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▶ キアゲン ゲーエムベーハーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】固定された生体試料からの核酸精製
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20230518BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20230518BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230518BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20230518BHJP
【FI】
C12N15/10 100
C12Q1/6806 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558437
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(85)【翻訳文提出日】2022-11-25
(86)【国際出願番号】 EP2021058514
(87)【国際公開番号】W WO2021198377
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】20167445.4
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507214038
【氏名又は名称】キアゲン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】オニール, ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】シュレーア, ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】クプファー, クリスティアン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ34
4B063QQ35
4B063QQ36
4B063QQ42
4B063QR14
4B063QR15
4B063QR16
4B063QR32
4B063QR72
4B063QS25
(57)【要約】
本発明は、固定された生体試料を溶解させるための方法であって、固定された生体試料が、固定に起因する核酸分子とタンパク質分子の間の架橋を含み、前記方法が、(a)前記固定された生体試料を溶解させるステップであって、溶解が、タンパク質分解酵素による消化を含む、ステップと;(b)溶解させた試料を加熱して架橋を逆転させるステップと;(c)タンパク質分解酵素を添加し、タンパク質分解消化を実施するステップとを含み、必要に応じて、1回または複数回の追加の処理ステップが、ステップ(b)とステップ(c)の間で実施される、方法を提供する。提供される核酸は、高収量かつ高品質のものであり、前記溶解された試料から精製することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された生体試料を溶解させるための方法であって、前記固定された生体試料が、固定に起因する核酸分子とタンパク質分子の間の架橋を含み、前記方法が、
(a)前記固定された生体試料を溶解させるステップであって、溶解が、タンパク質分解酵素による消化を含む、ステップと;
(b)前記溶解させた試料を加熱して架橋を逆転させるステップと;
(c)タンパク質分解酵素を添加し、タンパク質分解消化を実施するステップと
を含み、
必要に応じて、1回または複数回の追加の処理ステップが、ステップ(b)と(c)の間で実施される、方法。
【請求項2】
固定された生体試料から精製された核酸を得るための方法であって、請求項1に記載の溶解方法に従って前記固定された生体試料を溶解させるステップを含み、前記方法がステップ(c)の後に、
(d)前記溶解させた試料から核酸を精製するステップ
を含む、方法。
【請求項3】
溶解ステップ(a)が、溶解混合物を調製することを含み、前記溶解混合物が、
(i)前記固定された生体試料、および
(ii)前記タンパク質分解酵素を含む溶解組成物
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)が、以下の特徴:
(i)前記タンパク質分解酵素が、プロテアーゼ、必要に応じてセリンプロテアーゼ、例えばプロテイナーゼKである、
(ii)前記溶解混合物が、前記タンパク質分解酵素による消化を補助するために加熱され、必要に応じて加熱が、35~75℃、必要に応じて40~70℃の範囲内の温度で実施される;
(iii)前記溶解混合物が、少なくとも30分間、例えば少なくとも45分間または少なくとも50分間インキュベートされ、必要に応じてインキュベーションが、35~75℃の間の高温で行われる、および/または前記試料が、インキュベーション中に撹拌される;ならびに/あるいは
(iv)ステップ(a)が、120分もしくはそれより短い時間、必要に応じて100分もしくはそれより短い時間、90分もしくはそれより短い時間または70分もしくはそれより短い時間で完了する
のうちの1つまたは複数を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)が、以下の特徴:
(i)ステップ(b)が、前記溶解させた試料を、少なくとも80℃、必要に応じて少なくとも85℃もしくは少なくとも90℃の温度に加熱することを含む;
(ii)前記溶解させた試料を加熱して、少なくとも30分間、少なくとも45分間もしくは少なくとも50分間架橋を逆転させる;および/または
(iii)前記溶解させた試料を、80~110℃、例えば85~100℃の範囲内の温度で、30~120分間、例えば45~90分間もしくは50~70分間加熱する
のうちの1つまたは複数を有する、請求項1から4のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(c)が、以下の特徴:
(i)前記タンパク質分解酵素が、プロテアーゼ、必要に応じてセリンプロテアーゼ、例えばプロテイナーゼKである;
(ii)ステップ(c)が、前記タンパク質分解酵素による消化を補助するために加熱することを含み、必要に応じて加熱が、35~75℃、例えば40~70℃もしくは50~70℃の範囲内の温度で実施される;
(iii)ステップ(c)が、少なくとも5分間、例えば少なくとも10分間もしくは少なくとも15分間のインキュベーションを含み、必要に応じてインキュベーションが、35~75℃の間の高温で行われ、および/もしくは前記試料が、インキュベーション中に撹拌される;
(iv)ステップ(c)におけるインキュベーションが、ステップ(a)におけるインキュベーションよりも短く、および/もしくはステップ(c)におけるインキュベーション温度がステップ(a)におけるものよりも高い;ならびに/または
(v)ステップ(c)が、30分もしくはそれより短い時間、必要に応じて20分もしくはそれより短い時間で完了する
のうちの1つまたは複数を有する、請求項1から5のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)とステップ(c)の間のタンパク質分解消化ステップとは異なる少なくとも1回の酵素処理ステップを実施するステップを含む、請求項1から6のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1回の酵素処理ステップが、グリコシラーゼ、ヌクレアーゼ、リパーゼまたは前記のものの組合せのうちの1つまたは複数の使用を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1回の酵素処理ステップが、DNAグリコシラーゼ、例えばウラシルDNAグリコシラーゼ、好ましくはウラシル-N-グリコシラーゼの使用を含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
グリコシラーゼ処理ステップが高温で実施される、および/あるいは前記グリコシラーゼ処理ステップが、30分もしくはそれより短い時間、20分もしくはそれより短い時間、15分もしくはそれより短い時間または10分もしくはそれより短い時間で完了し、必要に応じて前記グリコシラーゼが、ウラシル-N-グリコシラーゼである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(c)の前に前記少なくとも1回の酵素処理ステップを実施するために、ステップ(b)から得られた前記試料を希釈するステップを含む、請求項7から10のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項12】
前記酵素処理ステップ中に、酵素処理混合物中の塩濃度が、以下の特徴:
(i)前記塩濃度が、500mM以下であり、必要に応じて300mM以下、250mM以下、200mM以下、150mM以下および100mM以下から選択される;
(ii)前記塩濃度が、10mM~500mMの範囲内、例えば15mM~300mM、15mM~200mMまたは15~150mMの範囲内にある
のうちの1つまたは複数を有し、
必要に応じて、前記少なくとも1回の酵素処理ステップが、DNAグリコシラーゼ、例えばウラシルDNAグリコシラーゼの使用を含む、
請求項7から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(a)における前記溶解組成物が、6.0~9.5、好ましくは6.5~9.0または7.0~9.0の範囲内のpHを有する、請求項3から12のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(a)における前記溶解組成物が、以下の化合物:
(i)塩;
(ii)界面活性剤;
(iii)緩衝化剤
のうちの1つまたは複数、好ましくはすべてをさらに含む、請求項3から13のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項15】
前記溶解組成物が、反応性化合物を含み、前記反応性化合物が、以下の特徴:
(i)前記反応性化合物が、加熱ステップ(b)において放出される固定剤もしくは化学的部分、および/または前記固定剤によって誘導される架橋と反応し、必要に応じて前記固定剤が、アルデヒドを含有する固定剤、例えばホルムアルデヒドである;
(ii)前記反応性化合物が、求核基、好ましくはアミン基を含む;
(iii)前記反応性化合物が、
- 1つもしくは複数の第一級アミン基、必要に応じて1つの第一級アミン基および1つもしくは複数のヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基;または
- 2つの第一級アミン基および必要に応じて1つの第二級アミン基
を含む;ならびに/あるいは
(iv)前記反応性化合物が、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールもしくはその誘導体またはスペルミジンもしくはその誘導体またはそれらの組合せである
のうちの1つまたは複数を有する、請求項1から14のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項16】
以下の特徴:
(i)前記反応性化合物が、1mM~500mM、例えば5mM~500mMの範囲内の濃度で、前記溶解組成物および/または前記溶解混合物中に存在する;
(ii)好ましくはTrisまたはスペルミジンから選択される前記反応性化合物の前記濃度が、放出された核酸分子の長さを制御するために選択され、ここで前記溶解組成物および/または前記溶解混合物中の前記反応性化合物のより低い濃度は、前記放出された核酸分子のより高い程度の断片化をもたらす
のうちの1つまたは複数を有する、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記溶解組成物が、以下の特徴:
(a)前記塩が、以下の特徴:
(i)前記塩が、一価もしくは二価の塩である、
(ii)前記塩が、カオトロピック塩もしくは非カオトロピック塩である、
(iii)前記塩が、非緩衝性の塩である、
(iv)前記塩が、アルカリ金属塩、必要に応じてハロゲン化アルカリ金属である、および/または
(v)前記塩が、塩化物塩であり、必要に応じて、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウムおよび塩化セシウムから選択され、好ましくは前記塩が、塩化ナトリウムである
のうちの1つまたは複数を有する;
(b)前記界面活性剤が、以下の特徴:
(i)前記界面活性剤が、イオン性もしくは非イオン性界面活性剤である、
(ii)前記界面活性剤が、陰イオン性界面活性剤である、および/または
(iii)前記界面活性剤が、脂肪アルコールの硫酸塩もしくはスルホン酸塩、例えばドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウムもしくはドデシルベンゼンスルホン酸であり、好ましくは前記界面活性剤が、ドデシル硫酸ナトリウムである
のうちの1つまたは複数を有する;
(c)前記溶解組成物が、緩衝化剤である、請求項15に記載の反応性化合物を含むか、または前記溶解組成物が緩衝化剤を含み、必要に応じて、前記緩衝化剤が、5.0~10.5の範囲内にあるpKa値を有し、必要に応じて前記pKa値が、5.5~10.0、6.0~10.0、6.5~10.0、7.0~9.8または7.2~9.8から選択され、必要に応じて前記緩衝化剤が、Trisである;
ならびに/あるいは
(d)必要に応じて、前記溶解組成物がキレート剤を含み、好ましくは前記キレート剤が、アミノポリカルボン酸、より好ましくはエチレンジニトリロ四酢酸(EDTA)である
のうちの1つまたは複数を有する、請求項14から16のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項18】
前記溶解組成物および/または前記溶解混合物中に、
(a)前記塩が、少なくとも15mM、少なくとも50mM、少なくとも75mMもしくは少なくとも100mMの濃度で存在し、必要に応じて前記塩の濃度が、15mM~500mM、例えば50mM~350mM、75mM~300mM、100mM~250mMもしくは125mM~200mMの範囲内にある;および/または
(b)前記界面活性剤が、少なくとも0.01%、少なくとも0.02%、少なくとも0.03%、もしくは少なくとも0.04%の濃度で、前記溶解組成物および/もしくは前記溶解混合物中に存在し、必要に応じて前記界面活性剤の濃度が、0.01~3.0%、例えば0.02~2.75%、0.03~2.5%もしくは0.04~2.0%の範囲内にある、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記溶解組成物が、溶解溶液を前記タンパク質分解酵素と組み合わせることによって調製され、必要に応じて前記溶解組成物を調製することが、水または希釈緩衝液を添加することをさらに含む、請求項3から18のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項20】
以下の特徴:
(i)前記溶解溶液が、反応性化合物を含み、必要に応じて
- 前記反応性化合物が、請求項15において規定された反応性化合物である、および/または
- 前記反応性化合物が、少なくとも5mM、特に少なくとも10mM、少なくとも20mMもしくは少なくとも30mMの濃度で、前記溶解溶液中に存在する;
(ii)前記溶解溶液が、緩衝化剤である反応性化合物を含むか、または前記溶解溶液が、緩衝化剤をさらに含む;
(iii)前記溶解溶液が、請求項15において規定された反応性化合物を含み、必要に応じて
- 前記反応性化合物が、1つもしくは複数の第一級アミン基、好ましくは1つの第一級アミン基、および1、2もしくは3つのヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基を含み、必要に応じて前記反応性化合物が、少なくとも10mM、例えば少なくとも20mM、少なくとも40mM、少なくとも60mMもしくは少なくとも75mMの濃度で、前記溶解溶液中に存在する;または
- 前記反応性化合物が、2つの第一級アミン基および好ましくは1つの第二級アミン基を含み、必要に応じて前記反応性化合物が、前記溶解溶液中に、少なくとも0.25mM、特に少なくとも0.5mM、少なくとも1mM、少なくとも1.25mMもしくは好ましくは少なくとも1.5mMの濃度で、前記溶解溶液中に存在する;
(iv)前記溶解溶液が、塩を含み、必要に応じて
- 前記塩が、請求項17のa)において規定された塩であり;
- 前記塩が、少なくとも50mM、必要に応じて少なくとも75mM、少なくとも100mM、少なくとも150mM、少なくとも200mMもしくは少なくとも250mMの濃度で、前記溶解溶液中に存在する;
(v)前記溶解溶液が、界面活性剤を含み、必要に応じて
- 前記界面活性剤が、請求項17のb)において規定された界面活性剤である;
- 前記界面活性剤が、イオン性もしくは非イオン性界面活性剤、好ましくは陰イオン性界面活性剤である;
- 前記界面活性剤が、少なくとも0.01%少なくとも0.01%、少なくとも0.02%、少なくとも0.03%、もしくは少なくとも0.04%の濃度で、前記溶解溶液中に存在し、必要に応じて前記界面活性剤の濃度が、0.01~3.0%、例えば0.02~2.75%、0.03~2.5%もしくは0.04~2.0%の範囲内にある、
のうちの1つまたは複数を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
以下の特徴:
(i)前記核酸が、DNAを含むか、もしくはそれから実質的になる;
(ii)前記固定された生体試料が、細胞を含有する試料である;
(iii)前記固定された生体試料が、固体の固定された生体試料、特に固定された組織試料である;
(iv)前記固定された生体試料が、液体の固定された生体試料である;
(v)前記固定された生体試料が、架橋固定剤、必要に応じてアルデヒドを含有する固定剤、例えばホルムアルデヒドおよび/もしくはパラホルムアルデヒドを使用して固定された試料である;ならびに/または
(vi)前記固定された生体試料が、FFPE試料である;
のうちの1つまたは複数を有する、請求項1から20のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項22】
ステップ(d)が、核酸を固相に結合させることと;必要に応じて前記固相に結合した前記核酸を洗浄することと;前記固相から前記核酸を溶出させることとを含み;
ならびに/あるいは
前記方法が、(e)前記精製された核酸を分析するステップをさらに含み、前記分析するステップは、必要に応じて以下:
(i)好ましくはポリメラーゼ酵素を使用して、前記核酸を増幅させること;
(ii)ラージアンプリコンPCRおよび/もしくはショートアンプリコンPCRを使用して前記核酸を増幅させることであって、必要に応じて前記ラージアンプリコンPCRが、少なくとも500ntのサイズを有する核酸分子のためのものであり、前記ショートアンプリコンPCRが、500nt未満、好ましくは300nt以下、200nt以下もしくは150nt以下のサイズを有する核酸分子のためのものである、増幅させること;および/または
(iii)次世代シーケンシング方法を実施することであって、前記方法が、必要に応じて
(aa)固有分子識別子配列を前記核酸に結合させることであって、各核酸分子が、異なる固有分子識別子配列を含む、結合させること;
(bb)前記結合した固有分子識別子配列を含む前記核酸を増幅させること;および
(cc)前記核酸をシーケンシングすること
を含む、実施すること
のうちの1つまたは複数を含む、請求項2から21のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項23】
(a)前記固定された生体試料を溶解させるステップであって、溶解が、タンパク質分解酵素による消化を含み、溶解ステップ(a)が、溶解混合物を調製することを含み、前記溶解混合物が、
(i)前記固定された生体試料、および
(ii)前記タンパク質分解酵素を含む溶解組成物
を含み、
前記溶解混合物が、35~75℃の間の高温で少なくとも30分間インキュベートされ、必要に応じてステップ(a)が120分またはそれより短い時間で完了する、ステップと;
(b)前記溶解させた試料を加熱して、架橋を逆転させるステップであって、前記溶解された試料が、80~110℃、例えば85~100℃の範囲内の温度で、30~120分間、例えば45~90分間または50~70分間加熱される、ステップと;
(c)タンパク質分解酵素を添加し、タンパク質分解消化を実施するステップであって、ステップ(c)が、35~75℃、例えば40~70℃または50~70℃の間の高温で、少なくとも5分間、例えば少なくとも10分間または少なくとも15分間のインキュベーションを含み、
ステップ(c)におけるインキュベーションが、ステップ(a)におけるインキュベーションよりも短い、および/またはステップ(c)におけるインキュベーション温度がステップ(a)におけるものよりも高い、ステップと
を含む、請求項1から22のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項24】
前記固定された生体試料が、固体の固定された生体試料、必要に応じてFFPE試料であり、前記方法が、ステップ(b)とステップ(c)の間のタンパク質分解消化ステップとは異なる少なくとも1回の酵素処理ステップを実施することを含み、前記少なくとも1回の酵素処理ステップが、グリコシラーゼ、ヌクレアーゼ、リパーゼまたは前記のものの組合せのうちの1つまたは複数の使用を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1回の酵素処理ステップが、DNAグリコシラーゼ、例えばウラシルDNAグリコシラーゼ、好ましくはウラシル-N-グリコシラーゼの使用を含み、前記DNAグリコシラーゼ処理ステップが、高温で実施され、30分もしくはそれより短い時間、20分もしくはそれより短い時間、15分もしくはそれより短い時間または10分もしくはそれより短い時間で完了し、必要に応じて、前記方法が、ステップ(c)の前に前記DNAグリコシラーゼ処理ステップを実施するために、ステップ(b)から得られた前記試料を希釈するステップを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも1回のヌクレアーゼ処理ステップが、ステップ(b)とステップ(c)の間で実施され、前記ヌクレアーゼが、リボヌクレアーゼ、例えばリボヌクレアーゼAである、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
ステップ(b)とステップ(c)の間で実施されるタンパク質分解消化ステップとは異なる前記酵素処理ステップが、
- DNAグリコシラーゼ、より好ましくはウラシルDNAグリコシラーゼを添加することと;
- リボヌクレアーゼ、例えばリボヌクレアーゼAを添加することと
を含む、請求項24から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
- ステップ(a)は、前記タンパク質分解酵素が、プロテアーゼ、例えばプロテイナーゼKであり、ステップ(a)が、120分もしくはそれより短い時間、必要に応じて100分もしくはそれより短い時間、90分もしくはそれより短い時間、または70分もしくはそれより短い時間で完了し、加熱が、35~75℃、必要に応じて40~70℃の範囲内の温度で実施されることを特徴とし;
- ステップ(c)は、前記タンパク質分解酵素が、プロテアーゼ、例えばプロテイナーゼKであり、ステップ(c)が、30分もしくはそれより短い時間、必要に応じて20分もしくはそれより短い時間で完了し、加熱が、35~75℃、必要に応じて40~70℃または50~70℃の範囲内の温度で実施されることを特徴とし;
ステップ(c)におけるインキュベーションが、ステップ(a)におけるインキュベーションよりも短く、ステップ(c)におけるインキュベーション温度がステップ(a)におけるものよりも高い、請求項23から27のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項29】
前記試料が、ステップ(a)とステップ(c)におけるインキュベーション中に撹拌される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
請求項23から29のうちの1つまたは複数において規定される、好ましくは請求項26から29のうちの1つまたは複数において規定される溶解方法に従って、前記固定された生体試料を溶解させるステップを含み、
ステップ(c)の次に、前記方法は、
(d)前記溶解された試料からDNAを精製するステップであって、ステップ(d)が、
- DNAを固相に結合させることと;
- 必要に応じて、前記固相に結合した前記DNAを洗浄することと;
- 前記固相から前記DNAを溶出させることと
を含むステップ
を含み;そして、前記方法は、
(e)前記精製されたDNAを分析するステップであって、前記分析するステップは、以下の:
(i)好ましくはポリメラーゼ酵素を使用して、前記DNAを増幅させること;
(ii)ラージアンプリコンPCRおよび/もしくはショートアンプリコンPCRを使用して前記DNAを増幅させることであって、必要に応じて前記ラージアンプリコンPCRが、少なくとも500ntのサイズを有するDNA分子のためのものであり、前記ショートアンプリコンPCRが、500nt未満、好ましくは300nt以下、200nt以下もしくは150nt以下のサイズを有するDNA分子のためのものである、増幅させること;および/または
(iii)次世代シーケンシング方法を実施すること、
のうちの1つまたは複数を含む、ステップ
をさらに含む、請求項2から29のうちの1つまたは複数に記載の方法。
【請求項31】
ステップ(e)が、次世代シーケンシング方法を実施することを含み、前記シーケンシング方法が、
(aa)固有分子識別子配列を前記DNA分子に結合させることであって、各DNA分子が、異なる固有分子識別子配列を含む、結合させること;
(bb)前記結合した固有分子識別子配列を含む前記DNA分子を増幅させること;および
(cc)前記DNA分子をシーケンシングすること
を含む、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の分野
本発明は、固定された生体試料を溶解させるおよび/または固定された生体試料から精製された核酸を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
生体試料の固定によって、試料の長期保存およびアーカイブが可能になる。固定は、通常、酸、アルコール、ケトンまたは他の有機物質、例えばグルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドおよび/またはパラホルムアルデヒドなどのタンパク質沈殿化合物またはタンパク質架橋化合物によって達成される。このような固定剤は、当技術分野で周知である。ホルムアルデヒド(例えば、「ホルマリン」と称される35重量パーセント水溶液の形態で使用される)による固定の後には、固定された物質のパラフィン内への包埋(「ホルマリンで固定され、パラフィン包埋された」(FFPE)物質と呼ばれる)を続けることができ、広く使用される固定技術である。ホルムアルデヒドに基づく固定は、組織構造が固定下で比較的良好に達成されるという利点を有する。また、液体試料を固定して、それによって保存するために、架橋固定剤を含む固定も使用される。エタノールおよびホルムアルデヒドを含む、通常使用される防腐剤は、SurePath(登録商標)である。
【0003】
固定された生体試料(例えば、FFPE試料)は、疾患を調査するのに貴重な資源である。しかし、このような試料は病理組織学に主に使用され、ホルムアルデヒドへの曝露および保管に起因するDNAの広範な損傷および架橋を原因として、核酸の抽出および分析には不向きである。固定された生体試料から抽出されたDNAに関する最も重大な品質上の問題は、核酸のタンパク質への架橋および核酸同士の架橋である。この架橋により、DNAはPCRなどの反応中に酵素にアクセスできなくなり、性能が非常に低下し、検査で誤った結果をもたらす可能性がある。結果として、固定された生体試料(固体または液体)からの核酸(DNAまたはRNA)の効率的な放出および精製は困難である。しかし、分子レベルでの多くの調査、特に臨床または診断への適用では、核酸の解析は非常に重要である。
このような固定された生体試料からDNAなどの核酸を抽出する方法では、核酸へのあらゆるさらなる損傷も防ぎながら、固定によって導入された架橋を逆転させなければならない。DNAを脱架橋する標準的な方法は、粗製ライセートを、例えば90℃で1時間または80℃で4時間加熱処理することであり、このような脱架橋ステップはすべて、固定された生体試料に存在する架橋を解消させるために使用されている。FFPEの抽出のための多数の市販のキットおよび方法が、当技術分野において利用可能である。すべてのキットは、パラフィンから組織を取り出し、組織を消化し、DNAを精製するために、熱、酵素、および化学的溶解の組合せを使用する。固定された試料から核酸を単離/放出するためのさらなる方法は、WO2007/068764、WO2014/072366、WO2005/075642、WO2001/46402およびUS2005/0014203に記載されている。利用可能なキットおよび方法のほとんどは、抽出されるDNAの総収量および/または品質の点で妥協しなければならない(すなわち、より高いDNA収量は、断片化を伴うことが多く、一方、大部分が無傷の高分子量DNAは、完全に脱架橋されないことが多く、PCR適用ではより品質が悪い)。さらに、抽出された核酸の品質を評価するための重要な指標は、PCRおよび/またはNGS適用における性能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/068764号
【特許文献2】国際公開第2014/072366号
【特許文献3】国際公開第2005/075642号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、含有された核酸、例えばDNAおよび/またはRNA、特にDNAを効果的に放出する固定された生体試料を溶解させるための方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、固定された生体試料からDNAおよび/またはRNAなどの核酸を精製するための方法を提供することである。実施形態では、本発明の目的は、先行技術の方法からの欠点を回避することである。実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つの基準、例えば収量、断片化ならびに/またはPCRおよび/もしくは次世代シーケンシングなどの後続の核酸分析方法における性能の改善を提供する。
【0006】
発明の概要
本発明は、固定された生体試料を溶解させるための改善された方法であって、固定された生体試料が、核酸分子とタンパク質分子の間の架橋を含む、方法を提供する。これらの架橋は、使用された固定(例えば、ホルムアルデヒドおよび/またはパラホルムアルデヒドに基づく固定)を原因として存在する。固定された生体試料をタンパク質分解酵素で消化し、その後加熱して架橋を逆転させ、その後タンパク質分解酵素を添加して追加のタンパク質分解消化を実施する、段階的な逐次的溶解プロセスによって、固定された生体試料の溶解および消化が著しく改善され得ることが見出された。実施例は、架橋の逆転ステップを実施した後に2回目のタンパク質分解消化を行うことで、重要かつ予想外の改善が得られることを示す。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、固定された生体試料を溶解させるための方法であって、固定された生体試料が、固定に起因する核酸分子とタンパク質分子の間の架橋を含み、方法が、
(a)固定された生体試料を溶解させるステップであって、溶解が、タンパク質分解酵素による消化を含む、ステップと;
(b)溶解させた試料を加熱して架橋を逆転させるステップと;
(c)タンパク質分解酵素を添加し、タンパク質分解消化を実施するステップと
を含み、
必要に応じて、1回または複数回の追加の処理ステップが、ステップ(b)と(c)の間で実施される、方法が提供される。
【0008】
実施例によって実証されているように、第1の態様による方法は、先行技術の方法と比較して、DNAなどの核酸の放出を著しく改善する。固定された生体試料は、固体生体試料(例えば、固定された組織試料)または液体生体試料(例えば、固定された細胞を含有する液体試料)であってもよい。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、固定された生体試料から精製された核酸を得るための方法であって、固定された生体試料が、固定に起因する核酸分子とタンパク質分子の間の架橋を含み、前記方法が、第1の態様の溶解方法、ステップ(a)~(c)に従って、固定された生体試料を溶解させるステップを含み、第1の態様の方法のステップ(c)の次に、
(d)溶解させた試料から核酸を精製するステップ
を含む、方法が提供される。
【0010】
本明細書に開示されているように、1回または複数回の追加の処理ステップ(例えば、タンパク質分解消化ステップとは異なる少なくとも1つのさらなる酵素処理ステップ)が、第1の態様による方法のステップ(b)と(c)の間で、必要に応じて実施されてもよい。第1の態様による段階的な溶解/消化の手順は、固定された生体試料からの高品質な核酸(DNAなど)の放出を改善し、それによって、放出された核酸(DNAなど)は、次いで、第2の態様による方法のステップ(d)において消化された試料から高品質および/または高収量で精製され得る。それによって、固定された生体試料から、DNAなどの核酸を精製するための改善された方法が提供される。
【0011】
本発明の第3の態様は、固定された生体試料を溶解させた後にタンパク質分解消化を実施するための、プロテイナーゼKなどのタンパク質分解酵素の使用に関し、このような事前の溶解は、好ましくは本発明の第1または第2の態様による方法における、固定された生体試料のタンパク質分解酵素による消化、および溶解させた試料を加熱して架橋を逆転させることを含む。本明細書に開示されるように、固定された生体試料は、固定に起因する核酸分子とタンパク質分子の間の架橋を含む。一実施形態によれば、固定は、ホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドの使用を含んだ。
【0012】
本発明の第4の態様は、酵素処理を実施するための、グリコシラーゼ、例えばDNAグリコシラーゼ、好ましくはウラシルDNAグリコシラーゼの使用であって、酵素処理が、30分もしくはそれより短い時間、20分もしくはそれより短い時間、15分もしくはそれより短い時間または10分もしくはそれより短い時間で完了する、使用に関する。このような使用は、本発明の第1または第2の態様による方法において実施されてもよい。好ましい実施形態では、ウラシルグリコシラーゼは、ウラシル-N-グリコシラーゼである。
【0013】
本出願の他の目的、特徴、利点および態様は、以下の説明および添付の特許請求の範囲から当業者に明らかとなるであろう。しかしながら、以下の説明、添付の特許請求の範囲、および特定の例は、本出願の好ましい実施形態を示す一方で、例示のみのために示されることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1-1】図1は、前立腺(図1A)、肺(図1B)、腎臓(図1C)、脾臓(図1D)および乳がん(図1E)を含む様々なヒトFFPE組織からの抽出後のDNA収量を示す。QIAxpert(「UV-Vis」、濃陰影カラム)およびQubit機器(「dsDNA(Qubit)」、薄陰影カラム)を使用して、DNA収量を決定した。高Tris溶解組成物(「新GR-高Tris」)を使用する抽出を、低Tris溶解組成物(「新GR-低Tris」)と比較した(追加のプロテイナーゼK消化ステップ(15分、65℃)を用いるか(「+」)または用いない(「-」)。
図1-2】図1は、前立腺(図1A)、肺(図1B)、腎臓(図1C)、脾臓(図1D)および乳がん(図1E)を含む様々なヒトFFPE組織からの抽出後のDNA収量を示す。QIAxpert(「UV-Vis」、濃陰影カラム)およびQubit機器(「dsDNA(Qubit)」、薄陰影カラム)を使用して、DNA収量を決定した。高Tris溶解組成物(「新GR-高Tris」)を使用する抽出を、低Tris溶解組成物(「新GR-低Tris」)と比較した(追加のプロテイナーゼK消化ステップ(15分、65℃)を用いるか(「+」)または用いない(「-」)。
図1-3】図1は、前立腺(図1A)、肺(図1B)、腎臓(図1C)、脾臓(図1D)および乳がん(図1E)を含む様々なヒトFFPE組織からの抽出後のDNA収量を示す。QIAxpert(「UV-Vis」、濃陰影カラム)およびQubit機器(「dsDNA(Qubit)」、薄陰影カラム)を使用して、DNA収量を決定した。高Tris溶解組成物(「新GR-高Tris」)を使用する抽出を、低Tris溶解組成物(「新GR-低Tris」)と比較した(追加のプロテイナーゼK消化ステップ(15分、65℃)を用いるか(「+」)または用いない(「-」)。
【0015】
図2図2は、ヒトの腎臓およびヒトの乳がんのFFPE組織試料から抽出したDNAの電気泳動ゲルを示す。高Tris溶解組成物(「高Tris」)または低Tris溶解組成物(「低Tris」)を使用して、抽出を実施した(追加のプロテイナーゼK消化ステップ(15分、65℃)を用いるか(「+」)もしくは用いない(「-」))。
【0016】
図3】ラージアンプリコン(500bp、右側)またはショートアンプリコン(66bp、左側)を使用する定量的リアルタイムPCRによって測定した、乳がん(上)または腎臓のFFPE組織(下)から抽出したDNAのCq値。高Tris溶解組成物(「新GR-高Tris」)を使用する抽出を、低Tris溶解組成物(「新GR-低Tris」)と比較した(追加のプロテイナーゼK消化ステップ(15分、65℃)を用いるかまたは用いない)。濃陰影カラムにおいて示された結果は、反応混合物当たりの同量のDNAに対応し、薄陰影カラムは、反応混合物当たりの同体積の希釈された溶出液に対応した。
【0017】
図4図4は、様々なヒト組織から抽出したDNAのNGSの結果を示す。抽出したDNAのUMI(固有分子識別子(Unique Molecular Identifier)、固有分子インデックス(Unique Molecular Index)とも称される)当たりのリード数が示されている。10を超える値は、同一の分子が10回より多く読み取られたことを示し、出発物質の過度の増幅/不十分な複雑性を示している。高Tris溶解組成物(「新GR-高Tris」)または低Tris溶解組成物(「新GR-低Tris」)を使用して、抽出を実施した(追加のプロテイナーゼK消化ステップ(「2回目のPK」)を用いるかもしくは用いない)。
【0018】
図5図5は、様々なFFPE組織からの抽出後のDNA収量を示す(図5A:ヒトの肺がん組織;5B:ヒトの心房組織)。QIAxpert(「UV-Vis」、濃陰影カラム)およびQubit機器(「dsDNA(Qubit)」、薄陰影カラム)を使用して、DNA収量を決定した。高Tris溶解組成物(「新GR-高Tris」)を使用する抽出を、低Tris溶解組成物(「新GR-低Tris」)と比較した(追加のプロテイナーゼK消化ステップを用いるか(「15分、65℃ PK」)または用いない(「std」))。さらに、1回目のプロテイナーゼKステップを56℃で終夜(「o/n 56℃」)実施することによって、追加の対照を実施した。参照として、また、QIAamp(登録商標)FFPE DNAキット(「QA」)ならびにPromega Maxwell RSC DNA FFPEキットおよびMaxwell RSC FFPE Plus DNAキットを使用して、抽出を実施し、ここで、プロテイナーゼK消化には、70℃で1時間かかった。
【0019】
図6図6は、様々なFFPE組織から抽出したDNAの電気泳動ゲルを示す(図6A:ヒトの肺がん組織;6B:ヒトの心房組織)。追加のプロテイナーゼK消化ステップ(15分、65℃)を用いるか(「+65℃」)または用いない(「std」)高Tris溶解組成物(「新GR-高Tris」)または低Tris溶解組成物(「新GR-低Tris」)を使用して、抽出を実施した。さらに、1回目のプロテイナーゼKステップを56℃で終夜(「o/n」)実施することによって、追加の対照を実施した。参照として、また、QIAamp(登録商標)FFPE DNAキット(「QA FFPE」)ならびにPromega Maxwell RSC DNA FFPEキットおよびMaxwell RSC FFPE Plus DNAキットを使用して、抽出を実施し、ここで、プロテイナーゼK消化には、70℃で1時間かかった。
【0020】
図7-1】定量的リアルタイムPCRによって測定した、様々なFFPE組織(左:ヒトの肺がん組織;右:ヒトの心房組織)から抽出したDNAのCq値。図7Aでは、ショートアンプリコン(66bp)を使用し、図7Bでは、ラージアンプリコン(500bp)を使用した。高Tris溶解組成物(「新GR-高Tris」)を使用する抽出を、低Tris溶解組成物(「新GR-低Tris」)と比較した(追加のプロテイナーゼK消化ステップ(15分、65℃)を用いるかまたは用いない)。さらに、1回目のプロテイナーゼKステップを56℃で終夜(「o/n 56℃」)実施することによって、追加の対照を実施した。参照として、また、QIAamp(登録商標)FFPE DNAキット(「QA」)ならびにPromega Maxwell RSC DNA FFPEキットおよびMaxwell RSC FFPE Plus DNAキットを使用して、抽出を実施し、ここで、プロテイナーゼK消化は、70℃で1時間行った。濃陰影カラムにおいて示された結果は、反応混合物当たりの同量のDNAに対応し、薄陰影カラムは、反応混合物当たりの同体積の希釈された溶出液に対応した。
図7-2】定量的リアルタイムPCRによって測定した、様々なFFPE組織(左:ヒトの肺がん組織;右:ヒトの心房組織)から抽出したDNAのCq値。図7Aでは、ショートアンプリコン(66bp)を使用し、図7Bでは、ラージアンプリコン(500bp)を使用した。高Tris溶解組成物(「新GR-高Tris」)を使用する抽出を、低Tris溶解組成物(「新GR-低Tris」)と比較した(追加のプロテイナーゼK消化ステップ(15分、65℃)を用いるかまたは用いない)。さらに、1回目のプロテイナーゼKステップを56℃で終夜(「o/n 56℃」)実施することによって、追加の対照を実施した。参照として、また、QIAamp(登録商標)FFPE DNAキット(「QA」)ならびにPromega Maxwell RSC DNA FFPEキットおよびMaxwell RSC FFPE Plus DNAキットを使用して、抽出を実施し、ここで、プロテイナーゼK消化は、70℃で1時間行った。濃陰影カラムにおいて示された結果は、反応混合物当たりの同量のDNAに対応し、薄陰影カラムは、反応混合物当たりの同体積の希釈された溶出液に対応した。
【0021】
図8図8は、ヒト心房のFFPE組織から抽出したDNAのNGSの結果を示す。抽出したDNAのUMI(固有分子識別子、固有分子インデックスとも称される)当たりのリード数が示されている。10を超える値は、同一の分子が10回より多く読み取られたことを示し、出発物質の過度の増幅/不十分な複雑性を示している。追加のプロテイナーゼK消化ステップ(「2回目のPK」)を用いるかもしくは用いない高Tris溶解組成物(「新GR-高Tris」)または低Tris溶解組成物(「新GR-低Tris」)を使用して、抽出を実施した。参照として、また、QIAamp(登録商標)FFPE DNAキット(「QA FFPE」)ならびにPromega Maxwell RSC DNA FFPEキットおよびMaxwell RSC FFPE Plus DNAキットを使用して、抽出を実施し、ここで、プロテイナーゼK消化には、1時間かかった。
【0022】
図9図9は、FFPE組織試料から抽出したDNAの電気泳動ゲルを示す。左の写真は、FFPEラット心臓から抽出したDNAを示すが、右の写真は、FFPEラットの肺から抽出したDNAを示す。希釈した溶解組成物を使用する抽出方法により抽出したDNAの平均サイズは、QIAamp(登録商標)DNA FFPE Tissueの参照プロトコールと比較してかなり小さい。(「GR std」=希釈した溶解組成物;「QA std」=参照溶解組成物;L1-L3=下に示されたDNAラダー)。
【0023】
図10】ラージアンプリコン(727bp)を使用する定量的リアルタイムPCRによって測定した、抽出したDNAのCq値。ラットの心臓のFFPE組織からの、希釈した溶解組成物(「断片化」)および参照プロトコール(「標準」)を使用して、DNAを抽出した。
【0024】
図11】ショートアンプリコン(78bp)を使用する定量的リアルタイムPCRによって測定した、抽出したDNAのCq値。ラットの心臓のFFPE組織からの、希釈した溶解組成物(「断片化」)および参照プロトコール(「標準」)を使用して、DNAを抽出した。
【0025】
図12図12は、添加剤、例えばスペルミジン、スペルミン、DTTまたはグリシンを必要に応じて含有する、高Tris溶解組成物(「GR-高Tris」、「w/o」)または低Tris溶解組成物(「GR-低Tris」、「GR std」)を使用してFFPE組織試料から抽出したDNAの電気泳動ゲルを示す。(L1~L3=DNAラダー)。
【0026】
図13】ショートアンプリコン(110bp)を使用する定量的リアルタイムPCRによって測定した、バイサルファイトDNAのCt値。様々な量のDNAを適用した:5ng(濃陰影カラム)または10ng(薄陰影カラム)。バイサルファイトDNAのウラシル核酸塩基を、ウラシル-N-グリコシラーゼ(UNG)を与えることによって、酵素処理において除去した。よって、Ct値が高いほど、UNG活性が高いことを示す。5または10ngのDNAを、60分のUNG消化ステップ(「GR FFPE std」)と比較した5分のUNG消化ステップにおいて、実施例4の溶解組成物について測定した。さらなる対照は、UNGを用いずに実施した(「w/o UNG」)。
【0027】
図14】ヒトの腎臓およびヒトの乳房の試料について、UV VISおよびQubit dsDNA BR測定によって、収量を決定した(実施例5を参照されたい)。条件ごとに2つの試料からの平均および標準偏差を表示する。
【0028】
図15】qPCRの性能を、実際の溶出体積に対して調整した同量の体積を各反応に添加することによって決定した。66bpおよび500bpのヒト18S rRNA遺伝子を、いずれかのプロトコール選択肢を用いて抽出した後に、溶出液から増幅させた。条件ごとに2つの試料からの平均および標準偏差を表示する。
【0029】
図16】ヒトの心臓の試料について、UV VISおよびQubit dsDNA BR測定によって、収量を決定した(実施例5を参照されたい)。条件ごとに2つの試料からの平均および標準偏差を表示する。
【0030】
図17】qPCRの性能を、実際の溶出体積に対して調整した同量の体積を各反応に添加することによって決定した。66bpおよび500bpのヒト18S rRNA遺伝子を、いずれかのプロトコール選択肢を用いて抽出した後に、溶出液から増幅させた。条件ごとに2つの試料からの平均および標準偏差を表示する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
本発明は、固定された生体試料を溶解させるための改善された方法であって、固定された生体試料が、固定に起因する核酸分子とタンパク質分子の間の架橋を含む、方法を提供する。さらに、改善された方法が、固定された生体試料から、DNAおよび/またはRNAなどの精製された核酸を得ることについて記載されている。
【0032】
本発明は、例えば、PCRおよびNGSシーケンシング方法を使用して、物質のより良い分析を可能にする、FFPE組織などの固定された生体試料から抽出された核酸の収量および/または品質の改善を提供する。脱架橋ステップ(1回目のタンパク質分解消化ステップの後に実施される)の後の、追加の回のタンパク質分解消化が、重要な改善をもたらすことが特に見出された。
【0033】
加えて、本開示は、固定された生体試料の分析に関連するコアパラメータを制御することを可能にする方法を提供する。特に、1回目のステップにおいて溶解条件を調整することによって、放出された核酸およびこの得られた核酸のサイズを制御することが可能であることが見出された。この重要な発見により、ショートアンプリコンまたはロングアンプリコンのPCRシステムのいずれかについて、方法を最適化することが可能になる。さらに、本明細書に開示された溶解条件を調整することも、抽出中の酵素ステップの性能を改善させ、それによって、例えば、ホルマリン架橋によってもたらされるアーティファクトを除去するために、ウラシル-n-グリコシラーゼ(glycolysase)のプロセス内使用(in-process use)を可能にする。
【0034】
したがって、本明細書に開示される本発明の様々な態様および実施形態は、当技術分野に対して重要な寄与をなす。
【0035】
第1の態様による方法
本発明の第1の態様によれば、固定された生体試料を溶解させるための方法であって、固定された生体試料が、固定に起因する核酸分子とタンパク質分子の間の架橋を含み、方法が、
(a)固定された生体試料を溶解させるステップであって、溶解が、タンパク質分解酵素による消化を含む、ステップと;
(b)溶解させた試料を加熱して架橋を逆転させるステップと;
(c)タンパク質分解酵素を添加し、タンパク質分解消化を実施するステップと
を含み、
必要に応じて、1回または複数回の追加の処理ステップが、ステップ(b)と(c)の間で実施される、方法が提供される。
【0036】
個々のステップおよび好ましい実施形態は、ここで詳細に記載される。
【0037】
ステップ(a)
第1の態様による方法は、ステップ(a)において、固定された生体試料を溶解させることを含み、ここで、溶解は、タンパク質分解酵素による消化を含む。溶解ステップ(a)の間、固定された生体試料は、核酸が放出されるように分解される。
【0038】
ステップ(a)は、当技術分野で公知の溶解条件およびタンパク質分解消化条件を使用して実施することができる。タンパク質分解酵素による消化による固定された生体試料の溶解を補助することは、核酸に架橋したタンパク質およびペプチドを分解することが可能になるため、非常に有利である。本明細書に開示され、当技術分野で公知であるように、例えば、架橋固定剤を使用する場合に、固定された生体試料におけるこのような架橋が使用された固定に起因して誘導される。例えば、アルデヒドを含有する固定剤、例えばホルムアルデヒドなどの架橋固定剤を使用することにより、タンパク質と核酸の間、および核酸間の架橋がもたらされる。溶解ステップ(a)を実施することによって、核酸と架橋したタンパク質を分解することができ、および核酸間の架橋を部分的に分解することができる。
【0039】
一実施形態によれば、溶解ステップ(a)は、溶解混合物を調製することであって、溶解混合物が、(i)固定された生体試料、および(ii)タンパク質分解酵素を含む溶解組成物を含む、調製することを含む。固定された生体試料と溶解組成物の構成成分とを接触させる順序はいずれも、ステップ(a)における溶解混合物を調製するためのこの実施形態に包含される。例えば、溶解組成物は別々に調製されてもよく、次いで、調製された溶解組成物を固定された生体試料と接触させてもよく、またはその逆であってもよい。よって、溶解組成物は、固定された生体試料に影響を与えることなく、最初に調整され得る。さらに、固定された生体試料を任意の順序でタンパク質分解酵素および/または溶解組成物のさらなる構成成分と接触させて、溶解混合物を調製することによって、溶解混合物を調製することは、この実施形態の範囲内にある。
【0040】
タンパク質分解酵素は、固定された生体試料の消化を支援し、DNAおよび/またはRNAなどの含まれる核酸の放出を改善する。実施形態では、タンパク質分解酵素は、プロテアーゼ、例えばプロテイナーゼKである。プロテアーゼは、タンパク質内のペプチド結合を切断するエンドペプチダーゼ、および/またはタンパク質鎖の末端からアミノ酸を切り離すエキソペプチダーゼのいずれかに該当し得る。典型的には、プロテアーゼは、機序によってさらに分類され、例えば、セリンプロテアーゼ(例えば、キモトリプシン、トリプシン、エラスターゼ、サブチリシン、およびプロテイナーゼK);システイン(チオール)プロテアーゼ(例えば、ブロメライン、パパイン、カテプシン、寄生虫プロテアーゼ、および細菌病原因子);アスパラギン酸プロテアーゼ(例えば、ペプシン、カテプシン、リラン(rerun)、真菌およびウイルスのプロテアーゼ);およびメタロプロテアーゼ(例えば、サーモリシン)である。このようなプロテアーゼは、本発明の文脈で使用され得る。中心的な実施形態では、ステップ(a)において使用されるタンパク質分解酵素は、セリンプロテアーゼである。一実施形態によれば、ステップ(a)において使用されるタンパク質分解酵素は、サブチリシンファミリーのプロテアーゼである。ステップ(a)において使用される特に好適で好ましいセリンプロテアーゼは、プロテイナーゼKである。プロテイナーゼKは、適用された固定を原因として架橋を含む固定された生体試料の消化のために当技術分野で通常使用される。プロテイナーゼKは、より高い温度、ならびに界面活性剤、尿素などの変性剤およびカオトロピック剤および塩の存在下でさえ、有利に活性なままである。プロテイナーゼKは、本実施例においても使用された。タンパク質分解酵素またはプロテアーゼに関する本明細書に記載のすべての開示は、概して、好ましい実施形態のプロテイナーゼKを特に適用し、かつ特に言及する。列挙された例から明らかであるように、タンパク質分解酵素は、熱安定性プロテアーゼであってもよい。これにより、以下にも記載されているように、溶解混合物を加熱することによって、ステップ(a)における溶解および消化の支援が可能になる。好適な熱安定性プロテアーゼの例は、プロテイナーゼK、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、ペプシン、プロナーゼおよびエンドプロテイナーゼLys-Cである。熱安定性プロテアーゼは、85℃~120℃の範囲にあり得る不活性化温度またはそれを超える温度で不活性化され得る。様々なプロテアーゼに関する好適な不活性化温度は、様々なプロテアーゼに関して当技術分野において記載されている。
【0041】
一実施形態によれば、ステップ(a)は、タンパク質分解酵素による消化を補助するために加熱することを含む。よって、調製された溶解混合物を、固定された生体試料の溶解/消化を支援する好適な高温に加熱してもよい。溶解/消化温度は、タンパク質分解酵素が活性であるように選択される。実施形態では、ステップ(a)において加熱することは、35~75℃、例えば40~70℃または45~65℃の範囲の温度で実施される。当技術分野で公知であるように、溶解を加熱することにより、タンパク質分解酵素の活性が増強され、それによって、ステップ(a)における迅速かつ効率的な試料の溶解および消化が可能になる。一実施形態によれば、ステップ(a)におけるタンパク質分解酵素による消化は、少なくとも30℃、特に少なくとも35℃、少なくとも40℃、少なくとも45℃、好ましくは少なくとも50℃の温度に加熱することを含む。
【0042】
一実施形態によれば、溶解混合物は、ステップ(a)において、少なくとも15分間、例えば少なくとも20分間、少なくとも25分間または少なくとも30分間インキュベートされる。実施形態では、溶解混合物は、ステップ(a)において、少なくとも45分間または少なくとも50分間インキュベートされる。有利なことに、ステップ(a)は、短い時間枠内で実施され得る。一実施形態によれば、ステップ(a)は、120分またはそれより短い時間で完了する。ステップ(a)は、100分もしくはそれより短い時間、90分もしくはそれより短い時間または70分もしくはそれより短い時間、例えば約60分で完了してもよい。インキュベーションは、上記のような高温で行われ得る。さらに、好ましくは本明細書に開示されるように加熱することによって補助されるインキュベーションは、撹拌によって支援され得る。したがって、溶解混合物は、ステップ(a)におけるインキュベーション中に撹拌されてもよい。一実施形態によれば、ステップ(a)におけるタンパク質分解酵素による溶解および消化は、35~75℃、例えば40~70℃または45~65℃の範囲内の温度で、15~120分間、例えば20~100分間、30~90分間または45~75分間、溶解混合物を撹拌および加熱することを含む。撹拌は、任意の方法、例えば振盪、回転、反転などによって実施されてもよい。
【0043】
当業者は、溶解組成物および溶解混合物におけるタンパク質分解酵素の好適な濃度を選択することができ、好適な濃度は当技術分野で公知である。一実施形態によれば、ステップ(a)におけるタンパク質分解酵素は、少なくとも0.5mg/mL、例えば少なくとも1mg/mL、少なくとも1.5mg/mLまたは少なくとも2mg/mLの濃度で、溶解混合物および/または溶解組成物中に存在する。好ましくは、濃度は、少なくとも2.5mg/mLまたは少なくとも3mg/mLである。一実施形態によれば、ステップ(a)において使用されるタンパク質分解酵素は、1~10mg/mL、例えば1.5~7.5mg/mL、2~7mg/mL、3~6mg/mLまたは3.5~5mg/mLから選択される濃度で、溶解混合物および/または溶解組成物中に存在するセリンプロテアーゼ、例えばプロテイナーゼKである。このような濃度は、固定された生体試料が、固体の固定された生体試料、例えば固定された組織試料である場合に、使用され得る。このような濃度はまた、固定された液体生体試料を処理する場合に、溶解混合物中で使用され得る。溶解組成物は、このような場合には、固定された液体生体試料を原因とするあらゆる希釈効果を考慮して適合される。例えば、液体の固定された生体試料によるタンパク質分解酵素の希釈は、溶解組成物中により高濃度のタンパク質分解酵素を提供するように補償されてもよい。好適な濃度は、ステップ(a)における溶解混合物におけるタンパク質分解酵素の好適な濃度を考慮して、当業者によって容易に計算され得る。
【0044】
上記に開示されているように、ステップ(a)は、中心的な実施形態では、溶解混合物を調製することであって、溶解混合物が、(i)固定された生体試料、および(ii)タンパク質分解酵素を含む溶解組成物を含む、調製することを含む。
【0045】
実施形態では、溶解混合物は、溶解組成物と同じかまたはそれに類似する濃度で(例えば、最大50%、例えば最大40%、最大30%、または最大20%もしくは最大10%の偏差を許容する)、溶解組成物の構成成分を含む。これは、特に固体試料である固定された生体試料、例えば固定された組織試料を提供する場合にそうである。例えば、固体の固定された生体試料は、溶解組成物中に存在する化合物の希釈をもたらさない、すなわち、溶解組成物中に存在する化合物の濃度は、溶解混合物(固体の固定された生体試料を含む)中の濃度と同じかほぼ同じである。試料が液体の固定された生体試料である場合には、液体試料は、溶解組成物の化合物を希釈し、その結果、典型的には、このような希釈効果を考慮して、より高濃度の化合物が溶解組成物中で使用される。例えば、ステップ(a)における溶解混合物の溶解のための好適な条件を確立するために、より高濃度の化合物が溶解組成物中で提供される可能性がある、および/またはより高い体積比の溶解組成物が提供され得る。
【0046】
好ましい実施形態によれば、ステップ(a)における溶解組成物は、6.0~9.5、好ましくは6.5~9.0または7.0~9.0の範囲内のpHを有する。これに該当するpH範囲は、実施例においても実証されているように、本開示の方法による溶解ステップ(a)にとって特に好適であることが見出されている。実施形態では、pHは、7.0~8.0などの範囲内にある。さらなる実施形態では、pHは、8.0~9.0、例えば8.2~8.8の範囲内にある。特に、溶解組成物中に、ひいては溶解混合物中に、このようなアルカリのpHを適用することによって、より酸性の条件と比較して、より少ない断片化がもたらされた。
【0047】
好ましい実施形態によれば、ステップ(a)における溶解組成物は、以下の化合物の1つまたは複数、好ましくはそれらのすべてをさらに含む:
(i)塩;
(ii)界面活性剤;
(iii)緩衝化剤。
【0048】
特定の実施形態では、溶解組成物は、塩、界面活性剤および緩衝化剤を含む。必要に応じて、溶解組成物は、キレート剤、例えばEDTAをさらに含む。溶解組成物は、実施例においても実証されているように、本開示の方法にとって好適であることが見出されている。溶解組成物の化合物の個々の実施形態は、以下に開示されている。
【0049】
好ましい実施形態によれば、溶解組成物は、ホルムアルデヒド捕捉剤として作用し得る少なくとも1つの反応性化合物を含む。反応性化合物は、特に、固定剤と反応するおよび/または固定剤によって誘導される架橋と反応することが可能である。好ましくは、1つまたは2つの反応性化合物は、ステップ(a)における溶解組成物中に含まれる。しかし、反応性化合物は、溶解混合物、例えば反応性化合物を含む溶液または固体の形態で、別々に添加されてもよい。
【0050】
好ましい実施形態によれば、反応性化合物は、加熱ステップ(b)において放出される固定剤もしくは化学的部分、および/または固定剤によって誘導される架橋、例えばアルデヒドを含有する固定剤、例えばホルムアルデヒドによって誘導される架橋と反応する。生体試料は、核酸分子とタンパク質分子の間またはタンパク質分子間もしくは核酸分子間の架橋を誘導する、固定剤、例えばアルデヒドを含有する固定剤、例えばホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド誘導体で固定され得る。本発明の反応性化合物は、固定剤、例えばホルムアルデヒドと有利に反応することができる。反応性化合物と反応する、固定剤またはそれに由来する化学的部分は、加熱ステップ(b)の間に放出され得る。反応性化合物は、放出された固定剤と反応し、このことは、放出された固定剤が平衡状態から取り除かれるという利点を有し、このことは、脱架橋に大いに有利である(Kawashima et al., 2014, Clinical Proteomics, 2014, Vol. 11(4), ”Efficient extraction of proteins from formalin-fixed paraffin-embedded tissues requires higher concentration of tris(hydroxymethyl)aminomethane”を参照されたい)。よって、反応性化合物は、捕捉剤として機能し、脱架橋ステップ(b)において放出される固定剤またはそれに由来する化学的部分を捕捉する。あるいはまたはさらに、反応性化合物は、固定剤によって誘導される架橋と反応し得る。特に、反応性化合物は、好ましくはステップ(a)および/またはステップ(b)において、固定された生体試料に含まれる固定剤に誘導された架橋を直接的に分解し得る。反応性化合物の、固定剤によって誘導された架橋との反応は、好ましくは、本開示の方法のステップ(b)中に起こる。さらに、反応性化合物は、可逆的な架橋反応を通して形成された固定剤によって誘導された架橋と反応することができる。例えば、ホルムアルデヒドなどのアルデヒドを含有する固定剤は、2つの生体分子、例えばタンパク質とDNAの間にアミナール基の形成をもたらし得る。このアミナール基は、生体分子の一方のプロトン化されたアミン基を放出して、イミン基を可逆的に形成し得る。次いで、イミン基は、本開示による反応性化合物と反応し、それによって、固定剤によって誘導される架橋と反応し得る。次いで、さらなる変換は、第2の生体分子を放出して、反応性化合物におけるイミン塩基の形成をもたらし得る。したがって、固定剤によって誘導される架橋は逆転され、固定剤は反応性化合物に結合する。生体分子、特に核酸が放出される利点がある。
【0051】
好ましい実施形態によれば、反応性化合物は、求核基、好ましくはアミン基を含む。反応性化合物は、WO2007/068764A1に記載された求核剤から選択されてもよい。求核基を含む反応性化合物は、加熱ステップ(b)において放出される固定剤もしくは化学的部分、および/または固定剤によって誘導される架橋、特にアルデヒドを含有する固定剤、例えばホルムアルデヒドによって誘導される架橋と反応するのに特に好適であることが見出された。
【0052】
好ましい実施形態によれば、反応性化合物は、1つまたは複数の第一級アミン基、必要に応じて1つの第一級アミン基および1つまたは複数のヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基を含む。反応性化合物は、2つの第一級アミン基および必要に応じて1つの第二級アミン基をさらに含む。実施例において実証されているように、このような反応性化合物が本発明にとって特に好適であることが見出された。特に、核酸架橋は、このような反応性化合物を使用する本発明の方法によって効率的に除去され、分析方法、例えばPCRまたはNGSにとって特に好適である高い品質をもたらした。有利に使用され得る例示的な反応性化合物は、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールもしくはその誘導体またはスペルミジンもしくはその誘導体あるいはこれらの組合せである。2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールは、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンまたはTrisとも称される場合がある。
【0053】
好ましい実施形態によれば、反応性化合物は、少なくとも2つの求核基、好ましくは異なる求核剤強度を有する求核基を含む。このような実施形態は、特に、分析方法、例えばPCRまたはNGSにとって特に好適である高品質の核酸をもたらす、実施例において有利であることが見出された。反応性化合物の第1の求核基は、第2の求核基よりも強度が高くてもよい。これに該当する反応性化合物において、1つまたは複数の種類の求核基が存在し得る。例えば、1つまたは2つの第1の求核基と1、2または3つの第2の求核基。一実施形態によれば、反応性化合物は、第一級アミン基である第1の求核基およびヒドロキシル基または第二級アミン基である第2の求核基を含む。特定の実施形態によれば、反応性化合物は、第一級アミン基およびヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基を含む。別の実施形態によれば、反応性化合物は、第一級アミン基、好ましくは2つの第一級アミン基および第二級アミン基を含む。例示的な実施形態によれば、反応性化合物は、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールもしくはその誘導体またはスペルミジンもしくは誘導体から選択される。
【0054】
一実施形態によれば、反応性化合物は、ポリアミン、好ましくは天然のポリアミン、例えばスペルミジンを含む。実施例において実証されているように、このような反応性化合物が、特に断片のサイズを増加させることによって、核酸の断片化を改変させるのに有利であることが見出された。
【0055】
本開示の好ましい反応性化合物は、Trisとも称される2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールである。Kawashima et al., 2014は、Trisが、Schiff塩基、環状ヘミアミナールおよび環状アセタール付加物を生成することによって、ホルムアルデヒド捕捉剤として作用することを記載している。さらに、Trisは、一種のアミノ基転移触媒として、架橋を破壊する際に直接的に関与し得る。さらに、Trisは、アルデヒドを含有する固定剤、例えばホルムアルデヒドと環状化合物を形成することができ、よって、Trisの1つの分子は、アルデヒドを含有する固定剤に関して1つの分子を捕捉するという利点を有する。実施例において実証されているように、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールは、核酸の断片化、また、後続の核酸分析方法に関する好適性の改変も可能にする。例えば、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールを使用することにより、高いPCRおよびNGSの性能がもたらされた。
【0056】
一実施形態によれば、溶解組成物は、2つ以上の反応性化合物を含む。溶解組成物は、2つの反応性化合物を含んでもよく、ここで必要に応じて、反応性化合物は、(i)1つまたは複数の第一級アミン基、好ましくは1つの第一級アミン基、および1、2または3つのヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基を含む反応性化合物、例えば2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、ならびに(ii)2つの第一級アミン基および必要に応じて、1つの第二級アミン基を含む反応性化合物、例えばスペルミジンから選択される。
【0057】
一実施形態によれば、溶解混合物は、特に加熱ステップ(b)において、固定剤の少なくとも一部分と反応するのに好適な濃度で、反応性化合物を含む。一実施形態によれば、溶解混合物は、特に加熱ステップ(b)において、固定剤の少なくとも一部分と反応するのに好適な濃度で、1つまたは複数の反応性化合物を含む。実施形態では、固定剤の一部は、固定された生体試料中に存在する固定剤の少なくとも15%、特に固定された生体試料中に存在する固定剤の少なくとも25%、少なくとも35%、少なくとも45%、少なくとも55%、少なくとも65%、少なくとも75%に相当する。
【0058】
一実施形態によれば、反応性化合物は、溶解組成物および必要に応じてまた溶解混合物中1mM~500mMまたは5~500mMの範囲の濃度で、溶解組成物および/または溶解混合物中に存在する。
【0059】
一実施形態によれば、溶解混合物および/または溶解組成物は、2つの第一級アミン基および好ましくは1つの第二級アミン基を含む反応性化合物、例えばスペルミジンを含む。前記反応性化合物(例えば、スペルミジン)は、少なくとも0.5mM、例えば少なくとも1mM、少なくとも1.5mMまたは少なくとも2mMの濃度で含まれてもよい。濃度は、0.25~25mM、例えば0.5~20mM、1~15mM、1.25~10mMまたは1.5~7mM、例えば約2.5mMから選択されてもよい。このような濃度は、高度な断片サイズの核酸をもたらす、試料溶解にとって特に有利であることが見出された。さらに、前記濃度を変化させることによって、断片サイズは、柔軟に制御され得る。溶解組成物は、緩衝化剤または緩衝化剤でもある反応性化合物を含んでもよい。
【0060】
一実施形態によれば、溶解混合物および/または溶解組成物は、1つまたは複数の第一級アミン基、好ましくは1つの第一級アミン基、および1、2または3つのヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基を含む反応性化合物、例えば2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールを含む。実施形態では、これは、溶解混合物および/または溶解組成物中に、少なくとも3mM、例えば少なくとも5mM、少なくとも7mM、または少なくとも10mMの濃度で含まれる。好適な濃度は、3mM~100mM、特に5mM~50mM、7mM~30mM、9mM~25mMまたは好ましくは10mM~20mM、例えば10mM~15mMから選択され得る。このような濃度は、断片サイズが小さく、かつ高品質の核酸をもたらす試料溶解、特に本明細書に開示されている小さな断片の増幅、例えばショートアンプリコンPCRを含む核酸分析方法にとって有利である。さらに、核酸の品質が高いことによって、NGS性能の増強がもたらされる。このような適用はまた、第5の態様による方法と併せて開示されている。
【0061】
一実施形態によれば、溶解混合物および/または溶解組成物は、1つまたは複数の第一級アミン基、好ましくは1つの第一級アミン基、および1、2または3つのヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基を含む反応性化合物、例えば2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールを含む。実施形態では、これは、溶解混合物および/または溶解組成物中に、少なくとも10mM、例えば少なくとも20mM、少なくとも40mM、少なくとも60mM、少なくとも75mMまたは少なくとも100mMの濃度で含まれる。濃度は、10mM~750mM、例えば20mM~500mM、30mM~300mM、50mM~250mMまたは好ましくは75mM~200mM、例えば約100mM~150mMから選択されてもよい。この濃度は、高品質を有する核酸をもたらす試料溶解、特に、本明細書に開示されている特定のラージアンプリコンPCRにおいて、大きなおよび/または小さな断片の増幅を含む核酸分析方法にとって有利であることが見出された。第6の態様による方法について言及される。さらに、核酸の品質が高いことによって、NGS性能の増強がもたらされる。
【0062】
一実施形態によれば、溶解組成物中に含まれる反応性化合物は、さらに、緩衝化剤である。特に、両方の機能、特に、溶解混合物を緩衝すること、ならびに加熱ステップ(b)において放出される固定剤もしくは化学的部分、および/または固定剤によって誘導される架橋、特にホルムアルデヒドなどのアルデヒドを含有する固定剤によって誘導される架橋と反応する反応性化合物を提供することは、このような化合物によって有利に満たされる。このような化合物は、好ましくは、1つまたは複数の第一級アミン基、好ましくは1つの第一級アミン基、および1、2または3つのヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基を含んでもよい(例えば2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール)。一実施形態によれば、溶解混合物および/または溶解組成物は、3~500mMの範囲から選択される濃度で、反応性化合物であり、かつ緩衝化剤でもある化合物を含む。好適な濃度範囲は上に記載された。本明細書で開示されるように、前記反応性化合物の濃度の選択によって、溶解中に放出される核酸分子の断片サイズを制御することが可能になる。
【0063】
必要に応じて、溶解組成物は、2つの反応性化合物を含む。このような実施形態では、好ましくは、第1の反応性化合物は、2つの第一級アミン基および好ましくは1つの第二級アミン基を含む反応性化合物、例えばスペルミジンから選択され、第2の反応性化合物は、1つまたは複数の第一級アミン基、好ましくは1つの第一級アミン基、および1、2または3つのヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基を含む反応性化合物、例えば2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールから選択される。これらの実施形態は、試料の溶解およびサイズの増加したまたは断片化が少ない核酸を得るのに特に有利である。
【0064】
一実施形態によれば、溶解組成物は、特に加熱ステップ(b)において、固定剤の少なくとも一部分と反応するのに好適な溶解混合物中の濃度をもたらす濃度で反応性化合物を含む。一実施形態によれば、溶解混合物中の反応性化合物の上に開示された濃度は、特に、固定された生体試料が、固体の固定された生体試料、例えば固定された組織試料である場合に、溶解組成物中の反応性化合物の濃度に相当する。一実施形態によれば、溶解組成物は、0.25~500mMの範囲から選択される濃度で反応性化合物を含み、ここで、固定された生体試料は、固体の固定された生体試料、特に固定された組織試料である。実施例において実証されているように、反応性化合物、例えば2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールおよび/またはスペルミジンのこのような濃度は、特に、核酸のサイズ/断片化を改変させ、核酸分析方法、例えばPCR、NGSに特に好適な高品質の核酸を得ることによって、固定された組織試料の溶解にとって有利であることが見出された。
【0065】
固定された生体試料が液体の固定された生体試料である場合には、溶解組成物中の反応性化合物の濃度は、溶解混合物において上に開示された濃度を確立するように適合される。あるいはまたはさらに、より高い体積比の溶解組成物が、上に開示された溶解混合物における反応性化合物の濃度を確立するために、液体の固定された生体試料に添加されてもよい。一実施形態によれば、溶解組成物は、0.25~500mMの範囲から選択される濃度で溶解混合物中に存在するのに好適な濃度で反応性化合物を含み、ここで、固定された生体試料は、液体の固定された生体試料である。反応性化合物の濃度のこれに該当する調整は、十分に当業者の能力の範囲内にある。
【0066】
一実施形態によれば、溶解組成物および/または溶解混合物は、6.0~9.5の範囲から選択されるpHを有し、溶解組成物は、特に、固定剤と反応する、および/または固定剤によって誘導される架橋と反応する反応性化合物をさらに含み、ここで、反応性化合物は、求核基、特に第一級アミン基を含む。例示的な反応剤は、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールまたはその誘導体およびスペルミジンまたはその誘導体である。一実施形態によれば、反応性化合物は、5~50mM、好ましくは10~20mMの濃度で溶解混合物および/または溶解組成物中に含まれ、溶解組成物は、6.0~9.5、好ましくは7.0~8.0の範囲内のpHを有する。別の実施形態によれば、反応性化合物は、60~250mM、好ましくは75~200mMの濃度で溶解混合物および/または溶解組成物中に含まれ、溶解組成物は、7.0~9.5、好ましくは8.0~9.0の範囲内のpHを有する。これらの実施形態は、固定された生体試料からの核酸、例えばDNAの放出の改善を可能にするため、特に有利である。中性またはわずかにアルカリ性のpHおよびこのような反応性化合物を与えることによって、固定された生体試料の固定剤は、反応性化合物と反応することによって、反応の平衡によって有利に除去され、酸性条件におけるものよりも断片化の少ない核酸を放出することが可能になる。
【0067】
好ましい実施形態によれば、溶解組成物は、塩を含む。塩は溶解を支援する。塩は、好ましくは、溶解組成物によって溶解混合物に与えられる。塩は、好ましくは、一価または二価の塩であってもよい。好ましくは、塩は、カオトロピック塩または非カオトロピック塩である。好ましい実施形態によれば、塩は、非緩衝性の塩である。塩の混合物が使用されてもよい。特定の塩は、アルカリ金属塩、必要に応じてハロゲン化アルカリ金属から選択されてもよい。好ましい実施形態によれば、塩は、塩化物塩であり、必要に応じて、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウムおよび塩化セシウムから選択され、ここで、好ましくは、塩は塩化ナトリウムである。実施例によって実証されているように、このような塩が好適であることが見出された。
【0068】
溶解組成物中の塩の濃度は、核酸が放出される固定された生体試料の種類に依存し、当業者によって柔軟に調整され得る。好ましい実施形態によれば、塩は、少なくとも15mM、特に少なくとも30mM、少なくとも50mM、好ましくは少なくとも100mMの濃度で、溶解組成物および/または溶解混合物中に存在する。溶解組成物および/または溶解混合物中の塩の好適な濃度範囲は、15~500mM、特に30~440mM、50~300mMまたは好ましくは100~250mM、例えば約150mMから選択されてもよい。一実施形態によれば、塩は、500mM未満、特に400mM未満、300mM未満または好ましくは250mM未満、例えば200mM未満の濃度で、溶解組成物および/または溶解混合物中に存在する。試料の溶解に関して実施例において実証されているように、このような塩の濃度が有利であることが見出された。例えば、このような塩の濃度を適用することによって、DNAグリコシラーゼ、例えばウラシルDNAグリコシラーゼ、好ましくはウラシル-N-グリコシラーゼを使用する消化が、30分もしくはそれより短い時間、20分もしくはそれより短い時間、15分もしくはそれより短い時間または10分もしくはそれより短い時間で有利に完了される。上に開示されているように、固体の固定された生体試料を与える場合には、溶解混合物中の塩の濃度は、溶解組成物中の塩の濃度に相当するか、またはおよそその濃度であるが、一方、液体の固定された生体試料は、その濃度を希釈するため、溶解組成物中よりも溶解混合物中で濃度が低くなる。したがって、液体の固定された生体試料では、塩の濃度は、特に溶解組成物においてより高い塩濃度を与えること、および/または溶解組成物のより高い体積比を与えることによって、溶解混合物中で上に開示された濃度を確立するように適合され得る。
【0069】
好ましい実施形態によれば、溶解組成物は、界面活性剤を含む。界面活性剤は、試料の溶解を支援し、タンパク質凝集物を溶解させる。界面活性剤は、好ましくは、溶解組成物によって溶解混合物に与えられる。
【0070】
好ましい実施形態によれば、界面活性剤は、イオン性または非イオン性界面活性剤である。例示的な界面活性剤は、当業者に公知である。一実施形態によれば、界面活性剤は、イオン性界面活性剤、好ましくは陰イオン性界面活性剤である。これは、固定された生体試料が、固体の固定された生体試料、例えば固定された組織試料である場合に、特に好適である。界面活性剤は、特に、脂肪アルコールの硫酸塩またはスルホン酸塩、例えばドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウムまたはドデシルベンゼンスルホン酸であってもよく、好ましくは、界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)である。界面活性剤の混合物が使用されてもよい。
【0071】
好ましい実施形態によれば、界面活性剤は、少なくとも0.01%、少なくとも0.02%、好ましくは少なくとも0.03%の濃度で、溶解組成物および/または溶解混合物中に存在する。溶解組成物および/または溶解混合物中の界面活性剤の好適な濃度範囲は、0.01~3.0%、0.02~2.75%、好ましくは0.03~2.5%または0.04%~2.0%から選択されてもよい。実施形態では、濃度は、0.03~1%の範囲内にある。上に開示されているように、固体の固定された生体試料を与える場合には、溶解混合物中の界面活性剤の濃度は、溶解組成物中の界面活性剤の濃度に相当するが、一方、液体の固定された生体試料は、その濃度を希釈するため、溶解組成物中よりも溶解混合物中で濃度が低くなる。したがって、液体の固定された生体試料では、界面活性剤の濃度は、特に溶解組成物においてより高い界面活性剤濃度を与えること、および/または溶解組成物のより高い体積比を与えることによって、溶解混合物中で上に開示された濃度を確立するように適合され得る。
【0072】
一実施形態によれば、溶解組成物は、緩衝化剤を含む。好ましくは、緩衝化剤は、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(Trisとも称される)、MOPS、HEPES、ホスフェートおよびボラートからなる群より選択され、好ましくはTrisから選択される。緩衝化剤は、好ましくは、溶解組成物によって溶解混合物に与えられる。緩衝化剤は、pHの維持を有利に容易にする。上に開示されているように、好適なpHを与えることは、本開示による方法にとって特に有利であり、好適なpH範囲は上に開示されている。緩衝化剤の混合物が使用されてもよい。
【0073】
好ましい実施形態によれば、反応性化合物が緩衝化剤であるか、または溶解組成物もしくは溶解混合物が緩衝化剤を含み、必要に応じて、緩衝化剤は、必要に応じて5.5~10.0、6.0~10.0、6.5~10.0、7.0~9.8または7.2~9.8から選択される5.0~10.5の範囲内にあるpKa値を有する。
【0074】
一実施形態によれば、緩衝化剤は、さらに反応性化合物であり、固定剤と反応すること、および/または固定剤によって誘導される架橋と反応することが可能であり、必要に応じて、緩衝化剤は、求核基、例えば第一級アミン基を含む。例えば、緩衝化剤は、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールまたはその誘導体であってもよい。このような実施形態では、反応性化合物について上に開示された濃度は、緩衝化剤の濃度に相当する。
【0075】
一実施形態によれば、溶解組成物は、キレート剤を含む。キレート剤は、ヌクレアーゼがDNAなどの標的核酸を分解するのを有利に妨げ得る。好ましい実施形態によれば、溶解組成物は、キレート剤をさらに含み、必要に応じてキレート剤は、アミノポリカルボン酸、好ましくはエチレンジニトリロ四酢酸(EDTA)である。一実施形態によれば、キレート剤は、二価のカチオンをキレートするのに好適である。好適なキレート剤としては、以下に限定されないが、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジニトリロ四酢酸(EDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)およびN,N-ビス(カルボキシメチル)グリシン(NTA)が挙げられる。好ましい実施形態によれば、EDTAが使用される。本明細書で使用される場合、用語「EDTA」は、とりわけ、例えばKEDTA、KEDTAまたはNaEDTAなどのEDTA化合物のEDTA部分を示す。EDTAなどのキレート剤を使用することにより、DNaseおよびRNaseなどのヌクレアーゼが阻害されるという有利な効果がある。
【0076】
キレート剤は、0.05mM~5mM、例えば0.075mM~2mM、0.1mM~1.5mMの濃度で、溶解混合物および/または溶解組成物に用いられてもよい。溶解組成物におけるキレート剤の好適な濃度は、適用される試料の種類(固体または液体の固定された生体試料)に依存する可能性があり、溶解混合物について上に開示された好適な濃度を考慮して、当業者が容易に見出すことができる。
【0077】
一実施形態によれば、溶解組成物は、反応性化合物を添加することによって調製され、ここで、反応性化合物は:
- 第一級アミン基および少なくとも1つのヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基を含む反応性化合物、特に2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、ならびに/または
- 少なくとも1つの第一級アミン基、好ましくは2つの第一級アミン基、および第二級アミン基を含む反応性化合物、特にスペルミジン
から選択される。
【0078】
この実施形態は、溶解組成物のさらなる化合物とは独立して、反応性化合物の種類および濃度を柔軟に改変するのに有利である。実施例において実証されているように、前記反応性化合物の少なくとも1つを添加することによって、例えば核酸分析方法のために核酸を最適化するために、核酸のサイズ/断片化が改変され得る。例えば、核酸の断片サイズが増加され、核酸は、本明細書に開示された大きな核酸の増幅、例えばラージアンプリコンPCRに非常に好適となる。
【0079】
一実施形態によれば、溶解組成物は、水性であり、以下:
- 第一級アミンを含む反応性化合物であって、好ましくは2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールおよびスペルミジンまたはそれらの組合せから選択される、反応性化合物、ならびに
- プロテアーゼ、好ましくはセリンプロテアーゼ、より好ましくはプロテイナーゼKであるタンパク質分解酵素、
を含み、必要に応じて溶解組成物は、以下:
- 界面活性剤、好ましくは陰イオン性界面活性剤であり、より好ましくは、界面活性剤はドデシル硫酸ナトリウムである;
- 塩、好ましくは一価の塩であり、より好ましくは塩は、塩化ナトリウムである;
- 必要に応じて、キレート剤、好ましくはアミノポリカルボン酸、より好ましくはEDTA
をさらに含む。
【0080】
一実施形態によれば、溶解組成物は、水性であり、以下:
(i)第一級アミンを含む反応性化合物、好ましくは2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールであって、(aa)少なくとも3mM、特に少なくとも5mM、少なくとも7mM、少なくとも9mMもしくは好ましくは少なくとも10mM、例えば3~100mM、特に5~50mM、7~30mM、9~25mMもしくは好ましくは10~20mM;または(bb)少なくとも10mM、特に少なくとも20mM、少なくとも40mM、少なくとも60mMもしくは好ましくは少なくとも75mM、例えば10~1000mM、特に20~500mM、40~300mM、60~250mMもしくは好ましくは75~200mM、例えば約100mM~150mMの濃度で、溶解混合物および/または溶解組成物中に含まれる、反応性化合物;
あるいは
(ii)2つの第一級アミン基および好ましくは1つの第二級アミン基を含む反応性化合物であって、少なくとも0.25mM、特に少なくとも0.5mM、少なくとも1mM、少なくとも1.25mMまたは好ましくは少なくとも1.5mM、例えば0.25~25mM、特に0.5~12.5mM、1~10mM、1.25~7.5mMまたは好ましくは1.5~5mM、例えば約2.5mMの濃度で、溶解混合物および/または溶解組成物中に含まれる、反応性化合物;
ならびに
(iii)プロテアーゼ酵素、必要に応じてセリンプロテアーゼ、好ましくはプロテイナーゼK;
を含み
- 必要に応じて、溶解組成物は、さらに以下:
(iv)界面活性剤、好ましくは陰イオン性界面活性剤であり、より好ましくは、界面活性剤はドデシル硫酸ナトリウムである;
(v)塩、好ましくは一価の塩であり、より好ましくは、塩は、塩化ナトリウムである;および/または、好ましくはおよび
(vi)キレート剤、好ましくはアミノポリカルボン酸、より好ましくはEDTA
を含む。
【0081】
この溶解組成物の特徴の組合せは、実施例において実証され、本明細書に開示されているように、試料の溶解にとって有利であることが見出された。
【0082】
一実施形態によれば、溶解組成物は、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールである反応性化合物を含み、前記反応性化合物は、5~50mM、好ましくは10~20mMの濃度で、溶解混合物および/または溶解組成物中に含まれ、溶解組成物は、6.0~9.5、好ましくは7.0~8.0の範囲内のpHを有する。この実施形態は、実施例において実証されているように、有利であることが見出された。特に、高品質の核酸はこの溶解組成物を使用して得られ、これは、小さな核酸の増幅に関与する核酸分析方法にとって好適である。したがって、この実施形態の溶解組成物を使用する一実施形態では、500ntより小さい核酸を増幅させることによって核酸を分析し、これはショートアンプリコンPCRと称される場合もある。詳細は、本明細書の他の箇所にも開示されており、各開示にも言及されている。
【0083】
一実施形態によれば、溶解組成物は、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールである反応性化合物を含み、前記反応性化合物は、60~250mM、好ましくは75~200mMの濃度で、溶解混合物および/または溶解組成物中に含まれ、必要に応じて溶解組成物は、7.0~9.5、例えば8.0~9.0の範囲内のpHを有する。また、この実施形態は、実施例において実証されているように、非常に有利であることが見出された。特に、高品質の核酸はこの溶解組成物を使用して得られ、これは、小さな核酸分子および/または大きな核酸分子の増幅に関与する核酸分析方法にとって好適である。ショートおよびロングアンプリコンPCRの詳細は、他の箇所に開示されている。
【0084】
一実施形態によれば、溶解組成物は、スペルミジンである反応性化合物を含み、前記反応性化合物は、0.5~12.5mM、好ましくは1.5~5mMの濃度で、溶解混合物および/または溶解組成物中に含まれ、溶解組成物は、5~50mM、好ましくは10~20mMの濃度で、溶解混合物および/または溶解組成物中に含まれる2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールをさらに含む。この実施形態は、実施例において実証されているように、非常に有利であることが見出された。特に、サイズが大きく、より少ない断片化を示す、高品質の核酸がこの溶解組成物を使用して得られた。
【0085】
一実施形態によれば、溶解組成物は、溶解溶液とタンパク質分解酵素を組み合わせることによって調製される。必要に応じて、本明細書に開示されているように、さらなる化合物、特に追加の反応性化合物が、溶解組成物を調製するために添加される。さらに、溶解組成物を調製することは、水を添加することをさらに含んでもよい。
【0086】
一実施形態によれば、ステップ(a)において溶解溶液と組み合わされるタンパク質分解酵素は、タンパク質分解酵素を含む溶液によって提供される。好適な濃度は、他の箇所に開示されている。タンパク質分解酵素は、溶解溶液中に含まれてもよい。
【0087】
本明細書に開示されているように、溶解組成物は、溶解溶液とタンパク質分解酵素、および必要に応じて水または希釈緩衝液を組み合わせることによって調製されてもよい。
【0088】
一実施形態によれば、溶解溶液は、塩、界面活性剤および緩衝化剤を含む。さらに、溶解溶液は、特に、反応性化合物を含む。前記化合物の詳細は、上で既に開示されており、反応性開示に言及される。反応性化合物、界面活性剤および塩の好適な濃度範囲は、溶解混合物および溶解組成物に関して本明細書に開示されている。溶解溶液は、溶解混合物および/または溶解組成物に関して本明細書に開示された濃度を確立するのに好適な濃度で、反応性化合物、界面活性剤および塩を含む。
【0089】
好ましい実施形態によれば、溶解溶液は、反応性化合物を含む。反応性化合物は、本明細書に開示されており、それに言及される。特定の実施形態によれば、溶解溶液は、1つまたは複数の第一級アミン基、必要に応じて1つの第一級アミン基および1つまたは複数のヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基を含む反応性化合物を含む。特定の実施形態によれば、溶解溶液は、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールまたはその誘導体を含む。
【0090】
特定の実施形態によれば、反応性化合物は、少なくとも5mM、特に少なくとも10mM、少なくとも20mMまたは少なくとも30mMの濃度で、溶解溶液中に存在する。溶解溶液は、5~500mMの反応性化合物、特に10~250mM、20~100mMまたは30~75mM、例えば約53mMの反応性化合物を含んでもよい。溶解溶液において前記濃度を有する特に好適な反応性化合物は、1つまたは複数の第一級アミン基、必要に応じて1つの第一級アミン基および1つまたは複数のヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基を含む反応性化合物、例えば2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールまたはその誘導体を含む反応性化合物である。好ましい実施形態によれば、反応性化合物は、緩衝化剤である。
【0091】
一実施形態によれば、反応性化合物は、スペルミジンなどの、2つの第一級アミン基および好ましくは1つの第二級アミン基を含み、必要に応じて反応性化合物は、溶解組成物および/または溶解混合物中に少なくとも0.25mM、特に少なくとも0.5mM、少なくとも1mM、少なくとも1.25mMまたは好ましくは少なくとも1.5mMの濃度を確立するのに十分な溶解溶液中に存在する。一実施形態によれば、溶解溶液は、本明細書に開示された反応性化合物、特に緩衝化剤でもある反応性化合物を含み、必要に応じて反応性化合物は、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールのように、1つまたは複数の第一級アミン基、好ましくは1つの第一級アミン基、および1、2または3つのヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基を含み、必要に応じて反応性化合物は、少なくとも5mM、特に少なくとも10mM、少なくとも20mMまたは少なくとも30mMの濃度で溶解溶液中に存在する。あるいは、溶解溶液は、前記濃度で緩衝化剤を含み、緩衝化剤は反応性化合物ではない。2つの第一級アミン基および好ましくは1つの第二級アミン基を含むさらなる反応性化合物は、溶解組成物に添加されてもよく、または溶解溶液中に含まれ、必要に応じてこの反応性化合物は、溶解組成物および/または溶解混合物中に少なくとも0.25mM、特に少なくとも0.5mM、少なくとも1mM、少なくとも1.25mMまたは好ましくは少なくとも1.5mMの濃度を確立するのに十分な溶解溶液中に存在する。2つの第一級アミン基および好ましくは1つの第二級アミン基を上で開示された濃度で含む反応性化合物は、固定された生体試料を溶解させ、実施例において実証されているように、大きな断片サイズの核酸を得るのに有利であることが見出された。
【0092】
好ましい実施形態によれば、溶解溶液は、塩、特に本明細書に開示された塩を含む。特に、塩は、塩化物塩、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウムおよび塩化セシウム、好ましくは塩化ナトリウムであってもよい。一実施形態によれば、塩は、少なくとも50mM、例えば少なくとも75mM、少なくとも100mM、少なくとも200mM、少なくとも300mMまたは少なくとも500mMの濃度で、溶解溶液中に存在する。一実施形態によれば、溶解溶液は、75~2000mMの塩、特に100~1500mM、200~1200mM、300~1000mMまたは400~800mM、例えば約500~700mMの塩を含む。前記塩に関連する利点は上に開示されており、ここで、それに言及される。
【0093】
好ましい実施形態によれば、溶解溶液は、界面活性剤、特に本明細書に開示された界面活性剤を含む。特に、界面活性剤は、非イオン性またはイオン性界面活性剤、好ましくは陰イオン性界面活性剤から選択されてもよい。特に、界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、例えば脂肪アルコールの硫酸塩またはスルホン酸塩、例えばドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウムまたはドデシルベンゼンスルホン酸、好ましくはドデシル硫酸ナトリウムであってもよい。一実施形態によれば、界面活性剤は、溶解溶液中少なくとも0.01%、特に少なくとも0.03%、少なくとも0.05%、少なくとも0.07%または少なくとも0.1%の濃度を有する。一実施形態によれば、溶解溶液は、0.01~3%の界面活性剤、特に0.03~2.5%、0.05~2%、0.07~1%または0.1~0.5%の界面活性剤を含む。前記界面活性剤に関連する利点は上に開示されており、ここで、それに言及される。
【0094】
特定の実施形態によれば、溶解溶液は、
- 少なくとも5mM、特に少なくとも10mM、少なくとも20mMまたは少なくとも30mM、例えば5~500mM、特に10~250mM、20~100mMまたは30~75mM、例えば約53mMの濃度の反応性化合物、特に1つまたは複数の第一級アミン基、必要に応じて1つの第一級アミン基および1つまたは複数のヒドロキシル基、好ましくは3つのヒドロキシル基を含む反応性化合物、例えば2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールまたはその誘導体;
- 少なくとも50mM、必要に応じて少なくとも75mM、少なくとも100mM、少なくとも200mM、少なくとも300mMまたは少なくとも400mM、例えば75~2000mM、特に100~1500mM、200~1200mM、300~1000mMまたは400~800mM、例えば約600mMの濃度の塩であって、必要に応じて塩化物塩、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウムおよび塩化セシウム、好ましくは塩化ナトリウムである、塩;ならびに
- 溶解溶液中少なくとも0.01%、特に少なくとも0.03%、少なくとも0.05%、少なくとも0.07%または少なくとも0.1%、例えば0.01~4%、特に0.03~3%、0.05~2%、0.07~1%または少なくとも0.1~0.5%、例えば0.2%の濃度の界面活性剤、必要に応じて陰イオン性界面活性剤、例えば脂肪アルコールの硫酸塩またはスルホン酸塩、例えばドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウムまたはドデシルベンゼンスルホン酸、好ましくはドデシル硫酸ナトリウム
を含む。
【0095】
このような実施形態は、実施例において実証されているように、固定された生体試料の溶解にとって有利であり、これに該当する溶解溶液が適用されている。
【0096】
必要に応じて、溶解溶液は、キレート剤をさらに含む。一実施形態によれば、溶解溶液は、キレート剤、特にEDTAをさらに含み、キレート剤は、溶解溶液中少なくとも0.25mM、特に少なくとも0.5mM、少なくとも1mMまたは少なくとも1.5mMの濃度を有する。一実施形態によれば、キレート剤は、溶解溶液中0.25~25mM、特に0.5~15mM、1~10mMまたは1.5~5mM、例えば2.7mMの濃度を有する。キレート剤は、本明細書に開示されたヌクレアーゼ、例えばDNaseの不活性化を有利に支援する。
【0097】
ステップ(b)
ステップ(b)は、溶解させた試料を加熱して架橋を逆転させることを含む。
【0098】
加熱ステップ(b)を実施することは、固定剤によって誘導された架橋、例えばホルムアルデヒドに誘導された架橋の逆転を可能にするため、有利である。これらの架橋は、通常、タンパク質間、タンパク質と核酸の間、および核酸間に存在する。架橋の逆転反応は、温度依存性であり、高温は、より迅速な逆転反応をもたらす(Kennedy-Darling et al., Anal. Chem., 2014, Vol. 86 (12), pp: 5678-5681, ”Measuring the Formaldehyde Protein-DNA Cross-Link Reversal Rate”を参照されたい)。少なくとも80℃の温度が、例えばホルムアルデヒドなどの多数の固定剤によって誘導される架橋を逆転するのに特に好適である。さらに、タンパク質分解消化ステップ後に加熱することによって、ステップ(a)におけるタンパク質分解消化後に残っている核酸の化学的修飾が除去され得ることが、当技術分野において説明される。例えば、タンパク質分解消化ステップ後に存在し得る核酸塩基のメチロール基が、温度を上昇させることによって除去され得ることが記載される(例えば、Masuda et al., Nucleic Acid Research, 1999, Vol. 27 (22), pp: 4436-4443; ”Analysis of chemical modification of RNA from formalin-fixed samples and optimization of molecular biology applications for such samples”を参照されたい)。
【0099】
加熱ステップ(b)はまた、溶解混合物中に存在するタンパク質分解酵素を不活性化するために用いられ得る。加熱ステップ(b)においてタンパク質分解酵素を不活性化させることは、ステップ(b)とステップ(c)の間のタンパク質分解酵素消化ステップと異なる1回または複数回の酵素処理を実施するのが望ましい場合に有利であり得る。一実施形態では、加熱ステップ(b)は、溶解混合物中に存在するタンパク質分解酵素を不活性化させる。最低限の不活性化温度およびインキュベーション時間などの好適な不活性化条件は、様々なプロテアーゼに関して当技術分野において記載されており、よって、当業者にとって容易に利用可能である。
【0100】
固定剤に誘導された架橋を逆転するのに好適なインキュベーション温度およびインキュベーション時間もまた、当技術分野において説明される。一実施形態によれば、ステップ(b)は、溶解させた試料を、少なくとも80℃、例えば少なくとも85℃または少なくとも90℃の温度に加熱することを含む。一実施形態によれば、ステップ(b)は、架橋を逆転させるために、溶解させた試料を、少なくとも15分間、少なくとも20分間または少なくとも25分間加熱することを含む。好ましい実施形態では、ステップ(b)は、溶解させた試料を、少なくとも30分間、少なくとも45分間または少なくとも50分間加熱することを含む。一実施形態によれば、ステップ(b)は、溶解させた試料を、固定剤に誘導された架橋を逆転させるのに好適な温度で、最大120分、必要に応じて最大100分加熱することを含む。実施形態では、ステップ(b)は、最大80分または最大70分加熱することを含む。
【0101】
好ましい実施形態によれば、溶解させた試料は、80~120℃、例えば80℃~110℃または85~100℃の範囲内の温度で、30~120分間、例えば45~90分間または50~70分間加熱される。よって、ステップ(b)は、溶解させた試料を、80~110℃、例えば85~100℃の範囲内の温度で、30~120分間加熱することを含んでもよい。ステップ(b)は、溶解させた試料を、80~110℃、例えば85~100℃の温度で、45~90分間加熱することをさらに含んでもよい。ステップ(b)は、溶解させた試料を、80~110℃、例えば85~100℃の範囲内の温度で、50~70分間加熱することをさらに含んでもよい。
【0102】
実施形態では、固定された生体試料中に最初に存在する固定剤に誘導された架橋の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%が、ステップ(b)の完了の際に逆転される。
【0103】
本明細書に開示されているように、1回または複数回の追加の処理ステップは、ステップ間で必要に応じて実施されてもよく、好ましい実施形態では、ステップ(b)とステップ(c)の間で実施される。
【0104】
ステップ(c)
ステップ(c)は、タンパク質分解酵素を添加し、タンパク質分解消化を実施することを含む。したがって、第1の態様による方法は、脱架橋ステップ(b)の後に、少なくとも1回の追加のタンパク質分解消化ステップを実施するステップを含む。したがって、本方法は、固定された生体試料を最初に溶解させるステップであって、溶解がタンパク質分解酵素による消化を含む、ステップ(ステップ(a))と、それに続いて、溶解させた試料を加熱して架橋を逆転させるステップ(ステップ(b))と、それに続いて、タンパク質分解酵素を添加して、タンパク質分解消化を実施するステップ(ステップ(c))とを含む。ステップのこの逐次的な順序は、良好な収量で高品質の核酸を放出するために、固定された生体試料を溶解させる際に特に効果的であることが見出された。本明細書に開示されているように、1回または複数回の追加の処理ステップは、ステップ(b)と(c)の間で必要に応じて実施され得る。
【0105】
実施例によって実証されているように、ステップ(c)を実施することにより、溶解手順全体の間の核酸の放出が著しく改善される。放出されたDNAおよび(またはRNA)などの核酸は、高品質であり、精製後は、増幅反応にとって特に好適である。驚くべきことに、ステップ(c)において追加のタンパク質分解消化を実施することにより、実施例においてDNAに基づいて実証されているように、核酸収量が改善された。理論に拘束されることを望むものではないが、固定された生体試料において生じた架橋(例えば、ホルムアルデヒドまたは他のアルデヒドベースの固定剤による)が、ステップ(a)において実施されるタンパク質分解消化からタンパク質を遮蔽することができる、核酸との特に持続的なタンパク質の会合または立体効果を引き起こし得ると仮定される。架橋を逆転させる加熱ステップ(b)の後に、これらの会合は、ステップ(c)において実施される追加のタンパク質分解消化ステップがそれらを効率的に除去することができる程に十分に弱まる。実施例において示されているように、ステップ(c)を実施することにより、収量が驚くほどに増加し、かつ平均サイズのより長いDNAなどの核酸を放出すること、よってそれを得ることがさらに可能になる。この品質の改善は、それによって、特にラージアンプリコン(500bp)に関して、より良好なPCRの結果ももたらされるため、放出された核酸のその後の分析にとっても有益である。実施例の結果は、脱架橋ステップ(b)の後に追加のタンパク質分解消化ステップ(c)を実施する場合に、以前はアクセスできなかったより大量の長いDNA鎖が、その後のPCR反応にアクセス可能となったことを示す。DNAの収量とアクセス可能性に関して実施例において実証されているこれらの改善は、増幅およびシーケンシングなどの下流の分析プロセスにおける放出されたDNAの性能の改善ももたらす。ステップ(a)、(b)および(c)の逐次的な実施により、第1の態様による方法によって達成される架橋およびタンパク質の効率的な除去は、非常に有利であり、NGS性能の改善ももたらす。
【0106】
したがって、第1の態様による方法によって教示されるように、ステップ(c)を実施することにより、放出された核酸、例えば特にDNAの品質および収量に関して、重要かつ驚くべき改善がもたらされる。
【0107】
ステップ(c)において使用されるタンパク質分解酵素は、好ましくはプロテアーゼ、例えばプロテイナーゼKである。ステップ(c)において使用することができる好適なプロテアーゼは、ステップ(a)と併せて既に開示されており、これは、ここでも適用する各開示に言及する。一実施形態によれば、ステップ(c)は、核酸と会合したタンパク質および/もしくはペプチドを分解する、ならびに/または固定剤によって誘導される架橋、特に核酸とタンパク質もしくはペプチドの間の架橋を分解するのに好適なタンパク質分解酵素を添加することを含む。一実施形態によれば、添加されたタンパク質分解酵素はプロテアーゼである。好適なプロテアーゼは、ステップ(a)に関して本明細書に開示されており、同じプロテアーゼがステップ(c)において使用されてもよい。上記のように、好ましくはセリンプロテアーゼ、特にプロテイナーゼKが、ステップ(c)において添加される。
【0108】
本開示の方法のステップ(c)におけるタンパク質分解消化は、好ましくは、タンパク質分解酵素によってタンパク質およびペプチドを分解するのに好適な温度で実施される。好ましくは、ステップ(c)は、溶解させた試料を加熱し、タンパク質分解酵素による消化を補助することを含む。実施形態では、ステップ(c)における加熱は、35~75℃、例えば40~70℃または50~70℃の範囲内の温度で実施される。実施形態では、温度は、55~68℃の範囲内、例えば60℃または65℃である。当技術分野において公知であるように、使用される加熱デバイスの加熱温度は、より高い温度に設定されてもよく、ここで、加熱プロセス(勾配)中にタンパク質分解反応混合物において好ましいインキュベーション温度に到達し、それによって、その後最終的に、タンパク質分解反応混合物においてより高い温度に達する前に、タンパク質分解酵素消化を補助する。次いで、このようなより高い温度は、加熱プロセスの過程で、この不活性化温度に到達する前に、タンパク質分解消化が完了するため、タンパク質分解酵素を不活性化させる場合もある。
【0109】
ステップ(c)において効率的なタンパク質分解消化を可能にするために、溶解させた試料は、タンパク質分解酵素の存在下でインキュベートされてもよい。インキュベーションは、好ましくは、少なくとも5分間、例えば少なくとも10分間または少なくとも15分間実施される。本明細書に開示されているように、タンパク質分解消化のためのインキュベーションは、35~75℃の間の高温で行われ得る。試料は、インキュベーションの間、撹拌されてもよい。一実施形態によれば、ステップ(c)は、少なくとも35℃、例えば少なくとも40℃、少なくとも45℃、少なくとも50℃または少なくとも55℃の温度で、少なくとも5分間加熱することを含む。撹拌は、任意の方法、例えば振盪、回転、反転などによって実施されてもよい。
【0110】
一実施形態によれば、ステップ(c)は、45℃~75℃、例えば50℃~75℃または55℃~70℃の範囲から選択される温度に、5~60分間、例えば10~45分間、10~30分間、または10~25分間、溶解組成物を加熱することを含む。一実施形態によれば、ステップ(c)は、30分またはそれより短い時間、必要に応じて20分またはそれより短い時間で完了する。実施例によって実証されているように、15分(例えば、65℃)などの短いインキュベーション時間は、ステップ(c)で実行可能であり、固定された生体試料に含まれる核酸の収量および品質の著しい改善を可能にする。さらに、このような短いインキュベーション時間は、ステップ(c)の迅速な完了を可能にし、第1の態様の方法が非常に効率的なだけでなく、迅速であることを全体として裏付ける。
【0111】
一実施形態によれば、ステップ(c)におけるタンパク質分解消化のためのインキュベーション、ひいてはステップ(c)を実施するための期間は、ステップ(a)におけるインキュベーション、ひいてはステップ(a)を実施するための期間よりも短い。さらに、タンパク質分解消化を支援するためにステップ(c)において使用される温度は、ステップ(a)におけるものよりもステップ(c)においてより高い。
【0112】
添加されるタンパク質分解酵素の量およびステップ(c)のタンパク質分解反応混合物中のタンパク質分解酵素の濃度は、当業者によって決定および選択され得る。一実施形態では、タンパク質分解反応混合物中のタンパク質分解酵素の濃度は、少なくとも0.5mg/mL、好ましくは少なくとも1mg/mLである。好適な濃度範囲としては、以下に限定されないが、0.5~10mg/mL、0.75~7.5mg/mL、1~5mg/mL、または1~3mg/mlが挙げられる。このような濃度は、実施例において適用されている。一実施形態によれば、タンパク質分解酵素は、溶液の形態でステップ(c)において添加される。溶液は、1mg/mLから溶解度限界までの濃度で、例えば5~40mg/mL、7.5~35mg/mLまたは10~30mg/mL、例えば20mg/mLの濃度で、タンパク質分解酵素を含んでもよい。
【0113】
実施例は、ステップ(c)は固定された生体試料の溶解を有利に支援することを示す。特に、核酸は、より高い収量およびより高い品質で得られ、本明細書に開示されたPCRまたはNGSなどの核酸分析方法にとって非常に好適である。
【0114】
ステップ(b)とステップ(c)の間の必要に応じた追加の処理ステップ
必要に応じて、1回または複数回の追加の処理ステップが、ステップ(b)と(c)の間で実施されてもよい。追加の処理ステップは、本方法をさらに改善するために、例えば望ましくない分子を除去するために実施され得る。非限定的な例は、DNAが目的の標的核酸である場合にはRNAの除去(例えば、RNase消化を実施することによって)またはRNAが目的の標的核酸である場合にはDNAの除去(例えば、DNase消化を実施することによって)である。さらに、リパーゼにより処理が実施されてもよい。これは、例えば、脂肪性の生体試料が処理される場合に有利であり得る。さらに、処理ステップは、例えばウラシル核酸塩基などの生体試料の固定に起因して存在するアーティファクトを除去するために実施され得る。これにより、増幅およびシーケンシングに特に好適なDNAなどの核酸の提供が可能になる。
【0115】
一実施形態によれば、第1の態様による方法は、ステップ(b)とステップ(c)の間のタンパク質分解消化ステップとは異なる少なくとも1回の酵素処理ステップを実施するステップを含む。一実施形態によれば、少なくとも1回の酵素処理ステップは、グリコシラーゼ、ヌクレアーゼ、リパーゼまたは前記のものの組合せのうちの1つまたは複数の使用を含む。
【0116】
一実施形態によれば、少なくとも1回の酵素処理ステップは、DNAグリコシラーゼ、例えばウラシルDNAグリコシラーゼの使用を含む。このようなステップが実施される場合、好ましくは、ウラシル-N-グリコシラーゼ処理は、ステップ(b)とステップ(c)の間で実施される。一実施形態によれば、本方法は、グリコシラーゼを溶解させた試料に添加し、加熱することによって、酵素処理ステップを実施することを含む。ウラシルグリコシラーゼなどのグリコシラーゼ(glycosylate)を使用することは、重要な利点を有する。例えば、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された(FFPE)組織試料などの固定された生体試料は、DNAにおいて再現性のない配列のアーティファクトを有する場合がある。特に、C:G>T:Aの塩基置換は、固定された生体試料から回収されるDNAにおける配列アーティファクトの主要な種類として報告されている。これは、シトシンのウラシルへの脱アミノ化および逐次的なPCR増幅に基づき、C:G>T:A塩基置換をもたらす(例えば、Do et al., Oncotarget, 2012, Vol. 3 (5): pp. 546-558, ”Dramatic reduction of sequence artifacts from DNA isolated from formalin-fixed cancer biopsies by treatment with uracil-DNA glycosylase”を参照されたい)。これは、ステップ(b)の後であってステップ(c)の前に、DNAグリコシラーゼ、特にウラシル-DNAグリコシラーゼで溶解させた試料を処理することによって有利に回避され得る。酵素は、偽ウラシルを除去し、無塩基部位の形成をもたらす。これにより、次に、鎖の切断が誘導され、および/またはその後の重合ステップにおいてDNAポリメラーゼがブロックされ得る。結果として、潜在的なアーティファクト(C:G>T:A塩基置換)が排除される。これにより、その後のシーケンシング適用のための、放出されたDNAの品質の改善が可能になる。一実施形態によれば、グリコシラーゼ処理は、グリコシラーゼ活性を補助する高温で実施される。例えば、45~55℃の範囲、例えば50℃の温度が好適である。実施形態では、グリコシラーゼ処理ステップは、30分もしくはそれより短い時間、20分もしくはそれより短い時間、15分もしくはそれより短い時間または10分もしくはそれより短い時間で完了し、必要に応じて、グリコシラーゼはウラシル-N-グリコシラーゼである。
【0117】
一実施形態によれば、酵素処理ステップを実施する場合、試料は、酵素処理ステップ、特にグリコシラーゼ、好ましくはDNAグリコシラーゼ、より好ましくはウラシルDNAグリコシラーゼ、例えばウラシル-N-グリコシラーゼ;および/またはヌクレアーゼ、好ましくはリボヌクレアーゼ、より好ましくはリボヌクレアーゼAを含む酵素処理ステップを実施するのに好適な塩濃度を含む。
【0118】
一実施形態によれば、本方法は、少なくとも1回の酵素処理ステップを実施する前に、溶解され、脱架橋された試料を希釈するステップを含む。試料は、例えば水または他の希釈溶液を添加することによって希釈され得る。希釈は、ステップ(b)とステップ(c)の間で少なくとも1回の酵素処理を実施するのに好適な条件を調整するのに有利であり得る。希釈は、例えば所望の酵素処理ステップを実施するのに好適な塩濃度を確立するのに有利であり得る。一実施形態では、酵素処理ステップを実施するために生成された酵素処理混合物における塩濃度は、500mM以下、例えば300mM以下または250mM以下である。実施形態では、塩濃度は、200mM以下、150mM以下または100mM以下である。溶解され、架橋した試料の希釈によって必要に応じて達成される十分に低い塩濃度を調整するステップによって、酵素処理が塩によって負の影響を受けないことが保証される。好適な塩濃度は、意図された酵素処理に応じて変わり、当業者によって決定され得る。例えば、酵素処理混合物において、例えば150mM未満または100mM未満の低い塩濃度を与えることは、ウラシルDNAグリコシラーゼを使用する酵素処理に特に好適であることが見出された。特に、これらの低塩条件によって処理時間の低減が可能になることが見出された。例えば、処理時間は、30分未満、例えば25分未満、20分未満、好ましくは15分未満または10分未満まで低減され得る。好適な時間には、2~25分、2~20分、3~15分および5~10分が含まれる。実施例によって実証されているように、ウラシル-N-グリコシラーゼによる消化は、5分以内に完了することができた。本方法は、より迅速に実施され、より高い試料スループットを可能にし得るため、これは有利である。
【0119】
一実施形態によれば、少なくとも1回のヌクレアーゼ処理ステップは、ステップ(b)とステップ(c)の間で実施され、必要に応じてヌクレアーゼは、リボヌクレアーゼ、例えばリボヌクレアーゼAである。リボヌクレアーゼの使用によって、RNAの分解が可能になり、それによって、RNA夾雑のない放出されたDNAの提供が可能になる。
【0120】
一実施形態によれば、以下の酵素処理ステップの少なくとも1つ、好ましくはその両方が実施される:
- グリコシラーゼ、好ましくはDNAグリコシラーゼ、より好ましくはウラシルDNAグリコシラーゼを試料に添加するステップ;および/または
- ヌクレアーゼを試料に添加するステップであって、必要に応じて、ヌクレアーゼが、リボヌクレアーゼ、例えばリボヌクレアーゼAである、ステップ。
【0121】
第2の態様による方法
本発明の第2の態様によれば、固定された生体試料から精製された核酸を得るための方法であって、固定された生体試料を、第1の態様の溶解方法、ステップ(a)~(c)に従って溶解させるステップを含み、第1の態様の方法のステップ(c)の後に、
(d)溶解させた試料から核酸を精製するステップ
を含む、方法が提供される。
【0122】
本明細書に開示されているように、ある特定の実施形態により、第1の態様による方法は、ステップ(b)と(c)の間に、1回または複数回のさらなる処理ステップ、例えばヌクレアーゼ消化ステップおよび/またはウラシル-N-グリコシラーゼによる処理を実施するステップを含む。
【0123】
第2の態様による方法は、有利なことに、固定された生体試料から精製された核酸を提供し、ここで、核酸は高収量および高品質のものである。精製された核酸の高品質および高収量は、これが、単離された核酸のその後の分析、例えば精製された核酸の増幅および/またはシーケンシングを改善するため、有利である。シーケンシングは、次世代シーケンシングによって実施されてもよい。実施例によって実証されているように、第2の態様による方法は、次世代シーケンシング適用に特に好適である純粋な核酸を提供する。本明細書に開示されているように、本方法は、精製された核酸のサイズを制御するために調整され得る。これは、ステップ(a)において使用される溶解緩衝液の選択によって本明細書に開示されたようになされ得る。それによって、断片化の程度が調整および制御され得る。これにより、ショートPCRまたはロングPCRのいずれかのシステムについて最適化された核酸の提供が可能になる。核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、実施形態では、核酸はDNA分子である。
【0124】
ステップ(a)、(b)および(c)、ならびにステップ(b)とステップ(c)の間の1回または複数回の必要に応じた処理ステップの特徴が、第1の態様による方法と併せて上に開示されており、これは、第2の態様による方法にも適用する各開示に言及される。
【0125】
一実施形態では、少なくとも1つの中間処理ステップは、ステップ(c)とステップ(d)の間で実施される。別の実施形態では、ステップ(c)とステップ(d)の間で、いずれのさらなる処理ステップも実施されない。
【0126】
ステップ(d)
第2の態様による方法は、溶解させた試料から核酸を精製するステップ(d)を含む。第1の態様による溶解方法により、溶解混合物中で核酸にアクセス可能となるため、ステップ(d)では、任意の好適な精製方法を使用することができる。溶解させた試料から核酸を精製するのに好適な技法は当技術分野で公知であり、したがって、いかなる詳細な説明も必要ではない。ステップ(d)では、市販の精製キットが使用されてもよい。
【0127】
好ましい実施形態によれば、ステップ(d)は、
- 溶解させた試料に含まれる核酸を固相に結合させるステップと、
- 必要に応じて、固相に結合した核酸を洗浄するステップと、
- 固相から核酸を溶出させるステップと
を含む。
【0128】
一実施形態によれば、ステップ(d)は、放出された核酸を含む溶解させた試料(ステップ(c)の後に得られる)を、結合組成物(例えば、結合緩衝液)と接触させて、標的核酸を固相に結合させるための結合条件を確立することを含む。好適な結合条件を確立する得られた混合物はまた、本明細書において結合混合物とも称される。一実施形態によれば、結合組成物は、カオトロピック剤、例えばカオトロピック塩を含む。標的核酸の固相への結合を促進させるためにカオトロピック剤/カオトロピック塩を用いる精製方法は当技術分野で周知であり、したがって、詳細に説明される必要はない。カオトロピック塩としては、以下に限定されないが、グアニジニウム、ヨウ化物、過塩素酸塩およびチオシアン酸塩を含む塩が挙げられ、カオトロピック塩は、グアニジニウム塩酸塩、チオシアン酸グアニジニウム(GTC)、イソチオシアン酸グアニジニウム(GITC)、チオシアン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、トリクロロ酢酸ナトリウム、トリフルオロ酢酸ナトリウムから選択されてもよい。結合組成物および/または結合混合物は、尿素および/または非カオトロピック塩をさらに含んでもよい。結合組成物および/または結合混合物は、界面活性剤(例えば、イオン性または非イオン性の界面活性剤);および必要に応じて、脂肪族アルコール、例えば、好ましくは1~5個または2~3個の炭素原子を含むアルカノールをさらに含んでもよい。エタノールまたはイソプロパノールは、核酸精製のためのアルコールとして通常使用され、固相への結合を促進する。次いで、核酸と結合組成物の混合物を固相に適用してもよく、または固相を前記混合物に添加してもよい。固相は、シリカ表面を有してもよい。固相は、標的核酸が結合する表面を含有する未修飾シリコンを含んでもよい。用語「シリカ表面」は、本明細書で使用される場合、二酸化ケイ素および/または他の酸化ケイ素、珪藻土、ガラス、シリカゲル、ゼオライト、ベントナイト、アルキルシリカ、ケイ酸アルミニウムおよびホウケイ酸塩を含むかまたはそれからなる表面を含む。本発明と併せて使用することができる例示的な固相としては、以下に限定されないが、シリカ粒子、シリカ繊維、例えばガラス粉末、ガラス繊維、ガラス粒子もしくは制御細孔ガラスなどのガラス材料、二酸化ケイ素、粉末、ビーズもしくはフリットなどの粒子形状のガラスまたはシリカを含むがこれらに限定されない、未修飾シリカ表面を含む固相が挙げられる。本開示によれば、カラムベースの固相の使用または粒子、特に磁性粒子の使用が好ましい。一実施形態によれば、固相はカラム内に含まれる。カラムは、好ましくは、核酸の結合、特にDNAの結合に使用される、未修飾シリコンを含有する表面を有する固相を含む。
【0129】
ステップ(d)において使用することができる他の核酸精製技術は、標的核酸の、陰イオン交換表面を有する固相への結合を含む。再度、固相は、カラムまたはビーズ形式で提供されてもよい。このような方法は当技術分野で公知であり、したがって、詳細に説明される必要はない。
【0130】
結合した核酸を有する固相は、残っている試料から分離されてもよく、結合した核酸は洗浄されてもよい。核酸は、さらに溶出されてもよい。溶出溶液は当業者に周知であり、ここでさらに定義される必要はない。
【0131】
例えば、沈降に基づく精製方法など他の核酸精製方法がステップ(d)において使用されてもよい。このような方法は当技術分野で公知であり、アルコールの使用を含んでもよい。
【0132】
次いで、本開示の第2の態様に従って本方法により得られた標的核酸は、さらに処理されてもよく、例えば、本明細書に開示された核酸分析方法に使用されてもよい。本明細書に開示されているように、第1の態様による溶解方法に基づく第2の態様による方法は、FFPE組織などの固定された生体試料から抽出された標的核酸の収量および品質の改善をもたらす。実施例によって示されているように、提供され、精製された核酸は、先行技術の方法と比較して、その後のPCRおよびNGS分析にとって、より好適である。
【0133】
標的核酸は、DNAおよび/またはRNAであってもよい。一実施形態では、結合した標的核酸は、DNAを含むか、または実質的にDNAからなる。本明細書に開示されているように、第2の態様による方法は、以下を提供する。
【0134】
第1の態様および第2の態様による方法のさらなる実施形態
核酸
「核酸(1つまたは複数)」は、DNAおよび/またはRNAであってもよい。したがって、DNAおよびRNAは、第1の態様による方法において、固定された生体試料から放出され得るか、または第2の態様による方法において精製され得る。さらに、核酸は、DNAまたはRNAであってもよい。本明細書に開示されているように、主にDNA(またはRNA)は、非標的核酸を破壊するためにヌクレアーゼ処理(例えば、第1の態様による方法の間に)および/または第2の態様による方法のステップ(d)において実施され得る標的核酸選択的精製のいずれかを実施することによって得ることができる。これにより、非標的(例えば、RNA)夾雑物を含まないか、または少量しか含まない標的核酸(例えば、DNA)を得ることが可能になる。
【0135】
好ましい実施形態によれば、核酸は、DNAを含むか、またはそれから実質的になる。実施例において実証されているように、DNAは、固定された生体試料から非常に効率的に放出され、その後、精製され得る。
【0136】
固定された生体試料
用語「固定された生体試料」は、特に、固定剤を用いて保存された任意の生体物質を指す。固定された生体試料は、固定に起因する核酸分子とタンパク質分子の間の架橋を含む。使用される固定剤は、架橋固定剤である。このような固定された生体試料としては、以下に限定されないが、ホルムアルデヒドにより固定された組織または臓器、液体細胞学的保存媒体中に保存された組織試料、および液体細胞学的保存材料に保存された、固定された細胞を含有する試料(子宮頸部もしくは婦人科のスワブまたは細胞を含有する体液など)が挙げられる。
【0137】
一実施形態では、生体試料を固定するために使用される架橋固定剤は、アルデヒド含有固定剤、例えばホルムアルデヒドおよび/またはパラホルムアルデヒドである。架橋固定剤としては、以下に限定されないが、アルデヒド化合物(ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、およびグルタルアルデヒドなど)、四酸化オスミウム、重クロム酸カリウム、クロム酸、および過マンガン酸カリウムが挙げられる。また、この実施形態には、経時的にホルムアルデヒドなどの架橋化合物を放出することが公知の固定剤も含まれる。ホルムアルデヒドは、例えばメチレン架橋によってアミノ基を架橋することによって、生体試料を固定する周知の交差反応性分子である。一実施形態によれば、生体分子は、ホルムアルデヒドおよび/またはパラホルムアルデヒドを使用して固定された。当技術分野で公知であるように、ホルムアルデヒドは、固体および液体の生体試料のための固定剤として使用することができる。
【0138】
好ましい実施形態によれば、固定された生体試料は、固体の固定された生体試料、特に固定された組織試料である。例示的な個体の固定された生体試料としては、以下に限定されないが、肝臓、脾臓、腎臓、肺、腸、胸腺、結腸、扁桃、精巣、皮膚、脳、心臓、筋肉および膵臓組織を含むがこれらに限定されない組織が挙げられる。固定された生体試料は、さらに、細胞を含有する体液およびそれに由来する試料、吸引物、細胞培養物、細菌、微生物、ウイルス、植物、真菌、生検材料、骨髄試料、スワブ試料、糞便、皮膚断片および生物などの固定された細胞を含有する試料であってもよい。
【0139】
一実施形態によれば、固定された生体試料は、固定された組織試料であり、ここで、組織試料は、動物組織、好ましくは哺乳類組織試料、特にヒト組織試料である。組織は、検死、生検または手術から得られてもよい。
【0140】
好ましい実施形態によれば、固定された生体試料は、液体の固定された生体試料である。例示的な液体の固定された生体試料としては、以下に限定されないが、血液、血清、血漿、尿、唾液、涙、汗、便、粘液、母乳、骨髄、および髄液(spino-cerebral fluid)などの固定された体液試料が挙げられる。
【0141】
一実施形態では、固定された生体試料は、液体細胞学的保存媒体中の生体試料である。液体細胞学的保存媒体は、架橋固定剤、例えばアルデヒドを含有する固定剤、例えばホルムアルデヒドを含む。液体細胞学的保存媒体は、細胞学の目的には有用であるが、これは、固定された生体試料からの核酸の効率的単離を阻害する場合がある。液体細胞学的保存媒体中で通常使用される例示的なアルデヒドを含有する固定剤としては、以下に限定されないが、ホルムアルデヒド、グリオキサール、グルタルアルデヒド、グリセルアルデヒド、アクロレイン、または他の脂肪族アルデヒドが挙げられる。固定剤を含む、1つの通常使用される液体細胞学的保存媒体はSUREPATH(登録商標)であり、これは、臨床設定において、最も一般的に使用される(例えば、スワブを保存するために)保存媒体のうちの1つである。SUREPATH(登録商標)媒体は、ほぼ37%のホルムアルデヒド含量を有し、メタノール、エタノール、およびイソプロパノールも含有する。ホルムアルデヒドの含有量が高いと、ホルムアルデヒドは有用な固定剤となるが、次にこのような固定された生体試料からDNAなどの標的核酸を抽出し、それらを次の分析に使用するのには課題がある。本発明による方法は、このような困難な固定された試料に関して有利に使用することができる。一実施形態によれば、液体の固定された生体試料は、SUREPATH(登録商標)中の生体試料である。
【0142】
一実施形態では、固定された生体試料は、固体の細胞を含有する生体試料である。固定された生体試料は、パラフィンなどの非反応性包埋物質中に包埋されてもよい。一実施形態によれば、固定された生体試料は、パラフィンなどの包埋材料中に包埋されている。一実施形態によれば、固定された生体試料は、架橋固定剤(ホルムアルデヒドなど)を使用して固定された固定された組織試料であり、包埋材料、好ましくはパラフィン中に包埋されている(FFPE試料など)。当技術分野において開示されているように、包埋材料としては、以下に限定されないが、パラフィン、鉱油、非水溶性ワックス、セロイジン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、寒天、ゼラチンまたは他の媒体が挙げられる。
【0143】
特定の実施形態によれば、固定された生体試料は、FFPE試料である。
【0144】
パラフィンなどの包埋材料中に包埋された固定された試料を処理する場合には、ステップ(a)の前に前記包埋材料を除去するステップを含むことは、本開示の範囲内である。一実施形態によれば、接触させるステップ(a)の前に、固定された生体試料は、固定された生体試料からあらゆる包埋材料(パラフィンなど)を除去するために処理される。生体試料からの包埋材料(パラフィンなど)の除去は、生体試料の脱パラフィン化に関して当技術分野で公知の任意の方法によって行われ得る。例えば、これは、試料を、パラフィンなどの包埋材料を溶かし出すために、キシレンなどの疎水性有機溶媒と接触させることによって達成され得る。好適な脱パラフィン化方法は、例えば、WO2012/085261、WO2011/104027、WO2011/157683およびWO2007/068764、ならびにGeneRead(商標)のDNA FFPE handbook (QIAGEN, March 2014)および「Purification of genomic DNA from FFPE tissue using the QIAamp(登録商標)DNA FFPE Tissue Kit and Deparaffinization Solution」に関するQIAGENの補足プロトコールを使用するQIAamp(登録商標)のDNA FFPE Tissue Handbook (QIAGEN, June 2012)に記載されている。
【0145】
核酸分析
好ましい実施形態によれば、第2の態様による方法は、(e)精製された核酸を分析するステップを含む。
【0146】
核酸分析方法は、例えば、核酸を増幅、同定、検出および/または定量するために、核酸を分析するために使用することができる任意の化学的および/またはバイオテクノロジー的方法であってもよい。好ましくは、核酸分析方法は、濃縮された核酸中に含まれる核酸の存在、非存在および/または量の検出を可能にする検出反応を含む。好ましくは、前記ステップ(e)は、少なくとも1つの標的核酸の増幅を含む。各分析方法は、先行技術において周知であり、核酸および精製された核酸に含まれるか、または含まれることが疑われる特定の核酸を分析するために、医学、診断および/または予後の分野において一般的にも適用されている。
【0147】
好ましい実施形態によれば、ステップ(d)において得られた精製された核酸は、増幅を含む核酸分析方法において使用される。このような方法は、好ましくは、酵素的増幅、例えばポリメラーゼベースの増幅を含む。特定の実施形態では、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、濃縮された核酸を増幅させるために実施される。
【0148】
特定の実施形態によれば、本方法は、ラージアンプリコンPCRおよび/またはショートアンプリコンPCRを使用して核酸を増幅させるステップをさらに含む。一実施形態によれば、ラージアンプリコンPCRは、少なくとも500bpのサイズを有する核酸分子のためのものである。ショートアンプリコンPCRは、500bp未満、例えば好ましくは、300bp以下、200bp以下または150bp以下のサイズを有する核酸分子のためのものである。実施形態では、ショートアンプリコンPCRは100bp未満である。
【0149】
実施形態では、少なくとも10mM、特に少なくとも20mM、少なくとも40mM、少なくとも60mMまたは好ましくは、少なくとも75mMの反応性化合物、必要に応じて、第一級アミンを含む反応性化合物、好ましくは2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールを含む溶解組成物は、ラージアンプリコンPCRのためのものである。本明細書に開示されているように、ショートアンプリコンPCRのために、少なくとも3mM、特に少なくとも5mM、少なくとも7mM、少なくとも9mMまたは好ましくは、少なくとも10mMの反応性化合物、必要に応じて、第一級アミンを含む反応性化合物、好ましくは2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールを含む溶解組成物を提供することは特に有利であり得る。よって、溶解組成物の好適な条件を選択することによって、特に好適な反応性化合物および反応性化合物の濃度を選択することによって、得られた核酸は、ある特定の核酸分析方法に好適であるように調整することができ、詳細は、本明細書の他の箇所に記載されている。
【0150】
一実施形態によれば、本方法は、核酸を分析するステップであって、次世代シーケンシング方法を実施することを含むステップをさらに含む。次世代シーケンシングは、ハイスループット形式での核酸の配列の決定を有利に可能にする。しかし、固定された生体試料由来の核酸は、次世代シーケンシングにおいて有害であるアーティファクトと関連していることが多かった。本発明の方法は、高品質の核酸を有利に提供し、実施例によって実証されているように、次世代シーケンシングに特に好適である。実施形態では、本開示に従って次世代シーケンシングを実施することは、i.固有分子識別子配列を核酸に結合させることであって、各核酸分子が異なる固有分子識別子配列を含む、結合させることと;ii.結合した固有分子識別子配列を含む核酸を増幅させることと;iii.核酸をシーケンシングすることとを含んでもよい。このような方法は、リード/固有分子識別子配列値が低い、特に20未満、例えば15未満、12未満、好ましくは10またはそれより少ない得られた核酸のシーケンシングを有利に可能にする。
【0151】
さらに好適な核酸分析方法は、増幅反応、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、等温増幅、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、逆転写増幅、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)、DNAまたはRNAシーケンシング、逆転写、LAMP(ループ媒介性等温増幅)、RPA(リコンビナーゼポリメラーゼ増幅)、tHDA(ヘリカーゼ依存性増幅)、NEAR(ニッキング酵素増幅反応)および他の種類の増幅のうちの1つまたは複数から選択されるか、またはそれらを含んでもよい。
【0152】
第3の態様による使用
本発明の第3の態様は、固定された生体試料を溶解させた後にタンパク質分解消化を実施するための、タンパク質分解酵素、好ましくはプロテイナーゼKなどのプロテアーゼの使用に関し、前記試料は、固定に起因して核酸分子とタンパク質分子の間に架橋を含み、前記事前の溶解は、好ましくは本発明の第1または第2の態様による方法におけるタンパク質分解酵素による消化および溶解された試料を加熱して架橋を逆転させることを含む。第1および第2の態様による方法の詳細は、それが言及される請求項1~22にも開示されている。
【0153】
好ましい実施形態によれば、タンパク質分解酵素は、プロテアーゼ、特にプロテイナーゼKなどのセリンプロテアーゼである。好適なタンパク質分解酵素および消化条件は、第1の態様の方法と併せて、特にそれが言及され、本開示がここでも適用するステップ(a)およびステップ(c)と併せて、上に開示されている。さらに、架橋を逆転させるための好適な加熱条件および実施形態は、第1の態様による方法と併せて、特にステップ(b)と併せて、上に記載されている。これは、ここでも適用する各開示に言及される。
【0154】
第4の態様による使用
第4の態様は、酵素処理を実施するための、グリコシラーゼ、好ましくはDNAグリコシラーゼ、より好ましくはウラシル-N-グリコシラーゼなどのウラシルDNAグリコシラーゼの使用に関し、酵素処理は、30分もしくはそれより短い時間、20分もしくはそれより短い時間、15分もしくはそれより短い時間または10分もしくはそれより短い時間で完了する。好ましくは、このような使用は、本発明の第1または第2の態様による方法の範囲内にあり、より好ましくはステップ(b)とステップ(c)の間にある。
【0155】
本明細書に開示されているように、このようなグリコシラーゼ処理により、生体試料の固定によってもたらされる(例えば、ホルマリン架橋によってもたらされる)アーティファクトの除去が可能になる。グリコシラーゼを使用する酵素処理を実施するのに好適な条件、例えば好適な温度およびインキュベーション時間、ならびに反応混合物内の好適な条件と同様に、このような酵素処理を実施するのに好適なグリコシラーゼは、第1の態様による方法と併せて本明細書に開示されている。これは各開示に言及される。このようなグリコシラーゼ処理を実施するのに好適な条件はまた、当技術分野で公知である。さらに、本開示は、このようなグリコシラーゼ(glycosylate)処理に適合する好適な溶解/消化組成物を開示し、それによって、グリコシラーゼ、例えばウラシル-N-グリコシラーゼのプロセス内使用が可能になり、固定剤によって誘導された架橋によってもたらされるアーティファクトを除去する。
【0156】
第5の態様による方法
本発明の第5の態様によれば、生体試料を処理するための方法であって、固体された生体試料が、固定に起因して核酸分子とタンパク質分子の間に架橋を含み、前記方法が、
【0157】
(a)固定された生体試料を溶解させるステップであって、溶解がタンパク質分解酵素による消化を含み、溶解させるステップは、溶解混合物を調製することを含み、溶解混合物が、(i)固定された生体試料、ならびに(ii)タンパク質分解酵素および好ましくは反応性化合物、より好ましくはTrisおよびスペルミジンから選択される反応性化合物を含む溶解組成物を含む、ステップと;
(b)溶解させた試料を加熱して架橋を逆転させるステップと;
(c)必要に応じて、タンパク質分解酵素を添加し、タンパク質分解消化を実施するステップと;
(d)溶解させた試料から核酸を精製するステップと;
(e)精製された核酸を分析するステップであって、分析が、500nt未満、例えば300nt以下、200nt以下、150nt以下または100nt以下のサイズを有する核酸分子を増幅させることを含む、ステップと
を含む、方法が提供される。
【0158】
ステップ(a)~(e)に関する詳細は、第1および第2の態様による方法と併せて既に開示されており、これは、ここでも適用する上記開示に言及される。上で開示されているように、必要に応じて、1回または複数回の追加の処理ステップが、ステップ(b)と(c)の間で実施されてもよく、これは、分析ステップ(e)のための核酸を調製するために有利であり得る。
【0159】
精製された核酸は、DNAまたはRNAであってもよい。RNAは好ましくは、ステップ(e)において増幅前にcDNAに逆転写される。核酸が、二本鎖DNA分子などの二本鎖分子である場合、好ましいのは、サイズ(長さ)に関する「nt」での上記表示が「bp」を指すことである。よって、二本鎖DNA分子が150ntのサイズを有する場合、前記二本鎖DNA分子は、150bpのサイズを有する。
【0160】
特に、サイズの小さい核酸は、第5の態様の方法によって精製および増幅することができる。第5の態様による方法は、PCRなどの増幅ベースの分析方法において、短いサイズを有する核酸分子を分析するのに特に好適である。実施例において実証されているように、第5の態様による方法を使用して精製された核酸のショートアンプリコンPCRによって、低いCt値がもたらされた。
【0161】
一実施形態によれば、反応性化合物(例えば、好ましくはTrisおよびスペルミジンから選択されるホルマリン捕捉剤)は、3~100mM、5~50mMまたは10~25mMの範囲内の濃度で、ステップ(a)において使用される溶解混合物および/または溶解組成物中に存在する。例えば、3~100mM、好ましくは5~50mM、より好ましくは10~20mMの、ステップ(a)において使用される溶解組成物/溶解混合物中の反応性化合物(Trisまたはスペルミジンなどのホルマリン捕捉剤であってもよい)の濃度がこのように低いことにより、ショートアンプリコン増幅反応を実施するのに特に好適であるサイズの核酸断片がもたらされる。先行技術では、断片化の程度が高いと、その後の増幅反応に不利であると考えられているため、これは予想外であった。しかしながら、実施例は、驚くべきことに、精製されたDNAの断片化が、ショートアンプリコンPCRを使用する場合に、下流のPCRの性能を、非常に大きな量で改善させることを示す。理論に拘束されることを望むものではないが、この効果は、核酸(DNAなど)が強力に断片化される場合に、潜在的には、固定された生体試料中に架橋が存在した点でこれらの切断が生じるため、核酸のより高いアクセス可能性に起因すると仮定される。このような架橋点は、PCRにとって阻害性であるため、第5の態様による方法において適用される溶解手順中にこれらの点を除去することにより、PCR反応の効率が改善される。
【0162】
溶解混合物は、特に、本明細書に開示される反応性化合物を含む。実施例は、第1の態様による方法と併せて開示されており、これは、ここでも適用する各開示に言及される。一実施形態では、反応性化合物は、第一級アミン基を含み、好ましくは2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールまたはその誘導体である。ステップ(a)の他の特徴は、第1の態様による方法と併せて上に開示されており、これはそれに言及される。
【0163】
ステップ(a)において使用される溶解組成物は、
(i)塩;および
(ii)界面活性剤
をさらに含んでもよい。
【0164】
ステップ(a)において使用される溶解組成物に好適な塩および界面活性剤ならびに好適な濃度は、第1の態様による方法のステップ(a)と併せて既に開示されており、これは、各開示に言及される。
【0165】
第5の態様による方法のステップ(a)において使用される溶解組成物および/または溶解混合物は、6.0~9.5、好ましくは7.0~8.0の範囲内のpHを有してもよい。
【0166】
方法のステップ(a)および(b)ならびに必要に応じてであるが好ましくは、ステップ(c)を実施することによって有利に放出される核酸は、ステップ(d)において精製される。ステップ(b)、(c)および(d)のさらなる詳細および実施形態は、特に、第1および第2の態様による方法と併せて開示されており、これは、ここでも適用する各開示に言及される。好ましくは、ステップ(c)は、第5の態様による方法において実施される。第1の態様による方法と併せて開示されているように、1回または複数回の追加の処理ステップ、例えばヌクレアーゼによる消化および/またはウラシル-N-グリコシラーゼなどのグリコシラーゼの使用を含む酵素処理ステップは、ステップ(b)とステップ(c)の間で実施されてもよい。詳細は、第1の態様による方法と併せて上に記載されており、これは、ここでも適用する各開示に言及される。
【0167】
第6の態様による方法
本発明の第6の態様によれば、生体試料を処理するための方法であって、固体された生体試料が、固定に起因して核酸分子とタンパク質分子の間に架橋を含み、前記方法が、
(a)固定された生体試料を溶解させるステップであって、溶解がタンパク質分解酵素による消化を含み、溶解させるステップは、溶解混合物を調製することを含み、溶解混合物が、(i)固定された生体試料、ならびに(ii)タンパク質分解酵素および好ましくは反応性化合物、より好ましくはTrisおよびスペルミジンから選択される反応性化合物を含む溶解組成物を含む、ステップと;
(b)溶解させた試料を加熱して架橋を逆転させるステップと;
(c)必要に応じて、タンパク質分解酵素を添加し、タンパク質分解消化を実施するステップと;
(d)溶解させた試料から核酸を精製するステップと;
(e)精製された核酸を分析するステップであって、分析が、少なくとも500ntのサイズおよび/または500nt未満のサイズを有する核酸分子を増幅させることを含む、ステップと
を含む、方法が提供される。
【0168】
ステップ(a)~(e)に関する詳細は、第1および第2の態様による方法と併せて既に開示されており、これは、ここでも適用する上記開示に言及される。上で開示されているように、必要に応じて、1回または複数回の追加の処理ステップが、ステップ(b)と(c)の間で実施されてもよく、これは、分析ステップ(e)のための核酸を調製するために有利であり得る。
【0169】
精製された核酸は、DNAまたはRNAであってもよい。RNAは好ましくは、ステップ(e)において増幅前にcDNAに逆転写される。核酸が、二本鎖DNA分子などの二本鎖分子である場合、好ましいのは、サイズ(長さ)に関する「nt」での上記表示が「bp」を指すことである。よって、二本鎖DNA分子が500ntのサイズを有する場合、前記二本鎖DNA分子は、500bpのサイズを有する。
【0170】
第6の態様による方法は、実施例によって実証されているように、PCRなどの増幅ベースの分析方法において、500nt未満などの短いサイズおよび/または少なくとも500ntのサイズを有する核酸を分析するのに特に好適である。特に、小さいサイズまたは大きいサイズを有する核酸は、第6の態様の方法を使用して得ることができ、かつ増幅させることができる。理論に拘束されないが、少なくとも10mM、特に少なくとも20mM、少なくとも40mM、少なくとも60mMまたは好ましくは少なくとも75mMの反応性化合物(例えば、Trisまたはスペルミジン)の濃度は、短いサイズおよび大きいサイズを有する核酸を単離する際に非常に有効であり、よって、短いサイズおよび大きいサイズを有するより多くの核酸および/またはより高品質の核酸が得られると考えられる。
【0171】
実施形態では、溶解混合物および/または溶解組成物は、10~1000mMの反応性化合物、特に20~500mM、50~300mM、75~250mMまたは好ましくは85~200mM、例えば約100~150mMの反応性化合物を含む。溶解混合物は、特に、本明細書に開示された反応性化合物、例えばTrisまたはスペルミジンを含む。好適な反応性化合物は、第1の態様による方法と併せて開示されており、これは、ここでも適用する各開示に言及される。反応性化合物は、第一級アミンを含んでもよく、好ましくは2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオールまたはその誘導体である。
【0172】
ステップ(a)において使用される溶解組成物は、
(i)塩;および
(ii)界面活性剤
をさらに含んでもよい。
【0173】
ステップ(a)において使用される溶解組成物に関して好適な塩および界面活性剤ならびに好適な濃度は、第1の態様による方法のステップ(a)と併せて既に開示されており、これは、各開示に言及される。
【0174】
これは、溶解混合物および/または溶解組成物において、6.0~9.5、例えば7.0~9.0または8.0~9.0のpHを与えることによってさらに支援され得る。
【0175】
方法のステップ(a)および(b)ならびに必要に応じてであるが好ましくは、ステップ(c)を実施することによって有利に放出される核酸は、ステップ(d)において精製される。ステップ(b)、(c)および(d)のさらなる詳細および実施形態は、特に、第1および第2の態様による方法と併せて本明細書に開示されており、これは、ここでも適用する各開示に言及される。好ましくは、ステップ(c)は、第6の態様による方法において実施される。第1の態様による方法と併せて開示されているように、1回または複数回の追加の処理ステップ、例えばヌクレアーゼによる消化および/またはウラシル-N-グリコシラーゼなどのグリコシラーゼの使用を含む酵素処理ステップは、ステップ(b)とステップ(c)の間で実施されてもよい。詳細は、第1の態様による方法と併せて上に記載されているが、これは、ここでも適用する各開示に言及される。
【0176】
ステップ(e)では、核酸は、核酸を増幅させることを含む方法によって分析される。このような増幅方法は、本明細書に開示されており、それに言及される。特に、核酸は、ポリメラーゼ酵素を使用して増幅させることができる。一実施形態によれば、PCR、特に短い核酸分子が増幅されるPCR(ショートアンプリコンPCRとも称される)および/または増幅された大きな核酸が増幅されるPCR(ラージアンプリコンPCRとも称される)を使用して、核酸を増幅させる。有利には、短い核酸分子および大きな核酸分子は、この方法を使用して増幅させることができる。溶解組成物/溶解混合物中の反応性化合物(例えば、Trisおよびスペルミジンから選択される)の濃度を適合させることによって、断片サイズを制御することができる。一実施形態によれば、ステップ(e)の分析は、少なくとも500nt、例えば少なくとも550nt、少なくとも600nt、少なくとも650ntまたは少なくとも700ntのサイズを有する核酸分子を増幅させることを含む。
【0177】
本発明は、本明細書に開示される例示的方法および材料によって限定されず、本明細書に記載のものに類似するかまたはそれと同等の任意の方法および材料を、本発明の実施形態の実践または試験において使用することができる。数値範囲は、範囲を規定する数を包含する。本明細書において与えられる見出しは、本発明の様々な態様または実施形態の限定ではなく、これにより、本明細書を全体として参照して読むことができる。
【0178】
対象の明細書および特許請求の範囲において使用される場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈が別段に明確に指示していなければ、複数の態様を含む。用語「含む(include)」、「有する(have)」、「含む(comprise)」およびそれらの変形は同義的に使用され、非限定的に解釈されるべきである。さらなる構成成分およびステップが存在してもよい。本明細書全体を通して、組成物が構成成分または材料を含むものとして記載されている場合、組成物はまた、実施形態では、別段に記載されていなければ、列挙された構成成分または材料の任意の組合せから本質的になるか、またはそれからなることがさらに企図される。「本開示」および「本発明」などへの言及は、本明細書において教示される単一または複数の態様などを含む。本明細書において教示される態様は、用語「発明」に包含される。
【0179】
本明細書に記載の好ましい実施形態を選択し、組み合わせることが好ましく、好ましい実施形態の各組合せから生じる特定の主題もまた本開示に属する。
【実施例
【0180】
以下の実施例は、例示のみを目的とし、いかなる形でも本発明の限定として解釈されるべきではない。これらは、固定された試料からのDNA抽出が、第1のプロテイナーゼ消化ステップおよび架橋除去ステップの後の追加のプロテイナーゼ消化ステップを実施することによって有利に改善され得ることを実証する。この2回目のプロテイナーゼ消化ステップは、抽出プロセスを改善し、高品質の純粋なDNAを提供する。DNAは、高収量、良好な断片サイズおよび下流のPCR増幅(ショートアンプリコンおよびラージアンプリコンPCRなど)に関してより良好な好適性で精製され得る。精製されたDNAは、特に低いリード/UMI(=固有分子識別子、固有分子インデックスとも称される)値を得ることができるため、次世代シーケンシング(NGS)への適用についても非常に有利である。
【0181】
さらに、実施例は、DNA断片のサイズが、溶解組成物の適合によって改変され得ることを示す。さらに、実施される場合、ウラシル-N-グリコシラーゼ(UNG)処理ステップに必要とされる処理時間は、先行技術の方法と比較して、有意に低減され得る。
【0182】
実施例全体を通して、DNAは、FFPE組織試料から抽出される。FFPE組織試料を脱パラフィン化した後に、試料を溶解させる。溶解組成物(試料+溶解溶液に相当する)中の試料物質は、プロテイナーゼK消化ステップ、それに続いて、加熱を適用する架橋除去ステップに供される。その後、溶解させた試料は、RNaseおよび/またはUNG処理などの酵素処理に供されてもよい。次いで、(2回目の)プロテイナーゼK消化ステップが実施され、DNAに依然として架橋したタンパク質およびペプチドを除去する。その後、例えばDNAを固相に結合させ、その後、洗浄サイクルを繰返し、結合したDNAを溶出させることによって、DNAを消化された試料から精製する。その結果、精製されたDNAは、さらなる使用および分析のための準備ができている。
【0183】
1.
(実施例1)
追加のプロテイナーゼ消化ステップを実施することによる改善
1.1.DNA収量、断片化の程度および下流のPCR性能への影響が改善される
(a)材料および方法
FFPE組織試料
本実施例では、前立腺、肺、腎臓、脾臓および乳がんを含む様々なヒトのFFPE組織試料を使用した。Leicaの回転式ミクロトームを使用して、FFPEブロックから10μmの切片を切り出し、調製ごとに2つまたは3つの10μmの切片を適用した。
【0184】
抽出プロトコール
以下のプロトコールに従って、FFPE組織からDNAを抽出した。
1.FFPE組織試料の調製
- 400μLの脱パラフィン化溶液(DPS)をFFPE組織試料に添加し、ボルテックスした。
- 試料を56℃で3分間インキュベートした。
【0185】
2.FFPE組織試料の溶解
- 溶解緩衝液などの溶解溶液を使用することによって、溶解を補助する。好ましくは、溶解溶液は、界面活性剤、塩および緩衝液を含み、このような溶解緩衝液をこの実施例において使用した。界面活性剤として、SDSなどの陰イオン性界面活性剤が使用されてもよい。塩は、アルカリ金属塩などの非緩衝性の塩であってもよい。NaClまたはKClなどの塩化物塩が使用されてもよい。溶解緩衝液のpHは、6.0~9.5、例えば7.0~9.0の範囲内にあってもよい。Trisが緩衝液として使用されてもよい。溶解溶液は、DNaseなどのヌクレアーゼを阻害するために、必要に応じて、EDTAなどのキレート剤を含んでもよい。実施形態では、溶解溶液は、少なくとも0.1%(w/v)の界面活性剤、少なくとも300mMまたは少なくとも500mMの塩および緩衝化剤を含む溶解緩衝液である。使用される溶解緩衝液は、0.1~0.5%(w/v)の界面活性剤(例えば、SDSなどの陰イオン性界面活性剤)、400~800mMの塩(ハロゲン化アルカリ金属、例えばKClまたはNaClなど)および緩衝化剤(例えば、Tris)を含んでもよい。このような溶解緩衝液は、当技術分野で公知である。この実施例では、市販の溶解緩衝液を使用した(FTB、QIAGEN)。この実施例では、溶解組成物を、溶解緩衝液と、プロテイナーゼK(20mg/mlのプロテイナーゼKを含む溶液中)と、水とを混合することによって調製した。一実施形態では、Trisを溶解組成物に添加した(「高Tris」と称される;Trisを添加しない溶解組成物を「低Tris」と称する)。本明細書において記載されたように、Trisは、ホルムアルデヒド捕捉剤として作用することができ、架橋の解消を支援し得る。
- 以下に規定した溶解組成物を調製し、ステップ1に従って処理したFFPE試料に添加した:
【表1】
- 試料を56℃で1時間インキュベートし、プロテイナーゼ消化(プロテイナーゼKを使用する)のためのサーモシェーカー中で振盪させた。
- 次いで、試料を振盪させずに90℃で1時間インキュベートして、架橋を逆転させた。このような加熱ステップはまた、プロテイナーゼを不活性化させる。
【0186】
3.ウラシル-N-グリコシラーゼ(UNG)による消化
- ライセートである水性相の上部から青色のDPS相を除去するか、または下部の透明の相を新しい管に移した。
- ウラシル-N-グリコシラーゼ(UNG)による消化のために、115μLの水および35μLのUNG(1U/μL)を使用して、試料をさらに希釈した。
- 次いで、試料を振盪させずに50℃で5分間インキュベートした。
【0187】
4.RNase Aによる消化
- 4μLのRNase Aを試料ごとに添加した。
- 試料を混合し、室温で2分間インキュベートした。
【0188】
5.追加の(2回目の)プロテイナーゼ消化ステップ
- 20μLのプロテイナーゼKを添加した。
- 試料を混合し、サーモシェーカー中で65℃、450rpmで15分間インキュベートした。
【0189】
次いで、DNAなどの核酸を消化させた試料から精製する。ここで、上記消化/前処理プロトコールによって、核酸は十分にアクセス可能となるため、任意の好適な精製方法を使用することができる。
【0190】
6.DNAの精製
- 250μLの緩衝液AL(QIAGEN)および96~100%エタノールをそれぞれ添加し、試料を混合した。
- ライセートをQIAamp(登録商標)MinEluteスピンカラムに移し、その後、遠心分離させ、フロースルーを廃棄した。
- 500μLの緩衝液AW1(QIAGEN)を添加し、その後、遠心分離させ、フロースルーを廃棄した。
- 500μLの緩衝液AW2(QIAGEN)を添加し、その後、遠心分離させ、フロースルーを廃棄した。
- 500μLの96~100%エタノールを添加し、その後、遠心分離させ、フロースルーを廃棄し、フルスピードで乾式スピンさせた。
- 30μLまたは50μLの溶出緩衝液ATE(QIAGEN)を膜に適用し、その後、遠心分離させた。抽出および精製したDNAは、得られたフロースルー中に存在した。
【0191】
対照
比較のために、追加のプロテイナーゼKによる消化ステップ(上記ステップ5を参照されたい)を省略した以外は、上記プロトコールを実施した。
【0192】
b)DNA収量の分析
この実験のセットでは、上に開示したプロトコールを使用する抽出物のDNA収量を、QIAxpertおよびQubitの機器を使用して決定した。いずれかの機器を使用して得られたDNA収量を図1A~1Eに示す(UV-Vis=QIAxpert;dsDNA(Qubit)=Qubit)。
【0193】
実施例1.1は、高温での架橋除去ステップ後の追加のプロテイナーゼ消化ステップを実施することにより、DNA収量が改善されることを実証する。さらに、より大きな平均サイズを有するDNA断片が得られ、これは、ラージアンプリコンPCR内の下流のPCRに好適なDNAを得るために特に有利である。
【0194】
2回目のプロテイナーゼ消化ステップは、追加のプロテイナーゼK消化ステップを有さない対照プロトコールと比較して、UV-Visおよび蛍光決定法(Qubit)で測定した場合により高い収量をもたらした(図1A~1Eを参照されたい)。より高いDNA収量は、すべての試験したFFPE組織試料および溶解溶液について得られた。一般に、当技術分野では、試料中のタンパク質消化が、従来のFFPE抽出方法(例えば、56℃で1時間のプロテイナーゼK)によって行われる場合、最初のプロテイナーゼ消化ステップ後には、本質的に完全であると考えられている。よって、熱によって補助される架橋除去ステップの後に2回目のプロテイナーゼ消化ステップを実施することによって、結果が著しく改善されることは非常に驚くべきことであった。理論に拘束されることを望むものではないが、固定された試料中に存在する架橋によって、核酸(DNAなど)との特に持続的なタンパク質の会合がもたらされる可能性があり、これが、1回目のプロテイナーゼ消化ステップ中にタンパク質を潜在的に保護する可能性があると仮定される。さらに、立体効果が、最初のプロテイナーゼ消化ステップ中に、タンパク質をプロテイナーゼにアクセス不能にする可能性もある。高温での(例えば、少なくとも85℃または少なくとも90℃での)架橋逆転ステップの後に、これらの会合が弱まるおよび/または試料が十分に変性し、残りのタンパク質がアクセス可能になり、2回目のプロテイナーゼ消化ステップ中に十分に除去される可能性がある。
【0195】
図1A~1Eは、いくつかのFFPE組織の種類に関して、試験した高Tris溶解組成物が、低Tris溶解組成物よりも高いDNA収量をもたらしたことをさらに示す(前立腺、肺;図1Aおよび1Bを参照されたい)。一方、腎臓組織では、低Tris溶解組成物は高Tris溶解組成物よりも高いDNA収量をもたらし(図1Cを参照されたい)、一方、脾臓および乳がんの組織では、差は観察されなかった(図1Dおよび1Eを参照されたい)。したがって、溶解組成物中のTris濃度を改変させることは、使用される組織の種類に応じて、DNA収量をさらに改善させるために有利に使用され得る。
【0196】
追加のプロテイナーゼK消化ステップは、DNA収量を増加させるのに有利であり、よって、様々なFFPE組織試料の種類からのDNAの抽出を改善させる。
【0197】
(c)抽出したDNAの断片化の程度の分析
この実験では、ゲル電気泳動を使用して、断片化の程度を分析した。試料物質として、ヒトの腎臓および乳がんのFFPE組織から、上で抽出したDNAを使用した。得られた結果は、図2に示されている。
【0198】
図2におけるゲル電気泳動は、追加のプロテイナーゼ消化ステップが、DNA断片の平均サイズの増加をもたらすことを示す(バンドはシフトしている;「65℃で15分の2.PK溶解 +」の試料を参照されたい)。この増加は、両方のFFPE組織の種類に関して、および両方の溶解溶液、すなわち高Trisおよび低Trisにおいて観察された。この結果は、驚くべきものであり、予想外であった。抽出したDNAの断片サイズの増加は、下流のPCR適用に関して有利であり得るため、熱によって補助される架橋除去ステップの後に追加のプロテイナーゼ消化を使用することにより、DNA抽出が改善する。
【0199】
(d)下流のPCR性能への影響
この実施例では、抽出したDNAをPCRによって分析して、PCR性能が、追加のプロテイナーゼKステップによるDNAサイズの増加によって影響を受けるかどうかを決定した。定量的リアルタイムPCRを実施し、Cq値を決定した。「Cq」値は、「Ct」値と交換可能に使用することができる。Cq値は、抽出したDNAの元の相対量に反比例する。66bpの断片を用いるショートアンプリコンPCRと500bpの断片を用いるラージアンプリコンPCRの両方を実施した。得られた結果は図3に示されている(濃陰影カラムは、反応混合物当たりの同量のDNAに対応し、薄陰影カラムは、反応混合物当たりの同体積の希釈された溶出液に対応する)。
【0200】
図3に示されているように、追加のプロテイナーゼK消化ステップを使用して抽出したDNAは、Cq値を全体的に低減させ、よって、PCR性能を改善させる。この改善は、両方の試験したFFPE組織の種類(ヒトの乳がんおよび腎臓組織)および両方の溶解溶液(高Trisおよび低Tris)について観察された。したがって、抽出したDNAの品質の改善は、特にラージアンプリコン(500bp)を用いて、より良好なPCR結果ももたらす。この結果は、脱架橋ステップの後に2回目のプロテイナーゼ消化を実施することによって、以前はアクセス不能であったより大量の長いDNA鎖が、PCR反応にアクセス可能になったことを示す。
【0201】
(e)さらなる結論
架橋除去ステップの後の追加のプロテイナーゼ消化ステップによって、様々なFFPE組織試料からのDNA抽出が増強される。特に、DNAは、より高い収量およびより大きな断片サイズ、ならびにショートアンプリコンおよびラージアンプリコンのためのPCR増幅に関してより高品質で抽出される。したがって、追加のプロテイナーゼ消化ステップは、固定された生体試料、例えばFFPE試料、さらには固定された液体試料からのDNA抽出にとって非常に有利である。示されているように、1回または複数回のさらなる酵素消化ステップは、脱架橋ステップと2回目のプロテイナーゼステップの間に実施されてもよい。
【0202】
1.2.次世代シーケンシング(NGS)性能が増強される
実施例1.2は、本開示による追加のプロテイナーゼ消化ステップを実施することによって、FFPE組織試料からのDNA抽出の改善を実証する。前述のように、プロテイナーゼKは、プロテイナーゼとして使用されてもよい。NGSのために実施例1.1の抽出したDNAを使用することによって、非常に高いNGS性能が測定された。特に、10を下回る低いリード/UMI値が、すべての試験した組織試料について測定された。
【0203】
(a)材料および方法
実施例1.1において記載された前立腺、肺、腎臓、および乳がんを含むヒトのFFPE組織試料から抽出したDNAを、NGS性能分析のために使用した。
【0204】
試料の調製およびシーケンシングワークフロー
抽出したDNAをシーケンシングライブラリーのための鋳型として使用した。QIAseq(商標)のTargeted DNA Panel Handbook (QIAGEN, 05/2017)に従い、Illumina機器のプロトコールに関するQIAseq(商標)のTargeted Panelを使用した。QIAGEN標的化DNA Panelとして、UMI技術を用いるHuman Lung Cancer Panelを使用した。UMI技術は、固有分子識別子(UMI)配列(固有分子インデックスとも称される)の、単一遺伝子特異的な、プライマーベースの標的化濃縮プロセスへの組込みに基づき、これにより、DNAポリメラーゼおよび増幅プロセスのバイアス/アーティファクトを克服する:
- 異なるUMIを有する配列リードは、異なる元の分子を表す。
- 同じUMIを有する配列リードは、1つの元の分子に由来するPCR複製の結果である。
【0205】
PCR増幅およびシーケンシングプロセス由来のエラーは、最終リード中にも存在し得、これらのエラーは、シーケンシング結果において偽陽性のバリアントをもたらす。これらのアーティファクトバリアントは、元のリードレベルでバリアントをピックアップする代わりに、固有のUMI内ですべてのリードにわたりバリアントをコールすることによって、大いに低減され得る。
【0206】
(b)NGSにおける性能
上で議論されるように、二本鎖DNAの各分子を増幅前にUMIバーコードでタグ付けする。これにより、PCRアンプリコンからNGSにおいて検出された真に固有の分子を識別することが可能になる。
【0207】
図4において、UMIごとに検出されたリードを、抽出したDNAに関してプロットする。10を超えるリード/UMI値は、同一の分子が10回より多く読み取られたことを示し、出発材料の過度の増幅/不十分な複雑性を示している。
【0208】
図4において示されているように、本開示による抽出方法は、10を下回る少ないリード/UMIが測定された場合、すべての試料について、非常に高いNGS性能を示す。これは、本開示の方法が、様々なFFPE試料の種類からのDNAの抽出に有利であることを実証する。さらに、追加/2回目のプロテイナーゼKステップは、特に前立腺、腎臓に関して、一部の場合には肺および乳がん組織においても、NGS性能を改善する(高Tris溶解組成物について、図4の「GR-高Tris」を参照されたい)。
【0209】
全体として、NGS性能は、本開示による精製方法を使用する場合、非常に高い。
【0210】
2.
(実施例2)
本開示の方法を使用するDNA抽出の先行技術の方法との比較
実施例2は、本開示による追加のプロテイナーゼ消化ステップを使用することによって、FFPE組織試料からのDNA抽出の改善をさらに実証する。実施例1.1と同様に、高いDNA収量が得られた。さらに、より大きな断片サイズおよびより良好なPCR性能が測定された。重要なことに、NGS性能も、先行技術の方法と比較して著しく増強された。
【0211】
(a)材料および方法
FFPE組織試料
ヒトの心房のFFPE組織を本実施例において使用した。Leicaの回転式ミクロトームを使用して、FFPEブロックから10μmの切片を切り出し、調製ごとに2つの10μmの切片を適用した。
【0212】
抽出プロトコール
本実施例では、実施例1.1の抽出プロトコールに従った。
【0213】
対照
実施例1.1と同様に、比較のための対照では、追加のプロテイナーゼK消化ステップ(上のステップ5を参照されたい)を省略した。さらに、1回目のプロテイナーゼKステップを56℃にて終夜実施し、追加のプロテイナーゼK消化ステップを省略することによって(「o/n 56℃」)、比較のために追加の対照を実施した。
【0214】
参照プロトコール
参照プロトコール(すなわち、先行技術の方法)として、Maxwell(登録商標) RSC DNA FFPE Kit Technical Manual(Promega、Revised 11/17)およびMaxwell(登録商標) RSC FFPE Plus DNA Kit Technical Manual (Promega、Revised 12/19)に従った。さらに、参照プロトコールとして、QIAGENの補足プロトコール「Purification of genomic DNA from FFPE tissue using the QIAamp(登録商標)DNA FFPE Tissue Kit and Deparaffinization Solution」を使用して、QIAamp(登録商標)DNA FFPE Tissue Handbook (QIAGEN、June 2012)に従った。
【0215】
b)DNA収量の分析
この実験のセットでは、抽出物のDNA収量を、QIAxpertおよびQubitの機器を使用して決定した。いずれかの機器を使用して得られたDNA収量を、ヒトの肺がん組織およびヒトの心房に関して、それぞれ図5Aおよび5Bに示す(UV-Vis=QIAxpert;dsDNA(Qubit)=Qubit)。
【0216】
架橋ステップ後の65℃での追加のプロテイナーゼK消化ステップにより、UV-Visおよび蛍光決定法(Qubit)で測定した場合に、追加のプロテイナーゼK消化ステップを用いない対照プロトコールと比較して、より高い収量がもたらされた(図5Aおよび5Bを参照されたい)。両方の試験したFFPE組織の種類および両方の溶解組成物(高Trisおよび低Tris)に関して、より高い収量が得られた。重要なことに、56℃にて終夜の対照試料(「o/n 56℃」を参照されたい)におけるように、1回目のプロテイナーゼKステップをより長く実施しても、より高い収量はもたらされなかった。実際に、脱架橋ステップ後に2回目のプロテイナーゼKステップを実施することによって、o/n 56℃の対照と比較して、より高い収量がもたらされ、このことによって重要なのはタンパク質の消化時間それ自体ではなく、2回目のプロテイナーゼ消化ステップが脱架橋ステップの後に実施されるという、本開示による方法において実施される特定のシーケンスのステップであることが実証される。
【0217】
図5Aおよび5Bは、低Tris溶解組成物によって、両方の試験した組織の種類に関してさらにより高いDNA収量がもたらされたことをさらに示す。したがって、これらの組織の種類に関して、低Tris溶解組成物(例えば、溶解組成物中のTrisの濃度が、50mM未満、30mM未満、25mM未満、必要に応じて1mM~20mMの範囲内である)が、収量をさらに増加させるために使用されてもよい。参照プロトコールよりも有意に高い収量が得られた。
【0218】
(c)抽出されたDNAの断片化の程度の分析
ゲル電気泳動を使用して、断片化の程度を分析した。試料物質として、ヒトの肺がんおよび心房のFFPE組織から、上で抽出したDNAを使用した。得られた結果は、それぞれ、図6Aおよび6Bに示される。
【0219】
図6Aおよび6Bにおけるゲル電気泳動は、追加のプロテイナーゼ消化ステップが、DNA断片の平均サイズの増加をもたらすことを示す(バンドはシフトしている;「65℃で15分の2.PK溶解 +」の試料を参照されたい)。この増加は、両方のFFPE組織の種類に関して、および使用した両方の溶解組成物において観察された。より高い収量に関する議論と同様に、この結果は、驚くべきものであり、予想外であった。参照プロトコールと比較して、本開示による2回目のプロテイナーゼKステップを実施することによって、全体的により大きな断片サイズが得られた。より大きな断片サイズは、下流のPCR性能にとって有利であり得る。
【0220】
(d)下流のPCR性能への影響
この実施例では、抽出したDNAをPCRによって分析して、PCR性能が、追加のプロテイナーゼKステップによるDNAサイズの増加によって影響を受けるかどうかを決定した。以前と同様に、定量的リアルタイムPCRを実施し、Cq値を決定した。66bpの断片を用いるショートアンプリコンPCRと500bpの断片を用いるラージアンプリコンPCRの両方を実施した。得られた結果をショートアンプリコンおよびラージアンプリコンに関して、それぞれ、図7Aおよび7Bに示す(濃陰影カラムは、反応混合物当たりの同量のDNAに対応し、薄陰影カラムは、反応混合物当たりの同体積の希釈された溶出液に対応する)。
【0221】
図7Aおよび7Bにおいて示されているように、追加のプロテイナーゼ消化ステップを使用して抽出したDNAは、全体的に、Cq値を低下させ、よって、特に500bpの断片を用いるラージアンプリコンPCRに関して、PCR性能を改善させる。追加/2回目のプロテイナーゼ消化ステップを使用する本開示による方法は、参照プロトコールと比較して、特に短いアンプリコンにおいて、全体的に低いCq値をもたらす。また、56℃で終夜のプロテイナーゼK消化ステップが行われる対照試料よりも、追加の/二回目のプロテイナーゼ消化ステップを使用する本開示による方法が全体的に性能に優れていた。この結果は、脱架橋後に追加のプロテイナーゼ消化を実施することによって、以前はアクセス不能であったより大量の長いDNA鎖が、PCR反応にアクセス可能になったことを示す。さらに、この結果は、より良好なPCR性能を達成するために重要であるのは、消化時間の総量ではなく、本開示による方法において実施されるステップのシーケンスであることを示す。
【0222】
(e)NGSにおける性能
この実施例では、NGS分析のために抽出したDNAの性能を調査した。追加のプロテイナーゼ消化ステップ(プロテイナーゼとしてプロテイナーゼKを使用する)を用いる/用いない、上記抽出プロトコール(使用した溶解組成物に関する実施例1.1.を参照されたい)を使用して、ヒトの心房のFFPE組織試料からDNAを抽出した。
【0223】
抽出したDNAをシーケンシングライブラリーのための鋳型として使用した。実施例1.2において記載した試料の調製およびシーケンシングワークフローに従い、リード/UMI値を上のように決定した。
【0224】
結果
二本鎖DNAの各分子に、増幅前に、固有分子識別子(UMI)のバーコードをタグ付けする。これにより、PCRアンプリコンからNGSにおいて検出された真に固有の分子を識別することが可能になる。図8において、UMIごとに検出されたリードを、抽出したDNAに関してプロットする。10を超えるリード/UMI値は、同一の分子が10回より多く読み取られたことを示し、出発材料の過度の増幅/不十分な複雑性を示している。
【0225】
図8に示されているように、本開示による抽出方法は、QIAamp(登録商標) FFPE DNAキット(「QA FFPE」)およびPromegaからのMaxwell RSC DNA FFPEキットまたはMaxwell RSC FFPE Plus DNAキットよりも優れた性能を示す。これらのキットはすべて、10をはるかに超えるUMI値を有する。本開示による方法によって抽出したDNAの値はすべて、10を下回る値である。追加のプロテイナーゼKインキュベーションステップは、さらに低いリード/UMI値をもたらした。
【0226】
全体的に、NGS性能は、本開示による抽出方法によって著しく改善され、これは、迅速に実施することができ、優れた結果をもたらす。
【0227】
(e)結論
この実施例は、1回目のプロテイナーゼ消化ステップおよび脱架橋ステップの後に追加のプロテイナーゼ消化ステップを実施することにより、DNAに基づいて示されているように、精製した核酸の品質が改善されることを実証する。追加のプロテイナーゼ消化ステップは、特に、収量および断片サイズを増加させ、PCR性能を改善し、かつ重要なことには、先行技術の方法と比較して、NGS性能を著しく増強させる。上で議論したように、これらの結果は、非常に驚くべきものであり、予想外である。さらに、追加/2回目のタンパク質消化ステップを含む本開示による方法を、56℃で終夜の1回目のプロテイナーゼK消化ステップと比較することによって、消化時間全体ではなく、本開示による方法において実施される特定のシーケンスのステップが、より優れた性能の原因であることを示した。
【0228】
3.
(実施例3)
希釈した溶解組成物を使用するDNA抽出の影響
実施例3は、溶解組成物が、FFPE組織試料に由来するDNA抽出物に影響を及ぼすことを実証する。溶解組成物の希釈によって、架橋除去ステップにおけるDNAの断片化の制御が可能になる。さらに、本実施例は、断片化を制御することによって、ショートアンプリコンPCRを使用する場合に、下流のPCRの性能を改善するより短いDNA断片を得ることができることを示す。
【0229】
(a)材料および方法
FFPE組織試料
DNA抽出プロトコールの枠内の溶解組成物の影響を分析するために、2つの異なるFFPE組織試料を使用した:いずれもラットに由来する心臓組織よび肺組織。Leicaの回転式ミクロトームを使用して、FFPEブロックから10μmの切片を切り出し、調製ごとに1つの10μmの切片を適用した。
【0230】
抽出プロトコール
実施例1.1に記載した抽出プロトコールを、以下の修正を加えて使用した:
- ステップ2.における溶解組成物を、25μLの溶解緩衝液(FTB、QIAGEN)、20μLのプロテイナーゼKおよび55μLの水を組み合わせることによって調製した(実施例1.1に関して上で使用した「低Tris」緩衝液に相当する)。
- ステップ3では、UNGを水で置換し、50℃で60分間インキュベーションを実施した。
- ステップ5を省略した(すなわち、2回目のプロテイナーゼK消化ステップなし)。
【0231】
参照プロトコール
参照プロトコールとして、QIAGENの補足プロトコール「Purification of genomic DNA from FFPE tissue using the QIAamp(登録商標)DNA FFPE Tissue Kit and Deparaffinization Solution」を使用して、QIAamp(登録商標)のDNA FFPE Tissue Handbook (QIAGEN、June 2012)に従った。溶解のために、180μLの緩衝液ATL(QIAGEN)を20μLのプロテイナーゼKと混合させた。
【0232】
(b)断片化の程度は、架橋除去ステップにおける溶解溶液の選択によって制御され得る
実験の第1のセットでは、FFPE組織試料から抽出したDNAをゲル電気泳動によって分析した(図9を参照されたい)。それによって、抽出したDNAのサイズ分布を可視化し、断片化の程度に関する結論を導き出すことができる。
【0233】
図9に示されているように、希釈した溶解組成物を用いる抽出方法を使用すると、DNAのより大きな断片化が観察された(「GR std」=希釈した溶解組成物;「QA std」=参照溶解組成物;L1~L3=図9において示されているDNAラダーを参照されたい)。さらなる2.5倍希釈後に、溶解および架橋除去のための希釈した溶解組成物(「GR std」を参照されたい)を使用して、ライセート内でのウラシル-N-グリコシラーゼの活性を可能にした。これにより、参照プロトコールと比較して、抽出したDNAのより小さい平均サイズがもたらされたことが見出された(「QA std」を参照されたい)。抽出したDNAのより小さい平均サイズを、両方のFFPE組織試料、すなわちラットの心臓およびラットの肺に関して得た。
【0234】
全体として、希釈した溶解組成物を用いる抽出方法の結果、DNAのより大きな断片化が観察された。したがって、溶解溶液中に存在する化合物の希釈によって、断片化の程度の制御が可能になる。これらの化合物は、特に、Trisを含む。
【0235】
(c)下流のPCRの性能は、抽出したDNAの断片化によって影響を受ける
実験のこのセットでは、PCR増幅へのDNA断片化の影響を分析した。PCRによって増幅される好適性に関して、抽出したDNAの品質を調査することが特定の目的であった。試料物質として、FFPE組織試料から上で抽出したDNAを使用した。以前と同様に、定量的リアルタイムPCRを実施し、Cq値を決定した。得られたCq値を、図10および11においてプロットする。
【0236】
一般に、DNAの分子量およびひいては、平均長が小さいほど(DNAがより断片化されているほど)、下流の分析の信頼性は低いと考えられる。図10において示されているように、ロングアンプリコン(727bp)を使用するPCRの性能は、希釈した溶解組成物を使用する抽出方法によって得た、より多く断片化されたDNAを使用する場合に、わずかに悪化した。これは、参照プロトコール(「標準」;Cq値が約23.2)と比較して、より高いCq値(「断片化」;約23.6)によって反映される。これは、DNAがより多く断片化される場合に、大きなPCR産物を増幅させるために必要とされる最小限の長さを有する利用可能な断片が少なくなるという事実に起因する。
【0237】
しかし、驚くべきことに、希釈した溶解組成物によって得られるより多く断片化されたDNAが、ショートアンプリコンPCR(78bp)を使用する場合に、下流のPCRの性能を、非常に顕著な量で改善した(図11を参照されたい)。参照プロトコール(「標準」)は約23のCq値を有するが、希釈した溶解組成物(「断片化」)から得られたDNA試料は、約21.5の低下したCq値を有する。これは予想外であった。理論に拘束されることを望むものではないが、この効果は、DNAがより多く断片化される場合に、DNAのより高いアクセス可能性に起因し、潜在的には、架橋が存在した点でこれらの切断が生じるためであると仮定される。このような架橋点はPCRに対して阻害性であるため、これらの点を除去することは、PCR反応の効率を改善させると考えられる。
【0238】
(d)さらなる結論
希釈した溶解組成物を用いる抽出方法を使用することにより、より高いDNA断片化をもたらし、よって、平均DNAサイズがより小さくなる。これは、特に、界面活性剤、塩および必要に応じてキレート剤などの、溶解を補助するために使用される化合物の濃度がより低いことに起因し得る。断片サイズがより小さいにもかかわらず、抽出したDNAは、ショートアンプリコンPCRを使用する場合に、下流のPCRにおいて改善された性能を実証した。この点で、より高い品質のDNA試料を得た。
【0239】
4.
(実施例4)
抽出したDNAおよびUNGのインキュベーションへの溶解溶液中の添加剤の影響
実施例4は、ある特定の化合物の溶解組成物への添加が、FFPE組織試料から抽出したDNAの断片化の程度を制御するために有利に使用され得ることを実証する。したがって、抽出プロトコールは、下流のPCRにおいて使用される短い断片または長い断片のいずれかに関して最適化するために、調整することができる。さらに、実施例4は、本開示の方法が、処理時間の低減を有利に可能にすることを実証する。特に、ウラシル-N-グリコシラーゼ(UNG)処理ステップは、60分からわずか5分までのインキュベーションにおいて低減される場合がある。
【0240】
FFPE組織試料
本実施例では、ラットの腎臓およびラットの肺に由来するFFPE組織試料を使用した。Leicaの回転式ミクロトームを使用して、FFPEブロックから10μmの切片を切り出し、調製ごとに2つの10μmの切片を適用した。
【0241】
抽出プロトコール
上の実施例1.1の抽出プロトコールに、ステップ5を用いずに(すなわち、2回目のプロテイナーゼK消化ステップなし)従った。FFPE組織試料の溶解のために、以下の溶解組成物を、溶解緩衝液(FTB、QIAGEN)と混合することによって調整した:
【表2】
【0242】
参照プロトコール
参照プロトコールとして、60分のUNG処理ステップを含むGeneRead(商標)のDNA FFPE Handbook (QIAGEN、March 2014)に従った。
【0243】
(a)断片化の程度は溶解組成物中の添加剤によって制御され得る
抽出したDNA試料のゲル電気泳動によって断片化を分析した。結果は、図12に示されている。
【0244】
図12におけるバンドシフトによって目に見えるように、Trisは、ラットの腎臓および肺のFFPE組織に関する断片化への最も強力な効果を有した(「GR-低Tris」と比較した「GR-高Tris」を参照されたい)。特に、Tris濃度が高いほど、DNA断片の平均サイズが増加し、一方、Tris濃度が低いと、平均サイズは低下した。さらに、スペルミジンの添加は、DNA断片のサイズに影響を与えた。低Tris溶解組成物へのスペルミジンの添加によって、低Tris溶解組成物(「GR std」を参照されたい)と比較して、断片サイズが増大した(「GR-低Tris+スペルミジン」を参照されたい)。図12に示されているように、断片化の程度は、ある特定の化合物(添加剤)の系への添加によって制御された。断片化の効果を示す化合物として、Trisおよびスペルミジンが挙げられる。DTT、グリシン、およびスペルミンは、同様の方法では本実施例において断片化に影響を与えなかった。Trisは、断片化に最も強力な効果を有した。
【0245】
(b)UNGのインキュベーション時間は、好適な溶解溶液を与えることによって低減され得る
UNG活性を、バイスルファイド(bisulfide)DNA試験を使用して試験した。バイスルファイドDNAでは、DNAのシトシン核酸塩基がウラシル核酸塩基と交換される。ウラシル核酸塩基は、UNGによって切断される。結果として、DNAは、部分的に分解され、回収可能なDNAの量を低減する。
【0246】
ワークフロー
バイスルファイドDNAを含有する溶解組成物を、2.5μLの水を830ng/μLの濃度を有する2.5μLのbis.gDNAで置換した以外は、上に開示された通りに調製した。次いで、混合物を115μLの水で希釈し、35μLのUNGを添加した。次いで、試料を50℃で5分間インキュベートした。その後、実施例1.1において説明したように、DNAを精製した(ポイント6.のDNAの精製を参照されたい)。
【0247】
対照
対照として、試料を、GeneRead(商標)DNA FFPEワークフローにおいて実施されるように、50℃で60分間インキュベートした。さらなる対照として、UNG消化を実施しなかった(「w/o UNG」)。
【0248】
結果
UNG活性試験の結果を図13に示す。特に、5ng(濃陰影のカラム)または10ng(薄陰影のカラム)の抽出したDNAを、プライマーのアニーリングを確実にするために、110bpのアンプリコンサイズおよびプライマー配列におけるウォブル塩基を使用して、定量的リアルタイムPCRによって分析した。以前と同様に、Ct値を決定した。UNGはバイスルファイドDNAを消化するため、回収されるDNAが少量であり、よってより高いCt値を得ることが望ましい。
【0249】
図13に示されているように、全体として、より高いTris濃度を有し、かつ追加のグリシンを含む試料、およびTris濃度が低く、かつ追加のDTTを含む試料を除いて、UNG消化に関して良好な結果が得られた。これらは、比較的に若干より低いCt値を有する。しかし、これらは、UNG消化を用いない対照よりも有意に高いCt値を依然として有する。重要なことに、溶解溶液試料は、60分間インキュベートした対照試料(「GR FFPE std」)と比較して、5分間インキュベートしただけであった。しかし、同等のCt値が測定され、同様のUNG活性が実証された。したがって、本開示による溶解組成物を与えることによって、UNG消化時間は、5分まで低減させるのに成功することができる。処理時間の有意な低減が達成される。
【0250】
(c)結論
上記のように、実施例3の希釈した低塩溶解組成物で開始し、必要に応じてTrisまたはスペルミジンなどの添加剤を添加することによって、抽出プロトコールは、下流のPCRにおいて使用される短い断片または長い断片のいずれかに関して最適化され得る。さらに、UNGの消化時間が活性を損失させずに60分から5分に低減されるため、本開示の溶解組成物を提供することによって処理時間が低減され得る。
【0251】
5.全体的な結論
実施例において実証されているように、脱架橋ステップの後に実施される追加のプロテイナーゼ消化によって、特にFFPE試料などの固定された生体試料からのDNA精製の性能が著しく増強される。結果は、1回目のプロテイナーゼ消化ステップおよび架橋除去ステップにもかかわらず、DNAなどの核酸が、下流のプロセス(例えば、PCR増幅またはNGS)を妨げるDNAのタンパク質架橋または同様のタンパク質に関連する修飾を依然として含有するようであることを示す。脱架橋後に追加のプロテイナーゼ消化ステップを実施することによって、これらが除去され、DNAの品質が改善され、下流の処理および分析の増強が可能になる。改善は、本開示の方法が先行技術の方法に対して著しい改善をもたらすことを実証する様々な参照プロトコールに関して検証された。さらに、延長された1回目のプロテイナーゼ消化(終夜)の性能を、脱架橋後に2回目のプロテイナーゼ消化ステップを使用する本開示の方法と比較することによって、全体としての消化時間ではなく、特定のシーケンスのステップが重要であることが示された。1回目のプロテイナーゼ消化ステップと、その後に、加熱ステップを実施して架橋を除去し、その後に、追加/2回目のプロテイナーゼ消化ステップを実施することによって、重要な改善が達成される。ステップのこのシーケンスによって、高品質の核酸(DNAなど)を得ることが可能になる一方、短い時間内でワークフローを完了することが可能になる。よって、本方法は非常に迅速であり、同時に高品質のDNAを得る際に非常に有効である。
【0252】
DNA収量およびアクセス可能性の改善は、改善されたNGS性能においても反映される。さらに、調整可能なサイズの改変を伴う本開示の方法は、すべてのバリアントにおいて良好に機能する。さらに、UNGのインキュベーション時間を60分から5分に低減することが可能であり、これは、処理時間が有意に低減され得ることを実証する。すべての場合に、本発明による方法は、伝統的なQIAamp(登録商標)FFPEキットを含む先行技術の方法と比較して利益を示す。本開示による方法は、比較すると、かなり迅速かつより簡便なワークフローであり、より良好なUMI値をさらに提供する。
【0253】
6.
(実施例5)
EZ1 Advanced XL機器を使用する様々なFFPE組織試料からのDNAの単離
結合/洗浄/溶出/ステップに関するEZ1 Advanced XL機器をそれぞれ使用して、約2mmの様々なFFPE組織からDNAを単離した。EZ1 Advanced XL機器は、核酸の自動精製のためのロボットワークステーションである。
【0254】
ロボット機器で試料を処理する前に、以下のように脱パラフィン化、溶解および架橋除去を行った:
>300μlの脱パラフィン化溶液(DPS)、ボルテックス、スピン
>56℃で3分
>室温に冷却
>マスターミックス:試料当たり、55μlのRNaseを含まない水、25μlのBuffer FTB(QIAGEN)および20μlのプロテイナーゼK
>試料のボルテックスおよびスピン
>56℃で1時間、1000rpm
>90℃で1時間
>上層を除去
>115μlのRnaseを含まない水
>35μlのRnaseを含まない水
>50℃で5分
>スピン
>2μlのRNaseA、RTで2分
【0255】
このプロトコールの性能を、結合の前に2回目のプロテイナーゼKステップを含む本発明による改変されたプロトコールと比較した。
>20μlのPK、ボルテックス、65℃、450rpmで15分
【0256】
ヒトの腎臓およびヒトの乳房の試料について、UV VISおよびQubit dsDNA BR測定によって、収量を決定した。図14は結果を示す。qPCRにおいて単離されたDNAの性能を、実際の溶出体積に対して調整した同量の体積を各反応に添加することによって決定した。66bpおよび500bpのヒト18S rRNA遺伝子を、いずれかのプロトコール選択肢を用いて抽出した後に得た溶出液から増幅させた。図15は結果を示す。
【0257】
約2mmのヒトの心臓の試料に関して、実験を繰り返した。UV VISおよびQubit dsDNA BR測定によって収量を再度決定し、図16は結果を示す。qPCRにおいて単離されたDNAの性能を、実際の溶出体積に対して調整した同量の体積を各反応に添加することによって再度決定した。66bpおよび500bpのヒト18S rRNA遺伝子を、いずれかのプロトコール選択肢を用いて抽出した後に得た溶出液から増幅させ、図17はその結果を示す。
【0258】
実施例5は、UV VISおよびQubit dsDNAの測定に基づき、ならびにqPCRによって、本発明の教示による2回目のタンパク質分解消化を含むことによって、核酸収量が改善され、それによって、qPCRにおける性能が改善することを実証する。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】