IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ チオジェネシス セラピューティクス, インコーポレイテッドの特許一覧

特表2023-521618ベータコロナウイルス感染症の治療のためのシステアミン前駆体化合物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】ベータコロナウイルス感染症の治療のためのシステアミン前駆体化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/16 20060101AFI20230518BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A61K31/16
A61P31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559749
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(85)【翻訳文提出日】2022-11-25
(86)【国際出願番号】 US2021025070
(87)【国際公開番号】W WO2021202650
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】63/021,180
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/003,429
(32)【優先日】2020-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518325655
【氏名又は名称】チオジェネシス セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リオウ, パトリス ピー.
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206JA52
4C206JA61
4C206JA63
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZB33
(57)【要約】
本発明は、SARS-CoV-2、SARS-CoV-1、MERS-CoV、及び関連ウイルスによる感染症などのベータコロナウイルス感染症の重篤な症状の治療及び予防のためのシステアミン前駆体化合物の使用を特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象におけるベータコロナウイルス感染症を治療する方法であって、治療有効量のシステアミン前駆体化合物又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
ヒト対象におけるベータコロナウイルス感染症の一又は複数の症状を寛解させる方法であって、治療有効量のシステアミン前駆体化合物又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、方法。
【請求項3】
ヒト対象におけるベータコロナウイルス感染症の進行を阻害する方法であって、治療有効量のシステアミン前駆体化合物又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、方法。
【請求項4】
ベータコロナウイルス感染のリスクのあるヒト対象におけるベータコロナウイルス感染の可能性を低減する方法であって、治療有効量のシステアミン前駆体化合物又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、方法。
【請求項5】
対象における肺炎又は間質性肺炎のリスクが低減される、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
対象の入院のリスク又は入院期間が低減される、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
対象における急性呼吸促迫症候群のリスクが低減される、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
対象における呼吸不全のリスクが低減される、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
対象における敗血症性ショックのリスクが低減される、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
対象における臓器不全のリスクが低減される、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
対象における死亡のリスクが低減される、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
対象におけるサイトカインストームのリスクが低減される、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
投与が週1回から1日3回の間で行われる、請求項1から12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
投与が1日1回行われる、請求項1から12の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
投与が1日2回である、請求項1から12の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
投与が治療期間にわたって行われる、請求項1から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
治療期間が約1日から約21日である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
治療期間が約1週間から約6週間である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
システアミン前駆体化合物が経口投与される、請求項1から18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
対象がベータコロナウイルス感染症のために入院している、請求項1から19の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
対象が、間質性肺炎、肺炎、急性呼吸促迫症候群、呼吸不全、敗血症性ショック、臓器不全、サイトカインストーム、又は死亡のリスクを高める既往症を有する、請求項1から20の何れか一項に記載の方法。
【請求項22】
既往症が、心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、高血圧、免疫不全、及び肥満から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
対象が少なくとも40歳、少なくとも50歳、少なくとも60歳、少なくとも70歳、又は少なくとも80歳である、請求項1から22の何れか一項に記載の方法。
【請求項24】
ベータコロナウイルスがSARS-CoV-2である、請求項1から23の何れか一項に記載の方法。
【請求項25】
ベータコロナウイルスがSARS-CoV-1である、請求項1から23の何れか一項に記載の方法。
【請求項26】
ベータコロナウイルスがMERS-CoVである、請求項1から23の何れか一項に記載の方法。
【請求項27】
システアミン前駆体が、パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、システアミン-4-ホスホパンテテインジスルフィド、システアミン-γ-グルタミルシステインジスルフィド又はシステアミン-N-アセチルシステインジスルフィド、モノ-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、モノ-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、システアミン-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、及びそれらの塩から選択される、請求項1から26の何れか一項に記載の方法。
【請求項28】
システアミン前駆体が化合物(1)~(3):
及びそれらの塩から選択される、請求項1から26の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
2020年の最初の数週間で、高病原性のベータコロナウイルスからパンデミックを引き起こすのに十分な人畜共通感染症の溢流を達成した新しいヒト病原体の出現が世界で明らかになった。
【0002】
COVID-19として知られる高度に感染性の疾患の原因である2019新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、2002年から2003年に中国で伝染病を引き起こした重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)と、2012年から2013年にサウジアラビアと近隣諸国に影響を及ぼした中東呼吸器症候群(MERS-CoV)の場合のように、過去に認識された人畜共通病原体を含む群の新しいメンバーである。
【0003】
入院患者のデータに基づくと、COVID-19の症例の大部分(約80%)は無症状又は軽度の症状を示し、残りは重症又は重篤である(Huang等,Lancet 395:497(2020);Chan等,Lancet 395:514(2020))。COVID-19の重症度と致死率は、SARS及びMERSよりも軽いが、感染力はより大きくなっているようである。SARS及びMERSと同様の臨床症状を示し、COVID-19の最も一般的な症状は、発熱、疲労、並びに咳、喉の痛み、息切れを含む呼吸器症状である。41名の入院患者の研究では、COVID-19の重症例で高レベルの炎症誘発性サイトカインが観察されたことが示された(Huang等,Lancet 395:497(2020)。これらの知見は、リンパ球減少症と「サイトカインストーム」の存在が、COVID-19の病因に大きな役割を果たしている可能性が高い点でSARS及びMERSと一致している(例えば、Nicholls等,Lancet.;361(9371):1773(2003);Mahallawi等,Cytokine.;104:8(2018);及びWong等,Clin Exp Immunol.136(1):95(2004)を参照)。このいわゆる「サイトカインストーム」は、ウイルス性敗血症と、間質性肺炎、肺炎、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、肺炎、呼吸不全、敗血症性ショック、臓器不全及び死亡を含む他の合併症につながる可能性がある炎症誘発肺損傷を引き起こす場合がある。
【0004】
COVID-19は最近中国で出現し、急速に世界中に広がり、2020年3月31日時点で854039を超える症例が確認され、42014人が死亡している。SARS-CoV-2、SARS-CoV-1、MERS-CoV、及び関連ウイルスによる感染症のような、ベータコロナウイルス感染症に対して安全で効果的な治療及び予防薬が緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、SARS-CoV-2、SARS-CoV-1、MERS-CoV、及び関連ウイルスによる感染症などのベータコロナウイルス感染症の症状の治療及び予防のためのシステアミン前駆体化合物の使用を特徴とする。
【0006】
第一の態様では、本発明は、ヒト対象におけるベータコロナウイルス感染症を治療する方法であって、治療有効量のシステアミン前駆体化合物又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む方法を特徴とする。
【0007】
本発明は更に、ヒト対象におけるベータコロナウイルス感染症の一又は複数の症状を寛解させる方法であって、治療有効量のシステアミン前駆体化合物又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む方法を特徴とする。一又は複数の症状には、発熱、咳、息切れ、スリガラス陰影を伴う両側肺病変(コンピュータ断層撮影画像から観察可能)、又はここに記載の任意の他の症状が含まれうる。一又は複数の症状は、未治療と同じ年齢で同じ併存疾患を有する対照対象と比較して、その頻度を10%、20%、30%、又は50%減少させることができる。
【0008】
本発明はまた、ヒト対象におけるベータコロナウイルス感染の進行を阻害する方法であって、治療有効量のシステアミン前駆体化合物又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む方法を特徴とする。例えば、間質性肺炎、肺炎、急性呼吸促迫症候群、呼吸不全、敗血症性ショック、臓器不全、サイトカインストーム、及び/又は死亡への進行のリスクは、未治療と同じ年齢で同じ併存疾患を有する対照対象と比較して、10%、20%、30%、又は50%阻害することができる。
【0009】
関連する態様では、本発明は、ベータコロナウイルス感染のリスクのあるヒト対象におけるベータコロナウイルス感染の可能性を低減する方法であって、治療有効量のシステアミン前駆体化合物又はその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む方法を特徴とする。リスクにさらされている対象は、感染者と接触したか、感染者が以前に占有した場所と接触したことが分かっている対象でありうる。所定の実施態様では、リスクにさらされている対象は隔離下にある。ベータコロナウイルス感染の可能性は、未治療と同じ年齢で同じ併存疾患を有する対照対象と比較して、10%、20%、30%、又は50%減少させることができる。
【0010】
上記方法の何れかの特定の実施態様では、対象の入院のリスクが低減される。上記方法の何れかの他の実施態様では、入院期間が短縮される。
【0011】
上記方法の何れかの幾つかの実施態様では、投与は、週1回から1日3回の間で行われる。例えば、投与は、1日1回又は1日2回でありうる。投与は、例えば、約1日から約21日(例えば、1から14日、7±3日、10±4日、15±6日)、或いは必要に応じて約1週間から約6週間、又はそれ以上の治療期間にわたって行うことができる。
【0012】
上記方法の特定の実施態様では、対象は、ベータコロナウイルス感染症のために入院又は隔離されている。
【0013】
上記の方法の何れかの幾つかの実施態様では、対象は、間質性肺炎、肺炎、急性呼吸促迫症候群、呼吸不全、敗血症性ショック、臓器不全、サイトカインストーム、又は死亡のリスクを高める既往症を有する。例えば、リスクがより高い対象は、心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、高血圧、及び肥満から選択される既往症を有する対象でありうる。
【0014】
上記方法の何れかの他の実施態様では、対象は、少なくとも20、30、40、50、60、70、又は80歳である。
【0015】
上記方法の何れかの一実施態様では、ベータコロナウイルスはSARS-CoV-2である。
上記方法の何れかの別の実施態様では、ベータコロナウイルスはSARS-CoV-1である。
【0016】
上記方法の何れかの更に別の実施態様では、ベータコロナウイルスはMERS-CoVである。
上記方法の何れかの更に別の実施態様では、ベータコロナウイルスはSARS-CoV-1又はSARS-CoV-2の変異型である。
【0017】
上記方法の何れかの幾つかの実施態様では、システアミン前駆体は、パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、システアミン-4-ホスホパンテテインジスルフィド、システアミン-γ-グルタミルシステインジスルフィド又はシステアミン-N-アセチルシステインジスルフィド、モノ-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、モノ-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、システアミン-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、及びそれらの塩から選択される。
【0018】
上記方法の何れかの特定の実施態様では、システアミン前駆体は、化合物(1)~(3):
及びそれらの塩から選択される。
【0019】
[定義]
ここで使用される場合、「約」という用語は、記載された値の±10%を意味する。
ここで使用される場合、「投与」又は「投与すること」とは、投薬量のシステアミン前駆体化合物を対象に与える方法を意味する。ここに記載の方法において利用されるシステアミン前駆体化合物は、例えば、経口で、又はここに記載の別の他の経路によって、投与することができる。
【0020】
「システアミン前駆体」とは、生理学的条件下で少なくとも一つのシステアミンに変換されうる化合物を意味する。変換の手段には、システアミン含有ジスルフィド(すなわち、システアミン混合ジスルフィド)の場合の還元、パンテテイナーゼ基質(パンテテイン、並びに4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA及びコエンザイムA及びそれらの適切な類似体若しくは誘導体など、胃腸管内で代謝的にパンテテインに変換可能な化合物)の場合の酵素加水分解、又は還元と酵素的切断の双方が含まれる。前駆体の例には、限定されないが、システアミン混合ジスルフィド、パンテテインジスルフィド、4-ホスホパンテテインジスルフィド、デホスホ-コエンザイムAジスルフィド、コエンザイムAジスルフィド及びN-アセチルシステアミンジスルフィド、並びにパンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、コエンザイムA、及びN-アセチルシステアミンが含まれる。システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA及びコエンザイムA(後者の4種の化合物はシステアミン前駆体)の間の化学的関係を次に例証する。二つのパンテテイン分子(すなわち、パンテチン)、又は二つの4-ホスホパンテテイン分子、又は二つのデホスホ-コエンザイムA分子、又は二つのコエンザイムA分子、又は二つのN-アセチルシステアミン分子のホモ二量体もまた、構成チオールが全てシステアミン前駆体であるため、それぞれジスルフィドシステアミン前駆体化合物である。
【0021】
ここで使用される場合、「治療有効量」とは、対象におけるCOVID-19の症状を寛解させるために、患者(ヒト又は非ヒト哺乳動物)に投与されなければならない量を指す。
【0022】
ここで使用される場合、対象における「間質性肺炎のリスクを低減する」とは、本発明の方法に従って治療される対象において間質性肺炎の頻度を低減させることを指す。低減は、治療を受けていない同じ年齢及び状態(例えば、併存症)の対照対象と比較したものである。間質性肺炎の頻度は、対照対象で観察される間質性肺炎の頻度と比較して、10%、20%、30%、又は50%低減されうる。
【0023】
ここで使用される場合、対象における「急性呼吸促迫症候群のリスクを低減する」とは、本発明の方法に従って治療される対象における急性呼吸促迫症候群の頻度を低減させることを指す。低減は、治療を受けていない同じ年齢及び状態 (例えば、併存症) の対照対象と比較したものである。急性呼吸促迫症候群の頻度は、対照対象で観察された急性呼吸促迫症候群の頻度と比較して、10%、20%、30%、又は50%低減されうる。
【0024】
ここで使用される場合、対象における「呼吸不全のリスクを低減する」とは、本発明の方法に従って治療される対象における呼吸不全の頻度を低減させることを指す。低減は、治療を受けていない同じ年齢及び状態(例えば、併存症)の対照対象と比較したものである。呼吸不全の頻度は、対照対象で観察された呼吸不全の頻度と比較して、10%、20%、30%、又は50%低減されうる。
【0025】
ここで使用される場合、対象における「肺炎のリスクを低減する」とは、本発明の方法に従って治療される対象における肺炎の頻度又は重症度を低減させることを指す。低減は、治療を受けていない同じ年齢及び状態(例えば、併存症)の対照対象と比較したものである。肺炎の頻度又は重症度は、対照対象で観察された肺炎の頻度又は重症度と比較して、10%、20%、30%、又は50%低減されうる。
【0026】
ここで使用される場合、対象における「敗血症性ショックのリスクを低減する」とは、本発明の方法に従って治療される対象における敗血症性ショックの頻度を低減させることを指す。低減は、治療を受けていない同じ年齢及び状態(例えば、併存症)の対照対象と比較したものである。敗血症性ショックの頻度は、対照対象で観察された敗血症性ショックの頻度と比較して、10%、20%、30%、又は50%低減されうる。
【0027】
ここで使用される場合、対象における「臓器不全のリスクを低減する」とは、本発明の方法に従って治療される対象における臓器不全の頻度を低減させることを指す。低減は、治療を受けていない同じ年齢及び状態(例えば、併存症)の対照対象と比較したものである。臓器不全の頻度は、対照対象で観察された臓器不全の頻度と比較して、10%、20%、30%、又は50%低減されうる。
【0028】
ここで使用される場合、対象における「死亡のリスクを低下させる」とは、本発明の方法に従って治療される対象における死亡の頻度を低減させることを指す。低減は、治療を受けていない同じ年齢及び状態(例えば、併存症)の対照対象と比較したものである。死亡の頻度は、対照対象で観察された死亡の頻度と比較して、10%、20%、30%、又は50%低減されうる。
【0029】
ここで使用される場合、対象における「サイトカインストームのリスクを低減する」とは、本発明の方法に従って治療される対象におけるサイトカインストームの頻度を低減させることを指す。低減は、治療を受けていない同じ年齢及び状態(例えば、併存症)の対照対象と比較したものである。サイトカインストームの頻度は、対照対象で観察されたサイトカインストームの頻度と比較して、10%、20%、30%、又は50%低減されうる。
【0030】
ここで使用される場合、対象における「入院のリスクを低減する」とは、本発明の方法に従って治療される対象における入院の頻度を低減させることを指す。低減は、治療を受けていない同じ年齢及び状態(例えば、併存症)の対照対象と比較したものである。入院の頻度は、対照対象で観察された入院の頻度と比較して、10%、20%、30%、又は50%低減されうる。
【0031】
ここで使用される場合、対象における「入院期間を短縮する」とは、本発明の方法に従って治療される対象における入院期間を短縮させることを指す。短縮は、治療を受けていない同じ年齢及び状態(例えば、併存症)の対照対象と比較したものである。入院期間は、対照対象で観察された入院期間と比較して、10%、20%、30%、又は50%短縮されうる。
【0032】
ここで使用される場合、「治療有効量」とは、ベータコロナウイルス感染症の治療、症状の寛解、進行の阻害、又は発症の可能性の低減に必要とされるシステアミン前駆体化合物の量を指す。ベータコロナウイルス感染によって引き起こされ、又はそれに寄与する状態の治療的又は予防的処置のために本発明を実施するために使用されるシステアミン前駆体化合物の有効量は、投与方法、対象の年齢、体重、及び一般的な健康状態に応じて変わる。最終的には、主治医が適切な量と投与レジメンを決定する。そのような量は「治療有効量」と呼ばれる。
【0033】
「薬学的組成物」とは、一緒にして対象への投与に適している、薬学的に許容される担体と組み合わせてシステアミン前駆体化合物を含み、ベータコロナウイルス感染症を治療又は予防し、或いはベータコロナウイルス感染症の重症度を低減させ、又はベータコロナウイルス感染症に伴う一若しくは複数の症状を寛解させる、任意の組成物を意味する。本発明の方法に有用な薬学的組成物は、錠剤、ジェルキャップ、カプセル、丸薬、粉末、顆粒、懸濁液、及び/又は乳濁液の形態をとりうる。
【0034】
ここで使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、薬学的組成物中の添加物又は希釈剤を指す。例えば、薬学的に許容される担体は、活性成分(例えば、システアミン前駆体化合物)を懸濁させ又は溶解させることができるビヒクルでありうる。薬学的に許容される担体は、製剤の他の成分と適合性があり得、レシピエントに有害ではない。経口投与の場合、固体担体が好ましい場合がある。
【0035】
ここで使用される場合、「治療する」又は「治療すること」という用語は、対象への任意の経路、例えば経口によるシステアミン前駆体化合物の投与を含む。対象、例えば患者は、障害(例えば、ここに記載の疾患又は状態)、障害の症状、又は障害に対する素因を有する者でありうる。治療は、治癒又は完全な治癒に限定されないが、ベータコロナウイルス感染症の寛解、軽減、変更、部分的な治療(remedying)、回復、改善又は影響、ベータコロナウイルス感染症の一又は複数の症状或いはベータコロナウイルス感染症の素因の低減をもたらしうる。一実施態様では、治療は、ベータコロナウイルス感染症に関連する症状を(少なくとも部分的に)寛解させ又は軽減する。一実施態様では、治療は、ベータコロナウイルス感染症の少なくとも一つの症状を軽減するか、又はベータコロナウイルス感染症の少なくとも一つの症状の発症を遅らせる。その効果は、治療されない場合に見られるものを超えている。
【0036】
ここで使用される場合、「薬学的に許容される塩」という用語は、本発明の方法に係る治療的使用に適したシステアミン前駆体化合物の塩形態(例えば、酸付加塩又は金属塩)を指す。
【0037】
本発明の他の特徴及び利点は、次の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、(2002年から2003年に中国で伝染病を引き起こした)SARS-CoV-1、(2012年から2013年にサウジアラビアと近隣諸国に影響を及ぼした)MERS-CoV、及び(最近中国で出現し、急速に世界中に広がった)SARS-CoV-2を含む、ベータコロナウイルス病原体による感染症を治療又は予防する方法を特徴とする。該方法は、システアミン前駆体化合物を、感染症に罹患しているか又は感染症のリスクがある対象に投与することを含む。
【0039】
SARS及びMERSと同様の臨床症状を示し、COVID-19の最も一般的な症状は、発熱、疲労、及び咳、喉の痛み、息切れを含む呼吸器症状である。そのような感染症は、これらの感染症の病因において主要な役割を果たしている可能性が高い「サイトカインストーム」をもたらす高レベルの炎症誘発性サイトカインによって特徴付けられる。このいわゆる「サイトカインストーム」は、ウイルス性敗血症と、間質性肺炎、肺炎、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、呼吸不全、敗血症性ショック、臓器不全及び死亡を含む他の合併症につながる炎症誘発肺損傷を引き起こす場合がある。
【0040】
投与後、システアミン前駆体はインビボでシステアミンを生成し、これが引き続き硫黄結合を介してシステインと結合して、システアミン-システインジスルフィドを形成する。SARS-Cov2の全ての主要な症状(急性呼吸促迫症候群、サイトカインストーム、血栓形成、鬱血性心不全、ウイルス複製)は、システアミンによる治療に感応性でありうる。コロナウイルスが誘発する膜融合には、スパイクタンパク質にシステインリッチドメインを必要とする:cysドメインにおける保存されたシステイン残基の部位特異的変異は、膜融合を著しく低減させ、これが、この領域がスパイク機能にとって重要であるという結論を更に支持する(例えば、Chang等,Virology 269:212-24(2000))。コロナウイルスエンベロープ(E)タンパク質は、ウイルス生活環において重要であるが完全には理解されていない役割を果たしている。全てのEタンパク質は、長い疎水性ドメインのカルボキシ側に位置する保存されたシステイン残基を有しており、機能的な重要性を示唆している(例えば、Lopez等,Journal of Virology 82:3000-10(2008)を参照)。本発明の方法は、COVID-19に罹患した対象に次のベネフィットの一又は複数をもたらしうる:(i)抗酸化効果(例えば、ARDSの治療に対して);(ii)トランスグルタミナーゼ2の阻害(例えば、サイトカイン放出症候群(CRS)及び/又は病原性凝固の治療に対して);(iii)心保護作用(鬱血性心不全の治療に対して);及び(iv)抗ウイルス性(例えば、ウイルス感染症を治療してウイルス負荷を低減させ、及び/又は感染性を低減させるため)。
【0041】
ここに提供されるのは、対象におけるベータコロナウイルス感染症を治療し、その症状を寛解させ、その進行を阻害し、又はその発症の可能性の低減させるためのシステアミン前駆体化合物の使用方法である。
【0042】
本発明は、制御された量と胃腸管内の制御された位置での前駆体化合物(システアミン前駆体)由来のシステアミンでの治療を可能にする組成物及び方法、並びにそれを用いてベータコロナウイルス感染症を治療する方法を特徴とする。
【0043】
本発明の方法の何れにおいても、システアミン前駆体は、パンテテイン-N-アセチル-L-システインジスルフィド、パンテテイン-N-アセチルシステアミンジスルフィド、システアミン-パンテテインジスルフィド、システアミン-4-ホスホパンテテインジスルフィド、システアミン-γ-グルタミルシステインジスルフィド又はシステアミン-N-アセチルシステインジスルフィド、モノ-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-システアミン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、モノ-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、ビス-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、システアミン-パンテテイン-ジヒドロリポ酸ジスルフィド、及びそれらの塩から選択されうる。例えば、本発明の方法は、以下に示される化合物1~3の何れか一、又はその薬学的に許容される塩を含みうる。
【0044】
化合物1~3は、単独で、或いはシステアミン前駆体である第二の活性物質と組み合わせて、或いは化合物の投与後に対象へのシステアミンの放出又は取り込みを改変する薬剤、例えば還元剤又はパンテテイナーゼ誘導剤と組み合わせて、投与することができる。
【0045】
システアミンは、細菌から人々まで、あらゆる生命体に存在している小さい高反応性のチオール分子(NH2-CH2-CH2-SH)である。システアミンのIUPAC名は2-アミノエタンチオールである。他の一般名には、メルカプタミン、ベータ-メルカプトエチルアミン、2-メルカプトエチルアミン、デカルボキシシステイン及びチオエタノールアミンがある。ヒトでは、システアミンは、パンテテインをシステアミンと、パントテネート又はビタミンB5としても知られるパントテン酸に切断する酵素パンテテイナーゼによって生成される。ヒトパンテテイナーゼは、Vanin 1及びVanin 2遺伝子(略してVNN1及びVNN2)によってコードされており、胃腸管内を含み、広く発現される。而して、多くの食物(例えば、ナッツ及び乳製品)に含まれる食事性パンテテインは、胃腸管内腔で切断されてシステアミンとパントテン酸を生成し、これがついで吸収される。特に、システアミンは、腸細胞においてシステアミンを輸送することが示されている有機カチオントランスポーター1(OCT1)、OCT2、及びOCT3を含むトランスポーターのファミリーである有機カチオントランスポーター(OCT)によって胃腸上皮にわたって輸送されうる。胃腸管でシステアミンに変換されるその能力に基づき、パンテテインはシステアミン前駆体である。システアミン前駆体は、(i)忍容性と副作用、(ii)薬物動態と投与間隔、(iii)製造、及び(iv)製品安定性に関して、システアミン塩よりも利点を有しうる化合物のクラスを表す。より一般的には、システアミンがインビボで様々な速度で生成されうるシステアミン前駆体を投与し、それら前駆体を胃腸管内の選択された部位に選択された時間に送達するための製剤化方法を使用することは、現在までシステアミンと他のチオール類の広範な使用に対する主な障害であったシステアミン薬物動態の更に優れた制御をもたらすことによって治療レジメンで有用でありうる。
【0046】
[システアミン前駆体化合物]
パンテテインと、その異化生成物であるシステアミンとパントテネートは、植物及び動物におけるコエンザイムA生合成における中間化合物である。4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、コエンザイムAなどのコエンザイムA生合成経路の幾つかの化合物は、ヒト胃腸管でパンテテインに異化され、その後システアミンとパントテネートに異化されうる。而して、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、及びコエンザイムAは、腸内でシステアミンに変換されるため、システアミン前駆体である。N-アセチルシステアミンもまた、腸内又は細胞の脱アセチル化酵素(例えば、インビボでN-アセチルシステインをシステインに変換する脱アセチル化酵素)による脱アセチル化を介したシステアミン前駆体である。
【0047】
パンテチンは、二個のパンテテイン分子がジスルフィド結合で結合した二量体である(例えば、パンテテインの酸化型)。パンテチンの二個のパンテテインへの相互変換は、酵素によって媒介されず、ATPを必要としない。代わりに、反応は腸内の酸化還元環境によって大きく制御される。インビボ、特に細胞内で優勢になる傾向がある還元環境では、パンテテインが優位を占めるが、胃などのより酸化的な環境では、平衡はパンテチンにシフトする。Wittwerによる小規模な臨床研究(Wittwer等,J.Exp.Med.76:4(1985))では、経口投与されると、パンテチンの有意な割合がヒト胃腸管において化学的にパンテテインに還元され、その後、システアミンとパントテネートに切断される。而して、パンテチンはシステアミン前駆体である。ここでのパンテテインは、D-鏡像異性体を指す。
【0048】
パンテテインのパントテノイル部分はキラル炭素を含む。よって、伝統的にD-パンテテイン及びL-パンテテイン(R-パンテテイン及びS-パンテテインとも呼ばれる)と呼ばれるパンテテインの二つの鏡像異性体形態が存在する。パンテテインのD-鏡像異性体のみがパンテテイナーゼによって切断されうるため、D-鏡像異性体のみがシステアミン前駆体とみなされる。パンテテインの二つの鏡像異性体は、次の4つの方式で組み合わさってジスルフィドパンテチンを形成できる:D-,D-;D-,L-;L-,D-;L-,L-パンテチン。D-,D-パンテチンのみが化学的に還元されて二つのD-パンテテインになり、ついで切断されて二つのシステアミンを生成する。而して、パンテチンのD-,D-型が非常に好ましく、ここで使用されるパンテチンという用語は、D-,D-鏡像異性体を指す。パンテテイン関連化合物の4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、及びコエンザイムAもまた、腸内での分解時にD-パンテテイン(よってシステアミン)を生じるためにD-立体異性配置になければならない。従って、「4-ホスホパンテテイン」、「デホスホ-コエンザイムA」及び「コエンザイムA」、並びにその類似体又は誘導体は、ここではD-鏡像異性体を指す。パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、又はコエンザイムAの何れも腸細胞に吸収されず、むしろ各化合物は、吸収されるパントテネート及びシステアミンに異化されなければならない(Shibata等,J.Nutr.113:2107(1983)を参照)。
【0049】
胃腸管内で(例えば、天然の酵素又は化学プロセスによって)親化合物に変換されうるパンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA又はコエンザイムAのD-立体異性体の類似体又は誘導体をまた、チオール又はジスルフィド型システアミン前駆体を形成するために使用することができ、ここでは「適切な類似体又は誘導体」と呼ばれる。例えば、腸内で容易にコエンザイムAに分解される多くの生理学的形態のコエンザイムA(例えば、アセチルCoA、スクシニルCoA、マロニルCoAなど)がある。任意のアセチル化、アルキル化、リン酸化、脂質化、又は他の類似体がシステアミン前駆体として使用されうる。パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA又はコエンザイムAの類似体、並びにそれらの製造方法は文献に記載されている(van Wyk等,Chem Commun 4:398(2007))。
【0050】
パンテテインは、システアミン前駆体の別のクラスを構成するパンテテイン混合ジスルフィドと呼ばれる、それ自体以外のチオールとジスルフィドを形成することができる。パンテテインと反応されるチオールは、好ましくは、天然起源のチオール、又はヒト又は動物への使用の歴史に基づいてヒトにおいて安全であることが知られている非天然チオールである。例えば、混合ジスルフィドは、パンテテインを、人体及び多くの食物中に存在する化合物である4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA又はコエンザイムAと反応させることによって形成されうる。このような混合ジスルフィドは、腸内で還元及び分解されると、二つのシステアミンを生じる。N-アセチルシステアミンに結合したパンテテインもまた、腸内での還元及び分解時に二つのシステアミンを生じる。所定の実施態様では、二つのシステアミンを生じうるジスルフィドシステアミン前駆体が好ましい。化学的又は酵素的プロセスを介して胃腸管において親化合物に変換されうる4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA又はコエンザイムAの類似体又は誘導体(すなわち、適切な類似体又は誘導体)もまた、パンテテインにカップリングさせて、パンテテイン混合ジスルフィドシステアミン前駆体を形成させることができ、又はそれらは他のチオールにカップリングさせることができる。
【0051】
パンテテイン混合ジスルフィドは、パンテテインを、L-システイン、ホモシステイン、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインアミド、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステアミン、L-システインエチルエステル塩酸塩、L-システインメチルエステル塩酸塩、チオシステイン、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3-メルカプトピルビン酸、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニン又はジエチルジチオカルバミン酸など、それ自体ではシステアミンに分解可能ではないチオールと反応させることによってもまた形成されうる。
【0052】
ジヒドロリポ酸(DHLA)、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン又はN,N’-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドなどのジチオール化合物をパンテテインと反応させて、一つの遊離チオール基を持つパンテテイン混合ジスルフィド、又は二つのパンテテイン分子をジチオールに結合する二つのジスルフィド結合を持つ三分子化合物を形成させることもできる。混合パンテテインジスルフィドの前者のカテゴリーでは、ジスルフィド結合の還元とパンテテイナーゼ切断により一つのシステアミンが生成される一方、後者のカテゴリーでは二つのシステアミンが生成される。あるいは、チオールの一つがシステアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、コエンザイムA又はN-アセチルシステアミン、又はそれらの適切な類似体又は誘導体である限り、二種の異なるチオールをジチオールに結合させて、システアミン前駆体、つまり、胃腸管内で最終的にシステアミンに分解されうる化合物を得ることができる。
【0053】
パンテテインと同様に、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、コエンザイムA若しくはN-アセチルシステアミン、又は適切な類似体若しくは誘導体の何れかを、(i)それ自体と反応させてホモ二量体ジスルフィドを生成するか、又は(ii)様々な対で互いに反応させて混合ジスルフィドを生成するか、又は(iii)(インビボでシステアミンに変換できない)他のチオールと反応させて混合ジスルフィドを生成することができる。このようなジスルフィドは全てシステアミン前駆体である。最初の二つのカテゴリーは、腸内で還元及び分解されると二つのシステアミンを生成できる一方、第三のカテゴリーは一つのシステアミンだけを生成できる。
【0054】
要約すると、システアミン前駆体は三つの主なカテゴリーに分類できる:(i)システアミンに分解可能なチオール、(ii)ジチオールと共に形成されるジスルフィドを含む、システアミンを含む混合ジスルフィド、(ii)パンテテインを含むジスルフィド、(iii)4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA若しくはコエンザイムA又は適切な類似体若しくは誘導体を含むジスルフィド。後者の三カテゴリーのそれぞれは、第二のチオールに応じて更に分解されうる:(a)パンテテイン又は適切な類似体若しくは誘導体、(b)4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、若しくはコエンザイムA又は適切な類似体若しくは誘導体、或いは(c)それ自体はシステアミン前駆体ではないチオール(例えば、L-システイン、ホモシステイン、N-アセチル-システイン、N-アセチルシステインアミド、N-アセチルシステインエチルエステル、N-アセチルシステアミン、L-システインエチルエステル塩酸塩、L-システインメチルエステル塩酸塩、チオシステイン、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、3-メルカプトピルビン酸、チオテルピネオール、グルタチオン、システイニルグリシン、γグルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニン又はジエチルジチオカルバミン酸)。ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ブシラミン又はN,N’-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミドなどのジチオール化合物はまた、システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA若しくはコエンザイムA又は適切な類似体若しくは誘導体と結合させて、ジスルフィドを形成することができる。
【0055】
[システアミン前駆体の薬理学的性質]
システアミン前駆体からのインビボでのシステアミン生成の時間的及び空間的パターンは、システアミン前駆体のタイプによって広く変わりうる。システアミンを生成するために複数の化学反応及び酵素反応を必要とするシステアミン前駆体は、平均して、一ステップのみを必要とするものよりも後にシステアミンを生成する。システアミン前駆体のこの性質を使用して、インビボでのシステアミン生成の速度及び期間が異なる複数の薬学的組成物をデザインすることができる。更に、薬学的組成物は、望ましい薬理学的目的をもたらす組み合わせ及び比率で投与することができる。例えば、薬物投与直後に血漿システアミンレベルを上昇させるために、システアミン混合ジスルフィドを投与することができる。システアミン混合ジスルフィドからシステアミンを生成するために必要な唯一のステップは、ジスルフィド結合の還元である。第二のチオールのアイデンティティに応じて、一又は複数の分解ステップ後に、第二のシステアミンが生成されうる。第二のシステアミンは、ジスルフィド結合の還元と別のステップの後にのみ生成されるため、必然的に第一のシステアミンよりも遅く生成され、よってシステアミンが腸で生成されて血液に吸収される期間が延長される。シセタミン遊離塩基及びシステアミン塩(例えば、Cystagon(登録商標)及びProcysbi(登録商標))は非常に短い半減期を有するため、システアミン前駆体からのインビボでのシステアミン生成のこの延長は、現在の治療薬に対する顕著な進歩である。
【0056】
一アプローチでは、第二のチオールがパンテテイン(すなわち、システアミン-パンテテインジスルフィド)である場合、第二のシステアミンを生成するためにはパンテテイナーゼ切断ステップが必要である。パンテテイナーゼは一般に腸細胞の表面に位置するため、どの時点においても腸内容物の一部とのみ接触し、システアミンが生成される期間が長くなる。一つのジスルフィド分子からの早期及び後期システアミン生成のこの組み合わせには、次の幾つかの利点がある:(i)ジスルフィド結合が還元されるとシステアミンが利用可能になり、早期の治療効果が得られる、(ii)パンテテインの切断が経時的に生じ(パンテテイナーゼが胃腸管全体に様々なレベルで発現される)、治療効果の持続期間が延長される、(iii)ジスルフィド結合還元とパンテテイン切断の両方を介して、時間と空間を超えてシステアミンの生成を延長することで、副作用に強く関連する高いピークのシステアミン濃度を低下させ、一方でまた(iv)OCTによる輸送などのパンテテイナーゼ又はシステアミン取り込みメカニズムの飽和を回避する。要するに、長期にわたる血中システアミンレベルの上昇は、より効果的な薬剤負荷と、患者にとってより低毒性でより簡便な投薬形態を提供する。
【0057】
あるいは、第二のチオールがL-システイン(すなわち、システアミン-L-システインジスルフィド)である場合、ジスルフィドの還元時に一つのシステアミンのみが生成され、長時間のシステアミン生成はない。しかしながら、以下に記載するように、システアミン-L-システインジスルフィドは、迅速なシステアミン放出が可能なシステアミン前駆体が有用でありうる、回腸又は結腸を含む胃腸管の実質的に任意の部分での放出のために製剤化されうる。更に、システインはパンテテイナーゼの活性を高め、幾つかの疾患モデルで有益な効果を持つこともまた示されている。従って、システアミン-L-システインジスルフィドは、別のシステアミン前駆体の有用な補完物である場合があり、又はシステアミンとシステインの両方に応答性の疾患の治療に有用である場合がある。
【0058】
システアミンを生成するために2つ以上の異化反応を必要とするチオールを含むジスルフィド、例えば4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA若しくはコエンザイムA、又はそれらの適切な類似体若しくは誘導体は、小腸でより効率的に分解される場合があり、そこでそれらは、胃又は大腸におけるよりも膵液中に存在する消化酵素にさらされる。このような二つのチオールを相互に、又はシステアミン以外のチオールと反応させることによって生成されるジスルフィドは、例えばシステアミン-L-システインジスルフィドよりも遅い時点で開始し、より長期間にわたってシステアミンを生成する。平均して、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA若しくはコエンザイムA、又は適切な類似体は、パンテテインよりも遅くシステアミンを生成し、同じことがこれらの化合物を含むジスルフィドにも当てはまる。
【0059】
パンテテイン及び腸内でパンテテインに分解可能な化合物並びにこれらの化合物の何れかを含むジスルフィドなどのシステアミン前駆体は全て、パンテテイナーゼによる切断時に、システアミンと共にパントテネートを生成する。パントテネート、又はビタミンB5は、食事中に存在し、腸内細菌によって合成される水溶性化合物である。パントテネートを大量に投与すると、過剰分は尿中に排泄される。食事摂取基準の科学的評価に関する米国医学研究所常設委員会の葉酸、その他のビタミンB、及びコリンに関するパネルによるパントテネートの概説(National Academies Press(US)、1998)では、「ヒト又は動物における経口パントテン酸の有害作用の報告は見出されなかった」ことが分かった。
【0060】
[システアミン前駆体の混合物]
本発明の方法は、システアミン前駆体の混合物を利用して、それらの異なる薬理学的性質を利用することができる。特に、システアミン前駆体の混合物を使用することにより、システアミン血漿レベルの個別化された改善(又は所定の患者のニーズに合わせた個人化)を達成できる。例えば、上記のシステアミン-パンテテイン混合ジスルフィドは、システアミン対パンテテインの比率を1:1に固定する。しかし、システアミンは吸収され体から急速に除去され(排出半減期:約25分)、血中濃度の鋭いピークを生じるが、パンテテインは数時間にわたって(パンテテイナーゼ切断を介して)システアミンを提供する。従って、(ジスルフィド結合の還元時に放出されたシステアミンから)治療的システアミンレベルを早期に生成するシステアミン-パンテテイン混合ジスルフィドの用量は、パンテテインからのシステアミン生成がより長い期間にわたって広がるため、後に治療量以下のシステアミンレベルを生じうる。従って、1:1のシステアミン:パンテテイン比は、特定の患者又は目的にとって理想的ではない場合がある。より多くのパンテテインを剤形に添加すると、血中システアミンを治療濃度範囲により長い期間に保つであろう。システアミンに対するパンテテインの比率を増加させるためには、チオールパンテテイン若しくはジスルフィドパンテチンの何れか又は別のパンテテイン含有ジスルフィドを、例えば、システアミン-パンテテイン混合ジスルフィドと共製剤化又は同時投与して、治療範囲の血中システアミンレベルをより長い期間達成することができる。二種のシステアミン前駆体の比率を調整して、例えば、システアミン濃度-時間曲線(AUC)下の面積を最大にするか、又はシステアミンのピーク濃度(Cmax)を最小にするか、又はトラフ濃度(Cmin)を最大にするか、又は血中システアミン濃度を閾値以上に維持するか、又はそのようなパラメータを任意に組み合わせることによって、所望の薬物動態パラメータを達成することができる。
【0061】
4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA又はコエンザイムA及びこれら3つの化合物から形成されるジスルフィドなどのシステアミン前駆体は、システアミンを生成するために、(一ステップのみを必要とする)パンテテインよりも多くの異化ステップを必要とする。従って、これらのシステアミン前駆体からのシステアミン生成速度は、平均して、パンテテイン又は所定のパンテテインジスルフィドからの生成速度よりも遅く、長くなる。よって、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA又はコエンザイムA、又はそれらのジスルフィドの、システアミン-パンテテイン、及び任意選択的にパンテテイン又はパンテチンと組み合わせたものの同時投与又は共製剤化は、適切なシステアミン前駆体を選択することによってシステアミン薬物動態を制御する別の方法を提供する。特に、そのようなシステアミン前駆体の使用は、胃腸管においてシステアミンが生成される時間を更に延長するために使用できる。
【0062】
[N-アセチルシステアミンジスルフィド(化合物3)]
所定の実施態様では、システアミン前駆体は、化合物3又はその薬学的に許容される塩である。二つのN-アセチルシステアミンのホモ二量体は、二つの方法で使用できるシステアミンの効率的な送達ビヒクルである:それは単一薬剤として、又は一若しくは複数の他のシステアミン前駆体と組み合わせて、投与されうる。何れの場合も、目標は、治療範囲(例えば、血漿中5マイクロモル超で75マイクロモル未満、又は10マイクロモル超で65マイクロモル未満)でできる限り長い時間、持続的な血中N-アセチルシステアミン及びシステアミンレベルを提供することである。
【0063】
化合物3が単剤として投与される実施態様では、早期放出プロファイルと後期放出プロファイルの少なくとも二つの放出プロファイルを提供する形で製剤化されることが好ましい。早期放出製剤(即放性としても知られる)は、経口投与後10分以内に化合物3の放出を開始する。より遅い放出製剤は、約2から4時間後に化合物3の相当量を放出し始める。二つの製剤は、それらが単一の剤形で一緒に摂取できるように混合される。早期放出用に製剤化された化合物3と後期放出用に製剤化された化合物3の用量の比は、少なくとも1:2であり、最大1:8までの範囲(例えば、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8)でありうる。一実施態様では、早期及び後期放出用量成分は両方ともマイクロビーズとして製剤化される。二つの放出プロファイルを有するマイクロビーズを別々に製造し、所望の比率で一緒に混合して、剤形(例えば、サシェ)を製造することができる。そのアプローチは、早期放出マイクロビーズと後期放出マイクロビーズの比率が異なる用量を製造することを容易にする。異なる比率の二種類のマイクロビーズを使用して、患者の治療を個別化することができる。
【0064】
幾つかの実施態様では、化合物3は、早期、中間、及び後期の三通りの放出プロファイルで製剤化される。早期放出成分は、経口投与後10分以内に化合物3を放出し始め、中間放出成分は、用量摂取後約2時間から4時間の間に相当量の化合物3を放出し始め、後期製剤は摂取後約3時間から6時間で放出し始める。三種の放出成分が混合されているため、単一剤形で一緒に摂取できる。三通りの用量成分(初期:中間:後期)における化合物3の比率は、少なくとも1:2:2である。中間成分及び後期成分における化合物3は、早期成分の量の2~8倍の間で独立して変わりうるが、後期放出成分は中間放出成分と少なくとも同じである(例えば、1:2:8、1:4:6、1:4:4、1:5:5、1:6:8など)。一実施態様では、早期、中間及び後期放出用量成分は全てマイクロビーズとして製剤化され、これらは、別個に製造され、ついで所望の比率(例えば、胃腸及び肝臓の生理学に合わせてカスタマイズされた比率)で一緒に混合されて、その剤形(例えば、サシェ)とされる。
【0065】
所定の実施態様では、後期用量成分、又は中間及び後期用量成分の両方が、胃内での長期保持のために製剤化される(胃内滞留性製剤)。他の実施態様では、後期、又は中間及び後期用量成分の両方が、徐放のために製剤化される。所定の実施態様では、二成分又は三成分剤形は、食事、好ましくは少なくとも500カロリー、より好ましくは少なくとも700カロリーを含む食事と共に摂取される。好ましくは、食事は栄養的に複合的であり(例えば、数種類の自然食品を含む)、カロリー量の少なくとも25%が脂肪由来である。
【0066】
化合物3が少なくとも一種の追加のシステアミン前駆体と同時投与される実施態様では、それは、システアミン前駆体が一緒になって血漿システアミン濃度を可能な限り長い時間、治療範囲内で提供するように、少なくとも一種の他のシステアミン前駆体の放出プロファイルを補完する放出プロファイルを提供するように製剤化される。好ましい実施態様では、化合物3は、投与後最初の1から3時間でシステアミンを提供し、少なくとも一種の追加のシステアミン前駆体は、例えば投与間の12時間の間隔のうち3~6、3~8、4~10又は3~12時間、システアミンを提供する。そのような実施態様では、化合物3は、即放のために製剤化されうる。所定の実施態様では、化合物3と同時投与される少なくとも一種の追加のシステアミン前駆体は、化合物1又はその薬学的に許容される塩である。
【0067】
[システアミン前駆体の試験]
システアミン前駆体は、受容体結合アッセイ及び細胞感染アッセイを使用して有効性を試験できる(例えば、Khanna等,bioRxiv(プレプリント2020年12月8日)を参照)。システアミン前駆体は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のその受容体への結合性を減少させ、SARS-CoV-2スパイクシュードタイプウイルスの侵入効率を減少させ、SARS-CoV-2生ウイルス感染を阻害しうる(例えば、Suhail等,Protein J.39:644(2020)を参照)。
【0068】
[システアミン前駆体からのシステアミン生成のエンハンサー]
本発明の方法は、システアミン生成エンハンサーを利用することができる。システアミン血中レベルを制御する際の更なる柔軟性は、腸内でシステアミン前駆体をシステアミンに化学的且つ酵素的に分解し、システアミンを血中に吸収し、システアミンが腸、血液又は組織内で急速に異化されるのを防ぐために必要とされるステップのエンハンサーと組み合わせることによって達成できる。これらの幾つかのステップのそれぞれに特定のエンハンサーが存在する。従って、ここに記載のシステアミン前駆体の何れも、任意選択的に、システアミンの生成若しくは腸の取り込みを増強するか、又はシステアミンの分解を遅らせる薬剤と共製剤化されるか、又は同時投与されるか、又は順に投与されうる。
【0069】
ジスルフィドシステアミン前駆体をシステアミンに変換する最初のステップは、二つのチオールを生成するジスルフィドの還元である。胃腸管内の酸化還元環境には、システアミン前駆体をそのそれぞれのチオールに定量的に還元するのに十分な還元当量が含まれていない場合があり、それによってシステアミン生成が制限される。例えば、胃液中の還元剤であるグルタチオン及びシステインの濃度は非常に低いか又は検出できない(Nalini等,Biol Int.32:449(1994)を参照)。更に、高用量のパンテチンの小規模な臨床研究では、明らかに不完全なジスルフィド結合還元を反映して、パンテチンの多くが変化せずに便中に排泄された(Wittwer等,J.Exp.Med.76:4(1985)を参照)。この潜在的な制約に対処するために、還元剤がジスルフィドシステアミン前駆体と同時投与又は共製剤化されるか、必要な時間及び場所で利用できるようにシステアミン前駆体の前後に投与されうる。還元剤は、ジスルフィド結合の還元を促進して二つのチオールを遊離させ得、あるいは還元剤は、チオール(A)とジスルフィド(B-C)が反応して新しいジスルフィド(A-B又はA-C)とチオール(B又はC)を生成し、それにより元のジスルフィド(例えば、システアミン、パンテテイン、又はシステアミンに分解可能な化合物)のチオールの一つを放出しうる。
【0070】
胃腸管におけるジスルフィドの還元、又はチオール-ジスルフィド交換を促進するために、様々な還元剤を使用することができる。還元剤は、ジスルフィドシステアミン前駆体を直接還元しうるか、或いは還元剤は、ジスルフィドシステアミン前駆体を順に還元するか又はチオール-ジスルフィド交換に関与するグルタチオンジスルフィドなどの他のジスルフィドを還元しうる。幾つかの実施態様では、生理学的化合物(すなわち、体内で通常見出される物質)又は還元力を持つ食品由来の化合物を使用して、ジスルフィドシステアミン前駆体の還元を促進させるか、又はチオール-ジスルフィド交換反応を促進させることができる。チオールグルタチオン又はシステインなどの生理的還元剤(どちらも胆汁及び腸細胞分泌の結果として小腸に存在する)が使用され得、アスコルビン酸(ビタミンC)、トコフェロール(ビタミンE)又は強力な還元剤であるジチオールジヒドロリポ酸などの体内及び食品中に通常存在する他の化合物も使用されうる。N-アセチルシステインなどのチオール及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)などの非チオールを含む他の広く入手可能な還元剤がまた使用されうる。好ましい還元剤には、局所の胃腸酸化還元環境に変化をもたらすのに必要な用量で安全であることが知られているものが含まれる。例えば0.5~5グラムなど、投与期間当たり数グラムまでの還元剤が必要な場合がある。特に、化合物1~3は、ここに記載されるように、一又は複数の還元剤の同時投与又は適切な時間のその後の投与から利益を得ることができる。二種以上の還元剤を組み合わせてもよい。好ましくは、還元剤は、300ダルトン未満の分子量を有する。
【0071】
成人では、毎日400~1000ミリリットル(ml)以上の胆汁が生成される;平均容量として750mlが推定される(Boyer,Compr.Physiol.3:32(2013))。胆汁は一日中肝臓で生成される。一部は胆嚢に蓄えられるが、残りは絶食状態でも胆汁の安定したゆっくりした流れをもたらす(胆汁は消化と脂肪吸収を助けるだけでなく、排泄機能も果たす)。食事はペプチドホルモンのセクレチンとコレシストキニンの十二指腸分泌を刺激し、これらはそれぞれ胆汁生成と胆嚢収縮を刺激する。胆汁中のチオールの濃度は約4mMであり、主にグルタチオンからなるが、γ-グルタミルシステイン、システイニルグリシン及びシステインも含まれる(Eberle等,J Biol.Chem.256:2115(1981);Abbott及びMeister,J.Biol.Chem 258:6193(1984))。
【0072】
システインと、量は少ないがグルタチオンも、腸細胞によって胃腸管の管腔に分泌され、管腔の酸化還元電位を調節する。ラットの空腸からの腸液中のチオール濃度は、胆汁からの寄与とは無関係に直接測定されている。それは、絶食ラットで60~200μM、摂食動物で120~300μMの範囲である(Hagen等,Am.J.Physiol.259:G524(1990);Dahm及びJones,Am.J.Physiol.267:G292(1994))。更に、胆汁分泌とは異なり、管腔チオールレベルの維持は動的プロセスであるため、酸化分子(ジスルフィドシステアミン前駆体など)の腸内レベルの増加は、腸細胞によるシステイン生成の増加によって少なくともある程度は相殺されうる(Dahm及びJones,J.Nutr.130:2739(2000))。ヒト小腸は1日当たり約1.8リットル、結腸は約0.2リットル、合計で約2リットルの液体を分泌する。分泌液中のチオール(主にシステイン)の濃度は、胃腸管の領域、管腔の酸化還元電位及び食事によって変わる。
【0073】
胃腸管チオール(胆汁及び腸細胞由来の両方)の全濃度は、システアミン前駆体をチオールに変換するために必要なジスルフィド結合の還元及び/又はチオール-ジスルフィド交換の速度と程度に影響を与え、これは、システアミンへのその分解に必要な最初のステップである。食事後に上部胃腸管で利用可能な還元当量の量は、幾つかの仮定をすることで推定できる。例えば、(i)大量の食事後の1時間に200mlの胆汁が分泌され、その後の2~3時間で更に100mlの胆汁が分泌され、且つ(ii)胆汁中のチオール濃度が4mMであると仮定すると、胆汁中のチオール還元力のミリ当量は、0.3L×0.004モル/L=0.0012モルのチオール(1.2ミリモル)になる。更に、小腸の腸細胞が、食事後の4時間の間に更に400ミリリットルを分泌し、200uMのチオール濃度と仮定すると、追加の0.4リットル×0.0002モル/リットル=80マイクロモルの管腔チオールが提供される。胆汁チオールと組み合わせると、合計約1.28ミリモルが利用可能になり、食事中のジスルフィドを還元し、腸の酸化還元電位を維持する。これは、かなり多い場合があるチオール分泌の上限の推定値ではなく、食後数時間の小腸内のチオールの正常レベルの推定値である。
【0074】
0.5グラム用量のシステアミン-(R)-パンテテインジスルフィド(MW:353.52g/L)には約1.41ミリモルのジスルフィド結合が含まれており、従って、原理上は、(他の生理学的目的のための管腔チオールの必要性を無視して)内因性レベルのチオールにより(ジスルフィド結合還元又はチオール-ジスルフィド交換の何れかを介して)チオールに変換されうる。
【0075】
より一般的には、1.25ミリモルを超えるシステアミン前駆体用量は、外因性還元剤の同時投与から利益を得る可能性がある。通常食事中に存在する多くの天然物は、主要な内因性チオールシステイン又はグルタチオンを含み、システアミン前駆体還元又はチオール-ジスルフィド交換を促進する還元力を提供できる。N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインエチルエステル又はN-アセチルシステインアミドなどのシステイン又はグルタチオン類似体をまた使用することができる。アスコルビン酸は、ジスルフィド結合を還元できる別の薬剤である(Giustarini等 Nitric Oxide 19:252(2008))。例えば、1グラムのジスルフィドシステアミン前駆体システアミン-(R)-パンテテインジスルフィドに相当する還元力を提供するのに必要なアスコルビン酸の用量は、次のように計算することができる:
アスコルビン酸の分子量(176.12g/mol)は、化合物1(353.52g/mol)としても知られるシステアミン-(R)-パンテテインジスルフィドの約半分である。従って、1グラムのアスコルビン酸は、化合物1の2グラム用量のジスルフィド結合の数と等モルの還元当量を有している。米国食品栄養委員会が推奨するビタミンCの1日摂取量は、女性で75ミリグラムだけ、男性で90ミリグラムであるところ、多くの人が1日当たり1グラム以上の用量を含み、かなり高用量を服用しているが、明らかに有害作用は殆ど又は全くない。
【0076】
同様の推論により、化合物1の用量をモル単位で一致させるのに必要な他の還元剤の量が得られる。例えば、システイン(分子量:121.15ダルトン)は、化合物1の質量の約34%であり;N-アセチルシステイン(分子量:163.195ダルトン)は、化合物1の質量の約46%であり;αリポ酸(分子量:208.34ダルトン)は、化合物1の質量の約59%である等々である。αリポ酸とN-アセチルシステインは、その非規制状態を示す、徐放性製剤を含む、それぞれ600mg及び1000mgのカプセル及び錠剤として、ビタミン店及びインターネットで広く入手できる。その分子量に基づいて、他のジスルフィドシステアミン前駆体についても同様の計算を行うことができる。
【0077】
胆汁はチオールの主な供給源であり、胆汁は小腸と大腸の長さに沿って連続的に希釈されるため、システアミン前駆体の還元のための余分な還元力は、十二指腸においてよりも空腸、回腸、又は結腸においてより有用である場合がある。従って、遠位小腸及び/又は大腸において還元剤を放出するようにデザインされた製剤は、ジスルフィドシステアミン前駆体の特に有用なサプリメントでありうる。アスコルビン酸及び他の還元剤の徐放性製剤は市販されている。あるいは、アスコルビン酸をシステアミン前駆体と共製剤化して、両方の薬剤の共送達を確実にすることができる。
【0078】
様々な生物学的還元剤に関連する電気化学ポテンシャル(還元強度)は知られており、それらの使用ガイドを提供するが、様々なジスルフィドシステアミン前駆体を還元するそのような薬剤の能力は、経験的に決定するのが最善である。
【0079】
チオール-ジスルフィド交換反応の反応速度は、pHの影響を強く受ける(つまり、pHが低いと反応が遅くなる)。このような交換反応は、システアミン混合ジスルフィドからシステアミンを、又はパンテテインジスルフィドからパンテテインを遊離させる等々のためのジスルフィド結合還元の代替メカニズムである。チオール-ジスルフィド交換反応の反応速度を高めるために、塩基性化合物をジスルフィドシステアミン前駆体と同時投与又は共製剤化することができ、必要な時間と場所で利用できる。膵液中に高濃度で存在する重炭酸塩などの生理的化合物が、局所的な胃腸のpHを調節するために使用されうる。
【0080】
多くのシステアミン前駆体をシステアミンに変換する際の本質的なステップは、ヒトにおいてVNN1及びVNN2遺伝子によってコードされる酵素パンテテイナーゼである。パンテチンを含むパンテテイン及びパンテテインジスルフィドは、システアミンを生成するためにこの酵素を必要とする。パンテテイナーゼは、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、コエンザイムA、並びに適切な類似体及び誘導体など、胃腸管でパンテテインに変換可能な化合物からのシステアミン生成にもまた最終的に必要とされる。胃腸管内のパンテテイナーゼの正常レベルは、薬理学的用量によって提供される全てのパンテテイン分子を定量的に切断するには十分ではない場合がある。この制約に対処するために、パンテテイナーゼ発現を誘導する化合物を、パンテテイン又はパンテテインに変換可能な化合物を含むシステアミン前駆体と同時投与又は共製剤化して、必要な時間と場所(すなわち、パンテテインが存在する時間と場所)において胃腸管内のパンテテイナーゼの量を増加させることができる。パンテテイナーゼの発現を誘導する薬剤には、所定の食品成分を含む生理学的物質と、FDA承認薬を含む薬理学的薬剤の両方が含まれる。VNN1の生理学的インデューサーには、転写因子NF-E2関連因子-2(より一般的には頭字語Nrf2で呼ばれる)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)、及びペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)を介して作用する様々な物質が含まれる。
【0081】
Nrf2活性化を(核への移行を介して)誘導する因子には、天然物と所定の薬物の両方が含まれる。例えば、ブロッコリー、芽キャベツ、キャベツ、カリフラワーなどのアブラナ科野菜に含まれるイソチオシアネートであるスルホラファンは、Nrf2を介してVNN1の発現を誘導する。スルホラファンが豊富な食品(例えば、ブロッコリーの芽)を使用してパンテテイナーゼ発現を誘導してもよく、又はスルホラファンを薬学的組成物中の純粋な物質として投与することができる。S-アリルシステイン及びジアリルトリスルフィド(両方ともタマネギ、ニンニク、ニンニク抽出物に含まれる)を含む所定の食品由来のチオールもまたNfr2を誘導し、システアミン前駆体と共に投与される食事に含めることができる。あるいは、何れかの化合物を純粋な形態で取得し、薬学的組成物として投与することができる。一部の多価不飽和脂肪酸、酸化脂肪、オメガ3脂肪酸及び天然に存在する脂質オレイルエタノールアミド(OEA)を含む所定の食品に存在する脂質もまたNrf2及び/又はPPARαを誘導する。酸化脂肪が豊富な食品には、フライドポテト及び他の揚げ物が含まれ、これらは、システアミンを生成するためにパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体と同時投与されうる。オメガ3脂肪酸は魚に含まれ、魚油抽出物として、また薬学的組成物で使用するための純粋な形態で利用可能である。
【0082】
天然に存在するPPARαリガンドには、アラキドン酸及びロイコトリエンB4、8-ヒドロキシエイコサテトラエン酸及びそのファミリーの所定のメンバーを含むアラキドン酸代謝産物などの内因性化合物が含まれる。薬理学的PPARαリガンドには、フィブラート系薬剤(例えば、ベンザフィブラート、シプロフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブラート、フェノフィブラート、ゲムフィブロジル)、ピリニクス酸(Wy14643)及びフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)が含まれる。任意の天然又は合成PPARαリガンドは、システアミンを生成するためにパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体と共製剤化又は同時投与されうる。PPARリガンドの概説については、Grygiel-Gorniak,B.Nutrition Journal 13:17(2014)を参照のこと。
【0083】
天然及び合成PPARGアゴニストもまたパンテテイナーゼ遺伝子VNN1及び/又はVNN2のNrf2媒介性転写を刺激するために使用されうる。天然物PPARGアゴニストには、アラキドン酸と、15-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(15(S)-HETE、15(R)-HETE、及び15(S)-HpETE)、9-ヒドロキシオクタデカジエン酸、13-ヒドロキシオクタデカジエン酸、15-デオキシ-(Δ)12,14-プロスタグランジンJ2及びプロスタグランジンPGJ2を含む代謝物、並びにホノキオール、アモルフルチン1、アモルフルチンB及びアモルファスチルボールが含まれる。ゲニステイン、バイオチャニンA、サルガキノイック酸、サルガキン酸、レスベラトロール、アモルファスチルボールを含む、他の天然物はPPARGとPPARAの両方を活性化する。天然物PPARGアゴニストは、Wang等,Biochemical Pharmacology 92:73(2014)に記載され、概説されている。薬理学的PPARγアゴニストには、チアゾリジンジオン(ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、ロベグリタゾンなどのグリタゾンとも呼ばれる)が含まれる。赤肉由来のヘムもまたVNN1発現を誘導する。パンテテイナーゼ発現を刺激するPPARA又はPPARGアゴニストは、パンテテイン又は腸内でパンテテインに分解可能な化合物を含むシステアミン前駆体と同時投与又は共製剤化されうる。パンテテイナーゼ発現の二種以上のインデューサーを組み合わせて、発現を増強するか、又は任意の単一薬剤の用量を減らすことができる。
【0084】
システアミンを体内で生体利用可能にする別の重要なステップは、腸上皮を通過する吸収である。腸管腔からのシステアミンの取り込みはトランスポーターによって媒介されるが、トランスポーターの天然レベルは、腸管腔内の全てのシステアミンを輸送するには十分ではない場合がある。従って、システアミントランスポーターの発現を誘導する化合物を、システアミン吸収を増強するためにシステアミン前駆体と同時投与又は共製剤化することができる。システアミンは、有機カチオントランスポーター1、2、及び3(SLC22A1、SLC22A2、及びSLC22A3遺伝子とも呼ばれるOCT1、OCT2、及びOCT3遺伝子によってコードされる)によって、またおそらくは他のトランスポータータンパク質によって、腸上皮にわたって輸送される。有機カチオントランスポーター発現のインデューサーには、転写因子PPARα及びPPARγ、プレグナンX受容体(PXR)、レチノイン酸受容体(RAR)及び(OCT1の場合)RXR受容体、並びにグルココルチコイド受容体が含まれる。従って、これらの受容体の天然リガンド又は合成リガンドの何れかを使用して、OCT発現を増加させ、その結果、腸上皮細胞によるシステアミン取り込みを増強することができる。システアミントランスポーターの発現を刺激する薬剤を、任意のタイプのシステアミン前駆体と同時投与又は共製剤化することができる。
【0085】
人体におけるシステアミンの排出半減期(急速静注後のCmaxから半Cmaxまでの時間)は約25分である。システアミンの用量の一部は、遊離システインとの、タンパク質のシステイニル残基との、及びグルタチオンとの混合ジスルフィドを含む、様々なジスルフィドに変換される。如何なる薬理学的介入もその排出様式を妨げることはできず、いずれにせよ、システアミンのそのプールは更なるジスルフィド交換のために利用可能なままである。しかし、システアミンを不可逆的に変換し、それを身体から効果的に除去するシステアミン異化経路がある。システアミンをヒポタウリンに酸化する酵素システアミンジオキシゲナーゼは、システアミン排出における重要な因子である。その後、ヒポタウリンはタウリンに更に酸化される。システアミン前駆体とこれらの異化産物の一方又は両方を同時投与すると、最終産物の阻害によってシステアミンの異化が遅くなる可能性がある。従って、所定の実施態様では、システアミン前駆体は、ヒポタウリン及び/又はタウリンと共製剤化、同時投与、又は最適な時間的順序で投与される。
【0086】
要約すると、システアミン血中レベルの制御における柔軟性は、(i)選択された特性を有する一又は複数のシステアミン前駆体、(ii)インビボでのシステアミン前駆体分解及び/又はシステアミン吸収の一又は複数のエンハンサー、(iii)システアミン異化反応の一又は複数の阻害剤、の共製剤化又は同時投与、(iv)一又は複数種の製剤(例えば、即時型、遅延型、持続型、胃内滞留型若しくは結腸標的型、又は組み合わせ)及び(v)効果的に分解され吸収されうる量での、胃腸管の標的セグメントへのシステアミン前駆体とエンハンサーの最適な共送達を可能にする投与スケジュール、の使用によって達成されうる。これらのツールの個別化された適用の結果、システアミン血中レベルが長期間にわたって治療範囲内に維持され、既存の化合物及び製剤と比較して、疾患に対する優れた薬理学的効果が得られる。
【0087】
[薬学的組成物]
本発明の方法は、(i)システアミンの高ピーク濃度に関連する副作用を低減させるため、(ii)システアミンの治療量以下のトラフ濃度によって引き起こされる治療不十分を低減するため、及び(iii)患者の利便性、よって1日当たりの投与回数を減らすことで治療の服薬遵守を改善するために、長期間にわたってシステアミンの治療上有効な血漿濃度を達成するように製剤化された薬学的組成物を利用することができる。本発明の化合物及び製剤はまた、(i)既存のシステアミン製剤と比較して改善された感覚受容特性を提供し、(ii)胃腸副作用の既知の原因である、遊離システアミンと胃上皮との接触を低減させ、(ii)用量及び送達部位を胃腸管内の関連する消化及び吸収プロセスと一致させることにより、治療的システアミン血中レベルを達成するために必要とされるシステアミン前駆体の用量を最小にするようにデザインされ、この目的は、(iii)システアミン前駆体の分解及び吸収を、それらのプロセスのエンハンサーとの共製剤化又は同時投与によって最適化することによって達成されうる。
【0088】
本発明の組成物では、システアミン前駆体又はその塩が口内で露出するのを防ぐために、全ての製剤に薬学的添加物が含められる。苦味又は他の不快な味をマスキングするための製剤化方法には、数層に適用されうるコーティングが含まれる。香味料及び色素を使用することもできる。許容される口当たり及び/又は味を有する薬学的組成物を製造する方法は、当該分野で知られている(例えば、他の箇所で引用されている薬学的製剤に関する教科書を参照のこと;特許文献はまた感覚受容的に許容される薬学的組成物を製造するための方法を提供する(例えば、米国特許出願公開第20100062988号を参照)。
【0089】
[胃内滞留性組成物]
第一の組成物は、胃内滞留性製剤中にシステアミン前駆体又はその塩を提供する。様々な胃内滞留技術が当該分野で知られており、その幾つかは市販製品において成功裏に使用されている。概説については、例えば、Pahwa等,Recent Patents in Drug Delivery and Formulation,6:278(2012);及びHou等,Gastric retentive dosage forms:a review.Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 20:459(2003)を参照のこと。
【0090】
胃内滞留性製剤は、胃内でのシステアミン前駆体の徐放性をもたらす。システアミン前駆体の種類に応じて、その後のインビボでのシステアミン生成は、胃内で、又はシステアミンが最も効率的に吸収される組織である小腸で開始されうる。幾つかのシステアミン前駆体は、たとえ胃又は小腸において薬学的組成物から放出されたとしても、大腸においてシステアミンに変換され続けうる。例えば、胃で放出されるジスルフィドシステアミン前駆体は、主に胃の酸性の酸化性環境において酸化状態で残る場合があり、小腸で還元剤(例えば、胆汁グルタチオン)に遭遇した後にシステアミンを放出し始める。胃内滞留性組成物は、摂取後1~4時間、好ましくは1~6時間、より好ましくは1~8時間、1~10時間、又はそれより長い間に、上昇した血中システアミンレベルを生じる。
【0091】
システアミン重酒石酸塩に推奨されるものに反して(例えば、Procysbi(登録商標)FDA完全処方情報を参照)、システアミン前駆体の胃内滞留性製剤は、食品と共に、好ましくは、胃排出を遅らせるために十分なカロリー量及び栄養素密度を含む食事と共に投与されるべきである。高栄養の食事は、小腸において(及び胃ではより少ない度合いで)浸透圧受容体及び化学受容体をトリガーし、これが胃の運動性を低下させ、それによって排出を遅延させる神経及びホルモンシグナルを刺激する効果を有する。胃排出を遅らせることが、胃内滞留性組成物の効果を延長するための機序である。しかしながら、大量の食物又は液体で胃を満たすことは、胃の運動性を促進し、排出速度を上げる傾向があり、よって、栄養素密度が、容量よりも重要な食事の特性である。十二指腸に排出する前に幽門洞及び幽門内で小粒子に粉砕されなければならない固形食品は、液体又は半液体食品と比較して胃の滞留を延長する。液体食品の中で、高粘度の液体は、低粘度の液体と比較して胃排出を遅らせることができる。高浸透圧量を有する食品は、十二指腸浸透圧受容体をトリガーして、胃排出を遅らせるシグナルを伝達する。(例えば、胃内滞留性製剤からの)胃内のシステアミン前駆体の放出は、胃内容物、従って十二指腸内容物の浸透圧を増加させうる。
【0092】
所定の実施態様では、ジスルフィドシステアミン前駆体は、胃の酸性、酸化環境がジスルフィドをその酸化形態で維持する傾向があり、それによってシステアミン毒性の一つの原因と考えられる胃上皮のシステアミンへの曝露を制限するため、胃内滞留性製剤に好ましい。十二指腸に入り、高(ミリモル)濃度のグルタチオン、システイン、及び他の還元剤を含む胆汁と混合されると、ジスルフィドは還元され、それによってパンテテイナーゼに曝露され、システアミントランスポーターが腸細胞上に発現される場所で、遊離チオールが生成される。
【0093】
小腸における脂肪の存在は、胃排出の最も強力な既知の阻害剤であり、近位の胃の弛緩と幽門領域の収縮減少につながる。脂肪が小腸に吸収され、もはや胃への抑制シグナルをトリガーしなくなると、胃運動はその通常のパターンを再開する。従って、胃内滞留性製剤は、理想的には、脂肪食品を含む食事と共に投与されうる。タンパク質が豊富な食事もまた胃排出を遅くするが、度合いは少なく、炭水化物が豊富な食事は更に度合いが少なくなる。
【0094】
胃内滞留性組成物はまた、所定の脂質を含む、胃排出を遅らせる化合物と共に投与することができ、例えば少なくとも12個の炭素原子を有する脂肪酸は、腸内分泌細胞からのコレシストキニン放出を刺激し、胃運動を低下させるが、より短い炭素細胞を有する脂肪酸は、それほど効果的ではない。幾つかの実施態様では、食物又は食事には、脂肪酸又は炭素鎖が12以上の脂肪酸(例えば、オレイン酸、ミリスチン酸、ミリスチン酸トリエタノールアミン、脂肪酸塩)を含むトリグリセリドを補うことができる。
【0095】
脂肪とタンパク質は、それらが十二指腸に達すると、グレリン、コレシストキニン(CCK)、及びグルカゴン様ペプチド1(GLP1)を含む数種の腸ホルモンの分泌を刺激する。CCKは、CCK1受容体(CCK1Rと略、以前はCCK-A受容体と呼ばれていた)に結合することによって胃排出を遅らせる。幾つかの実施態様では、経口的に活性なCCKアゴニスト又は模倣物、CCK1Rの正のアロステリックモジュレーター、又は内在性CCKの放出を促進するか、若しくはCCK分解を阻害するか、若しくはそうでなければそれらの機序若しくは他の機序の幾つかの組み合わせによってCCK作用を延長する薬剤が、胃内滞留性組成物と共に投与され、胃排出を遅らせ、胃内滞留性組成物の胃滞留を延長させる。CCKは、8アミノ酸から53アミノ酸までの範囲の幾つかの形態(例えば、CCK-8、CCK-53)で存在するペプチドである。ペプチドの経口投与は、それらが胃腸管で消化されるため有効ではない。小分子CCKアゴニストは、幾つかの研究グループによって開発され、試験されている。例えば、SR-146,131及び関連化合物が、Sanofiの科学者によって開発された(出典明示によりここに援用される米国特許第5731340号及び第6380230号)。
【0096】
所定のプロテアーゼ阻害剤は、食物由来の混合物と純粋な化合物の両方を含み、CCK生成若しくは放出を誘導するか、又はその半減期を延長するか、或いはそうでなければその効果を増強する。例えば、ジャガイモ由来のプロテアーゼ阻害剤濃縮物の摂取は、大豆ペプトン及び大豆β-コングリシニンペプトンの摂取と同様に、CCKレベルの上昇と関連する。カモステートは、内在性CCK放出の刺激と、結果としての胃排出の緩徐化を含む、多面的効果を有する合成プロテアーゼ阻害剤である。メシル酸カモスタットは、ヒトにおいて広範に使用されている薬学的塩である。FOY-251は、カモスタットの活性代謝産物である。幾つかの実施態様では、CCK生成若しくは放出を刺激するか、又はCCK半減期を延長するか、又はそうでなければCCK効果を増強する薬剤が、胃排出を遅らせる量で胃内滞留性組成物と共製剤化又は同時投与される。幾つかの実施態様では、カモスタット、FOY-251、又はカモスタットのプロドラッグ、誘導体若しくは活性代謝産物、又はその薬学的に許容される塩は、胃内滞留性組成物と、50~300mg/kg又は100~250mg/kgの範囲の量で共製剤化又は同時投与される。
【0097】
胃排出はまた粥状液の酸性化によって遅くなる。例えば、クエン酸及び酢酸は、胃排出を遅延させることが示されている。幾つかの実施態様では、食物又は食事には、クエン酸の天然源(例えば、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ、若しくは他の柑橘類の豊富な果物の果肉若しくは果汁)、又は酢酸(例えば、酢、ピクルス、若しくは他の漬け物)、又は乳酸(例えば、ザウアークラウト若しくはキムチ)が含まれる。幾つかの実施態様では、胃粥状液のpHをpH4未満又はpH3.5未満に低下させるのに十分な量の酸性食品又は液体が、胃内滞留性組成物と共に投与される。
【0098】
グルカゴン様ペプチド-1(GLP1)は、食物、特に摂取した脂肪に応答して十二指腸内の細胞によって放出され、胃排出に影響を及ぼす別の腸ホルモンである。経口投与されたGLP1受容体アゴニストは、幾つかの研究グループによって発見されている(例えば、Sloop等,Diabetes 59:3099(2010))。アゴニスト自体ではないが、内在性GLP1を増強する、GLP1受容体の正のアロステリックモジュレーターは、別のカテゴリーのGLP1R刺激剤である(例えば、Wootten等,J.Pharmacol.Exp.Ther.336:540(2011);Eng等,Drug Metabolism and Disposition 41:1470(2013);また各々が出典明示によりここに援用される、米国特許出願公開第20060287242号、第20070021346号、第20070099835号、第20130225488号及び第20130178420号も参照のこと)。内在性GLP1の存在下でGLP-1受容体シグナル伝達を正に調節する化合物の中には、GLP-1受容体上のアロステリック部位に結合し、内在性リガンド(ペプチドであるGLP-1は、幾つかの形態で存在する)の結合の際に受容体シグナル伝達に正の影響を及ぼすことによって作用する、ケルセチンがある。一部のケルセチン類似体は、内在性GLP1の正のモジュレーターでもある。ケルセチンは、多くの果物、野菜、葉類及び穀物中に存在するフラボノールである。それは健康補助食品、飲料及び食品の成分として使用される。幾つかの実施態様では、GLP-1受容体アゴニスト又はGLP-1の正のアロステリックモジュレーターは、胃排出を遅延させるのに十分な量で胃内滞留性組成物と共製剤化又は同時投与される。幾つかの実施態様では、GLP-1受容体アゴニスト又は正のアロステリックモジュレーターは、ケルセチン又はケルセチンの類似体、誘導体若しくは活性代謝産物である。所定の小分子薬物がまた、胃排出時間を遅らせることができ、胃内滞留性組成物と同時投与又は共製剤化されうる。
【0099】
胃排出はまた粥状液の酸性化によって遅くなる。例えば、クエン酸及び酢酸は、胃排出を遅延させることが示されている。幾つかの実施態様では、食物又は食事には、クエン酸の天然源(例えば、オレンジ、グレープフルーツ、若しくは他の柑橘類の豊富な果物)、又は酢酸(例えば、酢、ピクルス、若しくは他の漬け物)、又は乳酸(例えば、ザウアークラウト若しくはキムチ)が含まれる。幾つかの実施態様では、酸性食品又は液体を胃内滞留性組成物と共に投与することによって、粥状液のpHをpH4未満又はpH3.5未満に低下させる。
【0100】
米国特許第8741885号は、活性薬学的成分をオピオイドと組み合わせることによって、胃内滞留性薬学的組成物(例えば、浮遊性、膨潤性又は粘膜付着性組成物)の胃内滞留を延長するための方法を記載している。共製剤化オピオイドの目的は、胃排出を遅らせることである。胃不全麻痺、又は深刻な胃腸運動低下は、オピオイド療法のよく知られた潜在的に重篤な合併症である。
【0101】
[徐放性組成物]
第二の組成物は、非胃滞留性徐放性製剤中のシステアミン前駆体又はその塩を提供する。徐放性製剤は、当該分野において周知である:Wen,H.及びPark,K.(編)Oral Controlled Release Formulation Design and Drug Delivery:Theory to Practice.Wiley,2010;Augsburger,及びL.L.及びHoag,S.W.(編)Pharmaceutical Dosage Forms-Tablets,volume 3:Manufacture and Process Control.CRC Press,2008。徐放性成分は、錠剤、粉末、又は微粒子が充填されたカプセルでありうる。任意選択的に、粒子は、サイズ、組成物(例えば、徐放性ポリマーの種類若しくは濃度)、又はコーティング剤の種類若しくは厚さ、又はコーティング剤の複数の層でコーティングされる場合の層の数及び組成物が異なっていてもよく、それにより薬物が、異なる速度又は異なる開始時間で個々の粒子から放出され、それによって全ての粒子が実質的に同一である製剤と比較して、長期間にわたる薬物放出を凝集物においてもたらす。徐放性製剤は、任意選択的に、胃での溶解を防止するpH感受性材料(腸溶コーティングと呼ばれる)でコーティングされてもよい。単一組成物中の微粒子は、一又は複数のコーティング剤の種類又は厚さが異なっていてもよい。例えば、コーティングが溶解するpHは、異なっていてもよい。そのような混合組成物に使用される二種以上の微粒子は、厳密な仕様に分けて別々に製造され、ついでインビボでの長期の薬物放出を達成する比でブレンドされうる。
【0102】
徐放性組成物は、胃及び/又は小腸(腸溶コーティングの場合は前者ではない)におけるシステアミン前駆体の長期放出をもたらし、結果としてインビボでのシステアミンの持続的生成をもたらしうる。徐放性製剤は、平均胃通過時間及び小腸通過時間の合計にほぼ等しい時間の間、例えば、絶食状態で投与される場合は3~5時間、又は食物又は食事と共に投与される場合は5~8時間にわたって薬物を放出するようにデザインされうる。あるいは、徐放性製剤は、大腸でシステアミン前駆体を放出し続けるように、平均胃通過時間及び小腸通過時間の合計よりも長く薬物を放出するようデザインされうる。幾つかの実施態様では、そのような徐放性組成物は、絶食状態で投与される場合は4~8時間、又は食事と共に投与される場合には6~10時間又はそれ以上にわたってシステアミン前駆体を放出しうる。
【0103】
徐放性製剤は、摂取後1~4時間、好ましくは1~6時間、より好ましくは1~8時間、更に好ましくは1~10時間又はそれ以上にわたって血中システアミンレベルの上昇を生じさせうる。システアミン前駆体の徐放性製剤は、食物と共に、又は食事の間に、及び任意選択的にシステアミン前駆体分解又はシステアミン吸収のエンハンサーと共に投与されうる。食品は、遊離システアミン、特に脂肪性食品の吸収を阻害する傾向があり、システアミン塩を空腹時に摂取することが一般的に推奨されるが、少量のアップルソース又は類似の食品は許容される。
【0104】
[混合製剤]
幾つかの組成物は、必然的に、主に薬物放出速度の制御を対象とするものと、主に薬物放出の解剖学的部位の制御を対象とするものとの二種の製剤の要素を有する。例えば、胃内滞留性製剤は、常に徐放性製剤中に薬物を含む;そうでなければ、長期の胃内滞留に何の意味もない。しかしながら、単一の胃内滞留性製剤中に即放性成分及び徐放性成分を組み合わせる方法がある。例えば、即放性成分は、胃で急速に溶解されるか又は急速に崩壊する外層を形成し得、ここに記載される胃内滞留機序の一又は複数によって胃に残留するコア徐放性成分を残す。しかしながら、全ての種類の製剤を生産的に組み合わせることはできない。例えば、腸溶コーティングされた胃内滞留性製剤は、胃内で薬物を放出するように胃内滞留性製剤がデザインされており、胃内放出が、酸性媒体での溶解に耐性があるコーティングによって遮断されるため、逆効果である。
【0105】
異なる時間的又は解剖学的薬物放出プロファイルを有する組成物は、適切なシステアミン前駆体と、任意選択的にシステアミン生成又は吸収のエンハンサーと組み合わせた場合、治療範囲の血中システアミンレベルを0.5~6時間、より好ましくは0.5~8時間、最も好ましくは0.5~12、0.5~15時間、又はそれ以上にわたってもたらす。製剤の生産的組み合わせの例としては、最大二種の薬物放出成分を含む混合製剤と、インビボでのシステアミン生成及び吸収の量及びタイミングを個々の患者のニーズに合わせる様々な量及び比率で組み合わせることができる別々に製剤化された組成物が挙げられる。
【0106】
第三の組成物は、小腸でのシステアミン前駆体又はその塩の遅延放出のために製剤化された第一の腸溶コーティング成分と、小腸及び大腸の近位部全体でのシステアミン前駆体又はその塩の徐放のために製剤化された腸溶コーティングされた微粒子の第二の成分との混合製剤を提供する。該混合製剤は、最初に上昇した血中システアミンレベルを達成する第一の成分を提供し、第二の成分は、経時的に血中のシステアミンレベルを維持する。
【0107】
第四の組成物は、(i)システアミン前駆体又はその塩の徐放性胃内滞留性製剤と、(ii)胃で薬物を放出するようにデザインされたシステアミン前駆体又はその塩の即放性製剤とを含む、混合製剤を提供する。混合製剤の第二の成分は、組成物の外面上にあり、胃内容物と接触すると直ちに溶解し始める。それは、必ずしも胃内ではないが、システアミンを生成する最初のものである。第一の(胃内滞留性)成分は、胃でのシステアミン前駆体の長期放出をもたらし、続いて小腸全体にわたり、且つシステアミン前駆体の特性に応じて、大腸内へ、インビボでのシステアミン生成をもたらす。二成分からのシステアミンの組み合わされたインビボ生成及び吸収は、混合組成物の投与後1時間以内に始まり、少なくとも5時間、好ましくは治療濃度範囲内に8、10、12時間、又はそれ以上にわたって持続する。
【0108】
第五の組成物では、第一の成分が、胃での即放のために製剤化され、システアミン前駆体、好ましくはシステアミン混合ジスルフィド若しくはパンテテインジスルフィド、又はその塩を含み、第二の成分が、システアミン前駆体、又はその塩の徐放のために製剤化される。第一の成分は、第一の成分の溶解又は崩壊後に第二の成分がインタクトなままであるように、組成物の外面上にある。この第五の組成物の混合製剤は、即放性成分から血漿システアミン濃度の初期上昇を生じ、6時間、8時間、10時間、又はそれ以上のインビボでのシステアミン生成の継続と共に、第二の(徐放性)成分からシステアミンの上昇レベルを維持しうる。胃から大腸までの胃腸管に沿ったシステアミン前駆体(又は幾つかの異なるシステアミン前駆体)の放出は、システアミン前駆体の量を、腸の全てのセグメントにおけるパンテヘチナーゼ及びシステアミントランスポーターのレベルと一致させることを可能にし、それによってシステアミンの生成及び吸収を最大にする。システアミンの連続的な小腸生成及び吸収は、曝露延長のために高いCmaxに依存することを回避し、それによって高ピークレベルに伴うシステアミン副作用を低減する。従って、システアミン前駆体の混合製剤は、システアミンの効果に感受性である多くの障害に対するシステアミンの投与を可能にする。
【0109】
第六の組成物では、第一の成分が、胃での即放のために製剤化され、システアミン前駆体、好ましくはシステアミン混合ジスルフィド若しくはパンテテインジスルフィド、又はその塩を含み、第二の成分が、回腸及び/又は結腸でのシステアミン前駆体、又はその塩の徐放のために製剤化される。この第六の組成物の混合製剤は、第一のピークが急速に減少する頃に、即放性成分から血漿システアミンレベルの初期上昇と、回腸及び結腸標的成分から血漿システアミンレベルの第二の上昇を生じさせうる。第二の成分は、食品の有無にかかわらず投与されたかどうかに応じて、投与から4から8時間後にシステアミン前駆体を放出し始めうる。胃から大腸までの胃腸管に沿ったシステアミン前駆体(又は異なるシステアミン前駆体)の制御放出は、システアミン前駆体の量を、腸の全てのセグメントにおけるパンテヘチナーゼ及びシステアミントランスポーターのレベルと一致させることを可能にし、システアミンの生成及び吸収を最大にする。
【0110】
[システアミン前駆体化合物の合成]
本発明の薬学的に許容される組成物は、一又は複数種のシステアミン前駆体、又はその薬学的に許容される塩を含む。本発明の塩には、限定されないが、アルカリ金属、例えば、ナトリウム、カリウムの塩;アルカリ土類金属、例えば、カルシウム、マグネシウム、及びバリウムの塩;並びに有機塩基、例えば、アミン塩基及び無機塩基の塩が含まれる。例示的な塩は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,17版,Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1985,p.1418、Berge等,J.Pharmaceutical Sciences 66:1(1977)、及びPharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use,(P.H.Stahl及びC.G.Wermuth編),Wiley-VCH,2008に見出され、その各々は出典明示によりその全体がここに援用される。
【0111】
本発明の組成物は、投与後の最初の4時間以内、好ましくは投与後の最初の2時間以内、最も好ましくは最初の1時間以内に治療範囲内のシステアミンの血漿濃度を達成するために、胃滞留性製剤又は混合製剤の成分中にシステアミン前駆体又はその塩を含みうる。システアミン血漿濃度は、好ましくは少なくとも5時間、好ましくは6時間、より好ましくは8時間、10時間、又はそれ以上にわたって治療範囲内に留まる。該製剤は、パンテテインなどの酵素的に分解してシステアミンを生成することができるチオールシステアミン前駆体、又は4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA若しくはコエンザイムAなどの胃腸管内でパンテテイン(それからシステアミン)に分解することができる化合物、又は胃腸管内でパンテテイン(ついでシステアミン)に分解することができるその誘導体又はプロドラッグを含みうる。あるいは、システアミン前駆体は、システアミン又は分解してシステアミンを生成することができる化合物を、別のチオール含有有機硫黄化合物と反応させてジスルフィド化合物を形成することによって形成されうる。ジスルフィドシステアミン前駆体又はその塩は、システアミンを、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、コエンザイムA若しくはN-アセチルシステアミンなどのチオールシステアミン前駆体と反応させることによって、又はシステアミンを、N-アセチルシステイン(NAC)、N-アセチルシステインアミド、N-アセチルシステインエチルエステル、ホモシステイン、グルタチオン(GSH)、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール(グレープフルーツメルカプタン)、3-メルカプトピルビン酸、L-システイン、L-システインエチルエステル、L-システインメチルエステル、チオシステイン、システイニルグリシン、γ-グルタミルシステイン、γ-グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオプロニン、又はジエチルジチオカルバミン酸を含む他のチオールと反応させることによって形成されうる。チオールシステアミン前駆体又はシステアミンは、ジヒドロリポ酸、メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3-ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール(ジメルカプロール)、ブシラミン、又はN,N’-ビス(2-メルカプトエチル)イソフタルアミド(BDTH)などのジチオールと反応させて、ジスルフィドシステアミン前駆体を形成することもできる。
【0112】
形成されたジスルフィドは、使用されるシステアミン前駆体の性質(例えば、システアミンを形成するために必要とされる分解ステップの数)に依存して、胃でのシステアミン放出を遅延させ、及び/又は小腸でのそのインビボ生成及び吸収を促進しうる。胃は一般に、小腸よりも酸化的且つ酸性の環境である。胃内容物が十二指腸に入ると、それらは胃酸を中和する重炭酸塩を含む膵液、及びミリモル濃度の生理学的還元剤グルタチオン、並びにシステインを含む関連チオールを含む胆汁と混合する。その結果、ジスルフィドは、胃で酸化されたままとなる傾向があり、小腸において還元されるか、又はチオールとのジスルフィド交換反応に関与する可能性が高くなる。ジスルフィド交換反応は、一般に、チオール型よりも遥かに求核性であるチオレートイオンによって触媒され;チオレートイオンの形成は、胃の酸性環境では好ましくない。
【0113】
例えば、チオールシステアミン前駆体であるパンテテインは、二つのパンテテインが共有結合してパンテチン(ジスルフィドシステアミン前駆体)を形成するホモ二量体ジスルフィドを形成しうる。幾つかの好ましい実施態様では、システアミン前駆体は、例えば、システアミンをパンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、若しくはコエンザイムAの何れかと結合することによって形成される混合システアミンジスルフィドによって、又は4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、若しくはコエンザイムAの何れかでパンテテインを酸化することによって形成される対応する混合パンテテインジスルフィド、又は胃腸管内で親化合物に変換可能な適切なプロドラッグ若しくは類似体によって提供されるように、一を超えるシステアミンを提供する。また、4-ホスホパンテテインは、デホスホ-コエンザイムA若しくはコエンザイムAにジスルフィド結合されうるか、又はデホスホ-コエンザイムAは、ジスルフィド結合して、システアミン前駆体をインビボで二種のシステアミンを生じることができるようにすることができる。幾つかの実施態様では、システアミンの反応性チオール基又は有機硫黄は、アセチル基、エステル基、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、及び/又は葉酸などの置換基を含むように修飾されうる。
【0114】
好ましい実施態様では、本発明の組成物は、胃内滞留性製剤の成分及び/又は混合製剤の成分中にパンテテイン、ジスルフィド含有パンテテイン、又はその塩を含み、投与後5~10時間以上にわたってシステアミンの上昇した血中レベルを持続することができる。組成物は、親化合物の少なくとも一つのシステアミンへの化学的還元又は酵素的変換を必要とし、それによってシステアミンの放出を遅延させるシステアミン前駆体でありうる。該製剤は、パンテテイン又は胃腸管内でパンテテインに分解されうる化合物(例えば、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、又はコエンザイムA;まとめてパンテテイン前駆体)を含み得、パンテテインのチオール基又はパンテテイン前駆体を別の有機硫黄化合物のチオール基と反応させて、ジスルフィド化合物を形成する。パンテテイナーゼは胃よりも腸内でより高いレベルで発現され、小腸の管腔は、胃よりも還元環境であるため、ジスルフィドシステアミン前駆体のパンテテイン成分は、小腸でシステアミンに変換され、続いて吸収される。例えば、パンテテインは、二つのパンテテインが共有結合してパンテチンを形成する、ホモ二量体ジスルフィドを形成しうる。パンテテイン含有システアミン前駆体はまたパンテテイン混合ジスルフィドを含み得、パンテテインチオールが、チオール基と反応してジスルフィドを形成する。好ましい実施態様では、パンテテイン前駆体は、例えば、システアミン及びパンテテインから形成される混合ジスルフィドによって(これは、還元され、続いてパンテテイナーゼによって切断されると、二つのシステアミンと一つのパントテン酸を生じる)、又は混合ジスルフィドパンテテイン-コエンザイムAによって(これは、還元され、続いて分解され、ついでパンテテイナーゼによって切断されると、二つのシステアミン、二つのパントテン酸、及びADPを生じる)提供されるように、一を超えるシステアミンを提供する。幾つかの実施態様では、パンテテインの反応性チオール基又は有機硫黄化合物は、アセチル基、メチルエステル、エチルエステル、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)及び/又は葉酸などの置換基を含むように修飾されうる。
【0115】
システアミンを生成するためにパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体と、システアミンを生成するために化学的還元のみを必要とするシステアミン前駆体(システアミン混合ジスルフィド)との区別は、適切に還元する環境が腸内に存在する(又は薬理学的に作成されうる)ことを条件として、前駆体化合物のシステアミンへの変換の反応速度が、一般に第二のカテゴリーでより迅速であるため、重要である。還元に続いてパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体(例えば、パンテチン)と、最初に還元、ついでパンテテインへの分解、ついでパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体(例えば、4-ホスホパンテチン、デホスホ-コエンザイムA、又はコエンザイムA含有ジスルフィド)とを更に区別することができる。後者のクラスのジスルフィドシステアミン前駆体によって必要とされる追加の分解ステップは、システアミン生成の期間を遅くし、より長い期間にわたって延長する。
【0116】
本発明の化合物は、化学合成の分野の当業者に知られている様々な方法で調製することができる。システアミン、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、又はコエンザイムA、及び他のチオールを含むチオールを調製するための方法は、当該分野でよく知られている。コエンザイムA、パンテチン、N-アセチルシステアミン、及びグルタチオンは、栄養補助食品として市販されている。
【0117】
本発明の方法において利用されるシステアミン前駆体化合物は、2020年3月19日に出願され、その全体が出典明示によりここに援用される米国出願第16/648725号に記載されるようにして調製することができる。
【0118】
[システアミン前駆体の合成]
チオール及びジスルフィドシステアミン前駆体の両方を含む本発明の化合物は、Mandel等,Organic Letters,6:4801(2004)に記載されているものなどの、当該分野において知られている方法及び手順を使用して容易に入手可能な出発物質から調製することができる。パンテチンの製造方法は、米国特許第3300508号及び第4060551号に記載されており、これらの各々は、出典明示によりここに援用される。液体パンテテインを固体に変換する方法は、特開昭50-88215号及び特開昭55-38344号に開示されている。典型的又は好ましいプロセス条件(すなわち、反応温度、時間、反応物のモル比、溶媒、圧力等)が示されている場合、他に記載のない限り、他のプロセス条件を使用することもできることが理解される。最適な反応条件は、使用される特定の反応物又は溶媒によって変わりうるが、そのような条件は、日常的な最適化手順によって当業者によって決定されうる。
【0119】
好ましい実施態様では、本発明の組成物は、一又は複数種のジスルフィドシステアミン前駆体を含む。チオールの酸化形態であるジスルフィドは、高価な試薬又は装置なしに構成チオールから容易に形成される。更に、ジスルフィドは、空気に暴露されたチオール化合物の長期安定性を制限しうる酸化の影響を受けない。従って、製造、コスト、貯蔵コスト、出荷、及び患者の便宜(すなわち、長い有効期間)に関して、システアミン前駆体のジスルフィド形態は、チオール形態よりも好ましい。
【0120】
幾つかの実施態様では、混合されたジスルフィドシステアミン前駆体は、二種の異なるチオールを結合させ、三種の反応産物を形成することによって合成される:チオールA及びBが結合して、ジスルフィドA-A、A-B、及びB-Bを形成することができる。例えば、システアミンをパンテテインと反応させることによって形成されるジスルフィドは、システアミン-システアミン(シスタミンと呼ばれる)、システアミン-パンテテイン、及びパンテテイン-パンテテイン(パンテチンと呼ばれる)を含む。三種の化合物は全て、システアミンの提供において有用であり、実際に各化合物をシステアミンに変換することに関与する異なるステップは、システアミンがジスルフィド結合の還元によって、又は還元ステップと酵素的分解ステップの組み合わせによってインビボで生成される期間を延長することによって薬理学的に有益でありうる。従って、精製なしの(未反応チオール及び/又は溶媒のような望まれない不純物を除去することを除いて)全三種の酸化産物の共製剤化は、薬理学的に有用でありうる。これは特に、二つの反応したチオールがそれぞれシステアミン(例えばパンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、コエンザイムA、N-アセチルシステイン、又は適切な類似体及びプロドラッグ)に変換可能である場合、又はシステアミン自体をシステアミンに変換可能なチオールと反応させる場合にしかりである。結果として、所定の実施態様では、各々がシステアミンに変換可能な(又はそれらのうちの一つがシステアミンである)二種の異なるチオールを反応させることによって形成される三つのジスルフィドは全て、単一の組成物中に共製剤化される。この合成及び製剤化の方法は、より複雑な合成ステップ、又は酸化反応において同時に生成される二つのホモ二量体ジスルフィドから混合ジスルフィドを分離するために必要な合成後精製ステップを必要としない。(未反応チオール及び他の不純物は、当然のことながら、薬学的組成物を製剤化する前に除去されなければならない。)
【0121】
三種のジスルフィドの混合物を製造し共製剤化する利点は、システアミンに変換可能なチオールを、システアミンに変換可能でない第二のチオールと反応させることによって作製されるジスルフィドシステアミン前駆体の場合には完全には実現されない。例えば、パンテテインをN-アセチルシステイン(NAC)と反応させることによって形成される三種のジスルフィドは、パンテテイン-パンテテイン(パンテチン)、パンテテイン-NAC、及びNAC-NACである。最初の二種の化合物は、システアミン前駆体であり、第三(NAC-NAC)はそうではない。しかしながら、NAC-NACは、それにもかかわらず、化学的還元の際に、二つのNAC分子をもたらす結果として、腸酸化還元環境又は有益な医学的特性の調節に関して有益な薬理学的特性を有しうる。従って、所定の実施態様では、システアミン又はインビボでシステアミンに変換可能なチオールを、インビボでシステアミンに変換可能でない第二のチオールと反応させることによって形成される三つのジスルフィド産物の全てが、単一組成物中に共製剤化される。
【0122】
二種の異なるチオールが酸化される場合の反応産物の予想される比は、二つのチオールのモル比、二つのチオールの絶対濃度、pH、及び/又は各チオールのスルフヒドリル基周辺の化学環境に依存する。チオールAとチオールBとの比が1:1である場合、反応産物A-A、B-B、A-Bの予想モル比は、約1:1:2である。(予想された比からの偏差は、例えばスルフヒドリルに結合した原子の電気陰性度によって影響されうるジスルフィド結合形成の反応速度に影響しうるチオールに隣接した化学結合の相違の結果として生じうる。如何なる偏差も、当該分野において知られている方法を用いて予測又は測定することができる。)反応産物の比は、二つのチオールのモル比を変えることによって変化させることができる。例えば、B-Bに対してA-A及びA-Bの割合を増加させるために、チオールAのモル濃度をチオールBのモル濃度に対して増加させることができる。一方がシステアミン又はシステアミンに分解可能な化合物(チオールA)であり、他方がシステアミンに分解可能でないチオール(チオールB)である二つのチオールを反応させる場合、第一のチオールのモル濃度を、生成されるシステアミン前駆体の割合を増加させるように、第二のチオールのモル濃度に対して増加させることができる。例えば、チオールA及びBを2:1のモル比で反応させると、B-B(システアミン前駆体でない)に対するA-A及びA-B(共にシステアミン前駆体)の割合を増加させる。
【0123】
所定の実施態様では、触媒を含めることによって、二種の異なるチオールの酸化を促進し、及び/又は反応産物の混合物を変化させることができる(Musiejuk及びWitt(2015)に概説)。例えば、過酸化水素又はジメチルスルホキシド(DMSO)のような酸化剤、或いは銅、マンガン又はテルル化合物、又はヨウ素、ジエチルアゾジカルボキシレート(又は関連化合物)、又はジクロロジシアノキノン(DDQ)などの金属を加えることができる。触媒の最適な性能は、最良の溶媒系、触媒濃度及び反応条件を経験的に決定することによって達成できる。
【0124】
他の実施態様では、非対称ジスルフィドは、チオールと対称ジスルフィドとの間のチオール-ジスルフィド交換反応を介して生成することができる。このタイプの反応は、二種の異なるチオールの酸化と同様に、可能な全ての生成物(対称及び非対称ジスルフィド)の混合物を提供する。しかしながら、チオールに対してモル過剰の対称ジスルフィドを提供することにより、非対称ジスルフィドの形成が促進され、最適化された条件下では主要な反応生成物でさえありうる。該方法は、システアミンをチオールとして、パンテチンをジスルフィドとして、パンテテインをチオールとして、シスタミンをジスルフィドとして使用する。チオール:ジスルフィド交換反応の好ましい実施態様では、チオール対ジスルフィド(例えば、システアミン:パンテチン)のモル比は、2:1と4:1の間、2.5:1と3.5:1の間、2.7:1と3.3:1の間である。所定の実施態様では、溶媒はメタノールであり、反応時間は1~20時間の間、又は1~12時間の間、又は1~6時間の間である。所定の実施態様では、チオール:ジスルフィド交換反応の生成物(例えば、化合物1)がその後沈殿する。
【0125】
あるいは、別の実施態様は、薬学的組成物に使用されるシステアミン前駆体の比は、混合ジスルフィド酸化反応の三種の反応産物を純粋なジスルフィドと組み合わせることによって調整することができる。例えば、チオールのシステアミン(C)及びパンテテイン(P)が1:1のモル比で酸化された場合、これらを合わせて3種の産物:C-C、P-P、及びC-Pをおよそ1:1:2の比で形成する。純粋なパンテチン(P-P)は、混合物のインビボでのシステアミン生成特性を延長するために、任意の所望の量で混合物に添加することができる。パンテチンの開始量を二倍にすると、1:2:2の比が得られる。出発量のパンテチンの4倍を添加すると、1:2:5の比が得られる。
【0126】
独立して生成された二つの混合ジスルフィド反応産物を組み合わせて、新規の比のシステアミン前駆体を達成することもできる。例えば、システアミン-パンテテイン反応産物(C-C、P-P、及びC-P)を、N-アセチルシステイン(NAC)-システアミン(C)酸化反応からの当モル量の反応産物(1:1:2の比のC-C、NAC-NAC、及びC-NAC)と組み合わせる場合、混合物は、5種の化合物を含むことになり、それらのうちの一つであるNAC-NACは、システアミンに変換することができない。他の4種のジスルフィド、P-P、C-C、C-P、C-NACは、およそ1:2:2:2のモル比で存在する。任意選択的に、パンテテインを添加して、比を例えば2:2:2:2(より単純に1:1:1:1として表す)にするか、又は1:1:1:5の比になるようにより多くの量を添加することができる。従って、薬学的組成物中のジスルフィドのモル比は、様々な方法によって制御することができる。別の例では、システアミン-パンテテイン反応産物(C-C、P-P、及びC-P)を、4-ホスホパンテテイン(4P)-システアミン(C)酸化反応(すなわち、1:1:2の比のC-C、4P-4P、及びC-4P)と組み合わせて、5種のジスルフィドの混合物を1:1:1:2:2の比で生成してもよい。
【0127】
要約すると、システアミン前駆体ジスルフィドを作製するために一つのチオールを酸化する場合、一つの産物のみが存在する(例えば、パンテテイン+パンテテイン=パンテチン)。二つのチオールを酸化する場合、三つの産物が存在し、それらのうちの二つ又は三つは、チオールの一方若しくは両方がシステアミンに分解可能であるか、又はシステアミンであるかに応じて、システアミン前駆体である。システアミン前駆体の混合物は、これらの二種類の反応の産物を組み合わせることによって最も容易に作製される。混合物は、様々なモル比の、純粋なジスルフィド又は三成分ジスルフィド混合物を含みうる。しかしながら、ヘテロ二量体システアミン前駆体はまた、純粋な形態で、精製後に、又は他のホモ若しくはヘテロ二量体システアミン前駆体と組み合わせて使用することもできる。
【0128】
あるいは、より洗練された化学的方法を使用することにより、特定の混合ジスルフィド(非対称ジスルフィドとも呼ばれる)を選択的に合成することができる(例えば、システアミン及びパンテテインを組み合わせて、実質的にジスルフィドシステアミン-パンテテインのみを形成することができる)。これらの方法は、広範囲の硫黄保護基及びそれらの除去のための戦略を用いる。最も広く使用されているアプローチ法は、スルフェニル誘導体をチオール又はその誘導体で置換することを伴う。一般に利用されるスルフェニル誘導体には、スルフェニルクロリド、S-アルキルチオスルフェート及びS-アリールチオスルフェート(ブンテ塩)、S-(アルキルスルファニル)イソチオウレア、ベンゾチアゾール-2-イルジスルフィド、ベンゾトリアゾリルスルフィド、ジチオペルオキシエステル、(アルキルスルファニル)ジアルキルスルホニウム塩、2-ピリジルジスルフィド及び誘導体、N-アルキルテトラゾリルジスルフィド、スルフェンアミド、スルフェニルジメシルアミン、スルフェニルチオシアネート、4-ニトロアレーンスルフェナニリド、チオールスルフィネート及びチオールスルホネート、スルファニルスルフィナミジン、チオニトライト、スルフェニルチオカーボネート、チオイミド、チオホスホニウム塩、及び5,5-ジメチル-2-チオキソ-1,3,2-ジオキサホスホリナン-2-イルジスルフィドが含まれる。更に他の手順には、チオールとスルフィニルベンズイミダゾールの反応、ロジウム触媒によるジスルフィド交換、電気化学的方法、及びアゾジカルボン酸ジエチルの使用が含まれる。これら及び他の方法は、Musiejuk,M.及びD.Witt.Organic Preparations and Procedures International 47:95(2015)によって概説されている。従って、適度な努力で、対象の特定の混合(非対称)ジスルフィドを作製することができる。実施例1及び2は、本発明の混合ジスルフィドの合成手順を提供する。
【0129】
更に他の実施態様では、混合ジスルフィドは、置換基(例えば、アシル基)を対称ジスルフィドの一端に優先的にカップリング(すなわち、ヘミアシル化)することによって、対称ジスルフィドから合成することができる。例えば、システアミンとパンテテインはパントテネート部分が異なるため、ジスルフィドシスタミンはパントテネートによってヘミアシル化され、システアミン-パンテテインジスルフィドが生成される。反応物の濃度を最適化し、カップリング剤を添加してアシル化を促進すると、この手順で95%を超える収率を得ることができる。シスタミンは、両端に反応性アミノ基を含むため、非対称ジスルフィドを作製するための魅力的な出発点である。所定の実施態様では、アシル基対ジスルフィドのモル比は、1:2と1:4の間である。所定の実施態様では、アシル化反応は、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を、3:1と5:1の間のDCC:アシル基のモル比で添加することによって促進される。所定の実施態様では、アシル化反応は、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)を、1:1と1:3の間のHOBt:アシル基のモル比で添加することによって促進される。
【0130】
[立体化学]
本発明の化合物の幾つかは、一を超える鏡像異性体形態で存在する。特に、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、及びコエンザイムAは、パントテノイル部分にキラル炭素を含む。従って、これらの化合物の各々は、D-若しくはL-鏡像異性体として、又はパンテテノイル基に関して二つのラセミ混合物として存在しうる。しかしながら、ヒトパンテテイナーゼ(VNN1及びVNN2遺伝子によってコードされる)は、D-パンテテインに特異的である(Bellussi等,Physiological Chemistry and Physics 6:505(1974))。よって、D-パンテテイン(L-パンテテインではない)のみがシステアミン前駆体であり、従って本発明は、D-パンテテインのみ、及び4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、及びコエンザイムA、並びに胃腸管でそれらの化合物に変換可能な任意の類似体又はプロドラッグのD-鏡像異性体のみに関する。同様に、パンテテイン、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、及びコエンザイムA、又は任意の適切な類似体若しくはプロドラッグを含む全てのジスルフィドは、D-鏡像異性体のみを用いる。
【0131】
アミノ酸及びアミノ酸誘導体のL-鏡像異性体が好ましい。よって、ここにおいて「システイン」とは、L-システイン、ホモシステインからL-ホモシステインを指し、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステインアミド、N-アセチルシステインエチルエステル、システインメチルエステル、システインエチルエステル、システイニルグリシン、及びγグルタミルシステインなどのシステイン誘導体は、全てシステインのL-鏡像異性体を使用して形成される。
【0132】
ジヒドロリポ酸では、人体で作製される鏡像異性体であるため、R鏡像異性体が好ましい。一般に、人体に通常存在するか、又は食品中に存在する化合物では、天然に存在する鏡像異性体が好ましい。
【0133】
[製剤]
医薬品として用いられる場合、システアミン前駆体、又はその薬学的に許容される塩、若しくはプロドラッグは、薬学的組成物の形態で投与することができる。これらの組成物は、製薬業界で周知の様々な方法で調製することができ、様々な添加物及び製剤化技術によって制御された時間に胃腸管の特定のセグメントに薬物を放出するように作製することができる。例えば、製剤は、特定の疾患に対処し、治療有効性を達成するために必要なシステアミンの血中レベルを達成し、所望の持続時間の薬物効果を可能にし、異なる組み合わせで投与されて、システアミン代謝における患者間変動を説明することができる様々な薬物放出特性を有する組成物のセットを提供するように調整されうる。投与は、主に経口経路によるものであり、坐剤によって補われてもよい。システアミン前駆体はまた、例えば、還元剤、緩衝液、パンテテイナーゼインデューサー、又は腸上皮細胞によるシステアミン取り込みのインデューサーを含む、インビボでのシステアミンの生成又は吸収を増強する薬剤と共製剤化されうる。
【0134】
薬学的組成物は、一又は複数種の薬学的に許容される担体を含みうる。本発明の方法で使用するための薬学的組成物の作製では、システアミン前駆体、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、又はプロドラッグが、典型的には添加物と混合され、添加物によって希釈されるか又は例えば、カプセル、錠剤、サシェ、紙、バイアル、若しくは他の容器の形態の担体に封入される。本発明の活性成分は、薬学的に許容される添加物又は担体の存在下、単独で、又は混合物として投与することができる。添加物又は担体は、投与の様式及び経路、薬物放出の標的とされる胃腸管の領域、及び薬物放出の意図される時間プロファイルに基づいて選択される。添加物が希釈剤として働く場合、添加物は、ビヒクル、担体、マトリックス、又は有効成分のための他の媒体として作用する固体、半固体、又は液体物質(例えば、生理食塩水)でありうる。従って、組成物は、錠剤、粉末、顆粒、ロゼンジ、サシェ、カシェ、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、溶液、シロップ、並びに軟質及び硬質ゼラチンカプセルの形態でありうる。当該分野で知られているように、添加物の種類及び量は、意図される薬物放出特性に依存して変化する。得られる組成物は、保存料又はコーティングなどの付加的な薬剤を含みうる。
【0135】
適切な薬学的担体、並びに薬学的製剤に使用するための薬学的必需品は、この分野における周知の参考テキストであるRemington:The Science and Practice of Pharmacy,21版,Gennaro編,Lippencott Williams & Wilkins(2005)、及びUSP/NF(米国薬局方及び国民医薬品集)、又は対応する欧州若しくは日本の参考資料に記載されている。適切な添加物の例は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸・グリコール酸コポリマー(PLGA)、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、植物油、ポリエチレングリコール、疎水性不活性マトリックス、カルボマー、ヒプロメロース、gelucire 43/01、ドクサートナトリウム、及び白蝋である。製剤は追加的に、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及び鉱物油などの潤滑剤;湿潤剤;乳化剤及び懸濁化剤;メチル及びプロピルヒドロキシ安息香酸塩などの保存剤;甘味剤;並びに香味剤を含みうる。他の例示的な添加物及びそれらの使用の詳細は、Handbook of Pharmaceutical Excipients,6版,Rowe等編,Pharmaceutical Press(2009)に記載されている。
【0136】
薬学的組成物は、システアミン前駆体のシステアミンへのインビボ分解を増強するか、又はシステアミンの腸吸収を増強する他の薬剤と任意選択的に共製剤化又は同時投与される、システアミン前駆体塩を含みうる。薬学的組成物はまた、標的疾患におけるシステアミンの薬理学的効果を補完する他の治療剤を含みうる。インビボでのシステアミンの生成又は吸収の例示的なエンハンサー、及びここに記載の組成物に含められうる例示的な治療剤がここに提供される。
【0137】
本発明の組成物は、単一の活性成分(すなわち、単一のシステアミン前駆体)、又は単一の単位剤形中の第一及び第二の活性成分の組み合わせ、又は単一の単位剤形中の第一、第二、第三、及び任意選択的に第四の活性成分、及び任意選択的に第五の成分の組み合わせを含みうる。二種の活性成分を有する組成物では、両方の成分がシステアミン前駆体でありうるか、又は一種の成分がインビボでのシステアミン生成のエンハンサー(例えば、ジスルフィドシステアミン前駆体の還元を促進する還元剤、若しくはパンテテイナーゼの腸内発現の増加を誘導する薬剤)、又はシステアミンの腸吸収のエンハンサー(例えば、OCT1、OCT2、若しくはOCT3などの一又は複数種の有機カチオントランスポーターの増加した発現を誘導する薬剤)でありうる。三種又は四種の活性成分を有する組成物では、全ての成分が、システアミン前駆体でありうるか、又は一種若しくは二種の成分が、インビボでのシステアミン生成及び/若しくは腸吸収の増強剤でありうる。二種以上のシステアミン前駆体を有する組成物では、システアミン前駆体の種類は、持続期間にわたってインビボでのシステアミン生成を達成するように選択される。例えば、一種のシステアミンを生成するためにジスルフィド結合還元のみを必要とし、従ってジスルフィド結合還元に寄与する酸化還元環境を有する胃腸管の領域に到達した直後にシステアミンを生成し始めるであろう混合ジスルフィドシステアミン前駆体は、パンテテインと、又はシステアミンを生じさせるためにジスルフィド結合還元とパンテテイナーゼ切断の両方を必要とするパンテテインジスルフィドと混合することができ、任意選択的に、腸でパンテテインに分解可能な化合物、又はパンテテイン、従ってシステアミンを生成するために追加のステップを必要とする、そのような化合物を含むジスルフィドと組み合わせることができる。腸でパンテテインに分解可能な化合物には、4-ホスホパンテテイン、デホスホ-コエンザイムA、コエンザイムA、並びに適切な類似体及び誘導体が含まれる。インビボでのシステアミン生成の時間経過は、システアミン前駆体とシステアミンとの間の分解ステップの数によって変わる。幾つかの実施態様では、複数のシステアミン前駆体を含む組成物は、粉末として、顆粒として、又は液体として、すなわち大量の薬物を収容することができる製剤タイプとして製剤化される。
【0138】
薬学的組成物はまた、製剤の性能を高める一又は複数種の薬剤を含みうる。例えば、胃内滞留性組成物は、胃内の組成物の滞留を延長するために胃排出を遅くする化合物を含みうる。
【0139】
二種のシステアミン前駆体成分を含む組成物では、第一及び第二の成分は、例えば、約1:1.5から約1:4の比で存在しうる。三種のシステアミン前駆体成分を含む組成物では、第一、第二、及び第三の成分は、例えば、約1:1:2から約1:4:4の間の比で存在しうる。四種の活性成分を含む組成物では、第一から第四の活性成分は、例えば、約1:1:1:2から約1:2:5:5の比で存在しうる。五種の活性成分を含む組成物では、第一から第五の活性成分は、例えば、約1:1:2:2:2から約1:1:2:5:5:8の比で存在しうる。
【0140】
幾つかの実施態様では、二種以上のシステアミン前駆体を含む組成物は、迅速なインビボでのシステアミン生成のために選択された一の前駆体(例えば、単にジスルフィド結合還元を必要とする)と中間又はより遅いインビボでのシステアミンへの変換のために選択された第二の前駆体(例えば、化学的還元と少なくとも一つの酵素分解ステップを必要とする)を含む。幾つかの実施態様では、二種以上のシステアミン前駆体を含む薬学的組成物は、少なくとも一種の前駆体がシステアミン混合ジスルフィドであり、これがジスルフィド結合の還元の際にシステアミンを生じさせうる。更なる関連した実施態様では、少なくとも一種の付加的な成分は、ジスルフィド含有パンテテイン又は胃腸管でパンテテインに分解可能な化合物である。
【0141】
組成物は、各剤が例えば50~800mgの第一の成分の有効成分を含む、固体単位剤形(例えば、錠剤又はカプセル)に製剤化されうる。例えば、各剤は、約50mgから約800mg、約50mgから約700mg、約50mgから約600mg、約50mgから約500mg、約75mgから約800mg、約75mgから約700mg、約75mgから約600mg、約75mgから約500mg、約100mgから約800mg、約100mgから約700mg、約100mgから約600mg、約100mgから約500mg;約250mgから約800mg、約250mgから約700mg、約250mgから約600mg、約250mgから約500mg;約400mgから約800mg、約400mgから約700mg、約400mg?約600mg;約450mgから約700mg、約450mgから約600mgの第一の成分の有効成分を含みうる。
【0142】
別の実施態様では、組成物は、各剤単位が約250mgから約10000mgのシステアミン前駆体を含む、液体又は粉末単位剤形に製剤化されうる。例えば、各剤は、約250mgから約10000mg、約250mgから約8000mg、約250mgから約6000mg、約250mgから約5000mg;約500mgから約10000mg、約500mgから約8000mg、約500mgから約6000mg、約500mgから約5000mg;約750mgから約10000mg、約750mgから約8000mg、約750mgから約6000mg、約750mgから約5000mg;約1250mgから約10000mg、約1250mgから約8000mg、約1250mgから約6000mg、約1250mgから約5000mg;約2000mgから約10000mg、約2000mgから約8000mg、約2000mgから約6000mg;約2000mgから約5000mg、約3000mgから約6000mgの第一の成分の有効成分を含みうる。
【0143】
第一及び第二のシステアミン前駆体成分を有する組成物では、固体単位剤形中の第二の活性成分の量は、例えば50~700mgで変わりうる。例えば、各剤は、約50mgから約700mg、約50mgから約600mg、約50mgから約500mg、約50mgから約450mg、約75mgから約700mg、約75mgから約600mg;約100mgから約700mg;約100mgから約600mg、約100mgから約500mg、約100mgから約400mg;約250mgから約700mg、約250mgから約600mg、約250mgから約500mg、約250mgから約400mg;約400mgから約700mg、約400mgから約600mg、約400mgから約500mg、約450mgから約700mg;約450mgから約600mg、約450mgから約500mgを含みうる。第一の活性成分としてシステアミン前駆体及び第二の活性成分としてインビボでのシステアミン生成のエンハンサーを有する組成物では、単位剤形中の第二の活性成分の量は、例えば、0.1mg~400mgで変わりうる。
【0144】
第一及び第二のシセアミン前駆体成分を含む別の実施態様では、液体又は粉末単位剤形中の第二の活性成分の量は、例えば、約250mgから約6000mgで変わりうる。例えば、各剤は、1用量当たり約250mgから約6000mg、約250mgから約5000mg、約250mgから約4000mg、約250mgから約3000mg、約250mgから約2000mg;約500mgから約6000mg、約500mgから約5000mg、約500mgから約4000mg、約500mgから約3000mg;約750mgから約6000mg、約750mgから約5000mg、約750mgから約4000mg、約750mgから約3000mg;約1250mgから約6000mg、約1250mgから約5000mg、約1250mgから約4000mg、約1250mgから約3000mg;約2000mgから約6000mg、約2000mgから約5000mg、約2000mgから約4000mg;約2000mgから約3000mg、約2500mgから約5000mgの第二の成分の有効成分を含みうる。
【0145】
第三の、又は第三及び第四のシステアミン前駆体成分を含む固体組成物では、単位剤は、約50mgから約400mgの第三の活性成分、及び存在する場合には第四の活性成分の各々を含みうる。例えば、各剤は、約50mgから約400mg、約50mgから約350mg、約50mgから約300mg、約50mgから約250mg;約75mgから約400mg、約75mgから約350mg、約75mgから約300mg、約75mgから約250mg;約100mgから約400mg、約100mgから約350mg、約100mgから約300mg、約100mgから約250mg;約250mgから約400mg、約250mgから約350mg、又は約250mgから約300mgを含みうる。五種の活性成分を有する組成物では、五種の成分の単位剤は、約50mgから約300mgの範囲でありうる。第四の活性成分、及び任意選択的に第三の活性成分としてインビボでのシステアミン生成のエンハンサーを有する組成物では、単位剤形中の第四の活性成分及び任意選択的に第三の活性成分の量は、例えば、0.1mg~400mgで変わりうる。
【0146】
液体又は粉末単位剤形中の第三、又は第三及び第四のシステアミン前駆体成分を含む別の実施態様では、第三及び任意選択的に第四の活性成分の単位剤は、例えば、約250mgから約4000mgで変わりうる。例えば、各剤は、1用量あたり約250mgから約4000mg、約250mgから約3000mg、約250mgから約2000mg、約250mgから約1000mg、約500mgから約4000mg、約500mgから約3000mg、約500mgから約2000mg、約500mgから約1000mg;約750mgから約4000mg、約750mgから約3000mg、約750mgから約2000mg、約750mgから約1000mg;約1000mgから約4000mg、約1000mgから約3000mg、約1000mgから約2000mg、約1000mgから約1500mg;約1500mgから約4000mg、約1500mgから約3000mg、約1500mgから約2000mg;約2000mgから約4000mg、約2000mgから約3000mgの第三及び任意選択的に第四の活性成分の有効成分を含みうる。
【0147】
薬学的組成物は、当該分野において知られている手順を用いることによって、患者への投与後に活性成分の即時性、遅延性、胃内滞留性、持続性、又は結腸性放出(制御放出と総称される)を提供するように製剤化することができる。
【0148】
錠剤などの固体組成物を調製するためには、有効成分(一又は複数)(例えば、幾つかのシステアミン前駆体)を一又は複数種の薬学的添加物と混合して、本発明の化合物の均質な混合物を含む固体バルク製剤組成物を形成することができる。これらのバルク製剤組成物を均質と呼ぶ場合、有効成分は、典型的には組成物全体に均一に分散され、それにより組成物を、錠剤、カプセル、又は微粒子などの同等に有効な単位剤形に容易に細分することができる。ついで、この固体バルク製剤を上記の種類の単位剤形に細分する。
【0149】
あるいは、一又は複数種の薬学的添加物と混合された有効成分の二つの均質なバッチを調製することができ、各々が異なる濃度の有効成分を使用する。ついで、第一の混合物を使用してコアを形成し、第二の混合物はコアの周りのシェルを形成して、可変薬物放出特性を有する組成物を形成することができる。高濃度バッチがコア中に位置し、より低い濃度のバッチがシェル中に位置する場合、一旦シェルが実質的に溶解又は浸食されると、薬物放出の初期の適度な速度の後に、より速い薬物放出速度が続く。幾つかの実施態様では、薬学的組成物は、シェル中よりもコア中に高濃度の有効成分を含む。コア:シェル中のシステアミン前駆体濃度の比は、例えば、約1.5:1から4:1の間の範囲でありうる。添加物はまた、薬物放出速度に影響を及ぼすように、二つのバッチ間に種類又は濃度が異なりうる。幾つかの実施態様では、コア中のポリマー又は他のマトリックス形成成分は、シェルからよりもゆっくりと有効成分を放出する。そのような実施態様では、より高い濃度のコア中のシステアミン前駆体は、より遅い速度の薬物放出によって部分的に又は完全に平衡され、システアミン前駆体放出の持続期間、従ってインビボでのシステアミン生成の持続期間、腸吸収、及び上昇した血中レベルを延長する。シェル層が適用される前に、一又は複数のコーティングがコアに適用されてもよく、追加のコーティングをシェルに適用して、効率的な製造プロセスを可能にし、及び/又は胃腸管内の薬物放出のタイミング及び位置を含む、所望の薬理学的特性の提供を助けることができる。
【0150】
本発明の薬学的組成物は、システアミン生成に至る機序又は分解ステップの数が異なるシステアミン前駆体の混合物を放出するように製剤化されたものを含む。具体的には、二、三、四、又は五種のシステアミン前駆体の混合物であり、各々がシステアミンを放出することから離れた一、二、三、又はそれ以上の化学的及び/又は酵素的分解ステップである。例えば、一つのステップは、ジスルフィド結合の還元(システアミン混合ジスルフィドの場合)又はパンテテイナーゼ切断(パンテテインの場合)でありうる。二つのステップは、ジスルフィド結合の還元、その後のパンテテイナーゼ切断(パンテテインジスルフィドの場合)、又はホスファターゼ切断、その後のパンテテイナーゼ切断(4-ホスホパンテテインの場合)でありうる。三つのステップは、(例えば、ホスファターゼによる)パンテテインへの分解の前又は後に続くジスルフィド結合の還元、続いて(例えば、4-ホスホパンテテインジスルフィドの場合)パンテテイナーゼ切断でありうる。四つのステップは、ジスルフィド結合の還元、その後のパンテテインへの二つの分解段階(例えば、エクト-ヌクレオチドジホスファターゼによるアデニンヌクレオチド部分の除去、その後のホスファターゼによる4’ホスフェートの除去)、続いてパンテテイナーゼ切断(例えば、コエンザイムA又はデホスホ-コエンザイムAジスルフィド)でありうる。システアミンへの異なる化学的及び/又は酵素的分解経路を有するシステアミン前駆体を組み合わせる目的は、システアミンが腸において生成され、腸から吸収される時間を延長し、その結果、治療上有効なシステアミン血中レベルの持続時間を延長することである。幾つかの実施態様では、本発明の薬学的組成物は、少なくとも二種のシステアミン前駆体を含み、更なる実施態様では、薬学的組成物は三種のシステアミン前駆体を含む。
【0151】
本発明の薬学的組成物は、混合放出のために製剤化することができ、これは一組成物が二つの薬物放出プロファイルを含むことを意味する。例えば、即放性製剤を徐放性製剤と組み合わせることができる。そのような組成物では、第一の活性成分は、摂取後約5分と約30分の間に即放のために製剤化されうる。例えば、第一の活性成分は、組成物の摂取後5分、10分、15分、20分、25分、30分、又は45分後に放出されうる。第一の活性成分は、治療範囲のシステアミン血漿濃度が、摂取後約15分と3時間の間、好ましくは30分と2時間の間に達成されるように製剤化される。例えば、治療的血漿システアミン濃度は、組成物の摂取から0.5時間、1時間、2時間、又は3時間後に到達しうる。使用されるシステアミン前駆体の種類(例えば、チオール、システアミン混合ジスルフィド、パンテテインジスルフィド、コエンザイムAジスルフィド、N-アセチルシステアミンジスルフィド等)は、システアミンの治療的血中濃度に到達する時間の長さと、治療的血中濃度が維持される期間に影響を及ぼす。
【0152】
二種、三種、及び任意選択的に四又は五種の活性成分(例えば、複数のシステアミン前駆体及び/又はインビボでのシステアミン生成及び吸収のエンハンサー)を有する組成物では、第二、第三及び/又は第四及び/又は第五の活性成分の各々が、摂取後約1時間と約8時間の間に組成物からの制御放出を開始するように製剤化される。制御放出組成物は、遅延放出及び/又は徐放性製剤を含みうる。例えば、第二、第三、及び/又は第四の活性成分は、組成物の摂取後1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、又は8時間から放出されうる。第二、第三、及び/又は第四の活性成分は、システアミンの血漿濃度(全ての活性成分の寄与を反映する)が、摂取後約30分と2時間の間に開始して治療範囲で維持され、約6から10時間、より好ましくは、摂取後8から12時間、又はより長い期間にわたって延長されるように製剤化される。例えば、血漿システアミン濃度は、組成物の活性成分の摂取後6時間、8時間、10時間、12時間、15時間、20時間、又は24時間にわたって治療範囲で持続されうる。患者の年齢及びサイズ、治療される疾患、及び患者のシステアミン代謝速度に依存して、複数時間にわたって治療的血中レベルを達成するために十分なシステアミン前駆体を送達するために、二種以上の組成物が必要とされうる。
【0153】
混合製剤を含む薬学的組成物の代替又は補完として、幾つかの実施態様では、単一種の製剤からなる組成物を生成することができる。すなわち、即放性又は徐放性製剤などの時間ベースの製剤、及び胃内滞留性、遅延放出、及び結腸指向性製剤などの解剖学的標的製剤を、別々の組成物として投与するために調製することができる。異なる薬物放出特性(時間ベースであるか、又は解剖学的/生理学的ベースかにかかわらず)を有する薬学的組成物の集合体を製剤化することは、所定の利点を有する。例えば、そのような組成物を、異なる組み合わせ及び比で異なる患者に投与して、長期にわたり治療的範囲の血中システアミンレベルをもたらすことができる。すなわち、特定のスケジュールで投与される一、二、三、又はそれ以上の組成物からなる治療レジメンは、個々の患者のシステアミン生成、吸収、及び代謝能に合わせて調整することができる。これらの能力は、患者間で異なることが知られているため、異なるシステアミン前駆体及び異なる薬物放出特性を含む複数の均質な組成物の製剤は、異なる患者に対して異なる比で組み合わせることができ、既存のシステアミン製剤の既知の限界に対処する。
【0154】
好ましくは、二種以上の薬学的組成物の組み合わせは、治療的範囲のシステアミン血中レベルを、摂取後少なくとも2~8時間、より好ましくは摂取後1~8時間、更により好ましくは2~10時間、最も好ましくは1~10時間、1~12時間、1~14時間、又はそれ以上にわたって維持することができる。異なる薬物放出プロファイルを有する異なるシステアミン前駆体を含む別々に製剤化された薬学的組成物は、治療的に有効なシステアミン血中濃度を長期間達成する投与レジメンを個別化するために必要な投与の柔軟性を提供する。
【0155】
胃排出時間及び大腸通過時間が、健康な個体間で大きく(2倍以上まで)変わることが十分に文書化されている。腸酸化還元環境及びパンテテイナーゼ活性のレベルもまた個体間で変わることが知られている。これら及び他の因子は、システアミン投与後に観察される血漿システアミンレベルの広い個体間の変動を説明すると考えられる。例えば、健康なボランティアにおける即放性システアミン重酒石酸塩薬物動態の研究では、食事と共に投与された600mgの経口投与後のピークシステアミン血中レベル(Cmax)は、7マイクロモルから57.3マイクロモルまで8倍以上変化した。(Dohil R.及びP.Rioux,Clinical Pharmacology in Drug Development 2:178(2013))。同じ研究において、食事と共に投与された600mgの遅延放出システアミン重酒石酸塩に続くCmaxは、2.1μMから25.4μMまで12倍変化した。システアミン血漿レベルの患者間変動は、システアミンを絶食患者に投与した場合に極端ではなかったが、依然として最大4倍であった。(システアミンは、Cystagon(登録商標)の場合のように6時間毎、又はProcysbi(登録商標)の場合のように12時間毎に投与されるとき、食事時間を完全に避けることは難しい)。
【0156】
システアミン製剤化及び投与の本方法は、対象間の変動に対処するためのただ一つのツール、すなわち用量を上げるか又は下げることを提供する。本発明のシステアミン前駆体、インビボでのシステアミン生成及び吸収のエンハンサー、薬物製剤化方法及び薬物投与方法は、高いCmaxとしばしば関連する許容されない毒性、又は長期の治療閾値を下回る血中レベルと関連する不十分な治療効果を招くことなく、個々の患者に対して化合物、剤形、及び投与レジメンを調整することによって、治療的血中システアミンレベルを達成するための複数のツールを提供する。
【0157】
別々に製剤化された組成物の別の利点は、それらが食事に関して異なる時間に投与されうることである。これは、異なるクラスのシステアミン前駆体及び異なる種類の製剤が食事とは異なって相互作用するため、有用な選択肢である。例えば、胃内滞留時間を最大にするために、胃内滞留性製剤を食事と共に、又は食事の直後、好ましくは栄養豊富な食事と共に投与する必要がある。逆に、ジスルフィド結合の還元によってシステアミンに迅速に変換されうるシステアミン混合ジスルフィドを含む即放性製剤は、好ましくは、量の多い食事と共に投与されるべきではない。量の多い食事は、一部の個体においてシステアミンの吸収を妨げるが、食事は、胃の中に存在するとしても少しのシステアミンしか生成しない所定のシステアミン前駆体、例えばパンテテインジスルフィドと適合し、これが小腸でシステアミンに変換される傾向がある。
【0158】
本発明の化合物及び製剤で可能な個別化した投与レジメンは、システアミンの腸内吸収における広範囲の個体間変動が十分に文書化されているが、個体内変動が比較的に中程度であることも等しく十分に文書化されているため、特に有用である。すなわち、所与の対象は、同様の状況下で複数の機会に投与された場合、実質的に同様にシステアミンの用量を吸収し、代謝する。従って、特定の患者に対して治療範囲の血中システアミンレベルをもたらすように個別化された投与レジメンは、比較的安定であり、経時的に予測可能な結果をもたらすはずである。
【0159】
徐放性製剤は、当該分野において知られている方法を使用して、広範囲に変化する期間にわたって薬物を放出するようにデザインすることができる。(Wen,H.及びPark,K.編:Oral Controlled Release Formulation Design and Drug Delivery:Theory to Practice,Wiley,2010;Wells,J.I.及びRubinstein,M.H.編:Pharmaceutical Technology:Controlled Drug Release,volumes I and II,Ellis and Horwood,1991、及びGibson,M.編:Pharmaceutical Preformulation and Formulation:A Practical Guide from Candidate Drug Selection to Commercial Dosage Form,2版,Informa,2009。)
【0160】
[経口投与のための製剤]
本発明によって企図される薬学的組成物には、経口投与用に製剤化されたもの(「経口剤形」)が含まれる。経口剤形は、例えば、錠剤、カプセル、液体溶液若しくは懸濁液、粉末、又は液体若しくは固体の結晶若しくは顆粒の形態であり得、これらは活性成分を非毒性の薬学的に許容される添加物との混合物中に含む。液体、粉末、結晶、又は顆粒として製剤化される場合、用量は、単位用量を明確に画定する形で包装されうる。例えば、粉末又は顆粒又は微粒子は、サシェに包装されうる。液体は、ガラス又はプラスチック容器に包装されうる。
【0161】
添加物は、薬理学、医薬品、及び医薬品製造の分野の当業者に知られている他の考慮事項の中から、許容される感覚受容特性を提供し、薬物放出特性を制御し、効率的な製造を容易にし、薬学的組成物の長期間の安定性を担保するように選択される。添加物は、例えば、不活性希釈剤又はフィラー(例えば、スクロース、ソルビトール、糖、マンニトール、微結晶性セルロース、ジャガイモデンプンを含むデンプン、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、又はリン酸ナトリウム);造粒剤及び崩壊剤(例えば、微結晶性セルロースを含むセルロース誘導体、ジャガイモデンプンを含むデンプン、クロスカルメロースナトリウム、アルギン酸塩、又はアルギン酸);結合剤(例えば、スクロース、グルコース、ソルビトール、アカシア、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、アルファ化デンプン、微結晶性セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はポリエチレングリコール);並びに潤滑剤、滑剤、及び粘着防止剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、シリカ、水素化植物油、又はタルク)でありうる。他の薬学的に許容される添加物は、着色剤、香味剤、可塑剤、湿潤剤、保存料、緩衝剤、安定化剤等でありうる。これらの添加物の多くは、様々な化学的形態で複数の添加物製造業者によって販売され、及び/又は異なる濃度で、及び/又は他の添加物との様々な組み合わせで使用することができ、性能特性の差異を保証する。特定の添加物は、製剤中で複数の目的を達成しうる。
【0162】
経口投与のための製剤はまた、咀嚼錠として、有効成分が不活性固体希釈剤(例えば、ジャガイモデンプン、乳糖、微結晶セルロース、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、又はカオリン)と混合された硬質ゼラチンカプセルとして、又は活性成分が水若しくは油性媒体、例えばピーナッツ油、液体パラフィン、若しくはオリーブ油と混合された軟質ゼラチンカプセルとして提示されうる。粉末、顆粒、及びペレットは、例えば、ミキサー、流動床装置、又は噴霧乾燥装置を使用して、一般的な方法で錠剤及びカプセルの下で上述の成分を使用して調製されうる。
【0163】
有用な製剤の一つのカテゴリーは、薬物が放出される場所に重要な意味があるが、主として薬物放出の速度(例えば、即放性及び徐放性製剤)を制御する。有用な製剤の第二のカテゴリーは、放出のタイミングに重要な意味があるが、主として薬物放出の解剖学的部位(例えば、胃における薬物放出のための胃内滞留性製剤、大腸の結腸標的製剤)を制御する。腸溶コーティング製剤は、酸性胃環境でインタクトなままであり、しばしば解剖学的標的の一種であるよりアルカリ性の小腸で溶解するようにデザインされるが、しばしば遅延放出製剤と称され、時間制御要素を強調する。しかしながら、結腸標的製剤はまた、胃での溶解を防止するための腸溶コーティングを有してもよく、解剖学的標的化と薬物放出速度の制御との間の複雑な関係を強調する。更に、時間ベース及び解剖学的又は生理学的に標的化された製剤に使用される添加物の間には、広範な重複がある。これらの種類の製剤を様々な方法で組み合わせて、時間及び空間の両方において、異なる薬物放出プロファイルを有する複数の組成物を作製することができる。そのような組成物を、順に異なる量及び比率で組み合わせて、患者間の生化学的及び生理学的変動、並びに疾患の種類、程度、及び活性の変動に対応するように治療レジメンを個別化することができる。
【0164】
[胃内滞留性製剤]
胃内滞留性製剤は、胃内の本発明の組成物から、システアミン前駆体又はその塩を放出するため、及び長期間にわたる胃内の組成物の活性成分の放出を制御するために用いることができる。換言すれば、胃内滞留性製剤のポイントは、長期胃内滞留であるため、付随する添加物は、胃内滞留性剤形が胃に残留すると予想される期間全体にわたって、及び任意選択的に小腸を通って結腸に移行する時間を含めてより長い期間にわたって、有効成分の徐放を提供するはずである。本発明の活性成分の胃内滞留は、粘膜付着、浮揚、沈降、膨潤、及び膨張などの様々な機序によって、並びに/又は胃排出を遅らせる薬理学的薬剤の同時投与によって達成されうる。胃内滞留性製剤に使用される添加物、並びに薬学的組成物のサイズ及び形状は、胃内滞留の機序によって変わる。
【0165】
[粘膜付着性/生体付着性胃内滞留性製剤]
粘膜付着は、進行中の粘液産生の結果として表面から自然に除去されるまで、製剤中で利用されるポリマーの胃腸粘液層への付着に関する。時には粘膜付着と互換的に使用される生体付着もまた、胃腸上皮細胞の表面上の分子への薬学的組成物のポリマー又は他の成分の付着を包含する。粘膜付着及び生体付着の目的は、薬学的組成物が、システアミン前駆体切断(すなわち、その表面上でパンテテイナーゼを発現する細胞)及び循環へのシステアミン取り込み及び輸送(例えば、有機カチオントランスポーターを発現する細胞)が可能な細胞型を含む、胃腸上皮細胞に近接している時間を増加させることである。粘膜付着性ポリマーは、錠剤又はカプセルなどの大きな剤形、及び微粒子又はミクロスフェアなどの小さな剤形を製剤化する際に使用することができる。蠕動、ムチン型、ムチン代謝回転速度、胃腸内pH、絶食/摂食状態、及び摂食状態での食品の種類などの様々な生理学的要因が、粘膜付着の程度及び持続性に影響を及ぼす。粘膜付着の機序は、ポリマーと粘液との境界における静電結合及び水素結合の形成によるものと考えられている。一般に、粘膜付着は、胃腸管粘膜に対する親和性を有するポリマーで達成され、ポリアクリル酸、メタクリル酸及び両方の誘導体、ポリブレン、ポリリジン、ポリカルボフィル、カルボマー、アルギン酸塩、キトサン、コレスチラミン、ガム、レクチン、ポリエチレンオキシド、スクラルファート、トラガカント、デキストリン(例えば、ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン)、ポリエチレングリコール(PEG)、グリアジン、セルロース及びセルロース誘導体、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、又はそれらの混合物などの、合成又は天然の生体付着性物質から選択される。例えば、商品名CARBOPOL(例えば、Carbopol 974P及び971P)並びにPOLYCARBOPHILで入手可能な架橋アクリル及びメタクリル酸コポリマーが、粘膜付着性製剤において使用されている。(Hombach J.及びA.Bernkop-Schnurch.Handbook of Experimental Pharmacology 197:251(2010))。他の生体付着性カチオンポリマーには、酸性ゼラチン、ポリガラクトサミン、ポリ-アミノ酸、例えばポリリジン、ポリオルニチン、ポリ四級化合物、プロラミン、ポリイミン、ジエチルアミノエチルデキストラン(DEAE)、DEAE-イミン、ポリビニルピリジン、ポリチオジエチルアミノメチルエチレン(PTDAE)、ポリヒスチジン、DEAE-メタクリレート、DEAE-アクリルアミド、ポリ-p-アミノスチレン、ポリオキセタン、Eudragit RL、Eudragit RS、GAFQUAT、ポリアミドアミン、カチオン性デンプン、DEAE-デキストラン、DEAE-セルロース、及びコポリメタクリレート、例えばHPMA、N-(2-ヒドロキシプロピル)-メタクリルアミドのコポリマー(例えば、米国特許第6207197号を参照)が含まれる。
【0166】
粘膜付着は、小さな粒子(例えば、微粒子)に適用される場合に最も効果的である。粘膜付着性製剤は、浮遊性製剤、膨張/膨潤製剤、又は任意の種類の徐放性製剤を含む、一又は複数の他の胃内滞留性製剤化法と組み合わせることができる。
【0167】
[浮遊性胃内滞留性製剤]
胃内滞留機序としての浮遊は、胃での浮力を保つように、胃液及び/又は粥状液(胃で部分的に消化された食物)よりも低い嵩密度を有する活性成分(例えば、システアミン前駆体)の製剤化において効果的である。一般に、1立方センチメートル当たり1グラム未満の密度が望ましく、より好ましくは1立方センチメートル当たり0.9グラム未満の密度である。浮力は、(i)脂質を含む低密度材料を使用すること、(ii)組成物の中心に気泡を予め形成すること、又は(iii)インビボで気泡を発生するために発泡性添加物を使用することによって達成することができる。後者の種類の薬学的組成物は、発泡性添加物によって生成されたガスが、組成物中に残り、それによりその浮力に寄与するようにデザインされなければならない。例えば、発泡性添加物は、組成物中に泡を閉じ込めるために、ポリマーのマトリックスに包埋することができる。後者の種類の浮揚性製剤は、一般に、膨潤性ポリマー又は多糖類及び発泡性カップル、例えば重炭酸ナトリウム及びクエン酸若しくは酒石酸を用いて調製したマトリックス又は閉じ込められた空気のチャンバ又は体温で液体胃内容物との接触時にガスを発生する液体を含むマトリックスを利用する。浮遊性胃内滞留性製剤は、広範囲に概説されている(例えば、Kotreka,U.K.Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,28:47(2011))。
【0168】
胃内滞留のためにデザインされた浮遊性薬学的組成物は、当該分野ではしばらく前から知られている。例えば、その各々が出典明示によりここに援用される米国特許第4126672号、第4140755号、及び第4167558号は、胃液の密度(すなわち、1立方センチメートル当たり1グラム未満)よりも低い密度を有する錠剤形態の「流体力学的に平衡された」薬物送達系(HBS)について記載している。結果として、組成物は、胃液又は粥状液上に浮遊し、それによって胃の筋肉収縮の間に幽門を通しての放出を回避する。薬物は、メチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース)又はカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース由来の親水コロイドから連続的に放出され、胃液と接触すると、組成物の表面に水不透過性バリアを形成し、これが徐々に浸食し、ゆっくり薬物を放出する。即放性のために製剤化された外層及び徐放性のために製剤化された内層を有する二層浮遊性錠剤もまた、出典明示によりここに援用される米国特許第4140755号に開示されている。
【0169】
L-ドーパ及びデカルボキシラーゼ阻害剤の持続送達のための同様の流体力学的に平衡した浮遊性製剤も記載されている(米国特許第4424235号を参照)。アラビアガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、グアーガム、カラヤガム、アガー、ペクチン、カラギーン、可溶性及び不溶性アルギン酸塩、カルボキシポリメチレン、ゼラチン、カゼイン、ゼイン、及びベントナイトなどの親水コロイドは、本発明の浮遊性製剤の調製において有用でありうる。浮遊性製剤は、蜜蝋、セチルアルコール、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、水素化ヒマシ油、及び水素化綿実油から選択される脂肪物質又は脂肪物質の混合物を約60%まで含むことができる(油脂は胃液よりも密度が低い)。浮遊性製剤は、システアミン前駆体の徐放性を促進し、より長い時間にわたって上昇した血漿システアミンレベルをもたらしうる。長期の上昇した血漿システアミンレベルは、より少ない頻度での投与を可能にする。
【0170】
本発明の浮遊性組成物は、ガス発生剤を含みうる。ガス発生化合物を使用して浮遊組成物を製剤化する方法は、当該分野において知られている。例えば、重炭酸ナトリウムを含む浮遊性小カプセルは、米国特許第4106120号に記載されている。ガス発生に基づく同様の浮遊性顆粒は、米国特許第4844905号に記載されている。浮遊性カプセルは、米国特許第5198229号に記載されている。
【0171】
浮遊性組成物は、任意選択的に、酸源及びガス発生炭酸塩又は重炭酸塩剤を含んでもよく、これらは一緒に、発泡性カップルとして作用し、製剤に浮力を与える二酸化炭素ガスを生成する。可溶性有機酸及びアルカリ金属炭酸塩からなる発泡性カップルは、混合物が水と接触するとき、又はアルカリ性成分が酸性液体(例えば、胃液)と接触するときに、二酸化炭素を形成する。使用される酸の典型的な例には、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、又はアジピン酸が含まれる。使用されるガス発生アルカリの典型的な例には、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸グリシンナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸カルシウム、重炭酸アンモニウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等が含まれる。ガス発生剤は、水との接触、又は胃液中の塩酸と接触することにより誘発される酸源と相互作用して、組成物のマトリックス中に閉じ込められ、その浮遊特性を改善する二酸化炭素又は二酸化硫黄を生成する。一実施態様では、ガス発生剤は重炭酸ナトリウムであり、酸源はクエン酸である。
【0172】
組成物が、胃に到達した直後に胃液及び/又は粥状液よりも軽くない場合、幽門を介して速やかに追放される可能性があるため、浮遊動態は重要である。予め形成された気泡を含む組成物又は脂質などの低密度物質を含む組成物などの幾つかの組成物は、摂取時に胃液及び粥状液よりも密度が低い。胃に到達した後に胃液及び/又は粥状液の密度よりも低い密度を達成しなければならない浮遊性組成物(すなわち、発泡性製剤)の場合、1立方センチメートル当たり1グラム未満の密度は、胃液と接触した後、好ましくは30分以内、より好ましくは15分以内、最も好ましくは10分以内に到達する。浮遊期間も重要であり、薬物放出期間と一致させるべきである。すなわち、組成物が6時間以上薬物を放出するようにデザインされている場合、それはまた6時間にわたって浮遊することができなければならない。好ましくは、浮遊性組成物は、少なくとも5時間、より好ましくは7.5時間、更により好ましくは10時間以上、1未満の密度を維持する。
【0173】
大用量のシステアミン前駆体(例えば、2~10グラム)が、幾つかのシステアミン感受性疾患を効果的に治療し、及び/又は成人対象において適切な血中レベルを達成するために必要でありうる。標準剤形(例えば、錠剤、カプセル)に含められうる任意の活性剤の量は、患者が大きな組成物を飲み込む能力によって制限されるため、更に複数の錠剤又はカプセルの投与が、不便又は不快(嚥下障害の患者には不可能)になりうるため、単位剤形中の活性剤の量を制限しない別の剤形が有用である。粉末、顆粒、及び液体は、サイズが制限されない剤形の例であるが、適切な包装、例えば、サシェ又はバイアルによって単位剤で送達されうる。本発明の幾つかの実施態様では、本発明の浮遊性胃内滞留性組成物は、液体形態で投与される。更なる実施態様では、液体組成物は、アルギン酸塩を含む。他の実施態様では、有効医薬成分は、食品に振りかけることができる粉末又は顆粒の形態で送達される。
【0174】
液体胃内滞留性浮遊性薬物送達系の一つの種類は、添加物としてアルギン酸塩を利用する。アルギン酸は、1,4グリコシド結合によって結合されたβ-D-マンヌロン酸及びα-L-グルロン酸残基から作製される線状ブロック多糖コポリマーである。これは、徐放性ポリマーとしての使用を含めて、薬学的組成物における広範囲の目的に使用される(Murata等,Eur J Pharm Biopharm 50:221(2000)を参照)。Gavisconは、制酸剤を含む浮遊性液体アルギン酸塩製剤のブランド名である。それは数十年にわたって胃食道逆流を治療するために使用されているため、慢性アルギン酸塩摂取の安全性は十分に確立されている。小分子薬物を有するアルギン酸塩の浮遊性製剤が記載されている(Katayama等,Biol Pharm Bull.22:55(1999)、及びItoh等,Drug Dev Ind Pharm.36:449(2010)を参照)。胃内容物の表面上に層を形成する浮遊性製剤は、ラフト形成製剤と称されることがある。ラフト形成浮遊性/ゲル化徐放性組成物は、Prajapati等,J Control Release 168:151(2013);及びNagarwal等,Curr Drug Deliv.5:282(2008)によって記載されている。
【0175】
出典明示によりここに援用される米国特許第4717713号は、胃内容物と接触すると、胃の中に半固体のゲル様マトリックスを形成し、それによってゼラチン状マトリックスからの薬物の制御放出をもたらす、液体(飲用に適した)製剤を開示する。キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン又は他のポリマー及びカラギーナンなどの複合コアセルベート対、及び熱ゲル化メチルセルロースを含むゲル形成ビヒクルが開示されており、その全て又はサブセットを様々な比で組み合わせて、懸濁した薬学的活性剤の溶解及び/又は拡散速度に影響を及ぼすことができる。使用される他の添加物には、ゲル化の促進剤としても、ゲルを浮遊させるためのガス発生剤としても有効な、炭酸カルシウムなどの炭酸塩化合物が含まれる。キシログルカン及びゲランガムもまた、ゲル化剤として、又はゲル化剤の組み合わせとして使用されうる。
【0176】
液体(飲用に適した)浮遊性製剤には、液体懸濁液(濃縮物若しくは使用の準備ができている)又は液体(例えば、水、ジュース若しくは他の飲料)に加えることができる粉末として提供されうる微粒子が含まれうる。浮遊性胃内滞留性組成物はまた、食品の上に振りかけるか、又は他の方法で混合される粉末の形態で送達されてもよい。
【0177】
浮遊性胃内滞留性製剤には、粘膜付着性ポリマー又は他の粘膜付着性成分を挙げることができ(出典明示によりここに援用される米国特許第6207197号及び第8778396号を参照)、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、ポリ乳酸・グリコール酸コポリマー(PLGA)、ポリ乳酸、ポリメタクリレート、ポリカプロラクトン、ポリエステル、ポリアクリル酸、及びポリアミドなどのポリマーを利用することができる。
【0178】
[胃内滞留性組成物の膨潤及び膨張]
膨潤及び膨張は、胃液と接触すると、組成物が幽門を通って胃から出るのを妨げる程度まで膨潤する、胃内滞留機序である。結果として、組成物は、長期間にわたって、例えば、組成物の表面が浸食されて幽門の直径よりもその直径が小さくなるまで、或いは食物が胃から実質的に空になり、その時、強い筋肉収縮(「ハウスキーパー波」と呼ばれることもある)が胃を掃引し、その内容物を取り除くまで、長期間にわたって胃内に滞留する。組成物は、膨潤状態又は膨張状態でおよそ14~16mmの直径を超えるため、幽門括約筋を通過することから除外される。好ましくは、組成物は、16~18mmの直径を超える。膨潤は、特に摂食状態で、幽門から製剤を遠ざける浮遊性と組み合わされてもよい。
【0179】
胃液との接触時に膨潤し、結果として胃内に滞留する製剤の概念は、1960年代から知られている。米国特許第3574820号は、幽門を通過することができず、従って胃に保持されるサイズまで、胃液と接触して膨潤する錠剤を開示している。同様に、米国特許第5007790号は、ポリマーと混合された薬物分子の緩慢な溶解を可能にしながら、急速に膨潤して胃の保持を促進する、親水性で水膨潤性の架橋ポリマーからなる錠剤又はカプセルを記載している。
【0180】
出典明示によりここに援用される米国特許出願公開第20030104053号は、活性成分がポリ(エチレンオキシド)とヒドロキシプロピルメチルセルロースの組み合わせから形成された固体単位マトリックス中に分散されている医薬品の送達のための単位剤形錠剤を開示している。この組み合わせは、放出速度制御及び再現性の点で独特の利点を提供すると同時に、胃内滞留をもたらす錠剤の膨潤と、薬物の放出が起こった後に胃腸管から錠剤を取り除く錠剤の徐々の崩壊の両方を可能にすると言われる。出典明示によりここに援用され、またDepoMedに譲渡された米国特許第6340475号は、水を吸収すると、摂食モード中に胃内の剤形の滞留を促進するために十分に大きいサイズまで膨潤する、親水性ポリマーからなるポリマーマトリックスに組み込むことによって開発された活性成分の単位経口剤形を強調する。ポリマーマトリックスは、ポリ(エチレンオキシド)、セルロース、架橋ポリアクリル酸、キサンタンガム、及びヒドロキシメチル-セルロース、ヒドロキシエチル-セルロース、ヒドロキシプロピル-セルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、カルボキシメチル-セルロース、及び微結晶性セルロースのようなアルキル置換セルロースからなる群から選択されるポリマーで形成される。
【0181】
更に、ガムベースの膨潤性胃内滞留系もまたDepoMed研究者によって開発されている。出典明示によりここに援用される米国特許第6635280号は、水を吸収すると、摂食モード中に胃内の剤形の滞留を促進するために十分に大きいサイズまで膨潤する、固体ポリマーマトリックスを形成する一又は複数種のポリマーを含む、高度に水溶性の薬物の制御放出経口剤形を開示している。ポリマーマトリックスは、ポリ(エチレンオキシド)、セルロース、アルキル置換セルロース、架橋ポリアクリル酸、及びキサンタンガムから選択されるポリマーから形成されうる。出典明示によりここに援用される米国特許第6488962号は、嚥下に便利なままで幽門を通過することを防止する最適な錠剤形状を開示している。錠剤は、セルロースポリマーとそれらの誘導体、多糖類とそれらの誘導体、ポリアルキレンオキシド、ポリエチレングリコール、キトサン、ポリ(ビニルアルコール)、キサンタンガム、無水マレイン酸コポリマー、ポリ(ビニルピロリドン)、デンプン及びデンプン系ポリマー、マルトデキストリン、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリウレタンヒドロゲル、架橋ポリアクリル酸とそれらの誘導体、並びにブロックコポリマー及びグラフトポリマーを含む上に列挙されたポリマーのコポリマーを含む、水膨潤性ポリマーを使用して作製される。
【0182】
出典明示によりここに援用される米国特許第6723340号は、膨潤性胃内滞留性組成物を作製するための最適なポリマー混合物を開示する。混合物は、実質的に完全な薬物放出の際に組成物の小腸への通過を確実にするために、膨潤及び薬物放出パラメータの最適制御、並びに溶解/浸食パラメータの制御を提供する。好ましいポリマー混合物は、ポリ(エチレンオキシド)とヒドロキシプロピルメチルセルロースの組み合わせを含む。好ましい分子量範囲及び粘度範囲が、ポリマー混合物について提供されている。
【0183】
前記特許公報に記載された方法は、複数の刊行物に記載されている四種の米国FDA承認の膨潤性胃内滞留性製剤を製剤化するために使用されている(例えば、Berner等,Expert Opin Drug Deliv.3:541(2006)に概説されている)。
【0184】
出典明示によりここに援用される米国特許出願公開第20080220060号は、弱ゲル化剤、強ゲル化剤、及びガス発生剤の混合物で造粒された活性物質を含む胃内滞留性製剤を開示している。ここで、強力なゲル化剤は、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを除くヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウム、アガー-アガー、ゼラチン、加工デンプン、カルボキシビニルポリマーのコポリマー、アクリレートのコポリマー、オキシエチレンとオキシプロピレンのコポリマー、及びそれらの混合物からなる群から選択される。この特許は、製造方法もまた記載している。米国特許第7674480号は、超崩壊剤、タンニン酸、及び一又は複数種のヒドロゲルを含む混合物を使用して非常に急速な膨潤をもたらす、膨潤性胃内滞留性製剤法を開示している。出典明示によりここに援用される米国特許出願公開第20040219186号は、キサンタンガム又はローカストビーンガム又はそれらの組み合わせに基づいて、多糖から形成されたゲルを含む膨張性胃内滞留デバイスを提供する。出典明示によりここに援用される米国特許出願公開第20060177497号は、胃内滞留のためのプラットフォーム技術として、ゲランガムベースの経口制御放出剤形を開示している。剤形は、グアーガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、キサンタンガムなどの親水性ポリマーを更に含む。
【0185】
米国特許第6660300号は、膨潤及び薬物放出が組成物の別々の区画によって達成される、水溶性薬物を送達するために適した二相性膨潤性胃内滞留性製剤技術を開示しており、内部固体粒状相は、薬物及び一又は複数種の親水性ポリマー、一又は複数種の疎水性ポリマー及び/又は一又は複数種の疎水性材料、例えば蝋、脂肪アルコール、及び/若しくは脂肪酸エステルを含む。(薬物含有内部相の顆粒が包埋される)外部固体連続相は、一又は複数種の疎水性ポリマー及び/又は一又は複数種の疎水性材料、例えば蝋、脂肪アルコール、及び/若しくは脂肪酸エステルを使用して、形成される。錠剤及びカプセルが開示される。
【0186】
膨潤性又は膨張性マトリックス製剤に有用な他の添加物には、(i)水膨潤性ポリマーマトリックス、及び(ii)ポリアルキレンオキシド、特にポリ(エチレンオキシド)、ポリエチレングリコール及びポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)コポリマー;セルロースポリマー;好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、及びそれらのコポリマーから、互いに又はアミノエチルアクリレートなどの更なるアクリレート種と共に形成される、アクリル酸及びメタクリル酸ポリマー、それらのコポリマー及びエステル;無水マレイン酸コポリマー;ポリマレイン酸;ポリアクリルアミド自体などのポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、及びポリ(N-イソプロピル-アクリルアミド);ポリ(ビニルアルコール)などのポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)などのポリ(N-ビニルラクタム)、ポリ(N-ビニルカプロラクタム)、及びそれらのコポリマー;グリセロール、ポリグリセロール(特に高度に分岐したポリグリセロール)、プロピレングリコール、及び一又は複数のポリアルキレンオキシドで置換されたトリメチレングリコールなどのポリオール、例えば、モノ-、ジ-、及びトリ-ポリオキシエチル化グリセロール、モノ-及びジ-ポリオキシエチル化プロピレングリコール、並びにモノ-及びジ-ポリオキシエチル化トリメチレングリコール;ポリオキシエチル化ソルビトール及びポリオキシエチル化グルコース;ポリ(メチルオキサゾリン)及びポリ(エチルオキサゾリン)を含むポリオキサゾリン;ポリビニルアミン;ポリビニルアセテート自体並びにエチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルアセテートフタレート等を含む、ポリビニルアセテート;ポリエチレンイミンなどのポリイミン;デンプン及びデンプン系ポリマー;ポリウレタンヒドロゲル;キトサン;多糖ガム;ゼイン;並びにシェラック、アンモニア処理シェラック、シェラック-アセチルアルコール、及びシェラックn-ブチルステアレートから選択される親水性ポリマーが含まれる。胃内滞留性製剤はまた、浮遊性製剤、粘膜付着性製剤、膨張性マトリックス製剤、改変形状製剤、及び/又は磁性製剤の任意の組み合わせを含みうる。
【0187】
幾つかの実施態様では、本発明の薬学的組成物は、幽門を通過することを阻害するサイズに膨潤した結果、胃内に保持される胃内滞留性組成物である。更なる実施態様では、胃内滞留性組成物は、膨潤機序及び浮遊機序の両方によって胃内に滞留する。
【0188】
[展開、形状変化性胃内滞留性製剤]
液体胃内容物と接触すると展開、除圧、又は他の方法でサイズ及び/又は形状を変化させる薬学的組成物もまた記載されており、本発明の化合物及び製剤の適切な送達ビヒクルである。そのような組成物は、胃内で形状を、幽門を通過しにくいサイズ及び/又は幾何形状に変化させるという点で、膨潤/膨張性胃内滞留性製剤と同様の原理を用いる。展開、伸展、又は他の形状変化性の胃内滞留性組成物を作製するための方法及び材料は、当該分野において知られている。例えば、米国特許第3844285号は、反芻動物における獣医学的使用を意図した様々なそのようなデバイスを記載しているが、基本原理は、ヒト胃内滞留性製剤にも適用される。米国特許第4207890号は、胃液と接触すると膨潤して展開する「有効な膨張量の膨張剤をその中に含む、崩壊した、膨張可能な、無孔のポリマーエンベロープ」からなり、その結果として拡張した状態で胃内に滞留する、制御放出薬物送達系を記載している。組成物は、崩壊した形態のカプセルの内部に投与される。展開及び形状変化性胃内滞留性組成物が概説されている(例えば、Klausner等,Journal of Controlled Release 90:143(2003))。
【0189】
「アコーディオンピル」と呼ばれる例示的な展開胃内滞留技術は、Intec Pharma(Jerusalem,Israel)によって開発されている。(少なくとも一の層が薬物を含む)様々な形状の多層平面構造が、Kagan,L.Journal of Controlled Release 113:208(2006)に記載されているように、アコーディオン又は階段状の形状に折り畳まれ、カプセル内に包装される。アコーディオンピル及び関連技術の更なる特徴は、その構築に好ましく使用される薬学的添加物を含み、出典明示によりここに援用される米国特許第6685962号に開示されている。カプセルは、胃内容物との接触時に溶解し、折り畳まれた組成物を放出し、これが急速に展開し、その後、通常の食事と共に投与された場合、最大12時間にわたって胃内に滞留する。
【0190】
他の胃内滞留技術には、超多孔質ヒドロゲル及びイオン交換樹脂系が含まれる。超多孔質ヒドロゲルは、多数の相互接続された孔を介して急速に水を取り込むため、急速に(液体接触から1分以内に)膨潤する。組成物は、クロスカルメロースナトリウム(例えば、商品名:Ac-Di-Sol)などの親水性ポリマーとの共製剤化による胃収縮の力に耐えるために十分な機械的強度を保持しながら、それらの元のサイズの100倍以上まで膨潤しうる。イオン交換樹脂ビーズを、負電荷薬で充填し、ガス発生剤(例えば、二酸化炭素ガスを発生させるために胃液中の塩化物イオンと反応する重炭酸塩)を使用して浮遊させることができる。ビーズは、ガスを捕捉する半透膜に封入され、ビーズの長期浮遊をもたらす。
【0191】
胃内滞留性製剤はまた、粘膜付着性、浮遊性、ラフト形成性、膨潤性、展開/形状変化性、超多孔性ヒドロゲル又はイオン交換樹脂製剤の任意の組み合わせを含みうる。そのような組み合わせは、当業者に知られている。例えば、出典明示によりその全体がここに援用される、米国特許第8778396号(「微粒子を含む多単位胃内滞留性薬学的剤形」)は、微粒子からなる複合粘膜付着性浮遊胃内滞留性製剤を記載している。
【0192】
本発明の組成物は、限定されないが、胃内滞留を更に促進するために膨潤性及び/又は粘膜付着特性を有する親水性ポリマーを含みうる。本発明の組成物に取り込むのに適した膨潤性及び/又は粘膜付着特性を有する親水性ポリマーには、限定されないが、ポリアルキレンオキシド;セルロース由来ポリマー;アクリル酸及びメタクリル酸ポリマー、及びそれらのエステル、無水マレイン酸ポリマー;ポリマレイン酸;ポリ(アクリルアミド);ポリ(オレフィンアルコール);ポリ(N-ビニルラクタム);ポリオール;ポリオキシエチル化糖類;ポリオキサゾリン;ポリビニルアミン;ポリビニルアセテート;ポリイミン;デンプン及びデンプン系ポリマー;ポリウレタンヒドロゲル;キトサン;多糖類ガム;ゼイン;シェラック系ポリマー;ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸、マルトデキストリン、アルファ化デンプン、及びポリビニルアルコール、それらのコポリマー及び混合物が含まれる。
【0193】
組成物からの活性成分の放出は、それらの放出遅延特性について製薬分野でよく知られている添加物を含む適切な遅延剤の使用によって達成することができる。そのような放出遅延剤の例には、限定されないが、高分子放出遅延剤、非高分子放出遅延剤、又はそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0194】
本発明の目的に用いられる高分子放出遅延剤には、限定されないが、セルロース誘導体;多価アルコール;糖類、ガム、及びそれらの誘導体;ビニル誘導体、ポリマー、コポリマー、又はそれらの混合物;マレイン酸コポリマー;ポリアルキレンオキシド又はそのコポリマー;アクリル酸ポリマー及びアクリル酸誘導体;又はそれらの任意の組み合わせが含まれる。セルロース誘導体には、限定されないが、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、又はそれらの組み合わせが含まれる。多価アルコールには、限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリプロピレングリコール、又はそれらの任意の組み合わせが含まれる。糖類、ガム、及びそれらの誘導体には、限定されないが、デキストリン、ポリデキストリン、デキストラン、ペクチン及びペクチン誘導体、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラヤガム、トラガカントガム、カラギーナン、アカシアガム、アラビアガム、フェヌグリーク繊維、若しくはゲランガム等、又はそれらの任意の組み合わせが含まれる。ビニル誘導体、ポリマー、コポリマー、又はそれらの混合物には、限定されないが、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート(8部w/w)、及びポリビニルピロリドン(2部w/w)の混合物(Kollidon SR)、ビニルピロリドンのコポリマー、ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルピロリドン(PVP)、又はそれらの組み合わせが含まれる。ポリアルキレンオキシド又はそのコポリマーには、限定されないが、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリ(オキシエチレン)-ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマー(ポロキサマー)、又はそれらの組み合わせが含まれる。マレイン酸コポリマーには、限定されないが、ビニルアセテート無水マレイン酸コポリマー、ブチルアクリレートスチレン無水マレイン酸コポリマー等、又はそれらの任意の組み合わせが含まれる。アクリル酸ポリマー及びアクリル酸誘導体には、限定されないが、カルボマー、メタクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリレート、ポリメタクリレート等、又はそれらの組み合わせが含まれる。ポリメタクリレートには、限定されないが、a)メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸、及びアクリル酸エステルから選択されるモノマーから形成されるコポリマー、c)エチルアクリレート、メチルメタクリレート、及びトリメチルアンモニオエチルメタクリレートクロリド等から選択されるモノマーから形成されるコポリマー、又はそれらの任意の組み合わせが含まれる。本発明の目的に用いられる非高分子放出遅延剤には、限定されないが、脂肪、油、蝋、脂肪酸、脂肪酸エステル、長鎖一価アルコール、及びそれらのエステル、又はそれらの組み合わせが含まれる。一実施態様では、本発明で用いられる非高分子放出遅延剤には、限定されないが、Cutina(水素化ヒマシ油)、Hydrobase(水素化大豆油)、Castorwax(水素化ヒマシ油)、Croduret(水素化ヒマシ油)、Carbowax、Compritol(ベヘン酸グリセリル)、Sterotex(水素化綿実油)、Lubritab(水素化綿実油)、Apifil(黄色蝋)、Akofine(水素化綿実油)、Softtisan(水素化パーム油)、Hydrocote(水素化大豆油)、Corona(ラノリン)、Gelucire(マクロゴールグリセリドラウリク)、Precirol(パルミトステアリン酸グリセリル)、Emulcire(セチルアルコール)、Plurolジイソステアリク(ジイソステアリン酸ポリグリセリル)、及びGelerol(ステアリン酸グリセリル)、及びそれらの混合物が含まれる。
【0195】
本発明の胃内滞留性組成物は、限定されないが、モノリシック若しくは多層の剤形又はインレー系などの形態でありうる。本発明の一実施態様では、胃内滞留性組成物は、二層又は三層の固体剤形の形態である。例示的な実施態様では、経口投与のための膨張性二層系の形態の固体薬学的組成物は、胃腸管に到達した直後に第一層から活性医薬成分を送達し、第二層と同じか異なりうる更なる医薬剤を、特定の期間にわたって修正された様式で送達するように適合される。第二層は、組成物中で膨張するように製剤化され得、それによって胃における組成物の保持を延長する。
【0196】
更なる例示的な実施態様では、経口投与のための固体薬学的組成物は、二つの層を含み、一方の層は、適切な放出遅延剤と共に活性成分を含み、他方の層は、他の添加物と組み合わせて膨潤剤を含む。本発明の別の実施態様では、経口投与のための固体薬学的組成物は、胃内滞留を確実にする添加物を含む第二の錠剤の内部に配置された活性成分を含む第一の錠剤を含む特殊な剤形である、インレー系を含む。この系では、活性成分を含む錠剤は小さく、少なくとも片側を除いた全ての面が膨潤性ポリマー若しくは浮遊系、又は両方を含む添加物のブレンドで被覆され、胃内滞留を確実にする。
【0197】
本発明の更に別の実施態様では、剤形は任意選択的にコーティングされうる。表面コーティングは、感覚受容目的のため(特に、臭い若しくは不快な味を有するチオール若しくはジスルフィド)、薬物標識目的のため(例えば、剤形のための色分けシステム)、美容目的のため、圧縮された剤形を寸法的に安定化するため、又は薬物放出を遅延させるために用いることができる。表面コーティングは、経腸的使用に適した任意の一般的コーティングでありうる。コーティングは、一般的成分を用いる任意の一般的技術を使用して行うことができる。表面コーティングは、例えば、限定されないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリメタクリレート等の一般的ポリマーを使用する速溶性フィルムを使用して得ることができる。コーティング添加物とそれらを使用するための方法は、当該分野においてよく知られている。例えば、McGinity,James W.及びLinda A.Felton,Aqueous Polymeric Coatings for Pharmaceutical Dosage Forms,3版,Informa Healthcare,2008を参照のこと。
【0198】
更に、本発明の別の実施態様では、組成物は、限定されないが、腸管内でより長い滞留時間を必要とする活性剤を効果的に送達するために、腸内での長期の通過を示す、ペレット、ミクロスフェア、マイクロカプセル、マイクロビーズ、マイクロ粒子、又はナノ粒子を含む多微粒子の形態である。多微粒子系は、(i)生体付着性若しくは粘膜付着性であってよく、それにより胃腸管通過を遅延させるか、又は(ii)胃内容物の上に浮遊し、任意選択的にゲル様層を形成することができるか、又は(iii)pH感受性外層若しくは小腸の軽度の酸性環境において、又は回腸の中性から僅かに塩基性の環境(典型的には最高pHを有する腸セグメント)において溶解する層でコーティングされうるか、又は(iv)ヒト酵素によって消化されないが、腸内細菌によって産生される酵素によって消化され、遠位回腸及び結腸での薬物放出につながる薬物を含有するポリマーを使用して形成されうる。一実施態様では、本発明の組成物は、多微粒子の形態で、胃内滞留性である。そのような多微粒子系は、限定されないが、ペレット化、造粒、噴霧乾燥、噴霧凝結等を含む方法によって調製することができる。
【0199】
適切な高分子放出制御剤を、本発明の組成物に用いることができる。一実施態様では、高分子放出制御剤は、pH非依存性又はpH依存性又はそれらの任意の組み合わせである。別の実施態様では、本発明の組成物に用いられる高分子放出制御剤は、膨潤又は非膨潤でありうる。更なる実施態様では、本発明の組成物に用いることができる高分子放出制御剤には、限定されないが、セルロース誘導体、糖類若しくは多糖類、ポリ(オキシエチレン)-ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマー(ポロキサマー)、ビニル誘導体又はそのポリマー若しくはコポリマー、ポリアルキレンオキシドとその誘導体、マレイン酸コポリマー、アクリル酸誘導体等、又はそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0200】
経口使用のための制御放出組成物は、活性薬物物質の溶解及び/又は拡散を制御することによって活性薬物を放出するように構築されうる。制御放出を得て、それによって血漿濃度対時間プロファイルを最適化するために、多くの戦略のうちの何れかを遂行することができる。一例では、制御放出は、例えば、様々な種類の制御放出組成物及びコーティングを含む、様々な製剤パラメータ及び成分の適切な選択によって得られる。従って、薬物は、適切な添加物と共に、投与時に制御された様式で薬物を放出する薬学的組成物に製剤化される。例としては、単一又は複数の単位錠剤又はカプセル組成物、油性溶液、液体、懸濁液、乳液、マイクロカプセル、ミクロスフェア、ナノ粒子、粉末、及び顆粒が挙げられる。所定の実施態様では、組成物は、生分解性、pH、及び/又は温度感受性ポリマーコーティングを含む。
【0201】
溶解又は拡散制御放出は、化合物の錠剤、カプセル、ペレット、若しくは顆粒製剤の適切なコーティングによって、又は化合物を適切なマトリックスに取り込むことによって達成することができる。制御放出コーティングは、上述のコーティング物質のうちの一又は複数、及び/又は例えば、シェラック、蜜蝋、グリコワックス(glycowax)、ヒマシ蝋、カルナウバ蝋、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセロール、エチルセルロース、アクリル樹脂、dl-ポリ乳酸、酢酸酪酸セルロース、ポリビニルクロリド、ポリビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリメタクリレート、メチルメタクリレート、2-ヒドロキシメタクリレート、メタクリレートヒドロゲル、1,3ブチレングリコール、エチレングリコールメタクリレート、及び/又はポリエチレングリコールを含みうる。制御放出マトリックス製剤において、マトリックス材料は、例えば、水和メチルセルロース、カルナウバ蝋、及びステアリルアルコール、カルボポール934、シリコーン、グリセリルトリステアレート、メチルアクリレート-メチルメタクリレート、ポリビニルクロリド、ポリエチレン、及び/又はハロゲン化フルオロカーボンを含みうる。
【0202】
あるいは、所定のシステアミン前駆体、又はインビボでのシステアミンの生成又は吸収のエンハンサーを製剤化し、医療用食品として投与されうる。医療用食品は、薬物ではなく食品として米国FDAによって規制されている。医療用食品を製剤化するための方法は、当該分野において知られている。食品又は飲料中の活性化合物を調製し投与するための方法の記載については、例えば、米国特許出願公開第20100261791号を参照のこと。オランダに本拠を置く医療用食品会社であるNutraciaは、薬理学的に活性な薬剤を食品又は飲料と組み合わせる方法を記載した250以上の特許出願及び特許を有している。
【0203】
[コーティング]
本発明の錠剤又はカプセルなどの経口送達のために製剤化された薬学的組成物は、遅延放出又は延長放出の利点をもたらす剤形を提供するためにコーティング又は他の方法で配合することができる。コーティングは、(例えば、制御放出製剤を達成するために)予め決まったパターンで活性薬物物質を放出するように適合させることができるか、或いは例えば、腸溶コーティング(例えば、pH感受性であるポリマー(「pH制御放出」)、緩慢又はpH依存的膨潤速度、溶解又は浸食を有するポリマー(「時間制御放出」)、酵素によって分解されるポリマー(「酵素制御放出」又は「生分解性放出」)、及び圧力の増加によって破壊される強固な層を形成するポリマー(「圧力制御放出」))の使用によって、胃の通過後まで活性薬物物質を放出しないように適合されうる。ここに記載の薬学的組成物に使用できる例示的な腸溶コーティングには、糖コーティング、フィルムコーティング(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリレートコポリマー、ポリエチレングリコール、及び/又はポリビニルピロリドンに基づく)、又はメタクリル酸コポリマー、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、及び/又はエチルセルロースに基づくコーティングが含まれる。更に、例えば、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延材料を用いてもよい。
【0204】
例えば、錠剤又はカプセルは、内部投薬成分及び外部投薬成分を含むことができ、後者は、前者に対してエンベロープの形態である。該二成分は、胃内の崩壊に抵抗し、内部成分が十二指腸に無傷で通過するか、又は放出が遅延されることを可能にする腸溶層によって分離されうる。
【0205】
腸溶コーティングが使用される場合、望ましくは、実質的な量の薬物が下部胃腸管で放出される。あるいは、漏出性腸溶コーティングを使用して、即放性製剤と遅延放出製剤の中間の放出プロファイルを提供することができる。例えば、米国特許出願公開第20080020041A1号は、残りの成分と共に、胃液と接触すると有効成分の少なくとも一部を放出する腸溶性材料でコーティングされ、残りが腸液に接触すると放出される薬学的製剤を開示する。
【0206】
遅延放出又は延長放出をもたらすコーティングに加えて、固体錠剤組成物は、望ましくない化学変化(例えば、活性薬物物質の放出前の化学分解)から組成物を保護するように適合されたコーティングを含みうる。コーティングは、Encyclopedia of Pharmaceutical Technology,vols.5 and 6,Swarbrick及びBoyland編,2000に記載されているものと同様の方法で固体剤形に適用することができる。
【0207】
制御放出製剤の場合、組成物の活性成分は、小腸における放出の標的とされうる。製剤は、組成物が胃に見出される低pH環境に耐性があるが、小腸のより高いpH環境に感受性であるような腸溶コーティングを含みうる。小腸における活性成分の放出を制御するために、多微粒子製剤を用いて、活性成分の同時放出を防止してもよい。多微粒子組成物は、微結晶性セルロース系ゲルに分散されたシステアミン前駆体又はその塩を含む疎水性相と、ヒドロゲルを含む親水性相とを含む、複数の個々の腸溶コーティングされたコアを含みうる。微結晶性セルロース(MCC)は、コアが腸内で溶解又は侵食されている間に、システアミン前駆体又はその塩の放出制御ポリマーとして機能し、用量ダンピングを防止し、システアミン前駆体又はその塩を安定化する。コア又はコーティング層中の添加物に関して異なる二以上の多微粒子組成物は、より長い期間にわたって活性成分(例えば、システアミン前駆体)を放出するように、一の薬学的組成物(例えば、カプセル、粉末、又は液体)に複合化されてもよい。あるいは、微粒子の二以上のバッチにおいて異なる濃度の添加物を使用し、ついで、標的化薬物放出プロファイルをもたらすように選択された比(例えば、1:1)で異なるバッチからの微粒子を組み合わせることによって、同じ効果を達成することができる。
【0208】
この組成物は、約15%w/wから約70%w/wのシステアミン前駆体又はその塩、約25%w/wから約75%w/wの微結晶性セルロース、及び約2%w/wから約15%w/wのメチルセルロースを含む複数の個々の腸溶コーティングされたコアを含み得、%w/wは、腸溶コーティングされたコアの%w/wである。
【0209】
場合によっては、タンパク質性サブコーティング層は、システアミン前駆体又はその塩の安定性を更に高めるため、個々のコアを覆い、個々のコアをそれぞれの腸溶コーティングから分離する連続的なタンパク質性サブコーティング層を含むことが有利でありうる。連続的なタンパク質性サブコーティングは、システアミン前駆体又はその塩が腸溶コーティングと混合するのを防止するように適合される。幾つかの好ましいタンパク質性サブコーティングは次の属性を有する:サブコーティングは、コアに付着したゼラチンフィルムを含み得、及び/又はサブコーティングは、乾燥タンパク質性ゲルを含みうる。
【0210】
特定の実施態様では、腸溶コーティングされたコアは、0.1NのHCl溶液中に置かれた約2時間以内に約20%以下のシステアミン前駆体又はその塩を放出し、その後、実質的に中性のpH環境に置かれた約8時間以内に、約85%以上のシステアミン前駆体又はその塩を放出する。
【0211】
好ましくは、腸溶コーティングされたコアは、楕円体であり、直径3mm以下である。
【0212】
別々に投与された組成物の胃での付着を防止するために、本発明の組成物は、抗付着剤でコーティングすることができる。抗付着剤はまた、微粒子が互いに粘着するのを防止するために使用されうる。例えば、組成物は、微結晶性セルロース粉末の薄い最外層で被覆されうる。あるいは、胃液に不溶であるが透過性及び膨潤性のポリマーでコーティングすることによって付着を防止することができる。例えば、30%のポリアクリレート分散液(例えば、Eudragit NE30D、Evonik Industries)は、胃における浮遊性ミニ錠剤の付着を防止することが示されている(Rouge等,European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 43:165(1997)を参照)。
【0213】
腸溶コーティングに使用される列挙された添加物の市販形態には、例えば、様々なブランドのポリメタクリレート(アミノメタクリレートコポリマー、アンモニオメタクリレートコポリマー、エチルアクリレートコポリマー分散物、メチルメタクリレートコポリマー分散物、メタクリル酸コポリマー及びメタクリル酸コポリマー分散物を含む、化学的に均一な化合物群)が含まれ、これらは、Ashland,BASF Fine Chemicals(Kollicoat製品ライン)、ColorCon(Acryl-EZE製品ライン)、Eastman Chemical(Eastacryl製品ライン)、及びEvonik Industries(Eudragit製品ライン)を含み、企業によって製品ラインとして販売されている。
【0214】
[回腸及び結腸の薬物放出のための製剤]
幾つかの実施態様では、回腸及び/又は結腸を標的とする製剤を使用して、システアミン前駆体を遠位回腸及び結腸に送達することができる。(「結腸を標的とする」という用語は、回腸標的製剤及び結腸標的製剤の両方を指すためにここで使用される;回腸内で薬物を放出し始める何れの組成物もまた、結腸内で薬物を放出する可能性があり、回腸で放出される幾らかの薬物は、結腸に達する可能性がある)。結腸を標的とする組成物の薬物送達の利点には、大腸上皮との長期間の接触及び部位特異的送達のために利用できる結腸細菌の存在が含まれる。
【0215】
薬物動態の観点から、システアミンの結腸吸収は、その極めて短い半減期に起因して、血中レベルを治療的範囲で維持するために胃腸管で連続的に生成(及び吸収)されなければならないため、望ましい。摂取した薬学的組成物(そうでなければ胃内滞留性組成物)は、絶食状態で摂取した場合、摂取後3から5時間(平均して、ほとんどの対象において)、又は食品と共に摂取した後6から10時間(平均して、ほとんどの対象において)で結腸に到着しうる。その剤形が結腸に到達した後に血液システアミンレベルを治療的範囲で維持する唯一の方法は、システアミンが生成され、結腸に吸収されることを確実にすることである。小腸内に放出された幾らかのシステアミン前駆体は、結腸にそのまま入り、結腸でシステアミンに分解されうる。しかしながら、結腸での強固なシステアミン生成を提供するために、システアミン前駆体は、結腸(又は回腸)で放出されるように製剤化されるべきであり、そこでシステアミンに分解されて吸収されうる。結腸標的組成物は、システアミン感受性疾患の治療法として単独で使用することを意図するものではなく、むしろ胃腸管の他の領域に向けた製剤を補完するものである。
【0216】
結腸標的送達に対する二つのアプローチが広範に開発されており、以下に記載される。
【0217】
第一のアプローチは、腸内細菌によって結腸内で産生された酵素の利用を含む。腸内細菌は、唾液、胃液、腸液、又は膵液中に存在するヒト酵素によって消化されない様々なポリマーを消化することができる。そのようなポリマーを含む薬学的組成物は、消化することができず、従って、ポリマーと混和された有効成分は、それらが遠位回腸(細菌の密度が上昇し始める)又は結腸(結腸内容物の1ミリリットル当たり1兆個の細菌が存在しうる)における腸内細菌によって産生された酵素に遭遇するまで逃げることができない。
【0218】
システアミン前駆体及び/又は他の有効成分(例えば、インビボシステアミン生成又は吸収のエンハンサー)は、薬物放出を遅延させ、腸内細菌によって産生される酵素によってのみ(ヒト胃腸管において)消化可能であるポリマーと混合することができる。腸内細菌による選択的分解に基づく結腸標的薬物送達に使用されるポリマーには、デキストランヒドロゲル(Hovgaard,L.及びH.Brondsted,J.Controlled ReI.36:159(1995))、架橋コンドロイチン(Rubinstein等,Pharm.Res.9:276(1992))、及びアゾ芳香族部分含有ヒドロゲル(Brondsted,H.及びJ.Kopoecek,Pharm Res.9:1540(1992);及びYeh等,J.Controlled ReI.36:109(1995))が含まれる。
【0219】
胃及び小腸で安定であり、腸内微生物叢による酵素切断の際に大腸内で薬物を放出する前駆体を形成する担体との薬物の共有結合;これらの前駆体の例には、アゾ複合体、シクロデキストリン複合体、グリコシド複合体、グルクロン酸塩複合体、デキストラン複合体、ポリペプチド及びポリマー複合体が含まれる。基本原理は、薬物と担体と連結する共有結合が、ヒト酵素によって消化不可能であるが、腸内細菌酵素によって消化可能でなければならないということである。
【0220】
第二のアプローチは、胃腸管の他の部分に対して、回腸での高いpHの利用を含む。健康な対象では、胃腸管のpHは、十二指腸(近位から遠位十二指腸までおよそpH5.5から6.6)から回腸末端(およそpH7~7.5)まで増加し、ついで盲腸で減少し(pH約6.4)、ついで結腸の右側から左側に向かって約pH7の最終値まで再び増加する。
【0221】
組成物は、中性から軽度アルカリ性pH(例えば、pH6.5以上、pH6.8以上、又はpH7以上)でのみ溶解するpH感受性ポリマーでコーティングされうる。pH感受性コーティングの下には、徐放性製剤があり、そこから薬物が、拡散、浸食、又は組み合わせによってゆっくりと放出される。このアプローチは、出典明示によりここに援用される米国特許第5900252号に記載されている。
【0222】
腸内細菌及びpHに基づく結腸標的法を組み合わせることができる。例えば、Naeem等,Colloids Surf B Biointerfaces S0927(2014)を参照のこと。この研究では、細菌消化性ポリマーを使用して形成されたコーティングされたナノ粒子が記載されている。薬物含有液体で充填したカプセルを結腸に送達するためにpH及び細菌酵素消化を組み合わせた別の技術は、米国特許出願公開第20070243253号に記載されており、これは、デンプン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、硫酸コンドロイチン、シクロデキストリン、デキストラン、プルラン、カラギーナン、スクレログルカン、キチン、クルデュラン、及びレバンを含むポリマーを、約pH5以上で溶解するpH感受性コーティングと共に利用する製剤を開示している。
【0223】
結腸標的薬物送達のための他のアプローチは、(i)マルチコーティング製剤が胃を通過すると外皮が溶解し始め、コーティングの厚さ及び組成に基づいて、ほぼ小腸の通過時間である3~5時間のラグタイム後に薬物が放出される、時間放出系;(ii)アゾ-及びジスルフィドポリマーの組み合わせが、結腸の低酸化還元電位に応答して薬物放出をもたらす、酸化還元感受性ポリマー;(iii)結腸粘膜に選択的に付着し、剤形の通過を遅らせて薬物が薬物を放出することを可能にする、生体付着性ポリマー、及び/又は(iv)薬物が浸透圧のために半透膜を介して放出される、浸透圧制御薬物送達を用いる。
【0224】
David R.Friendによる書籍“Oral Colon-Specific Drug Delivery”(CRC Press,1992)は、デキストランベースの送達系、グリコシド/グリコシダーゼベースの送達、アゾ結合プロドラッグ、ヒドロキシプロピルメタクリルアミドコポリマー、及び結腸送達のための他のマトリックスなどの、より古い結腸標的法(それらのうち多くは依然として有用である)を提供し、概説している。結腸標的薬物送達は、より最近では、例えばBansal等,Polim Med.44:109(2014)によって概説されている。最近のアプローチには、腸内細菌によって産生される酵素によってのみ消化可能な新規ポリマーの使用が含まれ、様々な植物に見出される天然ポリマー、並びにマイクロビーズ、ナノ粒子、及び他の微粒子が含まれる。
【0225】
[治療方法]
本発明は、ベータコロナウイルス感染症を治療するために有用な方法を特徴とする。治療は、胃腸管でシステアミンに変換可能なシステアミン前駆体の経口投与を必要とする。重要なクラスのシステアミン前駆体は、インビボでの還元時に二つのチオールをもたらす混合ジスルフィドである。両方のチオールが、インビボでシステアミンに変換可能でありうるか、又は一つだけであってもよい。両方のチオールがシステアミンに変換可能であるシステアミン前駆体は、シスチン症、嚢胞性線維症、マラリア、並びにウイルス及び細菌感染症を含む疾患の治療剤の好ましいクラスである。そのような混合ジスルフィドの非限定的な例には、システアミン-パンテテイン及びシステアミン-4-ホスホパンテテインが含まれる。
【0226】
[投与レジメン]
ベータコロナウイルス感染症の治療において血漿システアミンレベルを調節するための本方法は、一又は複数のシステアミン前駆体と、任意選択的にインビボでのシステアミン生成及び/又は吸収の一又は複数のエンハンサーを含む一又は複数の組成物を、ベータコロナウイルス感染症の効果的な治療を提供するのに十分なシステアミンの血漿レベルの上昇をもたらすのに十分な時間及び量で投与することによって実行される。例えば、胃内滞留性及び非胃滞留性徐放性製剤の両方は、それら自体で、3、5、8時間又はそれ以上にわたってシステアミン前駆体の放出をもたらすことができるが、長期間にわたって治療的濃度範囲のシステアミンのより安定した血中レベルを達成するために、それらの製剤型の何れかを、即放性、遅延放出、又は結腸標的組成物などの一又は複数種の他の組成物と同時投与することが望ましい場合がある。混合製剤と呼ばれる二種類の製剤を含む組成物を投与することもできる。
【0227】
組成物の投与の量及び頻度は、例えば投与されるもの(例えば、どのシステアミン前駆体、どのエンハンサー、どの種類の製剤)、疾患、患者の状態、及び投与様式に応じて変わりうる。治療用途において、組成物は、上昇したWBCシスチンレベル(例えば、シスチン症)に罹患している患者に、WBCシスチンレベルを、好ましくは推奨レベルより低く減少させるか、又は少なくとも部分的に減少させるために十分な量で投与することができる。投薬量は、疾患の種類及び進行の程度、特定の患者の年齢、体重、及び全身状態、投与経路、並びに主治医の判断などの変数に依存する可能性が高い。有効用量は、インビトロ又は動物モデル試験系から誘導された用量反応曲線から推定することができる。有効用量は、望ましい臨床転帰をもたらす用量である。
【0228】
用量当たりのシステアミン前駆体又はその塩の量は変動しうる。システアミン重酒石酸塩の用量範囲の上端は、1日に体表面積1平方メートルあたり1.95グラム(システアミンの重量のみを計数)であり、これは平均成人のシステアミン塩基約3.7グラム/日に相当する。しかしながら、システアミンのその量には、重大な副作用が伴い、場合によっては治療の中止が伴う。
【0229】
システアミン前駆体の分子量は、インビボでシステアミンに変換可能な画分がそうであるように、広く変わる。幾つかの例が、その変動を例証するのに役立ちうる。システアミン塩基の分子量は、77.15g/molである。チオールパンテテインの分子量は、278.37g/molである。従って、システアミン-パンテテインジスルフィドは、およそ353.52の分子量(酸化反応で失われた2つのプロトンに対して調整)を有し、併せて154.3重量の2つのシステアミンにインビボで変換可能である。従って、システアミン-パンテテインジスルフィドの約43.6%がシステアミンに変換可能である。インビボでのシステアミン-パンテテインジスルフィドのシステアミンへの100%変換を仮定し、更に同等の生物学的利用能を仮定すると、システアミン-パンテテインジスルフィドの最大用量は、70kgの成人に対して8.5グラム/日、又は約0.12グラム/kg/日の範囲である。システアミン前駆体の生物学的利用能は、患者のインビボでのシステアミンの生成及び吸収能力と一致するように投与された場合、システアミン塩よりも適度に高いと予想される。システアミン前駆体のシステアミンへのインビボ変換は、100%である可能性は低いが、薬物動態パラメータへの投与レジメンの較正によって、及びシステアミン前駆体の分解及び吸収の適切なエンハンサーの同時投与によって、非常に高い変換率が達成されうる。
【0230】
ジスルフィドパンテチンは、554.723g/molの分子量を有し、還元及びパンテテイナーゼ切断の際に2個のシステアミン分子を生じる(すなわち、パンテチンの27.8%がシステアミンになる)。従って、上記と同じ仮定を行うと、パンテチンの最大用量は、70kgの成人に対して13グラム/日、又は約0.19グラム/kg/日の範囲である。
【0231】
システアミン1分子しか生じないコエンザイムA(分子量767.535g/mol)のような大きなシステアミン前駆体では、システアミンに変換可能な用量の画分は僅か約10%であり、その結果、コエンザイムAの最大用量は、70kgの成人に対して最大37グラム/日、又は約0.5グラム/kg/日でありうる。その理由から、コエンザイムAは、良好な治療効果のためにシステインの高血中レベルを必要とする疾患の唯一の治療としては好ましくないが、システアミンをより効率的に送達する他のシステアミン前駆体と組み合わせることができる。
【0232】
有用なシステアミン前駆体用量の範囲の下限は、副作用及び忍容性の限界によって決定されるのではなく、全体として効力によって決定され、これは疾患毎にかなり変わりうる。例えば、肝臓による最初の通過代謝(血液から吸収されたシステアミンの約40%を取り除く)は、肝臓へのシステアミン送達に影響を及ぼさないため、肝疾患に対する有効用量の範囲は他の疾患よりも低い。
【0233】
例えば、対象は、約0.01g/kgから約0.5g/kgのシステアミン前駆体を受けることができる。一般に、システアミン及びパンテテイン化合物は、ピーク血漿濃度が1μM~45μMの範囲にあるような量で投与される。例示的な投薬量は、約0.01から約0.2g/kg;約0.05から約0.2g/kg;約0.1から約0.2g/kg;約0.15から約0.2g/kg;約0.05g/kgから約0.25g/kg;約0.1g/kgから約0.25g/kg;約0.15g/kgから約0.25g/kg;約0.1g/kgから約0.50g/kg;約0.2から約0.5g/kg;約0.3から約0.5g/kg;又は約0.35から約0.5g/kgでありうる。例示的な投薬量は、約0.005g/kg、約0.01g/kg、約0.015g/kg、約0.02g/kg、約0.03g/kg、約0.05g/kg、約0.1g/kg、約0.15g/kg、約0.2g/kg、又は約0.5g/kgである。例示的なピーク血漿濃度は、5~20μM、5~15μM、5~10μM、10~20μM、10~15μM、又は15~20μMの範囲でありうる。ピーク血漿濃度は、2~14時間、4~14時間、6~14時間、6~12時間、又は6~10時間維持されうる。
【0234】
治療の頻度もまた変わりうる。対象は、1日当たり一又は複数回(例えば、一回、二回、若しくは三回)、又は非常に多くの時間毎に(例えば、約8、12、又は24時間毎に)治療されうる。好ましくは、薬学的組成物は、24時間に1回又は2回投与される。治療の時間経過は、異なる期間であってよく、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10日間、又はそれ以上の日数、2週間、又は1ヶ月にわたる。例えば、治療は、1日2回を3日間、1日2回を7日間、1日2回を10日間でありうる。治療サイクルは、間隔をあけて、例えば、毎週、隔月、又は毎月に繰り返すことができ、これは治療を施さない期間で区切られる。治療は、単一の治療でありうるか、又は対象の寿命(例えば、多年)の長さでありうる。
【0235】
本発明は、本発明の方法を実施するのに有用なキットをまた特徴とする。キットは、全ての有効成分と不活性成分を単位剤形に、又は有効成分と不活性成分を二以上の別々の容器に含むことができ、ベータコロナウイルス感染症を治療するために薬学的組成物を投与又は使用するための説明書を含むことができる。
【0236】
幾つかの実施態様では、キットは、システアミン前駆体化合物又はその薬学的に許容される塩、又はそれを含む薬学的組成物と、ベータコロナウイルス感染症を治療又は予防するために化合物又は薬学的組成物を投与するための説明書とを含む。
【実施例
【0237】
次の実施例は、ここに記載の組成物及び方法がどのように使用され、製造され、評価されうるかについての説明を当業者に提供するために提示され、本発明の純粋な例示を意図するものであり、発明者が彼らの発明とみなすものの範囲を限定することを意図するものではない。
【0238】
実施例1. SARS-CoV-2複製に対するシステアミン前駆体化合物の効果
システアミン前駆体化合物は、シリアンハムスター感染モデルで評価することができる(Chan等,“Simulation of the clinical and pathological manifestations of Coronavirus Disease 2019(COVID-19)in golden Syrian hamster model:implications for disease pathogenesis and transmissibility,”Clinical Infectious Diseases,ciaa325,(2020)。
【0239】
システアミン-パンテテインジスルフィド(化合物1)の有効性は、シリアンハムスターモデルで評価される。呼吸促迫、体重減少、広範なアポトーシスを伴うびまん性肺胞傷害の初期滲出期から組織修復の後期増殖期までの組織病理学的変化、ウイルスヌクレオカプシドタンパク質発現による気道及び腸合併症、高肺ウイルス量、及び顕著なサイトカイン活性化に関連する脾臓及びリンパ系萎縮の最大の臨床徴候が、ウイルス負荷の最初の一週間以内に観察される。肺ウイルス力価は10~10TCID50/gである。負荷したインデックスハムスターは、同じケージ内に収容されたナイーブ接触ハムスターに一貫して感染する可能性があり、その結果、同様の病状が生じるが、体重減少には至らない。全ての感染ハムスターは、負荷後14日で回復し、平均血清中和抗体力価≧1:427を発現することができる。回復期早期の血清による免疫予防は、肺のウイルス量の有意な減少を達成できるが、肺の病理は減少しない。
【0240】
1群当たり3匹のSARS-CoV-2に感染したシリアンハムスターの三群に、システアミン-パンテテインジスルフィド(化合物1)を一日1回、7日間経口投与する。第一群には60mg/kg、第二群には90mg/kg、第三群には120mg/kgを投与する。臨床状態、生物学的パラメータ、及びウイルス量を毎日特徴付ける。
【0241】
SARS-CoV-2に感染し、化合物1による治療を受ける動物は、COVID-19の重篤な結果のリスクが低くなる可能性があり、これには、ウイルス量の減少、回復の迅速化、感染症の重症度の低下が含まれる。
【0242】
実施例2 2019コロナウイルス疾患(COVID-19)患者におけるシステアミン-パンテテインジスルフィド(化合物1)の安全性、忍容性、薬物動態(PK)及び薬力学(PD)。
空腹時又は摂食条件下でCOVID-19の患者(男性及び女性)を対象としたシステアミン-パンテテインジスルフィド(化合物1)の単回投与/複数回投与、非盲検、非無作為化、2期間の研究が実施される。治療前に、患者はスクリーニングを受けて研究の適格性を判断する(1日目)。
【0243】
0日目に、患者に1回の低用量(600mg当量のシステアミン塩基)の化合物1を投与し、PK及びPDサンプルをイベントスケジュールに従って収集する。
3日目に、患者に高用量(1200mg当量のシステアミン塩基)の化合物1を投与し、PK及びPDサンプルをイベントスケジュールに従って収集する。
【0244】
単回投与期間後に決定されるPK特性に基づいて、最初の6名の患者に、7日目から13日目まで、低用量の化合物1を一日1回又は2回投与し、次の6名の患者に、1.95g/m2/日当量のシステアミン塩基(70kgの成人で約4g)を超えない範囲で、7日目から13日目まで、高用量の化合物1を一日1回又は2回投与する。
【0245】
システアミン、タウリン、パンテテイン、及びシステアミン-パンテテイン(化合物1)の血漿レベルを、イベントスケジュールに従って、0日目から2日目、3日目から5日目、及び7日目から15日目に収集されたサンプルから得る。
【0246】
システアミン、タウリン、パンテテイン、及びシステアミン-パンテテイン(化合物1)の血漿濃度-時間プロファイルを各患者について決定し、次の血漿PKパラメータを推定する:Cmax、Tmax、t1/2(排出半減期)、AUC0-t(時間0から最後の定量化可能な濃度の時間までの濃度-時間曲線下の面積)、AUC0-inf(時間0から無限大に外挿された濃度-時間曲線下の面積、AUC0-t/AUC0-inf(AUCRとしても知られる)、及びKel(終末排出速度定数)。
【0247】
薬力学的評価:SARS-CoV-2ウイルス負荷を、イベントスケジュールに従って、0日目から15日目までに収集されたサンプルから取得する。
研究の終わりに、化合物1による治療を受けているSARS-CoV-2に感染した対象は、肺炎、急性呼吸促迫症候群、呼吸不全、敗血症性ショック、臓器不全、サイトカインストーム、及び/又は死亡の低リスクを含む重症のCOVID-19転帰の低リスクを経験しうる。
【0248】
[他の実施態様]
本発明を、その特定の実施態様に関連して説明してきたが、更なる変更が可能であり、本出願は、一般に、本発明の原理に従って、本発明が関係する技術の範囲内で知られている又は慣習的な慣行の範囲内にある本発明からの逸脱を含み、本発明の任意の変形、使用、又は適応を包含することが意図され、ここで前述された本質的な特徴に適用され得、特許請求の範囲に従うことが理解されるであろう。他の実施態様は特許請求の範囲内である。
【国際調査報告】