(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】質量分光分析のための事前分画
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20230518BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230518BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20230518BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20230518BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
G01N30/88 J
G01N27/62 B
G01N30/26 A
G01N30/02 B
G01N30/72 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561587
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(85)【翻訳文提出日】2022-12-01
(86)【国際出願番号】 EP2021056422
(87)【国際公開番号】W WO2021204495
(87)【国際公開日】2021-10-14
(32)【優先日】2020-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521002017
【氏名又は名称】プレオミクス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】PREOMICS GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンソン,セバスチャン・ハー
(72)【発明者】
【氏名】クルカ,ニルス・アー
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041JA14
(57)【要約】
本発明は、マトリクスに結合した様々な分析物を分画する方法であって、(a)複数種の溶離剤を用いて前記分析物を溶離することを含み、ここで、1番目の溶離ステップが1番目の番号を付した溶離剤を含む溶離緩衝液を用いて行われ、それに続く(n番目の)溶離ステップがn番目の番号を付した溶離剤を含む溶離緩衝液を用いて行われ、また、前記n番目の番号を付した溶離剤が、前記1番目の番号を付した溶離剤よりも低い双極子モーメントおよび/または高い疎水性を有する、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクスに結合した様々な分析物を分画する方法であって、
(a)複数種の溶離剤を用いて前記分析物を溶離することを含み、ここで、1番目の溶離ステップが1番目の番号を付した溶離剤を含む組成物を用いて行われ、それに続く(n番目の)溶離ステップがn番目の番号を付した溶離剤を含む組成物を用いて行われ、
少なくとも1種のn番目の番号を付した溶離剤が、前記1番目の番号を付した溶離剤と比較して異なる双極子モーメントおよび/または異なる疎水性を有し;前記分析物が、ペプチド、タンパク質および/もしくはポリペプチドであるか、またはそれらを含み;好ましくは、前記溶離剤のうちの少なくとも1種が、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミン、ピロール、置換ピリジン、および置換ピロールから選択される、
前記方法。
【請求項2】
(i)前記n番目の番号を付した溶離剤が、前記1番目の番号を付した溶離剤よりも低い双極子モーメントおよび/もしくは高い疎水性を有する;ならびに/または
(ii)前記組成物のうちの1種、複数または全てが溶離緩衝液である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マトリクスが、強陰イオン交換マトリクス(SAX)、強陽イオン交換マトリクス(SCX)、弱陰イオン交換マトリクス(WAX)、弱陽イオン交換マトリクス(WCX)、逆相(RP)マトリクス、およびSCX/WCX部分とRP部分とを組み合わせた混合相マトリクスから選択され;強陰イオン交換マトリクス(SAX)、強陽イオン交換マトリクス(SCX)、弱陰イオン交換マトリクス(WAX)、弱陽イオン交換マトリクス(WCX)および前記混合相マトリクスが好ましく;前記混合相マトリクスがとりわけ好ましい、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記複数種の溶離剤が、2~96、3~8から選択される数であるか、または3種である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
(i)異なる溶離剤が各溶離ステップに使用される;および/または
(ii)異なる番号を付した溶離剤が異なる化合物もしくは化合物の異なる混合物である、
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
(iii)同じ溶離剤が少なくとも2度使用される;および/または
(iv)異なる番号を付した少なくとも2種の溶離剤が同じ化合物もしくは化合物の同じ混合物である、
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
組成物が、番号を付した溶離剤に関してのみ異なる、ならびに/または前記組成物が濃度勾配および/もしくはpH勾配を実施しない、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
番号を付した溶離剤が、ピリジン、ピペリジン、ピロリジン、トリエチルアミン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-メチルピリジン、イミダゾ[1,2-a]ピリジン、ピロール、N-メチルピロール、4-ビニルピリジン、2-ビニルピリジン、3,4-ジメチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、2,3-ジメチルピリジン、2,3,5-トリメチルピリジンおよび2,4,6-トリメチルピリジンから選択され、好ましくは、芳香族であるおよび/または共役二重結合を含む溶離剤である、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
各組成物が、
(a)1~10%(v/v)、好ましくは5%(v/v)の番号を付した溶離剤;および
(b)2~80%(v/v)、好ましくは80%(v/v)の、好ましくはアセトニトリル、エタノールもしくはメタノールから選択される極性非プロトン性有機溶媒
を含むか、またはそれらからなる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ステップ(a)の前に、
(a’)特異的に選択した溶離剤を用いた過剰な試薬、例えば化学標識試薬および/または汚染物質の除去が行われる、
先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(a’)が、前記1番目の番号を付した溶離剤よりも双極子モーメントが高いおよび/または前記1番目の番号を付した溶離剤よりも疎水性が低い、事前溶離剤を用いた溶離によって行われる、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記事前溶離剤が、事前溶離組成物に含まれる、および/または炭酸とC
2~C
5アルカンジオールとのエステルであり、前記事前溶離剤が好ましくは炭酸プロピレンである、請求項11または12に記載の方法。
【請求項13】
先行する請求項のいずれかに記載の方法を含むクロマトグラフ法であって、ステップ(a)の前、および存在する限りにおいてはステップ(a’)の前に、
(a’’)前記マトリクス上に前記様々な分析物を含むサンプルを充填するステップ
が行われる、
クロマトグラフ法。
【請求項14】
キットであって、
(a)複数種の番号を付した溶離剤であり、そのうちの少なくとも1種が、その双極子モーメントおよび/またはその疎水性に関して別の番号を付した溶離剤とは異なる前記番号を付した溶離剤;ならびに
(b)分析物であり、ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質である前記分析物の分画に適したマトリクスを含むか、またはそれらからなり、
好ましくは、
(a’)前記マトリクスが、請求項3において定義された通りである、および/もしくはSPEカートリッジとして供給され;
(b’)前記複数種の番号を付した溶離剤が、請求項7において定義された通りであり;好ましくは請求項8において定義された通りであり;
(c’)前記番号を付した溶離剤のそれぞれが、すぐに使用できる組成物に含まれている;ならびに/または
(d’)前記番号を付した溶離剤が少なくとも3種の番号を付した溶離剤であり、好ましくは、1番目の番号を付した溶離剤、2番目の番号を付した溶離剤および3番目の番号を付した溶離剤がそれぞれ3-メチルピリジン、4-メチルピリジンおよび2,4,6-トリメチルピリジンである、
キット。
【請求項15】
下記、
(a)充填用緩衝液、好ましくは酸性化有機溶媒;
(b)洗浄用緩衝液、好ましくは酸性化水性緩衝液および/または酸性化有機溶媒;ならびに
(c)請求項1から13のいずれか1項に記載の方法を遂行するための指示書を含むマニュアル
のうちの1つまたは複数を更に含むか、それらから更になる、
請求項14に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリクスに結合した様々な分析物を分画することにより分離する方法であって、(a)複数種の溶離剤を用いて前記分析物を溶離することを含み、ここで、1番目の溶離ステップが1番目の番号を付した溶離剤を含む溶離緩衝液を用いて行われ、それに続く(n番目の)溶離ステップがn番目の番号を付した溶離剤を含む溶離緩衝液を用いて行われ、また、前記n番目の番号を付した溶離剤が、前記1番目の番号を付した溶離剤よりも低い双極子モーメントおよび/または高い疎水性を有する、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、特許出願および製造業者のマニュアルを含む多数の文献が引用されている。これらの文献の開示は、本発明の特許性に関連しないと考えられるが、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。より具体的には、参照される文献は全て、個々の文献が参照により組み込まれるものとそれぞれ具体的かつ個別に示されている場合と同じ程度に参照により組み込まれる。
【0003】
エレクトロスプレーイオン化(ESI)によって質量分析(MS)と連結させた液体クロマトグラフィー(LC)の組み合わせは、複雑な分析物混合物の定性的および定量的な側面を判定するための技術的に確立された手順である。分析対象の分析物は多くの場合、大きなダイナミックレンジ(分析物の最大から最小までの存在量)にまたがり、空間および時間においてこれらを分離して、MS側での完全な測定を容易にするためにLCが使用される。分析物サンプルによってはLCによる一次元の分離で十分な場合もあるが、高度に複雑な生物学的サンプルでは、質量分析計の容量のかなりの割合が幾つかの豊富な分析物のみによって吸収されることが多い。技術的に確立されたアプローチでは多くの場合、それ自体は十分に検出限界内でありながら、言及された存在量の多い分析物の存在のために検出を逃れる存在量の少ない分析物を検出することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの欠点に鑑み、本発明の背景にある技術的問題は、分析、とりわけ質量分析計における改良された手段および方法を提供することにあると見ることができる。この技術的問題は、添付の特許請求の範囲の主題によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様において、本発明は、マトリクスに結合した様々な分析物を分画する方法であって、(a)複数種の溶離剤を用いて前記分析物を溶離することを含み、ここで、1番目の溶離ステップが1番目の番号を付した溶離剤を含む溶離緩衝液を用いて行われ、それに続く(n番目の)溶離ステップがn番目の番号を付した溶離剤を含む溶離緩衝液を用いて行われ、また、前記n番目の番号を付した溶離剤が、前記1番目の番号を付した溶離剤よりも低い双極子モーメントおよび/または高い疎水性を有する、方法を提供する。
【0006】
これに関連して、本発明は、マトリクスに結合した様々な分析物を分画する方法であって、(a)複数種の溶離剤を用いて前記分析物を溶離することを含み、ここで、1番目の溶離ステップが1番目の番号を付した溶離剤を含む組成物を用いて行われ、それに続く(n番目の)溶離ステップがn番目の番号を付した溶離剤を含む組成物を用いて行われ、また、少なくとも1種のn番目の番号を付した溶離剤が、前記1番目の番号を付した溶離剤と比較して異なる双極子モーメントおよび/または異なる疎水性を有し;前記分析物が、ペプチド、タンパク質および/もしくはポリペプチドであるか、またはそれらを含み;好ましくは、前記溶離剤のうちの少なくとも1種が、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミン、ピロール、置換ピリジン、および置換ピロールから選択される、方法を提供する。
【0007】
前記組成物は、本明細書においては「溶離組成物」とも称される。
「分画する」という用語は、その技術的に確立された意味を有する。その最も一般的な形態では、混合物中に存在する分析物をある程度まで分離することを指す。好ましくは、この用語は、ある特定の分析物の選択的な濃縮を包含する。理想的には、各画分は、分析物を何ら重複することなく完全に分離する(完全な分離および/または任意に少量の画分を想定する)。通常、これは不可能であるが、それでも分画は、下流のいずれかの分析法の結果を向上させる手段として認識されている。「下流の分析法」という用語は、単一の分析手順を指す場合もあるが、2以上の一連の分析手順を指す場合もある。一例を挙げると、第1の態様による分画する方法の後に、液体クロマトグラフィー(LC)が続いてもよい。分析用語を使用すると、第1の態様の方法が第1の次元における分画を、液体クロマトグラフィーが第2の次元における分画を提供する。液体クロマトグラフィーの後に質量分析(MS)が続き、LCとMSとの組み合わせが「下流の分析法」を実施してもよい。本明細書においては、第1の態様の方法は、「事前分画」とも称される。一般に、言及した下流の分析法からは物理的に分離されている。それが理由で、第1の態様による事前分画は、「オフライン」とも呼ばれる。他方、多くの実施において、LCおよびMSは物理的に連結されており、「オンライン」とも称される。
【0008】
重要なことに、本発明による事前分画は、単一の溶離剤を適用することによって行われるものではない。むしろ、少なくとも2種、好ましくは3種以上の区別された溶離剤を伴うものである。注目すべきことであるが、そのような複数種の溶離剤は、本発明に従って使用される場合、溶離プロセス中に、時間と共に1種の溶離剤の濃度が上昇する一方で、第2の溶離剤の濃度が低下するという勾配を実施しない。
【0009】
技術的に確立された勾配は、段階的な形(2種の溶離剤の相対量の不連続な変化)で実施されることもあるため、本発明の方法は、段階的ではあるが、それとは異なることに注目すべきである:n番目の溶離剤は、1番目の溶離剤とは異なる化合物であり、好ましくは、n番目の溶離剤を含む溶離組成物は、1番目の溶離剤を含有せず、逆もまた同様である。
【0010】
「分析物」という用語は、サンプル中に存在する分子種を指す。サンプルは一般に、様々な異なる分析物を含む。例えば、サンプルは、数千の異なるタンパク質またはペプチドで構成されるヒトプロテオームを含んでもよく、これらの異なるタンパク質またはペプチドはまた、各ペプチドの単一の「コピー」から数百万の「コピー」まで、様々な量で存在する。したがって、分析物の数は、特に限定されない。LC-MSに基づくボトムアッププロテオミクスの分析の場合、タンパク質は通常、分析前にタンパク質分解的に消化されることを理解する必要がある。これにより上記のペプチドが生じるのである。
【0011】
「マトリクス」という用語は、分析物を差別的に吸収する材料を指す。マトリクスは、樹脂、ビーズおよびスラリーなどの様々な周知の形態のうちの一形態で提供されてもよい。プレパックカラムなどのカラム形式で提供することもできる。カートリッジとして提供してもよく、本発明によると、これが好ましい。カートリッジ、より具体的には固相抽出(SPE)カートリッジは一般に、マトリクスで予め満たされている消耗品である。SPEカートリッジは、特殊な設備を必要とせずに取り扱いが容易であるため、多くの場合有利である。SPEカートリッジは、スピンカラム、陽圧、陰圧、またはフローポンプに取り付けられた状態を含むがこれに限定されない様々な形態で使用することができる。これらを多重化して、ロースループットまたはハイスループット用途(例えば、並列で96×)に使用することもできる。
【0012】
混合物中の分析物は一般に、疎水性、電荷状態およびサイズなどの1つまたは複数の特性の点で互いに異なるため、ほとんどのマトリクス材料(仮想的な完全に不活性のマトリクス材料は例外として)は、分析物に対して異なる結合性を呈する。好ましいマトリクス材料は、以下に更に記載する。
【0013】
第1の態様の方法は、マトリクスの充填および任意選択で洗浄が既に行われたところで開始される。そのため、第1の態様の方法は、溶離に焦点を当てている。技術的に確立された溶離プロトコルは、例えば、実質的に全ての分析物の結合解除が望ましい過酷な条件を伴う場合がある。或いは、同じ溶離剤の量を変化させる勾配を採用してもよい。勾配は、一般に分析物の分離をもたらす溶離条件の連続的または段階的変化を実現する。
【0014】
本発明によると、溶離は、段階的に遂行される。しかし、勾配などの先行技術のアプローチから逸脱し、異なる溶離緩衝液に採用される化学物質は、同じ溶離剤構成要素の相対量の点で互いに異なるものではなく;少なくともこれは、本発明の背景にある重要な概念ではない。決定的な違いは、本発明においては、各溶離緩衝液が、この溶離組成物または溶離緩衝液に特異的な区別される化学溶離剤を含むことである。この溶離剤は、その使用が特定の溶離ステップに(かつ、任意選択で特定の溶離組成物または溶離緩衝液にも)特異的であることを明確にするために、「番号を付した溶離剤」と称される。
【0015】
このアプローチは、実施例に提示されるデータから明らかな明白な利点を有する。更に説明し、好ましい例として複雑なペプチド混合物であるサンプルを考慮すると、プロテオームのタンパク質分解消化によって得られる個々のペプチドは、正味の表面電荷および/または疎水性に関して互いに異なっている。第1の態様によって必要とされるように、疎水性および/または双極子モーメントの点で互いに異なる複数種の番号を付した溶離剤を使用して、第1の態様による方法は、分析物の異なる正味の表面電荷および/または異なる疎水性に直接対処し、それを説明する。溶離組成物または溶離緩衝液は、好ましくは溶媒を含むか溶媒であり、より好ましくは有機溶媒を含むか有機溶媒である。
【0016】
このように、所与の溶離組成物または溶離緩衝液の主要な原材料は、所与の番号を付した溶離剤である。とはいえ、溶離組成物または溶離緩衝液は、以下に更に開示される更なる構成要素を含んでもよい。
【0017】
双極子モーメントと疎水性の両方は、当技術分野において確立されたパラメータを使用して表すことができる。「双極子モーメント」という用語は、本明細書で使用する場合、
電気双極子モーメントを指す。電気双極子モーメントは、系、ここでは分子内の正と負の電荷の分離の尺度である。本発明による特に関連性のある分子は、分析物、特にペプチド、および溶離組成物または溶離緩衝液、特に先に引用した番号を付した溶離剤の構成要素である。電気双極子モーメントは、検討される分子の極性の尺度である。電気双極子モーメントは、クーロンメートル(C・m)単位で測定される。技術的に確立された非SI単位は、デバイ(D)である。1デバイは約3.33564×10-30C・mである。Merck Indexなどの百科事典には、膨大な数の化学物質の双極子モーメントに関する情報が掲載されている。
【0018】
疎水性は、logP値として定量的に表すことができる。logP値は、平衡状態で混和しない2種の溶媒の混合物中の所与の化合物についての分配係数または分布係数の10を底とする対数である。logPを定義する目的では、これらの溶媒は、オクタノールと水である。言及した分配係数は、オクタノール中の検討される分析物の濃度を水中の前記分析物の濃度で除したものである。したがって、1より大きいlogPの値は疎水性化合物を示し、前記化合物は、疎水性が高いほどlogP値が大きい。親水性化合物は、1未満のlogP値を有することになる。
【0019】
溶離緩衝液が使用される範囲では、TEAB(重炭酸トリエチルアンモニウム)、グリシン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、トリス、MOPS、TES、HEPES、トリシン、ビシン、タウリン、CHES、AMP、またはリン酸水素などの技術的に確立された緩衝液物質を使用してもよい。
【0020】
好ましい実施形態において、(i)前記n番目の番号を付した溶離剤が、前記1番目の番号を付した溶離剤よりも低い双極子モーメントおよび/もしくは高い疎水性を有する;ならびに/または(ii)前記組成物のうちの1種、複数または全てが溶離緩衝液である。
【0021】
本明細書に添付の実施例および以下に更に開示される好ましい実施形態から明らかなように、前記組成物(本明細書では溶離剤組成物とも称される)は、緩衝化されていてもよいが、緩衝化されている必要はない。実際、前記組成物は、緩衝化されていないことが好ましい。
【0022】
好ましい実施形態において、前記分析物は、ペプチド、タンパク質および/もしくはポリペプチドであるか、またはそれらを含む。
【0023】
前記ペプチドは、タンパク質またはポリペプチドのタンパク質分解消化によって得られるペプチドであってもよい。適切なプロテアーゼは当技術分野で公知であり、トリプシン、および以下に更に開示される他のプロテアーゼが含まれる。
【0024】
先に言及したように、引用されたタンパク質およびポリペプチドは、好ましくは生体起源である。それらは、同じタイプもしくは異なるタイプの細胞の溶解の結果でもよく、および/または1つまたは複数の組織タイプに由来するものであってもよい。
【0025】
タンパク質分解消化に一般的に使用される酵素は、トリプシンである。とはいえ、Lys-C、Lys-N、Glu-CおよびArg-Cなどの技術的に確立された代替的な酵素が多数存在する。
【0026】
最も単純な設計では、異なる溶離ステップ(および任意選択で溶離組成物または溶離緩衝液も)は、番号を付した溶離剤に関してのみ互いに異なり、番号を付したそれぞれの溶離剤は、特定の溶離ステップ(および任意選択で溶離組成物または溶離緩衝液)に特異的である。
【0027】
更に、少なくとも1つの溶離剤ステップにおいて(および任意選択で少なくとも1種の溶離組成物または溶離緩衝液においても)、少なくとも2種の異なる溶離剤(例えば異なる溶媒または有機溶媒)の混合物を使用することが想定される。そのような場合、前記少なくとも2種の異なる溶離剤は、好ましくは、第1の態様の方法において使用される残りの溶離剤ステップには(および任意選択で残りの溶離組成物または溶離緩衝液には)全く存在しない。代替法では、あまり好ましくはないが、1つの溶離ステップにおける溶離剤の混合物の1種の構成要素、2種の構成要素、または全ての構成要素を、他の溶離ステップでも(および任意選択で他の溶離組成物または溶離緩衝液でも)使用してもよい。注目すべきは、このあまり好ましくない実施においても、段階的な勾配が実現されないことである。
【0028】
一例は、下記の通りである。1番目の溶離ステップは(および任意選択で1番目の溶離組成物または溶離緩衝液も)、1番目の番号を付した溶離剤として3-メチルピリジンを含むことができる。2番目の溶離ステップは(および任意選択で2番目の溶離組成物または溶離緩衝液も)、番号を付した溶離剤として4-メチルピリジンを含むことができる。
【0029】
溶離ステップおよび溶離組成物または溶離緩衝液が、言及した番号を付した溶離剤に加えて更なる構成要素および/または更なる溶離剤を含むことは除外されない。しかし、好ましくは、前記追加の構成要素は、溶離剤間で変化しない。その文脈での変化とは、化学的性質と相対量の両方を意味する。換言すれば、そして先に示した例の枠組みの中では、溶離ステップおよび溶離組成物または溶離緩衝液は、言及した置換ピリジンに加えてアセトニトリルおよび任意選択で水を含んでもよい。しかし、典型的な実施において、アセトニトリルと任意選択での水との両方の存在、およびこれら2種の化合物の相対量は、溶離ステップおよび溶離組成物または溶離緩衝液の間で変化しない。したがって、溶離ステップおよび溶離組成物または溶離緩衝液間で好ましくは変化する唯一の特性は、番号を付した溶離剤(先に検討したように、溶離剤の混合物で構成することもできる)の化学的性質である。
【0030】
更なる好ましい実施形態において、前記マトリクスは、混合相マトリクス、強陽イオン交換マトリクス(SCX)または弱陽イオン交換マトリクス(WCX)、および逆相(RP)マトリクスから選択される。したがって、好ましくは技術的に確立されたマトリクスの使用がなされる。特に好ましいのは、混合相マトリクスである。混合相マトリクスの中では、スチレンジビニルベンゼンの部分的にスルホン化された形態からなるスチレンジビニルベンゼン-逆相スルホナート(SDB-RPS)が特に好ましい。
【0031】
換言すれば、前記マトリクスは、強陰イオン交換マトリクス(SAX)、強陽イオン交換マトリクス(SCX)、弱陰イオン交換マトリクス(WAX)、弱陽イオン交換マトリクス(WCX)、逆相(RP)マトリクス、およびSCX/WCX部分とRP部分とを組み合わせた混合相マトリクスから選択されてもよく;強陰イオン交換マトリクス(SAX)、強陽イオン交換マトリクス(SCX)、弱陰イオン交換マトリクス(WAX)、弱陽イオン交換マトリクス(WCX)および前記混合相マトリクスが好ましく;前記混合相マトリクスがとりわけ好ましい。
【0032】
更なる好ましい実施形態において、前記分画は不連続であり、SPEカートリッジにおいて行われ、および/またはカラムでは遂行されない。
【0033】
「不連続」という用語は、所与の溶離緩衝液の適用とそれに続く溶離緩衝液の適用との間に流れの中断がある手順を指す。不連続の分画または不連続の溶離は一般に、カラムでは遂行されず、SPEカートリッジにおいて遂行される。
【0034】
更なる好ましい実施形態において、前記複数種の溶離剤は、2~96、2~30、3~8から選択される数であるか、または3種である。
【0035】
更なる好ましい実施形態において、(a)各溶離ステップに異なる溶離緩衝液が使用される;および/または(b)異なる番号を付した溶離剤が異なる化合物または化合物の異なる混合物である。とりわけ好ましいのは、(b)に記載した2つの代替法のうちの第1のものと併用した選択肢(a)である。しかし、上述のように、所与の番号を付した溶離剤は、2種以上の異なる化学種の混合物であってもよい。
【0036】
溶離剤組成物は緩衝化されていないことが好ましいので、(i)異なる溶離剤が各溶離ステップに使用される;および/または(ii)異なる番号を付した溶離剤が異なる化合物または化合物の異なる混合物であることも好ましい。
【0037】
同じく想定されるが、あまり好ましくないのは、(c)同じ溶離緩衝液が少なくとも2度使用される;および/または(d)少なくとも2種の異なる番号を付した溶離剤が同じ化合物または化合物の同じ混合物であることである。
【0038】
したがって、(iii)同じ溶離剤が少なくとも2度使用される;および/または(iv)異なる番号を付した少なくとも2種の溶離剤が同じ化合物または化合物の同じ混合物であることも好ましい。
【0039】
特に好ましいのは、前記組成物または前記溶離緩衝液が、番号を付した溶離剤に関してのみ異なること、および/または前記組成物または溶離緩衝液が、濃度勾配および/またはpH勾配を実施しないことである。この好ましい実施形態において、技術的に確立された勾配の概念は、濃度勾配であってもpH勾配であっても、完全に放棄される。
【0040】
更なる好ましい実施形態において、番号を付した溶離剤は、ピリジン、ピペリジン、ピロリジン、トリエチルアミン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-メチルピリジン、イミダゾ[1,2-a]ピリジン、ピロール、N-メチルピロール、4-ビニルピリジン、2-ビニルピリジン、3,4-ジメチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、2,3-ジメチルピリジン、2,3,5-トリメチルピリジンおよび2,4,6-トリメチルピリジンから選択され、芳香族であるおよび/または共役二重結合を含む溶離剤が好ましい。先に列挙した置換ピリジンおよび置換ピロールは、それぞれ本発明の好ましい置換ピリジンおよびピロールである。
【0041】
同様に考えられるのは、所与の番号の溶離剤が先に列挙した好ましい溶離剤のうちの2種以上、例えば3種、4種または5種、より好ましくは2種の混合物であることである。一例を挙げると、等量の3-メチルピリジンと4-メチルピリジンとの混合物を使用してもよい。
【0042】
とりわけ好ましいのは、前記複数種の溶離剤がそれぞれ3-メチルピリジン、4-メチルピリジンおよび2,4,6-トリメチルピリジンである1番目の番号を付した溶離剤、2番目の番号を付した溶離剤および3番目の番号を付した溶離剤を含むか、それらであることである。1番目、2番目および3番目の溶離組成物または溶離緩衝液の順序は変更してもよく、順序は、好ましくは示された順序である。前記特に好ましい実施形態の最も好ましい実施において、3種の溶離組成物または溶離緩衝液は、番号を付したそれぞれの溶離剤に関してのみ互いに異なる。また、前記最も好ましい実施において、溶離組成物または溶離緩衝液の構成要素の相対量は、変化しない(溶離組成物または溶離緩衝液の好ましい追加の構成要素は、以下に記載される)。
【0043】
好ましくは、各溶離緩衝液または組成物は、(a)1~10%(v/v)、好ましくは5%(v/v)の番号を付した溶離剤;および(b)2~80%(v/v)、好ましくは80%(v/v)の、好ましくはアセトニトリル、エタノールおよびメタノールから選択される極性非プロトン性溶離剤を含むか、それらからなる。
【0044】
上記のように、溶離剤組成物は、好ましくは緩衝化されていない。これは、上記実施形態からも明らかであり、とりわけ「からなる」が使用される限り明らかである。
【0045】
番号を付した溶離剤が2種の異なる化学物質の混合物として実施される限りにおいて、前記化学物質は先に記載したリストから選択され、等量が好ましい。例えば、所与の番号を付した溶離剤が3-メチルピリジンと4-メチルピリジンとの混合物として実施される場合、2.5%(v/v)の3-メチルピリジンと2.5%(v/v)の4-メチルピリジンが好ましい。
【0046】
100%(v/v)までの残部、すなわち、溶離剤と極性非プロトン性溶媒に追加されるのは、好ましくは水であり、好ましくはわずかにアルカリ性のpHおよび/または8と11の間、例えば8と10の間または8と9の間のpHの水である。
【0047】
更なる好ましい実施形態において、前記ステップ(a)の前に、(a’)過剰な試薬、例えば化学標識試薬および/または汚染物質の除去が行われる。
【0048】
多くの設定において、第1の態様による方法は、分析物が結合したマトリクスに適用され、マトリクスは更に、例えば、元の生物学的サンプル中に存在しなかったため、または前記サンプル中の望ましくない化合物であるために、厳密に言えば分析物とはみなされない追加の結合した化合物を含有する。そのような追加の構成要素は、過剰な試薬または汚染物質であってもよい。過剰な試薬の一例は、質量分析の分野において同重体標識に使用される薬剤である。
【0049】
その目的のため、ステップ(a’)は、前記1番目の番号を付した溶離剤よりも双極子モーメントが高いおよび/または前記1番目の番号を付した溶離剤よりも疎水性が低い事前溶離剤を用いた溶離ステップ(および任意選択で溶離組成物または溶離緩衝液も)によって行われることが好ましい。この実施においては、主に性質が極性または親水性である過剰な試薬および/または汚染物質の除去に焦点が当てられる。好ましくは、本実施形態は、溶離剤が双極子モーメントおよび/または疎水性の観点から順序付けられることを必要とする、先に開示した好ましい実施形態と併用して使用される。
【0050】
上記のように、好ましい実施形態において、前記過剰な試薬は、同重体標識試薬などの標識試薬である。
【0051】
更なる好ましい実施形態において、前記事前溶離剤は、炭酸とC2~C5アルカンジオールとのエステルである。好ましくは、前記エステルは環状である。より好ましくは、前記事前溶離剤は、好ましくは炭酸プロピレンである。炭酸プロピレンは、環状化合物である。
【0052】
好ましくは、前記事前溶離剤は、事前溶離組成物に含まれる。前記事前溶離組成物は、緩衝化されていてもいなくてもよい。
【0053】
第2の態様において、本発明は、クロマトグラフ法であって、先行する請求項のいずれかに記載の方法を含み、ステップ(a)の前、および存在する限りにおいてはステップ(a’)の前に、前記マトリクス上に前記様々な分析物を含むサンプルを充填するステップ(a’’)が行われる、方法を提供する。
【0054】
第3の態様において、本発明は、分析物を分析するオフライン-オンライン組み合わせ法であって、先行する請求項のいずれかに記載の方法を含み、その後に(b)液体クロマトグラフィー(LC)と、任意選択で(c)前記LCにオンライン連結された質量分析が行われる、方法を提供する。
【0055】
第3の態様は、第1または第2の態様の方法をより複雑なワークフローに組み込むことを定義し、そのより複雑なワークフローは、最終的に質量スペクトルを生じさせる。第3の態様の文脈において、技術的に確立されたLCとMSとのオンライン連結は放棄されず、事前分画のステップによって強化され、前記事前分画のステップは、本発明の第1または第2の態様の方法によって実施される。技術的に確立されたLCとMSとのオンライン連結が維持される一方で、事前分画は、オフラインで遂行される。
【0056】
好ましい実施形態において、前記LCは、逆相(RP)カラムで遂行される、および/または前記LCにおいて使用されるマトリクスと第1もしくは第2の態様の方法のマトリクスは、直交している。
【0057】
好ましくは、前記好ましい実施形態は、混合相マトリクスである第1の態様によるマトリクスの特に好ましい実施と組み合わされる。
【0058】
「直交」および「直交性」という用語は、分析の技術において確立されている。これらは、少なくとも2種の異なる分析法が適用されるシナリオを指す。完全な直交性の場合、第1の分析手順における分離を支配するパラメータは、第2の分析手順中に分離を支配するパラメータとは相関関係を示さない。分析法の直交する組の例としては、SCX-RPと、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)-RPが挙げられる。
【0059】
第4の態様において、本発明は、(a)複数種の番号を付した溶離剤であって、低下する双極子モーメントおよび/または上昇する疎水性によって順序付けられる番号を付した溶離剤;および(b)分析物であって、好ましくはペプチドである前記分析物の精製に適したマトリクスを含むか、それらからなるキットを提供する。
【0060】
より一般的には、本発明は、キットであって、(a)複数種の番号を付した溶離剤であり、そのうちの少なくとも1種が、その双極子モーメントおよび/またはその疎水性に関して別の番号を付した溶離剤とは異なる前記番号を付した溶離剤;ならびに(b)分析物であり、ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質である前記分析物の分画に適したマトリクスを含むか、またはそれらからなる、キットを提供する。
【0061】
好ましい実施形態において、(a’)前記マトリクスは、第1の態様に関して定義された通りである、および/もしくはSPEカートリッジとして供給され;(b’)前記複数種の番号を付した溶離剤は、第1の態様に関して定義された通りであり;好ましくは第1の態様に関して定義された通りである;ならびに/または(c’)前記番号を付した溶離剤は、それぞれ3-メチルピリジン、4-メチルピリジンおよび2,4,6-トリメチルピリジンである1番目の番号を付した溶離剤、2番目の番号を付した溶離剤および3番目の番号を付した溶離剤を含む溶離緩衝液から選択されるすぐに使用できる溶離緩衝液に含まれる。
【0062】
これに関連して、(a’)前記マトリクスが先に定義された通りである、および/もしくはSPEカートリッジとして供給される;(b’)前記複数種の番号を付した溶離剤が本明細書において先に開示された好ましい実施形態において定義された通りである;(c’)前記番号を付した溶離剤のそれぞれが、すぐに使用できる組成物に含まれている;ならびに/または(d’)前記番号を付した溶離剤が少なくとも3種の番号を付した溶離剤であり、好ましくは、1番目の番号を付した溶離剤、2番目の番号を付した溶離剤および3番目の番号を付した溶離剤がそれぞれ3-メチルピリジン、4-メチルピリジンおよび2,4,6-トリメチルピリジンであることが好ましい。
【0063】
更なる好ましい実施形態において、前記キットは、下記、すなわち(a)充填用緩衝液、好ましくは酸性化有機溶媒;(b)洗浄用緩衝液、好ましくは酸性化水性緩衝液および/または酸性化有機溶媒;ならびに(c)本発明の第1、第2または第3の態様のいずれかの方法を遂行するための指示書を含むマニュアルのうちの1つまたは複数を更に含むか、それらから更になる。
【0064】
本明細書、特に特許請求の範囲において特徴付けられる実施形態に関しては、従属請求項において言及される各実施形態は、前記従属請求項が従属する各請求項(独立または従属)の各実施形態と組み合わされることが意図されている。例えば、独立請求項1が3つの代替法A、BおよびCを記載し、従属請求項2が3つの代替法D、EおよびFを記載し、請求項3が請求項1および2に従属し、3つの代替法G、HおよびIを記載する場合、明細書は、特に他様に言及しない限り、A、D、G;A、D、H;A、D、I;A、E、G;A、E、H;A、E、I;A、F、G;A、F、H;A、F、I;B、D、G;B、D、H;B、D、I;B、E、G;B、E、H;B、E、I;B、F、G;B、F、H;B、F、I;C、D、G;C、D、H;C、D、I;C、E、G;C、E、H;C、E、I;C、F、G;C、F、H;C、F、Iという組み合わせに対応する実施形態を明確に開示していると理解すべきである。
【0065】
同様に、独立請求項および/または従属請求項が代替法を記載していない場合にも、従属請求項が複数の先行する請求項に遡って参照している場合、それによってカバーされる主題のいずれかの組み合わせが明示的に開示されているとみなされることが理解される。例えば、独立請求項1、請求項1に遡って参照する従属請求項2、ならびに請求項2および1の両方に遡って参照する従属請求項3の場合、請求項3および1の主題の組み合わせは、請求項3、2および1の主題の組み合わせと同様に明白かつ明確に開示されていることになる。請求項1~3のいずれか1項を参照する更なる従属請求項4が存在する場合、請求項4および1、請求項4、2および1、請求項4、3および1、ならびに請求項4、3、2および1の主題の組み合わせは、明白かつ明確に開示されていることになる。
【発明を実施するための形態】
【0066】
実施例は、本発明を例示するものである。
実施例1
材料および方法
特記されていない限り、PreOmics GmbHから購入できるiST-キットからのiST緩衝液を利用するiST手順(Kulakら、Minimal,encapsulated proteomic-sample processing applied to copy-number estimation in eukaryotic cells.Nat Methods11巻、319~324頁(2014);参照により組み込まれる)を使用し、加えて、本発明に従い溶離剤または溶離剤組成物で置き換えられるELUTE緩衝液を使用する。
【0067】
出発原料は、OD600が0.6のS・セレビシエ(S.cerevisiae)であり、これは、100μgのタンパク質に相当する。50μlのLYSE緩衝液を細胞ペレットに添加した後、加熱と振とうを95℃および1,000rpmで10分間行った。その後、溶解物をBioruptor(登録商標)Picoで、それぞれ4℃での30秒の超音波処理と30秒の超音波処理なしからなる超音波処理を10サイクルおこなった。次いで、再懸濁させたDIGESTを50μl添加し、500rpmで振とうしながら37℃で60分間インキュベートした。
【0068】
STOP緩衝液100μlを添加して消化反応をクエンチした。結果として得られた懸濁液を十分に混合し、iST-カートリッジに移し、次いで、3,800rcfで1分間遠心分離した。WASH1を200μl添加した後、同様に遠心分離した。WASH2を使用してこれを前述同様に繰り返した。通過画分を廃棄し、カートリッジを新しい収集チューブに移した。
【0069】
画分1については、溶離組成物または溶離緩衝液は、典型的には80%アセトニトリル中の濃度(v/v)が5%のモノメチル化ピリジン、好ましくは3-メチルピリジンからなる。この緩衝液100μlをカートリッジに添加した後、1,000rcfで1分間遠心分離した。その後、カートリッジを新しい収集チューブに移し、モノメチル化ピリジン、好ましくは4-メチルピリジンを用いて2回目の溶離を遂行する。3回目の溶離手順を溶離化学物質として2,4,6-トリメチルピリジンを用いて繰り返す。溶離化学物質は全て、濃度が5%(v/v)であった。
【0070】
溶離組成物または溶離緩衝液の順序は、実施例2で検討する結果に大きな影響を与えることなく変更できる。
【0071】
3種の画分を全て、45℃の真空下でEppendorf Concentratorに移し、完全に乾燥させた。典型的には、LC/MS-測定の前に乾燥させたペプチドを再懸濁させるために、iST-キットのLC-LOAD緩衝液10μlを添加した。
【0072】
対照として、標準的なiST調製を遂行する。
実施例2
結果
標準的なiST法と比較して、MSによって同定されたペプチドおよびタンパク質の少なくとも1.3倍、好ましくは1.7倍の増加、ならびに分画効率55%以上、好ましくは60%以上を観察することができた。
【0073】
溶離剤/番号を付した溶離剤の最も好ましい順序は、3-メチルピリジン、4-メチルピリジンおよび最終的な溶離のための2,4,6-トリメチルピリジンである。
【0074】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、3-メチルピリジンから2,4,6-トリメチルピリジンへと疎水性が上昇すると、疎水性の低いペプチドがまず溶離し、最終的に疎水性の高いペプチドがそれに続くものと考えられる。これは、GRAVY値を使用して確認することができる。ペプチドまたはタンパク質に関するGRAVY値は、全アミノ酸の疎水親水度値(KyteおよびDoolittle、A simple method for displaying the hydropathic character of a protein.J.Mol.Biol.157巻、105~132頁(1982))の合計を配列中の残基数で除したものとして計算される。GRAVY値は、最も親水性のアミノ酸、アルギニンの-4.5から、最も疎水性のアミノ酸、イソロイシンの4.5までの範囲である。
【0075】
実験用の3種の画分についてGRAVY係数を確認すると、GRAVY値は、画分1が-0.642、画分2が-0.492、画分3が-0.28である。
【0076】
実施例3
更なる溶離実験
方法は、実施例1に記載したものである。
【0077】
下記の溶離組成物を用いて3段階の事前分画手順を遂行した。溶離組成物1:80%(v/v)アセトニトリル中5%(v/v)ピロリジン;溶離組成物2:80%(v/v)アセトニトリル中5%(v/v)ピリジン;および溶離組成物3:80%(v/v)アセトニトリル中5%(v/v)トリエチルアミン、100%までの残部は常に水である。標準的なiST調製と比較して、これは、MSによって検出されるペプチド数に関しては1.58倍の増加、同定されるタンパク質については1.35倍の増加、および分画効率58%をもたらす。分画効率という用語は、本明細書で使用する場合、全ての画分で見つかったペプチドの合計に対する全ての画分で見つかった固有のペプチドの比率の合計である。
【0078】
下記の溶離組成物を用いて更なる3段階の事前分画手順を遂行した。溶離組成物1:80%(v/v)アセトニトリル中5%(v/v)ピリジン;溶離組成物2:80%(v/v)アセトニトリル中5%(v/v)ピペリジン;および溶離組成物3:80%(v/v)アセトニトリル中5%(v/v)ピロリジン。標準的なiST調製と比較して、これは、MSによって検出されるペプチド数に関しては1.46倍の増加、同定されるタンパク質については1.9倍の増加、および分画効率64.6%をもたらす。
【国際調査報告】