(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】沸騰水型原子炉(BWR)のコンピュータによるシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
G21C 17/02 20060101AFI20230518BHJP
G21C 17/04 20060101ALI20230518BHJP
G21C 17/032 20060101ALI20230518BHJP
G21C 17/00 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
G21C17/02 300
G21C17/04
G21C17/032
G21C17/00 020
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558452
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(85)【翻訳文提出日】2022-11-16
(86)【国際出願番号】 EP2021057715
(87)【国際公開番号】W WO2021209237
(87)【国際公開日】2021-10-21
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504446548
【氏名又は名称】ウェスティングハウス エレクトリック スウェーデン アーベー
(71)【出願人】
【識別番号】506110634
【氏名又は名称】イーティーエイチ・チューリッヒ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ル コッレ ジャン-マリー
(72)【発明者】
【氏名】プラッサー ホルスト-ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ロバース ルーカス
【テーマコード(参考)】
2G075
【Fターム(参考)】
2G075AA03
2G075BA03
2G075CA40
2G075DA07
2G075FB18
2G075GA14
(57)【要約】
沸騰水型原子炉(BWR)の燃料集合体機械設計内の燃料棒に沿った任意の場所における冷却水中の成分の局所濃度を予測するコンピュータ実装のシミュレーション方法であって、前記燃料棒にクラッド堆積が生じる可能性がある。前記方法は、沸騰水型原子炉(BWR)の燃料集合体機械設計内の燃料棒に沿った任意の場所で、所与の定常状態又は過渡境界条件に対して冷却水中の蒸気及び液体の局所質量フラックスを予測するサブチャンネルアプローチに基づく。前記サブチャンネルアプローチは蒸気相及び液相の質量、運動量及びエネルギー保存方程式の解に基づき、前記液相は、複数のフィールド変数によって表現され、具体的には、液滴、液基膜、擾乱波からなる3つのフィールドによって表現され、第四のフィールドとして蒸気相が加わる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子炉(BWR)の燃料集合体機械設計内の燃料棒に沿った任意の場所における冷却水中の成分の局所濃度を予測するコンピュータ実装のシミュレーション方法であって、前記燃料棒にクラッド堆積物が生じる可能性のあり、前記シミュレーション方法は、沸騰水型原子炉(BWR)の燃料集合体機械設計内の燃料棒に沿った任意の場所で、所与の定常状態又は過渡境界条件に対して冷却水中の蒸気及び液体の局所質量フラックスを予測するサブチャンネルアプローチに基づき、前記サブチャンネルアプローチは蒸気相及び液相の質量、運動量及びエネルギー保存方程式の解に基づき、前記液相は、複数のフィールド変数によって表され、具体的には、液滴、液基膜、擾乱波からなる3つのフィールドによって表現され、第四のフィールドとして蒸気相が加わり、前記シミュレーション方法は、前記4つのフィールドについて、個々の質量、運動量、及びエネルギー保存方程式を解くステップと、前記フィールドの間の質量移動を記述する必要な閉包関係を解くステップと、前記液相に溶解し前記フィールドのそれぞれによって個別に運ばれる成分についての質量保存方程式によって完成し、前記シミュレーション方法は、
・前記サブチャンネルへの入口冷却水流、温度、圧力、燃料棒出力分布、及び集合体出力など、燃料集合体の関心のある条件について定常条件又は過渡境界条件をシミュレーションするステップであって、前記冷却水流は所定の流速変化を有することもある、ステップと、
・波速度、波周波数、及び基膜厚を含む前記擾乱波及び基膜の所定のパラメータを解析するステップと、
・前記シミュレーションされた境界条件に基づいて、連続的に通過する擾乱波間の液基膜厚を解析して、局所瞬間不純物濃度を計算するステップであって、前記計算は前記燃料集合体の各燃料棒について行われるステップと、
を含み、
前記シミュレーション方法は、さらに、各燃料棒について、計算した前記局所瞬間不純物濃度をクラッド化合物析出限界と比較するステップであって、前記濃度が析出限界より高い時間の間、クラッドが発生したと見なす、ステップを含む、シミュレーション方法。
【請求項2】
擾乱波及び前記液基膜の所定のパラメータを解析する前記ステップは、攪乱波運動量バランス及び液基膜運動量バランスを解くステップと、例えば、圧力勾配及び慣性項からの結果への影響が限定的である運動量交換を無視することによって前記計算を単純化するステップと、を含む、請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
サブチャンネル擾乱波モデルを適用するステップをさらに含み、前記波と前記液基膜との相互作用に基づいて、関心のある運転条件の下で前記燃料集合体の前記燃料棒に沿って流れる各液基膜内の軸方向及び方位方向、すなわち燃料棒の外周に沿って、不純物濃度の詳細分布を計算するように構成され、前記運転条件は、圧力、流速、出力、燃料棒出力分布からなる、請求項1又は2に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記擾乱波モデルの後処理として使用される不純物濃度モデルを適用して、各燃料棒に対して、入口流速変動などの課された運転条件の間、擾乱波の間のゆっくりと動く液基膜内の前記局所瞬間不純物濃度を計算するように構成されるステップをさらに含む、請求項3に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
クラッドを低減するために、1つ又は多数の燃料棒の1つ又は多数の燃料ペレットの濃縮度を変化させたときのクラッド成分の局所濃度をシミュレーションするステップをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
沸騰水型原子炉(BWR)の燃料集合体機械設計内の燃料棒に沿った任意の場所で、所与の定常状態又は過渡境界条件に対して冷却水中の蒸気及び液体の局所質量フラックスを予測するサブチャンネルアプローチに基づくコンピュータ実装のシミュレーション方法であって、前記サブチャンネルアプローチは蒸気相及び液相の質量、運動量及びエネルギー保存方程式の解に基づき、前記液相は、複数のフィールド変数によって表され、具体的には、液滴、液基膜、擾乱波からなる3つのフィールドによって表現され、第四のフィールドとして蒸気相が加わり、前記シミュレーション方法は、前記4つのフィールドについて、個々の質量、運動量、及びエネルギー保存方程式を解くステップと、前記フィールドの間の質量移動を記述する必要な閉包関係を解くステップと、基膜のドライアウト、クラッド温度の上昇又は波からの液滴巻き込みである局所現象を記述するモデルによって完成し、前記シミュレーション方法は、さらに、
・波間のドライパッチの潜在的な出現及び再湿潤、関連する乾燥時間及びクラッド温度上昇に関してBWR運転に関連する想定シナリオなどの定常条件又は過渡境界条件をシミュレーションするステップと、
・波の速度及び周波数、並びに基膜厚を含む前記擾乱波及び液基膜の所定のパラメータを解析するステップと、
を含む、シミュレーション方法。
【請求項7】
所定のパラメータを解析するステップは、連続的に通過する擾乱波間の液基膜を解析して、前記シミュレーションされた定常運転又は過渡運転の間に擾乱波間の局所瞬間ドライパッチ形成及び関連するクラッド温度増加を計算するステップを含み、前記計算は燃料集合体の各燃料棒に対して行われる、請求項6に記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
所定のパラメータを解析するステップは、液体の擾乱波特性を解析して、前記シミュレーションされた定常運転又は過渡運転の間に、前記波からの液滴の巻き込みを計算するステップであり、前記計算が燃料集合体の各燃料棒に対して行われる、請求項6又は7に記載のシミュレーション方法。
【請求項9】
過渡境界条件をシミュレーションする場合、前記境界条件は、所定の時間的変動を有する入力パラメータを含む、請求項6~8のいずれか一項に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
核分裂性物質濃度、すなわち、濃縮度レベルを有する燃料ペレットを設けた燃料棒を含む燃料集合体を備える沸騰水型原子炉(BWR)であって、前記濃縮度レベルは、請求項1~9のいずれか一項に記載のシミュレーション方法により実行されるシミュレーションの結果に依存して決定される、沸騰水型原子炉(BWR)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、原子炉、具体的には、沸騰水型原子炉(BWR)のための方法に関し、冷却水中の擾乱波及び基膜を特徴付けることを意図した方法に関し、具体的には、特に、BWR燃料集合体の入口流量変動などの過渡現象によって誘発される場合、環状二相流体制において、ZnO及びZn2SiO4などの比較的高溶解度の化合物のクラッド堆積を燃料集合体で予測するために適応される一つの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、BWRの燃料集合体の上層部において、非常に高密度なクラッド堆積物が観察されている。クラッドとは、腐食及び摩耗生成物(錆粒子など)の俗称であり、放射線に曝されると、その一部が放射化する(活性化する)。クラッド堆積に繋がるメカニズムは、スポーリング、熱伝導率の低下、さらには燃料破損などの燃料性能の問題を引き起こす可能性があり、そのため、安全上の懸念となり得る。燃料集合体上層部の高密度なクラッド堆積物は、特定の燃料集合体位置で観察され、以前のサイクルや他の類似のプラントでは、この高密度なクラッドの経験はなかった。
【0003】
背景技術は、非特許文献1で説明されている。非特許文献1は、サブチャンネルアプローチに基づいて、BWRの燃料集合体の機械設計において使用されるコンピュータ実装のシミュレーション方法を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】SAXENA ABHISHEK ET AL:“A study of two-phase annular flow using unsteady numerical computations”,INTERNATIONAL JOURNAL OF MULTIPHASE FLOW, vol.126,2019年5月8日, XP086128222, ISSN:0301-9322, DOI: 10.1016/J.IJMULTIPHASEFLOW.2019.05.003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、BWR燃料集合体における環状二相流領域の不純物濃度及び関連するクラッド堆積閾値へのマージンをシミュレーションし、予測する方法を実現することである。
【0006】
より一般的な目的は、BWR燃料集合体の冷却水中の局所質量フラックス及び擾乱波と基膜の局所的特性をシミュレーションし、予測する方法を実現することである。
【0007】
さらなる目的は、シミュレーション方法の結果に依存して決定される濃縮度レベルを有する燃料ペレットを有する燃料棒を含むBWR燃料集合体を、クラッドを回避するために設計することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的は、独立請求項による本発明によって達成される。
【0009】
好ましい実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0010】
第一の態様によれば、本発明は、沸騰水型原子炉(BWR)の燃料集合体機械設計内の燃料棒に沿った任意の場所における冷却水中の成分の局所濃度を予測するコンピュータ実装のシミュレーション方法に関し、前記燃料棒にクラッド堆積物が生じる可能性がある。シミュレーション方法は、沸騰水型原子炉(BWR)の燃料集合体機械設計内の燃料棒に沿った任意の場所で、所与の定常状態又は過渡境界条件に対して冷却水中の蒸気及び液体の局所質量フラックスを予測するサブチャンネルアプローチに基づく。サブチャンネルアプローチは、蒸気相及び液相の質量、運動量及びエネルギー保存方程式の解に基づく。液相は、複数のフィールド変数によって表現され、具体的には、液滴、液基膜、擾乱波からなる3つのフィールドによって表現され、第四のフィールドとして蒸気相が加わる。方法は、前記4つのフィールドについて、個々の質量、運動量、及びエネルギー保存方程式を解くステップと、前記フィールドの間の質量移動を記述する必要な閉包関係を解くステップと、を含み、前記液相に溶解し前記フィールドのそれぞれによって個別に運ばれる成分についての質量保存方程式によって完成する。方法は、さらに、
・前記サブチャンネルへの入口冷却水流(冷却水流は所定の流速変化を有することもある)、温度、圧力、燃料棒出力分布、及び集合体出力など、燃料集合体の関心のある条件について定常条件又は過渡境界条件をシミュレーションするステップと、
・波の速度及び周波数、並びに基膜厚を含む前記擾乱波及び基膜の所定のパラメータを解析するステップと、
・連続的に通過する擾乱波間の液基膜を解析して、シミュレーションされた定常状態又は過渡運転の間の擾乱波の間の局所瞬間不純物濃度を計算するステップと、
を含む。
【0011】
計算は、燃料集合体の各燃料棒に対して行われ、各燃料棒について、方法は、さらに、計算した前記局所瞬間不純物濃度をクラッド化合物の析出限界と比較するステップを含み、前記濃度が前記析出限界よりも高い間、クラッド堆積が発生したと見なす。
【0012】
第二の態様によれば、本発明は、コンピュータ実装のシミュレーション方法に関する。方法は、沸騰水型原子炉(BWR)の燃料集合体機械設計内の燃料棒に沿った任意の場所で、所与の定常状態又は過渡境界条件に対して冷却水中の蒸気及び液体の局所質量フラックスを予測するサブチャンネルアプローチに基づく。サブチャンネルアプローチは、蒸気相及び液相の質量、運動量及びエネルギー保存方程式の解に基づく。液相は、複数のフィールド変数によって表現され、具体的には、液滴、液基膜、擾乱波からなる3つのフィールドによって表現され、第四のフィールドとして蒸気相が加わる。方法は、前記4つのフィールドについて、個々の質量、運動量、及びエネルギー保存方程式を解くステップと、前記フィールドの間の質量移動を記述する必要な閉包関係を解くステップと、を含み、基膜のドライアウト、クラッド温度の上昇又は波からの液滴巻き込みなどの局所現象を記述するモデルによって完成する。方法は、
・BWR運転に関連する想定シナリオなどの定常条件又は過渡境界条件をシミュレーションするステップと(過渡的なシミュレーションの場合、境界条件には、所定の時間的な変化を有する入力パラメータが含まれる。)、
・波の速度及び周波数、並びに基膜厚を含む前記擾乱波及び液基膜の所定のパラメータを解析するステップと、
を含む。
【0013】
一実施形態において、所定のパラメータを解析するステップは、連続する通過擾乱波間の液基膜を解析して、前記シミュレーションされた定常運転又は過渡運転中の擾乱波間の局所瞬間ドライパッチ形成及び関連するクラッド温度上昇を計算するステップを含む。計算は、燃料集合体の各燃料棒に対して行われる。
【0014】
別の実施形態において、所定のパラメータを解析するステップは、液体の擾乱波特性を解析して、前記シミュレーションされた定常運転又は過渡運転の間に、前記波からの液滴の巻き込みを計算するステップを含む。計算は、燃料集合体の各燃料棒に対して行われる。
【0015】
第三の態様によれば、本発明は、235U濃縮度レベルを有する燃料ペレットを設けた燃料棒を含む燃料集合体を備える沸騰水型原子炉(BWR)に関する。濃縮度レベルは、特に、所定の境界条件下でクラッド堆積が生じないように、上記で定義されたシミュレーション方法によって実行されたシミュレーションの結果に依存して決定される。
【0016】
本発明は、広範囲の根本原因解析に基づいており、クラッド堆積の問題は、燃料集合体入口冷却水流量の著しい変動に関連していることが立証された。また、この変動が燃料集合体内を通る熱水力伝播を引き起こし、その結果、特定の燃料集合体の位置で特定の析出限界を超える不純物濃度が高くなることも立証された。これらの新しい現象は、これまで直接的に対処されることがなかった。
【0017】
本発明の第一の態様による方法は、クラッド堆積の問題を解決するための戦略を提供する。
【0018】
したがって、この戦略の目的は、クラッド堆積のリスクを評価することである。現在のところ、特に燃料集合体入口流量が速く変動する条件下で、擾乱波の影響を考慮するために利用可能なツールは存在しない。上述の方法を適用することが提案されたのは、この方法が、根本原因解析と整合しており、核設計を変更することによって、例えば、個々の燃料棒の特定の位置で利用される燃料中の核分裂性物質の量(例えば、235U濃縮度)を変更することによって、クラッド堆積のリスクを低減することができるからである。クラッド堆積のリスクを抑制する手段には、各燃料集合体が生成する出力を制限する(例えば、新たな燃料集合体を多く装荷するなど、炉心装荷パターンを調整する)こと、総炉心出力を低減すること、又は燃料集合体の入口における炉水不純物濃度を下げる(例えば、亜鉛注入を少なくする)ことがある。しかしながら、235U濃縮度を調整することが、原子炉の運転及び燃費に与える影響が最小となるので、好ましいアプローチである。
【0019】
そこで、BWR燃料の公知の熱水力モデルに基づく新たな計算ツールを開発した。これらの公知のモデルは、4フィールドアプローチと潜在的な単純化仮定を含む新たな物理モデルで拡張されている。
【0020】
BWR燃料解析のための熱流動の計算ツールとしては、以下が周知である。
・集合体ごとに一次元を使用する原子炉物理コード(例:POLCA、Westinghouse社のBWR炉心設計及び安全解析用の最先端コード)。これらの炉心設計コードでは、個々の燃料棒の熱流動の違いは考慮されないため、グローバルなアプローチにより、ここでは適切なものではない。
・サブチャンネルレベルで一次元を使用するサブチャンネル解析コード(例:MEFISTO-T、Westinghouse社の過渡3フィールドサブチャンネル解析コード)。これらの熱水力学サブチャンネル解析コードは、局所的アプローチを適用しているので、ここでは適切である。
・原子炉冷却系で発生する安全関連現象を解析するツールとして、原子炉安全解析において使用が進んでいる数値流体力学コード(CFD)。CFDコードは、完全な(高解像度の)三次元を提供するが、BWR燃料アプリケーションのために限られた最先端技術なので、ここでは適切ではない。
【0021】
熱流動解析において、サブチャンネルという用語は、従来、燃料集合体の燃料棒の間の空間によって定義されている。多くの場合、隣接する3つ又は4つの燃料棒の間の空間がサブチャンネルを定義する。(入口冷却水流などの)境界条件は、このように定義されたサブチャンネルに適用される。また、サブチャンネル間の相互作用も考慮される。
【0022】
さらに、BWR燃料集合体の熱流動をコードでシミュレーションして、冷却水が炉心から熱を運び去ることを基本的な仮定とする。冷却水は、入口で過冷却され、出口では通常、環状の二相(蒸気と液体)流となる。
【0023】
標準的なサブチャンネル解析アプローチでは、一次元、二相、3フィールドのアプローチが適用される。この3フィールドアプローチは、蒸気、液滴、液膜を、全てのフィールドに対して個別の保存方程式を適用して解析するものであり、フィールド間の質量、運動量、エネルギーの交換を含む。燃料格子間の半径方向の相互作用をシミュレーションするために、サブチャンネル間の質量、運動量、及びエネルギーの交換も計算される。
【0024】
上記は、最先端のモデルを適用して計算することができ、これらのモデルは、公開された開示において十分に文書化されており、例えば、上述のWestinghouseコードMEFISTO-T、又は産業界及び学界からの他のいくつかのコード(例えばCOBRA-TF)において実装されている。
【0025】
本発明の第一の態様によれば、クラッド堆積問題に対処するための一連のモデルが定義され、これらのモデルは、上述の最先端のモデルをさらに発展させたものである。
【0026】
擾乱波モデルは、これによって開発され、サブチャンネル解析コードにおいて3フィールドモデルを4フィールドモデルに拡張することに基づいて実装され、過渡運転中を含む関心のある運転条件、例えば圧力、流量、出力、燃料棒出力分布の下で、燃料集合体の燃料棒に沿って流れる各液基膜内の不純物濃度の詳細分布を計算することができるようになる。
【0027】
また、局所瞬間不純物モデルをさらに開発して、第一のモデルに追加して、定常運転時及び過渡運転時の擾乱波間の液基膜内の局所瞬間不純物濃度、例えば、入口流量変動などを計算する。局所瞬間不純物濃度が所定のクラッド化合物析出限界値より高い間に、クラッド堆積が発生すると考えられる。
【0028】
上記2つのモデルは、根本原因解析と整合性のある物理現象に基づく。
【発明の効果】
【0029】
この新しいツールを用いて、任意の格子形状に対して(235U濃縮による)燃料棒出力を局所的に調整することにより、想定されるプラント運転条件下で環状二相流中のBWR燃料集合体における望ましくないクラッド堆積を回避できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】燃料棒に沿った断面蒸気/液体環状二相流の概略図である。
【
図2】本発明のいくつかの態様を示す燃料棒に沿った断面蒸気/液体環状二相流の概略図である。
【
図3】本発明による方法が適用される燃料集合体の概略透視図である。
【
図4】様々なサブチャンネルの表現を含む燃料アセンブリの概略断面図である。
【
図5】局所瞬間不純物濃度シミュレーションの結果を示すグラフを示す。
【
図6】局所瞬間不純物濃度シミュレーションの結果を示すグラフを示す。
【
図7】本発明の第一の態様による方法を示すフロー図である。
【
図8】本発明の第二の態様による方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
ここで、添付の図を参照しながら、コンピュータベースのシミュレーション方法について詳細に説明する。図を通じて、同様又は類似のアイテムには、同じ参照符号が付されている。さらに、アイテム及び図は、必ずしも縮尺通りではなく、代わりに本発明の原理を説明することに重点が置かれている。
【0032】
最初に、利用可能な計算ツール及びモデルの背景を説明する。
【0033】
BWR燃料集合体で、いわゆるドライアウトが発生する臨界出力までの二相流を予測するための3フィールドサブチャンネル解析コード(例えば、MEFISTO-T)による二相のモデリング及び検証は、以前から知られており、公的に利用でき、出願人によって開発され、適用されている。
【0034】
Westinghouse社は、力学的アプローチに基づいて、沸騰水型原子炉(BWR)燃料集合体の定常・過渡ドライアウト出力の高速で、ロバストで、実用的で信頼性の高い予測を実現することを主な目標として、MEFISTO-Tコードを開発してきた。この目標を達成するために、計算効率の良いシミュレーションスキームを使用する。このコードでは、クロスフロー情報を提供するために高速でロバストな二相(液体/蒸気)サブチャンネル解に依存しながら、環流領域内の全ての関連フィールド(液滴、蒸気、マルチフィルム)質量バランス方程式をサブチャンネルレベルで解決している。したがって、MEFISTO-Tコードは、標準的な3フィールドサブチャンネル解析アプローチと比較して、柔軟性を高め、計算時間を一桁以上短縮しながら、BWR燃料集合体内の多層膜流れの非常に詳細な解を提供することがでる。フィールド交差流、部分長ロッド、スペーサーグリッド、ポストドライアウト条件の数値処理を含む、オープンチャンネル(サブチャンネル)内の一次元フィールド流量分布の数値計算のためのモデルは、コードに含まれている。次に、MEFISTO-Tコードは、高速でロバストな二相サブチャンネル駆動コードとしてVIPRE-Wコードを用いて、BWR燃料集合体のドライアウト予測に適用される。集合体内の最小膜流量があらかじめ設定されたドライアウト基準に達するように、集合体出力を反復することにより、ドライアウト出力を数値的に予測する。予測されたドライアウト出力(流量、圧力、入口過冷却条件、出力分布の傾向を含む)と予測されたドライアウト位置(軸方向と半径方向の両方)を、利用可能なドライアウトデータベースを用いて実験結果と比較すると、優れた結果をもたらすことが分かった。
【0035】
ドライアウト予測に適用したMEFISTO-Tコードは、例えば、Adamsson, Carl; Le Corre, Jean-Marieによる「Modeling and validation of a mechanistic tool (MEFISTO) for the prediction of critical power in BWR fuel assemblies」(2011年発行「Nuclear Engineering and Design」、ISSN 0029-5493; Worldcat; CODEN NEDEAU; v.241(8); p.2843-2858)に記載されている。
【0036】
MEFISTO-Tコードは、サブチャンネルにおける液膜の輸送方程式を互いに切り離すことで、サブチャンネル液膜流動解析の簡略化されたアプローチに基づくものである。このアプローチにより、BWRの定常運転と現実的な過渡現象を高い軸分解能で高速かつロバストにシミュレーションすることができる。このコードは、BWR運転中の典型的な条件下で、流量と出力の現実的な変化と3つの異なる軸方向出力分布を含む、定常状態条件と過渡状態条件との両方の実験データに対して正常に検証されてきた。
【0037】
定常状態と過渡状態との両方でBWR燃料棒集合体のドライアウト出力を予測するために、半経験的なドライアウト相関が一般的に用いられている。これらの相関は力学的特徴に基づくことができるにもかかわらず、本質的に経験的であり、開発するためには広範な燃料固有の限界出力データベースを使用する必要がある。対照的に、MEFISTO-Tコードのようなサブチャンネル環状二相流モデリングに基づく力学的方法は、相関開発データベース以外の正確なドライアウト予測能力を有する可能性を秘めている。
【0038】
要約すると、MEFISTO-Tは、Westinghouse社で開発されたサブチャンネル解析コードであり、定常運転及び過渡運転の間に、各燃料棒上の膜流分布を予測することを主目的としている。このコードは、一次元3フィールドアプローチに基づいており、液膜、液滴、蒸気が各サブチャンネルで考慮されている。MEFISTO-Tは、簡略化した二相流モデル(VIPREW)を用いて、全てのサブチャンネルにおける流量とエンタルピーの時間依存分布を計算し、その後、環状流の発生からアセンブリ出口までの3フィールドアプローチを、全部又は一部のサブチャンネルに適用する。
【0039】
一般に、本発明によるシミュレーション方法は、3フィールドアプローチを4フィールドアプローチに拡張することからなり、4フィールドアプローチにおける各燃料棒上の基膜は、ゆっくりと動く液基膜の上で速く動く擾乱波に分割される。これは、
図1及び
図2に概略的に示されている。このシミュレーション方法は、前記燃料棒の間に定義されたサブチャンネル間の結合を含む過渡的3フィールド(蒸気、液滴、液膜)アプローチを用いたサブチャンネル力学的モデルに基づいている。この力学的モデルは、例えば、上述のMEFISTO-Tコードである。燃料集合体の断面図は、
図4には示されており、そこには、サブチャンネルのうちの一部が示されている。
【0040】
本発明は、沸騰水型原子炉(BWR)の任意の燃料集合体の機械設計内の燃料棒に沿った任意の場所にある冷却水中の成分の局所濃度を予測する第一のコンピュータ実装シミュレーション方法に関し、前記燃料棒上には、クラッド堆積物が生じる可能性がある。ここで、第一の方法を詳細に、特に
図7に示すフロー図を参照して説明する。
【0041】
この方法は、沸騰水型原子炉(BWR)の任意の燃料集合体の機械設計内の燃料棒に沿った任意の場所にある冷却水中の蒸気及び液体の局所質量フラックスを、所与の定常状態又は過渡境界条件について予測するサブチャンネルアプローチに基づく。サブチャンネル法は、蒸気相と液相の質量、運動量、エネルギー保存方程式の解に基づいており、液相は複数のフィールド変数で表され、具体的には、液滴、液基膜、擾乱波からなる3つのフィールドで表現され、蒸気相が第四のフィールドとして加わる。
【0042】
この方法は、4つのフィールドについて、個々の質量、運動量及びエネルギー保存方程式を解くステップと、前記フィールド間の質量移動を記述する必要な閉包関係を解くステップとを含み、液相に溶解し、前記フィールドのそれぞれによって個別に輸送される成分についての質量保存方程式によって完成する。
【0043】
この方法は、
・前記サブチャンネルへの入口冷却水流(冷却水流は所定の流速変化を有していてもよい)、温度、圧力、燃料棒出力分布、及び集合体出力など、燃料集合体の関心のある条件について定常条件又は過渡境界条件をシミュレーションするステップと、
・擾乱波、液基膜、液滴、蒸気の間の相互作用に基づき、波の速度及び周波数、基膜厚などを含む前記擾乱波及び基膜の所定のパラメータを解析するステップと、
・前記シミュレーションされた境界条件に基づいて、連続的に通過する擾乱波間の液基膜厚を解析して、局所瞬間不純物濃度を計算するステップと、
を含む。
【0044】
計算は、燃料集合体の各燃料棒に対して行われ、サブチャンネル間の熱水力結合を含む。各燃料棒について、方法は、さらに、計算した前記局所瞬間不純物濃度をクラッド化合物の析出限界と比較するステップを含み、前記濃度が前記析出限界よりも高い間、クラッドが発生したと見なす。
【0045】
図6は、通過する擾乱波間で不純物濃度がどのように変化するかを示すグラフを示す。
【0046】
図3は、燃料棒で構成される燃料集合体を示す。図中には、不純物濃度が高いことが確認された2つの燃料棒の部分が示されている。グレーの色の違いは、不純物濃度がどの程度あるかを示しており、黒が最も高い濃度を示す。図中には、いわゆる部分長燃料棒も示されている。
【0047】
一実施形態によれば、擾乱波の所定のパラメータを解析する方法ステップは、波及び基膜が別々に考慮される4フィールドアプローチ(擾乱波モデルとも呼ばれる)を用いて、考慮される全てのサブチャンネルにおいて質量及び運動量保存方程式を解くことを含む。このモデルは、クロスフロー計算のためのサブチャンネル解析コードに結合され、運動量バランスのいくつかの要素(圧力勾配や慣性項など)は、無視されることがある。
【0048】
別の実施形態によれば、本方法は、上述の4フィールド保存方程式と一致する不純物質量保存方程式を適用するステップを含む。波と液基膜との間の相互作用に基づいて、このモデルは、関心のある運転条件の下で燃料集合体の燃料棒に沿って流れる各液基膜内の軸方向及び方位方向(すなわち、所定の燃料棒の外周に沿って)の不純物濃度の詳細な分布を計算する。
【0049】
さらに別の実施形態によれば、本方法は、基膜不純物濃度モデルの後処理として使用される局所瞬間不純物濃度モデルを適用するステップと、各燃料棒に対して、公称運転中の擾乱波と所定の入口流速変動などの任意の過渡現象の間のゆっくりと動く液基膜内の前記局所瞬間不純物濃度を計算するよう構成されるステップとをさらに含む。
【0050】
別の実施形態によれば、本方法は、クラッド堆積物の形成を防止するために、計算した局所瞬間不純物濃度に応じて、1つ又は複数の燃料棒の1つ又は複数の燃料ペレットの核分裂性物質含有量(例えば、235U濃縮度)を変化させることによって、関心のある運転条件をシミュレーションするステップをさらに含む。
【0051】
本発明は、また第二のコンピュータ実装シミュレーション方法に関し、この方法は、
図8に示すフロー図によって概略的に示されている。
【0052】
第二のシミュレーション方法は、所与の定常状態又は過渡境界条件に対して沸騰水型原子炉(BWR)の任意の燃料集合体の機械設計内の燃料棒に沿って、どこでも冷却水中の蒸気及び液体の局所質量フラックスを予測するサブチャンネルアプローチに基づく。サブチャンネルアプローチは、蒸気相と液相の質量、運動量、エネルギー保存方程式の解に基づいており、液相は、複数のフィールド変数によって、特に、液滴、液基膜、及び擾乱波からなる3つのフィールドで表現され、蒸気相が第四のフィールドとして加わる。
【0053】
この方法は、前記4つのフィールドについて、個々の質量、運動量及びエネルギー保存方程式を解くステップと、前記フィールド間の質量移動を記述する必要な閉包関係を解くステップとを含み、局所現象を記述するモデルによって完成する。本方法は、さらに、
・BWR運転に関連する想定シナリオなどの定常条件又は過渡境界条件をシミュレーションするステップと、
・波の速度及び周波数、並びに基膜厚を含む前記擾乱波及び液基膜の所定のパラメータを解析するステップと、
を含む。
【0054】
一実施形態において、所定のパラメータを解析する方法ステップは、連続する通過擾乱波間の液基膜を解析して、燃料集合体の各燃料棒に対して、前記シミュレーションされた定常運転又は過渡運転中の擾乱波間の局所瞬間ドライパッチ形成及び関連するクラッド温度上昇を計算するステップを含む。
【0055】
別の実施形態では、所定のパラメータを解析する方法ステップは、液体擾乱波特性を解析して、燃料集合体の各燃料棒に対して、前記シミュレーションされた定常運転又は過渡運転中の波からの液滴巻き込みを計算するステップを含む。
【0056】
さらに別の実施形態によれば、過渡境界条件をシミュレーションする場合、境界条件は、所定の時間的変動を有する入力パラメータを含む。
【0057】
好ましくは、局所現象は、基膜のドライアウト、クラッド温度の上昇、及び/又は波からの液滴の巻き込みである。
【0058】
したがって、第二のシミュレーション方法は、ドライパッチの潜在的な出現及び再湿潤(波間)、関連する乾燥時間及びクラッド温度上昇に関して、BWR運転に関連する任意の定常、過渡及び想定シナリオに適用することができる。ドライパッチの出現は、蒸気及び液滴フィールドとの交換項を含む、連続する2つの擾乱波の間の液基膜の局所瞬間的な考察から導き出される。さらに、第二の方法は、液膜から巻き込まれる液滴の量を計算するために、さらに拡張することができる。液滴巻き込みは、波の特性と密接に関係しており、4フィールドアプローチから導かれる波の幾何学的寸法、質量及び運動量の考察から計算することができる。
【0059】
また、本発明は、235U濃縮度レベルを有する燃料ペレットを設けた燃料棒を含む燃料集合体を備える沸騰水型原子炉(BWR)に関する。濃縮度レベルは、上述したシミュレーション方法によって実行されるシミュレーションの結果に依存して決定される。
【0060】
例えば、シミュレーション方法を適用して、コーナーに隣接する燃料棒のクラッド堆積に対する感受性を、燃料集合体内の他の全ての燃料棒と同様にするために必要な濃縮度レベルを決定することができる。
【0061】
本発明を一般的に適用することにより、既存の設計基準と同様の方法で、クラッド成分の局所濃縮を含む235U最適化が、原子力設計プロセスにおいて達成さすることができる。
【0062】
上述のように、本発明は、新たな高度な特徴に基づき、2つの新規に開発されたモデル、擾乱波モデルと不純物濃度モデルとによって実施される。
【0063】
擾乱波モデルは、一次元、二相、4フィールドアプローチを適用している。一般的な3フィールドアプローチのフィールドは、蒸気、液滴、及び液膜から構成される。4フィールドアプローチでは、液膜は、さらに液体擾乱波と液基膜とに分けられる。つまり、4つのフィールドは、蒸気、液滴、液擾波、液基膜である。これを
図1に概略的に示す。擾乱波と基膜との間には質量、運動量、及びエネルギーの交換があるので、新しい構成モデルとフィールド交換項が必要である。
【0064】
不純物濃度モデルは、考慮された全てのフィールドにおいて、全てのフィールドに対する不純物保存式を追加適用して計算する。これは、サブチャンネルコードで既に利用されている質量保存式と同様であるが、フィールド間の交換項が異なる(蒸気フィールドには不純物が輸送されないため)。
【0065】
ここで、これらの新しく開発されたモデルについて、より詳細に説明する。
【0066】
擾乱波モデルは、以下の仮定に基づいており、
図2に示されている。
【0067】
4つのフィールドは、非常に速く動く蒸気、液滴、コヒーレントになる傾向があり膜質量の大部分を輸送する速く動く波、非常に薄く液膜質量輸送にあまり寄与しない遅く動く液基膜から構成される。
【0068】
過渡的なフィールドの保存方程式を解くが、以下:
【数1】
は、3フィールドアプローチにおける液膜の運動量バランス方程式の一例である。
【0069】
方程式の左辺は慣性項を表し、方程式の右辺は(順に)液滴の堆積、巻き込み、蒸発、及びクロスフローによって運ばれる運動量、圧力勾配、重力、(蒸気と壁からの)界面力を表す。
【0070】
新しい4フィールド定式化においても同様のアプローチをとり、様々なパラメータが示されている
図2を参照して、波の運動量保存と基膜の運動量保存を表す方程式を確立することができる。波動運動量保存は、以下:
【数2】
のように書かれる。
【0071】
実際には、正当な理由がある限り、いくつかの簡略化を行うことができる。例えば、質量交換、圧力勾配、慣性項による蒸気/液滴/波/基膜の運動量移動を無視できる場合、以下:
【数3】
が得られる。
【0072】
以下は、上記の方程式のパラメータが何を表しているかを示すリストである。
W:質量流量
w:クロスフロー時の質量流量
u:速度
D:液滴の堆積質量フラックス(膜への)
E:液滴の巻き込み質量フラックス(膜からの)
Γ:蒸発質量フラックス(膜からの)
Ψ:波/基膜質量フラックス
Π:壁面外周
p:圧力
ρ:密度
h:厚さ
τ:界面力(単位面積あたり)
t:時間
z:軸方向の高さ
下付き文字:
w:波
f:膜
d:液滴
l:液体
v:蒸気
b:基膜
【0073】
図2には、前式で示された単純なケースにおいて、結果として波にかかる力を矢印で概略的に示している。重力、蒸気抗力、及び波から基膜への運動量伝達(「摩擦」)によって、力のバランスが達成される。
F
Gravity+F
Drag+F
Friction=0
これは、波速度に関して解いたものである。
【0074】
方程式系を完成させるためには、例えば、フィールド間の界面力、特に、波抗力及び波から基膜への力のための構成モデルが必要である。これらの構成モードは、物理的考察又は経験的相(適切な実験データベースが利用可能な場合)に基づくことができる。
【0075】
また、平均的な波と基膜の幾何学的特性を局所的に十分に表現するための追加入力も必要である。方法によって選択肢が異なることもあるが、これらの入力には、通常、波の振幅(hw)、幅(lw)、及び液基膜厚(hb)が含まれる。これらは、物理的考察及び/又は較正済経験的相関(適切な実験データベースが利用可能な場合)により得ることもできる。
【0076】
方程式は、次に、波の質量流量及び波速度について解く。波の周波数は、波の質量と運動量保存方程式との整合性から決定される
【0077】
以下は、較正済経験的相関の4つの例を示す。より多くの関連データが利用可能になれば、異なる相関が開発され得る。これらは、関連するBWR炉心条件で一般に入手可能な実験データベースからのデータを用いて決定されたものである。相関は、特に4フィールドモデルに対して行われた回帰解析によって導き出された。回帰解析とは、2つ以上の変数間の関係を調べることができる強力な統計手法である。回帰解析には多くの種類があるが、その核心は、1つ以上の独立変数が従属変数に及ぼす影響を調べることにある。
平衡基膜厚:
【数4】
波の振幅:
【数5】
波の幅:
【数6】
波抗力係数:
【数7】
【0078】
以下は、上記の方程式のパラメータが何を表しているかを示すリストである。
hb:基膜厚
hw:波の振幅
lw:波(軸)幅
Cw:波抗力係数
dH:等価水力直径(4A/P)
dA:等価円形面積径(sqrt(4A/π))
Rev:蒸気レイノルズ数(ρv*uv*dA/μv)
Revw:波速度に対する蒸気レイノルズ数(ρv*(uv-uw)*dA/μv)
Ref:膜レイノルズ数(4*Mf/Π/μf)
Rew:波レイノルズ数(4*Mw/Π/μf)
【0079】
レイノルズ数(Re)は、流体力学において重要な無次元量であり、通常、様々な流体の流れの状況における流れパターンの予測を支援するために使用される。レイノルズ数が低いと、流れは層流(シート状)によって支配される傾向があり、レイノルズ数が高いと、流体の速度と方向の違いから乱流が発生する。
【0080】
較正済相関は平衡状態(熱的、機械的)のデータから導出されたために、モデルの緩和が適用され、波の幾何学的特性がある状態から他の状態にスムーズに移行できるようになる。この緩和は、波が基膜と質量を交換できる速度と、波の特性が変化できる速度を特徴付けるもので、実験観察と一致している。
【0081】
このモデルはMEFISTO-Tに実装され、波と基膜の幾何学的特性の相関はRISOデータベースに対して較正されている。これは、Fukano過渡現象のような単純な流れの過渡現象に対して試験されている。
【0082】
RISOデータベースは、1978年にデンマークのRiso国立研究所の原子炉技術部によって公開された高圧蒸気/水データベースで、Wurtz, J.(1978年)による「An experimental and theoretical investigation of annular steam-water flow in tubes and annuli at 30 to 90 bar」(デンマーク、Forskningscenter Risoe. Risoe-R; No.372)である。
【0083】
測定結果は、膜の流量、圧力勾配、膜の厚さ、波の周波数と速度、及び1つの環状形状と2つの管状形状におけるバーンアウト(ドライアウト)熱フラックスについて示された。250以上の実験が、30~90barの蒸気と水を用いて、断熱と放熱の両条件で行われた。
【0084】
Fukanoによって行われた過渡的な実験結果は、T.Fukano, S.Mori, T.Nakagawa(2003年)による「Fluctuation characteristics of heating surface temperature near an obstacle in transient boiling two-phase flow in a vertical annular channel」(Nuclear Engineering and Design 219(2003)47-60)から利用可能である。
【0085】
加熱された環内でのこれらの低圧蒸気水試験では、入力電力、入口エンタルピー、入口流量の高速変動が実行され、試験区間出口付近で擾乱波の動的挙動を目視で観察した。擾乱波間の基膜の完全なドライアウトに相当する大きな壁温度変化を伴う特定の過渡現象下で、擾乱波の長い抑制(遅延)が観察された。
【0086】
ここで、不純物濃度モデルについて、全てのフィールドで不純物質量保存の概念を用いて説明する。蒸気は、蒸発プロセスで生成され、不純物を輸送しないものと見なす。
【0087】
不純物濃度計算の例として、3フィールドアプローチに適用可能なものを示す。
膜:
【数8】
液滴:
【数9】
蒸気:不純物は考慮しない。
【0088】
上記の式中、Cは不純物濃度、上付き文字CFはサブチャンネル間のクロスフロー、下付き文字f及びdは、それぞれ膜及び液滴を表す。
【0089】
同じ概念は、4フィールドアプローチにも適用され、不純物濃度は、考慮されたフィールド間の物質交換を含む質量保存と矛盾なく記載される。
【0090】
第二のステップで、波と波の間の基膜の局所瞬間的濃度を、4フィールドアプローチからの入力パラメータ(Δt,δ
0,C
0)を用いて計算する。
図5及び
図6に、基膜厚及び基膜濃度をそれぞれ示す。
【0091】
図5は、擾乱波間の特定位置における基膜厚の経時的変化を示している。t=0(波の直後)で、基膜厚はその最大値δ
0であり、t=Δt(波の周期に相当)で、基膜厚はその最小値δ
Minとなる。基膜厚の変化を規定する線は、主に蒸発プロセスによって支配される。
δ:瞬間的な基膜厚
Δt:波の周期
下付き文字: 0:初期値、LIM:不純物析出の限界値
【0092】
図6は、基膜濃度の経時的変化を示している。t=0で、濃度はその最小濃度C
0であり、t=Δtで、その仮想最大濃度C
Max(析出を無視した場合)となり、主に基膜の薄膜化によって支配される。濃度限界値C
Limは、クラッド堆積が始まる値に決定される。
【0093】
クラッド堆積限界値CLimを決定するために、プラント固有の情報が必要である。一例によれば、CInlet=15.6ppb、及びCLIM=10*CInletである。
【0094】
溶解度限界値は、燃料棒冷却膜中の局所濃度をクラッド堆積質量フラックスに変換するための閾値として使用される。これにより、クラッド堆積を単純な閾値現象としてモデル化することができる。サブチャンネル解析手法を用いることで、この新しいモデリング機能は、モデリング仮定に著しく依存することなく、異なる燃料棒の軸方向及び方位方向の局所膜濃度及びクラッド堆積質量フラックスの相対レベルを正確に予測することができる。
【0095】
このモデルは、運転中のBWRの検査データに対して検証された。
【0096】
クラッド堆積のマージンに影響を与える主要なパラメータは、
局所熱フラックス、局所波周波数、局所基膜厚、及び成分のバルク濃度である。最初の3つのパラメータは、核設計の最適化、すなわち、クラッドの影響を最も受けやすいと予測される燃料棒の軸方向の濃縮度変化を最適化することによって制御することができる。
【0097】
本発明は、上述した好ましい実施形態に限定されるものではない。様々な代替物、変更物、等価物を用いることができる。したがって、上記の実施形態は、本発明の範囲を限定するものとして捉えられるべきではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【国際調査報告】