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特表2023-521592サイトカインストーム症候群の治療のためのペプチド
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  • 特表-サイトカインストーム症候群の治療のためのペプチド 図1A
  • 特表-サイトカインストーム症候群の治療のためのペプチド 図1B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】サイトカインストーム症候群の治療のためのペプチド
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20230518BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 31/7004 20060101ALI20230518BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230518BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230518BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P1/16
A61P7/02
A61P9/00
A61P11/00
A61P25/00
A61P37/02
A61P29/00
A61P43/00 105
A61K31/7004
A61P43/00 111
C07K14/47 ZNA
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559505
(86)(22)【出願日】2021-04-12
(85)【翻訳文提出日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 CU2021050001
(87)【国際公開番号】W WO2021209080
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】CU-2020-0026
(32)【優先日】2020-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】304012895
【氏名又は名称】セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドミンゲス ホルタ、マリア デル カルメン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェネガス ロドリゲス、ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス ドナート、ギリアン
(72)【発明者】
【氏名】ギレン ニエト、ゲラルド、エンリケ
(72)【発明者】
【氏名】エルナンデス セデーニョ、マベル
(72)【発明者】
【氏名】オルテガ ゴンザレス、リリア、マリア
(72)【発明者】
【氏名】ノダルセ クニ、ウーゴ
(72)【発明者】
【氏名】ロペス アバド、クルツ マティルデ
(72)【発明者】
【氏名】ガレイ ペレス、ヒルダ、エリサ
(72)【発明者】
【氏名】ウビエタ ゴメス、ライムンド
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA23
4C084CA62
4C084MA02
4C084MA17
4C084MA65
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA36
4C084ZA54
4C084ZA59
4C084ZA75
4C084ZB05
4C084ZB11
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA65
4C086NA05
4C086ZA02
4C086ZA36
4C086ZA54
4C086ZA59
4C086ZA75
4C086ZB05
4C086ZB11
4C086ZC75
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA10
(57)【要約】
配列番号1として同定されたAPLペプチドを含む医薬組成物であって、「サイトカインストーム」として定義される状態に達するまでその濃度が増加するサイトカイン又はインターロイキン及び炎症性分子の増加によって特徴付けられる過剰炎症状態の阻害剤としての医薬組成物が開示される。前記組成物中のスクロース濃度は、ペプチドの生物学的活性を増加させ、その静脈内適用を容易にする。医薬組成物中の前記ペプチドは、Covid‐19、デング熱、マクロファージ活性化症候群、呼吸器敗血症及びキメラ抗原受容体T細胞療法に伴う疾患、急性呼吸窮迫症候群などの過剰炎症に関連する疾患を治療するための薬剤の製造に有用である。また、治療上有効な量の組成物を投与することによる、前記疾患の治療方法が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1として同定されたペプチド及び薬学的に許容される賦形剤を含むサイトカインストーム症候群の治療及び予防のための医薬組成物。
【請求項2】
配列番号1として同定されたペプチドを1.8mg/mL~3.6mg/mLの間の濃度範囲で含み、スクロースを20~30mg/mLの間の濃度で含むことを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
静脈内経路により適用されることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
サイトカインストーム症候群の治療及び予防のための医薬の製造のための、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物の使用。
【請求項5】
サイトカインストーム症候群が、急性呼吸窮迫症候群、マクロファージ活性化症候群、成人又は新生児の呼吸器敗血症、全身性炎症反応症候群、静脈又は動脈血栓塞栓症、フェリチンレベルの急激な上昇、重症心膜炎、肝性脳症を引き起こす肝トランスアミナーゼの急激な上昇、又はキメラ抗原受容体T細胞療法に伴う疾患として発現する、請求項4記載の使用。
【請求項6】
組成物が静脈内経路により投与される、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
サイトカインストーム症候群が感染症によって引き起こされる、請求項4に記載の使用。
【請求項8】
感染症がCovid‐19又はデング熱である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物の薬学的有効量の投与を含むサイトカインストーム症候群の治療又は予防のための方法。
【請求項10】
サイトカインストーム症候群が、急性呼吸窮迫症候群、マクロファージ活性化症候群、成人又は新生児の呼吸器敗血症、全身性炎症反応症候群、静脈又は動脈血栓塞栓症、フェリチンレベルの急激な上昇、重症心膜炎、肝性脳症を引き起こす肝トランスアミナーゼの急激な上昇、又はキメラ抗原受容体T細胞療法に伴う疾患として発現する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
組成物が静脈内経路によって投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
サイトカインストーム症候群が感染症によって引き起こされる、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
感染症がCovid‐19又はデング熱である請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学及び製薬産業の分野に関し、特にサイトカインストーム症候群の治療及び予防のための医薬組成物に関するものである。
【0002】
この組成物は、配列番号1として同定されたペプチドを含み、急性呼吸窮迫症候群、マクロファージ活性化症候群、呼吸器敗血症、デング熱、肝性脳症及び心膜炎などの疾患の治療に使用することができる。
【背景技術】
【0003】
SARS‐CoV‐2ウイルスに感染し、感染症Covid‐19を発症した個人の中には、高炎症状態が発生する患者のサブグループが存在することが報告されている。これらの患者では、特にIL‐2、IL‐17、IL‐6、TNFαなどの増加によって特徴づけられるインターロイキン(IL)の「サイトカインストーム」が記述されている。このような過剰炎症の状態が、患者の死を招く(Mehta,et al.(2020).The Lancet,395:1033‐1034)。
【0004】
一方、中国の武漢でCovid‐19が確認された150例を対象としたレトロスペクティブな研究では、生存した患者のこのタンパク質のレベル(614ng/ml)と比較して、生存しなかった患者ではフェリチン濃度の有意な増加が示された(1297.6ng/ml)(Ruan et al.(2020).Intensive Care Med;https://doi.org/10.1007/s00134‐020‐05991‐x)。
【0005】
Covid‐19の影響を受けた重症で重篤な状態の患者は、急性呼吸窮迫症候群を発症する。この症候群は、生体の全身循環によって拡大する肺胞の炎症事象の存在によって特徴づけられる。この症候群の過程で、肺内皮の関与が起こり、血管透過性が上昇し、細胞や高分子が肺胞腔に行き来し、そこで肺表面活性剤を不活性化し、典型的なヒアリン膜を確立する(Janz and Ware (2014).Clin Chest Med;35:685‐96)。上皮バリアーも変化し、TNFα、IL‐1β、IL‐6などの炎症性ILやその他の炎症のメディエーターが分泌されて炎症反応が増悪し、好中球、単球、マクロファージの活性化、これらの分子及び細胞の肺胞腔への移行が次々に起こり、初期病変を増大させる。この過剰炎症の進展は、呼吸器系敗血症、マクロファージ活性化症候群、成人や新生児の敗血症など、他の疾患でも起こるものである。
【0006】
現在、Covid‐19疾患患者に対する有効な治療法はない。承認された治療法が、IL‐1に対するモノクローナル抗体(アナキンラ)、IL‐6に対するモノクローナル抗体(トシリズマブ)、及びヤヌスキナーゼ蛋白阻害剤の投与など、他の疾患の治療に使用されている。しかし、これらの薬剤は有効とは言えず、また免疫抑制作用もあるため、Covid‐19の治療にこれらの薬剤を使用すると、病気の経過中や患者が臨床的に回復した後でさえもウイルスの持続性が確認されているため、患者の全身状態の悪化につながることがある。また、呼吸性敗血症、マクロファージ活性化症候群、新生児敗血症、さらに呼吸困難に対する有効かつ安全な治療法は存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、これらの病態を特徴づける過剰炎症と「サイトカインストーム」の治療に有効な薬剤を得ることは、大きな関心事である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の説明
本発明は、配列番号1として同定されたペプチドの1.8~3.6mg/mLの濃度及び20~30mg/mLの間のスクロース濃度を含むサイトカインストーム症候群の治療及び予防のための医薬組成物を提供することにより上記の問題を解決するものであり、これは驚くべきことに、炎症の大きさを制御する制御T細胞の誘導の決定因子であるだけでなく、前記ペプチドの生物学的活性を相乗的に増大させるものである。本発明の組成物は、呼吸性敗血症、マクロファージ活性化症候群、及び新生児及び成人敗血症で起こるような呼吸困難によって特徴付けられる、重症段階に進行するCovid‐19患者のサブグループを特徴付ける過剰炎症の軽減が可能である。配列番号1として同定されたペプチドの投与は、免疫抑制又は重篤な副作用又はペプチド療法に関連するものを引き起こすことなく、Covid‐19疾患患者における炎症性サイトカインのレベルを低下させる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
配列番号1として同定されたペプチドは、HSP60タンパク質の、アミノ酸83から109の間で構成される領域に由来するものである。HSP60は、健常者、自己免疫疾患患者のいずれにおいても高い免疫原性を有している。しかし、このタンパク質が誘導することができる抗体及びT細胞のレベルは、自己免疫疾患の患者においてより高い(de Jong et al(2009).Arthritis Rheum.7(60):1966‐1976)。
【0010】
このタンパク質は、自然免疫系の炎症性反応性を刺激する大きな能力を持っています。また、HSP60はTh1表現型の誘導に関与するサイトカインであるIL‐12やIL‐15遺伝子の発現を誘導することが分かっている。これらの事実は、HSP60が自然免疫系の危険信号として機能していることを示唆している(Habich et al(2005).J.Immunol.3(174):1298‐1305)。一方、HSP60に由来するペプチドも危険信号を構成し得る(Quintana and Cohen(2011).Trends Immunol.2(32):89‐95)。
【0011】
配列番号1のペプチドは、いくつかの重なり合うT細胞エピトープを含む。それは、関節リウマチ患者からの末梢血単核細胞を用いたex vivoアッセイにおいて、CD4+CD25highFoxp3+表現型を有するTreg細胞の頻度を増加させる。しかし、この事実は、健康なドナーからの細胞では起こらない(Barbera et al(2016).Cell Stress. Chaperons.4(21):735‐744)。
【0012】
国際特許出願番号PCT/CU2005/000008及びPCT/CU2009/000009は、配列番号1として同定されるペプチド及びその関節リウマチ、並びにクローン病、潰瘍性大腸炎及びI型糖尿病の治療への使用についてそれぞれ特許請求している。これらの病態はすべて非感染性疾患である。さらに、特許出願WO2019/129315は、配列番号1のペプチドを含む非常に安定な医薬組成物を記載し、その投与は、シトルリン化ペプチドに対する抗体及びタンパク質のシトルリン化に密接に関連する他のパラメーターの減少を引き起こす。
【0013】
配列番号1として同定されたペプチドは、化学合成によって得られる。本発明に記載されるような実験を通して、過剰炎症の制御において寄与する、ペプチドによって誘導されるそれらの免疫学的機構を評価することができる。この医薬組成物は、免疫抑制の証拠もなく、高い安全性プロファイルで、十分に許容された。重篤な有害事象は、いずれの患者においても確認されなかった。
【0014】
本発明の目的のために、サイトカインストーム症候群は、正常レベルを超える濃度に達する、炎症性サイトカインレベルの増加として理解される。これらの炎症性サイトカインは、IL‐6、TNFα、IL‐1、IL‐17などである。それはまた、IL‐10、IL‐8、IL‐5などの他のサイトカインの増加も指す。それはまた、C反応性タンパク質、フィブリノーゲン、Dダイマー、肝トランスアミナーゼ、乳酸脱水素酵素、フェリチンなどの炎症のバイオマーカーの増加も含む。サイトカインストームに伴うこれらの分子の増加は、急性呼吸窮迫、マクロファージ活性化症候群、呼吸器敗血症、デング熱、肝性脳症、心膜炎などの炎症性病態に罹患した患者に起こる。臨床的評価からは、持続的な発熱、衰弱、疲労、吐き気が患者に認められ得る。
【0015】
別の態様において、本発明は、サイトカインストーム症候群の治療及び予防のための医薬の製造における、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物の使用を開示する。驚くべきことに、前記ペプチドを含む組成物による治療は、間質性肺炎の改善、24時間及び48時間の間の炎症の急性期の反応物の減少、及び炎症のバイオマーカーの減少から、Covid‐19の患者における機械人工換気の撤退を可能にする。C反応性タンパク質がわずか24時間で急速に減少したことは、予想外の結果である。これまで、このペプチドを投与された関節リウマチの患者では、C反応性タンパク質の有意な減少を示すことができなかった(Prada,et al(2018).J Clin Trials 1(8):1‐11)。
【0016】
本発明は、静脈内投与された、配列番号1として同定されたペプチドの、Covid‐19を有する患者における呼吸困難、過剰炎症、及び炎症急性期の反応物、並びに炎症性サイトカインのレベルを低減するための能力を実証するものである。驚くべきことに、これらの結果は、呼吸窮迫症候群を呈した呼吸性敗血症の患者において再現された。
【0017】
特定の実施例において、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物は、急性呼吸窮迫症候群、マクロファージ活性化症候群、成人又は新生児の呼吸性敗血症、全身性炎症反応症候群、静脈又は動脈血栓塞栓症、フェリチンレベルの急激な上昇、重症心膜炎、肝性脳症を引き起こす肝トランスアミナーゼの急激な上昇又はキメラ抗原受容体T細胞療法に伴う疾病として発現するサイトカインストーム症候群を治療及び予防するための医薬品の製造に使用される。配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物で治療される病態の中には、火傷又は重度の外傷後の患者又は急性炎症性疾患において生じる全身性炎症反応症候群の基礎となるサイトカインストーム症候群がある。本発明の1つの実施形態では、薬剤は静脈内投与される。
【0018】
本発明の一実施例では、薬剤は感染症によって引き起こされるサイトカインストーム症候群の治療及び予防のために使用される。特定の実施形態において、前記感染症は、Covid‐19又はデング熱である。
【0019】
本発明の目的は、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物の薬学的有効量を、それを必要とする患者に投与することを含むサイトカインストーム症候群の治療又は予防のための方法である。特定の実施例において、サイトカインストーム症候群は、急性呼吸窮迫症候群、マクロファージ活性化症候群、成人又は新生児の呼吸器敗血症、全身性炎症反応症候群、静脈又は動脈血栓塞栓症、フェリチンの急激な上昇、重症心膜炎、肝性脳症を引き起こす肝トランスアミナーゼの急激な上昇又はキメラ抗原受容体T細胞療法に伴う疾病として発現する。一実施例では、(本発明の方法によって治療又は予防される)サイトカインストームは、感染症によって引き起こされる。
【0020】
一実施例では、本発明の方法は、Covid‐19又はデング熱としての感染症の治療に有用である。本発明の別の実施例では、前記方法において、組成物は静脈内投与される。
【0021】
配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物の患者への投与は、呼吸困難と関連する事象の低減を誘導した。この呼吸困難は、患者に以下のことを必要とさせる:
【0022】
‐ 酸素飽和度(SO2)を93%超に維持するための酸素療法
‐ 過去24時間において、安定した吸入酸素分画(FiO2)とともに、酸素飽和度が3%ポイント超、又は動脈血酸素分圧(PaO2)が10%超
‐ 過去24時間において、安定したSO2を維持するためのFiO2の増加又は機械的人工換気の他の必要性
‐ 肺硬化領域の数及び/又は範囲の増加。
【0023】
さらに、本発明の組成物の投与は、感染症Covid‐19に罹患した患者の治療に有用であり、それは前記患者が6L/分以上の酸素療法に加えて以下の条件のいずれかを必要とする場合である:
【0024】
‐ 喘ぎ声又は途切れ途切れの話し方
‐ 酸素療法が6L/分で呼吸数が22回/分超
‐ PaO2:65mmHg未満
‐ X線画像の悪化
‐ 39℃以上の発熱
‐ ヘモグロビン、血小板、白血球のベースライン値の低下(ヘモグロビン≦9.2gm/dl、白血球≦5000/mm、血小板≦110,000/mm
‐ C反応性タンパク質の増加又は不変化と一致しない赤血球沈降速度の低下
‐ 3mmol/Lを超えるベースラインのトリグリセリド値の増加
‐ ベースラインのフェリチン値が500ng/mlから増加、又は絶対フェリチン値が2000ng/ml以上
‐ アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ・トランスアミナーゼが30IU/L以上
‐ Dダイマーの増加
‐ フィブリノーゲン2.5g/L未満
‐ 神経症状の出現
【0025】
本発明の組成物は、酸素療法を必要とせずに重篤な状態に入るが、500ng/mlからのフェリチンの初期値の増加又は2000ng/ml以上の絶対フェリチン値を呈し、多巣性間質性肺炎の進行性の放射線学的兆候を有するCovid‐19の患者の治療にも有用である。
【0026】
本発明の組成物は、成人又は新生児において呼吸器敗血症を発症するような急性過剰炎症の状態によって特徴付けられる疾患;及び呼吸窮迫症候群を発症する疾患、並びに機械的及び物理的原因によって引き起こされる前記症候群の治療にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1A】スクロースが濃度10mg/mL(10)、30mg/mL(30)及び80mg/mL(80)の濃度で添加された場合の、配列番号1として同定されたペプチドの医薬組成物を接種された後に、BALB/cマウスの脾臓から単離された、CD4+Foxp3+表現型を発現するフローサイトメトリーによって定量されたT細胞の頻度。データ解析には、Kruskal‐Wallis及びDunn統計検定を使用した。異なる文字は、統計的に有意な差を示す(P<0.05)。
図1B】スクロースが20mg/mL(20)、30mg/mL(30)及び40mg/mL(40)の濃度で添加された場合の、配列番号1として同定されたペプチドの医薬組成物を接種した後に、BALB/cマウスの脾臓から単離された、CD4+Foxp3+表現型を発現するフローサイトメトリーにより定量化されたT細胞の頻度。データ解析には、Kruskal‐Wallis及びDunn統計検定を使用した。異なる文字は、統計的に有意な差を示す(P<0.05)。
【実施例
【0028】
例/実施例の詳細解説
例1.配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物によるCovid‐19疾患患者の治療。
感染症Covid‐19に罹患した、ルイス・ディアス・ソト軍病院から集中治療室に入院した10人の患者を例示している。これらの患者は、この病気の治療のためにキューバ公衆衛生省によって確立されたプロトコルに従って医療措置を受けた。これらの患者は急性呼吸窮迫症候群を発症し、それを呈したその日に機械的人工換気/気道圧解放換気(VAM APRV)を行った。キューバの規制当局及び当該病院の倫理審査委員会によって確立されたインフォームドコンセントを受け取った後、患者は、配列番号1として同定されるペプチドを含む医薬組成物を投与された。前記ペプチドは、この技術分野でよく知られている方法によって、合成化学によって得られた。
【0029】
医薬組成物を12時間ごとに1回、静脈内投与した。8名の患者には、1回の適用で患者あたり1mgのペプチドが投与された。コード5と6の患者には、12時間ごとに2mgが投与された。これらの患者は併存疾患の中にがんがあった。患者の人口統計学的特徴、並びにVAM APRV及びペプチドの投与の日数を表1に反映した。
【0030】
【表1】
【0031】
表からわかるように、ペプチドを投与された10名のCovid‐19疾患患者には、疾患が重症化又は重篤化する危険因子があった。1人だけが併存疾患を持たなかったが、高齢(80歳)であることがリスクファクターとなった。特に、No.5の患者は深部静脈血栓症を呈していた。しかし、ペプチドを投与した10名の患者の臨床経過は良好であった。抜管時には急性呼吸窮迫症候群は終息していると考えられる。これらの結果は,ペプチドによる治療が急性呼吸窮迫症候群に有効であることを示している。患者の本症候群の消失は、患者の臨床的及び放射線学的な改善と一致した。深部静脈血栓症を呈した患者も良好な経過をたどった。これらの患者は、免疫抑制の症状を示さなかった。治療前は、Covid‐19患者に特徴的な徴候であるリンパ球減少を呈していた。このペプチドによる治療の結果、循環リンパ球のレベルは徐々に正常値に回復した。
【0032】
専門文献によると、急性呼吸窮迫症候群の患者の85%~90%は助からないと報告されている。キューバでは、重症又は重篤な段階に移行したSAR‐COV‐2で確認された患者のうち、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物で治療されなかった個体では、68.6%の致死率であった。一方、SAR‐COV‐2で確認された重症又は重篤な患者において、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物で治療された場合の致死率は13.0%であった。
【0033】
例2.呼吸窮迫症候群の確立を防止するための、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物の投与。
Covid‐19を有する重病患者及び重篤患者は、呼吸窮迫症候群を発症し、死に至る可能性がある。驚くべきことに、配列番号1として特定されるペプチドを含む医薬組成物の投与は、急性呼吸窮迫症候群の発症を防止した。前記ペプチドは、最初の兆候(多巣性間質性肺炎の進行性放射線学的指標、フェリチンの上昇(正常値の2倍)、酸素飽和度94未満のパルスオキシメトリ)の後の、早期の段階で投与された。したがって、このペプチドを投与することにより、人工換気の必要性を回避することができた。このようにして、院内敗血症への高い発生率が避けられた。
【0034】
この例は、「Pedro Kouri」熱帯医学研究所病院の中間治療室に入院したCovid‐19疾患を発症した42歳の女性患者である。この患者は、キューバ公衆衛生省がこの病気の治療のために確立したプロトコルに従って医療措置を受けたが、39℃の発熱と700ng/mLのフェリチン濃度を伴う突然の呼吸困難を呈した。インフォームドコンセントのもと、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物を、1mgの用量で、12時間ごとに静脈内投与された。2時間後、呼吸困難状態は消失し、体温は低下した。患者は急性呼吸窮迫症候群を発症せず、72時間後のフェリチン濃度は500ng/mL未満に減少した。
【0035】
さらに、重篤な状態にある他の3人の患者を治療した。人口統計学的特徴と併存疾患は表2に示す通りである。これらの患者はLuis Diaz Soto中央軍病院から中間治療室に入院していた。
【0036】
【表2】
【0037】
これらの患者は、38℃超の持続的な発熱、93%超の酸素飽和度を維持するためにマスクや鼻フォークによる酸素療法を必要とする呼吸困難などの最初の警告サインも示していた。また、これらの患者は、25回/分超の多呼吸を呈し、酸素飽和度を93超に維持するためにマスクや鼻フォークによる酸素療法を必要とした。
【0038】
配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物の投与は、1mgの用量で、24時間ごとに、静脈内経路によって行われた。投与2時間後、呼吸困難は消失し、体温は低下した。患者は急性呼吸窮迫症候群を発症しなかった。フェリチン濃度は72時間後に200ng/mL未満に低下した。
【0039】
これらの結果は、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物によるCovid‐19疾患の患者の治療が、急性呼吸窮迫症候群を発症する前に、これらの患者に対する機械的換気の使用を回避することを実証している。
【0040】
例3.配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物で治療したCovid‐19疾患の患者におけるC反応性タンパク質の減少。
C反応性タンパク質は、炎症プロセスについて最も使用されるマーカーの1つであり、それは、炎症の急性期の反応物の1つと考えられている。配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物を静脈内投与した。治療が実施例1に記載されているCovid‐19に罹患した10人の患者のうち8人は、12時間ごとに1mgの該ペプチドを受けた。併存疾患の間にがんを有するコード5及び6の患者は、12時間ごとに2mgのペプチドを受けた。予想外に、配列番号1のペプチドによる治療は、治療された患者において、顕著に、C反応性タンパク質レベルを減少させた。これらの結果は、表3に示されている。
【0041】
【表3】
【0042】
これらの患者の治療中のC反応性タンパク質の減少は、配列番号1のペプチドが炎症を抑えることを直接示すものであり、この結果は、急性呼吸窮迫症候群の消失、並びに患者の臨床的及び放射線学的改善と一致する。
この研究で得られた結果は驚くべきものである。臨床試験の間、同じペプチドで処置された関節リウマチの患者において、この反応物の減少は、炎症の急性期には見いだされなかった。
【0043】
例4.配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物で治療したCovid‐19疾患の患者における炎症性サイトカインの減少。
この研究では、炎症性サイトカインIL‐6、IL‐17、IL‐1、IFNγ及びTNFαのレベルを、配列番号1として同定されたペプチドを含む組成物で処置したCovid‐19疾患の患者において測定した。患者は重篤な状態であった。これらの患者の治療は、実施例1に記載した。
【0044】
表1、例1に示す番号1、2、3、4、7、及び8で特定される患者の血清中の前記サイトカインを定量した。血清試料中のサイトカインの測定のために、ウイルスは、厳密なバイオセキュリティー手段の下で不活性化された。定量は、ペプチドの最初の投与量を適用する直前、及びペプチドによる治療を開始してから48時間、72時間、96時間後に実施された。
【0045】
すべてのサイトカインの測定は、製造元(Quantikine(登録商標)R&D Systems、USA)の推奨に従い、それぞれに特異的なELISA(酵素結合免疫吸着法)を用いて行った。簡単に説明すると、各サイトカインの指定希釈液を50μLずつウェルに添加し、その後、標準曲線、サンプル、コントロールのいずれかを200μLずつ添加した。プレートを室温で2時間インキュベートした後、各ウェルの内容物を廃棄した。その後、1X洗浄液で3回洗浄し、200μLのコンジュゲート抗体を各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。この洗浄を繰り返し、各ウェルに基質溶液を200μLずつ添加した。プレートを遮光して室温で20分間インキュベートし、50μLの停止液を各ウェルに加え、マイクロプレートリーダー(Thermo Scientific Multiskan Go、フィンランド)で450nmで光学密度を測定した。2回目の読み取りは570nmで行い、得られた値は450nmの読み取り値から差し引き、プレート上の光学的不完全性を補正した。各サイトカインの濃度の測定は、3連で行った。IL‐6について得られた結果を表4に示す。
【0046】
【表4】
【0047】
表に見られるように、重篤患者が配列番号1のペプチドを受けたので、サイトカインIL‐6のレベルの減少があった。これは、炎症性プロセスにおいて顕著に増加するサイトカインである。重篤な段階に移行するCovid19病の患者は、この病気の軽い症状を呈する患者とは対照的に、このサイトカインが上昇することが記載されている。同様に、これらの患者では、IL‐17、IL‐1、IFNγ、TNFαの減少が認められた。
【0048】
これらの結果は、ペプチドを投与することで、重篤な段階に移行しているCovid‐19疾患の患者が発症する過剰炎症及びサイトカインストームを抑制することを確認するものである。
【0049】
例5.配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物による、呼吸困難なく高濃度のフェリチンを呈したCovid‐19疾患患者の治療。
治療した患者は、66歳、女性で、2型糖尿病、外因性肥満、グレード4の脂肪性肝疾患の既往がある。この患者は、COVID‐19の診断により入院し、消化不良、吐き気、時折の下痢などの消化器症状を呈し、運動促進薬(プロキネティクス)と制吐剤が適応された。また、フェリチンが1500ng/mL超と高濃度で、ヘモグロビンの低下を伴う赤血球沈降速度の上昇を呈していた。
【0050】
この臨床状態のため、専門家は、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物を、1mgの用量で、12時間ごとに投与することを指示した。驚いたことに、治療の96時間後、フェリチンの値は350ng/mLの濃度まで減少した。
【0051】
配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物による治療は、さらに72時間継続した。
【0052】
治療終了後、フェリチン濃度は正常化し、患者の症状は見られなくなった。
【0053】
これらの結果は、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物による処理が、ウイルス感染によってフェリチンの濃度が上昇する場合に、その濃度を低下させることが可能であることを示している。
【0054】
例6.配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物によるウイルス性病因の心膜炎患者の治療。
治療した患者は48歳で、Covid‐19と確認され、Holguin陸軍病院に入院した。入院2日後、患者は38℃の発熱と2回の下痢便を呈し、ウイルス性の病因(Covid‐19)による心筋炎に続発する心膜炎と診断されたが、血行動態の影響はなかった。患者は呼吸困難を示さなかった。配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物を、12時間毎に1mgの用量で、治療を開始した。
【0055】
驚くべきことに、投与24時間後には心電図に改善が見られ、投与96時間後には患者は無症状となり、臨床的に有意な改善が見られた。これらの結果から、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物は、ウイルス性の病因による血行動態の反動がなく、心筋炎に続く心膜炎などの病態で発生する炎症を軽減することが確認された。
【0056】
例7.配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物によるCovid‐19肝性脳症の患者の治療。
この患者は、女性、55歳、白人であり、動脈性高血圧の病歴がある。この患者は、ルイス・ディアス・ソト病院、隔離室、内科サービスにおいて、Covid‐19疾患を引き起こすコロナウイルスに対して陽性であったため、入院した。そのため、国内で確立されたプロトコルに従って、この病気の治療を開始した。入院中、彼女は10日目まで無症状であった。その日、高血圧値(160/90mmHg)に伴う不安や緊張のエピソードが現れたという。彼女は精神科専門医の診断を受け、補完的な臨床検査が行われた。患者は呼吸困難を示さなかった。精神科医は、精神病性症候群の要素を含む不安症候群と診断した。患者は11日目に臨床症状が悪化し、嘔吐、高血圧の数値、頻脈傾向を呈し、括約筋の弛緩を認めないため、集中治療室に移された。血球計数検査で重症低ナトリウム血症(Na濃度105mmol/L)の存在を確認した。コンピュータ断層撮影では頭蓋脳には変化がなく、補完的な検査では肝酵素の著明な上昇と白血球増多が認められた。これらの結果から、患者は肝性脳症と診断された。患者からは肝毒性薬剤をすべて中止し、食事の変更を行い、ナトリウムの漸次補充を継続し、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物による治療を、12時間ごとに1mgの割合で静脈内投与で開始した。補足的な臨床検査を伴う毎日の臨床フォローアップが実施された。驚くべきことに、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物による治療の72時間後、肝臓酵素の減少、クレアチニンキナーゼ及び血中窒素化合物の進行性減少、並びにナトリウム濃度の正常化により、経過は良好であった。治療の96時間後には、肝性脳症に相当する臨床的特徴が完全に回復したため、本ペプチドを含む医薬組成物の投与をさらに3日間継続した。これらの結果は、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物の投与が、肝性脳症のような病態で生じる炎症を軽減することを確認するものであった。
【0057】
例8.配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物によるデング熱患者の治療。
19歳の女性患者は、38.5℃の発熱、72時間超の発熱、及び強い全頭性頭痛のためにルイス・ディアス・ソト病院を来院した。また、別の結膜充血に伴う後眼部痛があった。これらの症状から、患者はデング熱の疑いで入院した。
【0058】
この患者の身体検査では、39.9℃の高体温、血圧90/60mmHg、頻脈、軽度の遠位冷感などが認められた。医師による皮膚の視診により、前腕と腹部の領域に点状出血を認め、ループテストは陽性であった。この患者には24時間、体重1Kgあたり30mLの容量支持で治療が行われた。
【0059】
入院24時間後、患者には腹痛と嘔吐が始まった。補完的な検査は、白血球減少(総白血球数2.9x109)、赤血球沈降速度95mm/h、C反応性タンパク質150mg/mL、乳酸脱水素酵素918U/L、グルタミン酸オキサル酢酸トランスアミナーゼ93IU/L、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ58IU/Lを示した。腹部超音波では4隅角のすべてで中程度の強さの遊離液体の存在が確認された。胆嚢は肥厚した壁と嚢胞性浮腫を呈し、石灰化は認めなかった。患者には晶質溶液を体重1kgあたり35~45mLの割合で24時間投与するなどの支持療法が行われた。
【0060】
患者の経過が緩慢で、輸液による治療法への反応が悪いことから、医療チームは、患者がデング熱の原因となるウイルスによる感染に続発するマクロファージ活性化症候群を発症したと判断した。この診断は、この症候群に関連する実験パラメーターの値、フェリチン:1893mg/L、フィブリノーゲン:2.31g/L、C反応性タンパク質:150mg/mL、赤血球沈降:53mm/hによって確認された。
【0061】
これらの結果に基づいて、この患者は集中治療室に移され、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物が、12時間毎に1mgの割合で静脈内投与された。前記組成物の投与は、免疫応答を調節し、従って、臨床的特徴及び実験パラメーターによれば、この患者において発現していたサイトカインストームを制御する目的を有していた。治療の48時間後、腹痛、動脈性低血圧及び遠位冷感が消失したので、患者に顕著な改善が観察された。患者は食事を摂るようになった。72時間後、患者の臨床的及び放射線学的改善が続き、そこからペプチドを含む医薬組成物の投与頻度を24時間ごとに1mgに減らした。投与7日目以降、患者は臨床的にも放射線学的にも無症状となった。
【0062】
血清検査でIgMが陽性であったため、デングウイルス感染が確認された。
すべての検査項目が正常化し、患者は退院となった。
【0063】
これらの結果は、これまでの実施例で概説したものを確認したものであり、本実施例は、配列番号1として同定されたペプチドを含む医薬組成物が、疾患の重症段階に移行しているデング熱などの種々の病態に関連する可能性がある血球貪食症候群に関連し得るサイトカインストームを制御することを確認するものである。
【0064】
例9.炎症の低減のための配列番号1のペプチドの薬理学的増強に対するスクロース濃度の効果。
COVID‐19及び他の病態の患者における過剰炎症を軽減させる分子機構の誘導剤として、配列番号1として同定されたペプチドを使用するために、製剤を静脈内に適用する場合に、制御性T細胞の誘導に関連する糖スクロースの最適な濃度を選択するために、組成物に対する糖スクロースの影響を、濃度の範囲において検討した。組成物の調製には、1.8mg/mL~3.5mg/mLの配列番号1として同定されたペプチドを用い、これを酢酸ナトリウム緩衝液、pH4に溶解し、これに後述のように異なる濃度でスクロース糖が添加された。
【0065】
BALB/c系統の雄マウスを無作為に10匹ずつ3グループに分けた。グループごとに分けたマウスに、以下のように静脈内接種を行った。
【0066】
‐グループ1:スクロースが10mg/mLの濃度で添加された、配列番号1として同定されたペプチドの医薬組成物。
‐グループ2:スクロースが30mg/mLの濃度で添加された、配列番号1として同定されたペプチドの医薬組成物。
‐グループ3:スクロースが80mg/mLの濃度で添加された、配列番号1として同定されたペプチドの医薬組成物。
【0067】
4日後、マウスは同一条件下で2回目の用量を受けた。各グループ10匹の動物は、1回目の接種を受けてから8日目に犠牲にした。マウスの脾臓細胞をMab2.4G2(eBiosciences,USA)でプレインキュベーションし、FC受容体への非特異的結合をブロックした。次に、3%子牛血清と飽和量の以下のmAb(eBiosciences,USA)を含むPBS中で細胞を標識した:APC‐Cy7‐抗CD4コンジュゲート(クローンRM4‐5)及びAPC‐抗CD25コンジュゲート(PC61)。Foxp3転写因子は、PEとコンジュゲートした抗Foxp3mAb(FJK‐16s;eBioscience,USA)を用いて、製造者の推奨に従って評価した。コントロールとして、アイソタイプに関連しないmAb(ラットPE‐Cy5 IgG2a;eBioscience,USA)を使用した。LSR‐II(商標)サイトメーターのフローサイトメトリーヒストグラムにおけるリンパ球の分布特性に従って、リンパ球に対応する領域を枠で囲んだ。解析はFlowJo(登録商標)プログラム(Tree Star)を用いて行った。
【0068】
この図1Aから分かるように、配列番号1として同定されたペプチドとスクロースを30mg/mLの濃度で含む製剤を接種したマウスは、制御性T細胞の割合を著しく増加させており、組成物のそれらの成分間の相乗効果を示している。
【0069】
この濃度のスクロースが制御性T細胞の頻度誘導に決定的な影響を与えるかどうかを判断するために、前回とよく似た条件で、当該糖の濃度範囲を狭くして実験を行った。
【0070】
マウスを無作為に10匹ずつ3グループに分けた。グループごとに分けたマウスに、以下のように静脈内接種を行った。
【0071】
‐グループ1:スクロースが20mg/mLの濃度で添加された、配列番号1として同定されたペプチドの医薬組成物。
‐グループ2:スクロースが30mg/mLの濃度で添加された、配列番号1として同定されたペプチドの医薬組成物。
‐グループ3:スクロースが40mg/mLの濃度で添加された、配列番号1として同定されたペプチドの医薬組成物。
【0072】
驚くべきことに、20~40mg/mLのこれらの濃度のスクロースで処理したマウスは、前の実験で10~80mg/mLで処理したグループと比較して制御性T細胞の割合の有意な増加を示し、組成物の成分間の相乗効果を観察し、配列番号1として同定されたペプチドの医薬組成物で処理したマウスのグループにおいて、より大きな効果を示し、スクロースは20及び30mg/mLの濃度で添加された(図1B)。
【0073】
これらの結果から、20~30mg/mLの範囲の濃度のスクロースの添加は、炎症の大きさを制御する制御性T細胞の誘導のための決定要因であると結論付けることができ、静脈内投与されたこの製剤は、過剰炎症を特徴とする病態を制御する能力を有している。
【配列表フリーテキスト】
【0074】
配列番号1<223> 人工配列の説明:ペプチド型APL
図1A
図1B
【配列表】
2023521592000001.app
【国際調査報告】