(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】眼の手術装置
(51)【国際特許分類】
A61F 9/013 20060101AFI20230518BHJP
A61F 9/008 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A61F9/013 100
A61F9/008 120D
A61F9/008 120E
A61F9/008 120C
A61F9/008 120F
A61F9/008 130
A61F9/008 160
A61F9/008 152
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561169
(86)(22)【出願日】2021-04-06
(85)【翻訳文提出日】2022-10-27
(86)【国際出願番号】 FR2021050599
(87)【国際公開番号】W WO2021205111
(87)【国際公開日】2021-10-14
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】518345767
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ウニヴェルシテール・ドゥ・ボルドー
(71)【出願人】
【識別番号】521420118
【氏名又は名称】サントル・テクノロジーク・アルファノブ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ロペス
(72)【発明者】
【氏名】ドネツィ・イリバレン
(72)【発明者】
【氏名】ブリュノ・シャサーニュ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド・トゥブル
(57)【要約】
本願発明は、角膜又は水晶体のような眼の生体組織に切り込みを入れるための眼の手術装置に関し、前記装置は、-パルス状のレーザービームを供給するのに適したレーザー源(1.1、1.2)と、-前記パルス状のレーザービームを眼の生体組織中の焦点(15)に集束させるための集束光学系(5)と、-前記パルス状のレーザービームを移動させるための光学システムであって(3、4)、所定の3次元経路に沿って前記焦点を移動させるために構成される光学システムと、-前記パルス状のレーザービームのパラメータ及び前記パルス状のレーザービームを移動させるための前記光学システムのパラメータが切る間に経路の焦点の位置に応じて調整されるように、前記レーザー源(1.1、1.2)及び前記パルス状のレーザービームを移動させるための前記光学システム(3、4)を制御するように構成される制御ユニット(2)と、を備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜又は水晶体のような眼の生体組織に切り込みを入れるための眼の手術装置であって、
-パルス状のレーザービームを供給するのに適したレーザー源(1.1、1.2)と、
-前記パルス状のレーザービームを眼の生体組織中の焦点(15)に集束させるための集束光学系(5)と、
-前記パルス状のレーザービームを移動させるための光学システムであって(3、4)、所定の3次元経路に沿って前記焦点を移動させるために構成される光学システムと、
-前記パルス状のレーザービームのパラメータ及び前記パルス状のレーザービームを移動させるための前記光学システムのパラメータが切る間に経路の焦点の位置に応じて調整されるように、前記レーザー源(1.1、1.2)及び前記パルス状のレーザービームを移動させるための前記光学システム(3、4)を制御するように構成される制御ユニット(2)と、を備え、
-前記パラメータは、前記レーザー源のパルス持続時間、1パルス当たりのエネルギー、前記レーザー源のパルスレート、及び前記レーザー源の走査速度であり、
-前記制御ユニット(2)は、前記レーザー源の前記パルス持続時間が所定の前記3次元経路上の前記焦点の位置に応じて変化するように前記レーザー源及び移動光学系を同期制御するように構成される、眼の手術装置。
【請求項2】
前記制御ユニットは、前記レーザービームのパルス持続時間が350フェムト秒と3ピコ秒の間で構成され、好ましくは700フェムト秒と1.5ピコ秒の間で構成されるように前記レーザー源を制御できる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記制御ユニットは、1パルス当たりのエネルギーが0.1μJと20μJとの間で構成され、パルスレートが50kHzと2MHzとの間、好ましくは50kHzと1MHzとの間で構成されるように、前記レーザー源を制御できる、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記制御ユニットは、走査速度が0.1m/sと10m/sとの間で構成されるように、前記パルス状のレーザービームを移動させるための前記システムを制御できる、請求項1から3のいづれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記パルス状のレーザービームを移動させるための前記システムは、入射するパルス状のレーザービームを受けるのに適し、軸Zに沿ってパルス状のレーザービームの移動を誘発するように構成される第1のスキャナ(3)と、前記入射するパルス状のレーザービームを受けるのに適し、平面(XY)内のビームの移動を誘発するように構成される第2のスキャナ(4)と、を備える、請求項1から4のいづれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記集束光学系(5)が、移動光学系(3、4)と生体組織(7)との間に配置され、生体組織内に、9mmと12mmとの間で構成される直径のフィールドにわたって、8.5μmより小さい直径、好ましくは6μmより小さい直径の焦点(15)を形成するよう構成される、請求項1から5のいづれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記集束光学系(5)が、0.13と0.22との間、好ましくは0.20と0.22との間で構成される開口数を有するテレセントリック光学系の組み合わせからなる、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
切断領域を見ることができるように構成される少なくとも1つのカメラ(11、12)をさらに備える、請求項1から7のいづれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つのカメラ(11、12)は、入射撮像ビームが集束光学系の光学的な対称軸(8)に対して30°と50°との間、好ましくは45°と47°の間で構成される角度だけ傾斜するように集束光学系(5)と生体組織(7)との間に配置される、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
生体組織に対して集束系の光学的な対称軸をセンタリングするように構成されるセンタリングカメラ(9)をさらに備える、請求項1から9のいづれか一項に記載の装置。
【請求項11】
レーザー源(1.1、1.2)が、1020nmと1600nmとの間、好ましくは1030nmと1090nmの間とで構成される波長でレーザーパルスを放射する、請求項1から10のいづれか一項に記載の装置。
【請求項12】
平面でありかつ平行である複数の面を有するプレートおよび/または平面凹型プレートを備える平坦化インターフェースデバイス(14)をさらに備える、請求項1から11のいづれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記レーザー源は、2つの異なる部分から形成されており、第1の部分(1.1)は、発振レーザー共振器とストレッチャとを備え、第2の部分(1.2)は増幅レーザー共振器と圧縮機と音響光学モジュールとを備え、
前記装置は、一方では、前記集束光学系を組み込んだ切断モジュール(20)と、前記パルス状のレーザービームを移動させるための前記光学システムと、前記レーザー源の第2の部分と、を備え、他方では、前記レーザー源の第1の部分(1.1)によって発生するレーザービームを切断モジュール(20)に伝達するための光ファイバーリンク(13)を備える、請求項1から12のいづれか一項に記載の装置。
【請求項14】
角膜や水晶体のような眼の生体組織(7)に切り込みを入れるための眼の手術設備(100)であって、3つの軸X、Y、Zについて関節運動する自己バランスアーム(30)と、請求項13に記載の眼の手術装置(10)を備え、前記アームが、移動式の電気技術ラック(60)に接続される一端と、切断モジュール(20)に結合されるのに適する一端と、を備える、眼の手術設備(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼の手術装置の分野に関するものである。より詳細には、本発明は、角膜移植や眼の屈折矯正手術を行う際に外科医を補助するための眼の手術設備に関する。
【0002】
本発明は、ピコ秒レーザーを用いて、眼の手術を行うための装置に関する。
【0003】
本特許出願において、ピコ秒レーザーとは、数百フェムト秒から数十ピコ秒の間のパルス幅を有する超短パルスを備えるレーザービームを照射することができる光源を意味する。
【背景技術】
【0004】
角膜は、眼の外殻の一部を構成する。角膜は、ガラスのような透明な誘電体で、ほぼ平行な複数の両凸非球面状屈折面を持つドーム状に形成される。平均直径は約12mm、平均中心厚は約540ミクロンである。平均曲率半径は約7.8mmである。入射した光線を網膜に集束させ、網膜上に像を結ばせる。
【0005】
角膜は、最外層から最内層まで、5つの層で構成される:
- 上皮:常に複製される5-7層の層状細胞で構成される;
- ボーマン膜:無細胞で複製不可能な膜;
- 間質:角膜の厚さの90%を占め、コラーゲンのラメラと、ゆっくりと複製されるゲルマトリックスに浸かっている細胞から構成される;
- デスメ膜:内皮を支える;
- 内皮:房水と接触している。最深部にある内皮は、複製されない一様な細胞層で構成される。
【0006】
事故や特定の病態の結果、角膜の一部または全部が不透明になり、視力が低下することがある。角膜移植は、病気の角膜の機能を回復させる唯一の効果的な方法である。また、視力の回復や角膜障害による痛みも軽減することができる。角膜移植術は、病的な角膜の一部または全部を採取し、ドナーから得た健康な角膜と置き換える手術である。現在、この手術は、トレフィンや機械的なマイクロケラトームを用いて、外科医が手作業で行うことがほとんどである。
【0007】
また、屈折矯正手術により、視力障害(アメトロピア)を補正することも可能であり、その結果、網膜を通して網膜面に光線を集光することができなくなる。このタイプの視覚障害には、近視、遠視、乱視、老眼がある。レーザーは現在、外科医が健康な角膜を治療し、視覚障害を矯正するのに役立っている。
【0008】
レーシックの例では、角膜の表面に機械的なマイクロケラトーム(刃)やフェムト秒レーザーを使って90~120ミクロンの厚さのフラップを切り、このフラップを持ち上げて角膜の下の形を整えるという方法である。193nmの紫外線を照射するArFエキシマレーザーは、パルス時間10~25nsで非常に精密なリモデリングを実現する(1パルスあたりの光切除量は約0.25ミクロン)。この方法は、近視の治療として現在最も多く行われている。
【0009】
SMILEとRELEXの特殊性は、フェムト秒レーザーを使って角膜の厚みから角膜の小片を切り取り、周辺部を切断して手動で取り出すというもので、エキシマレーザーを使う必要がない。この方法は、急速に発展している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在、角膜を切る手術を行う眼の手術装置には、主にフェムト秒レーザーが搭載されている。フェムト秒レーザーとは、1~数百フェムト秒のパルスを供給するレーザーである。パルスが短いため、極めて短い時間内にレーザーエネルギーを集中させることができ、ターゲットに集光すると1012~1014W/cm2という非常に高い強度を得ることができる。レーザーパルスは、直線に沿った経路で角膜の厚みに集光され、切断面を形成する。フェムト秒レーザーを使用することで、光切断誘発キャビテーション気泡を発生させるのに十分なエネルギー密度を達成しつつ、熱効果を避けるために、パルスあたりの沈着エネルギーを最小にすることができる。
【0011】
フェムト秒レーザーは、一般に、使用するために複雑なレーザー回路と光学部品が必要である。特に、ほとんどの利用可能なデバイスでは、内部部品を損傷することなくレーザー放射を増幅できるようにするために、その環境に非常に敏感な複雑な増幅システムを使用することが必要である。フェムト秒レーザーを用いた眼の手術装置の購入と維持にかかる費用は、依然として比較的高い。
【0012】
光ファイバーによる伝送という解決策は実験的に存在するが、増幅されたフェムト秒レーザーパルスに関しては非常に限定的で制約がある。
【0013】
フェムト秒レーザーを搭載した装置は、一般に非常にかさばり、重量がある。その結果、それらは一般にあまり移動可能ではなく、しばしば使用するために専用の部屋、すなわち、基本的に屈折矯正手術に専念する部屋を必要とし、したがって、角膜移植または水晶体手術に有用ではない。
【0014】
パルス増幅を行わないフェムト秒レーザーも存在するが、パルスあたりのエネルギーが低いため、高開口数の集光対物レンズで補う必要がある。この対物レンズは、1mmオーダーの非常に小さな加工領域でミクロンサイズのレーザースポットを得ることができる。そのため、直径10mm近い切断領域をカバーするためには、電動ステージでレーザービームを移動させる必要があり、レーザースポットの直径は数ミクロンであるにもかかわらず、切断精度に限界があった。例えば、レーシック手術の場合、正面(カットベッド)のカット品質が最も重要である。品質とは、角膜の削りやすさや切断面の粗さなどを意味する。角膜切開では、できるだけ薄い切断面を使用し、この粗さを最小限にすることが重要である。また、回折を抑え、最適な視力の質を保証するために、切断の精度を保証することも重要である。この文脈では、直径5ミクロンのレーザースポットは、増幅されたフェムト秒レーザーを使用する場合には15-25ミクロンにわたって光学破壊を引き起こし、増幅されていないレーザーを使用する場合には5-10ミクロン未満であることが留意されうる。手術はミクロンオーダーの精度で行われることが望ましいため、期待される手術性能を実現するためには、パルスの物理特性とシステムの光学系が重要である。さらに、角膜移植では、エッジカットの品質が重要である。しかし、現在の眼の手術装置では、高開口数と大視野を両立させ、最適な条件ですべてのカットパスをカバーすることは困難である。
【0015】
また、現在の屈折矯正手術を行うための装置では、術者と機械が正しく同期するためには、熟練した外科医が必要であり、これは要求される動作が複雑かつ精密であるためである。従って、施術者は、比較的長い訓練を必要とする。
【0016】
したがって、本発明の1つの目的は、角膜形成術および超高解像度屈折角膜手術に特に適した眼の手術装置を提供することである。現在のデバイスに関して、本装置は、人間工学、コンパクト性、堅牢性、軽さ、および可動性の点で最適化されている。最後に、このツールの自動化を改善するためになされた努力は、より大きな手順の安全性、性能、および汎用性を保証するものである。
【0017】
本発明の別の目的は、要求される経路の幾何学的制約が何であれ、できるだけ正確な組織切断を行うことができる眼の手術装置を得るために特に選択された光学設計およびレーザパラメータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
先行技術の前述の欠点を改善するために、本発明は、角膜又は水晶体のような眼の生体組織に切り込みを入れるための眼の手術装置に関するものであり、以下の構成を有する、
-パルス状のレーザービームを照射するのに適したレーザー源と、
-前記パルス状のレーザービームを眼の生体組織中の焦点に集束させるための集束光学系と、
-前記パルス状のレーザービームを移動させるための光学システムであって、所定の3次元経路に沿って前記焦点を移動させるために構成される光学システムと、
-前記パルス状のレーザービームのパラメータ及び前記パルス状のレーザービームを移動させるための前記光学システムのパラメータが切る間に経路の焦点の位置に応じて調整されるように、前記レーザー源及び前記パルス状のレーザービームを移動させるための前記光学システムを制御するように構成される制御ユニットと、を備え、
-前記パラメータは、前記レーザー源のパルス持続時間、1パルス当たりのエネルギー、前記レーザー源のパルスレート、及び前記レーザー源の走査速度であり、
-前記制御ユニットは、前記レーザー源の前記パルス持続時間が所定の前記3次元経路上の前記焦点の位置に依存して変化するように前記レーザー源及び移動光学系を同期制御するように構成される。
【0019】
有利には、前記制御ユニットは、前記レーザービームのパルス持続時間が350フェムト秒と3ピコ秒の間で構成され、好ましくは700フェムト秒と1.5ピコ秒の間で構成されるように前記レーザー源を制御できる。
【0020】
別の有利な実施形態によれば、前記制御ユニットは、1パルス当たりのエネルギーが0.1μJと20μJとの間で構成され、パルスレートが50kHzと2MHzとの間、好ましくは50kHzと1MHzとの間で構成されるように、前記レーザー源を制御できる。
【0021】
有利には、前記制御ユニットは、走査速度が0.1m/sと10m/sとの間で構成されるように、前記パルス状のレーザービームを移動させるための前記システムを制御できる。
【0022】
以下の段落に記載された特徴は、任意に、実装されてもよい。これらは、互いに独立して実施されてもよいし、互いに組み合わせて実施されてもよい。
【0023】
-前記パルス状のレーザービームを移動させるための前記システムは、入射するパルス状のレーザービームを受けるのに適し、軸Zに沿ってパルス状のレーザービームの移動を誘発するように構成される第1のスキャナと、前記入射するパルス状のレーザービームを受けるのに適し、平面(XY)内のビームの移動を誘発するように構成される第2のスキャナと、を備える。
【0024】
-前記集束光学系が、移動光学系と生体組織との間に配置され、生体組織内に、9mmと12mmとの間で構成される直径のフィールドにわたって、8.5μmより小さい直径、好ましくは6μmより小さい直径の焦点を形成するよう構成される。
【0025】
-前記集束光学系が、0.13と0.22との間、好ましくは0.20と0.22との間で構成される開口数を有するテレセントリック光学系の組み合わせを備える。
【0026】
特に有利な一実施形態によれば、眼の手術装置は、切断領域を見ることができるように構成される少なくとも1つのカメラをさらに備える。
【0027】
好ましくは、前記少なくとも1つのカメラは、入射撮像ビームが集束光学系の光学的な対称軸に対して30°-50°、好ましくは45°-47°の間で構成される角度だけ傾斜するように、集束光学系と生体組織との間に配置される。
【0028】
別の特に有利な実施形態によれば、眼の手術装置は、生体組織に対して集束系の光学的な対称軸の対称性をセンタリングするように構成されるセンタリングカメラ(9)をさらに備える。
【0029】
好ましくは、レーザー源が、1020nmと1600nmとの間、好ましくは1030nmと1090nmの間とで構成される波長でレーザーパルスを放射する。
【0030】
ある特定の実施形態によれば、前記レーザー源は、2つの異なる部分から形成されており、第1の部分は、発振レーザー共振器とストレッチャとを備え、第2の部分は増幅レーザー共振器と圧縮機と音響光学モジュールとを備え、前記装置は、一方では、前記集束光学系を組み込んだ切断モジュールと、前記パルス状のレーザービームを移動させるための前記光学システムと、前記レーザー源の第2の部分と、を備え、他方では、前記レーザー源の第1の部分によって発生するレーザービームを切断モジュールに伝達するための光ファイバーリンクを備える。
【0031】
有利には、眼の手術装置は、平面でありかつ平行である複数の面を有するプレートおよび/または平面凹型プレートを備える平坦化インターフェースデバイスをさらに備える。
【0032】
本発明はまた、角膜や水晶体のような眼の生体組織に切り込みを入れるための眼の手術設備であって、3つの軸X、Y、Zについて関節運動する自己バランスアームと、上記の眼の手術装置を備え、前記アームが、移動式の電気技術ラックに接続される一端と、切断モジュールに結合されるのに適する一端と、を備える、眼の手術設備を提供するものである。
【0033】
本発明の他の特徴、詳細および利点は、以下の詳細な説明を読み、添付の図面を分析することにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、角膜のような生体組織を切るための、本発明の一実施形態による眼の手術装置の全体図を概略的に示す。
【
図2A】
図2Aは、2つの側面視カメラの配置を概略的に示す正面図である。
【
図2B】
図2Bは、センタリングカメラの配置を模式的に示す正面図である。
【
図3】
図3は、
図1の眼の手術装置の要素の一部を組み込んだロボットアームと切断モジュールとを備える眼の手術設備の設備の概要を示す図である。
【
図4】
図4は、角膜におけるレーザービームの衝撃の影響下でのキャビテーション気泡の形成を、螺旋(spiral)とヘリックス(helix)からなる経路のパルス持続時間の関数として示す図である。
【
図5】
図5は、3種類のカットに関連するパスの例を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、パルス時間330fs~3ps、波長1030nm、パルスレート500kHz、1パルスあたりのエネルギー2μJの場合のガラスの照射領域の側面像の連続写真である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
明瞭化のため、すべての図において、類似の要素には同一の参照符号を付している。
【0036】
本特許出願の文脈において、「ピコ秒レーザー」とは、数百フェムト秒から数十ピコ秒の間で構成される持続時間のパルスを照射するレーザーを意味する。
【0037】
本特許出願の文脈において、「エネルギー密度」とは、単位体積当たりのエネルギー量を意味する。
【0038】
本特許出願の文脈では、「パルスレート」とは、1秒あたりのパルス数を意味する。パルスレートを上げると、治療時間を短縮することができるが、パルスレートが高いと好ましくない影響が現れることがある。具体的には、連続する2つのパルス間の時間が、対象となる生体組織の熱緩和時間よりも短い場合、熱が蓄積され、生体組織の温度が徐々に上昇する。この熱負荷により、処理部位の周囲に熱影響領域および/または物理化学的修飾領域が誘発される。そのため、パルスレートを上げると、必然的に走査速度も上がり、焦点面内でスポット形成が連続的になり、切断品質が維持される。
【0039】
開口数(NO)=n*sinθ、nは媒質の屈折率、θはレーザー光の入射半角を表す。開口数が大きいとレーザースポットの直径が小さくなるが、被写界深度は浅くなる。一方、高い開口数は、より小さな作業フィールドを生成する。したがって、本特許出願の文脈では、角膜切断の文脈で許容される直径のスポットを生成するのに十分高い開口数と、瞳孔の領域全体を含むことができるように十分に大きな作動領域を組み合わせることができることが不可欠である。
【0040】
光学破壊または光切断の閾値は、生体組織でキャビテーション気泡が形成されるパルスあたりのエネルギー閾値に対応する。光切断は、角膜組織が超短パルスレーザーを受けたときに起こる変換のメカニズムである。衝突した領域の角膜組織はプラズマに変換され、膨張してバブルキャビテーションが形成される。この気泡の膨張により、周囲の組織から剥離する。何千もの気泡を連続して発生させることにより、角膜の所望の深さに(水平、垂直、または斜めの)開裂面を生成することができる。
【0041】
本特許出願の文脈において、「焦点」とは、レーザービームのスポットが焦点面内に形成される場所に対応するレーザービームの影響領域を意味する。
【0042】
本特許出願の文脈では、「切断面」によって、意味するのは、2Dまたは3Dの幾何学的パターンを形成する一連の連続した衝突点を備える表面である。例として、
図5では、第1のタイプのパスの切断面は、螺旋と円筒形の表面とによって形成されている。
【0043】
本特許出願の文脈では、「切断面」によって意味されるのは、2Dの幾何学的パターンを形成する連続する衝突点の集合を備える平面(XY)である。
【0044】
本特許出願の文脈では、「所定の3次元経路」とは、ソフトウェアによって生成された曲線を形成する点の集合を意味する。この曲線は、レーザービームを移動させるシステムのソフトウェアによって、連続したベクトルの集合に分解される。レーザービームを移動させるシステムは、レーザービームの焦点位置を所定の経路に沿って移動させ、角膜に一連の衝突点を形成する。角膜の最も深い点から始まり、角膜の前面に最も近い点で終わる曲線が角膜に記述される。言い換えれば、曲線の始点は最も深い切断面に位置し、曲線の終点は角膜の表面に最も近い切断面に位置する。曲線は、積み重ねたときに切断ボリュームを形成する切断面を記述している。
【0045】
本特許出願の文脈では、「パス要素」によって意味されるのは、3Dパスの1つの部分である。各3Dパスは、複数のパス要素に分解されることがある。例として、
図5には、3種類のカットに対応する3つの3Dパスの例が示されている。円柱状の前方ラメラカットの場合、螺旋と円柱とからパスが形成されてもよい。螺旋は、ここでは、螺旋パターンを形成する連続した点の集合で切断面を形成するパス要素に相当する。シリンダーは、ピッチが調整可能な上昇するヘリックスを記述する別のパス要素に対応する。切断面とヘリックスは切断容積を形成する。トップハットカットの場合、経路は、螺旋、円柱、及び螺旋と円柱で形成される。ジグザグカットの場合、経路は、スパイラルと、可変ピッチおよび可変半径の2つの向かい合ったヘリックスによって記述された2つの切頭錐体から形成される。パルス持続時間、パルスあたりのエネルギー、パルスレート、走査速度からなるパラメータの1つのセットが各パス要素に関連づけられる。
【0046】
図面および以下の説明は、ほとんどの場合、確定的な性質を有する要素を含む。したがって、これらは、本発明をよりよく理解するのに役立つだけでなく、適切な場合には、その定義に寄与する。
【0047】
角膜を手術するためのレーシック装置の多くは、フェムト秒レーザーをベースにしている。特に、透明な生体組織を切断する場合、パルス幅を最小化することが一般に推奨されている。これは、エネルギーが沈着される体積を最小化し、角膜組織の不可逆的な損傷につながりやすい加熱を防止するためである。このため、レーザー源の構造を簡素化し、小型化・軽量化を図るためには、単純にパルス幅を大きくすることのみでは解決することが難しい。具体的には、光切断の閾値は強度(W/cm2)またはエネルギー密度(W/cm3)に依存する。パルス幅が長いほど、この閾値に到達するために必要なエネルギーが高くなり、熱影響が発生するリスクが高くなる。
【0048】
しかしながら、本発明の背後にある重要な観察は、フェムト秒レーザーを使用する全ての眼の手術装置が、所定の操作を通して、すなわち、ビームの3次元経路上のあらゆる場所及び角膜の切断体積内のあらゆる点で同じままである切断パラメータを採用しているという点である。特に、これらの先行技術の装置は、所定の切断操作の間、一定のパルス持続時間を使用する。しかし、フェムト秒パルスの場合、一般に、エネルギーは、焦点の上流および焦点の周囲の大きな体積に沈着することが判明している。その結果、焦点位置でのエネルギー密度は必ずしも最適、すなわち焦点位置で最大になるとは限らない。
【0049】
本特許出願では、エネルギー密度を最大にするために、焦点で、したがって小さな体積でエネルギーを沈着できるようにすることが目的の1つである。エネルギー密度を最適化することで、最小限のエネルギーでキャビテーション気泡を発生させることができる。エネルギー密度の最適化または最大化は、角膜を切断するプロセスの間、経路3上の焦点の位置に応じてパルス持続時間を動的に変化させることによって達成される。
【0050】
沈着されるエネルギーの量とエネルギーが沈着される体積は、パルス持続時間の関数として変化し、それゆえ、切断の品質と精度を保証する観点から、キャビテーション気泡の直径に作用することが可能である。また、連続する2つのショット間の距離が変化するため、気泡径を変化させることは切断速度に影響を与える。
【0051】
パルス幅を1~2psとすることで、エネルギーの局所的な沈着を促し、小径のキャビテーション気泡を形成する。この数ミクロンの気泡により、滑らかな切断線が形成され、切断の品質、精度、選択性が向上する。一方、数百フェムト秒のパルス時間では、
図4に示すように、相互作用量が大きくなり、切断速度は向上するが、品質が低下する。具体的には、直径の大きな気泡で形成された切断面は粗くなる。したがって、切断品質を向上させ、軸Z方向の選択性を良くしたいパス要素には、1~2psのパルス幅が使用されることになる。逆に、切断速度を優先したいパスには、数百フェムト秒のパルス幅を使用する。
【0052】
図6は、焦点にエネルギーを沈着して照射した領域の側面から見た一連の画像である。波長1030nm、パルスレート500kHz、照射時間500ms、1パルスあたりのエネルギー2μJ/sとパルス状のレーザービームの他のパラメータを一定とし、パルス幅を330fsから3psの間で変化させて照射を行ったものである。画像から、パルス幅を330fsから1.8psまで変化させると体積が減少し、1.8psから3psまで変化させると意外にも体積変化が反転することがわかる。これらの結果から、1.2psから1.8psの間のパルス幅で、より小さな体積のキャビテーション気泡を形成することができることがわかる。
【0053】
また、パルス幅をダイナミックに変化させるだけでなく、焦点深度や角膜の透明度に依存する光切断閾値に位置するように、各パスエレメントのパルスエネルギーを調整することも可能である。
【0054】
同様に、レーザーのパルスレート及び走査速度も、連続した光切断誘発キャビテーション気泡を形成するように調整され得る。
【0055】
したがって、本開示は、特に角膜の切断に特化し、所望の切断速度及び品質に応じて各経路要素で設定可能なパルスの持続時間のレーザーの使用に基づく外科手術装置を提供するものである。
【0056】
本発明の装置は、レーザー源とレーザービームを移動させる光学システムを制御する制御ユニットの使用に基づいており、角膜を通る焦点の3次元経路の各要素に最適なパルス持続時間を関連付けることにより、沈着エネルギーの閉じ込めによる切断品質または切断品質を損ねる切断速度のいずれかを促進するようにするものである。また、制御ユニットにより、最適なエネルギー、パルスレート、および速度を各経路要素に関連付けることができる。
【0057】
図1は、一実施形態による眼の手術装置10を模式的に示す。本装置は、角膜が切断される外科手術を行うために眼(eye)に面して配置される。ここでは、外面及び内面を有する角膜7の断面図が模式的に示されている。角膜の中心を通り、角膜の表面に垂直な光学的な対称軸8が定義される。光学的な対称軸8は、平面(XY)に直交する方向Z-Zに沿って延びている。角膜は、実質的に平面(XY)内に存在する。入射するレーザービームは、角膜の体積内の様々な深さにおいて、軸Zに平行な方向で、かつ通常の入射角で集光される。
【0058】
眼の手術装置10は、パルス状のレーザービームを照射するのに適したピコ秒レーザー源と、パルス状のレーザービームの光路上に配置され、パルスビームを角膜7の厚み内の焦点15に集束させるのに適した集束光学系5と、焦点位置を所定の3次元経路に沿って移動させるようにパルス状のレーザービームを移動させる光学システム3、4とを備えている。
【0059】
レーザー源は2つの異なる部分から形成され、レーザー源1.1の第1の部分は発振レーザー共振器とストレッチャで構成され、レーザー源1.2の第2の部分は増幅レーザーヘッドを形成し、全体として数ピコ秒から数百フェムト秒のオーダーの超短パルスを生成する。例えば、角膜組織を切断する場合、レーザー源は、波長1030nm-1090nm、エネルギー0.5μJ-20μJ、パルスレート1Hz-2MHz、パルス幅350fs-3psでパルスを発生させることができる。フレキシブル光ファイバー13は、レーザー源の第1部分1.1によって発生した非増幅レーザービームを、増幅器、圧縮機、および
図1には示されていない音響光学モジュールを備える増幅レーザーヘッド1.2へ搬送する。
【0060】
既知の方法で、かつ本発明の文脈では、電動DeepL並進を介してコンプレッサーの2つの回折格子の間の距離を増加させるようにコンプレッサーに作用させることによって、レーザー源によって出力されるパルス持続時間に作用することが可能である。この作用は、制御ユニット2によって制御される。
【0061】
上記に示したように、レーザービームが角膜の媒質に衝突したとき、レーザーの強度が光学破壊の閾値または光切断の閾値と呼ばれる閾値以上であれば、電離によってプラズマが発生する。そして、キャビテーション気泡が形成され、周辺組織の非常に局所的な破壊を引き起こす。このように、衝撃点の直径よりも大きな寸法を持つ、隣接する小さなキャビテーション気泡を次々と発生させることで、角膜組織にラメラ状の切り口を形成することができる。これらの気泡は、次に切断線を形成する。レーザービームの焦点の経路は、例えば、軸対称性を有する円柱またはヘリコイドの表面上に位置し、例えば、楕円または円形の断面を有し、決められた寸法または直径を有する。円柱の軸は、軸Z-Zに平行であり、角膜の光学的な対称軸8に中心を有する。また、円柱の軸は、軸8に中心がなくてもよい。
【0062】
レーザービームを移動させるための光学システムは、角膜を通してレーザービームの焦点位置を3方向X、Y、Zに所定の経路で移動させるために用いられ、焦点位置を軸Zに沿って移動させることを可能にする第1のスキャナ3と、切断面に対応する焦点面(X、Y)において焦点位置を2軸X、Yに沿って移動させる第2の光学スキャナ4から構成されている。2つのスキャナは協調し、同期している。
【0063】
第1のスキャナ3は、増幅レーザーヘッド1.2によって照射されるレーザービームを受け取るための入口瞳と、レーザービームを第2のスキャナに送るための、例えば直径25.4mmの出口瞳とを備え、軸Zに沿った走査速度は10mm/s-400mm/sの間で構成されている。一例として、第1のスキャナは、レーザービームのコリメーションに作用し、したがって焦点の軸Z-Zに沿った位置に作用する電動式望遠鏡である。第1のスキャナは、例えば、SCANLAB社によって販売されているVarioscanスキャナ、又はLASEA社によって販売されているLS-scan Zスキャナのうちの1つである。
【0064】
ビームの光学的偏向を可能にする第2のスキャナ4は、第1のスキャナからレーザービームを受け取るための入口瞳と、集束光学系5にレーザービームを送るための直径20mmの出口瞳とから構成される。例えば、誘導モータで制御される枢動軸に取り付けられた2つの枢動光学ミラーを備え、レーザービームを偏向させることができる。各ミラーの角速度は、ターゲット上の直線速度に対応する。軸Xおよび軸Yに沿って、ターゲット上で得られる走査速度は、1mm/sから5000mm/sの間で構成される。
【0065】
眼の手術装置は、制御されたサイズのキャビテーション気泡を生成する目的で、各パルスに関連する切断パラメータのセット、すなわち所定の3次元経路に沿った角膜の各焦点または衝突点を動的に変化させるために、レーザー源とレーザービームを動かすための光学システムを同期して制御する制御ユニット2を備える。
【0066】
制御ユニット2は、切断品質と切断速度の両方を最適化するために、3次元経路上の焦点または衝突点の位置に応じて、パルス持続時間、走査速度、パルスレート、およびパルスあたりのエネルギーを動的に変化させることを可能にする。
【0067】
制御ユニットは、通信バスによってレーザー源とレーザービームを移動させる光学システムに接続されており、装置の様々な要素に以下のような制御指示を送信することが可能である:
- レーザー源の活性化信号;
- レーザービームのパルス持続時間;
- パルスあたりのエネルギー;
- パルスレート;
- 走査速度;
- 3次元経路。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、制御ユニット2は、所定の3次元経路上の焦点の位置に応じてレーザー源のパルス持続時間を変化させるために、ソフトウェアインターフェースを介して第1スキャナ、第2スキャナ及びレーザー源を同期制御するように構成される。制御ユニット2は、例えば、パルス持続時間を350fs-3ps、好ましくは700fs-1.5psの間で変動させるように構成される。
【0069】
同様に、制御ユニットは、光学破壊の閾値に対応する光切断の閾値に焦点位置を置くように、各経路要素について、パルスあたりのエネルギーを0.5μJと20μJとの間で変化させるように構成されてもよい。具体的には、光切断の閾値は、角膜における衝撃の深さ、及び角膜の透明度に依存する。
【0070】
同様に、制御ユニットは、連続する焦点によって誘発される気泡を並置するように、Z速度を、10mm/sと400mm/sとの間で、変化させ、XY速度を、1mm/sと5000m/sとの間で、変化させ、走査速度を変化させるように構成されてもよい。
【0071】
切断手順の前に、所定の3次元パスが制御ユニットに読み込まれる。3次元経路は、曲線から抽出された一連のベクトルによって構成される。これらのベクトルは、角膜を通過する焦点の連続した動きに対応する。各レーザーパルスは、これらのベクトルに沿って連続したキャビテーションバブルを発生させる。連続する気泡の間の距離は、ターゲット上の速度とレーザーのパルスレートに依存する。好ましくは、並置された気泡を得るために、パルスレートに対する速度が調整される。
【0072】
有利なことに、各経路は、複数の経路要素に分解されることができる。したがって、パルス持続時間、パルスあたりのエネルギー、パルスレート、および走査速度などの1組のパラメータを各パス要素に関連付けることが可能である。
【0073】
図4は、2次元パターンである螺旋51の形態をとる第1のパス要素と、ヘリックス52の形態をとる第2のパス要素とから形成される3次元パス50の一例を模式的に示す図である。このような経路は、角膜の前方ラメラカットを行うのに特に適している。
【0074】
制御ユニットは、切断品質を促進するために、例えば1.5ピコ秒のパルス持続時間を第1の経路要素上に照射される全てのレーザー衝撃と関連付け、切断速度を促進するために、例えば500fsのパルス持続時間を第2の経路要素上に供給される全てのレーザー衝撃と関連付けるように装置の各要素を制御する。
【0075】
制御ユニットは、第1の複数のキャビテーション気泡53の配列が螺旋を形成するように、レーザー源およびビームを移動させるための光学システムを制御する。この第1の複数のキャビテーション気泡が生成されると、制御ユニットは、ヘリコイドパターンを形成する第2の複数のキャビテーション気泡53を形成するように、レーザー源およびビームを移動させるための光学系を制御する。
図4の例が示すように、形成される第1の気泡は、形成される第2の気泡よりも小さいサイズを有する。
【0076】
集束系5は、少なくとも10mmの直径を有する作業フィールドにおいて、一定のサイズ(数ミクロンのスケール)の衝突点を得るように、角膜の厚みにおいてレーザービームを集光するように構成されている。集束光学系の光学的な対称軸は、角膜の光学的な対称軸8を中心とする。別の構成によれば、集束光学系の光学的な対称軸は、角膜の光学的な対称軸に中心を持たない。
【0077】
集束光学系5は、レンズのアセンブリで構成されている。ここでの光学設計は決定的なものではなく、仕様に完全に合致する実施例として、指示として与えられていることに留意されたい。したがって、レンズの数、それらの特性、およびそれらの位置は、上記で定義された技術的特徴を達成しながら、異なることが可能である。
【0078】
本発明の一実施形態によれば、集束系は、テレセントリック光学系の組み合わせである。一例として、使用されるテレセントリック光学系の組合せは、以下の特性を有し得る:
- 波長:1030nm;
- 開口数(numerical aperture) 0.15;
- 作動距離または焦点距離:50mm;
- 入射瞳:15mm;
- 視野サイズ:10mm;
- 焦点位置の直径:8.5μm。
【0079】
本発明の別の有利な実施形態によれば、集束系は、以下の技術的特性を有するテレセントリック光学系の組み合わせである:
- 波長:1030nm;
- 開口数 0.22;
- 作動距離または焦点距離:30mm;
- 入口瞳:14mm;
- 視野サイズ:10mm;
- 焦点位置の直径:6μmより小さく、10mmの視野全体において、すなわち角膜のすべての位置において、である。
【0080】
この第2のテレセントリック光学系の組み合わせは、より高い開口数を採用することを可能にし、したがって、6μmより小さい、より小さな直径の焦点位置を採用することができる;したがって、レーザースポットの直径が約8.5μmである第1のレンズよりも、より良い精度とより良い切断品質を可能にする。
【0081】
有利なことに、本発明のテレセントリック光学系の組み合わせは、精密で薄い切断を得るために約0.22という高い開口数と、眼の機能的瞳孔の全面をカバーするために約10mmという大きな作業フィールドを組み合わせるように構成される。
【0082】
さらに、最適化されたパルス持続時間と組み合わせたこの特定の組み合わせの使用により、約10mmの広い作業領域に数ミクロンの小さな気泡を作ることができ、したがって切断品質も向上する(低粗度の切断面)。
【0083】
有利には、装置は、治療される眼に接触して配置された平坦化インターフェースデバイス14を備え、これにより、角膜7へのレーザービームの入射角度を減少させることができる。このインターフェースデバイスは、例えば平凹レンズを備え、その角膜に面して配置された面は、角膜の平均曲率半径よりも大きいか、またはそれに等しい曲率半径を有する。別の実施形態によれば、インターフェースデバイスは、平板レンズを備える。平坦化インターフェースデバイスの光軸は、角膜の光学的な対称軸8に中心を合わせている。インターフェースデバイスは、装置の集束光学系に取り付けられてもよい。この場合、平坦化インターフェースデバイスの高さは、集束光学系の焦点距離と正確に等しい。
【0084】
有利には、
図2A及び2Bを参照すると、手術装置は、外科医が手術中にディスプレイスクリーン40上で角膜を見ることができるカメラ11、12と、患者の目の上に装置を正しく配置するように角膜の光軸に対して中心が設定されたセンタリングカメラ9とから構成される。
【0085】
図2Aに示すように、リングライトを備え、集束系5の両側に配置された2つのビューイングカメラ11、12により、手術中に眼を照射して見ることができる。約12mmである画像領域の直径は、移動光学系によってレーザースポットが移動し得る切断領域よりも大きくなっている。2台のカメラにより、切断領域が観察され、切断プロセスが監視される。2台のカメラは、集束光学系と角膜の間に配置され、集束系の光学的な対称軸に対して45°から47°の間で構成される角度でイメージングビームの向きを変えている。これらの値は、カメラデバイス及び平坦化インターフェースデバイスの光学系及び機構の嵩を許容しながら、10.5mmのフィールドで眼を見ることを可能にする。
【0086】
図2Bに示されるように、センタリングカメラ9は、集束系と組織との間に配置される取り外し可能なカメラである。それは、集束系の光軸8を中心とする視円錐9.2を生成するように、ミラー9.1によって90°操縦される視円錐を生成し、したがって、患者の眼の上に装置を配置することを可能にする。有利なことに、カメラは、環状のアライメントスポットを生成するリングライトを備えており、したがって、患者は、集束系の光学的な対称軸を中心とする光のスポットに固定することができる。
【0087】
このように、3つのカメラによって、手術前に眼を観察し、手術中にモニタリングを行うことができる。
【0088】
有利なことに、この眼の手術装置では、パルスピコ秒レーザーを用いて角膜に高品質の切り込みを入れることができる。このようなレーザーは、光ファイバーを損傷する可能性が高い強度のパルスを供給するパルスフェムト秒レーザーと異なり、光ファイバーを介した伝送に適合している。この増幅されたレーザーパルスを伝送できるセミリジッド光ファイバーもあるが、1パルスあたりのエネルギーに限界がある。また、光伝送が最適化されていないため、光ファイバーからの出力が大きく損なわれてしまう。同様に、これらの光ファイバーは、レーザービームの初期偏光をわずかに変化させる。本発明の有利な一実施形態によれば、レーザー源は、2つの異なる部分1.1および1.2から形成されている。第1の部分1.1は、発振レーザー共振器とテンポラリーストレッチャーとを備え、増幅レーザーヘッド1.2と呼ばれる第2の部分は、図に示されていない増幅共振器、圧縮機および音響光学モジュールから構成される。偏波保持光ファイバー13は、ビームを伝送するために、2つの異なる部分の間に介在される。このようなアーキテクチャにより、タイムストレッチャーによって出力されたレーザーパルスは、光ファイバーを通過する前に増幅されない。この特定のアーキテクチャにより、レーザービームを移動させる光学システム、集束光学系、およびレーザーヘッドが切断モジュール20に統合され、リーチ1mの自己バランス多関節アームの先端に取り付けるのに適しているので、患者の周囲の空間を解放し、装置によって占められる床面積を制限することが可能である。
【0089】
図3を参照すると、本発明はまた、切断モジュール20が、空気圧補助手段およびブロック手段を有する自己バランス多関節アーム30の一端に取り付けられるように構成され、アームの他端が移動式の電気技術ラック60に取り付けられる眼の手術設備100に関する。設備のいくつかの要素、例えば発振レーザー共振器とストレッチャとを備えるレーザー源1.1の最初の部分、表示画面40および制御ユニット2は、移動式の電気技術ラック60に収容される。このアームにより、0-35kgの荷重を実質的に感じる重量がゼロで移動させることができる。使用されるアームは、例えば、3ARM社によって販売されているシリーズ3アームである。カッティングモジュールに配置されたアクチュエータにより、3方向X、Y、Zに動かすために空気圧でブロックされたアームのロックを解除することができる。自己バランス多関節アームにより、切断モジュール20を患者の眼の上に位置させることができる。切断モジュール20の位置は、センタリングカメラ9の助けを借りて、外科医によって調整される。
【0090】
本発明により、角膜や水晶体などの眼の生体組織に高品質の切断を行うための効果的かつコンパクトな眼の手術装置を提供することができる。高開口数の集束系により、直径10mmのフィールドにミクロンオーダーの均一なサイズのスポットを角膜層の厚さまで生成することが可能である。また、切断時の焦点位置によってレーザー光のパルス幅を調整することで、目的とするキャビテーション気泡の大きさを調整することも可能である。レーザーパルスの空間的、時間的、動的成形の組み合わせにより、ピコ秒レーザーで高品質で精密な切断を得ることができる。
【0091】
本発明の眼の手術装置は、現行の装置よりも安価な単純な構成要素を備えているため、製造コストが比較的低い。
【0092】
それは、集束系、ビームを移動させるシステム、及びレーザー源の構成要素の一部が、自己バランス多関節アームの端部に取り付けられ得るコンパクトで軽い切断モジュールに統合されている、その特定のアーキテクチャによって、よりコンパクトで、移動可能である。
【0093】
レーザー源の一部やディスプレイ画面などの残りの設備を収納するために、移動式の電気技術ラックを使用して、アセンブリ全体をより簡単に移動させることができる。
【0094】
最適化された切断パラメータとレーザービームを移動させるための制御されたシステムで事前に確立された3Dパスを使用することにより、半自動切断が可能になり、再現性と繰り返し性が確保される。
【0095】
本発明で提供される技術の有利な特徴の1つは、パルス持続時間、パルスあたりのエネルギー、ビームの移動速度、パルスレートなどの切断パラメータを各経路要素の関数として動的に変化させることであり、これにより、切断面を低粗度にして正確かつ薄い切断が得られ、しかも切断時間を最短にできることが保証される。これによって直接的に得られる技術的な利点の1つは、薄い層を切断し、正確に移植を薄くすることができることである。低エネルギーパルスによる連続的な動的経路に関連する別の技術的利点は、それによって発生する熱影響領域が非常に限られているため、角膜組織の保存が良好であることである。
【0096】
別の技術的な利点は、操作全体にわたって半自動切断を実施することができることである。一方、装置のセンタリング、レーザービームのトリガー、経路の選択は、外科医が管理する。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、特に、角膜移植を視野に入れたドナーおよびレシピエントの角膜切断手術を実施するのに適している。また、移植の準備や薄膜化にも使用することができる。本発明の範囲から逸脱することなく、他のLASIK、SMILE又はRELEXの操作に使用してもよい。例えば、本発明は、アメトロピア、特に近視、遠視、乱視の治療などの角膜屈折矯正手術に適用可能である。また、本発明は、角膜の切開を伴う白内障の治療にも適用可能である。一般に、本発明は、角膜に対する、またはその能力の延長線上にある、ヒトまたは動物の眼の水晶体に対するあらゆる操作に関する。
【符号の説明】
【0098】
2 制御ユニット
3、4 光学システム
3、4 移動光学系
5 集束光学系
9 センタリングカメラ
10 手術装置
11、12 カメラ
13 光ファイバーリンク
14 平坦化インターフェースデバイス
15 焦点
20 切断モジュール
30 自己バランスアーム
60 電気技術ラック
【国際調査報告】