(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-26
(54)【発明の名称】線維症のバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20230519BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230519BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230519BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20230519BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20230519BHJP
【FI】
C07K16/18
G01N33/53 D ZNA
C12N15/13
A61K45/00
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562971
(86)(22)【出願日】2021-04-15
(85)【翻訳文提出日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2021059759
(87)【国際公開番号】W WO2021209540
(87)【国際公開日】2021-10-21
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2020-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522403778
【氏名又は名称】ノルディック バイオサイエンス エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ペーアソン,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】カースダル,モルテン,アッサー
(72)【発明者】
【氏名】リーミング,ダイアナ ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】フィスカー,メッテ,ジュール
(72)【発明者】
【氏名】マノン-ジェンセン,ティナ
(72)【発明者】
【氏名】モルテンセン,ヨアヒム,ホーグ
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA05
4C084ZC42
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、生体試料において架橋CTX-IIIを検出するためのサンドイッチイムノアッセイ及びキット、並びにリシルオキシダーゼ(LOX)を標的とする薬物の有効性を評価するためのその使用に関する。架橋CTX-IIIは、肝線維症、慢性腸疾患、好酸球性食道炎及び癌を含む、線維症と関連付けられる疾患におけるバイオマーカーとして使用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C末端アミノ酸配列KAGGFAPYYG(配列番号1)を有するペプチドを特異的に認識し、結合するモノクローナル抗体。
【請求項2】
前記モノクローナル抗体が、C末端アミノ酸配列KAGGFAPYYG(配列番号1)を有する合成ペプチドに対して作製されたモノクローナル抗体である、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
前記抗体が、C末端アミノ酸配列KAGGFAPYYGX(配列番号2)を有し、その中のXは任意のアミノ酸を表すペプチドを特異的に認識しないか、又はそれと結合しない、請求項1又は請求項2に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
前記抗体が、C末端アミノ酸配列KAGGFAPYYGD(配列番号4)を有するペプチドを特異的に認識しないか、又はそれと結合しない、請求項1~3のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
前記抗体が、C末端アミノ酸配列KAGGFAPYY(配列番号5)を有するペプチドを特異的に認識しないか、又はそれと結合しない、請求項1~4のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体。
【請求項6】
生体試料において架橋CT-IIIを検出するためのサンドイッチイムノアッセイであって、前記架橋CT-IIIが、鎖間架橋によって共に結合した少なくとも2つのCT-IIIの鎖を含み、
前記方法が、前記架橋CT-IIIを含む前記生体試料を、表面に結合した第1のモノクローナル抗体と接触させる工程であって、前記架橋CT-IIIに含まれるCT-IIIの各鎖が、インタクトなIII型コラーゲンのCプロテアーゼ切断によって生成されるCT-IIIのC末端ネオエピトープを含む工程;
第2のモノクローナル抗体を添加する工程;及び
前記第2のモノクローナル抗体の結合量を決定する工程
を含み、
前記第1のモノクローナル抗体と前記第2のモノクローナル抗体の両方が、CT-IIIの前記C末端ネオエピトープと特異的に反応し、前記ネオエピトープが、C末端アミノ酸配列KAGGFAPYYG-COOH(配列番号1)に含まれている、サンドイッチイムノアッセイ。
【請求項7】
前記モノクローナル抗体が、請求項1~5のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体である、請求項6に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項8】
前記サンドイッチイムノアッセイが、生体試料中の架橋CT-IIIの量を定量するために使用される、請求項6又は7に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項9】
前記生体試料が生物学的流体である、請求項6~8のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項10】
前記生物学的流体が、血清、血漿、尿、羊水、組織上清又は細胞上清である、請求項9に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項11】
前記サンドイッチイムノアッセイが、ラジオイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、又は酵素結合免疫吸着アッセイである、請求項6~10のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項12】
前記第2のモノクローナル抗体が標識されている、請求項6~11のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項13】
前記第2のモノクローナル抗体が酵素結合抗体である、請求項12に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項14】
前記酵素が西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)である、請求項13に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項15】
前記第2のモノクローナル抗体が、放射性標識されるか、又はフルオロフォアに連結している、請求項14に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項16】
前記第2のモノクローナル抗体を認識するさらなる標識抗体を用いて、前記第2のモノクローナル抗体の結合量を決定する、請求項6~10のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項17】
前記方法により決定した架橋CTIIIの量を、既知の疾患の重篤度の標準的な疾患試料と相関させて、疾患の重篤度を評価することをさらに含む、請求項8~16のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項18】
前記生物学的流体試料中に存在するPRO-C3の量を定量すること、
III型コラーゲンのN末端プロペプチド(PRO-C3)に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の比を決定すること、
をさらに含む、請求項8~16のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項19】
前記方法により決定されたIII型コラーゲンのN末端プロペプチド(PRO-C3)に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の比を、既知の疾患の重篤度の標準的な疾患試料と相関させて、疾患の重篤度を評価することをさらに含む、請求項18に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項20】
前記疾患が線維性疾患である、請求項17~19のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項21】
線維性疾患が肝疾患である、請求項20に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項22】
前記肝疾患が非アルコール性脂肪性肝疾患又はHCV関連肝疾患である、請求項21に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項23】
前記疾患が慢性腸疾患又は癌である、請求項17~19のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項24】
前記慢性腸疾患がクローン病又は潰瘍性大腸炎である、請求項23に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項25】
前記癌が、乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肺癌、膵臓癌、胃(stomach)(胃(gastric))癌、卵巣癌、肝臓癌、前立腺癌、又は黒色腫である、請求項23に記載のサンドイッチイムノアッセイ。
【請求項26】
リシルオキシダーゼ(LOX)を標的とするアンタゴニスト薬の有効性を評価する方法であって、請求項6~16のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、少なくとも2つの生体試料中の架橋CT-IIIの量を定量することを含み、前記生体試料が、前記対象へのアンタゴニスト薬の投与期間中の最初の時点及び少なくとも1つのその後の時点で対象から得られ、前記アンタゴニスト薬の投与期間中の前記最初の時点から前記少なくとも1つのその後の時点までの間の架橋CT-IIIの量の減少が、LOXを標的とする有効なアンタゴニスト薬を示す、方法。
【請求項27】
前記方法が、LOXL2を標的とするアンタゴニスト薬の有効性を評価する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
サンドイッチアッセイで使用するためのキットであって:
請求項1に記載の前記第1のモノクローナル抗体を結合している固体支持体;及び
請求項1に記載の前記第2のモノクローナル抗体
を含み、前記第2のモノクローナル抗体が標識を含む、キット。
【請求項29】
線維症を有する患者の線維症応答表現型を特定する方法であって、患者から得られた生物学的流体試料中の架橋CT-IIIの量を定量するために、請求項86~19のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイを使用すること、並びに前記架橋CT-IIIの量とi)既知の線維性応答表現型と関連付けられる値及び/又はii)所定のカットオフ値を相関させることを含む方法。
【請求項30】
生物学的流体試料中に存在するIII型コラーゲンのN末端プロペプチド(PRO-C3)の量を定量すること、
III型コラーゲンのN末端プロペプチド(PRO-C3)に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の比を決定すること、及び
III型コラーゲンのN末端プロペプチド(PRO-C3)に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の比と所定のカットオフ値を相関させること、
をさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記カットオフ値が、少なくとも3.8ng/mLの架橋CT-IIIであり、かつ/又はIII型コラーゲンのN末端プロペプチド(PRO-C3)に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の比が少なくとも0.5である、請求項29又は請求項30に記載の方法。
【請求項32】
好酸球性食道炎を有する患者を特定する方法であって、請求項8~19のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、患者から得られた生物学的流体試料中の架橋CT-IIIの量を定量すること、並びに前記架橋CT-IIIの量とi)既知の好酸球性食道炎患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させること、を含む方法。
【請求項33】
慢性腸疾患を有する患者を特定する方法であって、請求項8~19のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、患者から得られた生物学的流体試料中の架橋CT-IIIの量を定量すること、並びに前記架橋CT-IIIの量とi)既知の慢性腸疾患を有する患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させること、を含む方法。
【請求項34】
癌を有する患者を特定する方法であって、請求項8~19のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、患者から得られた生物学的流体試料中の架橋CT-IIIの量を定量すること、並びに前記架橋CT-IIIの量とi)既知の癌患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させること、を含む方法。
【請求項35】
線維性疾患を有する患者を特定する方法であって、請求項8~19のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、患者から得られた生物学的流体試料中の架橋CT-IIIの量を定量すること、並びに前記架橋CT-IIIの量とi)既知の線維性疾患患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させること、を含む方法。
【請求項36】
治療から恩恵を受ける患者を特定する方法であって、請求項8~19のいずれか一項に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、患者から得られた生物学的流体試料中の架橋CT-IIIの量を定量すること、並びに前記架橋CT-IIIの量とi)既知の疾患患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させること、を含む方法。
【請求項37】
前記治療が、コラーゲン架橋を標的とする薬物の投与を含む、請求項36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、生体試料において架橋CTX-IIIを検出するためのサンドイッチイムノアッセイ、及びリシルオキシダーゼ(LOX)を標的とする薬物の有効性を評価するためのその使用に関する。本発明はまた、サンドイッチイムノアッセイを実施するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
線維性疾患(表Aに列挙したものを含む)、例えば、世界中で1年間に800,000人の死亡を伴う肝硬変は、罹患率及び死亡率の主要原因である。
【0003】
【0004】
「線維性疾患」は、主症状であるか又は二次症状であるかにかかわらず、線維症が生じる任意の疾患である。線維症は、持続感染、自己免疫反応、アレルギー反応、化学的損傷、放射線、及び組織損傷を含む様々な刺激によって誘発される慢性炎症反応の最終結果である。線維症は、細胞外マトリックス(ECM)の蓄積及び再編成によって特徴付けられる。明らかな病因及び臨床的な区別を有するにもかかわらず、ほとんどの慢性線維性障害は、成長因子、タンパク質分解酵素、血管新生因子、及び線維形成性サイトカインの産生を持続させる持続性刺激因子を共通して有し、これらは一緒になって、結合組織要素、特にコラーゲン及びプロテオグリカンの沈着を刺激し、正常な組織構造を徐々に除去し、破壊する。ヒトの健康に多大な影響を与えるにもかかわらず、現在、線維症のメカニズムを直接標的とする承認済み治療は存在しない。
【0005】
III型コラーゲンの役割及び肝臓1、腸2、腎臓3、及び肺4の線維症におけるその関与は、ターンオーバーの変化を示した。線維芽細胞によって産生される主な線維状コラーゲンの1つであるので、III型コラーゲンは、線維化促進架橋事象にも関与すると考えられる。ここで、架橋が過剰に形成されると、マトリックスの剛性6が増して、プロテアーゼが近づけないマトリックス5になる。その結果、線維化促進シグナル伝達カスケードを活性化する細胞:ECM相互作用によって、(筋)線維芽細胞の活性化7、分化8、及び遊走9を介したECM蓄積につながる。
【0006】
線維状コラーゲンの架橋:
コラーゲン原線維の成熟の最終工程の1つは、リシルオキシダーゼ(LOX)、リシルオキシダーゼ様酵素(LOXL)、及びトランスグルタミナーゼ(TG)10などの酵素によって触媒される分子内架橋及び分子間架橋の形成である。これらの架橋の形成は、引張強度11、弾性を含む機械的特性と機能的特性の両方をそれらのそれぞれの組織に提供し、いくつかの細胞機能に影響を与える12~14。様々な種類の酵素的及び非酵素的架橋が線維状コラーゲン(コラーゲンI、II、III、V、IX、及びXI型)内に存在する10が、LOX(L)及びTGによって触媒される酵素的架橋形成が興味深い。これは、生理学的架橋事象と病理学的架橋事象の両方に関与するためである15、16。LOX(L)は、自発的な架橋形成につながる線維状コラーゲンテロペプチド内の特異的リジン又はヒドロキシリジンの酸化的脱アミノ化を触媒するが、TGは、グルタミンとリジンとの間のイソペプチド結合の形成を触媒する。LOX(L)由来の架橋の最終的な生化学的性質は、それらの組織発現に依存して異なるが、主要線維状コラーゲン内の架橋部位は保存されているようであり、これはコラーゲン特異的架橋よりもむしろ組織特異性を示す10。
【0007】
生理学的架橋の重要性は、動物モデル、及びある種の遺伝病においてそれらの不在が組織の強度及び弾性の低下を示すことが観察されるので明らかである。低下するか又は弱まった架橋の有害作用に加えて、過剰な形成及び生化学的変化はまた、組織の線維症と癌の両方において観察されるように、組織機能に有害となり得る。継続した組織傷害の状況では、創傷治癒カスケードの繰り返し活性化は、I型及びIII型コラーゲンなどの線維性コラーゲン17、並びにLOX(L)及びTGを含む線維化促進因子の上方制御並びに蓄積をもたらす。コラーゲン及びそれらの架橋酵素の過剰な蓄積は、堅い線維性細胞外マトリックス(ECM)の形成を媒介する。
【0008】
線維症の解消の評価:
抗線維化療法の効果を決定するために、高感度で、信頼性があり、最適な低侵襲性の評価方法が必要である。現在の治療上の選択肢として、ニンテダニブ及びピルフェニドンは、特発性肺線維症18、19の患者において観察されたように進行を遅くするだけか、又は強皮症20の研究の症例のように、皮膚線維症に顕著な効果を与えることができないため、線維症を完全に阻害し、逆転させる目標はまだ達成されていない。同様に、抗炎症薬の使用は線維症に影響を与えないことがあり、これは炎症性腸疾患(IBD)患者の腸線維症の場合によくみられる21、22。しかし、臓器線維症における線維性コラーゲン及びそれらの架橋の関与の知識並びに評価が高まるにつれ、新しい潜在的標的が明らかにされている。これらには、LOXL2/323及びTG224の小分子阻害剤、並びにRhoキナーゼ25を標的とすることによって線維化促進細胞内シグナル伝達カスケードを阻害する阻害剤が含まれる。現在、肝線維症26及び腎臓線維症27におけるゴールデンスタンダードである組織生検、及び腸線維症28及び肺線維症29に使用される煩雑又は侵襲的な他の方法のいずれかと共に、新規血清学的バイオマーカーを適用することができる。架橋された線維性コラーゲンの断片を標的とする線維症の重要な部分を提供することは、線維症解消の正確な評価を潜在的に助けることができる。これは、それぞれコラーゲンI型及びII型の架橋の分解断片を測定するCTX-I30及びCTX-II31バイオマーカーの適用により骨吸収及び軟骨破壊の臨床設定で部分的に示された。そのため、線維症解消のバイオマーカーとして架橋III型コラーゲン(CTX-III)の新規バイオマーカーを開発する必要がある。
【0009】
好酸球性食道炎
好酸球性食道炎(EoE)は、好酸球の顕著な流入及びTh2細胞促進炎症を特徴とする食道の食物アレルゲン誘発性慢性炎症である。Th2炎症経路の活性化は好酸球の動員をもたらし、次に、形質転換成長因子βなどの炎症促進及び線維化促進メディエータを分泌させる。時間と共に、線維化促進メディエータの持続的炎症及び分泌は、線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化を開始し、線維形成をもたらす[46~48]。筋線維芽細胞は組織線維症における主細胞であり、コラーゲン並びにリシルオキシダーゼ(LOX)及びLOX様酵素(LOXL)などの架橋酵素を顕著に分泌する。食道生検のマッソントリクローム染色による組織学的評価は、粘膜固有層の上皮下区画におけるコラーゲンの顕著な沈着を示す[46、49]。
【0010】
進行性の線維性狭窄(fibrostenosis)が食道狭窄及び狭窄形成をもたらし得るので、一般的な臨床症状には、線維症が本質的な役割を担う嚥下障害及び食片圧入が含まれる。EoEの診断は、主に、嚥下障害を経験している患者における内視鏡評価及び食道生検に基づく[50]。EoEの斑状性により、単一生検は55%の感度で不十分である[51]。したがって、合計6つの生検が得られると、感度が99%まで高まる[52]。内視鏡検査では臨床症状を視覚的に確認できるが、EoE患者の最高10%が内視鏡所見を示さないため、全ての患者に生検が必要である。食道生検は、上部内視鏡検査及び鎮静を必要とするので、血液ベースのバイオマーカーなどの別の方法が開発されている。いくつかの血清バイオマーカーが評価されている[53、54]が、血液ベースのバイオマーカーの使用は、EoEについては現在、臨床では一般に使用されていない。そのため、血液ベースのバイオマーカーなどの低侵襲性ツールに対する必要性が医療で存在する。同様に、EoEについては、炎症性腸疾患で得られたデータ[55、56]に、線維形成又は線維溶解のいずれかを反映するコラーゲン代謝産物を標的とする血液ベースのバイオマーカーを適用することができる。これらのバイオマーカーは、早期の介入を可能にする内視鏡検査によって観察できない無症候性線維症を有する患者の早期特定を助けることができる。さらに、代謝産物の分解は、上皮下炎症又は線維症の解消を反映し、治療効果を反映し得る。したがって、コラーゲンリモデリングの検証済み血液ベースバイオマーカーの導入は、組織生検の必要性を潜在的に制限する深部組織食道リモデリングを評価するための本質的なツールを提供することができる。
【0011】
さらなるツールには、線維性狭窄に関連付けられる圧力が高まる食道の物理的性質の情報を提供する高解像度マノメトリーが含まれる[57]。さらに、サイトスポンジ(Cytosponge)を用いたブラシ細胞診の結果は、内視鏡的所見と相関し、近位と遠位の食道好酸球増加症の両方に対して良好な感度及び特異性を示した[58]。
【0012】
炎症性腸疾患
炎症性腸疾患(IBD)の病理学的不均一性及び特にクローン病(CD)の亜型の病理は、いくつかの疾患分類システムの作成を必要としている。臨床医による患者の評価及び病理学的評価を含む臨床パラメータは、臨床的に不活性な又は活性のある疾患の決定をもたらした[63、64]。さらに、内視鏡検査に基づくモントリオール分類の使用は、非狭窄かつ非穿通(B1)、狭窄(B2)又は穿通(B3)などの内視鏡症状に基づく患者の層別化を可能にする疾患の視覚的及びより客観的な分類を提供する[65]。狭窄及び瘻孔は、線維性狭窄、組織、特にコラーゲンの過剰な蓄積、又は貫通傷をもたらす重度の組織及びコラーゲンの分解のいずれかによって特徴づけられるCDの2つの重篤な合併症である。細胞外マトリックス中のコラーゲンは、腸組織でかなりの割合を占めており、健康な腸組織と炎症した腸組織の両方において重要な構造的な及びシグナル伝達の指示を有する[66]。IBDにおける慢性炎症の結果として、間質マトリックス中の活性化筋線維芽細胞は、LOX(L)及びTG2などの架橋酵素と組み合わせて、I型、III型及びV型コラーゲンなどの顕著な量の線維性コラーゲンを沈着させる。このプロセスは、最終的に、炎症とは無関係に線維化プロセスを広める広範なコラーゲン架橋により、マトリックス剛性を増強させる[67]。さらに、筋線維芽細胞及び動員された炎症細胞は、コラーゲンのリモデリングを促進するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)などの大量のECM分解プロテアーゼを産生する。線維性狭窄によって引き起こされる狭窄疾患は、コラーゲンの広範な沈着及び架橋の結果であるが、穿通疾患は、コラーゲンのタンパク質分解の優位性によって特徴付けられる。
【0013】
臨床パラメータ及び内視鏡検査は、IBD分野における標準化された方法を表す。臨床パラメータを決定するためのアンケートは、組織の症状の客観的及び適切な特定を欠く。さらに、現在、ゴールドスタンダードの内視鏡検査は、患者に不快感を与え、小腸への到達が限られており、かつ検証済みの組織病理学的システムがなく[68]、小腸の領域に到達することが制限されるため、CD患者に影響を及ぼす場合が多い。MREなどのより最近の技術は、疾患の症状を評価するための非侵襲的かつ高精度のツールとなっているが、取り扱い費用が増加している[69]。
【0014】
したがって、様々な疾患の症状を促進する根底の分子プロセスを評価することができる非侵襲性バイオマーカー、特に、腸の線維形成及び腸線維症の解消を反映するマーカーの開発が緊急に必要である。
【0015】
癌
何年もの熱心な研究にもかかわらず、癌は、世界中の死亡の第2の主要な原因のままである。癌患者の生存における重要な要素は、早期診断及び治療に対する応答を予測する能力である。
【0016】
臓器線維症と同様に、癌は、ECMリモデリングの病理学的な程度によって特徴付けられる[72][73]。ここで、癌及び間質細胞は、コラーゲンを含む周囲のECM構成成分を分解するMMPを大量に分泌する。ECMの分解に加えて、癌関連線維芽細胞(CAF)は、LOX(L)及びTG2による多くの酵素架橋に供される腫瘍間質内にコラーゲンを顕著に沈着させ、腫瘍の進行を増強する[74][75]。このプロセスは、細胞のシグナル伝達、増殖、分化、遺伝子発現、遊走、浸潤、及び転移を調節する[76][77]。このようにCAFが先導して、線維性コラーゲンの整列及び酵素的架橋が、腫瘍細胞を浸潤させる道を開く。さらに、高度に架橋されたECMは、T細胞の遊走を妨げ、それによって宿主免疫系から腫瘍細胞を遮蔽すると考えられている[78]。この遮蔽効果は、ある種の癌患者の免疫療法への応答が不十分である理由を説明し得る[78][79]。
【0017】
線維性コラーゲン沈着並びに腫瘍の進行及び治療応答におけるその後の酵素的架橋の重要な役割を強調する証拠が見出されているので、CTX-IIIバイオマーカーを広範な癌の種類において調査した。CTX-IIIの定量及びその後の患者の層別化は、腫瘍間質内の分子プロセスを評価し、免疫療法から潜在的に恩恵を受ける患者を特定するのを助ける可能性がある。
【0018】
WO20178/34172は、適切な試料中のIII型コラーゲン(PIIINP)の架橋されたN末端プロペプチドを線維症のマーカーとして測定することを説明している。この方法は、WO2014/170312に開示されたモノクローナル抗体を利用した。このマーカーは、形成プロセスにおいて単独で生成される。
【0019】
本出願者は、Cプロテイナーゼによって生成され、その後、追加の未知のプロテアーゼによって断片を放出する架橋III型コラーゲンのC末端テロペプチドのネオエピトープを標的とし、線維性ECMの分解を正確に評価することができる高感度イムノアッセイを開発した。
【0020】
架橋III型コラーゲンのC末端テロペプチドネオエピトープを標的とする高度に特異的なモノクローナル抗体を用いて、直接サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を開発した。このアッセイは、線維溶解の定量的評価として臨床設定で使用することができる。
【発明の概要】
【0021】
本発明は、架橋CT-IIIが鎖間架橋によって一緒に結合された少なくとも2つのCT-III鎖を含む架橋C末端テロペプチドIIIコラーゲン(CT-III)を生体試料中で検出するためのサンドイッチイムノアッセイを対象とする。本方法は、架橋CT-IIIに含まれるCT-IIIの各鎖が、インタクトなIII型プロコラーゲンのNプロテアーゼ切断によって生成されたCT-IIIのC末端ネオエピトープを有する架橋CT-IIIを含む生体試料を、表面に結合した第1のモノクローナル抗体と接触させること、及び第2のモノクローナル抗体を添加することを含む。両方のモノクローナル抗体は、CT-IIIのC末端ネオエピトープと特異的に反応し、前記ネオエピトープは、C末端アミノ酸配列KAGGFAPYYG-COOH(配列番号1)に含まれる。本方法は、第2のモノクローナル抗体の結合量を決定することをさらに含む。
【0022】
本明細書で使用する用語「CT-III」は、III型コラーゲンのC末端テロペプチドを指す。
【0023】
本発明はまた、リシルオキシダーゼ(LOX)を標的とするアンタゴニスト薬の有効性を評価する方法を対象とする。本方法は、本明細書に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、対象へのアンタゴニスト薬の投与期間中の最初の時点及び少なくとも1つのその後の時点で対象から得られる少なくとも2つの生体試料中の架橋CT-IIIの量を定量することを含む。アンタゴニスト薬の投与期間中の最初の時点から少なくとも1つのその後の時点までの間の架橋CT-IIIの量の低下は、LOXを標的とする有効なアンタゴニスト薬を示す。
【0024】
本発明はさらに、本明細書に記載のサンドイッチイムノアッセイに使用するためのキットに関する。該キットは、上記の第1のモノクローナル抗体を結合している固体支持体と、本明細書に記載の標識された第2のモノクローナル抗体を含む。
【0025】
本発明はまた、線維症を有する患者の線維症応答表現型を特定する方法であって、本明細書に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、患者から得られた生物学的流体試料中の架橋CT-IIIの量を定量すること、並びに前記架橋CT-IIIの量とi)既知の線維性応答表現型と関連付けられる値及び/又はii)所定のカットオフ値を相関させることを含む方法を対象とする。本方法はさらに、生物学的流体試料中に存在するN末端III型コラーゲンプロペプチド(PRO-C3)の量を定量すること、PRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の比を決定すること、及びPRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の前記比と所定のカットオフ値を相関させることをさらに含み得る。
【発明の効果】
【0026】
発明の説明
したがって、第1の態様において、本発明は、C末端がアミノ酸配列KAGGFAPYYG(配列番号1)(本明細書では標的配列ともいう)を有する架橋III型コラーゲンのC末端テロペプチドネオエピトープ(本明細書では標的ペプチドとも呼ばれる)を特異的に認識し、結合するモノクローナル抗体に関する。
【0027】
好ましくは、該モノクローナル抗体は、C末端アミノ酸配列KAGGFAPYYG(配列番号1)を有する合成ペプチドに対して作られたモノクローナル抗体である。抗体を作るために使用される合成ペプチドは、そのN末端で担体タンパク質に連結された合成ペプチドであり得る。例示的な担体タンパク質には、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などのタンパク質が含まれるが、これに限定されない。合成ペプチドは、ペプチドのN末端に1以上の追加のアミノ酸残基を含み得る担体タンパク質に任意の適切な結合を介して連結され得る。該モノクローナル抗体は、限定されないが、マウス又は他の哺乳動物を免疫すること、免疫された哺乳動物から脾臓細胞を分離し、ハイブリドーマ細胞と融合させること、及びその後、得られたハイブリドーマ細胞を培養してモノクローナル増殖を確実にすることなどの、当業者に公知の適切な技術を介して作製されている場合もある。
【0028】
好ましい実施形態では、該モノクローナル抗体は、C末端アミノ酸配列KAGGFAPYYGX(配列番号2)を有し、その中のXは任意のアミノ酸を表すペプチドを特異的に認識しないか、又はそれと結合しない。そのため、該モノクローナル抗体は、好ましくは、標的アミノ酸配列が1以上のアミノ酸によってC末端で伸長された標的ペプチドの伸長変異体を特異的に認識しないか、又はそれと結合しない。好ましくは、該モノクローナル抗体は、KAGGFAPYYGDZ-COOH(配列番号3)であり、その中のZは存在しないか、又はコラーゲンIII型の配列の1以上のアミノ酸である前記C末端アミノ酸配列の伸長バージョンを実質的に認識しないか、又はそれと結合しない。好ましくは、前記モノクローナル抗体は、好ましくは、C末端アミノ酸配列KAGGFAPYYGD(配列番号4)を有するペプチドを特異的に認識しないか、又はそれと結合しない。
【0029】
好ましい実施形態では、該モノクローナル抗体は、C末端アミノ酸配列KAGGFAPYY(配列番号5)を有するペプチドを特異的に認識しないか、又はそれと結合しない。そのため、該モノクローナル抗体は、好ましくは、標的アミノ酸配列が1以上のアミノ酸をC末端で切断された標的ペプチドの短縮変異体を特異的に認識しないか、又はそれと結合しない。
【0030】
好ましくは、該モノクローナル抗体又はその断片は、好ましくは、以下のもの:
CDR-L1:RSSKSLLHSNGNTYLY(配列番号6)
CDR-L2:RMSNLAS(配列番号7)
CDR-L3:MQHLEFPLT(配列番号8)
CDR-H1:DHGMH(配列番号9)
CDR-H2:VISTYYGDATYNQKFKG(配列番号10)
CDR-H3:SMGGNYVGTGFAY(配列番号11)
から選択される1以上の相補性決定領域(CDR)を含み得る。
【0031】
好ましくは、該抗体又はその断片は、上記のCDR配列のうちの少なくとも2、3、4、5又は6つを含む。
【0032】
好ましくは、該モノクローナル抗体又はその断片は、CDR配列を含む軽鎖可変領域を有する。
CDR-L1:RSSKSLLHSNGNTYLY(配列番号6)
CDR-L2:RMSNLAS(配列番号7)及び
CDR-L3:MQHLEFPLT(配列番号8)
【0033】
好ましくは、該モノクローナル抗体又はその断片は、CDR間のフレームワーク配列を含む軽鎖を有し、前記フレームワーク配列は、以下の軽鎖配列中のCDR間のフレームワーク配列と実質的に同一又は実質的に類似している(その中のCDRは太字で示され、下線が引かれており、フレームワーク配列はイタリックで示されている)。
RSSKSLLHSNGNTYLYWFLQRPGQSPQLLIYRMSNLASGVPDRFSGSGSGTAFTLRISRVEAEDVGVYYCMQHLEFPLT(配列番号12)
【0034】
好ましくは、該モノクローナル抗体又はその断片は、CDR配列を含む重鎖可変領域を有する。
CDR-H1:DHGMH(配列番号9)
CDR-H2:VISTYYGDATYNQKFKG(配列番号10)及び
CDR-H3:SMGGNYVGTGFAY(配列番号11)
【0035】
好ましくは、該モノクローナル抗体又はその断片は、CDR間のフレームワーク配列を含む重鎖を有し、前記フレームワーク配列は、以下の軽鎖配列中のCDR間のフレームワーク配列と実質的に同一又は実質的に類似している(その中のCDRは太字で示され、下線で示されており、フレームワーク配列はイタリックで示されている)。
DHGMHWVKQSQAKSLEWIGVISTYYGDATYNQKFKGKATMTVDKSSSTAYMELARLTSEDSAIYYCARSMGGNYVGTGFAY(配列番号13)
【0036】
本明細書で使用されるように、抗体のCDR間のフレームワークアミノ酸配列は、それらが少なくとも70%、80%、90%若しくは少なくとも95%の類似性又は同一性を有する場合、別の抗体のCDR間のフレームワークアミノ酸配列と実質的に同一又は実質的に類似している。類似又は同一のアミノ酸は、近接していても、又はしていなくてもよい。
【0037】
フレームワーク配列は、1以上のアミノ酸置換、挿入及び/又は欠失を含み得る。アミノ酸置換は保存的であり得、それは、置換アミノ酸が元のアミノ酸と類似の化学的性質を有することを意味する。当業者は、どのアミノ酸が類似の化学的性質を共有するかを理解する。例えば、以下のアミノ酸のグループ:グループ1 Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;グループ2 Asp、Asn、Glu、Gln;グループ3 His、Arg、Lys;グループ4 Met、Leu、Ile、Val、Cys;グループ5 Phe Thy Trpは、サイズ、電荷及び極性などの類似の化学的性質を共有する。
【0038】
CLUSTALプログラムなどのプログラムを用いて、アミノ酸配列を比較することができる。このプログラムは、アミノ酸配列を比較し、いずれかの配列に適切にスペースを挿入することにより最適なアライメントを見出す。最適なアライメントのためのアミノ酸同一性又は類似性(同一性プラスアミノ酸の種類の保存)を計算することが可能である。BLASTxのようなプログラムは、類似の配列の最長ストレッチを整列させ、値を適合度に割り当てる。そのため、いくつかの類似性領域が見出され、各々が異なるスコアを有する比較を得ることが可能である。両方の種類の分析が本発明において企図される。同一性又は類似性が、好ましくは、フレームワーク配列の全長にわたって計算される。
【0039】
ある好ましい実施形態では、該モノクローナル抗体又はその断片は、軽鎖可変領域配列:
DIVMTQAAPSVPVTPGESVSISCRSSKSLLHSNGNTYLYWFLQRPGQSPQLLIYRMSNLASGVPDRFSGSGSGTAFTLRISRVEAEDVGVYYCMQHLEFPLTFGAGTKLELK(配列番号14)(CDRは太字で、下線を付した;フレームワーク配列はイタリック体である)
及び/又は重鎖可変領域配列:
QVQLQQSGAELVRPGVSVKISCKGSGHTFTDHGMHWVKQSQAKSLEWIGVISTYYGDATYNQKFKGKATMTVDKSSSTAYMELARLTSEDSAIYYCARSMGGNYVGTGFAYWGQGTLVTVSA(配列番号15)(CDRは太字で、下線を付した;フレームワーク配列はイタリック体である)
を含み得る。
【0040】
本発明は、生体試料においてIII型コラーゲン(CT-III)の架橋C末端テロペプチドを検出するためのサンドイッチイムノアッセイであって、前記架橋CT-IIIは、鎖間架橋によって共に結合された少なくとも2つのCT-III鎖を含み、
前記方法が、前記架橋CT-IIIを含む前記生体試料を、表面に結合した第1のモノクローナル抗体と接触させること、その際、架橋CT-IIIに含まれるCT-IIIの各鎖が、インタクトなIII型コラーゲンのCプロテイナーゼ切断によって生成されるCT-IIIのC末端ネオエピトープを含み;
第2のモノクローナル抗体を添加すること;及び
前記第2のモノクローナル抗体の結合量を決定すること;
を含み、
前記第1のモノクローナル抗体と前記第2のモノクローナル抗体の両方が、CT-IIIの前記C末端ネオエピトープと特異的に反応し、前記ネオエピトープが、C末端アミノ酸配列KAGGFAPYYG-COOH(配列番号1)に含まれる、サンドイッチイムノアッセイに関する。
【0041】
好ましくは、該モノクローナル抗体は、KAGGFAPYYGDZ-COOH(配列番号3)であり、その中のZは存在しないか、又はコラーゲンIII型の配列の1以上のアミノ酸である前記C末端アミノ酸配列の伸長したバージョンを実質的に認識しないか、又はそれと結合しない。
【0042】
好ましくは、該モノクローナル抗体は、KAGGFAPYY-COOH(配列番号5)である前記C末端アミノ酸配列の切断バージョンを実質的に認識しないか、又はそれと結合しない。
【0043】
本明細書に記載のサンドイッチイムノアッセイは、捕捉抗体と検出抗体の両方として同じ抗体を使用するので、二本鎖ペプチド(すなわち、架橋されている)がアッセイによって認識され得る。
【0044】
好ましくは、サンドイッチイムノアッセイは、生物学的流体中の架橋CT-IIIの量を定量するために使用され、前記生物学的流体は、限定されないが、血清、血漿、尿、羊水、組織上清又は細胞上清であり得る。
【0045】
サンドイッチイムノアッセイは、限定されないが、ラジオイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、又は酵素結合免疫吸着アッセイであり得る。
【0046】
好ましい実施形態では、第2のモノクローナル抗体の結合量を決定するために、第2のモノクローナル抗体が標識され得る。
【0047】
好ましくは、第2のモノクローナル抗体は酵素結合抗体であり得る。酵素は、限定されないが、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)であり得る。
【0048】
好ましくは、第2のモノクローナル抗体は放射性標識されるか、又はフルオロフォアに連結されてもよい。
【0049】
これらは本発明で使用される好ましい標識であるが、限定されないが、DNAレポーター又は電気化学発光タグなどの任意の適切な標識システムが使用され得ることが考えられる。
【0050】
あるいは、第2のモノクローナル抗体を認識するさらなる標識抗体を用いて、前記第2のモノクローナル抗体の結合量を決定してよい。さらなる標識抗体は、上記の標識を用いて標識され得る。
【0051】
本発明の好ましい実施形態では、サンドイッチイムノアッセイは、前記方法により決定された架橋CT-IIIの量を、既知の疾患の重篤度の標準的な疾患試料と相関させて、疾患の重篤度を評価することをさらに含み得る。疾患は線維性疾患であり得る。そのような線維性疾患は、限定されないが、肝疾患、特に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、又はHCV関連肝線維症などのウイルス性肝線維症であり得る。あるいは、疾患は慢性腸疾患であり得る。そのような慢性腸疾患は、限定されないが、クローン病又は潰瘍性大腸炎、好ましくはクローン病であり得る。あるいは、疾患は癌であり得る。そのような癌は、限定されないが、乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肺癌、膵臓癌、胃(stomach)(胃(gastric))癌、卵巣癌、肝臓癌、前立腺癌、又は黒色腫であり得る。好ましくは、癌は乳癌である。
【0052】
サンドイッチイムノアッセイを用いて、前記方法によって決定された架橋CT-IIIの量と、異なる時点で同じ患者から得られた第2の試料において決定された架橋CT-IIIの量とを比較することによって、疾患の進行を監視することもできる。第2の試料は、試料が試験される前後数時間、数日、数週、又は数年に得ることができる。複数の試料を異なる時点で取得して、架橋CT-IIIの量を決定し、結果を比較することができる。治療が成功したかどうかを識別するために、治療後の疾患の進行を監視するためにサンドイッチイムノアッセイを用いることができる。好ましくは、疾患は線維性疾患である。そのような線維性疾患は、限定されないが、肝疾患、特に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、又はHCV関連肝線維症などのウイルス性肝線維症であり得る。あるいは、疾患は好酸球性食道炎であり得る。あるいは、疾患は慢性腸疾患であり得る。そのような慢性腸疾患は、限定されないが、クローン病又は潰瘍性大腸炎、好ましくはクローン病であり得る。あるいは、疾患は癌であり得る。そのような癌は、限定されないが、乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肺癌、膵臓癌、胃(stomach)(胃(gastric))癌、卵巣癌、肝臓癌、前立腺癌、又は黒色腫であり得る。好ましくは、癌は乳癌である。
【0053】
本明細書に記載のサンドイッチアッセイは、好ましくは、試料中に存在するPRO-C3の量を決定することによって、III型コラーゲン形成の量を決定することをさらに含み得る。
【0054】
PRO-C3と架橋CT-III(CTX-III)の比を用いて、いくつかの疾患状態において顕著に上昇しているIII型コラーゲンの正味の沈着を決定することができる。Pro-C3は、コラーゲン形成の間に生成され、コラーゲン形成の尺度であるが、CTX-IIIは、分解中に生成され、分解の尺度である。したがって、PRO-C3に対する架橋CT-III(CTX-III)の比を用いて、いくつかの疾患状態において顕著に上昇している正味の線維溶解を決定することができる。例えば、HCV関連肝線維症患者の中のIshakスコア(線維症の重篤度の指標)がより低い患者は、Ishakスコアがより高い患者と比較して、より高い正味の線維溶解度を有していた。さらに、クローン病及び潰瘍性大腸炎患者では、B1のモントリオール分類によって示されるあまり重篤ではない疾患、すなわち非狭窄かつ非穿通疾患の患者は、B2のモントリオール分類を有する患者と比較して、より高い正味の線維溶解度を有していた。さらに、乳癌患者では、ステージIII(癌の重篤度の指標)の患者は、ステージIIの患者と比較して、より高い正味の線維溶解度を有していた。
【0055】
さらなる態様では、本明細書に記載のサンドイッチイムノアッセイは、LOXを標的とするアンタゴニスト薬などのリシルオキシダーゼ(LOX)を標的とする薬物の有効性を評価する方法において使用され得る。
【0056】
したがって、本発明はまた、リシルオキシダーゼ(LOX)を標的とするアンタゴニスト薬の有効性を評価する方法であって、本明細書に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、少なくとも2つの生体試料中の架橋CT-IIIの量を定量することを含み、前記生体試料は、前記対象へのアンタゴニスト薬の投与期間中の最初の時点及び少なくとも1つのその後の時点で対象から得たものであり、アンタゴニスト薬の投与期間中の前記最初の時点から少なくとも1つのその後の時点までの間の架橋CT-IIIの量の低下は、LOXを標的とする有効なアンタゴニスト薬を示す方法に関する。
【0057】
好ましくは、本方法は、アンタゴニスト薬の有効性を定量化する。
【0058】
好ましくは、本方法は、LOXL2を標的とするアンタゴニスト薬の有効性を評価する。
【0059】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のサンドイッチイムノアッセイで使用するためのキットであって、上記の第1のモノクローナル抗体を結合している固体支持体;及び上記の標識された第2のモノクローナル抗体を含むキットに関する。
【0060】
別の態様では、本発明はまた、線維症を有する患者の線維症応答表現型を特定する方法であって、本明細書に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、患者から得られた生物学的流体試料中の架橋CT-IIIの量を定量すること、並びに前記架橋CT-IIIの量とi)既知の線維性応答表現型と関連付けられる値及び/又はii)所定のカットオフ値を相関させることを含む方法に関する。本方法はさらに、生物学的流体試料中に存在するPRO-C3の量を定量すること、PRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の比を決定すること、及びPRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の前記比と所定のカットオフ値を相関させることをさらに含み得る。
【0061】
決定された架橋CT-IIIの量を、所定のカットオフ値と比較することができる。所定のカットオフ値は、好ましくは少なくとも3.5ng/mL、より好ましくは少なくとも3.8ng/mL、さらにより好ましくは少なくとも4.0ng/mL、さらにより好ましくは少なくとも4.2ng/mL、及び最も好ましくは少なくとも4.5ng/mLである。この点に関して、様々な統計解析の併用により、モノクローナル抗体(上記)と少なくとも3.5ng/mL以上のC末端CTX-IIIバイオマーカーとの間の測定された結合量は、「自然退行性」表現型を有する患者を決定するものであり得ることが見出された。少なくとも3.5ng/mL、より好ましくは少なくとも3.8ng/mL、さらにより好ましくは少なくとも4.0ng/mL、さらにより好ましくは少なくとも4.2ng/mL、最も好ましくは少なくとも4.5ng/mLの統計的カットオフ値を有することにより、本発明の方法を利用して、自然退行性表現型を有する患者を高レベルの信頼性で特定することが可能である。
【0062】
試料中の測定された架橋III型コラーゲン(CTX-III)及びIII型コラーゲン(PRO-C3)の比を、所定のカットオフ値と比較することができる。所定のカットオフ値は、好ましくは少なくとも0.5、より好ましくは少なくとも0.6、さらにより好ましくは少なくとも0.75、さらにより好ましくは少なくとも0.8、及び最も好ましくは少なくとも0.9である。この点に関して、様々な統計解析の併用により、少なくとも0.5以上の架橋III型コラーゲン(CTX-III)及びIII型コラーゲン(PRO-C3)の比は、自然退行性表現型を有する患者を決定するものであり得ることが見出された。好ましくは少なくとも0.5、より好ましくは少なくとも0.6、さらにより好ましくは少なくとも0.75、さらにより好ましくは少なくとも0.8、及び最も好ましくは少なくとも0.9の統計的カットオフ比の値を有することによって、本発明の方法を利用して、自然退行性表現型を有する患者を高いレベルの信頼性で特定することが可能である。
【0063】
別の態様では、本発明はまた、線維性疾患を有する患者を特定する方法であって、本明細書に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、患者から得られた生物学的流体試料中の架橋CT-IIIの量を定量すること、並びに前記架橋CT-IIIの量とi)既知の線維性疾患患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させることを含む方法に関する。本方法はさらに、生物学的流体試料中に存在するPRO-C3の量を定量すること、PRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の比を決定すること、及びPRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の前記比と、i)既知の線維性疾患患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させること、をさらに含み得る。正常な健常対照と比較して高いレベルの架橋CT-III又は有意に異なる比は、線維性疾患を示す。
【0064】
線維性疾患は、限定されないが、肝疾患、特に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、又はHCV関連肝線維症などのウイルス性肝線維症から選択され得る。
【0065】
別の態様では、本発明はまた、好酸球性食道炎患者を特定する方法であって、本明細書に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、患者から得られた生物学的流体試料中の架橋CT-IIIの量を定量すること、並びに前記架橋CT-IIIの量とi)既知の好酸球性食道炎患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させることを含む方法に関する。本方法はさらに、生物学的流体試料中に存在するPRO-C3の量を定量すること、PRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の比を決定すること、及びPRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の前記比と、i)既知の好酸球性食道炎患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させることをさらに含み得る。正常な健常対照と比較して高いレベルの架橋CT-III又は有意に異なる比は、好酸球性食道炎を示す。
【0066】
別の態様では、本発明はまた、慢性腸疾患患者を特定する方法であって、本明細書に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、患者から得られた生物学的流体試料中の架橋CT-IIIの量を定量すること、並びに前記架橋CT-IIIの量とi)既知の慢性腸疾患患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させることを含む方法に関する。本方法はさらに、生物学的流体試料中に存在するPRO-C3の量を定量すること、PRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の比を決定すること、及びPRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の前記比とi)既知の慢性腸疾患患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させることをさらに含み得る。正常な健常対照と比較して高いレベルの架橋CT-III又は有意に異なる比は、慢性腸疾患の存在を示す。
【0067】
慢性腸疾患は、限定されないが、クローン病、又は潰瘍性大腸炎などの過敏性腸疾患から選択され得る。好ましくは、慢性腸疾患は、クローン病又は潰瘍性大腸炎であり、より好ましくはクローン病である。
【0068】
別の態様では、本発明はまた、癌患者を特定する方法であって、本明細書に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、患者から得られた生物学的流体試料中の架橋CT-IIIの量を定量すること、並びに前記架橋CT-IIIの量とi)既知の癌患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させることを含む方法に関する。本方法はさらに、生物学的流体試料中に存在するPRO-C3の量を定量すること、PRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の比を決定すること、及びPRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の前記比とi)既知の癌患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させることをさらに含み得る。正常な健常対照と比較して高いレベルの架橋CT-III又は有意に異なる比は、癌の存在を示す。
【0069】
癌は、限定されないが、乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肺癌、膵臓癌、胃(stomach)(胃(gastric))癌、卵巣癌、肝臓癌、前立腺癌、又は黒色腫から選択され得る。好ましくは、癌は乳癌である。
【0070】
別の態様では、本発明は、治療から恩恵を受ける患者を特定する方法であって、本明細書に記載のサンドイッチイムノアッセイを用いて、患者から得られた生物学的流体試料中の架橋CT-IIIの量を定量すること、並びに前記架橋CT-IIIの量とi)既知の疾患患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させることを含む方法を提供する。本方法はさらに、生物学的流体試料中に存在するPRO-C3の量を定量すること、PRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の比を決定すること、及びPRO-C3に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の前記比とi)既知の疾患患者及び/若しくは正常な健常対照と関連付けられる値並びに/又はii)所定のカットオフ値を相関させることをさらに含み得る。正常な健常対照と比較して高いレベルの架橋CT-III又は有意に異なる比は、治療の必要性を示す。
【0071】
本方法は、治療を患者に施すことをさらに含み得る。
【0072】
治療は、好ましくは、リシルオキシダーゼ(LOX)を標的とするアンタゴニスト薬などのコラーゲン架橋を標的とする薬物の投与である。
【0073】
疾患は線維性疾患であり得る。そのような線維性疾患は、限定されないが、肝疾患、特に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、又はHCV関連肝線維症などのウイルス性肝線維症であり得る。あるいは、疾患は好酸球性食道炎であり得る。あるいは、疾患は慢性腸疾患であり得る。そのような慢性腸疾患は、限定されないが、クローン病、又は潰瘍性大腸炎などの過敏性腸症候群であり得る。あるいは、疾患は癌であり得る。そのような癌は、限定されないが、乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肺癌、膵臓癌、胃(stomach)(胃(gastric))癌、卵巣癌、肝臓癌、前立腺癌、又は黒色腫であり得る。好ましくは、癌は乳癌である。
【0074】
本発明の方法に統計的カットオフ値を適用することは、単独の診断アッセイをもたらすので、特に有利である。すなわち、診断の結論に到達するために、健常個体及び/又は既知の疾患の重篤度を有する患者との直接的な比較の必要性を取り除く。これはまた、初期の予後を実証するために、内視鏡検査又は生検などのより侵襲的な手順の必要性を取り除く可能性があり、適切な治療計画の開始を促進する迅速かつ確定的なツールとして機能し得るので、(例えば、物理的検査及び/又は医療専門家との相談によって決定されるように)一般的に線維症を示す医学的徴候又は症状を既に有する患者を評価するためのアッセイを利用する場合に特に有利であり得る。好ましくは、所定のカットオフ値は、ヒト血液、血清又は血漿中で測定されるカットオフ値に対応する。
【0075】
定義
本明細書で使用する用語「ネオエピトープ」は、ポリペプチドの末端、すなわちポリペプチドのN末端若しくはC末端のN末端又はC末端ペプチド配列を指し、その一般的な方向における意味として解釈されるべきではない。
【0076】
本明細書で使用する用語のモノクローナル抗体NBH-242は、III型コラーゲン(CT-III)のC末端テロペプチドに位置するC末端ネオエピトープに対して作られたネオエピトープ特異的抗体を指し、前記ネオエピトープはC末端配列KAGGFAPYYG-COOH(配列番号1)を含む。
【0077】
本明細書で使用する用語「PRO-C3」は、III型コラーゲンのN末端プロペプチドを指す。
【0078】
本明細書で使用する用語「PCX3」は、III型コラーゲンの架橋されたN末端プロペプチドを指す。
【0079】
本明細書で使用する用語「PRO-C3アッセイ」は、以前に記載された32N末端プロペプチド中のネオエピトープを検出及び定量するための競合ELISAを指す。
【0080】
本明細書で使用する用語「PCX3アッセイ」は、WO2017/134172に以前に記載された架橋されたN末端プロペプチドを検出及び定量するための競合ELISAを指す。
【0081】
本明細書で使用する用語「CT-III」は、III型コラーゲンのC末端テロペプチドを指す。
【0082】
本明細書で使用する用語「CTX-III」は、鎖間架橋によって共に結合された少なくとも2つのCT-IIIの鎖を含むIII型コラーゲンの架橋C末端テロペプチドを指す。
【0083】
本明細書で使用する用語「CTX-III」アッセイは、架橋III型コラーゲン、すなわち架橋CT-IIIのC末端テロペプチドネオエピトープを検出及び定量するための本明細書に記載のサンドイッチアッセイを指す。
【0084】
本明細書で使用する用語「ペプチド」及び「ポリペプチド」は、同義的に使用される。
【0085】
本明細書で使用する用語「モノクローナル抗体」は、全抗体と、全抗体の結合特異性を保持する抗体の断片、例えば、Fab断片、Fv断片、又は当業者に公知の他のそのような断片などの両方を指す。同じ結合特異性を保持する抗体は、同一の相補性決定領域(CDR)を含み得る。抗体のCDRは、Kabatら45に記載されているものなどの当技術分野で公知の方法を用いて決定することができる。
【0086】
抗体は、実施例に記載されているように、B細胞クローンから作製することができる。抗体のアイソタイプは、ヒトIgM、IgG又はIgAアイソタイプ、又はヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4サブクラスに特異的なELISAによって決定することができる。アイソタイプを特定するために、他の適切な方法を使用することができる。
【0087】
作製される抗体のアミノ酸配列は、標準的な技術を用いて決定することができる。例えば、RNAを細胞から単離することができ、逆転写によりcDNAを作製するために使用することができる。次いで、cDNAを、抗体の重鎖及び軽鎖を増幅するプライマーを用いてPCRにかける。例えば、全てのVH(可変重鎖)配列についてはリーダー配列に特異的なプライマーを、以前に決定されたアイソタイプの定常領域に位置する配列に結合するプライマーと共に使用することができる。軽鎖は、Vカッパ又はVラムダリーダー配列にアニールするプライマーと共にカッパ又はラムダ鎖の3’末端に結合するプライマーを用いて増幅することができる。全長の重鎖及び軽鎖を作製し、配列決定することができる。
【0088】
本明細書で使用する用語「C末端」は、ポリペプチドの末端、すなわちポリペプチドのC末端を意味し、その一般的な方向における意味として解釈されるべきではない。同様に、用語「N末端」は、ポリペプチドの末端、すなわちポリペプチドのN末端を指し、その一般的な方向における意味として解釈されるべきではない。
【0089】
本明細書で使用する用語「競合イムノアッセイ」は、試料中に存在する標的ペプチド(もしあれば)が既知量の(例えば、固定基質に結合されているか、又は標識されている)ペプチドの標的と抗体への結合について競合するイムノアッセイを指し、これは当業者に公知の技術である。
【0090】
本明細書で使用する用語「ELISA」(酵素結合免疫吸着アッセイ)は、西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼなどの酵素と連結した抗体を用いて、試料中に存在する標的ペプチド(もしあれば)を検出するイムノアッセイを指す。次いで、酵素の活性を、測定可能な生成物を作製する基質とのインキュベーションにより評価する。これにより、試料中の標的ペプチドの存在及び/又は量を検出及び/又は定量することができる。ELISAは当業者に公知の技術である。
【0091】
本明細書で使用する用語「サンドイッチイムノアッセイ」は、試料中の抗原の検出のための少なくとも2つの抗体の使用を指し、当業者に公知の技術である。
【0092】
本明細書で使用する用語「結合量」は、モノクローナル抗体と標的ペプチドとの間の結合の定量を指し、前記定量は、生物学的流体試料中の標的ペプチドの測定値を検量線と比較することによって決定され、検量線は、標的ペプチドの既知の濃度の標準試料を用いて作成される。生物学的流体中のC末端アミノ酸配列KAGGFAPYYG(配列番号1)を有する標的ペプチドを測定する本明細書に開示される特異的アッセイにおいて、検量線は、C末端アミノ酸配列KAGGFAPYYG(配列番号1)を有する(特に、アミノ酸配列KAGGFAPYYG(配列番号1)からなり得る)既知濃度の較正ペプチドの標準試料を用いて作成される。生物学的流体試料において測定された値を検量線と比較して、試料中の標的ペプチドの実際の量を決定する。
【0093】
本明細書で使用する「カットオフ値」は、統計的カットオフ値以上の患者試料中のバイオマーカーの測定値が、肝線維症などの線維性疾患の存在又は尤度の少なくとも70%の確率、好ましくは少なくとも80%の確率、好ましくは少なくとも85%の確率、より好ましくは少なくとも90%の確率、及び最も好ましくは少なくとも95%の確率に対応するという点で、患者における肝線維症などの線維性疾患の高い尤度を示すために統計的に決定される結合量又は線維溶解のレベルを意味する。「カットオフ値」はまた、自然退行表現型を有する患者の高い尤度を示すために統計的に決定される結合量又は線維溶解レベルを意味することができる。
【0094】
本明細書で使用する「線維症応答表現型」は、治療なしに線維症の重篤度がどのように変化するかを示す患者の表現型を指す。「自然退行性」表現型を有する患者は、プラセボでの処置の52週後にIshakスコアが低下した患者である。プラセボでの処置の52週後にIshakスコアの変化のない患者は「安定性」表現型を有しているが、プラセボでの処置の52週後にIshakスコアが増加した患者は、「進行性」表現型を有する。「自然退行性」表現型を有する患者は、安定性又は進行性の表現型を有する患者と比較して、異なる治療計画、すなわち、より低い投与量又はより短い治療サイクルを必要とし得る。
【0095】
本明細書で使用する用語「正常な健常対象と関連付けられる値及び/又は既知の疾患の重篤度と関連付けられる値」は、健常であると考えられる、すなわち疾患の無い(例えば、肝疾患、特に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、又はHCV関連肝線維症などのウイルス性肝線維症などの線維性疾患;クローン病又は潰瘍性大腸炎などの慢性腸疾患;乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肺癌、膵臓癌、胃(stomach)(胃(gastric))癌、卵巣癌、肝臓癌、前立腺癌、又は黒色腫などの癌の無い)対象について上記の方法によって決定される架橋III型コラーゲン(CTX-III)の標準化された量若しくはIII型コラーゲンのN末端プロペプチド(PRO-C3)に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の標準化された比、及び/又は既知の重篤度の疾患(例えば、肝疾患、特に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、又はHCV関連肝線維症などのウイルス性肝線維症などの線維性疾患;クローン病又は潰瘍性大腸炎などの慢性腸疾患;乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肺癌、膵臓癌、胃(stomach)(胃(gastric))癌、卵巣癌、肝臓癌、前立腺癌、又は黒色腫などの癌)を有することが知られている対象について上記の方法により決定される架橋III型コラーゲン(CTX-III)の標準化された量若しくはIII型コラーゲンのN末端プロペプチド(PRO-C3)に対する架橋III型コラーゲン(CTX-III)の標準化された比を意味する。
【0096】
本明細書で使用する「線維性疾患」は、肝疾患、特に、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、又はHCV関連肝線維症などのウイルス性肝線維症などを指す。
【0097】
本明細書で使用する「慢性腸疾患」は、限定されないが、クローン病又は潰瘍性大腸炎などの過敏性腸疾患から選択され得る。好ましくは、慢性腸疾患は、クローン病又は潰瘍性大腸炎、より好ましくはクローン病である。
【0098】
本明細書で使用する「癌」は、限定されないが、乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、腎臓癌、肺癌、膵臓癌、胃(stomach)(胃(gastric))癌、卵巣癌、肝臓癌、前立腺癌、又は黒色腫から選択され得る。好ましくは、癌は乳癌である。
【0099】
本発明を、以下の図面を参照して、以下の実施例で実証する。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【
図1】
図1:ラット(上)、マウス(真ん中)、及びヒト(下)の配列間のIII型コラーゲンα1鎖の配列アライメント。赤色ボックスは、CT-III中のネオエピトープの標的配列をまとめたものである。uniprot.orgからの対応する種の配列及びCLUSTALW 2.1多重アライメントツールを用いてアライメントを作成した。
【
図2】
図2:間接競合ELISAにおけるモノクローナルNBH-242抗体の最終阻害。抗体特異性を、選択ペプチド、伸長ペプチド、切断ペプチド、免疫原性ペプチド、及び緩衝液に対して試験した。
【
図3】
図3:ヒト選択ペプチド、伸長ペプチド、切断ペプチド、及びラット選択ペプチドに対する抗体特異性の4パラメータロジスティックモデルを示す。
【
図4】
図4:健常ヒト血漿EDTAドナー、並びにベースライン及び6ヶ月の経過観察の時点での肥満手術患者のCTX-IIIレベルを示す。LLMR以下のレベルをLLMRレベル(1.8ng/mL)と定義した。星印は、以下のものを示す:
*:p<0.05;
**:p<0.01;
***:p<0.001;
****:p<0.0001。
【
図5】
図5:ベースライン及び6ヶ月の経過観察の時点でのPRO-C3(III型コラーゲン形成)及びCTX-III(架橋III型コラーゲン分解)のバイオマーカーレベル間の比としてIII型コラーゲンの正味の沈着を表す。星印は、以下のものを示す:
****:p<0.0001。
【
図6】
図6:HCV関連肝線維症患者を、それらのIshakスコア(1~2、3、及び4~5)及びスクリーニング時点でのそれらのCTX-IIIレベルに従って層別化し、健常ドナーのCTX-IIIレベルに対してプロットした図を示す。データを中央値+IQRとしてプロットし、有意性をp<0.0001
****として示した。
【
図7】
図7:Ishakスコア;1~2、3、及び4~5に従って分けた患者の正味の線維溶解のレベルを示す。データを中央値+IQRとしてプロットし、有意性をp<0.05
*として示した。
【
図8】
図8:自然発症の線維症表現型;退行性、安定性、又は進行性に従って層別化したプラセボグループ内の患者のスクリーニング時点でのCTX-III(A)レベル又は正味の線維溶解(B)レベルを示す。データを中央値+IQRでプロットし、有意性をp<0.05
*、p<0.01
**、及びp<0.001
***として示した。
【
図9】
図9:最低レベルから最高レベルの三分位値(第1、第2、及び第3の三分位値)に患者を分けることにより、スクリーニング時点でのCTX-III(A)レベル又は正味の線維溶解(B)レベルに基づく患者のIshakスコアのパーセンテージ変化を示す。データを平均+SEMとしてプロットし、有意性をp<0.01
**、及びp<0.001
***として示した。
【
図10】
図10:Youden指数によって計算したカットオフレベルを利用したスクリーニング時点のCTX-III(A)レベル又は正味の線維溶解(B)レベルに基づく患者のIshakスコアの平均パーセンテージ変化を示す。データを平均+SEMとしてプロットし、有意性をp<0.01
**として示した。
【
図11】
図11:Youden指数によって決定されたスクリーニング時点のCTX-III又は正味の線維溶解のレベルに基づいて退行性線維症表現型を呈しているオッズ比を示す。オッズ比を95%CIでプロットし、有意性をp<0.01
**として示した。
【
図12】
図12:ベースライン及び介入後の健常ドナー並びにEoE患者についてプロットした血清CTX-III。有意差を一元配置ANOVAによって計算し、以下のように示した:p<0.0001
****。
【
図13】
図13:健常ドナー、CD患者及びUC患者のCTX-IIIレベルをプロットした。統計的差異を、Kruskal-Wallisの一元配置ANOVAによって計算し、有意性をp<0.0001
****として示した。
【
図14】
図14:内視鏡検査によって決定した非狭窄かつ非穿通疾患(B1)又は狭窄疾患の症状(B2)のいずれかを有する患者のCTX-IIIの血漿レベル(A)、正味の架橋線維溶解(log(CTX-III/PC3X))(B)、及び正味の線維溶解(log(CTX-III/PRO-C3))。統計的差異をMann-Whitney(A)及び対応のないt検定(B+C)によって計算し、有意性をp<0.05
*、及びp<0.01
**として示した。
【
図15】
図15:10~90の百分位数でプロットした12種類の癌に対する健常個体のCTX-IIIレベル間の統計的差異を示すボックスプロット。有意性を、通常の一元配置ANOVAによって計算し、以下のように示した:p>0.05 NS;p<0.05
*;p<0.01
**;p<0.001
***。
【
図16】
図16:CTX-III(A)及び正味の線維溶解(B)のレベルを、ステージII又はステージIIIのいずれかの乳癌患者についてプロットした。データを、10~90の百分位数でのボックスプロットとして提示する。有意差を、パラメトリックt検定によって計算し、p<0.05
*;p<0.001
***として示した。
【発明を実施するための形態】
【0101】
実施例1
方法及び材料:
試薬
実験で使用した全ての試薬は、Merck(Whitehouse Station,NJ,USA)及びSigma Aldrich(St.Louis,MO,USA)などの会社からの高品質の化学薬品であった。モノクローナル抗体の産生及びアッセイの開発及び検証のために使用した合成ペプチドは、1)免疫原性ペプチド:キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)-CGG-KAGGFAPYYG、2)コーティングペプチド:ビオチン-KAGGFAPYYG、3)選択ペプチド:KAGGFAPYYG(配列番号1)又はCKAGGFAPYYG×CKAGGFAPYYG(配列番号16)(N末端ジスルフィド架橋により連結した二量体)、4)伸長ペプチド:KAGGFAPYYGD(配列番号4)又はCKAGGFAPYYGD×CKAGGFAPYYGD(配列番号17)(N末端ジスルフィド架橋により連結した二量体)、5)切断ペプチド:KAGGFAPYY(配列番号5)又はCKAGGFAPYY×CKAGGFAPYY(配列番号18)(N末端ジスルフィド架橋によって連結した二量体)、及び6)ラット二量体ペプチド:CKSGGFSPYYG×CKSGGFSPYYGであった。二量体ペプチドは、アッセイの開発及び検証のためにのみ使用した。全ての合成ペプチドをGenscript,Piscataway,NJ,USAから購入した。
【0102】
モノクローナル抗体の産生及びクローンの特性評価
III型コラーゲンのC末端テロペプチド中に位置する標的ネオエピトープ(1212’-KAGGFAPYYG-‘1221)を、タンパク質ブラストを用いたその特有性並びにラット及びマウスとの配列相同性について分析した(
図1)。
【0103】
モノクローナル抗体の作製を、4~6週齢のBalb/Cマウスにて行った。フロイント不完全アジュバント(Sigma-Aldrich)を用いて、200μLの乳化抗原及び50μgの免疫原性ペプチド(KLH-CGG-KAGGFAPYYG)をマウスの皮下に免疫した。安定した血清力価レベルに達するまで、マウスを2週間間隔で免疫した。最高血清力価を有するマウスを融合のために選択した。マウスを1ヶ月休ませ、100μLの0.9%NaCl溶液中の50μg免疫原性ペプチドを静脈内に免疫した。3日後、脾臓細胞を細胞融合のために単離した。簡単に説明すると、脾臓細胞をSP2/0骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を生成し、次いで、セミミディアム法(semi-medium method)を用いて培養皿内でクローン化した。クローンを96ウェルマイクロタイタープレートに播種し、限界希釈を用いてモノクローナル増殖を確実にした。上清を、4ng/mLのコーティングペプチド(ビオチン-KAGGFAPYYG)でコーティングしたストレプトアビジンプレコーティングプレート(Roche,Hvidovre,Denmark,カタログ番号11940279)を用いた間接競合ELISAにより、選択ペプチド(KAGGFAPYYG(配列番号1))及び伸長ペプチド(KAGGFAPYYGD(配列番号4))に対する反応性についてスクリーニングした。全ての試薬を50mM PBS、1% BSA、1% Tween-20、150mM NaCl、pH7.4で希釈した。2つの最良のモノクローンの最終阻害のための選択を、伸長ペプチド(KAGGFAPYYGD(配列番号4))、切断ペプチド(KAGGFAPYY(配列番号5))、又は免疫原性ペプチド(KLH-CGG-KAGGFAPYYG)ではなく選択ペプチド(KAGGFAPYYG(配列番号1))に対する反応性を試験することで行った。最適なモノクローンを精製する前に、抗体を、サンドイッチELISAキット、SBA Clonotyping(商標)System-HRP(Southern Biotech,Birmingham,AL,USA)を用いてアイソタイプ試験をした。最良の反応性を有するモノクローンを、製造業者の指示に従ってタンパク質Gカラム(GE healthcare Life Sciences,Little Chalfont,Buckinghamshire,UK)を用いて精製した。
【0104】
作製した抗体の配列を決定し、CDRを決定した。
【0105】
鎖の配列は以下の通りである(CDRは下線で太字;定常領域はイタリック):
重鎖配列(マウスIgGアイソタイプ)
QVQLQQSGAELVRPGVSVKISCKGSGHTFTDHGMHWVKQSQAKSLEWIGVISTYYGDATYNQKFKGKATMTVDKSSSTAYMELARLTSEDSAIYYCARSMGGNYVGTGFAYWGQGTLVTVSAAKTTAPSVYPLAPVCGDTTGSSVTLGCLVKGYFPEPVTLTWNSGSLSSGVHTFPAVLQSDLYTLSSSVTVTSSTWPSQSITCNVAHPASSTKVDKKIEPRGPTIKPCPPCKCPAPNLLGGPSVFIFPPKIKDVLMISLSPIVTCVVVDVSEDDPDVQISWFVNNVEVHTAQTQTHREDYNSTLRVVSALPIQHQDWMSGKEFKCKVNNKDLPAPIERTISKPKGSVRAPQVYVLPPPEEEMTKKQVTLTCMVTDFMPEDIYVEWTNNGKTELNYKNTEPVLDSDGSYFMYSKLRVEKKNWVERNSYSCSVVHEGLHNHHTTKSFSRTPGK(配列番号19)
CDR-H1:DHGMH(配列番号9)
CDR-H2:VISTYYGDATYNQKFKG(配列番号10)
CDR-H3:SMGGNYVGTGFAY(配列番号11)
軽鎖配列(マウスカッパアイソタイプ)
DIVMTQAAPSVPVTPGESVSISCRSSKSLLHSNGNTYLYWFLQRPGQSPQLLIYRMSNLASGVPDRFSGSGSGTAFTLRISRVEAEDVGVYYCMQHLEFPLTFGAGTKLELKRADAAPTVSIFPPSSEQLTSGGASVVCFLNNFYPKDINVKWKIDGSERQNGVLNSWTDQDSKDSTYSMSSTLTLTKDEYERHNSYTCEATHKTSTSPIVKSFNRNE(配列番号20)
CDR-L1:RSSKSLLHSNGNTYLY(配列番号6)
CDR-L2:RMSNLAS(配列番号7)
CDR-L3:MQHLEFPLT(配列番号8)
【0106】
アッセイの開発
モノクローナル抗体標識
110μLのNa2CO3/NaHCO3緩衝液、pH9.6を1mL(1mg/mL)の抗体に添加し、続いて13.3μLのビオチンアミドヘキサン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(Sigma Aldrich,St.Louis,MO,USA、カタログ番号B2643)を添加することにより、捕捉抗体として使用するモノクローナルNBH-242抗体をビオチンで標識した。溶液を20℃で1時間、くるくると回転させながらインキュベートした。その後、110μLの0.2Mエタノールアミン、pH8.0をこの溶液に加え、前と同様にインキュベートした。この溶液をZeba 7k MWCO脱塩カラム(Thermo Scientific,Waltham,MA,USA、カタログ番号89889)中で一晩透析し、4℃で1xPBSに浸した。さらに、モノクローナル抗体の一部を西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識し、検出抗体として使用した。HRP標識を、Sigma Aldrich,St.Louis,MO,USA、カタログ番号11829696001から購入し、Roche社製ペルオキシダーゼ標識キットを用いて、製造業者のプロトコルに従って実施した。
【0107】
直接サンドイッチELISAプロトコル
ストレプトアビジン(Roche Diagnostic’s,Hvidovre,Denmark、カタログ番号11940279)でプレコーティングした96ウェルプレートを、アッセイ緩衝液(50mM PBS、1% BSA、1% Tween-20、150mMのNaCl、pH7.4)で1+100希釈したCTX-III断片を標的とする100μLのビオチン化抗体で、1分あたり300回転(rpm)で回転させながら室温で30分間コーティングした。未結合のビオチン化捕捉抗体を廃棄し、標準化したELISAプレート洗浄機(BioTek(登録商標)装置、マイクロプレート洗浄器,ELx405 Select CW,Winooski,USA)を用いて、ウェルを洗浄緩衝液(25mM TRIZMA、50mM NaCl、0.036% Bronidox L5、0.1% Tween 20)で洗浄した。全ての試料及び検出抗体をインキュベーション緩衝液(50mM PBS、1% BSA、1% Tween-20、150mM NaCl、5% Liquid II、pH7.4)で希釈し、検出抗体を1+100で希釈した。20μLの試料物質及び対照を、CTX-III断片を標的とするHRP標識検出抗体100μLと4℃で20時間、300rpmで攪拌しながらインキュベートした。未結合の一次抗体及び試料を廃棄し、ウェルを洗浄緩衝液で洗浄した。その後、100μLの化学発光基質をウェルに加え、プレートを暗所で、300rpmで回転させながら、20℃で3分間インキュベートした。最後に、450nm及び650nmで発光を測定するように設定したELISAリーダー(VersaMAX;Molecular Devices,Wokingham Berkshire,UK)を用いて発光を定量した。二量体選択ペプチド(CKAGGFAPYYG×CKAGGFAPYYG(配列番号16)の2倍連続希釈から得られた結果を用いて、4-パラメトリック数学的適合モデルを用いて標準曲線をプロットした。未知の試料の測定値を、標準曲線で補間し、CTX-III断片の濃度(ng/mL)を得た。
【0108】
技術的検証
検出の下限(LLOD)を、21個のゼロ試料(すなわち、インキュベーション緩衝液)から決定し、平均+3×標準偏差として計算し、検出の上限(ULOD)を二量体選択ペプチドの10個の測定値から決定し、平均+3×標準偏差として計算した。5つの品質管理(QC)試料の10回の独立した実行(これらのうちの最低3つは健常なヒト血漿EDTA試料(Valley Biomedical,Winchester,VA,USA)であり、各実行が試料の二重決定からなる)により、アッセイ間及びアッセイ内の変動を決定した。アッセイ間及びアッセイ間の変動に対する受け入れ基準は、それぞれ15%及び10%であった。希釈していない試料を基準として用いて、有意な濃度の健常ヒト血漿EDTA試料の1:6倍希釈の回収率(100%±20%)を計算することによりアッセイの直線性を決定した。アッセイの特異性を、二量体選択ペプチドの100%試料に対する二量体伸長ペプチド、二量体切断ペプチド、及び二量体ラットペプチドの測定値の回収率を計算することによって決定した。試料測定の精度を、有意な濃度の健常ヒト血漿EDTAの2つの試料をスパイクすることによって決定し、その後、理論値と実際の測定値との間の回収率を計算することによって決定した。ビオチン、脂質及びヘモグロビンからの干渉は、既知の濃度の干渉物質で健常ヒト血漿EDTA試料をスパイクすることによって試験した。その後、対照試料と低い又は高い干渉試料との間の回収率を計算した。
【0109】
分析物及び試薬の安定性
CTX-III断片の安定性を、ストレスを与えていない試料からの3つの健常ヒト血漿EDTA試料の回収率を計算することによって決定した。これらの試料を、最高4サイクルの凍結融解を行うか、又は4℃若しくは20℃のいずれかでの2、4、24、又は48時間のインキュベーションに供した。
【0110】
インビトロ切断アッセイ
臨床的コホート測定
バイオマーカーアッセイ
III型コラーゲン形成の評価を、N末端プロペプチド中のネオエピトープを標的とするPRO-C332競合ELISAを用いて行った。簡単に説明すると、ストレプトアビジンでコーティングした96ウェルプレートを、タンパク質安定剤及び保存剤を含有するPBS緩衝コーティング溶液で1+100希釈したビオチン化コーターペプチド100μLと20℃、300rpmで、30分間インキュベートした。インキュベーション後、コーティング溶液を捨て、標準化したELISAプレート洗浄機(BioTek(登録商標)装置、マイクロプレート洗浄器、ELx405 Select CW,Winooski,USA)を用いて洗浄緩衝液(25mM TRIZMA、50mM NaCl、0.036% Bronidox L5、0.1% Tween 20)でウェルを5回洗浄した。20μLの試料物質を適切なウェルに添加し、続いて、インキュベーション緩衝液で1+100希釈したHRP標識抗体100μLを添加した。プレートを4℃、300rpmで20時間インキュベートし、その後、それらを先に記載したように洗浄した。テトラメチルベンジジン(TMB,Kem-En-Tec カタログ番号438OH,Taastrup,Denmark)を100μL/ウェルで比色試薬として用い、暗所で、300rpmで攪拌しながら15分インキュベートした。100μLの1% H2SO4を添加して反応を停止し、ELISAリーダー(VersaMAX;Molecular Devices,Wokingham,UK)を用い、基準として650nmを用いて、光学濃度を450nmで読み取った。分析した試料内のPRO-C3の濃度を、選択ペプチドの2倍連続希釈によって作成した4-パラメトリック対数標準曲線を用いた補間によって決定した。
【0111】
結果:
モノクローナル抗体の産生及び特徴付け
III型コラーゲンのラット、マウス、及びヒト配列のアライメントは、2つのアミノ酸の違い(
図1の「:」によって示す)を明らかにした。アイソタイプの特徴評価により、アッセイ開発に使用した抗体NBH-242をIgG2a κ軽鎖であると決定した。最終阻害において、該モノクローナル抗体は、伸長ペプチド、切断ペプチド、又は免疫原性ペプチドに対していかなる反応性も示さず、これはシグナル阻害の欠如によって観察された。選択ペプチドに対する反応性の試験は、ペプチド濃度によるシグナル阻害の増加を実証し、そのため間接競合ELISAにおいて抗体への結合が示された(
図2)。
【0112】
技術的検証
サンドイッチELISAの開発において、モノクローナルNBH-242抗体を捕捉抗体と検出抗体の両方として使用した。ヒトCTX-III ELISAの測定範囲を、LLOD及びULODを計算することによって決定し、0.92~15.94ng/mLの範囲を提供した。アッセイ間及びアッセイ内の変動を計算することによって決定したアッセイの技術的性能は、それぞれ14.8%及び5.4%の変動で許容範囲内であった(表4)。アッセイの直線性を、健常ヒト血漿EDTA試料で試験し、108.9%の平均回収率をもたらし、そのため、許容範囲は100%±20%であった(表5)。試料をさらに希釈すると、濃度は測定範囲よりも低くなった。計算した回収率をプロットすることにより、二量体ペプチドに対する直接サンドイッチELISAにおける抗体の特異性を試験した。ここで、抗体は、二量体伸長ペプチド、二量体切断ペプチド、又は二量体ラットペプチドのいずれにも反応性を示さなかったが、発光の増加(y軸)によって示される二量体選択ペプチドの濃度の増加に対する反応性を示した(
図3)。別の健常ヒト血漿EDTA試料で健常ヒト血漿EDTA試料をスパイクすると、102.2%の平均回収率が得られた(表6)。試験した干渉物質のいずれも、健常ヒト血漿EDTA試料中の試料の測定値に対する効果を実証せず、平均回収率は許容範囲内(100%±20%)であった(表7)。
【0113】
表4:5つのQC試料(これらのうちの3つは健常ヒト血漿EDTA試料であり、最後の2つが二量体選択ペプチドであった)を用いることによるCTX-IIIアッセイについてのアッセイ間及びアッセイ内の変動。変動(%)を、各試料の10の個々の二重決定の平均として計算する。
【表2】
【0114】
表5:4つの健常ヒト血漿EDTA試料(HP)の試料希釈回収率
【表3】
【0115】
表6:有意な濃度の健常ヒト血漿EDTA試料を互いにスパイクし、試料の測定される値と理論値との間でスパイク回収率(%)を計算した。
【表4】
【0116】
表7:3つの健常ヒト血漿EDTA試料中のヘモグロビン、ビオチン、及び脂質からの干渉。回収率(%)を、純粋な血漿EDTA試料に対する干渉物質の低濃度及び高濃度から計算する。
【表5】
【0117】
分析物及び試薬の安定性
健常ヒト血漿EDTA試料中の分析物の安定性は、凍結/融解の4サイクルまで安定であった(表8)。健常ヒト血漿EDTA試料の4℃でのインキュベーションについての平均回収率は92.5%であり、全ての試料中で48時間まで安定であった。20℃において、平均回収率は114.7%であり、4つの試料のうちの3つは24時間まで分析物の安定性を実証した(表9)。
【0118】
【0119】
【0120】
考察
Cプロテイナーゼ切断後のIII型コラーゲンのC末端テロペプチド中のネオエピトープを標的とするモノクローナル抗体の産生に基づいて、III型コラーゲンの架橋断片を検出するためにNBH-242モノクローナル抗体を利用することにより、新規CTX-IIIサンドイッチELISAを開発した。簡単に説明すると、このアッセイは、ヒトネオエピトープに対して高い特異性を実証し、ヒト血漿EDTA試料中の分析物を検出する能力を有した。さらに、このアッセイは、許容可能なアッセイ間及びアッセイ内の変動、直線性、及び正確な測定値を用いて技術的に安定であることが示された。
【0121】
特性評価及び技術的検証
抗体の特性評価の間、該モノクローナル抗体反応性を、ネオエピトープ配列の変動に対する競合ELISAで試験し、これは抗体の高い特異性を示したが、使用したペプチドは単量体であり、したがって、サンドイッチELISAでの抗体使用を検証しなかった。そのため、抗体結合部位に対してN末端に位置するジスルフィド結合を介して架橋された前述の異なるペプチドバリエーションの2つの同一の配列を含む二量体ペプチドのセットを設計した。二量体ペプチドに対する反応性を試験すると、抗体は二量体ヒト選択ペプチドに対して高い特異性を誘発し、そのため、ヒトネオエピトープ配列に対するその高い特異性を再検証する一方で、架橋断片の検出においてその潜在的な有用性も実証した。
【0122】
特異性が高く、該抗体がラットの配列相同体を検出することができないために、このアッセイの開発及び検証はヒト試料物質に集中した。天然の反応性はヒト血漿EDTA試料で示されたが、測定した試料の値の大部分は、
図3のHDレベルから観察できるように、測定範囲の下端にあった。測定範囲内の試料をアッセイの技術的検証のために選択し、その技術的安定性を明らかにした。健常ヒト血漿EDTA試料の希釈回収、及びアッセイの正確さを示すスパイク回収と同様に、アッセイ間及びアッセイ内の変動は許容範囲内であった。
【0123】
分析物及び試薬安定性
アッセイの開発及び臨床使用における重要な要因は、様々な凍結及び融解サイクル後の試料物質の正確な測定、及びより高い温度又はより低い温度でのインキュベーションを可能にする分析物の安定性である。これは、正確な試料の取り扱いが完全には知られていない臨床試料物質を測定するときに特に重要である。試料の注意深い取り扱いは常に優先的であるべきであるが、CTX-III分析物の安定性試験は、いかなる主な不安定性も示唆しなかった。
【0124】
以下の実施例では、CTX-IIIのレベルを上記のアッセイを用いて測定した。WO2014/170312に記載の方法を用いて、PROC3のレベルを測定し、WO2017/34172に記載のアッセイを用いてPC3Xのレベルを測定した。
【0125】
実施例2-肥満手術
肥満手術を受けた非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の58人の患者から、ベースライン及び6ヶ月の経過観察の時点で採血した。患者の人口統計の概略図を表10に提供し、これには、患者のBMI、非アルコール性脂肪性肝疾患活性スコア(NAS)、脂肪肝グレード、炎症グレード、バルーニング、及びそれらの線維症ステージが含まれる。患者の人口統計をベースラインのみで取得し、45~48人の患者について人口統計のみが提供された。手術の手順の前に、術前の体重減少を促すために、患者にダイエットさせた。測定した試料は血漿EDTAであり、CTX-III測定まで-80℃で保存した。
【0126】
表10:ベースラインにおける肥満手術患者の人口統計を表す。
【表8】
【0127】
統計解析
健常な血漿EDTA試料と肥満手術患者のコホートからの血漿EDTA試料との間のCTX-IIIレベルの比較を、誤発見率を補正する一元配置ANOVA(Kruskal-Wallis)を適用することによって行った。結果を中央値CTX-IIIレベル+四分位範囲(IQR)として示す。全ての統計解析を、GraphPad Prism v.8.2.0(Graph Pad Software,La Jolla,CA,USA)で行った。星印は以下のものを示す:*:p<0.05;**:p<0.01;***:p<0.001;****:p<0.0001;ns=有意でない差。
【0128】
結果
CTX-IIIレベルはNAFLDに関する
CTX-IIIのレベルは、健常ヒト血漿EDTAドナー(HD)のレベルと比較して、ベースライン(p<0.0001)、及び6ヶ月の経過観察(p<0.001)の時点で、肥満手術を受けたNAFLDの患者において有意に高かった(
図4)。さらに、ベースライン(p<0.01)レベルは、6ヶ月の経過観察の時点でのレベルよりも有意に高かった(図)。
【0129】
III型コラーゲンの沈着
III型コラーゲンの正味の沈着を示すPRO-C3及びCTX-IIIの比は、ベースラインの時点での患者と比較して、6ヶ月の経過観察の時点での肥満手術患者において有意に上昇した(p<0.0001)(
図5)。
【0130】
考察
CTX-IIIアッセイの開発は、ベースラインレベルと6ヶ月の経過観察レベルとの間の差を含む、HD患者とNAFLD患者とを区別する能力を実証した。
【0131】
CTX-IIIレベルはNAFLDに関する
NAFLDは、集団の約1/4に影響を及ぼす主な慢性肝疾患の1つであり33、主な原因の1つは、肝臓内に脂肪の蓄積をもたらす肥満である34。次いで、この蓄積は、炎症カスケードの開始につながり、瘢痕組織を形成する可能性があり、最終的には肝線維症の状態につながり得る34。ここで、III型コラーゲン35及びECM関連架橋酵素LOXL236を含むECM成分の過剰な蓄積が、さらなる疾患の進行に関与する。このように、肥満手術を受けたNAFLD患者の研究における新規CTX-IIIマーカーの可能性及び生物学的関連性を評価した。ベースライン及び6ヶ月の経過観察の時点でNAFLD患者から得られた血漿EDTA試料中のCTX-IIIレベルを測定することにより、各時点での患者間の有意差が実証された。さらに、NAFLD患者のCTX-IIIレベルをHDと比較すると、NAFLDと診断された患者は、全ての時点で有意により高いバイオマーカーレベルを示した。CTX-IIIマーカーのこのレベルの増加は、肥満手術患者に生じる線維溶解のレベルが有意に増加したことを示唆している。CTX-IIIと組み合わせて、III型コラーゲン形成の肝線維症関連PRO-C3バイオマーカーも測定した。2つのバイオマーカー測定の組み合わせは、III型コラーゲンの正味の沈着の尺度を提供した。本明細書で、沈着は、ベースラインから6ヶ月の経過観察まで増加し、成熟架橋III型コラーゲンの分解から組織内の新しいコラーゲンの形成への切り替えが示唆される。これらのデータから、既知の活性のある疾患を有する個体を区別し、CTX-IIIのレベルを経時的に監視することにおいてCTX-IIIマーカーの可能性が示される。CTX-IIIマーカーは、脂肪肝グレード、炎症グレード、バルーニング、BMI、線維症ステージ、又はNASスコア(図示せず)を含む、それらの個々の疾患スコアに基づいて患者間で区別することができなかった。
【0132】
実施例3 HCV関連肝線維症
研究の説明
C型肝炎ウイルス(HCV)関連肝線維症と診断された合計158人の患者からスクリーニング及び52週間後の時点で採血し、測定する試料物質は血漿EDTAであった。表11は患者集団の全体の概要を提供し、表12はプラセボグループの47人の患者を表す。
【0133】
表11:HCV関連肝線維症と診断されたスクリーニング時点での患者の人口統計の概要
【表9】
【0134】
表12:スクリーニングの時点でのデータを示すプラセボグループ内の患者の人口統計の概要
【表10】
【0135】
統計解析
分析したグループの数(Mann-Whitney又はKruskal-Wallis)に依存して、非パラメトリックt検定又は一元配置ANOVAを適用することによって、健常血漿EDTA試料とHCV関連肝線維症患者のコホートからの血漿EDTA試料との間のCTX-IIIレベルの比較を行った。データを誤発見率のために補正した。結果を、特に断らない限り、中央値CTX-III又は正味の線維溶解+四分位範囲(IQR)として示す。バイオマーカー三分位値レベルを、以下のように最低バイオマーカーレベルから初めて、最高バイオマーカーレベルまで:第1、第2、及び第3の三分位値として定義した。全ての統計解析をGraphPad Prism v.8.4.3(Graph Pad Software,La Jolla,CA,USA)及びMedCalc v.19.3(MedCalc Software Ltd,8400 Ostend,Belgium)にて実施した。星印は、以下のものを示す:*:p<0.05;**:p<0.01;***:p<0.001;****:p<0.0001;ns=有意でない差。
【0136】
結果
HCV関連肝線維症を呈する患者を、スクリーニング時点でのそれらのIshakスコアに従って層別化し、それらのCTX-IIIレベルを健常ドナーのレベルと比較した。線維症の程度とは独立して、肝線維症を呈する患者は、健常ドナーと比較してスクリーニングの時点でCTX-IIIレベルが有意(p<0.0001)に上昇していた(
図6)。
【0137】
スクリーニングの時点での正味の線維溶解度(CTX-III/PRO-C3)を計算すると、Ishak分類を利用して様々な程度の線維症を呈する患者間に有意差を発見した(
図7)。Ishakスコアが1~2の患者は、スコアが4~5の患者と比較して、より高い正味の線維溶解度を誘発した(p<0.05)。3のスコアを有する患者についても同様であり、スコアが4~5の患者と比較してレベルが有意に(p<0.05)上昇した。
【0138】
合計47人の患者をプラセボで52週間処置し、その後、それらのIshakスコアを測定した。次いで、患者を、スクリーニングから52週までの間のIshakスコアの変化に従って層別化し、退行性、安定性又は進行性の線維症表現型のいずれかを有するものとして定義した。各表現型のスクリーニングの時点でCTX-IIIレベルをプロットすると、進行性表現型と比較して自然退行性表現型を有する患者において、バイオマーカーレベルが有意に上昇したことが見出された(p<0.01)。さらに、安定性線維症表現型を呈する患者は、進行性表現型と比較してスクリーニングの時点で有意により高いCTX-IIIレベルを示した(p<0.05)(
図8A)。スクリーニングでの正味の線維溶解の計算は、退行性表現型を有する患者は進行性表現型と比較して有意により高いレベルの線維溶解(p<0.001)を示すが、同様のことが安定性表現型と進行性表現型とを比較した場合に言える(p<0.01)ため、患者の表現型間のより顕著な区別を可能とした(
図8B)。
【0139】
スクリーニング時点のそれらのCTX-IIIレベル又は線維溶解のレベルのいずれかに基づいて、プラセボグループの患者を三分位値に分けると、低い初期CTX-IIIレベル(第1の三分位値)の患者と比較して、スクリーニング時点で高レベルのCTX-IIIを有する患者(第3の三分位値)のIshakスコアに有意な減少が実証された(
図9A)。Ishakスコアの観察は、正味の線維溶解に基づいて変化し、第3の三分位値中のレベルを有する患者は、第1の三分位値の患者と比較して有意な減少を示した(p<0.001)。さらに、スクリーニング時点の第2の三分位値中の線維溶解のレベルを有する患者も、第1の三分位値と比較してそれらのIshakスコアの有意な減少を示した(p<0.01)(
図9B)。
【0140】
受信者操作特性(ROC)及びその統計の要約に基づいて、Youden指数、退行性線維症表現型に最適なカットオフ値を、スクリーニング時点のCTX-IIIレベルと線維溶解レベルの両方について決定した(表13)。スクリーニングの時点でのCTX-III>3.8ng/mLのレベルは、カットオフ値より低いレベルを有する患者と比較して、Ishakスコアを有意に低下させた(p<0.01)(
図10A)。正味の線維溶解についても同様であり、架橋III型コラーゲン分解(CTX-III)及びIII型コラーゲン形成(PRO-C3)の比が0.5超の患者は、低レベルの線維溶解を呈する患者と比較して、Ishakスコアの有意な低下を経験した(p<0.01)(
図10B)。
【0141】
表13:スクリーニングの時点でのCTX-IIIレベル又は正味の線維溶解度のいずれかの特異的なカットオフ値と、ROC曲線からのそれらの関連する値とを用いた自然退行者の特定
【表11】
【0142】
Youden指数を計算することによって決定したカットオフレベルに基づいて患者を層別化し、その後、ロジスティック回帰から線維症の退行者であるオッズ比を計算する。これは、この値よりも低いレベルを呈する患者と比較して、スクリーニング時にCTX-IIIレベル≧3.8ng/mLの患者に対して19.4倍高い(p=0.0088)線維症の自然退行者であるオッズ比をもたらした。患者の線維溶解レベルを観察すると、線維溶解率≧0.5で、オッズ比は23.3(p=0.0057)に増加した(
図11)。
【0143】
考察
HCV線維症におけるIII型コラーゲン:
線維症の進行中に、病原性細胞の活性化は、ECM内のコラーゲン、特にI型、III型及びV型の主要な線維性コラーゲンの過剰な形成をもたらす。LOXL及びTGなどのコラーゲン架橋酵素の増加と合わせて、線維性コラーゲンの沈着及びその後の架橋の増加は、組織硬化を増大させ、組織の破壊を引き起こし、臓器不全につながる可能性がある37。HCV関連肝線維症において、チェックされていないウイルス感染は、結果として生じる慢性炎症を伴う組織ホメオスタシスの喪失をもたらし、腫瘍増殖因子-β1(TGF-β1)を含むいくつかの炎症性サイトカイン及び線維形成性サイトカインを発現させる。この線維形成性サイトカインのカスケードは、最終的に静止肝星細胞を活性化し、筋線維芽細胞に分化させる38。筋線維芽細胞は、広範なコラーゲン架橋及びECM収縮により媒介されるECM産生及びマトリックス硬直の調節に関与する線維症の主なエフェクター細胞を構成する39。HCV関連肝線維症におけるIII型コラーゲンの蓄積は、III型コラーゲンのNH2プロペプチドを標的とする高感度モノクローナル抗体を介したIII型コラーゲンの形成を定量するバイオマーカーPRO-C3を用いて以前に示されている40、41。PRO-C3と線維形成表現型との既知の関係を用いて、線維溶解と新規バイオマーカーCTX-IIIとの間の関係を調べた。NAFLDにおけるCTX-IIIレベルの調査結果と同様に、HCV関連線維症に罹患している患者は、HDと比較して高いレベルの架橋III型コラーゲン分解を示した。さらに、最低の程度の線維症(Ishakスコア1~2)を有する患者における線維溶解のレベルの増加が観察され、成熟架橋III型コラーゲンの線維溶解の増加及びIII型コラーゲン形成の減少が示唆された。これらのデータは、架橋した線維性ECMの上方制御されたタンパク質分解を示し、正味の線維溶解は、線維症の程度に基づいて患者間で区別することができる。
【0144】
線維症の解消:
長い間、線維症は不可逆的であると考えられていたが、線維症の理解は近年変化し、現在は、線維症を線維形成及び線維溶解の動的プロセスとして認められている。LOXL2/3などの標的を含む新規抗線維症治療剤が開発されている42ので、線維症解消の最終目標は到達範囲内である。しかし、臨床管理を最適化するために、したがって、患者を評価することができる高感度で特異的なツールが必要である。以前に自然進行性線維症表現型を有する患者を特定するPRO-C3バイオマーカーで実証されたように、ECMターンオーバーの血清学的バイオマーカーが、このための非侵襲性ツールを提供することができる43、44。52週間後に、それらの線維症表現型が退行したか、安定のままか、又は進行したかどうかに応じて患者を分け、スクリーニングの時点での退行性表現型と進行性表現型との間でCTX-IIIレベルと正味の線維溶解レベルの両方に有意差が観察された。これらのデータから、初期の高レベルの架橋III型コラーゲン分解、すなわち、線維溶解を有する患者は、より低い線維溶解度を有する患者と比較して線維性ECMの自然解消を経験するというバイオマーカーの予後診断の可能性が示唆される。
【0145】
退行者の特定、治療の結果
バイオマーカーのカットオフ値を計算することにより、この調査研究においてCTX-IIIレベルが3.8ng/mL以上であるか、又はスクリーニングの時点で線維溶解レベルが0.5以上である患者が、退行性表現型を呈する見込みが19.4倍及び23.3倍高いことが実証された。バイオマーカーカットオフレベルをスクリーニングの時点で用いて、自然退行者を特定することができる。線維性ECMの自然解消を呈する患者は、バイオマーカーによって決定されるように低い初期線維溶解を有する患者と比較してより低い治療用量を必要とし得る。その結果、これは、治験中の患者のより良好な層別化、費用の減少、患者の福祉の増加、及び治療開発の援助の可能性につながる。
【0146】
実施例4 好酸球性食道炎
方法:
患者の人口統計及び臨床評価
除去食で治療した29人の成人EoE患者を分析に含めた。嚥下障害及びEREF総スコアをベースライン時及び内視鏡検査による介入後に評価した。
【0147】
表14 健常ドナーを含む、ベースライン時及び介入後のEoE患者の基本的な患者の人口統計を示す。人口統計には、年齢、性別、嚥下障害の存在、及び好酸球性食道炎基準スコア(EREFS)の合計が含まれる。
【表12】
【0148】
統計解析
ベースライン時及び介入後の患者の人口統計と患者の臨床パラメータとの間の統計的分散を、2つのグループについてのフィッシャーの正確検定又は複数のグループについてのカイ二乗検定によって決定した。
【0149】
両方の時点でのEoE患者の血清CTX-IIIと健常ドナーとの間の統計的差異の計算を、ノンパラメトリックデータのためのKruskal-Wallisを適用する一元配置ANOVAによって行った。0.05未満のp値を統計的に有意であると決定した。
【0150】
結果:
コホート説明:
EoE患者及び健常ドナーの平均年齢に有意差があり(p=0.0039)、健常ドナーは平均9歳年上である。ベースライン時及び除去食後のEoE患者のEREF総スコアの比較により、有意な低下(p<0.0001)が観察された(表14)。
【0151】
EoE患者と健常ドナーを区別するCTX-IIIバイオマーカーの診断の可能性
血清CTX-IIIレベルは、健常ドナーと比較して、ベースラインと除去食後(介入後)の両方で有意に上昇した(p<0.0001)。ベースラインレベルと介入後レベルとの間に有意差は示されなかった(
図12)。
【0152】
考察:
ベースライン時及び6週間の除去食後に採血した29人のEoE患者及び健常ドナーの研究においてCTX-IIIバイオマーカーを適用することによって、EoE患者における血清CTX-IIIの上昇が実証された。間質マトリックス中の位置で、EoEにおける線維症の間に、III型コラーゲンの沈着が、活性化された筋線維芽細胞によって上皮下層に主に生じる[46、49]。コラーゲン成熟の最終工程では、大量の分泌された架橋酵素が、分子内架橋及び分子間架橋の広範な形成を媒介する。健常ドナー線維芽細胞の筋線維芽細胞分化を開始するEoE患者の高度に架橋された病理学的コラーゲンマトリックスの能力は、EoE関連線維症の増加においてECMの重要性を明確に示す[59]。食道線維症によって引き起こされる臨床症状は、上皮下線維症の実際の発症よりも後に起こり、10年毎の病気の期間にリスクが2倍になる[60]。そのため、線維性細胞外マトリックスリモデリングの早期の評価は、治療の早期開始に重要である[61]。本明細書で、架橋III型コラーゲンのプロテアーゼ分解代謝物の定量は、CTX-IIIバイオマーカーの診断可能性を実証した。EoEと診断された患者におけるCTX-IIIの血清レベルが有意に上昇し、バイオマーカーは、EoEにおける支持診断ツールを提供し、潜在的にEoEの薬力学的マーカーとしても役立ち得る。線維性狭窄の発生又は線維症の解消を監視するための抗線維症治療薬又はマーカーは、現在、EoEに利用可能なものはないが、EoEの病因の特に重要な炎症促進性サイトカインを標的とする治療薬の研究が進行中である。現在の治療上の選択肢には、局所ステロイドの投与及び除去食が含まれる[62]。これらの2つの療法は、食道好酸球増加症の低下を実証したが、まだ線維症の低下を実証していない。
【0153】
結論:
現在の研究では、EoE患者に6週間の除去食を与えると、血清CTX-IIIレベルに有意な影響をもたらさなかった。短期間の食事介入によるCTX-IIIバイオマーカーレベルの変化は観察されなかったが、EoE患者においてプロテアーゼ分解され、架橋されたIII型コラーゲンの有意に上昇したレベルは、EoE関連線維症のIII型コラーゲンリモデリングにおけるバイオマーカーの可能性を示す。
【0154】
実施例5-炎症性腸疾患
方法:
患者の人口統計及び病理学的評価:
単純な内視鏡的CDスコア(SES-CD)に従って、採血時に患者を内視鏡により評価し、スコア付けした。0~1のSES-CDスコアを有する患者を内視鏡により不活性であると決定するが、1を超えるスコアは内視鏡により活性があると決定した。さらに、SES-CDスコアが利用できなかった場合、不活性又は活性のある疾患の決定は、臨床パラメータで決定される患者のハーベイ・ブラッドショウ指数(HBI)スコアに基づいていた。0~4のHBIスコアは、臨床的に不活性な疾患を有する患者を表すが、4を超えるスコアは、臨床的に活性のある疾患を有する患者と決定した。
【0155】
非狭窄かつ非穿通疾患(B1)又は狭窄疾患挙動(B2)のいずれかに分けた患者の疾患挙動についてモントリオール分類を利用することによってさらに患者を層別化した。疾患の発症年齢が16歳以下の患者についてモントリオールA1グループの患者、及び/又は肛門周囲疾患挙動についてモントリオールB4分類を有する患者は、分析から除外した。
【0156】
表15:内視鏡的又は臨床的な疾患の活性及び内視鏡的疾患挙動に応じた患者の人口統計及び層別化の概要
【表13】
【0157】
統計解析:
B1及びB2モントリオール分類における患者の人口統計と患者の病理学的パラメータとの間の統計的分散を、フィッシャーの正確検定によって決定した。
【0158】
健常ドナーと、CD又は潰瘍性大腸炎(UC)のいずれかと診断された患者との間の血漿CTX-III又は正味の線維溶解(log(CTX-III/PRO-C3))の評価を、比較グループの数に応じて、t検定又は一元配置ANOVAを適用することによって行った。ノンパラメトリック一元配置ANOVAのためにKruskal-Wallis並びにノンパラメトリック及びパラメトリックデータのためにMann-Whitney又は対応のないt検定のいずれかによって統計的差異を計算した。0.05未満のp値を統計的に有意であると決定した。
【0159】
結果:
患者の人口統計及び病理学的評価
B2の患者の数と比較して、B1グループにおいて統計的により多い数の患者が存在した(p=0.008)。B1を有する患者の年齢は、B2分類を有する患者よりも有意に若かった(p=0.0118)。さらに、B1分類を有する患者は、B2を有する患者と比較して、肛門周囲にも症状を呈した有意により多い数の患者(B4)を有した(p=0.0026)。残りの人口統計学的パラメータと病理学的パラメータとの間に有意差は示されなかった。
【0160】
血漿CTX-IIIは慢性腸炎症を有する患者において増加する
CD患者及びUC患者は、健常ドナーと比較して有意により高いレベルの血漿CTX-IIIを示した(p<0.0001)。CDとUCの患者の間には統計的な差異は見られなかった(
図13)。
【0161】
血漿CTX-IIIの定量による管腔疾患及び狭窄疾患の症状の区別
血漿CTX-IIIは、不活性な疾患及び非狭窄かつ非穿通疾患(B1)挙動を呈するCD患者において有意に上昇した。狭窄疾患(B2)症状を有する患者と比較して、レベルが上昇した(p<0.01)(
図14A)。さらに、正味の架橋線維溶解(log(CTX-III/PC3X))又は正味の線維溶解(log(CTX-III/PRO-C3))を計算することにより、非狭窄かつ非穿通疾患(B1)患者は、狭窄疾患を有する患者(B2)と比較した場合に、より高いレベルの線維溶解が実証された(p<0.05、及びp<0.01)(
図14B+C)。
【0162】
考察:
この研究において、IBD患者における線維溶解度を、架橋III型コラーゲン(CTX-III)のプロテアーゼ分解代謝産物のレベルを定量化することによって、並びに正味の架橋線維溶解をCTX-III/PC3X比によって、又は正味の線維溶解をCTX-III/PRO-C3比のいずれかによって調べた。この研究における主な知見は以下のとおりであった:1)CTX-IIIバイオマーカーレベルは健常ドナーと比較した場合に、IBD患者において有意に上昇した(
図13)、かつ2)CTX-III又は架橋若しくは非架橋の正味の線維溶解(log(CTX-III/PC3X又はPRO-C3))レベルの定量は、管腔疾患又は構造形成疾患(structuring disease)の挙動を呈する臨床寛解の患者を区別することができる(
図14)。
【0163】
病理学的創傷治癒の活性化を維持するIBDの特徴的な慢性炎症は、広範なECMリモデリングの重要な促進要因として認識される。CD患者における線維性コラーゲン発現は健常個体と比較して有意に上昇し[70]、組織学的評価は粘膜下層から粘膜筋までの腸の異なる組織層において過剰な沈着を示した[68]。さらに、炎症細胞と活性化線維芽細胞の両方が、増加した量のMMPを産生し、その結果コラーゲン分解が増加し、重篤な場合には瘻の形成をもたらし得る。
【0164】
Haaftenらによる以前の研究[71]は、疾患挙動の内視鏡的評価に基づいてCD患者を区別する際に、MMP媒介分解及び形成を反映するIII型コラーゲンバイオマーカーの使用を実証した。狭窄疾患を有する患者は、組織内のコラーゲンの過剰な沈着を反映するコラーゲン形成マーカーのレベルの増加と関連付けられるが、コラーゲン分解は、穿通疾患を有する患者において増加した[71]。
【0165】
本明細書で、架橋III型コラーゲンのタンパク質分解代謝産物を定量し、非狭窄かつ非穿通疾患挙動(B1)を呈する不活性な疾患を有するCD患者における全体的な正味の線維溶解を評価することによって線維溶解のレベルの増加が実証される。これらの患者は、狭窄疾患を有する患者(B2)と比較して、あまり重篤でない疾患症状を呈するとみなされ、不活性な疾患と組み合わされ得ることから、活発な炎症の程度が低いことも示唆される。CD患者の間質マトリックス中に沈着した線維性コラーゲンの分子内架橋及び分子間架橋の酵素的形成は、コラーゲンの成熟における最終工程を表す。そのため、架橋III型コラーゲンのタンパク質分解は、成熟コラーゲン原線維の線維溶解と関連付けられる。狭窄の形成を引き起こす大量のコラーゲン形成を呈し、広範なコラーゲン架橋と組み合わされる狭窄疾患を有する患者は、タンパク質分解を抑制することができる。これは、本研究で実証された線維溶解レベルの減少として観察される。したがって、III型コラーゲン沈着が増加した非狭窄かつ非穿通疾患を有する患者は、潜在的により少ない程度に架橋しているにもかかわらず、病的III型コラーゲン沈着の分解及びクリアランスが増大する。そのため、非狭窄かつ非穿通疾患と狭窄疾患との間のIII型コラーゲンリモデリングの分子プロセスにおけるこれらの違いは、CTX-IIIバイオマーカー、及び正味の線維溶解についてのPC3X又はPRO-C3のいずれかとの比の利用により定量化することができる。
【0166】
腸線維症の内視鏡検査及び組織学的評価の限界により、真の線維溶解を反映するCTX-IIIなどのバイオマーカーを含めることは、臨床設定において有益であることが証明できる。低侵襲性バイオマーカーにより分子レベルでIII型コラーゲンリモデリングを評価することにより、内視鏡検査及び組織学を支持するデータを提供することができる。これらのバイオマーカーは、亜臨床疾患挙動を特定し、かつ治療応答の亜臨床情報を提供することができる。CDの線維性狭窄における治療が進むにつれて、CTX-IIIなどのバイオマーカーを線維症解消の評価のために利用することができる。
【0167】
結論:
提示したデータは、III型コラーゲンの架橋代謝産物をIBD患者の循環に放出するタンパク質分解活性の程度の増大を示す。これは、健常個体と比較してCD患者とUC患者の両方について実証された。さらに、CD患者を、内視鏡的及び/又は臨床的寛解(不活性)にあることに基づいて層別化し、その後、モントリオール分類の非狭窄かつ非穿通疾患(B1)又は狭窄疾患(B2)挙動に応じて層別化した。本明細書で、B1モントリオール分類の患者は、B2分類を有する患者と比較して最高の線維溶解度を示した。
【0168】
実施例6-癌
方法:
アッセイ手順を上記のように行った。これらのアッセイにはCTX-III及びPRO-C3が含まれる。
【0169】
コホートには、膵臓、結腸直腸、腎臓、胃、卵巣、乳房、膀胱、肺、黒色腫、頭頸部及び前立腺の癌の患者各20人を含めた。それには、3人の肝臓癌患者及び33人の健常対照も含めた。全ての癌試料をProteogenex(Los Angeles,CA,USA)から取得し、健常対照をBioIVT(Westbury,NY,USA)から取得した。
【0170】
【0171】
結果:
癌における架橋III型コラーゲンのプロテアーゼ分解断片の血液レベル
健常個体及び癌と診断された患者における血清CTX-IIIは、健常個体と比較した場合に、12のうち7種類の癌において有意に上昇したレベルであることが明らかになった。バイオマーカーレベルは、膀胱癌(p<0.01)、乳癌(p<0.05)、CRC(p<0.001)、腎臓癌(p<0.05)、肺癌(p<0.05)、膵臓癌(p<0.05)、及び胃癌(p<0.05)において上昇していることが判明した。
【0172】
H&N癌、肝臓癌、卵巣癌、前立腺癌、及び黒色腫を有する患者は、健常個体と比較して、有意に上昇したCTX-IIIのレベルを示さなかった(p>0.05)。しかし、全ての12種類の癌におけるCTX-IIIの中央値レベルは、健常個体と比較して上昇しており、肝臓癌は11.96の最も高い中央値レベルを示した(表1)。
【0173】
ステージIII乳癌は増加した線維溶解と関連付けられる
癌のステージに従って乳癌を有する患者を層別化する場合、ステージIIを有する患者と比較して、ステージIII乳癌を有する患者において有意に上昇したCTX-IIIのレベル(p<0.001)が観察された。さらに、CTX-IIIとPRO-C3の比を利用して正味の線維溶解度を計算することにより、ステージIIと比較して、ステージIIIを有する患者において有意に高いレベル(p<0.05)の正味の線維溶解が観察された(
図16)。
【0174】
考察
架橋III型コラーゲンのタンパク質分解の程度を評価する際のCTX-IIIバイオマーカーの可能性並びに様々な種類の癌における正味の線維溶解の調査は以下のようになった:(1)CTX-IIIのレベルは、健常個体と比較して、12のうち7種類の癌において有意に上昇しており、(2)ステージIII乳癌を有する患者は、ステージIIの患者と比較してより高い血清CTX-III及び正味の線維溶解を呈した。
【0175】
健常個体は、古いコラーゲンが分解され、置き換わり、組織ホメオスタシスを維持している平衡ECMリモデリングを経験するが、このプロセスは、腫瘍間質においてひどくゆがんでいる。腫瘍間質では、CAFなどの細胞は、主にI型コラーゲンであるが、II型、III型、V型、及びXI型コラーゲンの沈着並びに架橋を介してますます剛性のあるECMの形成を促進する。増加したマトリックス剛性の主要原因は、LOXL(L)及びTG2の酵素作用により媒介される線維性コラーゲン内の分子内及び分子間の架橋量である[80]。
【0176】
LOX(L)媒介性架橋に関与することが示唆されるLysが、CTX-IIIネオエピトープ内に埋め込まれている[81]ことにより、III型コラーゲンのタンパク質分解後に放出される架橋断片を特異的に定量することができる。このように、MMPの放出の増加、III型コラーゲンの沈着及び腫瘍間質を特徴付けるLOX(L)媒介性架橋は、CTX-IIIバイオマーカーのレベルの増加によって示される。
【0177】
この理論と一致して、本研究において、CTX-IIIバイオマーカーのレベルの増加が観察され、このバイオマーカーが健常個体と癌患者とを区別し、根底にあるIII型コラーゲンの病理学的分解及び架橋を有する個体を特定することができる。しかし、調査した12種類の癌のうち、H&N癌、肝臓癌、卵巣癌、前立腺癌、及び黒色腫は、健常個体よりも有意に高い線維溶解のレベルを示さなかった。本研究におけるレベルは健常個体のCTX-IIIレベルとは統計的に異なるわけではないが、癌患者の中央値CTX-IIIでは増加が観察された。これは、これらの患者における架橋III型コラーゲンのタンパク質分解の程度の全体的な上昇を示す。統計的区別の欠如が、限られた試料サイズによって引き起こされる可能性があり、3人の患者のみからなる肝臓癌患者の観察で特に当てはまる。
【0178】
さらに、CTX-IIIバイオマーカーレベルと全体的な正味の線維溶解度(CTX-III/PRO-C3)の両方が、乳癌の後期ステージで上昇していた。これらのデータは、癌患者の診断におけるCTX-IIIバイオマーカーの使用を示し、それらの疾患の重篤度に応じて患者を層別化するためのバイオマーカーの潜在的能力を示す。線維溶解に関して、ステージIIIとステージIVの乳癌患者との間に有意差が観察された。
【0179】
癌患者における病理コラーゲンのリモデリングの評価のための標的化架橋コラーゲン断片は、Christina Jensenらによる研究で最近示された。本明細書で、研究者らは、PRO-C3バイオマーカーと共に、肝細胞癌の研究における血液ベースのバイオマーカーPC3Xを調べた[82]。PRO-C3は、III型コラーゲンの架橋及び非架橋N末端プロペプチドを定量化し、III型コラーゲン形成を反映するが、PC3Xバイオマーカーは、架橋したN末端プロペプチドを特異的に標的とする。PRO-C3と比較した肝細胞癌患者におけるPC3Xレベルは、架橋III型コラーゲンのレベルの増加を示し、腫瘍間質中のコラーゲン架橋の量の増加を支持する。
【0180】
近年、コラーゲンの酵素的架橋は、癌の治療分野において関心が得られている[83]。上述したように、LOX(L)及びTG2などの酵素は、架橋の量の増加を促進するが、架橋の生化学的性質も決定的に重要である。特に、細胞内及び細胞外で発現するリシルヒドロキシラーゼ2の酵素的作用は、転移を促進し、生存を低下させることが示された。LH2は、コラーゲンα鎖内の特異的Lysのヒドロキシル化を媒介し、Lysヒドロキシル化に促進される架橋の程度がより高くなる。マトリックスの剛性を支配することによって、腫瘍の進行を増強する重要な機構的役割のために、LOXL2及びLH2は、将来の治療選択の標的として特定された[84]。
【0181】
そのため、架橋コラーゲンの代謝産物を特異的に標的とする血液ベースのバイオマーカーを利用することは、CAF活性と架橋酵素の酵素活性を反映する定量的な測定を提供することができる。臨床設定において、バイオマーカーは、診断及び予後診断の目的のために潜在的に利用でき、線維溶解度に基づいて患者を分け、コラーゲン架橋を標的とする治療選択が有益である患者を特定することができる。
【0182】
結論:
線維溶解を反映する架橋III型コラーゲンのタンパク質分解断片は、12種類の癌において放出され、定量化でき、健常個体と比較して全ての種類の癌において中央値レベルが上昇していることが実証された。癌患者では上昇しているが、7種類の癌においてのみCTX-IIIレベルが有意に上昇していることが判明した。さらに、架橋III型コラーゲン線維溶解の定量化が、ステージII又はステージIIIのいずれかにおける乳癌患者の区別を可能にし、上昇レベルは後期乳癌と関連付けられる。
【0183】
CTX-IIIバイオマーカーは、タンパク質分解後に循環中に放出される架橋III型コラーゲン断片の定量に使用することができ、それによって、癌患者の臨床設定で使用できると結論付けることができる。
【0184】
要約
III型コラーゲンの架橋断片を測定することができる高度にネオエピトープ特異的ELISAの開発及び検証が実証された。このアッセイは、HDとNAFLD罹患肥満患者、HDと肝線維症患者、HDとEoE患者、HDと慢性腸疾患の患者、及びHDと癌患者とを区別することができ、III型コラーゲンの既知の蓄積及び架橋酵素のレベルの増加を伴う病状における疾患マーカーとしてのCTX-IIIマーカーの関連性を示した。
【0185】
さらに、CTX-IIIバイオマーカー及びPRO-C3バイオマーカーを用いた正味の線維溶解比(CTX-III/PRO-C3)の計算は、それらの自然線維症表現型に従って患者を区別する能力によりHCV関連肝線維症におけるレベルの上昇を実証した。正味の線維溶解の計算はまた、慢性腸疾患、特にクローン病、及び乳癌などの癌におけるそれらの疾患の重篤度に従って患者を区別することができた。そのため、CTX-IIIバイオマーカー及び関連する正味の線維溶解比は、HCV関連肝線維症、慢性腸疾患又は癌を有する患者を特定することができるだけでなく、スクリーニング時点の応答を潜在的に予測する予後バイオマーカーとしても適用することができる。
【0186】
本明細書において、特に明示的に示さない限り、単語「又は」は、規定条件のいずれか又は両方が満たされた場合に真の値を返すオペレーターの意味で使用され、条件の1つだけが満たされることを必要とするオペレーターの「排他的又は」とは対照的である。単語「含む(comprising)」は、「からなる」を意味するよりも、「含む(including)」の意味で使用される。先に認められた全ての先行教示は、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書における公開されたいずれの先行文献の承認も、その教示が本明細書の日付のオーストラリア又はどこかの共通の一般常識であることを認める又は代表であると解釈されるべきではない。
【0187】
【手続補正書】
【提出日】2023-01-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】