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特表2023-522033グアニジニウム系イオン液体およびそれの潤滑剤用添加剤としての使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-26
(54)【発明の名称】グアニジニウム系イオン液体およびそれの潤滑剤用添加剤としての使用
(51)【国際特許分類】
   C10M 133/22 20060101AFI20230519BHJP
   C10M 145/26 20060101ALI20230519BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230519BHJP
   C10N 40/26 20060101ALN20230519BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20230519BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20230519BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20230519BHJP
【FI】
C10M133/22
C10M145/26
C10N40:25
C10N40:26
C10N30:04
C10N30:12
C10N30:08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562655
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(85)【翻訳文提出日】2022-12-13
(86)【国際出願番号】 EP2021059083
(87)【国際公開番号】W WO2021209295
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】20315180.8
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522178393
【氏名又は名称】トタルエナジーズ・ワンテック
【氏名又は名称原語表記】TOTALENERGIES ONETECH
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100187469
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 由子
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【弁理士】
【氏名又は名称】古後 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】ド・フェオ・モデスティーノ
(72)【発明者】
【氏名】ピション・ヴァネッサ
(72)【発明者】
【氏名】シューベルト・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】イリーフ・ボーヤン
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB41C
4H104CA04A
4H104CB14C
4H104DA02A
4H104EA22C
4H104EB07
4H104LA02
4H104LA04
4H104LA06
4H104PA41
4H104PA42
4H104PA45
(57)【要約】
【課題】1,1,3,3-テトラメチルグアニジニウムカチオンとアルコレートアニオンとからなるグアニジニウム系イオン液体化合物およびそれを含有する潤滑剤組成物、ならびにそれの潤滑剤組成物中での使用を提供する。
【解決手段】式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体化合物:
[CAT] [X] (I)
[CAT]は1,1,3,3-テトラメチルグアニジニウムを表し、[X]は次の式(II)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物を表す:
【化1】

(式中、Aは、炭素数6~12のアリール基を表し;Rは、水素、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~30のアルキル基又はアルケニル基、および炭素数6~30のアリール基からなる群から選択されて;Yは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~6のアルカンジイル基を表し;nは、1~20の整数を表す。)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体化合物:
[CAT] [X] (I)
[CAT]は、1,1,3,3-テトラメチルグアニジニウムを表し、[X]は、次の式(II)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物を表す:
【化1】


(式中、Aは、炭素数6~12のアリール基を表し;Rは、水素、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~30のアルキル基又はアルケニル基、および炭素数6~30のアリール基からなる群から選択されて;Yは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~6のアルカンジイル基を表し;nは、1~20の整数を表す。)。
【請求項2】
請求項1に記載のグアニジニウム系イオン液体化合物において、[X]は、次の式(IIA)に対応する:
【化2】


(式中、Rは、水素、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~30のアルキル基又はアルケニル基、および炭素数6~30のアリール基からなる群から選択されると共に、オルト位、パラ位またはメタ位とされ得て;Yは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~6のアルカンジイル基であり;nは、1~15(好ましくは、1~12)の整数である。)、グアニジニウム系イオン液体化合物。
【請求項3】
請求項2に記載のグアニジニウム系イオン液体において、式(IIA)におけるRは、水素、および直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~30(好ましくは1~18、より好ましくは1~12)のアルキル基又はアルケニル基からなる群から選択されると共に、オルト位、パラ位またはメタ位とされる、グアニジニウム系イオン液体。
【請求項4】
請求項3に記載のグアニジニウム系イオン液体において、式(IIA)におけるRは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~12のアルキル基を表すと共に、パラ位とされる、グアニジニウム系イオン液体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のグアニジニウム系イオン液体において、Yは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~3のアルカンジイル基(好ましくは、-CH-CH-)である、グアニジニウム系イオン液体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のグアニジニウム系イオン液体において、[X]は、次の式(IIB)に対応する:
【化3】


(式中、nは、4~10である。)、グアニジニウム系イオン液体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のグアニジニウム系イオン液体において、[X]は、tert-オクチルフェニルポリエトキシエタノレートであり、n=8または9である、グアニジニウム系イオン液体。
【請求項8】
30.0~99.95%の、少なくとも1種の基油と、
0.05~15.0%の、請求項1から7に記載の少なくとも1種のグアニジニウム系イオン液体と、
を含有する(%は、同組成物の総重量に対する各成分の重量で定まる百分率とする)、潤滑剤組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の潤滑剤組成物において、さらに、
前記イオン液体以外の中性清浄剤および過塩基性清浄剤から選択された、ASTM D2896に準拠した全塩基価(全BN)が20~450mgKOH/gである少なくとも1種の清浄剤を含有する、潤滑剤組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の潤滑剤組成物において、当該潤滑剤組成物が、当該潤滑剤組成物の総重量に対して1~35重量%の、前記イオン液体以外の中性清浄剤および過塩基性清浄剤を含有する、潤滑剤組成物。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物において、潤滑剤組成物の総重量に対する、式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体の重量%は、当該グアニジニウム系イオン液体により付与されるBNが同潤滑剤組成物の全BNの3%以上を占めるように選択されている、潤滑剤組成物。
【請求項12】
請求項8から11のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物において、当該潤滑剤組成物の、ASTMD2896に準拠した全塩基価(TBN)値が、5mgKOH/g超である、潤滑剤組成物。
【請求項13】
請求項1から6に記載のグアニジニウム系イオン液体の、潤滑剤組成物中での清浄剤としての使用であって、デポジットの形成を減少および/または抑制および/または阻止および/または遅らせるか、あるいは、燃焼エンジン内部に既に存在するデポジットを減少させる、使用。
【請求項14】
請求項1から6に記載のグアニジニウム系イオン液体の、耐腐食剤としての使用であって、潤滑剤組成物中での、使用。
【請求項15】
2ストローク船舶エンジンおよび4ストローク船舶エンジンの潤滑方法(好ましくは、2ストローク船舶エンジンの潤滑方法)であって、請求項1から6に記載のグアニジニウム系イオン液体または請求項8から12に記載の潤滑剤組成物を前記船舶エンジンに適用する工程を含む、潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グアニジニウム系イオン液体に関する。具体的に述べると、本発明は、潤滑剤組成物中で、特に船舶エンジン用潤滑剤組成物中で、清浄剤として使用可能なグアニジニウム系イオン液体に関する。また、本発明は、該グアニジニウム系イオン液体を含有する船舶エンジン用潤滑剤組成物にも向けられている。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤の主要な役割の一つは、摩擦を軽減することである。しかしながら、潤滑油の効果的な利用を可能とするためには、さらなる特性がしばしば要求される。例えば、船舶用ディーゼルエンジン等の大型ディーゼルエンジンにおいては、特別な配慮を要する動作条件に潤滑剤が曝されることになる場合が多い。
【0003】
低速2ストローククロスヘッド型エンジンに使用される船舶用オイルには、2つのタイプがある。一方は、シリンダーピストン組立体における潤滑を確保するためのシリンダーオイルであり、他方は、シリンダーピストン組立体以外の全ての可動部品における潤滑を確保するためのシステムオイルである。シリンダーピストン組立体の内部では、酸性ガスを含む燃焼残渣が潤滑油に接触する。
【0004】
酸性ガスは、燃料油の燃焼で生成される。酸性ガスとは、特には、硫黄酸化物(SO、SO)のことであり、このような硫黄酸化物は、燃焼気体中および/またはオイル中に存在する水分と接触することで、水和される。この水和反応により、亜硫酸(HSO)や硫酸(HSO)が生成される。これらの酸はエンジン内で凝縮する傾向があるため、金属を腐食させたり、継手やライニング部品などの主要部位を弱らせたりする虞がある。
【0005】
ピストンライナーの表面を保護して過度の腐食摩耗を防ぐには、これらの酸を中和する必要があるが、これは一般的に、潤滑剤に含まれる塩基性部位との反応によって行われる。
【0006】
オイルの中和能力は、塩基度で特徴付けられるBN(BaseNumber)、すなわち、塩基価によって測定される。BNは、ASTM D-2896規格に準拠して測定され、オイル1グラムあたりのミリグラムカリウム当量(「mgKOH/g」や「BNpoint」とも称される)で表される。BNは、使用する燃料油の硫黄分に応じたシリンダーオイルの塩基度調整を可能にする一般的な尺度であり、これにより、燃料中に含まれていて燃焼及び水和反応によって硫酸に変換される可能性のある全硫黄の中和が可能となる。
【0007】
したがって、燃料油の硫黄分が高ければ高いほど、船舶用オイルのBNを高くする必要がある。市場において、5~140mgKOH/gと多岐にわたるBNの船舶用オイルが出回っている理由は、そのためである。
【0008】
このような塩基度は、一般的に、中性清浄剤および/または不溶性金属塩(特には、金属炭酸塩)で過塩基化された過塩基性清浄剤によって付与される。主にアニオン系である同清浄剤は、例えば、サリチレート型、フェネート型、スルホネート型、カルボキシレート型等の金属石鹸であり、不溶性の金属塩粒子が懸濁状態に維持されたミセルを形成する。一般的な中性清浄剤の固有BNは、典型的には清浄剤1gあたり150mgKOH未満であり、一般的な過塩基性清浄剤の固有BNは、標準的に清浄剤1gあたり150~700mgKOHである。潤滑剤中のそれらの質量パーセントは、所望のBNレベルに応じて一定の数値となる。
【0009】
現在、高硫黄分の燃料油(3.5%w/w以下)に対しては、BNが70~140の船舶用潤滑剤が使用される。低硫黄分の燃料油(0.5%w/w)に対しては、BNが10~70の船舶用潤滑剤が使用される。両者のいずれの場合も、船舶用潤滑剤において中性清浄剤および/または過塩基性清浄剤によって加わる塩基性部位の濃度が必要量に達することで、十分な中和能力が実現される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
高硫黄燃料に対しても低硫黄燃料に対しても使用可能であり、良好な耐熱性を維持しつつ、エンジンの高温部位でのデポジット(堆積物)形成のリスクを抑えながら、優れた硫酸中和能力を有する船舶用清浄剤が所望されている。
【0011】
また、高硫黄燃料にも低硫黄燃料にも使用可能であり、良好な耐腐食性を有する船舶用清浄剤が所望されている。
【0012】
BNが70~140の高硫黄燃料にも、BNが10~70の低硫黄燃料にも、使用可能であり、良好な耐熱性を維持してエンジンの高温部位でのデポジット形成のリスクを抑えながら優れた硫酸中和能力を有する船舶用清浄剤が所望されている。
【0013】
BNが70~140の高硫黄燃料にも、BNが10~70の低硫黄燃料にも、使用可能であり、良好な耐腐食性を有する船舶用清浄剤が所望されている。
【0014】
また、清浄特性が向上した、すなわち、デポジットの抑制(「清浄維持」作用)や燃焼エンジン内部に既に存在するデポジットの減少(「清浄除去」作用)によってエンジン清浄維持能力を向上させた船舶用潤滑剤が所望されている。
【0015】
本発明の目的の一つは、前述した短所の全て又は一部を解消する潤滑剤用添加剤を提供することである。本発明の他の目的は、潤滑剤組成物への配合を実施し易い潤滑剤用添加剤を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる他の目的は、低硫黄燃料にも高硫黄燃料にも適用可能な、船舶エンジンの潤滑方法、特には、2ストローク船舶エンジンの潤滑方法を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる他の目的は、船舶エンジンの潤滑方法、特には、超低硫黄燃料が用いられる2ストローク船舶エンジンに対する潤滑方法を提供することである。
【0018】
本発明のさらなる他の目的は、船舶エンジン、特には、2ストローク船舶エンジンの高温部位でのデポジットの形成を減少させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
国際公開第2002/048212号(WO 02/48212)には、ポリαオレフィン-グアニジノポリオキシアルキル化化合物の、燃料用添加剤や潤滑剤用添加剤としての使用が開示されている。
【0020】
驚くべきことに、本願の出願人は、後述の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体が船舶エンジン用潤滑剤組成物中の清浄剤、特には、2ストローク船舶エンジン用潤滑剤組成物中の清浄剤として注目すべき特性を有することを見出した。このような潤滑剤組成物中で本発明に従って使用されたイオン液体は、特に、デポジットの形成の抑制又は阻止(「清浄維持」作用)や燃焼エンジン内部に既に存在するデポジットの減少(「清浄除去」作用)によってエンジンを清浄に維持することができる。
【0021】
また、本願の出願人は、後述の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体が船舶エンジン用潤滑剤組成物中での耐腐食剤、特には、2ストローク船舶エンジン用潤滑剤組成物中での耐腐食剤として注目すべき特性を有することを見出した。
【0022】
本発明は、次の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体化合物に向けられている:
[CAT] [X] (I)
[CAT]は、1,1,3,3-テトラメチルグアニジニウムを表し、[X]は、次の式(II)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物を表す:
【化1】

(式中、Aは、炭素数6~12のアリール基を表し;Rは、水素、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~30のアルキル基又はアルケニル基、および炭素数6~30のアリール基からなる群から選択されて;Yは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~6のアルカンジイル基を表し;nは、1~20の整数を表す。)。
【0023】
好適な一例において、[X]は、次の式(IIA)に対応する:
【化2】

(式中、Rは、水素、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~30のアルキル基又はアルケニル基、および炭素数6~30のアリール基からなる群から選択されると共に、オルト位、パラ位またはメタ位とされ得て;Yは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~6のアルカンジイル基であり;nは、1~15の整数、好ましくは1~12の整数である。)
【0024】
有利には、式(IIA)におけるRは、水素、および直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~30、好ましくは炭素数1~18、より好ましくは炭素数1~12のアルキル基又はアルケニル基からなる群から選択されると共に、オルト位、パラ位またはメタ位とされる。
【0025】
より有利には、式(IIA)におけるRは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~12のアルキル基を表すと共に、パラ位とされる。
【0026】
好適な一例において、Yは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~3のアルカンジイル基であり、好ましくは、-CH-CH-である。
【0027】
好適な一実施形態において、[X]は、次の式(IIB)に対応する:
【化3】

(式中、nは、4~10である。)
【0028】
有利には、[X]は、tert-オクチルフェニルポリエトキシエタノレート(n=8または9)である。
【0029】
本発明は、さらに、
30.0~99.95%の、少なくとも1種の基油と、
0.05~15.0%の、前述の少なくとも1種のグアニジニウム系イオン液体と、
を含有する、潤滑剤組成物に向けられている(%は、同組成物の総重量に対する各成分の重量で定まる百分率とする)。
【0030】
好適な一実施形態において、前記潤滑剤組成物は、さらに、
前記イオン液体以外の中性清浄剤および過塩基性清浄剤から選択され、且つ、ASTM D2896に準拠した全塩基価が20~450mgKOH/gである、少なくとも1種の清浄剤を含有する。
【0031】
好適な同実施形態において、有利には、前記潤滑剤組成物が、当該潤滑剤組成物の総重量に対して1~35重量%の、前記イオン液体以外の中性清浄剤および過塩基性清浄剤を含有する。
【0032】
好適な他の実施形態において、潤滑剤組成物の総重量に対する、前述の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体の重量%は、当該グアニジニウム系イオン液体によって付与されるBNが同潤滑剤組成物の全BNの3%以上を占めるように選択されている。
【0033】
好適な他の実施形態では、前記潤滑剤組成物の、ASTM D2896に準拠した全塩基価(TBN)値が、5mgKOH/g超である。
【0034】
本発明は、さらに、前述の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体の、清浄剤としての使用に向けられており、潤滑剤組成物中での、特には、船舶用潤滑剤中での、デポジットの形成を減少および/または抑制および/または阻止および/または遅らせるか、あるいは、燃焼エンジン内部に既に存在するデポジットを減少させるための使用に向けられている。
【0035】
本発明は、さらに、前述の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体の潤滑剤組成物中での使用に向けられており、特には、船舶用潤滑剤中での耐腐食剤としての使用に向けられている。
【0036】
本発明は、さらに、2ストローク船舶エンジンおよび4ストローク船舶エンジンの潤滑方法、好ましくは、2ストローク船舶エンジンの潤滑方法であって、前述の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体または前記潤滑剤組成物を前記船舶エンジンに適用する工程を備える、潤滑方法に向けられている。
【0037】
前述および後述の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体は、潤滑剤組成物の清浄特性を大いに向上させる。
【0038】
前述および後述の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体は、エンジン内部(internal parts of engines)における極めて効率的な清浄維持および清浄除去を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0039】
1つ又は複数の項目を修飾する「本質的に…からなる」という表現は、明示されている成分や過程/工程以外に、本発明の性質や特徴に実質上何ら影響を及ぼさない成分や過程/工程が本発明の方法や材料に含まれていてもよいことを意味する。
【0040】
「X~Y」という表現は、特に断りのない限り、境界値を含むものとする。同表現は、対象範囲がXという値およびYという値のほかに、XからYまでの間の全ての値を含むことを意味する。
【0041】
「イオン液体」とは、有機又は無機のカチオンとアニオンを有する液体状態の塩のことである。一般的に、イオン液体の融点は100℃未満である。
【0042】
「アルキル」とは、直鎖状、分岐鎖状または環式であり得る飽和ヒドロカルビル鎖のことを意味する。
【0043】
「アルケニル」とは、直鎖状、分岐鎖状または環式であり得て、且つ、少なくとも1つの不飽和結合、好ましくは炭素-炭素二重結合を有するヒドロカルビル鎖のことを意味する。
【0044】
「アリール」とは、芳香族ヒドロカルビル官能基のことを意味する。同官能基は、単環式のものであっても多環式のものであってもよい。アリール基の例としては、フェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン等が挙げられる。
【0045】
「アラルキル」とは、アルキル鎖に結合した芳香族炭化水素官能基、好ましくは単環式芳香族炭化水素官能基を有するヒドロカルビル基のことを意味する。アラルキル基は、自身のアリール部位又はアルキル部位を介して自身以外の分子部位と結合することが可能である。
【0046】
「ヒドロカルビル」とは、アルキル、アルケニル、アリール、アラルキルから選択される化合物または化合物の断片のことを意味する。ヘテロ原子を有するヒドロカルビル基もあり、その場合は別記する。
【0047】
「アルカンジイル」とは、脂肪族炭化水素上の別々の炭素原子から水素原子を1個ずつ除去することで得られた2価の基のことを意味する。特に断りのない限り、「アルカンジイル」には、置換されたアルカンジイルも含まれるものとする。
【0048】
(グアニジニウム系イオン液体)
イオン液体は、有機のカチオンと、有機又は無機のアニオンとからなる、有機塩である。カチオンやアニオンを別のものに代えることで、所望の特性のイオン液体を得ることが可能である。本発明において、前記グアニジニウム系イオン液体は、グアニジニウムカチオンと、有機のアニオンとの塩である。
【0049】
前記グアニジニウム系イオン液体は、式(I)で表される化合物から選択される:
[CAT] [X] (I)
[CAT]は、式(Ia)で表される1,1,3,3-テトラメチルグアニジニウムを表す:
【化4】

[X]は、少なくとも1つのアニオン種を表す。
【0050】
好ましくは、式(I)における[X]は、式(II)で表される化合物から選択される対イオンを表す:
【化5】

(式中、Aは、炭素数6~12のアリール基を表し;Rは、水素、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~30のアルキル基又はアルケニル基、および炭素数6~30のアリール基からなる群から選択されて;Yは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~6のアルカンジイル基を表し;nは、1~20の整数を表す。)
【0051】
[A基]
式(II)におけるAは、炭素数6~12のアリール基を表す。
【0052】
例えば、Aは、フェニル基またはナフチル基を表し得る。
【0053】
好適な一実施形態において、Aはフェニル基を表し、対イオン[X]は式(IIA)に対応する:
【化6】
【0054】
[R基]
R基は、水素、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~30のアルキル基又はアルケニル基、および炭素数6~30のアリール基からなる群から選択される。
【0055】
好ましくは、Rは、水素、および直鎖状又は分岐鎖状であり且つ炭素数1~30、好ましくは炭素数1~24、より好ましくは炭素数1~18からなるアルキル基又はアルケニル基からなる群から選択される。
【0056】
一実施形態において、Rは、A基とR基の炭素数の合計が30以下、好ましくは24以下、より好ましくは20以下になるように選択される。
【0057】
より好ましくは、Rは、炭素数1~18、好ましくは炭素数1~12の、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。
【0058】
例えば、Rは、イソプロピル、n-プロピル、イソブチル、tert-ブチル、n-ブチル、tert-ペンチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、tert-ヘキシル、n-ヘプチル、tert-ヘプチル、n-オクチル、tert-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、tert-ノニルおよびドデシルからなる群から選択され得る(但し、これらに限定されない)。
【0059】
式(IIA)におけるR基は、パラ位、オルト位またはメタ位とされ得る。
【0060】
好適な一実施形態において、式(IIA)におけるRは、パラ位とされる。
【0061】
[Y基]
式(II)におけるYは、炭素数1~6、好ましくは炭素数1~3の、直鎖状又は分岐鎖状のアルカンジイル基を表す。
【0062】
例えば、Yは、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-CH-、-CH-CH-CH-からなる群から選択され得る。
【0063】
有利には、Yは、-CH-CH-を表す。
【0064】
[整数n]
式(II)におけるnは、1~20の整数を表す。nは、好ましくは1~15、より好ましくは1~12の整数を表す。
【0065】
有利には、式(II)におけるnは、4~12の整数、好ましくは6~10の整数を表す。
【0066】
より有利には、整数nおよび前述のY基は、全体としての炭素数の合計が40以下、好ましくは30以下のポリアルコキシ鎖を形成するように選択される。
【0067】
なお一層有利には、整数nおよび前述のY基は、全体としての平均分子量が200~600g/mol、好ましくは300~500g/molのポリアルコキシ鎖を形成するように選択される。
【0068】
好適な一実施形態において、対イオン[X]は、式(IIB)に対応する:
【化7】

(式中、nは、6~10である。)
【0069】
より好適な一実施形態において、[X]は、式(IIB)で表されるtert-オクチルフェニルポリエトキシエタノレート(n=8または9)である。
【0070】
式(I)や式(II)で表される分子は、例えばM. G. BogdanovらによるZ. Naturforsch. 2010, 65b, 37 - 48や、Y. GaoらによるInorg. Chem. 2005, 44, 1704-1712等の文献で示されているように、当業者に知られた任意の方法で調製することが可能である。実施例の箇所で、合成例が開示されている。
【0071】
潤滑剤組成物中で使用するという目的から、前記グアニジニウム系イオン液体は、好適には、潤滑剤組成物の大部分を占める基油に対して可溶性を有するものでなければならない。ここで、化合物のうち、基油の重量に対して室温で0.01重量%以上の可溶化濃度を有するものは、油溶性であるとする。実施例の箇所で、前記グアニジニウム系イオン液体の油溶性を確認するための試験法が開示されている。
【0072】
有利には、潤滑剤組成物の総重量に対する、式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体の重量%は、当該化合物により付与されるBNが同潤滑剤組成物の全BNに対して潤滑剤1gあたり0.5mgの量のカリウムまたはそれ以上、好ましくは2mgの量のカリウムまたはそれ以上、より好ましくは3mgの量のカリウムまたはそれ以上、さらに好ましくは潤滑剤1gあたり3~40mgの量のカリウムを付与するように選択される。
【0073】
有利には、潤滑剤組成物の総重量に対する、グアニジニウム系イオン液体の重量%は、油溶性の当該グアニジニウム系イオン液体により付与されるBNが同潤滑剤組成物の全BNの3%以上、好ましくは5%以上、好ましくは10~50%を占めるように選択される。
【0074】
本発明の好ましい一実施形態において、前記潤滑剤組成物の総重量に対する、前述の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体の重量%は、0.05~15%、好ましくは0.1~12%、有利には0.5~10%、なお一層好ましくは1~8%の範囲内である。
【0075】
(潤滑剤組成物)
本発明は、さらに、先に開示したグアニジニウム系イオン液体の使用であって、潤滑油(すなわち、潤滑剤)組成物中での添加剤としての使用に向けられている。
【0076】
本発明は、さらに、そのような添加剤を含有した、2ストローク船舶エンジンおよび4ストローク船舶エンジン用の所与の潤滑剤組成物に向けられている。
【0077】
有利には、前記潤滑剤組成物は、
30.0~99.95%の、少なくとも1種の基油と、
0.05~15.0%の、前述の式(I)で表される少なくとも1種のグアニジニウム系イオン液体と、
を含有し、好ましくは、本質的にこれらの成分からなる(%は、同組成物の総重量に対する各成分の重量で定まる百分率とする)。
【0078】
なお一層有利には、前記潤滑剤組成物は、
50.0~99.0%の、少なくとも1種の基油と、
1.0~10.0%の、前述の式(I)で表される少なくとも1種のグアニジニウム系イオン液体と、
を含有し、好ましくは、本質的にこれらの成分からなる(%は、同組成物の総重量に対する各成分の重量で定まる百分率とする。)。
【0079】
他の好適な実施形態において、本発明は、
少なくとも1種の基油と、
前述の式(I)で表される少なくとも1種のグアニジニウム系イオン液体化合物と、
ASTM D2896に準拠した全塩基価が20~450mgKOH/gの中性清浄剤および過塩基性清浄剤から選択される少なくとも1種の清浄剤と、
を含有し、好ましくは、本質的にこれらの成分からなる、潤滑剤組成物に向けられている。
【0080】
有利には、同実施形態の潤滑剤組成物は、
30.0~94.0%の、少なくとも1種の基油と、
0.05~15%の、前述の式(I)で表される少なくとも1種のグアニジニウム系イオン液体と、
1~35%の割合を占める清浄剤であって、ASTMD2896に準拠して求められる全塩基価が20~450mgKOH/gの中性清浄剤および過塩基性清浄剤から選択される少なくとも1種の清浄剤と、
を含有し、好ましくは、本質的にこれらの成分からなる(%は、同組成物の総重量に対する各成分の重量で定まる百分率とする)。
【0081】
有利には、前記潤滑剤組成物は、
50~90%の、少なくとも1種の基油と、
1~10%の、前述の式(I)で表される少なくとも1種のグアニジニウム系イオン液体と、
5~35%の割合を占める清浄剤であって、ASTM D2896に準拠した全塩基価が20~450の中性清浄剤および過塩基性清浄剤から選択される少なくとも1種の清浄剤と、
を含有し、好ましくは、本質的にこれらの成分からなる(%は、同組成物の総重量に対する各成分の重量で定まる百分率とする)。
【0082】
[基油]
一般的に、本発明に係る潤滑油組成物は、「基油」とも称される潤滑粘度オイルを第1成分として含有する。本明細書で使用する基油は、例えばエンジンオイル、船舶用シリンダーオイル、作動油などの機能性流体、ギアオイル、オートマチックトランスミッションフルードなどのようなトランスミッションフルード、タービン用潤滑剤、トランクピストンエンジン油、圧縮機用潤滑剤、金属加工用潤滑剤、その他の潤滑油組成物やグリース組成物等の任意の用途の潤滑油組成物の処方に使用される、現在知られている又は将来的に発見されるどのような潤滑粘度オイルであってもよい。
【0083】
有利には、本発明にかかる潤滑剤組成物は、船舶エンジン用潤滑油組成物、好ましくは2ストローク船舶エンジン用潤滑油組成物である。
【0084】
一般的に、本発明にかかる潤滑剤組成物の処方に使用される「基油」とも称される前記オイルは、鉱物油、合成油、植物由来の油、およびこれらの混合物のいずれかであり得る。同用途に一般的に用いられる鉱物油や合成油は、次にまとめるAPI分類に規定されたいずれかの部類に属する。
【表1】

【0085】
グループ1の鉱物油は、選択したナフテン系又はパラフィン系原油を分留した後、この分留により得られたものを溶剤抽出、溶剤脱ろう又は接触脱ろう、水素化処理、水添処理などの方法で精製することによって得ることができる。
【0086】
グループ2やグループ3のオイルは、例えば、水素化処理と水素化分解と水添処理と接触脱ろうとの組合せ等といった、より厳しい精製方法で得られる。グループ4やグループ5の合成基油の例としては、ポリαオレフィン類、ポリブテン類、ポリイソブテン類、アルキルベンゼン類等が挙げられる。
【0087】
以上の基油は、単独で使用されても、混合物として使用されてもよい。鉱物油と合成油とを組み合わせて使用してもよい。
【0088】
本発明の潤滑剤組成物は、SAEJ300分類に準拠して求められる粘度等級(グレード)が、SAE-20、SAE-30、SAE-40、SAE-50またはSAE-60である。
【0089】
グレード20のオイルは、100℃での動粘度が5.6~9.3mm/sである。
【0090】
グレード30のオイルは、100℃での動粘度が9.3~12.5mm/sである。
【0091】
グレード40のオイルは、100℃での動粘度が12.5~16.3mm/sである。
【0092】
グレード50のオイルは、100℃での動粘度が16.3~21.9mm/sである。
【0093】
グレード60のオイルは、100℃での動粘度が21.9~26.1mm/sである。
【0094】
好ましくは、前記潤滑剤組成物は、シリンダー潤滑剤である。
【0095】
有利には、本発明の潤滑剤組成物の総重量に対する、同潤滑剤組成物中の基油の量は、30重量%~99.95重量%、好ましくは40重量%~99重量%、より好ましくは50重量%~94重量%である。
【0096】
[清浄剤]
前述の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体は、前記潤滑剤組成物中で清浄剤の役割を果たす。同グアニジニウム系イオン液体には、金属清浄剤の使用量を減らすことが可能になるという利点がある。よって、本発明に従って使用されたイオン液体により、低硫黄燃料組成物と高硫黄燃料組成物のいずれも中和可能でありながら、どちらの場合もデポジットの形成が避けられる組成物を入手できるようになる。本発明によれば、本発明のグアニジニウム系イオン液体は、イオン液体の部類に属さない少なくとも1種の清浄剤、好ましくは少なくとも1種の金属清浄剤と組み合わせて使用されるのが好ましい。
【0097】
式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体以外の、他の清浄剤は、典型的に、長い親油性炭化水素鎖と親水性頭部を有するアニオン性化合物であり、これに伴うカチオンとしては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属カチオンが通例である。好ましくは、同清浄剤は、カルボン酸類、スルホネート類、サリチレート類、ナフテネート類およびフェネート類の、アルカリ金属またはアルカリ土類金属(極めて好ましくは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウム)の塩であって、フェノレートの他、カルボキシル酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩などが例示される。これらの金属塩は、同清浄剤の1つ以上のアニオン基に対して略化学量論量の金属を含有したものであり得る。この場合の清浄剤は、ある程度の塩基度に寄与するものの、過塩基化はしていないため、「中性」清浄剤と呼称される。典型的に、このような「中性」清浄剤の、ASTMD2896に準拠して測定されるBNは、清浄剤1gあたりのKOHの量が150mg未満、清浄剤1gあたりのKOHの量が100mg未満、または清浄剤1gあたりのKOHの量が80mg未満である。この種のいわゆる中性清浄剤は、潤滑剤組成物のBNの一部に寄与し得る。例えば、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、バリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の、カルボキシレート類、スルホネート類、サリチレート類、フェネート類、ナフテネート類などの中性清浄剤が使用される。金属が過剰量(清浄剤の1つ以上のアニオン基に対する化学量論量を超える量)になると、いわゆる過塩基性清浄剤となる。過塩基性清浄剤のBNは高く、清浄剤1gあたりのKOHの量は150mg超、典型的には清浄剤1gあたりのKOHの量は200~700mg、好ましくは清浄剤1gあたりのKOHの量は250~450mgとなる。過塩基性清浄剤の性質を付与する過剰量の金属は、油に不溶な金属塩の形態であり、例えば炭酸塩、水酸化物塩、シュウ酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩等であるが、好ましいのは炭酸塩である。過塩基性清浄剤中のこのような不溶性塩の金属は、油溶性を有する方の清浄剤の金属と同一であってもよいし、異なるものであってもよい。好ましくは、同金属は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムから選択される。このようにして、過塩基性清浄剤は、油溶性の金属塩の形態の清浄剤によって前記潤滑剤組成物中に懸濁状態で維持された不溶性の金属塩からなるミセルの形態となる。これらのミセルは、少なくとも1種の清浄剤によって安定化された、少なくとも1種の不溶性金属塩を含有したものとなり得る。清浄剤に対して可溶な金属塩が1種のみの過塩基性清浄剤は、一般的に、前者の清浄剤の疎水性鎖の性質に応じて呼称される。つまり、前者の清浄剤がフェネート、サリチレート、スルホネートまたはナフテネートの場合には、フェネート系、サリチレート系、スルホネート系またはナフテネート系の過塩基性清浄剤とそれぞれ称される。疎水性鎖の性質が互いに異なる複数の種類の清浄剤から前記ミセルがなる場合には、混成型の過塩基性清浄剤と称される。前記過塩基性清浄剤および前記中性清浄剤は、カルボキシレート系、スルホネート系、サリチレート系、ナフテネート系、フェネート系、およびこれらのうち少なくとも2種の清浄剤を配合した混成型の清浄剤から選択され得る。前記過塩基性清浄剤および前記中性清浄剤としては、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムから選択される金属、好ましくはカルシウムまたはマグネシウムをベースとする化合物が挙げられる。前記過塩基性清浄剤は、アルカリ金属の炭酸塩およびアルカリ土類金属の炭酸塩の群から選択される不溶性金属塩、好ましくは炭酸カルシウムによって過塩基化されたものであり得る。前記潤滑剤組成物は、前述のような少なくとも1種の過塩基性清浄剤と少なくとも1種の中性清浄剤とを含有し得る。
【0098】
有利には、本発明に係る組成物は、1~35重量%、より有利には5~35重量%、好ましくは8~35重量%、なお一層好ましくは10~35重量%の清浄剤を含有する(%は、同潤滑剤組成物の総重量に対する、前記イオン液体以外の清浄剤の重量%とする)。
【0099】
好ましくは、本発明に係る組成物は、1~35重量%、より有利には5~35重量%、好ましくは8~35重量%、なお一層好ましくは10~35重量%の清浄剤を含有し(%は、同潤滑剤組成物の総重量に対する、前記イオン液体以外の中性および過塩基性清浄剤の重量%とする)、好ましくは、同清浄剤は、ASTMD2896に準拠して求められる全塩基価が20~450mgKOH/gの中性清浄剤および過塩基性清浄剤から選択される。
【0100】
有利には、潤滑剤の総重量に対する中性清浄剤および過塩基性清浄剤の重量%は、前記イオン液体以外の中性清浄剤および過塩基性清浄剤により付与されるBNが、同潤滑剤組成物の全BNに対して潤滑剤1gあたりのカリウムの量が70mg以下、好ましくは潤滑剤1gあたりのカリウムの量が5~70mg、より好ましくは潤滑剤1gあたりのカリウムの量が20~40mgとなるように選択される。
【0101】
[添加剤]
任意で、前述した基油の全て又は一部は、前記組成物の高温粘度と低温粘度の両方を上げる役割を果たす少なくとも1種の増ちょう剤や、粘度指数(VI)を向上させる調整剤に置き換えることが可能である。
【0102】
本発明の潤滑剤組成物は、少なくとも1種の任意の添加剤、特には、当業者が頻繁に使用する添加剤の中から選択される少なくとも1種の任意の添加剤を含有していてもよい。
【0103】
一実施形態において、前記潤滑剤組成物は、さらに、耐摩耗剤、油溶性脂肪アミン、ポリマー、分散剤、消泡剤またはこれらの混合物から選択される任意の添加剤を含有する。
【0104】
ポリマーは、典型的には、分子量(Mn)が2,000~50,000ダルトンと低いポリマーである。同ポリマーは、PIB(2,000ダルトン超)、ポリ(メタ)クリレート類(30,000ダルトン超)、オレフィン系共重合体類、オレフィン/αオレフィン共重合体類、EPDM、ポリブテン類、高分子量ポリαオレフィン(100℃での粘度が150超)、および水添又は非水添のスチレン/オレフィン共重合体類の中から選択される。
【0105】
耐摩耗剤は、保護膜を表面に吸着形成することで同表面を摩擦から保護する。最もよく使用されるのは、亜鉛ジチオホスフェートやZnDTPである。同カテゴリーには、他にも、様々なリン化合物、硫黄化合物、窒素化合物、塩素化合物およびホウ素化合物が存在する。多種多様な耐摩耗剤が存在しているが、最も普及している部類としては、硫黄-リン系の添加剤、例えば、金属アルキルチオホスフェート類、特には、亜鉛アルキルチオホスフェート類、より具体的には、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZnDTP)類などが挙げられる。好適な化合物は、式:Zn((SP(S)(OR)(OR))(式中、RおよびRはアルキル基、好ましくは炭素数1~18のアルキル基である)で表される化合物である。前記ZnDTPは、典型的には、前記潤滑剤組成物の総重量に対して約0.1~2重量%を占めるように存在する。それ以外に、硫化オレフィン類を含むポリスルフィド類や、リン酸アミン類も、広く使用されている耐摩耗剤である。また、潤滑剤組成物中には、窒素および硫黄系の耐摩耗剤や極圧剤、例えば、金属ジチオカルバメート類、特には、モリブデンジチオカルバメートなどが見受けられる場合もある。その他の耐摩耗剤としては、グリセロールエステル類(モノオレエート類、ジオレエート類、トリオレエート類、モノパルミテート類、モノミリステート類)が挙げられる。一実施形態において、耐摩耗剤の含有量は、前記潤滑剤組成物の総重量に対して0.01~6重量%、好ましくは0.1~4重量%の範囲内である。
【0106】
分散剤は、潤滑剤組成物の処方、特には、船舶分野の用途に用いられるよく知られた添加剤である。分散剤の主な役割は、潤滑剤中に最初から存在している粒子やエンジン内での使用中に出現する粒子を懸濁状態に維持することである。分散剤は、立体障害を利用して粒子同士の凝集を阻止する。また、分散剤は、中和化に協力する作用も示し得る。潤滑剤用添加剤として使用される分散剤は、典型的に、比較的長い(一般的には炭素数50~400の)炭化水素鎖に極性基が伴ったものからなる。同極性基は、典型的に、少なくとも1つの窒素、酸素またはリン元素を有する。潤滑用添加剤中の分散剤としては、コハク酸から誘導された化合物が極めて有用である。具体的に述べると、無水コハク酸類とアミン類との縮合で得られるコハク酸イミド類や、無水コハク酸類とアルコール類又はポリオール類との縮合で得られるコハク酸エステル類も使用される。このような化合物を、硫黄、酸素、ホルムアルデヒド、カルボン酸類、および含ホウ素化合物又は亜鉛を含め、種々の化合物で処理することにより、例えば、ホウ素化コハク酸イミド類、亜鉛ブロックコハク酸イミド類等(zinc-blocked succinimides)を調製することが可能である。アルキル基で置換されたフェノール類とホルムアルデヒドと第1級又は第2級アミン類との重縮合によって得られるマンニッヒ塩基も、潤滑剤中の分散剤として使用される化合物である。本発明の一実施形態において、前記分散剤の含有量は、前記潤滑剤組成物の総重量に対して0.1重量%以上、好ましくは0.5~2重量%、有利には1~1.5重量%であってもよい。PIBコハク酸イミドの仲間(family)(例えば、ホウ素化されたものや、亜鉛ブロックのもの等)を、分散剤として使用することも可能である。
【0107】
さらなる任意の添加剤は、消泡剤から選択され得て、例えば、ポリジメチルシロキサン類、ポリアクリレート類のような極性ポリマー等である。また、任意の添加剤は、酸化防止剤および/またはさび止め剤、例えば、有機金属清浄剤やチアジアゾール類等から選択してもよい。これらの添加剤は、当業者にとって既知のものである。これらの添加剤は、一般的に、前記潤滑剤組成物の総重量に対して0.01~5%の重量含有率で存在する。
【0108】
一実施形態において、本発明に係る潤滑剤組成物は、更に油溶性脂肪アミンを含有していてもよい。
【0109】
本発明の潤滑剤組成物中に含まれる前述のような任意の各添加剤は、別途の添加剤として同潤滑剤組成物に配合されるものであってもよく、具体的には、前記基油へと別途に添加されるものであってもよい。しかしながら、任意の各添加剤は、船舶用潤滑剤組成物用の添加剤濃縮物として、一体化されたものであってもよい。
【0110】
(潤滑剤組成物の製造方法)
本開示では、これまでに開示した潤滑剤(特には、船舶用潤滑剤)組成物の製造方法であって、前述の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体成分および任意の各添加剤を、前記基油と混合する工程を備える、製造方法が提供される。
【0111】
(潤滑剤組成物の特性)
これまでに開示した各成分を配合することで、組成物、有利には、以下の特性を具備した組成物が調製される。
【0112】
有利には、前記組成物の、ASTM D2896に準拠した全塩基価(TBN)値は、5mgKOH/g超である。好ましくは、前記組成物の全塩基価(TBN)値は、10~140mgKOH/g、より良くは15~75mgKOH/g、より好ましくは20~60mgKOH/gである。
【0113】
好ましくは、本発明にかかる潤滑剤組成物は、ASTM D445に準拠して評価される100℃での動粘度が、5.6mm/s以上かつ21.9mm/s以下、好ましくは12.5mm/s以上かつ21.9mm/s以下、より好ましくは14.3mm/s以上かつ21.9mm/s以下、有利には16.3~21.9mm/sの範囲内である。
【0114】
好ましくは、本発明に係る潤滑剤組成物は、シリンダー潤滑剤である。
【0115】
なお一層有利には、前記潤滑剤組成物は、2ストロークディーゼル船舶エンジン用のシリンダーオイルであり、100℃での動粘度(16.3~21.9mm/s)に相当する粘度等級:SAE-50のものとされる。
【0116】
典型的に述べると、2ストロークディーゼル船舶エンジン用のシリンダー潤滑剤の一般的な処方は、(SAEJ300分類に準拠した)グレードがSAE40~SAE60、好ましくはSAE50であり、かつ、船舶エンジン用に調整された鉱物由来および/または合成由来の潤滑基油(例えば、APIグループ1の部類の潤滑基油)を50重量%以上含有したものとされる。
【0117】
そのような粘度は、各添加剤と基油を混合することによって得られる。例えば、ニュートラルソルベント(Neutral Solvent)のようなグループ1の鉱物基油を含む基油(150NS、500NS、600NS等)とブライトストックとを混合することによって得られうる。それ以外にも、鉱物基油や合成基油や植物由来の基油を、添加剤と混合することにより、選択されたSAE等級に対応した粘度となるように、前記基油を用いてもよい。
【0118】
本願の出願人は、相当の部分のBNを油溶性のグアニジニウム系イオン液体により供給することで、同等のBNの一般的な処方と変わらない性能レベルを維持したシリンダー潤滑剤の処方が可能であることを見出した。
【0119】
特に注視すべき性能は、後述の実施例で説明するエンタルピー試験で測定される硫酸中和能力である。
【0120】
油溶性の前記グアニジニウム系イオン液体は、硬質デポジット(場合によっては、過塩基性清浄剤や中性清浄剤との関係による硬質デポジット)の形成に起因した部品摩耗に繋がらないことから、このグアニジニウム系イオン液体を用いた代替的な方法によってBNを付与する本発明に係るシリンダー潤滑剤は、高硫黄燃料油と低硫黄燃料油の双方に適している。
【0121】
(式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体の使用、および、該グアニジニウム系イオン液体を含有する潤滑剤組成物の使用)
本発明は、さらに、前述の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体の、エンジン(好ましくは船舶エンジン)を潤滑するための使用に関する。詳細には、本発明は、前述の式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体の、2ストローク船舶エンジンおよび4ストローク船舶エンジン、より好ましくは2ストローク船舶エンジンを潤滑するための使用に向けられている。
【0122】
具体的に述べると、式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体は、シリンダーオイル又はシステムオイルとしての潤滑剤組成物中での、2ストロークエンジンおよび4ストローク船舶エンジン、より好ましくは2ストロークエンジンを潤滑するための使用に適している。
【0123】
具体的に述べると、本発明は、本発明に係るグアニジニウム系イオン液体の、潤滑剤組成物中での清浄剤、特には、船舶用潤滑剤中での清浄剤としての、使用に関する。
【0124】
具体的に述べると、式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体は、潤滑剤組成物中で、特には、船舶用潤滑剤中で、デポジットの形成を減少および/または抑制および/または阻止および/または遅らせて(清浄維持作用)、かつ/あるいは、船舶エンジン内部に既に存在するデポジットを減少させる(清浄除去作用)ために使用される。
【0125】
本発明の他の態様では、本発明のグアニジニウム系イオン液体が、潤滑剤組成物中での耐腐食剤、特には船舶用潤滑剤中での耐腐食剤として使用される。
【0126】
本発明は、さらに、式(I)で表されるグアニジニウム系イオン液体と基油とを含有する前述の潤滑剤組成物を、2ストロークエンジンおよび4ストローク船舶エンジン(より好ましくは2ストロークエンジン)を潤滑するために使用することに関する。
【0127】
具体的に述べると、前述の潤滑剤組成物は、船舶エンジン内で、好ましくは2ストローク船舶エンジン内で、デポジットの形成を減少および/または抑制および/または阻止および/または遅らせて(清浄維持作用)、かつ/あるいは、同船舶エンジン内部に既に存在するデポジットを減少させる(清浄除去作用)ために使用される。
【0128】
本発明のさらなる他の態様では、本発明の潤滑剤組成物が、船舶エンジン内で、好ましくは2ストローク船舶エンジン内で、腐食を減少および/または抑制および/または阻止および/または遅らせるために使用される。
【0129】
本発明は、さらに、2ストローク船舶エンジンおよび4ストローク船舶エンジン、より好ましくは2ストローク船舶エンジンの潤滑方法であって、前記船舶エンジンに、これまでに開示したグアニジニウム系イオン液体または潤滑剤組成物を適用する工程を備える、潤滑方法に関する。
【0130】
具体的に述べると、本発明は、デポジットの形成を減少および/または抑制および/または阻止および/または遅らせて、かつ/あるいは、燃焼エンジン内部に既に存在するデポジットを減少させる方法であって、これまでに開示したグアニジニウム系イオン液体または潤滑剤組成物を前記エンジンに適用する工程を少なくとも備える、方法に関する。
【0131】
本発明は、さらに、船舶エンジン内部の腐食を減少および/または抑制および/または阻止および/または遅らせる方法であって、前記エンジンに、これまでに開示したグアニジニウム系イオン液体または潤滑剤組成物を適用する工程を少なくとも備える、方法に関する。
【0132】
具体的に述べると、前記グアニジニウム系イオン液体または前記潤滑剤組成物は、典型的にパルス式潤滑システムを介して、又は噴射器からピストンのリングパックへの当該イオン液体もしくは当該組成物の噴射を介して、シリンダーの壁に適用されることにより、2ストロークエンジンの潤滑を行う。本発明に係る潤滑剤組成物が前記シリンダーの壁に適用されることで、腐食に対する保護の増強やエンジン清浄性の向上がもたらされることが確認された。
【実施例
【0133】
(素材および方法)
1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(CAS80-70-6)は、Merck株式会社から上市されている。
tert-オクチルフェニルポリエトキシエタノール(CAS9002-93-1)は、Merck社から上市されている。
【0134】
[I:1,1,3,3-テトラメチルグアニジニウム(tert-オクチルフェニルポリエトキシエタノレート)(IL1)の合成]
【化8】
345.6g(3mol)の1,1,3,3-テトラメチルグアニジンを、1.5Lのメタノールに対して0℃で攪拌しながらゆっくりと添加した。同溶液を室温まで昇温させた後、1875g(3mol)のtert-オクチルフェニルポリエトキシエタノールを、冷却しながらピストンポンプで2時間かけてゆっくりと添加した。反応混合液の温度は、常に20℃を下回るように保持した。添加が終わった反応混合液を、室温で24時間にわたり攪拌した後、1,1,3,3-テトラメチルグアニジンやtert-オクチルフェニルポリエトキシエタノールの投入によって同液をpH=11に調整した。同混合液に活性炭(60mL)を添加し、室温で13時間にわたり更に激しく攪拌した。ガラスフリットフィルターで炭をろ過し、38℃および減圧下で溶媒を蒸発させた。得られたやや黄色の油分を、カールフィッシャー滴定法による水分の計測値が0.1%未満になるまで35℃および10-2mbarの真空下で更に乾燥させた。
【0135】
ASTM D2896に準拠して求められるIL1(イオン液体:Ion Liquid 1)の塩基価は、61mgKOH/gである。
【0136】
[可溶性試験]
前記グアニジニウム系イオン液体が油溶性であることを確認するために、下記の試験を実施した:
【0137】
IL1および基油を含有した100mLの潤滑剤組成物を、2つの反応管に導入する。一方の反応管は室温(15~25℃)に維持されるようにし、他方の反応管はオーブンで60℃にする。
【0138】
3か月後、どちらの反応管の潤滑剤組成物も透明であった。このことから、調製したイオン液体IL1は、油溶性を有する。
【0139】
[II:潤滑剤組成物の調製]
基油に対して、下記の表1に挙げた各添加剤を対応する割合で配合するとともに、60℃の条件下とすることにより、潤滑剤組成物を調製する。百分率(%)は、同組成物の総重量に対する重量%に相当する。
【0140】
組成物C1は、比較例である。組成物C2は、本発明に係る組成物である。
【0141】
【表2】


(1)ASTM D7279に準拠した40℃での粘度測定値が112cStであるグループ1の鉱物油(600NS)
(2)清浄剤:Dtg1はASTM D2896に準拠したTBNが225mgKOH/gであるサリチレート、Dtg2はASTM D2896に準拠したTBNが260mgKOH/gであるフェネート
(3)AFは消泡剤(anti-foaming agent)
【0142】
[III:試験法1:潤滑剤組成物の耐熱性および清浄特性]
劣化オイルに対してECBT試験を行うことによって、本発明に係る潤滑剤組成物の耐熱性を評価する。
【0143】
[原理]
つまり、劣化オイルに対してECBT試験を行うことによって、所定の条件下で発生するデポジットの量(mg)を求め、それにより潤滑剤組成物Cの耐熱性の評価を行った。この量が少なければ少ないほど、耐熱性に優れていることから、エンジン清浄性にも優れる。
【0144】
前記の試験は、エンジンの高温部位(特には、ピストン上部)に潤滑油組成物が噴射された際の、潤滑剤組成物の挙動をシミュレーションしたものである。
【0145】
[使用器具]
試験は、310℃の温度下で実施した。当該試験では、ピストンの形を模倣したアルミニウム製ビーカーを用いる。ガラス容器内に、同ビーカーを設置した。前記潤滑剤組成物を、約60℃の温度に制御・維持する。前記潤滑剤を同容器内に入れ、前記容器に備え付けられた金属ブラシが部分的に潤滑剤に漬かるようにした。このブラシを1,000rpmの速度で回転駆動することにより、潤滑剤を前記ビーカーの内表面上に飛ばす。前記ビーカーの温度は、熱電対で制御される加熱用電気抵抗によって、310℃に維持した。この試験では、潤滑剤のそのような飛散を12時間にわたって継続させた。
【0146】
この手順により、ピストン-リング組立体(piston-ring assembly)におけるデポジットの形成をシミュレーションすることが可能となる。前記ビーカー上のデポジットの重量を測定した測定値(mg)を、結果として示す。
【0147】
この試験の方法は、Jean-Philippe ROMANによる刊行物である“Research and Development of Marine Lubricants in ELF ANTAR France- The relevance of laboratory tests in simulating field performance”, Marine Propulsion Conference 2000- Amsterdam- 29-30 Mar. 2000で詳細に説明されている。
【0148】
[結果]
比較の潤滑剤C1はデポジットが499mgであるのに対し、本発明に係る潤滑剤C2はデポジットが267mgである。
【0149】
このように、本発明で規定するイオン液体は、原動機の部品内部のデポジットを減少させることができるため、清浄効果を有する。
【0150】
[IV:試験法2:耐腐食性]
[使用器具]
試験対象となる化合物の不動態性(passivation)を評価するための装置は、適切なサイズ(通常、500~1,000mL)のビーカー、ホットプレートなどの温度制御装置、および試料支持システムで構成される。200mLの潤滑剤を、マグネティックスターラーなどの適切な攪拌機構を用いて混ぜ続ける。分注シリンジまたはポンプを用いて、所定量の硫酸を同潤滑剤に滴下することにより、金属製の試験片を強酸性の腐食条件下に曝す。硫酸の量は、オイルのTBNの90%を中和するような量とされる。
【0151】
前記金属製の試験片の変化を目視により観察し、腐食の程度を得る。
【0152】
[結果]
下記の表3に、前述の組成物C1,C2について得られた結果を示す。1から5までの段階で、腐食の程度を評価する。1の段階は、試験片が極めて腐食していることを意味する。5の段階は、試験片がほぼ又は全く腐食していないことを意味する。
【0153】
【表3】
【国際調査報告】