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特表2023-521598LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/115 20160101AFI20230518BHJP
   A61K 35/612 20150101ALI20230518BHJP
   A61K 31/683 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 31/23 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 31/20 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 31/047 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230518BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A23L33/115
A61K35/612
A61K31/683
A61K31/23
A61K31/20
A61K31/047
A61K31/122
A61P27/02
A61P25/18
A61P25/16
A61P25/28
A23D9/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559535
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(85)【翻訳文提出日】2022-11-29
(86)【国際出願番号】 US2021025110
(87)【国際公開番号】W WO2021202680
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】63/002,425
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/113,908
(32)【優先日】2020-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520223572
【氏名又は名称】エーケル バイオマリーン アンタークティク エーエス
(71)【出願人】
【識別番号】513158117
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティース オブ ザ ユニバーシティー オブ イリノイ
【氏名又は名称原語表記】The Board of Trustees of the University of Illinois
【住所又は居所原語表記】352 Henry Administration Building,506 South Wright Street,Urbana,Illinois 61801,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】マイレン,フィン
(72)【発明者】
【氏名】ハルス,ペッター-アルヌト
(72)【発明者】
【氏名】ホエム,ニルス
(72)【発明者】
【氏名】シュトルスフェ,アンドレアス ベルク
(72)【発明者】
【氏名】サバイア,パパサニ ヴィー.
(72)【発明者】
【氏名】ヤラガラ,プールナ
(72)【発明者】
【氏名】ドハヴァマニ,スガシニ
(72)【発明者】
【氏名】タイ,レオン
【テーマコード(参考)】
4B018
4B026
4C086
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE05
4B018MD08
4B018MD11
4B018MD12
4B018MD14
4B018MD17
4B018MD18
4B018MD90
4B018ME14
4B018MF12
4B026DG14
4B026DH10
4B026DL09
4B026DP10
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA41
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZA18
4C086ZA33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB20
4C087CA06
4C087CA19
4C087CA43
4C087MA02
4C087MA52
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA15
4C087ZA16
4C087ZA18
4C087ZA33
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA13
4C206CB15
4C206DA03
4C206DB06
4C206DB43
4C206DB48
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA15
4C206ZA16
4C206ZA18
4C206ZA33
(57)【要約】
本発明は、オメガ-3脂肪酸を保有するホスファチジルコリン由来化合物を含む組成物を提供し、これは、予防または治療において、特に全身投与される場合に使用される。本発明はさらに、LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富な改良されたクリルオイル組成物、製造方法、ならびに神経障害および眼の障害を治療するための使用方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における網膜障害を治療または予防する方法であって、LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル組成物の有効量を被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記網膜障害が、加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症およびドライアイ疾患から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富な前記クリルオイル組成物が、リパーゼ処理クリルオイルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富な前記クリルオイル組成物が、機能性食品組成物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記投与が経口である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
被験体における網膜障害の治療または予防に使用するための、LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル。
【請求項7】
前記網膜障害が、加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症およびドライアイ疾患から選択される、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富な前記クリルオイル組成物が、リパーゼ処理クリルオイルである、請求項6または7に記載の使用。
【請求項9】
LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富な前記クリルオイル組成物が、機能性食品組成物である、請求項6~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富な前記クリルオイル組成物が経口投与用に製剤化されている、請求項6~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
眼の疾患または状態の1つ以上の症状および/または徴候を治療、予防および/または軽減するための方法であって、
それらを必要とする被験体に、製剤の有効量を投与する工程を含み、
前記製剤は、式1~8のいずれか1つからなる群から選択されるLPC化合物を含むリゾホスファチジルコリン(LPC)組成物、およびそれらの任意の組み合わせを含み、
疾患または状態の症状を改善、制御、低減または緩和する、
方法:
【化1】

式中、
は、OHまたはO-CO-(CH-CHであり;
は、OHまたはO-CO-(CH-CHであり;および
nは、0、1または2である。
【請求項12】
がOHであり、かつ、RがOHである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記LPC組成物が
i)RがOHである式1による化合物;および/または
ii)RがOHである式3による化合物
を含む場合、
当該LPC組成物は、請求項17で言及される他のLPC化合物の少なくとも1つをさらに含むという条件を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
1つ以上の前記LPC化合物が
式1による化合物;および/または式3による化合物;
ならびに
式2による化合物;および/または式4による化合物である、
請求項11に記載の方法。
【請求項15】
およびRがOHであり;ならびに
リゾPC-DHA:リゾPC-EPAのモル比が1:1~3:1の範囲であるか;またはリゾPC-EPA:リゾPC-DHAのモル比が1:1~5:1の範囲であり;
ただし、i)リゾPC-EPAのモル数は1-リゾPC-EPAのモル数+2-リゾPC-EPAのモル数であり;かつii)リゾPC-DHAのモル数は、1-リゾPC-DHAのモル数+2-リゾPC-DHAのモル数である、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記疾患または状態が、眼の炎症、角膜神経異常、および眼の表面上の擦過傷からなる群より選択されるドライアイ疾患などのドライアイである、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記疾患または状態が、眼の神経変性疾患である、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記眼の神経変性疾患が、加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症、非増殖性網膜症、増殖性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、網膜色素変性症、中心静脈閉塞症および緑内障からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記投与が、経口投与および血管内投与からなる群から選択される様式による、請求項11~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記投与の様式が、経口投与である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記投与の様式が、血管内投与である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記製剤中の前記LPC組成物が、当該LPC組成物の10重量%~100重量%の量の総LPCを含む、請求項11~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記LPC組成物が、LPCとは異なる追加の脂質を含む、請求項11~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記追加の脂質が、トリグリセリド、遊離脂肪酸、エチルエステル、ならびにホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルコリンなどのリン脂質からなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記LPC組成物が、ホスファチジルコリンの量と比較して多くの量の前記LPC化合物を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記製剤が、ルテイン、アスタキサンチン、ゼアキサンチンおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される成分をさらに含む、請求項11~25いずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記被験体が、哺乳動物被験体である、請求項11~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記被験体が、ヒト被験体である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
式1~8のいずれか1つからなる群から選択されるLPC化合物を含むリゾホスファチジルコリン(LPC)組成物を含む、製剤であり:
【化2】

式中、
は、OHまたはO-CO-(CH-CHであり;
は、OHまたはO-CO-(CH-CHであり;および
nは、0、1または2であり;
眼の疾患または状態の1つ以上の症状および/または徴候を治療、予防および/または軽減する工程において使用するための、製剤。
【請求項30】
がOHであり、かつ、RがOHである、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
前記LPC組成物が
i)RがOHである式1による化合物;および/または
ii)RがOHである式3による化合物
を含む場合、
当該LPC組成物は、請求項35で言及される他のLPC化合物の少なくとも1つをさらに含むという条件を有する、請求項29に記載の使用。
【請求項32】
1つ以上の前記LPC化合物が
式1による化合物;および/または式3による化合物;
ならびに
式2による化合物;および/または式4による化合物である、請求項29に記載の使用。
【請求項33】
およびRがOHであり;ならびに
リゾPC-DHA:リゾPC-EPAのモル比が1:1~3:1の範囲であるか;またはリゾPC-EPA:リゾPC-DHAのモル比が1:1~5:1の範囲であり;
ただし、i)リゾPC-EPAのモル数は1-リゾPC-EPAのモル数+2-リゾPC-EPAのモル数であり;かつii)リゾPC-DHAのモル数は、1-リゾPC-DHAのモル数+2-リゾPC-DHAのモル数である、請求項29に記載の使用。
【請求項34】
前記疾患または状態が、眼の炎症、角膜神経異常、および眼の表面上の擦過傷からなる群より選択されるドライアイ疾患などのドライアイである、請求項29~33のいずれか一項に記載の使用。
【請求項35】
前記疾患または状態が、眼の神経変性疾患である、請求項29~34のいずれか一項に記載の使用。
【請求項36】
前記眼の神経変性疾患が、加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症、非増殖性網膜症、増殖性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、網膜色素変性症、中心静脈閉塞症および緑内障からなる群から選択される、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
前記製剤中の前記LPC組成物が、当該LPC組成物の10重量%~100重量%の量の総LPCを含む、請求項29~36のいずれか一項に記載の使用。
【請求項38】
前記LPC組成物が、LPCとは異なる追加の脂質を含む、請求項29~37のいずれか一項に記載の使用。
【請求項39】
前記追加の脂質が、トリグリセリド、遊離脂肪酸、エチルエステル、ならびにホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルコリンなどのリン脂質からなる群から選択される、請求項38に記載の使用。
【請求項40】
前記LPC組成物が、ホスファチジルコリンの量と比較して多くの量の前記LPC化合物を含む、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
前記製剤が、ルテイン、アスタキサンチン、ゼアキサンチンおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される成分をさらに含む、請求項39または40に記載の使用。
【請求項42】
前記被験体が、哺乳動物被験体である、請求項39~41のいずれか一項に記載の使用。
【請求項43】
前記被験体が、ヒト被験体である、請求項42に記載の使用。
【請求項44】
LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル組成物を調製する方法であって、
前記クリルオイル中、DHA含有リン脂質およびEPA含有リン脂質のsn-1位に特異的なリパーゼを用いてクリルオイルを処理する工程を含む、方法。
【請求項45】
前記リパーゼが、ムコール・ミエヘイ(Mucor meihei)由来のリパーゼを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記リパーゼが、ムコール・ミエヘイ(Mucor meihei)由来の固定化リパーゼを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記クリルオイル組成物が、約80重量パーセント超のLPC-DHAおよびLPC-EPAを含むリゾホスファチジルコリンを含む、請求項44~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
請求項44~47のいずれか一項に記載の方法に従って調製された、LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富な、リパーゼ処理クリルオイル組成物。
【請求項49】
約80重量パーセント超のLPC-DHAおよびLPC-EPAを含むリゾホスファチジルコリンを含む、リパーゼ処理クリルオイル組成物。
【請求項50】
請求項48に記載のクリルオイル組成物を含む、機能性食品組成物。
【請求項51】
請求項49に記載のクリルオイル組成物を含む、機能性食品組成物。
【請求項52】
被験体における神経障害を治療または予防する方法であって、LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル組成物の有効量を被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項53】
前記神経障害が、パーキンソン病、統合失調症、外傷性脳損傷、脳卒中およびアルツハイマー病から選択される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記神経障害がアルツハイマー病である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
肝臓のDHAを豊富にすることによって和らげられる肝臓疾患を治療または予防する方法であって、LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル組成物の有効量を、治療を必要とする被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項56】
前記肝臓疾患が、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)から選択される、請求項55に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連出願への相互参照〕
本出願は、2020年3月31日に出願された米国仮特許出願第63/002,425号、および2020年11月15日に出願された米国仮特許出願第63/113,908号の利益を主張し、これらの仮特許出願の両方はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
〔技術分野〕
本発明は、オメガ-3脂肪酸を保有するホスファチジルコリン由来化合物を含む組成物を提供し、これは、予防または治療において、特に全身投与される場合に使用される。本発明はさらに、LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富な改良されたクリルオイル組成物、製造方法、ならびに神経障害および眼の障害を治療するための使用方法に関する。
【0003】
〔発明の背景〕
脳は、脳の発達および機能において重要な役割を果たすオメガ3脂肪酸DHAを、非常に高濃度で有している。脳DHAの欠損は、アルツハイマー病、パーキンソン病、統合失調症、およびうつ病を含むいくつかの神経疾患と関連している(1~3)。DHAはまた、脳卒中(4)および外傷性脳損傷(5)の合併症に対して防御的であることが示されている。食品性DHAの有益な効果が神経変性疾患の様々な動物モデルにおいて報告されているが(6~9)、現在入手可能なサプリメント(魚油、藻類油、クリルオイル、エチルエステル)を用いる臨床試験はアルツハイマー病(10~12)、ハンチントン病(13)、および統合失調症(14)を患っている患者において期待外れの結果を提供している。これらの試験の失敗は、これらのサプリメントに由来するDHAが主にトリアシルグリセロール(TAG)の形態で吸収される一方で、BBBでのトランスポーターはDHA(LPC-DHA)のリゾホスファチジルコリンの形態を必要とするため、前記サプリメントが脳のDHAを豊富にすることができないことに起因すると提言されている(15)。実際、LPC形態のDHAを与えることは正常な成体マウスにおいて脳のDHAを100%まで増加させたが、同じ用量の遊離DHAは効果を有さなかったことが最近実証された(16)。また、ラットの脳のDHAを豊富にすることにおいて、LPC-DHAは、PC-DHAまたはTAG-DHAのいずれよりも優れていることが示された(17)。DHAとは対照的に、脳は非常に少ないEPAを有し、EPAが豊富なサプリメントは脳のEPA含有量を有意には増加させない(18~21)が、食品性EPAはうつ病の予防および治療に対してDHAよりも有益であることが示されている(22~24)。脳のEPAが豊富にならないことは、脳内でそれが急速に酸化することに起因すると提言されている(25)。しかしながら、脳のEPAは、LPC形態の食品性EPAを提供することによって実際に100倍まで増加することができることが実証されており(26)、このことは、低レベルのEPAは血漿中の低レベルのLPC-EPAが主に原因であることを示している。
【0004】
さらに、網膜は、体内で最も高い濃度のDHAを有する。それはまた、EPAおよびDHA(32~36 n-3)に由来する非常に長鎖の脂肪酸の大部分を有し、sn-1位およびsn-2位の両方にオメガ3脂肪酸を含有するリン脂質を有する。これらの脂肪酸および特有のリン脂質は、光受容体細胞の完全性を維持する上で重要な機能を果たす(41)。
【0005】
DHAは網膜における抗炎症、抗血管新生、およびホメオスタシス促進の役割を有し、DHAの欠損は、黄斑変性、および他の網膜症に関連する(42)。いくつかの疫学的研究は、様々な網膜症の予防におけるオメガ3脂肪酸摂取の有益な効果を示した(42)(43)。さらに、Tikhonenkho et al.(44)は、実験動物において、食餌中にDHAを提供することによって糖尿病性網膜症が予防され得ることを報告した。DHAはまた、動物モデルにおいて、ドライアイ疾患(45)および加齢黄斑変性(46)に対して防御的であることが示されている。しかしながら、疫学的および実験的研究の肯定的な結果にも関わらず、食品性のサプリメントを使用する患者における介入研究は明らかな利益を示さず(47)(48)、これはおそらく、網膜による従来のDHAサプリメントの吸収が非効率的であることによる。Nishizawa et al.(49)が、成長中のラットにおいて網膜DHAを増加させることはできるが、高DHA用量(8.5%カロリー)であったとしても、成体の網膜DHA含有量を増加させることはできないことを報告したことは注目されるべきである。これは、以前の臨床試験の失敗の説明となり得る。
【0006】
眼の感染症および炎症には、原発性または原発性疾患に続発し得る広範囲の病理学的状態が含まれる。
【0007】
一例としてドライアイ疾患(DED)があり、これは高度に蔓延している、涙液膜および眼表面の多因子性疾患であり、眼痛および視力障害をもたらす。一時的な症状緩和を提供するための潤滑用点眼薬の点眼を含むDEDの治療の中心は、治療的ではなく補助的である。炎症はDEDの病因における中心機序であり、涙液の高浸透圧性および不安定性が炎症反応に寄与する。これは、DEDに苦しむ人が経験する慢性的な刺激および痛みを負う。コルチコステロイドなどの局所抗炎症剤がDEDを対処するために現在使用されているが、潜在的な長期の副作用がそれらの使用を制限する。
【0008】
オメガ-3(n-3)長鎖多価不飽和脂肪酸(LC-PUFA)、エイコサペンタエン酸(EPA、20:5n-3)およびドコサヘキサエン酸(DHA、22:6n-3)は、健康的でバランスのとれた食事の必須成分である、発達に対して有益な影響を有する、および眼の病状(例えば網膜疾患および加齢黄斑変性(AMD)など)を含む様々な病理学的状態を和らげるとして、十分に受け入れられている。
【0009】
Querques et al.によって概説されているように、網膜は体内で最も高濃度のDHAを有し、いくつかの研究は、オメガ-3多価不飽和脂肪酸が網膜疾患の発症および進行の低減において防御的役割を有し得ることを示唆している(Querques et al., J Nutr Metab. 2011; 2011: 748361)。高濃度のDHAは、光受容体膜の流動性、網膜の完全性、および視覚機能を最適化することが示唆されている。さらに、多くの研究は、DHAが網膜において防御的な、例えば、抗アポトーシスの役割を有することを実証した。DHAとは対照的に、脳、神経組織および網膜はエイコサペンタエン酸(EPA)をほとんど含まないが、EPAが神経変性の予防において防御的役割を有し得ることが示されている(Yalagala et al J Lipid Res. 2019 Mar;60(3):566-578. doi: 10.1194/jlr.M090464. Epub 2018 Dec 10)。栄養学的観点から、西洋の人々、特に高齢の人が、最適なオメガ-6/オメガ-3比よりも高い比で有しており、炎症に関連する病因を改善するために、より多くのオメガ-3多価不飽和脂肪酸で食事を豊かにした方がよいことが知られている。
【0010】
ドライアイは、一般的な眼の疾患である。これは、対象とする集団に応じて、ある程度、5~34%の人々に影響を及ぼす。高齢者では、最大70%に影響する。いくつかの眼疾患の予防および治療のために食品性のオメガ-3サプリメントが提案されているが、魚油およびリン脂質が豊富なクリルオイルに由来するオメガ-3を用いた、DEDを治療するためのある臨床試験は、潤滑用点眼薬の使用頻度の有意な変化を実証しなかった(Deinema et al. Ophthalmology. 2017 Jan;124(1):43-52)。
【0011】
この分野での取り組みにも関わらず、ドライアイの問題は依然として非常に広がっており、未解決のままであり、満たされていない医学的なニーズである。したがって、ドライアイのための新しい改善された治療を提供することが望ましい。
【0012】
そのような治療が症状的緩和および治療的緩和の両方を提供できれば、好ましいであろう。
【0013】
特に、そのような改善された治療が、眼組織および網膜の変性を防御することによって、緑内障、AMD、糖尿病性網膜症および神経障害などの眼の病状を予防することができれば好ましいであろう。
【0014】
〔発明の概要〕
脳のDHAの欠損はいくつかの神経変性疾患に関連するが、現在のサプリメントは、リゾホスファチジルコリン(LPC-DHA)のための血液脳関門におけるトランスポーターが必要であるため、脳のDHAを豊富にしない。クリルオイルリン脂質はsn-2位にDHAおよびEPAを含有するが、膵臓ホスホリパーゼAが遊離酸としてそれらを放出するので、LPC-DHAおよびLPC-EPAを生成しない。
【0015】
しかしながら、本発明者らは、食品性クリルオイルをsn-1に特異的なリパーゼを用いて前処理する場合、LPC-DHAおよびLPC-EPAが生成され、したがって脳のDHAおよびEPAが豊富になるはずであることを発見した。本発明者らは、未処理クリルオイル(UTKO)およびリパーゼ処理クリルオイル(LTKO)を正常マウスに与え、脳および他の組織の脂肪酸組成を測定することにより、この仮説を試験した。UTKOは脳のDHAおよびEPAをわずかに増加させたが、LTKOは脳のDHAおよびEPAを豊富にすることにおいて、それぞれ5倍および70倍効果的であり、脳のBDNFを増加させた。対照的に、魚油(リン脂質を含まない)は、リパーゼ処理の有無にかかわらず、脳のDHAまたはEPAのいずれにも影響を及ぼさなかった。LTKOはまた、肝臓のDHAおよびEPAを豊富にすることにおいては魚油またはUTKOより効果的であったが、脂肪組織および心臓にて豊富にすることにおいては魚油またはUTKOのいずれよりも効果的でなかった。これらの結果は、脳を食品性DHAおよびEPAの標的とし、アルツハイマー病などの神経疾患を予防および治療する、新規の戦略を提供する。
【0016】
したがって、第1の態様において、本発明は、眼の疾患または状態の1つ以上の症状および/または徴候を治療、予防および/または軽減するための方法であって、それらを必要とする被験体に製剤の有効量を投与する工程を含み、前記製剤は式1~8のいずれか1つからなる群から選択されるLPC化合物を含むリゾホスファチジルコリン(LPC)組成物、およびそれらの任意の組み合わせを含み、疾患または状態の症状を改善、制御、低減または緩和する方法に関する:
【0017】
【化1】
【0018】
式中、
は、OHまたはO-CO-(CH-CHであり;
は、OHまたはO-CO-(CH-CHであり;および
nは、0、1または2である。
【0019】
第1の態様の一実施形態では、RはOHであり、かつ、RはOHである。
【0020】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物がi)RがOHである式1による化合物;および/またはii)RがOHである式3による化合物を含む場合、当該LPC組成物は他のLPC化合物の少なくとも1つをさらに含むという条件を有する。
【0021】
第1の態様の一実施形態では、1つ以上のLPC化合物は:
式1による化合物;および/または式3による化合物;
ならびに
式2による化合物;および/または式4による化合物である。
【0022】
第1の態様の一実施形態では、
およびRがOHであり;ならびに
リゾPC-DHA:リゾPC-EPAのモル比が1:1~3:1の範囲であるか;またはリゾPC-EPA:リゾPC-DHAのモル比が1:1~5:1の範囲であり;
ただし、i)リゾPC-EPAのモル数は1-リゾPC-EPAのモル数+2-リゾPC-EPAのモル数であり;かつii)リゾPC-DHAのモル数は、1-リゾPC-DHAのモル数+2-リゾPC-DHAのモル数である。
【0023】
第1の態様の一実施形態では、疾患または状態は、眼の炎症、角膜神経異常、および眼の表面上の擦過傷からなる群より選択されるドライアイ疾患などのドライアイである。
【0024】
第1の態様の一実施形態では、疾患または状態は、眼の神経変性疾患である。
【0025】
第1の態様の一実施形態では、眼の神経変性疾患は、加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症、非増殖性網膜症、増殖性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、網膜色素変性症、中心静脈閉塞症および緑内障からなる群から選択される。
【0026】
第1の態様の一実施形態では、投与は、経口投与、および血管内または静脈内投与からなる群から選択される様式による。
【0027】
第1の態様の一実施形態では、投与の様式は、経口投与である。
【0028】
第1の態様の一実施形態では、投与の様式は、血管内または静脈内投与である。
【0029】
第1の態様の一実施形態では、製剤中のLPC組成物は、式1~8のいずれか1つからなる群から選択されるLPC化合物を含み、前記LPC組成物は当該LPC組成物の10重量%~100重量%に相当する量の総LPCを含む。
【0030】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、LPCとは異なる追加の脂質を含む。
【0031】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、5重量%~12重量%のDHAを含み、当該DHAは遊離脂肪酸もしくはエチルエステルであるか、またはLPC組成物中の脂質である。
【0032】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、10重量%~24重量%のEPAを含み、当該EPAは遊離脂肪酸もしくはエチルエステルであるか、またはLPC組成物中の任意の脂質に結合している。
【0033】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、パルミトレイン酸および/またはパルミチン酸をさらに含む。
【0034】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、2重量%~5重量%のパルミトレイン酸を含み、当該パルミトレイン酸はLPC組成物中の任意の脂質に結合している。
【0035】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、10重量%~15重量%のパルミチン酸を含み、当該パルミチン酸はLPC組成物中の任意の脂質に結合している。
【0036】
第1の態様の一実施形態では、LPCとは異なる追加の脂質は、トリグリセリド、エチルエステル、遊離脂肪酸、ならびにホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルコリンなどのリン脂質からなる群から選択される。
【0037】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、当該LPC組成物の少なくとも35重量%に相当する量の総リン脂質を含む。
【0038】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、当該LPC組成物の少なくとも23重量%に相当する量の総LPCを含む。
【0039】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、当該LPC組成物の少なくとも40重量%に相当する量の総LPCを含む。
【0040】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、当該LPC組成物の少なくとも60重量%に相当する量の総LPCを含む。
【0041】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、当該LPC組成物の少なくとも90重量%に相当する量の総LPCを含む。
【0042】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、当該LPC組成物の少なくとも90重量%~98重量%に相当する量の総LPCを含む。
【0043】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、当該LPC組成物の少なくとも95重量%に相当する量の総LPCを含む。
【0044】
第1の態様の一実施形態では、製剤は、1重量%~35重量%のLPC組成物を含む。
【0045】
第1の態様の一実施形態では、製剤は、25重量%のLPC組成物を含む。
【0046】
第1の態様の一実施形態では、製剤は、40重量%のLPC組成物を含む。
【0047】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、ホスファチジルコリンの量と比較して多くの量のLPC化合物を含む。
【0048】
第1の態様の一実施形態では、LPC化合物は、LPC-EPA、LPC-DHAおよびそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0049】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、ホスファチジルコリンの量と比較して多くの量のLPC化合物を含む。
【0050】
第1の態様の一実施形態では、製剤は、ルテイン、アスタキサンチン、ゼアキサンチンおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される成分をさらに含む。
【0051】
第1の態様の一実施形態では、被験体は哺乳動物被験体である。
【0052】
第1の態様の一実施形態では、被験体はヒト被験体である。
【0053】
第2の態様において、本発明は、LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル組成物を調製する方法であって、前記クリルオイル中、DHA含有リン脂質およびEPA含有リン脂質のsn-1位に特異的なリパーゼを用いてクリルオイルを処理する工程を含む方法に関する。
【0054】
第2の態様の一実施形態では、本発明は、前記クリルオイル中、DHA含有リン脂質およびEPA含有リン脂質のsn-1位に特異的なリパーゼを用いてクリルオイルを処理することにより調製される、LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル組成物である。
【0055】
第2の態様の一実施形態では、リパーゼは、ムコール・ミエヘイ(Mucor meihei)由来のリパーゼを含む。他の実施形態では、リパーゼは、ムコール・ミエヘイ(Mucor meihei)由来の固定化リパーゼを含む。他の実施形態では、クリルオイル組成物は、約80重量パーセント超のLPC-DHAおよびLPC-EPAを含むリゾホスファチジルコリンを含む。
【0056】
第2の態様の一実施形態では、リゾホスファチジルコリンを含むクリルオイル組成物は、約80重量パーセント超のLPC-DHAおよびLPC-EPAを含む。
【0057】
第2の態様の一実施形態では、リゾホスファチジルコリンを含むクリルオイル組成物は、約70重量パーセント超のLPC-DHAおよびLPC-EPAを含む。
【0058】
第2の態様の一実施形態では、リゾホスファチジルコリンを含むクリルオイル組成物は、約60重量パーセント超のLPC-DHAおよびLPC-EPAを含む。
【0059】
第2の態様の一実施形態では、リゾホスファチジルコリンを含むクリルオイル組成物は、約50重量パーセント超のLPC-DHAおよびLPC-EPAを含む。
【0060】
第2の態様の一実施形態では、リゾホスファチジルコリンを含むクリルオイル組成物は、約40重量パーセント超のLPC-DHAおよびLPC-EPAを含む。
【0061】
第2の態様の一実施形態では、リゾホスファチジルコリンを含むクリルオイル組成物は、約30重量パーセント超のLPC-DHAおよびLPC-EPAを含む。
【0062】
第2の態様の一実施形態では、リゾホスファチジルコリンを含むクリルオイル組成物は、約20重量パーセント超のLPC-DHAおよびLPC-EPAを含む。
【0063】
第2の態様の一実施形態では、リゾホスファチジルコリンを含むクリルオイル組成物は、約10重量パーセント超のLPC-DHAおよびLPC-EPAを含む。
【0064】
第2の態様の一実施形態では、本発明は、上記クリルオイル組成物を含む、機能性食品組成物を提供する。
【0065】
第2の態様の一実施形態では、本発明は、上記クリルオイル組成物を含む、薬学的組成物を提供する。
【0066】
第3の態様において、本発明は、被験体における神経疾患または神経障害を治療または予防する方法であって、LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル組成物の有効量を被験体に投与する工程を含む方法に関する。ある実施形態では、神経疾患または神経障害は、パーキンソン病、統合失調症、外傷性脳損傷、脳卒中およびアルツハイマー病から選択される。特定の実施形態では、神経疾患または神経障害は、アルツハイマー病である。
【0067】
本発明者らはさらに、本発明によるLPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル組成物を正常マウスに与えると、網膜EPAおよびDHAが有意に増加することを発見した。トリグリセリド形態のみのEPAおよびDHAを含有する魚油による同様の処置は、網膜EPAまたはDHAのいずれにも影響を及ぼさなかった。
【0068】
したがって、別の態様では、本発明は、被験体における網膜の疾患または障害を治療または予防する方法であって、LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル組成物の有効量を被験体に投与する工程を含む方法に関する。ある実施形態では、網膜の疾患または障害は、加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症およびドライアイ疾患から選択される。
【0069】
加えて、リパーゼ処理クリルオイルは魚油で未処理クリルオイルよりも、肝臓のオメガ3脂肪酸を豊富にすることにおいて優れているため、本発明の組成物は、肝臓のDHAを豊富にすることによって和らげられることが知られている非アルコール性脂肪肝(NAFLD)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などの肝臓疾患の治療において有用である。
【0070】
したがって、別の態様において、本発明は、肝臓のDHAを豊富にすることによって和らげられる肝臓疾患を治療または予防する方法であって、LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル組成物の有効量を、治療を必要とする被験体に投与する工程を含む方法に関する。ある実施形態では、肝臓疾患は、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)から選択される。
【0071】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、試験終了時の網膜EPA含有量(AUC/mg 乾燥組織)を示す。
【0072】
図2は、試験終了時の網膜EPA/ETA比を示す。
【0073】
図3は、0週間(T0、ベースライン)、2週間(T1)および3週間(T2)の強制経口投与後に採取された血漿LPC-EPA(ng/ml)を示す。
【0074】
図4は、試験終了時の網膜DHA/ETA比を示す。
【0075】
図5は、0週間(T0、ベースライン)、2週間(T1)および3週間(T2)の強制経口投与後に採取された血漿LPC-DHA(ng/ml)を示す。
【0076】
図6は、6つの実験群の網膜EPA濃度を総脂肪酸に対する%として表したものを示す。
【0077】
図7は、6つの実験群の各々について、網膜ARA(20:4 n-6)濃度とDHA用量との間の関係を示す。
【0078】
図8は、経口およびi.v.投与後の眼の組織の濃度時間曲線下面積を示す。
【0079】
図9は、LPC-EPAおよびLPC-DHAを最初の24時間、経口およびi.v.投与した後の眼の組織(全眼)の濃度時間曲線下面積を示す。
【0080】
図10は、LPC-EPAおよびLPC-DHAを最初の72時間、経口およびi.v.投与した後の眼の組織(全眼)の時間濃度曲線下面積を示す。
【0081】
図11は、クリルオイルがPCのsn-2位にEPAおよびDHAを含有するため、膵臓ホスホリパーゼAによる分解の間に遊離脂肪酸としてEPAおよびDHAが放出されることを示す。放出されたEPAおよびDHAはその後、TAGとして吸収され、これは脳への輸送に必要なLPC-EPAまたはLPC-DHAのいずれも生成しない。したがって、クリルオイルを与えることは、脳内のEPAおよびDHAが有意に豊富になることをもたらさない。しかしながら、クリルオイルをsn-1エステル結合に特異的なリパーゼを用いて前処理した場合、LPC-EPAおよびLPC-DHAが生成される。この改良されたクリルオイルを与えることは、リン脂質形態のEPAおよびDHAの吸収をもたらし、脳において、それらが豊富になることをもたらすはずである。一方、魚油のリパーゼ処理は、LPC-EPAまたはLPC-DHAのいずれも生成せず、したがって、EPAおよびDHAが脳で豊富になることをもたらさない(図示せず)。
【0082】
図12は、長鎖PUFAの血漿レベルに対する食餌処置の影響を示す。空腹時血漿の総脂質を、本文に記載されるように抽出し、トランスメチル化し、GC/MSによって脂肪酸組成について分析した。示される値は、各群の5匹の動物の平均値±標準偏差である。統計的有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した(GraphPad Prism 8.0ソフトウェア)。対照群と比較して、*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;****p<0.0001。
【0083】
図13は、血漿LPC種に対する、天然のクリルオイルおよび魚油、ならびにリパーゼ処理クリルオイルおよび魚油を与えることの影響を示す。血漿サンプルを、本明細書に記載されるように酸性化メタノールを用いて抽出し、HILICカラムを用いてLC/MSにより分析し、濃度、ならびオメガ3LPC種の異性体の組成を分析した。LPC濃度は、内部標準として17:0 LPCを用いて決定した。17:0LPCおよび22:6LPCの標準の強度値は使用される条件下でこの量によって異なるため、補正係数(×0.233)を適用して値を計算した。事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定されるように、同一でない上付き文字を有するバーは、互いに有意に異なる(総LPC)。
【0084】
図14は、前頭前皮質のPUFA組成物を示す。GC/MSによって総脂肪酸組成を分析し、20:4(ARA)、20:5(EPA)、22:5(DPA)、および22:6(DHA)のみの割合組成を示す。示される値は、各群の5匹の動物の平均値±標準偏差である。統計的有意性は一元配置ANOVAによって決定され、記号は上記図12の下と同じである。
【0085】
図15は、海馬のPUFA組成物を示す。本文に記載されるように、脂肪酸組成を分析した。示される値は、各群の5匹の動物の平均値±標準偏差である。統計的有意性に関する記号は、上記図12の下と同じである。
【0086】
図16は、線条体のPUFA組成物を示す。本文に記載されるように、PUFA組成物を分析した。示される値は、各群の5匹のマウスの平均値±標準偏差である。対照飼料と実験飼料との間の統計的有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した。有意性に関する記号は、上記図12の下と同じである。
【0087】
図17は、小脳におけるPUA組成物を示す。本文に記載されるように、GC/MSによって脂肪酸組成を分析した。示される値は、各群の6匹のマウスの平均値±標準偏差である。対照飼料と実験飼料との間の統計的有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した。有意性に関する記号は、上記図12の下と同じである。
【0088】
図18は、前頭前皮質および海馬におけるBDNFレベルに対する食餌処置の効果を示す。BDNFレベルの免疫測定は、内部標準としてβ-アクチンを用いて、本文に記載されるように行った。示されるBDNF/β-アクチン比は、各群の3匹のマウスの平均値±標準偏差である。挿入図は、代表的な免疫ブロットを示す。対照飼料と実験飼料との間の統計的有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した。***p<0.001VS対照;****p<0.0001VS対照。
【0089】
図19は、性腺周囲脂肪組織のPUFA組成物を示す。示される百分率値は、各群について5匹のマウスの平均値±標準偏差である。統計的有意性の値(一元配置ANOVA)は、対照飼料と実験飼料との間のものであり、記号は上記図12の下と同じである。
【0090】
図20は、鼠径部脂肪組織のPUFA組成物を示す。示される百分率値は、各群について5匹のマウスの平均値±標準偏差である。統計的有意性の値(一元配置ANOVA)は、対照飼料と実験飼料との間のものであり、記号は上記図12の下と同じである。
【0091】
図21は、肝臓の脂肪酸組成に対する飼料の脂肪の影響を示す。GC/MSによる総脂質の脂肪酸分析は、本文に記載されている通りであった。示される値は、各群の5匹のマウスの平均値±標準偏差である。対照飼料と実験飼料との間の統計的有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した。有意性に関する記号は、上記図12の下と同じである。
【0092】
図22は、心臓の脂肪酸組成に対する飼料の脂肪の影響を示す。心臓の総脂質を抽出し、本文に記載されるようにGC/MSによって脂肪酸組成について分析した。示される値は、各群の5匹のマウスの平均値±標準偏差である。対照飼料と実験飼料との間の統計的有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した。有意性に関する記号は、上記図12の下と同じである。
【0093】
図23は、sn-1脂肪酸を特異的に加水分解するリパーゼを用いて処理したPCのsn-2位においてEPAおよびDHAを含むクリルオイルが、LPC-EPAおよびLPC-DHAを生成することを示す。この調製物を正常マウスに与えると、網膜EPAおよびDHAが有意に増加した。トリグリセリド形態のみのEPAおよびDHAを含有する魚油の同様の処置は、網膜EPAまたはDHAのいずれにも影響を及ぼさなかった。
【0094】
図24は、PC、TAG、またはLPC形態で与えられた、飼料のDHAのラットの網膜の脂質への取り込みを示す。正常な雄のSprague-Dawleyラット(8週齢;各群n=5)に、TAG-DHA、ジ-DHA PC、またはLPC-DHAの形態で250μLのトウモロコシ油中に含まれる10mgDHAを30日間毎日強制経口投与した。加えて、半分の用量のLPC-DHA(5mgのDHA)を、消化中にジ-DHA PCによって生成されると予想されるLPC-DHAの量に匹敵するように使用した。DHAを含有しないが、固形飼料1g当たり17.4mgのα-リノレン酸(18:3、n-3)を含有する、通常のげっ歯類固形飼料を、全ての動物に与えた。本文に記載されるように、網膜FAをGC/MSによって分析した。20:4(n-6)、20:5(n-3)、22:5(n-3)、および22:6(n-3)の割合組成をここに示す。総FA組成物を表1に示す。処置群間の差異の有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した(GraphPad Prism 8.0ソフトウェア)。共通の文字が上に付いていないバーは、互いに有意に異なる(p<0.05)。TG:トリアシルグリセロール;PC:ホスファチジルコリン;LPC:リゾホスファチジルコリン;FA:脂肪酸;GC/MS:ガスクロマトグラフィー/質量分析。
【0095】
図25は、マウスの網膜FAに対する、飼料の遊離(エステル化されていない)DHA、sn-1 DHA-LPC、およびsn-2 DHA LPCの影響を示す。正常な雄マウス(C57 BL/J6、16週齢)に、80μLのトウモロコシ油中に遊離DHA、sn-1 DHA LPC、またはsn-2 DHA LPC形態で含まれる1mgのDHAを30日間毎日強制経口投与した。網膜のFA組成物をGC/MSにより分析した。アラキドン酸およびオメガ-3 FAに関する値のみをここに示す(平均値±標準偏差、8匹の動物/群)。総FA組成を表2に示す。事後Tukey補正を用いた一元配置ANOVAにより、共通の文字が上に付いていないバーは互いに有意に異なる(p<0.05)。SD:標準偏差;sn-1およびsn-2:立体特異的番号付けそれぞれ1および2;LPC:リゾホスファチジルコリン;DHA:ドコサヘキサエン酸。
【0096】
図26は、DHAを含有するマウスの網膜のリン脂質の分子種を示す。図2に記載されているように、遊離(エステル化されていない)DHA、またはLPC-DHAの2つの異性体を、動物に強制経口投与した。17:0 LPC、17:0-17:0 PC、および17:0-17:0 PEを内部標準として用いて、本文に記載されているようにLC/MS/MSによる多重反応モニタリングを使用して、DHAを含有するPC(A)およびPE(B)の分子種を分析した。一元配置ANOVA、および事後Tukey多重比較検定により、共通の文字が上に付いていないバーは互いに有意に異なる(平均値±標準偏差、6匹の動物/群)。PE:ホスファチジルエタノールアミン;PC:ホスファチジルコリン;sn-1およびsn-2:立体特異的番号付けそれぞれ1および2;DHA:ドコサヘキサエン酸;LC/MS/MS:液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析;SD:標準偏差;LPC:リゾホスファチジルコリン;DHA:ドコサヘキサエン酸。
【0097】
図27は、マウスの網膜FAに対する、未処理またはリパーゼ処理魚油およびクリルオイルを与えることによる影響を示す。7%の総脂肪を含有する食餌(AIN93G)を正常な雄のマウス(8週齢)に与え、ムコールのリパーゼを用いて処理した(または未処理の)魚油またはクリルオイルの形態の0.264%EPA+DHAを補った。マウスに食餌を30日間自由摂食させ、網膜FAをGC/MSによって分析した。20:4(n-6)、20:5(n-3)、22:5(n-3)および22:6(n-3)の割合組成をここに示す(平均値±標準偏差、5匹のマウス/群)。総FA組成物を表3に示す。一元配置ANOVA、および事後Tukey多重比較検定により、共通の文字が上に付いていないバーは互いに有意に異なる。KO:クリルオイル;FO:魚油;FA:脂肪酸;EPA:エイコサペンタエン酸;GC/MS:ガスクロマトグラフィー/質量分析;DHA:ドコサヘキサエン酸。
【0098】
〔定義〕
本開示を通して、関連用語は関連技術分野、すなわち、薬化学、医学、生物学、生化学および生理学の分野において確立されたそれらの典型的な意味と一貫して理解されるべきである。
【0099】
しかしながら、以下に記載される特定の用語について、さらなる説明および記載を提供する。
【0100】
以下の略語は、ARA:アラキドン酸(20:4、n-6);BBB:血液脳関門;BDNF:脳由来神経栄養因子;DHA:ドコサヘキサエン酸(22:6、n-3);DPA:ドコサペンタエン酸(22:5、n-3);EPA:エイコサペンタエン酸(20:5、n-3);FA:脂肪酸(複数可);FO:魚油;GC/MS:ガスクロマトグラフィー/質量分析;KO:クリルオイル;LC/MS/MS:液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析;LPC:リゾホスファチジルコリン;PC:ホスファチジルコリン、TAG:トリアシルグリセロールを示す。
【0101】
「クリルオイル」は、ナンキョクオキアミ(Euphausia superba)の種から調製された抽出物を指す。クリルオイル中の最も重要な成分の2つは、DHAおよびEPAの形態のオメガ-3脂肪酸、ならびにリン脂質由来脂肪酸(PLFA)、主にホスファチジルコリン(あるいは海洋レシチンと呼ばれる)である。クリルオイルは市販されている。
【0102】
【化2】
【0103】
用語「2-リゾPC-DHA」および「2-LPC-DHA」は、本明細書において互換的に使用され、RがOHである式1による化合物を指す。
【0104】
用語「2-リゾPC-EPA」および「2-LPC-EPA」は、本明細書において互換的に使用され、RがOHである式2による化合物を指す。
【0105】
用語「2-リゾPC-DPA」および「2-LPC-DPA」は、本明細書において互換的に使用され、RがOHである式5による化合物を指す。
用語「2-リゾPC-SDA」および「2-LPC-SDA」は、本明細書において互換的に使用され、RがOHである式6による化合物を指す。
【0106】
用語「1-リゾPC-DHA」および「1-LPC-DHA」は、本明細書において互換的に使用され、RがOHである式3による化合物を指す。
【0107】
用語「1-リゾPC-EPA」および「1-LPC-EPA」は、本明細書において互換的に使用され、RがOHである式4による化合物を指す。
【0108】
用語「1-リゾPC-DPA」および「1-LPC-DPA」は、本明細書において互換的に使用され、RがOHである式7による化合物を指す。
【0109】
用語「1-リゾPC-SDA」および「1-LPC-SDA」は、本明細書において互換的に使用され、RがOHである式8による化合物を指す。
【0110】
用語「リゾPC-DHA」および「LPC-DHA」は、本明細書において互換的に使用され、1-リゾPC-DHAおよび2-リゾPC-DHAの両方を含む。
【0111】
用語「リゾPC-EPA」および「LPC-EPA」は、本明細書において互換的に使用され、1-リゾPC-EPAおよび2-リゾPC-EPAの両方を含む。
【0112】
用語「リゾPC-DPA」および「LPC-DPA」は、本明細書において互換的に使用され、1-リゾPC-DPAおよび2-リゾPC-DPAの両方を含む。
【0113】
用語「リゾPC-SDA」および「LPC-SDA」は、本明細書において互換的に使用され、1-リゾPC-SDAおよび2-リゾPC-SDAの両方を含む。
【0114】
用語「EPA」は、エイコサペンタエン酸を指す。
【0115】
用語「DHA」は、ドコサヘキサエン酸を指す。
【0116】
用語「DPA」は、n3-ドコサペンタエン酸を指す。用語「n3」は、化合物がオメガ-3脂肪酸であることを明記する。
【0117】
用語「SDA」は、ステアリドン酸を指す。
【0118】
EPA、DHA、DPA、SDAは本発明の組成物に関連して本明細書で使用される場合、脂質骨格、例えば、リン脂質、リゾリン脂質、トリアシルグリセリド、ジアシルグリセリド、モノアシルグリセリドまたは任意の他の脂質骨格に結合することができる脂肪酸鎖を指し、あるいはそれは、遊離脂肪酸またはエチルエステルとして組成物中に存在することができる。
【0119】
用語「総LPC」は、本明細書において、組成物中のリゾホスファチジルコリンの総含有量を記載するために使用される。
【0120】
用語「総リン脂質」は、本明細書において、組成物中のリゾリン脂質を含むリン脂質の総含有量を記載するために使用される。
【0121】
用語「静脈内投与」は、本明細書で使用される場合、液体物質が静脈内に直接送達される投与様式を指す。投与の静脈内経路は、注射(より高い圧力のシリンジを用いる)または注入(典型的には重力によって供給される圧力のみを用いる)に使用することができる。
【0122】
用語「薬学的に許容される賦形剤」は、特許請求の範囲で言及されるLPC組成物の成分とは異なる物質を指し、これは油性医薬品と共に一般に使用される。そのような賦形剤としては、トリオレイン、大豆油、ベニバナ油、ゴマ油、ヒマシ油、ココナッツ油、トリグリセリド、トリブチリン、トリカプロイン、トリカプリリン、ビタミンE、抗酸化剤、α-トコフェロール、アスコルビン酸、メシル酸デフェロキサミン、チオグリコール酸、乳化剤、レシチン、ポリソルベート80、メチルセルロース、ゼラチン、血清アルブミン、ラウリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール(PEG)、PEG 400、ポリエチレングリコール修飾ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)、ポロキサマー、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、pH調整剤;水酸化ナトリウム、抗菌剤EDTA、安息香酸ナトリウム、ベンジルアルコール、およびアルブミンなどのタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に許容される賦形剤は、組成物の他の構成要素と相性がよいという意味で許容されるべきであり、その受容者に有害であってはならない。
【0123】
本明細書で使用される用語「薬学的に許容される塩」は、当技術分野で周知の様々な有機および無機対イオンから誘導される薬学的に許容される塩を指し、ほんの一例として、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、およびテトラアルキルアンモニウムが挙げられ、分子が塩基性官能基を含む場合、塩酸塩、臭化水素酸塩、酒石酸塩、メシラート、酢酸塩、マレイン酸塩、およびシュウ酸塩などの有機酸または無機酸の塩が挙げられる。適切な塩としては、P. Heinrich Stahl, Camille G. Wermuth (Eds.), Handbook of pharmaceutical salts properties, Selection, and Use; 2002に記載されているものが挙げられる。
【0124】
用語「予防(prophylaxis)」は、疾患または状態を治療するのではなく、それらを防ぐためにとられる手段を意味する。
【0125】
用語「有効量」は、細胞、組織、系、動物、またはヒトの有益なもしくは所望の生物学的、情緒的、医学的、または臨床的応答に影響するのに十分な、本明細書で提供される、開示されている化合物または組成物の量を指す。有効量は、1回以上の投与、適用、または投薬で投与し得る。この用語はまた、その範囲内に、実質的に正常な生理学的機能を増強または回復するのに有効な量を含み得る。
【0126】
用語「治療的有効量」は、当技術分野で認識されている用語である。ある実施形態では、当該用語は医学的治療に適用可能で妥当な利益/リスク比で何らかの所望の効果をもたらす、本明細書に開示される組成物の量を指す。ある実施形態では、当該用語は、ある期間の間、医学的症状を排除、減少または緩和するのに必要または十分な量を指す。有効量は、治療される疾患もしくは状態、投与される特定の組成物、被験体のサイズ、または疾患もしくは状態の重症度などの因子に応じて変動し得る。当業者は、過度の実験を必要とすることなく、特定の組成物の有効量を経験的に決定することができる。
【0127】
例えば、所望の治療効果を達成するために必要とされるレベルよりも低いレベルで化合物の投与を始め、所望の効果が達成されるまで用量を漸増することは、十分に当業者の技術の範囲内である。所望に応じて、有効な1日あたりの用量は、投与の目的のために複数の用量に分割され得る。したがって、単回投薬組成物は、1日あたりの用量を構成するための、それらのそのような量、または約数分を含有し得る。用量は、あらゆる禁忌の事象において個々の医師によって調節され得る。本発明の薬理学的剤の最大用量を(単独で、または他の治療剤と組み合わせて)使用する、すなわち、健全な医学的判断に従った最高安全用量を使用することが一般に好ましい。しかしながら、患者は医学的理由、心理学的理由、または事実上任意の他の理由のために、より低い用量または耐容できる用量を要求できることは、当業者によって理解されるであろう。
【0128】
例えば、開示されている化合物および/または薬学的組成物の治療的有効量に対する応答は、治療または薬物の生理学的作用(治療または薬理学的剤の投与後の疾患の症状の低下または欠如など)を判断することによって測定し得る。他のアッセイは当業者に公知であり、応答のレベルを測定するために採用され得る。治療の量は、例えば、開示されている化合物および/または薬学的組成物の量を増減することによって、投与する開示されている化合物および/または薬学的組成物を変更することによって、投与経路を変更することによって、投薬のタイミングを変更することなどによって変化し得る。用量は変動し得、1日または数日間、1日あたり1回以上の用量投与で投与し得る。所定の分類の医薬品に関する適切な用量についての文献にて、ガイダンスを見つけることができる。
【0129】
用語「治療する」は当技術分野で認識されており、疾患、障害、または状態にかかりやすいかもしれないが、それにかかっているとはまだ診断されていない被験体において、疾患、障害、または状態が生じることを防止すること;疾患、障害、または状態を阻害する(例えば、進行を防ぐ)こと;ならびに疾患、障害、または状態を軽減すること(例えば、疾患、障害、および/または状態の後退を引き起こすこと)を含む。疾患または状態を治療すること(眼の炎症、角膜神経異常および眼の表面上の擦過傷から選択されるドライアイ疾患、または、加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症、非増殖性網膜症、増殖性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、網膜色素変性症、中心静脈閉塞症および緑内障から選択される眼の神経変性疾患、ならびに他の関連疾患または任意の他の医学的状態を治療することなど)は、潜在する病状が影響を受けない場合であっても、特定の疾患または状態の少なくとも1つの症状を改善することを含むことが当該技術分野において十分に理解されており、組成物を受容していない被験体と比較して被験体における医学的状態の症状の頻度を減少させるか、または発症を遅らせる、組成物の投与を含む。
【0130】
〔発明の詳細な説明〕
本明細書で具体的に定義されない限り、使用されるすべての技術用語および科学用語は、医学、薬理学、薬化学、生物学、生化学および生理学の分野において当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0131】
本明細書に記載されるものと類似または同等のすべての方法および材料を、本発明の実施または試験において使用することができ、好適な方法および材料は本明細書に記載される。本明細書で言及されている全ての出版物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照によってそれらの全体が取り込まれる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先される。
【0132】
数値の限定または範囲が本明細書で述べられる場合、終点が含まれる。また、数値の限定内または範囲内の全ての値および部分範囲は、明示的に記載されているかのように具体的に含まれる。
【0133】
前述のように、ドライアイ疾患(DED)を含む多くの医学的状態が存在し(Deinema et al., American Academy of Ophthalmology 2016, ISSN 0161-6420)、それらは低い網膜オメガ-3レベルに関連するか、または網膜長鎖オメガ-3レベルの増加したレベルから利益を得る。DHA、EPA、DPAおよびSDAが、この点で特に興味深いオメガ-3脂肪酸である。
【0134】
したがって、網膜中のオメガ-3脂肪酸のレベルを増加させるため、特に網膜中のDHA、EPA、DPAおよび/またはSDAのレベルを増加させるための手段が必要とされている。
【0135】
他の組織とは異なり、オメガ-3の取り込みは、網膜中のリポタンパク質受容体を介しては起こらない。動物モデルにおける以前の研究は、LPC形態のDHAが、DHAおよび他の長鎖脂肪酸を含有するLPCを輸送する、ナトリウム依存性リゾホスファチジルコリン(LPC)共輸送体であるMfsd2aを介して、血液網膜関門を通過することを報告している。
【0136】
杆体視細胞の外節における眼の光受容体膜ディスクは、視覚色素ロドプシンおよびオメガ3脂肪酸ドコサヘキサエン酸(DHA)が非常に豊富である。眼は血液からDHAを獲得し、眼におけるDHA取り込みおよび光受容体膜ディスクの発達のために重要な経路として、Mfsd2aを介したLPC輸送が実証されている。
【0137】
さらに、Mfsd2aは、光受容体の発達前に胚眼の網膜色素上皮において大いに発現し、胚眼の網膜色素上皮は眼におけるMfsd2a発現の主要部位であることが実証されている。
【0138】
Querquesらによって概説されているように、網膜は体内で最も高い濃度のDHAを有し、いくつかの研究は、オメガ-3多価不飽和脂肪酸が網膜疾患の発症および進行の低減において防御的役割を有し得ることを示唆している(Querques et al., J Nutr Metab. 2011; 2011: 748361)。高濃度のDHAは、光受容体膜の流動性、網膜の完全性、および視覚機能を最適化することが示唆されている。さらに、多くの研究は、DHAが網膜において、防御的(例えば、抗アポトーシスの)役割を有することを実証した。このレビューでは、オメガ-3を食品で取り込むことがAMDの発症率に影響を及ぼすことが開示されている。
【0139】
さらに、クリルオイルのサプリメントを用いた研究は、主に(クリルオイルのような)リン脂質形態におけるオメガ-3 EFAを3か月間、適度に毎日投薬することが、DEDを発症している人々において、涙液浸透圧の低下および涙液安定性の増加をもたらしたことを実証した。また、クリルオイルに由来するリン脂質は、プラセボと比較して、DEDの症状の改善およびインターロイキン17Aの基礎涙液レベルの低下とともに、さらなる治療的利益を与え得ることも実証された(Deinema et al, 2017)。
【0140】
オメガ-3 EFAを含有する、食品性のサプリメントは一般に、眼の疾患の流行に影響を及ぼし、そのような疾患の治療において潜在性を有すると思われるが、オメガ-3が輸送される形態によって、取り込みおよび効果が影響を受けると思われる。
【0141】
このことは、実施例において実証される。例えば、実施例4は、網膜EPAおよびDHAの両方の含有量は、リパーゼ処理クリルオイル由来の方が、通常のクリルオイルおよび魚油由来よりも豊富であることを説明する。結果の観点から、本発明の目的の一つは、眼の組織および網膜におけるEPAおよびDHAの取り込みを増加させるとともに、眼の組織におけるオメガ-6/オメガ-3比を最適化することである。理論に束縛されるものではないが、オメガ-3必須脂肪酸の取り込みの増加は、サイトカイン産生を調節することによって眼の炎症状態を変化させ、したがって、炎症の治療および予防を助けると考えられる。オメガ-6脂肪酸経路に由来するほとんどのエイコサノイドは炎症誘発性であるので、オメガ-3EFAはプロスタグランジン代謝を抗炎症性エイコサノイドの産生に偏らせ、炎症を制限し、消散させる。
【0142】
14個以上の炭素原子の長さが、Mfsd2A輸送体による血液脳関門(BBB)または血液網膜関門(BRB)を通過する輸送に不可欠であることが先行技術において示されている。DHA、EPA、SDAおよびDPAは、ヒトにおける肯定的な健康影響に関して非常に重要であると考えられており、これらの全てが14個を超える炭素原子を有する。したがって、本発明者らが現時点で有する情報に基づくと、LPCに結合した場合、これらの脂肪酸のそれぞれおよびすべては、血中網膜関門を通過して効率的に輸送されるはずである。それゆえ、LPC-DHAおよびLPC-EPAは、本研究(実施例2~4)においてモデル分子として選択されたが、眼への取り込みに関する本明細書で提供される全てのデータはまた、上記で言及された他の2つのオメガ-3脂肪酸、すなわちSDAおよびDPAの予想される取り込みプロファイルも示すと考えられる。
【0143】
LPC-DHAおよびLPC-EPAは、研究において経口投与および静脈内投与の両方によって投与されることになった。静脈内投与に関して、LPC-DHAおよびLPC-EPAを1つ以上の薬学的に許容される賦形剤と混合することを決定した。Sigma Aldrichによって提供されるIntralipid(IV)は油性物質と適合性があり、そのため、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤として選択された。実施例2~4で使用された薬学的組成物についてのさらなる詳細は、実施例1を参考にする。
【0144】
32匹の雄のSprague DawleyラットにLPC-DHAまたはLPC-EPAのいずれかを経口投与または単回静脈内投与した。静脈内用量は、30秒間にわたって緩徐なボーラスとして尾静脈に直接投与された。それぞれのラットを以下の時間:投薬後0.5、3、8、24、72、96、168および336時間のそれぞれにおいて、二酸化炭素ガスの過量投与によって安楽死させた。各屠体を回収直後にヘキサン/固体二酸化炭素混合物中で急速凍結し、その後、さらなる分析まで約-20℃で保存した。
【0145】
実施例2に詳述されるように、凍結された屠体を定量的な眼のオートラジオグラフィーに供して、投薬後0.5、3、8、24、72、96、168および336時間でのDHAおよびEPAの眼組織への取り込みを研究した。
【0146】
LPC-DHAの最終的な結果を実施例2、表1aおよび1bに示す。LPC-EPAの最終的な結果を実施例3、表2aおよび2bに示す。データは図8図10にも示されている。
【0147】
腸への最初の曝露を避けるために血管内投与される場合、DHAおよび驚くべきことに、そのLPC形態のEPA(それらのそれぞれの14C放射性標識カルボン酸残基によって測定される)も、眼組織への非常に迅速かつ持続的な取り込みおよび大量の蓄積を示す。短時間の血管内(i.v.)ボーラスとして与えられるLPC-EPAについて、最初の24時間の濃度時間曲線下面積(AUC)は、経口投薬LPCについての等価測定値よりも5倍超大きいことが実証された。短時間の血管内(i.v.)ボーラスとして与えられるLPC-DHAについて、最初の24時間の濃度時間曲線下面積(AUC)は、経口投薬LPC-DHAの等価測定値よりも40倍超高いことが実証された。これは、腸への最初の曝露を回避し得る投与経路が、眼の組織へのLPC-EPAおよびLPC-DHAの非常に迅速かつ持続的な取り込みをもたらすことを実証する。
【0148】
実施例3は、LPC-EPAおよびLPC-DHAを含む様々なクリルオイルリゾリン脂質を3週間毎日投薬したデータを提供する。24匹の雄ラットを群に分け、オリーブ油、異なる用量のLPC組成物およびSuperba Boostクリルオイルを含む強制経口投与を3週間毎日行った。網膜FAを抽出し分析した。
【0149】
EPAの結果を図1図2に示す。強い用量-応答関係があり、より高い用量のEPAは、より高い網膜EPA濃度(図1)およびEPA/ETA(20:4)比の増加(図2)と関連することが示されている(図2)。エイコサテトラエン酸(ETA)の1つの異性体は、オメガ-6脂肪酸であるアラキドン酸である。EPA/ETA比は、オメガ-3PUFAの取り込みが増強されて生じるオメガ-3/オメガ-6シフトのインジケータである。説明したように、眼の炎症状態に肯定的な影響を及ぼすと考えられている。導入部分に記載されているように、オメガ-6脂肪酸は炎症に関連しており、一方、EPAおよびDHAなどのオメガ-3脂肪酸は抗炎症シグナルに関連している。図15からわかるように、粗製リゾリン脂質組成物を与えられたラットは、同様の用量でSuperba Boostクリルオイルを与えられたラットよりも高い網膜EPA/ETA比を示す。これは、LPC組成物を与えられたラットがSuperba Boostクリルオイルおよびオリーブ油を与えられたラットと比較して、網膜においてより好ましいEPAプロファイルを示し、さらに、より高用量のリゾリン脂質組成物が網膜においてより好ましいEPAプロファイルと関連することを意味する。
【0150】
図3の検査は、網膜EPAプロファイルの改善が血漿中に存在するより多量のLPC-EPA、およびmfsd2aを介したその後の網膜へのEPA取り込みの増加に関連する可能性が高いことを示唆している。高用量で提供された実施例の粗製(群4)は、血漿中のLPC-EPAの最高レベル、ならびに最高の網膜EPA含量および改善されたEPA対ETA比の両方を示した。
【0151】
図4および図5は、DHAの結果に関連している。DHAについて、それはまた、強い用量-応答関係を示し、より高用量のリゾリン脂質組成物は、より高いDHA/ETA比、および粗製高用量群における特に顕著なDHA/ETA比の増加と関連している。これは、DHAがリゾリン脂質生成物の純度の違いに関係なく、リゾリン脂質組成物から網膜に用量依存的に取り込まれることを示唆する。
【0152】
図5は、粗製高用量群(群4)が研究期間の終わり(T2)にLPC-DHAの最高レベルを示すことをさらに示し、これは血液網膜関門を横切るDHA取り込みがMfsd2aを介して起こるという概念を支持する。
【0153】
図6は、総脂肪酸に関連する眼EPA濃度を示す。図6から分かるように、より高用量の「粗製」リゾリン脂質組成物は、総脂肪酸と比較してより高い網膜EPA濃度と関連している。
【0154】
図7は、アラキドン酸(ARA;20:4 n-6)、DHA用量および試験製品の間の関係を示す。図7は、より高用量の「粗製」DHA/EPAリゾリン脂質組成物は、総脂肪酸と比較してより低いレベルの網膜ARA濃度と関連し、粗製リゾリン脂質組成物が同等の用量でSuperba Boostと比較してより顕著なARA減少を示したことを示す。このことは、リゾリン脂質組成物の用量の増加が網膜におけるより有益な脂肪酸プロファイルと関連することを再度示唆する。
【0155】
それゆえに、実施例3は経口投与経路が網膜の好ましい脂肪酸含量をもたらし得、これは網膜の炎症状態に肯定的な影響を有することを実証する。これらの結果に基づいて、本発明者らは、本明細書に開示される眼の疾患の予防療法などの治療に使用するための、本明細書に記載のLPC-組成物を含む経口食品性サプリメントを提案する。
【0156】
したがって、第1の態様において、本発明は、眼の疾患または状態の1つ以上の症状および/または徴候を治療、予防および/または軽減するための方法であって、それらを必要とする被験体に製剤の有効量を投与する工程を含み、当該製剤が式1~8のいずれか1つからなる群から選択されるLPC化合物を含むリゾホスファチジルコリン(LPC)組成物、およびそれらの任意の組み合わせを含むことによって、疾患または状態の症状を改善、制御、低減または緩和する方法に関する:
【0157】
【化3】
【0158】
式中、
は、OHまたはO-CO-(CH-CHであり;
は、OHまたはO-CO-(CH-CHであり;および
nは、0、1または2である。
【0159】
本発明に係る一実施形態では、RはOHであり、かつ、RはOHである。
【0160】
本発明に係る代替の態様は、RがOHまたは保護基であり、かつ、RがOHまたは保護基である本発明の第1の態様に関する。保護基の一例は、nが0、1または2であるO-CO-(CH-CHである。
【0161】
保護基は好ましくはMfsd2a輸送体への結合を妨害せず、同時にオメガ-3(すなわち、DHA、EPA、SDAおよびDPA)アシル基の移動を阻害する基である。オメガ-3脂肪酸部分(例えば、DHA部分、EPA部分、SDA部分およびDPA部分)がグリセロール骨格のsn-1位に位置する場合、保護基は典型的にはsn-1位からsn-2位へのオメガ-3脂肪酸部分の移動を阻害する。オメガ-3脂肪酸部分(例えば、DHA部分)がグリセロール骨格のsn-2位に位置する場合、保護基は典型的にはsn-2位からsn-1位へのオメガ-3脂肪酸部分の移動を阻害する。
【0162】
式1および3は、DHA部分が結合した化合物を指す。式2および4は、EPA部分が結合した化合物を指す。式5および7は、n-3DPA部分が結合した化合物を指す。式6および8は、SDA部分が結合した化合物を指す。実際には、オメガ-3脂肪酸が14個以上のC原子を有する限り、DHA、EPA、DPAおよびSDA部分は原則として任意のオメガ-3脂肪酸によって置き換えられ得る。しかしながら、DHA、EPA、DPAおよびSDAは、ヒトの眼の健康に関して最も関連性があると考えられている。
【0163】
本発明に係る代替の態様は、任意のオメガ-3部分;少なくとも、i)鎖中に14個以上のC原子を有する任意のオメガ-3部分、またはii)14個以上のC原子の鎖長に相当する長さを有する任意のオメガ-3部分によって、DHA、EPA、DPAおよびSDA部分が置き換えられている、本発明の第1の態様に関する。
【0164】
本発明に係る代替の態様は、DHA、EPA、DPAおよびSDA部分がDHA、EPA、DPA、ALAおよびSDA部分によって置き換えられている、本発明の第1の態様に関する。
【0165】
本出願を通して、用語LPC化合物および用語「活性成分」/「活性構成要素」は全て、式1~8の化合物を指す。
【0166】
本発明の第1の態様において言及される、RがOHであり、かつ、RがOHである1つ以上の活性成分は、LPCのトリアシルグリセロール部分に結合したDHA、EPA、DPAまたはSDA分子のいずれかを有する全てのLPC分子である。LPC-DHAおよびLPC-EPAについて技術的効果が実証されている。WO2018162617およびWO2008068413に提示されたデータに基づいて、本発明の第1の態様において言及される、RがO-CO-(CH-CHであり、かつ、RがO-CO-(CH-CHであり;およびnが0、1または2であり、特にn=0である、1つ以上の活性成分についても同様の効果が得られると考えられる。
【0167】
本明細書に提示される結果はLPC組成物を含有する製剤の静脈内投与に印象的であるが、例えば、薬学的に許容される担体を含めることによって、効果をさらに改善することができる。例えば、リポソームは、油性物質に関する疎水性内部と、親水性環境に面する親水性外部とを提供することによって、本発明の油性構成物質に関する好適な担体であり得る。さらに、LPCは典型的には、アルブミンなどの血中のタンパク質と関連し、LPCの有効濃度を低下させることも知られている。
【0168】
本発明のLPC組成物を含む製剤は、エタノールおよび/または水などの1種以上の溶媒を含んでも、含まなくてもよい。組成物が1種以上の溶媒を含む場合、組成物中の1種以上の活性成分の量は、組成物の乾燥重量%として言及され得る。しかしながら、組成物が1種以上の溶媒を含まない場合、組成物中の1種以上の活性成分の量は、組成物の重量%として言及され得る。
【0169】
本発明に係る一実施形態では、LPC組成物を含有する製剤は、1種以上の活性成分のうちの2種以上の組合せを含み得る。活性成分の1つはグリセロール骨格に結合したDHA部分を有し得、別の活性成分はグリセロール骨格に結合したEPA部分を有し得る。
【0170】
したがって、本発明に係る一実施形態では、LPC組成物を含む製剤は、1種以上の活性成分のうちの2種以上の組合せを含む。活性成分の1つはグリセロール骨格に結合したDHA部分を有し、他の活性成分はグリセロール骨格に結合したEPA部分を有する。好ましい実施形態では、グリセロール骨格に結合したDHA部分を有する活性成分と、グリセロール骨格に結合したEPA部分を有する活性成分との特定のモル比が存在する。グリセロール骨格に結合したDHA部分を有する活性成分:グリセロール骨格に結合したEPA部分を有する活性成分のモル比は、好ましくは1:1~10:1の範囲、例えば1:1~7:1の範囲、または1:1~5:1の範囲、または1:1~3:1の範囲などである。本発明の別の実施形態では、グリセロール骨格に結合したEPA部分を有する活性成分:グリセロール骨格に結合したDHA部分を有する活性成分のモル比は、好ましくは1:1~10:1の範囲、例えば1:1~7:1の範囲、または1:1~5:1の範囲、または1:1~3:1の範囲などである。
【0171】
モル比を計算する方法を説明する以下の例が参照される。組成物が10モルのLPC-DHAおよび2モルのLPC-EPAを含む場合、グリセロール骨格に結合したDHA部分を有する活性成分と、グリセロール骨格に結合したEPA部分を有する活性成分とのモル比は、10:2、すなわち5:1である。特に断らない限り、LPC-EPAのモル数は、1-LPC-EPAのモル数+2-LPC-EPAのモル数であり、LPC-DHAのモル数は、1-LPC-DHAのモル数+2-LPC-DHAのモル数である。
【0172】
グリセロール骨格上のオメガ-3脂肪酸部分の位置は、その脂肪酸の眼への取り込みに影響を及ぼし得ることが、これまで議論されてきた。したがって、本発明に係る一実施形態では、列挙したオメガ-3脂肪酸部分がグリセロール骨格のsn-1位に結合している。本発明に係る別の実施形態では、列挙したオメガ-3脂肪酸部分は、グリセロール骨格のsn-2位に結合している。発明に係る代替の実施形態では、グリセロール骨格のsn-1位に結合したオメガ-3脂肪酸部分を有する活性成分と、グリセロール骨格のsn-1位に結合したオメガ-3脂肪酸部分を有する活性成分との特定のモル比が存在する。グリセロール骨格のsn-2位に結合したオメガ-3脂肪酸部分を有する活性成分:グリセロール骨格のsn-1位に結合したオメガ-3脂肪酸部分を有する活性成分とのモル比は、好ましくは1:8~18:1の範囲、例えば1:8~15:1の範囲、または1:8~10:1の範囲などである。
【0173】
モル比を計算する方法を説明する以下の例が参照される。組成物が5モルの2-LPC-DHA、5モルの2-LPC-EPAおよび2モルの1-LPC-DHAを含む場合、グリセロール骨格のsn-1位に結合したオメガ-3脂肪酸部分を有する活性成分:グリセロール骨格のsn-2位に結合したオメガ-3脂肪酸部分を有する活性成分のモル比は、10:2、すなわち5:1である。
【0174】
本発明に係る第2の態様は、LPC-DHAおよびLPC-EPAが豊富なクリルオイル組成物に関する。クリルオイルはかなりの量のEPAおよびDHAをリン脂質の形態で含有するが、これらの脂肪酸はリン脂質のsn-2位にあり、消化中に遊離酸として膵臓PLAによって放出され、次いでTAGとして吸収され、それゆえに脳内に効率的には輸送されない(16)。しかしながら、sn-1位に特異的なリパーゼを用いてクリルオイルを前処理すると、EPAおよびDHAはLPCとして放出され、リン脂質として吸収され、脳に取り込まれる可能性が高くなる(図11)。
【0175】
一方で、魚油はリン脂質を含有しないので、リパーゼを用いた魚油の処理はLPC-EPAまたはLPC-DHAのいずれも生成しないが、遊離酸またはモノアシルグリセロールのいずれかとしてオメガ3脂肪酸を放出し、これらはTAGとして吸収され、したがって脳のオメガ3脂肪酸を豊富にしない。本研究では、リパーゼを用いた処理の前後の魚油およびクリルオイルが正常マウスの脳のオメガ3脂肪酸を豊富にする能力を比較した。結果は、クリルオイルのリパーゼ処理は脳のEPAおよびDHAを豊富にするが、魚油のリパーゼ処理はEPAまたはDHAのいずれを増加させる能力に対しても影響を示さなかったことを、明らかに示す。
【0176】
本発明のいくつかのさらなる実施形態のクリルオイル組成物は、約40℃~約50℃の温度で不活性雰囲気下において、クリルオイルリン脂質のsn-1位に特異的なリパーゼの過剰な存在下で、sn-1エステル結合の実質的に完全な加水分解を確実にするのに十分な時間、クリルオイルを加水分解することによって調製される。好適なリパーゼとしては、ムコール・ミエヘイ(Mucor meihei)由来のリパーゼ、Rhizopus oryzaeリパーゼ、Novozyme 435(Candida sp由来)およびLipozyme TLIM(Thermomyces sp由来)などが挙げられる。いくつかの実施形態では、リパーゼは、ムコール・ミエヘイ(Mucor meihei)由来のリパーゼを含む。いくつかの実施形態では、50重量パーセント超までのリパーゼを使用して、クリルオイルを加水分解する。いくつかの実施形態では、リパーゼは固定化される。
【0177】
特定の実施形態では、95%エタノール中のクリルオイルの溶液を、1.33倍の重量のムコール・ミエヘイ(Mucor meihei)由来のリパーゼを用いて、40℃で72時間攪拌することにより処理し、その後、エタノールを蒸発させて、リパーゼ処理クリルオイル組成物を提供する。
【0178】
本明細書に記載されるように調製された、リパーゼ処理クリルオイルは、食品添加物としての使用、または機能性食品組成物もしくは薬学的組成物への組み込みのためにさらに精製してもよい。クリルオイル組成物を精製するための方法は当技術分野において公知であり、該方法は溶媒抽出、クロマトグラフィーなどを含み得る。クロマトグラフィー精製は典型的にはシリカゲルカラムに脂質抽出物を充填し、極性が増加する溶媒を用いて溶出することを含む。中性脂質および未処理のリン脂質を除去した後、メタノールを用いてリゾPCを溶出して、約85%のEPAおよびDHAを含有する純粋な化合物を得た。
【0179】
本発明のリパーゼ処理クリルオイルを含む組成物も本明細書に開示される。本発明の製剤、組成物、または物質は、乾燥粉末として、カプセルとして、すぐに飲めるジュースとして、または食品添加物としてなど、多くの方法で調製し得る。あるいは、製剤をまた、醸造、発酵、煮沸することにより、アルコールまたは水抽出物として調製されたコンポートを作製してもよい。一般に、本明細書に記載の抽出物を任意の様式で使用する任意の製剤は、本発明の意図される範囲内である。
【0180】
一実施形態では、リパーゼ処理クリルオイル組成物は、粉末として包装され、販売され得る。次いで、粉末は、水で再構成され得るか、または食品とブレンドされ得、医薬、予防、栄養、または他の健康関連の目的のために摂取され得る。あるいは、粉末はカプセル化されてもよい。その後、カプセルを飲み込む、または壊して開いて上述の粉末として使用することができる。最後に、粉末は、固体の丸薬に形成することができる。固体の丸薬は、摂取のために水に溶解する、上記のように粉末に粉砕する、または飲み込むことができる。
【0181】
リパーゼ処理クリルオイルは、固体組成物に組み込むことができる。固体組成物としては、例えば、医薬品等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウムなどを含む従来の非毒性の固体担体が挙げられる。
【0182】
例えば、本明細書に記載のリパーゼ処理クリルオイルおよび任意のアジュバントを、例えば水、生理食塩水、デキストロース水溶液、グリセロール、エタノールなどの賦形剤などに溶解、分散などして、溶液または懸濁液を形成することによって、液体組成物を調製することができる。また、所望に応じて、液体組成物は、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤などの非毒性助剤(例えば、酢酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、酢酸トリエタノールアミンナトリウム、オレイン酸トリエタノールアミンなど)を少量含むこともできる。そのような剤形を調製する実際の方法は当業者に公知であるか、または明らかである;例えば、上記で参照されているRemington’s Pharmaceutical Sciencesを参照されたい。
【0183】
他の実施形態は、ポリカチオン(キトサンおよびその第四級アンモニウム誘導体、ポリ-L-アルギニン、アミノ化ゼラチン);ポリアニオン(N-カルボキシメチルキトサン、ポリ-アクリル酸);およびチオール化ポリマー(カルボキシメチルセルロース-システイン、ポリカルボフィル-システイン、キトサン-チオブチルアミジン、キトサン-チオグリコール酸、キトサン-グルタチオンのコンジュゲート)などのポリマーを含む透過促進剤賦形剤の使用を含む。
【0184】
経口投与の場合、組成物は一般に、錠剤、カプセル、ソフトゲルカプセルの形態をとるか、または水溶液もしくは非水溶液、懸濁液もしくはシロップであり得る。経口使用のための錠剤およびカプセルは、ラクトースおよびトウモロコシデンプンなどの1つ以上の一般的に使用される担体を含むことができる。ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤もまた、典型的に添加される。典型的には、本開示の組成物は、ラクトース、デンプン、スクロース、グルコース、メチルセルロース、ヒプロメロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、マンニトール、ソルビトールなどの経口の非毒性の薬学的に許容される不活性担体と組み合わせることができる。さらに、所望または必要に応じて、適切な結合剤、滑沢剤、崩壊剤、および着色剤を混合物に組み込むこともできる。適切な結合剤としては、デンプン、ゼラチン、天然の糖類(例えば、グルコースまたはβ乳糖)、トウモロコシ由来甘味料、天然および合成のガム類(例えば、アカシア、トラガカント、またはアルギン酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックスなどが挙げられる。これらの投薬で使用される滑沢剤としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。崩壊剤としては、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0185】
口腔投与のための製剤としては、錠剤、トローチ、ゲルなどが挙げられる。あるいは、口腔投与は、当業者に公知の経粘膜送達システムを用いて行うことができる。本開示の抽出物は、従来の経粘膜送達システムすなわち、経皮「パッチ」を使用して、皮膚または粘膜組織を通して送達することができ、この場合、薬剤は、典型的には体表面に固定される薬物送達デバイスとして働く積層構造内に含まれる。そのような構造では、薬物組成物は典型的には、層、または上側のバッキング層の下にある層「リザーバ」に含まれる。積層デバイスは単一のリザーバを含むことができる、または複数のリザーバを含むことができる。一態様では、リザーバは薬物送達中に皮膚にシステムを固定する働きをする薬学的に許容される接触接着材料のポリマーマトリックスを含む。適切な皮膚接触接着剤材料の例としては、ポリエチレン、ポリシロキサン、ポリイソブチレン、ポリアクリレート、ポリウレタンなどが挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、薬物含有リザーバおよび皮膚接触接着剤が、分かれた別個の層として存在し(リザーバの下に接着剤がある)、この場合、リザーバは上記のようなポリマーマトリックスであり得るか、または液体もしくはゲルリザーバであり得るか、または何らかの他の形態をとり得る。これらの積層体におけるバッキング層はデバイスの上側の表面としての役割を果たし、積層構造の主要な構造要素として機能し、デバイスに高い柔軟性を提供する。バッキング層に選択される材料は、活性剤および存在する任意の他の材料に対して実質的に不透過性であるべきである。
【0186】
液体懸濁液が使用される場合、活性剤は任意の経口の非毒性の薬学的に許容される不活性担体(エタノール、グリセロール、水など)、ならびに乳化剤および懸濁化剤と組み合わせることができる。所望に応じて、香味剤、着色剤および/または甘味剤も添加することができる。本明細書の経口製剤に組み込むための他の任意の成分としては、防腐剤、懸濁化剤、増粘剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0187】
リパーゼ処理クリルオイルは、軟膏またはクリームとして製剤化することができる。軟膏は、典型的にはワセリンまたは他のワセリン誘導体をベースとする半固体調製物である。選択された活性剤を含有するクリームは、当技術分野で知られているように、水中油型または油中水型のいずれかの粘性液体または半固体エマルジョンである。クリーム基剤は、水洗性であり、油相、乳化剤および水相を含有する。「内部」相とも呼ばれる油相は一般に、ワセリン、およびセチルまたはステアリルアルコールなどの脂肪アルコールから構成され;水相は必ずしもそうではないが、通常、体積で油相を超え、一般に湿潤剤を含有する。クリーム製剤中の乳化剤は一般に、非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性界面活性剤である。使用される具体的な軟膏またはクリーム基剤は、当業者によって理解されるように、最適な薬物送達を提供するものである。他の担体またはビヒクルと同様に、軟膏基剤は、不活性、安定、非刺激性および非感作性であるべきである。
【0188】
本発明の別の態様は、本発明のリパーゼ処理クリルオイルを含む食品組成物を提供する。特定の実施形態では、本発明によるリパーゼ処理クリルオイルは、健康機能食品または一般的な食品中の活性材料として使用することができる。本発明の食品組成物は、アルツハイマー病などの神経疾患を予防または治療するために使用されてもよい。この場合、本発明のリパーゼ処理クリルオイルは、さらに加工することなく添加してもよいし、当技術分野で公知の方法に従って他の食品または食品材料と一緒に使用してもよい。活性材料の量は、予防、健康管理または治療目的など、その意図される目的に応じて適切に決定され得る。本発明の食品組成物は、栄養素、ビタミン、電解質、香味剤、着色剤、ペクチン酸およびその塩、アルギン酸およびその塩、有機酸、保護コロイド状増粘剤、pH調整剤、安定剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、ならびに炭酸飲料用炭酸添加剤から選択される1種以上の添加剤をさらに含有してもよい。本発明の食品組成物は、天然果汁、果汁飲料、および野菜飲料を製造するための果肉または植物の果肉をさらに含有してもよい。そのような材料は、独立して、またはそれらの混合物として使用することができる。このような添加剤の割合は限定されるものではないが、典型的には本発明の組成物100重量部に対して、0.01~0.1重量部の範囲から選択される。
【0189】
食品または飲料を製造することが意図される場合、本発明のリパーゼ処理クリルオイルは、典型的には食品または飲料の原料100重量部に対して15重量部以下、好ましくは10重量部以下の量で添加される。食品または飲料が、健康目的、および衛生または健康管理のために長期間摂取される場合、ブロッコリーまたは抽出物の量は、上記で定義された下限未満に調整され得る。本発明の食品組成物は、天然物、または天然に存在する化学物質のみからなるブロッコリー植物抽出物を使用するため、安全に関連する問題がない。したがって、ブロッコリーまたは抽出物はまた、上記で定義された上限値を超える量で使用され得る。
【0190】
食品の種類に特に制限はない。リパーゼ処理クリルオイルを添加することができる食品の例としては、肉、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディー、スナック、クッキー、ピザ、インスタントヌードル、他の麺類、チューインガム、アイスクリームを含む乳製品、スープ、飲料、茶、飲み物、アルコール飲料、およびビタミン複合体などの一般的な食品が挙げられる。
【0191】
飲料には、一般的な飲料のように、香味剤または天然炭水化物などの、1つ以上の追加の材料を含有していてもよい。天然炭水化物は、グルコースおよびフルクトースなどの単糖類、マルトースおよびスクロースなどの二糖類、デキストリンおよびシクロデキストリンなどの多糖類、ならびにキシリトール、ソルビトール、およびエリスリトールなどの糖アルコールであってもよい。飲料は、1つ以上の甘味剤を含有してもよい。甘味剤としては、例えば、タウマチンおよびステビア抽出物などの天然甘味剤、ならびにサッカリンおよびアスパルテームなどの合成甘味剤を使用することができる。
【0192】
本発明の第3の態様は、予防および/または治療に使用するための、本発明の第1または第2の態様によるLPC組成物を含む製剤に関する。いくつかの好ましい実施形態において、製剤は、経口投与または血管内投与されるべきである。
【0193】
眼表面は、ドライアイ(1)および角膜損傷(2)などの特定の障害の対象になり得る。
【0194】
眼周囲領域(3)の正しい衛生は、眼表面および眼全体の健康にとって不可欠である。
【0195】
本発明の第4の態様による好ましい実施形態では、網膜DHAおよび/またはEPAレベルの増加レベルによる利益を受ける状態は、眼表面障害である。
【0196】
ドライアイ疾患(DED)は世界中で最も一般的な眼の状態のうちの1つであり、眼科医を受診する主な理由である。
【0197】
DEDは、涙液膜および眼表面に影響を及ぼし、涙液膜浸透圧および眼表面炎症の増加を併発する、眼表面への潜在的な損傷を伴う、涙液膜の不快感、視覚障害および涙液膜の不安定性の症状を引き起こす、多因子性疾患である(DEWS II-2017による定義)。
【0198】
本発明の第4の態様による好ましい実施形態では、網膜DHAおよび/またはEPAレベルの増加レベルによる利益を受ける状態は、ドライアイ疾患である。
【0199】
角膜損傷
角膜は虹彩の前に位置する透明な膜であり、ヒトの眼の最も強力な収束レンズとして機能する。
【0200】
角膜に影響を及ぼす損傷は非常に頻繁であり、通常、次に続く炎症の発症に関連する。
【0201】
角膜損傷としては、擦過傷(眼表面に限定された、かすり傷または引掻き傷など)、化学的損傷(眼に入る流体によって引き起こされる)、コンタクトレンズまたは異物による損傷が挙げられる。
【0202】
また、眼の前眼部が関与する外科的治療による角膜損傷も存在する。
【0203】
緑内障は、視神経に影響を及ぼす慢性変性疾患であり、それを構成する神経線維へのダメージおよびその結果として生じる視野の喪失を特徴とする。治療しないまま放置すると、視野の漸進的な減少が失明につながることがある。
【0204】
緑内障は、主要な社会問題であり:それは世界中で失明の2番目の原因であり、約6000万人が罹患し、800万人を超える失明者を生じさせる。加えて、緑内障を患っている被験体の約50%は、緑内障に罹患していることに気付いていない。
【0205】
それは、視力の変化がすでに非常に進んでいるが、症状に気付く前に疾患を発見することが多いため、潜行性疾患である。しかしながら、早期に診断され、適切に治療されれば、それは効果的に制御され得、患者の残りの人生のために良好な視覚を可能にする。
【0206】
疾患の発症に関連する多くの危険因子が存在する。主なものは:
-高い眼内圧(IOP)
-高齢
-家族性素因
である。
【0207】
IOP値は、眼の内部を循環する液体、すなわち房水によって決定される。健康な眼において、生成された房水と排出された房水との間の比は、一定の眼内圧、典型的には11~20mmHgを維持するようなものである。緑内障の存在下では、この比が小柱網(眼からのこの流体の流出を可能にする構造)のレベルで生じる房水の排出流出の減少により変化する。
【0208】
緑内障はいくつかの方法で分類することができる:
-病因によれば、緑内障は、他の眼もしくは全身性疾患の非存在下で起こる場合には原発性であり得、または既存の状態と組み合わされる場合には続発性であり得る;
-房水の流出の変化に応じて、小柱網への房水の到達を妨げるという解剖学的問題がある、小柱網および閉塞隅角緑内障のレベルでの流出抵抗の増加に起因する開放隅角緑内障を区別する;
-主要危険因子であるIOPの値に基づいて、高圧緑内障と正常圧緑内障を区別する。
【0209】
そして、生後にIOPが正常より高くなった場合は先天性または後天性緑内障であり、生後数年間に発症した場合は乳児緑内障である。
【0210】
本発明の好ましい実施形態では、第1または第2の態様によるLPC組成物を含む製剤が、緑内障を阻害、予防、または治療するための使用のために提供される。
【0211】
網膜障害
網膜の特殊な光受容体、錐体および杆体が光刺激を電気刺激に変換し、電気刺激が視神経を介して脳に伝達され、そこで視覚画像の処理および知覚が生じるため、健康な網膜は視力に不可欠である。
【0212】
以下のような多くの重篤な病状は、網膜に影響を与える:
-加齢黄斑変性(AMD)は網膜の中心および最も重要な領域である黄斑に進行性のダメージを引き起こし、中心視力の漸進的な消失をもたらす。
【0213】
-糖尿病性網膜症(DRP):糖尿病の主要かつ最も一般的な眼の合併症。DRPは、1型または2型糖尿病(DM)の両方に罹患している患者における網膜毛細血管に影響を及ぼす損傷を特徴とする。未診断および未治療のまま放置すると、失明を引き起こすことがある。
【0214】
-糖尿病性黄斑浮腫(DME)は、DRPと共に糖尿病の主要な合併症のうちの1つであり、未治療の場合、中心視力を著しく妨げる可能性がある。DMEを発症する可能性は、糖尿病の長さおよび重症度と共に増加する:20年を超えてDMに罹患している患者の約30%がDMEを発症する。
【0215】
上記の態様のいずれかによる好ましい実施形態では、網膜DHAおよび/またはEPAレベルの増加レベルから利益を得る状態は、眼の炎症、角膜神経異常、および眼の表面上の擦過傷などのドライアイ疾患である。
【0216】
いくつかの実施形態では、眼の炎症性疾患としては、角膜ジストロフィー、トラコーマ、オンコセルカ症、ブドウ膜炎、交感性眼炎および眼内炎が挙げられる。
【0217】
上記の態様のいずれかによる代替の実施形態では、網膜DHAおよび/またはEPAレベルの増加レベルから利益を得る状態は、加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症、非増殖性網膜症、増殖性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、網膜色素変性症、中心静脈閉塞症および緑内障からなる群から選択される眼の神経変性疾患である。
【0218】
LPC組成物
いくつかの好ましい実施形態では、LPC組成物は、WO2019/123015(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載される方法に従って分析される。
【0219】
上記の態様のいずれかによるいくつかの実施形態では、LPC組成物は、式1~8のLPC化合物のうちの少なくとも1つ、およびそれらの任意の組み合わせを含む:
【0220】
【化4】
【0221】
いくつかの実施形態では、LPC組成物は、トリグリセリド、エチルエステル、遊離脂肪酸、ならびにホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルコリンなどのリン脂質からなる群から選択される、LPCとは異なる脂質をさらに含む。いくつかの実施形態では、LPCとは異なる脂質は、非クリル供給源などの異なる供給源に由来する。
【0222】
いくつかの実施形態では、LPC組成物は、LPC組成物の10~100重量%(LPC組成物の10~100重量%、好ましくはLPC組成物の15~100重量%、より好ましくはLPC組成物の20~100重量%、さらに好ましくはLPC組成物の30~100重量%、最も好ましくはLPC組成物の50~100重量%など)に相当する量の総LPCを含む。
【0223】
いくつかの実施形態では、LPC組成物は、DHAの量が組成物の5重量%~12重量%に相当する脂肪酸プロファイルを含み、ここでDHAは遊離脂肪酸として、もしくはエチルエステルとして存在するか、またはLPC組成物中の任意の脂質に結合している。
【0224】
一実施形態では、LPC組成物は、EPAの量が組成物の10重量%~24重量%に相当する脂肪酸プロファイルを含み、ここでEPAは遊離脂肪酸として、もしくはエチルエステルとして存在するか、またはLPC組成物中の任意の脂質に結合している。
【0225】
一実施形態では、LPC組成物は、パルミトレイン酸および/またはパルミチン酸をさらに含む。
【0226】
一実施形態では、LPC組成物は、パルミトレイン酸の量が組成物の2重量%~5重量%に相当する脂肪酸プロファイルを含み、ここでパルミトレイン酸は遊離脂肪酸として、もしくはエチルエステルとして存在するか、またはLPC組成物中の任意の脂質に結合している。
【0227】
一実施形態では、LPC組成物は、組成物の10重量%~15重量%の量の脂肪酸プロファイルを含み、ここでパルミチン酸は遊離脂肪酸として、もしくはエチルエステルとして存在するか、またはLPC組成物中の任意の脂質に結合している。
【0228】
一実施形態では、LPC組成物は、LPC組成物の少なくとも35重量%に相当する量の総リン脂質を含む。
【0229】
さらなる実施形態では、LPC組成物は、ホスファチジルコリンの量と比較して、多くの量または大部分に匹敵する少なくとも1つの本発明によるLPC化合物を含む。
【0230】
一実施形態では、LPC組成物は、LPC組成物の少なくとも23、24、25、26、27または28重量%に相当する量の総LPCを含む。
【0231】
一実施形態では、LPC組成物は、LPC組成物の少なくとも60重量%に相当する量の総LPCの量を含む。
【0232】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、LPC組成物の少なくとも90重量%に相当する量の総LPCを含む。
【0233】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、LPC組成物の90重量%~98重量%に相当する量の総LPCを含む。
【0234】
第1の態様の一実施形態では、LPC組成物は、LPC組成物の約95重量%に相当する量の総LPCを含む。
【0235】
例えば、一実施形態では、LPC組成物は、60重量%~100重量%の総LPC(約60重量%~95重量%の総LPCなど)を含む。
【0236】
本発明のいくつかの実施形態では、LPC化合物は、Aker Biomarineによって製造されたPCと比較して非常に多くの量のLPCを含有する、任意のクリル由来の加工されたリン脂質生成物である。
【0237】
上記態様のいずれかのさらなる実施形態では、LPC化合物は、LPC-EPA、LPC-DHAおよびそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0238】
上記態様のいずれかのさらなる実施形態では、LPC組成物は、クリルオイルLPC組成物である。いくつかの好ましい実施形態では、クリルオイルLPC組成物はLPC-EPAおよびLPC-DHAが豊富である。いくつかの好ましい実施形態では、クリルオイル組成物は、リパーゼ処理クリルオイルである。いくつかの実施形態では、リパーゼ処理クリルオイルは、実施例4に記載されるように作られる。いくつかの好ましい実施形態では、リパーゼ処理クリルオイルは、少なくとも80重量%のLPC-DHAおよびLPC-EPAを含む。いくつかの好ましい実施形態では、リパーゼは、ムコール・ミエヘイ(Mucor meihei)由来のリパーゼである。いくつかの好ましい実施形態では、リパーゼは固定化されている。
【0239】
その他の治療的使用
第6の態様において、本発明は、神経障害を治療するための、上記第1および第2の態様に記載された組成物および製剤の使用に関する。いくつかの実施形態では、神経障害は、パーキンソン病、統合失調症、外傷性脳損傷、脳卒中およびアルツハイマー病から選択される。いくつかの特に好ましい実施形態では、神経障害は、アルツハイマー病である。
【0240】
第7の態様では、本発明は、肝臓のDHAを豊富にすることによって和らげられる肝臓疾患を治療するための、上記第1および第2の態様に記載の組成物および製剤の使用に関する。いくつかの好ましい実施形態では、肝臓疾患は、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)から選択される。
【0241】
本発明を一般的に説明したが、特定の具体的な実施例を参照することにより、さらなる理解を得ることができ、当該実施例が例示のためにのみ本明細書に提供されるが、別段の指定がない限り、限定することは意図されない。
【0242】
〔実験〕
実施例1:実施例2~4で使用した経口製剤および静脈内製剤の調製
(材料)
【0243】
【表1】
【0244】
【表2】
【0245】
【表3】
【0246】
【表4】
【0247】
([14C]-LPC-DHA製剤、本明細書において製剤Aと称する)
後に静脈内投与された製剤は、以下の目標仕様に従って調製された:
【0248】
【表5】
【0249】
14C]-LPC-DHAをイントラリピッド製剤と混合して、以下のように、最終濃度190mg/kgのリン脂質および濃度約1.5mg/kg(155μCi/kg)の[14C]-LPC-DHAを含む投薬製剤を得た:
0.394mLのエタノール性[14C]-LPC-DHA(2361μCi/mL)を20mLのガラスバイアルに分注し、窒素気流下、周囲温度で最終容量約0.30mLに減量した。5.70mLの20%イントラリピッドを、濃縮したエタノール性[14C]-LPC-DHA溶液に加え、穏やかにボルテックス混合して均一性を確保した。
【0250】
([14C]-LPC-EPA製剤、本明細書において製剤Bと称する)
後に静脈内投与された製剤は、以下の目標仕様に従って調製された:
【0251】
【表6】
【0252】
14C]-LPC-EPAをイントラリピッド製剤と混合して、最終濃度190mg/kgのリン脂質および濃度約1.5mg/kg(155μCi/kg)の[14C]-LPC-EPAを含む投薬製剤を以下のように得た:
0.394mLのエタノール性[14C]-LPC-EPA(2361μCi/mL)を20mLのガラスバイアルに分注し、窒素気流下、周囲温度で最終容量約0.30mLに減量した。5.70mLの20%イントラリピッドを、濃縮したエタノール性[14C]-LPC-EPA溶液に加え、穏やかにボルテックス混合して均一性を確保した。
【0253】
([14C]-LPC-EPAおよび[14C]-LPC-DHAの経口投薬製剤)
14C]-LPC-EPAおよび[14C]-LPC-DHAの経口投薬製剤は、それぞれの放射性標識化合物のエタノール性溶液を、10:90v/vの放射性標識エタノール:改変クリルオイルの濃度比で改変クリルオイルLPC製剤へと添加することによって調製された。
【0254】
後に経口投与された各製剤は、以下の目標仕様に従って調製された:
【0255】
【表7】
【0256】
14C]-LPC-EPAをリン脂質製剤と混合して、最終濃度855mg/mLのリン脂質および最終濃度約1.5mg/kg(155μCi/kg)の[14C]-LPC-EPAを含む投薬製剤を以下のように得た:
製剤中のエタノールの最終総濃度は約10%であった。
【0257】
0.328mLのエタノール性[14C]-LPC-EPA(2361μCi/mL)を20mLのガラスバイアルに分注した。0.172mLのエタノールを加えた(10体積%になるまで)。4.5mLの改質クリルオイルLPC製剤(37℃)を、濃縮したエタノール性[14C]-LPC-EPA溶液に加え、ボルテックスミキサーおよび激しいピペッティングにより混合し、均一性を確保した。
【0258】
上記[14C]-LPC-EPAについて記載したように、[14C]-LPC-DHA製剤をリン脂質製剤に添加した。
【0259】
実施例2:眼組織におけるLPCの取り込み-経口投与および静脈内投与
用量を投与した時の体重が213~289g、約7~8週齢の32匹の雄のSprague Dawleyラットをポリプロピレンケージに収容し、投薬中の短期間を除いてそのままにした。動物が位置する部屋をサーモスタットでモニタリングし、データを連続的に記録し(一般に温度範囲は21±2℃、湿度範囲は55±10%)、1日あたり12時間の蛍光灯および12時間の暗所にさらした。動物は、使用前に最低3日間、標準的な動物飼育条件下で平衡化された。動物の健康状態をこの期間を通してモニタリングし、実験的使用に対する各動物の適性を使用前に確認した。
【0260】
ペレット飼料(RM1 (E) SQC, Special Diets Services, Witham, Essex, UK)および水(家庭用水供給から)は、保持期間、馴化期間および投薬後期間を通して自由に利用可能であった。
【0261】
16匹のラットに、実施例1に特定されている投薬仕様に従って、製剤Aまたは製剤Bのいずれか(製剤あたり8匹)を単回静脈内投与した。用量を投与する前に各ラットの体重を測定し、投与された個々の用量を体重および特定の投薬体積に基づいて計算した。
【0262】
経口投与のために選択された16匹のラットを一晩絶食させ、用量を飼料の再導入の1時間後に投与した。経口投与のための投薬器具は、シリンジおよび強制経口投与チューブから構成されていた。用量を投与する間、胃に製剤を直接投与することができるように、経管栄養を食道に供給した。
【0263】
静脈内投与のための投薬器具は、皮下注射器および針から構成されていた。用量は、30秒間にわたって緩徐なボーラスとして尾静脈に直接投与した。
【0264】
雄ラットへの製剤の投与後、投薬後0.5、3、8、24、72、96、168および336時間のそれぞれの時間で1匹のラットを二酸化炭素ガスの過量投与により安楽死させた。
【0265】
各屠体を回収直後にヘキサン/固体二酸化炭素混合物中で急速凍結し、その後、QWBA(定量的全身オートラジオグラフィー)による分析まで、約-20℃で保存した。
【0266】
凍結した屠体を、Ullbergの研究(Acta. Radiol. Suppl 118, 22 31, 1954)に基づく手順を用いてQWBAに供した。30~40個の組織(十分な放射能の存在下にさらされている)を含むように、ラットの体の最大5つの異なるレベルで切片を提示し、その脳、血液、腎臓および脾臓における取り込みを本明細書に開示する。
【0267】
凍結乾燥された全身オートラジオグラフィー切片を蛍光体蓄積イメージングプレートにさらし、暗所で最低5日間、周囲温度でインキュベートした。
【0268】
既知量の放射能を含む一連の較正されたオートラジオグラフィー[14C]マイクロスケール(nCi/g、Perkin Elmer製)を、それぞれのプレート上の動物切片に沿ってさらした。
【0269】
放射能の分布を眼サンプルおよびマイクロスケールにおいて測定し、Fuji FLA-5100蛍光画像分析システムならびに関連するTina(バージョン2.09)ソフトウェアおよびSeeScan(バージョン2.0)ソフトウェアを用いて定量した。
【0270】
使用した各曝露プレートについて代表的なバックグラウンド放射能測定を行った。正確な定量化の限界は、可視で最も低い[14C]マイクロスケールであると考えられた。Seescanを用いてマイクロスケールから標準曲線を作成し、そこから放射能の組織濃度を決定した(nCi/g)。重量当量/gデータの計算のために、nCi/gデータを関連する比活性(nCi/μg)で割った。
【0271】
表1aは、雄アルビノラットに平均1.5510mg/kgの[14C]-LPC-DHAを単回静脈内投与した後の眼組織中の放射能の総量を示す。
【0272】
表1bは、1aと同じデータをモル濃度で提示し、2.80マイクロモル/kg(1.5949mg/kg)の用量に標準化されている。
【0273】
表2aは、雄アルビノラットに平均1.4968mg/kgの[14C]-LPC-EPAを単回静脈内投与した後の眼内の放射能の総量を示す。
【0274】
表2bは、2aと同じデータをモル濃度で提示し、2.80マイクロモル/kg(1.5218mg/kg)の用量に標準化されている。
【0275】
表3aは、雄アルビノラットに平均1.6914mg/kgの[14C]-LPC-DHAを単回経口投薬した後の眼内の放射能の総量を示す。
【0276】
表3bは、3aと同じデータをモル濃度で提示し、2.80マイクロモル/kg(1.5949mg/kg)の用量に標準化されている。
【0277】
表4aは、雄アルビノラットに平均1.6759mg/kgの[14C]-LPC-EPAを単回経口投薬した後の眼内の放射能の総量を示す。
【0278】
表4bは、4aと同じデータをモル濃度で提示し、2.80マイクロモル/kg(1.5218mg/kg)の用量に標準化されている。
【0279】
結果を、図8~10にも提示する。
【0280】
【表8】
【0281】
【表9】
【0282】
【表10】
【0283】
【表11】
【0284】
口および腸における最初の曝露および分解を避けるために経口外投与される場合、DHAおよび驚くべきことに、そのLPC形態のEPA(それらのそれぞれの14C放射性標識カルボン酸残基によって測定される)も、表1~4および図8~10に示されるように、眼組織への非常に迅速かつ持続的な取り込みおよび大量の蓄積を示す。
【0285】
短時間の血管内(i.v.)ボーラスとして与えられたLPC-EPAについて、最初の24時間の濃度時間曲線下面積(AUC)は、経口投薬LPCについての等価測定値よりも5倍超大きいことが実証された(図9
短時間の血管内(i.v.)ボーラスとして与えられるLPC-DHAについて、最初の24時間の濃度時間曲線下面積(AUC)は、経口投薬LPC-DHAの等価測定値よりも40倍超高いことが実証された(図9)。
【0286】
実施例3:LPC EPAおよびLPC DHAの組合せを含む組成物の効果。
【0287】
この実施例は、LPC-EPAおよびLPC-DHAを含む様々なクリルオイルリゾリン脂質を3週間毎日投薬したデータを提供する。クリルオイルリゾリン脂質組成物が網膜EPAおよびDHAの含有量の増加を引き起こすか否かを調べることは興味深かった。これらの油のEPA、DHAおよび総オメガ-3の含有量を以下の表5に示す。様々な純度のクリルオイルリゾリン脂質組成物およびこれらの生成は、以前に詳細に記載されている(WO2019/123015)。
【0288】
【表12】
【0289】
24匹の雄ラットを6群に分け、3週間毎日強制経口投与した:群1)オリーブ油(0mg/kg/日のEPAおよび0mg/kg/日のDHA);群2)粗製(27%LPC)、低用量(185mg/kg/日のEPAおよび108mg/kg/日のDHA)、3)粗製(27%LPC)、中用量(370mg/kg/日のEPAおよび217mg/kg/日のDHA)、4)粗製(27%LPC)、高用量(926mg/kg/日のEPAおよび543mg/kg/日のDHA)、5)純粋(89%LPC)、中用量(324mg/kg/日のEPAおよび160mg/kg/日のDHA);6)Superba Boostクリルオイル、中用量(379mg/kg/日のEPAおよび219mg/kg/日のDHA)。
【0290】
組織のホモジナイズ後、網膜FAを抽出し、HPLCによって分析した。図1および図2に見られるように、強い用量-応答関係があり、より高い用量のEPAは、より高い網膜EPA濃度(図1)およびEPA/ETA(20:4)比の増加(図2)と関連している。驚くべきことに、図1は、「粗製」クリルオイルリゾリン脂質組成物と「純粋」クリルオイルリゾリン脂質組成物との間の網膜EPA濃度の差異を示していない。しかしながら、粗製リゾリン脂質組成物を与えられたラットは、同様の用量でSuperba Boostクリルオイルを与えられたラットよりも高い網膜EPA/ETA比を示す。これは、LPC組成物を与えられたラットがSuperba Boostクリルオイルおよびオリーブ油を与えられたラットと比較して、網膜においてより好ましいEPAプロファイルを示し、さらに、より高用量のリゾリン脂質組成物が網膜においてより好ましいEPAプロファイルと関連することを意味する。図3の検査は網膜EPAプロファイルの改善が血漿中に存在するより多量のLPC-EPA(およびmfsd2aを介したその後のEPA取り込みの増加)に関連する可能性が高いことを示唆し、粗製高用量は血漿中のLPC-EPAの最高レベルならびに最高の網膜EPA含有量およびEPA/ETA比の両方を示す。
【0291】
図4は、より高い用量のリゾリン脂質組成物がより高いDHA/ETA比、および粗製高用量群における特に顕著なDHA/ETA比の増加と関連する、強い用量-応答関係を示す。これは、DHAがリゾリン脂質生成物の純度の違いに関係なく、リゾリン脂質組成物から網膜に用量依存的に取り込まれることを示唆する。図5は粗製高用量群が研究期間の終わり(T2)にLPC-DHAの最高レベルを示すことをさらに示し、これは血液網膜関門を横切るDHA取り込みがMfsd2aを介して起こるという概念を支持する。
【0292】
GC-FIDによる脂肪酸メチルエステル(FAME)の分析を用いて、総脂肪酸に関連する脳EPA濃度(図6)、ならびにアラキドン酸(ARA;20:4 n-6)、DHA用量および試験生成物の間の関係(図7)をさらに評価した。GC-fidはさらに、HPLCデータを支持し、より高用量の「粗製」リゾリン脂質組成物は、総脂肪酸と比較してより高い網膜EPA濃度と関連していた(図6)。さらに、図7は、より高用量の「粗製」DHA/EPAリゾリン脂質組成物は、総脂肪酸と比較してより低いレベルの網膜ARA濃度と関連し、粗製リゾリン脂質組成物が同等の用量でSuperba Boostと比較してより顕著なARA減少を示したことを示す。このことは、リゾリン脂質組成物の用量の増加が網膜におけるより有益な脂肪酸プロファイルと関連することを再度示唆する。
【0293】
実施例4:脳、網膜および肝臓へのEPAおよびDHAの送達のためのクリルリゾリン脂質の使用。
【0294】
〔材料および方法〕
クリルオイルおよび魚油は、Bioriginal Food & Science Corporation, Saskatoon, Canadaからの寛大な贈り物であった。BDNFに対する抗体は、Abcam, Cambridge, MAから入手した。17:0 LPC、22:6 LPCの標準は、Avanti Polar Lipids (Alabaster, AL)から購入した。ムコール・ミエヘイ(Mucor meihei)由来の固定化リパーゼは、Creative enzyme (Shirley, NY)から購入した。クリルオイルおよび魚油を以下のようにリパーゼで処理した:油(15g)を300mLの95%エタノール水溶液(v/v)に溶解し、20gの固定化リパーゼを加えた。反応混合物を、オービタルインキュベーター中、175rpm、40℃、暗所で72時間、窒素下で振盪した。エタノールを真空下で蒸発させ、TLCおよびGC/MSによって脂質および脂肪酸の組成についてサンプルを分析した。対照およびリパーゼ処理クリルオイルのサンプルを、クロロホルム:メタノール:水(65:25:4、体積比)の溶媒系を用いてTLCにより分析した。LPC、PC、およびPEに対応するスポットを掻き取り、GC/MSによって脂肪酸組成について分析した。対照およびリパーゼ処理魚油サンプルを、ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸(90:10:1、体積比)の溶媒系を用いてTLCプレート上で分離し、MAG、DAG、遊離脂肪酸、およびTAGに対応するスポットをGC/MSによって分析した。
【0295】
飼料および処理。同等量の総EPAおよびDHA(約1.2μmol/g飼料)を含有する処理および未処理クリルオイルおよび魚油をトウモロコシ油と混合して、飼料中の総脂肪を7%にし、AIN93Gげっ歯類飼料とブレンドし、Diets Inc.によってペレット化および真空封止した。対照飼料はトウモロコシ油のみを含み、飼料は-20℃で保存し、毎週使用前に解凍した。食用油(混合トウモロコシ油を含む)の脂肪酸組成を表6に示す。予想通り、リパーゼ処理は、EPAおよびDHAに富むLPCの生成をもたらした。未処理クリルオイルのLPCにおけるEPA+DHAの割合は18%であったが、リパーゼ処理クリルオイルでは>80%であった。表7は、食用油の主要脂質画分の間のオメガ3脂肪酸(EPA+DHA)の分布を示す。PCは未処理クリルオイル中の総EPA+DHAの最大の割合を含み、一方、LPCは、リパーゼ処理クリルオイル中の最大の割合を含んでいた。魚油のリパーゼ処理は、TAGから遊離脂肪酸およびMAGへのEPAおよびDHAのシフトをもたらした。
【0296】
全ての実験は、UIC Institutional Animal Care and Use Committeeプロトコルからの倫理的承認の下で行った。雄C57BL/6マウス(齢、2ヶ月)は、Jackson Laboratories (Bar Harbor, ME)から購入した。マウスをそれぞれ5匹ずつ5群に無作為に分け、30日間、自由に餌を与えた。体重を毎週測定した。30日間の期間後、マウスをケタミン(90mg/ml)およびキシラジン(10mg/ml)で麻酔した。ヘパリン化注射器を用いて心臓穿刺により血液を採取し、1500×gで15分間の遠心分離により血漿を調製した。次いで、マウスに氷冷100mM PBS(pH7.4)を経心的に潅流し、肝臓、心臓、脳、および脂肪組織を採取した。脳をさらに切開して、前頭前皮質、海馬、線条体、および小脳を分離した。全てのサンプルを液体窒素中で急速凍結し、分析まで80℃で保存した。
【0297】
統計 統計解析は、GraphPad Prism 8.0ソフトウェア(La Jolla, CA)を用いて行った。処置間の有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAにより決定した。
【0298】
脂質抽出および脂肪酸分析 LPC種および異性体のLC/MS分析のための血漿サンプルを、Ivanova et al.(27)によって記載されているように本質的に抽出した。血漿サンプル(100μl)を、17:0 LPC(10μg)の内部標準を添加した後、900μlの酸性化メタノール(0.01N HCl、pH4.0)を用いてタンパク質を除去した。サンプルをBranson超音波処理器で3分間超音波処理し、21,500×gで10分間、4℃で遠心分離した。上清を回収し、10μlをHPLCシステムに注入した。LPC異性体の分析は、以前に記載されたように(28)、Atlantis (Waters Corp., Milford, MA)HILICカラムを使用して、およびポジティブモードエレクトロスプレー質量分析における多重反応モニタリングによって実施した。内部標準17:0でLPC種の定量化を行い、補正係数(×0.233)を適用して、既知の標準で別々に決定した17:0のLPCおよび22:6のLPC種のイオン強度の差を説明した。我々の以前の研究はこの補正係数を含まず、したがって、以前に報告されたオメガ3 LPC種の血漿値(16、17、29)はここで報告されたものよりも約4倍高かった。
【0299】
脂肪酸分析のために、脂質をBligh and Dyerの手順(30)によって抽出し、脂肪酸メチルエステルを、メタノール性HClを用いて調製し、以前に記載されたようにGC/MSによって分析した(16)。
【0300】
ウエスタンブロット分析 脳画分中のBDNFレベルをウエスタンブロット分析により決定した。簡単に説明すると、組織を溶解緩衝液(50mM Tris、pH8.0、25mM KCl、0.5mM EDTA、Nonidet P-40、0.1mM EGTA、10μL/mLアプロチニン、1mM MgCl、1mM CaCl、1mM Na、1mM NaMO、1%プロテアーゼインヒビターカクテル、1mMフェニルスルホニルフルオリド、10mM NaF、1mM NaV)中でホモジナイズし、懸濁液を氷上に30分間放置し、13000×gで4℃で10分間遠心分離した。上清(20μgタンパク質)を、80Vで2時間、10%SDSゲル上で電気泳動に供した。分離されたタンパク質をメタノールですすいだポリビニリデンジフルオリド膜(Millipore, Burlington, MA)に移し、0.1%のtween20を含有するトリス緩衝生理食塩水(TBST)中、5%(w/v)無脂肪乾燥ミルクで膜を4℃で1時間ブロックした。膜を、4℃で一晩、TBST中の一次抗体(BDNF、EPR1292、Abcam, Cambridge, MA)でプローブした。膜をTBSTで3回洗浄し、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgG(Cell Signaling Technologies, Danvers, MA)と共に室温で1時間インキュベートした。最後に、膜をTBSTで3回洗浄し、増強化学発光(ECL)検出キット(Bio-Rad, Hercules, CA)で1分間現像し、それぞれのタンパク質をBio-Rad ChemiDoc MP Imaging Systemによって定量し、結果をBDNF/β-アクチンの比として表した。
【0301】
〔結果〕
異なる飼料で処置されたマウスの食物摂取または体重に有意差はなかった(結果は示さず)。
【0302】
血漿 ARA(20:4)、EPA(20:5)、DPA(22:5)およびDHA(22:6)の割合組成を図12に示す。未処理の魚油およびクリルオイルではEPAおよびDHAの穏やかな増加のみであったが、魚油およびクリルオイルのリパーゼ処理は血漿中のEPAおよびDHAのより高い蓄積をもたらした。リパーゼ処理は、血漿EPAおよびDHAの増加に関して、魚油よりもクリルオイルの効力を増加させた(クリルオイルの場合、EPAで9倍の増加およびDHAで3倍の増加、これに対し魚油の場合、EPAで2.2倍の増加およびDHAで70%の増加)。これらの結果は、リパーゼ処理が魚油よりクリルオイルの全体的吸収を増加させることを示唆する。アラキドナート含有量は、未処理クリルオイルまたはリパーゼ処理魚油を与えたマウスでのみ有意に減少した。
【0303】
EPA、DPA、およびDHAを含むLPC種の濃度および異性体組成をLC/MSにより測定した(図13)。3つのLPCは全ての飼料によって増加したが、リパーゼ処理クリルオイルを与えた後の増加は他の飼料より4~5倍大きかった。さらに、増加の大部分は、全ての場合においてsn-2アシル異性体によるものであった。リパーゼ処理クリルオイルはsn-2アシルLPC異性体を含んでいたが、血漿sn-2アシルLPCもLPCを含まない魚油を与えた後にわずかに増加したので、血漿中に見出されたLPCは全てが最近吸収されたLPCによるものではないかもしれない。さらに、LPC-DHA/LPC-EPA比は、飼料における比と比較して、血漿においてはるかに高く、EPAのDHAへのいくらかの変換がおそらく肝臓において起こったことを示唆する。クリルオイルのリパーゼ処理は未処理クリルオイルと比較してオメガ-3 LPCの血漿レベルにおいて4倍の増加をもたらしたが、魚油のリパーゼ処理による増加はなかった。
【0304】
脳領域のPUFA 脳の4つに分けた領域を、脂肪酸組成について分析した。前頭前皮質では(図14)、EPA含有量は未処理クリルオイルによって有意に増加した(総FAに対する0.23%から1.66%)。しかしながら、クリルオイルのリパーゼ処理は、未処理クリルオイルと比較して、皮質EPAのさらなる3倍の増加をもたらした。対照的に、魚油は、リパーゼによる処理の有無にかかわらず、EPA含有量に効果を示さなかった。皮質のDHA含有量は未処理クリルオイルを与えた後に25%増加したが、クリルオイルのリパーゼ処理は118%の増加をもたらし、リパーゼ処理による4.7倍の刺激を示した。魚油は、リパーゼ処理の前後で皮質のDHA含有量に効果を示さなかった。DPA(22:5)はリパーゼ処理クリルオイルにより4.5倍に増加したが、他の調製物では増加しなかった。クリルオイルの調製物およびリパーゼ処理魚油の両方による皮質のARA(20:4)含有量の有意な減少があったが、未処理魚油によるものではなかった。ARAの減少は明らかにEPAまたはDHAによるその置換のためであるが、リパーゼ処理魚油の場合、オメガ3脂肪酸の正味の増加はなかった。
【0305】
海馬では(図15)、EPA含有量はリパーゼ処理クリルオイルによってのみ有意に増加した(対照と比較して12.5倍の増加)。DHA含有量は未処理クリルオイルによって15%増加したが、リパーゼ処理は46%の増加をもたらした(リパーゼ処理による3倍の刺激)。ARA含有量は、未処理魚油では他の調製物より減少が少なかったが、全ての調製物により有意に減少した。いずれの飼料もDPAに変化はなかった。
【0306】
線条体では(図16)、EPA含有量はリパーゼ処理クリルオイルによって増加したが(70倍)、未処理クリルオイルでは増加しなかった。興味深いことに、リパーゼ処理魚油もEPA含有量を増加させたが(12倍)、未処理魚油は効果がなかった。DHA含有量は未処理クリルオイルにより23%増加し、リパーゼ処理クリルオイルにより107%増加した(リパーゼ処理による4.7倍の刺激)。線条体のDHA含有量には、未処理または処理魚油による影響はなかった。DPAの割合は、リパーゼ処理クリルオイルによってのみ有意に増加した(0.14%から1.45%)。ARA含有量は、未処理クリルオイル(-51%)および未処理魚油(-27%)によってのみ有意に減少した。
【0307】
小脳では、リパーゼ処理クリルオイルのみがEPA含有量を有意に増加させた(11倍)(図17)。DHA含有量は未処理およびリパーゼ処理クリルオイルの両方によって増加したが、増加はリパーゼ処理後でより大きかった(リパーゼ処理による12%の刺激)。魚油は、リパーゼ処理の有無にかかわらず、有意な効果を示さなかった。ARA含有量の有意な減少は、リパーゼ処理クリルオイルで生じた。オメガ3脂肪酸の有意な増加はなかったが、ARAはまた、リパーゼ処理魚油によって減少した。
【0308】
これらの結果は、全ての脳領域においてEPAおよびDHAの累積はクリルオイルの部分的脂肪分解によって数倍まで増加したが、魚油の効果はリパーゼ処理後でも最小であったことを示している。これらの結果は、LPC-EPAおよびLPC-DHAの生成が脳によるオメガ3脂肪酸の累積に必須であるという結論を支持する。LPC-EPA量は血漿中のLPC-DHA量よりも高かったが、脳DHAの増加はEPAよりも大きかったことから、EPAは脳内でDHAに変換されるか、脳に入る前にLPC-DHAに変換されることが示唆された。
【0309】
脳におけるBDNF:我々の以前の研究は、LPC-DHAおよびLPC-EPAによる脳のDHAまたはEPAの増加が、ニューロン生存および認知機能に必須のニューロトロフィンである脳BDNFの増加をもたらすことを示した(16、26)。クリルオイルおよび魚油を与えた後に同様の変化が生じたか否かを決定するために、ウエスタンブロットによって前頭前皮質および海馬におけるBDNFのレベルを決定した。図18に示されるように、両方の脳領域のBDNFレベルは、未処理および処理クリルオイルの両方によって有意に増加したが、リパーゼ処理クリルオイルの場合の増加は、未処理クリルオイルの場合よりも3倍大きかった。魚油飼料による海馬のBDNFのわずかではあるが有意な増加があったが、皮質では認められず、リパーゼ処理はさらなる増加を示さなかった。
【0310】
脂肪組織 脳領域とは対照的に、リパーゼ処理クリルオイルは、性腺周囲(図19)または鼠径部脂肪組織(図20)のEPAまたはDHAの含有量に効果を示さなかった。しかし、未処理および処理魚油、ならびに未処理クリルオイルは全て、両方のタイプの脂肪組織のEPAおよびDHAの含有量を増加させた。いずれの調製も鼠径部脂肪組織のARA濃度に効果を示さなかった。ここで、オメガ3脂肪酸の増加は脳領域で生じたように、ARAを置き換えるのではなく、18:1および18:2を犠牲にして生じた(図示せず)。しかしながら、性腺周囲脂肪組織では、リパーゼ処理クリルオイルを除く全ての調製物が、オメガ3脂肪酸の増加に対応してARA含有量を減少させた。
【0311】
肝臓 肝臓において、EPA含有量は、未処理およびリパーゼ処理のクリルオイルの両方によって有意に増加した(図21)。しかし、リパーゼ処理後の増加は6倍大きかった。DHAレベルはリパーゼ処理クリルオイルによってのみ有意に増加した。EPAおよびDHAの増加は16:0の犠牲で起こり、リパーゼ処理クリルオイル群では、対照の28.8%から25.5%に減少した。魚油は、リパーゼ処理の有無にかかわらず、EPAまたはDHAのいずれにも効果を示さなかった。しかし、リパーゼ処理魚油群では18:0の減少が認められた(8.3%vs対照群10.6%)。いずれの調製物においても、肝臓のARAまたはDPAの含有量に有意な変化は生じなかった。
【0312】
心臓 心臓では、全ての調製物がEPAおよびDHAの両方を増加させた(図22)。しかし、興味深いことに、魚油またはクリルオイルのリパーゼ処理は心臓のオメガ3脂肪酸を豊富にする能力の低下をもたらした。いずれの栄養補助食品についても、ARAまたはDPAレベルに変化は観察されなかった。16:0、18:0、18:1、または18:2を含む他の主要な脂肪酸に有意な変化は生じなかった(図示せず)。
【0313】
〔考察〕
飼料のEPAおよびDHAは、TAG(魚油、藻類油)またはリン脂質(クリルオイル)の形態で最も一般的に生じる。現在、サプリメントはEPAおよびDHAのエチルエステル(例えば、Lovaza、Vascepa)および遊離脂肪酸(例えば、Epanova)の形態としても利用可能である。しかしながら、これらの調製物のいずれも、ほとんどの他の組織のEPAまたはDHAを豊富にするが、推奨用量では脳EPAまたはDHAを有意に豊富にしない。これは、これらのサプリメントが主にTAGとして吸収されるのに対し(16、31)、BBBにおけるトランスポーターはEPAまたはDHAのLPC形態に特異的であること(15)から明らかである。クリルオイルは約40重量%のリン脂質を有するが、リン脂質中のEPAおよびDHAはsn-2位に存在し、膵臓PLAによる消化中に遊離脂肪酸として放出される。放出されたEPAおよびDHAは、その後、TAGとして吸収され、それゆえ脳オメガ3脂肪酸を豊富にしない。本研究の目的はクリルオイルのPCをsn-1位に特異的なリパーゼを用いて予備消化し、これによりLPC-EPAおよびLPC-DHAを生成し、次いで、LPC-EPAおよびLPC-DHAがリン脂質として吸収され、脳オメガ3脂肪酸を優先的に豊富にすることによって、脳EPAおよびDHAを豊富にするクリルオイルの効力を増加できることを実証することである。比較のために、我々はまた、リン脂質を含有しない魚油をリパーゼを用いて処理し、したがってLPCを生成しないが、MAGおよび遊離脂肪酸を生成する。ここに提示された結果は、クリルオイルのリパーゼ処理が未処理クリルオイルと比較して、脳EPAを10~70倍、脳DHAを15~83%豊富にするその能力を増強するが、魚油はリパーゼ処理の有無にかかわらず、脳オメガ3脂肪酸に影響を示さなかったことを表す。未処理クリルオイルによって、脳DHAのわずかではあるが有意な増加もあったことは、明らかに、その中に存在する少量のLPC-EPAおよびLPC-DHAのためであり、したがって、リパーゼ処理による刺激はあまり顕著ではないようであることが指摘されるべきである。さらに、リパーゼ処理は使用される条件下で全てのPCをLPCには変換しなかったので、クリルオイルのリパーゼ処理によって脳オメガ3脂肪酸を増加させる可能性は本明細書に示されるものよりもさらに高い。
【0314】
リパーゼ処理クリルオイルは脳のEPAおよびDHAの増加において非常に効率的であったが、脂肪組織のオメガ3脂肪酸には影響を示さなかった。同様に、心臓では他の全ての調製物がリパーゼ処理クリルオイルよりも効率的にEPAおよびDHAを増加させたが、肝臓ではリパーゼ処理クリルオイルが他の全ての調製物よりも効率的であった。これらの結果は、先に提案したように(17)、TAGまたはリン脂質のいずれかとして吸収されたオメガ3脂肪酸の異なる代謝運命を示す。カイロミクロンは残存物として肝臓に入る前に最初に脂肪組織、筋肉、および心臓を最初に通過するので、カイロミクロンTAG由来のオメガ3脂肪酸の大部分は脂肪組織、筋肉、および心臓におけるリポタンパク質リパーゼを介した取り込みによって取り込まれる。一方、リン脂質由来のオメガ3脂肪酸は、主にカイロミクロン残存物の形態で肝臓に取り込まれる。EPAおよびDHAは、加水分解され、膜またはリポタンパク質に組み込まれ、LPCの形態で肝臓によって部分的に分泌され(32~34)、次いで、Mfsd2a経路を介して脳によって取り込まれる(15)。リパーゼ処理クリルオイル中のLPC-EPAおよびLPC-DHAの一部はLPCとして循環へと吸収され、肝臓を迂回し、脳に直接輸送される可能性もあるが、これについての直接的な証拠はない。
【0315】
魚油およびクリルオイルのオメガ3脂肪酸の相対的なバイオアベイラビリティに関しては、いくつかの議論がある。多くの研究はクリルオイル脂肪酸のより高いバイオアベイラビリティを主張しているが(35、36)、他の研究は比較のために使用された方法論のため、この結論に疑問を投げかけている(37)。本研究におけるEPAおよびDHAの空腹時血漿値に基づいて、未処理の魚油およびクリルオイルは同様のバイオアベイラビリティを示した。しかしながら、リパーゼによる油の前処理は両方の場合において血漿EPAおよびDHAを増加させたが、クリルオイルは魚油と比較してリパーゼ処理後により大きな増加を示した。これらの結果はリパーゼによる部分的加水分解が脳オメガ3脂肪酸を増加させるだけでなく、魚油およびクリルオイルから全ての組織へのオメガ3脂肪酸の全体的なバイオアベイラビリティに有益である可能性があり、これは、膵臓機能が損なわれた患者において特に重要であり得ることを示唆する。
【0316】
我々の研究はまた、リパーゼ処理クリルオイルが脳におけるBDNFレベルを有意に増加させることを示し、このことは脳におけるオメガ3脂肪酸を増加させる機能的効果を示している。クリルオイルによるBDNFの増加は、脳DHAおよびEPAの増加と一致し、他の研究(38、39)によって報告されたように、BDNFの発現に対するこれらの脂肪酸の直接的な効果を示した。興味深いことに、魚油はまた、DHAの増加はなかったが、海馬のBDNFのいくらかの増加を示した。BDNFは、神経発生、神経可塑性、および神経保護において重要な役割を果たす。BDNFは加齢において減少することが知られており、低レベルのBDNFは、様々な精神疾患および神経変性疾患と関連している(40)。したがって、リパーゼ処理クリルオイルによる脳BDNFの増加は、これらの疾患の予防および治療のための安全かつ効果的な機能性食品アプローチを潜在的に提供し得る。
【0317】
使用した油の脂肪酸分析は、GC/MSによって行った。示される値(総脂肪酸に対する%)は、最終油混合物(トウモロコシ油および魚油またはクリルオイルのいずれか)についてのものである。LPCの脂肪酸の分析は、クリルオイル混合物のクロロホルム抽出物のTLC分離後に行った。
【0318】
【表13】
【0319】
飼料調製に用いた油(トウモロコシ油充填材を含む)を抽出し、クリルオイルのためのリン脂質溶媒系(クロロホルム:メタノール:水、65:25:4、体積比)、または魚油のための中性脂質溶媒系(ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸、70:30:1、体積比)を使用してTLCにより分離した。以下に示される脂質のスポットを掻き取り、それらの脂肪酸組成を、本文に記載されるようにGC/MSによって決定した。示された値は所与の脂質中に回収された総EPA+DPAに対する割合であり、1つの代表的な調製物からのものである。魚油サンプル中に存在する少量のDAG、およびクリルサンプル中に存在するPEは、ここでは示されていない。
【0320】
【表14】
【0321】
実施例5:網膜中のDHA含有量を増加させるためのクリルオイルLPC組成物の使用
〔材料および方法〕
動物および飼料処置:本明細書に記載される動物における全ての研究は、シカゴのイリノイ大学のInstitutional Animal Care and Use Committeeによって承認された。網膜サンプルは、以前に公開されたマウスおよびラットにおけるDHAの脳内沈着に関する以前の研究から得られた[16、17、67]。雄Sprague-Dawleyラット(8週齢)をHarlan研究所(Indianapolis, IN, USA)から購入した。雄C57 BL/J6マウス(2~4ヶ月齢)をJackson Laboratories(Bar Harbor. Maine)から購入した。
【0322】
第1の研究では、雄Sprague-Dawleyラット(各群n=5、8週齢)に、TAG-DHA(DHASCO藻類油、DSM Nutritional Products, Columbia, MD, USA)、合成ジ-DHA PC(ホスファチジルコリン)、または合成LPC-DHA(sn-1アシル)の形態で10mgのDHA(40mg DHA/kg体重)を30日間、毎日強制経口投与した[17]。DHAは、TAG-DHAの3つの位置の間で等しく分布した[17]。本研究では、消化中にジ-DHA PCから生成されるLPC-DHAの予想量に匹敵する半分の用量のLPC-DHA(20mg DHA/kg)を強制経口投与した別の群のラットも含めた。第2の研究では、4ヶ月齢の雄C57 BL/J6マウス(各群n=8)に、遊離(エステル化されていない)DHA、sn-1アシルLPC-DHA、またはsn-2アシルLPC-DHAの形態で40mg DHA/kg体重を、以前に記載されているように30日間毎日、強制経口投与した[16]。第3の研究では、雄C57 BL/J6マウス(2ヶ月齢、各群n=5)に、天然またはリパーゼ処理の魚油またはクリルオイルを豊富にした飼料を30日間与えた。オメガ-3 FAの総量(エイコサペンタエン酸(EPA)+DHA)は、全ての飼料において2.64g/kg飼料であった。未処理クリルオイルは、LPCとして総オメガ-3 FAの18%を含有し、一方、リパーゼ処理クリルオイルは、LPCとして総オメガ-3 FAの80%超を含有した。魚油飼料はLPC-EPAまたはLPC-DHAを含まなかった。動物を、麻酔下で氷冷リン酸緩衝生理食塩水を経心的に潅流し、網膜を採取し、分析まで-80℃で凍結した。
【0323】
分析手順:網膜の総脂質をBligh and Dyerの手順[30]によって抽出し、メタノール性HClを用いて脂肪酸をメチル化した。脂肪酸分析は、以前に記載されているように[16]、Supelco Omegawaxカラムを備えたShimadzu QP2010SEを使用して、GC/MS(ガスクロマトグラフィー/質量分析)によって実施した。メチルエステルの定量には、50~400m/zの範囲の全イオン電流を用いた。LC/MS/MS(液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析)分析のために、脂質をIvanova et al.[27]の手順により抽出した。Agilent 2600 UPLCシステム(Santa Clara, CA, USA)と結合したABSciex QTRAP質量分析計(Redwood City, CA, USA)で、多重反応モニタリング[31]によってリン脂質の分子種の分析を行った。内部標準17:0LPC、ジ17:0PC、およびジ17:0PE(ホスファチジルエタノールアミン)を、対応する分子種の定量のために使用したが、異なる分子種のイオン強度の差についての補正因子を適用しなかった。
【0324】
統計および相関:処置群間の差異の有意性は、Holm-Sidak法で調整した対照サンプルと処置サンプルとの間のTukeyの事後多重比較補正または対応のないt検定を用いて、一元配置ANOVAによって決定した(Graphpad Prism 8.0, San Diego, CA, USA)。
【0325】
〔結果〕
ラットにおけるPC、TAG、およびLPCの形態の飼料のDHAの比較効果
我々はラット脳DHAが飼料のLPC-DHAおよびジ-DHA PCによって効率的に豊富になるが、TAG-DHAによっては豊富にならないことを以前に実証した[17]。DHA取り込みのメカニズムは脳および網膜について類似しているようなので[66]、我々は同じ動物群における網膜DHAの豊富さを決定した。正常ラットに、TAG-DHA、ジ-DHA PCまたはLPC-DHA(sn-1アシル)の形態で10mg DHA/日(40mg DHA/kg)を30日間強制経口投与し、網膜のFA組成をGC/MSによって決定した。さらに、膵臓ホスホリパーゼA(PLA)による腸管内のジ-DHA PCの消化によるLPC-DHAの予想される生成と同等とするために、半分の用量のLPC-DHA(20mg/kg)を使用した。オメガ-3 FAおよびアラキドン酸の濃度を図23に示し、一方、総FA組成を表8に示す。図24に示すように、網膜におけるDHAの割合はジ-DHA PC(+45%)およびLPC-DHA(+101%)によって有意に増加したが、TAG-DHA(+13%、有意ではない)によっては増加しなかった。LPC-DHAの半分の用量(5mg/ラット)はジ-DHA PCの総用量(+45%)よりも効率的(+75%)であり、膵臓PLA(ホスホリパーゼA)によるジ-DHA PCの加水分解が効率的でない可能性があることを示した。注目すべきことに、正常なラットの網膜DHA含有量は非常に高い(総FAに対する16.88%)が、LPC-DHAの総用量を与えることによって2倍になり(総FAに対する33.98%まで)、飼料によって達成され得る網膜DHA含有量が広範囲であることが示された。DHAの増加は我々が脳において見出したように、アラキドン酸を犠牲にして主に生じた[17]。しかしながら、DHAはまた、網膜における飽和FA(16:0および18:0)に置き換わった(表8)。いずれの処置によっても、網膜EPA(20:5(n-3))またはDPA(22:5(n-3))のいずれにおいても変化はなかった。
【0326】
マウスにおける遊離DHAおよびLPC-DHAの異性体の比較効果
以前の研究は、脳によるDHAの取り込みのためには、DHAがLPCのsn-2位置になければならず、それはインビボでのリン脂質の自然な位置であるためであることを示唆した[68、69]。しかしながら、我々の最近の研究は、sn-1 DHA LPCおよびsn-2 DHA LPCが、マウスの脳DHAを豊富にすることおよび脳機能を改善することにおいて、等しく有効であることを示した[16]。我々は遊離(エステル化されていない)DHA、sn-1 DHA LPC、およびsn-2 DHA LPCを与えられたマウスにおける網膜のFA組成を分析し、血液網膜関門を通る輸送のためのLPCのsn-2アシル異性体の優先性があるか否かを決定した。図25および表9に示されるように、遊離DHAは、ラットにおけるTAG-DHAの効果と同様に、網膜DHAに対する効果を有さなかった。しかしながら、LPC-DHAの両方の異性体は網膜DHAを80%増加させ、このことは、網膜によるDHAの取り込みが脳の取り込みと同様であり、他のものによって示されるようにMfsd2aトランスポーターと関係していることを示す[66]。さらに、血液網膜関門のトランスポーターは、我々が脳について見出したように[16]、LPC-DHAの2つの異性体を区別しなかった。いずれのDHA処置によっても、EPA(20:5、n-3)またはDPA(22:5、n-3)の含有量のいずれにも効果はなかった。LPC-DHAの2つの異性体によるアラキドナートの有意な減少があったが、遊離DHAによる有意な減少はなかった。さらに、LPC-DHAによる飽和脂肪酸(16:0および18:0)ならびに18:1の有意な減少があったが、遊離DHAによる有意な減少はなかった。これらの結果はラットの結果と同様に、マウス網膜DHAの増加がアラキドナートだけでなく飽和FAおよび18:1の置換によって起こったことを示唆する。
【0327】
網膜における2つのLPC異性体の代謝運命が互いに異なるか否かを決定するために、DHAを含むPCおよびPEの分子種をLC/MS/MSによって分析した。図26に示すように、LPC-DHAの両異性体は、20:4~22:6のPCおよび20:4~22:6のPEを除いて、DHAを含む主要なPCおよびPEの大部分を増加させ、おそらくこれはLPC処置による網膜の20:4の減少のためである。PCまたはPEの分子種組成に対するLPCの2つの異性体の効果の間に有意差はなかった。網膜の総DHA含有量は遊離DHAによって有意に増加しなかったものの(図27)、DHAを含有するPCおよびPEの少数の個々の種が増加した。しかし、この増加はLPC-DHAと比較してはるかに低いレベルであった。網膜LPC-DHAは、飼料のLPC-DHAによる処置後に増加したが、LPE-DHAでは増加しなかった。PE種においてDHAがより優勢である脳[16]とは異なり、網膜はPC種においてより多くのDHAを含有していた。PE:ホスファチジルエタノールアミン。
【0328】
マウスの網膜オメガ-3 FAへの魚油およびクリルオイルの効果
魚油を用いた以前の研究は、成体動物において網膜DHAまたはEPAが有意に豊富になることを示さなかったが[49]、我々は、LPC-EPAおよびLPC-DHAを生成するリパーゼによるクリルオイルの前処理が、成体マウスの脳におけるDHAおよびEPAの両方を有意に豊富にすることを可能にすることを最近実証した[67]。一方、遊離のEPAおよびDHAまたはモノアシルグリセロールEPAおよびDHAを生成する魚油の同様の処理は、脳オメガ-3 FAに対して何ら効果を有さなかった。リパーゼ処理クリルオイルが網膜DHAおよびEPAを豊富にするためにも使用できるか否かを決定するために、リパーゼで処理された、または処理されていない、魚油およびクリルオイルで処理されたマウスにおける網膜のFA組成を分析した。
【0329】
図27および表10に示されるように、網膜DHAは、未処理クリルオイルを与えた後に対照値より33%増加しており、これはおそらくクリルオイル調製物中に少量のLPC-DHAが存在するためである[67]。しかし、リパーゼ処理クリルオイルを与えると、網膜DHAが76%増加し、リパーゼ処理によってDHAを豊富にすることは2.3倍の刺激を示した。さらに、リパーゼ処理クリルオイルによる網膜EPAにおいて100倍の増加があったが、未処理クリルオイルまたは魚油による増加はなかった。このことは、LPC-EPAの給餌が脳および網膜におけるEPAレベルを増加させるという、我々の以前の観察を支持しており、オメガ-3 FAに富む飼料によってはこれらの組織におけるEPAは豊富にならないという以前の報告に反していた[18、19、20]。純粋なLPC-DHAの結果とは対照的に、我々は、リパーゼ処理クリルオイルで処置した後、DHAによる網膜アラキドナートの有意な変位を見出さなかった。代わりに、DHAおよびEPAは、飽和FAおよびオレイン酸(18:1、n-9)に置き換わるようであった。また、未処理クリルオイルを与えた動物では、飽和FAおよび18:1がいくらか減少した。しかし、これらの減少は統計的有意性に達しなかった(表10)。
【0330】
〔考察〕
網膜DHAは、年齢とともに[54]、ならびに糖尿病において[57、58、59]減少することが知られている。さらに、DHAレベルの低下はいくつかの網膜疾患と関連しており、最も顕著なものは糖尿病性網膜症(DR)である[54、56、44]。DRは世界中でほぼ1億人が罹患しており、成人集団における失明の最も一般的な原因である[70]。高血糖によって誘導される酸化ストレスおよび慢性炎症は、DRの主要な根本的原因であると考えられている[71]。網膜に独特に濃縮されるDHAは、抗酸化特性および抗炎症特性の両方を有することが示されている[54、72、73]。DRに加えて、DHAの欠損は、網膜色素変性症[74]、緑内障[75、76]、加齢黄斑変性[55]、ドライアイ疾患[77]、およびアルツハイマー病関連失明[41]を含む、眼の他の疾患にも関与している。これらの疾患の全ての共通要素は慢性炎症である。したがって、網膜DHAレベルが、成体哺乳動物における飼料を通して増加され得、それによってこれらの疾患を予防または治療し得るか否かを調査することが重要である。ここに提示された結果は、正常な網膜におけるDHAの非常に高い初期レベルにもかかわらず、それは飼料のLPC-DHAを通して100%までさらに増加され得るが、飼料の遊離DHAまたはTAG-DHAによっては増加され得ないことを示す。我々の知る限り、これは、正常な成体動物において、飼料補給により網膜DHAを最も豊富にすることが達成されている。以前の研究では、非常に高濃度の飼料のオメガ-3 FAでの処置後でさえ、網膜オメガ-3レベルの増加は見られなかったか、またはわずかであった。例えば、Prokopiou et al.[78]は、高齢(2歳)マウスに200mg オメガ-3 FA/日を魚油の形態で60日間与え、実際に網膜DHAの減少(-21%)を見出したが、副成分である網膜EPAは42%増加した。同様に、ABCA4-/-マウス(スタルガルト病)に206mg/日のオメガ-3 FA(172mg EPA+34mg DHA)を3ヶ月間強制経口投与したところ、網膜DHAに変化は認められなかったが、網膜EPAの67%増加(全体の0.93%から1.56%へ)が認められた[79]。Schnebelen et al.の研究[80]は、20%のオメガ-3 FAを含む5%脂肪食を3週齢のラットに3ヶ月間与えたところ、網膜DHAが8%増加したに過ぎないことを示した。これらの研究とは対照的に、内因性オメガ-6 FAをオメガ-3 FAに変換するfat-1遺伝子を保有するトランスジェニックマウスを用いたSuh et al.[82]およびTanito et al.[81]は、野生型対照と比較して網膜DHAがほぼ倍増したことを報告した。しかし、これらの研究者らによって報告されているように、飼料よりも遺伝子操作による網膜DHAの増加は、異常な網膜電図および酸化ストレスに対する感受性を引き起こすようである。一方、Connor et al.[83]は、新生児マウスにおける網膜DHA含有量を飼料によって増加させることは病理学的新生血管形成を阻害することによって未熟児網膜症を予防することを報告した。さらに、Sapieha et al.[56]は高濃度のオメガ-3 FA(飼料の2%)を含む飼料の補給が2型糖尿病のマウスモデルにおいて網膜機能を保存し、耐糖能を増強することを示したが、網膜DHAレベルの変化は報告されていなかった。糖尿病性網膜症に対する同様の利益が、ニシン油として5%カロリーを与えたTikhonenko et al.[44]によってラットにおいて示された。しかしながら、これらの有益な効果を達成するために必要とされるオメガ-3 FAの用量は、臨床設定では実用的ではない。なぜなら、ヒトでの等価用量は、アロメトリック計算[84]を用いて、Sapieha et al.の研究に基づいて、70kgのヒトでは約14gのオメガ-3 FA/日であり、またはTikhonenko et al.の研究によれば約16mLの魚油/日であるからである。対照的に、網膜DHAをほぼ2倍にするのに必要なLPC-DHAの用量は、上記の研究よりも約50倍低く、したがって臨床条件に容易に適用可能である。
【0331】
主にMfsd2a経路を介してDHAを獲得する脳とは異なり、網膜は、複数の経路を介してDHAを獲得するようである。これは、Mfs2aの欠損が網膜DHAの45%の減少、およびVLCFAの57%の減少をもたらすにすぎないためである[85]。したがって、Bazan[41]による研究は網膜DHAレベルを維持するためのアディポネクチン受容体の重要性を示したが、FA結合タンパク質およびリポタンパク質受容体の役割は他の研究によって提案されている[54、65]。これらの経路は、飼料の遊離DHAおよびTAGによる網膜DHAのわずかな増加を説明し得る。網膜はまた、網膜色素上皮細胞の食作用によってDHAを保持する効率的なリサイクル機構を有し[52、41]、おそらく、脳機能[15]と比較して、網膜機能に対する先天性Mfsd2a欠損のより軽度の効果を説明する[66、85]。脳と網膜との間の別の違いは、脳内でDHAは大部分がアラキドン酸に置き換わったのに対し[16、17、67]、網膜内でDHAはアラキドン酸よりも多くの飽和脂肪酸およびオレイン酸に置き換わったことであった。アラキドン酸の減少は炎症誘発性エイコサノイドの生成におけるその役割のために有益であると考えられるが、網膜中の飽和脂肪酸およびオレイン酸を減少させる生理学的効果は明らかではない。
【0332】
DHAとは対照的に、網膜EPA含有量は非常に低く、EPAが豊富なサプリメントを与えた後でさえ実質的に増加しないが、DHAレベルはこれらの処置によって増加する[80、83]。したがって、EPAは、脳および網膜に入らず、DHAに急速に変換されず、または正味の蓄積なしに酸化されないと仮定されている[25、86]。本研究では純粋なLPC-DHAを与えた後に網膜EPAレベルは増加しなかったが、LPC-EPAおよびLPC-DHAの両方を含むリパーゼ処理クリルオイルを与えた後に顕著な増加が生じた。したがって、我々は、以前の研究が脳または網膜EPAの増加を示すことができなかったのはインビボでLPC-EPAを生成するサプリメントができなかったためであることを示唆する。我々は、脳EPAおよび網膜EPAが同様に豊富になることが、純粋なLPC-EPAを与えた後に起こったことを以前に示した[26]。DHAに加えて網膜EPAを増加させることは、そのDHA含有量のみを増加させることよりも有益である可能性があり、これはEPAが、網膜において独特の機能的重要性を有する[89]VLCFAの合成のための好ましい基質であるためである[87、88]。EPAはまた、アラキドナートに対してDHAよりも効果的に競合し、それによって炎症誘発性プロスタグランジンの合成を阻害することが知られている。
【0333】
オメガ-3 FAに関する研究の大部分は、組織のEPAおよびDHAのレベルのみを増加させることに焦点を当てている。しかし、飼料のLPC-EPA/DHAの補助的な利点は、魚油またはエチルエステルと比較して、Mfsd2a経路を介して網膜および脳により取り込まれるDHAまたはEPAの各分子について、コリンの分子が同時に取り込まれることである。コリンはアセチルコリンならびに膜リン脂質の必須成分であり、視覚において重要な役割を果たす[90]。実際、コリンリン脂質の前駆体であるシチコリン(CDP-コリン)は、網膜症および緑内障の治療に臨床的に使用される[90]。したがって、LPC-EPA/DHAは、単一の有効な調製物において、オメガ-3 FAおよびシチコリンを組み合わせた利点を提供することができた。
【0334】
【表15】
【0335】
【0336】
【0337】
【0338】
【0339】
【0340】
【表16】
【0341】
【0342】
【0343】
【0344】
【0345】
【表17】
【0346】
【0347】
【0348】
【0349】
【0350】
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上述の明細書に記載されている刊行物および特許は、全て参照として本明細書に組み込まれる。ここに記載した本発明の方法およびシステムの種々の改変および変更は、本発明の範囲および精神から垂離することなく当業者にとって自明のことであろう。本発明は特定の好ましい実施形態との関連において説明されているが、請求項に記載した本発明はそのような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないと理解されるべきである。実際、関連分野の当業者に明らかである本発明を実施するために記載された態様の様々な改変は、以下の特許請求の範囲内であることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0351】
図1図1は、試験終了時の網膜EPA含有量(AUC/mg 乾燥組織)を示す。
図2図2は、試験終了時の網膜EPA/ETA比を示す。
図3図3は、0週間(T0、ベースライン)、2週間(T1)および3週間(T2)の強制経口投与後に採取された血漿LPC-EPA(ng/ml)を示す。
図4図4は、試験終了時の網膜DHA/ETA比を示す。
図5図5は、0週間(T0、ベースライン)、2週間(T1)および3週間(T2)の強制経口投与後に採取された血漿LPC-DHA(ng/ml)を示す。
図6図6は、6つの実験群の網膜EPA濃度を総脂肪酸に対する%として表したものを示す。
図7図7は、6つの実験群の各々について、網膜ARA(20:4 n-6)濃度とDHA用量との間の関係を示す。
図8図8は、経口およびi.v.投与後の眼の組織の濃度時間曲線下面積を示す。
図9図9は、LPC-EPAおよびLPC-DHAを最初の24時間、経口およびi.v.投与した後の眼の組織(全眼)の濃度時間曲線下面積を示す。
図10図10は、LPC-EPAおよびLPC-DHAを最初の72時間、経口およびi.v.投与した後の眼の組織(全眼)の時間濃度曲線下面積を示す。
図11図11は、クリルオイルがPCのsn-2位にEPAおよびDHAを含有するため、膵臓ホスホリパーゼAによる分解の間に遊離脂肪酸としてEPAおよびDHAが放出されることを示す。放出されたEPAおよびDHAはその後、TAGとして吸収され、これは脳への輸送に必要なLPC-EPAまたはLPC-DHAのいずれも生成しない。したがって、クリルオイルを与えることは、脳内のEPAおよびDHAが有意に豊富になることをもたらさない。しかしながら、クリルオイルをsn-1エステル結合に特異的なリパーゼを用いて前処理した場合、LPC-EPAおよびLPC-DHAが生成される。この改良されたクリルオイルを与えることは、リン脂質形態のEPAおよびDHAの吸収をもたらし、脳において、それらが豊富になることをもたらすはずである。一方、魚油のリパーゼ処理は、LPC-EPAまたはLPC-DHAのいずれも生成せず、したがって、EPAおよびDHAが脳で豊富になることをもたらさない(図示せず)。
図12図12は、長鎖PUFAの血漿レベルに対する食餌処置の影響を示す。空腹時血漿の総脂質を、本文に記載されるように抽出し、トランスメチル化し、GC/MSによって脂肪酸組成について分析した。示される値は、各群の5匹の動物の平均値±標準偏差である。統計的有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した(GraphPad Prism 8.0ソフトウェア)。対照群と比較して、*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;****p<0.0001。
図13図13は、血漿LPC種に対する、天然のクリルオイルおよび魚油、ならびにリパーゼ処理クリルオイルおよび魚油を与えることの影響を示す。血漿サンプルを、本明細書に記載されるように酸性化メタノールを用いて抽出し、HILICカラムを用いてLC/MSにより分析し、濃度、ならびオメガ3LPC種の異性体の組成を分析した。LPC濃度は、内部標準として17:0 LPCを用いて決定した。17:0LPCおよび22:6LPCの標準の強度値は使用される条件下でこの量によって異なるため、補正係数(×0.233)を適用して値を計算した。事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定されるように、同一でない上付き文字を有するバーは、互いに有意に異なる(総LPC)。
図14図14は、前頭前皮質のPUFA組成物を示す。GC/MSによって総脂肪酸組成を分析し、20:4(ARA)、20:5(EPA)、22:5(DPA)、および22:6(DHA)のみの割合組成を示す。示される値は、各群の5匹の動物の平均値±標準偏差である。統計的有意性は一元配置ANOVAによって決定され、記号は上記図12の下と同じである。
図15図15は、海馬のPUFA組成物を示す。本文に記載されるように、脂肪酸組成を分析した。示される値は、各群の5匹の動物の平均値±標準偏差である。統計的有意性に関する記号は、上記図12の下と同じである。
図16図16は、線条体のPUFA組成物を示す。本文に記載されるように、PUFA組成物を分析した。示される値は、各群の5匹のマウスの平均値±標準偏差である。対照飼料と実験飼料との間の統計的有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した。有意性に関する記号は、上記図12の下と同じである。
図17図17は、小脳におけるPUA組成物を示す。本文に記載されるように、GC/MSによって脂肪酸組成を分析した。示される値は、各群の6匹のマウスの平均値±標準偏差である。対照飼料と実験飼料との間の統計的有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した。有意性に関する記号は、上記図12の下と同じである。
図18図18は、前頭前皮質および海馬におけるBDNFレベルに対する食餌処置の効果を示す。BDNFレベルの免疫測定は、内部標準としてβ-アクチンを用いて、本文に記載されるように行った。示されるBDNF/β-アクチン比は、各群の3匹のマウスの平均値±標準偏差である。挿入図は、代表的な免疫ブロットを示す。対照飼料と実験飼料との間の統計的有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した。***p<0.001VS対照;****p<0.0001VS対照。
図19図19は、性腺周囲脂肪組織のPUFA組成物を示す。示される百分率値は、各群について5匹のマウスの平均値±標準偏差である。統計的有意性の値(一元配置ANOVA)は、対照飼料と実験飼料との間のものであり、記号は上記図12の下と同じである。
図20図20は、鼠径部脂肪組織のPUFA組成物を示す。示される百分率値は、各群について5匹のマウスの平均値±標準偏差である。統計的有意性の値(一元配置ANOVA)は、対照飼料と実験飼料との間のものであり、記号は上記図12の下と同じである。
図21図21は、肝臓の脂肪酸組成に対する飼料の脂肪の影響を示す。GC/MSによる総脂質の脂肪酸分析は、本文に記載されている通りであった。示される値は、各群の5匹のマウスの平均値±標準偏差である。対照飼料と実験飼料との間の統計的有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した。有意性に関する記号は、上記図12の下と同じである。
図22図22は、心臓の脂肪酸組成に対する飼料の脂肪の影響を示す。心臓の総脂質を抽出し、本文に記載されるようにGC/MSによって脂肪酸組成について分析した。示される値は、各群の5匹のマウスの平均値±標準偏差である。対照飼料と実験飼料との間の統計的有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した。有意性に関する記号は、上記図12の下と同じである。
図23図23は、sn-1脂肪酸を特異的に加水分解するリパーゼを用いて処理したPCのsn-2位においてEPAおよびDHAを含むクリルオイルが、LPC-EPAおよびLPC-DHAを生成することを示す。この調製物を正常マウスに与えると、網膜EPAおよびDHAが有意に増加した。トリグリセリド形態のみのEPAおよびDHAを含有する魚油の同様の処置は、網膜EPAまたはDHAのいずれにも影響を及ぼさなかった。
図24図24は、PC、TAG、またはLPC形態で与えられた、飼料のDHAのラットの網膜の脂質への取り込みを示す。正常な雄のSprague-Dawleyラット(8週齢;各群n=5)に、TAG-DHA、ジ-DHA PC、またはLPC-DHAの形態で250μLのトウモロコシ油中に含まれる10mgDHAを30日間毎日強制経口投与した。加えて、半分の用量のLPC-DHA(5mgのDHA)を、消化中にジ-DHA PCによって生成されると予想されるLPC-DHAの量に匹敵するように使用した。DHAを含有しないが、固形飼料1g当たり17.4mgのα-リノレン酸(18:3、n-3)を含有する、通常のげっ歯類固形飼料を、全ての動物に与えた。本文に記載されるように、網膜FAをGC/MSによって分析した。20:4(n-6)、20:5(n-3)、22:5(n-3)、および22:6(n-3)の割合組成をここに示す。総FA組成物を表1に示す。処置群間の差異の有意性は、事後Tukey多重比較検定を用いた一元配置ANOVAによって決定した(GraphPad Prism 8.0ソフトウェア)。共通の文字が上に付いていないバーは、互いに有意に異なる(p<0.05)。TG:トリアシルグリセロール;PC:ホスファチジルコリン;LPC:リゾホスファチジルコリン;FA:脂肪酸;GC/MS:ガスクロマトグラフィー/質量分析。
図25図25は、マウスの網膜FAに対する、飼料の遊離(エステル化されていない)DHA、sn-1 DHA-LPC、およびsn-2 DHA LPCの影響を示す。正常な雄マウス(C57 BL/J6、16週齢)に、80μLのトウモロコシ油中に遊離DHA、sn-1 DHA LPC、またはsn-2 DHA LPC形態で含まれる1mgのDHAを30日間毎日強制経口投与した。網膜のFA組成物をGC/MSにより分析した。アラキドン酸およびオメガ-3 FAに関する値のみをここに示す(平均値±標準偏差、8匹の動物/群)。総FA組成を表2に示す。事後Tukey補正を用いた一元配置ANOVAにより、共通の文字が上に付いていないバーは互いに有意に異なる(p<0.05)。SD:標準偏差;sn-1およびsn-2:立体特異的番号付けそれぞれ1および2;LPC:リゾホスファチジルコリン;DHA:ドコサヘキサエン酸。
図26A-B】図26は、DHAを含有するマウスの網膜のリン脂質の分子種を示す。図2に記載されているように、遊離(エステル化されていない)DHA、またはLPC-DHAの2つの異性体を、動物に強制経口投与した。17:0 LPC、17:0-17:0 PC、および17:0-17:0 PEを内部標準として用いて、本文に記載されているようにLC/MS/MSによる多重反応モニタリングを使用して、DHAを含有するPC(A)およびPE(B)の分子種を分析した。一元配置ANOVA、および事後Tukey多重比較検定により、共通の文字が上に付いていないバーは互いに有意に異なる(平均値±標準偏差、6匹の動物/群)。PE:ホスファチジルエタノールアミン;PC:ホスファチジルコリン;sn-1およびsn-2:立体特異的番号付けそれぞれ1および2;DHA:ドコサヘキサエン酸;LC/MS/MS:液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析;SD:標準偏差;LPC:リゾホスファチジルコリン;DHA:ドコサヘキサエン酸。
図27図27は、マウスの網膜FAに対する、未処理またはリパーゼ処理魚油およびクリルオイルを与えることによる影響を示す。7%の総脂肪を含有する食餌(AIN93G)を正常な雄のマウス(8週齢)に与え、ムコールのリパーゼを用いて処理した(または未処理の)魚油またはクリルオイルの形態の0.264%EPA+DHAを補った。マウスに食餌を30日間自由摂食させ、網膜FAをGC/MSによって分析した。20:4(n-6)、20:5(n-3)、22:5(n-3)および22:6(n-3)の割合組成をここに示す(平均値±標準偏差、5匹のマウス/群)。総FA組成物を表3に示す。一元配置ANOVA、および事後Tukey多重比較検定により、共通の文字が上に付いていないバーは互いに有意に異なる。KO:クリルオイル;FO:魚油;FA:脂肪酸;EPA:エイコサペンタエン酸;GC/MS:ガスクロマトグラフィー/質量分析;DHA:ドコサヘキサエン酸。
図1
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図26A-B】
図27
【国際調査報告】