(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】コロナウイルス感染症の処置及び/又は予防のための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/704 20060101AFI20230518BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230518BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230518BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230518BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20230518BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20230518BHJP
A61K 31/438 20060101ALI20230518BHJP
A61K 31/439 20060101ALI20230518BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20230518BHJP
A61K 31/7076 20060101ALI20230518BHJP
A61K 31/45 20060101ALI20230518BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20230518BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20230518BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20230518BHJP
A61K 31/138 20060101ALI20230518BHJP
A61K 31/35 20060101ALI20230518BHJP
A61K 31/58 20060101ALI20230518BHJP
C12N 9/99 20060101ALI20230518BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20230518BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230518BHJP
C12N 7/06 20060101ALN20230518BHJP
C12N 7/00 20060101ALN20230518BHJP
【FI】
A61K31/704
A61P31/14
A61P11/00
A61K9/12
A61K9/72
A61K31/137
A61K31/438
A61K31/439
A61K31/496
A61K31/7076
A61K31/45
A61K31/517
A61K31/192
A61K31/4709
A61K31/138
A61K31/35
A61K31/58
C12N9/99
C12Q1/70
C12Q1/02
C12N7/06
C12N7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559952
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(85)【翻訳文提出日】2022-11-11
(86)【国際出願番号】 EP2021058659
(87)【国際公開番号】W WO2021198440
(87)【国際公開日】2021-10-07
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500242786
【氏名又は名称】フラウンホファー ゲセルシャフト ツール フェールデルンク ダー アンゲヴァンテン フォルシュンク エー.ファオ.
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グリボン,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ザリアーニ,アンドレーア
(72)【発明者】
【氏名】エリンガー,ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ガイスリンガー,ゲルト
(72)【発明者】
【氏名】ツィーゼク,ザンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ツィナトル,インドリフ
(72)【発明者】
【氏名】ボジュコヴァ,デニサ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ10
4B063QQ61
4B063QR41
4B063QR77
4B063QR79
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4C086AA01
4C086AA02
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4C086BC36
4C086BC46
4C086BC82
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4C086CB14
4C086DA12
4C086EA10
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4C086GA07
4C086GA08
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZB33
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA03
4C206FA07
4C206FA09
(57)【要約】
本発明は、対象におけるコロナウイルス感染症の処置及び/又は予防に使用するための、表1及び/又は表2に示される化合物から選択される化合物を含む組成物に関する。本発明は、更に、それに関連する方法及び使用に関する。
【選択図】図なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるコロナウイルス感染症の処置及び/又は予防に使用するための、表2及び/又は表1に示される化合物から選択される化合物を含む組成物。
【請求項2】
前記化合物が、LY2228820、NSC319726、ポリドカノール、アムバチニブ(MP-470)、チルホスチンAG 879(AG 879)、GSK2606414、AI-10-49、VLX600、エタベリン、好ましくはエタベリン塩酸塩、アルボシジブ、シクロヘキシミド、セチルピリジニウム、好ましくはセチルピリジニウムクロリド、チオグアノシン、ダピビリン(Dapivirine)(TMC120)、パパベリン、好ましくはパパベリン塩酸塩、タナプロゲット、オクテニジン、好ましくはオクテニジン二塩酸塩、アルミトリン、好ましくはアルミトリンジメシル酸塩、ソラフェニブ、好ましくはソラフェニブトシル酸塩、ZK-93423、チメロサール、レゴラフェニブ(BAY 73-4506)、クロルミダゾール、ラブコナゾール、メチレンブルー、ミバンパトル(Mibampator)、ホモハリングトニン、ヘマトポルフィリン、LGK-974、ポサコナゾール、ケトコナゾール、ネルフィナビル、好ましくはネルフィナビルメシル酸塩、JTE-013、ベンタマピモド(Bentamapimod)、RO5126766(CH5126766)、ロナファルニブ(SCH66336)、アピキサバン、ペキシダルチニブ、ドロタベリン、LDE225(NVP-LDE225、エリスモデギブ、PFK-015、アバトロンボパグ、3'-フルオロベンジルスピペロン、エチホキシン、好ましくはエチホキシン塩酸塩、アバシミベ(CI-1011)、ロピナビル(ABT-378)、DCPIB、PH-797804、フルナリジン、ロテプレドノールエタボン酸塩、リドフラジン、BP-897、クロコナゾール、好ましくはクロコナゾールHCl、PF-670462、オキシコナゾール、好ましくはオキシコナゾール硝酸塩、AMG-9810、ブレクスピプラゾール、タルマピモド、アドプラジン(Adoprazine)、CC-223、ハリングトニン、バルニジピンHCl、バタラニブ、OSI-906(リンシチニブ)、イダルビシン、好ましくはイダルビシンHCl、アクリルフラビン、好ましくはアクリフラビニウムクロリド、バシムグルラント、NNC-05-2090、プロフラビン、好ましくはプロフラビンヘミ硫酸塩、エバセトラピブ(LY2484595)、LY335979(ゾスキダル三塩酸塩)、プレニラミン、ホスアプレピタント、好ましくはホスアプレピタントジメグルミン塩、メフロキン、好ましくはメフロキン塩酸塩、SB-657510、P276-00、PD-102807、デキスニグルジピン、ABC294640、シクロスポリン、及びCGP-71683からなるリストから選択される化合物である、請求項1の使用のための組成物。
【請求項3】
前記コロナウイルスがベータ-コロナウイルスである、請求項1又は2の使用のための組成物。
【請求項4】
前記コロナウイルスが、重度の急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)-2、SARS-CoV-1、又は中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)である、請求項1から3のいずれか一項の使用のための組成物。
【請求項5】
前記コロナウイルスがSARS-CoV-2である、請求項1から4のいずれか一項の使用のための組成物。
【請求項6】
前記対象がヒトである、請求項1から5のいずれか一項の使用のための組成物。
【請求項7】
前記処置及び/又は予防が、コロナウイルス複製の阻害を含む、請求項1から6のいずれか一項の使用のための組成物。
【請求項8】
前記処置及び/又は予防が、前記コロナウイルスによる細胞溶解の阻害を含む、請求項1から7のいずれか一項の使用のための組成物。
【請求項9】
前記処置及び/又は予防が、前記コロナウイルスによる組織破壊、好ましくは肺の組織破壊の阻害を含む、請求項1から8のいずれか一項の使用のための組成物。
【請求項10】
医薬組成物である、請求項1から9のいずれか一項の使用のための組成物。
【請求項11】
コロナウイルス複製の阻害剤が、最大で50μM、より好ましくは最大で25μM、更により好ましくは最大で20μMのIC50値を有する、請求項1から10のいずれか一項の使用のための組成物。
【請求項12】
ハウジングに含まれた、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物を含むキット。
【請求項13】
希釈剤及び/又は投与手段を更に含む、請求項12のキット。
【請求項14】
投与手段が前記化合物を含む吸入器であり、好ましくは前記化合物が投与用にエアロゾルとして配合される、請求項12又は13のキット。
【請求項15】
コロナウイルス複製の阻害剤を確認する方法であって、
a) コロナウイルス複製の候補阻害剤の存在下で、ヒト結腸癌細胞を、コロナウイルスと接触させるステップ、
b) 前記ヒト結腸癌細胞a)におけるウイルス複製を決定するステップであって、前記ウイルス複製を決定するステップが、非標識細胞の写真のデジタル処理及び/又は染色した核の定量化により、前記ヒト結腸がん細胞の増殖及び/又は生存率を決定することを含むステップ、
c) b)で決定されたウイルス複製を、参照と比較するステップ、及び
d) 比較ステップc)の結果に基づき、コロナウイルス複製の阻害剤を確認するステップ
を含む方法。
【請求項16】
前記ヒト結腸癌細胞がCaCo-2細胞である、請求項15の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象におけるコロナウイルス感染症の処置及び/又は予防に使用するための、表1及び/又は表2に示される化合物から選択される化合物を含む組成物に関する。本発明は更に、それに関連する方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルス科(Coronaviridae)は典型的には、軽度の呼吸器疾患を起こすが、β-コロナウイルス、例えばSARS-CoV-1、MERS及びSARS-CoV-2の感染は、特に基礎疾患を有する個体には急性の呼吸器疾患及び高死亡率をもたらす場合がある。過去20年間に、コロナウイルス科は、2002/2003年のSARS及び2012年のMERSという2回の深刻な大流行で出現した。最近述べられているSARS-CoV-2-感染は、Covid-19と称される疾患を起こす。Covid-19に対する効果的な薬理学的処置に関する研究において、複数の介入臨床試験が開始された(Kupferschmidt & Cohen (2020)、Science 367:1412、doi:10.1126/science.367.6485.1412)。Covid-19治験のための単一薬物又は併用処置の選択は、これまでに説明されたSARS-CoV-1、Ebola、HIV及びマラリアに対する活性に基づいてきた。また、生物情報学分析により、ウイルスタンパク質と宿主細胞経路の間に予測されるインタラクトームに基づく付加的な薬物候補が提案された(Gordonら、(2020)、doi.org/10.1101/2020.03.22.002386v1)。全般に、安全で効果的なワクチン不在の中で、患者の必要を満足するために、保健機関の実際的戦略として既存薬物を転用することが示され、これはCovid-19パンデミックの少なくとも最初の12か月間の状況であると予測されている。それでもやはり、Covid-19のいかなる薬理学的処置に対しても、転用薬物を利用する場合でさえ、規制当局の承認の前に、適切に管理された臨床効果及び安全性の研究が実施されることが依然として必要とされる。
【0003】
それにもかかわらず、先行技術の弱点を回避しながら、コロナウイルス感染の感染症の処置及び/又は予防のための改善された手段及び方法に対する必要が当技術分野において存在する。この問題は、独立請求項の特色を備えた、本明細書に開示される手段及び方法により解決される。独立した様式で、又は任意の組合せで実現され得る有利な実施形態が、従属請求項に列挙されている。
【0004】
文献:
- Bojkovaら(2020)、General Cell Biology & Physiology、doi:10.21203/rs.3.rs-17218/v1
- Corselloら(2017)、Nature Medicine、23:405-408、doi:10.1038/nm.4306
- Gordonら(2020)、doi.org/10.1101/2020.03.22.002386v1
- Kupferschmidt & Cohen (2020)、Science 367:1412、doi:10.1126/science.367.6485.1412
- Li & De Clercq (2020)、Nat Rev Drug Discovery 19:149
- Vicarら(2019)、BMC Bioinformatics、doi:10.1186/s12859-019-2880-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
それらに一致して、本発明は、対象におけるコロナウイルス感染症の処置及び/又は予防に使用するための、表1に示される化合物から選択される化合物を含む組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般に、本明細書で使用される用語は、当業者にとってその通常の慣用的な意味を付与され得、別段の指示がない限り、特別な又は特定して与えられた意味に限定されるものではない。以下に使用されるように、用語「有する」、「含む(comprise)」若しくは「含む(include)」又はその任意の文法的変形は、非限定的な方法で使用される。したがって、これらの用語は、これらの用語により導入された特色に加えて、この文脈に記載された実体に更なる特色が存在しない状況と、1つ以上の更なる特色が存在する状況の両方を指し得る。一例として、「AはBを有する」、「AはBを含む(comprises)」及び「AはBを含む(includes)」という表現は、Bに加えて、Aには他の要素が存在しない状況(すなわち、Aは単独的及び排他的にBからなる状況)、並びにBに加えて、1つ以上の更なる要素が、例えば要素C、要素C及びD又は更なる要素さえも実体A中に存在する状況の両方を指し得る。また、当業者に理解されるように、「1つ(a)を含んでいる」及び「1つ(an)を含んでいる」という表現は、好ましくは「1つ以上を含んでいる」ことを指し、すなわち、「少なくとも1つを含んでいる」と同等である。
【0007】
更に、以下に使用されるように、用語「好ましくは」、「より好ましくは」、「最も好ましくは」、「特に」、「とりわけ」、「詳細には」、「より詳細には」又は同様の用語は、任意の特色と関連して更なる可能性を制限することなく使用される。したがって、これらの用語により導入された特色は、任意の特色であり、いかなる方法でも特許請求の範囲を制限することを意図するものではない。本発明は、当業者が認識しているように、代替の特色を使用することにより実施され得る。同様に、「一実施形態では」又は同様の表現により導入された特色は、本発明の更なる実施形態に関するいかなる制限も伴うことなく、本発明の範囲に関するいかなる制限も伴うことなく、そのような方法で導入された特色と、本発明の他の任意の又は任意のものではない特色とを組み合わせる可能性に関するいかなる制限も伴うことなく、任意の特色を意図するものである。
【0008】
本明細書で使用される場合、用語「標準条件」は、別段に明記されない限り、IUPAC標準の周囲温度及び圧力(SATP)条件、すなわち好ましくは25℃の温度及び100kPaの絶対圧力に関連し;また好ましくは、標準条件にはpH7が含まれる。その上、別段に示されない限り、用語「約」は、関連分野で一般に認められた技術的精度で示された値に関連し、好ましくは示された値±20%、より好ましくは±10%、最も好ましくは±5%に関連する。更に、用語「本質的に」は、示された結果又は使用に影響する逸脱が存在しない、すなわち、可能性のある逸脱により、示された結果が±20%、より好ましくは±10%、最も好ましくは±5%を超えて逸脱することはないことを示す。したがって、「から本質的になる」とは、特定された成分を含むが、不純物として存在する物質、成分をもたらすために使用されたプロセスの結果として存在する不可避の物質、及び本発明の技術的影響を達成する以外の目的で添加された成分を除き、他の成分を除外することを意味する。例えば、「から本質的になる」という語句を使用して定義された組成物は、任意の公知の許容される添加剤、賦形剤、希釈剤、担体等を包含する。好ましくは、一組の成分から本質的になる組成物は、5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、更により好ましくは1重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満の非特定成分を含む。
【0009】
用語「組成物」は、本明細書で使用される場合、特定された化合物及び場合により1つ以上の許容される担体を含む対象である組成物に関連する。好ましくは、組成物は医薬組成物であり;したがって、組成物は、好ましくは薬学的活性化合物として特定された化合物を含み、好ましくは、担体は薬学的に許容される担体である。薬学的活性化合物は、好ましくは薬学的に許容される塩として配合され得る。好ましい塩は、酢酸塩、メチルエステル塩、硫酸塩、塩化物等を含む。更に好ましい塩は、特定の化合物に関して本明細書の他の箇所に示される。組成物は、示されたように少なくとも1つの化合物を含み;したがって、組成物は好ましくは1つの特定された化合物を含むか、又は複数の化合物を含み、用語「複数」は好ましくは少なくとも2つを指す。
【0010】
好ましくは、組成物は医薬組成物であり、すなわち、好ましくは薬剤である。用語「医薬」及び「医薬組成物」は、原則的に当業者に公知である。本明細書で言及される場合、該用語は、薬学的活性化合物及び1つ以上の他の成分、例えば1つ以上の薬学的に許容される担体のような化合物を含有する任意の組成物に関連する。薬学的活性化合物は、液体又は乾燥物、例えば凍結乾燥形態で存在し得る。例えば、薬学的活性化合物は、グリセロール及び/又は安定剤(例えば、還元剤、ヒト血清アルブミン)と共に存在し得る。薬剤は、典型的には、全身性又は局所的に、好ましくは経口的に、吸入により、又は非経口的に、例えば静脈内投与により投与されるが;好ましくは皮下又は筋肉内投与もまた想定され得る。しかしながら、配合物の性質及び所望の治療的用途に応じて、薬剤は同様に他の経路により投与されてもよい。薬学的活性化合物は、薬剤の有効成分又は薬物であり、好ましくは、薬物と標準的な医薬用担体とを従来の手順に従って組み合わせることにより調製された従来の剤形で投与される。これらの手順は、所望の調製に原料を適宜、混合、造粒化、及び圧縮、又は溶解することを伴い得る。薬学的に許容される担体又は希釈剤の形態及び特徴は、それと組み合わせられる有効成分の量、投与経路、及び他の周知の可変要素により決まることが理解されよう。担体は、配合物の他の原料と適合性があり、その受容者にとって有害でないという意味で許容されるものでなければならない。利用される医薬用担体には、固体、ゲル、又は液体が含まれ得る。固体担体の例示として、ラクトース、白土、スクロース、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシア、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸等がある。液体担体の例示として、リン酸緩衝生理食塩水、シロップ、油脂、水、エマルジョン、様々な種類の湿潤剤等がある。同様に、担体又は希釈剤には、当技術分野で周知の時間遅延物質、例えば、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルが単独又はワックスと共に含まれ得る。前記好適な担体は、上述のもの及び当技術分野で周知の他のものを含み、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvaniaを参照されたい。希釈剤は、組合せの生物学的活性に影響を及ぼすことがないように選択される。そのような希釈剤の例には、蒸留水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、及びハンク溶液がある。加えて、医薬組成物又は配合物はまた、他の担体、アジュバント、又は無毒、非治療的、非免疫原性の安定剤等も含んでもよい。本明細書で言及される薬剤は、好ましくは少なくとも1回、例えばボーラスとして投与される。しかしながら、前記薬剤は、1回より多く、好ましくは少なくとも2回、例えば定義された時間枠の後に持続的又は定期的に投与されてもよい。
【0011】
用語「化合物」は、本明細書で使用される場合、表1又は表2から選択され、好ましくは表2に示される化合物から選択される化学的化合物に関連し;好ましくは、化合物は表2に示されるCAS番号により特定される化合物である。化合物は、場合により、それらの遊離酸、遊離塩基、又は塩として使用されてもよく;当業者は、好ましくは意図される使用及び/若しくは様式又は投与に適切な薬学的に適合する化合物の酸、塩基、又は塩を選択する。本明細書に例で示されるように、本明細書で言及される化合物は、医薬品として販売が認可されているか又は販売目的のために開発が活発に行われているかのいずれかである。したがって、化合物及びそれらの構造は原則的に当業者に公知であり、好ましくは、本明細書で言及される化合物は、化合物の少なくとも1つの公知の用途のために使用される形態、調製、様式及び/又は用量で投与される。上記の観点から、化合物は好ましくはNSC319726である。好ましくは、化合物はアムバチニブ(MP-470)である。好ましくは、化合物はチルホスチンAG 879(AG 879)である。好ましくは、化合物はGSK2606414である。好ましくは、化合物はポリドカノールである。好ましくは、化合物はAI-10-49である。好ましくは、化合物はVLX600である。好ましくは、化合物はエタベリン、より好ましくはエタベリン塩酸塩である。好ましくは、化合物はアルボシジブである。好ましくは、化合物はシクロヘキシミドである。好ましくは、化合物はセチルピリジニウム、より好ましくはセチルピリジニウムクロリドである。好ましくは、化合物はチオグアノシンである。好ましくは、化合物はダピビリン(Dapivirine)(TMC120)である。好ましくは、化合物はLY2228820(ラリメチニブ)である。好ましくは、化合物はパパベリン、より好ましくはパパベリン塩酸塩である。好ましくは、化合物はタナプロゲットである。好ましくは、化合物はオクテニジン、より好ましくはオクテニジン二塩酸塩である。好ましくは、化合物はアルミトリン、より好ましくはアルミトリンジメシル酸塩である。好ましくは、化合物はソラフェニブ、より好ましくはソラフェニブトシル酸塩である。好ましくは、化合物はZK-93423である。好ましくは、化合物はチメロサールである。好ましくは、化合物はレゴラフェニブ(BAY 73-4506)である。好ましくは、化合物はクロルミダゾールである。好ましくは、化合物はラブコナゾールである。好ましくは、化合物はメチレンブルーである。好ましくは、化合物はミバンパトル(Mibampator)である。好ましくは、化合物はホモハリングトニンである。好ましくは、化合物はヘマトポルフィリンである。好ましくは、化合物はLGK-974である。好ましくは、化合物はポサコナゾールである。好ましくは、化合物はケトコナゾールである。好ましくは、化合物はネルフィナビル、より好ましくはネルフィナビルメシル酸塩である。好ましくは、化合物はJTE-013である。好ましくは、化合物はベンタマピモド(Bentamapimod)である。好ましくは、化合物はRO5126766(CH5126766)である。好ましくは、化合物はロナファルニブ(SCH66336)である。好ましくは、化合物はアピキサバンである。好ましくは、化合物はペキシダルチニブである。好ましくは、化合物はドロタベリンである。好ましくは、化合物はLDE225(NVP-LDE225である。好ましくは、化合物はエリスモデギブである。好ましくは、化合物はPFK-015である。好ましくは、化合物はアバトロンボパグである。好ましくは、化合物は3'-フルオロベンジルスピペロンである。好ましくは、化合物はエチホキシン、より好ましくはエチホキシン塩酸塩である。好ましくは、化合物はアバシミベ(CI-1011)である。好ましくは、化合物はロピナビル(ABT-378)である。好ましくは、化合物はDCPIBである。好ましくは、化合物はPH-797804である。好ましくは、化合物はフルナリジンである。好ましくは、化合物はロテプレドノールエタボン酸塩である。好ましくは、化合物はリドフラジンである。好ましくは、化合物はBP-897である。好ましくは、化合物はクロコナゾール、より好ましくはクロコナゾールHClである。好ましくは、化合物はPF-670462である。好ましくは、化合物はオキシコナゾール、より好ましくはオキシコナゾール硝酸塩である。好ましくは、化合物はAMG-9810である。好ましくは、化合物はブレクスピプラゾールである。好ましくは、化合物はタルマピモドである。好ましくは、化合物はアドプラジン(Adoprazine)である。好ましくは、化合物はCC-223である。好ましくは、化合物はハリングトニンである。好ましくは、化合物はバルニジピンHClである。好ましくは、化合物はバタラニブである。好ましくは、化合物はOSI-906(リンシチニブ)である。好ましくは、化合物はイダルビシン、より好ましくはイダルビシンHClである。好ましくは、化合物はアクリルフラビン、より好ましくはアクリフラビニウムクロリドである。好ましくは、化合物はバシムグルラントである。好ましくは、化合物はNNC-05-2090である。好ましくは、化合物はプロフラビン、より好ましくはプロフラビンヘミ硫酸塩である。好ましくは、化合物はエバセトラピブ(LY2484595)である。好ましくは、化合物はLY335979(ゾスキダル三塩酸塩)である。好ましくは、化合物はプレニラミンである。好ましくは、化合物はホスアプレピタント、より好ましくはホスアプレピタントジメグルミン塩である。好ましくは、化合物はメフロキン、より好ましくはメフロキン塩酸塩である。好ましくは、化合物はSB-657510である。好ましくは、化合物はP276-00である。好ましくは、化合物はPD-102807である。好ましくは、化合物はデキスニグルジピンである。好ましくは、化合物はABC294640である。好ましくは、化合物はCGP-71683である。好ましい実施形態では、化合物はアミノプテリン(CAS No. 54-62-6)である。更に好ましい実施形態では、化合物はメトトレキサート(CAS No. 59-05-2)である。更に好ましい実施形態では、化合物はフラボピリドール(CAS No. 146426-40-6)である。更に好ましい実施形態では、化合物はPF-04691502(CAS No. 1013101-36-4)である。更に好ましい実施形態では、化合物はプララトレキサート(CAS No. 146464-95-1)である。
【0012】
用語「処置すること」は、本明細書で使用される場合、疾患又はそれに関連する少なくとも1つの症状を軽快させるか又は治癒させることを指す。したがって、疾患又はそれに関連する少なくとも1つの症状を軽快させるか又は治癒させる場合、その処置は効果的であると考えられるものとする。処置は全ての対象において効果的とは限らないことが理解されよう。しかしながら、本発明によれば、好ましくは処置は、処置される対象の少なくとも統計学的に有意な部分において効果的であることが想定される。効果的に処置され得る対象の統計学的に有意な部分を決定する方法は、当業者に周知である。ある部分が統計学的に有意であるかどうかは、様々な周知の統計学的評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントT-検定、Mann-Whitney検定等を使用して、当業者により更なる労苦も無く決定することができる。詳細はDowdy and Wearden、Statistics for Research、John Wiley & Sons、New York 1983に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。好ましくは、本発明により想定される確率により、コロナウイルス感染の所見が、所与のコホート又は集団の対象の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%に関して正しいことが認められる。
【0013】
用語「予防すること」は、本明細書で使用される場合、疾患若しくはそれに関連する少なくとも1つの症状の発症を回避するか、又は疾患若しくは前記少なくとも1つの症状の悪化を防ぐことを指す。本明細書で言及される場合、予防は典型的には化合物が投与された直後に達成され得る。しかしながら、投与が停止された場合、予防は無制限に持続しない場合があるが、薬物の適用後のある特定の予防性時間枠の間、存続し得る。典型的には、本発明による予防性時間枠は、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも7日、又は少なくとも2週間若しくは4週間であり得る。しかしながら、予防性時間枠はまた、ペプチドの投薬量、同様に投与様式、配合物の種類、及び/又は投与回数にも依存し得る。例えば、高投薬量が適用された場合、通例、より長い予防性時間枠が達成され得る。反復用量が投与された場合も同様である。予防は全ての対象において効果的とは限らないことが理解されよう。しかしながら、本発明によれば、予防は、好ましくは対象の少なくとも統計学的に有意な部分において効果的であることが想定される。効果的に予防され得る対象の統計学的に有意な部分を決定する方法は、当業者に周知である。ある部分が統計学的に有意であるかどうかは、上で論じた様々な周知の統計学的評価ツールを使用して、当業者により更なる労苦も無く決定することができる。上記の観点から、予防は、好ましくはコロナウイルス感染に対するワクチン接種である。
【0014】
好ましくは、処置及び/又は予防は、コロナウイルス複製の阻害を含む。また、好ましくは、処置及び/又は予防は、前記コロナウイルスによる細胞溶解の阻害を含む。更に好ましくは、処置及び/又は予防は、前記コロナウイルスによる組織破壊、好ましくは肺の組織破壊の阻害を含む。当業者により理解されるように、用語「阻害」には部分的阻害が含まれる。したがって、数量化できるイベントの場合は、阻害は、好ましくは前記イベントの少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、更により好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも85%の低減である。当業者により理解されるように、阻害はまた、完全阻害、すなわちイベント又はプロセスが発生することの予防も含み得る。本明細書で特定された化合物による阻害を決定する例示的方法は、本明細書で実施例において提供される。
【0015】
用語「コロナウイルス」は、およそ25~35キロベースの大きさを伴うポジティブセンス一本鎖RNAゲノムを有するニドウイルス(Nidovirales)目からの一群のエンベロープウイルスに関連すると当業者により理解される。好ましくは、コロナウイルスは、ベータ-コロナウイルス、より好ましくは重度の急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)-2、SARS-CoV-1、又は中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)である。好ましくは、コロナウイルスはSARS-CoV-2である。用語「SARS-CoV-2」及び「重度の急性呼吸器症候群コロナウイルス2」は、当業者により理解される。好ましくは、該用語は、ジェンバンクエントリーNCBI:txid2697049で確認されるウイルスに関連する。コロナウイルス感染、詳細にはSARS-CoV-2感染により起きる症状及び疾患は、当業者に公知である。また好ましくは、コロナウイルスは、SARS-CoV-1又は中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV、NCBI:txid1335626)である。
【0016】
用語「対象」は、本明細書で使用される場合、例えば、哺乳動物、鳥類、魚類又は爬虫類を包含する任意の種類の動物を指す。しかしながら典型的には、動物は、哺乳動物、例えばイヌ、ネコ、ウマ、若しくはげっ歯類を含むペットとして使用される哺乳動物、実験動物、例えばラット、マウス若しくは類人猿、又は家畜、例えばブタ、ウシ、ヤギ、若しくはヒツジである。より好ましくは、哺乳動物は霊長類であり、最も好ましくはヒトである。本発明による対象は、好ましくは、コロナウイルス感染症に罹患していることが分かっているか又は疑いがあるものとする。好ましくは、対象は、特定されたコロナウイルスに感染し得ることが分かっているか又は疑いがある動物であり、より好ましくはヒトである。より好ましくは、詳細には、化合物がコロナウイルス感染症の処置における使用のためのものである場合、対象は、コロナウイルス感染症に罹患していると診断されている。
【0017】
有利なことに、本発明の基礎をなす作業において、本明細書で言及される化合物が、細胞培養系におけるSARS-CoV-2の複製の阻害に活性であり、該化合物がコロナウイルス感染症の処置及び予防の候補となることが見出された。
【0018】
上記でなされた定義は以下にも準用される。更に以下でなされる付加的な定義及び説明もまた、本明細書に記載される全ての実施形態に準用される。
【0019】
本発明は更に、対象におけるコロナウイルス感染症を処置及び/又は予防する方法に関し、前記対象に本発明の化合物を投与し、それにより前記対象の前記コロナウイルス感染症を処置及び/又は予防することを含む。
【0020】
本発明の方法は、好ましくは、生存対象を処置するin vivoの方法である。その上、上記で明確に述べられたものに加えてステップを含んでもよい。例えば、更なるステップは、例えば、ステップa)の前に、対象におけるコロナウイルス感染を診断するか若しくはコロナウイルス予防の必要性を決定すること、又はステップb)では付加的処置を提供することに関連してもよい。その上、前記ステップの1つ以上は、自動機器により実施されてもよい。
【0021】
本明細書で言及される化合物の投与に加えて場合により施される処置は、好ましくはコロナウイルス感染症及びその症状の重症度に依存する。したがって、そのような付加的処置は、呼吸の補助、詳細には酸素分圧の増加、挿管、人工呼吸、敗血症の処置等を施すことを含み得る。更に、組成物は、ジスロマイシン(zithromycin)、リバビリン、インターフェロン、トシリズマブ及びサリルマブ(抗IL-6モノクローナル抗体)、ファビラピル(Favirapir)、アルビドール、フィンゴリモド、シポニモド、コルヒチン、NOガス、及び抗生物質、詳細にはエリスロマイシンからなるリストから選択される少なくとも1つの医薬用化合物と組み合わせて投与されてもよい。
【0022】
本発明はまた、ハウジングに含まれた本発明による組成物を含むキットにも関する。
【0023】
用語「キット」は、本明細書で使用される場合、共に包装されても又は包装されていなくてもよい前述の化合物、手段又は試薬の集合体を指す。キットの構成要素は、別々のバイアルに含まれてもよく(すなわち、別々の部分のキットとして)、又は単一のバイアルで提供されてもよい。その上、本発明のキットは、好ましくは、本明細書で上記に言及される方法又は使用を実行するために使用されることを理解されたい。好ましくは、全ての構成要素が、上記に言及される方法又は使用を実行するのに即時使用可能な様式で提供されることが想定される。更に、キットは、好ましくは、前記方法又は使用を実行するための説明書を含む。説明書は、書類又は電子形式の使用者マニュアルにより提供され得る。加えて、該マニュアルは、本発明のキットを使用する投与のための説明及び/又は投薬量の説明を含み得る。
【0024】
好ましくは、キットは希釈剤及び/又は投与手段を含む。適切な希釈剤は、本明細書で上に記載され、投与手段は、化合物を対象に投与するのに好適な全ての手段である。好ましい投与手段は、それぞれの化合物に関して当業者に公知のものである。投与手段には、化合物又は組成物の投与用の送達ユニット、及び投与までの前記化合物又は組成物の保存用の保存ユニットが含まれ得る。しかしながら、本発明の手段は、そのような実施形態では別々の装置と考えられ得、好ましくは、前記キット中に共に包装されていることも企図される。好ましい投与手段は、専門的な技術者の特別な知識を持たなくても適用できるものである。好ましい実施形態では、投与手段は、本発明の化合物又は組成物を含むシリンジであり、より好ましくは針を伴う。別の好ましい実施形態では、投与手段は、化合物又は組成物を含む点滴静注(IV)装置である。更に別の好ましい実施形態では、投与手段は、本発明の化合物を含む吸入器であり、ここで、より好ましくは前記化合物は投与用にエアロゾルとして配合される。
【0025】
本発明は更に、対象におけるコロナウイルス感染症の処置及び/又は予防用の医薬の製造のための、表1及び/又は表2に示される化合物からなるリストから選択される化合物の使用に関する。
【0026】
本発明はまた、コロナウイルス複製の阻害剤を確認する方法にも関し、
a) コロナウイルス複製の候補阻害剤の存在下で、ヒト結腸癌細胞を、コロナウイルスと接触させるステップ、
b) 前記ヒト結腸癌細胞a)におけるウイルス複製を決定するステップ、
c) b)で決定されたウイルス複製を、参照と比較するステップ、及び
d) 比較ステップc)の結果に基づき、コロナウイルス複製の阻害剤を確認するステップ
を含む。
【0027】
本発明の方法はin vitroの方法である。その上、本方法は、詳細に述べられたものに加えてステップを含んでもよく、例えば更なるステップは、ステップb)におけるウイルス成長を決定及び/若しくは検証するステップ、並びに/又は参照を提供することなく並行してステップa)及びb)を実施するステップという更なるステップに関連し得る。好ましくは、一部の、より好ましくは全てのステップは、自動機器により補助されるか又は実施される。
【0028】
用語「コロナウイルス複製の阻害剤」は、当業者により理解される。好ましくは、該用語には、特定された方法において、コロナウイルスの複製を低減させる原因となる任意の及び全ての化合物が含まれる。好ましくは、コロナウイルス複製の阻害剤は、阻害剤の非存在下におけるアッセイ、すなわち参照と比較して、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、最も好ましくは少なくとも50%のコロナウイルス複製の阻害を起こす。それらに一致して、細胞生存率及び/又は細胞複製がコロナウイルス複製のパラメータとして測定される場合、コロナウイルス複製の阻害剤は、好ましくは、阻害剤の非存在下におけるアッセイと比較して、細胞生存率及び/又は細胞複製が少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%となるようにする。また好ましくは、コロナウイルス複製の阻害剤は、最大で50μM、より好ましくは最大で25μM、更により好ましくは最大で20μMのIC50値を有する。上記の観点から、用語「コロナウイルス複製の候補阻害剤」は、上で特定されたコロナウイルス複製の阻害剤であると推測される任意の化合物に関連する。
【0029】
用語「ヒト結腸癌細胞」は、当業者により、ヒト結腸癌に由来する任意の培養細胞、好ましくは細胞株に関連すると理解される。好ましくは、ヒト結腸癌細胞はCaCo-2細胞であり、これは標準的な細胞コレクションから商業的に入手可能である。
【0030】
用語「ウイルス複製」は、当業者に理解されるように、ウイルス、詳細にはコロナウイルスによる子孫ゲノムの任意の種類の産生に関連する。好ましくは、該用語には子孫ウイルスの産生が含まれる。ウイルス複製は、原則的に、当業者に適切と考えられる任意の手段、例えばウイルスポリメラーゼ活性を決定することにより、ウイルスゲノムの数又は濃度を決定することにより、ウイルスカプシドタンパク質の量を決定することにより等で決定され得る。好ましくは、ウイルス複製は、ウイルス誘起性の細胞傷害性を決定することにより、好ましくは細胞計数、細胞生存率、及び/又は細胞増殖を決定することにより決定される。より好ましくは、ウイルス複製を決定することは、非標識細胞の写真のデジタル処理及び/又は染色した核の定量化により、前記ヒト結腸がん細胞の増殖及び/又は生存率を決定することを含む。非標識細胞の写真のデジタル処理及び/又は染色した核の定量化の方法は、原則的に当業者に公知である。
【0031】
用語「参照」は当業者により理解される。好ましくは、該用語は対照実験で得られた値又は値の範囲に関連する。本明細書で上記に示されるように、好ましくは本方法は、好ましくは他は同一の条件下で、阻害剤及び候補阻害剤の非存在下(負の対照)でヒト結腸癌細胞をインキュベートし、阻害剤の非存在下でのウイルス複製の程度を決定する付加的ステップを含む。したがって、参照は、例えば、好ましくは、阻害剤の非存在下でのアッセイの最後における生存可能な細胞数、阻害剤の非存在下でのアッセイの最後における検出可能な細胞核数、又は阻害剤の非存在下でのアッセイの最後におけるウイルスゲノム数であってもよい。参照はまた、初期の実験から公知の所定の値であってもよい。また好ましくは本方法は、好ましくは他は同一の条件下で、コロナウイルス複製の阻害剤の公知の阻害剤の阻害的濃度の存在下(正の対照)で、ヒト結腸癌細胞をインキュベートする付加的ステップを含む。また好ましくは、参照範囲又は参照スコアは、好ましくは負の対照及び正の対照の値から決定されてもよい。
【0032】
上記の観点から、以下の実施形態が特に想定される:
1. 対象におけるコロナウイルス感染症の処置及び/又は予防に使用するための、表2及び/又は表1に示される化合物から選択される化合物を含む組成物。
2. 前記化合物が、NSC319726、ポリドカノール、アムバチニブ(MP-470)、チルホスチンAG 879(AG 879)、GSK2606414、AI-10-49、VLX600、エタベリン、好ましくはエタベリン塩酸塩、アルボシジブ、シクロヘキシミド、セチルピリジニウム、好ましくはセチルピリジニウムクロリド、チオグアノシン、ダピビリン(Dapivirine)(TMC120)、LY2228820、パパベリン、好ましくはパパベリン塩酸塩、タナプロゲット、オクテニジン、好ましくはオクテニジン二塩酸塩、アルミトリン、好ましくはアルミトリンジメシル酸塩、ソラフェニブ、好ましくはソラフェニブトシル酸塩、ZK-93423、チメロサール、レゴラフェニブ(BAY 73-4506)、クロルミダゾール、ラブコナゾール、メチレンブルー、ミバンパトル(Mibampator)、ホモハリングトニン、ヘマトポルフィリン、LGK-974、ポサコナゾール、ケトコナゾール、ネルフィナビル、好ましくはネルフィナビルメシル酸塩、JTE-013、ベンタマピモド(Bentamapimod)、RO5126766(CH5126766)、ロナファルニブ(SCH66336)、アピキサバン、ペキシダルチニブ、ドロタベリン、LDE225(NVP-LDE225、エリスモデギブ、PFK-015、アバトロンボパグ、3'-フルオロベンジルスピペロン、エチホキシン、好ましくはエチホキシン塩酸塩、アバシミベ(CI-1011)、ロピナビル(ABT-378)、DCPIB、PH-797804、フルナリジン、ロテプレドノールエタボン酸塩、リドフラジン、BP-897、クロコナゾール、好ましくはクロコナゾールHCl、PF-670462、オキシコナゾール、好ましくはオキシコナゾール硝酸塩、AMG-9810、ブレクスピプラゾール、タルマピモド、アドプラジン(Adoprazine)、CC-223、ハリングトニン、バルニジピンHCl、バタラニブ、OSI-906(リンシチニブ)、イダルビシン、好ましくはイダルビシンHCl、アクリルフラビン、好ましくはアクリフラビニウムクロリド、バシムグルラント、NNC-05-2090、プロフラビン、好ましくはプロフラビンヘミ硫酸塩、エバセトラピブ(LY2484595)、LY335979(ゾスキダル三塩酸塩)、プレニラミン、ホスアプレピタント、好ましくはホスアプレピタントジメグルミン塩、メフロキン、好ましくはメフロキン塩酸塩、SB-657510、P276-00、PD-102807、デキスニグルジピン、ABC294640、及びCGP-71683からなるリストから選択される化合物であり、又は好ましい実施形態では、アミノプテリン、メトトレキサート、フラボピリドール、PF-04691502、及びプララトレキサートからなるリストから選択される、実施形態1の使用のための組成物。
3. 前記コロナウイルスがベータ-コロナウイルスである、実施形態1又は2の使用のための組成物。
4. 前記コロナウイルスが、重度の急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)-2、SARS-CoV-1、又は中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)である、実施形態1から3のいずれか1つの使用のための組成物。
5. 前記コロナウイルスがSARS-CoV-2である、実施形態1から4のいずれか1つの使用のための組成物。
6. 前記対象がヒトである、実施形態1から5のいずれか1つの使用のための組成物。
7. 前記処置及び/又は予防が、コロナウイルス複製の阻害を含む、実施形態1から6のいずれか1つの使用のための組成物。
8. 前記処置及び/又は予防が、前記コロナウイルスによる細胞溶解の阻害を含む、実施形態1から7のいずれか1つの使用のための組成物。
9. 前記処置及び/又は予防が、前記コロナウイルスによる組織破壊、好ましくは肺の組織破壊の阻害を含む、実施形態1から8のいずれか1つの使用のための組成物。
10. 医薬組成物である、実施形態1から9のいずれか1つの使用のための組成物。
11. コロナウイルス複製の阻害剤が、最大で50μM、より好ましくは最大で25μM、更により好ましくは最大で20μMのIC50値を有する、実施形態1から10のいずれか1つの使用のための組成物。
12. 対象におけるコロナウイルス感染症を処置及び/又は予防する方法であって、前記対象に実施形態1又は2で特定された化合物を投与し、それにより前記対象の前記コロナウイルス感染症を処置及び/又は予防することを含む方法。
13. 対象におけるコロナウイルス感染症の処置及び/又は予防用の医薬の製造のための、表1及び/又は表2に示される化合物からなるリストから選択される化合物の使用。
14. ハウジングに含まれた、実施形態1から11のいずれか1つに記載の組成物を含むキット。
15. 希釈剤及び/又は投与手段を更に含む、実施形態14のキット。
16. 投与手段が前記化合物を含む吸入器であり、好ましくは前記化合物が投与用にエアロゾルとして配合される、実施形態14又は15のキット。
17. コロナウイルス複製の阻害剤を確認する方法であって、
a) コロナウイルス複製の候補阻害剤の存在下で、ヒト結腸癌細胞を、コロナウイルスと接触させるステップ、
b) 前記ヒト結腸癌細胞a)におけるウイルス複製を決定するステップ、
c) b)で決定されたウイルス複製を、参照と比較するステップ、及び
d) 比較ステップc)の結果に基づき、コロナウイルス複製の阻害剤を確認するステップ
を含む方法。
14. 前記ヒト結腸癌細胞がCaCo-2細胞である、実施形態13の方法。
15. 前記ウイルス複製を決定するステップが、前記ヒト結腸がん細胞の増殖及び/又は生存率を決定することを含む、実施形態13又は14の方法。
16. 前記ウイルス複製を決定するステップが、非標識細胞の写真のデジタル処理及び/又は染色した核の定量化により、前記ヒト結腸がん細胞の増殖及び/又は生存率を決定することを含む、実施形態13から5のいずれか1つの方法。
【0033】
本明細書に引用された全ての参照文献は、その開示内容全体及び本明細書で詳細に言及された開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1A-B】表2の例示的化合物に関する用量応答曲線を示す図である;A:ポリドカノール、B:アムバチニブ(MP-470);A)~D)は低IC50(<1μM)を有する阻害剤の例であり、E)、F)は中等度のIC50(>1μM)を有する阻害剤の例である。
【
図1C-D】表2の例示的化合物に関する用量応答曲線を示す図である;C:AI-10-49、D:チルホスチン(AG 879);A)~D)は低IC50(<1μM)を有する阻害剤の例であり、E)、F)は中等度のIC50(>1μM)を有する阻害剤の例である。
【
図1E-F】表2の例示的化合物に関する用量応答曲線を示す図である;E:タナプロゲット、F:クロルミダゾール;A)~D)は低IC50(<1μM)を有する阻害剤の例であり、E)、F)は中等度のIC50(>1μM)を有する阻害剤の例である。
【
図2A-B】実施例5及び6の例示的化合物に関する用量応答曲線を示す図である;四角:%生存率、丸:0.1のMOIにおける48時間後の%感染;A)アムバチニブ、B)ポリドカノール。
【
図2C-D】実施例5及び6の例示的化合物に関する用量応答曲線を示す図である;四角:%生存率、丸:0.1のMOIにおける48時間後の%感染; C)ルミネスピブ、D)サリノマイシン。
【
図2E-F】実施例5及び6の例示的化合物に関する用量応答曲線を示す図である;四角:%生存率、丸:0.1のMOIにおける48時間後の%感染; E)メトトレキサート、F)フラボピリドール。
【
図2G-H】実施例5及び6の例示的化合物に関する用量応答曲線を示す図である;四角:%生存率、丸:0.1のMOIにおける48時間後の%感染;G)PF-04691502、及びH)プララトレキサート。
【
図3】実施例5及び6の比較化合物に関する用量応答曲線を示す図である;四角:%生存率、丸:0.1のMOIにおける48時間後の%感染;A)ペボネジスタット、B)ナファモスタット。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下の実施例は、本発明を単に例示するものとする。どの実施例であっても、本発明の範囲を制限するものと解釈されないものとする。
【0036】
[実施例1]
方法
化合物コレクション:5632の化合物のコレクションを、Broad Institute(Cambridge Mass. USA)(Corselloら(2017)、Nature Medicine、23:405~408、doi:10.1038/nm.4306)からの推奨に沿った様式で外部提携(SPECS、オランダ)により構築した。詳細には、化合物を、純度及び同一性(最小純度>95%)に関してLC/MSにより管理した。化合物を100%のDMSO中で-20℃で保存した。該コレクションは、600の適応症にわたり既に臨床使用に達している3400の化合物、同様に有効確認が様々な段階である1582の前臨床化合物を含む、5632の特有の化合物を有する。化合物、適応症、主な標的(公知の場合)及び作用機序、同様に作用機序の決定及び標的解明において補助となり得る解析ツールを含む精選されたデータベースが利用可能である(clue.io)。これらのデータはまた、ChEMBLデータベースを通じても入手可能となった。
【0037】
スクリーニングアッセイ:抗ウイルス活性の決定は、Bojkovaら(2020)、General Cell Biology & Physiology、doi:10.21203/rs.3.rs-17218/v1に記載の適合化バージョンのプロトコルに基づいて実施した。驚いたことに、さらに有利なことに、Caco-2細胞をコロナウイルス複製の決定に使用することができ、染色した核のデジタル画像処理及び/又は計数を、ウイルス複製の信頼できる代用マーカーとして使用することができることを見出した。
【0038】
細胞培養
結腸癌由来のヒトCaco-2細胞を、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen(DSMZ;Braunschweig、ドイツ)から入手した。細胞を、37℃において10%のウシ胎仔血清(FBS)を補充し、100IU/mlのペニシリン及び100μg/mlのストレプトマイシンを含有する基礎培地(MEM)中で成長させた。全ての培養試薬をSigmaから購入した。
【0039】
ウイルス培養
SARS-CoV-2を、Wuhan(中国)からFrankfurt(ドイツ)へ戻った旅行者の試料から、既に記載されたように(Bojkovaら(2020)、loc.cit.)ヒト結腸癌細胞株CaCo-2を使用して単離した。実験で使用したSARS-CoV-2株は、CaCo-2細胞に1回の継代が行われており、-80℃で保存した。ウイルス力価は、集密な細胞において96-ウエルマイクロタイタープレート中で、TCID50/mlと決定された。
【0040】
一次スクリーニング及び用量応答研究のための細胞生存率アッセイ
化合物を、96-ウエルプレート中で、2%のFBSを補充したMEM中のCaCo-2細胞の集密層に添加した。一次スクリーニング(5632の化合物)では、単回測定で最終化合物濃度は10μM(最終0.1%のDMSO)であった。選択した優先的化合物の用量応答プロファイリングは、それぞれ8つの化合物濃度において、3重測定を使用した(最大20μM、最小=XnM半対数希釈倍率、最終0.1%のDMSO)。化合物の添加に続いて、次に細胞を直ちに0.01のMOIにおいてSARS-CoV-2に感染させた。対照ウエル(+ウイルス及び-ウイルス)もまた、最終0.1%のDMSOにおけるDMSOを含有した。48時間後、細胞をPBS中3%のPFAを使用して固定し、プレートを密封し、殺菌してSARS-CoV-2を不活性化した。ウイルス阻害の定量化(対照に対するCaCo-2細胞生存率に基づく)を、ハイコンテント画像法(Operetta CLS、PerkinElmer LAS GmbH、ドイツ)を使用して実施した。第1に、デジタル位相コントラストを使用したラベルフリーモードで、読み出しとして最大コントラストを用いた(Vicarら(2019)、BMC Bioinformatics、doi:10.1186/s12859-019-2880-8)。第2に、細胞核を染色した(Hoechst)。両方の読み出しのために、1ウエル当たり9フィールドで10×対物レンズを使用して画像を取得し、製造元ソフトウェア(PerkinElmer、Columbus v.2.9.0.1546)を使用して解析した。デジタル位相に関して、解析シークエンスは細胞検出で開始し(方法:c、共通閾値:0.05、面積>100μm2、分割係数:6.5、個別閾値:0.05、コントラスト>0.05)、続いて形態、強度及び位置特性、同様に細胞集密を算出した。ウエルレベルのデータを、ActivityBase(IDBS、United Kingdom)及びR(v.3.6.1)を使用して解析した。試験ウエル結果を、対応するプレート内対照に対して正規化した(ウイルスが無い場合を100%阻害と割り当て、ウイルスを伴う場合を0%阻害と割り当てた)。プレートレベルの統計学的性能を標準Z'計算を使用して判定した。
【0041】
48時間におけるCaCo-2細胞に対する化合物細胞傷害性
プロファイルされる化合物の48時間におけるCaCo-2細胞に対する細胞傷害性を判定した。CaCo-2細胞を384画像法マイクロプレートに蒔いて、%集密に達した後、化合物を添加した。48時間後、細胞傷害性を、上述のデジタル位相コントラスト読み出し及びATP決定(Cell titre-glo、Promega Corp)の両方を使用して評価した。
【0042】
[実施例2]
結果
表1は、最初のスクリーニングで少なくとも50%阻害を示した新規の化合物を示す。注目すべきことに、加えて、化合物、例えばカモスタット、チオグアニン、及びレムデシビルをスクリーニングで確認し;これらの化合物は同様に他のスクリーニングで確認され、臨床試験における調査用に提案されており(Gordonら(2020)、doi.org/10.1101/2020.03.22.002386v1、Li & De Clercq (2020)、Nat Rev Drug Discovery 19:149)、本スクリーニング法が、コロナウイルス複製の好適な阻害剤を確認することの証拠となった。
【0043】
【0044】
用量応答実験から、試験を行った化合物に関してIC50及びpIC50値を算出した。少なくとも4のpIC50値を有する化合物を表2に示す。
【0045】
【0046】
[実施例3]
コンピュータ支援の薬物設計
現在ヨーロッパに拠点を置く、敏速なin-silicoの薬物設計を可能にする最も強力なコンピュータリソースであるEXSCALATEプラットフォーム(H2020-FET-HPC ANTAREXプロジェクトにより共同資金を提供された)を利用して、SARS-CoV-2ウイルスに対して活性である分子を選択するという最終目的を有する高性能計算(HPC)シミュレーションを実施した。SARS-CoV-2プロテオームの主要機能単位の結晶構造をタンパク質データバンクから得て;表3は、PDBコードに対応する、分析されたタンパク質のリストを報告する。結晶構造が得られていないタンパク質の相同性モデルを生成して使用した。詳細には、抗ウイルス薬を確認する標的として最も興味深いSARS-CoV-2タンパク質を選択した。
【0047】
【0048】
SARS-CoV-2タンパク質に関する分子動力学シミュレーションを実施して、その活性部位の立体配座空間を探究し、ドッキングシミュレーションに特に好適ないくつかのタンパク質配座を選択した。化学的及び配座的な観点から3D構造を最適化するために、その目的のために準備されたタンパク質構造に関するMDシミュレーションを実行した。該構造に、最急降下法により最初に1サイクルのエネルギー最小化を施して、全ての初期の立体的衝突を排除し、開始点となる予め平衡化されたモデルを得た。次に、溶媒原子に関して100psの拘束MDシミュレーション(典型的には1000KJ/モルの力定数)を実施して、溶質拘束を保持しながら水分子を平衡状態にした。最終的に、1マイクロ秒の軌跡を生み出すプロダクション実行を実施して、合計20.000を収集した。HPC実行後の結果の解析を実施した。
【0049】
SARS-CoV-2タンパク質に対する仮想スクリーニングに関する高性能計算(HPC)シミュレーションを行い、Safe in Man(SIM)ライブラリには、ヒトに安全であることがすでに証明され、市販されて開発下にある薬物(>10.000薬物)が含まれ、Fraunhofer's BROAD Repurposingライブラリには5400の市販薬並びに作用様式が公知の臨床段階の化合物及び分子が含まれる。リガンド準備の前に、ライブラリ間で重複するものを除去し、そこで全ての化合物を3Dに変換し、シュレーディンガーのLigPrepツールで準備した。このプロセスにより、立体異性体、互変異性体、環状立体配座(デフォルトによる1つの安定な環状配座異性体)及びプロトン化状態の複数の状態が生成された。詳細には、別のシュレーディンガーパッケージであるEpikを使用して、選択されたpH範囲(pH=7±1)で優勢な互変異性体及びプロトン化状態を割り当てた。不明瞭なキラル中心を一覧にして、最大で32の異性体を各入力構造から作成されるようにした。次に、OPLS3力を用いてエネルギー最小化を実施した。
【0050】
HPCアーキテクチャーで実行するように設計及び開発され、EXSCALATEプラットフォームの最も関連性の高いツールを代表する、新規(de novo)の構造に基づいた仮想スクリーニングソフトウェアであるLiGen(商標)(Ligand Generator)を使用してシミュレーションを実施した。LiGen(商標)は、ユーザ定義の手法で組み合わせて、プロジェクト中心のワークフローを作り出すことができる一組のツールにより形成されている。詳細には、LiGenDockは、スコアリング関数を計算するLiGenScore、並びに結合部位の3D構造を得るLiGenPass及びLiGenPocketモジュールを使用するドッキングモジュールである。LiGen(商標)に実装された、ファルマコフォア的ドッキング(LiGenPh4)と、幾何学的ドッキング(LiGenGeodock)の両方のドッキングアルゴリズム、同様に算出された様々なスコアリング関数を使用して、本研究では、仮想スクリーニング(VS)の様々なプロトコルを探究し、性能に関して最良のものを選択した。
【0051】
再ドッキング(可能な場合)又は公知のリガンドのドッキングのいずれかを通して、ドッキング設定を検証した。互変異性体を伴う場合、最良のドッキングスコアを有する1つのみを選択した。タンパク質結合部位における分子の結合親和性を予測するドッキングスコア値を報告する(高いほど、良好である)。
【0052】
主要なSARS-CoV-2タンパク質に関して仮想スクリーニングを実施して、COVID-19ウイルスに対する化合物の可能性がある多重薬理学的効果を評価した。各タンパク質に関して得られたドッキングスコアの合計に相当する総スコアもまた各分子に関して算出し、最も興味深い分子に優先順位をつけるために使用した。以下の表4は、in vitro実験における抗ウイルス活性の更なる検証用に選択された、最良スコアの分子に関して得られた結果を報告する。
【0053】
[実施例4]
SARS-CoV-2に対する活性のIn vitroスクリーニング
CADD解析(実施例3)により活性物質として選択された化合物を、SARS-CoV 2 VeroE6-EGFP HTS抗ウイルスアッセイで試験を行った。このアッセイは、増強型緑色蛍光タンパク質(EGFP)を恒常的に発現するVeroE6細胞の、ウイルス感染により誘発される細胞変性効果のモニタリングに基づく。詳細には、VeroE6-EGFPレポーター細胞株はJNJから受け取り、一方、感染に使用されたSARS-CoV-2は、KU Leuven研究室に存在したベルギー株である(BetaCov/ベルギー/GHB-03021/2020)。
【0054】
試験化合物をジメチルスルホキシド(DMSO)に10mMで溶解し、次に、細胞培地中で必要とされる最終濃度まで希釈した。DMSO最終濃度は0.5%未満であった。次に、化合物を、384ウエルプレート中で、0.01 MOIのウイルス8000 VeroE6-EGFP細胞/ウエルと混合した。Sars-CoV 2に感染し、20uMのレムデシビルで処理した細胞を正の対照(阻害100%)として使用し、一方、Sars-CoV 2に感染し、レムデシビルを用いなかった細胞を負の対照(0%阻害)とした。
【0055】
37℃で5日間のインキュベーション後、各ウエルのEGFPシグナルをアルゴンレーザー走査型顕微鏡を使用して記録した。標準的な全ウエル蛍光プレート読み出しを実施して(自己最適化プロトコル、384ウエルプレート当たり約6分、4読み取り/ウエル)、試験化合物と対照ウエルの両方に関して蛍光総強度を測定した。
【0056】
ハイコンテント画像法読み出しもまた5×対物レンズを使用して実施して、384ウエルプレートのほとんど全ウエルを直ちに獲得することができた(各ウエルに対してオートフォーカス、ビニングなし、1チャンネル)。ハイコンテント画像法から2つの値を得た。
【0057】
- %集密:対照ウエルと比較した、試験化合物ウエル中のVEROE6-EGFP細胞の集密の増加を示す。このパラメータは、SARS-CoV-2感染して試験化合物で処理したウエル中のEGPF-陽性細胞の存在に起因する緑色蛍光シグナルを与えるフィールドの総表面の、未処理の対照ウエルと比較した定量化に基づき:より高い値はマイクロタイタープレート底面上に多数の細胞があることを意味し、低い値は大部分の蛍光性が消失した(すなわち、細胞が死滅した)ことを意味する。添付の表において、SARS-CoV-2感染した細胞の、試験化合物処理後に到達した最大集密(%)を報告した。
【0058】
- IC50(μM):感染の細胞変性効果を回復することができる半最大濃度を示し、細胞死を含むウイルス阻害における物質の可能性の尺度である。IC50を、8つの異なる濃度において化合物の抗ウイルス効果を試験して得られた用量-応答曲線から決定した。
【0059】
試験を行った化合物に関して得られた結果を以下の表5に示す。
【0060】
全ての試験化合物がウイルス複製を阻害し、対照と比較して、ウイルスの細胞変性効果を低減することができ、詳細には、これらは細胞集密の少なくとも30%まで細胞成長を回復させる。興味深いことに、選択した83の化合物のうちの50(60%)が、細胞集密の50%を超えて回復させることができる。
【0061】
【0062】
[実施例5]
Calu-3感染アッセイ及びスパイクタンパク質の免疫染色
Calu-3細胞を96ウエルプレートに播種し、完全集密に到達するまでインキュベートした。該細胞を、続いて調査化合物の連続希釈液で72時間処理(1つの濃度当たり3重測定)してから、10%のFCSを含有するMEM培地中で感染させた。このプレインキュベーションに続いて、細胞を、1%のFCSを含有するMEM培地中で同じ化合物希釈液で処理し、化合物の存在下で24時間、0.01のMOIにおけるSARS-CoV-2に感染させた。24時間のインキュベーション後、培地を除去し、細胞をアセトン/メタノール混合物(40:60)で10分間固定してから、ブロッキング溶液(2%のBSA、5%のヤギ血清、0.01%のチメロサール)で4℃において一晩ブロッキングした。
【0063】
固定及びブロッキングした細胞を、抗-SARS-CoV-2スパイク抗体(ウサギ、1:1500、SinoBiological (Eschborn、ドイツ))と共に37℃で1時間インキュベートし、2回洗浄し、続いてHRP結合した抗ウサギ抗体(ヤギ、1:1000、Jackson Immunoresearch (Cambridgeshire、UK))と共に37℃で1時間インキュベートした。更に2回の洗浄ステップ後、細胞を3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)溶液の10分間の添加により染色し、洗浄して、スパイク陽性領域の百分率をBIOREADER-7000 F-z装置で検出した。1ウエル当たりのスパイク陽性領域の百分率を定量化し、化合物処理した試料の値を、化合物を用いなかったウイルス対照(=100%)に対して正規化した。100%より低い値又は高い値は、それぞれ、ウイルス阻害又は促進を表す。結果を
図2に示す;感染症の処置に関する、以前に記載された化合物との比較結果を
図3に示す。%値は、感染対照と比較した、%感染細胞である。
【0064】
[実施例6]
Calu-3細胞生存率アッセイ
Calu-3細胞の生存率を決定するために、MTTアッセイを、感染アッセイと同じ化合物希釈液で、しかしSARS-CoV-2を添加することなく並行して実施した。感染アッセイ及び細胞傷害性アッセイを同時に停止し、25μlのMTT溶液を細胞傷害性プレートに添加し、37℃で4時間インキュベートした。100μlの酸性化したドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(870mM、水:DMF(50:50)中のpH4.7)を添加し、プレートを37℃で一晩インキュベートした。620nmの基準波長で、560nmにおける吸光度をTECAN GENios Basicを使用して測定した。細胞生存率を算出するために、全ての吸光度値を、ブランクを除算して、未処理細胞の値を100%に設定し、化合物処理済み試料をそれらと相関させた。結果を
図2に示す;感染症の処置に関する、以前に記載された化合物との比較結果を
図3に示す。生存率値を、生存率対照に対して100%正規化して与える。
【0065】
【0066】
【0067】
【国際調査報告】