(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-29
(54)【発明の名称】化学物質相互作用効果の判定
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/18 20060101AFI20230522BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
C12Q1/18
C12M1/34 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022556623
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(85)【翻訳文提出日】2022-09-30
(86)【国際出願番号】 SE2021050243
(87)【国際公開番号】W WO2021188037
(87)【国際公開日】2021-09-23
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522369566
【氏名又は名称】カヴァロパウロス,ニコラオス
(71)【出願人】
【識別番号】522369577
【氏名又は名称】レーミルト,ローデリッヒ
(71)【出願人】
【識別番号】522369588
【氏名又は名称】タン,ポ-チェン
(71)【出願人】
【識別番号】522369599
【氏名又は名称】クルーガー,ヨハン
(71)【出願人】
【識別番号】522369603
【氏名又は名称】アンダーソン,ダン
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】カヴァロパウロス,ニコラオス
(72)【発明者】
【氏名】レーミルト,ローデリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】タン,ポ-チェン
(72)【発明者】
【氏名】クルーガー,ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン,ダン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA07
4B029AA08
4B029BB02
4B029BB06
4B029FA01
4B063QA06
4B063QQ06
4B063QQ07
4B063QR68
4B063QS24
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
細胞培養基質(50)上で細胞集団(55)を培養するのであるが、その際に、培養容器(10)内の所定位置にある化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質が基質(50)中を拡散することによって、組み合わせ領域(41、43、45)内の基質(50)において少なくとも部分的には重複する濃度勾配が形成され、化学物質リザーバー(31、33、35)の外側の境界部周辺で基質(50)において実質的に重複のない濃度勾配が形成される。化学物質リザーバー(31、33、35)の外側の境界部周辺において細胞集団(55)の増殖を実質的に欠如している各阻害帯(60、62、64)の阻害端点(61、63、65)、および組み合わせ領域(41、43、45)内において細胞集団(55)の増殖を含む各増殖帯(70、72、74)の増殖端点(71、73、75)が判定され、細胞集団(55)に対する化学物質間の相互作用効果の評価に利用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞集団に対する化学物質相互作用効果を判定する方法であって、該方法が:
互いに相対的な所定位置にあるN個の化学物質リザーバー(31、33、35)を含む培養容器(10)に、細胞培養基質(50)を添加する工程(S1)であって、
ここでN個の化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)が化学物質を含み、N個の化学物質リザーバー(31、33、35)が、組み合わせ領域(41、43、45)を取り囲み、Nが3以上の整数である、
工程(S1);
細胞培養基質(50)上および/または細胞培養基質(50)内に細胞集団(55)を配置し、細胞培養基質(50)上および/または細胞培養基質(50)内で該細胞集団(55)を所定の時間、培養する工程(S2)であって、
その間、N個の化学物質リザーバー(31、33、35)の化学物質が細胞培養基質(50)中を拡散して、組み合わせ領域(41、43、45)内の細胞培養基質(50)において少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を形成し、またN個の化学物質リザーバー(31、33、35)の外側の境界部周辺で細胞培養基質(50)において実質的に重複のない化学物質濃度勾配を形成する、
工程(S2);
N個の化学物質リザーバー(31、33、35)の少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)について、細胞集団(55)の増殖を実質的に欠如している阻害帯(60、62、64)の阻害端点(61、63、65)を判定する工程(S3)であって、
阻害端点(61、63、65)が化学物質リザーバー(31、33、35)の外側の境界部周辺部に位置する、
工程(S3);
少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)について、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質の少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を有する組み合わせ領域(41、43、45)内において、細胞集団(55)の増殖を含む増殖帯(70、72、74)の増殖端点(71、73、75)を判定する工程(S4);
および
少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質間の化学物質相互作用効果を、阻害端点(61、63、65)および増殖端点(71、73、75)に基づいて判定する工程(S5);
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、ここで細胞培養基質(50)を添加する工程(S1)が、培養容器(10)に細胞培養基質ゲルを添加し、該細胞培養基質ゲルを固化させて細胞培養基質(50)とする、添加する工程(S1)を含む、方法。
【請求項3】
請求項1または2の方法であって、該方法が:
少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)について、阻害端点(61、63、65)に基づき、化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質の、細胞集団(55)に関する最小阻害剤濃度(MIC)を決定する工程(S10);
および
少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)について、増殖端点(71、73、75)に基づき、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質の混合物中の、化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質のMICを決定する工程(S11)、
をさらに含む方法であって、
ここで該化学物質相互作用効果を判定する工程(S5)が、MICに基づいて、部分阻害濃度指数(FICi)を決定する工程(S5)を含む、
方法。
【請求項4】
請求項3の方法であって、ここで
MICを決定する工程(S10)が、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)について、化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質の、細胞培養基質(50)に関する拡散係数、および阻害端点(61、63、65)に基づき、化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質のMICを決定することを含む工程(S10)であり;
および
該混合物におけるMICを決定する工程(S11)が、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)について、該拡散係数および増殖端点(71、73、75)に基づき、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質の混合物中の、化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質のMICを決定することを含む工程(S11)である、
方法。
【請求項5】
請求項4の方法であって、該方法が:
該化学物質を、それぞれの異なる濃度で含むN個の化学物質リザーバー(31、33、35)を含む培養容器(10)に、該細胞培養基質ゲルを添加し、該細胞培養基質ゲルを固化させて細胞培養基質(50)とすること;
細胞培養基質(50)上および/または細胞培養基質(50)内に被検細胞集団(55)を配置し、N個の化学物質リザーバー(31、33、35)中の化学物質を細胞培養基質(50)中に拡散させながら、細胞培養基質(50)上および/または細胞培養基質(50)内で被検細胞集団(55)を所定の時間培養することであって、
ここで被検細胞集団(55)について該化学物質のMICが既知である、
培養させること;
N個の化学物質リザーバー(31、33、35)の少なくとも1つの化学物質リザーバー(31、33、35)について、被検細胞集団(55)の増殖が実質的に欠如している阻害帯(60、62、64)の阻害端点(61、63、65)を判定することであって、
阻害端点(61、63、65)が化学物質リザーバー(31、33、35)の外側の境界部周辺位置する、
判定すること;
および
阻害端点(61、63、65)および該化学物質の、被検細胞集団(55)に関するMICに基づいて、細胞培養基質(50)に関する、該化学物質の拡散係数を決定すること、
によって該化学物質の拡散係数を決定することをさらに含む、方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の方法であって、ゲルと混合した化学物質をN個の化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)に添加し、該ゲルを固化させて化学物質含有プラグとする工程(S20)をさらに含む、方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の方法であって、
ここでN個の化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)が、凍結乾燥形態または乾燥形態の化学物質を含み;
および
該方法が、該化学物質を溶解または分散させたゲルをN個の化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)に添加し、該ゲルを固化させて化学物質含有プラグとする工程(S21)をさらに含む、方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の方法であって、
ここで、N個の化学物質リザーバー(31、33、35)が、円の外周に沿って互いに相対的な所定位置に配置され;
および
阻害端点(61、63、65)が、該円の中心(15)および化学物質リザーバー(31、33、35)を通る軸(80)に沿って配置され、化学物質リザーバー(31、33、35)の外側の境界部に対して周辺を通る軸(80)上の点に位置する、
方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の方法であって、ここでNが3である、方法。
【請求項10】
請求項8および9の方法であって、
ここで各化学物質リザーバー(31、33、35)が、該円の外周に整列化した円周壁(24)の間で、弦壁(21、23、25)によって取り囲まれ;
および
3つの弦壁(21、23、25)が、三角形(40)、好ましくは正三角形(40)を取り囲む、
方法。
【請求項11】
培養容器挿入部(20)であって:
中央にN角形の開口部(40)、好ましくは中央に正N角形開口部(40)を有する円形底プレート(22);
円形底プレート(22)の外周に取り付けられた円形の壁(24);
および
円形の壁(24)および円形底プレート(22)に取り付けられ、中央のN角形の開口部(40)を取り囲むN個の弦壁(21、23、25)であって、ここで円形底プレート(22)、円形の壁(24)および各弦壁(21、23、25)が、化学物質リザーバー(31、33、35)を規定し、Nが3以上の整数である、
N個の弦壁(21、23、25)、
を含む、培養容器挿入部(20)。
【請求項12】
請求項11の培養容器挿入部であって、ここで円形底プレート(22)が、少なくとも1つの化学物質リザーバー(31、33、35)内に存在する少なくとも1種類の識別子(32、34、36)を含む、培養容器挿入部。
【請求項13】
培養容器(10)であって:
底部ディスク(12);
底部ディスク(12)に取り付けられた円周壁(14);
および
底部ディスク(12)に配置された円形底プレート(22)および円周壁(14)から離れて位置する円形の壁(24)を有する培養容器(10)内に位置する、請求項11または12の培養容器挿入部(20)、
を含む、培養容器(10)。
【請求項14】
培養容器(110)であって:
底部ディスク(112);
底部ディスク(112)に取り付けられた円周壁(114);
底部ディスク(112)に取り付けられた円形の壁(124)であって、円周壁(114)によって取り囲まれるが、円周壁(114)から離れて位置する円形の壁(124);
および
円形の壁(124)および底部ディスク(112)に取り付けられ、底部ディスク(112)のN角形部分(40)、好ましくは正N角形部分(40)を取り囲むN個の弦壁(121、123、125)であって、
ここで底部ディスク(112)、円形の壁(124)および各弦壁(121、123、125)が化学物質リザーバー(131、133、135)を規定し、Nが3以上の整数である、N個の弦壁(121、123、125)、
を含む、培養容器(110)。
【請求項15】
請求項14の培養容器であって、ここで底部ディスク(112)が、少なくとも1つの化学物質リザーバー(131、133、135)に存在する少なくとも1種類の識別子を含む、培養容器。
【請求項16】
請求項11または12の培養容器挿入部あるいは請求項14または15の培養容器であって、ここでNが3である、培養容器挿入部あるいは培養容器。
【請求項17】
請求項11、12、または16のいずれかの培養容器挿入部あるいは請求項14、15、または16のいずれかの培養容器であって、ここで各化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)が、ゲルと化学物質を固化させた混合物で作成された化学物質含有プラグを含み、各化学物質含有プラグがそれぞれ、他の化学物質含有プラグ中の化学物質とは異なる化学物質を含む、培養容器挿入部あるいは培養容器。
【請求項18】
請求項11、12、または16のいずれかの培養容器挿入部あるいは請求項14、15、または16のいずれかの培養容器であって、ここで各化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)が、凍結乾燥形態または乾燥形態の化学物質を含む、培養容器挿入部あるいは培養容器。
【請求項19】
細胞集団(55)に対する化学物質相互作用効果を判定するキットであって、該キットが:
請求項13~18のいずれかに記載の培養容器(10;110);
請求項13~18のいずれかに記載の培養容器(10;110)に添加し、固化させて細胞培養基質(50)とすることを意図する多量の細胞培養基質ゲルであって、
ここでN個の化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)の各化学物質リザーバーが各化学物質を含み、N個の化学物質リザーバー(31、33、35)が組み合わせ領域(41、43、45)を取り囲む、
細胞培養基質ゲル;
細胞培養基質(50)上および/または細胞培養基質(50)内に細胞集団(55)を配置して所定の時間経過後に、細胞培養基質(50)の少なくとも1枚の写真を撮影する指示であって、
ここでN個の化学物質リザーバー(31、33、35)内の化学物質が細胞培養基質(50)中を拡散し、組み合わせ領域(41、43、45)内の細胞培養基質(50)において少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を形成し、N個の化学物質リザーバー(31、33、35)の外側の境界部周辺で細胞培養基質(50)において実質的に重複のない化学物質濃度勾配が形成する、
写真を撮影する説明書;
N個の化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)の各化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)について、該少なくとも1枚の写真から、細胞集団(55)の増殖を実質的に欠如している阻害帯(60、62、64)の阻害端点(61、63、65)を判定する説明書であって、
阻害端点(61、63、65)が化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)の周辺部に位置する、
判定する説明書、
および
N個の化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)の隣接する2つの化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)の各組み合わせについて、該少なくとも1枚の写真から、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)に含まれる化学物質の少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を有する組み合わせ領域(41、43、45)内において、細胞集団(55)の増殖を含む増殖帯(70、72、74)の増殖端点(71、73、75)を判定する説明書;
N個の化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)に含まれる化学物質の、細胞培養基質(50)についての拡散係数を規定する情報;
および
隣接する2つの化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)の各組み合わせに関して、隣接する2つの化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)について判定された阻害端点(61、63、65)、隣接する2つの化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)について判定された増殖端点(71、73、75)、および拡散係数を規定する情報に基づき、隣接する2つの化学物質リザーバー(31、33、35;131、133、135)に含まれる化学物質間の化学物質相互作用効果を判定する説明書、
を含む、キット。
【請求項20】
請求項19のキットであって:
N種類の化学物質;
および
該N種類の化学物質と混合し、固化させてN個の化学物質リザーバー中の各化学物質含有プラグとすることを意図するゲル、
をさらに含む、キット。
【請求項21】
指示を含むコンピュータープログラム(240)であって、該指示が少なくとも1つのプロセッサー(210)によって実行される場合に、該指示が:
細胞培養基質(50)上および/または細胞培養基質(50)内に細胞集団(55)を配置してから所定の時間経過した後の培養容器(10)内の細胞培養基質(50)について撮影された少なくとも1枚の写真を表す画像データを提供すること、ここで培養容器(10)が、互いに相対的な所定位置にあるN個の化学物質リザーバー(31、33、35)を含み、N個の化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)が化学物質を含み、N個の化学物質リザーバー(31、33、35)が組み合わせ領域(41、43、45)を取り囲み、Nが3以上の整数であり、N個の化学物質リザーバー(31、33、35)中の化学物質が細胞培養基質(50)中を拡散し、組み合わせ領域(41、43、45)内の細胞培養基質において少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を形成し、N個の化学物質リザーバー31、33、35)の外側の境界部周辺で細胞培養基質(50)において実質的に重複のない化学物質濃度勾配が形成される、
画像データを提供すること;
N個の化学物質リザーバー(31、33、35)の少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)について、該画像データに基づき、細胞集団(55)の増殖が実質的に欠如している阻害帯(60、62、64)の阻害端点(61、63、65)を判定することであって、
阻害端点(61、63、65)が化学物質リザーバー(31、33、35)の外側の境界部周辺に位置する、
判定すること;
少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)について、該画像データに基づき、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質の少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を有する組み合わせ領域(41、43、45)内における細胞集団(55)の増殖を含む増殖帯(70、72、74)の増殖端点(71、73、75)を判定すること;
および
阻害端点(61、63、65)および増殖端点(71、73、75)に基づいて、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質間の化学物質相互作用効果を判定すること、
を少なくとも1つのプロセッサー(210)に指示する、
コンピュータープログラム(240)。
【請求項22】
請求項21のコンピュータープログラムであって、ここで該指示が少なくとも1つのプロセッサー(210)によって実行される場合に、該指示が:
該画像データに基づき、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)について、化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質の、細胞集団(55)に関する最小阻害剤濃度(MIC)を、阻害端点(61、63、65)に基づいて決定すること;
該画像データに基づき、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)について、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質の混合物の、化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質のMICを、増殖端点(71、73、75)に基づいて決定すること;
および
該MICに基づいて部分阻害濃度指数(FICi)を決定すること、
を少なくとも1つのプロセッサー(210)に指示する、
コンピュータープログラム。
【請求項23】
請求項22のコンピュータープログラムであって、ここで該指示が少なくとも1つのプロセッサー(210)によって実行される場合に、該指示が:
該画像データに基づき、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)について、化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質の、細胞培養基質(55)に関する拡散係数および阻害端点(61、63、65)に基づき、化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質のMICを決定すること;
および
該画像データに基づき、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)の各化学物質リザーバー(31、33、35)について、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質の混合物中の、化学物質リザーバー(31、33、35)に含まれる化学物質のMICを、該拡散係数および増殖端点(71、73、75)に基づいて決定すること、
を少なくとも1つのプロセッサー(210)に指示する、
コンピュータープログラム。
【請求項24】
請求項21~23のいずれかに記載されるコンピュータープログラムであって、ここで該指示が少なくとも1つのプロセッサー(210)によって実行される場合に、該指示が:
細胞培養基質(50)の表面(51)上に細胞集団(55)を配置してから所定の時間経過後に、培養容器(10)内の細胞培養基質(50)の表面(55)について少なくとも1枚の写真を撮影するようにカメラ(260)を制御すること、
を少なくとも1つのプロセッサー(210)に指示する、
コンピュータープログラム。
【請求項25】
請求項21~24のいずれかに記載されるコンピュータープログラムを含むコンピューター可読性保存媒体(250)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、化学物質混合物の細胞集団に対する化学物質相互作用効果を判定することに関するものである。
【背景技術】
【0002】
2種類以上の生体活性化合物が共存する場合には、常に化合物相互作用効果が存在し得る。化合物の混合物における併用効果が、化合物がおのおの単独で発揮する独立作用(相加性)に予想される効果よりも高い効果(正の相乗性)あるいは低い効果(負の相乗性、拮抗作用)である場合には、それら化合物には相互作用が存在する。したがって、特定の生物学的活性を最大化する目的で、正の相乗性を有する複数の化合物を物理的に組み合わせることができる。逆に、負の相乗性を有する他の複数の化合物については、混合物として用いたときに起こる活性阻害を回避する目的で、物理的に個別に作用させることが望ましい場合もある。
【0003】
併用効果および相乗性の最適化は、生体臨床医学の分野では特に重要である。2種類以上の薬剤の併用治療は、癌、および感染性疾患、例えば、細菌、ウイルスまたは真菌による感染性疾患の治療にますます利用されるようになってい。併用療法は治療の有効性を高め、かつ耐性進化を低減するため、単剤療法に比べて好ましい。併用療法の効力は、薬剤の生理的相互作用に関係しており、好ましい正の相乗性(協同的)作用あるいはまた拮抗性作用を発揮し得る。
【0004】
抗生物質に対する耐性が広がりつつあるため、抗生物質の相乗的組み合わせが治療の第1選択肢としてますます用いられるようになっている。抗生物質併用療法は、耐性を有する細菌感染症およびヘテロ耐性細菌を含む合併細菌感染症に対する有効治療を可能にし、それによって死亡率を低減し患者の回復を促進することが示されている。しかし、生物種間および臨床単離株間において薬剤相互作用が異なることもあり[1]、したがって慎重な診断法が治療成功にとって重要であることを、最近のデータは示している。
【0005】
相乗性を定量するには、複数の化合物についてそれぞれ個別の効果と組み合わせ効果とを測定することが必要となる。相乗効果は、典型的には狭い濃度範囲、すなわちS字状用量応答曲線の急勾配領域において良好に定量し得るものであるが、そのような曲線は生体試料に応じて数桁のずれが生じ得るため、困難がつきまとうのである。抗生物質相乗性の定量的尺度は、いわゆる部分阻害濃度指数(FICi)である。2種類の抗生物質AおよびBについてのFICiの定義は、cA/MICA+cB/MICBであるが、ここでMICA/BはAのみのとき、あるいはBのみのときの最小阻害濃度であり、cA/BはMICを与えるA+Bの混合物における抗生物質AまたはBの濃度を表している。最小阻害濃度(MIC)は、試料における増殖を防ぐ化合物の最小濃度である。
【0006】
相乗性定量の標準的方法は2次元ブロス微量希釈法であるが、これは2種類の化合物の複数の不連続的濃度を通常9×9または8×12濃度の正方格子(グリッド)、すなわちチェッカーボード状に組み合わせたものである。濃度グリッドが形成されれば、細胞試料を添加してその所定のインキュベーション時間の経過中または経過後に生物学的応答を測定する。3種類以上の薬剤間相乗性の定量に関して、簡易チェッカーボードアッセイが開発されている[2]。
【0007】
相乗性定量に関する別法として、ペトリ皿による半固体寒天表面培養法が開発されている。抗菌剤感受性試験(AST)は、抗生物質またはその他の化合物を染み込ませたペーパーディスクを用いて実施される日常的な試験である。細胞試料を播種した寒天表面上にペーパーディスクを載せる。化合物がディスクから周囲の寒天に拡散することによって濃度勾配の形成が起こり、細胞試料は特徴的阻害帯を除いてMICのところまで生育することができる。異なる薬剤を含む複数のディスクを近接して配置すると、相乗効果によって阻害帯の形状に歪みが生ずることがある。このように、ASTディスクの配置を利用して相乗性の定量的検出がこれまでに成されている[3]。類似の方法では紙またはプラスチックの短冊を用いるが、この短冊には化合物濃度勾配を有したコーティングが施され、化合物は所定の様式で寒天中を拡散する[4、5]。阻害帯の拡大は正の相乗性(協同作用)を示すものであり、他方、縮小は拮抗作用を示す。一般に、これらの方法は相乗効果の定性的情報のみを提供するものであって、FICi値などの定量的情報を与えるものではない。
【0008】
相乗性は短冊の交差構成を用いて定量することができ、2つの短冊を90°の角度に配置するが、その試験短冊はMIC点のところで互いに交差する[6]。抗生物質試験短冊交差構成の欠点は、複数工程を必要とすることである。試験短冊がMIC点の部位で互いに交差する必要があるため、細胞試料のMICはそれ以前のアッセイで既知となっていなくてはならない。第3の方法は閉鎖寒天拡散区画の利用である[7];これは播種した寒天表面を、拡散によって均一濃度になる小領域に区分する。この拡散区画によって、寒天プレートにおける不連続濃度および化合物混合物のチェッカーボード様試験が可能になる。
【0009】
したがって、相乗性の定量と最適化に関する迅速簡便な方法であって、臨床検査薬について利用可能であり、また広範な生体活性化合物に応用可能な方法が依然として必要とされるのである。
【発明の概要】
【0010】
本発明の一般的な目標は、化学物質混合物の細胞集団に対する化学物質相互作用効果を判定することである。
【0011】
この目標およびその他の目標は、本明細書中に開示するような実施態様によって達成される。
【0012】
本発明は独立形式請求項によって規定される。本発明のさらなる実施態様は、従属形式請求項によって規定される。
【0013】
本発明の一局面は、細胞集団に対する化学物質相互作用効果を判定する方法に関するものである。該方法は、互いに相対的な所定位置のN個の化学物質リザーバーを含む培養容器に細胞培養基質を添加することを含む。N個の化学物質リザーバーの各化学物質リザーバーはそれぞれ1種類の化学物質を含み、N個の化学物質リザーバーは組み合わせ領域をとり囲むが、ここでNは3以上の整数である。該方法はまた、細胞培養基質上および/または基質内に細胞集団を配置すること、および細胞培養基質上および/または基質内の細胞集団を所定の時間培養することを含み、培養中に、N個の化学物質リザーバー内の化学物質が細胞培養基質中を拡散し、細胞培養基質の組み合わせ領域において少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を形成し、N個の化学物質リザーバーの外側の境界部周辺の細胞培養基質において実質的に重複のない化学物質濃度勾配を形成する。該方法は、N個の化学物質リザーバーのうちの少なくとも2つの隣接化学物質リザーバーの各化学物質リザーバーに関して、細胞集団の増殖を実質的に欠如している阻害帯の阻害端点を判定することをさらに含む。阻害端点は、化学物質リザーバーの外側の境界部の周辺部に位置する。該方法は、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバーに関して、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバーに容れられている、または含まれている化学物質の少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を有する組み合わせ領域内において、細胞集団の増殖を含む増殖帯の増殖端点を判定することをさらに含む。該方法はまた、阻害端点および増殖端点に基づいて、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバーに含まれる化学物質間の化学物質相互作用効果を判定することを含む。
【0014】
本発明の別の一局面は、培養容器挿入部に関するものであって、該培養容器挿入部は中央にN角形の開口部を有する円形底プレートおよび該円形底プレートの外周に取り付けられた円形の壁を含む。該培養容器挿入部はまた、円形の壁および円形底プレートに取り付けられたN個の弦壁であって、中央のN角形の開口部を取り囲むN個の弦壁を含む。該円形底プレート、該円形の壁および各弦壁が化学物質リザーバーを規定し、ここでNは3以上の整数である。
【0015】
本発明の関連する一局面においては、培養容器を規定するが、該培養容器は、底部ディスク、その底部ディスクに取り付けられた円周壁、および本発明にしたがう培養容器挿入部を含むものであり、ここで該培養容器挿入部は、底部ディスク上に配置される円形底プレートおよび円周壁から離れて位置する円形の壁を有する培養容器内に配置される。
【0016】
本発明のさらなる局面は、底部ディスク、該底部ディスクに取り付けられた円周壁、および該底部ディスクに取り付けられ、かつ該円周壁によって取り囲まれ該円周壁から離れた位置にある円形の壁を含む培養容器に関するものである。該培養容器はまた、円形の壁および底部ディスクに取り付けられたN個の弦壁であって、底部ディスクのN角形部分を取り囲む弦壁を含む。該底部ディスク、該円形の壁および各弦壁は化学物質リザーバーを規定し、ここでNは3以上の整数である。
【0017】
本発明のさらに別の一局面は、細胞集団に対する化学物質相互作用効果を判定するキットに関するものである。該キットは、上記のような培養容器およびその培養容器に添加し固化させて細胞培養基質とすることを意図する多量の細胞培養基質ゲルを含む。N個の化学物質リザーバーの各化学物質リザーバーは各化学物質を含み、N個の化学物質リザーバーが組み合わせ領域を取り囲む。該キットはまた、細胞培養基質上および/または基質内の細胞集団を配置してから所定の時間経過後に、細胞培養基質について少なくとも1枚の写真を撮影する指示を含む。N個の化学物質リザーバー内の化学物質は細胞培養基質中を拡散するので、組み合わせ領域内の細胞培養基質において少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を形成し、N個の化学物質リザーバーの外側の境界部周辺の細胞培養基質において実質的に重複のない化学物質濃度勾配を形成する。該キットは、該少なくとも1枚の写真から、N個の化学物質リザーバーの各化学物質リザーバーについて、細胞集団の増殖を実質的に欠如している阻害帯の阻害端点を判定する指示をさらに含む。阻害端点は、化学物質リザーバーの周辺部に位置する。該キットはまた、該少なくとも1枚の写真から、N個の化学物質リザーバーの隣接する2つの化学物質リザーバーの各組み合わせに関して、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー内の化学物質の少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を有する組み合わせ領域内において、細胞集団の増殖を含む増殖帯の増殖端点を判定する指示を含む。該キットは、N個の化学物質リザーバーに含まれる化学物質の細胞培養基質における拡散係数を規定する情報をさらに含む。該キットはまた、隣接する2つの化学物質リザーバーについて判定された阻害端点、隣接する2つの化学物質リザーバーについて判定された増殖端点、および拡散係数を規定する情報に基づいて、隣接する2つの化学物質リザーバーの各組み合わせについて、隣接する2つの化学物質リザーバーに含まれる化学物質間の化学物質相互作用効果を評価するための指示を含む。
【0018】
本発明のさらなる局面は、少なくとも1つのプロセッサーによって実行される場合に、細胞培養基質上および/または細胞培養基質内に細胞集団を配置して所定時間経過後に撮影された培養容器内の細胞培養基質の少なくとも1枚の写真を表す画像データを、該少なくとも1つのプロセッサーが提供する指示を含むコンピュータープログラムに関する。培養容器は、互いに相対的な所定位置のN個の化学物質リザーバーを含む。N個の化学物質リザーバーの各化学物質リザーバーは1種類の化学物質を含む。N個の化学物質リザーバーは組み合わせ領域をとり囲み、Nは3以上の整数である。N個の化学物質リザーバー内の化学物質は細胞培養基質中を拡散し、組み合わせ領域内の細胞培養基質に少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を形成し、N個の化学物質リザーバーの外側の境界部周辺の細胞培養基質には実質的に重複のない化学物質濃度勾配を形成する。該少なくとも1つのプロセッサーはまた、画像データに基づき、N個の化学物質リザーバーのうちの少なくとも2つの隣接化学物質リザーバーの各化学物質リザーバーに関して、細胞集団の増殖を実質的に欠如している阻害帯の阻害端点を判定する。阻害端点は、化学物質リザーバーの外側の境界部周辺に位置する。該少なくとも1つのプロセッサーはさらに、画像データに基づき、該少なくとも2つの隣接化学物質リザーバーについて、該少なくとも2つの隣接化学物質リザーバーに含まれる化学物質の少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を有する組み合わせ領域内において、細胞集団の増殖を含む増殖帯の増殖端点を判定する。該少なくとも1つのプロセッサーはさらに、阻害端点および増殖端点に基づき、該少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー中に含まれる化学物質間の化学物質相互作用効果を判定する。
【0019】
本発明の関連する一局面では、上記のようなコンピュータープログラムを含むコンピューター可読性保存媒体を規定する。
【0020】
本発明は、化学物質の組み合わせについての相互作用効果(相乗効果または拮抗作用など)を、単一実験および単一培養容器で定量することを可能にする。本発明は、そのような化学物質相互作用に関する定性的情報を提供するのみならず、該化学物質相互作用の定量をも可能にする。
【0021】
実施態様ならびにさらなる目的およびそれらの利点については、添付図面と共に以下の説明を参照することによって、最も明確な理解が得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】一実施態様の培養容器挿入部を模式的に示す。底面図(上部の図)、側面図(中央部の図)および上面図(下部の図)である。
【
図2】細胞培養基質(中央部の図)を添加し、細胞培養(下部の図)後の培養容器挿入部(上部の図)を含む培養容器を模式的に示す。
【
図3】一実施態様にしたがう培養容器を模式的に示す。
【
図4】別の一実施態様にしたがう培養容器挿入部を模式的に示す。
【
図5】さらなる一実施態様にしたがう培養容器挿入部を模式的に示す。
【
図6】さらに別の一実施態様にしたがう培養容器挿入部を模式的に示す。
【
図7】一実施態様にしたがう培養容器挿入部を模式的に示す。
【
図8】別の一実施態様にしたがう培養容器挿入部を模式的に示す。
【
図9】培養容器挿入部を有する培養容器について撮影された写真であり、該培養容器挿入部は、化学物質リザーバー周辺部に配置される細胞培養基質の阻害帯を示している。
【
図10】培養容器挿入部を有する培養容器について撮影された写真であり、該培養容器挿入部は、その中心部において組み合わせ領域の細胞培養基質に増殖帯を示している。
【
図11】本発明にしたがって判定される、3種類の化学物質A、BおよびCについての部分阻害濃度指数(FICi)を表す図である。
【
図12】一実施態様にしたがって、細胞集団に対する化学物質相互作用効果を判定する方法を示すフローチャートである。
【
図13】一実施態様にしたがう、
図12に示す方法の付加的、任意選択的工程を示すフローチャートである。
【
図14】一実施態様にしたがう、
図12に示す方法の付加的、任意選択的工程を示すフローチャートである。
【
図15】別の一実施態様にしたがう、
図12に示す方法の付加的、任意選択的工程を示すフローチャートである。
【
図16】一実施態様にしたがうコンピューターを模式的に示す。
【
図17】大腸菌参照株K12-MG1655についての自己相互作用の実験を示す。8種類の抗生物質AMP、CIP、CTX、GEN、FOF、NIT、MEC、TMPの自己相互作用すべてについてのFICi。バーは、3重化生物試料における平均FICi値および標準偏差(SD)を表す。相互作用はいずれも事実上、相加的であり、1試料ウイルコクソンの符号付き検定ではFICi=1につき統計的有意差を示すものは全く検出されなかった。
【
図18A】CombiANT(登録商標)アッセイの技術的検証を示す。(18A)参照株である大腸菌、緑膿菌、および黄色ブドウ球菌における薬剤相互作用の定量。部分阻害濃度指数(FICi、平均±標準偏差、試料の多重化:n=10)によって表される相乗性。(18B)アッセイ精度の分析。反復可能性は同日に実施したアッセイの相対的標準誤差によって表される;破線は標準誤差の中央値を表し、点線は上位および下位の四分位数を表す;n=6の組み合わせ。再現性は、FICiにおける相対的な日間差異によって表される;破線は相対的差の中央値を表し、点線は上位および下位の四分位数を表す;n=6の組み合わせ。(18C)生物学的および技術的な再現性を定量するための、異なる日および同日の両方の多重化試料を含むプールデータ(多重化:n=10)に関する変動係数。抗生物質相互作用によって結果を群分けし、さらに3種類の株間で細かく分ける。(18D)Bland-Altmanの方法によるCombiANT(登録商標)の比較、およびチェッカーボードアッセイ(平均値、n=18、株と抗生物質の対の組み合わせ)。方法のFICiにおける絶対差を、それらの平均値に対してプロットする。点の小さな変動は、2種類の方法間で偏りがほとんどないことを示唆している。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図18B】CombiANT(登録商標)アッセイの技術的検証を示す。(18A)参照株である大腸菌、緑膿菌、および黄色ブドウ球菌における薬剤相互作用の定量。部分阻害濃度指数(FICi、平均±標準偏差、試料の多重化:n=10)によって表される相乗性。(18B)アッセイ精度の分析。反復可能性は同日に実施したアッセイの相対的標準誤差によって表される;破線は標準誤差の中央値を表し、点線は上位および下位の四分位数を表す;n=6の組み合わせ。再現性は、FICiにおける相対的な日間差異によって表される;破線は相対的差の中央値を表し、点線は上位および下位の四分位数を表す;n=6の組み合わせ。(18C)生物学的および技術的な再現性を定量するための、異なる日および同日の両方の多重化試料を含むプールデータ(多重化:n=10)に関する変動係数。抗生物質相互作用によって結果を群分けし、さらに3種類の株間で細かく分ける。(18D)Bland-Altmanの方法によるCombiANT(登録商標)の比較、およびチェッカーボードアッセイ(平均値、n=18、株と抗生物質の対の組み合わせ)。方法のFICiにおける絶対差を、それらの平均値に対してプロットする。点の小さな変動は、2種類の方法間で偏りがほとんどないことを示唆している。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図18C】CombiANT(登録商標)アッセイの技術的検証を示す。(18A)参照株である大腸菌、緑膿菌、および黄色ブドウ球菌における薬剤相互作用の定量。部分阻害濃度指数(FICi、平均±標準偏差、試料の多重化:n=10)によって表される相乗性。(18B)アッセイ精度の分析。反復可能性は同日に実施したアッセイの相対的標準誤差によって表される;破線は標準誤差の中央値を表し、点線は上位および下位の四分位数を表す;n=6の組み合わせ。再現性は、FICiにおける相対的な日間差異によって表される;破線は相対的差の中央値を表し、点線は上位および下位の四分位数を表す;n=6の組み合わせ。(18C)生物学的および技術的な再現性を定量するための、異なる日および同日の両方の多重化試料を含むプールデータ(多重化:n=10)に関する変動係数。抗生物質相互作用によって結果を群分けし、さらに3種類の株間で細かく分ける。(18D)Bland-Altmanの方法によるCombiANT(登録商標)の比較、およびチェッカーボードアッセイ(平均値、n=18、株と抗生物質の対の組み合わせ)。方法のFICiにおける絶対差を、それらの平均値に対してプロットする。点の小さな変動は、2種類の方法間で偏りがほとんどないことを示唆している。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図18D】CombiANT(登録商標)アッセイの技術的検証を示す。(18A)参照株である大腸菌、緑膿菌、および黄色ブドウ球菌における薬剤相互作用の定量。部分阻害濃度指数(FICi、平均±標準偏差、試料の多重化:n=10)によって表される相乗性。(18B)アッセイ精度の分析。反復可能性は同日に実施したアッセイの相対的標準誤差によって表される;破線は標準誤差の中央値を表し、点線は上位および下位の四分位数を表す;n=6の組み合わせ。再現性は、FICiにおける相対的な日間差異によって表される;破線は相対的差の中央値を表し、点線は上位および下位の四分位数を表す;n=6の組み合わせ。(18C)生物学的および技術的な再現性を定量するための、異なる日および同日の両方の多重化試料を含むプールデータ(多重化:n=10)に関する変動係数。抗生物質相互作用によって結果を群分けし、さらに3種類の株間で細かく分ける。(18D)Bland-Altmanの方法によるCombiANT(登録商標)の比較、およびチェッカーボードアッセイ(平均値、n=18、株と抗生物質の対の組み合わせ)。方法のFICiにおける絶対差を、それらの平均値に対してプロットする。点の小さな変動は、2種類の方法間で偏りがほとんどないことを示唆している。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図19】大腸菌参照株K12-MG1655に関するCombiANT(登録商標)UTI抗生物質相互作用を示す。バーは、3重化生物試料の平均FICi値および標準偏差(SD)を表す。点線はFICi=1を示す。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;****P<0.0001、***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図20A】大腸菌UTI臨床的単離株の相互作用スクリーニングを示す。FICi(平均±標準偏差)で表した抗生物質相互作用。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図20B】大腸菌UTI臨床的単離株の相互作用スクリーニングを示す。FICi(平均±標準偏差)で表した抗生物質相互作用。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図20C】大腸菌UTI臨床的単離株の相互作用スクリーニングを示す。FICi(平均±標準偏差)で表した抗生物質相互作用。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図20D】大腸菌UTI臨床的単離株の相互作用スクリーニングを示す。FICi(平均±標準偏差)で表した抗生物質相互作用。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図20E】大腸菌UTI臨床的単離株の相互作用スクリーニングを示す。FICi(平均±標準偏差)で表した抗生物質相互作用。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図20F】大腸菌UTI臨床的単離株の相互作用スクリーニングを示す。FICi(平均±標準偏差)で表した抗生物質相互作用。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図20G】大腸菌UTI臨床的単離株の相互作用スクリーニングを示す。FICi(平均±標準偏差)で表した抗生物質相互作用。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図20H】大腸菌UTI臨床的単離株の相互作用スクリーニングを示す。FICi(平均±標準偏差)で表した抗生物質相互作用。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図20I】大腸菌UTI臨床的単離株の相互作用スクリーニングを示す。FICi(平均±標準偏差)で表した抗生物質相互作用。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図20J】大腸菌UTI臨床的単離株の相互作用スクリーニングを示す。FICi(平均±標準偏差)で表した抗生物質相互作用。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図20K】大腸菌UTI臨床的単離株の相互作用スクリーニングを示す。FICi(平均±標準偏差)で表した抗生物質相互作用。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図20L】大腸菌UTI臨床的単離株の相互作用スクリーニングを示す。FICi(平均±標準偏差)で表した抗生物質相互作用。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図20M】大腸菌UTI臨床的単離株の相互作用スクリーニングを示す。FICi(平均±標準偏差)で表した抗生物質相互作用。FICi=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定;***P<0.001、**P<0.01、*P<0.05。
【
図21】抗生物質以外の生体活性化合物の分析におけるCombiANT(登録商標)の利用を示す。
【
図22】異なる蛍光蛋白質を発現する混合細菌試料の分析におけるCombiANT(登録商標)の利用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は一般に、細胞集団に対する化学物質混合物の化学物質相互作用効果の判定に関するものである。
【0024】
本発明は、細胞集団に対する化学物質の組み合わせの相互作用効果を調べるため、および判定するために利用することができる。本発明は、化学物質の組み合わせが細胞集団に対して相互作用効果を有することを確認する、および相互作用効果の程度を定量するために用いることができ、すなわち、定性的情報および定量的情報の両方を提供する。化学物質の組み合わせが相乗作用、阻害作用または拮抗作用を発揮するか否か、あるいは細胞集団に対してただ単に独立した作用または相加的効果を与えるだけであるのか否かについて評価する目的、およびそのような相乗的または阻害性/拮抗的効果を定量する目的においても、本発明を利用することが可能であることを、上記は意味している。
【0025】
本明細書中の「化学物質」は、細胞集団に対して効果を発揮し得る任意の分子、化合物、組成物またはその他の化学物質であって、該細胞集団に関するそのような化学物質と別のもう一つの化学物質の相互作用効果を判定する、分子、化合物、組成物またはその他の化学物質を意味する表現である。そのような化学物質の典型的な例としては、薬剤または治療薬剤(薬剤候補を含む)が挙げられるが、それらのみに限定されるものではない;ここでは、細胞集団に対する異なる薬剤または治療薬剤の組み合わせの相互作用が対象となる。例えば、異なる薬剤または治療薬剤の組み合わせが細胞集団に対して単なる相加的効果を超える効果を発揮し得るか否か、すなわち、薬剤または治療薬剤の組み合わせが、該薬剤または治療薬剤の単独での作用から予想される効果よりも高い効果または大きな効果、すなわち、相乗効果を有しているのか否かを明らかにすることを対象とするものであってもよい。さらに、そのような組み合わせの薬剤または治療薬剤のうちの1つが、他の薬剤または治療薬剤が単独で細胞集団に対して発揮する作用または効果を阻害するか否かを明らかにすること、すなわち、なんらかの拮抗作用が存在するか否かを判定することを対象とするものであってもよい。
【0026】
薬剤または治療薬剤の組み合わせまたはカクテルを、治療に用いる複数の疾患が存在し、そのような治療としては、癌患者の化学療法における細胞増殖抑制性剤または化学療法剤、細菌感染における抗生物質または抗微生物剤、およびまた、そのようなウイルス感染または真菌感染における抗ウイルス剤または抗真菌薬の組み合わせが挙げられる。
【0027】
該化学物質は必ずしも薬剤または治療薬剤である必要はなく、例えば、毒性物質、汚染物質、イオンまたはその他の化学物質であってもよく、ここで細胞集団に対して該化学物質が相互作用効果を有するのか否かを判定することが対象となるのであってもよい。
【0028】
図12は、一実施態様にしたがって、細胞集団に対する化学物質相互作用効果を判定する方法を示すフローチャートである。この方法については、
図1、2、9および10を参照しながら下で説明する。該方法は工程S1から開始するが、この工程はN個の化学物質リザーバー31、33、35を互いに相対的な所定位置に含む培養容器10に、細胞培養基質50を添加することを含む。N個の化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35は化学物質を含み、N個の化学物質リザーバー31、33、35が
図10に示すような組み合わせ領域41、43、45を取り囲む。この実施態様にしたがえば、パラメーターNは3以上の整数である。
【0029】
該方法はまた、工程S2において、細胞培養基質50上および/または細胞培養基質50内に細胞集団55を配置し、細胞培養基質50上および/または細胞培養基質50内の細胞集団55を所定の時間培養することを含むが、このときN個の化学物質リザーバー31、33、35の化学物質が細胞培養基質50中を拡散するので、組み合わせ領域41、43、45内の細胞培養基質50において少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を形成し、またN個の化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部周辺では細胞培養基質50に実質的に重複のない化学物質濃度勾配を形成する。
【0030】
該方法は、工程S3において、N個の化学物質リザーバー31、33、35のうちの少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35について、細胞集団55の増殖を実質的に欠如している阻害帯60、62、64の阻害端点61、63、65を判定することをさらに含む。この阻害端点61、63、65は、化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部に対して相対的に辺縁部に位置する。
【0031】
該方法はまた、工程S4において、該少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35に関して、該少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質の少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を有する組み合わせ領域41、43、45内において、細胞集団55の増殖を含む増殖帯70、72、74の増殖端点71、73、75を判定することを含む。
【0032】
図12の工程S3およびS4は、少なくとも部分的には同時または任意の順序で逐次的に実施することができる;すなわち、工程S4の前に工程S3、または工程S3の前に工程S4を実施することができる。
【0033】
該方法は、工程S5において、阻害端点61、63、65および増殖端点71、73、75に基づき、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質間の化学物質相互作用効果を判定することをさらに含む。
【0034】
図12の方法に用いる培養容器10は、細胞を培養する任意の容器またはデバイスであり得るが、そのようなものとしては、培養プレート、培養ディッシュ(ペトリ皿など)が挙げられるが、これらにのみに限定されるものではない。
【0035】
一実施態様においては、
図12の工程S1は、細胞培養基質ゲルを培養容器10に添加すること、および細胞培養基質ゲルを固化させて細胞培養基質50とすることを含む。したがって、この実施態様においては、細胞培養基質ゲルを培養容器10に注ぎ、固化させて、細胞集団55を、その上および/またはその中で培養し得る細胞培養基質50とする。
【0036】
該細胞培養基質ゲルおよび細胞培養基質50は、細胞のインビトロ培養に用いる任意のそのような基質ゲルおよび基質であり得る。そのような細胞培養基質50の具体例としては、寒天、アガロース、アルギン酸、細菌セルロース、MATRIGEL(登録商標)、ヒドロゲル、ポリ-L-リジンおよびフィブロネクチンが挙げられるが、それらのみに限定されるものではない。
【0037】
工程S1において細胞培養基質ゲルを添加することの代替としては、多孔質性細胞培養基質50などの細胞培養基質50を培養容器10に添加し、流し込み、または注ぎ込み、任意選択的に(多孔質)細胞培養基質50を培養容器10中で固化させることもできる。実際には、培養容器10に流し込む、重合する、またはその他の任意の方法で成形させることのできる任意の細胞培養基質10を、本発明にしたがって利用することが可能であろう。
【0038】
工程S2において、該細胞培養基質上および/または該細胞培養基質内に細胞集団55を配置する。好ましい一実施態様においては、細胞集団55を細胞培養基質50の表面51上に配置して、細胞培養基質50の表面51上で所定の時間培養する。その後、細胞集団55は細胞培養基質50の表面51上で2次元の(2D)培養物を生成する。別の一実施態様においては、細胞集団55を少なくとも部分的に細胞培養基質50内に配置するのであってもよい。これは、細胞培養基質50内、および任意選択的に少なくとも部分的には細胞培養基質50の表面51上で該細胞を3次元の(3D)培養物として増殖させるのであってもよいことを意味する。この実施態様においては、細胞集団55を細胞培養基質ゲルと事前混合するのであってもよく、その場合には工程S1およびS2を、少なくとも部分的には同時に実施する。あるいは、細胞培養基質50として固化させる前に、細胞集団55を細胞培養基質ゲルに添加するのであってもよい。
【0039】
培養容器10は、各化学物質を含むN個の化学物質リザーバー31、33、35を含む。化学物質リザーバー31、33、35は、互いに相対的な所定位置に配置され、いわゆる組み合わせ領域41、43、45を含む中心領域または窓40を取り囲む。これらの化学物質リザーバー31、33、35は、該化学物質を含むことが意図される任意のリザーバー、チャンバーまたはセルであり得る。化学物質リザーバー31、33、35は、開放リザーバーであって、閉鎖リザーバーではない;すなわち、遮断部または天井部などは一切有していない。このことは、
図2に示されるように、化学物質リザーバー31、33、35が細胞培養基質50に対して開かれており、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質が細胞培養基質50中を拡散可能であり、それによって細胞培養基質50に濃度勾配を形成し、細胞培養基質50の化学物質リザーバー31、33、35から離れた部分において該化学物質の濃度が次第に増加することを意味している。
【0040】
化学物質リザーバー31、33、35からの該化学物質の拡散および化学物質リザーバー31、33、35の互いに相対的な位置は、化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部に対して周辺部にある細胞培養基質50の部分、すなわち、化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部または末端部と細胞培養基質50の外縁部との間に位置する細胞培養基質50の一部分のみが実質的に化学物質リザーバー31、33、35から拡散する化学物質を含むことを意味している。例えば、
図9に示される線80に沿って、化学物質リザーバー31の外側の境界部から細胞培養基質50の外縁部に向かって拡散する場合に、化学物質リザーバー31に含まれる化学物質の濃度勾配が存在し、化学物質リザーバー31の外側の境界部が高濃度で、細胞培養基質50の外縁部において化学物質が低濃度またはゼロ濃度となる。さらに、細胞培養基質50のこの部分において、その他の化学物質リザーバー33、35からの化学物質の拡散は実質的に存在しない。したがって、細胞培養基質50のこの部分では、そのような他の化学物質の濃度は実質的にゼロである。このことは、化学物質リザーバー31、33、35に対して周辺部になる細胞培養基質50の各部分においては、細胞培養基質50にN種類の実質的に重複のない化学物質濃度勾配が存在することを意味している。
【0041】
化学物質リザーバー31、33、35の化学物質は細胞培養基質50の周辺部のみならず、中心窓の中心15または組み合わせ領域41、43、45を伴う部分40に向かっても拡散する。この中心窓または細胞培養基質50の部分40において、該化学物質は組み合わせ領域41、43、45に少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を形成する。このことは、所定の組み合わせ領域41において、隣接する2つの化学物質リザーバー31、33の第1の組み合わせに含まれる化学物質の化学物質濃度勾配は、少なくとも部分的には重複を生じ、他方、別の組み合わせ領域43においては、隣接する2つの化学物質リザーバー33、35の第2の組み合わせに含まれる化学物質の化学物質濃度は少なくとも部分的には重複を生ずることを意味する。このことは、各化学物質リザーバー31、33、35がそれぞれ、それ以外の化学物質リザーバー31、33、35中の化学物質とは異なる化学物質を含む場合には、各組み合わせ領域41、43、45は少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配の固有の組み合わせを含むことを意味している。
【0042】
化学物質リザーバー31、33、35の相互配置の結果として、細胞培養基質50の中心窓または部分40は少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を含み、他方、化学物質リザーバー31、33、35よりも外側の細胞培養基質50の周辺部は実質的に重複のない化学物質濃度勾配を含む。
【0043】
化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部に対して周辺の細胞培養基質50の領域または部分は各阻害帯60、62、64を含む。阻害帯60、62、64において、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質の濃度は充分高く、細胞集団55の増殖を防ぐ。化学物質リザーバー31、33、35から細胞培養基質50の外縁部、すなわち、いわゆる阻害端点61、63、65へ向かって拡散が起こる場合に、この阻害帯60、62、64の末端は、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質の最低濃度であって、細胞集団55の増殖を防ぎ得る、あるいは阻害し得る最低濃度を表している。
【0044】
細胞培養基質50の中心窓または部分40における各組み合わせ領域41、43、45は、細胞集団55の増殖を含む各増殖帯70、72、74を含む。そのような各増殖帯70、72、74は、該細胞集団が最早増殖していない組み合わせ領域41、43、45内に端点を含む。細胞増殖と細胞増殖欠如との境界のこの端点は、いわゆる増殖端点71、73、75を構成する。この端点において、隣接化学物質リザーバー31、33、35に含まれる2種類の化学物質の濃度の組み合わせは、細胞集団55の増殖を防ぐ、もしくは阻害するのに充分である。
【0045】
この場合に、2種類の化学物質/化学物質リザーバー31、33、35について判定された阻害端点61、63、65に基づき、および2種類の化学物質の化学物質濃度勾配が部分的に重複する組み合わせ領域41、43、45について判定された増殖端点71、73、75に基づき、2種類の化学物質間の化学物質相互作用効果を判定することができる。
【0046】
一実施態様において、該方法は、
図13に示すような2つの付加的工程を含む。
図12の工程S3の後に、工程S10を実施するが、この工程S10は、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35について、阻害端点61、63、65に基づき、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質の細胞集団に対する最小阻害濃度(MIC)を判定することを含む。
図12の工程S4の後に
図13の工程S11を実施するが、この工程S11は、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35について、増殖端点71、73、75に基づき、該少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質の混合物中の化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質のMICを判定することを含む。
【0047】
次いで、該方法
図12の工程S5に続く。この実施態様においては、工程S5は、MICに基づいて部分阻害濃度指数(FICi)を決定することを含む。
【0048】
特定の一実施態様において、工程S5は、cA/MICA+cB/MICBに基づいて、あるいは好ましくはcA/MICA+cB/MICBに等しいものとしてFICiを決定することを含む。MICAは、化学物質リザーバー31に含まれる化学物質Aについて工程S10で決定されるMICを表すものであり、他方、MICBは、隣接化学物質リザーバー33に含まれる化学物質Bについて工程S10で決定されるMICを表す。したがって、これらのMIC値は各阻害端点61、63に基づいて決定される。これに対応して、cAは、工程S11において増殖端点71に基づいて決定されるような化学物質AおよびBのMICを与える混合物中の化学物質AのMICを表し、他方、cBは、工程S11において増殖端点71に基づいて決定されるような化学物質AおよびBのMICを与える混合物中の化学物質BのMICを表す。
【0049】
したがって、本発明は、細胞容器10中の2種類の化学物質の組み合わせについて、単一実験でFICiを決定することができる;その理由は、本発明が混合物中の化学物質のMICのみならず、化学物質の組み合わせについてのFICiの決定に必要となる化学物質の個別のMICについても提供するからである。
【0050】
図11は、
図10に示す培養容器で試験した3種類の化学物質A、BおよびCについてのFICi値を示す図である。FICi値が1よりも小さい場合には、相乗効果の存在を表している。そのような相乗効果は、被検化学物質AおよびBの組み合わせについて観察されるものである。FICi値がおおよそ1に等しい場合には、化学物質BおよびCの組み合わせが示すような相加効果を表している。一般に、FICi値が1よりも大きい場合には、拮抗作用を表す。本例においては、化学物質AおよびCの組み合わせが拮抗作用を発揮する。臨床的に意義のある相乗効果のレベルは通常0.5よりも小さいFICi値と定義される(ここでは化学物質AとBとの間に見られるような効果);また、臨床的に意義のある拮抗作用のレベルは通常4よりも大きいFICi値と定義される(ここでは化学物質AとCとの間に見られるような効果)。
【0051】
一実施態様においては、
図13の工程S10は、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35について、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質が細胞培養基質50中を拡散するときの拡散係数および阻害端点61、63、65に基づき、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質のMICを決定することを含む。この実施態様においては、工程S11は、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35について、該拡散係数および増殖端点71、73、75に基づき、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質の混合物中の、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質のMICを決定することを含む。
【0052】
細胞培養基質50に関する化学物質の拡散係数を用いて、細胞培養基質50における距離を該化学物質の濃度に変換することができる。化学物質の化学物質濃度勾配が拡散のフィック則にしたがうと仮定すれば、有限要素モデル(FEM)を用いて、移流束も正味の体積源も存在しない場合の対流拡散方程式を解くことにより、該化学物質の濃度(C)の算出が可能である。該モデルでは、所定の点における化学物質濃度を算出するために、拡散係数(d)、拡散時間(t)および化学物質リザーバー31、33、35における所定の点と細胞培養基質50における所定の点との間の距離(X)、すなわち、ある関数f( )のC=f(d、t、X)、を用いる。阻害端点61、63、65または増殖端点71、73、75に対する距離を測定する場合に、参照点として用いる化学物質リザーバー31、33、35の所定の点は、化学物質リザーバー31、33、35の中央または中心、または化学物質リザーバー31、33、35の境界部など、化学物質リザーバー31、33、35における、またはそれらに対するいかなる参照点であってもよい。
【0053】
化学物質の拡散係数は、典型的には用いる特定の細胞培養基質50に依存する。このことは、所定の化学物質は、第1の細胞培養基質を用いる場合には第1の拡散係数を有し、第2の異なる細胞培養基質を用いる場合には第2の異なる拡散係数を有するものであってもよいことを意味している。
【0054】
ある細胞培養基質についての化学物質の拡散係数は、拡散較正によって決定し得る。そのような拡散較正は、化学物質をそれぞれ異なる濃度で含むN個の化学物質リザーバー31、33、35を含んでいる培養容器10に、細胞培養基質50を添加することを含む。例えば、細胞培養基質ゲルを培養容器10に添加し固化させて細胞培養基質50とすることができる。拡散較正はまた、細胞培養基質50上および/または細胞培養基質50内に被検細胞集団55を配置し、N個の化学物質リザーバー31、33、35の化学物質を細胞培養基質50中に拡散させながら、細胞培養基質50上および/または細胞培養基質50内で被検細胞集団55を所定の時間培養することを含む。これらの工程は、基本的には
図12の工程S1およびS2に対応するが、各化学物質リザーバー31、33、35が同一の化学物質を、好ましくは異なる濃度で含んでいるという違いを有する。拡散較正において化学物質を異なる濃度で用いることは、特定の化学物質が細胞培養基質50内を急速に拡散するような場合であっても、読み取り可能な結果が存在するであろうことを意味している。拡散較正に用いる被検細胞集団55については、化学物質についてのMICが既知である。
【0055】
拡散較正はまた、N個の化学物質リザーバー31、33、35の少なくとも1つの化学物質リザーバー31、33、35について、被検細胞集団55の増殖を実質的に欠如している阻害帯60、62、64の阻害端点61、63、65を判定することを含む。阻害端点61、63、65は、化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部の周辺部に位置する。この工程は、基本的には
図12の工程S3に対応する。
【0056】
拡散較正は、被検細胞集団55についての阻害端点61、63、65および化学物質のMICに基づいて、化学物質の細胞培養基質50についての拡散係数を決定することをさらに含む。
【0057】
したがって、阻害帯端部60、62、63の阻害端点61、63、65は、被検細胞集団55についての化学物質のMICに対応する、すなわち、実質的にそのMICに等しい化学物質濃度を有する。Cが既知MICに等しく、またXが阻害端点61、63、65と化学物質リザーバー31、33、35における所定の点との間の距離に等しいものとして、上記の方程式、C=f(d、X)を用いることにより、拡散係数(d)を算出することができる。
【0058】
拡散較正に用いる被検細胞集団55は、該化学物質についてのMICが既知であって、細胞培養基質50上および/または細胞培養基質50内で培養可能ないかなる細胞集団であってもよい。
【0059】
拡散較正は、化学物質相互作用効果を判定する方法を実施する前に、別個のプロセスとして実施することができる。あるいは、拡散較正を実施し、次いで、後に化学物質相互作用効果を判定する方法を実施する際に用いる目的で、その情報を保存する。したがって、該方法に用いる拡散係数を表またはリストから取り出すことが可能であり、例えば、上記の拡散較正を用いて予め拡散係数を決定しておくのであってもよい。
【0060】
細胞集団55は、細胞培養基質50上および/または細胞培養基質50内で所定の時間培養する。この培養時間は、細胞が細胞培養基質50上および/または細胞培養基質50内で増殖し、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質が細胞培養基質50に拡散して化学物質濃度勾配を形成することが可能であるように選択される。
【0061】
該培養時間は長すぎてはいけない。その理由は、そのような場合に、最終的に化学物質が細胞培養基質50に拡散して基本的に細胞培養基質50における化学物質の濃度が均一になり、化学物質濃度勾配が最早存在しなくなるからである。また、該培養時間は短すぎてもいけない。その理由は、細胞培養基質50において化学物質濃度勾配が形成される時間を経過しておらず、また細胞培養基質50上および/または細胞培養基質50内で細胞集団55が増殖するのに充分な時間が経過していないからである。
【0062】
該所定の時間は、一実施態様においては、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質の拡散係数に基づいて、および好ましくは細胞集団55の細胞分裂時間に基づいて選択される。典型的な一実施態様においては、該所定の時間は、6時間~36時間内の時間、好ましくは8時間~32時間内の時間、およびより好ましくは10時間~30時間内の時間から選択される。現在の好ましい時間は、12時間~24時間である。したがって、典型的な一実施態様においては、細胞培養基質50上および/または細胞培養基質50内で細胞集団55を一晩培養する。
【0063】
一実施態様においては、該方法は、
図14に示すような付加的工程S20を含む。この工程S20は、N個の化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35に、ゲルと混合した化学物質を添加し、そのゲルを固化させて化学物質含有プラグとすることを含む。
【0064】
この実施態様では、したがって、
図12の工程S1において細胞培養基質または細胞培養基質ゲルを加える前に、各化学物質リザーバー31、33、35が化学物質含有プラグを含む。化学物質を混合したゲルは、工程S1で添加した細胞培養基質ゲルであってもよく、あるいは化学物質含有プラグとして固化させることのできる別のゲルであってもよい。しかし、そのような化学物質含有プラグに含まれる化学物質は、培養容器10に形成される細胞培養基質50内を化学物質含有プラグから拡散可能でなければならない。
【0065】
図15は、化学物質リザーバー31、33、35に化学物質を提供する別の一実施態様を示している。この実施態様においては、N個の化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35は、凍結乾燥または乾燥形態の化学物質を含む。そのような場合には、工程S21において、ゲルをN個の化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35に添加する。次いで、該化学物質をゲルに溶解または分散させ、ゲルを化学物質含有プラグとして固化させる。
【0066】
工程S21は、
図12の工程S1とは別にまたは工程S1と共に実施することができる。前者の場合には、まずゲルを化学物質リザーバー31、33、35に添加して、化学物質含有プラグとして固化させる。そのような場合には、該ゲルは工程S1で添加した細胞培養基質ゲルであってもよく、あるいは化学物質含有プラグとして固化させる別のゲルであってもよい。後者の場合には、該化学物質含有プラグは化学物質リザーバー31、33、35に存在する細胞培養基質50の一部である。化学物質リザーバー31、33、35を凍結乾燥化学物質または乾燥化学物質と共に用いる場合には、まず、工程S21において、化学物質リザーバー31、33、35に化学物質含有プラグを形成させることが一般的に好ましく、次いで別の工程として、工程S1において細胞培養基質または細胞培養基質ゲルを添加してゲル中で該化学物質を良好に溶解または分散させ、少なくとも実質的に均一な所定の化学物質濃度を有する化学物質含有プラグを得る。
【0067】
一実施態様においては、
図12の工程S1は、N個の化学物質リザーバー31、33、35を覆うように所定容積の細胞培養基質ゲルを培養容器10に添加し、細胞培養基質ゲルを細胞培養基質50として固化させることを含む。したがって、化学物質リザーバー31、33、35が覆われた細胞培養基質50の形成に充分な容量の細胞培養基質ゲルを培養容器10に添加しなくてはならない。
【0068】
具体例を示せば、標準的な90mmペトリ皿に対して所定容積である25mLを用いることができる。別の培養容器10については、所定容積は好ましくは、培養容器挿入部20を覆うように算出される。特定の一例においては、培養容器挿入部20を、好ましくは少なくとも2mmの高さであって、かつ好ましくは10mm未満の高さまで覆う必要がある。
【0069】
所定容積の細胞培養基質ゲルを用いることは、細胞培養基質50の表面51上に細胞集団を配置し、細胞培養基質50の表面51上で細胞集団55を培養する場合には、特に有益である。そのような場合には、該化学物質は細胞培養基質50中を拡散し、細胞培養基質50の表面51に沿って組み合わせ領域41、43、45内で少なくとも部分的には重複する化学物質濃度を形成し、化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部の周辺で細胞培養基質50の表面51に沿って実質的に重複のない化学物質濃度勾配を形成する。
【0070】
該細胞培養基質ゲルのこの所定容積は、好ましくは上記の拡散較正においても用いられる。
【0071】
該細胞培養基質ゲルの所定容積は、培養容器10の容積に少なくとも部分的には依存する。
【0072】
一実施態様においては、
図12の工程S3は、N個の化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35について、阻害帯60、62、64の阻害端点61、63、65を判定することを含む。工程S4は、この実施態様においては、N個の化学物質リザーバー31、33、35の隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35の各組み合わせについて、隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質の少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を有する組み合わせ領域41、43、45内で、増殖帯70、72、74の増殖端点71、73、75を判定することを含む。この実施態様においては、工程S5は、隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35の各組み合わせに関して、隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35について判定された阻害端点61、63、65および隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35について判定された増殖端点71、73、75に基づいて、隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質間の化学物質相互作用効果を判定することを含む。
【0073】
したがって、この実施態様においては、N個の阻害端点61、63、65およびN個の増殖端点71、73、75を判定し、隣接化学物質リザーバー31、33、35とそこに含まれる化学物質との各対に関して、化学物質相互作用効果を判定する。例えば、化学物質A、BおよびCを含む3種類の化学物質リザーバー31、33、35が含まれている
図1、2、9および10に示すような培養容器10を用いて、化学物質AとBの間、化学物質AとCの間、および化学物質BとCの間の化学物質相互作用効果を判定することができる。
【0074】
一実施態様においては、
図1に示すような円の外周に沿って互いに相対的な所定位置にN個の化学物質リザーバー31、33、35を配置する。そのような一実施態様においては、阻害端点61、63、65は、円の中心15および化学物質リザーバー31、33、35を通る軸80に沿い、化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部に対して周辺部の軸80上の1点に位置する。
【0075】
したがって、そのような一実施態様においては、阻害端点61、63、65は、円の中心15に対して放射状、かつ化学物質リザーバー31、33、35を通る半径の線上に位置する。
【0076】
図2、9および10に示すような培養容器10は、培養容器挿入部20内に3種類の化学物質リザーバー31、33、35を含むので、すなわち、パラメーターNが3である。しかし、この実施態様は、
図4~6および8に示すような3種類超の化学物質リザーバー31、33、35、37、39を利用することを含むが、それのみに限定されるものではない。培養容器10が3種類超の化学物質リザーバー31、33、35、37、39を含む場合には、一般的に非隣接化学物質リザーバーの濃度勾配は、典型的には培養容器挿入部20の中央部で重複し、そのため化学物質相互作用効果を判定するための計算がより複雑になる。
【0077】
したがって、好ましい一実施態様においては、パラメーターNは3であり、それによって化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質のあらゆる組み合わせの化学物質相互作用効果を単一実験で試験することが可能になる。
【0078】
一実施態様においては、各化学物質リザーバー31、33、35は、円の外周に整列する円周壁24の間において、
図1に示すような弦壁21、23、25によって取り囲まれる。そのような一実施態様においては、3つの弦壁21、23、25が三角形40を取り囲む。したがって、そのような一実施態様においては、該中心窓または中心部は三角形40の形状の内部にある。
【0079】
好ましい一実施態様においては、各化学物質リザーバー31、33、35の容積は同一であり、そのため各弦壁21、23、25は同一の長さを有する。そのような一実施態様においては、3つの弦壁21、23、25で取り囲まれる三角形40は正三角形40である。しかし、この実施態様はそれのみに限定されるものではない。例えば、3つの弦壁21、23、25で取り囲まれる三角形40が二等辺三角形40のこともあり得る。そのような一実施態様においては、化学物質リザーバー31、33の2つが、同一容積を有し、それらの弦壁21、23が同一の長さであり、他方、残りの化学物質リザーバー35の容積は異なり、その弦壁25の長さが異なるのであってもよい。そのような場合には、化学物質濃度勾配の解像度は、異なる化学物質および化学物質リザーバー31、33、35に応じて異なるものとなる。
【0080】
細胞培養基質50内および/または細胞培養基質50上で培養する細胞集団55は、任意の単一種類の細胞集団または複数種類の細胞の混合物であり得る。該細胞の具体的な例としては、例えば、細菌性細胞、酵母細胞、真菌細胞、古細菌細胞、植物細胞、ヒト細胞を含む動物細胞(不死化細胞株、原発性癌細胞および試料に由来する培養物)を挙げることができるが、それらのみに限定されるものではない。細胞はまた、ファージ感染した細菌およびウイルス感染した真核細胞のこともあり得る。例えば、細胞集団55は、生体試料(患者から取得される試料など)から得られることもあり得る。さらに、生体試料としては、体液試料(血液試料、血漿試料、血清試料、リンパ液試料、脳脊髄液試料、または尿試料など)、または身体組織試料(生検試料)、または体液または組織試料から単離および任意選択的に精製される細胞のこともあり得る。
【0081】
本発明は、単離または精製した細胞試料について利用され得るのみならず、実際のところ組み合わせ細胞試料(すなわち、実施例5に示すような2種類以上の異なる細胞種または細胞株を含む試料)中の1種類以上の細胞について化学物質相互作用効果を判定する目的で、利用するのであってもよい。このことは、本発明にしたがって細胞を分析する前に行うべき、細胞または株の精製工程の必要性が減ることを意味している。好ましい一実施態様においては、細胞混合物中の異なる細胞または株は、好ましくは細胞培養基質上および/または細胞培養基質内で判別可能であり、特に視覚的識別が可能である。例えば、個々の細胞の形状(桿菌性対一般的な円形の形状を有する球菌性細胞など)によって、混合物中の細胞または株のうちの1種類以上が蛍光蛋白質を発現する場合には蛍光測定または顕微鏡法によって、あるいは混合物中の細胞または株のうちの1種類以上が色素または比色標識を発現する場合には比色測定または顕微鏡法によって、などで、個々の細胞または株を同定および分離することができる。
【0082】
本発明の方法の典型的応用は、細菌集団に対する抗微生物剤(抗生物質など)の組み合わせについてのFICi値決定に関連するものである。細菌集団は、例えば、細菌感染症に罹患している対象の血液培養物またはその他の体液あるいは組織試料に由来するものであってもよい。その場合には、該細菌集団の増殖阻害に有効であり、細菌感染症と戦うための、該対象に投与し得る抗微生物剤の好適な組み合わせを見つけ出す目的で、該方法を利用することができる。
【0083】
そのような特定の一実施態様において、
図1、2、9および10に示すような細胞容器10を用いる場合には、
図12の工程S1は、互いに相対的な所定位置に3種類の化学物質リザーバー31、33、35を含む培養容器10に、該細胞培養基質ゲルを添加し、該細胞培養基質ゲルを固化させて細胞培養基質50とすることを含む。この特定の一実施態様においては、3種類の化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35は、抗微生物剤を含む。工程S2は、細菌集団55を細胞培養基質50上および/または細胞培養基質50内、好ましくは細胞培養基質50の表面51上に配置し、細胞培養基質50上および/または細胞培養基質50内、好ましくは細胞培養基質50の表面51上で、所定の時間、好ましくは12時間~24時間の時間内から選択される時間、細菌集団55を培養することを含む。このとき3種類の化学物質リザーバー31、33、35の抗微生物剤が細胞培養基質50中を拡散するので、組み合わせ領域41、43、45内の細胞培養基質50において少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を形成し、また3種類の化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部周辺では細胞培養基質50に実質的に重複のない化学物質濃度勾配を形成する。工程S3は、各化学物質リザーバー31、33、35について、細菌集団55の増殖を実質的に欠如している阻害帯60、62、64の阻害端点61、63、65を判定することを含む。この実施態様においては、阻害帯60、62、64の端点61、63、65は、円の中心15および化学物質リザーバー31、33、35を通る軸80に沿い、化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部周辺に位置する軸80上の1点に位置する。工程S4は、隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35の各組み合わせについて、隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35に含まれる抗微生物剤の少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を有する組み合わせ領域41、43、45において、細菌集団55の増殖を含む増殖帯70、72、74の増殖端点71、73、75を判定することを含む。
【0084】
この特定の一実施態様においては、該方法は、
図13に示すような工程S10およびS11をさらに含む。そのような場合においては、工程S10は、各化学物質リザーバー31、33、35について、阻害端点61、63、65および化学物質リザーバー31、33、35に含まれる抗細菌剤の、細胞培養基質50に関する拡散係数に基づき、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる該抗細菌剤の細菌集団55に関するMICを決定することを含む。工程S11は、隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35について、増殖端点71、73、75および該拡散係数に基づき、隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質の混合物中において、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる抗微生物剤のMICを決定することを含む。
【0085】
該方法は、次いで工程S5において、該MICに基づきFICiを決定することを含む。
【0086】
本発明はまた、細胞集団に対する化学物質相互作用効果を判定する方法に用いることのできる培養容器挿入部20に関するものである。一実施態様においては、培養容器挿入部20は、中央にN角形の開口部40、好ましくは、中央に正N角形開口部40を有する円形底プレート22を含む。一実施態様においては、培養容器挿入部20は、円形底プレート22の外周に取り付けられた円形の壁24を含む。細胞培養基質20はまた、この実施態様において、円形の壁24および円形底プレート22に取り付けられ、中央のN角形の開口部40を取り囲むN個の弦壁21、23、25を含む。円形底プレート22、円形の壁24および各弦壁21、23、25は、化学物質リザーバー31、33、35を規定し、Nは3以上の整数である。
【0087】
一実施態様においては、円形底プレート22は、少なくとも1つの化学物質リザーバー31、33、35内に存在する少なくとも1種類の識別子32、34、36を含む。
図1は、そのような識別子32、34、36を示すものである。少なくとも1つの化学物質リザーバー31、33、35が、そのような1つの識別子32、34、36を含むのであれば一般的には充分であり、その理由は、残りの化学物質リザーバー31、33、35は、この化学物質リザーバー31、33、35に相対的な所定位置に識別され得るということである。しかし、好ましい一実施態様においては、各化学物質リザーバー31、33、35は、
図1に示されるような各識別子32、34、36を含む。識別子32、34、36は、下部プレート22に付けられるいかなる識別子(文字、数またはその他の目印など)であってもよい。
【0088】
細胞培養挿入部20は各種材料によって作成し得るが、そのような材料としては、ポリマー、プラスチック、金属合金を含む金属、ガラスおよびセラミックが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。該材料は、化学物質リザーバー31、33、35に入れる化学物質に対して不活性でなければならない、すなわち、該化学物質と反応してはならない。該材料はまた、好ましくは滅菌可能なものである必要があり、そのような滅菌は、オートクレーブ滅菌、化学的滅菌および/または放射線滅菌などによるものである。
【0089】
細胞培養挿入部20は使い捨てであってもよく、その場合には使用後に廃棄される。あるいは、細胞培養挿入部20は再使用可能であってもよく、その場合には複数回の実験において清掃および滅菌後に使用される。
【0090】
プラスチックの具体的例としては、従来から用いられている細胞培養用プラスチックが挙げられ、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタル酸(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ナイロンポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)およびそれらの共重合体が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0091】
金属の具体的例としては、チタン、アルミニウム、銅、亜鉛およびマンガンならびにその合金およびスチールが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0092】
セラミックの具体的例としては、炭素およびシリコンを基礎とする結晶および非結晶性セラミックが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0093】
細胞培養挿入部20は様々な製造加工法により製造することができ、そのような加工法としては、3Dプリンティング、成形加工、機械加工、鋳造加工および刻彫加工が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【0094】
一実施態様においては、細胞培養挿入部20は、光学的に透明な材料または少なくとも光学的に半透明の材料から作成する。
【0095】
本発明はまた、
図2に例示するような底部ディスク12、および底部ディスク12に取り付けられた円周壁4を含む培養容器10に関するものである。培養容器10はまた、培養容器10内に配置される本発明の培養容器挿入部20を含むが、培養容器10は底部ディスク12の上に配置される円形底プレート22および円周壁14から離れて位置する円形の壁24を有している。
【0096】
この実施態様においては、培養容器挿入部20は培養容器10から分離しており、
図2に示すように培養容器10内に置くように設計されている。この実施態様においては、培養容器10は培養容器挿入部20を設置する細胞培養プレートまたはディッシュ(ペトリ皿など)などのいかなる培養容器10であってもよい。その場合には、培養容器10は、
図2に示すような単一の培養容器挿入部20または複数の培養容器挿入部20を含んでいてもよく、すなわち、培養容器10のサイズ(直径)に対する培養容器挿入部20のサイズ(直径)に応じて、少なくとも2つの培養容器挿入部20を培養容器10内に配置することができる。
【0097】
該少なくとも1つの培養容器挿入部20は、円形底プレート22と共に培養容器10の底部ディスク12上、好ましくは、底部ディスク12の中心位置に配置される。特に、培養容器挿入部20の円形の壁24と培養容器10の円周壁14との間にある程度の空間または距離が存在するように、培養容器挿入部20を培養容器10内に配置すべきである。これによって、化学物質が円周壁14に向かって周辺部に拡散する余裕が与えられるので、化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部周辺に実質的に重複のない化学物質濃度勾配が形成される。
【0098】
上記の実施態様においては、培養容器挿入部20は培養容器10から分離している。
図3は、培養容器110および単一要素としての挿入部を含む別の一実施態様を示している。そのような一実施態様においては、培養容器110は、底部ディスク112および底部ディスク112に取り付けられた円周壁114を含む。培養容器110はまた、底部ディスク112に取り付けられた円形の壁124であって、円周壁114によって取り囲まれ、円周壁114から離れた距離に位置する円形の壁124を含む。培養容器110は、円形の壁124および底部ディスク112に取り付けられたN個の弦壁121、123、125であって、底部ディスク112のN角形部分40、好ましくは正N角形部分40を取り囲むN個の弦壁121、123、125をさらに含む。この実施態様においては、底部ディスク112、円形の壁124および各弦壁121、123、125が、化学物質リザーバー131、133、135を規定し、Nは3以上の整数である。
【0099】
一実施態様においては、底部ディスク112は、少なくとも1つの化学物質リザーバー131、133、135の内部に存在する、少なくとも1種類の識別子を含む。
【0100】
上記で説明されるように、パラメーターNは好ましくは3であるが、4、5、6、またはそれ以上の数など、より大きいものであってもよい。
【0101】
図2に示すような培養容器10または
図3に示すような培養容器110は、培養容器挿入部20について本明細書中で前述したような材料(ポリマー、プラスチック、金属合金を含む金属、ガラスおよびセラミックなど)から作成することができる。
【0102】
一実施態様においては、培養容器挿入部20または培養容器110内の各化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135は、ゲルおよび化学物質の混合物を固化させることによって作成された化学物質含有プラグを含む。そのような一実施態様においては、各化学物質含有プラグはそれぞれ、好ましくは他の化学物質含有プラグ中の化学物質とは異なる化学物質を含む。
【0103】
別の一実施態様においては、培養容器挿入部20または培養容器110内の各化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135は、凍結乾燥形態または乾燥形態の化学物質を含む。そのような一実施態様においては、凍結乾燥または乾燥させた各化学物質のそれぞれは、好ましくは凍結乾燥または乾燥させた残りの化学物質とは互いに異なる。
【0104】
これらの実施態様においては、凍結乾燥形態または乾燥形態または化学物質含有プラグ形態のいずれかの化学物質を、培養容器挿入部20または培養容器110に予め載せておく。
【0105】
図4~8は、該実施態様の別の培養容器挿入部20を示している。これらの培養容器挿入部20は、
図1に示すような培養容器挿入部20の代わりに、化学物質相互作用効果を判定する方法において培養容器10と共に用いることができる。あるいは、
図3の培養容器110は、
図3に示すような化学物質リザーバー131、133、135の代わりに、
図4~9のいずれかのように配置され、規定される化学物質リザーバー31、33、35、37、39を備えていてもよい。
【0106】
図4は、培養容器挿入部20の外側の境界部を規定する四角形、好ましくは正方形の壁24を含む培養容器挿入部20を示している。培養容器挿入部20はまた、正方形の壁24に内接する円形の壁26を含む;すなわち、円形の壁26の直径が好ましくは正方形の壁24の辺長に等しい。培養容器挿入部20の円形の壁26、正方形の壁24、および下部プレート22が、4つの化学物質リザーバー31、33、35、37を規定する。円形の壁26は中央の円形開口部または窓40を取り囲む。
【0107】
図5は、培養容器挿入部20の外側の境界部を規定する円形の壁24を含む培養容器挿入部20の別の一実施態様を示す。培養容器挿入部20はまた、円形の壁24で取り囲まれる正方形の壁26を含む;すなわち、正方形の壁26の対角線は、好ましくは円形の壁24の直径に等しい。培養容器挿入部20の正方形の壁26、円形の壁24、および下部プレート22が、4つの化学物質リザーバー31、33、35、37を規定する。正方形の壁26は中央の正方形開口部または窓40を取り囲む。
【0108】
図6は、培養容器挿入部20の外側の境界部を規定する円形の壁24を含む培養容器挿入部20のさらなる一実施態様を示す。培養容器挿入部20はまた、円形の壁24によって取り囲まれる五角形の壁26を含む。培養容器挿入部20の五角形の壁26、円形の壁24、および下部プレート22が、5つの化学物質リザーバー31、33、35、37、39を規定する。五角形の壁26は中央の五角形の開口部または窓40を取り囲む。
【0109】
図1、5および6に示すような実施態様は、円形の壁24および円形の壁24で取り囲まれるN角形の壁26を有するものとみなすこともできる。
図1において、Nは3、すなわち、三角形であり;
図5において、Nは4、すなわち、正方形であり;および
図6において、Nは5、すなわち、五角形である。この概念は、5よりも大きいNの値に関してもさらに拡張することができる。
【0110】
図7は、培養容器挿入部20の外側の境界部を規定する三角形の壁24を含む培養容器挿入部20の一実施態様を示す。培養容器挿入部20はまた、三角形の領域を3種類の化学物質リザーバー31、33、35に区分する3つの壁21、23、25、および中心窓または開口部40を含む。好ましい一実施態様においては、これら3つの壁21、23、25は長さが同一であり、各壁21、23、25は好ましくは三角形の壁24の辺の1つに平行である。培養容器挿入部20の3つの壁21、23、25、三角形の壁24、および下部プレート22が、3種類の化学物質リザーバー31、33、35を規定する。
【0111】
図8は、培養容器挿入部20の外側の境界部を規定する外側の四角形、好ましくは正方形の壁24を含む培養容器挿入部20のさらなる一実施態様を示す。培養容器挿入部20はまた、外側の正方形の壁24で取り囲まれる内部の四角形、好ましくは正方形の壁26を含む;すなわち、内部の正方形の壁26の対角線は、好ましくは外側の正方形の壁24の辺長に等しい。培養容器挿入部20の内部の正方形の壁26、外側の正方形の壁24、および下部プレート22が、4つの化学物質リザーバー31、33、35、37を規定する。内部の正方形の壁26は、中央の正方形開口部または窓40を取り囲む。
【0112】
本発明の他の一局面は、細胞集団55に対する化学物質相互作用効果を判定するキットに関する。該キットは、実施態様のいずれかにしたがう培養容器10;110を含む。該キットはまた、培養容器10;110に添加して細胞培養基質50として固化させることを意図する多量の細胞培養基質ゲルを含む。N個の化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135の各化学物質リザーバーは各化学物質を含み、N個の化学物質リザーバー31、33、35は組み合わせ領域41、43、45を取り囲む。該キットはまた、細胞培養基質50中および/または細胞培養基質50上、好ましくは表面51上に細胞集団55を配置して所定時間経過後に、細胞培養基質50、好ましくは細胞培養基質50の表面51の少なくとも1枚の写真を撮影することの指示を含む。N個の化学物質リザーバー31、33、35の化学物質は細胞培養基質50中を拡散するので、組み合わせ領域41、43、45内の細胞培養基質50において少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を形成し、またN個の化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部周辺では細胞培養基質50に実質的に重複のない化学物質濃度勾配を形成する。
【0113】
該キットは、該少なくとも1枚の写真から、N個の化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135の各化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135について、細胞集団55の増殖を実質的に欠如している阻害帯60、62、64の阻害端点61、63、65を判定することの指示をさらに含む。阻害端点61、63、65は、化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135に対して周辺部に配置される。該キットはまた、該少なくとも1枚の写真から、N個の化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135の隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135の各組み合わせについて、該少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135に含まれる化学物質の、少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を有する組み合わせ領域41、43、45内における、細胞集団55の増殖を含む増殖帯70、72、74の増殖端点71、73、75を判定することの指示を含む。
【0114】
該キットは、N個の化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135に含まれる化学物質の、細胞培養基質50に関する拡散係数を規定する情報を含む。該キットはまた、隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135の各組み合わせについて、隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135について判定された阻害端点61、63、65、隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135について判定された増殖端点71、73、75、および拡散係数を規定する情報に基づき、隣接する2つの化学物質リザーバー31、33、35;131、133、135に含まれる化学物質間の化学物質相互作用効果を判定することの指示を含む。
【0115】
特定の一実施態様においては、該キットは、阻害端点61、63、65、増殖端点71、73、75および本明細書中で上述した拡散係数を規定する情報によって決定されたMIC値に基づき、FICi値を決定することの指示を含む。
【0116】
一実施態様においては、該キットはまた、N種類の化学物質を含み、かつそのN種類の化学物質に混合してN個の化学物質リザーバー中の各化学物質含有プラグとして固化させるゲルを含む。
【0117】
図16は、本発明の実施態様の化学物質相互作用効果を判定する目的で使用することのできるプロセッサー210およびメモリー220を含むコンピューター200の模式的ブロック図である。そのような一実施態様においては、化学物質相互作用効果の判定を、コンピュータープログラム240によって実行し得るが、このコンピュータープログラム240は、コンピューター200の1つ以上のプロセッサー210を含む処理回路による実行のためのメモリー220に記憶させる。プロセッサー210およびメモリー220は、ソフトウェアの正常な実行が可能となるように相互連結される。入力/出力(I/O)ユニット230は、好ましくはカメラ260からの画像データを受信可能となるように、プロセッサー210および/またはメモリー220に連結される。
【0118】
用語「プロセッサー」は、一般的な意味における、特定の処理、判定または計算タスクを実行するプログラムコードまたはコンピュータープログラムの命令の実行が可能な回路、システムまたはデバイスであると解釈すべきである。したがって、1つ以上のプロセッサー210を含む該処理回路は、コンピュータープログラム240を実行する場合に、本明細書中に記載のような明確に規定された処理タスクを実行することが意図される。
【0119】
プロセッサー210は、専ら上記の工程、機能、処置および/またはブロックのみを実行しなければならないという訳ではなく、他のタスクをも実行するものであってもよい。
【0120】
特定の一実施態様においては、コンピュータープログラム240は、少なくとも1つのプロセッサー210によって実行される場合に、細胞培養基質50上、および/または細胞培養基質50内、好ましくは胞培養基質50の表面51上に細胞集団55を配置して所定の時間経過した後に、培養容器10内の細胞培養基質50の表面51を撮影した少なくとも1枚の写真を表す画像データを、少なくとも1つのプロセッサー210に提供させる指示を含む。培養容器10は、互いに相対的な所定位置にN個の化学物質リザーバー31、33、35を含む。N個の化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35は化学物質を含み、N個の化学物質リザーバー31、33、35は組み合わせ領域41、43、45を取り囲む。Nは3以上の整数である。N個の化学物質リザーバー31、33、35の化学物質は細胞培養基質50中を拡散するので、組み合わせ領域41、43、45内の細胞培養基質に少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を形成し、またN個の化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部周辺で細胞培養基質50に実質的に重複のない化学物質濃度勾配を形成する。また、該画像データに基づいて、N個の化学物質リザーバー31、33、35のうちの少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35に関し、細胞集団55の増殖を実質的に欠如している阻害帯60、62、64の阻害端点61、63、65を、該少なくとも1つのプロセッサー210に判定させる。阻害端点61、63、65は、化学物質リザーバー31、33、35の外側の境界部の周辺部に位置する。さらに、該画像データに基づき、該少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35に関し、該少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質の少なくとも部分的には重複する化学物質濃度勾配を有する組み合わせ領域41、43、45内において、細胞集団55の増殖を含む増殖帯70、72、74の増殖端点71、73、75を、該少なくとも1つのプロセッサー210に判定させる。阻害端点61、63、65および増殖端点71、73、75に基づき、該少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質間の化学物質相互作用効果を、該少なくとも1つのプロセッサー210にさらに判定させる。
【0121】
一実施態様においては、該指示が少なくとも1つのプロセッサー210による実行の場合には、該指示は少なくとも1つのプロセッサー210に、細胞集団55に関して、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質のMICを、阻害端点61、63、65に基づいて決定させるが、これは画像データに基づき少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35について決定が成されるものである。この実施態様においては、少なくとも1つのプロセッサー210にさらに、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質の混合物中の化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質のMICを、増殖端点71、73、75に基づいて決定させるが、これは画像データに基づき少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35について決定が成されるものである。該MICに基づいて、該少なくとも1つのプロセッサーにさらにFICiを決定させる。
【0122】
一実施態様においては、該指示が少なくとも1つのプロセッサー210による実行の場合には、該指示は、細胞培養基質55および阻害端点61、63、65に関して化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質の拡散係数に基づいて、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質のMICを、少なくとも1つのプロセッサー210に決定させるが、これは画像データに基づき少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35について決定が成されるものである。この実施態様においては、該少なくとも1つのプロセッサー210に、該拡散係数および増殖端点71、73、75に基づいて、少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質の混合物中の、化学物質リザーバー31、33、35に含まれる化学物質のMICを決定させるが、これは画像データに基づき少なくとも2つの隣接化学物質リザーバー31、33、35の各化学物質リザーバー31、33、35について決定が成されるものである。
【0123】
一実施態様においては、該指示が少なくとも1つのプロセッサー210による実行の場合には、該指示は、培養容器10中の細胞培養基質50の表面55を被写体とした少なくとも1枚の写真を、細胞培養基質50の表面51上に細胞集団55を配置してから所定の時間経過後に撮影するためにカメラ260を、少なくとも1つのプロセッサー210に制御させる。
【0124】
該提案技術はまた、コンピュータープログラム240を含むコンピューター可読性保存媒体250を提供する。一例を挙げれば、ソフトウェアまたはコンピュータープログラム240は、コンピューター可読性媒体 250、特に非揮発性媒体上に保持または保存されるコンピュータープログラム製品として具現化されるのであってもよい。コンピューター可読性媒体250は、1種類以上の可読性または取り外し不可メモリーデバイスを含むのであってもよく、読込専用メモリー(ROM)、ランダムアクセスメモリー(RAM)、コンパクトディスク(CD)、デジタル多用途ディスク(DVD)、ブルーレイディスク、ユニバーサルシリアルバス(USB)メモリー、ハードディスクドライブ(HDD)保存デバイス、フラッシュメモリー、磁気テープ、またはその他の任意の従来型メモリーデバイスが挙げられるが、これらにのみに限定されるものではない。したがって、該コンピューターのプロセッサー210による実行のために、コンピュータープログラム240をコンピューターの作動メモリー220に読み込むのであってもよい。
【0125】
実施例
実施例1:CombiANT(登録商標)
本実施例においては、抗生物質相乗性を試験するための、安定かつ高度定量的なアッセイについて説明する。 本明細書中では該アッセイをCombiANT(登録商標)とよぶが、これは拡散を基盤とするアッセイであって、単一寒天プレート内の(本実施例においては)3種類の抗生物質のあらゆる組み合わせ対の相互作用に関する定量的情報を提供するアッセイである。CombiANT(登録商標)はチェッカーボード法と同様に良好に実施されるが、そのユニークな設計と機能により、方法としての複雑度は大きく低減されて、複雑度はディスク拡散試験法と同程度となることが、技術的検証試験によって示されている。チェッカーボードアッセイと同様に、CombiANT(登録商標)でも部分阻害濃度指数(FICi)が得られるのであるが、より大規模迅速で、かつ多重化も容易である。このアッセイは、試料の感受性に関する予備的な情報なしに利用することができる。CombiANT(登録商標)が有する抗生物質相互作用スクリーニングについての潜在的な可能性は、併用療法の新規分野、すなわち尿路感染(UTI)の治療に本アッセイを応用することによって示されたのである。保存的および可変的な抗生物質相互作用が同定され、これは精密化併用療法のオーダーメード医療への高度な潜在力を示唆するものであった。
【0126】
材料と方法
作成と設計
培養容器挿入部をコンピューター支援設計ソフトウェア(Autodesk Fusion 360)により設計し、オートクレーブ可能樹脂または歯科用樹脂用の専売処方剤を用いて3Dプリンティング(Formlabs、Somerville、MA; SLA 3D printer)により作成した。3Dプリンティングは、ウプサラ大学(Uppsala University)のU-PRINT施設で行った。
【0127】
株と培地
技術的検証のために、参照株として大腸菌K12-MG1655(DA5438)、緑膿菌PA14(DA64160)、および黄色ブドウ球菌ATCC29213(DA64485)を用いた。UTI試験では、抗生物質のシプロフロキサシン(CIP)、ホスホマイシン(FOF)、メシリナム(MEC)、ニトロフラントイン(NIT)、トリメトプリム(TMP)、アンピシリン(AMP)、ゲンタマイシン(GEN)、およびセフォタキシム(CTX)に感受性である、由来の異なる6~295種類の範囲の臨床単離株をスクリーニングした。Mueller Hinton寒天およびMueller Hintonブロス(Becton Dickinson、Sparks、MD;Refs.275730、225250)を用いて37℃でインキュベーションすることにより細菌培養を行った。単一コロニーから1mlで190rpmの旋回振盪を行い、一晩培養した培養物を調製した。UTI単離物スクリーニングでは、寒天に25mg/lのグルコース-6-リン酸を添加したが、その理由は、これがFOFの作用に必要なものだからである。抗生物質のストックは、製造元の推奨にしたがって調製し、それぞれ単回利用とするために分注して-20℃で保存した:AMP 100mg/mlまたは180mg/ml(水)(Sigma-Aldrich、Ref.A9518-25G)、CIP 25mg/ml(0.1M HCl)(Sigma-Aldrich、Ref.17850-25G-F)、CTX 3mg/mlまたは50mg/ml(水)(Sigma、Ref.C7039-1G)、GEN 45mg/mlまたは50mg/ml(水)(Sigma、Ref.48760-5G-F)、FOF 50mg/ml(水)(Sigma-Aldrich、Ref.P5396-5G)、MEC 10mg/ml(水)(Sigma-Aldrich、Ref.33447-100MG)、NIT 10mg/ml(DMSO)(Sigma、Ref.N7878-10G)、およびTMP 10mg/ml(DMSO)(Sigma、Ref.T-7883-5G)。
【0128】
ブロス微量希釈
CombiANT(登録商標)を較正するために、EUCAST指針に準拠する標準的ブロス微量希釈法を用いて、抗生物質のMIC値を個別的に決定した。抗生物質をMueller Hintonブロスで段階的2倍希釈し、その希釈物を96穴マイクロタイタープレートに調製した。次いで、高密度の一晩培養物からおおよそ3×105細胞をこれらのプレートに接種して(1:1000希釈、最終容積180μl)、振盪せずに37℃で24時間インキュベートした;その後、ウェルをピペッティングにより撹拌して、540nmの光学密度により増殖度を測定した(Thermo Scientific、Multiscan FC Type 357)。非接種対照ウェルの増殖シグナルを与える最低濃度をMICとする。測定は2重化生物試料の重複物を用いて行い、それらの平均値をMICとした。FOFについてのMIC決定においては、FOF媒介性阻害に必要である50mg/lのグルコース-6-リン酸を培地に添加した。
【0129】
導入濃度
CombiANT(登録商標)アッセイの技術的較正については、用いた株(表1)に対する抗生物質のMICに基づいて抗生物質濃度を決定した。UTI単離物のスクリーニングでは、全株(
図20C~20Jの単離物については表2、ならびに
図20A~20Cおよび20Mの単離物については表3)について、2セットの抗生物質濃度を用いた。抗生物質についてMICが既知である場合には最も可読性の高い結果が得られるので、培養容器挿入部の濃度はMICに基づいて決定することが好ましい。FOFを用いた試験については、グルコース-6-リン酸を25mg/lの濃度で最終寒天層に加えた。
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
チェッカーボード実験
FICi決定のための標準的なチェッカーボードアッセイ(8×8濃度)は、多重化生物試料の単一複製物において実施し、以前に報告されているように[6]、4×MIC~1/4MICの範囲の段階的2倍希釈物を用いた。接種サイズは5×105細胞(0.5McFarland)であり、16時間の静置インキュベーション後に、540nmの光学密度を読み取った(Thermo Scientific、Multiscan FC Type 357)。Blissモデル相乗性定量については、3重化生物試料で最大1×MICまでの直線濃度を用いて、より解像度の高いチェッカーボード(9×9濃度)が得られた。周辺効果および勾配効果によるバイアスを回避するために、処理位置は完全無作為化した。相乗効果の度合いを、以前の報告[8]のような方法で算出した。増殖値は、バックグラウンド補正光学密度値を用いて未処理ウェルに対して相対的に表した。Bliss独立モデル[9]にしたがう予想相対増殖Y1+2を、単一抗生物質処理で得られた相対増殖値Y1およびY2の乗算によって算出した。ある組み合わせの相乗効果の程度SをS=Y1+2-Yobservedと定義した。S=0は相加性であることを示しており、正の値は相乗作用であることを表し、また負の値は拮抗作用であることを表している。
【0134】
物理的拡散モデルおよび画像解析
リザーバーからの試薬の拡散をモデル化するために有限要素モデル(FEM)を利用した。拡散はフィックの拡散則にしたがうものと仮定し、移流束も正味の体積源も存在しない場合の対流拡散方程式を解くことにより、化学物質の濃度を算出した。COMSOL Multiphysics(Comsol、Stockholm、Sweden)を用いて、FEM分析、抗生物質拡散のモデル化および較正ならびに抗生物質ランドスケープアセンブリを行った。Matlab(Mathworks、Natick、MA)およびCOMSOLとMatlabの連携を利用して、このアルゴリズムのスクリプトを作成した。垂直に設置したCCDデジタルカメラ(ラズベリーPi v2カメラモジュール)を用いて、CombiANT(登録商標)プレートを撮影した。
【0135】
統計的解析
統計的解析は、Graph Pad PrismおよびをMatlabを用いて実施した。加法モデル(FICi=1)に対する測定FICiの統計的差異は、ウイルコクソンの符号付き検定を用いて評価した。UTIスクリーニングにおいては、臨床的に意義のある抗生物質相互作用のレベル(FICi<0.5、FICi>4)を示す相互作用を試験し、また臨床的相乗性または拮抗作用(表4および5)のいずれかを有することを示す単離株について、FIC=1に対する1試料ウイルコクソンの符号付き検定を実施した。
【0136】
結果
CombiANT(登録商標)のアッセイおよびシステム設計
以下の基準を満たすようにCombiANT(登録商標)アッセイを設計した:
(i)抗生物質相互作用の定量的情報が得られること;
(ii)アッセイの複雑度の低減およびアッセイの準備および分析に要する作業時間の短縮;
(iii)多重化能が高いこと;
および
(iv)臨床微生物検査室の日常検査に組み込むことが容易であること。
CombiANT(登録商標)アッセイは、単一寒天プレートで3種類の抗生物質の対に関する相乗性の定量的情報を提供する、拡散に基づくアッセイである。このアッセイは、任意の標準的細胞培養プレート(
図2)に組み込むことが可能な培養容器挿入部(
図1)から成る。同一細胞培養プレート上で複数の培養容器挿入部を用いることができる。培養容器挿入部は、抗生物質用の3つのリザーバー(
図1においては、「A」、「B」、および「C」と表示されている)および中央の三角形イメージング領域(
図1)によって構成される。
【0137】
CombiANT(登録商標)相乗性アッセイを実施するために、0.5mlの抗生物質含有寒天をピペッティングによって化学物質リザーバー中に導入した。ほとんどの用途では、化学物質リザーバーには異なる抗生物質を導入した。寒天を固化させ、このアッセイを不活性状態とした。この時点で、培養容器挿入部に機能的消失のない状態で少なくとも1週間の冷蔵保存が可能であった。これによって、使用者の必要に応じて調製・保存される、異なる抗生物質を含む複数アッセイが可能になった;そのため、アッセイを遅延なく容易に実行することができる。
【0138】
特異的相乗性試験を実施するために、準備した培養容器挿入部を培養プレート内に配置し、培養寒天の最終層で、典型的には標準的90mmプレート(
図2)については25mlで覆った。この工程でアッセイが活性化され、プレートが固化すれば使用の準備が完了となる(
図2)。最終寒天層によって化学物質リザーバー内に抗生物質を懸濁することが可能となり、周囲の寒天領域および寒天表面への拡散が開始する。綿棒で塗りつけることにより、試料を固化プレートに塗布した。このアッセイは接種物密度が0.5McFarlandとなるように設計されており、ディスク拡散試験v8.0に関するEUCAST指針に合致する。接種後に、試料を増殖させる目的でプレートを一晩インキュベートした。この時点では、CombiANT(登録商標)プレートは、標準的な寒天プレートと同一なものであった。このような性質のために、CombiANT(登録商標)アッセイは、一晩の培養およびプレート上での細菌試料インキュベーションについての検査室管理システムがいかなるものであっても円滑に組み込むことが可能であった。増殖の経過中に、3種類の抗生物質の拡散によって生成した濃度ランドスケープにしたがって培養容器挿入部のまわりに阻害帯が形成された(
図10)。抗生物質相互作用を測定するために、プレートの撮影を行った。相乗性定量的評価のために厳選されたアルゴリズムで、結果を分析した。
【0139】
薬剤相互作用の定量的測定
定量的測定値は画像解析によって取得した。培養容器挿入部の特定配置および寒天表面に対する幾何学的位置関係によって、抗生物質の予め定めた制御性拡散が可能となった。有限要素法を用いて、各抗生物質について個別的にこの制御性拡散をモデル化した。このモデルによって抗生物質特異的拡散マップが得られた。拡散マップは、化学物質リザーバー中の抗生物質の初期濃度および抗生物質の拡散係数に関連するプレート表面の抗生物質濃度を表すものであった。
【0140】
抗生物質はその構造および拡散マトリックスとの相互作用に応じて、その拡散特性が異なる。抗生物質の拡散係数は、較正工程における精密なアッセイ条件(寒天の種類、培養容積、インキュベーション時間)について決定することができる。較正のために、MICが既知の参照株を標的抗生物質の3種類の濃度(10×、20×、40×MIC)で試験した。各潜在的抗生物質について、たった一度だけ較正を実施する必要がある。その後は、特定抗生物質を試験するときにはいつでも利用できるように拡散マップを保存しておいた。拡散係数に加えて、抗生物質リザーバーに使用する推奨初期濃度を上記のように1度実施した較正結果から算出した。この試験に用いた8種類の抗生物質についての推奨初期濃度であって、抗微生物感受性試験についてのEUCAST指針に準拠する初期濃度を表1~3に示す。
【0141】
仮想寒天表面を作成するために、分析アルゴリズムでは較正拡散マップを用いた。まず、アッセイの各化学物質リザーバーにどの抗生物質を配置するのかを、ユーザーが示す。この時点で、アルゴリズムは、アッセイに用いる抗生物質に対応した保存拡散マップを読み出す。これらのマップからアッセイ特異的抗生物質ランドスケープを構築した。次いで、培養容器挿入部の幾何学的アンカー点にしたがって、この抗生物質ランドスケープを写真にマップした。下に概説する部分阻害濃度指数(FICi)の数式にしたがって、阻害帯および増殖帯の端部の点から抗生物質相互作用の度合いを定量した。
【0142】
CombiANT(登録商標)寒天プレートの写真において、目的とする特定の領域を観察することができる(
図9および10)。培養容器挿入部の外側では、各抗生物質が単独で作用した。抗生物質は化学物質リザーバーから外側に向かって拡散するので、阻害帯の端点は化学物質リザーバーに向かい合う位置に存在するが、その化学物質リザーバーからは離れて位置し、抗生物質が単独で作用する場合には、該端点がその抗生物質の阻害濃度(IC)を表す。IC点(
図9において点で示されている)は抗生物質ランドスケープに合致するので、3種類の抗生物質の対応する濃度を推定した(IC
A、IC
B、およびIC
C)。
【0143】
イメージング領域の内側では、化学物質リザーバーから3種類の抗生物質が拡散するので、3つの角の部分で対毎に重複を生じる。イメージング領域のそれぞれの角の部分は、2種類の最も近接する抗生物質同士が一緒に作用するプレートの部分を構成する。したがって、角の部分に最も近いイメージング領域において増殖帯の端は、2種類の抗生物質の組み合わせが増殖に阻害的な部位に対応するのである(
図10において点で示されている)。同様に、3つのIC点について、3種類の組み合わせ阻害点(CP)が抗生物質ランドスケープの点に合致するので、そこに存在する両方の抗生物質の濃度を推定した。両方のICを個別に、および3種類の抗生物質全てについてのCPを推定し終えれば、分析アルゴリズムは全抗生物質対の部分阻害濃度指数(FICi)の計算を開始する。抗生物質AとBの間の相互作用については、FICi
AB=C
A/IC
A+C
B/IC
Bであるが、ここでC
AおよびC
Bはそれぞれ対応する組み合わせ阻害点(CP)におけるAおよびBの濃度である。FICi
ACおよびFICi
BCも同様に算出された。FICi値が1であれば、それは相加性を意味する。FICi<1は相乗効果を表し、他方FICi>1は拮抗作用を表す。臨床的に意義のあるレベルの相乗効果および拮抗作用の閾値は、通常それぞれ<0.5および>2~4に設定される。写真における全てのICおよびCP点の判別は、自動もしくは用手的のいずれかによって行われる。次いで、この分析では3種類の抗生物質対全てについてFICiデータが即座に得られた(
図11に示すように、
図10のプレートの分析から)。
【0144】
アッセイシステムの技術的検証
まず、対照として、自己相互作用実験を実施した。この実験では、3つの培養容器挿入部リザーバーを同一抗生物質で満たした。自己相互作用の対照実験では、本実施例において用いた全ての抗生物質(
図17)について、高い信頼性でFICiが1に近いという結果が得られた。次に、CombiANT(登録商標)アッセイによって得られる相乗性の定量が妥当なものであることを確かめるために、正確性と精度に関する試験を行った。2種類のグラム陰性参照株、大腸菌K12-MG1665および緑膿菌PA14、ならびにグラム陽性参照株である黄色ブドウ球菌ATCC29213における、4種類の抗生物質のパネルの全ての対の抗生物質相互作用を試験した。試験を行った抗生物質は、アンピシリン(AMP)、セフォタキシム(CTX)、シプロフロキサシン(CIP)、およびゲンタマイシン(GEN)であるが、これらは3種類の異なる作用機序に渡り、また上記の細菌に起因する菌血症および敗血症の治療に通常用いられるものである。全6対の相互作用および全3種類の株(
図18A)についてFICi指数を算出した。
【0145】
アッセイ精度について完全な定量を行うために、上記の株を多重化した複数の複製物(n>10)を、CombiANT(登録商標)アッセイプロトコルを用いてスクリーニングした。反復可能性を定量化する目的で、多重化複製物の半分を同じ日に試験した(日内変動)。残りの半分は翌日に試験を行い、再現性の定量化とした(日毎の変動性)。結果を日間で比較するために、同一抗生物質組み合わせの日毎の相対的差異および次いで各株(
図18B)について6種類の組み合わせ全ての平均を定量することにした。平均の相対的差は、全ての株について13%未満であり、上位の四分位数が40%未満であった。このことは、アッセイが反復可能であり日毎の変動に依存するものではないことを示している。再現性を定量化する目的で、同一日の多重化試料を用い、抗生物質の全組み合わせについて、平均の相対的標準誤差を調べた。次いで、これらを各株について平均した。全相対的標準誤差は12%未満であり、上位の四分位数は15%未満であった。これは、多重化複製物間で技術的変動が非常に少ないことを示すものであった(
図18B)。最後に、全ての多重化複製物を総合して、反復可能性および再現性の両方を含む、精度の総合評価を行った。相互作用の平均値に比例する測定変動性を示す分析として、生物種の各組み合わせ対について変動係数を計算することにした(
図18C)。変動係数はすべて37%未満であり、平均で19.7%であった;このことは、再現可能かつ反復可能である充分な精度を有するものであることを示している。
【0146】
次に、CombiANT(登録商標)の精密さに関する定量を行った。その目的において、以前に報告[6]されているような、ブロス中の究極の標準的方法であるチェッカーボードアッセイを用いて、同様の抗生物質相互作用評価を行った。まず、該2種類の方法が系として異なる結果を生じるものであるか否かを試験しようと考えた。そこで、該2種類の方法(
図18D)で取得したFICiデータのBland-Altman分析を行うことにした。Bland-Altman比較では、チェッカーボード法とCombiANT(登録商標)アッセイとの間の偏りが0.049であった。このような低い偏り値は、FICiの差異に関する検出限界に近いものであった。したがって、該2種類の方法によって得られた結果間に統計的に有意な矛盾は全く存在しないことが結論付けられた。
【0147】
該2種類の方法が系として互換的であることが示されたので、一方の方法に対して他方の方法を選択する効果を、多変量線型回帰分析を用いて試験した。注目する抗生物質対が同一であれば、そのFICi測定値に対して強力かつ有意な効果が得られた(相関係数=0.55;P<0.01)。他方、方法の選択は、統計的には実験結果に相関しなかった(相関係数=0.07;P=0.83)。まとめると、抗生物質相互作用の検出に関してCombiANT(登録商標)はチェッカーボードアッセイと同等の精密さを有していることが結論付けられた。
【0148】
CombiANT(登録商標)のチェッカーボードアッセイに対する違いは、CombiANT(登録商標)が拡散に基づくものであるために連続的濃度範囲を用いるのに対して、チェッカーボードは典型的には離散的な2倍希釈の試験だということである。そこで、CombiANT(登録商標)の高い精度がより微細な濃度範囲の結果であるのか否かについて試験を行った。Bliss独立加法モデルを用いた抗生物質相互作用の定量を行う高解像度直線濃度範囲のチェッカーボードが、株の組み合わせ18対すべてについて得られた。再び、抗生物質相互作用について、CombiANT(登録商標)による結果と高度に一致する結果が得られた。興味深いことに、MICよりも低い用量の異なる相乗性プロファイル間では、相乗効果のプロファイルが用量依存性の変動を示すこともあったが、この場合には相互作用の分類が困難であった。そのような用量依存性の変動は、CombiANT(登録商標)では検出されず、相互作用は所定の高阻害レベルに分類された。CombiANT(登録商標)の精度は直線濃度範囲によってのみ決まるのではなく、所定の高阻害レベルにある相互作用の定量によっても決まるものであると結論付けられた。
【0149】
CombiANT(登録商標)アッセイを用いた臨床的UTI大腸菌単離物についての抗生物質相互作用パネル
大腸菌UTI臨床的単離物および大腸菌K12-MG1655参照株に対する抗生物質相乗性のスクリーニングに、CombiANT(登録商標)アッセイを用いた。UTIの単剤療法または併用療法に通常用いられる5種類の抗生物質のパネルを選択した:すなわち、ニトロフラントイン(NIT)、トリメトプリム(TMP)、メシリナム(MEC)、シプロフロキサシン(CIP)、およびホスホマイシン(FOF)である。大腸菌株および大腸菌K12-MG1655参照株(
図19)に対して抗生物質パネルの全対の相互作用を評価する目的で、CombiANT(登録商標)アッセイを実施した。ほとんどの大腸菌株が該パネル(
図20A~20M)の全抗生物質に対して感受性とみなされた。臨床的に意義のあるレベルの正の相乗性を示すとみなされる、相互作用の絶対的FICi限界値を、上記の推奨にしたがってFICi<0.5に設定した。拮抗作用の保存的限界をFICi>4に設定した。それらの間の値はすべて、相加性を示すものであるとみなした。
【0150】
試験を行った全ての株を通じて相加的であったNIT-CIP間(
図20I)、MEC-CIP間(
図20D)、TMP-CIP間(
図20G)、MEC-FOF間(
図20E)、TMP-FOF間(
図20F)、NIT-FOF間(
図20H)、GEN-CTX間(
図20K)、およびGEN-CTX間(
図20M)の結果から分かるように、挙動が異なることを示す少数の株(表4および5を参照のこと)を除けば、実際的には、ほとんどの組み合わせが相加的であることが明らかになった。FOF-CIP(
図20J)は、単離株DA44560に対しては境界線上ではあったが、統計的には有意な拮抗的相互作用を示した;しかしながら、その他の株についてはすべて相加的な挙動を示した。残りの組み合わせ、すなわちTMP-NIT間(
図20B)、MEC-TMP間(
図20A)、MEC-NIT間(
図20C)、およびAMP-GEN間(
図20K)については、医学的により興味深い結果が得られた。TMP-NIT間(
図20B)およびAMP-CTX間(
図20L)の組み合わせについては、ほとんどのUTI単離株において正の相乗効果を検出したが、相加的または拮抗的挙動を示す少数の単離株も存在し、このことはUTI単離株の多様な遺伝的変化を通じて保存されるこれら抗生物質の相乗性相互作用の性質を示唆している。他方、MEC-NITの組み合わせ(
図20C)は、試験した単離株のほとんどで検出される強力な拮抗的挙動を示した。MEC-TMPの組み合わせ(
図20A)は、試験した単離株すべてに対して正の相乗性作用、強い拮抗性作用および相加性作用の全てが入り交じった挙動を示したが、他方、AMP-GENの組み合わせ(
図20K)は、相加性および程度の異なる拮抗作用の入り交じった挙動を示した。これらのデータをまとめると、確認された相乗効果の値は1種類の生物種内ではケース・バイ・ケースなものであることが明確に示された。
【0151】
【0152】
【0153】
考察
本試験では、抗生物質相互作用の効率的判定を可能にするCombiANT(登録商標)アッセイについて説明し特徴付けを行った。広範な技術的検証によって、高度に精密でありかつ高精度であることが示され、また既に確立されているチェッカーボード法と全体的に同等の性能を有していることが示された。次いで、臨床的UTI単離株の大規模収集物に対してCombiANT(登録商標)を用いた抗生物質相乗性スクリーニングを実施した。一貫した相乗性、中性的な作用および拮抗的相互作用が見いだされ、それは株毎に大きく異なるものであった。
【0154】
簡潔さを重んじ臨床実施に見合うように、CombiANT(登録商標)プロトコルの具体的な設計を行った。不活性状態では、抗生物質寒天プレートの通常の保存可能期間に準拠して、多量の冷蔵保存が可能である。これは、目的の抗生物質を含む培養容器挿入部を予め病院および研究室に納品しておき、必要が生じたときに迅速に実施することに適している。活性化工程が開始されれば、CombiANT(登録商標)プレートの取り扱いは通常の寒天プレートの取り扱いと同一であり、したがって、大規模調製における寒天自動注入を含む寒天プレートの大量処理についての既存の臨床パイプラインに適合するものである。
【0155】
外来診療所および大学の研究室の両方で、CombiANT(登録商標)を最も容易に利用できるように、異なる2種類のプロトコルを設計した。すなわち、耐性分断点に基づく臨床利用のためのプロトコル(表2および表3、
図20A~20MにおけるUTIスクリーニングに利用するもの)、および高感度MICに基づく研究応用のためのプロトコル(表1、
図18A~18Dのように利用するもの)。CombiANT(登録商標)による分析は、完全自動化が可能であり、入力としてデジタル写真のみが必要となる。専用機械を必要としないので、CombiANT(登録商標)は、リソースに乏しい環境においても好適である。
【0156】
CombiANT(登録商標)の重要な設計原理は、抗生物質相乗性を臨床的に意義のある高濃度で定量することにあった。相乗性を阻害帯の端部から評価するが、このことはFICiを利用した組み合わせ空間のMIC-等効力線を意味するものである。増殖速度に基づく方法などの、その他の方法は、相乗性をより低い阻害レベルに評価する傾向にある。これらの実験では、相乗効果を中程度の阻害範囲で加法モデル(Bliss独立またはLoewe相加性)からの偏りによって評価する。特定の抗生物質組み合わせについての相互作用プロファイルは用量に依存し得るが、そのためチェッカーボードでは相乗性定量が複雑化することもあることが示されている。これら生物学的に興味深い例は、生理的効果の複雑さを示唆する。そのような変動に対しては、FICiによる相乗性測定は安定したものである(または全く影響をうけない);その理由は、臨床的に意義のある高い阻害レベル(MIC)の設定で実施されるからである。プレートによるCombiANT(登録商標)アッセイの、ブロス微量希釈法と比較したときの他の技術的な差異は、細胞形態に対する抗生物質の表現型効果とよばれるものである。多くの抗生物質はその作用機序の一部として、細胞形態に変化を引き起こす。例えば、βラクタム系抗生物質は、細胞死前に広範な細胞伸長を誘導する。そのような伸長は、光学密度による生細胞数の測定において過大評価を引き起こし得るので、例えば、ブロス法および寒天法によって得られるMIC値が一致しないこともある。
【0157】
技術的データセットにおいて得られた結果は文献の結果と一致している。CombiANT(登録商標)は、以前に報告されているAMP-GEN間、TMP-MEC間、およびTMP-NIT間の相乗性を反復した:すなわち、大腸菌K12-MG1655における、MEC-NIT間の強い拮抗作用、およびβラクタム類とCIPとの間の相加性である。しかし、GEN-CIP間の相加的組み合わせは、以前の報告では低阻害の増殖速度による方法を用いた分類で相乗性となっている。緑膿菌PA14株および黄色ブドウ球菌ATCC29213における抗生物質相互作用は、以前にはほとんど特徴付けが成されておらず、限られた比較しかない。AMP-CIP間の相加性は、黄色ブドウ球菌について以前に報告があり、CIPのβラクタム類およびアミノグリコシドGENとの相互作用は緑膿菌では拮抗的であることが知られている。CombiANT(登録商標)は、これらの観察結果についても再現している。まとめると、本発明者らの測定が文献と良好な一致を示すことは、CombiANT(登録商標)の精密さと実用性を支持するものである。
【0158】
臨床的UTI単離株の上記の相乗効果スクリーニングは再現性があるので、TMP-MEC間の相互作用のように、2種類の抗生物質を組み合わせることによって、ほとんどの株について一貫した拮抗作用を示すと考えられる場合が存在する。これらのように、おしなべて拮抗的挙動を示すような場合には、実験的にであっても、併用療法を設計する際には明確な指針が必要であることを示唆している。避けるべきそのような抗生物質の組み合わせを見つけ出すのであれば、大規模で体系的な相乗性スクリーニングが必要になる。抗生物質相乗性を定量する従来の方法では、そのような規模で系統的スクリーニングを実施することは、実現不可能である。しかしながら、CombiANT(登録商標)は、新規の方法であって、より作業量が少なく、安価で、それでもなお定量化可能な結果を得ることのできる方法を提供する。相互作用試験に対する本発明者らの新規アプローチを用いることによって、そのような大規模相乗性スクリーニングが達成可能となるのである。
【0159】
TMP-NIT間、TMP-MEC間、MEC-NIT間、AMP-GEN間、AMP-CTX間、およびGEN-CTX間の相互作用に関するスクリーニングによって、重要な結果が明らかになった;すなわち、同一の2種類の抗生物質が同一種に属する異なる単離株に対して一貫した相乗性プロファイルを示すとは限らない。抗生物質がある1株に対して相乗的であり得るが、別の1株に対しては相加的または拮抗的であるならば、相乗効果スクリーニングが微生物検査室の標準試験の一部となるべきである。そのような挙動はCombiANT(登録商標)のようなアッセイの必要性をさらに示すものである。定量的であるが、難しい、または時間がかかるという理由で実施されないということがないような、充分簡便なアッセイであって、標準的スクリーニングの一部とすべきものであれば、微生物検査室において全ての症例にそのようなアッセイが実施される。
【0160】
臨床応用性に加えて、CombiANT(登録商標)は、生物学における基礎研究のツールとしても高い潜在的可能性を秘めている。現在のところ、ほとんどの抗生物質相互作用についてその機構の理解が欠如している。また、この研究分野においては、抗生物質相互作用または他の生体活性化合物と抗生物質との相互作用に関する進化論的な理解にはほど遠い。これら知識上のギャップについては、部分的には従来の相乗効果測定法の複雑性によって説明されるのかもしれない。UTI単離株のスクリーニングにおいては、ほとんどの抗生物質相互作用が相加的であった。可変的相乗性プロファイルがMEC-TMP間およびAMP-GEN間で観察されたが、これは興味深い生物株毎の変動を示唆している。さらに、MEC-NIT間の高度に拮抗的な相互作用はこの薬剤相互作用の進化的保存を潜在的に示すものであるのかもしれないが、これは細胞性機能モジュール間の機能的拘束性を示唆する。この拮抗作用は潜在的には、成分薬剤に対する細胞薬剤応答およびストレス応答における重なり合いによって説明され得る。βラクタム類およびNITはいずれも、個別的にDNA修復に関する細胞SOS応答を発現し、これは潜在的には協調的でより強い防御応答による拮抗作用を説明するものであることが示されている。しかしながら、これらの抗生物質はまた、他の応答システムも誘導する;すなわち、βラクタム類についてのRpoS媒介性ストレス応答およびNITの場合の酸化ストレス応答である。したがって、この拮抗作用はあるいは、これらさらなる応答の潜在的多面作用によって説明することも可能であろう。全く別の説明としては、抗生物質取り込み機構の減退または解毒作用の増強が挙げられる。これらの仮説およびその他の仮説は、機能遺伝学的スクリーニングのためのCombiANT(登録商標)を実施することによって効率的に試験することができるであろう。
【0161】
実施例2:較正プロトコル
試験する各抗生物質について、好適な参照株を選択する。本実施例においては、較正はいずれも大腸菌株K12-MG1665で実施した。較正プロトコルの各工程を下に示す:
(1)既知でない限り、参照株に対する抗生物質のMICを、ブロス微量希釈アッセイ(BMD)を用いて決定する。
(2)CombiANT(登録商標)アッセイの準備は3重試料とする。MH寒天において、10×MIC、20×MIC、および40×MICの抗生物質濃度で、抗生物質を3種類の化学物質リザーバーに導入する。
(3)CombiANT(登録商標)アッセイのプロトコルにしたがって、寒天最終層を3つの培養容器挿入部の上に注ぎ、固化した後、プロトコルにしたがって参照株の(細胞)集団を接種する。
(4)24時間後に、
図9に示すような挿入部の外側に阻害帯が形成される。
【0162】
培養容器挿入部の外側の該濃度帯の端部は、該株に対して用いる抗生物質のMICに対応する。3か所の阻害帯の全ての端部について予測される濃度がBMDによって決定した実験値に一致するまで、FEM濃度モデルの拡散係数を繰り返し調整する。拡散係数の調整が完了すれば、較正アッセイの残りの2つの多重化生体試料に対して、該モデルを試験する。MIC予測における変動性が残りの両アッセイについて実験値の10%未満であれば、較正は完了となる。拡散モデル較正の後に、その抗生物質を全実験アッセイに用いることが可能となる。推奨初期抗生物質濃度は、計算アーティファクトを回避するために5mm超の阻害帯を与える濃度として算出する。
【0163】
実施例3:CombiANT(登録商標)アッセイのプロトコル
(1)用いるパイプラインの外側:CombiANT(登録商標)培養容器挿入部を調製する。
(a)CombiANT(登録商標)培養容器挿入部を滅菌ペトリ皿に設置する;
(b)導入抗生物質濃度については、表1(MICに基づく高解像度測定)または表2または3(分断点に基づく測定)を参照する;
(c)オートクレーブした液状MH寒天(温度50~65℃)中に抗生物質を導入濃度になるように希釈する;
(d)CombiANT(登録商標)培養容器挿入部の既定の化学物質リザーバーに0.5mlの抗生物質寒天を添加する;
(e)ペトリ皿に蓋をして、寒天の設置可能な水平面で冷蔵する。4℃においては、装着した培養容器挿入部は少なくとも1週間は安定である。
(2)使用前:標的株の単一コロニーから、MHブロスで一晩増殖させて高密度培養物とする。
(3)使用する時:MH寒天で覆うことによってCombiANT(登録商標)培養容器挿入部を活性化する。標準的な90mmペトリ皿であれば、25mlのMH寒天を加える。
(4)少なくとも3時間室温で寒天セットを静置する。
(5)高密度細菌培養物を0.5McFarlandに希釈する。
(6)ディスク拡散試験v8.0に関するEUCAST指針にしたがい、ローン状増殖を得るために、滅菌綿棒を用いて細菌をプレート表面に接種する。
(7)プレートを24時間インキュベートする。
(8)プレートの写真を撮影して、CPおよびIC点を同定する。
(9)分析アルゴリズムにデータを入力する。
【0164】
実施例4:CombiANT(登録商標)の異なる生体活性化合物
本実施例においては、4種類の異なる細菌種に対して異なる生体活性化合物を用いて、CombiANT(登録商標)アッセイの実用性を広げた。
【0165】
材料と方法
株と培地
大腸菌株K12-MG1655(Eco)、緑膿菌PA14(Pae)、黄色ブドウ球菌ATCC29213(Sau)および海洋細菌であるVibrio natriegens ATCC14048(Vna)を、4種類の生体活性化合物:すなわち、アスピリン(ASP)、安息香酸(BA)、イブプロフェン(IBU)、およびティーツリー油(TTO)に対して用いた。細菌培養は、Mueller Hinton寒天上、およびMueller Hintonブロス(Becton Dickinson、Sparks、MD;Refs.275730、225250)で、37℃一晩インキュベーションすることによって、実施した。単一コロニーから1mlで190rpmの旋回振盪を行い、一晩培養した培養物を調製した。海洋細菌であるVibrio natriegensについては、204mM NaCl、4.2mM KCl、および23.14mM MgCl2を含むv2塩を培地に添加した[10]。生体活性化合物のストックは、製造元の推奨にしたがって調製し、それぞれ単回利用とするために分注して-20℃で保存した:アスピリン400mg/ml(50%DMSO)(Sigma-Aldrich、Ref.A2093-100G)、安息香酸400mg/ml(DMSO)(Sigma-Aldrich、Ref.242381-25G)、およびイブプロフェン664mg/ml(水)(Sigma、Ref.I1892-100G)。ティーツリー油は100%のものを製造元より購入し、使用するまで室温で保存した(Sigma-Aldrich、Ref.W390208-SAMPLE-K)。
【0166】
ブロス微量希釈法
生体活性化合物のMIC値は、EUCAST指針に準拠して、標準的ブロス微量希釈法を用いて個別に決定した。Eco、PaeおよびSau株用に、各生体活性化合物の段階的2倍希釈物を96穴マイクロタイタープレート中のMueller Hintonブロスに調製した。次いで、高密度の一晩培養物からおおよそ3×105細胞をこれらのプレートに接種して(1:1000希釈、最終容積180μl)、密閉し、振盪せずに37℃で24時間インキュベートした。非接種対照ウェルに可視的な増殖シグナルを与える最低濃度をMICとする。測定は3重化生物試料を用いて行い、それらの平均値をMICとした。Vna株についてのMICの決定では、この細菌種の増殖に必要なv2塩を培地に添加した。
【0167】
導入濃度
CombiANT(登録商標)アッセイを用いて自己相互作用を判定するために、用いた4種類の株(表6)に対する生体活性化合物のMICに基づき導入濃度を決定した。
【0168】
【0169】
結果と考察
本実施例によって、抗生物質(
図21)に加えて、生体活性化合物の評価にも、CombiANT(登録商標)を利用し得ることが実証された。これらの化合物は、寒天増殖培地内を容易に拡散する。挿入部における化合物の濃度を増加することによって、阻害帯のサイズに差異を認め、
図9~10に関する上記の考察のように、定量することが可能である。
【0170】
したがって、CombiANT(登録商標)は、抗生物質間の薬剤相互作用の試験にのみ限定されるものではない。原理的には、任意の生体活性化合物の個々の活性および組み合わせ活性を、CombiANT(登録商標)によって試験することができる。したがって、CombiANT(登録商標)は、例えば、ヒトおよび動物細胞などの細胞に対する化学療法化合物の効果を試験する、およびまた環境微生物学の用途に利用するのであってもよい。用途の潜在的多様性は、異なる培地および異なる培養条件(異なる温度でCombiANT(登録商標)を実施することなど)で容易に実施することができるCombiANT(登録商標)の柔軟性の高さによるものである。活性が光学的に追跡可能、例えば、蛍光、比色定量などで追跡可能な場合には、CombiANT(登録商標)はまた、複数の誘導因子および抑制因子に依存する、生物学的活性の特徴付けに利用することもできるであろう。抗生物質耐性の広がりによって併用療法の有用性が増しているのだが、病原体の高度な多様性は、CombiANT(登録商標)アッセイによって得られる結果に基づく治療検証および治療最適化が好ましくは必要である個別化医療の付加価値を示唆するものである。CombiANT(登録商標)は、(他の分析法によって)広範な耐性を示す単離株について、併用療法の可能性の判別を容易にするものであってもよい。
【0171】
実施例5:CombiANT(登録商標)の混合細菌試料
本実施例においては、単一の試験で混合細菌試料を扱いその2種類の成分細菌を異なる蛍光マーカーで区別して異なる2セットのFICiを推定するようにCombiANT(登録商標)アッセイの実用性を広げた。
【0172】
材料と方法
株と培地
株MP026およびTB191はいずれも大腸菌K12-MG1655株の派生株である。MP026は遺伝子操作されており赤色蛍光蛋白質(mCherry遺伝子によってコードされる)を発現する。この株は抗生物質クロラムフェニコールに感受性である。株MP026は、Maros Pleska博士(ロックフェラー大学、米国)に提供していただいた。TB191も遺伝子操作されており、シアン蛍光蛋白質(cerulean遺伝子によってコードされる)を発現し抗生物質クロラムフェニコール(cat遺伝子によってコードされる)に耐性である。TB191は、Tobias Bergmiller博士(エクセター大学、イギリス)に提供していただいた。Mueller Hinton寒天およびMueller Hintonブロス(Becton Dickinson、Sparks、MD;Refs.275730、225250)を用いて37℃で一晩インキュベーションすることにより細菌培養を行った。単一コロニーから1mlで190rpmの旋回振盪を行い、一晩培養した培養物を調製した。抗生物質のストックは、製造元の推奨にしたがって調製し、それぞれ単回利用とするために分注して-20℃で保存した:NIT 10mg/ml(DMSO)(Sigma、Ref.N7878-10G)、およびTMP 10mg/ml(DMSO)(Sigma、Ref.T-7883-5G);CAM 12.5mg/mL(エタノール)(Sigma、Ref.C0378-5G)。
【0173】
混合試験
実施例1で説明されるようなCombiANT(登録商標)アッセイに使用する目的で、MP026およびTB191株のそれぞれを一晩培養し希釈した培養物を接種材料として用いた。MP026とTB191株を1:1の比で混合した混合物を一晩培養した培養物から調製した。一晩培養した培養物の総密度は2×108cfu/mLであった。次いで、実施例1で説明されるようなCombiANT(登録商標)アッセイに使用する目的で、この混合物を接種材料として用いた。用いた3種類の抗生物質(表7)に対するMP026株のMICに基づいて、挿入部の抗生物質濃度を決定した。
【0174】
【0175】
結果と考察
CombiANT(登録商標)が混合細菌試料に利用可能であることを実証した。混合物の成分細菌を蛍光(
図22)または比色によって区別し得る場合には、単一CombiANT(登録商標)アッセイにおいてそれら個々のFICi値を決定することができる。表8には、MP026およびTB191についてのFICi値を示す。
【0176】
【0177】
ほとんどの細菌感染において病原体の高度な多様性が観察されるが、CombiANT(登録商標)は未精製混合試料でも利用可能である。株精製の工程を省略することによって、どの抗生物質の組み合わせを治療に用いると有効であるかを判定するための総アッセイ時間を短縮できる。CombiANT(登録商標)アッセイが、診断法として、および個別化医療を設計し検証する目的において高い価値を有するものであることが理解されるであろう。CombiANT(登録商標)を、例えば、蛍光または比色によって区別することのできる試料に用いる場合には、同一試料中の異なる細菌について、複数のFICiを取得することができる。
【0178】
上記の実施態様は、本発明のいくつかの具体例であると理解されたい。本発明の範囲から逸脱することなく実施態様に様々な変更、組み合わせ、変形を加え得ることは、当業者であれば理解するであろう。特に、異なる実施態様における異なる課題解決部は、技術的に可能な他の構成で組み合わせることもできる。
参考文献
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[2] WO 2015/028983 A1
[3] Drieux, et al. Phenotypic detection of extended-spectrum beta-lactamase production in Enterobacteriaceae: review and bench guide. Clin Microbiol Infect 2008; 14 Suppl 1: 90-103
[4] US 2012/0149055 A1
[5] US 4,778,758 A
[6] White, et al. Comparison of three different in vitro methods of detecting synergy: time-kill, checkerboard, and E test. Antimicrob Agents Chemother 1996; 40: 1914-1918
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[9] Bliss. The Toxicity of Poisons Applied Jointly. Annals of Applied Biology. 1939; 26: 585-615.
[10] Weinstock, et al. Vibrio natriegens as a fast-growing host for molecular biology. Nat Methods. 2016; 13: 849-851
【国際調査報告】