(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-26
(54)【発明の名称】網膜への放射線治療装置
(51)【国際特許分類】
A61N 5/06 20060101AFI20230519BHJP
G16H 20/40 20180101ALI20230519BHJP
A61P 27/02 20060101ALN20230519BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
A61N5/06 A
G16H20/40
A61P27/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563019
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(85)【翻訳文提出日】2022-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2021059089
(87)【国際公開番号】W WO2021209298
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】102020110284.4
(32)【優先日】2020-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522404421
【氏名又は名称】サイロメド・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】CIROMED GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】ゲルテン,ゲオルク
【テーマコード(参考)】
4C082
5L099
【Fターム(参考)】
4C082PA01
4C082PA02
4C082PC07
4C082PG05
4C082PG12
4C082PJ11
5L099AA15
(57)【要約】
本発明は、網膜の治療的処置のための装置に関し、患者の眼の前の規定の位置および方向に光学レンズ要素を保持するための保持および位置決め装置と、閉じたまぶたに載置するための照射伝送凹面を有するレンズ要素と、光学レンズ要素と協働して光学レンズ要素を介して治療上有効な照射を網膜に送達する照射源と、により特徴づけられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜の治療的処置のための装置であって、
治療上有効な放射線を照射する少なくとも1つの照射源と、
前記照射源を駆動する制御ユニットであって、所定の照射時間および所定の照射強度で、前記照射源から眼の網膜に、治療上有効な放射線を送達するようプログラムされた制御ユニットと、
を備え、
患者の眼の前の定義された位置および方向で光学レンズ要素を保持するための保持および位置決め装置を有し、前記レンズ要素は閉じたまぶたに載置するための放射線伝送凹面を有し、前記照射源は前記光学レンズ要素と協働して、前記光学レンズ要素を介して網膜に治療上有効な放射線を送達する、
装置。
【請求項2】
前記光学レンズ要素は、前記照射源から前記放射線伝送凹面まで前記放射線を拡散するよう適合された拡散器を備える、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記拡散器は、積分球(Ulbricht-sphere)として、または半透過性材料、特にポリテトラフルオロエチレンの層として、設計される、
請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記レンズは、熱加熱装置または冷却装置を備える、
請求項1から3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
接触面要素のセットを備え、
前記セットのうち1つは前記レンズ要素の前記凹面に取り付け可能であり、
前記セットは、
第1屈折率を有する第1の接触面要素と、
前記第1屈折率と異なる第2屈折率を有する第2接触面要素と、
を備える、
請求項1から4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記保持および位置決め装置は、少なくとも部分的に顔の眼の領域を覆う部分フェイスマスクとして設計される、
請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記部分フェイスマスクは、
頭部のまわりに巻かれたバンドにより、または
ストラップまたはメガネテンプルなどの耳にかける保持要素により、または
吸引カップにより、
患者の顔の所定の位置に保持される、
請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記照射源は、前記保持および位置決め装置により固定され、特に、瞳孔および前記拡散器とともに照射軸の治療位置にある、
請求項1から7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
第2照射源は、照射ベース装置上の前記保持および位置決め装置から離れた位置に配置され、
前記照射は、前記照射ベース装置から前記保持および位置決め装置まで柔軟な照射ガイドにより誘導される、
請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記照射源は、照射ベース装置上の前記保持および位置決め装置から離れた位置に配置され、
前記放射線は、前記照射ベース装置から前記保持および位置決め装置まで柔軟な照射ガイドにより誘導される、
請求項1から7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記凹面は、少なくとも1cm
2の接触面積にわたって、眼または閉じたまぶたに表面的に接触するよう設計されている、
請求項1から10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記レンズ要素は、前記制御ユニットに信号結合され、閉じたまぶたを検出するためのまぶたセンサーを有し、
前記制御ユニットは、前記まぶたセンサーが閉じたまぶたを伝える信号を検出した場合にだけ前記照射装置を作動するよう設計されている、
請求項1から11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記保持および位置決め装置用の受信装置を有するベースステーションを備え、
前記受信装置は、前記レンズ要素を加熱または冷却する加熱手段または冷却手段を備える、
請求項1から12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
入力ユーザインタフェースと、
出力グラフィック情報用のグラフィック出力ユーザインタフェースと、
を備え、
前記制御ユニットは、情報ステップにおいて、前記グラフィック出力ユーザインタフェースを介して後続の治療的処置ステップに関する情報を患者に提示し、前記情報ステップの後に前記治療ステップを実行するようプログラムされ、
照射時間および前記照射強度は、前記入力ユーザインタフェースを介して入力された、および/または前記グラフィック出力ユーザインタフェースを介して出力された治療モードに対応する、
請求項1から13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
前記制御ユニットは、
前記情報ステップと前記治療ステップとの間で、入力ステップにおいて、前記入力ユーザインタフェースを介してユーザ入力を要求し、
所定のユーザ入力の受信した場合に前記治療ステップを開始する、
ようにプログラムされる、
請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記制御ユニットは、
前記入力ユーザインタフェースを介して、ユーザ関連個人情報を受信し、
前記ユーザ関連個人情報に基づいて、前記制御ユニットのユーザIDデータストアからユーザIDを識別し、
前記ユーザIDに応じて、治療プログラムデータメモリ内の前記ユーザIDに対して記憶された所定の治療ステップを実行する、
ようにプログラムされる、
請求項14または15に記載の装置。
【請求項17】
前記入力ユーザインタフェースは、デジタル画像取得ユニットを備え、
前記制御ユニットは、
前記デジタル画像取得ユニットから画像データを受信し、
前記画像データに基づいてユーザIDを決定する、特に、虹彩認証に基づいてユーザの虹彩形状を記述した画像データに基づいてユーザIDを決定する、
ようにプログラムされる、
請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記制御ユニットおよび前記グラフィック出力ユーザインタフェースは、前記照射ベース装置に配置され、
前記照射ベース装置は、前記照射源から照射された前記放射線を患者の眼の前の保持および位置決め装置に保持された前記光学レンズ要素に向けるための照射ガイド装置をさらに備える、
請求項14から17および請求項9から10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
前記制御ユニットは、スマートタブレット、ラップトップ、またはスマートフォンに設けられる、
請求項1から18のいずれか1項に記載の装置。
【請求項20】
前記保持および位置決め装置は、前記保持および位置決め装置だけにより患者の頭部に保持することのできる総重量および寸法を有する、
請求項1から19のいずれか1項に記載の装置。
【請求項21】
前記照射装置は、患者の両目に同時に照射するために、互いに離間した2つのビーム出口方向を備える、
請求項1から20のいずれか1項に記載の装置。
【請求項22】
前記照射装置は、
少なくとも1つの第1光学レンズ、第1光学コリメータ、および/または第1光学フィルタユニット、を含む第1光学系と、
照射路軸に沿って前記第1光学系から離間し、少なくとも1つの第2光学レンズ、第2光学コリメータ、および/または第2光学フィルタユニット、を含む第2光学系と、
を備える、
請求項1から21のいずれか1項に記載の装置。
【請求項23】
前記制御ユニットは、
ユーザに対する第1の治療手順および第2の治療手順のうち少なくとも1つを含む治療計画を記憶および制御し、
ユーザに対する第1の治療手順を制御し、
前記第1の治療手順の完了時刻を記憶し、
前記第1の治療手順の完了時刻から最小期間が経過したという条件の下、第2の治療手順を開始する、
ようにプログラムされる、
請求項1から22のいずれか1項に記載の装置。
【請求項24】
前記制御ユニットは、
前記入力ユーザインタフェースを介して身体状態を特徴づける診断データを受信し、
治療手順の後に、実行された治療手順を特徴づける治療データを生成し、
前記診断データと前記治療データとを含むデータパケットを、データ伝送ユニットを介して専門コンピュータの受信装置に送信し、
前記データ伝送ユニットを介して前記専門コンピュータの伝送装置から命令データを受信し、
前記照射装置を制御して前記命令データにより特徴づけられる治療手順を実行する、
ようにプログラムされる、
請求項14から23のいずれか1項に記載の装置。
【請求項25】
前記制御ユニットは、
前記入力ユーザインタフェースを介して身体状態を特徴づける診断データを受信し、
前記診断データを前記制御ユニットの電子データメモリに記憶された所定の身体状態データと比較し、
記憶された前記身体状態データの1つに対応することに基づいて、前記身体状態データに身体状態を上回るまたは下回る場合に、前記制御ユニットの電子データメモリに記憶された複数の治療手順から後続の治療手順を選択し、
前記照射装置を制御して選択された前記治療手順を実行する、
ようにプログラムされる、
請求項14から24のいずれか1項に記載の装置。
【請求項26】
前記入力ユーザインタフェースは、デジタル画像取得装置を備え、
前記診断データは、治療した組織の画像を記述する画像取得データを含む、
請求項24または25に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投与型放射線治療(dosed irradiation treatment)を用いたフォトバイオモジュレーション(photobiomoculation)による網膜の治療的処置(therapeutic treatment)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変性疾患の治療および組織の他の病変に対する治療的アプローチにおいて、放射線(irradiation)への暴露によりヒトの組織を治療することが科学的に知られており、使用されている。ここでは詳細に考慮されておらず本発明と関連しない腫瘍細胞への放射線治療照射などの硬線(hard rays)による照射に加えて、近年、可視光領域のおよびそれに隣接する波長域の波長を照射することによっても治療効果を達成できることが知られてきている。放射線は、例えば、皮膚組織および皮下組織の創傷治癒など、異なる組織に対して使用される。
【0003】
可視光領域とそれに隣接する電磁放射線(electromagnetic irradiation)(ここでは、400nmから1500nmの波長)による眼、より正確には網膜の治療が特別な応用分野である。網膜の変性疾患の治療に投与型放射線治療を使用することができる。網膜の細胞は、もともと光照射(light irradiation)に敏感であり、特に、誤った量の照射に対して敏感である。発明者の知見によると、光照射に対する暴露時間と照射強度との関係に加えて、波長域、提示モード(例えば、パルス照射または連続照射、入射角、および照射の照射面積)、繰り返し率、および暴露時間(サーカディアンリズム)もまた、所望の治療効果に良くも悪くも影響を与え、またそれを細胞障害効果(cell-damaging effect)に変化させることがある要因である。特にヒトの網膜は、ミトコンドリアが大量に供給されている。ミトコンドリアは、顕著な概日代謝活性を持ち得るため、発明者の知見によると、そのような治療的処置において、1日のうち時間帯によって電磁放射線の特定の周波数に対して異なる感受性を有する。細胞構造の電磁放射線に対する感受性はまた、個人の年齢、個人の体質、または疾患によって異なることもある。さらに、網膜は、ニューロンによって複雑に相互接続しているため(例えば、いわゆるオンオフフィールド(on-off fields)の形式で)、特定の領域への照射が、照射されていない領域または照射量の少ない領域に影響を与えることがある。
【0004】
米国特許第10,219,944号明細書および米国特許出願公開第2016/0067087号明細書から、所定の治療プログラムで眼の網膜の治療を可能にする装置が知られている。この目的のために、治療目的で両目の網膜の照射を実行するために、所定の位置に使用者の頭部を固定し、装置の固定フレーム部分に載置することにより定義された方法で眼の位置と頭部の向きとを固定する特殊な治療装置が提供されている。しかし、この装置の欠点は、治療効果を得るために多くの治療手順(treatment procedure)が必要であり、その特別な構造に起因して治療を実行するために必要な安全性を保証することができるものの、その特殊な構造と関連する製造コストに起因して、例えば患者自身が購入したりレンタルしたりすることにより、1回の治療手順のために患者自身に対して利用可能にするには適さない。そのため、患者は、多くの治療手順のために定期的に入院施設または外来施設に通わなければならない。そのような施設では高い稼働率を達成できるため、そのような装置の取得は経済的である。
【0005】
原則として、患者の労力を軽減し、医療システムにかかる高額な費用を回避することの両方が望ましい。原則として、外来治療または入院治療による治療費用を回避する1つのアプローチは、患者が自分で治療を行えるようにすることであった。しかし、一方で、これはコストの大きい(cost-intensive)装置では実現することができない。なぜなら、そのような装置の取得は、望ましいコスト削減効果に逆行するからである。他方で、誤った操作や不完全な設定などに起因して意図した治療ではなく組織の損傷を引き起こし得るそのような治療は、通常家庭での使用には適していない。
【0006】
米国特許第10,219,944号明細書および米国特許出願第2016/0067087号明細書から知られている、患者の頭部の設定および定義された位置決めのための照射装置は、入院治療センターまたは外来治療センターでの使用に適した装置であり、その装置の取得は、治療手順の間隔がより長い多数の患者による使用によく適している。しかし、経済的な理由とこれらの装置に要する調整およびサポート作業のために、医師は、治療手順の間患者に付き添わなければならず、したがって、装置は、コスト削減に適さないと同時に、間隔を空けて複数回の治療手順を実施する長期間にわたる技術的におよび医療的に安全な治療手順には適さない。
【0007】
網膜の放射線治療用の別の装置が、国際公開第2018/224671号から知られている。この装置は、一方で、メガネのフレームのように患者が着用する特製の装置からなるシステムである。照射源(irradiation source)は、メガネのフレームに取り付けられ、治療用システムに属する別の制御ユニットにより制御される。この装置はまた、一方は特殊な制御装置であり、他方は照射源を有する特殊なメガネ型の治療装置である、購入される2つの治療装置から構成される特殊な装置でもある。ここでも、経済的に効率的で、同時に医療的に安全な、時間的に間隔を空けた複数の治療手順を有する長期的な治療の実施は不可能である。
【0008】
ヒトの眼の治療用の照射装置はまた、米国特許出願公開第2016/0158486号明細書から知られている。この文書で教示されている装置は、非常に多様な設計を特徴としており、一方では装置を眼の近くまたは眼の中に装着することができる。さらに、実施の形態として、まぶたへの接触もまた想定されることが説明されている。しかし、この既知の教示の欠点は、装置の構造と有効な効果のために不可欠な構成要素の配置についての情報がないことである。さらに、装置は、放射線の遠隔伝送(distant transmission)に基づいているため、好ましくない伝送率を達成し、好ましくない熱硬化を受容しなければならない。
【0009】
スキーゴーグルのように装着する別の照射装置が米国特許出願公開第2013/0304162号明細書から知られている。この場合、空気を介して開いた眼への遠隔放射線伝送に依存しており、これは、一方では治療中に回避できない眼の動きへの依存をもたらし、他方ではまぶたを閉じることにより照射強度および総照射量の不正確な投与しか達成することができない。
【0010】
米国特許出願公開第2017/0333729号明細書および米国特許出願公開第2019/0232078号明細書から、睡眠マスク(sleep mask)と同様の構造を有する両目用のβ線照射装置が知られている。これらの装置は、照射強度の信頼性のある投与量も総照射量の信頼性のある投与量も提供しないため、治療に付随する手段としては適しているが、照射方向についても照射投与量についても必要な制度を保証するものではないため、治療効果のある照射装置として使用することはできない。
【0011】
眼のための照射装置が米国特許出願公開第2020/008135号明細書から知られており、これは、放射線の拡散配向(diffuse alignment)を伴う複数の光源からの空気を介した伝送の原則に基づいている。この照射装置では、病変組織領域の治療的目標を治療することはできず、この装置は、大きすぎて扱いづらく、ユーザが快適に持ち運んだり、より長い治療期間を過ごすことができない。
【0012】
治療用放射線による放射線に敏感な組織の治療における技術的な問題は、放射線への暴露が大きすぎると、意図した治療効果ではなく組織に損傷を与える可能性があることである。このような高すぎる放射線暴露は、一方で、高すぎる照射源の照射強度により、または長い暴露時間に起因して照射源と網膜との距離が短すぎることにより、または暴露の繰り返し率が短すぎることにより、またはこれらの原因の組み合わせにより引き起こされ得る。したがって、概して、そのような治療的放射線治療は、これらの損傷の原因、すなわち、調整不良、操作不良、制御不良を確実に防止する特殊な装置で実行することができ、対応する安全装置がその装置で利用可能である場合にのみ、対応する承認機構(approval authorities)により治療が承認されることが多い。他方で、特定の操作ミスが装置自体により排除できない場合、治療中に定期的に医学的管理(medical supervision)が必要である。両方の効果は、時間的に間隔のあいた複数回の治療手順で長期間にわたる治療の経済的な実施には不利であり、より経済的であると同時に安全な方法で使用することのできる装置を技術的に開発する場合に、問題を引き起こす。
【0013】
このような背景から、本発明の課題は、既知のシステムよりも経済的に、時間的に間隔を空けた複数回の治療手順で長期間の治療を実行することができると同時に、組織の損傷につながる誤った治療を回避するための技術的安全性を確実に確保することができる、網膜組織の放射線治療用の装置システムを提供することである。
【0014】
この課題は、請求項1による特徴を有する装置を提供することにより、本発明によって解決される。
【0015】
本発明によると、放射線による網膜の治療的処置に使用される装置が提供される。装置は、一方では照射源を備え、他方ではこの照射源を制御する制御ユニットを備える。この制御は、主に照射時間および照射強度を制御するためのものである。しかし、治療方法に依存して、照射頻度(照射周波数:irradiation frequencies)および照射スペクトル(irradiation spectra)などの他のパラメータもまた制御することができる。照射源および制御ユニットは、1つのハウジングに統合されてもよいし、別々に配置されてもよい。信号伝送は無線または有線で行うことができる。
【0016】
本発明は、網膜の放射線治療、すなわちフォトバイオモジュレーション(PBM)が、最適な効果を発揮し、標的組織の代謝状況、すなわち対処すべき網膜の対応する細胞に適合する場合にのみ、効果的であり得るという認識に基づくものである。加齢黄斑変性症(AMD)の治療において、何よりもミトコンドリアのサーカディアンリズムを考慮する必要がある。AMDに対するPBM治療は、特に効果的であり、照射が午前中に、および好ましくは毎日実行される場合にのみ効果を発揮することもある。原則として、自宅で行う場合にのみ、現実的で実現可能である。本発明による治療装置は、毎日午前中に照射量を患者に提供するのに役立つ。本実施の形態では、横になっている患者に使用することに特に適しており、患者は朝起床する前に治療を実施することができる。寝たきりの患者または一般的な病気の患者のPMB治療もまた可能である。
【0017】
本発明にかかる装置は、保持および位置決め装置を備える。この保持および位置決め装置は、本発明の一部でありこの保持および位置決め装置に接続される光学レンズ要素を、患者の眼の前に位置決めするのに役立つ。患者の眼に治療用放射線を導入するために対物レンズ(objective element)が使用される。この目的のために、患者の眼の前の特定の位置および特定の方向に対物レンズを保持しなければならず、この位置および方向を治療中に確実に維持しなければならない。放射線の配向(alignment)および位置決め(positioning)を達成するために患者の頭部を全体として位置決めする装置が、この目的のために先行技術から知られている。ゴーグルに似た補助装置もまた知られており、これは、放射線の特定の軸合わせと位置決めとを確実にすることを意図している。しかし、これらの装置は、例えば、医学的に訓練された人員による監督なしに患者が自宅で使用する場合にも、必要な安全性のもとで網膜への安全な照射が不可能である、という欠点があることが示されている。特に、異なる眼の距離に起因して、視覚異常の可能性、または両目の視軸に対する軸方向に正確な位置決めおよび配向の維持の問題に起因して、患者に特有の位置決めおよび配向には問題点がある。
【0018】
この問題は、本発明にかかる装置で克服される。一方では、保持および位置決め装置は、眼の前の規定された位置および方向にレンズ要素を保持する役割を担う。他方では、レンズ要素は、眼の凸面に適合した放射線透過性の凹面を有する。一方で、この適合は、凹面を患者の眼に直接載置できるようにするのに役立ち、好ましくは、凹面は、まぶたの閉じた表面に載置されるよう幾何学的に適合される。治療中に、第1の効果として、この凹面がレンズ要素の確実な位置決めおよび配向を保証する。同時に、第2の効果として、放射効果的結合(irradiation-effective coupling)による眼またはまぶたへの直接支持により、放射の効果(impact of the irradiation)もまた達成される。レンズ要素の凹面の接触面は、好ましくは、まぶたの表面形状に適合することができる。まぶたの表面の形状は、患者ごとにわずかに異なり、また、閉じたまぶたの下で見る方向によって個人内(intra-individually)でも変化する。この適合性は、例えば、ソフトコンタクトレンズのように、レンズ要素自体の弾力性によって、実現することができる。また、適合性は、ゲルなどの方法で、硬いレンズ要素と弾力性のある中間層とにより実現することができる。
【0019】
また、レンズ要素の凹状の接触面によりまぶたとレンズ要素との間の温度伝導(temperature conduction)が可能になり、それにより、照射による不快な加熱を補償して、患者にとってより快適な治療を可能にする、という利点がある。
【0020】
したがって、本発明にかかる装置は、まぶたが開いているときに瞳孔の開口および眼球の水晶体を介した直接照射を達成する目的の既知の装置に対し、まぶたでのレンズ要素の直接的な機械的支持に起因して、より正確な位置決めおよび配向とともに眼へのより好ましい照射結合を達成する点で、決定的な利点を達成する。
【0021】
少なくとも1つの照射源は、0.01mW/cm2(=0.1W/m2)より大きい、0.025mW/cm2より大きい、0.05mW/cm2より大きい、0.2mW/cm2より大きい、または0.5mW/cm2より大きい照射強度で、治療上有効な放射線を照射することができる。これにより、まぶたを開いた状態で治療のために十分な照射量を提供する。照射源が、閉じたまぶたを介しての治療に特に適する、0.1mW/cm2よりも大きい照射強度で照射を行うことが特に好ましい。この文脈では、それぞれの場合における照射強度は、網膜までの発散または収縮に起因して弱まるかまたは強まることのある、特に、まぶたにおけるまたは出口面と網膜との間に存在する他の組織部分における吸収効果によって低減することがある、出口面において装置の出口面から存在する照射強度であると理解されるべきである。
【0022】
原則として、照射強度のこのような下限で治療効果のある治療を達成することができる。照射強度は、好ましくは、0.1mW/cm2未満、0.5mW/cm2未満、または10mW/cm2未満、特に、1mW/cm2未満、または5mW/cm2未満で、照射時間は100sまでを維持し、それにより、眼自体とまぶたの皮膚との両方に対する許容照射効果を超えないようにすることができる。許容照射時間と許容照射レベルとの関係は、通常の科学的基準に従っていると理解されるべきである。
【0023】
少なくとも1つの照射源は、450nmから1500nmの波長域、好ましくはこのスペクトル内の4つの異なる波長域において、治療効果のある放射線を照射することができる。これら4つの異なる波長域は、450nmから500nm、570nmから600nm、610nmから730nm、および790nmから890nmの間であってもよく、および、同時にまたは時間差で適用されてもよい。特に、コア波長として2つの波長域のみを使用することができ、好ましくは、850±15nmの他に付近670±15nm付近および810±15nm付近の波長域を使用することができる。
【0024】
少なくとも1つの照射源は、1μWから10μW、好ましくは、100μWから1W、および理想的には1mWから100mWの電力で放射線を照射することができる。ここで、電力とは、照射源、例えば照射源として使用されるダイオード、の出力電力として理解されたい。
【0025】
レンズ要素は、複数の光学活性要素(optically active elements)から構成されてもよいし、または単一の光学活性要素により形成されてもよい。レンズ要素の凹面は、眼、または閉じたまぶたの形状に適合し、したがって、通常5mmから50mm、理想的には10mmから100mmの半径を有する。凹面は、異なる半径を有する複数のセグメントから構成されてもよいし、平面部を含んでもよい。上述したように、異なる半径に表面を適合させることが好ましい。特に、対物レンズの凹面はまた、再利用可能なまたは使い捨ての剥離ライナー(release liner)とて使用される衛生フィルムまたは衛生剥離ライナーをそこに取り付けて、装置の身体接触面の良好な衛生状態および滅菌性(sterilisability)を可能にすることができるような、形状および半径を有してもよい。
【0026】
凹面が閉じたまぶたに載るように設計された好ましい実施の形態において、患者もまた、まぶたを閉じているため治療中に目を動かすことに関連する理由がなく、治療効果および信頼できる照射が達成される。これらの利点は、閉じたまぶたを介して放射線がある程度減衰およびフィルタリングされるという欠点を上回り、全体としてより安全でより信頼性の高い治療方法を達成し、特に、患者による家庭での使用に適している。
【0027】
本発明の代替的なまたは好ましい態様によると、光学レンズ要素は、照射源からの放射線を放射線透過性(irradiation-transmissive)凹面に拡散するよう構成された拡散器(diffuser)を備える。この実施の形態によると、レンズ要素は、拡散器を備える。この拡散器は、レンズ要素自体を構成する、またはレンズ要素の一部である、眼またはまぶた表面に載せられた要素により直接形成されてもよい。しかし、拡散器をレンズ要素の他の場所に配置することもできる。この文脈で、拡散器は、例えば、光学散乱または屈折により分布効果(distribution effect)を実現する光学活性要素であると理解されている。これは、例えば、光学要素としての、散乱素子、ホログラム、レンズ、またはライトガイド(light guide)などであってもよい。このような拡散効果の典型例として、結晶構造または半結晶構造を有する透過性材料によって達成されるような、すりガラス板(frosted glass pane)と同様の光学的効果がある。拡散効果により、治療に適した照射分布を達成する。一方で、より大きな照射面が、時間的(punctual)照射および/または指向性(directed)照射から生成されるように、および/または、無指向性(undirected)照射の意味での拡散が、場合によっては好ましい方向を伴って、そこから生成されるよう、この分布を設計することができる。
【0028】
拡散器は、積分球(integrating sphere)として、または半透過性の材料、特にポリテトラフルオロエチレンの層として設計されると、さらに好ましい。本発明者らの知見によると、拡散器のこれらの特定の実施の形態は、本発明にかかる装置への統合に特に適しており、治療目的に有利な拡散効果を達成することが判明している。
【0029】
レンズが熱加熱装置または冷却装置を備えていると、さらに好ましい。このような加熱装置または冷却装置により、一方では患者にとって快適な接触面の温度を達成することができ、他方では眼またはまぶたからの温度流出(temperature outflow)および対応する温度の流入(temperature inflow)を回避することができる。特に、治療中に発生する温度の影響を補償し、放射によるレンズ要素の加熱を回避するために、加熱装置または冷却装置を、まぶたまたはレンズ要素において一定の温度を設定する制御ユニットに接続することができる。
【0030】
本発明のさらなる実施の形態は、それぞれレンズ要素の凹面に取り付け可能な接触面要素のセットを備える。そのセットは、第1屈折率を有する第1接触面要素と、第1屈折率と異なる第2屈折率を有する第2接触面要素と、を備える。このさらなる開発により、レンズの屈折率を変化させて照射される組織材料に適合させることができる可能性が発生する。これにより、閉じたまぶたに効果的に結合させてレンズ要素の過剰な加熱を避けるために特に有利であることが判明した。接触面要素は、レンズ要素の出口面に接着できる箔として設計することができる。
【0031】
保持および位置決め装置が、顔の眼の部分を少なくとも部分的に覆う部分フェイスマスクとして設計されていると、さらに好ましい。保持および位置決め装置がこのように設計されていることで、一方では、本発明にかかる装置の患者による快適な装着を可能にするが、他方では、位置決めおよび配向の目的に対して十分な精度を確立し、特に、レンズ要素の凹状接触面によって、それに基づく正確な配向および位置決めを可能にする。特に、ここでは、レンズ要素の第1の基本的な位置決めおよび配向が、保持および位置決め装置により達成されるが、レンズ要素自体の凹面のフォームフィット(form-fit)効果に基づいて第2の正確な配向および位置決めを可能にするために、レンズ要素自体は、制限内で移動できるよう保持および位置決め装置に依然として取り付けられていることが好ましい。
【0032】
特に、部分フェイスマスクは、眼に隣接する皮膚表面に載るよう設計することもでき、ここでは、例えば、メガネのフレームとして知られているように皮膚表面の下の骨の輪郭により基本的なフォームフィットの位置決めを達成する。
【0033】
特に、ストラップまたはメガネのストラップなどの頭部の周りに案内されるストラップ、または耳の周りに案内される保持要素により、または吸盤(suction cup)により、部分フェイスマスクが、患者の顔の所定の位置に保持されると、さらに好ましい。これらの固定手段および位置決め手段により、基本的な配向および位置決めのために十分な患者への良好な固定および保持が達成される。
【0034】
さらなる好ましい実施の形態によると、照射源が保持および位置決め装置に取り付けられ、特に、瞳孔および拡散器とともに照射軸における治療位置にあることが提供される。本実施の形態によると、照射装置は、保持および位置決め装置に直接配置または固定される。したがって、患者はこの位置決めおよび保持装置を快適に装着することができ、顔の外側にある外部装置への接続を必要としない。軸に沿った網膜の方向に偏向することなく直接放射線伝播を達成するために、照射源は、瞳孔および拡散器との照射軸に位置することがここでは好ましい。
【0035】
さらに、照射ベース装置上の保持および位置決め装置から少し離れて、第2照射源を配置することにより、および、柔軟照射ガイド(flexible irradiation guide)により照射ベース装置から保持および位置決め装置まで照射を誘導することによりさらに形成されていると、さらに好ましい。本実施の形態によると、保持および位置決め装置に直接配置された照射源に加えて、保持および位置決め装置から離間した追加の第2照射源も提供される。第2照射源の照射は、例えばグラスファイバー線などの照射ガイド(irradiation conductor)によって対物レンズに伝導される。治療用放射線は、第1照射源および第2照射源により構成され、それにより、網膜に同時に相加的に作用することも、交互に作用することもできる。
【0036】
代替の実施の形態によると、照射源は照射ベースユニット上に保持および位置決め装置から少し離れて配置され、柔軟照射ガイドにより照射ベースユニットから保持および位置決め装置まで照射が誘導される。本実施の形態によると、照射装置が保持および位置決め装置に配置および固定されていないので、保持および位置決め装置を計量でコンパクトなユニットとして設計することができる。代わりに、照射源は、保持および位置決め装置から離間した、例えば卓上ユニットの形態の、および、患者が身体に取り付けたり装着したりしなくてよい、照射ベースユニットに配置される。この照射ベースユニットから、照射ガイドにより対物レンズに医療用放射線が誘導される。このような照射ガイドを、シングルコアまたはマルチコアのライトガイド配置として設計することができる。特に、左眼および右眼に照射し、それに応じて左眼および右眼のための2つの別々のレンズ要素に照射を適用するために、別々の照射ガイドを提供することもできる。これにより、一方では、照射ガイドを介して送られる放射線パワーの効率的な投与が可能になり、他方では、ユーザの両目に対して、必要に応じて異なる治療用放射線を個別に適用することもできる。
【0037】
さらに好ましい実施の形態によると、少なくとも1cm2の接触領域にわたって眼または閉じたまぶたの上に平らに接触するよう凹面が設計されている。この設計により、凹状支持面により1cm2の最小領域で平らな支持を達成する。これにより、十分広い領域に治療上有効な放射線を適切に結合することができ、高い放射線濃度による好ましくない照射効果を回避することができる。同時に、この最小サイズの接触面により対物レンズの安全で確実な位置決めが達成され、これは、照射軸の正確な配向および位置決めに対しても有利である。
【0038】
装置は、閉じたまぶたを検出するための制御装置に信号結合された(signal-technically coupled)まぶたセンサーによりさらに進歩することができ、制御ユニットは、まぶたセンサーが閉じたまぶたを示す信号を送信した場合にのみ照射装置を作動させるよう設計される。この目的のために、センサーは、様々な物理的特性を使用してもよく、例えば、皮膚抵抗/導電率、接触圧、または反射率の違いなどを測定するための電気化学的、機械的、または光学的要素を含んでもよい。この実施の形態によると、装置は、患者のまぶたが閉じているか開いているかを検出するよう適合されたまぶたセンサーを備える。そのようなまぶたセンサーは、様々な方法で設計することができ、例えば、凹状接触面を起点として熱伝導を測定し、この熱伝導に基づいて、閉じたまぶたに対する平面的な接触の有無を判定することができる。センサーは、レンズ要素を載置する組織表面の導電率を測定し、これにより、この組織表面が閉じたまぶたの表面であるかを判断することができる。まぶたセンサーは、閉じたまぶたまたは開いたまぶたを検出するための画像評価を伴う画像取得ユニットとして設計することもできる。まぶたセンサーは、まぶたの反射または眼の表面の反射を互いに区別することができ、このようにして閉じたまぶたを検出することができるライトバリア(light barrier)として設計することもできる。まぶたセンサーは、制御装置に信号結合されている。これにより、制御装置は、まぶたセンサーからの信号に応じて放射線への暴露を制御することができる。このようにして、例えば、まぶたが閉じていない場合に眼への過度の照射が実行されることを回避して、治療用放射線の過剰投与を回避することができる。
【0039】
代替的に、またはそのようなまぶたセンサーに加えて、レンズ要素は、閉じたまぶたの機械的閉塞(mechanical blockage)を提供するよう構成されてもよく、それにより、装置が使用されているときにまぶたが開かないようにする。これは、例えば、凹状接触面がまぶたにフォームフィット接触するよう設計され、そのようなフォームフィット接触においてまぶたが開く動きを阻止することにより達成することができる。
【0040】
装置はさらに、入力ユーザインタフェースと、出力グラフィック情報用のグラフィック出力ユーザインタフェースと、をさらに備えていてもよく、制御ユニットは、情報ステップにおいて、グラフィックユーザインタフェースを介して後続の治療的処置での患者情報を表示し、情報ステップの後に治療ステップを実施するようプログラムされ、照射時間および照射強度は、入力ユーザインタフェースを介して入力される治療モードおよび/またはグラフィック出力ユーザインタフェースを介して出力される治療モードに対応する。この実施の形態によると、本発明による装置は、入力および出力ユーザインタフェースも備え、それらは、例えば、タッチスクリーン、キーボードおよびスクリーン、音声認識、および音声出力など、およびそれらの組み合わせなどであってもよい。これらのインタフェースを介して、一方では、ユーザが治療に関するデータを入力することができ、他方では、治療に関する情報をユーザに対して出力することができる。さらなる開発は、装置をユーザによる家庭での使用に適したものにし、医学的に訓練された人員がいなくても装置を使用できるよう、インタフェースを介して安全に関する入力および出力をすることができるようにするのに特に適している。
【0041】
制御ユニットが情報ステップと治療ステップとの間の入力ステップにおいて、入力ユーザインタフェースを介してユーザの入力を要求し、所定のユーザの入力を受信した後、治療ステップを開始するようプログラムされていると、特に好ましい。情報ステップの後かつ治療ステップの前のユーザによるそのような入力は、ユーザに対して安全性の促進と確認とを提供し、したがって治療の誤操作または誤開始を回避することができる。
【0042】
制御ユニットが入力ユーザインタフェースを介してユーザ関連個人情報を受信し、このユーザ関連個人情報に基づいて制御ユニット用のユーザIDデータメモリからユーザIDを識別し、このユーザIDに応じて治療プログラムデータメモリ内のこのユーザIDに格納された所定の治療ステップを実行する。この実施の形態によると、ユーザIDは、治療開始前に決定される。特に、これにより、治療が意図された患者に対してのみ実行され、他の人物に対しては行われないことを保証する。例えば、パスワード、指紋、虹彩認証、などに基づいてユーザIDを決定することができる。特に、まぶたが開いているか閉じているかを検出するよう設計されたまぶたセンサーを使用して、同時に虹彩認証に基づいてユーザIDを決定すると、好ましい。
【0043】
この文脈において、入力ユーザインタフェースがデジタル画像取得ユニットを備え、制御ユニットがデジタル画像取得ユニットから画像データを受信し、画像データに基づいてユーザIDを決定すること、特に、虹彩認証に基づいてユーザの虹彩形状を表す画像データに基づいてユーザIDを決定することが、好ましい。
【0044】
さらに、本発明による装置を、照射ベース装置に制御ユニットとグラフィック出力ユーザインタフェースとを配置することによって継続することが好ましい。照射ベース装置は、照射源により、患者の眼の前の保持および位置決め装置に保持された光学レンズ要素に照射される放射線を検出するための放射線検出装置をさらに備える。この実施の形態によると、制御ユニットとグラフィック出力ユーザインタフェースとは照射ベース装置に配置され、したがって、本発明による装置のおそらく2つだけの構造ユニットのうち1つに一体的に設計される。これにより、一方ではコンパクトな構造であり、他方では扱いやすい装置を達成する。
【0045】
さらに、制御装置がスマートタブレット、ラップトップ、またはスマートフォンの形態であると、好ましい。この実施の形態によると、制御ユニットは、スマートフォン、スマートタブレット、またはラップトップなどにおいてアプリケーションとして実行されるソフトウェアにより実現することができる。
【0046】
保持および携帯装置が、携帯装置単体で装置を患者の頭部に保持することのできる総重量および寸法を有していると、さらにより好ましい。この実施の形態によると、本発明による装置を患者の頭部に快適に装着することができ、患者は、装置を装着して移動して、体勢を変えることができ、それにより、快適な治療状況を確立することができる。
【0047】
患者の両目を同時に照射するために、照射装置が互いに離間した2つのビーム出口方向を備えていると、さらに好ましい。これにより、両目を同時に治療することができ、したがって、治療時間を短くすることができる。両目への治療用放射線は単一の照射源から発生し、適切なビーム分割により両目に分配されるようにすることができる。代替的に、2つの異なる照射源を使用してもよく、それにより、それぞれの照射源を片目に照射してもよい。
【0048】
片目または両目を同時に治療できるよう、ビームスプリッタまたは少なくとも2つの独立したビーム源により照射を設計することができる。この目的のために、眼は、光学的な分離により互いに分離されている。照射パラメータおよび両目の照射頻度(照射周波数:irradiation frequency)は、異なる設計が可能である。これにより、患者は、数日間の治療期間にわたって一貫したルーチンを維持し、毎朝治療手順を実行することができる。目を、同じ方法でまたは異なる方法で照射するよう、制御ユニットにより照射を実行することができる。例えば、対応する有効な治療波長(または他のパラメータ)で一方の眼を2日ごとにのみ照射することができ、他方の眼には、例えば、可視スペクトル内の治療上無効な波長、または治療上無効な放射線強度などの、治療上有効な放射線量ではない照射をすることができる。このようにして、ある種のプラセボ効果も的を絞って使用することができる。
【0049】
さらに、照射装置が、少なくとも1つの第1光学レンズ、第1光学コリメータ、および/または第1光学フィルタユニットを含む第1光学系と、照射路軸(irradiation path axis)に沿って第1光学系から離間し、少なくとも1つの第2光学レンズ、第2光学コリメータ、および/または第2光学フィルタユニットを含む第2光学系と、を備えていることが好ましい。この実施の形態によると、照射装置は、患者の両目を同時に照射するよう設計され、この目的のために、対応する光学装置が両目のそれぞれに設けられる。特に、例えば、頻度(周波数:frequency)、照射強度、または他の照射パラメータに関して、異なる治療放射線で両目を治療することも可能になる。
【0050】
制御ユニットがユーザに対する第1および第2の治療手順のうち少なくとも1つを含む治療計画を記憶および制御し、ユーザに対する第1の治療手順を制御し、第1の治療手順の完了時刻を記憶し、第1の治療手順の完了時刻から最小期間が経過したという条件の下、第2の治療手順を開始するようプログラムされていると、さらに好ましい。このさらなる発展の形態によると、より長い期間にわたって知的でかつ同時にエラー防止の治療手段を実行し、また、いくつかの個々の治療ステップを、時間的に間隔を空けて実行するようプログラムされている。この場合、適切なプログラミングにより、2つの治療ステップまたは治療手段が互いに短い時間間隔で実行されないようにして、過剰な照射により眼を損傷したり、少なくとも治療の成功を脅かすことがないようにする。これは、所定の最小期間を設けて、この最小期間に到達していない場合に後続の照射を許可しないことにより達成される。
【0051】
さらに、制御ユニットを、入力ユーザインタフェースを介して、身体状態を特徴づける診断データを受信し、治療手順の後に実行した治療手順を特徴づける治療データを生成し、データ伝送ユニットを介して、診断データおよび治療データを含むデータパケットを専門コンピュータ(expert computer)の受信装置に伝送し、データ伝送ユニットを介して専門コンピュータの伝送装置から命令データを受信し、そして、命令データにより特徴づけられる治療手順を実行するために照射装置を制御することが、好ましい。この実施の形態によると、装置は、一方では診断データを受信することができ、他方では治療データを生成することができ、データ伝送ユニットを介してこれらのデータを転送することができる。したがって、装置により実行された、または実行される予定の治療に関連する関連データを医学的に訓練された人員により監視および操作される専門コンピュータと直接交換することができる。このようにして、治療の進捗、治療の成功を監視することができる。この高度な訓練は、患者による家庭での使用に対して本発明による装置を特に適したものにするために特に有利である。また、さらなる発展により、専門コンピュータから装置での治療手順を制御することができ、したがって、治療担当医師がそのような治療手順を遠隔制御することができるようになる。
【0052】
さらに、制御ユニットが、入力ユーザインタフェースを介して、身体状態を特徴づける診断データを受信し、診断データを制御ユニットの電子データメモリに記憶された所定の身体状態データと比較し、記憶された身体状態データの1つとマッチしたことに基づいて、制御ユニットの電子データメモリに記憶された複数の治療手順から後続の治療手順を選択し、身体状態データにより定義された身体状態を上回るまたは下回る場合に、制御ユニットの電子データメモリに記憶された複数の治療手順から後続の治療手順を選択し、照射装置を制御して選択された治療手順を実行することが、好ましい。この実施の形態によると、制御装置は、受信した診断データに基づいて、例えば、手動で入力することにより、または画像評価により画像取得装置から分析されることにより、健康状態を記述する患者の特性の変化を検出し、それに依存して、さらなる治療ステップを選択するようプログラムされる。このようにして、部分的な成功が達成されたという意味での治療の進捗に応じて、さらなる治療を設計することができる。この場合、例えば、選択可能な複数の異なる治療ステップから、さらなる治療に対する適切な治療ステップを選択し、実行することができる。また、異なる治療ステップで達成された治療の成功の比較に基づいて、最良の結果を達成する治療ステップを選択することもでき、この治療ステップで治療を継続することもできる。
【0053】
入力ユーザインタフェースが、デジタル画像取得装置を含み、診断データが治療した組織の画像を記述する画像取得データを含むと、さらに好ましい。そのような実施の形態において、デジタル画像取得装置は、網膜組織の画像を含む画像取得を実行し、それにより、対応する画像評価により治療結果を直接分析することができる。これにより、特定の治療ステップの成功を直接評価することができ、そのような評価に基づいて、特定の、成功した治療ステップの選択など、さらなる治療ステップの計画を実行することもできる。
【0054】
本発明の好ましい実施の形態について、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【発明を実施するための形態】
【0056】
まず
図1を参照すると、患者は、眼を閉じて保持装置としてメガネ状の保持ブラケット12a、12bによって眼の前の位置に保持された状態で、フェイスマスク10として本発明による装置を装着している。フェイスマスク10は、フェイスマスク10を装着した状態の眼の軸方向において、右眼および左眼のそれぞれに、1つの右レンズ要素20および1つの左レンズ要素30を備える。6つの右照射源21および6つの左照射源31は、これらのレンズ要素のそれぞれに組み込まれている。これらの照射源のそれぞれは、照射された放射線の反射を検出し、参照値と比較するセンサと一体になっており、これに基づいて、マスクに組み込まれた制御ユニット12がそれぞれのまぶたが閉じているか開いているかを判定することができる。
【0057】
本実施の形態による装置は、フェイスマスクに配置された充電式電池11a、11bを対応する接点により充電するために、フェイスマスクをアダプタ41に挿入可能なベースステーション(base station)40をさらに備える。ベースステーション40またはフェイスマスクは、さらにスマートフォン50に接続される。したがって、スマートフォンは、フェイスマスク10の制御ユニットに内蔵された受信機とBluetooth(登録商標)接続により信号接続されている。スマートフォンの対応する制御ソフトウェアは、スマートフォンのユーザインタフェースを介して操作することができ、レンズ要素20、30内の照射源を介して照射プロセスを制御する。
【0058】
図2は、本発明の実施の形態2を示す。この実施の形態においても、フェイスマスク110は、眼に配置され、右眼および左眼の軸方向に対応するレンズ120、130を備える。しかし、この場合、レンズ要素120、130はフェイスマスク自体に照射源を備えていない。代わりに、ライトガイド141a、142aを介してフェイスマスクに接続されるベースステーション140に、それぞれ1つの照射源141、142が設けられている。ベースステーション140の照射源141、142は、放射線を照射する。放射線は、ライトガイド141a、142aを介してフェイスマスク110に誘導され、そこで2つのレンズ要素120、130に誘導されて結合し、それにより、網膜の治療的照射を効果的に行うことができる。
【0059】
第2の実施の形態のベースステーション140は、さらに独自のユーザインタフェース145を備える。それを介して、患者は装置を操作することができ、特に、照射強度および照射時間などの照射パラメータを設定することができる。
【0060】
図3は、本発明の実施の形態3を示す部分断面側面図である。この第3の実施の形態においても、フェイスマスク210は顔に適用される。フェイスマスクは、結像レンズ221と閉じたまぶた2に向かって凹状支持面(concave bearing surface)223を有する拡散器222とを含むレンズ要素220を備える。この凹状支持面223は、この閉じたまぶたに直接載置され、まぶたへの照射を結合する。この照射はまぶたを透過し、水晶体3を介して眼1の網膜4に到達し、そこで治療効果を達成する。
【0061】
フェイスマスク210において、照射源224a~224dは拡散器222のすぐ上に配置され、拡散器222に放射線を照射し、凹面223を介してまぶたに照射され、そこから網膜に到達する。
【0062】
さらに、この実施の形態において、外部照射源227が存在し、これは、ライトガイド228を介してフェイスマスクに接続されている。外部照射源227により照射された放射線は、ライトガイド228を介してレンズ要素220に結合され、拡散器222に入り、凹面223を介して網膜に到達する。
【0063】
外部照射源227は、実施の形態1のように、フェイスマスク210のエネルギー蓄積装置を充電するための電気接点素子を有するレセプタクルを備えるベースステーション240に配置される。
【国際調査報告】