(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-30
(54)【発明の名称】ビール粕から得られるタンパク質製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23J 3/14 20060101AFI20230523BHJP
A23K 10/38 20160101ALI20230523BHJP
A23L 5/00 20160101ALN20230523BHJP
【FI】
A23J3/14
A23K10/38
A23L5/00 M
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559693
(86)(22)【出願日】2020-04-13
(85)【翻訳文提出日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 RU2020000174
(87)【国際公開番号】W WO2021201711
(87)【国際公開日】2021-10-07
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522337521
【氏名又は名称】バイオボー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ゴルディロフ オレグ グリゴリエヴィチ
【テーマコード(参考)】
2B150
4B035
【Fターム(参考)】
2B150AE02
2B150AE21
2B150BA03
2B150BC06
2B150CC02
4B035LC06
4B035LG34
4B035LP24
4B035LP59
(57)【要約】
本発明群は、食品加工業、詳細にはビール粕(brewer’s spent grain:BSG)を処理する方法に関する。本発明は、BSGからの食用部分の回収度合いを90~95%に上げること、及び、大麦濃縮物内のタンパク質量を乾燥固体で50~65重量%に増やすことを可能にする。請求項に係る方法は、振動ふるいでBSGをほぐし、コロイドミル内でBSGに対して0.5:1から1:1の割合で水又は分離液を加えながら粉砕することによりBSGから均質なペースト状塊を生成し、その後この塊をスクリュー抽出器で処理してさらに粉砕し、2つの部分、つまり、水分含有量が90~95%の懸濁液と、以降の工業的用途に適する、水分含有量が60~75%の粉砕済み穀皮と、に分別することを示す。その後、懸濁液を機械的ろ過に送出して残存している粉砕済み穀皮を除去し、貯蔵タンク内に汲み上げて水分含有量が7%以下になるまで乾燥する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビール粕から製造されるタンパク質濃縮物であって、水分量が7%以下であり、タンパク質、脂質、繊維質、及び灰分を含有し、前記タンパク質の量が少なくとも50重量%である、タンパク質濃縮物。
【請求項2】
平均粒径が0.1mm以下であり、乾燥固体状において、12.0重量%以下の量の脂質と、6.0重量%以下の量の繊維質と、7.0重量%以下の量の灰分と、少なくとも40.0重量%の量のアミノ酸と、を有する、請求項1に記載のタンパク質濃縮物。
【請求項3】
請求項1に記載のタンパク質濃縮物を製造する方法であって、
均質な塊を得るために元の前記ビール粕をほぐし、機械的異物を除去した後、水又は分離液を加えながら前記塊の粉砕を行うことによって、水分量が95%以下であるペースト状塊を生成し、その後に前記ペースト状塊から粉砕済み穀皮を除去して懸濁液を生成し、その後に前記懸濁液に対して振動ろ過及び乾燥を行うことによって、水分量が7%以下であり、タンパク質、脂質、繊維質、及び灰分を含有し、タンパク質含有量が少なくとも50重量%である濃縮物を得ることを特徴とする、方法。
【請求項4】
前記粉砕によって平均粒径が0.1~0.9mmの粒子を生成することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ペースト状塊を生成するための前記粉砕は、ミルのロータ回転速度が1,800~3,200回転/秒のコロイドミル内で行われることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記粉砕済み穀皮をスクリュー抽出器を用いて除去することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記原料の体積的に均質な加湿を行うために、粉砕前に前記水又は分離液を供給することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
均質な塊を得るために前記ビール粕をほぐすことと、機械的異物を除去することとは、穴径が6~10mmであり、ふるい振動周波数が10Hzから50Hzの間であり、振幅が2mmから20mmの間である振動ふるいを用いて行われることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記振動ろ過は、残存している穀皮粒を除去するために、穴径が0.2~0.6mmであるふるいを用いて行われることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
水分量を7%以下にするための乾燥は、スプレー型乾燥機内又は真空型乾燥機内で行われることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記スプレー型乾燥機内での乾燥は、8時間から10時間の間、200℃以下の温度で行われることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記真空型乾燥機内での乾燥は、8時間から10時間の間、80℃以下の温度で行われ、その後に粒径が0.1mm以下の粉末を得るために乾燥済みタンパク質濃縮物の粉砕を行い、乾燥前には、前記懸濁液にデカンテーションを行って水分量を60%以下にすることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明群は、食品加工業に属し、ビール醸造業の廃棄物を処理する技術、主には、健康増進作用や栄養面での特性のある食料に使用可能な粉末(濃縮物(concentrate))状態の大麦タンパク質製品を得るために、ビール粕(brewer’s spent grain)を処理する方法に関する。特に、ビール粕由来のタンパク質には、製パン、製菓、ソーセージ製造、並びに、スポーツ及び食事用の栄養素への利用に、最大の関心が集まっている。さらに、本発明は、例えば、畜産における飼料用補助材、農業における土壌への肥料などとして使用可能である。
【0002】
[背景技術]
ビール醸造会社は、ビール製造後に、大麦の包頴の残骸とタンパク質及び脂質に富む穀粒とにより構成されるビール粕の形態をした多量の廃棄物を有する。このビール粕(使用済み麦芽の粕)は大量に生成され、価値ある栄養素を多量に含有するため、ビール醸造業における全ての再生原料資源の中で最も高い関心を持たれている。
【0003】
ビール粕は、糖化された麦芽のマッシュをろ過する段階で得られる。ビール醸造業の廃棄物におけるビール粕の構成割合は、少なくとも98%に達する。ビール粕は、液相と固相とにより構成される。ビール粕の約45%を占める固相とは、包頴及び穀粒の粒子である。ビール粕の中には、脂質と、繊維質と、アミノ酸、すなわちヒスチジン、リジン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリン、グリシン、トレオニン、セリン、アラニン、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン等と、が存在する。ロシア国のビール製造会社は年間350万トン以上のビール粕を廃棄しているが、そのビール粕のタンパク質含有量は25~28%であり、大麦のタンパク質含有量のほぼ3倍である。穀粒のカロリー密度は、湿潤状態で115cal/g、乾燥状態(水分量7~10%)で440cal/gである。ビール粕中の成分は、大麦の種類、ビール麦芽製造に用いられる技術、ビール製造用の麦芽混合物の配合、ビール製造用の麦芽粕の配合などによって決まる。しかし、結果として得られたビール粕中のタンパク質、脂質、炭水化物、及び繊維質の定量的な組成は、ばらつきが1%から5%までと、わずかである。
【0004】
現時点では、ビール粕は、そのままの状態で大々的には利用されていない。なぜなら、このようなビール粕では、15~30℃の温度では6~8時間のうちに発酵が進み始め、穀粒が加工やその後の使用に適さなくなることから、輸送や貯蔵が煩雑になるためである。
【0005】
従来の解決法として、ビール粕を飼料用補助材として使用するために、ビール粕を事前乾燥した後、粒状化・粉砕することを基にした様々なビール粕処理方法がある(例えば、欧州特許出願公開第0694609(A2)号明細書、国際公開第2010/053493(A1)号、国際公開第2010/117288(A1)号、国際公開第98/22751(A1)号)。しかし、乾燥中にタンパク質の一部が難消化性物質に変えられるため、乾燥前のビール粕に比べて、乾燥後のビール粕の栄養価は減少する。乾燥後のビール粕の最終的なタンパク質含有量は、27~28%にしかならない。その上、この製品は、難消化性の大麦麦芽穀皮をかなりの量(最大80%)含む。さらに、ビール粕の乾燥は、大量の電力消費を必要とする。このような理由で、飼料をこのようなビール粕から製造することは、必ずしも経済的には妥当ではない。
【0006】
別の解決法として、ビール醸造業からの廃棄物をより高度に処理する方法が挙げられる。特に、元の原料を2段階圧縮と2段階乾燥とによって処理することを想定する、水分量が90~92%である液状ビール粕の既知の処理方法が存在する。具体的には、2段階圧縮として、第1段階の間に水分量を70~75%まで下げ、第2段階の間に水分量を40~45%まで下げてから、2段階乾燥として、第1段階の間に水分量を20~25%まで下げ、第2段階の間に水分量を10%まで下げることによって、乾燥飼料用補助材を得る(ロシア国特許第2215426号明細書)。この方法には、かなりの量の栄養素を含む分離液(centrate)が圧縮の過程で除去されるという短所がある。さらに、最終的に得られる製品も、大麦穀皮の含有量が多いという特徴がある。
【0007】
さらに別の解決法としては、ビール粕からタンパク質含有量が60~90%のタンパク質製品を得る方法(国際公開第2018/136234(A1)号)がある。この方法は、以下のように行われる場合のビール粕の熱化学処理を示唆する。具体的には、加水分解槽に使用済み穀物と水との混合物を加えて絶え間なく撹拌し、その後にグルコアミラーゼを加え、得られた混合物を30℃から70℃になるまで加熱すると、この混合物中の穀粒が最大500マイクロメートルの中間サイズに粉砕される。その後、混合物のpH値を7から10.5程度に調整し、タンパク質を可溶化する目的でアルカリプロテアーゼを添加する。得られた混合物を、目の直径が5~500マイクロメートルのふるい板を用いてふるい分けした後、孔径が20~40kDaのメンブレンを用いた限外ろ過を行い、さらにナノろ過を行う。この方法の欠点は、精巧で高価な装置を使用する必要があること、タンパク質製品を得るための技術サイクルが長いこと(60~105分間(粉砕処理30~60分及び加水分解30~45分を含む))、及び、この技術工程において危険物質である塩酸又はカルボン酸と塩基性物質とを使用することである。さらに、ビール粕を処理する過程で、ビール粕に対して8:1から11:1という割合の大量の水を使用する。その結果、多量の分離液が生成される。このような分離液は廃棄物となり、その廃棄には別途装置が必要となる。
【0008】
別の従来の解決法(欧州特許出願公開第0694609(A2)号明細書として知られている方法)は、ビール製造由来の穀物物質からタンパク質合成物を得る方法を示唆する。この合成物は、乾燥重量の同等量に換算して、40%から60%までのタンパク質と、12%から18%までの脂質と、2%から6%までの繊維質と、1%から4%までの灰分と、を含有する。この方法は、ローラ粉砕機を用いてビール粕を圧縮しながら同時に穀粒の湿式剥皮を行い、さらに得られた製品を穀皮から分別することを示唆する。この方法には、ローラ粉砕機を用いた圧縮の過程で、ビール粕から多量の有用な成分が除去されるという短所がある。さらに、ビール粕は圧縮される前には粉砕されないため、圧縮された穀皮粒の内部にはタンパク質の一部が残るところ、このたんぱく質は、その後の穀皮除去によって失われる。その上、既知の方法に応じて穀皮除去の効率を上げるために、得られた混合物(液状タンパク質懸濁液)を大量の水で洗い流した後、得られた懸濁液をふるい板を用いてふるい分ける。この洗い流し及びふるい分けの工程は、最大5回繰り返される。その結果、多量の分離液が生成される。このような分離液は廃棄物となり、その廃棄には別途浄化装置が必要となる。
【0009】
請求項に係る解決法に最も類似している製品は、ビール粕から作られた生物活性粉末及びその製造方法であり、当該方法は、湿潤状態のビール粕を圧縮して固体部分と液体部分とに分離することを示唆する。この場合、脂肪酸を含有する粉末を得るために、液体部分には2段階圧縮が施され、固体部分は滅菌されて粉砕される(ロシア国特許第2250045号明細書)。しかし、このようにして得られた、水分量が10.8%の粉末は、タンパク質含有量が最大30重量%であることを特徴とする。同時に、アミノ酸含有量は最大25重量%であり、この中にはタンパク質の栄養価を決定する必須アミノ酸が最大10重量%含まれている。
【0010】
よって、タンパク質粉末を得ることを目的とした既存のビール粕処理方法は全て、タンパク質製造工程の複雑さ及びその作業に費やす時間と、廃棄に別途装置を必要とする廃棄物である分離液の大量生成と、を特徴としている。
【0011】
[発明の開示]
請求項に係る本発明群の技術的結果は、ビール粕の処理の過程で得られる、栄養素のエネルギー価が250±15kcalであって、タンパク質含有量が少なくとも50重量%(乾燥固体)である、大麦タンパク濃縮物の形態をした製品である。この製品は、簡素化された製造方法により得られる。同時に、廃棄物であり廃棄処理される分離液の量が最小限になる。技術サイクルにおいて最初の原料を加湿するために分離液が消費されるためである。
【0012】
本技術的結果は、ビール粕から得られる大麦タンパク質濃縮物であって、水分量が7%以下であり、粒径が0.1mm以下であり、タンパク質、脂質、繊維質、及び灰分を含有しており、同時に、タンパク質含有量が少なくとも50重量%である、大麦タンパク質濃縮物によって実現される。このような大麦タンパク質濃縮物は、タンパク質、脂質、繊維質、灰分、及びアミノ酸を以下のような乾燥固体量で含有し、さらにアミノ酸含有量が少なくとも40.0重量%であるため、組成が最適である。
タンパク質 少なくとも50.0重量%
脂質 12.0重量%以下
繊維質 6.0重量%以下
灰分 7.0重量%以下
【0013】
本技術的結果はまた、大麦タンパク質濃縮物(粉末)を得る方法によって実現される。本方法は、均質な塊を得るために元のビール粕をほぐし、異物を除去し、ペースト状塊(軟塊)を得るために、コロイドミルを用いてさらに粉砕しつつ均質化することによって塊を加湿し、同時に、ビール粕をコロイドミルへ装入する過程で水又は分離液を供給することによって95%以下の水分量まで加湿を行い、その後、軟塊から粉砕された穀皮を除去して、タンパク質含有量が少なくとも50重量%(乾燥固体)である懸濁液が得られることを示唆する。同時に、均質な塊の生成前に、穴径が6~10mmで、ふるい振動周波数が10Hzから50Hzまでで、振幅が2~20mmである振動ふるいを用いて、異物を除去する。0.10~0.9mmの粒子を生成するために、ロータの回転数が1,800~3,200回転/秒のコロイドミルを用いて、原料を粉砕する。ビール粕をコロイドミルへ装入する過程で、原料の体積的に均質な加湿を行うために、水又は分離液を供給する。粉砕後、粉砕された穀皮をスクリュー抽出器を用いて除去する。その後、残存している穀皮粒を除去する目的で、穴径が0.2~0.6mmのふるいを使用して、懸濁液を振動ろ過する。その後、懸濁液をスプレー型乾燥機内又は真空型乾燥機内で、湿度が7%以下のレベルに達するまで乾燥する。スプレー型乾燥機内での乾燥は、8~10時間、200℃以下の温度で行われる。この設備の処置能力は、1時間あたり20リットルである。その結果、粒径が0.1mm以下(好ましくは最大0.05mm)の濃縮物が得られる。真空型乾燥機内での乾燥は、8~10時間、80℃以下の温度で行われる。この設備の処置能力は、1乾燥サイクルあたり200リットルである。それに加えて、懸濁液に、湿度が60%以下に達するまで、事前デカンテーションを行う。乾燥後には0.1~5mmの顆粒状の乾燥製品が得られる。粒径が最大0.1mmの粉末を得るために、その乾燥製品を粉砕する。
【0014】
製造された大麦タンパク質濃縮物の特徴は、コロイドミル内で水又は分離液を加えながらビール粕を粉砕することによって実現される、タンパク質含有量が高いこと(最少で50重量%、好ましくは60~65重量%)、及び、スクリュー分別機内でビール粕穀皮を食用部分から徹底的に分別することである。その分別は、スクリューを用いて、処理された混合物を分別機のろ過網に擦りつける最中に、当該混合物を追加粉砕することにより行われる。さらに、ビール粕を処理して粉末状の最終製品を得る過程において、分離液が回収されない。なぜなら、生成された分離液は送出されて元の原料を加湿するために再利用されるからであり、廃棄するために送出される分離液の量は、最大でも、1分あたりのキログラム数で表したビール粕生産ラインの生産能力の1%である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、振動ふるい、コンベア、コロイドミル、及びスクリュー抽出器で構成される、ビール粕からタンパク質懸濁液を得るためのパイロット生産ラインの一部の写真を示す。
【
図2】
図2は、請求項に係る方法を実施する生産ラインの機構を示す。この図において、1は振動ふるいを、2はコンベアを、3はコロイドミルを、4は送水パイプラインを、5はスクリュー抽出器を、6及び8はインペラーポンプを、7は振動フィルタを、9はタンパク質懸濁液回収容器を、10は穀皮回収容器を、11はタンパク質濃縮物の製造のためにタンパク質懸濁液を処理するブロックを、12は分離液用タンクをそれぞれ表す。
【
図3】
図3は、コロイドミルの装入タンクの機構を示す。Aはコロイドミルの装入タンク内の構成要素のレイアウトを示し、Bは装入タンクの上面図を示し、Cはコロイドミルの断面図を示す。これらの図において、13は円形送水パイプラインを、14は水又は分離液の供給用パイプライン内の開口部を、15,16,17は液位検出デバイスを、18は水供給制御弁を、19はステータを、20はロータを、21はステータケースを、22はロータシャフトを、23はコロイドミル3の装入タンクをそれぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下は請求項に係る本発明のより詳細な説明であるが、請求項に係る発明の範囲を限定するものではなく、請求項に係る技術的結果の達成によって本発明の実現可能性を実証するものである。
【0017】
水分量が70~90%の最初のビール粕は、生成されてから(ビール醸造業の廃棄物として得られた時点から)3時間の間に処理が施される。生産設備から到着した直後のこのようなビール粕の温度は、2℃から80℃まで様々である。ビール粕は、磁気キャッチャーを備えた、穴径が6~10mmの振動ふるい1(
図1,2)に、手動により又は任意の機械的手法を用いて装入される。ここでビール粕がほぐされて、あらゆる機械的異物や金属不純物が除去される。この振動ふるいを用いる処理工程は、材料が粉砕されるこの後の処理段階に向け、塊のない均質な組成の原料を生成するために、10Hzから50Hzまでの振動周波数、2~20mmの振幅で2~10秒間、ビール粕をふるうことを示唆する。ビール粕をほぐす過程では、振動ふるいだけではなく上述の機能を発揮する任意のデバイス又はデバイス群を用いて、機械的異物が除去された均質な塊を得ることができる。ほぐされたビール粕は、粉砕を行うために、コンベア2によって、コロイドミル3(
図3)又は0.005~0.5mmの粒子を形成可能な他の粉砕装置に導入される。同時に、原料がコロイドミルのタンク内に逐次装入されるとともに、連続方式と拍動方式との両方で実行可能であるが、原料の体積的に均質な加湿を行うために水が加えられる。原則として、塊状のビール粕に対する水の供給割合は、0.5:1から1:1である。水の供給量及び供給速度は、処理のために供給されたビール粕の当初の湿度パラメータ測定値に基づき、振動ふるいを用いてビール粕をふるう過程での水分損失を考慮して、予め算出可能である。コロイドミル内で処理されるビール粕の水分量は、好ましくは90~95%の範囲内である。コロイドミル3では、重力でスクリュー抽出器5内に移動する好ましくは750~1,400cPa・sの粘度の均質なペースト状塊(軟塊)を生成するために、均質な混合(及び/又は均質化)が行われる。スクリュー抽出器5では、塊にさらなる粉砕が加えられ、水分量が90~95%で粘度が1.5~3cPa・sの懸濁液と、粒径が0.01~1.0mmで水分量が60~75%の穀皮と、に分別される。コロイドミル及びスクリュー抽出器において処理されるビール粕の温度は、2℃から90℃まで様々であり得る。ビール粕は、任意の技術的装置、例えばスクリューコンベア、ベルトコンベア、又はドラグコンベアを用いて、コロイドミルに供給可能である。
【0018】
コロイドミル3内でのビール粕の粉砕は、ケース21内においてロータ20及びステータ19それぞれの作業面の間で行われる。例えば、スクリュー抽出段階で当初の原料から栄養素を最大量で抽出するために、ビール粕の粉砕は、濃厚で均質ではあるものの水気の多い粘度を有する軟塊を生成可能な1,800~3,200回転/秒の速度でミルのロータ20が回転している最中に行われる。懸濁液に対する以降の処理過程(濃縮を行う場合)で生じる分離液を、水の代わりとしてコロイドミル3への供給に使用することが好ましい。このようにすることで、分離液に残存している栄養素をより抽出でき、分離液の廃棄の必要も省けて、下水処理設備に流す前の分離液を浄化する場合に必要な資源を節減することができる。ブロック5又はブロック12からの水又は分離液は、送水パイプライン13の開口部14を介して、コロイドミル3のV字形タンク(収容バンカー)23に供給される。この開口部14は、タンク上部の円周の周りであって、原料の最大タンク装入量を示す印よりも上側に配置されている。水又は分離液の供給量は、弁18を用いて調節することができる。
【0019】
パイプラインにある開口部14が、好ましくはその長さ方向に沿って均等に間隔をあけて配置されているので、処理の過程でビール粕全体の均質な加湿(希釈)が確実に行われる。
【0020】
コロイドミル3内での粉砕後、軟塊は、2回転/分から8回転/分までのスクリュー回転速度でスクリュー抽出器5内で処理され、これにより、可能な限り短時間、1~2秒以内で、廃棄物である大麦の穀皮から食用懸濁液を分別することができる。そのために、コロイドミル3で生成されたペースト状塊(軟塊)は、重力によってスクリュー抽出器5内に落下した後、そこで穀皮から分別された結果、最大95%の水分量の懸濁液と、廃棄物である、60~75%の水分量の大麦の穀皮及び1.0~5.0mmの穀皮粒と、が生成される。スクリュー抽出器5内での処理後の懸濁液は、まだ0.01~1.0mmの微小な穀皮粒を2~5%含んでいる。このため、この懸濁液は、最大1.0mmの植物由来の小片に代表される不純物の混入度合いが最大5%の懸濁液において稼働するように設計された、インペラーポンプ又は他のポンプ6を用いて、次の浄化段階である、フィルタ穴が0.2~0.5mmの振動フィルタ7に送出され、そこで実際に、スクリュー抽出段階後に残存している穀皮が食用懸濁液から除去される。振動フィルタ7の後、懸濁液は、インペラーポンプ8を用いて回収タンク9に汲み上げられる。生成されたタンパク質懸濁液は、食用又は飼料用補助材として使用可能な最終製品になり得るし、先に利用するために冷凍しておくことも可能である。生成されたタンパク質懸濁液は、水分量が最大7%であり、粒径が最大0.1mm、好ましくは0.05mmであり、タンパク質含有量が50~65重量%であるタンパク質製品(濃縮物)を得るためのさらなる処理工程のために、ブロック11に送られてもよい。そのために、得られた懸濁液は、スプレー型乾燥機内で8~10時間、最大200℃の温度で乾燥されるか、又は、真空型乾燥機内で8~10時間、80℃の温度で乾燥される。それに加えて、水分含有率を最大60%とするために、真空乾燥前に懸濁液にデカンテーションが行われる。得られたペースト状塊が乾燥され、得られた0.1~5mmの顆粒状の乾燥製品は、直径が最大0.05mmの粒子を形成するためにさらに粉砕される。
【0021】
穀皮はビール粕処理の廃棄物であり、スクリュー抽出器の動作中に、穀皮は自然に回収バンカー内に落下し、そこからスクリューコンベア、スパイラルコンベア、又は他の任意のコンベアを用いて回収タンクに移送される。本開示の生産ラインは、上記の装置をそれぞれ設定した場合において、タンパク質含有量が最大50重量%、例えば40重量%、42重量%、47重量%、及び49重量%の(エネルギー価が低めである)大麦タンパク質濃縮物の生産に使用可能である。このような製品は、タンパク質製品の定量的なタンパク質含有量が可能な限り高い値を達成する必要がない分野において利用可能であり、例えば動物飼料として用いられる。
【実施例】
【0022】
実施例1 大麦タンパク濃縮物の製造
穴径10mmの1段ふるいを有し、台ユニット長が2,000mm、台ユニット幅が1,000mm、振動周波数が20Hz、振幅が8mmである振動台ユニットXFZ1020に代表される振動ふるい1に、水分量が75.59%のビール粕260kg(元の組成においてエネルギー価150kcal)を手動で装入した。振動ふるい1から、電力容量が11kW、ロータ20の回転速度が2,200回転/分であるユニットKDDJ-1,5に代表されるコロイドミル3に、ベルトコンベア2を用いて塊を供給した。コロイドミル3は、ブロック4から飲用水を供給する装置を備えてもよい。設定量170リットル(0.67:1)の水を毎分15リットルの流速でコロイドミルに供給することにより、コロイドミル内でビール粕を加湿した。同時に、0.1~0.9mmの粒子を得るために、加湿されたビール粕を粉砕した。元の原料及び水をコロイドミル3の装入タンク23に供給する工程は、装入タンク23のケース内に設けられた3つの液位検出デバイス15,16,17と、コロイドミルが取り付けられた台の枠における液位検出デバイスの近傍に配置されたマイクロコントローラと、を用いて制御した。同時に、液位検出デバイスのうち上部にあるデバイス17を、バンカー内での原料の装入可能最大量(バンカーの最大容量の85~90体積%)を制御するために用い、この液位に達したときに、装入コンベアを停止させる命令を与えた。中間にある2番目の液位検出デバイス16を、装入される原料の最少量(バンカーの最大容量の25~30体積%)を制御するために用い、この液位に達したときに、コロイドミルの連続操業を行うため、装入コンベアを作動させて原料を供給する命令を与えた。下部にある3番目の液位検出デバイス15を、装入バンカーの底面の近くであって、当該底面から15cmの高さの位置に取り付け、バンカー内での原料の装入可能最少量(バンカーの最大容量の10~15体積%)を制御するために用いて、この液位に達していなかった場合には、別の部分の原料が供給されるまでコロイドミルを停止した。コロイドミル処理後、粘度が900~1,200cPaで水分量が95%の生成された軟塊を、電力容量が4kWで回転速度が4.5~10回転/分の装置モデルKDLZ-1,5に代表されるスクリュー抽出器5に送出した。その産出物は、水分量が95%で粘度が2.013cPaの懸濁液と、廃棄物である、水分量が70.84%の大麦の穀皮と、であった。電力容量が0.25kWで回転速度が1,200回転/分のインペラーポンプ6を用いて、得られた懸濁液を、電力容量が0.75kWであって0.3mmの開口部を有するXZS-1200-1Sモデルの振動フィルタ7に送出した。ろ過後に、電力容量が0.25kWで回転速度が1,200回転/分のインペラーポンプ8を用いて、食用懸濁液を回収タンク9に汲み上げた。穀皮は、自然に回収タンク10内に落下した。このようにして、水分量が93%、粘度が1.907cPa、粒径が0.005~0.3mmの懸濁液が製造された。その後、スプレー型乾燥機モデルHT-RY1500内で200℃の温度で8時間、湿度が5%に達するまで懸濁液を乾燥し(このスプレー型乾燥機HT-RY1500の処理能力は、1時間あたり懸濁液1,500mlである。)、20.8kgの大麦タンパク質濃縮物を得た。濃縮物(試料1)は、栄養素のエネルギー価が255kcalで、以下のような組成(重量%(乾燥固体))であることを特徴とする(表1)。
【0023】
【0024】
ビール粕260kgの処理に要した時間は、合計8時間25分であった。
【0025】
実施例2 大麦タンパク濃縮物の製造
実施例1と同様の手法で、水分量が85.0%のビール粕200kg(元の組成、エネルギー価150kcal)を処理して懸濁液を得た。これにより、水分量が92%、粘度が1.907cPa、粒径が0.005~0.5mmの懸濁液が製造された。食物用遠心ポンプを用いて、1時間あたり100リットルの流速で懸濁液を分別デカンタLW220に供給し、ここで湿度が60%に達するまで処理を行った。その後、ペースト状塊を、真空型乾燥機モデルGRT-ZBG500内で80℃の温度で8時間、湿度が6.5%に達するまで乾燥した(この真空型乾燥機の処理能力は、8~10時間続く1乾燥サイクルあたり水200リットルである。)。その後、得られた乾燥製品(0.1~5mmの顆粒)を、粒径が0.005~0.09mmの粒子を得るためにさらに粉砕し(粉砕能力が80kg/時間のディスクミルVLM-80)、16.0kgの大麦タンパク質濃縮物を得た。濃縮物(試料2)は、栄養素のエネルギー価が245kcalで、以下のような組成(重量%(乾燥固体))であることを特徴とする(表2)。
【0026】
【0027】
ビール粕260kgの処理に要した時間は、合計8時間35分であった(処理は半工業化された手法で行われた。)。
【0028】
このように、請求項に係る方法を用いて製造された大麦タンパク質製品(濃縮物)は、ビール粕のアミノ酸組成を保持しながらタンパク質含有量が高く、脂質及び繊維質の含有量が低いことを特徴とする。本方法は実施が容易であり、要する時間も長くなく、5~10分(原料の装入から粉末状の最終製品を得るまで、例えばビール粕100kgに対する算出の場合)であり、装置の処理能力は20~500トン/日である。同時に、廃棄物であって廃棄される分離液の量は最少であり、多くても、1分あたりのキログラム数で表したビール粕生産ラインの生産能力の1%に相当する量である。
【0029】
5か所の異なる製造設備から提供されたビール粕に対して、請求項に係る方法に従った本開示の生産ラインによる処理を行った。ビール粕組成中の各成分の定量的な含有量は、表1~2に示される元の組成とは1~5%の範囲内で異なった。表3は、主要成分の含有量が最適である大麦タンパク質濃縮物の組成を示す。
【0030】
【0031】
表3にビール粕(試料3~7)を処理するパラメータを挙げる。
【0032】
【0033】
上記で得られたデータに基づき、使用する大麦の種類、ビール麦芽の製造技術、ビール製造用の麦芽混合物の配合などが異なるにもかかわらず、タンパク質含有量が多い大麦タンパク質濃縮物が製造されると結論付けることができる。ビール粕に対して、多段階圧縮処理や熱化学処理を用いることなく、(コロイドミル及びスクリュー抽出器における)2段階処理を行うことによって、最低でも50.0重量%(乾燥固体)のタンパク質含有量を含有するとともにグルテンを含有していない高タンパク質製品を得ることが可能になる。
【0034】
本方法により、元のビール粕の有用な生物活性成分を全て保持することができる。炭水化物の含有量が最少であり豊かな化学組成を有するビール粕は、食品加工業、特に菓子製品製造において、タンパク質を含むビタミン-ミネラル添加剤として利用される可能性が開けている。
【国際調査報告】