(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-26
(54)【発明の名称】保存および分析のための核酸試料を調製する方法、装置、およびキット
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20230519BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20230519BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20230519BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20230519BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20230519BHJP
【FI】
C12N15/10 100Z
C12Q1/6806 Z
C12Q1/70
C12Q1/6844 Z
C12M1/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562976
(86)(22)【出願日】2021-04-15
(85)【翻訳文提出日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2021059815
(87)【国際公開番号】W WO2021209564
(87)【国際公開日】2021-10-21
(32)【優先日】2020-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522403789
【氏名又は名称】ヴォスビオ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・ジョセフ・ホーンビー,デビッド
(72)【発明者】
【氏名】ティー.イェルデ,ダグラス
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029HA01
4B063QA18
4B063QQ07
4B063QQ10
4B063QQ52
4B063QR35
4B063QR76
4B063QR79
4B063QS25
(57)【要約】
ウイルス、細菌、酵母および他の細胞から、RNAおよびDNAを含む核酸を試料収集、放出および安定化する方法、装置およびキットが記載されている。放出および安定化された核酸は、試料をさらに調製することなくポイントオブケアで分析および定量化してもよく、または発送により検査研究室に輸送して直接分析してもよい。RNAであってもよい核酸は安全および安定したままであるため、政府郵便サービスを含む通常手段による発送が使用され得る。加えて、RNA試料は安定したままであるため、分析は、試料を受け取った直後に、または数日間、数週間もしくは数か月間保存した後で実施され得る。保存は、室温もしくは周囲温度またはそれより低い温度であってもよい。試料を取得するために使用される試料収集器具は、ハイスループット並列処理機器を含む核酸検出および測定機器と連動させることできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析前に生物試料を準備する方法であって、前記方法が:試料容器中で前記生物試料と水混和性有機溶媒を混ぜ合わせることを含み、
ここにおいて、前記水混和性有機溶媒は
(i)前記生物試料内に存在するウイルスまたは細胞を溶かして、核酸を前記水混和性有機溶媒中の溶液中に放出させ、そして
(ii)前記生物試料中のRNaseまたはDNase酵素を変性または失活させて、前記核酸の分解を低減し、それによって加工された生物試料を提供する、
前記方法。
【請求項2】
前記水混和性有機溶媒がアセトニトリル、DMSO、THF、DMF、アセトン、ホルムアミドまたはDMSO、またはこれらの組み合わせから構成される群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水混和性有機溶媒がアセトニトリルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記水混和性有機溶媒がアセトニトリルであり、前記核酸がウイルスRNAまたはウイルスDNAである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記水混和性有機溶媒がDMSOである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記水混和性有機溶媒がDMSOであり、前記核酸がウイルスRNAまたはウイルスRNAである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記水混和性有機溶媒がアセトンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記生物試料が体液、血液、尿、便(糞)、臓器組織、脳脊髄液、鼻の物質(nasal material)、痰または唾液である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記生物試料が唾液中または鼻孔綿棒(nostril swab)上に存在する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記生物試料が、対象の呼気中に存在し、そして、試料容器内に息を吹き込むこと、または、当該対象の口の前に保持された表面上に息を吹きかけること、によって捕捉される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記生物試料が、前記試料容器に関連する吸着剤、媒体、または表面に捕捉される呼気液体粒子である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
呼吸による前記生物試料の捕捉が、呼吸のための入口と出口を有するチャンバーを含む装置を使用し、
前記チャンバーが、前記呼気粒子がその上に集まる表面、吸着剤または媒体を有し、
前記装置が、液体で擦り、拭き取り、滴下または濯ぐことによって表面、吸着剤または媒体から前記液体粒子を回収し、それによって前記生物試料を提供する手段、を有する、
請求項10に記載の方法。
【請求項13】
呼吸による前記生物試料の捕捉が装置を使用し、
前記装置が、前記呼気粒子がその上に集まる表面、吸着剤または媒体を口の前に置くこと、ならびに、液体で擦り、拭き取り、滴下または濯ぐことによって表面、吸着剤または媒体から前記液体粒子を回収し、それによって前記生物試料を提供する手段、を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記表面、吸着剤または媒体を冷却し、前記呼気粒子の凝縮を促進する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記核酸がRNAである、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記核酸がDNAである、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記生物試料の非核酸成分が、前記水混和性有機溶媒によって沈殿させられる、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記沈殿した非核酸成分が、細胞壁、エンベロープまたはカプシドデブリなどのタンパク質、酵素、脂質または炭水化物を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記水混和性有機溶媒中の前記核酸溶液を、前記生物試料の沈殿成分から分離するステップをさらに含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記生物試料がウイルス、細菌、酵母または組織細胞を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記生物試料がウイルスを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ウイルスが、(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2、SARS-CoV-2による)COVID-19、(AIDS、ヒト免疫不全ウイルス、HIVによる)後天性免疫不全症候群、単純疱疹(cold sores)、水痘、麻疹、インフルエンザ、インフルエンザ、いくつかの種類の癌またはその他から構成される群より選択される、請求項20または21に記載の方法。
他の例は単純ヘルペス(Herpes simplex)、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)、RSウイルス(Resperatory Syncytial Virus)、エプスタイン・バール・ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、コロナウイルス、ロタウイルス、肝炎、尖圭コンジローマ(ヒトパピローマウイルス、またはHPV)、インフルエンザそしてBKウイルスを含む。
【請求項23】
前記生物試料と前記水混和性有機溶媒を混ぜ合わせることによって引き起こされる前記溶解が、加熱によって増大する、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記生物試料がウイルスを含み、前記水混和性有機溶媒がウイルスを溶解し、ウイルスRNAまたはウイルスDNAを溶液中に放出する、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記生物試料が細胞を含み、前記水混和性有機溶媒が細胞壁を溶解し、前記核酸を溶液中に放出する、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記水混和性溶媒の前記溶液が、約15℃から約30℃の間の周囲温度で少なくとも3日間保存可能であるように、前記核酸を安定化する、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
保護緩衝液を前記試料に添加し、前記生物試料の安定化させることをさらに含む、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記試料がウイルスRNAまたはウイルスDNAであり、前記緩衝液がウイルス輸送媒体である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記加工された生物試料が保護緩衝液の添加を必要としない、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記試料容器に蓋がされている、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記試料容器がバイアル、チューブまたはコンテナであり、前記生物試料および前記水混和性有機溶媒を添加後に蓋により閉じられている、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記生物試料を保存することをさらに含む、請求項1から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記水混和性有機溶媒がウイルスを殺すか無効化し、前記加工された生物試料を保存または輸送可能にすることができる、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
加工された生物試料中の標的核酸を検出するための方法であって、前記方法が、
(a)請求項1から33のいずれか一項に記載の方法によって、加工された生物試料を提供し;
(b)前記水混和性有機溶媒の存在下において、前記標的核酸を増幅するために前記加工された生物試料および核酸増幅試薬を混ぜ合わせ、増幅された試料を提供し;そして
(c)前記増幅された試料を分析して、前記標的核酸の存在を検出する
ことを含む、前記方法。
【請求項35】
生物試料中の標的核酸を検出する方法であって、前記方法が、
(a)試料容器中で前記生物試料と水混和性有機溶媒を混ぜ合わせ、ここにおいて、前記水混和性有機溶媒は
(i)前記生物試料内に存在するウイルスまたは細胞を溶かして、核酸を前記水混和性有機溶媒中の溶液中に放出させ、そして
(ii)前記生物試料中のRNaseまたはDNase酵素を変性または失活させて、前記核酸の分解を低減し、それによって加工された生物試料を提供し;
(b)前記水混和性有機溶媒の存在下において、前記標的核酸を増幅するために前記加工された生物試料および核酸増幅試薬を混ぜ合わせ、増幅された試料を提供し;そして
(c)前記増幅された試料を分析して、前記標的核酸の存在を検出する
ことを含む、前記方法。
【請求項36】
前記水混和性有機溶媒および前記核酸増幅試薬を含む組成物と、前記生物試料とを混ぜ合わせることにより、前記水混和性有機溶媒と前記核酸増幅試薬を前記生物試料に同時に混ぜ合わせる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記生物試料の沈殿した非核酸成分から前記水混和性有機溶媒の前記溶液を分離することをさらに含む、請求項34または35に記載の方法。
【請求項38】
前記沈殿した非核酸成分が濾過または遠心によって分離される、請求項34から47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記標的核酸を増幅する前に前記加工された生物試料を水で希釈することをさらに含む、請求項34から38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記水混和性有機溶媒が、0.5%v/vより高い濃度で存在するように、前記試料を希釈するステップを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記加工された生物試料を水で希釈する前記ステップが、前記増幅試薬の添加の前記ステップと同時または順次に起こる、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】
前記増幅反応が検出酵素を用いて、前記標的核酸を増幅する、請求項34から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記検出酵素が、0.5%v/vを超える溶媒濃度の前記水混和性有機溶媒の存在下、RNAをcDNAに転写する逆転写酵素である、請求項34から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記検出酵素が、0.5%v/vを超える溶媒濃度の前記水混和性有機溶媒の存在下、前記核酸を増幅するポリメラーゼである、請求項34から43に記載の方法。
【請求項45】
前記増幅反応がRT-PCR、PCR、qPCR、LAMPまたはEXPARである、請求項34から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記標的核酸がRNAであり、前記増幅反応がRT-PCRであり、前記検出酵素が前記水混和性有機溶媒存在下においてRNAをcDNAに転写する逆転写酵素RNAである、請求項34から45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記標的核酸がDNAであり、前記増幅反応がPCRであり、前記検出酵素が前記水混和性有機溶媒の存在下において前記標的核酸を増幅するポリメラーゼである、請求項34から46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記生物試料がウイルス、細菌、酵母または組織細胞を含む、請求項34から47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記生物試料がウイルスを含み、その前記標的核酸がウイルス抗原である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記生物試料が体液、血液、尿、便(糞)、臓器組織、脳脊髄液、鼻の物質(nasal material)、痰または唾液である、請求項34から49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記ウイルスが、(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2、SARS-CoV-2による)COVID-19、(AIDS、ヒト免疫不全ウイルス、HIVによる)後天性免疫不全症候群、単純疱疹(cold sores)、水痘、麻疹、インフルエンザ、インフルエンザ、いくつかの種類の癌およびその他から構成される群より選択される、
請求項50に記載の方法。
他の例は単純ヘルペス(Herpes simplex)、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)、RSウイルス(Resperatory Syncytial Virus)、エプスタイン・バール・ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、コロナウイルス、ロタウイルス、肝炎、尖圭コンジローマ(ヒトパピローマウイルス、またはHPV)、インフルエンザそしてBKウイルスを含む。
【請求項52】
前記増幅された試料を分析する前記ステップが、前記核酸標的抗原に特異的な抗体または前記核酸標的抗原に特異的なプローブを用いて実施される、請求項34か51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記抗体または前記プローブが結合後の検出のためにラベル化されている、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記増幅された核酸標的に特異的な前記抗体の前記結合を検出することが、酵素または蛍光分子でタグ付けされた二次抗体を用いて行われる、請求項51または請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記核酸の少なくとも一部が、前記方法の間、可溶性のままである、請求項34から54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記水混和性有機溶媒中の前記核酸の前記溶液を、前記加工された生物試料の沈殿成分から分離する前記最初のステップを含む、請求項1から55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記生物試料と前記水混和性有機溶媒を混ぜ合わせることによって引き起こされる溶解が、加熱により増大する、請求項1から56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
試料容器内に息を吹き込むことにより、対象の呼気中に存在する生物試料を捕捉し、調製し、そして保存する方法であって、
前記方法が、前記対象が試料容器内に息を吹き込み、前記生物試料を水混和性有機溶媒と混ぜ合わせることを含み、
ここにおいて、前記水混和性有機溶媒は、
(i)前記生物試料内に存在するウイルスまたは細胞を溶かして、核酸を前記水混和性有機溶媒中の溶液中に放出させ、そして
(ii)前記生物試料中のRNaseまたはDNase酵素を変性または失活させて、前記核酸の分解を低減し、それによって加工された生物試料を提供する、
前記方法。
【請求項59】
前記生物試料が、前記試料容器に関連する吸着剤、媒体、または表面上に捕捉される呼気液体粒子である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記生物試料が、対象の呼気中に存在し、そして、試料容器内に息を吹き込むこと、または、当該対象の口の前に保持された表面上に息を吹きかけること、によって捕捉される、請求項58または59に記載の方法。
【請求項61】
前記生物試料が、吸着剤、媒体、または前記試料容器表面に捕捉される呼気液体粒子である、請求項58から60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
呼吸による前記生物試料の捕捉が、呼吸のための入口と出口を有するチャンバーを含む装置を使用し、
前記チャンバーが、前記呼気粒子がその上に集まる表面、吸着剤または媒体を有し、
前記装置が、液体で擦り、拭き取り、滴下または濯ぐことによって表面、吸着剤または媒体から前記液体粒子を回収し、それによって前記生物試料を提供する手段、を有する、
請求項58から61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記水混和性有機溶媒が、前記試料中の標的核酸を増幅するための核酸増幅試薬を保存および/または添加するための保護緩衝液または他の薬剤をさらに含む、請求項58から61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
方法が、
空港では搭乗前の個人またはグループに対して、
学校では教室に入る前の個人またはグループに対して、
会社では会社に入る前の個人またはグループに対して、または
スポーツイベントや教会などの集団イベントでは前記イベントに入る前の個人またはグループに対して、
実施される方法である、請求項1から63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記生物試料を受けるための試料容器と、前記生物試料を混ぜ合わせるための水混和性有機溶媒を含む、請求項1から64のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキットであって、
ここにおいて、前記水混和性有機溶媒は
(i)前記生物試料内に存在するウイルスまたは細胞を溶かして、核酸を前記水混和性有機溶媒中の溶液中に放出させ、そして
(ii)前記生物試料中のRNaseまたはDNase酵素を変性または失活させて、前記核酸の分解を低減し、それによって加工された生物試料を提供する、
前記キット。
【請求項66】
前記生物試料を混合するための保護緩衝液、前記試料容器の蓋、水混和性有機溶媒の存在下で前記標的核酸を増幅するための核酸増幅試薬、前記標的核酸を検出するための試薬、および/または、採取もしくは加工された生物試料を検査のために研究室に送るための郵送用包装、1つ以上をさらに含む請求項65に記載のキット。
【請求項67】
対象の呼気から生物試料を採取するための装置であって、
前記装置が、呼気のための入口および出口、採取チャンバー、並びに、前記チャンバーと連絡している水混和性有機溶媒を含有するカートリッジを含み、
前記対象が前記入口で呼吸することにより、吐き出された呼気粒子がチャンバーに集められ、カートリッジに通過し、ここで、前記生物試料が前記水混和性溶媒に集められるステップであって、
ここにおいて、前記水混和性有機溶媒は
(i)前記生物試料内に存在するウイルスまたは細胞を溶かして、核酸を前記水混和性有機溶媒中の溶液中に放出させ、そして
(ii)前記生物試料中のRNaseまたはDNase酵素を変性または失活させて、前記核酸の分解を低減し、それによって加工された生物試料を提供する、
前記装置。
【請求項68】
前記チャンバーが、前記カートリッジに移される前に呼吸粒子を集める表面、吸着剤または媒体を有する、請求項67に記載の装置。
【請求項69】
前記装置が、液体で擦り、拭き取り、滴下または濯ぐことにより前記表面、吸着剤または媒体から、前記液体粒子を回収する手段を含み、それによって前記生物試料を提供する、
前記装置が、前記呼吸粒子がその上に集まる表面、吸着剤または媒体を口の前に置くこと、および液体で擦り、拭き取り、滴下または濯ぐことによって表面、吸着剤または媒体から前記液体粒子を回収し、それによって前記生物試料を提供する手段、を含む、
請求項67または68に記載の装置。
【請求項70】
前記入口が、前記対象の呼気をチャンバー内に導くための唇の窪みと関連している、請求項67から69のいずれか一項に記載の装置。
【請求項71】
装置が、呼気を前記装置内に導くための一方向逆止弁と、呼気時に閉じる外部逆止弁とを備える、請求項67から70のいずれか一項に記載の装置。
【請求項72】
前記表面、吸着剤または媒体が前記呼気粒子の凝縮を促進するために冷却される、請求項69から71のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析のための核酸を生物試料から調製する方法、装置およびキットであって、方法、装置およびキットは、核酸の安定化を可能にして保存を可能にし、特に、核酸試料は、ウイルスRNAおよびウイルスDNAを含み、分析は、ウイルス核酸抗原についてである、方法、装置およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは生細胞でのみ複製する。ウイルスは、感染した細胞を破壊もしくは損傷するか、身体の免疫系を損傷するか、または臓器を損傷する可能性のある炎症を引き起こすことにより、疾患を引き起こす。ウイルスは、(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2、SARS-CoV-2による)COVID-19、(AIDS、ヒト免疫不全ウイルス、HIVによる)後天性免疫不全症候群、単純疱疹(cold sores)、水痘、麻疹、インフルエンザ、インフルエンザ、いくつかの種類の癌またはその他などの、多数の種類の疾患を引き起こす。他の例は、単純ヘルペス(Herpes simplex)、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)、RSウイルス(Resperatory Syncytial Virus)、エプスタイン・バール・ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、コロナウイルス、ロタウイルス、肝炎、尖圭コンジローマ(ヒトパピローマウイルス、またはHPV)、インフルエンザそしてBKウイルスを含む。
【0003】
ウイルスは構造が様々である。ウイルス粒子は、カプシドと呼ばれる保護タンパク質コート外被内の核酸で構成される。カプシドの形状は、ウイルスの種類により様々であり得る。カプシドは、ウイルス遺伝子によりコードされるタンパク質で作製されている。一部のウイルスは、脂質が付随または埋め込まれていてもよい外側タンパク質エンベロープを有する。外側エンベロープ層は、タンパク質スパイクまたは突起を含んでいてもよい。ほとんどのウイルスは、遺伝物質としてRNAまたはDNAのいずれかを有する。核酸は、一本鎖であってもよくまたは二本鎖であってもよい。最も単純なウイルスは、4つのタンパク質をコードするのに十分なRNAまたはDNAのみを含む。COVID-19は、29個の外側タンパク質を有する。
【0004】
現在または過去のウイルスの検出は、ウイルス感染の産物を探すことにより実施され得る。抗体は、ウイルスまたは細菌などの外来性抗原による侵入に応答して、身体の免疫系により産生される。こうした抗原に対して生じた抗体の陽性検査結果は、最近に感染した個人またはある程度前に感染した個人にこの疾患が存在することを示す。典型的には、この検査には血液試料が必要とされ、血液試料は、有資格担当者により採取されなければならない。ウイルスを含む試料は、ヒト細胞または他の生体物質も含んでいる可能性がある。古典的なウイルス診断法では、RNase、他の酵素およびヒト細胞成分が除去され、ウイルス核酸は、核酸抽出カラムまたは磁気ビーズを使用して捕捉される。カラム/磁気ビーズにウイルス核酸に対する強力な選択性を付与するために、カオトロピック試薬または他の試薬などの化学試薬が試料混合物に添加される。
【0005】
一部の場合では、このウイルス核酸精製プロセスは、シリカ膜またはカオトロピックシリカ精製媒体方法論に基づく。一部の場合では、核酸精製は、イオン交換に基づく。生物試料中のウイルスの存在および量を測定するために、RNAまたは他の核酸が検出および定量化され得る。次いで、精製されたRNAまたはDNAは、増幅プロセスを使用して増幅および検出される。
【0006】
活性ウイルス感染の検査は、1つ以上のウイルス抗原を測定することにより実施され得る。ウイルス抗原と検査抗体との相互作用は、多くの場合、酵素(ELISAの場合)または蛍光分子(色素またはトレーサー)のいずれかでタグ付けされた二次抗体を使用して増幅および検出される。こうしたウイルス抗原に結合する特殊タグ付き抗体は、試料、典型的には血液試料と混合される。タグ付き抗体が標的抗原を認識して結合する場合、個人はウイルスに感染している。ウイルス抗原検出検査は、血液試料、または感染している可能性がある組織の生検に対して行われるが、この場合も熟練担当者が検査を実施して結果を評価する必要がある。ウイルス抗原検査は、咽頭綿棒、唾液などから実施され得る。こうした場合、抗原は、もはやウイルスRNAに付随していない可能性がある。したがって、抗原検査は、安価で迅速であるが、活性ウイルス感染の決定には結果の信頼性が低い。
【0007】
正確な結果を得るには、ウイルス核酸の直接検査が必要とされる。特定のウイルスの遺伝物質(DNAまたはRNA)の存在、量、および特定のヌクレオチド配列を決定するために、直接ウイルス核酸検出試験が使用され得る。使用される検出技術は、核酸増幅技術(NAAT)であってもよい。この検査は、感染を引き起こす特定のウイルスを示すことができる。また、この検査は、検査の時点でウイルスが存在するか否かを示すことができる。したがって、この検査は、疾患の症状を顕在化させた患者に即時治療を処方するために有用であるかまたは必要でさえである。
【0008】
ウイルス検査には、血液、尿、便(糞)、臓器組織、脳脊髄液、鼻の物質、痰および唾液を含む、様々な種類の試料が使用される。試料収集の1つの方法では、検査は、鼻または喉の奥から綿棒で試料を採取し、その綿棒を滅菌チューブに慎重に挿入することから始まる。試料は分析まで保存される。次いで、試料は、ウイルスを分解して開口させてその核酸ゲノム(DNAまたはRNA)を放出させる化学溶液と混合される。核酸は、媒体または磁気ビーズで充填されたカラムにより抽出され、回収される。その後、回収された核酸は、適切な試薬と混合され、qPCR機器、LAMP機器または類似の核酸検出機器に挿入される。機器は、ウイルス核酸を特異的に増幅してウイルスゲノムの選択配列の検出を可能にし、環境、宿主細胞特異的組織、操作者夾雑物または他のウイルスおよび微生物に由来する可能性のある他の核酸からの夾雑物を無視する。
【0009】
血液からおよび脳脊髄液からなどの一部の試料収集は、熟練担当者により実施されなければならないが、尿、糞、痰からの試料収集は、理論的には自宅で実施され得る。しかしながら、こうした試料収集法によりもたらされるウイルスは不安定であり、信頼性の高い正確な結果を得るには、熟練担当者が依然として必要である。加えて、分析がポイントオブケアで実施されない限り、試料収集して試料を別の場所にある機器へと輸送するには、特別なツールおよび手順が必要である。ウイルスは、こうした試料では依然として活性および伝染性であるため、ヒトに対する生ウイルスの暴露を防止するように取り扱われなければならない。
【0010】
COVID-19検査の指針は、2020年3月19日に発表された暫定指針「Laboratory testing for coronavirus disease (COVID-19)in suspected human cases」においてWHOにより提供された。この文書には、検体の種類、採取材料および研究室で検査するまでの保存温度、および予想される発送時間に応じた推奨発送温度が列挙されている。この指針は、ウイルス検出用の検体は、採取後できるだけ早く研究室に到着すべきであると述べている。輸送中の標本の正しい取扱いは必須である。研究室に迅速に配送され得る検体は、2~8℃の冷蔵条件下で保存および発送され得る。研究室への検体の到着が遅れる可能性が高い場合、ウイルス輸送媒体の使用が強く推奨される。ウイルス輸送媒体(VTM)は、一連の安定化成分と共に、抗真菌剤および抗生物質補完剤のみを含む。標本は、-20℃または理想的には-70℃に凍結され、さらなる遅延が予想される場合はドライアイスで発送してもよい。検体の凍結および解凍の繰返しを回避することが重要である。WHO文書は、国境内側での検体の輸送は、該当する国内規制に従うべきであることをさらに指定している。COVID-19ウイルスを含む可能性のある試料の国際輸送は、国連モデル規則(UN Model Regulations)、および使用される輸送方式に応じて任意の他の該当する規則に準拠するべきである。より多くの情報が、感染性物質輸送の規制に関するWHO指針2019-2020およびWHO暫定指針に見出され得る。すべての試料採取は、最新の国際世界保健機関プロトコール、ならびに英国のイングランド公衆衛生局および米国の疾病対策センターを含む国内プロトコールに準拠しなければならない。こうした指針は、WHO文書「Packaging and shipment of clinical specimens」にも記載されている。
【0011】
直接ウイルス核酸検出は、選択的であり、高感度であり、活発な感染の存在または非存在を示すが、試料収集および輸送、それに続く試料の分析は、堅牢でもロバストでもなく、慎重に制御された条件下で行われなければならない。さらに、RNAは本質的に不安定であり、分析は試料収集後に迅速に行われなければならない。特に、例えば、試料中に存在するリボヌクレアーゼ酵素(RNase)は、RNAを迅速に破壊することになる。試料は、試薬および抽出カラムまたは磁気ビーズの添加により研究室で抽出され、RNaseを含む他の夾雑物から核酸を精製および回収する。
【0012】
試料は壊れやすく、配送時間は、2、3日、またはそれよりも長くかかる可能性があるため、現行の試料収集法の場合、政府郵便サービスでは試料は容易に配送され得ない。現行技術下では、RNAを含むウイルスの遠隔試料収集を実施することは困難であり得る。試料収集は、試料収集および分析が少し遅延しただけで、いかなる状況下でも信頼性が低くなる可能性がある。例えば、グループ試料収集(特定の規定されたグループ内の個人の試料収集)は、グループ内で採取された最初の試料と最後の試料との間で時間が経過するため、信頼性の低い結果をもたらす可能性がある。加えて、ウイルス試料は、危険である可能性があり、制御された手順下で慎重に取り扱われなければならない。
【0013】
したがって、この分野では、診断検査の前に核酸試料を調製および安定化するための迅速で使い易い方法、特に試料中の核酸の分解を改善しつつ、試料の安全な保存および輸送を可能にする方法、ならびに/または検出するための試料の調製を簡素化する方法を提供することは依然として課題のままである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
概して、本発明は、ウイルス、細菌、酵母、組織細胞または他の細胞から核酸の試料収集、放出および保護を可能にする方法、装置およびキットを提供する。特に、本発明は、核酸を放出させ、核酸を保護するために、単独でまたは組み合わせて使用され得る一群の溶媒を提供する。放出および保護された核酸は、さらなる試料調製または精製を行うことなく直接的に分析され得る。本発明の装置および方法は、任意の核酸、特にRNAに好適である。
【0015】
放出および安定化された核酸は、試料が採取されるポイントオブケアにて識別および定量化され得る。または、核酸試料は、分析が実施される検査研究室に郵送、発送、または輸送され得る。本発明の一部の態様では、本発明の装置および方法は、ウイルスRNAに使用され得る。本発明の方法および装置は、室温および周囲温度で安定であるRNAを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
一部の態様では、試料中のRNAは安定したままであるため、政府郵便サービスを含む通常手段による発送が使用され得る。加えて、RNA試料は安定したままであるため、分析は、研究室で試料を受け取った後、随意に実施され得る。
【0017】
検出は、最初に抽出カラムまたは磁気ビーズを使用して核酸を捕捉する必要なく、試料に対して直接実施され得る。核酸の検出および定量化は、PCR、qPCR、LAMP、EXPAR、または類似の核酸増幅および検出方法を含む、様々な技術により実施され得る。その代わりに、核酸は、例えば、単一分子配列決定を使用して、増幅することなく識別され得る。また、RNA分子は、RNA依存性DNAポリメラーゼである逆転写酵素(RT)の使用による増幅で検出および操作され得る。RTは、元のRNA鋳型に相補的であり、cDNAと呼ばれるDNAの鎖を重合する。次いで、このcDNAは、上記に概説されているPCR、qPCRまたは等温法でさらに増幅してもよく、またはワンステップRT-qPCRもしくはRT-LAMPを使用して単一反応で検出してもよい。一部の方法では、検出は直接的であってもよい。他の方法では、検出は、質量分析、配列決定などを使用して実施され得る。検出技術は、NAAT、核酸増幅技術であってもよい。
【0018】
本発明の溶媒は、いくつかの異なる特性を有し、いくつかの異なる操作を実施する。第1に、溶媒は、試料と混ぜ合わせることができる水混和性有機溶媒である。第2に、溶媒は、脂質または細胞壁を可溶化または破壊して核酸を放出させる。第3に、溶媒は、タンパク質、特にDNaseおよびRNaseを変性または無効化して、酵素による核酸の分解を防止する。第4に、本発明の溶媒は、カプシドまたはタンパク質を破壊し、破壊は、核酸を溶液中に放出させる。多くの場合、核酸は、ウイルス、細菌および他の細胞のタンパク質に付随する。本発明の溶媒は、タンパク質の変性または無効化という機能3を依然として実施しつつ、核酸の放出を促進する。第5に、溶媒は、核酸の増幅を妨げない。タンパク質を無効化または変性させる溶媒の性質を考慮すると、これは驚くべきことである。RNAの増幅は、増幅の最初のステップとしてcDNA(相補的DNA)を産生する酵素である逆転写酵素の作用に依存する。次に、cDNAは、DNA増幅プロセスにより増幅され得る。DNA増幅は、熱サイクルまたはループ増幅のためのポリメラーゼに依存する。核酸を増幅するにはいくつかの種類のタンパク質が必要とされるため、DNaseおよびRNaseを無効化または変性させる溶媒の存在下で増幅が達成され得ることは驚くべきことである。最後に、第6には、増幅および検出のためには少なくとも一部分の核酸が可溶性であることが必要とされるため、本発明の溶媒は、核酸を沈殿させない。核酸はイオン性および親水性であり、水分子は構造を安定化させるため、エタノールおよびイソプロピルアルコールなどの一部の有機溶媒は、構造から水を排除し、核酸を沈殿させる。そのため、より一般には、有機溶媒沈殿は、核酸の沈殿、濃縮および精製の一般的な方法である。対照的に、本発明の溶媒は、有機および水混和性であるが、核酸を沈殿させない。本発明の一部の態様では、溶媒はアセトニトリルである。アセトニトリルを生物試料と混ぜ合わせて、増幅、検出および定量化のための核酸を調製、放出、および安定化することができる。本発明の一部の態様では、アセトニトリルは、ウイルスの脂質およびカプシドを破壊して、RNAを放出させる。溶媒は、RNaseを無効化して、試料の分解を防止する。試料は、任意選択で希釈され、次いでRT-PCR、qPCRまたは他の増幅および検出方法に必要なすべての試薬を含むマスターミックスに添加される。任意選択で、本発明の溶媒は、マスターミックス中に存在する。細胞溶解および試料安定化のプロセスは、増幅チューブ内で実施され得る。アセトニトリルまたは本発明の別の溶媒は、RNAを放出させ、RNaseを無効化するのに十分な濃度で添加され得る。
【0019】
様々な溶媒が、本発明による使用のために好適である。ウイルスRNAの放出および安定化に好適な水混和性溶媒は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトンおよびジメチルスルホキシド(DMSO)、ならびに他の非プロトン性水混和性溶媒を含む。酢酸エチルなどの部分的に水混和性であるに過ぎない非プロトン性溶媒も、本発明に有効である。好ましくは、本発明の方法、装置およびキットは、アセトニトリル、アセトンおよびDMSOを使用するが、それは、こうした溶媒が本発明の状況において良好に機能するためである。アセトンおよびDMSOは毒性が低く、容易に発送され得る。本発明の一部の態様では、プロトン性溶媒が使用される。本発明の一部の態様では、溶媒は、溶解を増強するための界面活性剤、ならびに/または核酸溶解度を増強するためのイオン対形成試薬および/もしくはpH調整緩衝剤を含んでいてもよい。
【0020】
本発明の方法、装置およびキットでは、十分な溶媒または試薬が、試料収集の時点でまたは試料収集後に添加され、周囲温度で長期間の核酸安定化を提供する。増幅の時点において、核酸を含む溶媒混合物は、増幅前に希釈してもよい。しかしながら、希釈は、感度を低減させる可能性があり、最小限の希釈のみが実施される。
【0021】
本発明の溶媒は、単一の溶媒であってもよく、または添加剤と共に水混和性有機溶媒を含む溶媒の混合物であってもよい。
したがって、第1の側面では、本発明は、分析前に生物試料を準備する方法であって、この方法が、
試料容器中で生物試料と水混和性有機溶媒を混ぜ合わせることを含み、ここにおいて、水混和性有機溶媒は、(i)生物試料内に存在するウイルスまたは細胞を溶かして、核酸を水混和性有機溶媒中の溶液中に放出させ、そして、(ii)生物試料中のRNaseまたはDNase酵素を変性または失活させて、核酸の分解を低減し、それによって加工された生物試料を提供する、方法を提供する。
【0022】
さらなる側面では、本発明は、加工された生物試料中の標的核酸を検出する方法であって、この方法が、
(a)本明細書に記載の方法によって、加工された生物試料を提供し;
(b)水混和性有機溶媒の存在下において、標的核酸を増幅するために加工された生物試料および核酸増幅試薬と混ぜ合わせ、増幅された試料を提供し;そして
(c)増幅された試料を分析して、標的核酸の存在を検出する
ことを含む方法を提供する。
【0023】
さらなる側面では、本発明は、生物試料中の標的核酸を検出する方法であって、この方法が、
(a)試料容器中で生物試料と水混和性有機溶媒を混ぜ合わせ、ここにおいて、水混和性有機溶媒は、(i)生物試料内に存在するウイルスまたは細胞を溶かして、核酸を水混和性有機溶媒中の溶液中に放出させ、そして、(ii)生物試料中のRNaseまたはDNase酵素を変性または失活させて、核酸の分解を低減し、それによって加工された生物試料を提供し;
(b)水混和性有機溶媒の存在下において、標的核酸を増幅するために加工された生物試料および核酸増幅試薬を混ぜ合わせ、増幅された試料を提供し;そして
(c)増幅された試料を分析して、標的核酸の存在を検出する
ことを含む方法を提供する。
【0024】
本発明のこの側面では、ステップ(a)および(b)は、例えば、生物試料を、水混和性有機溶媒および増幅試薬を含む組成物と混ぜ合わせることにより、時を同じくして(つまり、同時に)生じてもよい。その代わりに、この方法は、増幅試薬が、混ぜ合わされた生物試料および増幅試薬に順次添加されるが、溶媒が、溶解されたウイルスまたは細胞を有し、RNaseまたはDNase酵素を変性させるように作用する前である状況も包含する。
【0025】
さらなる側面では、本発明は、試料容器に息を吹き込むことにより、対象の呼気中に存在する生物試料を捕捉し、調製し、そして保存する方法であって、この方法が、
対象に試料容器内に息を吹き込ませることにより試料容器内に生物試料を提供し;そして
生物試料を水混和性有機溶媒と混ぜ合わせる
ことを含み、
ここにおいて、水混和性有機溶媒は、(i)生物試料内に存在するウイルスまたは細胞を溶かして、核酸を水混和性有機溶媒中の溶液中に放出させ、そして、(ii)生物試料中のRNaseまたはDNase酵素を変性または失活させて、核酸の分解を低減し、それによって加工された生物試料を提供する、
方法を提供する。
【0026】
さらなる側面では、本発明は、生物試料を受けるための試料容器と、生物試料を混ぜ合わせるための水混和性有機溶媒を含む、上記クレームのいずれか一項に記載の方法を実施するためのキットであって、ここにおいて、水混和性有機溶媒は、(i)生物試料内に存在するウイルスまたは細胞を溶かして、核酸を水混和性有機溶媒中の溶液中に放出させ、そして(ii)生物試料中のRNaseまたはDNase酵素を変性または失活させて、核酸の分解を低減し、それによって加工された生物試料を提供する、キットを提供する。
【0027】
任意選択で、キットは、生物試料と混合するための緩衝液、試料容器の蓋、水混和性有機溶媒の存在下で標的核酸(例えば、ウイルス抗原)を増幅するための核酸増幅試薬、標的核酸を検出するための試薬および/またはキットが使用されることが意図される状況に応じて、採取もしくは加工された生物試料を検査のために研究室に送るための郵送用包装、1つ以上をさらに含む。
【0028】
さらなる側面では、本発明は、対象の呼気から生物試料を採取するための装置であって、この装置が、呼気のための入口および出口、採取チャンバー、ならびにチャンバーと連絡している水混和性有機溶媒を含有するカートリッジを含み、対象が入口で呼吸することにより、吐き出された呼気粒子がチャンバーに集められ、カートリッジに通過し、ここで、生物試料が水混和性溶媒に集められるステップであって、ここにおいて、水混和性有機溶媒は、(i)生物試料内に存在するウイルスまたは細胞を溶かして、核酸を水混和性有機溶媒中の溶液中に放出させ、そして(ii)生物試料中のRNaseまたはDNase酵素を変性または失活させて、核酸の分解を低減し、それによって加工された生物試料を提供する、装置を提供する。
【0029】
以下は、任意選択のステップを含む本発明の方法ステップの説明である。
1. 生物学的供給源から試料を取得する。酵母、細菌、組織細胞、他の細胞、ウイルスなどを含む試料を準備する。試料の生物学的供給源は、すべての臓器、腎臓、肝臓、肺、鼻孔、唾液、口、頬、糞、尿、血液、体液および排泄物を含む。試料は、ウイルスまたは細菌の粒子を含む呼気であってもよい。
【0030】
2. 試料を極性水混和性溶媒試薬と接触させて、ウイルス核酸を放出させる。試料および溶媒を混合する。ウイルスは、このステップ後は感染性ではなく、取扱いが安全である。任意選択で、溶媒は、核酸放出および核酸安定化を促進するための添加剤を含む。任意選択で、溶媒は、過酸化水素または他の酸化もしくは還元試薬を含む。任意選択で、溶媒は、タンパク質消化酵素を含む。任意選択で、まず添加剤を試料に添加し、続いて溶媒を添加する。
【0031】
3. 任意選択で、例えば、細胞またはウイルス粒子の溶解を向上させて核酸の放出を増強するために、試料溶媒混合物を加熱する。
4. 任意選択で、安定化された核酸試料を、分析のために使用され得るチューブ、バイアル、シリンジ、プレートまたは他の容器などの発送用容器に入れる。この時点で、本発明は、任意選択の試料保存を可能にする。
【0032】
5. 任意選択で、液体から固形物を濾過、遠心分離、または分離する。任意選択で、試料を保存する。
6. 試料を分析のための機器へと移す。任意選択で、試料を希釈する。任意選択で希釈する。
【0033】
7. 増幅試薬を添加する - 増幅試薬の添加の一部として希釈を実施してもよい。任意選択で、核酸の増幅前に、溶媒および添加剤を含む試薬混合物を加熱する。任意選択で、このステップにおいて、増幅試薬と共に本発明の溶媒を添加してもよい。
【0034】
8. 任意選択で、陽性対照および陰性対照を添加する。
9. 目的の核酸が試料中に存在する場合、目的の核酸を増幅および検出する。
プロセスのすべてのステップは、その後のステップと適合性である試薬およびプロセスを用いて実施されなければならない。例えば、添加される試薬または実施されるプロセスは、逆転写酵素、ポリメラーゼまたは他の増幅もしくは検出試薬がそれらの機能を実施することを妨げないことが好ましい。
【0035】
一部の態様では、試料採取は自宅で実施され得、試料は分析機器へと輸送され得る。一部の態様では、試料収集は、学校、空港、会社、または人々のグループが集まるかまたは一緒に旅行する他の場所で実施され得る。
【0036】
滅菌輸送容器が本発明に従って使用され得るが、必要というわけではない。細菌増殖を防止し、そうでなければ核酸を分解から保護するために、十分な本発明の溶媒が使用され得る。
【0037】
例えば、約2℃~約8℃の標準的冷蔵温度での冷蔵が使用され得るが、安定化された核酸は、室温または周囲温度、典型的には約15℃~約30℃でも保存され得る。
翌日到着発送が使用され得るが、より遅い発送方法が使用され得る。即時増幅および分析が実施され得、または増幅は後で実施され得る。増幅は、試料収集し本発明の溶媒を添加した、最大で1日後、1週間後、1か月後、2か月後、3か月後、6か月後、9か月後、12か月後、または無期限後に実施され得る。
【0038】
試料収集プロセス中および関連装置の使用中、試料は安定である。ウイルスは感染性ではなく、RNaseまたはDNaseは不活化されている。
本方法、装置およびキットは、手動試料収集をハイスループット並列試料処理と連動させるために使用され得る。試料は、一度に1つずつ増幅してもよく、または他の試料と並列して増幅してもよい。
【0039】
「および/または」は、本明細書で使用される場合、他方を伴うか伴わないかに関わらず、2つの指定された特徴または構成要素の各々の具体的な開示とみなされるべきである。例えば、「Aおよび/またはB」は、(i)A、(ii)Bならびに(iii)AおよびBの各々が、あたかも各々が個々に本明細書に記載されているかの如く、具体的に開示されているとみなされる。
【0040】
状況が別様に指示しない限り、上記に示されている特徴の説明および定義は、本発明の任意の特定の側面または態様に限定されず、記載されているすべての側面および態様に等しく適用される。
【0041】
本明細書で言及された参考文献はすべて、参照によりそれらの全体が明示的に組み込まれる。
本発明はこれより、添付の例および図面を参照して、限定ではなく例示により説明されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は、混合用ビーズと共に、溶解および安定化用の溶媒を含むシリンジを示す図である。
【
図2】
図2は、溶解および安定化された試料を含むシリンジを示す図である。
【
図3】
図3は、呼気試料を直接溶解および安定化するための装置を図示する図である。
【
図4】
図4Aは、呼気採取装置を含むシリンジを示す図である。
図4Bは、試料採取後の
図4Aに示されるシリンジの図示である。
【
図5】
図5Aは、呼気採取用の低背圧シリンジの図示である。
図5Bは、5Aの低背圧シリンジ内に溶媒を吐出するシリンジを示す図である。
図5Cは、低背圧シリンジ内に位置決めされたシリンジプランジャーを図示する。
【
図6】
図6は、ウイルス、細菌および化学物質を採取するためのフィルターを含むマスクを示す図である。
【
図7】
図7は、
図6に示されているマスクから回収されるフィルターの処理を図示する図である。
図7Aは、フィルターをシリンジに配置することを示す。
図7Bは、溶媒を添加することを示し、
図7Cは、溶媒を針からシリンジ内へと吸引することを示す。
【
図8】
図8は、フィルターがマスクから回収され、シリンジおよびフィルターホルダーを用いて処理されることを示す図である。
【
図9】
図9は、呼気に由来するウイルス粒子のための半マスク表面採取装置の図示である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
定義
試料:検出するための核酸を含む生物試料。
加工された生物試料:ウイルスまたは細胞を溶解し、核酸の少なくとも一部を溶媒中の溶液中に放出させるために、本発明の水混和性有機溶媒で処理され、任意選択で次いで(a)保護緩衝液または保存のための他の試薬を添加することにより、および/または(b)試料中の標的核酸を増幅するための核酸増幅試薬を添加することによりさらに処理された生物試料。
【0044】
増幅された試料:標的核酸が元の生物試料に存在する場合、増幅反応を起こして標的核酸を増幅させた、加工された生物試料。
検出酵素:核酸を転写または増幅して核酸を検出するために使用されるタンパク質酵素。
【0045】
溶媒:細胞またはウイルスから核酸を放出させ、核酸を安定化させる任意選択の添加剤を有する水混和性有機溶媒。本明細書で使用される場合、本発明の「溶媒」の使用に対する言及は、溶媒の組み合わせの使用を含む。一部の場合では、水混和性有機溶媒は、過酸化水素によりすべてまたは部分的に置換されていてもよい。
【0046】
Ribostay:本発明の溶媒を有する調合物。
採取媒体:呼気から生物学的物質を採取する粒子または物質。
採取表面:呼気から生物学的物質を採取するように設計された表面。表面は、生物学的物質を検出するために試料収集され得る。
【0047】
沈殿物は、本明細書では、沈殿または他の方法から生じるあらゆる固形物であると定義される。
【0048】
発明の詳細な説明
本発明の概要
核酸増幅技法(NAAT)の現行の認証されている方法では、ウイルス試料を採取し、分析が実施される前にウイルスを可能な限り保護する。次いで、分析を実施する準備ができたら、ウイルス含有試料を、界面活性剤、塩基、カオトロープおよび他の試薬で処理して、核酸を放出させる。次いで、試料をカラムまたは磁気ビーズプロセスにより精製して、分析のための核酸を抽出および回収する。放出、精製および回収したら、qPCR、LAMP、EXPARとも呼ばれるリアルタイムPCRまたは他の増幅および検出酵素ならびに検出技術を使用して、核酸を直ちに増幅または検出する。増幅された核酸を検出し、定量化することができる。
【0049】
本発明は、核酸検出のために細胞を調製する方法、装置およびキットを提供する。細胞を含む生物試料を取得し、溶媒試薬を添加して細胞構造から核酸を放出させる。また、溶媒試薬は、試料中に存在する可能性のあるDNaseまたはRNaseを無効化または失活させる。試料収集時にまたはその後に、試料を本発明の溶媒で処理することができる。放出および安定化された核酸は、供給源の地点にて識別および定量化することができる。また、試料は、ウイルスの検出および定量化に必要な分析を実施するために、機器に持ち込んでもよく、または中央研究室に発送してもよい。このプロセスは、任意の細胞生物学的物質に使用され得る。試料からのRNAおよび/またはDNAは安定したままである。発送は、ウイルスを無効化または「死滅」させた状態で安全に達成され得、周囲温度で実施され得る。溶媒プロセスは、こうした物質からDNAを放出させ、DNaseを無効化または変性させることにより、DNAを安定化するためにも使用され得る。
【0050】
本発明により使用される溶媒およびプロセスは、本発明で実施される4つのプロセス:1)細胞またはウイルスを溶解して、核酸を放出させること、2)本発明の溶媒によりRNaseおよびDNaseを無効化することにより核酸を保護すること、3)RNAの場合、本発明の溶媒の存在下で核酸逆転写(RNAの場合)すること、ならびに4)本発明の溶媒の存在下で増幅および検出を行うことを実施することができるようにそれらの間でバランスがとれている。したがって、本発明に使用される各々特定の溶媒は、次の課題を妨げることなく、各課題に対して最適化される。また、溶媒の使用に関する影響は、好適なpHおよび単純な塩を含む共溶媒分子を選択することにより、こうした基準を満たすように向上させることができる。
【0051】
基本手順は、溶媒を試料と混ぜ合わせること、混合すること、および分析または保存のいずれかを行うことを含む。保存は、短期間、つまりわずか数分間であってもよく、またはより長期間、1時間もしくは数時間もしくは数日間もしくは数週間でさえあってもよい。適正に保存すれば、保存試料内で溶媒が蒸発することはない。溶媒の上部空間は、蒸発を制御および最小限に抑えるために最小限に保たれ得る。本発明の一部の態様では、試料は、保存から直接分析される。一部の態様では、溶媒は、熱、ガスまたは高速蒸発(真空による)またはそれらの組み合わせを使用した蒸発により分析前に除去される。本発明の一部の態様では、分析前に溶媒を希釈するために水または緩衝液が試料に添加される。溶媒は、分析まで試料を保護する。しかしながら、核酸を増幅するには、溶媒を希釈してポリメラーゼまたは他の増幅試薬を再活性化する必要があり得る。溶媒または緩衝液の添加は、各試料がすべての試料に対して同じ方法で処理されるように、試料調製固定具(fixture)または器具で行われることが好ましい。本発明の一部の態様では、安定化された試料は、保存前に濾過または遠心分離される。本発明の一部の態様では、試料は、分析前に濾過または遠心分離される。本発明の一部の態様では、試料は、検出混合物中の溶媒に添加される。
【0052】
自己管理されるかまたは訓練を受けていない担当者により実施される試料収集の場合、試料収集装置は、誰でも簡単に使用することができ、社会的に受け入れられるものである必要がある。本発明の一部の態様では、試料収集は、受動的プロセス、つまり受動流涎、排尿などである。本発明の他の態様では、試料収集は、能動的プロセス、つまり、拭き取ること、擦ることなどである。ウイルスは、すべての臓器、腎臓、肝臓、肺、鼻孔、口、頬、糞、尿、血液、呼気、唾液、体液および呼気を含む、身体の任意の部分から試料収集され得る。
【0053】
一部の態様では、試料は、呼吸により得られる。こうした態様では、呼気は、例えば、表面上にまたは装置内へと息を吹き込むこと、または呼気を表面上に堆積させるストローまたは装置内へと息を吐くことなど、任意の方法で採取され得る。その代わりに、呼気は、溶媒を通してバブリングしてもよい。呼吸試料は、単一の呼気から採取してもよく、または例えば装着可能な装置内への長期間の呼吸から採取されもよい。
【0054】
口または鼻から試料を採取するために、吸着剤パッドまたは吸着材が使用され得る。試料収集後、生物試料は、容器に堆積され得るかまたは絞り出され得る。容器は、本発明の溶媒を含んでいてもよい。その代わりに、容器は、本発明の溶媒を含む装置またはシリンジ内に取り込まれてもよい。その代わりに、試料は、ピペットまたはシリンジで取り出され、本発明の溶媒を含んでいてもよいバイアルに移してもよい。試料は、本発明の溶媒中に息を吹き込むかまたは呼気をバブリングすることにより採取してもよい。本発明の一部の態様では、呼気および液滴が一方向でのみ溶媒に添加されることを保証するために、(一方向)逆止弁が、マウスピースまたは吹込みストローに組み込まれていてもよい。この態様では、溶媒は、ストローから口へと逆流することはない。本発明の一部の態様では、呼気液滴が表面上に堆積され、呼気が採取され、溶媒で処理される。
【0055】
手動試料収集と自動試料調製との連携は、本プロセスの任意の時点で実施され得る。試料が取得された後、試料は、本発明の溶媒で試料を抽出および安定化するために、機器に配置してもよい。その代わりに、試料が安定化され得、次いで試料調製ステップが自動化され得る。
【0056】
本方法は、細菌、酵母、真菌などの試料のRNAまたはDNAを安定化して、核酸増幅および検出のための試料を調製するために使用され得る。例えば、細菌の場合、試料は、DNA(またはRNA)を放出させ、DNase(またはRNase)を失活させることにより保護され得る。夾雑細菌は、溶媒により死滅され得る。他の物質は、溶媒により無効化され得る。他の生物試料は、本発明の溶媒中で安定化され得る。その代わりにまたはそれに加えて、本方法は、カラムまたは磁気ビーズを使用して事前に精製することなく、核酸の直接増幅を可能にする。しかしながら、本発明の溶媒は、カラムまたは磁気ビーズによる核酸の精製および回収の前に、RNAおよびDNAを溶解、保護および安定化するためにも使用され得る。本発明に従って処理され得る核酸は、RNA(例えば、複製または転写などの生物学的活性に対応する修飾に対応するため)またはDNA(例えば、メチル化、ヒドロキシメチル化、グルコシル化などを含む)の修飾形態を含む。
【0057】
ウイルス診断プロセス
ウイルスの診断上の課題の一部は、試料が、種々の他の細胞、酵素、および生物学的実体の存在下でウイルスを含む可能性があることである。外側層は、脂質およびタンパク質の壁、ならびに核酸を覆うタンパク質エンベロープで構成されている場合がある。酵母、他の真菌、細菌および類似実体を含む他の目的の試料も外側層を有する。
【0058】
本発明の方法で使用されるステップ
ステップ1. 試料を準備する。一部の態様では、試料はバイアル中に準備される。本発明の一部の態様では、その容積は、測定されており既知である。試料は、唾液であってもよくまたは鼻腔綿棒であってもよい。試料は、他の体液であってもよい。一部の態様では、試料は、器具に息を吹き込むことにより提供される。一部の態様では、試料は、表面、採取媒体またはフィルター上に息を吹き込むことにより提供される。
【0059】
ステップ2 機能A. 試料を水混和性有機溶媒と一緒にして混合する。本方法の技術では、有機溶媒は、細胞から核酸を放出させる。タンパク質含有エンベロープ(存在する場合)を、RNAまたはDNAから除去する。
【0060】
試料を溶媒に添加してもよく、または溶媒を試料に添加して混合してもよい。一部の態様では、アセトニトリル、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ホルムアミドジメチルホルムアミド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、メチルエチルケトン、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)または他の非プロトン性溶媒などの非プロトン性溶媒を使用して、ウイルス核酸を放出させる。本発明の一部の態様では、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、ブチルアルコールまたはイソプロピルアルコール、酢酸、ギ酸または他のプロトン性溶媒などのプロトン性溶媒を添加して、核酸の放出を支援することができる。添加される有機溶媒は、1つ以上の溶媒の混合物であってもよい。有機溶剤または溶媒は、水を含んでいてもよい。
【0061】
有機溶媒は、Tergitol 15-S-9、Triton X100または他の界面活性剤などの界面活性剤を含んでもよい。有機溶媒は、酢酸トリエチルアンモニウム(TEAA)などのイオン対試薬または他のイオン対形成試薬を含んでもよい。以下の溶媒は、本発明の方法で使用され得る:アセトアルデヒド、酢酸、アセトン、アセトニトリル、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブトキシエタノール、酪酸、ジエタノールアミン、ジエチレントリアミン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサン、エタノール、エチルアミン、エチレングリコール、ギ酸、フルフリルアルコール、グリセロール、メタノール、メチルジエタノールアミン、メチルイソシアニド、N-メチル-2-ピロリドン、1-プロパノール、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-プロパノール、プロパン酸、プロピレングリコール、ピリジン、テトラヒドロフランおよびトリエチレングリコール。
【0062】
本発明の一部の態様では、溶媒を添加する前に、試料を、過酸化水素または他の過酸化物試薬で処理してもよい。また、過酸化物試薬は、溶媒と同時に添加してもよく、または溶媒の添加後に添加してもよい。過酸化物は、ウイルスまたは他の生物学的物質の溶解を支援することができる。試料中の過酸化物は、MnO、Fe2O3、CuO、HfO2、CeO2およびGd2O3などの遷移金属塩、ならびにZr、Ti、Y、Fe、Cu、Ce、Gd、HfおよびUの酸化物と接触する任意のステップにおいて試料の加熱を促進することができる。
【0063】
唾液などの一部の試料では、このプロセスは、タンパク質および他の生物学的物質の少なくとも一部を沈殿させることになる。タンパク質は、変性する可能性があり、沈殿する可能性がある。本発明の一部の態様では、混合後の有機溶媒の濃度は、0.5%~50%、1%~95%、5%~70%、または10%~60%の範囲である。溶媒濃度の制御は、溶媒および試料の相対容積を制御することにより達成することができる。溶媒を、バイアルまたは容器内に配置し、密閉することができる。次いで呼気または液体試料を、容器に添加することができる。この方法を使用する場合、溶媒濃度は、既知であるだろう。
【0064】
ステップ2 機能B. このステップでは、RNaseまたはDNaseが不活化または無効化される。これは、検出、分析、および定量化のための放出されたRNAまたはDNAの保護を補助する。
【0065】
ステップ2 機能C. タンパク質および生物学的物質を、混ぜ合わされた試料および水混和性有機溶媒混合物中で沈殿させる。形成された固形物は、混ぜ合わされた混合物中の有機溶媒の濃度を増加させることにより増加させることができる。固形物を、混合することにより試料中に分散させてもよい。
【0066】
ステップ3. 任意選択で、試料中に存在する粒状物(つまり、沈殿した)画分を除去する。本発明の一部の態様では、粒状物は遠心分離により除去される。本発明の一部の態様では、粒状物は濾過により除去される。フィルターは、例えばシリンジに固定されていてもよく、清澄化された物質は、バイアルの中へと堆積させてもよい。本発明の一部の態様では、固定針を有するシリンジで、清澄化された試料をバイアルから吸い上げることができる。針は、液体を優先的に吸い上げて、固形物の多く、ほとんど、またはすべてをバイアル内に残すことができる。次いで、固形物画分を有しないシリンジ内容物を堆積させることができる。一部の態様では、プレートフィルターまたは遠心分離フィルターを使用して固形物を除去することができる。
【0067】
ステップ4. 任意選択で、水を添加して有機溶媒の濃度を低下させる。ポリメラーゼ酵素は、変性または沈殿のため有機溶媒により失活する可能性がある。溶媒によるポリメラーゼの失活を防止するために、増幅前に希釈を実施してもよい。しかしながら、本発明の方法では、一部の有機溶媒が残ることになる。
【0068】
ステップ5. 任意選択で水混和性溶媒を含む試料を加熱する。加熱は、溶媒および添加剤の反応速度の増加を補助することができる。
【0069】
ステップ6. 検出試薬を含む増幅試薬を、処理された試料に添加して混合する。増幅および定量化は、一例では、qRT-PCRにより実施することができるが、任意のRNAまたは核酸増幅および定量化法を使用することができる。qPCRを使用してDNAを増幅してもよい。他の核酸増幅機器を使用してもよい。本発明の一部の態様では、本発明の溶媒は、増幅試薬に含まれていてもよい。
【0070】
放出および安定化された試料である核酸を、増幅試薬に添加してもよく、または増幅試薬を、放出および安定化された試料である核酸に添加してもよい。いずれの場合も、試薬の濃度は既知であり、制御される。本発明の一部の態様では、増幅試薬を添加する前に、試料中の有機溶媒濃度は、>1、1~2、2~3、3~4、4~5、5~10、20、30、40または50分の1に低減される。有機溶媒の濃度の低減は、活性ポリメラーゼを保護することができるか、または増幅のためにポリメラーゼを再活性化することができる。
【0071】
一部の態様では、ステップ1~5の順序は様々であってもよい。本発明の一部の態様では、試料を、ステップ1、2、3、4、または5の後で無期限に保存し、次いで核酸の精製を行うことなく直接分析してもよい。本発明の一部の態様では、安定化された試料を、ステップ1、2、3、または4の後で、シリカもしくはイオン交換カラムまたは磁気ビーズプロセスにより精製して、核酸を回収してもよく、次いで試料を増幅または検出および分析してもよい。本発明の一部の態様では、試料を、シリカもしくはイオン交換カラムまたは磁気ビーズプロセスにより精製して、核酸を回収してもよい。その後、本発明の水混和性有機溶媒を、精製された核酸に添加して、核酸を無期限に安定化および保護することができる。核酸を安定化および保護した後で、試料を増幅または検出および分析してもよい。
【0072】
試料を任意選択で希釈し、RT-PCRまたは別の増幅および検出法のためのマスターミックスに添加する。その代わりにまたはそれに加えて、試薬を試料に添加して、試料を増幅に好適なものにすることができる。マスターミックスは、増幅および定量化に必要なすべての試薬を含んでいてもよく、さらなる側面では、本発明は、そのようなマスターミックス組成物を提供する。任意選択で、本発明の溶媒は、マスターミックス中に存在する。本発明の溶媒の濃度は、細胞の溶解に十分である必要がある。しかしながら、本発明の溶媒の濃度は、逆転写酵素、ポリメラーゼまたは混合物中に存在する可能性がある任意の他の必須酵素を阻害するほど高すぎないことが好ましい。また、溶媒は、試料中の標的核酸配列とプライマーなどの増幅試薬との間で必要とされるアニーリング操作を阻害してはならない。溶媒の溶解効果は、温度により増強させることができる。しかしながら、溶媒の有害効果も温度により増強される可能性がある。例として、増幅反応が実施される時点での本発明の溶媒の濃度は、例えば、細胞溶解またはウイルス溶解は可能であるが、増幅反応で使用される試薬が活性である下限として、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.5%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、15%、20%または25%(v/v)であってもよい。検出酵素およびプライマーアニーリングが妨げられない限り、濃度はより高くてもよい。
【0073】
試料の手動試料収集および並列処理
本発明の一部の態様では、試料は、バーコードまたは他のバイアル走査識別で識別され得る。識別は、試料の供給源および試料に関連する任意の他のパラメーターを記述することになる。機器には、バーコードまたは別の種類の読取機が取り付けられていてもよい。走査プロセスでは、試料が機器内に挿入されているスロットを光が照らすことになる。分析には、任意の多重並列処理機器が使用され得る。ハイスループット分析では、96ウェル、384ウェルまたは1536スロット付き機器が使用され得る。試料は並列処理され、陽性結果を報告するあらゆる試料は、供給源およびそのパラメーターを識別する情報と照合される。
【0074】
あらゆる陽性試料は、標的細胞に由来するウイルスまたは核酸の存在を確認するために、再検査され得る。このようにして、陰性の人だけが、飛行機への搭乗が許可され、入国が許可され、教室、運動場または会社オフィスもしくは製造工場などの任意の会場もしくは場所への入場が許可され得る。試料は直ちに安定化されるため、結果の完全性および忠実度は、他の方法によるものよりも高い。溶媒は完全に安定であり、無期限に保存され得るため、試料収集プロセスの完全性は、他の方法を使用して得られるものよりも高い。
【0075】
定量化
高品質データを得るには、試料に存在するRNAが、試料収集プロセス中に、または分析および定量化までの任意の時点において分解されないことが必要である。分解は、必ずしも試料収集時間および分析時間に基づくわけではないが、RNaseもしくはDNaseの含有量、pH、他の酵素または他の手段によるなど、試料ごとに異なる夾雑物により引き起こされる可能性がある。生物学的実体に由来する核酸の即時安定化ならびにRNaseおよびDNaseの無効化は、偽陰性結果に結び付く可能性のある分解または試料に関連する他の可変性を防止する。
【0076】
分析の検出限界は、試料内で検出され得る核酸分子の最小数である。特定数のウイルスが特定数の核酸分子と関連するため、これは、ウイルスの陽性存在が示される閾値を提供する。試料収集時に核酸の分解が防止される場合、閾値は非常により低く、信頼性が高い。また、信頼性の高い試料収集は、疾患または感染の進行に関する指標を提供する。定期的に試料収集を行い、時系列的にプロットすることは、ウイルスの量が増加しているのかまたは減少しているのかを示すことになる。加えて、試料分解が防止されるため、試料におけるウイルスの非存在は、信頼性の高い陰性結果を示すことになる。特に反復試料収集および分析により、対象が伝染性のままであるか否かを決定することが可能である。
【0077】
生物学的供給源からのウイルス試料の取得
核酸が安定化されるため、試料収集は、任意の場所で実施され得る。これは、医療担当者、研究室担当者によるポイントオブケアでの試料収集を含むか、またはその代わりに試料収集は自宅で実施してもよい。キットおよび器具または固定具を使用して誤謬なくプロセスに従うことができる限り、制限はない。したがって、本発明の方法、装置およびキットは、試料収集が熟練担当者によってのみ実施される、ウイルス検出のための既存方法を大幅に向上させるものである。
【0078】
例えば、通常手順を使用して咽および/または鼻から試料を採取するために、綿棒が使用され得る。または、ウイルスは、口腔綿棒、唾液または痰から得られ得る。一部の態様では、血液試料は、指を穿刺または突刺し、血液を毛細血管に採取し、血液を容器内に堆積させることにより取得され得る。
【0079】
尿、糞、痰および血液からの試料収集は、自宅で、または研究室/医療担当者により管理された設定で実施され得る。脳脊髄液からの試料収集は、熟練担当者により実施され、本発明の方法、装置およびキットを使用して処理され得る。
【0080】
一例では、ヒト呼気からエアロゾルを採取するために、ストロー型の器具が使用され得る。呼気だけが捕捉され得、液体が口内に逆流し得ないように、ストローには逆止弁が装備されていてもよい。呼気は、器具内において、本発明の溶媒を通してバブリングさせてもよい。
【0081】
一部の態様では、試料は、試料収集バイアルもしくはチューブまたは分析バイアルもしくはチューブに配置される。こうした態様では、試料収集または分析バイアルまたはチューブは、9mm以下、4.5mm以下、2.25mm以下の外径を有してもよい。
【0082】
逆転写酵素およびポリメラーゼ酵素に対する本発明の溶媒の効果
本発明の溶媒は、タンパク質、脂質、および他の細胞性物質にとって有害であるが、核酸には有害ではない。有害特性の肯定的な効果は、溶媒が、酵素RNaseおよびDNaseを無効化または変性させ、したがって試料中の核酸の保護を補助することである。しかしながら、この特性は、核酸の増幅および検出に必須な2つの酵素にとっても有害である。逆転写酵素は、RNAをcDNAへと変換するために必要である。ほとんどの逆転写酵素の場合、許容されるアセトニトリルの最大濃度は0.5%(v/v)であることが発見された。Superscript IIは、10%アセトニトリルに耐性であり、RNAからcDNAへの変換の劣化はほんのわずかであることが見出され、Superscript IIIは、15~20%のアセトニトリルに耐性であることが見出された。より高い濃度は、逆転写酵素がRNAをcDNAへと変換することを妨げた。本発明の他の有機溶媒は、同様の有害な挙動を示した。
【0083】
ポリメラーゼは、リアルタイムqPCR、エンドポイント検出qPCR(end point detection qPCR)および他の方法でDNAを増幅するために必要である。TaqまたはPfuポリメラーゼは、最大で10~15%アセトニトリルに耐性であることが見出された。LAMP用のBstポリメラーゼは、最大で15~20%アセトニトリルに耐性であることが見出された。本発明の他の有機溶媒は、同様の有害な挙動を示した。
【0084】
唾液、痰、喀痰、つば試料を処理するための方法、装置およびキット
唾液検査またはサリバオミクス(Salivaomics)は、内分泌、免疫、炎症、感染、および他の状態のマーカーを識別するための唾液の研究室分析を含む診断技法である。唾液検査は、数多くの状態および疾患状況をスクリーニングまたは診断するために使用される。この種類の検査は、典型的には、滅菌チューブに少量の唾液を採取し、続いて検査機器で処理することを含む。唾液検査の支持者は、採取の容易さ、安全性、非侵襲性、手頃な価格、正確性、および静脈穿刺を回避する能力を、血液検査および他の種類の診断検査と比較した場合の主要な利点として挙げている。
【0085】
一部の検査方法は、吸着剤パッドを使用して唾液を採取すること、化学溶液を適用すること、および色の変化をモニターして陽性結果または陰性結果を示すことを含む。RNAの測定によるウイルス検出は、典型的には、液体を処理すること、および液体を測定装置および変換器に供することを必要とする。1つの方法は、吐唾または流涎により唾液を採取することである。
【0086】
別の方法は、受動流涎を採取することである。受動流涎(「混合」唾液とも呼ばれる)が使用され得る。受動流涎採取は、大容積試料採取を容易にする。複数の試料が容易に取得され得るため、唾液検査は、数時間、数日間、または数週間に及ぶ時間生物学的評価の実施に特に有用である。これは、ウイルス感染の進行を検査する場合、または個人が検出可能なウイルスをもはや有していないか否かを検査する場合に非常に重要である。
【0087】
受動流涎採取は、最大で1mLまたは2mLの全唾液を採取するために監督なしで使用され得る。特に安定化後に試料を保管することが所望の場合は、より大きな試料の取得が実施され得る。
【0088】
本発明の別の例では、カラム法または磁気ビーズ法からの唾液がバイアル内に堆積される。この方法の一態様では、容積は1mLに調整される。0.5mLの水混和性溶媒を含む2.5mLシリンジを使用して、試料をシリンジ内に吸入する。シリンジは1.5mLの液体を含むことになる。液体をバイアル内に入れ、吸入してシリンジ内に戻すことを繰り返して試料を混合する。ウイルスは溶解および安定化され、RNA検出および定量化の準備が整う。
【0089】
本発明の別の態様では、1mL以上の涎/唾液が採取される。0.2mLの非プロトン性溶媒を含むシリンジが準備される。シリンジの液体中にはガラスビーズが提供されている。ビーズは形状が不規則であってもよい。ビーズ材料は、プラスチック、ポリマー、金属、金属酸化物、またはガラス、またはシリンジ空洞を移動し溶媒を混合することになる任意のものであってもよい。0.2mLのDMSOを含むシリンジを涎内に配置し、0.5mLをシリンジ内に吸入する。シリンジは、規定量の涎/唾液がシリンジ内に吸入されるとプランジャーの動きが止まるように設計される。シリンジを数回反転させて、ビーズによる溶媒および試料の混合を可能にする。安定化された試料は、この時点で分析の準備が整うが、試料は安定しており、室温または周囲温度で無期限に維持され得る。
【0090】
個人またはグループの試料収集
試料収集は、個人または個人のグループに対して実施され得る。これは、1個人が活性ウイルスに感染していないことを保証する。グループ試料収集は、グループ内の各個人を試料収集することによりまたはプールされた試料を使用することにより達成され得る。グループ試料収集および分析は、飛行機、学校教室、集団イベントまたは会社敷地を含む任意の場所への立ち入りを許可する前に実施され得る。
【0091】
バーコード化シリンジなどのバーコード化または電子コード化試料収集装置は、個人または複数の個人の身元情報と照合されることになる。身元情報は、試料がロードされる際にまたは試料が処理される際に検出機器に入力されることになる。結果の報告は、試料および個人の身元と照合されることになる。こうした場合、試料収集および分析は、2時間以内、好ましくは1時間、30分、15分または5分以内に実施される。
【0092】
一部の場合では、個人は、感染の可能性はあるが、検出可能なウイルスをまだ産生していない可能性がある。検出可能なウイルスが産生されるまでには、ほんの数時間しかかからない場合がある。一部の態様では、個人は、着陸前の飛行中に再検査され得る。この場合、試料は、痰、喀痰または涎、鼻綿棒または口腔綿棒を含む任意の試料種類を使用して飛行中に取得され得る。バーコード化または識別符号化された試料収集装置は、個人と照合され得る。試料は、本発明の非プロトン性溶媒で安定化される。本発明の一部の態様では、プロトン性溶媒が使用される。結果は飛行中に決定され得、空港立ち入りまたは入国は、検査の結果により通知され得る。本発明の安定化装置、キットおよび方法は、5分間、10分間、15分間、30分間、45分間、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、1日間、1週間、1か月間、6か月間、または無期限に安定である試料を提供する。RNAは、本発明の方法を用いて無期限に安定化され得るため、試料は、保管してもよく、後の日付で分析または再分析してもよい。試料が安定しているため、分析された試料および保管された試料を追跡および追尾するための方法が実現され得る。
【0093】
試料とウイルス核酸を放出させる試薬との接触
綿棒を、溶解および安定化用の溶液に入れ、激しく撹拌する。ジカウイルスおよびCOVID-19は、エンベロープウイルスである。ウイルス内から核酸を放出させるためには、ウイルスの外側エンベロープは破壊されなければならない。好ましい放出溶液は、本発明の溶媒である。しかしながら、溶解用溶液は、ウイルスからRNAを放出させることが可能な塩基または界面活性剤または任意の緩衝液または溶媒であってもよい。本発明の溶媒は、試料へと直ちに添加され得る。患者は、綿棒試料が採取される前に、複数回以上咳をするように指示される場合がある。試料は、鼻孔、頬、口蓋および/または舌下を拭き取ることを含む様々な方法で取得され得る。
【0094】
ウイルス溶解試薬または溶液は、外部タンパク質を除去し、ウイルスの核酸を露出させる。ウイルス粒子が溶解されると、RNAが放出され、直ちにRNase媒介姓分解を受け易くなる。これを防止するため、存在するRNaseおよび存在するすべてのタンパク質は、非常に強力な変性溶媒で直ちに変性または失活され、それによって放出されたRNAを安定化させる。不活化される酵素は、RNaseおよびリボザイムを含む。
【0095】
安定化溶液は、試料、バイアルまたは試薬に存在する可能性のあるRNaseを失活または変性させる。本発明の一部の態様では、失活化剤は、溶解剤と同時に添加される。溶解剤および失活剤は、同じ試薬であってもよくまたは試薬の混合物であってもよい。本発明の一部の態様では、界面活性剤などの溶解のための試薬およびRNaseを変性または失活させるための試薬は、水混和性有機溶媒である。本発明の一部の態様では、溶解溶液および安定化溶液は、水混和性有機溶媒を含む。本発明の一部の態様では、水混和性溶媒は、ウイルスRNA試料の溶解および安定化を両方とも行うことができる。
【0096】
溶媒は、アセトニトリル、DMSO、THF、DMF、アセトンまたは他の非プロトン性溶媒を含む。要件は、溶媒が水混和性であり、RNaseタンパク質を失活または変性させるために十分な変性傾向または能力および濃度でなければならないことである。一部の態様では、濃度を5%有機溶媒(容積/容積)にするのに十分な溶媒が添加される。一部の態様では、最終濃度は、1~3%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、12%、14%、16%、18%、20%、22%、24%、26%、28%、30%、35%、40%、50%、60%、70%(v/v)またはそれよりも高濃度の有機溶媒である。本発明の一部の態様では、溶媒は、酢酸トリエチルアンモニウムなどのイオン対形成試薬または類似の試薬を含む。試薬は、RNAと対形成し、RNAの溶解度を向上させる非極性陽イオンを含んでいてもよい。溶媒は、脂質破壊性およびタンパク質破壊性であるが、核酸を可溶性およびインタクトに保つ。
【0097】
溶媒は、核酸増幅を阻害し、エラーが発生しやすいPCRを助長する場合さえある。しかしながら、本発明の方法では、RNaseを無効化し、任意選択でウイルスからタンパク質皮殻を除去してRNAまたはDNAを露出させるのに十分な溶媒が使用される。一部の態様では、試料は、増幅前に、滅菌済RNase非含有水または緩衝液で希釈され得る。
【0098】
図1は、本発明の一態様における、溶解/安定化溶媒およびミキサーを含むシリンジを示す。プランジャー10は、シリンジ筒20に挿入されている。シリンジは、溶媒30および試料ミキサー40を含む。シリンジの端部は、ルアーテーパー部50を有し、そこにルアー蓋60を挿入してシリンジを密閉し、溶媒30の蒸発を防止することができる。ミキサー40は、円形であってもよくまたは任意の形状であってもよく、プラスチック、金属、金属酸化物またはガラスを含む任意の材料で作製されていてもよい。ミキサー40は、ワイヤーまたはビーズもしくは複数のビーズで作製されていてもよい。ミキサー40は、プランジャー10が下方に押された際に溶媒30がシリンジから出ていくことを阻止するような形状であってもよい。その代わりに、ミキサー40は、気泡であってもよい。混合は、混合物の吸引および吐出により実施され得る。混合には、ボルテックスまたは振盪機も使用され得る。一部の態様では、混合は、綿棒もしくは唾液試料または他の生物試料と密接に接触して配置され得、その後密閉され得るチャンバーで行われる。
【0099】
図2では、考え得る目的のウイルスまたは他の物質を含む試料75を、針70からシリンジ内に吸入し、試料および溶媒を有するシリンジは、分析または保存され得る溶解および安定化された試料80を生成するために、数回反転される。ミキサー40は、シリンジ空洞を移動して、試料および溶媒を混合する。試料75は注射器内に吸入され、シリンジ内部で混合されてもよく、または溶媒および試料を繰り返し吸引および吐出することにより混合されてもよい。他の態様では、本発明で使用される溶媒を試料へと吐出するために、シリンジが使用され得る。
【0100】
一部の態様では、混合は、本発明の試料および溶媒を含むシリンジの吸引および吐出の1回以上のサイクルで実施される。一部の態様では、本発明の試料および溶媒の混合物は、沈殿物および液体を形成する。
【0101】
ミキサーは、試料が水性ベースであり、溶媒が水混和性である限り、非プロトン性溶媒を含む任意の溶媒と共に使用され得る。本発明の一部の態様では、プロトン性溶媒が使用される。
【0102】
一部の場合では、本発明により使用されるシリンジの直径は、9mm以下である。これは、シリンジの上部にある唇部を含む。その代わりにまたはそれに加えて、一部の場合では、シリンジは、液体取扱器に取り付けられてもよい。本発明の一部の態様では、試料は、液体取扱機器のバイアル、チューブまたは反応器に配置される。本発明の一部の態様では、液体取扱器は、96ウェル形式の最大96個の試料に対応することができる。本発明の一部の態様では、シリンジの直径は4.5mm以下である。本発明の一部の態様では、液体取扱器は、最大384個の試料に対応することができる。本発明の一部の態様では、シリンジの直径は2.25mm以下である。本発明の一部の態様では、液体取扱器は、最大1536個の試料に対応することができる。一部の場合では、特に、試料容器が手動で使用するものである場合、より大きな直径が使用され得る。
【0103】
本発明の化学は、呼気試料収集に使用するために特に好適である。この態様では、呼気および水混和性有機溶媒が混ぜ合わされる。溶媒は、試料中に存在するRNAまたはDNAを放出および抽出させ、また、試料中のRNaseまたはDNase酵素を変性または失活させる。
【0104】
呼気試料の直接溶解および安定化のための装置が
図3に示されている。呼気100は、本発明の溶媒30を含む装置に吹き込まれる。口部が、唇の窪み110の周りに形成されており、呼気100を装置へと導く。吐き出された呼気100は、肺区画および気道通路に保持されている内側層流体から形成される液滴を含む。こうした液滴は、DNA、RNA、mRNA、タンパク質、代謝物、および揮発性有機化合物など、数多くのバイオマーカーを含む。インフルエンザまたは別のウイルスに感染した患者の場合、液滴は、目的のウイルスを含む。正常な潮汐呼吸で排出される典型的な凝縮流体の量は、子供で75~150マイクロリットル/分、成人で100~250マイクロリットル/分である。
【0105】
吐き出された呼気の採取装置は、こうした液滴を捕捉し、それらを本発明の溶媒中の試料として提示する。採取装置は、自宅、職場、研究室、病院、または診療所にて、非監視下の患者により使用され得る。この非侵襲的な携帯型装置は、完全自立型および使い捨てである。対象が装置に通常通りに息を吹き込むと、呼気液滴がカートリッジに採取され得る。採取後、カートリッジは、分析のために別の場所に輸送され得る。カートリッジは、郵送を含む任意の方法により輸送され得る。これは、空港、診療所、病院、自宅、職場、学校、または他の合理的な環境を含む任意の場所での試料収集を可能にする。液滴は、本発明の溶媒内に混合されることになるプールとして採取してもよく、または溶媒内に直接採取してもよい。
【0106】
図3に図示されている装置は、呼気100を装置内に導くが、呼気100が装置から逆流することを許容しない一方向逆止弁120を内部に含む。本発明の一部の態様では、外部一方向逆止弁130は、空気が装置を通らずに個人内に吸入され得るよう位置決めされていてもよい。外部逆止弁130は、呼息時に閉じて、呼気液滴を採取装置内へと導く。呼気100は、任意選択で吸着剤を含んでいてもよい溶媒30に導かれる。溶媒障壁140は、溶媒30が開口呼気通路に到達することを防止する。この装置は、一切の交差夾雑を排除するために使い捨てであってもよい。典型的な凝縮流体の量は、正常の潮汐呼吸努力で、子供の場合は75~150マイクロリットル/分、成人の場合は100~250マイクロリットル/分である。1~2分間の正常呼吸は、十分なウイルス試料をもたらすことができる。一部の態様では、呼吸は、2分間よりも長く継続され得る。
【0107】
図4Aは、シリンジに基づく呼気採取装置の図示を示す。試料を採取するために、マウスピースが取り付けられたシリンジが使用される。個人からの呼気100は、シリンジ筒20に至る一方向逆止弁150を含むマウスピース170から吹き込まれる。個人は、5秒間、30秒間、1分間、2分間またはそれよりも長く、マウスピース170に対して呼吸してもよい。一方向逆止弁150は、呼気、ウイルス粒子および他の有機物質がシリンジ筒20に進入することを可能にするために使用される。一方向逆止弁150は、本発明の溶媒からの蒸気がシリンジから出て、マウスピース170から個人へと逆流することを可能にしない。溶媒を有する媒体160が、シリンジ筒20に含まれる。溶媒を有する媒体160は、吸着紙材料、グラスウールまたは別の材料などの支持体を含む。ルアー蓋60は、装置に対して息を吹き込む前に取り外される。ルアー蓋60は、シリンジに蓋をするために使用され得、試料は、保存または発送され得る。試料が採取された後、マウスピース170は、シリンジ筒20から取り外され、
図4Bに示されているように、シリンジプランジャー10がシリンジ内に挿入される。採取された試料は、溶媒を有する媒体160中に存在する。シリンジプランジャー10は、種々の溶媒を操作して、調製された試料を溶出するために使用される。
【0108】
追加の溶媒、試薬、水または緩衝液は、シリンジ針70により、溶解および安定化された試料内へと吸入され得る。
分析物を取り出すために、シリンジ針70は、シリンジの端部に配置され、溶媒、水または緩衝液は、数回、シリンジに吸入され、排出される。シリンジプランジャー10は、溶媒を有する媒体160から針70を通してウイルス(または別の分析物)を排出するために押し下げられ得る。排出された溶媒混合物は取り出され、分析される。
【0109】
他の態様では、試料採取後に溶媒が添加され得る。
吸着剤パッド/媒体は、
図4Aでは溶媒内に位置決めされているが、シリンジ筒に沿って任意の場所に位置決めされていてもよい。
【0110】
本発明の一部の態様では、水蒸気が、本発明のシリンジまたは呼気装置に採取される。吸着剤パッド、媒体または表面は使用されないが、液滴が採取され、溶媒で処理される。
本発明の一部の態様では、呼気は、オリフィスを通って膨張してそれを冷却し、そのため呼気の液滴が凝縮して採取される。
【0111】
図5には、類似の低背圧シリンジ装置が示されている。
図5Aでは、装置に息を吐き出す際の抵抗を低減させるために、シリンジの底部が開口している。シリンジ筒20には、媒体180が含まれている。シリンジの端部が除去されており、篩190が、シリンジ筒20の面に配置されている。呼気100はシリンジ内に導かれる。この場合、装置は、呼気蒸気試料または液体凝縮物を捕捉し、本発明の溶媒は後に添加される。
【0112】
図5Bでは、媒体180を含むシリンジ筒20内に溶媒を吐出するために、溶媒を含むシリンジ200が使用される。
図5Cでは、試料を処理するために、シリンジプランジャー10がシリンジ筒20に挿入される。
図5Bに図示されている溶媒添加法の代替として、試料を溶解および安定化させるために、シリンジプランジャー10を用いて溶媒が添加され得る。
【0113】
紙、クロマトグラフィー媒体またはグラスウールで構成されていてもよいカラム媒体または採取媒体は、ウイルス、細菌または他の有機および生物試料を含む空気液滴を採取する。採取媒体(紙、媒体、グラスウールなど)は、捕捉を容易にするために、強または弱イオン荷電体、親和性基、疎水性または親水性、吸着性または非吸着性、多孔性、非多孔性であってもよい。標的ウイルス、細菌などを含む液滴が捕捉されてもよく、有機分子が捕捉されてもよい。次いで、試料が採取された後、試料を溶解および安定化するために、本発明の溶媒が添加される。その代わりに、試料は、溶出に好適な溶媒を使用して直接溶出させてもよい。
図5Cに示されている態様では、シリンジプランジャーを使用して、採取するための液体を吸入および吐出することにより、試料の溶出が支援され得る。
【0114】
一部の態様では、本発明の溶媒を用いた呼気試料収集法および器具は、コロナウイルス、COVID-19および他の疾患を含むウイルス疾患の試料収集のために使用され得る。一部の態様では、呼気試料収集法および器具は、ウイルス性肺炎、インフルエンザ(influenza flu)、他のインフルエンザ(other flus)、細菌、胞子、化学物質および呼気から排出される任意の生物学的物質を試料収集するために使用され得る。一部の態様では、呼気試料収集法および器具は、呼気中に見出される小型有機分子を試料収集するために使用され得る。本発明のシリンジ呼気装置は、有機分子の採取のためには溶媒溶解を必要としないだろう。
【0115】
呼気からエアロゾルまたは凝縮物を採取する任意の装置が使用され得る。
図6は、ウイルス採取のためのマスクの正面図および側面図を図示したものである。フィルター装置が取り付けられたマスク230が、ウイルス、細菌および化学物質を採取するために使用される。
図6Bに示されているように、空気がマスク230から吸入され、呼気は、逆止弁240からフィルター250へと導かれる。マスクは長期間装着され得るため、この種類の装置は、高感度ウイルス検査のために使用され得る。低頻度で存在するウイルスが検出され得る。例えば、シフトの開始時にフィルターディスクが投入され、5分間使用され、次いでウイルスを検査するために取り外される。この種類のデバイスは、肺炎患者またはCOVID-19患者など、呼吸困難を有する患者に使用され得る。
【0116】
図7および8は、フィルターが、マスク230(
図6に示されている)からどのようにして回収および処理されるかを示す。核酸がフィルター250から溶出され、処理される。
図7Aでは、フィルター250がマスクから取り外され、針70が取り付けられたシリンジ筒20内に投入される。シリンジプランジャー10が取り外される。
【0117】
図7Bでは、フィルターは、検出のための試料を調製するために、溶媒添加シリンジ260を使用して溶媒270で処理される。
その代わりに、
図7Cに示されているように、プランジャー10は、フィルター250を処理するために、シリンジ筒20内に挿入される。本発明の溶媒を針70から吸引し、フィルター250から試料を回収するために、フィルター250を有するシリンジが使用される。
【0118】
または、別の態様では、フィルターは、容器内の本発明の液体に添加してもよく、試料は、フィルターから液体に移される。
図8では、マスクからフィルター250が回収され、シリンジおよびフィルターホルダーを用いて処理される。フィルターは、フィルターホルダー270に付加され、シリンジ260および針70が取り付けられる。フィルターは、検出のための試料を調製するために本発明の溶媒で処理される。溶媒は、針70からフィルター250を通してシリンジ260内に吸入され得る。また、一部の態様では、溶媒は、フィルター250および針70を通して排出され得る。
【0119】
一部の態様では、本発明の溶媒は使用されず、生ウイルスまたは細菌が採取される。採取後、試料は、カラム精製もしくは磁気ビーズ精製またはプロテイナーゼKによる消化など、従来の核酸試料調製法を使用して処理してもよい。核酸は、通常、RNAの場合は任意の逆転写酵素法および増幅法で、DNAの場合は他の増幅法で処理され得る。
【0120】
図9は、呼気から生物学的物質を採取するように設計された半マスク装置および表面を示す。
図9Aには正面図が示されており、
図9Bには側面図が示されている。表面を有する採取表面280は、ウイルス粒子または他の生物学的物質を含む呼気を採取するために使用される。この例では、採取表面280は、この表面が口の真正面になるようにマスクに含まれている。呼吸および蒸気堆積は、理想的には、患者の正面に配置されている、例えばマスクまたはシールドの採取表面280上で実施される。マスクは、試料を取得するために必要な時間だけ装着され得る。子供または呼吸および呼息に問題がある人々には、この種類の採取が必要であり得る。呼気からの蒸気液滴が表面に堆積する。一部の態様では、採取表面は、呼気蒸気が堆積し得るプラットフォームまたは他の構造に存在してもよい。
【0121】
カラム、シリンジまたは表面は、呼気液滴の採取を増強するために、圧電素子または氷などの他の冷却方法で、例えばペルチェ素子を使用して冷却され得る。表面または装置は、使用前に冷蔵庫または類似の装置で冷却され得る。特に口により暖められると、蒸気凝縮物または呼気凝縮物を採取するには温度が高すぎる可能性がある。温度および露点によっては、液滴が、密着、付着または凝縮しない可能性がある。冷たい表面またはチューブは、採取を増強または可能にするだろう。
【0122】
採取チューブの例で説明されているように、表面は、多孔質または非多孔質の紙、プラスチック、ガラス、または金属であってもよい。表面は、採取を増強するための採取ウェルまたは他の構造を含んでいてもよい。表面は、親水性であってもよくまたは疎水性であってもよい。表面は、イオン交換基または任意の官能基もしくは化学基を含んでいてもよい。
【0123】
表面または媒体は、ポリスルホン、テフロン(登録商標)、ポリフッ素化材料もしくは類似の材料、セルロース、硝酸セルロース、金属、ポリカーボネート、紙、または紙材料であってもよい。液滴が蓄積し得る任意の材料が使用され得る。表面または媒体は、平滑表面、粗表面または多孔質表面を有してもよい。
【0124】
採取後、表面は、検出および分析のための所望の生物学的物質を採取するために、綿棒でまたは溶媒で濯ぐことにより試料収集される。濯ぎは、本発明の溶媒を使用して実施してもよい。凍結液体の除去を支援するために、加熱が使用され得る。
【0125】
採取後、試料は、カラム精製、磁気ビーズ精製またはプロテイナーゼKによる消化を含む、従来の核酸試料調製法で処理してもよい。試料核酸は、通常は、RNAの場合は逆転写酵素法および増幅法、ならびにDNAの場合は他の増幅法で処理される。
【0126】
採取後、試料は、生物学的物質を検出するために、本発明の溶媒で溶解および安定化される。一態様では、検出および分析のためのウイルスを試料収集および処理するために、綿棒が使用され得る。別の態様では、検出および分析のための細菌を試料収集および処理するために、綿棒が使用され得る。
【0127】
安定化された核酸試料を、発送用容器チューブ、バイアル、シリンジ、プレートまたは他の容器に入れる
試料を含むバイアルは、小包内に配置され、検査研究室に郵送され得る。発送は、通常の発送温度で達成され得る。ドライアイスまたは冷蔵は、許容されるが、必要ではない。加えて、放出されたウイルス核酸試料は安定したままであるため、分析は、研究室で試料を受け取って、室温で数日間、数週間または数か月間保存した後で、随意に実施され得る。安定した試料を維持することは、存在する可能性のあるあらゆるRNaseを無効化または不活化することにより達成される。
【0128】
一部の実施形態では、試料は、問い合わせの時点で採取および分析してもよい。試料は発送されず、むしろ試料は、採取され、数分間または数時間などの短期間保存され、次いで分析される。これは、試料が採取され、プールされ、次いで一緒に分析される場合に有用である。しかしながら、この手順を成功させるには、採取された最初の試料が、採取された最後の試料と同程度に安定していなければならない。本発明の安定化装置および方法は、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、1日間、1週間、1か月間、6か月間、または無期限に安定である試料を提供する。
【0129】
ウイルス、細菌または酵母は、本発明の溶媒を添加または混ぜ合わせた際に、無効化されるかまたは非感染性(および安定的)になる。これは、訓練を受けていない担当者による安全な取扱いを可能にする。試料収集器具および発送用封筒または梱包用封筒の外側は、追加の安全性のために、漂白剤、アルコール、または他の消毒剤で噴霧される場合がある。封筒表面は、消毒を容易にする表面で構成されていてもよい。こうした表面は、例えば、単層の銅または銀の薄層を含む。
【0130】
ウイルス核酸の増幅および分析
溶媒で安定化された試料は、研究室または機器がある場所で、緩衝液または脱イオン水で希釈され得る。内部標準、オリゴマープライマー、逆転写酵素、ポリメラーゼなどの検出酵素が添加され、RT、QPCRまたはLAMPが実施される。一部の態様では、安定化された試料を含むバイアルは、96ウェル形式のラックに配置され、機器に配置されるか、またはウイルスを検出するために機器内に直接配置され得る。ロボットに配置し、規定されたアリコートを取り出し、分析のために96ウェルプレートまたは384ウェルプレートまたは1536ウェルプレートに配置する。非プロトン性溶媒試料分析に関して説明された自動化は、他の試料にも使用され得る。本発明の一態様では、試料は、手動で採取され、次いで一度に1~96個または1~384個または1~1536個が分析される。これは、96ウェルまたは384ウェルまたは1536ウェル形式の機器に配置され得るシリンジまたはチューブに試料を手動で捕捉することにより達成される。手動で捕捉された試料は、ハイスループット形式に配置され、並列で自動化処理される。
【0131】
完全自動化および報告
検査者は、認定を受け、管理されなければならない場合がある。1つ以上の陰性結果は、COVID-19または他のウイルス感染の可能性を除外しない。検体の品質が不良であること、患者材料がほとんど含まれていないことを含む、いくつかの要因が、感染個人に陰性結果をもたらす可能性がある。しかしながら、本発明の方法では、試料の分解による偽陰性が生じることはない。
【0132】
一部の態様では、増幅ステップが適正に機能していることを確認するために、溶解の時点または分析の時点で陽性対照核酸が添加され得る。陽性対照プライマーは対照核酸に結合するが、COVID-19などの届出が必要な疾患の場合、国立疾病管理センターが、プライマー配列に関する詳細な指針を提供する:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/lab/rt-pcr-panel-primer-probes.html。
【0133】
陰性結果は、個人に存在する活性ウイルスの欠如を示す。しかしながら、陰性結果は、ウイルスをまったく有していないという結果、感染の最晩期での採取による結果、または感染の最初期での採取による結果であり得る。それにも関わらず、本発明の方法、キットおよび装置による検査が陰性である個人は、ウイルスを他の個人へと拡散させる可能性が低いかまたは可能性がより低いことを示す。
【0134】
一部の場合では、複数の試料が採取および分析され得る。例えば、疾患の進行が決定され得る。
COVID-19の症状または別のウイルス感染の症状を有する患者から陰性結果が得られた場合、特に上気道の検体のみが採取された場合は、可能であれば下気道に由来する検体を含む追加の検体が採取および検査されるべきである。各NAATの実行は、陽性および陰性外部対照ならびに内部対照を含むべきであり、研究室は、外部品質評価スキームに参加することが推奨される。
【0135】
キット、形式およびキットパッケージ
本発明は、本発明の方法を実施するためのキットも提供する。一般に、そのようなキットは、生物試料を受け取るための試料容器、および生物学的試料を混ぜ合わせるための水混和性有機溶媒を含む。キットは、生物試料と混合するための緩衝液、試料容器の蓋、水混和性有機溶媒の存在下で標的核酸(例えば、ウイルス抗原)を増幅するための核酸増幅試薬、標的核酸(例えば、ウイルス抗原)を検出するための試薬および/または採取もしくは加工された生物試料を検査のために研究室に送付するための郵送用包装、1つ以上をさらに含んでいてもよい。
【0136】
キット内の有機溶媒は、様々な形式で提供され得る。溶媒は、シリンジ、ピペットチップ、スポイト、バイアル(例えば、PCRバイアルまたは検出バイアル)、または制御された量の溶媒が分散され得る任意の様式で含まれていてもよい。溶媒は、検出試薬、例えば、増幅反応および/または検出反応で使用される酵素および他の試薬と共に含まれていてもよい。溶媒は、既知少量を試料内に吐出するためのツールに取り付けられた大型ストック容器、または試料を保持するために使用されることになる容器に存在してもよい。溶媒は、試料と混ぜ合わせられ得るバイアル、シリンジまたは他の容器に事前ロードまたは事前充填されていてもよい。
【0137】
唾液試料または安定化が必要な他の試料の場合、必要とされる容積は、50μL~5mLの範囲であってもよい。例えば、試料は、一定の容積に設定され得、押出し吐出を使用することができる半自動サンプラーを用いてクエンチまたは安定化され得る。
【0138】
溶媒は、カプセルまたはピロー(pillow)に含まれていてもよい。カプセルは、穿孔または別の機序で開口され得る。
自宅で使用するためのキットの場合、それらの設計は重要であり、以下の点の一部またはすべてを考慮すべきである。キットの溶媒は、数年間安定である必要がある。一般に、溶媒は、試料への添加後および分析まで安定である。自宅での試料収集の場合、本発明のキットは、好ましくは、誰でも簡単に操作できるものであり、本明細書に記載の方法により処理された試料容器は、処理研究室へと郵送されることが可能である。加えて、キットの処理は、比較的容易で安価であることが好ましく、例えば、処理による結果は、偽陽性および偽陰性の発生を最小限に抑える自動化様式である。また、キットは、合理的で実用的な保管寿命を有し、例えば、自宅用キットが、非常時まで自宅で保管され得ることを可能にし、キットが事前に購入され、キャビネットまたは戸棚で保存され得ることを可能にすることが好ましい。一般に、キットは、グループ分析にも使用され得る。
【実施例】
【0139】
診断は、本発明の技術の主要な応用である。しかしながら、診断以外にも、本技術は、任意の研究開発応用に使用され得る。例えば、突然変異を決定するために、試料が採取され、RNA配列決定のために処理され得る。この場合、試料は、cDNAライブラリーを作製し、次いでイルミナおよびナノポアおよび他の技法により配列決定するために使用され得る。英国におけるCOVID-19の1つのバリアントは、COVID-19パンデミックの2~4か月後に23個の突然変異を有してした。突然変異の数は急速に多くなり、こうした突然変異を追跡することが望まれていた。
【0140】
実施例1
高リスク感染症に関連するウイルス粒子からの核酸の捕捉
生物試料がバイアル、チューブまたは容器に配置され、試料中に存在するRNAを放出および抽出させるために非プロトン性溶媒が試料と混ぜ合わせられる、ウイルス試料を保存する方法が記載される。溶媒は、試料中に存在するあらゆるRNaseを変性または不活化させる。
【0141】
このプロセスは、集団イベント、学校、会社、教会または人々のグループが限定された時間内に密接に接触して集まる任意の場所で使用され得る。この方法は、飛行機に搭乗する前、教室に入る前または職場に入る前の状況で有用である。例えば、飛行機の搭乗予定者は、空港またはゲートで試料が採取され、搭乗前に分析され得る。活性ウイルス感染を有する者は飛行機への搭乗が許可されないだろう。このようにして、すべての乗客および乗務員は、飛行中の安全が確保され得る。この方法の使用は、飛行目的地の入域地点を通過する際にも有用であり得る。
【0142】
この方法の成功は、試料が採取された時点において試料を直ちに安定化させる能力による。安定化は、試料を採取してから1分以内に、個人から試料を採取してから2、3、4、5、6、7、8、9分以内または10分以内に実施され得る。迅速な安定化は、試料不安定性による偽陰性が生じないことを保証する。
【0143】
実施例2
ウイルス感染リスクの排除ならびに検出中のRNAの捕捉および安定化の同時増強
過酸化水素加熱および除去。COVID-19が疑われる唾液(または綿棒、呼気など)試料を、等量のアセトニトリル(最終濃度50%容積/容積)および1%過酸化水素(最終濃度0.5%容積/容積)と混合する。ウイルスは直ちに中和され、ウイルス粒子は、崩壊して、脂質、カプシドタンパク質およびゲノムRNAを放出する。
【0144】
一部の例では、検出前に加熱ステップを行って、RNA検出の感度および特異性を向上させる。一部の例では、検出前に過酸化水素を希釈する。一部の例では、検出前にアセトニトリルを希釈する。
【0145】
試料を加熱するためにおよび過酸化水素を排除するために、試料をMnO2などの遷移金属触媒と混ぜ合わせる。MnO2は、過酸化水素(VTMに存在する可能性がある)を安全に分解し、高度に発熱性の反応で水および酸素を生成する。加熱は、RNaseをさらに不活化することができる。遷移金属酸化物または類似の触媒を使用することができる。例えば、MnO2またはKMnO4または任意の類似遷移金属塩を使用してもよい。金属酸化物は、膜または表面コーティングにより固定化してもよくまたは含浸/遮蔽してもよい。
【0146】
ウイルスRNAまたはDNAは、この時点で、RT-PCR、LAMPまたは一部の他の増幅技法によるアッセイの準備が整う。試料は、この時点で、任意の下流アッセイ(RT-PCR、RT LAMP、qPCR、PCRなど)またはアッセイ検査で使用することができる。
過剰な過酸化水素を排除するための単純な遷移金属触媒の導入は、非常に発熱性であり、RNA完全性を維持しつつ、RNaseの不活化を促進する。
【0147】
実施例3
溶解および酵母に由来するRNAの安定化
YPDに播種した酵母コロニーに対してコロニーPCRを実施した。サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、菌株518(gdp::)のプレートを実験に使用した。Amazonから純粋培養物として入手可能なBaker’Yeastを含む他の菌株を使用した。
【0148】
寒天プレートから、酵母コロニーのいくつかの少量試料(針先サイズのコロニーのおよそ10%)をp200ピペットチップで摘取し、30μLの溶媒に再懸濁した。ddH2O、50%v/vアセトニトリル/100mM TEAA、およびDI H2O中0.2%ドデシル硫酸ナトリウムを溶媒として使用して、酵母コロニーを再懸濁した。各溶媒再懸濁の複製を作製し、各複製の1つを99℃で5分間加熱した。25μL PCR実験では、各懸濁物の1μLを、DNA鋳型として添加した。
【0149】
PCR実験では、種々のプライマーを使用した。プライマーストックを、Eurofins genomicsから購入し、5mMに希釈し、0.4μMの最終濃度を、25μL PCRに使用した。加えて、2.5μLの10×Taq Mg非含有反応緩衝液(NEB)、1μLの25μM MgCl2(NEB)、2μLの1.25mM dNTPミックス(NEB)、および1μLのポリメラーゼ(実験室で抽出した)をPCRに添加し、次いでそれをddH2Oで25μLにした。
【0150】
標準的なOneTaq PCRプロトコールを使用してPCRを実施した。試料を、95℃で30秒間加熱してから、94℃で30秒間、58℃で30秒間、および68℃で60秒間の40サイクルを行った後、すべてのアンプリコンが十分に伸長することを確実にするために、68℃で5分間加熱して終了した。次いで、10μlのPCRアンプリコンを1%アガロースゲルにロードし、それを85Vで40分間泳動させた。バンドを、G:Boxゲルイメージャーで視覚化した。
【0151】
このPCR実験の結果は、アセトニトリルが、酵母からDNAを放出させたことを示す。2%~20%の最終濃度のアセトニトリルは、特異的なDNA産物を増幅するPCRの能力を妨げなかった。アセトニトリルを含むPCRアンプリコンは、ddH2Oのみを含むものと同様のバンド強度を示した。
【0152】
実施例4
溶解およびウシ肝臓に由来するRNAの安定化
地元の市場から肝臓を購入した。2グラム部分を、2mLの50/50%(v/v)アセトニトリルと共に粉砕することにより混合した。上清を単離し、3倍に希釈した。実施例3と同様にPCRを実施した。結果は、RNAが放出および増幅されたことを示した。
【0153】
実施例5
唾液、鼻孔綿棒(nostril swab)および他の生物試料中のウイルスの試料調製および直接検出の手順
アセトニトリル溶解および保護溶液:
1. アセトニトリル溶液を、pH5.6クエン酸ナトリウムを含むように調合する。
【0154】
2. クエン酸二ナトリウム(254.1g/モル)から50mLの1Mクエン酸ナトリウムのクエン酸塩ストック溶液を調製する。12.7gを、40mLフラスコ内の40mL DI水に添加し、結晶を溶解させる。
【0155】
3. 氷酢酸を滴加して、pH5.6+0.2を得る。クエン酸塩は、イオン化可能なカルボキシレートを3つ有する。初期溶液は、8を超えるpHを有することになる。酸を添加すると、pHはまず急速に低下し、次いでpH6.5付近ではよりゆっくりと低下することになる。
【0156】
4. 50mLメスフラスコへと定量的に移し、溶液を50mLの最終容量にする。
5. フィルター滅菌して、Falconチューブ(または類似の保存チューブ)に入れる。
【0157】
6. 50mLメスフラスコに、40mLのアセトニトリルを添加する。1mLのpH5.6クエン酸ナトリウム緩衝液を添加して混合する。アセトニトリルを所定容積まで添加して混合する。最終溶液は、20mMクエン酸ナトリウムを含む。
【0158】
手順:
1. 唾液試料または綿棒試料(例えば、25μL)を、きれいな微量遠心分離チューブに移し、等量のアセトニトリル保護溶液を添加する。試料は、任意選択でウイルス移送媒体(VTM)を含む。ボルテックス混合する。この抽出物は、可溶性ウイルスRNAおよび細胞性物質を含むことになる。
【0159】
2. 任意選択で、サーマルサイクラーで4分間90℃に加熱する。
3. 任意選択で、抽出物を卓上微量遠心分離機で2~5分間遠心分離して、あらゆる不溶性物質をペレット化する。
【0160】
4. RT-PCRマスターミックスを調製し、10μLをPCRバイアルにピペットする。
5. 試料をPCRバイアルにピペットする。沈殿物質の移動があってはならない。20μL PCRバイアルの場合、6μLの試料および4μLのDI水を添加する。これは、マスターミックスの量、アセトニトリル濃度および手順に応じて調整することができる。ボルテックス混合する。
6. 機器に配置し、RT-PCRで増幅および検出する。
【0161】
備考:
1. 唾液を、この手順で直接分析することができる。VTMで保護された唾液試料を、アセトニトリル/クエン酸塩溶液で溶解および保護し、次いで分析する。VTMは、アセトニトリル/クエン酸塩溶液よりも高い緩衝能力を有するかまたはアセトニトリル/クエン酸塩溶液と混合した際に試料のpHを上昇させることになる緩衝液を一切含むべきではない。
【0162】
2. DI水中の綿棒試料を、この手順で直接分析することができる。VTMで保護された唾液試料を、アセトニトリル/クエン酸塩溶液で溶解および保護し、次いで分析することができる。VTMは、アセトニトリル/クエン酸塩溶液よりも高い緩衝能力を有するかまたはアセトニトリル/クエン酸塩溶液と混合した際に試料のpHを上昇させることになる緩衝液を一切含むべきではない。
【0163】
実施例6
鼻咽頭綿棒試料および唾液試料を使用したRibostayによるCOVID-19検査
Ribostay調合物:(40%アセトニトリル(v/v)、20mMクエン酸ナトリウム、pH5.6、1%の過酸化水素(v/v))。Ribostayを使用してすべての試料を1:1希釈し、すべての最終濃度を2分の1に低減させた。試料が固体形態で提供される場合、2倍希釈のRibostayを直接添加する。
【0164】
典型的なRT-PCR手順では:
1. 25μLのRibostayを、25μLの液体臨床試料に添加する。
2. 15秒間ボルテックスし、次いで90℃で4分間加熱する。
【0165】
3. 再度ボルテックスし、RT-PCR用に5μLを取り出す。
4. 5μL試料を、45μLヌクレアーゼ非含有水で希釈する。
5. 5μLの希釈試料を、20μL(最終容積)のRT-PCR反応に添加する。
【0166】
6. COVID-19キット説明書(Chai Biotechnologies)に従って、25~40サイクルで増幅を行う。
多くのRT-PCRキットでは、Ribostay成分の最終濃度が、最終アッセイにおいて0.5%アセトニトリル、0.5mMクエン酸塩および0.025%過酸化物未満であることを保証することが重要である。本発明の溶媒に対する逆転写酵素の耐性を測定する実験を実施した。Superscript IIおよびNEB MMLVは、少なくとも10%(v/v)のアセトニトリル濃度に耐性であることが見出された。
【0167】
実施例7
細胞からの全RNAの単離:酵母からRNAを抽出するためのプロトコール
1.標準的な手順を使用して手作業で1分間粉砕することにより、凍結乾燥酵母細胞を機械的に破壊した。
【0168】
2. 500mg(およそ)の粉砕物質をEppendorfチューブに移した。
3. 1mLのRibostayを添加し、徹底的に混合した。
4. 混合物を遠心分離した(卓上で15000rpm、5分間)
5. 上清を取り出し、10~20μLを1%アガロースゲルでの電気泳動にかけた。
【0169】
6. 蛍光色素を使用したリボソームRNA種およびトランスファーRNA種の特徴的な外観により、RNAを識別した。臭化エチジウムまたは「Gel Green」を、好適なトランスイルミネーターで使用した。
【0170】
完全な処理には、開始から終了まで1時間かかった。試料を直接分析したか、または室温で10分間の標準的なエタノール沈殿により濃縮した。沈殿物を、15000で5分間の5分間卓上遠心分離により収集した。上清を破棄し、過剰なエタノールを除去した。試料を500μLのRibostayに溶解した。
【0171】
実施例8
細菌エンベロープ二本鎖RNAバクテリオファージphi6を使用した哺乳動物エンベロープウイルスからのRNA分離モデル
バクテリオファージphi6は、植物病原体シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)を含むシュードモナス菌(Pseudomonad)に感染する宿主範囲が制限されたファージである。感染および溶解増殖を以下の通りに達成した:TSBプレートにP.シリンゲ(P.syringae)を播種し(推奨事項は製造元による)、同じブロスで培養する。ブロス培養に接種する(SterilinチューブまたはFalconチューブ中で2.5mLまたは25mLの容積を使用する)。単一コロニーまたは50~100μLのいずれかでの一晩ブロス増殖は30℃を超えないこと(室温:約24℃を使用)。
【0172】
ファージを添加する前に、穏やかに震盪しながら、しかしながら良好に通気して2~5時間インキュベートする(典型的には、培養1mL当たり200個のファージ粒子)。
少なくとも8時間(または一晩)インキュベートする。結果は、著しい増殖を示した未感染培養と比較して、細菌増殖が微弱だった。これは、ウイルス感染が生産的/効果的であったことを示した。
【0173】
上清を回収し、細胞デブリを廃棄する。(遠心分離または0.22μmフィルター付きのシリンジを使用する)。
物質および試薬:
TBS(1×)またはTris緩衝生理食塩水:50mM Tris-HCl pH7.5、150mM NaCl、フィルター、または滅菌用オートクレーブ。
【0174】
PEG/NaCl(5×)ストック溶液:PEG-8000 20%、NaCl 2.5M。100gのPEG-8000(20%w/v)および75gのNaCl(2.5M)を、室温で撹拌することにより400mlのddH2Oに溶解し、500mLの最終容量にする。0.2μMフィルターで滅菌する。
【0175】
手順:
1. ファージ粒子を含む1500μLの細菌培養を微量遠心分離チューブに移した。
2. 13,000×gで2分間の微量遠心分離により細菌を分離した。
【0176】
3. 1200μLの上清を、チップが細菌のペレットに触れないように気を付けながら、きれいな微量遠心分離チューブに移した。
4. 300μLのPEG/NaCl 5×を添加し、反転させることにより十分に混合した。ボルテックスしないこと。
【0177】
5. チューブを氷上で冷却した。数分後、チューブを取り出し、きれいなティッシュできれいに拭き、上清を間接照明にかざした。チューブを指で前後に揺らすことにより、多くの場合は、PEG沈殿ビリオンが肉眼で見える。沈殿物が視認される場合、インキュベーションを5分間に短縮してもよく、それ以外の場合は、氷上で最大1時間インキュベーションを続けてもよい。
【0178】
6. 13,000×gで3分間の微量遠心分離によりビリオンをペレット化した。
7. 手袋およびピペッターに付いているバクテリオファージが拡散しないように注意しながら、上清の大部分を大型チップで注意深く取り除き、適切な容器に廃棄した。溶液を、再び13,000×gで1分間微量遠心分離した。100μLチップですべての残留上清を除去し、チップを廃棄した。2回目の遠心分離は、1)チューブの底部にあるすべてのファージ粒子を採取し、2)細菌上清の完全な除去を達成するために不可欠である。
【0179】
8. ペレットを、120μLのTBS(1×)(初期培養容積の1/10)で激しくボルテックスすることにより再懸濁し、氷上でさらに1時間インキュベートした。ビリオンを再懸濁する前にペレットを数分間軟化させる方がより容易であることがある。大量のビリオンが沈殿する場合はインキュベーション時間を短縮してもよいが、清澄化ステップ中の粒子の喪失を防止するために、安全な30分間インキュベーションステップが推奨される。
【0180】
9. 混合物を再び激しくボルテックスし、13,000×gで1分間微量遠心分離することによりファージ溶液を清澄化した。ファージ溶液を、きれいなマイクロチューブに移し、ビリオンを定量した。
【0181】
10. 粒子を冷蔵保存した。
ファージからのRNA分離:phi6は、COVID-19を含むインフルエンザ様ウイルスを模倣する。これは、脂質二重層にタンパク質がスパイクとして挿入されているエンベロープファージである(これはEM構造から判明している)。Ribostayは、ファージを不活化し、RNAを放出させるのに十分であることが示された。50μLのRibostayを(過酸化物を有しない上記の調合物[20%ACN/10mMクエン酸塩、pH5.6])、等量のファージ粒子(力価不明)に添加した。これを、ピペットで20秒間混合した。一連の試料容量をアガロースゲルに負荷した。結果:Ribostayは、エンベロープをはぎ取り、RNAを放出させ、RNAを安定化させた。放出されたRNAは二本鎖であり、RT-PCR/LAMP試験のための不純物のない鋳型として使用した。
【0182】
(最終濃度)10mMクエン酸ナトリウム(pH5.6)の添加は、抽出を増強し、RNAに良好な安定性を付与した。PCRの前にまたは試料処理の一部としてのいずれで使用される加熱ステップが存在することが多い。0.5%過酸化水素の添加は、抽出収量にほとんど効果を及ぼさなかったが、使用されることが多い加熱ステップである90℃においてRNase分解に対する保護を提供することができることが確立された。
【0183】
実施例9
COVID-19ウイルスのアセトニトリル不活化
一組の実験では、生COVID-19ウイルスをアセトニトリルと混合して、最終濃度を50%v/vにした。アセトニトリルを有する溶液および有しない溶液を、SARS-CoV-2播種ストックに添加してから、VERO E6細胞と共にインキュベートした。インキュベーションは、37℃で48時間だった。感染に成功した細胞を、48時間のインキュベーション後に、スパイクタンパク質染色を使用して測定した。結果は、アセトニトリルを用いない場合、感染率は90%だったことを示した。アセトニトリルを用いると、感染率はゼロで、未感染細胞と同等だった。実験を4回繰り返し、同じ結果を得た。こうした結果は、COVID-19ウイルスまたは他のウイルスと本発明の水混和性溶媒との接触がウイルスの不活化をもたらし、本明細書に記載の方法による生物試料の安全な処理を可能にすることを示す。
【国際調査報告】