(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】高レベルのオメガ-3脂肪酸を有する微生物性油
(51)【国際特許分類】
C12P 7/6434 20220101AFI20230518BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
C12P7/6434
C12N1/12 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559961
(86)(22)【出願日】2021-04-04
(85)【翻訳文提出日】2022-11-04
(86)【国際出願番号】 IB2021052801
(87)【国際公開番号】W WO2021199009
(87)【国際公開日】2021-10-07
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516175607
【氏名又は名称】マラ リニューアブルズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ロウリー, ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】サン, ジーヨン
(72)【発明者】
【氏名】アルメンタ, ロベルト イー.
(72)【発明者】
【氏名】ミューズ, デニス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD85
4B064AD88
4B064CA08
4B064CD02
4B064CD09
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4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
微生物性油ならびに、高レベルのオメガ-3脂肪酸を有する微生物性油を作る及び使用する方法を本明細書に提供する。具体的には、少なくとも85%の総脂肪酸を含む微生物性油が提供され、総脂肪酸は、少なくとも50%のDHAを含む。また、バイオマスを作る方法も提供され、当該方法は、脂肪酸合成阻害剤を含む培養培地の中で油産生微生物を培養することを含み、バイオマスは、少なくとも500mg/gの油を含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも85重量%の総脂肪酸を含む微生物性油であって、前記総脂肪酸が、少なくとも50重量%のドコサヘキサエン酸、6重量%~18重量%の間のドコサペンタエン酸n-6、及び1重量%未満のステアリン酸を含む、前記微生物性油。
【請求項2】
少なくとも85重量%の総脂肪酸を含む微生物性油であって、前記総脂肪酸が、少なくとも60重量%のドコサヘキサエン酸を含む、前記微生物性油。
【請求項3】
前記総脂肪酸が0.01重量%~1重量%のステアリン酸を含む、請求項1または請求項2に記載の微生物性油。
【請求項4】
前記総脂肪酸が10重量%~18重量%の間のドコサペンタエン酸n-6を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項5】
前記微生物性油が85重量%~95重量%の総脂肪酸を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項6】
前記微生物性油が、少なくとも90重量%の総脂肪酸を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項7】
前記総脂肪酸が1重量%未満のエイコサペンタエン酸を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項8】
前記総脂肪酸が3重量%未満のペンタデカン酸を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項9】
前記総脂肪酸が40%未満の飽和脂肪酸を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項10】
前記総脂肪酸が10%~40%の間の飽和脂肪酸を含む、請求項9に記載の微生物性油。
【請求項11】
前記総脂肪酸が10%~30%の間の飽和脂肪酸を含む、請求項9に記載の微生物性油。
【請求項12】
前記総脂肪酸が60重量%~70重量%のドコサヘキサエン酸を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項13】
前記総脂肪酸が0.01重量%~2.0重量%のアラキドン酸を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項14】
前記総脂肪酸が0.01重量%~1重量%のエイコサテトラエン酸を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項15】
前記微生物性油が、少なくとも90%のトリグリセリドを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項16】
前記微生物性油が、少なくとも95%のトリグリセリドを含む、請求項15に記載の微生物性油。
【請求項17】
ドコサヘキサエン酸対ドコサペンタエン酸n-6の比が7:1以下である、請求項1~16のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項18】
前記総脂肪酸が4重量%未満のミリスチン酸を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項19】
前記総脂肪酸が30重量%未満のパルミチン酸を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項20】
前記総脂肪酸が、少なくとも60重量%のドコサヘキサエン酸、及び10重量%~18重量%の間のドコサペンタエン酸n-6を含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項21】
前記総脂肪酸が0.1重量%~0.5重量%のヘプタデカン酸を含む、請求項1~20のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項22】
前記油が、培養培地中でAurantiochytrium属微生物を22℃~28℃の温度で培養することによって生産される、請求項1~21のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項23】
前記油が、培養培地中でAurantiochytrium属微生物を25℃~28℃の温度で培養することによって生産される、請求項1~21のいずれか1項に記載の微生物性油。
【請求項24】
バイオマスを作る方法であって、
脂肪酸合成阻害剤を含む培養培地の中で油産生Aurantiochytrium属微生物を培養すること
を含み、前記バイオマスが、少なくとも500mg/gの油を含む、前記方法。
【請求項25】
前記培養培地の温度が18℃~22℃である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記培養培地の温度が22℃~28℃である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記培養培地の温度が25℃~28℃である、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記方法が、
前記微生物を前記培養培地に添加すること
をさらに含み、前記脂肪酸合成阻害剤が、前記培養培地への前記微生物の添加後24~48時間の間に前記培養培地に添加される、請求項24~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記方法が、
前記微生物を前記培養培地に添加すること
をさらに含み、前記脂肪酸合成阻害剤が、前記培養培地への前記微生物の添加から少なくとも6、12、24または48時間後に前記培養培地に添加される、請求項24~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記培養することが、
前記培養培地に1回以上の投与量の前記脂肪酸合成阻害剤を添加すること
を含む、請求項24~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記方法が、
前記微生物を前記培養培地に添加すること
をさらに含み、前記培養することが、
前記脂肪酸合成阻害剤を、前記培養培地への前記微生物の添加から12時間後に開始される2、3、4、5または6回の投与量で添加すること
を含む、請求項24~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記投与量が、6、12または24時間ごとに添加される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記培養する間に前記培養培地に添加される前記脂肪酸合成阻害剤の総濃度が3~40μMの間を含む、請求項24~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記培養する間に前記培養培地に添加される前記脂肪酸合成阻害剤の総濃度が、バイオマス1グラムあたり30μg~700μgの間の阻害剤を含む、請求項24~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記脂肪酸合成阻害剤が前記培養培地に流加される、請求項24~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記微生物がIDAC受託番号220716-01を有する、請求項24~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記方法が、
前記バイオマスから前記油を単離すること
をさらに含む、請求項24~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記油が脂肪酸を含み、前記脂肪酸が、少なくとも50重量%のドコサヘキサエン酸、6重量%~18重量%の間のドコサペンタエン酸n-6、及び1重量%未満のステアリン酸を含む、請求項24~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記油が脂肪酸を含み、前記脂肪酸が10重量%~18重量%の間のドコサペンタエン酸n-6を含む、請求項24~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記油が脂肪酸を含み、前記脂肪酸が1重量%未満のエイコサペンタエン酸を含む、請求項24~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記油が脂肪酸を含み、前記脂肪酸が10%~40%の間の飽和脂肪酸を含む、請求項24~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記油が脂肪酸を含み、前記脂肪酸が50重量%~70重量%のドコサヘキサエン酸を含む、請求項24~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記油が脂肪酸を含み、前記脂肪酸が、少なくとも95重量%のトリグリセリドを含む、請求項24~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記油が脂肪酸を含み、前記脂肪酸が、少なくとも60重量%のドコサヘキサエン酸、及び10重量%~18重量%の間のドコサペンタエン酸n-6を含む、請求項24~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記油が脂肪酸を含み、前記脂肪酸が0.1重量%~0.5重量%のヘプタデカン酸を含む、請求項24~44のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年4月3日に出願された米国仮出願第63/005,054号に基づく優先権を主張するものであり、参照によりその全体を本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
微生物からの油は、2つの並行する脂肪酸合成経路の結果として産生される:古典的な脂肪酸合成(FAS)経路、及び多価不飽和脂肪酸(PUFA)合成酵素経路。ミリスチン酸(C14:0)及びパルミチン酸(C16:0)のような中鎖脂肪酸は概してFAS経路から産生され、ドコサヘキサエン酸(DHA、C22:6 n-3)及びドコサペンタエン酸(DPA、C22:5 n-6)のような長鎖多価不飽和脂肪酸(LC-PUFA)は概してPUFA合成酵素経路から産生される。しかしながら、結果として得られる脂肪酸プロファイルは、これらの並行する経路の相対活性に応じて微生物にわたって実に様々である。
【発明の概要】
【0003】
本明細書に提供されるのは、微生物性油ならびに、高レベルのオメガ-3脂肪酸を有する微生物性油を作る及び使用する方法である。具体的には、少なくとも85重量%の総脂肪酸を含む微生物性油であって、総脂肪酸が、少なくとも50重量%のDHAを含む、当該微生物性油が提供される。さらに提供されるのは、バイオマスを作る方法であって、脂肪酸合成阻害剤を含む培養培地の中で油産生微生物(例えばAurantiochytrium属)を培養することを含み、バイオマスが、少なくとも500mg/gの油を含む、当該方法である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】20℃で異なる初回脂肪酸合成阻害剤投与時間点を採用したAurantiochytrium属種(G3)の脂肪酸プロファイルを示すグラフである。
【
図2】20℃での脂肪酸合成阻害剤の様々な濃度におけるAurantiochytrium属種(G3)の脂肪酸プロファイルを示すグラフである。
【
図3】20℃での様々な脂肪酸合成阻害剤投与方策におけるAurantiochytrium属種(G3)の脂肪酸プロファイルを示すグラフである。3x及び6xと示されている処理は、接種から24時間後に開始される等しい時間間隔での複数回の脂肪酸合成阻害剤の添加である。3Xの実験では、間隔は24時間ごとであった。6Xの実験では、間隔は12時間ごとであった。
【
図4】20℃での様々な脂肪酸合成阻害剤投与方策でのAurantiochytrium属種(G3)における最終生成物(DHA、総脂肪酸(TFA)及び飽和脂肪酸(SFA))濃度を示すグラフである。3x及び6xと示されている処理は、接種から24時間後に開始される等しい時間間隔(12時間ごと)での複数回の脂肪酸合成阻害剤の添加である。
【
図5】20℃での様々な脂肪酸合成阻害剤投与方策でAurantiochytrium属種(G3)において消費されたグルコースの単位あたりで生成物(SFA及びDHA)の収率を示すグラフである。3x及び6xと示されている処理は、接種から24時間後に開始される等しい時間間隔(12時間ごと)での複数回の脂肪酸合成阻害剤の添加である。
【
図6】フラスコ規模での25℃及び20℃培養条件からのAurantiochytrium属種(G3)の脂肪酸プロファイルを示すグラフである。
【
図7】Aurantiochytrium属種(G3)の脂肪酸プロファイルを示すグラフである。対照は、化学阻害剤を含まない25℃のフラスコで培養された。全長にわたる発酵行程は、記された温度での30L容の発酵槽における流加発酵であり、脂肪酸合成阻害剤処理は、フラスコ規模で合計12μMのセルレニンを間欠添加する20℃での培養であった。
【発明を実施するための形態】
【0005】
オメガ-3脂肪酸は、長鎖多価不飽和脂肪酸(LC-PUFA)ファミリーからのドコサヘキサエン酸(DHA、C22:6 n-3)及びエイコサペンタエン酸(EPA、C20:5 n-3)を含み、ヒト及び非ヒト哺乳動物にとっての必須脂肪酸である。微生物性油に求められるオメガ-3脂肪酸の量は、用途に応じて様々である。例えば、栄養補助食品及び医薬品においては油の単位あたりでより高い濃度のオメガ-3脂肪酸が好まれるのが典型的である。そのような濃度を実現するためにはオメガ-3脂肪酸をエステル交換及び分子蒸留によって濃縮するのが典型的である(Bonilla-Mendez and Hoyos-Concha,Corpoica Cienc Tecnol Agropecuaria,Mosquera(Colombia),19(3):645-668(2018))。しかしながら、最終濃縮生成物は、微生物によって脂質が合成された時の天然の化学構造であるトリグリセリド(TG)形態とはならずにエチルエステル(EE)化学形態となるのが典型的である。EE形態は、その嗅覚的特徴を悪化させかねない付加的処理を必要とするのみならず、オメガ-3のEE形態の人体に対する生物学的利用能が元のTG形態に比べてより低いことが示されてもいる。
【0006】
オメガ-3含有量を増加させるための一般的な方策としては、高オメガ-3微生物株を選択すること、古典的な変異誘発、及び遺伝子組換えが挙げられる(Lian et al.,Appl Biochem Biotechnol,162:935-941(2010))。あるいは、様々な機序の下にある脂肪酸合成代謝に影響を及ぼす可能性を有する化学物質が種々の微生物において試験されてきた。しかしながら、そのような原理を応用してDHA含有量における商業的に意味のある増加をもたらすと同時にDPA及び飽和脂肪酸を含めた他の脂肪酸成分における望ましくないいかなる変化も回避するかまたは最小限に抑える効率的かつ効果的な方法は、存在しない。
【0007】
本明細書に記載されるのは、DHAが脂肪酸プロファイルのおよそ50~70%を占める、高レベルのオメガ-3脂肪酸を含有する油である。さらに記載されるのは、脂肪酸合成阻害剤を使用して、PUFA合成酵素経路からの価値の高いPUFA生成物に有利となるようにFAS経路のあまり望ましくない生成物を抑制する方法である。提供される油は、微生物の生産性を犠牲にすることなく高濃度のDHAを含有する。さらに記載されるのは、本明細書に記載される脂肪酸合成酵素の多酵素複合体を阻害する阻害剤を使用する方法である。実施例にG3の脂肪酸プロファイルを例示するが、これは、DHA含有量のかなりの増加(対照と比較した場合に最大で83.3%超)を示しており、脂肪酸合成阻害剤の間欠添加の場合にはよりいっそうの増加を示している。油中のTG形態のDHAがほぼ70%であるという結果は、報告されたDHA濃度を超過している。
【0008】
微生物は、Thraustochytrid類を含めて、様々な形態及び量の脂肪酸を含む多様な脂質を含有する油を産生する。本明細書で使用される場合、脂質という用語は、リン脂質、遊離脂肪酸、脂肪酸のエステル、トリアシルグリセロール、ステロール及びステロールエステル、カロテノイド、キサントフィル(例えばオキシカロテノイド)、炭化水素、ならびに当業者に知られている他の脂質を含む。脂肪酸は、カルボキシル基で終結する炭化水素鎖であり、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含有する場合にはる不飽和と呼称され、複数の炭素-炭素二重結合を含有する場合には多価不飽和と呼称される。例えば、微生物は、(i)炭素数6未満の脂肪族尾部を有する脂肪酸である短鎖脂肪酸(SCFA)(例えば酪酸);(ii)炭素数6~12の脂肪族尾部を有する脂肪酸である中鎖脂肪酸(MCFA);(iii)炭素数13超の脂肪族尾部を有する脂肪酸である長鎖脂肪酸(LCFA)を産生し得る。様々な微生物が様々な種類及び量のこれらの脂肪酸を産生する。本明細書に提供されるのは、これらの脂肪酸の産生を、FAS経路によって産生される中鎖脂肪酸から、PUFA合成酵素経路によって産生される長鎖脂肪酸へとシフトさせる微生物及び方法である。脂肪酸合成(FAS)は、脂肪酸合成酵素と呼ばれる酵素の作用によってアセチルCoA及びNADPHから脂肪酸を生み出すこととして定義される。PUFA合成酵素経路は、大型の多ドメイン多サブユニット酵素によってマロニルCoAから新しく多価不飽和脂肪酸を合成することを可能にする。FAS経路の主な最終生成物はパルミテートである一方、PUFA合成酵素の主な最終生成物はPUFA、例えばDHA及びDPAである。
【0009】
かくして、本明細書に提供されるのは、微生物性油ならびに、微生物性油を作る及び使用する方法である。油は、モノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリドの形態の脂肪酸、ならびに遊離脂肪酸及びリン脂質を含む。任意選択的に、微生物性油は、少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%)のトリグリセリドを含む。任意選択的に、微生物性油は少なくとも95%のトリグリセリドを含む。
【0010】
油はまた、重量表示で少なくとも85%(例えば、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%)の総脂肪酸(TFA)も含有する。任意選択的に、油は85重量%~99重量%の間の総脂肪酸を含有する。任意選択的に、微生物性油は85重量%~95重量%の総脂肪酸を含む。任意選択的に、微生物性油は少なくとも90重量%の総脂肪酸を含む。
【0011】
油または総脂肪酸に関する百分率は、全体を通して重量パーセント表示で記述されている。例えば、微生物性油が少なくとも90%の総脂肪酸を含むとき、油は、油に対して少なくとも90重量%の総脂肪酸を含有する。また、総脂肪酸は特定の脂肪酸を含有し、特定の脂肪酸の百分率は、全体を通して総脂肪酸に対する重量%として表される。例えば、油中の総脂肪酸がDHAを含有するとき、DHAの量は総脂肪酸に対する重量%として表される。例えば、総脂肪酸は少なくとも50重量%のDHAを含む。
【0012】
記載されるとおり、提供される油の総脂肪酸はDHAを含有する。任意選択的に、総脂肪酸は、少なくとも35%、少なくとも40%または少なくとも45%のDHAを含む。任意選択的に、総脂肪酸は、少なくとも50%のDHAを含む。任意選択的に、総脂肪酸は、少なくとも60%のDHAを含む。任意選択的に、総脂肪酸は50%~70%のDHAを含む。任意選択的に、総脂肪酸は60%~70%のDHAを含む。
【0013】
任意選択的に、油は6%~18%の間のDPAも含有する。任意選択的に、油は10%~18%の間のDPAを含有する。任意選択的に、油は6%~10%の間のDPAを含有する。任意選択的に、総脂肪酸は、少なくとも60%のDHA、及び10重量%~18重量%の間のDPAを含む。任意選択的に、DHA対DPAの比は、7:1または6:1以下である。任意選択的に、総脂肪酸は、少なくとも50%のDHAを含み、DHA対DPAの比は7:1以下である。任意選択的に、総脂肪酸は、少なくとも50%のDHAを含み、DHA対DPAの比は6:1以下である。
【0014】
任意選択的に、油は1%未満のステアリン酸を含有する。任意選択的に、総脂肪酸は、0.01%~1%のステアリン酸、または0.001重量%~1重量%のステアリン酸を含む。
【0015】
任意選択的に、微生物性油は、少なくとも85%の総脂肪酸を含み、総脂肪酸は、少なくとも50%のDHA、6%~18%のDPA、及び1%未満のステアリン酸を含む。任意選択的に、微生物性油は、少なくとも85%の総脂肪酸を含み、総脂肪酸は、少なくとも60%のDHAを含む。
【0016】
任意選択的に、総脂肪酸は、3%、2%または1%未満のエイコサペンタエン酸を含む。任意選択的に、総脂肪酸は0.01%~1%のエイコサペンタエン酸、または0.001%~1%のエイコサペンタエン酸を含む。任意選択的に、総脂肪酸は0.01%~2%のエイコサペンタエン酸、または0.001%~2%のエイコサペンタエン酸を含む。任意選択的に、総脂肪酸は、0.01%~3%のエイコサペンタエン酸、または0.001%~3%のエイコサペンタエン酸を含む。
【0017】
任意選択的に、総脂肪酸は、5%未満、4%未満または3%未満のペンタデカン酸を含む。任意選択的に、任意選択的に、0.01%~3%、0.01%~4%、または0.01%~5%のペンタデカン酸を含む。
【0018】
任意選択的に、総脂肪酸は、45%、40%、35%、30%または25%未満の飽和脂肪酸(SFA)を含む。本明細書に記載の方法によって生産された油の中の飽和脂肪酸は、限定はされないが、C12:0(ラウリン酸)、C14:0(ミリスチン酸)、C15:0(ペンタデカン酸)、C16:0(パルミチン酸)、C17:0(ヘプタデカン酸)、及びC18:0(ステアリン酸)を含む。任意選択的に、総脂肪酸は、10%~45%の間の飽和脂肪酸(例えば、10%~40%、10%~30%、10%~20%、15%~30%、15%~20%、20%~30%、または20%~25%の飽和脂肪酸)を含む。
【0019】
任意選択的に、総脂肪酸は、0.001%~2.0%(例えば、0.01%~2.0%、または0.05%~2.0%)のアラキドン酸(C20:4(n-6))を含む。任意選択的に、総脂肪酸は0.001%~1%(例えば、0.01%~1%)のエイコサテトラエン酸(C20:4(n-3))を含む。
【0020】
任意選択的に、総脂肪酸は5重量%未満のミリスチン酸を含む。任意選択的に、総脂肪酸は、重量表示で0.001%~5%(例えば、0.01%~5%、0.1%~5%、0.01%~4%、0.1%~4%、または1%~4%)のミリスチン酸を含む。
【0021】
任意選択的に、総脂肪酸は40重量%未満のパルミチン酸を含む。任意選択的に、総脂肪酸は、重量表示で5%~40%、5%~30%、10%~40%、10%~30%、20%~40%、20%~30%、20%~40%、20%~25%、または25%~40%の間のパルミチン酸を含む。
【0022】
任意選択的に、総脂肪酸は、重量表示で0.1%~0.5%、または0.001%~0.5%のヘプタデカン酸を含む。
【0023】
任意選択的に、バイオマス中の、またはそこから単離された脂肪酸は、3重量%未満のエイコサペンタエン酸、5重量%未満のペンタデカン酸、及び45%未満の飽和脂肪酸を含む。
【0024】
任意選択的に、バイオマス中の、またはそこから単離された脂肪酸は、0.001%~2.0%、0.01%~2.0%、または0.05%~2.0%のアラキドン酸、5重量%未満のミリスチン酸、及び40重量%未満のパルミチン酸を含む。
【0025】
さらに提供されるのは、油を含む微生物性バイオマスである。微生物性バイオマスは、バイオマス全体に対して40重量%~75重量%の総脂肪酸を含む。任意選択的に、バイオマス中の油はDHAを含み、バイオマスは、バイオマスに対して20重量%~55重量%の間のDHAを含む。任意選択的に、バイオマス中の油は、バイオマスに対して2.5重量%~8重量%のDPAを含む。任意選択的に、油は、バイオマスに対して4重量%~8重量%の間のDPAを含有する。任意選択的に、油は、バイオマスに対して2.5重量%~4重量%のDPAを含有する。
【0026】
提供される微生物性油及びバイオマスを生産するのに有用となる真核微生物としては、Oblongichytrium属、Aurantiochytrium属、Thraustochytrium属、Schizochytrium属及びUlkenia属から選択される微生物、またはその任意の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。任意選択的に、油産生真核微生物は、配列番号1に示される核酸配列との少なくとも97%、98%、99%または100%の同一性を有する18S配列を有する微生物である。任意選択的に、油産生微生物は、株Aurantiochytrium limacinumの微生物である。任意選択的に、真核微生物は、2016年7月22日にカナダ公衆衛生庁国立微生物研究所のカナダ国際寄託局(IDAC)、1015 Arlington Street,Winnipeg,Manitoba Canada R3E 3R2に寄託されてIDAC指定の受託番号220716-01を有する微生物と同じである。この寄託物は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約の下に管理されることになる。この寄託物は、例示的なものであり、単に当業者のための便宜として作られたにすぎず、寄託物が特許性のために必要とされることを容認するものではない。本明細書において、「G3」、「G3-1」または「G3-1株」または「株G3-1」という用語は、IDAC受託番号220716-01を有する真核微生物を指して互換的に使用される。
【0027】
核酸は、本明細書で使用される場合、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、ならびにそのポリマー及び相補体を指す。当該用語は、一本鎖または二本鎖のどちらかの形態のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを含む。当該用語は、合成のもの、天然に存在するもの、及び天然に存在しないものであり、基準核酸に類似する結合特性を有し、基準ヌクレオチドに類似する方法で代謝される、既知のヌクレオチド類縁体または修飾主鎖残基またはリンケージを含有する核酸を包含する。そのような類縁体の例としては、ホスホロチオエート、ホスホロアミダート、ホスホン酸メチル、キラルホスホン酸メチル、2-O-メチルリボヌクレオチド、及びペプチド核酸(PNA)が挙げられるが、これらに限定されない。特に示されていない限り、本明細書に列挙される特定の核酸配列の代わりに、核酸配列の保存的に改変された多様体(例えば縮重コドン置換体)及び相補配列を使用してよい。具体的には、縮重コドン置換体は、選択された1つ以上の(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基及び/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を生成することによって得られ得る(Batzer et al.,Nucleic Acid Res.19:5081(1991)、Ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.260:2605-2608(1985)、Rossolini et al.,Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994))。核酸という用語は、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドと互換的に使用される。
【0028】
2つ以上の核酸またはポリペプチド配列に関して、同一である、または同一性パーセントという用語は、以下に記載される既定のパラメータを使用するBLASTもしくはBLAST2.0配列比較アルゴリズムを使用して、または手作業でのアライメント及び目視検査によって測定した場合に、同じであるかまたは特定の百分率のアミノ酸残基もしくはヌクレオチドが同じである(つまり、比較窓または指定の領域にわたって一致が最大になるように比較及びアライメントを行ったときに特定の領域にわたって約60%の同一性、好ましくは、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の、またはより高い同一性を有する)2つ以上の配列または部分配列を指す(例えばNCBIウェブサイトなどを参照されたい)。そうして、そのような配列は、実質的に同一であると言われる。この定義は、試験配列の相補体にも当てはまる、または適用され得る。当該定義はまた、欠失及び/または付加を有する配列、ならびに置換を有する配列も含む。本明細書に記載される場合、好ましいアルゴリズムは、ギャップなどを考慮し得るものである。好ましくは、同一性は、長さが少なくとも約25個のアミノ酸もしくはヌクレオチドである領域にわたって、またはより好ましくは長さが50~100個のアミノ酸もしくはヌクレオチドである領域にわたって存在する。
【0029】
配列比較では、典型的には1つの配列が、試験配列と比較される基準配列としての役割を果たす。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験及び基準配列をコンピュータに入力し、必要に応じて部分配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。好ましくは、既定のプログラムパラメータが使用され得るか、または代替パラメータが適切に指定され得る。その後、配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメータに基づいて基準配列と比較したときの試験配列について配列同一性パーセントを計算する。
【0030】
本明細書で使用される場合、比較窓は、配列と連続位置を同じ数だけ有する基準配列とが2つの配列の最適なアライメントの後に比較され得る、連続位置を20~600、多くの場合において約50~約200、より多くの場合において約100~約150からなる群から選択されるいずれか1つの数だけ有するセグメントに対する言及を含む。比較のための配列のアライメントの方法は当技術分野でよく知られている。比較のための配列の最適なアライメントは、例えば、Smith &Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所的相同性アルゴリズムによって、Needleman &Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同性アライメントアルゴリズムによって、Pearson &Lipman,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似性検索法によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ実施(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)によって、または手作業によるアライメント及び目視検査によって行われ得る(例えば、Current Protocols in Molecular Biology(Ausubel et al.,eds.1995 supplementを参照されたい)。
【0031】
配列同一性パーセント及び配列類似性パーセントを決定するのに適するアルゴリズムの好ましい例は、BLAST及びBLAST2.0アルゴリズムであるが、これらについてはそれぞれ、Altschul et al.,Nuc.Acids Res.25:3389-3402(1977)、及びAltschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990)に記載がある。BLAST及びBLAST2.0は、本明細書に記載のパラメータを使用して、核酸またはタンパク質の配列同一性パーセントを決定するために使用される。BLAST解析を実施するためのソフトウェアは、当技術分野で知られているように国立生物工学情報センターで公的に利用可能である。このアルゴリズムは、クエリー配列中の選択された長さ(W)の短いワードを特定することによって高スコア配列対(HSP)をまず特定することを含んでいるが、当該短いワードは、データベース配列中の同じ長さのワードとアライメントされたときにいくらかの正の値を有する閾値スコアTに一致するかそれを満たすかのどちらかとなるものである。Tは隣接ワードスコア閾値と呼称される(Altschul et al.)。これらの初期隣接ワードヒットは、それを含んだより長いHSPを見つける検索を開始するためのシードとしての役割を果たす。ワードヒットは、累積アライメントスコアが増加する限り目一杯、各配列に沿って両方向に伸張される。累積スコアは、ヌクレオチド配列に関しては、パラメータM(一致残基の対に対する報酬スコア、常に0を上回る)及びN(不一致残基に対するペナルティスコア、常に0未満)を使用して計算される。アミノ酸配列に関しては、スコア行列を使用して累積スコアが計算される。ワードヒットの各方向への伸張は、累積アライメントスコアがその最大到達値から量Xだけ減少した時、負のスコアを有する1つ以上の残基アライメントが蓄積したために累積スコアがゼロ以下になった時、またはどちらかの配列の末端に到達した時に、停止される。BLASTアルゴリズムパラメータW、T及びXは、アライメントの感度及び速度を決定付ける。期待値(E)は、データベース検索において偶然起こることが予期されるスコアに等しいかまたはそれよりも良いスコアを有する異なるアライメントの数を表す。(ヌクレオチド配列のための)BLASTNプログラムは、既定値として11のワード長さ(W)、10の期待値(E)、M=5、N=4、及び両鎖の比較を用いる。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムは、既定値として3のワード長さ、10の期待値(E)、及びBLOSUM62スコア行列(Henikoff &Henikoff,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915(1989)参照)、50のアライメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=4、及び両鎖の比較を用いる。
【0032】
本明細書に提供されるのは、油産生微生物を使用してバイオマスを作る方法である。具体的には、提供されるのは、バイオマスを作る方法であって、脂肪酸合成阻害剤を含む培養培地の中で油産生Aurantiochytrium属微生物を培養することを含み、バイオマスが、少なくとも350、400、450または500mg/gの油を含む、当該方法である。バイオマスは、本明細書に記載される特徴を有する油を作るために使用され得る。方法は、バイオマスから油を単離することをさらに含む。
【0033】
培養工程は、15℃~28℃(例えば、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27または28℃)の温度で行われ得る。任意選択的に、培養培地の温度は18℃~22℃、22℃~28℃、22℃~25℃、または25℃~28℃である。
【0034】
脂肪酸合成阻害剤は、培養培地への微生物の添加の前に、後に、またはそれに並行して添加され得る。任意選択的に、脂肪酸合成阻害剤は、連続的に、あるいは断続的に培養培地に流加される。任意選択的に、方法は、微生物を培養培地に添加すること、及びその後、培養培地への微生物の添加から少なくとも6、12、24または48時間後に脂肪酸合成阻害剤を培養培地に添加することをさらに含む。任意選択的に、方法は、微生物を培養培地に添加すること、及びその後、培養培地への微生物の添加後24~48時間の間に脂肪酸合成阻害剤を培養培地に添加することをさらに含む。任意選択的に、方法は、微生物を培養培地に添加すること、及びその後、培養培地への微生物の添加から6~24時間後に脂肪酸合成阻害剤を培養培地に添加することをさらに含む。任意選択的に、方法は、微生物を培養培地に添加すること、及びその後、培養培地への微生物の添加から12~24時間後に脂肪酸合成阻害剤を培養培地に添加することをさらに含む。
【0035】
脂肪酸合成阻害剤は培養培地に1回以上の投与量で添加され得る。任意選択的に、方法は、微生物を培養培地に添加することをさらに含み、培養することは、脂肪酸合成阻害剤を、例えば培養培地への微生物の添加から6、12、24または48時間後に開始される、1、2、3、4、5または6回の投与量で添加することを含む。任意選択的に、1回以上の投与量は、6、12または24時間ごとに添加される。例を示すと、培養培地に3回の投与量の脂肪酸阻害剤の添加が、培養培地への微生物の添加から24時間後に開始して12時間ごとに行われ得る。
【0036】
培養培地に添加される脂肪酸合成阻害剤の総量は、3μM~40μMの間を含む。任意選択的に、脂肪酸合成阻害剤は、阻害剤の合計を3μM~40μMの間とする1回または複数回の投与量(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9または10回の投与量)で施される。例えば、脂肪酸合成阻害剤は、合計を12μMとする6回にわたる2μMの投与量で施され得る。他の例を示すと、脂肪酸合成阻害剤は、1、2、3または8μMの投与量で3回添加され得る。任意選択的に、脂肪酸合成阻害剤は、0.5、1、2、3及び4μMの投与量で6回添加され得る。任意選択的に、培養する間に培養培地に添加される脂肪酸合成阻害剤の総濃度は、バイオマス1グラムあたり30μg~700μgの間の阻害剤を含む。任意選択的に、脂肪酸合成阻害剤は、バイオマス1グラムあたりでの合計を30μg~700μgの間とする1、2、3、4、5、6、7、8、9または10回の投与量で施される。例を示すと、脂肪酸合成阻害剤は、合計を240μgとして、バイオマス1グラムあたり40μgの投与量で6回にわたって添加され得る。他の例を示すと、脂肪酸合成阻害剤は、バイオマス1グラムあたりおよそ12、24、42及び120μgの投与量で3回添加され得る。任意選択的に、脂肪酸合成阻害剤は、バイオマス1グラムあたり5.5、11、25、40及び62μgの投与量で6回添加され得る。
【0037】
好適な脂肪酸合成阻害剤としては、脂肪酸合成酵素阻害剤が挙げられるが、これに限定されない。任意選択的に、脂肪酸合成酵素阻害剤は、ケルセチン、α-マンゴスチン、チオラクトマイシン、トリクロサン、イソニアジド、デシノイル-N-アセチルシステアミン(NAC)、及びセルレニンからなる群から選択される。
【0038】
上記のとおり、提供される方法に有用となる真核微生物としては、Oblongichytrium属、Aurantiochytrium属、Thraustochytrium属、Schizochytrium属及びUlkenia属から選択される微生物、またはその任意の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。任意選択的に、油産生真核微生物は、配列番号1に示される配列との少なくとも97%、98%、99%または100%の同一性を有する18S配列を有する微生物である。任意選択的に、真核微生物はIDAC受託番号220716-01を有する。
【0039】
本明細書に記載される場合、バイオマスは、脂肪酸、例えば、上に記載されるように少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%のトリグリセリドを含む脂肪酸を含む。バイオマス中の油も、上に記載されるように少なくとも85重量%の総脂肪酸を含有する。
【0040】
任意選択的に、バイオマスから単離された脂肪酸は、上に記載されるように少なくとも50重量%のDHAを含む。
【0041】
バイオマス中の脂肪酸は、任意選択的に、上に記載されるように6重量%~18重量%の間のDPAを含む。任意選択的に、脂肪酸、バイオマス中の、またはそこから単離された油において、DHA対DPAの比は、上に記載されるように、7:1または6:1以下である。
【0042】
バイオマス中の、またはそこから単離された油は、任意選択的に、上に記載されるように1重量%未満のステアリン酸を含有する。
【0043】
任意選択的に、バイオマス中の、またはそこから単離された脂肪酸は、上に記載されるように、3重量%未満のエイコサペンタエン酸、5重量%未満のペンタデカン酸、及び45%未満の飽和脂肪酸を含有する。
【0044】
任意選択的に、バイオマス中の、またはそこから単離された脂肪酸は、0.001%~2.0%、または0.01%~2.0%、または0.05%~2.0%のアラキドン酸、5重量%未満のミリスチン酸、及び40重量%未満のパルミチン酸を含む。任意選択的に、脂肪酸は、重量表示で0.1%~0.5%、または0.001%~0.5%のヘプタデカン酸を含む。
【0045】
記載される方法に使用される培養培地は、炭素源及び窒素源を含めた様々な栄養成分を微生物に供給する。培養のための培地は、様々な炭素源のいずれかを含み得る。炭素源の例としては、脂肪酸、脂質、グリセロール、トリグリセロール、炭水化物、ポリオール、アミノ糖、及び任意の種類のバイオマスまたは廃棄流が挙げられる。脂肪酸としては、例えばオレイン酸が挙げられる。炭水化物としては、グルコース、セルロース、ヘミセルロース、フルクトース、デキストロース、キシロース、ラクツロース、ガラクトース、マルトトリオース、マルトース、ラクトース、グリコーゲン、ゼラチン、(トウモロコシまたはコムギ)澱粉、アセテート、m-イノシトール(例えばコーンスティープリカー由来のもの)、ガラクツロン酸(例えばペクチン由来のもの)、L-フコース(例えばガラクトース由来のもの)、ゲンチオビオース、グルコサミン、アルファ-D-グルコース-1-ホスフェート(例えばグルコース由来のもの)、セロビオース、デキストリン、アルファ-シクロデキストリン(例えば澱粉由来のもの)、及びスクロース(例えば糖蜜からのもの)が挙げられるが、これらに限定されない。ポリオールとしては、マルチトール、エリスリトール及びアドニトールが挙げられるが、これらに限定されない。アミノ糖としては、N-アセチル-D-ガラクトサミン、N-アセチル-D-グルコサミン、及びN-アセチル-ベータ-D-マンノースアミンが挙げられるが、これらに限定されない。炭素源は、200g/L以下、175g/L以下、150g/L以下、100g/L以下、60g/L以下の濃度、例えば、1~200g/L、5~200g/L、10~200g/L、50~200g/L、または100~200g/Lの濃度で従属栄養培地中に存在し得る。
【0046】
微生物は、約0.5g/L~約50.0g/Lの塩化物濃度(例えば、約0.5g/L~約35g/L、約18g/L~約35g/L、または約2g/L~約35g/Lの塩化物濃度)を有する培地において培養され得る。本明細書に記載の微生物は、低塩化物条件、例えば、約0.5g/L~約20g/L、または約0.5g/L~約15g/Lにおいて成長し得る。
【0047】
培養培地は任意選択的にNaClを含む。培養培地は、ナトリウムの供給源として、非塩化物含有ナトリウム塩を含み得る。本発明の方法に従って使用するのに適する非塩化物ナトリウム塩の例としては、ソーダ灰(炭酸ナトリウムと酸化ナトリウムとの混合物)、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム及びその混合物が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、米国特許第5,340,742号及び第6,607,900号を参照されたく、参照によりそれらの各々の内容全体を本明細書に援用する。任意選択的に、培地は、20g/Lの炭素、20g/Lの大豆ペプトン、及び5g/Lの酵母抽出物を使用するとき、9g/Lの塩化物を含む。培地が10g/Lの炭素、5g/Lの大豆ペプトン、5g/Lの酵母及び10g/Lの寒天を含有するとき、培地は35g/Lの塩化物を含み得る。培地が20~40g/Lの炭素、1g/Lの酵母抽出物、1~20g/Lのグルタミン酸一ナトリウム(MSG)、0.3~2.0g/Lのリン酸塩、4g/Lの硫酸マグネシウム、5~10g/Lの硫酸アンモニウム、1.5mL/Lの微量元素溶液、1mL/LのビタミンB溶液、及び0.1g/LのCaCl2を含有するとき、培地は2g/Lの塩化物を含み得る。
【0048】
微生物培養のための培地は、様々な窒素源のいずれかを含み得る。例示的な窒素源としては、アンモニウム溶液(例えば、H2O中にNH4を含むもの)、アンモニウムまたはアミン塩(例えば、(NH4)2SO4、(NH4)3PO4、NH4NO3、NH4OOCH2CH3(NH4Ac))、ペプトン、大豆ペプトン、トリプトン、酵母抽出物、麦芽抽出物、魚粉、グルタミン酸ナトリウム、大豆抽出物、カサミノ酸及び醸造粕が挙げられる。好適な培地において窒素源の濃度は、典型的には、端点を含めた約1g/L~約25g/Lの間の範囲(例えば、約5~20g/L、約10~15g/L、または約20g/L)である。任意選択的に、酵母抽出物が培地中の複合窒素の供給源であるときに窒素の濃度は約10~15g/Lである。任意選択的に、培地中に大豆ペプトンがL-グルタミン酸一ナトリウム塩水和物(MSG)または硫酸アンモニウムと共に存在するときに窒素の濃度は約1~5g/Lである。
【0049】
培地は任意選択的に、リン酸塩、例えばリン酸カリウムまたはリン酸ナトリウム(例えば一塩基性リン酸カリウム)を含む。
【0050】
培地中の無機塩及び微量栄養素には、硫酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、オルトバナジン酸ナトリウム、クロム酸カリウム、モリブデン酸ナトリウム、亜セレン酸、硫酸ニッケル、硫酸銅、硫酸亜鉛、塩化コバルト、塩化鉄、塩化マンガン、塩化カルシウム及びEDTAが含まれ得る。任意選択的に、培地は、少なくとも1.5ml/Lの微量元素溶液を含む。任意選択的に、微量元素溶液は、2mg/mLの硫酸銅(II)五水和物、2mg/mLの硫酸亜鉛七水和物、1mg/mLの塩化コバルト(II)六水和物、1mg/mLの塩化マンガン(II)四水和物、1mg/mLのモリブデン酸ナトリウム二水和物、及び1mg/mLの硫酸ニッケル(II)を含む。
【0051】
培地は、微量元素溶液及び/または一塩基性リン酸カリウムと共に、硫酸マグネシウムを任意選択的に含み得る。
【0052】
ビタミン、例えば、ピリドキシン塩酸塩、チアミン塩酸塩、パントテン酸カルシウム、p-アミノ安息香酸、リボフラビン、ニコチン酸、ビオチン、葉酸及びビタミンB12が培養培地中に含まれていてもよい。
【0053】
培地のpHは、酸または塩基を適切に使用して、及び/または窒素源を使用して、端点を含めた3.0~10.0の間に調整され得る。任意選択的に、培地は滅菌される。
【0054】
通常、微生物の培養のために使用される培地は液体培地である。しかしながら、微生物の培養のために使用される培地は固体培地であってもよい。固体培地は、本明細書に論述されている炭素源及び窒素源に加えて、構造的支持を提供する及び/または培地を固体形態にする1つ以上の成分(例えば、寒天及び/またはアガロース)を含有し得る。
【0055】
微生物の培養は、既知の条件、例えば、国際公開第WO2007/069078号及び第WO2008/129358号に記載されている条件を用いて行われ得る。例えば、培養は1~30日間(例えば、1~21日間、1~15日間、1~12日間、1~9日間、または3~5日間)にわたって行われ得る。培養は4~30℃の温度で行われ得る。任意選択的に、培養は、曝気振盪培養、振盪培養、静置培養、回分培養、流加培養、連続培養、回転回分培養、波型振盪培養などによって行われる。任意選択的に、培養は、培養培地の溶存酸素含有量を1~20%の間、1~10%の間、または1~5%の間として行われる。
【0056】
本明細書に記載のバイオマスは、最終製品(例えば、食品または飼料栄養補助剤、バイオ燃料など)に組み込まれ得る。かくして、タンパク質に富むバイオマスを使用する方法が提供される。方法は、任意選択的に、タンパク質に富むバイオマスを食料品(例えば、ペットフード、畜産飼料または水産飼料)に組み込むことを含む。
【0057】
油または脂質は、記載の微生物培養物から単離され得、様々な食品及び飼料栄養補助剤に使用され得る。油が組み込まれ得る好適な食品または飼料栄養補助剤には、乳、水、スポーツドリンク、栄養ドリンク、茶及びジュースなどの飲料、飴、ゼリー及びビスケットなどの菓子、乳製品などの脂肪含有食品及び飲料、粥(またはポリッジ)などの加工食品製品、調製粉乳、朝食用シリアル、または類似するものが含まれる。任意選択的に、1つ以上の生産された脂質が栄養補助食品、例えばビタミンまたはマルチビタミンなどに組み込まれ得る。任意選択的に、本明細書に記載の方法に従って生産された油を、栄養補助食品の中に含ませてもよく、任意選択的に直接、食品または飼料の成分(例えば食品栄養補助剤)に組み込んでもよい。
【0058】
本明細書に記載の方法によって生産された油または脂質が組み込まれ得る飼料品としては、キャットフード、ドッグフードなどのペットフード、観賞魚、養殖の魚もしくは甲殻類などのための飼料、または農場で飼育された動物(家畜、及び水産養殖の魚または甲殻類を含む)のための飼料が挙げられる。本明細書に記載の方法に従って生産された油または脂質が組み込まれ得る食品または飼料原料は、意図したレシピエントである生物の嗜好に合うことが好ましい。この食品または飼料原料は、食品原料について現在知られている任意の物理特性(例えば、固形状、液状、軟性)を有し得る。
【0059】
任意選択的に、生産された化合物(例えばPUFA)の1つ以上は機能性食品または医薬品に組み込まれ得る。そのような機能性食品または医薬品の形態の例には、様々な種類の錠剤、カプセル剤、飲用薬剤などが含まれる。任意選択的に、機能性食品または医薬品は、局所塗布に適するもの(例えばローション剤の形態)である。剤形には、例えば、カプセル剤、油剤、錠剤または類似するものが含まれ得る。
【0060】
本明細書に記載の方法に従って生産された油または脂質は、他の様々な薬剤のいずれかと組み合わせて製品に組み込まれ得る。例えば、そのような化合物は、1つ以上の結合剤またはフィラー、キレート剤、色素、塩、界面活性剤、保湿剤、粘度調整剤、増量剤、軟化剤、香料、保存剤など、またはその任意の組合せと組み合わされ得る。
【0061】
本開示の方法及び組成物のために使用され得る、それと一緒に使用され得る、その調製のために使用され得る、またはその製品である材料、組成物及び成分を、開示する。これら及び他の材料を本明細書に開示しているが、これらの材料の組合せ、サブセット、相互作用、群などが開示されている場合、これらの化合物の様々な個別及び集合的な組合せ及び並べ替えの各々についての具体的言及を明示的に開示していないことがあるにもかかわらず各々が本明細書において具体的に企図及び記載されていることは理解される。例えば、方法について開示及び論述されており、方法を含む複数の分子に対してなされ得る複数の改変について論述されている場合、方法のありとあらゆる組合せ及び並べ替え、ならびに可能な改変は、相反する指示が具体的になされているのでない限り具体的に企図されている。同様に、これらの任意のサブセットまたは組合せも具体的に企図及び開示されている。この概念は、限定はされないが本開示の組成物を使用する方法の中の工程を含めた本開示の全ての態様に当てはまる。したがって、実施され得る様々な付加的工程が存在する場合、これらの付加的工程の各々が本開示の方法の任意の特定の方法工程または方法工程の組合せによって実施され得ること、及びそのような組合せまたは組合せのサブセットの各々が具体的に企図されており、開示されているとみなされるべきであることは、理解される。
【0062】
本明細書において引用される刊行物、及びそれらを引用する目的であった材料は、これをもって参照によりその全体が具体的に援用される。
【0063】
以下の実施例は、本明細書に記載の方法及び組成物の特定の態様をさらに例示することを意図したものであり、特許請求の範囲を限定する意図はない。
【実施例】
【0064】
実施例1.脂肪酸合成阻害剤の投与適時選択方策。
細胞成長を抑制するなどの過度の損失を伴わない、脂肪酸合成酵素阻害剤セルレニンの添加のための理想的な時間を決定するために、設定量のセルレニンを様々な量の接種後時間において添加することによって実験を行った。全ての実験において対照実験を、FAS阻害剤の添加を行わずに同じ培地及び成長条件で実施した。結果は、いかなる添加時間においても細胞成長が阻害されなかったが、脂肪酸プロファイルにはそれが著しい影響を及ぼしたことを示した(
図1)。表2は、接種から24時間後にセルレニンを添加することでDHA及びDPA含有量(TFAに対する%)がより高くなり、脂肪酸合成経路生成物C14:0及びC16:0がそれぞれ21.1%及び27.9%だけ減少したことを示す。
【0065】
【0066】
【0067】
実施例2.脂肪酸合成阻害剤濃度
セルレニンの最適濃度を決定して最良の結果をもたらすべく、1μM~40μMの範囲の濃度を試験した。一貫性を保つために、全てのセルレニン添加は接種から24時間後に行った。
図2は、20℃でのセルレニンの様々な濃度におけるAurantiochytrium属種(G3)の脂肪酸プロファイルを示す。表5は、セルレニン濃度を上昇させることが、細胞内に蓄積するC16:0及びDPAの量に対して明瞭な影響を及ぼすことを示す。総脂肪酸に対する百分率に関して、特定の脂肪酸におけるそれらの変化は、25μMのセルレニンを使用したときにDHA含有量(TFAに対する%)が44.71%から50.92%もの高さまで増加したことに対応している(表4)。
【0068】
【0069】
【0070】
実施例3.脂肪酸合成阻害剤の投与計画
セルレニンへの長期反復曝露の効果を調べるために、実験中に3~6回にわたって投与量を等しく散開させた。各場合において、合計添加量は、24時間目に全部を添加した対応する処理と等価であった。全ての添加は接種から24時間後に開始した。
図3及び
図4において、セルレニン濃度の増加、及びセルレニンの複数回の等価な間欠投与のどちらによっても、DHA及びDPAが増加する明らかな傾向がみられた。さらには、表5は、反復的投与量添加が採用されるときに総脂肪酸に対する悪影響がない一方、DHAの実際の量(mg/g表示)がセルレニンの増加に伴って増加していたことを示している。最高実測DHAは、合計を12μMとする6回の等価投与量のセルレニンを使用した場合であり、結果として51.6%のDHA増加がもたらされた。また、C14:0及びC16:0における最大限の85.1%及び83.9%の減少もみられ、これらの条件の下でのセルレニンによるFAS経路の非常に効果的な阻害が示唆された。
【0071】
【0072】
【0073】
実施例4.生成物収率に対する脂肪酸合成阻害剤の効果。
PUFA増強方策のための本明細書に記載の方法の影響を評価するために、G3細胞によって同化された炭素の量に対する相対的な生成物(すなわち、TFA、DHAまたはDPA)の収率を調べた。
図5に、合成された生成物(総脂肪酸(TFA)、飽和脂肪酸(SFA)またはDHAとして分類される)の総量を示す。特定の頻度及び濃度で投与された脂肪酸合成阻害剤の存在下において、TFA及びDHAの濃度はどちらも上昇した一方、SFA濃度は低下した。例えば、セルレニンを毎回1μMとして12時間間隔で6回投与した条件の下では、TFA及びDHAは対照実験の結果と比較してそれぞれ15%及び71%だけ増加した(
図5)。結果を脂肪酸収率(グラム生成物/グラム消費炭素)として計算すると、どのセルレニン投与条件下においても、DHA収率は総じて著しく増加した一方、SFA収率は減少した。例えば、6x1μMの最適条件の1つにおいては、対照実験の結果と比較してDHA収率における53%の増加及びSFA収率における64%の減少がみられ、それによって、細胞がFAS経路に対する阻害を受けていただけでなくPUFA合成酵素経路を上方制御して有効炭素をより効率的に利用していたことが示唆された。
【0074】
実施例5.Aurantiochytrium属種(G3)からのDHA%に対する温度の効果。
培養温度を(25℃から20℃に)低下させることがAurantiochytrium属種(G3)の脂肪酸プロファイル及び生産性に及ぼす影響を調べるために、フラスコ規模の実験を実施した。
図6中のデータは、培養温度が20℃に低下することによってDHA及びDPAの割合が増加することを示している。表7及び表8は、C14:0及びC16:0におけるそれぞれ27.5%及び10.6%の減少と対になったDHAにおける14.7%の増加を提示している要約データを示す。
【0075】
【0076】
【0077】
実施例6.Aurantiochytrium属種(G3)からのDHA%に対する全長にわたる発酵の効果。
30L容のステンレス鋼製発酵槽を様々な(25℃から20℃までの)温度で使用して、Aurantiochytrium属種G3の全長にわたる発酵を行った。これらの発酵は、概して150~200時間続けられてバイオマス及びTFAがそれぞれ130g/L及び55%に達するものであった。
図7から見て取れるように、25℃の典型的な温度での全長にわたる発酵は、フラスコを使用する典型的な対照培養による場合と比較して最終DHA含有量を改善することができた一方、より低い温度での全長にわたる発酵は、よりいっそう高いDHA%に到達することができた。
図7に含まれている例において25℃での発酵は45%のDHAに到達し、これはフラスコ対照の場合の37%に比べて約8%高かった。22℃及び20℃での発酵はさらなるDHA%増加をそれぞれ59.7%及び60.0%で達成した。しかしながら、セルレニンの複数回の間欠投与を用いるフラスコ実験によるDHA含有量はなおいっそうの68.7%の最高DHA%に到達した。
【0078】
実施例7.Aurantiochytrium属種(G3)に対する上昇した温度の効果。
22℃、25℃及び28℃でのバイオマス及び脂肪酸の生産増強のために30L容の発酵槽でG3株を培養した。500mLの基礎培地(50g/Lのグルコース、6.25g/Lの酵母抽出物、4g/LのMgSO4.7H2O、4g/L、2.5g/LのNaCl、2mg/Lの硫酸銅、2mg/Lの硫酸亜鉛、1mg/Lのモリブデン酸ナトリウム、1mg/Lの塩化コバルト(II)、1mg/Lの塩化マンガン、及び1mg/Lの硫酸ニッケル)が入った4本の三角フラスコでG3を前培養した。フラスコを25℃及び200rpmの撹拌下で2日間インキュベートした。インキュベーション期間後、3本のフラスコ(1.5L分)を使用して、30L容のバイオリアクターにおいて175g/Lのグルコース、9.66g/Lの酵母抽出物、2.57g/LのMgSO4.7H2O、0.45g/Lの塩化ナトリウム、6.44g/Lの硫酸アンモニウム、1.6g/Lの一塩基性リン酸カリウム、1.74g/Lの二塩基性リン酸カリウム、12.87g/Lのグルタミン酸一ナトリウム、0.1g/Lの無水塩化カルシウム、1mg/Lの硫酸銅、1mg/Lの硫酸亜鉛、0.5mg/Lのモリブデン酸ナトリウム、0.5mg/Lの塩化コバルト(II)、0.5mg/Lの塩化マンガン、0.5mg/Lの硫酸ニッケル、0.03mg/LのビタミンB12、0.03mg/Lのビオチン及び6mg/Lのチアミン塩酸塩を含有する20Lの培地に接種し、22℃、25℃及び28℃の条件の下で30L容の発酵槽で培養した。撹拌を325rpmで開始し、365rpmに上昇させ、pH6.0で大気中の空気によって0.3vvmで曝気を維持した。pHは塩基(27%のNH4OH)の添加によって維持した。容器に流加を行って750g/Lのグルコース溶液によるおよそ3g/L/時のグルコース消費速度を維持した。細胞を様々な間隔で採取し、バイオマス、TFA及び脂質プロファイルを測定した。25及び28℃での最終G3プロファイルの特徴を表9に示す。脂質プロファイルを表10、表11及び表12に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【手続補正書】
【提出日】2022-12-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0026】
提供される微生物性油及びバイオマスを生産するのに有用となる真核微生物としては、Oblongichytrium属、Aurantiochytrium属、Thraustochytrium属、Schizochytrium属及びUlkenia属から選択される微生物、またはその任意の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。任意選択的に、油産生真核微生物は、寄託された微生物の18S配列に示される核酸配列との少なくとも97%、98%、99%または100%の同一性を有する18S配列を有する微生物である。任意選択的に、油産生微生物は、株Aurantiochytrium limacinumの微生物である。任意選択的に、真核微生物は、2016年7月22日にカナダ公衆衛生庁国立微生物研究所のカナダ国際寄託局(IDAC)、1015 Arlington Street,Winnipeg,Manitoba Canada R3E 3R2に寄託されてIDAC指定の受託番号220716-01を有する微生物と同じである。この寄託物は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約の下に管理されることになる。この寄託物は、例示的なものであり、単に当業者のための便宜として作られたにすぎず、寄託物が特許性のために必要とされることを容認するものではない。本明細書において、「G3」、「G3-1」または「G3-1株」または「株G3-1」という用語は、IDAC受託番号220716-01を有する真核微生物を指して互換的に使用される。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0038
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0038】
上記のとおり、提供される方法に有用となる真核微生物としては、Oblongichytrium属、Aurantiochytrium属、Thraustochytrium属、Schizochytrium属及びUlkenia属から選択される微生物、またはその任意の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。任意選択的に、油産生真核微生物は、寄託された微生物の18S配列に示される配列との少なくとも97%、98%、99%または100%の同一性を有する18S配列を有する微生物である。任意選択的に、真核微生物はIDAC受託番号220716-01を有する。
【国際調査報告】