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特表2023-522022創傷治癒、発毛、ならびにスキンケアおよびヘアケアのためのsCD83
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-26
(54)【発明の名称】創傷治癒、発毛、ならびにスキンケアおよびヘアケアのためのsCD83
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20230519BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230519BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20230519BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20230519BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20230519BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20230519BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20230519BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20230519BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230519BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230519BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P17/02
A61P1/00
A61P17/14
A61K8/64
A61Q19/08
A61Q7/00
C07K14/705 ZNA
C07K19/00
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562631
(86)(22)【出願日】2021-04-16
(85)【翻訳文提出日】2022-12-05
(86)【国際出願番号】 EP2021059923
(87)【国際公開番号】W WO2021209607
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】20169899.0
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508368563
【氏名又は名称】フリードリッヒ‐アレクサンダー‐ウニフェルジテート エアランゲン‐ニュルンベルク
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】シュタインカセラー,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ツィンサー,エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】ロイズマン,ドミトロ
【テーマコード(参考)】
4C083
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C083AD411
4C083CC03
4C083CC37
4C083EE13
4C083EE22
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA20
4C084BA22
4C084CA34
4C084MA56
4C084MA63
4C084MA70
4C084NA14
4C084ZA66
4C084ZA89
4C084ZA92
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書中では、高齢患者、糖尿病患者、または免疫抑制薬物療法下の患者の治癒困難な創傷を含む創傷治癒のための、CD83タンパク質ファミリーのメンバーの可溶形(sCD83)の使用を提供する。全身性sCD83施用による、物理的ストレス/薬物療法、疾患および/または脱毛後の発毛の全身性促進のためのsCD83の治療的使用、ならびにsCD83の局所的施用を含むスキンケアおよびヘアケアのための化粧方法をさらに提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚、粘膜、および腸管の創傷の創閉鎖において使用するための、CD83タンパク質ファミリーのメンバーの可溶形(sCD83タンパク質)、その断片、二量体もしくは三量体形態、ならびに/または10個までのアミノ酸が前記sCD83タンパク質のCもしくはN末端に付着しているおよび/もしくは前記sCD83の10個までのアミノ酸が置換されている機能的誘導体、あるいは、前記sCD83タンパク質を含む組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の、皮膚、粘膜、および腸管の創傷の創閉鎖において使用するためのsCD83タンパク質または前記sCD83タンパク質を含む組成物であって、前記sCD83タンパク質が前記CD83タンパク質の細胞外ドメインまたはその断片もしくは機能的誘導体を含み、好ましくは、前記sCD83タンパク質が、
(i)配列番号2のアミノ酸残基20~144またはその断片もしくは機能的誘導体を含む、および/あるいは
(ii)隣接する細胞内ドメインに由来する1つまたは複数のアミノ酸残基をそのC末端にさらに有する、好ましくは、前記可溶性CD83タンパク質が配列番号2のアミノ酸残基20~145を含む、および/あるいは
(iii)機能的な配列、好ましくは10個までのアミノ酸残基の機能的な配列がそのN末端に付着している、最も好ましくはN末端に追加のアミノ酸Gly-Ser-Pro-Glyを保有する、および/あるいは
(iv)配列番号8のアミノ酸残基1~130を含む、
sCD83タンパク質または前記sCD83タンパク質を含む組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の、皮膚、粘膜、および腸管の創傷の創閉鎖において使用するためのsCD83タンパク質または前記sCD83タンパク質を含む組成物であって、前記sCD83タンパク質が、二量体または三量体である、好ましくは、前記sCD83タンパク質の単量体形態のシステイン残基のうちの1つまたは複数を通じて接続されているホモ二量体である、最も好ましくは、前記sCD83タンパク質が請求項2から4に定義された通りである、および/または前記ホモ二量体が前記sCD83タンパク質の単量体形態の5番目のシステイン残基を通じて接続されている、sCD83タンパク質または前記sCD83タンパク質を含む組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の、皮膚、粘膜、および腸管の創傷の創閉鎖において使用するためのsCD83タンパク質または前記sCD83を含む組成物であって、前記sCD83タンパク質が、単量体CD83タンパク質である、好ましくは、システイン残基のうちの1つまたは複数が同じまたは異なる小さいおよび/または極性のアミノ酸残基によって置換されている単量体CD83タンパク質である、最も好ましくは、
(i)前記小さいおよび/もしくは極性のアミノ酸残基がセリン、アラニン、およびグリシンから選択される、ならびに/または
(ii)前記可溶性CD83が請求項2もしくは3に定義された通りである、ならびに/または
(iii)1つのシステイン残基、特に5番目のシステイン残基が置き換えられている、ならびに/または
(iv)前記sCD83タンパク質が、129位のシステイン残基がセリン残基によって置き換えられている配列番号2のアミノ酸残基20~144、もしくは配列番号10のアミノ酸残基1~130を含む、
sCD83タンパク質または前記sCD83を含む組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の、皮膚、粘膜、および腸管の創傷の創閉鎖において使用するためのsCD83タンパク質または前記sCD83タンパク質を含む組成物であって、前記sCD83タンパク質が配列番号12のアミノ酸8~133を含む、好ましくは配列番号12のアミノ酸1~133を有する、sCD83タンパク質または前記sCD83タンパク質を含む組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の、皮膚、粘膜、および腸管の創傷の創閉鎖において使用するためのsCD83タンパク質または前記sCD83を含む組成物であって、創傷治癒が、
(a)皮膚および腸管創傷の加速された創閉鎖のための、前記sCD83の全身投与、ならびに/または
(b)局所に限定された創傷および慢性創傷を含む皮膚病変の創閉鎖のための、好ましくはゲルベースのsCD83溶液の形態での局所的投与
を含む、sCD83タンパク質または前記sCD83を含む組成物。
【請求項7】
治療的発毛において使用するための、CD83タンパク質ファミリーのメンバーの可溶形(sCD83タンパク質)、その断片、二量体もしくは三量体形態、ならびに/または10個までのアミノ酸が前記sCD83タンパク質のCもしくはN末端に付着しているおよび/もしくは前記sCD83の10個までのアミノ酸が置換されている機能的誘導体、あるいは、前記sCD83タンパク質を含む組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の、治療的発毛において使用するためのsCD83タンパク質または前記sCD83を含む組成物であって、
(i)前記sCD83タンパク質が請求項2から5に定義された通りである、および/または
(ii)前記治療的発毛が、物理的ストレス/薬物療法、疾患および/もしくは脱毛後の全身性もしくは局所的sCD83施用を含む、
sCD83タンパク質または前記sCD83を含む組成物。
【請求項9】
組成物をヒトまたは動物の皮膚または毛に全身または局所的施用することを含む方法であって、前記組成物が、CD83タンパク質ファミリーのメンバーの可溶形(sCD83タンパク質)、その断片、二量体もしくは三量体形態、ならびに/または10個までのアミノ酸が前記sCD83タンパク質のCもしくはN末端に付着しているおよび/もしくは前記sCD83の10個までのアミノ酸が置換されている機能的誘導体を含む、方法。
【請求項10】
(i)前記sCD83タンパク質が請求項2から5に定義された通りである、および/または
(ii)前記方法が化粧および/もしくは非治療的方法である、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
発毛の加速のため、ならびにスキンケアおよびヘアケアのための化粧方法である、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
皮膚、粘膜、および腸管の創傷の創閉鎖のための治療的方法であって、CD83タンパク質ファミリーのメンバーの可溶形(sCD83タンパク質)、その断片、二量体もしくは三量体形態、ならびに/または10個までのアミノ酸が前記sCD83タンパク質のCもしくはN末端に付着しているおよび/もしくは前記sCD83の10個までのアミノ酸が置換されている機能的誘導体を含む組成物を、そのような処置を必要としている患者に投与することを含む、方法。
【請求項13】
発毛を誘導するための治療的方法であって、CD83タンパク質ファミリーのメンバーの可溶形(sCD83タンパク質)、その断片、二量体もしくは三量体形態、ならびに/または10個までのアミノ酸が前記sCD83タンパク質のCもしくはN末端に付着しているおよび/もしくは前記sCD83の10個までのアミノ酸が置換されている機能的誘導体を含む組成物を、そのような処置を必要としている患者に投与することを含む、方法。
【請求項14】
前記sCD83タンパク質が請求項2から5に定義された通りである、請求項12または13に記載の治療的方法。
【請求項15】
(a)皮膚および腸管創傷の加速された創閉鎖のための、前記sCD83組成物の全身投与、または
(b)局所に限定された創傷および慢性創傷を含む皮膚病変の創閉鎖のための、好ましくはゲルベースのsCD83溶液の形態での局所的投与
のための、請求項12または14に記載の治療的方法。
【請求項16】
物理的ストレス/薬物療法、疾患および/または脱毛後の全身性または局所的sCD83施用を含む、請求項13または14に記載の治療的方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書中では、高齢患者、糖尿病患者、または免疫抑制薬物療法下の患者の治癒困難な創傷を含む創傷治癒のための、CD83タンパク質ファミリーのメンバーの可溶形(sCD83)の使用を提供する。全身性sCD83施用による、物理的ストレス/薬物療法、疾患および/または脱毛後の発毛の全身性促進のためのsCD83の治療的使用、ならびにsCD83の局所的施用を含むスキンケアおよびヘアケアのための化粧方法をさらに提供する。
【背景技術】
【0002】
傷害は、有痛性事象であるだけでなく、皮膚バリアの保護機能を乱し、感染症に対する易罹患性も増強させる。したがって、皮膚の物理的完全性の維持には素早い創傷治癒が重大である。しかし、加齢および健康状態、たとえば真性糖尿病が、皮膚組織の再生能力を妨害することが記載されている(Swift, M.E. et al., J Invest Dermatol 117:1027-1035 (2001)、Goodson, W.H.3rd and Hung, T.K., J Surg Res 22:221-227 (1977))。喫煙および栄養失調が創傷治癒合併症に寄与する(Janis, J.E. and Harrison, B., Plast Reconstr Surg 133:199e-207e (2014))。さらに、創傷治癒は、移植または自己免疫障害の処置の際に使用される免疫抑制薬および糖質コルチコイドステロイドを用いた薬物療法によって負の影響を受ける。最後に、放射線療法は無効な創傷修復をもたらし、それによって疼痛および易罹患性の期を長引かせる(Guo, S. and Dipietro, L.A.., J Dent Res 89:219-229 (2010))。したがって、創傷治癒の増強は、不快感および侵襲後の合併症を回避するために大きな医学的興味を持たれている。
【0003】
機構的には、創傷治癒は複雑な多因子性の事象であり、明確に異なる細胞組成およびサイトカイン発現プロフィールによって特徴づけられている4つの主要な期、すなわち、(I)止血、(II)炎症、(III)再上皮化、および(IV)リモデリングへと分けることができる(Eming, S.A. et al., Sci Transl Med 6:265sr266 (2014))。傷害の際、血小板が凝固によって血流を減弱させ、α顆粒の放出によって炎症期を誘導する(Zarbock, A. et al., Blood Rev 21:99-111 (2007))。好中球、古典的活性化マクロファージ、およびリンパ球が病変部位に動員されて、創傷領域を無菌化し、炎症を促進する。創傷治癒中の様々な炎症誘発性サイトカイン(たとえばTNFαおよびIL-6)の枯渇は皮膚創傷の消散の障害をもたらすため、炎症誘発性サイトカインが主要な制御因子であり、創傷組織内で優位を占める(Ritsu, M. et al., J Dermatology & Dermatologic Surgery 21:14-19 (2017)、Lin, Z.Q. et al., J Leukoc Biol 73:713-721 (2003))。TLR刺激およびアポトーシス細胞(主に好中球)の貪食に続いて、マクロファージは、組織修復および/または寛容原性の代替活性化マクロファージ(AAM)に向かう表現型の切り替えを受ける(Daley, J.M. et al., J Immunol 174:2265-2272 (2005))。AAMによって放出されるIL-10などの抗炎症伝達物質ならびにTGF-βおよびVEGFなどの成長因子は、第3の期、すなわち増殖期に向かう移行において重大な役割を果たす(Mosser, D.M. and Edwards, J.P., Nat Rev Immunol 8:958-969 (2008))。VEGFの分泌は、血管形成およびリンパ血管形成の両方を誘導および安定化して、栄養素ならびに細胞性化合物(たとえばケラチノサイトおよび線維芽細胞)の十分な供給を確実にし、遊走および増殖の増強によって損傷組織を修復する。創傷治癒は、組織の完全性および機能がリモデリング期内で修復された際に完了する。
【0004】
皮膚創傷と同様、潰瘍性結腸炎(UC)およびクローン病(CD)などの炎症性腸疾患(IBD)を患っている患者において典型的に観察されるものなどの腸管上皮傷害は、腸管の免疫恒常性を壊し、重篤な腸炎を誘導することによって物理的ストレスを引き起こす。現在では、これらの病理学において、腸管バリアの完全性の損失における最初のきっかけは環境因子であることが想定されている(Galvez, J., ISRN Inflamm 2014, 928461 (2014)、Kiesler, P. et al., Cell Mol Gastroenterol Hepatol 1:154-170 (2015))。さらに、管腔の生物またはその産物の、粘膜内への侵襲が、エフェクターサイトカインに駆動される慢性および再発性の胃腸(GI)管の炎症のきっかけをつくることは、十分に文書化されている(Galvez, J., ISRN Inflamm 2014, 928461 (2014)、Kiesler, P. et al., Cell Mol Gastroenterol Hepatol 1:154-170 (2015)、Nenci, A. et al., Nature 446:557-561 (2007)、Friswell, M. et al., Gut Liver 4:295-306 (2010))大規模な研究により、この理由の1つが、正常なミクロフローラの未知の構成成分に対する応答としての、炎症誘発性および抗炎症性プロセスの粘膜調節における欠陥にあることも明らかにされている(Galvez, J., ISRN Inflamm 2014, 928461 (2014))。浸潤性免疫細胞は常在のマクロファージおよび上皮細胞よりも細菌抗原に感受性であるため、炎症の過程中、浸潤性免疫細胞は炎症組織に損傷を与え続ける(Nenci, A. et al., Nature 446:557-561 (2007)、Sartor, R.B., Nat Clin Pract Gastroenterol Hepatol 3:390-407 (2006)、Reaves, T.A. et al., Mem Inst Oswaldo Cruz 100(Suppl 1):191-198 (2005))。さらに、微生物要因および乱れた上皮細胞機能がこれらの過剰な免疫応答を支援する場合がある。したがって、IBDの病原的概念は、古典的自己免疫疾患から進行性および破壊的特徴を有する複雑なバリア障害へと変化している(Kiesler, P. et al., Cell Mol Gastroenterol Hepatol 1:154-170 (2015)、Neurath, M., Nat Rev Gastroenterol Hepatol 14:688 (2017))。
【0005】
腸管創傷治癒は、粘膜傷害の際に即座に開始される、様々な時間協調的な事象を含む。傷害後の数分以内に、創傷治癒に必要かつ重大なステップ、いわゆる上皮の復旧(restitution)が起こる。このプロセスは、傷害を受けた組織内への腸管上皮細胞(IEC)の遊走を刺激し、したがって、細胞増殖のプロセスに対して独立して作用する(Neurath, M.F., Mucosal Immunol 7:6-19 (2014))。上皮の復旧プロセス内では、トランスフォーミング成長因子α(TGF-α)、インターロイキン-1ベータ(IL-1β)、および上皮成長因子(EGF)、インターフェロンガンマ(IFN-γ)(Dignass, A.U. and Podolsky, D.K., Gastroenterology 105:1323-1332 (1993))、ならびにRhoファミリーのGTPase(Hall, A., Biochem Soc Trans 33:891-895 (2005))などの様々な分子が、IEC中におけるTGF-β1の発現を促進することによって有益な制御効果を有することが既に同定されている(Neurath, M.F., Mucosal Immunol 7:6-19 (2014))。興味深いことに、続くIEC増殖および分化の制御プロセスは、これらの機構は厳しく制御する必要があるため、IL-6、TNF-α、および血小板由来成長因子(PDGF)などに強く依存している。この次の期は、初期破壊後の数時間または数日以内に始まり、粘膜創閉鎖に必須である。この観点から、IL-6およびIL-22などの様々な成長因子およびサイトカイン、ならびにトール様受容体(TLR)リガンドは、特異的転写因子(TF)の誘導によってIEC中における細胞の増殖、拡大、および生存をブーストするために十分である一方で、IFN-γおよびTNFなどの炎症誘発性サイトカインは、これらのシグナル伝達カスケードを対抗調節(counter-regulate)するために必須である。さらに、TLR2、TLR4、およびTLR9などの様々なTLRは、複数の研究によって創傷治癒の決定的な制御因子を反映すると同定されている(Jin, F.Y. et al., Cell 88:417-426 (1997))。
【0006】
以前は成熟樹状細胞(DC)上で発現される成熟マーカーとしてのみ知られていたCD83分子は、自己免疫疾患および移植モデルの防止および処置の文脈において有望な免疫調節特性が明らかにされている(Royzman, D. et al., Front Immunol 10:633 (2019)、Zinser, E. et al., J Exp Med 200:345-351 (2004)、Ge, W. et al., Transplantation 90:1145-1156 (2010)、Lan, Z. et al., Transplantation 90:1286-1293 (2010)、国際公開第WO04/046182号パンフレット)。
【0007】
今日では、TおよびB細胞、制御性T細胞(Treg)、マクロファージ、ならびに他のものを含むいくつかの免疫細胞種が、報告によれば細胞機能に重大であるCD83を発現することが記載されている(Li, Z. et al., Front Immunol 10:1312 (2019)およびGrosche, L. et al., Front Immunol doi: 10.3389/fimmu.2020.00721 (2020))。たとえば、Doebbelerらは、CD83発現がTregの発生および安定性に必須であること、ならびにTreg特異的条件的CD83ノックアウトを有するマウスはその寛容原性機能が妨害されており、かなり炎症性の環境を提供することを報告している(Doebbeler, M. et al., JCI Insight 3 (2018))。DC上では、CD83の非存在は、共刺激分子CD25およびOX40Lの発現の顕著な増加、続いてT細胞活性化の増強をもたらした(Wild, A.B. et al., JCI Insight 4 (2019))。注目すべきは、どちらのマウスモデルも、悪化したEAE重篤度と共に神経炎症の消散の遅延を明らかにしたことである(Doebbeler, M. et al., JCI Insight 3 (2018)、Wild, A.B. et al., JCI Insight 4 (2019))。
【0008】
しかし、根底にある機構は、Horvatinovitschらが、sCD83がMD2-TLR4複合体と結合し、PBMC上のsCD83の相互作用パートナーを表すと記載するまで不明のままであった。この相互作用は、長期的には、炎症誘発性TLR媒介性のシグナル伝達カスケードを阻害し、代替抗炎症性環境を誘導する(Horvatinovich, J.M. et al., J Immunol 198:2286-2301 (2017))。興味深いことに、sCD83投与の際、上述のように皮膚創傷に重大であるIL-6の発現が単球中で強く誘導される。さらに、Bockらは、sCD83の全身施用、および治療上さらにより重要である局所的施用も、高リスク移植モデルにおいてTregおよびIDO媒介性機構で臓器許容を増強することを実証している(Bock, F. et al., J Immunol 191:1965-1975 (2013))。実際、移植はしばしば重篤な組織損傷および創傷を伴い、合併症が許容および治癒の過程に大幅な影響を与える場合がある。免疫抑制剤を用いた薬物療法は一方では臓器拒絶を防止するが、他方では創傷治癒障害をもたらし、長期的には移植許容および機能に影響を与える(Roine, E. et al., Transplant Proc 42:2542-2546 (2010))。この文脈において、米国特許出願公開第2011/0182903号明細書および国際公開第2013/006505号パンフレットはsCD83の使用を開示しており、国際公開第2013/006505号パンフレットでは、sCD83は自己免疫疾患の処置のためのそれぞれFc-CD83融合タンパク質およびCD83抗体である。国際公開第2013/006505号パンフレットは、その実施例1~9中に、自己免疫疾患の文脈におけるFc-CD83融合タンパク質およびsCD83タンパク質の抗炎症効果も記載している。可溶性CD83がたとえば心臓同種移植片拒絶を防止する寛容原性DCを誘発すると報告されている移植実験、および自己免疫疾患の処置に対する、報告されている有益効果以外に、本研究の目的は、2つのマウスモデルを使用して創傷治癒に関するsCD83の治療的潜在性を解明することであった。これは、(i)DSS誘導性結腸炎モデルおよび(ii)機械的に誘導した皮膚傷害に対する研究を含む。
【0009】
さらに、毛再生に対するsCD83の影響に関するデータを提供する。脱毛は生命を危うくする障害ではないが、患者の生活の質に著しい影響を与える場合があり、より高い不安および鬱病の有病率に関連している(Baghestani, S. et al., Dermatol Reports 7:6063 (2015))。脱毛症は、様々な病状およびトリガー、たとえば、瘢痕脱毛症、アンドロゲン性脱毛症、円形脱毛症、およびその他いくつかのものに分けることができる(Phillips, T.G. et al., Am Fam Physician 96:371-378 (2017))。最も一般的な脱毛の形態(アンドロゲン性脱毛症)は遺伝的素因およびホルモン不均衡に関連しており、これは続いて、より短い発毛期(成長期)をもたらす一方で休止期(毛嚢休止状態)の長さがかなり延長され、それによって1回の毛サイクル毎に毛の長さが減る((Ellis, J.A. et al., Expert Rev Mol Med 4:1-11 (2002)、Courtois, M. et al., Skin Pharmacol 7:84-89 (1994))。さらに、化学療法および免疫抑制剤(たとえばメトトレキサート)などの強力な薬物療法が多数の患者において重篤な脱毛症を引き起こす(Trueb, R.M., Skin Therapy Lett 15:5-7 (2010)、Lukasik, A. et al., Pol Merkur Lekarski 46:77-79 (2019))。
【0010】
現在までに、脱毛の医療は2つのFDA認可薬、すなわちミノキシジルおよびフィナステリドに限定されており(Lee, S.W. et al., J Drugs Dermatol 17:457-463 (2018))、ミノキシジルでは2019年に8億6千万米ドルの年間売上高であった(https://www.marketwatch.com/press-release/at-47-cagr-minoxidil-market-size-is-expected-to-reach-1130-million-by-2024-2019-04-29)。ミノキシジルの効果は、その増強された血管拡張特性および真皮乳頭細胞中でのVEGFの誘導に基づいており、これは続いて局所的血管化および栄養供給を増加させると仮定されている(Messenger, A.G. and Rundegren, J., Br J Dermatol 150:186-194 (2004))。対照的に、フィナステリドの投与は、脱毛症患者における成長期の省略を逆転させることよって成長期対休止期の比を増加させる(Shapiro, J., and Kaufman, K.D., J Investig Dermatol Symp Proc 8:20-23 (2003))。機構的には、フィナステリドは、ステロイド-5αリダクターゼ2型を選択的に拮抗することによってジヒドロテストステロンの形成を防止する(Finn, D.A. et al., CNS Drug Rev 12:53-76 (2006))。ここでは、ジヒドロテストステロンは、遺伝学的に決定された毛嚢感度を有する患者において顔面および生殖器領域の発毛を刺激する一方で、頭皮上の脱毛を促進するため、その役割は大いに議論の余地がある(Urysiak-Czubatka, I. et al., Postepy Dermatol Alergol 31:207-215 (2014))。フィナステリドによるジヒドロテストステロンレベルの低下は、男性患者の3分の2において、男性アンドロゲン性脱毛症の進行を遅くし、部分的な毛の再成長を伴う(Van Neste, D. et al., Br J Dermatol 143:804-810 (2000))。しかし、様々な研究によれば、フィナステリド治療は勃起機能不全、男性不妊症、および女性化乳房などの重篤な副作用に関連している(Traish, A.M. et al., J Sex Med 8:872-884 (2011)、Ramot, Y. et al., Int J Trichology 1:27-29 (2009))。しかし、どちらの薬物療法(ミノキシジルおよびフィナステリド)も生涯にわたる投与を必要とし、薬物療法が少しでも成功している場合でも先行する脱毛症を完全に逆転させるのではなく、どちらかと言えばさらなる禿頭症を防止する。
【発明の概要】
【0011】
皮膚および腸管のどちらの創傷治癒も、非常に繊細かつ多因子性のプロセスであり、わずかな変化が創閉鎖、瘢痕形成、または線維症の遅延をもたらし得る。一般に、創傷治癒は、そのそれぞれがそれぞれユニークな細胞およびサイトカインプロフィールによって特徴づけられている4つの主要な期、すなわち、止血、炎症、再上皮化、およびリモデリングへと分けることができる。特に、たとえばコルチコステロイドまたはサイトカイン阻害性生物学的製剤による薬物療法、たとえば抗IL-6および抗TNFα抗体治療は、炎症反応を抑制し、創閉鎖の進行に有害な影響を与え、それによって不快感および感染症に対する脆弱性の増加をもたらす。したがって、新規かつより有効な治療的創傷ケア戦略が必須である。一般的に使用されている免疫抑制剤と鋭く対照的に、可溶性CD83(sCD83)分子は免疫調節特性を有しており、現在までに注目すべき有害作用はまったくなしに、腎臓、皮膚、心臓、および高リスク角膜移植を含む数々の移植モデルにおいて非常に有効であることが示されている。ここでは、sCD83の投与は、制御性T細胞(Treg)の誘導によって特徴づけられた免疫調節環境を、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)依存性の様式で誘導した。他の細胞の中でとりわけ、Tregは創傷治癒プロセスにおいて重大な役割を果たすため、本発明者らはこれらの事象中におけるsCD83の役割を調査した。特筆すべきは、本発明者らは今回初めて、sCD83の全身性投与および最も注目すべきことに局所的投与も、前臨床皮膚創傷モデルにおいて創傷治癒を促進する/改善させることを示した。さらに、DSS誘導性結腸炎モデルを使用して、本発明者らはこの特定の腸管創傷治癒モデルにおいても創傷治癒を改善させることができた。どちらの事例においても、創閉鎖はsCD83で処置したマウスにおいて有意に加速されていた。機構的には、sCD83で処置した動物において、炎症誘発性サイトカイン、たとえば、IL-1β、IFNγ、IL-17A、およびTNFαの一時的発現は、炎症期中に強く増加し、後の段階で低下しており、より良好な創傷治癒と相関している。興味深いことに、皮膚内の細胞組成により、sCD83で処置したマウスの皮膚創傷においてBおよびT細胞の蓄積の増加が明らかとなり、これは、報告されている通り、たとえば線維芽細胞の、再上皮化およびリモデリング期中のより良好な細胞生存および増殖に寄与する。したがって、以下に提示するデータは、sCD83施用による、たとえば高齢患者、糖尿病患者、または免疫抑制薬物療法下の患者の治癒困難な創傷の将来の処置の選択肢の基礎を提供する。データは、全身性sCD83施用およびその局所的施用による、物理的ストレスおよび/または脱毛後の発毛の促進をさらに提供する。したがって、本発明は以下を提供する:
(1)皮膚、粘膜、および腸管の創傷の創閉鎖において使用するための、CD83タンパク質ファミリーのメンバーの可溶形(本明細書中で以降、「sCD83タンパク質」または「sCD83」と短く呼ぶ)、その断片、二量体もしくは三量体形態、および/または機能的誘導体、あるいは前記sCD83タンパク質、その断片、二量体もしくは三量体形態、および/または機能的誘導体を含む組成物、
(2)治療的発毛において使用するための、sCD83タンパク質、その断片、二量体もしくは三量体形態、および/または機能的誘導体、あるいは前記sCD83タンパク質、その断片、二量体形態、および/または機能的誘導体を含む組成物;
(3)組成物をヒトまたは動物の皮膚または毛に全身または局所的施用することを含む方法であって、前記組成物がsCD83タンパク質、その断片、二量体もしくは三量体形態、および/または機能的誘導体を含む方法、
(4)皮膚、粘膜、および腸管の創傷の創閉鎖のための治療的方法であって、sCD83タンパク質、その断片、二量体もしくは三量体形態、および/または機能的誘導体、あるいはsCD83タンパク質、その断片、二量体もしくは三量体形態、および/または機能的誘導体を含む組成物を、そのような処置を必要としている患者に投与することを含む方法、ならびに
(5)発毛を誘導するための治療的方法であって、sCD83タンパク質、その断片、二量体もしくは三量体形態、および/または機能的誘導体、あるいはsCD83タンパク質、その断片、二量体もしくは三量体形態、および/または機能的誘導体を含む組成物を、そのような処置を必要としている患者に投与することを含む方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】皮膚創傷治癒が全身的にsCD83で処置したマウスにおいて増強されることを示す図である。(A)6mmのパンチを使用して創傷病変を誘導し、示した時点でカリパスによって創傷領域を評価した。(B)創閉鎖の百分率は0日目の値と比較して設定し、sCD83およびニセはn≧12匹であった。(C)ImageJを使用して、各群についてn≧10匹を用いて、ビメンチン発現を3日目および6日目にWBによって分析し、β-アクチン対照と比較して定量した(左側)。sCD83およびニセ処置した6日目の皮膚試料のWB分析からの、代表的なビメンチンおよびβ-アクチンのバンド(右側)。(D)各群についてn=3匹を用いた、3日目および6日目の創傷周縁部内の細胞組成のフローサイトメトリー分析。データは平均±SEMとして例示し、二元配置ANOVA(B)およびマン-ホイットニー(C)および対応のない複数t検定(D)を使用して統計的に分析した。アスタリスクは統計的有意差を印す(p<0.05および**p<0.01)。アスタリスクの非存在は統計的有意性がないことを示す。
図2】sCD83が炎症期および創傷治癒期を変調することを示す図である。RNAを創傷組織から示した時点で単離し、qPCR-分析に使用した。各群についてn≧5匹。データは平均±SEMとして例示し、二元配置ANOVAを使用して統計的に分析した。アスタリスクは統計的有意差を印す(p<0.05および**p<0.01)。アスタリスクの非存在は統計的有意性がないことを示す。
図3】局所的sCD83施用が局所的創傷治癒を誘導することを示す図である。6mmのパンチを使用して創傷病変を設定し、直径をカリパスによって示した時点で測定した。(A+B)創閉鎖の百分率は0日目の値と比較して設定し、それぞれの群についてn=10匹を用いた。(C)7日目の試料の代表的な組織学的分析。(D)4℃で10日間後のsCD83ヒドロゲルマトリックスのウエスタンブロット分析は、sCD83タンパク質の安定性を実証している。データは平均±SEMとして例示し、二元配置ANOVAを使用して統計的に分析した(B)。アスタリスクは統計的有意差を印す(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、および****p<0.0001)。アスタリスクの非存在は統計的有意性がないことを示す。
図4】腸管創傷治癒がsCD83で処置したマウスにおいてDSS誘導性結腸炎の回復期中に加速されることを示す図である。(A)22日間の期間にわたる体重減少の平均百分率。4つの独立した実験のうちの、1つの代表的な実験を示す。(B)9、16、および22日目の結腸長のcmの測定。平均±SEMを示し、PBS群はn=13/11/8匹、sCD83群はn=13/9/8匹、対照群はn=8/4/4匹のマウス/群(9、16、22日目)であり、4つの独立した実験からのプールしたデータである。以下による、9、16、および22日目の結腸炎重篤度および腸炎の評価:(C)高分解能内視鏡検査、PBS群はn=13/8/8匹、sCD83群はn=13/7/8匹、対照群はn=8/4/4匹のマウス/群、平均±SEM、(D、E)H&E染色した結腸組織切片の評価、PBS群はn=13/11/8匹、sCD83群はn=13/9/8匹、対照群はn=8/4/4匹のマウス/群、平均±SEM。統計分析(B、C、E):通常一元配置ANOVA、チューキー多重比較検定、P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。
図5-1】DSSで誘発したマウスのsCD83処置が、増強された炎症反応およびより速い腸管創傷治癒プロセスを介してその回復を加速させたことを示す図である。RNAを、結腸組織から(A)9日目および(B)16日目に、Ifng、Il1b、Il6、Tnfa、Cox2、Ccl2、Chil3、およびIl17aを含む特定の遺伝子転写物のリアルタイムqPCRを使用した分析のために、単離した。平均±SEMを示し、PBS群はn=13/11匹、sCD83群はn=13/9匹、対照群はn=8/4匹のマウス/群(9日目/16)であり、4つの独立した実験からのプールしたデータであり、データをHPRTに対して正規化し、対照群の平均に対して相対化した。統計分析:通常一元配置ANOVA、チューキー多重比較検定、有意な異常値はRによって決定した。
図5-2】DSSで誘発したマウスのsCD83処置が、増強された炎症反応およびより速い腸管創傷治癒プロセスを介してその回復を加速させたことを示す図である。RNAを、結腸組織から(A)9日目および(B)16日目に、Ifng、Il1b、Il6、Tnfa、Cox2、Ccl2、Chil3、およびIl17aを含む特定の遺伝子転写物のリアルタイムqPCRを使用した分析のために、単離した。平均±SEMを示し、PBS群はn=13/11匹、sCD83群はn=13/9匹、対照群はn=8/4匹のマウス/群(9日目/16)であり、4つの独立した実験からのプールしたデータであり、データをHPRTに対して正規化し、対照群の平均に対して相対化した。統計分析:通常一元配置ANOVA、チューキー多重比較検定、有意な異常値はRによって決定した。
図6】毛の再成長がsCD83で処置したマウスにおいてブーストされることを示す図である。(A)sCD83処置(n=4匹)およびニセ処置(n=5匹)したマウスからの代表的な写真。(B)示したマウスの背面領域全体に対する毛のない領域の、ImageJを使用した定量。データは平均±SEMとして例示し、マンホイットニーによって統計的に分析した。必要な場合は、アスタリスクはp<0.05.OUT方法の統計的有意差を表す(Q=0.1%)。
図7】TregがsCD83誘導性の毛の再成長において中心的役割を果たすことを示す図である。(A)CD4/Foxp3Treg細胞を評価するための、MELC技法(Eckhardt, J. et al., J Histochem Cytochem 61:125-133 (2013))を使用した顕微鏡分析、ならびに(B)qPCR分析(sCD83はn=10匹およびニセはn=9匹)を、背側皮膚生検を使用して、脱毛の31日後に行った。データは平均±SEMとして例示し、マンホイットニーを使用して統計的に分析した。アスタリスクは統計的有意差を印す(p<0.05)。
図8】毛の再成長がsCD83で処置したマウスにおいて皮膚創傷治癒中にブーストされたことを示す図である。創傷病変の誘導の前、背側の毛を脱毛によって除去した。8mmの皮膚生検パンチを使用して創傷を負わせた。発毛スキームによって要約されるように、sCD83で処置したマウスにおける増強された毛の再成長は、7日目の暗い皮膚色によって表される(左側)。皮膚色素沈着の定量は、ImageJソフトウェアおよびRBG測定プラグインを使用して行った。低いRBG値はより暗い皮膚の色調を表す。
図9】sCD83が休止期から成長期への移行の際に発毛を促進することを示す図である。sCD83およびニセで処置したマウスにおいて背側皮膚の毛を脱毛し、14日目に画像を記録した。赤色の丸はニセマウスにおける薄い毛の領域を強調しており、これはsCD83群には存在しない(上部)。毛の密度の定量は、ImageJソフトウェアおよびRBG測定プラグインを使用して行った。sCD83で処置したマウスにおいて、より低いRBG値によって表されるように、濃い背側の毛が蒼白なマウス皮膚を覆っている(下部)。
図10】局所的投与の際に睫毛の数が増加することを示す図である。睫毛の成長に関するsCD83の効果を評価するために、7μgのsCD83を局所的に1日3回、2週間の間施用した。同様の体積のPBSを対照として施用した。14日目に、眼瞼を取り出し、睫毛の数を2人の独立した調査員によって決定した(sCD83はn=9匹およびニセはn=14匹)。データは平均±SEMとして例示し、マンホイットニーを使用して統計的に分析した。アスタリスクは統計的有意差を印し、**は<0.01のp値を表す。
図11】ピー・パストリス(P. pastoris)フラスコ培養物からのsCD83の産生および精製の流れ図である。N6HIS-sCD83-pPIC9K形質転換ピー・パストリス(P. pastoris)の単一コロニーを、緩衝グリセロール複合培地中で72時間培養した。それ以降、細胞を緩衝メタノール複合発現培地にさらに72時間移した。6日目に、培養上清を遠心分離および濾過によって収集し、続くNi-NTAアフィニティークロマトグラフィーを介したHisタグsCD83精製を行った。sCD83を12mlの溶出緩衝液中で溶出させ、終夜4℃で保存した。翌日、脱塩手順をHiPrep精製によって行い、内毒素汚染をvivapureシステムによって除去した。最後に、タンパク質を滅菌濾過し、タンパク質収率をBCA方法によって決定した。sCD83アリコートを-80℃で保存した。
図12】pPIC9K発現ベクターを示す図である。実施例3において使用するpPIC9K発現ベクターの機能的な配列および要素である。
図13】皮膚創傷治癒の進行が、sCD83-Fc融合タンパク質で処置したマウスと比較して、全身的にsCD83で処置したマウスにおいて有意に増強されたことを示す図である。実施例4の結果:マウスを、1日用量の100μgのsCD83と融合したヒトIgG1のFc領域のN末端(sCD83-Fcと呼ばれる、Creative Biomart-CD83-150H)(四角、n=10匹)、sCD83(三角、n=10匹)、または生理食塩水(中黒、n=12匹)を使用して全身処置した。創傷領域は、0、3、および6日目にカリパスを使用して測定し、創閉鎖は、0日目の値と比較して3および6日目について決定した。データは単一値±SEMを用いた平均として示す。統計的有意性は二元配置ANOVAを使用して評価した。アスタリスクは統計的有意差を印す(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、および****p<0.0001)一方で、「ns」は統計的有意性がないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態(1)によれば、CD83タンパク質ファミリーのメンバーの可溶形、その断片、またはその機能的誘導体を、創傷治癒における使用のために使用し得る。CD83タンパク質は、上で言及した国際公開第04/046182号パンフレット中に開示されているsCD83タンパク質、すなわち、配列番号2の少なくともアミノ酸残基20~144または20~145を含むsCD83タンパク質であり得る。適切な断片は、天然CD83と同じ活性およびコンホメーションを有するものである。sCD83の適切な誘導体としては、10個までのアミノ酸がsCD83タンパク質のCもしくはN末端に付着しているタンパク質、および/またはsCD83の10個までのアミノ酸、好ましくは1~5個のアミノ酸が置換されているタンパク質が挙げられる。具体的には、適切な誘導体としては、それだけには限定されないが、付加配列がそのCまたはN末端に付着しているタンパク質が挙げられ、たとえば、膜貫通ドメインの一部をそのC末端に保有するもの、またはそのN末端に短い機能的なペプチド(Gly-Ser-Pro-Gly)を保有するものを使用し得る。
【0014】
同様の様式で、これらのタンパク質またはその断片をコードしている核酸またはベクターを創傷治癒のために使用し得る。具体的には、配列番号1のヌクレオチド58~432、より好ましくは58~435を含むDNA配列を使用し得る。
【0015】
用語CD83タンパク質ファミリーの「可溶形」とは、本明細書中において、CD83タンパク質ファミリーのメンバーの細胞外ドメインの少なくとも一部分を有するが、前記分子をそれが発現される細胞の膜に固定することができるアミノ酸配列を有さない、タンパク質分子を定義するために使用する。ヒトCD83タンパク質をコードしている核酸配列およびCD83のアミノ酸配列はZhou, L.J. et al. (1992) J. Immunol. 149(2):735-742中に記載されており(Genbank受託番号Z11697)、それぞれ配列番号1および配列番号2中に提供されている。
【0016】
本明細書中に定義するように、CD83タンパク質ファミリーのメンバーとしては、配列番号2に示すヒトCD83と少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%以上のアミノ酸同一性を有する任意の天然に存在するタンパク質が挙げられる。
【0017】
したがって、ヒトCD83自体以外では、CD83タンパク質ファミリーのメンバーとしては、配列番号3の核酸配列によってコードされており、配列番号4に提供するアミノ酸配列によって表される、マウスHB15タンパク質が挙げられる(Genbank受託番号NM_009856(Berchtholdら))。
【0018】
CD83タンパク質ファミリーの他の天然に存在するメンバーは、たとえばヒトCD83コード領域またはマウスHB15コード領域の全部または細胞外部分を含む核酸を、他の動物、好ましくは哺乳動物から、または同じ生物の他の組織からの核酸(ゲノムDNA、cDNA、RNA)の様々な供給源とハイブリダイズさせることによって、得ることができる。
【0019】
ハイブリダイゼーションとは、相補的核酸配列(たとえば、センス/アンチセンス、siRNAなど)間の結合をいう。当業者には知られているように、T(融解温度)とは、配列間の結合がもはや安定でなくなる温度をいう。本明細書中で使用する用語「選択的ハイブリダイゼーション」とは、中等度にストリンジェントまたは高度にストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションをいい、これはCD83関連のヌクレオチド配列を非関連の配列から区別することができる。
【0020】
核酸ハイブリダイゼーション反応では、特定のストリンジェンシーレベルを達成するために使用する条件は、ハイブリダイズさせる核酸の性質に応じて変動するであろう。たとえば、ハイブリダイズ領域の長さ、配列相補性の度合、配列組成(たとえばGC対AT含有率)、および種類(たとえばRNA対DNA)を、特定のハイブリダイゼーション条件の選択において考慮することができる。さらなる考慮事項は、核酸のうちの1つが、たとえばフィルター上に固定されているかどうかである。
【0021】
一般に、ナトリウムイオンが減少し、ハイブリダイゼーション反応の温度が増加するに伴って、核酸ハイブリッドの安定性は減少する。中等度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション反応の一例は以下の通りである:2×SSC/0.1 SDSを約37℃または42℃で(ハイブリダイゼーション条件)、0.5×SSC/0.1%のSDSを約室温で(低いストリンジェンシー洗浄条件)、0.5×SSC/0.1%のSDSを約42℃で(中等度のストリンジェンシー洗浄条件)。高いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件の一例は以下の通りである:2×SSC/0.1%のSDSを約室温で(ハイブリダイゼーション条件)、0.5×SSC/0.1%のSDSを約室温で(低いストリンジェンシー洗浄条件)、0.5×SSC/0.1%のSDSを約42℃で(中等度のストリンジェンシー洗浄条件)、および0.1×SSC/0.1%のSDSを約65℃で(高いストリンジェンシー条件)。
【0022】
典型的には、所望のストリンジェンシー度合を達成するために洗浄条件を調節する。したがって、ハイブリダイゼーションストリンジェンシーは、たとえば、特定の条件、たとえば低いストリンジェンシー条件もしくは高いストリンジェンシー条件で洗浄することによって、または、条件のそれぞれを、たとえば10~15分間ずつ、上に列挙した順序で使用し、列挙した任意もしくはすべてのステップを繰り返すことによって、決定することができる。選択的ハイブリダイゼーションに最適な条件は、関与している具体的なハイブリダイゼーション反応に応じて変動し、経験的に決定することができる。
【0023】
天然に存在するCD83タンパク質をコードしている核酸がクローニングされた後、細胞外ドメインは、既知のCD83分子の細胞外ドメインをクローニングしたCD83配列のものと比較することによって決定することができる。その後、所定の天然に存在するCD83タンパク質の可溶形を、本明細書中に記載の技法を使用して組換え発現させることができる。たとえば、本明細書中に記載されており、さらに当分野で知られている周知の技法を使用して、CD83の可溶形をコードしている核酸を生成し、ベクター内に挿入し、原核または真核宿主細胞内に形質転換させることができる(Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, N.Y.,1989)。
【0024】
したがって、細菌系中でクローニングする場合、T7などの構成的プロモーター、ならびにバクテリオファージXのπ、plac、ptrp、ptac(ptrp-lacハイブリッドプロモーター)などの誘導性プロモーターを使用し得る。哺乳動物細胞系中でクローニングする場合、SV40、RSV、CMV-IEを含めたCMVなどの構成的プロモーター、または哺乳動物細胞のゲノムに由来する誘導性プロモーター(たとえばメタロチオネインプロモーター)もしくは哺乳動物ウイルスに由来する誘導性プロモーター(たとえば、マウス乳癌ウイルス末端反復配列、アデノウイルス後期プロモーター)を使用し得る。組換えDNAまたは合成技法によって生成したプロモーターは、本発明の核酸配列の転写を提供するためにも使用し得る。
【0025】
発現を指揮するために組換えウイルスまたはウイルス要素を利用する哺乳動物発現系をエンジニアリングし得る。たとえば、アデノウイルス発現ベクターを使用する場合、目的核酸を、アデノウイルス転写/翻訳制御複合体、たとえば後期プロモーターおよび三者間リーダー配列(tripartite leader sequence)とライゲーションさせ得る。あるいは、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーターを使用し得る。
【0026】
特に興味深いものは、染色体外要素として複製する能力を有するウシパピローマウイルス(BPV)に基づくベクターである。染色体外ベクターがマウス細胞内に移行したすぐ後に、ベクターは1個の細胞あたり約100~200個のコピーまで複製される。挿入されたcDNAの転写は、宿主の染色体内へのプラスミドの組込みを必要としないため、高レベルの発現が起こる。これらのベクターは、たとえばneo遺伝子などの選択マーカーをプラスミド中に含めることによって、安定発現のため使用することができる。あるいは、レトロウイルスゲノムを、宿主細胞中における目的核酸の発現を導入および指揮することができるベクターとして使用するために、改変することができる。また、高レベルの発現は、誘導性プロモーターを使用して達成してもよく、それだけには限定されないが、メタロチオネインRAプロモーターおよび熱ショックプロモーターが挙げられる。
【0027】
酵母では、構成的または誘導性プロモーター、たとえばpPIC9Kを含有するいくつかのベクターを使用し得る。ADHもしくはLEU2などの構成的酵母プロモーターまたはGALなどの誘導性プロモーターを使用し得る。あるいは、たとえば相同組換えを介して酵母染色体内への外来核酸配列の組込みを促進するベクターが当分野で知られており、使用することができる。
【0028】
本発明による使用のための、CD83タンパク質ファミリーのメンバーの可溶形をコードしている目的核酸を、in vitroでの発現のために発現ベクター内に挿入し得る(たとえばin vitro転写/翻訳アッセイもしくは市販のキットを使用して)、または、適切な核酸を適切な細胞内に転移させることによって原核生物もしくは真核生物(たとえば昆虫細胞)のどちらか中における転写および/もしくは翻訳を促進するプロモーター配列を含有する発現ベクター内に挿入し得る。ベクターを増殖させ、その核酸を転写させるまたはコードされているポリペプチドを発現させることができる細胞を、本明細書中で「宿主細胞」と呼ぶ。
【0029】
この用語は、対象宿主細胞のすべての子孫も含む。さらに、本発明による目的核酸は、体細胞遺伝子療法のために、in vivoでの発現のための発現ベクター内に挿入され得る。これらのベクター、たとえば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、プラスミド発現ベクターでは、本発明の核酸は、免疫細胞、幹細胞、内皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、およびケラチノサイトなどの特定の細胞内へのベクターの感染/導入の際に発現される。
【0030】
宿主細胞としては、それだけには限定されないが、細菌などの微生物、酵母、昆虫、および哺乳動物生物が挙げられる。たとえば、目的核酸を含有する組換えバクテリオファージ核酸、プラスミド核酸、またはコスミド核酸発現ベクターを用いて形質転換させた細菌、目的核酸を含有する組換え酵母発現ベクターを用いて形質転換させた酵母、目的核酸を含有する組換えウイルス発現ベクター(たとえば、カリフラワーモザイクウイルスCaMV、タバコモザイクウイルスTMV)を用いて感染させたもしくは組換えプラスミド発現ベクター(たとえばTiプラスミド)を用いて形質転換させた植物細胞系、目的核酸を含有する組換えウイルス発現ベクター(たとえばバキュロウイルス)を用いて感染させた昆虫細胞系、または目的核酸を含有する組換えウイルス発現ベクター(たとえば、レトロウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス)を用いて感染させた動物細胞系、もしくは安定発現のために操作した、形質転換させた動物細胞系である。
【0031】
宿主細胞中におけるCD83タンパク質ファミリーのメンバーの可溶形の長期的発現には、安定発現が好ましい。したがって、ウイルス複製起点を含有する発現ベクターを使用して、たとえば、細胞を、適切な制御要素(たとえば、プロモーター/エンハンサー配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位など)によって制御される目的核酸を用いて形質転換させることができる。任意選択で、発現ベクターは、選択圧に対する耐性を与える選択可能または同定可能なマーカーをコードしている核酸も含有することができ、それによって、ベクターを有する細胞を同定し、成長させ、および拡大させることが可能となる。あるいは、選択可能なマーカーは、本発明のポリヌクレオチドを含有する第1のベクターと共に宿主細胞内に同時形質移入させる第2のベクターであることができる。
【0032】
それだけには限定されないが、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を含むいくつかの選択系を使用してよく、それぞれtk-、hgprt、またはaprt細胞中で用いることができる。さらに、代謝拮抗剤耐性を、メトトレキサートに対する耐性を与えるdhfr、ミコフェノール酸に対する耐性を与えるgpt遺伝子、アミノグリコシドG-418に対する耐性を与えるネオマイシン遺伝子、およびハイグロマイシンに対する耐性を与えるハイグロマイシン遺伝子の選択の基礎として使用することができる。さらなる選択可能な遺伝子、すなわち、細胞がインドールをトリプトファンの代わりに利用することを可能にするtrpB、細胞がヒスチノールをヒスチジンの代わりに利用することを可能にするhisD、およびオルニチン脱炭酸酵素阻害剤、2-(ジフルオロメチル)-DL-オルニチン、DFMOに対する耐性を与えるODC(オルニチン脱炭酸酵素)が記載されている。
【0033】
本明細書中で使用する用語「形質転換」とは、細胞にとって外因性であるDNAの取り込みの後の、細胞における遺伝的変化を意味する。したがって、「形質転換細胞」とは、DNA分子が組換えDNA技法によって導入されている細胞(またはその子孫)である。
【0034】
DNAを用いた宿主細胞の形質転換は、当業者に知られている慣用技術によって実施し得る。たとえば、宿主細胞が真核生物である場合、DNA形質転換方法としては、たとえば、リン酸カルシウム共沈殿、微量注入などの慣用の機械的手順、電気穿孔、リポソーム中に包まれたプラスミドの挿入、およびウイルスベクターが挙げられる。真核細胞はまた、目的核酸をコードしているDNA配列、および本明細書中に記載のものなどの、選択可能な表現型をコードしている第2の外来DNA分子を用いて同時形質転換させることもできる。別の方法は、シミアンウイルス40(SV40)またはウシパピローマウイルスなどの真核ウイルスベクターを使用して、真核細胞を一過性に感染させるまたは形質転換させ、タンパク質を発現させることである。
【0035】
形質転換の後、慣用方法に従ってCD83の可溶形を単離および精製し得る。たとえば、発現宿主(たとえば細菌)から調製した溶解物を、HPLC、サイズ排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、または他の精製技法を使用して精製することができる。実質的に純粋なタンパク質はまた、ペプチド合成器(たとえばApplied Biosystems,Inc.、カリフォルニア州Foster City、モデル430Aなど)を使用した化学合成によっても得ることができる。
【0036】
さらに、本発明の薬物療法において使用するためのsCD83タンパク質は、それぞれ国際公開第04/046182号パンフレットおよびHeilingloh, C.S. et al., JMB J Mol Biol. 429(8):1227-1243 (2017)に記載されている、CD83の可溶形の二量体または三量体構造であり得る。好ましくは、二量体または三量体構造はホモ二量体/三量体である。二量体化/三量体化は、可溶性CD83タンパク質の単量体形態内に存在するシステイン残基(これらは配列番号2中のアミノ酸12、27、35、100、107、129、163に存在する)間の1つもしくは複数のジスルフィド結合の形成を通じて、または、可溶性CD83タンパク質の単量体形態内の同じもしくは異なる官能基(たとえば、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基など)を接続する二官能性リンカー分子(たとえばジアミン、ジカルボン酸化合物など)によって、達成し得る。後者としては、ポリペプチドリンカー(たとえば、-[(Gly)Ser]-(式中、xはたとえば3または4であり、yはたとえば1~5である)などの小さな極性アミノ酸残基のもの)を使用して、組換え技法によって直接生成することができる二量体または三量体構造を得ることも挙げられる。
【0037】
特に好ましいものは、可溶性CD83の5番目のシステイン残基(すなわち、配列番号2中のアミノ酸129および配列番号8中のアミノ酸114に対応するシステイン残基)間のジスルフィド結合を介して接続されたホモ二量体(配列番号2のアミノ酸残基20~144または配列番号8の1~130を含むホモ二量体など)である。
【0038】
本発明において使用するためのsCD83タンパク質としては、1つまたは複数のアミノ酸が付加、欠失、置換、挿入、または反転している、上述の本発明によるCD83タンパク質ファミリーのメンバーの可溶形の誘導体も挙げられ、ただし、これらの誘導体は、上記定義したように可溶性であることが保たれ、治癒機能を示すことができる。また、これには本明細書中で上述したCD83化合物のスプライス変異体も挙げられる。
【0039】
特に好ましい付加は、本明細書中で上記定義した可溶性CD83タンパク質が、隣接する細胞内ドメインに由来する1つまたは複数のアミノ酸残基をそのC末端に有するものであり、好ましくは、可溶性CD83タンパク質は、配列番号2のアミノ酸残基20~145を含む、および/または、そのN末端に機能的な配列、好ましくは10個までのアミノ酸残基の機能的な配列が付着しており、最も好ましくは、N末端に追加のアミノ酸Gly-Ser-Pro-Glyもしくは6HISを保有する。
【0040】
CD83タンパク質ファミリーのメンバーの可溶形の1つまたは複数のアミノ酸が置換されている場合、1つまたは複数のアミノ酸が保存的に置換されていることが好ましい。たとえば、保存的置換としては、Met、Ile、Val、Leu、またはAlaなどの脂肪族アミノ酸残基が互いで置換されている置換が挙げられる。同様に、極性アミノ酸残基は、LysとArg、GluとAsp、またはGlnとAsnなど、互いで置換することができる。
【0041】
本発明において使用するためのsCD83タンパク質の具体的な置換突然変異タンパク質は、国際公開第04/046182号パンフレットに記載のように、sCD83タンパク質が、システイン残基のうちの1つまたは複数が同じまたは異なる短いおよび/または極性のアミノ酸残基によって置換されている単量体CD83タンパク質である。好ましくは、小さいおよび/または極性のアミノ酸残基は、セリン、アラニン、グリシン、バリン、スレオニンなどから選択され、好ましくはセリンである。さらに、1つのシステイン残基、より好ましくは5番目のシステイン残基が置き換えられていることが好ましい。最も好ましくは、可溶性CD83タンパク質は、129位のシステイン残基がセリン残基によって置き換えられている配列番号2のアミノ酸残基20~144、または配列番号10のアミノ酸残基1~130を含む。そのような定義された単量体分子は、製薬的応用において特別な重要性を有する。
【0042】
本発明によれば、CD83タンパク質の誘導体としては、それ中のアミノ酸のうちの1つまたは複数が変更された側鎖を有する誘導体も挙げられる。そのような誘導体化されたポリペプチドとしては、たとえば、遊離アミノ基が塩酸アミン、p-トルエンスルホニル基、カロベンゾキシ(carobenzoxy)基を形成するアミノ酸、遊離カルボキシ基が塩、メチル、およびエチルエステルを形成するアミノ酸、遊離ヒドロキシル基がO-アシルまたはO-アルキル誘導体を形成するアミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸誘導体、たとえば、プロリンでは4-ヒドロキシプロリン、リシンでは5-ヒドロキシリシン、セリンではホモセリン、リシンではオルニチンなどを含むものが挙げられる。また、共有結合を変更することができるアミノ酸誘導体、たとえば、環化ポリペプチドを生じる、2つのシステイン残基間で形成されるジスルフィド結合も挙げられる。
【0043】
sCD83タンパク質またはその誘導体は、CD83分子のネイティブグリコシル化パターンもしくは変更されたグリコシル化パターンを有することができる、またはグリコシル化されていなくてもよい、ただし、これらの分子は、上記定義した通りに可溶性であり、創傷治癒機能を示すことができるおよび/または毛の再成長を促進する。
【0044】
好ましい実施形態では、本発明において使用するためのsCD83は、配列番号2に示すヒトCD83タンパク質のアミノ酸20~アミノ酸144、より好ましくはアミノ酸20~145、または配列番号8のアミノ酸1~130を含む。
【0045】
さらに好ましい実施形態では、本発明において使用するためのsCD83は、配列番号4に示すマウスHB15タンパク質のアミノ酸22~135を含む。
【0046】
さらに好ましい実施形態では、本発明において使用するためのsCD83は、以下の実施例3に従って調製し、配列番号12に示す、N6HIS-sCD83タンパク質のアミノ酸8~133を含むヒトsCD83である。
【0047】
上述の本発明において使用するための核酸は、塩基アデニン、チミン、グアニン、およびシトシンを含有するDNA(デオキシリボ核酸)もしくは塩基アデニン、ウラシル、グアニン、およびシトシンを含有するRNA(リボ核酸)の形態、または両者の混合物であることができる。
【0048】
本発明において使用するための核酸分子がヒトCD83タンパク質に由来する場合、コード領域の一部分は、好ましくは、配列番号1中の配列のヌクレオチド58~432からのものである。あるいは、コード領域の一部分は、配列番号1中の配列のヌクレオチド58~435からのものである。
【0049】
本発明において使用するための核酸分子がマウスHB15タンパク質に由来する場合、コード領域の一部分は、好ましくは、配列番号3中の配列のヌクレオチド約76~418からのものである。
【0050】
本発明による使用のためのタンパク質をコードしている核酸は、ベクター内に挿入し得る。用語「ベクター」とは、ポリヌクレオチドの挿入または取り込みによって操作することができる、当分野で知られているプラスミド、ウイルス、または他のビヒクルをいう。そのようなベクターは、遺伝子操作のために使用することができる(すなわち「クローニングベクター」)、または挿入されたポリヌクレオチドを転写もしくは翻訳するために使用することができる(「発現ベクター」)。ベクターは一般に、少なくとも細胞中での増殖のための複製起点およびプロモーターを含有する。発現ベクター内に存在する、本明細書中に記載した発現制御要素を含む制御要素は、妥当な転写および翻訳を容易にするために含まれる(たとえば、イントロンのためのスプライシングシグナル、mRNAのインフレーム翻訳を可能にするための遺伝子の正しいリーディングフレームの維持、およびストップコドンなど)。用語「制御要素」は、最低でも、その存在が発現に影響を与えることができる1つまたは複数の構成成分を含むことを意図し、追加の構成成分、たとえばリーダー配列および融合パートナー配列をさらに含むことができる。
【0051】
創傷治癒において使用するための「組成物」は、sCD83タンパク質、もしくはその誘導体、またはそれをコードしている核酸とは別に、薬学的に許容される塩、緩衝剤、担体、賦形剤などを含み得る。これはまた、1つまたは複数の追加の薬学的活性のある化合物も含み得る。
【0052】
本発明の態様(1)の創傷治癒において使用するためのsCD83タンパク質または前記sCD83を含む組成物は、それだけには限定されないが、高齢患者、糖尿病患者、または免疫抑制剤もしくはコルチコステロイドの薬物療法下の患者の治癒困難な創傷を含む、皮膚および腸管創傷の加速された創閉鎖のための、sCD83の全身投与を含む。これはまた、局所に限定された創傷、慢性創傷(高齢患者、糖尿病患者、または免疫抑制剤もしくはコルチコステロイドの薬物療法下の患者の治癒困難な創傷)、および移植誘導性創傷を含む皮膚病変の創閉鎖のための、好ましくはゲルベースのsCD83溶液の形態での局所的投与も含む。
【0053】
本明細書中でここまでに提供した議論は、sCD83タンパク質またはsCD83タンパク質を含む組成物を、そのような処置を必要としている患者に投与することを含む、本発明の態様(4)の創傷治癒の治療的方法にも同等に適用される。特に、上記定義したsCD83タンパク質のうちの任意のものまたは前記sCD83タンパク質をコードしている核酸を、患者に投与し得る。具体的には、患者へのsCD83組成物の全身投与は、皮膚および腸管創傷の加速された創閉鎖を提供する一方で、好ましくはゲルベースのsCD83溶液の形態での局所的投与は、局所に限定された創傷および慢性創傷を含む皮膚病変の創閉鎖を提供する。
【0054】
本明細書中でここまでに提供した議論は、本発明の態様(2)の治療的発毛および本発明の態様(5)の発毛を誘導するための治療的方法において使用するための、sCD83タンパク質、その断片、二量体もしくは三量体形態、および/または機能的誘導体、あるいはそのようなsCD83タンパク質を含む組成物にも同等に適用される。治療的発毛は、物理的ストレス/薬物療法、疾患および/または脱毛後の全身性または局所的sCD83施用を含む。上記定義したsCD83タンパク質のうちの任意のものを局所的および全身性施用に使用してよく、全身性施用には、前記sCD83タンパク質をコードしている核酸も使用し得る。治療的発毛において使用するための「組成物」は、sCD83タンパク質、もしくはその誘導体、またはそれをコードしている核酸とは別に、薬学的に許容される塩、緩衝剤、担体、賦形剤などを含み得る。これはまた、1つまたは複数の追加の薬学的活性のある化合物も含み得る。
【0055】
本明細書中でここまでに提供した議論は、本発明の態様(3)の、組成物をヒトまたは動物の皮膚または毛に全身または局所的施用することを含む方法にも同等に適用される。組成物のsCD83タンパク質は本明細書中に上記定義した通りである。好ましい実施形態では、本方法はそれぞれ化粧および非治療的方法である。そのような化粧方法は、好ましくは発毛の加速、ならびにスキンケアおよびヘアケアのためのものである。方法が発毛を促進するための治療的方法である、別の好ましい実施形態では、態様(2)の上記議論も同等に適用される。態様(3)の方法において利用する「組成物」は、sCD83タンパク質、もしくはその誘導体、またはそれをコードしている核酸とは別に、化粧/皮膚科学的にまたは薬学的に許容される塩、緩衝剤、担体、賦形剤などをそれぞれ含み得る。
【0056】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、これは本発明を限定するものとして解釈されるべきでない。
【実施例
【0057】
材料および方法
マウス:雌C57BL/6マウス(8~10週齢)をCharles River Laboratories(Sulzfeld)から購入し、実験動物の飼育および使用に関する施設および国の指針に従って無病原体条件下で維持した。
【0058】
創傷治癒モデルの実験設計:0日目に、8~10週齢の雌CD57BL/6マウスに麻酔をかけ、6mmのパンチ(pfm medicals)を使用して創傷を誘導した。これらの皮膚試料を、続く分析のための0日目対照として使用した。2つの処置群、すなわち、(I)sCD83タンパク質、(II)sCD83-Fc融合タンパク質をこれらのin vivo実験に含めた。1日用量の、100μgのsCD83、100μgのsCD83と融合したヒトIgG1のFc領域のN末端(sCD83-Fcと呼ばれる、Creative Biomart-CD83-150H)、または対応する体積のPBSを、0日目から7日目まで腹腔内投与した。スコア付けの前に、痂皮を除去し、創傷領域をカリパスによって決定した(長さおよび幅)。生検を、以前の創傷領域の周りの8mmのパンチ(pfm medicals)としてそれぞれ3、6、7、および12日目に得て、試料を、組織学的分析のために4%のパラホルムアルデヒド(PFA)中に固定した、タンパク質抽出のために液体窒素中で急速凍結した、または続くRNA分析のためにRNAlater(Thermo Fisher Scientific)中に-80℃で保存した。局所的sCD83施用には、ヒドロゲルで安定化させたsCD83タンパク質の均一な堆積を確実にするために、背側の毛を脱毛によって除去した。この目的のために、マウスに麻酔をかけ、痂皮を除去し、50μgのsCD83ヒドロゲルを毎日塗布した。
【0059】
DSS誘導性結腸炎モデルの実験設計:8~10週齢の雌C57BL/6マウスを、3つの群、すなわち、対照、PBS、およびsCD83群へとランダムに分けた。それぞれの群を、様々な分析時点、すなわち9日目、16日目、および22日目を表す最大でさらに3つの群へと細分した。症状は、3%のDSSを含有する水道水を5日間与えることによって誘導した。さらにsCD83群では、それぞれのマウスは100μgのsCD83/日の腹腔内(i.p.)注射を6日間受けた。したがって、PBS群では、マウスは無菌的な100μlのPBS/日の腹腔内注射を受けた。臨床的モニタリングは、様々な分析時点に達した後の毎日の体重測定、麻酔したマウスにおける結腸炎活性の高解像度のビデオ内視鏡モニタリング、および動物の獣医学的安楽死後の結腸長の測定を含んでいた。動物を解剖して、mLNおよび結腸をさらなる分析のために使用した。したがって、遠位結腸部のおよそ1cmの切片を、ヘマトキシリンおよびエオシン(HE)染色のために4%のPFA中で固定し、光学顕微鏡下で評価した。mRNAレベルでの炎症性および抗炎症性パラメータの分析には、続く結腸セグメントの小片およびmLNを、液体窒素を使用してRNAlater溶液中で急速凍結し、-80℃で保存した。
【0060】
内視鏡スコアの評価:以前に記載されているように(Becker, C. et al., Nat Protoc 1:2900-2904 (2006)、Becker, C. et al., Gut 54:950-954 (2005))、およびE.Martini博士(エルランゲン大学病院医学部1(Department of Medicine 1、University Hospital Erlangen))の支援で、高解像度結腸モニタリング用の小型内視鏡を使用して結腸炎重篤度を評価した。マウスを、その便の硬さ、結腸壁の半透明性、血管増生、粒度、およびフィブリン蓄積に関して分析した。総合内視鏡重篤度スコアは最小で0から最大で15の範囲であり、それぞれが0~3のランクである個々のパラメータの単独スコアを合計することによって決定した。0~3の範囲の総合内視鏡スコアを有する対照動物を健康であるとみなした。
【0061】
ヒドロゲルの調製:sCD83ヒドロゲルは、4%(w/v)のヒドロキシエチルセルロース(Natrosol(登録商標)250 HX Pharm、Caelo)をsCD83溶液に加えることによって調製した。ヒドロキシエチルセルロースをsCD83水溶液の表面に分散させ、終夜ゲル化させた。ニセ(PBS)試料をまったく同じように調製した。さらに、化学的浸透促進剤(CPE)も使用することができる。
【0062】
皮膚生検からの細胞抽出:8mmの生検を3および6日目に単離し、手術用メスを使用して小片へと切断し、1mlのDMEM/F12(Thermo Fisher Scientific)を含有する1.5mlのチューブ内に移し、0.26WU/mlの最終濃度のLiberase TL(Sigma Aldrich)と混合した。試料を30分間、37℃、700rpmで、振盪インキュベーター上でインキュベートした。その後、懸濁液を、70μmの細胞濾過器を通じて、5mlのシリンジプランジャーの背面を使用して濾過した。濾過器を5mlのDMEM/F12でフラッシュし、フロースルーを5分間遠心分離した(300g、4℃)。5mlのPBSを用いた追加の洗浄ステップの後(5分間、300g、4℃)、ペレットを1mlのPBS中に再懸濁させ、35μmの細胞濾過器を通して濾過し、続くフローサイトメトリーのための表面染色に使用した。
【0063】
皮膚組織からのタンパク質単離:タンパク質を、手術用メスによって小片へと切断したマウス皮膚生検から単離した。次に、皮膚組織をinnuSPEED lysis tubes W(Analytic Jena)内に移し、40mg/mlの溶解緩衝液(10%のグリセリン、2mMのEDTA、137mMのNaCl、50mMのトリス、0.5%のNP40、PMSF、NaF1M、NaVO)で処理し、組織がホモジナイズされるまでSpeedMill PLUS(Analytic Jena)を使用して小片化した。その後、溶解物を遠心分離し(16.000g、3分間、4℃)、1.5mlのエッペンドルフチューブ内に移した。2回目の遠心分離ステップの後(16.000g、20分間、4℃)、上清を収集し、製造者の指示(Thermo Fisher Scientific)に従ってBCAを使用してタンパク質濃度を決定した。
【0064】
ウエスタンブロット分析:タンパク質溶解物を還元性Laemmli緩衝液中で変性させ(95℃、5分間)、10%のSDS PAGEを介して分離し、ニトロセルロース膜(GE Healthcare)上にブロットした。膜を1×Rotiblock(Carl Roth)中でブロッキングし、続いて以下の一次抗体を用いてプローブした:ウサギ-抗ビメンチン(クローンD21H3、Cell Signaling)およびマウス-抗β-アクチン(Aktin)(クローンAC-74、Sigma)、1×Rotiblockで1:1000に希釈し、終夜4℃でインキュベートした。その後、膜を洗浄し、適切なHRP標識二次抗体(1×Rotiblockで1:5000に希釈)を加えた。シグナルをECL Prime検出試薬(GE Healthcare)を使用して検出し、Image Jソフトウェアを使用してデジタル定量した。
【0065】
フローサイトメトリー:皮膚生検からの細胞試料を3分間遠心分離し(500g、4℃)、細胞ペレットを、以下に対して蛍光をカップリングさせた抗体、すなわちCD45(PerCP(クローン30-F11))、CD3(BV421(クローン17A2)、CD11b(PE-Cy7(クローンM1/70)、B220(PE(クローンRA3-6B2)、F4/80(FITC(クローンBM8)、Ly6C(APC-Cy7(クローンHK1.4)、Ly6G(APC(クローン1A8)、およびLIVE/DEAD Fixable Aqua DEAD Cell染色(Thermo Fisher Scientific)を含有する50μlのPBS(1mMのEDTAを添加)中に再懸濁させた。すべての抗体(BD製のB220以外)はBioLegendから購入した。30分間、4℃でインキュベーションした後、細胞を500μlのPBSで洗浄し(500g、3分間、4℃)、100μlのPBS中に再懸濁させ、FACSCantoIIフローサイトメーター(BD)を使用して評価した。
【0066】
RNA抽出、cDNA合成、およびqPCR分析(実施例1用):生検を収集し、RNA later(Thermo Fisher Scientific)中に-80℃で保存した。RNA単離には、試料を氷上で穏やかに解凍し、ホモジナイゼーションは、400μlのRLT緩衝液(1%のβ-メルカプトエタノールを添加)中で、innuSPEED Lysis Tube IおよびSpeedMill PLUS(どちらもAnalytikJena製)を使用して行った。それぞれ20秒間で、5分間の-20℃での冷却を用い3回のホモジナイゼーションステップの後、懸濁液を3分間、16.000gで遠心分離し、製造者のプロトコルに従ってRNeasy Plus Mini Kit(Qiagen)を使用して上清をRNA抽出のために収集した。cDNA合成を、First Strand cDNA合成キットマニュアル(Thermo Fisher)に従って行った。リボソームタンパク質L4をハウスキーピング遺伝子として使用した。反応および定量を、CFX96 Touch(Bio-Rad)を使用して行った。マウスプライマー対のヌクレオチド配列を以下の表中に提供する。
【0067】
【表1】
【0068】
組織学:組織学的分析のための皮膚および結腸組織の試料の調製には、皮膚生検を、以前の創傷領域の周りの8mmのパンチ(pfm medicals)としてそれぞれ3、6、および7日目に得て、試料を組織学的分析のために4%のパラホルムアルデヒド(PFA)中に固定した。結腸の遠位部のおよそ0.5cmを切断し、その後、4%のPFA中に室温終夜で固定し、PBS中で洗浄することによって、小さな結腸試料を調製した。その後、これらを、漸増するアルコール濃度を介した脱水プロセス、および最後のアセトンインキュベーションステップに供した。次に、結腸試料をパラフィン中に包埋し、ミクロトームを用いて1μm~5μm厚の切片を切断することによって組織切片を調製し、コーティングしたスライド上に置き、乾燥させ、後の染色手順のために室温で保存した。
【0069】
マイヤーのヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)を使用した結腸および皮膚試料の組織構造のための組織学的染色手順を以下のように行った。
パラフィンの完全除去のために、切片を最初に60℃で終夜インキュベートし、その後、キシロール中で洗浄した(2~5分間を2回)。その後、切片を減少するアルコール濃度を通した再水和プロセス、および最終洗浄ステップに供した。好塩基球性組織構造の染色には、切片を新たに濾過したヘマトキシリン中でインキュベートし、続いて、好酸球性組織構造を染色するためにエオシン-g-溶液(100mlのVE-water中に1gのエオシンおよび1滴の氷酢酸)中でのインキュベーションを行った。それぞれの染色ステップ後、過剰な色素を除去するために切片を水道水を流してすすいだ。最後に、切片を脱水し、entellan(Merck)に載せ、終夜硬化させた。
【0070】
H&E染色の評価:腸管組織損傷の度合を、H&E染色した結腸切片を使用して評価した。3つの連続した結腸切片を、特定の臨床的に関連のあるパラメータに関して、光学顕微鏡下で分析した。考慮したパラメータは以下の通りであった:結腸壁の肥厚、腸管組織構造の破壊、粘膜上皮の破壊、白血球の浸潤、および杯細胞の枯渇。様々なパラメータを光学的鑑定によって評価し、最初の4つのパラメータは0~3に分類した一方で、杯細胞の枯渇は0~1に分類した。それぞれのパラメータの個々のスコアを合計することによって総合組織学的スコアを決定した。
【0071】
統計分析:すべてのデータは平均±SEMとして表す。統計的有意性は、ノンパラメトリック分布について対応のない複数t検定(n=3)またはマン-ホイットニーU検定(n>3)を使用して計算した。群分けしたデータは一元または二元配置ANOVAを使用して分析した。すべての計算はGraphPad Prism7(GraphPad)を使用して行った。P値<0.05を有意とみなした。
【0072】
発毛実験のための実験設定:雌C57BL/6マウス(7週齢)をCharles River Laboratories(Sulzfeld)から購入し、実験動物の飼育および使用に関する施設および国の指針に従って無病原体条件下で維持した。
【0073】
剃毛による除去:7週齢の雌C57BL/6マウスの背側頸毛を、シェーバーを使用して除去した。1日用量の100μgのsCD83を、1日目から4週間の期間をかけて腹腔内で施用した。実験の終わりに、マウスを頸椎脱臼によって屠殺し、8mmのパンチを使用して背側皮膚生検を除去した。
【0074】
脱毛による除去:7週齢の雌C57BL/6マウスの背側頸毛を脱毛によって除去した。1日用量の100μgのsCD83を、隔日に、2日目から14日目まで腹腔内で施用した。実験の終わりに、マウスを頸椎脱臼によって屠殺し、8mmのパンチを使用して背側皮膚生検を除去した。
【0075】
睫毛の分析:sCD83(7.5μg)を、1日3回の滴下で、7週齢の雌C57BL/6マウスに、14日間の期間をかけて局所的に投与した。14日目の後、マウスを頸椎脱臼によって屠殺し、眼瞼を取り出し、顕微鏡を使用した睫毛数の定量のために70%のEtOH中で保存した。
【0076】
RNA抽出、cDNA合成、およびqPCR分析(実施例2用):生検を収集し、RNAlater(Thermo Fisher Scientific)中に-80℃で保存した。RNA単離には、試料を氷上で穏やかに解凍し、ホモジナイゼーションは、400μlのRLT緩衝液(1%のβ-メルカプトエタノールを添加)中で、innuSPEED Lysis Tube IおよびSpeedMill PLUS(どちらもAnalytikJena製)を使用して行った。それぞれ20秒間で、5分間の-20℃での冷却を用い3回のホモジナイゼーションステップの後、懸濁液を3分間、16.000gで遠心分離し、製造者のプロトコルに従ってRNeasy Plus Mini Kit(Qiagen)を用いて上清をRNA抽出のために収集した。cDNA合成を、First Strand cDNA合成キットマニュアル(Thermo Fisher Scientific)に従って行った。リボソームタンパク質L4をハウスキーピング遺伝子として使用した。反応および定量を、CFX96 Touch(Bio-Rad)を使用して行った。プライマー対のヌクレオチド配列は、上記のそれぞれのセクション中に提供したものである。
【0077】
マルチ-エピトープ-リガンド-カルトグラフィー(MELC):組織学的なMELC技法を以前に記載されているように適用した(Eckhardt, J. et al., J Histochem Cytochem 61:125-133 (2013))。手短に述べると、6mmの皮膚生検をTissue-Tek(登録商標)O.C.T.(Sakura)中に-80℃で保存した。5μmのスライドをCryotome(商標)装置を使用して調製し、アセトン中で10分間、-20℃で固定ステップを行った。試料を乾燥させた後、残留tissue-tek(登録商標)を70%のEtOHを用いて除去し、組織試料をシリコンリングで取り囲み、PBSで洗浄した。Foxp3(PE)、CD4(PE)、CD3e(FITC)、CD45(FITC)およびサイトケラチン-14(FITC)に対して蛍光をカップリングさせた抗体を使用して、染色手順を行った。ヨウ化プロピジウムをLIVE-DEADマーカーとして使用した。データは倒立広視野蛍光顕微鏡を使用して獲得し、Image Jソフトウェアを使用して評価した。
【0078】
[実施例1]
A.全身性sCD83投与は皮膚創傷治癒を促進する:8週齢のC57BL/6マウスにおいて、6mmの皮膚生検パンチを使用して創傷を誘導し、創傷領域をカリパスによって0、3、6、7、および12日目に評価した。0日目の初期値と比較した創閉鎖の百分率を決定した。sCD83(腹腔内)で処置したマウスは、ニセ対照を比較した場合に、3および6日目に有意に増強された創閉鎖を示した(図1AおよびB)。これらの光学的評価はビメンチン特異的ウエスタンブロット分析および続く定量(β-アクチン対照と比較)によって支持された。図1Cに示すように(左側)、ビメンチン再構成はsCD83で処置したマウスにおいて加速しており、これは高度な組織修復および創閉鎖に関連している。さらに、ビメンチンは、どちらもリモデリング期の必須細胞成分である、線維芽細胞増殖およびケラチノサイト分化の制御因子としてみなされている(Cheng, F. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 113:E4320-4327 (2016))。
【0079】
フローサイトメトリーによる3および6日目の創傷領域内の細胞組成の分析(図1D)により、好中性顆粒球がsCD83およびニセで処置したマウスにおけるCD45細胞の主要な画分を表すことが明らかとなった。好中球は、3つの手段、すなわち、(I)細片のクリアランス、(II)成長因子(たとえばVEGF-A)の分泌、および(III)炎症の消散に向かう移行によって創傷治癒中に重大な役割を果たすことが知られており、これは、AAMの誘導および続くIL-10などの抗炎症性サイトカインの産生によって媒介される(Wang, J., Cell Tissue Res 371:531-539 (2018))。sCD83の施用は、3日目の細胞分布に対して検出可能な影響を与えなかった。しかし、sCD83で処置したマウスの好中球細胞数の減少は、ニセ対照を比較した場合に、6日目にわずかに加速していた(図1D、6日目)。対照的に、sCD83マウスからの6日目の試料により、3日目に検出可能でなかった有意に増加したBリンパ球数が明らかとなった。Sirbulescuらによって報告されたデータによれば、成熟B細胞の存在は、急性および慢性創傷において創傷治癒の加速に正に貢献する(Sirbulescu, R.F. et al., Wound Repair Regen 25:774-791 (2017))。同様に、T細胞の頻度はsCD83で処置したマウスの創傷生検内で有意に増加していた。最後に、sCD83で処置したマウスの6日目の創傷生検内で、増加した単球およびマクロファージ頻度に向かう傾向が検出可能であった(図1D)。
【0080】
興味深いことに、sCD83およびニセで処置したマウスの3日目の試料内で細胞レベルの相違は検出可能でなかったが、RNA分析により数々の創傷治癒関連サイトカインの変調が明らかとなった(図2)。IL-1βおよびTNFαなどの炎症誘発性サイトカインは、sCD83で処置したマウスにおいて、3日目の炎症期内に著しく増加していた。また、VEGFは3日目にわずかに上方制御されていた。対照的に、IL-10発現は、sCD83で処置したマウスにおいて6日目にピークとなり、それによって、炎症の消散および増殖期に向かう移行が加速された。これらのデータは、sCD83がIL-10分泌AAMを誘導するという本発明者らの仮説をさらに支持する。興味深いことに、分泌性白血球プロテアーゼ阻害剤(SLPI)の発現は、sCD83で処置したマウスにおいて3日目に大幅に、6日目に中等度に上方制御されていた(図2)。Ashcroftらによって報告されているように、SLPIは過剰な炎症の制御に関与しており、したがって、炎症の消散および組織再生に向かう移行の重要な媒介因子である(Ashcroft, G.S. et al., Nat Med 6:1147-1153 (2000))。
【0081】
B.局所的sCD83施用も創閉鎖を誘導する:全身性薬物投与は、局所的(local-topical)投与と比較した場合に、いくつかの不利点を受け入れ得る。一方では、目的の特異的部位への意図する薬物濃度の送達を確実にすることができず、それによって、増加した用量の薬物療法が必要となる。他方では、全身性薬物投与は予想外のオフターゲット効果、望ましくない細胞/分子の相互作用をもたらす場合があり、これは続いて、有害な合併症および望まれない副作用をもたらす場合がある(Wen, H. et al., AAPS J 17:1327-1340 (2015))。したがって、sCD83の潜在的な局所的創傷治癒効果を評価するために、sCD83をヒドロキシエチルセルロースヒドロゲル中で安定化させた。このsCD83ヒドロゲルの均一な投薬量を確実にするために、背側の毛を脱毛によって除去した。3つの処置群、すなわち、(I)局所的sCD83ヒドロゲルまたは(II)生理食塩水ヒドロゲルの施用、および(III)陽性対照として全身性sCD83の施用をこれらのin vivo実験に含めた。予想通り、かつ図3AおよびBに示すように、創閉鎖は、全身的にsCD83で処置したマウスにおいて3日目および6日目において再度有意に加速されていた。興味深いことに、3日目に、創傷治癒は局所的sCD83投与の際にやはり有意に改善しており、6日目に、局所的に処置したマウスは創閉鎖に達し、これは全身処置した群に匹敵していた。これらのデータは、局所的sCD83投与が実際に加速された創閉鎖を誘導するという最初の証拠を表している。
【0082】
8日目の皮膚生検からの代表的なH&E染色は、全身処置したsCD83群においても、局所的に処置したsCD83群においても、修復された皮膚構造を実証した(図3C)。数々の毛嚢を含む肥大した脂肪層によって表される毛再生のみが、局所的群において依然として継続中であった。これとは鋭く対照的に、この特定の時点において、肉芽組織がニセで処置したマウスにおいて検出可能であり、これは継続中および遅延した創傷治癒プロセスに関連している。最後に、ヒドロキシエチルセルロースヒドロゲル内でのsCD83の安定性を分析するために、ウエスタンブロット分析を行い、図3Dに示すように、sCD83分子は少なくとも10日間、4℃で安定であった。これは、そのようなセルロースゲルを使用してsCD83を局所的に施用することができることを示している。これのことは、もちろん、将来の臨床治験において、sCD83の開発および実用的な施用にとって大変興味深いことである。
【0083】
C.可溶性CD83はDSS誘導性結腸炎からの回復を加速させ、上皮治癒プロセスを速める:ここでは、本発明者らは、IBD病理学において起こるようにsCD83が急性腸炎を変調し、腸管創傷治癒プロセスを誘導するかどうか、およびどのようにするかに関する詳細な調査に注目した。この目的のために、本発明者らはマウスDSS結腸炎モデルを使用し、DSSは、結腸の粘膜傷害および炎症を引き起こし、腸管創傷をもたらす結腸バリアの破壊が伴うことが知られている(Kiesler, P. et al., Cell Mol Gastroenterol Hepatol 1:154-170 (2015)、Neurath, M.F., Mucosal Immunol 7:6-19 (2014)、Wirtz, S. et al., Nat Protoc 12:1295-1309 (2017))。
【0084】
10~12週齢のC57BL/6マウスを、水道水中に添加した3%のDSSを用いて5日間の間誘発することによって、結腸腸管において急性炎症を確立させた。同時に、マウスは、腹腔内注射のsCD83またはPBSのどちらかを6日間受けた。誘発期の後、DSSを添加した水道水を通常の水道水で置き換えることによって回復期を開始した。さらに、DSSもその他のいかなる治療レジメンも受けない対照群。1日あたりの体重減少の平均を評価することで、sCD83で処置した動物は、PBSで処置した動物と比較して、回復期中、10日目以降より良好な体重回復を示したことが明らかとなった。重要なことに、sCD83を受けたマウスは実験の終わりまでにその初期体重に到達する一方で、PBS群はその初期体重と比較して体重減少を示した(図4A)。腸管粘膜における治癒プロセスに対する可能性のあるsCD83に媒介される効果を調査するために、様々な時点(9日目、16日目、22日目)を評価した。興味深いことに、sCD83で処置したマウス内における、結腸炎症状からのより良好な回復は、結腸の短縮が低下したため巨視的レベルで明白であった(図4B)。主回復期中(すなわち16日目)、PBSで処置したマウス(5.91cm±0.20cm)と比較してわずかに増強された結腸長がsCD83で処置したマウスにおいて観察され(6.34cm±0.17cm)、これは後期回復期中(すなわち22日目)においてより明白であった(図1B)。回復期中のより良好な創傷治癒に関するデータは、高解像度内視鏡検査によってさらに支持された(図4C)。16日目に、有意に改善された結腸炎徴候からの回復がsCD83で処置したマウスにおいて観察され、これは、10.14±0.54の平均内視鏡疾患スコアを有するPBSで処置した動物と比較して、7.00±0.82の平均内視鏡疾患スコアの低下によって特徴づけられる。上述の巨視的発見と一致して、H&E染色した結腸試料の組織学的評価(9日目、16日目)により、sCD83処置が16日目のDSS誘導性結腸炎の回復期中に寛解効果を有していたという明白な証拠が提供された(図4D、E)。この時点で、sCD83で処置した動物は、明白に低下した数の浸潤性白血球ならびに上皮バリアおよび粘膜結腸構造全体のより良好な復旧を示した(図4D)。
【0085】
次に、sCD83で処置したマウスの結腸組織中における、IFN-γ、IL-1β、IL-6、およびTNF-αなどの様々な炎症性サイトカインのRNA発現プロフィールを分析した。これらの調査により、sCD83を施用した場合に、9日目の初期回復期内の明白に増強された炎症プロセスが明らかとなった(図5A)。これらの結果と一致して、IL-17A、Cox2、CCL2、およびYM-1(遺伝子Chil3)などの、腸管創傷治癒プロセスにおいて有益効果を媒介することが知られている因子も、sCD83で処置したマウスの結腸組織中において初期回復期中に有意に上方制御されていた(図5A)。興味深いことに、16日目の主回復期中、有意に低下したIL-1β発現レベルが、sCD83で処置した動物において観察された(図5B)。発現レベルの低下に向かう傾向がすべての他の転写物について観察された。
【0086】
D.考察-sCD83は皮膚創傷治癒の炎症期をブーストさせる:
自己免疫疾患および移植実験に関するsCD83の変調潜在性は数々のグループによって報告されている。sCD83の投与は、マウス自己免疫モデル、たとえば、EAE、SLE、IBD、およびAIAにおいて疾患の進行を寛解させる(Royzman, D. et al., Front Immunol 10:633 (2019)、Zinser, E. et al., J Exp Med 200:345-351 (2004)、Eckhardt, J. et al., Mucosal Immunol 7:1006-1018 (2014)、Starke, C. et al., Immunobiology 218:1411-1415 (2013))。同様に、sCD83は、角膜、心臓、腎臓、および皮膚移植モデルにおいて移植片の生存を有意に改善させている(Ge, W. et al., Transplantation 90:1145-1156 (2010)、Xu, J.F. et al., Transpl Int 20:266-276 (2007)、Lan, Z. et al., Transplantation 90:1278-1285 (2010))。機構的にはTregの分化および増殖のIDO媒介性誘導による[30]。本研究内で本発明者らは、皮膚および腸管創傷治癒に対するsCD83処置の著しい効果を初めて報告する。
【0087】
皮膚創傷治癒は全身的にsCD83で処置したマウスにおいて有意に増強されており、これには、3日目および6日目における8mmのパンチ内でのビメンチン堆積の増加が伴っていた。一方では、ビメンチンは、主に間葉系幹細胞中で発現される中間径フィラメントであり、したがって創傷領域の再構成を増強させる(Walker, J.L. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 107:13730-13735 (2010))。他方では、ビメンチンは線維芽細胞の増殖およびケラチノサイトの分化に対して重大な刺激をもたらし、それによって、再上皮化およびリモデリングの過程中における皮膚組織の治癒能力がさらに増強される(Cheng, F. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 113:E4320-4327 (2016))。
【0088】
6日目に、異なる細胞組成がsCD83およびニセで処置したマウス間で検出されたが、3日目には検出されなかった。B220B細胞の顕著な蓄積がsCD83で処置したマウスにおいて観察され、また、創傷治癒の過程におけるB細胞の役割に関してはほとんど知られていないが、成熟B細胞の存在下で創閉鎖が加速することが報告されている(Sirbulescu, R.F. et al., Wound Repair Regen 25:774-791 (2017))。さらに、6日目におけるCD3T細胞の存在は、組織再生、たとえば、IL-22の分泌、特にTh17によるものを介した組織再生の増強に関連している(Brockmann, L. et al., Int J Mol Sci 18 (2017))。注目すべきは、IL-17A発現は、9日目にsCD83で処置したDSSマウスの結腸組織内で増強しており、これは、Th17媒介性免疫応答を介したsCD83の寛解効果を示している。この観点から、病因が過剰なT細胞活性およびサイトカイン分泌に基づく炎症性自己免疫障害とは鋭く対照的に(McInnes, I.B. and Schett, G., N Engl J Med 365:2205-2219 (2011))、炎症誘発性伝達物質の一時的な上方制御が妥当な創閉鎖に重大である(Hubner, G. et al., Cytokine 8:548-556 (1996))ということを知ることが重要である。一般に言えば、創傷治癒は強力な局所的炎症によって開始され、これは、炎症誘発性サイトカインレベルの増加によって表されるように、sCD83で処置したマウスにおいて著しく増強している。ここでは、IL-1βおよびTNFαは、創傷治癒およびその遮断の過程において極めて重要な役割を果たし、ノックアウトまたは枯渇のどちらかにより、炎症期の損傷および感染性因子のクリアランス不良がもたらされる(Ritsu, M. et al., J Dermatology & Dermatologic Surgery 21:14-19 (2017)、Ishida, Y. et al., J Immunol 176:5598-5606 (2006))。さらに、観察されたsCD83で処置したマウスにおけるSLPIの分泌の増加は、抗微生物特性および過剰な炎症の寛解に関連していることが記載されている(Jin, F.Y. et al., Cell 88:417-426 (1997))。SLPIノックアウト実験により、炎症の消散の損傷および創傷の慢性化が原因の大幅に損傷した創閉鎖が明らかとなった(Ashcroft, G.S. et al., Nat Med 6:1147-1153 (2000))。しかし、過剰なプロテアーゼ活性が創傷治癒の加齢関連合併症に関連しているため、SLPIの主要な役割は、増殖/リモデリング期への移行の際のエラスターゼ活性の阻害にある(Herrick, S. et al., Lab Invest 77:281-288 (1997))。したがって、本発明者らは、たとえば高齢患者または糖尿病患者において、少なくとも一時的に、sCD83の投与がこの加齢関連設定を上書きし、治癒能力を修復すると仮定した。
【0089】
興味深いことに、sCD83処置を実験の終わりまで続けたが、炎症誘発性サイトカインの発現は6日目前後で減弱し、それによって、治癒プロセス全体にわたるsCD83による多様に制御される長期的な変調が示され、単にIL-1βおよびTNFα発現のブーストに依存しない。このsCD83による重大な変調は、6日目のIL-10の誘導の遅延によってさらに支持されており、これは代替活性化マクロファージの誘導および続く増殖および再上皮化に向かう移行を表す。AAMに向かうシフトは、恐らくアポトーシス性好中球のクリアランスプロセスによって媒介されており、これは、マクロファージにおけるいわゆる「フィードフォワード消散促進プログラム」および続くIL-10の産生を開始させる(Wang, J., Cell Tissue Res 371:531-539 (2018))。最後に、創傷領域の栄養失調はたとえば高齢患者における創閉鎖の遅延に関連しているため、わずかに増加したVEGFレベルは、血管形成ならびに酸素および栄養の創傷領域への十分な供給に正に寄与し得る(Sgonc, R. and Gruber, J., Gerontology 59:159-164 (2013))。
【0090】
これらすべてのデータは、sCD83の役割が、単一細胞レベルでのユニークな活性化/変調のみに依存せず、多因子性のステップによって創傷治癒を改変させることを示している。最初にこれは、創傷治癒の天然の動力学を妨害せずに、炎症期、それによって細菌クリアランスをブーストさせる。創傷治癒は、機構の逸脱が創閉鎖の遅延または慢性創傷の発生をもたらす場合がある密に制御されたプロセスであるため、本発明において、本発明者らは、一般的に使用されている薬物療法(その一部は免疫抑制性)と比較した本発明者らのsCD83治療の著明な利点を見出した。このことは、数々の治療剤が創傷治癒に対して負の影響を与えると報告されていることの1つの理由である(Guo, S. and Dipietro, L.A.., J Dent Res 89:219-229 (2010)、Krischak, G.D. et al., J Wound Care 16:76-78 (2007))。この文脈において、たとえばメトトレキサートまたはコルチコステロイドの投与は創傷治癒、瘢痕形成、手術後の合併症、および潰瘍形成の遅延としばしば関連づけられているため、特に自己免疫疾患の薬物療法には大いに議論の余地がある(Tekur, V.K., Indian Dermatol Online J 7:418-420 (2016))。これは、創傷治癒の多様な機構のうちの少なくとも1つ、たとえば炎症反応または細胞増殖との干渉が原因である可能性が高い(Anstead, G.M., Adv Wound Care 11:277-285 (1998))。本発明者らの以前の移植研究では創傷治癒に対して負の効果は明らかとなっていないため、これはsCD83を使用した場合には明らかに当てはまらない。むしろ、移植生存は延長され、創傷治癒は加速した(Ge, W. et al., Transplantation 90:1145-1156 (2010)、Bock, F. et al., J Immunol 191:1965-1975 (2013))。したがって、ラパマイシンなどの現在認可されている免疫抑制薬とは対照的に、移植実験におけるsCD83治療中に、創傷治癒に関して有害事象は観察されなかった。創傷治癒の遅延は移植罹病率の主要な原因であるため(Ueno, P. et al., Transplantation 101:844-850 (2017)、Mehrabi, A. et al., Clin Transplant 20(Suppl 17):97-110 (2006))、sCD83治療は、現在利用可能および投与した薬物のこれらの本質的な問題に打ち勝つための新しい戦略を開く。
【0091】
sCD83の局所的投与が皮膚創閉鎖を強力に改善させたという発見もまた、主要な実用的な興味をもたれている。sCD83治療の重篤な副作用は現在までに報告されていないが、局所に制限された薬物療法は、全身投与を超える重大な利点、すなわち、最適な薬物供給および制限された全身性副作用のリスクを提供する。本発明者らの皮膚創傷治癒実験内において、局所的sCD83の取り込みは上皮バリアの機械的破壊によって確実となり、したがって応急処置創傷ケア薬物療法として提案することができ、これは、炎症誘発性サイトカイン産生の増強、続いて、創傷治癒および組織リモデリングを加速させる免疫細胞の頻度の増加によって、創傷領域を無菌化する。また、sCD83が少なくとも10日間の間、4℃で、使用したヒドロゲルマトリックス中において安定かつ活性に保たれ、したがって長期的処置のために保存することができる可能性が高い事実も、注目すべきである。これはさらなる研究において評価する。
【0092】
炎症誘発性および抗炎症性サイトカインならびに媒介因子のバランスのとれた放出が、潜在的に侵害性の微生物構成成分および無害の共生細菌に対する腸管免疫反応の調節の主な供給源である。徹底的な研究により、IBD病理学において、腸管免疫反応は、弱められた上皮バリアを横切ることができる管腔抗原による活性化の際に制御解除となることが示されている。それと引き換えに、これは、上皮組織の連続的な構造破壊に付随する重篤な粘膜炎症を引き起こす(Zundler, S. et al., Gut 68:1688-1700 (2019)、Strober, W. and Fuss, I.J., Gastroenterology 140:1756-1767 (2011))。結腸炎の発症を防止するという基本目標に加えて、IBDの最近の治療目標は、破壊の際の炎症粘膜の治癒プロセスを改善させることにも焦点を当てている。
【0093】
皮膚創傷治癒に加えて、本研究のDSS誘導性結腸炎実験内の発見により、sCD83は腸管上皮の修復機構に対しても有益な効果を有しており、それによって結腸炎症状からの回復の加速を支持することが示されている。IBD病理学について臨床的に関連のあるパラメータを分析する際、結果により、sCD83で処置した動物において、主回復期(16日目)は明白に加速された体重回復とわずかに改善された結腸長との組合せによって特徴づけられており、これは後期回復期近くには、はっきりと明白となったことが明らかとなった。対応する内視鏡および組織学的分析により、特にDSS誘導性結腸炎モデルにおいて主回復期中に、sCD83の陽性特性が確認された。
【0094】
結腸組織のさらなる遺伝子発現分析は、IFN-γ、IL1-β、IL-6、およびTNF-αなどの炎症誘発性伝達物質、または、IL-17A、Cox2、CCL2、およびYM-1などの古典的に炎症と関連づけられているが治癒プロセスにおいて有益な効果ももたらす因子のどちらかに焦点を当てた。sCD83で処置したマウスからの結腸試料では、炎症誘発性伝達物質の発現レベルは初期回復期中に高度に上昇しており、マウスが主回復期に到達した時にはその根底までほぼリバウンドしていた。これに反して、PBSで処置したマウスは、初期回復期中にこれらの因子のわずかに上昇したレベルしか示さず、これは、主回復期中に停滞気味となったか、増加し続けたかのどちらかであった。これらの結果は、sCD83が粘膜環境の特定の構成成分に影響を与えて、初期回復期においてより高いレベルの炎症誘発性サイトカインを誘導することを示唆している。この例外的に激しい炎症誘発状態の確立は、立ち代って、後の回復期においてより速い誘導およびより有効な創傷治癒プロセスをもたらす場合があり、これは、結腸の巨視的および内視鏡評価からの結果とも相関している。本発明者らの結論を支持して、他のグループが、粘膜傷害の際にすぐの、IFN-γおよびIL-1βなどの特定のサイトカインの不可欠な役割を既に示しており、これは、これらの因子がIECにおけるTGF-β産生を正に促進することによって上皮の復旧の重大なステップを調節するためである(Neurath, M.F., Mucosal Immunol 7:6-19 (2014)、Dignass, A.U. and Podolsky, D.K., Gastroenterology 105:1323-1332 (1993))。また、以前の研究からの結果により、DC中におけるIFN-y放出とIDO発現との間の相関、次いで寛容原性機構の誘導も示唆されている(Pallotta, M.T. et al., Nat Immunol 12:870-878 (2011)、Chen, W., Nat Immunol 12:809-811 (2011))。これらの報告と一致して、本発明者らは、sCD83で処置した動物において、DSS誘導性結腸炎モデルの初期回復期中に高度に上昇したIDO発現レベルを観察した(データ示さず)。本発明者らの結果を支持して、IDO媒介性キヌレニンは、長期的寛容および粘膜創傷修復機構の誘導に寄与することが提案されている(Chen, W., Nat Immunol 12:809-811 (2011)、Sugihara, K. et al., Front Immunol 9:3183 (2018))。
【0095】
分析した炎症誘発性伝達物質に匹敵して、興味深いことに、IL-17A、Cox2、CCL2、およびYM-1などの因子も、初期回復期中にこの著しく増加した発現レベルを示した。腸管創傷治癒プロセスが主に起こる主回復期に焦点を当てた場合、炎症誘発性サイトカインのものと同様の画が得られた。sCD83で処置したマウスでは、ほとんどの因子の発現はその基礎レベルまで減って戻る一方で、PBSで処置した動物では、変調はほぼ検出できなかった。以前に既に言及されているように、分析した因子のほとんどは、古典的な様式での創傷治癒プロセスに関するその有益な効果について知られておらず、実際、この観点から論争的に議論されている。しかし、効率的な創傷治癒のための病原性因子を排除するために、しっかりとした初期炎症期が必要であることがさらに知られている。したがって、sCD83の潜在的な機構的効果は、粘膜上皮自体だけでなく食細胞集団の細菌死滅効率も正に変調する、初期回復期での炎症伝達物質の発現増加の誘導であり得る。それと引き換えに、これは、続く創傷治癒プロセスへのより速い移行の基礎を提供する。本発明者らの結論を支持して、IBD患者の結腸および回腸試料の分析により、誘導性酵素Cox2は、腸炎中におけるマクロファージおよび線維芽細胞などの細胞種中でのその発現以外に、IECによっても発現される一方で、健康な患者では検出可能でないことが示された(Neurath, M., Nat Rev Gastroenterol Hepatol 14:688 (2017))。さらに、ラットにおけるTNBS誘導性結腸炎におけるCox2の選択的阻害は、結腸炎症状の悪化および上皮破壊をもたらし、これは、通常はCox2によって産生されるプロスタグランジンの非存在に関連づけられていることが報告されている(Singer, II et al., Gastroenterology 115:297-306 (1998)、Reuter, B.K. et al., J Clin Invest 98:2076-2085 (1996))。Cox2以外に、最近の研究により、ケモカインCCL2が炎症性マクロファージの活性化を支持し、それによって炎症反応を媒介することが示されている(Carson, W.F.t. et al., Cell Immunol 314:63-72 (2017))。しっかりとした炎症性免疫応答の誘導と同時に、sCD83は、上皮細胞増殖の増加を媒介することによってより素早い腸管創閉鎖を支持することができる。この観点から、研究により、サイトカインIL-6およびIL-17Aは特定の回復期において上皮細胞増殖および生存をブーストするため、厳格に管理した場合、組織修復および保護機構を媒介することが示唆されていることも示されている(Neurath, M.F., Mucosal Immunol 7:6-19 (2014)、Brockmann, L. et al., Int J Mol Sci 18 (2017))。
【0096】
要約すると、本発明者らの結果は、sCD83が、皮膚および粘膜傷害ならびに/または免疫抑制治療を受けている個体の文脈において、たとえば治癒困難な創傷の処置のための興味深い生物剤であり、これには創閉鎖の遅延および感染症に対する易罹患性の増加が付随するという有力な証拠を提供する。
【0097】
[実施例2]
可溶性CD83分子は発毛を誘導する。上記実施例1に記載した創傷治癒に対するsCD83の影響に加えて、4つの独立した実験設定における、sCD83で処置したマウスにおける発毛の加速が観察された。
【0098】
A.sCD83は過剰に刈った後の毛の再成長を加速させる:sCD83で処置したC57BL/6マウスでは、毛の再成長は背側領域内で21日目に有意にブーストされた(図6A)。毛のない部位の領域を全身領域と比較して定量し、脱毛からの有意な回復が明らかとなった(図6B)。
【0099】
sCD83に誘導される毛の再成長の根底にある機構に関するさらなる見識を得るために、本発明者らは、脱毛の31日後に背側皮膚生検中における制御性T細胞(Treg)の存在を分析した。Rosenblumのグループによって報告されているように、皮膚中の毛嚢部位内のTregの存在は、発毛の増強と関連している。これとは鋭く対照的に、Tregの消失は成長期誘導および毛再成長の損傷をもたらした(Ali, N. et al., Cell 169:1119-1129 e1111 (2017))。sCD83はTregを誘導することが知られているため(Bock, F. et al., J Immunol 191:1965-1975 (2013))、本発明者らは、sCD83は処置した動物においてTregの数を増加させ、これがより良好な発毛をもたらすであろうと仮定した。実際、sCD83で処置した動物からの皮膚試料のMELC分析により、ニセ群と比較した場合の、sCD83で処置したマウスにおけるCD4/Foxp3 Tregの蓄積が明らかとなった(図7A、20個のTreg対11個のTreg)。これらのデータは、sCD83群におけるFoxp3の有意に増加した発現を明らかにした、皮膚のqPCR分析によってさらに支持された(図7B)。
【0100】
B.sCD83は創傷誘導後に毛の再成長を促進する:創傷を負わせた後の毛の再成長に対するsCD83の効果を調査するために、背側頸領域を、6mmの創傷の誘導の直前に脱毛した。発毛の文脈において、脱毛は、休止期から成長期への移行および続く発毛の誘導にとって強力な刺激である(Muller-Rover, S. et al., J Invest Dermatol 117:3-15 (2001))。興味深いことに、sCD83を腹腔内で受けたマウスでは、背側皮膚の色の増強が明らかとなり、これは、Muller-Roverらによれば、分裂後期内での進行した発毛期と関連している(Muller-Rover, S. et al., J Invest Dermatol 117:3-15 (2001))(図8)。したがって、背側皮膚の暗い形状は毛嚢内でのメラニン産生の増加に関連しており(Plikus, M.V. and Chuong, C.M., J Invest Dermatol 128:1071-1080 (2008))、これは、ニセで処置したマウスにおいては明らかにそうでなかった。
【0101】
C.sCD83は脱毛後の毛の再成長を促進する:発毛に対するsCD83の効果を立証するために、健康なC57BL/6マウスの背側頸毛を、脱毛または剃毛のどちらかによって、いかなる追加の実験手順もなしに除去した。既に言及したように、脱毛は休止期から成長期への移行を誘導する。したがって、脱毛したマウスをsCD83で全身処置し、発毛を巨視的評価によって14日目まで評価した。図9に示すように、毛の再成長は脱毛したsCD83およびニセで処置したマウスにおいて誘導されたが、毛の再成長はニセで処置したマウスと比較した場合にsCD83マウスにおいてより密であった(赤色の丸によって示す)。
【0102】
D.sCD83は局所的sCD83施用の後に睫毛の数および長さを増加させる:最後に、本発明者らは、sCD83の局所投与が睫毛の数を変調させるかどうかを調査した。したがって、sCD83を点眼剤の形態(7μgのsCD83)で、1日3回、14日間の間、局所的に投与した。眼瞼を14日目に取り出し、睫毛の数を拡大下で2人の独立した調査員によって決定した。驚くべきかつ注目すべきは、sCD83で処置した群では、ニセ対照と比較した場合に、睫毛数の増加が明らかとなり、より長く太い形状を伴っていたことである(図10)。
【0103】
E.考察:総合すると、上述の独立した実験は発毛に対するsCD83の効果を明白に支持する。本発明者らの結果は、皮膚組織中におけるTregの蓄積がsCD83処置によって有意に増加することをさらに実証している。Aliらによって報告されているように、Tregは、成長期の誘導および続く毛の再成長に正に寄与する(Ali, N. et al., Cell 169:1119-1129 e1111 (2017))。注目すべきは、sCD83の眼への局所的投与が睫毛の形成をブーストしたことである。要約すると、上述の実験データは、sCD83が毛の再成長を改善させ、局所的投与が睫毛の数を増加させるということを初めて示す。
【0104】
したがって、sCD83は、たとえば年齢もしくは疾患に関連する脱毛を患っている個体または顕著な禿頭症(脱毛症)ももたらす化学療法で処置した患者において、毛の再成長を促進するための非常に興味深い生物剤を表す。
【0105】
[実施例3]
ピキア・パストリス(Pichia pastoris)フラスコ培養物中におけるsCD83の発現:sCD83生成の流れ図を図11に示す。手短に述べると、N6HIS-sCD83-pPIC9K形質転換ピー・パストリス(P. pastoris)(株:GS115)細胞を、72時間/30℃、150rpmで、振盪インキュベーターにおいて培養した(N6HIS-sCD83の配列を以下に示す)。72時間後、光度計によってOD600を決定し、5分間、3.000×g/4℃で遠心分離した。上清を完全に傾瀉し、ペレットを、それぞれ400mlのBMMYを用いて、最終光学密度OD600=10で、4つの振盪フラスコへと分けた。酵母培養物をさらに72時間/30℃、150rpmで、1%のメタノールを毎日添加してインキュベートした。最後に、細胞懸濁液を遠心分離(5.000×g、10分間、4℃)によって収穫した。上清を0.22μmのステリカップを通じて濾過し、続いて、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、HisPur(商標)Ni-NTAクロマトグラフィーカートリッジを使用して、hisタグタンパク質の精製を行った。最大体積150mlの上清をスーパーループカラム上に一度に載せ、5mlのHisPur(商標)Ni-NTAカラムに5ml/分の流速で移した(圧力は最大値0.3MPaを超えてはならない)。HisタグsCD83はHisPur(商標)Ni-NTAカラム内に保持された一方で、他の分子は樹脂を通過し、フロースルーと共に進んだ。その後、HisPur(商標)Ni-NTAカラムを60mlの平衡化緩衝液ですすいだ。sCD83の溶出には、溶出緩衝液を使用し、y軸上でODが1.000の値に到達したらすぐにタンパク質溶液を清浄なシリンジ中に収集した。sCD83溶液を終夜4℃で保存した。翌日、イミダゾールをHiPrep脱塩手順によって除去した。この目的のために、タンパク質溶液を再度スーパーループ上に載せ、3ml/分の流速でHiPrepカラムに移した。その後、タンパク質を市販のPBSで溶出させた。最後に、可能性のあるLPS汚染をVivapure Q Maxi Hカラム中、5分間、1500rpm/4℃での遠心分離によって除去した後、sCD83溶液を濾過した(0.22μm)。アリコートを-80℃で保存。sCD83の濃度は、BCA方法によって製造者の指示に従って決定した。
【0106】
N6HIS-sCD83の配列(配列番号11):
6×HIS-タグ
【0107】
【化1】
【0108】
開始コドンはpPIC9K発現ベクターによって提供される。発現ベクターおよびsCD83のプロセッシングに関するさらなる詳細は、図12中に提供されている。
【0109】
[実施例4]
A.sCD83タンパク質を用いた処置は、Fc-CD83融合タンパク質を用いた場合よりも有意に良好に皮膚創傷治癒を改善させた:6mmの生検パンチを使用して、7週齢の雌C57BL/6マウスに創傷を負わせた。Creative Biomart-CD83-150Hからの1日用量の100μgの市販の組換えFcタグヒトsCD83融合タンパク質(CD83-150H融合タンパク質の説明:ヒトCD83の細胞外ドメイン(配列番号2のアミノ酸20~131)を、配列番号50の配列を有するヒトIgG1のFc領域のN末端と融合)、sCD83(配列の説明:sCD83配列:配列番号2のアミノ酸20~145)、または生理食塩水を使用して、マウスを全身処置した。創傷領域を0、3、および6日目にカリパスを使用して測定し、3および6日目について創閉鎖を決定した。0日目の初期値と比較した創閉鎖の百分率を決定した。sCD83(腹腔内)で処置したマウスは、CD83-Fc融合タンパク質およびニセ対照と比較した場合に、3および6日目に有意に増強された創閉鎖を示した。結果を図13に示し、データは単一値±SEMを用いた平均として示す。統計的有意性は二元配置ANOVAを使用して評価した。アスタリスクは統計的有意差を印す(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、および****p<0.0001)一方で、「ns」は統計的有意性がないことを示す。これは、sCD83分子は、CD83-Fc融合タンパク質と比較した場合に統計的に有意なより良好な皮膚創傷治癒プロセスを誘導することを示す。
【0110】
B.考察:要約すると、上述の実験は、sCD83が、CD83-Fc融合タンパク質と比較して統計的に有意なより良好な創傷治癒プロセスをもたらすことを明白に示す。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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【国際調査報告】