(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】修飾マクロファージ、組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0786 20100101AFI20230518BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20230518BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230518BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230518BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230518BHJP
C12N 5/00 20060101ALN20230518BHJP
【FI】
C12N5/0786
A61K35/15
A61P19/02
A61P29/00
A61K45/00
C12N5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022551557
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(85)【翻訳文提出日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2021015925
(87)【国際公開番号】W WO2021215410
(87)【国際公開日】2021-10-28
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522228528
【氏名又は名称】デュオジェニック ステムセルズ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Duogenic StemCells Corporation
【住所又は居所原語表記】No.18, Ln.10, Taiping 21st St., Taiping Dist., Taichung City 411021 Taiwan
(71)【出願人】
【識別番号】522338034
【氏名又は名称】清河 雅孝
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】清河 雅孝
(72)【発明者】
【氏名】スー,ホンリン
(72)【発明者】
【氏名】シェン,チンイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,フーフイ
(72)【発明者】
【氏名】シェ,チアイン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB19
4B065BB23
4B065BD39
4B065BD42
4B065CA44
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZA96
4C084ZB11
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA96
4C087ZB11
(57)【要約】
本願発明は、修飾単球、修飾マクロファージ、本明細書に記載される修飾単球または修飾マクロファージと、薬学的に許容される少なくとも一種の担体または添加剤とを含む医薬組成物を提供するものである。軟骨の形成の誘導を含む筋骨格系疾患の治療を目的とする修飾単球または修飾マクロファージの使用を提供するものである。また、本明細書に修飾マクロファージを生成するためのインビトロ培養法を開示する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD14
+CD206
+により特徴付けられたマクロファージの表現型;および
II型コラーゲン
を含む修飾マクロファージ。
【請求項2】
前記II型コラーゲンが前記修飾マクロファージ内で発現している請求項1に記載の修飾マクロファージ。
【請求項3】
前記II型コラーゲンが前記修飾マクロファージの表面に発現している請求項1に記載の修飾マクロファージ。
【請求項4】
CD14
+により特徴付けられた単球の表現型;および
II型コラーゲン
を含む修飾単球。
【請求項5】
前記II型コラーゲンが前記修飾単球内で発現している請求項4に記載の修飾単球。
【請求項6】
(a)請求項1に記載の修飾マクロファージまたは請求項4に記載の修飾単球;および
(b)薬学的に許容される担体または添加剤
を含む医薬組成物。
【請求項7】
約0.01%~99.9%の前記修飾マクロファージまたは前記修飾単球を含む、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
筋骨格系疾患を治療するために、有効量の請求項1に記載の修飾マクロファージまたは有効量の請求項4に記載の修飾単球を、それを必要とする被験体に投与することを含む筋骨格系疾患の治療法。
【請求項9】
前記筋骨格系疾患が関節炎である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記関節炎が、変形性関節症、自己免疫性関節炎または外傷性関節炎である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記筋骨格系疾患が、変形性椎間板疾患または椎間板変性症である請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記椎間板が、関節軟骨の軟骨組織部位、半月板の軟骨組織部位および椎間板の軟骨組織部位からなる群より選ばれるものである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記筋骨格系疾患が腱炎である請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記修飾単球または前記修飾マクロファージを関節内注射により投与する請求項8に記載の方法。
【請求項15】
さらにヒアルロン酸またはその誘導体若しくは塩、成長因子、軟骨形成剤、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、加水分解コラーゲン、ルサラチドアセタート、アボカド大豆不ケン化物(ASU)、ステロイド、および非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)から選択される薬剤を、前記被験体に投与することを含む請求項8に記載の方法。
【請求項16】
請求項1に記載の修飾マクロファージまたは請求項4に記載の修飾単球を、それを必要とする被験体の身体部位に投与する工程を含む、被験体の体内の一部で軟骨形成を誘導する方法。
【請求項17】
(a)細胞培養培地;および
(b)IL-4、GM-CSF、G-CSFまたはM-CSFのうち少なくとも一つを含む分極化混合物
を含む有効量の組成物に、末梢血単球が接触することを含む、
単球を請求項1に記載の修飾マクロファージに分化誘導するインビトロ方法。
【請求項18】
前記細胞培養培地が、RPMI-1640またはイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記修飾マクロファージと前記組成物の接触時間を約2時間~約7日間とする請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記分極化混合物が、IL-4およびM-CSFである請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記分極化混合物が、実質的にIL-10、IL-13およびTGF-βを含有しない請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2020年4月20日に出願された豪州仮出願第2020901243号の優先権の利益を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、修飾マクロファージ、それを含む医薬組成物およびその使用に関する。また、本明細書に開示する修飾マクロファージの製造方法も提供する。
【背景技術】
【0003】
変形性関節症(OA)は、最も多くみられる筋骨格系疾患である。2020年の米国人におけるOA罹患数は5,000万人を上回っており、高齢化と寿命の延長によって、今後20年以内に7,000万人まで増加し、4番目に多い障害の原因となることが予想されている。OAは、滑膜の炎症(滑膜炎)および関節面への新生血管の浸潤を伴う関節軟骨の進行性変形を特徴とする。重度のOAは、進行性の軟骨下骨損傷、骨棘形成、骨髄リモデリングおよび半月板損傷を伴う。
【0004】
蓄積された証拠によると、マクロファージがOAの発症に重要な役割を担っていることが示唆されている。正常な滑膜において、マクロファージは主要な免疫細胞であり、関節の損傷に最前線で応答する細胞である。しかし、OAの滑膜におけるマクロファージは、マトリックスメタロプロテアーゼ、ならびにIL-1βおよびTNF-αなどの炎症性サイトカインを産生することにより、軟骨組織を破壊する。OAの滑膜におけるマクロファージの増加は、滑膜血管新生および滑膜炎の程度と相関する。van der Heijdenらの最近の研究によると、葉酸受容体βをベースとする製剤を用いた非侵襲的画像検査により、活性化マクロファージの数がOAの重症度および疾患の進行と正の相関があることが示されている。
【0005】
OAの動物モデルでは、マクロファージが喪失すると骨棘の形成が顕著に低減したが、このような喪失によって滑膜の炎症も促進される。この結果はおそらく、機能が異なるマクロファージのサブタイプであるM1およびM2により引き起こされたものである。M1マクロファージは炎症誘発性であり、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)によって分極化され得る。これとは対照的に、M2マクロファージは抗炎症性であり、滑膜炎の軽減のために、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)によって分極化され得る。これらの結果は、OAの処置では、最適な分極化アプローチがマクロファージの重要な役割であることを示唆している。
【0006】
II型コラーゲン(Col II)などのヒトコラーゲン基質は、成人の関節軟骨の重要かつ再生不可能な成分である。Col IIは、動物モデルにおいて、軟骨細胞による軟骨グリコサミノグリカン(GAG)の分泌を刺激し、軟骨の修復を促進する。しかし、Col IIは、OAの有無を問わず、成人の生涯において非常に少ないターンオーバしか示さない。
【0007】
現在のOA治療は、経口NSAIDまたは選択的シクロオキシゲナーゼ2(COX-2)阻害薬、コルチコステロイドおよびヒアルロン酸などの関節内(IA)注射、ならびに外科的アプローチによる疼痛緩和を含む。ヒアルロン酸は、損傷した関節を潤滑化するために使用するが、この治療は硝子軟骨を再生したり、または疾患の進行を変えたりするものではない。OAやその他の筋骨格系疾患の生物学に対する理解が深まり、筋骨格系疾患を治療する新たな治療法も利用できるようになったが、損傷若しくは欠損した腱または関節の治癒の促進が求められている。
【0008】
本発明は、これらのニーズ等を満たすために、Col IIを発現している修飾マクロファージ集団を提供する。前記修飾マクロファージは、自家療法または非自家療法に使用され得る。
【発明の概要】
【0009】
一実施形態において、本発明は、CD14およびCD206の表現型(すなわち、CD14+CD206+)を含み、かつII型コラーゲン(Col II)を発現している、一種類以上の表現型的に特徴のある修飾マクロファージを提供する。
【0010】
別の実施形態において、本発明は、単球を含み、CD14の表現型(すなわち、CD14)を呈し、かつ、II型コラーゲン(Col II)を発現している、一種類以上の表現型的に特徴のある修飾単球を提供する。
【0011】
いくつかの実施形態は、本明細書に記載の修飾マクロファージまたは修飾単球と、薬学的に許容される担体または添加剤とを含有する医薬組成物を提供する。
【0012】
他の実施形態は、本明細書に記載の修飾マクロファージまたは修飾単球の有効量を、それを必要とする被験体に投与し、これにより、筋骨格系疾患の症状および徴候を低減する、筋骨格系疾患の治療方法を提供する。
【0013】
また、本明細書で開示する修飾マクロファージまたは修飾単球を、それを必要とする被験体の身体部位に投与する工程を含む、被検体の体内の一部で軟骨形成を誘導する方法を提供する。
【0014】
本明細書に記載の修飾マクロファージは、(a)細胞培養培地および(b)分極化混合物を含有する組成物に、少なくとも一個の単球をインビトロで接触させることにより作製され得る。本発明の方法で培養または分極化した前記修飾マクロファージは、M2マクロファージ(すなわち、CD14+CD206+)の特徴的な表現型を呈し、Col IIを発現している。
【0015】
本明細書に記載の培養法によって、既定量のサンプル(例えば、10mLの末梢血単球(PBMNCs))から修飾マクロファージを作製することができる。
【0016】
本特許で使用される用語「発明」、「本発明」、「この発明」および「本願発明」は、本特許の主題および以下の請求項の全てに広く言及することが意図されている。これらの用語を含む記述は、本明細書に記載の主題を限定したり、または本特許の以下の請求項の意義若しくは範囲を限定したりするものではないと理解されるべきである。本特許に含まれる本発明の実施形態は、本概要ではなく以下の請求項によって定義される。本概要は、本発明の様々な態様の概観的な要約であり、以下の「発明の詳細な説明」に詳述する概念の一部を示すものである。本概要は、クレームされた主題の基本的または本質的特長を特定することを意図したものではなく、クレームされた主題の範囲を定めるために他と切り離して使用することも意図していない。本主題は、本明細書の様々な箇所、一部または全ての図面および各請求項を参照して理解されるべきである。
【0017】
本発明は、以下の添付図および詳細な説明を合わせて読むことにより明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本特許または本特許出願は、カラーを付して作成された少なくとも1枚の図面を含む。カラー図面が添付された本特許または本特許出願の写しは、請求および必要な手数料の納付により庁によって提供される。
【0019】
以下、本発明の例示的な実施形態について、以下の図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1のパネルAは、3日目に種々の分極化混合物を用いて培養し発現したPBMNCs内のCol IIの免疫細胞化学的蛍光染色画像を集めたものである。培養PBMNCsを染色し、細胞質内および細胞膜上に発現したCol IIを緑色で示した。核は、DAPIで青色に染色した。パネルBは、異なるタイプの分極化混合物で培養した培養PBMNCsでの発現したコラーゲンの%を示す棒グラフである。
【0021】
図2は、ヒトCol IIに対して特異的なモノクローナルおよびポリクローナル抗体で確認した、培養PBMNCsの細胞質内および細胞膜上に発現したCol IIの免疫細胞化学的蛍光染色画像をまとめたものである。核は、DAPIで青色に染色した。
【0022】
図3は、培養PBMNCsのFSC/SSCスペクトラムおよびCD14-FITCヒストグラム(パネルA)のフローサイトメトリーを用いた解析画像をまとめたものであり、ゲート細胞集団がCD14
+単球集団と相関することを示したものである。3日目に異なるタイプの分極化混合物で培養したPBMNCsのCol II(パネルB)の発現を分析した。パネルCは、異なるタイプの分極化混合物で培養したPBMNCs由来のゲートCD14
+単球で発現したCol IIの%を示す。
【0023】
図4のパネルAは、3日目および7日目にM-CSF処理をしたPBMNCs由来のCD14
+単球(赤色)で発現したCol II(緑色)の免疫細胞化学的蛍光染色画像を一つにまとめたものである。パネルBは、0~7日間、M-CSFで培養したPBMNCs由来のCD14
+単球におけるCD206の発現プロファイルを示す。パネルCは、5日目のCD14
+単球におけるCD206およびCol IIの共発現(すなわち、修飾マクロファージの表現型)を示す。CD206の存在は、培養したCD14
+単球が修飾マクロファージに成熟したことを示している。
【0024】
図5のパネルAは、異なるタイプの分極化混合物で培養したPBMNCsにおけるCol II(赤色)およびCD206(緑色)発現の免疫細胞化学的蛍光染色画像を一つにまとめたものである。パネルBは、異なるタイプの分極化混合物で培養したPBMNCsにおけるCol II/CD206(すなわち、修飾マクロファージの表現型)の共発現の割合を示す。
【0025】
図6のパネルAはフローサイトメトリー画像をまとめたものであり、パネルBは異なるタイプの分極化混合物で培養した修飾マクロファージのCol IIおよびCD206の発現に関し、様々なサイトカインの影響を示す棒グラフである。
【0026】
図7は、フローサイトメトリーの解析画像を一つにまとめたものであり、3日目の修飾マクロファージでのCol IIの発現に関し、M-CSF(パネルA)およびGM-CSF(パネルB)の用量効果を示す。パネルCおよびDは、修飾マクロファージにおけるCol IIの発現に関し、M-CSF(パネルC)およびGM-CSF(パネルD)の用量効果を示す棒グラフである。
【0027】
図8は、3日目に行った免疫細胞化学染色の結果に基づいて、IL-4および/またはM-CSF(パネルA)ならびにIL-4および/またはGM-CSF(パネルB)を用いて培養したPBMNCsでの修飾マクロファージにおけるCol II/CD206の割合を示す棒グラフである。
【0028】
図9のパネルAは、CD14抗体コンジュゲート結合磁気ビーズで選別した単球において、PBS(モック処理済み)またはM-CSF+IL-4の組合せを添加後、0.5、1、2、4および6時間での、定量的リアルタイムRT-PCRで分析したCol II mRNAの発現を示す棒グラフである。Col II mRNAの発現は、ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド3-リン酸(GAPDH)の発現を正規化し、指定した時間での倍率変化で示した。CD14
+単球は、M-CSF+IL-4処理前(パネルC~D)または後(パネルA~B)にPBMNCsから選別されたものである。
【0029】
図10は、本願発明の修飾マクロファージの一実施形態による関節炎部位に対する治療効果を示す写真を集めたものである。パネルAの左側は、修飾マクロファージで治療されたラットの後肢膝関節(細胞)、および修飾マクロファージを用いずに治療された後肢膝関節(PBS)を示す。パネルAの右側は、修飾マクロファージで治療された、アジュバント(完全フロイントアジュバント、CFA))誘発関節炎を有するラットの後肢膝関節(細胞)、および修飾マクロファージを用いずに治療された後肢膝関節(PBS)を示す。パネルB及びCは、本願発明の修飾マクロファージで治療されたOA罹患ラット(パネルC)およびOA非罹患ラット(パネルB)の膝腫脹部位の厚さを示す折れ線グラフである。
【0030】
図11は、投与患者の膝関節損傷および変形性関節症転帰スコア(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score:KOOS)に関し、本願発明の修飾マクロファージの影響を示す折れ線グラフである。ADLは日常生活動作、QOLは膝に関連する生活の質を示す。
【0031】
図12は、本願発明の修飾マクロファージで治療され(パネルBおよびD)または治療されていない(パネルAおよびC)、コラーゲン誘発関節リウマチを有するC57BL/6マウス(パネルAおよびB)およびSprague-Dawley系ラット(パネルCおよびD)の足の直径を示す折れ線グラフを含む。
【0032】
図13は、本願発明の修飾マクロファージが、外傷性関節炎における関節可動域を有意に増加させたことを示す。
【0033】
図14は、免疫不全マウスを対象とした修飾マクロファージ投与後2ヵ月時点の関節腔の軟骨表面を覆い(パネルA)、かつ骨内(パネルB)に、軟骨状の膜または構造物が形成されたことを示す蛍光免疫細胞化学的染色画像をまとめたものである。パネルCは、免疫不全マウスに本願発明の修飾マクロファージを注射しなかったときの骨のバックグラウンドシグナルを示す。
【0034】
図15は、修飾マクロファージにおける、CD206のmRNA遺伝子発現(パネルA)、HMOX1(ヘムオキシゲナーゼ1)およびFDX1L(フェレドキシン1様、FDX2)(パネルB)などの抗酸化物質(スカベンジャー)の遺伝子発現、ならびにV型コラーゲン(V型コラーゲンα-1:Col5A1)、プロコラーゲンC-エンドペプチダーゼエンハンサー2(PCOLCE2)およびヘパラン硫酸グルコサミン3-O-スルホトランスフェラーゼ1(HS3ST1)(パネルC)の遺伝子発現に関し、M-CSFの影響を示す棒グラフをまとめたものである。
【発明の詳細な説明】
【0035】
本明細書で使用する冠詞の「a」及び「an」は、文法的に冠詞が付くものが一つ以上(少なくとも一つ)であることを示す。例として、「a modified macrophage(修飾マクロファージ)」とは、一つの修飾マクロファージ、またはそれより多い修飾マクロファージであることを意味する。
【0036】
本明細書で使用される「有効量」は、軟骨の形成又は筋骨格系疾患の一つ以上の症状および徴候の改善をもたらすのに十分な、本明細書に開示する修飾マクロファージまたは薬学的組成物の投与量を指し、これには、関節の可動域制限として臨床的に、又は様々の画像化手段を通じて放射線学的に検出可能な、疼痛、関節の膨張および硬直が含まれるが、これらに限定されるものではい。
【0037】
本明細書で使用される用語「治療する」、「治療した」または「治療」は、緩和的な使用若しくは結果、および/または、筋骨格系疾患の進行の遅延若しくは阻害または軟骨の形成をいう。
【0038】
用語「被験体」は、筋骨格系疾患を有すると疑われる脊椎動物、または筋骨格系疾患の治療が必要とみなされる脊椎動物をいうことができる。被験体には、哺乳類および霊長類などの恒温動物、より好ましくはヒトが含まれる。ヒト以外の霊長類も被験体である。用語「被験体」は、ネコ、イヌ、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等)および実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、スナネズミ、モルモット等)などの家畜化された動物を含む。したがって、本明細書では、獣医学的用途および医療用製剤が意図されている。
【0039】
修飾マクロファージの表面における、CD206などの表面マーカーの発現量または面内密度は、表面マーカーの発現が従来の方法で検出可能である限り「+」とする。一つの例示的な実施形態において、「+」は、蛍光活性化セルソーティング若しくは磁気ビーズにおいて、アイソタイプコントロールを超えて検出可能に存在すること;または定量的若しくは半定量的RT-PCRにおいて、バックグラウンドを超えて検出可能であること、を意味する。
【0040】
用語「修飾マクロファージ」および「分極M2マクロファージ」は、同義的に使用される。
【0041】
本明細書で使用される「実質的に含有しない」とは、組成物が、例えば特定のサイトカインなどの特定物質を5%、4%、3%、2%、1%または0.5%未満で含むことを意味する。いくつかの実施形態では、当該組成物は特定物質を含有しない。
【0042】
本明細書に示す全ての数値は、「約」によって修正されて理解することができる。本明細書で使用される用語「約」は、±10%の変動を含むことを意味する。
【0043】
修飾単球およびマクロファージ
本願発明の修飾単球は、約1時間~12時間、細胞培養培地とマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、IL-4またはそれらの組み合わせを含む分極化混合物との存在下でPBMNCsから得られ、修飾単球の分極化を導く。一実施形態において、修飾単球は表面マーカーCD14を発現している。別の実施形態では、本願発明の培養方法の結果として、修飾単球はCD14の表現型(すなわち、CD14+)を呈し、かつ、タンパク質またはRNAレベルでII型コラーゲン(Col II)を発現している。別の実施形態において、PBMNCsと細胞培養培地と分極化混合物との接触時間は、約1時間~4時間である。
【0044】
本願発明の修飾マクロファージは、約12時間~7日間、細胞培養培地とM-CSF、GM-CSF、G-CSF、IL-4またはそれらの組み合わせを含む分極化混合物との存在下でPBMNCsから得られ、M2マクロファージの分極化を導く。一実施形態において、PBMNCsと細胞培養培地と分極化混合物との接触時間は、約4時間~7日である。
【0045】
表1や
図4のパネルBに示すとおり、いわゆる分極M2マクロファージまたは修飾マクロファージの表現型特性は、CD14
+CD206
+である。一実施形態において、修飾マクロファージは表面マーカーCD14を発現している。別の実施形態において、修飾マクロファージは表面マーカーCD206を発現している。また別の一実施形態において、修飾マクロファージは表面マーカーCD14およびCD206を発現している。
【0046】
一実施形態では、本願発明の培養方法の結果として、修飾マクロファージはCD14およびCD206の表現型(すなわち、CD14+CD206+)を呈し、かつタンパク質またはRNAレベルでII型コラーゲン(Col II)を発現している。
【0047】
表1:修飾単球および修飾マクロファージの表現型特性
【表1】
【0048】
本願発明の修飾単球および修飾マクロファージは、自然発生しない。修飾単球または修飾マクロファージは、修飾単球または修飾マクロファージの細胞質内や細胞膜上にCol IIを有する。一実施形態において、本願発明の修飾マクロファージは、M1マクロファージからM2マクロファージへの転換を促進し、M1マクロファージの機能を抑制し、軟骨細胞のアポトーシスを低減し、軟骨病変を低下し、かつ軟骨形成を促進する。
【0049】
修飾マクロファージは、単一個体(すなわち、自家)から、または複数個体のプール(非自家同種)から入手することができる。
【0050】
一実施形態において、本願発明は、本明細書に記載の少なくとも一つの修飾単球または修飾マクロファージと、薬学的に許容される溶媒、担体または添加剤とを含有する医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、約0.01%から99.9%の修飾マクロファージまたは修飾単球と、約0.1%から99.99%の薬学的に許容される担体または添加剤とを含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、約1%から90%の修飾マクロファージまたは修飾単球と、約10%から99%の薬学的に許容される担体または添加剤とを含有する。
【0051】
好適な溶媒は、例えば、水、生理食塩水、ブドウ糖、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組み合わせである。好適な添加剤は、例えば、湿潤剤、乳化剤またはpH緩衝剤である。薬学的に許容される担体は、例えば、本発明の医薬組成物の安定化、または吸収若しくはクリアランス速度の増加若しくは低下に作用する、生理学的に許容される化合物を含有することができる。生理学的に許容される化合物には、例えば、グルコース、ショ糖およびデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸およびグルタチオンなどの抗酸化物質、キレート剤、低分子量タンパク質、界面活性剤、リポソームキャリア、ならびに、その他の安定剤および/または緩衝剤を含む。その他の生理学的に許容される化合物は、湿潤剤、乳化剤、分散剤および防腐剤を含む。添加剤は、非イオン性界面活性剤、ポリビニルピロリドン、ヒト血清アルブミン、水酸化アルミニウム、麻酔作用を有する薬剤、ならびに種々の非修飾かつ誘導体化されたシクロデキストリンであり得る。一実施形態において、非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60およびポリソルベート80を含むことができる。ポリビニルピロリドンは、医薬品グレードのポリビニルピロリドンであるプラスドンC15であることが好ましい。これらの添加剤または担体を含有する医薬組成物は、周知の従来方法により作製される。
【0052】
例示的な実施形態において、医薬組成物は骨髄由来間葉系間質細胞を実質的に含有しない。
【0053】
また、本発明は、本明細書に記載の修飾マクロファージ、修飾単球または医薬組成物を、それを必要とする被験体に、筋骨格系疾患の症状または徴候を軽減するのに有効な量で投与することにより、筋骨格系疾患を抑制する方法を提供する。さらに本発明は、軟骨を形成するために本願発明の修飾マクロファージ、修飾単球または医薬組成物の有効量を、それを必要とする被験体に投与することにより、被験体の体のある部位に軟骨を形成する方法を提供する。修飾マクロファージまたは修飾単球は、特定の理論に拘束されることなく、以下のメカニズムのいずれか一つ以上により、筋骨格系疾患の症状および徴候を緩和すると考えられる:M1マクロファージからM2マクロファージへの転換の促進、M1マクロファージの機能の抑制、軟骨細胞のアポトーシスの低減、軟骨病変の低減および軟骨の形成の増加。OAおよび関節リウマチ(RA)などの筋骨格系疾患の多くは、関節軟骨の変性が進行し、疼痛の増加、ロッキングおよび膝くずれなどの症状に至ることを特徴とすることから、患部の関節または部位への軟骨の形成により、軟骨の変性による症状および徴候が大幅に軽減される。
【0054】
本願発明のさらなる実施形態では、筋骨格系疾患の治療用医薬品の製造のために、本明細書に記載の修飾単球または修飾マクロファージの使用が提供される。
【0055】
筋骨格系疾患には、自己免疫性関節炎、変形性関節症(OA)および外傷性関節炎などの関節炎、椎間板変性疾患、または、筋捻挫および腱炎などの筋肉、腱若しくは靭帯に影響を及ぼす状態が含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
自己免疫性関節炎には、関節リウマチ(RA)、乾癬性関節炎および強直性脊椎炎が含まれるが、これらに限定されない。椎間板変性疾患には、椎間板変性が含まれるが、これに限定されない。
【0057】
本医薬組成物、修飾単球または修飾マクロファージの投与経路としては、静脈内、筋肉内、皮下、経口、局所、皮下、皮内、経皮、真皮下、非経口、直腸、脊髄、髄腔内、脳室内、関節内および椎間投与が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態では、修飾マクロファージは静脈内注射または注入により投与される。
【0058】
本願発明の修飾単球または修飾マクロファージは、筋骨格系疾患の治療のために、一種類以上の治療薬と共に投与することもできる。筋骨格系疾患を治療するための治療薬としては、ヒアルロン酸またはやその誘導体若しくは塩、成長因子、軟骨形成剤、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、加水分解コラーゲン、ルサラチドアセタート、アボカド大豆不ケン化物(ASU)、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)およびそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。修飾マクロファージは、筋骨格系疾患を治療するための治療薬と同時、投与前または投与後に投与することができる。
【0059】
本願発明の修飾単球または修飾マクロファージは、哺乳類の被験体に送達するための医薬組成物に製剤化される。医薬組成物は、単独で、および/または薬学的に許容される溶媒、添加剤または担体と混合して投与される。溶媒、添加剤または担体としては、併用薬の生物学的活性に影響を及ぼさないものが選択される。好適な溶媒としては、例えば、生理食塩水、デキストロース、グリセロール等、およびそれらの組み合わせである。さらに、溶媒は、湿潤剤または乳化剤などの補助的物質、pH緩衝剤、またはアジュバントを微量含むことができる。薬学的に許容される担体は、本発明の医薬組成物の安定化、または吸収若しくはクリアランス速度の増加若しくは低下に作用する、生理学的に許容される化合物を含有することができる。生理学的に許容される化合物には、例えば、グルコース、ショ糖およびデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸およびグルタチオンなどの抗酸化物質、キレート剤、低分子量タンパク質、界面活性剤、リポソームキャリア、ならびに、添加剤またはその他の安定剤および/または緩衝剤を含むことができる。その他の生理学的に許容される化合物には、湿潤剤、乳化剤、分散剤、または保存料を含む。The 21st Edition of Remington's Pharmaceutical Science, Mack Publishing Company, Easton, Pa.(Remington's)を参照。本願発明の医薬組成物は、薬剤、サイトカインまたはその他の生物応答調節物質などの補助的物質を含有することもできる。
【0060】
このような剤形の実際の製造方法は公知であるか、または当業者にとって明らかであろう。Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania, 21st editionを参照。
【0061】
修飾単球、修飾マクロファージまたは本医薬組成物は、修飾マクロファージまたは本医薬組成物が予防または治療のために使用されるか否かを問わず、計画通りに、かつ、被験体の年齢、体重および状態、使用される特定の組成物、ならびに投与経路に応じた期間にわたり、単回投与治療または反復投与治療で投与することができる。いくつかの実施形態において、修飾単球、修飾マクロファージまたは本医薬組成物は、1年ごと、6ヵ月ごと、4ヵ月ごと、3ヵ月ごと、1ヵ月ごと、月2回、月3回、隔週(qow)、週1回(qw)、週2回(biw)、週3回(tiw)、週4回、週5回、週6回、隔日(qod)、連日(qd)、1日2回(qid)または1日3回(tid)投与される。
【0062】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータは、ヒトに使用する場合の投与量の範囲の設定に使用され得る。一実施形態において、修飾マクロファージの投与量は、ほとんどまたは全く毒性を伴わないED50を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、使用される剤形および採用される投与経路に応じて、この範囲内で変更することができる。別の実施形態では、治療上の有効な投与量は、細胞培養アッセイから最初に推定することができる。動物モデルでは、細胞培養で判定したIC50(すなわち、症状の半数阻害を達成する修飾マクロファージの濃度)を含む循環血漿中濃度の範囲を達成するように用量を設定することができる。Sonderstrup, Springer, Sem. Immunopathol. 25: 35-45, 2003. Nikula et al., Inhal. Toxicol. 4(12): 123-53, 2000。
【0063】
医薬組成物は、本明細書に記載の修飾単球または修飾マクロファージの有効量を含むように製剤化され、その有効量は治療される被験体および治療される状態に依存する。特定の被験体のための特定の用量レベルは、特異的に修飾した単球または修飾マクロファージの活性、年齢、体重、全体的な健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、ならびに、排泄率、併用薬および治療対象の特定疾患の重症度を含む様々な要因に依存する。本願発明の修飾単球および修飾マクロファージの治療的または予防的な有効量の範囲は特に制限されないが、1回あたり少なくとも約1×104個から1×1010個の細胞数である。他の投与量も投与可能であり、1×105個、1×106個、1×107個、2×107個、1×108個または1×109個を含むが、これらに限定されない。
【0064】
修飾単球、修飾マクロファージまたは医薬組成物は、筋骨格系疾患の治療を目的に、単独で、あるいは、ヒアルロン酸又はその誘導体若しくは塩、成長因子、軟骨形成剤、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、加水分解コラーゲン、ルサラチドアセタート、アボカド大豆不ケン化物(ASU)、ステロイドおよび非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)のうちの一種類以上、あるいは任意の薬剤と併用して投与され得る。
【0065】
修飾マクロファージを作製するためのインビトロ培養方法
一実施形態において、修飾マクロファージを作製するインビトロ培養方法は以下の手順を含む。
(a)被験体からサンプルを採取する。サンプルには、末梢血、臍帯血および骨髄サンプルなど、一個以上の単核細胞を含有する体液が含まれるが、これらに限定されない。
(b)密度勾配遠心分離法(例:Ficoll-PaqueTM PREMIUM、GE Healthcare USA)を用いて、工程(a)のサンプル中の修飾マクロファージを他の種類の血液細胞から分離する。その他の単核細胞を分離する方法は、公知であるか、当業者にとって明らかであろう。
(c)CD14に対する抗体(例:BioLegend(米国)が市販する抗CD14 FITCコンジュゲート)を用いて工程(b)の単核細胞を標識し、フローサイトメトリーを用いることにより、単球の%を判定する方法は、本技術分野において公知である。
(d)精製した修飾マクロファージを、細胞培養培地と、M-CSF、GM-CSF、G-CSF、IL-4またはそれらの組み合わせを含む分極化混合物とに接触させる方法。
【0066】
例示的な一実施形態において、分極化混合物は実質的にIL-10、IL-13およびTGF-βを含有しない。別の例示的実施形態において、分極化混合物は約40~60重量%のM-CSF、約40~60重量%のIL-4、約50重量%のM-CSFおよび約50重量%のIL-4を含有する。
【0067】
修飾マクロファージを作製するための、PBMNCsと分極化混合物との接触時間の例示的な範囲は、例えば約4~12時間、約1~3日、約2~5日、約1~6日、約1~7日、約1~8日、約1~9日、約1~10日、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日および少なくとも7日であるが、これらに限定されるものではない。一実施形態において、接触時間は約4~24時間である。一実施形態において、接触時間は約4時間から約7日である。
【0068】
用語「細胞培養培地」は、哺乳動物細胞の培養に適切な培地をいう。培地は、固体、液体、気体、またはこれらの相と物質の混合であってもよい。培地は、液体培地、寒天、アガロース、ゼラチンおよびコラーゲン基質などのゲル状培地を含む。例示的な気体培地としては、例えばシャーレ、または他の固体若しくは半固体状の担体上で増殖する細胞が、曝される気相が挙げられる。細胞培養培地として特に制限はないが、RPMI-1640またはイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)が挙げられる。
【0069】
本願発明を実施するための具体的な態様である以下の例は、説明のためにのみ供され、いかなる意味でも本願発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0070】
実施例1:末梢血単核細胞(PBMNCs)の分離
【0071】
ドナーから末梢血サンプルを採取し、採取管にEDTAを保管した。末梢血サンプル100mLを、慎重に100mLのFicoll-Paque premiumの界面に添加した。700xgで15分間の遠心分離後、採取管の上層にある細胞(すなわち、PBMNCs)を50mL管に移した。500xgで5分間の遠心分離後、細胞ペレットを得て、抗CD14 FITC結合抗体(BioLegend、米国)を用いたフローサイトメトリーで細胞ペレット中の単球の割合(%)を測定した。通常、100mLの血液から0.8~1.5×108個のPBMNCsを回収することができる。
【0072】
実施例2:PBMNCsの修飾マクロファージへの活性化と分極化
【0073】
実施例1で得られたPBMNCs(リンパ球、単球およびNK細胞を含む)を、2.5μg/cm
2のフィブロネクチン(#07159、STEMCELL Technologies)コートスライド上で、(a)RPMI-1640(#31800、Gibco)+ヒト血小板由来ライセート(Compass)(コントロール)、(b)100ng/mLのM-CSF(#216-GMP-500、R&D SYSTEMS)、(c)100ng/mLのGM-CSF(#300-03、PEPROTECH)、または(d)100ng/mLのG-CSF(#300-23、PEPROTECH)と共に、3日間インキュベートした。培養PBMNCsのうち、単球由来のマクロファージをスライドに接着し、固定バッファー(#420801、BioLegend)を用いてインキュベートし、細胞内染色用膜透過処理試薬(#421002、BioLegend)を用いて透過化し、抗Col II抗体(#AB761、Millipore)で1時間染色を行った。Col II発現細胞を、緑色のAlexa Fluor 488色素ヤギ抗ウサギ免疫グロブリンG抗体(#A11008、Invitrogen)を用いて可視化した。総細胞数は、核のDAPI染色(青色)により推定した。
図1は、M-CSFで培養したPBMNCs(すなわち、培養した単球由来のマクロファージ)で発現したCol IIの%が約55%であり、GM-CSFで培養したPBMNCs(すなわち、培養した単球由来のマクロファージ)では約40%であり、G-CSFで培養したPBMNCs(すなわち、培養した単球由来のマクロファージ)では約25%であることを示す。
【0074】
さらに単球由来のマクロファージ(M-CSFを用いて培養したPBMNCsから分離)でのCol IIの発現は、モノクローナル(#MA5-12789、Invitrogen)およびポリクローナル(#AB761、Millipore)を用いた免疫細胞化学的蛍光染色法によって、さらに確認した。
図2は、培養した単球由来のマクロファージの細胞質内および細胞膜上の両方で発現したCol IIを示す。
【0075】
PBMNCsは、Ficoll-Paqueを用いて末梢血から精製され、フロー解析に供された。単球集団は、前方散乱(FSC)および側方散乱(SSC)のプロットにおける分布プロットと、CD14表面抗原の発現により同定した。フロー解析の結果、末梢血サンプルには、FSC/SSCプロットにより18.6%の単球と、CD14の表面免疫染色の使用により18.8%の単球とが含まれていた(
図3のパネルA)。この結果は、FSC/SSCを用いたゲート戦略または免疫染色のいずれも、単球/マクロファージの細胞集団を忠実に検証できることを示している。
【0076】
PBMNCsは、細胞の懸濁状態を維持するために、(a)RPMI-1640+ヒト血小板由来ライセート(コントロール)、(b)100ng/mLのM-CSF、(c)100ng/mLのGM-CSFまたは(d)100ng/mLのG-CSFを用いて、低接着シャーレで培養した。3日間の培養後、生きた浮遊細胞を抗Col II抗体で1時間染色し、細胞質膜上のCol IIの発現を検出した。
図3のパネルBおよびCは、処理された単球(パネルAのFSC/SSCゲート細胞)のCol II発現の%が、M-CSFでは約15%、GM-CSFでは約8%、G-CSFでは約6.5%であることを示している。
【0077】
培養したPBMNCsを、3日目と7日目に抗CD14抗体と抗Col II抗体で共染色し(
図4のパネルA)、Col IIを発現している細胞を同定した。培養したPBMNCsのほとんどは、CD14
+単球に変化しており、Col IIの発現は時間依存的様式であった。100ng/mLのM-CSFを4時間以上処理すると、CD14
+単球はCD14
+CD206
+M2マクロファージに分極した(
図4のパネルB)。
図4のパネルCはさらに、5日目にCol II、CD14およびCD206タンパク質を発現する、この発明で修飾マクロファージと名付けられたM2マクロファージ集団の特徴的なサブグループを明らかにするものである。
【0078】
Col II発現細胞の細胞識別をさらに確認するため、M-CSF、GM-CSFまたはG-CSFで処理したPBMNCsを、抗CD206抗体(#555954、BD Pharmingen
TM、赤色)、特異的M2マクロファージマーカーおよび抗Col II抗体(緑色)を用いて、1時間二重染色した。総細胞数は、DAPI染色した核により解析した。
図5のパネルAは、Col IIおよびCD206タンパク質の両方の発現が認められ、本願発明の修飾マクロファージであるM2マクロファージ集団の特徴的なサブグループを明らかにするものである。
図5のパネルBは、培養3日後の培養PBMNCsにおける修飾マクロファージ(Col II/CD206二重陽性細胞)の割合が、M-CSF、GM-CSFにより有意に誘導され、G-CSFにより中程度に誘導されたことを示している。
【0079】
実施例3:種々のサイトカインによるCol II発現への影響
【0080】
実施例2のPBMNCsを単離し、(a)RPMI-1640+ヒト血小板溶解物(ネガティブコントロール)、(b)100ng/mLのインターロイキン4(IL-4、#204-GMP-01M)、(c)20ng/mLのインターロイキン10(IL-10、#200-10、PEPROTECH)、(d)20ng/mLのインターロイキン13(IL-13、#200-13、PEPROTECH)、(e)20ng/mLのトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β、#100-21、PEPROTECH)で1日間培養した。培養した細胞は、抗CD206抗体および抗Col II抗体を用いて1時間染色した。細胞集団はまず、FSC/SSCおよび免疫染色法に基づいてゲーティングされ、Col IIとCD206の発現に基づいて修飾マクロファージ集団を同定した。
【0081】
図6のパネルAおよびBは、IL-4が、試験したサイトカインのうち、PBMNCs集団全体でCol II/CD206の二重発現を有する修飾マクロファージの割合を最も高くすることを示している。
【0082】
実施例4:M-CSFおよびGM-CSFのさまざまな添加量がCol IIの発現に及ぼす影響
【0083】
実施例2のPBMNCsを、2、10、20、50および100ng/mLの(A)M-CSFまたは(B)GM-CSFを用いて3日間処理した。細胞は、抗Col II抗体で1時間染色した。フローサイトメトリー解析では、ゲーティング戦略を使用した。細胞集団はまず、単球の同定のために、FSC-AおよびSSC-Aに基づいてゲートされ、さらに単球はCol IIの発現に基づいて解析した。
【0084】
図7は、M-CSFおよびGM-CSFがCol IIの発現を容量依存的様式で誘発すること示している。
【0085】
実施例5:Col IIの発現に対するM-CSF/IL-4の併用およびGM-CSF/IL-4の併用の相乗効果
【0086】
実施例2のPBMNCsを、2.5ug/cm2のフィブロネクチンコートスライド上において、(a)RPMI-1640+ヒト血小板溶解物(コントロール)、(b)100ng/mLのIL-4、(c)100ng/mLのM-CSF、(d)100ng/mLのM-CSF+100ng/mLのIL-4で3日間培養した。
【0087】
実施例2の別のPBMNCs集団は、2.5ug/cm2のフィブロネクチンコートスライド上において、(a)RPMI-1640+ヒト血小板溶解物(コントロール)、(b)100ng/mLのIL-4、(c)100ng/mLのGM-CSF、(d)100ng/mLのGM-CSF+100ng/mLのIL-4で、3日間培養した。
【0088】
培養したPBMNCsは固定バッファーで固定し、細胞内染色用膜透過処理試薬を用いて透過化し、細胞質膜に抗CD206抗体、細胞質に抗Col II抗体を用いて1時間染色した。細胞は、Alexa Fluor 488色素ヤギ抗ウサギIgG抗体の染色で可視化した。総細胞数は、核のDAPI染色により分析した。
【0089】
図8のパネルAは、培養PBMNCsからの修飾マクロファージ(Col II/CD206二重陽性細胞)誘導に対するM-CSF/IL-4併用の相乗効果を示す。
図8のパネルBは、修飾マクロファージ誘導に対するGM-CSF/IL-4の併用の相乗効果を示す。
【0090】
実施例6:修飾マクロファージのCol IIの発現に対するインキュベーション時間の影響
【0091】
実施例2のPBMNCsを、(a)リン酸緩衝生理食塩水またはPBS(モック処理後)またはM-CSF(100ng/mL)と、IL-4(100ng/mL)とを併用して、0.5、1、2、4または6時間培養した。培養したPBMNCsから単球を抗CD14抗体結合磁気ビーズで選別し、全RNAを抽出した後、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いて発現量を解析した。Col IIのRNA発現量は、グリセルアルデヒド3-リン酸(GAPDH)を基準とし、倍率変化をPBSコントロールと比較した。
【0092】
図9のパネルA~Dは、M-CSF/IL-4の併用が、CD14単球のCol IIの発現に対し、時間依存的様式に影響することを示している。Col IIのmRNA発現は、2時間の誘導で約2倍の誘導となり、コントロールのそれよりも有意に高いことを示す(p<0.001、***)。CD14
+単球は、M-CSF+IL-4による処理前(パネルCおよびD)および処理後(パネルAおよびB)に、PBMNCsから選別した。PBMNCsから得られたCD14
+単球は、サイトカイン処理の前後で、同様のCol II発現パターンを示したことから、PBMNCs中の非単球集団からの間接的経路ではなく、分極化因子が単球をCol II発現細胞に向けて直接活性化することが示された。
【0093】
実施例7:OAラットにおける修飾マクロファージの影響に関するインビボ評価
【0094】
体重200~210gの雄性成熟Sprague-Dawley(SD)系ラット10匹を、温度(24~26℃)および湿度(40~60%)が一定の室内で飼育し、飼料および水を自由に摂取できるようにした。
【0095】
各ラットの後肢膝関節に0.25mLのフロイント完全アジュバント(CFA、Sigmaの市販品、米国)を注射し、OAを誘発させた。6日目に、同じ関節に0.05mLのCFAを注射し、炎症を増強させた。関節炎が確立した7日目に、関節炎の膝関節に0.2mLのPBS(コントロール)または2×105のM-CSF/IL-4誘導修飾マクロファージを0.2mLのPBSで治療した。細胞に結合していないサイトカインは、PBS洗浄で2回行うことにより除去した。膝関節は、2週間、2~3日おきにバーニアを用いて測定した。
【0096】
雄性成熟SD系ラット4匹(健康コントロール)およびCFA誘発関節炎を有するラット16匹を当該試験に組み入れた。関節炎誘発後7日目に、0.2mLのPBS(モック)を8匹のラットに投与し、0.2mLのPBSで処理した細胞を他の8匹のラットに投与した。投与後の25日間にわたって、各膝関節の直径を2~3日ごとに測定した。25日目に、PBSを投与した全てのラットで、関節炎の古典的な症状(関節の腫れ)が見られた。注目すべきは、修飾マクロファージが、関節炎および関節の腫れの進行と重症度とを有意に低下させたことである(p<0.01、
図10)。関節炎の抑制は、修飾マクロファージの注射前に、細胞を洗浄して当初の培養培地を完全に除去したため、分極化因子を介するものではなかった。これらの結果は、修飾マクロファージが、関節炎をコントロールするための治療上の有効な薬剤となり得ることを強く示唆している。
【0097】
実施例8:OAに対する修飾マクロファージの影響を評価する臨床試験
【0098】
台湾・台中市にある中国医薬大学病院の研究倫理委員会(CMUH109-Rec1-012)により承認され、台湾・台中市のアジア大学病院で前向きな臨床研修が実施された。
【0099】
本研究は、慢性変形性関節症を有する患者を対象とし、腫瘍性疾患、重度の貧血、血小板減少症および感染症のいずれか1つでも有していれば、本研究から除外した。5名の患者を研究に登録し、登録した全ての患者からインフォームドコンセントが得られた。
【0100】
OAの重症度は、X線に基づくKellgren-Lawrence(K-L)試験を用いて評価した。治験責任医師によって、M-CSFで5日間培養した1×108個の自家PBMNCs(本願発明の修飾マクロファージを1~3×107個含む)の単回関節内注射が実施された。OAの進行は、関節内注射の6ヵ月後に、膝関節損傷および変形性関節症転帰スコア(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score:KOOS)、すなわち膝と特定の転帰(疼痛、その他の症状、日常生活動作、スポーツおよびレクリエーション機能、ならびに膝に関連する生活の質)を評価するために設計された質問票を用いて、OAの進行を評価した。
【0101】
図11は、本願発明の修飾マクロファージによって、疼痛、スポーツおよび膝に関連する生活の質が有意に改善したことを示す(p<0.05)。
【0102】
実施例9:RAラットに対する修飾マクロファージの影響に関するインビボ評価
【0103】
げっ歯類のコラーゲン誘発関節炎(CIA)は、ヒトRAの古典的モデルである。CIAが誘発されたRAは、C57BL/6マウスおよびSprague-Dawley系ラットの両方に対し、II型コラーゲン(200μg)を尾静脈に皮下注射することにより確立させることに成功した。40日目に顕著な足の腫れが観察され、105日目まで持続した。50日目(投与1回目)および80日目(投与2回目)に、本願発明の修飾マクロファージ2×10
5個を各マウスおよびラットの左膝に関節内注射し、モック処理後のコントロールとして、各マウスおよびラットの右膝にPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を関節内注射した。
図12は、本願発明の修飾マクロファージによって、RAマウスおよびRAラットの両方で足の腫れが有意に低減し、その効果が2回目の投与後も少なくとも25日以上持続したことを示している。
【0104】
実施例10:外傷性関節炎に対する修飾マクロファージの影響に関する臨床評価
【0105】
指節骨を骨折した45歳の男性患者で右中指の近位指節間関節の外傷性関節炎が認められた。疼痛が持続し、患部の関節を曲げることができなかった(
図13の左側の矢印)。
【0106】
受傷から約4ヵ月後に、本願発明の3.5×10
7個の修飾マクロファージ含む、M-CSFで5日間培養した1.5×10
8個の自家PBMNCsを、当該患者の患部関節に関節内注射により投与した。注射後1週間で関節痛が著しく改善し、治療3週間後には患部関節を完全に曲げられるようになった(
図13の右側の矢印)。
【0107】
実施例11:関節表面および骨内の軟骨形成
【0108】
本願発明の修飾マクロファージ(2×10
5個)を、免疫不全マウスの関節腔内および骨内に投与した。注射後2ヵ月の関節腔および骨の免疫化学染色を行ったところ、免疫不全マウスの関節腔内(パネルA)および骨内(パネルB)の軟骨表面に軟骨状の膜または軟骨状の構造物(細胞質は緑、核はDAPIで青に染色されたヒトCol II)の形成が確認された(
図14)。
図14のパネルCは、本願発明の修飾マクロファージを注射しなかった、対応する骨/関節腔のバックグラウンドシグナルを示す。
【0109】
実施例12:M-CSFがCD206、抗酸化物質(スカベンジャー)および骨構成要素の形成に及ぼす影響
【0110】
PBMNCsは、0、2、10、50および100ng/mLの濃度のM-CSFで24時間かけて培養した。実施例6と同様に、抗CD14抗体結合磁気ビーズを用いて選別した修飾マクロファージについては、Phalanx Biotech Company(台湾)の標準RNA単離プロトコルに従って、トリゾールおよびクロロホルム溶液を用いて全RNAを抽出した。RNAサンプルは、OD260、OD280、OD230、アガロース電気泳動、RNAの定性および定量検査(Agilent Bioanalyzer、Agilent RNA 6000 Nano/Pico Assay)により、検査された。純度および安全性の質は、Phalanx Biotech Company(台湾)により検査され合格であった。
【0111】
1μgのRNAサンプルから蛍光アンチセンスRNA(CyDye-aRNA)ターゲットを調製し、OneArray(登録商標)アミノアリルaRNA増幅キット(Phalanx Biotech、台湾)を用いて、アミノアリル-ウリジン-5’-トリホスフェートおよびNHS-CyeDyeを添加して合成した。蛍光cDNAサンプルは、Human Whole Genome OneArray(登録商標)にハイブリダイズし、Phalanx Biotech Companyのルーチンプロトコルに従って処理した。蛍光シグナルは、Agilentマイクロアレイスキャナー(G2505C)でスキャンされ、各プローブの強度はGenePix 4.0ソフトウェア(モレキュラーデバイス、米国)により求めた。
【0112】
チップの生強度は、データ解析を処理するためのRosetta Resolver System(登録商標)7.0(Rosetta Biosoftware、メルク、米国)で解析した。基準を満たしていたプローブの強度は、50%メジアンスケーリング正規化法により正規化した。繰り返し測定されたデータは、その再現性(R値>0.975)を確認するために、ピアソン相関係数計算により検証した。正規化したスポット強度は、対照群と投与群の遺伝子発現log2比で示した。log2比≧1またはlog2比≦-1、およびp<0.05のプローブを差次的発現遺伝子として選択し、さらにシグナル伝達経路を分析した。
【0113】
図15のパネルAは、修飾マクロファージにおけるCD206(マンノース受容体C1型(MRC1)とも呼ばれる)の遺伝子発現が、M-CSFの濃度に関わらず4~6倍であることを示している。
図15のパネルBは、M-CSFが、抗酸化物質(スカベンジャー)、すなわち修飾マクロファージにおけるHMOX1(ヘムオキシゲナーゼ1)とFDX1L(フェレドキシン1様、FDX2)の遺伝子の発現を、時間依存的様式で増加させることを示している。
図15のパネルCは、M-CSFが、V型コラーゲン(V型コラーゲンα1、Col5A1)、プロコラーゲンC-内ペプチダーゼエンハンサー2(PCOLCE2)およびヘパラン硫酸グルコサミン3-O-スルホトランスフェラーゼ1(HS3ST1)など、修飾マクロファージでの骨構成要素形成遺伝子の発現を促進することを示している。V型コラーゲンは、骨-筋組織の主要構成成分であり、PCOLCE2はコラーゲンの成熟および線維性コラーゲンの沈着に必要不可欠である。HS3ST1は、骨、軟骨および腱の形成に重要な成分であるヘパラン硫酸の合成に関わる律速酵素である。
【国際調査報告】