(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-26
(54)【発明の名称】心臓弁プロテーゼ、それによる人工弁及び製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20230519BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20230519BHJP
D03D 5/00 20060101ALI20230519BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20230519BHJP
D03D 15/56 20210101ALI20230519BHJP
【FI】
A61F2/24
D03D1/00 Z
D03D5/00 Z
D03D15/283
D03D15/56
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563216
(86)(22)【出願日】2021-04-16
(85)【翻訳文提出日】2022-12-16
(86)【国際出願番号】 CN2021087826
(87)【国際公開番号】W WO2021209046
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】202010306006.7
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522406632
【氏名又は名称】山前(珠▲海▼)生物材料科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘニフォード、リャン
(72)【発明者】
【氏名】肖 家▲華▼
【テーマコード(参考)】
4C097
4L048
【Fターム(参考)】
4C097AA27
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC14
4C097EE03
4C097EE08
4C097EE09
4C097EE11
4C097FF12
4C097FF15
4C097SB09
4L048AA15
4L048AA20
4L048AA24
4L048AA26
4L048AA51
4L048AB06
4L048AC12
4L048BA01
4L048BD05
4L048CA00
4L048CA04
4L048DA22
4L048EA00
4L048EB00
(57)【要約】
心臓弁プロテーゼ、それによる人工弁及び製造方法である。心臓弁プロテーゼは管状構造の支持部材(1)と、支持部材(1)の内壁に接続された少なくとも2つの弁葉体(2)と、を含み、支持部材(1)は対向する両側に織り縁部を有する外層織物(12)と、外層織物(12)の残りの両側を互いに固定して管状構造にする縫合糸(13)と、を含み、各弁葉体(2)は少なくとも1層の弁葉層を積層してなるものであり、弁葉体(2)の対向する両側がそれぞれ交絡側と自由側であり、交絡側は編組技法によって外層織物(12)の2つの織り縁部の間に固定され、自由側は織り縁部である。該心臓弁プロテーゼは、応力疲労が生じにくいので、耐用年数を効果的に延ばし、弁葉体の様々な形状の設計要求を応えることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状構造の支持部材(1)と、支持部材(1)の内壁に接続された少なくとも2つの弁葉体(2)とを含む心臓弁プロテーゼであって、
前記支持部材(1)は、対向する両側に織り縁部を有する外層織物(12)と、外層織物(12)の残りの両側を互いに固定して管状構造にする縫合糸(13)と、を含み、
各弁葉体(2)は少なくとも1層の弁葉層を積層してなるものであり、前記弁葉体(2)の対向する両側がそれぞれ交絡側と自由側であり、前記交絡側は編組技法によって外層織物(12)の2つの織り縁部の間に固定され、前記自由側は織り縁部であることを特徴とする心臓弁プロテーゼ。
【請求項2】
各弁葉層はいずれも内側経糸(21)と内側緯糸(22)を交差させて編み込み上げたものであり、前記弁葉体(2)の交絡側は弁葉層の内側緯糸(22)を介して外層織物(12)に編まれて固定され、前記内側経糸(21)は内側緯糸(22)に編まれることを特徴とする請求項1に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項3】
各弁葉層の内側緯糸(22)を構成する糸が1本であり、各弁葉層の内側経糸(21)を構成する糸も1本とすることを特徴とする請求項2に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項4】
各弁葉体(2)の内側緯糸(22)を構成する糸の数が各弁葉体(2)の弁葉層の層数以下であり、及び/又は各弁葉体(2)の内側経糸(21)を構成する糸の数が各弁葉体(2)の弁葉層の層数以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項5】
全ての弁葉体(2)の全ての内側緯糸(22)を構成する糸の本数が弁葉体(2)の個数以下であり、及び/又は全ての弁葉体(2)の全ての内側経糸(21)を構成する糸の本数が弁葉体(2)の個数以下であることを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項6】
全ての弁葉体(2)の全ての内側経糸(21)を構成する糸を1本とし、及び/又は全ての弁葉体(2)の全ての内側緯糸(22)を構成する糸を1本とすることを特徴とする請求項5に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項7】
前記内側経糸(21)と内側緯糸(22)を構成する糸を合計1本とすることを特徴とする請求項2~6のいずれか1項に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項8】
前記弁葉体(2)と外層織物(12)との間の交絡領域の形状は前記外層織物(12)の平面において円弧状、直線状及び/又は不規則な幾何学形状であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項9】
前記支持部材(1)及び/又は弁葉体(2)の材質が生体適合性ポリマーであることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項10】
前記弁葉体(2)の材質がUHMWPE、PET、PEEK、TPU、PGA、PLGA、PLA、PLLA’s、PDO、PHA’s、PGSUのうちの1種又は複数種であることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項11】
前記支持部材(1)の材質がUHMWPE、PET、PEEK、TPU、PGA、PLGA、PLA、PLLA’s、PDO、PHA’s、PGSUのうちの1種又は複数種であることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項12】
前記支持部材(1)の軸方向の長さが1mm~50mmであり、外層織物(12)を構成する糸の規格が5~100Dであることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の心臓弁プロテーゼ。
【請求項13】
複数の糸を配列して外側経糸とし、糸1本を外側緯糸として外側経糸と交差させて編み込み、外側経糸に平行な対向する両側が織り縁部となる外層織物(12)を形成するステップ1と、
外層織物(12)の上に複数の掴み紐(3)を設け、外層織物(12)に交絡領域を設け、糸1本を取って、まず交絡領域側の少なくとも1本の外側経糸と交差させて編み込んだ後、掴み紐(3)のうちの1つの位置に延ばして固定し、次に、交絡領域に戻し、この糸が交絡領域側から前記掴み紐(3)側までの領域全体に行渡るまで交絡領域と掴み紐(3)のうちの1つとの間を固定するプロセスを繰り返し、このようにすると、該糸で弁葉層の内側緯糸(22)を構成するステップ2と、
糸1本を内側経糸(21)として内側緯糸(22)に交差させて編み込み、弁葉層の内側経糸(21)を構成し、内側経糸(21)の糸端により内側緯糸(22)の自由側で複数の弁葉層を一体に編み込んで、単一弁葉体(2)を構成するステップ3と、
全ての弁葉体(2)が編み上げられた後、外層織物(12)の外側経糸の軸方向の両端を縫合糸(13)で縫合するステップ4と、を含むことを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の心臓弁プロテーゼの製造方法。
【請求項14】
前記ステップ3では、内側経糸(21)の糸端を、内側緯糸(22)の自由側で内側緯糸(22)と順次端縫いを行った後、隣り合う交絡領域の位置に戻して結ぶことを特徴とする請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
複数の糸を配列して外側経糸とし、外側経糸に交絡領域を設け、外側経糸の上に複数の掴み紐(3)を設け、糸1本を外側緯糸として外側経糸と交差させて編み込み、交絡領域まで編んだときに、該外側緯糸を構成する糸を掴み紐(3)のうちの1つに固定してから、交絡領域に戻して外側経糸と交差させて編み込み続けるステップ1であって、該外側緯糸を構成する糸は外側経糸と組み合わせて外層織物(12)を形成し、該外側緯糸を構成する糸は交絡領域にあるときに掴み紐(3)に延びて固定されて外側経糸に戻り、それにより、該外側緯糸を構成する糸が外側経糸と掴み紐(3)との間で内側緯糸(22)となるステップ1と、
糸1本を内側経糸(21)として内側緯糸(22)に交差させて編み込み、弁葉層の内側経糸(21)を構成し、内側経糸(21)の糸端により内側緯糸(22)の自由側で複数の弁葉層を一体に編み込んで、単一弁葉体(2)を構成するステップ2と、
全ての弁葉体(2)が編み上げられた後、外層織物(12)の外側経糸の軸方向の両端を縫合糸(13)で縫合するステップ3と、を含むことを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の心臓弁プロテーゼの製造方法。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか1項に記載の心臓弁プロテーゼ、請求項13~14のいずれか1項に記載の心臓弁プロテーゼの製造方法によって製造される心臓弁プロテーゼ又は請求項15に記載の心臓弁プロテーゼの製造方法によって製造される心臓弁プロテーゼを含み、
好ましくは、前記心臓弁プロテーゼに装着されたステントをさらに含むことを特徴とする人工弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は医療機器の分野に関し、具体的には、心臓弁プロテーゼ、これを用いた人工弁及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、人工弁は、1)機械弁、2)生体弁、及び3)合成ポリマー弁の3つのタイプで弁手術に使用されている。
【0003】
機械弁は、偏心軸に取り付けられてから、心臓筋における安全弁シートに固定される1つ又は複数の弁から構成される。これらの機械弁は、操作の信頼性が非常に高いが、血流障害を引き起こしやすく、血栓形成のリスクを高める。そのため、機械弁が植え込まれると患者が抗凝固薬を一生服用する必要があり、また、機械弁の弁モジュールはカテーテルの中に十分に圧縮できないので、カテーテルを用いた低侵襲植え込みで装着位置に送達することができないため、機械弁は侵襲性の強い開心術を必要とし、共存症のために多くの高齢者に使用できない。
【0004】
生体弁は、ヒトの臓器組織(同種移植片)や動物由来の組織(自家移植片)から作られた弁補綴物である。これらの弁補綴物の生体組織は、一般に心臓とよく結合することができ、カテーテルによる送達をサポートするという付加的な利点を有するので、機械弁に存在する上記の欠点を解決することができ、より多く応用されている。しかし、生体弁は有機組織で構成されているため、自然に老化・劣化しやすく、自然に老化・劣化しないようにするためには、生体適合性を確保し、表面の石灰化を防ぐための多くの化学的処理が必要となることが多い。また、これらの生体組織が心臓内で効果的に固定されるためにはベースに設置される必要があり、このベースの設置により生体弁内部で不利な流動条件が生じる可能性もある。
【0005】
合成ポリマー弁は、合成材料を使用して弁プロテーゼ全体を作製したものであり、通常、ポリウレタンやシリコンゴムを使用して成形する。これらの成形弁は、自然な血液の流れを維持しながら、材料疲労に関連する問題を効果的に解決することができる。しかし、これらの合成ポリマー弁は、時間の経過とともに、循環応力のために屈曲部で破裂する危険性がある。近年の三次元プリント技術の発展により、様々なプリント可能なポリマーを利用して、ますます正確な方法で本来の心臓弁の形状を再現するというこの分野の試みがさらに増えている。しかし、これまでは、製品設計や構造材料の制約から、これらの弁は臨床的にも商業的にもほとんど成功していない。循環応力に基づいて、編組技術を用いて「フルテキスタイル」の心臓プロテーゼを製作することが何度も試みられてきたが、従来技術に開示されているフルテキスタイルの心臓プロテーゼは、屈曲部の過度の疲労によりプロテーゼが故障したり、材質や形状がニーズを満たしていないという問題が依然として存在していた。
【0006】
米国の文献US2012/0172978に記載された人工弁において、弁葉体は前記特定材料の単層から単独で形成され、すなわち、弁葉体の形成過程は、特定材料から切り取り、縁に突起した繊維が一切ないようにトリミングし、次に、弁葉体を縫合リング又は縫合ステントに連結することである。弁葉体は特定材料から切り取られたため、弁葉体の縁部に多くの糸端を有、しかも、弁葉体と縫合リング又は縫合ステントの間に後連結縫合の方式が採用されるため、このような構造の人工弁はすべて織物の裁断縁や縫合糸の交差点の存在による影響を受け、屈曲部に過度の疲労が現れて、プロテーゼの故障を招く。
【0007】
また、中国の文献CN106535824に開示されている人工弁膜において、その製造過程としては、対向する両側にこの文献に記載されているエッジ5と4である織り縁部を有する単層織物を採用し、単層織物を織り縁部の方向に沿って二つ折りにして二層構造とし、二層構造のエッジ5と4を2本の縫い糸22を用いて充填紡糸11の径方向に沿って縫合し、次に、二層構造のエッジ5と4を除いた他の対向する両側を互いに縫合して略円筒状の構造とすることである。二層構造において内層の織物は弁葉体となり、外層の織物は縫合リングとなる。構造全体の設計に以下の欠陥が存在する。第一には、構造に3組の縫合糸を採用し、3組の縫合糸を設置することにより疲労損傷のリスクが増加する。第二には、弁葉体と縫合リングは両方共に同じ単層織物で構成されているため、弁葉体と縫合リングは同じ材質で構成することしかできず、脈動流の間に生じた応力作用により、弁と弁葉体に異なる属性が必要とされるが、同じ材質の設計はこのようなニーズを満たすことができない。第三には、構造の制限により、弁葉体と縫合リングとの間の連結は直線的な縫い目でなくてはいけず、しかも、弁葉体の形状は1種類しかないので、当該文献に開示された人工弁は特定の幾何学形状で弁葉体の縫い目を作成することができず、特定の形状の弁葉体の設計ニーズを満たすことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願が解決しようとする技術的課題は、従来技術に開示されたフルテキスタイル製の心臓プロテーゼでは、屈曲部での過度の疲労によりプロテーゼが故障したり、材質や形状がニーズを満たしていないという問題が依然として存在し、それに対して、心臓弁プロテーゼ、これを用いた人工弁及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の一態様によれば、
管状構造の支持部材と、支持部材の内壁に接続された少なくとも2つの弁葉体とを含む心臓弁プロテーゼであって、
前記支持部材は、対向する両側に織り縁部を有する外層織物と、外層織物の残りの両側を互いに固定して管状構造にする縫合糸と、を含み、
各弁葉体は少なくとも1層の弁葉層を積層してなるものであり、前記弁葉体の対向する両側がそれぞれ交絡側と自由側であり、前記交絡側は編組技法によって外層織物の2つの織り縁部の間に固定され、前記自由側は織り縁部である、心臓弁プロテーゼを提供する。
【0010】
好ましくは、各弁葉層はいずれも内側経糸と内側緯糸を交絡させて編み込み上げたものであり、前記弁葉体の交絡側は弁葉層の内側緯糸を介して外層織物に交絡されて固定され、前記内側経糸は内側緯糸に編まれる。
【0011】
好ましくは、各弁葉層の内側緯糸を構成する糸が1本であり、各弁葉層の内側経糸を構成する糸も1本とする。
【0012】
好ましくは、各弁葉体の内側緯糸を構成する糸の数が各弁葉体の弁葉層の層数以下であり、及び/又は各弁葉体の内側経糸を構成する糸の数が各弁葉体の弁葉層の層数以下である。
【0013】
好ましくは、全ての弁葉体の全ての内側緯糸を構成する糸の本数が弁葉体の個数以下であり、及び/又は全ての弁葉体の全ての内側経糸を構成する糸の本数が弁葉体の個数以下である。
【0014】
好ましくは、全ての弁葉体の全ての内側経糸を構成する糸を1本とし、及び/又は全ての弁葉体の全ての内側緯糸を構成する糸を1本とする。
【0015】
好ましくは、前記内側経糸と内側緯糸を構成する糸を合計1本とする。
【0016】
好ましくは、前記弁葉体と外層織物との間の交絡領域の形状は前記外層織物の平面において円弧状、直線状及び/又は不規則な幾何学形状である。
【0017】
好ましくは、前記支持部材及び/又は弁葉体の材質が生体適合性ポリマーである。
【0018】
好ましくは、前記弁葉体の材質がUHMWPE、PET、PEEK、TPU、PGA、PLGA、PLA、PLLA’s、PDO、PHA’s、PGSUのうちの1種又は複数種である。
【0019】
好ましくは、前記支持部材の材質がUHMWPE、PET、PEEK、TPU、PGA、PLGA、PLA、PLLA’s、PDO、PHA’s、PGSUのうちの1種又は複数種である。
【0020】
好ましくは、前記支持部材の軸方向の長さが1mm~50mmであり、外層織物を構成する糸の規格が5~100Dである。
【0021】
本願の別の態様によれば、
複数の糸を配列して外側経糸とし、糸1本を外側緯糸として外側経糸と交差させて編み込み、外側経糸に平行な対向する両側が織り縁部となる外層織物を形成するステップ1と、
外層織物の上に複数の掴み紐を設け、外層織物に交絡領域を設け、糸1本を取って、まず交絡領域側の少なくとも1本の外側経糸と交差させて編み込んだ後、掴み紐のうちの1つの位置に延ばして固定し、次に、交絡領域に戻し、この糸が交絡領域側から前記掴み紐側までの領域全体に行渡るようにするまで交絡領域と掴み紐の1つとの間を固定するプロセスを繰り返し、このようにすると、該糸で弁葉層の内側緯糸を構成するステップ2であって、掴み紐に固定された側は内側緯糸の自由側となるステップ2と、
糸1本を内側経糸として内側緯糸に交差させて編み込み、弁葉層の内側経糸を構成し、内側経糸の糸端により内側緯糸の自由側で複数の弁葉層を一体に編み込んで、単一弁葉体を構成するステップ3と、
全ての弁葉体が編み上げられた後、外層織物の外側経糸の軸方向の両端を縫合糸で縫合するステップ4と、を含む心臓弁プロテーゼの製造方法を提供する。
【0022】
好ましくは、前記ステップ3では、内側経糸の糸端を、内側緯糸の自由側で内側緯糸と順次端縫いを行った後、隣り合う交絡領域の位置に戻して結ぶ。
【0023】
好ましくは、前記ステップ1では、外側経糸として配列された糸の数を1本とする。
【0024】
本願の更なる態様によれば、
複数の糸を配列して外側経糸とし、外側経糸に交絡領域を設け、外側経糸の上に複数の掴み紐を設け、糸1本を外側緯糸として外側経糸と交差させて編み込み、交絡領域まで編んだときに、該外側緯糸を構成する糸を掴み紐の1つに固定してから、交絡領域に戻して外側経糸と交差させて編み込み続けるステップ1であって、該外側緯糸を構成する糸は外側経糸と組み合わせて外層織物を形成し、該外側緯糸を構成する糸は交絡領域にあるときに掴み紐に延びて固定されて外側経糸に戻り、それにより、該外側緯糸を構成する糸が外側経糸と掴み紐との間で内側緯糸となり、掴み紐に固定された側は内側緯糸の自由側となるステップ1と、
糸1本を内側経糸として内側緯糸に交差させて編み込み、弁葉層の内側経糸を構成し、内側経糸の糸端により内側緯糸の自由側で複数の弁葉層を一体に編み込んで、単一弁葉体を構成するステップ2と、
全ての弁葉体が編み上げられた後、外層織物の外側経糸の軸方向の両端を縫合糸で縫合するステップ3と、を含む心臓弁プロテーゼの製造方法を提供する。
【0025】
本願の更なる態様によれば、
上記の心臓弁プロテーゼ又は上記の製造方法によって製造された心臓弁プロテーゼと、前記心臓弁プロテーゼに装着されたステントと、を含む人工弁を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本願の技術的解決手段には、以下の利点がある。
1.本願では、弁葉体の対向する両側をそれぞれ交絡側と自由側とし、しかも、交絡側を編組技法により外層織物の2つの織り縁部の間に固定することによって、弁葉体の交絡側のエッジを縫い目無しで外層織物に編み込んで固定することができ、弁葉体の自由側を織り縁部とすることによって、外層織物を管状構造として固定するための1本しかないほど、心臓弁プロテーゼの縫合糸の数を効果的に減らし、しかも、該縫合糸が支持部材の径方向の位置に設けられるため、脈動流の間に生じた応力による影響が少ない。また、縫合糸位置以外に織物の裁断エッジがないため、弁の裁縫技術に元々存在する応力集中及びコンプライアンスの不一致の問題を回避する。したがって、本願の心臓弁プロテーゼは、応力疲労が生じにくいので、本願の心臓弁プロテーゼの故障を効果的に回避し、使用寿命を効果的に延ばすことができる。
さらに、弁葉体が支持部材とは別に設計されるので、支持部材と弁葉体同士の材料が異なるようにしてもよく、このように、各種の材料の組み合わせにより最適化して好適な流体力学的効果を達成させ、さらに脈動流の間に生じた応力により弁及び弁葉体の材料に要求される属性を満たすことができる。
また、本願では、弁葉体と支持部材との間の交絡領域の形状が自分なりに設計され得、該領域の形状は直線形状に設定されてもよいし、他の特定の幾何学形状に設定されてもよく、さらに、弁葉体と支持部材は個別に編み上げられるので、弁葉体の形状は設計のニーズに応じて変更してもよく、弁葉体を構成する弁葉層の数も必要に応じて自分なりに調整してもよく、例えば、単一の弁葉体を構成する弁葉層は1層としてもよいし、多層としてもよく、弁葉層が多層とされる場合、多層弁葉層は交絡側から自由側までの距離が層ごとに逓増又は逓減して厚さ勾配を効果的に持たせてもよい。以上の通り、本願は、弁葉体をより多様な形状に設計することができ、これにより、本願の心臓弁プロテーゼは任意の数や幾何学形状の弁葉体のデザインに適応することができ、これらの幾何学形状を各種の成分を用いた材料と組み合わせると、より好適な流体力学的効果が得られる。
2.本願では、弁葉体を構成する糸の数がさらに最適化され、単一の弁葉層、単一の弁葉体及び複数の弁葉体を編むときに使用される、内側経糸と内側緯糸を構成する糸の数は1本としてもよいし、複数本としてもよいが、1本か複数本かにかかわらず、編まれた糸の糸端の全てが単一の弁葉体のうち外層織物と交絡する領域の両端に位置すればよい。本願では、各弁葉体の内側経糸及び内側緯糸を構成する糸をそれぞれ1本とするのが好ましく、このような構成によれば、弁葉体の交差編組をよりうまく簡便にし、編組技法を簡素化させることができる。さらに、該心臓弁プロテーゼの構造の配置により、弁葉体と支持部材との間の隣り合う2つの弁葉体の界面にステントを効率的に配置し、また、弁葉体と支持部材の構成部品により正確かつ確実に装着することを暗黙に可能とする。
3.本願で使用される製造方法は、1本の縫合糸のみがあり、縫合糸位置以外に裁断エッジのない心臓弁プロテーゼを効果的に製造することができ、該製造方法は、従来の製造設備に適しており、従来の心臓弁プロテーゼの抗疲労効果が悪いという欠陥を効果的に解決するだけではなく、様々な形状の弁葉体を製造し、弁葉体の形状デザインのニーズを満たすことができ、さらに、本願の方法は、医療設備分野においてよく使用されている製織設備を用いて製造することができる。
本願の製品の構造をより明確に説明するために、本願は以下の図面を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本願の心臓弁プロテーゼの構造概略図である。
【
図2】本願の外層織物に内側緯糸を交絡させた場合の正面構造概略図である。
【
図3】本願の外層織物に内側緯糸を交絡させた場合の断面構造概略図である。
【
図4】本願の外層織物に内側緯糸を交絡させた場合の立体構造概略図である。
【
図5】本願の内側緯糸に内側経糸を交差させて編み込んだ場合の構造概略図である。
【
図6】本願の内側経糸において糸を交絡領域にルーピングした場合の構造概略図である。
【
図7】本願の弁葉体と外層織物との間の交絡領域の幾何学形状の概略図である。
【
図8】実施例2に記載の製造方法における弁葉体の内側緯糸の側面構造概略図である。
【
図9】本願の支持部材の前縁部の織り縁部を折り曲げて管状にした場合の断面構造概略図である。
【
図10】本願において外層織物を1×1編組パターンで交差させて編み込んだ場合の構造概略図である。
【
図11】本願における弁葉体の一例の側面構造概略図である。
【
図12】本願における弁葉体の別の側面構造概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
下記実施例は、本願をさらに理解するために提供されるものであるが、前記最良な実施形態に限定されず、本願の内容や特許範囲を制限するものではなく、本願の啓示に基づく、又は本願を従来技術の特徴と組み合わせて得る、本願と同様又は類似の製品であれば、全て本願の特許範囲に属する。
【0029】
実施例1
心臓弁プロテーゼは、
図1に示すように、管状構造の支持部材1と、支持部材1の内壁に接続された複数の弁葉体2と、を含み、前記支持部材1は、対向する両側に織り縁部を有する外層織物12と、外層織物12の残りの両側を互いに固定して管状構造にする縫合糸13と、を含み、前記弁葉体2は複数の弁葉層を積層してなるものであり、前記弁葉体2の対向する両側がそれぞれ交絡側と自由側であり、前記交絡側は編組技法によって外層織物12の2つの織り縁部の間に固定され、前記自由側は織り縁部である。
【0030】
本願では、前記織り縁部は、経糸が最外縁の緯糸から編み領域にルーピングして編まれ続けてなるエッジ、又は緯糸が最外縁の経糸から編み領域にルーピングして編まれ続けてなるエッジである。該織り縁部の中間部分に糸端がなく、糸端は編成が完了した後のエッジの両端にしかない。
【0031】
本願では、弁葉体の対向する両側をそれぞれ交絡側と自由側とし、すなわち、一方の側を交絡側、交絡側と反対の他方の側を自由側とし、しかも、交絡側を編組技法により外層織物の2つの織り縁部の間に固定し、自由側を織り縁部とすることによって、弁葉体の交絡側のエッジを縫い目無しで外層織物に編み込んで固定することができ、弁葉体の自由側を織り縁部とすることによって、外層織物を管状構造として固定するための1本しかないほど、心臓弁プロテーゼの縫合糸の数を効果的に減らし、しかも、該縫合糸が支持部材の径方向の位置に設けられるため、脈動流の間に生じた応力による影響が少なく、また、縫合糸位置以外に織物の裁断エッジがないため、弁の裁縫技術に元々存在する応力集中及びコンプライアンスの不一致の問題を回避ししたがって、本願の心臓弁プロテーゼは、応力疲労が生じにくいので、本願の心臓弁プロテーゼの故障を効果的に回避し、使用寿命を効果的に延ばすことができる。
【0032】
さらに、弁葉体が支持部材とは別に設計されるので、支持部材と弁葉体同士の材料が異なるようにしてもよく、このように、各種の材料の組み合わせにより最適化して好適な流体力学的効果とし、さらに脈動流の間に生じた応力により弁及び弁葉体材料に要求される属性を満たす。
【0033】
また、本願では、弁葉体と支持部材との間の交絡領域の形状が自分なりに設計され得、該領域の形状は直線形状に設定されてもよいし、他の特定の幾何学形状に設定されてもよく、さらに、弁葉体と支持部材は個別に編み上げられるので、弁葉体の形状は設計のニーズに応じて変更してもよく、弁葉体を構成する弁葉層の数も必要に応じて自分なりに調整してもよく、例えば、単一の弁葉体を構成する弁葉層は1層としてもよいし、多層としてもよく、弁葉層が多層とされる場合、多層弁葉層は交絡側から自由側までの距離が層ごとに逓増又は逓減して厚さ勾配を効果的に持たせてもよい。以上の通り、本願は、弁葉体をより多様な形状に設計することができ、これにより、本願の心臓弁プロテーゼは任意の数や幾何学形状の弁葉体のデザインに適応することができ、これらの幾何学形状を各種の成分を用いた材料と組み合わせると、より好適な流体力学的効果が得られる。
【0034】
本願では、弁葉体2の数は2つとしてもよいし、2つ以上としてもよく、本願では、単一弁葉体2を構成する弁葉層は1層としてもよく、多層としてもよい。
図1~
図3に示すように、本実施例では、弁葉体2の弁葉層の数は1層とし、弁葉体2の数は3つとする。本実施例では、各弁葉層はいずれも1本の内側経糸21と1本の内側緯糸22とを交差させて編み込まれたものであり、前記弁葉体2の交絡側は弁葉層の内側緯糸22を介して外層織物12に編まれて固定され、前記内側経糸21は内側緯糸22に編まれ、本実施例では、前記弁葉体2のエッジは全体として織り縁部となる。本願では、外層織物12も外側緯糸を外側経糸に交差させて編み上げる。
【0035】
上記の交差編みは一般的な編み方式であり、1×1、1×2、2×2、1×3などを含むが、これらに限定されない。いわゆる1×1の編組パターンとは、外側緯糸1本と外側経糸1本とを交差させて編み込む方式であり、いわゆる1×2の編組パターンとは、外側緯糸1本と外側経糸2本又は外側緯糸2本と外側経糸1本とを交差させて編み込む方式であり、こうして類推すると他も同様であり、対向する両側のいずれにも織り縁部を形成できる交差編みであればよい。本願の外層織物12及び弁葉体2は全て上記のいずれか1種又は複数種の編組パターンで編み上げられる。
【0036】
本願では、外側緯糸と外側経糸とを編み合わせる際には、
図4及び
図7に示すように外層織物12だけを形成してもよく、
図8に示すように外層織物12を形成するとともに、外層織物12の外側緯糸を弁葉体2の内側緯糸22としてもよい。外側緯糸と外側経糸とを編み合わせる際に外層織物12のみを形成する場合、新しい糸を外層織物12に編み込んで弁葉体2の内側緯糸22としてもよく、外側緯糸と外側経糸とを編み合わせる際にさらに外側緯糸により内側緯糸22を同時に編み込み上げる場合、新しい糸を内側経糸21として内側緯糸22に交差させて編み込んで弁葉体2を構成すればよい。本実施例では、
図2~
図6に示すように、外側緯糸と外側経糸とを編み合わせる際には外層織物12のみを形成し、次に、新しい糸を外層織物12に編み込んで弁葉体2の内側緯糸22とし、さらに内側緯糸22に交差させて編み込んで充填し内側経糸21とし、内側経糸21と内側緯糸22とをともに交差させて編み込み、エッジが全て織り縁部となる弁葉体2を形成する形態が採用されている。
【0037】
本実施例では、糸1本を3つの弁葉体2の内側緯糸22として編んでもよいし、3本の糸をそれぞれ3つの弁葉体2の内側緯糸22として編んでもよく、該弁葉体2の内側経糸21は内側緯糸22となる糸を内側緯糸22に交差させて編み込み続けたものを採用してもよいし、新しい糸を内側緯糸22に交差させて編み込み続けたものを採用してもよい。すなわち、本願では、全ての弁葉体2の全ての内側緯糸22を構成する糸の本は弁葉体2の個数以下であり、又は、全ての弁葉体2の全ての内側経糸21を構成する糸の本数は弁葉体2の個数以下であり、好ましくは、全ての弁葉体2の全ての内側緯糸22を構成するこの糸は1本とし、又は、全ての弁葉体2の全ての内側経糸21を構成する糸は1本とし、より好ましくは、全ての弁葉体2の全ての内側経糸21と内側緯糸22を構成する糸は合計1本とする。本実施例では、
図5~
図6に示すように、全ての弁葉体2の全ての内側緯糸22を構成する糸は1本とし、全ての弁葉体2の全ての内側経糸21を構成する糸の本数は3本である。
【0038】
本願では、前記支持部材1及び/又は弁葉体2の材質は全て生体適合性ポリマーを使用してもよい。ここでは、弁葉体2の材質はUHMWPE(超高分子量ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、TPU(熱可塑性ポリウレタンエラストマーゴム)、PGA(ポリグリコール酸)、PLGA(ポリ乳酸-グリコール酸コポリマー)、PLA(ポリ乳酸)、PLLA’s(ポリL-ラクチド)、PDO(ポリ-p-ジオキサノン)、PHA’s(ポリヒドロキシ脂肪酸エステル)、PGSU(ポリグリセロールセバケートウレタン)のうちの1種又は複数種であり、支持部材1の材質はUHMWPE、PET、PEEK、TPU、PGA、PLGA、PLA、PLLA’s、PDO、PHA’s、PGSUのうちの1種又は複数種である。本実施例では、支持部材1の材質はPET、弁葉体2の材質はUHMWPEと選択される。すなわち、支持部材1は材質PETの糸を用いて編み上げられたものであり、弁葉体2は材質UHMWPEの糸を用いて編み上げられたものである。
【0039】
本願では、弁葉体2と外層織物12との間の交絡領域は状況に応じてその幾何学形状を調整してもよく、
図7に示すように、該幾何学形状は直線状であってもよく、曲直線状であってもよく、不規則な幾何学形状であってもよく、
図7のa及びbは直線状の概略図であり、cは曲直線状の概略図であり、dは不規則な幾何学形状の概略図である。該交絡領域の幅は内側緯糸22と外層織物12との間で交絡する外側経糸の数によって決定されてもよく、内側緯糸22が交絡する外側経糸の数は2~50本である。隣り合う2つの弁葉体2の交絡領域は連続的であってもよく、断続的であってもよく、
図7のa及びcは交絡領域が断続的な場合の概略図であり、b及びdは交絡領域が連続的な場合の概略図である。本実施例では、隣り合う2つの弁葉体2の交絡領域は連続的でかつ円弧状である。
【0040】
本願では、支持部材1の軸方向の長さは1mm~50mmの間で変化してもよく、また、必要とされる厚さに応じて、構成外層織物12の糸の規格は5~100Dとしてもよい。
図9に示すように、該支持部材1の管状構造の前縁部の織り縁部箇所が弁葉体2の方向へカールして、別の管状の構造が形成されてもよい。
【0041】
本実施例では、上記の心臓弁プロテーゼの製造方法は以下のとおりである。
【0042】
ステップ1において、材質PETの複数の糸を配列して外側経糸とし、材質PETの糸1本を外側緯糸として1×1編組パターンで外側経糸と交差させて編み込み、
図10に示すように外側経糸に平行な対向する両側が織り縁部となる外層織物12を形成する。
【0043】
ステップ2において、
図2に示すように、外層織物12の上に複数の掴み紐3を設け、外層織物12において外側経糸の方向に沿って交絡領域を決定し、本実施例では、交絡領域を直線状と選択し、
図3に示すように、材質UHMWPEの糸1本を取って、まず交絡領域側の少なくとも1本の外側経糸と交差させて編み込んだ後、掴み紐3の1つの位置に延ばして固定し、次に、
図2及び
図4に示すように、交絡領域にルーピングし、この糸が交絡領域側から掴み紐3側までの領域全体に行渡るまで交絡領域と掴み紐3の1つとの間を固定するプロセスを繰り返し、このようにすると、該糸で弁葉層の内側緯糸22を構成する。弁葉体2の形状及びエッジの周長は掴み紐3での内側緯糸22の固定位置によって決定される。本実施例では、弁葉体を半楕円状にする場合、
図2及び
図4に示すように内側緯糸22と掴み紐3との間の固定点により形成される形状は半楕円形である。
【0044】
ステップ3において、材質UHMWPEの糸1本を内側経糸21として内側緯糸22に交差させて編み込み、単一の弁葉体2を構成し、このステップでは、編みやすくするために、好ましくは、掴み紐3の固定点の位置及び掴み紐3自体の張力を維持したままで、内側緯糸22と掴み紐3との間の各固定点での掴み紐3を全てループとして織機に固定し、該織機は各ループをそれぞれ上昇又は降下位置に固定し、
図5及び
図6に示すように1×2編組パターンで内側経糸21である糸を前記自由ループの間で往復伝達させることで、全ての内側緯糸22の充填が完了するまで前記自由ループの間で交差させて編み込み、充填完了後、
図6に示すように、内側経糸21の糸端を、内側緯糸22の自由側で内側緯糸22と順次端縫いを行った後、外層織物12と交絡する位置に戻して結び、上記の編み方式によれば、単一の弁葉体2が形成されることができる。中間位置にある弁葉体2では、編むときに該弁葉体2の内側経糸21を隣り合う弁葉体2の内側緯糸22に通すことで、隣り合う弁葉体2同士を縫い目無しで接続することを実現することができ、隣り合う2つの弁葉体2の間の領域の幾何学形状の修正は心臓弁プロテーゼの流動特性を効果的に最適化させたり、ステントのアンカー点を強化したりすることができる。本願では、掴み紐3の固定位置に弾性繊維1本が通されてもよく、すなわち、この弾性繊維は各掴み紐3の固定点にある内側緯糸22のループを通し、この弾性繊維は、引張状態であるとき、直径が顕著に減少し得るため、内側経糸21である糸が通過しやすくなり、緩和状態であるとき、直径が顕著に増大し得るため、掴み紐3の固定点による隙間を埋め、弁葉体2の周囲で往復伝達する弾性繊維はまたシール作用を果たし、弁葉体2の血液動力学性能を向上させることができる。本実施例では、弁葉体2の数が3つであるため、上記の編み方式によって3つの弁葉体2の編みを完了すればよく、全ての弁葉体2の編みが完了すると掴み紐3を取り外した後、織機から弁葉体2が交絡された外層織物12を取り出す。
【0045】
ステップ4において、
図1に示すように外層織物12の外側経糸の軸方向の両端を縫合糸13で縫合すればよい。本願では、外層織物12の外側経糸の両端を縫合する前に、
図9に示すように、外層織物12の前縁部の織り縁部を弁葉体2の方向へ折り曲げて外層織物12の交絡領域の位置に固定してもよい。
【0046】
実施例2
本実施例では、心臓弁プロテーゼの別の製造方法が提供され、製造される心臓弁プロテーゼの構造は実施例1とほぼ同様であり、本実施例の内側緯糸22の材質が外層織物12と同じであることにおいて相違し、製造方法については、外側緯糸と外側経糸とを編み合わせる際には、さらに外側緯糸により内側緯糸22を同時に編み込み上げることにおいて相違する。製造過程は具体的には以下の通りである。
【0047】
ステップ1において、
図8に示すように、材質PETの複数の糸を配列して外側経糸とし、外側経糸に交絡領域を設け、外側経糸の上に複数の掴み紐3を設け、材質PETの糸1本を外側緯糸として外側経糸と交差させて編み込み、交絡領域まで編むと、該外側緯糸を構成する糸を掴み紐3の1つに延ばして固定してから、交絡領域に戻して外側経糸と交差させて編み込み続ける。該外側緯糸を構成する糸は外側経糸と組み合わせて外層織物12を形成し、該外側緯糸を構成する糸は交絡領域と掴み紐3との間で内側緯糸22となり、すなわち、外側緯糸である糸と内側緯糸22は同一の糸とされる。
【0048】
ステップ2において、材質UHMWPEの糸1本を内側経糸21として内側緯糸22に交差させて編み込み、弁葉体2を構成し、このステップでは、編みやすくするために、好ましくは、掴み紐3の固定点の位置及び掴み紐3自体の張力を維持したままで、内側緯糸22と掴み紐3との間の各固定点での掴み紐3を全て自由ループとして織機に固定し、該織機は各自由ループをそれぞれ上昇又は降下位置に固定し、
図5及び
図6に示すように、1×2編組パターンで内側経糸21である糸を前記自由ループの間で往復伝達させることで、全ての内側緯糸22の充填が完了するまで前記自由ループの間で交差させて編み込み、充填完了後、
図6に示すように、内側経糸21の糸端を、内側緯糸22の自由側で内側緯糸22と順次端縫いを行った後、外層織物12と交絡する位置に戻して結び、上記の編み方式によれば、単一の弁葉体2が形成されることができる。本実施例では、弁葉体2の数が3つであるため、上記と同じ編み方式によって全ての弁葉体2の編みを完了すればよく、弁葉体2の編みが完了すると掴み紐3を取り外した後、織機から弁葉体2が交絡された外層織物12を取り出す。
【0049】
ステップ3において、
図1に示すように、外層織物12の外側経糸の軸方向の両端を縫合糸13で縫合する。
【0050】
実施例3
人工弁は、実施例1又は実施例2で製造された心臓弁プロテーゼと、前記心臓弁プロテーゼに装着されたステントと、を含む。本実施例では、心臓弁プロテーゼを製造した後、熱成形、埋め込み成形、超音波溶接、溶媒処理、精練(溶媒で洗浄)などのいずれかの後処理技術で処理して、最終的な幾何学形状とし、完成したものをステントに固定してよい。心臓弁のために設計された適切なステントは弁葉体2と支持部材1との間の縫い目無し接続位置に固定される。ステントを心臓弁プロテーゼに固定する方法は、ステントの幾何学形状及び心臓弁プロテーゼの構造によって決定されるが、心臓弁プロテーゼとステントを固定する方式は、縫合、溶接、接着剤による接着などを含むが、これらに限定されない。本願で提供される心臓弁プロテーゼを用いると、ステントの位置合わせや位置決めがより簡便になり、さらにその装着がより正確、簡便かつ確実に行われることができる。
【0051】
実施例4
本実施例の心臓弁プロテーゼは、実施例1と比較して、本実施例において弁葉体2を構成する弁葉層が多層構造であり、2層とされてもよく、3層とされてもよく、3層以上の多層構造とされてもよいことにおいて相違する。
【0052】
本実施例では、多層の弁葉層で構成される弁葉体2の構造が2種提供されており、
図11に示すように、該弁葉体2では、弁葉層の数は3層であり、3層の構造のサイズ及び形状は完全に一致する。本実施例では、3層の弁葉層のサイズが異なる別の構造がさらに提供されており、この3層の弁葉層のサイズは上から下へ段階的に増加し、これにより、
図12に示すように、外層織物12に近い側(即ち交絡側)の厚さが大きく、外層織物12から離れた側(即ち自由側)の厚さが薄くなる。
【0053】
上記弁葉体の製造方法では、実施例1と比較して、実施例1のステップ2における掴み紐3が3組設けられ、外層織物12と掴み紐3との間で3層の内側緯糸22がそれぞれ構成されることにいて相違し、具体的には、その製造方法は2つある。1つ目は、織物を織る際に、まず、外層織物12上に3層の内側緯糸22を同時に編み上げ、次に、内側緯糸22に1層ずつ交差させて編み込み、内側経糸21を構成し、内側経糸21が内側緯糸22のエッジ位置まで編まれると、内側経糸21の糸端を隣り合う層の内側緯糸22と交差させて編み込み、このように、縫い目無し接続を達成させればよいことである。2つ目は、織物を織る際に、まず、外層織物12上に1層内側緯糸22を編み上げ、内側緯糸22に交差させて編み込み、内側経糸21を構成し、内側経糸21の糸端を、該層弁葉層の自由側で順次端縫いを行った後、外層織物12と交絡する位置に戻して結ぶことで、第1層弁葉層を形成し、その後、上記ステップを繰り返して、2層目の弁葉層と3層目の弁葉層を形成することであり、2層目の弁葉層と3層目の弁葉層の製造プロセスは、1層目の弁葉層と比較して、該内側経糸21の糸端が、該内側緯糸22の自由側で順次端縫いを行う際には、さらに隣り合う弁葉層の内側緯糸22と交差させて編み込み、このようにシームレス接続を達成させることにおいて相違する。
【0054】
もちろん、上記実施例は例示したことを明確に説明するためのものに過ぎず、実施形態を限定するものではない。当業者であれば、上記説明に基づいて他の様々な形態の変化や変動を行ってもよい。ここでは、全ての実施形態を網羅的に挙げることはしないし、不可能なことである。これらから導き出される明らかな変化や変動も本願の特許範囲内である。
【符号の説明】
【0055】
1 支持部材
2 弁葉体
3 掴み紐
12 外層織物
13 縫合糸
21 内側経糸
22 内側緯糸
【国際調査報告】