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特表2023-522205老化した血液血管系の機能的能力及び系列組成を回復させる方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-29
(54)【発明の名称】老化した血液血管系の機能的能力及び系列組成を回復させる方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230522BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230522BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20230522BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20230522BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20230522BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20230522BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230522BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230522BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20230522BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230522BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20230522BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230522BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P9/00 ZNA
A61P7/00
A61P29/00
A61K35/28
A61L27/38 100
A61K31/713
A61K31/7105
A61K48/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61L27/38 300
C12N5/0789
C12N15/12
C07K16/18
C12N15/09 100
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562960
(86)(22)【出願日】2021-04-15
(85)【翻訳文提出日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 US2021027551
(87)【国際公開番号】W WO2021211893
(87)【国際公開日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】63/011,815
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BRIJ
(71)【出願人】
【識別番号】522212398
【氏名又は名称】ハッケンサック メリディアン ヘルス センター フォー ディスカバリー アンド イノベーション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】バトラー ジェイソン マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ラマリンガム プラディープ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BB19
4B065CA44
4C081AB01
4C081CD34
4C084AA13
4C084AA17
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZA51
4C084ZB11
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA51
4C086ZB11
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087MA02
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZA51
4C087ZB11
4C087ZC75
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
(57)【要約】
記載する本発明は、血管の完全性の悪化、造血幹細胞機能の低下、またはその両方を含む、骨髄の老化した造血微小環境における老化関連造血障害を含む、老化した血液及び血管系を若返らせる方法を提供する。この方法は、老化促進アンジオクライン因子、スプライスバリアント、またはそのフラグメントの阻害剤と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を対象に投与することを含む。記載する本発明は、トロンボスポンジン-1を老化促進因子の候補として同定した。
【選択図】図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管の完全性の悪化、造血幹細胞機能の低下、またはその両方を含む、骨髄の老化した造血微小環境における老化関連造血障害を含む、老化した血液系及び血管系の若返り方法であって、
アンジオクライン因子、スプライスバリアント、またはそのフラグメントの阻害剤と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を対象に投与することを含み、前記アンジオクライン因子が、トロンボスポンジン1(TSP1)であり、
任意選択で、前記血液系を再生し、前記骨髄の造血再構成を促進するのに有効な治療量の多能性自己複製造血幹細胞(HSC)を移植することを含む幹細胞併用治療を実施し、
任意選択で、前記血液系を再生し、前記骨髄の造血再構成を促進するのに有効な治療量の内皮細胞(EC)を移植することを含む血管内皮併用治療を実施し:
前記骨髄の前記造血微小環境における炎症を軽減するか;
前記骨髄の前記造血微小環境における血管の完全性を維持するか、または
前記造血コンパートメント内の細胞型の出現頻度及び数を増加させて、多系列の再構成を実施する
ことの1つ以上により、造血骨髄微小環境における造血回復を増強することを含む、
前記若返り方法。
【請求項2】
前記TSP1の阻害剤が、抗体、siRNA、または合成シングルガイドRNAを含むCRISPRによるTSP1遺伝子ノックアウトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体が、TSP1に対する非中和抗体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体が、TSP1に対する中和抗体である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記中和抗体が、クローンA4.1(Thermofisher,Invitrogen RRID AB_10988669))として市販されている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
a. HSCニッチが、造血幹細胞(HSC)、造血前駆細胞(HPC)、造血中に幹細胞プールサイズを調節する骨芽細胞を含む常在ニッチ細胞、ならびにケモカインを含む分泌及び膜結合因子を含み、定常状態では、前記HSCが、ほとんどは静止しており、一方、HPCが活発に増殖し、毎日の造血に寄与し;
b. 血管ニッチが、骨髄内皮細胞(BMEC)を含む内皮細胞を含む内皮マイクロニッチを含み、前記内皮細胞が、活性化されると、アンジオクライン因子の分化産生をもたらす細胞クロストーク系を調整する前記アンジオクライン因子を産生する、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
高齢BMECを含む前記HSCニッチの前記老化した骨髄造血微小環境内の前記老化した内皮微小環境が、
mTORシグナル伝達の減少、
mTORサブユニットの存在量の減少、
mTOR触媒サブユニットのリン酸化の減少、
mTOR転写標的遺伝子の発現低下;または
mTOR触媒サブユニット mTOR複合体1及びmTOR複合体2のタンパク質レベルの低下
のうちの1つ以上を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
BMECによる前記mTORシグナル伝達の減少が、高齢HSCにおける老化に関連する機能的欠損を引き起こす、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
トロンボスポンジン-1(TSP1)の発現レベルが、若齢対照と比較した場合に、高齢BMECにおいてアップレギュレートされる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
STAT3経路、TGF-bシグナル伝達、IGF-1シグナル伝達またはHMGB1シグナル伝達における変化を含む、若齢対照と比較した、高齢BMECにおける遺伝子発現の変化によって表される、最もアップレギュレートされる生物学的プロセスが、TSP1によって調節される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記血管の完全性の悪化が、内皮透過性の増加、内皮炎症の増加、またはその両方を含む血管透過性の増加を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
骨髄造血微小環境のHSCニッチにおける老化関連造血障害が:
持続的な炎症;
HSC細胞性の増加
幹細胞プールサイズの増加;
HSC静止の喪失;
HSCアポトーシスの増加
HSCの自己再生能力の喪失;
前記HSCの骨髄性に偏った分化の増加、
骨髄破壊戦略の失敗のリスクの増加;または
若齢対照と比較して、移植後の骨髄ニッチの生着及び再生の減少
のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記持続的な炎症が、骨髄抑制性刺激に由来する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記骨髄抑制性刺激が、放射線、化学療法、またはその両方への曝露を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記骨髄抑制性刺激が、化学療法を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記骨髄抑制性刺激が、骨髄破壊的である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記HSCの前記骨髄性に偏った分化の増加が、リンパ新生を犠牲にしている、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記HSCの静止の喪失が、HSCの一時的な増加、HSCの長期的な枯渇、及びHSCの長期的な再増殖能力の欠損をもたらす、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
mTORの過剰活性化が、HSCを静止状態からより活発な細胞周期へ駆動する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記骨髄造血微小環境の前記HSCニッチにおける老化関連造血障害が、HSC遺伝子発現の変化を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
高齢HSCにおける老化に関連するHSC遺伝子発現における変化が、SELP、NEO1、JAM2、SLAMF1、PLSCR2、CLU、SDPR、FYB、ITGA6のうちの1つ以上のアップレギュレーション、及びRASSF4、FGF11、HSPA1B、HSPA1A、またはNFKBIAのうちの1つ以上のダウンレギュレーションのダウンレギュレーションを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
造血幹細胞移植のための造血幹細胞生成物の調製方法であって、
(a)造血幹細胞のex vivo培養物を調製し;
(b)抗TSP1抗体を含む抗体を、(a)の前記造血幹細胞の培養物に投与して、処置された造血幹細胞集団を形成し;
(c)前記処置された造血幹細胞集団をin vitroで増殖させて、治療量の処置された造血幹細胞を含む造血幹細胞移植生成物を形成することを含み、前記造血幹細胞移植生成物の生着能が、未処置の対照と比較して増強されている、前記調製方法。
【請求項23】
工程(a)の前記造血幹細胞が、ヒト対象に由来する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
工程(a)の前記造血幹細胞が、マウス対象に由来する、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記抗TSP1抗体を含む前記抗体が、中和抗体である、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記抗TSP1抗体が、CD36、CD47またはその両方に対する抗体をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記抗体が、ヒト化抗体である、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記移植が、自家である、請求項22に記載の方法。
【請求項29】
前記造血幹細胞移植が、同種異系である、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府資金の記載
本発明は国立衛生研究所によって授与された契約HL133021のもとでの政府の支援により為された。政府は本発明に特定の権利を有する。
【0002】
関連出願への相互参照
本出願は「老化した血液血管系の機能的能力及び系列組成を回復させる方法」と題する2020年4月17日に出願された米国仮特許出願番号63/011,815に対する優先権の利益を主張する。前述の出願の内容全体は参照によって全体として本明細書に組み込まれる。
【0003】
配列表
本出願はASCII形式で電子的に出願され、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる配列表を含有する。前記ASCIIコピーは2021年4月15日に作成され、128533-02620_SL.txtと名付けられ、2,833バイトの大きさである。
【0004】
発明の分野
記載されている本発明は造血における加齢関連の欠損症を元に戻す組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0005】
恒常性
恒常性は、適切な生体機能に必要とされる安定性及び一貫性の維持及び調節を可能にする細胞、組織及び生物の特性である。環境、位置及び活動レベルの変化にかかわらず、それは生化学的な及び生理的な経路の普遍の調整によって維持される。体内の生理的な系のこの調整は恒常性制御と呼ばれる。生体組織の恒常性制御は、骨形成、血管形成/脈管形成及び造血の間での調整された相互作用を必要とし、それには内皮細胞(EC)が介在すると考えられている(Kenswil,K.J.G.,et.al.,(2018). Characterization of Endothelial Cells Associated with Hematopoietic Niche Formation in Humans Identifies IL-33 As an Anabolic Factor.Cell Reports,22(3),666-678;Rafii,S.,Butler,J.M.,& Ding,B.-S.(2016).Angiocrine functions of organ-specific endothelial cells.Nature,529(7586),316-325)。
【0006】
内皮細胞が内張りする血管の毛細血管は、血液、酸素及び栄養を送達する、血液の凝固を調節する、炎症細胞の輸送を調節するならびに細胞代謝の門番として役立つことに対する責任を負う受動的な導管として検討された。しかしながら、これらの細胞は、例えば、常在幹細胞の恒常性を持続すること、ならびに成人の骨/骨髄(骨形成)、血液系(造血)及び脈管構造(血管形成/脈管形成)の再生または修復を導くことのような他の必要な生理的課題も実行する(Rafii,S.,Butler,J.M.,& Ding,B.-S.(2016).Angiocrine functions of organ-specific endothelial cells.Nature,529(7586),316-325)。
【0007】
血管の完全性
血管の完全性は血管の恒常性に極めて重要である(Murakami,M.,and Simons,M.J.Mol.Med.(Berl),(2009)87(6):571-82)。脈管構造の維持は連続する基本的な細胞シグナル伝達を必要とする能動的な生体プロセスである。この系の不具合は、例えば、出血、浮腫、炎症、及び組織虚血のような重篤な結末をもたらす。
【0008】
種々の動物モデルにおける研究と同様にマウス及びヒトでの遺伝子研究は、胎児の血管発生の間にて及び成人の脈管構造にて血管の完全性を能動的に維持することに極めて重要な役割を担う多数の因子を同定している。これらの因子は血管の安定化及び維持の多数の段階にわたって調整性に協調して機能する。血管形成のプロセスの間に、初期の血管が集合した後、内皮細胞が細胞・細胞結合を発達させ効果的なバリアを確立するが、これはAngl-Tie2及びFGFの系が極めて重要な役割を担うプロセスである(Fiedler,U,Augustin,HG,Trends Immunol.(2006)27:552-58;Murakami,M.,Simons,M.;Curr.Opin.Hematol.(2008)15:215-220を引用して同上)。付随して、間葉前駆細胞がTGF-βの作用を介して周皮細胞または平滑筋細胞に分化する一方で、内皮先端細胞に由来するPDGF-BBは周皮細胞の動員及び増殖を促進する(Pepper,MS,Cytokine Growth Factor Rev.(1997)8:21-43);Betsholtz,C.Cytokine Growth Factor Rev.(2004)15:215-228;Andrrae,J.et al,Genes Dev.(2008)22:1276-1312を引用して同上)。このプロセスの全体を通して、血管の安定化をさらに指図する細胞外マトリックス(ECM)・細胞のシグナル伝達にインテグリンが介在する(Hynes,RO,J.Thromb.Haemost.(2007)5(Suppl.1):32-40を引用して同上)。
【0009】
血管の完全性は血管壁の種々の構成成分の適切な機能を保証する多数の因子によって強固に調節されている。血管の完全性を劣化させる初期の特質の1つは透過性の上昇であり、それは内皮結合の安定性によって主に制御される。血管透過性の選択的な調節は細胞傍間隙のサイズと状態の調節及び細胞間輸送の制御によって達成される。正常な血管構造は血管床ごとに異なる一定レベルの基礎的な透過性を示す。早期の研究は血管床のサブセットにて構成的に開放した接合部を明らかにしている(Simionescu,N.et.al.,J.Cell Biol.(1978)79:27-44を引用して同上)。正常な条件下で、能動的な透過性調節が生じている後毛細血管細静脈における内皮細胞-細胞間結合の約30%が開いており、約60Åの分子に対して透過性である(同上)。ヒスタミンまたは5-HT(5-ヒドロキシトリプタミン)のいずれかで刺激すると、後毛細血管細静脈における細胞間結合は選択的に開き、大型分子の通過を可能にするが、血管接合部を介して流出は血管周囲腔に限定され、制約され(Simionescu,N.etal.,J.Cell Biol.(1978)79:27-44を引用して同上)、それは血管周囲腔における外部バリアの存在を示唆している(同上)。
【0010】
生理的な及び病理的な刺激によって誘発される内皮透過性の上昇はふつう、可逆性であり、血管の完全性を永続的に劣化させるわけではない。しかしながら、内皮接合部構成成分の障害は血管の完全性の深刻な損傷につながることができる。このシナリオでは、接合部の崩壊はふつう、血管壁からの最終的な内皮の脱落とその後に続く血栓形成を伴う。このプロセスの事象の順序はよく理解されていないが、透過性誘導刺激の持続時間が結果に影響を及ぼしてもよいことは可能である(同上)。内皮細胞がVE-カドヘリンに基づく接合部を再確立することによってバリア機能を急速に修復することができる血管透過性の一時的な上昇とは異なって、長く続く刺激は反応性酸素種(ROS)の蓄積のようなさらに顕著な影響につながってもよい。内皮機能に対して多数の有害効果を発揮することが知られている過剰量のROSはそのようなシナリオに介在してもよい。実際、ROSは活性部位にてCys残基を酸化することによってタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)を不可逆的に不活化し、それによってチロシンのリン酸化に依存するシグナル伝達事象に影響を及ぼすことができる(Tonks,NK,Nat.Rev.Mol.CVell Biol.(2006)7:833-846を引用して同上)。
【0011】
内皮接合部
内皮細胞では、3種の細胞間結合、すなわち、接着結合、密着結合及びギャップ結合の間で、接着結合及び密着結合は内皮の構造的な完全性に寄与する(Dejana,E.,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.(2004)5:261-270を引用して同上)。これら2種の結合の間で機能的な差異を正確に説明するのは難しいが、密着結合の集合は接着結合の以前の形成に依存することが知られており、接着結合が内皮の透過性の制御に主として重要であるのに対して、密着結合は細胞の頂端面と側底面との間の脂質と内在性膜タンパク質の移動を阻止すること(分子フェンス)に関与する(Dejana,E.,Nature Rev.Mol.Cell Biol.(2004),5:261-270;Taddei,A.,et al,Nat.Cell Biol.(2008),10:923-34を引用して同上)。
【0012】
結合の各種類はタンパク質のはっきり異なるセットを持つ。カドヘリンは、接着結合を構成し、トランス同種親和性の相互作用を介したカルシウム依存性の細胞・細胞接触に介在する膜貫通タンパク質のファミリーである。内皮細胞では、VE-カドヘリンは細胞接触の部位に位置し、接着結合の形成を調節し、結合の部位をアクチン細胞骨格に接続する。
【0013】
カテニン、特にp120-カテニンへの結合によって制御される接着結合でのVE-カドヘリンの安定性は内皮の透過性及び完全性の維持に極めて重要である。Srcファミリーキナーゼは、内皮透過性のVEGFが誘導する上昇に重要な役割を担うことが知られており、Srcを介したVE-カドヘリンのリン酸化は細胞・細胞接触の崩壊を誘発し、VE-カドヘリンの内部移行につながる(Weis,SM,Chesh,DA,Nature,(2005),437:497-504を引用して同上)。このプロセスは内皮の運動性及び「活性化された」内皮細胞の抗原性表現型の確立に重要であると考えられる。したがって、内皮接合部は静止単層においてさえ能動的に集合し、解体する動的構造であるということは、作用が制御する正味のVE-カドヘリンの動態の均衡は内皮の挙動を決定することを示唆している。
【0014】
幹細胞ニッチ
生体の組織及び臓器の効果的な機能は、適切な細胞数を維持する(恒常性)及び傷害の後損傷した細胞を置き換える(修復)生来の再生プロセスに依存する。すべてではないが、多くの組織では、再生潜在力は外因性の指示に応答し、必要に応じて代替細胞を作り出す幹細胞及び前駆細胞の特化した集団の存在及び機能性によって決定される(Wagers,A.J.The stem cell niche in regenerative medicine.Cell stem cell 10,362-369,doi:10.1016/j.stem.2012.02.018(2012))。これらの細胞は、その周囲とのコミュニケーションを維持して細胞の代替と修復についての生理的な指示に対する適切な応答を保証する一方で損傷または喪失から細胞を保護するのに十分な空間的な、時間的な及び構造的な境界を提供する「幹細胞ニッチ」と呼ばれる特殊化された環境に存在する(Wagers,A.J.The stem cell niche in regenerative medicine.Cell stem cell,10,362-369,doi:10.1016/j.stem.2012.02.018(2012))。
【0015】
幹細胞ニッチは、生殖細胞系列、骨髄、消化器系及び呼吸器系、骨格筋、皮膚、毛包、乳腺、及び中枢神経系及び末梢神経系を含む多数の組織で同定され、特徴付けられている(Wagers,A.J.The stem cell niche in regenerative medicine. Cell stem cell,10,362-369,doi:10.1016/j.stem.2012.02.018(2012))。
【0016】
幹細胞ニッチの環境は、その機能及び維持にとって極めて重要である細胞成分及び環境成分で構成される。細胞・細胞相互作用は構造的サポートを提供し、接着相互作用を調節し、幹細胞機能を制御する可溶性シグナルを生成する。環境成分には、圧力、構造、及び化学シグナル、及び温度のような物理的な力、と同様に細胞外マトリックス(ECM)との相互作用のような生理的パラメーターが挙げられる(同上)。
【0017】
幹細胞ニッチにおける異種の細胞・細胞相互作用は密着調節及び多くは細胞・細胞接触に依存する複雑な、双方向性のシグナル伝達を示す。幹細胞ニッチは組織特異的な及び一般的な細胞集団を含有し、そのそれぞれが特殊化された役割を有する(Lane,S.W.,Williams,D.A.& Watt,F.M.Modulating the stem cell niche for tissue regeneration.Nature biotechnology,32,795-803,doi:10.1038/nbt.2978(2014))。
【0018】
造血微小環境は成人の骨における骨髄空間に位置し、骨芽細胞、血管細胞及び神経細胞、巨核球、マクロファージ、及び免疫細胞を含む造血幹細胞(HSC)ニッチを明瞭に定義する種々の異なる細胞種を含む。Wnt、SCF、Notch、及びケモカインを含む分泌因子及び膜結合因子は幹細胞上の表面受容体を直接結合して細胞の運命、自己再生及び極性を調節する(Lane,S.W.,Williams,D.A.& Watt,F.M.Modulating the stem cell niche for tissue regeneration.Nature biotechnology,32,795-803,doi:10.1038/nbt.2978(2014))。
【0019】
脈管構造及び神経系との多数の幹細胞種の密接な関連は代謝指示及び概日リズムによる幹細胞応答の調節を可能にし、それを介して炎症細胞及び免疫細胞と同様に液性因子がニッチに送達され得る導管を提供する(Wagers,A.J.The stem cell niche in regenerative medicine.Cell stem cell,10,362-369,doi:10.1016/j.stem.2012.02.018(2012))。免疫的な細胞は、炎症及び組織損傷の間にニッチの動的な調節を提供し、それは「免疫特権」(脳及び眼を含む特定の解剖学的部位に配置された組織移植片が長い時間生存できるという観察を指す)の存在及びこの特権からの回避を介して強固に調節される(Lane,S.W.,Williams,D.A.& Watt,F.M.Modulating the stem cell niche for tissue regeneration.Nature biotechnology,32,795-803,doi:10.1038/nbt.2978(2014))。
【0020】
細胞外マトリックス(ECM)タンパク質及び幹細胞のECMとの相互作用は部分的には基体の剛性に基づいて保持指示と同様に機械的シグナルを提供し、それは幹細胞が外部の物理的力に応答するのを可能にする。ECMタンパク質はニッチの配向及び構造的維持に極めて重要であり、幹細胞上に発現されるインテグリンとのリガンドの相互作用を介して指令シグナルを提供する(Lane,S.W.,Williams,D.A.& Watt,F.M.Modulating the stem cell niche for tissue regeneration. Nature biotechnology,32,795-803,doi:10.1038/nbt.2978(2014))。加えて、ECMは、ニッチ内で局所的に及び全身性に産生された因子双方を結合することによって増殖因子、ケモカイン及び他の幹細胞調節分子を隔離する、または濃縮することができる(Wagers,A.J.The stem cell niche in regenerative medicine. Cell stem cell,10,362-369,doi:10.1016/j.stem.2012.02.018(2012))。
【0021】
例えば、トポグラフィ、剛性/弾性、剪断力、温度、酸素、張力、及び血流のような物理的パラメーターは幹細胞の維持及び分化を指図する。さらに、多数の幹細胞ニッチは環境的特徴を変更し、強固な代謝調節を必要として幹細胞集団の長期の休止及び自己再生を維持する(Lane,S.W.,Williams,D.A.& Watt,F.M.Modulating the stem cell niche for tissue regeneration.Nature biotechnology,32,795-803,doi:10.1038/nbt.2978(2014))。
【0022】
特定の幹細胞ニッチを構成する具体的な構成成分は異なる生理的背景のもと異なる組織で変化してもよい一方で、どんな場合でも、これらの細胞性及び無細胞性の構成成分によって提供されるシグナルは幹細胞によって統合されて、静止または増殖、自己再生または分化、移動または保持、及び細胞死または生存の間の選択を含む、その運命決定に情報提供すると思われる(Wagers,A.J.The stem cell niche in regenerative medicine. Cell stem cell,10,362-369,doi:10.1016/j.stem.2012.02.018(2012))。
【0023】
HSCニッチの発達
造血系は、例えば、酸素輸送、免疫、及び組織リモデリングのような機能を実施する1000憶個を超える成熟血液細胞を毎日人体に供給する。それは、酸素輸送や免疫防御のような独特の機能を有する高度に特殊化された細胞の種々の集団から成る。成人は1日あたり約4~5×1011個の造血細胞を生成すると推定される。多数の血液細胞種の連続した産生は高度に調節された、さらに高度に反応性の系を必要とする。哺乳類の造血機構内では、稀な造血幹細胞(HSC)はヒエラルキーの頂点にある(Pinho,S.,Frenette,P.S.Haematopoietic stem cell activity and interactions with the niche.Nat.Rev.Mol.Cell Biol,20,303-320(2019)doi:10.1038/s41580-019-0103-9)。
【0024】
発生の間、造血を確立するためにHSCはニッチ間を行き来する。原始的な造血は胚齢およそ7.0日(E7.0)にて卵黄嚢で行われ、その時、未成熟の前駆体は発生している胚に酸素を供給する赤血球を生じる。移植の際、造血系を完全に再構成できることが知られている最初の明確なHSCはマウス及びヒトにおける大動脈・性腺・中腎領域で見いだされている。しかしながら、一部の研究は、E9.0~E10.0の卵黄嚢の細胞は成熟マウスではなく新生仔に移植されると明瞭なHSCに成熟することができることを示唆している。加えて、胎盤は発生中のHSCの重要な貯留庫を表す。いったん脈管構造が発生すると、E12.0にてまたはE12.0の頃にHSCは胎児肝臓に移動し、そこで増殖し、分化する。胎児肝臓のHSCはその骨髄の対応HSCとは対照的に活発に循環し、照射したレシピエントに移植すると成人骨髄のHSCを打ち負かす。胎児肝臓におけるHSC増殖の間に、間充織の凝集内にて軟骨細胞及び骨芽細胞が産生され、軟骨及び骨を作り出す。骨格リモデリングは骨脈管化に関連し、E17.5までにHSCのホーミング及び胎児骨髄のコロニー形成を可能にする。このプロセスには、骨髄内皮上に発現されるCXCR4及び特異的な接着分子を発現しているHSCを引き付ける骨髄間質細胞によるCXCL12産生が介在する(Boulais,P.E.,& Frenette,P.S.(2015).Making sense of hematopoietic stem cell niches.Blood,125(17),2621-2629.doi:10.1182/blood-2014-09-570192)。
【0025】
HSCニッチ及び骨髄の微小環境
成人の骨では、HSCは代謝的な休止または静止の段階で細胞周期のG0期にて本質的に保持され、それは細胞複製に関連する損傷を限定することによってその機能を保護する。しかしながら、静止HSCは細胞周期に入り、増殖することによって広い範囲のニッチシグナルまたは全身性シグナルに迅速に応答することができる。したがって、これらの指令的指示はHSCの分化を個別化し、血液産生を生物のニーズに合わせるのに必須である。HSCはまた、動員シグナルを受け取るとBMニッチから離れ、血流に入り、末梢組織の免疫監視を確保し、遠隔のBM部位に生着することもできる。したがって、HSCは、静止/増殖及び係留/動員のスイッチの動的調節に起因して、細胞周期及び輸送活性を含むその生物学の多数の局面についてのBMニッチからの短期及び長期の指令的指示に決定的に依存する。
【0026】
常在ニッチ細胞
HSC幹細胞ニッチはそれぞれ異なる機能を持つ種々の細胞種を含有し、例えば、骨芽細胞、血管細胞及び神経細胞、巨核球、マクロファージ及び免疫細胞はそれぞれ重要な役割を有し、異なるHSCニッチを定義すると見なすことができる。それはさらに、他の特殊化したニッチ、例えば、骨芽ニッチ及び血管周囲ニッチを含む。研究は、これら2つのニッチが異なる特殊化された役割を有するかどうか、またはHSCの協調した調節があるので機能的重複があるのかどうかについて対立している。例えば、NG2+細動脈周囲細胞は長期のHSC内で静止を調節し、この静止はHSCの機能に必須であると思われる。他の細胞、例えば、骨内膜マクロファージはニッチ内でHSCを保持し、これらの細胞の喪失はその支持的微小環境の外でHSCの動員を引き起こす(Lane,S.W.,Williams,D.A.& Watt,F.M.Modulating the stem cell niche for tissue regeneration.Nature biotechnology,32,795-803, doi:10.1038/nbt.2978(2014))。
【0027】
直接細胞接触
直接細胞接触には、例えば、細胞・細胞接着分子及び膜結合リガンドの受容体のような多数の受容体が介在することができる。例えば、骨髄では、類洞細胞によって発現されるNotchリガンドは骨髄破壊損傷からの回復の間でのHSCの自己再生に必須である(Lane,S.W.,Williams,D.A.& Watt,F.M.Modulating the stem cell niche for tissue regeneration.Nature biotechnology,32,795-803,doi:10.1038/nbt.2978(2014))。
【0028】
分泌因子
幹細胞とニッチ細胞の間での間接的なコミュニケーションには分泌因子が介在する。例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)または顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)のようなサイトカインを使用することによるニッチからのHSCの動員は、血液悪性腫瘍、骨髄機能不全及び稀な遺伝性障害の治療を支えるのに広く使用されている。これらの因子は、HSCの増殖及びHSC・ニッチの接着の解放を促進すること含む種々の方法で作用する(Lane,S.W.,Williams,D.A.& Watt,F.M.Modulating the stem cell niche for tissue regeneration.Nature biotechnology,32,795-803,doi:10.1038/nbt.2978(2014))。具体的には、幹細胞因子(SCF)、形質転換増殖因子β-1(TGF-b1)、血小板因子4(PF4またはCXCL4)、アンジオポエチン1(ANGPT1)、及びトロンボポエチン(TPO)のような分泌因子はすべてHSCの静止を執行するのに極めて重要である。並行して、必須のケモカイン、間質由来因子1(SDF1aまたはCXCL12)及びそのC-X-Cケモカイン受容体4型(CXCR4)、接着分子、例えば、血管細胞接着タンパク質1(VCAM-1)、種々のセレクチン、及びフィブロネクチンまたはヒアルロン酸のような細胞外マトリックス(ECM)タンパク質はすべてHSCのホーミング及びニッチにおける係留の必須の調節因子である。
【0029】
静止状態のままであるまたは活発な増殖状態に入る決定は細胞内在性の及び外来性のメカニズム双方を介して多数の因子によって制御される。外来性の可溶性因子:炎症性サイトカイン、例えば、インターフェロン(IFN)-α及びIFN-γ;増殖因子、例えば、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、幹細胞因子(SCF)及びトロンボポエチン(TPO);サイトカイン、例えば、形質転換増殖因子(TGF)-β及び腫瘍壊死因子(TNF)-α、及びケモカイン、例えば、間質細胞由来因子(SDF)-1に応答して、HSCは休止状態または細胞周期に入ることができる。HSCの静止を調節する固有の因子には、細胞周期阻害剤、例えば、p21及びp57;転写因子(TF)、例えば、Gfi1、Egr1、FOXO、及びPBX1;ならびに、ユビキチンリガーゼ、例えば、c-Cbl、Itch、Fbxw7、及びA20が挙げられる。骨髄ニッチにおけるHSCの適切な維持には、内因性因子及び外因性因子の間の調和が不可欠である。(Nakagawa,M.M.,Chen,H.,& Rathinam,C.V.(2018).Constitutive Activation of NF-κB Pathway in Hematopoietic Stem Cells Causes Loss of Quiescence and Deregulated Transcription Factor Networks.Frontiers in cell and developmental biology,6,143)。
【0030】
骨髄微小環境
骨髄は、造血細胞区画(柔組織)、ならびに、主に、線維芽細胞、脂肪細胞、神経、及び骨髄の血管系で構成される間質に細分化することができる。(Kopp,et.al.“The Bone Marrow Vascular Niche:Home of HSC Differentiation and Mobilization.“PHYSIOLOGY 20:349-356,2005;10.1152/physiol.00025.2005)。
【0031】
動脈血管は、孔栄養を介して骨髄に入り、次に、いくつかの細動脈に分かれる。これらの血管の小さな細動脈及び毛細血管は、骨髄全体に及び、類洞間毛細血管により相互接続されている類洞を供給する。類洞は、流出する中央静脈洞の周りに放射状に分布し、これは、直径が約100μmである。骨髄類洞は、独特であり、通常の静脈と比較されるべきではない。類洞壁は、内皮細胞の単層から成り、支持細胞がない。内皮細胞は結合組織の被覆はないが、むしろ、実質細胞と直接接触している。周囲の造血骨髄は類洞微小循環の再構築及びリモデリングをサポートする主要な細胞部分である。
【0032】
細胞傷害剤または放射線による骨髄低細胞性の急速な誘導に、類洞及び中心静脈洞の顕著な拡張及び崩壊が続く。類洞に通常の血管壁がないことは、高レベルの透過性に反映される。骨髄微小環境は、HSC及び造血前駆細胞(HPC)を収容し、隣接する間質細胞で構成される骨の微小解剖学的環境が幹細胞をサポートし、指導する。間質環境自体が造血の質を決定し得ることが仮定されている。(Kopp,et.al.“The Bone Marrow Vascular Niche:Home of HSC Differentiation and Mobilization.“PHYSIOLOGY 20:349-356,2005;10.1152/physiol.00025.2005)。
【0033】
HSC及びHPC HSC及びHPCはその生存期間全体にわたって血管内皮に直接接触してまたは非常に近接して存在し、血管周囲ニッチと呼ばれる。ホモ接合性の内皮からのHSCの胚性特定化の瞬間から、内皮細胞は、その生存期間全体にわたるHSC維持のために決定的な生体プロセスの膨大なレパートリーを調節する極めて重要な細胞拠点として作用する(Ramalingam P,Poulos MG,Butler JM.Regulation of the hematopoietic stem cell lifecycle by the endothelial niche. Curr Opin Hematol.2017;24(4):289-99.doi:10.1097/MOH.0000000000000350.PubMed PMID:28594660;PMCID:5554937)。
【0034】
骨髄微小環境は細胞周囲HSCニッチを収容するだけでなく、骨芽細胞ニッチも収容し、その際、それぞれは幹細胞の局在化にて担う役割によって定義される。骨髄における骨芽細胞ニッチはリンパ球産生の維持のためのシグナルを提供するのに対して、細胞周囲ニッチはHSC及びその子孫の静止及び維持を調節する。造血組織におけるこれらの空間的差異はかくまわれる幹細胞自体の特性に反映せず、それに変換しない。さらなる研究は骨髄類洞血管のような間質構造は造血細胞が存在し、成熟し得る際の代わりの細胞性足場として役立ってもよい。
【0035】
骨内膜ゾーンから離れた解剖的及び機能的な実体としての骨髄の類洞及び細動脈ネットワークを説明するために、「血管ニッチ」という名称が採用される。細動脈ニッチはHSCの分化に有利に働くと考えられるのに対して、中央に位置する血管ニッチはHSCの静止、維持及び分化と、最終的には末梢循環への動員を可能にする場所として役立つ。生体内での遺伝的機能の研究はHSCが血管ニッチにて骨髄脈管構造と密接な関連を有することを実証している。さらに、成熟巨核球のほぼすべてが薄壁類洞に隣接して位置することが見いだされ、巨核球全体がインタクトな内皮細胞を介して遊出できることが示された。この観察は血小板生成に限定されないが、赤血球系及びBリンパ球系の前駆細胞に適用することができ、これらの系列が骨髄内で定義されたニッチに存在することも報告されているからである。成熟過程における極めて重要な決定要因としてのHSPC・内皮細胞の相互作用に対するこれらの所見要点は、幹細胞の維持及び分化について許容的であり且つ指導的である微小解剖構造としての幹細胞ニッチのアイデアをさらに強化する。さらに、骨髄内皮細胞(BMEC)は接着性を有して血管形成因子及びケモキネシス因子と相互作用し、HSCの自己再生及び分化をサポートし、それによって骨髄柔組織と血管ニッチの相互依存を実証することに寄与することが見いだされた(Crane,GM,et al,“Adult haematopoietic stem cell niches,”Nat.Rev.Immunol.(2017)17(9):573-90;Ramalingam,P.et al,“Regulation of the hematopoietic stem cell lifecycle by the endothelial niche,” Curr.Opin.Hematol.(2017)24(4):289-99;Yu,VW,and Scadden,DT,“Heterogeneity of the bone marrow niche,”Curr.Opin.Hematol.(2016)23(4):331-38)。
【0036】
骨組織の細胞シグナル伝達におけるアンジオクライン因子
骨微小環境にて骨組織の細胞シグナル伝達で複数の役割を担う多数のアンジオクライン増殖因子がある。以下の表1はそのようなアンジオクライン因子及び骨における組織細胞とのそのクロストークを記載している(Sivan U,De Angelis J,Kusumbe AP.2019 Role of angiocrine signals in bone development,homeostasis and disease.Open Biol.9:190144.http://dx.doi.org/10.1098/rsob.190144)。
【0037】
【表1-1】
【表1-2】
【0038】
造血細胞と内皮細胞との間の連鎖は内皮細胞と造血細胞の共通する前駆細胞である血管芽細胞であることが見いだされた。発生学的にHSC/HPCと内皮細胞の強い相互依存があり、それは成人まで延長する(Kopp,et.al.”The Bone Marrow Vascular Niche: Home of HSC Differentiation and Mobilization.”PHYSIOLOGY 20:349-356,2005;10.1152/physiol.00025.2005;Ramalingam P,Poulos MG,Butler JM.Regulation of the hematopoietic stem cell lifecycle by the endothelial niche.Curr Opin Hematol.(2017)24(4):289-99.doi:10.1097/MOH.0000000000000350.PubMed PMID:28594660;PMCID:5554937)。
【0039】
骨髄血管ニッチ
骨髄(BM)の類洞及び細動脈ネットワークは骨内膜ゾーンから離れた解剖学的且つ機能的な実体である。それは、その完全性が周囲の造血細胞によって維持され、サポートされる薄壁で且つ有窓の類洞血管のネットワークから成る。しかしながら、この依存性は、骨髄の脈管構造が成熟造血細胞から末梢循環までの導管を提供するだけでなく、HSCプールが静止状態で維持される部位も提供するという点で相互関係があり、造血前駆細胞、特に巨核球は分化し、造血の完全な再構成のための段階を設定する(Kopp,et.al.”The Bone Marrow Vascular Niche:Home of HSC Differentiation and Mobilization.”Physiology,(2005)20:349-356.10.1152/physiol.00025.2005)。
【0040】
BMの血管は造血区画を末梢循環から分離する壁を構成するだけでなく、造血及び幹細胞の動員及びホーミングを調節することができる。同上。
【0041】
類洞内皮細胞とHSCとの間の密接性はそれらの維持及び系列特異的な分化に非常に重要である[Ramalingam P,Poulos MG,Butler JM.Regulation of the hematopoietic stem cell lifecycle by the endothelial niche.Curr.Opin.Hematol.2017;24(4):289-99.doi:10.1097/MOH.0000000000000350.PubMed PMID:28594660;PMCID:5554937]]。造血とTHPO/cMpl系の間の連鎖、及び特に巨核球前駆細胞の増殖を促進することでのその役割は周知である[Kopp,et.al.”The Bone Marrow Vascular Niche:Home of HSC Differentiation and Mobilization.”Physiology,(2005),20:349-356.10.1152/physiol.00025.2005,下記を引用:Nagasawa,T.,Microenvironmental niches in the bone marrow required for B-cell development.Nat.Rev.Immunol.(2006)6:107-116]。THPO/cMp1の非存在下にもかかわらず、巨核球前駆細胞がBM類洞に近接すれば巨核球の成熟及び血小板の産生が生じてもよい[Avecilla,ST,et al.,Chemokine-mediated interaction of hematopoietic progenitors with the bone marrow vascular niche is required for thrombopoiesis.Nat.Med.(2003)10:64-71を引用して同上]。血小板産生が損なわれるTHPO及びcMp1のノックアウトマウスでは、CXCL12及び線維芽細胞増殖因子4(FGF-4)は、巨核球上の最晩期抗原(VLA)-4及び内皮細胞上のVCAM-1を含む接着分子の発現を誘導するメカニズムを介して正常な血小板を回復させる[Yoon,CH et al,Characterization of two types of endothelial progenitor cells(EPC).Korean Circ.J.(2004),34:304-313;Maher,PA,Modulation of the epidermal growth factor receptor by basic fibroblast growth factor.J.Cell.Physiol.(1993)154:350-358を引用して同上]。FGFは血管ニッチと骨内膜ニッチの間のクロストークに介在することにて重要な因子と見なされてもよい[De Haan,G.et al.,In vitro generation of long-term repopulating hematopoietic stem cells by fibroblast growth factor-1.Dev.Cell.(2003)4:241-251を引用して同上]。線維芽細胞増殖因子(FGF)はHSC及びその前駆細胞の血管ニッチへの動員に重要な、そこでFGF受容体の高い発現が見いだされている2つのBMニッチ間に勾配を形成すると考えられている[Wright,DE,Physiological migration of hematopoietic stem and progenitor cells.Science.(2001)294:1933-1936を引用して同上]。
【0042】
内皮細胞(EC)及び内皮微小ニッチ
各臓器は特殊化された毛細血管の広範なネットワークによって樹枝状にされている。各臓器内では、毛細血管は独特の構造的な、表現型の機能的な及びアンジオクラインの特質を担う。骨髄のような造血臓器では、幹細胞及び前駆細胞はVEGFR3+VEGFR2+VEcad+CD31+ECによって境界を定められた動脈の及び有窓の特殊化した類洞血管との直接細胞接触にある。組織特異的な幹細胞及び前駆細胞はホモ接合性毛細血管ECに密接に近接して戦略上配置される。この親密な細胞性相互作用は、血管の側底面に位置するレシピエント細胞への特殊化されたECからの膜結合の及び可溶性のアンジオクライン因子の送達を促進する。さらに、ECの管腔面は循環を介してかじ取りする幹細胞及び免疫細胞のためのシグナル伝達プラットフォームとして役立つことができる。組織に存在する柔組織及び幹細胞は活性化状態、及び例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)-A、線維芽細胞増殖因子(FGF)-2、間質細胞由来因子(SDF-1:CXCL12としても知られる)、アンジオポイエチン及びトロンボスポンジン-1(TSP-1)のような血管形成因子の産生を介した再生刺激に対するECの応答を調節する。したがって、毛細血管のネットワークは―周皮細胞及び間葉細胞の影響を受けない―休止している及び再生している臓器の双方に対するこれらの血管内及び血管外の指示を統合し、中継する機能的可塑性を有する適応可能なプラットフォームを提供する(Rafii,S.,Butler,J.M.,& Ding,B.-S.(2016).Angiocrine functions of organ-specific endothelial cells.Nature,529(7586),316-325)。
【0043】
蓄積している証拠は、病態生理学的ストレス(例えば、電離放射線への曝露、化学的損傷、または低酸素状態)または組織塊の喪失の際、活性化ECは静止した組織特異的な幹細胞への炎症及び損傷が誘導するアンジオクラインシグナルを中継し、それは再生を駆動し、発達の設定点を強化して恒常性状態を再確立する。したがって、微小血管のECは、生理的レベルでの且つ適切な化学量論のアンジオクライン因子によって幹細胞を育て、養育することによって組織再生を演出するプロフェッショナルなニッチ細胞の基準を満たす(Rafii,S.,Butler,JM., & Ding,B.-S.(2016).Angiocrine functions of organ-specific endothelial cells.Nature,529(7586),316-325)。
【0044】
ECはHSC及びHSPCの静止及び増殖を調節する阻害性及び刺激性のアンジオクライン因子を発現する。VEGFR-3、VEGFR-2、VE-カドヘリン及びCD31が陽性である骨髄類洞ECが、骨形態形成タンパク質(BMP)2及びBMP4、インスリン増殖因子結合タンパク質(IGFBP)2、SDF-1、エチオピアアリネズミ(Dhh)タンパク質、Notchリガンド、ウイングレス型MMTV統合部位(Wnt)5a、及びKitリガンドを含む可溶性及び膜結合性のアンジオクライン因子(Kobayashi,H.et al,Angiocrine factors from Akt-activated endothelial cells balance self-renewal and differentiation of hematopoietic stem cells.Nature Cell Biol.(2010)12:1046-56;Butler,JM,et al,Endothelial cells are essential for the self-renewal and repopulation of Notch-dependent hematopoietic stem cells.CellStem Cell(2010)6:251-64;Hooper,AT,et al,Engraftment and reconstitution of hematopoiesis is dependent on VEGFR2-mediated regeneration of sinusoidal endothelial cells.Cell Stem Cell(2009)4:263-74を引用して同上)を発現することによってHSPCの自己再生を刺激することを実証するのに共培養試験が使用されている。骨髄類洞ECはまた顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン(IL)-6、IL-8、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、IL-1、腫瘍壊死因子(TNF)、ケモカイン及びメタロプロテイナーゼを産生することによってHSPCの系列特異的な分化を駆動する(Kobayashi,H.et al.,Angiocrine factors from Akt-activated endothelial cells balance self-renewal and differentiation of haematopoietic stem cells.Nature cell biology.(2010)12:1046-1056を引用して同上)。種々の活性化状態を介して推移しているECもまた、例えば、形質転換増殖因子(TGF)-β1(Brenet,F.et al.,TGFbeta restores hematopoietic homeostasis after myelosuppressive chemotherapy.J.Exp.Med.(2013),210:623-639を引用して同上)、WNTシグナル伝達を阻止するdickkopf関連タンパク質(DKK)1及びDKK3、及びBMPシグナル伝達を妨害するNoggin(Kobayashi,H.et al.,Angiocrine factors from Akt-activated endothelial cells balance self-renewal and differentiation of haematopoietic stem cells.Nature cell biology.(2010)12:1046-1056を引用して同上)のような阻害性因子を産生する。
【0045】
無血清条件下で培養したECは、正真正銘のマウス造血幹細胞を再配置させる自己再生を150倍高める(Butler,JM et al,Endothelial cells are essential for the self-renewal and repopulation of Notch-dependent hematopoietic stem cells.Cell Stem Cell.(2010)6:251-264を引用して同上)及びヒト臍帯血の重症複合型免疫不全症を再配置する細胞の自己再生を8倍高める(Butler,JM,et al.,Development of a vascular niche platform for expansion of repopulating human cord blood stem and progenitor cells.Blood.(2012)120:1344-1347を引用して同上)生理的レベルでアンジオクライン因子を供給することが示された。研究は、造血細胞とECの間での直接接触はHSPCの自己再生及び分化に必須であることを示している(Kobayashi,H.et al.,Angiocrine factors from Akt-activated endothelial cells balance self-renewal and differentiation of hematopoietic stem cells.Nature Cell Biol.(2010)12:1046-56;Butler,JM,et al,Endothelial cells are essential for the self-renewal and repopulation of Notch-dependent hematopoietic stem cells.Cell Stem Cell.(2010)6:251-64;Hooper,ATet al,Engraftment and reconstitution of hematopoiesis is dependent on VEGFR2-mediated regeneration of sinusoidal endothelial cells.Cell Stem Cell.(2009)4:263-74を引用して同上)。間葉細胞と比べて、ECは臍帯血由来のHSPCを増殖させる点でさらに効率的である(Raynaud,CM,et al.,Endothelial cells provide a niche for placental hematopoietic stem/progenitor cell expansion through broad transcriptomic modification.Stem cell research.(2013)11:1074-1090)を引用して同上)。例えば、プロスタグランジンE2(PGE2)(North,TE,et al,Prostaglandin E2 regulates vertebrate haematopoietic stem cell homeostasis.Nature,(2007)447:1007-1011;Hoggatt,J.et al.,Differential stem-and progenitor-cell trafficking by prostaglandin E2.Nature.(2013)495:365-369)、プレイオトロフィン(同上、下記を引用:Himburg,HA,et al.,Pleiotrophin regulates the retention and self-renewal of hematopoietic stem cells in the bone marrow vascular niche.Cell reports.(2012)2:964-975を引用して同上)及び表皮増殖因子(EGF)(Doan,PL et al,Epidermal growth factor regulates hematopoietic regeneration after radiation injury.Nat.Med.(2013)19:295-304を引用して同上)のような他のアンジオクライン因子はHSPCサポート因子の生理的リポジトリとしてECを確立する造血再構成を駆動する。
【0046】
内皮ニッチはHSCの自己再生を持続することのみならず、多重系列の再構成にも必須である。造血における内皮ニッチの役割を支持する最初の生体内での証拠は、造血幹細胞の生物学の必須の調節因子である可溶性Kitリガンドを産生できないマウスの研究に由来する。それは、区画に分けられたが、相互作用する間質ニッチ及び内皮ニッチの細胞がHSPCの再生を調節することを実証した。生理的ストレスに応答して、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)-9の活性化は細胞からの可溶性Kitリガンドの放出をもたらし、それはHSPCの再生及び適切な輸送を刺激する。追跡試験は表現型が顕著な幹細胞は内皮ニッチに密接に近接して存在することを示した(Kiel,MJ etal.,SLAM Family Receptors Distinguish Hematopoietic Stem and Progenitor Cells and Reveal Endothelial Niches for Stem Cells.Cell.(2005)121:1109-1121を引用して同上)。さらなる証拠は、化学療法または放射線照射の後の造血再生及び血小板産生が成熟マウスのECにおけるVEGFR-2の条件付き枯渇(Hooper,AT et al,Engraftment and reconstitution of hematopoiesis is dependent on VEGFR2-mediated regeneration of sinusoidal endothelial cells. Cell Stem Cell.(2009)4:263-274を引用して同上)によって及び内皮ニッチの再構成を破壊するVE-カドヘリンの標的指向化(Avecilla, ST, et al. Chemokine-mediated interaction of hematopoietic progenitors with the bone marrow vascular niche is required for thrombopoiesis.Nat Med. (2004) 10:64-71;Hamada, T. et al., Transendothelial migration of megakaryocytes in response to stromal cell-derived factor 1 (SDF-1) enhances platelet formation. J Exp Med. (1998) 188:539-548を引用して同上)によって損傷されることを示した。
【0047】
AKT及びMAPKの活性化の間での均衡は多重系列の造血の回復を調節する。造血の再生はEC内で活性化されるシグナル伝達経路によって誘導されるアンジオクライン因子の差次的産生によって調整される(Kobayashi,H.et al,Angiocrine factors from Akt-activated endothelial cells balance self-renewal and differentiation of haematopoietic stem cells.Nature cell biology.(2010)12:1046-1056を引用して同上)。骨髄破壊のストレスの後、VEGF-A、VEGF-C、FGF-2及びアンジオポイエチンのような血管由来因子はAKT(タンパク質キナーゼBとしても知られる)の活性化を介してJagged-1を含む他のアンジオクライン因子を上方調節する。ECにおけるJagged-1の条件付き枯渇は造血の回復を損傷し(Pooulos,MG,et al.,Endothelial jagged-1 is necessary for homeostatic and regenerative hematopoiesis.Cell reports.(2013)4:1022-1034を引用して同上)、それはNotchの活性化がHSPCの疲弊を阻止することを示唆していると解釈されている。再生の血管由来フェーズの間に、AKTのリン酸化にはp42/p44マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)の活性化を伴う。これは、G-CSF、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、GM-CSF及びIL-6の分泌を誘発して骨髄系、巨核球、及びリンパ系の前駆細胞の集団を増殖させ、造血の再構成を助ける(Kobayashi,H.et al,Angiocrine factors from Akt-activated endothelial cells balance self-renewal and differentiation of haematopoietic stem cells.Nature cell biology.(2010)12:1046-1056を引用して同上)。同様に、成熟している造血細胞は再生している類洞血管の過剰な出現を阻止する阻害性血管新生因子を産生する。例えば、成熟巨核球は、血管形成を減速し、活性化しているアンジオクライン因子の産生を止めて恒常性を回復させるTSP-1を産生する(Nolan,DJ,et al.,Nolan DJ,et al.Molecular signatures of tissue-specific microvascular endothelial cell heterogeneity in organ maintenance and regeneration.Dev Cell.(2013)26:204-219;Kopp,HG,et al.,Thrombospondins deployed by thrombopoietic cells determine angiogenic switch and extent of revascularization.J.Clin.Invest.(2006),116:3277-3291を引用して同上)。生体内の血管形成ECの機能のいくつかを模倣するAKTが活性化された骨髄ECは無血清培地の条件下で長期に再配置する造血幹細胞を増やすのに対して骨髄由来の間質細胞は幹細胞の消耗を指示する(Poulos,MG et al.,Vascular Platform to Define Hematopoietic Stem Cell Factors and Enhance Regenerative Hematopoiesis.Stem cell reports.(2015)8(5):881-94.を引用して同上)。さらに、間葉のものではないAKTが活性化された骨髄ECの移植を介した造血微小環境の保護は致命的な放射線照射後の造血の回復を加速する(Poulos,MG,et al.Vascular Platform to Define Hematopoietic Stem Cell Factors and Enhance Regenerative Hematopoiesis.Stem cell reports.(2015)8(5):881-94を引用して同上)。
【0048】
定常状態の造血に対する内皮ニッチの寄与はSDF-1、KitリガンドまたはJagged-1のECにおける選択的欠失がHSC及びHSPCの維持を損傷した研究によって解明された(Poulos,MG et al,Vascular Platform to Define Hematopoietic Stem Cell Factors and Enhance Regenerative Hematopoiesis.Stem cell reports.(2015),Ding,L.,et al.,Endothelial and perivascular cells maintain haematopoietic stem cells.Nature.(2012)481:457-462;Ding,L.,Morrison,SJ,Haematopoietic stem cells and early lymphoid progenitors occupy distinct bone marrow niches.Nature,(2013)495(7440):231-236;Inra,CN,et al.,A perisinusoidal niche for extramedullary haematopoiesis in the spleenNature. (2015),Kimura,Y.et. al.,c-Kit-Mediated Functional Positioning of Stem Cells to Their Niches Is Essential for Maintenance and Regeneration of Adult Hematopoiesis.PLoS One.(2011)6:e26918を引用して同上)。
【0049】
幾つかの研究はHSPCの恒常性に対する骨髄血管周囲細胞の相対的寄与も精査している(Kunisaki,Y.et al.,Arteriolar niches maintain haematopoietic stem cell quiescence.Nature.(2013)502:637-643,Morrison,SJ,Scadden,DT.The bone marrow niche for haematopoietic stem cells.Nature.(2014)505:327-334.Acar,M.et al.,Deep imaging of bone marrow shows non-dividing stem cells are mainly perisinusoidal.Nature.(2015)526:126-130を引用して同上)。内皮細胞及び非血管細胞の機能及び構造的安定性は相互に依存するので、一方のニッチにおける因子の欠失は近隣のものの構成要素を混乱させる潜在性を有する。したがって、密接に関連する内皮ニッチ及び付随する血管周囲細胞の範囲内での遺伝子操作は、考慮に入れる必要がある的外れな効果を有し得る。それにもかかわらず、生体内でのこれらの知見及び試験管内での還元主義者は、HSPCの局在化にかかわらず、細動脈または類洞の内皮ニッチのいずれかによって提示されるアンジオクライン因子は実行機能を有し、造血抑制後の恒常性及び回復の間に造血幹細胞の自己再生及び分化を演出する「レオスタット」として作用することを示唆している。さらに、これらの研究は、全部ではないが一部のヘテロ接合性ECがHSPCの増殖をサポートすることができることを明らかにし、それは、各器官型血管床が幹細胞の恒常性及び再構成に好適である独特のアンジオクライン特質に恵まれていることを裏付けている(Nolan,DJ et al,Molecular signatures of tissue-specific microvascular endothelial cell heterogeneity in organ maintenance and regeneration.Dev.Cell.(2013)26:204-219;Poulos,MG et al.,Stem Cell Repts,(2015)8(5):881-94;Butler,JM et al.,Cell Stem Cell.(2010)6:251-64;Hooper,AT,et al,Cell Stem Cell.(2009)4:263-74を引用して同上)。
【0050】
胎児発達の間に、ECからの誘導性シグナルは造血性ECの発達を特定化する(Nguyen,PD et al,”Haematopoietic stem cell induction by somite-derived endothelial cells controlled by meox1.Nature,(2014)512:314-18;Medvinsky,a.,Dzierzak,E.Efinitive hematopoiesis is automously initiated by the AGM region.Cell,(1996)86:897-906;Chen,MJ et al.Runx1 is required for the endothelial to haematopoietic cell transition but not thereafter.Nature,(2009)457:887-91を引用して同上)。したがって、内皮ニッチはすべてのECの造血性ECへの直接変換を誘導してもよく、それは明確な造血幹細胞を生じる。成人ECは転写因子FosB、Gfi1、Runx1及びSpi1(まとめてFGRSと呼ばれる)によって変換された。しかしながら、FGRSが変換したECは、それらがECとの直接接触で共培養されなければ生着可能な造血細胞に変換できなかった(Sandler,VM,et al.,Reprogramming human endothelial cells to haematopoietic cells requires vascular induction.Nature.(2014)511:312-318.を引用して同上)。さらに、マウス及び非ヒト霊長類の多能性幹細胞に由来する造血細胞と内皮ニッチの共培養は、部分的にはNotchリガンドの配置を介して推定上の造血細胞の生着を増強した(Gori,JL,et al.,Vascular niche promotes hematopoietic multipotent progenitor formation from pluripotent stem cells. J Clin Invest.(2015)125:1243-1254;Hadland,BK et al.,Endothelium and NOTCH specify and amplify aorta-gonad-mesonephros-derived hematopoietic stem cells.J.Clin.Invest.(2015)125:2032-2045.を引用して同上)。したがって、EC由来のアンジオクラインのシグナルは造血幹細胞の特殊化、発達、恒常性、自己再生及び分化に関与する。
【0051】
脈管形成/血管形成
造血プロセスにおけるその役割に加えて、骨髄は脈管形成のプロセスに関与する。脈管形成(新しい血管の形成のプロセスを意味する)は新しい血管を形成するための内皮前駆細胞の移動、増殖及び分化とそれに続く安定化及び血管成熟段階を介して発生する。それは、器官再生、創傷治癒、炎症と同様に腫瘍増殖にて必須の段階である[Rohban,R.,et al.,Crosstalk between stem and progenitor cellular mediators with special emphasis on vasculogenesis,”Transfus.Med.Hemother.(2017)44(3);174-82;下記を引用:Segura,I.et al,Inhibition of programmed cell death impairs in vitro vascular-like structure formation and reduces in vivo angiogenesis.FASEB J.(2002)16:833-841;Elmore,S.,Apoptosis:a review of programmed cell death.Toxicol.Pathol.(2007)35:495-516;Krysko,DV,Vandenabeele,P.From regulation of dying cell engulfment to development of anti-cancer therapy.Cell Death Differ.(2008)15:29-38]。
【0052】
脈管形成は、新しく形成される血管の骨格としての内皮前駆細胞または内皮コロニー形成細胞(ECFC)と、血管支持物として役立ち、微小血管の安定性を維持する周皮細胞としての間葉幹細胞及び前駆細胞(MSPC)との移動及び複製から成る[Reinisch,A.et al,Humanized system to propagate cord blood-derived multipotent mesenchymal stromal cells for clinical application.Regen Med.(2007)2:371-382;Schallmoser,K.,et al.,Human platelet lysate can replace fetal bovine serum for clinical-scale expansion of functional mesenchymal stromal cellsTransfusion.(2007)47:1436-1446;Reinisch,A.,et al.,Humanized large-scale expanded endothelial colony-forming cells function in vitro and in vivo.Blood.(2009)113:6716-6725;Hofmann,NA, et al.,Endothelial colony-forming progenitor cell isolation and expansion.Methods Mol.Biol.(2012)879:381-387を引用して同上]。研究は、HSCが新しく形成される血管へのEPCの寄与を促進する特定の脈管形成因子を送達することができることを示している[Rafii,S.,Lyden,D.Therapeutic stem and progenitor cell transplantation for organ vascularization and regeneration.Nat.Med.(2003)9:702-712を引用して同上]。骨髄(BM)のような成人の組織に由来するEPC及び造血幹細胞(HSC)は胎児期及び出生後の生理的プロセスの間での脈管形成に寄与することが示されている。
【0053】
BM由来の内皮細胞(BMEC)は、脈管新生が発生する部位での血管新生因子の発現を介して血管の増殖を間接的に促進すること(Tamma,R.,& Ribatti,D.(2017).Bone Niches,Hematopoietic Stem Cells,and Vessel Formation.International Journal of Molecular Sciences,18(1),151),下記を引用:Yang L.,et al.Expansion of myeloid immune suppressor Gr+CD11b+ cells in tumor-bearing host directly promotes tumor angiogenesis.Cancer Cell.(2004)6:409-421)に関与する(Ziegelhoeffer T.Bone marrow-derived cells do not incorporate into the adult growing vasculature.Circ.Res.(2004)94:230-238を引用して同上)。CXCR4はBMECによって高度に発現され、その動員及びホーミングに関与する(Burger J.A.CXCR4:A key receptor in the crosstalk between tumor cells and their microenvironment.Blood.(2006)107:1761-1767;Ruiz de Almodovar C.,Luttun A.,Carmeliet P.An SDF-1 trap for myeloid cells stimulates angiogenesis.Cell.(2006)124:18-21を引用して同上)。CXCL12の発現もまた血管内皮増殖因子(VEGF)によって直接調節される。BMECの動員におけるVEGFの役割が研究されており、低酸素のような他の刺激なしにトランスジェニックの系でその発現を誘導する。VEGFは血管周囲細胞にてCXCL12の発現を刺激し、後者はCXCR4+循環細胞を引き付ける。VEGF受容体-1(VEGFR-1)を遮断することが腫瘍にて動員された血管周囲細胞の数を減らす(Hattori K.,et al.Vascular endothelial growth factor and angiopoietin-1 stimulate postnatal hematopoiesis by recruitment of vasculogenic and hematopoietic stem cells.J.Exp.Med.(2001)193:1005-1014を引用して同上)ということはVEGFの効果にはVEGFR-1が含まれ得ることを示唆している。全般的に見れば、これらのデータはVEGFが血管周囲細胞の動員及びVEGFR-1の活性化を介してBMECを刺激する血管新生を促す増殖因子であることを裏付けている。
【0054】
BMからのBMECの放出について提案されたメカニズムにはマトリックスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)が関与する。低酸素条件では、VEGF-A及びCXCL12は上方調節され、BM細胞ニッチ内で活性化されたMMP-9の放出を誘導し、可溶性Kitリガンドを活性化し、末梢血へのBMECの放出をもたらす(Seandel M.,et al.A catalytic role for proangiogenic marrow-derived cells in tumor neovascularization.Cancer Cell.(2008)13:181-183を引用して同上)。β3リン酸化部位(DiYF)についてのマウス変異型に関する研究は、多数の循環しているCXCR4+BMECの存在及び内皮単層を介して遊出するDiYFマウス由来のBMECの能力の喪失を示した(Feng W.,et al.The angiogenic response is dictated by β 3 integrin on bone marrow-derived cells.J.Cell Biol.(2008)183:1145-1157を引用して同上)ということは、完全なβ3インテグリン活性の存在が循環から標的組織へのBMECの動員に極めて重要であることを示唆している。
【0055】
EPCは、成熟内皮細胞とは機能的に且つ表現型で異なり、試験管内で内皮細胞にて分化する能力を持つ骨髄由来細胞であり、新しい血管の形成に寄与する(Thijssen D.H.J.The role of endothelial progenitor and cardiac stem cells in the cardiovascular adaptations to age and exercise.Front.Biosci.(2009)14:4685-4702,Khakoo A.Y.,Finkel T.Endothelial progenitor cells.Ann.Rev.Med.(2005)56:79-101を引用して同上)。EPCは新しい血管を直接形成し、血管新生を促す因子の豊かな供給源である(Rehman J.Peripheral blood”endothelial progenitor cells”are derived from monocyte/macrophages and secrete angiogenic growth factors.Circulation.(2003)107:1164-1169を引用して同上)。CD133、CD34及びVEGFR-2を発現している未発達のEPCはCD133の発現を失う成熟形態に分化する(Yoon C.H.,Seo J.B.,et al.Characterization of two types of endothelial progenitor cells(EPC) Korean Circ.J.(2004)34:304-313を引用して同上)。VEGFは試験管内及び生体内の双方でEPC動員の強力な誘導因子であり(Carmeliet P.Mechanisms of angiogenesis and arteriogenesis.Nat.Med.(2000)6:389-395を引用して同上)、EPCの末梢循環への動員は生体内でのヒト組換えVEGF投与の後、増える(Asahara T.,et al.VEGF contributes to postnatal neovascularization by mobilizing bone marrow-derived endothelial progenitor cells.EMBO J.(1999)18:3964-3972を引用して同上)。また、GM-CSFはBMからのEPCの動員に関与し(Takahashi et al.Ischemia- and cytokine-induced mobilization of bone marrow-derived endothelial progenitor cells for neovascularization.Nat. Med. (1999) 5:434-438を引用して同上)、骨芽前駆細胞は低酸素状態またはインスリン様増殖因子-1(IGF-1)に応答し、赤血球系列の選択的増殖に関連するHSCニッチの増殖をもたらす低酸素誘導因子(HIF)を増強する(Akeno N.,et al.Induction of vascular endothelial growth factor by IGF-I in osteoblast-like cells is mediated by the PI3K signaling pathway through the hypoxia-inducible factor-2α Endocrinology.(2002)143:420-425を引用して同上)。赤血球系列の影響は骨芽細胞におけるエリスロポエチン(EPO)の発現と直接関係すると思われる(Rankin E.B.,et al.The HIF signaling pathway in osteoblasts directly modulates erythropoiesis through the production of EPO.Cell.(2012)149:63-74を引用して同上)。EPOは血管修復及び血管新生のプロセスで重要な分子であり、可動性を高め、管を形成する能力を増強することによってEPC活性に影響を及ぼす(Sautina L.,et al.Induction of nitric oxide by erythropoietin is mediated by the common receptor and requires interaction with VEGF receptor 2.Blood.(2009)115:896-905;Bahlmann F.H.Erythropoietin regulates endothelial progenitor cells.Blood.(2003)103:921-926;Aicher A.,et al.Essential role of endothelial nitric oxide synthase for mobilization of stem and progenitor cells.Nat.Med.(2003)9:1370-1376を引用して同上)。
【0056】
脈管形成及び血管形成の双方では、ECと周囲の間葉細胞の間での双方向のシグナル伝達が極めて重要である(Suda,T.,& Takakurab,N.(2001).Role of hematopoietic stem cells in angiogenesis.International Journal of Hematology,74(3),266-71),下記を引用:Folkman,J.et al.,Blood vessel formation:what is its molecular basis?,Cell,(1996)87:1153-55)。脈管形成のプロセスを調節する多数の分子が単離されており、内皮周囲層(成人血管にてECを封入する周皮細胞の層)の動員及び形成によって、または動脈と静脈の間の相互作用に介在することによって血管の完全性の維持に関与する(Folkman,J.et al.,Blood vessel formation:what is its molecular basis?,Cell,(1996)87:1153-55;Hanahan,D.Signaling vascular morphogenesis and maintenance.Science,(1997)277:48-50;Wang,HU et al.Molecular distinction and angiogenic interaction between embryonic arteries and veins revealed by ephrin-B2 and its receptor Eph-B4.Cell,(1998)93:741-53;Gale,NW,Yancopoulos,GD.Growth factors acting via endothelial cell-specific receptor tyrosine kinases:VEGFs,Angiopoietins,and ephrins in vascular development.Genes Dev.(1999)13:1055-66を引用して同上)。それらの間で、2つの受容体チロシンキナーゼのサブファミリーはその大きな内皮特異的な発現を特徴とする。一方のファミリーにはFlt-1/VEGFR1、Flk-1/KDR/VEGFR2、及びFlt-4/VEGFR3が含まれ、そのすべてが血管内皮増殖因子(VEGF)受容体ファミリーのメンバーである(Shalaby,F.,et al.Failure of blood-islant formation and vasculogenesis in Flk-1 deficient mice.Nature,(1995)376:62-6;Fong,G-H,et al.Role of the Flt-1 receptor tyrosine kinase in regulating the assembly of vascular endothelium.Nature,(1995)376:66-70;Dumont,DJ,et al,Cardiovascular failure in mouse embryos deficient in VEGF receptor-3.Science,(1998)282:946-49;Ferrara,N.et al.Heterozygous embryonic lethality induced by targeted inactivation of the VEGF gene.Nature,(1996)380:439-442を引用して同上)。他方のファミリーにはTIE1/TIE及びTIE2/TEKが含まれ;これらの受容体の胚性発現の開始はVERGF受容体のそれに続くと思われる(Dumont,DJ,et al.Vascularization of the mouse embryo:a study of flk-1, tek, tie, and vascular endothelial growth factor expression during development.Dev.Dyn.(1995)203:80-92を引用して同上)。VEGFまたはVEGFRの胎児での欠損は脈管形成での早期の欠損症を示す一方で、TIE2またはTIE1を欠いているマウスは血管形成及び血管リモデリングと同様に血管の完全性にて晩期の欠損症を示す。
【0057】
成人では、ECは正常な血管にて周皮細胞にすでに封入されている。成人の血管での血管形成における必要な最初の段階はECに強固に接着している周皮細胞の分離である。ECと周皮細胞の間の接着と分離の均衡はTIE2のリガンドであるアンジオポエチンに依存する(Davis,S.et al.Isolation of angiopoietin-1,a ligand for the TIE2 receptor,by secretion-trap expression cloning.Cell,(1996)87:1171-80を引用して同上)。血管の発生はAng1シグナル伝達の不活化が介在するプロセスである、ECからの周皮細胞の分離で開始する。それに続いて、ECはAng1産生組織に向かって伸びてもよい。周皮細胞の動員にECの移動が続くにつれて、Ang1産生細胞は少し離れた血管の伸長を促進してもよい。
【0058】
ECがAng1産生HSCに向かって移動することが示されている一方で、HSCが血管の制約されたポイントで管腔内空洞から実質細胞にどのように移動するかの基本的なメカニズムは不明である。同上。末梢CD34+造血前駆細胞は高レベルのマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)-2及び-9を発現していることが報告されている(Janowska-Wieczorek,A.et al.,Growth factors and cytokines upregulate gelatinase expression in bone marrow CD34+cells and their transmigration through reconstituted basement membrane.Blood,(1999)93:3379-90を引用して同上)。さらに、胎児のHSC(CD45+c-Kit+CD34+細胞)はMMP-9を強く発現している。その上、これらのHSCはAng1による刺激の後、TIE2を発現し、フィブロネクチン(FN)に接着する(Talakura,N.et al.Critical role of the TIE2 endothelial cell receptor in the development of definitive hematopoiesis.Immunity,(1998)9:677-86を引用して同上)。まとめると、これらの知見はHSCが虚血領域近傍のEC上のFNに接着し、マトリックスを消化し、毛細血管ECの基底膜を介して実質細胞に遊出することを示唆している。したがって、ECの管腔内面でのFNの産生はHSC及びECの移動における最初の段階であると仮定されている。(同上)
【0059】
骨化/骨形成
軟骨内骨化の間での血管形成を介して形成される新しい血管は、正しい骨格の発達と成長を保証するモデリング及びリモデリングのプロセスに重要な血管周囲の骨前駆細胞の供給源である(Tamma,R.,& Ribatti,D.(2017).Bone Niches,Hematopoietic Stem Cells,and Vessel Formation.International Journal of Molecular Sciences,18(1),151,下記を引用:Brandi M.L.,Collin-Osdoby P.Vascular biology andthe skeleton.J. Bone Miner.Res.(2006)21:183-192)。骨細胞は、内皮細胞、軟骨細胞、骨芽細胞及び破骨細胞を含むVEGFR発現細胞と相互作用するVEGFのような血管新生を促す因子を分泌する。同じ方法で、内皮細胞は軟骨細胞及び骨芽細胞系列の細胞を調節する因子を放出する(Kusumbe A.P.,et al.Coupling of angiogenesis and osteogenesis by a specific vessel subtype in bone.Nature.(2014)507:323-328を引用して同上)。軟骨内骨化にて発生する血管形成の間に、進行毛細血管の内皮細胞はプロテアーゼ及び調節分子を産生することによって、ならびに循環から破骨前駆細胞を動員することによってマトリックス再吸収に直接及び間接的に影響を及ぼす。さらに、内皮細胞は低酸素軟骨細胞によるHIF1-αの分泌に応答してVEGFを放出し[Manalo D.J.Transcriptional regulation of vascular endothelial cell responses to hypoxia by HIF-1.Blood.(2005)105:659-669を引用して同上]、骨芽細胞分化の刺激因子であるBMP-2及びBMP-4を産生する(Sorescu G.P.,et al.Bone morphogenic protein 4 produced in endothelial cells by oscillatory shear stress stimulates an inflammatory response.J.Biol.Chem.(2003)278:31128-31135)を引用して同上)。
【0060】
内皮細胞によって発現されるエンドセリン-1(ET-1)は内皮細胞の移動、増殖及び分化を促進することによって直接、または内皮細胞にてVEGF産生を誘導することによって間接的に血管形成を調節する。骨芽細胞におけるET-1受容体の刺激はその分化及びVEGF発現の双方を誘導する(Epstein F.H.,Levin E.R.Endothelins.N.Engl.J.Med.(1995)333:356-363を引用して同上)。
【0061】
破骨細胞も血管形成のプロセスに関与する。一部の著者はVEGFが破骨前駆細胞のための化学誘引因子を構成することを示し(Henriksen K.,et al.RANKL and vascular endothelial growth factor (VEGF) induce osteoclast chemotaxis through an ERK1/2-dependent mechanism.J.Biol.Chem.(2003)278:48745-48753を引用して同上)、破骨細胞におけるVEGFの自己分泌/傍分泌の作用が見いだされている。破骨細胞は、破骨細胞の分化の間にRANKLの活性化によって上昇するHIF1αに応答してVEGFを発現する(Trebec-Reynolds D.P.,et al.VEGF-A expression in osteoclasts is regulated by NF-κB induction of HIF-1α.J.Cell.Biochem.(2010)110:343-351を引用して同上)。骨再吸収の間に、骨マトリックスから放出されるTGFβ1は骨再吸収区画にてVEGFの発現を誘導し、それは結果的に内皮活性を刺激し、血管形成をサポートする。
【0062】
また、骨細胞も血管形成に寄与する。骨損傷の間にアポトーシスを受けている骨細胞はVEGFを発現すると考えられている(Cheung W.-Y.,et al.Osteocyte apoptosis is mechanically regulated and induces angiogenesis in vitro.J.Orthop.Res.(2010)29:523-530を引用して同上)。さらに、MLOY4骨細胞の拍動液剪断ストレス刺激はVEGFの分泌を誘導することが見いだされている(Juffer P.,et al.Expression of muscle anabolic and metabolic factors in mechanically loaded MLO-Y4 osteocytes.AJP.(2011)302:E389-E395を引用して同上)。
【0063】
Notch/Dll4シグナル伝達は成人の長骨にて血管形成に関与する。動脈は、Dll4及びJAG1を発現し、後者は血管周囲の骨前駆細胞においても発現する。Notch/Dll4系の役割はVEGFRの発現を調節することによって血管の増殖及び内皮の増殖を刺激することである。さらに、Notch/Dll4経路を損傷したマウスは長骨発達の低下及び未熟骨芽細胞の数の増加を示した(Ramasamy S.K.,et al.Endothelial notch activity promotes angiogenesis and osteogenesis in bone.Nature.(2014)507:376-380を引用して同上)。
【0064】
ヘパリン結合増殖因子であるプレイオトロフィン(PTN)(Himburg H.A.,et al.Pleiotrophin regulates the retention and self-renewal of hematopoietic stem cells in the bone marrow vascular niche.Cell Rep.(2012)2:1774を引用して同上)は生体内及び試験管内の血管形成に関与する血管ニッチ内でBM類洞内皮細胞によって差別的に発現され、分泌されるもう1つの局所骨因子である(Papadimitriou E.,et al.Roles of pleiotrophin in tumor growth and angiogenesis.Eur.Cytokine Netw(2009) 20:180-190を引用して同上)。PTNは血管形成を促す早期EPCの走化性をNOS依存性に発揮し(Heiss C.,et al.Pleiotrophin induces nitric oxide dependent migration of endothelial progenitor cells.J.Cell.Physiol.(2008)215:366-373を引用して同上)、骨芽細胞の増殖及び骨マトリックスの沈着を刺激する(Tare R.S.,et al.Pleiotrophin/osteoblast-stimulating factor 1:Dissecting its diverse functions in bone formation.J.Bone Miner.Res.(2002)17:2009-2020を引用して同上)。
【0065】
脈管形成及び血管成熟を支配するアンジオクライン因子
脈管形成及び血管成熟を支配する分子メディエーターは3つのカテゴリー:1)壁細胞・内皮細胞及び内皮細胞・内皮細胞の相互作用に介在する分子;2)細胞・マトリックスの相互作用に関与する分子;ならびに3)シグナル伝達経路に関与する分子に分けることができる(Rohban,R.,et al.,Crosstalk between stem and progenitor cellular mediators with special emphasis on vasculogenesis,”Transfus.MedHemother.(2017)44(3);174-82)。
【0066】
カテゴリー1:壁細胞・内皮細胞及び内皮細胞・内皮細胞の相互作用に介在する分子
【0067】
VE-カドヘリンは内皮細胞・内皮細胞の結合についての重要なメディエーターであるのに対して神経カドヘリン(N-カドヘリン)は脈管形成のプロセスにてEC・壁細胞の結合に主に介在する[Rohban,R.,et al.,Crosstalk between stem and progenitor cellular mediators with special emphasis on vasculogenesis,”Transfus.Med.Hemother.(2017)44(3);174-82,下記を引用:Dejana,E.et al,The control of vascular integrity by endothelial cell junctions:molecular basis and pathological implications.Dev.Cell(2009)16:209-221]。支持間質細胞間の細胞コミュニケーションもN-カドヘリン分子を介して促進することができる。ギャップ結合の構成成分であるコネキシン(Cx37、Cx40及びCx43)は内皮細胞と血管周囲細胞の間のコミュニケーションを促進する。さらに、内皮/白血球の表面マーカーであるCD31は内皮細胞・内皮細胞の結合に透過性を提供することが示されている[Carmeliet,P.,Jain,RK,Molecular mechanisms and clinical applications of angiogenesis.Nature.(2011)473:298-307を引用して同上]。オクルディン、クローディン、小帯オクルデンの分子(ZO-1、2、3)のような密着結合分子及び内皮表面分子CD148は、これらの部位での内皮細胞・壁細胞の相互作用を調節するために血液脳関門(BBB)及び網膜微小血管にて密着結合を形成することに関与する。
【0068】
血管ネットワークの成長及び増殖の間での機械的な力は、脈管形成及び血管成熟のプロセスにおける細胞及び分子の相互作用の多くに対して刺激因子として役立つ一方で[Jain,RK,Molecular regulation of vessel maturation.Nat.Med.(2003)9:685-693を引用して同上]、簡潔な脈管形成パターンをもたらす細胞結合を調節する機械的なパラメーターを考察する研究は限られた数しか利用できない。
【0069】
カテゴリーII:細胞・マトリックスの相互作用に関与する分子
【0070】
細胞外マトリックス(ECM)は脈管形成に寄与するさまざまな増殖因子及び酵素について濃縮されたプールとして役立つ。インテグリンに関する研究は内皮細胞の生存及び移動に対する種々の細胞外マトリックス成分の効果についての情報を提供している。受容体α5β1フィブロネクチン、コラーゲンI及びコラーゲン受容体α1β1及びα2β1は脈管形成を促進すること及び内皮細胞のアポトーシスを抑制することに関与することが示されているのに対して、トロンボスポンジン1及び2(Tsp1及びTsp2)はインテグリン及びプロテアーゼを介して脈管形成を阻止することが示されている[Lawler,J.,The functions of thrombospondin-1 and-2.Curr Opin Cell Biol.(2000)12:634-640を引用して同上]。逆説的に、一部の研究はインテグリンαvβ3及びインテグリンαvβ5(フィブロネクチン、フィブリノーゲン、及びフォン・ヴィレブラント因子を結合するインテグリン)をコードする遺伝子を抑制することは脈管形成を阻害しないことを報告している[Hynes,RO,A reevaluation of integrins as regulators of angiogenesis.Nat.Med.(2002)8:918-921;Stupack,DG,Cheresh,DA,Get a ligand,get a life:integrins,signaling and cell survival.J.Cell Sci.(2002)115:3729-3738を引用して同上]。他方では、内皮細胞及び壁細胞から放出されるプロテアーゼはマトリックス及び血漿タンパク質を、内皮細胞アポトーシスに介在する成分(プラスミノーゲンの切断から生じるアンジオスタチン)に切断することができるのに対してマトリックスにおけるプロテアーゼ阻害剤は血管の安定性を持続させる[Jain,RK,Molecular regulation of vessel maturation.Nat.Med.(2003)9:685-693を引用して同上]。脈管形成及び血管の安定性プロセスにおける細胞・マトリックス相互作用の正確な役割は理解されていない。
【0071】
カテゴリーIII:シグナル伝達経路に関与する分子
【0072】
細胞の活性は細胞のクロストークをもたらす一連の分子事象によって支配される。この調節性細胞シグナル伝達はタンパク質・タンパク質相互作用を主要な細胞プロセス調節因子、と同様に細胞・微小環境の相互作用と関連づける[Kolch,W.,Pitt,A.Functional proteomics to dissect tyrosine kinase signaling pathways in cancer.Nat.Rev.Cancer.(2010);10:618-629;Gadbois,DM,et al,Multiple kinase arrest points in the G1 phase of nontransformed mammalian cells are absent in transformed cells.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.(1992)89:8626-8630を引用して同上]。異常な細胞シグナル伝達は細胞の機能不全またはがんや糖尿病のような疾患をもたらしてもよい[Kolch W,Pitt A.Functional proteomics to dissect tyrosine kinase signaling pathways in cancer.Nat.Rev(Cancer).2010;10:618-629を引用して同上]。
【0073】
細胞のシグナル伝達は単一の細胞型の中で集中的に研究されているが、それは2つの異なる細胞種の間、例えば、外見上の胎児細胞が付着され、胎児が子宮内膜組織に移植される場合にも発生してもよい。このプロセスはウイングレス(WNT)シグナル伝達のプロセスにてβ-カテニンシグナル伝達分子が介在することが知られている[Mohamed,OA,et al.,Uterine Wnt/beta-catenin signaling is required for implantation.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.(2005);102:8579-8584を引用して同上]。
【0074】
脈管形成に関与する細胞成分は、さまざまなクラスのシグナル伝達分子によって触媒される細胞のクロストークの強力な、上手く調整された及び調節されたシステムに依存する。例えば、カルシウムカルモジュリンシグナル伝達経路及び焦点接着タンパク質キナーゼシグナル伝達経路のような幾つかのシグナル伝達経路は、脈管形成の間に内皮前駆細胞・間葉幹細胞及び前駆細胞のクロストークを調節することが同定されている[Rohban,R.et al.,Identification of an effective early signaling signature during neo-vasculogenesis in vivo by ex vivo proteomic profiling.PLoS One,(2013)8:e66909を引用して同上]。血管微小環境内でそれを介して造血幹細胞及び内皮前駆細胞がコミュニケーションする他のシグナル伝達事象、例えば、SDF-1(CXCL12)/CXCR4シグナル伝達[HO,TKet al, Stromal-cell-derived factor-1(SDF-1)/CXCL12 as potential target of therapeutic angiogenesis in critical leg ischaemia.Cardiol Res.Pract.(2012)2012:7;Petit,I.et al,The SDF-1-CXCR4 signaling pathway: a molecular hub modulating neo-angiogenesis.Trends Immunol.(2007)28:299-307;Burger,JA,et al,CXCR4 chemokine receptors (CD184) and alpha4beta1 integrins mediate spontaneous migration of human CD34+ progenitors and acute myeloid leukemia cells beneath marrow stromal cells (pseudoemperipolesis).Br.J.Haematol.(2003)122:579-589;De Clercq,E.,Potential clinical applications of the CXCR4 antagonist bicyclam AMD3100.Mini.Rev.Med.Chem.(2005)5:805-824を引用して同上]、血管内皮増殖因子シグナル伝達(VEGF)[Ferrara,N.,VEGF-A:a critical regulator of blood vessel growth.Eur.Cytokine Netw.(2009)20:158-163;Nagy,JA et al,VEGF-A and the induction of pathological angiogenesis.Annu.Rev.Pathol.(2007)2:251-275;Phang,LK,Gerhardt,H.Angiogenesis:a team effort coordinated by notch.Dev.Cell.(2009)16:196-208;Tvorogov,D.et al.,Effective suppression of vascular network formation by combination of antibodies blocking VEGFR ligand binding and receptor dimerization.Cancer Cell.(2010);18:630-640]、Tie2/Ang-1シグナル伝達[同上、下記を引用:Maisonpierre,P.C.et al.,Angiopoietin-2,a natural antagonist for Tie2 that disrupts in vivo angiogenesis.Science.(1997)277:55-60,Uemura,A.,et al.,Recombinant angiopoietin-1 restores higher-order architecture of growing blood vessels in mice in the absence of mural cells.J.Clin.Invest.(2002)110:1619-1628]、ヘッジホッグ[同上、下記を引用:Guo,W.et al.,Activation of SHH signaling pathway promotes vasculogenesis in post-myocardial ischemic-reperfusion injury.Int.J.Clin.Exp.Pathol.(2015)8:12464-12472;Williams,C.et al.Hedgehog signaling induces arterial endothelial cell formation by repressing venous cell fate.Dev.Biol.(2010)341:196-204;Lawson,ND,et al.,sonic hedgehog and vascular endothelial growth factor act upstream of the Notch pathway during arterial endothelial differentiation.Dev.Cell.(2002)3:127-136を引用して同上]、及びNotchシグナル伝達[同上、Lawson,ND et al.,Notch signaling is required for arterial-venous differentiation during embryonic vascular development.Development.(2001)128:3675-3683;Fischer,A.,et al.,The Notch target genes Hey1 and Hey2 are required for embryonic vascular development.Genes Dev.(2004)18:901-911]、と同様にウイングレス(Wnt)シグナル伝達[Gore,AV,et al,Rspo1/Wnt signaling promotes angiogenesis via Vegfc/Vegfr3.Development.(2011)138:4875-4886;Li,R.et al.,Shear stress-activated Wnt-angiopoietin-2 signaling recapitulates vascular repair in zebrafish embryos.Arterioscler Thromb Vasc.Biol.(2014)34:2268-2275;Chen,Y.et al.,Inhibition of Wnt inhibitory factor 1 under hypoxic condition in human umbilical vein endothelial cells promoted angiogenesis in vitro.Reprod.Sci.(2016)23:1348-1358;Zhang,Z.et al.,Wnt/beta-catenin signaling determines the vasculogenic fate of postnatal mesenchymal stem cells.Stem Cells.(2016)34:1576-1587を引用して同上]が研究されている。
【0075】
脈管形成の間に効果的な細胞クロストークを作り出す造血幹細胞と内皮前駆細胞の間でのコミュニケーション経路には以下が挙げられる。
【0076】
SDF-1-CXCR4シグナル伝達経路
【0077】
研究は、SDF-1(CXCL12としても知られる)が血管微小環境へのCXCR4+BMの動員に対して極めて重要な影響を有し、損傷した組織及び腫瘍増殖の血管再生をもたらすことを明らかにしている[Ho,TK et al.,Stromal-cell-derived factor-1(SDF-1)/CXCL12 as potential target of therapeutic angiogenesis in critical leg ischaemia.Cardiol.Res.Pract.(2012)2012:7;Petit,I.et al.The SDF-1-CXCR4 signaling pathway:a molecular hub modulating neo-angiogenesis.Trends Immunol.(2007)28:299-307を引用して同上]。CXCR4の活性化が脈管形成を調節する正確なメカニズムは未だ解明されていない。SDF-1はまた、血管新生を促すCXCR4+VEGFR-1+造血細胞の動員を促進し、それによって損傷した及び虚血の臓器の血管再生をサポートすることが示されている[Petit,I.et al.,The SDF-1-CXCR4 signaling pathway:a molecular hub modulating neo-angiogenesis.Trends Immunol.(2007)28:299-307を引用して同上]。移動の間にHSCは、ケモカインSDF-1の受容体であるCXCR4、及びインテグリンα4β1を発現することが見いだされている。BMの間質微小環境では、骨芽細胞及び内皮細胞がSDF-1を放出する一方で、CXCR4は造血前駆細胞によって発現されるので、生体内でのBM生着の成功をサポートしている[同上、Burger,JA et al.,CXCR4 chemokine receptors(CD184) and alpha4beta1 integrins mediate spontaneous migration of human CD34+ progenitors and acute myeloid leukaemia cells beneath marrow stromal cells(pseudoemperipolesis).Br.J.Haematol.(2003)122:579-589;De Clercq,E.,Potential clinical applications of the CXCR4 antagonist bicyclam AMD3100.Mini.Rev.Med.Chem.(2005)5:805-824]。
【0078】
VEGFシグナル伝達
【0079】
VEGF-AなどのVEGFファミリーの媒介物質は、VEGFR-2(FLK-1)を通して血管形成を開始する間のみならず、最終的に動脈の確立に繋がる管の熟成(動脈形成)の間も、重要な役割を果たす[同上、下記を引用:Ferrara, N., VEGF-A: a critical regulator of blood vessel growth. Eur Cytokine Netw. (2009) 20:158-163;Nagy, JA, , VEGF-A and the induction of pathological angiogenesis. Annu Rev Pathol. (2007) 2:251-275]。ニューロピリン(NRP1及びNRP2)は、VEGFR-2の動作を増大させる独立したVEGF受容体として作用する。VEGFR-2の欠乏及びVEGF発現の重大な低減が、導管の成長を妨げる[同上、下記を引用:Carmeliet, P. Angiogenesis in health and disease. Nat Med. (2003) 9:653-660]。VEGFR-2の遺伝子エンコーディングにおける突然変異及び多形は、導管の腫瘍の形成、ならびに、異常及び/または病気による血管形成パターンに繋がる[同上、下記を引用:Jain, RK, et al, Biomarkers of response and resistance to antiangiogenic therapy. Nat Rev Clin Oncol. (2009) 6:327-338]。
【0080】
灌流された管では、内皮端細胞がVEGF-C、VEGFR-2及びVEGFR-3に関するリガンドによって活性化されて、VEGF受容体ならびに、DLL4及びJAGGED1などのNotchリガンドの存在する中での管の成長に向ける。DLL4のアップレギュレーション及び柄細胞内のNotchシグナリングの活性化は、VEGFR-2のダウンレギュレーションに繋がり、柄細胞をVEGFに対して反応しにくくする。こうして、導管の成長が存在する中で端細胞に関するガイドする役割を確実にする[同上、下記を引用:Phng, LK, Gerhardt, H., Angiogenesis: a team effort coordinated by notch. Dev Cell. (2009) 16:196-208.;Tvorogov, D., et al., Effective suppression of vascular network formation by combination of antibodies blocking VEGFR ligand binding and receptor dimerization. Cancer Cell. (2010) 18:630-640]。癌細胞、骨髄性細胞、または周皮細胞から分泌されたパラ分泌VEGFは、導管の分岐を促し、一方、脈管構造ホメオスタシスが、オートクリンVEGF分泌によって維持される[同上、下記を引用:Stockmann, C. et al., Deletion of vascular endothelial growth factor in myeloid cells accelerates tumorigenesis. Nature. (2008) 456:814-818;Lee, S. et al., Autocrine VEGF signaling is required for vascular homeostasis. Cell. (2007) 130:691-703]。
【0081】
VEGFR-3シグナリングは、出生前の静脈由来の血管形成、及び、前もって存在するものからのリンパ管の再モデリングにおいて重要な役割を果たす。ミノカサゴの研究により、静脈内皮細胞の出現を通しての管の形成が、VEGF-2によって妨げられ、一方で、VEGF-3が、静脈運命の内皮細胞の出現を促進し、静脈の成長に繋がることが明らかになった。[同上、下記を引用:Herbert, SP et al., Arterial-venous segregation by selective cell sprouting: an alternative mode of blood vessel formation. Science. (2009) 326:294-298]。
【0082】
VEGF-Bは、心臓細胞のようないくつかの特定の組織においてのみ血管遺伝子のポテンシャルを示すVEGFファミリーの別のメンバーであり、管の浸透性に追加の影響を与えることなく、心臓の導管の成長を促す[Bry, M. et al., Vascular endothelial growth factor-B acts as a coronary growth factor in transgenic rats without inducing angiogenesis, vascular leak, or inflammation. Circulation. (2010) 122:1725-1733]。
【0083】
FLT-1としても知られているVEGFR-1は、弱いチロシンキナーゼの作用を有するが、フリーVEGFのさらなる量をトラップして、VEGFR-2の作用を正常な状態に維持することができる。VEGFR-1のブロック及び/または欠乏は、管の過度な成長に繋がる[Fischer, C. et al., FLT1 and its ligands VEGFB and PlGF: drug targets for anti-angiogenic therapy? Nat Rev Cancer. (2008) 8:942-956]。対照的に、内皮及び間質のVEGFR-1シグナリングカスケードは、VEGFR-1+の癌細胞に関するより高い成長率を提供すること、及び、転移性の状態での内皮細胞におけるマトリックス金属タンパク分解酵素9の発現を増大させることにより、病理学的血管形成を促進することが示されている[同上、下記を引用:Schwartz, JD et al., Vascular endothelial growth factor receptor-1 in human cancer: concise review and rationale for development of IMC-18F1 (human antibody targeting vascular endothelial growth factor receptor-1) Cancer. (2010) 116:1027-1032]。
【0084】
マウスの単一のVEGF対立因子の損失が、HSCの明確化の前の重大な導管の損傷及び死滅に繋がることが報告されている[同上、下記を引用:Carmeliet, P., Abnormal blood vessel development and lethality in embryos lacking a single VEGF allele. Nature. (1996) 380:435-439]。他の研究により、VEGF-AがHSCの形成に重要であることが報告されている。より長いVEGF-Aのアイソフォームが、HSCの明確化に必須である[同上、下記を引用:Kim, AD, et al., Cell signaling pathways involved in hematopoietic stem cell specification. Exp Cell Res. (2014) 329:227-233]。同様に、VEGFシグナリングが、内皮前駆体からのHSCの形成において重要な影響を有することが示されている[Kim, AD et al., Cell signaling pathways involved in hematopoietic stem cell specification. Exp Cell Res. (2014) 329:227-233]。
【0085】
Notchシグナリング
【0086】
Notchシグナリング経路が、内皮細胞と平滑筋細胞との両方の動脈のプログラムを判定するために必要である。しかし、HSCの生成に同時に含まれる。このことは、造血細胞を発生させることになる。Notchシグナリングは、EPCの機能を制御もする。このことは、血管芽細胞の成体の相関物と解釈することができる内皮細胞に分化させることが可能なBM由来の細胞である。さらに、Notchシグナリングは、成体の血管の形成の間に出現する血管形成を制御することが報告されている[同上、下記を引用:Caolo, V. et al., Notch regulation of hematopoiesis, endothelial precursor cells, and blood vessel formation: orchestrating the vasculature. Stem Cells Int. (2012) 2012:805602]。
【0087】
Notchシグナリングは、ネズミの導管の成長及びBM微環境内の造血の間の細胞運命の決定に関わる。BMニッシェ内のHSCとヒトのEPCとの間の関係を解明するために、ヒトのCD133+ EPCの増殖及び分化へのNotchシグナル(Jagged-1及びdelta-like ligand 1(Dll-1))の影響を研究する必要がある[同上、下記を引用:Caolo, V. et al., Notch regulation of hematopoiesis, endothelial precursor cells, and blood vessel formation: orchestrating the vasculature. Stem Cells Int. (2012) 2012:805602]。
【0088】
ヒトのJagged-1-励起性及びヒトのDll-1-励起性のEPCの血管遺伝子の特性を生体内で調査するために、これら細胞を、ヌードマウスの虚血性の四肢に移植した。結果により、EPCの移植がヒトJagged-1によって励起されるが、ヒトDll-1によっては励起されず、虚血性の四肢の筋肉の微細管の密度が向上したことが示され、ヒトNotchシグナリングがBMニッシェにおけるEPCの増殖及び分化に影響することを示唆している。ヒトJagged-1は、ヒトDll-1に比べ、CD133+臍帯血始原細胞の増殖及び分化を誘発することが示されている。したがって、BM微環境内のヒトJagged-1シグナリングが、治療効果のある、及び再生力のある血管遺伝子の干渉に関してEPCを膨張させるために使用することができる。さらに、BM微環境内のJagged-1シグナリングが、EPCの増殖及び膨張をサポートし、血管形成の間のCD133+ヒト臍帯血球のコミットメントを促進することが明らかになっている[同上、下記を引用:Ishige-Wada, et al., Jagged-1 signaling in the bone marrow microenvironment promotes endothelial progenitor cell expansion and commitment of CD133+ human cord blood cells for postnatal vasculogenesis. PLoS One. (2016) 11:e0166660]。
【0089】
管の分岐モデルでは、柄細胞が増殖する間、管の端細胞が移動することが示されている。このことが、このモデルにおけるNotchシグナリングの結果である場合があるという仮説が立てられている[同上、下記を引用:Phng, LK, Gerhardt, H., Angiogenesis: a team effort coordinated by notch. Dev Cell. (2009)16:196-208]。VEGFR-2は、VEGFに反応して活性化され、端細胞内のDLL4の発現を生じる。したがって、DLL4は、VEGFR-2を抑制する柄細胞のNotchを活性化させ、一方でVEGFR-1をアップレギュレーションし、出現及び分岐が少なくなるが、管の形成が多くなる。JAGGED1は、端細胞を選択するために、柄細胞によって主に発現され、DLL4に寄与する別のNotchリガンドである[同上、下記を引用:Benedito, R. et al., The notch ligands Dll4 and Jagged1 have opposing effects on angiogenesis. Cell. (2009) 137:1124-1135]。しかし、Notchシグナリング自体がその阻害物質のNotch-制御アンキリンタンパク質を経時的に活性化させると、このシグナリングカスケードが導管微環境を変化させる[同上、下記を引用:Phng, LK, et al., Nrarp coordinates endothelial Notch and Wnt signaling to control vessel density in angiogenesis. Dev Cell. (2009)16:70-82]。
【0090】
Notchシグナリング媒介物質は、確立している管において、動静脈の、及び静脈の内皮構造の成長において重要な役割を果たす[同上、下記を引用:Lawson, ND, et al., Notch signaling is required for arterial-venous differentiation during embryonic vascular development. Development. (2001) 128:3675-3683;Shawber, CJ, Kitajewski, J., Notch function in the vasculature: insights from zebrafish, mouse and man. Bioessays. (2004) 26:225-234]。内皮細胞では、Notchシグナリングの活性化が、エフリンB2及びCD44を含む多くの動脈のマーカーの誘導、及び、エフリンB型受容体4などの静脈のマーカーの抑制に繋がる[同上、下記を引用:Lawson, ND, et al., Notch signaling is required for arterial-venous differentiation during embryonic vascular development. Development. (2001) 128:3675-3683;Fischer, A., et al. , The Notch target genes Hey1 and Hey2 are required for embryonic vascular development. Genes Dev. (2004) 18:901-911]。
【0091】
ヘッジホッグシグナリング
【0092】
ソニックヘッジホッグ(shh)及びインディアンヘッジホッグ(ihh)を含むヘッジホッグ(hh)ファミリー分子によるシグナリングは、Notch発現における調整の役割を有し、このため、胚子における導管構造及び動脈の形成に寄与する[同上、下記を引用:Swift. MR, Weinstein, BM., Arterial-venous specification during development. Circ Res. (2009) 104:576-588]。hhシグナリングがVEGFカスケードの遺伝学的に上流であり、このことは、内皮のNotch作用を制御することが明らかになっている[同上、下記を引用:Lawson, ND et al., sonic hedgehog and vascular endothelial growth factor act upstream of the Notch pathway during arterial endothelial differentiation. Dev Cell. (2002) 3:127-136]。hhシグナリングが、導管形成及び内皮生成の正確なパターンを制御する決定的なクロストークの重要なレギュレータであることで締めくくることができる[同上、下記を引用:Lawson, ND et al., sonic hedgehog and vascular endothelial growth factor act upstream of the Notch pathway during arterial endothelial differentiation. Dev Cell. (2002) 3:127-136;Kim, AD, et al., Cell signaling pathways involved in hematopoietic stem cell specification. Exp Cell Res. (2014) 329:227-233]。心筋損傷の行程における血管形成のshh発現の影響を調査することを目的とする研究により、shhが適用されると、VEGFなどの血管遺伝子の構成要素及び線維芽細胞増殖因子が顕著にアップレギュレーションされたことが明らかとされた[同上、下記を引用:Guo, W., et al., Activation of SHH signaling pathway promotes vasculogenesis in post-myocardial ischemic-reperfusion injury. Int J Clin Exp Pathol. (2015) 8:12464-12472]。
【0093】
動脈の内皮細胞の形成が、ミノカサゴモデルにおける静脈細胞運命の抑制を通してのhhシグナリングによって誘導されることが示されている。hhシグナリングのアップレギュレーションにより、動脈の細胞集団が高められ、血管形成の間の静脈の細胞運命を妨げる[同上、下記を引用:Williams, C. et al., Hedgehog signaling induces arterial endothelial cell formation by repressing venous cell fate. Dev Biol. (2010) 341:196-204]。この証拠は、乳癌の腫瘍などの腫瘍の脈管質内のhhシグナリングの役割のいくつかの報告[同上、下記を引用:Harris, LG et al., Increased vascularity and spontaneous metastasis of breast cancer by hedgehog signaling mediated upregulation of cyr61. Oncogene. (2012) 31:3370-3380]とともに、導管の形成及び成長におけるhhシグナリングの関わりを解明している。
【0094】
Wntシグナリング
【0095】
Wntシグナリングが、いくつかの組織の明確化及びホメオスタシスを管理することが示されている。Wntシグナリング経路は、いくつかの細胞のタイプの表面上のFrizzled(FZD)受容体に関連する19のリガンドで構成されている[同上、下記を引用:Bhanot, P. et al, A new member of the frizzled family from Drosophila functions as a Wingless receptor. Nature. (1996) 382:225-230;Yang-snyder, J., et al., A frizzled homolog functions in a vertebrate Wnt signaling pathway. Curr Biol. (1996) 6:1302-1306]。リガンド結合が存在しない場合、β-カテニンが減損される[同上、下記を引用:Gao, ZH, et al., Casein kinase I phosphorylates and destabilizes the beta-catenin degradation complex. Proc Natl Acad Sci U S A. (2002) 99:1182-1187]。しかし、リガンドの誘導を通してのWnt受容体の作動は、β-カテニンの減損をブロックし、こうして、この分子が細胞核に転移すること、及び、ターゲットとなる遺伝子転写の活性化を可能にする[同上、下記を引用:Angers, S., Moon, RT, Proximal events in Wnt signal transduction. Nat Rev Mol Cell Biol. (2009) 10:468-477]。内皮内のβ-カテニンの欠失が、血球の欠乏に繋がることが明らかになっている[同上、下記を引用:Kim, AD et al., Traver D. Cell signaling pathways involved in hematopoietic stem cell specification. Exp Cell Res. (2014)329:227-233]。これら発見は、Wntシグナリングが、HSC及び動脈の運命における重要な役割を果たすことを示している。
【0096】
内皮細胞がWntリガンド及び、内皮細胞の増殖を制御するFZD受容体を表現することも示されている。管の分岐が発生すると、Wntシグナリングが柄細胞内のNotchによって活性化される[同上、下記を引用:Phng, LK, et al., Nrarp coordinates endothelial Notch and Wnt signaling to control vessel density in angiogenesis. Dev Cell. (2009);16:70-829]。マウス内のWnt及びFZDの遺伝子(Wnt2、Wnt5a、FZD4、及びFZD5)のいくつかの抑制が、欠陥のある導管構造に繋がった。WNT7a及びWNT7bの不活性化が、悪化されたBBB管の形成に繋がることが示されている[同上、下記を引用:Dejana, E., The role of Wnt signaling in physiological and pathological angiogenesis. Circ Res. (2010) 107:943-952]。
【0097】
造血
「造血」との用語は、本明細書で使用される場合、血液の細胞成分が、血液幹細胞(HSC)から熟成した、血液の血統の機能的細胞タイプに分化することにより、有機体の寿命を通して継続的に補充されるプロセスに言及する。
【0098】
造血細胞の血統は、HSCをヒエラルキーのトップに置き、委任始原細胞を発生させるように、組織化される。このことは、次いで、成熟した、分化細胞を発生させる。2つの主要な差異がHSCと委任原種との間に存在する。HSCは、多能性であり、漠然と自己再生する能力を有している。LT-HSCは、まれな、骨髄内の不活性な集団であり、全体の長期間(3ヶ月から4ヶ月より長い)の再編成容量を有している。一方、ST-HSCは、短期間(ほとんどが1ヶ月未満)の再生する容量を有するのみである[Chang, H. et al. Protein & Cell (2020) 11: 34-44]。LT-HSCはST-HSCへと分化し、次いで、ST-HSCは、多能性前駆細胞へと分化する。これは、検出可能な自己再生能力を有していない[同上、下記を引用:Yang, L. et al. Blood (2005) 105: 2717-23]。自己再生しにくい短期間のHSC(ST-HSC)及び他の多能性前駆細胞(MPP)は、それにも関わらず、単一の細胞のレベルでは完全に多能性である[Weiskopf, K. et al, Microbiol. Spectr. (2016) 4 (5): doi:10.1128/microbiolspec.MCHD-0031-2016,下記を引用:Morrison, SJ et al. Development (1997) 124 (10): 1929-39]。MPPの下流には委任前駆体がある。委任された前駆体は、少能性であり(すなわち、これらは、その分化する能力においてMPPよりもさらに制限されている)、自己再生する能力が制限されている。したがって、細胞が造血を通して進行する場合、これらはより分化されることになり、数がより頻繁になる。これらは、同様に、自己再生するそれらの容量を失い、その分化するポテンシャルがさらに制限されることになり、機能的な特殊化のために必要な分子の発現を生じる。分化は、特定の血統に向かう制限を伴って1つの方向に発生し、正常な状況下では、造血系間に分化転換の顕著な証拠はない。
【0099】
造血系は、2つの主要な枝、骨髄系アームとリンパ系アームとに分けられる。Common Myeloid Progenitor(CMP)は、骨髄系アームを発生させ、このことは、すべての骨髄性細胞を発生させることができる。Common Lymphoid Progenitor(CLP)は、リンパ系アームを発生させ、このことは、すべてのリンパ系細胞を発生させることができる。
【0100】
血液幹細胞(HSC)は、骨髄内に存在し、血液系及び免疫系の細胞すべてを形成する能力を有する多能性幹細胞である。この細胞は、自己複製し、複数の血統の子孫に分化する能力を有する。ヒトHSCの作用は、CD34Thy-1-集団内に存在する[Weiskopf, K. et al., “Myeloid cell origins, differentiation, and clinical implications,” Microbiol. Spectr. (2016) 4(5): 10.1128/microbiolspec. MCHD-0031-2016]。CD90+CD45RA-集団は、ヒト内の真の長期のHSC(「LT-HSC」)を包含し、一方、CD90-CD45RA-集団は、中間の下流の多能性前駆細胞(MPP)を表す[同上]。ヒトの骨髄内のlin-CD34+CD38+集団は、自己再生する能力が制限されており、骨髄系にバイアスされた分化の高い割合を示す[同上、下記を引用:Manz, MG, et al, “Prospective isolation of human clonogenic common myeloid progenitors.” Proc. Natl Acad. Sci. USA (2002) 99 (18): 11872-77]。CD45RA及びIL-3Rαの発現は、この集団をさらに分割し、IL-3RαloCD45RA-細胞、IL-3RαloCD45RA+細胞、及びIL-3Rα-CD45RA-細胞の、3つの別個のサブ集団を生じる。試験管内で、IL-3RαloCD45RA-集団は、混合されたコロニーを含む骨髄系の血統の全領域を発生させ、この集団がヒトの骨髄性共通前駆細胞(CMP)を示したことが示唆された[同上、下記を引用:Manz, MG, et al, “Prospective isolation of human clonogenic common myeloid progenitors.” Proc. Natl Acad. Sci. USA (2002) 99 (18): 11872-77]。一方、IL-3RαloCD45RA+集団は、顆粒細胞及びマクロファージの血統の細胞を発生させるのみであり、IL-3Rα-CD45RA-集団は、赤血球の、及び巨大核細胞の血統の細胞を優勢的に発生させる。それにより、これら集団が、顆粒細胞/マクロファージの血統に制限された前駆体(GMP)及び巨大核細胞/赤血球の系統に制限された前駆体(MEP)をそれぞれ表したことを示している[同上、下記を引用:Manz, MG, et al, “Prospective isolation of human clonogenic common myeloid progenitors.” Proc. Natl Acad. Sci. USA (2002) 99 (18): 11872-77]。
【0101】
ヒトのMEPの集団内では、分別の研究が、単能性のヒトの赤血球前駆体(EP)を、CD71intermediate(int)/+CD105+として規定することを補助し、清浄のために分類されると、試験管内で、巨大核細胞のポテンシャルなしで排他的に赤血球を生じた[同上、下記を引用:Mori, Y. et al., “Prospective isolation of human erythroid lineage-committed progenitors,” Proc. Natl Acad. Sci. USA (2015) 112 (31): 9638-43]。さらに、赤血球にバイアスされたMEP(E-MEP)は、MEPとEPとの間の中間であった、CD71+CD105として識別された[同上]。ヒトの赤血球生成の下流段階も、清浄に隔離されており、原初の赤血球の始原細胞(バースト形成単位赤血球またはBFU-E)及び後の段階のコロニー形成単位赤血球(CFU-E)を含んでいる。これら集団は、主として、それぞれIL-3R-CD34+CD36-及びIL-3R-CD34-CD36+として識別した[同上、下記を引用:Li, J. et al, “Isolation and transcriptome analyses of human erythroid progenitors: BFU-E and CFU-E.” Blood (2014) 124 (24): 3636-45]。
【0102】
骨髄内皮細胞(BMEC)は、骨髄の、血球を生成する能力(すなわち、造血)のメカニズムの理解のために重要である。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)などの他の内皮細胞のタイプの研究により、経内皮遊走が、表面の受容体または粘着作用分子の発現に依存しており、このことは、炎症性サイトカインによって誘発され得るものであったことが示された。したがって、成熟した血球の開放、ならびに、HSC/HPCの流動及びホーミングが、類似のメカニズムによって制御されていると考えられた。BMECは、様々なサイトカインの生成を介して、及び、同様に、場合によっては物理的接触を介して、試験管内で、造血前駆細胞の増殖及び分化をサポートすることが分かった。巨大核細胞とBMECとを同一の培養器内で同時に培養することが、BMECの生存の延長に繋がったが、この理由は、おそらく、巨大核細胞が、内皮細胞の生存因子のVEGF-Aを分泌したためである[Kopp, et. al. ”The Bone Marrow Vascular Niche: Home of HSC Differentiation and Mobilization.” PHYSIOLOGY 20: 349-356, 2005;10.1152/physiol.00025.2005]。
【0103】
骨髄微環境の脈管構造の充足も、造血に重要である。むしろ、BMECとの、導管ニッシェの相互作用の機能は、HSCのサポートを促す細胞性プラットフォームを提供するものである。しかし、内皮細胞の適切な構造的完全性がこの成長に繋がる分子のメカニズムは、依然として不明確である[Kopp, et. al. ”The Bone Marrow Vascular Niche: Home of HSC Differentiation and Mobilization.” PHYSIOLOGY 20: 349-356, 2005;10.1152/physiol.00025.2005]。
造血におけるmTORシグナリング
【0104】
HSCは、増殖及び分化を、その利用可能な必須の栄養素及び代謝の需要と調和させる必要がある[Wang, X., Chu, Y., Wang, W., & Yuan, W. (2016). mTORC signaling in hematopoiesis. International Journal of Hematology, 103(5), 510-518]。ほ乳類ラパマイシン標的(mTOR)のシグナリングは、代謝に関する栄養素検知経路の重要な統合器として作用し、胚に関する成長及び成熟の間の造血を制御することにおける必須の役割を果たす[同上]。
【0105】
mTORは、セリン/トレオニン(Ser/Thr)タンパク質キナーゼのホスファチジルイノシトール-3キナーゼ関連-kinase(PI3KK)ファミリーに属する。これは、栄養素及びホルモンの刺激に応じた、細胞の成長及び代謝のセンサーとして作用する[同上]。mTORは、mTOR complex 1(mTORC1)とmTOR complex 2(mTORC2)との2つの複合体を形成する。これらは、同じ触媒のmTORサブユニットと、mLST8、DEPTOR、及びTti1/ Tel2の、別の3つの既知の複合体成分とを共有する[同上、下記を引用:Kim, DH, et al., mTOR interacts with raptor to form a nutrient-sensitive complex that signals to the cell growth machinery. Cell. (2002) 110(2):163-75;Jacinto, E. et al., Mammalian TOR complex 2 controls the actin cytoskeleton and is rapamycin insensitive. Nat Cell Biol. (2004) 6(11):1122-8;Peterson, TR, et al., DEPTOR is an mTOR inhibitor frequently overexpressed in multiple myeloma cells and required for their survival. Cell. (2009) 137(5):873-86;Kaizuka, T. et al., Tti1 and Tel2 are critical factors in mammalian target of rapamycin complex assembly. J Biol Chem. (2010) 285(26):20109-16]。さらに、mTORC1は、調整に関連するほ乳類ラパマイシン標的タンパク質(raptor)及びPRAS40の特有のサブユニットを有している。mTORC2は、ラパマイシン比感受性mTORコンパニオン(rictor)、mSin1、及びprotor1/2を、その特有の成分として有している[Wang, X., et al. (2016). mTORC signaling in hematopoiesis. International Journal of Hematology, 103(5), 510-518;下記を引用:Hara, K. et al., Raptor, a binding partner of target of rapamycin (TOR), mediates TOR action. Cell. (2002)110(2):177-89;Jacinto, E. et al., SIN1/MIP1 maintains rictor-mTOR complex integrity and regulates Akt phosphorylation and substrate specificity. Cell. (2006)127(1):125-37l;Pearse, LR, et al., Identification of protor as a novel rictor-binding component of mTOR complex-2. Biochem J. (2007) 405(3):513-22 .Sancak, Y., et al., PRAS40 is an insulin-regulated inhibitor of the mTORC1 protein kinase. Mol Cell. (2007) 25(6):903-15]。
【0106】
mTORシグナリングに関連する重要な制御分子の遺伝子の研究により、胚と成体との両方の造血のmTORの経路の中心的役割が証明されている。mTOR、ならびに、Raptor、Rictor、及びmSin1などの、その複合体成分は、胚子の成長の間に重要な役割を果たす。mTOR、Rictor、またはRaptorが欠如したマウスは、成長の中で早死にし、様々な臓器に機能的な異常を示した[同上、下記を引用:Guertin, DA, et al., Ablation in mice of the mTORC components raptor, rictor, or mLST8 reveals that mTORC2 is required for signaling to Akt-FOXO and PKCalpha, but not S6K1. Dev Cell. (2006) 11(6):859-71;Gangloff YG, et al., Disruption of the mouse mTOR gene leads to early post-implantation lethality and prohibits embryonic stem cell development. Mol Cell Biol. (2004) 24(21):9508-16;Murakami M, et al. mTOR is essential for growth and proliferation in early mouse embryos and embryonic stem cells. Mol Cell Biol. (2004) 24(15):6710-8;Shiota, C. et al., Multiallelic disruption of the rictor gene in mice reveals that mTOR complex 2 is essential for fetal growth and viability. Dev Cell. (2006) 11(4):583-9]。暫定的なmTOR欠失は、血液幹細胞に関する休止の損失の結果となり、過渡応答の増大に繋がるが、致死的な放射線を浴びた受領体のマウスの、HSCの長期間の枯渇及びHSCの不完全な移植に繋がる[同上、下記を引用:Guo, F. et al., Mouse gene targeting reveals an essential role of mTOR in hematopoietic stem cell engraftment and hematopoiesis. Haematologica. (2013) 98(9):1353-8]。これら結果は、mTORが血液幹細胞の移植及び複数血統の造血に必須であることを照明している[Wang, X., et al. (2016). mTORC signaling in hematopoiesis. International Journal of Hematology, 103(5), 510-518)]。
【0107】
同様に、mTORの過度な活性化は、HSCを、休止から、よりアクティブな細胞サイクルに移行させる。たとえば、mTORの過度な活性化が、ミトコンドリア生合成を増大させ、かなり高いレベルの活性酸素種(ROS)の蓄積を生じた[同上、下記を引用:Chen, C. et al., The axis of mTOR-mitochondria-ROS and stemness of the hematopoietic stem cells. Cell Cycle. 2009;8(8):1158-60;Chen, C. et al., TSC-mTOR maintains quiescence and function of hematopoietic stem cells by repressing mitochondrial biogenesis and reactive oxygen species. J Exp Med. 2008;205(10):2397-408]。ROSの除去により、異常なほど活性化されたmTORに関連するHSCの欠陥を救助した[同上、下記を引用:Chen, C. et al., Cell Cycle (2009) 8(8):1158-60]。さらに、TSC Complex Subunit 1(TSC1、mTORC1シグナリングを消極的に制御するTSC2を有するhamartin-tuberin複合体の一部)の造血系の欠失が、連続した競争的な骨髄の移植によって明らかにされるように、HSCの自己再生を低減させた。ROS拮抗剤での生体内の治療は、HSCの数及び機能を回復させた。これらデータは、TSC-mTORの経路が、HSCの休止に重要であり、ROSの生成を抑制することによってHSCの休止を維持することを証明した[Chen, C. et al., TSC-mTOR maintains quiescence and function of hematopoietic stem cells by repressing mitochondrial biogenesis and reactive oxygen species. J Exp Med. (2008) 205(10):2397-408;Gan B, et al. mTORC1-dependent and -independent regulation of stem cell renewal, differentiation, and mobilization. Proc Natl Acad Sci. (2008) 105(49):19384-9]。
【0108】
さらに、他の研究により、若いマウスからのものに比べ、年老いたマウスから、HSCの増大したmTORの活動が示された。暫定的なTSC1欠失が、mTORC1の活動を低減させ、HSCの再生容量を阻害した。TSC1が欠けているHSCの表現型は、野生型の年老いたマウスから得られたHSCのものといくつかの方法で類似である。データは、mTORシグナリングがHSCの老化に重要であることを示している[同上、下記を引用:Chen C, et al. mTOR regulation and therapeutic rejuvenation of aging hematopoietic stem cells. Sci Signal. (2009) 2(98):ra75]。
【0109】
Raptor、mTORC1の必須の構成要素の欠乏は、CD48+CD150-及びCD48+CD150+のLSKの集団の拡大に繋がり、より多くのST-HSCの、G0フェイズからG1フェイズへの移行を促進する[同上]。さらに、Raptorが欠乏したBM細胞は、致死的な放射線を浴びた受容体のマウスの造血を再構築できない[同上、下記を引用:Kalaitzidis, D. et al., mTOR complex 1 plays critical roles in hematopoiesis and Pten-loss-evoked leukemogenesis. Cell Stem Cell. (2012) 11(3):429-39]。Rictor、造血系のmTORC2の調整に関連するタンパク質のけ欠失は、HSCの数及びその機能に影響しなかった。Rictorが不足している骨髄細胞は、移植の後に少なくとも16週間、すべての受容体のマウスの、長期の多系統の再構築を達成した。しかし、未成熟の段階でのB細胞のブロックに起因してB細胞の成長が低減された[同上、下記を引用:Kentsis, A., Look, AT, Distinct and dynamic requirements for mTOR signaling in hematopoiesis and leukemogenesis. Cell Stem Cell. (2012) 11(3):281-2;Magee, JA, et. al., Temporal changes in PTEN and mTORC2 regulation of hematopoietic stem cell self-renewal and leukemia suppression. Cell Stem Cell. (2012) 11(3):415-28;Zhang, Y. et al., Rictor is required for early B cell development in bone marrow. PLoS One. (2014) 9(8):e103970]。
【0110】
mTORC1及びmTORC2も、HSCホメオスタシスの役割を果たす。証拠により、HSCが、低い灌流及び低い栄養素のニッシェに存在するが、細胞の代謝が幹細胞の機能をどのように制御するかはあまり理解されていない。いくつかの研究により、いくつかの栄養素を検知する経路がHSCホメオスタシスに寄与することが証明されている。たとえば、Huang et al.は、mTORの経路の抑制、確立された栄養素センサーが、通常のWnt-β-カテニンシグナリングの作用と合わせて、サイトカインの無い条件下で、生体外でのヒト及びマウスの長期のHSCの維持を可能にすることを報告した[同上、下記を引用:Huang, J. et al., Maintenance of hematopoietic stem cells through regulation of Wnt and mTOR pathways. Nat Med. (2012) 18(12):1778-85]。彼らは、CHIR99021(GSK-3防止剤)とラパマイシン(mTOR防止剤)との組合せが、Wnt-β-カテニンを活性化させ、mTORシグナリングを防止し、生体内の長期間のHSC(LT-HSC)の絶対数を増加させることをも示した[同上、下記を引用:Huang J, et al. Nat Med. (2012) 18(12):1778-85]。さらに、GSK-3は、マウス内のHSC WntとmTORシグナリングとの両方を制御し、こうして、HSCの自己再生及び系統のコミットメントを促進する。ラパマイシンが存在する中でのGSK-3の防止は、生体内のHSCプールを拡大した[同上、下記を引用:Huang, J. et al., Pivotal role for glycogen synthase kinase-3 in hematopoietic stem cell homeostasis in mice. J Clin Invest. (2009) 119(12):3519-29]。さらに、mTOR及びp38の分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)シグナリング経路が、高いROSレベルで、HSC集団内で常に活性化された。しかし、この集団は、より低いROSレベルでのHSC集団に比べて迅速に枯渇した。mTOR防止剤またはp38防止剤での治療は、生体内でのHSCの機能を回復させることができる[同上、下記を引用:Jang, YY, Sharkis, SJ, A low level of reactive oxygen species elects for primitive hematopoietic stem cells that may reside in the low-oxygenic niche. Blood. 2007;110(8):3056-63]。
【0111】
HSC及び造血の課題
【0112】
すべての造血及び免疫細胞は、HSC及びHPCにより、ステップ毎の血統のコミットメントの高度に組織化されたプロセスを通して継続的に生成される[Kovtonyuk, L. V., Fritsch, K., Feng, X., Manz, M. G., & Takizawa, H. (2016). Inflamm-Aging of Hematopoiesis, Hematopoietic Stem Cells, and the Bone Marrow Microenvironment. Frontiers in Immunology, 7]。定常状態では、HSCは、ほとんど不活性な状態であるが、HPCは能動的に増殖しており、日々の造血に寄与している。
【0113】
たとえば、生命を危険にさらす血液の消失、感染、及び炎症など、造血の課題に応じて、HSCは、増殖し、血液の形成に関わるように活性化させることができる((同上))。
炎症
【0114】
炎症性シグナルは、発達中の造血幹細胞(HSC)の胚性特定、感染時の緊急顆粒球形成、及び移植後の造血再生を含む様々なプロセスで重要な役割を果たす[Baldridge, M. T., King, K. Y. & Goodell, M. A. Inflammatory signals regulate hematopoietic stem cells. Trends in immunology (2011) 32, 57-65, doi:10.1016/j.it.2010.12.003;Zhao, J. L. & Baltimore, D. Regulation of stress-induced hematopoiesis. Current opinion in hematology (2015) 22, 286-292, doi:10.1097/moh.0000000000000149;Boettcher, S. & Manz, M. G. Regulation of Inflammation- and Infection-Driven Hematopoiesis. Trends in immunology (2017)38, 345-357, doi:10.1016/j.it.2017.01.004;Espin-Palazon, R., Weijts, B., Mulero, V. & Traver, D. Proinflammatory Signals as Fuel for the Fire of Hematopoietic Stem Cell Emergence. Trends in cell biology (2018) 28, 58-66, doi:10.1016/j.tcb.2017.08.003;Bowers, E. et al. Granulocyte-derived TNFalpha promotes vascular and hematopoietic regeneration in the bone marrow. Nature medicine (2018) 24, 95-102, doi:10.1038/nm.4448参照]。
【0115】
全ての幹細胞ニッチが、動的であり、細胞ターンオーバーを示すが、『永続的な居住者』であるニッチ細胞(例えば、内皮細胞、神経細胞、及び結合組織線維芽細胞)と一時的にニッチを占める細胞(例えば、免疫細胞、及び、例えば、病原体から保護するか、または治癒を促進するために組織損傷に応答する細胞)を区別することは有用である。常在ニッチ細胞とは対照的に、自然及び適応免疫系の多くの細胞は、組織に出入りする。免疫細胞の機能は、幹細胞の機能を促進するように調節することができる。[Lane, S. W., et al. Modulating the stem cell niche for tissue regeneration. Nature biotechnology (2014)32, 795-803]。
【0116】
HSCの発達を調節する前炎症性メディエーターは、トール様受容体(TLR)、サイトカイン、及びエイコサノイドを含み、これらのそれぞれは、傷害と戦う免疫系を活性化する。傷害または病原体による組織破壊は、典型的な炎症を引き起こす前炎症性サイトカインの放出につながる。要約すると、骨髄細胞(例えば、マクロファージ及び好中球)は、トール様受容体(TLR)及びヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン(NOD)様受容体(NLR)を備え、これは、ダメージ関連分子パターン(DAMP)及び病原体関連分子パターン(PAMP)の認識時に、前炎症性サイトカイン及びエイコサノイドの増殖を誘導する。TLRは、マスター炎症/免疫転写因子核因子カッパB(NF-κB)を介して、遺伝子発現の誘導及び主要な前炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-1β及びIL-18の細胞内蓄積を促進する。続いて、NLRによる細胞質区画内のPAMP/DAMPの認識は、カスパーゼ1媒介性タンパク質分解切断ならびに前炎症性サイトカイン及びサイトゾルホスホリパーゼA2媒介性エイコサノイド生合成の放出を促進する。次に、前炎症性サイトカイン及びエイコサノイドが免疫細胞を活性化して、感染の原因を取り除き、健康な組織を回復させる。[Espin-Palazon, R., et al. Proinflammatory Signals as Fuel for the Fire of Hematopoietic Stem Cell Emergence. Trends in cell biology (2018) 28, 58-66]。
【0117】
HSCは、細胞の内因性機序及び外因性機序の両方による免疫または組織の傷害を感知すると考えられる。HSCは、前炎症性サイトカイン、ケモカイン、及びPAMPSを含む、局所的に産生されたサイトカイン(ニッチ/微小環境)及び末端(損傷または感染)で産生されたサイトカインに動的に応答する。HSC及び造血幹細胞及び前駆細胞(HSPC)は、間接的に(前炎症性サイトカインもしくはDAMPを介して)または直接(PAMPを介して)免疫または組織の傷害を感知する。通常、HSCは、多くの場合、リンパ球産生及び赤血球形成を犠牲して、正常な造血を骨髄造血に偏らせることにより、前炎症性シグナルに応答し、これは、既存の細胞が感染部位に動員されているので、骨髄細胞数を満たすように生じると考えられる。[Espin-Palazon, R., et al. Proinflammatory Signals as Fuel for the Fire of Hematopoietic Stem Cell Emergence. Trends in cell biology (2018) 28, 58-66]。
【0118】
分化した免疫細胞と同様に、HSCは、TLRの発現を通じて傷害を認識する。HSCにおけるTLRシグナルのライゲーションは、増殖及び分化につながる。HSCによる組織または免疫傷害の細胞外因性認識モードは、前炎症性サイトカインの受容体を介したシグナル伝達を含む。[Nakagawa, M. M., et al. Constitutive Activation of NF-κB Pathway in Hematopoietic Stem Cells Causes Loss of Quiescence and Deregulated Transcription Factor Networks. Frontiers in cell and developmental biology (2018) 6: 143]。
【0119】
IL1、IL6、IL8、TNF、CC-ケモカインリガンド2(CCL2)、IFN-α、及びIFN-γを含む様々な前炎症性サイトカイン及びケモカインは、HSCに影響を与えることが示される。実に、in vitroでのTLR2、TLR7、及びTLR8のアゴニストの刺激は、サイトカイン産生、例えば、IL-1b、IL-6、IL-8、TNF-α、及びGM-CSF、ならびに骨髄系列の細胞分化を誘導することが示されている[Kovtonyuk, L. V., et al. Inflamm-Aging of Hematopoiesis, Hematopoietic Stem Cells, and the Bone Marrow Microenvironment. Frontiers in immunology (2016) 7: 502, doi:10.3389/fimmu.2016.00502,下記を引用:Sioud M, et al. Signaling through toll-like receptor 7/8 induces the differentiation of human bone marrow CD34+ progenitor cells along the myeloid lineage. J Mol Biol (2006) 364:945-54;Sioud M, Floisand Y. TLR agonists induce the differentiation of human bone marrow CD34+ progenitors into CD11c+ CD80/86+ DC capable of inducing a Th1-type response. Eur J Immunol (2007) 37:2834-46]。ヒトCD34+HSPCをIFN-γに曝露すると、生細胞数の増加をもたらすプロアポトーシスプロセス、免疫応答、及び骨髄増殖に関与する遺伝子に劇的な転写変化を生じることが示されている[同上、下記を引用:Caux C, et al. Interferon-gamma enhances factor-dependent myeloid proliferation of human CD34+ hematopoietic progenitor cells. Blood (1992) 79:2628-35, Zeng W, et al. Interferon-gamma-induced gene expression in CD34 cells: identification of pathologic cytokine-specific signature profiles. Blood (2006) 107:167-75]。HSPCに特異的である転写変化もあれば、一般にIFN-γと共にインキュベートされた間質細胞で生じる転写変化、例えば、細胞成長及びシグナル伝達もある[同上、下記を引用:Zeng W, et al. Interferon-gamma-induced gene expression in CD34 cells: identification of pathologic cytokine-specific signature profiles. Blood (2006) 107:167-75]。対照的に、IFN-γ及びTNFによるin vitro刺激は、異種移植マウスで多系列再構成を受けるHSPCの能力を著しく損なうことを、研究は示している。[同上、下記を引用:Dybedal I, et al. Tumor necrosis factor (TNF)-mediated activation of the p55 TNF receptor negatively regulates maintenance of cycling reconstituting human hematopoietic stem cells. Blood (2001) 98:1782-91, Yang L, et al. IFN-gamma negatively modulates self-renewal of repopulating human hemopoietic stem cells. J Immunol (2005) 174:752-7]。膜固定型TNF-αは、同種及び同系のレシピエントにおける精製HSCの生着を高めることが判明している。[Espin-Palazon, R., et al. Trends in cell biology (2018) 28: 58-66]。
【0120】
前炎症性サイトカインへのHSCの長期曝露は、自己複製及び静止の低下を引き起こす。前炎症性応答を生じるための静止状態のECの活性化は、通常、転写因子核因子κB(NF-κΒ)により引き起こされ、これは、TNF-α、インターロイキン-1(IL-1)、E-セレクチン、血管細胞接着分子1(VCAM-1)、及び細胞間接着分子1(ICAM-1)を含む前炎症性遺伝子の転写を活性化するだけでなく、ECをアポトーシスに対してより感受性があるようにする[Jin, Z., et al., Int. J. Mol. Sci. (2019) 20(1): 172;下記を引用:Pober, JS, Sessa, WC, Nat. Rev. Immunol. (2007) 7: 803-815;Aoki, M. et al., Hypertension (2001) 38: 48-55;Kempe, S. et al., Nucleic Acids Res. (2005) 33: 5308-5319]。
【0121】
前炎症性免疫調節因子の役割は、成体HSC機能に限定されない。研究によると、前炎症性経路、例えば、典型的な前炎症性転写因子NF-κBは、脊椎動物及び無脊椎動物の両方で胚形成時の造血系の形成に関連することが判明している。他の免疫調節剤も、HSC仕様(同一性)、造血系形成中の出現及び維持に影響を及ぼす。例えば、免疫細胞の機能、増殖、及び分化を調節するサイトカインであるIL-3は、HSC仕様の必須の転写因子であるRunx1の下流で作用することにより、HSC仕様の部位であるマウス大動脈-性腺-中腎(AGM)領域におけるHSCの生存期間を促進することが判明している。別の例では、炎症の調節因子であるIL-1が、HSC増殖を促進することにより、HSCの発生に積極的な役割を果たす。炎症の主要な調節因子であるプロスタグランジンE2(PGE2)は、cAMP/PKA媒介性安定化リン酸化イベントを介してベータ-カテニン分解のレベルで、HSCのWntを自律的に制御することにより、HSCの出現または増殖の強力な誘導因子であることも示されている。[Espin-Palazon, R., et al., Trends in cell biology (2018) 28, 58-66]。
【0122】
HSCの運命決定は、前炎症性サイトカインTNFα、IFNγ、及びIL-1βに関連しており、TLR4シグナル伝達に加えて、これらのサイトカインは、それぞれHSC仕様の重要な決定要因である。TNFαは、造血能を獲得し、例えば、胚外卵黄嚢及び胚性大動脈-性腺-中腎において、狭い発達ウィンドウの間に、多系列の造血幹細胞及び前駆細胞を生じさせ得る発達中の血管内皮細胞の特殊なサブセットである造血内皮細胞(HE)からHSCを特定するために、TNF受容体2(TNFR2)を介して作用する。[Griz,E.“Specification and function of hemogenic endothelium during embryogenesis,”Cell Mol.Life Sci.(2016)73:1547-67]。TNFR2の作用は、背側大動脈のHSC仕様に不可欠なNotchリガンドであるjag1aの発現に必要とされる。Jag1シグナルの発現は、HSCの運命を確立するのを助けるために、隣接する造血内皮細胞(すなわち、HSPCが由来する特殊な内皮細胞)上のNotch1a受容体にシグナル伝達する。前炎症性転写因子NF-κBは、新生HSCで活性があることが判明している。TNFR2、NF-κBメンバーp65、及びTLR4は全て、HSCで上方調節される。さらに、TLR4、IL-1β、及びTNFαは、NF-κB及びNotchの上流で作用することにより、HSC仕様に必要とされる。内皮細胞ではなくHSCが、IFNに迅速に応答することが実証された。IFN-α4及びIFN-γは、それぞれ、IFNαR1及びIFNγR1を介した脊椎動物全体のHSC仕様にも必要とされる。TNF-α及びTLR4シグナル伝達とは異なり、IFN-γは、Stat3を活性化することにより、Notchシグナル伝達及び血流の下流で作用する。IFN-γシグナル伝達は、HEで自律的に作用する。[Espin-Palazon, R., et al., Trends in cell biology (2018) 28, 58-66, doi:10.1016/j.tcb.2017.08.003]。
【0123】
造血系形成中の前炎症性サイトカインの細胞源は周知でない。そのようなサイトカインは、HSCの分化に影響を与えることが既知である。定常状態では、血小板バイアスHSCは、造血階層の最上位にあり、骨髄バイアスHSC及びリンパバイアスHSCを生成することができる[Kovtonyuk, L. V., et al. Inflamm-Aging of Hematopoiesis, Hematopoietic Stem Cells, and the Bone Marrow Microenvironment. Frontiers in immunology (2016) 7: 502, doi:10.3389/fimmu.2016.00502]。骨髄バイアスHSCは、平衡バイアスHSC及びリンパバイアスHSCの両方を生成し得るが、リンパバイアスHSCは、骨髄バイアス対応物を生成しない[同上]。血小板バイアスHSCは、他のHSCサブセットよりも速く血小板集団を再増殖させる可能性を有する。骨髄バイアスHSCは、骨髄にコミットされた前駆細胞を介して骨髄系細胞を優先的に生じさせる。バランスHSCは、骨髄系とリンパ系の両方に等しく貢献する[同上]。リンパ球バイアスHSCは、主に、リンパ球にコミットされた前駆細胞を介して骨髄系細胞よりもリンパ球を生成する。炎症、特に、慢性炎症は、骨髄前駆細胞及び成熟骨髄細胞を含む骨髄系列の産生を増強し、これにより、造血における骨髄バイアスがもたらされる。[同上]。
【0124】
成長する証拠は、造血細胞及びそれらの支持性ニッチ細胞の間のクロストークが、骨髄(BM)内の慢性炎症を開始及び維持することを示すが、このプロセスにおけるそれらの正確な寄与は不明のままである。[Ramalingam, P. et al., Chronic activation of endothelial MAPK disrupts hematopoiesis via NFKB dependent inflammatory stress reversible by SCGF. Nature Communic. (2020) 11: 666,下記を引用:Kovtonyuk, L. V., et al. Inflamm-Aging of Hematopoiesis, Hematopoietic Stem Cells, and the Bone Marrow Microenvironment. Frontiers in immunology (2016) 7, 502, doi:10.3389/fimmu.2016.0050);Pietras, E. M. et al. Chronic interleukin-1 exposure drives haematopoietic stem cells towards precocious myeloid differentiation at the expense of self-renewal. Nature cell biology (2016) 18, 607-618,;Lussana, F. & Rambaldi, A. Inflammation and myeloproliferative neoplasms. Journal of autoimmunity (2017) 85, 58-63;Pietras, E. M. Inflammation: a key regulator of hematopoietic stem cell fate in health and disease. Blood (2017) 130, 1693-1698]。
【0125】
BM微小環境内では、内皮細胞(EC)は、HSC調節パラクリン因子の多様な配列の発現により示されるように、HSCを支持する血管周囲ニッチの不可欠な構成要素として確立されている[同上、下記を引用:Hooper, A. T. et al. Engraftment and reconstitution of hematopoiesis is dependent on VEGFR2-mediated regeneration of sinusoidal endothelial cells. Cell stem cell (2009) 4, 263-274, doi:10.1016/j.stem.2009.01.006;Butler, J. M. et al. Endothelial cells are essential for the self-renewal and repopulation of Notch dependent hematopoietic stem cells. Cell stem cell (2010) 6, 251-264, doi:10.1016/j.stem.2010.02.001;Kobayashi, H. et al. Angiocrine factors from Akt-activated endothelial cells balance self-renewal and differentiation of haematopoietic stem cells. Nature cell biology (2010) 12, 1046-1056, doi:10.1038/ncb2108;Winkler, I. G. et al. Vascular niche E-selectin regulates hematopoietic stem cell dormancy, self-renewal and chemoresistance. Nature medicine (2012) 18, 1651-1657, doi:10.1038/nm.2969;Ding, L., et al., Endothelial and perivascular cells maintain haematopoietic stem cells. Nature (2012) 481, 457-462, doi:10.1038/nature10783;Poulos, M. G. et al. Endothelial jagged-1 is necessary for homeostatic and regenerative 947 hematopoiesis. Cell reports (2013) 4, 1022-1034, doi:10.1016/j.celrep.2013.07.048;Greenbaum, A. et al. CXCL12 in early mesenchymal progenitors is required for haematopoietic stem-cell maintenance. Nature (2013) 495, 227-230, doi:10.1038/nature11926;Doan, P. L. et al. Epidermal growth factor regulates hematopoietic regeneration after radiation injury. Nature medicine (2013) 19, 295-304, doi:10.1038/nm.3070;Poulos, M. G. et al. Endothelial-specific inhibition of NF-kappaB enhances functional haematopoiesis. Nat Commun (2016) 7, 13829, doi:10.1038/ncomms13829;Kusumbe, A. P. et al. Age-dependent modulation of vascular niches for haematopoietic stem cells. Nature (2016) 532, 380-384, doi:10.1038/nature17638;Morrison, S. J. & Scadden, D. T. The bone marrow niche for haematopoietic stem cells. Nature (2014) 505, 327-334, doi:10.1038/nature12984;Rafii, S., Butler, J. M. & Ding, B. S. Angiocrine functions of organ-specific endothelial cells. Nature (2016) 529, 316-325, doi:10.1038/nature17040]。内皮内のシグナル伝達経路の調節はまた、ニッチ活性に直接影響を及ぼし、それによりHSC自己複製及び系列のコミットメントの決定を調節することが示されている[同上、下記を引用:Kobayashi, H. et al. Angiocrine factors from Akt-activated endothelial cells balance self-renewal and differentiation of haematopoietic stem cells. Nature cell biology (2010) 12, 1046-1056, doi:10.1038/ncb2108 (2010);Poulos, M. G. et al. Endothelial-specific inhibition of NF-kappaB enhances functional haematopoiesis. Nat Commun (2016) 7, 13829, doi:10.1038/ncomms13829;Kusumbe, A. P. et al. Age-dependent modulation of vascular niches for haematopoietic stem cells. Nature (2016) 532, 380-384, doi:10.1038/nature17638]。組織特異的なニッチ細胞として機能することに加えて、内皮は、慢性炎症の重要な決定因子であり[同上、下記を引用:Rafii, S., Butler, J. M. & Ding, B. S. Angiocrine functions of organ-specific endothelial cells. Nature (2016) 529, 316-325, doi:10.1038/nature17040;Pober, J. S. & Sessa, W. C. Evolving functions of endothelial cells in inflammation. Nature reviews. Immunology (2007) 7, 803-815, doi:10.1038/nri2171]、IL-1及びG-CSFを含むBM内のニッチ由来の炎症シグナルの重要な源として現れ、これは、急な要求に応じて骨髄造血を促進する[同上、下記を引用:Pietras, E. M. et al. Chronic interleukin-1 exposure drives haematopoietic stem cells towards precocious myeloid differentiation at the expense of self-renewal. Nature cell biology (2016) 18, 607-618, doi:10.1038/ncb3346;Boettcher, S. et al. Endothelial cells translate pathogen signals into G-CSF-driven emergency granulopoiesis. Blood (2014) 124, 1393-1403, doi:10.1182/blood-2014-04-570762]。持続的な内皮炎症は、G-CSF及びTNFαの発現を介した骨髄増殖性疾患の開始に関係している[同上、下記を引用:Wang, L. et al. Notch-dependent repression of miR-155 in the bone marrow niche regulates hematopoiesis in an NF-kappaB-dependent manner. Cell stem cell (2014) 15, 51-65, doi:10.1016/j.stem.2014.04.021]。しかし、ニッチ活性及びHSC機能に影響を与えるBM微小環境内の慢性内皮炎症を媒介するシグナル伝達経路は、依然として、よく理解されていない。
【0126】
NF-κB及びMAPKは、内皮細胞内の慢性炎症性応答を調節する主要なシグナル伝達経路である[同上、下記を引用:Pober, J. S. & Sessa, W. C. Evolving functions of endothelial cells in inflammation. Nature reviews. Immunology (2007) 7, 803-815, doi:10.1038/nri2171]。しかし、BM内皮ニッチ内の炎症の調節及びHSC機能への付随する影響におけるそれらの役割は、依然として、調査されていない。内皮内のNF-κBシグナル伝達の抑制が、部分的に、前炎症性サイトカインを減少させることにより、骨髄抑制後の定常状態の造血及び再生を促進することを、以前の研究は示している[同上、下記を引用:Poulos, M. G. et al. Endothelial-specific inhibition of NF-kappaB enhances functional haematopoiesis. Nat Commun (2016) 7, 13829, doi:10.1038/ncomms13829]。内皮MAPKが、LPS誘導性顆粒球形成及びアテローム性動脈硬化症に関連する慢性血管炎症を含む炎症プロセスにおいて重要な役割を果たすことを、最近の報告は示唆する[同上、下記を引用:Sanchez, A. et al. Map3k8 controls granulocyte colony-stimulating factor production and neutrophil precursor proliferation in lipopolysaccharide-induced emergency granulopoiesis. Sci Rep (2017) 7, 5010, doi:10.1038/s41598-017-04538-3;Roth Flach, R. J. et al. Endothelial protein kinase MAP4K4 promotes vascular inflammation and atherosclerosis. Nat Commun (2015) 6, 8995, doi:10.1038/ncomms9995]。ex vivoニッチモデルシステムを利用して、内皮MAPK活性化が、炎症性ストレスを示唆する特徴である自己複製を犠牲にして、共培養されたHSCの骨髄バイアス分化を引き起こすことが実証されている[同上、下記を引用:Kobayashi, H. et al. Angiocrine factors from Akt-activated endothelial cells balance self-renewal and differentiation of haematopoietic stem cells. Nature cell biology (2010) 12, 1046-1056, doi:10.1038/ncb2108]。
【0127】
老化の間の造血の課題
【0128】
造血系の老化は、適応性のあるものと、固有のものとの両方の免疫系における機能低下、感染にかかる可能性が高くなる免疫老化、ワクチン接種の低い効能、ならびに、自己免疫病及び血液系腫瘍の進展に対する脆弱性の高まりによって示される[Kovtonyuk, LV, et al., Inflamm-Aging of Hematopoiesis, Hematopoietic stem cells, and the bone marrow microenvironment. Front. Immunol. (2016) 7: 502. Doi: 10/3389/Immu.2016.00502,下記を引用:Dorshkind, K. et al, The ageing immune system: is it ever too old to become young again? Nat Rev Immunol (2009) 9:57-62.10.1038/nri2471;Haq K, McElhaney JE. Ageing and respiratory infections: the airway of ageing. Immunol Lett (2014) 162:323-8.10.1016/j.imlet.2014.06.009 5]。B細胞の生成は、老化の進行とともに著しく減少する、すなわち、ナイーブB細胞プールは減少するが、一方、メモリーB細胞プールは拡大する。B細胞のレパートリーの多様性も、低減された抗体親和性及び妨げられたクラススイッチに関係して低減される。B細胞は、自然に起こる自己免疫病の発生を増大させる自己抗体を生成する傾向にある[同上、下記を引用:Frasca D, et al. Mechanisms for decreased function of B cells in aged mice and humans. J Immunol (2008) 180:2741-6, Linton PJ, Dorshkind K. Age-related changes in lymphocyte development and function. Nat Immunol (2004) 5:133-9]。De novo T細胞の生成も、部分的に胸腺退縮に起因して、老化とともに低下する。CD8+のT細胞は、オリゴクローナル拡大を受け、そのレパートリーが、周囲のリンパ系組織のナイーブT細胞に関するニッシェが末期的に分化された細胞によって占められるようになるにつれて、前に遭遇したアンチゲンに向かって偏る[同上、下記を引用:Akbar AN, Fletcher JM. Memory T cell homeostasis and senescence during aging. Curr Opin Immunol (2005) 17:480-5]。NK細胞は、減少された細胞傷害性及びサイトカイン分泌を示す。骨髄性細胞の数が増大するが、その機能性は低減される。たとえば、好中球が刺激に応じて移動しにくくなり、マクロファージの食細胞作用が低減され、酸化バーストが低減される[同上、下記を引用:Kuranda K, et al. Age-related changes in human hematopoietic stem/progenitor cells. Aging Cell (2011) 10:542-6;Ogata K, et al. Natural killer cells in the late decades of human life. Clin Immunol Immunopathol (1997) 84:269-75;Plowden J, Renshaw-Hoelscher M, Engleman C, Katz J, Sambhara S. Innate immunity in aging: impact on macrophage function. Aging Cell (2004) 3:161-7]。最後に、赤血球生成も老齢では低減され、頻繁な貧血を生じる[同上、下記を引用:Berliner N. Anemia in the elderly. Trans Am Clin Climatol Assoc (2013) 124:230-7]。血栓を壊す(小板)血統は、現在まで、老化によって顕著な影響を受けることは報告されていない。
【0129】
老化の間のHSCの機能の変更
持続した炎症が、HSCの自己再生能力、骨髄系にバイアスされた分化、及び白血病の素養を含む、老化に関連する造血の欠陥の重要なドライバとして提示されている[Ramalingam, P. et al., “Chronic activation of endothelial MAPK disrupts hematopoiesis via NFKB dependent inflammatory stress reversible by SCGF. Nature Communic. (2020) 11: 666,下記を引用:Kovtonyuk, L. V., et al. Inflamm-Aging of Hematopoiesis, Hematopoietic Stem Cells, and the Bone Marrow Microenvironment. Frontiers in immunology (2016) 7, 502, doi:10.3389/fimmu.2016.0050);Pietras, E. M. et al. Chronic interleukin-1 exposure drives haematopoietic stem cells towards precocious myeloid differentiation at the expense of self-renewal. Nature cell biology (2016) 18, 607-618, doi:10.1038/ncb3346;Lussana, F. & Rambaldi, A. Inflammation and myeloproliferative neoplasms. Journal of autoimmunity (2017) 85, 58-63, doi:10.1016/j.jaut.2017.06.010;Pietras, E. M. Inflammation: a key regulator of hematopoietic stem cell fate in health and disease. Blood (2017) 130, 1693-1698, doi:10.1182/blood-2017-06-780882]。
【0130】
複数の血液の血統が老化プロセスの間に変化することから、造血の老化が部分的に、HSCを含む、影響された血統を再び増殖させる、早期の造血の区画の機能性の変化に起因することが可能である[Kovtonyuk, L. V., et al. Inflamm-Aging of Hematopoiesis, Hematopoietic Stem Cells, and the Bone Marrow Microenvironment. Frontiers in immunology (2016) 7, 502, doi:10.3389/fimmu.2016.0050]。単一細胞及び限界希釈の移植により、HSCの自己再生能力が、老化の間に細胞毎のベースで外見上低減されることが証明されている。この理由は、表現型的に規定されたHSCの頻度が、老化したBMにおける機能的に規定されたHSCの頻度と相関しないためである[同上、下記を引用:Yamamoto, R. et al., Clonal analysis unveils self-renewing lineage-restricted progenitors generated directly from hematopoietic stem cells. Cell (2013) 154:1112-26.10.1016/j.cell.2013.08.007, Chambers, SM et al., Aging hematopoietic stem cells decline in function and exhibit epigenetic dysregulation. PLoS Biol (2007) 5:e201.10.1371/journal.pbio.0050201;Dykstra, B. et al., Clonal analysis reveals multiple functional defects of aged murine hematopoietic stem cells. J Exp Med (2011) 208:2691-703.10.1084/jem.20111490;Harrison, DE, Astle, CM, Loss of stem cell repopulating ability upon transplantation. Effects of donor age, cell number, and transplantation procedure. J Exp Med (1982) 156:1767-79;Morrison, SJ et al., The aging of hematopoietic stem cells. Nat Med (1996) 2:1011-6;Rossi, DJ et al., Cell intrinsic alterations underlie hematopoietic stem cell aging. Proc Natl Acad Sci U S A (2005) 102:9194-9;Sudo, K. et al., Age-associated characteristics of murine hematopoietic stem cells. J Exp Med (2000) 192:1273-80]。HSC表現型のHSC(LKS CD34-Flt3-)が、CD150発現をアップレギュレーションすることも示され[同上、下記を引用:Challen, GA et al., Distinct hematopoietic stem cell subtypes are differentially regulated by TGF-beta1. Cell Stem Cell (2010) 6:265-78, Rossi, DJ et al., Cell intrinsic alterations underlie hematopoietic stem cell aging. Proc Natl Acad Sci U S A (2005) 102:9194-9, Beerman, I et al., Functionally distinct hematopoietic stem cells modulate hematopoietic lineage potential during aging by a mechanism of clonal expansion. Proc Natl Acad Sci U S A (2010) 107:5465-70]、老化の進行とともに、骨髄系にバイアスされたHSCの集団と、老化したHSCプール全体にわたるこの断片の抑制とに繋がった[同上、下記を引用:Beerman, I et al., Functionally distinct hematopoietic stem cells modulate hematopoietic lineage potential during aging by a mechanism of clonal expansion. Proc Natl Acad Sci U S A (2010) 107:5465-70]。表現型の特徴付けと一致して、移植の後の造血の再増殖が、骨髄性細胞の生成に向けてバイアスされており、この分化のポテンシャルにおける変化が、連続した移植の過程にわたって存続し、HSCの、老化に関連する細胞自立型の変化を示す。これら観測に基づき、老化に関連する骨髄系のバイアスに関する、以下の2つの可能性のある理論を提案することができる。(a)老化したHSC集団の中でのクローン進化であり、この中で、リンパ系にバイアスされたHSCクローンが、骨髄系にバイアスされたか、または小板にバイアスされたHSCのクローンに、細胞に固有の変化を介して変わる[同上、下記を引用:Waterstrat A, Van Zant G. Effects of aging on hematopoietic stem and progenitor cells. Curr Opin Immunol (2009) 21:408-13]。(b)クローナル構成のシフトであり、この中で、骨髄系にバイアスされたか、または小板にバイアスされたHSCクローンが、HSCプール全体を、クローンの拡大及び/または選択を介して支配する[同上、下記を引用:Morita Y, et al. Heterogeneity and hierarchy within the most primitive hematopoietic stem cell compartment. J Exp Med (2010) 207:1173-82, Challen, GA et al., Distinct hematopoietic stem cell subtypes are differentially regulated by TGF-beta1. Cell Stem Cell (2010) 6:265-78, Dykstra, B. et al., Clonal analysis reveals multiple functional defects of aged murine hematopoietic stem cells. J Exp Med (2011) 208:2691-703, Beerman, I et al., Functionally distinct hematopoietic stem cells modulate hematopoietic lineage potential during aging by a mechanism of clonal expansion. Proc Natl Acad Sci U S A (2010) 107:5465-70, Cho, RH et al., A new mechanism for the aging of hematopoietic stem cells: aging changes the clonal composition of the stem cell compartment but not individual stem cells. Blood (2008) 111:5553-61;Goto M. Inflammaging (inflammation + aging): a driving force for human aging based on an evolutionarily antagonistic pleiotropy theory? Biosci Trends (2008) 2:218-30;Muller-Sieburg CE, Sieburg HB. Clonal diversity of the stem cell compartment. Curr Opin Hematol (2006) 13:243-8]。老化に関連する骨髄系の血統の歪曲も、コミットされた前駆体の組成において撹乱を伴う場合がある。老化したマウスは、共通のリンパ系前駆体の頻度の低減を示したが、GMPの頻度は向上した[同上、下記を引用:Rossi, DJ et al., Cell intrinsic alterations underlie hematopoietic stem cell aging. Proc Natl Acad Sci U S A (2005) 102:9194-9]。これら発見には、低減されたB細胞のリンパ球産生及びリンパ系前駆体の低減されたフィットネスが伴い、変更された、受容体に関連するキナーゼのシグナリングと同時に起こる[同上、下記を引用:Henry, CJ et al., Declining lymphoid progenitor fitness promotes aging-associated leukemogenesis. Proc Natl Acad Sci U S A (2010) 107:21713-8]。造血のヒエラルキーのどのレベルが老化によって影響されるかは分かっていない。
【0131】
老化したHSCのBMホーミング効率は、照射された受容体内へ、静脈内に移植された場合に顕著に低減される[同上、下記を引用:Dykstra, B., et al., Cell Stem Cell (2007) 1:218-29]。しかし、類似の変動の効能が、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の治療に応じて、循環の中に放出された、老化された、及び若いHSC内に観測された[同上、下記を引用:Verovskaya, E. et al., Asymmetry in skeletal distribution of mouse hematopoietic stem cell clones and their equilibration by mobilizing cytokines. J Exp Med (2014) 211:487-97]。若いHSCに対する老化したHSCのトランスクリプトームプロファイリングが、HSCの老化の潜在的なメカニズムの分子の洞察を提供している[同上、下記を引用:Chambers, SM et al., Aging hematopoietic stem cells decline in function and exhibit epigenetic dysregulation. PLoS Biol (2007) 5:e201.10.1371/journal.pbio.0050201;Tremaroli V, Backhed F. Functional interactions between the gut microbiota and host metabolism. Nature (2012) 489:242-9.10.1038/nature11552]。老化したHSCは、細胞内ホメオスタシスの調節不全、たとえば、アップレギュレーションされたストレス反応、増大された炎症促進性シグナリング、タンパク質の誤った折りたたみ、ダウンレギュレーションされたDNA修復設備、及び異常なクロマチン修飾を示している[同上、下記を引用:Challen, GA et al., Cell Stem Cell (2010) 6:265-78, Chambers, SM et al., Aging hematopoietic stem cells decline in function and exhibit epigenetic dysregulation. PLoS Biol (2007) 5:e201.10.1371/journal.pbio.0050201, Rossi, DJ et al., Proc Natl Acad Sci U S A (2005) 102:9194-9]。さらなる調査により、老化したHSCが、場合によっては、より高いレベルの細胞内活性酸素種(ROS)及び自然の生成された遺伝毒性代謝物に起因して、より多くのDNAのダメージを蓄積させることが証明されている[同上、下記を引用:Ito, K. et al., Reactive oxygen species act through p38 MAPK to limit the lifespan of hematopoietic stem cells. Nat Med (2006) 12:446-51;Rossi, DJ et al, Nature (2007) 447:725-9;Rube, CE et al., Accumulation of DNA damage in hematopoietic stem and progenitor cells during human aging. PLoS One (2011) 6:e17487.10.1371/journal.pone.0017487]。しかし、これら細胞は、依然として、細胞の循環の遊動に対するダメージを効率的に修復することが可能である[同上、下記を引用:Beerman, I. et al., Cell Stem Cell (2014) 15:37-50]。他の研究により、老化したHSC内の増殖ストレスの蓄積が、非効率なDNAの複製及び転写阻害を発生させることが示唆されている[同上、下記を引用:Flach, J. et al., Replication stress is a potent driver of functional decline in ageing haematopoietic stem cells. Nature (2014) 512:198-202]。老化したHSCは、ほ乳類ラパマイシン標的(mTOR)の活性化[同上、下記を引用:Chen, C. et al., mTOR regulation and therapeutic rejuvenation of aging hematopoietic stem cells. Sci Signal (2009) 2:ra75.10.1126/scisignal.20005593]、オートファジー依存性の生存[同上、下記を引用:Warr, MR, et al. FOXO3A directs a protective autophagy program in haematopoietic stem cells. Nature (2013) 494:323-7]、特に骨髄系及びリンパ系のバランスを制御する遺伝子の場所における、調整不全のDNAのメチル化[同上、下記を引用:Beerman, I. et al., Cell Stem Cell (2014) 15:37-50]、減じられたヒストン修飾[同上、下記を引用:Sun, D. et al. Epigenomic profiling of young and aged HSCs reveals concerted changes during aging that reinforce self-renewal. Cell Stem Cell (2014) 14:673-8855]、及び、乱された細胞の極性[同上、下記を引用:Florian, MC, et al., Cdc42 activity regulates hematopoietic stem cell aging and rejuvenation. Cell Stem Cell (2012) 10:520-30]をも示した。HSCの老化のこれら特性は、HSCの増殖の履歴の増大、または、骨髄破壊的な化学療法的処方計画の複数の注入に伴うこれらのストレスの付加[同上、下記を引用:Beerman, I. et al., Proliferation-dependent alterations of the DNA methylation landscape underlie hematopoietic stem cell aging. Cell Stem Cell (2013) 12:413-25]によって、または、連続した移植を行うこと(「実験的老化」)[同上、下記を引用:Dykstra, B. et al, J Exp Med (2011) 208:2691-703;Harrison, DE, Astle, CM, J Exp Med (1982) 156:1767-79]によって、部分的に、実験的に要約することができる。このことが、増殖の履歴が老化プロセスと関連し得ることを示唆していることから、いくつかのグループは、若いHSCと老化したHSCとで循環動作を比較している。しかし、結果は議論の的になっている。いくつかのデータは、老化したHSCが循環動作を増大させていることを示唆している[同上、下記を引用:Morrison, SJ et al., Nat Med (1996) 2:1011-6]。一方、他のものは、細胞の循環のステータスには差異がないこと[同上、下記を引用:Chambers, SM et al., PLoS Biol (2007) 5:e201.10.1371/journal.pbio.0050201;Sudo, K., et al., Age-associated characteristics of murine hematopoietic stem cells. J Exp Med (2000) 192:1273-80.10.1084/jem.192.9.1273]、または、若いBMに比べ、老化したものにおいてHSCがより不活性であること[同上、下記を引用:Takizawa, H. et al., Dynamic variation in cycling of hematopoietic stem cells in steady state and inflammation. J Exp Med (2011) 208:273-84;Chen, C. et al., mTOR regulation and therapeutic rejuvenation of aging hematopoietic stem cells. Sci Signal (2009) 2:ra75.10.1126/scisignal.2000559]を提唱している。
【0132】
BMニッシェ内の老化に関連する変化。血液幹細胞ホメオスタシスは、BM微環境、いわゆる、これら細胞に、それら自体の維持のために中枢因子を提供するHSCニッシェ内に保持される[同上、下記を引用:Nakamura-Ishizu, A. et al., Development (2014) 141:4656-66, Morrison SJ, Scadden DT. The bone marrow niche for haematopoietic stem cells. Nature (2014) 505:327-34]。BMニッシェの近年の調査により、血管周囲のHSCニッシェが、間葉系間質細胞(MSC)及び内皮細胞(EC)を、主要な細胞成分として含んでいたことが明らかにされており、階層的なHSCの機能及び老化によって及ぼされる影響を反映する[同上、下記を引用:Morrison SJ, Scadden DT. The bone marrow niche for haematopoietic stem cells. Nature (2014) 505:327-34;Kusumbe, AP et al. Age-dependent modulation of vascular niches for haematopoietic stem cells. Nature (2016) 532:380-4.10.1038/nature17638]。MSCは、プラスチック粘着性、高い成長ポテンシャル、及び間葉性免疫表現型、ならびに、骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、線維母細胞、及び上皮組織細胞などの間葉性血統への分化によって特徴付けられる[同上、下記を引用:Dominici, M. et al., Minimal criteria for defining multipotent mesenchymal stromal cells. The International Society for Cellular Therapy position statement. Cytotherapy (2006) 8:315-7;Lin, Z-J et al., Trafficking and differentiation of mesenchymal stem cells. J Cell Biochem (2009) 106:984-911]。老化したMSCは、低減されたクローン原性、及び増殖する容量を示し、分化のポテンシャルが、骨形成の損失で、脂質生成に向かって偏る[同上、下記を引用:Singh, L. et al. Aging alters bone-fat reciprocity by shifting in vivo mesenchymal precursor cell fate towards an adipogenic lineage. Bone (2016) 85:29-36;Tuljapurkar, SR et al. Changes in human bone marrow fat content associated with changes in hematopoietic stem cell numbers and cytokine levels with aging. J Anat (2011) 219:574-81;Walenda, T. et al. Co-culture with mesenchymal stromal cells increases proliferation and maintenance of haematopoietic progenitor cells. J Cell Mol Med (2010) 14:337-50)]。これら細胞は、拡大、テロメアの短縮、またはp53/p21の媒介DNA損傷の蓄積、害されたDNAのメチル化またはヒストンのアセチル化、ならびに、ROS及び一酸化窒素(NO)の増大したレベルをも示す[同上、下記を引用:Behrens, A. et al. Impact of genomic damage and ageing on stem cell function. Nat Cell Biol (2014) 16:201-7;Fernandez, L. et al., Tumor necrosis factor-alpha and endothelial cells modulate Notch signaling in the bone marrow microenvironment during inflammation. Exp Hematol (2008) 36:545-58;Kornicka, K. et al., The effect of age on osteogenic and adipogenic differentiation potential of human adipose derived stromal stem cells (hASCs) and the impact of stress factors in the course of the differentiation process. Oxid Med Cell Longev (2015) 2015:309169.10.1155/2015/309169;Zhang, D-Y, et al., Wnt/β-catenin signaling induces the aging of mesenchymal stem cells through the DNA damage response and the p53/p21 pathway. PLoS One (2011) 6:e21397.10.1371/journal.pone.0021397;Zheng, Y. et al., H3K9me-enhanced DNA hypermethylation of the p16INK4a gene: an epigenetic signature for spontaneous transformation of rat mesenchymal stem cells. Stem Cells Dev (2013) 22:256-6765-69]。脂質生成に好都合なMSC分化の下にある老化に依存するメカニズムは、完全には理解されていないが、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ2(PPPARγ2)及びCCAAT/エンハンサー結合タンパク質の活性化を含む、可能性のある分子の変化が報告されている[同上、下記を引用:Shockley, KR, e al., PPARgamma2 nuclear receptor controls multiple regulatory pathways of osteoblast differentiation from marrow mesenchymal stem cells. J Cell Biochem (2009) 106:232-46;Takeshita, S. et al. Age-related marrow adipogenesis is linked to increased expression of RANKL. J Biol Chem (2014) 289:16699-710]。脂肪細胞が、HSCの機能及びB-リンパ球産生を消極的に制御することが示されていることから[同上、下記を引用:Kennedy DE, Knight KL. Inhibition of B lymphopoiesis by adipocytes and IL-1-producing myeloid-derived suppressor cells. J Immunol (2015) 195:2666-74.10.4049/jimmunol.1500957;Naveiras, O. et al., Bone-marrow adipocytes as negative regulators of the haematopoietic microenvironment. Nature (2009) 460:259-63]、老化したBM内で向上された脂質生成が、リンパ球産生にわたって骨髄造血を促進するとともに、HSCの機能を害することの理由付けと、老化した環境内の若いHSCが、報告によれば、若い環境におけるよりもわずかに多い骨髄性細胞を生成する傾向にあること[同上、下記を引用:Rossi, DJ et al., Proc Natl Acad Sci U S A (2005) 102:9194-97;Ergen, AV et al., Rantes/Ccl5 influences hematopoietic stem cell subtypes and causes myeloid skewing. Blood (2012) 119:2500-9)]の観測に基づき、老化したBM内の脂質生成増進[同上、下記を引用:Justesen, J. et al., Adipocyte tissue volume in bone marrow is increased with aging and in patients with osteoporosis. Biogerontology (2001) 2:165-71]が、インスリン成長因子シグナリングの調節不全[同上、下記を引用:Linton PJ, Dorshkind K. Age-related changes in lymphocyte development and function. Nat Immunol (2004) 5:133-9]、細胞外マトリックス組成の変化、及び骨の形成の低減[同上、下記を引用:Bellantuono, I. et al., Aging of marrow stromal (skeletal) stem cells and their contribution to age-related bone loss. Biochim Biophys Acta (2009) 1792:364-70, Wagner, W. et al., Aging and replicative senescence have related effects on human stem and progenitor cells. PLoS One (2009) 4:e5846.10.1371/journal.pone.0005846]にリンクしている場合があることが提唱されている。
【0133】
内皮細胞は、幹細胞因子及びCXCモチーフリガンド(CXCL)12などの、HSCメンテナンス因子及び保持因子を分泌する別のニッシェ細胞要素である[同上、下記を引用:Morrison SJ, Scadden DT. The bone marrow niche for haematopoietic stem cells. Nature (2014) 505:327-34, Nombela-Arrieta C, et al., Quantitative imaging of haematopoietic stem and progenitor cell localization and hypoxic status in the bone marrow microenvironment. Nat Cell Biol (2013) 15:533-43]。老化は、CD31hiEmcnhiECに関連する骨芽前駆体の減少[同上、下記を引用:Kusumbe AP, et al. Coupling of angiogenesis and osteogenesis by a specific vessel subtype in bone. Nature (2014) 507:323-8]、より少ないPDGFRβ+/NG2+の血管周囲の細胞、細動脈、及びECを伴い、それにより、幹細胞因子の生成の低減に繋がる[同上、下記を引用:Kusumbe AP, et al. Age-dependent modulation of vascular niches for haematopoietic stem cells. Nature (2016) 532:380-4]。内皮Notchシグナリングの活性化は、これら老化に依存する導管ニッシェの変化を、老化したHSCの機能に影響を与えることなく、反転させることができる。さらに、導管の内皮の機能は、NOの減少に起因して、老化とともに低下する。このことは、次いで、血管拡張、ゲノムの不安定化を生じる高められた酸化的ストレス、及び、損なわれたECの血管新生促進機能に関連する増大されたROSレベルを引き起こす[同上、下記を引用:Groleau J, et al. Essential role of copper-zinc superoxide dismutase for ischemia-induced neovascularization via modulation of bone marrow-derived endothelial progenitor cells. Arterioscler Thromb Vasc Biol (2010) 30:2173-81]。NO生成が、CXCL12が媒介するHSCの流動を制御することが提唱されていることから[同上、下記を引用:Gur-Cohen S, et al. PAR1 signaling regulates the retention and recruitment of EPCR-expressing bone marrow hematopoietic stem cells. Nat Med (2015) 21:1307-17]、老化に関連するEC由来のNOの低減、及び、BMニッシェにおける血管形成機能の向上が、老化したBMにおける異常なHSCのメンテナンス及び/または保持に含まれる場合があることの仮説が立てられている[同上]。
【0134】
ヒトの造血の老化
造血系の老化のデータの多くは、マウスの系を採用して得られた。しかし、いくつかの先駆け的な研究により、ヒトの造血系における類似の傾向が示唆されている。Lin-CD34+CD38-[同上、下記を引用:Kuranda K, et al. Age-related changes in human hematopoietic stem/progenitor cells. Aging Cell (2011) 10:542-6]、Lin-CD34+CD38-CD90+CD45RA-[同上、下記を引用:Pang WW, et al. Human bone marrow hematopoietic stem cells are increased in frequency and myeloid-biased with age. Proc Natl Acad Sci U S A (2011) 108:20012-7]、またはLin-CD34+CD 10-CD123-CD45RA-CD90+[同上、下記を引用:Rundberg Nilsson A, et al. Human and murine hematopoietic stem cell aging is associated with functional impairments and intrinsic megakaryocytic/erythroid bias. PLoS One (2016) 11:e0158369.10.1371/journal.pone.0158369]などの断片を含むHSCは、老化とともに増大する。顆粒細胞-単核白血球前駆体(GMP)が同じ頻度で保持されるように見えるが[同上、下記を引用:Kuranda K, et al. Age-related changes in human hematopoietic stem/progenitor cells. Aging Cell (2011) 10:542-6, Pang WW, et al. Human bone marrow hematopoietic stem cells are increased in frequency and myeloid-biased with age. Proc Natl Acad Sci U S A (2011) 108:20012-7, Rundberg Nilsson A, Soneji S, Adolfsson S, Bryder D, Pronk CJ. Human and murine hematopoietic stem cell aging is associated with functional impairments and intrinsic megakaryocytic/erythroid bias. PLoS One (2016) 11:e0158369.10.1371/journal.pone.0158369]、早期のB細胞前駆体及び共通のリンパ系前駆体(CLP)は、老化の進行とともに低下する[同上、下記を引用:Pang WW, et al. Human bone marrow hematopoietic stem cells are increased in frequency and myeloid-biased with age. Proc Natl Acad Sci U S A (2011) 108:20012-7, Rundberg Nilsson A, Soneji S, Adolfsson S, Bryder D, Pronk CJ. Human and murine hematopoietic stem cell aging is associated with functional impairments and intrinsic megakaryocytic/erythroid bias. PLoS One (2016) 11:e0158369.10.1371/journal.pone.0158369]。HSCの機能及び分化のバイアスは不明確なままである。異種移植マウスモデルを使用した1つの研究は、免疫不全のNSG再集団化細胞の頻度に変化がなく、老化したHSCの骨髄系の血統の再増殖が低下したことを示唆した[同上、下記を引用:Kuranda K, et al. Age-related changes in human hematopoietic stem/progenitor cells. Aging Cell (2011) 10:542-6]。一方、別の研究[同上、下記を引用:Pang WW, et al. Human bone marrow hematopoietic stem cells are increased in frequency and myeloid-biased with age. Proc Natl Acad Sci U S A (2011) 108:20012-7]は、骨髄系の血統が顕著に優性な状況で、2つに折りたたまれた、低減された移植を示した。さらなる分子の分析により、骨髄系及び巨大核細胞に関連する遺伝子のアップレギュレーション、ならびに、リンパ系の分化遺伝子のダウンレギュレーションが示唆された[同上、下記を引用:Pang WW, et al. Human bone marrow hematopoietic stem cells are increased in frequency and myeloid-biased with age. Proc Natl Acad Sci U S A (2011) 108:20012-7, Rundberg Nilsson A, Soneji S, Adolfsson S, Bryder D, Pronk CJ. Human and murine hematopoietic stem cell aging is associated with functional impairments and intrinsic megakaryocytic/erythroid bias. PLoS One (2016) 11:e0158369.10.1371/journal.pone.0158369]。これら発見は、造血における主要な老化に関連する変化が、種の間で維持されることを示唆している。
【0135】
骨髄破壊的治療
造血系の再構成が必要な患者では、調製レジメンまたはコンディショニングレジメンは、2つの目標:宿主拒絶を防ぐのに十分な免疫切除の提供及び腫瘍細胞減少/疾患根絶の提供を達成するために、手順の一部として実施される。強度は、診断及び寛解状態などの疾患関連要因、ならびに年齢、ドナーの利用可能性、及び併発状態の存在などの患者関連要因に基づいて変動し得るので、コンディショニングレジメンには様々な変形形態がある。コンディショニングレジメンは、高用量(骨髄破壊的)、強度の低減、及び非骨髄破壊的療法に分類されている。[Gyurkocza, Boglarka, and Brenda M Sandmaier. “Conditioning regimens for hematopoietic cell transplantation: one size does not fit all.” Blood (2014) vol. 124,3: 344-53]。骨髄破壊的治療(MBT)は、免疫系及び造血系、ならびに体内の全ての悪性細胞を根絶するための、大量化学療法(HDC)または全身照射(TBI)を伴うHDCでの患者の処置を指す。通常、MBTを受ける患者は、骨髄移植、幹細胞移植、または造血細胞移植(本明細書では「幹細胞レスキュー」または「SCR」と呼ばれる)の調製としてそれを行っており;しかし、以下の表2に示されるように、MBTは、SCRが有益であることが示されていない様々なタイプの悪性腫瘍の処置タイプとしても使用することができる。[Riley, et al., ”Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.” Journal of Clinical Laboratory Analysis (2005)19:47-79]。
【0136】
【表2-1】
【表2-2】
【0137】
一般に、MBTレジメンは、アルキル化剤(単剤タイプまたは、複数)を含むHDCで構成され、TBIの有無にかかわらず提供される。そのようなレジメンは、骨髄造血を切除し、それにより、自家血液学的回復を可能にしないことが予想される。[Gyurkocza,Boglarka,and Brenda M Sandmaier.“Conditioning regimens for hematopoietic cell transplantation:one size does not fit all.” Blood(2014)vol.124,3:344-53)、特定のMBTレジメンの例は、Atilla,E.,Ataca Atilla,P.,& Demirer,T.A Review of Myeloablative vs Reduced Intensity/Non-Myeloablative Regimens in Allogeneic Hematopoietic Stem Cell Transplantations.Balkan medical journal,(2017)34(1),1-9が挙げられる]。
【0138】
【表3-1】
【表3-2】
【0139】
全身照射(TBI)。TBIおよび高線量TBIは、その免疫抑制特性、ほとんどの白血病およびリンパ腫に対する有効性、ならびに保護部位への透過能力により、コンディショニングレジメンの一部として広く使用される。レジメンの大部分は、通常分割される(放射線の総線量が数日間にわたっていくつかのより少ない線量に分割される場合を意味する)12~16GyのTBIを、他の化学療法剤、最も一般的には、シクロホスファミドと、その抗悪性腫瘍および免疫調節特性に基づいて組み合わせた。一般に、高線量のTBIは、再発リスクを低減するが、増加した、多くの場合、致命的な胃腸毒性、肝臓毒性、および肺毒性、続発性悪性腫瘍、ならびに子供の成長および発達の障害をもたらした。照射線量に加えて、線量率、分割、分割の間隔、および放射線源(例えば、コバルト60対線形加速器)などの他の要因は、また、TBIの抗悪性腫瘍および毒性作用の両方に影響を与え得る。分割は、白血病細胞とは、対照的に、正常組織に保持される完全な修復機序の割合が高いことによる、臓器毒性の低下をもたらしたが、抗腫瘍効果も持続した。肺シールドを伴う過分割(1日当たり複数の分割)により、間質性肺炎の発病率が4%減少し、肺シールドを伴わない単一分割TBIで観察された50%から減少した。現在使用されているTBIスケジュールの大部分は、分割または、過分割される。シクロホスファミドに加えて、シタラビン(AraC)、エトポシド、メルファラン、およびブスルファンなどの様々な薬剤が、コンディショニングレジメンとして高線量TBIと組み合わされる。(Gyurkocza,Boglarka,and Brenda M Sandmaier.“Conditioning regimens for hematopoietic cell transplantation:one size does not fit all.”Blood(2014)vol.124,3:344-53)。
【0140】
コンディショニングレジメンのどの構成要素が所与のあらゆる毒性の原因であるかを必ずしも区別することができないが、高線量TBIの施行は、即時および遅延毒性に関連する。悪心、嘔吐、一過性の急性耳下腺炎、口内乾燥症、粘膜炎、および下痢は、一般的に、観察される急性合併症である。間質性肺炎、特発性肺線維症、および肺の肺機能の低下も、高線量TBIに関連し得る。さらに、高線量TBI後に、腎障害が発症し得、遅延し得る(すなわち、最大約2年)。類洞閉塞症候群(SOS;以前は、肝臓の静脈閉塞症として既知)の発症は、以下に記載の化学療法ベースのレジメンにおいてより一般的である。高線量TBIの長期的な副作用は、不妊症、白内障の形成、甲状腺機能亢進症および甲状腺炎、ならびに続発性悪性腫瘍を含む。(Gyurkocza,Boglarka,and Brenda M Sandmaier.“Conditioning regimens for hematopoietic cell transplantation:one size does not fit all.”Blood(2014)vol.124,3:344-53)。
【0141】
大量化学療法(HDC)。HDCの主要構成要素は、好ましい毒性プロファイル(用量制限毒性としての骨髄毒性)および非分裂腫瘍または、悪性細胞に対するそれらの効果による、アルキル化剤の送達である。使用することができる他の薬剤としては、アントラサイクリンおよびタキサンが挙げられる。特に、以前に放射線療法を受けた患者において、高用量のTBIに関連する短期および長期の毒性を回避するために、大量化学療法ベースのレジメンは、TBIが追加の化学療法剤に置き換えられる自家および同種異系の設定の両方で開発されている。アルカリ化剤(Alkalyating agents)は、多くの場合、免疫抑制剤と共に送達され、処置は、ブスルファン、シクロホスファミド、または、フルダラビン、メルファラン、チオテパ、エトポシド、およびトレオスルファンなど、ならびにそのような治療薬の組み合わせを含み得る。(Gyurkocza,Boglarka,and Brenda M Sandmaier.“Conditioning regimens for hematopoietic cell transplantation:one size does not fit all.”Blood(2014)vol.124,3:344-53)。
【0142】
MBTの形態学的影響。MBTを受けている患者の骨髄の形態学的特徴は、細胞死および造血再構成の重複するプロセスにより決定される。積極的な化学療法は、単独でまたは、TBIと共に、数日間でほぼ全ての造血細胞および免疫細胞の除去をもたらす。この期間の終わりに、骨髄は、非常に低細胞性であり、インタクトな間質は、フィブリノイド壊死に似た均質な過ヨウ素酸シッフ(PAS)陽性のタンパク性漏出液を含有する。ごく少ない残存形質細胞およびマクロファージが通常存在し、血管の鬱血、非特異的出血の領域、小さな非乾酪性肉芽腫、間質浮腫、好酸球増加症、軽度のレチクリン線維症、副鼻腔拡張症、骨細胞壊死、および他の異常が見られることがある。幹細胞レスキューの有無にかかわらず、MBT後の赤血球、血小板、および顆粒球の正常なレベルの回復に数週間の期間が必要とされるが、造血系の完全な機能的再構成が数年にわたって行われる。さらに、骨髄破壊的化学療法または、骨髄移植後の、末梢血細胞数の相対的に急速な回復にもかかわらず、数ヶ月~数年間、連続する重度の細胞性および体液性免疫不全がある。[Gyurkocza,Boglarka,and Brenda M Sandmaier.“Conditioning regimens for hematopoietic cell transplantation:one size does not fit all.”Blood vol.124,3(2014):344-53]。
【0143】
骨髄から悪性前駆細胞をパージする骨髄破壊的およびコンディショニングレジメンは、また、非悪性の造血および間質前駆細胞を除去または、損傷する場合もあり、これにより、移植および天然の幹細胞の再生能力の低下がもたらされる場合がある。この欠陥は、移植後の末梢血塗抹標本または、骨髄生検の検査から、必ずしも明らかであるとは、限らない。末梢血細胞数および骨髄細胞性が移植前のレベルに達し得るものの、骨髄移植後も赤芽球および巨核球の骨髄前駆細胞の重度の長期にわたる欠陥が、何年にわたり続き得る。骨形成系統の細胞の前駆間質区画であるコロニー形成単位-線維芽細胞(CFU-f)は、造血細胞の生存、増殖、および分化に重要である。CFU-fの再構成は、移植前の数に達するまでに12年もかかることがあり、宿主由来のみである。
【0144】
幹細胞レスキュー(SCR)療法
幹細胞レスキュー(または、レスキュー移植)は、高用量の抗がん剤または、放射線療法による処置により破壊された造血幹細胞を置き換える方法である。これは、通常、処置前に保存された患者自身の幹細胞を使用して行われる。幹細胞は、骨髄が回復し、健康な血球を生成するのを助ける。幹細胞のレスキューは、また、より多くのがん細胞が死滅するように、より多くの化学療法または、放射線療法を与えることを可能にし得る。
【0145】
通常、MBT後に、患者は、全身性悪性腫瘍、遺伝性代謝性疾患、または、造血系もしくは、免疫系の潜在的に致命的な疾患を治癒する目的で、骨髄または、末梢血のいずれかから分離された造血幹細胞の注入を受けるであろう。骨髄不全、悪性腫瘍、ならびに先天性造血および免疫不全状態の患者における骨髄移植の根本的理由は、罹患骨髄の除去後の骨髄再増殖のために正常な幹細胞を供給するためである。新しい骨髄の再生(「骨髄再構成」)は、幹細胞前駆細胞から、または、頻度は、低いものの、残存宿主前駆細胞から、骨髄破壊的治療からの回復中に生じる。[Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79]。
【0146】
幹細胞レスキューの形態学的特徴。化学療法直後または、移植後の期間に、通常、1~2週間の顕著な骨髄形成不全(発生の不完全、遅延、または、欠陥を意味する)が続く。脂肪細胞の再生は、骨髄再生の最初の形態学的証拠を提供し、続いて、6~14日目に、徐々に成熟して拡大する未成熟な単型造血細胞の微細なクラスターの出現が続く。これらのコロニーは、単一の造血系列(「単系」)の細胞、通常は、骨髄または、赤血球で構成され、おそらく骨髄移植患者のコミットされた幹細胞から生じる。再生コロニーは、骨髄移植のみを受けている患者の傍小柱であり、幹細胞移植後に間質性である傾向がある。移植後の非常に初期の造血は、通常、ポリクローナルであるが、モノクローナルであってよい。初期の赤血球生成島は、通常、赤血球異形成の特徴を示し得る大きな好塩基性正赤芽球の影響を受ける。造血再構成が続くにつれて、骨髄中の造血細胞の分布は、多くの場合、非定型であり、その結果、骨髄前駆体のクラスターは、小柱間領域に異常に局在し、赤血球前駆体は、骨内膜の近くで生じる。巨核球は、通常、最後に生着する。それらは、通常、小柱間領域の中央部分に局在しており、通常の散乱分布では、なく、クラスターで現れることがある。マクロファージ、偽ゴーシェ細胞、および再生中の前骨髄球のシートも現れることがある。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0147】
正常な骨髄細胞性への段階的な回復は、浮腫の解消、レチクリン線維症(レチクリン染色の増加を意味する)、およびフィブリノイド壊死(ピンク色であり、フィブリン(従ってフィブリノイド)に似ている小動脈または、動脈の壁に生ずる壊死の一種を意味する)を伴い;それは、細胞壁の実際の死または、壊死を表す)。骨髄は、移植後3週目までに約50%の正常細胞であり、8~12週までに正常細胞でなければならない。初期の造血から正常な骨髄細胞性への進行の経時変化は、非常に変動的であり;わずか14日で正常な細胞性を達成し得る患者もいれば、数ヶ月を要する患者もいる。しかし、28日が典型的である。生着の動態は、ドナー細胞の供給源(例えば、末梢血幹細胞、臍帯血、骨髄)、注入されたCD34+細胞の用量、外因性造血増殖因子の種類および用量(すなわち、G-CSF、rhGM-CSF、エリスロポエチン)、ならびにHLAクロスマッチングにより決まる。骨髄の回復率は、移植された細胞のホーミング効率およびクローン原性能により、ならびに、注入された細胞が、注入前にin vitroで増殖したかどうかにより、影響を受ける。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0148】
末梢血では、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)により、総白血球数、ならびに好中球、単球、および好酸球の絶対数の増加を引き起こす。骨髄に対するそれらの影響は、好酸球過形成、および細胞性および骨髄:赤血球(M:E)比の増加を含む。さらに、顕著に顆粒化および/または、空胞化した好中球および好中球前駆体が末梢血および骨髄の両方に現れる。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0149】
MBTおよびSCRの血液学的影響
【0150】
骨髄移植による幹細胞のレスキューは、多くの場合、固形臓器移植と比較されるが、いくつかの点で独特である。骨髄が、液体の「臓器」であるので、互換性のある臓器のサイズ、胆管、および尿管の閉塞、および他の外科的問題は、見られない。骨髄が正常な個体によって急速に補充されるので、死体の臓器は、必要とされず、生きているドナーは、永続的な臓器の機能不全を維持しない。患者は、後の輸血(自家SCR)のために自らの骨髄を提供し得る。しかし、別の個体から骨髄提供を受けている移植レシピエント(同種異系SCR)は、移植片対宿主病(GVHD)として既知の移植片拒絶反応および移植片による宿主拒絶反応の問題に直面する。さらに、骨髄移植レシピエントは、骨髄再構成が生じるまで、非常に免疫抑制され、それらは、この期間中は、日和見感染および他の障害に極めてかかりやすい。それ故、骨髄移植によるSCRは、非常に費用のかかる仕事であり、大きな罹患率および死亡率を有する。従って、この手順の適応は、限られており、潜在的なレシピエントは、徹底的で、潜在的に長いスクリーニングプロセスを受ける。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。以下の表は、MBTおよび/または、SCRの有害な血液学的結果の概要を簡潔に示す。
【0151】
【表4】
【0152】
多くの要因が、骨髄移植によるSCR後の転帰不良(「移植片不全」)または、直近に生着した骨髄組織の喪失(「移植片拒絶」)を引き起こし得る。一般に、最初の生着の不全(一次移植片不全)は、ドナーおよびレシピエント間の遺伝的差異、損傷した幹細胞または、不十分な数の幹細胞、不十分な免疫抑制または、移植前コンディショニング、以前の複数回の血液輸血による同種免疫処置、生着材料の過剰なT細胞枯渇、宿主の骨髄における異常な微小環境、異常なドナー骨髄、薬物毒性、または、ウイルス感染によるものである。生着後の移植片不全(二次移植片不全)は、薬物毒性、感染症、線維症、または、細胞媒介性免疫反応の結果として生じる。[Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis (2005)19:47-79)]。
【0153】
免疫学的に媒介された骨髄急性移植片拒絶反応は、3つの状況:1)多重輸血された再生不良性貧血患者、2)主要な組織適合性不一致ドナー由来の骨髄を受けた患者、および、3)T細胞枯渇骨髄を受けた患者で特に一般的である。急性拒絶反応の発生率は、兄弟から免疫学的に操作されていないHLA適合移植を受けた患者では、わずか約1%であるが、T細胞枯渇表現型適合移植を受けた患者では、8~15%に増加する。
【0154】
移植片拒絶反応は、主に、移植前のコンディショニングレジメンを生き残り、同種移植された骨髄で増殖し、次に、ドナー細胞の成長を抑制し、ドナー標的に対する細胞媒介性応答を開始する宿主Tリンパ球によって引き起こされる。拒絶のわずかに異なる機序は、異なる患者集団内で含まれる場合がある。これは、サプレッサーTリンパ球(CD3+CD8+CD57+)が、同種移植片拒絶反応を受けているHLA適合兄弟で優勢であるが、細胞傷害性Tリンパ球(CD3+CD8+CD57-)は、無関係のドナーからHLA適合同種移植片を受ける骨髄移植患者の拒絶で判明するためである。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0155】
血小板の一次移植後の回復後の重度の血小板減少症(「二次血小板回復不全」または「SFPR」)は、重篤な合併症、不十分な臨床転帰、またはさらに死に関連する。血小板減少症は、同種異系移植を受けた患者のうち20%もの多くの患者に生じるが、自家移植では発病率がはるかに低く(8%)なる。サイトメガロウイルス感染は、いくつかの研究者群によりSFPRの発症の重大な危険因子として関係するとされている。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0156】
形態学的には、生着不全または生着遅延患者由来の骨髄穿刺塗抹標本は、著しく低細胞性であり、間質細胞が優勢であるが、コア生検および血餅切片は、多くの場合、組織球(結合組織に存在する定常食細胞)のびまん性増殖を示す。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0157】
臨床的には、初期の移植片不全(移植の50日後を超えて)は、宿主Tリンパ球増加症(CD3+、CD8+、DR+)により現れるが、後期の移植片不全(移植の50日以降)は、遅発性顆粒球形成再生、不明熱、および腹部の総合的症状の症候群と関連する。移植片拒絶反応は、多くの場合、進行性リンパ球増加症(リンパ球数の増加)および絶対好中球数の突然の低下の後に生じる。継続的に良好な生着の場合の予後は、リンパ球増加症が生じると不良となるが、ドナーリンパ球の注入は、少ない患者で良好であった。高リスク患者の予防療法は、プレコンディショニングレジメンに全身照射、全リンパ節照射、または免疫抑制剤の増加が含まれることに向けられる。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0158】
微小残存病変(MRD)
MRDは、寛解誘導療法(抗がん剤を用いる初期の処置を意味する)後の骨髄における白血病細胞の持続性であり、従来の形態学的評価による検出限界を下回る。これらの残存白血病細胞は、様々な形態の白血病からの「完全な」形態学的寛解を達成し、それにより、残存または再発骨髄疾患がもたらされる多くの患者において疾患再発の起こりうる原因であると考えられる。臨床的に適切なレベルのMRD検出の感度は確立されておらず、非常に少数の残存細胞を根絶する追加の治療法が、臨床および形態学的寛解の患者の生存率を改善することも証明されていない。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0159】
移植片対宿主病(GVHD)
GVHDは、同種骨髄移植後の罹患率および死亡率の主な原因である。それは、組織適合性骨髄輸血の症例の約50%で生じ、HLA不適合骨髄を用いた骨髄移植のほぼ全ての症例で生じる。中等度~重度の場合、GVHDは、大きな死亡率を有する(40~80%)。GVHDは、十分に理解されない複雑な免疫学的現象であるが、それは、通常、リンパ球サブセットの不均衡、同種抗原提示、およびサイトカインに対する異常な産生または応答性の増加の環境で生じるT細胞媒介性プロセスである。GVHDの急性型および慢性型の両方が認識される。
【0160】
急性GVHD(aGVHD)は、皮膚、胃腸管、および肝臓の「マイナー」組織適合性抗原の不一致に対するリンパ球の反応性を追跡する。GVHDの可能性の増加は、ドナーおよびホスト間のHLA格差、ドナーおよびホストの加齢、ドナーの同種感作、ドナーおよびレシピエント間の性別の不一致、調製レジメンの強度の増加、ならびにドナーT細胞の用量に関連する。臨床症状は、軽度の皮膚発疹、胃腸(GI)障害(悪心、嘔吐、下痢)、および肝機能検査の障害から、皮膚破壊、肝不全、血性下痢、および重度の免疫抑制を伴う生命を脅かす疾患まで様々である。骨髄輸血患者の約5~10%が、GVHDで死亡する。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0161】
慢性GVHD(cGVHD)は、急性プロセスに従うことも、de novo発症することもある。それは、骨髄移植レシピエントの25~65%に生じる。血小板数は、生存の予測因子であり;100,000/mL未満の血小板数は、50%を超える全体的な死亡率に関連する。cGVHDは、自己免疫現象を特徴とする免疫調節不全状態を表すと考えられ、臨床像は、皮膚、GI管、および肝臓が関与する自己免疫疾患に似ている。循環する自己抗体が存在し、補体および免疫グロブリンの沈着物が真皮-表皮接合部で同定されている。cGVHDのリスク要因は、以前のaGVHD、より高齢のドナーまたはレシピエントの年齢、HLAミスマッチ、無関係のドナーの使用、ウイルス感染、脾臓摘出、ドナーリンパ球注入(DLI)、およびcGVHDを処置するための末梢血幹細胞の使用を含む。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0162】
骨髄線維症
軽度の一過性レチクリン線維症は、化学療法後では珍しくないが、重度のコラーゲン線維症は、慢性骨髄性白血病に特有である。骨髄線維症は、レチクリン線維密度の増加、重症の場合、CD61+巨核球形成の数の増加、CD68+マクロファージの増加、赤血球前駆体の数の減少、および血小板数の増加を特徴とする。通常、移植後の骨髄線維症の初期退行があるが、それは、多くの場合、造血の再生領域で再発し、非定型の矮性巨核球の存在、重度の急性GVHD、および輸血の独立を達成するための時間の大幅な遅延に関連する。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0163】
治療関連の急性白血病
治療に関連する急性骨髄性白血病(t-AML)は、細胞毒性化学療法および/または放射線療法から生じる続発性白血病の一形態である。以前の悪性腫瘍に対する大量化学療法後のt-AMLの発病率は徐々に増加しており、t-AMLは、小児および成人の両方の集団で最も一般的な続発性悪性腫瘍の1つである。グルタチオンS-トランスフェラーゼP1、M1、およびT1の多型またはホモ接合型遺伝子欠損は、化学療法薬の解毒が不十分なために、t-AMLの発生率の増加に関与することがある。ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、骨髄腫、多発性赤血球増加症、乳癌、卵巣癌、精巣癌、またはde novo急性リンパ芽球性白血病(ALL)が処置された患者は、t-AMLを発症するリスクが最も高くなり、続発性AML患者の50%超が乳癌、NHL、およびホジキンリンパ腫を有する。示されるように、t-AMLとは対照的に、治療関連ALLの発病はまれであり、MBTで使用されるような以前の薬剤の使用の適応症は限られる。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0164】
移植後のリンパ増殖性疾患(PTLD)
PTLDは、骨髄または固形臓器移植を受けた患者の免疫抑制療法の結果として発症するリンパ系新生物である。移植後のリンパ増殖性疾患の範囲は、良性から悪性のモノクローナルまたはポリクローナルリンパ増殖までにおよび、それは、固形臓器移植レシピエントの約2%、自家骨髄移植レシピエントの約1%、ならびにHLA不適合同種骨髄移植、ならびに抗CD3モノクローナルOKT3、シクロスポリンA、およびFK506などのGVHDの免疫抑制療法を受けることを含む複数の危険因子を有する患者の最大20%で生じる。エプスタイン・バールウイルスは、原発性または再活性化のいずれかで、PTLDの発症と強く関連する。免疫監視の障害、同種移植片からの慢性的な抗原刺激、および免疫抑制療法の発がん効果は、PTLDをもたらす追加の要因である。PTLDを伴う固形臓器移植レシピエントの典型的な結節外病変とは対照的に、PTLDを伴う骨髄同種移植レシピエントは、多くの場合、結節および結節外の両方の部位を含む広範な疾患を有する。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0165】
有毒な脊髄症
有毒な脊髄症は、骨髄の間質および間葉系構成要素への毒性損傷によって引き起こされるまれな骨髄病変である。持続性血球減少症は、中毒性脊髄症の臨床的特徴であり;骨髄は、浮腫、血管周囲形質細胞症、好中球顆粒球の壊死症、および細胞破片を含む、顕著な間質損傷を伴う低細胞性である。有毒な脊髄症は、化学療法または放射線療法を受ける患者の1%未満で生ずる。(Riley,et al.,“Hematologic Aspects of Myeloablative Therapy and Bone Marrow Transplantation.“Journal of Clinical Laboratory Analysis(2005)19:47-79)。
【0166】
これらの状態の、全てではないが、多くは、不十分なMBT療法を介した疾患/悪性細胞の不完全な除去、不適切な幹細胞レスキュー、MBT後に通常必要とされる免疫抑制剤の使用、または骨髄環境の損傷から生ずる。良好なSCRおよび/または関連状態の阻止は、MBTを受ける患者の造血システムとの関連することがある。組織特異的微小環境内の慢性炎症が、支持ニッチ細胞がそれらの同族幹細胞を適切に育成する能力を損ない、それにより、SCRおよび造血再構成を妨げると仮定されている。(Wagers,A.J.The stem cell niche in regenerative medicine.Cell stem cell(2012)10,362-369,doi:10.1016/j.stem.2012.02.018;Lane,S.W.,Williams,D.A.& Watt,F.M.Modulating the stem cell niche for tissue regeneration.Nature biotechnology(2014)32,795-803,doi:10.1038/nbt.2978;Schepers,K.,Campbell,T.B.& Passegue,E.Normal and leukemic stem cell niches:insights and therapeutic opportunities.Cell stem cell(2015)16,254-267,doi:10.1016/j.stem.2015.02.014 911)。
【0167】
骨髄抑制からの回復
免疫再構築は、未成熟から成熟した免疫機能まで発達する一般的なパターンに従う。[Carson K.et al.,Chapter 35-Reimmunization after stem cell transplantation,”in Hematopoietic Stem Cell Transplantation in Clinical Practice(2009);Butler,J.M.et al.Endothelial cells are essential for the self-renewal and repopulation of Notch-dependent hematopoietic stem cells.Cell stem cell(2010)6,251-264,doi:10.1016/j.stem.2010.02.001;Kobayashi,H.et al.Angiocrine factors from Akt-activated endothelial cells balance self-renewal and differentiation of haematopoietic stem cells.Nature cell biology(2010)12,1046-1056,doi:10.1038/ncb2108;Winkler,I.G.et al.Vascular niche E-selectin regulates hematopoietic stem cell dormancy,self renewal and chemoresistance.Nature medicine(2012)18,1651-1657,doi:10.1038/nm.2969;Ding,L.,et al.,Endothelial and perivascular cells maintain haematopoietic stem cells.Nature(2012)481,457-462,doi:10.1038/nature10783;Poulos,M.G.et al.Endothelial jagged-1 is necessary for homeostatic and regenerative 947 hematopoiesis.Cell reports(2013)4,1022-1034,doi:10.1016/j.celrep.2013.07.048;Greenbaum,A.et al.CXCL12 in early mesenchymal progenitors is required for haematopoietic stem-cell maintenance.Nature(2013)495,227-230,doi:10.1038/nature11926;Doan,P.L.et al.Epidermal growth factor regulates hematopoietic regeneration after radiation injury.Nature medicine(2013)19,295-304,doi:10.1038/nm.3070]。移植後の最初の1か月間の免疫反応性は、非常に低く、自然免疫が最初に機能を回復する。[Ogonek,J.et al.,“Immune reconstitution after allogeneic hematopoietic stem cell transplantation”Front.Immunol.(2016)7:507.doi:10.3389/fimmu.2016.00507]。造血系列の再現は、再現可能な順序に従い、単球様細胞が末梢血中で最初に出現し、続いて顆粒球、次にNK細胞が続く。NK細胞の回復は、細胞数および機能的成熟の両方に関して、T細胞およびB細胞よりも大幅に優先される[Grzywacz,B.et al,Natural Killer Cell differentiation by myeloid progenitors,Blood(2011)117(13):3548-58]。細胞毒性および食作用機能は、100日目までに回復するが、Tリンパ球およびBリンパ球のより特殊な機能は、依然として、1年以上にわたって損なわれたままである場合がある。ある期間後、ほとんどの健康な骨髄レシピエントの免疫系の様々な構成要素が、同期して作用し始めるが、慢性移植片対宿主病(GvHD)の患者の免疫系は、依然として、抑制される。免疫再構築の遅延および不完全性により、患者は、同種HCT後の高い罹患率および死亡率に関連する感染症にかかりやすくなる。
【0168】
放射線曝露後の骨髄腔の造血再生および血管再生は、時間的に関連し、骨髄の血管再構成なしには造血再生はないことが、長い間知られている。現在、細胞毒性薬または全身照射による骨髄抑制後の造血再生は、骨髄類洞ネットワークおよび造血細胞、ならびに巨核球の成熟に相互依存していることが認識される。[Kopp,et.al.“The Bone Marrow Vascular Niche:Home of HSC Differentiation and Mobilization.“PHYSIOLOGY 20:349-356,2005;10.1152/physiol.00025.2005]。
【0169】
骨髄抑制は、循環する造血細胞のアポトーシスだけでなく、骨髄血管系の破壊にもつながる。類洞の複雑なネットワークは、規則的な血管壁がないので、特に、電離放射線の影響を受け、壊死、著しい拡張、ならびに血漿および血球の漏出を伴う明白な破壊の超微細構造の兆候を示す。骨髄類洞は、隣接する造血細胞自体によりサポートされているようである。このサポートを失うことは、安定性を失うことを意味し、これにより、放射線療法または、骨髄抑制化学療法後の骨髄腔内の出血がもたらされる。造血再生のプロセスでは、類洞が、再構築される。従って、造血および血管形成/血管新生のプロセスは、密接に関連する。[同上]。
【0170】
血管系は、化学療法後のHSCに保護ニッチを提供し、これにより、骨および造血の再生が促進される。[Sivan U,et al.,Role of angiocrine signals in bone development,homeostasis and disease.Open Biol.(2019) 9: 190144.http://dx.doi.org/10.1098/rsob.190144]。長期の静止状態のHSC(LT-HSC)は、類洞およびH型血管の両方に関連する。[同上、下記を引用:Kiel MJ,et al.(2005).SLAM family receptors distinguish hematopoietic stem and progenitor cells and reveal endothelial niches for stem cells.Cell 121,1109-1121;Kunisaki Y,et al.(2013).Arteriolar niches maintain haematopoietic stem cell quiescence.Nature 502,637-643]。血管ニッチは、照射後にHSC集団を再生するために不可欠である。[同上、下記を引用:Hooper AT,et al.(2009).Engraftment and reconstitution of hematopoiesis is dependent on VEGFR2 mediated regeneration of sinusoidal endothelial cells.Cell Stem Cell 4,263-274]。照射後の骨髄ECの移植は、造血を促進し、放射線感受性組織を保護する[同上、下記を引用:Poulos MG,et al,(2015) Vascular platform to define hematopoietic stem cell factors and enhance regenerative hematopoiesis.Stem Cell Rep.5,881-894,Chute JP,et al.(2007).Transplantation of vascular endothelial cells mediates the hematopoietic recovery and survival of lethally irradiated mice.Blood 109,2365-2372]。骨髄EC培養馴化培地を移植した照射マウスは、生存率の増加を示した。これにより、アンジオクライン因子が生存率を高め得るが、HSCの完全な喪失を補うことは、ないことが示される。NotchリガンドJAG-1の内皮特異的欠失は、HSC再生の障害を引き起こし、照射後の致死率を増加させる。[同上、下記を引用:Poulos MG,et al.(2013).Endothelial Jagged-1 is necessary for homeostatic and regenerative hematopoiesis.Cell Rep.4,1022-1034]。Notchシグナル伝達に加えて、ECは、Fgf-2、Bmp4、Igfbp2、およびアンジオポエチン1を上方調節して、造血幹前駆細胞(HSPC)を増殖させ[同上、下記を引用:Arai F,et al (2004) Tie2/angiopoietin-1 signaling regulates hematopoietic stem cell quiescence in the bone marrow niche.Cell 118,149-161,Kobayashi H,et al.(2010) Angiocrine factors from Akt-activated endothelial cells balance self-renewal and differentiation of haematopoietic stem cells.Nat.Cell Biol.12,1046-1056]、これにより、これらのアンジオクライン因子が照射後のHSCの保護に有用であり得ることが示される。(同上)。
【0171】
高齢骨髄ESは、高齢化したマウスの骨髄からレシピエントへのESの移植により示されるように、HSCを損ね、骨髄の偏りを促進する[同上、下記を引用:Chute JP,et al (2007) Transplantation of vascular endothelial cells mediates the hematopoietic recovery and survival of lethally irradiated mice.Blood 109,2365-2372]。高齢骨髄におけるPDGFR-β発現周細胞の減少は、播種性腫瘍細胞(DTC)の拡張に関連する。また、高齢骨髄分泌体は、骨中の乳癌細胞の増殖を促進する。H型ECは、放射線と化学療法に応答して拡張し、血流媒介のPDGF-B分泌を介して骨における再生血管生成を媒介し、これにより周細胞拡張を促進する[同上、下記を引用:Singh A,et al.(2019) Angiocrine signals regulate quiescence and therapy resistance in bone metastasis.JCI Insight 4,125679 (10.1172/jci.insight.125679]。
【0172】
世界の高齢者の人数は、未曾有のスピードで増加している。高齢化過程は、心血管と造血系の生命に危害を及ぼす疾患に対する感受性の増加に関連する。
【0173】
非アブレーション性と調節性移植の低下の進展によりBM移植を受ける高齢者の人数を著しく増加させたが、高齢化は、負の予後/失敗のリスク増加に関連する。これは、高齢者患者がHSC移植の成功に必要な骨髄機能破壊戦略に応答せず、かつ(通常に造血性悪性疾患や他の癌の治療に用いられる骨髄抑制療法の後に持続的な血球減少症も発症するからである。
【0174】
現在、造血系の高齢化、特にBMの高齢化がBMニッチの植え込みや再生にどのように影響するかについては、ほとんど深く理解されていない。血液系の高齢化は、血管完全性の喪失とHSC機能の顕著な変化に関連する。人数の増加と自己再生能力の喪失に加え、老年HSCは、骨髄の偏りと血液系悪性腫瘍の発症傾向の増加を示す。これらの変化の一部は、細胞固有の変化を反映するが、新しい証拠は、これらの欠陥の一部がBMマイクロエンバイロメント、特にBM血管ニッチによっても規制される可能性があることを示す。
【0175】
記載された発明は、トロンボスポンジン-1を高齢化促進要因の候補として同定した。実験は、進行中であり、この候補要因が高齢化した血液と血管系の機能能力を回復でき、骨髄血管の潜在力を利用して高齢化した血液系を若返らせることができることを示すか否かを決定する。高齢化促進因子の遮断は、高齢者の多器官床における血管機能と完全性を維持し、移植に用いられる老年HSCのインビトロ増幅を増強し、高齢者の骨再生を促進し、血管周囲の基質小生境細胞機能を維持し、血管周囲の基質小生境細胞機能を回復させ、あるいは、その両方、造血と血管系の早期高齢化を防止そ、高齢化した造血と血管系を回復させ、多器官の幹細胞機能を維持し、多臓器または、両方の幹細胞機能を回復させる、という利点を有する可能性がある。理論的に制限されない場合、血液と血管系を回復させることは、年齢に関連する造血欠陥を逆転させ全体の健康を回復させることに重要である。
【発明の概要】
【0176】
一態様によれば、本発明は、血管完全性の低下、造血幹細胞機能の低下またはその両方を含む骨髄の高齢化の造血微小環境における高齢化関連の造血障害を含む高齢化血液および血管系を若返らせる方法を提供し、前記方法は、トロンボスポンジン1(TSP1)であるアンギオクリン因子、スプライスバリアントまたはそれらのフラグメントの阻害剤と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を対象に投与するステップ、前記血管系を再生し、骨髄の造血再構成を促進するのに有効な治療量の多能性自己再生造血幹細胞(HSC)の移植を含む幹細胞共治療を選択的に実行するするステップ、および前記血液系を再生し、前記骨髄の造血再構成を促進するのに有効な治療量の内皮細胞(EC)の移植を含む血管内皮共治療を選択的に実行し、かつ前記骨髄の造血微小環境における炎症を軽減し、前記骨髄の造血微小環境における前記血管完全性を維持し、または造血コンパートメント内の細胞タイプの頻度と数量を増やして多系統の再構成を実行することのうちの一つまたは複数により、前記造血骨髄微小環境における造血回復を増強するステップを含む。
【0177】
いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、抗体、siRNAまたは合成シングルガイドRNAを含むCRISPR-によるTSP1遺伝子ノックアウトによって行われる。いくつかの実施形態によれば、前記抗体は、TSP1に対する非中和抗体である。いくつかの実施形態によれば、前記抗体は、TSP1に対する中和抗体である。いくつかの実施形態によれば、前記中和抗体は、クローンA4.1(Thermofisher、Invitrogen RRID AB_10988669)として市販される。前記HSCニッチは、造血幹細胞(HSC)、造血前駆細胞(HPC)、造血中に幹細胞プールサイズを調節する骨芽細胞を含む常在ニッチ細胞およびケモカインを含む分泌および膜結合因子を含み、ここで定常状態では、前記HSCは、ほとんど静止状態であるが、前記HPCは、活発に増殖し、毎日の造血に寄与し、前記血管ニッチは、骨髄内皮細胞(BMEC)を含む内皮細胞を含む内皮微小ニッチを含み、前記BMECは、活性化される場合、アンギオクリン因子の差別的産生をもたらす細胞クロストークのシステムを調整するアンギオクリン因子を産生する。
【0178】
いくつかの実施形態によれば、高齢BMECを含む前記HSCニッチの前記高齢骨髄造血微小環境内の前記高齢内皮微小環境は、mTORシグナル伝達の減少、mTORサブユニットの量の減少、mTOR触媒サブユニットのリン酸化の減少、mTOR転写標的遺伝子の発現の減少、またはmTOR触媒サブユニットのmTOR複合体1およびmTOR複合体2のタンパク質レベルの低下のうちの一つまたは複数を含む。いくつかの実施形態によれば、前記BMECによるmTORシグナル伝達の減少は、高齢HSCの高齢化に関連する機能障害を引き起こす。いくつかの実施形態によれば、トロンボスポンジン-1(TSP1)の発現レベルは、若い対照と比較する場合に高齢BMECで上方調節される。いくつかの実施形態によれば、STAT3経路、TGF-bシグナル伝達、IGF-1シグナル伝達またはHMGB1シグナル伝達の変化を含む、若いコントロールと比較する高齢BMECにおける遺伝子発現の変化によって表される上方調節された生物学的プロセスは、TSP1によって調節される。いくつかの実施形態によれば、前記血管完全性の低下は、内皮透過性の増加、内皮炎症の増加またはその両方を含む血管透過性の増加を含む。前記骨髄造血微小環境のHSCニッチにおける高齢化に関連する造血欠陥は、持続性炎症、HSC細胞性の増加、幹細胞プールサイズの増加、HSC静止の喪失、HSCアポトーシスの増加、HSC自己再生能力の喪失、前記HSCの骨髄性偏り分化の増加、骨髄機能破壊戦略の失敗のリスクの増加、または若い対照と比較する、移植後の骨髄ニッチの生着と再生の低減のうちの一つまたは複数を含む。いくつかの実施形態によれば、前記持続性炎症は、骨髄抑制性傷害に由来する。いくつかの実施形態によれば、前記骨髄抑制性傷害は、放射線、化学療法またはその両方への曝露を含む。いくつかの実施形態によれば、前記骨髄抑制性傷害は、化学療法を含む。いくつかの実施形態によれば、前記骨髄抑制性傷害は、骨髄破壊的である。いくつかの実施形態によれば、前記HSCの前記骨髄性偏り分化の増加は、リンパ球生成を犠牲にする。いくつかの実施形態によれば、前記HSC静止の喪失は、HSCの一時的な増加、HSCの長期的な枯渇およびHSCの長期的な再増殖能力の欠陥につながる。いくつかの実施形態によれば、内皮細胞mTORの過剰活性化は、HSCを静止からより活性な細胞周期に追い込む。いくつかの実施形態によれば、前記骨髄造血微小環境の前記HSCニッチにおける高齢化関連の造血障害は、HSC遺伝子発現の変化を含む。いくつかの実施形態によれば、高齢HSCにおける高齢化関連のHSC遺伝子発現の前記変化は、SELP、NEO1、JAM2、SLAMF1、PLSCR2、CLU、SDPR、FYB、ITGA6のうちの一つまたは複数の上方調節、およびRASSF4、FGF11、HSPA1B、HSPA1AまたはNFKBIAのうちの一つまたは複数の下方調節を含む。
【0179】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、造血幹細胞移植用の造血幹細胞製品を調製する方法を提供し、前記方法は、(a)造血幹細胞の体外培養物を準備するステップ、(b)抗TSP1抗体を含む抗体を(a)の造血幹細胞の前記培養物に投与して、処理された造血幹細胞集団を形成するステップ、(c)前記処理された造血幹細胞集団を体内で増殖させて、治療量の処理された造血幹細胞を含む造血幹細胞移植製品を形成するステップを含み、前記造血幹細胞移植製品の生着可能性は、未処理の対照と比較して増強される。
【0180】
いくつかの実施形態によれば、ステップ(a)の前記造血幹細胞は、ヒト対象に由来する。いくつかの実施形態によれば、ステップ(a)の前記造血幹細胞は、マウス対象に由来する。いくつかの実施形態によれば、前記抗TSP1抗体を含む前記抗体は、中和抗体である。いくつかの実施形態によれば、前記抗TSP1抗体は、CD36、CD47またはその両方に対する抗体をさらに含む。いくつかの実施形態によれば、前記抗体は、ヒト化抗体である。いくつかの実施形態によれば、前記移植は、自己移植である。いくつかの実施形態によれば、前記造血幹細胞移植は、同種異系である。
【0181】
特許または出願ファイルは、カラーで実行された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面(複数可)を有する本特許または、特許出願の出版物のコピーは、要求に応じて、必要な料金の支払い時に、官庁により提供されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0182】
図1A】mTORC1およびMTorC2を調節する重要なシグナル伝達ノードを示すmTORシグナル伝達経路の概略図である。
図1B】mTORC1およびmTORC2経路の主要な出力を示す概略図である。(FIG.1A,1B,taken from Laplante,M.,Sabatini,DM,Cell(2012)149(2):274-293)。
図1C】PI3K/Akt/mTORシグナル伝達経路の模式図である。(Taken from Porta,C.et al,Frontiers in Oncol.(2014)doi 10.3389/fonc.2014.00064)。
図2A】高齢骨髄内皮細胞がmTORシグナル伝達の障害を示すことを示す。2Aは、若いマウスおよび高齢マウスにおけるPIK3CA/PIK3R1複合体の存在量を示す。データは、高齢マウスのBMECにおいてmTORサブユニットの存在量が減少することを示す。
図2B】高齢骨髄内皮細胞がmTORシグナル伝達の障害を示すことを示す。2Bは、若いマウスおよび高齢マウスにおける新たに単離したBMECの平均蛍光強度の定量化を示す。データは、mTOR蛍光体-Ser2448の減少を示す。
図2C】高齢骨髄内皮細胞がmTORシグナル伝達の障害を示すことを示す。2Cは、RT-PCRによるmTOR下流転写標的遺伝子の発現分析である。遺伝子発現は、ベータアクチンをコードするActb遺伝子に対して正規化された。
図2D】高齢骨髄内皮細胞がmTORシグナル伝達の障害を示すことを示す。2Dは、プールされた若いマウスおよび高齢マウスのサンプル(N=5)のウェスタンブロット分析を示す。高齢マウスにおいて、mTOR触媒サブユニット(p-mTOR S2448)、mTOR複合体1(p-S6K T389)、およびmTOR複合体2(p-AKT S473)におけるタンパク質レベルの低下を観察した。
図3A】mTORのEC特異的欠失(mTOR(ECKO))が高齢に関連するものを連想させるHSCの変化を引き起こしたことを示す。mTORは、mTORfl/flマウスを成体EC特異的VEcadherinプロモーター(mTOR(ECKO))によって駆動されるタモキシフェン誘導性creトランスジェニックマウスと交配することにより、成体ECから特異的に除去された。フローサイトメトリー分析は、若い(12-16週)mTOR(ECKO)マウスと若い(12-16週)対照マウスに対して実施されてHSCとその子孫の調節に対するEC特異的mTOR欠失の影響を決定し、22~24か月齢の野生型マウスは、高齢対照群とされた。mTOR(ECKO) 3Aは、全造血細胞/大腿骨のプロットであり、3Bは、表現型LT-HSC/106全骨髄のプロットであり、3Cは、末梢血からの系統+細胞%のプロットであり、3Dは、CFU/25000の全骨髄細胞のプロットであり、3Eは、偏光LT-HSC%のプロットであり、3Fは、細胞極性を区別するためのαTUBULIN染色の代表的な画像を示す。3Gは、細胞当たりのγH2AX病巣の数(x軸)対スコア化細胞のパーセンテージ(y軸)のプロットを示し、3Hは、γH2AX病巣の増加を示す代表的な画像を示し、および3Iは、転写プロファイルを示す。
図3B】mTORのEC特異的欠失(mTOR(ECKO))が高齢に関連するものを連想させるHSCの変化を引き起こしたことを示す。mTORは、mTORfl/flマウスを成体EC特異的VEcadherinプロモーター(mTOR(ECKO))によって駆動されるタモキシフェン誘導性creトランスジェニックマウスと交配することにより、成体ECから特異的に除去された。フローサイトメトリー分析は、若い(12-16週)mTOR(ECKO)マウスと若い(12-16週)対照マウスに対して実施されてHSCとその子孫の調節に対するEC特異的mTOR欠失の影響を決定し、22~24か月齢の野生型マウスは、高齢対照群とされた。mTOR(ECKO) 3Aは、全造血細胞/大腿骨のプロットであり、3Bは、表現型LT-HSC/106全骨髄のプロットであり、3Cは、末梢血からの系統+細胞%のプロットであり、3Dは、CFU/25000の全骨髄細胞のプロットであり、3Eは、偏光LT-HSC%のプロットであり、3Fは、細胞極性を区別するためのαTUBULIN染色の代表的な画像を示す。3Gは、細胞当たりのγH2AX病巣の数(x軸)対スコア化細胞のパーセンテージ(y軸)のプロットを示し、3Hは、γH2AX病巣の増加を示す代表的な画像を示し、および3Iは、転写プロファイルを示す。
図3C】mTORのEC特異的欠失(mTOR(ECKO))が高齢に関連するものを連想させるHSCの変化を引き起こしたことを示す。mTORは、mTORfl/flマウスを成体EC特異的VEcadherinプロモーター(mTOR(ECKO))によって駆動されるタモキシフェン誘導性creトランスジェニックマウスと交配することにより、成体ECから特異的に除去された。フローサイトメトリー分析は、若い(12-16週)mTOR(ECKO)マウスと若い(12-16週)対照マウスに対して実施されてHSCとその子孫の調節に対するEC特異的mTOR欠失の影響を決定し、22~24か月齢の野生型マウスは、高齢対照群とされた。mTOR(ECKO) 3Aは、全造血細胞/大腿骨のプロットであり、3Bは、表現型LT-HSC/106全骨髄のプロットであり、3Cは、末梢血からの系統+細胞%のプロットであり、3Dは、CFU/25000の全骨髄細胞のプロットであり、3Eは、偏光LT-HSC%のプロットであり、3Fは、細胞極性を区別するためのαTUBULIN染色の代表的な画像を示す。3Gは、細胞当たりのγH2AX病巣の数(x軸)対スコア化細胞のパーセンテージ(y軸)のプロットを示し、3Hは、γH2AX病巣の増加を示す代表的な画像を示し、および3Iは、転写プロファイルを示す。
図3D】mTORのEC特異的欠失(mTOR(ECKO))が高齢に関連するものを連想させるHSCの変化を引き起こしたことを示す。mTORは、mTORfl/flマウスを成体EC特異的VEcadherinプロモーター(mTOR(ECKO))によって駆動されるタモキシフェン誘導性creトランスジェニックマウスと交配することにより、成体ECから特異的に除去された。フローサイトメトリー分析は、若い(12-16週)mTOR(ECKO)マウスと若い(12-16週)対照マウスに対して実施されてHSCとその子孫の調節に対するEC特異的mTOR欠失の影響を決定し、22~24か月齢の野生型マウスは、高齢対照群とされた。mTOR(ECKO) 3Aは、全造血細胞/大腿骨のプロットであり、3Bは、表現型LT-HSC/106全骨髄のプロットであり、3Cは、末梢血からの系統+細胞%のプロットであり、3Dは、CFU/25000の全骨髄細胞のプロットであり、3Eは、偏光LT-HSC%のプロットであり、3Fは、細胞極性を区別するためのαTUBULIN染色の代表的な画像を示す。3Gは、細胞当たりのγH2AX病巣の数(x軸)対スコア化細胞のパーセンテージ(y軸)のプロットを示し、3Hは、γH2AX病巣の増加を示す代表的な画像を示し、および3Iは、転写プロファイルを示す。
図3E】mTORのEC特異的欠失(mTOR(ECKO))が高齢に関連するものを連想させるHSCの変化を引き起こしたことを示す。mTORは、mTORfl/flマウスを成体EC特異的VEcadherinプロモーター(mTOR(ECKO))によって駆動されるタモキシフェン誘導性creトランスジェニックマウスと交配することにより、成体ECから特異的に除去された。フローサイトメトリー分析は、若い(12-16週)mTOR(ECKO)マウスと若い(12-16週)対照マウスに対して実施されてHSCとその子孫の調節に対するEC特異的mTOR欠失の影響を決定し、22~24か月齢の野生型マウスは、高齢対照群とされた。mTOR(ECKO) 3Aは、全造血細胞/大腿骨のプロットであり、3Bは、表現型LT-HSC/106全骨髄のプロットであり、3Cは、末梢血からの系統+細胞%のプロットであり、3Dは、CFU/25000の全骨髄細胞のプロットであり、3Eは、偏光LT-HSC%のプロットであり、3Fは、細胞極性を区別するためのαTUBULIN染色の代表的な画像を示す。3Gは、細胞当たりのγH2AX病巣の数(x軸)対スコア化細胞のパーセンテージ(y軸)のプロットを示し、3Hは、γH2AX病巣の増加を示す代表的な画像を示し、および3Iは、転写プロファイルを示す。
図3F】mTORのEC特異的欠失(mTOR(ECKO))が高齢に関連するものを連想させるHSCの変化を引き起こしたことを示す。mTORは、mTORfl/flマウスを成体EC特異的VEcadherinプロモーター(mTOR(ECKO))によって駆動されるタモキシフェン誘導性creトランスジェニックマウスと交配することにより、成体ECから特異的に除去された。フローサイトメトリー分析は、若い(12-16週)mTOR(ECKO)マウスと若い(12-16週)対照マウスに対して実施されてHSCとその子孫の調節に対するEC特異的mTOR欠失の影響を決定し、22~24か月齢の野生型マウスは、高齢対照群とされた。mTOR(ECKO) 3Aは、全造血細胞/大腿骨のプロットであり、3Bは、表現型LT-HSC/106全骨髄のプロットであり、3Cは、末梢血からの系統+細胞%のプロットであり、3Dは、CFU/25000の全骨髄細胞のプロットであり、3Eは、偏光LT-HSC%のプロットであり、3Fは、細胞極性を区別するためのαTUBULIN染色の代表的な画像を示す。3Gは、細胞当たりのγH2AX病巣の数(x軸)対スコア化細胞のパーセンテージ(y軸)のプロットを示し、3Hは、γH2AX病巣の増加を示す代表的な画像を示し、および3Iは、転写プロファイルを示す。
図3G】mTORのEC特異的欠失(mTOR(ECKO))が高齢に関連するものを連想させるHSCの変化を引き起こしたことを示す。mTORは、mTORfl/flマウスを成体EC特異的VEcadherinプロモーター(mTOR(ECKO))によって駆動されるタモキシフェン誘導性creトランスジェニックマウスと交配することにより、成体ECから特異的に除去された。フローサイトメトリー分析は、若い(12-16週)mTOR(ECKO)マウスと若い(12-16週)対照マウスに対して実施されてHSCとその子孫の調節に対するEC特異的mTOR欠失の影響を決定し、22~24か月齢の野生型マウスは、高齢対照群とされた。mTOR(ECKO) 3Aは、全造血細胞/大腿骨のプロットであり、3Bは、表現型LT-HSC/106全骨髄のプロットであり、3Cは、末梢血からの系統+細胞%のプロットであり、3Dは、CFU/25000の全骨髄細胞のプロットであり、3Eは、偏光LT-HSC%のプロットであり、3Fは、細胞極性を区別するためのαTUBULIN染色の代表的な画像を示す。3Gは、細胞当たりのγH2AX病巣の数(x軸)対スコア化細胞のパーセンテージ(y軸)のプロットを示し、3Hは、γH2AX病巣の増加を示す代表的な画像を示し、および3Iは、転写プロファイルを示す。
図3H】mTORのEC特異的欠失(mTOR(ECKO))が高齢に関連するものを連想させるHSCの変化を引き起こしたことを示す。mTORは、mTORfl/flマウスを成体EC特異的VEcadherinプロモーター(mTOR(ECKO))によって駆動されるタモキシフェン誘導性creトランスジェニックマウスと交配することにより、成体ECから特異的に除去された。フローサイトメトリー分析は、若い(12-16週)mTOR(ECKO)マウスと若い(12-16週)対照マウスに対して実施されてHSCとその子孫の調節に対するEC特異的mTOR欠失の影響を決定し、22~24か月齢の野生型マウスは、高齢対照群とされた。mTOR(ECKO) 3Aは、全造血細胞/大腿骨のプロットであり、3Bは、表現型LT-HSC/106全骨髄のプロットであり、3Cは、末梢血からの系統+細胞%のプロットであり、3Dは、CFU/25000の全骨髄細胞のプロットであり、3Eは、偏光LT-HSC%のプロットであり、3Fは、細胞極性を区別するためのαTUBULIN染色の代表的な画像を示す。3Gは、細胞当たりのγH2AX病巣の数(x軸)対スコア化細胞のパーセンテージ(y軸)のプロットを示し、3Hは、γH2AX病巣の増加を示す代表的な画像を示し、および3Iは、転写プロファイルを示す。
図3I】mTORのEC特異的欠失(mTOR(ECKO))が高齢に関連するものを連想させるHSCの変化を引き起こしたことを示す。mTORは、mTORfl/flマウスを成体EC特異的VEcadherinプロモーター(mTOR(ECKO))によって駆動されるタモキシフェン誘導性creトランスジェニックマウスと交配することにより、成体ECから特異的に除去された。フローサイトメトリー分析は、若い(12-16週)mTOR(ECKO)マウスと若い(12-16週)対照マウスに対して実施されてHSCとその子孫の調節に対するEC特異的mTOR欠失の影響を決定し、22~24か月齢の野生型マウスは、高齢対照群とされた。mTOR(ECKO) 3Aは、全造血細胞/大腿骨のプロットであり、3Bは、表現型LT-HSC/106全骨髄のプロットであり、3Cは、末梢血からの系統+細胞%のプロットであり、3Dは、CFU/25000の全骨髄細胞のプロットであり、3Eは、偏光LT-HSC%のプロットであり、3Fは、細胞極性を区別するためのαTUBULIN染色の代表的な画像を示す。3Gは、細胞当たりのγH2AX病巣の数(x軸)対スコア化細胞のパーセンテージ(y軸)のプロットを示し、3Hは、γH2AX病巣の増加を示す代表的な画像を示し、および3Iは、転写プロファイルを示す。
図4】mTOR(ECKO)HSCが高齢HSC遺伝子シグネチャーを発現することを示す。4Aは、若いHSC転写データセットと高齢HSC転写データセットとの間の顕著な変化を比較するベン図である。4Bは、共通の高齢HSC遺伝子発現の変化を示す。リストされた遺伝子は、現在の研究と、HSCにおいて発現が確認された公開のデータセットとの間の発現の共有変化を示す(赤-高齢HSCで上方調節され、緑-高齢HSCで下方調節され)。太字の遺伝子は、すべてのデータセット間の一致した発現変化を含み、かつ高齢HSC発現シグネチャーを表す。高齢化に伴う発現の顕著な上方調節を示す十(10)個の遺伝子は、同定され、そのうちの9つがRT-qPCR分析によって確認された。mTOR(ECKO) 4Cは、mTOR(ECKO)および高齢マウスにおけるマイクロアレイ同定の高齢HSC遺伝子発現シグネチャーのRT-qPCR確認を示す。mTOR(ECKO)からのHSCが高齢HSC遺伝子発現シグネチャーを共有することに注意する。
図5】若いmTOR(ECKO)マウス、若い対照マウスおよび老齢対照マウスからのCD45.2+HSCを致死的に照射されたCD45.1マウスに競合的に移植した後、mTOR(ECKO)HSCが高齢造血欠陥を示すことを示す。X軸は、移植後数週間を示す。5Aは、全体的な生着CD45.2(y軸は、CD45.2+生着%を示す)を示し、5Bは、骨髄生着(y軸は、CD45.2+GR1+(CD11B+)生着%を示す)を示し、5Cは、B細胞生着(y軸は、CD45.2+B220+生着%を示す)を示し、5Dは、T細胞生着(y軸は、CD45.2+CD3+生着%を示す)を示す。
図6A】若い、mTOR(ECKO)、高齢マウスのBMECに対するプロテオミクス分析を示す。6Aは、若いマウスと比較する場合の、mTOR(ECKO)および高齢マウスから単離されたBMECにおける保存された遺伝子変化を示すヒートマップである。
図6B】若い、mTOR(ECKO)、高齢マウスのBMECに対するプロテオミクス分析を示す。6Bは、トロンボスポンジンー1(TSP1)が最も顕著に上方調節された遺伝子であり、かつ若い対照BMECと比較する場合、mTOR(ECKO)および高齢BMECの両方において最大の倍数変化を有することを実証するボルケーノプロットを示す。
図6C】若い、mTOR(ECKO)、高齢マウスのBMECに対するプロテオミクス分析を示す。6Cは、TSP1による血管新生の阻害が上方調節の生物学的プロセスのトップであることを実証する高齢およびmTOR(ECKO)BMECのインジェニュイティー経路分析を示す。
図6D】若い、mTOR(ECKO)、高齢マウスのBMECに対するプロテオミクス分析を示す。6Dは、若い=Y、高齢=O、mTOR(ECKO)=MのBMECにおける相対的なTSP1遺伝子発現を示す。
図6E】若い、mTOR(ECKO)、高齢マウスのBMECに対するプロテオミクス分析を示す。6Eは、若い=Y、高齢=O、mTOR(ECKO)=MのBMECにおけるTSP1タンパク質レベルを示す。
図7】若いマウスにおけるTSP1の阻害がHSCの数量および機能を増加させることを示す。7Aは、対照、TSP1-/-マウスおよびTSP-1に対する中和抗体(A4.1)の注入を受けた対照マウスにおける表現型LT-HSCの定常状態分析を示す。7Bは、前述のコホートから単離されたWBMを使用する前駆細胞コロニー形成アッセイの結果を示す。7Cは、前述のコホートからの競合的移植アッセイにおいて100個のLT-HSCが注入された場合の結果を示す。TSP1-/-マウスまたは、TSP-1阻害剤で処理されたマウスは、HSC機能の増加をもたらしたことに注意する。
図8】高齢TSP1-/-マウスがHSC機能を保持することを示す。8Aは、マウスを12ヶ月高齢化させた実験プロトコルの概略図を示す。合計3つのコホートで決定された表現型LT-HSCの定常状態分析をさらに示す。8Bは、前述のコホートから単離されたWBMを使用する前駆細胞コロニー形成アッセイの結果を示す。8Cは、100個のLT-HSCが前述のコホートからの競合的移植アッセイに注入された場合の結果を示す。高齢TSP1-/-マウスからのHSCが若い対照から単離されたHSCに似ていることに注意する。
図9】高齢TSP1-/-マウスがHSC機能を保持することを示す。9Aは、HSC移植およびRNA配列決定に使用する3つのコホート(若い対照、高齢対照および高齢TSP1マウス)を示す。9Bは、正規化されたmRNA発現(y軸)対HSC高齢化に関連する遺伝子(x軸)のバーグラフである。HSCは、9Aに示される3つのコホートから単離され、かつRNA配列決定に使用された。HSC高齢化に関連する遺伝子は、TSP1-/-マウスの高齢化HSCで減少した。9Cは、9Aの3つのコホート(x軸)におけるCD45.2生着%(y軸)のバーグラフである。9Dは、3つのコホートにおける、系統+細胞(CD45.2)%(y軸)対骨髄性末梢血細胞型(CD11b+/GR1+)、B細胞(B220+)およびT細胞(CD3+)集団(x軸)のバーグラフである。100個のLT-HSCは、3つのコホートからの競合的移植アッセイに注入された。高齢TSP1-/-マウスからのHSCが強化の長期にわたる多系統生着で若い対照から単離されたHSCに似ていることに注意する。
図10】TSP1が若いHSCの増殖に直接影響を与えることを示す。10Aは、外因性TSP1がHSCの増殖および機能に影響を与えることができるかどうかを試験するための体外増殖プロトコルを示す概略図である。10Bは、rTSP1(500ng/ml)、αTSP1中和抗体クローン1[ThermoFisher Scientific;MA5-13398]、αTSP1中和抗体クローン2[ThermoFisher Scientific;MA5-13385;Ms IgG1k IgG対照[ThermoFisher Scientific;MA5-13385]、αTSP中和抗体クローン3 ThermoFisher Scientific;MA5-13377、およびMs IgM CONTROL(x軸)[ThermoFisher Scientific;14-4752-82]で(左から右へ)処理された細胞のCD45.2移植%(y軸)のバーグラフである。11日間の増殖に続いて、HSCを競合的に移植し、移植後24ヶ月で生着を評価した。発明者らは、外因性TSP1がHSCの生着に深刻な悪影響を与えること、およびTSP1に対する中和抗体(クローン#3)が外因性TSPの欠陥を無効にし、かつ増殖のHSCの機能的出力を高めることができることを発見した。10Cは、骨髄系(CD11b/GR1+)、リンパ系[B220、B細胞;CD3 T細胞]の移植後24週間の系統分布を示す系統+細胞%(CD45.2、y軸)のバーグラフをである。
図11】TSP1が若いHSCの増殖に直接影響を与えることを示す。体外増殖の若いHSCは、PVAプロトコルにおいて対照およびTSP1グローバルノックアウト(KO)マウスから単離され、かつHSCは、競合的に移植された。11A(CD45.2生着%(y軸)対対照、TSP1-/-、αTSP1抗体処理[[ThermoFisher Scientific;MA5-13377](x軸))のバーグラフ)に示すように、長期間の多系統生着は、TSP1中和抗体で処理したHSCがTSP1ノックアウトHSCと同様に生着したことを示し、両方の条件は、対照HSCよりも優れる。11日間の増殖に続いて、HSCを競合的に移植し、かつ移植後24ヶ月で生着を評価した。11Bは、若い(対照、αTSP1処理)および高齢(対照、αTSP1処理)HSC(x軸)におけるCD45.2生着%(y軸)のバーグラフである。発明者らは、外因性TSP1がHSCの生着に深刻な悪影響を与えること、およびTSPに対する中和抗体(クローン#3)が外因性TSPの欠陥を無効にするだけでなく、増殖のHSCの機能的出力を高めることができることを発見した。11Cは、系統組成(CD45.2+%、y軸)対移植後24週間の骨髄系(CD11B+GR1+)、リンパ系(B細胞、B220+、T細胞、CD3+)、若い(対照、αTSP1処理)および高齢(対照、α-TSP1処理)(x軸)HSCのバーグラフである。
図12A】TSP1の阻害が健康的な高齢化を促進することを示す。12Aは、若い対照および高齢対照と並んで高齢TSP1マウスの代表的な画像を示す。高齢対照の毛髪が喪失および白髪化する一方、高齢TSP1マウスが若い対照と同様であることを注意する。
図12B】TSP1の阻害が健康的な高齢化を促進することを示す。12Bは、体重(g)(y軸)対若い対照、高齢対照および高齢TSP1 KOマウス(x軸)を示すバーグラフである。
図12C】TSP1の阻害が健康的な高齢化を促進することを示す。12Cは、若い対照、老齢対照および高齢TSP1 KOマウス(x軸)の骨髄微小環境におけるVEカドヘリン(赤)/ペリリピン(緑)/DAPI(青)染色を示す。
図12D】TSP1の阻害が健康的な高齢化を促進することを示す。12Dは、脂肪/体重比対対照およびTSP1 KOマウス(DEXAScan、y軸)を示す。
図12E】TSP1の阻害が健康的な高齢化を促進することを示す。12E、12Fおよび12Gは、対照およびTSP1 KOマウスの、コレステロール(12E)、インスリン(12F)および空腹時グルコースレベル(12G)の血液化学を示す。
図12F】TSP1の阻害が健康的な高齢化を促進することを示す。12E、12Fおよび12Gは、対照およびTSP1 KOマウスの、コレステロール(12E)、インスリン(12F)および空腹時グルコースレベル(12G)の血液化学を示す。
図12G】TSP1の阻害が健康的な高齢化を促進することを示す。12E、12Fおよび12Gは、対照およびTSP1 KOマウスの、コレステロール(12E)、インスリン(12F)および空腹時グルコースレベル(12G)の血液化学を示す。
図12H】TSP1の阻害が健康的な高齢化を促進することを示す。12Hは、対照およびTSP1 KOマウスにおける重量比に対する骨石灰化を決定するために使用されたDEXAScanを示す。
図12I】TSP1の阻害が健康的な高齢化を促進することを示す。12Iは、対照およびTSP1 KOマウスの前肢/後肢の握力を示す。
図13】内皮細胞におけるsiRNA送達を介するTSP1遺伝子発現のダウンレギュレーションを示す。
【発明を実施するための形態】
【0183】
定義
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈に別途明示のない限り、複数形の指示対象を含む。従って、例えば、「ペプチド」への言及は、当業者に既知の1つ以上のペプチド及びその等価物への言及である。
【0184】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、使用されている数の数値の±20%を意味する。従って、約50%は、40%~60%の範囲(両端を含む)を意味する。
【0185】
本明細書で使用される「適応免疫」という用語は、B細胞及びT細胞により媒介され、免疫記憶により特徴付けられる病原体または毒素からの宿主生物の保護を指す。適応免疫は、所与の抗原に非常に特異的であり、非常に適応性がある。
【0186】
治療手段と組み合わせて使用される場合の「投与すること」は、直接的に標的臓器、組織、もしくは細胞の中または上に、治療薬を与えるか、もしくは適用し、または対象に治療薬を投与し、それにより、治療薬が、標的とされる臓器、組織、細胞、または対象に正の影響を与えることを意味する。従って、本明細書で使用される場合、「投与すること」という用語は、アンジオクライン因子を含む組成物と組み合わせて使用される場合、標的臓器、組織、もしくは細胞内もしくは上に組成物を提供すること、または、治療薬が標的臓器、組織、もしくは細胞に到達するように、例えば、静脈内注射により患者に全身的に組成物を提供することを含み得るが、これらに限定されない。「投与すること」は、非経口、経口、または局所投与により、吸入により、または他の既知の手法と組み合わせたそのような方法により達成されてもよい。
【0187】
本明細書で使用される「老化」という用語は、成長すること、または老けて見えるとうになる過程を指す。本明細書で使用される「生理的老化」という用語及びその様々な文法形式は、生物学的機能及び代謝ストレスへの適応能力に影響を与える変化に関連する生物学的年齢の程度のことである。生理的老化を決定付ける要因には、暦年齢、遺伝、生活習慣、栄養、疾患、及びその他の状態が含まれるが、これらに限定されない。
【0188】
本明細書で使用される「血管新生」という用語は、新しい血管が、内皮細胞の「発芽」により既存の血管から形成され、それにより、血管樹が増殖するプロセスを指す。
【0189】
「アミノ酸」という用語は、アミノ基及びカルボキシル基の両方を含有する有機分子を指すために使用される。天然に存在するタンパク質の構成単位として機能するものは、アルファアミノ酸であり、アミノ基及びカルボキシル基の両方が同じ炭素原子に結合している。「アミノ酸残基」または「残基」という用語は、限定されないが、天然に存在するアミノ酸及び天然に存在するアミノ酸と同じように機能し得る天然アミノ酸の既知のアナログを含む、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに組み込まれるアミノ酸を指すために互換的に使用される。
【0190】
本明細書で、アミノ酸に使用される略語は、従来使用される以下の略語である:A=Ala=アラニン;R=Arg=アルギニン;N=Asn=アスパラギン;D=Asp=アスパラギン酸;C=Cys=システイン;Q=G1n=グルタミン;E=Glu=グルタミン酸;G=Gly=グリシン;H=His=ヒスチジン;I=Ile=イソロイシン;L=Leu=ロイシン;K=Lys=リジン;M=Met=メチオニン;F=Phe=フェニルアラニン;P=Pro=プロリン;S=Ser=セリン;T=Thr=スレオニン;W=Trp=トリプトファン;Y=Tyr=チロシン;V=Val=バリン。アミノ酸は、L-アミノ酸またはD-アミノ酸であってよい。アミノ酸は、ペプチドの半減期を増加させるために、またはペプチドの効力を増加させるために、またはペプチドの生物学的利用能を増加させるために、変更される合成アミノ酸により置き換えられてもよい。
【0191】
以下は、互いに保存的に置換されているアミノ酸のグループを表す:
【0192】
アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)、
【0193】
アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、
【0194】
アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、
【0195】
アルギニン(R)、リジン(K)、
【0196】
イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、及び
【0197】
フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0198】
本明細書で使用される「アゴニスト」という用語は、受容体を活性化して完全または部分的な薬理学的応答を誘導することが可能な化学物質を指す。受容体は、内因性または外因性のアゴニスト及びアンタゴニストのいずれかにより活性化または不活性化することができ、これにより、生物学的応答の刺激または阻害がもたらされる。生理学的アゴニストは、同じ身体的応答を生じる物質であるが、同じ受容体には結合しない。特定の受容体の内因性アゴニストは、その受容体に結合して活性化する、身体により自然に生成される化合物である。スーパーアゴニストは、標的受容体の内因性アゴニストよりも大きな最大応答を生じさせることが可能な化合物であり、従って、効率は100%を超える。これは必ずしも内因性アゴニストよりも強力であることを意味するのではなく、むしろ、受容体結合後に細胞内で生成することができる最大の可能な応答の比較である。完全アゴニストは、受容体に結合して活性化し、これにより、その受容体で完全な有効性が示される。部分アゴニストもまた、所与の受容体に結合して活性化するが、完全アゴニストと比較して、受容体において部分的な有効性しか有さない。インバースアゴニストは、その受容体のアゴニストと同じ受容体結合部位に結合し、受容体の構成的活性を逆転させる薬剤である。インバースアゴニストは、受容体アゴニストとは逆の薬理効果を発揮する。不可逆的アゴニストは、受容体が恒久的に活性化されるような方法で、受容体に恒久的に結合するアゴニストの一種である。アゴニストの受容体への会合が可逆的であるが、不可逆的アゴニストの受容体への会合が不可逆的であると考えられるという点で、それは、単なるアゴニストとは異なる。これにより、化合物がアゴニスト活性の短いバーストを生じ、続いて、脱感作及び受容体の内在化が引き起こされ、これは、長期処置と共に、よりアンタゴニストのような効果を生じる。選択的アゴニストは、ある特定タイプの受容体に特異的である。
【0199】
本明細書で使用される「血管新生」という用語は、新しい血管が、内皮細胞の「発芽」により既存の血管から形成され、それにより、血管樹が増殖するプロセスを指す。
【0200】
本明細書で使用される「アンジオクライン因子」という用語は、臓器の恒常性を維持し、幹細胞の自己複製及び分化のバランスをとり、臓器の再生及び腫瘍成長を調整する内皮細胞により産生された血管ニッチ由来のパラクリン因子を指す。アンジオクライン因子は、分泌型及び膜結合型の抑制性及び刺激性成長因子、トロフォゲン、ケモカイン、サイトカイン、細胞外マトリックス構成要素、エクソソーム、及びパラクリンまたはジャクスタクリン様式で恒常性及び再生プロセスの調節を助ける組織特異的ECにより供給される他の細胞産物を含む。これらの因子は、適応治癒及び線維性リモデリングにも関与する。アンジオクライン因子のサブセットは、再生臓器の形状、構造、サイズ、及びパターンを決定するために、モルフォゲンとして機能し得る。ECの各組織特異的ベッドのアンジオクラインプロファイルは異なり、臓器のECに隣接して見られる細胞型の多様性を反映する。アンジオクライン因子のサブセットが、構成的に産生されるが、いくつかの血管新生因子は、他の組織特異的アンジオクライン因子の産生を調節し得る。例えば、VEGF-Aは、VEGFR-1及びVEGFR-2との相互作用を通じて、定義されたアンジオクライン因子の発現を誘導する。同様に、(FGFR-1の活性化を介する)FGF-2及び(受容体Tie2との相互作用を介する)アンジオポエチンは、アンジオクライン因子の固有のクラスターの発現を引き起こす。TSP-1は、複雑な方法で機能し、幹細胞及び前駆細胞の分化に直接影響を与えるだけでなく、抑制性血管新生因子として機能し得る。臓器特異的ECからの文脈依存性アンジオクライン因子の産生を支配する分子プログラムは、未定義のままである。Rafii,S.,et al,“Angiocrine functions of organ-specific endothelial cells,”Nature(2016)529(7586):316-325)。
【0201】
表5は、例示的なアンジオクライン因子の用語集を、報告されている細胞源、細胞標的及び機能と共に提供する。
【0202】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【0203】
本明細書で使用される「動物」、「患者」、及び「対象」という用語は、ヒトならびに野生動物、飼育動物、及び家畜などの非ヒト脊椎動物を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、「動物」、「患者」、及び「対象」という用語は、ヒトを含む哺乳類を指すことがある。
【0204】
本明細書で使用される「アンタゴニスト」という用語は、別の物質の効果の影響を弱める物質を指す。
【0205】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、抗原の抗原決定基の特徴と相補的である内部表面形状及び電荷分布を有する3次元結合空間を有するポリペプチド鎖のフォールディングから形成される少なくとも1つの結合ドメインから構成されるポリペプチドまたはポリペプチドの群を指す。
【0206】
抗体分子全体の基本的な構造単位は、4つのポリペプチド鎖、2つの同一の軽(L)鎖(それぞれ、約220アミノ酸を含有)及び2つの同一の重(H)鎖(それぞれ、通常、約440アミノ酸を含有)から構成される。2本の重鎖及び2本の軽鎖は、非共有結合及び共有(ジスルフィド)結合の組み合わせにより結合している。分子は、2つの同一の半分で構成され、それぞれが、軽鎖のN末端領域及び重鎖のN末端領域で構成される同一の抗原結合部位を有する。通常、軽鎖及び重鎖の両方が協働して、抗原結合表面を形成する。ヒト抗体は、κ及びλの2種類の軽鎖を示し、免疫グロブリンの個々の分子は、一般に、一方または他方のみである。
【0207】
抗体は、単独で、または既知の手法により提供される他のアミノ酸配列と組み合わせたオリゴクローナル抗体、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、CDRグラフト化抗体、多重特異性抗体、二重特異性抗体、触媒抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、抗イディオタイプ抗体、及び可溶性または結合形態で標識することができる抗体、ならびにそれらのフラグメント、バリアントまたは誘導体であってよい。モノクローナル抗体(mAb)は、免疫されたドナー由来のマウス脾臓細胞をマウス骨髄腫細胞株と融合させて、選択培地で成長する確立されたマウスハイブリドーマクローンを得ることにより生成することができる。ハイブリドーマ細胞は、抗体分泌B細胞と骨髄腫細胞のin vitro融合から生じる不死化ハイブリッド細胞である。培養中の抗原特異的B細胞の一次活性化を指すin vitro免疫化は、マウスモノクローナル抗体を産生するもう1つの確立された手段である。末梢血リンパ球由来の免疫グロブリン重(VH)鎖及び軽(Vκ及びVλ)鎖可変遺伝子の多様なライブラリーも、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅により増幅することができる。重鎖及び軽鎖の可変ドメインがポリペプチドスペーサー(単鎖FvまたはscFv)で連結されている単一ポリペプチド鎖をコードする遺伝子は、PCRを使用して重鎖及び軽鎖のV遺伝子をランダムに組み合わせることにより作成することができる。次に、コンビナトリアルライブラリーを、ファージの先端にあるマイナーコートタンパク質に融合させることにより、糸状バクテリオファージの表面にディスプレイするためにクローニングすることができる。ガイド選択の手法は、齧歯類の免疫グロブリンV遺伝子とのヒト免疫グロブリンV遺伝子のシャッフリングに基づく。方法は、(i)目的の抗原と反応するマウスモノクローナル抗体の重鎖可変領域(VH)ドメインでヒトλ軽鎖のレパートリーをシャッフルすること;(ii)その抗原上の半ヒトFabを選択すること;(iii)選択されたλ軽鎖遺伝子を2回目のシャッフリングでヒト重鎖のライブラリーの「ドッキングドメイン」として使用して、ヒト軽鎖遺伝子を有するクローンFabフラグメントを単離すること;(v)遺伝子を含有する哺乳類細胞発現ベクターを用いたエレクトロポレーションによるマウス骨髄腫細胞をトランスフェクトすること;及び(vi)マウス骨髄腫において完全なIgG1、λ抗体分子として抗原と反応するFabのV遺伝子を発現させること、を必要とする。抗体は、いかなる種のものであってよい。抗体という用語はまた、本発明の抗体の結合フラグメントを含み;例示的なフラグメントには、Fv、Fab、Fab’、一本鎖抗体(svFC)、二量体可変領域(ダイアボディ)、及びジスルフィド安定化可変領域(dsFv)が挙げられる。構造的及び機能的ドメインは、ヌクレオチド及び/またはアミノ酸配列データを、公的または独自の配列データベースと比較することにより同定することができる。例えば、コンピューター化された比較方法は、既知の構造及び/または機能の他のタンパク質で発生する配列モチーフまたは予測されるタンパク質コンフォメーションドメインを同定するために使用することができる。既知の3次元構造にフォールディングされるタンパク質配列を同定する方法が、既知である。例えば、Bowie et al.Science 253:164(1991)(全体が参照により組み込まれる)を参照のこと。
【0208】
本明細書で使用される「抗体構築物」という用語は、リンカーポリペプチドまたは免疫グロブリン定常ドメインに連結された本発明の1つ以上の抗原結合部分を含むポリペプチドを指す。リンカーポリペプチドは、ペプチド結合によって連結された2つ以上のアミノ酸残基を含み、1つ以上の抗原結合部分を連結するために使用される。このようなリンカーポリペプチドは、当該技術分野で既知である(例えば、Holliger,P.,et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:6444-6448;Poljak,R.J.,et al.(1994)Structure2:1121-1123を参照のこと)。免疫グロブリン定常ドメインとは、重鎖または軽鎖定常ドメインを指す。ヒトIgG重鎖及び軽鎖定常ドメインアミノ酸配列が、当該技術分野で既知である。抗体全体のFab及びF(ab’)2フラグメントなどの抗体部分は、それぞれ、抗体全体のパパインまたはペプシン消化などの従来技術を使用して抗体全体から作製可能である。さらに、抗体、抗体部分及び免疫付着分子は、標準的な組み換えDNA手法を使用して得ることができる。
【0209】
本明細書で使用される場合、「抗原」または「免疫原」という用語は、免疫応答を誘発する物質を指すために互換的に使用される。「抗原決定基」または「エピトープ」は、分子上の抗原部位である。連続的な抗原決定基/エピトープは、本質的に線状鎖である。らせん状のポリマーまたはタンパク質などの整然とした構造では、抗原決定基/エピトープは、本質的に、互いに接近し得る分子の異なる部分のアミノ酸側鎖を含む構造内または構造の表面上の限定された領域またはパッチであるであろう。これらは、立体配座決定因子である。
【0210】
アポトーシス経路。アポトーシス細胞死は、多くの異なる要因により誘導され、多くのシグナル伝達経路を含み、カスパーゼプロテアーゼ(システインプロテアーゼのクラス)に依存するものもあれば、カスパーゼ非依存性のものもある。それは、細胞表面受容体、ストレスに対するミトコンドリア応答、及び細胞傷害性T細胞を含む、多くの様々な細胞刺激によって引き起こすことができ、これにより、アポトーシスシグナル伝達経路の活性化がもたらされる。
【0211】
アポトーシスに関与するカスパーゼは、タンパク質分解カスケードでアポトーシスシグナルを伝達し、カスパーゼが、他のカスパーゼを切断して活性化し、次に、細胞死を引き起こす他の細胞標的を分解する。カスケードの上端にあるカスパーゼは、カスパーゼ8及びカスパーゼ9を含む。カスパーゼ8は、Fasのようなデスドメイン(DD)を有する受容体に応答して関与する最初のカスパーゼである。
【0212】
TNF受容体ファミリーの受容体は、アポトーシスの誘導及び炎症性シグナル伝達に関連する。Fas受容体(CD95)は、他の細胞の表面に発現されるFasリガンドによるアポトーシスシグナル伝達を媒介する。Fas-FasL相互作用は、免疫系で重要な役割を果たし、このシステムの欠如は、自己免疫につながり、これにより、Fas媒介性アポトーシスが自己反応性リンパ球を除去することが示される。Fasシグナル伝達は、形質転換細胞及びウイルス感染細胞を除去するための免疫監視にも関与する。別の細胞上のオリゴマー化FasLへのFasの結合は、FAF、FADD、及びDAXを含むシグナル伝達アダプターと相互作用して、カスパーゼタンパク質分解カスケードを活性化するデスドメイン(DD)と呼ばれる細胞質ドメインを介してアポトーシスシグナル伝達を活性化する。カスパーゼ8及びカスパーゼ10は、最初に活性化され、次に、下流のカスパーゼ及び細胞死につながる様々な細胞基質を切断して活性化する。
【0213】
ミトコンドリアは、ミトコンドリアタンパク質の細胞質への放出を介してアポトーシスシグナル伝達経路に関与する。電子輸送の重要なタンパク質であるシトクロムcは、アポトーシスシグナルに応答してミトコンドリアから放出され、ミトコンドリアから放出されるプロテアーゼであるApaf-1を活性化する。活性化されたApaf-1は、カスパーゼ9及び残りのカスパーゼ経路を活性化する。Smac/DIABLOは、ミトコンドリアから放出され、通常は、カスパーゼ9と相互作用してアポトーシスを阻害するIAPタンパク質を阻害する。Bcl-2ファミリータンパク質によるアポトーシス調節は、ファミリーメンバーがミトコンドリア膜に入る複合体を形成する時に行われ、これにより、シトクロムc及び他のタンパク質の放出が調節される。アポトーシスを引き起こすTNFファミリー受容体は、カスパーゼカスケードを直接活性化するが、ミトコンドリア媒介性アポトーシスを活性化するBcl-2ファミリーメンバーであるBidも活性化し得る。別のBcl-2ファミリーメンバーであるBaxは、この経路により活性化されて、ミトコンドリア膜に局在し、透過性を高め、これにより、シトクロムc及び他のミトコンドリアタンパク質が放出される。Bcl-2及びBcl-xLは、細孔形成を防ぎ、アポトーシスをブロックする。シトクロムcと同様に、AIF(アポトーシス誘導因子)は、ミトコンドリアに見られるタンパク質であり、これは、アポトーシス刺激によりミトコンドリアから放出される。シトクロムCは、カスパーゼ依存性アポトーシスシグナル伝達に関連するが、AIF放出は、カスパーゼ非依存性アポトーシスを刺激し、核に移動して、DNAに結合する。AIFによるDNA結合は、おそらく、ヌクレアーゼの動員を通じて、クロマチン凝縮及びDNA断片化を刺激する。
【0214】
ミトコンドリアストレス経路は、ミトコンドリアからのシトクロムcの放出から始まり、次に、シトクロムcが、Apaf-1と相互作用して、これにより、カスパーゼ9の自己切断及び活性化が引き起こされる。カスパーゼ3、6、及び7は、上流のプロテアーゼにより活性化され、細胞標的を切断するように作用する下流のカスパーゼである。
【0215】
細胞傷害性T細胞により放出されるグランザイムB及びパーフォリンタンパク質は、標的細胞をアポトーシスに導き、これにより、膜貫通孔が形成され、おそらくカスパーゼの切断を介してアポトーシスが誘導されるが、グランザイムB媒介性アポトーシスのカスパーゼ非依存性機序が示唆されている。
【0216】
アポトーシスシグナル伝達経路により活性化されて、ヌクレオソームラダーを作成する複数のヌクレアーゼによる核ゲノムの断片化は、アポトーシスに特徴的な細胞応答である。アポトーシスに関与する1つのヌクレアーゼは、カスパーゼ活性化DNAse(CAD)であるDNAフラグメント化因子(DFF)である。DFF/CADは、アポトーシス中にカスパーゼプロテアーゼによる関連阻害剤ICADの切断により活性化される。DFF/CADは、トポイソメラーゼII及びヒストンH1などのクロマチン構成要素と相互作用して、クロマチン構造を凝縮し、おそらくCADをクロマチンに動員する。別のアポトーシス活性化プロテアーゼは、エンドヌクレアーゼG(EndoG)である。EndoGは、核ゲノムにコードされるが、正常細胞のミトコンドリアに局在する。EndoGは、ミトコンドリアゲノムの複製及びアポトーシスにおいて役割を果たすことがある。アポトーシスシグナル伝達は、ミトコンドリアからのEndoGの放出を引き起こす。EndoG経路が、依然として、DFFを欠く細胞で生じるので、EndoG及びDFF/CAD経路は独立している。
【0217】
低酸素症、及び低酸素症とそれに続く再酸素化は、シトクロムcの放出及びアポトーシスを引き起こし得る。ほとんどの細胞型で遍在的に発現されるセリン-スレオニンキナーゼであるグリコーゲンシンターゼキナーゼ(GSK-3)は、ミトコンドリアの細胞死経路を活性化する多くの刺激により、アポトーシスを媒介または増強するように見える。Loberg,RD,et al.,J.Biol.Chem.277(44):41667-673(2002)。カスパーゼ3の活性化を誘導し、アポトーシス促進性腫瘍抑制遺伝子p53を活性化することが実証されている。また、GSK-3は、アポトーシス促進性のBcl-2ファミリーメンバーであるBaxの活性化及び転座を促進し、凝集及びミトコンドリアの局在化時に、シトクロムcの放出を誘導することも示唆されている。Aktは、GSK-3の重要な調節因子であり、GSK-3のリン酸化及び不活性化は、Aktの抗アポトーシス効果の一部を媒介することがある。
【0218】
本明細書で使用される「オートクリンシグナル伝達」という用語は、細胞が、それ自体または同じタイプの他の隣接する細胞に作用するシグナル分子を分泌する、細胞シグナル伝達のタイプを指す。
【0219】
本明細書で互換的に使用される「自家」または「自己」という用語は、同じ生物に由来することを意味する。
【0220】
本明細書で使用される「オートファジー」という用語は、発達の重要な時期にエネルギー源のバランスをとり、栄養ストレスに対応するために重要であり、かつミスフォールドタンパク質または凝集タンパク質の除去、ミトコンドリア、小胞体、及びペルオキシソームなどの損傷を受けた細胞小器官の除去、ならびに細胞内病原体の除去の際にハウスキーピングの役割を果たす、自己分解的プロセスを指す。Glick,D.et al.,J.Pthol(2010)221(1):3-12)。オートファジーには3つの既定の種類、すなわち、マクロオートファジー、マイクロオートファジー、及びシャペロン介在性オートファジーがあり、その全ては、リソソームでの細胞質ゾル成分のタンパク質分解を促進する。マクロオートファジーは、オートファゴソームと呼ばれる二重膜結合小胞の媒介を介して細胞質カーゴをリソソームに送り、これにより、細胞質カーゴがリソソームと融合し、オートリソソームが形成される。対照的に、マイクロオートファジーでは、細胞質ゾル成分は、リソソーム膜の陥入を介してリソソーム自体によって直接取り込まれる。マクロオートファジー及びマイクロオートファジーの両方は、選択的機序及び非選択的機序の両方を介して大きな構造体を包み込むことができる。シャペロン介在性オートファジー(CMA)では、標的のタンパク質は、シャペロンタンパク質(Hsc-70など)との複合体で、リソソーム膜受容体のリソソーム関連膜タンパク質2A(LAMP-2A)によって認識され、リソソーム膜を通して移動され、それにより、アンフォールディングされ、分解される。
【0221】
本明細書で使用される「結合」という用語及び他の文法形式は、化学物質間の永続的な引力を意味する。
【0222】
抗体の「結合フラグメント」は、組み換えDNA手法により、またはインタクトな抗体の酵素的もしくは化学的切断により生成することができる。結合フラグメントは、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、及び一本鎖抗体を含む。
【0223】
「二重特異性」または「二官能性抗体」は、結合部位のそれぞれが同一ではない抗体である。ゆえに、「二重特異性」抗体構築物または免疫グロブリンは、異なる特異性を伴う少なくとも2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体または免疫グロブリンである。二重特異性抗体構築物は、ハイブリドーマの融合またはFab’フラグメントの連結を含む様々な方法によって作製することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann,Clin.Exp.Immunol.79:315-321(1990)を参照のこと。
【0224】
「二重特異性」または「二官能性」抗体以外の抗体は、その結合部位のそれぞれが同一であると理解される。
【0225】
本明細書で使用される「結合特異性」という用語は、特定のパートナーに結合すること、及び他の分子に結合しないことの両方を含む。機能的に重要な結合は、低~高の親和性の範囲で生じ得、設計要素は、望ましくない相互作用を抑制し得る。翻訳後修飾も、相互作用の化学的性質及び構造も変更し得る。「無差別結合」は、ある程度の構造的可塑性を伴ってもよく、これにより、異なるパートナーへの結合に重要な残基の異なるサブセットが生じ得る。「相対的結合特異性」は、生化学的システムにおいて、分子がその標的またはパートナーと差次的に相互作用し、それにより、個々の標的またはパートナーの同定に応じて、それらに明確に影響を与えるという特徴である。
【0226】
本明細書で使用される「バイオマーカー」(または「バイオシグネチャー」)という用語は、ペプチド、タンパク質、核酸、抗体、遺伝子、代謝産物、または生物学的状態の指標として使用される他の任意の物質を指す。これは、客観的に測定され、正常な生物学的プロセス、病原性プロセス、または治療的介入に対する薬理学的応答の細胞または分子の指標として評価される特性である。本明細書で使用される「指標」という用語は、時間の関数としての相対的変化;または、その実在もしくは存在が目に見えるか、もしくは証拠となるシグナル、サイン、マーク、ノート、もしくは徴候を明らかにし得る一連の観察された事実から導き出された任意の物質、数、または比率を指す。提案されたバイオマーカーが検証されていると、それは、個体における疾患リスク、疾患の存在を診断するために、または、個体の疾患の処置を調整(薬物処置または投与レジームの選択)するために、使用されてもよい。潜在的な薬物療法を評価する際に、バイオマーカーは、生存または不可逆的な罹患率などの自然な評価項目の代用物として使用されてもよい。処置によりバイオマーカーが変更され、その変更が健康の改善に直接関係する場合、バイオマーカーは、臨床的利益を評価するための代用評価項目として機能し得る。臨床評価項目は、患者がどのように感じるか、機能するか、または生存するかを測定するために使用することができる変数である。代用評価項目は、臨床評価項目の代わりとなることが意図されるバイオマーカーであり、これらのバイオマーカーは、規制当局及び臨床コミュニティに受け入れられる信頼水準で臨床評価項目を予測することが実証される。
【0227】
本明細書で使用される「骨髄由来内皮細胞」または「BMEC」という用語は、骨髄間質の機能的構成成分を指し、これは、造血制御因子を放出するだけではなく、CD34+造血前駆細胞に選択的に接着して、その増殖及び分化を助力することが明らかとなっている。
【0228】
骨細胞。骨の4つの細胞型が、その形成及び維持に関与する。これらは、1)骨前駆細胞、2)骨芽細胞、3)骨細胞、及び、4)破骨細胞である。
【0229】
骨前駆細胞。骨前駆細胞は、間葉系細胞から生じ、骨膜の内部及び成熟した骨の骨内膜に生じる。それらは、骨形成が始まっている胚性間葉区画の領域、及び成長中の骨の表面近くの領域に見られる。構造的に、骨前駆細胞は、それらが生じた間葉系細胞とは異なる。それらは、薄い染色の細胞質及び薄い染色の核を有する不規則な形で細長い細胞である。有糸分裂により増殖する骨前駆細胞は、主に、それらの位置及び骨芽細胞との関連により同定される。いくつかの骨前駆細胞は、骨細胞に分化する。骨芽細胞及び骨細胞は、もはや有糸分裂ではないが、骨前駆細胞の集団は、寿命全体にわたって存続することが示されている。
【0230】
骨芽細胞。類骨の継ぎ目の表面(まだミネラル化されていない新しく形成された有機マトリックスの骨の表面の狭い領域)に位置する骨芽細胞は、骨前駆細胞に由来する。それらは、コラーゲンを合成し、ミネラル化を制御する未成熟な単核の骨形成細胞である。骨芽細胞は、形態学的に骨前駆細胞と区別することができ、一般に、骨前駆細胞よりも大きく、より丸みを帯びた核、より顕著な核小体、及びはるかに好塩基性である細胞質を有する。骨芽細胞は、主にI型コラーゲンで構成され、類骨として知られるタンパク質混合物を生成する。これは、ミネラル化して骨になる。骨芽細胞は、プロスタグランジン、アルカリホスファターゼ、骨のミネラル化に関与する酵素、及びマトリックスタンパク質などのホルモンも製造する。
【0231】
骨細胞。骨細胞は、骨芽細胞に由来する星型の成熟した骨細胞であり、緻密骨に見られる最も豊富な細胞であるが、骨の構造を維持する。骨芽細胞のような骨細胞は、有糸分裂ができない。それらは、骨基質の日常的なターンオーバーに積極的に関与し、小腔と呼ばれる骨基質の小さな空間、空洞、隙間、またはくぼみに存在する。骨細胞は、骨基質を維持し、カルシウム恒常性を調節し、最も必要とされる場所に骨が形成されるように指示する細胞フィードバック機序の一部であると考えられる。骨は、加えられた力に耐えるために強くなることにより、それに適応し、骨細胞は、機械的変形を検出し、骨芽細胞による骨形成を媒介し得る。
【0232】
破骨細胞。破骨細胞は、単球幹細胞系列に由来し、マクロファージと同様の食作用様機序を有し、ハウシップ窩と呼ばれる骨のくぼみによく見られる。それらは、骨吸収に特化した大きな多核細胞である。吸収中、破骨細胞は、骨表面の領域を密封し、次に、活性化される時、水素イオンを排出して非常に酸性の環境を作り出し、これは、ヒドロキシアパタイト成分を溶解する。破骨細胞の数及び活性は、副甲状腺ホルモン(PTH)の注射によりカルシウム吸収が刺激される時に増加するが、破骨細胞活性は、甲状腺濾胞傍細胞により産生されるホルモンであるカルシトニンの注射により抑制される。
【0233】
骨基質。骨基質は、緻密骨の総重量の約90%を占め、ヒドロキシアパタイト(60%)及び繊維状I型コラーゲン(27%)に似た微結晶性リン酸カルシウムで構成される。残りの3%は、マイナーなコラーゲンタイプと、他のタンパク質、例えば、オステオカルシン、オステオネクチン、オステオポンチン、骨シアロタンパク質、ならびにプロテオグリカン、グリコサミノグリカン、及び脂質で構成される。骨の細胞外マトリックス糖タンパク質及びプロテオグリカンは、様々な成長因子及びサイトカインに結合し、骨芽細胞及び破骨細胞に作用する保存されたシグナルのリポジトリとして機能する。骨基質に見られる成長因子及びサイトカインの例には、骨形成タンパク質(BMP)、表皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子1(IGF-1)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、骨由来成長因子(BDGF)、軟骨由来成長因子(CDGF)、骨格成長因子(hSGF)、インターロイキン1(IL-1)、及びマクロファージ由来の因子が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外マトリックス分子自体が調節の役割を果たし得、これにより、細胞への直接的な生物学的効果ならびに重要な空間及び文脈の情報の両方が提供されるという新たな理解がある。
【0234】
骨膜及び骨内膜。骨膜は、骨の関節面を除いて、骨の線維性結合組織外層である。それの骨への接着は、場所及び年齢によって異なる。幼児の骨では、骨膜が簡単に剥がれる。成人の骨では、それは、特に、腱及び靭帯の挿入時に、よりしっかりと接着し、より多くの骨膜繊維が、シャーピーの穿孔繊維(骨の外周ラメラに入るコラーゲン繊維の束)として骨を貫いている。骨膜は、2つの層で構成され、この外側は、細胞はほとんど含有されず、血管及び神経が多数含有される粗い繊維状の結合組織で構成される。血管が少ないが、細胞が多い内層は、多くの弾性繊維を含有する。成長中、原始的な結合組織の骨形成層が、骨膜の内層を形成する。成人では、これは、骨に密接に適用された散在する平らな細胞の列によってのみ表される。骨膜は、骨に向かう血管及び神経、ならびに、腱及び靭帯の固定のための支持床として機能する。骨膜の一部と考えられる骨形成層は、成長及び修復のために骨芽細胞を供給することが知られており、骨形成の広がりを制御及び制限する重要な制限層として機能する。骨膜及びそれに含有される骨の両方は、結合組織区画の領域であるので、基底層状物質または基底膜で、互いにまたは他の結合組織から分離されていない。骨周囲幹細胞は、骨の再生及び修復に重要であることが示されている。(Zhang et al.,2005,J.Musculoskelet.Neuronal.Interact.5(4):360-362)。
【0235】
骨内膜は、骨内の空洞(骨髄腔及び中央管)の表面と、さらには、骨髄腔の小柱の表面を覆う。成長中の骨では、それは、骨髄性細網結合組織の繊細な線条体で構成され、その下には、骨芽細胞の層がある。成人では、骨形成細胞は、平らになり、別の層として区別できない。それらは、骨折後のように、骨形成への刺激がある時に、骨形成細胞に変化することができる。
【0236】
骨の構成要素。骨は、細胞及び有機及び無機物質の細胞間マトリックスで構成される。有機分画は、コラーゲン、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、及び糖タンパク質で構成される。骨のタンパク質マトリックスは、主に、不溶性で剛性のある繊維を形成する能力を有する繊維状タンパク質のファミリーであるコラーゲンで構成される。骨の主なコラーゲンは、I型コラーゲンである。骨の無機構成成分は、剛性に関与し、無脂肪乾燥重量の最大3分の2を占め得るが、主に、ヒドロキシアパタイトカルシウムの形態の、少量の水酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、及び硫酸マグネシウムを含む、リン酸カルシウム及び炭酸カルシウムで構成される。組成は、年齢及び複数の食事の要因により変動する。骨のミネラルは、コラーゲン繊維に強度及び剛性を加える長い微細な結晶を形成し;それが置かれるプロセスは、ミネラル化と呼ばれる。
【0237】
本明細書で使用される「骨髄」という用語は、骨の空洞を満たし、白血細胞、赤血球、及び血小板を含む脂肪及び未成熟及び成熟血液細胞を含有する軟造血組織を指す。骨髄は、様々な前駆細胞及び成熟細胞型、例えば、造血細胞を含有し、これらは、広範囲の結合組織細胞の前駆細胞である、成熟血液細胞及び間葉系幹細胞(別途間質細胞とも呼ばれる)の前駆細胞であり、これらの両方が、他の細胞型に分化することが可能である。骨髄の造血幹細胞(HSC)は、2つの主要な型の細胞:骨髄系列(単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、樹状細胞、及び巨核球または血小板を含む)、ならびに、リンパ系列(T細胞、B細胞、及びナチュラルキラー細胞を含む)を生じさせる。
【0238】
骨リモデリング。骨は、常に、成人では、破骨細胞により分解され、骨芽細胞により再形成される。骨の剛性を維持する骨リモデリングとして既知の再生のプロセスを介して、毎年18%もの骨がリサイクルされると報告されている。この動的なプロセスのバランスは、人々が老いるにつれて変化する。若年では、それは、骨の形成に有利に働くが、老年では、再吸収に有利に働く。新しい骨物質が骨膜の内面から末梢に加えられる時、骨髄腔を形成する内部領域の空洞化がある。この骨組織の破壊は、血管を通って骨に入る破骨細胞によるものである。破骨細胞は、骨基質の無機部分及びタンパク質部分の両方を溶解させる。各破骨細胞は、多数の細胞プロセスをマトリックスに拡張し、水素イオンを周囲の物質に送り出し、それにより、それを酸性化及び可溶化する。血管は、また、生物の寿命にわたって骨髄に存在する造血細胞を移入する。
【0239】
破骨細胞の数及び活性は、厳しく調節されなければならない。活性破骨細胞が多すぎる場合、骨が溶けすぎて、骨粗鬆症がもたらされるであろう。逆に、破骨細胞が十分に生成されない場合、骨髄のために骨が空洞化せず、大理石骨病(骨が硬化して高密度になる障害である石のような骨疾患(stone bone disease)として既知)がもたらされるであろう。
【0240】
「骨髄移植」(BMT)または「造血幹細胞移植」(HSCT)という用語は、骨髄幹細胞がある個体(ドナー)から採取され、別の個体(レシピエント)に投与される手順を指すために互換的に使用される。幹細胞は、骨髄から直接採取することも、白血球除去により血液から採取することができる。骨髄移植は、自家(骨髄から採取され、処置前に保存された患者自身の幹細胞を使用)、同種異系(一卵性双生児ではない者から提供された幹細胞を使用)、または同系(一卵性双生児により提供された幹細胞を使用)であってよい。
【0241】
「海綿骨組織」という用語は、骨小柱または海綿骨とも呼ばれる開いた細胞多孔性ネットワークを指し、これは、骨の内部を満たし、全体の構造を軽くする棒状及び板状要素のネットワークで構成され、血液供給が骨を取り囲むように、血管及び骨髄のための余地を与える。海綿骨は、総骨量の20%を占めるが、皮質骨の表面積のほぼ10倍である。それは、ハバース部位及びオステオンを含有せず、約30%~約90%の気孔率を有する。海綿骨では、骨髄腔は、比較的大きく、不規則に配置されており、骨物質は、細長い吻合する骨小柱及び尖った針状体の形態をとる。骨端と呼ばれる骨の頭は、海綿状の外観を有し、細長い不規則な骨梁または棒で構成され、これらは、格子状を形成するように吻合し、この隙間には骨髄が含有されるが、薄い外殻は密に見える。骨端の不規則な骨髄腔は、骨幹(diaphysis)と呼ばれる骨幹(bone shaft)の中央骨髄腔と連続的になり、その壁は、皮質骨の薄いプレートによって形成される。
【0242】
本明細書で使用される「CD31」という用語は、血小板内皮細胞分子(PECAM-1)を指す。これは、6つのドメインを有し、白血球及び血小板/内皮細胞接着ならびに経内皮移動の両方を媒介する。CD31は、血小板、及び大部分の白血球で発現し、in vivoで構成的に内皮の表面に存在する。
【0243】
本明細書で使用される「CD34」という用語は、骨髄幹細胞の表面で見られるマーカーである。
【0244】
本明細書で使用される「CD45」という用語は、リンパ球共通抗原を意味する。
【0245】
本明細書で使用される「相補的」という用語は、互いに完全な塩基対二重らせんを形成することができる2つの核酸配列または鎖を指す。
【0246】
本明細書で使用される「相補的DNA」または「cDNA」という用語は、RNA分子(一般に、mRNA)の逆転写によって得られ、ゆえに、ゲノムDNAを提示している介在配列を欠くDNA分子を指す。
【0247】
【表6-1】
【表6-2】
【0248】
「細胞周期」という用語は、G1(間期)、S(DNA合成期)、G2(間期)、及びM(有糸分裂期)の4つの段階を経る細胞の進行を指す。Nakamura-Ishizu,A.,et al.,Development(2014)141:4656-4666;Sisken,JE and Morasca,L.,J.Cell Biol.(1965)25:179-189を引用)。G1期の制限点を超えて進行する細胞は、S期に入るが、制限点を超えない細胞は分割されないままである。これらの分割されていない細胞は、細胞周期から離脱し、細胞が静止状態または休止状態と呼ばれる状態であるG0期に入り得る。(同上、Pardee,AB,Proc.Natl Acad.Sci.USA(1974)71:1286-90を引用)。G0期のそのような非周期細胞は、細胞周期に可逆的に再び入り、分割するか(同上、Cheung,TH and Rando,TA,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.(2013)14:329-340を引用)または休止のままであり、サイクリングの可能性を失い、いくつかの場合では、老化し得る(同上、Campisi,J.Cell(2005)120:513-22を引用)。
【0249】
本明細書で使用される「細胞系列」または「系列」という用語は、それが生じる細胞にまで遡る場合の、分化した細胞の発生履歴を指す。
【0250】
本明細書で使用される「ケモカイン」という用語は、保存されたシステイン残基の相対位置に基づいた4つのサブファミリー(C、CC、CXC、及びCX3C)(Rossi D.et al.Annu Rev Immunol.(2000)18:217-242)に分類することができる多様な免疫及び神経機能を有する低分子量(8~11kDa)の構造的に関連するタンパク質のファミリー(Mackay C.R.Nat Immunol.,Vol.2:95-101,(2001);Youn B.et al.Immunol Rev.(2000)Vol.177:150-174)を指す。ケモカインは、血液、リンパ節、及び組織の間で白血球の移動を誘導するのに不可欠な分子である。それらは、常に1つのタイプの受容体に制限されているわけではないので、複雑なシグナル伝達ネットワークを構成する(Loetscher P.et al.J.Biol.Chem.(2001).276:2986-2991)。ケモカインは、7回膜貫通型ドメインのGタンパク質共役型受容体である表面受容体を活性化することにより細胞に影響を与える。特定のケモカインに対する白血球の応答は、ケモカイン受容体の発現により決定される。ケモカインの受容体への結合は、生物学的応答の活性化を達成するサイトカインの作用と同様に、様々なシグナル伝達カスケードを活性化する。CCR5受容体のリガンドの分泌は、活性化時に、発現及び分泌された正常なT細胞(RANTES)、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)-1α/及びMIP-1βを調節し(Schrum S.et al.J Immunol.(1996)157:3598-3604)、CXCケモカイン受容体3(CXCR3)のリガンド、誘導タンパク質(IP)-10(Taub D.D.et al.J Exp Med.(1993)177:1809-1814)は、望ましくない高められたTH1応答に関連付けられている。さらに、IL-2及びIFN-γの有害な前炎症性サイトカインレベルの上昇は、1型糖尿病(T1D)と相関する(Rabinovitch A.et al.Cell Biochem Biophys.(2007)48(2-3):159-63)。ケモカインは、TH1膵臓浸潤及びT細胞浸潤を特徴とする他の炎症性病変で観察されている(Bradley L.M.et al.J Immunol.(1999).162:2511-2520)。
【0251】
本明細書で使用される「化学療法」という用語は、薬物を使用してがん細胞を破壊する処置を指すが、生着の成功を確実にするために、がんを有さない骨髄移植患者にも使用される。
【0252】
本明細書で使用される「暦年齢」という用語は、出生から一定の日までの経過時間を指す。暦年齢は、一般に、発育及び加齢の主要な段階を反映して、大まかな年齢範囲に分類される。Medical Subject Heading(MeSH)によると、ヒトに関する年齢の分類は以下の通りである。若年:乳児から若年成人、すなわち乳児期:0~2歳;幼児期:2~5歳;小児期:5~12歳;青年期:12~19歳;若年成人期:19~24歳;成人期:24~44歳;中年期:44~65歳;及び老年期:65歳以上。マウスの場合、コンセンサスによる分類される暦年齢は、若年期(3か月);中年期(8~14か月)及び老年期(18~24か月)である。
【0253】
「競合的骨髄移植」という用語は、造血幹及び前駆細胞(HSPC)のin vivoでの機能を測定するために日常的に使用されるアッセイを指す。この方法の原理は、C57BL6背景のトランスジェニックマウスに由来する骨髄ドナー細胞を、競合骨髄と共に移植することである。放射線を照射した移植レシピエントマウスの血液及び骨髄の両方で、生着能率が評価される。
【0254】
本明細書で使用される「コンディショニング」という用語は、移植の数日前に与え、移植のために体を集合的に整える化学療法薬、及び場合により、放射線の組み合わせを指す。
【0255】
本明細書で使用される「接触」という用語及びその様々な文法形式は、接触の状態もしくは状況、または即時もしくは局所的な近接の状態もしくは状況を指す。
【0256】
「皮質骨組織」(緻密骨または緻密質とも呼ばれる)という用語は、いわゆる、隙間及び空間が最小のために、骨の硬い外層の組織を指す。この組織は、滑らかで白く、しっかりとした外観を骨に与える。皮質骨は、ハバース部位(血管及び結合組織が骨を通過する管)ならびにオステオン(ハバース管及びその同心円状に配置されたラメラを含む皮質骨の構造の基本単位)で構成され、従って、皮質骨では、骨が血液供給を囲んでいる。皮質骨は、気孔率約5%~約30%(両端を含む)を有し、成体の骨格の総骨量の約80%を占める。皮質骨では、空間またはチャネルが狭く、骨物質が密に詰まっている。
【0257】
本明細書で使用される「サイトカイン」という用語は、細胞が分泌する小さな可溶性タンパク質物質を指し、これは、他の細胞に様々な影響を与える。サイトカインは、成長、発達、創傷治癒、及び免疫応答を含む多くの重要な生理学的機能を媒介する。それらは、細胞膜にある細胞特異的受容体に結合することにより作用する。これは、異なるシグナル伝達カスケードを細胞内で開始させ、これは、最終的には標的細胞の生化学的及び表現型の変化につながるであろう。一般的に、サイトカインは、局所的に作用する。それらは、多くのインターロイキンを包含するI型サイトカイン、ならびに、いくつかの造血成長因子;インターフェロン及びインターロイキン-10を含むII型サイトカイン;TNFα及びリンホトキシンを含む腫瘍壊死因子(TNF)関連分子;インターロイキン1(IL-1)を含む免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバー;ならびに、様々な免疫及び炎症の機能に重要な役割を果たす分子のファミリーであるケモカインを含む。同じサイトカインは、細胞の状態に応じて細胞に異なる影響を与え得る。サイトカインは、多くの場合、他のサイトカインの発現を調節し、そのカスケードを誘発する。
【0258】
本明細書で使用される「ダメージ関連分子パターン」(DAMP)という用語は、パターン認識受容体(PRR)と相互作用することにより自然免疫系を活性化する、損傷または瀕死の細胞から放出される内因性危険分子を指す。
【0259】
本明細書で使用される場合、「由来する」という用語は、起源の供給源から何かを受け、それを得、またはそれを改変するための任意の方法を包含することを意味する。
【0260】
本明細書で使用される場合、「検出すること」、「決定すること」という用語、及びそれらの他の文法形式は、バイオマーカーの同定または定量化、例えば、miRNAの存在またはレベル、または生物学的試料の状態の有無について実施される方法を指すために使用される。試料で検出されたバイオマーカーの発現または活性の量は、アッセイまたは方法の検出レベルがないか、またはそれ未満であり得る。
【0261】
本明細書で使用される「分化」という用語は、より特殊な機能を伴う、細胞または組織の組織化または複雑さのレベルの増加を伴う発達のプロセスを指す。
【0262】
本明細書で使用される「差異的」という用語は、差に関するもの、または差を構成するものを指す。本明細書で使用されるアンジオクライン因子に関する「差異的産生」という用語は、アンジオクライン因子間の産生の差を指す。
【0263】
本明細書で使用される「疾患」または「障害」という用語は、健康の障害または異常な機能の状態を指す。
【0264】
本明細書で使用される「内因性」という用語は、天然に存在するか、内に組み込まれるか、内に収容されるか、接着するか、付着するか、または内に存在するものを指す。
【0265】
「骨内膜ニッチ」及び「骨芽細胞ニッチ」という用語は、同じ意味で用いられ、組織損傷に対応して動員され得る静止状態のHSCまたは長期HSC(LT-HSC)を含んでいる複雑な微小環境を表す。(Guerrouahen,B.S.,Al-Hijji,I.,& Tabrizi,A.R.(2011).Osteoblastic and Vascular Endothelial Niches,Their Control on Normal Hematopoietic Stem Cells,and Their Consequences on the Development of Leukemia.Stem Cells International,2011,1-8).
【0266】
本明細書で使用される「生着」という用語は、移植された(ドナー)幹細胞の正常な成長及び患者(レシピエント)の骨髄空間における血液細胞の産生が移植後に再開するプロセスを指す。
【0267】
本明細書で使用される場合、「濃縮する」という用語は、例えば、細胞集団におけるその自然の頻度と比較して、細胞または細胞構成要素のサブタイプの相対頻度を増加させるために、所望の物質の割合を増加させることを指すことを意味する。正の選択、負の選択、またはその両方は、一般に、あらゆる濃縮スキームに必要であると考えられる。選択方法には、磁気分離及び蛍光活性化細胞選別(FACS)を含むが、これらに限定されない。
【0268】
本明細書で使用される「赤血球形成」という用語は、造血組織における赤血球の形成を指す。胎児の初期の発達では、赤血球形成は、卵黄嚢、脾臓、及び肝臓で生じる。出生後、全ての赤血球形成は、骨髄で生じる。骨髄及び脾臓の赤血球分化系統は、多能性幹細胞に由来する初期前駆細胞の前赤芽球で開始される。成人の骨髄では、HSC由来の骨髄系共通前駆細胞(多能性幹細胞)が赤血球系列にコミットする場合、最終の赤血球形成が開始される。前赤芽球(pronormoblast)(前赤芽球(proerythroblast)または前赤芽球(ribriblast)とも呼ばれる)の出現は、最初の分化段階を示す。これに、初期、中期、及び後期の正常芽球(赤芽球)段階が続き、その時点で、核が排出され、細胞が網状赤血球になる。骨髄を出ると、網状赤血球は、血液循環に入り、完全に成熟したRBCになる。
【0269】
本明細書で使用される「外因性」という用語は、天然に存在しないもの、または特定の細胞、生物、もしくは種の外部で発生または生成するものを指す。
【0270】
本明細書で使用される「増殖する」という用語及びその様々な文法的形態は、分散した生細胞が、生細胞の数または量の増加をもたらす培養培地中でin vitroで増殖するプロセスを指す。
【0271】
本明細書で使用される場合、「発現」という用語及びその様々な文法的形態は、ポリヌクレオチドがDNAテンプレートから(例えば、mRNAもしくは他のRNA転写物に)転写されるプロセス、及び/または、転写されたmRNAが、その後、ペプチド、ポリヌクレオチド、またはタンパク質に翻訳されるプロセスを指す。転写物及びコードされたポリペプチドは、「遺伝子産物」と総称されることがある。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現には、真核細胞でのmRNAのスプライシングが含まれてもよい。発現は、また、ポリペプチドまたはタンパク質の翻訳後修飾を指すことがある。
【0272】
本明細書で使用される「細胞外マトリックス」(または「ECM」)という用語は、細胞が特定の細胞表面受容体を介して相互作用する細胞の外部環境における足場を指す。細胞外マトリックスは、限定されないが、細胞の支持及び固定を提供すること、ある組織を別の組織から分離すること、ならびに細胞内コミュニケーションを調節すること、を含む多くの機能に役立つ。細胞外マトリックスは、繊維状タンパク質及びグリコサミノグリカン(GAG)のインターロッキングメッシュで構成される。細胞外マトリックスに見られる繊維状タンパク質の例には、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、及びラミニンが挙げられる。細胞外マトリックスに見られるGAGの例には、プロテオグリカン(例えば、ヘパリン硫酸)、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、及び非プロテオグリカン多糖(例えば、ヒアルロン酸)が挙げられる。「プロテオグリカン」という用語は、1つ以上のグリコサミノグリカンに結合しているコアタンパク質を含有する糖タンパク質の群を指す。
【0273】
本明細書で使用される「フラグメント」または「ペプチドフラグメント」という用語は、より大きな抗体ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質から切り離されるか、または砕かれて派生するが、より大きな抗体ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の所望の生物学的活性を維持している小さい部分である。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体のフラグメントによって行われ得ることが明らかとなっている。このような抗体の実施形態はまた、二重特異性、重複特異性、または多重特異性であってもよく、2つ以上の異なる抗原に特異的に結合する。抗体の「抗原結合フラグメント」または「抗原結合部分」という用語に包含される結合フラグメントの例としては、(i)VL、VH、CL、及びCH1ドメインで構成される一価のフラグメントであるFabフラグメント、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結した2つのFab断片を含む二価のフラグメントであるF(ab’)2フラグメント、(iii)VH及びCH1ドメインで構成されるFdフラグメント、(iv)抗体のシングルアームのVL及びVHドメインで構成されるFvフラグメント、(v)単一の可変ドメインを含むdAbフラグメント(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546,Winter et al.、PCT出願第WO90/05144 A1号)(参照により本明細書に組み込まれる)、ならびに(vi)単離している相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインであるVL及びVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、それらを、組み換え法を使用して合成リンカーによって連結させて、VL領域とVH領域とのペアが一価の分子(単鎖Fv(scFv)として知られている)を形成する単一のタンパク質鎖にすることができる(例えば、Bird et al.(1988)Science 242:423-426;及びHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照のこと)。このような一本鎖抗体はまた、抗体の「抗原結合部分」または「抗原結合フラグメント」という用語の範囲に包含されることが意図される。ダイアボディなどの一本鎖抗体の他の形態もまた包含される。ダイアボディは、単一のポリペプチド鎖でVHドメイン及びVLドメインが発現している二価の二重特異性抗体である。ただし、同じ鎖上の2つのドメインをペアにするためには短すぎるため、それらのドメインを別の鎖の相補的なドメインとペアにして、2つの抗原結合部位を作成するリンカーを使用する(例えば、Holliger,P.,et al.(1993)Proc. Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448;Poljak,R.J.,et al.(1994)Structure 2:1121-1123を参照のこと)。このような抗体結合部分は、当技術分野において既知である(Kontermann and Dubel eds.,Antibody Engineering(2001)Springer-Verlag.New York.790 pp(ISBN 3-540-41354-5))。
【0274】
本明細書で使用される「遺伝子」という用語は、機能的タンパク質またはRNAの生成に必要な、エクソン、イントロン、及び非コーディング転写制御領域を含む全DNA配列である。
【0275】
「遺伝子発現」または「発現」という用語は、同じ意味で用いられ、遺伝子にコードされた情報が観察可能な表現型に変換されるプロセスを指す。
【0276】
本明細書で使用される「移植片」という用語は、ドナーからレシピエントに注入または移植された組織または臓器を指す。それは、同じ個体のある身体部位から別の身体部位に移植された自己組織(「自家移植片」)、遺伝的に同一の個体間で移植された組織、または組織移植を可能にするのに十分に免疫学的に適合性のある組織(「同系移植片」)、同じ種の遺伝的に異なるメンバー間で移植された組織(「同種異系移植片」または「同種移植片」)、及び異なる種間で移植された組織(「異種移植片」)を含むが、これらに限定されない。
【0277】
本明細書で使用される「成長因子」という用語は、例えば、合成速度を増加させるか、分解速度を減少させるか、またはその両方により、細胞表面受容体に結合して細胞内シグナル伝達経路を誘発し、タンパク質及び他の高分子の蓄積を刺激する増殖、分化、または他の細胞応答をもたらす細胞外ポリペプチド分子を指す。例示的な成長因子には、線維芽細胞成長因子(FGF)、インスリン様成長因子(IGF-1)、トランスフォーミング成長因子-ベータ(TGF-β)、及び血管内皮成長因子(VEGF)が挙げられる。
【0278】
線維芽細胞成長因子(FGF)。線維芽細胞成長因子(FGF)ファミリーは、現在、12を超える構造的に関連するメンバーを有する。FGF1は、酸性FGFとしても既知であり;FGF2は、場合により、塩基性FGF(bFGF)と呼ばれ;FGF7は、場合により、ケラチノサイト成長因子という名称で通っている。脊椎動物では、12を超える異なるFGF遺伝子が既知であり;それらは、様々な組織でRNAスプライシングまたは開始コドンを変動することにより、何百ものタンパク質アイソフォームを生成し得る。FGFは、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)と呼ばれる一連の受容体型チロシンキナーゼを活性化し得る。受容体型チロシンキナーゼは、細胞膜を通って伸びるタンパク質である。パラクリン因子に結合するタンパク質の部分は、細胞外側にあるが、休止状態のチロシンキナーゼ(すなわち、ATPを分離することにより別のタンパク質をリン酸化し得るタンパク質)は、細胞内側にある。FGF受容体がFGFに結合すると(かつFGFに結合する場合のみ)、休止状態のキナーゼが活性化され、応答細胞内の特定のタンパク質をリン酸化して、それらのタンパク質を活性化する。
【0279】
FGFは、血管新生(血管形成)、中胚葉形成、及び軸索伸長を含む、いくつかの発達機能に関連する。FGFが、多くの場合、互いに代用し得るが、それらの発現パターンは、それらに別々の機能を与える。例えば、FGF2は、特に、血管新生に重要であるが、FGF8は、中脳及び四肢の発達に関与する。
【0280】
インスリン様成長因子(IGF-1)。インスリンと分子構造が似ているホルモンであるIGF-1は、体のほぼ全ての細胞、特に、骨格筋、軟骨、骨、肝臓、腎臓、神経、皮膚、造血細胞、及び肺に成長促進効果を有する。それは、子供の成長に重要な役割を果たし、成人に同化作用を有し続ける。IGF-1は、主に肝臓により内分泌ホルモンとして、及び標的組織でパラクリン/オートクリン方式で産生される。生成は、成長ホルモン(GH)により刺激され、栄養不足、成長ホルモン非感受性、成長ホルモン受容体の欠如、またはチロシンタンパク質ホスファターゼ非受容体11型(ヒトのPTPN11遺伝子にコードされるSHP2としても既知)を含む下流のシグナル伝達分子の障害、及び転写因子のSTATファミリーのメンバーであるシグナル伝達兼転写活性化因子5B(STAT5B)により遅延することができる。その主な作用は、多くの組織の多くの細胞型に存在する、その特定の受容体であるインスリン様成長因子1受容体(IGF1R)への結合により媒介される。受容体型チロシンキナーゼであるIGF1Rに結合すると、細胞内シグナル伝達が開始され;IGF-1は、AKTシグナル伝達経路の最も強力な天然活性化因子、細胞の成長及び増殖の刺激因子、ならびにプログラム細胞死の強力な阻害因子のうちの1つである。IGF-1は、成長ホルモン(GH)の効果の主要なメディエーターである。成長ホルモンは、下垂体で作られ、血流に放出され、続いて、肝臓を刺激してIGF-1を産生する。次に、IGF-1は、全身の成長を刺激する。インスリン様効果に加えて、IGF-1は、また、特に、神経細胞における、細胞の成長及び発達、ならびに細胞のDNA合成を調節し得る。
【0281】
IGF-1は、ケモカイン受容体CXCR4(間質細胞由来因子-1、SDF-1の受容体)の発現レベルを増加させ、SDF-1に対するMSCの遊走応答を著しく増加させることが示された(Li,Y,et al.2007 Biochem.Biophys.Res.Communic.356(3):780-784)。SDF-1に応答したIGF-1誘導性のMSC遊走の増加は、PI3キナーゼ阻害剤(LY294002及びワートマニン)で減弱されたが、マイトジェン活性化プロテイン/ERKキナーゼ阻害剤PD98059で減弱されなかった。特定の理論に制限されることなく、IGF-1がPI3/Akt依存性であるCXCR4ケモカイン受容体シグナル伝達を介してMSCの遊走応答を増加させることを、データは示す。
【0282】
トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)。TGF-βスーパーファミリーには30を超える構造的に関連するメンバーがあり、それらは、発達における最も重要な相互作用のいくつかを調節する。TGF-βスーパーファミリー遺伝子にコードされるタンパク質は、カルボキシ末端領域が成熟ペプチドを含有するように処理される。これらのペプチドは、ホモ二量体(それ自体と)またはヘテロ二量体(他のTGF-βペプチドと)に二量体化され、細胞から分泌される。TGF-βスーパーファミリーは、TGF-βファミリー、アクチビンファミリー、骨形成タンパク質(BMP)、Vg-1ファミリー、ならびにグリア由来神経栄養因子(GDNF、腎臓及び腸内ニューロンの分化に必要)を含むその他のタンパク質、ならびに哺乳類の性決定に関与するミュラー阻害因子を含む。TGF-βファミリーのメンバーであるTGF-β1、2、3、及び5は、細胞間の細胞外マトリックスの形成を調節することにおいて、及び細胞分裂を(正及び負の両方で)調節することにおいて重要である。TGF-β1は、コラーゲン及びフィブロネクチンの合成を刺激すること、ならびにマトリックスの分解を阻害することにより、細胞外マトリックス上皮細胞が作る量を増加させる。TGF-βは、上皮が、腎臓、肺、及び唾液腺の管を形成するために分岐し得る場所及び時期を制御する上で重要であり得る。
【0283】
血管内皮増殖因子(VEGF)。VEGFは、増殖、遊走、浸潤、生存、及び透過性を含む内皮細胞の多くの機能を媒介する成長因子である。VEGF及びそれらの対応する受容体は、脈管形成、血管新生、またはリンパ血管系の形成のいずれかにより、最終的に血管系の発達につながる分子及び細胞イベントのカスケードにおける重要な調節因子である。VEGFは、生理学的血管新生における重要な調節因子であり、骨格の成長及び修復においても重要な役割を果たす。
【0284】
VEGFの正常な機能は、胚発生中、損傷後、及び閉塞した血管を迂回するために新しい血管を作成する。確立された成熟血管系において、内皮は、必要に応じて要件に応答するために隣接する組織に通信ネットワークを提供することにより、周囲の組織の恒常性の維持において重要な役割を果たす。さらに、血管系は、周囲の組織が必要とする成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、及び代謝物などを提供し、分子及び細胞の動きを制限するバリアとして機能する。
【0285】
VEGFファミリーは、いくつかの分泌性タンパク質:VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、及び胎盤成長因子(PIGF)で構成され、VEGF-Aは、このグループの中で最も幅広く研究が行われている。(Bazzazi,H.et al.,“Computer Simulation of TSP1 inhibition of VEGF-Akt-eNOS:An angiogenesis triple threat.Front.Physiol.(2018)9:644)。VEGFは、脈管形成及び血管新生の発達において(同上、Shalaby F.,et al.Failure of blood-island formation and vasculogenesis in Flk-1-deficient mice.Nature(1995)376:62-66;Carmeliet P.,et al.Abnormal blood vessel development and lethality in embryos lacking a single VEGF allele.(1996)Nature 380:435-439を引用)、ならびに成人血管透過性及び恒常性において非常に重要な役割を果たす(同上、Ku DD,et al.Vascular endothelial growth factor induces EDRF-dependent relaxation in coronary arteries.Am.J.Physiol.(1993)265:H586-H592;Lee et al,Vascular endothelial growth factor induces EDRF-dependent relaxation in coronary arteries.Am.J.Physiol.(1993)265:H586-H592;Curwen J.O.,et al.Inhibition of vascular endothelial growth factor-a signaling induces hypertension:examining the effect of cediranib(recentin;AZD2171)treatment on blood pressure in rat and the use of concomitant antihypertensive therapy.Clin.Cancer Res.(2008)14:3124-3131を引用)。VEGFシグナル伝達の調節異常は、がん(同上、Kieran,M.et al,The VEGF pathway in cancer and disease:responses,resistance,and the path forward.Cold Spring Harb.Perspect.Med.(2012)2:a006593.10.1101/cshperspect.a006593;Claesson-Welsh L.,Welsh M.VEGFA and tumour angiogenesis.J.Intern.Med.(2013)273:114-127を引用)、創傷治癒(同上、Bao,P.et al.,The role of vascular endothelial growth factor in wound healing.J.Surg.Res.(2009)153:347-358を引用)、加齢関連黄斑変性症(同上、Ferrara,N,Vascular endothelial growth factor and age-related macular degeneration:from basic science to therapy.Nat.Med.(2010)16:1107-1111を引用)、及び抹消動脈疾患(PAD)(同上、MacGabhaan,F.et al Systems biology of pro-angiogenic therapies targeting the VEGF system.Wiley Interdiscip.Rev.Syst.Biol.Med.(2010)2:694-707;Boucher J.M.,Bautch V.L.Antiangiogenic VEGF-A in peripheral artery disease.Nat.Med.(2014)20:1383-1385;Clegg L.E.,et al.Systems pharmacology of VEGF165b in peripheral artery disease.CPT Pharmacometrics Syst.Pharmacol.(2017)6:833-844;Clegg L.E.,Mac Gabhann F.A computational analysis of pro-angiogenic therapies for peripheral artery disease.Integr.Biol.(2018)10:18-33を引用)を含む様々な疾患の一因となる。VEGFの応答は、内皮細胞の複数の受容体及び共受容体、例えば、VEGF受容体2(VEGFR2)及びニューロピリン1(NRP1)へのそれ自体の結合によって媒介される。
【0286】
受容体チロシンキナーゼVEGFR2へのVEGFの結合は、生後の血管新生における主要な経路である、ERK1/2及びPI3K/Aktを含む下流シグナル伝達経路の活性化をもたらし、それにより、細胞増殖、生存、運動性、及び血管透過性の強化が誘導される(同上、Olsson A.K.,et al. VEGF receptor signalling - in control of vascular function.Nat.Rev.Mol.Cell Biol.(2006)7:359-371;Dellinger M.T.,Brekken R.A.Phosphorylation of Akt and ERK1/2 is required for VEGF-A/VEGFR2-induced proliferation and migration of lymphatic endothelium.PLoS One(2011)6:e28947;Simons M.,et al.Mechanisms and regulation of endothelial VEGF receptor signalling.Nat.Rev.Mol.Cell Biol.(2016)17:611-625を引用)。VEGF-VEGFR2活性化はまた、内皮一酸化窒素シンターゼ(eNOS)の活性化の結果として一酸化窒素(NO)放出を誘導し、実質的に血管新生応答に寄与する。(同上、Papapetropoulos,A.et al.Nitric oxide production contributes to the angiogenic properties of vascular endothelial growth factor in human endothelial cells.J.Clin.Invest.(1997)100:3131-3139;Fukumura,D.et al.Predominant role of endothelial nitric oxide synthase in vascular endothelial growth factor-induced angiogenesis and vascular permeability.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(2001)98:2604-2609を引用)。
【0287】
生理学的VEGFシグナル伝達は、血管新生の促進因子及び阻害因子のバランスによって厳密に調節される。(同上、Folkman J.Endogenous angiogenesis inhibitors.APMIS(2004)112:496-507を引用)。マトリックス細胞タンパク質トロンボスポンジン-1(TSP1)は、最初に同定された血管新生の内因性阻害因子の1つであった。(同上、Bagavandoss P.,Wilks J.W.Specific inhibition of endothelial cell proliferation by thrombospondin.Biochem.Biophys.Res.Commun.(1990).170: 867-872);Good, DJ et al.A tumor suppressor-dependent inhibitor of angiogenesis is immunologically and functionally indistinguishable from a fragment of thrombospondin.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1990)87:6624-6628;Taraboletti,G et al.Platelet thrombospondin modulates endothelial cell adhesion,motility,and growth:a potential angiogenesis regulatory factor.J.Cell Biol.(1990)111 765-772を引用)。TSP1は、複数のレベルでVEGFシグナル伝達を強力に阻害する。ナノモル濃度で、TSP1は、VEGFに直接結合して、VEGFを隔離するか(同上、Gupta, K et al Binding and displacement of vascular endothelial growth factor(VEGF)by thrombospondin: effect on human microvascular endothelial cell proliferation and angiogenesis. Angiogenesis(1999)3:147-1589を引用)、またはTSP1受容体LDL関連受容タンパク質1(LRP1)への結合を介してTSP1-VEGF複合体の内在化をもたらす。(同上、Greenaway,J.et al -1 inhibits VEGF levels in the ovary directly by binding and internalization via the low density lipoprotein receptor-related protein-1(LRP-1).J.Cell.Physiol.(2007)210:807-818を引用)。これらの濃度で、TSP1はまた、細胞表面受容体CD36に結合することによって、Akt/eNOS/NOシグナル伝達も阻害する場合がある。(同上、Isenberg,JS et al,Thrombospondin-1 inhibits nitric oxide signaling via CD36 by inhibiting myristic acid uptake.J.Biol.Chem.(2007)282:15404-15415を引用)。また、脂肪酸トランスロカーゼであるCD36へのTSP1の結合により、内皮細胞にミリスチン酸を取り込む能力が阻害され、Srcキナーゼ及びcGMPシグナル伝達の活性化が阻害される。(同上、Isenberg,JS et al,Thrombospondin-1 inhibits nitric oxide signaling via CD36 by inhibiting myristic acid uptake.J.Biol.Chem.(2007)282:15404-15415を引用)。ピコモル濃度では、TSP1は、インテグリン関連糖タンパク質膜受容体であるCD47に結合することによって、血管新生を強力に阻害する。(同上、Kaur,S.et al Thrombospondin-1 inhibits VEGF receptor-2 signaling by disrupting its association with CD47.J.Biol.Chem.(2010)285:38923-38932を引用)。CD47は、NO下流シグナルすなわち可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)及びcGMP依存性プロテインキナーゼの阻害に必須のTSP1受容体である。同上、Isenberg,JS,et al CD47 is necessary for inhibition of nitric oxide-stimulated vascular cell responses by thrombospondin-1.J.Biol.Chem.281:26069-26080.;Isenberg,JS et al.Thrombospondin-1 stimulates platelet aggregation by blocking the antithrombotic activity of nitric oxide/cGMP signaling.Blood(2008)111:613-623を引用。TSP1-CD47相互作用はまた、eNOS活性化及びeNOS依存性内皮細胞血管緊張低下を阻害する。(同上、Bauer EM et al Thrombospondin-1 supports blood pressure by limiting eNOS activation and endothelial-dependent vasorelaxation.Cardiovasc.Res.(2010)88:471-481を引用)。CD47またはTSP1欠損マウスは、創傷治癒モデルで血管新生の増強を示す。(同上、Isenberg,JS,et al Blockade of thrombospondin-1-CD47 interactions prevents necrosis of full thickness skin grafts.(2008)Ann.Surg.247:180-190を引用)。
【0288】
さらに、TSP1-CD47相互作用は、VEGFR2リン酸化及びAkt活性化を強力に阻害することが判明している。(同上、Kaur,S.et al Thrombospondin-1 supports blood pressure by limiting eNOS activation and endothelial-dependent vasorelaxation.Cardiovasc.Res.(2010)88:471-481を引用)。CD47の抑制またはその発現の下方調節によりVEGFR2リン酸化が救出されたが、これは、TSP1-CD47相互作用によって開始される抗血管新生表現型が単なるNOシグナル伝達の阻害を超えていることを意味し、より包括的な阻害作用の役割を示唆している。(同上、Kaur,S.et al Thrombospondin-1 supports blood pressure by limiting eNOS activation and endothelial-dependent vasorelaxation.Cardiovasc.Res.(2010)88:471-481を引用)。
【0289】
本明細書で使用される「健康寿命」という用語は、個人がある程度健康である生涯の期間を指す。
【0290】
本明細書で使用される「HPC」という用語は、造血前駆細胞を指す。
【0291】
本明細書で使用される「HSPC」という用語は、自己複製及び多系列分化の能力を有する前駆細胞の珍しい集団である造血幹及び前駆細胞を指す。
【0292】
本明細書で使用される「異型」という用語は、2つの異なる細胞型を指す。本明細書で使用される「異型シグナル伝達」という用語は、異種細胞型間のコミュニケーションを指す。
【0293】
本明細書で使用される「同型」という用語は、同一の細胞型を指す。
【0294】
本明細書で使用される「免疫再構成」または「再構成」という用語は、HSCT後に移植されたHSCから免疫系を再構築するプロセスを指す。
【0295】
「免疫応答」及び「免疫媒介性」という用語は、これらの反応の結果が対象に有益であるか、または有害であるかにかかわらず、外来または自己抗原のいずれかに対する対象の免疫系の任意の機能的発現を指すために本明細書で互換的に使用される。
【0296】
本明細書で使用される「免疫系」という用語は、疾患に対する身体の防御システムを指す。自然免疫系は、病原体に対する非特異的な第一線の防御を提供する。それは、物理的なバリア(例えば、皮膚)、ならびに、細胞(顆粒球、ナチュラルキラー細胞)及び体液性(補体系)の両方の防御機構を含む。自然免疫系の反応は即時であるが、適応免疫系とは異なり、病原体に対する永続的な免疫を提供しない。
【0297】
本明細書で使用される「自然免疫」という用語は、本明細書では、病原体に最初に遭遇した後、適応免疫が誘導される様々な自然耐性機構、例えば、解剖学的バリア、抗菌ペプチド、補体系、ならびに非特異的病原体認識受容体を含有するマクロファージ及び好中球を指す。自然免疫は、常に全ての個体に存在し、所与の病原体への曝露を繰り返しながら増加せず、特定の病原体に応答するよりもむしろ、類似の病原体の群間を区別する。
【0298】
「免疫調節」、「免疫調節薬」、及び「免疫調節」という用語は、例えば、ケモカイン、サイトカイン、及び免疫応答の他のメディエーターを発現することにより、直接的または間接的に免疫応答を増強または低下させることを可能にする物質、薬剤、または細胞を指すために本明細書では互換的に使用される。
【0299】
本明細書で使用される「免疫抑制剤」という用語は、体の免疫応答を減少させる薬剤を指す。
【0300】
本明細書で使用される「免疫抑制」という用語は、免疫の減少または体の免疫応答の低下の状態を指す。本明細書で使用される「免疫抑制療法」という用語は、体の免疫系の活性を低下させる処置を指す。
【0301】
本明細書で使用される「炎症」という用語は、血管新生された組織が損傷に応答する生理学的プロセスを指す。例えば、FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY,4th Ed.,William E.Paul,ed.Lippincott-Raven Publishers,Philadelphia(1999)at 1051-1053(参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと。炎症プロセスの間に、解毒及び修復に関与する細胞は、炎症性メディエーターにより損なわれる部位に動員される。炎症は、多くの場合、炎症部位での白血球、特に、好中球(多形核細胞)の強い浸潤を特徴とする。これらの細胞は、血管壁または無傷の組織で有毒物質を放出することにより、組織の損傷を促進する。伝統的に、炎症は、急性応答及び慢性応答に分けられている。本明細書で使用される「急性炎症」という用語は、体液、血漿タンパク質、及び好中球白血球の蓄積を特徴とする急性損傷に応答する迅速で一時的な(数分~数日)比較的均一な応答を指す。本明細書で使用される「慢性炎症」という用語は、より長期的であり、曖昧で無期限の終結を有する炎症を指す。慢性炎症は、最初の炎症剤の不完全なクリアランスによって、または同じ場所で発生する複数の急性事象の結果として、急性炎症が持続する場合に、引き継がれる。リンパ球及びマクロファージの流入ならびに線維芽細胞の成長を含む慢性炎症は、炎症活動が長期化または繰り返される部位で組織の瘢痕化をもたらすことがある。
【0302】
本明細書で使用される「炎症性メディエーター」または「炎症性サイトカイン」という用語は、炎症プロセスの分子メディエーターを指す。これらの可溶性で拡散性の分子は、組織の損傷及び感染の部位ならびにより離れた部位の両方で局所的に作用する。炎症プロセスによって活性化される炎症性メディエーターもあれば、急性炎症に応答して、または他の可溶性炎症性メディエーターによって合成及び/または細胞源から放出される炎症性メディエーターもある。炎症性応答の炎症性メディエーターの例には、限定されないが、ヒスタミン、セロトニン、及び神経ペプチド、限定されないが、インターロイキン-1-ベータ(IL-1β)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)、インターフェロン-ガンマ(IF-γ)、及びインターロイキン-12(IL-12)を含む前炎症性サイトカインを含む、血漿プロテアーゼ、補体、キニン、凝固及び線維素溶解性タンパク質、脂質メディエーター、プロスタグランジン、ロイコトリエン、血小板活性化因子(PAF)、ペプチド及びアミンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0303】
本明細書で使用される「注入」という用語及び他の文法的形態は、血液以外の流体の静脈への導入を指す。
【0304】
「阻害すること」、「阻害する」、または「阻害する」という用語は、本明細書では、プロセスの量もしくは速度を低減すること、プロセスを完全に停止すること、またはその作用もしくは機能を減少、制限、もしくは遮断することを指すために使用される。阻害は、物質の量、速度、作用機能、またはプロセスの、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の低減または減少を含んでもよい。
【0305】
本明細書で使用される「阻害剤」という用語は、第1の分子に結合するか、それに接触するか、または別の方法で、その活性を妨害し、それにより、第1の分子の活性を減少させる第2の分子を指す。
【0306】
本明細書で使用される「傷害」という用語は、物理的もしくは化学的、または内部状態であり得る外部の作用物質または力により引き起こされる身体の構造または機能への損傷または危害を指す。
【0307】
「単離された」という用語は、限定されないが、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質などの材料を指すために本明細書で使用され、これらは、(1)天然に存在する環境で見られるように、通常は、付随するかまたは相互作用する構成成分を実質的または本質的に含まない。「実質的に含まない」または「本質的に含まない」という用語は、本明細書では、実質的もしくは有意に含まない、または約95%、96%、97%、98%、99%、または100%超含まないことを指すために使用される。分離された材料は、任意に、自然環境において材料と共に見出されない材料を含むか、あるいは、(2)材料がその自然環境にある場合、材料は、組成物への意図的なヒトの介入により合成的に(非自然に)変更されている、及び/またはその環境で見出された材料に固有ではない細胞内の場所(例えば、ゲノムもしくは細胞内小臓器)に配置されている。合成材料を生成するための変更は、自然状態の材料に対して実施されても、自然状態から除去されてもよい。
【0308】
本明細書で使用される「ノックイン」という用語は、標的生物の染色体の特定の位置にcDNA配列をコードするタンパク質を挿入することによって行われる遺伝子工学的手法を指す(Gibson,Greg(2009).A Primer of Genome Science 3rd ed.Sunderland,Mass.:Sinauer.pp.301-302)。
【0309】
「ノックアウト」または「KO」という用語は、本明細書では同じ意味で用いられ、対応する遺伝子産物(複数可)が活性型で合成されないか、または存在しないように特定の遺伝子(複数可)を破壊または欠失させる、遺伝子工学手法を指す。
【0310】
本明細書で使用される「Lineage陽性(Lin+)」という用語は、成熟細胞系列マーカーを発現する全細胞の混合物を指す。残りの細胞は、系列陰性(Lin-)であり、これは、系列抗体で染色されないことを意味する。全てのステップ及び前駆細胞の活性は、Lin-集団内で同定された。
【0311】
「リンパ球共通抗原」またはCD45という用語は、全ての白血球で発現する受容体結合タンパク質チロシンホスファターゼを意味する。
【0312】
本明細書で使用される「リンパ球系列細胞」という用語は、骨髄造血幹細胞から分化した一般的なリンパ系前駆細胞(CLP)に由来する全ての細胞を指す。これらには、Tリンパ球、Bリンパ球、及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。
【0313】
「主要組織適合遺伝子複合体」及び「MHC」という用語は、本明細書では、エピトープまたは抗原として既知の分子分画を示し、他の白血球または体細胞との白血球の相互作用を媒介する細胞表面分子を指すために使用される。MHCは、大きな遺伝子群にコードされ、クラスI、クラスII、及びクラスIIIの3つのサブグループに編成することができる。ヒトでは、MHC遺伝子複合体は、HLA(「ヒト白血球抗原」)と呼ばれ、マウスでは、H-2(「組織適合性」の場合)と呼ばれる。双方の種は、3つの主要なMHCクラスI遺伝子を有し、これは、ヒトでは、HLA-A、HLA-B、及びHLA-Cと呼ばれ、マウスでは、H2-K、H2-D、及びH2-Lと呼ばれる。これらは、それぞれのMHCクラスIタンパク質のα鎖をコードする。MHCクラスI分子の他のサブユニットは、β2-ミクログロブリンである。クラスII領域は、ヒトのMHCクラスII分子HLA-DR、HLA-DP、及びHLA-DQのα鎖及びβ鎖(A及びBと指定)の遺伝子を含む。また、MHCクラスII領域には、TAP1:TAP2ペプチドトランスポーターの遺伝子、プロテアソームサブユニットをコードするPSMB(またはLMP)遺伝子、DMα及びBMβ鎖(DMA及びDMB)をコードする遺伝子、DO分子のα及びβ鎖(それぞれ、DOA及びDOB)をコードする遺伝子、ならびにタパシンをコードする遺伝子(TAPBP)がある。クラスII遺伝子は、免疫機能を持つ他の様々なタンパク質をコードする。MHCクラスII分子へのペプチド結合を触媒するHLA-DM分子のサブユニットをコードするDMA及びDMB遺伝子は、調節HLA-DO分子のサブユニットをコードするDOA及びDOB遺伝子と同様に、MHCクラスII遺伝子に関連する。Janeways Immunobiology.9th ed.,GS,Garland Science,Taylor & Francis Group,2017.pps.232-233。
【0314】
本明細書で使用される略語「MAPK」は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)シグナル伝達を指し、これは、MAPKキナーゼ(MAP3K)で3層カスケードを活性化し、これにより、MAPAKキナーゼ(MAP2K)が活性化され、最後にMAPKが活性化される。MAPKは、細胞外刺激を広範囲の細胞応答に変換するタンパク質Ser/Thrキナーゼである。(Cargnello,M.and Roux,PP,Microbiol.Mol.Biol.Rev.(2011)75(1):50-83)。炎症性疾患に関与する主要なMAPK経路は、細胞外調節キナーゼ(ERK)、p38 MAPK、及びc-Jun NH2末端キナーゼ(JNK)である。上流のキナーゼは、TGFβ活性化キナーゼ1(TAK1)及びアポトーシスシグナル調節キナーゼ1(ASK1)を含む。p38 MAPKの下流は、MAPK活性化プロテインキナーゼ2(MAPKAPK2またはMK2)である。(Barnes,PJ(2016)Pharmacological Revs.68:788-815の図11を参照のこと)。
【0315】
本明細書で使用される「マトリックスメタロプロテイナーゼ」という用語は、細胞外マトリックス構成成分の分解及びリモデリングに関与する亜鉛依存性プロテアーゼのコレクションを指す(Guiot,J.et al.Lung(2017)195(3):273-280,Oikonomidi et al.Curr Med Chem.2009;16(10):1214-1228を引用)。例えば、MMP2遺伝子は、マトリックスメタロペプチダーゼ2を作成するための指示を提供する。この酵素は、体全体の細胞で生成され、細胞間の空間に形成されるタンパク質及び他の分子の複雑な格子である細胞外マトリックスの一部になる。MMP-2の主な既知の機能の1つは、基底膜の主要な構造成分であるIV型コラーゲンを切断することである。基底膜は、細胞外マトリックスの一部として細胞を分離及び支持する薄いシート状の構造である。
【0316】
本明細書で使用される「模倣物」という用語は、親化合物または物質に化学的に類似し、親化合物または物質の少なくともある程度の所望の機能を保持する化合物または物質を指す。「模倣物」という用語は、ペプチドの機能を模倣する化学部分を含有する化学物質を指す「模倣物」と互換的に使用される。例えば、ペプチドが機能的活性を有する2つの荷電化学部分を含有する場合、模倣物は、2つの荷電化学部分を空間配向及び拘束構造に配置し、従って、荷電化学機能が、3次元空間で維持される。
【0317】
本明細書で使用される「改変する」または「調節する」という用語は、特定の尺度または比率に調節、変更、適応、または調整することを意味する。本明細書において細胞型の文脈で使用される「改変された」または「調節された」という用語は、細胞型の形態または特徴を変更することを指す。
【0318】
「骨髄系列細胞」という用語は、骨髄の造血幹細胞に由来する一般的な骨髄前駆細胞(CMP)から分化した子孫である顆粒球及び単球を総称して指す。骨髄細胞のいずれかの系列へのコミットメントは、特定のコロニー刺激因子に応答した、別個の転写因子とそれに続く最終分化及び血液循環への放出により調節される。[Kawamoto,H.,Minato,N.Intl J.Biochem.Cell Biol.(2004)36(8):1374-70]。
【0319】
本明細書で使用される「骨髄破壊的療法」という用語は、がん細胞を含む、骨髄で生存する細胞を死滅させるために使用される治療レジメン(例えば、大量化学療法または高線量照射)を指し、これは、骨髄中の正常な造血細胞数を低下させ、これにより、赤血球、白血球、及び血小板の低下がもたらされる。本明細書で使用される「非骨髄破壊的」という用語は、レシピエントの骨髄を破壊することなく、ドナー骨髄幹細胞の拒絶を防ぐために限られた量の化学療法が施行される移植前のコンディショニングレジメンを指す。
【0320】
本明細書で使用される「骨髄抑制」という用語は、骨髄活性が減少し、それにより、赤血球、白血球、及び血小板の低下がもたらされる状態を指す。骨髄抑制が重度の場合、それは、骨髄破壊と呼ばれる。骨髄抑制は、周期性造血細胞のアポトーシスだけでなく、骨髄の血管系の破壊にもつながる。(Kopp,et.al.“The Bone Marrow Vascular Niche:Home of HSC Differentiation and Mobilization.“PHYSIOLOGY 20:349-356,2005;10.1152/physiol.00025.2005)。
【0321】
本明細書で使用される「中和抗体」という用語は、その標的の生物学的活性を低下させる抗体を指す。本明細書で使用される「非中和抗体」という用語は、in vitroでの中和活性が低いかまたは中和活性がない機能的抗体を指す。非中和結合抗体は、限定はされないが、タンパク質に結合して立体的にその活性を阻害することなどを含む、複数の異なる方法で機能する。
【0322】
本明細書で使用される略語「NFκB」は、前炎症性転写因子であるものを指す。それは、サイトカイン、ケモカイン、プロテアーゼ、及びアポトーシス阻害剤を含む複数の炎症遺伝子のスイッチをオンにし、炎症性応答の増幅がもたらされる(Barnes,PJ,(2016)Pharmacol.Rev.68:788-815)。NF-κBの活性化に関与する分子経路は、いくつかのキナーゼを含む。炎症性刺激及び感染がNF-κBシグナル伝達を活性化する典型的な(標準的な)経路は、IKK(κBキナーゼの阻害剤)複合体を含み、これは、2つの触媒サブユニット、IKK-α及びIKK-β、ならびに調節サブユニットIKK-γ(またはNFκB必須モジュレーターで構成される。(同上。Hayden,MS and Ghosh,S(2012)Genes Dev.26:203-234を引用)。IKK複合体は、Nf-κB結合IκB(プロテアソームによる分解のためにそれらを標的とし、それにより、p65及びp50サブユニットで構成されるNf-κB二量体を放出する)をリン酸化し、これは、核に移行し、それらは、プロモーター領域o炎症性及び免疫遺伝子のκB認識部位に結合し、これにより、転写活性化がもたらされる(図12)。この応答は、主に、IκBリン酸化を実行する触媒サブユニットIKK-β(IKK2としても既知)に依存する。非標準(代替)経路は、TNFファミリーの特定のメンバー、例えば、リンホトキシンβに応答して、IKK-αホモ二量体をリン酸化してRelBを放出させ、p100~p52を処理する上流キナーゼNF-κB誘導性キナーゼ(NIK)を含む(同上、Sun,SC.(2012)Immunol.Rev.246:125-140を引用)。この経路は、様々な遺伝子セットのスイッチをオンにし、標準的な経路とは異なる免疫機能を媒介し得る。ドミナントネガティブIKK-βは、NF-κBの前炎症性機能のほとんどを阻害するが、IKK-αを阻害することは、限られた刺激に応答して、及びBリンパ球などの特定の細胞でのみ役割を果たす。非標準的な経路は、免疫系の発達及び適応免疫応答に関与する。樹状細胞及びマクロファージなどの抗原提示細胞で発現されるコアクチベータ分子CD40は、リンパ球で発現されたCD40Lと相互作用する時、非標準経路を活性化する(同上、Lombardi,V et al.(2010)Int.Arch.Allergy Immnol.151:179-89を引用)。
【0323】
「核酸」という用語は、本明細書では、一本鎖または二本鎖形態のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを指すために使用され、別途限定されない限り、天然に存在するヌクレオチドと同様の様式で一本鎖核酸(例えば、ペプチド核酸)にハイブリダイズするという点で天然ヌクレオチドの本質的な性質を有する既知のアナログを包含する。
【0324】
「ヌクレオチド」という用語は、本明細書では、複素環式塩基、糖、及び1つ以上のリン酸基からなる化学化合物を指すために使用される。最も一般的なヌクレオチドでは、塩基は、プリンまたはピリミジンの誘導体であり、糖は、ペントースデオキシリボースまたはリボースである。ヌクレオチドは、核酸を形成するために一体となった3つ以上の結合を有する核酸のモノマーである。ヌクレオチドは、RNA、DNA、ならびに、限定されないが、CoA、FAD、DMN、NAD、及びNADPを含むいくつかの補因子の構造単位である。プリンは、アデニン(A)、及びグアニン(G)を含み、ピリミジンは、シトシン(C)、チミン(T)、及びウラシル(U)を含む。
【0325】
本明細書で使用される「オリゴヌクレオチド」という用語は、比較的短い(13~25ヌクレオチド)、未修飾の、または化学修飾した一本鎖DNA分子を指す。
【0326】
本明細書で使用される「臓器」という用語は、細胞及び組織からなり、生物においていくつかの特定の機能を実施する分化した構造を指す。
【0327】
本明細書で使用される「器官型」という用語は、臓器または組織の種類の、典型的または特徴的なものを指す。
【0328】
本明細書で使用される「骨形成」という用語は、骨または骨性組織が形成されるプロセスを指す。骨組織は、明確な構造である骨に通常組織化された結合組織の剛性のある形態である。骨形成には2つの主要なモードがあり、これらの両方は、骨組織への既存の間葉組織の転換を含む。間葉組織の骨への直接変換は、膜内骨化と呼ばれる。本プロセスは、主に、頭蓋骨の骨で生じる。他の場合では、間葉細胞は、軟骨に分化し、これは、後に骨に置き換わる。軟骨中間体が形成され、骨細胞に置き換わるプロセスは、軟骨内骨化と呼ばれる。
【0329】
膜内骨化は、肩甲骨、頭蓋骨、及び亀の甲羅の扁平骨が形成される特徴的な方法である。膜内骨化では、骨は、線維性結合組織のシートを発達させる。頭蓋骨の膜内骨化中に、神経堤由来の間葉系細胞は増殖し、凝縮して緻密な小結節になる。これらの細胞のうち毛管に進展するものもあれば、形を変化させ骨芽細胞になり、骨前駆細胞になることがコミットされるものもある。骨芽細胞は、カルシウム塩に結合できるコラーゲン-プロテオグリカンマトリックスを分泌する。この結合により、プレボネ(prebone)(類骨)マトリックスは、石灰化するようになる。ほとんどの場合、骨芽細胞は、分泌する類骨基質の層で石灰化の領域から分離される。時折、骨芽細胞は、石灰化したマトリックスに閉じ込められ、骨細胞になる。石灰化が進む時、骨化が始まった領域から骨の棘が放射状に広がり、石灰化した棘の全領域が、骨膜を形成する緻密な間葉細胞に囲まれ、骨膜の内面の細胞も骨芽細胞になり、既存の針骨のものと平行した類骨基質を沈着させる。このように、骨の多くの層が形成される。
【0330】
膜内骨化は、間葉帯への毛細血管の侵入、ならびに間葉細胞の成熟骨芽細胞への出現及び分化を特徴とし、これは、骨基質を構成的に沈着させ、骨の棘状突起の形成をもたらし、これは、成長及び発達して、最終的に他の棘状突起と融合して小柱を形成する。小柱のサイズ及び数が増えるにつれて、それらは相互接続されて織骨(骨細胞の割合が高い無秩序な弱い構造)を形成し、最終的にはより組織化された、より強い、層状の骨に置き換わる。
【0331】
膜内骨化の分子機序は、骨形成タンパク質(BMP)及びCBFA1と呼ばれる転写因子の活性化を含む。頭の表皮由来の骨形成タンパク質、例えば、BMP2、BMP4、及びBMP7は、神経堤由来の間葉系細胞が直接骨細胞になるように指示すると考えられる。BMPは、間葉系細胞のCbfa1遺伝子を活性化する。CBFA1転写因子は、間葉系細胞を骨芽細胞に変換することが知られている。マウスCBFA1のmRNAは、主に骨を形成する間葉凝縮に限定されており、骨芽細胞系列に限定されることを、研究は示している。CBFA1は、オステオカルシン、オステオポンチン、及び他の骨特異的な細胞外マトリックスタンパク質の遺伝子を活性化することが知られている。
【0332】
軟骨内骨化(endochondral Ossification)(軟骨内骨化(Intracartilaginous Ossification))。凝集した間葉系細胞からの軟骨組織のin vivo形成を含む軟骨内骨化、及びその後の、骨による軟骨組織の置換は、5つの段階に分けることができる。脊柱、骨盤、及び四肢の骨格構成要素は、最初に軟骨で形成され、後で骨になる。
【0333】
まず、間葉系細胞は、軟骨細胞になることがコミットされる。このコミットメントは、近くの中胚葉細胞に2つの転写因子、Pax1及びScleraxisを発現させるパラクリン因子により引き起こされる。これらの転写因子は、軟骨特異的遺伝子を活性化することが知られている。例えば、Scleraxisは、硬節からの間充織、骨への軟骨前駆体を形成する顔面間葉、及び四肢の間葉で発現される。
【0334】
軟骨内骨化の第2段階では、コミットされた間葉細胞が凝縮して緻密な小結節になり、軟骨細胞(主にコラーゲン及びプロテオグリカンからなる軟骨基質を生成及び維持する軟骨細胞)に分化する。N-カドヘリンが、これらの凝縮の開始に重要であり、N-CAMが、それらを維持するために重要であることを、研究は示している。ヒトでは、DNA結合タンパク質をコードするSOX9遺伝子は、軟骨前凝縮で発現される。
【0335】
軟骨内骨化の第3段階では、軟骨細胞が急速に増殖して骨のモデルを形成する。それらが分裂するにつれて、軟骨細胞は、軟骨特異的な細胞外マトリックスを分泌する。
【0336】
第4段階では、軟骨細胞は、分裂を停止し、体積を劇的に増加させて、肥大型軟骨細胞になる。これらの大きな軟骨細胞は、(コラーゲンX及びより多くのフィブロネクチンを追加することにより)生成するマトリックスを変化させて、炭酸カルシウムでミネラル化されるようにする。
【0337】
第5段階は、血管による軟骨モデルへの侵入を含む。肥大型軟骨細胞は、アポトーシスによって死滅し、この空間が骨髄になる。軟骨細胞が死滅する時、軟骨モデルを取り囲んでいた細胞のグループが、骨芽細胞に分化し、これにより、部分的に分解された軟骨上に骨基質が形成し始める。最終的に、全ての軟骨が、骨に置き換えられる。従って、軟骨組織は、続く骨のモデルとして機能する。
【0338】
軟骨細胞の骨細胞による置換は、細胞外マトリックスのミネラル化に依存している。好気性呼吸から嫌気性呼吸への最初の切り替えを含む多くのイベントは、軟骨細胞の肥大及びミネラル化につながる。これにより、細胞代謝及びミトコンドリアのエネルギーポテンシャルが変化する。肥大軟骨細胞は、細胞外マトリックスに多数の小さな膜結合小胞を分泌する。これらの小胞は、カルシウムイオン及びリン酸イオンの生成に活性があり、軟骨基質内でミネラル化プロセスを開始する酵素を含有する。肥大型軟骨細胞、それらの代謝及びミトコンドリア膜は変化し、次に、アポトーシスにより死滅する。
【0339】
多くの哺乳類(ヒトを含む)の長骨では、軟骨内骨化は、骨の中心から両方向に外側に広がる。骨化前線が軟骨モデルの端に近づくにつれて、骨化前線の近くの軟骨細胞が肥大する前に増殖し、骨の軟骨端を押し出す。長骨の端の軟骨領域は、骨端成長板と呼ばれる。これらのプレートは、3つの領域:軟骨細胞増殖の領域、成熟軟骨細胞の領域、及び肥大型軟骨細胞の領域を含有する。内側の軟骨肥大及び骨化前線がさらに外側に伸びるにつれて、骨端成長板に残っている軟骨が増殖する。骨端成長板が軟骨細胞を生成できる限り、骨は、成長し続ける。
【0340】
本明細書で使用される「骨減少症」という用語は、骨粗鬆症よりも重症度が低い骨量の減少を指す。それは、骨密度測定で、-1~-2.5のTスコアとして定義される。
【0341】
本明細書で使用される「骨粗鬆症」という用語は、骨密度の低下を指し、骨は、より多孔性で壊れやすくなり、骨折のリスクが高まる。これは、-2.5以下のTスコアとして定義される。
【0342】
PI3K/Akt//mTORシグナル伝達経路。PI3K/Akt/mTor経路の概略図を図1に示す。
【0343】
ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)/Akt及び哺乳類のラパマイシン標的(mTor)シグナル伝達経路は、細胞増殖及び生存の多くの状況に非常に重要なものである。(Porta,C.et al.,“Targeting PI2K/Akt/mTor signaling in cancer.Frontiers in Oncology (2014)doi.10.3389/fpmc.2014.00064)。これらは、相互に関連しているため、単一の経路と見なされる場合があり、低酸素誘導因子(HIF)の経路を含む多くの他の経路と強く相互作用する。
【0344】
PI3Kは、イノシトールリン脂質のイノシトール環3’-OH基をリン酸化する能力を特徴とする脂質キナーゼファミリーを構成する。(同上、Fruman,DA et al.,Phosphoinositide kinases.Annu.Rev.Biochem.(1998)67:481-507を引用)。クラスI PI3Kは、触媒(CAT)サブユニット(すなわち、p110)及びアダプター/調節サブユニット(すなわち、p85)で構成されるヘテロ二量体である。このクラスはさらに、2つのサブクラス、すなわち、タンパク質チロシンキナーゼ活性を伴う受容体によって活性化されるサブクラスIA(PI3Kα、β、及びδ)、及びGタンパク質と結合した受容体によって活性化されるサブクラスIB(PI3Kγ)に分けられる(同上、Fruman,DA et al.,Phosphoinositide kinases.Annu.Rev.Biochem.(1998)67:481-507を引用)。
【0345】
成長因子受容タンパク質チロシンキナーゼの活性化によって、チロシン残基の自己リン酸化がもたらされる。次にP13Kは、アダプターサブユニットの2つのSH2ドメインのうち1つを介して、成長因子受容体もしくはアダプターのホスホチロシンコンセンサス残基に直接結合することによって細胞膜に動員される。これにより、CATサブユニットのアロステリックな活性化がもらたされる。PI3Kの活性化により、基質ホスファチジルイノシトール-4,4-二リン酸(PI-4,5-P2)からの二次メッセンジャーホスファチジルイノシトール-4,4-二リン酸(PI3,4,5-P3)の産生がもたらされる。次に、PI3,4,5-P3は、プロテインセリン/スレオニンキナーゼ-3’ホスホイノシチド依存性キナーゼI(PDK1)及びAkt/プロテインキナーゼB(PKB)を含むプレクストリン相同(PH)ドメインを含むシグナル伝達タンパク質のサブセットを細胞膜に動員する(同上、Fruman,DA et al.,Phosphoinositide kinases.Annu.Rev.Biochem.(1998)67:481-507,Fresno-Vara,JA,et al.,PI3K/Akt signaling pathway and cancer.Cancer Treat.Rev.(2004)30:193-204を引用)。Akt/PKBは、それ自体で、細胞生存及び細胞周期の進行に関与するいくつかの細胞プロセスを調節する。
【0346】
Akt。Akt(プロテインキナーゼBとしても知られている)は、60kDaのセリン/スレオニンキナーゼである。これは、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子及び神経成長因子など、チロシンキナーゼ受容体の刺激に応答して活性化される(Shimamura,H,et al.,J.Am.Soc.Nephrol.14:1427-1434,2003;Datta K,Franke T F,Chan T O,Makris A,Yang S I,Kaplan D R,Morrison D K,Golemis E A,Tsichlis P N,Mol Cell Biol 15:2304-2310,1995;Kulik G,Klippel A,Weber M J,Mol Cell Biol 17:1595-1606,1997;Yao R,Cooper G M,Science 267:2003-2006,1995)。Aktの刺激は、ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3キナーゼ)活性に依存することが明らかとなっている(Fruman D A,Meyers R E,Cantley L C,Annu Rev Biochem 67:481-507,1998;Choudhury G G,Karamitsos C,Hernandez J,Gentilini A,Bardgette J,Abboud H E,Am J Physiol 273:F931-938,1997,Franke T F,Yang S I,Chan T O,Datta K,Kazlauskas A,Morrison D K,Kaplan D R,Tsichlis P N,Cell 81:727-736,1995;Franke T F,Kaplan D R,Cantley L C,Cell 88:435-437,1997)。
【0347】
Aktは、複数の細胞株のアポトーシスから細胞を保護する生存シグナルのメディエーターとして作用することが明らかとなっている(Brunet A,Bonni A,Zigmond M J,Lin M Z,Juo P,Hu L S, Anderson M J,Arden K C,Blenis J,Greenberg M E,Cell 96:857-868,1999;Downward J,Curr Opin Cell Biol 10:262-267,1998)。例えば、Aktによるアポトーシス促進Badタンパク質のリン酸化が、Badのアポトーシスタンパク質Bcl-XLへの結合を阻止してアポトーシスを低下させることが判明している(Dudek H,Datta S R,Franke T F,Birnbaum M J,Yao R,Cooper G M,Segal R A,Kaplan D R,Greenberg M E,Science 275:661-665,1997;Datta S R,Dudek H,Tao X,Masters S,Fu H,Gotoh Y,Greenberg M E,Cell 91:231-241,1997)。Aktはまた、核因子kB(NF-kB)を活性化することで細胞生存を促進すること(Cardone M H,Roy N,Stennicke H R,Salvesen G S,Franke T F,Stanbridge E,Frisch S,Reed J C,Science 282:1318-1321,1998;Khwaja A,Nature401:33-34,1999)、及び細胞死プロテアーゼカスパーゼ-9の活性を阻害すること(Kennedy S G,Kandel E S,Cross T K,Hay N,Mol Cell Biol 19:5800-5810,1999)が明らかとなっている。
【0348】
mTORシグナル伝達経路。mTORシグナル伝達経路を図1A及び図1Bに示す(Laplante,M.,Sabatini,DM,Cell(2012)149(2):274-293を引用)。機構的ラパマイシン標的(mTOR)は、2つの異なる複合体に存在する異型のセリン/スレオニンキナーゼである。1つ目の、mTOR複合体1(mTORC1)は、mTOR、Raptor、GβL、及びDEPTORで構成され、かつラパマイシンによって阻害される。これは、成長因子、エネルギーレベル、細胞ストレス、及びアミノ酸を含む、多様な栄養情報及び環境情報を感知して、それらを統合する主要な成長調節因子である。これは、mRNA翻訳及び脂質合成などの同化作用プロセスを増強するか、またはオートファジーなどの異化作用プロセスを制限する基質をリン酸化することで、これらのシグナルを細胞成長の促進に結び付けている。低分子量GTPアーゼRhebは、GTP結合状態で、mTORC1キナーゼ活性の必要かつ強力な刺激因子であり、そのGTPアーゼ活性化タンパク質(GAP)である結節硬化ヘテロ二量体TSC1/2によって負の調節を受ける。TSC1及びTSC2は、腫瘍症候群TSC(結節硬化複合体)で変異した腫瘍抑制遺伝子である。これらの遺伝子産物は、複合体(TSC1-TSC2(ハマルチン-ツベリン)複合体)を形成し、低分子量Gタンパク質Rheb(脳に豊富に存在するRas相同体)に対するGAP活性を介して、mTORC1(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質複合体1)の重要な負の調節因子となる。(Huang,J.Manning BD,Biochem J.(2008)412(2):179-90)。もとんどの上流の入力は、Akt及びTSC1/2を介して注入され、Rhebのヌクレオチド負荷状態が調節される。対照的に、アミノ酸は、PI3K/Akt軸線とは独立してmTORC1にシグナリングし、リソソーム表面へのmTORC1の移行を促進し、そこで、Rhebと接触するとmTORC1は活性化することができる。このプロセスは、V型ATPアーゼ、Ragulator、Rag、GTPアーゼ、及びGATOR1/2を含む複数の複合体の調整作用によって媒介される。2つ目のmTOR複合体2(mTORC2)は、mTOR、Rictor、GβL、Sin1、PRR5/Protor-1及びDEPTORで構成される。mTORC2は、Aktを活性化することによって細胞生存を促進し、PKCαを活性化することによって細胞骨格動態を調節し、かつSGK1のリン酸化を介して、イオン輸送及び成長を制御する。mTORシグナル伝達の異常は、多くの疾患状態に関与している。
【0349】
本明細書で使用される場合、「パラクリンシグナル伝達」という用語は、隣接する細胞に作用する分泌されたシグナル分子を介した短距離の細胞間コミュニケーションを指す。
【0350】
本明細書で使用される「病原体関連分子パターン」(PAMP)という用語は、自然免疫系の細胞により認識される病原体のグループに特異的に関連する分子を指す。
【0351】
本明細書で使用される「表現型」という用語は、細胞の観察可能な特性、例えば、タンパク質の発現を指す。
【0352】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書では、それらの最も広い意味で、サブユニットアミノ酸、アミノ酸アナログ、またはペプチド模倣物の配列を指すために使用される。記載された場合を除き、サブユニットは、ペプチド結合で連結されている。これらの用語は、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工化学アナログであるアミノ酸ポリマー、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマーにも適用される。これらの用語はまた、限定されないが、グリコシル化、脂質付着、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマカルボキシル化、ヒドロキシル化、及びADPリボシル化を含む改変を含んでいる。よく知られているように、及び上記のように、ポリペプチドが完全に線状ではない場合があることは、理解されるであろう。例えば、ポリペプチドは、一般に、翻訳後イベントの結果として、自然なプロセシングによるものであれ、自然には起こらないヒトの操作でもたらされるイベントによるものであれ、ユビキチン化の結果として分岐されても、または、分岐の有無にかかわらず環状であってもよい。環状、分岐、及び分岐環状ポリペプチドは、完全に合成方法で合成されてもよい。
【0353】
「医薬組成物」という用語は、本明細書では、標的の状態または疾患を予防するか、強度を低減させるか、治癒するか、または他の方法で処置するために用いられる組成物を指すために使用される。「製剤」及び「組成物」という用語は、本明細書では、全ての活性及び不活性成分を含む、記載された本発明の製品を指すために互換的に使用される。
【0354】
「薬学的に許容される」という用語は、製剤または組成物の他の成分と適合性があり(通常の使用条件下で、組成物の有効性を実質的に低減する相互作用がないような方法で、互いに組み合わせることができることを意味する)、かつ、そのレシピエントに有害ではない担体、希釈剤、または賦形剤を指すために使用される。担体は、処置される対象への投与に適するようにするために、十分に高い純度及び十分に低い毒性のものでなければならない。担体は、さらに、活性剤の安定性及び生物学的利用能を維持しなければならない。例えば、「薬学的に許容される」という用語は、連邦もしくは州政府の規制機関により承認されているか、または、使用のために米国薬局方もしくは他の一般的に認められている薬局方に記載されることを意味し得る。
【0355】
分極能力。指向性の軸を特定することは、ほとんどの生細胞にとって必要不可欠である。個々に動く才能のレパートリーでは、細胞の前後を決定することは、細胞運動性を強化する機構を組織化するための必要条件である。従来の顕微鏡法を使用した単一の細胞の初期の観察で、細長い細胞の細胞形状が円形の細胞よりも分極しているとして分極が定義された。動く細胞の場合、移動の方向は、典型的に分極軸の方向であり、細胞の長軸として定義付けられている[Rappel,WJ,Edelstein-Keshet,L.,Mechanisms of cell polarization.Curr.Opin.Syst.Biol.(2017)3:43-53]。
【0356】
「プライマー」という用語は、DNA鎖にハイブリダイズされると、適切な重合剤の存在下で伸長生成物の合成を開始することができる核酸を指す。プライマーは、DNA鎖の特定の領域を独自にハイブリダイズするのに十分な長さである。プライマーはまた、RNAで、例えば、cDNAの最初の鎖を合成するために使用することができる。
【0357】
本明細書で使用される「前駆細胞」という用語は、成長因子が加えられた培養皿中で骨髄細胞の懸濁液を成長させることにより単離され得る骨髄中の未成熟細胞を指す。前駆細胞は、血液細胞に成熟する前駆細胞に成熟する。前駆細胞は、コロニー形成単位(CFU)またはコロニー形成細胞(CFC)と呼ばれる。前駆細胞の特定の系列は、限定されないが、CFU-E(赤血球)、CFU-GM(顆粒球/マクロファージ)、及びCFU-GEMM(多能性造血前駆細胞)などの接尾辞で示される。
【0358】
本明細書で使用される「精製」という用語及びその様々な文法形式は、外来の、無関係な、または好ましくない要素を分離または除去するプロセスを指す。
【0359】
「定量的リアルタイム逆転写PCR」または「リアルタイム定量的逆転写PCR」(リアルタイムqRT-PCR)という用語は、PCRプロセスの各サイクルの間に生成される生成物の信頼性の高い検出及び測定を可能にするPCR技法を指す。RNAは、出発物質として使用され、逆転写酵素によって相補性DNA(cDNA)に転写され、cDNAは、定量PCR反応のテンプレートとして使用される。
【0360】
本明細書で使用される「静止」という用語は、多くの場合、組織に存在する幹細胞を特性決定し、恒常性の間に組織を補充し得る休眠予備として、それらを機能させることを可能にする特性である。静止は、造血幹細胞(HSC)の基本的な特徴であると考えられ、これは、多系列の分化及び自己複製の可能性を有し、血液系列内の全ての細胞型を生じさせることができる(Nakamura-Ischizu,A.et al.,Development(2014)141:4656-66,Pietras,EM.et al.,J.Cell Biol.(2011)195:709-720を引用)。静止状態のHSCの細胞周期の正確な調節は、幹細胞の消耗を最小限に抑えた成熟造血細胞の効果的な産生に必要とされる(同上、Orford,KW and Scadden,DT,Nature Rev.Genet.(2008)9:115-128を引用)。増殖中の細胞が、遺伝子変異の影響をより受けやすく、ターンオーバーが最大(ヘイフリック限界として知られる限界)に達すると、老化するので、(同上、Hayflick,L.and Moorhead,PS,Expl Cell Res.,(1961)25:585-621を引用)、静止は、おそらく、悪性形質転換及び機能不全からHSCを保護する(同上、Wang,JCY and Dick,JE,Trends Cell Biol.(2005)15:494-501を引用)。炎症または失血などの様々なストレスに応答して誘導される細胞内因性及び外因性シグナルの両方により、静止状態のHSCが細胞周期に再び入り、増殖及び分化することが可能になる(同上、Morrison,SJ and Weissman,IL Immunity(1994)1:661-673;Suda,T.et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA(1983)80:6689-93を引用)。
【0361】
「参照配列」という用語は、配列比較の基準として使用される配列を指す。参照配列は、指定された配列のサブセットまたは全体であってよい。
【0362】
「再生」、「回復」、及び「若返らせる」という用語は、本明細書では同じ意味で用いられ、以前の若々しい機能的状態に戻すこと、再度新しくすることを指す。
【0363】
RNA干渉(RNAi)または転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)は、内因性寄生核酸及び外因性病原核酸の両方の対する抵抗力を媒介し、タンパク質コード遺伝子の発現を調節する二本鎖RNAに対する保存生物学的応答である。それは、二本鎖RNAが相同RNAの分解を開始する天然のプロセスであり、研究者は、遺伝子発現を研究するためにこのプロセスを利用することが可能である。RNAi経路の簡略化されたモデルは、2つの工程に基づき、その工程のそれぞれは、RNA分解酵素が関与する。最初の工程では、トリガーRNA(dsRNAまたはmiRNA一次転写物)が、RNアーゼII酵素Dicer及びDroshaによってプロセシングを受けて低分子干渉RNA(siRNA)となる。次の工程では、siRNAが、エフェクター複合体であるRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)にロードされる。siRNAは、RISCの組み立ての間に巻き戻され、一本鎖RNAは、mRNA標的とハイブリダイズする。遺伝子サイレンシングは、RNアーゼH酵素Argonaute(スライサー)によって標的とされたmRNAが核酸分解された結果である。
【0364】
しかし、遺伝子サイレンシングは、標的とされたmRNAのsiRNA媒介性切断ではなく、翻訳阻害を介しても起こり得る。siRNA/mRNA二重鎖に不一致がある場合、mRNAは、切断されず、このようなケースでは、特に高濃度のsiRNAが存在する場合に直接的な翻訳阻害が起こる場合がある。この翻訳阻害のメカニズムは未知である。
【0365】
その結果、siRNAは、転写抑制後の2つの異なるモードを誘発し得る。直接的な翻訳阻害に対する標的相補性の要件が標的mRNAの切断に対するものよりも厳しくないため、後者のために設計されたsiRNAは、別の遺伝子で意図せずに前者を誘発する可能性がある。従って、ある遺伝子に対して設計されたsiRNAは、関連のない遺伝子のサイレンシングを誘発する可能性がある。
【0366】
shRNA(短ヘアピンRNA)配列は、延長された遺伝子サイレンシングの実現性を提供する。shRNAは、通常、DNAベクターにコードされ、それにより、プラスミドトランスフェクションまたはウイルス形質導入を介して細胞に導入され得る。その設計に基づいてshRNA分子は、主に、シンプルなステム-ループshRNA及びmicroRNA適合shRNAの2つに分類される。シンプルなステム-ループshRNAは、多くの場合、RNAポリメラーゼIII(Pol III)プロモーターの制御下で転写される[Bartel,DP,MicroRNAs:genomics,biogenesis,mechanism,and function.Cell 116(2):281-297(2004),Kim,V.N.MicroRNA biogenesis:coordinated cropping and dicing.Nature Reviews,Molecular Cell Biology 6(5):376-385 (2005)]。50~70のヌクレオチド転写物が、主に一本鎖RNA(ループ)領域及びジヌクレオチド3’オーバーハングによって架橋された二本鎖RNA(ステム)の19~29bp領域からなるステム-ループ構造を形成する[Brummelkamp,T.R.et al.(2002)A system for stable expression of short interfering RNAs in mammalian cells. Science 296(5567):550-553;Paddison,P.J.et al.(2002)Stable suppression of gene expression by RNAi in mammalian cells.PNAS 99(3):1443-1448;Paul,C.P.et al.(2002)Effective expression of small interfering RNA in human cells.Nature Biotechnology 20(5):505-508]。シンプルなステム-ループshRNAは、核に転写され、pre-microRNAと類似するRNAi経路に入る。より長い(250を超えるヌクレオチド)microRNA適合shRNAは、天然のpri-microRNA分子により詳細に似ているデザインであり、microRNAのような不一致を含む可能性があるshRNAステム構造で構成され、ループによって架橋され、かつ5’及び3’内因性microRNA配列によって挟まれる[Silva,J.M.et al.(2005)Second-generation shRNA libraries covering the mouse and human genomes.Nature Genetics 37(11):1281-1288.]。シンプルなステム-ループヘアピンのようなmicroRNA適合shRNAもまた、核に転写されるが、内因性のpri-microRNAと同様に早期にRNAi経路に入ると考えられている。
【0367】
microRNA(miRNA)及び低分子干渉RNA(siRNA)の両方を含む「低分子干渉RNA」という用語は、小型の非コードRNA分子であり、RNA干渉において役割を果たす。siRNAは、RNA依存性RNAポリメラーゼを介して、一致するmRNAの二本鎖セグメントから合成され、siRNAは、対応するsiRNAと配列が同一のmRNA分子の分解を調節し、それにより、対応する遺伝子のサイレンシング及びタンパク質合成の停止がもたらされる。siRNAの主な作用機序は、mRNA切断機能である。siRNAをコードする遺伝子は存在しない。siRNAはまた、プロモーター遺伝子のメチル化及びクロマチン凝縮を誘導することによって、遺伝子発現を抑制することもできる。miRNAは、ヘアピンターンを特徴とするRNA前駆体の不一致のセグメントから合成され、miRNAは、特定のmiRNA遺伝子によって短ヘアピンpri-miRNAとして核にコードされる。miRNAはまた、低分子非コードRNAであるが、miRNAの5’領域と標的の3’UTRとの間の7から8塩基対「シード」の一致のみを必要とするようである。miRNA標的の大部分は、翻訳抑制されるが、標的mRNAの分解も発生し得る。miRNAの主な作用機序は、mRNA翻訳の阻害であり得るが、mRNAの切断もまた重要な役割である(Ross et al.Am J Clin Pathol.2007;128(5):830-36)。
【0368】
本明細書で使用される「特異的にハイブリダイズする」という用語は、それによって、核酸が元々は核酸と対ではなかった核酸標的配列の少なくとも1つの鎖の相補的な領域と共にはっきりとまたはより確実に塩基対を形成するプロセスを指す。選択的にハイブリダイズした核酸は、厳密なハイブリダイゼーション条件下で、非標的核酸配列へのハイブリダイゼーションよりも検出可能な程度以上(例えば、少なくともバックグラウンドの2倍)に、かつ非標的核酸を実質的に排除するように、核酸配列の特定の核酸標的配列へのハイブリダイゼーションを受ける。選択的なハイブリダイゼーション配列は、通常、互いに、少なくとも約80%の配列同一性、少なくとも85%の配列同一性、少なくとも90%の配列同一性、少なくとも95%の配列同一性、または少なくとも100%の配列同一性(すなわち、相補性)を有する。
【0369】
本明細書で使用される「スプライス部位バリアント」という用語は、タンパク質コード配列の変化をもたらし得るエクソン及びイントロン(スプライス部位)の境界で生じるDNA配列の遺伝的変化を指す。
【0370】
本明細書で使用される「定常状態」という用語は、損失率が利得率と等しい動的平衡状態を指す。
【0371】
本明細書で使用される「幹細胞」という用語は、複数の別個の細胞表現型への最終分化を受け得る娘細胞を生成し得る自己複製能力を有する高い増殖能を有する未分化細胞を指す。幹細胞は、2つの特徴で他の細胞型と区別される。まず、それらは、場合により、長期間の不活動後に、細胞分裂により自己を再生することが可能な未分化細胞である。次に、特定の生理学的または実験的条件下で、それらは、特別な機能を備えた組織または臓器に特異的な細胞になるように誘導することができる。腸及び骨髄などの一部の臓器では、幹細胞が定期的に分裂して、摩耗または損傷した組織を修復及び置き換える。しかし、膵臓及び心臓などの他の臓器では、幹細胞は、特別な条件下でのみ分裂する。
【0372】
成体(体性)幹細胞は、組織または臓器の分化した細胞の中に見られる未分化の細胞である。in vivoでのそれらの主要な役割は、それらが見出される組織を維持及び修復することである。成体幹細胞は、脳、骨髄、末梢血、血管、骨格筋、皮膚、歯、胃腸管、肝臓、卵巣上皮、及び精巣を含む、多くの臓器及び組織で同定されている。成体幹細胞は、幹細胞ニッチとして既知の各組織の特定の領域に存在すると考えられ、それらは、より多くの細胞が組織を維持する通常の必要性により、または病気もしくは組織損傷により活性化されるまで、長期間静止(非分裂)したままであってよい。
【0373】
骨髄幹細胞。本明細書で使用される「骨髄幹細胞」という用語は、骨髄に由来する幹細胞を指し、HSC及びMSCを含む。骨髄の単核分画は、間質細胞、造血前駆体、及び内皮前駆体を含有する。
【0374】
末梢血幹細胞。本明細書で使用される「末梢血幹細胞」という用語は、末梢血に由来する幹細胞を指す。末梢血は、組織または臓器の分化細胞の中に見られる未分化細胞である成体(体細胞)幹細胞を収容する。末梢血幹細胞の例には、造血幹細胞、及び間葉系幹細胞が挙げられるが、これらに限定されない[Dzierzak E.et al.,“Of lineage and legacy:the development of mammalian hematopoietic stem cells”,Nature Immunol.,Vol.9(2):129-136,(2008)]。
【0375】
造血幹細胞。本明細書で使用される場合、「造血幹細胞」(骨髄及びリンパ系細胞(CFU-M、L)のコロニー形成ユニット、またはCD34+細胞としても既知)という用語は、生涯にわたり血液細胞の継続的な産生に関与している造血臓器内のまれな多能性細胞である[Li Y.et al.,“Inflammatory signaling regulates embryonic hematopoietic stem and progenitor cell production”,Genes Dev.,Vol.28(23):2596-2612,(2014)]。HSCは、赤血球、好中球、好塩基球、好酸球、血小板、肥満細胞、単球、組織マクロファージ、破骨細胞、ならびに、T及びBリンパ球を含む、様々な細胞型を生成し得る。造血幹細胞の調節は、自己複製、生存及び増殖、系列の関与及び分化を含む複雑なプロセスであり、内因性細胞プログラミングならびに微小環境間質との接着相互作用及びサイトカインの作用などの外部刺激を含む多様な機序により調整される。
【0376】
造血幹細胞を特定の経路に沿って分化させる際には、種々のパラクリン因子(サイトカイン)が重要である。サイトカインは、いくつかの細胞型で作成することができるが、造血部位の間質(間葉系)細胞の細胞外マトリックスにより収集及び濃縮される。例えば、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及び多系列成長因子IL-3は、双方ともに、骨髄間質のヘパラン硫酸グリコサミノグリカンに結合する。次に、細胞外マトリックスは、これらの因子を受容体に結合するのに十分に高い濃度で幹細胞に提示する[Alvarez S.et al.,“GM-CSF and IL-3 activities in schistosomal liver granulomas are controlled by stroma-associated heparan sulfate proteoglycans”,J Leukoc Biol.,Vol.59(3):435-441,(1996)]。
【0377】
間葉系幹細胞。間葉系幹細胞(MSC)(骨髄間葉系幹細胞または骨格幹細胞としても既知)は、様々な組織に見られる非血液の成人幹細胞である。それらは、以下を特徴とする:紡錘形の形態学的、細胞表面上の特定のマーカーの発現、ならびに適切な条件下で、最低3つの系列(骨形成、軟骨形成、及び脂肪生成)に沿って分化する能力[Najar M.et al.,“Mesenchymal stromal cells and immunomodulation:A gathering of regulatory immune cells”,Cytotherapy,Vol.18(2):160-171,(2016)]。in vivoでMSCを明確に描写する単一のマーカーは、MSC表現型に関するコンセンサスがないので同定されていないが、MSCは細胞表面マーカーCD105、CD166、CD90、及びCD44に対して陽性であり、MSCは、代表的な造血抗原、例えば、CD45、CD34、及びCD14に陰性であることが一般的である。MSCの分化の可能性については、骨髄由来のMSCの集団が、骨、軟骨、腱、筋肉、脂肪組織、及び間質をサポートする造血を含む、in vitro及びin vivoの両方で最終分化した間葉系表現型に発達する能力を有することが研究で報告されている。トランスジェニック及びノックアウトマウス及びヒト筋骨格障害を使用した研究では、胚発生及び成体恒常性の間に、MSCが複数の系列に分化することが報告されている。[Najar M.et al.,“Mesenchymal stromal cells and immunomodulation:A gathering of regulatory immune cells”,Cytotherapy,Vol.18(2):160-171,(2016)]。
【0378】
In vivoプロセスを再現する適切な条件下でのMSCのin vitro分化の分析は、幹細胞のコミットメントに不可欠な様々な要因の同定につながっている。それらの中で、分泌された分子及びそれらの受容体(例えば、トランスフォーミング成長因子-(β)、細胞外マトリックス分子(例えば、コラーゲン及びプロテオグリカン)、アクチン細胞骨格、ならびに細胞内転写因子(例えば、Cbfal/Runx2、PPARy、Sox9、及びMEF2)は、多能性MSCの特定の系列へのコミットメントを引き起こすこと、ならびに、それらの分化した表現型を維持することに重要な役割を果たすことが示されている[Davis L.A.et al.,“Mesodermal fate decisions of a stem cell:the Wnt switch”,Cell Mol Life Sci.,Vol.65(17):2568-2574,(2008)]。
【0379】
本明細書で使用される「幹細胞ニッチ」という用語は、成体幹細胞が存在する各組織の特定の領域を指し、それらは、より多くの細胞が組織を維持する通常の必要性により、または病気もしくは組織損傷により活性化されるまで、長期間静止(非分裂)したままであってよい。幹細胞ニッチの細胞は、幹細胞と相互作用して、幹細胞を維持するか、または幹細胞の分化を促進する。
【0380】
本明細書で使用される「幹細胞レスキュー」または「レスキュー移植」という用語は、高用量の抗がん剤または放射線療法による処置により破壊された造血幹細胞を置き換える方法を指す。これは通常、処置前に保存された患者自身の幹細胞を使用して行われる。幹細胞は、骨髄が回復し、健康な血球を生成するのを助ける。幹細胞レスキューは、より多くのがん細胞が死滅するように、より多くの化学療法または放射線療法が投与されることを可能にし得る。
【0381】
本明細書で使用される場合、特定の状態の処置について「必要とする対象」という表現は、その状態を有する対象、その状態を有すると診断された対象、またはその状態を発症するリスクがある対象である。いくつかの実施形態によると、そのような処置を「必要とする対象」という表現は、また、別途文脈及び使用法の表現により示されない限り、(i)記載の発明の組成物を投与されることになる患者;(ii)記載の発明の組成物を受けている患者;または、(iii)記載の発明の組成物を少なくとも1つ受けた患者を指すために使用される。
【0382】
本明細書で使用される「懸濁液」という用語は、細かく分割された種が別の種と組み合わされ、前者が細かく分割されて混合されるので、急速に沈降しない分散液(混合物)を指す。
【0383】
本明細書で使用される「標的」という用語は、例えば、限定されないが、タンパク質、細胞、臓器、または核酸などの生物学的実体を指し、その活性は、外部刺激によって改変され得る。刺激の性質に応じて、標的に直接的な変化がなくても、または標的の立体配座変化が誘導されてもよい。
【0384】
本明細書で使用される場合、「治療薬」または「活性薬」という用語は、意図された治療効果に関与する記載された発明の組成物の成分、構成成分、または構成要素を指す。
【0385】
本明細書で使用される「治療構成成分」という用語は、あるパーセンテージの集団における特定の疾患症状の進行を排除、低減、または防止する治療上有効な投薬量(すなわち、投与の用量及び頻度)を指す。
【0386】
本明細書で使用される「治療効果」という用語は、処置の結果を指し、その結果は、望ましくかつ有益であると判断される。治療効果は、直接的または間接的に、疾患の症状の阻止、軽減、または排除を含んでもよい。治療効果は、直接的または間接的に、疾患症状の進行の阻止、軽減、または排除も含んでもよい。
【0387】
本明細書で使用される場合、「組織」という用語は、類似の細胞及びそれらを取り巻く細胞間物質の集合を指す。例えば、結合組織は、様々な種類の多数の細胞を含む繊維状及び粉砕された物質で形成された体の支持またはフレームワーク組織である。それは、間葉に由来し、これもまた、中胚葉に由来する。結合組織の種類は、疎性(areolar)または疎性(loose);脂肪;センス、規則的または不規則的な、白い繊維;弾性;粘液性;リンパ組織;軟骨;及び骨を含むが、これらに限定されない。
【0388】
トロンボスポンジン。トロンボスポンジン(TSP)は、を含む、発症、炎症、血管新生、及び腫瘍形成を含む広範囲の生理学的及び病理学的プロセスの間に機能する5つのマトリックス細胞タンパク質のファミリーである(Duquette,M.et al.,“Members of the thrombospondin gene family bind stromal interaction molecule 1 and regulate calcium channel activity,”Matrix Biol.(2014)37:15-24,下記を引用:Adams JC,Lawler J.The thrombospondins.Cold Spring Harb.Perspect.Biol.2011;3:a009712)。それらは、一時的に細胞表面に結合し、そこでプロテオグリカン、インテグリン、CD36、及びCD47を含む様々な膜タンパク質と相互作用する。(同上、Adams JC,Lawler J.The thrombospondins. Cold Spring Harb.Perspect.Biol.(2011)3:a009712を引用)。これらの相互作用は変化するが、TSPは、組織発達及びリモデリングの間に細胞外マトリックス構造及び細胞表現型を調節する。例えば、TSP-1は、内皮細胞において、CD36と血管内皮成長因子受容体-2(VEGFR-2)の会合を増加させる一方で、CD47とVEGFR-2との会合を減少させる(同上、Kaur,S.et al.Thrombospondin-1 inhibits VEGF receptor-2 signaling by disrupting its association with CD47.J.Biol.Chem.(2010)285:38923-38932;Kazerounian,S.et al.,Priming of the vascular endothelial growth factor signaling pathway by thrombospondin-1,CD36,and spleen tyrosine kinase.Blood.(2011)117:4658-4666を引用)。その結果、TSP-1は、内皮細胞がVEGFに反応する方法の根本的な変化を調整する(同上、Kaur,S.et al.Thrombospondin-1 inhibits VEGF receptor-2 signaling by disrupting its association with CD47.J.Biol.Chem.(2010)285:38923-38932;Kazerounian,S.et al.,Priming of the vascular endothelial growth factor signaling pathway by thrombospondin-1,CD36,and spleen tyrosine kinase.Blood.(2011)117:4658-4666;Chu,YF et al.,Thrombospondin-1 modulates VEGF signaling via CD36 by recruiting SHP-1 to VEGFR2 complex in microvascular endothelial cells.Blood.(2013)122:1822-1832を引用)。
【0389】
TSP-1三量体の各サブユニットは、複数のドメイン、すなわち、アミノ及びカルボキシ端末球状ドメイン、プロコラーゲンと相同の配列領域(PHR)、ならびに1型、2型、及び3型反復と呼ばれる、3つのタイプの反復配列モチーフで構成される(同上、Lawler J,Hynes RO.The structure of human thrombospondin,an adhesive glycoprotein with multiple calcium binding sites and homologies with several different proteins.J.Cell Biol.(1986)103:1635-1648を引用)。1型反復は、異なる構造モチーフとして、初めてTSP-1で同定されて以来、トロンボスポンジン反復またはTSRと呼ばれている。(同上、Lawler J,Hynes RO.The structure of human thrombospondin,an adhesive glycoprotein with multiple calcium binding sites and homologies with several different proteins.J.Cell Biol.(1986)103:1635-1648;Tucker RP.The thrombospondin type 1 repeat superfamily.Int.J.Biochem.Cell Biol.(2004)36:969-974を引用)。トロンボスポンジン遺伝子ファミリーの5つのメンバーは、それらの構造に基づいて2つのサブグループに分類することができる(Bornstein,P et al.,A second,expressed thrombospondin gene(Thbs2)exists in the mouse genome.J.Biol.Chem.(1991)266:12821-128241;Oldberg,A.et al.,COMP is structurally related to the thrombospondins.J.Biol.Chem.(1992)267:22346-223502;Vos,HL et al.,Thrombospondin-3(Thbs3),a new member of the thrombospondin gene family.J.Biol.Chem.(1992)267:12192-121962;Lawler,J.et al.,evolution of the thrombospondin gene family.J.Mol.Evol.(1993a)36:509-516;Lawler,J.et al,Identification and characterization of thrombospondin-4,a new member of the thrombospondin gene family.J.Cell Biol.(1993b)120:1059-1067;Efimov,VP et al.,The thrombospondin-like chains of cartilage oligomeric matrix protein are assembled by a five-stranded a-helical bundle between residues 20 and 83.FEBS Lett.(1994) 341:54-58;Newton,G et al.,Characterization of human and mouse cartilage oligomeric matrix protein.Genomics.(1994)24:435-439)。TSP-1及びTSP-2(サブグループA)は、前述の構造ドメインの完全なセットを有し、かつ三量体である。対照的に、サブグループBのTSPである、TSP-3、及びTSP-4、ならびに軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(COMP)は、TSR及びPHRの両方を欠くが、別の2型反復を含有する(同上、Oldberg,A.et al.,J.Biol.Chem.(1992)267:22346-223502;Vos,HL et al.,J.Biol.Chem.(1992)267:12192-12196;Lawler,J et al.,J.Cell Biol.(1993b)120:1059-1067を引用)。サブグループBのタンパク質はまた、三量体ではなく五量体を形成するという点でサブグループAのメンバーと異なる(同上、Vos,HL et al.,J.Biol.Chem.(1992)267:12192-12196;Efimov,VP et al.,FEBS Lett.(1994)341:54-58を引用)。2型反復、3型反復、及びカルボキシ端末ドメインは、TSPの中で最も保存レベルが高く、まとめてシグネチャードメインとして知られている。TSP-1及びTSP-2ならびにCOMPのシグネチャードメインの全てまたは一部の構造は、X線結晶構造解析によってこれまでに同定されており、C末端ドメインがβサンドイッチを形成し、かつ3型反復と2型反復の部分が、βサンドイッチの表面と密接に会合していることが明らかとなっている(同上、Kvansakul,M et al.,Structure of a thrombospondin C-terminal fragment reveals a novel calcium core in the type 3 repeats.EMBO J.(2004)23:1223-12334;Carlson,CB et al.,Structure of the calcium-rich signature domain of human thrombospondin-2.Nat.Struct.Mol.Biol.(2005)12:910-914;Tan,K et al.,The crystal structure of the signature domain of cartilage oligomeric matrix protein: implications for collagen,glycosaminoglycan and integrin binding.FASEB J.(2009)23:2490-2501を引用)。約30個のカルシウムイオンの結合部位が、この構造に含まれる。これらの部位は、主に3型反復に位置し、折りたたまれて連続した一連のカルシウム結合部位を形成するが、2型反復及びC末端のβサンドイッチにもカルシウム結合部位が存在する。
【0390】
本明細書で使用される「移植」という用語及びその様々な文法的形態は、組織または臓器が、ヒトの体のある領域から別の領域へ、またはあるヒト(ドナー)から別のヒト(レシピエント)へ移動される外科処置を指す。
【0391】
本明細書で使用される「処置する」、「処置される」、または「処置すること」という用語は、治療的処置及び/または予防的(prophylactic)もしくは予防的(preventative)手段の両方を指し、目的は、望ましくない生理学的状態、障害もしくは疾患を予防もしくは減速(軽減)すること、または有益なもしくは所望の臨床結果を得ることである。本発明の目的のために、有益なまたは所望の臨床結果は、症状の軽減;状態、障害、または疾患の程度の減少;状態、障害、または疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと);状態、障害、または疾患の発症の遅延または進行の遅延;状態、障害、または疾患状態の改善;及び検出可能または検出不可能にかかわらない、寛解(部分的もしくは全体的にかかわらず)、または状態、障害、もしくは疾患の改善もしくは好転を含むが、これに限定されない。処置は、過剰なレベルの副作用なしに臨床的に有意な応答を誘発することを含む。処置は、処置を受けていない場合に予想される生存期間と比較して生存期間を延長することも含む。
【0392】
本明細書で使用される「H型血管」という用語は、高発現のCD31(CD31hi及びエンドムシン(emcnhi))を特徴とする血管を指し、これは、細動脈に繋がっており、骨前駆細胞に取り囲まれており、かつ骨形成を促進する因子を放出する。本明細書で使用される「L血管」という用語は、CD31loEmcnloである血管を指し、これは、BM洞様血管に相当し、細動脈接続及び骨前駆細胞会合を欠く[Kusumbe,A.et al.,Age-dependent modulation of vascular niches for haematopoietic stem cells.Nature(2016)532(7599):380-84].
【0393】
本明細書で使用される「脈管形成」という用語は、新しい血管形成のプロセスを指す。
【0394】
「体積/体積パーセント」という用語は、溶液中の物質の濃度の尺度である。これは、溶質の体積対溶液の総体積×100の割合として表される。純粋な液体溶液を混合することにより溶液を調製する時はいつでも、体積パーセント(vol/vol%またはv/v%)が使用されるべきである。
【0395】
略語「WBM」は、全骨髄を表す。
【0396】
「重量パーセントによる重量」または重量/重量%という用語は、本明細書では、溶質の重量対溶液の総重量の割合を指すために使用される。
【0397】
本明細書で使用される場合、「野生型」、「天然に存在する」という用語、またはそれらの文法的同等物は、天然に見出され、対立遺伝子変異を含むアミノ酸配列またはヌクレオチド配列、つまり、通常は意図的に改変されていないアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を指すことを意味する。従って、「天然に存在しない」、「合成の」、「組み換え」という用語、またはそれらの文法的同等物は、天然に見出されないアミノ酸配列またはヌクレオチド配列、つまり、通常は意図的に改変されているアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を指すために互換的に使用される。組み換え核酸が作製され、宿主細胞または生物に再導入されると、それは非組み換え的に、すなわち、in vitro操作ではなく、宿主細胞のin vivo細胞機序を使用して複製することになると理解される。ただし、そのような核酸は、一度組み換え的に産生されると、その後、非組み換え的に複製されるが、依然として、記載の発明のための組み換え体と考えられる。
【0398】
方法
一態様によると、記載された発明は、骨髄の造血微小環境における、血管完全性の悪化、造血幹細胞機能の低下またはそれらの両方を含む老化関連造血障害を含む老化した血液及び血管系を若返らせる方法を提供し、方法は、
アンジオクライン因子の阻害剤、スプライスバリアント、またはそれらのフラグメント、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を対象に投与することと、
必要に応じて、血液系を再生し、骨髄の造血再構成を促進するのに有効な治療量の多能性の自己再生造血幹細胞(HSC)の移植を含む幹細胞併用療法を施行することと、
必要に応じて、血液系を再生し、骨髄の造血再構成を促進するのに有効な治療量の内皮細胞(EC)の移植を含む血管内皮併用療法を施行することと、
骨髄の造血微小環境内の炎症を低減することと、骨髄の造血微小環境における血管完全性を維持することと、または造血区画における細胞型の頻度及び数を増加させて、多系列の再構成を行うことのうち1つ以上により、造血骨髄微小環境における造血回復を増強することと、を含む。
【0399】
いくつかの実施形態によると、骨髄微小環境は、造血幹細胞(HSC)ニッチ、及び内皮マイクロニッチを含むHSC関連血管ニッチ、ならびに間葉細胞を含む血管周囲ニッチを含む造血微小環境を含む。
【0400】
いくつかの実施形態によると、骨髄(BM)微小環境は、BMEC、BM間質細胞、BM Lepr+細胞、及びBM骨芽細胞を含む。いくつかの実施形態によると、BMECは、類洞及び細動脈BMECである。いくつかの実施形態によると、BMECの免疫表現型は、CD45-Ter119-CD31+VEカドヘリン+である。いくつかの実施形態によると、BM間質細胞の免疫表現型は、CD45-Ter119-CD31-VEカドヘリン-である。いくつかの実施形態によると、BM間質集団内のBM Lepr+細胞の免疫表現型は、CD45-Ter119-CD31-Lepr+である。いくつかの実施形態によると、マウスHSCの免疫表現型は、lin-Ter119-CD11b-GR1-B220-CD3-CD41-ckit+SCA1+CD48-CD150+を含む。いくつかの実施形態によると、ヒトHSCの免疫表現型は、系列-CD45RA-CD38-CD34+CD90+を含む。
【0401】
いくつかの実施形態によれば、HSCニッチは、造血幹細胞(HSC)、造血幹及び前駆細胞(HPSC)、多能性前駆細胞(MPP)、及び造血前駆細胞サブセットのうちの1つ以上を含む。
【0402】
いくつかの実施形態によれば、HSCニッチは細胞成分をさらに含む。いくつかの実施形態によれば、HSCニッチの細胞成分は、造血幹細胞(HSC)、造血前駆細胞(HPC)、及びHSCニッチの常在細胞を含む。いくつかの実施形態によれば、定常状態では、HSCはほとんど静止状態であるが、HPCは活発に増殖しており、毎日の造血に寄与している。いくつかの実施形態によれば、HSCニッチは、分泌因子及び膜結合因子を含む。いくつかの実施形態によれば、分泌因子及び膜因子は、HSC及びHPC上の表面受容体に結合する。いくつかの実施形態によれば、表面受容体に結合する分泌因子及び膜結合因子はケモカインである。いくつかの実施形態によれば、分泌因子及び膜結合因子は、Wnt、SCF、Cxcl12及びJagged-1を含む。いくつかの実施形態によれば、アンジオクライン因子は、HSC及びHPCの自己複製及び分化のバランスをとるアンジオクラインシグナルを発生する。いくつかの実施形態によれば、HSCニッチの常在ニッチ細胞は、内皮及び血管周囲間質細胞を含む。
【0403】
いくつかの実施形態によれば、内皮微小ニッチは内皮細胞を含む。いくつかの実施形態によれば、内皮微小ニッチの内皮細胞は、骨髄内皮細胞(BMEC)を含む。いくつかの実施形態によれば、骨髄の造血微小環境の血管ニッチのBMECは、活性化されると、アンジオクライン因子を産生する。いくつかの実施形態によれば、BMECによって産生されるアンジオクライン因子は、CXCL-12、CXCR-4;骨形成タンパク質2(BMP2)及び骨形成タンパク質4(BMP4)、E-セレクチン、線維芽細胞増殖因子1(FGF1)線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、インスリン増殖因子結合タンパク質(IGFBP)、ジャギド1(Jag1)、ジャギド2(Jagged2)、インターロイキン7(IL-7)、IL33、Noggin、間質由来因子1(SDF1)、SEMA-III、テネイシンC、TGF、トロンボスポンジン1(TSP1)、または腫瘍壊死因子(TNF)のうちの少なくとも1つを含む。
【0404】
いくつかの実施形態によれば、骨髄の造血微小環境の血管ニッチにおける脈管形成は、有効な細胞クロストークを生み出すHSCとBMECとの間の通信経路を含む。いくつかの実施形態によれば、通信経路は、SDF-1-CXCR-4シグナル伝達、VEGFシグナル伝達、Notchシグナル伝達、Hedgehogシグナル伝達、またはWntシグナル伝達のうちの1つ以上を含む。
【0405】
いくつかの実施形態によれば、内皮ニッチ中のBMEC内で活性化された通信経路は、アンジオクライン因子の差次的産生をもたらす細胞クロストークのシステムを調整する。いくつかの実施形態によれば、脈管形成中に細胞クロストークを作り出すHSCと内皮前駆細胞との間の通信経路は、SDF-1(CXCL12)-CXCR-4シグナル伝達;VEGFシグナル伝達、Notchシグナル伝達、Hedgehogシグナル伝達、またはWntシグナル伝達のうちの1つ以上を含む。いくつかの実施形態によれば、脈管形成中に細胞クロストークを作り出すHSCと内皮前駆細胞との間の通信経路は、SDF-1(CXCL12)-CXCR-4シグナル伝達を含む。いくつかの実施形態によれば、脈管形成中に細胞クロストークを作り出すHSCと内皮前駆細胞との間の通信経路は、VEGFシグナル伝達を含む。いくつかの実施形態によれば、脈管形成中に細胞クロストークを作り出すHSCと内皮前駆細胞との間の通信経路は、Notchシグナル伝達を含む。いくつかの実施形態によれば、脈管形成中に細胞クロストークを作り出すHSCと内皮前駆細胞との間の通信経路は、Hedgehogシグナル伝達を含む。いくつかの実施形態によれば、脈管形成中に細胞クロストークを作り出すHSCと内皮前駆細胞との間の通信経路は、Wntシグナル伝達を含む。いくつかの実施形態によれば、造血微小環境は、骨芽細胞ニッチまたは骨内膜ニッチ及び骨芽細胞ニッチ関連血管ニッチを含む。いくつかの実施形態によれば、骨芽細胞ニッチまたは骨内膜ニッチは、細胞成分及び増殖因子を含む。
【0406】
いくつかの実施形態によれば、老化過程は自然老化である。いくつかの実施形態によれば、老化過程は生理的老化である。いくつかの実施形態によれば、対象はヒト対象である。いくつかの実施形態によれば、対象はマウスである。
【0407】
いくつかの実施形態によれば、造血微小環境の老化は、持続性炎症;幹細胞プールサイズの増加;HSCの骨髄バイアス分化、または骨髄ニッチの生着と再生の減少のうちの1つ以上を含む。
【0408】
いくつかの実施形態によれば、造血微小環境の老化は、持続性炎症を含む。いくつかの実施形態によれば、骨髄の造血微小環境における持続性炎症は血管炎症を含む。いくつかの実施形態によれば、骨髄の造血微小環境における持続性炎症は、BM間質細胞の炎症を含む。いくつかの実施形態によれば、骨髄の造血微小環境における持続性炎症は、造血細胞の炎症を含む。いくつかの実施形態によれば、持続性炎症は骨髄抑制性傷害に由来する。いくつかの実施形態によれば、骨髄抑制性傷害は、放射線、化学療法、またはその両方への曝露を含む。いくつかの実施形態によれば、放射線は、亜致死放射線、全身照射、または全リンパ節照射である。いくつかの実施形態によれば、骨髄抑制性傷害は化学療法を含む。いくつかの実施形態によれば、骨髄抑制性傷害は骨髄破壊的である。
【0409】
いくつかの実施形態によれば、造血微小環境の老化は、幹細胞プールサイズの増加を含む。いくつかの実施形態によれば、造血微小環境の老化は、HSCの骨髄バイアス分化を含む。
【0410】
いくつかの実施形態によれば、造血微小環境の老化は、老化した造血環境への移植後の骨髄ニッチの生着及び再生の減少を含む。いくつかの実施形態によれば、老化した造血環境への移植後の生着の減少は、骨髄細胞の産生に偏った造血再増殖を含む。いくつかの実施形態によれば、骨髄細胞の偏った産生は、リンパ球形成を犠牲にしている。
【0411】
いくつかの実施形態によれば、血管完全性の悪化は、血管透過性の増加を含む。いくつかの実施形態によれば、血管完全性の悪化は、内皮透過性の増加、内皮炎症の増加、またはその両方を含む。
【0412】
いくつかの実施形態によれば、BM造血微小環境のHSCニッチにおける老化関連造血障害は、HSC細胞型の増加、HSCプールサイズの変化、HSCの自己複製能の喪失;HSC骨髄バイアス分化の増加、骨髄破壊的方針の失敗のリスクの増加;または移植後の生着の減少のうちの1つ以上を含む。いくつかの実施形態によれば、BM造血微小環境のHSCニッチにおける老化関連造血障害は、HSC細胞型の増加を含む。いくつかの実施形態によれば、BM造血微小環境のHSCニッチにおける老化関連造血障害は、HSCプールサイズの変化を含む。いくつかの実施形態によれば、BM造血微小環境のHSCニッチにおける老化関連造血障害は、HSC自己複製能の喪失を含む。いくつかの実施形態によれば、BM造血微小環境のHSCニッチにおける老化関連造血障害は、HSC骨髄バイアス分化の拡大を含む。いくつかの実施形態によれば、BM造血微小環境のHSCニッチにおける老化関連造血障害は、骨髄破壊的方針の失敗のリスクの増加を含む。いくつかの実施形態によれば、BM造血微小環境のHSCニッチにおける老化関連造血障害は、移植後の生着の減少を含む。
【0413】
いくつかの実施形態によれば、BM造血微小環境のHSC微小環境における老化関連造血障害は、HSC静止状態の障害、HSCアポトーシスの増加、またはその両方を含む。いくつかの実施形態によれば、BM造血微小環境のHSC微小環境における老化関連造血障害は、HSC静止状態の障害を含む。いくつかの実施形態によれば、BM造血微小環境のHSC微小環境における老化関連造血障害は、HSCアポトーシスの増加を含む。
【0414】
いくつかの実施形態によれば、HSCの老化は、mTORの活性化、オートファジー依存の生存、DNAメチル化の調節不全、ヒストン修飾の障害、または細胞極性の乱れのうちの1つ以上を示す。いくつかの実施形態によれば、mTORの過剰活性化は、HSCを静止状態からより活性な細胞周期へと駆動する。
【0415】
いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、SELP、NEO1、JAM2、SLAMF1、PLSCR2、CLU、SDPR、FYB、ITGA6のうちの1つ以上の上方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、SELPの上方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、NEO1の上方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、JAM2の上方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、SLAMF1の上方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、PLSCR2の上方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、CLUの上方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、SDPRの上方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、FYBの上方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、ITGA6の上方調節を含む。
【0416】
いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、RASSF4、FGF11、HSPA1B、HSPA1A、またはNFKBIAのうちの1つ以上の下方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、RASSF4の下方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、FGF11の下方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、HSPA1Bの下方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、HSPA1Aの下方調節を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したHSCでの老化に関連するHSC遺伝子発現における変化は、NFKB1Aの下方調節を含む。
【0417】
SELPは、血小板の活性化及び脱顆粒中に細胞膜に再分布し、活性化された内皮細胞または血小板と白血球との相互作用を媒介するセレクチンPをコードする遺伝子である。
【0418】
NEO1は、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである細胞表面タンパク質であるネオゲニン1をコードする遺伝子である。コードされたタンパク質は、細胞の増殖と分化、及び細胞間接着に関与している可能性がある。この遺伝子での欠損は、特定のがんでの細胞増殖に関連付けられる。選択的スプライシングにより、複数の転写バリアントが生じる。
【0419】
JAM2は、接合部接着分子2をコードする遺伝子であり、免疫グロブリンスーパーファミリー及び接合部接着分子(JAM)ファミリーに属する。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、上皮細胞と内皮細胞の両方の密着接合部に局在するI型膜タンパク質である。これは、様々な免疫細胞タイプと相互作用するための接着リガンドとして機能し、二次リンパ器官へのリンパ球ホーミングでの役割を果たす可能性がある。この遺伝子には、選択的スプライシングされた転写バリアントが見いだされている。
【0420】
SLAMF1は、シグナル伝達リンパ球活性化分子ファミリーの自己リガンド受容体をコードする遺伝子である。SLAM受容体がホモまたはヘテロの細胞間相互作用によって誘導されると、多種多様な免疫細胞の活性化と分化を調節するため、自然免疫応答と適応免疫応答の両方の制御と相互接続に関与する。活性は、小さい細胞質アダプタータンパク質、SH2D1A/SAP及び/またはSH2D1B/EAT-2の有無によって制御される。
【0421】
PLSCR2はリン脂質スクランブラーゼ2をコードする遺伝子であり、カルシウムイオンと結合すると、ATP非依存性リン脂質の二重層間の双方向性移動の加速を媒介し得ることで、細胞膜でのリン脂質の非対称性の喪失がもたらされる。
【0422】
CLUは、あるストレス条件下では細胞サイトゾルにも見いだされ得る分泌型シャペロンであるクラスタリンをコードする遺伝子である。
【0423】
SDPRは、カベオラ(caveeolae)関連タンパク質1をコードする遺伝子であり、カルシウム非依存性リン脂質結合タンパク質であり、その発現は血清飢餓細胞で増加する。このタンパク質は、プロテインキナーゼC(PKC)リン酸化の基質であり、ポリメラーゼIと転写物放出因子(PTRF)をカベオラに補充する。
【0424】
FYB(FYN結合タンパク質1)は、T細胞中のFYNタンパク質及びLCP2シグナル伝達カスケードのアダプターであるFYN結合タンパク質1をコードする遺伝子である。コードされたタンパク質は血小板の活性化に関与し、インターロイキン2の発現を制御する。この遺伝子には、異なるアイソフォームをコードする3つの転写バリアントが見いだされている。
【0425】
ITGA6は、タンパク質のインテグリンアルファ鎖ファミリーのメンバーであるインテグリンサブユニットアルファ6をコードする遺伝子である。インテグリンは、細胞表面の接着とシグナル伝達で機能するアルファ鎖とベータ鎖から構成されるヘテロ二量体の内在性膜タンパク質である。
【0426】
RASSF4は、潜在的な腫瘍抑制因子をコードする遺伝子であり、アポトーシス及び細胞周期停止を促進し得る。
【0427】
FGF11は、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーのメンバーをコードする遺伝子である。FGFファミリーのメンバーは、広範な分裂促進因子及び細胞生存の活性を有し、胚発生、細胞増殖、形態形成、組織修復、腫瘍増殖及び浸潤を含む様々な生物学的過程に関与する。この遺伝子の機能はまだ決定されていない。マウス相同体の発現パターンは、神経系の発達における役割を黙示する。選択的スプライシングにより、複数の転写バリアントが生じる。
【0428】
HSPA1B及びHSPA1Aは、ストレスからのプロテオームの保護、新たに合成されたポリペプチドのフォールディング及び輸送、ミスフォールドしたタンパク質のタンパク質分解の活性化、ならびにタンパク質複合体の形成及び解離を含む、多種多様な細胞の過程に関係付けられる分子シャペロンをコードする遺伝子である。それらは、熱ショックタンパク質70ファミリーのメンバーである70kDaの熱ショックタンパク質をコードする。
【0429】
NFKBIAは、核因子カッパBサブユニット1をコードする遺伝子である。NF-カッパ-Bは、ほぼすべての細胞型に存在する多面的転写因子であり、炎症、免疫、分化、細胞増殖、腫瘍発生及びアポトーシスなどの多くの生物学的過程に関連する膨大な数の刺激によって開始される一連のシグナル伝達現象の終点である。NF-カッパ-Bは、Rel様ドメイン含有タンパク質RELA/p65、RELB、NFKB1/p105、NFKB1/p50、REL及びNFKB2/p52によって形成されるホモまたはヘテロ二量体の複合体であり、ヘテロ二量体p65-p50の複合体は、最も大量に存在するものであるように見える。二量体は、それらの標的遺伝子のDNA中のカッパB部位に結合し、個々の二量体は、識別可能な親和性と特異性で結合できる様々なカッパB部位に対して明確な優先度を有する。異なる二量体の組み合わせは、それぞれ転写活性化因子または抑制因子として機能する。
【0430】
いくつかの実施形態によれば、老化したBMECを含有する老化した骨髄造血微小環境内の内皮微小環境の老化は、mTORシグナル伝達の減少、mTORサブユニットの存在量の減少、mTOR触媒サブユニットのリン酸化の減少、もしくはmTOR転写標的遺伝子の発現の現象;またはmTOR触媒サブユニットmTOR複合体1及びmTOR複合体2のタンパク質レベルの低下のうちの1つ以上を含む。いくつかの実施形態によれば、老化した骨髄造血微小環境内の内皮微小環境の老化は、mTORシグナル伝達の減少を有するBMECを含む。いくつかの実施形態によれば、mTORシグナル伝達の減少は、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ/ラパマイシン(PI3k-mTOR)経路シグナル伝達のレベル低下;PI3k-mTORサブユニット存在量のレベル低下;mTOR転写標的遺伝子の発現減少;またはmTORサブユニットのタンパク質レベルの低下のうちの少なくとも1つを含む。
【0431】
いくつかの実施形態によれば、老化した骨髄造血微小環境内の内皮微小環境の老化は、mTORサブユニットの存在量の減少を有するBMECを含む。
【0432】
いくつかの実施形態によれば、老化した骨髄造血微小環境内の内皮微小環境の老化は、mTORシグナル伝達が低下したBMECの老化を含む。いくつかの実施形態によれば、mTORシグナル伝達のmTOR触媒ユニットのリン酸化状態は、若い対象と比較して、高齢の対象のBMECにおいて減少する。いくつかの実施形態によれば、老化したBMECでのmTOR下流の転写標的遺伝子の発現は、若いBMEC対照と比較して減少する。いくつかの実施形態によれば、mTOR触媒サブユニットmTOR複合体1及びmTOR複合体2におけるタンパク質レベルは、高齢の対象では低下する。
【0433】
いくつかの実施形態によれば、BMECによるmTORシグナル伝達の低下は、老化したHSCでの老化に関連する機能障害を引き起こす。いくつかの実施形態によれば、老化に関連する機能障害は、造血細胞の総量での有意な増加、表現型LT-HSCの頻度の増加、有意な骨髄球系への分化偏向性;HPC活性の低下;分極能の減少;二本鎖DNA切断の増加;または老化対照と同様のHSC遺伝子発現における変化のうちの1つ以上を含む。
【0434】
いくつかの実施形態によれば、老化に関連する機能障害は、若い対照と比較して造血細胞の総量での有意な増加を含む。いくつかの実施形態によれば、老化に関連する機能障害は、若い対照と比較して、表現型LT-HSCの頻度の増加を含む。いくつかの実施形態によれば、老化に関連する機能障害は、若い対照と比較して有意な骨髄球系への分化偏向を含む。いくつかの実施形態によれば、老化に関連する機能障害は、若い対照と比較してHPC活性の低下を含む。いくつかの実施形態によれば、老化に関連する機能障害は、若い対照と比較して分極能の低下を含む。いくつかの実施形態によれば、老化に関連する機能障害は、若い対照と比較して、二本鎖DNA切断の増加を含む。いくつかの実施形態によれば、老化に関連する機能障害は、若い対照と比較して、高齢の対照と同様のHSC遺伝子発現における変化を含む。
【0435】
いくつかの実施形態によれば、障害された(mTOR)シグナル伝達は、HSCの静止状態の喪失をもたらす。いくつかの実施形態によれば、HSCの静止状態の喪失は、HSCの一時的な増加につながる。いくつかの実施形態によれば、HSCの静止状態の喪失は、HSCの長期的な疲弊につながる。いくつかの実施形態によれば、障害されたmTORシグナル伝達は、HSCの長期的な再増殖能の障害につながる。いくつかの実施形態によれば、HSCの長期的な再増殖能の障害は、長期的な生着能の低下を含む。いくつかの実施形態によれば、HSCの長期的な再増殖能の障害は、多系列再増殖能の低下を含む。いくつかの実施形態によれば、HSCの長期的な再増殖能の障害は、長期的な生着能の可能性の低下、多系列再増殖能の低下、及びHSCの生着不全を含む。
【0436】
いくつかの実施形態によれば、若い対照と比較して、老化したBMECでの遺伝子発現における変化によって表される上方調節された生物学的過程の上位は、TSP1、STAT3経路、TGF-bシグナル伝達、IGF-1シグナル伝達またはHMGB1シグナル伝達による血管新生の阻害のうちの1つ以上を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したBMECでの遺伝子発現における変化によって表される上方調節された生物学的過程の上位は、STAT3経路シグナル伝達を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したBMECでの遺伝子発現における変化によって表される上方調節された生物学的過程の上位は、TGF-bシグナル伝達を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したBMECでの遺伝子発現における変化によって表される上方調節された生物学的過程の上位は、IGF-1シグナル伝達を含む。いくつかの実施形態によれば、老化したBMECでの遺伝子発現における変化によって表される上方調節された生物学的過程の上位は、HBGB1シグナル伝達を含む。いくつかの実施形態によれば、STAT3経路シグナル伝達、TGF-bシグナル伝達、IGF-1シグナル伝達及びHMGB1シグナル伝達のそれぞれは、トロンボスポンジン1によって制御される。いくつかの実施形態によれば、TSP1による血管新生の阻害は、若い対照と比較して、高齢の対照での遺伝子発現における変化によって表される上方調節された生物学的過程の上位である。
【0437】
いくつかの実施形態によれば、トロンボスポンジン1(TSP1)の発現レベルは、若い対照の対象と比較した場合、老化したBMECにおいて上方調節される。
【0438】
いくつかの実施形態によれば、老化したBMECは、mTORシグナル伝達の障害を示す。いくつかの実施形態によれば、障害されたmTORシグナル伝達は、若い対照と比較して、哺乳類のラパマイシン標的(mTOR)の過剰活性化を含む。
【0439】
いくつかの実施形態によれば、TSP1活性は、血小板凝集及び抗血管新生の活性の制御を含む。いくつかの実施形態によれば、TSP1は、巨核球を含む成熟造血細胞によって発現する。いくつかの実施形態によれば、TSP1はBMECによって発現する。いくつかの実施形態によれば、TSP1活性は、血管ニッチにおける血小板凝集及び抗血管新生の活性の制御を含む。いくつかの実施形態によれば、TSP1活性は、血管内皮増殖因子(VEGF)への結合及び中和を含む。いくつかの実施形態によれば、TSP1活性は、内皮微小ニッチにおけるCD47の関与及びVEGF受容体2(VEGFR2)シグナル伝達の遮断を含む。いくつかの実施形態によれば、TSP1活性は、内皮微小ニッチにおける接着接触の不安定化を含む。
【0440】
いくつかの実施形態によれば、アンジオクライン阻害剤は、トロンボスポンジン1(TSP1)の阻害剤である。いくつかの実施形態によれば、トロンボスポンジン1(TSP1)の阻害は、老化した造血微小環境を若返らせる。いくつかの実施形態によれば、生着能は、高齢の対象でのBMECにおけるTSP1の阻害によって増加する。いくつかの実施形態によれば、HSC機能の系列構成は、高齢の対象でのBMECにおけるTSP1の阻害によって増加する。いくつかの実施形態によれば、HSC機能の生着能及び系列構成の両方は、高齢の対象でのBMECにおけるTSP1の阻害によって増加する。いくつかの実施形態によれば、HSC生着能は、競合的移植アッセイでのCD45.2生着におけるパーセント変化を含む。
【0441】
いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、TSP1に特異的な抗体、例えば、限定ではなく、αTSP1中和抗体クローン1[ThermoFisher Scientific;MA5-13398];αTSP1中和抗体クローン2[ThermoFisher Scientific;MA5-13385];Ms IgG1k IgG対照[ThermoFisher Scientific;16-4714-82];αTSP中和抗体クローン3[ThermoFisher Scientific;MA5-13377];及びMs IgM対照(x軸)[ThermoFisher Scientific;14-4752-82]の結合によるものである。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、TSP1への非中和抗体の結合によるものである。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、TSP1への中和抗体の結合によるものである。いくつかの実施形態によれば、中和抗体は、クローンA4.1(Thermofisher、Invitrogen RRID AB_10988669)として市販されている。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、注入によってTSP1に対する中和抗体(αTSP1)を投与することを含む。いくつかの実施形態によれば、1種(例えば、マウス)由来の可変領域及びもう1種(例えば、ヒト)由来の定常領域を有するキメラ免疫グロブリンは、1種由来の軽鎖及び重鎖の可変領域をコードするDNA配列を、異なる種由来の軽鎖及び重鎖のそれぞれの定常領域に連結することによって調製され得る。参照により本明細書に援用されている米国特許第5,807,715号に記載されている発現条件下で得られた遺伝子を哺乳類宿主細胞に導入することにより、マウス由来の可変領域の特異性とヒト由来の定常領域の生理学的機能を有するキメラ免疫グロブリンの産生がもたらされる。いくつかの実施形態によれば、完全ヒトモノクローナル抗体を産生することができる。1つのアプローチでは、通常の過免疫BALB/cマウスから従来のマウスハイブリドーマを作製してから、抗体をコードする遺伝子を操作することで、定常領域はマウス由来ではなくヒトのものになる。さらなる改変は、マウス由来のCDR(相補性決定領域)のみを残して、マウス抗体のフレームワーク領域も「ヒト化」することである。それらのような抗体は、ヒトにおいて免疫応答をほとんど、またはまったく誘発しない。別のアプローチでは、いくつかの実施形態によれば、高度免疫不全NSG(商標)マウス(The Jackson Laboratory)をヒト免疫系で再構成し、過免疫することができる。そのようなマウスは、ヒト抗体を作製するマウスBリンパ球を産生し、これを通常のマウス融合に使用して、ヒト抗体を作製するマウスハイブリドーマを得ることができる。
【0442】
遺伝子発現をノックダウンするための他の技術が知られている。これらは、siRNA及びmiRNAベースのRNAi1-4、アンチセンスオリゴヌクレオチド5、及びCRISPR/TALEN/ジンクフィンガーエンドヌクレアーゼ6-10ベースの遺伝子編集を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害剤は、インビトロ及びインビボの両方で遺伝子発現をノックダウンする核酸阻害剤である。
【0443】
いくつかの実施形態によれば、核酸阻害剤はsiRNAである。いくつかの実施形態によれば、siRNAを修飾してRNAの安定性を高めることができる。いくつかの実施形態によれば、siRNAは、その熱安定性を高めるためにLNA(商標)修飾siRNAである。いくつかの実施形態によれば、核酸阻害剤はアンチセンスオリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)は、Watson-Crick塩基対を介して配列特異的な方法で相補的なmRNAとハイブリダイズするデオキシリボヌクレオチド類似体の短鎖である。ASO-mRNAヘテロ二本鎖の形成は、RNase H活性を誘発することでmRNAを分解し、リボソーム活性の立体障害によって翻訳停止を誘導し、スプライシングを阻害することでmRNAの成熟を妨害するか、核内のプレmRNAを不安定化することで標的タンパク質発現を下方調節するかいずれかである。Chan,J H,Wong,L S,“Clin.Exp.Pharmacol.Physiol.2006,33(5-6):533-40。
【0444】
いくつかの実施形態によれば、アンチセンスオリゴヌクレオチドはDNAアンチセンスオリゴヌクレオチドである。いくつかの実施形態によれば、アンチセンスオリゴヌクレオチドはRNAアンチセンスオリゴヌクレオチドである。いくつかの実施形態によれば、RNAアンチセンスオリゴヌクレオチドは、その安定性及び半減期を増加させるためにホスホロチオエート修飾される。
【0445】
いくつかの実施形態によれば、核酸阻害剤はオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)デコイである。デコイオリゴヌクレオチドは、転写因子が着地する遺伝子のプロモーター領域の一部に見られる配列と同じ配列を有する、合成された短いDNA配列である。通常、転写因子が遺伝子のプロモーター領域に着地すると、遺伝子の転写のスイッチがオンになり、その遺伝子が発現する。ただし、デコイオリゴヌクレオチドはプロモーターの「ルアー」として働き、細胞内の特異的な転写因子と結合するため、転写因子がゲノムに着地できず、遺伝子発現が抑制される。
【0446】
いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、造血系の回復を促進する。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、対象の骨髄における造血系の回復を促進する。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、骨髄抑制性傷害を受けた対象の骨髄における造血系の回復を促進する。いくつかの実施形態によれば、骨髄抑制性傷害は、亜致死放射線、化学療法、またはその両方を含む。いくつかの実施形態によれば、骨髄抑制性傷害は、亜致死照射を含む。いくつかの実施形態によれば、骨髄抑制性傷害は、全身照射を含む。いくつかの実施形態によれば、骨髄抑制性傷害は、全リンパ節照射を含む。いくつかの実施形態によれば、骨髄抑制性傷害は化学療法を含む。いくつかの実施形態によれば、骨髄抑制性傷害は大量化学療法を含む。いくつかの実施形態によれば、骨髄抑制性傷害は、骨髄破壊的である。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、BM微小環境における炎症を軽減させる。
【0447】
いくつかの実施形態によれば、造血系の回復は、BM血管ニッチの血管再生を含む。いくつかの実施形態によれば、BM血管ニッチの血管再生は、BM血管ニッチの再生、BM血管ニッチの再安定化、またはその両方を確立するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、造血系の回復は、BM血管ニッチの再安定化を含む。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、BM血管ニッチを再生する、BM血管ニッチを再安定化する、またはその両方に有効である。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、BM血管ニッチを再生するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、BM血管ニッチを再安定化するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、対象の内皮微小ニッチにおけるTSP1の阻害は、BM血管ニッチの再生及びBM血管ニッチの再安定化、またはその両方に有効である。
【0448】
いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、若い対照と比較して、高齢の対象のBM造血微小環境におけるHSCニッチ機能を増加させるのに有効である。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、若い対照と比較して、高齢の対象のBM造血微小環境におけるHSC機能を回復するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、若い対照と比較して、高齢の対象のBM造血微小環境におけるHSCニッチの多系列能を回復するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、若い対照と比較して、高齢の対象のBM造血微小環境における血管ニッチの血管完全性を回復するのに有効である。いくつかの実施形態によれば、TSP1の阻害は、若い対照と比較して、高齢の対象のBM造血微小環境におけるHSCニッチの長期的な生着能を回復するのに有効である。
【0449】
別の態様によれば、記載された発明は、造血幹細胞移植のための造血幹細胞産物を調製する方法を提供し、この方法は、(a)造血幹細胞のエクスビボ培養物を調製することと、(b)処理された造血幹細胞集団を形成する(a)の培養物に抗TSP1抗体を含む抗体を投与することと、(c)処理された造血幹細胞集団をインビトロで増やし、治療量の処理された造血幹細胞を含む造血幹細胞移植産物を形成することとを含み、造血幹細胞移植産物の生着能は、未処理の対照と比較して増強されている。いくつかの実施形態によれば、ステップ(b)を投与することは、処理された造血幹細胞集団においてTSP1を阻害する。いくつかの実施形態によれば、ステップ(a)の造血幹細胞は、ヒト対象に由来する。いくつかの実施形態によれば、ステップ(a)の造血幹細胞は、マウス対象に由来する。いくつかの実施形態によれば、抗TSP1抗体は中和抗体である。いくつかの実施形態によれば、抗TSP1抗体は、CD36、CD47またはその両方に対する抗体、例えば、αTSP1中和抗体クローン1[ThermoFisher Scientific;MA5-13398];αTSP1中和抗体クローン2[ThermoFisher Scientific;MA5-13385];Ms IgG1k IgG対照[ThermoFisher Scientific;16-4714-82];αTSP中和抗体クローン3[ThermoFisher Scientific;MA5-13377];及びMs IgM対照(x軸)[ThermoFisher Scientific;14-4752-82]をさらに含む。いくつかの実施形態によれば、抗体はヒト化抗体である。いくつかの実施形態によれば、抗TSP1中和抗体は、クローンA4.1(Thermofisher、Invitrogen RRID AB_10988669)として市販されている。いくつかの実施形態によれば、移植は自家移植である。いくつかの実施形態によれば、造血幹細胞移植は同種異系である。
【0450】
いくつかの実施形態によれば、記載された方法は、老化したHSCニッチにおけるHSC機能を高めるのに有効である。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の方法は、老化したHSCニッチにおけるHSC機能を未処理の老化対照と比較して、少なくとも1%まで、少なくとも2%まで、少なくとも3%まで、少なくとも4%まで、少なくとも5%まで、少なくとも6%まで、少なくとも7%まで、少なくとも8%まで、少なくとも9%まで、少なくとも10%まで、少なくとも11%まで、少なくとも12%まで、少なくとも13%まで、少なくとも14%まで、少なくとも15%まで、少なくとも16%まで、少なくとも17%まで、少なくとも18%まで、少なくとも19%まで、少なくとも20%まで、少なくとも21%まで、少なくとも22%まで、少なくとも23%まで、少なくとも24%まで、少なくとも25%まで、少なくとも26%まで、少なくとも27%まで、少なくとも28%まで、少なくとも29%まで、少なくとも30%まで、少なくとも31%まで、少なくとも32%まで、少なくとも33%まで、少なくとも34%まで、少なくとも35%まで、少なくとも36%まで、少なくとも37%まで、少なくとも38%まで、少なくとも39%まで、少なくとも40%まで、少なくとも41%まで、少なくとも42%まで、少なくとも43%まで、少なくとも44%まで、少なくとも45%まで、少なくとも46%まで、少なくとも47%まで、少なくとも48%まで、少なくとも49%まで、少なくとも50%まで、%、少なくとも51%まで、少なくとも52%まで、少なくとも53%まで、少なくとも54%まで、少なくとも55%まで、少なくとも56%まで、少なくとも57%まで、少なくとも58%まで、少なくとも59%まで、少なくとも60%まで、少なくとも61%まで、少なくとも62%まで、少なくとも63%まで、少なくとも64%まで、少なくとも65%まで、少なくとも66%まで、少なくとも67%まで、少なくとも68%まで、少なくとも69%まで、少なくとも70%まで、少なくとも71%まで、少なくとも72%まで、少なくとも73%まで、少なくとも74%まで、少なくとも75%まで、少なくとも76%まで、少なくとも77%まで、少なくとも78%まで、少なくとも79%まで、少なくとも80%まで、少なくとも81%まで、少なくとも82%まで、少なくとも83%まで、少なくとも84%まで、少なくとも85%まで、少なくとも86%まで、少なくとも87%まで、少なくとも88%まで、少なくとも89%まで、少なくとも90%まで、少なくとも91%まで、少なくとも92%まで、少なくとも93%まで、少なくとも94%まで、少なくとも95%まで、少なくとも96%まで、少なくとも97%まで、少なくとも98%まで、少なくとも99%まで、または少なくとも100%まで増加させるのに有効である。
【0451】
いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の方法は、老化した造血微小環境における老化したHSCの長期的な生着能を高めるのに有効である。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の方法は、老化した造血微小環境における老化したHSCの長期的な生着能を未処理の老化対照と比較して、少なくとも1%まで、少なくとも2%まで、少なくとも3%まで、少なくとも4%まで、少なくとも5%まで、少なくとも6%まで、少なくとも7%まで、少なくとも8%まで、少なくとも9%まで、少なくとも10%まで、少なくとも11%まで、少なくとも12%まで、少なくとも13%まで、少なくとも14%まで、少なくとも15%まで、少なくとも16%まで、少なくとも17%まで、少なくとも18%まで、少なくとも19%まで、少なくとも20%まで、少なくとも21%まで、少なくとも22%まで、少なくとも23%まで、少なくとも24%まで、少なくとも25%まで、少なくとも26%まで、少なくとも27%まで、少なくとも28%まで、少なくとも29%まで、少なくとも30%まで、少なくとも31%まで、少なくとも32%まで、少なくとも33%まで、少なくとも34%まで、少なくとも35%まで、少なくとも36%まで、少なくとも37%まで、少なくとも38%まで、少なくとも39%まで、少なくとも40%まで、少なくとも41%まで、少なくとも42%まで、少なくとも43%まで、少なくとも44%まで、少なくとも45%まで、少なくとも46%まで、少なくとも47%まで、少なくとも48%まで、少なくとも49%まで、少なくとも50%まで、%、少なくとも51%まで、少なくとも52%まで、少なくとも53%まで、少なくとも54%まで、少なくとも55%まで、少なくとも56%まで、少なくとも57%まで、少なくとも58%まで、少なくとも59%まで、少なくとも60%まで、少なくとも61%まで、少なくとも62%まで、少なくとも63%まで、少なくとも64%まで、少なくとも65%まで、少なくとも66%まで、少なくとも67%まで、少なくとも68%まで、少なくとも69%まで、少なくとも70%まで、少なくとも71%まで、少なくとも72%まで、少なくとも73%まで、少なくとも74%まで、少なくとも75%まで、少なくとも76%まで、少なくとも77%まで、少なくとも78%まで、少なくとも79%まで、少なくとも80%まで、少なくとも81%まで、少なくとも82%まで、少なくとも83%まで、少なくとも84%まで、少なくとも85%まで、少なくとも86%まで、少なくとも87%まで、少なくとも88%まで、少なくとも89%まで、少なくとも90%まで、少なくとも91%まで、少なくとも92%まで、少なくとも93%まで、少なくとも94%まで、少なくとも95%まで、少なくとも96%まで、少なくとも97%まで、少なくとも98%まで、少なくとも99%まで、または少なくとも100%まで高めるのに有効である。
【0452】
いくつかの実施形態によれば、記載された方法は、老化した造血微小環境の多系列再構成をもたらすのに有効である。いくつかの実施形態によれば、本明細書に記載の方法は、老化した造血微小環境の多系列再構成を未処理の老化対照と比較して、少なくとも1%まで、少なくとも2%まで、少なくとも3%まで、少なくとも4%まで、少なくとも5%まで、少なくとも6%まで、少なくとも7%まで、少なくとも8%まで、少なくとも9%まで、少なくとも10%まで、少なくとも11%まで、少なくとも12%まで、少なくとも13%まで、少なくとも14%まで、少なくとも15%まで、少なくとも16%まで、少なくとも17%まで、少なくとも18%まで、少なくとも19%まで、少なくとも20%まで、少なくとも21%まで、少なくとも22%まで、少なくとも23%まで、少なくとも24%まで、少なくとも25%まで、少なくとも26%まで、少なくとも27%まで、少なくとも28%まで、少なくとも29%まで、少なくとも30%まで、少なくとも31%まで、少なくとも32%まで、少なくとも33%まで、少なくとも34%まで、少なくとも35%まで、少なくとも36%まで、少なくとも37%まで、少なくとも38%まで、少なくとも39%まで、少なくとも40%まで、少なくとも41%まで、少なくとも42%まで、少なくとも43%まで、少なくとも44%まで、少なくとも45%まで、少なくとも46%まで、少なくとも47%まで、少なくとも48%まで、少なくとも49%まで、少なくとも50%まで、少なくとも51%まで、少なくとも52%まで、少なくとも53%まで、少なくとも54%まで、少なくとも55%まで、少なくとも56%まで、少なくとも57%まで、少なくとも58%まで、少なくとも59%まで、少なくとも60%まで、少なくとも61%まで、少なくとも62%まで、少なくとも63%まで、少なくとも64%まで、少なくとも65%まで、少なくとも66%まで、少なくとも67%まで、少なくとも68%まで、少なくとも69%まで、少なくとも70%まで、少なくとも71%まで、少なくとも72%まで、少なくとも73%まで、少なくとも74%まで、少なくとも75%まで、少なくとも76%まで、少なくとも77%まで、少なくとも78%まで、少なくとも79%まで、少なくとも80%まで、少なくとも81%まで、少なくとも82%まで、少なくとも83%まで、少なくとも84%まで、少なくとも85%まで、少なくとも86%まで、少なくとも87%まで、少なくとも88%まで、少なくとも89%まで、少なくとも90%まで、少なくとも91%まで、少なくとも92%まで、少なくとも93%まで、少なくとも94%まで、少なくとも95%まで、少なくとも96%まで、少なくとも97%まで、少なくとも98%まで、少なくとも99%まで、または少なくとも100%までもたらすのに有効である。
【0453】
いくつかの実施形態によれば、アンジオクライン因子、スプライスバリアント、またはフラグメントの阻害剤は、組成物として製剤され得る。いくつかの実施形態によれば、アンジオクライン因子はTSP1である。いくつかの実施形態によれば、阻害剤は、抗体またはその抗原結合フラグメントである。記載された発明の抗体及び抗原結合フラグメントは、非経口投与に適した医薬組成物として製剤されることができる。注射可能な溶液は、液体か凍結乾燥剤形かいずれかから構成されることができる。
【0454】
いくつかの実施形態によれば、医薬組成物が水溶液中で非経口投与用に製剤される場合、溶液は必要に応じて適切に緩衝され、液体希釈剤は最初に十分な生理食塩水またはグルコースで等張にした。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下、及び腹腔内投与に特に適している。いくつかの実施形態によれば、用いられることができる滅菌水性媒体は、本開示に照らして当業者に知られている。いくつかの実施形態によれば、製剤は、必要に応じて適切な滅菌性、発熱性、一般的な安全性及び純度の基準を満たす必要がある。緩衝液は、pH5.0~7.0(至適にはpH6.0)のL-ヒスチジン(1~50mM)、至適には5~10mMであることができる。本明細書で使用される「緩衝液」という用語は、その化学構造がpHでの有意な変化なしに酸または塩基を中和する溶液または液体を指す。他の適切な緩衝液は、コハク酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウムまたはリン酸カリウムを含むが、これらに限定されない。塩化ナトリウムを使用して、溶液の毒性を0~300mMの濃度で変更することができる(液体剤形の場合には150mMが至適である)。いくつかの実施形態によれば、輸液は対象組織に対して等張性である。いくつかの実施形態によれば、輸液は対象組織に対して高張性である。
【0455】
凍結乾燥剤形には、抗凍結剤、主に0~10%スクロース(最適には0.5~1.0%)を含めることができる。他の好適な抗凍結剤として、トレハロース及びラクトースが挙げられる。凍結乾燥剤形には、増量剤、例えば1~10%のマンニトール(最適には2~4%)を含めることができる。安定剤は、液体及び凍結乾燥剤形の両方で使用することができ、例えば、1~50mMのL-メチオニン(最適には5~10mM)である。他の好適な増量剤として、グリシン、アルギニンが挙げられ、0~0.05%のポリソルベート-80(最適には0.005~0.01%)として含めることができる。追加の界面活性剤として、ポリソルベート20及びBRIJ界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。非経口投与用の注射溶液として調製される、記載する本発明の抗体及び抗体部分を含む医薬組成物は、治療用タンパク質(例えば、抗体)の吸収、または分散を増加させるために使用するアジュバントとして有用な薬剤をさらに含む。例示的なアジュバントは、ヒアルロニダーゼ、例えば、HYLENEX(組換えヒトヒアルロニダーゼ)である。注射溶液にヒアルロニダーゼを添加すると、非経口投与、特に皮下投与後のヒトのバイオアベイラビリティが向上する。ヒアルロニダーゼの添加はまた、痛みや不快感を軽減し、注射部位の反応の発生を最小限に抑えながら、より大きな注射部位の容積(すなわち1ml超)を可能にする(参照により本明細書に援用されるWO2004078140、US2006104968を参照のこと)。
【0456】
記載する本発明の組成物は、様々な形態であり得る。これらには、例えば、液体の溶液(例えば、注射溶液及び注入溶液)、分散液または懸濁液、錠剤、丸剤、散剤、リポソーム及び坐剤などの液体、半固体及び固体剤形が含まれる。形態は、意図する投与様式及び治療用途に依存する。一般的な例示的な組成物は、注射溶液または注入溶液の形態、例えば、他の抗体によるヒトの受動免疫に使用する組成物と同様の組成物である。例示的な投与様式は、非経口(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内)である。一実施形態によると、抗体を、静脈内注入または静脈内注射によって投与する。別の実施形態によると、抗体を、筋肉内注射または皮下注射によって投与する。
【0457】
治療用組成物は、通常、無菌であり、製造及び保管条件下で安定でなければならない。いくつかの実施形態によると、組成物は、溶液、マイクロエマルション、分散液、リポソーム、または高い薬物濃度に適した他の秩序構造として製剤化され得る。無菌の注射溶液は、必要に応じて、上に列挙した成分の1つまたは組み合わせを含む適切な溶媒に必要量の活性化合物(すなわち、抗体または抗体部分)を組み込み、続いて濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を、基本的な分散媒及び上に列挙したものからの必要な他の成分を含有する無菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。無菌注射溶液を調製するための無菌凍結乾燥粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥及び噴霧乾燥であり、活性成分の粉末に加えて、事前に無菌濾過したその溶液に由来する任意の追加の所望の成分が得られる。例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散液の場合は必要な粒径の維持、及び界面活性剤の使用によって、溶液の適切な流動性を維持することができる。吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアレート塩及びゼラチンを組成物に含めることによって、注射用組成物の持続的な吸収をもたらすことができる。
【0458】
記載する本発明の抗体及び抗原結合フラグメントは、当技術分野で公知の様々な方法、例えば、皮下注射、静脈内注射または静脈内注入によって投与することができる。当業者によって理解されるように、投与の経路及び/または様式は、所望の結果に応じて様々に異なる。
【0459】
いくつかの実施形態によると、組成物は、薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。いくつかの実施形態によると、活性化合物は、インプラント、経皮パッチ、及びマイクロカプセル化送達系を含む、徐放性製剤など、急速な放出から活性化合物を保護する担体と共に調製され得る。いくつかの実施形態によると、本発明の組成物の担体は、徐放性担体または遅延放出担体などの放出剤を含み得る。エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。いくつかのそのような実施形態によると、担体は、活性成分の徐放または遅延放出が可能な任意の物質であり、より効率的な投与を提供し、例えば、組成物の投与頻度を減らし、及び/または用量を減少させ、取り扱いの容易さを改善し、治療、予防、または促進しようとする疾患、障害、病態、症候群などへの影響を、延長または遅延させることができる。そのような担体の非限定的な例として、リポソーム、マイクロスポンジ、ミクロスフェア、または天然及び合成ポリマーのマイクロカプセルなどが挙げられる。リポソームは、コレステロール、ステアリルアミン、またはホスファチジルコリンなどの様々なリン脂質から形成され得る。そのような製剤を調製するための多くの方法が特許を取得しているか、当業者に一般的に公知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems、J.R.Robinson ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978を参照されたい。
【0460】
他の実施形態によると、記載する本発明の抗体または抗体部分をポリマー系種に複合体化してもよく、それにより、ポリマー系種は、記載する本発明の前記抗体または抗原結合抗体フラグメントに十分なサイズを付与し得、その結果、記載する本発明の抗体または抗原結合部分は、透過性及び保持効果(EPR効果)の増強の恩恵を享受する(PCT公開第WO2006/042146A2号及び米国公開第2004/0028687A1号、第2009/0285757A1号、及び第2011/0217363A1号、ならびに米国特許第7,695,719号も参照のこと(これらのそれぞれは、あらゆる目的でその全体が参照により本明細書に援用される)。
【0461】
補助活性化合物を組成物に組み込むこともできる。特定の実施形態では、記載する本発明の抗体または抗体フラグメントを、1つ以上の追加の治療剤と共に製剤化し、及び/または同時投与する。例えば、抗体または抗体フラグメントを、他の標的に結合する1つ以上の追加の抗体(例えば、サイトカインに結合する抗体または細胞表面分子に結合する抗体)と共に製剤化し、及び/または同時投与してもよい。さらに、記載する本発明の抗体または抗体フラグメントを、2つ以上の治療剤と併用してもよい。そのような併用療法は、投与する治療剤の用量を低下させるうえで有利であり、したがって、様々な単剤療法に関連する可能性のある毒性または合併症を回避させ得る。
【0462】
いくつかの実施形態によると、抗体、またはそのフラグメントを、当技術分野で公知の半減期延長ビヒクルに連結する。そのようなビヒクルとして、Fcドメイン、ポリエチレングリコール、及びデキストランが挙げられるが、これらに限定されない。そのようなビヒクルは、例えば、米国特許出願第09/428,082号及びPCT公開出願第WO99/25044号に記載されており、それらはあらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0463】
いくつかの実施形態によると、医薬組成物は、併用療法と共に投与される。いくつかの実施形態によると、医薬組成物は、治療量の併用療法と共に投与される。いくつかの実施形態によると、本明細書の医薬組成物は、併用療法の前に投与される。いくつかの実施形態によると、本明細書の医薬組成物は、併用療法の後に投与される。いくつかの実施形態によると、本明細書の医薬組成物は、併用療法と同時に投与される。
【0464】
いくつかの実施形態によると、補助療法は、幹細胞療法である。いくつかの実施形態によると、医薬組成物は、治療量の幹細胞治療と共に投与され、治療量は、幹細胞レスキューを促進または誘導するのに有効である。
【0465】
いくつかの実施形態によると、幹細胞移植は、任意の適切な方法により製剤化されてもよい。簡単に言うと、幹細胞療法は、組織源から単離された単核細胞の集団から造血幹細胞を単離するステップ、正または負の選択により造血幹細胞の単核細胞の単離集団を濃縮するステップ、及び対象に造血幹細胞の濃縮された単離集団を注入するステップ、を含む。いくつかの実施形態によると、組織源は、自家である。いくつかの実施形態によると、組織源は、同種異系である。上記の方法の特異性は、幹細胞の組織源に依存する。
【0466】
自家組織。いくつかの実施形態によると、組織源は、自家組織を含む。いくつかの実施形態によると、自家組織は、骨髄破壊的傷害の前に採取される。いくつかの実施形態によると、幹細胞を含む採取された自家組織は、汚染腫瘍細胞を枯渇させるためにさらにパージングを受ける。いくつかの実施形態によると、悪性細胞が採取された組織に存在する場合、幹細胞は、抗CD34特異的モノクローナル抗体及び免疫ビーズの使用により濃縮され(「正の選択」)、及び/または、悪性細胞は、抗腫瘍モノクローナル抗体の使用により除去される(「負の選択」)。
【0467】
同種異系組織。いくつかの実施形態によると、組織源は、同種異系組織を含む。いくつかの実施形態によると、ドナー同種異系組織は、レシピエント対象との組織適合性についてスクリーニングされる。いくつかの実施形態によると、組織適合性は、ドナー及びレシピエント対象が、同一もしくはほぼ同一または類似のヒト白血球抗原(HLA)である組織適合性マッチングによりスクリーニングされる。いくつかの実施形態によると、悪性細胞が採取された組織に存在する場合、採取された組織は、上記のようにパージされる。いくつかの実施形態によると、組織適合性のない材料は、採取された材料から除去されてもよい。いくつかの実施形態によると、同種異系で採取された組織は、また、ex-vivoT細胞枯渇(TCD)を経験することがある。
【0468】
骨髄組織。いくつかの実施形態によると、組織源は、組織が同種異系または自家のいずれかである骨髄を含む。いくつかの実施形態によると、骨髄組織を採取するための任意の既知の方法が使用されてもよい。例えば、移植用の骨髄は、全身麻酔または脊髄麻酔下で2~3時間にわたって腸骨稜を複数回吸引することにより得られる(「採取される」)ことがある。約10~40x109の有核細胞(2x108/kgのレシピエント体重)、最大20mL/kgのドナー体重が得られるであろう。骨髄吸引液は、主に、間質細胞、未分化幹細胞、初期にコミットされた前駆細胞、Tリンパ球、及び赤血球、骨髄、単球、巨核球、ならびに様々な発達段階のリンパ系細胞株で構成される。骨髄中の粒子状物質は、濾過により除去されるであろう。ABO式血液型の不適合性が存在する場合、血漿交換は、イソヘマグルチニンを除去するために利用されてもよいが、分画遠心分離は、不適合な赤血球を除去するために利用することができる。特別な処理(「パージング」)は、腫瘍細胞、Tリンパ球、またはレシピエント対象に有害な影響を与え得る他の特定の構成成分の骨髄負荷を低減するために実施されてもよい。処理後、幹細胞を含む採取され処理された組織は、静脈内注入を介してレシピエントに直ちに投与されるか、または凍結保存され、後の輸血のために保存される。
【0469】
末梢血。いくつかの実施形態によると、組織源は、組織が同種異系または自家のいずれかである末梢血である。いくつかの実施形態によると、末梢血を採取するための任意の既知の方法が使用されてもよい。いくつかの実施形態によると、単核細胞の集団は、造血幹細胞動員剤での処置後に得られる。そのようないくつかの実施形態によると、造血幹細胞動員剤は、G-CSF、GM-CSF(例えば、サルグラモスチム(LEUKINE(登録商標)))、またはそれらの薬学的に許容されるアナログもしくは誘導体を含む。いくつかの実施形態によると、造血幹細胞動員剤は、コロニー刺激因子の組み換えアナログまたは誘導体である。いくつかの実施形態によると、造血幹細胞動員剤は、フィルグラスチム(NEUPOGEN(登録商標))である。いくつかの実施形態によると、造血幹細胞動員剤は、プレリキサフォル(MOZOBIL(登録商標))、エルトロンボパグ(PROMACTA(登録商標))、ロミプロスチム(NPLATE(登録商標))、ペグフィルグラスチム(NEULASTA(登録商標))、ダルベポイエチンアルファ(ARANESP(登録商標))のうちの1つ以上である。次に、幹細胞を含むドナーのバフィーコートは、白血球除去により単離されてもよい。処理後、造血幹細胞の濃縮された集団は、静脈内注入を介してレシピエントに直ちに投与されるか、または凍結保存されて凍結され、後の輸血のために保存される。
【0470】
用量/投与レジメン
いくつかの実施形態によると、抗体または抗原結合抗体フラグメントの量を、好適な用量が医薬組成物の単位用量に含有されるように調製することができる。溶解性、バイオアベイラビリティ、生物学的半減期、投与経路、製品の貯蔵寿命、及び他の薬理学的考察などの要因は、そのような医薬製剤を調製する当業者により企図されることになり、従って、様々な投薬量及び処置レジメンが望ましいことがある。
【0471】
いくつかの実施形態によると、対象に投与される本開示の組成物の実際の投薬量は、物理的及び生理学的要因、例えば、体重、状態の重症度、処置されている疾患のタイプ、以前または同時の治療的介入、患者の特発性疾患、及び投与経路により決定することができる。投薬量及び投与経路に応じて、好ましい投薬量及び/または有効量の投与回数は、対象の応答に応じて変動することがある。
【0472】
対象
本明細書に記載の組成物及び方法は、記載された利点を経験し得る任意の対象での使用が意図される。従って、「対象」、「患者」、及び「個体」(互換的に使用)は、ヒトならびに非ヒト対象、特に、飼育動物が含まれる。
【0473】
いくつかの実施形態によると、対象及び/または動物は、哺乳類、例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ウサギ、ヒツジ、または非ヒト霊長類、例えば、サル、チンパンジー、もしくはヒヒである。他の実施形態によると、対象及び/または動物は、例えば、ゼブラフィッシュなどの非哺乳類である。いくつかの実施形態において、対象及び/または動物は、蛍光標識された細胞(例えば、GFPを伴う)を含んでもよい。いくつかの実施形態において、対象及び/または動物は、蛍光細胞を含むトランスジェニック動物である。
【0474】
いくつかの実施形態によると、対象及び/または動物は、ヒトである。いくつかの実施形態によると、ヒトは、成人ヒトである。いくつかの実施形態によると、ヒトは、高齢者ヒトである。他の実施形態によると、ヒトは、患者と呼ばれてもよい。
【0475】
いくつかの実施形態によると、対象は、非ヒト動物であり、それ故、記載の発明は、獣医学的使用に関する。いくつかの実施形態によると、非ヒト動物は、家庭用ペットである。いくつかの実施形態によると、非ヒト動物は、家畜動物である。
【0476】
値の範囲が提供される場合、文脈に別途明示のない限り、その範囲の上限と下限との間の下限の単位の10分の1までの各介在値、ならびに他の任意の記載値またはその記載範囲の介在値が発明に含まれると理解される。より小さな範囲に独立して含まれ得るこれらのより小さな範囲の上限及び下限もまた、本発明に含まれ、記載の範囲において任意の特に除外された限界に従う。記載の範囲が、限界の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界の両方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0477】
別途定義のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または同等の任意の方法及び材料も、本発明の実施または試験に使用することができるが、例示的な方法及び材料が記載されている。本明細書で言及される全ての刊行物は、刊行物が引用されることに関連する方法及び/または材料を開示及び説明するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0478】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「and」、及び「the」は、文脈に別途明示のない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。
【0479】
本明細書で考察される刊行物は、本出願の出願日の前に、それらの開示のためにのみ提供され、それぞれは、全体が参照により組み込まれる。本明細書に記載のいずれも、本発明が、先行発明によって、そのような刊行物に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。さらに、提供される発行日は、個別に確認する必要があり得る実際の発行日とは異なることがある。
【実施例
【0480】
以下の実施例は、当業者に、本発明の製造及び使用方法の完全な開示及び説明を提供するために記載され、発明者らが自らの発明と見なす範囲を制限することを意図するものもなく、以下の実験が実施された全てまたは唯一の実験であることを表すことを意図するものでもない。使用される数値(例えば、量、温度など)に関して正確さを保証するための努力がなされているが、いくつかの実験誤差及び偏差を考慮に入れなければならない。別途指示のない限り、部は、重量部であり、分子量は、重量平均分子量であり、温度は、セ氏温度であり、圧力は、大気圧または大気圧付近である。
【0481】
実施例1:内皮mTORの喪失が造血幹細胞の老化を促進する
実施例1A:老化はBMECのmTORシグナル伝達の減少をもたらす。
生理学的老化が、造血系で観察される機能的欠損をどのようにもたらし得るかをよりよく理解するために、若齢(12週)及び高齢(24か月)マウスから単離した骨髄微小血管内皮細胞(BMEC)に対してプロテオミクス分析(Somalogic)を行った。q=0.02及びp値0.05での偽陽性率(FDR)のカットオフを使用して、154の候補因子を同定し、若齢対照と比較した場合の高齢のBMECのタンパク質の変化をスクリーニングした。低い信頼度で発見されたタンパク質を除外することにより、リストを86の候補タンパク質にさらに絞り込んだ。データセット内の多くのタンパク質は、PI3K/AKT/mTORシグナル伝達系に関連付けられることがわかっている。図2Aは、若齢及び高齢のマウスにおけるPIK3CA/PIK3R1複合体の存在量を示す。データは、高齢マウスのBMECでは、mTORサブユニットの存在量が減少していることを示している。これらのデータと一致して、mTOR経路を介したBMECシグナル伝達がHSCの増殖に重要であることが示されている[Kobayashi,H.,et al.,Angiocrine factors from Akt-activated endothelial cells balance self-renewal and differentiation of haematopoietic stem cells. Nat Cell Biol,2010.12(11):p.1046-56]
【0482】
次に、BMEC内のmTORシグナル伝達に対する生理学的老化の影響を調べた。Phospho-Flowサイトメトリーにより、mTOR触媒サブユニットのリン酸化状態を測定した。mTORのリン酸化を評価するために、若齢(12~16週)及び高齢(24か月)のC57BL6マウスに、殺処分の15分前にVE-カドヘリン(BV13;Biolegend)に対して生じさせた25μgのフルオロフォア結合抗体を眼窩後方に注射した。長骨を単離し、破砕し、37℃で15分間、消化緩衝液中で酵素的に分離させた。得られた細胞懸濁液を濾過し(40μm)、MACS緩衝液を使用して洗浄した。Lineage Cell Depletionキット(Miltenyi)を使用して、製造元の提案に従って、単細胞WBM懸濁液から系列決定された造血細胞を枯渇させた。得られた系列細胞を、CD31(390;Biolegend)及びCD45(30-F11;Biolegend)に対して生じさせたフルオロフォア結合抗体で染色した。染色した細胞を、製造元の推奨に従って、MACS緩衝液を使用して洗浄し、固定し、Phosphoflow Fix Buffer1及びPerm Buffer3(BD Biosciences)を使用して透過処理し、リン酸化mTOR(Ser2448)(BD Biosciences 563489)、リン酸化AKT(S473)(BD Biosciences 560404)及びリン酸化S6(S235/236)(BD Biosciences 560434)に対する抗体で、室温にて30分間染色した。細胞をMACS緩衝液で洗浄した。フローサイトメトリーによるゲーティング及び分析には、適切な濃度に一致するアイソタイプ対照を使用した。mTORシグナル伝達は、若齢(12週)マウスと比較して、高齢(22か月)マウスのBMECで有意に減少することがわかった。図2Bは、若齢及び高齢マウスにおける新たに単離したBMECの平均蛍光強度の定量化を示す。データは、mROT蛍光体-Ser2448.Aの減少を示している。データはまた、mTOR転写標的の発現の減少も示している。図2Cは、RT-PCRによるmTOR下流転写標的遺伝子の発現分析結果である。βアクチンをコードするActb遺伝子に対して、遺伝子発現を正規化した。この結果は、若齢BMC対照と比較した、高齢BMECにおけるmTOR依存性遺伝子発現の減少を示しており[Pradeep Ramalingam, et al. Endothelial mTOR maintains hematopoiesis during aging.(2020)https://doi.org/10.1084/jem.20191212]、老化した内皮ニッチ内でのmTORシグナル伝達の低下をさらに示している。これらの発見をさらに確認するために、若齢マウスと高齢マウスのサンプル(N=5)をプールし、2つの独立したコホート;A及びBでのウエスタン分析のためにBMECを単離した。長骨(大腿骨及び脛骨)由来のWBMを、26.5ゲージの針を使用して、2mMのEDTAを含有する氷冷PBS(pH7.2)で洗い流した。製造元の推奨に従って、WBMから赤血球を枯渇させた(RBC溶解緩衝液;Biolegend)。簡潔に述べると、洗い流した骨髄細胞を遠心分離(500g、40℃で5分間)によってペレット化し、細胞を3mLの氷冷1×RBC溶解緩衝液に再懸濁し、短時間ボルテックスし、氷上で5分間インキュベートした。遠心分離(500g、40℃で5分間)によって細胞をペレット化し、上清を捨て、細胞を3mLの氷冷PBS(pH7.2)で洗浄した。細胞ペレットを、2×ホスファターゼ阻害剤(Thermo カタログ番号78428)及び2×プロテアーゼ阻害剤Cocktail(Thermo カタログ番号78430)を含有するRIPA緩衝液(0.5mLのRIPA緩衝液中に107個の細胞;Thermo カタログ番号89900)中に、穏やかに攪拌しながら4℃で1時間溶解し、超音波処理し、4℃で21,000×gで10分間遠心分離して、不溶性破片を除去した。DCタンパク質アッセイ(BioRad 5000111)を使用してタンパク質濃度を決定し、20μgの全タンパク質を1×Laemmli緩衝液(Sigma カタログ番号S3401-10VL)中で70℃にて5分間変性させ、SDS-アクリルアミドゲルで分離し、ニトロセルロースにエレクトロブロットした。転写されたブロットを、1×TBST(Cell Signaling カタログ番号9997)中の5%w/v脱脂粉乳で1時間ブロッキングした。ブロットを1×TBST中で5分間、3回洗浄し、ホスホ-S6(Cell Signaling 4858)、S6(Cell Signaling 2217)、ホスホ4EBP-1(Cell Signaling 2855)、4EBP-1(Cell Signaling 9644)、及びActb(Cell Signaling 4970)に対する一次抗体(製造元が推奨する希釈率)と共に、1×TBST中の5%BSA w/vで4℃にて一晩インキュベートした。ブロットを1×TBSTで3×5分間洗浄し、抗ウサギ(H+L)西洋ワサビペルオキシダーゼ(Jackson ImmunoResearch Laboratories)二次抗体を1:20,000の希釈率で含有する1×TBST中の5%脱脂粉乳と共に室温で1時間インキュベートした。ブロットを2回リンスし、1×TBST中で4×5分間洗浄し、メーカーの推奨に従って、Amersham ECL Prime Western Blotting Detection Reagent(GE Healthcare RPN2232)を使用して展開した。すべてのブロットを、Carestream Kodak BioMax Light Film(Sigma-Aldrich)を使用して現像した。図2Dは、BMECサンプルのウエスタンブロット分析の結果を示す。高齢マウスでは、mTOR触媒サブユニット(p-mTOR S2448)、mTOR複合体1(p-S6K T389)、及びmTOR複合体2(p-AKT S473)のタンパク質レベルの低下が観察された。
【0483】
まとめると、データは、老化がBMECにおけるmTORシグナル伝達の強力な減少と関連しているという結論を支持する。
【0484】
実施例1B:mTORの内皮特異的欠失はHSCの早期老化をもたらす:
以前に、EC特異的AKT/mTOR活性化がHSCの維持及びex vivoでの自己複製を支持することを報告した[Kobayashi,H.,et al.,Angiocrine factors from Akt-activated endothelial cells balance self-renewal and differentiation of haematopoietic stem cells. Nat Cell Biol,2010.12(11):p.1046-56]。高齢のBMEC内で観察されたmTORシグナル伝達の減少(図2A、2B、2C、2D)は、in vivoでの老化に関連するHSC機能欠損の原因である可能性がある。
【0485】
この仮説を検証するために、mTORfl/flマウスを、成体EC特異的VEカドヘリンプロモーター(mTOR(ECKO))によって駆動されるタモキシフェン誘導性creトランスジェニックマウスと交雑することにより、mTORを成体ECから特異的に欠失させた[Pradeep Ramalingam,et al. Endothelial mTOR maintains hematopoiesis during aging.(2020)https://doi.org/10.1084/jem.20191212]。フローサイトメトリー分析を、若齢(12~16週)mTOR(ECKO)マウスと若齢(12~16週)対照マウスで実施し、EC特異的mTOR欠失がHSCとその子孫の調節に及ぼす影響を判定した;22~24か月齢の野生型マウスは、高齢対照として機能した。
【0486】
図3A、3B、3C、3D、3E、3F、3G、3H、及び3Iは、mTORのEC特異的欠失(mTOR(ECKO))が、老化に関連する変化を想起させるHSCの変化を引き起こしたことを示す。mTOR(ECKO)は、図3A)全造血細胞の有意な増加;図3B、大腿骨あたりの表現型LT-HSCの出現頻度の増加。;図3C、有意な骨髄性バイアス;図3D、コロニー形成単位の定量化によって評価される造血前駆細胞活性の低下;図3F、極性化能力の減少(定量化);図3F、極性化能力の減少(細胞極性を区別するためのαチューブリン染色の代表的な画像を示す;図3G、γH2AXフォーカスの増加(定量化);図3H、γH2AXフォーカスの増加(代表的な画像);及び図3I、高齢対照の転写特性と類似した転写特性をもたらした。
【0487】
図3A及び図3Bに示すように、mTOR(ECKO)マウスは、高齢対照と同様に、全BM造血細胞と表現型HSCの出現頻度の両方で有意な増加を示した。図3Cに示すように、系列組成物の末梢血分析により、若齢mTOR(ECKO)マウス及び高齢対照において骨髄細胞が有意に増加し、若齢対照マウスと比較してB細胞及びT細胞のレベルが低下していることが明らかになった(図3Dは、メチルセルロースコロニー形成単位(CFU)アッセイ、mTOR(ECKO)及び高齢マウスから分離した全骨髄(WBM)は、前駆細胞活性の劇的な喪失を示した。
【0488】
mTOR(ECKO)マウス由来のHSCを、γH2AXフォーカスのレベルについてさらに分析した[Flach,J.,et al.,Replication stress is a potent driver of functional decline in ageing haematopoietic stem cells. Nature,2014.512(7513):p.198-202.]及びそれらの極性状態[Florian,MC.,et al.,Cdc42 activity regulates hematopoietic stem cell aging and rejuvenation. Cell Stem Cell,2012.10(5):p.520-30]。γH2AXフォーカスアッセイは、二本鎖DNA切断(DSB)を検出するための高速かつ高感度なアプローチであり;DNA二本鎖切断の誘導に応答した、ヒストンバリアントH2AX(γH2AXを生じる)のリン酸化を利用する。リン酸化はDSBの部位で開始されるが、隣接するクロマチン領域にまで及ぶ。この事象は、γH2AXに特異的な蛍光抗体を使用して、細胞内の明確なフォーカスとして顕微鏡で視覚化することができる。(Ivashkevich,AN,et al.,Mutat.Res.(2011)711(1-2):49-60)。
【0489】
図3E図3F図3G、及び図3Hに示すように、mTOR(ECKO)マウス及び高齢の対照由来のHSCは、若齢対照マウスと比較して、γH2AXフォーカスの有意な増加及びαチューブリン極性の有意な喪失を示した。
【0490】
図3Iに示すように、転写解析により、EC特異的なmTOR欠失が、高齢HSCとクラスター化されるHSC遺伝子発現の変化につながることが明らかになった。
【0491】
次に、高齢HSCを特徴付ける特定の遺伝子発現シグネチャーを定義し、mTOR(ECKO)モデルにおけるその存在を試験した。現在のマイクロアレイデータを、Rossiら[Rossi,D.J.,et al.,Cell intrinsic alterations underlie hematopoietic stem cell aging. Proc Natl Acad Sci USA,2005.102(26):p.9194-9]及びChambersら[Chambers,S.M.,et al.,Aging hematopoietic stem cells decline in function and exhibit epigenetic dysregulation. PLoS Biol,2007.5(8):p.e201]によって以前に公開されたデータセットと比較した。
【0492】
図4A、4B、4Cは、mTOR(ECKO)HSCが高齢HSC遺伝子シグネチャーを発現することを示す。図4Aは、若齢HSC転写データセットと高齢HSC転写データセットとの間の有意な変化を比較するベン図である。図4Bは、一般的な高齢HSC遺伝子発現変化を示す。リストされている遺伝子は、HSCにおいて発現が確認された、本研究と公開データセットの間の発現における共有される変化を示している(赤-高齢HSCでアップレギュレート、緑-高齢HSCでダウンレギュレート)。太字の遺伝子は、すべてのデータセット間の一致した発現変化を含み、高齢HSC発現シグネチャーを表す。老化に伴う発現の有意なアップレギュレーションを示す10個の遺伝子が同定され、そのうちの9個はRT-qPCR分析によって確認された。SELP、NEO1、JAM2、SLAMF1、PLSCR2、CLU、SDPR、FYB、ITGA6、RASSF4、FGF11、HSPA1B、HSPA1A、及びNFKBIAを含むmTOR(ECKO)がダウンレギュレートされた。図4Cは、mTOR(ECKO)及び高齢マウスにおけるマイクロアレイで同定された高齢HSC遺伝子発現シグネチャーのRT-qPCRによる確認を示す。mTOR(ECKO)由来のHSCは、高齢HSC遺伝子発現シグネチャーを共有していることに留意されたい。HSCはまた、高齢HSCで観察されるように、「高齢シグネチャー」遺伝子の同様のアップレギュレーションも示した。
【0493】
これらの老化に伴う変化がHSCに対する直接的な影響によるものかどうかを判定するために、mTOR(ECKO)マウスから単離したHSCの長期再増殖能力をBM移植アッセイで調べた。若齢 mTOR(ECKO)マウス、若齢対照マウス、及び高齢対照マウス由来の100個のCD45.2+HSCを、致死量を照射したCD45.1マウスに競合的に移植した。図5のデータは、mTOR(ECKO)HSCが、移植後に高齢造血欠損を示すことを示している。x軸は、移植後の経過週数である。図5A、全体的なCD45.2の生着率(y軸、CD45.2+生着率(%));図5B、骨髄の生着率(y軸、CD45.2+GR1+(CD11B+)生着率);図5C、B細胞の生着率(y軸、CD45.2+B220+の生着率(%));図5D、T細胞の生着率(y軸 CD45.2+CD3+の生着率(%)))。結果は、高齢HSCと同様に、若齢mTOR(ECKO)マウスのHSCは、若齢対照マウスのHSCと比較して、リンパ球新生を犠牲にして生着の減少と有意な骨髄性バイアスを示すことを示した。
【0494】
まとめると、これらの観察は、マウスにおけるEC特異的mTOR欠失が、定常状態でHSCの転写、表現型、及び機能的早期老化を誘発するのに十分であることを示している。
【0495】
実施例2 候補のpro-HSC老化因子の発見
実施例2A:mTORの内皮特異的欠失または生理学的老化は、トロンボスポンジン-1の増加と関連している
HSC老化を促進するBMEC因子を同定するために、若齢mTOR(ECKO)及び高齢野生型マウスのトランスクリプトームを分析し、若齢野生型対照と比較した。フォーカスは、若齢対照と比較して、mTOR(ECKO)及び高齢マウスの両方に共通する遺伝子発現の有意な変化であった。図6は、若齢、mTOR(ECKO)、及び高齢マウスのBMECに関するプロテオミクス分析を示す。図6Aは、若齢マウスと比較した場合の、mTOR(ECKO)及び高齢マウスから単離したBMECにおける保存された遺伝子変化のヒートマップであり、サンプル全体で上位500個の最も可変性の高い遺伝子を示している。図6Bは、mTOR(ECKO)及び高齢マウスの両方から単離したBMECのボルケーノプロットを示し、若齢対照BMECと比較した場合、トロンボスポンジン-1(TSP1)が最も有意にアップレギュレートされた遺伝子であり、両方のコホートで最大の倍率変化を有していたことを示している。図6Cは、TSP1による血管新生の阻害が、転写変化によって表されるアップレギュレートされた生物学的プロセスの最上位であることを示したingenuity pathway analysisの結果を示す。他の4つの上位プロセス(STAT3経路;TGF-bシグナル伝達;IGF-1シグナル伝達;及びHMGB1シグナル伝達)はすべて、トロンボスポンジン-1によって調節される。
【0496】
次に、高齢及びmTOR(ECKO)BMECにおけるTSP1の発現変化を、転写解析及びタンパク質解析によって確認した。新鮮なBMECを、若齢(12週間;「Y」)、若齢mTOR(ECKO)(12週間’「M」)、及び高齢(24か月;「O」)マウス(n=3;約1,500BMEC/マウス)から単離した。図6Dは、Y、O、及びM BMECにおける相対的なTSP1遺伝子発現を示す。データからは、TSP1の相対的な遺伝子発現が実際にmTOR(ECKO)及び高齢BMECでアップレギュレートされていたことが確認された。次に、若齢(12週、「Y」)、若齢mTOR(ECKO)(12週、「M」)、及び高齢(24か月、「O」)マウスから、BMECを再び単離した(n=3;各Nは、最適なタンパク質濃度を達成するためにプールされた5匹のマウスであった)。図6Eは、アプタマーベースのプロテオミクス系(Somalogic)を使用したY、O、及びM BMECにおけるTSP-1タンパク質レベルを示す。結果は、TSP1タンパク質レベルがM(mTOR(ECKO)及びO(高齢)マウスで上昇したことを示している。したがって、トランスクリプトーム及びタンパク質分析により、トロンボスポンジン-1(TSP1)がpro-HSC老化因子として同定された。
【0497】
TSP1は、細胞と周囲のマトリックス(すなわち、ラミニン、フィブロネクチン、及びフィブリノゲン)との間の細胞相互作用の調節において主要な役割を果たす、分泌型マトリックス結合糖タンパク質である。TSP1は、VEGFに結合して中和し、EC上のVEGFR2シグナル伝達を遮断し、EC間の接着的接触を不安定化する[Gupta,K.,et al.,Binding and displacement of vascular endothelial growth factor(VEGF)by thrombospondin:effect on human microvascular endothelial cell proliferation and angiogenesis. Angiogenesis,(1999)3(2):p.147-58;Kaur,S.,et al.,Thrombospondin-1 inhibits VEGF receptor-2 signaling by disrupting its association with CD47. J Biol Chem,(2010)285(50):p.38923-32;Garg,P.,et al.,Thrombospondin-1 opens the paracellular pathway in pulmonary microvascular endothelia through EGFR/ErbB2 activation. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol,(2011)301(1):p.L79-90.]。TSP1は、血小板凝集を調節することも示されており、また、BM微小環境で発現する強力な抗血管新生因子である[Agah,A.,et al.,The lack of thrombospondin-1(TSP1)dictates the course of wound healing in double-TSP1/TSP2-null mice. Am J Pathol,(2002)161(3):p.831-9;Agah,A.,et al., Thrombospondin 2 levels are increased in aged mice:consequences for cutaneous wound healing and angiogenesis. Matrix Biol,(2004)22(7):p.539-47;Iruela-Arispe,M.L.,et al.,Thrombospondin-1,an inhibitor of angiogenesis,is regulated by progesterone in the human endometrium. J Clin Invest.(1996)97(2):p.403-12]。TSP1は、成熟造血細胞、例えば、巨核球[Long,M.W.and V.M. Dixit,Thrombospondin functions as a cytoadhesion molecule for human hematopoietic progenitor cells.Blood(1990)75(12):p.2311-8;Kyriakides,T.R.,et al.,Mice that lack thrombospondin 2 display connective tissue abnormalities that are associated with disordered collagen fibrillogenesis,an increased vascular density, and a bleeding diathesis. J Cell Biol.(1998)140(2):p.419-30]、及びBMEC(図6、パネルB)[Reed,M.J.,et al.,Expression of thrombospondins by endothelial cells.Injury is correlated with TSP-1.Am J Pathol,1995.147(4):p.1068-80;DiPietro,L.A.,D.R.Nebgen,and P.J.Polverini,Downregulation of endothelial cell thrombospondin 1 enhances in vitro angiogenesis. J Vasc Res,1994.31(3):p.178-85]で発現する。TSP1ノックアウトマウス(TSP1-/-)では、骨髄抑制後の造血回復が促進されることが示されている[Kopp,H.G.,et al.,Thrombospondins deployed by thrombopoietic cells determine angiogenic switch and extent of revascularization. J Clin Invest,(2006)116(12):p.3277-91.]。理論に縛られるものではないが、これらのデータは、BM血管再生の回復が調節されるメカニズムの1つが、BMECによるTSP1の阻害によるものであり、それによってBM血管ニッチの再生と再安定化が可能になることを示唆している[Agah,A.,et al.,Thrombospondin 2 levels are increased in aged mice:consequences for cutaneous wound healing and angiogenesis. Matrix Biol,(2004)22(7):p.539-47;,Kyriakides,T.R.,et al.,Megakaryocytes require thrombospondin-2 for normal platelet formation and function. Blood,(2003)101(10):p.3915-23;Huh,H.Y.,et al.,CD36 induction on human monocytes upon adhesion to tumor necrosis factor-activated endothelial cells.J Biol Chem.(1995)270(11):p.6267-71;Bornstein,P.,et al. Thrombospondin 2,a matricellular protein with diverse functions. Matrix Biol,(2000)19(7):p.557-68;Bornstein,P.,et al.,Thrombospondin 2 modulates collagen fibrillogenesis and angiogenesis. J Investig Dermatol Symp Proc,(2000)5(1):p.61-6.]。
【0498】
実施例2B:TSP1ノックアウトマウスでは、HSC及び前駆細胞の機能が増加する
今日まで、TSP1-/-マウスで生成されたほとんどのデータは、損傷及び再生に関して行われてきた。定常状態の造血におけるTSP1の役割についてはほとんど知られていない。この知識のギャップに対処するために、TSP1-/-(Jax Lab:006141)マウスから造血細胞を単離し、HSCの出現頻度と機能を評価した。図7は、若齢マウスにおけるTSP1の阻害が、HSCの数及び機能を増加させることを示す。図7Aは、対照、TSP-1-/-マウス、及びTSP-1に対する中和抗体の注入を受けた対照マウスにおける表現型LT-HSCの定常状態分析である。若齢TSP1-/-マウスでは、表現型HSCの数に差異はなかった。次に、全BMをTSP1-/-マウスから単離し、メチルセルロースベースの前駆細胞コロニー形成コロニーアッセイを実施した。データを図7Bに示し;TSP1-/-マウスは、有意により原始的なCFU-GEMMと全体的により多くの全CFUを有し;他のコロニータイプは変化がなかった)。さらに、対照、TSP-1-/-マウス、及びTSP-1に対する中和抗体の注入を受けた対照マウス由来の100の表現型HSCを競合移植アッセイで注入した。結果からは、TSP1-/-マウスが、系列特異的な再構成の変更を伴わずに、生着能においてよりロバストなHSCを保有していることが示された(データは示さず)。さらに、TSP1に対する市販の中和抗体(クローンA4.1,Thermofisher,Invitrogen RRID AB_10988669))の活性を、対照を処置することによって、すなわち、若齢C57BL6マウスを毎日4μgのαTSP1で3日間処置することによって測定した。この投与濃度とレジメンは、用量反応実験を行うことによって決定し、この実験からは、HSC数を増加させるための最大濃度が4μgであり、3日後には追加の有用性がないことが示された。抗体処置は、図7A、7B及び7Cに示すように、抗体処置は、TSP1ノックアウトマウスで認められる応答と同様の応答を誘発した。結果からは、TSP1-/-マウスまたはTSP1阻害剤で処置したマウスではHSC機能が増加することが示された。これらのデータは、治療法としてのTSP1阻害の可能性を裏付けるものである。
【0499】
中和抗体に加えて、遺伝子発現をノックダウンするための他の技術が知られている。これらには、siRNA及びmiRNAベースのRNAi1-4、アンチセンスオリゴヌクレオチド5、及びCRISPR/TALEN/ジンクフィンガーエンドヌクレアーゼ6-10ベースの遺伝子編集が含まれるが、これらに限定されない。したがって、これらの追加の技術を使用して、in vitro及びin vivoの両方でTSP1遺伝子発現をノックダウンすることができる。
【0500】
CRISPR-Cas系は、ガイドRNA(gRNA)及びCRISPR関連(Cas)ヌクレアーゼの2つの主要な構成要素に依存する。
【0501】
ガイドRNAは、目的の標的DNA領域を認識し、編集のためにそこにCasヌクレアーゼを誘導する特定のRNA配列である。gRNAは、標的DNAに相補的な17~20のヌクレオチド配列であるCrispr RNA(crRNA)と、Casヌクレアーゼの結合足場として機能するtracr RNAの2つの部分から構成される。
【0502】
CRISPR関連タンパク質は、非特異的エンドヌクレアーゼである。CRISPR関連タンパク質は、gRNAによって特定のDNA遺伝子座に指向され、そこで二本鎖切断を行う。Casヌクレアーゼには、様々な細菌から単離されたいくつかのバージョンがある。最も一般的に使用されるのは、Streptococcus pyogenes由来のCas9ヌクレアーゼである。シングルガイドRNA(sgRNA)は、足場tracrRNA配列に融合させたカスタムデザインの短いcrRNA配列の両方を含む単一のRNA分子である。sgRNAは、DNA鋳型からin vitroまたはin vivoで合成的に生成または作成され得る。
【0503】
siRNA送達によるTSP1遺伝子発現の効率的なノックダウン。図13は、正規化されたTSP発現(y軸)対サンプル(対照siRNA、TSP siRNA1)の棒グラフである。10nM siRNA[Thbs1 siRNA #1,ID S75095,Thermofisher]をLipofectamine RNAiMaxを使用してトランスフェクトし、トランスフェクションの48時間後にTRIZOL試薬を使用して全RNAを精製した。精製されたRNAからcDNAを合成し(上付き文字3)、Thbs1を標的とするプライマーを利用してqPCT(Applied Biosystems)を実施した。発現をβアクチンに正規化した。データは、TSP1を標的とするsiRNAのトランスフェクション後の内皮細胞におけるTSP1 mRNAの発現の減少を示している。
【0504】
市販の配列は以下の通りである:
【0505】
Thbs1 siRNA#1
siRNA ID s75095
カタログ番号 4390771 (www.thermofisher.com)
配列 (5’-3’)
センス鎖:GAACUUGUCCAGACUGUAAtt(配列番号1)
アンチセンス鎖:UUACAGUCUGGACAAGUUCtt(配列番号2)
【0506】
Thbs1 siRNA#2
siRNA ID s75096
カタログ番号 4390771
シーケンス (5’-3’)
センス鎖:CAACGAGGAGUGGACUGUAtt(配列番号3)
アンチセンス鎖:UACAGUCCACUCCUCGUUGtt(配列番号4)
【0507】
陰性対照siRNA:
センス鎖:UUCUCCGAACGUGUCACGUtt(配列番号5)
アンチセンス鎖:ttAAGAGGCUUGCACAGUGCA(配列番号6)
【0508】
https://www.thermofisher.com/crispr/invitrogen/query/thbs1:
【0509】
TrueGuide(商標)合成sgRNA
1. カタログ番号 A35533 ID: CRISPR573571_SGM
標的DNA配列:GGCATTCTCAATGCGGAAGG(配列番号7)
標的遺伝子座 Chr.2: GRCm38上の118113072~118113094
鎖 フォワード
用途 遺伝子ノックアウト
2. カタログ番号 A35533 ID: CRISPR573574_SGM
標的DNA配列 AACTCATTGGAGGTGCACGA(配列番号8)
標的遺伝子座 Chr.2: GRCm38上の118113006~118113028
鎖 フォワード
用途 遺伝子ノックアウト
【0510】
陰性対照gRNA(Mus musculus)
gRNA配列 GCGAGGTATTCGGCTCCGCG(配列番号9)
情報源:
https://www.addgene.org/66895/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4486245/
引用文献
1 Fire,A.et al. Potent and specific genetic interference by double-stranded RNA in Caenorhabditis elegans. Nature 391,806-811,doi:10.1038/35888(1998).
2 Carthew,R.W.& Sontheimer,E.J.Origins and Mechanisms of miRNAs and siRNAs. Cell 136,642-655,doi:10.1016/j.cell.2009.01.035(2009).
3 Sheridan,C.With Alnylam’s amyloidosis success,RNAi approval hopes soar. Nature biotechnology 35,995-997,doi:10.1038/nbt1117-995(2017).
4 Setten,R.L.,Rossi,J.J.& Han,S.P. The current state and future directions of RNAi-based therapeutics. Nat Rev Drug Discov 18,421-446,doi:10.1038/s41573-019-0017-4(2019).
5 Rinaldi,C.& Wood,M.J.A. Antisense oligonucleotides:the next frontier for treatment of neurological disorders. Nat Rev Neurol 14,9-21,doi:10.1038/nrneurol.2017.148(2018).
6 Doudna,J.A.& Charpentier,E.Genome editing. The new frontier of genome engineering with CRISPR-Cas9. Science 346,1258096,doi:10.1126/science.1258096(2014).
7 Zipkin,M. CRISPR’s “magnificent moment” in the clinic. Nature biotechnology,doi:10.1038/d41587-019-00035-2(2019).
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10 Urnov,F.D.,Rebar,E.J.,Holmes,M.C.,Zhang,H.S.& Gregory,P.D. Genome editing with engineered zinc finger nucleases. Nat Rev Genet 11,636-646,doi:10.1038/nrg2842(2010).
【0511】
実施例2C:TSP1の阻害は高齢マウスのHSC機能を保持する:
TSP1の損失/阻害が造血系で観察される老化表現型を予防/抑制することができるかどうかを判定するために、対照及びTSP1-/-マウスを18か月齢とし、若い3か月齢のマウスを対照とした。図8Aは、プロトコルの概略図であり、3つのコホートすべてにおける表現型LT-HSCの定常状態分析を提供する。18か月齢の対照マウスは、表現型HSCの出現頻度において有意かつロバストな増加を示したのに対し、TSP-/-マウスは、若齢対照マウスと同様のHSC数を有した(図8A)。さらに、WBMを3つのコホートから単離し、前駆細胞コロニー形成アッセイに供した。結果を図8Bに示す。高齢TSP-/-マウス由来のWBMは、メチルセルロースに入れてもコロニー形成能を保持していた。最後に、3つのコホートに由来する100の表現型HSCを、競合移植アッセイで注入した。結果を図8Cに示す。結果は、高齢TSP1-/-マウス由来のHSCが、若齢対照から単離したHSCと類似していることを示した。3か月齢の若齢対照HSCの生着能と系列組成は、高齢TSP-/-マウスから移植したHSCと区別がつかなかったのに対し、高齢対照HSCは生着レベルが低下し、リンパ球新生を犠牲にして骨髄性バイアスが生じていた。まとめると、データは、TSP1の喪失が造血系に若返り効果をもたらすことを示唆している。
【0512】
実施例3A.トロンボスポンジン1(TSP1)の阻害は、高齢マウスの造血幹細胞(HSC)機能を保持する。
【0513】
図9は、高齢TSP1-/-マウスがHSC機能を保持していることを示す。TSP1の損失/阻害が造血系で観察される老化表現型を予防/抑制することができるかどうかを判定するために、対照及びグローバルTSP1ノックアウトマウス(TSP1-/-)を18か月間生理学的に老化させ;図9Aは、HSC移植及びRNA配列決定に使用される3つのコホート(若齢対照、高齢対照、及び高齢TSP1マウス)の描写である。若い3か月齢のマウスは、対照として機能した。
【0514】
TSP1-/-マウス由来の高齢HSCの機能的効力を調べるために、若齢対照及び高齢対照及び高齢TSP1-/-マウス由来の100の表現型HSCを移植し、若い3か月齢の対照HSCの生着能及び系列組成が、高齢TSP1-/-マウスから移植したHSCと区別がつかないことを発見した。図9Cは、図9Aの3つのコホート(x軸)におけるCD45.2生着率(%)(y軸)の棒グラフである。図9Dは、3つのコホートにおける、系列+細胞(CD45.2)(y軸)と、骨髄性末梢血細胞型(CD11b+/GR1+)、B細胞(B220+)及びT細胞(CD3+)集団(x軸)の棒グラフである。図9C及び図9Dに示すように、高齢対照HSCは、生着レベルが低下し、リンパ球新生を犠牲にして骨髄性バイアスを生じていた。移植に使用したのと同じHSCプールを利用して、HSCをRNA配列決定に供し、高齢TSP1-/-マウスから分離したHSCが若齢HSCと転写的に同一であることを確認した。図9Bは、正規化されたmRNA発現(y軸)と、HSC老化関連遺伝子(x軸)の棒グラフである。図9Aに示す3つのコホートからHSCを単離し、RNA配列決定に供した。HSCの老化関連遺伝子は、TSP1-/-マウス由来の高齢HSCで減少していた。まとめると、これらのデータは、TSP1の喪失が造血系に若返り効果をもたらすことを示唆している。
【0515】
実施例3B.TSP1は、若齢HSCの増殖に直接影響を及ぼす。
【0516】
骨髄抑制は、新規血球産生の緊急の必要性を満たすためにHSC静止を犠牲にして、造血における顕著な適応を開始する。これらの条件下で、HSCは、自己再生、増殖、及び系列指向的分化が有意に増加する。このプロセスは、ex vivoの設定では再現することが困難であり、現在のex vivo HSC増殖戦略では、必然的にHSCの枯渇をもたらし、長期的な生着ができない前駆細胞への分化が誘導される。HSCの安全かつ効果的な増殖に対するもう1つの主要な障害は、造血の複雑さをex vivoで再現する方法論の欠如である。HSCの真のex vivo増殖戦略の開発は、長期の血球減少症骨髄(BM)移植に関連する罹患率と死亡率を軽減し、同種異系BM移植の潜在的なドナーのプールを拡大するのに役立つ。最近では、in vitro系を利用して化合物(例えば、中和抗体及び組換えタンパク質)を送達することに成功しており、この系は、HSCの自己複製能力を維持し、系列分布のバランスをとって、生着可能なHSCを増殖させ得る方法で、HSC恒常性を調整するために必要な生理学的シグナルを提供する[1-4]。この系を利用して、HSCの増殖と維持に必要な重要なシグナル伝達分子の検証に成功している[1-6]。この系を利用して、TSP1シグナル伝達の阻害がHSCの増殖と機能的出力を直接促進することができるかどうかを試験し、造血回復を加速するための戦略の開発を大幅に進めた。T
【0517】
この目的のために、ポリビニルアルコール(PVA)[7]をBSAフリーの低用量KitL(10ng/ml)及びTPO(100ng/ml)中で利用して、ex vivoでHSCを増殖させ、外来性TSP1によるHSC機能のサポートが、直接的であるか間接的であるかを判定した。まず、外来性TSP1が若齢HSCの機能に直接影響を与えるかどうかを試験することに着手した。PVA増殖プロトコルを使用して、500ng/mlのTSP1の存在下または非存在下で、300のソーティングされた表現型HSCを、フィブロネクチンでコーティングされた96ウェル形式で培養した。さらに、3つの独立したTSP1中和抗体とそのIgG対照を投与したコホートを含めた。
【0518】
図10は、TSP1が若齢HSCの増殖に直接影響を及ぼすことを示す。図10Aは、外来性TSP1がHSCの増殖及び機能に影響を与え得るかどうかを試験するためのex vivo増殖プロトコルを示す概略図である。図10Bは、rTSP1(500ng/ml);αTSP1中和抗体クローン1[ThermoFisher Scientific;MA5-13398];αTSP1中和抗体クローン2[ThermoFisher Scientific;MA5-13385];Ms IgG1k IgG対照[ThermoFisher Scientific;16-4714-82];αTSP中和抗体クローン3;及びMs IgM対照[ThermoFisher Scientific;14-4752-82](x軸)で処置した(左から右へ)細胞のCD45.2生着率(%)(y軸)の棒グラフである。図10Cは、移植後24週の骨髄系統(CD11b/GR1+)、リンパ系[B220、B細胞;CD3 T細胞]系列分布を示す系列+細胞(CD45.2,y軸)の棒グラフである。
【0519】
11日間の増殖後、HSCを競合的に移植し、移植の24か月後に生着率を評価した。表現型HSCの増殖頻度に有意差は認められなかったが、106個のCD45.1競合細胞を含む合計104個の増殖細胞を移植すると、TSP1で処置した造血細胞は、系列の再構成にほとんど差異を生じさせることなく、生着能を有意に低下させることがわかった(図10A、10B、10C)。3つの中和抗体のうちの2つ(クローン1及び2)は、増殖したHSCの機能的アウトプットに対する外来性TSP1の有害な影響を遮断しなかった。しかしながら、クローン3は、HSCの増殖をもたらし、バランスの取れた系列分布を伴うロバストな造血生着を引き起こした(図10A、10B、10C)。
【0520】
実施例3C.TSP1に対する中和抗体は、高齢HSCを若返らせ、ex vivoで増殖させることができる。
【0521】
最初に、中和抗体が、処置したHSCにおいてTSP1シグナル伝達を阻害するのにどの程度効率的であったかを試験することに着手した。対照及びTSP1グローバルノックアウトマウスから単離した若齢HSCを、PVAプロトコルでex vivoで増殖させ、HSCを競合的に移植した。
【0522】
図11は、TSP1が若いHSCの増殖に直接影響を及ぼすことを示している。Ex-vivoで増殖させた若齢HSCは、対照及びTSP1グローバルノックアウト(KO)マウスからPVAプロトコルで単離し、HSCを競合的に移植した。11日間の増殖に続いて、HSCを競合的に移植し、移植後24か月で生着を評価した。
【0523】
図11A(対照、TSP1-/-、αTSP1抗体処置[[ThermoFisher Scientific;MA5-13377](x軸)におけるCD45.2生着率(%)(y軸)の棒グラフ)に示すように、長期の多系列生着は、TSP1中和抗体で処置したHSCをTSP1ノックアウトHSCと同様に生着し;両方の条件で、対照HSCよりも優れていた。
【0524】
次に、高齢HSCにおけるTSP1シグナル伝達を阻害することがそれらの機能を若返らせることができるかどうかを試験することに着手した。若齢マウスと高齢(18か月齢)マウスからHSCを単離し、TSP1中和抗体の存在下または非存在下で、ex vivo増殖プロトコルに供した。図11Bは、若齢(対照、αTSP1処置)、及び高齢(対照、αTSP1処置)HSC(x軸)におけるCD45.2生着率(y軸)の棒グラフである。図11Cは、移植の24週後の、骨髄系(CD11B+GR1+)、リンパ系(B細胞、B220+、T細胞、CD3+)、若齢(対照、αTSP1処置)及び高齢(対照、α-TSP1処置)(x軸)HSCに対する系統組成(CD45.2+の%、y軸)の棒グラフである。
【0525】
抗体で処置した高齢HSCが、抗体で処置していない若齢及び高齢HSCの両方に比べて優れた、長期間の生着を達成することができることを見出した(図11B、11C)。さらに、中和抗体で処置した高齢HSCは、リンパ球新生を犠牲にして骨髄性バイアスを示した対照の対応物とは異なり、バランスの取れた系列生着を提供することができた(図11B、C)。
【0526】
図12に示すように、高齢HSCの機能的出力を維持し、若返らせることに加えて、TSP1の阻害により、老化と虚弱の多くの指標が改善される。
【0527】
図12Aは、若齢対照及び高齢対照と共に高齢TSP1マウスの代表的な画像を示す。高齢対照の毛髪の喪失及び白髪化の一方で、高齢TSP1マウスが若齢対照に類似している点に留意されたい。図12Bは、若齢対照、高齢対照及び高齢TSP1 KOマウス(x軸)の体重(g)(y軸)を示す棒グラフである。高齢(18か月)TSP1マウスの毛色と体の大きさを若齢対照及び高齢対照と比較すると、高齢TSP1マウスは、滑らかで光沢のある被毛を有し、体重が低く、若齢対照と同様であることがわかった(図12A、12B)。
【0528】
図12Cは、若齢対照、高齢対照及び高齢TSP1 KOマウス(x軸)の、骨髄微小環境におけるVEカドヘリン(赤)/ペリリピン(緑)/DAPI(青)染色を示す。BM微小環境内のペリリピン+脂肪細胞の浸潤と蓄積は、高齢マウスでは一般的である。しかしながら、高齢TSP1は、脂肪細胞の増加を示さず、若齢対照と同様に見える(図12C)。
【0529】
高齢TSP1における体重増加の欠如がBMに特異的ではなく全身性であることを確認するために、TSP1マウス及び対照をDEXAスキャンに供した。図12Dは、対照及びTSP1 KOマウスに対する脂肪/体重比(DEXAスキャン、y軸)を示す。図12Hは、対照及びTSP1 KOマウスにおける骨石灰化の体重比を決定するために使用したDEXAスキャンを示す。実際、TSP1マウスは、脂肪の蓄積が有意に少ないことがわかった。さらに、TSP1マウスでは骨石灰化が増加していることがわかったが、これは、TSP1マウスが骨量または強度の低下を示さないことを示唆している(図12D、12H)。
【0530】
高齢TSP1マウスにおける体重増加の欠如に基づいて、血液化学分析を行った。図12E、12F、及び12Gは、対照及びTSP1KOマウスのコレステロール(図12E)、インスリン(図12F)、及び空腹時グルコースレベル(図12G)の血液化学を示す。TSP1マウスでは、総コレステロールとトリグリセリドが減少し、善玉HDLコレステロールが増加したことがわかった(図12E)。さらに、TSP1マウスでは、インスリンレベルが低く、空腹時血糖値が低下していた(図12F、G)。
【0531】
最後に、TSP1マウスを握力試験に供した。図12Iは、対照及びTSP1KOマウスにおける前肢/後肢の握力を示す。TSP1マウスでは、前肢/後肢の握力が増加していることがわかった(図12I)。
【0532】
まとめると、これらのデータは、TSP1の阻害が心血管疾患及び肥満のリスクを低減すること、ならびに虚弱の指標を維持することによって全体的な健康寿命を向上させることができることを示している。
【0533】
実施例3の参考文献。
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【0541】
本発明が、その特定の実施形態を参照して説明されているが、様々な変更がなされ得ること、ならびに、均等物が、本発明の真の趣旨及び範囲から逸脱することなく置き換えられ得ることを、当業者は理解すべきである。加えて、本発明の目的の趣旨及び範囲に、特定の状況、材料、物質の組成、プロセス、プロセスステップ(複数可)を採用する多くの改変がなされてもよい。そのような全ての変更は、本明細書に添付された特許請求の範囲内にあることが意図される。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
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図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
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図12F
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図12H
図12I
図13
【配列表】
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【国際調査報告】