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特表2023-521919敗血症および高サイトカイン血症の治療薬
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(54)【発明の名称】敗血症および高サイトカイン血症の治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/737 20060101AFI20230518BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230518BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230518BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
A61K31/737
A61P31/04
A61P7/00
A61K9/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562955
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(85)【翻訳文提出日】2022-12-08
(86)【国際出願番号】 SE2021050345
(87)【国際公開番号】W WO2021211044
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】63/010,211
(32)【優先日】2020-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515312807
【氏名又は名称】ティーエックス メディック エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ブルース,ラース
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB13
4C076BB16
4C076CC14
4C076CC32
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA26
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA51
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明は、敗血症および高サイトカイン血症の治療におけるデキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩に関する。
【選択図】図1A

【特許請求の範囲】
【請求項1】
敗血症の治療において使用するための、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
高サイトカイン血症の治療に使用するための、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
前記デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩が、前記対象への全身投与のために処方される、請求項1または2に記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩が、前記対象への静脈内または皮下投与のために処方され、好ましくは前記対象への皮下投与のために処方される、請求項3に記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩が、10,000Da以下の平均分子量を有する、請求項1~4のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
前記平均分子量が2,000~10,000Daの範囲内、好ましくは3,000~10,000Daの範囲内、より好ましくは3,500~9,500Daの範囲内にある、請求項5に記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項7】
前記平均分子量が4,500~7,500Daの範囲内、好ましくは4,500~5,500Daの範囲内にある、請求項6に記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項8】
前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩が、15~20%の範囲の平均硫黄含量を有する、請求項1~7のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項9】
前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩が、核磁気共鳴(NMR)分光法で測定して、1,850~3,500Daの範囲内、好ましくは1,850~2,500Daの範囲内、およびより好ましくは1,850~2,300Daの範囲内の数平均分子量(M)を有する、請求項1~8のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項10】
前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩が、NMR分光法で測定して、1,850~2,000Daの範囲内のMを有する、請求項9に記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項11】
前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩が、2.5~3.0の範囲内、好ましくは2.5~2.8の範囲内、およびより好ましくは2.6~2.7の範囲内の数平均グルコース単位当たりの平均硫酸数を有する、請求項1~10のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項12】
前記デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩が、4.0~6.0の範囲内、好ましくは4.5~5.5の範囲内、より好ましくは5.0~5.2の範囲内の平均グルコース単位数を有する、請求項1~11のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項13】
前記デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩が、平均5.1のグルコース単位および2.6~2.7のグルコース単位当たりの平均硫酸数を有する、請求項1~12のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項14】
前記デキストラン硫酸または薬学的に許容される塩が、注射用水溶液として処方される、請求項1~13のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【請求項15】
前記その薬学的に許容される塩が、デキストラン硫酸のナトリウム塩である、請求項1~14のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に敗血症および高サイトカイン血症の治療薬、特に、敗血症および高サイトカイン血症の治療におけるデキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
敗血症は、感染に対する身体の応答が、それ自体の組織および器官への傷害を引き起こす場合に生じる生命を危うくする病状である。敗血症は感染によって引き起こされる炎症性免疫応答である。細菌感染は最も一般的な原因であるが、真菌、ウイルス、および原虫感染症もまた、敗血症につながる可能性がある。一次感染の一般的な場所としては、肺、脳、尿路、皮膚、および腹部器官が挙げられる。
【0003】
高サイトカイン血症は、サイトカインストームとも呼ばれ、自然免疫系が炎症性サイトカインのコントロール不良で、過剰の放出を引き起こす生理的反応である。高サイトカイン血症は、多くの感染性および非感染性原因、特にウイルス感染により引き起こされ得る。
【0004】
サイトカインは感染に対する免疫応答の制御因子であり、炎症および外傷を制御するのに重要な役割を果たす。炎症性サイトカインは体系的炎症を刺激し、一方、抗炎症性サイトカインは炎症を阻害し、治癒を増強する。敗血症における初期応答を制御する主要炎症性サイトカインとしては、インターロイキン-1α(IL-1α)、IL-1β、IL-6、および腫瘍壊死因子-α(TNFα)が挙げられる。炎症性サイトカインは内在性発熱物質として作用し、マクロファージおよび間葉系細胞、例えば線維芽細胞、上皮および内皮細胞の両方による、二次メディエータおよび他の炎症性サイトカインの合成を上方制御し、急性期タンパク質の生成を刺激し、または炎症細胞を誘引する。
【0005】
敗血症は循環血液におけるサイトカインの過剰産生により特徴付けられ、サイトカインストーム(高サイトカイン血症)および体系的炎症反応につながる。そのため、過剰サイトカイン産生の阻害またはサイトカインおよび他の炎症性メディエータの血液からの除去は、敗血症および高サイトカイン血症中全身性炎症を抑制し、患者転帰を改善することが示唆されてきた。
【0006】
コルチコステロイドは、サイトカイン産生を抑制することにより、敗血症を治療するために使用されてきた。コルチコステロイドの主な不利益は幅広い影響であり、一般に、炎症性および抗炎症性サイトカインの両方のサイトカイン産生を抑制する。加えて、抑制は制御が困難な可能性があり、場合により、サイトカインの低すぎるレベルにつながり、よって、患者の免疫系が、敗血症または高サイトカイン血症の根本原因である感染と闘うことができなくなる。
【0007】
敗血症治療のために示唆される薬物の別の群は中和抗体である。薬物のこの群の欠点は単一サイトカインを標的にするそれらの特異性である。よって、他のサイトカインの活性は、手付かずのままとされ、または、実際には、補償メカニズムのために増加する場合がある。抗体の別の不利益は、体内でのそれらの相対的に長い半減期である。結果として、それらのサイトカインブロッキング効果は比較的長い期間に及ぶ可能性があり、実のところ、患者の免疫系により、敗血症または高サイトカイン血症を引き起こす感染とうまく闘うには長すぎる可能性がある。
【0008】
よって、敗血症および高サイトカイン血症の有効な治療薬が依然として必要である。
【発明の概要】
【0009】
敗血症の治療薬を提供することが目的である。
【0010】
高サイトカイン血症の治療薬を提供することがもう1つの目的である。
【0011】
これらおよびその他の目的は、本明細書で開示の実施形態により実現される。
【0012】
本発明の態様は、敗血症の治療において使用するための、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩に関する。
【0013】
本発明の別の態様は、高サイトカイン血症の治療に使用するための、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩に関する。
【0014】
デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は選択された免疫細胞において炎症性サイトカインを抑制することができる。これは、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は、患者においてサイトカインストームおよび体系的炎症反応を引き起こす、循環血液中のこれらのサイトカインの増加したレベルを防止する、または、少なくとも著しく阻害することを意味する。デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩により達成されるサイトカイン抑制により、依然として、患者の免疫系は活性なままであり、敗血症または高サイトカイン血症の根本原因である感染と闘うことができる。
【0015】
そのさらなる目的および利点と一緒に、いくつかの実施形態は、添付図面とともに、以下の説明を参照することにより最も良く理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】PBMCは、刺激:(1A)LPS(0.01ng/ml)、(1B)ペプチドグリカン(30ng/ml)、(1C)ヤマゴボウマイトジェン(1.0μg/ml)(1D)PHA-L(1.0μg/ml)、(1E、1F)CpG(0.2μMまたは1.0μM)+IL-15(15ng/ml)、または(1G、1H)cytostim(10μl/mlまたは30μl/ml)+ビークル(0.027%生理食塩水)またはLMW-DS(60μg/ml、200μg/mlまたは600μg/mlのいずれかのILB(商標))の非存在下(培地、非刺激)または存在下で24時間培養した。上清中のIL-6のレベルを、ELISAにより定量した。データは、6~12(LPS)ドナーから得られた平均±SEMとして提示した。データはパーセンテージ刺激+ビークルとしてプロットした。(-)は少なくとも1ドナーが検出限界未満であったことを示す。**ビークル+LPSと600μg/ml ILB(商標)+LPSとの間でのマン・ホイットニーのU検定比較、p=0.005。ビークル+PHA-Lと600μg/ml ILB(商標)+PHA-Lとの間でのマン・ホイットニーU検定比較、p=0.048。
図2】PBMCから精製した単球を、刺激の非存在下(培地)またはLPS(0.01ng/ml)もしくはペプチドグリカン(30ng/ml)で刺激し、LMW-DS(ILB(商標);60μg/ml、200μg/mlまたは600μg/ml)(2A、2D)、デキサメタゾン(3.0μM)(2B、2E)またはヘパリン(2.0μg/ml、6.0μg/mlもしくは20μg/ml)(2C、2F)の存在下、またはこれらの非存在下(ビークル)で24時間培養した。細胞培養上清中のIL-6のレベルをELISAにより定量した。データは、平均±SEMとして提示した、n=10。は検出限界未満(5pg/ml)を示す。+ P<0.05、+++ P<0.001で刺激に対する有意差有り(マン・ホイットニーU検定)。
図3】PBMCは、刺激:LPS(0.01ng/ml)、ペプチドグリカン(30ng/ml)、PHA-L(1.0μg/ml)、CpG(0.2μM)+IL-15(15ng/ml)、ヤマゴボウマイトジェン(1.0μg/ml)またはCytostim(10μl/ml)+ビークル(0.027%生理食塩水)またはLMW-DS(60μg/ml、200μg/mlまたは600μg/mlのILB(商標))の非存在下(培地、非刺激)または存在下で24時間培養した。上清中のインターフェロンガンマ(IFNγ)のレベルをルミネックスにより定量した。別記されない限り、データはパーセンテージ刺激+ビークル、および12ドナーからの平均±SEMとして提示した。(-)は、少なくとも1つの反復実験が定量化の限界未満であったことを示し、(+)は、少なくとも1つの反復実験が定量化の限界を超えたことを示し、(^)は11ドナー由来のデータを示し、()は6ドナー由来のデータを示す。ビークルによる刺激に対する比較:#P<0.05、##P<0.01、###P<0.001、N.Sは有意差なしを示す(マン・ホイットニー検定、両側)。
図4】PBMCは、刺激:LPS(0.01ng/ml)、ペプチドグリカン(30ng/ml)、PHA-L(1.0μg/ml)、CpG(0.2μM)+IL-15(15ng/ml)、ヤマゴボウマイトジェン(1.0μg/ml)またはCytostim(10μl/ml)+ビークル(0.027%生理食塩水)またはLMW-DS(60μg/ml、200μg/mlまたは600μg/mlのILB(商標))の非存在下(培地、非刺激)または存在下で24時間培養した。上清中のインターロイキン8/ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド8(IL-8/CXCL8)をルミネックスにより定量した。別記されない限り、データはパーセンテージ刺激+ビークル、および12ドナーからの平均±SEMとして提示した。(-)は、少なくとも1つの反復実験が定量化の限界未満であったことを示し、(+)は、少なくとも1つの反復実験が定量化の限界を超えたことを示し、(^)は11ドナー由来のデータを示し、()は6ドナー由来のデータを示す。ビークルによる刺激に対する比較:#P<0.05、##P<0.01、###P<0.001、N.Sは有意差なしを示す(マン・ホイットニー検定、両側)。
図5】PBMCは、刺激:LPS(0.01ng/ml)、ペプチドグリカン(30ng/ml)、PHA-L(1.0μg/ml)、CpG(0.2μM)+IL-15(15ng/ml)、ヤマゴボウマイトジェン(1.0μg/ml)またはCytostim(10μl/ml)+ビークル(0.027%生理食塩水)またはLMW-DS(60μg/ml、200μg/mlまたは600μg/mlのILB(商標))の非存在下(培地、非刺激)または存在下で24時間培養した。上清中の腫瘍壊死因子α(TNFα)のレベルをルミネックスにより定量した。別記されない限り、データはパーセンテージ刺激+ビークル、および12ドナーからの平均±SEMとして提示した。(-)は、少なくとも1つの反復実験が定量化の限界未満であったことを示し、(+)は、少なくとも1つの反復実験が定量化の限界を超えたことを示し、(^)は11ドナー由来のデータを示し、()は6ドナー由来のデータを示す。ビークルによる刺激に対する比較:#P<0.05、##P<0.01、###P<0.001、N.Sは有意差なしを示す(マン・ホイットニー検定、両側)。
図6】PBMCは、刺激:LPS(0.01ng/ml)、ペプチドグリカン(30ng/ml)、PHA-L(1.0μg/ml)、CpG(0.2μM)+IL-15(15ng/ml)、ヤマゴボウマイトジェン(1.0μg/ml)またはCytostim(10μl/ml)+ビークル(0.027%生理食塩水)またはLMW-DS(60μg/ml、200μg/mlまたは600μg/mlのILB(商標))の非存在下(培地、非刺激)または存在下で24時間培養した。上清中のIL-1βのレベルをルミネックスにより定量した。別記されない限り、データはパーセンテージ刺激+ビークル、および12ドナーからの平均±SEMとして提示した。(-)は、少なくとも1つの反復実験が定量化の限界未満であったことを示し、(+)は、少なくとも1つの反復実験が定量化の限界を超えたことを示し、(^)は11ドナー由来のデータを示し、()は6ドナー由来のデータを示す。ビークルによる刺激に対する比較:#P<0.05、##P<0.01、###P<0.001、N.Sは有意差なしを示す(マン・ホイットニー検定、両側)。
図7】PBMCは、刺激:LPS(0.01ng/ml)、ペプチドグリカン(30ng/ml)、PHA-L(1.0μg/ml)、CpG(0.2μM)+IL-15(15ng/ml)、ヤマゴボウマイトジェン(1.0μg/ml)またはCytostim(10μl/ml)+ビークル(0.027%生理食塩水)またはLMW-DS(60μg/ml、200μg/mlまたは600μg/mlのILB(商標))の非存在下(培地、非刺激)または存在下で24時間培養した。上清中のIL-10のレベルをルミネックスにより定量した。別記されない限り、データはパーセンテージ刺激+ビークル、および12ドナーからの平均±SEMとして提示した。(-)は、少なくとも1つの反復実験が定量化の限界未満であったことを示し、(+)は、少なくとも1つの反復実験が定量化の限界を超えたことを示し、(^)は11ドナー由来のデータを示し、()は6ドナー由来のデータを示す。ビークルによる刺激に対する比較:#P<0.05、##P<0.01、###P<0.001、N.Sは有意差なしを示す(マン・ホイットニー検定、両側)。
図8】Pre-LMW-DSレベルの%としての、LMW-DSの投与後(5、10および24週間)のIL-6の血清レベル。データはpre-LMW-DS治療のサイトカインレベルのパーセンテージとして提示した。データは、8患者の平均±SEMとして提示した。+P<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は一般に、敗血症または高サイトカイン血症の治療薬、特に、敗血症または高サイトカイン血症の治療におけるデキストラン硫酸、またはその薬学的な塩の使用に関する。
【0018】
伝統的に、敗血症は感染過程に応じた全身性炎症反応症候群(SIRS)として規定される。SIRSは下記の2以上の存在である:異常な体温(<36℃または>38℃)、異常な心拍数(>90回/分)、異常な呼吸数(>20/分)、または異常な血液ガス(PaCO<32mmgH)、および白血球(WBC)数(<4000/mmまたは>12,000/mm)。重症敗血症は、敗血症誘発臓器不全または組織低灌流(低血圧、乳酸増加、または尿量減少として現れる)を伴う敗血症として規定される。重症敗血症は多臓器不全症候群(MODS)と関連する感染性疾患状態である。敗血症性ショックは、静脈内輸液の投与にかかわらず、重症敗血症+持続的低血圧である。
【0019】
敗血症は、サイトカインストーム(高サイトカイン血症)を引き起こし、体系的炎症反応につながる、循環血液におけるサイトカインの過剰産生により特徴付けられる。そのため、過剰サイトカイン産生の阻害またはサイトカインおよび他の炎症性メディエータの血液からの除去は、敗血症中のサイトカインストームおよび全身性炎症を抑制し、患者転帰を改善すると示唆されている。しかしながら、敗血症および高サイトカイン血症における1つの課題は、どのように、長期免疫抑制または完全免疫抑制を発生させずに、応答の要素を標的にするかである。
【0020】
高サイトカイン血症またはサイトカインストームは、ヒトおよび他の動物における生理的反応であり、この場合、自然免疫系が炎症性サイトカインのコントロール不良の、過剰な放出を引き起こす。サイトカインストームは、多くの感染性および非感染性病因、とりわけウイルス呼吸器感染、例えばインフルエンザAウイルスサブタイプH5N1、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)およびSARS-CoV-2により引き起こされる可能性がある。他の原因となる病原体としては、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス、およびA群ストレプトコッカス、ならびに移植片対宿主病などの非感染性状態が挙げられる。ウイルスは肺上皮細胞および肺胞マクロファージに侵入することができ、ウイルス核酸が生成され、これは、感染細胞を刺激し、サイトカインおよびケモカインが放出され、とりわけ、マクロファージおよび樹状細胞が活性化され、追加のサイトカインが放出され、サイトカインストームという結果になる。
【0021】
デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は、炎症性サイトカイン、特にインターロイキン6(IL-6)のレベルを選択的に低減させることができるが、腫瘍壊死因子α(TNFα)、IL-1β、IL-8、およびインターフェロンガンマ(IFNγ)もまた低減させる可能性がある。サイトカインレベルのこの抑制は特に、トール様受容体(TLR)4活性化単球、マクロファージおよびミクログリア(骨髄細胞)において誘導される。骨髄細胞のそのようなTLR4に基づく活性化は、グラム陰性細菌感染を含む細菌感染の場合重要であり、というのも、TLR4はグラム陰性リポ多糖(LPS)に対する感知受容体を構成するからである。他のTLR4リガンドとしては、多核体ウイルスのFタンパク質、グラム陰性細菌由来のマンヌロン酸、グラム陽性細菌、クラミジア・ニューモニエHSP60由来のテイクロン酸、フラボバクテリウム・メニンゴセプチカム由来のフラボリピン、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisare)およびカンジダ・アルビカンス由来のマンナン、およびデングウイルスNS1タンパク質が挙げられる。骨髄細胞のTLR4活性化は、サイトカインストームおよび敗血症を患う患者において見られる。
【0022】
よって、感染性疾患、高サイトカイン血症および/または敗血症を患う患者において、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩により炎症性サイトカインを低減させると、敗血症中のサイトカインストームおよび全身性炎症の抑制につながり、患者転帰を改善する。
【0023】
デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は、敗血症および高サイトカイン血症を治療するために使用される現行薬物、例えばコルチコステロイドおよび中和抗サイトカイン抗体よりも有利である。
【0024】
第一に、コルチコステロイドは一般に、炎症性および抗炎症性サイトカインの両方のサイトカイン産生を抑制する広い効果を有する。さらに、抑制は図2Bおよび2Eに示されるようにほぼ完全である。しかしながら、そのような総合的な免疫抑制は、敗血症患者には実際には有害である可能性があり、というのも、よって、免疫系が著しく阻害され、よって、高サイトカイン血症または敗血症の根本原因である感染性疾患と闘う際のその有効性が低減するからである。
【0025】
本明細書で提示される実験データは、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は、サイトカイン活性を完全には遮断せず、その上、免疫系の全ての細胞からのサイトカインレベルを抑制しないことを示す(図1A-1H、3-7)。これは、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は、炎症性サイトカインレベルを低減させ、同時に、高サイトカイン血症または敗血症の根本原因である感染と闘う免疫系の活性化を可能にすることにより、高サイトカイン血症または敗血症の治療に有用である可能性があることを意味する。
【0026】
例えば、実験データは、デキストラン硫酸は自然免疫系における活性化細胞、特に骨髄細胞、例えば単球およびマクロファージによるIL-6サイトカイン産生を抑制することができ(図1A)、一方、獲得免疫系における活性化細胞、例えばBリンパ球によるIL-6サイトカイン産生には著しくは影響しないことを示す(図1B、1C、1F、1H)。
【0027】
さらに、デキストラン硫酸、または薬学的に許容される塩のIL-6抑制効果は硫酸化多糖の間の一般的な効果ではない。本明細書で提示される実験データは、ヘパリン、別の硫酸化多糖は、LPS活性化単球におけるIL-6レベルを著しくは抑制せず、むしろ、この炎症性サイトカインのレベルを増加させたことを示した(図2C)。
【0028】
デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩はまた、敗血症の治療薬として示唆されてきた中和抗体を超える利点を有する。そのような中和抗体は、単一サイトカインのみを標的にする点で不利益を有する。これは、他のサイトカインの活性は、これにより
、手付かずのままとされ、または、実際には、補償メカニズムのために増加する場合があるということを意味する。抗体の別の不利益は体内でのそれらの相対的に長い半減期である(2週間まで)。結果として、それらのサイトカイン活性ブロッキング効果は比較的長い期間に及ぶ可能性があり、実のところ、患者の免疫系により高サイトカイン血症または敗血症を誘発する感染とうまく闘うには長すぎる可能性がある。デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は比較的ずっと短い半減期(Cmaxはヒトにおいて約2~3時間である)を有し、よって、それが必要とされる場合、明確に定義された期間中サイトカイン抑制を達成するための投薬および投与が簡略化される一方、免疫系は、急性敗血症段階が過ぎるとすぐに、高サイトカイン血症または敗血症を誘発する感染と闘うことができる。
【0029】
白血球性発熱物質、白血球内因性メディエータ、単核細胞因子、リンパ球活性化因子、またはカタボリンとしても知られているIL-1βは、活性化マクロファージによりプロタンパク質として生成され、これはカスパーゼ-1によりその活性型までタンパク分解性に処理される。IL-1βは、炎症反応の重要なメディエータであり、様々な細胞活性、例えば、細胞増殖、分化、およびアポトーシスに関与する。IL-1βは敗血症において役割を果たすことが報告されており、敗血症によって死亡する患者では持続的増加を示す(Mera et al., Multiplex cytokine profiling in patients with sepsis, APMIS, 119(2): 155-163 (2011))。
【0030】
デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は、IL-1βのLPS刺激分泌の低減を誘導した(図6)。
【0031】
インターフェロン-β2およびB-細胞刺激因子-2(BSF-2)としても知られているIL-6は多面的なインターロイキンであり、炎症性および抗炎症性サイトカインの両方として機能する。IL-6は、T細胞およびマクロファージにより分泌され、炎症につながる組織損傷に対する免疫応答を刺激する。IL-6はまた、マクロファージにより、パターン認識受容体(PRR)、例えばトール様受容体(TLR)に結合する病原体関連分子パターン(PAMP)と呼ばれる特定の微生物分子に応じて分泌される。IL-6産生は敗血症患者において上昇し(Mera et al., (2011); Gouel-Cheron et al., Early interleukin-6 and slope of monocyte human leukocyte antigen-DR: A powerful association to predict the development of sepsis after major trauma, PloS one, 7(3): e33095 (2012))、IL-6は敗血症の発症と関連することが示される。さらに、敗血症性ショックを有する患者におけるIL-6レベルは敗血症性ショックを有さない患者より高く、重症敗血症で死亡した者においてはより高くなり(Wu et al., Serial cytokine levels in patients with severe sepsis, Inflammation Research, 58(7): 385-393 (2009))、IL-6は重症敗血症の病態生理において重要なサイトカインであることが示唆される。加えて、IL-6の増加したレベルは、敗血症患者における死亡の最高リスクと関連することが見出された(Kellum et al., Understanding the inflammatory cytokine response in pneumonia and sepsis: Results of the Genetic and Inflammatory Markers of Sepsis (GenIMS) Study, Archives of Internal Medicine, 167(15): 1655-1663 (2007))。敗血症中に誘導されたサイトカインの環境の中で、血漿IL-6が死亡率と最も良い相関を有する(Kumar et al., Cytokine profile in elderly patients with sepsis, Indian Journal of Critical Care Medicine, 13(2): 74-78 (2009))。
【0032】
デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩はIL-6のLPS刺激分泌において濃度依存低減を誘導した(図1A、2A)。
【0033】
IL-8は、ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド8(CXCL8)とも呼ばれ、とりわけ、マクロファージにより生成されるケモカインである。IL-8は炎症反応の主要メディエータの1つである。その主要機能はその標的細胞、例えば、好中球顆粒球における走化性の誘導である。IL-8は、好中球を炎症部位に引きつける化学信号として機能する。IL-8の血清および血漿レベルは、は敗血症患者において増強される(Livaditi et al., Neutrophil CD64 expression and serum IL-8: Sensitive early markers of severity and outcome in sepsis, Cytokine, 36(5-6): 283-290 (2006))。さらに、IL-8の初期レベルは敗血症患者における死亡についての最も予兆となる因子であり(Mera et al., (2011))、IL-8は敗血症において役割を果たすことが示される。
【0034】
デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は、IL-8のLPSおよびCytostim刺激分泌の低減を誘導した(図4)。
【0035】
IFNγは、II型インターフェロンとしても知られており、ウイルスおよび細胞内細菌感染に対する自然および適応免疫にとって重要であるサイトカインである。CD4およびCD8 T細胞は、主に、抗原刺激でIFNγを産生し、NK細胞もまた、自然免疫応答においてIFNγを産生する。IFNγは、Th1細胞を規定するために使用される最重要サイトカインである。いくつかの研究により、IFNγは敗血症性ショック中炎症反応を促進したことが示された(Romero et al., The role of interferon-gamma in the pathogenesis of acute intra-abdominal sepsis, Journal of Leukocyte Biology, 88(4): 725-735 (2010))。IFNγ発現は敗血症で死亡した患者において持続的に増強された(Mera et al., (2011))。
【0036】
デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は、IFNγのLPS、PHA-LおよびCytostim刺激分泌の低減を誘導した(図3)。
【0037】
TNFαは、カケキシン(cachexin)またはカケクチンとも呼ばれ、全身性炎症に関与する急性期反応を刺激する。TNFαの血漿レベルは、敗血症患者および動物モデルにおいて著しく増加したことが実証されている(Mera et al., (2011))。TNFαは敗血症において最もよく研究された炎症性サイトカインとなった。
【0038】
デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は、TNFαのLPS、PHA-LおよびCytostim刺激分泌の低減を誘導した(図5)。
【0039】
IL-10は、ヒトサイトカイン合成阻害因子(CSIF)としても知られており、抗炎症反応において重要なサイトカインである。CD4+Th2細胞、単球およびB-細胞はIL-10を産生する。IL-10は、IL-2およびIFNγの両方を含むTh1サイトカインの発現を強力に阻害する。その高親和性IL-10受容体に結合した後、IL-10はまた、単球、マクロファージ、好中球およびNK細胞におけるTNFα、IL-1、IL-6、IL-8、IL-12、GM-CSF、MIP-1αおよびMIP-2αの産生を抑制する。IL-10は、敗血症の病態生理において重要なサイトカインの1つである。重症敗血症患者における血清サイトカインの測定により、IL-10レベルは著しく増強されたことが示された(Rau et al., Clinical manifestations but not cytokine profiles differentiate adult-onset still’s disease and sepsis, The Journal of Rheumatology, 37(11): 2369-237641 (2010); Surbatovic et al., Immune cytokine response in combat casualties: Blast or explosive trauma with or without secondary sepsis, Military Medicine, 172(2): 190-195 (2007))。血清中の増加したIL-10レベルは敗血症スコアおよび死亡と相関した。高いIL-10-対-TNFα比は死亡と関連した。さらに、IL-10の持続的過剰産生は敗血症重症度および致命的転帰についての主危険因子であり(Gogos et al., Pro-versus anti-inflammatory cytokine profile in patients with severe sepsis: A marker for prognosis and future therapeutic options, The Journal of Infectious Diseases, 181(1):176-180 (2000))、敗血症患者は重度の免疫抑制にあることが示唆される。
【0040】
デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は、IL-10のLPS、PHA-LヤマゴボウおよびCytostim刺激分泌の低減を誘導した(図7)。
【0041】
一実施形態では、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は敗血症の治療において使用される。
【0042】
特定の実施形態では、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は重症敗血症の治療において使用される。
【0043】
別の特定の実施形態では、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は、敗血症性ショックの治療において使用される。
【0044】
別の実施形態では、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は高サイトカイン血症の治療において使用される。
【0045】
以下では、言及されるデキストラン硫酸の(平均)分子量および硫黄含量は、任意のデキストラン硫酸の薬学的に許容される塩にも当てはまる。従って、デキストラン硫酸の薬学的に許容される塩は、好ましくは、以下の実施形態で考察の平均分子量および硫黄含量を有する。
【0046】
実施形態の好ましい範囲外のデキストラン硫酸は、細胞または対象に対する低い効果および/または負の副作用をもたらすと考えられている。
【0047】
例えば、10,000Da(10kDa)を超える分子量のデキストラン硫酸は通常、より低い分子量のデキストラン硫酸に比べて、より低い効果対副作用プロファイルを有する。これは、安全に対象に投与できるデキストラン硫酸の最大投与量が、より大きなデキストラン硫酸分子(>10,000Da)では、好ましい範囲内の平均分子量を有するデキストラン硫酸分子に比べて、より少ないことを意味する。結果として、デキストラン硫酸が対象にインビボで投与される予定の場合、このようなより大きなデキストラン硫酸分子は、臨床使用では、適切性がより劣る。
【0048】
デキストラン硫酸は、硫酸化ポリサッカライド、特に硫酸化グルカン、すなわち、多くのグルコース分子から作製されたポリサッカライドである。本明細書で定義の平均分子量は、個々の硫酸化ポリサッカライドが、この平均分子量とは異なる分子量を有し得るが、平均分子量は、硫酸化ポリサッカライドの平均分子量を表すことを示す。これは、この平均分子量の近傍にデキストラン硫酸試料の分子量の天然分布が存在すると思われることをさらに意味する。
【0049】
デキストラン硫酸の平均分子量、またはより正確には、重量平均分子量(M)は通常、ゲル排除/浸透クロマトグラフィー、光散乱または粘度などの間接的な方法を用いて決定される。このような間接的方法を用いた平均分子量の決定は、カラムおよび溶出液、流量、較正手順、などの選択を含む多くの因子に依存する。
【0050】
重量平均分子量(M):
【数1】
は、例えば、光散乱およびサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法などの数値法ではなく、分子サイズに敏感な方法として典型的な方法である。正規分布が仮定される場合、Mの両側で同じ重量、すなわち、M未満の分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の総重量が、Mを超える分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の総重量に等しい。パラメーターNは、試料またはバッチ中のMの分子量を有するデキストラン硫酸分子の数を示す。
【0051】
ある実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、10,000Da以下のMを有する。特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、2,000Da~10,000Daの範囲内のMを有する。
【0052】
別の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、2,500Da~10,000Daの範囲内、好ましくは3,000Da~10,000Daの範囲内のMを有する。特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、3,500Da~9,500Daの範囲内、例えば、3,500Da~8,000Daの範囲内のMを有する。
【0053】
別の特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、4,500Da~7,500Daの範囲内、例えば、4,500Da~6,500Daの範囲内または4,500Da~5,500Daの範囲内のMを有する。
【0054】
従って、いくつかの実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、10,000Da以下、9,500Da以下、9,000Da以下、8,500Da以下、8,000Da以下、7,500Da以下、7,000Da以下、6,500Da以下、6,000Da以下、または5,500Da以下のMを有する。
【0055】
いくつかの実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、1,000Da以上、1,500Da以上、2,000Da以上、2,500Da以上、3,000Da以上、3,500Da以上、4,000Da以上、または4,500Da以上のMを有する。これらの実施形態のいずれかは、いずれかの上記で提示のMの上限値を規定する実施形態と組み合わせ得、これらは、10,000Da以下の上限値と組み合わせ得る。
【0056】
特定の実施形態では、上記で提示のデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩のMは、平均Mであり、好ましくは、ゲル排除/浸透クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、光散乱または粘度ベース法により決定される。
【0057】
数平均分子量(M):
【数2】
は、通常、末端基アッセイ、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法またはクロマトグラフィーにより得られる。正規分布が仮定される場合、同じ数のデキストラン硫酸分子をMの両側に認めることができ、すなわち、M未満の分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の数が、Mを超える分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の数に等しい。
【0058】
ある実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、1,850~3,500Daの範囲内のNMR分光法測定によるMを有する。
【0059】
特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、1,850Da~2,500Daの範囲内、好ましくは1,850Da~2,300Daの範囲内、例えば、1,850Da~2,000Daの範囲内のNMR分光法測定によるMを有する。
【0060】
従って、いくつかの実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、3,500Da以下、3,250Da以下、3,000Da以下、2,750Da以下、2,500Da以下、2,250Da以下、または2,000Da以下のMを有する。さらに、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、1,850Da以上のMを有する。
【0061】
ある実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、2.5~3.0の範囲内のグルコース単位当たりの平均硫酸数を有する。
【0062】
特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、2.5~2.8の範囲内、好ましくは2.6~2.7の範囲内のグルコース単位当たりの平均硫酸数を有する。
【0063】
ある実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、4.0~6.0の範囲内の平均グルコース単位数を有する。
【0064】
特定の実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、4.5~5.5の範囲、好ましくは5.0~5.2の範囲内の平均グルコース単位数を有する。
【0065】
ある実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、1,850~3,500Daの範囲内のNMR分光法測定によるMn、2.5~3.0の範囲内のグルコース単位当たりの平均硫酸数を有し、デキストラン硫酸のグルコース単位中のC2位置の平均硫酸化は少なくとも90%である。
【0066】
ある実施形態では、デキストラン硫酸は、約5.1の平均グルコース単位数、2.6~2.7の範囲内のグルコース単位当たりの平均硫酸数および1,850Da~2,000Daの範囲内のMを有する。
【0067】
ある実施形態では、デキストラン硫酸の薬学的に許容される塩は、デキストラン硫酸のナトリウム塩である。特定の実施形態では、デキストラン硫酸のナトリウム塩は、約5.1の平均グルコース単位数、2.6~2.7の範囲内のグルコース単位当たりの平均硫酸数および2,100Da~2,300Daの範囲内のNa対イオンを含むMを有する。
【0068】
ある実施形態では、デキストラン硫酸は、5.1の平均グルコース単位数、2.7のグルコース単位当たりの平均硫酸数、約1,900~1,950DaのNMR分光法測定によるNa不含平均Mおよび約2,200~2,250DaのNMR分光法測定によるNa含有平均Mを有する。
【0069】
実施形態によるデキストラン硫酸は、デキストラン硫酸の薬学的に許容される塩、例えば、ナトリウム塩またはカリウム塩として提供できる。
【0070】
一実施形態では、WO2016/076780号において開示されるデキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩が使用される。
【0071】
対象は、好ましくは哺乳動物対象、より好ましくは霊長類および特に、ヒト対象である。しかし、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、獣医学用途にも使用できる。動物対象の非限定的例には、霊長類、ネコ、イヌ、ブタ、ウマ、マウス、ラットが挙げられる。
【0072】
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、好ましくは、注射により、特に、静脈内(i.v.)注射、皮下(s.c.)注射または腹腔内(i.p.)注射により、好ましくはi.v.またはs.c.注射により対象に投与される。その他の使用できる非経口的投与経路には、筋肉内および関節腔内注射が挙げられる。デキストラン硫酸またはその薬学的に許容可能な誘導体の注射は、代わりに、または追加して、例えば、目的とする効果が生ずるべき対象の身体の組織または器官またはその他の部位に直接行われる。
【0073】
実施形態のデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、好ましくは、選択された溶媒または賦形剤を用いて水性注射溶液として製剤化される。溶媒は、水性溶媒、特に緩衝液が好都合である。このような緩衝液の非限定的例は、クエン酸一水和物(CAM)緩衝液などのクエン酸緩衝液、またはリン酸緩衝液である。例えば、実施形態のデキストラン硫酸は、0.9%NaCl生理食塩水などの生理食塩水中に溶解でき、その後、任意選択で、75mMのCAMで緩衝化され、および水酸化ナトリウムを用いてpHが約5.9に調節される。また、非緩衝液が可能であり、これには、生理食塩水、すなわち、NaCl(水溶液)などの水性注射溶液が含まれる。さらに、緩衝液が望ましい場合、CAM以外の緩衝系も使用し得る。
【0074】
実施形態は注射に限定されず、経口、経鼻的、口腔内、直腸内、経皮、経気管支、または局所を含む他の投与経路を代わりに使用できる。活性化合物のデキストラン硫酸はその後、特定の投与経路に基づいて選択される好適な賦形剤または担体を用いて製剤化される。
【0075】
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩の好適な投与量範囲は、インビトロとインビボなどの用途、対象の大きさと体重、対象が治療される敗血症状態の重症度、およびその他の考慮すべきことによって変化し得る。ヒト対象に対しては特に、可能な投与量範囲は、1μg/kg~100mg/kg体重、好ましくは10μg/kg~50mg/kg体重であろう。
【0076】
好ましい実施形態では、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、0.05~50mg/対象のkg体重、好ましくは0.05または0.1~40mg/対象のkg体重、およびより好ましくは0.05または0.1~30mg/対象のkg体重、または0.1~25mg/対象のkg体重、または0.1~15mg/対象のkg体重、または0.1~10mg/対象のkg体重の範囲の投与量で投与されるように製剤化される。好ましい投与量は、0.25~5mg/kg、好ましくは0.5~2.5mg/kg、およびより好ましくは0.75~2mg/kgの対象の体重の範囲から選択される。
【0077】
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、単一ボーラス注入の形態などの単回で投与できる。このボーラス投与は、対象に極めて迅速に注入できるが、好都合にも、デキストラン硫酸溶液が5~10分間などの数分間にわたり患者に注入されるように、一定の期間にわたり注入される。
【0078】
あるいは、デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、治療期間中に複数回、すなわち、少なくとも2回投与できる。
【0079】
デキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩は、順次に、同時に、またはデキストラン硫酸またはその薬学的に許容される塩および少なくとも1つの他の活性薬剤を含む組成物の形態で、他の活性薬剤と共に投与できる。少なくとも1つの活性薬剤は、敗血症の治療に有用な任意の薬剤から選択できる。
【0080】
本発明はまた、敗血症および/または高サイトカイン血症の治療のための医薬品の製造におけるデキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩の使用に関する。
【0081】
本発明はまた、敗血症および/または高サイトカイン血症を治療するための方法を規定する。方法は、敗血症および/または高サイトカイン血症を患う対象にデキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む。特定の実施形態では、デキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩は感染または感染性疾患、特に、対象において敗血症および/または高サイトカイン血症を引き起こす可能性があるような感染または感染性疾患を患う対象に投与される。
【0082】
「治療」および「治療する」という用語は本明細書では、敗血症および/または高サイトカイン血症と闘う目的での患者の管理および看護を意味する。用語は、症状または合併症を軽減させる、疾患の進行を遅延させる、症状および合併症を軽減または緩和させる、および/または疾患を治癒または排除させる、ならびに敗血症および/または高サイトカイン血症を防止するための、敗血症および/または高サイトカイン血症のためのあらゆる領域の治療、例えばデキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩の投与を含むことが意図され、防止は、敗血症および/または高サイトカイン血症と闘う目的のための患者の管理および看護と理解されるべきであり、症状または合併症の発症を防止するためのデキストラン硫酸、またはその薬学的に許容される塩の投与を含む。治療は、急性または慢性様式で実施することができる。本明細書で使用される治療はまた、敗血症および/または高サイトカイン血症の予防または防止、ならびに、敗血症および/または高サイトカイン血症の阻止を包含し、敗血症および/または高サイトカイン血症の症状の阻止が含まれる。
【0083】
デキストラン硫酸、またはその薬学的塩の「治療的有効量」という用語は本明細書では、敗血症および/または高サイトカイン血症の臨床症状およびその合併症を治癒、阻止、軽減させ、または部分的に抑止するのに十分な量を意味する。これを達成するのに十分な量は「治療的有効量」として規定される。各目的のための有効量は、疾患の重症度ならびに患者の体重および全身状態に依存する。適切な投与量の決定は、ルーチン実験を使用して、値の行列を構築し、行列内の異なる点を試験することにより達成することができ、これは全て、熟練した医師または獣医師の通常の技術の範囲内であることが理解されるであろう。
【0084】
実施例
実施例1
この実施例は、低分子量デキストラン硫酸(LMW-DS)のインビトロでのヒト末梢血単核球(PBMC)からのIL-6の刺激された放出に影響を与える能力を調査した。
【0085】
ヒトPBMCは、直接におよび間接的に種々の細胞サブセットを活性化する種々の薬剤によりインビトロで刺激され得る。サイトカイン放出のモニタリングは、薬物の潜在的影響を調査して患者における作用を予測することを可能にする。IL-6は、敗血症を含む、多数の病状と関連付けられることが示されている典型的な炎症促進性サイトカインである。
【0086】
材料および方法
PBMCをFicoll-Paque PLUS(GE Healthcare;11778538)密度勾配遠心分離法により健康なドナーから単離した。PBMCを2x10個の細胞/ウェルで、刺激のない場合(非刺激リン酸緩衝生理食塩水(PBS)ビークル対照)または刺激のある場合(リポ多糖(LPS)、ペプチドグリカン、ヤマゴボウマイトジェン、フィトヘマグルチニン-L(PHA-L)、CpG+IL-15、またはCytostim)について、3種の濃度;60μg/ml、200μg/mlおよび600μg/mlのLMW-DS(ILB(登録商標)、Tikomed AB、Viken,Sweden,国際公開第2016/076780号)の存在下またはその非存在下(ビークル)、37℃、5%CO下で24時間培養した。遠心分離後、細胞培養上清を取り出し、-20℃で貯蔵し、ELISAによるIL-6の分析まで保持した。上清中のIL-6のレベルを、製造業者の説明書にしたがって、ELISA(R&D Systems;DY206)により定量した。
【0087】
結果
以前に採取した内部データは、刺激濃度の選択を準最大な濃度のLPS、ペプチドグリカン、ヤマゴボウマイトジェン、PHA-L、CpG+IL-15およびCytostimを使用するように誘導した。PBMC混合物では、全ての刺激は、細胞培養上清中へのIL-6放出を増大させた。LPS刺激に対するLMW-DSの影響に対する最初の6ドナー由来の細胞から生成した有望な結果により、さらなる6ドナーでのLPS試験に拡張することに決めた。さらに、非刺激PBMCに比べて、CpG+IL-15およびCytostimの元の選択濃度は、IL-6放出の比較的小さい増大を与えた。よって、追加の6ドナー由来の細胞中で、より高い濃度のCpG+IL-15およびCytostimを調査した。これらのより高い濃度は、非刺激細胞に比べて、IL-6放出のより大きい増大を誘起した。
【0088】
LPS
LPSはトール様受容体(TLR)4アゴニストである。ヒトPBMC混合物では、LPSにより直接活性化される主要細胞型は単球であり、これはTLR4を発現する。単球は、自然免疫系の一部である。これらの骨髄細胞はまた、マクロファージおよびミクログリアなどの他の骨髄細胞に対する応答をモデル化するために使用できる。本実施例では、LPSは、細胞培養上清中へのIL-6の放出の実質的増大を起こし(図1A)、LMW-DSは濃度依存性およびIL-6の統計的に有意な低下をもたらした(図1A)。これは、LMW-DSが、単球のTLR4活性化後にIL-6の炎症促進性の結果を減らす潜在力を有することを示している。
【0089】
ペプチドグリカン
ペプチドグリカンはTLR2アゴニストであり、PBMC混合物中では、主として単球およびBリンパ球により発現される。後者は、抗原への特異的抗体の生成で重要な役割を示すことでよく知られている、後天性免疫系の1成分である。ペプチドグリカンは、細胞培養上清中へのIL-6の放出の実質的増大を生じるが、6ドナー由来の細胞による実験からは、総じて、IL-6放出の全体的低減を生じさせるというLMW-DSの証拠は、試験した最大濃度でも、ほとんどなかった(図1B)。
【0090】
ヤマゴボウマイトジェン
ヤマゴボウマイトジェンは、ヨウシュヤマゴボウから生成したレクチンである。それは、Bリンパ球のTリンパ球依存性活性化を起こす。本試験では、ヤマゴボウマイトジェンは、PBMC混合物によるIL-6放出を大きく増大させたが、この放出は概ねLMW-DSによる影響を受けなかった(図1C)。
【0091】
PHA-L
PHA-Lは、インゲンマメ(金時豆)由来のL型サブユニットレクチンであり、これは、それらの活性化で生じるTリンパ球表面受容体を架橋する。PHA-Lは、PBMC混合物からのIL-6放出の比較的わずかな増大を誘導し、これは、LMW-DSにより濃度依存的に顕著に抑制された(図1D)。
【0092】
CpG+IL-15
CpG-オリゴデオキシヌクレオチドは、短い一本鎖デオキシリボ核酸(DNA)分子で、PBMC混合物内で主に単球およびB細胞により発現されているTLR9を活性化する。IL-15は、Bリンパ球の刺激でCpGと相乗作用をする。ヤマゴボウマイトジェンと異なり、CpG+IL-15は、Bリンパ球を直接活性化し、すなわち、Tリンパ球非依存性である。6ドナー由来のPBMCによる最初のラウンドの実験では、選択されたCpG-ODN+IL-15の濃度は、細胞培養上清中へのわずかのみのIL-6放出の増大を起こした。この比較的低いレベルのIL-6放出は全体として、LMW-DSにより影響されなかった(図1E)一方で、LPS刺激の個数を増大させるために、追加のドナーで実施された追加の実験では、これらの同じ追加のドナーは、非刺激細胞から明らかな値を超える、より強力なIL-6放出を起こさせるために、より高濃度のCpG+IL-15の適用に供された;これは実現されたが、それでも、LMW-DSの全体的影響は存在しなかった(図1F)。
【0093】
Cytostim
Cytostimは抗体系Tリンパ球活性化剤である。それは、T細胞受容体(TCR)に結合し、これを、抗原提示細胞の主要組織適合抗原(MHC)分子と架橋する。従って、Cytostimは、表面抗原分類4(CD4)およびCD8Tリンパ球の両方を刺激する。本実施例では、6ドナー由来のPBMCによる最初のラウンドの実験は、細胞培養上清中へのIL-6放出の比較的小さい増大にのみ繋がるCytostimの濃度を使用し、これは、総じてLMW-DSにより影響を受けなかった(図1G)。これらの同じ追加のドナー由来のPBMCは、非刺激細胞からのIL-6放出に比べてより多くのIL-6放出を起こすために、より高濃度のCytostimで調査されたが、それでも、全体的にLMW-DSの影響は存在しなかった(図1H)。
【0094】
本実施例で調査された全ての刺激物質はPBMC混合物中の細胞からのIL-6放出を増大させることができたが、IL-6放出時のLMW-DSの標的化作用(LPSおよびPHA-Lに対する)は、IL-6放出を減少させる総体的能力ではなく、精密化された作用モードを示唆している。
【0095】
実施例2
単球は、免疫系の重要な要素である循環する自然免疫細胞である。加えて、それらは容易に利用可能なために、それらは、マクロファージおよびミクログリアなどのアクセスがそれほど容易でない他の骨髄細胞をモデル化するための細胞として使用できる。
【0096】
種々の骨髄細胞と同様に、単球は、それぞれペプチドグリカンおよびリポ多糖類(LPS)であるTLR2およびTLR4受容体アゴニストのような、トール様受容体(TLR)アゴニストを介して活性化できる。活性化は、活性化マーカーの発現により(フローサイトメトリーにより)および/または炎症促進性サイトカイン、インターロイキン-6(IL-6)などのサイトカインの分泌により監視できる。実施例1では、LMW-DSは、LPS刺激に応答した、ヒト末梢血単核球(PBMC)調製物中のIL-6の分泌を低減させた。しかし、PBMC混合物中の多様な細胞型は、この応答を媒介する正確な細胞型の解釈を妨害する。本試験は、LMW-DSの正確な細胞内標的を特定するために、ヒト精製単球からのLPS刺激IL-6放出を調節するLMW-DSの能力を調査した。IL-6は、敗血症を含む、多数の病状と関連付けられている典型的な炎症促進性サイトカインである。
【0097】
材料および方法
末梢血単核球(PBMC)をFicoll-Paque PLUS(GE Healthcare;11778538)密度勾配遠心分離法により健康なドナーから単離した。単球は、それらの表現型を維持するために単球を「無傷」で精製するEasySep(商標)ヒト単球濃縮キット(StemCell)を用いて精製した。
【0098】
単球を、刺激のない場合(非刺激PBSビークル対照)または刺激のある場合(LPSまたはペプチドグリカン)について、3種の濃度;600μg/ml、200μg/mlおよび60μg/mlのLMW-DS(ILB(登録商標)、Tikomed AB、Viken,Sweden,国際公開第2016/076780号)の存在下またはその非存在下(ビークル)、ならびにヘパリン(2.0、6.0または20μg/ml;0.406、1.218および4.06単位/mlに等量;Sigma Aldrich)またはデキサメタゾン(3.0μM;Sigma Aldrich)の存在下または非存在下において、37℃、5%CO下で24時間培養した。遠心分離後、細胞培養上清を取り出し、-20℃で貯蔵し、ELISAによるIL-6の分析まで保持した。上清中のIL-6のレベルを、製造業者の説明書にしたがって、ELISA(R&D Systems)により定量した。
【0099】
結果
以前に採取した内部データは、刺激濃度の選択および準最大な濃度のLPS、ペプチドグリカンの使用するように誘導した。これらはまた、ヒトPBMC混合物がIL-6源として使用された場合の実施例1で使用されたLPSおよびペプチドグリカンの同じ濃度に対応する。
【0100】
TLR2アゴニストペプチドグリカンおよびTLR4アゴニストLPSは、ヒト精製単球由来の細胞培養上清中へのIL-6の放出を生じた(図2)。
【0101】
10人の健康なドナー由来の単球による平均結果は、LMW-DSによる細胞培養上清中へのLPS刺激IL-6放出の統計的に有意な濃度依存性阻害を示し(図2A)、ヘパリンは、細胞培養上清中へのLPS刺激IL-6放出の統計的に有意な濃度依存性強化を生じた(図2C)。予想通り、グルココルチコイドステロイドデキサメタゾンは、細胞培養上清中へのLPS刺激IL-6放出を統計的に有意に阻害した(図2B)。
【0102】
10人の健康なドナー由来の単球による平均結果は、LMW-DSによる細胞培養上清中へのペプチドグリカン刺激IL-6放出の統計的に有意な濃度依存性増大を示した(図2D)。その傾向は統計的有意性に至らなかったが、この強化は、ヘパリンによりある程度反映された(図2F)。予想通り、デキサメタゾンの存在は、細胞培養上清中へのペプチドグリカン刺激IL-6放出を統計的に有意に阻害した(図2E)。
【0103】
単球は、自然免疫系の一部である。これらの骨髄細胞はまた、マクロファージおよびミクログリアなどの他の骨髄細胞に対する応答をモデル化するために使用できる。本実施例では、LPSにより起こされた精製単球からのIL-6の放出の増大を抑制するLMW-DSの明確で実質的な影響は、これらの細胞がLMW-DSの標的であるという強力な証拠を提供する。
【0104】
実施例3
病気または感染組織中の免疫応答の活性化は、末梢血単核球(PBMC)の表現型バランスの変化により反映される。従って、獲得および自然免疫系の要素に対する薬物の影響の評価は、試験療法ならびに場合によっては、異なる病状に対する治療効力を予測する細胞および/または分子バイオマーカーの特定に関連する臨床的変化をより良く理解するための機構的細胞経路を明らかにする可能性がある。
【0105】
ヒトPBMCは、種々の細胞サブセットを活性化および損なわれた組織に関連する免疫応答を模倣する種々の薬剤によりインビトロで直接におよび間接的に刺激され得る。PBMCからのサイトカイン放出のモニタリングは、薬物の潜在的影響を調査し、特定の患者における薬物作用を予測することを可能にする。
【0106】
材料および方法
実施例1は、種々の刺激の使用によるヒトPBMCからのIL-6の分泌を調節するLMW-DSの能力を調査した。本試験は、実施例1から生じた細胞培養上清のより広範な分析を実施した。従って、末梢血単核球(PBMC)をFicoll-Paque PLUS密度勾配遠心分離法により健康なドナーから単離した。PBMCを2x10個の細胞/ウェルで、刺激のない場合(非刺激PBSビークル対照)または刺激のある場合(LPS、ペプチドグリカン、ヤマゴボウマイトジェン、PHA-L、CpG+IL-15、またはCytostim)について、3種の濃度;600μg/ml、200μg/mlおよび60μg/mlのLMW-DS(ILB(登録商標)、Tikomed AB、Viken,Sweden,国際公開第2016/076780号)の存在下またはその非存在下(ビークル)、37℃、5%CO下で培養した。
【0107】
従って、処理は各PBMCドナーに対し以下の通りとした:
i.ビークル
ii.刺激
iii.刺激+LMW-DS(60μg/ml)
iv.刺激+LMW-DS(200μg/ml)
v.刺激+LMW-DS(600μg/ml)
それぞれを3回繰り返し、それにより、試料の総数は以下の通り:
1.LPS;165試料(11ドナー由来)
2.枯草菌由来ペプチドグリカン;90試料(6ドナー由来)
3.PHA-L;90試料(6ドナー由来)
4.0.2μM CpG+IL-15;90試料(6ドナー由来)
5.1.0μM CpG+IL-15;90試料(6ドナー由来)
6.ヤマゴボウマイトジェン;90試料(6ドナー由来)
7.10μlのCytostim;90試料(6ドナー由来)
8.30μlのCytostim;90試料(6ドナー由来)
全ての刺激からの上清試料の総数(全細胞型)=795
【0108】
治療後、細胞培養上清を取り出し、遠心分離し、5-plexヒト磁性ルミネックスアッセイ(R&D Systems;カタログ番号LXSAHM-05)を用いて種々のサイトカインの多重分析のために解凍するまで、-20℃で貯蔵した。ルミネックス分析は、製造業者のプロトコルに従って正確に実施した。
【0109】
結果
以前に採取した内部データは、刺激濃度の選択を準最大な濃度のLPS、ペプチドグリカン、ヤマゴボウマイトジェン、PHA-L、CpG+IL-15およびCytostimを使用するように誘導した;準最大な濃度の刺激は、特定されるべき調節の増大および低減の両方(存在する場合)を可能にする傾向がある。PBMC混合物では、全ての刺激は、細胞培養上清中へのサイトカイン放出を増大させたが、刺激物質にはより効果的なものとそうでないものもあった(図3-7)。
【0110】
LPS
LPS(リポ多糖類)はトール様受容体(TLR)4アゴニストである。ヒトPBMC混合物では、LPSにより直接活性化される主要細胞型は単球であり、これはTLR4を発現する。単球は、自然免疫系の一部である。これらの骨髄細胞はまた、マクロファージおよびミクログリアなどの他の骨髄細胞に対する応答をモデル化するために使用できる。本試験では、LPSの効果を評価する場合、IFNγ、TNFα、IL-1βおよびIL-10の分泌でわずかな増大があったが、IL-8分泌ではかなりの増大があった(図3-7)。LMW-DSは、濃度依存性の原因であるが、IFNγおよびIL-10ではわずかな減少があり(図3、7)、および最高濃度のLMW-DSの存在は、IL-1β、IL-8およびTNFαの刺激による分泌のわずかな減少があった(図4-6)。
【0111】
ペプチドグリカン
ペプチドグリカンはTLR2アゴニストであり、PBMC混合物中では、主として単球およびBリンパ球により発現される。後者は、抗原への特異的抗体の生成で重要な役割を示すことでよく知られている、後天性免疫系の1成分である。ペプチドグリカンは、細胞培養上清中へのIL-1β、IL-8およびTNFαの放出の実質的増大を起こすが、全ドナーからの結果の試験からからは、総じて、試験した最高濃度でも、LMW-DSがサイトカイン放出の全体的な低減をもたらしたという証拠はほとんど存在しなかったが、IL-1βおよびTNFα分泌における対応する増大は存在した(図4-6)。
【0112】
PHA-L
PHA-L(フィトヘムアグルチニン-L)は、インゲンマメ(金時豆)由来のL型サブユニットレクチンであり、これは、それらの活性化で生じるTリンパ球表面受容体を架橋する。PBMC混合物では、PHA-Lは、IFNγ、IL-8、IL-10およびTNFαの増大を誘導し、IL-1βでは全体としてわずかな増大を誘導した(図4-7)。LMW-DSは、IFNγ、IL-8、TNFαの刺激による放出のわずかな増大をもたらしたが、IL-1βではそうではなかった(図4-6)。対照的に、LMW-DSは、IL-10分泌では、大きな濃度依存性低減を生じた(図7)。
【0113】
ヤマゴボウマイトジェン
ヤマゴボウマイトジェンは、ヨウシュヤマゴボウから生成したレクチンである。それは、Bリンパ球のTリンパ球依存性活性化を起こす。本試験では、ヤマゴボウマイトジェンは、PBMC混合物によるIFNγ、IL-1β、IL-8、IL-10およびTNFαの分泌を大きく増大させた(図4-7)が、この放出は、IL-10分泌の濃度依存性低減を除いて、LMW-DSによる影響を概ね受けなかった(図7)。
【0114】
CpG+IL-15
CpG-ODNは、短い一本鎖DNA分子で、PBMC混合物内で主に単球およびB細胞により発現されているTLR9を活性化する。IL-15は、Bリンパ球の刺激でCpGと相乗作用をする。ヤマゴボウマイトジェンと異なり、CpG+IL-15は、Bリンパ球を直接活性化し、すなわち、Tリンパ球非依存性である。本試験では、IL-8の分泌を増大するこの刺激に対する唯一の強力な証拠が存在した。全体としては、これらの実験では、LMW-DSは、この応答に対しほとんど影響を示さなかった(図4-7)。
【0115】
Cytostim
Cytostimは抗体系Tリンパ球活性化剤である。それは、T細胞受容体(TCR)に結合し、これを、抗原提示細胞の主要組織適合抗原(MHC)分子と架橋する。従って、Cytostimは、CD4およびCD8Tリンパ球の両方を刺激する。全体として、Cytostimは、IFNγ、IL-1β、IL-8、IL-10およびTNFαの分泌の増大をもたらし(図4-7)、LMW-DSの存在下で明らかな大きな濃度依存性減少があったIL-10分泌(図7)を除いて、LMW-DSの存在に関連するわずかな減少があった。
【0116】
全体として、データは、敗血症を有する患者に利益を与えるLMW-DSの可能性のある作用を裏付ける。感染症後の敗血症は、臓器障害を生じる調節不全免疫応答と考えられる。敗血症は、大部分の病的状態、死亡率および保健医療費支出の原因である。世界中で、1年につき3150万の敗血症の症例が推定され、UKでは1年につき46,000の死亡が推定され、NHSに対し、1年につき£15-20億の推定コストとなる。
【0117】
感染症応答した敗血症の間、炎症性サイトカインの過剰産生(サイトカインストーム)は、敗血性ショックを引き起こし得る。LMW-DSにより調節されるいくつかのサイトカインは、上昇し、敗血症の病因に関与すると考えられる。例えば、IFNγ、IL-1β、IL-6、IL-8およびTNFαは、非生存者中で増大し続けることを示す(Mera et al., (2011))。TNFαおよびIL-1βは、敗血症で主要な役割を果し、マクロファージなどの細胞に作用すると考えられ、そこで、それらは炎症性のカスケードを増幅し、他の炎症促進性サイトカインならびに活性酸素および窒素種の放出を増大させ、さらに内皮細胞に作用し、その場合、それらは凝血の炎症誘導活性化を媒介する(Schulte et al., Cytokines in sepsis: potent immunoregulators and potential therapeutic targets ‐ an updated view, Mediators of Inflammation, 2013: 165974 (2013))。TNFαの追加の役割には、内皮細胞に対する作用を介して好中球血管外漏出の促進が含まれ、また、モノクローナル抗体によるTNFαの遮断はまた、重度敗血症の患者の生存を改善し得ることが実証された。IL-6は、T細胞、B細胞および凝固系の活性化を高めことができ、IL-6のレベルは、敗血症の臨床的重症度と相関する(Schulte et al., (2013))。IL-6のノックアウトは、急性肺損傷のマウスモデルの肺損傷を減らす。IL-8は、好中球を強力に引き付け、活性化するように作用し、レベルは、敗血症の重症度と相関する(Kraft et al., Predictive value of IL-8 for sepsis and severe infections after burn injury, Shock, 43(3): 222-227 (2015))。敗血症における病理学的役割に加えて、サイトカインは、宿主防御における宿主保護および免疫調節の役割を果たし得るので、上記のそれらを標的にする将来性にも関わらず、敗血症でのサイトカインの役割は、「両刃の剣」のまま残される(Chaudhry et al., Role of cytokines as a double-edged sword in sepsis, In Vivo, 27(6): 669-684 (2013))。
【0118】
敗血症における1つの課題は、長期の免疫抑制を生成することなく、如何にして、応答の要素を標的化するかである。敗血症でのTNFαの中和の利点は実証されているが、長い半減期を有するモノクローナル抗体、例えば、インフリキシマブ、アダリムマブおよびセルトリズマブは、約14日の半減期値を有し、投与のタイミングと投与経路での課題が生ずる。疾患の特定のステップで比較的短い作用時間を有するLMW-DSなどの複数のサイトカインを標的にする薬剤は、したがって、潜在的な追加の臨床的有用性を敗血症の患者にもたらし得る。
【0119】
実施例4
材料および方法
血清試料を、LMW-DS(ILB(登録商標)、Tikomed AB、Viken、Sweden、WO2016/076780号)による治療の前、ならびに治療の5、10および24週間後に、臨床試験(EudraCT番号:2018-000668-28)において、運動ニューロン疾患(MND)/筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者から採取した。凍結血清試料を解凍し、IL-6について、ルミネックスアッセイシステム(Bio-Plex Managerソフトウェアを有するBio-Plex200システム)を使用して、製造者の指示に従い、定量した。初期スクリーニング来診後、患者は、LMW-DS(ILB(登録商標)、Tikomed AB,Viken,Sweden,国際公開第2016/076780号)の生理食塩水中の1.0mg/kg体重の毎週の単一注射の投与を下腹部の皮下脂肪中に、各注射部位で最大1.5mLで受けた。
【0120】
統計解析をノンパラメトリックマンホイットニーのU検定を使用して実施し、p<0.05を有意と考えた。
【0121】
結果
図8は各8ALS患者から収集した血清試料においてルミネックスアッセイシステムによりアッセイした様々なIL-6の血清レベルを示す。患者コホートにわたっての比較を可能にするために、5、10および24週間後の、患者へのLMW-DS投与を開始した後のIL-6の血液中の濃度の%変化を評価した。分析により、10週間の治療で測定したIL-6レベルの統計的に有意な減少が示された。
【0122】
上述の実施形態は、本発明の少数の例示的実施例でとして理解されたい。種々の修正、組み合わせおよび変更が本発明の範囲または趣旨から逸脱することなくその実施形態に対しなされ得ることは、当業者には明らかであろう。特に、技術的に可能な場合には、異なる実施形態中の異なる部分の方策を、他の構成に組み合わせることができる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】