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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】燃料潤滑性改良剤およびその応用
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/19 20060101AFI20230518BHJP
   C10L 10/08 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
C10L1/19
C10L10/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559996
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(85)【翻訳文提出日】2022-11-30
(86)【国際出願番号】 CN2021083943
(87)【国際公開番号】W WO2021197323
(87)【国際公開日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】202010237464.X
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010240138.4
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503191287
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】509059424
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司石油化工科学研究院
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】藺建民
(72)【発明者】
【氏名】夏▲シン▼
(72)【発明者】
【氏名】李寶石
(72)【発明者】
【氏名】李妍
【テーマコード(参考)】
4H013
【Fターム(参考)】
4H013CE03
(57)【要約】
燃料潤滑性改良剤およびその応用であって、前記燃料潤滑性改良剤は、構造式(I)によって表されるジカルボン酸モノエステル化合物を含有し、
【化1】

は、単結合、置換もしくは非置換のC2-6の二価アルケニル基、または、-R-R-R-の構造を有する基を表し、Rは、置換もしくは非置換のC1-40ヒドロカルビル基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に、単結合、または、置換もしくは非置換のC1-3の二価アルキル基を表し、Rは、置換もしくは非置換のC3-12の二価脂環式基を表す。該燃料潤滑性改良剤は、燃料の潤滑性を有意に改良することができ、低用量で用いることができ、かつ、潤滑性改良剤の使用コストを有意に低減させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式(I)によって表されるジカルボン酸モノエステル化合物を含有する燃料潤滑性改良剤であって、
【化1】

は、単結合、置換もしくは非置換のC2-6の二価アルケニル基、または、-R-R-R-の構造を有する基を表し、
は、置換もしくは非置換のC1-40ヒドロカルビル基を表し、
およびRは、それぞれ独立に、単結合、または、置換もしくは非置換のC1-3の二価アルキル基を表し、
は、置換もしくは非置換のC3-12の二価脂環式基を表し、
前記「置換」とは、少なくとも1つのC1-4直鎖もしくは分岐鎖のヒドロカルビル基で置換されていることを意味する、燃料潤滑性改良剤。
【請求項2】
は、単結合、置換もしくは非置換のC2-4の二価アルケニル基、または、-R-R-R-の構造を有する基を表し、
は、置換もしくは非置換のC1-18ヒドロカルビル基を表し、
およびRは、それぞれ独立に、単結合またはメチレン基を表し、
は、置換もしくは非置換のC3-10の二価脂環式基を表す、請求項1に記載の潤滑性改良剤。
【請求項3】
は、C1-18の直鎖もしくは分岐鎖のヒドロカルビル基、C4-18の脂環式ヒドロカルビル基、および、C7-18のアリール置換ヒドロカルビル基またはヒドロカルビル置換アリール基からなる群から選ばれる、請求項1に記載の潤滑性改良剤。
【請求項4】
前記ジカルボン酸モノエステル化合物は、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、イタコン酸モノエステル、シトラコン酸モノエステル、メチルフマル酸モノエステル、2,3-ジメチルマレイン酸モノエステル、グルタコン酸モノエステルまたはこれらの任意の組合せの群から選ばれ、
好ましくは、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノ-n-プロピル、マレイン酸モノ-n-ブチル、マレイン酸モノ-n-オクチル、マレイン酸モノ-n-ノニル、マレイン酸モノ-n-デシル、マレイン酸モノ-n-ドデシル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノ-n-プロピル、イタコン酸モノ-n-ブチル、イタコン酸モノ-n-オクチル、イタコン酸モノ-n-デシル、イタコン酸モノ-n-ドデシル、マレイン酸モノイソプロピル、マレイン酸モノイソブチル、マレイン酸モノ-sec-ブチル、マレイン酸モノ-tert-ブチル、マレイン酸モノイソオクチル(マレイン酸モノ-2-エチルヘキシル)、マレイン酸モノイソノニル、マレイン酸モノイソデシル、マレイン酸モノイソウンデシル、マレイン酸モノイソトリデシル、イタコン酸モノイソプロピル、イタコン酸モノイソブチル、イタコン酸モノイソオクチル、イタコン酸モノイソノニル、イタコン酸モノイソデシル、イタコン酸モノイソウンデシル、イタコン酸モノイソトリデシル、マレイン酸モノ-3-ヘキセン-1-イル、マレイン酸モノオレイル、イタコン酸モノ-3-ヘキセン-1-イル、イタコン酸モノオレイル、マレイン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノ-p-ノニルフェニル、イタコン酸モノ-p-ノニルフェニル、マレイン酸モノベンジル、イタコン酸モノベンジルまたはこれらの任意の組合せからなる群から選ばれる、請求項1に記載の潤滑性改良剤。
【請求項5】
前記ジカルボン酸モノエステル化合物は、1,2-シクロペンタンジカルボン酸モノエステル、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、テトラヒドロフタル酸モノエステル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノエステル、メチルテトラヒドロフタル酸モノエステル、1-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、3-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、4-メチル-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸モノエステル、3-メチル-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸モノエステルまたはこれらの任意の組合せからなる群から選ばれ、
好ましくは、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、テトラヒドロフタル酸モノエステル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノエステル、メチルテトラヒドロフタル酸モノエステルまたはこれらの任意の組合せからなる群から選ばれる、請求項1に記載の潤滑性改良剤。
【請求項6】
燃料成分と、請求項1~5のいずれか1項に記載の潤滑性改良剤とを含む燃料組成物であって、前記燃料の質量を100%としたとき、前記ジカルボン酸モノエステル化合物の含有量は5-400ppmである、燃料組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の潤滑性改良剤を前記燃料に添加する工程を含み、前記燃料の質量を100%としたとき、前記ジカルボン酸モノエステル化合物の使用量は5-400ppmである、燃料の潤滑性を改良する方法。
【請求項8】
ジカルボン酸モノエステル化合物が、以下の構造式(I)を有し、
【化2】

は、単結合、置換もしくは非置換のC2-6の二価アルケニル基、または、-R-R-R-の構造を有する基を表し、
は、置換もしくは非置換のC1-40ヒドロカルビル基を表し、
およびRは、それぞれ独立に、単結合、または、置換もしくは非置換のC1-3の二価アルキル基を表し、
は、置換もしくは非置換のC3-12の二価脂環式基を表し、
前記「置換」とは、少なくとも1つのC1-4直鎖もしくは分岐鎖のヒドロカルビル基で置換されていることを意味する、ジカルボン酸モノエステル化合物の燃料潤滑性改良剤としての使用。
【請求項9】
前記ジカルボン酸モノエステル化合物は、請求項2~5のいずれか1項に規定された通りである、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
【化3】

は、置換もしくは非置換のC2-6の二価アルケニル基、または、-R-R-R-の構造を有する基を表し、
は、置換もしくは非置換のC5-14の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表し、
およびRは、それぞれ独立に、単結合、または、置換もしくは非置換のC1-3の二価アルキル基を表し、
は、置換もしくは非置換のC3-6の二価脂環式基を表し、
前記「置換」とは、少なくとも1つのC1-4の直鎖もしくは分岐鎖のヒドロカルビル基で置換されていることを意味する、燃料潤滑性改良剤としての使用に好適な、構造式(I)のジカルボン酸モノエステル化合物。
【請求項11】
マレイン酸モノイソノニル(マレイン酸モノ-7-メチル-1-オクチル)、マレイン酸モノイソウンデシル、マレイン酸モノイソトリデシル、イタコン酸モノイソアミル、イタコン酸モノイソノニル(イタコン酸モノ-3,5,5-トリメチルヘキシル)、イタコン酸モノ-7-メチルオクチル、イタコン酸モノイソデシル、イタコン酸モノイソウンデシル、イタコン酸モノイソトリデシル、シクロヘキサンジカルボン酸モノイソノニル、ヘキサヒドロフタル酸モノイソノニル、および、メチルヘキサヒドロフタル酸モノイソノニルからなる群から選ばれる、請求項10に記載のジカルボン酸モノエステル化合物。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(関連出願の相互援用)
本願は、出願人が2019年3月30日に提出した、中国出願番号202010237464.X、発明名称「ディーゼル燃料用潤滑添加剤組成物、その調製方法およびディーゼル燃料組成物」の特許出願の優先権、および、2019年3月30日に提出した、中国出願番号202010240138.4、発明名称「ディーゼル燃料用潤滑添加剤組成物、その調製方法およびディーゼル燃料組成物」の特許出願の優先権を主張するとともに、これら特許出願の内容の全文は参照により本願に組み込まれる。
〔技術分野〕
本願は、燃料添加剤の分野に関し、具体的にはエステル系の燃料潤滑性改良剤、その調製方法およびその応用に関する。
〔背景技術〕
低硫黄ディーゼルの潤滑性が悪いため、低硫黄ディーゼル燃料および超低硫黄ディーゼル燃料は、しばしば、潤滑性改良剤(潤滑性添加剤または耐摩耗剤としても知られる)で調整され、その潤滑性が改良される。この方法は、低コスト、柔軟な生産性、低汚染などの利点があり、産業界で広く注目されている。現在産業界で使用される低硫黄ディーゼル燃料用の潤滑性添加剤は、主に、酸系の潤滑性添加剤およびエステル系の潤滑性添加剤として分類される。酸系潤滑性添加剤は、主に、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの長鎖不飽和脂肪酸を含み、代表的な製品は、精製したトール油脂肪酸である。エステル系潤滑性添加剤は、上記脂肪酸とポリオールとのエステル化反応による生成物である。ディーゼル燃料の潤滑性の課題を解決するために脂肪酸系潤滑性添加剤を使用する場合、コストは比較的低いが、ディーゼル燃料の排出基準のグレードアップおよびディーゼル燃料の潤滑性の悪化に起因して、使用量が増加するため、ディーゼル燃料の過剰な酸度、腐食リスクの増加などの問題が起こり得る。脂肪酸エステル系潤滑性添加剤は、使用量は少ないものの、高コスト、および、調整されたディーゼル燃料が水と接触した際に乳化および混濁するという問題に煩わされ得る。
【0002】
航空機用タービンエンジンの燃料噴射システムは、燃料により全ての部材の潤滑が実現されるが、燃料の潤滑性が劣化すると、燃料プランジャーポンプの球面の摩耗が激しくなり、燃料噴射圧が低下し、エンジン回転速度が低減し、空中停止事故の原因となることもある。したがって、潤滑性を改良するために、航空燃料は、潤滑性添加剤を添加する必要がある。原料としてオレイン酸、リノール酸およびリノレン酸を主に含む共役または非共役不飽和脂肪酸を用いたディールス・アルダー(Diels-Alder)付加反応による重合によって得られたダイマー酸(Dimer acid)は、現在ほとんどの国で使用される航空燃料潤滑性改良剤の主成分である。しかし、ダイマー酸の潤滑性添加剤の合成コストが高いため、ダイマー酸自体を航空燃料潤滑性改良剤として使用する場合のコストも高くなる。
【0003】
他の燃料に比べ、ガソリンは最も軽く、潤滑性の最も悪い液体燃料である。ガソリンは、天然の耐摩耗性不純物の含有量が極めて低いため、その主成分による潤滑効果が非常に重要である。さらに、改良ガソリンにはまた、水を吸収しやすい酸素含有化合物(例えば、低級アルコールなど)、および、酸化しやすいオレフィンが有意な量含まれているため、ガソリンの潤滑性に悪影響を与える可能性がある。ガソリン潤滑性の改良は、燃料噴射ポンプの摩耗低減およびエンジン寿命の延長だけでなく、エネルギー利用効率の向上および具体的な燃料消費の低減というメリットももたらす。航空燃料およびディーゼル燃料の潤滑性の課題の解決と同様に、ガソリンの潤滑性を改良する効果的な方法は、ガソリンに潤滑性添加剤を添加することである。現在のガソリン潤滑性添加剤は、脂肪アミンまたはエーテルアミンを原料として用いるものが多く、調製コストが高い。また、調製された潤滑性添加剤は窒素含有化合物であり、ガソリンの燃焼中および使用中に窒素酸化物を生成し、排ガス汚染の原因となり、クリーン燃料使用の原則に反している。
【0004】
したがって、本技術分野には、燃料の潤滑性を有意に向上させ、且つ低コストで使用できる燃料潤滑性改良剤に対する切実なニーズがある。
〔発明の概要〕
本願の1つの目的は、燃料の潤滑性を有意に改良することができ、かつ、比較的低用量で使用することができるため、潤滑性改良剤の使用コストを大幅に低減させることができる新規燃料潤滑性改良剤を提供することである。
【0005】
上記目的を達成するために、一態様では、本願は、
構造式(I)によって表されるジカルボン酸モノエステル化合物を含有する燃料潤滑性改良剤であって、
【0006】
【化1】
【0007】
は、単結合、置換もしくは非置換のC2-6の二価アルケニル基、または、-R-R-R-構造を有する基を表し、
は、置換もしくは非置換のC1-40ヒドロカルビル基を表し、
およびRは、それぞれ独立に、単結合、または、置換もしくは非置換のC1-3の二価アルキル基を表し、
は、置換もしくは非置換のC3-12の二価脂環式基を表し、
前記「置換」とは、少なくとも1つのC1-4直鎖もしくは分岐鎖のヒドロカルビル基で置換されていることを意味する、燃料潤滑性改良剤を提供する。
【0008】
別の態様では、本願は、燃料成分と、本願にかかる潤滑性改良剤とを含む燃料組成物であって、前記燃料の質量を100%としたとき、前記ジカルボン酸モノエステル化合物の含有量は5-400ppmである燃料組成物を提供する。
【0009】
別の態様では、本願は、本願にかかる潤滑性改良剤を燃料に添加する工程を含み、前記燃料の質量を100%としたとき、前記ジカルボン酸モノエステル化合物の使用量は5-400ppmである燃料の潤滑性を改良する方法を提供する。
【0010】
さらなる態様では、本願は、
前記ジカルボン酸モノエステル化合物が、以下の構造式(I)を有し、
【0011】
【化2】
【0012】
およびRは前述したように定義される、ジカルボン酸モノエステル化合物の燃料潤滑性改良剤としての使用を提供する。
【0013】
別の態様では、本願は、
【0014】
【化3】
【0015】
は、単結合、置換もしくは非置換のC2-6の二価アルケニル基、または、-R-R-R-構造を有する基を表し、
は、置換もしくは非置換のC5-14直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表し、
およびRは、それぞれ独立に、単結合、または、置換もしくは非置換のC1-3の二価アルキル基を表し、
は、置換もしくは非置換のC3-6の二価脂環式基を表し、
前記「置換」とは、少なくとも1つのC1-4直鎖もしくは分岐鎖のヒドロカルビル基で置換されていることを意味する、燃料潤滑性改良剤としての使用に好適な、構造式(I)のジカルボン酸モノエステル化合物を提供する。
【0016】
本願の燃料潤滑性改良剤は、原料の入手が容易であり、製造がシンプルかつ簡便であり、燃料の潤滑性を大幅に改良でき、添加量が少なく、かつ潤滑性改良剤の使用コストを大幅に低減できるという利点を有する。
【0017】
さらに、本願にかかる燃料潤滑性改良剤は、構造式(I)の不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物を含む場合、ディーゼル燃料の乳化・混濁を引き起こす恐れがなく、乳化防止効果が脂肪酸系潤滑性改良剤と同等であり、脂肪酸グリセリド系潤滑性改良剤よりも優れる。
〔図面の簡単な説明〕
図面は、明細書の一部を構成し、本願をさらに理解するためのものであり、本願を限定するものとして考慮されるべきではない。本願は、以下の詳細な開示と組み合わせて、図面を参照して解釈することができる。
【0018】
図1〕英国PCS社製ディーゼル潤滑性試験機で測定したディーゼル燃料bの摩耗痕写真を示し、補正摩耗痕径(WS1.4)は651μmである。
【0019】
図2〕実施例II-1で得られたマレイン酸モノイソオクチル200mg/kgをディーゼル燃料bに添加した後に測定した摩耗痕写真を示し、補正摩耗痕径(WS1.4)は208μmである。
【0020】
〔発明の詳細な開示〕
以下、本願を、その具体的な実施形態および添付図面を参照しながら、さらに詳細に説明する。本願の具体的な実施形態は、例示目的でのみ提供されるものであり、如何なる態様においても限定することを意図するものではないことに留意すべきである。
【0021】
本願の文脈中に開示されるいかなる具体的な数値(数値範囲の端点を含む)も、当該数値の厳密な値に限定されず、例えば、当該厳密な値±5%範囲内の全ての値など、当該厳密な値に近い全ての値をさらに包含すると解釈されるべきである。また、ここで開示される任意の数値範囲については、任意の組合せが、当該範囲の端点の間、端点値と当該範囲内の任意の具体的な値との間、または、当該範囲内の2つの具体的な値の間でなされ得、1つまたは複数の新たな数値範囲を得ることができる。当該新たな数値範囲も、本願に具体的に開示されているものと見做されるべきである。
【0022】
他で言及しない限り、本明細書で使用されている用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を持つ。用語が本願明細書で定義され、それらの定義が、当該技術分野における通常の理解と異なる場合は、本明細書の定義が優先される。
【0023】
本願において、用語「二価」基とは、対応する化合物から2つの水素原子を除去することによって得られる基である。例えば、用語「C2-6の二価アルケニル基」とは、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘキセンなどの、炭素原子数2-6の直鎖または分岐鎖のオレフィンから2つの水素原子を除去することによって得られる基であり、炭素‐炭素二重結合は該基の主鎖または側鎖に存在することができる。用語「C1-3の二価アルキル基」とは、メチレン、エチレン、プロピレンなどの、炭素原子数1-3のアルカンから2つの水素原子を除去することによって得られる基である。用語「C3-12の二価脂環式基」とは、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキセンなどの、炭素原子数3-12の飽和または不飽和脂環式炭化水素から2つの水素原子を除去することによって得られる基である。
【0024】
本願において、用語「ヒドロカルビル基」とは、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素または芳香族炭化水素から1つの水素原子を除去することによって得られる基である。用語「脂肪族炭化水素」とは、直鎖または分岐鎖の、飽和または不飽和炭化水素である。例えば、C1-40ヒドロカルビル基の例として、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-へキシル、n-オクチル、イソオクチル、n-ノニル、イソノニル、n-デシル、イソデシル、n-ウンデシル、イソウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、イソトリデシル、3-ヘキセン-1-イル、オクタデセニル、シクロへキシル、p-ノニルフェニル、ベンジルなどを挙げることができる。
【0025】
本願の文脈では、明確に説明した内容以外の未記載の事項または内容は、当該分野における既知のものから変更なく、同じであると考えられる。さらに、本明細書中に記載の任意の実施形態を、本願明細書に記載した他の1つまたは複数の実施形態と自由に組み合わせることができる。これによって得られる技術案または技術思想は、当該組み合わせが明らかに非合理的であることが当業者にとって明らかでない限り、本願のオリジナル開示またはオリジナル記載の一部と考えられ、本明細書に開示または予期されていない新規事項と見做されるべきではない。
【0026】
本明細書に記載のすべての特許文献および非特許文献はその全文が援用され、教科書および定期刊行物を含むが、これらに限定されることなく、参照として本明細書に組み込まれる。
【0027】
以上のように、第1態様では、本願は、構造式(I)によって表されるジカルボン酸モノエステル化合物を含有する燃料潤滑性改良剤であって、
【0028】
【化4】
【0029】
は、単結合、置換もしくは非置換のC2-6の二価アルケニル基、または、-R-R-R-構造を有する基を表し、
は、置換もしくは非置換のC1-40ヒドロカルビル基を表し、
およびRは、それぞれ独立に、単結合、または、置換もしくは非置換のC1-3の二価アルキル基を表し、
は、置換もしくは非置換のC3-12の二価脂環式基を表し、
前記「置換」とは、少なくとも1つのC1-4直鎖もしくは分岐鎖のヒドロカルビル基で置換されていることを意味する燃料潤滑性改良剤を提供する。
【0030】
好ましい実施形態では、Rは、単結合、置換もしくは非置換のC2-4の二価アルケニル基、または、-R-R-R-の構造を有する基を表し、Rは、置換もしくは非置換のC1-18ヒドロカルビル基であり、RおよびRは、それぞれ独立に、単結合またはメチレン基を表し、Rは、置換もしくは非置換のC3-10の二価脂環式基を表す。
【0031】
好ましい実施形態では、Rは、C1-18の直鎖もしくは分岐鎖のヒドロカルビル基、C4-18の脂環式ヒドロカルビル基、および、C7-18のアリール置換ヒドロカルビル基またはヒドロカルビル置換アリール基から選ばれる。
【0032】
いくつかの特に好ましい実施形態では、前記ジカルボン酸モノエステル化合物は、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、イタコン酸モノエステル、シトラコン酸モノエステル、メチルフマル酸モノエステル、2,3-ジメチルマレイン酸モノエステル、グルタコン酸モノエステルまたはこれらの任意の組合せからなる群から選ばれる。さらに好ましくは、前記ジカルボン酸モノエステル化合物は、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノ-n-プロピル、マレイン酸モノ-n-ブチル、マレイン酸モノ-n-オクチル、マレイン酸モノ-n-ノニル、マレイン酸モノ-n-デシル、マレイン酸モノ-n-ドデシル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノ-n-プロピル、イタコン酸モノ-n-ブチル、イタコン酸モノ-n-オクチル、イタコン酸モノ-n-デシル、イタコン酸モノ-n-ドデシル、マレイン酸モノイソプロピル、マレイン酸モノイソブチル、マレイン酸モノ-sec-ブチル、マレイン酸モノ-tert-ブチル、マレイン酸モノイソオクチル(マレイン酸モノ-2-エチルヘキシル)、マレイン酸モノイソノニル、マレイン酸モノイソデシル、マレイン酸イソウンデシル、マレイン酸イソトリデシル、イタコン酸モノイソプロピル、イタコン酸モノイソブチル、イタコン酸モノイソオクチル、イタコン酸モノイソノニル、イタコン酸モノイソデシル、イタコン酸モノイソウンデシル、イタコン酸モノイソトリデシル、マレイン酸モノ-3-ヘキセン-1-イル、マレイン酸モノオレイル、イタコン酸モノ-3-ヘキセン-1-イル、イタコン酸モノオレイル、マレイン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノ-p-ノニルフェニル、イタコン酸モノ-p-ノニルフェニル、マレイン酸モノベンジル、イタコン酸モノベンジルまたはこれらの任意の組合せからなる群から選ばれる。
【0033】
特に好ましい別の実施形態では、前記ジカルボン酸モノエステル化合物は、1,2-シクロペンタンジカルボン酸モノエステル、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、テトラヒドロフタル酸モノエステル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノエステル、メチルテトラヒドロフタル酸モノエステル、1-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、3-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、4-メチル-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸モノエステル、3-メチル-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸モノエステルまたはこれらの任意の組合せからなる群から選ばれる。さらに好ましくは、前記ジカルボン酸モノエステル化合物は、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、テトラヒドロフタル酸モノエステル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノエステル、メチルテトラヒドロフタル酸モノエステルまたはこれらの任意の組合せからなる群から選ばれる。
【0034】
本願の燃料潤滑性改良剤は、さらに、適当量の燃料および/または有機溶媒、少量の未反応原料、並びに、ジカルボン酸ジエステル化合物などの必然的な反応副生成物を含んでもよい。
【0035】
第2態様では、本願は、構造式(II)を有するジカルボン酸またはその無水物と、構造式(III)を有するアルコールまたはフェノールとを反応させる工程を含み、
【0036】
【化5】
【0037】
【化6】
【0038】
およびRは前述したように定義される、燃料潤滑性改良剤の調製方法を提供する。
【0039】
好ましい実施形態では、反応条件は、前記ジカルボン酸または無水物と、前記アルコールまたはフェノールとのモル比が1:0.5-1:1.5であり、反応温度が50-250℃であり、反応時間が0.1-10時間であり、反応圧力が常圧または高圧であり、触媒を使用しても使用しなくてもよく、溶媒を使用しても使用しなくてもよいことを含む。
【0040】
さらに好ましい実施形態では、反応条件は、前記ジカルボン酸または無水物と、前記アルコールまたはフェノールとのモル比が1:0.8-1:1.3であり、反応温度が50-200℃であり、反応時間が1-6時間であり、反応圧力が常圧であり、触媒および溶媒を使用しないことを含む。
【0041】
好ましい実施形態では、前記構造式(II)を有するジカルボン酸またはその無水物は、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、2,3-ジメチルマレイン酸、2,3-ジメチル無水マレイン酸などを含むが、これらに限定されない。
【0042】
好ましい実施形態では、前記構造式(III)を有するアルコールまたはフェノールは、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、芳香族アルコールまたはフェノールであり得、炭素数はC1-C30、好ましくはC1-C18である。脂肪族アルコールが用いられる場合、炭素数はC1-C24、好ましくはC1-C18である。脂環式アルコールが用いられる場合、炭素数はC3-C20、好ましくはC4-C10であり、シクロブタノールなどを含むがこれらに限定されない。芳香族アルコールまたはフェノールが用いられる場合、炭素数はC6-C30、好ましくはC7-C18である。
【0043】
本願の方法では、反応は触媒を使用しても使用しなくてもよいが、触媒は、硫酸、塩酸、p-トルエンスルホン酸、リン酸、ホウ酸、酸性イオン交換樹脂などからなる群から選ばれる1種類以上の酸触媒;1-ブチルピリジン/AlClイオン液体などのイオン液体触媒;FeCl、AlClなどの1種類以上の無機塩固相触媒;ZSM-5、HZSM-5、Al-MCM-41などの1種類以上のゼオライト触媒;PW12/MCM-41、SiW12/MCM-41などの1種類以上のヘテロポリ酸触媒;SO 2-/ZrO-TiO、SO 2-/TiO-Alなどの固体超酸触媒;NaOH、KOH、ナトリウムメトキシド、固体超強塩基、NaHなどのアルカリ触媒であり得る。反応は、溶媒を使用しても使用しなくてもよいが、溶媒は、アルカンおよび芳香族炭化水素などの炭化水素、例えば、石油エーテル、ガソリン、トルエン、キシレンなどであり得る。
【0044】
本願によれば、反応終了後、(触媒を使用した場合)濾過によって触媒を除去した生成物を、本願の燃料潤滑性改良剤として直接的に使用してもよいが、代わりに、潤滑性添加剤製品の規格用件に従って、溶媒および未反応原料を除去するなど、生成物に対して分離および精製を行ってもよい。規格用件を満たす溶媒および未反応原料は、本願の潤滑性添加剤の性能に影響を与えず、これらの成分は燃料に添加しても燃料の性能に悪影響を及ぼさない。
【0045】
本願によれば、反応生成物に適量の燃料を添加することにより、燃料潤滑性添加剤濃縮物を得ることができる。
【0046】
第3態様では、本願は、燃料成分と、本願にかかる燃料潤滑性改良剤とを含み、前記燃料成分の質量を100%としたとき、前記ジカルボン酸モノエステル化合物の含有量は5-400ppmであり、好ましくは10-300ppmである燃料組成物を提供する。
【0047】
好ましい実施形態では、前記燃料成分は、ディーゼル燃料、ガソリンおよび航空燃料から選ばれ得る。
【0048】
いくつかの好ましい実施形態では、前記燃料組成物は、ディーゼル燃料成分と、本願にかかる燃料潤滑性改良剤とを含み、前記ディーゼル燃料成分の質量を100%としたとき、前記ジカルボン酸モノエステル化合物の含有量は10-400ppmであり、好ましくは50-300ppmであるディーゼル燃料組成物である。
【0049】
本発明によれば、前記ディーゼル燃料は各種の低硫黄ディーゼルエンジン燃料を含んでもよい。例えば、前記燃料は、原油(石油)を精油所で大気圧および真空蒸留、接触分解、接触改質、コークス化、水素化精製、水素化分解などの種々の精製処理によって加工することによって調製される160-380℃の蒸留範囲を有する留分からのブレンドによって得られる、自動車用ディーゼル燃料の中国国家規格GB/T19147に適合する圧縮着火式内燃機関用燃料であってもよい。
【0050】
前記ディーゼル燃料は、第二世代バイオディーゼル油であってもよい。第二世代バイオディーゼル油は、植物油および動物性脂肪等の再生可能資源に由来し、通常、精製所での水素化処理により、植物油を水素化して調製された、分岐鎖の、または非分岐鎖の長鎖炭化水素を含む。第二世代バイオディーゼル油は石油ベース燃料と同様の性質および品質を有してもよい。
【0051】
前記ディーゼル燃料は、第三世代バイオディーゼル油であってもよい。第三世代バイオディーゼル油は、ガス化およびフィッシャー・トロプシュ技術によって、木屑、作物藁、固形廃棄物などのセルロース含有量の高い、非石油バイオマスと、微生物油脂とから調製される。
【0052】
前記ディーゼル燃料は、石炭液化ディーゼル燃料(CTL)であってもよい。つまり、石炭を原料とし、フィッシャー・トロプシュ合成により得られるディーゼル燃料、または、石炭を直接液化して得られるディーゼル燃料である。前記ディーゼル燃料はまた、石油ベースのディーゼル燃料に、酸素含有ディーゼル燃料ブレンド成分を添加して得られる混合ディーゼル燃料であってもよい。ここで、前記酸素含有ディーゼル燃料ブレンド成分は、特定の規格用件を満たす種々のディーゼル燃料とブレンドすることができる酸素含有化合物または酸素含有化合物の混合物を指す。そして、前記酸素含有ディーゼル燃料ブレンド成分は、通常、アルコール類およびエーテル類、またはこれらの混合物であり、例えば、エタノール、ポリオキシメチレンジメチルエーテル(Polyoxymethylene dimethyl ethers、略称:PODEn、DMMnまたはOME)などである。
【0053】
使用の必要性に応じて、本願のディーゼル燃料組成物は、例えば、フェノール系酸化防止剤、高分子アミン系無灰分散剤、流動性改良剤、セタン価改良剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、防腐剤、防錆剤、および乳化破壊剤のうちの1種類以上の添加剤をさらに含有してもよい。
【0054】
前記高分子アミン系無灰分散剤は、アルケニルスクシンイミドおよび/またはアルケニルコハク酸アミド、マンニッヒ塩基系無灰分散剤、ポリエーテルアミン系無灰分散剤およびポリオレフィンアミン系無灰分散剤のうちの1種類以上を含む。前記流動性改良剤は、好ましくは(メタ)アクリレートのホモポリマー、および/または、エチレンと酢酸ビニルとの重合物である。前記セタン価改良剤は、硝酸エステルまたは過酸化物であってもよく、例えば、硝酸イソオクチル、ジ-tert-ブチルパーオキサイドなどが挙げられる。金属不活性化剤は、ベンゾトリアゾールと脂肪アミンとで形成されるアンモニウム塩、ベンゾトリアゾールとホルムアルデヒドと脂肪アミンとをマンニッヒ反応させて得られる生成物、シッフ塩基および有機ポリカルボン酸のうちの1種類以上であってもよい。
【0055】
いくつかの好ましい実施形態では、前記燃料組成物は、航空燃料成分と、本願にかかる燃料潤滑性改良剤とを含み、前記航空燃料成分の質量を100%としたとき、前記ジカルボン酸モノエステル化合物の含有量は5-200ppmであり、好ましくは5-50ppmである航空燃料組成物である。
【0056】
本願によれば、前記航空燃料は航空タービンエンジン用の燃料であってよく、石油精製の大気圧蒸留によって得られた最初の大気の側流の留分から形成される航空燃料、水素化処理工程により製造される水素化精製・水素化分解成分、例えば、GB6537に従って製造される第3号航空燃料;または、石炭の直接液化および石炭の間接液化(フィッシャー・トロプシュ合成)を含む石炭液化により製造される航空燃料成分;または、合成ガスからフィッシャー・トロプシュ合成により製造される航空燃料成分;または、再生可能なバイオマス原料から製造される航空燃料、例えば、動物性脂肪および植物性油脂の水素化脱酸素により製造される炭化水素航空燃料、または廃油、またはセルロースもしくはヘミセルロースを原料として、各種の触媒反応により製造される航空燃料成分などであってよい。
【0057】
また、使用の必要性に応じて、本願の航空燃料組成物は、例えば、ナフテン酸またはダイマー酸系潤滑性添加剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、防錆剤、および防氷剤のうち1種類以上の他の添加剤を含んでもよい。
【0058】
いくつかの好ましい実施形態では、前記燃料組成物は、ガソリン成分と、本願にかかる燃料潤滑性改良剤とを含み、前記ガソリン成分の質量を100%としたとき、前記ジカルボン酸モノエステル化合物の含有量は5-400ppmであり、好ましくは10-300ppmである、ガソリン組成物である。
【0059】
本願によれば、前記ガソリンは、30-220℃の蒸留範囲を有する精製石油留分であり、適当な添加剤を含んでもよく、自動車用ガソリンおよび航空ピストンエンジン燃料(航空ガソリンとしても知られる)を含む点火機関用燃料として好適に使用される。自動車用ガソリンは、主に接触分解ガソリン、改質ガソリン、芳香族炭化水素、アルキル化ガソリン、異性化ガソリンなどを含み、リサーチオクタン価により89号、92号、95号および98号の4等級に分けられる。本願明細書に記載されたガソリンは、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)、エチル-tert-ブチルエーテル(ETBE)、tert-アミル-メチルエーテル(TAME)、ジイソプロピルエーテル(DIPE)、メタノール、エタノール、ブタノールなどの、各種の酸素含有化合物を含んでもよい。前記ガソリンは、GB17930、GB18351、およびGB1787の規格を満たす自動車用ガソリン、自動車用エタノールガソリンおよび航空ガソリンであってもよい。
【0060】
使用の必要性に応じて、本願のガソリン組成物は、例えば、酸化防止剤、防錆剤、清浄分散剤、およびアンチノック剤のうち1種類以上の添加剤をさらに含んでもよい。
【0061】
第4態様では、本願は、本願にかかる潤滑性改良剤を燃料に添加する工程を含み、前記燃料の質量を100%としたとき、前記ジカルボン酸モノエステル化合物の使用量は5-400ppmであり、好ましくは10-300ppmである燃料の潤滑性を改良する方法を提供する。
【0062】
いくつかの好ましい実施形態では、前記方法は、本願にかかる潤滑性改良剤を低硫黄ディーゼル燃料に添加することを含み、前記ディーゼルの質量を100%としたとき、前記ジカルボン酸モノエステル化合物の使用量は10-400ppmであり、好ましくは50-300ppmである。
【0063】
いくつかの好ましい実施形態では、前記方法は、本願にかかる潤滑性改良剤を航空燃料に添加することを含み、前記航空燃料の質量を100%としたとき、前記ジカルボン酸モノエステル化合物の使用量は5-200ppmであり、好ましくは5-50ppmである。
【0064】
いくつかの好ましい実施形態では、前記方法は、本願にかかる潤滑性改良剤をガソリンに添加することを含み、前記ガソリンの質量を100%としたとき、前記ジカルボン酸モノエステル化合物の使用量は5-400ppmであり、好ましくは10-300ppmである。
【0065】
第5態様では、本願は、燃料潤滑性改良剤としてのジカルボン酸モノエステル化合物の使用を提供し、前記ジカルボン酸モノエステル化合物は以下の構造式(I)を有し、
【0066】
【化7】
【0067】
およびRは前述したように定義される。
【0068】
第6態様では、本願は、燃料潤滑性改良剤として好適な構造式(I)のジカルボン酸モノエステル化合物を提供する。
【0069】
【化8】
【0070】
ここで、Rは、単結合、置換もしくは非置換のC2-6の二価アルケニル基、または、-R-R-R-の構造を有する基を表し、
は、置換もしくは非置換のC5-14の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表し、
およびRは、それぞれ独立に、単結合、または、置換もしくは非置換のC1-3の二価アルキル基を表し、
は、置換もしくは非置換のC3-6の二価脂環式基を表し、
前記「置換」とは、少なくとも1つのC1-4の直鎖もしくは分岐鎖のヒドロカルビル基で置換されていることを意味する。
【0071】
好ましい実施形態では、前記ジカルボン酸モノエステル化合物は、以下の構造式を有する化合物から選ばれる。
【0072】
【表1】
【0073】
以下、本願の燃料潤滑性改良剤について、2つの具体的な実施形態を詳しく説明する。
【0074】
第1部類の実施形態
第1部類の実施形態では、本願の燃料潤滑性改良剤は、構造式(I-1)の化合物からなる群より選ばれる環状ジカルボン酸モノエステル化合物を少なくとも含み、
【0075】
【化9】
【0076】
ここで、nは1-8の整数、mは0-3の整数、xは0-8の整数、y1およびy2は0-2の整数、RはC1-30のヒドロカルビル基を表す。
【0077】
好ましい実施形態では、nは1-6の整数、mは0-1の整数、xは0-6の整数、y1およびy2は0-2の整数、RはC1-18のヒドロカルビル基を表す。
【0078】
さらに好ましい実施形態では、nは4または5、mは0、xは0-6の整数、y1およびy2は0-1の整数、RはC4-12のヒドロカルビル基を表す。
【0079】
特に好ましい実施形態では、
nが1、xが0、y1およびy2が1、mが0のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は1,2-シクロプロパンジカルボン酸モノエステルであり、
nが1、xが0、y1およびy2が1、mが1のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は1,2-シクロプロパン二酢酸モノエステルであり、
nが1、xが2、y1およびy2が2、mが0のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は1,1-シクロプロパンジカルボン酸モノエステルであり、
nが2、xが0、y1およびy2が1、mが0のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は1,2-シクロブタンジカルボン酸モノエステルであり、
nが2、xが0、y1およびy2が1、mが1のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は1,2-シクロブタン二酢酸モノエステルであり、
nが3、xが0、y1およびy2が1、mが0のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は1,2-シクロペンタンジカルボン酸モノエステルであり、
nが3、xが0、y1およびy2が1、mが1のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は1,2-シクロペンタン二酢酸モノエステルであり、
nが3、xが1、y1およびy2のうちの一方が1且つ他方が2、mが0のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は1,3-シクロペンタンジカルボン酸モノエステルであり、
nが4、xが0、y1およびy2が1、mが0のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステルであり、
nが4、xが0、y1およびy2が1、mが1のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は1,2-シクロヘキサン二酢酸モノエステルであり、
nが4、xが1、y1およびy2のうちの一方が1且つ他方が2、mが0のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は1,3-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステルであり、
nが4、xが2、y1およびy2が2、mが0のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は1,4-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステルであり、
nが4、xが2、y1およびy2が1、mが0のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸モノエステル(テトラヒドロフタル酸モノエステルとも呼ばれる)であり、
nが4、xが2、y1およびy2が1、mが1のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は4-シクロヘキセン-1,2-二酢酸モノエステルであり、
nが5、xが0、y1およびy2が1、mが0のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物は3-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル(3-メチルヘキサヒドロフタル酸モノエステルとも呼ばれる)、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル(4-メチルヘキサヒドロフタル酸モノエステルとも呼ばれる)などであり、
nが5、xが2、y1およびy2が1、mが0のとき、構造式(I-1)のモノエステル化合物はメチルテトラヒドロフタル酸モノエステル、4-メチル-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸モノエステル、3-メチル-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸モノエステルなどである。
【0080】
本願によれば、好ましくは、前記環状ジカルボン酸モノエステル化合物は、1,2-シクロペンタンジカルボン酸モノエステル、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、テトラヒドロフタル酸モノエステル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノエステル、メチルテトラヒドロフタル酸モノエステル、1-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、3-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、4-メチル-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸モノエステル、3-メチル-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸モノエステルからなる群より選ばれる。さらに、好ましくは、前記環状ジカルボン酸モノエステル化合物は、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、テトラヒドロフタル酸モノエステル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノエステル、およびメチルテトラヒドロフタル酸モノエステルからなる群より選ばれる。
【0081】
本願によれば、構造式(I-1)中のR基は、脂肪族ヒドロカルビル基、脂環式ヒドロカルビル基、または芳香族ヒドロカルビル基であってもよい。前記脂肪族炭化水素は、直鎖であっても分岐鎖を有してもよく、飽和脂肪族炭化水素であっても不飽和脂肪族炭化水素であってもよい。不飽和脂肪族炭化水素は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合(エチレン結合)または少なくとも1つの炭素-炭素三重結合(アセチレン結合)を含む脂肪族炭化水素であってもよい。前記脂環式炭化水素は、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)であっても不飽和脂環式炭化水素であってもよい。前記芳香族炭化水素は、単環式芳香族炭化水素であっても二環式または多環式芳香族炭化水素であってもよい。脂環式炭化水素および芳香族炭化水素は、その環に各種の置換基を有してもよい。
【0082】
好ましい実施形態では、Rは、C1-18脂肪族ヒドロカルビル基、C4-18脂環式ヒドロカルビル基、および、C7-18アリール置換ヒドロカルビル基またはヒドロカルビル置換アリール基からなる群より選ばれる。
【0083】
本願によれば、Rが飽和脂肪族ヒドロカルビル基の場合、Rは直鎖アルキル基でも分岐アルキル基でもよい。Rが直鎖アルキル基の場合、好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-へキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、モノ-n-ドデシル基(ラウリルエステル基)、n-テトラデシル基、n-ヘキサデシル基、n-オクタデシル基などである。Rが分岐アルキル基の場合、好ましくは、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、イソペンチル基、イソへキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基(特に2-エチルへキシル基)、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソトリデシル基、イソペンタデシル基、イソヘプタデシル基などである。
【0084】
本願によれば、Rが不飽和脂肪族ヒドロカルビル基の場合、好ましくは、アリル、2-ブテニル、3-ブテニル、イソペンテニル、3-ヘキセニル、2-オクテニル、3-ノネニル、2-デセニル、7-ドデセニル、1,5-ヘキサジエニル、2,4-ノナジエニル、2,4-デカジエニル、9,11-ドデカジエニル、9-オクタデセニル等である。
【0085】
本願によれば、Rが脂環式ヒドロカルビル基の場合、好ましくはシクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、3-シクロヘキセニル基、2-シクロヘキセニル基などである。
【0086】
また、Rは、置換されたアリール基、例えば、フェニル、メチルフェニル、p-ノニルフェニル、p-ドデシルフェニルなどであってもよい。また、Rは、芳香環を有する脂肪族ヒドロカルビル基、例えばベンジル(フェニルメチル)、フェニルエチルなどであってもよい。
【0087】
特に好ましい実施形態では、前記環状ジカルボン酸モノエステル化合物は、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノブチル、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノオクチル、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノイソオクチル、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノイソノニル、テトラヒドロフタル酸モノブチル、テトラヒドロフタル酸モノオクチル、テトラヒドロフタル酸モノイソオクチル、テトラヒドロフタル酸モノイソノニル、フタル酸モノブチル、フタル酸モノオクチル、フタル酸モノイソオクチル、フタル酸モノ-sec-オクチル、フタル酸モノイソノニル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノブチル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノブチル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノオクチル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノイソオクチル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノイソノニル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノラウリル、メチルテトラヒドロフタル酸モノブチル、メチルテトラヒドロフタル酸モノオクチル、メチルテトラヒドロフタル酸モノイソオクチル、メチルテトラヒドロフタル酸モノイソノニル、メチルテトラヒドロフタル酸モノラウリルなどからなる群より選ばれる。
【0088】
第1部類の実施形態では、本願の燃料潤滑性改良剤は、構造式(II)のC5-18環状ジカルボン酸またはその無水物と、構造式(III)のC1-30アルコールまたはフェノールとを反応させることにより調製され、構造式(I-1)の環状ジカルボン酸モノエステル化合物が製造される。
【0089】
好ましい実施形態では、前記反応条件は、C5-18環状ジカルボン酸またはその無水物と、C1-30アルコールまたはフェノールとのモル比が1:0.5-1:1.5であり、反応温度が50-250℃であり、反応時間が0.1-10時間であることを含む。
【0090】
第2部類の実施形態
第2部類の実施形態では、本願の燃料潤滑性改良剤は、構造式(I-2)によって表される不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物を少なくとも含み、
【0091】
【化10】
【0092】
ここで、nは2-6の整数、RはC1-40のヒドロカルビル基である。
【0093】
好ましい実施形態では、nは2-4の整数、RはC1-18のヒドロカルビル基である。
【0094】
本願によれば、前記不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物とは、分子中に炭素-炭素不飽和二重結合を有するC4-8ジカルボン酸化合物のいずれか1つのカルボキシル基をエステル化することによって得られるモノエステルを指す。
【0095】
好ましい実施形態では、nが2の場合、構造式(I-2)によって表される化合物は、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステルであり、nが3の場合、構造式(I-2)によって表される化合物は、イタコン酸モノエステル、シトラコン酸モノエステル(メチルマレイン酸モノエステル)、メサコン酸モノエステル(メチルフマル酸モノエステル)、グルタコン酸モノエステルなどであり、nが4の場合、構造式(I-2)によって表される化合物は、好ましくは、2,3-ジメチルマレイン酸モノエステル、エチルマレイン酸モノエステル、ヘキセン二酸モノエステルなどである。
【0096】
好ましい実施形態では、前記不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物は、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、イタコン酸モノエステル、シトラコン酸モノエステル(メチルマレイン酸モノエステル)、メサコン酸モノエステル(メチルフマル酸モノエステル)、2,3-ジメチルマレイン酸モノエステル、グルタコン酸モノエステルなどからなる群より選ばれる。
【0097】
特に好ましい実施形態では、前記不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物は、構造式(I-2-1)によって表されるマレイン酸モノエステル、および、構造式(I-2-2)または構造式(I-2-3)によって表されるイタコン酸モノエステルから選ばれる。
【0098】
【化11】
【0099】
【化12】
【0100】
【化13】
【0101】
ここで、RはC1-30のヒドロカルビル基であり、好ましくは、C1-18のヒドロカルビル基である。
【0102】
本願によれば、構造式(I-2)、(I-2-1)、(I-2-2)および(I-2-3)中のR基は、脂肪族ヒドロカルビル基、脂環式ヒドロカルビル基、または芳香族ヒドロカルビル基であってよい。前記脂肪族炭化水素は、直鎖であっても分岐鎖であってもよく、飽和脂肪族炭化水素であっても不飽和脂肪族炭化水素であってもよい。不飽和脂肪族炭化水素は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合(エチレン結合)または少なくとも1つの炭素-炭素三重結合(アセチレン結合)を有する脂肪族炭化水素であってもよい。前記脂環式炭化水素は、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)であっても不飽和脂環式炭化水素であってもよい。前記芳香族炭化水素は、単環式芳香族炭化水素であっても二環式または多環式芳香族炭化水素であってもよい。脂環式炭化水素および芳香族炭化水素は、その環に各種の置換されたヒドロカルビル基を有してもよい。さらに、好ましくは、Rは、C1-18脂肪族ヒドロカルビル基、C4-18脂環式ヒドロカルビル基、およびC7-18アリール置換ヒドロカルビル基またはアルキル置換ヒドロカルビル基である。
【0103】
本願によれば、Rが飽和脂肪族ヒドロカルビル基の場合、直鎖アルキル基でも分岐アルキル基でもよい。Rが直鎖アルキル基の場合、構造式(I-2-1)の化合物は、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノ-n-プロピル、マレイン酸モノ-n-ブチル、マレイン酸モノ-n-ペンチル、マレイン酸モノ-n-ヘキシル、マレイン酸モノ-n-ヘプチル、マレイン酸モノ-n-オクチル、マレイン酸モノ-n-ノニル、マレイン酸モノ-n-デシル、マレイン酸モノ-n-ウンデシル、マレイン酸モノ-n-ドデシル(ラウリルエステル)、マレイン酸モノ-n-テトラデシル、マレイン酸モノ-n-ヘキサデシル、マレイン酸モノ-n-オクタデシルなどからなる群より選ばれてもよく、好ましくはマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノ-n-プロピル、マレイン酸モノ-n-ブチル、マレイン酸モノ-n-オクチル、マレイン酸モノ-n-ノニル、マレイン酸モノ-n-デシル、マレイン酸モノ-n-ドデシルなどからからなる群より選ばれる。構造式(I-2-2)および(I-2-3)の化合物は、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノ-n-プロピル、イタコン酸モノ-n-ブチル、イタコン酸モノ-n-ペンチル、イタコン酸モノ-n-ヘキシル、イタコン酸モノ-n-ヘプチル、イタコン酸モノ-n-オクチル、イタコン酸モノ-n-ノニル、イタコン酸モノ-n-デシル、イタコン酸モノ-n-ウンデシル、イタコン酸モノ-n-ドデシル(イタコン酸ラウリル)、イタコン酸モノ-n-テトラデシル、イタコン酸モノ-n-ヘキサデシル、イタコン酸モノ-n-オクタデシルなどからなる群より選ばれてもよく、好ましくは、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノ-n-プロピル、イタコン酸モノ-n-ブチル、イタコン酸モノ-n-オクチル、イタコン酸モノ-n-デシル、イタコン酸モノ-n-ドデシル(イタコン酸ラウリル)などからなる群より選ばれる。
【0104】
本願によれば、Rが分岐アルキル基の場合、構造式(I-2-1)の化合物は、マレイン酸モノイソプロピル、マレイン酸モノイソブチル、マレイン酸モノ-sec-ブチル、マレイン酸モノ-tert-ブチル、マレイン酸モノイソアミル、マレイン酸モノイソヘキシル、マレイン酸モノイソオクチル(マレイン酸モノ-2-エチルヘキシル)、マレイン酸モノイソノニル、マレイン酸モノイソデシル、マレイン酸モノイソウンデシル、マレイン酸モノイソドデシル、マレイン酸モノイソトリデシル、マレイン酸モノイソテトラデシル、マレイン酸モノイソペンタデシル、マレイン酸モノイソヘプタデシルからなる群より選ばれてもよく、好ましくはマレイン酸モノイソプロピル、マレイン酸モノイソブチル、マレイン酸モノ-sec-ブチル、マレイン酸モノイソオクチル、マレイン酸モノイソノニル、マレイン酸モノイソデシル、マレイン酸モノイソウンデシル、マレイン酸モノイソトリデシルなどからなる群より選ばれる。構造式(I-2-2)および(I-2-3)の化合物は、イタコン酸モノイソプロピル、イタコン酸モノイソブチル、イタコン酸モノ-sec-ブチル、イタコン酸モノ-tert-ブチル、イタコル酸イソアミル、イタコン酸モノイソヘキシル、イタコン酸モノイソオクチル(イタコン酸モノ-2-エチルヘキシル)、イタコン酸モノイソノニル、イタコン酸モノイソデシル、イタコン酸モノイソウンデシル、イタコン酸モノイソトリデシルなどからなる群より選ばれてもよく、好ましくは、イタコン酸モノイソプロピル、イタコン酸モノイソブチル、イタコン酸モノイソオクチル(イタコン酸モノ-2-エチルヘキシル)、イタコン酸モノイソノニル、イタコン酸モノイソデシル、イタコン酸モノイソウンデシルなどからなる群より選ばれる。
【0105】
本願によれば、Rが不飽和脂肪族ヒドロカルビル基の場合、構造式(I-2-1)の化合物は、マレイン酸モノアリル、マレイン酸モノ-3-ブチレン-1-イル、マレイン酸モノイソペンテニル、マレイン酸モノ-3-ヘキシン-1-イル、マレイン酸モノ-1-ヘプテン-3-イル、マレイン酸モノメチルヘプテニル、マレイン酸モノ-2-オクテン-1-イル、マレイン酸モノ-3-ノネン-1-イル、マレイン酸モノ-2-デセン-1-イル、マレイン酸モノ-7-ドデセン-1-イル、マレイン酸モノ-1,5-ヘキサジエニル、マレイン酸モノ-2,4-デカジエン-1-イル、マレイン酸モノ-9,11-ドデカジエニル、マレイン酸モノオレイルなどからなる群より選ばれてもよく、好ましくはマレイン酸モノアリル、マレイン酸モノ-3-ブテン-1-イル、マレイン酸モノイソペンテニル、マレイン酸モノ-3-ヘキセン-1-イル、マレイン酸モノ-1-ヘプテン-3-イル、マレイン酸モノメチルヘプテニル、マレイン酸モノ-3-ノネン-1-イル、マレイン酸モノ-2,4-デカジエン-1-イル、マレイン酸モノオレイルなどからなる群より選ばれる。構造式(I-2-2)および(I-2-3)の化合物は、イタコン酸モノアリル、イタコン酸モノ-2-ブテン-1-イル、イタコン酸モノ-3-ブテン-1-イル、イタコン酸モノイソペンテニル、イタコン酸モノ-3-ヘキセン-1-イル、イタコン酸モノ-1-ヘプテン-3-イル、イタコン酸モノメチルヘプテニル、イタコン酸モノ-2-オクテン-1-イル、イタコン酸モノ-3-ノネン-1-イル、イタコン酸モノ-2-デセン-1-イル、イタコン酸モノ-7-ドデセン-1-イル、イタコン酸モノ-1,5-ヘキサジエン、イタコン酸モノ-2,4-ノナジエン-1-イル、イタコン酸モノ-2,4-デカジエン-1-イル、イタコン酸モノ-9,11-ドデカジエニル、イタコン酸モノオレイルなどからなる群より選ばれてもよく、好ましくはイタコン酸モノアリル、イタコン酸モノ-3-ブテン-1-イル、イタコン酸モノイソペンテニル、イタコン酸モノ-3-ヘキセン-1-イル、イタコン酸モノ-3-ノネン-1-イル、イタコン酸モノオレイルなどからなる群より選ばれる。
【0106】
本願によれば、Rが脂環式ヒドロカルビル基の場合、構造式(I-2)の化合物は、好ましくは、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノ-3-シクロヘキセン-1-イル、マレイン酸モノ-2-シクロヘキセニル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノ-2-シクロヘキセニルなどからなる群より選ばれる。
【0107】
本願によれば、Rが置換されたアリール基の場合、構造式(I-2)の化合物は、好ましくは、マレイン酸モノ-p-ノニルフェニル、マレイン酸モノ-p-ドデシルフェニル、イタコン酸モノ-p-ノニルフェニル、イタコン酸モノ-p-ドデシルフェニルからなる群より選ばれる。
【0108】
本願によれば、Rが芳香環を有する脂肪族ヒドロカルビル基の場合、構造式(I-2)の化合物は、好ましくは、マレイン酸モノベンジル、マレイン酸モノフェニルエチル、イタコン酸モノベンジル、イタコン酸モノフェニルエチル、イタコン酸モノフェニルプロピルなどからなる群より選ばれる。
【0109】
第2部類の実施形態では、本願の燃料潤滑性改良剤は、構造式(II)のC4-8不飽和ジカルボン酸またはその無水物と、構造式(III)のC1-30アルコールまたはフェノールとを反応させることにより調製され、構造式(I-2)の不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物を得る。
【0110】
好ましい実施形態では、前記反応の条件は、C4-8不飽和ジカルボン酸またはその無水物と、C1-30アルコールまたはフェノールとを、モル比1:0.5-1:1.5とすること、50-250℃の反応温度、0.1-10時間の反応時間、および常圧または高圧の反応圧力を含む。
【0111】
好ましい実施形態では、本願は以下の技術案を提供する。
【0112】
A1、構造式1の化合物から選ばれる環状ジカルボン酸モノエステル化合物を少なくとも含有するディーゼル潤滑性添加剤組成物であって、
【0113】
【化14】
【0114】
nは1-8の整数、mは0-3の整数、xは0-8の整数、y1およびy2は0-2の整数、RはC1-C30のヒドロカルビル基を表す、ディーゼル潤滑性添加剤組成物。
【0115】
A2、nは1-6の整数、mは0-1の整数、xは0-6の整数、y1およびy2は0-2の整数、およびRはC1-C18のヒドロカルビル基である、項目A1に記載の潤滑性添加剤組成物。
【0116】
A3、Rは、C1-C18の直鎖または分岐鎖の脂肪族ヒドロカルビル基、C4-C18の環状脂肪族ヒドロカルビル基、および、C7-C18のアリール置換ヒドロカルビル基またはヒドロカルビル置換アリール基からなる群より選ばれる、項目A1またはA2に記載の潤滑性添加剤組成物。
【0117】
A4、前記環状ジカルボン酸モノエステル化合物は、1,2-シクロペンタンジカルボン酸モノエステル、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、テトラヒドロフタル酸モノエステル、フタル酸モノエステル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノエステル、メチルテトラヒドロフタル酸モノエステル、1-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、3-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、4-メチル-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸モノエステル、3-メチル-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸モノエステルからなる群より選ばれる、項目A1に記載の潤滑性添加剤組成物。
【0118】
A5、前記環状ジカルボン酸モノエステル化合物は、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノエステル、テトラヒドロフタル酸モノエステル、フタル酸モノエステル、メチルヘキサヒドロフタル酸モノエステル、メチルテトラヒドロフタル酸モノエステルである、項目A1に記載の潤滑性添加剤組成物。
【0119】
A6、C5-C18環状ジカルボン酸またはその無水物と、C1-C30アルコールまたはフェノールとを反応させることによって前記潤滑性添加剤が調製される、ディーゼル燃料潤滑性添加剤の調製方法。
【0120】
A7、C5-C18環状ジカルボン酸またはその無水物と、C1-C30アルコールまたはフェノールとを、モル比1:0.5-1.5で、反応温度50℃-250℃で反応させることを含む、項目A6に記載の調製方法。
【0121】
A8、前記環状ジカルボン酸またはその無水物は、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、フタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物からなる群より選ばれる、項目A6またはA7に記載の調製方法。
【0122】
A9、前記アルコールまたはフェノールは、C1-C18脂肪族アルコール、C4-C18脂環式アルコール、およびC7-C18芳香族アルコールまたはフェノールからなる群より選ばれる、項目A6またはA7に記載の調製方法。
【0123】
A10、前記アルコールまたはフェノールは、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、シクロヘキサノール、3-シクロヘキセン-1-メタノール、ベンジルアルコール、イソオクタノール、イソノナノール、デカノール、イソデカノール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール、ノニルフェノール;およびエチレン、プロピレンまたはブチレンの重合によって得られるイソノナノール、イソウンデカノール、イソトリデカノールからなる群より選ばれる、項目A6またはA7に記載の調製方法。
【0124】
A11、触媒または溶媒を使わずに、反応温度60℃-180℃、および反応時間0.5-10時間で、C5-C12環状無水物と、C1-C18アルコールまたはフェノールとを、モル比1:0.8-1.3で反応させる、項目A6またはA7に記載の調製方法。
【0125】
A12、触媒を使用し、溶媒を使用してまたは使用せずに、反応温度70℃-250℃、反応時間3-15時間で、C5-C12環状ジカルボン酸と、C1-C18アルコールまたはフェノールとを、モル比1:0.8-1.3で反応させる、項目A6またはA7に記載の調製方法。
【0126】
A13、低硫黄ディーゼル燃料の質量を100%としたとき、項目A1~A5のいずれかに記載の環状ジカルボン酸モノエステル化合物を10-400ppmの使用量で低硫黄ディーゼル燃料に添加することを含む、ディーゼル燃料の潤滑性を改良する方法。
【0127】
A14、低硫黄ディーゼル燃料と、項目A1~A5のいずれかに記載の環状ジカルボン酸モノエステル化合物とを含み、前記ディーゼル燃料の質量を100%としたとき、前記環状ジカルボン酸モノエステル化合物の量が10-400ppmである、ディーゼル燃料組成物。
【0128】
B1、構造式2の不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物を少なくとも含み、
【0129】
【化15】
【0130】
nは、2~6の整数であり、Rは、C1-C40のヒドロカルビル基である、ディーゼル燃料潤滑性添加剤組成物。
【0131】
B2、nは2~4の整数であり、RはC1-C18のヒドロカルビル基を表す、項目B1に記載の潤滑性添加剤組成物。
【0132】
B3、Rは、C1-C18の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族ヒドロカルビル基、C4-C18環状脂肪族ヒドロカルビル基、および、C7-C18アリール置換ヒドロカルビル基またはヒドロカルビル置換アリール基から選ばれる、項目B1またはB2に記載の潤滑性添加剤組成物。
【0133】
B4、前記不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物は、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、イタコン酸モノエステル、シトラコン酸モノエステル、メチルフマル酸モノエステル、2,3-ジメチルマレイン酸モノエステル、グルタコン酸モノエステルからなる群より選ばれる1つ以上である、項目B1に記載の耐摩耗剤組成物。
【0134】
B5、前記不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物は、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノ-n-プロピル、マレイン酸モノ-n-ブチル、マレイン酸モノ-n-オクチル、マレイン酸モノ-n-ノニル、マレイン酸モノ-n-デシル、マレイン酸モノ-n-ドデシル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノ-n-プロピル、イタコン酸モノ-n-ブチル、イタコン酸モノ-n-オクチル、イタコン酸モノ-n-デシル、イタコン酸モノ-n-ドデシル、マレイン酸モノイソプロピル、マレイン酸モノイソブチル、マレイン酸モノ-sec-ブチル、マレイン酸モノイソオクチル、マレイン酸モノイソノニル、マレイン酸モノイソデシル、イタコン酸モノイソプロピル、イタコン酸モノイソブチル、イタコン酸モノイソオクチル、イタコン酸モノイソノニル、イタコン酸モノイソデシル、マレイン酸モノ-3-ヘキシン-1-イル、マレイン酸モノオレイル、イタコン酸モノ-3-ヘキシン-1-イル、イタコン酸モノオレイル、マレイン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノ-p-ノニルフェニル、イタコン酸モノ-p-ノニルフェニル、マレイン酸モノベンジル、イタコン酸モノベンジルから選ばれる、項目B1に記載の潤滑性添加剤組成物。
【0135】
B6、C4-C8不飽和ジカルボン酸またはその無水物と、C1-C30アルコールもしくはフェノールとを反応させることによって前記潤滑性添加剤が得られる、ディーゼル燃料潤滑性添加剤の調製方法。
【0136】
B7、C4-C8不飽和ジカルボン酸またはその無水物と、C1-C30アルコールもしくはフェノールとを、モル比1:0.5-1.5で、反応温度50℃-250℃で反応させることを含む、項目B6に記載の方法。
【0137】
B8、前記不飽和ジカルボン酸またはその無水物は、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メチルフマル酸、2,3-ジメチルマレイン酸、および2,3-ジメチル無水マレイン酸からなる群より選ばれる、項目B6またはB7に記載の調製方法。
【0138】
B9、前記アルコールもしくはフェノールは、C1-C18脂肪族アルコール、C4-C18脂環式アルコール、および、C7-C18芳香族アルコールもしくはフェノールからなる群より選ばれる、項目B6またはB7に記載の方法。
【0139】
B10、前記アルコールまたはフェノールは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、シクロヘキサノール、3-シクロヘキセン-1-メタノール、ベンジルアルコール、n-オクタノール、イソオクタノール、イソノナノール、n-デカノール、イソデカノール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール、ノニルフェノールおよびエチレン、プロピレンまたはブテンの重合によって得られるイソノナノール、イソウンデカノール、イソトリデカノールからなる群より選ばれる、項目B6またはB7に記載の方法。
【0140】
B11、触媒または溶媒を使わずに、反応温度50℃-120℃、反応時間0.5-8時間で、無水マレイン酸または無水イタコン酸と、C1-C18アルコールまたはフェノールとを、モル比1:0.8-1.3で反応させることを含む、項目B6またはB7に記載の方法。
【0141】
B12、触媒を使用し、溶媒を使用してまたは使用せずに、反応温度70℃-250℃、反応時間3-15時間で、マレイン酸またはイタコン酸と、C1-C18アルコールまたはフェノールとを、モル比1:0.8-1.3で反応させることを含む、項目B6またはB7に記載の方法。
【0142】
B13、ディーゼルの質量を100%としたとき、項目B1~B5のいずれかに記載の不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物を10-400ppmの使用量で低硫黄ディーゼル燃料に添加する工程を含む、ディーゼル燃料の潤滑性を改良する方法。
【0143】
B14、低硫黄ディーゼル燃料と、項目B1~B5のいずれかに記載の不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物とを含み、前記ディーゼル燃料の質量を100%としたとき、不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物の含有量は10-400ppmである、ディーゼル燃料組成物。
【0144】
(実施例)
以下、実施例を参照して、本願をさらに説明するが、本願はこれによって限定されるものではない。
【0145】
以下の実施例では、ディーゼル燃料の潤滑性は、SH/T0765法に従って高周波往復リグ(High-Frequency Reciprocating Rig、HFRR、英国PCS Instruments社)を用い、60℃における摩耗痕径(Wear Scar Diameter、WSD)を測定することによって評価し、温度および湿度の影響を補正した報告結果WS1.4を得た。
【0146】
本願の各実施例および比較例で用いられるジカルボン酸モノエステル化合物は、本願明細書に記載の方法により合成することができ、あるいは、既存の工業製品を購入することができる。特に説明されない限り、市販の工業製品である。
【0147】
以下の実施例I-1および実施例I-2は、ディーゼル燃料に使用されるときの、本願にかかる潤滑性改良剤(実施例I-1~I-6)、および、本願にかかる潤滑性改良剤ではない潤滑性改良剤(比較例I-1~I-4)の効果を比較する。使用される潤滑性改良剤の種類および入手先を以下の表I-1に示す。
【0148】
【表2】
【0149】
表I-1に列挙された自製潤滑性改良剤の調製工程を以下に詳細に示す。
【0150】
実施例I-5
電動撹拌機、温度計、および還流冷却管を備えた1000mL反応器に、ヘキサヒドロフタル酸無水物とイソノナノールとのモル比が約1:1.2になるように、336gの1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物(ヘキサヒドロフタル酸無水物、台湾南亜プラスチック(台湾プラスチックグループ)社製)、および、345.6gのイソノナノール(3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、東京化成工業株式会社製)を添加した。混合物を加熱し、撹拌しながら、115℃まで昇温し、3時間反応させた後、昇温し、減圧下で蒸留することによって、未反応のイソノナノールを除去し、主に1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノイソノニルを含む生成物を6202gを得た。
【0151】
実施例I-6
電動撹拌機、温度計、還流冷却管を備えた1000mL反応器に、メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物とイソノナノールとのモル比が約1:1.1になるように、336gのメチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物(メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、質量分率99%、広州市葵邦化工有限公司製)、および、316.8gのイソノナノール(3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、東京化成工業株式会社製)を添加した。混合物を加熱し、撹拌しながら、100℃まで昇温し、4.5時間反応させ、主にメチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸モノイソノニルを含む生成物を約770g得た。
【0152】
実施例I-1
この実施例は、ディーゼル燃料に使用されるときの、実施例および比較例の潤滑性改良剤の効果を比較する。潤滑性改良剤を、石油ベースディーゼル燃料aおよびディーゼル燃料bにそれぞれ混合した。ディーゼル燃料aは中国石化燕山分公司製、ディーゼル燃料bは中国石化高橋分公司製から入手した。ディーゼル燃料aおよびディーゼル燃料bの物理化学特性を表I-2に示す。潤滑性改良剤の添加前後のディーゼル燃料の、HFRR法(ISO 12156-1)に従って測定した摩耗痕径WS1.4を表I-3および表I-4に示す。摩耗痕径が小さいほどディーゼル潤滑性が良好である。現在、欧州規格EN 590、中国自動車用ディーゼル規格GB 19147、自動車用ディーゼル北京市地方規格DB 11/239など、世界のほとんどのディーゼル規格は、摩耗痕径460μm(60℃)未満をディーゼル潤滑性の合格基準としている。
【0153】
【表3】
【0154】
【表4】
【0155】
【表5】
【0156】
表I-3および表I-4からわかるように、アルコール化合物およびフェノール化合物は耐摩耗性効果がほとんどなく、ディーゼル燃料の潤滑性を改善できないのに対し、本願のモノエステル化合物を添加することにより、ディーゼル燃料の潤滑性が驚異的に改善される。
【0157】
表I-3の低硫黄ディーゼル燃料について、本願のモノエステル化合物は、非常に少ない量でディーゼル燃料の潤滑性を大幅に改善することもできる。例えば、実施例I-1およびI-2のモノエステル150mg/kgの使用量で、ディーゼル燃料aの摩耗痕径を564μmから266μmおよび257μmに減少させることができる。一方、比較例I-1のヘキサヒドロフタル酸ジイソオクチル化合物は、ディーゼル燃料の潤滑性を改善する効果を示さない。比較例I-2のフタル酸ジ(2-エチルへキシル)化合物は、ディーゼル潤滑性を改善する効果を示さない。現在産業界で一般的に使用されている脂肪酸系(比較例I-3)および脂肪酸エステル系(比較例I-4)のディーゼル燃料用潤滑性改良剤でさえ、150mg/kgの使用量ではディーゼル燃料aの摩耗痕径を427μmおよび394μmまでしか減少できない。使用量をさらに80mg/kgに減少させると、本願のモノエステル化合物では、ディーゼル燃料aの潤滑性がなおディーゼル燃料の規格の要件を満たすことができるが、この使用量では、比較例I-3、I-4の化合物は耐摩耗性効果が悪く、ディーゼル燃料にディーゼル燃料の規格の要件、すなわち460μm以下の摩耗痕径を充足させるには不十分である。
【0158】
表I-4に示される超低硫黄ディーゼル燃料について、本願のモノエステル化合物は、非常に少ない添加量でディーゼル燃料の潤滑性を驚異的に改善した。例えば、実施例I-1およびI-2のモノエステルを、200mg/kgの使用量で用いた場合、ディーゼル燃料bの摩耗痕径を651μmから296μmおよび281μmに減少させたことは、驚くべきことである。
【0159】
比較例I-1のヘキサヒドロフタル酸ジイソオクチルは、200mg/kgの使用量で添加した場合、ディーゼル燃料bの摩耗痕径を651μmから638μmに減少させ、耐摩耗性効果がほとんどなかったため、ジエステル化合物が良好な潤滑性改良剤ではないことがわかる。脂肪酸系(比較例I-3)および脂肪酸エステル系(比較例I-4)のディーゼル燃料用潤滑性改良剤は、200mg/kgではディーゼル燃料bの摩耗痕径を432μmおよび387μmまでしか減少させなかった。
【0160】
使用量をさらに120mg/kgまたは100mg/kgに減少しても、本願のモノエステル化合物はなお、ディーゼル燃料bの潤滑性に、ディーゼル燃料の規格の要件を充足させることができる。一方、比較例I-1、I-2、I-3およびI-4の生産物を120mg/kgの使用量で添加する場合、ディーゼル燃料bの摩耗痕径をそれぞれ651μm、652μm、519μmおよび482μmに減少させるが、それは耐摩耗性効果が低いことを示し、460μm以下というディーゼル燃料規格によって要求される基準を満たすことができない。
【0161】
実施例I-2
実施例は、石炭ベースのディーゼル燃料に使用した場合の、実施例および比較例の潤滑性改良剤の効果を比較する。それぞれの潤滑性改良剤を石炭ベースのディーゼル燃料cと混合する。ディーゼル燃料cは中国神華石炭液化化学有限公司から入手した石炭直接液化ディーゼル燃料である。その物理化学的特性をI-5に示す。HFRR法(ISO12156-1)にしたがって測定した、潤滑性改良剤を添加した後のディーゼル燃料の摩耗痕径WS1.4を表I-6に示す。
【0162】
【表6】
【0163】
【表7】
【0164】
以上の実施例の結果からわかるように、本願の潤滑性改良剤は、意外にも脂肪酸系または脂肪酸エステル系潤滑性改良剤よりも効果が高く、ディーゼル潤滑性改良剤として用いることにより、低硫黄ディーゼル燃料の潤滑性を著しく改善でき、且つ、添加量を大幅に低減することができる。
【0165】
以下の実施例II-1は、ディーゼル燃料に使用した場合の、本願にかかる潤滑性改良剤(実施例II-1~II-20)、および、本願にかかる潤滑性改良剤ではない潤滑性改良剤(比較例II-1~II-6)の効果を比較する。使用される潤滑性改良剤の種類および入手先を以下の表II-1に示す。
【0166】
【表8】
【0167】
表II-1に列挙された自製潤滑性改良剤の調製方法を以下に詳述する。
【0168】
実施例II-2
電動撹拌機、温度計、および還流冷却管を備えた1000mL反応器に、無水マレイン酸とラウリルアルコールとのモル比が約1.1:1になるように、215.6gの無水マレイン酸(質量分率99.5%、山西僑友化工株式会社から購入)、および、372gのラウリルアルコール(質量分率99.9%、マレーシアPALMAC)を添加した。混合物を加熱し、撹拌しながら、95℃まで昇温し、3時間反応させた後、昇温し、減圧下で蒸留し、未反応の無水マレイン酸を除去し、581gのマレイン酸モノラウリルを得た。反応式は以下の通りである。
【0169】
【化16】
【0170】
実施例II-3
電動撹拌機、および温度計を備えた2000mL反応器に、無水マレイン酸とイソノナノールとのモル比が約1:1になるように、490gの無水マレイン酸(質量分率99.5%、Zibo斉翔騰達化工株式会社から購入)、および、720gのイソノナノール(Exxal(商標)9s、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、質量分率99.5%、Exxon-Mobil社から購入)を添加した。混合物を加熱し、撹拌しながら、85℃まで昇温し、5時間反応させた後、昇温し、減圧下で蒸留し、未反応のイソノナノールおよび無水マレイン酸を除去し、1006gのマレイン酸モノイソノニル(マレイン酸モノ-2,6-ジメチル-4-ヘプチル)を得た。
【0171】
実施例II-4
電動撹拌機、および温度計を備えた2000mL反応器に、無水マレイン酸とp-ノニルフェノールとのモル比が約1:0.9になるように、450gの無水マレイン酸(質量分率99.5%、上海アラジンバイオケミカルテクノロジー株式会社から購入)および910gのp-ノニルフェノール(質量分率98%、淮南市科迪化工科技有限公司から購入)を添加した。加熱し、撹拌しながら、110℃まで昇温し、12時間反応させた後、昇温し、減圧下で蒸留し、未反応のp-ノニルフェノールおよび無水マレイン酸を除去し、1296gのマレイン酸モノ-p-ノニルフェニルを得た。反応式は以下の通りである。
【0172】
【化17】
【0173】
実施例II-5
電動撹拌機、および温度計を備えた2000mL反応器に、無水マレイン酸とベンジルアルコールとのモル比が約1:1になるように、475gの無水マレイン酸(質量分率99.5%、上海アラジンバイオケミカルテクノロジー株式会社から購入)および796gのベンジルアルコール(ベンジルアルコール、質量分率99%、上海Meryer化学技術有限公司から購入)を添加した。混合物を加熱し、撹拌しながら、90℃まで昇温し、8時間反応させた後、昇温し、減圧下で蒸留し、未反応のベンジルアルコールおよび無水マレイン酸を除去し、1196gのマレイン酸モノベンジルを得た。反応式は以下の通りである。
【0174】
【化18】
【0175】
実施例II-6
電動撹拌機、および温度計を備えた2000mL反応器に、無水マレイン酸とシクロヘキサノールとのモル比が約1:1.3になるように、500gの無水マレイン酸(質量分率99.5%、北京イノケム科技有限公司から購入)および665gのシクロヘキサノール(質量分率98%、北京イノケム科技有限公司から購入)を添加した。加熱し、撹拌しながら、85℃まで昇温し、4時間反応した後、昇温し、減圧下で蒸留し、未反応のシクロヘキサノールおよび無水マレイン酸を除去し、1096gのマレイン酸モノシクロヘキシルを得た。反応式は以下の通りである。
【0176】
【化19】
【0177】
実施例II-7
電動撹拌機、および温度計を備えた2000mL反応器に、無水マレイン酸と3-シクロヘキセン-1-メタノールとのモル比が約1:0.8になるように、550gの無水マレイン酸(質量分率99.5%、北京イノケム科技有限公司から購入)および504gの3-シクロヘキセン-1-メタノール(質量分率98%、上海畢得医薬科技株式会社から購入)を添加した。混合物を加熱し、撹拌しながら、75℃まで昇温し、6時間反応させた後、昇温し、減圧下で蒸留し、未反応の3-シクロヘキセン-1-メタノールおよび無水マレイン酸を除去し、997gのマレイン酸モノ-3-シクロヘキセン-1-メチルを得た。反応式は以下の通りである。
【0178】
【化20】
【0179】
実施例II-12
電動撹拌機、温度計、および還流冷却管を備えた2000mL反応器に、無水イタコン酸とイソオクタノールとのモル比が約1:1になるように、560gの無水イタコン酸(質量分率98%、浙江国光生化株式会社から購入)および650gのイソオクタノール(2-エチルヘキサノール、質量分率99.9%、中国石化斉魯分公司から購入)を添加した。混合物を加熱し、撹拌しながら、95℃まで昇温し、4時間反応した後、昇温し、減圧下で蒸留し、未反応のイソオクタノールおよび無水イタコン酸を除去し、1193gのイタコン酸モノイソオクチルを得た。
【0180】
実施例II-13
電動撹拌機、温度計、および還流冷却管を備えた1000mL反応器に、イタコン酸とラウリルアルコールとのモル比が約1.1:2になるように、260gのイタコン酸(質量分率99.6%、浙江国光生化株式会社から購入)、446gのラウリルアルコール(質量分率99.9%、マレーシアPALMAC)および7gのp-トルエンスルホン酸を添加した。混合物を加熱し、撹拌しながら、165℃まで昇温し、6時間反応させた後、昇温し、減圧下で蒸留し、未反応の原料を除去し、611gのイタコン酸モノラウリルを得た。
【0181】
実施例II-14
電動撹拌機、および温度計を備えた2000mL反応器に、無水イタコン酸とイソノナノールとのモル比が約1:1.1になるように、571gの無水イタコン酸(質量分率98%、浙江国光生化株式会社から購入および792gのイソノナノール(Exxal(商標)9s、質量分率99.5%、Exxon-Mobilから購入)を添加した。混合物を加熱し、撹拌しながら、90℃まで昇温し、5時間反応させた後、昇温し、減圧下で蒸留し、未反応のイソノナノールおよび無水イタコン酸を除去し、1286gのイタコン酸モノイソノニルを得た。
【0182】
実施例II-15
電動撹拌機、温度計、および還流冷却管を備えた500mL反応器に、無水イタコン酸とノニルフェノールとのモル比が約1.1:1になるように、56gの無水イタコン酸(質量分率97%、アラジン試薬社から購入)および121gのノニルフェノール(質量分率99.5%、台湾中繊から購入)を添加した。加熱し、撹拌しながら、100℃まで昇温し、5.5時間反応させた後、イタコン酸モノ-p-ノニルフェニルを主に含む171gの混合物を得た。
【0183】
実施例II-16
電動撹拌機、および温度計を備えた2000mL反応器に、無水イタコン酸とベンジルアルコールとのモル比が約1:1になるように、490gの無水イタコン酸(質量分率95%、東京化成工業(TCI)株式会社から購入)および540gのベンジルアルコール(ベンジルアルコール、質量分率99.5%、山東魯西集団有限公司から購入)を添加した。混合物を加熱し、撹拌しながら、100℃まで昇温し、4.5時間反応させた後、昇温し、減圧下で蒸留し、未反応のベンジルアルコールおよび無水イタコン酸を除去し、996gのイタコン酸モノベンジルを得た。
【0184】
実施例II-17
電動撹拌機、温度計、および還流冷却管を備えた500mL反応器に、無水イタコン酸とシクロヘキサノールとのモル比が約1.1:1になるように、147gの無水イタコン酸(質量分率97%、アラジン試薬から購入)および180gのシクロヘキサノール(質量分率98%、アラジン試薬から購入)を添加した。混合物を加熱し、撹拌しながら、80℃まで昇温し、6時間反応させた後、減圧下で蒸留し、未反応のシクロヘキサノールを除去し、296gのイタコン酸モノシクロヘキシルを得た。
【0185】
実施例II-19
電動撹拌機、温度計、および還流冷却管を備えた500mL反応器に、無水シトラコン酸とイソオクタノールとのモル比が約1.1:1になるように、150gの無水シトラコン酸(質量分率98%、TCI上海株式会社から購入)および192gのイソオクタノール(2-エチルヘキサノール、質量分率99.9%、中国石化斉魯分公司製)を添加した。加熱し、撹拌しながら、75℃まで昇温し、8時間反応させた後、減圧下で蒸留し、未反応のイソオクタノールを除去し、329gのシトラコン酸モノイソオクチルを得た。反応式は以下のとおりである。
【0186】
【化21】
【0187】
実施例II-20
電動撹拌機、および温度計を備えた1000mL反応器に、無水マレイン酸と7-メチル-1-オクタノールとのモル比が約1:1.1になるように、196gの無水マレイン酸(質量分率99.5%、上海アラジンバイオケミカルテクノロジー株式会社から購入)および316.8gの7-メチル-1-オクタノール(質量分率99%、湖北万業医薬有限公司から購入)を添加した。混合物を加熱し、撹拌しながら、90℃まで昇温し、4時間反応させた後、マレイン酸モノ-7-メチル-1-オクチルを主に含む498gの産物を得た。
【0188】
実施例II-1
本実施例は、ディーゼル燃料に使用した場合の、実施例および比較例の潤滑性改良剤の効果を比較する。潤滑性改良剤を表I-2に示すように、ディーゼル燃料aおよびディーゼル燃料bとそれぞれ混合した。潤滑性改良剤の添加前後のディーゼル燃料の摩耗痕径WS1.4を表II-2および表II-3に示す。摩耗痕径が小さいほどディーゼル燃料の潤滑性が良好である。
【0189】
【表9】
【0190】
【表10】
【0191】
表II-2および表II-3からわかるように、ラウリルアルコールなどのアルコール化合物を添加することによって、ディーゼルの潤滑性は実質的に改善されない。一方、本願の不飽和ジカルボン酸モノエステル系化合物を添加することによって、ディーゼル燃料の潤滑性が驚異的に改善される。
【0192】
表II-2に示す低硫黄ディーゼル燃料について、本願の不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物は、非常に少ない使用量でさえ、ディーゼル燃料の潤滑性を大幅に改善する。例えば、実施例II-1およびII-2は、150mg/kgの使用量でディーゼル燃料aの摩耗痕径を564μmから211μmおよび205μmまで減少させることができる。対照的に、比較例II-1のドデセニルコハク酸モノメチルは、摩耗痕径を398ミクロンまでしか減少させることができない。さらに、比較例II-2のマレイン酸ジイソオクチル化合物は、ディーゼル燃料の潤滑性を改良する効果を有さない。現在産業界で一般的に使用されている脂肪酸系(比較例II-3)および脂肪酸エステル系(比較例II-4)のディーゼル燃料用潤滑性改良剤でさえ、150mg/kgの使用量では、ディーゼル燃料aの摩耗痕径を427μmおよび394μmまでしか減少させることができない。本願の不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物が、非常に優れた耐摩耗性効果を示すことが分かる。使用量をさらに80mg/kgに減少させた場合、本願の不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物は、なおディーゼル燃料aの潤滑性がディーゼル燃料の規格の要件を満たすようにすることができるが、比較例の産物の耐摩耗性効果は、この使用量では非常に悪いため、460μm以下というディーゼル燃料の規格の要件を満たすことができない。
【0193】
表II-3に示す超低硫黄ディーゼル燃料について、本願の不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物は、非常に少ない使用量でディーゼル燃料の潤滑性を驚異的に改善する。例えば、実施例II-1およびII-2のモノエステルを200mg/kgの使用量で用いた場合に、ディーゼル燃料bの摩耗痕径が651μmから208μmおよび206μmに低減されることは、驚くべきことである。
【0194】
比較例II-1のドデセニルコハク酸モノメチルは、200mg/kgの使用量で、ディーゼル燃料bの摩耗痕径を651μmから389μmまでしか減少させることができない。脂肪酸系(比較例II-3)および脂肪酸エステル系(比較例II-4)のディーゼル燃料用潤滑性改良剤は、200mg/kgの使用量で、ディーゼル燃料bの摩耗痕径を432μmおよび387μmまでしか減少させることができない。使用量をさらに120mg/kgに減少させた場合、本願の不飽和ジカルボン酸モノエステル化合物は、なお、ディーゼル燃料bに、潤滑性がディーゼル燃料の規格の要件を充足させることができる。一方、比較例II-1、II-3、およびII-4の産物を用いた場合は、120mg/kgの使用量では、ディーゼル燃料bの摩耗痕径をそれぞれ471μm、519μmおよび482μmまでしか減少させることができない。このことは、耐摩耗性効果が低いことを示し、ディーゼル燃料に、460μm以下というディーゼル燃料規格の潤滑性の要件を充足させるには不十分である。比較例II-5および比較例II-6の効果を、それぞれ実施例II-8および実施例II-1の効果と比較すると、長鎖置換基を有するジカルボン酸モノエステルの耐摩耗性効果が有意に悪化することがさらに明らかとなる。
【0195】
実施例II-1からもわかるように、好ましいマレイン酸モノエステルおよびイタコン酸モノエステルは、ディーゼル燃料の潤滑性を改善する効果がより高いが、トランス構造を有するフマル酸モノエステルおよび側鎖を有するメチルマレイン酸モノエステルの効果は、わずかに劣る。
【0196】
以下の実施例III-1は、航空燃料に使用されるときの、本願にかかる潤滑性改良剤(実施例III-1~III-3)、および、本願にかかる潤滑性改良剤ではない潤滑性改良剤(比較例III-1~III-3)の効果を比較する。使用される潤滑性改良剤の種類および入手先を以下の表III-1に示す。
【0197】
【表11】
【0198】
表III-1に列挙された自製潤滑性改良剤の調製方法を以下に詳述する。
【0199】
実施例III-3
50gの無水マレイン酸(上海アラジンバイオケミカルテクノロジー株式会社から購入)および104.9gのイソデカノール(上海アラジンバイオケミカルテクノロジー株式会社から購入)を秤量し、撹拌機、温度計、および還流冷却管を備えた三口フラスコ反応器に投入した。混合物を90℃で3時間反応させた後、室温まで冷却し、マレイン酸モノイソデシル産物を主に含む産物を得た。
【0200】
比較例III-3
100gのドデセニルコハク酸無水物(上海アラジンバイオケミカルテクノロジー株式会社から購入)および70.4gのイソノナノール(上海アラジンバイオケミカルテクノロジー株式会社から購入)を秤量し、撹拌機、温度計、および還流冷却管を備えた三口フラスコ反応器に投入した。混合物を140℃で3時間反応させた後、室温まで冷却し、ドデセニルコハク酸モノイソノニルを主に含む産物を得た。
【0201】
実施例III-1
本実施例は、航空燃料に使用した場合の、実施例および比較例の潤滑性改良剤の効果を比較する。使用される航空燃料の物理化学特性を表III-2に示す。潤滑性改良剤をそれぞれ航空燃料に添加し、SH/T 0687(ASTM D5001)に従って、潤滑性改良剤を添加した後の航空燃料の摩耗痕径を測定した。GB/T 1793およびSH/T 0616の方法に従って、潤滑性改良剤添加後の航空燃料の水反応性および水分離指数を測定し、結果を表III-3に示す。
【0202】
【表12】
【0203】
【表13】
【0204】
表III-3からわかるように、本願のジカルボン酸モノエステル潤滑性改良剤は、比較例よりも、航空燃料の潤滑性を改善する効果が高く、水反応性および水分離指数試験の結果が比較例の航空燃料潤滑性改良剤と同程度である。
【0205】
以下の実施例IV-1は、ガソリンに使用した場合の、本願にかかる潤滑性改良剤(実施例IV-1~IV-4)、および、本願にかかる潤滑性改良剤ではない潤滑性改良剤(比較例IV-1~IV-4)の効果を比較する。使用される潤滑性改良剤の種類および入手先を以下の表IV-1に示す。
【0206】
【表14】
【0207】
実施例IV-1
実施例IV-1は、ガソリンに使用した場合の、実施例および比較例の潤滑性改良剤の効果を比較する。潤滑性改良剤をそれぞれガソリンと混合した。用いた自動車用エタノールガソリン(E10)および自動車用ガソリンの物理化学特性を表IV-2に示す。高周波潤滑リグ(HFRR、英国PCS Instruments)を用いて、ガソリンの25℃における摩耗痕径(WSD)を測定した。摩耗痕径が小さいほどガソリンの潤滑性が良好であり、または、潤滑性改良剤の効果が良好である。結果を表IV-3に示す。
【0208】
【表15】
【0209】
【表16】
【0210】
表IV-3からわかるように、HFRR試験機を用いて測定したブランクの92号自動車用エタノールガソリン(E10)および95号自動車用ガソリンの25℃における摩耗痕径は、それぞれ高数値の848μmおよび843μmであるが、本願のジカルボン酸モノエステル潤滑性改良剤を添加することによって、ガソリンの潤滑性を大幅に改善することができる。実施例IV-1のモノエステルは、150mg/kgの使用量で添加した場合に、92号自動車用エタノールガソリン(E10)の摩耗痕径を378μmに低減することができ、200mg/kgの使用量で添加した場合に、92号自動車用エタノールガソリン(E10)の摩耗痕径を296μmに低減することができ、この効果は、現在産業界で一般的に使用されている脂肪酸系および脂肪酸グリセリド系潤滑性改良剤よりもはるかに良好である。例えば、比較例IV-1および比較例IV-2の潤滑性改良剤は、200mg/kgの使用量で用いた場合、摩耗痕径をそれぞれ533μmおよび498μmまでしか低減することができない。ジカルボン酸ジエステル化合物、例えば、可塑剤であるマレイン酸ジイソオクチル(比較例IV-4)は、ガソリンの潤滑性を改善する効果はほとんどなく、200mg/kgの使用量で添加した場合、92号自動車用エタノールガソリン(E10)の摩耗痕径を822μmに減少させることができる。ガソリン洗浄剤もガソリンの潤滑性を改善する効果は有意ではない。例えば、比較例IV-3の産物は、180mg/kgの使用量で添加した場合、95号自動車用ガソリンの摩耗痕径を786μmまでしか低減することができない。
【0211】
以上、本願は、好ましい実施形態を参照しながら詳細に説明されるが、上記実施形態に限定されることは意図されない。本願の技術的思想の範囲内で本発明の技術案に対して様々の簡単な変形を行うことができ、これらの変形はすべて本願の範囲内に含まれるものである。
【0212】
また、上記の実施形態で説明した種々の技術的特徴は、矛盾しない限り、任意の適切な方法で組合せることができ、不要な繰返しを避けるために、本願では様々な可能な組み合わせについて述べないが、そのような組み合わせもまた、本願の範囲内にあることに留意されたい。
【0213】
さらに、本発明の異なる実施形態の任意の組合せも、本発明の思想に反しない限り、本発明に開示されているものと見做されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0214】
図1】英国PCS社製ディーゼル潤滑性試験機で測定したディーゼル燃料bの摩耗痕写真を示し、補正摩耗痕径(WS1.4)は651μmである。
図2】実施例II-1で得られたマレイン酸モノイソオクチル200mg/kgをディーゼル燃料bに添加した後に測定した摩耗痕写真を示し、補正摩耗痕径(WS1.4)は208μmである。
図1
図2
【国際調査報告】