定化させる合理的なストラテジーにより設計できる。例えば、凝集のメカニズムが硫化ジスルフィド結合の交換によって分子間S-S結合を形成することであれば、メルカプト基残基を修飾することにより、酸性溶液中から凍結乾燥させ、湿度を制御し、適切な添加剤を用いて、及び特定の重合体基質組成物を開発することで安定化を実現できる。
【0082】
投与及び使用量
異なる方式、例えば鼻吸入、エアロゾル吸入、点鼻薬や点眼薬、静脈内、腹腔内、皮下、頭蓋内、髄腔内、動脈内(例えば、頸動脈を介して)、筋肉内、及び直腸内投与により本発明の薬物組成物の投与を実現できる。
【0083】
胃腸外での投与に用いられる製造物は無菌水性または非水性溶液、懸濁液及び乳剤を含む。非水性溶媒の例はプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、例えばオリーブオイルのような植物油、及び注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体は水、アルコール性/水性溶液、乳剤または懸濁液を含み、食塩水及び緩衝媒介を含む。胃腸外媒介物は塩化ナトリウム溶液、リンガ―デキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、または固定油である。静脈内媒介物は液体及び栄養補充物、電気分解補充物などを含む。されには防腐剤及びその他の添加剤、例えば抗微生物製剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなども存在してもよい。
【0084】
医療関係者は各種臨床的要素により用量案を決めることができる。例えば医学分野で公知のように、任意の患者の用量は複数の要素によって決められ、これらの要素は患者の体型、体表面積、年齢、投与される具体的な化合物、性別、投与回数及び経路、全体の健康度、及び同時に投与するその他の薬物を含む。本発明のプラスミノーゲンを含有する薬物組成物の用量の範囲は例えば被験者体重に対して毎日約0.0001~2000mg/kgであり、または約0.001~500mg/kg(例えば0.02mg/kg,0.25mg/kg,0.5mg/kg,0.75mg/kg,10mg/kg,50mg/kgなど)とすることができる。例えば、用量は1mg/kg体重または50mg/kg体重または1-50mg/kgの範囲とすることができ、または少なくとも1mg/kgである。この例示性の範囲より高いまたは低い用量もカバーされ、特に前記の要素を考慮した場合である。前記範囲中の中間用量も本発明の範囲内に含まれるものである。被験者は毎日、隔日、毎週または経験分析によって決められた任意のスケジュール表に従ってこのような用量を投与できる。例示的な用量のスケジュール表は連続数日0.01~100mg/kg投与することである。本発明の薬物の投与過程において治療効果及び安全性をリアルタイムに評価する必要がある。
【0085】
製品または薬物キット
本発明の一つの実施形態は、プラスミノーゲン活性化経路の成分またはその関連化合物(例えば、プラスミノーゲン)を含む製品または薬物キットに係る。前記製品は好ましくは一つの容器、ラベルまたはプロトコルを含む。適切な容器はボトル、バイアル、注射器などである。容器は各種材料例えばガラスまたはプラスチックから作られることができる。前記容器は組成物を含有し、前記組成物は本発明の疾患または症状を有効に治療し且つ無菌の入口を有する(例えば前記容器は静脈輸液用パックまたはバイアルであり、皮下注射針によって貫通される栓を含む)。前記組成物中の少なくとも一種類の活性化剤がプラスミノーゲン活性化経路の成分またはその関連化合物(例えば、プラスミノーゲン)である。前記容器上にあるまたは添付されているラベルは前記組成物を本発明の症状の治療に用いられると説明するものである。前記製品はさらに薬用緩衝液を含有する第二容器を含み、前記薬用緩衝液は例えばリン酸塩緩衝の食塩水、リンガー溶液及びグルコース溶液を含む。さらには商業及び使用者の角度から見ると必要とされるその他の物質、即ちその他の緩衝液、希釈剤、濾過物、針及び注射器を含むことができる。また、前記製品は使用説明を有するプロトコルを含み、これは例えば前記組成物の使用者にプラスミノーゲン活性化経路の成分またはその関連化合物(例えば、プラスミノーゲン)の組成物及び疾患の治療に伴うその他の薬物を患者に投与することを指示するものである。
【実施例】
【0086】
以下の実施例で使用されるヒトプラスミノーゲンは、ヒトドナーの血漿に由来し、以下の文書:KennethC Robbins,Louis Summaria,David Elwyn et al.Further Studies on the Purification and Characterization of Human Plasminogen and Plasmin.Journal of Biological Chemistry,1965,240(1):541-550;Summaria L,Spitz F,Arzadon L et al.Isolation and characterization of the affinity chromatography forms of human Glu- and Lys-plasminogens and plasmins.J Biol Chem.1976 Jun 25;251(12):3693-9;HAGAN JJ,ABLONDI FB,DE RENZO EC.Purification and biochemical properties of human plasminogen.J Biol Chem.1960 Apr;235:1005-10に記載された方法に基づき、プロセスを最適化し、ヒトドナー血漿から精製して得られた。そこに、ヒトLys-プラスミノーゲン(Lys-プラスミノーゲン)とGlu-プラスミノーゲン(Glu-プラスミノーゲン)は98%を上回った。
【実施例】
【0087】
実施例1は、プラスミノーゲンがモノクロタリンによって誘発された肺動脈性肺高血圧症モデルマウスの肺の線維化レベルを低下させることに関するものである。
12週齢のC57オスマウス12匹を取り、体重及び血圧を測定し、血圧に応じてマウスをランダムに2つの群に分け、ブランク対照群で4匹、モデル群で8匹とした。ブランク対照群マウスに100μlの生理食塩水を尾静脈注射により投与し、モデル群マウスに60mg/kg/匹でモノクロタリンを尾静脈注射により投与し、3日間連続注射し、マウスには通常食を与えた[3~4]。3日後に血圧を測定し、血圧に応じてモデル群マウスをランダムに2つの群に分け、溶媒PBS投与対照群とプラスミノーゲン投与群でそれぞれ4匹とした。ブプラスミノーゲン投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、溶媒PBS投与対照群マウスに同量(同じ体積)のPBS溶液を尾静脈注射により投与し、28日間連続投与した。ブランク対照群マウスには投与しなかった。モデリングして投与し始めた日を1日目とし、29日目にマウスを殺処分し、肺を採取して4%パラホルムアルデヒド固定液で24時間固定した。固定後の肺組織をアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。組織切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ再水和してから1回水で洗った。0.1%シリウスレッド飽和ピクリン酸で30分間染色後、流水で2分間すすぎ、ヘマトキシリンで1分間染色してから流水ですすぎ、1%塩酸アルコールで分別させ、アンモニア水でブルーイングさせ、流水ですすぎ、乾燥した後に中性ゴムに封入させ、切片を光学顕微鏡下で200倍にて観察した。
【0088】
モノクロタリンはビピロールアルカロイドであり、肝臓でP450モノオキシダーゼによって変換された後、血液循環を介して肺に到達し、肺血管に不可逆的な損傷を引き起こす可能性がある。肺血管内皮細胞はモノクロタリンの標的細胞であると考えられており、内皮細胞の損傷は肺血管リモデリングの過程で重要な役割を果たしている
[28,29]。
その結果、ブランク対照群のマウスの肺には基本的にコラーゲン沈着はなく(
図1A)、プラスミノーゲン群(
図1C)のマウスの肺組織のコラーゲン沈着(矢印でマーク)は、溶媒PBS投与対照群(
図1B)よりも有意に少なかった。これは、プラスミノーゲンがモノクロタリンによって誘発された肺動脈性肺高血圧症モデルマウスの肺の線維化を有意に減少させることができることを示している。
【実施例】
【0089】
実施例2は、プラスミノーゲンが全身性硬化症マウスの肺線維化を減少させることに関するものである。
12週齢のC57オスマウス17匹を取り、ランダムに2つの群に分け、溶媒PBS投与対照群で11匹、プラスミノーゲン投与群で6匹とした。実験を始めた日を0日目として記録し、体重を測定して群分けし、1日目からモデリングするために投与し、2つの群のマウスに0.1mg/0.1ml/匹/日でブレオマイシンを皮下注射により投与し、全身性硬化症を誘発し
[5]、プラスミノーゲンまたはPBSを投与し始め、21日間連続投与してモデリングした。ブプラスミノーゲン投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、溶媒PBS投与対照群マウスに同量のPBS溶液を同様に投与した。22日目にマウスを殺処分し、肺組織を採取して4%パラホルムアルデヒド固定液で24時間固定した。固定後の肺組織をアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。組織切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ再水和してから1回水で洗った。0.1%シリウスレッド飽和ピクリン酸で30分間染色後、流水で2分間すすぎ、ヘマトキシリンで1分間染色してから流水ですすぎ、1%塩酸アルコールで分別させ、アンモニア水でブルーイングさせ、流水ですすぎ、乾燥した後に中性ゴムに封入させ、切片を光学顕微鏡下で200倍にて観察した。
研究の結果、ブレオマイシン誘発全身性硬化症マウスモデルでは、顕微鏡で観察した溶媒PBS投与群(
図2A)のコラーゲン線維化(矢印でマーク)の程度はプラスミノーゲン投与群(
図2B)よりも高く、プラスミノーゲン投与群マウスの肺の肺胞壁の形態は正常に近く、炎症細胞が有意に減少し、線維化の程度は溶媒PBS投与群よりも有意に低く、しかもその差は統計的に有意であった(
図2C)。これは、プラスミノーゲンがブレオマイシン誘発の全身性硬化症マウスの肺組織の線維化を効果的に減少させることができることを示している。
【実施例】
【0090】
実施例3は、プラスミノーゲンがパラコート中毒マウスの肺線維化を減少させることに関するものである。
9~10週齢のC57マウス12匹を取り、ランダムに2つの群に分け、溶媒PBS投与対照群とラスミノーゲン投与群でそれぞれ6匹とした。2つの群のマウスに15mg/kg体重でパラコート溶液を1回腹腔内で注射した後にすぐ投与を開始し、それを1日目として記録した
[6]。ブプラスミノーゲン投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、溶媒PBS投与対照群マウスに同量のPBS溶液を同様に投与した。投与サイクルは14日間であり、15日目にマウスを殺処分し、肺組織を採取して4%中性ホルマリン固定液で24時間固定した。固定後の肺組織をアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。組織切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ再水和してから1回水で洗った。0.1%シリウスレッドで60分間染色後、流水ですすぎ、ヘマトキシリンで1分間染色してから流水ですすぎ、1%塩酸アルコール及びンモニア水で分別させてブルーイングさせ、流水ですすぎ、乾燥した後に封入させ、切片を光学顕微鏡下で200倍にて観察した。
パラコートは、ヒトにとって非常に有毒な速効性の除草剤であり、人体に入ると肺、肝臓、腎臓などに損傷を与える可能性がある。肺損傷は、初期の肺胞上皮細胞の損傷、肺胞内出血及び浮腫などの症状、後期の肺胞内及び間質性線維症として現れる
[6]。現在、パラコート中毒の治療法はなく、死亡率はほぼ100%である。
シリウスレッド染色の結果、プラスミノーゲン投与群(
図3B)マウスの肺におけるコラーゲン線維の沈着は、溶媒PBS投与対照群(
図3A)よりも有意に少なかった。これは、プラスミノーゲンがパラコート中毒による肺線維化を減少させることができることを示している。
【実施例】
【0091】
実施例4は、プラスミノーゲンが肺炎モデルマウスの肺組織のコラーゲン沈着を減少させることに関するものである。
6~8週齢のC57マウス18匹を取り、体重に応じてランダムに3つの群に分け、ブランク対照群、溶媒群、及び投与群でそれぞれ6匹とした。溶媒群及び投与群マウスを2%イソフルランで麻酔した後、3mg/kg体重で1.5mg/mlの細菌性リポ多糖溶液(LPS)(Beijing Solarbio Science & Technology Co.,Ltd.から購入、カタログ番号:L8880)を気管滴下注入することによって肺炎モデルを確立した
[7]。LPS投与2時間後に、投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、溶媒群マウスに同量溶媒を尾静脈注射により投与し、14日間連続投与した。15日目にマウスを殺処分し、肺組織を採取して4%中性ホルマリン固定液で24時間固定した。固定後の肺組織をアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。組織切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ再水和してから1回水で洗った。0.1%シリウスレッドで60分間染色後、流水ですすぎ、ヘマトキシリンで1分間染色してから流水ですすぎ、1%塩酸アルコール及びンモニア水で分別させてブルーイングさせ、流水ですすぎ、乾燥した後に封入させ、切片を光学顕微鏡下で200倍にて観察した。
その結果、ブランク対照群(
図4A)の肺組織に一定量のコラーゲン沈着があり(矢印でマーク)、溶媒群(
図4B)のマウスの肺組織にコラーゲン沈着が有意に増加し、投与群(
図4C)のマウスの肺組織におけるコラーゲン沈着は溶媒群のマウスよりも有意に少なく、しかもその差は統計的に有意であった(*はP<0.05を表す)(
図4D)。これは、プラスミノーゲンが肺炎モデルマウスの肺におけるコラーゲンの沈着を減少させ、肺炎によって引き起こされる肺線維症を改善できることを示している。
【実施例】
【0092】
実施例5は、プラスミノーゲンを予め投与することが、肺炎モデルマウスの肺組織におけるコラーゲン沈着を減少させることに関するものである。
6~8週齢のC57マウス18匹を取り、体重に応じてランダムに3つの群に分け、ブランク対照群、溶媒群、及び投与群でそれぞれ6匹とした。投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、溶媒群マウスに同量溶媒を尾静脈注射により投与し、3日間連続投与した。4日目に、溶媒群及び投与群マウスを2%イソフルランで麻酔した後、3mg/kg体重で1.5mg/mlの細菌性リポ多糖溶液(LPS)(Beijing Solarbio Science & Technology Co.,Ltd.から購入、カタログ番号:L8880)を気管滴下注入することによって肺炎モデルを確立した
[7]。9目にマウスを殺処分し、肺組織を採取して4%中性ホルマリン固定液で24時間固定した。固定後の肺組織をアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。組織切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ再水和してから1回水で洗った。0.1%シリウスレッドで60分間染色後、流水ですすぎ、ヘマトキシリンで1分間染色してから流水ですすぎ、1%塩酸アルコール及びンモニア水で分別させてブルーイングさせ、流水ですすぎ、乾燥した後に封入させ、切片を光学顕微鏡下で200倍にて観察した。
その結果、ブランク対照群(
図5A)の肺組織に一定量のコラーゲン沈着があり(矢印でマーク)、溶媒群(
図5B)のマウスの肺組織にコラーゲン沈着が有意に増加し、投与群(
図5C)のマウスの肺組織におけるコラーゲン沈着は溶媒群のマウスよりも有意に少なかった。これは、プラスミノーゲンを予め投与することが、肺炎モデルマウスの肺におけるコラーゲンの沈着を減少させ、肺炎によって引き起こされる肺線維症を改善できることを示している。
【実施例】
【0093】
実施例6は、プラスミノーゲンが肺炎モデルマウスの肺洗浄液中の総タンパク質レベルを低下させることに関するものである。
6~8週齢のC57マウス18匹を取り、体重に応じてランダムに3つの群に分け、ブランク対照群、溶媒群、及び投与群でそれぞれ6匹とした。溶媒群及び投与群マウスを2%イソフルランで麻酔した後、3mg/kg体重で1.5mg/mlの細菌性リポ多糖溶液(LPS)(Beijing Solarbio Science & Technology Co.,Ltd.から購入、カタログ番号:L8880)を気管滴下注入することによって肺炎モデルを確立した
[7]。LPS投与2時間後に、投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、溶媒群マウスに同量溶媒を尾静脈注射により投与し、7日間連続投与した。8日目に全てのマウスを殺処分し、肺を解剖し、重量を測定した。右肺気管支をPBSで2回続けて合計0.7ml洗浄し、液体を回収し、4℃で700gで10分間遠心分離して上清を収集し、ビシンコニン酸(Bicinchoninic acid、BCA)メソッドを使用して、総タンパク質を検出した。
その結果、ブランク対照群の肺洗浄液に一定量の総タンパク質があり、溶媒群の肺洗浄液中の総タンパク質レベルは、ブランク対照群よりも有意に高く(***はP<0.001を表す)、投与群の肺洗浄液中の総タンパク質レベルは、溶媒群よりも有意に低く、しかもその統計的差は有意に近かった(P=0.052)(
図6)。これは、プラスミノーゲンが肺炎モデルマウスの肺洗浄液中の総タンパク質レベルを低下させることができることを示している。
【実施例】
【0094】
実施例7は、プラスミノーゲンが肺炎モデルマウスの肺フィブリン沈着を減少させることに関するものである。
6~8週齢のC57マウス12匹を取り、体重に応じてランダムに2つの群に分け、溶媒群と投与群でそれぞれ6匹とした。溶媒群及び投与群マウスを2%イソフルランで麻酔した後、3mg/kg体重で1.5mg/mlの細菌性リポ多糖溶液(LPS)(Beijing Solarbio Science & Technology Co.,Ltd.から購入、カタログ番号:L8880)を気管滴下注入することによって肺炎モデルを確立した
[7]。LPS投与2時間後に、投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、溶媒群マウスに同体積の溶媒を尾静脈注射により投与し、3日間連続投与した。4日目にマウスを殺処分し、左肺を採取して4%中性ホルマリン固定液で24時間固定した。固定後の組織サンプルをアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。肺組織の冠状切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ再水和してから1回水で洗った。クエン酸で30分間修復し、室温で10分間冷却した後、水でやさしくすすいだ。3%過酸化水素水で15分間インキュベーションし、PAPマーカーで組織を丸で囲んだ。10%のヒツジ血清液(Vector laboratories,Inc.,USA)で1時間ブロッキングした。時間になった後、ヒツジ血清液を廃棄した。ウサギ抗フィブリン(Fibrin)抗体(Abcam)を加えて4℃で一晩インキュベーションした後、PBSで2回洗い、毎回5分間であった。ヤギ抗ウサギIgG(HRP)抗体(Abcam)の二次抗体を室温で1時間インキュベーションし、PBSで2回洗い、毎回5分間であった。DABキット(Vector laboratories,Inc.,USA)で呈色させ、水で3回洗浄した後にヘマトキシリンで30秒対比染色して、流水で5分間ブルーイングさせ、PBSで1回洗浄した。勾配で脱水させて透徹にして封入させ、切片を光学顕微鏡下で200倍にて観察した。
フィブリンは、急性呼吸困難における肺のヒアリン膜の主成分であり、ヒアリン膜は、肺胞のガス交換機能を妨げ、血中酸素飽和度の低下と呼吸困難を引き起こす
[8]。
その結果、溶媒群(
図7A)マウスの肺組織におけるフィブリン沈着のレベルは、投与群(
図7B)よりも有意に高かった。これは、プラスミノーゲンが肺炎モデルマウスの肺フィブリン沈着を減少させることができることを示している。
【0095】
以下の実施例は、本発明の実施をさらに説明するが、本発明を限定することを意図するものではない。
【0096】
以下のすべての患者は、インフォームドコンセントフォームに署名して自発的に薬を服用し、病院倫理委員会の承認を得た。
【0097】
病状や経過により、方法及び用量を適宜調整及び増減した。主な投与方法は、エアロゾル吸入と静脈内注射であった。エアロゾル吸入、静脈内注射によって投与したヒトドナーの血液から精製されたヒトプラスミノーゲンの濃度は、すべて5mg/mlであり、溶媒として生理食塩水を使用した。
【実施例】
【0098】
実施例8は、肺炎、肺線維症の患者に関するものである。
患者は77歳の男性であり、脳梗塞後遺症と肺線維症があり、この薬を使用する前に肺炎を発症し、痰は多く、黄色く粘性が高く、咳をするのが困難であった。1日(24時間)25~26回の喀痰吸引が必要であり、毎回大量の喀痰を吸引することができた。ずっと酸素を吸入し(ほとんど脱酸素ができなかった)、呼吸音が少し荒かった。喉頭気道切開(金属スリーブ)がある。半年近く寝たきりで、睡眠不足と精神状態の悪さが続いた。
投薬レジメン:最初の9日間はエアロゾル吸入で10mg/回、3回/日、10日目にエアロゾル吸入で10mg/回、2回/日、11日目は休薬、12日目にエアロゾル1回吸入で10mg、13日目にエアロゾル吸入1回で10mg、同時に10mg静脈注射により投与し、14日目に15mg静脈注射により投与した。
治療効果:
1日目の投薬:症状が改善し、強い喀痰として現れ、気道切開部から自然に排出し、喀痰吸引回数が8回(午前8時~午後8時)に減少した。2日目の投薬:初めて脱酸素して20分間手を支えて座り、血中酸素飽和度は94%であり、心拍数は65であった。2回目に脱酸素して10分間、血中酸素飽和度は98%であり、心拍数は75であった。3回目に脱酸素して20分間手を支えて座り、血中酸素飽和度は94~98%の間で変動し、心拍数は約78であった。喀痰は前日より強く、吸引は6回(午前8時~午後8時)であった。投薬14日目以降、患者は自発的に脱酸素を要求した。脱酸素後、血中酸素飽和度は97%であり、就寝時は約94%であり、脱酸素時間は12時間以上に達することができ、脱酸素は基本的に可能であった。痰は、投薬前は黄色く粘り気のある粘度のあるものから、白く薄く泡立ったものに変化し、痰吸引器で主に排泄するものから、ほとんどが自発的に排泄できるものに変化した。
上記の結果は、プラスミノーゲンが、強い喀痰、自発的な痰排出、喀痰吸引回数の減少、脱酸素時間の延長、血中酸素飽和度の改善、痰の改善などを含む、患者の肺炎の症状を効果的に改善できることを示している。
【実施例】
【0099】
実施例9は、肺線維症、喘息の患者に関するものである。
患者は83歳の女性であり、若い頃に肺結核を患い、約20年前に肺線維症及び喘息と診断され、徐々に悪化していた。主な症状として、肺機能が低下し、基本的にベッドでの活動しかサポートできず、ベッドを離れることができなかった。
投薬レジメン:1日目にエアロゾル吸入で10mg/回、1回/日、2日目にエアロゾル吸入で10mg/回、2回/日、3日目にエアロゾル吸入で10mg/回、3回/日投与した。
治療効果:投薬後、患者は意識的にスムーズに呼吸し、ベッドを離れるより多くの活動ができるようになった。
上記の結果は、プラスミノーゲンが肺線維症及び喘息患者の肺機能を改善できることを示している。
【実施例】
【0100】
実施例10は、喘息患者に関するものである。
患者は55歳の男性であり、バイタルサインが安定しており、意識がはっきりしている。主訴:高血圧、心臓病、糖尿病等の既往歴なし。患者は、トリメタジジン、バヤスピリン、イチョウカプセル、及び深海魚油を長年服用しており、3年前に脳梗塞を発症した。患者は睡眠の質が悪いことを訴え、その他の不快症状はなく、運動後に喘息が観察された。
投薬レジメン:治療は、22日間にわたる14回の投薬で構成され、最初の6日間は、薬剤を1日1回投与し、毎回150mgの静脈内ボーラス注射を行い、次の16日間は、2日に1回、毎回150mgの静脈内ボーラス注射を行った。
治療効果:
治療効果は、患者の全体的な状態及び運動後の喘息症状をスコアリングすることによって評価した。初日、投薬を行わなかった場合の患者の全身状態及び運動後の喘息症状のスコアを10とし、注射後の前日の患者の全身状態及び運動後の喘息症状のスコアを10とした。10が最も深刻であり、1が最も軽度である。
投薬4日目には、全体的な状態スコアは8であり、運動後の喘息症状スコアは8であり、患者の精神状態は良く、睡眠の質は改善された。投薬時間の延長につれて、患者の諸症状はさらに改善した。投薬22日目には、全体的な状態スコアは5であり、運動後の喘息症状スコアは3であり、患者は不快感がなく、睡眠の質がさらに改善され、食欲が改善された。
以上から分かるように、プラスミノーゲンは、全身状態、運動後の喘息症状、精神状態、睡眠の質、食欲など、喘息患者の症状を改善することができる。
【実施例】
【0101】
実施例11は、非5q型SMA患者に関するものである。
患者は40ヶ月(3歳4ヶ月)の女性であり、非5q型SMA(脊髄性筋萎縮症)と診断された。生後6ヶ月で発症し、1.5歳(18ヶ月)でSMAと診断され、肺感染症及喀痰の排出困難により気道が閉塞し、呼吸が弱くなり、人工呼吸器の間欠使用後、徐々に自然呼吸不全で人工呼吸器を離れることができなくなり、人工呼吸器を約1年半使用した。言語機能を喪失し、運動不能であり、筋力は基本的にグレード0であった。症状:人工呼吸器の使用以来、毎日、去痰薬、喀痰薬、痰吸引装置、酸素吸入、噴霧(1日2回)、及び経鼻栄養を受けた。
使用した人工呼吸器のパラメーター:圧力20;一回換気量約120であった。自発呼吸はほとんどなく、酸素流量は1~1.5ml、喀痰吸引は1日15~20回、夜間は不規則な痰吸引(喀痰吸引により気道粘膜が損傷して出血)があり、血中酸素検出器は、酸素使用時の血中酸素飽和度が95%以上であり(酸素吸入を中止することはできない)、心拍数が140回/分であることを示した。体温が長時間37.5℃以上であった。
投薬レジメン
最初の治療コース(2週間):エアロゾル吸入、10mg/回、3回/日、50~100mgの静脈内注射と組み合わせて、3日に1回投与した。
最初の治療コースの終了後、57日間の間隔で2番目の治療コースを実行した。
2番目から4番目の治療コース(各コース間は2週間の間隔がある):静脈内注射、1回/3日、用量は150~250mgであった。
治療効果
最初の治療コース:人工呼吸器のパラメーターは変更されず、自発呼吸は増え、約20~30%に達し(10回の呼吸で約2~3回の自発呼吸が発生した)、酸素の流量が変わらない場合、投薬後の血中酸素飽和度は98~99%に達することができた。
2番目の治療コース:15日間の入院後、気管切開が行われてから退院して自宅で看護された。大量の痰があり、気道からあふれ続け、タイムリーに痰を吸引して除去する必要があった。人工呼吸器の圧力を下げ、退院時の18から16に調整し、一回換気量は130から140であり、自発呼吸の回復は良好であった。酸素をオフにすることができ、夜間は基本的に酸素は必要なく、血中酸素飽和度は95%以上であり、心拍数は約120回/分であり、時々さらに良くなり、体温は正常に戻った。
3番目の治療コース:人工呼吸器の圧力は15または16に調整でき、一回換気量は140~150の間であり、気道はより開いており、すべて自発呼吸であり、酸素吸入の回数は少なく、喀痰吸引中に時々使用された。正常な心拍数は120回/分であり、投薬後4~5時間内は酸素を必要としなく、心拍数は100回/分、血中酸素飽和度は99%であった。患者の喀痰量が減少し、気道切開には基本的に喀痰がなく、喀痰吸引は1日5~6回行われた。
4番目の治療コース:人工呼吸器のパラメーター及び自発呼吸の状況は、3番目の治療コースと同じであり、血中酸素飽和度は通常97~99%であり、基本的に酸素を使用せず、痰吸引の回数が減り、1日2~3回、偶には5~6回であった。体温は正常であった。
上記の結果は、プラスミノーゲンが血中酸素飽和度の改善、自発呼吸機能の改善、気道開存、脱酸素可能または時折の酸素吸入、喀痰量の減少など、SMA患者の肺機能を改善できることを示している。
【実施例】
【0102】
実施例12は、I型SMA患者に関するものである。
患者は18ヶ月の男性であり、6ヶ月でI型SMAと診断された。診断時に、医師は、このタイプの疾患の患者の平均生存期間は2年であることを伝えたが、その家族は何ら治療措置を講じなかった。肺機能の症状:血中酸素を24時間モニタリングし、血中酸素飽和度が92~97%であり、呼吸時の胸の浮き沈みが小さく、睡眠中の呼吸のうねりが弱く、痰音があり、痰を自発的に排出できなかった。泣き声が弱く、元気がなかった。
治療方法:エアロゾル吸入(2~3回/日)+静脈内注射(1回/3日)で、治療サイクルは5コース(2週間が1コース)で、各コース間の間隔は2週間であった。エアロゾル吸入投与量は5~10mg/回、静脈内注射投与量は50mgであった。
治療効果
最初の治療コース:治療の2日目に、血中酸素飽和度は97~98%に達し、時には95~96%に達した。血中酸素飽和度が正常になり、呼吸機能が改善し、介助により痰を排出でき、喀痰量が減少した。
2番目の治療コース:血中酸素飽和度は正常のままであり、呼吸はより強くなった。
3番目の治療コース:エアロゾル吸入後、痰が排出され、朝は痰の音があり、泣いた後、痰の音が大きく、介助により痰を排出できた。
4~5番目の治療コース:効果が持続し、精神状態も良好であり、肺感染症や呼吸不全などの状態の悪化はなかった。
以上から分かるように、プラスミノーゲンは、I型SMA患者の肺機能を改善することができ、呼吸機能を改善し、血中酸素飽和度を向上させ、治療後、血中酸素飽和度が正常値に達し、介助により喀痰が可能となり、肺感染症や呼吸不全などの悪化症状もなく、患者の様々な症状を改善することができる。
【実施例】
【0103】
実施例13は、2019コロナウイルス病(Corona Virus Disease 2019,COVID-19)患者に関するものである。
患者は48歳の男性であり、重篤な新型コロナウイルス肺炎(2019-nCoV)と診断された。集中治療室では、人工呼吸器とモニターが使用されており、酸素濃度は100%、血中酸素飽和度は80~90%であった。バイタルサイン:心拍数92回/分、呼吸41回/分、血圧128/84mmHgであった。
投薬レジメン:エアロゾル吸入、10mg/回、5.5時間の間隔で2回投与した。
投薬効果
初回投薬:投薬前の血中酸素飽和度は84%、心拍数は92回/分、呼吸は41回/分、血圧は128/84mmHgであった。投薬1時間後の血中酸素飽和度は90%、心拍数は83回/分、呼吸は37回/分、血圧は128/84mmHgであった。
2回目の投薬:投与前の血中酸素飽和度は88%、心拍数は81回/分、呼吸は39回/分、血圧は120/83mmHgであった。投与1時間後の血中酸素飽和度は91%、心拍数は70回/分、呼吸は28回/分、血圧は120/83mmHgであった。
投薬前後に副作用はなく、患者は気分が良くなったと報告した。
以上から分かるように、プラスミノーゲンは、新型コロナウイルス肺炎の重篤な患者の血中酸素飽和度を効果的に高め、呼吸頻度を遅くし、肺機能を改善することができる。
【実施例】
【0104】
実施例14は、COVID-19患者に関するものである。
患者は47歳の男性であり、重篤な新型コロナウイルス肺炎(2019-nCoV)と診断された。集中治療室では、人工呼吸器とモニターが使用されており、酸素濃度は100%、血中酸素飽和度は80~90%であった。バイタルサイン:体温37.5℃、心拍数110回/分、呼吸37回/分、血圧139/94mmHgであった。
投薬レジメン:エアロゾル吸入、10mg/回、4時間50分の間隔で2回投与した。
投薬効果
初回投薬:投薬前の血中酸素飽和度は81%であった。投薬3時間後の血中酸素飽和度は88~90%であった。
2回目の投薬:投与前の血中酸素飽和度は89~92%、心拍数は91回/分、呼吸は31回/分、血圧は130/87mmHgであった。投与1時間後の血中酸素飽和度は91%、心拍数は89回/分、呼吸は27回/分、血圧は130/87mmHgであった。
投薬前後に副作用はなく、患者は気分が良くなったと報告した。
以上から分かるように、プラスミノーゲンは、新型コロナウイルス肺炎の重篤な患者の血中酸素飽和度を効果的に改善し、呼吸頻度を改善することができる。
【実施例】
【0105】
実施例15は、プラスミノーゲンが重症のCOVID-19患者の血圧を下げることに関するものである。
患者は、46歳の男性であり、血中酸素飽和度は93%、呼吸数は26回/分であり、新型コロナウイルス肺炎診断及び治療プログラム(試用版6)の臨床分類基準によって、重度のCOVID-19と診断された。治療前の患者の血圧は130/80mmHg(収縮圧/拡張圧)であった。
ヒトプラスミノーゲン凍結乾燥粉末を5mg/mlの濃度で滅菌水に溶解し、ネブライザーで噴霧して患者に投与した。1日2回、毎回10mg投与した。
6回投与した後、患者の血圧は以前の130/80mmHgから116/69mmHgに低下した。これは、プラスミノーゲンが重度のCOVID-19患者の血圧を下げることができることを示唆している。
【実施例】
【0106】
実施例16は、プラスミノーゲンが重度のCOVID-19患者の呼吸数を減少させることに関するものである。
患者は、47歳の男性であり、血中酸素飽和度は93%であり、新型コロナウイルス肺炎診断及び治療プログラム(試用版6)の臨床分類基準によって、重度のCOVID-19と診断された。治療前の患者の呼吸数は45回/分であった。
ヒトプラスミノーゲン凍結乾燥粉末を5mg/mlの濃度で滅菌水に溶解し、ネブライザーで噴霧して患者に投与した。1日2回、毎回10mg投与した。
2回投与した後、患者の呼吸数は以前の45回/分から37回/分に低下した。これは、プラスミノーゲンが重度のCOVID-19患者の呼吸数を減少させることができることを示唆している。
【実施例】
【0107】
実施例17は、プラスミノーゲンが重篤なCOVID-19患者の血圧を下げることに関するものである。
患者は、48歳の男性であり、血中酸素飽和度は79%、呼吸数は41回/分であり、新型コロナウイルス肺炎診断及び治療プログラム(試用版6)の臨床分類基準によって、重篤なCOVID-19と診断された。治療前の患者の血圧は128/84mmHg(収縮圧/拡張圧)であった。
ヒトプラスミノーゲン凍結乾燥粉末を5mg/mlの濃度で滅菌水に溶解し、ネブライザーで噴霧して患者に投与した。1日2回、毎回10mg投与した。
5回投与した後、患者の血圧は以前の128/84mmHgから120/83mmHgに低下した。これは、プラスミノーゲンが重篤なCOVID-19患者の血圧を下げることができることを示唆している。
【実施例】
【0108】
実施例18は、プラスミノーゲンが重篤なCOVID-19患者の血圧及び呼吸数を低下させることに関するものである。
患者は、47歳の男性であり、血中酸素飽和度は82%、呼吸数は37回/分であり、新型コロナウイルス肺炎診断及び治療プログラム(試用版6)の臨床分類基準によって、重篤なCOVID-19と診断された。治療前の患者の血圧は139/94mmHg(収縮圧/拡張圧)であった。
ヒトプラスミノーゲン凍結乾燥粉末を5mg/mlの濃度で滅菌水に溶解し、ネブライザーで噴霧して患者に投与した。1日2回、毎回10mg投与した。
2回投与した後、患者の血圧は以前の139/94mmHgから120/83mmHgに低下し、呼吸数は投与前の37回/分から27回/分に低下した。これは、プラスミノーゲンが重篤なCOVID-19患者の血圧及び呼吸数を低下させることができることを示唆している。
【実施例】
【0109】
実施例19は、プラスミノーゲンがCOVID-19患者の状態を改善することに関するものである。
この試験では、30~78歳の13人のCOVID-19患者を募集し、新型コロナウイルス肺炎診断及び治療プログラム(試用版6)の臨床分類基準によって、13人の患者には、5人の普通型の患者、6人の重症患者、及び2人の重篤な患者が含まれていた。この治療は、病院の倫理委員会によって承認された。すべての患者はインフォームドコンセントに署名した。
ヒトプラスミノーゲン凍結乾燥粉末を5mg/mlの濃度で滅菌水に溶解し、ネブライザーで噴霧して患者に投与した。疾患の重症度に応じて異なる用量のプラスミノーゲンを投与した。普通型の患者には10mg/回、1日1回投与し、重度及び重篤な患者には10mg/回、1日2回投与した。患者の基本情報と投薬頻度を表1に示す。投与の数日前と投与後に高解像度胸部CT(Neusoft, NeuViz 16 Classic, China)スキャンを行った。リアルタイムの血中酸素飽和度及び心拍数をモニター(Mindary,iPM5,China)でモニタリングし、ヒトプラスミノーゲンのエアロゾル吸入の1時間前及びエアロゾル吸入の数時間後に血中酸素飽和度及び心拍数を記録した。
【0110】
表1 COVID-19患者におけるヒトプラスミノーゲン療法の概要
【0111】
結果1:プラスミノーゲンは一般的なCOVID-19患者の肺損傷を改善する
CTの結果、普通型の5人の患者は、投薬前に両側の肺に境界が不明瞭で密度が不均一な複数の斑状/点状の「スリガラス」影を示し、縦隔窓の病変領域はまばらな斑点状の影を示した。5人の患者に、ヒトプラスミノーゲンの投与前に抗生物質と漢方薬を投与したが、肺の「スリガラス」の影の密度及び範囲は時間の経過とともに増加し、悪化を示した。ヒトプラスミノーゲンを2~3回投与した後、5人の患者の肺病変の数、範囲、及び密度が減少し、さらに部分的に消失し、斑状または点状の「スリガラス」影は、大幅に減少または吸収された(
図8及び表2を参照)。これは、ヒトプラスミノーゲンのエアロゾル吸入が、COVID-19感染による肺損傷を急速に改善できることを示している。
【0112】
表2 普通型COVID-19患者の高解像度胸部CTスキャンの記録
【0113】
結果2:プラスミノーゲンは、重症及び重篤なCOVID-19患者の血中酸素飽和度を上昇させる
プラスミノーゲン投与中、重症または重篤なCOVID-19患者には、鼻カニューレからそれぞれ80%または100%の定常濃度の酸素を注入し、酸素注入条件下で血中酸素飽和度をモニタリングした。
その結果、重症患者の血中酸素飽和度は正常であるにもかかわらず、ヒトプラスミノーゲンの投与後、6人の患者の中で5人の患者の血中酸素飽和度が1~4%増加した。2人の重篤な患者は、ヒトプラスミノーゲンのエアロゾル吸入後わずか1時間で、患者の血中酸素飽和度が投与前の79~82%から約91%に上昇し、安定したままであった。1人の重症患者にプラスミノーゲンを投与した後、血中酸素飽和度は投与前の91%から89%に低下した(表3)。これらのデータは、プラスミノーゲンが一般に、重症及び重篤なCOVID-19患者の血中酸素飽和度レベルを改善でき、血中酸素飽和度が特に低い患者に対して改善役割が特に著しいことを示している。
【0114】
表3 重度及び重篤なCOVID-19患者の血中酸素飽和度値
【0115】
結果3:プラスミノーゲンはCOVID-19患者の心拍数を回復させ、心臓の負担を軽減できる
心拍数モニタリングの結果、ヒトプラスミノーゲンのエアロゾル吸入後、13人のCOVID-19患者のうち8人で心拍数が毎分約26回低下し、2人で心拍数が増加し、3人では有意な変化がなかったことが示された(表4)。統計分析の結果、プラスミノーゲン投与後、普通型、重症、重篤の患者の平均心拍数はいずれも減少傾向を示し、普通型の患者では、投与前後の比較に統計的な差があった(P<0.05)(
図9)。これらの結果は、ヒトプラスミノーゲンのエアロゾル吸入が、一般的にCOVID-19患者の高い心拍数を遅くし、心臓への負担を軽減できることを示している。
【0116】
表4 COVID-19患者の心拍数モニタリングの結果
【0117】
さらに、すべての患者は、ヒトプラスミノーゲンのエアロゾル吸入後に胸の圧迫感が軽減され、呼吸がよりスムーズになったと報告している。
以上によって、ヒトプラスミノーゲンのエアロゾル吸入は、COVID-19患者の肺損傷を軽減し、患者の血中酸素飽和度を高め、心拍数を減らし、患者の呼吸機能を改善することができる。
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配列表
配列1:
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配列13:
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配列14:
VVGGCVAHPHSWPWQVSLRTRFGMHFCGGTLISPEWVLTAAHCLEKSPRPSSYKVILGAHQEVNLEPHVQEIEVSRLFLEPTRKDIALLKLSSPAVITDKVIPACLPSPNYVVADRTECFITGWGETQGTFGAGLLKEAQLPVIENKVCNRYEFLNGRVQSTELCAGHLAGGTDSCQGDSGGPLVCFEKDKYILQGVTSWGLGCARPNKPGVYVRVSRFVTWIEGVMR
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-09-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスミノーゲン活性化経路の成分、プラスミノーゲンを直接活性化し得るか、またはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによって間接的にプラスミノーゲンを活性化し得る化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミンの活性を模倣する化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミノーゲン活性化剤の発現をアップレギュレートすることができる化合物、プラスミノーゲン類縁体、プラスミン類縁体、tPAまたはuPA類縁体及び線維素溶解阻害剤の拮抗剤から選択される1つ以上の治療有効量の化合物
を含む、肺炎を予防及び治療する
医薬組成物。
【請求項2】
前記プラスミノーゲン活性化経路の成分が、プラスミノーゲン、組換えヒトプラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、Glu-プラスミノーゲン、プラスミン、プラスミノーゲンとプラスミンの1つ以上のkringleドメイン及びプロテアーゼドメインを含むプラスミノーゲン及びプラスミン変異体並びに類縁体、ミニプラスミノーゲン(mini-plasminogen)、ミニプラスミン(mini-plasmin)、マイクロプラスミノーゲン(micro-plasminogen)、マイクロプラスミン(micro-plasmin)、delta-プラスミノーゲン、delta-プラスミン(delta-plasmin)、プラスミノーゲン活性化剤、tPA、及びuPAから選択されるものである、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項3】
前記線維素溶解阻害剤の拮抗剤が、PAI-1、補体C1阻害剤、α2抗プラスミンまたはα2マクログロブリンの拮抗剤、例えば、抗体である、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項4】
前記肺炎が、細菌感染肺炎、ウイルス感染肺炎、マイコプラズマ感染肺炎、クラミジア感染肺炎、真菌感染肺炎、またはリケッチア感染肺炎である、請求項1~3のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項5】
前記肺炎が非感染性因子による肺炎である、請求項1~3のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項6】
前記肺炎がコロナウイルス感染性肺炎である、請求項4に記載の
医薬組成物。
【請求項7】
前記肺炎が2019-nCoV感染性肺炎であり、前記プラスミノーゲンが、肺組織の損傷の軽減、肺の炎症反応の軽減、肺のフィブリン沈着の低減、肺機能の改善、血中酸素飽和度の向上、2019-nCoV感染性肺炎の被験者の血圧の低下、2019-nCoV感染性肺炎の被験者の心機能の改善、2019-nCoV感染性肺炎の被験者の一般的な身体状態の改善から選択される1つ以上を実現する、請求項6に記載の
医薬組成物。
【請求項8】
前記化合物が、肺組織の炎症の減少、肺組織の炎症性浸出の減少、肺組織のフィブリン沈着の減少、肺組織の線維化の減少、肺組織のアポトーシスの減少、換気機能の改善、及び血中酸素飽和度の増加からなる群から選択される1つ以上の効果を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項9】
前記プラスミノーゲンが、配列2と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項10】
前記プラスミノーゲンが、配列14に示されるプラスミノーゲン活性フラグメントと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つプラスミノーゲンのタンパク質加水分解活性またはリジン結合活性を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項11】
前記プラスミノーゲンが、配列2に示される前記プラスミノーゲンの保存的置換変異体である、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記プラスミノーゲンが、天然または合成のヒトプラスミノーゲンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の
医薬組成物。
【請求項13】
前記化合物が、1つもしくは複数の他の治療方法または薬剤と組み合わせて使用する、請求項1~12のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項14】
前記他の薬剤が、抗ウイルス薬、抗生物質、免疫調節薬、ホルモン薬(例えば、ステロイドホルモン)、ワクチン、及び疾患関連中和抗体から選択される1つ以上である、請求項13に記載の
医薬組成物。
【請求項15】
前記化合物が、鼻吸入、エアロゾル吸入、点鼻薬、点耳薬、点眼薬、静脈内、腹腔内、皮下、頭蓋内、髄腔内、筋肉内、及び直腸内からなる群から選択される1つ以上の経路または方法によって投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【国際調査報告】