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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-30
(54)【発明の名称】組み合わせ治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230523BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230523BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 31/09 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 31/724 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 31/335 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 31/424 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 31/7036 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 31/546 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 31/545 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 31/5383 20060101ALI20230523BHJP
   A61K 31/427 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P31/04
A61K45/06
A61K31/09
A61K31/05
A61K31/724
A61K31/335
A61K31/424
A61K31/7036
A61K31/546
A61K31/545
A61K38/12
A61K31/407
A61K31/5383
A61K31/427
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561674
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(85)【翻訳文提出日】2022-12-06
(86)【国際出願番号】 FI2021050255
(87)【国際公開番号】W WO2021205075
(87)【国際公開日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】20205369
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520002003
【氏名又は名称】アールト ユニバーシティ ファンデーション エスアール
(71)【出願人】
【識別番号】518073457
【氏名又は名称】ヘルシンギン ユリオピスト
【氏名又は名称原語表記】HELSINGIN YLIOPISTO
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヨンケルガウ、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】オスメヒナ、エカテリーナ
(72)【発明者】
【氏名】リンデル、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】レスキネン、カタジーナ
(72)【発明者】
【氏名】サーヴァライネン、パイヴィ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA18
4C084BA01
4C084BA17
4C084BA24
4C084BA44
4C084DA43
4C084NA05
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA16
4C086BC82
4C086CB03
4C086CB22
4C086CC08
4C086CC12
4C086CC14
4C086CC16
4C086EA09
4C086EA20
4C086GA07
4C086GA10
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB35
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA17
4C206CA34
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZB35
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、微生物を抗菌剤に対して感受性にさせる大環状キャビティ含有化合物の使用に関するものである。本発明は、対象における微生物の増殖を防止又は阻害するために必要な抗菌剤の量を減少する際の、大環状キャビティ含有化合物の使用にも関するものである。さらに、本発明は、微生物の抗菌剤に対する耐性を低減する際の大環状キャビティ含有化合物の使用に関するものである。また、本発明は、微生物感染症を有する対象又は微生物感染のおそれがある対象における微生物感染を阻害/治療/予防する際に使用する、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を抗菌剤に対して感受性にさせることにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用。
【請求項2】
微生物の抗菌剤に対する耐性構築を低減することにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用。
【請求項3】
対象における微生物の増殖を防止若しくは阻害するため又は対象における微生物を死滅させるために必要な抗菌剤の量を低減することにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用。
【請求項4】
対象における微生物の増殖を防止若しくは阻害するため又は対象における微生物を死滅させるために必要な抗菌剤の投与間隔を延長することにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用。
【請求項5】
対象における微生物の増殖を阻害することにおける、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤の使用。
【請求項6】
微生物感染を有する又は微生物感染のおそれがある対象における微生物感染の阻害及び/又は治療及び/又は予防することにおける、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤の使用。
【請求項7】
対象における微生物によるバイオフィルムの形成を阻害、治療及び/又は予防することにおける、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤の使用。
【請求項8】
微生物感染を有する又は微生物感染のおそれがある対象における微生物感染の阻害及び/又は治療及び/又は予防において使用するための、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤。
【請求項9】
対象における微生物によるバイオフィルムの形成の阻害又は防止において使用するための、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤。
【請求項10】
微生物を大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤に曝すことにより、前記微生物を前記抗菌剤に対して感受性にさせる方法。
【請求項11】
微生物を大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤に曝すことにより、前記微生物の前記抗菌剤に対する耐性構築を低減する方法。
【請求項12】
大環状キャビティ含有化合物と抗菌剤とを対象に投与することにより、前記対象における微生物の増殖を防止若しくは阻害するため又は前記対象における微生物を死滅させるために必要な前記抗菌剤の量を減少させる方法。
【請求項13】
大環状キャビティ含有化合物と抗菌剤とを対象に投与することにより、前記対象における微生物の増殖を防止若しくは阻害するため又は前記対象における微生物を死滅させるために必要な前記抗菌剤の投与期間を延長する方法。
【請求項14】
大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤を対象に投与することにより、前記対象における微生物の増殖を阻害する方法。
【請求項15】
抗菌剤及び大環状キャビティ含有化合物を対象に投与することにより、微生物感染を有する又は微生物感染のおそれがある前記対象における微生物感染を阻害及び/又は治療及び/又は予防する方法。
【請求項16】
大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤を対象に投与することにより、前記対象における微生物によるバイオフィルムの形成を阻害、治療又は予防する方法。
【請求項17】
前記大環状キャビティ含有化合物がピララレン、ククルビットウリル、クラウンエーテル、シクロデキストリン、カリックスアレーン、及び/又はその塩から選ばれる、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の使用、又は請求項8及び請求項9に記載の大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は請求項10~請求項16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記大環状キャビティ含有化合物がピラーアレーン又はその塩である、請求項17に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項19】
前記ピラーアレーンがピラー[5]アレーン又はその塩である、請求項18に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項20】
前記大環状キャビティ含有化合物がレゾルシン[4]アレーン又はその塩である、請求項17に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項21】
前記大環状キャビティ含有化合物がクラウンエーテル又はその塩である、請求項17に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項22】
前記大環状キャビティ含有化合物がククルビットウリル又はその塩である、請求項17に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項23】
前記大環状キャビティ含有化合物がシクロデキストリン又はその塩である、請求項17に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項24】
前記大環状キャビティ含有化合物がα-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、又はその塩である、請求項23に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項25】
前記大環状キャビティ含有化合物がカリックスアレーン又はその塩である、請求項17に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項26】
前記微生物がグラム陰性菌である、又は前記微生物感染がグラム陰性菌により引き起こされる、請求項1~請求項25のいずれか一項に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項27】
前記グラム陰性菌が、シュードモナス、アシネトバクター、ビブリオ、エンテロバクター、エシェリヒア、クライベラ、サルモネラ、赤痢菌、ヘリコバクター、ヘモフィルス、プロテウス、セラチア、モラクセラ、ステノトロフォモナス、デロビブリオ、カンピロバクター、エルシニア、モルガネラ、ナイセリア、リゾビウム、レジオネラ、クレブシエラ、シトロバクター、クロノバクター、ラルストニア、キシレラ、キサントモナス、エルウィニア、アグロバクテリウム、バークホルデリア、ペクトバクテリウム、パントエア、アシドボラクス、その他の腸内細菌科の属に属する、請求項26に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項28】
前記微生物がグラム陽性菌である、又は前記微生物感染がグラム陽性菌によって引き起こされる、請求項1~請求項25のいずれか一項に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項29】
前記グラム陽性菌がブドウ球菌属に属する、請求項28に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項30】
前記微生物感染が急性感染である、又は前記微生物感染が浮遊性(planktonic)微生物によって引き起こされる、請求項1~請求項29のいずれか一項に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項31】
前記抗菌剤が、β-ラクタム、アミノグリコシド、フルオロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、ノボビオシン、クロラムフェニコール、臭化エチジウム及びコリスチンから選択される、請求項1~請求項30のいずれか一項に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項32】
前記抗菌剤が、β-ラクタム抗生物質、又は複数種のβ-ラクタム抗生物質の組み合わせである、請求項31に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項33】
前記β-ラクタム抗生物質が、ペニシリン誘導体及び/又はβ-ラクタマーゼ阻害剤又はセファロスポリン又はカルバペネムである、請求項32に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項34】
前記抗菌剤がアミノグリコシドである、請求項31に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【請求項35】
前記抗菌剤が前記抗菌剤がフルオロキノロンである、請求項31に記載の使用、又は大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤、又は方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を抗菌剤に対して感受性にさせることにおける大環状キャビティ含有化合物(macrocyclic cavity-containing compound)の使用に関する。本発明は、対象における微生物の増殖を防止又は阻害するために必要な抗菌剤の量を低減することにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用にも関するものである。
【0002】
さらに、本発明は、対象における病原性微生物を死滅させるために必要な抗菌剤の量を低減することにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用に関する。また、本発明は、対象における微生物に対する静菌効果又は殺菌効果を誘起するために必要な抗菌剤の投与間隔を延長することにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用にも関する。さらに、本発明は、微生物の抗菌剤に対する耐性構築を低減することにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用に関するものである。また、本発明は、微生物感染を有する又は微生物感染のおそれがある対象における前記微生物感染の阻害及び/又は治療及び/又は予防する際に使用する、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤に関するものである。さらに、本発明は、対象における病原性細菌によるバイオフィルムの形成を阻害、治療及び/又は予防する際に使用する、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤に関するものである。
【背景技術】
【0003】
抗生物質に対する急速な耐性化は、我々が現在直面している最大の世界的な健康問題の一つである。新しいクラスの抗生物質が発見されていない35年間の技術革新の遅れと相まって、抗生物質の不足により、抗生物質耐性感染症が(2050年までに)世界で最も致命的な原因となって、経済に多大な影響を与えるだろうとの予測結果がもたらされている。多剤耐性は非常に重要であり、世界保健機関(WHO)から抗生物質耐性をもつ、世界で優先される病原体リストが発表されている(WHO、2017)。
【0004】
最初に抗生物質が発見されて以来、抗生物質はすぐに、ほぼすべての細菌感染症を治療できる唯一の方法となった。抗生物質が発見された直後から、その耐性に関する報告はなされはいるものの、新しいタイプの抗生物質が継続的に開発されてきたため、抗生物質耐性があまり注目されることはなかった。しかし、技術革新の遅れ、原料の過剰使用、誤った処方など多くの理由により、細菌は急速に耐性化しつつある。例えば、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、最も問題のある病原体の一つとして知られている。実際、実験室環境において、緑膿菌は、3~4日の期間内に、ほぼ全ての抗生物質に対して耐性化する。
【0005】
本発明の背景を明らかにし、特に、実施に関する追加の詳細を提供するための、本明細書で言及された刊行物及び他の資料は、参照により援用される。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、微生物を抗菌剤に対して感受性にさせることにおける、及び/又は微生物が抗菌剤に対して感受性となるように感作させることにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用に関するものである。本発明は、対象における微生物に対する静菌効果又は殺菌効果を誘起するために必要な抗菌剤の量を低減することにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用にも関するものである。また、本発明は、対象における微生物に対する静菌効果又は殺菌効果を誘起するために必要な抗菌剤の投与間隔を延長することにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用に関する。さらに、本発明は、微生物の抗菌剤に対する耐性構築を低減することにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用に関するものである。本発明は、対象における微生物の増殖を阻害することにおける、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤の使用に関するものである。本発明は、微生物感染を有する、又は微生物感染のおそれがある対象における微生物感染の阻害及び/又は治療及び/又は予防することにおける、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤の使用にも関するものである。本発明は、対象における病原性細菌によるバイオフィルムの形成を阻害、治療及び/又は予防することにおける、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤の使用にも関する。
【0007】
本発明は、微生物感染を有する対象又は微生物感染のおそれのある対象における前記微生物感染の阻害及び/又は治療及び/又は予防する際に使用する、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤にも関するものである。さらに、本発明は、対象における病原性細菌によるバイオフィルムの形成を阻害、治療及び/又は予防する際に使用する、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤に関する。
【0008】
本発明は、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤を対象に投与することにより、又は微生物を大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤に曝すことにより、前記微生物を抗菌剤に対して感受性にさせる方法及び/又は前記微生物が抗菌剤に対して感受性となるように感作させることにおける方法に関するものである。また、本発明は、微生物を大環状キャビティ含有化合物に曝すことにより、前記微生物の抗菌剤に対する耐性構築を低減する方法に関する。さらに、本発明は、大環状キャビティ化合物及び抗菌剤を対象に投与することにより、前記対象における微生物の増殖を防止又は阻害するために必要な抗菌剤の量を低減する方法に関する。本発明は、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤を対象に投与することにより、前記対象における病原性微生物を死滅させるのに必要な抗菌剤の量を低減する方法に関するものである。また、本発明は、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤を対象に投与することにより、微生物の静菌作用又は殺生菌作用を誘起させるために必要な前記抗菌剤の投与間隔を延長する方法に関する。本発明は、大環状キャビティ含有化合物と抗菌剤とを対象に投与することにより、前記対象における微生物の増殖を阻害する方法に関するものである。また、本発明は、抗菌剤及び大環状キャビティ含有化合物を対象に投与することにより、微生物感染を有する、又はそのおそれがある対象において、前記微生物感染を阻害及び/又は治療及び/又は予防する方法に関するものである。さらに、本発明は、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤を対象に投与することにより、前記対象における病原性微生物によるバイオフィルムの形成を阻害、治療及び/又は防止する方法に関する。
【0009】
本発明は、対象における微生物感染を予防又は阻害及び/又は治療するための、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤との組み合わせ使用に関する。本発明は、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤を含む組成物又は剤形又はキットにも関する。
【0010】
本発明の目的は、独立請求項に記載されるものによって特徴付けられる化合物、使用及び方法によって達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、KEGG及びGO遺伝子セットに対してのP[5]aの効果に関する遺伝子セット濃縮分析(GSEA)を示す。例えばバイオフィルム形成のような特定の機能に関連する全ての遺伝子をグループにしたものである個々の「遺伝子セット」における遺伝子発現レベルの変化がグループ化されている。このランキングは、個々の遺伝子ではなく、特定の表現型の効果に対する治療の効果を簡便に示している。
図2図2は、セフェピム(セフェム抗生物質クラス)及びメロペネム(カルバペネム抗生物質クラス)に対しての、緑膿菌PAO1の抗生物質耐性を示したものである。黄色い線より下の領域は、その細菌がその抗生物質に対して感受性を有する分類にあることを意味する。黄色線と赤色線の間の領域は、その細菌が抗生物質に対して中間的感受性を有する分類にあることを意味する。赤色線より上の領域は、その細菌が抗生物質に対して耐性を示す分類に入るものであることを意味する(臨床検査標準協会が管理している「抗菌薬感受性試験の性能基準」による)。
図3図3は、緑膿菌PAO1によるピロシアニン毒素産生を14日間にわたって追跡した結果である。14日間を通して、細菌の生存率低下は検出されなかったが、P5aは非常に効率的毒素の生成を抑制した。
図4図4は、多剤耐性緑膿菌PA5834株に、P[5]aを添加しなかった場合及び添加した場合の、LB(Luria broth)培地における各種抗生物質の最小発育阻止濃度(MIC)を示す。青色,黄色,オレンジ色の数値はそれぞれ、当該細菌が、臨床検査標準協会が管理している「抗菌薬感受性試験の性能基準」による「感受性」、「中間的感受性」、「耐性」に分類されることを示す。
図5図5は、多剤耐性緑膿菌PA5539株に、P[5]aを添加しなかった場合及び添加した場合の、LB(Luria broth)培地における各種抗生物質の最小発育阻止濃度(MIC)を示す。青色,黄色,オレンジ色の数値はそれぞれ、当該細菌が、臨床検査標準協会が管理している「抗菌薬感受性試験の性能基準」によれば「感受性(susceptible)」、「中間的感受性(intermediate susceptible)」、「耐性(resistant)」に分類されることを示す。
図6図6は、ミューラー寒天培地中、P[5]aの存在下又は非存在下における、アミカシン、セフェピム,セフタジジム及びメロペネムの、耐性緑膿菌PA5550、PA5842、PA5827、PA5832、PA5834、PA5539に対する最小発育阻止濃度(MIC)を示す。
図7図7は、病原性グラム陰性菌である緑膿菌PA01株によるバイオフィルムの形成に対するP[5]aの効果(実施例3)を示す図である。
図8図8は、病原性グラム陰性菌アシネトバクター-バウマニ(Acinetobacter baumannii)の3系統によるバイオフィルム形成に対するP[5]aの効果を示す図である。
図9図9は、病原性グラム陰性菌である緑膿菌PA01株において、P[5]aが14日間にわたって耐性発現に遭遇しないことを示す図である(実施例4)。
図10図10は、P[5]aの、共剤投与された抗生物質アズトレオナム(A)、セフェピム(B)、メロペネム(C)及びトブラマイシン(D)の浸透性向上への効果を示す図である。上の破線(赤)は抵抗性であるレベルを示す。下の破線(黄色)は感受性であるレベルを示す。破線と破線の間の領域は、中間的感受性であることを示す(実施例5)。
図11図11は、P[5]aの二重作用機序につながる構造の特徴を模式的に示したものである。[図11a]オレンジ色で強調されているのは前記構造の疎水性コアであり、これはキャビティサイズ4.6Aであり、シグナリング分子を結合する。青色で示されているのは、細胞膜の負電荷の表面と相互作用する正電荷のアミノ基である。[図11b]提示される、緑膿菌に対するP[5]aの二重作用効果を、図示したものである。
図12図12は、P[5]aと緑膿菌PA10株のリポ多糖との相互作用を示す。[図12a]P[5]aを単独で分析用超遠心沈降速度分析すると、305nmにおいて安定した沈降プロファイルを示す。[図12b]LPSを単独で分析用超遠心機沈降速度分析すると、305nmにおいて検出できる沈降プロファイルがないことから、305nmにおいてはP[5]aの沈降が続いていることがわかる。[図12c]LPSと合わせたP[5]aを分析的超遠心沈降速度分析すると、305nmにおいてきわめて急速であり変動する沈降プロファイルを示し、これはP[5]a-LPS複合体を示している(複数の矢印で表示)。その後、大量の未結合P[5]aがゆっくりと沈降する(矢印で表示)。[図12d]沈降プロファイルにおける分子量分布で、305nmにおけるUV吸収において、135μMのP[5]aと35μMのLPSの間に強い相互作用があることがわかる。最初に、低分子量(2260Da)で未結合P[5]aの明確なピークが観察され、その後、低分子量(S)から非常に高分子量(60.000kDa)まで、長く、多分散なピークの集合が続く(実施例6を参照)。
図13図13は、色素置換アッセイを用いたP[5]aホストとHSLゲスト間の結合親和性測定結果である。この結果は、長い炭素部分を持つHSLに明確な優先性があることを示している。[図13a]ゲストディスプレイスメントアッセイ(GDA)の原理。ここではホストのP[5]aはそのキャビティ内でホストを結合し、それにより蛍光スペクトルは468nmから398nmにシフトする。HSL「ゲスト」を添加すると、当該ゲストは再びキャビティから移動するので、スペクトルはシフトして468nmに戻る。この移動が起こる濃度でもって、前記親和性を計算することができる。[図13b]3-OH-C14(Cin)HSL、3-Oxo-C12(Las)HSL、3-Oxo-C8(Tra)HSL、3-Oxo-C6(Lux)HSL、C4(Rhl)HSLの5種類のHSLの親和性を測定し、これをHSL/P[5]aの比に対してプロットした。[図13c]拡大図(図13bの破線で示す箇所)では、3-OH-C14 HSL及び3-Oxo-C12 HSL(実施例7)に対する高い結合親和性が示される。
図14図14は、MDR耐性臨床分離株においてP[5]aがどのように共投与抗生物質アミカシン(a)、セフェピム(b)、セフタジジム(c)及びメロペネム(d)の浸透力及び効力を増強させるかを示す(実施例8)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
特に指定しない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される用語は、当業者にとって公知であることを意味する。
【0013】
本明細書において、用語「大環状キャビティ含有化合物」は、キャビティにホスト-ゲスト相互作用をもたらす円筒構造が形成された有機環状化合物を意味する。大環状キャビティ含有化合物は、非共有結合のホスト-ゲスト結合により微生物シグナリング分子と結合することによって、この微生物シグナリング分子を阻害するか、又はこの微生物シグナリング分子量を減少させる。大環状キャビティ含有化合物は、非共有結合性のホスト-ゲスト結合によって微生物シグナリング分子と結合することにより、この微生物シグナリング分子依存性及び/又は媒介性の微生物感染(症)を予防又は治療することが見出されている。さらに、大環状キャビティ含有化合物は、バイオフィルムマトリックスの特定の成分と結合する。その結果、この微生物は、毒素、バイオフィルム及び他の病原性因子のうちの1つ又はいくつかの産生を停止又は減少させる。このように、大環状キャビティ含有化合物は、病原性を阻害する剤(virulence inhibitors)として作用し、この作用様式は、その病原体の成長を阻害するか又はその病原体を死滅させる抗生物質とは大きく異なっている。大環状キャビティ含有化合物は、微生物に対して負の成長効果を示さない。したがって、微生物細胞はその生存を脅かされることはなく、耐性を持つ及び/又は示す可能性は低い。大環状キャビティ含有化合物と微生物シグナリング分子とのホスト-ゲスト結合は、もっぱら細胞外で起こる一プロセスである。大環状キャビティ含有化合物は大きすぎて微生物細胞内に入ることができないので、微生物における耐性発現の可能性をさらに低減することができる。大環状キャビティ含有化合物は、微生物細胞の生存率に影響を与えない。さらに、動物細胞の生存率に影響を与えない。
【0014】
微生物シグナリング分子又はクオラムセンシング(QS)分子は、細菌が感作及び放出し得、コミュニケーションの形態として利用する、拡散性のある低分子グループである。細菌、特に多くのグラム陰性病原体において、シグナリング分子は、感染の成功の機会を増す手段として、多種多様な病原性関連因子、例えばバイオフィルム形成、外毒素及び界面活性剤の生成、運動性、及び栄養捕捉分子などを制御する。ある実施形態では、微生物シグナリング分子は、微生物クオラムセンシングシグナル分子である。ある実施形態では、微生物シグナリング分子又は微生物クオラムセンシングシグナル分子は、ホモセリンラクトン(HSL)及び/又はN-アシル-ホモセリンラクトン(AHL)である。ある実施形態において、HSL又はAHLの炭素鎖は、4~18又は6~14の炭素数の長さを有する。ある実施形態では、HSL又はAHLの炭素鎖は、直鎖状である。ある実施形態では、HSL又はAHLの炭素鎖は分枝状である。ある実施形態では、大環状カチオン性キャビティ含有化合物は、細胞外高分子物質のうちの細胞外DNAと相互作用することも可能である。
【0015】
このような大環状キャビティ含有化合物の例は、ピララレン、ククルビットウリル、クラウンエーテル、シクロデキストリン、及びカリックスアレーンである。
【0016】
本発明は、ピラー[5]アレーン(P[5]a)と呼ばれる大環状キャビティ含有化合物を抗菌剤と併用すると、細菌が感作する、すなわちその抗菌剤に対してより感受性が高くなる、という発見に基づくものである。そのため、かつて細菌が耐性を示していた抗菌剤が、P[5]aのような大環状キャビティ含有化合物と併用されることで、再び抗菌効果を発揮するようになった。さらに、P[5]aのような大環状キャビティ含有化合物と併用すると、大環状キャビティ含有化合物を併用しない場合に比べて、微生物の増殖阻害や殺菌に有効な抗菌剤が少なくて済むことが分かった。また、P[5]aなどの大環状キャビティ含有化合物を抗菌剤と併用すると、病原体による抗菌剤への耐性が著しく阻害されることも見出された。P[5]aのような大環状キャビティ含有化合物は、広範囲の抗菌剤と一緒に機能することが分かった。また、P[5]aのような大環状キャビティ含有化合物は、耐容性が十分に高く、多種類の抗生物質との組み合わせ治療が可能であることが判明した。
【0017】
大環状キャビティ含有化合物が、グラム陰性微生物に対して二重の作用機序を有することが見出された。まず、それらは大環状体内部のシグナリング分子と結合することにより、病原性を低下させることがわかった。次に、それらは正電荷を持つ官能基によって細菌の外膜を感受性にさせることが分かった。具体的には、大環状キャビティ含有化合物であるピラー[5]アレーンが、その内部キャビティにホモセリンラクトン(HSL)シグナリング分子を結合させることで病原性を減衰させること、また、その正に帯電した官能基によって細菌外膜のリポ多糖(LPS)と結合して、細菌外膜を感受性にさせることが見出された。大環状キャビティ含有化合物であるP[5]aと緑膿菌PA10株のリポ多糖との強い相互作用を図12に示す(分析用超遠心機による解析)。この結果から、P[5]aは複数のLPSユニットと相互作用し、巨大分子量を持つ高次構造の足場となる可能性もあることがわかった。
【0018】
二重作用機序により、大環状キャビティ含有化合物のもつ、グラム陰性菌により引き起こされる感染症をそれ自体で治療する能力が強化される。また、二重作用機序によって、グラム陰性菌によって引き起こされる感染症を、抗生物質(たとえその標的が細胞内にある抗生物質であっても)を用いて治療する、大環状キャビティ含有化合物のもつ能力が強化される。大環状キャビティ含有化合物と抗生物質とが、グラム陰性菌による感染症に対して相乗的な効果を奏することが見出された。理論に縛られることを望むものではないが、グラム陰性菌に対する大環状キャビティ含有分子の二重作用機序により、微生物を抗菌剤に効果的に感受性にさせるベースが構築され、その結果、大環状キャビティ含有化合物と抗菌剤とを組み合わせて投与する場合に、対象における微生物の増殖を防止又は阻害するためあるいは対象における病原性微生物を死滅させるために必要な抗菌剤の量を、低減させることにつながる。
【0019】
本発明では、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤の両方が、生物学的活性成分として作用する。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、医薬的活性成分として作用する。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤の両方が、医薬的活性成分として作用する。ある実施形態では、生物学的活性とは医薬的活性を指す。ある実施形態では、生物学的活性とは病原性抑制活性を意味する。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤の両方を、抗菌的に有効な量(antimicrobially effective anmounts)使用する。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物と抗菌剤との効果は相乗的である。
【0020】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、最も問題のある病原性微生物の1つであることが知られている。実際、実験室の環境下で、緑膿菌は3~4日の間にほぼ全ての抗生物質に対して耐性を示す。本発明者らは、ピラレン[5]a(P[5]a、CAS番号1351445-28-7)を添加した場合と添加しない場合の細菌RNAのシークエンス結果を比較し、「KEGGパスウェイ解析」や「GOオントロジー」から事前に設定した遺伝子セットタームと比較して、影響を受けるプロセスを特定した(図1参照)。これらの遺伝子セットには、あるターム、例えば「バイオフィルム」に関連するすべての遺伝子が含まれており、本発明者らは、P[5]aによって影響を受けるすべての遺伝子について、これらの遺伝子セットを参照した。この解析(図1)から、「バイオフィルム」、「クオラムセンシング」、「バイオベルジン生合成プロセス」、「二次代謝産物の生合成」など、病原性因子に関連する遺伝子セットの多くが、P[5]aによってダウンレギュレーションされていることが分かる。
【0021】
このように、P[5]aは、細菌の持続性及び抗生物質へのアクセス性に影響を与える多数の病原性因子を抑制するが(例えば、抗生物質は、バイオフィルムを形成する細菌に対しては非常に効果が小さい)、これは細菌の抗生物質耐性遺伝子も有意にダウンレギュレートする。有意にダウンレギュレートされる遺伝子としては、「MexCD-OprJ」、「MexAB-OprM」、「mexXY」などが挙げられる。これらの遺伝子は、抗生物質を細菌外に汲み上げることができる膜ポンプを調節しており、細菌の多剤耐性に大きく寄与していることが知られている(表1)。
【0022】
【表1】
【0023】
したがって、大環状キャビティ含有化合物は、病原体を死滅させるために必要な抗菌剤の量を低減させることができる。さらに、大環状キャビティ含有化合物は、抗菌剤に対する微生物の耐性を低減させることができる。本発明によれば、高耐性レベルに達した抗菌剤が、大環状キャビティ含有化合物と共に投与されると、微生物感染を治療及び/又は予防するのに再び有効になり得る。
【0024】
換言すると、本発明によれば、大環状キャビティ含有化合物が、場合によっては、耐性菌を再び抗菌剤に対して感受性とさせることが見出された。これは、特に汎薬剤耐性菌に有用である。
【0025】
本発明において、大環状キャビティ含有化合物は、多種多様な抗菌剤/抗生物質と一緒に機能することが判明した。大環状キャビティ含有化合物と抗菌剤との相乗効果として、最小発育阻止濃度の低下、抗生物質に対する病原体の耐性構築の大幅な低減が見出された。この効果は、多様なクラス及び構造を持つ抗菌剤で確認された。抗菌剤の例としては、ペニシリン誘導体、セファロスポリン、カルバペネム、β-ラクタマーゼ阻害剤などのβ-ラクタム類、アミノグリコシド、フルオロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、ノボビオシン、クロラムフェニコール、臭化エチジウム、コリスチンがある。
【0026】
ある実施形態では、抗菌剤は、β-ラクタム抗生物質、又は複数種のβ-ラクタム抗生物質の組み合わせである。ある実施形態では、β-ラクタム系抗生物質は、ペニシリン誘導体である。ある実施形態では、ペニシリン誘導体は、ピペラシリン又はチカルシリンである。ある実施形態では、β-ラクタム系抗生物質は、β-ラクタマーゼ阻害剤である。ある実施形態では、β-ラクタマーゼ阻害剤は、タゾバクタムまたはクラブラン酸である。ある実施形態では、β-ラクタム抗生物質は、ペニシリン誘導体とβ-ラクタマーゼ阻害剤との組み合わせである。ある実施形態では、ペニシリン誘導体とβ-ラクタマーゼ阻害剤との組み合わせは、ピペルシリンとタゾバクタムとの組み合わせ、又はチカルシリンとクラブラン酸との組み合わせである。ある実施形態では、β-ラクタマーゼ阻害剤とβ-ラクタム抗生物質の組み合わせは、イミペネム及びレリバクタムとシラスタチンとの組み合わせである。
【0027】
ある実施形態では、β-ラクタム抗生物質は、セファロスポリンである。ある実施形態では、セファロスポリンは、セフェピム、セフタジジム、セフォペラゾン、セフピローム、セフトリアキソン、又はセフトビプロールである。ある実施形態では、β-ラクタム系抗生物質は、カルバペネムである。ある実施形態では、カルバペネムは、イミペネム、メロペネム、エルタペネム、ドリペネム、パニペネム、ビアペネム又はテビペネムである。
【0028】
ある実施形態では、抗菌剤は、アミノグリコシドである。ある実施形態において、アミノグリコシドは、カナマイシン、アミカシン、トブラマイシン、ジベカシン、ゲンタマイシン、シスマイシン、ネチルマイシン、ネオマイシンB、ネオマイシンC、ネオマイシンE、ストレプトマイシン、又はプラゾマイシンである。ある実施形態において、アミノグリコシドは、トブラマイシンである。
【0029】
ある実施形態では、抗菌剤は、フルオロキノロンである。ある実施形態では、フルオロキノロンは、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、ガレノキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、又はモキシフロキサシンである。ある実施形態では、フルオロキノロンは、レボフロキサシンである。
【0030】
ある実施形態では、抗菌剤は、ポリミキシンである。ある実施形態では、ポリミキシンは、ポリミキシンB又はコリスチンである。ある実施形態では、ポリミキシンは、コリスチンである。
【0031】
本発明は、微生物を、抗菌剤に対して感作させる、及び/又は前記微生物を前記抗菌剤に対して感受性にさせることにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用に関するものである。本発明は、対象における微生物の増殖を防止又は阻害するために必要な抗菌剤の量を低減することにおける大環状キャビティ含有化合物の使用に関する。さらに、本発明は、対象における微生物を死滅させるために必要な抗菌剤の量を低減することにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用にも関するものである。また、本発明は、対象における微生物に対する静菌効果又は殺菌効果を誘起するために必要な抗菌剤の投与間隔を延長することにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用に関する。さらに、本発明は、微生物の抗菌剤に対する耐性構築を低減することにおける、大環状キャビティ含有化合物の使用に関する。本発明は、対象における微生物の増殖を阻害することにおける、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤の使用に関する。本発明は、微生物感染を有する、又は微生物感染のおそれがある対象における前記微生物感染を阻害及び/又は治療及び/又は予防することにおける、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤の使用にも関する。本発明は、対象における微生物によるバイオフィルムの形成を阻害及び/又は防止することにおける、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤の使用にも関する。
【0032】
本発明は、微生物感染を有する、又は微生物感染のおそれがある対象において、前記微生物感染を阻害及び/又は治療及び/又は予防する際に使用する、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤にも関するものである。したがって、この大環状キャビティ含有化合物は、感染症のリスクを低減するための予防措置として使用することができる。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤は、微生物感染のおそれのある対象における微生物感染を阻害及び/又は予防する際に使用される。対象が微生物感染するおそれがある状況には、例えば、手術やインプラントの取り付けなどのあらゆる種類の侵襲的な治療及び/又は手術が含まれる。さらに、本発明は、対象における微生物によるバイオフィルムの形成を阻害及び/又は防止するために使用する大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤にも関する。ある実施形態において、本発明は、対象における微生物によるバイオフィルムの形成を阻害及び/又は防止することによって、前記対象における微生物感染症を治療する際に使用する、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤に関する。
【0033】
本発明は、大環状キャビティ含有化合物と抗菌剤とを対象に投与することにより、微生物を抗菌剤に感受性にさせる方法、及び/又は微生物を前記抗菌剤に感受性を有するように感作させる方法に関する。本発明は、微生物を大環状キャビティ含有化合物と抗菌剤とに曝露することにより、微生物を抗菌剤に感受性にさせる方法、及び/又は微生物を抗菌剤に感受性を有するように感作させる方法に関する。本発明は、微生物を大環状キャビティ含有化合物に曝露することにより、前記微生物の抗菌剤に対する耐性構築を低減する方法に関するものである。さらに、本発明は、大環状キャビティ含有化合物と抗菌剤とを対象に投与することにより、前記対象における微生物の増殖を防止又は阻害するために必要な抗菌剤の量を低減させる方法に関するものである。また、本発明は、大環状キャビティ含有化合物と抗菌剤とを対象に投与することにより、前記対象における微生物を死滅させるために必要な抗菌剤の量を低減する方法に関するものである。また、本発明は、大環状キャビティ含有化合物と抗菌剤とを対象に投与することにより、微生物の静菌作用又は殺生菌作用を誘起するために必要な抗菌剤の投与間隔を延長する方法に関するものである。本発明は、大環状キャビティ含有化合物と抗菌剤とを対象に投与することにより、前記対象における微生物の増殖を阻害する方法に関するものである。また、本発明は、微生物感染を有する対象又は微生物感染のおそれがある対象において、抗菌剤、及び大環状キャビティ含有化合物を前記対象に投与することにより、微生物感染を阻害及び/又は治療及び/又は予防する方法に関するものである。また、本発明は、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤を対象に投与することにより、前記対象における微生物によるバイオフィルムの形成を阻害、治療及び/又は予防する方法に関するものである。
【0034】
本発明は、対象における微生物感染症を予防及び/又は阻害及び/又は治療するための大環状キャビティ含有化合物と抗菌剤との組み合わせ使用に関する。ある実施形態において、本発明は、大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤を含む組成物又は剤形又はキットに関する。ある実施形態において、本発明は、抗菌剤による治療の前、治療中、及び/又は治療後に使用する大環状キャビティ含有化合物を含む組成物又は剤形若しくはキットに関するものである。
【0035】
本発明において、大環状キャビティ含有化合物は、微生物シグナリング分子又は微生物クオラムセンシングシグナル分子に結合することができる。ある実施形態において、微生物シグナリング分子又は微生物クオラムセンシングシグナル分子は、ホモセリンラクトン(HSL)及び/又はN-アシル-ホモセリンラクトン(AHL)である。大環状キャビティ含有化合物の微生物シグナリング分子へのその結合は強く、これらの化合物は、天然細菌が通常吸収するよりもはるかに高濃度で微生物シグナリング分子を吸収することが可能である。本発明では、大環状カチオン性キャビティ含有化合物は、バイオフィルム形成の初期段階で重要な役割を果たすことが知られている、細胞外高分子物質である細胞外DNAと相互作用することも可能である。
【0036】
大環状キャビティ含有化合物は、微生物に対して負の増殖効果を持たないようである。このような圧力がかからないということは、治療に対して耐性を構築する必要性が減るという大きな利点となる。大環状化合物と微生物シグナリング分子のホストーゲスト結合は、あくまで細胞外で行われる一プロセスである。大環状キャビティ含有化合物は大きすぎて微生物細胞内に入ることができないため、微生物が耐性を発現する可能性をさらに低減させる。大環状キャビティ含有化合物は、病原性を阻害する剤として作用するようである。ピラー[5]アレーンのような大環状キャビティ含有化合物は、非常に優れた安定性を持ち、水に容易に溶解し、さらに安定的である。そのため、様々な環境下での応用が可能である。シクロデキストリン、ククルビットウリル、ピラーアレーン、カリックスアレーン、クラウンエーテル及び/又はその塩などの大環状キャビティ含有化合物、並びに微生物感染に対するそれらの効果は、同時係属中の特許出願であるPCT/FI2019/050717号において詳細に開示されており、これは参照により本明明細書中にて援用される。
【0037】
ある実施形態において、大環状キャビティ含有化合物は、ピラーアレーン、カリックスアレーン、クラウンエーテル、シクロデキストリン、ククルビットウリル及び/又はその塩から選択される。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、ピララレン類及び/又はその塩から選択される。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、ピラー[5]アレーン又はその塩から選択される。ある実施形態では、ピラー[5]アレーンは、4,9,14,19,24,26,28,30,32,34-デカ[2-(トリメチルアミニオ)エトキシ]ヘキサシクロ[21.2.2.23,6.28,11.213,16.218,21]ペンタトリアコンタ1(25),3,5,8,10,13,15,18,20,23,26,28,30,32,34―ペンタデカエン・10ブロミドである。
【0038】
ある実施形態において、大環状キャビティ含有化合物は、クラウンエーテル類から選択される。ある実施形態において、クラウンエーテルは、18-クラウン-6(1,4,7,10,13,16-ヘキサオキサシクロオクタデカン)である。ある実施形態において、クラウンエーテルは、15-クラウン-5(1,4,7,10,13-ペンタオキサシクロペンタデカン)である。ある実施形態において、大環状キャビティ含有化合物は、ククルビットウリル類から選択される。ある実施形態では、ククルビットウリルは、ククルビット[6]ウリルである。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、レゾルシンアレーン類及び/又はその塩から選択される。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、レゾルシン[4]アレーン又はその塩である。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、シクロデキストリン類又はその塩から選択される。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、α-シクロデキストリン類、γ-シクロデキストリン類、又はそれらの塩から選択される。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、α-シクロデキストリン又はその塩である。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、γ-シクロデキストリン又はその塩である。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、カリックスアレーン類又はその塩から選択される。ある実施形態では、カリックスアレーンは、4-スルホカリックス[4]アレーンである。
【0039】
ある実施形態において、大環状キャビティ含有化合物は、ピラー[5]アレーン、レゾルシン[4]アレーン、18-クラウン-6、15-クラウン-5、ククルビット[6]ウリル、α-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン及び4-スルホカリックス[4]アレーンを含む群から選択される。
【0040】
ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、ピララレン又はその塩であり、抗菌剤は、β-ラクタム、セファロスポリン、カルバペネム及びβ-ラクタマーゼ阻害剤、アミノグリコシド、フルオロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、ノボビオシン、クロラムフェニコール、臭化エチジウム、コリスチン及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、クラウンエーテル又はその塩であり、抗菌剤は、β-ラクタム、セファロスポリン、カルバペネム及びβ-ラクタマーゼ阻害剤、アミノグリコシド、フルオロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、ノボビオシン、クロラムフェニコール、臭化エチジウム、コリスチン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、ククルビットウリル又はその塩であり、抗菌剤は、β-ラクタム、セファロスポリン、カルバペネム及びβ-ラクタマーゼ阻害剤、アミノグリコシド、フルオロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、ノボビオシン、クロラムフェニコール、臭化エチジウム、コリスチン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、シクロデキストリン又はその塩であり、抗菌剤は、カルバペネム及びβ-ラクタマーゼ阻害剤、マクロライド、ノボビオシン、クロラムフェニコール、臭化エチジウム、コリスチン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、カリックスアレーン又はその塩であり、抗菌剤は、セファロスポリン、カルバペネム及びβ-ラクタマーゼ阻害剤、マクロライド、テトラサイクリン、ノボビオシン、クロラムフェニコール、臭化エチジウム、コリスチン、及びにそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0041】
ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、ピララレンであり、抗菌剤は、コリスチンである。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物はピララレンであり、抗菌剤はレボフロキサシンなどのフルオロキノロンである。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、ピラー[5]アレーンなどのピララレンであり、フルオロキノリンは、シプロフロキサシンである。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、ピララレンであり、抗菌剤は、セファロスポリンなどのβ-ラクタム抗生物質である。ある実施形態では、ピララレンは、ピルラール[5]アレーンであり、β-ラクタム抗生物質は、セファロスポリンである。ある実施形態では、ピララレンはピラー[5]アレーンであり、β-ラクタム抗生物質はセフェピムである。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、ピラー[5]アレーンなどのピララレンであり、抗菌剤は、アズトレオナムなどのβ-ラクタム抗生物質である。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、ピラー[5]アレーンなどのピララレンであり、抗菌剤は、トブラマイシンなどのアミノグリコシドである。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、ピラー[5]アレーンなどのピララレンであり、抗菌剤はメロペネムである。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、ピラー[5]アレーンなどのピララレンであり、抗菌剤は、アジスロマイシンなどのマクロライドである。
【0042】
ある実施形態において、大環状キャビティ含有化合物は、クラウンエーテルであり、抗菌剤は、ポリミキシンである。ある実施形態では、クラウンエーテルは、18-クラウン-6であり、ポリミキシンは、コリスチンである。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、クラウンエーテルであり、抗菌剤は、アミノグリコシドである。ある実施形態では、クラウンエーテルは15-クラウン-5であり、アミノグリコシドはアミカシンのことである。
【0043】
ある実施形態において、大環状キャビティ含有化合物は、シクロデキストリンであり、抗菌剤は、フルオロキノロンである。ある実施形態では、シクロデキストリンは、γ-シクロデキストリンであり、フルオロキノリンは、シプロフロキサシンである。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、シクロデキストリンであり、抗菌剤は、コリスチンである。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物はシクロデキストリンであり、抗菌剤はレボフロキサシンなどのフルオロキノロンである。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物は、シクロデキストリンであり、フルオロキノリンは、シプロフロキサシンである。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物はシクロデキストリンであり、抗菌剤はアズトレオナムなどのβ-ラクタム抗生物質である。ある実施形態において、大環状キャビティ含有化合物は、シクロデキストリンであり、抗菌剤は、トブラマイシンなどのアミノグリコシドである。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物はシクロデキストリンであり、抗菌剤はアジスロマイシンなどのマクロライドである。ある実施形態において、微生物は細菌であるか、又は微生物感染症は細菌によって引き起こされる。ある実施形態において、微生物は、細菌によって引き起こされる微生物感染症の治療に通常使用される主要な抗菌剤に対して耐性を有するその細菌であるか、又はその感染症はその細菌により引き起こされる。ある実施形態において、微生物は、広域抗生物質に対する多剤耐性を発達させた細菌であるか、又は微生物感染症はその細菌によって引き起こされる。ある実施形態において、微生物は、グラム陽性菌に属するか、又は微生物感染症は、グラム陽性菌によって引き起こされる。ある実施形態では、微生物は、ブドウ球菌属に属する細菌に属するか、又は微生物感染症は、ブドウ球菌属に属するその細菌によって引き起こされる。ある実施形態において、微生物は、黄色ブドウ球菌に属するか、又は微生物感染症は、黄色ブドウ球菌によって引き起こされる。ある実施形態では、微生物は、グラム陰性菌に属するか、又は微生物感染症はグラム陰性菌により引き起こされる。ある実施形態において、微生物は、シュードモナス、アシネトバクター、ビブリオ、エンテロバクター、エシェリヒア、クライベラ、サルモネラ、赤痢菌(Shigella)、ヘリコバクター、ヘモフィルス、プロテウス、セラチア、モラクセラ、ステノトロフォモナス、ビデロビブリオ、カンピロバクター、エルシニア、モルガネラ、ナイセリア、リゾビウム、レジオネラ、クレブシエラ、シトロバクター、クロノバクター、ラルストニア、キシレラ、キサントモナス、エルウィニア、アグロバクテリウム、バークホルデリア、ペクトバクテリウム、パントエア、アシドボラクス、の属又は腸内細菌科の他の属、に属する細菌か、又は微生物感染症はその細菌により引き起こされる。ある実施形態では、微生物は、シュードモナス属に属する細菌に属するか、又は微生物感染症はその細菌により引き起こされる。ある実施形態において、微生物は、アシネトバクター属に属する細菌に属するか、又は微生物感染症は、シネトバクター属に属するその細菌によって引き起こされる。ある実施形態において、微生物は、ビブリオ属に属する細菌に属するか、又は微生物感染症は、ビブリオ属に属するその細菌によって引き起こされる。ある実施形態において、微生物は、エルシニア属に属する細菌に属するか、又は微生物感染症は、エルシニア属に属するその細菌によって引き起こされる。ある実施形態において、微生物は、リゾビウム属に属する細菌に属するか、又は微生物感染症は、リゾビウム属に属するその細菌によって引き起こされる。ある実施形態において、微生物は、クレブシエラ属に属する細菌に属するか、又は微生物感染症は、クレブシエラ属に属するその細菌によって引き起こされる。ある実施形態において、微生物は、緑膿菌、アシネトバクター・バウマニ、ビブリオ・コレラ、ビブリオ・フィシェリ、エルシニア・ペスティス、リゾビウム・レグミノサラム又はクレブシエラ・ニューモニエであり、又は微生物感染症は、これらによって引き起こされる。ある実施形態では、微生物は、緑膿菌であるか、又は微生物感染症は、緑膿菌によって引き起こされる。ある実施形態では、微生物は、アシネトバクター・バウマニであるか、又は微生物感染症は、アシネトバクター・バウマニによって引き起こされる。ある実施形態では、微生物は、ビブリオ・コレラであるか、又は微生物感染症は、ビブリオ・コレラによって引き起こされる。ある実施形態において、微生物は、ビブリオ・フィシェリであるか、又は微生物感染症は、ビブリオ・フィシェリによって引き起こされる。ある実施形態では、微生物は、エルシニア・ペスティスであるか、又は微生物感染症は、エルシニア・ペスティスによって引き起こされる。ある実施形態では、微生物は、リゾビウム・レグミノサラムあるか、又は微生物感染症は、リゾビウム・レグミノサラによって引き起こされる。ある実施形態では、微生物は、クレブシエラ・ニューモニエであるか、又は微生物感染症は、クレブシエラ・ニューモニエによって引き起こされる。本発明は、グラム陰性微生物に対する大環状キャビティ含有化合物の二重作用機序に関するもので、当化合物は、化合物分子のキャビティ内の微生物シグナリング分子との結合を通じて病原性を減退させ、その正電荷性官能基によって細菌外膜を感受性にさせる。
【0044】
微生物感染症は、局所感染症又は全身感染症であり得る。ある実施形態では、微生物感染症は局所感染症である。ある実施形態では、微生物感染は、肺感染である。ある実施形態では、微生物感染症は全身感染症である。ある実施形態では、微生物感染は、対象における微生物感染リスクを増す疾患又は障害に関連する。ある実施形態では、微生物感染は、嚢胞性線維症に関連する。
【0045】
ある実施形態では、対象は、ヒト又は動物である。ある実施形態では、対象は植物である。ある実施形態では、対象は、細胞培養物である。ある実施形態では、対象は、非生物である。ある実施形態では、非生物対象は、表面又はコーティングである。ある実施形態では、非生物対象は、医療機器、インプラント、又はプロテーゼ(prosthesis)である。ある実施形態では、非生物対象は、水性媒体である。
【0046】
本発明において、大環状キャビティ含有化合物は、生物学的活性成分として作用する。ある実施形態において、大環状キャビティ含有化合物は、医薬的活性成分として作用する。ある実施形態において、生物学的活性は、病原性抑制活性を意味する。
【0047】
大環状キャビティ含有化合物は、抗菌剤を使った治療の前、間、及び/又は後に、対象に使用及び/又は投与し得る。ある実施形態において、大環状キャビティ含有化合物を、抗菌剤を使った既存の治療に加える。ある実施形態では、抗菌剤及び大環状キャビティ含有化合物を、対象に同時に投与する。ある実施形態では、抗菌剤及び大環状キャビティ含有化合物を、対象に逐次的に投与する。ある実施形態では、大環状キャビティ含有化合物を、前処理として対象に投与し、その後に抗菌剤を投与する。ある実施形態では、抗菌剤をまず対象に投与し、その後で、大環状キャビティ含有化合物を投与する。ある実施形態では、抗菌剤及び大環状キャビティ含有化合物を、いくつかの治療及び/又は投薬の過程で対象に投与する。ある実施形態では、抗菌剤及び大環状キャビティ含有化合物を、1日1回、対象に投与する。ある実施形態では、抗菌剤及び大環状キャビティ含有化合物を、数日間(7~14日間)、1日に1回、対象に投与する。ある実施形態では、抗菌剤及び大環状キャビティ含有化合物を、対象に対して1日に数回(2~4回)投与する。ある実施形態では、抗菌剤及び大環状キャビティ含有化合物を、数日間(7~15日)にわたって1日に数回(2~4回)対象者に投与する。
【0048】
ある実施形態において、本発明は、少なくとも1つの大環状キャビティ含有化合物、抗菌剤、及び任意に許容可能な担体を含む組成物に関する。ある実施形態において、本発明は、少なくとも1つの大環状キャビティ含有化合物及び抗菌剤を含むキットに関する。ある実施形態では、組成物は、医薬組成物である。ある実施形態では、キットは、医薬キットである。ある実施形態において、本発明は、対象における微生物感染を阻害/治療/予防するための、大環状キャビティ含有化合物、抗菌剤、及び医薬的に許容可能な担体を含む、医薬組成物に関する。本発明の組成物は、当技術分野で公知の技術によって調製することができる。したがって、組成物は、例えば、液体、固体又は粉末の形態とすることができる。本発明の医薬組成物は、例えば、経口、非経口、局所、又は吸入により投与することができる。ある実施形態では、医薬的組成物は、微粒子形態である。ある実施形態では、微粒子は1~5μmの範囲内にある。その投与経路に応じて、この組成物は、充填剤、希釈剤及び/又はアジュバントなどの必要な医薬的に許容可能な添加剤及び/又は成分を含む。
【0049】
ある実施形態では、微生物感染症は、慢性感染症である。ある実施形態では、感染症は急性感染症であり、又は感染症は浮遊性(planktonic)微生物によって引き起こされる。
【0050】
以下の実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例
【0051】
(実施例1)
P[5]aを使って処理すると多くの病原性因子と抗生物質耐性遺伝子がダウンレギュレートされることから、大環状キャビティ含有化合物の効果によって、抗生物質が再び細菌に対してより効果的になる可能性があることが示唆された。このため、P[5]aと様々な抗生物質の組み合わせ投与を試みた。メロペネムとセフェピムという2種類の抗生物質を使った場合(図2)のMIC値を、2.5mMのP[5]aと共に投与した場合とそうでない場合とで、14日間連日(これは通常の治療期間である7~10日を十二分に上回る)にわたってテストした。
【0052】
P[5]aを添加すると、病原性グラム陰性細菌である緑膿菌株PAO1の、これら2つの異なるクラスに対する耐性の構築が、経時的に著しく低減することが見出された。このように、これらの細菌の病原性因子と抗生物質耐性遺伝子を別々にターゲットにすることで、抗生物質の効能にも多大な影響を与えることができる。2つの主要なメリットとして、1)細菌を死滅させるのに必要な抗生物質が少なくて済む、2)抗生物質に対する細菌の耐性が世界的に高まっているのを、大幅に低減できる、という点が挙げられる。興味深いことに、P[5]aはカルバペネム抗生物質であるメロペネムとの相性がよい。このクラスの抗生物質は、耐性菌に対する最後の防衛線と見なされることが多い。
【0053】
この実験では、最小発育阻止濃度MICを14日間連続して毎日分析し、最も高いMIC値(つまり、細菌が依然増殖することができる、抗生物質の最高濃度)を次の日に採用した。こうすることで、時間の経過とともに耐性が構築されていく様子を観察することができる。尚、図2において、黄色の線より下の領域は、その菌が抗生物質に対して感受性を有すると分類され、黄色と赤色の間の領域は、その菌が抗生物質に対して中間的感受性があると分類され、赤い線より上の領域は、その菌が抗生物質に対して耐性を示すと分類されることを意味する(臨床検査標準協会が管理している「抗菌薬感受性試験の性能基準」による)。
【0054】
(実施例2)
RNAシークエンシングから、広範多剤耐性に関連する遺伝子がP[5]a処理によってダウンレギュレートされることが明らかになったので、本発明者らは、P[5]aが(例えばβ-ラクタム阻害剤のような単一の特定のメカニズムではなく)、多種多様なタイプの抗生物質の有効性を高める可能性もあることを提案した。そこで、P[5]aが、様々な種類の抗生物質に耐性を持つPA5834株(図4)及びPA 5539株(図5)を感受性にさせる(効果を高める)ことができるかどうかを検証した。これを検証するために、臨床分離された2つのMDR 緑膿菌株を使用した。これらの分離株は、Meilahti病院(フィンランド、ヘルシンキ)の患者から入手したものである。使用した抗生物質、及びそれらの異なる作用機序を、表2に記載した。
【0055】
【表2】
【0056】
P[5]aは、試験したすべての抗生物質で増感剤として機能し、様々な抗生物質と相乗効果を発揮することがわかる。緑膿菌PA5834株を用いた図4では、P[5]aなしでは抗生物質のセフタジジム及びセフェピムに対して完全に「耐性」である(試験した最高濃度でも増殖する)のに対し、P[5]aにより菌が再び「感受性」に分類されたことが確認された。これは重要な含意を有しており、それは既知のすべての抗生物質に対して「耐性」と分類される「すべての抗菌薬に耐な菌」がすでに多数確認されているためである。これらは、現在の標準品では基本的に対応不可能なものである。P[5]a病原性阻害剤には、これらの細菌を再び感受性を示すようにできる可能性がある。緑膿菌PA5539株を用いた図5では、細菌の全体的な耐性プロファイルはかなり低くなっている。そこでは、ほぼすべての抗生物質で感作効果が見られた。さらに、Helsinki hospital collectionからの6つの耐性緑膿菌PA5550、PA5842、PA5827、PA5832、PA5834、PA5539について、4種類の抗生物質(アミカシン、セフェピム、セフタジジム、メロペネム)を使ってテストを行った。すべてのケースで感作作用が観察された。結果を図6に示す。
【0057】
(実施例3-バイオフィルムの形成)
病原性グラム陰性菌である緑膿菌PA01株によるバイオフィルム形成に対するP[5]aの効果を測定した。
高濃度のP[5]aにより、バイオフィルムの形成が有意に減少した。その結果を図7に示す。バイオフィルムは、ピロシアニン産生と並んで、緑膿菌の病原性を示す重要な指標である。バイオフィルムの阻害により、抗生物質をより効果的にする可能性もある、なぜなら、抗生物質はバイオフィルムに効率よく浸透していかず、バイオフィルム内の細菌は、たとえ抗生物質の濃度が非常に高くても耐えるからである。
【0058】
(実施例4)
病原性グラム陰性細菌である緑膿菌PA01株における耐性発現に対するP[5]aの効果を、14日間にわたって調べた。臨床的に有用な4種類の抗生物質(メロペネム,セフェピム、アズトレオナム、トブラマイシ)及びP[5]aを病原体PA01に投与し、14日間にわたって耐性発現を比較検討した。抗生物質について、CLSIガイドライン(臨床検査標準協会:抗菌薬感受性検査のための標準法補足 M100S 2016)に準拠し、MICをモニタリングしたが、P[5]aについては直接的な抗菌作用を持たないため、P[5]aを使って毒素阻害量をモニタリングした。P[5]aは14日間を通して毒素量を抑制することに成功し、効果の低下は観察されなかった。すべての抗生物質処理において、4日目以降に感受性の低下が認められ,12日目以降にはすべての処理に対して完全耐性となった.その結果を図9に示す。
【0059】
(実施例5)
病原性グラム陰性菌緑膿菌PA01株において、P[5]aの、細胞内標的(アズトレオナム、セフェピム、メロペネム、トブラマイシン)を有する共投与抗生物質に対する浸透促進効果を、14日間にわたって検討した。P[5]aと、抗生物質アズトレオナム(a)、セフェピム(b)、メロペネム(c)及びトブラマイシン(d)との同時投与により,病原体が各抗生物質治療に対して耐性化するのが大幅に遅くなった。MIC値は、臨床検査標準協会の規格に基づき、感受性、中間的感受性、耐性の3群に分類した。セフェピムは4日後に128μg/mlに達し、これらの抗生物質の中で最も高濃度であった。その結果を図10に示す。
【0060】
(実施例6)
P[5]aと、緑膿菌、PA10株のリポ多糖との相互作用を、AUCを用いて測定した。その結果を図12に示す。
【0061】
分析用超遠心法(AUC)は、遠心場におけるコロイド粒子の沈降に基づくものである。遠心分離の間、粒子は測定セルの底部に向かって移動する。この移動により、測定セルに沿って粒子が再分布し、測定セルに沿った濃度変化として表現される。この遠心分離による変化を追うために吸光光度計を使用した(吸光光度は濃度に比例する)。つまり、AUCでは、遠心分離時に濃度がどのように変化するかを測定し、濃度プロファイルとして収集する。粒子間の相互作用を、沈降プロファイルの変化の結果として測定することができる。沈降速度においては、高速モードで、沈降過程でのデータ(濃度プロファイル)を、異なる時点(多数のプロファイル)で収集した。
【0062】
緑膿菌からのP[5]a及びLPSの両方のスペクトルを、最初に別々に分析した(図12のa及びbを参照)。305nmにおいて、P[5]aは、(Y軸半径によって示されるように)時間と共に明確で安定した沈降プロファイルを示す。305nmでは、LPSは沈降プロファイルを示さない。305nmではP[5]aの沈降のみが検出されたため、沈降プロファイルの変化はP[5]aと他の粒子との相互作用によるものであることが確認された。そこで、本発明者らはP[5]aとLPSを組み合わせることにした。LPSは組成が様々であり、10~20kDaの分子量範囲を有する(図12c参照)。いくつかの粒子の急速な沈降が観察された。粒子の分子量を分析すると、広いサイズ分布が見られた(図12d参照)。本発明者らは、低分子量側で大きな最初のピークを観察した(図12cでは、図12aの未結合P[5]aを連想させる安定した沈降スペクトルも観察された。)。これは、未結合のP[5]aを表しており、未結合の粒子が大量に余っていることを意味している。また、本発明者らは広範な分子量範囲にわたって低いピークが観察された。これは、P[5]aが複数のLPS粒子と相互作用し、多分散構造を形成することができたことを示唆している。
【0063】
https://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/sigma/l9143?lang=fi&region=FI
【0064】
(実施例7)
大環状「ホスト」P[5]aと異なるホモセリンラクトン「ゲスト」との間の結合親和性を測定するために、競合結合アッセイを使用した。この場合、P[5]aに対して親和性を示すことが既に知られている蛍光色素であるメチレンオレンジをP[5]a内のキャビティに結合させたP[5]a「ホスト」の溶液で、「ゲスト」HSL溶液を滴定する。P[5]aのHSLに対する比率から親和性を計算することができる。
【0065】
長い炭素部分3-OH-C14 HSL及び3-Oxo-C12 HSLで大きな変位(すなわち高結合親和性)が観察された。3-Oxo-C8 HSLでは、中程度の変位が観察された。3-Oxo-C6 HSLとC4 HSLでは、その変位が少ないことが確認された。その結果を図13に示す。
【0066】
(実施例8)
MDR耐性臨床分離株における、共投与される抗生物質)アミカシン(a)、セフェピム(b)、セフタジジム(c)及びメロペネム(d)の浸透性及び効力に対するP[5]aの効果を検討した。耐性プロファイルと詳細な菌株情報を下記表3に示す。また、その結果を図14に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
技術の進歩に伴い、発明的概念を様々な方法で実施できることは、当業者には明らかであろう。本発明及びその実施形態は、上述した例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内で様々に変化させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】