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特表2023-521796ウイルス感染症の予防及び治療のために局所投与される合成アミノ酸ポリマーの組成物及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】ウイルス感染症の予防及び治療のために局所投与される合成アミノ酸ポリマーの組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20230518BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230518BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K9/72
A61P31/14
A61P31/16
A61P31/12
A61K47/24
A61K47/10
A61K31/573
A61K9/10
A61K9/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561675
(86)(22)【出願日】2021-04-06
(85)【翻訳文提出日】2022-11-30
(86)【国際出願番号】 US2021025925
(87)【国際公開番号】W WO2021207164
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】63/007,295
(32)【優先日】2020-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/066,294
(32)【優先日】2020-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514241663
【氏名又は名称】アミクローブ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベヴィラクア,マイケル ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ダニエル ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA16
4C076AA93
4C076BB22
4C076BB25
4C076BB27
4C076BB30
4C076CC35
4C076DD01
4C076DD38
4C076DD67
4C076FF70
4C084AA02
4C084AA19
4C084AA23
4C084BA19
4C084CA59
4C084MA13
4C084MA17
4C084MA21
4C084MA56
4C084MA57
4C084MA59
4C084NA14
4C084ZB33
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA10
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA21
4C086MA56
4C086MA57
4C086MA59
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZC75
(57)【要約】
カチオン性抗菌剤を含有する抗菌医薬組成物、及びそれを用いてウイルス感染症を予防及び/又は治療する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の抗菌医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、ウイルス感染症の治療方法であって、
前記抗菌医薬組成物は、水性キャリアと、前記水性キャリアに分散された抗菌合成カチオン性ポリペプチドとを含み、
前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、複数の正荷電アミノ酸単位を中性のpHで含み、
前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、複数の疎水性アミノ酸単位を含み、
前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、疎水性アミノ酸単位及び正荷電アミノ酸単位の配列を含み、前記配列は、水性媒体において前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドの多量体構造への自己集合を促進するように構成されている、
方法。
【請求項2】
水性媒体において形成される前記多量体構造が、多量体溶液、ミセル、シート、小胞、及び小線維からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多量体構造が、アミノ酸の統計的分布を有する前記抗菌医薬組成物の合成カチオン性ポリペプチドの臨界凝集濃度より低い臨界凝集濃度によって測定することができる、請求項1又は0に記載の方法。
【請求項4】
前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドの多量体構造への自己集合が、脱イオン水中、室温及び/又は37℃で臨界凝集濃度が1000μg/mL未満であることによって測定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ウイルス感染症がコロナウイルス感染症である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記コロナウイルス感染症がα-コロナウイルスによって引き起こされる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コロナウイルス感染症がβ-コロナウイルスによって引き起こされる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記コロナウイルス感染症が、CoV-229E、CoV-NL63、CoV-OC43、CoV-HKU1、MERS-CoV、SARS-CoV、及びSARS-CoV-2から選択されるコロナウイルスによって引き起こされる、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記コロナウイルス感染症がSARS-CoV-2によって引き起こされる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記対象が、多重ウイルス感染症の治療を必要とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記多重ウイルス感染症の一つがインフルエンザAウイルス感染症である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルス感染症がインフルエンザAウイルス感染症でない、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗菌医薬組成物を前記対象に肺経路経由で投与することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記抗菌医薬組成物を前記対象に鼻腔内経由及び/又は吸入によって投与することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記抗菌医薬組成物を前記対象の口腔に投与することを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記抗菌医薬組成物を前記対象の腟腔に投与することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記抗菌医薬組成物を前記対象に予防的に投与することを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
ウイルスの感染及び増殖を維持することのできる組織に前記抗菌医薬組成物を投与して、ウイルス性粒子の接近を物理的及び/又は静電気的に予防することを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つの第2のコロナウイルス治療剤を有効量で前記対象に投与することをさらに含む、請求項5~10又は12~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記対象が非ヒト霊長類である、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記対象がヒトである、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
コロナウイルス感染症、肥満、糖尿病、高齢、がん、呼吸機能低下、心臓血管機能低下、腎機能低下、栄養欠乏又はビタミン欠乏(例えば、ビタミンD欠乏)、及び免疫応答機能低下に対する各陽性検査結果から選択される1つ以上のリスク要因を前記ヒト対象が有するか、又は有するリスクがあるということに基づいて、前記ヒト対象を特定することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ヒト対象が前記コロナウイルス感染症に対して陽性との検査結果が出たことを基に、前記ヒト対象を特定することを含む、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記ヒト対象がCOVID-19を有する、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドが、前記抗菌医薬組成物の合計重量に基づく約0.01重量%~約5重量%の範囲の濃度で、前記水性キャリアに分散される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
脱イオン水中で濃度が2重量%の前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドが、室温及び/又は37℃で2センチストークス(cSt)以上の粘度を有する、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記水性キャリアが、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドを2重量%含有し、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドの代わりにアルブミンを2重量%含有する前記水性キャリアの粘度より高い粘度を、室温及び/又は37℃で有する、請求項1~26のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項28】
前記水性キャリアが、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドを2重量%含有し、室温及び/又は37℃で少なくとも約5cStの粘度を有する、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記水性キャリアが、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドを2重量%含有し、室温及び/又は37℃で少なくとも約10cStの粘度を有する、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記水性キャリアが、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドを2重量%含有し、室温及び/又は37℃で少なくとも約25cStの粘度を有する、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記水性キャリアが、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドを2重量%含有し、室温及び/又は37℃で少なくとも約50cStの粘度を有する、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記抗菌医薬組成物が、50mg/kgの用量で複数の健康な若い成体マウスの腹膜腔に注入された後、72時間でマウス生存率が80%以上であると測定されるように、低い毒性を有する、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
中性のpHの前記複数の正荷電アミノ酸単位が少なくとも5つである、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記水性キャリアが水又は薬剤的に許容できる塩の水溶液である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記水性キャリアが非イオン性添加剤をさらに含む、請求項1~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記非イオン性添加剤が、前記抗菌医薬組成物の浸透圧濃度を、前記非イオン性添加剤を含まない前記抗菌医薬組成物の浸透圧濃度よりも少なくとも10%高い値に増加させるのに有効な量で存在する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記非イオン性添加剤が、ブドウ糖、マンニトール、グリセロール、キシリトール、ソルビトール、界面活性剤、及びそれらの組み合せからなる群より選択される、請求項35又は36に記載の方法。
【請求項38】
前記水性キャリアが、前記抗菌医薬組成物の粘度を増加させるような量で添加剤をさらに含む、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記水性キャリアが、前記抗菌医薬組成物の粘度を低減させるような量で添加剤をさらに含む、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記抗菌医薬組成物は、殺菌技術による殺菌をしていない前記抗菌医薬組成物の前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドの重量平均分子量に相当する重量平均分子量を有する前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドを含む殺菌抗菌医薬組成物を得るように構成された前記殺菌技術によって殺菌される、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記抗菌医薬組成物は、殺菌技術による殺菌をしていない前記抗菌医薬組成物の前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドの重量平均分子量及び分散度に相当する重量平均分子量及び分散度を有する前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドを含む殺菌抗菌医薬組成物を得るように構成された前記殺菌技術によって殺菌される、請求項1~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記抗菌医薬組成物が、殺菌技術による殺菌をしていない前記抗菌医薬組成物の粘度レベルに相当する粘度レベルを室温及び/又は37℃で有する殺菌抗菌医薬組成物を得るように構成された前記殺菌技術によって殺菌される、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記殺菌抗菌医薬組成物の室温及び/又は37℃での粘度が、殺菌はしていないが他の点では同等の前記抗菌医薬組成物の粘度の20%~200%の範囲にある、請求項40~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記抗菌医薬組成物が、殺菌はしていないが他の点では同等の前記抗菌医薬組成物の殺細菌活性に相当する殺細菌活性を有し、前記殺細菌活性は、S.アウレウス、S.エピデルミディス、P.エルギノーザ、及び大腸菌からなる群より選択される少なくとも1つの細菌に対して60分時間殺菌分析によって判定される、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記複数の疎水性アミノ酸単位が、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、バリン(V)、フェニルアラニン(F)、又はアラニン(A)から選択される少なくとも5つの疎水性アミノ酸単位を含む、請求項1~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記複数の疎水性アミノ酸単位が、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、バリン(V)、フェニルアラニン(F)、又はアラニン(A)から選択される少なくとも10の疎水性アミノ酸単位を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記複数の疎水性アミノ酸単位が、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、バリン(V)、フェニルアラニン(F)、又はアラニン(A)から選択される少なくとも15の疎水性アミノ酸単位を含む、請求項45~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記疎水性アミノ酸単位がロイシン単位を含む、請求項45~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記複数の正荷電アミノ酸単位がリジン単位を含む、請求項1~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドが、疎水性ロイシン単位及び正荷電リジン単位を含むブロックコポリペプチドである、請求項1~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドが、少なくとも40のアミノ酸単位を含む、請求項1~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドが、脱イオン水中3重量%の濃度で、室温及び/又は37℃で、自立状ハイドロゲルを形成する、請求項1~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドが、脱イオン水単独の場合と比較して表面張力が
少なくとも10%低いことを測定されるように、脱イオン水中1重量%の濃度で、室温及び/又は37℃で界面活性剤活性を示す、請求項1~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記抗菌医薬組成物が抗炎症化合物をさらに含む、請求項1~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記抗炎症化合物が、副腎皮質ステロイド、ヒスタミン阻害剤、及びサイトカイン阻害剤からなる群より選択される、請求項54に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
参照による優先権出願の援用
本出願は、2020年4月8日出願の米国仮出願第63/007295号及び2020年8月16日出願の米国仮出願第63/066294号の優先権を主張し、それら両方は、参照によりそのまま本明細書に援用されるものとする。
【0002】
本開示は、カチオン性抗菌剤を含有する抗菌医薬組成物と、それを用いてウイルス感染症を予防及び/又は治療する方法とに関する。
【背景技術】
【0003】
種々のカチオン性抗菌剤が、細菌膜に結合したり、それを分裂させたりすることのできる能力で知られている。例えば、或る特定の抗生物質、ビスビグアナイド、ポリマービグアナイド、第四級アンモニウム化合物、天然抗菌ペプチド、合成カチオン性ポリペプチド等である。多くの公開文書が合成ペプチドの生物学的特性を開示している。例えば、特許文献1、特許文献2、並びに特許文献3、特許文献4、特許文献5、及び特許文献6等である。
【0004】
特許文献7は、カチオン性アミノ酸の繰り返し単位(リジン(K)等)及び疎水性アミノ酸単位(ロイシン(L)、イソロイシン(I)、バリン(V)、フェニルアラニン(F)、又はアラニン(A)等)を様々な比率で含有する合成カチオン性コポリペプチドについて記載している。特許文献7は、ポリ(L-リジン-HCl)55-ブロック-ポリ(ラセミ-疎水性アミノ酸)20、即ちK55(rac-X)20(X=A、I、L/F、又はV)が非常に低い濃度(10μg/ml)で、グラム陽性細菌(S.アウレウス)及びグラム陰性細菌(大腸菌)の両方に対して、観察可能な(6-log)最大の細菌数低減を達成したと、述べている。特許文献7は、特定のコポリペプチドもまた、他の微生物、例えば、大腸菌O157:H7や、食品が媒介する他の病原体に対して、また、或る特定の内生胞子形態の微生物に対してさえも、かなりの効果を示したと、述べている。特許文献7は、これらの化合物はまた、カンジダ・アルビカンスで例証しているように、或る特定の菌類に対して効果を示したと、述べている。特許文献7は、或る特定の微生物(例えば、P.アクネス)は、他の微生物(例えば、S.アウレウス)に比べると、或る特定のコポリペプチドに対して感受性がより低いことがあると、述べている。特許文献7は、或る特定の溶液相コポリペプチドが、インフルエンザAウイルスに対して抗ウイルス活性を明らかに示し、RH/K(部分的にグアニル化したリジン)ジブロックコポリペプチドが特に活性を有すると、述べている。
【0005】
特許文献8は、かかるポリペプチドと第2の薬剤的に許容できるポリマーとを含有する相互に水混和性のある複数の混合物とともに、合成カチオン性ポリペプチドについて記載している。具体例として、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、及びポロクサマー407等の第2のポリマーと合成カチオン性ポリペプチドとの特定の混合物を用いた、或る特定の細菌に対する抗菌活性について記載している。
【0006】
特許文献9は、局所性組織毒性のリスクの低さ及び/又は全身/遠隔臓器毒性のリスクの低さとともに抗菌有効性をもたらす用量での生体内局所投与を可能にするカチオン性抗菌医薬組成物及びその使用方法の開発について記載している。特許文献9は、カチオン性抗菌医薬組成物の種々の実施形態が、良好な腹腔内投与によって実証される優れた抗菌プ
ロフィール及び安全プロフィールを有すると、述べている。
【0007】
特許文献9並びに特許文献7及び特許文献8は当技術分野における有意な進歩を記載しているが、多くの困難な課題、特に、コロナウイルス感染症等のウイルス感染症を治療するために局所投与されるカチオン性抗菌剤の薬剤的に許容できる製剤の開発に関しては、未解決のままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2016/044683号
【特許文献2】米国特許出願公開第2015/0225458号明細書
【特許文献3】米国特許第7,847,059号明細書
【特許文献4】米国特許第8,088,888号明細書
【特許文献5】米国特許第8,350,003号明細書
【特許文献6】米国特許第8,470,769号明細書
【特許文献7】米国特許第9,017,730号明細書
【特許文献8】米国特許第9,446,090号明細書
【特許文献9】国際公開第2018/187617号
【発明の概要】
【0009】
そこで、抗菌活性に加えて抗ウイルス活性を有する抗菌医薬組成物を開発した。コロナウイルス感染症の治療を含む、ウイルス感染症を治療するためにかかる組成物を用いる方法を開発した。種々の実施形態において、これら抗菌医薬組成物は、コロナウイルス及びインフルエンザAウイルスの両方の感染症に対して驚くべき活性を有する。
【0010】
一実施形態は、有効量の抗菌医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、ウイルス感染症の治療方法であって、
前記抗菌医薬組成物は、水性キャリアと、前記水性キャリアに分散された抗菌合成カチオン性ポリペプチドとを含み、
前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、複数の正荷電アミノ酸単位を中性のpHで含む方法を、提供する。
【0011】
以下、これら又は他の実施形態をさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】組成物A及び組成物Bの動的粘度、表面張力、及び(n-ヘキサンに対する)界面張力。
図2】標準的な60分時間殺菌分析におけるS.アウレウス、S.エピデルミディス、P.エルギノーザ、及びC.アルビカンスに対する、種々の濃度の組成物Aの活性。データは、logCFU減少数として示されている。
図3】標準的な60分時間殺菌分析における、2つのS.アウレウス株、2つのMRSA株、バンコマイシン耐性エンテロコッカス(VRE)、及びS.ピオゲネスに対する、10及び100μg/mLでの組成物Aの活性。データは、logCFU減少数として示されている。
図4】標準的な60分時間殺菌分析における、A.バウマニー、汎耐性A.バウマニー、広域スペクトル・ベータラクタマーゼ(ESBL)陽性大腸菌、ESBL陽性及びクレブシエラ・ニューモニエ・カルバペネマーゼ陽性K.ニューモニエ、P.ミラビリス、及びS.マルセセンスに対する、10及び100μg/mLでの組成物Aの活性。データは、logCFU減少数として示されている。
図5】標準的な60分時間殺菌分析における、P.エルギノーザ、多剤耐性(MDR)P.エルギノーザ、C.コセリ、E.アエロゲネス、S.マルトフィリア、B.フラジリス、及びMDR・B.フラジリスに対する、10及び100μg/mLでの組成物Aの活性。データは、logCFU減少数として示されている。
図6】標準的な60分時間殺菌分析における、P.エルギノーザに対する、水中及び食塩水中の100μg/mLでの組成物Aの活性。データは、logCFU残存数として示されている。
図7】暴露時間を10分、60分、及び120分とした場合の、標準的な時間殺菌分析における、S.アウレウスに対する、100μg/mLでの組成物Bの活性。データは、logCFU残存数として示されている。
図8】暴露時間を10分、60分、及び120分とした場合の、標準的な時間殺菌分析における、S.エピデルミディスに対する、100μg/mLでの組成物Bの活性。データは、logCFU残存数として示されている。
図9】暴露時間を10分、60分、及び120分とした場合の、標準的な時間殺菌分析における、P.エルギノーザに対する、100μg/mLでの組成物Bの活性。データは、logCFU残存数として示されている。
図10】暴露時間を10分、60分、及び120分とした場合の、標準的な時間殺菌分析における、大腸菌に対する、100μg/mLでの組成物Bの活性。データは、logCFU残存数として示されている。
図11】暴露時間を10分、60分、及び120分とした場合の、標準的な時間殺菌分析における、S.アウレウスに対する、10及び100μg/mLでの組成物Bの活性。データは、logCFU残存数として示されている。
図12】暴露時間を10分、60分、及び120分とした場合の、標準的な時間殺菌分析における、P.エルギノーザに対する、10及び100μg/mLでの組成物Bの活性。データは、logCFU残存数として示されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
他に定義されない限り、本明細書で用いる全ての科学技術用語は、当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。他に記載がなければ、本明細書で参照する全ての特許、出願、公開出願、及び他の公開文書が、参照によりそのまま援用されるものとする。本明細書において1つの用語に複数の定義が存在する場合、他に記載がなければ、本項における定義が優先される。
【0014】
本明細書で抗菌合成カチオン性ポリペプチドを説明する文脈において用いられる場合、用語「抗菌」は、当業者に理解されるような通常の意味を有し、したがって、S.アウレウス、S.エピデルミディス、P.エルギノーザ、及び大腸菌からなる群より選択される少なくとも1つの細菌に対して60分時間殺菌分析によって判定された場合に殺細菌活性を示すポリペプチドを包含する。
【0015】
本明細書で抗菌合成カチオン性ポリペプチドを説明する文脈において用いられる場合、用語「ポリペプチド」は、当業者に理解されるような通常の意味を有し、したがって、ペプチド結合によって結合された2つ以上のアミノ酸の繰り返し単位(アミノ酸残基とも、より簡単には単位又は残基とも言う)を含有するポリマーを包含する。コポリペプチドとは、2つ以上の異なるアミノ酸繰り返し単位を含む一種のポリペプチドである。ポリマーの分子量は、分子量標準を用いたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)又は光散乱検出によって求めた場合の重量平均値である。
【0016】
用語「ブロック」又は「ブロック状」コポリペプチドは、当業者によって理解されるような通常の意味を有し、したがって、長さが少なくとも5アミノ酸単位であるセグメント(「ブロック」)を1つ又は複数含むアミノ酸単位配列を包含し、その配列においてコポ
リペプチドは、コポリペプチドの全体組成と比較して、アミノ酸単位の1つ以上を比較的多く含む。一般に、合成ブロックコポリペプチドは、共重合工程に対してよく考えられた制御がなされていることを反映する配列を有する。同様に、用語「ランダム」コポリペプチドは、当業者によって理解されるような通常の意味を有し、したがって、重合混合物中のそれぞれのアミノ酸モノマーの濃度を反映する統計的分布であるアミノ酸単位配列を包含する。
【0017】
本明細書で抗菌合成カチオン性ブロックコポリペプチドを説明する文脈において用いられる場合、用語「疎水性」ブロックは、当業者によって理解されるような通常の意味を有し、したがって、ブロック又はセグメントが複数の疎水性アミノ酸単位を含有するという配列を包含する。疎水性アミノ酸単位としては、当業者に公知のものが挙げられ、例えば、グリシン(G)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、バリン(V)、プロリン(P)、トリプトファン(W)、システイン(C)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、及びアラニン(A)が挙げられる。同様に、用語「親水性」ブロックは、当業者によって理解されるような通常の意味を有し、したがって、ブロック又はセグメントが複数の親水性アミノ酸単位を含有するという配列を包含する。親水性アミノ酸単位としては、当業者に公知のものが挙げられ、例えば、セリン(S)、スレオニン(T)、アスパラギン酸(D)、及びグルタミン酸(E)に加えて、正荷電アミノ酸リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)及びオルニチン(O)が挙げられる。
【0018】
本明細書で抗菌合成カチオン性ポリペプチドを説明する文脈において用いられる場合、用語「正荷電」及び「カチオン性」は、当業者によって理解されるような通常の意味を有し、したがって、中性のpHで正荷電したアミノ酸単位又はポリペプチドを包含する。中性のpHで正荷電したアミノ酸単位としては、例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン、及びオルニチンが挙げられ、したがってポリペプチドの中にこれらの正荷電単位が(アニオン性単位よりも多くの量で)1つ以上存在する場合、ポリペプチドをカチオン性とすることができる。
【0019】
本明細書で殺菌抗菌医薬組成物を説明する文脈において用いられる場合、用語「殺菌」は、当業者に理解されるような通常の意味を有し、したがって、1つ又は複数の殺菌工程を受けた組成物を包含し、その殺菌工程は、手術部位等の開放創への投与等、身体開口部(例えば、鼻腔内投与)又は開放皮膚への局所投与ができるよう、その殺菌組成物中の公知の病原体の不存在又は低減を、その組成物を臨床的に許容できる程度に確実にする効果を有する。限定するものではないが、かかる殺菌工程としては、例えば、加熱殺菌(例えば、オートクレーブ処理)、滅菌濾過、照射、及び/又は、エチレンオキシド等の化学薬品による処理が挙げられる。
【0020】
本明細書で自己集合性ポリペプチドを説明する文脈において用いられる場合、用語「自己集合性」は、当業者によって理解されるような通常の意味を有し、したがって、媒体(例えば、医薬組成物の他の成分)の中に分散されたときのポリペプチドの構成であって、その媒体においてポリペプチドの或る特定のセグメント同士又はブロック同士の分子間引力がそれらセグメント又はブロックをお互いにゆるく結合させ合う構成を包含する。例えば、特許文献7に記されているように、ブロックカチオン性コポリペプチドの自己集合は水溶液中に観察されており、疎水性領域の構成に依存する種々の階層的構造や、ポリマー鎖間の引力分子間相互作用に対する効果を生じさせた。対照的に、特許文献7は、ランダムコポリペプチドは自己集合を示さなかったと、示している。当業者は、合成カチオン性ポリペプチドが自己集合性であるか否かを決定するための種々の技術を知っている(例えば、特許文献7参照)。希釈溶液中でランダムな配列を示し、自己集合性を示さないが他の点では同等の合成カチオン性ポリペプチドと比較して、自己集合性合成カチオン性ポリペプチドは一般的により高い粘度を示す。
【0021】
本明細書でポリペプチドの自己集合を促進する分子構造又は分子パラメーターを説明する文脈において用いられる場合、用語「促進する(promotes)」及び「促進する(promoting)」は、当業者によって理解されるような通常の意味を有し、したがって、かかる自己集合を可能にすること又は高めることを包含する。例えば、特許文献7及び特許文献8は、水の中でコポリペプチドの自己集合を促進するように構成された疎水性アミノ酸単位及び親水性アミノ酸単位の種々の配列について記載している。同様に、ポリペプチドの自己集合を促進する殺菌状態を作り出すように構成された殺菌技術として、水性キャリアに分散されたかかるポリペプチド又はポリペプチドの組成物に適用された場合に自己集合を可能にするか又は自己集合を高めるかする技術がある。同様に、ポリペプチドの自己集合を促進するために選択された水性キャリアの組成物として、その水性キャリア中にかかるポリペプチドが分散されたときに自己集合を可能にするか又は自己集合を高める組成物がある。
【0022】
本明細書で、自己集合性は示さないが他の点では同等のランダム合成カチオン性コポリペプチドと比較して、自己集合性合成カチオン性ブロックコポリペプチドを説明する文脈において用いられる場合、用語「他の点では同等のランダム合成カチオン性コポリペプチド」は、当業者によって理解されるような通常の意味を有し、したがって、同等のコポリペプチドにおけるそれらアミノ酸繰り返し単位の配列がブロックであるよりはランダムである点を除けば、自己集合性合成カチオン性ブロックコポリペプチドと同じ疎水性及び親水性アミノ酸繰り返し単位を同じ程度の分子量及び相対数で有するコポリペプチドを包含する。例えば、約120単位の平均長を持つ親水性(正荷電)リジンブロックと約30単位の平均長を持つ疎水性ロイシンブロックとを有する自己集合性ブロックコポリペプチドについて言えば、自己集合性は示さないが他の点では同等のランダム合成カチオン性コポリペプチドは、ランダムコポリペプチドの鎖に沿ってそれら単位の配列が、重合混合物中のリジンモノマー及びロイシンモノマーの濃度を反映する統計的分布であることを除けば、コポリペプチド鎖当たり平均約120のリジン単位と約30のロイシン単位とを含有するものである。
【0023】
本明細書で、感染症を少なくとも部分的に予防及び/又は治療するのに効果的な多量の殺菌抗菌医薬組成物を哺乳動物の身体の部位に投与することを説明する文脈において用いられる場合、用語「多量の」及び「多量に」は、当業者によって理解されるような通常の意味を有し、したがって、所望の予防効果及び/又は治療効果を達成するために必要な量の少なくとも10倍の用量でコポリペプチドを投与することを包含する。典型的には、70kgの人に1g、即ち14.3mg/kgかそれ以上の合成カチオン性ポリペプチドを投与することを含む、抗菌医薬組成物の投与の合計治療用量は、多量の投与と考えられる。当業者は、生物学的に活性な化合物は一般的に、それらが投与される対象に大きな悪影響を起こさずに所望の治療反応を達成する範囲の用量を含む「治療濃度域」で投与されるものと、認識している。この用量範囲は一般的に、最小有効濃度(MEC)と最小毒性濃度(MTC)の間にあり、典型的には、生物学的に活性な各化合物について前もって求められ、用量の推奨という形で対象及び/又は介護者に伝えられる。しかしながら、哺乳動物対象の身体開口部及び/又は開放創への抗菌組成物の局所投与など、状況によっては、MECを求めることは非実用的であることがあり、したがって抗菌組成物を多量に投与する柔軟性を有することは非常に有益である。例えば、時間が非常に重要なことであり得る救急事態において開放創を治療するとき、開放創に多量(例えば、MECの少なくとも10倍の量)の抗菌組成物を、MTCを超える量を投与することを心配せずに投与する柔軟性を有することは、介護者にとって非常に有益である。特定の殺菌抗菌医薬組成物のMECは、後述する例に記載の方法等、当業者に公知の方法で求めることができる(例えば、生体外時間殺菌分析において3-logCFU死滅数を達成するのに有効な量)。
【0024】
本明細書で、水性キャリアと、水性キャリアに分散された抗菌合成カチオン性ポリペプチドとを含むか又はそれらからなる抗菌医薬組成物を説明する文脈において用いられる場合、用語「水性キャリア」は、当業者によって理解されるような通常の意味を有し、したがって、イオン性添加剤(例えば、塩)又は非イオン性添加剤(例えば、ポリマー、アルコール、糖、及び/又は界面活性剤)などの分散物質を含有してもよい種々の水性キャリア系を包含する。前記水性キャリアに分散された物質は、そこに小さな粒子の形態で溶解及び/又は分散されていてもよい。
【0025】
本明細書で抗菌医薬組成物の文脈、又は抗ウイルス活性を有する他の材料の文脈において用いられる場合、用語「抗ウイルス」は、当業者によって理解されるような通常の意味を有し、したがって、ウイルス性粒子の生成を抑制する抗菌医薬組成物又は他の材料の存在の効果を包含し、典型的には、ウイルスに直接損傷を与えること、及び/又は感染性ウイルス性粒子の形成される数を低減させることを、そうしなければ少なくとも1つのウイルスのための感染性ウイルス性粒子の形成に適度となる系において、行なうことによる。特定の実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、複数の異なるウイルス(例えば、SARS-CoV及びSARS-CoV-2の両方)に対して抗ウイルス活性を有する抗ウイルス組成物である。
【0026】
本明細書における実質的に複数形及び/又は単数形のいかなる用語の使用に関連しても、当業者は、複数から単数への読み替え及び/又は単数から複数への読み替えを、文脈及び/又は用法に応じて適切に行なうことができる。様々な単数と複数の入れ替えは、明瞭さのために本明細書に明記されることがある。不定冠詞「a」又は「an」は、複数を排除しない。或る特定の数量が相互に異なる従属請求項に引用されるという単なる事実は、それら数量の組み合わせが有利に利用できないということを示すものではない。
【0027】
ウイルス感染症の治療方法
種々の実施形態が、有効量の抗菌医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、ウイルス感染症の治療方法を提供する。種々の実施形態では、前記ウイルス感染症は、コロナウイルス感染症である。本明細書の他の箇所でさらに詳しく記載されている通り、種々の実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、水性キャリアと、その水性キャリアに分散された抗菌合成カチオン性ポリペプチドとを含む。一実施形態では、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、複数の正荷電アミノ酸単位を中性pHで含む。
【0028】
種々の実施形態が、有効量の抗菌医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、ウイルス感染症の治療方法を提供する。種々の実施形態では、前記対象はヒトである。他の実施形態では、前記対象は非ヒト霊長類である。前記対象の治療の必要性は、種々の方法によって判断することができる。種々の実施形態では、前記対象は、ウイルス感染症(例えば、コロナウイルス感染症)に対して陽性との検査結果が出ており、ウイルス感染症(例えば、コロナウイルス感染症)のリスクがあり、且つ/又はウイルス感染症(例えば、コロナウイルス感染症)の症状が出ている。前記対象は、2つ以上のウイルス感染症の治療を必要としていてもよい。例えば、種々の実施形態では、前記対象は、第1のウイルス感染症(例えば、コロナウイルス感染症)に対して陽性との検査結果が出ており、第1のウイルス感染症(例えば、コロナウイルス感染症)のリスクがあり、且つ/又は第1のウイルス感染症(例えば、コロナウイルス感染症)の症状が出ており、且つ、第2のウイルス感染症(例えば、インフルエンザA感染症)に対して陽性との検査結果が出ており、第2のウイルス感染症(例えば、インフルエンザA感染症)のリスクがあり、且つ/又は第2のインフルエンザA感染症(例えば、コロナウイルス感染症)の症状が出ている。
【0029】
一実施形態では、前記治療方法は、コロナウイルス感染症、肥満、糖尿病、高齢、がん
、呼吸機能低下、心臓血管機能低下、腎機能低下、栄養欠乏又はビタミン欠乏(例えば、ビタミンD欠乏)、及び免疫応答機能低下に対する各陽性検査結果から選択される1つ以上のリスク要因を前記対象が有するか、又は有するリスクがあるということに基づいて、前記対象を特定することを含む。一実施形態では、前記治療方法は、前記ヒト対象がコロナウイルス感染症に対して陽性との検査結果が出たことを基に、前記ヒト対象を特定することを含む。一実施形態では、前記治療方法は、前記抗菌医薬組成物を予防的に対象に投与することを含む。例えば、前記予防的治療は、上に列挙したリスク要因を有する前記対象のために必要とされてもよい。一実施形態では、前記予防的治療は、組織に被覆をして物理的及び/又は静電気的にウイルス性粒子の接近を防ぐために行なわれる。
【0030】
一実施形態では、前記ウイルス感染症は、コロナウイルス感染症である。一実施形態では、前記ウイルス感染症は、インフルエンザAウイルス感染症である。他の一実施形態では、前記ウイルス感染症は、インフルエンザAウイルス感染症ではない。一実施形態では、前記コロナウイルス感染症は、α-コロナウイルスによって引き起こされる。他の一実施形態では、前記コロナウイルス感染症は、β-コロナウイルスによって引き起こされる。他の一実施形態では、前記コロナウイルス感染症は、CoV-229E、CoV-NL63、CoV-OC43、CoV-HKU1、MERS-CoV、SARS-CoV、及びSARS-CoV-2から選択されるコロナウイルスによって引き起こされる。他の一実施形態では、前記コロナウイルス感染症は、MERS-CoV、SARS-CoV、及びSARS-CoV-2.から選択されるコロナウイルスによって引き起こされる。他の一実施形態では、前記コロナウイルス感染症はMERS-CoVによって引き起こされる。他の一実施形態では、前記コロナウイルス感染症はSARS-CoVによって引き起こされる。他の一実施形態では、前記コロナウイルス感染症はSARS-CoV-2によって引き起こされる。一実施形態では、前記ヒト対象は、COVID-19の疾患を有する。一実施形態では、前記ヒト対象は、SARSの疾患を有する。他の一実施形態では、前記ヒト対象は、MERSの疾患を有する。他の一実施形態では、前記ヒト対象がコロナウイルスによる感染症を有すると特定されている。
【0031】
前記抗菌医薬組成物を、それを必要とする前記対象に投与するために、種々の経路を用いることができる。一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、1つ以上の組織への局所投与によって、前記対象に投与される。例えば、一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、口腔、肺腔、鼻腔、洞、及び/又は腟腔の1つ以上における1つ以上の組織への局所投与によって、前記対象に投与される。一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、肺を経路として前記対象に投与される。例えば、一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、鼻腔内経由及び/又は吸入により前記対象に投与される。一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、前記対象の口腔に投与される。他の一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、前記対象の腟腔に投与される。
【0032】
種々の実施形態は、コロナウイルス感染症の治療方法であって、有効量の抗菌医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含み、また、有効量の少なくとも1つの第2コロナウイルス治療を前記対象に行なうことをさらに含む治療方法を、提供する。前記第2のコロナウイルス治療には、種々の治療様式を用いることができる。例えば、一実施形態では、前記第2のコロナウイルス治療は、対象に有効量のレムデシビルを投与することを含む。
【0033】
抗菌医薬組成物
種々の実施形態は、水性キャリアと、その水性キャリアに分散された抗菌合成カチオン性ポリペプチドとを含むか又はそれらからなる抗菌医薬組成物を、提供する。前記水性キャリアに分散されるカチオン性ポリペプチドの量は、主として、前記抗菌医薬組成物に望まれる粘度によって、広い範囲に亘って変わり得る。例えば、種々の実施形態では、前記抗菌医薬組成物における前記合成カチオン性ポリペプチドの量は、前記抗菌医薬組成物の合計重量に基づく約0.001重量%~約10重量%の範囲にある。いくつかの実施形態では、前記水性キャリアに分散される前記合成カチオン性ポリペプチドの量は、前記抗菌医薬組成物の合計重量に基づく約0.01重量%~約5重量%の範囲にある。
【0034】
種々の実施形態では、前記水性キャリアに分散される前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、複数の正荷電アミノ酸単位を(中性pHで)含む。一実施形態では、前記合成カチオン性ポリペプチドは少なくとも40のアミノ酸単位を含み、そのうちの少なくともいくつかは正電荷を有する。一実施形態では、前記合成カチオン性ポリペプチドにおける前記正荷電アミノ酸単位の数は、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、又は少なくとも20である。中性pHで正荷電の好適なアミノ酸単位としては、例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン、及びそれらの組み合せが挙げられる。一実施形態では、前記合成カチオン性ポリペプチドにおける前記複数の正荷電アミノ酸単位は、正荷電リジン単位を含む。
【0035】
種々の実施形態では、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、脱イオン水中2重量%の濃度で、室温及び/又は37℃の温度で測定した場合に2センチストークス(cSt)以上の粘度を有する。より高い粘度範囲及びより低い粘度範囲(例えば、約1.5cSt~約16,000cSt、又は約2.0cSt~約16,000cSt)の好適な合成カチオン性ポリペプチドは、ポリペプチドの分子量、正荷電アミノ酸単位のレベル、及び/又はポリペプチドの自己集合する程度を調整することによって作製することができる。一実施形態では、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、脱イオン水中2重量%の濃度で、室温及び/又は37℃の温度で測定した場合に、ウシ血清アルブミンの粘度より大きい粘度を有する。
【0036】
一実施形態では、前記水性キャリアは、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドを2重量%含有し、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドの代わりにアルブミンを2重量%含有する水性キャリアの粘度より高い粘度を、室温及び/又は37℃で有する。一実施形態では、前記水性キャリアは、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドを2重量%含有し、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドの代わりにアルブミンを2重量%含有する水性キャリアの粘度より少なくとも約20%高い粘度を、室温及び/又は37℃で有する。一実施形態では、前記水性キャリアは、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドを2重量%含有し、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドの代わりにアルブミンを2重量%含有する水性キャリアの粘度より少なくとも約50%高い粘度を、室温及び/又は37℃で有する。一実施形態では、前記水性キャリアは、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドを2重量%含有し、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドの代わりにアルブミンを2重量%含有する水性キャリアの粘度より少なくとも約100%高い粘度を、室温及び/又は37℃で有する。一実施形態では、前記水性キャリアは、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドを2重量%含有し、次の値のいずれか少なくとも約1つ以上の粘度を、室温及び/又は37℃で有する:即ち、3cSt、5cSt、10cSt、25cSt、50cSt、若しくは100cSt、又は上記値のいずれか2つを有する終点によって規定される範囲内。
【0037】
抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、正荷電アミノ酸単位に加えて他のモノマー単位を含むコポリペプチドであり得る。例えば、種々の実施形態では、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、複数の疎水性アミノ酸単位をさらに含んでもよい。種々の実施形態では、前記カチオン性コポリペプチドにおける前記疎水性アミノ酸単位の数は、少なくとも5、少なくとも10、又は少なくとも15である。好適な疎水性アミノ酸単位としては、例えば、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、バリン(V)、フェニルアラニン(F)、アラニン(A)、及びそれらの組み合せが挙げられる。一実施形態では、前記合成カチオン性ポリペプチドにおける前記複数の疎水性アミノ酸単位はロイシン単位を含む。
【0038】
前記合成カチオン性ポリペプチドにおける前記アミノ酸単位の配列は、ランダム、ブロック状、又はその組み合せであってもよい。例えば、一実施形態では、前記合成カチオン性ポリペプチドにおける前記疎水性アミノ酸単位及び前記正荷電アミノ酸単位の配列はブロック状である。多くの実施形態では、かかるブロックコポリペプチドは、種々の疎水性及び親水性のアミノ酸単位を含み得る。例えば、一実施形態では、前記合成カチオン性ポリペプチドは、疎水性ロイシン単位及び正荷電リジン単位を含むブロックコポリペプチドである。
【0039】
種々の実施形態では、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは水や他の水性キャリアにおいて多量体構造へと自己集合する。多量体構造としては、例えば、ミセル、シート、小胞、及び小線維が挙げられる(特許文献7参照)。一実施形態では、水性媒体において形成される前記多量体構造は、多量体溶液、ミセル、シート、小胞、及び/又は小線維である。一実施形態では、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、脱イオン水中3重量%の濃度で、室温及び/又は37℃で、自立状ハイドロゲルを形成する。一実施形態では、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、脱イオン水単独の場合と比較して表面張力が少なくとも10%又は少なくとも20%低いことを測定されるように、脱イオン水中、室温及び/又は37℃で、界面活性剤活性を示す。一実施形態では、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドの自己集合は、脱イオン水中、室温及び/又は37℃で、前記ポリペプチドの臨界凝集濃度が1000μg/mL未満であることで証明される。一実施形態では、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドの自己集合は、脱イオン水中、室温及び/又は37℃で、前記ポリペプチドの臨界凝集濃度が100μg/mL未満であることで証明される。
【0040】
前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドの自己集合は、種々の方法で制御することができる。例えば、一実施形態では、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、疎水性アミノ酸単位及び正荷電アミノ酸単位の配列を含み、前記配列が、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドによる多量体構造への自己集合を促進するように構成されている。例えば、前記ポリペプチドの自己集合は、前記疎水性アミノ酸単位及び正荷電アミノ酸単位のブロック状配列によって高められる。前記ポリペプチド中の前記疎水性アミノ酸単位の含有量がより高いこと、及び/又は前記疎水性アミノ酸単位のブロックがより長いことで、前記水性キャリアにおける自己集合が高められる傾向がある。
【0041】
本明細書に記載する前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、水性キャリアに分散させて抗菌医薬組成物に形成することができる。種々の実施形態では、前記水性キャリアは水である。他の実施形態では、前記水性キャリアは、薬剤的に許容できる塩、非イオン性添加剤、又はその組み合せを含む水溶液である。塩は、前記ポリペプチドの自己集合を抑制する傾向があるため、過剰な塩は避けるべきである。前記薬剤的に許容できる塩を含有する好適な水性キャリアとしては、例えば、通常生理食塩水、2分の1生理食塩水、4分の1生理食塩水、及びリン酸緩衝食塩水が挙げられる。一実施形態では、前記水性キャリアは、塩化ナトリウムを含む。
【0042】
種々の実施形態では、前記水性キャリアは、添加剤を含む水溶液である。好適な添加剤としては、例えば、種々のオイル、他の種々のポリマー(天然又は合成)、セルロース又はセルロース誘導体、非イオン性又はイオン性の界面活性剤、安定化剤、増粘剤(例えば、ポリエチレングリコール)、種々のアルコール(例えば、限定するものではないが、ステアリルアルコール及び/又はセチルアルコール)、及びそれらの組み合せが挙げられる。種々の実施形態では、前記水性キャリアは、非イオン性添加剤を含む水溶液である。好適な非イオン性添加剤としては、例えば、ブドウ糖、マンニトール、グリセロール、キシリトール、ソルビトール、界面活性剤、及びそれらの組み合せが挙げられる。塩及び或る特定の糖又は糖アルコール(例えば、グリセロール及びキシリトール)を、緊張度及び/又は浸透圧を変更するのに有効な量で用いてもよい。
【0043】
前記水性キャリアは、薬剤的に許容できる塩、非イオン性添加剤、又はそれらの組み合せ等の添加剤を、種々の量で含むことができる。種々の実施形態では、前記水性キャリアは、9.0g/L以下、又は8.0g/L以下、又は7.0g/L以下、又は6.0g/L以下、又は5.0g/L以下、又は4.5g/L以下、又は4.0g/L以下、又は3.0g/L以下の量で、薬剤的に許容できる塩を含む。一実施形態では、前記水性キャリアにおける添加剤の量は、前記抗菌医薬組成物の粘度を制御するように選定される。一実施形態では、前記水性キャリアは、前記抗菌医薬組成物の粘度を増加させるような量で添加剤を含む。一実施形態では、前記水性キャリアは、前記抗菌医薬組成物の粘度を低減させるような量で添加剤を含む。一実施形態では、前記非イオン性添加剤は、前記抗菌医薬組成物の浸透圧濃度を、その添加剤を含まない抗菌医薬組成物のそれよりも少なくとも10%高い値に増加させるのに有効な量で存在する。種々の実施形態では、前記抗菌医薬組成物における添加剤の濃度は、合計重量に基づいて約0.1重量%~約10重量%の範囲にある。種々の実施形態では、前記抗菌医薬組成物における前記非イオン性添加剤の濃度は、合計重量に基づいて約0.01重量%~約2重量%の範囲、又は約0.05重量%~約5重量%の範囲にある。
【0044】
種々の実施形態では、本明細書に記載する抗菌医薬組成物は、殺菌抗菌医薬組成物を得るように構成された殺菌技術によって殺菌される。一実施形態では、前記殺菌技術は、前記合成カチオン性ポリペプチドの化学構造、及び/又は前記合成カチオン性ポリペプチドの自己集合する傾向に最小の影響を及ぼすよう構成される。かかる殺菌技術の例が、特許文献9に記載されている。一実施形態では、本明細書に記載する抗菌医薬組成物は、殺菌技術による殺菌をしていない抗菌医薬組成物の抗菌合成カチオン性ポリペプチドの重量平均分子量及び/又は分散度に相当する(例えば、約10%以内)重量平均分子量及び/又は分散度を有する抗菌合成カチオン性ポリペプチドを含む殺菌抗菌医薬組成物を得るように構成された前記殺菌技術によって殺菌される。一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、前記殺菌技術による殺菌をしていない抗菌医薬組成物の粘度レベルに相当する粘度レベルを室温及び/又は37℃で有する殺菌抗菌医薬組成物を得るように構成された前殺菌技術によって殺菌される。一実施形態では、前記殺菌抗菌医薬組成物の室温及び/又は37℃での粘度は、殺菌はしていないが他の点では同等の抗菌医薬組成物の粘度の20%~200%の範囲にある。
【0045】
一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、5mL/kgの用量で複数のマウスの腹膜腔に注入された後、注入後72時間でマウス生存率が50%以上であると測定されるように、低い毒性を有する。一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、10mL/kgの用量で複数のマウスの腹膜腔に注入された後、注入後72時間でマウス生存率が50%以上であると測定されるように、低い毒性を有する。一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、20mL/kgの用量で複数のマウスの腹膜腔に注入された後、注入後72時間でマウス生存率が50%以上であると測定されるように、低い毒性を有する。一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、40mL/kgの用量で複数のマウスの腹膜腔に注入された後、注入後72時間でマウス生存率が50%以上であると測定されるように、低い毒性を有する。当業者は、投与が、mL/kgの代わりにmg/kg換算で表現されてもよいこと、及び72時間で50%以上のマウス生存率が60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上等、100%までの値を含み得ることを、理解する。例えば、一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、50mg/kgの用量で複数のマウスの腹膜腔に注入された後、注入後72時間でマウス生存率が80%以上であると測定されるように、低い毒性を有する。一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、殺菌はしていないが他の点では同等の抗菌医薬組成物の殺細菌活性に相当する殺細菌活性を有し、この殺細菌活性は、S.アウレウス、S.エピデルミディス、P.エルギノーザ、及び大腸菌からなる群より選択される少なくとも1つの細菌に対して60分時間殺菌分析によって判定される。
【0046】
本明細書に記載する抗菌医薬組成物に他の活性な医薬成分を含有させることは、抗菌性能を高めること、並びに/又は局所性及び全身性の両方の毒性のリスクを低下させることを、可能にする。特に、抗生物質、防腐剤、ヨウ素化合物、及び/又は銀化合物等、他の抗菌剤を含有させると、前記合成カチオン性ポリペプチドと協同的に作用し、感染症の予防及び/又は治療に役立ち得る。さらに、1つ以上の抗炎症剤を含有させると、性能を高めること並びに/又は局所性及び全身性の両方の毒性のリスクを低下させることを、可能にする。局所炎症は、微生物による汚染又は感染をも伴う種々の疾患状況の病因の一因となり得る。例えば、外耳炎、慢性副鼻腔炎、肺疾患、及び或る特定の創傷状態が挙げられる。かかる症状は、前記合成カチオン性ポリペプチドと、副腎皮質ステロイド、抗ヒスタミン剤、及び/又は抗サイトカイン剤等の抗炎症剤との組み合せによって治療し得る。そういうものとして、前記合成カチオン性ポリペプチドを含有する抗菌組成物の中に抗炎症剤を含めることは、利益を提供し得る。
【0047】
本明細書に記載する抗菌医薬組成物に含まれてもよい他の医薬成分としては、脂質、ビタミンD、亜鉛、シアル酸又はシアル酸含有化合物、一酸化窒素又は一酸化窒素産生化合物、麻酔剤(例えば、ベンゾカイン)、プロテアーゼ阻害剤、粘液溶解薬、核酸ポリマー分解酵素(例えば、デオキシリボヌクレアーゼ)、β-アゴニスト(例えば、サルメテロール、サルブタモール等で、細胞内cAMPレベルを上げるのに有効な量であり得る)、メチルキサンチン(例えば、テオフィリン、アミノフィリン等で、ホスホジエステラーゼを阻害すること及び/又はcAMPレベルを上げるのに有効な量であり得る)、PDE4阻害剤(例えば、ロフルミラスト等で、繊毛運動周波数を上げるのに有効な量であり得る)、外用副腎皮質ステロイド(抗炎症効果を提供すること及び/又は繊毛運動周波数上げることに有効な量であり得る)、サイトカイン又はサイトカイン阻害剤(例えば、インターフェロン)、IL-1受容体アンタゴニスト、IL-1阻害剤(例えば、抗IL-1抗体)、TNF阻害剤(例えば、抗TNF抗体)、IL-6阻害剤、及びそれらの組み合せが挙げられる。
【0048】
一実施形態では、前記抗菌医薬組成物は、抗炎症化合物を含む。例えば、一実施形態では、前記抗炎症化合物は、副腎皮質ステロイド、ヒスタミン阻害剤、及びサイトカイン阻害剤からなる群より選択される。前記副腎皮質ステロイドとしては、例えば、ベタメタゾンジプロピオネート、クロベタゾールプロピオネート、ジフロラゾンジアセテート、フルオシノニド、及びハロベタゾールプロピオネート挙げられる。前記ヒスタミン阻害剤としては、例えば、ヒスタミンH1、H2、H3、及びH4受容体を阻害するものが挙げられる。前記サイトカイン阻害剤としては、例えば、グルココルチコイド及びペントキシフィリンが挙げられる。
【0049】
本明細書に記載する抗菌医薬組成物は、種々の方法で作ることができる。一実施形態では、前記抗菌合成カチオン性ポリペプチドは、特許文献9、特許文献7、及び/又は特許文献8で教示される一般的な方法で作られ、カチオン性ポリペプチドと、これを含有する抗菌医薬組成物とを作るためのかかる一般的な方法を教示することを含む全ての目的のために、それら文献のそれぞれが、参照により本明細書に明示的に援用されるものとする。前記抗菌医薬組成物は、抗菌合成カチオン性ポリペプチドを水性キャリアと組み合せて、前記ポリペプチドを前記水性キャリアに分散させる(例えば、溶解させる)ことで作ることができる。例えば、かかる組み合わせは、成分(カチオン性ポリペプチドと、水性キャリアと、抗炎症化合物等の任意の成分と)を、ポリペプチドを分散(例えば、溶解)させるのに有効な長さの時間、約20℃~90℃の温度範囲で撹拌しながら混合することによって実施することができる。それら成分はいかなる順序で混合することもできるが、当業者が個々の場合において特定の順序を好むことはあり得る。本明細書記載する抗菌医薬組成物は、ハイドロゲル、溶液、分散物、乳剤、乾燥繊維、被覆材、薄膜、及び/又は発泡体等、種々の形態で作ることができる。
【実施例
【0050】
更なる実施形態が、以下の実施例でさらに詳しく開示されるが、それらは、いかようにも請求項の範囲を限定するものではない。
【0051】
実施例1~24
抗菌医薬組成物
ポリ(L-リジンハイドロクロライド)-b-ポリ(D,L-ロイシン)は、複数の正荷電アミノ酸単位を中性pHで含む抗菌合成カチオン性ポリペプチドである。試料を、特許文献7に記載する一般的手順に従って調製した。ポリ(L-リジンハイドロクロライド)-b-ポリ(D,L-ロイシン)を水中に分散させて、本明細書で組成物Aと呼ぶ抗菌医薬組成物を形成させた。組成物A中のポリ(L-リジンハイドロクロライド)-b-ポリ(D,L-ロイシン)の初期濃度は10mg/mLであった。続いて、それをセルグレード(cell grade)水で希釈して、抗ウイルス活性評価用に、1000μg/mL、100μg/mL、及び10μg/mLのポリペプチド濃度を有する各溶液を形成した。
【0052】
ポリ(L-リジンハイドロクロライド)-b-ポリ(L-ロイシン)は、複数の正荷電アミノ酸単位を中性pHで含む抗菌合成カチオン性ポリペプチドである。試料を、特許文献7に記載する一般的手順に従って調製した。ポリ(L-リジンハイドロクロライド)-b-ポリ(L-ロイシン)を水中に分散させて、本明細書で組成物Bと呼ぶ抗菌医薬組成物を形成させた。組成物B中のポリ(L-リジンハイドロクロライド)-b-ポリ(L-ロイシン)の初期濃度は10mg/mLであった。続いて、それをセルグレード(cell grade)水で希釈して、抗ウイルス活性評価用に、1000μg/mL、100μg/mL、及び10μg/mLのポリペプチド濃度を有する各溶液を形成した。
【0053】
抗ウイルス活性
組成物A及び組成物Bの抗ウイルス活性を、2つの異なるウイルス、即ちコロナウイルス(OC43株、#0810024CF、ZeptoMetrix Corp.)及びインフルエンザA H1N1(A/WS/33株、ATCC(登録商標)#VR-1520)に与えることによって評価した。ASTM El052-20の「懸濁液中のウイルスに対する殺菌剤の活性を評価するための標準的実施法」に基づく殺ウイルス懸濁テスト(生体外時間殺菌方法)を用いた。ウイルス株の初期集団からの、パーセント及びlog10での減少を2つの異なる暴露時間(2分間及び10分間)で、組成物A及びBへの暴露に続いて求めた。表1及び2に結果をまとめた。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表1及び2にまとめた結果により、複数の正荷電アミノ酸単位を中性pHで含む抗菌合成カチオン性ポリペプチドを含有する抗菌医薬組成物は、2つの非常に異なるウイルスに対して広い範囲のポリペプチド濃度において驚くべき抗ウイルス活性を有することが示された。コロナウイルスは、コロナウイルス科のファミリーの中にオルトコロナウイルス科というサブファミリーを構成する。コロナウイルスは、外膜に覆われた、プラス・センスの一本鎖RNAウイルスである。インフルエンザAウイルスは、ウイルスファミリーであるオルトミクソウイルス科のアルファインフルエンザウイルス属の種である。インフルエンザAウイルスは、外膜に覆われた、マイナス・センスの一本鎖分節RNAウイルスである。
図1
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図6
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【国際調査報告】