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特表2023-521827病原体感染症を予防又は早期治療するためのリポソーム組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】病原体感染症を予防又は早期治療するためのリポソーム組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/18 20170101AFI20230518BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 31/708 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230518BHJP
   A61K 31/7076 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A61K47/18
A61K45/00
A61P31/12
A61K31/713
A61K31/708
A61P3/10
A61P11/00
A61P11/06
A61P37/02
A61K9/127
A61K47/14
A61K31/7076
A61P31/14
A61P31/16
A61P31/04
A61P31/04 171
A61P31/12 171
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562302
(86)(22)【出願日】2021-04-15
(85)【翻訳文提出日】2022-11-09
(86)【国際出願番号】 EP2021059807
(87)【国際公開番号】W WO2021209562
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】20169618.4
(32)【優先日】2020-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20201268.8
(32)【優先日】2020-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】507006422
【氏名又は名称】スタテンス セールム インスティトゥート
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】フォルマン,フランク
(72)【発明者】
【氏名】アンデルセン,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ディートリッヒ,ジェス
(72)【発明者】
【氏名】クリステンセン,デニス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA93
4C076AA95
4C076BB25
4C076BB27
4C076BB36
4C076CC07
4C076CC15
4C076CC21
4C076CC35
4C076DD46
4C076DD48
4C076FF68
4C084AA17
4C084MA24
4C084MA56
4C084MA59
4C084NA05
4C084NA10
4C084NA13
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC351
4C084ZC352
4C084ZC611
4C084ZC612
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA24
4C086MA56
4C086MA59
4C086NA05
4C086NA10
4C086NA13
4C086ZA59
4C086ZB07
4C086ZB33
4C086ZC35
(57)【要約】
本発明は、薬物として使用するためのリポソーム組成物に関する。特に、本発明は、病原体感染症の予防又は初期治療に使用するためのリポソーム組成物に関する。より具体的には、このリポソーム組成物は、好ましくは鼻腔又は肺内投与による、気道の病原体感染症の予防又は初期治療に用いられる。
【選択図】なし



【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における薬物として使用するためのカチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)及び少なくとも1つの免疫調節薬を含むリポソーム組成物。
【請求項2】
対象における気道の病原体感染症の予防又は治療に使用するためのカチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)及び少なくとも1つの免疫調節薬を含むリポソーム組成物。
【請求項3】
前記リポソーム組成物は、カチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)及びモノミコロイルグリセロール(MMG)を含む、請求項1又は2のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項4】
前記リポソーム組成物は、1~3mg/mL DDA及び0.1~1.0mg/mL MMGを含む又はから成る、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項5】
前記リポソーム組成物は、2.5mg/mL DDA及び0.5mg/mL MMGを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項6】
前記リポソーム組成物は、カチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)、モノミコロイルグリセロール(MMG)及び少なくとも1つのさらなる免疫調節薬を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項7】
前記免疫調節薬は、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリ(I:C))、好ましくは合成二本鎖ポリ(I:C)RNA類似体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項8】
0.05~1.0mg/mLポリ(I:C)、好ましくは0.5mg/mLポリ(I:C)などの、0.1~0.5mg/mLポリ(I:C)をさらに含む又はから成る、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項9】
0.125mg/mLポリ(I:C)を含む請求項1~8のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項10】
前記リポソーム組成物は、カチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)、モノミコロイルグリセロール(MMG)、ポリ(I:C)及び少なくとも1つのさらなる免疫調節薬を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項11】
前記免疫調節薬は、cGAMP、cAMP、c-di-AMP、cGMP及びc-di-GMPなどのSTING作動薬、ザイモサンなどのTLR2作動薬、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリ(I:C))のような二本鎖リボ核酸(dsRNAs)などのTLR3作動薬、MPL-AなどのTLR4作動薬、フラジェリンなどのTLR5作動薬、レシキモド、イミキモド、ガーディキモドなど及び脂質付加類似体も含むTLR7/8作動薬、コードファクター(TDM)又はコードファクターの合成類似体TDBなどの、C型レクチン受容体、MDPなどのヌクレオチド結合オリゴマー化領域(NOD)受容体作動薬から成る群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項12】
前記リポソーム組成物は、好ましくは濃度0.05~0.2mg/mLの、特に好ましくは0.1mg/mlの免疫調節性c-di-GMPを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項13】
前記リポソーム組成物は、カチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)、モノミコロイルグリセロール(MMG)及びc-di-GMPを含む、請求項12に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項14】
前記リポソーム組成物は、カチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)、モノミコロイルグリセロール(MMG)、ポリ(I:C)及びc-di-GMPを含む、請求項12に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項15】
前記病原体感染症は、ウイルス感染症及び細菌感染症から選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項16】
前記病原体感染症は、上又は下気道などの、気道における感染症である、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項17】
前記病原体感染は、ピコルナウイルス、ライノウイルス、MERSコロナウイルスなどのコロナウイルス、SARS-CoV-2などのSARSコロナウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス、ヒト呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、及びメタニューモウイルスから成る群から選択されるウイルスによって起こる気道のウイルス感染症である、請求項1~16のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項18】
前記病原体感染症は、肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyrogenes)、インフルエンザ菌、カタル球菌及び結核菌、マイコバクテリウム・ボビス、マイコバクテリウム・アフリカヌム、M.canetti、及びM.microti、バークホルデリア菌種(Burkholderia Sp)などのマイコバクテリアから選択される群から選択される細菌によって起こる気道の細菌感染症である、請求項1~17のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項19】
前記免疫調節薬は、ウイルス複製を抑制するようシグナルを送ることができる免疫調節薬又は顆粒球、マクロファージ及びNK細胞などの病原体を除去する炎症誘発性細胞を活性化若しくはリクルートするようシグナルを送ることができる免疫調節薬から選択される、請求項1~18のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項20】
前記モノミコロイルグリセロール類似体(MMG)は、類似体3-ヒドロキシ-2-テトラデシル-オクタデカン酸-2,3-ジヒドロキシプロピルエステルである、請求項1~19のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項21】
前記DDAは、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミドである、請求項1~20のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項22】
前記リポソーム組成物は、抗原を含まない、請求項1~21のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項23】
前記リポソーム組成物は、少なくとも1つの追加のアジュバント又は免疫調節薬を含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項24】
前記リポソーム組成物は、全身投与、鼻腔投与及び/又は肺内投与によって投与される、請求項1~23のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項25】
前記リポソーム組成物は、全身投与及び鼻腔投与の両方によって投与される、請求項1~24のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項26】
前記リポソーム組成物は、気道の初期感染症を治療するために病原体への曝露後鼻腔投与及び/又は肺内投与により投与される、請求項1~25のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項27】
前記リポソーム組成物は、気道の感染症を防ぐために鼻腔及び/又は肺内投与により投与される、請求項1~26のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項28】
前記リポソーム組成物は、毎週2又は3回投与される、請求項1~27のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項29】
前記対象は、全ての年齢のヒト、他の霊長類(例えばカニクイザル、アカゲザルなど)、並びにウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ネコ及びイヌなどの商業的に関連する哺乳類を含む一般的な哺乳類、並びに鳥類から成る群から選択される、請求項1~28のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項30】
前記対象は、ヒトである、請求項1~29のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項31】
前記対象は、気道が免疫不全/免疫低下した個人である、請求項1~30のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項32】
前記対象は、慢性閉塞性肺疾患、喘息、嚢胞性線維症、肺癌及び糖尿病から選択される疾患を有する、請求項1~31のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項33】
前記対象は、喫煙の既往歴を有する又は現在喫煙者である、請求項1~32のいずれか一項に記載の使用するためのリポソーム組成物。
【請求項34】
請求項1~33のいずれか一項に記載のリポソーム組成物を含む鼻腔投与用の装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物として使用するためのリポソーム組成物に関する。
【0002】
特に、本発明は、病原体感染の予防又は早期治療に使用するためのリポソーム組成物に関する。より具体的には、リポソーム組成物は、好ましくは鼻腔又は肺内投与による、気道の病原体感染の予防又は早期治療に使用される。
【背景技術】
【0003】
自然免疫系は、新興病原体に遭遇してすぐに働くよう設計される。気道の自然免疫応答を強化することにより、気道病原体の感染に対する迅速な保護を達成することができる。これは、気道が免疫不全/免疫低下した個人に特に適切だろう。適応免疫応答とは異なり、自然免疫を活性化すると多くの病原体に対する広範な保護を提供し、病原体の突然変異変化によって損なわれないだろう。
【0004】
特に気道免疫が低下した高リスク群において、気道のこの免疫応答を強化することにより、命を救うことができる。
【0005】
1つの特定の例は、CoVid-19疾患の原因となるコロナウイルスSARS-CoV-2である。コロナウイルスは、自然免疫系を逃れる、及び自然免疫系を損ないさえするためにいくつかの方法を用い、感染してその後適応免疫の効果を低下させる。したがって、自然免疫による一次防御を強化することにより、この免疫回避を防ぐことは重大である。SARS-CoV-2は、SARS-CoV-1と大きな類似点を示す。SARS-CoV-1感染症を対象にした研究から、自然免疫の重要性が明確に示された。実際に、T及びB細胞が完全に欠如していてさえも、動物は感染症を制御することができた。この制御は、様々なサイトカイン及び特に1型インターフェロンを生成することができる、自然免疫の存在を必要とした2,3。これと一致して、他の研究から、自然免疫刺激のみが関与する予防及び曝露後戦略は、動物モデルにおいて感染を防ぐことができることが示された。ウイルス感染に対する生体防御の主要成分は、Toll様受容体-3(TLR-3)であり、Toll様受容体-3は、ウイルス由来のdsRNAにより活性化され、1型インターフェロン生成の引き金を引く。興味深いことに、マウスを気道からTLR3作動薬で処置すると、5種類の異なる株のインフルエンザでの気道感染によって起こる肺のウイルス力価を減少させた5,6。SARSコロナウイルスの毒性の高い株に適応するマウスに基づく、SARSのマウスモデルにおいて、TLR3作動薬の製剤は、印象的なレベルの抗ウイルス活性を示す。Ampligenと呼ばれるこの製剤は近年、静脈内投与のヒト臨床試験に入った11。ヒトでは、TLR3作動薬の第I/II相試験投与も、ライノウイルス及びインフルエンザウイルスの両方の気道感染から保護した。したがって、TLR3刺激は、抗ウイルス自然免疫をブーストするための非常に有望な戦略である。
【0006】
病原体からの気道保護の別の主要成分は、C型レクチン受容体Mincleであり、C型レクチン受容体Mincleは、例えばマイコバクテリア及び連鎖球菌からの自然免疫保護と関連している。発明者らはさらに、mincle作動薬及びTLR3の併用は、1型インターフェロン依存性CD8T細胞応答を誘導する能力を相乗的に上昇させることを示した。
【0007】
本発明を支持する全体仮説は、本発明によるリポソーム組成物での予防的な鼻腔内又は肺内治療は、粘膜免疫応答を含む、自然免疫系を活性化し、SARS-CoV-2感染症などの病原体感染症、並びに他の呼吸器病原体から短期的に保護することになるということである。この治療は流行中高リスクの集団に繰り返し行われ、罹患率に著しく影響し、例えばSARS-CoV-2などの伝搬を抑制することができる。さらに、この治療は、非特異的なので、病原体のいかなる突然変異によっても損なわれない。
【0008】
スタテンス セールム インスティトゥート(Statens Serum Institut)は、CAF(登録商標)(カチオン性アジュバント製剤)技術に基づく数種類のワクチンアジュバント/自然免疫活性化薬を開発しており、ワクチンアジュバント/自然免疫活性化薬の1つは現在ヒトで臨床試験されているCAF(登録商標)09bである。CAF(登録商標)09bは、ワクチン抗原に対するT及びB細胞媒介適応免疫応答を誘導する目的で筋肉内又は腹腔内のいずれかに投与されるアジュバントとして臨床試験されている(臨床試験は進行中である:NCT03412786;NCT03715985,NCT03926728)。
【0009】
CAF(登録商標)09bは、自然免疫調節薬MMG(自然免疫受容体、Mincleと結合する)及び1型インターフェロンを誘導するTLR3作動薬ポリI:Cを含有する。非経口アジュバントとしてCAF(登録商標)09bは強力な自然免疫活性化をもたらすが、重度の副作用は生じない
【0010】
CAF(登録商標)ファミリーの別の一員は、CAF(登録商標)04であり、CAF(登録商標)04はIFN-γの放出によりTh1活性化を誘導する。
【0011】
本発明は、気道自然免疫細胞を活性化して病原体による気道感染症から保護する目的で気道に投与される、CAF(登録商標)04又はCAF(登録商標)09bなどの、リポソーム組成物の投与に注目する。
【発明の概要】
【0012】
CAF(登録商標)04又はCAF(登録商標)09bなどの、リポソーム組成物での鼻腔内治療は、粘膜免疫応答を含む、自然免疫系を活性化し、呼吸器病原体の感染から短期的に保護する。この治療は流行中例えば高リスクの集団などに繰り返し行われ、罹患率及び病原体の伝搬に著しく影響することができる。
【0013】
したがって、本発明の目的は、対象における薬物として使用するためのカチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)及び少なくとも1つの免疫調節薬を含むリポソーム組成物に関する。
【0014】
本発明の別の態様は、対象における気道の病原体感染の予防又は治療に使用するためのカチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)及び少なくとも1つの免疫調節薬を含むリポソーム組成物に関する。
【0015】
このリポソーム組成物はまた、免疫調節薬、好ましくはポリ(I:C)及びより好ましくはcAMP、cGMP、c-di-AMP又はc-di-GMPなどのSTING作動薬も含んでよい。
【0016】
病原体感染症は、限定されないが、ピコルナウイルス、ライノウイルス、MERSコロナウイルスなどのコロナウイルス、SARS-CoV-2などのSARSコロナウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス、ヒト呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、及びメタニューモウイルスから選択されてよいウイルスによって起こる気道のウイルス感染症であってよい。
【0017】
本発明の別の実施形態において、病原体感染症は、限定されないが、肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyrogenes)、インフルエンザ菌、カタル球菌並びに結核菌、マイコバクテリウム・ボビス、マイコバクテリウム・アフリカヌム、M.canetti、M.microti、及びバークホルデリア菌種(Burkholderia Sp)などのマイコバクテリアから選択されてよい細菌によって起こる上気道の細菌感染症である。
【0018】
ウイルス及び細菌によって起こる呼吸器系の病原体感染症は、高齢及び弱い患者並びに限定されないが、喘息、嚢胞性線維症、又は慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器系の慢性若しくは先天性機能不全の患者において特に深刻であってよい。
【0019】
したがって、特に本発明から恩恵を被る対象は、健常者と比較して呼吸機能不全を引き起こす慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、嚢胞性線維症、又は別の状態を有してよい。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、本明細書に開示されるリポソーム組成物を含む鼻腔投与用の装置を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、リポソーム組成物、CAF(登録商標)09b(DDA、MMG及びポリ(I:C)を含む)での鼻腔内治療を示し、CAF(登録商標)09bは、自然免疫系を活性化し、呼吸器病原体による感染から短期的に保護する。この治療は流行中高リスクの集団に繰り返し行われ、罹患率及び病原体の伝搬を著しく低減することができる。
図2図2は、+/-CAF(登録商標)09b処置マウスの肺の自然免疫細胞の流入及びIFNα/βの分泌を示す。
図3図3は、+/-CAF(登録商標)09b処置マウスの肺の選択された炎症性及び1型インターフェロンマーカーの遺伝子発現レベルを示す。
図4図4は、処置無しのマウス又はCAF(登録商標)09bで2回若しくは4回のいずれかで処置したマウスの肺の選択された炎症性及び1型インターフェロンマーカーの遺伝子発現レベルを示す。
図5図5は、+/-CAF(登録商標)09b処置及びその後インフルエンザウイルスで感染したマウスの体重及び生存数の経時的な推移を示す。
図6図6は、図5のマウスの血中のIgG抗体の推移を示す。
図7図7は、+/-CAF(登録商標)04及びSTING作動薬の単独又は併用マウスの生存数、ウイルス量、及び体重の経時的な推移を示す。
図8図8は、+/-CAF(登録商標)09b及びSTING作動薬の単独又は併用マウスの生存数、ウイルス量、及び体重の経時的な推移を示す。
図9図9は、CAF(登録商標)04、CAF(登録商標)09b及びSTING作動薬の単独又は併用マウスの鼻のウイルス複製の推移を示す。
図10図10は、SARS-CoV-2に感染した、+/-CAF(登録商標)09B又は模擬のコントロールハムスターの体重の推移を示す。
【0022】
本発明を以下により詳細に記載する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
本発明をより詳細に論じる前に、以下の用語及び慣例をまず最初に定義する。
【0024】
対象
用語「対象」は、全ての年齢のヒト、他の霊長類(例えばカニクイザル、アカゲザルなど)、並びにウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ネコ及び/若しくはイヌなどの商業的に関連する哺乳類を含む一般的な哺乳類、並びに/又は鳥類を含む。好ましい対象は、ヒトである。
【0025】
用語「対象」はまた、集団の健常者、特に医療関係者などの、病原体に曝露し、感染に対する保護を必要とする健康な対象も含む。
【0026】
ウイルス及び細菌によって起こる呼吸器系の病原体感染症は、高齢及び弱い患者並びに喘息、嚢胞性線維症、又は慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器系の慢性若しくは先天性機能不全の患者において特に深刻であってよい。
【0027】
肺癌の患者も本発明によるリポソーム組成物を受けてよい。喫煙の既往歴を有する若しくはタバコ若しくは他の喫煙製品を継続使用しているのいずれか又は両方の喫煙者。
【0028】
上述の対象は、上気道感染症に脆弱なので、開示される組成物の投与は、潜在的に来たる感冒症状又は疾病を防ぐことがあり、したがって感冒症状又は疾病の根底にある疾病及び症状の増悪を防ぐことがある。
【0029】
投与
本発明の文脈において用語「投与」とは、送達系における、注射などの、全身投与により、局所投与、皮内投与、鼻腔(内)投与、舌下又は肺内投与によるのいずれかの様々な方法での投与を表す。
【0030】
本発明によるリポソーム組成物は典型的には、1日1回~毎週1回又は2回、~2週に1回、~毎月1回又は2回の範囲で鼻腔(内)投与により投与される。
【0031】
経鼻的に又は鼻腔内に投与される場合、用語「経鼻的に投与される」、「鼻腔投与」又は「鼻腔内投与」は、互換的に用いられ、リポソーム組成物の内容物が鼻の組織又は上気道へと直接吸収されるような、リポソーム組成物の対象の鼻の粘膜への送達を指す。
【0032】
本発明によるリポソーム組成物を肺内投与により投与することもできる。用語「肺の」とは、対象の鼻又は口を通してリポソーム組成物を体内に吸収される肺胞性組織に送達する投与を指す。肺内投与は、粉末などの、リポソーム組成物の直接吸入又は組成物を含有するエアロゾルの吸入であってよい。本明細書において想定される本発明によるリポソーム組成物をリポソーム組成物の一部が鼻粘膜に投与され、一部が肺胞性組織に投与される鼻腔及び肺内の共同投与により投与してよい。
【0033】
感染症
本発明の文脈における用語「感染症」とは、ウイルス又は細菌などの、病原体によって起こる上又は下気道などの気道の感染症を表す。
【0034】
ウイルス感染症は、ヒトコロナウイルス感染症又はインフルエンザウイルス感染症であってよい。他のウイルス感染症は、ピコルナウイルス(例えばライノウイルス)、ヒトパラインフルエンザウイルス、ヒト呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、又はメタニューモウイルスによって起こってよい。
【0035】
気道の細菌感染症は、肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyrogenes)、インフルエンザ菌、カタル球菌並びに結核菌、マイコバクテリウム・ボビス、マイコバクテリウム・アフリカヌム、M.canetti、M.microti、及びバークホルデリア菌種(Burkholderia Sp)などのマイコバクテリアから選択される群から選択される細菌によって起こってよい。
【0036】
病原体感染症、状態又は疾患の「予防」とは、統計学的標本において、治療された対象の感染症、状態若しくは疾患の発生率を未治療の対象と比較して減少させる、又は未治療の対象群と比較して感染症、状態若しくは疾患の1つ若しくは複数の症状の発生を遅延させる若しくは重症度を減少させるリポソーム組成物を指す。
【0037】
DDA
細胞性免疫応答を促進する特定の有効な種類のアジュバントは、カチオン性界面活性物質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)などの、第四級アンモニウム化合物のクラスである。DDAは、親水性の正に帯電したジメチルアンモニウム頭部基及び2個の長い疎水性アルキル鎖を含む合成両親媒性化合物である。水性環境において、DDA分子は自己組織化して天然リン脂質から作製されるリポソームと同様の小胞二重層を形成する。
【0038】
したがって、DDAは、親水性のカチオン性第四級アンモニウム頭部基、及び2個の疎水性飽和C18アルキル鎖から成る合成界面活性物質である。DDAの界面活性特性により、DDA分子は水性媒体に分散されたときに、リポソーム様構造へと自己組織化する。
【0039】
本発明によるリポソーム組成物は、各種塩としてのカチオン性脂質DDA、最も好ましくはジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド若しくはクロリド(DDA-B若しくはDDA-C)若しくはジメチルジオクタデシルアンモニウムの硫酸塩、リン酸塩若しくは酢酸塩(DDA-X)、又はジメチルジオクタデセニルアンモニウムブロミド若しくはクロリド(DODA-B若しくはDODA-C)若しくはジメチルジオクタデセニルアンモニウムの硫酸塩、リン酸塩若しくは酢酸塩(DODA-X)を含む。最も好ましくは、本発明によるリポソーム組成物は、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミドを含む。
【0040】
DDAのCAS番号は、3700-67-2である。
【0041】
しかしながら、本発明によるリポソーム組成物は、さらなるカチオン性脂質を含むことができる。
【0042】
MMG
マイコバクテリアの脂質モノミコロイルグリセロール(MMG)は、糖脂質であり、モノミコロイルグリセロール(MMG)は、リポソーム膜中への組み込みによりカチオン性界面活性物質DDAで形成されたリポソームを安定化する。
【0043】
カチオン性リポソームは、MMGなどの糖脂質及び任意の追加の糖脂質をリポソーム膜へと組み込むことにより安定化される。
【0044】
MMGなどの糖脂質は、糖脂質自身で免疫刺激特性を有し、第四級アンモニウム化合物(DDA)と共に免疫応答を増強するよう相乗的に作用することができる。
【0045】
MMG-1と称される、合成類似体は、エステル結合により結合された、親水性のグリセロール頭部基及び、2個の疎水性飽和C14/C15アルキル尾部を表す、脂質酸から成る。さらに、アルキル鎖の長さ(MMG-2;C16/C17,MMG-3;C10/C11,及びMMG-4;C6/C7)、又は頭部基の立体化学(MMG-5;2S)、及び脂質尾部(MMG-6)に関して異なる、一連のMMG類似体が存在する。
【0046】
MMGは好ましくは、合成的に製造された糖脂質、MMG-1である。
【0047】
好ましいMMG類似体の化学構造は、3-ヒドロキシ-2-テトラデシル-オクタデカン酸-2,3-ジヒドロキシプロピルエステル、好ましくは、この(2R)-2,3-ジヒドロキシプロピル-3-ヒドロキシ-2-テトラデシルオクタデカン酸のジアステレオマーである。
【0048】
ポリ(I:C)
本発明による用語「ポリ(I:C)」又は「ポリI:C」は、投与時には水素結合又は共有結合により結合されない一本鎖ポリイノシン酸(ポリI)及び一本鎖ポリシチジル酸(ポリC)並びに二本鎖又は複合型ポリI/ポリCを含む。湿性の粘膜の面に対する投与時、複合型でないポリI及びポリCは、複合型ポリ(I:C)を形成することができ、したがって自然免疫系を刺激し、ウイルス感染に対する保護を提供することができる。
【0049】
好ましくは、ポリ(I:C)は、ポリシチジル酸の鎖にアニールされたポリイノシン酸の鎖又はポリシチジル酸の鎖にアニールされたポリイノシン酸の鎖の類似体から成る合成的に製造された二本鎖RNA類似体である。ポリ(A:U)(ポリアデニル-ポリウリジル酸)を代わりの類似体として用いることもある。
【0050】
ポリ(I:C)の分子量は、ポリマー長に依存する。ポリ(I:C)カリウム塩は、10~750kDa、好ましくは100~750kDaの範囲の分子量仕様を有する。ポリI:CのCAS番号は、24939-03-5である。
【0051】
環状ジヌクレオチド
本発明による用語「環状ジヌクレオチド」は、強力な免疫刺激分子又は免疫調節薬として働くc-di-GMP、c-di-AMP、3’,3’-環状-GMP-AMP(3’,3’cGAMP)及び2’,3’-環状-GMP-AMP(2’,3’cGAMP)を含む一群の化合物を記述する。リボース及びリン酸により結合された2個のグアニン塩基を含有する環として構造化される、セカンドメッセンジャーc-di-GMPは、「インターフェロン遺伝子の刺激物質(stimulator of interferon genes)」(STING)を活性化すること、すなわちSTING作動薬であることが示され、IFN-I分泌を増加させる。
【0052】
追加のアジュバント
本発明の文脈において、用語「アジュバント」とは、免疫応答をさらに増強する化合物又は混合物を指す。アジュバントは、抗原をゆっくり放出する組織デポとして及び非特異的に免疫応答を増強するリンパ系活性化物質、すなわち免疫調節薬として役立つことができる。
【0053】
免疫調節薬によって、免疫応答の効果を強める又は免疫応答を取得するために相乗的に働く任意の成分が表される。この増強は、非特異的に又は限定されないが、C型レクチン受容体(CLR)、RIG様受容体(RLR)、ヌクレオチド結合オリゴマー化領域(NOD)タンパク質及びtoll様受容体(TLR)を含むパターン認識受容体(PRR)により特異的になされることもある。
【0054】
リポソームの免疫原性は、病原体上の病原体関連分子パターン(PAMP)として知られる保存された分子構造を認識するいわゆるパターン認識受容体(PRR)に対する免疫刺激リガンド(別名免疫調節薬)を封入することにより増強されることができる。PAMPが自然免疫応答、及び自然免疫応答によるその後の適応応答を調節する能力は、気道の病原体感染を予防又は治療する使用のために有利に活用されることができる。
【0055】
いわゆるパターン認識受容体(PRR)としては、C型レクチン受容体(CLR)、RIG様受容体(RLR)、ヌクレオチド結合オリゴマー化領域(NOD)タンパク質及びますます増加するtoll様受容体(TLR)ファミリーが挙げられる。PAMPは病原体の間で異なり、コードファクター(TDM)、フラジェリン、リポ多糖(LPS)、ペプチドグリカン、及び二本鎖リボ核酸(dsRNAs)などのいくつかの核酸変異体を含む。PAMPSによって引き起こされる多くの免疫調節薬が何年にもわたり開発されてきた。これらには、トレハロースジベヘン酸エステル(trehalose dibehenate)(TDB)、合成モノミコリルグリセロール(MMG)、モノホスホリルリピドA(MPL)、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリ(I:C))が含まれる。リポソームとこれらのPAMP/免疫調節薬との併用は、初期の病原体感染症を予防又は治療する方法を開発するための魅力的な手法であり、この場合PAMP/免疫調節薬は抗原提示細胞を刺激し、これにより免疫応答を増強する。
【0056】
追加のアジュバントとしては、限定されないが、Quil A、QS21、水酸化アルミニウム、フロイント不完全アジュバント、モノホスホリルリピドA(MPL)、トレハロースジミコレート(TDM)、ムラミルジペプチド(MDP)、「IC31」、サポニン、リゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド類、油若しくは炭化水素乳濁液などの界面活性物質、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール又はこれらのアジュバントの組み合わせが挙げられる。好ましくは、このアジュバントは、薬学的に許容される。
【0057】
リポソーム
用語「リポソーム」又は「リポソーム組成物」は、水性区画を封入する脂質二重層から成る小胞の広義の定義である。膜を形成する脂質は、両親媒性であり、したがって極性及び無極性領域を含有する。極性領域は典型的には、リン酸基、酸性基、及び/又は第三級若しくは第四級アンモニウム塩から成り、脂質頭部基の組成に応じて、生理的なpHで正味の負(アニオン性)、中性又は正(カチオン性)の表面電荷のいずれかを有することができる。pHは好ましくは、トリス又はヒスチジン緩衝液中pH5.0~8.0に調整された、最も好ましくはpH6.5~7.5に調整された分散系などにより生理的なpHに調整される。無極性領域は典型的には、少なくとも8個の炭素を有する1つ若しくは複数の脂肪酸鎖及び/又はコレステロールから成る。小胞二重層膜を構成する脂質は、無極性炭化水素「尾部」が二重層の中心に配向する一方、極性「頭部」がそれぞれ内及び外側の水相に配向するよう組織化される。
【0058】
したがって、「リポソーム」又は「リポソームの」は、水性コアを囲む1つ又は複数の脂質二重層から構成される閉じた小胞構造として定義される。各脂質二重層は、2個の脂質単層から成り、単層の各々は疎水性「尾部」領域及び親水性極性「頭部」領域を有する。脂質二重層において、脂質単層の疎水性「尾部」は、二重層の内側に配向する一方、親水性「頭部」は、二重層の外側に配向する。リポソームは、サイズ、脂質組成、表面電荷、流動性及び二重層膜の数などの多様な物理化学的特性を有することができる。二重層膜の数に従って、リポソームを単一の脂質二重層を含む単一ラメラ小胞(UV)若しくは小さな単一ラメラ小胞(SUV)又は各々の二重層が隣の二重層と水の層によって分離される2つ以上の同心円状の二重層を含む多重ラメラ小胞(MLV)と分類することができる。親油性化合物とは反対に水溶性化合物をリポソームの水相/コア内部に取り込み、親油性化合物を脂質二重層膜のコア/中心に捕捉する。
【0059】
用語「カチオン性脂質」又は「カチオン性リポソーム」は、疎水性及び極性頭部基部分、生理学的に許容されるpHでの正味の正電荷を有する、天然及び合成の脂質及び脂質類似体を含む、任意の両親媒性脂質を含むよう意図され、この任意の両親媒性脂質は、水中で二重層小胞又はミセルを形成することができる。
【0060】
追加のアジュバントとしての他のカチオン性脂質
追加のアジュバントとして本発明によるリポソーム組成物中に組み込まれてよい追加のカチオン性脂質化合物は、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン、1,2-ジパルミトイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン、1,2-ジステアロイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン、ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)、N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ(dioleyloxy))プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA)、octadecenoyloxy(エチル-2-heptadecenyl-3-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウム(octadecenoyloxy(ethyl-2-heptadecenyl-3-hydroxyethyl) imidazolinium)(DOTIM)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DOEPC)及び3-テトラデシルアミノ-tert-ブチル-N-テトラデシルプロピオン-アミジン(ジC14-アミジン)である。
【0061】
脂肪酸鎖とは、分岐又は分岐していない飽和又は不飽和の炭化水素鎖のアルキル又はアシル基を指す。
【0062】
用語薬学的に許容されるとは、活性成分の有効性又は生物活性を妨害せず、宿主又は患者に対して有毒でない物質を指す。
【0063】
カチオン性リポソームは、MMGなどの糖脂質及び任意選択的に追加の糖脂質をリポソーム膜に取り込むことにより安定化される。取り込むことにより、分子の疎水性領域及び親水性領域を膜、ミセル、リポソーム又は二重層の対応する疎水性及び親水性領域又は部分に埋め込む方法を意味する。糖脂質をリポソーム中に取り込む方法は、「薄膜法」、「逆相蒸発法(the reverse-phase evaporation method)」、「有機溶媒注入法(organic solution injection method)」、「ダブルエマルション法」、「高せん断力混合法」、「マイクロ流体工学法」及び糖脂質をリポソーム膜に取り込む同一の効果を有する将来の、現時点では未知の方法であってよい。現在公知の方法は、発明の章の背景に言及される。
【0064】
糖脂質は、長鎖脂肪酸、アシルグリセロール、スフィンゴイド、セラミド又はプレニルリン酸エステルなどの疎水性部分とグリコシド結合によって結合された1つ又は複数の単糖又はグリセロール残基を含有する任意の化合物として定義される。本発明の追加の糖脂質は、合成、植物又は微生物起源、例えばマイコバクテリア由来であってよい。
【0065】
MMGに加えて追加のアジュバントとして本発明において用いられてよい、糖脂質の1つのクラスは、1個、2個又は3個もの脂肪酸とエステル化する1個又は2個の糖残基からなる、アシル化(又はアルキル化)グリコシドである。この脂肪酸は、例えばミリスチン酸C14:0、ペンタデカン酸C:15、パルミチン酸C16:0、ヘプタデカン酸C17:0、steric acid C18:0、ノナデカン酸C:19、アラキジン酸C:20、ヘンエイコサン酸C21:0、ベヘン酸C:22などの飽和脂肪酸及び例えばオレイン酸C18:1n-9、リノール酸18:2n-6などの不飽和脂肪酸を含む直鎖又はミコール酸、メトキシミコール酸、ケトミコール酸、エポキシミコール酸及びコリノミコール酸などの複雑な分岐脂肪酸のいずれかであってよい。糖残基は、グルコース及びフルクトースなどの単純な単糖類、又は例えばグルコース及びフルクトースから成るスクロース、並びに2個のグルコースユニットがグリコシド結合により連結される、トレハロースなどの、2個の共有結合により連結された単糖を含む二糖類のいずれかであってよい。本発明において用いられる糖脂質の種類は、マイコバクテリウムから分離される細胞壁糖脂質であり、この細胞壁糖脂質は、1個、2個、又は3個の通常のパルミチン酸C16:0、オレイン酸C18:1n-9、リノール酸18:2n-6又は複雑なヒドロキシ、分岐鎖脂肪酸、すなわち60~90個の炭素原子長に及ぶミコール酸残基のいずれかとエステル化した二糖から成る。本発明において用いられる他の細菌性糖脂質は、例えばコリネバクテリア(Corynobacterium)ノカルジアから単離されたコリノミコール(22~36個の炭素)又はnocardomycolic(44~60個の炭素)酸などの短い脂肪酸を有する。好ましいマイコバクテリアの糖脂質は、コードファクターと称されることが多いα,α’-トレハロース6,6’-ジミコール酸(TDM)であり、α,α’-トレハロース6,6’-ジミコール酸(TDM)は、マイコバクテリアの細胞壁の最も重要な免疫調節成分の1つである。特定の好ましい実施形態において、この糖脂質は、例えばTDMの純粋な合成類似体である、α,α’-トレハロース6,6’-ジベヘン酸(TDB)などの、2個のドコサン脂肪酸(ベヘン酸)とエステル化した二糖α,α’-トレハロースから成る。別の好ましいマイコバクテリアの糖脂質は言うまでもなく、モノミコリルグリセロールであるか、又は好ましくは合成類似体3-ヒドロキシ-2-テトラデシル-オクタデカン酸-2,3-ジヒドロキシプロピルエステル若しくは短い若しくは長いアシル骨格を有する密接に関連する化合物である。
【0066】
本発明において用いられてよい他の種類の糖脂質としては、限定されないが、
グリセロールに基づく糖脂質:これらの脂質は、グリセロールのヒドロキシル基にグリコシド結合した単又はオリゴ糖部分から成り、グリセロールは1個又は2個の脂肪酸でアシル化(又はアルキル化)されてよい。さらに、これらの糖脂質は、無電荷であってよく、したがって、中性グリセロ糖脂質と呼ばれることも多く、又は硫酸又はリン酸基を含有してよい。本発明によるこの種類の好ましい糖脂質は、モノミコリルグリセロール(MMG)(Andersenら 2009a,Andersenら 2009b)又は3-ヒドロキシ-2-テトラデシル-オクタデカン酸-2,3-ジヒドロキシプロピルエステルなどのモノミコリルグリセロールの合成類似体若しくは短い若しくは長いアシル骨格を有する密接に関連する化合物(Andersenら2009b,Nordlyら 2011)である。
【0067】
セラミドに基づく追加の糖脂質:スフィンゴ糖脂質は糖部分の構造によれば、未置換のグリコシル基を含有する中性スフィンゴ糖脂質及び酸性カルボキシル、硫酸、又はリン酸基と共にグリコシル基を含有する酸性スフィンゴ糖脂質に分けられる。
【0068】
リポ多糖(LPS)を追加のアジュバントとして用いてよい。これらの複雑な化合物は、グラム陰性菌の細胞壁に見出される内毒素抗原である(S型リポ多糖)。脂質部(リピドA)は、グリコシド結合により多糖と複合体を形成する。リピドAは、グルコサミンIの1位及びグルコサミンIIの4位に2個のリン酸エステル基を有するβ-1,6-グルコサミニル-グルコサミン骨格から成る。グルコサミンIIの3位は、長鎖多糖に対して酸に不安定なグリコシド結合を形成する。他の基は、ヒドロキシミリスチン酸などのヒドロキシル化された脂肪酸(2個のエステル結合及び2個のアミド結合)並びに通常の脂肪酸(ラウリン酸)で置換される(大腸菌類において)。本発明の特定の好ましいリポ多糖は、無毒で優れたアジュバント特性を有するリピドAのモノホスホリル誘導体(MPL)である。
【0069】
ステロールの配糖体を追加のアジュバントとして用いてよい。このファミリーは、1個のステロール分子のヒドロキシル基に連結した1個の糖ユニットから成る。ステロール部分は、様々なステロール:コレステロール、カンプエステロール、スチグマステロール、シトステロール、ブラシカステロール及びジヒドロシトステロールから成ると判断された。糖部分は、グルコース、キシロース及びアラビノースでさえから成る。
【0070】
脂肪酸又はアルコールの配糖体も追加のアジュバントとして用いてよい。多数の単純な糖脂質が細菌、酵母中に及び下等動物中(海綿)に見られる。これらの化合物は、脂肪アルコール若しくはヒドロキシ脂肪酸の1個のヒドロキシル基又は脂肪酸の1個のカルボキシル基(エステル結合)と結合したグリコシル部分(1つ又はいくつかのユニット)から成る。これらの化合物は、興味深い物理的又は生物学的特性を持つことが多い。これらの化合物のなかには化合物の洗浄性のために産業的に製造されるものがある(アルキルグリコシド)。
【0071】
さらに、例えばオリゴヌクレオチド、ペプチド、又はタンパク質抗原などの高分子を、本発明による組成物の単一ラメラ及び多重ラメラリポソームの両方の水相内に取り込むことができる。
【0072】
物質の複合体形成としては、限定されないが、例えば高分子の同一又は反対の電荷のリポソームに対する静電相互作用、疎水性誘引などの非共有結合が挙げられる。
【0073】
高分子を追加のアジュバントとして用いてよい。高分子とは、互いに結合した多くの小さな構造ユニットから成る、タンパク質などの、非常に大きな分子として、また非常に大きいDNA及びRNAなどの分子も高分子として定義され、複合体は高分子として定義される。この用語は、4個の従来の生体高分子(核酸、タンパク質、糖類、及び脂質)、並びに分子量が大きい非ポリマー性分子に適用される。本発明における高分子の使用は、限定されないが、オリゴヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、糖類及び脂質が挙げられる。
【0074】
本発明は、後に他の高分子と複合体を形成する可能性のある水和前及び水和後に、DDAなどのカチオン性界面活性剤及びMMGなどの糖脂質などの、リポソーム液体成分の均質混合を開示する。液体成分の他の高分子(例えばオリゴヌクレオチドなど)との混合は、水和前になされることもでき、高せん断力混合法に複合体形成をさせることもできる。カチオン性脂質間、特に負に帯電した高分子(例えばオリゴヌクレオチド)間の複合体は概して熱力学的に不安定で、経時的に大きな集合体を形成し、広いサイズ分布、及び構造的不均一性を生じる。高電荷の高分子電解質が逆電荷のリポソームへと結合すると、それ自体膜の不安定化を促進する。電荷中和及び外表面積の同時縮小は、二重層の垂直方向における側圧の勾配につながる。これにより曲げモーメントが生じ、リポソームの不安定化の一因となる。
【0075】
本発明の態様の1つの文脈において記載される実施形態及び特徴は、本発明の他の態様にも適用されることに留意すべきである。
【0076】
本発明の一つの態様は、対象における薬物として使用するためのカチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)及び少なくとも1つの免疫調節薬を含むリポソーム組成物に関する。
【0077】
本発明の別の態様は、対象における気道の病原体感染症の予防又は治療に使用するためのカチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)及び少なくとも1つの免疫調節薬を含むリポソーム組成物に関する。
【0078】
本発明の一つの実施形態は、病原体感染症の予防において使用するためのリポソーム組成物であって、この病原体感染は、ウイルス感染又は細菌感染から選択される、このリポソーム組成物に関する。
【0079】
この病原体感染は、上又は下気道などの、気道における感染であってよい。
【0080】
したがって、本発明のさらなる実施形態において、病原体感染症は、ピコルナウイルス、ライノウイルス、MERSコロナウイルスなどのコロナウイルス、SARS-CoV-2などのSARSコロナウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス、ヒト呼吸器多核体ウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、及びメタニューモウイルスから成る群から選択されるウイルスによって起こる気道のウイルス感染であってよい。
【0081】
本発明の別の実施形態において、この病原体感染症は、肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyrogenes)、インフルエンザ菌、カタル球菌及び結核菌、マイコバクテリウム・ボビス、マイコバクテリウム・アフリカヌム、M.canetti、及びM.microti、バークホルデリア菌種(Burkholderia Sp)などのマイコバクテリアから選択される群から選択される細菌によって起こる気道の細菌感染である。
【0082】
本発明の一つの実施形態は、本明細書に開示される使用するためのリポソーム組成物であって、リポソーム組成物は、モノミコロイルグリセロール類似体(MMG)などの、少なくとも1つの糖脂質をさらに含む、リポソーム組成物に関する。
【0083】
免疫調節薬は、ウイルス複製を抑制するようシグナルを送ることができる免疫調節薬又は顆粒球、マクロファージ及びNK細胞などの病原体を除去する炎症誘発性細胞を活性化若しくはリクルートするようシグナルを送ることができる免疫調節薬から選択されてよい。
【0084】
免疫調節薬は、環状-GMP-AMP(cGAMP)、cAMP、c-di-AMP、cGMP及びc-di-GMPなどのSTING作動薬、ザイモサンなどのTLR2作動薬、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリ(I:C))のような二本鎖リボ核酸(dsRNAs)などのTLR3作動薬、MPL-AなどのTLR4作動薬、フラジェリンなどのTLR5作動薬、レシキモド、イミキモド、ガーディキモドなど及び脂質付加類似体も含むTLR7/8作動薬、コードファクター(TDM)又はコードファクターの合成類似体TDBなどの、C型レクチン受容体、MDPなどのヌクレオチド結合オリゴマー化領域(NOD)受容体作動薬から成る群から選択されてよい。好ましくは、免疫調節薬は、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(ポリ(I:C))、より好ましくは合成二本鎖ポリ(I:C)RNA類似体である。
【0085】
本発明の実施形態において、免疫調節薬は好ましくは、cGAMP、cAMP、cGMP、c-di-AMP及びc-di-GMPから成る群から選択されるSTING作動薬であり、より好ましくはc-di-GMPである。
【0086】
本発明の別の実施形態において、リポソーム組成物のモノミコロイルグリセロール類似体(MMG)は好ましくは、類似体3-ヒドロキシ-2-テトラデシルオクタデカン酸-2,3-ジヒドロキシプロピルエステルである。
【0087】
本発明のさらなる実施形態において、リポソーム組成物のDDAは好ましくは、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミドである。
【0088】
本発明の別の実施形態は、カチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)及びモノミコロイルグリセロール(MMG)を含む本明細書に開示されるリポソーム組成物に関する。本発明の好ましい実施形態は、1~3mg/mL DDA、及び0.1~1.0mg/mL MMG-1を含む本明細書に開示されるリポソーム組成物に関する。リポソーム組成物は好ましくは、2.5mg/mL DDA及び0.5mg/mL MMG-1を含む。
【0089】
本発明のさらなる実施形態は、0.1~1.0mg/mL ポリ(I:C)、好ましくは0.5mg/mL ポリ(I:C)(CAF(登録商標)09の内容物に対応する)、特に好ましくは0.125mg/mL ポリ(I:C)(CAF(登録商標)09bの内容物に対応する)を含むリポソーム組成物に関する。
【0090】
本発明の別の実施形態は、本明細書に開示されるリポソーム組成物であって、このリポソーム組成物は、カチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)、モノミコロイルグリセロール(MMG)及び少なくとも1つの追加の免疫調節薬を含む、リポソーム組成物に関する。
【0091】
本発明の一つの実施形態は、本明細書に開示されるリポソーム組成物であって、このリポソーム組成物は、カチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)、モノミコロイルグリセロール(MMG)、ポリ(I:C)及び少なくとも1つの追加の免疫調節薬を含む、リポソーム組成物に関する。
【0092】
本発明のさらなる実施形態は、本明細書に開示されるリポソーム組成物であって、このリポソーム組成物は、免疫調節性c-di-GMPを含む、リポソーム組成物に関する。
【0093】
本発明の別の実施形態は、本明細書に開示されるリポソーム組成物であって、このリポソーム組成物は、カチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)、モノミコロイルグリセロール(MMG)及びc-di-GMPを含む、リポソーム組成物に関する。
【0094】
本発明のさらなる実施形態は、本明細書に開示されるリポソーム組成物であって、このリポソーム組成物は、カチオン性脂質ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDA)、モノミコロイルグリセロール(MMG)、ポリ(I:C)及びc-di-GMPを含む、リポソーム組成物に関する。
【0095】
別の実施形態において、このリポソーム組成物はさらに、濃度0.05~2.0mg/mLなど、濃度0.05~1.5mg/mLなど、濃度0.05~1.0mg/mLなど、濃度0.025~0.5mg/mLなどの、濃度0.025~2.5g/mLの、好ましくは0.1~0.2mg/mLなどの、濃度0.05~0.2mg/mLの、STING作動薬、好ましくはc-di-GMPを含む。
【0096】
さらなる実施形態において、リポソーム組成物は、2.5mg/mL DDA、0.5mg/mL MMG-1及び0.1mg/mL c-di-GMPを含む。
【0097】
本発明の別の実施形態において、本明細書に開示されるリポソーム組成物は、全身投与、鼻腔投与及び/又は肺内投与によって投与される。リポソーム組成物は、全身投与及び鼻腔投与の両方によって投与されてもよい。
【0098】
さらなる実施形態において、このリポソーム組成物は、気道の初期感染を治療するために病原体への曝露後鼻腔及び/又は肺内投与により投与されてよい。
【0099】
本発明のさらに別の態様において、このリポソーム組成物は、気道の感染を防ぐために鼻腔又は肺内投与により投与される。このリポソーム組成物は、鼻腔及び肺内投与の両方により投与されてもよい。さらなる実施形態において、このリポソーム組成物は、毎週2回、3回、4回、5回又は6回などの、毎週1~7回投与される。
【0100】
したがって、特に本発明から恩恵を被ることができる対象は、健常者と比較して呼吸機能不全を引き起こす慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、嚢胞性線維症、又は別の状態を有してよい。肺癌の対象も、本発明によるリポソーム組成物を受けてよい。特定の実施形態において、対象は、喫煙の既往歴を有する若しくはタバコ若しくは他の喫煙製品を継続使用しているのいずれか又は両方の喫煙者であってよい。これらの対象は、上気道感染症に脆弱なので、開示される組成物の投与は、潜在的に来たる感冒症状又は疾病を防ぐことがあり、したがって感冒症状又は疾病の根底にある疾病及び症状の増悪を防ぐことがある。
【0101】
本発明の一つの実施形態において、対象は、全ての年齢のヒト、他の霊長類(例えばカニクイザル、アカゲザルなど)、並びにウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ネコ及びイヌなどの商業的に関連する哺乳類を含む一般的な哺乳類、並びに鳥類から成る群から選択される。好ましくは、対象はヒトである。
【0102】
本発明の別の実施形態において、対象は、気道が免疫不全/免疫低下した個人である。
【0103】
本発明のさらなる実施形態において、対象は、慢性閉塞性肺疾患、喘息、嚢胞性線維症、肺癌及び糖尿病から選択される疾患を有する。さらに、対象は、喫煙の既往歴を有してよく又は現在喫煙者であってよい。
【0104】
別の実施形態において、対象は、集団の健常者、すなわち医療関係者などの、病原体に曝露し、感染に対する保護を必要とする健康な対象である。
【0105】
本発明のさらに別の態様は、このリポソーム組成物を含む鼻腔又は肺内投与用の装置に関する。
【0106】
特に好ましい本発明によるリポソーム組成物は、CAF(登録商標)04、CAF(登録商標)09及びCAF(登録商標)09bである。
【0107】
CAF(登録商標)04は、Statens Serum Institut,Denmarkにより開発された2成分カチオン性リポソームアジュバント系であり、糖脂質及び免疫調節薬を有するカチオン性DDAリポソーム、リポソーム膜の二重層に取り込まれた、モノミコロイルグリセロール(MMG)から成る。
【0108】
CAF(登録商標)09及びCAF(登録商標)09bは、Statens Serum Institut,Denmarkにより開発された3成分カチオン性リポソームアジュバント系であり、糖脂質及び免疫調節薬を有するカチオン性DDAリポソーム、リポソーム膜の二重層に取り込まれた、モノミコロイルグリセロール(MMG)及びリポソームの面に結合した、免疫調節薬、ポリI:Cから成る。
【0109】
CAF(登録商標)04、CAF(登録商標)09及びCAF(登録商標)09bの内容物:
CAF(登録商標)04:pH7.0に調節された10mMトリス+4%グリセロール中に分散された2500/500μg/mL DDA:MMG-1。
CAF(登録商標)09:pH7.0に調節された10mMトリス+4%グリセロール中に分散された2500/500/500μg/mL DDA:MMG-1:ポリ(I:C)。
CAF(登録商標)09b:pH7.0に調節された10mMトリス+4%グリセロール中に分散された2500/500/125ug/mL DDA:MMG-1:ポリ(I:C)。
【0110】
本出願に引用される全ての特許及び非特許参考文献は、その全体を参照により本明細書に援用される。
【0111】
本発明は、以下の非限定的な実施例においてより詳細に記載される。
【実施例
【0112】
実施例は、本発明を説明することを意図する。
【0113】
以下の実施例においてCAF(登録商標)04及びCAF(登録商標)09bを本発明による例示的なリポソーム組成物として用いる。
【0114】
CAF(登録商標)04は、Statens Serum Institut,Denmarkにより開発された2成分カチオン性リポソームアジュバント系であり、糖脂質及び免疫調節薬を有するカチオン性DDAリポソーム、リポソーム膜の二重層に取り込まれた、モノミコロイルグリセロール(MMG)から成る。
【0115】
CAF(登録商標)04 2500/500の濃度は、pH7.0に調節された10mMトリス+4%グリセロール中に分散された2500μg/mL DDA及び500μg/mL MMGである。
【0116】
CAF(登録商標)09bは、Statens Serum Institut,Denmarkにより開発された3成分カチオン性リポソームアジュバント系であり、糖脂質及び免疫調節薬を有するカチオン性DDAリポソーム、リポソーム膜の二重層に取り込まれた、モノミコロイルグリセロール(MMG)及びリポソームの面に結合した、免疫調節薬、ポリI:Cから成る。
【0117】
CAF(登録商標)09b 2500/500/125の濃度は、pH7.0に調節された10mMトリス+4%グリセロール中に分散された2500μg/mL DDA、500μg/mL MMG、及び125μg/mLポリI:Cである。
【0118】
実施例1-自然免疫細胞の流入
CB6F1マウスを72時間の間隔で2回鼻腔内にCAF(登録商標)09bで処置した。24時間後、この試験を終了し、かん流肺を分離し、自然免疫細胞の流入を測定するためにフローサイトメトリー分析を実施した(図2A)。CAF(登録商標)09bを鼻腔内投与すると単球(MHC II+,CD11b+,Ly6C+)、Mφ(MHC II+,F4/80+)、DC(MHC II+,CD11c+)、好中球(Ly6G+)及びNK(NK1.1+)細胞の肺への流入量の増加が促進された。肺細胞上清中のIFN-Iを測定するために電気化学発光(MSD)分析を実施した。CAF(登録商標)09b処置後、IFN-α(図2B)及びIFN-β(図2C)の両方が上昇した。
【0119】
実施例2-炎症性及び1型インターフェロンマーカー
CB6F1マウスを72時間の間隔で2回又は24時間の間隔で4回鼻腔内にCAF(登録商標)09bで処置した。24時間後、この試験を終了し、かん流肺を分離し、処置後に増加した遺伝子を決定するためにQiagen RT2 Profiler PCR Arrayを用いて炎症性及び1型インターフェロンマーカーのQPCR分析を実施した。データは、界面活性化マーカー:CD69,CD86,Tap1,H2-BI,H2-DI及びH2-KI;分泌型シグナル伝達マーカー:CCL2,CCL4,CCL5,Timp1及びCXCL10;IFN-I関連パターン認識受容体:Adar,RIG-I,MDA-5,TLR3,TLR7及びTLR9;IFN-I制御遺伝子:stat1,stat2,irf9,isg15,socs1,eif2ak2及びisg20;ウイルス翻訳及び複製の阻害:ifit1,ifit2,ifit3,mx1及びmx2;IFN-I生成:irf7,ifi204及びpmI(図3+4A~F)を含む1型インターフェロン及び炎症性応答の両方に関連する遺伝子の増加を示す。これらのデータから、CAF(登録商標)09bは、ウイルス保護に対する保護のために必要とされる自然免疫応答を誘導することが示される。
【0120】
実施例3-インフルエンザ感染後の体重及び生存率
CB6F1マウスを3日間の間隔で2回鼻腔内にCAF(登録商標)09bで処置した。マウスは、1回目の免疫処置後4及び10日目にインフルエンザ感染を受けた。体重(図5A)及び生存数(図5B)を7日間監視した。無処置群は4/6のマウスだが、1週間前に処置されたCAF(登録商標)09b群はわずか1/6のマウスがヒトエンドポイント体重に達し、落とさなければならなかった。曝露の1日前にCAF(登録商標)09bで処理したマウスでこの試験中にヒトエンドポイントに達したものはなかった。この試験から、処置の有効性は少なくとも1週間持続することが示唆される。
【0121】
実施例4-HA特異抗体
自然免疫による保護が適応免疫を低下させるかを調査するために、終了した日に実施例3のマウスから採血した。ELISAを用いてインフルエンザHA特異抗体を測定した(図6)。
【0122】
データから、高くない場合、CAF(登録商標)09b処置群における感染後の抗体レベルは非処置群のレベルだったので、症状が低減したにもかかわらずCAF(登録商標)09b処置は獲得免疫の感染駆動誘導に影響を及ぼさなかった。
【0123】
実施例5-STING作動薬とCAF(登録商標)04の併用
炎症性サイトカイン及びケモカインを含む、生体防御遺伝子の転写、並びに1型インターフェロン(IFN)を制御することができる濃度100μg/mLのSTING(インターフェロン遺伝子の刺激物質(Stimulator of Interferon Genes))作動薬c-di-GMPと併用するCAF(登録商標)04(2500/500μg/mL DDA/MMG-1)の確認を行った。マウスを24時間の間隔で4回c-di-GMP単独、CAF(登録商標)04単独又はCAF(登録商標)04+c-di-GMPのいずれかで処置し、1回目の免疫処置後5日目にインフルエンザ感染を受けた。生存数(図7A)、ウイルス量(図7B)及び体重(図7C~F)を14日間監視した。無処置群は全てのマウス(図7A、C)、c-di-GMP群は6/8のマウス(図7A、D)及びCAF(登録商標)04群は4/8のマウス(図7A、E)だが、CAF(登録商標)04+c-di-GMP群はわずか3/8のマウスがヒトエンドポイント体重に達し、落とさなければならなかった。この試験から、CAF(登録商標)04及びc-di-GMPは処置の有効性に協力作用を示し、併用により優れた有効性をもたらすことが示唆される。これはまた、ウイルス量を低減する能力にも反映される(図7B)。
【0124】
実施例6-STING作動薬とCAF(登録商標)09bの併用
炎症性サイトカイン及びケモカインを含む、生体防御遺伝子の転写、並びに1型インターフェロン(IFN)を制御することができる濃度100μg/mLのSTING(インターフェロン遺伝子の刺激物質(Stimulator of Interferon Genes))作動薬c-di-GMPと併用するCAF(登録商標)09b(2500/500/125μg/mL DDA/MMG-1/polyIC)の確認を行った。マウスを3日間の間隔で2回c-di-GMP単独、CAF(登録商標)09b単独又はCAF(登録商標)09b+c-di-GMPのいずれかで処置し、1回目の免疫処置後5日目に高用量のインフルエンザ感染を受けた。生存数(図8A)、ウイルス量(図8B)及び体重(図8C~F)を14日間監視した。無処置群は全てのマウス(図8A、C)、c-di-GMP群は7/8のマウス(図8A、D)及びCAF(登録商標)09b群は6/8のマウス(図8A、E)だが、CAF(登録商標)09b+c-di-GMP群はわずか5/8のマウスがヒトエンドポイント体重に達し、落とさなければならなかった。この試験から、CAF(登録商標)09b及びc-di-GMPは処置の有効性に協力作用を示し、併用により優れた有効性をもたらすことが示唆される。これはまた、ウイルス量を低減する能力にも反映される(図8B)。
【0125】
実施例7-CAF(登録商標)04、CAF(登録商標)09及びSTING作動薬の併用
濃度100μg/mLのSTING作動薬c-di-GMPと併用するCAF(登録商標)04(2500/500μg/mL DDA/MMG-1)及びCAF(登録商標)09b(2500/500/125μg/mL DDA/MMG-1/polyIC)が鼻のウイルス複製を阻止する能力について確認を行った。マウスを3日間の間隔で2回c-di-GMP、CAF(登録商標)04、CAF(登録商標)09b、CAF(登録商標)04+c-di-GMP、CAF(登録商標)09b+c-di-GMPのいずれかで処置し、1回目の免疫処置後5日目に高用量のインフルエンザ感染を受けた。相対インフルエンザmRNA発現によって測定した、鼻のウイルス量(図9A)及びCT値(図9B;CT値は、RNAを発見するために必要とされる総サイクル数と等しく、各陽性試験は独自のCT値を有し、37~40サイクルでRNAが発見されなかった場合、その試験は陰性である)を曝露後2日目に分析した。この試験から、c-di-GMPは、鼻でのウイルス複製の減少を促進し、ウイルス複製の減少はCAF(登録商標)04及びCAF(登録商標)09bとの併用によりさらに促進されること、及び併用はしたがって、鼻でのウイルス増殖を阻止することにより処置の有効性に協力作用を示すことが示唆される。これは、アジュバントを含有するc-di-GMPが感染前に活性化型NK細胞(図9C)、炎症性単球(図9D)及び好中球(図9E)の上昇レベルをリクルートする能力と相関する。CAF(登録商標)09b+c-di-GMPのみがマクロファージ(図9F)及び樹状細胞(図9G)のレベルを有意に増加させた。
【0126】
実施例10-CAF(登録商標)09b及びSARS-CoV-2
シリアンゴールデンハムスターを3日間の間隔で2回鼻腔内にCAF(登録商標)09bで処置した。ハムスターは、1回目の免疫処置後5日目にSARS-CoV-2感染を受けた(1.9x10TCID50)。健康状態の指標として体重を7日間監視した。CAF(登録商標)09b処置を受けなかったハムスターは、CAF(登録商標)09b処置群より著しく大きな体重減少を経験し、CAF(登録商標)09b処置群の場合である7日目に体重を回復しなかった(図10)。
【0127】
参考文献
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図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
図4-6】
図5
図6
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図7-2】
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図8-1】
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図9-1】
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図9-3】
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図10
【国際調査報告】