(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-29
(54)【発明の名称】医薬製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4745 20060101AFI20230522BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230522BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230522BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230522BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230522BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20230522BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230522BHJP
A61K 9/28 20060101ALI20230522BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20230522BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230522BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230522BHJP
【FI】
A61K31/4745
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/12
A61K47/14
A61K9/20
A61K9/28
A61K9/48
A61P35/00
A61K47/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022563999
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(85)【翻訳文提出日】2022-12-16
(86)【国際出願番号】 EP2021060591
(87)【国際公開番号】W WO2021214254
(87)【国際公開日】2021-10-28
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008951
【氏名又は名称】アストラゼネカ・アクチエボラーグ
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】アル フスバン,ファーハン アブデル カリム モハマド
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076AA44
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC27
4C076DD26
4C076DD41C
4C076DD47C
4C076EE16B
4C076EE31
4C076EE32B
4C076EE38B
4C076EE45B
4C076FF06
4C076FF09
4C076FF33
4C076GG14
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086GA16
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA52
4C086NA20
4C086ZB26
(57)【要約】
本明細書は、N-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミン、微結晶セルロース(MCC)及び無水リン酸二カルシウム(DCPA)を含む医薬製剤、例えば、即放性を備えた錠剤に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミン、微結晶セルロース(MCC)及び無水リン酸二カルシウム(DCPA)を含む医薬製剤。
【請求項2】
請求項1に記載の、即放性医薬製剤。
【請求項3】
N-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミンの量が60%w/wまでである、請求項1又は2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
N-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミンの量が27%w/wである、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
MCC対DCPAの比が3:1~2:3である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項6】
MCC対DCPAの比が3:1~3:2である、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項7】
MCC及びDCPAを組み合わせた量が15%w/w~85%w/wである、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項8】
MCC及びDCPAを組み合わせた量が40%w/w~85%w/wである、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬製剤であって、前記医薬製剤は、少なくとも1種の追加の崩壊剤を10%w/wまでの量でさらに含み、任意選択により、前記崩壊剤は、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビジン及びデンプングリコール酸ナトリウムから選択される、医薬製剤。
【請求項10】
前記少なくとも1種の追加の崩壊剤がデンプングリコール酸ナトリウムである、請求項9に記載の医薬製剤。
【請求項11】
前記少なくとも1種の追加の崩壊剤が5%w/wまでの量で存在する、請求項9又は請求項10に記載の医薬製剤。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬製剤であって、前記医薬製剤は、少なくとも1種の滑沢剤を4%w/wまでの量でさらに含み、任意選択により、前記崩壊剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム及びフマル酸ステアリルナトリウム(SSF)から選択される、医薬製剤。
【請求項13】
前記少なくとも1種の滑沢剤がステアリン酸マグネシウムである、請求項12に記載の医薬製剤。
【請求項14】
前記少なくとも1種の滑沢剤が1.5%w/wまでの量で存在する、請求項12又は請求項13に記載の医薬製剤。
【請求項15】
錠剤の形態の、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬製剤であって、任意選択により、前記錠剤がコーティングされている、医薬製剤。
【請求項16】
25mg、50mg又は100mgのN-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミンを含有する、請求項15に記載の錠剤。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬製剤を含有するカプセル剤。
【請求項18】
i)N-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミンを、MCC及びDCPAとともに乾式造粒して、ブレンド物を形成するステップ;及び
ii)前記ブレンド物を圧縮して錠剤にするステップ
を含む、請求項15に記載の錠剤を製造する方法。
【請求項19】
前記圧縮して錠剤にするステップが、ローラー圧密化によって行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項18又は請求項19に記載の、連続直接圧縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーター(SERD)であるN-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミン(本明細書では化合物(I)又はAZD9833とも呼ぶ)、又はその薬学的に許容される塩、及び選択された薬学的に許容される添加剤を含む医薬製剤に関する。特に、本明細書は、化合物(I)及び選択された薬学的に許容される添加剤を含む経口固体剤形、例えば錠剤に関する。本明細書による医薬製剤は、即放性を備えた経口剤形の大規模製造を可能にする有利な性質を有する。本明細書による製剤は、保存安定性及び物理的性質が良好である。本明細書による製剤は、処置の方法、例えば、化合物(I)を含む製剤を特定の用量で、それを必要とする患者に1日1回経口投与することを含む、乳がん又は婦人科がんに罹患している患者を処置する方法に使用することができる。
【化1】
【背景技術】
【0002】
エストロゲン受容体アルファ(ERα、ESR1、NR3A)及びエストロゲン受容体ベータ(ERβ、ESR2、NR3b)は、核内受容体の大ファミリーのメンバーであるステロイドホルモン受容体である。全ての核内受容体と構造的に類似して、ERαは、6つの機能ドメイン(A~Fと名付けられている)から構成され(非特許文献1)、また、特異的リガンド(女性のステロイドホルモン17bエストラジオール(E2))との会合後に、その複合体が、エストロゲン受容体エレメント(ERE)と名付けられたゲノム配列に結合し、共調節因子と相互作用して標的遺伝子の転写を調節することから、リガンド依存性転写因子に分類される。ERα遺伝子は、6q25.1に位置し、595AAのタンパク質をコードし、選択的スプライシング及び翻訳開始部位に起因して複数のアイソフォームが産生され得る。この受容体は、DNA結合ドメイン(ドメインC)及びリガンド結合ドメイン(ドメインE)に加えて、N末端ドメイン(A/B)、ドメインCとドメインEとを連結させるヒンジドメイン(D)、及びC末端伸長部(ドメインF)を含有する。ERα及びERβのドメインC及びドメインEは、完全に保存されている一方(それぞれ96%及び55%のアミノ酸同一性)、A/B、D及びFの各ドメインの保存は、非保存的である(30%未満のアミノ酸同一性)。どちらの受容体も、女性生殖器官の調節及び発達に関与し、さらに、中枢神経系、心血管系及び骨代謝において役割を果たす。ERのゲノム作用は、この受容体が、EREと、直接的に(直接的活性化又は古典的経路)、又は間接的に(間接的活性化又は非古典的経路)結合したときに、細胞の核内で発生する。ERは、リガンドの非存在下では、熱ショックタンパク質であるHsp90及びHsp70と会合し、会合されたシャペロン機構は、リガンド結合ドメイン(LBD)を安定化し、それがリガンドと接触できるようにする。リガンド結合ERは、熱ショックタンパク質から解離し、受容体の立体構造変化がもたらされ、二量体形成、DNA結合、コアクチベーター又はコリプレッサーとの相互作用、及び標的遺伝子発現の調節が可能になる。非古典的経路では、AP-1及びSp-1が、この受容体の両方のアイソフォームによって使用される代替の調節DNA配列となり、遺伝子発現を調節する。この例では、ERは、DNAと直接的にではなく、他のDNA結合転写因子、例えばc-Jun又はc-Fosとの会合を介して相互作用する(非特許文献2)。ERが遺伝子転写に作用する正確な機序はほとんど解明されていないが、DNA結合受容体によって動員される多数の核内因子によって媒介されると思われる。共調節因子の動員は、主として、それぞれドメインE及びドメインA/Bに位置する、2つのタンパク質表面、AF2及びAF1によって媒介される。AF1は、成長因子によって調節され、その活性は、細胞環境及びプロモーター環境に依存するが、他方AF2は、活性に関して完全にリガンド結合に依存する。これらの2つのドメインは、独立して作用することができるが、最大のER転写活性は、これらの2つのドメインを介する相乗的な相互作用によって達成される(非特許文献3)。ERは転写因子とみなされているが、ERは、E2投与後の組織における、ゲノム作用にしては速すぎると考えられる時間尺度での迅速なER効果から明らかなように、非ゲノム機序によって作用することもできる。エストロゲンの迅速な作用を担う受容体が、同じ核内ERであるのか、それとも別のG-タンパク質共役型ステロイド受容体であるのかは、いまだ不明である(非特許文献4)が、E2によって誘導される経路、例えば、MAPK/ERK経路の数の増加並びに内皮の一酸化窒素合成酵素及びPI3K/Akt経路の活性化が確認されている。リガンド依存性の経路に加えて、ERαは、成長因子シグナル伝達、例えばインスリン様成長因子1(IGF-1)及び上皮成長因子(EGF)によるMAPKの刺激と関連するAF-1を介する、リガンドとは無関係な活性を有することが示されている。AF-1の活性は、Ser118のリン酸化に依存しており、ERと成長因子シグナル伝達とのクロストークの例は、IGF-1及びEGFなどの成長因子に応答するMAPKによるSer118のリン酸化である(非特許文献5)。
【0003】
構造的に異なる多くの化合物がERに結合することが示されている。内因性リガンドE2など、受容体アゴニストとして作用する化合物もあれば、E2結合を競合的に阻害し、受容体アンタゴニストとして作用する化合物もある。これらの化合物は、その機能的効果に応じて2つのクラスに分けることができる。タモキシフェンなどの選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)は、細胞状況及びプロモーター状況、並びに標的とされるERアイソフォームに応じて、受容体アゴニストと受容体アンタゴニストの両方として作用する能力を有する。例えば、タモキシフェンは、乳房ではアンタゴニストとして作用するが、骨、心臓血管系及び子宮では部分アゴニストとして作用する。全てのSERMは、AF2アンタゴニストとして作用し、AF1を介してその部分アゴニスト特性を導き出すようである。フルベストラントが一例である第2の群は、完全アンタゴニストとして分類され、化合物結合上のリガンド結合ドメイン(LBD)の特有の立体構造変化(これは、ヘリックス12とLBDの残部との間の相互作用の完全阻止をもたらし、補因子動員を遮断する)の誘導を介するAF1ドメイン及びAF2ドメインの完全阻害によってエストロゲン活性を遮断することが可能である(非特許文献6、非特許文献7)。
【0004】
ERαの細胞内レベルは、E2の存在下で、ユビキチン/プロテアソーム(Ub/26S)経路を介して下方調節される。リガンド結合したERαのポリユビキチニル化は、少なくとも3種の酵素によって触媒される。即ち、ユビキチン活性化酵素E1によって活性化されたユビキチンは、E3ユビキチンリガーゼによるイソペプチド結合を介してE2によってリシン残基とコンジュゲートされ、次いで、ポリユビキチン化されたERαは、プロテアソームへと導かれて分解される。ER依存性転写調節及びプロテオソーム媒介性のER分解は連動しているが(非特許文献8)、それ自体における転写は、ERα分解のためには必要とされず、核プロテオソーム分解のためにERαを標的化するには転写開始複合体のアセンブリーで十分である。このE2に誘導される分解プロセスは、細胞の増殖、分化及び代謝にとっての要件に応答して、転写を迅速に活性化させるその能力に必要であると考えられる(非特許文献9)。フルベストラントは、SERD、即ち、26Sプロテアソーム経路を介するERαの迅速な下方調節を誘導することもできるアンタゴニストのサブセットにも分類される。対照的に、タモキシフェンなどのSERMは、ERαレベルを上昇させることができるが、転写に対する効果は、SERDで見られる効果と同様である。
【0005】
乳がんのおよそ70%が、ER及び/又はプロゲステロン受容体を発現し、これは、この腫瘍細胞が成長するためのホルモン依存性を意味している。他のがん、例えば卵巣がん及び子宮内膜がんも、成長するためにERαシグナル伝達に依存していると考えられる。このような患者の治療は、ERへのリガンド結合に拮抗すること(例えば閉経前及び閉経後の両方の状況における初期及び進行中のER陽性乳がんを処置するために使用されるタモキシフェン)、ERαに拮抗し、それを下方調節すること(例えばタモキシフェン又はアロマターゼ阻害剤による治療を行ったにもかかわらず進行した女性における乳がんを処置するために使用されるフルベストラント)、又はエストロゲン合成を遮断すること(例えば初期及び進行中のER陽性乳がんを処置するために使用されるアロマターゼ阻害剤)のいずれかにより、ERシグナル伝達を阻害することができる。これらの治療は、乳がん処置に非常に良い影響を与えてきたが、腫瘍がERを発現しているかなりの数の患者が、既存のER治療に対する新規の抵抗性を発現するか、又は、これらの治療に対する抵抗性を時間とともに発現する。初回のタモキシフェン治療に対する抵抗性を説明するために、幾つかの異なる機序が記載されている。それは主に、タモキシフェン-ERα複合体への、ある特定の補因子結合の親和性の低さが、これらの補因子の過剰発現によって相殺されること、又は、タモキシフェン-ERα複合体と、通常はこの複合体には結合しない補因子との相互作用を促進する二次的部位が形成されることのいずれかにより、タモキシフェンがアンタゴニストとしての作用からアゴニストへ切り替わることを含む。したがって、抵抗性は、タモキシフェン-ERα活性を推進する特異的な補因子を発現する細胞の成長の結果として生じる可能性がある。他の成長因子シグナル伝達経路が、リガンドシグナル伝達とは無関係に、ER受容体又はコアクチベーターを直接的に活性化させて、細胞増殖を推進する可能性も存在する。
【0006】
最近、ESR1における変異が、抵抗性機序の可能性のあるものとして、転移性ER陽性患者由来の腫瘍試料及び患者由来の異種移植片モデル(PDX)において、17~25%に変動する頻度で確認された。これらの変異は、リガンド結合ドメインにおいて、優勢であるが、独占的ではなく、変異した機能性タンパク質をもたらす。そのアミノ酸変化の例には、Ser463Pro、Val543Glu、Leu536Arg、Tyr537Ser、Tyr537Asn及びAsp538Glyが含まれ、アミノ酸537及び538での変化は、現在記載されている変化のうちの大多数を占める。これらの変異は、Cancer Genome Atlasデータベースで特性が明らかな原発性乳がん試料由来のゲノムにおいて、以前は検出されなかった。390本のER発現陽性の原発性乳がん試料のうち、ESR1において、変異は1つも検出されなかった(非特許文献10)。リガンド結合ドメインの変異は、これらの変異体受容体が、エストラジオールの非存在下で基本転写活性を示すことから、アロマターゼ阻害剤内分泌療法に対する抵抗性応答として発現したと考えられる。アミノ酸537及び538で変異したERの結晶構造は、どちらの変異体も、ヘリックス12の位置をシフトさせてコアクチベーターの動員を可能にすることによって、ERのアゴニスト立体構造に有利に働き、それによりアゴニスト活性化した野生型ERを模倣することを示した。公表されたデータは、内分泌療法、例えばタモキシフェン及びフルベストラントが依然としてER変異体に結合することができ、転写活性化をある程度阻害できること、及びフルベストラントは、Try537Serを分解することが可能であるが、十分な受容体阻害のためには、より高い用量が必要であり得ることを示している(非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13)。したがって、この段階では、ESR1の変異が臨床転帰の変化に関連するかどうかは不明であるものの、化合物(I)又はその薬学的に許容される塩が、変異ERを下方調節し、変異ERと拮抗させる能力があるという可能性がある。
【0007】
どの抵抗性機序又は機序の組み合わせが生じるかにかかわらず、多くは、やはりER依存性活性に依存し、SERD機序を介する受容体の除去が、細胞からERα受容体を除去する最良の方法を提供する。フルベストラントは、臨床的使用について承認された現在唯一のSERDであるが、その機械的性質にもかかわらず、この薬物の薬理学的性質は、現在1カ月の用量が500mgという制限があるため(その結果、in vitroの乳がん細胞株実験において見られる受容体の完全な下方調節と比較して、患者試料においては受容体の代謝回転が50%未満である)、その有効性が制限されている(非特許文献14)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Dahlman-Wright,et al.,Pharmacol.Rev.,2006,58:773-781
【非特許文献2】Kushner et al.,Pure Applied Chemistry 2003,75:1757-1769
【非特許文献3】Tzukerman,et al.,Mol.Endocrinology,1994,8:21-30
【非特許文献4】Warner,et al.,Steroids 2006 71:91-95
【非特許文献5】Kato,et al.,Science,1995,270:1491-1494
【非特許文献6】Wakeling,et al.,Cancer Res.,1991,51:3867-3873
【非特許文献7】Pike,et al.,Structure,2001,9:145-153
【非特許文献8】Lonard,et al.,Mol.Cell,2000 5:939-948
【非特許文献9】Stenoien,et al.,Mol.Cell Biol.,2001,21:4404-4412
【非特許文献10】Cancer Genome Atlas Network,2012 Nature 490:61-70
【非特許文献11】Toy et al.,Nat.Genetics 2013,45:1439-1445
【非特許文献12】Robinson et al.,Nat.Genetics 2013,45:144601451
【非特許文献13】Li,S.et al.Cell Rep.4,1116-1130(2013)
【非特許文献14】Wardell,et al.,Biochem.Pharm.,2011,82:122-130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
N-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミン(化合物(I)、AZD9833)は、最近、有望なin vitro及びin vivo活性を備えたSERD化合物として特定された(国際公開第2018/077630A1号パンフレット)。この化合物は、現在、臨床試験において評価が行われている。本明細書の目的は、有効な臨床的使用を可能にする適切な物理化学的性質及び薬剤学的性質を備えたこの化合物の医薬製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様において、本明細書は、N-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミン、微結晶セルロース(MCC)及び無水リン酸二カルシウム(DCPA)を含む医薬製剤を提供する。本明細書による医薬製剤は、さらなる添加剤、例えば崩壊剤又は滑沢剤を含んでもよい。
【0011】
さらなる態様において、本明細書は、N-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミン、微結晶セルロース(MCC)及び無水リン酸二カルシウム(DCPA)を含む経口固体剤形、例えば錠剤を提供する。この態様による経口固体剤形は、さらなる添加剤、例えば崩壊剤又は滑沢剤を含んでもよく、コーティング錠剤として提供されてもよい。
【0012】
さらなる態様において、本明細書は、i)N-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミン、微結晶セルロース(MCC)及び無水リン酸二カルシウム(DCPA)を乾式造粒するステップ、及びii)得られたブレンド物を圧縮して錠剤にするステップを含む、本明細書による固体経口剤形を製造する方法を提供する。
【0013】
本明細書が十分に理解され得るように、以下の図について言及する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】プロトタイプ製剤ブレンド物A~Dの流動関数係数(flow function coefficient:FFC)。
【
図2】STYL’Oneプレス機で測定した、プロトタイプ製剤ブレンド物A~Dから製造した錠剤の突出力のデータ。
【
図3】Korsch XL 200をシミュレートするSTYL’Oneプレス機を50rpmで使用して製剤ブレンド物A~Dから作製した錠剤の、引張強さ及び空隙率のデータ。
【
図4】製剤ブレンド物E、F、C、G及びHのひずみ速度感受性のプロット。
【
図6】製剤ブレンド物E、F、C、G及びHのひずみ速度感受性及びこれらのブレンド物から製造した錠剤の引張強さを示す組み合わせプロット。
【
図7a】USP2装置でのSGF中の錠剤製剤E、F、C、G及びHの溶出。
【
図7b】USP2装置でのSGF中30分時点の平均溶出をMCC対DCPAの比の関数として表すプロット。
【
図8】USP2装置を50rpmで使用しての、SGF中20mg及び100mgのコーティング錠剤の溶出。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記のように、本明細書は、N-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミン、微結晶セルロース(MCC)及び無水リン酸二カルシウム(DCPA)を含む医薬製剤、例えば錠剤を提供する。
【0016】
本明細書による製剤は、当該製剤を医薬の分野で有用にする種々の有利な性質を有する。例えば、化合物(I)と特定の添加剤とのブレンド物の良好な流動性は、例えば乾式造粒法による経口固体剤形の製造について効率的な処理を可能にする。経口剤形の製品、例えば本明細書による製剤から形成された錠剤は、良好な安定性、即放性を有し、優れた構造的統合性を示す。したがって、良好な引張強さ及び安定性を備えた、化合物(I)を含有する即放性錠剤を効率的に製造することができる。
【0017】
国際公開第2018/077630A1号パンフレットに記載されている方法によって製造されるN-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミン(化合物(I))は、種々の多形の及び溶媒和化した結晶形態として得られる。本明細書による製剤に使用される化合物(I)は、一般に、国際公開第2018/077630A1号パンフレットに記載されている結晶形態Aとして存在し、したがって、本明細書及び上記パンフレットの製剤の安定性について言及する場合、両方とも、化合物(I)の結晶形態の安定性を指し、さらには、例えば保存中の酸化などのプロセスからの化学分解に対する化合物(I)の安定性を指す。この両方の要素、即ち固相安定性及び化学安定性は、必要とする患者に投与した際の化合物(I)の放出及び取り込みの再現性に影響を及ぼし得る。したがって、これらの要素は、再現可能な放出性及び許容される保存期間を備えた有効な製剤の供給における重要な要件である。
【0018】
実施形態では、本明細書は、化合物(I)又はその薬学的に許容される塩、微結晶セルロース及びリン酸二カルシウムを含む医薬製剤を提供する。医薬製剤は、好ましくは錠剤の形態である。医薬製剤は、好ましくは即放性製剤、例えば即放性を備えた錠剤、任意選択によりコーティング錠剤である。実施形態では、即放性医薬製剤は、コーティング錠剤の形態である。
【0019】
本明細書の好ましい実施形態では、製剤中のMCC対DCPAの比は、MCC対DCPAが3:1からMCC対DCPAが2:3である。このMCC対DCPAの比の特定の範囲は、製剤が、a)高速処理、例えば乾式造粒法による高速処理を可能にする約20%未満のひずみ速度感受性(SRS)を示す、且つb)幾つかの利点の中で特に、一貫して高い引張強さ(>2MPa)を備えた錠剤を供給するように処理され得る、範囲である。錠剤の形成は、直接圧密化及びローラー圧密化を含む様々な方法によって実現することができる。本明細書による製剤の性質のおかげで、本製剤は、単一の連続法の中にブレンド工程及び圧縮工程が組み合わされている連続直接圧縮方法による錠剤の製造に適している。この迅速な加工性は、製造を単純化し、加速させ、一方で高い引張強さは良好な錠剤の統合性をもたらし、失敗率を低減する。添加剤と化合物(I)とのブレンド物の、SRSの低さ及び引張強さの高さは、両方とも、製品のコスト低減に寄与する。
【0020】
さらに好ましい実施形態では、MCC対DCPAの比は3:1~3:2であり、これらの特定の比は、より低量の相対的に濃厚なDCPA添加剤が、例えば溶出試験において、コーニング(これは例えば製造された錠剤のバッチの品質管理における化合物(I)の均質なin vitro放出の生成を損ない得る)の程度を低減するという点で有利である。
【0021】
DCPA、別名無水リン酸二カルシウム又は無水リン酸水素カルシウムは、様々な供給元から市販されている。本明細書による医薬製剤に使用するのに適した自由流動グレードのDCPAとしては、JRS Pharma(www.jrspharma.com)製EMCOMPRESS(登録商標)、及びInnophos(www.innophos.com)製A-TABが挙げられる。
【0022】
MCC、即ち微結晶セルロースは、様々な供給元から市販されている。本明細書による医薬製剤に使用するのに適した自由流動及び高密度グレードのMCCとしては、Avicel(登録商標)pH102、Avicel(登録商標)pH101、Avicel(登録商標)pH200(全てDupont Pharma製、www.dupont.co.uk)、VIVAPUR(登録商標)102及びVIVAPUR(登録商標)200(JRS PHARMA GmbH & Co.KG製、Rosenberg、Germany)が挙げられる。
【0023】
本明細書による製剤は、MCC及びDCPAに加えて、マンニトール、ラクトース、ケイ化微結晶セルロース、ポリデキストロース、トレハロース、スクロース、グルコース、シクロデキストリンから選択されるさらなる充填剤を25%w/wまで含んでもよい。
【0024】
実施形態では、本明細書による医薬製剤中のMCC及びDCPAの総量は、85%w/wまで、例えば65.5%である。通常、本明細書による製剤中のMCC及びDCPAを組み合わせた量は、15%w/w~85%w/w、例えば40%~85%w/wである。
【0025】
実施形態では、本明細書による製剤中の化合物(I)の量は、60%w/wまでである。実施形態では、化合物(I)の量は、40%w/wまで、例えば27%w/wである。
【0026】
実施形態では、MCC及びDCPAの総量は15%~85%であり、化合物(I)の量は10%~60%(全て%w/w)である。
【0027】
実施形態では、化合物(I)は遊離塩基として存在する。実施形態では、化合物(I)は薬学的に許容される塩形態として存在する。
【0028】
実施形態では、本明細書による医薬製剤は、化合物(I)の結晶形態の遊離塩基を含む。実施形態では、化合物(I)は、国際公開第2018/077630A1号パンフレットに記載されている多形形態Aの結晶性遊離塩基として存在する。
【0029】
実施形態では、本明細書による医薬製剤は、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビジン(crospovidine)、デンプングリコール酸ナトリウム、低置換ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)及びアルファ化デンプン1500から選択される崩壊剤をさらに含む。実施形態では、本明細書による医薬製剤は、デンプングリコール酸ナトリウムを含む。本明細書による製剤に使用するのに適した商用グレードのデンプングリコール酸ナトリウムとしては、Glycolys(登録商標)LV(www.roquette.com)及びPrimojel(登録商標)(www.dfepharma.com)が挙げられる。本明細書による医薬製剤が、崩壊剤、例えばデンプングリコール酸ナトリウムを含む実施形態では、崩壊剤は30%w/wまでの量で存在するが、それより低量、例えば10%又は5%が一般に使用され、又は任意選択により5%w/wまで、例えば1%、2%、3%、4%又は5%(全て%w/w)が使用される。
【0030】
実施形態では、本明細書による医薬製剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム(SSF)、ベヘン酸グリセリル及びステアリン酸から選択される滑沢剤をさらに含む。実施形態では、滑沢剤はステアリン酸マグネシウムである。本明細書による医薬製剤が、滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウムを含む実施形態では、滑沢剤は、4%w/wまで、任意選択により2.5%w/wまで、例えば0.5%、1%、1.5%、2%又は2.5%(全てw/w)の量で存在する。ステアリン酸マグネシウム1.5%w/wが、本明細書による医薬製剤中での好適な量及び種類の滑沢剤である。本明細書による医薬製剤に使用するのに適した商用グレードのステアリン酸マグネシウムとしては、Peter Greven(Peter Greven GmbH & Co.KG、www.peter-greven.de)製LIGAMED(登録商標)MFが挙げられる。本明細書による医薬製剤中に滑沢剤を使用すると、錠剤の製造を確実に効率化する助けになり、打錠プレス機からの突出力が有利に低くなり、錠剤製品の欠陥の最小化につながる。
【0031】
本明細書による医薬製剤は、製剤の必要とされる明確な性質に応じて、さらなる添加剤を含んでもよい。そのような追加の添加剤は、例えば、マンニトール、ラクトース、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、第三リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム二水和物、第二リン酸カルシウム無水物、ケイ化微結晶セルロース、それらを共処理した組み合わせ、ポリデキストロース、トレハロース、スクロース、グルコース、シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース(Klucel(商標)、www.ashland.comなど)及びポリビニルピロリドン(ポビドンK30、www.sigmaaldrich.com)から選択されてもよい。そうは言うものの、本明細書に提示されるデータから明らかなように、さらなる添加剤は、一般に、ブレンド物における低いSRSと錠剤製品中の高い引張力との有利な組み合わせを実現するために必要なものではない。
【0032】
一実施形態では、化合物(I)、MCC、DCPA、デンプングリコール酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムを含む錠剤であって、MCC対DCPAの比は、MCC対DCPAが3:1からMCC対DCPAが2:3である錠剤が提供される。一実施形態では、化合物(I)、MCC、DCPA、デンプングリコール酸ナトリウムなどの崩壊剤、及びステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤を含む即放性錠剤であって、MCC対DCPAの比は、MCC対DCPAが3:1からMCC対DCPAが2:3である即放性錠剤が提供される。一実施形態では、結晶性の化合物(I)、MCC、DCPA、デンプングリコール酸ナトリウムなどの崩壊剤、及びステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤を含む即放性錠剤であって、MCC対DCPAの比は、MCC対DCPAが3:1からMCC対DCPAが2:3である即放性錠剤が提供される。実施形態では、即放性錠剤はコーティング錠剤である。
【0033】
一実施形態では、40%w/wまでの化合物(I)、MCC、DCPA、5%w/wまでの量のデンプングリコール酸ナトリウムなどの崩壊剤、及び1.5%w/wまでの量のステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤を含む即放性錠剤であって、MCC対DCPAの比は、MCC対DCPAが3:1からMCC対DCPAが2:3である即放性錠剤が提供される。実施形態では、即放性錠剤はコーティング錠剤である。
【0034】
一実施形態では、化合物(I)、MCC、DCPA、5%w/wまでの量のデンプングリコール酸ナトリウムなどの崩壊剤、及び1.5%w/wまでの量のステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤を含む即放性錠剤であって、MCC対DCPAの比は、MCC対DCPAが3:1からMCC対DCPAが2:3である即放性錠剤が提供される。一実施形態では、結晶性の化合物(I)、MCC、DCPA、5%w/wまでの量のデンプングリコール酸ナトリウム、及び1.5%w/wまでの量のステアリン酸マグネシウムを含む即放性錠剤であって、MCC対DCPAの比は、MCC対DCPAが3:1からMCC対DCPAが2:3である即放性錠剤が提供される。実施形態では、即放性錠剤はコーティング錠剤である。実施形態では、即放性錠剤はコーティング錠剤である。
【0035】
一実施形態では、27%w/wの化合物(I)、39.9%w/wのMCC、26.6%w/wのDCPA、5.0%w/wのデンプングリコール酸ナトリウム、及び1.5%w/wのステアリン酸マグネシウムを含む即放性錠剤が提供される。実施形態では、即放性錠剤はコーティング錠剤である。
【0036】
上記のように、錠剤は、標準的な薬学的に許容されるコーティング剤でコーティングされてもよい。コーティング剤は、当技術分野において公知の標準的なコーティング剤、例えば、ポリマー、可塑剤及び顔料を含有し、即放性を可能にする市販のコーティングシステム、例えばOpadry(登録商標)II(www.colorcon.com)などから選択することができる。コーティングは、光、湿気及び酸化から錠剤を保護することができるため、コーティングは錠剤の保存期間を有利にさらに延長することができる。コーティングは、錠剤の美観を改善するため、並びに錠剤の機械的強度を改善するため、及び匂い又は味をマスキングするためにも使用することができる。
【0037】
コーティング層に使用されるポリマーは、例えば、セルロース系ポリマー、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(Opadry(登録商標)I(www.colorcon.com)及びAquariusコーティングシステム(www.ashland.com)において見出される)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)及びエチルセルロース(EC)、又はポリビニルアルコールなどのビニルから選択することができる。可塑剤は、コーティングフィルムの弾性を改善し、ポリマーのフィルム形成温度を下げるために使用され、このようにしてより低温の処理が可能になる。好適な可塑剤としては、プロピレングリコール又はポリエチレングリコール若しくはグリセロール、酢酸エステル、例えばトリアセチン(グリセロールトリアセテート)など、又はクエン酸トリエチル(TEC)、グリセリド、例えばアセチル化モノグリセリドなど、並びに鉱物油及び植物油が挙げられる。着色料及び顔料は、フィルムの不透明度及び/又は光保護を高め、呈色をもたらすために使用される。好適な着色料としては、インジゴカルミン、タートラジン、アルラレッド、及びキノリンイエロー;無機顔料、例えば二酸化チタン、酸化鉄、及び真珠光沢顔料、並びに天然顔料、例えば野菜汁、カロテノイド、及びウコンが挙げられる。
【0038】
コーティングには、さらなる機能性成分、例えば全て当技術分野において周知の流動促進剤、香料及び粘度調整剤なども組み入れてもよい。医薬のコーティングについての一般的な詳細は、Aulton’s Pharmaceutics,5th Edition,2018,Elsevierの、例えば580~596ページに見出すことができる。
【0039】
Opadry(登録商標)IIは、本明細書によるフィルムコート錠剤に使用することができるコーティングシステムの一例である。Opadry(登録商標)IIの正確な組成は、酸化鉄などの顔料が添加されて所望の呈色を付与するため、選択される色によって変動する。例えば、Opadry(登録商標)II Beige(85F270011)の場合、コーティング剤の98.8重量%は、ポリビニルアルコール、二酸化チタンポリエチレングリコール3350、及びタルクで構成されている(残部はそれぞれ40、23.8、20.2及び14.8(全て%w/w)の量で、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄及び黒色酸化鉄である)。
【0040】
Aquariusコーティングシステムは同様に使用することができ、このようなコーティング剤の好適な組成の例は以下に記載される。Aquarius Preferred HSPコーティングはセルロース系ポリマーを伴うコポビドンを主材料とする高固形分コーティング剤であり、以下に示す組成を有する。
【0041】
【0042】
一実施形態では、i)化合物(I)又はその薬学的に許容される塩を、MCC及びDCPA、並びに任意選択によりさらなる添加剤と、例えば乾式造粒法によってブレンドして、ブレンド物を形成するステップ、及びii)当該ブレンド物を、例えばローラー圧密化によって圧縮して、錠剤を供給するステップを含む、化合物(I)、MCC及びDCPAを含む医薬製剤を含む錠剤を調製する方法が提供される。
【0043】
典型的な錠剤化法は、打錠臼に一貫して所定の重量の材料を充填するフィーダーフレームの中に、バッチ法又は連続法で、原末ミックス又は顆粒を充填することから開始される。次に、充填された打錠臼の内容物は、典型的には上部及び下部の杵の作用によって圧縮されて圧密化製剤が形成され、次にこれが突出して完全な錠剤が形成される。
【0044】
本明細書による医薬製剤から調製された錠剤は、有利に高い引張強さを有し、その結果、良好な機械的安定性を示す。本明細書による製剤は、原薬(API)である化合物(I)と、MCC及びDCPAとのブレンド物を含み、これはおよそ20%以下の良好なひずみ速度感受性(SRS)を示し、この低いひずみ速度感受性により、高いw/w量の化合物(I)を含有する錠剤の製造においてAPIと添加剤の迅速なブレンドが可能になる。本明細書による製剤は、過剰圧縮せずに再現性よく製造することができる錠剤、且つ再現可能な溶出プロファイルに対応する空隙率値を有する錠剤を供給する。
【0045】
本明細書による錠剤は、ローラー圧密化又は直接圧密化などの標準的な技術によって本明細書による製剤から調製されるものである。本明細書による錠剤は、単一の錠剤として、又は複数の錠剤として、それを必要とする患者に投与するのに適した量で、化合物(I)を含む。特定の疾患又は医学的状態の治療処置又は予防処置のために必要な本明細書の組成物中の化合物(I)の用量は、必然的に、例えば処置される宿主及び処置される疾病の重症度に応じて変動することになる。投与される活性化合物の量は、処置される対象、障害又は状態の重症度、投与速度、化合物の体内動態、及び処方医の判断に依存する。個々の錠剤中の化合物(I)の量、即ち単位用量は、概して、5mg~250mgの範囲、例えば、5、10、20、25、50、75、100、150又は250mgである。実施形態では、本明細書による錠剤は、25mg、50mg又は100mgの化合物(I)を含有する。実施形態では、本明細書による錠剤は、75mgの化合物(I)を含有する。実施形態では、本明細書による錠剤中の化合物(I)のw/w%は、40%まで、例えば、20%、25%、27%、30%、35%又は35%である。実施形態では、本明細書による錠剤中の化合物(I)のw/w%は27%である。
【0046】
本明細書で使用する場合、特に明記しない限り、当然のことながら「およそ(ca)」という用語は、「およそ(approximately)」という用語と同意語として使用される。説明として、特に明記しない限り、「およそ(ca)」という用語が使用されると、挙げられた基準値からわずかに外れた値、即ち、±10%(好都合には±5%、例えば±2%)を示す。
【0047】
注目すべきことに、本明細書による製剤は即放性を示す。本明細書で使用する場合、「即放性」又は「IR」という用語は、投与後速やかに化合物(I)の放出をもたらす剤形を指すために従来の意味で使用される。例えば、即放性医薬組成物とは、溶出試験の開始から30分後に組成物からの薬物の溶出率が80%以上である組成物を意味する。この試験は、米国薬局方に記載されている溶出試験(パドル法)に従って、下記の実施例(溶出試験はUSP2装置を用いて75rpmでpH6.8のリン酸緩衝液中で行われる)に記載されているように、900mLの適切な試験流体(USP緩衝液、pH6.8又はpH7.4など)を使用し、パドル回転速度が50、75又は100rpmである(例えば米国薬局方装置II(パドル)におけるような)条件下で行われる。
【0048】
設計プロセスを繰り返し行って、MCC/マンニトールシステムなどの別の充填剤ブレンド物の範囲に勝るように選択したMCC/DCPA充填剤のブレンド物を含むプロトタイプ製剤を導出した。化合物(I)/MCC/DCPAのブレンド物は、一連の望ましい性質を示すことが判明した。第1の例として、これらの化合物(I)/MCC/DCPAのブレンド物は、評価した別のブレンド物より有意に高い流動関数係数(FFC)を有することが認められた。これは利点である。なぜなら、FFCが高ければ、ローラー圧密化による、又は最終的に連続直接圧縮による、錠剤への加工の障害となる可能性のある造粒の問題が発生する傾向が低くなることを意味するからである(
図1、エントリーC)。第2の例として、各プロトタイプブレンド物をさらにプロファイリングすると、化合物(I)/MCC/DCPAのブレンド物から製造された錠剤は、引張強さ及び空隙率に関して優れていることが明らかになった(
図3、エントリーC及びD)。空隙率は>9%であることを、変わりやすい溶出及び過剰な圧縮のリスクを回避するために狙いとした。化合物(I)/MCC/DCPAのプロトタイプブレンド物はまた、引張強さが>2MPaの錠剤も一貫して供給した(これを測定する技術の詳細については下記を参照)。これらの性質に加えて、プロトタイプの化合物(I)/MCC/DCPAブレンド物はまた、相当する化合物(I)/マンニトール/MCCのブレンド物より有利に低い突出力を有することも判明し、それぞれの添加剤について錠剤の突出力は、それぞれ<800N及び>1000Nであった(
図3、エントリーCを参照)。突出力がより低ければ、錠剤が打錠杵にくっつく傾向を低くし、製造において欠陥錠剤が発生する傾向を低くすることを意味するため、望ましい。
【0049】
化合物(I)/MCC/DCPAのプロトタイプ製剤の有利な性質を確立したので、狙いとするブレンド物のひずみ速度感受性(SRS)をおよそ20%まで、及び錠剤の引張強さを>2MPaとするようなMCC/DCPAの比を確立するために実験を行った。本明細書による製剤中のMCC対DCPAの最適比として、MCC対DCPAが3:1からMCC対DCPAが2:3までの範囲がこのようにして確立された(
図6を参照)。
【0050】
MCC対DCPAが3:1からMCC対DCPAが2:3までの好ましい範囲内のMCC対DCPAの比を有する製剤を使用して、ブレンド物のSRSと錠剤の引張強さとの望ましい組み合わせを有し、化合物(I)を60%までの高負荷量で含む錠剤を供給することができる。
【0051】
望ましいブレンド物のSRS及び錠剤の引張強さをもたらす上記のMCC対DCPAのブレンド比の範囲内では、MCC対DCPAが3:1からMCC対DCPAが3:2の範囲において作業することが有利であることも判明した。なぜなら、相対的に濃厚なDCPA添加剤の量を減少させることによって、そのような比のブレンド物は、製剤が生体関連溶出媒体に曝露された場合に、材料のコーニング(in vivoで放出を損なうものではないが、品質試験の目的で行われるin vitro試験において放出を損ない得る現象である)を起こしにくいからである。
【0052】
製剤中に使用されるMCC及びDCPAの正確なw/w%総量は、この2つの充填剤の相対比とは対照的に、製剤中に活性成分である化合物(I)がどのくらい存在するか、及び他にどのような添加剤が存在し得るかに応じて変動し得る。本明細書による製剤の特定の各成分(活性成分又は添加剤)の量は、パーセンテージ値として表され、これはw/w%を指し、即ち、成分の重量を全成分の総重量で除し、100を乗じてパーセンテージにしたものである。このw/w%は、製剤から形成される錠剤をコーティングするために使用してもよい任意選択のコーティング層はいずれも含まない。
【0053】
好ましい実施形態では、本明細書による錠剤は、下の表3の組成を有し、フィルムコーティングは任意選択である。
【0054】
医学的使用
上記のように、化合物(I)は強力なエストロゲン受容体結合剤であり、ERαの細胞レベルを減少させ、したがって、本明細書による組成物は、抗腫瘍剤として利用価値があり得、化合物(I)を開示している国際特許出願である国際公開第2018/077630A1号パンフレットに記載されているような状態の処置に有用であり得る。例えば、本明細書の即放性医薬組成物は、患者への化合物(I)の送達において利用価値があり得、それは哺乳動物のがん細胞の増殖、生存、運動、播種及び浸潤の選択的阻害剤として作用して、腫瘍の成長及び生存の阻害、及び転移性腫瘍の成長の阻害をもたらし得る。特に、本明細書の組成物は、固形腫瘍疾患(ERαに感受性であり、細胞の増殖及び生存、並びに転移性の腫瘍細胞の遊走能及び浸潤をもたらすシグナル伝達工程に関与する腫瘍を含むが、これらに限定されない)の抑制及び/又は処置において、抗増殖組成物及び抗浸潤組成物として利用価値があり得る。さらに、本明細書の組成物は、単独で又は部分的にERαの拮抗作用及び下方調節によって媒介される腫瘍の予防又は処置において有用であり得る。即ち、本組成物は、ERα阻害効果を、そのような処置を必要とする温血動物において生じさせるために使用することができる。例えば、本明細書の組成物は、エストロゲンに感受性の疾患又は状態(内分泌療法に対して抵抗性が生じた疾患を含む)を含むが、これに限定されないがんの予防又は処置に有用であり得、乳房のがん(ER陽性乳がんを含む)及び婦人科がん(子宮内膜がん、卵巣がん及び子宮頚がんを含む)並びにde novo変異であるか、又は過去の内分泌療法(アロマターゼ阻害剤、例えばレトラゾール又はアナストラゾールなどの非ステロイド性アロマターゼ阻害剤など)での処置の結果として生じた可能性のある、ERαが変異したタンパク質を発現するがんの処置に使用するのに有用であり得る。
【0055】
一実施形態では、治療に使用するための上に定義した即放性医薬組成物が提供される。
【0056】
本明細書のさらなる態様は、ヒトなどの温血動物の医薬品として使用するための上に定義した本明細書による即放性医薬組成物を提供する。
【0057】
本明細書の組成物中に存在する化合物(I)は、ERαに対する阻害効果を提供する。したがって、本明細書の組成物は、単独で又は部分的にERαによって媒介される疾患又は病状の処置に有用であると予想される。即ち、本明細書の組成物は、そのような処置を必要とする温血動物においてERα阻害効果を生じさせるために使用することができる。したがって、本明細書の組成物は、エストロゲンに感受性の疾患又は状態(内分泌療法に対して抵抗性が生じた疾患を含む)を含むが、これに限定されないがん(固形腫瘍疾患を含む)を処置する方法であって、ERαの阻害を特徴とする方法を提供する。即ち、本明細書の組成物は、単独での又は部分的でのERαの阻害による、固形腫瘍疾患の抑制及び/又は処置によって、抗増殖効果及び/又は抗浸潤効果を生じさせるために使用することができる。したがって、本明細書の組成物は、ERαの阻害に感受性のある、ヒトなどの温血動物におけるがんの予防又は処置に、特に上記の疾患などの固形腫瘍疾患の処置に、有用であると予想される。特定の実施形態では、本明細書の組成物は、抗増殖効果を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において生じさせる方法であって、前記動物に、有効量の上に定義した医薬製剤を投与することを含む方法を提供する。さらなる特定の実施形態では、本明細書の医薬製剤の、それを必要とする患者への投与は、ヒトなどの温血動物において固形疾患の抑制及び/又は処置によって抗浸潤効果を生じさせる方法を提供する。さらなる特定の実施形態では、本明細書は、がんの予防又は処置を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において行う方法であって、前記動物に、有効量の上に定義した本明細書による医薬製剤を投与することを含む方法を提供する。さらなる特定の実施形態では、本明細書は、固形腫瘍疾患の予防又は処置を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において行う方法であって、前記動物に、有効量の本明細書による医薬製剤を投与することを含む方法を提供する。さらなる特定の実施形態では、本明細書は、腫瘍細胞の増殖、生存、浸潤及び遊走能をもたらすシグナル伝達工程に関与する、ERαの阻害に感受性のある腫瘍の予防又は処置を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において行う方法であって、前記動物に、有効量の本明細書による医薬製剤を投与することを含む方法を提供する。さらなる特定の実施形態では、本明細書は、ERαに対する阻害効果を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において提供する方法であって、前記動物に、有効量の本明細書による医薬製剤を投与することを含む方法を提供する。さらなる特定の実施形態では、本明細書は、ERαに対する選択的阻害効果を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において提供する方法であって、前記動物に、有効量の本明細書による医薬製剤を投与することを含む方法を提供する。さらなる特定の実施形態では、本明細書は、乳がん又は婦人科がんの処置を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において行う方法であって、前記動物に、有効量の本明細書による医薬製剤を投与することを含む方法を提供する。さらなる特定の実施形態では、本明細書は、乳房、子宮内膜、卵巣又は子宮頚部のがんの処置を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において行う方法であって、前記動物に、有効量の本明細書による医薬製剤を投与することを含む方法を提供する。さらなる特定の実施形態では、本明細書は、乳がんの処置を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において行う方法であって、前記動物に、有効量の本明細書による医薬製剤を投与することを含む方法を提供する。さらなる特定の実施形態では、本明細書は、1種又は複数種の他の内分泌療法に抵抗性を生じた乳がんの処置を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において行う方法であって、前記動物に、有効量の本明細書による医薬製剤を投与することを含む方法を提供する。さらなる特定の実施形態では、本明細書は、ER陽性乳がんの処置を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において行う方法であって、前記動物に、有効量の本明細書による医薬製剤を投与することを含む方法を提供する。
【0058】
本明細書の一実施形態では、ヒトなどの温血動物において抗増殖効果を生じさせるのに使用するための、上に定義した本明細書による医薬組成物が提供される。別の実施形態では、固形腫瘍疾患の抑制及び/又は処置における抗浸潤剤としてヒトなどの温血動物において使用するための、上に定義した本明細書による医薬組成物が提供される。特定の実施形態では、ヒトなどの温血動物におけるがんの予防又は処置に使用するための、上に定義した本明細書による医薬組成物が提供される。さらに別の実施形態では、ヒトなどの温血動物における固形腫瘍疾患の予防又は処置に使用するための、本明細書による医薬組成物が提供される。特定の実施形態では、腫瘍細胞の増殖、生存、浸潤及び遊走能をもたらすシグナル伝達工程に関与する、ERαの阻害に感受性のある腫瘍の予防又は処置において使用するための、上に定義した本明細書による医薬組成物が提供される。さらなる特定の実施形態では、ERαに対する阻害効果の提供において使用するための、上に定義した本明細書による医薬組成物が提供される。さらなる特定の実施形態では、ERαに対する阻害効果の提供において使用するための、上に定義した本明細書による医薬組成物が提供される。さらなる特定の実施形態では、乳がん又は婦人科がんの処置において使用するための、上に定義した本明細書による医薬組成物が提供される。さらなる特定の実施形態では、乳房、子宮内膜、卵巣又は子宮頚部のがんの処置において使用するための、上に定義した本明細書による医薬組成物が提供される。さらなる特定の実施形態では、乳房のがんの処置のための上に定義した本明細書による医薬組成物が提供される。さらなる特定の実施形態では、1種又は複数種の内分泌療法に抵抗性を生じた乳房のがんの処置のための、上に定義した本明細書による医薬組成物が提供される。さらなる特定の実施形態では、ER陽性乳がんの処置のための、上に定義した本明細書による医薬組成物が提供される。
【0059】
本開示のさらなる態様は、ヒトなどの温血動物において抗増殖効果を生じさせることに使用するための医薬品の製造における、上に定義した本明細書による組成物の使用を提供する。別の実施形態では、ヒトなどの温血動物において、固形腫瘍疾患の抑制及び/又は処置における抗浸潤剤として使用するための医薬品の製造における、上に定義した本明細書による組成物の使用が提供される。特定の実施形態では、ヒトなどの温血動物におけるがんの予防又は処置に使用するための医薬品の製造における、上に定義した本明細書による組成物の使用が提供される。さらに別の実施形態では、ヒトなどの温血動物において固形腫瘍疾患の予防又は処置に使用するための医薬品の製造における、上に定義した本明細書による組成物の使用が提供される。さらなる特定の実施形態では、ヒトなどの温血動物において、腫瘍細胞の増殖、生存、浸潤及び遊走能をもたらすシグナル伝達工程に関与する、ERαの阻害に感受性のある腫瘍の予防又は処置に使用するための医薬品の製造における、上に定義した本明細書による組成物の使用が提供される。さらなる特定の実施形態では、ヒトなどの温血動物においてERαに対する阻害効果を提供することに使用するための医薬品の製造における、上に定義した本明細書による組成物の使用が提供される。さらなる特定の実施形態では、ヒトなどの温血動物においてERαに対する阻害効果を提供することに使用するための医薬品の製造における、上に定義した本明細書による組成物の使用が提供される。さらなる特定の実施形態では、ヒトなどの温血動物における乳がん又は婦人科がんの処置に使用するための医薬品の製造における、上に定義した本明細書による組成物の使用が提供される。さらなる特定の実施形態では、ヒトなどの温血動物における乳房、子宮内膜、卵巣又は子宮頚部のがんの処置に使用するための医薬品の製造における、上に定義した本明細書による組成物の使用が提供される。さらなる特定の実施形態では、ヒトなどの温血動物における乳房のがんの処置のための医薬品の製造における、上に定義した本明細書による組成物の使用が提供される。さらなる特定の実施形態では、ヒトなどの温血動物において1種又は複数種の内分泌療法に抵抗性を生じた乳房のがんの処置のための医薬品の製造における、上に定義した本明細書による組成物の使用が提供される。さらなる特定の実施形態では、ヒトなどの温血動物におけるER陽性乳がんの処置のための医薬品の製造における、上に定義した本明細書による組成物の使用が提供される。
【0060】
本明細書の医薬組成物は、単独療法として単独で投与されてもよく、又は1種若しくは複数種の他の物質及び/若しくは処置に加えて投与されてもよい。そのような組み合わせ処置は、処置の個々の成分の同時、逐次又は別々の投与によって実現することができる。
【0061】
本明細書に定義した抗がん処置は、単独療法として適用されてもよく、又は本明細書の化合物に加えて、従来の手術又は放射線療法若しくは化学療法を含んでもよい。そのような化学療法は、以下のカテゴリーの抗腫瘍剤のうち1つ又は複数を含んでもよい。
(i)腫瘍内科学で使用される他の抗増殖/抗新生物薬及びその組み合わせ、例えばアルキル化剤(例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、ナイトロジェンマスタード、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、テモゾロミド及びニトロソウレア);代謝拮抗剤(例えば、ゲムシタビン及び葉酸代謝拮抗剤、例えば、フルオロピリミジン(5フルオロウラシル及びテガフールなど)、ラルチトレキセド、メトトレキサート、シトシンアラビノシド、及びヒドロキシ尿素);抗腫瘍抗生物質(例えばアントラサイクリン系、例えば、アドリアマイシン、ブレオマイシン、ドキソルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、イダルビシン、マイトマイシン-C、ダクチノマイシン及びミスラマイシン);有糸分裂阻害剤(例えば、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン及びビノレルビンなど)及びタキソイド(タキソール及びタキソテールなど)及びポロキナーゼ阻害剤);並びにトポイソメラーゼ阻害剤(例えばエピポドフィロトキシン(エトポシド及びテニポシドなど)、アムサクリン、トポテカン及びカンプトテシン);
(ii)抗ホルモン剤、例えば抗エストロゲン剤(例えば、タモキシフェン、フルベストラント、トレミフェン、ラロキシフェン、ドロロキシフェン及びヨードキシフェン)、プロゲストゲン(例えば酢酸メゲストロール)、アロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール、レトロゾール、ボラゾール(vorazole)及びエキセメスタン);
(iii)成長因子の機能及びその下流のシグナル伝達経路の阻害剤:任意の成長因子又は成長因子受容体標的のAbモジュレーターが含まれ、これはStern et al.Critical Reviews in Oncology/Haematology,2005,54,pp11-29)によってレビューされている;そのような標的の低分子阻害剤、例えばキナーゼ阻害剤も含まれ、例としては、抗erbB2抗体であるトラスツズマブ[Herceptin(商標)]及びペルツズマブ[Perjeta(商標)]、HER-2を対象とする抗体薬物コンジュゲートであるトラスツズマブデルクステカン[Enhertu(商標)]及びトラスツズマブエムタンシン[Kadcyla(商標)]、抗EGFR抗体であるパニツムマブ、抗EGFR抗体であるセツキシマブ[Erbitux、C225]並びにerbB受容体ファミリーの阻害剤を含むチロシンキナーゼ阻害剤、例えば上皮成長因子ファミリー受容体(EGFR/erbB1)チロシンキナーゼ阻害剤(ゲフィチニブ、オシメルチニブ又はエルロチニブなど)、erbB2チロシンキナーゼ阻害剤(ラパチニブなど)、及び混合のerb1/2阻害剤(アファタニブ(afatanib)など)が含まれ;同様の戦略が他のクラスの成長因子及びその受容体について利用可能である、例えば、肝細胞成長因子ファミリー又はc-met及びronを含むその受容体の阻害剤;インスリン及びインスリン成長因子ファミリー又はその受容体(IGFR、IR)の阻害剤、血小板由来成長因子ファミリー又はその受容体(PDGFR)の阻害剤、並びにc-kit、AnLK、及びCSF-1Rなどの他の受容体チロシンキナーゼによって媒介されるシグナル伝達の阻害剤がある;
PI3-キナーゼシグナル伝達経路におけるシグナル伝達タンパク質を標的とするモジュレーター、例えば、PI3K-α/β/γなどのPI3-キナーゼアイソフォームの阻害剤、及びAKT、mTOR(AZD2014及びエベロリムスなど)、PDK、SGK、PI4K又はPIP5Kなどのser/thrキナーゼの阻害剤も含まれる;また、上に列挙されていないセリン/スレオニンキナーゼの阻害剤、例えば、raf阻害剤(ベムラフェニブなど)、MEK阻害剤(セルメチニブなど)、Abl阻害剤(イマチニブ又はニロチニブなど)、Btk阻害剤(イブルチニブ、アカラブルチニブ又はザヌブルチニブなど)、Syk阻害剤(フォスタマチニブなど)、オーロラキナーゼ阻害剤(例えばAZD1152)、JAK、STAT及びIRAK4などの他のser/thrキナーゼの阻害剤、並びにサイクリン依存性キナーゼ阻害剤(パルボシクリブ、アベマシクリブ、リボシクリブ、トリラシクリブ又はレロシクリブなど)も含まれる;
(iv)DNA損傷シグナル伝達経路のモジュレーター、例えば、PARP阻害剤(例えば、オラパリブ、ルカパリブ、ニラパリブ、タラゾパリブ)、ATR阻害剤又はATM阻害剤;
(v)アポトーシス経路及び細胞死経路のモジュレーター、例えばBclファミリーモジュレーター(例えばABT-263/ナビトクラクス、ABT-199);
(vi)抗血管新生剤、例えば血管内皮成長因子の効果を阻害するもの、[例えば、抗血管内皮細胞成長因子抗体ベバシズマブ(Avastin(商標))、並びに例えば、VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤、例えば、ソラフェニブ、アキシニチブ、パゾパニブ、スニチニブ及びバンデタニブ(並びに他の機序によって作用する化合物(例えば、リノミド、インテグリンαvβ3機能の阻害剤及びアンギオスタチン)];
(vii)血管障害剤、例えばコンブレタスタチンA4;
(viii)抗浸潤剤、例えばc-Srcキナーゼファミリー阻害剤((ダサチニブ、J.Med.Chem.,2004,47,6658-6661)及びボスチニブ(SKI-606)など)、及びメタロプロテイナーゼ阻害剤(マリマスタットなど)、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子受容体機能の阻害剤又はヘパラナーゼに対する抗体;
(ix)免疫療法手法、(例えば患者の腫瘍細胞の免疫原性を増大させるためのex vivo及びin vivo手法、例えば、インターロイキン2、インターロイキン4又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子などのサイトカインのトランスフェクション、T細胞のアネルギーを減少させる手法、サイトカインをトランスフェクトした樹状細胞など、トランスフェクトした免疫細胞を使用する手法、サイトカインをトランスフェクトした腫瘍細胞株を使用する手法、及び抗イディオタイプ抗体を使用する手法を含む)。具体的な例としては、PD-1を標的とするモノクローナル抗体(例えば、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、セミプリマブ)、PD-L1を標的とするモノクローナル抗体(例えば、デュルバルマブ、アテゾリズマブ又はアベルマブ)又はCTLA4を標的とするモノクローナル抗体(例えばイピリムマブ及びトレメリムマブ)が挙げられる;
(x)アンチセンス又はRNAiに基づく治療、例えば列挙された標的を対象とするもの。
(xi)遺伝子治療手法(例えば、異常なp53又は異常なBRCA1若しくはBRCA2などの異常な遺伝子を置き換えるための手法、GDEPT(遺伝子指向性酵素プロドラッグ療法)手法、例えば、シトシンデアミナーゼ、チミジンキナーゼ又は細菌のニトロレダクターゼ酵素を使用するもの、及び化学療法又は放射線療法に対する患者の忍容性を増大させる手法、例えば多剤耐性遺伝子治療が含まれる)。
【0062】
化合物(I)が他の治療剤と組み合わされて投与される場合、化合物(I)は、他の治療剤と同じ経路で投与される必要はなく、物理化学的特性が異なるため、異なる経路で投与されてもよい。例えば、化合物(I)は、その良好な血液レベルを生じさせ、維持するために経口投与されてもよく、一方、他の治療剤は静脈内投与されてもよい。初回投与は当技術分野において公知の確立されたプロトコルに従って行うことができ、次に、認められた効果に基づいて、投与量、投与方式及び投与の時間は熟練臨床医が変更することができる。
【0063】
他の治療剤の特定の選択は、主治医の診断及び個体の状態に関する主治医の判定、並びに適切な処置プロトコルによって決まることになる。本明細書のこの態様によれば、化合物(I)又はその薬学的に許容される塩と、別の抗腫瘍剤、特に上の(i)~(xi)に列挙した抗腫瘍剤のうちいずれか1つとを含む、がんの処置に使用するのに適した組み合わせが提供される。特に、上の(i)~(xi)に列挙した抗腫瘍剤は、処置されるべき特定のがんの標準治療であり、当業者は「標準治療」の意味を理解されるであろう。
【0064】
したがって、本明細書のさらなる態様において、本明細書の組成物と、別の抗腫瘍剤、特に上記の(i)~(xi)に列挙したものから選択される抗腫瘍剤とを含む、がんの処置に適した組み合わせが提供される。
【0065】
本明細書のさらなる態様において、上に定義した本明細書の組成物と、上記の(i)に列挙した抗腫瘍剤のうちいずれか1つとを含む、がんの処置に適した組み合わせが提供される。
【0066】
本明細書のさらなる態様において、上に定義した本明細書の組成物と、例えばタキソール又はタキソテール、好都合にはタキソテールなどのタキソイドとを含む、がんの処置に使用するのに適した組み合わせが提供される。
【0067】
本明細書のさらなる態様において、本明細書の組成物と、別の抗腫瘍剤、特に上記の(ii)に列挙したものから選択される抗腫瘍剤とを含む、がんの処置に適した組み合わせが提供される。
【0068】
本明細書のさらなる態様において、上に定義した本明細書の組成物と、上記の(ii)に列挙した抗ホルモン剤のうちいずれか1つ、例えば上記の(ii)に列挙した抗エストロゲン剤のうちいずれか1つ、又は例えば上記の(ii)に列挙したアロマターゼ阻害剤とを含む、がんの処置に使用するのに適した組み合わせが提供される。
【0069】
本明細書のさらなる態様において、本明細書の組成物と、mTOR阻害剤、例えばAZD2014又はエベロリムスとを含む、がんの処置に使用するのに適した組み合わせが提供される。
【0070】
本明細書のさらなる態様において、本明細書の組成物と、PI3Kα-阻害剤、例えば国際公開第2014/114928号パンフレットのPI3Kα/δ阻害剤とを含む、がんの処置に使用するのに適した組み合わせが提供される。好適なPI3Kα/δ阻害剤の一例は、国際公開第2014/114928号パンフレットの実施例3である。
【0071】
本明細書のさらなる態様において、本明細書の組成物と、パルボシクリブ、アベマシクリブ又はリボシクリブとを含む、がんの処置に使用するのに適した組み合わせが提供される。
【0072】
一態様において、本明細書の組成物と、上記の(ii)に列挙した抗腫瘍剤、又はmTOR阻害剤(例えばAZD2014又はエベロリムス)、又はPI3Kα-阻害剤(例えば国際公開第2014/114928号パンフレットのPI3Kα/δ阻害剤、特に同パンフレットの実施例3)又はパルボシクリブ、アベマシクリブ若しくはリボシクリブとの上記の組み合わせは、乳がん又は婦人科がん、例えば、乳房、子宮内膜、卵巣又は子宮頚部のがん、特に乳がん、例えばER陽性乳がんの処置に使用するのに適している。
【0073】
本明細書において、「組み合わせ」という用語が使用される場合、これは、同時投与、別々の投与又は逐次投与を指すものと理解されるべきである。本明細書の一態様において、「組み合わせ」は同時投与を指す。本明細書の別の態様において、「組み合わせ」は別々の投与を指す。本明細書のさらなる態様において、「組み合わせ」は逐次投与を指す。投与が逐次又は別々の投与である場合、第2の成分の投与の遅延は、組み合わせの有益な効果を失うようなものであってはならない。2種以上の成分の組み合わせが別々に又は逐次で投与される場合、各成分の投与計画は、他の成分とは異なり、他の成分とは無関係であり得ることが理解されるであろう。好都合には、本明細書の化合物は1日1回投与される。
【0074】
したがって、本明細書の追加の特徴において、がんの処置を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において行う方法であって、前記動物に、有効量の本明細書の組成物を、上記の(i)~(xi)に列挙したものから選択される抗腫瘍剤と組み合わせて投与することを含む方法が提供される。
【0075】
本明細書のさらなる態様によれば、がんの処置を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において行う方法であって、前記動物に、有効量の本明細書の組成物を、上記の(ii)に列挙した抗ホルモン剤のうちいずれか1つ、例えば上記の(ii)に列挙した抗エストロゲン剤のうちいずれか1つ、又は例えば上記の(ii)に列挙したアロマターゼ阻害剤と組み合わせて投与することを含む方法が提供される。
【0076】
本明細書のさらなる態様において、がんの処置を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において行う方法であって、前記動物に、有効量の本明細書の組成物を、mTOR阻害剤、例えばAZD2014又はエベロリムス、例えば10mgまでの1日用量のエベロリムスと組み合わせて投与することを含む方法が提供される。
【0077】
本明細書のさらなる態様において、がんの処置を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において行う方法であって、前記動物に、有効量の本明細書の組成物を、PI3Kα-阻害剤、例えば国際公開第2014/114928号パンフレットのPI3Kα/δ阻害剤と組み合わせて投与することを含む方法が提供される。好適なPI3Kα/δ阻害剤の一例は、国際公開第2014/114928号パンフレットの実施例3である。
【0078】
本明細書のさらなる態様において、がんの処置を、そのような処置を必要とするヒトなどの温血動物において行う方法であって、前記動物に、有効量の本明細書の組成物を、パルボシクリブ、アベマシクリブ又はリボシクリブと組み合わせて投与することを含む方法が提供される。
【0079】
一態様において、がんを処置する上記の方法は、乳がん又は婦人科がん、例えば、乳房、子宮内膜、卵巣又は子宮頚部のがん、特に乳がん、例えばER陽性乳がんの処置の方法である。
【0080】
一実施形態では、本明細書に記載の組成物及び方法は、障害、例えば本明細書に記載の障害の処置のためのキットを提供する。このようなキットは、容器に入れた本明細書に記載の組成物、及び任意選択により、本明細書に記載の種々の方法及び手法に従ったキットの使用を教示する説明書を含む。そのようなキットにはまた、参照科学文献、添付文書、臨床試験の結果、及び/又はこれらの概要などの情報(組成物の活性及び/若しくは利点を表示若しくは立証している、並びに/又は投薬、投与、副作用、薬物相互作用を記載している)、又は医療提供者に有用な他の情報も含めてもよい。そのような情報は、様々な試験、例えば、in vivoモデルを含む実験動物を使用した試験及びヒト臨床試験に基づく試験の結果に基づき得る。本明細書に記載のキットは、医師、看護師、薬剤師、及び薬局方当局者(formulary officials)などを含む保健提供者に対して提供、販売及び/又は推奨することができる。一部の実施形態では、キットはまた、消費者に直接販売されてもよい。
【0081】
本明細書の組成物は、診断のために、及び研究ツールとして利用することができる。例えば、化合物(I)を、単独で、又は他の化合物と組み合わされて含有する組成物は、細胞及び組織の中に発現する遺伝子の発現パターンを解明するために、層別解析及び/又は組み合わせ解析におけるツールとして使用することができる。
【0082】
ヒトの処置に有用であることに加えて、本明細書の組成物は、哺乳動物、及び齧歯動物などを含むコンパニオンアニマル、エキゾチックアニマル及び家畜の獣医学的処置に有用であり得る。好都合には、そのような動物には、ウマ、イヌ、及びネコが含まれる。
【実施例】
【0083】
N-(1-(3-フルオロプロピル)アゼチジン-3-イル)-6-((6S,8R)-8-メチル-7-(2,2,2-トリフルオロエチル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-3H-ピラゾロ[4,3-f]イソキノリン-6-イル)ピリジン-3-アミン(化合物(I))は、国際公開第2018/077630A1号パンフレット(実施例番号17)に開示されている方法に従って調製することができる。
【0084】
予備スクリーニング試験の後に、化合物(I)、充填剤、崩壊剤及び滑沢剤を含む複数種のプロトタイプ製剤を、評価のために乾式造粒法によって調製した。
【0085】
これらのプロトタイプ製剤において、化合物(I)の量を27%w/wに維持し、充填剤の総量を65.5%w/wに設定し、残り6.5%w/wを崩壊剤(5%)及び滑沢剤(1.5%)とした。その後、錠剤は、得られたブレンド物から下記のようにローラー圧密化によって形成することが可能であった。モデリング試験によって、得られた製剤が3年の保存期間を有することが示唆された後に、添加剤を選択した。
【0086】
表1に記載の組成を有する試験用製剤ブレンド物A~Dを、乾式造粒法によって調製した。化合物(I)は、結晶形態Aで使用した。
【0087】
【0088】
実施例1:錠剤を、以下のように乾式混合/直接圧縮を使用することによって調製した:TURBULA(登録商標)T2ブレンダー(www.wab-group.com)を、速度30rpmで10分間使用して、化合物(I)を、表に列挙した添加剤(ステアリン酸マグネシウムを除く)と乾燥混合した。次いでステアリン酸マグネシウムを混合物に添加し、ブレンドをさらに5分間30rpmで継続した。13×7.5mmの楕円型杵を備えたKillian STYL’Oneプレス機(www.romaco.com)を120~250MPaの間の圧縮圧力で使用して、乾燥混合物を圧縮して370.4mgの錠剤を形成した。
【0089】
実施例2:以下のように乾式混合/ローラー圧密化法を使用して錠剤を製造した:
TURBULA(登録商標)T2ブレンダーを、速度30rpmで10分間使用して、化合物(I)を、表に列挙した添加剤(ステアリン酸マグネシウムを除く)と乾燥混合し、ステアリン酸マグネシウムの一部(バッチ重量の0.5%)を添加し、混合をさらに5分間30rpmで継続した。Gerteis Mini-Pactor(登録商標)(www.gerteis.com)を、ローラー圧力7kN/cm、ギャップサイズ2mm及びローラー速度2rpmで使用して、混合物をローラー圧密化した。次に、得られたリボンを、ローラーコンパクターに取り付けられたミルに当該リボンを通過させることによって粉砕して顆粒にした。得られた顆粒をTURBULA(登録商標)T2ブレンダーに戻し、残りの一定分量のステアリン酸マグネシウムを添加し(バッチ重量の1%)、混合を30rpmで5分間継続した。13×7.5mmの楕円型杵を備えたPiccola Riva Classicプレス機(https://riva-europe.co.uk/products/piccola-classic-tablet-press)を使用して、潤滑された顆粒を圧縮して370.4mgの錠剤を形成した。
【0090】
圧縮していないブレンド物を、流動(
図1)及び壁面摩擦角について評価し、ローラーコンパクター中へのブレンド物の流動に対する添加剤の影響を評価した。ブレンド物の流動関数係数(FFC)は、Schultz RST-XSリング剪断試験機(http://www.dietmar-schulze.com/rstxse.html)を、製造元の説明書に従って、1000、2000及び4000Paのプレ剪断ストレスでの垂直応力で使用して決定した。その結果(
図1を参照)により、試験した全ての製剤A~Dが、ローラー圧密化に許容できる流動性を有することが明らかになった。ブレンド物の流動関数係数(FFC)は4以上が望ましいものであったが、MCCとDCPAとの組み合わせを充填剤として含むプロトタイプCは、他のプロトタイプより有意に高い(それ故、より好ましい)FFCを示した。この結果は、プロトタイプC中のMCC/DCPAシステムが、ローラー圧密化製造法にロバストな製剤オプションとしての潜在力を有し、連続直接圧縮(CDC)錠剤化法への最終的な移行に必要とされる流動性を備えていることを強調するものである。ブレンド物の流動性に加えて、下にさらに記載するように、ひずみ速度感受性(SRS)は、特定の製剤がCDC製造法への移行に対応できるかどうかの評価において重要な決定因子である。なぜなら、圧縮/錠剤化のために、材料を一緒にブレンドして均質なブレンド物を作り出すことができる速度が、プロセスのスループットを決定づけるからである。
【0091】
連続直接圧縮(CDC)は、活性成分及び添加剤の一定の供給が、ブレンド/造粒プロセスと圧縮/錠剤化工程との両方を組み合わせたプロセスの中にインプットされて、アウトプットとして所望の錠剤が供給され得るため、極めて望ましい錠剤化オプションである。追加の粉砕工程及び篩分工程は、必要に応じてCDC法に組み入れることができる。CDCの利点には、設備間で材料を移動する必要性を排除すること、及び材料損失の可能性を除去すること、並びに加速し、実装面積を低減し、合理化したプロセスをもたらすことが含まれ、これらは製品のコストを低減することができる。良好な流動性はCDC法による錠剤化の再現性に必須である。
【0092】
ブレンド物の壁面摩擦角(WFA)もまた評価し、全ての場合において、65%~68%の範囲で測定され、中程度の付着性に関連する値であった。したがって、プロトタイプのブレンド物は全て、許容できるFFC値及びWFA値を有していた。
【0093】
次に、プロトタイプのブレンド物に、上記のように、7kN/cmorの一定圧延力でのローラー圧密化、120~250MPaの圧縮圧力での直接圧密化を施した。
【0094】
上記のローラー圧密化法によってプロトタイプのブレンド物から作られた、製造された錠剤の突出力データが、
図2に示されている。圧縮プロセスの間の杵のくっつき及び錠剤の欠陥を回避するために、<800Nの突出力を目標として選択した。その結果は、製剤中のDCPAの量が増加すると、突出力の減少をもたらすことを示し、MCC/DCPAのブレンド物は800N未満の突出力をもたらし、一方、MCC/マンニトールのブレンド物A及びBはおよそ1000Nの突出を有していた。
【0095】
錠剤の空隙率を、次式(I)を使用して錠剤の見かけ密度及び真の密度から決定した:
空隙率=100×(見かけ密度/真の密度)(I)
【0096】
錠剤(II)の真の密度は、AccuPyc II 1345比重瓶(詳細についてはhttps://www.micromeritics.com/Product-Showcase/AccuPyc-II-1340.aspxを参照)を使用して、ヘリウム比重瓶法によって得られた。これは、ガス置換によって表面及び内部の孔を除外した錠剤の体積を可能にする技術である。
真の密度=質量/固体の体積(II)
【0097】
対照的に、錠剤の体積が下の標準的な式(III)を使用して計算される場合、錠剤の表面及び内部の孔が含まれる。
錠剤の体積=(((2π(キャップの高さ)2c(3×弯曲の半径-キャップの高さ))/3)+((π(直径/2)2)×(厚み-2×キャップの高さ))(III)
【0098】
錠剤11個を正確に秤量し、前もって較正に使用した試料カップに入れ、製造元の説明書に従って解析した。
【0099】
錠剤のエンベロープ密度(見かけ密度)を、錠剤10個について個々に、各錠剤の寸法及びその重さから、次式を使用して計算した:
見かけ密度=錠剤の質量÷錠剤のエンベロープ体積(IV)
【0100】
硬度及び引張強さ:Sotax HT100(www.sotax.com)を使用して、ローラー圧密化によって製剤A~Dから製造した錠剤10個の重量、硬度、厚み及び直径を決定した。引張強さは、Pittの式(K.G.Pitt & M.G.Heasley Powder Technology,2013(238)p169-175を参照)を使用して、硬度のデータ並びにSotax HT100から生成された錠剤の寸法及び圧縮ツールの寸法から計算した。
【0101】
図3から分かるように、4種のプロトタイプ製剤のバッチのうち、目標の引張強さ>2MPaを備えた錠剤を一貫して供給したのはMCC及びDCPAを充填剤として含む製剤Cのみであった。各錠剤は、上記の実施例1に従って製造した100mgの力価の錠剤(370.4mg圧縮重量)である。有利なことには、製剤Cを用いて製造した錠剤の空隙率もまた、他の錠剤のバッチの空隙率より高いことが立証された。これは、製剤Cについては過剰な圧縮のリスクが低いことを示し、再現可能な放出性のために望ましい性質である。
【0102】
化合物(I)とMCC/DCPAとのブレンド物から錠剤を製造するために、ロバストな再現可能性を促進するブレンド物の物理的性質を確立したので、分子の崩壊を確立するために、USP2装置を使用して溶出実験を行った。ローラー圧密化によって製剤Cから調製した錠剤は、即放性製剤に特有の、30分で85%の望ましい溶出をもたらした。
【0103】
化合物(I)と充填剤としてのMMC/DCPAとの製剤の既に有利なプロファイルを発展させるため、MCC/DCPA製剤が、例えば連続直接圧縮によるローラー圧密化による高速製造を可能にするおよそ20%以下のひずみ速度感受性を有する製剤ブレンド物も供給するかどうかを判定するために実験を行った。加えて、圧密化すると高い引張強さ(>2MPa)を有する錠剤を供給する製剤の設計空間の確認が必要であった。したがって、表2に詳しく示す製剤の第2のセット及び錠剤を、上記の実施例1及び2に従って調製した。この製剤のセットにより、MCC対DCPAの最適比を確立することが可能になった。
【0104】
【0105】
製剤中の各成分のひずみ速度感受性(SRS)を、下式から計算した:
SRS=100(Py(高速)-Py(低速))/Py(低速)
式中、降伏応力Pyは、Heckel法により、直径10mm、丸型、平面杵と臼とのセットを備えた圧密化シミュレーター(Phoenix、Merlin Powder Characterisation Ltdによるサービスとして実施、https://www.merlin-pc.com/services/strain-rate-sensitivityを参照)を使用して決定した。より詳細には、製剤E、F、C、G及びHの各々の個々の成分の一定分量(およそ327mg)を、毎秒300mm(高速)及び0.1mm(低速)の杵速度で、理論上ゼロの空隙率まで圧縮した。降伏応力(Py)を、25~75MPaの杵圧力範囲において計算した。次に、製剤の全体的なひずみ速度感受性を、製剤中の各成分の体積比に基づいて計算した。
【0106】
上記の技術によって測定した製剤E、F、C、G及びHのひずみ速度感受性は、下の
図4に示されている。
図4から分かるように、25%以上のDCPAを充填剤として有する組成物、即ち、最大比が3MCC対1DCPA、又は3:1のMCC:DCPAを有する組成物は、およそ20%以下の望ましいひずみ速度感受性をもたらす。
【0107】
直接圧密化によって製剤E、F、C、G及びHから調製した錠剤の引張強さもまた測定し、
図5に示されている。
図5から分かるように、全ての製剤が、2MPa以上の引張強さを有する錠剤をもたらし、引張強さは、MCCの含量に応じて増加することが認められた。
図4及び5のデータは、
図6にまとめて表され、望ましい引張強さをもつ錠剤をもたらし、最適SRSを有する組成物を図示している。上記の実施例2のプロセスにより、ローラー圧密化を使用して調製された錠剤もまた、>2MPaの望ましい引張強さを示した。
【0108】
MCC/DCPAを含有する製剤の性質の最終確認は、溶出実験によって可能になった。本明細書に記載の溶出実験は、米国薬局方に基づき、装置II(パドル)を、900mLの、pH6.8リン酸緩衝液(50mM NaH2PO4)又は擬似胃液(SGF)のいずれかとともに、37℃の温度で使用して行った。溶出媒体の試料(15mL)を、0、5、10、15、20、30、45、60及び90分で取り出し、シリンジフィルター(10μm UHMWPEカニューレ+0.45μm PESシリンジ)を通して濾過し、最初の6mLを廃棄した。残った溶液中の原薬の濃度を、UV解析(Cary 60 UV分光光度計)により、253nm(pH6.8)又は263nm(SGF)の波長で、標準溶液に対して定量化した。試料採取の60分後に撹拌速度を250rpmまで上げた。概して、本明細書に開示されている溶出の結果は、3回反復試験の平均に基づいている。
【0109】
製剤E、F、C、G及びHについて行った溶出実験の結果は、
図7a及び7bに示されている。30分で実現される少なくとも85%を溶出する即放性プロファイルを目標とした。
図7aから分かるように、in vitroのUSP2試験において、USP2装置中の溶出率はDCPAの含量の増加に応じて減少する。30分後に認められたこの溶出の減少は、コーニングから生じると考えられる。コーニングは、溶解していない材料がUSP2装置内のパドルの下の停滞域にマウンドを形成し、溶出を阻害する、溶出試験に関する既知の問題である。
図7aから分かるように、コーニング作用は、撹拌速度を上げる(60分時点で行ったように)ことによって克服することができる。コーニングはin vitro設定に特異的であり、in vivoでの放出性能を損なうものではないが、品質保証の目的で、即ち、バッチの出荷前にバッチ間で性能を保証するために、再現可能な溶出プロファイル(USP2装置において30分で>85%)を有することが望ましい。DCPAの量がより多い製剤に認められるコーニング作用は、USP2装置内のパドルの下に高密度域を形成してそこに溶解していない材料が集合することに由来すると考えられ、この高密度域は、撹拌速度を上げた場合にのみ適切に回避される。
図7bから分かるように、30分で85%の溶出をもたらし、望ましいひずみ速度感受性(
図4より)及び引張強さ(
図5)も有するMCC:DCPAの比は、3:1~3:2のMCC:DCPAの比である。
【0110】
Beige Opadry IIコーティング剤を予備開発試験用に選択した。O’Hara Labcoat(www.oharatech.com)をコーティング供給元の推奨パラメーターで使用して、20mg及び100mgの力価の錠剤にコーティングを施した。両方の力価について、外観の欠陥は認められず、コーティングが成功した。錠剤の組成は下の表3に示されている。
【0111】
【0112】
表3のコーティング錠剤のSGF中の溶出性能が
図8に示されている。20mg及び100mgの力価の錠剤は両方とも、30分で>85%の放出をする即放性プロファイルを示し、非コーティング錠剤(
図7のプロトタイプCを参照)と同等のプロファイルであった。最初の60分間は50rpmで撹拌しながら実験を行い、60分の段階で撹拌速度を200rpmに上げた。100mg力価の錠剤にコーニングの徴候が認められたが、それでも目標の溶出プロファイルが得られた。
【0113】
ヒト志願者における相対的バイオアベイラビリティ試験の予備段階の結果、経口液剤として、又は錠剤としてのいずれかで、等しい用量のAZD9833を投与した後に測定されたAZD9833の血漿レベルに有意差はなかったことが明らかになった。この試験で評価された錠剤は、本明細書による製剤から、直接圧縮(DC、その性質は、連続直接圧縮(CDC)によって製造された錠剤を代表するものである)又はローラー圧密化(RC)のいずれかによって製造された。錠剤と経口液剤との間での薬物曝露における同等性は、臨床現場における本明細書による製剤の有用性を確証し、RC及びDCによって製造された錠剤の送達プロファイルの観点での同等性もまた然りである。この試験で投与されたAZD9833の用量は75mg(錠剤及び液剤)及び300mg(錠剤のみ)であった。
【国際調査報告】