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特表2023-521813D-アミノ酸を含むララゾチド誘導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】D-アミノ酸を含むララゾチド誘導体
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20230518BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 9/26 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A61K38/08
A61P43/00 105
A61K9/26
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/32
A61K9/12
A61P1/00
A61P1/04
A61P1/16
A61P13/12
A61P31/12
A61P3/10
A61P3/06
A61P11/06
A61P11/00
A61P31/14
A61P37/02
A61P19/02
A61P25/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K39/395 N
A61P25/16
A61P25/28
A61P35/00
A61P29/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562256
(86)(22)【出願日】2021-04-15
(85)【翻訳文提出日】2022-11-09
(86)【国際出願番号】 US2021027410
(87)【国際公開番号】W WO2021211795
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】63/114,756
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/010,135
(32)【優先日】2020-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519290839
【氏名又は名称】9 ミーターズ バイオファーマ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マダン ジェイ ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ラーダークリシュナン バラシンガム
(72)【発明者】
【氏名】ローマス サンディープ
(72)【発明者】
【氏名】プライアー クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ブリクスラガー アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】グリフィン パトリック エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】バラック ニール
(72)【発明者】
【氏名】アッパジョシュラ シレーシュ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA24
4C076AA41
4C076AA45
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB24
4C076BB25
4C076BB27
4C076CC01
4C076CC07
4C076CC15
4C076CC16
4C076CC21
4C076CC27
4C076CC35
4C076EE09
4C076EE30
4C076EE31
4C076EE36
4C076EE37
4C076FF70
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA17
4C084CA59
4C084MA13
4C084MA17
4C084MA35
4C084MA52
4C084MA56
4C084MA58
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA16
4C084ZA59
4C084ZA61
4C084ZA66
4C084ZA75
4C084ZA81
4C084ZA96
4C084ZB07
4C084ZB11
4C084ZB15
4C084ZB26
4C084ZB33
4C084ZC33
4C084ZC35
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG08
4C085GG10
(57)【要約】
本発明は、タイトジャンクション完全性を促進させるための、アミノ酸配列Gly-Gly-(d)Val-(d)Leu-(d)Val-(d)Gln-(d)Pro-Gly(配列番号6)を有する有効量のペプチド、またはその薬学的に許容される塩、及び薬学的に許容される担体、を含む組成物を提供する。本発明は更に、タイトジャンクション完全性を促進させるためのララゾチド誘導体組成物をそれらを必要とする患者に使用するための方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイトジャンクション完全性を促進させるための、1つまたは複数の(d)-アミノ酸を有するアミノ酸配列Gly-Gly-Val-Leu-Val-Gln-Pro-Gly(配列番号1)を有する有効量のペプチド、またはその薬学的に許容される塩、及び薬学的に許容される担体、を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記ペプチドは、アミノ酸配列Gly-Gly-(d)Val-(d)Leu-(d)Val-(d)Gln-(d)Pro-Gly(配列番号6)を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ペプチドは、アミノ酸配列Gly-Gly-Val-Leu-Val-Gln-(d)Pro-Gly(配列番号9)を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記組成物は、約0.5mg未満の前記ペプチドを含有する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記組成物は、約0.25mg以下の前記ペプチドを含有する、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記組成物は、約50μg~約400μgの前記ペプチドを含有する、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記組成物は、約50μg~約150μgの前記ペプチドを含有する、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記組成物は、約0.5mg超の前記ペプチドを含有する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記組成物は、少なくとも約1.0mgの前記ペプチドを含有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物は、少なくとも約2.0mgの前記ペプチドを含有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記ペプチドは酢酸塩である、先行請求項のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記組成物は、胃腸管送達用に製剤化される、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記組成物は、前記ペプチドの小腸または大腸への送達用に、腸溶性コーティングを備えるように製剤化される、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物は、十二指腸、空腸、及び/または回腸のうちの1つまたは複数への前記ペプチドの送達用に製剤化される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物は、前記ペプチドの大腸への送達用に製剤化される、請求項12から請求項14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記組成物は、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、及び/またはS状結腸のうちの1つまたは複数への前記ペプチドの送達用に製剤化される、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記組成物は、小腸及び/または大腸内に前記ペプチドを実質的に放出することとなるように胃液中において安定であり腸液中において不安定である腸溶性コーティングを備えたペプチド含有ビーズを含有する、請求項12から請求項16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
模擬腸液への曝露の約15分間以内、約30分間以内、または約45分間以内、または約60分間以内から前記ペプチドを放出し始める、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記組成物は、少なくとも約180分間、または少なくとも約210分間、または少なくとも約240分間にわたる、模擬腸液内における前記ペプチドの持続放出をもたらす、請求項12から請求項18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記ペプチドは生分解性または浸食性マトリックス内に含有される、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記ポリマーマトリックスは多糖マトリックスを含む、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記マトリックスは、セルロース、キチン、キトサン、アルギン酸、アミロース、ペクチン、カロース、ラミナリン、クリソラミナリン、キシラン、アラビノキシラン、マンナン、フコイダン、ガラクトマンナン、キサンタンガム、デキストラン、ウェランガム、ジェランガム、ジウタンガム、プルラン、ヒアルロン酸、及びその誘導体のうちの1つまたは複数を含む、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記マトリックスは微結晶セルロースを含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物は、任意選択的に、アクリレートとメタクリレートの1:1コポリマーである、pH依存性、遅延放出性コーティングを有する1つまたは複数の集団のビーズを含む、請求項1から請求項23のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記組成物は、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸のコポリマーを含む腸溶性コーティングを含む、請求項19から請求項23のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
コポリマー中の遊離カルボニル基とエステル基の比率は約1:10である、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記組成物は、非経口投与用に製剤化される、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記組成物は、皮下、筋肉内、または静脈内投与用に製剤化される、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記組成物は、経肺投与用に製剤化される、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記組成物は溶液エアロゾルまたは粉末エアロゾルとして製剤化される、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記組成物は、経鼻投与用に製剤化される、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
前記組成物は、点眼投与用に製剤化される、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項33】
請求項1から請求項32のいずれか1項に記載の組成物を、必要とする対象の組織に投与することを含む、組織のタイトジャンクション完全性を促進させるための方法。
【請求項34】
前記対象は、上皮透過性に関連する症状を有しているまたはリスクがある、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物は、1日1回もしくは1日2回、または毎週1回もしくは毎週2回投与される、請求項33または請求項34に記載の方法。
【請求項36】
対象における胃腸管上皮透過性に関連する症状を治療または予防するための方法であって、請求項1から請求項26のいずれか1項に記載の組成物を前記対象のGIに投与することを含む、前記方法。
【請求項37】
前記対象はセリアック病を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記対象は炎症性腸疾患を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記対象は潰瘍性大腸炎を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記対象はクローン病を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項41】
前記対象は環境性腸症または壊死性腸炎を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項42】
前記対象は腸管虚血症を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項43】
前記対象は、炎症性肝疾患を有しているまたはリスクがある、請求項36に記載の方法。
【請求項44】
前記対象は脂肪肝疾患を有する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記対象は非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)または非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を有する、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記対象は、腎臓病、IgA腎症、ウイルス性肝炎、糖尿病、高トリグリセリド血症、及びインスリン抵抗性のうちの1つまたは複数を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項47】
前記対象は真性糖尿病を有する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記対象は、任意選択的に、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、肺癌、及び呼吸器感染症である肺症状を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項49】
前記対象は、肺線維症を有しているまたはリスクがある、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記肺線維症は特発性肺線維症または化学療法誘発性肺線維症である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記対象は間質性肺疾患を有する、請求項48に記載の方法。
【請求項52】
前記対象は、急性肺傷害または急性呼吸促迫症候群を有しているまたはリスクがある、請求項48に記載の方法。
【請求項53】
前記対象は、任意選択的にSARS-CoV2であるコロナウイルス感染症を有する、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記組成物は、1日約1回、1日約2回、または1日約3回投与される、請求項36から請求項53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
肺疾患を有しているまたはリスクがある対象を治療するための方法であって、請求項29から請求項31のいずれか1項に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項56】
前記患者は、任意選択的に、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、肺癌、及び呼吸器感染症である肺症状を有する、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記患者は、肺線維症を有しているまたはリスクがある、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記肺線維症は特発性肺線維症または化学療法誘発性肺線維症である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記患者は間質性肺疾患を有する、請求項55に記載の方法。
【請求項60】
前記患者は、急性肺傷害または急性呼吸促迫症候群を有しているまたはリスクがある、請求項55に記載の方法。
【請求項61】
前記患者は、任意選択的にSARS-CoV2であるコロナウイルス感染症を有する、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記肺疾患は、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)、肺癌、及び呼吸器感染症から選択される、請求項55に記載の方法。
【請求項63】
前記組成物は、1日約1回、1日約2回、または1日約3回投与される、請求項55から請求項62のいずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
川崎病、小児多系統炎症性症候群(Mis-c)、または全身性炎症反応症候群を有しているまたはリスクがある対象を治療するための方法であって、請求項1から請求項32のいずれか1項に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項65】
任意選択的に、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、狼瘡、1型糖尿病、及び多発性硬化症から選択される自己免疫疾患を有しているまたはリスクがある対象を治療するための方法であって、請求項1から請求項32のいずれか1項に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項66】
新生物を有しているまたはリスクがある対象を治療するための方法であって、請求項1から請求項33のいずれか1項に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項67】
前記対象はがん免疫療法を更に受ける、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記がん免疫療法は免疫チェックポイント阻害剤を用いた療法である、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記対象は化学療法を受けている、請求項66に記載の方法。
【請求項70】
前記対象は、化学療法誘発性大腸炎を有しているまたはリスクがある、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
中枢神経系の症状を有しているまたはリスクがある対象を治療するための方法であって、請求項1から請求項33のいずれか1項に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項72】
前記症状は、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、及び認知症である、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
完全静脈栄養法(TPN)誘発性障害を有しているまたはリスクがある対象を治療するための方法であって、請求項1から請求項33のいずれか1項に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項74】
前記完全静脈栄養法(TPN)誘発性障害は、TPN誘発性腸粘膜萎縮及びTPN誘発性肝疾患から選択される、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記組成物は、1日約1回、1日約2回、または1日約3回投与される、請求項73または請求項74に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、製剤、及び、腸管上皮のタイトジャンクション透過性を含むタイトジャンクション透過性に関連する症状を治療及び予防するための方法を提供する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年4月15日出願の米国仮出願第63/010,135号及び2020年11月17日出願の米国仮出願第63/114,756号に対する優先権及び利益を主張するものであり、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
電子的に提出されたテキストファイルの記載
本明細書と共に電子的に提出されたテキストファイル、コンピュータ可読形式コピーの配列表(ファイル名:「NMT-024PC_ST25.txt」、記録日:2021年4月15日、ファイルサイズ:2,378バイト)の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
腸管上皮は、胃腸(GI)管の小腸及び大腸の管腔表面を形成する細胞の層であり、外部環境と内部環境の間の最も大きな境界面(400m超)を表す。腸管上皮には、2つの重要な機能、栄養素の吸収、及び、有害な環境物質、例えば、細菌、ウイルス、毒素、及び食物アレルゲンなどに対するバリアの提供がある。
【0005】
腸管上皮のバリア特性は、タイトジャンクションとして周知の特殊な原形質膜構造によって調節されている。タイトジャンクションが変化すると、腸バリア機能の破壊及び腸透過性の増進がもたらされる場合がある。健全な腸バリアは、病原体、抗原、エンドトキシン、及びその他の炎症性物質の体内への透過を防止するが、その一方で、腸の不完全性により、それらの侵入を許すことになり、局所または全身性の炎症性疾患を引き起こす場合もある。
【0006】
ララゾチドは、タイトジャンクション完全性を促進させるペプチド薬剤である。ララゾチドはアミノ酸配列Gly Val Leu Val Gln Pro Gly(配列番号1)を有し、GI(例えば、小腸及び/または大腸)の罹患部分における標的化放出用に製剤化することができる、または、タイトジャンクションの完全性低下を示すその他の組織に送達させることができる。ララゾチドは、より高い用量が活性減衰または全くの不活性を示すという逆の用量反応を示すと説明されている。この逆の用量反応により薬物の総合的な効果が制限される場合があり、望ましくない投与スケジュールが必要となる。
【0007】
それゆえ、上皮または内皮のバリア機能障害のための効果的な治療に対する要望は依然として存在している。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、医薬組成物、及びタイトジャンクション完全性を向上させることを含む方法を提供する。医薬組成物は、タイトジャンクション完全性を促進させるための、1つまたは複数の(d)-アミノ酸を有する配列番号1のアミノ酸配列(Gly-Gly-Val-Leu-Val-Gln-Pro-Gly)を有する有効量のペプチドを含む。様々な実施形態では、医薬組成物は、アミノ酸配列Gly-Gly-(d)Val-(d)Leu-(d)Val-(d)Gln-(d)Pro-Gly(配列番号6)を有するペプチドを含む。本明細書では「(d)-ララゾチド」または「全d-ララゾチド」とも呼ぶこのペプチドは、ララゾチドと比較して大幅により低い濃度で、上皮及び内皮組織のタイトジャンクション完全性を促進させる上で効果的である。それゆえ、様々な実施形態では、医薬組成物は約0.5mg未満のペプチドを含有する。例えば、組成物は、約0.25mg以下のペプチド、または約0.1mg以下のペプチドを含有していてもよい。加えて、一部の実施形態では、(d)-ララゾチドは、ペプチドフラグメント(例えば、刷子縁酵素によって生成された)による低い阻害を示し、それにより、それほど顕著ではない逆の用量反応を示す。これらの実施形態では、ペプチドは、ララゾチドと比較して、より高濃度でより効果的である。それゆえ、一部の実施形態では、本発明は、医薬組成物が約0.5mg超のペプチドを含有することを意図する。例えば、組成物は、約0.75mg以上のペプチド、もしくは約1.0mg以上のペプチド、または約2.0mg以上のペプチドを含有していてもよい。
【0009】
様々な実施形態では、ペプチドは、標的組織における上皮及び/または内皮タイトジャンクションの完全性を促進させるために、腸内、非経口、鼻腔内、または肺送達用に製剤化される。
【0010】
様々な実施形態では、組成物は、腸管、例えば、小腸などへの送達用に製剤化される。例えば、組成物は、十二指腸、空腸、及び/または回腸のうちの1つまたは複数への送達用に製剤化され得る。代替的にまたは加えて、組成物は、大腸への送達用に製剤化される。具体的には、組成物は、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、及び/またはS状結腸のうちの1つまたは複数への送達用に製剤化され得る。
【0011】
例えば、腸内送達に関し、ペプチドは、標的化放出用に製剤化され得る、または、持続放出または調節放出用に製剤化され得る。一部の実施形態では、本発明は、胃腸管の標的部位において放出し始めるための遅延放出製剤を意図する。一部の実施形態では、組成物は、ペプチド含有ビーズを含有し、そのペプチド含有ビーズは、胃内における放出を回避するが、小腸の1つまたは複数の標的箇所(複数可)においてペプチドを実質的に放出することとなるような、または、小腸の標的領域においてペプチドの放出を開始することとなるような、胃液中において安定であり腸液中において不安定であるコーティングを有していてもよい。
【0012】
様々なその他の実施形態では、ペプチドは、その他の経路、例えば、肺送達、非経口送達、鼻腔内送達、及び眼送達などによる送達用に製剤化される。
【0013】
様々な態様及び実施形態では、本発明は、例えば、機能不全の上皮及び/または内皮バリアが関与する様々な生物学的症状、炎症性症状、及び消化管マイクロバイオームによって影響される症状(例えば、腸内ディスバイオシス)を治療するための方法を提供する。このような症状としては、セリアック病、炎症性腸疾患(IBD)(例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎)、環境性腸症、壊死性腸炎、腸管虚血症、脂肪肝疾患(NAFLD、NASH、ASHを含むがこれらに限定されない)、糖尿病、インスリン抵抗性、高トリグリセリド血症、慢性腎臓病、IgA腎症、気道の炎症性症状(例えば、喘息、COPD、肺線維症、嚢胞性線維症、ALI、ARDS、気腫、気管支炎、肺炎、肺癌、または呼吸器感染症)、自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、狼瘡、1型糖尿病、または多発性硬化症)、免疫療法または化学療法を受けている患者におけるものを含むがん、及び中枢神経系の症状(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、または認知症)、多臓器不全、完全静脈栄養法を受けることに関連する症状、ならびにその他の炎症性疾患(例えば、川崎病、Mis-c、及び全身性炎症反応症候群)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0014】
本発明のその他の態様及び実施形態は、以下の発明を実施するための形態から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】虚血性損傷ブタ空腸の経上皮電気抵抗(TEER)を測定したex vivoアッセイの結果を示し、ララゾチドが虚血性損傷腸の修復を「ベル型」用量依存的に誘導することを示す。より高用量におけるララゾチドフラグメントの蓄積は、ララゾチド作用を阻害し得る。
図2】いくつかのララゾチド由来アナログの添加に応じた虚血性損傷ブタ空腸組織の修復を測定するex vivo試験モデルの結果を示す。
図3】虚血性損傷ブタ空腸組織の修復に関するアナログ#5及び6の修復効果を測定するex vivo試験の結果を示す。
図4】虚血性損傷ブタ空腸組織における、ララゾチド対アナログ#6((d)-ララゾチド)における経時的な分解プロファイル間の差異を示す。
図5】ララゾチドとアナログ#6の両方を1μM濃度で虚血性損傷腸組織に添加してから、240分間の修復期間にわたる経上皮/経内皮電気抵抗を測定した実験の結果を示す。
図6】それぞれ0.01μM、0.1μM、1μM、及び10μMの濃度でアナログ#6を虚血性損傷腸組織に添加した場合の、経上皮/経内皮電気抵抗を測定した実験を示す。1μMの濃度で添加したララゾチドを対照として使用した。
図7】ララゾチドを虚血性損傷腸組織に単独で添加した際、及び、フラグメントと組み合わせてララゾチドを虚血性損傷腸組織に添加した際の、ララゾチドフラグメントの阻害効果を示す(1μMララゾチド、10μMフラグメント#1、10μMフラグメント#2、10μMフラグメント#1+1μMララゾチド、及び10μMフラグメント#2+1μMララゾチド)。活性剤を添加されていない非虚血性腸組織及び虚血性腸組織を対照として使用した。240分間の修復期間にわたる経上皮/経内皮電気抵抗を測定した。
図8】以下、0.1μMアナログ#6、1μMアナログ#6、10μMA6F1、10μMA6F1+0.1μMアナログ#6のとおり、フラグメントA6F1(アナログ#6のフラグメント#1)と共に、またフラグメントA6F1なしで添加された(d)-ララゾチドアナログ、及び非虚血性組織対照の結果を示す。
図9】以下、0.1μMアナログ#6、1μMアナログ#6、10μMA6F2、10μMA6F2+0.1μMアナログ#6のとおり、フラグメントA6F2(アナログ#6のフラグメント#2)と共に、またフラグメントA6F2なしで添加された(d)-ララゾチドアナログ、及び非虚血性組織対照の結果を示す。
図10】A6F1フラグメント及びA6F2フラグメントのそれぞれをアナログ#6と組み合わせて添加した図8及び図9を組み合わせた結果を示す。
図11】溶媒、ララゾチド、または全d-ララゾチドをマウスに投与した際の、BLM投与後21日間の期間における体重の変化を示す。
図12】溶媒、ララゾチド、または全d-ララゾチドをマウスに投与した際の、BLM投与後21日間の期間における生存率を示す。
図13】屠殺日(21日目)における肺線維症モデルマウスの体重を示す。
図14】屠殺日(21日目)における肺線維症モデルマウスの左肺重量を示す。
図15】屠殺日(21日目)における肺線維症モデルマウスの下大静脈葉重量を示す。
図16】ヒドロキシプロリン標準曲線から計算した肺ヒドロキシプロリン濃度を示す。肺ヒドロキシプロリン含有量は左肺あたりのμgで表される。
図17】溶媒、ララゾチド、及び全d-ララゾチドを投与された肺線維症モデルマウスの右肺組織の染色切片の写真を示す。
図18】アッシュクロフト評価及び等級分け基準に従った染色右肺切片の等級分け結果のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、ララゾチドと比較して大幅により低い用量において効果的な、ララゾチド誘導体及びその組成物を提供し、様々な実施形態では、大幅な逆の用量反応を示さない。それゆえ、ララゾチド誘導体は、ララゾチドと比較して、広い用量範囲にわたり及び/またはより望ましい投与スケジュールで、効果的に送達され得る。
【0017】
「ララゾチド」は、配列GGVLVQPG(配列番号1)を有する8アミノ酸ペプチドであり、代替的に、アミノ酸配列ナンバリングを示すための式G1-G2-V3-L4-V5-Q6-P7-G8を用いて表される。ララゾチドは、酢酸を含む塩として生成する場合、ララゾチド酢酸塩である。ララゾチドは、腸管上皮のものを含む上皮及び内皮組織のタイトジャンクション完全性を促進させ、セリアック病(CeD)を有する患者のための療法として評価される。
【0018】
特定の態様及び実施形態によれば、本発明は、アミノペプチダーゼ分解を含むエキソペプチダーゼ分解に対する高い耐性を付与するララゾチド誘導体を提供する。プロテアーゼまたはペプチダーゼは、ペプチド結合の加水分解を触媒する酵素である。ペプチダーゼはエキソペプチダーゼまたはエンドペプチターゼであってもよい。エキソペプチダーゼは、末端または最後から二番目のペプチド結合の開裂を触媒する。アミノ酸がアミノ末端またはカルボキシ末端から遊離しているかどうかに応じて、エキソペプチダーゼはそれぞれ、アミノペプチダーゼまたはカルボキシペプチダーゼとして特徴付けられる。アミノペプチダーゼ、例えば、小腸の刷子縁内に存在する酵素などは、ペプチドのアミノ末端から1つまたは複数のアミノ酸を開裂させる。カルボキシペプチダーゼ、例えば、刷子縁内及び消化膵液中に存在する酵素などは、ペプチドのカルボン酸末端から1つまたは複数のアミノ酸を開裂させる。ペプチドは、複数回のNまたはC末端開裂を受け得る。
【0019】
ララゾチドは、臨床試験において、とりわけより低用量(例えば、0.5mg用量)で、セリアック病の症候を抑制する有意な効果を発揮することが示されている。米国2016/0022760(その全体は参照により本明細書に組み込まれる)、及び特に、その中で述べられている製剤及び用量を参照されたい。より高用量(例えば、1mg及び2mgの用量)は、活性の減衰または全くの不活性を示した。本開示によれば、エキソペプチダーゼ、例えば、内腔表面の刷子縁の内部に位置しているアミノペプチダーゼなどは、N末端グリシン残基を欠くフラグメントを含むララゾチド由来フラグメントを生成し得ると考えられている。例えば、フラグメントGVLVQPG(配列番号7)(本明細書では、「フラグメント1」と呼ぶ)及びVLVQPG(配列番号8)(本明細書では、「フラグメント2」と呼ぶ)は、タイトジャンクション調節因子として不活性である。更に、これら2つのフラグメントを全長ララゾチドと組み合わせると、活性が完全になくなる。これら不活性ララゾチドフラグメントの局所的増加(ララゾチドの過剰用量によるもの)は実際に、ペプチドと競合してそのペプチドの機能を阻害し得る。このことは、低用量のララゾチドが、競合する不活性フラグメントの蓄積を避けることによって最も良く作用するという臨床観察結果を説明し得る。
【0020】
本発明は、タイトジャンクション完全性(例えば、上皮または内皮タイトジャンクション完全性)を促進させる化合物を提供し、その化合物は、ララゾチドと比較してより高用量で大幅により少ない逆の用量反応を示す。例えば、ララゾチド誘導体の用量反応は、ララゾチドの用量反応と比較してそれほど「ベル型」ではなく、低用量と高用量の両方は、ララゾチドと比較してより効果的である。一部の実施形態では、本発明の医薬組成物を必要とする患者にそれらを投与することにより、不活性ペプチドフラグメントの大幅な蓄積が回避される。様々な実施形態では、ララゾチドのペプチド誘導体はDアミノ酸を含有する。一部の実施形態では、ララゾチドのペプチド誘導体は1、2、3、4、または5つのDアミノ酸を含有する。D-アミノ酸は、本明細書において、続くアミノ酸がD構造であることを示すために、「(d)」を用いて表される。一部の実施形態では、ララゾチド誘導体はGly-Gly-Val-Leu-Val-Gln-(d)Pro-Glyのアミノ酸配列(配列番号9)を有する。このペプチドは、本明細書では「(d)-Pro」または(d)-Proララゾチドと呼ばれる。その他の実施形態では、ララゾチド誘導体はGly-Gly-(d)Val-(d)Leu-(d)Val-(d)Gln-(d)Pro-Glyのアミノ酸配列(配列番号6)を有する。このペプチドは、本明細書では「(d)-ララゾチド」と呼ばれる。本明細書で示すとおり、(d)-ララゾチドは、ララゾチドと比較して大幅により低い濃度で、タイトジャンクション完全性を促進させる上で驚くほど効果的である。このことは、一般的には、ペプチド薬物内のLアミノ酸をDアミノ酸で置換すると力価の喪失につながることから、驚くべき観測結果である。つまり、Dアミノ酸を有するペプチドは、天然Lアミノ酸を有するペプチドと比較してより低い親和性で受容体官能基に結合すると予想され得る。
【0021】
本発明は、ララゾチドと比較して大幅により低い用量において驚くほど効果的なララゾチド誘導体を提供する。それゆえ、本発明の医薬組成物(またはその塩)は、約0.5mg未満のララゾチド誘導体を含有していてもよい。例えば、一部の実施形態では、医薬組成物は、約0.4mg以下のペプチド、もしくは約0.3mg以下のペプチド、もしくは約0.25mg以下のペプチド、もしくは約0.2mg以下のペプチド、もしくは約0.15mg以下のペプチド、もしくは約0.1mg以下のペプチド、または約50μg以下のペプチド、もしくは約25μg以下のペプチドを含有する。一部の実施形態では、医薬組成物は、約50μg~約400μgのペプチド、または約50μg~約200μg、または約50μg~約150μgを含有する。一部の実施形態では、これらのより低い用量は、タイトジャンクション完全性の喪失を防止するために、非損傷組織(例えば、GI上皮)に適用されるまたはそれらを対象とする、または、その他の実施形態では、バリア機能の修復を促進させるために、損傷または炎症組織に適用される。
【0022】
その他の実施形態では、本発明は、約0.5mg超のペプチドを含有し、逆の用量またはララゾチドで観測された「ベル型」反応を大幅に低下させる医薬組成物を意図する。例えば、一部の実施形態では、医薬組成物は、約0.6mg以上のペプチド、または約0.75mg以上のペプチド、または約1.0mg以上のペプチド、または約1.25mg以上のペプチド、または約1.5mg以上のペプチド、または約2.0mg以上のペプチドを含有する。一部の実施形態では、これらの用量は、タイトジャンクション完全性の喪失を防止するために、非損傷組織(例えば、GI上皮)に適用されるまたはそれらを対象とする、または、その他の実施形態では、バリア機能の修復を促進させるために、損傷または炎症組織に適用される。
【0023】
一部の実施形態では、ペプチド(例えば、(d)-ララゾチドまたは(d)-Pro)は約0.5mgで投与される。例えば、ペプチドは、ララゾチドと比較して0.5mg用量でより効果的であってもよい。
【0024】
様々な実施形態では、本発明のララゾチド誘導体は、ララゾチド(配列番号1のペプチド)と比較して、ペプチダーゼ分解に対する高い耐性を示す。耐性の度合いは、任意の好適なペプチダーゼ活性アッセイを使用して定量してもよい。当業者は、ペプチダーゼ活性に対する感受性を測定するための、タンパク質分解を測定可能な様々な定量法及び定性法を理解している。一部の実施形態では、ペプチドは、エキソペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、またはカルボキシペプチダーゼ活性に対する耐性を示し、一部の実施形態では、ヒト腸管内腔表面の刷子縁内に存在するヒトアミノペプチダーゼに対する耐性を示す。一部の実施形態では、ペプチドは、カルボキシペプチダーゼ、例えば、ヒトカルボキシペプチダーゼなどに対する耐性を示す。一部の実施形態では、カルボキシペプチダーゼは、プロリアーゼ、プロリン特異的エキソペプチダーゼまたはエンドペプチダーゼである。一部の実施形態では、エキソペプチダーゼはC末端プロリン特異的エキソペプチダーゼ(例えば、カルボキシペプチダーゼP)である。
【0025】
様々な実施形態では、本発明は、本明細書に記載のペプチドまたは医薬組成物を対象または患者に投与することによって、組織のタイトジャンクション完全性(上皮または内皮細胞のタイトジャンクション完全性を含む)を促進させるための方法を提供する。用語「対象」及び「患者」は本明細書において同じ意味で用いられ、一般的に、哺乳動物対象/患者のことを意味する。様々な実施形態では、対象はヒト対象である。それゆえ、組成物は、胃腸管(GI)への投与、非経口送達、鼻腔内、頬側、眼、または肺送達用に製剤化され得る。
【0026】
一部の実施形態では、ペプチドまたは医薬組成物は、胃腸管上皮透過性を予防もしくは低下させるため、及び/またはマイクロバイオームディスバイオシスを低下させるために、胃腸管(GI)に投与される。一部の実施形態では、ペプチドまたは医薬組成物は、その他の組織の上皮透過性を予防または低下させるために投与される。医薬組成物は、GI(例えば、小腸及び/または大腸)の罹患部分における標的化放出用に製剤化され得る。その他の実施形態では、ララゾチド誘導体は全身的(例えば、静脈内または皮下注射により)に投与される。一部の実施形態では、ペプチド組成物は、溶液エアロゾルまたは粉末として肺に投与される。一部の実施形態では、ペプチド組成物は、経鼻溶液または経鼻エマルションとして鼻上皮に投与される。一部の実施形態では、ペプチド組成物は、液体またはバッカル錠溶液として口腔上皮に投与される。一部の実施形態では、ペプチド組成物は、眼球表面または眼内に投与される。
【0027】
本発明のララゾチド誘導体は、任意の好適な形態(塩としてを含む)で投与されてもよい。例えば、ペプチドは酢酸塩として投与されてもよい。任意の薬学的に許容される塩、例えば、Journal of Pharmaceutical Science,66,2-19(1977)及びThe Handbook of Pharmaceutical Salts;Properties,Selection,and Use.P.H.Stahl and C.G.Wermuth(eds.),Verlag,Zurich(Switzerland) 2002(その全体は参照により本明細書に組み込まれる)に記載の薬学的に許容される塩などを含む代替的な塩を採用してもよい。
【0028】
様々な実施形態では、ペプチドは医薬組成物として製剤化され、その医薬組成物は、錠剤、丸剤、ペレット剤、カプセル剤、液剤を含有するカプセル剤、多量の微粒子を含有するカプセル剤、散剤、液剤、エマルション剤、ドロップ剤、坐剤、エマルション剤、エアロゾル剤、噴霧剤、懸濁剤、遅延放出製剤、持続放出製剤、調節放出製剤、制御放出製剤の形態、または使用に適した任意のその他の形態をとっていてもよい。
【0029】
一部の実施形態では、医薬組成物は、非経口投与に適した組成物として製剤化される。非経口投与(例えば、静脈内、筋肉内、皮下、または腹腔内注射及び注入)に好適な剤形としては、例えば、液剤、懸濁剤、分散液剤、エマルション剤などが挙げられる。それらの剤形はまた、滅菌固体組成物(例えば、凍結乾燥組成物)の形態で製造され得、それら滅菌固体組成物は、使用直前に滅菌注射用媒体中に溶解または懸濁させることができる。それら滅菌固体組成物は、例えば、懸濁剤または分散剤を含有していてもよい。これらの実施形態では、組成物は、全身性炎症または損傷もしくは炎症性内皮組織(例えば、血管炎)が関与する症状を治療するのに効果的であり得る。
【0030】
一部の実施形態では、組成物は、胃腸管の上皮組織または粘膜表面に接触させることによって、対象に投与される。例えば、組成物は、小腸及び大腸のうちの1つまたは複数への送達用に製剤化され得る。罹患領域(複数可)(例えば、十二指腸、空腸及び回腸、横行結腸、下行結腸、上行結腸、S状結腸、ならびに盲腸)におけるペプチドの放出を標的とすることによって、GIの任意の部分におけるタイトジャンクション不完全性または微生物ディスバイオシスを改善することができる。ペプチドの標的化送達は、ビーズまたは粒子を、胃内における放出を防止して標的箇所(複数可)またはその近傍で分解する遅延放出性コーティングに加えてペプチドで、コーティングすることによって達成することができる。
【0031】
一部の実施形態では、ペプチドは、GIの1つまたは複数の箇所における持続または調節もしくは制御送達用に製剤化される。例えば、本発明は、少なくとも約2時間にわたって、または少なくとも約2.5時間にわたって、または少なくとも約3時間にわたって、または少なくとも約4時間にわたって、または少なくとも約5時間にわたって、ペプチドを小腸及び/または大腸内に機能的に放出し得る持続または制御放出製剤を意図する。一部の実施形態では、持続または制御放出組成物は、模擬腸液への曝露の約10~約30分間以内からペプチドを放出し始め、ペプチドの放出は、模擬腸液への曝露の少なくとも約180分間、または少なくとも約210分間、または少なくとも約240分間、または少なくとも約280分間にわたり継続する。放出プロファイルは、例えば、異なる腸溶性ポリマーコーティング及び/または異なる厚みのポリマーコーティングを有する組成物を使用して調整することができる。一部の実施形態では、本発明は、生分解性または浸食性ポリマーマトリックス内に含有された有効量のペプチドまたはその塩を含む組成物を提供し、その組成物は、腸溶性コーティングを更に含む。生分解性または浸食性マトリックスを採用した製剤についてはWO2021/034629に記載されており、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。更に、浸食性ポリマーマトリックスは多糖マトリックスを含んでいてもよい。一部の実施形態では、マトリックスは、セルロース、キチン、キトサン、アルギン酸、アミロース、ペクチン、カロース、ラミナリン、クリソラミナリン、キシラン、アラビノキシラン、マンナン、フコイダン、ガラクトマンナン、キサンタンガム、デキストラン、ウェランガム、ジェランガム、ジウタンガム、プルラン、ヒアルロン酸、及びその誘導体のうちの1つまたは複数を含む。更なる実施形態では、マトリックスは微結晶セルロースを含む。これらの実施形態では、組成物は、低有効用量のペプチド(例えば、(d)-ララゾチドまたは(d)-Pro)を活用し、その一方で更に、不活性フラグメントの任意の局所蓄積を最小化する。更に、これらの実施形態における製剤には、移行中に継続的に沈着する低用量のペプチドでGIの大きな表面を治療するという効果がある。
【0032】
様々な実施形態では、医薬組成物は、遅延放出プロファイル(すなわち、摂取後すぐに活性成分(複数可)を放出せずに、逆に、例えば、小腸(例えば、十二指腸、空腸、回腸のうちの1つまたは複数)または大腸(例えば、盲腸、結腸の上行、横行、下行、またはS状部分のうちの1つまたは複数)内で放出させるために、ペプチドが胃を通過して胃腸管のより下方部にくるまで活性成分(複数可)の放出を先送りする)を備えるように、製剤化され得る。一実施形態では、医薬組成物は、例えば、米国特許第8,168,594号(その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる)に記載の遅延放出プロファイルを備えるように製剤化される。
【0033】
例えば、ペプチドは、ペプチドを含有する経口用量の遅延放出性組成物として、少なくとも患者の十二指腸に投与され得る。このような実施形態では、組成物は、十二指腸内で分解してペプチドを実質的に放出することとなるように胃液中において安定であり腸液中において不安定であるコーティングを備えた第1の集団のビーズを含む。組成物は、患者の空腸及び/または回腸内におけるペプチドの放出に影響を及ぼすためのpH依存性コーティングを備えた第2の集団のビーズを更に含んでいてもよい。例えば、第2の集団のビーズは、ビーズが十二指腸内にペプチドを放出した約30分間または約45分間後にペプチドを放出してもよい。経口用量組成物はカプセル剤または錠剤の形態であってもよい。一部の実施形態におけるpH依存性コーティングは、メタクリル酸及びアクリル酸エチルの1:1コポリマーであり、層の厚みは、それぞれのビーズの放出プロファイルを決定する。ビーズは、1つまたは複数の追加のコーティング、例えば、ビーズコーティング、分離層、及びオーバーコート層などを備えていてもよい。これらの実施形態では、ビーズの成分は、標的箇所においてよりボーラスな方法で放出されるが、(d)-ララゾチドまたは(d)-Proの特性は、このような放出プロファイルを備えたララゾチドと比較してより効果的である。
【0034】
例示的な経口用量組成物において、有効量のペプチド(例えば、酢酸塩として)は、患者の十二指腸内にペプチドを放出することができる第1の遅延放出性粒子、及び、患者の空腸内にペプチドを放出することができる第2の遅延放出性粒子で提供される。それぞれの粒子は、コア粒子、コア粒子を覆うペプチド(例えば、(d)-ララゾチドまたは(d)-Pro)を含むコーティング、及び、ペプチドを含むコーティングの外側にある遅延放出性コーティング(例えば、アクリレート及びメタクリレートの1:1コポリマー)を備える。第1の遅延放出性粒子が、5超のpHを有する模擬腸液への曝露の約60分間までに第1の遅延放出性粒子内のペプチドの少なくとも70%を放出する一方で、第2の遅延放出性粒子は、5超のpHを有する模擬腸液への曝露の約30及び約90分間までにペプチドの少なくとも70%を放出する。
【0035】
別の、潰瘍性大腸炎及び/またはクローン病の症候、または大腸症候を伴う症候を有し得る患者のため、結腸を含む大腸の部分用に、ビーズを更に製剤化してもよい。米国特許第8,796,203号(その全体は参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。例えば、一部の実施形態では、対象は、US2019/0358288(その全体は参照により本明細書に組み込まれる)に記載の環境性腸症を有しているまたはリスクがある。
【0036】
一般的に、遅延放出性コーティングは、pH及び/または酵素の存在に関係なく時間に応じて分解し得る。このようなコーティングは、例えば、非水溶性ポリマーを含んでいてもよい。それゆえ、その溶解度はpHに依存しない。用語「pH非依存性」とは、本明細書で使用する場合、ポリマーの透過性及びその薬剤成分放出能力がpHに応じて変化しないということ、及び/または、ごくわずかにpHに依存するに過ぎないということを意味する。このようなコーティングを使用して、例えば、持続放出製剤を調製してもよい。好適な非水溶性ポリマーとしては、セルロースエーテル、セルロースエステル、またはセルロースエーテル-エステル、すなわち、セルロース骨格上のヒドロキシ基の一部がアルキル基で置換され一部がアルカノイル基で修飾されたセルロース誘導体が挙げられるがこれらに限定されない。例としては、エチルセルロース、アセチルセルロース、ニトロセルロースなどが挙げられる。不溶性ポリマーのその他の例としては、ラッカー、ならびにアクリル及び/またはメタクリル酸エステルポリマー、低含有率の第四級アンモニウムを有するアクリレートまたはメタクリレートのポリマーまたはコポリマー、またはそれらの組み合わせなどが挙げられるがこれらに限定されない。不溶性ポリマーのその他の例としては、EUDRAGIT RS(登録商標)、EUDRAGIT RL(登録商標)、及びEUDRAGIT NE(登録商標)が挙げられる。本発明において有用な不溶性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルエステル、ポリビニルアセタール、ポリアクリル酸エステル、ブタジエンスチレンコポリマーなどが挙げられる。
【0037】
遅延させるがGI管へと活性剤を実質的に送達するための様々なタイプの腸溶性コーティングが知られている。一部の実施形態では、持続放出組成物は、酸性環境において実質的に安定であり中性付近からアルカリ性環境において実質的に不安定である腸溶剤を含む。一実施形態では、持続放出性コーティングは、胃液において実質的に安定な腸溶剤を含有する。腸溶剤は、例えば、メタクリル酸コポリマー、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、及びEUDRAGIT(登録商標)タイプポリマー(ポリ(メタクリル酸)、メチルメタクリレート)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートトリメテート、セラックまたはその他の好適な腸溶性コーティングポリマーの液剤または分散液剤から選択することができる。EUDRAGIT(登録商標)タイプポリマーとしては、例えば、EUDRAGIT(登録商標)FS 30D、L 30 D-55、L 100-55、L 100、L 12,5、L 12,5 P、RL 30 D、RL PO、RL 100、RL 12,5、RS 30 D、RS PO、RS 100、RS 12,5、NE 30 D、NE 40 D、NM 30 D、S 100、S 12,5、及びS 12,5 Pが挙げられる。一部の実施形態では、EUDRAGIT(登録商標)FS 30D、L 30 D-55、L 100-55、L 100、L 12,5、L 12,5 P RL 30 D、RL PO、RL 100、RL 12,5、RS 30 D、RS PO、RS 100、RS 12,5、NE 30 D、NE 40 D、NM 30 D、S 100、S 12,5、及びS 12,5 Pのうちの1つまたは複数を使用する。腸溶剤は、上記の液剤または分散液剤の組み合わせであってもよい。一部の実施形態では、腸溶剤は、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸のコポリマーを含むEUDRAGIT F30Dである。コポリマーは、約1:10の遊離カルボニル基とエステル基の比率を有する。
【0038】
一部の実施形態では、ビーズは、模擬胃液中における溶解に対する耐性を実質的に有する腸溶性コーティングを含む。組成物は、胃液中において、本質的にインタクトなままである、または、本質的に不溶性であってもよい。胃耐性コーティングの安定性はpH依存性であってもよい。例えば、腸溶性コーティングは、5.5のpHを有する模擬胃液中ならびに模擬腸液中におけるペプチドの実質的な放出を防止し得る。一部の実施形態では、マトリックスは、約6以上、例えば、約6.5~約7.0などのpHを有する模擬腸液中におけるペプチドの持続放出をもたらす。それゆえ、腸溶性コーティングは、模擬胃液中において安定であるが、約6.0超のpHを有する模擬腸液中において不安定である。このような実施形態における腸溶性コーティングは、十二指腸においてペプチドを実質的に放出しないが、組成物が空腸に入るまで放出を遅延させ、その後、空腸及び回腸における持続放出をもたらす。
【0039】
一部の実施形態では、組成物は、ビーズの集団を含む経口送達用のカプセル剤であり、そのビーズの集団は、浸食性ポリマーマトリックス内に含有された有効量のペプチド(例えば、(d)-ララゾチドもしくは(d)-Proまたはその塩)を含み、そのビーズは、腸溶性コーティングを更に含み、その腸溶性コーティングは、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸のコポリマーを含んでいてもよい。コポリマー中の遊離カルボニル基とエステル基の比率は1:10であってもよい(例えば、EUDRAGIT F30D)。このような実施形態では、腸溶性コーティングは、組成物の総重量の約20%~約30%であってもよい。一部の実施形態では、浸食性マトリックスは微結晶セルロースを含む。一部の実施形態では、組成物は、約2時間後において、模擬胃液中における約15%未満のペプチド放出をもたらす。更に、組成物は、約2時間後において、約5.5のpHを有する模擬腸液中における約25%未満のペプチド放出をもたらす。様々な実施形態では、組成物は、約2時間後において、約7.0のpHを有する模擬腸液中における少なくとも約40%であるが約80%以下のペプチドを放出する。様々な実施形態では、約7のpHを有する模擬腸液中における100%放出には、少なくとも3時間まで、または一部の実施形態では、少なくとも約3.5もしくは少なくとも約4時間まで到達しない。
【0040】
一部の実施形態では、医薬組成物は、例えば、米国特許第8,168,594号(その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる)に記載の遅延放出プロファイルを有するコート錠またはコートビーズもしくは顆粒剤を含む。例示的な腸溶性コーティングは、アクリレート及びメタクリレートのコポリマーを含み、一部の実施形態では、1:1コポリマーである。シールコートまたはトップコートを含むその他の充填剤、結合剤、及び可塑剤については、US8,168,594(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0041】
様々な実施形態では、組成物は、1つまたは複数の分離層を含んでいてもよい。分離層は、コア錠または粒子を遅延放出性コーティングから分離させる。一般的には、コーティングパン、コーティング造粒機などのコーティング装置と共に、または、コーティング加工用の水及び/または有機溶媒を使用した流動床装置において使用されるコーティングまたは層化手法を用いることにより、分離層をコアに塗布してもよい。代替として、粉体塗装技術を使用することにより、分離層をコア材に塗布してもよい。分離層用の素材は、薬学的に許容される化合物、例えば、単独または混合物で使用する、糖、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及びその他のものなどである。添加剤、例えば、可塑剤、着色剤、顔料、充填剤、粘着防止剤、及び帯電防止剤など、例えば、ステアリン酸マグネシウム、二酸化チタン、タルクなど、ならびにその他の添加物もまた、分離層に含まれ得る。
【0042】
当業者に周知の方法を用いて、腸溶性コーティング組成物を水中または好適な有機溶媒中のいずれかに分散または溶解させて、コア粒子に塗布してもよい。1つまたは複数の遅延放出性コーティングをコーティングされたコア粒子に塗布してもよい。
【0043】
腸溶性コーティングまたはその他のコーティングは、タルク、二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウムなどを含むがこれらに限定されない1つまたは複数の不活性加工助剤を含んでいてもよい。腸溶性コーティング組成物はまた、所望の機械的特性、例えば、柔軟性及び硬度などを得るための薬学的に許容される可塑剤を含有していてもよい。このような可塑剤としては、トリアセチン、クエン酸エステル、フタル酸エステル、セバシン酸ジブチル、セチルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリソルベート、またはその他の可塑剤が挙げられるがこれらに限定されない。
【0044】
例えば、一部の実施形態では、コーティングされた粒子または錠剤は、オーバーコート層で更に覆われていてもよい。オーバーコート材は、薬学的に許容される化合物、例えば、単独または混合物で使用する、糖、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及びその他のものなどである。オーバーコート材は、腸溶性コーティングでコーティングされた粒子の潜在的な凝集を防止する、圧縮加工中にコーティングがひび割れるのを防ぐ、または、錠剤化加工を向上させることができる。
【0045】
それゆえ、一部の実施形態では、マトリックスは、1つまたは複数の結合剤、充填剤、または可塑剤を含む。このような構成成分としては、セルロースもしくはセルロース誘導体、脂肪酸塩、または合成ポリマーのうちの1つまたは複数が挙げられる。例えば、結合剤、充填剤、または可塑剤は、合成ポリマーを含んでいてもよく、そのポリマーは、任意選択的に、ビニルピロリジン及びビニルアセテートのコポリマーである。代替的に、結合剤、充填剤、または可塑剤は、セルロース誘導体を含み、セルロース誘導体は、任意選択的に、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースのうちの1つまたは複数を含む。一部の実施形態では、結合剤、充填剤、または可塑剤は、任意選択的に、C8~C18脂肪酸塩から選択される脂肪酸塩を含み、脂肪酸塩は、任意選択的に、ステアリン酸の塩(例えば、ステアリン酸マグネシウム)である。一部の実施形態では、腸溶性コーティングは可塑剤を含み、可塑剤は、任意選択的に、クエン酸トリエチルである。
【0046】
経口用量組成物は、顆粒剤またはビーズを含むカプセル剤の形態であってもよく、または、腸溶コート錠またはその他の形態であってもよい。一部の実施形態では、組成物は、マトリックス及び腸溶性コーティングを含有するビーズまたは顆粒剤の集団を含み、組成物は、カプセル内に含有されていてもよい。例えば、一部の実施形態では、ビーズは、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸のコポリマーを含む腸溶性コーティングを含み、コポリマーは、任意選択的に、約1:10の遊離カルボニル基とエステル基の比率を有していてもよい。このような腸溶性コーティングは、組成物の重量の約15%~約40%であってもよい。一部の実施形態では、腸溶性コーティングは、組成物の重量の約20%~約30%、または組成物の重量の約20%~約25%である。
【0047】
ポリマーマトリックスは、実質的にpH非依存的に分解または浸食されるように選択され得る。その他の実施形態では、ポリマーマトリックスはpH依存的に分解または浸食される。例示的なポリマーマトリックスは、多糖マトリックス、例えば、セルロース、キチン、キトサン、アルギン酸、アミロース、ペクチン、カロース、ラミナリン、クリソラミナリン、キシラン、アラビノキシラン、マンナン、フコイダン、ガラクトマンナン、キサンタンガム、デキストラン、ウェランガム、ジェランガム、ジウタンガム、プルラン、ヒアルロン酸、及びその誘導体のうちの1つまたは複数を含むマトリックスなどを含む。セルロースの誘導体としては、例えば、アルキル、ヒドロキシル、及びカルボキシル化誘導体が挙げられる。一部の実施形態では、マトリックスは微結晶セルロースを含む。更にその他の実施形態では、マトリックスは、当該技術分野において周知の様々な生分解性合成ポリマーを含む。
【0048】
一部の実施形態では、非反応性または難治性のセリアック病またはIBSを有する患者において、患者は補助療法を受けてもよく、その補助療法は、一部の実施形態では、ララゾチド治療と相乗的である。一部の実施形態では、別の治療薬は、抗炎症薬、例えば、ステロイド系抗炎症薬または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)などである。ステロイド、とりわけ、副腎皮質ステロイド薬及びその合成アナログは当該技術分野において周知である。副腎皮質ステロイド薬の例としては、ヒドロキシルトリアムシノロン、α-メチルデキサメタゾン、β-メチルベタメタゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、吉草酸クロベタゾール、デソニド、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、二酢酸ジフロラゾン、吉草酸ジフルコルトロン、フルアドレノロン、フルクロロロンアセトニド、ピバル酸フルメタゾン、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルコルチンブチルエステル、フルオコルトロン、酢酸フルプレドニデン(フルプレドニリデン)、フルランドレノロン、ハルシノニド、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、コルチゾン、コルトドキソン、フルセトニド、フルドロコルチゾン、二酢酸ジフルオロゾン、フルラドレノロンアセトニド、メドリソン、アムシナフェル、アムシナフィド、ベタメタゾン及びそのエステルの残部、クロロプレドニゾン、クロコルテロン、クレシノロン、ジクロリゾン、ジフルプレドナート、フルクロロニド、フルニソリド、フルオロメタロン、フルペロロン、フルプレドニソロン、ヒドロコルチゾン、メプレドニソン、パラメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、ならびにブデソニドが挙げられるがこれらに限定されない。本発明で使用してもよいNSAIDとしては、サリチル酸、アセチルサリチル酸、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、サリチルアミド、ベンジル-2,5-ジアセトキシ安息香酸、イブプロフェン、フリンダク、ナプロキセン、ケトプロフェン、エトフェナメート、フェニルブタゾン、及びインドメタシンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0049】
一実施形態では、別の治療薬は、免疫抑制薬、例えば、アザチオプリン、シクロスポリン、インフリキシマブ、及びアレムツズマブなどである。
【0050】
一部の実施形態では、別の治療薬は下痢止め薬である。本発明で使用するのに好適な下痢止め薬としては、DPP-IV阻害薬、天然オピオイド、例えば、アヘンのチンキ剤、アヘン安息香チンキ、及びコデインなど、合成オピオイド、例えば、ジフェノキシラート、ジフェノキシン、及びロペラミドなど、次サリチル酸ビスマス、ランレオチド、バプレオチド及びオクトレオチド、モチリンアンタゴニスト、セレコキシブなどのCOX2阻害剤、グルタミン、サリドマイド、ならびに従来の下痢止め薬、例えば、カオリン、ペクチン、ベルベリン、及びムスカリン薬などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0051】
一部の実施形態では、別の治療薬は抗菌薬、例えば、抗生物質などである。本発明で使用するのに好適な抗生物質としては、セファロスポリン系抗生物質(セファレキシン、セフロキシム、セファドロキシル、セファゾリン、セファロチン、セファクロル、セファマンドール、セフォキシチン、セフプロジル、及びセフトビプロール)、フルオロキノロン系抗生物質(シプロ、レバキン、フロキシン、テキン、アベロックス、及びノルフロックス)、テトラサイクリン系抗生物質(テトラサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、及びドキシサイクリン)、ペニシリン系抗生物質(アモキシシリン、アンピシリン、ペニシリンV、ジクロキサシリン、カルベニシリン、バンコマイシン、及びメチシリン)、モノバクタム系抗生物質(アズトレオナム)、及びカルバペネム系抗生物質(エルタペネム、ドリペネム、イミペネム/シラスタチン、及びメロペネム)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0052】
一部の実施形態では、別の治療薬はプロバイオティクスである。本発明で使用するのに好適なプロバイオティクスとしては、Saccharomyces boulardii、Lactobacillus rhamnosus GG、Lactobacillus plantarum 299v、Clostridium butyricum M588、Clostridium difficile VP20621(非毒素産生性C.difficile株)、Lactobacillus casei、Lactobacillus acidophilus(Bio-K + CL1285)の組み合わせ、Lactobacillus casei、Lactobacillus bulgaricus、Streptococcus thermophilus(Actimel)の組み合わせ、Lactobacillus acidophilus、Bifidobacterium bifidum(Florajen3)の組み合わせ、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus bulgaricus delbrueckii subsp.bulgaricus、Lactobacillus bulgaricus casei、Lactobacillus bulgaricus plantarum、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium infantis、Bifidobacterium breve、及びStreptococcus salivarius subsp.thermophilus(VSL#3)の組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。
【0053】
特定の実施形態によれば、組成物は、対象におけるGIタイトジャンクション完全性を促進させるために1日1回または複数回投与される。例えば、組成物は、1日約1回、1日約2回、または1日約3回投与されてもよい。様々な実施形態では、1日1回から1日3回のレジメンは長期間にわたり継続される。一部の実施形態では、レジメンは、少なくとも約1ヶ月間、少なくとも約2ヶ月間、少なくとも約4ヶ月間、少なくとも約6ヶ月間、または少なくとも約8ヶ月間にわたり継続される。一部の実施形態では、治療は、慢性疾患の疾患進行を遅延もしくは予防するために、または慢性疾患の症候を抑制もしくは改善するために、継続的なものである。
【0054】
一部の実施形態では、対象はセリアック病を有し、ペプチドは、十二指腸及び空腸(及び任意選択的に、回腸)を含む小腸における放出用に製剤化される。ララゾチド製剤を用いた治療方法についてはUS2016/0022760(その全体は参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0055】
一部の実施形態では、対象は、炎症性腸疾患(IBD)、例えば、クローン病または潰瘍性大腸炎(UC)などを有し、組成物は、GIの罹患部分へのペプチドの送達用に製剤化される。
【0056】
一部の実施形態では、対象は環境性腸症または壊死性腸炎を有する(US2019/0358288(その全体は参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと)。このような実施形態では、組成物は、GIの罹患部分へのペプチドの送達用に製剤化され、GIとしては、小腸及び/または大腸を挙げることができる。
【0057】
一部の実施形態では、対象は、NAFLD、NASH、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)、または、肝炎、肥満症、糖尿病、インスリン抵抗性、高トリグリセリド血症、慢性腎臓病、IgA腎症(ベルジェ病としても周知)、無βリポタンパク血症、糖原病、ウェーバークリスチャン病、ウォルマン病、急性妊娠脂肪肝、及び脂肪異栄養症に起因する脂肪肝疾患を含むがこれらに限定されない脂肪肝疾患を有する。一部の実施形態では、腸バリア機能(例えば、小腸)の向上により、循環血液に入り最終的には疾患を悪化させ得るまたは疾患進行を促進させ得る、LPSなどの毒素の量が制限される。ベルジェ病としても周知のIgA腎症は、腎臓においてIgA沈着が増加した際に発症する腎臓病であり、腎臓組織を損傷させる炎症を引き起こす。更にその他の実施形態では、対象は腸管虚血症を有する。US2019/0358289及び2021/0069286(その全体は参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0058】
一部の実施形態では、対象は、気道またはその他の非胃腸器官もしくは組織の炎症性症状を有する。腸内マイクロバイオームは、免疫系の発達及び組織の恒常性において極めて重要な役割を果たしている。腸内マイクロバイオームは、GI管の免疫応答に影響を及ぼし、更に、肺を含む遠位器官の免疫に影響を及ぼす。それゆえ、一部の実施形態では、GIに投与するための本明細書に記載の組成物は、GI上皮組織完全性を向上させて微生物ディスバイオシスを制御するのに効果的であり、それにより、肺、皮膚、肝臓、腎臓、膵臓、心臓、神経系(例えば、CNS)などを含むその他の組織及び器官の健康に好ましい影響を及ぼされる。一部の実施形態では、対象は呼吸器疾患を有する。一部の実施形態では、対象は、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺疾患、肺線維症(例えば、特発性肺線維症)、嚢胞性線維症(CF)、急性肺傷害(ALI)、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、肺癌、または呼吸器感染症(コロナウイルス感染症、流感、またはRSV感染症などのウイルス感染症を含む)を有する。
【0059】
本明細書で示すとおり、肺線維症のマウスモデルに経口で提供される(d)-ララゾチドは、ララゾチドと比較してより優れた治療効果を示す。それゆえ、一部の実施形態では、対象は、肺線維症を有しているまたはリスクがある。肺線維症は、肺における過剰な結合組織の蓄積を特徴とする。肺線維症の原因としては、薬剤、例えば、ブレオマイシン及びシクロホスファミドなどの投与、特定の環境因子、例えば、ガス、アスベスト、及びシリカなどへの曝露、ならびに微生物感染症が挙げられる。一部の全身性炎症性疾患、例えば、関節リウマチ及びSLEなどによってもまた、肺線維症に罹患し易くなる。肺線維症の症候としては、呼吸困難、乾性咳嗽、発熱、及び肺細胞への損傷が挙げられる。肺線維症は、胸部X線撮影、高解像度コンピュータ断層スキャン、及び肺機能検査の結果を使用して診断され得る。
【0060】
一部の実施形態では、患者は、間質性肺疾患、例えば、サルコイドーシス及び特発性肺線維症(IPF)から選択される間質性肺疾患などを有しているまたは発症するリスクがある。様々な実施形態では、患者は、肺線維症に加えて慢性の炎症性肺疾患または症状を有しており、それにより、肺線維症に罹患し易くなり得るまたは肺線維症が悪化することになり得る。例示的な炎症性疾患または症状としては、嚢胞性線維症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気腫、慢性気管支炎、及び慢性肺炎が挙げられる。
【0061】
一部の実施形態では、肺線維症のリスクのある患者は、少なくとも60歳の年齢または少なくとも70歳の年齢である。一部の実施形態では、リスクのある患者は、タバコ喫煙者または元タバコ喫煙者である。一部の実施形態では、患者は肺線維症を遺伝的に発症し易い。これらまたはその他の実施形態では、患者は慢性胃腸逆流症を有している。
【0062】
一部の実施形態では、リスクのある患者は、慢性または再発性の呼吸器感染症を有している。肺線維症に罹患し易くなり得る例示的な微生物感染症としては、Pseudomonas aeruginosa、Streptococcus pneumonia、及び抗酸菌(結核または非結核性抗酸菌)の感染症が挙げられる。その他の微生物感染症としては、ウイルス感染症、例えば、パラインフルエンザ及びコロナウイルス、例えば、Sars-CoV2などが挙げられる。
【0063】
一部の実施形態では、患者はサルコイドーシスを有しており、サルコイドーシスは、一般的に肺及びリンパ節にある肉芽腫を特徴とする疾患である。サルコイドーシスはその他の器官に影響を及ぼし得る。代替的に、患者はIPFを有し得る。IPFは、明らかな病因なしに肺が損傷する症状である。
【0064】
更にその他の実施形態では、患者は、薬剤誘発性肺線維症を有しているまたはリスクがある。例えば、患者は、肺線維症を誘発する抗生物質(例えば、ニトロフラントイン)、メトトレキサート、アミオダロン、及びがん化学療法剤(例えば、ブレオマイシン、または、シクロホスファミドなどのアルキル化剤)を用いた治療を受けている場合がある。それゆえ、一部の実施形態では、患者は、肺線維症を誘発する薬剤を用いた療法を受けており、ペプチドを用いた治療が予防的に提供される。
【0065】
更にその他の実施形態では、肺線維症を有しているまたはリスクのある患者は、アスベストへの著しい職業曝露を有している。
【0066】
様々な実施形態では、肺線維症を有する患者は、軽度または中程度の肺線維症を有する。更にその他の実施形態では、肺線維症は重度である。疾患の重症度は、例えば、肺機能検査(例えば、努力性肺活量、FVC)、高解像度CTスキャン(HRCT)、及び/または、息切れ及び咳などの症候の重症度を使用して決定することができる。
【0067】
更にその他の実施形態では、患者は、呼吸器症状(上記の呼吸器症状を含む)を有しているまたはリスクがあり、ペプチドを含む組成物は、肺への直接投与(肺送達)用または全身送達(例えば、非経口送達)用に製剤化される。一部の実施形態では、患者は、急性肺傷害(ALI)、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、間質性肺疾患(例えば、特発性肺線維症などの肺線維症)、嚢胞性線維症、または細菌性もしくはウイルス感染症(例えば、SARS-CoVなどのコロナウイルス感染症、インフルエンザウイルス感染症、またはRSV感染症)を有しているまたはリスクがある。粉末及び溶液エアロゾルを含む肺送達用の例示的な製剤については、US10,723,763(その全体は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0068】
一部の実施形態では、対象は、自己免疫疾患、限定するわけではないが例えば、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、狼瘡、1型糖尿病、または多発性硬化症などを有する。関節リウマチは、体の免疫系が関節組織、及び重症症例では内部器官を攻撃する慢性的な炎症性障害である。長期間にわたり、関節リウマチに関連する炎症は、骨びらん及び関節変形を引き起こす場合がある。若年性特発性関節炎としても周知の若年性関節リウマチは、16歳以下の小児において6週間超にわたり関節の炎症及び硬直を引き起こす関節炎のタイプである。狼瘡は、体の免疫系が自身の組織及び器官(関節、皮膚、腎臓、血液細胞、脳、心臓、及び肺を含む)を攻撃する際に発症する疾患である。1型糖尿病は、体の免疫系がインスリンを生成する膵臓細胞を攻撃及び破壊する自己免疫疾患である。多発性硬化症は、体の免疫系が神経の保護被覆を攻撃及び破壊する自己免疫障害である。これらの実施形態では、組成物は、本明細書に記載のGIへの送達用に製剤化され得るが、任意選択的に、全身的(例えば、非経口)、または罹患組織(肺、皮膚、または眼を含む)へと局所的に送達される。
【0069】
一部の実施形態では、本発明は、新生物(例えば、固形腫瘍または血液がん)を治療または予防するための方法を提供する。例えば、内在性及び外来の微生物は、様々な新生物の病因を助長し得る。Hamada T,et al.,Integration of microbiology,molecular pathology,and epidemiology:a new paradigm to explore the pathogenesis of microbiome-driven neoplasms.J Pathol 2019;247:615-628を参照されたい。様々な実施形態では、がんは原発性がんである。原発性がんとは、臨床的に検出可能となり原発性腫瘍となり得る、発生部位にあるがん細胞のことを意味する。例えば、がんはステージIまたはステージIIのがんであってもよい。「転移」とは、原発部位から体内のその他の場所へのがんの拡散のことを意味する。がん細胞は、原発性腫瘍から離れ、リンパ管及び血管へと侵入し、血流によって循環し、体内の他の箇所の正常組織内の遠隔病巣において増殖(転移)し得る。転移は局所または遠隔であってもよい。これらの実施形態では、組成物は、本明細書に記載のGIへの送達用に製剤化され得るが、任意選択的に、全身的(例えば、非経口)に送達される。
【0070】
一部の実施形態では、がんは、任意の組織に起源を有し得る。一部の実施形態では、がんは、皮膚、結腸、乳房、または前立腺から発生し得、そのため、元々は皮膚、結腸、乳房、または前立腺であった細胞で構成され得る。一部の実施形態では、がんは、固形腫瘍、例えば、肉腫または癌腫などである。一部の実施形態では、がんはまた、血液悪性腫瘍であってもよく、血液悪性腫瘍はリンパ腫または白血病であってもよい。一部の実施形態では、原発性または転移性がんは、肺癌、乳癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、子宮頸癌、結腸直腸癌、膵臓癌、黒色腫、卵巣癌、骨癌、尿路上皮癌、胃癌、頭頸部癌、膠芽腫、頭頸部扁平上皮細胞癌(HNSCC)、非小細胞肺癌(NSCLC)、小細胞肺癌(SCLC)、膀胱癌、前立腺癌(例えば、ホルモン不応性)である。一部の実施形態では、がんは、黒色腫、結腸直腸癌、または頭頸部癌である。一部の実施形態では、対象は、結腸直腸癌を有しているまたはリスクがあり、再発性結腸直腸癌のリスクがあることを含む。
【0071】
一部の実施形態では、がんは、進行性、局所進行性、または転移性のがんである。一部の実施形態では、がんは転移性黒色腫であり、再発性であってもよい。一部の実施形態では、転移性黒色腫はステージIIIまたはIVであり、ステージIVA、IVB、またはIVCであってもよい。転移は局所または遠隔であってもよい。一部の実施形態では、固形腫瘍は再発性または難治性の固形腫瘍である。
【0072】
一部の実施形態では、対象は新生物(例えば、固形腫瘍または血液がん)を有し、がん療法、限定するわけではないが例えば、化学療法、放射線療法、または免疫療法(例えば、養子細胞療法、CAR-T療法、免疫チェックポイント阻害剤療法)などを受けていてもよい。このような実施形態では、ペプチド(例えば、(d)-ララゾチド)を含む組成物は、免疫療法を増強して相乗効果をもたらし得る。WO2019/183036(その全体は参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。一部の実施形態では、対象は、免疫チェックポイント阻害剤を用いた療法を受けている、受けてきた、または受ける予定がある。チェックポイント阻害剤の例としては、イピリムマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、セミプリマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、及びデュルバルマブが挙げられるがこれらに限定されない。これらの実施形態では、組成物は、本明細書に記載のGIへの送達用に製剤化され得るが、任意選択的に、全身的(例えば、非経口)に送達される。好ましくは、組成物はGIへと送達される。
【0073】
様々な実施形態では、組成物の投与は、免疫チェックポイント阻害剤療法の効果を増大または回復させる。例えば、一部の実施形態では、がんを有する対象は、これまで免疫チェックポイント阻害剤に対して反応を示さなかった、または、免疫チェックポイント阻害剤に対する耐性を示すようになっていた。一部の実施形態では、がんは、免疫療法剤、例えば、抗CTLA-4、抗PD-1、または抗PD-L1及び/またはPD-L2剤などに対して難治性であるまたは反応を十分には示さない。一部の実施形態では、がん対象は、例えば、イピリムマブ、トレメリムマブ、ペンブロリズマブ、及びニボルマブのうちの1つまたは複数を含む抗CTLA-4、抗PD-1、または抗PD-L1及び/またはPD-L2剤を用いた治療の後またはその間に増悪してきた、または、このような治療に対して、少なくとも約4週間、または少なくとも約8週間、または少なくとも約12週間の治療に、反応を示してこなかった。
【0074】
一部の実施形態では、対象は化学療法を受けており、化学療法誘発性大腸炎のリスクがあるまたは経験している。様々な実施形態では、がんの治療に使用される化学療法剤(とりわけ、大量化学療法剤)は、結腸内における細菌の正常なバランスを破壊し、その結果、大腸炎を招く。
【0075】
一部の実施形態では、対象は、神経変性疾患及び脱髄性疾患を含むがこれらに限定されない、中枢神経系(CNS)に影響を及ぼす症状を有する。一部の実施形態では、疾患は、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、または認知症である。これらの実施形態では、組成物は、本明細書に記載のGIへの送達用に製剤化され得るが、任意選択的に、全身的(例えば、非経口)に送達される。好ましくは、組成物はGIへと送達される。
【0076】
一部の実施形態では、本発明は、危篤状態の対象の治療を意図し、重篤な疾患は、死のリスクがかなりある命に関わる多系統プロセスである。様々な実施形態では、対象は多臓器不全のリスクがある。
【0077】
一部の実施形態では、対象は静脈栄養法を受けている。これらの実施形態では、組成物は、完全静脈栄養法(TPN)誘発性腸粘膜萎縮または完全静脈栄養法(TPN)誘発性肝疾患を含むがこれらに限定されない完全静脈栄養法(TPN)誘発性障害を予防、改善、または治療する。完全静脈栄養法(TPN)は、小腸萎縮を引き起こし、腸機能を減衰させる。更に、TPN誘発性肝疾患を有する対象は、胆汁うっ滞、髄外造血、ならびに微小胞性及び大滴性脂肪変性を示し得る。これらの実施形態では、組成物は、本明細書に記載のGIへの送達用に製剤化され得る。
【0078】
更にその他の実施形態では、対象は、炎症性疾患、限定するわけではないが例えば、川崎病、小児多系統炎症性症候群(Mis-C)、または全身性炎症反応症候群などを有する。皮膚粘膜リンパ節症候群としても周知の川崎病は、血管、とりわけ、冠状動脈において炎症を引き起こす症状であり、乳児及び若年小児において最も一般的である。小児多系統炎症性症候群(Mis-C)は原因不明の症状であり、心臓、肺、腎臓、脳、皮膚、眼、または胃腸器官を含む様々な身体部位に炎症が生じ得る。一部の実施形態では、対象は全身性炎症反応症候群を有し、全身性炎症反応症候群は、有害なストレス因子(例えば、感染症、外傷、外科手術、急性炎症、虚血もしくは再灌流、または悪性腫瘍)に対する体の過剰防御反応であり得る。これらの実施形態では、組成物は、本明細書に記載のGIへの送達用に製剤化され得るが、任意選択的に、全身的(例えば、非経口)、または罹患組織(肺、皮膚、または眼を含む)へと局所的に送達される。
【0079】
様々な実施形態では、ペプチドを含む組成物は、1日あたり1回または複数回、例えば、1日あたり1~3回投与され得る。ララゾチドは一般的に、CeDの臨床試験中に1日3回投与されているが、より高い安定性及び向上した力価に鑑みて、1つまたは複数のD-アミノ酸(例えば、(d)-ララゾチドまたは(d)-Proララゾチド)を含む本明細書に記載のペプチドは、より好都合な投与スケジュールを用いたより長く作用するアナログとして提供することができる。例えば、一部の実施形態では、(d)-ララゾチドまたは(d)-Proララゾチド組成物は、1日1回もしくは1日2回、または毎週1回もしくは毎週2回GI管に投与される(例えば、経口)。一部の実施形態では、(d)-ララゾチドまたは(d)-Proララゾチドは、1日1回GI管に投与される(例えば、経口)。一部の実施形態では、(d)-ララゾチドまたは(d)-Proララゾチド組成物は、別の経路、例えば、非経口、鼻腔内、肺、または点眼投与などを介して、1日約1回もしくは1日約2回、または毎週約1回もしくは毎週約2回投与される。
【0080】
ここから、以下の実施例を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0081】
本明細書で使用する場合、用語「約」とは、文脈上特に必要としない限り、付随する数値の±10%のことを意味する。
【実施例
【0082】
実施例1:向上した活性プロファイルを備えたララゾチドアナログの開発
ララゾチドの用量依存的反応のモデル
ララゾチド及びララゾチドアナログの活性プロファイルを評価するために、虚血性損傷ブタ空腸の経上皮電気抵抗(TEER)を測定するex vivoアッセイを採用した。図1は、ララゾチドが虚血性損傷腸の修復を「ベル型」用量依存的に誘導することを示す。ララゾチドの修復作用はタイトジャンクションの再構築によるものである。つまり、中央用量範囲において最大で重要な効果が発見されたが、低及び高用量レベルにおいては有意な効果は認められなかった。用量範囲の低及び高末端は、ムチン層内に含まれる刷子縁酵素アミノペプチダーゼの活性におそらく起因して、わずかな効果から無効果を示す。結果として、ララゾチドの作用は、高用量で加えた際、過剰濃度の阻害性フラグメントによって阻害されると考えられる。低用量で加えた際、ララゾチドの活性は、それ自体の過剰分解によって阻害された。この「ベル型」用量活性相関は、臨床現場におけるララゾチドの投与を困難なものとしている。アナログがより望ましい用量-活性プロファイルを示し得るかどうかを調査するためにララゾチドアナログを設計した。
【0083】
ララゾチドアナログの設計
ララゾチドの修復効果を維持しつつ、刷子縁酵素の分解のための認識を妨げその酵素による切断を防止するように、キラル修飾ララゾチドアナログであるd-ララゾチドアナログを設計した。ex vivo試験用に以下のアナログを設計した。
【表1】
【0084】
ララゾチドアナログのex vivo試験
最初に数種類のララゾチドアナログをex vivoモデルで試験し、虚血性損傷ブタ空腸組織の修復を測定した。
【0085】
片方の性別の6~8週齢のヨークシャー交雑ブタを個別に収容し、市販のペレット飼料で飼育した。実験的外科手術の前の12時間にわたりブタの飼料を控えた。キシラジン(1.5mg/kg IM)、ケタミン(11mg/kg IM)に続けて、100%O中に蒸発させたイソフルランのマスク導入を用いて、全身麻酔を導入した。その後、ブタに経口挿管してから、手術レベルの麻酔を維持するため、100%O中のイソフルランの導入を続けた。手術中に液体を導入するために、静脈内カテーテルを耳静脈内に留置した(乳酸リンゲル液、15ml・kg-1・h-1、IV)。腹部正中切開により遠位空腸にアプローチした。2-0 silkを用いて8~10cm間隔で腸を結紮することによって空腸の区分を定め、2-0 silkを用いて局所的な腸間膜血流を45分間結紮することによって部分的虚血に供した。
【0086】
ウッシングチャンバー試験
虚血の45分間後、ブタを安楽死させて腸の区分を採取した。非虚血性対照組織もまた、この時点で採取した。組織の採取後、組織を酸化(95%O、5%CO)リンゲル液(mmol/L:154 Na、6.3 K、137 Cl、及び24 HCO ;pH7.4)中に浸しながら、漿膜筋層を粘膜から剥離した。それに続き、先行研究(Moeser,A.J.;Nighot,P.K.;Ryan,K.A.;Wooten,J.G.;Blikslager,A.T.Prostaglandin-mediated inhibition of Na+/H+ exchanger isoform 2 stimulates recovery of barrier function in ischemia-injured intestine.Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol(2006),291,G885-94;及びJin,Y.;Blikslager,A.T.Myosin light chain kinase mediates intestinal barrier dysfunction via occludin endocytosis during anoxia/reoxygenation injury.Am J Physiol Cell Physiol(2016),311,C996-C1004)(その全体は参照により本明細書に組み込まれる)に記載のとおりに、1.1-cm開口部のウッシングチャンバーに粘膜を取り付けた。10mLのリンゲル液を用いて粘膜側と漿膜側の両方に組織を浸した。粘膜を浸した溶液が10mMのマンニトールを含有する一方、漿膜側は10mMのグルコースで浸透圧を平衡させた。浸液を酸化(95%O、5%CO)させてから、水冷リザーバ中で循環させた。カロメル電極に接続したリンゲル-寒天ブリッジを使用して自然電位差(PD)を測定してから、流体抵抗用に補正した電位固定を使用してAg-AgCl電極でPDを短絡させた。自然PD及び短絡電流(Isc)からTER(Ω・cm)を計算した。自然PDが-1.0~1.0mVの場合、組織を±100μAで5秒間電流固定し、PDを記録した。Isc及びPDを4時間の実験にわたり15分間隔で記録した。組織をウッシングチャンバー上に取り付けた後、全ての組織を30分間の期間にわたり順化させて安定したベースライン測定を設定し、その後、ララゾチドまたはララゾチドアナログの実験処理剤を頭頂チャンバーに加えた。経上皮抵抗(TER)を測定することによって組織を240分間モニターした。選択した時点でリンゲル液の試料を回収し、5%トリフルオロ酢酸(TFA)溶液(80%アセトニトリル(ACN):20%DI水中)で急冷した。急冷試料を13000×g、5分間の遠心分離にかけてから、得られた上清を今後のMS解析用に-80℃で保存した。
【0087】
図2は、アナログ#1、2、及び3の結果を示すが、それらは虚血性損傷組織の修復の有意な誘導は示さなかった。
【0088】
アナログ#5及び6の修復効果についても更に、虚血性損傷ブタ空腸組織の修復のex vivo試験で比較した。図3に示すとおり、アナログ#6(全D-アミノ酸ララゾチドアナログ)は、ValをD-アミノ酸に変えたアナログ#5と比較して顕著な修復効果を示した。アナログ#5及び6については更に、ペプチド安定性の比較を行い、ブタ虚血性空腸組織へのそれぞれ1μmの添加後T0、30、及び120分間における、アナログ#5(D-Val)、アナログ#6(全D)、及びララゾチドの濃度を測定した。以下の表2に示すとおり、全Dララゾチド(アナログ#6)は、ララゾチド及びアナログ#5と比較して刷子縁酵素分解に対する有意な耐性を示した。
【表2】
【0089】
最初のララゾチドアナログ試験の結果により、いくつかの知見がもたらされた。第1に、ララゾチドのN末端を延長しても、空腸刷子縁酵素による分解に対する耐性は生じないということが示された。ララゾチドの全て(非グリシン)のアミノ酸のキラル構造をD-アミノ酸に変えた場合、この「全Dアミノ酸」ペプチドは、(1)上皮刷子縁酵素分解に対する有意な耐性効果、及び(2)顕著なタイトジャンクション修復効果を示した。
【0090】
実施例2:全Dアミノ酸ララゾチドアナログはララゾチドと比較してより効果的である
分解プロファイル、修復効果、及び用量反応プロファイルについて、全Dアミノ酸ララゾチドアナログ(アナログ#6)をララゾチドと比較するために、一連の実験を実施した。ララゾチド対アナログ#6における経時的な分解プロファイル間の差異を評価する実験について、図4は、アナログ#6が、ララゾチドと比較して分解に対する耐性を有意により示していることを示す。それはつまり、アナログ#6が、ララゾチドと比較して、空腸上皮刷子縁酵素によって有意により遅く分解されているということである。
【0091】
アナログ#6が虚血性損傷腸の修復を誘導可能かどうかを評価するex vivo試験を実施したが、図5は、全D-アミノ酸ララゾチドアナログが、240分間の修復期間にわたり、実質的にララゾチドと同じ程度の修復を誘導していることを示す。具体的には、ララゾチドとアナログ#6の両方を1μM濃度で虚血性損傷腸組織に添加してから、240分間の修復期間にわたる経上皮/経内皮電気抵抗を測定した。活性剤を添加していない非虚血性組織対照についても同様に測定を実施した。驚くべきことに、全D-アミノ酸ララゾチドアナログは、虚血性損傷腸の修復誘導に関してララゾチドと同じくらい効果的である。Lアミノ酸をDアミノ酸で置換したペプチド薬物は、受容体結合部位に対する親和性の喪失により、力価を喪失し得るということが予想されたが、d-ララゾチドはこの挙動を示さなかった。
【0092】
アナログ#6及びララゾチドの活性プロファイルを比較するために、用量反応試験を実施した。具体的には、図6は、それぞれ0.01μM、0.1μM、1μM、及び10μMの濃度でアナログ#6を虚血性損傷腸組織に添加した場合の、経上皮/経内皮電気抵抗を測定した実験を示す。1μMの濃度で添加したララゾチドを対照として使用した。活性剤を何ら添加されていない非虚血性組織についてもまた、対照として使用した。実験の結果は、アナログ#6が損傷腸の修復をララゾチドとは異なり用量反応的に誘導し、ララゾチドの独特なベル型用量反応を示さなかったことを示す。図6に示すとおり、0.1μMのアナログ#6は、より高濃度で観測されたものと類似した活性で、TERの良好な回復を誘導した。
【0093】
実施例3:全Dアミノ酸ララゾチドアナログ誘導性修復は過剰なD-ララゾチドフラグメントによって阻害されない
例えば、ララゾチド作用などについて、アナログ#6活性が過剰なアナログ#6フラグメントによって阻害され得るかどうかを確認するために、いくつかの実験を実施した。
【0094】
ララゾチド活性を阻害する既知のララゾチドフラグメントは、Gly-Val-Leu-Val-Gln-Pro-Gly(フラグメント1)及びVal-Leu-Val-Gln-Pro-Gly(フラグメント2)である。例示目的のため、図7は、ララゾチドを虚血性損傷腸組織に単独で添加した際、または、フラグメントの添加直後(例えば、約30分後)にララゾチドを虚血性損傷腸組織に添加した際の、ララゾチドフラグメント(10倍過剰)の阻害効果を示す(1μMララゾチド、10μMフラグメント#1、10μMフラグメント#2、10μMフラグメント#1+1μMララゾチド、及び10μMフラグメント#2+1μMララゾチド)。活性剤を添加されていない非虚血性腸組織及び虚血性腸組織を対照として使用した。240分間の修復期間にわたる経上皮/経内皮電気抵抗を測定した。
【0095】
次に、アナログ#6の活性に対するd-ララゾチドフラグメントの効果を評価するために、実験を実施した。具体的には、d-ララゾチドフラグメントGly-(d)Val-(d)Leu-(d)Val-(d)Gln-(d)Pro-Gly(A6F1、アナログ#6のフラグメント#1)及び(d)Val-(d)Leu-(d)Val-(d)Gln-(d)Pro-Gly(A6F2、アナログ#6のフラグメント#2)を、全Dアミノ酸ララゾチドアナログ(アナログ#6)の直前(30分前)に添加した。図8は、以下、0.1μMアナログ#6、1μMアナログ#6、10μMA6F1、10μMA6F1+0.1μMアナログ#6のとおり、フラグメントA6F1と共に、またフラグメントA6F1なしで添加された全Dアミノ酸ララゾチドアナログ、及び非虚血性組織対照の結果を示す。結果は、100倍過剰のA6F1が、全Dアミノ酸ララゾチドアナログ(アナログ#6)の作用にそれほど有意に影響を及ぼしていないと考えられることを示す。図9は、以下、0.1μMアナログ#6、1μMアナログ#6、10μMA6F1、10μMA6F2+0.1μMアナログ#6のとおり、フラグメントA6F2と共に、またフラグメントA6F2なしで添加された全Dアミノ酸ララゾチドアナログ、及び非虚血性組織対照の結果を示す。結果は、全Dアミノ酸ララゾチドアナログ(アナログ#6)の作用が、100倍過剰濃度のA6F2によって有意に阻害されているとは考えられないことを示す。
【0096】
図10は、A6F1フラグメント及びA6F2フラグメントのそれぞれをアナログ#6と組み合わせて添加した図8及び図9を組み合わせた結果を示す。結果は、100倍過剰の全D-アミノ酸ララゾチドアナログフラグメントがアナログ#6の活性に対する競合阻害性傾向をそれほど有意に示していないことを示す。
【0097】
総合的に言えば、結果は、全D-アミノ酸ララゾチドフラグメントが、ララゾチド分解フラグメントとは対照的に競合阻害をそれほど示していないことを示す。更に、全D-アミノ酸ララゾチドアナログは損傷上皮におけるタイトジャンクション修復を促進させ、その安定性はララゾチドと比較してより高く、阻害性フラグメントの抑制の結果としての長期間にわたる活性の潜在能を有する。
【0098】
実施例4:全D-アミノ酸ララゾチドアナログは肺線維症モデルにおいて修復を誘導する
ブレオマイシン(BLM)誘発性肺線維症モデルの肺線維症に対するララゾチド及び全d-アミノ酸ララゾチドの効果を評価するために、実験を実施した。
【0099】
実験は、3つの試験群、(1)溶媒群を意味し、0日目から20日目まで1日1回10mL/kgの容量で溶媒(純水)を経口投与された12匹のBLM誘発性肺線維症モデルマウスで構成される群1、(2)ララゾチド群を意味し、0日目から20日目まで1日1回10mL/kgの容量で1mg/kgの用量でララゾチドを補足した溶媒を経口投与された12匹のBLM誘発性肺線維症モデルマウスで構成される群2、及び、全d-ララゾチド群を意味し、0日目から20日目まで1日1回10mL/kgの容量で1mg/kgの用量で全d-ララゾチドを補足した溶媒を経口投与された12匹のBLM誘発性肺線維症モデルマウスで構成される群3、で構成された。
【0100】
生存能、臨床徴候、及び行動について動物を毎日モニターした。体重を毎日記録し、毒性、瀕死、及び死の臨床徴候についてマウスを観察した。図11は、溶媒、ララゾチド、または全d-ララゾチドをマウスに投与した際の、試験期間にわたるBLM投与後の日数における体重の変化を示す。図12は試験期間にわたる生存率を示す。
【0101】
21日目に動物を屠殺(図13は、屠殺日におけるマウスの体重を示す)し、肺試料を採取した。具体的には、固定液の漏れを避けるために左気管支及び下大静脈葉気管支を結紮した。図14は、屠殺日におけるマウスの左肺重量を示し、図15は、屠殺日におけるマウスの下大静脈葉重量を示す。留置針を気管へと挿入してから、シリンジの注入経路に接続させた。次に、シリンジに10%中性緩衝ホルマリンを充填し、20cmの高さに維持した。その後、上葉(A)、中葉(B)、及び下葉(C)に10%中性緩衝ホルマリンを注入し、膨張後に結紮した。3つの固定葉(組織構造解析用)、非固定左肺(E)(生化学用)、及び非固定下大静脈葉(D)を採取した。2つの非固定葉を冷却生理食塩水で洗浄し、湿潤重量を測定した。3つの固定葉を10%中性緩衝ホルマリン中で24時間固定した。固定後、これらの標本をマッソントリクローム染色用のパラフィン包埋に進めた。
【0102】
肺ヒドロキシプロリン含有量を定量するために、以下のとおり、酸加水分解法で凍結左肺試料を処理した。肺試料を300μLの6N HClで、121℃、20分間酸加水分解してから、10mg/mLの活性炭を含有する300μLの4N NaOHで中和した。次に、ACバッファー(2.2M 酢酸/0.48M クエン酸、300μL)を試料に添加してから、遠心分離にかけ、上清を回収した。16、8、4、2、1、及び0.5μg/mLのトランス-4-ヒドロキシ-L-プロリン(Sigma-Aldrich Co.LLC.,USA Code:54409)を用いてヒドロキシプロリンの標準曲線を構築した。調製した試料及び標準液(それぞれ400μL)を400μLのクロラミンT溶液(NACALAI TESQUE,INC.,Japan,Code:08005-52)と混合してから、室温で25分間培養した。その後、試料をエールリッヒ溶液(400μL)と混合してから、65℃で20分間加熱して色を発現させた。試料を氷上で冷却してから遠心分離にかけて沈殿物を除去した後、560nmにおけるそれぞれの上清の吸光度を測定した。図16に示すように、ヒドロキシプロリンの濃度をヒドロキシプロリン標準曲線から計算した。肺ヒドロキシプロリン含有量は左肺あたりのμgで表される。
【0103】
試料の組織構造解析についても更に行った。10%中性緩衝ホルマリン中で前固定した右肺組織をパラフィン包埋し、4μmの切片を作製した。マッソントリクローム染色用に、切片を脱パラフィン及び再水和してから、ブアン液で15分間再固定した。ワイゲルト鉄ヘマトキシリン希釈標準溶液(Sigma-Aldrich)、ビーブリッヒスカーレット-酸性フクシン溶液(SigmaAldrich)、リンタングステン酸/リンモリブデン酸溶液、アニリン青色溶液、及び1%酢酸溶液(Sigma-Aldrich)で切片を染色した。
【0104】
肺線維症領域の定量解析用に、100倍倍率のデジタルカメラ(DFC295;Leica,Germany)を使用して、マッソントリクローム染色切片の明視野画像を無作為にキャプチャし、20視野/マウスの胸膜下領域を、以下に示す肺線維症を等級分けするための基準(Ashcroft,T.,et al.,J Clin Pathol,1988;41:467-70)に従って評価した。
【表3】
【0105】
図17は、溶媒、ララゾチド、及び全d-ララゾチドをそれぞれ投与されたマウスの、上記の染色処理に供された後の右肺組織の切片を示す。図18は、アッシュクロフト評価及び等級分け基準に従った染色右肺切片の等級分け結果を示す。全d-ララゾチド右肺試料は、溶媒試料またはララゾチド試料のいずれかと比較して線維形成がより少ない。
【0106】
等価物
本発明について、その特定の実施形態と関連させて説明してきたが、更なる修正を行うことが可能であり、本出願の範囲が、一般的に、本発明の原理に従った本発明の全ての変化形態、使用、または改変に及び、本発明が属する技術分野内における周知または慣例的な実施の範囲内にある本開示からの逸脱を含み、上に記載の本質的な特徴に適用可能であり、添付の特許請求の範囲の範囲に従うことを意図するものと理解されたい。
【0107】
本明細書に具体的に記載の特定の実施形態に対する多数の等価物について、当業者は理解する、または、通常の実験を行うだけで確認することが可能であろう。このような等価物は、以下の特許請求の範囲の範囲に包含されることを意味している。
【0108】
参照による組み込み
本明細書で参照した全ての特許及び刊行物の全体は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
2023521813000001.app
【国際調査報告】